西城樹里「タケウチ」

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480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:32:01.91 ID:sUxM0O3Y0
樹里「こっからアタシが、スリーポイントシュートを投げる」

樹里「今、9対7……これが入ったら、アタシの勝ち」

樹里「入らなければ、アタシの負けだ。
   この手首じゃ、どのみちゲームは続けらんねぇからな」

樹里「で、そうなった場合、アタシはアイドルを辞める……どうだ?」


夏葉「……何だか、最初と趣旨が変わっていないかしら?」

樹里「なっ!? う、うっせーな、いいんだよ細かい事ぁ!」


樹里「アイドルとしてステージに立つからには、このトラウマは克服しなきゃなんねぇ」

樹里「投げるのは1球だけ。
   一発勝負で入らなきゃ、アタシはそれまでだったってことだ」

卯月「でも、樹里ちゃんは手を…!」

武内P「分かりました」

未央「ぷ、プロデューサー……!?」


武内P「入ったら、アイドルを続けていただけるんですね?」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:34:21.87 ID:sUxM0O3Y0
樹里「へぇー……いいのかよ?」ニヤッ

樹里「卯月が言いかけた通り、今のアタシは万全じゃねぇ」

樹里「それどころか、わざと外して、まんまとアイドル辞めてやる気かも知れないぜ?」


武内P「あなたは、打算的な事をする人ではありません」

樹里「……!」ピクッ

武内P「たとえ後ろ暗い思いがあったとしても、
    目の前のものには真摯に向き合うのが西城さんであると、私は知っています」


樹里「……ったく。
   ホント、アンタって恥ずかしげも無く、よくもまぁ……」


樹里「あぁ。本気でやるよ」

樹里「でないと、諦められるモンも諦められねぇしな」


咲耶「それでこそ樹里だ」ニコッ

樹里「うるせぇ」ザッ


武内P「お願いします、西城さん」



樹里「…………フゥー」
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:35:14.95 ID:sUxM0O3Y0
樹里「…………」スゥーッ…

樹里「……」スッ


シュッ…!


未央「行った!」

智代子「お願いっ……!!」ギュッ!


樹里「……ッ」ズキッ



卯月「あ……あぁ……!」

夏葉「軌道が……」



樹里(……ダメ、だな)
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:35:54.41 ID:sUxM0O3Y0
ガンッ!


凛「……ッ!」

智代子「そんな、リングに……!」

咲耶「……」フルフル


ダッ!


未央「うぇっ!?」


ダダッ! バッ!


卯月「ぷ、プロデューサーさんっ!?」
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:36:41.33 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……ッ!」ゴオッ!


樹里「な……えっ!?」


パシッ!

武内P「ッ!」ブォッ!


ガゴォォンッ!!



凛「……ッ!」

夏葉「あ……アリウープ……!」



スタッ

武内P「…………」
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:38:00.16 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あ、アンタ……」

武内P「ボールは、入りました」

樹里「!」ピクッ


武内P「……あなたは一人ではありません」

武内P「偉そうに言える立場ではないとしても……私は、あなたの力になりたい」

武内P「たとえ躓いても、私や皆さんがあなたの力になり、支え続けます。
    あなたに手を、伸ばし続けます」

武内P「そうして共に夢を目指すことの尊さを、見出していきたいと……
    ようやく、そう思うことができました」

武内P「ここにいる皆さんのおかげで……だから、西城さん」


武内P「もう一度、あなたをプロデュースさせてください」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:39:04.45 ID:sUxM0O3Y0
樹里「…………」

樹里「どいつもこいつも、勝手なこと、言ってくれるぜ……」

樹里「まぁ……悪くねぇ」


樹里「アタシの勝ちだな」ニカッ

武内P「いいえ、西城さん」

武内P「“私達”の勝ちです」ニコッ

樹里「ヘッ! 言ってろ」



凛「樹里……良かった」

咲耶「ああ。しかし、プロデューサーの罪が消えた訳じゃない」

智代子「そ、そこはほら! 向き合った上での償いをと言いますか……!」

夏葉「ええ、そうね」

夏葉「凛が語ったように、彼が樹里や智代子を救ったことも事実だから」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:40:29.38 ID:sUxM0O3Y0
未央「要するに、私達がやることは変わんないってことでいいよね?」

夏葉「ふふっ……ええ」ニコッ

卯月「それさえ分かれば、私達、頑張れますっ!」ギュッ


武内P「行うべきことは山積みです。
    これからしばらく、相応にハードなスケジュールになることを予めご承知ください」

樹里「何か目標とかあんのか?」

武内P「約二ヶ月後に、先日のサマーフェスと同等の規模のライブイベントがございます。
    西城さんには、これに出場していただきたいと思います」

樹里「また急な話だなおい」


樹里「でも、今までダラッとしてたアタシもアタシだ。いいぜ」

樹里「改めて、これからよろしくな、プロデューサー」スッ

武内P「はい、こちらこそ」スッ

ギュッ…!


樹里「ヘヘ……バスケが出来るワケだぜ」

樹里「でっけぇ手……」

武内P「……」ニコッ
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:42:24.96 ID:sUxM0O3Y0
〜283プロ〜


天井「……ふむ。そちらの言い分は分かりました」

天井「だが、なぜその話の流れで、この私にコンタクトを?」

『何も接点が見えないからです』

『今お話した登場人物の中で、283プロだけが本来的には何の関わり合いも無い』

『にも関わらず、御社のアイドルは本件について甲斐甲斐しく干渉し、
 関わりを持とうとしているように見えます』

天井「ウチの有栖川夏葉が世話になったから。それだけでは理由として不服かな?」


『彼女が弊社に相応の拘りを持っていたとすれば、それもあるでしょう』

『ですが、彼女にはかのオーディションについての未練はもう無い。
 既に御社で生き生きと活動しているように見えます』

『であるならば、今なお弊社で燻り続ける問題に、
 あなたは自分達のアイドルにわざわざ首を突っ込ませる必要など無いはずです』

『いかがですか?』
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:43:50.42 ID:sUxM0O3Y0
天井「……なるほど。
   深く考えた事はありませんでしたが、言われてみれば一理ある」

『ご冗談を。
 あなたは明確な意志を持ってご自分のアイドル達を介入に向かわせています』

『もしお電話ではお話しにくいようであれば、後日そちらにお伺いしましょう。
 283プロ、いいえ、あなたの真意とその背景にあるものについて、直接お聞かせいただきたい』

天井「お越しいただいても、ご期待に添えるようなお話はできませんがね。
   まぁいいでしょう」

『ありがとうございます。ではまた』

プツッ


天井「……フゥー」ガチャッ

天井(油断のならない相手とは聞いていたが、想像以上だな)

天井(あの強気……彼女も確信を得るに足るだけの情報を、既に握っている)


ギシッ…

天井(厄介なものを引き受けてしまったものだ……やはり、ひと味違うという訳か)

天井(“トップアイドル”が抱える問題のスケールというものは)
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:46:29.85 ID:sUxM0O3Y0
――――――

――――


『さぁ〜残り時間もあとわずか! そろそろ勝負が見えてきそうですがー!?』

『うわわっ!? じゅ、樹里ちゃんっ! そこジャンプで回避するか隠れて!!』

『はぁっ!? ちょ、ジャンプしてるってアタシ!! チョコも見ただろ!?』

『そうじゃなくて、敵が弾を撃ってきちゃ、ああぁー!! 前見て前っ!!』

『おりゃ、ジャンプ! あれ、おいっ!! どうなってんだこれ、おあぁっ!?』

『うわああぁぁっ!! またやられちゃった!!』

  >草ァ!
  >【朗報】漢西城、逃げも隠れもしない
  >めちゃくちゃ素が出てる「おいっ!」で大草原
  >焦りまくる樹里ちゃんでしか摂取できない栄養素がある
  >これ後で喧嘩するやろなぁ、せっかくチョコちゃんキル数稼いでたのに
  >クッソ必死にやってて草
  >何にでも本気でやるの良いよねこの子
  >この二人プライベートでもめっちゃ仲良しだぞ
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:47:29.89 ID:sUxM0O3Y0
〜961プロ〜

カタカタ… カタカタカタ…

武内P「はい、はい……恐れ入ります、ではその方向で……」カタカタ…

武内P「その日時であれば、私共は空いております……分かりました。
    では、引き続きどうかよろしくお願い致します……はい、失礼致します」

ピッ!

武内P「お待たせしました、西城さん」ガタッ

樹里「毎日急がしそうだな、ちゃんとメシ食ってんのか?」

武内P「おかげさまで、いつも美味しくいただいております」

樹里「あ、アタシの弁当の事じゃねぇって! 朝とか夜の話!」

武内P「これは、失礼致しました」ペコリ


樹里「……いつも空っぽにして渡されんだから、そっちは分かりきってるっての」ボソッ

武内P「何か?」

樹里「うるっせぇな!! ほら、仕事行くぞ!」プイッ
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:48:20.13 ID:sUxM0O3Y0
ブロロロロロ…

武内P「道が混んでいますので、到着は若干遅れるかと」

樹里「電話しようか、アタシ?」

武内P「いえ、既に先方へは連絡済みです」

樹里「……あ、そう」


樹里「…………」チラッ



 【961プロ西城樹里 アイドル戦国時代へ殴り込み! 目指すは『クリスタルウィンター』優勝!】

 【芸能界は『西城樹里』を待っていた! カムバックにファンからは期待の声続々】



樹里「…………」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:50:37.34 ID:sUxM0O3Y0
武内P「西城さんのファン層は、老若男女、非常に幅広いのが特徴です」

樹里「ッ!? ちょ、何だよ、ちゃんと前見ろよ!」

武内P「失礼」

樹里「……」プイッ


樹里「……この間、道歩いてたらさ」

樹里「アタシのファンです、って……
   たぶん年下だけど、女の子から、握手求められたんだ」

樹里「応じて良かったんだよな、アタシ……?」


武内P「……ケースバイケースではあります。
    人通りが多く、いたずらに混乱を招きうる場合は、避けた方が良いでしょう」

武内P「また、西城さんの肖像権は事務所に帰属するため、写真撮影に応じることも原則としてNGです」

樹里「そっか……悪ぃ」


武内P「いいえ」

武内P「一人一人のファンを大切にされる西城さんの姿勢は、アイドルとして立派です」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:52:17.48 ID:sUxM0O3Y0
樹里「そうかよ……」ポリポリ

樹里「……アタシ、こういうナリだからさ。
   見た目で怖がられて、知らない人から避けられること、多かったんだ」

武内P「…………」


樹里「……嬉しかった」

樹里「握手を求めたその子も、すげー勇気を出してアタシに話しかけたんだろうし……
   ファンに応援されるって、いいモンなんだなって」

樹里「アタシ、もっと頑張るよ」

武内P「……はい」ニコッ


武内P「到着まで、まだ少しかかります。お休みをされても大丈夫ですが」

樹里「何だよ、アタシとお喋りすんのが嫌だってのか?」

武内P「い、いえ! そういう意味では……」

樹里「あはは、バーカ」


樹里「もっと仕事してぇ。頼むぜ、プロデューサー」

武内P「はい」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:53:57.03 ID:sUxM0O3Y0
――――


美城『961プロとのコラボ企画だと?』

武内P『そうです。
    そのために私は961プロに足繁く通い、そのアイドルと準備を進めてまいりました』


美城『君は、この私の目を節穴だと思っているようだな』

美城『君が社の規定に反する行動を取っていた多くの事実を、既に私は握っている』

今西『……!』

武内P『…………』


美城『ただでさえコンプライアンスやCSRの重要性が叫ばれ、
   世間の監視の目も強くなっている時代だ』

美城『次第によっては、私はこの場で解雇を言い渡すどころか、
   反社会的な人間として君の身柄を然るべき機関へ引き渡す事に一切の躊躇もしない』

ちひろ『そ、そんなっ!』



武内P『結構です。しかし……』
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:55:19.84 ID:sUxM0O3Y0
武内P『あなたにそれが出来るでしょうか』

美城『……どういう意味だ』


武内P『あなたはきっと、こうも考えているはずです』

武内P『私を罰しようとするなら、961プロの黒井社長があなたに対し、
    徹底的に抗議してこれを否定するでしょう』

武内P『彼がそれをするに足る理由をあなたが知っているとすれば、ですが』

美城『…………』

武内P『そうなれば、346プロと961プロとの全面戦争は避けられない』

武内P『仮に法廷の場で勝利を納めるとしても、それまでに受けるであろう損失を考えれば、
    表立って行動を起こすのはデメリットでしかない』

武内P『果たしてそれは、あなたにとって合理的な判断と言えるでしょうか』
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:56:16.20 ID:sUxM0O3Y0
美城『……開き直りとはな。
   伊達に裏の仕事を担ってきただけあり、並みの心臓を持ってはいないということか』

武内P『…………』


美城『私は君を否定する。
   このまま野放しにしておく事など考えてはいない』

美城『その時が来るまで、せいぜい独りよがりの贖罪ごっこでも続けるがいい』


武内P『ありがとうございます』ペコリ


ちひろ『プロデューサーさん……』

今西『…………』


――――
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:58:07.58 ID:sUxM0O3Y0
〜某テレビ局スタジオ〜

ワアアァァァァァ!!

冬馬「玉ねぎをすり下ろすぜっ!」ショリショリ!

冬馬「こうすることで、水分が出てふんわりと柔らかくなるし、
   焼いた時に割れちまうリスクも回避できるからオススメ! だぜっ!」ビシッ!

キャアアァァァッ!!


司会者「天ヶ瀬冬馬選手、なんと繊細なひと手間!
    一方で青コーナーの、あーっとこれは961プロ、西城樹里選手!?」

司会者「みじん切りにした玉ねぎに、これは溶かしバターでしょうか!?」

司会者「サッと回しかけたそれをラップに包んで、電子レンジの中へ!
    西城さん、これは今何を!?」


樹里「飴色になるまで炒めてると時間かかるんで、こうしてます」ジャーッ

樹里「普通に炒めるのより水分が飛ばないからジューシーにもなるし、
   加熱した玉ねぎの甘みと、バターでコクも出て……」サッ サッ

樹里「しかもこうして、他の作業も並行してできるから便利かなって」シャカシャカッ

ヒューーッ!! ワアァァァァ!!
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:59:15.48 ID:sUxM0O3Y0
冬馬「ヘッ! レンジを使った程度で得意になってりゃ世話ねぇな」

樹里「何だぁ? 玉ねぎをすり下ろすのなんざ、アタシだってとっくに試してんだよ」

冬馬「言ってろ。最後に美味くできなきゃ意味ねぇぜ!」ガオッ!

樹里「こっちの台詞だぜ! 後で吠え面かくんじゃねぇぞ!」クワッ!

ギャーギャー!

司会者「あぁっと、これはアイドルらしからぬ舌戦の応酬!」

解説者「台本には無いですね。とても良いですよ、ノーカットでやりましょう」

司会者「解説なのに編集者目線ですねぇ!?」

ワアアアァァァァァァ!!



武内P「…………」


凛「プロデューサー、お疲れ様」ヒョコッ

武内P「!? し、渋谷さん……どうしてこちらへ?」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:00:45.26 ID:sUxM0O3Y0
凛「ちょうど、隣のスタジオで仕事だったんだよ。忘れたの?」クスッ

武内P「これは、失礼致しました」

凛「ううん」フルフル


凛「本当は、楓さんも一緒だったんだけど、次の仕事があるみたいで」

武内P「そうでしたか」

凛「だから、楓さんから樹里へ伝言」

凛「美味しいハンバーグを食べて、私達もアイドル業界をわんぱーくに邁進しましょう♪」

武内P「…………」

凛「……いや、私じゃなくて、本当に楓さんが言ったんだからね?」

武内P「いえ、分かっています……」


凛「でも、楽しそうだね、樹里」

武内P「……はい」
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:02:05.73 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あれっ!? おい、チーズを入れんのは反則だろ!」

冬馬「ゲッチュウ! 神様は何も禁止なんかしてない! だぜっ!」ビシッ!

樹里「んの野郎……! よしっ、じゃあこっちも秘密兵器を投入だ!」ドスンッ

冬馬「えっ!? ちょ、何だそれ!? どっから出てきたその鍋!」

樹里「ウチで作ってきた特製デミグラスソース」グツグツ

冬馬「そっちの方がなんかズルくねぇか!?」



凛「その樹里と……ウィンターフェスでは敵同士になるんだね、ニュージェネは」

武内P「……そうなります」


スッ

凛「ねぇ……プロデューサーは、どっちの方につくの?」

武内P「…………」
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:03:29.36 ID:sUxM0O3Y0
凛「フェスの事で、話をしたりしないんだけどさ……」

凛「樹里はきっと……私達についてやれ、ってプロデューサーに言うよ。
  本来は、346プロのプロデューサーなんだから、って」

武内P「…………」


凛「…………」



凛「樹里についてあげて」


武内P「えっ?」


凛「知ってる? 樹里の周りにいるの、もうファンだけじゃなくなってるって事」

凛「この間、未央から見せてもらったんだけど……匿名掲示板とかに、そういう……」


武内P「……アンチからの誹謗中傷、ですか」

凛「…………」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:05:02.66 ID:sUxM0O3Y0
武内P「大なり小なり、そういうものはつきものです」

武内P「私も……同じ事を行い、何人も闇に葬ってきました」

凛「! そ、それは961プロから言われて仕方なくでしょ!」

武内P「はい。ですが……許される理由にはなり得ません」

凛「……ッ」プイッ


武内P「私が責められる分には、許容できます。ですが」

武内P「西城さんまでをも巻き込んでしまうのが、私には……」


凛「だから、樹里のそばにいてあげてよ」

凛「その辛さを一番分かっている人が、一番の支えになれるはずだから」


武内P「渋谷さん……」

凛「私達なら大丈夫。
  未央も卯月もいるし、ステージの上でも三人で支え合っていける」

凛「樹里には……プロデューサーが必要なんだよ」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:06:18.96 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」グッ…

武内P「私は……あなた達のプロデューサーです」

凛「…………」


凛「体は一つしか無いんだから……」

凛「樹里は、今が正念場で、特に頑張んなきゃいけないんだから……
  樹里に力を注いであげてよ」


凛「今日はそれを伝えたかっただけ……それじゃ」スッ

武内P「! し、しぶ…」

スタスタ…


武内P「…………」ポリポリ


樹里「あん? どうした、困ったツラして」ズイッ

武内P「!? さ、西城さん……収録は?」

樹里「今休憩に入ったトコだよ、見てなかったのか?」

武内P「も、申し訳ございません」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:08:19.11 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ふーん、アンタらしくねぇな。やっぱ疲れてんじゃねぇのか?」

武内P「い、いえ……」


冬馬「おい西城っ!」

樹里「あ? 何だよ、えーっと……鬼ヶ島?」

冬馬「天ヶ瀬冬馬だ!! “ヶ”しか合ってねぇだろ!
   あのな、えーっと、なんだ……」

樹里「だから何だよ、男ならビッとしろよな」

冬馬「うっ、だ、だからっ! 後でその、お前のレシピも教えてくれ!」

樹里「!? はぁぁ!?」ドキッ

冬馬「こういうのは自分で作ってみねぇと、どっちが美味いか分かんねぇなと思って」


樹里「そ、そりゃあ、別に構わねぇけど……」ポリポリ

樹里「じゃあお前、えーっと……冬馬? のも教えろよな。
   一応アタシも家で作ってやるよ」

冬馬「本当か!? やったぜ! じゃあ後でメールするからな!」ビシッ

スタスタ…
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:09:23.05 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……なんか、アイドルって強引なヤツ多くねぇか?」

樹里「まぁ、退屈はしねぇけどさ」

武内P「…………」

樹里「あ、そうだ。収録終わった後でいいから、アタシのハンバーグ食べていけよな。
   あの冬馬とかいうヤツのと食べ比べて、どっちが美味いか聞かせてくれよ」

武内P「…………」

樹里「? ……おーい、もしもーし」

武内P「え?」


樹里「……やっぱ、何かあったろ」

樹里「もう、隠し事はナシにしようぜ、プロデューサー」



武内P「ウィンターフェス……『クリスタルウィンター』の件ですが」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:10:18.73 ID:sUxM0O3Y0
〜街中〜

トボトボ…

凛「…………」


「ねぇ、ちょっとあの子……」
「しぶりんだよね?」
「変装とかしないんだ……」
「うわぁぁ顔ちっちゃ〜い……可愛い〜……!」


凛(……また、困らせちゃったな、プロデューサー)

凛(私……樹里に嫉妬してばかり)


ヴィー…! ヴィー…!

凛「……?」ゴソゴソ…

凛「知らない番号から……?」


ピッ!

凛「もしもし」
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:11:12.41 ID:sUxM0O3Y0
『突然電話をしてすまない』

凛「あの……誰ですか?」

『美城だ。346プロアイドル事業部の常務をしている』

凛「! えっ……」


『君と話したい事がある。
 すまないが、事務所の常務室まで来てくれないか』

凛「え、えぇっと……少し時間かかると思いますけど」

『構わない。
 用件は、私が主導する新たなプロジェクトへの参加の可否についてだ』

『前向きな回答を期待する』

ピッ!


凛(……常務自ら、私に直接?)
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:12:34.60 ID:sUxM0O3Y0
凛(確か、プロデューサーから聞いたな。プロジェクトクローネ、だっけ)

凛(私には、今のニュージェネの活動があるし……まして、ウィンターフェスも控えてる)

凛(新しいプロジェクトになんて、参加してる余裕は無いんだけど……)


凛(…………)


  ――私は……あなた達のプロデューサーです。


凛(いっそ……)


凛「!? い、いやいやいや……!」ブンブン


凛「ま、まぁ……聞くだけなら、聞いてあげてもいいかな、うん」

凛「そう、聞くだけ……」


凛(何を独り言、言ってんだろ私……馬鹿みたい)
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:14:10.23 ID:sUxM0O3Y0
〜346プロ〜

テクテク…

凛(……ここだ)ピタッ

凛(常務室、初めて来た……)


凛「…………」


凛(プロデューサー……引き留めてくれるのかな)

凛(プロジェクトクローネに行く、って言ったら……)

凛「……馬鹿」スッ


「冗談ではないっ!!」


凛「!?」ビクッ


凛(……え? 男の人の声?)

凛(先客が来てる……?)
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:15:42.45 ID:sUxM0O3Y0
ガチャッ…

凛「……」ソォー…



美城「えぇ、そうです。私は冗談など言っておりません」

黒井「であるなら、どういう風の吹き回しか聞かせてもらおう!」

黒井「この期に及んで“契約”を破棄するだと!?」


美城「御社と弊社の間で結ばれた契約については、
   私も先日、先代からようやく聞き出して知るところとなりました」

美城「346プロダクションアイドル事業の責任者として、お恥ずかしい限りです」

黒井「フンッ」

美城「ですが、黒井社長。昔とは時代が違います。
   何事も力押しで握り潰せるわけではありません」

美城「古い時代に生まれた契約に固執する理由など、弊社には無いということです」


黒井「ほ〜う? それはどうかな」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:19:08.48 ID:sUxM0O3Y0
美城「と言いますと?」

黒井「相応の悪事に荷担した者がそちらにいる事は、既に知っているはずだ。
   これをマスメディアに暴露する」

黒井「世論が大好きな、業界最大手の炎上ネタだ。
   食い物にされれば、おたくの最も大事にする“イメージ”とやらが台無しになるだろう」

美城「……」

黒井「特に……」


黒井「346プロの稼ぎ頭である、あの歌姫の失脚は免れないだろうなァ?」



凛「……!?」ピクッ



美城「自己本位のご想像をされるのは自由ですが……」

美城「それを立証するには、それらを実行した者を明るみに出す必要があるでしょう」

美城「そして、その者は今あなたの手中にある訳ではない」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:20:17.84 ID:sUxM0O3Y0
黒井「甘いな、美城の娘が。
   あの男は我が961プロの事務所にも出入りしているのだ」

黒井「それとも、私がその男を捕らえるよりも先に、346プロが先に動くつもりかね?
   黒い事実の証人を始末するために」


凛(え……)


美城「それをあなたに教える義理は無い」

黒井「クックック、なるほど……
   346プロの新代表は、私が考えている以上に腹が黒いようだ」

黒井「そうとなれば、今日はここで失礼する。
   急用ができたものだからな」スッ


凛(! こ、こっちに来る……!)サッ

ドシンッ!

凛「うっ!?」


黒服「…………」ズオォ…!

凛「! す、すみませ…」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:22:27.54 ID:sUxM0O3Y0
ガチャッ!

黒井「……ンン〜〜〜?」

凛「!?」ビクッ


黒井「貴様、こんな所で何をしている」

凛「あ、いや、えっと……私は、ただの通りすがりで……」

黒服「Sir。このgirlは、doorの間から中のお話をlisten、聞いてマシタ、Sir」

凛「え、ちょ……!?」

黒井「何ぃ〜〜!?」


凛「……!!」ダッ!

黒井「あ、逃げた! 捕まえろ!!」

黒服「イエス、Sir」ダッ!

黒井「そもそも盗み聞きを見てたならなぜ止めさせなかったのだ!!」

ダダダ…!





美城「………………」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:23:23.73 ID:sUxM0O3Y0
凛「くっ!」タタタ…!


ガシッ!

凛「キャッ!!?」グイッ!

黒服「捕まえました、Sir」


黒井「ククク、これはこれは、あの男の担当アイドルか」

凛「! わ、私を、知っているんですか……?」

黒井「あぁ、もちろんだとも」


黒井「貴様があの男を呼び寄せる格好のエサになる事もなァ?」

凛「!!」ゾクッ…!


黒井「私と一緒に来てもらおう、渋谷凜」ニヤ…
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:25:57.60 ID:sUxM0O3Y0
〜283プロ〜

夏葉「えぇ……えぇ、そのつもりよ」

夏葉「え? ……ちょっと、そこまでしてもらうほどの事じゃ……」

夏葉「……確かに、その通りね……えぇ、分かったわ。じゃあ、そのように」

夏葉「ありがとう、お父様」

ピッ!


夏葉「今、父と話をしたわ。
   予定通り、『クリスタルウィンター』のステージ上で、それを告発する」

夏葉「有栖川家は私だけでなく、283プロに対してもあらゆる支援をすると、
   父はすっかり気炎を巻いているわよ」

咲耶「ありがとう、夏葉」

夏葉「礼には及ばないわ。紅茶でも?」

咲耶「ああ、いただこうか」


シャニP「な、なぁ……いくつか確認をさせてほしいんだが」
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:26:53.85 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「先ほど話した通りよ?
   命を狙われている樹里を守るため、私が矢面に立つということ」

シャニP「いや、346プロが不正を隠蔽するために暗躍しているのは分かった」

シャニP「皆が危険に晒されないよう、夏葉のお父さんが最大限の協力をしてくれることもな」

シャニP「天井社長も了解している話であり、俺もその管理については社長から一任されている」


シャニP「じゃあ、最初に346のオーディションで不正を依頼したのは、一体誰なんだ?」

夏葉「あら。社長から一任されているのに、詳しい背景についてあなたも知らないの?」

シャニP「社長は何か知っているらしいんだけどな。俺に教えてくれないんだよ」
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:28:05.59 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「……一説には、黒井社長が不正を依頼したらしい。
   だけど、その黒井社長も、誰かからの依頼だったようだ」

夏葉「でも、考えてみれば……確かに、そうね。
   346プロが黒幕だとしたら、わざわざ黒井社長に依頼する理由が無い」

シャニP「相手の狙いが分からないと、全てが後手に回ってしまうんじゃないかと思ってな」

咲耶「アナタの言う通りだね。
   だが……346プロでないのなら、一体誰が?」


ガチャッ

天井「皆、ご苦労」スタスタ

シャニP「あ、社長! どうもお疲れさ…」

シャニP「あれ? 社長、お急ぎのご様子ですがどちらへ?」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:29:15.43 ID:sUxM0O3Y0
天井「961プロだ」

一同「!?」ピクッ

天井「いや……その前に、346プロにも寄る必要があるかも知れんな」

夏葉「? ……??」


天井「ところで、園田智代子はどうしている?」

シャニP「えっ? あの……今日は、346プロの高垣楓さんの番組に出演する予定です」

天井「そうか」

咲耶「あの、天井社長。一体何が……」



天井「大きなうねりが生じてきた。
   我々が第三者ではいられなくなってくるほどの、な」
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:30:09.21 ID:sUxM0O3Y0
〜車の中〜

ブロロロロロ…

樹里「んなモン、悩む要素ねぇじゃねーか。何言ってんだ」

武内P「は、はぁ、しかし……」

樹里「凛も凛だぜ。
   分かりきってる事をいちいち聞くなんざ、らしくねぇ」


樹里「アンタがアタシのプロデューサーとして出ちゃったら、
   346プロん中で示しがつかなくなんだろ?」

樹里「どうしたいかもいいけど、どうしなきゃいけないかを先に考えるべきじゃねーのか?」


武内P「……西城さんは、大人です」

樹里「は、はぁ?」

武内P「私は、あなたよりも歳を重ねてこそいますが、大人になりきれない……」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:31:51.93 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……アタシなんか、もっとガキだよ」プイッ

樹里「ただ、筋の通らねぇ事をすんのは良くねぇ、って思っただけだ」

武内P「ですが、西城さん」

樹里「アタシのアンチの話だろ? アンタや凛が気にしてんの」

武内P「え……?」


樹里「チョコから聞かされて、もう知ってるよ。そういうのがいるって事」

樹里「何ならこの場でちょっくら検索して、読み上げてやろうか?」スッ

武内P「あ、あの、西城さん……!」

スイッ スイッ


樹里「……“コイツは口と態度が悪すぎ、さすが元ヤンだよな”」

武内P「…………」

樹里「“他の事務所の子が西城樹里にいじめられてるの見たわ”
   “コイツが映った瞬間チャンネル変えてる”」

樹里「“961プロのゴリ押しが露骨すぎてウザい”
   “不快だからさっさと消えてほしい”」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:34:14.11 ID:sUxM0O3Y0
樹里「と……まぁ大体そんな感じのばっかだな。
   こんなの、大方の予想通りだろ。ったく、誰が元ヤンだ」

武内P「し、しかし! あまりに不当な評価は、許容できません」


樹里「重ねてんだな。アンタが前に担当してたアイドルと、アタシを」

武内P「…………」

樹里「色んな人達から叩かれて……辛かっただろうな、その子」


樹里「でも、アタシはアタシだ」

樹里「もちろん、アタシだってこんなのムカつくよ。
   こっちの気も知らねぇで、ありもしない事を勝手に言われりゃさ」

樹里「だから、いちいち気にしたくねぇし、それに……」


樹里「アンタのおかげで、こっちはトラウマを一つ克服できてんだ。
   今さらこんなのに潰されるような、ヤワなメンタル持ち合わせてねぇよ」

樹里「それを気づかせてくれたのはアンタだろ、プロデューサー?」ニカッ
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:35:28.51 ID:sUxM0O3Y0
武内P「西城さん……」

樹里「だから、えぇっと……あれ、何の話だっけ?」

樹里「あぁそうそう、ウィンターフェスだ。
   アンタはちゃんと、凛達のプロデューサーとしてついてやれよな」

樹里「ヘッ! どんな気分だよ?
   自分が育てた自慢のアイドルに、自分トコのアイドルが負けるのはさ」ニヤッ

武内P「……いいえ、西城さん」

武内P「私達は負けません」フッ

樹里「アハハ! その調子だぜ」


ヴィー…! ヴィー…!

