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【シャニマス×ダンガンロンパ】シャイニーダンガンロンパv3 空を知らぬヒナたちよ【安価進行】Part.1
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1 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:12:50.14 ID:UjM5Y6Sh0
-------------------------------------------------
※注意
・本作は「ダンガンロンパ」シリーズのコロシアイをシャニマスのアイドルで行うSSです。
その特性上アイドルがアイドルを殺害する描写などが登場します。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
・キャラ崩壊・自己解釈要素が含まれます。
・ダンガンロンパシリーズのネタバレを一部含みます。
・舞台はニューダンガンロンパv3の才囚学園となっております。マップ・校則も原則共有しております。
・越境会話の呼称などにミスが含まれる場合は指摘いただけると助かります。修正いたします。
※過去シリーズ
【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1613563407/
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1616846296/
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1622871300/
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「これが私たちの答えです」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1633427478/
【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1637235296/
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.2
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1642918605/
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.3
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1649764817/
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.4
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1655983861/
【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.5
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1669646236/
以上のほどよろしくお願いいたします。
-----------------------------------------------
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1685189569
2 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:16:11.99 ID:UjM5Y6Sh0
_____私はまだ、何者でもない。
3 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:17:23.69 ID:UjM5Y6Sh0
これから、何者かになって、階段を駆け上がって、光を浴びて、
そこでようやっと名前をもらう。
他の誰かに認識される。
他の誰かに記憶される。
アイデンティティとは、そうやって生み出されるものだ。
個人を決定づけるはずのものなのに、単独では完成し得ない矛盾を孕んだ要素こそがアイデンティティなのだ。
だから私は、必死に手を伸ばした。
この手の中に自分自身のアイデンティティがほしくて。
誰かにこの手を握ってほしくて。
でも、その手は宙で何も掴むこともなく、ただ真っ黒な闇にぶつかった。
闇は平坦で、反り立っていて……
私自身を飲み込んでいる。
「……え?」
______いつから、閉じ込められていた?
4 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:18:09.82 ID:UjM5Y6Sh0
私はそこでようやっと置かれている状況に気づいた。肌から伝わってくるひんやりとした感覚、息を吸うたびに喉にまとわりつく埃。
そして何より、手も足も曲げ伸ばしが自由にできないほどに窮屈であるということ。
「な、なんで……?!」
壁を壊そうと握り込んでハンマーのように何度もぶつける。
ゴンゴンと大きな音が響き渡り、そしてやがて……
バーン!
やっと、外に出た。
5 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:19:40.64 ID:UjM5Y6Sh0
「……痛た」
突然に解放されたことで、体重と勢いそのままに床に倒れ込んだ。
このお間抜け丸出しのちんちくりんが私。
下手すれば、そこらの街中で紛れ込んでしまいそうな凡庸な見た目だけど……
【アイドルである】という大きな個性がなんとかそれを食い止めてくれている……
そんな、ごくごく普通とはちょっとだけ違う女子高生。
七草にちか、16歳……アイドル。
こんにちは、私。
この滑稽で物哀しい物語の、お粗末な主人公さん。
6 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:20:58.52 ID:UjM5Y6Sh0
「なにこれ、監禁……?! 私なんか拉致ってもビタ一文出ないだろうに……」
落ち着きを徐々に取り戻した私は、打ち付けた肘をさすりながら立ち上がった。
自分が監禁されていたのは金属製のロッカー。
あまり使われていないのか埃が溜まっている様子。
幸い、中に雑巾付きの箒なんかはなかった。
ばっちいじゃなくて、薄汚い止まりだったことにわずかに感謝をしつつ、視線を周囲に移す。
……机が群生している。
机が生えてくる畑でもあればまさにこんな光景なんだろうなというぐらいに机が並んでいる。
それと向き合うようにして壁に取り付けられた黒板。その上には太陽のような顔してスピーカーが取り付けられている。
ああ、ここは教室なんだなと理解した。
自分の通っている学校よりはいささか設備が綺麗で、ちょっとばかしモヤモヤする。
でも、なんで教室に?
近くにあった椅子に腰掛けて、ロダンの考える人みたいな格好しながら、記憶を必死に呼び覚ました。
私がここに監禁される前の、確かな記憶……
7 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:21:59.94 ID:UjM5Y6Sh0
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
確か、バイト帰りじゃなかったっけ。
店でポップ作りに勤しんでて、知らず知らずのうちに随分と熱中。遅くまで残っていた。
ああ、明日はダンスレッスンだし早く帰らなきゃなとか、昨日のバラエティで芸人さんのいじり酷かったなとか、そんなことを考えながら、ぼーっと道を歩いていた。
うら若き乙女なんだし、多少警戒とかした方が良かったんだろうけど……安全に飼い慣らされていた私はそんなこともせず。
ただぼーっと、歩いていた。
そしたら突然後ろの方から急ブレーキの音が聞こえて、慌てて振り返ったら
「〜〜〜〜〜っ?!」
口に布を当てられて、あれよあれよと車に押し込まれて……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
8 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:23:36.12 ID:UjM5Y6Sh0
ああ、だめだ。結局なにも思い出せてないのと変わりない。
自分の記憶をいくら掘り起こしても出てくるのは使い物にならないものばかり。
私がここにいる理由、そしていつからここにくるのか。
その答えはいくら考えても出てきそうになさそうだ。
「はぁ……」
自分の無力さを噛み締め、あまりの使い物にならなさを嘆いていてため息をついた。
その時だった。
ガタガタッ
「……え?」
私が入っていたのとはまた別のロッカーが揺れ始めたのだ。
強風に煽られているように右に左に大きな音を立てながら。中に入っている住人はよっぽどの大暴れをしているらしい。
「や、やば……」
鬼が出るか蛇が出るか。なにが出てくるのか皆目見当もつかないロッカーに思わず後退り。
そんな私の恐怖はつい知らず、ロッカーのガタガタは扉のドンドンへと変わっていき、目的のない乱暴は脱出を目指した手段へと変わっていき、
やがてその扉は開かれた。
9 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:25:10.03 ID:UjM5Y6Sh0
ダンッ!
ロッカーから吐き出されたその人物には見覚えがあった。
まんまるな頭に黒い髪、その中にはアクセントとして黄色いラインが走っている。
忘れたくても忘れられず、いつからか悪夢のように付き纏うようになって、視界にこびりついていた彼女。
「一体どうなってんだよ……痛た……」
【斑鳩ルカ】、美琴さんの元相方さんだ。
「……あ?」
痛みに悶えるのも束の間。顔を上げてすぐ、私の存在を認める女その表情を一変させた。
困惑に狼狽えていた口元はへの字に固く閉ざされ、扉を開けるための拳はより強くその指先を内側へと巻き込んだ。
そして吐き出される言葉はもちろん。
「オマエ……なんでこんなところにいやがる……!」
こんなところも何も、ここが何処だか知りたいんだけど。
10 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:26:33.33 ID:UjM5Y6Sh0
◆
ルカ「オマエか、オマエがやったのか……?!」
にちか「は、はぁ……?! 常識で考えてくださいよ、そんなわけないじゃないですか!」
ルカ「じゃあ事務所で、事務所単位で嵌めたのか?!」
にちか「いやいや……ちょっと落ち着いてください。私も斑鳩さんと同じで……今目を覚ましたところなんですよ」
ルカ「あ……? じゃ、オマエも私と同じで拉致されてたってのか?」
にちか「普通考えたらそうでしょ……なんで同じ事務所のアイドルを拉致するんですか」
ルカ「……」
にちか「ほら、とりあえず深呼吸でもします? 異常事態でパニックになるのはわかりますけど……」
斑鳩さんは私の呼びかけに背を向けると、急に調査を始めた。
机を動かしてみたり、中を漁ってみたり……何か目的があるというよりは、私の言葉に耳を貸すのが嫌で、仕方なくといったところなのだろう。
随分と嫌われてしまっている。
11 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:28:01.83 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「……ん、なんだこれ」
すると、机の棚に手を突っ込んだ斑鳩さんが何かを引っ張り出す。
ハガキ代ほどの大きさの紙にはデカデカと何か書かれているのが距離をとっていても確認できる。
近くに駆け寄り、肩の向こうから覗き見る。
にちか「『入学式のおしらせ』……?」
学校からの案内というにはあまりにもお粗末すぎる。
パンフレットというよりは子供の落書き。クレヨンで殴り書きしたかのような書体に、会場までの案内図は線がガタガタ。
かろうじてその会場が体育館であることだけが読み取れる程度の情報量。
あまりにも適当すぎる代物に、違和感を通り越して呆れすら覚えた。
ルカ「……!? 勝手に見てんじゃねえよッ!」
私が覗き見ていたことに気づいた斑鳩さんは、自分に宛てられたラブレターでもないのに、大袈裟なモーションと共にそれを隠した。
12 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:29:36.33 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「や、別に良くないです? 私だって今の状況知りたいんですよ」
ルカ「……」
にちか「ちょっと〜……」
こっちの言葉は聞く気なし。どこまでも非協力的な姿勢を貫きたいらしい。
普段なら、別に見逃していた。自分だって、この人の存在をできる限り視界に入れたくはないし、仕事をする上での厄介者同士だと思っている。
でも、今は状況が状況だ。
全てが未知と不可解で囲われた中で、唯一この人の存在が既知の存在。地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようなものと言ってもいい。
ここで決別なんかしたところで、お互いにメリットなんてないのは分かりきっているだろうに。
にちか「……あの、よく思われてないのは知ってるので。態度をどうとか言う気はないですけど、今の状況、協力しないとやばくないですか?」
ルカ「……」
にちか「ここが何処なにかも、いつから監禁されてるのかも、何の目的でこんなことになってるのかも何一つわからない。状況を一人で打開するの、めちゃくちゃきついと思いますけど」
斑鳩さんはそれでも顔をそっぽ向けたまま。
反抗期の子を持つ親とはこういう気持ちなのだろう。
いくら正論で説き伏せようとも、屈する気が微塵もないのでは甲斐がない。対話に応じない時点で暖簾に腕押しというやつだ。
13 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:30:50.36 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「……はぁ、もう」
それならもういっそ、無理矢理にでもこっちを向けてやるしかない。
幸い、そういう経験は事務所で何回も積んでいる。デスクワークにお熱なあの人に、世話を焼かせるたびに何でもやった常套手段。
ここでやらなきゃ、何処でやる……?!