武内P「む、携帯が……」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:36:23.28 ID:sUxM0O3Y0
樹里「アタシが代わりに出ようか?」

武内P「ありがとうございます。相手にもよりますが……」

樹里「えーっと……」スッ


樹里「……凛だ」

武内P「…………」

樹里「噂をすれば、か……出てもいいか?」

武内P「お願いします」


樹里「……」ピッ!

樹里「もしもし」


『…………』


樹里「……もしもし? 聞こえてるか?」
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:37:20.55 ID:sUxM0O3Y0
『……樹里』

樹里「凛、どうした? 今プロデューサー、運転中だからよ」


『……来ないで』


樹里「え……?」


『私を……探さないで、って……プロデューサーに伝えて』

『皆にも……私は、大丈夫だから……』

『心配、要らないから……』


樹里「おい……今どこにいんだよ」


『……っ』

樹里「答えろよ、おい。どうしたんだ凛!?」
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:38:35.85 ID:sUxM0O3Y0
『キャッ……!』

『ガタッ ガタンッ…』


『……電話です、Sir』

『見れば分かる』


樹里「……!?」


『誰だ貴様は?』


樹里「……そっちこそ誰だよ」ギリッ

武内P「……?」


『なるほど……その反抗的な声色は、西城樹里だな?』

『あの男はどうしている? なぜ電話に出ない』
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:39:47.58 ID:sUxM0O3Y0
樹里「プロデューサーのこと言ってんなら、取り込み中だ。
   話があるならアタシが聞いてやる」

『口の利き方には気をつけるんだな。私は貴様の雇い主だ』

樹里「! アンタ……黒井社長……!」

武内P「!?」

ブロロロロ… キキィッ!


『すぐそばにその男がいるのなら話が早い。
 ヤツに伝えておくがいい』

『渋谷凜は、我が961プロが新たに建造したスペシャルなイベントホール、
 『クイーンズゲートドーム』にいる』

『貴様が渋谷凜よりも西城とかいうガチャ蠅を大事にするというのなら、
 存分にこの誘いを無視するがいい、とな』
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:41:38.17 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ふざけやがって……!!」ギリッ

樹里「プロデューサーはそんなヤツじゃねぇよ! 凛を見捨てたりなんかするもんか!!」

『貴様には聞いていない。
 元より、その男の本質を何も知らずにいる貴様の話など、聞くに値しない』

樹里「何だと!?」

武内P「西城さん、電話を代わってください」

『日が明けるよりも前に来なければ、渋谷凜の身の安全は保証しない。
 無論、警察に伝えてもな』

『では、アデュ』

ピッ!


樹里「………………」


武内P「西城さん……?」


樹里「シャレんなってねーぞ、これ……!」

樹里「凛がさらわれた!! 早く助けに行かねーと!!」

武内P「……!!」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:43:11.27 ID:sUxM0O3Y0
〜某テレビ局 スタジオ〜

アハハハハハ…!

智代子「ぜぇ、ぜぇ……あ、あの、そろそろ良いでしょうかね?」

楓「え……もう、おしまいなのですか?」シュン…

智代子「そ、そんな悲しそうな顔しないでくださいよぉ!」

智代子「分かりました、不肖園田智代子のモノマネ100連発!
    次は、チャップリンが目隠しでスケートをする時のモノマネやりますっ!!」

楓「わぁぃ♪」パチパチ


智代子「ふんん〜〜!!」ツイーッ

ドッ!! ワハハハハハ…!!



楓「智代子ちゃん、ありがとうございます」

楓「特に、『雨に唄えば』のジーン・ケリーのモノマネが、とても良かったです」

智代子「よ、喜んでもらえたなら……」ゲッソリ
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:44:35.21 ID:sUxM0O3Y0
楓「普段からそういう、モノマネの練習をしているんですか?」

智代子「そ、そんな四六時中やっている訳じゃないですけど……
    えぇと、友達同士で、ふざけ合ってやるくらいで」

楓「まぁっ。とても賑やかで楽しそうですね♪」

智代子「それが、その友達はあまり乗ってくれないんですよねぇ。
    あ、友達というのは西城樹里ちゃんなんですけど、961プロの」

楓「樹里ちゃんが?」

智代子「新作のモノマネを披露してみせても、「くだらねぇ事すんな」って。
    まったく、私の努力を何だと思っているんでしょうか!」プンスコ

楓「ふふっ。ひょっとしたらそれは、樹里ちゃんの照れ隠しかも知れませんね」

智代子「そ、そうかなぁ……?」


智代子「そう言えば、楓さんは樹里ちゃんと一緒にお仕事された事、あるんでしたよね?」

楓「はい。樹里ちゃん、とっても一生懸命に取り組んでくれました」

智代子「いいなぁ樹里ちゃん。そういうコネを持っている961プロが羨ましい……」

智代子「あっ! コネとかそういうの言わない方がいいですよね、す、すみません!」

アハハハハ…!
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:45:58.73 ID:sUxM0O3Y0
楓「ふふ……いいえ、智代子ちゃん」

智代子「?」


楓「確かに、“961プロ”さんからのご依頼があってのお話でしたけれど……」

楓「樹里ちゃんとのお仕事については、私からの要望でもあったんです」


智代子「えっ!? それってつまり、
    楓さんが、じゅ、樹里ちゃんを指名した……ってこと、ですか!?」

楓「はい」ニコッ

智代子「何でーっ!!? ず、ズルいよぉ樹里ちゃん!!」

楓「まぁまぁ。
  智代子ちゃんにもこうして、私と共演していただけた事ですし」

智代子「そ、そうなんですよ!
    プロ、あぁいえ、事務所の人から聞いたんですけど」

智代子「ほ、本当の話なんですか?
    楓さんの方から、今回のゲスト出演をオファーいただいたのって」
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:47:18.65 ID:sUxM0O3Y0
楓「はい、そうなんです。無事に願いが叶って、ホッとしています」

智代子「いや、願いて……ど、どうして私なんかを?
    他にももっと豪華なゲストがいたんじゃ……」

智代子「あぁいえ、なんかって言っちゃうと失礼なのは分かるんですけど、その……」

楓「智代子ちゃんにとっては、なんかいなお話でしょうか、なんて。ふふふっ♪」

智代子「は、はぁ……」


楓「でも」



楓「それは、私がやらなければならない事だと、思ったからなんです」
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:48:45.46 ID:sUxM0O3Y0
智代子「……楓さん?」


楓「うーん、たとえばの話ですが、智代子ちゃん」

楓「道端にあった石ころを、つい蹴飛ばしてしまったとして……
  もしそれが、他の人に当たってしまった場合」

楓「智代子ちゃんなら、どうしますか?」

智代子「え? い、いやぁ……」

智代子「そりゃあ……ごめんなさいって、当てちゃった人に謝ります」

楓「そうですね。私も、そうすると思います」


楓「では、次の質問です」

楓「道端にあった石ころを蹴飛ばして……それは幸い、誰にも当たらなかった」

楓「でも、もしその蹴飛ばされた石ころを、何日か後に、通りを走る車が踏んで……
  その事が、何かしらの事故に繋がってしまったとしたら」

楓「智代子ちゃんは、その事故の被害に遭われた人に、謝るでしょうか?」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:50:10.73 ID:sUxM0O3Y0
智代子「ええぇ? ど、どうでしょう。
    たぶん、謝らない……というか、謝れないんじゃないでしょうか?」

楓「えぇ、そうですよね」


楓「目の届くものにしか、私達は行動を起こすことができません」

楓「それは、自らの過ちに対してもそう」

楓「だから私は、できる限りあらゆる物事に目を配りたいですし、それに」

楓「私のせいで、私の気づかない所で不幸になっている人も、どこかにいる……
  その事実には、きちんと向き合わなきゃって思うんです」


楓「それが、私が樹里ちゃんや智代子ちゃんと一緒にお仕事をしたい理由、ですね」



智代子「? ……???」キョトン
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:51:56.87 ID:sUxM0O3Y0
智代子「いやいや、その流れで、何で私や樹里ちゃんが出てくるのか……?」

智代子「そもそも、楓さんのせいで不幸になる人なんているわけ無いじゃないですかっ」


楓「ありがとうございます、智代子ちゃん」

楓「そうであるなら、どんなに良いでしょう……」

智代子「楓さん……?」


楓「……ふふっ、ちょっとしんみりしてしまいました」

楓「そろそろ次のトークのお題に移りましょう。えぇっと次は……」

楓「あら、これは智代子ちゃんの得意分野ではないでしょうか。
  『最近ハマッているグルメ』」トンッ

智代子「お、おおっとそんな楓さん、私をまるで食いしんぼキャラみたいな風に!」

楓「まぁまぁ、チョコどうぞ」スッ

智代子「かたじけないッッ」

アハハハハハ…!
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:52:46.69 ID:sUxM0O3Y0
今回はここまで。
次回は明日の夜9時〜12時頃の更新を予定しています。
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:56:06.87 ID:pILEJ24B0
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:56:28.77 ID:TH6oWqZDo
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/22(水) 01:15:09.77 ID:k2BSVbQs0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:20:47.07 ID:AXuZ3osI0
〜346プロ〜

今西「お、落ち着いてくれたまえ、本田君、島村君。
   一体何があっ…」

未央「だからっ! しぶりんと連絡が取れないんだってば!」

卯月「プロデューサーさんや……961プロの樹里ちゃんも、何も反応してくれないんです!
   こんなこと、絶対おかしいって、私達心配で、怖くて……!」ジワ…

今西「プロデューサーが……」

未央「ちひろさんは!? ちひろさんもどこにいるの!何でいないの!?」


今西「…………」

今西「……先ほど、常務とも話をしてきたんだ」

今西「新規プロジェクトの件で渋谷凜君を呼んだはずなのに、
   一向に姿を見せないから心配している、とね」
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:22:30.02 ID:AXuZ3osI0
卯月「えっ……!?」

今西「つまり、渋谷君の身に何かがあったとすれば、彼女がこの事務所に……
   常務室へと来る途中、という事になるが」


卯月「じょ、常務はその辺りのお話について、何かご存知ないのでしょうか?」

未央「!? し、しまむー、それってどういう……?」

今西「……島村君。口の利き方には気をつけた方がいい」

卯月「! す、すみません……!」ペコッ


今西「どこに常務の目があるか、分からないのだからね」

卯月・未央「……?」


今西「私から言えるのはもう一つ」

今西「彼女が渋谷君を呼び寄せたその時間、
   常務は961プロの黒井社長と何やら話をしていたらしい」

今西「彼女は、黒井社長の方から突然来訪を受けたと言っていたがね」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:26:06.30 ID:AXuZ3osI0
未央「そ、それ……つまり、黒井社長としぶりんが鉢合わせる事だってありえ……!」

未央「!! ま、まさか、黒井社長がしぶりんを……!?
   い、いやいや、そんないくら何でも…!」

卯月「じょ、常務は……どうして凛ちゃんを今日、常務室へ呼んだのでしょうか?」

未央「しまむー……?」


卯月「もし常務が、黒井社長が今日来ることを知っていたのだとしたら……」

卯月「まるで常務は、凛ちゃんと黒井社長が鉢合わせ…!」

未央「しまむー、それ以上はやめよう! 言い過ぎだよ!」

卯月「でもぉ!! 未央ちゃんだってぇ!」グスッ



コツ…

「失礼する」


未央・卯月「!?」クルッ

今西「おや……あなたは」



天井「美城常務に会いに来たのだが、ご在室かな?」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:27:32.81 ID:AXuZ3osI0
〜961プロ クイーンズゲートドーム前〜

ブロロロロ… キキィッ

ガチャッ 


樹里「……おーおー、イカツいドームだなおい。
   本当にアイドルのライブのための建物かよこれ」バタン

武内P「西城さん。お連れしておいてなんですが、あなたは…」

樹里「何度も言わせんな。
   凛が危ない目に遭ってるってのに、引き下がれるかよ」


武内P「ここはどうか、私にお任せください」

武内P「ハッキリと申し上げますが、あなたでは足手まといになります」


樹里「……そうだとしてもだ」

樹里「頼む、プロデューサー……アタシだって、何かしたいんだよ」

樹里「あれだけ世話になったってのに……
   本当に助けが必要な時に、何もしてやれないんじゃ、何のための友達だ」
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:29:09.24 ID:AXuZ3osI0
武内P「西城さん……」

樹里「どうせ拳銃持ってるようなヤツが当たり前のように出てくる世界なんだろ?
   いつぞやアタシを襲ってきたみたいなさ」

樹里「確かにアタシなんかじゃ、頼りになんねぇだろうけど……
   覚悟だけは、出来てるつもりだぜ」


武内P「……分かりました。共にまいりましょう」

樹里「あぁ。世話を掛けてごめんな」

武内P「いえ、ありがたいです」

樹里「ヘッ……ん?」ピタッ

武内P「どうされましたか?」


樹里「誰かいねぇか? あそこ、入口の方……」

武内P「……あれは」



「……やはり、来てしまったのですね」


ザッ

ちひろ「プロデューサーさん……」
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:41:29.30 ID:AXuZ3osI0
武内P「千川さん……」

樹里「……事務員さん?」

武内P「はい。346プロの、私の同僚です」

樹里「同僚……」


ちひろ「今西部長には、黙って来ちゃいました」


武内P「……なぜあなたが?」

武内P「我々がここに用があって来ることは、黒井社長しか知り得ないはずです」


ちひろ「らしくないですね、プロデューサーさん」

ちひろ「私も961プロと繋がりがあるから、と考えるのが自然でしょう?」

武内P「千川さん……」


ちひろ「……西城樹里ちゃん。お会いするのは、初めてでしたね」

樹里「…………」
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:43:33.60 ID:AXuZ3osI0
ちひろ「正直に言うと、樹里ちゃん……あなたの事を、恨んでいます」

樹里「! え……」

ちひろ「樹里ちゃんと出会ってしまったがために、プロデューサーさんは狂ってしまいました」

ちひろ「たとえ後ろ暗い事であろうと、それまでは平穏無事に、仕事ができていた。
    少なくとも、命が脅かされるような事は、何も」

ちひろ「なのに……」

樹里「……アタシは」

武内P「耳を貸す必要はありません、西城さん」

樹里「ぷ、プロデューサー……」

ちひろ「…………」


武内P「961プロの狙いが渋谷さんではなく私であることは、分かっています」

武内P「私をおびき寄せ、身柄を拘束するために、渋谷さんを人質に取った……
    引き続き、961プロが346プロとの交渉を優位に進めるために」

武内P「346と961を繋ぐものは、私と、かの契約をおいて他にありません。
    つまり、両社の間で、契約の継続について主張の相違があった」


武内P「961プロが、私の身柄を確保したがっているとすれば、
    これに対する346プロの目的は……私の排除」
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:45:23.75 ID:AXuZ3osI0
樹里「……えっ!?」

武内P「違いますか?」


ちひろ「……伊達に“こっちの世界”での生活が長くないんですね」

ちひろ「ですが、私達は……私はあくまでも、346プロ側の人間です。
    私の目的もまた、美城常務と全く違えているわけではありません」

武内P「……?」


ちひろ「業界の悪しき慣習を無くしたいという気持ちは、同じなんです」

ちひろ「それを実力行使で直接的に排除するのか、
    穏便に済ませて幕引きを図りたいか……その違いだけ」

武内P「私が、もう346プロに必要とされていないであろう事は、承知しています」

ちひろ「だから……!」


ちひろ「私がここにいるのは、プロデューサーさんを陥れたいからじゃありません」スッ

ジャキッ
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:46:50.05 ID:AXuZ3osI0
樹里「うぇっ!?」ギクッ!

武内P「……ッ」


ちひろ「お願いです、プロデューサーさん……私に、殺されてください」

武内P「千川さん……」

ちひろ「殺されたことに、してください」

武内P「……!?」


ちひろ「遺体も死亡届も、偽装する準備は整っています。
    あなたは名前も戸籍も変えて、これまでの事も忘れて、第二の人生を歩んでくれたらいいんです」

ちひろ「それが、誰も犠牲にならない、最も穏便な方法なんです」


ちひろ「でないと……このままでは本当に、殺されてしまいますっ」ツー…

ポタッ


武内P「……」

ちひろ「う、うっ……う……!」ポロポロ
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:50:18.61 ID:AXuZ3osI0
武内P「それはできません」

ちひろ「! ……ぷ、プロデューサーさん……ッ!」


武内P「私にはまだ、やり残していることがあります」

武内P「担当アイドルと向き合うということ。
    渋谷さん達はもちろん、西城さんが……」

武内P「私がスカウトしたアイドルが、自身の翼を広げて羽ばたく姿を見届けることが、
    プロデューサーとしての私の本分です」

樹里「ぷ、プロデューサー……」


ちひろ「しっ、死んじゃうんですよ!
    346だけじゃないんです、961もほとんど手の平を返し始めています!」

ちひろ「逃げ切れるわけないんですっ!!」ポロポロ

武内P「私の命など、元より終わっているようなものです」

ちひろ「だからって、一方的に汚れ仕事を押しつけられたプロデューサーさんがっ!!
    用済みになった、途端にっ、う……ひっ、ぐ……何の見返りもなく……切ら、ぇっ……!!」

ちひろ「あんまりです……! ひ、いぃ……そんなの、ひどすぎますっ……!!」ボロボロ


武内P「私はむしろ、感謝しているくらいです」
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:52:03.17 ID:AXuZ3osI0
ちひろ「え……」

武内P「確かに、辛く苦しい仕事でした。
    ですが……961プロの仕事が無ければ、今日まで私が業界に携わることも無かった」

武内P「西城さんに出会うことも無かったのです」

ちひろ「どうして……どうしてそこまで、樹里ちゃんに……?」

ちひろ「狙われていた樹里ちゃんを、守るためにスカウトしただけのはずじゃ……」


武内P「いえ……きっとそれが無くとも、私は西城さんをスカウトしたでしょう」

武内P「出会った時に、一目で私は……心を動かされた」


樹里「……え」カァーッ



ちひろ「……“あの子”を、投影しているんですね」


樹里「! ……」

武内P「…………」

ちひろ「そんなに、囚われていたなんて……」


樹里「あの子、って……」
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:53:29.01 ID:AXuZ3osI0
武内P「……救えなかった彼女への罪滅ぼしになるとは、考えていません」

武内P「ですが、西城さんを放っておくことが、どうしても私にはできなかったのです」


ちひろ「……ッ」グッ

ちひろ「分かりました……そこまで言うのなら、止めることはしません」

武内P「ご忠告、感謝します、千川さん。
    あなたが私の身を案じてくれていることも」

ちひろ「私はっ……961プロの協力者です」

武内P「きっとそれも、私の恨みを買いたいがための方便に過ぎないでしょう」

ちひろ「! ……」

武内P「常務の指示で黒井社長の後をつけていた……そう考えるのが自然です」

ちひろ「……ッ」フルフル


武内P「あなたにも、辛い想いをさせてしまいました……申し訳ありません」

武内P「失礼します」スッ

樹里「……」ペコッ

コツコツ…



ちひろ「……辛い想いをしているのは、あなたじゃないですか」ポロポロ
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:55:32.74 ID:AXuZ3osI0
〜テレビ局〜

ガヤガヤ…

楓「楽しくお話をしすぎて、ちょっと収録が押しちゃいましたね……
  ごめんなさい、智代子ちゃん」

智代子「いえいえ! 私の方こそたくさんお話しちゃいましたし!
    とても楽しかったですっ。ありがとうございました」ペコリ

楓「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいです」


楓「この後は、智代子ちゃん何かご予定はありますか?
  良かったら、お食事でも一緒に」

智代子「ほ、本当ですか!?」

楓「美味しい白和えを出してくれるお店を知っているんです」

智代子「お、お酒のおつまみッッ……!
    ちょっと私には早いかもですけど、お誘いとあらばぜひ…」ヴィー…!

智代子「ん……? うわっ!?」

楓「?」
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:57:16.15 ID:AXuZ3osI0
智代子「なんか……知らない間に、チェインがすっごい事になってるー!?」

楓「何かあったんですか?」

智代子「は、はい、えぇと凛ちゃんと、夏葉ちゃん達も……わわっ、え!?
    なんか、本当に大変な事に……何これ、えぇぇ!?」


楓「何だか、とても大変そうですね」

智代子「ちょ、ちょっと言葉では言い表せないくらい、大変みたいで……
    だ、だからそのぉ……」

楓「私のことなら、大丈夫ですよ。
  お食事なら、今日じゃなくても行けるでしょうし」

智代子「本当にごめんなさい、ちょっと合流した方が良いっぽくて!
    せっかくの楓さんのお誘いだったのに……!」ペコペコ

楓「いえ、どうか気にしないでください。
  急にお誘いしちゃったのは、私ですし」

楓「智代子ちゃんのお友達を……凛ちゃんや夏葉ちゃん達を、大事にしてください。ね?」ニコッ

智代子「か、楓さん……」ジィーン…
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:58:08.37 ID:AXuZ3osI0
智代子「ありがとうございます! このご恩はいつかきっと!」

楓「ええ、お気をつけて。皆さんにもよろしくお伝えください」フリフリ

智代子「はいっ! それではこれにて、失礼します!」ダッ!

タタタ…!


楓「……」フリフリ



楓「…………」





楓「ごめんなさい、智代子ちゃん……」

楓「本当に……ごめんなさい」
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:59:45.14 ID:AXuZ3osI0
〜クイーンズゲートドーム メインホール〜

黒井「ついこの間、建造したばかりのドームだ」

黒井「こけら落としも済んでいないステージの上にいる事を、光栄とは思わんかね?」


凛「…………」ギシッ


黒井「反抗的な目だ。気に入らんな」

凛「……逆に聞くけど、好意的に見てもらいたいんですか?」

黒井「いいや、思わんね。
   貴様も西城樹里も、等しく私のそばを飛び回るガチャ蠅に過ぎん」

黒井「私が考えるのは、貴様らを飼い慣らす者に、相応の躾をするよう仕向けることだけだ」


凛「……嘘」

黒井「ンンー?」


凛「あなたはプロデューサーをもう、そんな風に見ていない」

凛「自分の都合の良いタイミングで、都合良く使い捨てる事しか……!」
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:00:50.54 ID:AXuZ3osI0
黒井「おやおや、それは心外だ」

黒井「彼にはもっと働いてもらわなくては困るのだよ。使い捨てるなんてとんでもない」

黒井「ただ、最近は妙な自意識を抱いているように見えるのでな。
   少しばかり、お灸を据えてやる必要があるというわけだ」

凛「…………」


ギイィィ…


黒井「フン、噂をすれば、か」

凛「! プロ……」


バタン



コツ…

コツ…



樹里「…………」ザッ
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:02:27.02 ID:AXuZ3osI0
黒井「……何だと」

凛「じゅ、樹里……!?」


樹里「よぉ、凛。それと……」

樹里「アンタと顔合わせんのは初めてだったな……黒井社長」


黒井「口の利き方には気をつけろと言ったはずだ、小娘が」

樹里「生憎、ロクな教育受けてないんでな」

樹里「アタシの友達をそんな目に遭わせるようなヤツへの口の利き方なんてよ」ギリッ…!


凛「樹里、私の事なんかいいから早く逃げてっ!」

樹里「“なんか”って言うな」

凛「……!」


樹里「前にも言ったろ?」ニコッ

凛「……馬鹿」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:03:40.17 ID:AXuZ3osI0
黒井「勝手に話をしているんじゃあないぞ、ガチャ蠅共。
   あの男はどうした?」

樹里「来てねぇよ。伝えてねぇからな」

黒井「ダウト」フンッ!


黒井「差し詰め貴様は囮で、どこかの物陰からこの小娘を助ける隙を伺っているのだろう?」

樹里「…………」

黒井「私とて、この世界に長く身をやつしている訳ではない。
   つまらん小細工が通用するなどとは思わん事だ」

黒井「それとも」スッ

パチンッ!


ズザザザッ!

黒服達「……」ザッ!
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:05:08.58 ID:AXuZ3osI0
凛「わ、わわ……!」

黒井「貴様が囮でないというのなら、
   見事この包囲網を突破し、私の手から小娘を救い出してみせるがいい」

樹里「…………」

黒井「まっ! 出来んだろう。大人しく貴様もこの私に屈…」

ザッ

黒井「ン?」


スタスタ…

樹里「……」スタスタ


凛「じゅ、樹里……!?」

黒井「正気か? 貴様……」


樹里「…………」スタスタ
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:06:39.13 ID:AXuZ3osI0
黒服「社長。いかがされますか?」ジャキッ

黒井「…………」

黒服「さすがに実弾の使用は控えるべきとは思…」

黒井「構わん、やれ」

黒服「は?」


黒井「ここは私のテリトリーであり、あの小娘も961プロの人間だ。
   後で何があろうと、どうとでも握り潰せる」

黒井「聞こえなかったのか? あの身の程知らずを始末しろ!」


ジャキ ジャキッ!


凛「や、やめてっ!!」


樹里「……ッ!」
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:07:39.37 ID:AXuZ3osI0
ガシャンッ!



黒服達「!?!?」



黒井「何だ!? 何があった!!」

凛「で、電気が……急に真っ暗に……!?」


ガッ!

黒服「ぐぁっ!」

ゴッ! ガスッ!

黒服達「うっ……!?」「ガハッ!」


ドサッ バタッ
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:08:45.37 ID:AXuZ3osI0
黒井「ええい何が起きている!! 状況を報告しろ!!」

「渋谷さん、こちらへ」

「え……あ」


黒井「!? なっ……!」

スッ

黒井「えぇい、貴様ら、待てっ! くっ!!」ジャキッ!

「おりゃ!」バシッ!

黒井「な、何っ!?」


樹里「社長であるアンタまでこんな物騒なモン持ってるとはな」ヒョイッ

樹里「呆れて物も言えねぇぜ、本当にヤクザじゃねーか」
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:10:51.07 ID:AXuZ3osI0
黒井「か、返せっ!!」バッ!

樹里「おっと」サッ

タンッ タタン! タッ!

黒井「な、この……ちょこまかと!」ブンッ!

黒井「うおっ!?」グラッ…!

ドテッ


キュッ! タッ タンッ!

ザッ


樹里「アンタみてぇなオッサンを相手にカットして突破すんのはワケねぇよ」

樹里「これがホントの“アンクルブレイク”ってな」


武内P「ナイスプレーです、西城さん」

樹里「ヘヘッ、そっちもな」

凛「二人とも……!」
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:13:58.38 ID:AXuZ3osI0
黒井「お、おんのれぇ、貴様らぁぁ〜〜!!」ワナワナ…!

武内P「一つお伝えしたい事があります、黒井社長」

黒井「……何?」


武内P「あなたには感謝しています」

武内P「曲がりなりにも、私をこれまで生き長らえさせてくれたこと……
    それが、今の私と、私達に繋がっている」

武内P「そのため、せめて『クリスタルウィンター』までは、どうか見逃していただきたい」

武内P「それが終われば、私はいかなる処遇をも甘んじてお受けします」


凛「プロデューサー……」

樹里「カッコつけてんじゃねーよ、アタシらの前で」

武内P「…………」


黒井「……フンッ」
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:15:35.55 ID:AXuZ3osI0
黒井「そういう台詞は、この場を生きて逃れてから言うものだ」パチンッ!


ズザザザザッ!!

黒服達「……」ザザッ!


武内P「……!」

樹里「げっ!?」

凛「さ、さっきよりも多く……!」


黒井「その二人を庇いながらどこまで逃げおおせる事ができる?」

黒井「あるいは、小娘達を見捨てれば、貴様一人の命は助かるかも知れんなァ?」

武内P「…………ッ」


黒井「ところで……私に感謝していると、貴様は言ったな」

黒井「それは、貴様が抱える心の傷についても、という事かね?」
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:19:54.77 ID:AXuZ3osI0
武内P「……どういう意味でしょうか」


黒井「良い機会だ。冥土の土産に教えてやろう」

黒井「貴様は不思議に思わなかったのか?
   当時の担当アイドルを潰した、その事務所のプロデューサーとアイドルに復讐を果たした時」

黒井「なぜこの私が、復讐を果たした直後に貴様と接触しようとしたのか。
   なぜ、そのタイミングを見計らう事ができたのか」

黒井「そもそも、貴様が画策する弱小事務所への復讐など、961プロには何ら関係が無い」

黒井「なのに、その経緯を把握し、タイミングを狙って声を掛けたのなら、
   私は貴様を観察していた事になる」


黒井「なぜ、復讐を果たすに至るまでの貴様の動向を、わざわざこの私が観察していたのか?」

黒井「なぜ、貴様が行う復讐の経緯を、私が知っていたのか?」


樹里「経緯、って……!?」

凛「そんな……」


武内P「…………まさか……!!」
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:23:43.41 ID:AXuZ3osI0
黒井「あぁそうとも」

黒井「全ては私の計画だ。
   その事務所のプロデューサーを焚きつけ、貴様の当時の担当アイドルを潰させた事も」

黒井「自責の念が強い貴様は、憎悪に駆られて同じ事を仕返すであろう、という事もな」

黒井「先代の美城会長は、貴様を高く評価していたよ。
   幾度も話をしていたものだから、これは使えると考えたのだ」

黒井「我が961プロにとって目の上のタンコブである346プロに負い目を与え、
   これに“契約”という形で強請れば、意のままに操り続ける事ができるだろう、と」

黒井「いざとなれば、全ての罪を346プロに負わせ、こちらは知らぬ存ぜぬを貫き通せばいい。
   もたらされる結果は、いずれにせよ961プロの一人勝ちという訳だ」


凛「何てことを……!」

樹里「な、ナメやがって……それでも血の通った人間かよテメェ!!!」

黒井「あぁそうだとも。いかにも人間らしい合理的な考えだろう?」

樹里「ふざっけんな!!!」ガッ!

黒服「……」グッ

樹里「くっそ、放せ!! アイツ、許さねぇ!!!」ジタバタ!
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:24:50.70 ID:AXuZ3osI0
黒井「まっ、それも今日で終わりか。寂しいものだ」

黒井「ひとまず今日を以て、貴様らには消えてもらおう。
   同時に、346プロには貴様の過去の所行について全責任を負わせ、舞台を降りてもらう」

黒井「残りの283プロなどという弱小事務所も、後でどうとでも料理すればいい」

黒井「労いに与える物が、鉛玉では味気ないかも知れんがね。ハハハ!」

樹里「クソ野郎……!!!」ギリッ!


武内P「…………なるほど」


武内P「よく分かりました」

黒井「何?」



武内P「よく分かったと言ったのです、黒井社長」

武内P「果たすべき目標が……やるべき事が明確であれば、迷わずに済む」
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:29:37.16 ID:AXuZ3osI0
黒井「この状況で何を言っている? ロクな得物も持っていないようだが」

武内P「武器なら、ここに」シュッ

樹里「あ」パシッ

武内P「……」ジャキッ


黒服達「……!」ドヨ…!


黒井「小娘に奪われた、私の銃を……!」

黒井「馬鹿な真似はよすんだな。
   私を屠ることに傾注すれば、その小娘達の命など保証できまい」

黒井「それとも、その二人を守りながら完遂するつもりかね?」


武内P「私にできないとお思いですか?」

武内P「私の腕は、私に“信頼”して数々の依頼をしてきたあなたにはご存知のはずです」



黒井「…………ッ」


凛「ぷ、プロデューサー……?」

樹里「お、おい、マジかよ……」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:31:30.02 ID:AXuZ3osI0
「そこまでだ」ザッ


一同「!!?」


黒井「誰だっ!?」



コツ…

「言ったはずだ、黒井。
 その者達に派手な行いをする事があれば、私も静観できなくなる、と」

「なるほど、これがクイーンズゲートドーム……
 ぜひ弊社の新施設の構想において、大いに参考とさせていただきたい、ですが」


黒井「貴様、ら……!」



天井「今一度、大人の話し合いをしようじゃないか、黒井」

美城「まずは正すべき襟を正していただきましょう」
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:32:45.69 ID:AXuZ3osI0
武内P「み、美城常務! それと……!」

凛「隣にいる人は……283プロの、天井社長?」

樹里「あぁ、だと思った。でも何で……?」


天井「まずはご苦労だったと言わせてもらおう。
   双方共に無血であることは何よりだ」

黒井「無血? 我が事務所の社員は、その男から暴行を受けたのだが?」


黒服達「うっ……」「うぐぐ……」ピクピク


天井「フッ。失礼した」

美城「ですが、それもきっと、正当防衛と解せるものとお察しします」

美城「そちらの黒服達は、レプリカでなければ物騒な物をお持ちのようで」

黒服達「!」サッ

黒井「狼狽えるな、馬鹿共」
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:34:54.16 ID:AXuZ3osI0
美城「いずれにせよ、私や天井社長もいるこの場で、
   これ以上の穏やかならぬ行いは慎んでいただきたい」

黒井「ノコノコと人様の建物に不法侵入しておいてよく言う……」

黒井「第一、貴様らは一体何しに来た? どうしてここが分かったのだ」


天井「何、大した事ではない。
   たまたま346プロへ所用で向かっている折りに、私の事務所のアイドル達から連絡があったのだ」

天井「346プロの渋谷凜との連絡がつかなくなった、と……
   それを、こちらの美城常務にも伝えてみれば、彼女はこう答えた」

天井「黒井社長がお忘れ物をしていたようだったので、事務員に後を追わせています、とね」


黒井「事務員……フンッ、まさか、あの千川という女か」

美城「その者から、こちらの位置情報を報告させました」

美城「天井社長はあなたに御用があるとのお話でしたので、
   ついでと言っては何ですが、こうして私もご一緒させていただいた次第です」

黒井「白々しい事を……!」


美城「千川は外で待たせています。
   末端の事務員に聞かせるようなお話を、あなたとするつもりは無い」

美城「無論、この場にいる他の者達も同様です」チラッ
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:36:44.99 ID:AXuZ3osI0
樹里「! な、何だよ……」

武内P「…………」


天井「こんな所で立ち話しては落ち着かん。河岸を変えたいのだが」

美城「では、弊社の会議室へとご案内しましょう」

黒井「勝手に話を進めるな。いいか、私はこの者達から暴行を受け…」


美城「346プロと争うおつもりが?」

黒井「…………」

美城「冷静なご判断を期待しますが、いかがでしょうか」



黒井「……良いだろう。
   ただし、我が961プロの一方的な不利益を強要するものと判断したら、即座に退席させていただく」

天井「貴様がそんな事を言うとはな」フッ

黒井「黙れ」
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:38:25.71 ID:AXuZ3osI0
凛「あの人達って、知り合い同士なの……?」コソッ

樹里「アタシが知るかよ」


美城「ご同意を得られて何よりです」

美城「外に車を手配してあります。どうぞ、こちらへ」スッ


武内P「あ、あの、常務っ」ザッ


常務「……先ほど話した通りだ。君達の出る幕は無い」

常務「今日のところは、もう帰りなさい」

武内P「わ、私は……常務にとって、決して無視できない行いを…」

凛「そ! そんな事ないっ! プロデューサーは何も悪いことなんか!!」

樹里「そうだぜ、悪いってんならむしろクロ…!」


常務「当然、君達の処分についても含めた会議となる。
   大人しく待っていなさい」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:39:09.29 ID:AXuZ3osI0
凛「そんな……」

樹里「……納得いかねぇな」


武内P「渋谷さん、西城さん。帰りましょう」

凛「プロデューサー……」

武内P「今、ここで私達が出来ることはありません」


武内P「失礼致します」ペコリ

常務「……」

樹里「チッ……」スッ



天井「外には件の事務員だけではない。
   283プロと346プロ、双方のアイドル達も集まってきている」
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:39:54.68 ID:AXuZ3osI0
武内P「……!」

凛「えっ!?」


天井「我が事務所のアイドル達に伝えたら、そちらまで広まったようだ」

天井「きっと君達を心配しているだろう。早く元気な姿を見せてやるといい」


樹里「マジかよ……」

武内P「……ありがとうございます、天井社長」ペコリ


天井「何、大した事ではないさ」フッ
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:42:00.23 ID:AXuZ3osI0
〜ドーム前〜


コツコツ…

凛「……あっ」

樹里「おぉ、マジで来てる」


武内P「……皆さん」



未央「し、しぶりぃ〜〜〜ん!!!」ダダダッ!

ガバッ!

凛「わぷっ!?」

卯月「凛ちゃあぁん!! 本当に……本当に無事で!!」ワシャワシャ

凛「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて……!」


シャニP「社長と、こちらの事務員さんから、大まかなお話は聞いています」

ちひろ「プロデューサーさん……」
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:43:56.23 ID:AXuZ3osI0
武内P「わざわざご足労いただき、申し訳ございません」ペコリ

シャニP「いえ、我々は何も。大変だったのはあなた方でしょう」


咲耶「凛……樹里も、本当に無事で何よりだ」

樹里「言うほど無事でもねーけどな。生きた心地しなかったぜ」

智代子「そ、そんなに!? 一体、中でどんな事があったの?」

樹里「そりゃまぁ、色々……?」チラッ


夏葉「……樹里。ケガは無い?」


樹里「ああ、別に……ヘヘッ」

夏葉「? どうしたの?」

樹里「いや、アンタがそんなしんみりしたツラしてんの、らしくねぇって思ってさ」

夏葉「! ……ふふっ」

夏葉「誰がしんみりしているですって!?」バァーン!

樹里「アハハ、そうそう。その調子だぜ」
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:46:05.89 ID:AXuZ3osI0
武内P「この度は弊社の……
    いいえ、私達に関するトラブルについて、ご心配をお掛けしました」

武内P「ご覧の通り、渋谷さんも西城さんも無事です。
    皆様どうか、今日の所はお帰りの上、ゆっくりお休みにな…」

樹里「待てよ、プロデューサー」

武内P「西城さん……渋谷さん?」


凛「ちゃんと、皆には話しといた方がいいよ。
  今日の出来事……あの中で、黒井社長達と話していた事」

武内P「…………」

樹里「あぁ、それと……アンタが前に担当していたアイドルの事、教えてほしいんだ」

樹里「辛くて、話しづらいだろうけど……
   もしアンタがアタシにその子を重ねているなら、どんな子だったか、ちゃんと知りてぇ」


ちひろ「……その件については、私からもお伝えできることがあるかと思います」

凛「ちひろさんが?」

ちひろ「はい」コクッ
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:47:46.34 ID:AXuZ3osI0
武内P「千川さん……」

ちひろ「あ、でも場所が……
    常務達が346プロに向かってしまって、うっかり鉢合わせるのも気まずいですね」


シャニP「それなら、ウチの事務所にお越しいただくのはいかがでしょうか?」

シャニP「さほど広くはありませんが、皆さんでゆっくり腰を落ち着けることくらいはできるかと」

夏葉「ナイスアイディアね、プロデューサー」

咲耶「私達の仲間で持ち寄った紅茶が、ちょうど今は充実しているんだ。
   ぜひご賞味いただきたいな」

智代子「困った時のお夜食も!」ニュッ


卯月「プロデューサーさん……私達からも、お願いします」

未央「とっくに私達は、運命共同体でしょ?」



武内P「…………分かりました」
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:49:38.30 ID:AXuZ3osI0
〜346プロ 会議室〜

美城「……ふむ、なるほど」

黒井「貴様らが来る前に、あの中で起きていた事は今述べた通りだ」


天井「対応を誤ったようだな、黒井」

黒井「何?」

天井「お前が今言った中で、一つ抜けている事実がある。
   我々が来る直前、貴様があのプロデューサーに告げた事だ」

黒井「……盗み聞きをしていた、だと?」


天井「あの男にトラウマという名の禍根を残した、その張本人が自分であった。
   それも、自分の私利私欲のために」

天井「貴様はあのプロデューサーを使う立場から、命を狙われる立場となった訳だ」

天井「安心して熟睡できる日が無くなったな?」

黒井「……フンッ、邪魔なら消せばいいだけの事だ。これまでもそうしてきた」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:52:11.93 ID:AXuZ3osI0
美城「それを私の前で堂々と仰る辺り、さすがの胆力ですね、黒井社長」

黒井「美城の娘……貴様もあの男の扱いには手を焼いていたはずだろう。
   私が代わりに手を下すことに、何か不都合でも?」

美城「今は時期が悪いと言いたいのです」

黒井「時期?」


美城「『クリスタルウィンター』を前に騒ぎを起こすのは、
   この場にいる誰の利益にもならないでしょう?」

美城「ですので、せめてそれが終わるまでは派手な行いをしていただきたくはない」

黒井「……フム」


美城「確かに、あなたは契約に従い、弊社からの依頼をもよく受けてくれていたようですが、
   下品な手法による強引な解決は我々の本意ではない」

美城「それらはともすれば業界全体への不信を招き、自らの首を絞めることにもなるからです」

美城「ご安心を。
   あのプロデューサーに対しては、私の方からよくクギを刺しておきます」

黒井「フンッ、貴様が言って素直に聞くような男ではあるまい」
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:59:40.15 ID:AXuZ3osI0
美城「確かに。しかしながら、私に一つ考えがあります」

天井「考え?」


美城「次の『クリスタルウィンター』……
   この3社のアイドル達による合同ユニットで出場するのはいかがでしょうか?」


黒井「合同ユニットだと?」

天井「ほう……」


美城「他社とのコラボ企画などというものは、
   よほどのメリットが無い限り、弊社も積極的に採用しようとは思いません」

美城「ですが、相応に注目を集める旬のアイドル達が、
   事務所の垣根を越えてユニットを組むのは、良い意味で話題性を生むでしょう」

美城「加えて、その監督者としてかのプロデューサーを充てれば、
   まさかこれを無視してまで黒井社長に事を為す可能性は低いと考えます」

美城「アイドル達にとっても、知らぬ間柄ではないあの男がプロデューサーを務めた方が、
   お互いにやりやすいでしょう」
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:01:09.46 ID:AXuZ3osI0
天井「私は賛成だ。メンバー次第ではあるがな」

黒井「フンッ! 聞こえの良い事を並べ立てているが、
   最終的に自分が美味しいところを攫っていくつもりではないかね?」


美城「であるならば、プロジェクト名は御社になぞらえて、そうですね……」

美城「『プロジェクトクローネ』、というのはいかがです?」


黒井「みくびられたものだ。
   この私が、346の新規プロジェクト名を知らんとお思いか」

美城「フフ、ご存知でしたか」

美城「ですが、黒井社長の声掛けにより発足されたものとなれば、
   その功績はあなたのものとなります」

黒井「体良く責任を押しつけているようにも思えるがな」

美城「…………」
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:04:36.51 ID:AXuZ3osI0
黒井「良いだろう。
   283プロの有栖川夏葉と白瀬咲耶、園田智代子」

黒井「その者達も関わるということであれば、あの男もこれを成功させるために力を尽くすはずだ」

美城「その間、あのプロデューサーには大人しくさせておくことをお約束します」


天井「要綱によれば、『クリスタルウィンター』の出場は5人編成のクインテットユニットが限度だ」

天井「我が事務所から三人も出すのなら、961と346からは誰を出す?
   961プロからは西城樹里として……」


美城「私個人の考えとしては、弊社からは高垣楓を、
   と言いたい所ですが……彼女は応じないでしょう」

美城「それに、そのメンバーであれば、渋谷凜が適任であると考えます」

黒井「美城の娘も、所詮は絆などという甘ったれたものを最後に重視するということかね?」

美城「あくまで適性が最も高いというだけの話です」


天井「なるほど、了解した。
   ひとまずは事態が平穏無事に収まっていくようで何よりだ」

黒井「待て、天井。貴様はこの私に用があると言ったが?」

天井「既に今の話の中で用は済んだ」
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:07:04.19 ID:AXuZ3osI0
美城「私はあなたに用があります、天井社長」

天井「……貴女もしつこい人だ」

美城「そもそも、これは961プロと我々346プロの間の話です。
   第一、今日の一件についても、私に情報をもたらしたのはあなただった」

美城「そうまでして我々に積極的に関わる理由は何か、お教えいただきたい」


天井「私の主張はシンプルだ。
   有栖川夏葉、引いては他の283プロアイドル達の身の安全を保証すること」

黒井「どういう意味かね。
   私は貴様の弱小事務所のアイドルなど、ハナから相手にしていないのだが?」

天井「我が事務所の有栖川夏葉が、かのオーディションの関係者であってもか?」

黒井「……!」ピクッ


美城「先日のお電話でもお話しましたが、
   彼女にはもう、あのオーディションの件について関わる必要性など無いはずです」

美城「あなたが焚きつけているのでは? 天井社長」

天井「いや、彼女が自主的にそれを申し出たのだ」

天井「あなた自身も言っていたが、美城常務……
   私に言わせれば、正すべき襟があるのは黒井だけではないと考えている」

天井「なればこそ、その不義理を正そうとする彼女の自主性を、私が否定する理由など無い」
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:10:27.67 ID:AXuZ3osI0
黒井「馬鹿な事を。
   あの有栖川が、オーディションの件について外部に告発する気だと言うのか?」

美城「あれはもう終わった話です、天井社長。
   蒸し返す事は、それこそ誰の利益にもなりません」

美城「いたずらに敵を作る愚かさが、分からないあなたでは無いはずです」


天井「自分達に潰されるのが怖いのなら、不条理に対して口を閉ざせと?」

天井「そもそもの事態を起こした貴様らが、よくも敵を作る愚かさなどと私に説いたものだな。
   大手の芸能事務所が聞いて呆れる」


黒井「では聞くが……我が961プロの西城樹里の初イベントに、
   貴様は白瀬咲耶を遣わしていたな?」

天井「…………」

黒井「オーディションの一件に義憤を駆られたなどといった事をほざきながら、
   それと関係が無い西城樹里の動向を観察していたのはなぜだ」

天井「西城樹里は、かのオーディションの被害者である園田智代子の友人だ。
   思うところが無かったはずはあるまい。だから動向を注視した」


美城「果たしてそれだけでしょうか?」

天井「というと?」

美城「白瀬咲耶は、弊社の高垣楓のミニライブにも姿を現していたようです」
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:15:57.23 ID:AXuZ3osI0
天井「……フム。それは初耳だな」

美城「とぼけた事を……
   あなたの指示でないのなら、なぜ彼女がその場にいたというのです」


美城「私が思うに、天井社長……」

美城「オーディションの一件について、業界の不義理を正すために告発するというご主張は、
   ご自身の真意を隠すための大義名分に過ぎない」

美城「あなたが本件に関わる理由は、別の所にあるのでは?」

黒井「同感だ。我々を甘く見ないでもらおうか」


天井「パンドラの箱を?」

黒井「何?」

美城「……?」


天井「私はただ、彼女自身がそれを開ける日が来るまで、
   余計な邪魔立てが入らないようにするだけだ」

黒井「貴様……何度も言わせるな、貴様の有栖川夏葉が…!」
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:16:34.25 ID:AXuZ3osI0
天井「有栖川ではない」


黒井・美城「……!?」



天井「有栖川はただのきっかけに過ぎん」

天井「“彼女”がそれを開けるための、な」



天井「私から言えるのは、ここまでだ。
   既に察しがついているのなら、これ以上の言及はご遠慮願おうか」
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:18:01.38 ID:AXuZ3osI0
美城「…………」


黒井「…………フン」



天井「……今日の話を整理させてもらう」

天井「ウィンターフェスに当たり、三社の合同ユニット『プロジェクトクローネ』を結成する。
   メンバーは283プロの有栖川、白瀬、園田、961の西城、346の渋谷」

天井「これが終わるまでの間は一時休戦とし、かのプロデューサーにも誰も干渉をしない」

天井「ただし、終わった後はお望み通り、私は第三者に戻ろう。
   双方の好きにするがいい」


美城「古い時代の悪しき慣習は、もう必要とされてはいません」

黒井「どうとでも言うがいい。だが……」

黒井「フェスが終わった後、こちらに裁量を任されることに異論は無い」


美城「では、あの男は…………」
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:18:28.80 ID:AXuZ3osI0
楓「………………」





楓「…………」スッ


コツ…



コツ…
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:20:42.54 ID:AXuZ3osI0
〜283プロ事務所〜

ジィーーー…


 『ふんふーん……♪』

 『わぁ、綺麗なお花ですね。毎日お疲れ様です』

 『あっ、ちひろさん! ううん、全然お疲れなんかじゃないよっ。
  お花のお世話、私も好きでやってるんだし』

 『それでも、こうして事務所の花壇のお手入れをしてくれるおかげで、
  他のアイドルの皆さんも、晴々とした気持ちになれると思います』

 『もちろん、私も。本当にありがとうございます』

 『そうかな……えへへ、そうだと嬉しいな』


 『ところで、ちひろさん。それ動画撮ってるの? どうして?』

 『あぁ、これはですね。
  事務所の入社説明会で使う動画を撮影していまして』

 『基本的には内部用ですが、綺麗に撮れたものは、外向けのPRにも使おうと思っているんです』
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:22:14.47 ID:AXuZ3osI0
 『へぇー。あっ、だとしたら私、もっと張り切っちゃおうかなっ♪』

 『えぇ、よろしくお願いしますね。
  それじゃあ……あっ、ちなみにこの黄色いお花、何ていう名前ですか?』

 『あっ、よくぞ聞いてくれました! これはね、ラナンキュラスだよっ!
  黄色のラナンキュラスの花言葉は、「優しい心遣い」』

 『花束やフラワーアレンジメントの定番でもあるんだけど、
  モコッとして存在感あるのに他のお花達ともすごく調和してくれるから、私、好きなんだ』

 『優しい心遣い……ふふっ、ひょっとしてプロデューサーさんへの贈り物用ですか?』

 『うん。えっ!? ち、違うよっ!? いや、違く、ないけど……』

 『って、あぁ〜もうっ! そういうの言わせないでよー、ちひろさん!』

 『ふふっ。残念ですが、この動画はお蔵入りですね』





ちひろ「…………」


樹里「……この子が」
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:23:46.07 ID:AXuZ3osI0
武内P「このような動画があったとは……知りませんでした」

ちひろ「本当はお蔵入りにせず、音声だけオフにして使用する予定でした」

ちひろ「ですが……これを撮影した直後に、あの報道がなされて……」

武内P「…………」グッ…!


咲耶「先日アナタが言っていた通り、花のように可憐で可愛らしい人だ」

智代子「それに、こうして花壇の手入れも率先してやってくれて……」

夏葉「献身的な子だったのね。
   それだけに……そんなひどい目に遭ったなんて、ますます許せない」

シャニP「あぁ、その通りだ」


卯月「凛ちゃん……さっきのお話、本当なんですか?
   黒井社長が、すべて……」

凛「……あの人が嘘をついていないのなら、ね」

未央「……ッ」グスッ


樹里「……なぁ、プロデューサー」
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:25:11.44 ID:AXuZ3osI0
樹里「アンタが部屋で育ててる、あのアグラオネマとかいう鉢植え……
   ひょっとして、この子からのプレゼントだった、とか?」

凛「……」ピクッ


武内P「……彼女に連れられ、花屋に立ち寄った事がありました」

武内P「学が無い私に、色々な花を、楽しそうに講釈してくれて……
    その中で、一つの鉢植えが目に留まったのです」

武内P「花も無ければ、根も無い……まるで私のようだと思い、親近感が湧きました」

武内P「彼女は、そのように自分を評する私に、憤慨したりもしましたが……
    店を出る時、密かにこれを購入し、私に手渡したのです」

武内P「愛情を持って大事に育てることが、一番の栄養なのだと。
    それを忘れないで、と……」


凛「……それが、アグラオネマだったんだね」
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:26:35.67 ID:AXuZ3osI0
樹里「……そっか」

樹里「ごめん、プロデューサー……アタシ、アンタのこと勝手に馬鹿にしてた」

樹里「花の心も分かってねぇ、なんて……アンタの気も知らねぇで……」

武内P「謝らないでください、西城さん」


樹里「こんなの……」グッ

樹里「こんなのって、ねぇよ……ひでぇよ……!」

樹里「黒井のヤツ……ちきしょう……!」ポロポロ


智代子「樹里ちゃん……」

武内P「…………」


シャニP「……これからどうしますか?」

シャニP「もし今のお話が本当なら、961プロが……
     いえ、黒井社長が今後、手段を選んでくるとは思えない」

ちひろ「私も同感です。
    プロデューサーさんは、しばらく身を隠された方が……」
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:29:16.76 ID:AXuZ3osI0
武内P「いいえ、それには及びません」

未央「えっ?」


武内P「私のやるべき事は、既に決まっています」スクッ


卯月「ま、まさかプロデューサーさん……?」

咲耶「早まった事はしないでくれ、これ以上アナタが罪を重ねる必要は無いっ」ガタッ!

夏葉「そうよ、私が告発するまで待っ…!」

武内P「全ては私の身から出た錆であり、私が全てに片をつけるのが筋です」


樹里「アタシのプロデュースはどうすんだよっ!!」

武内P「……!」ピタッ


樹里「アタシが、自分の翼を広げて羽ばたく姿を見届けるって……」

樹里「それがプロデューサーとしての本分だ、って……
   さっきそう言ったばかりじゃねぇかよ……!」
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:30:55.16 ID:AXuZ3osI0
武内P「……申し訳ございません」

樹里「……ッ」フルフル


ヴィー…! ヴィー…!

ちひろ「……? 今西部長?」ピッ

ちひろ「はい、もしもし、千川です……」

ちひろ「えぇ、はい……はい、すみません、そうです……いえ……」

凛「……」



ちひろ「え、えぇっ!?」

一同「!?」ビクッ


ちひろ「い、いえ……はい……はい……あ、はい、います」


ちひろ「プロデューサーさん、あの……今西部長が代わってほしいと」スッ

武内P「一体、何のお話だったのですか?」

ちひろ「それが、その……」



ちひろ「ご、合同ユニットを……三社の合同ユニットのプロデュースを、と……」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:32:14.02 ID:AXuZ3osI0
――――――

――――


『それではここで、発起人である黒井社長からのメッセージが届いています、どうぞ』


『我が961プロが事務所の威信をかけて皆様にご提案する夢のアイドルプロジェクト!!
 その名も、プロジェクトクローネ!!』

『その第一弾となるユニットは、事務所の垣根を越え、
 時代を象徴する旬なアイドル達を選りすぐった、精鋭クインテットであります!』

『283プロの有栖川夏葉さんに白瀬咲耶さん、園田智代子さん!
 346プロの渋谷凜さん!』

『そして……我が961プロの西城樹里!』

『この私が直々に目を掛け、選出した圧倒的な力でもって、
 必ずや! クリスタルウィンターに伝説を残すことを約束しようではありませんか!!』

『さらに、このプロジェクトはこれだけに留まる予定などありません!
 今後も第二弾、三弾と、次代を担うトレンディなアイドルユニットを…!』
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:35:47.26 ID:AXuZ3osI0
  >さすがにゴリ押しが露骨すぎて萎える
  >また西城かよ、最近ほんと出すぎじゃねコイツ
  >ていうか西城樹里がセンターなの?
  >961プロ主導なら当然だろ

  >この間のサマーフェスだってどうせ八百長だよな
   明らかに夏葉ちゃんの方が良かったじゃん、西城とか一瞬棒立ちだったし
  >↑未だにこれ言ってるヤツいて草
   素直に負けを認めろよガイジ
  >西城本人がこの話題になった途端に言い淀む時点で答え出てるぞ

  >まぁ、283プロの人選は分かるわ
   何で346プロは楓さんじゃないんや?
  >ギャラが高い定期
  >↑金にならないミニライブを毎年やってる聖人なんだよなぁ
  >言うてしぶりんもそんなに悪い選択肢じゃないやろ
   そろそろポスト高垣も育てとかなアカンし

  >そういや、西城樹里がこの間の楓さんのミニライブに出てたってマジ?
  >↑画像出回ってるぞ
  >一体コイツに何があるんや。ここまで来るとすげぇな

  >こうして散々話題になってる時点で、961プロの宣伝としては成功なんだろうな
  >ここで叩いてる連中も、なんやかんやで絶対見ると思うわ
  >見なきゃ叩けないからな
  >叩くためにコンテンツを追いかけるオタクの鑑
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:37:22.20 ID:AXuZ3osI0
〜283プロ レッスンスタジオ〜

 キュッ! タタンッ! タン!

咲耶「フッ……!」キュッ!