にちか「むきむきにちか〜!」
ルカ「……」
斑鳩さんは確かにこっちを向いた。
注意関心を引くという一点に於いては作戦は見事成功。
その他のマイナス要素に目を瞑れば。
ルカ「オマエ、それ面白いと思ってやってるの?」
にちか「そ、そういうんじゃないんで……」
ルカ「……」
冬場の廊下みたいな冷ややかな視線で私を窘めると、斑鳩さんは分かりやすく大きなため息をついた。
侮蔑、落胆……いろんなものが透けて見えた。どうやら私はいろんなものをこの一瞬に失ってしまったらしい。
ルカ「……こいつじゃなきゃなぁ」
ぼそっと悪態をつきながらこちらに向き直る。
こっちだって願い下げだ。でも、こんな相方でも背に腹は変えられないのが今の状況だ。
14 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:32:05.79 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「……とりあえず、ここから出るぞ。ここが学校にせよ、何にせよ。全貌を掴まないことには何もできないからね」
にちか「そうですね……さっきの紙に従うなら体育館に行ったほうがよさそうですけど」
ルカ「はぁ? ンなもん、罠に決まってんだろ」
にちか「……でも、こんなよくわかんない監禁をしてきた相手ですよ。下手に歯向かうと何されるか分からなくないです?」
ルカ「……チッ、じゃ、とりあえずは体育館目指すか」
斑鳩さんは私の誘導に一応納得してくれた様子。こちらに目を貸そうとはしないが、行動は共にしてくれるらしい。
斑鳩さんが先行して教室の扉を開け、廊下に出る。
_____その瞬間。
『グヘヘへへ! ミーが体育館まで直接案内してやるぜ!』
15 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:33:17.41 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「な、なにこれ……?!」
ルカ「メ、メカ……?!」
私たちの体躯の数倍はありそうな青の機体に、ガトリングやら破砕機並みのアームやらが取り付けられたロボットが、待ち構えていた。
ルカ「や、やばい……逃げるぞ!」
にちか「えっ、ちょっ……先行かないでくださいよ!」
私たちは思考するよりも先に足が動き出していた。とにかくこいつから逃げなくちゃ、そのことで思考がいっぱいになる。
私たちの靴音に裏拍を合わせるようにして地響きが鳴る。後ろを振り返れば、案の定さっきの機械の猛追。
立ち止まっている時間はない、とにかく急がないと……!
ルカ「おい! こっちだ!」
にちか「は、はい……!」
一心不乱にただ生き残ることだけを考えて走った。
16 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:34:28.37 ID:UjM5Y6Sh0
『あら? こっちに逃げてきちゃダメよ〜?』
ルカ「マジか……くそ、一体だけじゃねーのかよ!」
にちか「斑鳩さん、道変えましょう! 道!」
途中敵の増援が現れ、逃げ惑う場面もあったけれど、なんとか命からがらその場所へと辿り着く。
スチール製のスライドドア。上下左右にどっしりと広く壁を構えた、ドーム式の形状。
幼少期よりよくよく見慣れたその造形で、一眼にこれが体育館であると理解する。
ルカ「はぁ……はぁ……クソ、ひとまずここに退避するぞ」
にちか「は、はい……早いとこ隠れましょう!」
流石に今回ばかりは仇敵に向けるはずの敵対心も忘れ、二人でいっせーのーでで息を合わせて扉を動かした。
重厚な音を立てながら扉は開き、その中へと私たち二人を誘った。
誘われた先で、待ち受けていたのは……
17 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:36:22.89 ID:UjM5Y6Sh0
------------------------------------------------
【体育館】
「あれ? にちかちゃん、にちかちゃんだ! おーい! 大丈夫? 怪我はない!」
私の名前を呼び、大きく両手を振る少女。
仰々しい天井の光に照らされ、いつも以上にその金髪のツインテールが輝く笑顔には見覚えがあった。
にちか「あ、あれ……?! 八宮さん……?!」
同じ事務所に所属しているアイドルの、【八宮めぐる】その人だった。
ただ、私たちを待っていたのは彼女だけではなかった。
「……!」
「ほわっ……灯織ちゃん、どうしたの……?」
「う、うん……その、前に話した……」
ルカ「……おい、どういうことだよコイツは」
私の所属している事務所のアイドルたち、全26名のうち……私とルカさんを含めた16名がこの場に集まっていたのである。
その全員が口をまごつかせ、不安そうな表現を浮かべている。
おそらく全員が全員状況は同じ。ここに呼ばれた理由も、ここがどこなのかも分かってはいないのだろう。
18 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:38:39.50 ID:UjM5Y6Sh0
夏葉「二人とも、早くこちらへ。あの機械たちはどうやらこの体育館の中には入ってこないようだから」
樹里「にちかとルカさんを入れて……これで16人か」
凛世「もうこれ以上……どなたも逃げてはこないのでしょうか……」
集められているメンバーはまちまちだ。
特に人選に明確な規則性は見当たらない。年齢もバラバラで、ユニットによっては全員が集まっていないところも見受けられる。
にちか「あ、あの……美琴さんを誰か見ませんでしたか?!」
そして、ユニットのメンバーが揃っていないのは私も同じことだ。
体育館を見渡してみても、あの頼り甲斐のある長身に、眉目秀麗な容姿を携えたパートナーの姿はない。
ロッカーに閉じ込められていたところから、体育館に逃げ込むまで。斑鳩さん以外の人間の姿は影も見ちゃいない。
救いを求めるように、みっともなく狼狽えた。
しかしながら、絶叫虚しく、芳しい返事は帰ってきはしなかった。
全員沈痛な表情を浮かべたまま、顔を伏せる。
19 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:39:51.11 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「……そんな」
夏葉「今は無事を祈るほかないわ……外に出ればあの機会が待ち受けている、今の私たちはここから出られないようだし」
にちか「で、でも……今こうしてる間にもあの機会に捕まってたりしたら……!」
思わず掴んだ両肘。
有栖川さんの両肘は震え、視線を落とせば指先が手のひらに食い込むほどに力が篭っていた。
夏葉「堪えてちょうだい。果穂と智代子の姿がなくて……私だって本当は探しに行きたいの」
夏葉「でもここで一人の判断で扉を開けて、万が一にでもあの機械がここに入ってくればそれこそ袋のネズミになってしまうわ」
にちか「……うぅ」
ルカ「……チッ」
有栖川さんだって、大切に思っていた年下たちの姿がない。
不安に思うのは当然だし、どうしようもないもどかしさを必死に抑えている。
誰しもが今、自分の中の衝動を殺すので精一杯なのだと理解した。
20 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:41:29.21 ID:UjM5Y6Sh0
甜花「千雪さん……大丈夫、なのかな……」
甘奈「ダメ……携帯も繋がらない……それに、そもそも圏外になっちゃってる……」
あさひ「……あれ?」
愛依「どしたん、あさひちゃん?」
あさひ「……何か聞こえるっす。地響き? いや、これは……」
あさひ「上からっす!」
芹沢さんが叫んでから数秒と経たず、それは舞い降りた。
【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!!】
ガシンガシンガシン!!