夏葉「良い仕上がりね、咲耶」スッ

咲耶「そうかい? フフッ、ありがとう夏葉」

樹里「随分気合い入ってんじゃねーか」


咲耶「それはそうさ」

咲耶「このメンバーで同じステージに上がることが出来たなら……
   ずっと夢見ていた事が、現実になる」

咲耶「燃えない方が、無理があるよ」


凛「それにしても……まさか、黒井社長の発案だなんてね」

智代子「そ、それは驚きだけど!
    でも、そのおかげで皆と一緒にやれるのは、素直に嬉しいなぁ私」
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:38:48.07 ID:AXuZ3osI0
樹里「…………」

夏葉「今は余計な事を考えるのは止めましょう、樹里」

樹里「夏葉……」

夏葉「あの黒井社長に何らかの思惑があるのは間違いないでしょうけれど……
   発案者である彼の想像をも超える、皆の度肝を抜くようなステージを見せつける」

夏葉「ここまで来た以上、私達に出来ることでアッと言わせた方が面白いと思わない?
   アイドルらしく、ね?」ニコッ

シャニP「夏葉の言う通りだ。俺達は俺達でできる事に集中しよう、西城さん」

樹里「……そりゃあ、分かっているけどよ」ポリポリ


コンコン ガチャッ



楓「お疲れ様です、皆さん」


凛「か、楓さん!?」

咲耶「……!」ピクッ
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:40:34.10 ID:AXuZ3osI0
未央「私達もいるよー、しぶりん!」ヒョコッ

卯月「皆さん、レッスンお疲れ様ですっ!」


樹里「おー差し入れか、ありがとな。
   つっても……」

夏葉「まさか、346プロのトップアイドルが陣中見舞いに来てくれるなんてね。
   とても光栄だわ」

楓「ふふっ……いいえ、こちらこそ」ニコッ

凛「プロデューサーから頼まれたんですか?」

楓「はい」


楓「僭越ながら、『クリスタルウィンター』に出場される皆さんの活動を、
  サポートさせていただくことになりました」

楓「あまりお役に立てないかも知れませんが、何かあったら何でも仰ってくださいね」ニコッ


智代子「わ、私達のサポート!? 楓さんが、ですか!?」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:42:09.04 ID:AXuZ3osI0
卯月「さすがに、給水とかまで楓さんにしてもらう訳にはいかないので、
   私達もお手伝いをさせていただくんですが……」

未央「本人はそういう雑用もノリノリでやりたがるからさー、ホント困っちゃうよ」

楓「たくさんいると、あぶれた私は混雑要員、なんて、ふふふっ♪」ニコニコ

シャニP「は、はぁ……」

夏葉(……噂には聞いていたけれど、これが)

樹里(下手にツッコむと火傷しかねねぇから、適当に相槌打っとけ)

智代子(う、うん……)


咲耶「……おや、もうこんな時間か」

咲耶「夏葉、樹里。そろそろ次の仕事に行った方が良くないかい?」

夏葉「あら、本当ね。プロデューサーも外で待っている頃だわ」

未央「何かあるの?」

樹里「ユニットのPR活動が忙しいんだよ、ったくプロデューサーのヤツ」
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:45:03.34 ID:AXuZ3osI0
凛「大事な仕事なんだから、文句を言わない」

樹里「はいはい」

智代子「私達も夕方からラジオ出演があるんだったよね、凛ちゃん?」

凛「うん。何かあったら面白いフォロー頼んだよ、智代子」

智代子「いや、それどういう意味、凛ちゃん!?」


楓「ふふっ。皆さん、すっかり仲良しなんですね」

樹里「おかげで退屈しなくて済んでますよ」

未央「……ジュリアンが敬語で話してんの、初めて見た気がする」

樹里「はぁ!? あ、当たり前だろ、年上なんだし!」

夏葉「あら、私は?」ニュッ

樹里「だー!! うるせぇあっち行け!」

智代子「根が体育会系だから普通に礼儀正しいんだよね、樹里ちゃん」

シャニP「なるほど」メモメモ

樹里「余計なことメモんな!!」

楓「ふふふ♪」ニコニコ
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:46:19.46 ID:AXuZ3osI0
夏葉「じゃあ、行ってくるわね」フリフリ

樹里「アタシらがいなくてもサボんじゃねーぞ、特にチョコ」

ガチャッ バタン


智代子「……私に対する樹里ちゃんの評価の低さたるや」ガクッ

卯月「ま、まぁまぁ智代子ちゃん、今までの積み重ねがあるわけですし」

智代子「それ言う!?」

未央「しまむー、なかなかにヒドいね」


楓「あ、そうそう」

凛「楓さん、どうしたんですか?」


楓「皆さんのユニット名は、何ていうんでしょう?」

智代子「ああ、それはですね……!」
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:48:15.55 ID:AXuZ3osI0
ブロロロロロ…


武内P「『TAKE−UC』」

武内P「“UC”とは、ICT用語の一種です」

樹里「あいしーてぃー?」


夏葉「“Unified Communication”」

夏葉「掻い摘まんで言えば、電話やメール、ウェブ会議等の多様な情報伝達手段の統合と、
   これによる業務効率化を図る仕組みのことね」

樹里「よく分かんねぇ。
   アタシらの活動は、別にネットとかでどうこうするようなモンでもねぇだろ」プイッ
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:50:18.74 ID:AXuZ3osI0
武内P「283と346、そして961……」

武内P「様々な芸能事務所のアイドル達が統合し、さらなる輝きを放つことを旨とし、
    この言葉を採用しました」

武内P「同時に、“UC”にはもう一つの意味合いも持たせています」

樹里「もう一つの意味合い?」


武内P「私達の向かう道は、後戻りはできない」

武内P「すなわち、キャンセルはできない、という意味です」


夏葉「“Uncancellable”……ふふ、なかなか洒落てるじゃない」

樹里「なるほどな、『TAKE−UC』……
   言い換えりゃ「前進あるのみ」ってトコか?」

武内P「そうです」

樹里「ヘッ、面白ぇ」ニヤッ
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:51:18.02 ID:AXuZ3osI0
〜イベント会場〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…


武内P「本番までは、こちらで待機をするようにとのことです」ガチャッ

樹里「はーい」

武内P「私はスタッフの方々と確認がありますので、一旦失礼します」

夏葉「分かったわ。お願いね」

バタン



樹里「……」スッ

樹里「…………」シャカシャカ
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:52:50.85 ID:AXuZ3osI0
夏葉「……今度歌う新曲?」

樹里「ん? あぁ」スッ

夏葉「アタシ、あんまり物覚えが良い方じゃねーからな」


夏葉「そんな事ないわよ。
   この間のレッスンだって、一度も止まらずに踊りきったじゃない」

樹里「そんなんで満足してちゃダメだろ。
   ちゃんと叩き込んで、曲の解釈?とか、しっかり深めとかねぇと」

樹里「本番までそんなに時間ないんだし、
   完成度を高めるために、無駄な時間は作りたくねぇ」

夏葉「……ふふ、さすがは私達のセンターね」

樹里「ほっとけ」

コンコン

樹里「ん? プロデューサーかな。どうぞー」


ガチャッ

女A「こんにちはー……あら、あなた達は」

女B「283プロの有栖川夏葉さんと、961プロの……西城樹里ちゃんね」

夏葉「あら、共演者さんね。どうも、今日はよろしくね」ニコッ

樹里「そっか、アンタ達もアイドルなん…」
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:54:26.55 ID:AXuZ3osI0
女C「ちょっと、一緒にしないでくれる?」

樹里「え?」


女C「あなたみたいな事務所のネームバリューだけで売れてるコ見ると、虫酸が走るのよね」

女B「そうそう、おまけに色々と良くない噂もあるでしょ?
   共演したコを蹴落として泣かしたとか、コネ使って出演をねじ込んだとか」

女A「SNSとかでもぶっ叩かれてるけど、火の無い所に煙は立たないっていうしさ。
   アンタみたいなのと関わり合いになりたくないの」

樹里「あ、あの……」

女A「だから、さっさと出てってくれる?
   迷惑してんの分かるでしょ、業界全体がさ」

樹里「……!」


女B「アハハ! ちょっとー、それ言い過ぎ。可哀想じゃん」

女C「あたしはそう思わないけどなー。
   だってもっとヒドい目にあったコだっているし。コイツのせいでさ」
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:56:08.02 ID:AXuZ3osI0
女B「だからぁ、そういうのロジハラっていうんだって。訴えられるよ?」

女A「確かに、そういうのの専門家さんだもんねぇ、961プロは? フフッ♪」

女C「アッハッハ…!」

スッ

女C「へ?」


夏葉「この子に文句があるというのなら、私が聞くわ」

樹里「おい、夏葉」

夏葉「本当の樹里を知ろうともせずに、よくもそんな言葉を投げかけられるわね。
   見たくないものを視界に映さない、都合の良い視野をお持ちなのかしら」


女B「な、何よ!
   アンタだって大企業のお嬢様のくせに、ストイックぶっちゃってさ!」

女A「ちょ、ちょっと。この人は敵に回さない方がいいって。
   何されるか分から…」

夏葉「対峙するものが強大であるなら、尻尾を巻いて逃げると?」

女A「えっ?」


夏葉「威勢を張る相手を選んでいるのなら、あなた達の主張は偽物よ」
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:57:39.38 ID:AXuZ3osI0
女C「! こ、この…」

夏葉「真っ向から勝負を挑む度胸も無いくせに、一丁前に業界のお説教だなんてお笑い草ね」

女A「くっ……!」


樹里「夏葉、もういいよ」

夏葉「いいえ、私には許容できないわ。あなたが馬鹿にされて良い道理なんて…」

樹里「その辺にしとけって言ってんだ。
   ムキになるなんざ、アンタらしくもねぇ」

夏葉「……そうね」スッ


女B「あ、あの……」

樹里「アンタ達が癪に障る気持ちも分かるよ。
   961プロなんざ、業界の闇の象徴っつーか、そういうイメージばっかだもんな」

樹里「アタシだって心底気に入らねぇし、許せねぇ所もたくさんあるけど……
   成り行きで所属している以上、そういう批判を受けるのも、しょうがねぇって思う」
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:00:02.62 ID:VfNpJpls0
樹里「だから、そういうのも引っくるめて、何つーか……頑張るよ」

樹里「今はアタシを見て、良くない印象持っちゃう人もいるかもだけど、
   アイドルやる以上、笑顔になってもらえるようになりてぇし」

樹里「やるって決めたからには、ハンパはできねぇからな」

女A「西城樹里……」


樹里「あぁ、だけどさ」

樹里「もし悪口を言いてぇんなら、アタシ一人だけにしとけよ」

樹里「夏葉や咲耶、チョコも……凛も。
   もし他のみんなまで馬鹿にするってんなら、アタシは許さねぇからな」


女B「…………」

女C「あ、あたし達だって、別に悪口言いたい訳じゃ…」


コンコン

夏葉「? どうぞ」


ガチャッ

冬馬「こ、こんにちはーっす! 今日はよろしくお願い……あん?」
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:01:31.79 ID:VfNpJpls0
樹里「なっ!? お、おめーは、鬼ヶ島!」

冬馬「天ヶ瀬!!冬馬だ! いい加減覚えろ!」クワッ!

樹里「冗談だよ」


北斗「おや、これはいつぞやのエンジェルちゃん」

翔太「最近ユニット組んだんだって? クロちゃんもやること派手だねー」


女A「えっ、ウソ!? ジュピターの北斗様!!?」

女B「翔太クンと冬馬クンもいるー!!」

女C「ふぁ、ファンなんです!! ツーショしてもらえませんか!?」グイィッ


冬馬「ぉわっぷ!? な、何だコイツら! お前らもアイドルだろ!」

北斗「おやおや、そういうのは事務所を通してもらいたいな」フッ

翔太「僕は大丈夫だよー。
   ただ事務所にバレたらウルサいから、お姉さん達とのヒミツってことで♪」

女達「キャアアーーーッ!!(裏声)」
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:03:32.90 ID:VfNpJpls0
樹里「…………」

夏葉「……つくづく、色々な人達がいるものね、この業界」

樹里「雑にまとめんじゃねーよ」


北斗「ところで……先ほどは、何やら穏やかでない空気だったようだが」

女A「えっ!? い、いえいえそんな全然〜!」

女C「楽しくお喋りしてただけですよ、ねぇー樹里ちゃん?」

翔太「そうかなぁ? 廊下の方まで響いちゃってたけどねー、話し声」

女B「うえ゛っ!?」


冬馬「くだらねぇ。
   気に入らねぇヤツがいるなら、グチグチ言わずに力でねじ伏せりゃいいだけじゃねえか」

冬馬「おい、西城」

樹里「あん?」
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:05:23.83 ID:VfNpJpls0
冬馬「お前の力は認めてる。
   だが、それでも俺達の足元には及ばねえし、及ばせねぇ」

冬馬「お前も黒井のオッサンの下についてんなら、
   小細工なんかしないで、せいぜい実力で証明してみせろよ」

冬馬「どんだけ頭数揃えた所で、急造ユニットのチームワークなんざ知れてるぜ!
   『クリスタルウィンター』で勝つのは俺達ジュピター!! だぜ!!」ビシッ!


北斗「フッ。相変わらず素直じゃないな、冬馬」

翔太「今の冬馬君の言葉を翻訳すると、「本戦でお互い良い勝負をしよう」って話ね」

冬馬「な!? こ、こらっ、余計なこと言うんじゃねぇ!」プンスコ!

翔太「ほら、否定しないでしょ?」


夏葉「なるほど、それがあなた達の矜持ということね」

樹里「ヘヘ……冬馬」

冬馬「な、何だよ」


樹里「お前のそういうトコ、嫌いじゃないぜ」ニヤッ
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:06:12.05 ID:VfNpJpls0
〜夜、346プロ〜

カタカタカタ…

シャニP「……それでは、私はこれで」

武内P「はい。新曲の手配、とても助かりました」ペコッ

シャニP「いえ、これくらいは何でもありません」

シャニP「メインで指揮を執るあなたの方が大変なのですから、
     俺に出来ることは何でも言ってください」

武内P「……ありがとうございます」

シャニP「こちらこそ。では、お先に失礼します」ペコリ

武内P「はい。お疲れ様でした」

ガチャッ バタン



武内P「……」グイッ


カタカタカタ… カタカタ…
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:06:55.16 ID:VfNpJpls0
〜レッスンスタジオ〜

コツ…



コツ…





ガチャッ


楓「…………」ソォー…

楓「……」キョロキョロ



楓「…………」ゴソゴソ
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:08:11.94 ID:VfNpJpls0
タタン! キュッ! タンッ!


タンッ! タッ! タッ タン!


楓「……ッ! …………!」キュッ! タタッ! タン!

楓「フッ……ッ……!」タッ! タタンッ! タタン!





咲耶「アナタほどの人でも、居残り練習をするんですね」



楓「!?」クルッ


咲耶「……すまない。邪魔をするつもりは無かったのだけれど」

楓「咲耶ちゃん……どうしてここに?」
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:09:46.18 ID:VfNpJpls0
咲耶「忘れ物を取りに来た」

咲耶「……という訳ではなくて、私も少し、秘密の練習を」

咲耶「けれど、まさか思わぬ先約がいたとは、ね」フッ

楓「…………」


咲耶「今の振付は、私達の新曲ですよね?」

楓「……そうです」

楓「咲耶ちゃん達のサポートを、プロデューサーからお願いされましたから。
  私も、ひと通り踊れるようにならないと」

咲耶「果たして、本当にプロデューサーからの依頼だったのだろうか」

楓「……え?」


咲耶「私の見立てでは、アナタの方からプロデューサーに掛け合ったと思っているのだけれど、どうかな?」



楓「……ふふっ、アタリです」ニコッ
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:11:07.12 ID:VfNpJpls0
楓「どうして? と、理由を聞きたいでしょうか」

咲耶「それが許されるなら」

咲耶「だけど……アナタが自分から、私達に明かしてくれる日が来るのを待ちたいと思います」

楓「……ありがとうございます。咲耶ちゃん」


咲耶「良かったらご一緒しても? 深窓の歌姫」

楓「えぇ、もちろんです。それと……」

楓「私に敬語は使わなくて構いません。どうか普段通りに、ね?」ニコッ

咲耶「フフッ……ああ、了解した」ニコッ



タンッ! キュッ! タタン…!
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:12:47.96 ID:VfNpJpls0
〜料亭〜

女将「では、ごゆっくり」スッ

スゥー ストン…



トクトクトク…

今西「すまないね、付き合わせて」

ちひろ「いえ……」


今西「昔はよく、先代の会長ともここに来ていたものさ」

今西「接待でも利用したし……表ではとても話せないような密談もした」

今西「ここに来るのも、今日が最後になるかも知れないね」

ちひろ「…………」


今西「たまには君も、気分転換が必要なんじゃないかと思ったんだ」
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:14:22.62 ID:VfNpJpls0
ちひろ「私は……」


ちひろ「……今西部長」

今西「何だい?」


ちひろ「私は入社以来、ずっと346プロに尽くしてきたつもりでした。
    ずっと、事務所の歯車になることを目指してきました」

ちひろ「誰よりも早く出社して、最後に退社するのなんて序の口。
    休日に仕事を持ち帰ることだって、何も苦ではありません」

ちひろ「なぜなら、それが私の大好きなアイドル達のためになると信じていたからです」

今西「…………」


ちひろ「それが……何だか、よく分からなくなっちゃいました」



今西「なら、ここを辞めるかね?」
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:17:23.26 ID:VfNpJpls0
ちひろ「…………」

今西「事務職は、どの業種にも必要不可欠な存在だ。
   君ほどの人材であればどこでもやっていけるし、346プロという職歴はそれなりに箔にもなるだろう」

今西「君もまだ若い。いくらでもやり直せる」

今西「と……あんまり言い過ぎても薄情かな? アハハ」ポリポリ


ちひろ「最近、気づいたことがあります」

ちひろ「私が大好きなもの、応援したかったもの。
    それは……アイドルだけじゃなかったんだ、ということ」

ちひろ「いいえ、ひょっとしたら……彼らもアイドルの一部と言えるのかも知れません」

今西「彼ら?」


ちひろ「プロデューサーさん達のことです」

ちひろ「アイドルもプロデューサーも、お互いに無くてはならないもの……
    皆さんは、仕事のパートナーである以上に、固い絆で結ばれています」

ちひろ「その絆の輝きを、私は応援したかったんだと気づきました」

ちひろ「それができる仕事は……今の業種を置いて他にありません」
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:20:17.96 ID:VfNpJpls0
今西「そうか」

ちひろ「だから……今西部長」


ちひろ「今からでも、常務と黒井社長を説得することは出来ないのでしょうか?」

ちひろ「それが叶わないのなら、
    せめてお二方の手からプロデューサーさんを遠ざけることは、出来ませんか?」

今西「千川君……」

ちひろ「あの人はアイドルを愛しています!」

ちひろ「みんなも、あの人を慕っています。なのに……事務所の都合で……!」


今西「……残念だが、それが組織というものだ」

今西「時代は移り変わる。そのしわ寄せは、誰かが引き受けなければならない」

今西「少なくとも常務は……もう彼のことを、必要としないだろうね」

ちひろ「! …………ッ」



今西「私もね……ただ指をくわえて見ているだけ、というわけではないんだ」
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:21:43.21 ID:VfNpJpls0
ちひろ「……え」


今西「それを防ぐ手段が、一つだけある……かも知れない」

今西「だがそれは、あるいは業界全体をも潰しかねない方法だ」

今西「君は、それを選択する必要があると思うかね?」

ちひろ「い、今西部長……?」


今西「先日、283プロの天井社長と話をしてね」

今西「とある提案を受けたのだが……
   それはきっと、思わぬ化学反応を引き起こすものだったのだろう」


今西「今夜のレッスンスタジオで、彼女が居残りをしているとすれば、ね」
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:26:36.12 ID:VfNpJpls0
〜後日、283プロ〜

ジューーッ…!

智代子「…………ッ」ゴクリ…

樹里「まだひっくり返すんじゃねぇぞ」

夏葉「ま、まだなの、樹里?」ジュー…

樹里「アンタのはさっき入れたばっかじゃねぇか」


凛「みんなで樹里のお料理教室、か」

咲耶「仲良きことは美しきことかな、だね。
   卯月、紅茶のお替わりでも?」

卯月「え、うえぇっ!? あぁいえ、自分で出来ますから」

咲耶「構わないさ。
   せっかく来てくれたのだから、ゆっくりするといい」スッ

卯月「は、はひ……」ポーッ


未央「……じぃーーーっ」
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:27:43.89 ID:VfNpJpls0
凛「どうかした、未央?」

未央「ねぇさくやん」

咲耶「? なんだい?」


未央「最近、何か良いことあった?」


咲耶「えっ」ピクッ

未央「あっ、ほらーー!! やっぱり良いことあったんだ!」

卯月「ちょ、ちょっと未央ちゃん、いきなりどうしたんですか?」


未央「いつものさくやんなら……」

未央「フッ……ああ、良いことならたくさんあるさ。
   こうして皆と共に過ごすひとときこそが、私にとっての宝物だよ(イケボ)」

未央「ぐらいの事をサラッと言ってはぐらかすじゃん!
   何今の「えっ」って普通のリアクション!?」

咲耶「あ、いや、あの……」
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:29:57.29 ID:VfNpJpls0
樹里「うるせーな、何騒いでんだよ未央」

夏葉「あの、ま、まだかしら、樹里」ジュー…

樹里「ん、いいぞひっくり返して」

夏葉「……」ソォーー…

樹里「ひっくり返したら蓋して蒸し焼きだからな」

夏葉「は、話しかけないで、集中が乱れるわ……!」ソォーー…


未央「なーんか最近、お肌のツヤとかも良さげだし、
   立ち振る舞いとかルンルンな感じに見えたんだよねー」ウーム

咲耶「よ、よく見てくれているんだね、未央」

智代子「そう言えば、咲耶ちゃん最近遅くまで居残り練習してるよね?
    なのに、確かにすごく元気そうだなぁって」


咲耶「えぇと……」ポリポリ

凛「ふーーん」

咲耶「な、なんだい、凛?」


凛「ひょっとして……ウチのプロデューサーと、何かあった?」
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:31:18.39 ID:VfNpJpls0
咲耶「へ?」

卯月「うええぇぇぇっ!?」

樹里「なぁっ!?」ガタッ!

智代子「樹里ちゃん、凄い反応ッッッ!」

夏葉「樹里、大変よ!! 蓋を開けたらフライパンから煙が!!」ジュー…

樹里「ただの湯気だよ!! それより……!」


咲耶「ご、誤解だ皆! それは本当に誤解だよ!」ブンブン!

凛「必死に否定している所がますます怪しいんだけど」

未央「らしくないねぇ。素直に白状したまえよ、エェー、さくやん?」ウリウリ

樹里「人様んトコのプロデューサーに、咲耶、お前……!」ワナワナ

咲耶「ほ、本当だ! 信じてくれ!
   私はプロデューサーの方とは何も…!」

凛「プロデューサーの方“とは”?」

咲耶「!?」ギクッ!
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:33:02.86 ID:VfNpJpls0
凛「プロデューサーじゃない方とは、何かあるの?
  ていうか、じゃない方の人がいるの?」ズイッ

咲耶「あぁ、いや……言葉のあやさ、別に…」

凛「目を見て離そうよ、咲耶」ズズイッ

咲耶「そ、そんなに怖い目をされたら萎縮してしまうよ、凛」

未央「おおぉ、名探偵しぶりん、パねぇ……」ゴクリ


智代子「何やらあちらは、修羅場を迎えているようですなぁ」モグモグ

夏葉「あら、本当に美味しいわね! これなら家でも作れそう」パクパク


凛「346プロに居残って、誰かと一緒に何かをしてるってことだよね?
  今の話からすると」

樹里「同じユニットのメンバー同士、隠し事はナシにしようぜ、なぁ?」

咲耶「う、うーん……!」


ガチャッ バタン

シャニP「ただいま戻りました、って……おお、皆来ていたのか」
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:34:28.97 ID:VfNpJpls0
智代子「あっ、プロデューサーさんお帰りなさい!」

シャニP「おぉ、美味そうな匂いがすると思ったら、ハンバーグか」

夏葉「プロデューサーも食べてみて! 樹里のハンバーグってすごいのよ!」

シャニP「西城さんの? ……ん、美味いな」モグッ


咲耶「あ……プロデューサー!」ティン!

シャニP「皆、お疲れ様。フェスに向けたミーティングか?」

咲耶「あぁ、そうそう。
   凛、実は私は、こっそりプロデューサーと内緒の打合せをしていたんだ」

凛「えっ?」
シャニP「えっ?」

樹里「346のあのカタブツじゃなくて、283プロのプロデューサーとか?」

咲耶「ああ」


シャニP(咲耶、何の話だ?)ヒソヒソ

咲耶(すまないプロデューサー、この場は話を合わせてくれ……)ヒソヒソ
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:37:19.05 ID:VfNpJpls0
咲耶「当日まで秘密にしておきたかったのだけれど……仕方が無い」

咲耶「ほら、そろそろ近づいてきただろう?
   11月26日が何の日か、皆は知っているかい?」

卯月「11月26日?」

未央「それって……」


樹里「……ひょっとして、アタシの誕生日か?」

智代子「おおぉ、そ、そうでした!」ポンッ


咲耶「それに向けたサプライズを、プロデューサーと計画していたんだ」

咲耶「本当なら、この事務所に戻ってから作戦会議をすべきなのだけれど、
   時間が遅くなってしまうからと、彼が気を利かせて、346プロまで来てくれてね」

咲耶「そうだろう、プロデューサー?」
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:38:26.13 ID:VfNpJpls0
シャニP「あ、あぁ……
     ただ、俺も年頃の女の子に何をプレゼントするのが良いか、分からなくてさ」

シャニP「ちょうど皆にも、相談してみた方がいいんじゃないかって思ってたんだ。
     もっとも、西城さんもこの場にいたんじゃ、サプライズ計画もご破算だけどな」

咲耶「フフッ、そういう事さ」


夏葉「樹里への誕生日プレゼントなら、私に考えがあるわ!
   エプロンにしましょう!」

未央「エプロン? 何で?」

夏葉「こんなに美味しいハンバーグを作ってくれるなら、毎日でも食べたいでしょう?」

樹里「アタシを専属シェフにでもするつもりかよ」

卯月「じゃあ、はいっ!
   樹里ちゃんの新しいレッスンウェアとか、シューズはどうでしょうか?」

樹里「おー、それいいな卯月。ちょうどヘタッてきたから助かるぜ」

卯月「えへへ」ニコニコ
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:39:52.04 ID:VfNpJpls0
凛「なるほどね……それなら、秘密にしたがるのも無理はないか」

咲耶「分かってもらえて何よりだ」

樹里「ていうか……あれ?
   おい、チョコ、夏葉、ハンバーグどうした!?」

智代子「先ほど美味しくいただきました!」

夏葉「我ながら会心の出来だったわよ!」

樹里「後でソース作るっつったじゃねーか!!」

シャニP(あ、ソースも作る予定だったのか)


咲耶「おやおや……フフッ、まぁ次もこの機会を設けようじゃないか。
   樹里。この料理教室、今度は私にも手ほどきをしてくれないかい?」

樹里「別にいいけど、余計なスキンシップとかはナシだかんな」

咲耶「おっと、先手を打たれてしまったね」

樹里「する気だったのかよ」


凛(……まぁ、やっぱりいつもの咲耶、か)

凛(ただ……考えすぎかな。どことなく言い訳がましい気がしたような……)
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:41:05.37 ID:VfNpJpls0
〜夜、346プロ〜

咲耶「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー……!」タン! タンッ!


咲耶「……ッ…………フッ!」キュ! タタン! ビシッ!

咲耶「っ……はぁ……はぁ……」ガクッ


楓「とても良くなってきていると思います、咲耶ちゃん」

咲耶「そ、そうだろうか……フフ、アナタに言われると、自信になるよ」

楓「ふふっ」ニコッ



咲耶「……実は今日、少し危ういことがあったんだ」

楓「危ういこと?」

咲耶「この秘密練習について、凛達に疑われてね」

楓「まぁ」
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:43:24.17 ID:VfNpJpls0
咲耶「ひとまずは、ウチのプロデューサーの助けも借りて、何とかごまかせたのだけれど……」


スクッ

咲耶「この時間を皆に秘密にしているのは、独りよがりな私個人の意志だ。それでも」

咲耶「やはり楓……今一度、尋ねてもいいかな。
   どうしてアナタが、こんなにも私達に尽くしてくれるのかを」

楓「…………」


咲耶「……アナタが樹里と智代子を特別視していたのは、知っているよ。
   自分の仕事に、直々に指名して招待するほどだ」

咲耶「それと、関係があることかい?」



楓「……はい、そうです」

楓「端的に言えば……償い、ですね」

咲耶「償い……?」
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:45:16.15 ID:VfNpJpls0
楓「それ以上は、今は言えません……ごめんなさい、咲耶ちゃん」


咲耶「……ありがとう、楓。
   ではお返しに、私からも秘密を一つ明かそうか」

楓「えっ?」

咲耶「アナタだけでなく、他の誰にも明かしていない秘密さ」


咲耶「実は、先日の楓のミニライブ、私も観に行っていてね」

楓「えぇ。それは、凛ちゃん達からも聞いています」

楓「樹里ちゃんの行動を見守るために、咲耶ちゃんも凛ちゃん達も来ていたって」

咲耶「いや、違うんだ」フルフル


咲耶「私にとっては、樹里があの場にいた事こそが偶然だった」


楓「……それは、どういう…?」

咲耶「純粋に、楓……一ファンとして、アナタのライブを観に来ていたんだ」

楓「えっ」


咲耶「アナタがアイドルになる前……
   モデル時代から、私にとって高垣楓は憧れの存在だったのさ」
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:54:01.54 ID:VfNpJpls0
楓「咲耶ちゃん……」


咲耶「たまたま手に取った雑誌に、アナタの写真が載っていて……目を奪われた。
   この人のようになりたいと思って、モデルの勉強をしたんだ」

咲耶「高校生以上なら活動させてくれる事務所を見つけて、進学してすぐに契約した。
   前知識は十分に得たつもりだったけれど、なかなかアナタのようにいかなくてね……」

咲耶「少しずつ軌道に乗るようになってからも、私はアナタの後を追いかけ続けた。
   どんな細かい記事でもチェックをして、それで……アナタがアイドルに転身したことを知った」

咲耶「すると、今度はアイドルについて知りたくなったんだ」

咲耶「モデルとしても、あれほど脚光を浴びていた人が、何の前触れも無くアイドルになる……
   一体どんな魅力を見出したのか、興味を持つなという方が無理があるだろう?」


咲耶「そんな折、今の事務所のプロデューサーが、私をスカウトしてくれた」

咲耶「最初は、少し迷ったんだ。
   アナタと同じ事務所に行った方が、会える可能性も高まるんじゃないか、ってね」

咲耶「でも、私はあえて違う事務所を……283プロを選んだ。
   追いかけるだけでなく、いつの日か高垣楓と肩を並べる存在になるために」


咲耶「そして今……同じ立場で相まみえる日を待ち焦がれ続けた高垣楓が、私の目の前にいる」

咲耶「フフ……緊張を抑えるのに、私がずっと前から必死なのが分かるかい?」
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:55:51.02 ID:VfNpJpls0
楓「……そうだったんですか」


咲耶「アイドルに転身してからも、アナタの輝きは留まることを知らない。
   いや、それまで以上に眩い光を放ち続けている」

咲耶「楓……私には、アナタと二人でいるこの時間が、宝物だ」

咲耶「独り占めしたくて、だから……皆に教えたくなかった。
   こんな気持ちは初めてさ」

咲耶「私からアナタに贈る、二人だけの秘密……フフ、子供じみていると思うだろう?」ニコッ


楓「ううん」フルフル

楓「私が誰かにとって、強い想いを起こさせる存在になれたなら、
  とても光栄なことだなぁって思います」

咲耶「そうやってアナタは、他人事のように言うんだね」フッ

楓「そうでしょうか……そうかも知れません」
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:57:03.41 ID:VfNpJpls0
楓「我が事として捉える度胸が、私には足りていないのだと思います」

楓「畏れ多くて、同時に…………とても……」

楓「…………」

咲耶「……とても?」


楓「……一つ、分かりました」

楓「誰かからの秘密を預かるというのは、とても負担の大きい事なのですね」

咲耶「楓……?」


楓「咲耶ちゃん、ごめんなさい……それでも、まだお話はできません」

楓「ですが、一つだけ」


楓「私の秘密を預けている人が、一人だけいます」

楓「それは、咲耶ちゃんもよくご存知の人です。
  当時、たまたまお仕事でお会いした……283プロの人」
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:58:07.86 ID:VfNpJpls0
咲耶「283プロ……!?」


楓「関わり合いの薄い彼になら、中立の立場でそれを担ってくれると考えました。
  私の願いを、重荷とも思わないで済むような人になら、と」

楓「ですが……きっと、その方にも、負担を強いていたのでしょうね」

咲耶「か、楓……」


楓「察しがついたのなら、何かの折に、私が謝っていたとお伝えください」

楓「今度のフェスが終わった時に……私が、全て背負いますからと」

楓「だから……」



咲耶「……楓」

咲耶「ひとつ私から、提案したいことがある」
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:59:28.26 ID:VfNpJpls0
今回はここまで。
次回は明日の夜8時〜11時頃の更新を予定しています。
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:11:36.34 ID:VfNpJpls0
〜283プロ 社長室〜

美城「同じ事務所にいながら、私が高垣楓の動向を把握していないとでも?」

天井「把握していると思ったさ」

天井「動揺のあまり、あなたがこうして私の元へ駆け込んできた事も、
   私は実に趣深いものだと思っている」

美城「それが悪ふざけに留まらないことを貴方は知るべきだ」


天井「気づいていたか。ウチの白瀬咲耶の思惑に」

美城「つい先日の事です。
   弊社の事業部の者と、あなたは接触していたそうですね」



美城「一体何を考えている、天井努」

美城「パンドラの箱、と貴方は言ったが、
   まさしくそれを開けば、これに携わる誰もがタダでは済まされなくなるのだぞ」
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:13:02.05 ID:VfNpJpls0
天井「……フッ。情というのは、厄介なものだな」

美城「何?」


天井「最初は、安い用だと思ったものさ」

天井「だが、知れば知るほど、時が経てば経つほど……無視できないものになっていく」


天井「彼女は十分この業界に尽くし、かけがえのないものを与え続けてきた」

天井「最期の頼みの一つくらい、叶っても良いだろう」

天井「私が考えていることは、それだけだ」
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:14:13.31 ID:VfNpJpls0
〜後日、346プロ レッスンスタジオ〜

夏葉「ワン、ツー、スリー、フォー!」タンッ! キュッ タタン!

凛「……! ……ッ!」タタンッ! タッ!

樹里「よっ……っ……!」キュッ! タタッ! タン!


武内P「……十分な仕上がりであると思われます」

シャニP「えぇ。違う事務所同士なのに、ここまで息が合うとは」

シャニP「あなたのご指導と、あなたについていこうという皆の気持ちの表れですよ」

武内P「いえ。ひとえに、皆さんの緻密な練習の成果、それに……
    培われた絆の深さによるところです」

武内P「それと、手前味噌にはなりますが……」チラッ


楓「……いえ、私は何も」

シャニP「ああ、仰る通りですね。
     高垣さんのサポートがあってこそ、皆は頑張ってこれました」

楓「いえ、そんな……ありがとうございます」ペコッ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:15:49.81 ID:VfNpJpls0
智代子「……とぁ!」タン タンッ! ビシッ!

智代子「はぁ、はぁ……えへへ、どう、卯月ちゃん!?」

卯月「どうって……凄すぎて、私なんかじゃケチつけられないです!」

智代子「ほ、本当!?」

未央「うんうん、相当練習してきたんだもん。
   この未央ちゃんも太鼓判、たくさん押しちゃうよ!」

卯月「はいっ! 智代子ちゃん、これまでよく頑張りました!」ギュッ

智代子「や、やった……!」グッ…!


智代子「夏葉ちゃん! 約束の八ツ橋、ご馳走してくれるよね!?」クルッ

夏葉「まったく……あなたって子は、しょうがないわね」

夏葉「今度周子に言っておくわ。たくさん種類があるものをお願い、ってね」ニコッ

智代子「オホォォーー!!(裏声)」ガッツ!

凛「アイドルが出しちゃいけない声出してる……」

卯月「それにしても、周子ちゃんのご実家だったんですね。
   夏葉さんが懇意にしている京都のお店って」

夏葉「あら、言ってなかったかしら?」
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:16:56.47 ID:VfNpJpls0
樹里「……みんな悪ぃ。間奏部分がちょっとズレちまった」

樹里「もう一度通しで合わせてぇ。休憩したら、もっかいいいか?」


未央「……ジュリアンってさ、修行僧?」

樹里「しゅ、修行僧!?」

卯月「傍から見てても、すっごくレベルの高いパフォーマンスだなぁって。
   ね、楓さんもそう思いませんか?」

楓「はい。とてもすごかったです」

樹里「つっても、せっかく皆でやるんだし、
   少しでも良いモンにしたいっていうか……」ポリポリ…



咲耶「…………ッ」グッ グッ…



夏葉「……咲耶、どうしたの?」

咲耶「あぁ……」


咲耶「ッ ……いや、何でもないんだ」
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:18:24.43 ID:VfNpJpls0
夏葉「足が痛むの? そこに座って、ちょっと見せて」

凛「え……」

咲耶「すまない……ッ」グッ


智代子「さ、咲耶ちゃん……!?」

樹里「おい、大丈夫かよ?」

シャニP「咲耶!?」

武内P「…………」

ザワ…


夏葉「……」グッ グイッ

咲耶「……ッ」ズキッ

夏葉「……ここは痛む?」グッ

咲耶「いっ、いや……ッ」

夏葉「正直に言いなさい。
   隠したって、何もあなたや私達のためにはならないわ」
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:19:45.81 ID:VfNpJpls0
咲耶「す、ッ……すまない、ぐ……!」ズキンッ

卯月「咲耶さん……!」

シャニP「咲耶、大丈夫か!?」


夏葉「…………」スクッ


夏葉「プロデューサー。今からメンバーの変更はできる?」

武内P「……!」ピクッ


夏葉「これまでの居残り練習で、無理が祟ったようね」

夏葉「正確な症状は、お医者様に診せないと分からないけれど、
   今の咲耶の反応から考えられるのは、足首の捻挫」

夏葉「外くるぶしの靱帯が断裂しかけている可能性がある……
   もしそうなら、とてもステージに立てるような状態じゃないわ」

咲耶「ッ…………!」


武内P「あ、有栖川さん……」

夏葉「質問に答えてちょうだい。今から『TAKE−UC』のメンバーの変更は?」
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:21:05.56 ID:VfNpJpls0
未央「そ、そんな!」

卯月「これまで、あんなに頑張ってきた咲耶さんが……」


武内P「……2日前までであれば、事務局に届けを出せば、変更は可能のはずです」

凛「ちょっとプロデューサー!」

樹里「凛」スッ

凛「じゅ、樹里……!?」

樹里「爆弾抱えてるヤツに、無理をさせるべきじゃねぇよ」


グッ…!

樹里「…………ッ」

智代子「樹里ちゃん……」


咲耶「すまない、みんな……ッ」


シャニP「だが、咲耶の代わりになれる人が、今から探して見つかるとは…」
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:22:09.34 ID:VfNpJpls0
咲耶「いるさ……」

シャニP「えっ?」

一同「!?」ザワッ


咲耶「適任が一人……私達のサポートをしてくれた」

咲耶「……お願いだ、楓」



楓「…………」


凛「か、楓さん……!」

夏葉「そうよ。楓なら、ダンスもボーカルも文句の付け所が無いレベルで体得しているわ!」

智代子「こんな豪華な人に、代役を頼めるなんて……!」


樹里「……楓さん」

樹里「お願いします。アタシ達、こんなトコで終われないんです」スッ
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:25:06.80 ID:VfNpJpls0
楓「…………衣装」

樹里「えっ?」


楓「身長は同じくらいですけれど……きっと胸のところが、余っちゃいますね」

楓「私は、咲耶ちゃんほど立派なものを持っていませんから。ふふっ♪」ニコッ


樹里「な゛っ!!?」カァー!

武内P「丈はそのままで、バストの部分を調整が可能か、衣装担当に確認をしておきます」スラスラ

樹里「何でアンタは平然としてんだよ!」

武内P「す、すみません」

夏葉「なるほど、そういう所にも気を配らなければならないのね」フ-ム

智代子「咲耶ちゃん並みにおっぱい大きい人もそうそういないし」

樹里「おっぱい言うな!!」クワッ!

未央「ジュリアン、声でかい」
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:26:43.24 ID:VfNpJpls0
卯月「楓さんが、凛ちゃんや樹里ちゃん達と……!」


凛「……咲耶の分まで頑張ってくるから、私達」

夏葉「しっかり治しておきなさい。捻挫はクセになりやすいから」

智代子「このユニットだって、フェスで終わりにしたくないもん!
    ね、樹里ちゃん?」

樹里「当たりめーだ。
   一度も咲耶とステージやらねぇまま解散なんてバカバカしい話あるかよ」ニカッ


咲耶「皆……」

咲耶「……楓も、ありがとう」

楓「いいえ。私がお役に立てるなら、お安い御用です」ニコッ


樹里「そうと決まれば、すぐ合わせようぜ。
   楓さん、ご準備お願いできますか?」

楓「はいっ、樹里ちゃん」



樹里「よっし。じゃあ皆、せーの…」
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:30:05.53 ID:VfNpJpls0
〜夜、961プロ〜

ダンッ!

黒井「高垣楓が白瀬咲耶の代わりに出るだとぉ!?」ガタン!

『はい、そうです』

黒井「私に何の相談も無しに勝手に決めるなどと、よくも軽々しく…!」

『現場の陣頭指揮を執ることを私に命じたのは、あなたのはずです』

黒井「勝手をしろと命じた覚えは無い!
   貴様というヤツは、つくづく都合の良い解釈を……!」


『なぜ、高垣をそうまで恐れるのでしょうか』

黒井「……私が恐れている、だと?」ピクッ


『弊社としては、このプロジェクトクローネに協力するために、
 申し分の無い実力を持つアイドルをご用意したつもりです』

『相談も無く、事後報告となってしまった事については、お詫びします。
 ですが、彼女にご不満を持つ理由が、あなたにおありでしょうか?』


黒井「それを貴様に教える必要は無い」

『理由が、あるのですね?』
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:31:06.80 ID:VfNpJpls0
黒井「余計な詮索はしない方が身のためだぞ」

『分かりました。それでは、失礼致します』

ガチャンッ



黒井「…………」ギシッ

黒井(346プロを強請るための、格好の材料だと思っていた)

黒井(だがアレは……私の想像を超える爆弾だ。
   961や346だけでない、業界全体をも揺るがしかねないほどの……)

黒井(それが、最も起爆してはならない時と場所で……!)


黒井「……」ガチャッ

プルルルルル…!


黒井「私だ」

黒井「当日は全員呼べ」


黒井「……いいから全員だっ!!!」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:33:32.07 ID:VfNpJpls0
〜961プロ寮 武内Pの部屋〜

武内P「……」ピッ

樹里「また黒井のヤツからうるせーこと言われたのか」コトッ

武内P「いつものことです。しかし……」

樹里「しかし?」


武内P「黒井社長は、明確に高垣さんを特別視しています。
    それは、彼女がトップアイドルである事とは、おそらく別の何かが……」

樹里「…………」

武内P「きっと当日は、何かしらの手立てを工作してくるものと思われます。
    どのような者達が介入に現れるか分かりません」

武内P「気がかりなのは、先日渋谷さんからお聞きした話です。
    黒井社長が美城常務に対し、高垣さんの失脚を示唆するような話があったと」

武内P「一体、何を意図しているのか……せめて相手の狙いが分かれば、対処が……」


樹里「今さらそんな難しいこと考えんなよ」

武内P「西城さん……」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:35:33.64 ID:VfNpJpls0
樹里「眉間に皺寄せてばっかいるから、そんな辛気臭いツラになんだよ」

樹里「ほら、布団のシーツ、洗って替えといたぜ。もう寝ろよ」

武内P「……ありがとうございます。しかし私は…」

樹里「寝れねぇってんだろ?」

樹里「でも、横になって目を瞑りゃ、少なくともずっと起きてるよりはマシだ。
   つべこべ言ってないで、ほら」ポフッ

武内P「は、はぁ……」


武内P「……あ、あの、西城さんは…?」

樹里「あ、アタシはアンタが寝たのを見届けてから部屋に戻るよ!
   なんか、その……」モジモジ

樹里「アイツらから、た、頼まれてっからさ……
   プロデューサーをちゃんと休ませろって……同じ寮に住んでんだから、って」

武内P「そ、それは……ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」

イソイソ…


樹里「…………」ゴクリ…
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:39:33.31 ID:VfNpJpls0
――――


樹里『はぁ!? そ、添い寝だぁ!?』ドキッ

未央『やっぱりプロデューサーの心身の健康のためには、これしか無いかと』ウーム

凛『樹里にしか頼めないことなんだ』

樹里『自分が何言ってるか分かってんのか!? 出来るワケねぇだろそんなの!!』

夏葉『ベビーヒーリングタッチと言って、
   母親からのスキンシップが子供に心身の健康を与えるという医学的論拠もあるのよ』

樹里『とっくにベビーじゃねぇだろアイツ!!』

智代子『大切な人とそばにいる安心感を与えるって意味では、同じことじゃない?』

卯月『大丈夫です! 危ないことになりそうだったら私に電話してください!』

樹里『電話してどうしろってんだよ! ていうか危ねぇこと想像してんじゃねぇか!!』

咲耶『お願いだ、樹里……』 ←真剣な眼差し

楓『樹里ちゃん……』 ←何とも言えない眼差し


樹里『……〜〜〜〜ッ!!』


――――
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:40:53.26 ID:VfNpJpls0
武内P「さ、西城さん……寝ました」

樹里「寝てねぇじゃねーか」

武内P「ね、寝ます。なので……電気を消していただけると……」

樹里「あ、あぁ……」

パチッ フッ…



武内P「…………」


「お、おい……プロデューサー」


武内P「……何でしょう」


「壁の方に、横になった方が……寝やすいらしいぜ」

武内P「え?」

「い、いいからっ。ほら……横向きになって」


「あと……もうちょい、そっちに身体、寄せて……」
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:42:21.29 ID:VfNpJpls0
武内P「……?」ゴソゴソ…

武内P「こ、これで、よろしいでしょうか?」


「あぁ……」


武内P「…………」



スッ…


モゾモゾ…


武内P「……!?」

ソッ…


武内P「さ、さぃ……!?」

「こっち向くんじゃねぇぞ……」


武内P「こ、これは一体……?」



「きょ、今日は……これで、寝させてくれ……」
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:43:55.61 ID:VfNpJpls0
武内P「西城さん……」


「大変だったよな……」

「ほんと……アタシ達のために、すっげぇ頑張ってくれて……」

「皆……感謝してる」



「今回だけだ」

「今夜だけ……そばで寝させてくれ……」


武内P「……はい」



「寝るぞ……おやすみ」


武内P「はい……おやすみなさい、西城さん」



武内P「…………」
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:45:52.38 ID:VfNpJpls0
――――――

――――


「…………」

「……ん…………む……」

  あっ、起きた?
  えへへ、お寝坊さんだね、プロデューサーさんっ♪

「これは……」

「!? あ、あなたは…!」

  あ、ダメダメ。
  まだそのまま寝てて。プロデューサーさん、ずっと働き詰めなんだもん。

  私の膝なら、いくらでも大丈夫だから。気にしないで、ねっ?

「……私は」

  大きなプロジェクトを任されてるんだね。
  色んな事務所の子達を担当するって、大変そう。

  でも、すごく嬉しいよっ。
  私の大好きなプロデューサーさんが、そんな立派なことをしてるなんて。

「私は……」


  私のことなら、気にしないで。
665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:52:38.92 ID:VfNpJpls0
「…………」

  今のあの子達を、プロデューサーさんは大切にしてあげなきゃダメだよ。

  特に、西城樹里ちゃん。

  私に似て……って言うと失礼だけど、
  きっと自分の気持ちを表現するのが苦手な子だから。

  だから、ちゃんと見て、手を差し伸べて、気持ちを引き出して上げて。
  根は素直な子なんだから、お世話してあげればちゃんと応えてくれるはずだよ。

  お花のようにねっ。

「……はい、その通りです」

  あれ?
  そっか、私がわざわざ言うまでも無かったよね。ごめんなさい。


「いいえ……あなたに教えられたのです」

「それを彼女達は、思い出させてくれました」

「あなたも含め、皆さんには……感謝しても、しきれません」


  うんっ。


――――

――――――
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:53:23.17 ID:VfNpJpls0
――――


武内P「…………」

武内P「……ん…………む……?」


樹里「やっと起きたか」

武内P「……? さ、西城さん!?」ガバッ!

樹里「ハハハ、寝ぐせついてるぜ」

武内P「……!?」サッ


チュン チュン…


樹里「おはよう、プロデューサー」クスッ


武内P「……はい」

武内P「おはようございます、西城さん」ニコッ
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:56:03.38 ID:VfNpJpls0
――――――

――――


  >咲耶ちゃんOUT 楓さんIN ってマ?
  >最初からそうしとけや、めっちゃ期待するけど
  >咲耶ちゃんだってぬか喜びしなくて済んだしな
  >ええぇ、ワイめちゃくちゃショックなんやが……楓さんなんていつでも見れるやん

  >センターは西城樹里が不動か?
  >楓さん入るんだったらさすがに譲るだろ
  >西城エアプか?
   あの図々しさ考えたらありえんわ
  >ここにも西城叩きいるのかよ、いい加減ウザいぞ
  >でも一歩引いてる奥ゆかしさが楓さんらしい
  >961関係無しに今からリーダー変えんの普通無くね?

  >夏葉ちゃんやチョコちゃんって楓さんと何話すんだろ?
  >楓さんはクッソしょうもない話でもニコニコしながら相槌打つ聞き上手だぞ
  >智代子ちゃん大喜びでカレーの作り方とか熱弁してそう
  >夏葉ネキ「楓さん、一緒にトレーニングするわよ!」ダンベル ドサー
  >楓さん「背筋を鍛えた身体でハイキング、なんて、ふふっ」
  >凛渋谷「普通全裸でやるよね?」
  >唐突な名誉G民のしぶりんで草
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:58:03.08 ID:VfNpJpls0
〜『クリスタルウィンター』当日、会場 スターリットドーム〜

ドォォォォォ…!


智代子「お、大きい会場だねぇ……」

卯月「は、はい……目が回りそうです」


武内P「スターリットドーム……」

武内P「スターリットシーズンという、アイドルの頂上決定戦に相当するイベントがあり、
    その最終戦の舞台となった会場です」

武内P「スターリットシーズン以後、イベント中に行われた四季大会は通年イベントとして残り、
    冬のイベント『クリスタルウィンター』の会場は、今もこのスターリットドームとなっています」

凛「その四季大会っていう中で、一番大きいものが、『クリスタルウィンター』ってこと?」

武内P「実質的には」
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:59:41.49 ID:VfNpJpls0
未央「へぇぇ、海外のアーティストとかも御用達にするんだって」スイッ スイッ

樹里「超有名な人達もいんじゃねーか、マジかよ……!」

凛「樹里って洋楽も聴くんだったっけ、そう言えば」


夏葉「臆することは無いわ、樹里!」バァーン!

樹里「いちいち後ろからデケぇ声出すなよ」

夏葉「それだけ私達がこの会場に相応しいアイドルになったということよ。
   日々の努力が実を結んだ事を、まずは誇りに思いましょう」

シャニP「ああ、夏葉の言うことはもっともだ」

卯月「こういう時の夏葉さん、本当に頼もしいですっ」ギュッ
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:00:58.51 ID:VfNpJpls0
咲耶「楓は、この会場で歌ったことはあるのかい?」

楓「うーん……2、3回、来たことがある気がします」

智代子「あ、あるんですか……」

楓「と言っても、単独ライブなどではありません。
  いずれも、ご招待いただいて、1曲程度歌っただけのもので」

未央「それでもめちゃくちゃ凄いよぉ、楓さん!」

卯月「はいっ! やっぱり楓さんは、私達の憧れです!」

楓「ふふ……」ニコッ

咲耶「…………」


凛「プロデューサー。
  リハーサルの時間まで、振りを確認したいんだけど」

武内P「事務局に確認し、裏手の搬入スペースをご案内いただきました。
    資材搬入を終えた後であれば、自由に使っても構わないそうです」

夏葉「助かるわ。ありがとう」
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:02:55.14 ID:VfNpJpls0
武内P「私は、関係者への挨拶と出場の手続きを行ってまいりますので、
    彼女達の引率をお願いできますでしょうか?」

シャニP「分かりました」

樹里「あ、あのさ、プロデューサー」

武内P「? 西城さん、何か」


樹里「……いや、悪ぃ。やっぱ後でいいや」ポリポリ


武内P「?」

未央「何だよジュリア〜ン、らしくないなぁスパッと言っちゃえよぉ」ウリウリ

樹里「う、うっせぇな! いいんだよ、大した用じゃねぇから!」

凛「ふーーーん?」クスッ

樹里「何笑ってんだよ凛!!」ムキー!
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:03:52.31 ID:VfNpJpls0
武内P「……?」ポリポリ

シャニP「ふふ。行きましょうか」

武内P「はい」

スタスタ…



夏葉「ところで……咲耶、今日出れなかった事だけれど」

咲耶「おっと。夏葉、そういうのは言いっこなしだと言っただろう?」

夏葉「えぇ、そうね。でも、聞きたいことがあって」


夏葉「あなたの足、お医者様には診てもらった?」


咲耶「……ああ」

夏葉「お医者様は、何と?」

咲耶「…………」
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:05:33.10 ID:VfNpJpls0
夏葉「あなたはつまらない嘘をつく子ではないのを、私は知っているわ。
   “ただの一度”を除いて、ね」

夏葉「だから、あなたは黙っている」


夏葉「本当は何とも無かったんでしょう?」


咲耶「……やはり、気づいていたか」

夏葉「あなたの足を見た時にね。上手く演技をしたつもりでしょうけれど」

夏葉「そして、自分の代役として楓を提案したのもあなただった」


夏葉「一体、何を考えているの?」



咲耶「……謝らなければならない事がある、夏葉」

咲耶「皆に嘘をついたのは、“ただの一度”ではないんだ」
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:06:32.64 ID:VfNpJpls0
夏葉「咲耶……」

咲耶「すまない、夏葉。皆には黙っていてほしい」

咲耶「彼女の想いを尊重したいという、私からの願いだ」


夏葉「……彼女?」チラッ


咲耶「あぁ、そうだ」

咲耶「夏葉こそ、何か意図があって私の演技を見逃してくれたのだろう?」


夏葉「あなたは無意味なことをしないと思ったからよ」

夏葉「でも今は……それがネガティブな結末を招かないことを祈るばかりだわ」


咲耶「……そうだね」
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:07:56.88 ID:VfNpJpls0
ガヤガヤ…


スタスタ…

武内P「……」キョロキョロ



ちひろ「あっ、プロデューサーさん、お疲れ様です!」スッ


武内P「千川さん……いらしていたのですか」

ちひろ「もちろん。彼女達の晴れ舞台ですから」

ちひろ「あ、今西部長もお越しになられていますよ。
    アイドルの子達の様子を見に行くって仰っていました」

武内P「そうでしたか」

ちひろ「受付会場を探していたんですよね?」

武内P「はい」


ちひろ「大丈夫です。私が既に済ましておきましたから!」エッヘン
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:09:19.26 ID:VfNpJpls0
武内P「えっ?」

ちひろ「ほら、これが『TAKE−UC』の受付票です。
    ちゃんと今日のメンバー変更も反映されていますよ」サッ

武内P「……確かに。ありがとうございます、千川さん」ペコリ

ちひろ「いえいえ、これくらい何でもありません。
    その分、プロデューサーさんはアイドルの子達についてあげてください」

ちひろ「ほら、行きましょう」グイッ

武内P「せ、千川さん?」

ちひろ「皆、裏手の方にいるんですよね? 早く合流しましょう、さぁさぁ」グイィッ

武内P「あ、あの……」

スタスタ…



スッ

黒服達「…………」
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:10:43.97 ID:VfNpJpls0
〜裏手〜

冬馬「な、何でお前らまでいんだよ!?」

樹里「それはこっちの台詞だぜ! アタシらの場所を横取りすんじゃねぇ!!」

冬馬「俺達の方が先だったじゃねーか!!」

樹里「いーやアタシらが先だ!!」

シャニP「あぁぁこらこら、二人ともケンカは良くないぞ」


凛「……ジュピターの人達と鉢合わせるなんてね」

翔太「ま、一番近い練習場所がココなんだし、そりゃ被っちゃうのもあるよねー」

北斗「その辺にしとけよ、冬馬。みっともないぞ」


冬馬「ふんっ!」ムスッ

樹里「ヘンッ!」プイッ


卯月(何だか似てますね、あの二人)ニコッ

未央(しまむー、それ言ったら絶対怒られるからやめようね?)
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:12:35.99 ID:VfNpJpls0
夏葉「でも、本番前の良い刺激になるかも知れないわ。
   お互いにリハを見せ合うというのはどうかしら?」

翔太「えぇー? さすがに手の内を本番前に見せちゃうのはどうかなぁ」

北斗「本来であればな。だが、麗しいレディからの頼みとあれば話は別だ」

冬馬「別なワケねぇだろ! 敵の誘いに応じる理由なんかねぇぜ!」


咲耶「確かに、この場にいる皆はお互いに事務所が違う。
   今日だけでなくこれからも、立場上はしのぎを削り合うライバル同士、という事になるね」

咲耶「だが、同じアイドルだ」

咲耶「志を同じくする仲間同士、お互いを分かち合おうじゃないか」バチコーン☆


樹里「ったく、また咲耶はそうやってキザなこと言って」

冬馬「お、おう……べ、別にお前らなんて仲間なんかじゃ…」ポッ

樹里「効いてんじゃねーよ」

楓「楽しいリハーサルになりそうですね♪」ニコッ


コツ…

今西「やぁ。皆揃っているね」

未央「あっ、部長さーん!」フリフリ
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:14:19.88 ID:VfNpJpls0
シャニP「これは、今西部長。どうもお疲れ様です」ペコリ

今西「あぁいや、283プロのプロデューサーさん。
   どうか私に畏まらないでください」

今西「お世話になっているのは、こちらの方ですからね。
   私共のプロデューサーを、よくサポートしてくださった」

シャニP「いえ、俺にできることをしただけですから」


シャニP「それに……彼は本当に素晴らしいプロデューサーだと思います」

シャニP「自分もこうあれたらと……
     真摯に目の前のアイドル達と向き合う姿勢は、俺の目標です」


今西「そうですか……」

今西「それが今日、結実する日になる。
   裏方として携わる私も、心より祈っているよ。

今西「無事にステージを完遂できることを、ね」

一同「はいっ!!」


楓「……はい」

今西「…………」
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:16:27.93 ID:VfNpJpls0
〜関係者通路〜

コツコツ…


武内P「……?」

ちひろ「本当に大きな会場ですねー。
    使用料も見たことない金額で驚きましたよ」

ちひろ「主催側で使用するのは、そうそう無いでしょうね。
    あっ、でも共催なら費用負担を多少解消できるかも、なんて♪」

武内P「は、はぁ……」


コツコツ…


武内P「あの、千川さん……皆さんがいるのは、こちらではな…」

ちひろ「ええ、分かっています」

武内P「えっ?」
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:17:37.10 ID:VfNpJpls0
ちひろ「本番前にもう一度、プロデューサーさんとお話をしたかったんです。
    二人きりで、ね」

武内P「千川さん……」

ちひろ「プロデューサーさんは、ご存知ですか?」

コツ…

ちひろ「今日、楓さんがステージの上で何をするつもりなのかを」

武内P「高垣さんが?」



ちひろ「楓さんは、全てを暴露するつもりなんです」

ちひろ「346プロや961プロが、これまで行ってきた所業の数々を」

武内P「!!?」


ちひろ「ふふっ。そのご様子だと、知らなかったみたいですね」
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:19:39.42 ID:VfNpJpls0
武内P「一体何を……どういう事ですか、千川さん!?」

武内P「なぜ、高垣さんがそのような事をする必要があるのですか!?」

武内P「いえ、そもそもなぜ高垣さんがその事を知って……!?」


ちひろ「私も、今西部長からお聞きした話ですから、詳しいご事情までは把握できていません」

ちひろ「でも、部長が仰ることには……全ての遠因は、楓さんにあると言います」

ちひろ「そして、346プロは楓さんを守りすぎた」

武内P「……守りすぎた?」

ちひろ「そこを961プロにつけ込まれた、という見方もあるそうなのですが……でも」


ちひろ「楓さんは、ずっと一人で罪の意識に苛まれていました」

ちひろ「事実として、プロデューサーさん……
    あなたの命も、その証拠を抹消せんとする常務達の手によって、危ぶまれています」

武内P「…………」


ちひろ「でも、楓さんがその前に明らかにしてしまえば……
    常務達は、プロデューサーさんを手に掛ける理由を失うことになります」
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:22:04.42 ID:VfNpJpls0
武内P「馬鹿な……」

ちひろ「分かりますか? プロデューサーさん」

ちひろ「彼女が表舞台でそれを公表することは、あなたを守るためでもあるんです」

武内P「で、ですが!
    それをしたら彼女どころか、346プロが築き上げたブランドイメージが崩壊します!」

武内P「346プロだけではありません。961プロも、283プロも……
    およそアイドル業というものが成り立つ前提たる“信用”が根底から覆ることに……!」

武内P「もしそれが事実なのであれば、今すぐ止めさせ…!」ダッ!

ギュッ

武内P「!? せ、千川さんっ……?」


ちひろ「私にとっては、あなたが助かることの方が大事です」

ちひろ「アイドルが……私達の仕事が、台無しになるとしても……
    ひ、人が死んじゃうよりは、ずっと……!」


武内P「……それはあなたの本心ではないはずです、千川さん」

ちひろ「えっ……?」
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:25:08.86 ID:VfNpJpls0
武内P「誰よりもアイドルを愛するあなたが、
    その輝きが奪われることを良しとするはずがありません」

武内P「そして、それを支える仕事を、ご自身ができなくなることも」

武内P「いいえ……たとえそれが本心であったとしても」

武内P「私はプロデューサーとして、彼女達のステージを見届ける義務と責任があります」


ちひろ「プロデューサーさん……」

武内P「まずは、高垣さんと話をしてきます。
    事実確認ののち、必要であれば説得やメンバー交代など、必要な調整を」

武内P「そうするであろう事を、私に期待したからこそ……
    あなたも、高垣さんの事を私に話してくれたのではないでしょうか」


ちひろ「……やっぱり、プロデューサーさんはプロデューサーさん、ですね」クスッ

ちひろ「だとしたら、気をつけてください」

ちひろ「既に……狙われています」


ザッ…


武内P「ええ。知っています」
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:26:05.35 ID:VfNpJpls0
武内P「千川さんも、お逃げください」

ちひろ「私のことなら心配いりません。さぁ、早くっ!」

武内P「! ……失礼」ダッ!