いや、そんな柔らかな着地ではないか。
猛烈な重量に、硬い触感が床にぶつかって、振動が私たちの体にまで伝播。
内臓を内側から揺さぶられるのは言いようもなく不快な感じがした。
21 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:42:37.14 ID:UjM5Y6Sh0
『おう、全員集まっとるようやな!』
『集合時間が守れてみんなえらいなぁ。オイラなんか今朝24時間寝坊しちゃったよ』
『あら? 今朝は集合時間きっかりにきたじゃない』
『予定の日にちを一日間違えた上に、一日寝坊しちまってプラマイゼロってところか! 最高にロックだなッ!』
『……』
私たちの前に姿を表したのは、ついさっきまで校内で追い回してきたあの巨大なメカ。
しかもそれが5体も一度に現れ、立ち塞がったのである。
甜花「ひ、ひぃん……『勇者たちは逃げ出した…… しかし回り込まれてしまった』ってこと……?!」
恋鐘「ふぇ〜〜〜〜〜?! こ、こい体育館は安全じゃなかったと〜〜〜〜?!」
円香「全部筒抜けだったんでしょうね。あえてこの体育館に誘導していた……ここで一網打尽にするつもりでしょうか」
めぐる「そ、そんなことはさせない!」
甘奈「で、でもどうすればいいのかな……あんな、強そうなロボット……」
あさひ「武器も何もないっすね」
透「やば。休してるじゃん、万事」
樹里「クソッ、逃げ道もねーぞ……!」
動揺と不安の揺籠、天井と繋がっていた鎖は突然に切り落とされた。
漠然としていた恐怖が具現化し、再び私たちは生命の危機に瀕することとなったのだ。
22 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:44:19.20 ID:UjM5Y6Sh0
『ん? キサマらどうしたの? そんなに揃いも揃って雑誌の袋とじを開けるの失敗しちゃった時みたいな顔して』
『きっとみんな緊張しちゃってるのよ。多感な時期のシャイガールばかりなのよ』
『ミーの圧倒的なカリスマ性に腰を抜かしちまってんのさッ!』
『アホか! ワイらがエグイサルに乗ったままやから警戒しとるんや! 段取りのこともあるしさっさと降りるで!』
『……』
ただ、死の象徴はそれすら嘲笑う。
目の前に突きつけられた命の危機の囀ることしかできない私たちを馬鹿にするような問答をスピーカーで垂れ流したかと思うと、
素っ頓狂なSEに素っ頓狂な演出と共に、
______素っ頓狂なマスコットたちが姿を現した。
23 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:45:28.99 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「オイラの名前はモノタロウ! 赤色なんだ、赤ってすっごくすごいんだ」
モノファニー「アタイはモノファニー。モノクマーズの紅一点よ! ……あれ? アタイも赤?」
モノスケ「ワイはモノスケや。モノクマーズの頭脳であり司令塔。ワイがおらんと回らんことで有名やで」
モノキッド「ミーはモノキッド! キサマらに極上の地獄を提供してやるぜ!」
モノダム「モノダム……ダヨ。ミンナ、ヨロシク」
『5人揃ってモノクマーズ!』
あの巨大かつ殺意に満ちていたメカから降りてきたとは思えない、ずんぐりむっくり体型で間の抜けた5人組。
彼らは私たちの緊張と不安を他所に、間の抜けた言葉で混迷ばかりを引き起こす。
24 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:47:50.46 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「……は? いやいやいやいや……な、なにこれ……?」
並び立つ私たちは揃いも揃って口をぽかんと開けて唖然の表情。
現実がすぐには受け止めきれず、思わず頭を掻きむしった。
あさひ「すごい! 動くぬいぐるみだ〜!」
ルカ「なんの悪夢だコイツは……どうやって動いてんだこれ……」
モノスケ「ただのぬいぐるみやあらへんで。ワイらは最新鋭のありったけの技術をこれでもかと注ぎ込まれた新時代のニューウェーブやからな」
モノファニー「自分の力で考えて喋れるのよ。シンギュラリティを体現しているのよ」
甜花「すごい技術……デトロイトでも、こんなの中々ない……」
甘奈「この前お仕事で見させてもらったAIも凄かったけど……この子たちはちょっとレベルが違うよ……?!」
モノタロウ「えっへん! どうだ! すごいんだぞ!」
愛依「わ〜、でもなんか喋り方かわいいじゃん〜! 1個ぐらい持って帰りたいかも〜!」
モノスケ「あかん、あかんで。ワイらを家に招きたいんやったらそれ相応の用意が必要や」
モノスケ「まずユニットバスは絶対にNGや。そうじゃないとモノキッドが浴槽を汚して敵わんからな」
モノキッド「ヘルイェー! 浴槽だけで済むと思ったら大間違いだぜッ!」
モノスケ「それに加えて、子供部屋もとい自己研鑽部屋は必須やな。男にもプライバシーは必要なんや」
モノファニー「やあねぇ、こんなところで下ネタなんて。女の子を前にしてやることじゃないわ」
モノスケ「ハッ、女の子やから下ネタを言うんやろがい!」
モノタロウ「大変だ! モノスケの言動から加齢臭がひどいよ!」
25 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:50:45.27 ID:UjM5Y6Sh0
初めこそ動揺に慌てふためいていた私たちだったが、モノクマーズと名乗るぬいぐるみたちの問答を眺めているうちに徐々に冷静さを取り戻しつつあった。
いつまで経っても会話を前に進めようともせずに、無意味極まる時間が過ぎていくことに苛立ちすら覚えた頃、樋口さんがその口火を切った。
円香「……ちょっと、いい加減にしてくれる? 私たちが今置かれている状況、説明してくれるんじゃないの?」
モノファニー「そんな眉間に皺を寄せちゃダメよ。若いうちから皺を寄せていると、歳をとった時酷いんだから」
モノタロウ「えっ! ひどいってどうなるの!? 死んじゃうの?!」
モノファニー「そんなことないわ。でも他の人よりもシワクチャのボロ雑巾みたいになる確率が五割増しらしいわ」
モノタロウ「な〜んだ良かった! 死なないんだったらモーマンタイだね! オイラ、ガンガン皺寄せちゃうもんね!」
円香「だから、そういう意味もないやりとりをやめて」
モノファニー「もう、言われちゃってるわよ。そろそろいい加減にお話を進めましょう?」
霧子「ぬいぐるみさん……あなたたちが、私たちをここに連れてきたんですか……?」
モノキッド「おう、ミーたちがキサマらをこの血塗られたパーティに招待してやったんだぜッ!」
モノスケ「クックックッ、こっからオモロイオモロイパーティの始まりなんや」
にちか「……パーティ?」
ぬいぐるみの口からこぼれた、聞き馴染みのある言葉が妙に耳についた。
私のよく知る意味合いでその言葉が用いられていないのが明白だったから、
そしてその裏にある意味合いがおおよそ私たちのとって良いモノでないことも透けて見えていたからだろうか。
26 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:52:06.66 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「うん! ここにいる、顔も名前も知らない【初対面の人同士】でとびっきりエキサイティングなパーティをやっちゃうよ!」
灯織「……え?」
27 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:53:31.05 ID:UjM5Y6Sh0
モノダム「……」
円香「顔も名前も知らない……そんなことはないけど」
樹里「おい、どういう意味だ! アタシたちは283プロダクションの所属アイドル……全く初対面なんかじゃねーぞ!」
モノスケ「おい、モノタロウ……キサマ、やったんとちゃうやろな」
モノタロウ「え? アレアレ? 今回も、記憶操作の係ってモノファニーじゃなかった?」
モノファニー「もう、モノタロウがやりたいってアタイから係を奪い取ったんでしょ? あの時のジャンケンを忘れたとは言わせないわ!」
愛依「なんか……段取りをミスしちゃってる系?」
夏葉「……一体、何の話をしてるのかしら」
モノキッド「道理でコイツら【華がありすぎる】と思ったんだ! ミーは今回、何の華もない陰キャラだけでヤるって聞いてたから違和感ビンビンだったぜッ!」
(……華が、ありすぎる?)
28 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:55:07.00 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「もう、みんなして責めないでよ!」
モノスケ「ってことはキサマらは自分らに何の【才能】が当てがわれとるかも知らんってことか?」
にちか「才能? そんなの……そんなもの……」
(才能なんてものがないことは私が一番よく知ってる。そんなものがあれば、私はこんなにも苦しむこともなかったし……)
モノキッド「オイ! 誰でもいいから答えな! キサマらは何者だ!?」
恋鐘「な、なんね急に! うちらはアイドル! 283プロダクションのアイドルばい!」
モノスケ「あーあ、こりゃ完全にクロや。モノタロウ、大クロもんやで」
モノタロウ「うう……本当に記憶になかったんだよ……」
モノスケ「まあええ、お父やんにバレへんかったら問題はあらへんからな。さっさと手続きだけ進めてまうで」
夏葉「……! みんな、何か来るわ! 離れて!」
モノタロウ「大丈夫! 何か危害を加えるわけじゃないから!」
モノファニー「そう、ちょっと居眠りをしてもらうぐらいのものよ!」
モノスケ「まあ、寝とる間にキサマらはちょっと大事なものを色々と失ってしまうんやけど」
モノキッド「目が覚めればそれでもお釣りが来るぐらいに楽しい楽しい【コロシアイ】の世界だぜッ! ヘルイェー!」
にちか「は、はぁ?! こ、コロシアイ?!」
モノダム「ソレジャ、ミンナ、マタアトデ……ダヨ」
つらつらと並べられた理解不能な言葉の数々。
混迷の奔流に飲み込まれ、それでも必死に現状を理解しようと、何か明確な解答に縋ろうと、そんな弱々しい気持ちで右手を伸ばした。
その瞬間に、1秒もかからずに、私の視界は閃光に飲まれた。
目も開けていられないほどの眩く、白い、光。
指先から全身を一瞬にして光が飲み込んだかと思うと、その光は神経を這い回り、脳髄に到達。
ホワイトアウトしていく視界と共に、私の思考もまた白く、ボケていき……
29 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:55:42.93 ID:UjM5Y6Sh0
……夢の中に、溶け出した。
30 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:56:13.45 ID:UjM5Y6Sh0
-------------------------------------------------
PROLOGUE
if(!ShinyColors)
-------------------------------------------------
31 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:57:39.39 ID:UjM5Y6Sh0
_____私はまだ、何者でもない。
32 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 21:59:24.26 ID:UjM5Y6Sh0
ずっと、日陰の中で生きてきて、テレビの中の住人たちに身分不相応な憧れを抱いて、萎びていくばかりで、
名前なんて持っていない。
他の誰かに認識される。
他の誰かに記憶される。
アイデンティティとは、そうやって生み出されるものだ。
個人を決定づけるはずのものなのに、単独では完成し得ない矛盾を孕んだ要素こそがアイデンティティなのだ。
だから私は、必死に手を伸ばした。
この手の中に自分自身のアイデンティティがほしくて。
誰かにこの手を握ってほしくて。
でも、その手は宙で何も掴むこともなく、ただ真っ黒な闇にぶつかった。
闇は平坦で、反り立っていて……
私自身を飲み込んでいる。
「……え?」
______いつから、閉じ込められていた?
33 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:00:36.21 ID:UjM5Y6Sh0
私はそこでようやっと置かれている状況に気づいた。肌から伝わってくるひんやりとした感覚、息を吸うたびに喉にまとわりつく埃。
そして何より、手も足も曲げ伸ばしが自由にできないほどに窮屈であるということ。
「な、なんで……?!」
壁を壊そうと握り込んでハンマーのように何度もぶつける。
ゴンゴンと大きな音が響き渡り、そしてやがて……
バーン!
やっと、外に出た。
34 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:02:17.83 ID:UjM5Y6Sh0
「……痛た」
突然に解放されたことで、体重と勢いそのままに床に倒れ込んだ。
このお間抜け丸出しのちんちくりんが私。
ごくごく普通で、それ以外に表する言葉が何もない……ただの【一般人】。
テレビのインタビューなんかに捕まることすらなく、雑踏の一言で片付けられてしまう、
世界規模で言えば塵みたいに矮小な存在の七草にちか、16歳。
こんにちは、私。
この滑稽で物哀しい物語の、お粗末な主人公さん。
35 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:03:17.48 ID:UjM5Y6Sh0
「なにこれ、監禁……?! 私なんか拉致ってもビタ一文出ないだろうに……」
落ち着きを徐々に取り戻した私は、打ち付けた肘をさすりながら立ち上がった。
自分が監禁されていたのは金属製のロッカー。
あまり使われていないのか埃が溜まっている様子。
幸い、中に雑巾付きの箒なんかはなかった。
ばっちいじゃなくて、薄汚い止まりだったことにわずかに感謝をしつつ、視線を周囲に移す。
……机が群生している。
机が生えてくる畑でもあればまさにこんな光景なんだろうなというぐらいに机が並んでいる。
それと向き合うようにして壁に取り付けられた黒板。その上には太陽のような顔してスピーカーが取り付けられている。
ああ、ここは教室なんだなと理解した。
自分の通っている学校よりはいささか設備が綺麗で、ちょっとばかしモヤモヤする。
でも、なんで教室に?
近くにあった椅子に腰掛けて、ロダンの考える人みたいな格好しながら、記憶を必死に呼び覚ました。
私がここに監禁される前の、確かな記憶……
36 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:03:59.31 ID:UjM5Y6Sh0
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
確か、バイト帰りじゃなかったっけ。
店でポップ作りに勤しんでて、知らず知らずのうちに随分と熱中。遅くまで残っていた。
ああ、明日の宿題まだやってなかったなとか、昨日の数学の先生マジでうざかったなとか、そんなことを考えながら、ぼーっと道を歩いていた。
まさか私なんぞに目をつけるような物好きもいないだろうし、この国の治安にすっかりを心も許していたし、その時の私は無警戒に尽きた。
ただぼーっと、歩いていた。
そしたら突然後ろの方から急ブレーキの音が聞こえて、慌てて振り返ったら
「〜〜〜〜〜っ?!」
口に布を当てられて、あれよあれよと車に押し込まれて……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
37 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:05:36.09 ID:UjM5Y6Sh0
ああ、だめだ。結局なにも思い出せてないのと変わりない。
自分の記憶をいくら掘り起こしても出てくるのは使い物にならないものばかり。
私がここにいる理由、そしていつからここにくるのか。
その答えはいくら考えても出てきそうになさそうだ。
「はぁ……」
自分の無力さを噛み締め、あまりの使い物にならなさを嘆いていてため息をついた。
その時だった。
ガタガタッ
「……え?」
私が入っていたのとはまた別のロッカーが揺れ始めたのだ。
強風に煽られているように右に左に大きな音を立てながら。中に入っている住人はよっぽどの大暴れをしているらしい。
「や、やば……」
鬼が出るか蛇が出るか。なにが出てくるのか皆目見当もつかないロッカーに思わず後退り。
そんな私の恐怖はつい知らず、ロッカーのガタガタは扉のドンドンへと変わっていき、目的のない乱暴は脱出を目指した手段へと変わっていき、
やがてその扉は開かれた。
38 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:07:06.38 ID:UjM5Y6Sh0
ダンッ!
ロッカーから吐き出された人物は、随分と目立つ見た目をしていた。
まんまるな頭に黒い髪、その中にはアクセントとして黄色いラインが走っている。
私のように地味な生き方をしている人間とは、おおよそ交わりそうもない世界に生きているような女性。最初の印象はそんな感じだった。
「痛た……クソッ、一体なんなんだよ」
「だ、大丈夫ですか……?」
「ん? あ、おう……大丈夫だと……思う、怪我はないよ。ありがとな」
とっつきづらそうだという当初の印象とは裏腹に、屈託のない明るい笑顔を浮かべて私の言葉を受け取った。
差し出した私の掌を掴むと、ゆっくりと立ち上がる。
39 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:08:26.78 ID:UjM5Y6Sh0
「えっと……あんたは? ここは……教室?」
「あ、はい……多分、そうだと思います」
「多分?」
「あの、私も一緒なんです。あなたと同じくロッカーに閉じ込められてて、訳もわからず脱出したばかりで」
「あんたもか……」
おそらく私より少し年上なのだろう。
背の程は数センチほど高く、さっきまでとは違って既に冷静さを取り戻しているように視える。
私の言葉に耳を傾けながら周りを見定める佇まいに、頼り強さを感じさせる。
「私とあんた……じゃ会話もしづらいよな。自己紹介でもしようか」
「あ、はい! えっと……」
ひとまずの協力関係を築こうと、彼女が私に向かって右手を差し出す。私も迷わずその手を取ろうと、左手を伸ばした。
その瞬間
【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!!】
間の抜けた調子の声と共に、どこからともなく5体のクマのぬいぐるみが姿を表した。
40 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:10:23.10 ID:UjM5Y6Sh0
にちか「わあああああああ?!?! な、何……?! 」
???「おはよう! 清々しい朝だね!」
???「まるで生まれ変わって別人になったみたいに、気持ちのいい目覚めだわ」
???「ヘルイェー! 調子はどうだ、ベイベー! さっきまでとは大違いだろ?!」
???「おう、何をいつまで鳩がヘッドショット食らったみたいな顔しとんねん。ワイらと会話をしてくれんと困るで! Z世代はこれだからあかんわ」
???「コミュニケーションコミュニケーション! オイラたちとお話ししてよ!」
???「おい……これはなんの冗談だよ……なんでぬいぐるみが喋ってんだ……?」
???「このトンチキな反応は成功なんじゃねえかッ?!」
???「ねえねえキサマら、オイラたちの名前わかる?」
にちか「は、はぁ? し、知らないよ……あなたたちみたいなクマの人形なんか見るのも聞くのも初めてだよ!」
???「じゃあキサマの隣にいる女の子の名前は分かるかしら?」
???「いや……知らない。今から自己紹介をするとこだったんだよ」
???「やったー! 今度こそ成功だね! ちゃっきーん!」
???「一時はどうなることかとヒヤヒヤしたぜ……だが、これでもう問題ないなッ! 始めちまっていいんだなッ?!」
???「せやな、まずはワイらも自己紹介から始めなあかんな。学生も社会人も後期高齢者も、初対面の時は自己紹介からと相場が決まっとるからな」
41 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:11:45.61 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「あのね、オイラはモノタロウ! 体が赤いからモノタロウって覚えるといいよ!」
モノファニー「アタイはモノファニー。虫も殺せぬか弱い女の子よ。例外的にゴキブリだけは素手でも触れるわ!」
モノキッド「ミーはモノキッドだ。用を足すときは便座の上で仁王立ちのスタイルだぜッ!」
モノスケ「ワイはモノスケや。趣味はそろばん勘定。愛読書は計算ドリルや、よろしくな」
モノダム「モノダム、ダヨ。ミンナ、ヨロシク」
モノタロウ「オイラたち、5人合わせてモノクマーズだよ! しっかり覚えてね!」
一方的に押し付けられた自己紹介。
まるで一つの人格が備わっているかのような口ぶりに私たちはキョトンとするばかり。
コミュニケーションといった割に、こちらが理解できているか否かはもはや彼らは気にもとめていなかった。
42 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:14:06.43 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「キサマらに今この状況のことを説明してあげなくちゃだね! キサマら、ポケットに手を突っ込んでみて!」
にちか「は? え、えっと……」
もはや抗う気も失せた。
言われるがままポケットに手を突っ込む。本来あるはずの空洞、指先が何かにぶつかった。
???「ンだこれ……タブレット?」
モノキッド「そいつは電子生徒手帳! この学園での暮らしをサポートするタブレットだ。個人情報も入ってるから落としちゃならねーぜ」
にちか「学園……ってことは、やっぱりここって学校なの?」
モノスケ「ここは才囚学園。キサマらのために作られた、【アイドル養成用の学校】なんや」
???「才囚学園……聞いたことねーな」
にちか「ん……ちょ、ちょっと待って! 今なんて言った……?! 【アイドル養成用の学校】……?!」
モノファニー「そうよ。キサマらはこれからの時代を引っ張る新時代の【アイドルの候補】として選ばれたのよ」
(は……!? ど、どういうこと……!?)