タタタッ!


ザッ!

黒服達「追え!」「生かして捕らえろ!」


ちひろ「……!」クルッ

ちひろ「止まってくださいっ!!」バッ!

黒服達「!?」


ちひろ「どうか……どうかあの人の好きにさせてあげてくださいっ!!」ポロポロ
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:28:03.24 ID:VfNpJpls0
〜裏手〜

キュッ! タタン タンッ! ザッ!


夏葉「……ふぅ! 良い仕上がりね!」

樹里「はぁ、はぁ……ヘヘッ。あぁ!」

智代子「わ、私も変なところ無かったよね? ね!?」

凛「当たり前でしょ。今までよりすごく良かったよ、智代子」

智代子「や、やったぁ! えへへ!」

楓「ふふっ♪ 皆さん、動きが軽やかですね」


冬馬「ふーん……まぁ、思ったよりやるようだな」

卯月(これは、“大絶賛”ってことでいいんですか?)コソコソ

翔太(ご明察)ニコッ

冬馬「聞こえてんだよっ!!」
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:29:39.73 ID:VfNpJpls0
北斗「まいったな……これは相当なプレッシャーだ」

未央「えへへー、ウチのアイドル達の凄さ分かっちゃった〜?」ウリウリ

樹里「何で未央が得意になってんだよ」

咲耶「誇りに思うのも無理はないさ、樹里。
   皆の努力を間近で見てきて、誰よりもそれを分かっているのだから」

咲耶「もちろん、私もね。自慢くらいさせてくれたっていいだろう?」ニコッ

樹里「……ヘッ、まだ早ぇってんだよ」ニヤッ

夏葉「樹里の言う通りよ。そして、その時はすぐそこまで来ているわ」

咲耶「……あぁ」


卯月「ううぅ、ドキドキします……!」ギュッ

凛「心配しなくていいよ、卯月。私達なら大丈夫だから」

卯月「凛ちゃん……はいっ」


智代子「ねぇ、樹里ちゃん」
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:32:31.92 ID:VfNpJpls0
樹里「ん?」

智代子「本当にありがとね。
    樹里ちゃんがいたから、今の私があるんだなぁって」

樹里「よせよ、こんな時に」

智代子「こんな時だから、言うんだよ」


智代子「あの時、ひどい言葉をぶつけて……ごめんなさい、樹里ちゃん」

智代子「そして、私をここまで連れてきてくれて、ありがとう」


樹里「……そっくり、アタシも同じ言葉を返すよ、チョコ」

樹里「アタシはずっと、チョコに謝りたかった。
   チョコのためだけにアイドルやってた……そのはずだったのにな」

智代子「樹里ちゃん……」


樹里「チョコだけじゃない。
   夏葉も咲耶も、凛も、未央と卯月、楓さん……プロデューサーも」

樹里「皆との出会いが無かったら、今のアタシは無かったんだ」
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:36:28.19 ID:VfNpJpls0
凛「樹里……」

咲耶「フフッ。珍しくセンチメンタルな事を言うんだね、樹里」

夏葉「緊張しているの?
   私と一緒にステージに立つことの何が不安なのかしら」ファサッ

樹里「口の減らねぇヤツらだな、ホントによ」


樹里「特に、楓さん」

楓「……私?」


樹里「あの日の楓さんのステージを……いや、なんつーか……
   楓さんのアイドルやファンに対する立派な姿勢を、見ることができたから」

樹里「それまで正直、嫌な世界だなって思ってたアイドルの事を、初めて好きになれた……
   そのきっかけが、アタシにとっては楓さんで、目標を見つけた瞬間だったんです」


楓「樹里ちゃん……」


樹里「ありがとうございます、楓さん。
   たくさん失礼な事を言っちゃったけど、それはステージで返します」

樹里「だから、改めて今日は、よろしくお願いします」ペコリ
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:37:33.88 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

樹里「ていうか、アイツおせぇな。まだ来ねぇのかよ」

凛「確かに……とっくに手続きは終わってるはずなのに」

未央「まぁー、これだけ大きい会場だとさ、挨拶しに行く人達もいっぱいいるんじゃない?」

智代子「そろそろ衣装に着替えて準備しとかなきゃだよね? 私達」

シャニP「お、俺何もしなくて大丈夫だったのかな……?」ソワソワ


ヴィー…! ヴィー…!

楓「!」

楓「……すみません、携帯が。ちょっと失礼しますね」スッ

卯月「え? あ、はい」

スタスタ…


咲耶「……?」
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:40:44.43 ID:VfNpJpls0
〜来賓ルーム〜

トクトクトク…

天井「そろそろ開演の時間ではあるが……
   舞台裏では、ある意味本番と呼べる事態が既に起こっているようだ」

天井「賑やかな事だな、黒井?」コトッ

黒井「フンッ! 私だって本意ではない。
   我が961プロの貴重な人員を、こんな事に割かなければならんとは……」

黒井「貴様の事務所で高垣楓の出場を止めていれば、こんな事をせずとも済んだのだ、美城」


美城「それを言うなら、あなたも同じことです、黒井社長」

黒井「何?」

美城「プロジェクトクローネ……そして、『TAKE−UC』の監督権は貴方にある」

美城「それほど危険視しているというのなら、
   あなたがユニットの出場を取り止めれば良かったのでは?」

黒井「そんな真似、できるはずがあるか!
   我が961プロの看板を背負わせているのだぞ、あの者達には!」

黒井「出場取り止めなどすれば、我が事務所の末代まで残る汚点だ!」
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:43:27.73 ID:VfNpJpls0
天井「なるほど……大したタマだよ、美城常務」

天井「黒井がそう考えることも見越して、
   あなたはプロジェクトクローネを黒井に譲ったという事か」

美城「それは、半分は正しくありません」

天井「? 半分とは?」


美城「正直に申し上げましょう。
   確かに、黒井社長の行動を制限することを狙いとし、私はクローネを明け渡しました」

黒井「……」

美城「ですが、私にとって何より計算外だったのは、高垣楓の暴走です」

美城「そして、あのように衆目を集めてしまっては、もう止めることはできません。
   今から高垣楓を止めれば、その不自然さがあらぬ疑惑を生む」

美城「それに、このフェスの出場を止めたとしても、彼女にとっては別の機会がいくらでもある」

美城「つまり……私には打つ手が無かった、という事です」


天井「それは違うな」

美城「……」ピクッ
693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:46:28.92 ID:VfNpJpls0
天井「手段さえ選ばなければ、高垣楓を止める術はあったはずだ」

天井「世論から向けられる疑惑なども、メディアを利用して誘導すれば、
   その情報を操作する事だって、あなたの事務所なら苦ではないだろう」

美城「…………」


天井「なぜそうしなかったか…… 
   それは、あなたが純粋に彼女のステージを見たかったからではないのか」

天井「高垣楓を……いいや、西城樹里をはじめとする『TAKE−UC』の晴れ姿を」

天井「お前もきっと同じだろう? 黒井」


黒井「……今、私の者達がヤツの身柄を押さえるために奔走しているが、
   それは美城、貴様に先を取られないようにするためだ」

黒井「だがもし貴様が、我らの過去の行いが衆目に晒される事を諦めているのなら……
   貴様はもう、あの男をどうするつもりも無いという事かね?」


美城「……いいえ、黒井社長」

美城「打つ手が無い、と私が言ったのは、彼女の暴走についてです」

美城「私の目は、既に事が起きた後の処理について向いています」
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:47:04.02 ID:VfNpJpls0
〜関係者通路〜

ガッ! ゴキャッ!

黒服達「ぐ、は……!」「うっ!?」

ドサッ



ダダダ…!

黒服達「いたぞ! 逃がすな!!」ジャキ!

武内P「!」

ピシュッ!

武内P「……!」サッ!

チュイン!
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:48:10.68 ID:VfNpJpls0
武内P(サイレンサー……実弾を……!)


ピシュッ! ビシュッ!

武内P「むぅ……!」ダッ!

タタタ…! チュイン! キィン!

ビシッ!

武内P「ぐっ!」


タタタ…!


武内P「くっ……はぁ……はぁ……!」

ポタポタ…


武内P「はぁ、はぁ……う、ぐ…!」シュルッ

ギュッ!

武内P「…………」ダッ

タタタ…!
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:48:42.97 ID:VfNpJpls0
〜会場 サブエントランス〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…!

「おい、あれ……」
「本物?」
「うわー、すっごい綺麗……!」
「誰か待っているのかな……」


楓「…………」





ザッ



楓「……こんな時でも、時間通りなんですね」クスッ
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:49:18.79 ID:VfNpJpls0
武内P「はぁ……はぁ……」



「誰だろう、あの人」
「デッカい男だな……」
「SP?」

ヒソヒソ…


武内P「……こちらへ、高垣さん」

楓「はい」

スタスタ…
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:50:25.26 ID:VfNpJpls0
〜備品倉庫〜

ガチャッ

バタン

武内P「……」キョロキョロ サッ

武内P「……」ゴソゴソ

楓「…………」


武内P「……ここなら、落ち着いて話せそうです。
    狭苦しくて、恐縮ですが…」

楓「いえ、構いません」


楓「それよりも、お怪我を……」

武内P「…………」グッ

楓「……私のせい、ですね」

武内P「いえ」


武内P「高垣さん……どうか正直に、お答えいただきたい」
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:52:51.65 ID:VfNpJpls0
楓「ご用件は、承知しています」

楓「私が、346プロと961プロの内情を、ステージ終了後に公表する……
  もう決めたことです」

武内P「……!」


楓「私は、あのミニライブの会場が好きです」

楓「ずっとあそこに留まって、来てくれる方々に私の歌を聴いてもらう……
  それだけで良かった」

楓「でも、いつの間にか私は……私が望む以上に、大きくなりすぎちゃいました」

楓「膨らみすぎた風船がやがて破裂するように……私は、もう……」


武内P「……高垣さん」

武内P「それがどれだけ346プロ、ひいては業界全体に大きな影響を及ぼすか、
    お考えになられた事はありますか」

楓「…………」
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:55:34.68 ID:VfNpJpls0
武内P「あなたが行おうとする行為は、これまで業界が築き上げたものだけでなく、
    アイドル界の未来をも奪いかねないものです」

武内P「将来のアイドルを夢見る人達が、放つ事が出来たかも知れない輝きを!」

武内P「私個人としては、事務所のことなどどうでもいい。ですが……
    その事だけは、どうしても承服できないのです」

武内P「高垣さん、あなたは……
    あなたが行おうとする事の影響の大きさをどうか…」

楓「考えた事が無いと、お思いですか?」

武内P「……っ!?」


楓「自分の存在が他者に与える影響について、私が何も考えの及ばない女だと?」

武内P「た、高垣さん……」

楓「私は……っ」


楓「もう、たくさんなんです……」

楓「夏葉ちゃんだって……私は、そんなつもり……無かったのに……!」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:59:09.21 ID:VfNpJpls0
武内P「あ、有栖川さんが……!?」

武内P「一体、どういう事が……何があったのですか」


楓「……専属契約を結んでいない、練習生と呼ばれる子達のレッスンを見る機会があって」

楓「懸命にレッスンに励む子達の中に……一際、目を引く人がいました」

楓「とても快活で、自信に満ち溢れていて……
  その自信を裏付けるだけの非常な努力を苦としない、分かりやすい強さを持っていました」

楓「立場こそ、私は先輩ですが……その子の姿に、とても憧れたんです」


楓「いつか一緒に、仕事をしてみたい……つい、そう零しました」

楓「その強さを、私にも分け与えてもらえたら、って……一緒にいれば、それが叶うかもって。
  インタビュアーの取材と離れた、記事にもならない雑談を、したのだと思います」

楓「それが……巡り巡って、黒井社長の耳に入ったみたいです」

武内P「! ……」
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:02:31.77 ID:VfNpJpls0
楓「軽い気持ちで零した独り言を、彼は引き合いに出し、
  私に……346プロに、取引を持ちかけました」

楓「その子……有栖川夏葉ちゃんに、346プロを応募するよう、それとなく誘導する。
  ツテのある346プロの社員達にも根回しをしてあげましょう、と」


楓「もちろん、私はそれを断りました。
  私のワガママで、皆を巻き込むような事をさせる訳にはいきません、と」

楓「ですが、既に黒井社長は、346プロ内への根回しを行っていました」

楓「高垣楓が目を掛けている、デュオを行いたいと言っている……
  その企画が、既に346プロの社内で進行していたんです」

楓「夏葉ちゃんのオーディション合格を前提として……」

武内P「…………」

楓「全てはあなたの発言に端を発する事なんですよ、と彼は私を脅しました。
  もしこれが明るみに出れば、あなたもその責任を免れることは無い、と」

楓「私は……その影響を考慮し、やむなく受け入れました。
  ですが、一つ条件を提示したのです」


楓「今の図式では、961プロは全くの無関係のまま」

楓「取引を持ちかけるおつもりなら、せめて建前上、
  このオーディションの不正は、961プロ側からの依頼であるとすべきでは、と」
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:06:24.57 ID:VfNpJpls0
武内P「……そんな事が」

楓「黒井社長は、笑ってこれを了承しました。
  彼にとっては、何でも無いことであり……事実として、意味の無い事だったのでしょう」


楓「そして……あのオーディションが、行われました」

楓「黒井社長の言った通り、全ては……私の軽い気持ちで言ったことのために……」

武内P「…………」


楓「今、346プロが必死になって不正の事実を隠蔽しようとしているのも、そのせいです」

楓「全ての原因が高垣楓だと知られたら、346プロの信用が大きく揺らぐ……
  皆、私を守るために、必死になって手を回しているんです」

楓「私は、何も望んでいなかった……
  本当にそんなつもり、無かったんです、なのに……!」

武内P「高垣さん……」


楓「ふと、怖くなり……私自身の過去のお仕事についても、調べました。
  それで、知ったんです」

楓「案の定、私を引き立てるために、邪な意志が様々に働いていたことを」

楓「それにより、不条理な目に遭い、一方的に光を奪われた人達が大勢いたことを……」
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:09:18.25 ID:VfNpJpls0
武内P「……高垣さん。それはあなたの周囲が勝手にやった事です」

武内P「おそらく私も、961プロとの契約に関わる仕事に携わった中には、
    あなたの実績に繋がるような依頼もあったでしょう」

武内P「ですが、それはあなたが依頼したものではありません。
    あなたが責任を感じるべきものでは無いのです」


楓「では、光を奪われた人達は“事故”にあったとでも思って諦めろと?」

武内P「!!」


楓「そんなはずはありません。
  たとえ私がそれを望んでいなかったとしても、私さえいなければそんな事にはならなかった」

楓「黒井社長や、346プロの上役の幾人かがいなくなったとして、解決する話ではありません。
  “それ”を望む人達がもう、今ではあまりに多すぎるんです」

楓「私を“立派なトップアイドル”だと仕立て上げた方が、何かと都合が良い人達も……
  私に夢を見出し、期待をする人達も」


楓「私の手に負えないほどに、アイドル高垣楓はどんどん大きくなって、
  取り返しのつかない代物になってしまいました」

楓「ちょっと歩いただけで跳ね飛ばす石が、巡り巡って人を傷つける……
  それが、あまりに多くなりすぎるほどに」
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:11:27.38 ID:VfNpJpls0
楓「さっき樹里ちゃんに、言われたんです……
  アイドルを好きになれたきっかけが、私だったと」

楓「私のアイドルやファンに対する姿勢が立派で、目標だったって!」ツー…

楓「自分や智代子ちゃんが傷つき苦しんだ元凶が私とも知らずにっ!!」


武内P「た、高垣さ…」

楓「咲耶ちゃんからも言われました!
  高垣楓はモデル時代だった頃から私の目標だ、憧れの存在だと!!」

楓「皆が勝手に大きくした偶像を……全部インチキなのにっ!!」ポロポロ


楓「私のせいで不幸になった人が大勢いる事実を知れば、
  決して言えないはずの事を私はっ! あの子達に言わせてる!!」

楓「それがどんなに悔しくて、申し訳なくて、耐え難い苦痛かあなたに分かりますか!?」

楓「預かり知らぬ所で今この瞬間も誰かを騙し、苦しめ続ける私の気持ちがっ!!」ボロボロ


武内P「…………」

楓「うぁ、ぁ……うっ……ッ……うぅ……!」ボロボロ
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:12:18.60 ID:VfNpJpls0
武内P「……だからあなたは、全てを壊すのですか」

楓「…………」


武内P「あなたにそれをするよう促した人物も、おおよそ見当がついています」

武内P「今西部長、それと……283プロの、天井社長ですね?」


――――


樹里「……なぁ、夏葉」

夏葉「何?」

樹里「今さらだけどよ……本当に公表して大丈夫なのかな、不正の件」
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:15:42.74 ID:VfNpJpls0
夏葉「ふふ、本当に今さらね」

夏葉「もちろん、何も問題は無いわ。
   そもそも私から提案した事に、この期に及んで是非も無いでしょう?」

樹里「そうだけど、そうじゃなくて……なんつーか……」

智代子「?」


樹里「大手のアイドル事務所が、普通にそういう事してる、って知られたら……
   業界全体が、なんかヤベー事になっちゃわないかなって、ふと思ってさ」

樹里「あ、いや! アタシ自身がアイドルやるって決めたから、
   その、自己保身とか、打算的なアレで言ってるんじゃなくて!」フリフリ

夏葉「えぇ、分かっているわ」

樹里「……凛達だって、相当しんどい思いをする事になるだろうし、その……」


卯月「私達なら大丈夫です、樹里ちゃん」

未央「そりゃあファンの人達からは、ものすごく白い目で見られたり、
   叩かれたりするだろうけどね……」ポリポリ

凛「見過ごしていい問題じゃないっていう気持ちは、私達も一緒だよ」
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:18:04.85 ID:VfNpJpls0
凛「ただ問題は、346プロ側がそれを認めるかどうか……かな」

咲耶「認めてしまったが最後、事務所として築き上げた信用が地に落ちる事になる。
   346プロの上役達が、素直に不正を認めるとは思えないな」

夏葉「えぇ。私も、長く厳しい戦いになるであろう事は承知の上よ」

樹里「夏葉……」

夏葉「せめて346プロの中でも誰か影響力の大きい人が、私の告発に便乗してくれれば、
   風向きは変わるのでしょうけれど」

智代子「そんな都合の良い人が、果たしているかなぁ……?」ウーン

咲耶「…………」


――――


楓「……たとえ、あの人達のお話が無かったとしても」

楓「いずれ私は、同じ事をしたでしょう……
  それを分かってくれたから、咲耶ちゃんも、今日のステージを私に譲ってくれたんです」

武内P「…………」


楓「私の言葉なら……きっと346プロも、抑え込むことはできません」

楓「それが、私にできる唯一の償い……その考えは、間違っているでしょうか」
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:19:43.98 ID:VfNpJpls0
武内P「……卑怯な言い方になりますが、高垣さん」

武内P「それが正しいか、間違っているかは、私には分かりません」

武内P「あなたの苦しみは、あなたしか経験した事のないものであり……
    私が何を言ったところで、軽薄で無責任な言葉にしかなり得ないと考えます」

楓「…………」

武内P「ですが、確信を持って言える事が、一つだけあります」

楓「……?」ピクッ


武内P「あなたは、西城さん達と一緒にステージに立った事が無いということです」

武内P「そして、そのステージから得られるものとの出会いも」


楓「樹里ちゃん達と……」


武内P「アイドルを本格的に志してからの西城さんは、
    見違えるように、良い笑顔を見せるようになりました」

武内P「西城さんだけではありません。
    白瀬さんも有栖川さんも、園田さんも……もちろん、本田さんや島村さん、渋谷さんも」
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:26:07.12 ID:VfNpJpls0
武内P「幾多の経緯を経て彼女達は出会い、互いに切磋琢磨し……
    非常な輝きを帯びて、大いなる未来への一歩を新たに踏み出そうとしています」

武内P「『TAKE−UC』が今日歌う楽曲は、
    そんな未来に踏み出す彼女達の姿を投影させたものです」

武内P「283プロのプロデューサーは、そう私に語り、その曲を託しました」


楓「……『Ambitious Eve』を」


武内P「白瀬さんがあなたに今日のステージを譲ったのは、
    あなたの意を汲み、それを公表する場を与えるためだったのかも知れません」

武内P「ですが、こうも考えられないでしょうか?」

武内P「“あなたに思い直して欲しかった”のだと」

楓「……!」

武内P「夢への一歩を踏み出す尊さを、アイドルを志した当時のあなたも知っていた。
    それを、思い出して欲しかったのではないでしょうか」

武内P「今まさにそれを踏み出そうとする、西城さん達と一緒のステージに立つことで」


武内P「私は、そう信じたい……
    かつてモデル部門にいたあなたを、アイドル部門へと導いた者として」
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:27:40.48 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

武内P「……勝手なことを申し上げました」

武内P「繰り返しになりますが……私には、あなたの苦しみを否定することはできません。
    その苦しさ故に、あなたが下す決断も」

武内P「ですが、もし私の願いを聞き入れてくれるのなら……」


武内P「どうか、今日のステージだけは目一杯、楽しんできてください」

武内P「西城さん達と共に、たくさん、笑ってください」


楓「…………」


武内P「……そろそろ時間です。
    戻りましょう。大勢の刺客が潜んでいますが、必ずお守りし…」

ギュッ

武内P「……!? えっ」


楓「まさか、私まで危ない目に遭わせようという人はいないと思います」

楓「だから、こうしていれば、プロデューサーさんも安心ですよね?」ニコッ

武内P「…………」ポリポリ
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:29:29.55 ID:VfNpJpls0
〜来賓ルーム〜

黒井「高垣楓と肌身離さず行動を共にしているだと?」ガタッ

美城「…………」

天井「ハッハッハ」


黒井「チッ……了解した」ピッ!

美城「まんまと御社の黒服達から逃げおおせた、ということですか」

黒井「伊達に裏社会で生きてきた訳ではなかったということだ。
   あの男、なかなかどうして悪知恵が働く……」

天井「いや。おそらく、高垣楓の発案によるものではないかな」

天井「彼女は、自分のために誰かが傷つくのを極度に恐れている」

黒井「……フンッ」


美城「あとは……あの男が彼女と接触し、何を話したか」

美城「要らぬお節介が、今回ばかりは望ましい方向に働くのを祈るほかありません」
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:30:56.46 ID:VfNpJpls0
〜控え室〜

凛「……どう?」クルッ

卯月「すっごくカッコいいです、凛ちゃん!」ギュッ

未央「うんうん! チョコもなつはしも、ジュリアンも皆よく似合ってるよ!」


夏葉「そう言えば、楓の衣装の手直しは間に合ったのかしら」

智代子「間に合ったって、この間ちひろさん言ってたよ。
    踊っててスポーンと脱げ落ちちゃう事は無いんじゃないかな」

樹里「そういう事言うなっつーの」

咲耶「…………」

樹里「ほら見ろ、咲耶が黙り込んじまったじゃねぇか」

咲耶「えっ? あ……すまない、何の話かな」

樹里「は? あぁいや、聞いてないならいいんだけどよ」


凛「……咲耶」スッ
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:32:10.84 ID:VfNpJpls0
咲耶「ん? 何だい、凛」

凛「何か、さっきから様子が変だね」

咲耶「……そう見えるかな」


凛「そんなに楓さんが心配?」

咲耶「!」ピクッ

凛「……案外、分かりやすい反応するよね」クスッ

未央「さくやん……?」


咲耶「……凛には敵わないな」フッ


智代子「咲耶ちゃん、どうかしたの?」

樹里「楓さんがどうしたっつーんだよ?」

夏葉「…………」


咲耶「……実は」
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:33:23.99 ID:VfNpJpls0
コンコン

卯月「ひぇっ!?」ビクッ!

樹里「はーい」

ガチャッ


武内P「大変、お待たせしました」

楓「ちょっとお手洗いが混んじゃっていて」


未央「プロデューサー! それに楓さんも!」

咲耶「……!」

樹里「おせぇよ、一体何してたんだ?」

武内P「すみません。少々、厄介な相手方に捕まっておりまして」

楓「私も、油断していました……ちゃんと事前に済ましトイレば、なんて。ふふっ♪」ニコッ

凛「あ、はい」
716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:34:52.27 ID:VfNpJpls0
夏葉「あまり悠長にしていられる時間は無いわ。
   楓、あなたも衣装に着替えておいてもらえるかしら?」

楓「はいっ」

智代子「……楓さんにもビシッと指示する夏葉ちゃん、本当すごいと思う」

樹里「アンタのその胆力が羨ましいぜ」

夏葉「?」キョトン

楓「……ふふっ♪」スッ

シャーッ


夏葉「それよりも、プロデューサー。
   レディが着替えようという時に、この部屋に留まるつもりなの?」

武内P「……えっ!?」ドキッ!
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:36:13.16 ID:VfNpJpls0
凛「そうだよね。ほら、こっちの部屋行ってて」グイッ

武内P「あ、す、すみません……!」ズルズル…

バタンッ


凛「ふぅ……ほら、樹里も」

樹里「は、アタシ? 何で?」

凛「さっきプロデューサーに言いかけてた言葉、あったでしょ?」

樹里「……ッ!」ドキッ

未央「あーそうだった!
   えへへー、ジュリアンいつぶちかますのー? 今でしょー?」ウリウリ

樹里「な、何だよぶちかますって……
   あーもう! そのウリウリすんのやめろ!」
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:37:37.14 ID:VfNpJpls0
卯月「えへへ。樹里ちゃん、ファイトですっ!」ギュッ!

樹里「が、頑張ることなんかねぇって!!」

凛「はいはい、いいからほら、早く」グイーッ

樹里「あ、ちょっ! 凛、この……!」ズルズル…

ガチャッ バタン


凛「まったく……どっちも世話が焼けるんだから」

智代子「えへへ。優しいね、凛ちゃん達」

智代子「でも、良かったの?」


凛「……それくらいは、させてあげたいでしょ」

卯月「大一番を間近に控えて、お互いに積もる話の一つや二つ、あると思いますから」
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:39:21.44 ID:VfNpJpls0
夏葉「ふふっ。粋な計らいをするのね」

未央「そして聞き耳を立てる未央ちゃんであった」ソッ

夏葉「やめなさい」ギューッ

未央「いだだだだだだ!!? 耳っ、耳がちぎぃだだだだだだ!!」

夏葉「それよりも……」


シャーッ

楓「…………」スッ


夏葉「……よく似合っているわ、楓」

智代子「本当! あ、脚なっがい……」

楓「ありがとうございます」


楓「……夏葉ちゃん」

夏葉「? 何?」
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:41:23.71 ID:VfNpJpls0
楓「一緒にステージに立てて、嬉しいです」

夏葉「えぇ。私も、とても光栄よ」

夏葉「でも今日のステージでは、私はあなたの足を引っ張るつもりは無いの。
   それどころか、あなたやセンターの樹里さえも差し置いて私が主導権を握ってみせるわ」

夏葉「せいぜい頑張って私について来てみせることね!
   覚悟しておきなさい、“世紀末歌姫”高垣楓っ!!」ビシッ!


智代子「……夏葉ちゃん、それたぶんカメラの前で言わない方がいいよ」

卯月「身内が言うのも何ですが、ちょっとその……怒られそうかなぁって」

夏葉「? どうして?」

未央「本当にブレないねなつはしは!」


楓「……ふふふ♪」ニコッ

咲耶「アナタが喜ぶ姿を見れて、嬉しいよ」フッ

楓「咲耶ちゃん……」


楓「あ、あの、咲耶ちゃん…」
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:43:59.01 ID:VfNpJpls0
スゥ… ピトッ

楓「……っ?」


咲耶「今は何も言葉はいらないよ、楓」

咲耶「私は舞台袖にいる。
   ステージが終わったら、私もアナタに話したかった想いを打ち明けよう」

咲耶「きっと“そうしてくれる”ことを、願いながら、ね」


楓「……はいっ」


卯月「あ、あわわわ……!」プシュー…!

智代子「さ、咲耶ちゃん、いつの間に楓さんとそんな仲に!?」

咲耶「? 何で顔を赤くしているんだい?」

未央「C・ロナ○ドなのかい、さくやん!?」


夏葉「ふふっ。どうやら余計な心配だったみたいね」

凛「余計な混乱は招いているみたいだけどね」ハァ…
722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:46:08.95 ID:VfNpJpls0
〜別室〜

武内P「さ、西城さん……」ポリポリ

樹里「……アタシまで追い出しやがって、凛のヤツ」


樹里「ていうか……さっきまでそのジャンパー、羽織ってなかったよな」

武内P「……」

樹里「袖、まくってみろよ」

武内P「…………」スッ


樹里「! ……それ、怪我してんじゃねーか」

樹里「そんなヤバイ目に遭ってたのかよ、アンタ……」


武内P「……そう言えば、283プロのプロデューサーさんは、どちらへ?」

樹里「チッ、話題逸らしやがって……」

樹里「今西って人とどっかに行ったよ。
   現場の指揮をアンタに譲って、観客席で見守ったりとかすんじゃねーか?」

武内P「そうであれば、良いですが……」


樹里「…………」モジモジ
723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:48:47.69 ID:VfNpJpls0
樹里「あ、あのさ、プロデューサー……ええっと、その……」

武内P「……はい」

樹里「この間から、ちょっと……考えてた事があって……」


樹里「アタシ、アイドル辞めようと思う」

武内P「えっ」

樹里「……961プロの、な」ニカッ

武内P「西城さん……?」


樹里「このフェスが終わったら……アタシを346プロに入れてくれねぇか?」

武内P「……!?」ピクッ

樹里「そ、そんなに驚くような事かよ」

武内P「いえ、失礼……ですが、意外だったもので」


樹里「そりゃあ、確かにアタシ自身、346プロには良い印象を持ってねぇ。
   だけど、961プロはもっとだ」

樹里「とにかく961プロだけは出ようって思って、283プロとどっちにしようか、迷ってた」
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:50:12.69 ID:VfNpJpls0
武内P「なぜ、283プロではなく、346プロを?」

武内P「元々のご友人である園田さんだけでなく、有栖川さんや白瀬さん……
    あなたを慕い、支えてくれる方も多くおられます」


樹里「友達がいるのは、346プロだって同じだよ」

樹里「だけど……アンタがいるのは、346プロだけだ」

武内P「!」


樹里「これまでの事、振り返って……分かったんだ」

樹里「アタシのアイドル活動のそばには、いつもアンタがいた」

樹里「アンタ無しでアイドルやってくなんて、アタシには考えらんねぇ」

武内P「さ、西城さん……」

樹里「……!? あっいや、ち、ちがっ!!
   い、今のはちげぇから! 勘違いすんなよな!!」ブンブン!