43 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:17:24.90 ID:UjM5Y6Sh0
モノダム「電子生徒手帳ヲ、起動シテミテ」
アイドル、という甘言に導かれるままに私は指先で画面を叩いた。
すぐにタッチに反応してパッドは立ち上がり、画面上に私の名前と見慣れぬ文字列を映し出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の音楽通
七草にちか
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
にちか「超……研究生……級?」
モノスケ「早速【才能】に気づいたようやな。これはキサマらをアイドルとして売り出す際に、【どんな路線で売り出すべきか】をキサマらの来歴や潜在能力から導き出したものや」
モノファニー「緑色の髪をしたキサマは昔からレコードで音楽を聴くのが好きで、CDショップでアルバイトを続けているところからも選ばせてもらったわ」
研究生という言葉と共に自分の名前が並び、更には私には才能が備わっているとも言われた。
自覚こそまるでなかったが、褒められれば嫌な気持ちもしないし、不思議とどこか高揚してくる部分もあった。
拉致でもされていなければ、完全に心を許してすらいたかもしれない。
44 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:20:09.58 ID:UjM5Y6Sh0
モノタロウ「他の人にも一人に一つずつ才能は割り振られているから、気になる人は聞いてみるといいよ!」
???「他の人って……私たちだけじゃないのか?」
モノダム「ウン、コノ学園ニハキサマラ以外ニモ、14人……計16人ノ研究生ガ集メラレテイルンダ」
モノキッド「おいッ! 勝手に喋ってんじゃねーッ! モノダムが喋るとガソリン臭くなっちまうだろうがッ!」
モノダム「……」
にちか「16人……結構な数ですね」
モノファニー「まだ始業式までには準備に時間がかかるから今のうちに自己紹介をしておくといいと思うわ。もうみんな目を覚ましてきっと校内を探索中よ」
【ばーいくま〜〜〜〜〜!!!!!】
モノクマーズと名乗るぬいぐるみたちは、そのままどこへともなく姿を消してしまった。
私たちに一方的に疑問だけを抱かせ、答えは何も与えてはくれない。
探索と自己紹介を促すあたり、自分で見つけ出せということなのだろうか。どっちにしても、碌でもないやり口なことだけは確かだ。
45 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:21:14.51 ID:UjM5Y6Sh0
???「……行っちまったな」
にちか「はい……なんだったんでしょう」
残された私たちにばつの悪い静寂が訪れる。
思えば、目を覚ましてから、訳の分からない展開続き。この人とも出会って数分と経っていないぐらいだ。
???「あいつらに従うみたいで癪だけど……まずは自己紹介、ってところか」
にちか「で、ですね……!」
ルカ「私の名前は斑鳩ルカ。今はアイドルの研究生をやってんだ。よろしく」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
超研究生級のカリスマ
斑鳩ルカ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルカ「なんか才能ってのは……『カリスマ』って書いてあるな。全くピンとこないけど」
にちか「か、カリスマ……」
本人はまるで心当たりがないと言った感じだが、私にはどこか納得ができた。
初めてその姿を見た時から目を奪われた艶やかな黒髪、その中に走る金髪がアクセントで、整った顔立ちも相待って目が離せなくなる。
それでいて少し荒っぽいながらも優しく、頼り甲斐のある口調には追随していきたくなるような魅力を感じていた。
46 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:22:04.33 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「私は元々……ここにくる前からアイドルの研究生やってんだ」
にちか「え、そうなんですか?!」
ルカ「ああ、もう何年になるかな……まあ、ずっと燻ってんだけどよ。相棒みたいな奴がいてさ、そいつが辞めてくれねーから私も退けなくて……な」
にちか「道理で……なんだかキラキラしてるって思ってましたよ」
ルカ「ハッ……そんなことないよ。まあそう見えたんならきっと……そりゃ相棒のおかげだろうな」
ルカ「あいつが頑張る姿に憧れて、必死に後を追おうって踠いてるだけだから」
そういって笑って見せた斑鳩さん。
あまりに無邪気な表情から、よほどその相棒さんのことが好きなのだろうと読み取った。
全幅の信頼を抱いて、他の人に話すのに臆す様子もない。そんな存在、私にも欲しいものだ。
47 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:23:40.41 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「それで、あんたは?」
にちか「あ、はい! えっと……七草にちか、高校一年生です! 超研究生級の……音楽通らしいです! 全然! いやもう全然! そんなことないですけど!」
ルカ「ああ、なんかさっきクマが言ってたな……レコード、好きなんだって?」
にちか「いや、もうホントちょっと齧ってるぐらいなんですけどね?! そんな、本物の音楽業界に生きてらっしゃる方の前で烏滸がましい……!」
ルカ「そんな謙遜することねーよ。私も音楽業界の端にいるかいないかみたいな存在だし、レコードのことなんかさっぱりだ」
にちか「レコードが好きっていうか……身近にあったんです。【八雲なみ】っていう……ちょっと前のアイドルのものなんですけど」
ルカ「……へぇ」
にちか「なみちゃんの歌い方がすごく好きで……これを聞いていると、私もどこまでも行けるような気がしてくるみたいで……」
にちか「プツ……プツ……っていうレコードならではの雑音も不思議と聞いていると落ち着くんですよね」
ルカ「なんだ、ちゃんと音楽通してんじゃん」
にちか「い、いやいや……!? こんなの大したことないですって!」
ルカ「音楽通って言っても別に知識が豊富であることだけが条件じゃないだろ? あんたが音楽が好きだってのは今の話だけでも十分伝わってくる」
ルカ「それに、CDショップでアルバイトってことは日常的に音楽を聞く生活をしてるってことだ。胸を張っていけよ」
にちか「い、斑鳩さん……」
私のようなひよっこに音楽通なんて仰々しい言葉を使われているというのに、嫌な顔一つせず、励ましてまでくれる。
やっぱりこの人はカリスマになるだけの資質があるんだと思う。
さっきまで気を張っていたのが嘘のように力が抜けて、私はすっかり斑鳩さんに気を許していた。
48 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:24:49.82 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「さて、お互いのことも分かったことだしとりあえずは探索してみるか」
にちか「ですね! 私たち以外の14人……どんな人たちなんだろう」
ルカ「他の奴らもアイドルの研究生……なんだよな」
にちか「あ……斑鳩さんの相棒さんも?」
ルカ「どうだろうな。ここにはまともな方法で連れてこられてねーんだ。いてもいなくても、どっちがいいとも限らねーさ」
にちか「それは確かに……そうですね」
ルカ「そもそも、私たちだってこれからどうなることなのか。まあロクなことにはならねーだろうけどよ」
ルカ「ま、行くぞ。時間は有限だからな」
ルカさんは少々強引に私を引き連れて先へと導いた。
教室を出ると校舎内は異様な数の植物で満たされていた。
床や壁には蔦が絡み、足元から膝まではあろうかという高さの雑草がそこかしこから生えている。
学校という形状は保ちつつも、私たちの持っている認識からはどこかずれ込んだ不和を感じずにはいられない。
49 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/27(土) 22:27:01.10 ID:UjM5Y6Sh0
ルカ「さっきの電子生徒手帳にある程度の地図はあるみたいだな、これを見ながら探索するぞ」
にちか「はい! どこから見てみます?」
ルカ「おう、そうだな……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、お久しぶりです。
毎度恒例の探索パートとなっています。
今回は今までのシリーズと違って初対面の方々との出会い、なんだか新鮮でございますね。
探索する場所はスポットでいくつか提示させていただきますので、どこにどなたがいるのか想像しながらお選びください。
今回も選択コンマの末尾を参照して、それに応じた数のメダルを獲得できる仕様になっています。
末尾が1なら1枚、末尾が9なら9枚、末尾が0なら10枚でございます。
それではあなたさまの学園生活に幸多からんことを……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【2F 才能研究教室-音楽通-】
【1F 食堂】
【1F 倉庫】
【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】
上記から選択
↓1
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/05/28(日) 10:51:34.07 ID:UNjy6DbC0
【2F 才能研究教室-音楽通-】
51 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/28(日) 21:13:54.28 ID:ZAIzuKyx0
------------------------------------------------
【2F才能研究教室-音楽通-】
マップ上で見慣れない表示のされ方をされているのがこの部屋だ。
他の部屋よりも比較的多くの面積を有しているけれど、その名前にあまり聞き馴染みがない。
学園の施設というよりはどこかの研究施設のような文字の並びに、思わず首を捻る。