武内P「な、何が、でしょうか?」

樹里「――ッ!!」カァーッ!

樹里「いちいち言わせんじゃねぇよそういうのっ!!」ポカポカ!

武内P「も、申し訳ありません」
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:52:17.76 ID:VfNpJpls0
樹里「はぁ……ったく。アンタってほんとブレねぇよな」ワシャワシャ

樹里「ま、そういう所がいいんだけどさ」

武内P「……私は」

樹里「ん?」


武内P「西城さんには、283プロが合っていると考えていました」

武内P「346プロほど大規模でなく、政治的な意図に振り回されるリスクも少ない……
    仲間達と共に、地に足のついた活動が行えるよう、天井社長もよく見てくださる方です」

武内P「そして、あのプロデューサーも、情熱に溢れ、
    理知的かつ親身にアイドル達を導くことができる方だと、この活動を通して分かりました」

武内P「私を判断材料としてくれた事は、とても光栄ではありますが……」ポリポリ


樹里「……ナマイキな事、言うけどさ」

樹里「アタシだけのためじゃねぇ。
   アンタの事も、アタシは支えていきたいんだよ」

武内P「えっ?」
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:55:14.36 ID:VfNpJpls0
樹里「アグラオネマって、あの鉢植えさ……ジャングルに生える植物なんだってな」

樹里「直射日光はNGだって、凛から教えてもらったぜ。
   ったく、デタラメな育て方教えやがって」

武内P「は、はぁ……」


樹里「でも、やっぱりあのアグラオネマは、日の当たる所で育てて良い気がしたんだ」

樹里「自分の事、大事にしなさすぎるアンタには、もっと日の当たる所にいてほしい」

樹里「誰かを笑顔にするのがアイドルなら、アタシが一番笑顔にしたい人ってさ……
   やっぱ、アンタになっちまうんだよ」

樹里「だから……その……」ポリポリ

武内P「…………」

樹里「あっ! じゃあ分かった、こうしようぜ」ティン!


樹里「今日のステージで、
   もっとアタシの事をプロデュースしてぇ、ってアンタに思わせてやる」

樹里「アタシにはアタシの輝きがある……アンタが言ってたことだけど」

樹里「西城樹里って一番星が放っておけなくなるくらい、
   アタシに夢中になったんなら、アタシを346プロに引き抜けよ」

樹里「どうだ。誤魔化しあい無しの、アンタとアタシの賭け。
   当然乗るよな?」
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:57:34.35 ID:VfNpJpls0
武内P「……西城さん」

武内P「やる前から結果が分かっているものは、賭けとは言いません」ニコッ

樹里「! え、じゃあ……!」


武内P「西城さんの言うとおりです」

武内P「私も……これからは胸を張って生きていきたい。
    裏の世界ではなく、日の当たる場所に根を下ろし、本来の業務に邁進していきたい」

武内P「あなたと一緒なら、それができる……そう思いました」

樹里「……ヘヘッ」ニカッ

武内P「それに……随分と辛い想いも、させてきたかと思います」

樹里「え?」


武内P「私に心配をかけさせないよう、気丈に振る舞っておられましたが……」

武内P「インターネット上をはじめとした誹謗中傷には、心を痛めていたのではないかと」


樹里「……やっぱ、バレてたか」


樹里「怖かったよ……」

樹里「まるでアタシのこと……人とすら思ってねぇようなことまで……ッ」
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:01:11.25 ID:VfNpJpls0
武内P「…………」

樹里「でも……本当に怖いのはさ」

樹里「もし、アイドルやってなかったら、
   アタシもそうして、好き勝手に悪態ついていたかも知れなかったんだ」

樹里「チョコをひでぇ目に遭わせた業界……
   そこで頑張ってる凛達や夏葉達のような、アイドル皆に」

武内P「西城さん……」


樹里「アタシを救ってくれて……ありがとう、プロデューサー」

武内P「……私も、あなたに救われました。
    礼を言うのは私の方です、西城さん」

樹里「ヘヘッ……」グスッ

樹里「……ッ」ゴシゴシ

樹里「アタシが346プロに入ったら、そん時はちゃんと下の名前で呼んでくれるか?」

武内P「……分かりました」ニコッ

樹里「よしっ」パシッ


樹里「そろそろ行ってくる。ちゃんと見てろよな」

武内P「もちろんです。私はあなたのプロデューサーですから」
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:02:59.24 ID:VfNpJpls0
〜???〜

ちひろ「………………」


黒服「抵抗されたので、その……」

???「言い訳はいい」

黒服「は、ハッ!」


???「結果的に奏功するかも知れん」

???「意識が戻る前に、彼女を例の場所へ運び出せ」

黒服「ハッ!」

スッ



???「……」スチャッ



???「私です」

???「あなたはクイーンズゲートドームに向かってください」

『わ、分かりました』
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:04:21.63 ID:VfNpJpls0
〜舞台袖〜

ワアアァァァァァァァ…!!


夏葉「公表するのを止めろですって?」

智代子「……ッ!?」

武内P「そうです」

卯月「プロデューサーさん……」

凛「…………」


夏葉「会場には、既に父が有事のために手配したSP達が何人も手配されているわ。
   それに、交友のあるジャーナリストの方達も」

夏葉「皆、有栖川家のためにリスキーな依頼を引き受け、今日のために来てくれた人達なのよ」

夏葉「父の顔に泥を塗れと?」


武内P「…………」
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:07:35.48 ID:VfNpJpls0
夏葉「……ふふ、なんてね」ニコッ

未央「えっ?」


夏葉「実は私も、内心少し気が引けていたの」

夏葉「危険な目に晒される事が、じゃないわ。
   せっかく皆と一緒に立つステージに、私自身の手で水を差すことをね」

智代子「夏葉ちゃん……!」パァッ


夏葉「卯月、私のスマホを」

卯月「え? は、はい」スッ

夏葉「父に連絡しなくちゃ。予定していた計画は全てキャンセル」スチャッ

夏葉「今日来てくれた人達には、純粋に私達のステージを楽しんでいただきたい、と」

武内P「……ありがとうございます、有栖川さん」ペコリ

夏葉「こちらこそ。これで心置きなくステージに集中できるわ」フンスッ

夏葉「……もしもし、お父様?」

樹里「ヘッ、切り替えの早ぇこった」



武内P「……お聞きいただいた通りです、高垣さん」
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:09:07.88 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

未央「え、楓さん? ……プロデューサー?」キョロキョロ


武内P「あなたにご判断を委ねます」

武内P「そして、いかなる決断であろうと、私はそれを尊重することをお約束します」


楓「……この身が、意志を持たないただの人形であれたら」

武内P「…………」

楓「そう思わなかった日は、ありません」

樹里「か、楓さん……?」


楓「ですが……一つだけ分かることは、
  それを考えるのは、今ではないということ」
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:12:09.19 ID:VfNpJpls0
楓「今の私は、『TAKE−UC』……
  振り返らず、ただ目の前のお客さん達だけを見て、精一杯歌いたいと思います」

楓「咲耶ちゃんの分まで」


咲耶「……アナタに会いたかった人達が、会場に来ている」

咲耶「このステージをずっと待っていたんだ、って……
   アナタに伝えたい人達が、たくさんいるんだ、楓」

咲耶「答えてあげてくれないか。私の分まで」

楓「はい」コクッ


ワアアアァァァァァァァァ…!!!


卯月「ジュピターさん達、すごい歓声です……」

智代子「そろそろ出番だね……!」ドキドキ


凛「ねぇ。そのさ……皆で何かしない?」

夏葉「ふふ。何かってなぁに、凛?」クスッ

凛「もうっ、分かるでしょ。その……エイエイオーみたいなヤツ」

未央「しぶりん、意外と語彙が行方不明になる時あるよね」
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:14:06.26 ID:VfNpJpls0
楓「それなら、私にちょこっと良い考えがあります」

智代子「考え?」

樹里(嫌な予感……)

楓「おすすめの験担ぎがあるんです。皆さん、手を」スッ

凛・夏葉「手?」「験担ぎ?」キョトン


楓「皆で円陣を組むんです」

楓「本番前にエンジンを掛けるために、円陣を。ふふふっ♪」ニコッ


樹里「そんなこったろうと思ったぜ」スッ

楓「樹里ちゃん……」

咲耶「フフッ。さぁ皆、勝利の女神にあやかろうじゃないか」スッ
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:15:09.09 ID:VfNpJpls0
卯月「ほら、プロデューサーさんもっ!」スッ

武内P「は、はい」スッ


楓「では樹里ちゃん、音頭をお願いします」

樹里「吹っ掛けといてアタシですか!?」

凛「まぁ、センターだもんね」

樹里「そ、そう言われても……えっと、ど、どうすりゃいいんだこれ」

智代子「樹里ちゃんの好きな掛け声でいいんだよ」

武内P「……」ニコッ



樹里「……あー、っと」ポリポリ
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:16:25.99 ID:VfNpJpls0
ワアアアアアァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!

翔太「みんな、ありがとうー!!」

北斗「これからも、俺達ジュピターをよろしくっ!」


冬馬「と、言いてぇ所だが……」

冬馬「俺達の後に続いて、どうにも可愛げのねぇヤツらが、
   間もなくこのステージに上がってくるらしいぜ」

冬馬「だから、そんなナマイキがステージ上でビビっちまうくらい、
   俺達と同じだけの熱量をヤツらにぶつけてやれっ!!」

ワアアアアアァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!


翔太「冬馬君、あの子達のこと好きすぎでしょ」

冬馬「うるせぇ。西城がへっぴり腰になるのを見てぇだけだ」

北斗「ま、そういう事にしておこうか」ポンッ
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:17:13.74 ID:VfNpJpls0
ワアアアァァァァァァァァァ…!!


フッ


オオォッ!? ザワザワ…!


冬馬「来たか」

北斗「…………」



パッ


ワアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!



樹里「…………」
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:19:40.22 ID:VfNpJpls0
――――


樹里『……いや』ワシャワシャ

樹里『咲耶や未央と違ってさ…
   やっぱアタシ、こういう時に気の利いたこと、言えねぇよ』


樹里『ただ……ありがとう』

樹里『辛いこと、嫌なこともたくさんあったけど……でも、楽しかったよ』

樹里『皆がいてくれたから、本当にアイドルって、楽しくて……
   やってなかったら何をしてたのか、今じゃ考えらんねぇくらい……』

樹里『かけがえのないモンばっかで……』

樹里『…………』


樹里『悪ぃ、やっぱりまとまんねぇわ、ハハ、ハ……』

樹里『こういうの、アタシ、ガラじゃねぇって……ごめん皆、上手く、いかなくって……』


凛『何言ってるの、樹里』

樹里『凛……』

未央『ちゃんと出来てるよ、ジュリアン』

卯月『私達は皆、そんな樹里ちゃんが大好きなんです』
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:21:53.30 ID:VfNpJpls0
樹里『……ヘヘッ』

樹里『ッ……悪ぃ、夏葉。バトンタッチ』スッ

夏葉『あら、もういいの?』パシッ


夏葉『それでは、ウォッホン!! エェーー、オッホン!!
   さぁ皆! 始めていくわよ、私達『TAKE−UC』の伝説を!!』

夏葉『まさかこのフェスでの優勝が最終目標であると考えている人はいないでしょうね!?
   無論、ここで終わらせるつもりなんてさらさら無いわ!! この先もずっと私達は…!!』ウンタラカンタラ!

樹里『急に演説始めてんじゃねぇよ!!』

智代子『あ、そろそろお時間の方が……スタッフさん、こっち見てるような……』

咲耶『フフッ。直前まで賑やかなことだね』

楓『ふふふっ♪』ニコニコ


武内P『会場の方々も、すっかりお待ちです』

武内P『期待に応えるためにも、精一杯楽しませてあげてください。そして』

武内P『どうか皆さん自身も、思う存分、楽しんできてください』

一同『はいっ!!』


――――
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:22:46.16 ID:VfNpJpls0
――――


ワアアァァァァァァ…!!



凛「今、ここから始まる」

夏葉「私達の夢……!」


樹里「見ていてください。
   アタシ達のそれが……燃え上がる瞬間をっ」
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:23:26.46 ID:VfNpJpls0

 TAKE−UC 【 Ambitious Eve 】


742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:25:23.86 ID:VfNpJpls0
ワアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!


 タンッ タンタタン キュッ!
 タタンッ タッ! タン!


樹里(行くぜ……皆!)

智代子(うん!)コクッ


  どこまで行けるの 眺めてた
  空に飛び込んだ あの日から

夏葉「高鳴ってる!」

凛「ざわめいてる……!」

  心の光は

智代子「消えてない!」


咲耶(ほら、消えない……)


咲耶(そうだろう、楓?)
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:27:14.57 ID:VfNpJpls0
楓「……ッ」キュッ タタンッ! タン!

  俯いてたら

咲耶(寄り添っているよ)

  声と思いが

咲耶(アナタを大事に想っている人は、いつも)


楓(隣に……?)


咲耶「……」コクッ


  せいいっぱい ぐっと羽ばたけ

樹里「夢まで!!」

 タンッ!


 ――アイドルが何なのかを教わったっつーか……

 ――ファンと一緒に楽しむ事の大切さ、みたいなモンを、今日のステージで感じました。
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:31:31.35 ID:VfNpJpls0
楓(樹里ちゃん……)


 ――それを、思い出して欲しかったのではないでしょうか。


楓(ごめんなさい……)


 ――今まさにそれを踏み出そうとする、西城さん達と一緒のステージに立つことで。



楓(いいえ……ありがとう)

  この翼で (次の空へ) 少しずつ
  近づいてきた (そうでしょ?)


楓「だから言えるよ〜〜!♪」

 オオォォォォ…!! ワアァァァァァ!!


武内P「…………」グッ


  今 Ambitious Eve だって!
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:33:19.78 ID:VfNpJpls0
樹里(ヘッ……なんつー歌唱力だよ。こんなダンサブルな曲で!)

 タタン! キュッ タン!

樹里(アタシが足を引っ張る訳にはいかねぇ!)

樹里(ましてセンターでコケたりなんか……!)

 タン! タンッ! タッ タン!

樹里(絶対に、ミスなんか!!)


 キュッ! タタン! タンッ!



樹里(……震えが起きねぇ)

樹里(ヘッ、どうやらアタシの勝ちだな)

樹里(いや……)


智代子(……)ニコッ

凛(……)コクッ


樹里(アタシ達の勝ちだ)
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:34:45.45 ID:VfNpJpls0
  見渡してみよう (感じてみよう) いろんな景色
  みんなの気持ち (それはエナジー) 作った今日が
  また出会いに (色とりどり) つながるの


卯月「みんな……!」

未央「すごいよ……すっごく、カッコいいよ!!」


  答え見つけた (そうでしょ?)
  だから進むよ (そうだよ!)
  アイコトバ

一同「かがー やーけーー!!」


ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:35:49.48 ID:VfNpJpls0
美城「…………」

天井「見たまえ。
   この会場にいる誰もが望んだものが、そこにある」

天井「貴女や……お前も含めて。無論、私も」


黒井「……当然だ。私が監修したユニットなのだからな」

天井「フッ……」


美城「……歪まず真っ直ぐにいられるのなら、それに越した事はありません」

天井「その通り。だからこそ、彼女達の輝きは眩しく尊い」

美城「そうです」



美城「それ故に、我々がその業を背負う必要があるのです」
748 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:45:12.57 ID:VfNpJpls0
樹里(このまま突っ走るぜ! 皆っ!!)

凛(うんっ!)コクッ

智代子(合点承知!)

夏葉(楓もいいわね!?)

楓(はいっ!)

 タタンッ! タンッ! タンッ!


  ときめきのまま (わたしのまま) 叶えてみよう
  イメージのなか (未来のなか) 急ごう

凛「君と!」

夏葉「GO!」


樹里「〜〜〜〜! 〜〜〜!♪」タンッ タタン!



武内P「…………」
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:46:22.36 ID:VfNpJpls0
武内P「良い笑顔です……西城さん」


  だから言えるよ (そうだよ!)

  今まさに (ドキドキの)

智代子「ア!」

楓「ン!」

凛「ビ!」

夏葉「シャ!」

樹里「ス!」

一同「イブ!!  なーんだーー♪!!!」

  タタンッ タッ! ザンッ!!


ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチパチ…!
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:47:05.35 ID:VfNpJpls0
樹里「はぁ、はぁ、はぁ……!」

樹里「……」クルッ


智代子「えへへ……!」

夏葉「出しきった、わね……」

楓「はい……」

凛「……ほら、挨拶」ニコッ


樹里「あぁ」


樹里「ありがとうございましたぁーー!!」


ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:48:12.12 ID:VfNpJpls0
コツコツ…

未央「! えへへ、来た来た!」

卯月「樹里ちゃん! 凛ちゃん、皆……!!」ウルウル


コツ…

樹里「……どうだった、プロデューサー?」

武内P「はい。とても良いステージでした」

樹里「そんなん当たりめーだっての。もっとこう、何かあんだろ」


武内P「はい、あります」

武内P「言葉では言い尽くせないものが、あまりにも、たくさん」

武内P「皆さんは……『TAKE−UC』は、
    それをファンの方々に届けられる明確な力がある」

武内P「この割れんばかりの歓声が、その証左にほかなりません」
752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:49:25.37 ID:VfNpJpls0
樹里「ヘヘッ……!」

凛「樹里……お疲れ様」

樹里「あん? 何だよ、凛は今のでヘバッたのか?」

凛「ううん」フルフル

凛「もう一度、今すぐにでもステージに上がりたい気分だよ」ニコッ

夏葉「見上げた心意気ね、凛!」

智代子「私は、も、もう少し休憩してからで、いいかな……?」

樹里「チョコは明日からレッスンメニュー追加な」

智代子「そ、そんなぁ!? 後生だよ樹里ちゃん!!」

未央「あははは!」ニコニコ


武内P「……いかがでしたか? 高垣さん」
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:50:31.48 ID:VfNpJpls0
楓「はい……とても、楽しかったです」

楓「私にも、出来ることがあるのだと……
  悲観の対象でしかなかった自分の中に、一筋の光が見出せたライブでした」

楓「皆さんのおかげです」


咲耶「楓……あなたの居場所はここさ」

咲耶「お帰りなさい、楓」

楓「ふふっ♪ はい、咲耶ちゃん」ニコッ


ワアアアアアァァァァァァァァァァ…!!


卯月「ま、まだ歓声が鳴り止みません……!」

樹里「アタシ達が最後って訳じゃないんだろ?
   ステージの進行的に大丈夫かよ」

武内P「この後は、数組ほどの公演が残されており、
    それが終われば、審査結果の発表と表彰式が…」
754 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:51:20.96 ID:VfNpJpls0
ヴィー…! ヴィー…!

武内P「!」

未央「電話?」

武内P「はい。失礼」スッ


武内P「……!」ピクッ


ピッ!

武内P「……もしもし」



『お疲れ様です。
 ステージは、無事に上手くいったようですね』
755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:52:36.66 ID:VfNpJpls0
武内P「他人事のようなお話しぶりですが……」

武内P「会場の観客席で、ご覧になられていたのではなかったのですか」


武内P「プロデューサーさん」


『申し訳ございません。
 もちろん俺も、皆のステージをこの目で見たかったのですが』

『どうしても外せない、急な用事が入ってしまって……』


武内P「……ところで、ご用件は」


『あ、あぁそうだ。すみません』

『クイーンズゲートドームって、ありますよね?
 あの……そちらに来ていただくことって、出来ますか?』
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:53:44.93 ID:VfNpJpls0
武内P「これからセレモニーです。
    私が担当する、『TAKE−UC』の」

武内P「お分かりいただけると思いますが、私はこの場を離れることは出来ません」


『や、やはりそうですよね、すみません……』

『うーん、どうしようかな。
 実は俺も、御社の今西部長から言われて、急遽こっちに来ているもので……』


武内P「今西部長が?」ピクッ


『あ、そうだ!
 あなたに伝えてほしいと、今西部長からお預かりしていた言葉があって』


武内P「……それは、一体」



『過去の清算をしたい、と』
757 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:55:09.17 ID:VfNpJpls0
冬馬「ヘッ! 身の程知らずも大概にしろ!だぜ!!」

翔太「冬馬君、口調がおかしな事になってるよ」

樹里「ハッハッハ、どうやら本心では負けを認めたみてーだな」エッヘン!

冬馬「う、うるせぇ! 結果を見るまで分からねぇじゃねーか!」

北斗「そう言いたい所ではあるがな」フッ


冬馬「まぁ、だけどよ……」ポリポリ

冬馬「光るものがあった、ってのは認めてやる」


未央「えへへ、なーんだイイとこあるじゃん、あまとう〜♪」ウリウリ

冬馬「あ、あまとうって言うな!」

咲耶「フフッ。冬馬は心根が素直で優しい人だね」ニコッ

冬馬「べ、別にそんなんじゃねぇよ……」ポッ

樹里「もしかしなくても咲耶に弱すぎんだろお前」
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:56:00.10 ID:VfNpJpls0
コツ…

凛「……?」


凛「!」タッ!

卯月「あれ、凛ちゃん?」



凛「プロデューサー!」


樹里「……?」クルッ


コツ…

武内P「…………」


凛「……どこに行くの?」

凛「そろそろ表彰式なんだよ? 私達の」
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:56:45.31 ID:VfNpJpls0
武内P「…………」


武内P「……申し訳、ございません」スッ


樹里「おい、待てよプロデューサー!!」ダッ!


武内P「西城さん……!」

ザッ

樹里「自分の担当ユニットの晴れ姿を放って優先する用事って、何だよ」

樹里「ここまで来て、そんな……そんなつまんねー事すんなよ……!」グッ



武内P「……つまらない事では、ありません」


樹里「え……」
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:57:33.94 ID:VfNpJpls0
武内P「私には、無視できない事なのです」

武内P「過去に犯してきた罪と、向き合うために」


武内P「……申し訳ございません」クルッ

樹里「あっ、おい!!」

タタタ…!


樹里「夏葉っ!」

夏葉「会場のSP達に連絡して、彼を包囲させろと?」

樹里「分かってんなら早くしろよ!!」

夏葉「残念だけど、それは出来ないわ」

樹里「なっ……!?」
761 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:59:09.88 ID:VfNpJpls0
夏葉「言ったでしょう? 彼は簡単に許されて良い人ではないわ」

夏葉「きっと、それを最も理解しているのは、あの人自身」

夏葉「だから……彼の決意を、私達に止めることは出来ない」


夏葉「…………ッ」


卯月「ぷ、プロデューサーさん……」

樹里「…………ざっけんなよ……!」ギリッ



楓「……皆さん」

智代子「は、はい」

未央「楓さん……?」


楓「皆さんに、お話しておきたい事があります」

楓「いいえ、お話しなければならない事が」
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 00:04:33.75 ID:QvLQwGsg0
コツコツ…!

黒井「誰がクイーンズゲートドームの使用を許可しろと言った!!」

『い、いえ! それは、黒井社長のご指示があったものと…』

『社長のIDから発信されておりましたし、
 何よりもう……ドームは開場されていますので、我々はそのように……』

黒井「な、何だと……!?」ピタッ



天井「まさか……先日立ち入った際に、貴女は……?」



美城「悪しき慣習を排除するタイミングとして、決して望ましいとは思いません」

美城「ですが、今を逃せばその機を失う事にもなる。
   使えるものは何でも。やれることは躊躇無く」


美城「看板アイドルの口から告発されるという、最悪の事態は免れたとはいえ、
   我々も決して無傷では済まされない」

美城「しかし、結果として今がベストとならざるを得ないでしょう」
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 00:05:35.08 ID:QvLQwGsg0
今回はここまで。
次回は明日の夜9時〜12時頃の更新を予定しています。
次でラストです。
764 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2023/02/24(金) 05:38:48.78 ID:N6GUGpSDO
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:08:33.06 ID:QvLQwGsg0
〜クイーンズゲートドーム〜

ブロロロロロ… キキィ!

ガチャッ! バタン!

武内P「……ッ」タタタ…!





ギイィィ…


武内P「……」コツコツ…

武内P「……ッ」

ピタッ



武内P「せ、千川さん……!」
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:09:22.48 ID:QvLQwGsg0
ちひろ「…………ぅ」


武内P「千川さん! 大丈夫ですか!?」ダッ!



シャニP「ぷ、プロデューサーさん!」ザッ


武内P「!?」

武内P「……っ」


シャニP「これは、一体……!?」


武内P「よくものうのうと……」

武内P「あなたこそ、ご事情をよく承知した上で私を呼んだのではないですか?」
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:14:18.24 ID:QvLQwGsg0
シャニP「!? え、い、いや……ま、待ってください」

シャニP「俺は今西部長に呼ばれて来ただけです!
     千川さんがこんな事になっているなんて何も…!」

シャニP「ていうか、こんな話してるより、まず千川さんを助けないと!」

武内P「! それは、確かに……!」


「それには至らない」


武内P・シャニP「!?」クルッ



コツ…



コツ…



今西「……彼女は気を失っているだけだ。
   もうじき、目を覚ますだろう」
768 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:15:50.43 ID:QvLQwGsg0
シャニP「今西部長……?」

武内P「……ご説明願います、あなたの意図を」

武内P「『過去の清算』という話を額面通りに受け取るならば、
    これは私とあなたの問題であり、関係の無い彼を呼び出す理由が無い」

武内P「無論、千川さんをこのような目に遭わせる事も!」


今西「君の言う通りだね」

今西「しかし、だからこそ無関係でいさせたくない、という気持ちもある」

武内P「な、何を……」


今西「283プロのプロデューサーさん」

シャニP「は、はい」

今西「あなたと千川君には、生き証人になってもらいたい」

シャニP「は? ……い、生き証人?」


今西「あなたのそばにある、その機材のスイッチを押してもらえますか?」
769 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:17:15.53 ID:QvLQwGsg0
シャニP「この……赤くてデカいスイッチですか?」

今西「そう」

カチッ


ヴィン…!

シャニP「う、うわ!?」


武内P「モニターが……これは……」


『……それでは見事優勝した『TAKE−UC』のスピーチに移りたいと思います。
 しかし圧巻のステージでした! ご覧ください、まだ拍手が鳴り止みません!』

『ワアァァァァァァァ…!!! パチパチパチ…!!』

『……あ、えっと……あ、ありがとうございます。
 まだその、アタシ達……ていうか、アタシ、実感が無い、っていうか……』


武内P「西城さん……これは、『クリスタルウィンター』の?」
770 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:22:31.63 ID:QvLQwGsg0
今西「中継の模様を映し出しているだけさ」

今西「だが、行いたいのはそれではない」

シャニP「え?」


今西「知らないかね?」

今西「『クリスタルウィンター』の会場であるスターリットドームは、
   ライブイベントをはじめとした世界的な情報発信基地として、最新鋭の機能を有している」

今西「そして、このクイーンズゲートドームもまた、
   規模こそ譲るものの、スターリットドームに見劣りしない通信設備を有し、そして……」


今西「両ドームの通信は、既に繋がっている」

今西「つまり、ここから送った映像をあちらの会場のモニターに映し出し、
   それを全国に発信することだって可能、という訳だ」

武内P「! ……」


『すっごく嬉しいです! 嬉しいんですけど……
 アタシや、アタシ達だけの力で勝ち取れたとは思っていません』

『ずっと支え続けてきてくれた人がいて、その……ソイツに、ちゃんと届けたくて……』
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:27:01.69 ID:QvLQwGsg0
シャニP「ちょ、ちょっと待ってください!
     細かい話は俺にはよく分からないですが……!」

シャニP「今まさに進行している彼女達の晴れ姿を、台無しにしようと言うのですか!?」

武内P「おそらく、それに留まるものでは無いでしょう」

シャニP「えっ……」


武内P「今西部長……最初から、あなたが行うつもりだったのですね」

武内P「有栖川さんや高垣さんではなく、あなたが……」


今西「……我々が行ってきたことだ」

今西「その所業を、アイドルの口から言わせるのは、あまりに忍びない」


シャニP「しょ、所業……?」


今西「……ところで、君は961プロとの“契約”の当事者が自分だけと思っていないかね?」

武内P「え?」


スチャッ
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:28:02.85 ID:QvLQwGsg0
武内P「! 離れて!」ドンッ!

シャニP「うわ!?」


ダァンッ!!


バスッ!

武内P「ッ!! ……ッ」ガクッ

シャニP「!? ちょ、え……えっ!?」


ちひろ「……!」パチッ


武内P「……ぅ…………!」ドサッ


ちひろ「!! ぷ、プロデューサーさん!!」



今西「立場的には、私は君の“先輩”に当たるんだ」
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:31:04.94 ID:QvLQwGsg0
シャニP「ち、血が!? え、本当に拳銃……!」

ジャキ!