???「うーん、開かないよー!」
その部屋の前にはノブを仕切に動かしては廊下中に響き渡るような声量で叫ぶ金髪のツインテールの女性。
そのスタイルの良さはどこか日本人離れしたものを感じさせる。
にちか「あ、あのー……」
???「へ? わー! わ、わたし以外にも人がいたんだね、こんにちは!」
ルカ「あんたもここに拉致られた口か?」
???「うん……学校帰りに車に押し込まれた記憶はあるんだけど……それ以降はサッパリ。ここがどこなのかも見当がつかないし……建物の中を探索してたところなんだ」
にちか「えっと……お名前伺ってもいいです?」
???「うん、もちろん!」
めぐる「わたしの名前は【八宮めぐる】! 超研究生級のスポタレ……スポーツタレントってことらしいよ! よろしくね!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
八宮めぐる
超研究生級のスポタレ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そう言って彼女は溌剌とした笑顔と共に右手を差し出した。
拒絶されることなんか一切考えていない、迷いのない手のひら。
不思議と惹きつけられて、私も思わず手に取る。
52 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/28(日) 21:15:57.47 ID:ZAIzuKyx0
にちか「スポーツタレント……確かになんか運動できそうなオーラがめっっちゃありますね!」
めぐる「えへへ……そうかな?」
にちか「待ってください、当てます! ……バスケ部?」
めぐる「惜しい! あのね、わたしは色んな部活の助っ人をやってるんだ!」
ルカ「助っ人……?」
めぐる「うん、頼まれたらつい断れなくて……色んな部活で試合の数合わせなんかで参加することも多いんだよね」
にちか「すごいですね……わたし、運動とかからっきしなんで憧れちゃいます」
めぐる「ううん、全然! ただみんなと一緒に楽しくやってるっていうだけだから! 本気で全国行くぞー!って目指してる人たちとはまるで比べものにならないし……」
ルカ「だとしても色んなスポーツの経験があるってのはそれだけで強みだ。アイドルやるんだったら動きの引き出しは多いに越したこともないしな」
めぐる「あ、アイドル……」
にちか「あはは……やっぱりあのクマたちの言ってたことまるでピンとこないですよね」
めぐる「うん……わたしも、どこにでもいる普通の女子高生だから……」
(……このスタイルの良さと笑顔の溌剌さといい、到底普通の女の子とは思えないけど)
53 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/28(日) 21:16:49.96 ID:ZAIzuKyx0
めぐる「でも……ここって本当にアイドルを育成する学校なのかな? もっとこうダンススタジオとか、ボイストレーニングのお部屋とか、そういう感じなのかと思ったら……案外普通の学校だよね?」
にちか「普通の学校……ではないですけど」
ルカ「アイドル向けの設備らしい設備が見当たらないのは違和感だな……」
めぐる「うーん、この部屋はそれっぽいと思ったんだけどなー」
にちか「才能研究室、ですもんね。才能って私たちにあてがわれてるこれのこと……ですよね?」
めぐる「うん! 私たちの才能って、アイドルとして活動をする時の方向性……みたいなことなんだよね? だったらこの研究室ならそれっぽい設備があるのかなーって!」
【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!!】
モノタロウ「いい推理だよ! うんうん、実にいい推理だよ!」
めぐる「わー! 突然出てきたー!」
モノキッド「ワー! 突然爆乳の女が現れたー!」
モノファニー「ダメよ、そんな直球のセクハラなんか」
54 :
ルカの分の希望のカケラを入れてます
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/28(日) 21:18:56.28 ID:ZAIzuKyx0
モノスケ「キサマラにその教室について説明をせんといかんな」
モノタロウ「その教室は【才能研究室】。お察しの通りキサマラにあてがわれてる才能を伸ばすための設備がいっぱいいっぱいなんだ!」
にちか「ってことはボイトレとかダンスとか……?」
モノファニー「少し違うわ。キサマラの持ってる才能によって伸ばすべき能力は違うから、それに応じた設備になっているもの」
モノキッド「今キサマラが手をかけている部屋は【七草にちか】、キサマの才能研究室なんだぜ!」
にちか「わ、わたしの……?」
モノスケ「キサマの好きなアイドルもんのレコードを大量に収める予定や! 耳がすりごまになるぐらい聞きこんで後学にするんやで!」
モノダム「……」
モノタロウ「今はまだ入れないけどね! もう少ししたら扉の鍵も開けてあげるから楽しみにしててね!」
【ばーいくま〜〜〜〜〜!!!!!】
めぐる「行っちゃった……」
にちか「わたしのための……部屋……」
ルカ「あの口ぶりだと、他の全員にも専用の部屋があるみたいだな」
めぐる「ってことはわたし向けに体をいっぱい動かせる部屋もあるってことだよね!」
めぐる「う〜ん! 楽しみになってきたぞ〜!」
(アイドルのレコードがいっぱい……か。こんな状況じゃなきゃ心から楽しむこともできたんだろうけど)
(……しばらくしたら、また来てみよう)
------------------------------------------------
【コンマ判定07】
【モノクマメダル7枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…7枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…2個】
------------------------------------------------
【1F 食堂】
【1F 倉庫】
【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】
上記から選択
↓1
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/05/28(日) 23:18:23.71 ID:UNjy6DbC0
【1F 食堂】
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/05/29(月) 15:55:50.02 ID:EsxwACxJ0
【1F 食堂】
57 :
コンマ71
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 20:33:00.31 ID:vbqLOX8I0
------------------------------------------------
【食堂】
学校の食堂といえばもっと萎びた場所のイメージだ。使い古された長机に、埃が溜まって足が不揃いになった丸椅子。
ガタガタと音を立てながら居心地の悪さを噛み締めながら嚥下する場所というイメージがある。
この学校の食堂はそのイメージからすると革新的。清潔感ある楕円形の机に、柔らかな背もたれの備わったパイプの椅子。
逆に、これまで人が使っていなかったのだろうと実感させるだけの子綺麗さに不気味さすら感じさせる。
そんな食堂にはすでに先客が2名。片方が腹をさすりながら、空腹を訴えている様子だ。
???「アイムハングリー」
???「……ノー、ドントタッチ」
???「えー……いいじゃん。缶だし、セーフセーフ」
???「毒でも注入されてたらどうするわけ?」
にちか「なんか……呑気な雰囲気ですね」
ルカ「ああ……だけどアイツら、口ぶり的に顔見知り同士なのか?」
斑鳩さんの指摘通り、目の前の二人の間には一定の関係値があるように見えた。
軽いやりとりをするのでも、必ず相手から返球があるとわかっている信頼……そんな感じだ。
58 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 20:34:25.81 ID:vbqLOX8I0
にちか「あ、あの! こんにちは!」
???「あ、どーも」
ルカ「アンタらも拉致られてここまでやって来た口か? 自己紹介と洒落込もうじゃねーの」
???「だって。どうする?」
???「あー……」
透「浅倉透。アイムセブンティーン」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の映画通
浅倉透
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一言で言えば華がある人だなという印象だ。
顔立ちが整っていて、スタイルが抜群に良いことは勿論なのだけど、
ぼうっと黙って立っているだけでも他の人たちとは何か違うものを持っていることが透けて見えるのだ。
同じ星の元に生まれた存在とは思えない……いっそ宇宙人ですと言われた方がスッキリ飲み込めるような不思議なオーラがある女性だった。
透「なんか才能は映画通らしいです。よくわかんないけどさ」
ルカ「ふーん……詳しいのか?」
透「さあ? サブスクでたまに見ることぐらいはあるけど」
ルカ「適当だな……」
59 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 20:36:02.24 ID:vbqLOX8I0
???「まあ、あの才能というのは随分と曖昧な概念のようですし気にしても仕方ないのでは?」
にちか「あ、あの……」
???「ああ、私……」
円香「樋口円香です。浅倉とは幼馴染です」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のコメンテーター
樋口円香
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
浅倉さんと幼馴染という割に雰囲気は対照的な印象を受けた。
過ぎるほどに落ち着き払って、今置かれている状況にも一歩引いた立場から静観している。
だからこそ却って幼馴染として成立しているのかなとも思った。
彼女も浅倉さんに引けず劣らず、華を持った女性だ。
着飾ったような美しさではない、ありのままの美しさ。そういうものがあると感じさせる。
ルカ「幼馴染……オマエらは一緒に誘拐されてきたのか?」
透「え、どうだっけ」
円香「……いや、そうではなかったと思います。それぞれ別で、学校帰りに後ろから襲撃されたような記憶が」
透「だってさ」
にちか「じゃあ、ここにいるのは偶然の一致……なんですかね?」
円香「……さあ、犯人の目的もわからないうちは推測しかできないですし」
60 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 20:37:32.56 ID:vbqLOX8I0
透「あ、そういえば二人は小糸ちゃんと雛菜見ませんでしたか?」
ルカ「ん? 誰だ……そいつら」
円香「……彼女たちも幼馴染なんです。私たちよりひと学年下なんですが、姿が近くになく」
(ルカさんと同じだ……近しい関係性の人が欠けている)
透「こんぐらいちっちゃな子と……えっと、なんかすごく元気で、クリーム色な子なんすけど」
ルカ「いや……悪い、見てない」
円香「……無事だといいけど」
冷静そうに見える樋口さんも、流石に言葉尻に不安を滲ませていた。
何もわからぬ今の状況なんだもん、当たり前だよね。
とにかく、この二人も悪い人じゃなさそうだ。
【コンマ判定 71】
【モノクマメダル1枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…8枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…4個】
------------------------------------------------
【1F 倉庫】
【B1F 図書館】
【B1F ゲームルーム】
上記から選択
↓1
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/05/29(月) 21:46:33.48 ID:vPCXZIwE0
1F 倉庫
62 :
コンマ48
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 21:50:37.67 ID:vbqLOX8I0
------------------------------------------------
【倉庫】
よく週末お昼の情報番組なんかで、郊外にできた海外企業のスーパーマーケットを見ることがある。
壁も柱もとっぱらった、ドームみたいな佇まい。
見上げてもはるか先の天井に少しでも近づこうとせんばかりに堆く積み上げられた商品の数々。
一体どうやって取り出してカートに載せるんだってその時も思ってたけど、まさか学校で同じ感覚を味わうことになるとは。
いち学校の倉庫というにはあまりに壮大すぎる設備。
スポーツ用品、実験器具、生活雑貨……大型スーパーを名乗れるぐらいには所狭しと品が並ぶ。これも全て学校の備品の扱いなのだろうか。
にちか「フェンシングの防具とか生で見るの初めてですよ、わたし」
ルカ「私もだ……スケートのシューズとかもあるけど、学校にアイスリンクなんかねーだろ……」
もはや呆れに到達している私たち。
その存在に気づいたのか、倉庫の奥の方から誰かがこちらにやってくる。
タタタタ…
???「あれ、お姉さんたち誰っすか? この学校の人っすか?」
にちか「え? えっと……」
女の子は随分と鼻息を荒くしながら、こちらに質問を投げかけてきた。
ツヤツヤとした綺麗な髪色は銀髪ともブロンドともつかない、その中間のような色合いをしている。
ルカ「私たちは誘拐されてここにいる。オマエはどうなんだ?」
???「んー、そうっすね。わたしもここにどうやって来たのかよく分かってないんっすよね」
にちか「あなたも……状況は同じなんだね」
???「はいっす! それじゃあ自己紹介するっすよー!」
あさひ「わたし、芹沢あさひっす! 中学二年生っす、よろしくっすー!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
超研究生級の博士ちゃん
芹沢あさひ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
63 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 21:52:32.49 ID:vbqLOX8I0
中学二年生と自称するだけあって、幼めな印象を受ける容姿をしていた。
背の程も私より少し小さく、着用している制服は少し袖を余らせている。
それでいて表情はあどけなく、感情を覆い隠す術を知らないように、純真無垢な視線を真っ直ぐにこちらに向けていた。
にちか「博士ちゃん……ってどういうことです?」
ルカ「バラエティとか見ないのか? 時々やってるよ、子供なのに一分野に特化して詳しい奴をそうやって褒めたりする番組」
にちか「うーん……彼女の場合は……多分、知識欲ってところなんじゃないですかね。あれ」
ルカ「……あ」
私たちに自己紹介をしたと思ったらすぐに少女は私たちの前から姿を消していた。
私たちに対する興味を失ったのか、それとももっと強い関心を寄せたのか。
私と斑鳩さんで話しているうちに少女は向こうに抜けて、今や棚の上に高くつまれたお菓子のようなものを取ろうと梯子をよじ登っている。
ルカ「ちょ、ちょっと待て……! 落ち着け! まだ話が終わってないだろ……!」
あさひ「んー……? あ、ごめんなさいっすー! お腹が空いちゃってたんでー!」
にちか「じ、自由奔放すぎる……」
私と斑鳩さんは芹沢あさひと名乗る少女をなんとか梯子から引き摺り下ろすと、彼女に自己紹介を加えた。
あさひ「ふーん、にちかちゃんに、斑鳩さんっすか! よろしくっす!」
にちか「わ、わたしはちゃん付けなんだ……」
ルカ「アハハ、まあ年も近いしいいだろ別に」
あさひ「なんかにちかちゃんはにちかちゃんって感じっす! 七草さんって感じがしないっす!」
にちか「な、何それー……」
64 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 21:53:37.34 ID:vbqLOX8I0
ルカ「で、あさひ。オマエもあのクマたちから話は聞いたか?」
あさひ「あー、ここはアイドルを育てる学校なんっすよね? 話は聞いたっす」
あさひ「それよりあのモノクマーズ?! すごいっすよね! あんなふうに動くぬいぐるみ初めて見たっす!」
にちか「た、確かにものすごい技術だよね……」
あさひ「わたし、あんなの初めて見たっすよー! どうやって動いてるのか気になるなー!」
ルカ「あんまりアイツらに気を許すんじゃねーぞ。私たちを拉致した側の存在なのは間違いないんだからな」
あさひ「了解っす!」
(……めちゃくちゃいい返事。絶対聞く気ないでしょ)
ちょっと話しただけでわかる。この子は本当の意味で表裏がない子だ。
感情のまま、意思のまま、それを言動に移すことができる存在、できてしまう存在なんだ。
彼女の純真な表情には眩しさと共に危うさを感じる。そう思わずにはいられなかった。
【コンマ判定 48】
【モノクマメダル8枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…16枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…5個】
------------------------------------------------
【B1F 図書室】
【B1F ゲームルーム】
上記から選択
↓1
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/05/29(月) 21:57:32.25 ID:Wg+nXa3G0
【B1F 図書室】
66 :
コンマ25
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 22:02:47.10 ID:vbqLOX8I0
------------------------------------------------
【B1F 図書室】
学校の地下、やけに下るなと思ったけれど扉を開けた瞬間に納得した。これだけの蔵書なら、空間が必要なのだ。
私が二人縦に並んでもなおまだ収まりきらないだろうほどに高くつまれた本。
多くのものはかなり長い年月をかけて保管されているのだろう、部屋はカビたような時間が止まった匂いが充満している。
きっとここの本を全て読んでいたら人生が丸二周できてしまうんだろうな、とぼんやりと考える。
???「……!!」
そんな本の海の中に、一人の少女が立っていた。
黒く美しい長髪で、華奢な出立をしている。
???「だ、誰ですか?!」
少女は片手を胸元に当てて、半身引いてこちらを見据えた。
警戒している。目尻には力をこめて、奥歯を噛むような動作。
ルカ「多分あんたとおんなじだ、警戒しなくていい」
にちか「はい! 危害を加えたりとかはないです! 拉致されてここにやってきただけなので……」
両手を開いて呼びかけることでやっと心を許してくれたのか、少女はゆっくりと口を開き始めた。
???「……あなた方も?」
にちか「ですです! さっき目を覚ましたばかりで……ここがどこかもわかってないんですよ」
ルカ「状況もまるでわかってないんだ。情報共有をしたいんだけど……いいか?」
???「……わかりました」
灯織「……風野、灯織です。高校一年生です」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の占い師
風野灯織
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私と同い年なんだ……
そう思わずにはいられないほど風野さんは大人びていた。
整った顔立ちに、口元の黒子が妖艶な魅力を醸しているところから抱く印象が大きいんだと思う。
67 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 22:04:35.69 ID:vbqLOX8I0
灯織「お二人のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
ルカ「おう、私は斑鳩ルカ……二十歳だ」
にちか「七草にちかです! 風野さんとは同学年で……高校一年生です!」
灯織「斑鳩さん……七草さん……ありがとうございます」
(……ん? 手にわざわざメモした?)
灯織「……すみませんが、私もつい先ほど目を覚ましたばかりで情報という情報は」
ルカ「ああ、いや……気にしないでいい。それよりさっきの反応を見るに、自分以外の人間に会ったのは私たちが初めてか?」
灯織「ええ……まあ。もしかして、他にも?」
にちか「はい、だいたい同年代の女の子たちが集められてるみたいですー」
ルカ「アイドル候補として集められたとか何とか……意味わかんねーよな、ったく」
灯織「……アイドル? ああ、そういえばそんなことをあのクマたちも」
にちか「あ、聞きました?」
灯織「はい……でも、別に私アイドルなんて……なりたいとも、普段からそう聞いたりもしないですし」
ルカ「まあ……連中の言うことをどこまで信用していいかもわかんねーんだ。とりあえずは信頼できるもの同士で協力しようぜ」
不安がる風野さんを慮って、斑鳩さんは優しい言葉を投げかけた。
さすがは超研究生級のカリスマ、私に向けたのと同じように優しく温かい笑顔と共に、その手のひらを風野さんに差し出す。
この状況なんだもん、仲間は一人だって多い方がいい。
68 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 22:06:04.33 ID:vbqLOX8I0
当然、風野さんも私たちを信頼してくれる……そう、思ったんだけど。
灯織「……どこまで信用していいか分からないのは、斑鳩さんと七草さんも同様です」
ルカ「……ん?」
灯織「私と状況は同じ……口で言うのは簡単ですが、実際のところがどうなのかは確かめようがないです」
灯織「すみません……まだ斑鳩さんの手を取る気には」
ルカ「え……あ……おう」
灯織「……私は自分の手でこの学校をもう少し調査します。それでは失礼します」
スタスタ…
にちか「……行っちゃいましたね」
斑鳩さんは宙ぶらりんになってしまった右手をバツ悪そうに頭の後ろに引っ込めた。ポリポリと後頭部を描く仕草が痛々しい。
ルカ「まあ……ああいう反応もあるよな、私は気にしてない」
にちか「斑鳩さん……」
ルカ「さ、次行くぞ次。まだ見てない部屋はあるんだからな」
(……風野さん、なんかあんまり感じ良くない人かも)
【コンマ判定 25】
【モノクマメダル5枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…21枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…6個】
------------------------------------------------
【選択肢が残り一つなので自動進行します】
【モノクマメダルの獲得枚数のコンマ判定を行います】
↓1
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/05/29(月) 22:11:49.78 ID:OqqnPGT90
えいやー
70 :
コンマ78
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 22:15:24.38 ID:vbqLOX8I0
------------------------------------------------
【B1F ゲームルーム】
こんな教室が存在するのってフィクションの中でしかないと思っていた。
屋上での昼ごはん然り、権力の大きな生徒会然り。学校は勉強するところという味気なく退屈な固定概念に囚われた建造物だとばかり。
私たちの眼前に広がるのは「さあ遊んでください」と言わんばかりのゲーム機の数々。
惜しむらくはそのチョイスがイマイチだというところ。見るからにレトロゲームといった感じで私の趣味じゃない。
???「すごい、ダウトランにスパルタムX……これ、めっちゃレアなやつ……!」
___こういうのは、オタクが好きなやつだ。
ルカ「なあ、おい。アンタらちょっと話いいか?」
???「ひゃ、ひゃい?! だ、誰……?」
???「て、甜花ちゃん……こっち……」
にちか「え……ふ、双子……?」
レトロなゲーム機に鼻息を荒くしていた女の子の脇から、もう一人の女の子が姿を現したのだけど、見た瞬間に驚愕。
二人は全くの瓜二つなのだ。
身長に髪の長さ、瞳の色。
明確な違いは髪の分ける方向ぐらいだろうか。初対面の私からすればまるで区別がつかない。
???「あ、自己紹介……しなきゃ、だよね……?」
甜花「大崎、甜花……でしゅ……甜花の方が、お姉さん……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のストリーマー
大崎甜花
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
71 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 22:16:54.82 ID:vbqLOX8I0
???「じゃあ次は甘奈が自己紹介するねー!」
甘奈「大崎甘奈です、甜花ちゃんとは双子で高校二年生! よろしくお願いします!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級のファッションモデル
大崎甘奈
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
にちか「す、すご……本当にそっくりです……」
甘奈「えへへ、ありがと☆ よく言われるんだー!」
甜花「にへへ……甜花となーちゃんは生まれた時からずっと、一緒……!」
ルカ「……ここに拉致られんのも一緒、か」
甜花「ひぃん……」
にちか「でも、本当にそっくりですね……どっちがどっちかすぐ分からなくなっちゃいそう……」
甘奈「えへへ、大丈夫! すぐ簡単にわかる見分けかたがあるんだよ☆」
甜花「うん……これで、誰でも一発……!」
にちか「えー、なんです? クセとか、仕草とかですー?」
甘奈「めっちゃかわいいのが甜花ちゃん☆」
甜花「す、すごくかわいいのがなーちゃん……!」
ルカ「……なんとなく、言動で判別つけるか」
にちか「あはは……」
【コンマ判定 78】
【モノクマメダル8枚を手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…29枚】
【希望のカケラを手に入れました!】
【現在の希望のカケラ…8個】
72 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 22:17:45.87 ID:vbqLOX8I0
ガララララ…!
私と斑鳩さんが探索を行っていると、遠くの方で大きな音がした。
シャッターが上がったような音……もしかして。
ルカ「玄関ホールに落ちてたシャッターが上がったのか……?」
にちか「さっきまでは鉄格子みたいなシャッターがあって通れなかったですもんね!」
ルカ「確か学校の正門……出入り口もあったはずだ。望みは薄いが、行ってみた方がいいだろーな」
にちか「行きましょう! ダッシュですー!」
私と斑鳩さんは走って玄関ホールへと向かった。
73 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 22:19:04.49 ID:vbqLOX8I0
------------------------------------------------
【1F 玄関ホール】
にちか「あっ、やっぱり!」
つい先ほどに通りがかった時とは光景が違えていた。
鉄格子が降りていたために迂回を余儀なくされた空間は解き放たれ、自由に出入りができるようになっていた。
観音開きの大きな扉、その手すりにもいよいよ手が届く。
???「もし……お二人とは、はじめましてで……ございますよね……」
と、そこで、脱出を逸る私たちを背後から呼び止める声。
にちか「え、あ、はい……えっと……あなたは……」
ただでさえ理解不能な状況なのに、それに加えてタイムスリップでもしてしまったのかと思った。
令和社会の今日この頃。
街中を歩いていて、そうそう和装に身を包んだ女の子など見ることもない。せいぜい観光地の試着ぐらいだろう。
しかし目の前の女の子はそれが彼女にとっての日常であるかのように、違和感一切なく身に纏い、そしてそれに伴うだけの気品を備えていた。
彼女の放つ不思議な時間の流れに絡め取られる。
???「申し遅れました……」
凛世「杜野凛世にございます……お見知り置きくださいませ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
超研究生級の大和撫子
杜野凛世
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
才能に銘打たれるだけあってか、これまでに会ってきたどれとも違った雰囲気ある人だった。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。そんな言葉を用いるべき人はこういう人のことを指すのだろう。
ルカ「……すごいなアンタ、もしやいい家柄のお嬢様か?」
凛世「いえ……特に……凛世の生まれはただ、田舎の離れということなだけ……」
凛世「ごくごく普通の……じぇいけいにございます……」
(じ、じぇいけいと来たかー……!)
74 :
◆vqFdMa6h2.
[saga]:2023/05/29(月) 22:20:05.53 ID:vbqLOX8I0
凛世「お二人は、シャッターが上がる音を聞いて……?」
ルカ「ああ、さっきまでは通れなかった場所だからな……」
にちか「それに、ここって出入り口ですよね!? もしかして、脱出できるのかも!」
凛世「……凛世は、すでにその扉を一度開けてしまいました」
にちか「へ……」
凛世「止めは致しません……ただ、過ぎる希望は持たぬ方がよいものかと……」
にちか「な、なんですかそれ……」
ルカ「……とりあえず、開けてみよう。話はそれからだ」
杜野さんの意味ありげな言葉が引っ掛かりつつも、私は扉の引き手に手をかける。
妙な汗をかく。今私たちが陥っているこの状況に何か一つの回答が欲しい。そう逸る気持ちが指の間を伝った。
にちか「いけーーーー!」
空元気にも似た衝動を口から吐き出しながら、一思いに扉を引いた。
私たちを待ち受けていたのは、さっきまでの閉塞感ある校舎とは全く別のひらけた空。
ずっと遠くに青く澄み渡り、風に雲を流す、あの見慣れた空。
その空の合間を縫うようにして、
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