シャニP「うっ…!?」ピタッ


今西「言わずとも分かると思うが、余計な行動は慎んでいただこう」

シャニP「あ、あなたは……何者なんですか」

ちひろ「プロデューサーさん!
    しっかりしてください、プロデューサーさんっ!!」


今西「どうして、私がここの設備に精通していると思うかね?」

今西「私も、建造に携わった者の一人だからだ。
   このクイーンズゲートドームのね」

武内P「……ッ」カヒュッ…

今西「もっと言えば、有栖川夏葉君をかのオーディションで勝たせた際、
   黒井社長は君にこう伝えたはずだ」

今西「今回は“他の者”に依頼する、と」

武内P「……!」


ちひろ「ぶ、部長が手引きしていたんですか……!?」
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:32:44.96 ID:QvLQwGsg0
今西「346と961の間にある“契約”は、昔から続いていたんだ」

今西「だが、私も歳を重ねてしまったし、何より社内での役職もできた。
   昔のように、満足な活動ができなくなってね」

今西「“契約”を続けるための後継者が、346側に必要となった」


武内P「…………ま、さか……」

武内P「黒井、社長に…………かのじょ、を……?」


今西「黒井社長に、君と当時の担当アイドルに関する情報を渡したのは、私だ」

今西「……君にはすまない事をしたと思っている」


ちひろ「そんな……」

武内P「………………ッ」ズズッ

シャニP「し、しっかり! 無理しないでください!」
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:39:40.48 ID:QvLQwGsg0
今西「このクイーンズゲートドームの地下には、施設の全動力を担う設備室が備わっている。
   文字通りの心臓部であり、血管に相当する幹線がドームの至る所に経由している」

今西「普段は過負荷がかからないようセーフティーが機能しているし、
   何より全容量での稼働などせずとも十分に施設の運用には支障が無い」


今西「それほど過剰な設備のセーフティーを解除し、一気に臨界点まで稼働させたらどうなると思う?」

武内P「…………」


今西「彼女達のセレモニーが終わったタイミングで、モニターの映像をこちらに切り替える」

今西「そして、私達が重ねてきたことを、公表する……
   既に映像データは作成済みだから、それを流すだけだ」

今西「映像が最後まで流れる頃合に……地下の動力が臨界点まで作動し、
   このドームは地下から一気に崩れ落ちる」

今西「私と君は、闇に葬られるということだ……忌むべき歴史としてね」



今西「283プロのプロデューサーさん」

今西「あなたは千川君を連れて、このドームから退避してください」
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:40:59.19 ID:QvLQwGsg0
シャニP「い、今西部長……死ぬってことですか?」

シャニP「あなたもこの人も、死ななければならない人だとは俺には思えません」

シャニP「彼を慕うアイドル達の事はどうなるんですか!? どうして…!」

武内P「か、まいません……」

シャニP「! プロデューサーさん……」


武内P「いって……ください…………」


今西「……私も同じ気持ちです」

今西「きっと、私も彼も、大罪人として世間には周知される事となるでしょう」

今西「だが、私はともかく、彼は……彼の真実を知る人だけは、どうか残したかった」

今西「だから、あなたと千川君にここへ来てもらったのです」
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:43:34.25 ID:QvLQwGsg0
シャニP「……俺は」


ちひろ「どうにも……ならないんですか……?」ポロポロ

今西「アイドル達の未来を守るためには、こうするのが一番合理的だ」

今西「常務には詳しい事情を明かさなかったが……
   私の動向を監視しながら、こうして泳がせている当たり、彼女も私の思惑に気づいていたのだろう」

今西「まぁ……会社の不都合を一部の社員が丸ごと被って消えるとなれば、
   彼女として止める理由など無いだろうね、ハハハ」ポリポリ

ちひろ「い、いや……ぁ、うぁ……!」


『だから、今はその、なんか離れたトコに行っちゃったんですけど……
 もし見ていたら、こう伝えてやりたいんです』

『もっと目の離せないアイドルになってやるから、首を洗って待ってろ、って』

『じゅ、樹里ちゃん、ちょっとそれ言い方が物騒じゃぁ……!』

『うるせーな、良いんだよ。
 それくらいガツンと言ってやんなきゃどうせ分かりゃしねぇんだ、あんなヤツ』

『アハハハ…!』
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:45:29.33 ID:QvLQwGsg0
今西「……そろそろだな」

ちひろ「そ、そうだ黒井社長! 黒井社長に応援を…!」スチャッ

今西「無駄だよ。
   彼らの連絡網は、既にアカウント情報が錯綜して機能不全に陥っている」

今西「このドームに突入すべきなのか、ドームへ侵入者しようとする者を守るのか……
   どちらの指示が正しいのかも、もはや彼の部隊には判断がつかない」

ちひろ「う、うぅ……!」

シャニP「……天井社長は、あなたの考えに賛同されたんですね?」

今西「あなたをここへ呼ぶことも含めて、ね」


シャニP「分かりました」

シャニP「千川さん、ここを離れましょう」グッ

ちひろ「い、嫌です! そんなの、私嫌ですっ!!」

シャニP「でも、一つだけ約束させてください、今西部長」
779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:46:57.69 ID:QvLQwGsg0
シャニP「俺はこんな幕切れが正しい事だとは決して思いません」

シャニP「だから、あなたの事を認めることは出来ません」

シャニP「ですが、俺は俺のやり方であの子達と向き合い、トップアイドルへと導いてみせます」

シャニP「それがきっと、あなた方が望んでいたアイドルの未来であると信じて」



今西「……聞いたかね? 彼の言葉を」


武内P「…………」コクッ


今西「納得したようだ」



シャニP「……失礼します」グイッ

ちひろ「うぁ、あぅぅ……!!」ボロボロ

スタスタ…
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:49:25.33 ID:QvLQwGsg0
今西「……静かになったね」

武内P「…………」

今西「あと1分ほどで、映像が切り替わる……」


『……えー、なおも興奮冷めやらぬこのスターリットドームですが、
 最後にこの方にもコメントをいただく必要があるでしょう』

『高垣楓さん。今回は当初出場予定だった283プロの白瀬咲耶さんから、
 急遽バトンを託されての『TAKE−UC』入りだったそうですが、今のお気持ちを』


『はい……これほど非常な精神で、ステージに望んだことはありませんでした』

『疑いなく、私のアイドル人生で生涯記憶に残るものになったと感じています』

『それは、ここにいる樹里ちゃん達『TAKE−UC』の皆さん。
 そして、今日会場にお越しいただいたファンの方々……』

『皆さんのおかげで、もう少しだけ私も自分の翼を信じ、羽ばたける気がしました』


『心より感謝を。
 ありがとうございます……これを観てくれている、あなたにも』
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:50:06.44 ID:QvLQwGsg0
武内P「た、かがき……さん……」


『ウィンターフェスの優勝者『TAKE−UC』の皆さんでした!
 皆さん、改めてどうか惜しみない拍手をお送りください! おめでとうございます!』

『ワアアアアァァァァァァ!!! パチパチパチパチ…!!』


ヴィン…!


武内P「……!」



今西「……始まったようだね」
782 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:50:57.75 ID:QvLQwGsg0
〜スターリットドーム〜

司会者「? あれ?」

ザワザワ…

樹里「何だ?」

凛「あのモニター、急に画面が真っ暗に……」

智代子「あそこだけじゃないよ! 会場中のモニターが……!」


夏葉「何者かにジャックされている……!?」

楓「…………」

ザワザワ…! オイオイ…!


パッ!


『……私は346プロダクションアイドル事業部長、今西と申します』
783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:51:57.02 ID:QvLQwGsg0
「お、何だ?」
「何か始まったぞ」

ザワザワ…


未央「い、今西部長!?」

卯月「どういう事ですか!? どうして……!」


『この場をお借りして、皆様にお伝えしなくてはならない事があります』

『我が346プロダクションと、黒井祟男氏を代表とする961プロダクションは……』


咲耶「これは……まさか……!?」



『自らの利益を追い求めるために、罪も無い他社のアイドル達や、芸能関係者を……』
784 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:53:10.93 ID:QvLQwGsg0
ダァンッ!!

今西「!?」


ガィンッ!!

ギィッ ギギー!! ガガガ…!

ブスブス…!

今西「! き、機材が……!」


武内P「はぁ…………はぁ……」スチャッ


今西「拳銃……君は、一体どこでそんなものを……!?」





『ジジッ…! ザザッ!』

『ブツッ!』
785 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:53:46.72 ID:QvLQwGsg0
智代子「あ、あれ……?」

卯月「切れ……た?」





武内P「彼女達に……伝えたい事が……」グッ

今西「君は……」

武内P「予備の、回線は……ぐっ…………」ヨロヨロ…

武内P「ありますか……?」


今西「……もう、時間は無いぞ」

今西「臨界は始まっている」スッ

カチッ



パッ!
786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:55:53.37 ID:QvLQwGsg0
未央「ん? ……えっ!?」

「え、何だ?」
「男?」
「誰……?」

ザワザワ…


樹里「ぷ、プロデューサー……!?」



『皆さん……さ、西城さん……』


樹里「!」



『申し訳…… ゴォォォ…! ござ……ゴゴゴ…! …せ……ゴゴゴゴ…!』


『どうか…… ゴゴゴゴゴ…!』
787 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:56:20.20 ID:QvLQwGsg0
ゴゴゴゴゴ…!!


今西「律儀だね、君は……」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!


武内P「…………」ガクッ


ドドドドドドドドオオォォォーーーー!!!!





プツッ!
788 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:58:05.66 ID:QvLQwGsg0
凛「切れ、た……」


咲耶「ぷ、プロデューサー……?」


ザワザワ…!



楓「…………」



樹里「…………何だよ、これ」

樹里「ふ、ふざけ……ふざけんなよ、なぁ……!?」


樹里「ウソだろ? ……プロデューサー…………?」


樹里「プロデューサーッ!!!」

樹里「未央、卯月! アタシのスマホ!! 早くっ!!」ダッ!
789 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:01:22.21 ID:QvLQwGsg0
未央「じゅ、ジュリアン落ち着いて! な、何が起きたか…!」

樹里「誰か連絡取れよ!! 何ボサッとしてんだよ!?
   どうなってんだよふざっけんな!! アイツどこだよ、さっさと…!!」ツカツカ…!

卯月「樹里ちゃんっ!!」ダキッ!

樹里「は、放せっ! 放せよぉ!!」


樹里「あ、アイツのトコに、行くんだよ……!
   何だよ……ウソだ……う、ぅ、ウソだ……ウソだっ……!」ジワ…

卯月「樹里ちゃん……!」

樹里「ウソだ! う、ウソだ……!!」


樹里「どこだよ、プロデューサー……? プロデューサー……!」


樹里「どこ行ったんだよ……!?」


樹里「プロ、でぅ……ぁ、うあ……あ……!!!」

樹里「うああぁ、あぁぁぁ……!!!」ポロポロ


――――

――――――
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:07:10.47 ID:QvLQwGsg0
――――――

――――


『先日起きた961プロダクション所有のドーム爆破事故について、
 代表の黒井祟男社長はこの日会見を開き、
 改めて同社の管理体制に問題は無かったとする見解を明らかにしました』


『……えぇー、こちらの事故調査報告書によりますと、
 我がクイーンズゲートドームの爆破の原因につきましては、
 地下の設備ルームに急激な負荷がかかり、臨界に達した事が挙げられまして』

『これは通常の管理・運用においては考えられない操作がなされたとのことです。
 加えまして、事故が起きた当日、我が961プロの“正規の社員”はこのドームに出入りしておらずぅ!』

『以上のことから導き出される事実は、何者かが故意にッ! 我が施設に侵入し操作した!
 つまり事故ではなく、大いに事件性のあるものと考えられましたので、
 961プロとして断固! 厳正に! 対処していく次第であります』

『週刊慎重です。黒井社長。
 今インターネット上で広がっている動画の件につきまして、コメントをお願いします』

『ハッ! あんなもの、どこの馬の骨か分からぬものが勝手に作った代物でしょう。
 出所すら確認できんものに、信憑性の有無を議論することはナンセンスと考えますな』

『しかし、幾人かの芸能関係者からも、これを検証すべきとのご意見が…』

『我が961プロが愉快犯の戯れ事に屈する事は無い!
 むしろ名誉毀損でこちらから…!』
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:14:31.85 ID:QvLQwGsg0
  >とんでもない爆弾案件が出てきたな
  >令和最大ぶっちぎりで更新しただろコレ
  >実際にいた人なんだっけ? 動画に出てた白髪のオッサン
  >自己紹介の通り、346プロダクションアイドル事業部の今西って人で確定らしい
  >ドームのネットワークを通じて346のデータクラウドからサルベージされたんだっけ?
   出所も信憑性も十分やんけ

  >あの歳で部長って凄いの?
  >普通に行けば専務とか取締役クラスでもおかしくないし、そうでもなくね?
  >最大手で役職就いてる時点でレジェンド定期
  >レジェンド(笑
  >346のアイドル部門立ち上げたのが本当ならガチレジェンドやろ
  >「346プロアイドル事業部長です。今すべてをお話します」
  >↑これ系でマジなの初めて見たわ

  >楓さんのことも結構言ってたよな
   さすがにヤバない? 楓さん見れなくなるんか?
  >本当だったら高垣楓どころか、アイドル業界のビジネスモデルが終わる
  >この間降臨してた考察班の言ってること当たっとるやんけ
  >チョコちゃん回のヤツ?
  >あのクッソ意味深な話して実況勢が軒並み混乱したヤツか

  >上がってたから見てきたけど、何だこれ……もう答え合わせできてるだろ
  >346プロサイドの沈黙が怖すぎる
792 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:17:15.04 ID:QvLQwGsg0
  >樹里ちゃんが大泣きしてたのもヤベー雰囲気出てたよな
  >演技に決まってんだろ、全部台本だよこんなの
  >演出で事務所のドーム爆破してたらすげーわww
  >西城樹里の言ってたプロデューサーって、当日会場で一瞬映ってたヤツ?
  >アイツが業界人の殺しやネガキャンとか全部やってたんだよな?
   ガチモンの極悪人やんけ
  >アイツのせいで一生懸命頑張ってた他のアイドルの子らも日の目見れなくなるのクソすぎ
  >そういうレベル超えてるわ、人として絶許
  >悪いことするヤツってマジで自分の事しか考えないよな。なんなん?

  >ていうかTAKE−UCの子ら、アレから全然出てこないな、大丈夫か?
  >事務所から口止めされてんじゃねーの(適当)
  >樹里ちゃんまた鬱になってそう
  >そりゃゴリ押しの後ろ盾が無くなればギャン泣きもするわな
  >まだ言ってんのかお前
  >ましてセンターだしな、そら入れ食いさせまくったんだろ
  >↑通報した
  >今裁判所の開示手続きクッソ早いからな、震えて眠るんやで
  >こんだけ誹謗中傷が問題視されてんのにまだやる馬鹿いるんだな
  >馬鹿はニュース見ないからな

  >素直に寂しいわ、テレビつければ大抵誰かが映ってたし
  >まさか西城樹里ロスを感じる時が来るとは……
  >広告も一切流れないの自粛ムードすごいわ
  >このまま引退しちゃうのかな……
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:18:56.18 ID:QvLQwGsg0
〜346プロ 会議室〜

美城「……適性を考慮した結果、
   君には渋谷凜とのデュオユニットで活動してもらう事を検討している」パラ…

美城「先日の『TAKE−UC』のステージは、私も感銘を受けた。
   それに、お互いに気心の知れた者同士の方が、何かと動きやすいだろう」

美城「優秀なプロデューサーもつけよう。
   君に無理をさせるような事は無いはずだ」パラ…

パラ…


美城「……君にとって、悪くない話を提示したつもりだが、いかがだろうか」



樹里「…………」



美城「……なら、君の希望を聞かせてほしい」

美城「君の境遇は理解しているつもりだ。
   アイドル事業部の常務として、君の待遇には最大限の配慮をする用意がある」
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:22:05.21 ID:QvLQwGsg0
樹里「……じゃあ、聞いてもいいですか」

美城「どうぞ」


樹里「アイツの……あのプロデューサーの事は、どうするつもりなんですか」

美城「…………」


樹里「アンタにしてみりゃ、何も痛いトコなんかねぇよな」

樹里「あの動画の通り……アイツと今西って人が961プロと勝手にやった事にすりゃあよ」

美城「…………」

樹里「沈黙を守ってさえいれば、どうせ黒井社長は遅かれ早かれボロを出す。
   ネットの検証が黒井社長のウソを暴いて、いずれ炎上して961プロは窮地に陥る」

樹里「それでズルズルと自滅すりゃ、結果としてアンタら346プロの一人勝ち……
   アンタの狙いは、そんなトコだろ」

美城「…………」
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:26:16.43 ID:QvLQwGsg0
樹里「ふざけやがって……!」ギリッ

ダンッ!

樹里「アイツを悪者にして、テメェの手を汚さず城の外へ一歩も出ねぇ王様気取りかよ!!」

樹里「アイツを追い詰めたのはアンタらお偉いさんだろうがっ!!」


美城「そうだ」

樹里「! ……」


美城「私とて、このような結末は本意ではない」

美城「だが、私は常務としてこの事務所を、そして社員の生活を守る責務がある」


樹里「だから、切り捨てるってのかよ……!?」

美城「仕事柄、憎まれ役は慣れている。
   それが私の仕事であるとも」

樹里「馬鹿にすんじゃねぇよっ!! 大人ぶりやがって!!」

美城「割り切らなければ、私達は前に進めないのも事実だ」
796 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:28:32.58 ID:QvLQwGsg0
樹里「……ハッ、簡単に言ってくれるぜ。他人事だと思ってよ」

樹里「アタシの希望を教えろっつったな。聞かせてやる」

樹里「アイツを返せ」

美城「…………」


樹里「アタシの……『TAKE−UC』のプロデューサーはな。
   冷蔵庫には変なドリンクしか入ってねぇし、自炊もままならねぇ」

樹里「かと思えば、ハンバーグを弁当に何個入れても空にしてくるし……
   バスケをやらせりゃ、信じらんねぇプレーでアタシの度肝を抜いてきやがる」

樹里「それで、淡泊な受け答えしかしなくて……
   さん付けなんかやめて、下の名前で呼び捨てにするって、約束してたのに」

樹里「とうとう、一度も呼んでもらえなくて……」


樹里「でも……」

樹里「アグラオネマって鉢植えを、あんま正しくねーけど大切に、
   丁寧に愛情を持って育てるようなヤツで……」

樹里「それと同じくらい、アタシの……
   アタシ達アイドルの事は、ずっと一番に考えてくれて……」

樹里「自分の事なんかより、よほど大事に……」ツー…

ポタッ
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:31:09.85 ID:QvLQwGsg0
美城「…………」

樹里「そんな……そんな献身的なヤツがさ」

樹里「私利私欲、のため、に……悪いことばっかして……ッ……」

樹里「それで……961と問題を起こして、勝手にし、しん……!」ポロポロ

樹里「あ……うぁ、ぁ……!!」ポロポロ

美城「………」

樹里「そんな……ひっ、ぐ……そんなさ……!」

樹里「そんな酷いヤツだったんだ、って! 世間に報道されて終わるなんてよ!!」

樹里「あんまりじゃねぇか……!!」グッ


樹里「返せよ……」

樹里「アイツを、返せよ」

美城「…………」

樹里「それが出来ねぇなら、せめてアイツは立派なプロデューサーだったんだ、って、
   アンタの口から公表しろ」

樹里「そしたら、アンタの条件を飲んでやる」
798 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:33:00.20 ID:QvLQwGsg0
美城「…………」

美城「……帰りの交通費にでも使いなさい」スッ


樹里「! ……〜〜〜〜ッ!!」ガシッ!

ビリッ!!

美城「…………」

樹里「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

樹里「どんだけコケにすりゃ気が済むんだ……!」


美城「……残念だ」

樹里「アタシはちっともだよ。逆に清々した」


クルッ

樹里「アタシは346のアイドルになんかならねぇよ。絶対にな」

樹里「アイツを……アイツをとことん、ヒドい目に遭わせた所になんか……!」ギリッ

ツカツカ…!



美城「……彼の名誉は、保証できない」

美城「しかし、別の人物の名誉を回復させる段取りは進んでいる」
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:35:00.94 ID:QvLQwGsg0
樹里「……!?」ピタッ


美城「君の見立てにも一理ある。
   だが、かの問題について、我々346プロが沈黙を貫くことは、本来望ましい事ではない」

美城「その気になれば、この機に乗じて、
   多少のリスクを被ってでも961を糾弾した方が、商売敵を一気に潰せるからだ」

美城「それをしない事の交換条件として、我々が961プロ側に要求した事項が一つある」

樹里「……?」


美城「とある一人のアイドルの名誉を、回復するようにと」

美城「961と346の契約のために、過去に犠牲となったアイドル……
   かつて彼が担当していたその子が、またステージに立つことができるように」

樹里「……!」


美城「既に一定の報道はなされている。
   再びこの事務所に顔を出してくれる日も近いだろう」
800 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:48:14.53 ID:QvLQwGsg0
ウィーン…



テクテク…


未央「……あっ、ジュリアン!」

卯月「樹里ちゃん!」タッ


凛「……樹里」


樹里「……皆、悪ぃ」

樹里「やっぱアタシ……ここには居られねぇわ」


凛「うん……何も謝ることなんか、ないよ」フルフル

樹里「でも……!」
801 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:50:10.55 ID:QvLQwGsg0
卯月「樹里ちゃんとは私達、ずっと一緒の友達です。
   たとえ同じ事務所でいられなくたって」

未央「そうそう。何かあったら……ううん、何も無くても連絡取り合おうよ!
   この未央ちゃん、電話一本ですぐジュリアンのとこに飛んでいっちゃうんだから!」

樹里「ハハ……またお前、そうやって調子の良い……」

未央「それが私の良い所でしょー?」ウリウリ

樹里「ハハ、ハ……」


凛「……そうだ。ねぇ樹里、コレなんだけど」スッ

樹里「あぁ、そうだったな」


卯月「アグラオネマ、ですか」

未央「プロデューサーの部屋に、あったヤツだよね……」
802 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:56:54.71 ID:QvLQwGsg0
樹里「本当は、アタシが決めることじゃないって、分かってんだけどさ……」

樹里「やっぱコレは……346プロの誰かに、面倒見てもらった方がいいと思うんだ。
   花壇かどっかに植えて……ドサクサ紛れみたいで、カッコつかねぇけど」

凛「うん……私も、そう考えてた」

樹里「凛が引き取ってもいいんだぜ?
   お前なら、ちゃんと世話してくれそうだしさ」

凛「ううん」フルフル


凛「樹里が引き取らないんだったら……私も、引き取れない」

凛「何ていうか、その……フェアじゃない、でしょ?」


樹里「……何だそりゃ」

凛「ふふっ……さぁ、何だろうね」クスッ

樹里「うるせぇ」ハハッ
803 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:58:07.24 ID:QvLQwGsg0
〜中庭〜

テクテク…

樹里「……こんなに広い中庭、あったんだな」

未央「結構さ、日当たりも良いんだよ」

卯月「私もたまに、日向ぼっこしたりしています」

樹里「ふーん……」


凛「どこに植える? 樹里」


樹里「……あそこがいい」スッ


卯月「噴水の……」

未央「おぉー、こりゃ一番目立つ所だねぇ」

凛「……恥ずかしいって、嫌がりそうだけどね」クスッ

樹里「そんくらいがちょうどいいんだよ、コイツには」
804 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:59:19.10 ID:QvLQwGsg0
ザクッ ザクッ

樹里「……」ザック ザック

凛「…………」


樹里「そういやさ……今さらだけどよ」ザク ザク…

樹里「寒さに弱いんじゃなかったっけ、これ。
   もしかして、外に植えるのって、まずいのか?」

凛「うん……本当はね。
  まぁ、最近暖かい日も多くなってきたから、大丈夫かも」

凛「でも……次の冬は、越えられないと思う……」


樹里「それでも……反対しねーのか?
   アタシが、ここに植えるの」


凛「……私は、お世話していないから」

凛「今まで世話していた樹里に……口出しできる筋合い、無いよ」


樹里「…………」


ザクッ

樹里「ごめんな……部外者のアタシが、ワガママ言って」ザクザク…
805 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:00:20.39 ID:QvLQwGsg0
凛「部外者なんかじゃ……」

樹里「アタシよりも、お前らの方が付き合い長いだろ」ザッ ザッ…

卯月「…………」

未央「そういうの……関係ないっていうか、さ」

ザクッ…


樹里「……アタシは、何を残してやれたのかな」

樹里「最期、アイツ……何を言いたかったのかな……」


凛「樹里……」


樹里「……ヘッ、なんてな。今さら考えたってしょうがねぇ」

樹里「よっと」スッ


樹里「こんな、感じで……と」ソォー…

樹里「ん? もうちょい掘った方がいいか?
   どう思う、凛?」

凛「……私は」



???「あっ! ちょっと待ってぇー!」タタタ!
806 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:05:46.20 ID:QvLQwGsg0
樹里「へ?」

タタタ…!

???「よっこい、しょ! っと!
    えへへ、お花のお世話をしてくれてるんだねっ。ありがとう!」

???「うーん、穴はもう少し広い方が良いかなぁ?
    ちょっとスコップ貸して」ヒョイッ

樹里「あ……」

???「よっ。ほっ」ザク ザクッ

???「あっ、でもこれ、よく見たらアグラオネマ?」

???「ダメだよ、この子は日当たりの良いお外に植えるのは良くない品種なの。
    それに今はまだ寒いから、きっとすぐに枯れちゃう」


卯月「……あなたは」


???「だから、どうしても植えたいんだったら、あそこの、うーん……そう!
    春になってから、あの大きなけやきの下に植えてあげると良いんじゃないかなっ」

???「人目にも付きやすいし、木陰で休みながら皆に撫でてもらえたりするかも?
    この中庭の新しい人気者になれるかもね、なんて、えへへ♪」


未央「ひょっとして……」
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:07:24.77 ID:QvLQwGsg0
???「でも、勝手に植えたりしたらちひろさんに怒られちゃうからね。
    私の方から許可もらえるか聞いてくる! ちょっと待ってて!」

樹里「いや、いい」

???「ん?」ピタッ


樹里「日当たりの良いトコが……寒いのがNGなのは、知ってる。
   けど……コイツは、ここでいいんだ」

樹里「アンタみたいな専門家に言ったら……怒られちまうかもだけど……」

???「ううん、怒んないよっ」ニコッ

樹里「……え?」


凛「…………相葉、夕美」


相葉夕美「この子も、日当たりの良い所が好きみたいっ」

夕美「お花の気持ちが分かってくれる人に面倒見てもらえて、幸せな子だね♪」


樹里「何で……どうして、分かるんだ?」

夕美「そりゃあ、私の選んだ子だもんっ」ニコッ

樹里「!!」
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:08:52.25 ID:QvLQwGsg0
夕美「あの人に、プレゼントしてあげた子だったからね」


樹里「……あ、アタシは」

樹里「アタシは……!」ジワ…!

夕美「あなたが、西城樹里ちゃんだよね?」

樹里「……ずっと、アタシ……アンタに……!」

夕美「あの人と一緒に、ずっとこの子の面倒、見てくれてたんでしょう?」


樹里「ずっとアンタに、会いたくて……!!」ポロポロ

樹里「会って、あや、ぁ……謝らなくちゃ、って……!」

夕美「どうして?」

樹里「アタシは何もできやしなかった!!」


樹里「あの時、無理やりにでもアイツを引き留めていれば……!」

樹里「きっと、こんな事なんか……ごめん、う、ぅ……!!」ボロボロ
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:10:33.61 ID:QvLQwGsg0
夕美「ううん、許さない」


樹里「!」

夕美「樹里ちゃんはもっと笑っていい人なんだよっ」

樹里「……え」


夕美「あの人だって、きっとそう言っていたでしょう?」

夕美「二言目には、笑顔って言う人なんだから、
   きっと樹里ちゃんの泣いてる姿なんて、見たくないはずだよ」

夕美「それに、樹里ちゃんはあの人のそばにいてくれたんだから……」

夕美「きっと私のことで傷ついていたあの人に、親身に寄り添って、
   前を向いてもらえるようにしてくれたのが樹里ちゃんだって」


夕美「何となく分かるの。
   あなたに会って、こうしてお話をしていると、ひしひしと」スッ
810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:12:20.59 ID:QvLQwGsg0
ギュッ

樹里「あ……」


夕美「だから、笑おう?
   あの人のためにも、樹里ちゃんのためにも」

夕美「そうしてくれないと、私、許さないんだからっ。なんてね♪」ニコッ


樹里「やめてくれよ……」

樹里「もうそういうの、ウンザリなんだよ……!! アタシは…!」

夕美「あっと、穴ぼこ広げなきゃだねっ。ちょっと待って、もう少しで終わ…」


樹里「許されていいヤツじゃねぇんだよアタシはっ!!」

夕美「…………」


樹里「……ッ」ダッ!

卯月「あ、樹里ちゃん!?」

未央「ジュリアン、どこ行くの!?」

タタタ…!
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:19:25.00 ID:QvLQwGsg0
卯月「樹里ちゃん……」


凛「……アンタが、相葉夕美」

夕美「…………」ザック ザック…


夕美「追い詰めるような事、言っちゃったかな……」ザク ザクッ

凛「ううん。でも……」

凛「今は……そっとしておいてあげた方が、いいと思う」

夕美「お花ってね」

凛「?」


夕美「お世話してくれる人に、ちゃんと答えてくれるの」スッ

凛「……」

夕美「逆に放っといたら、すぐに元気を無くして枯れちゃう」ソォー

夕美「もちろん、品種にもよるけどね……っと。こんなもんかな?」ギュッ


夕美「……こんなに立派なアグラオネマ見るの、私、初めてだよ」

夕美「あの人も、樹里ちゃんも……本当に、大事にしてくれてたんだなぁ……」


夕美「皆も出来ると思うんだ……樹里ちゃんに、この子と同じことを」
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:20:18.13 ID:QvLQwGsg0
凛「え……?」


夕美「樹里ちゃんを、支えてあげること。元気づけてあげること」

夕美「私では、ちょっと難しかったみたいだけど……
   樹里ちゃんと友達でいてくれた、皆なら」


凛「…………」

凛「未央」

未央「へ?」

凛「確か、バスケやったことあるって言ったっけ?」

未央「わ、私?
   えぇ、まぁ、部活の助っ人とか。あと、弟とたまに……」

凛「家にバスケボールある?」

未央「あ、ありますけど…」

凛「取ってきて」

未央「へぁ!?」

卯月「り、凛ちゃん?」
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:21:31.37 ID:QvLQwGsg0
未央「そ、それは構わないけど、私んち結構電車乗り継ぐから時間かかるよ!?」

凛「じゃあタクシーで行って。お金はちひろさんと相談するから」

未央「思い立ったら唐突に頑固だねしぶりんは!?」


未央「でも……何か考えがあるんだよね、しぶりん?」

凛「うん」コクッ

未央「よーし、じゃあ任された!」ダッ!

卯月「あ、未央ちゃん!」

凛「卯月、樹里を追いかけよう!」

卯月「凛ちゃん……はいっ!」ギュッ


夕美「……ありがとう」

凛「きっと何とかする。待ってて」

夕美「うんっ」コクッ

タタタ…
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:22:24.56 ID:QvLQwGsg0
夕美「……よし、じゃあ私は、っと」ヒョイッ

夕美「…………」ザッ ザッ


ちひろ「来てくれてたんですね……」スッ


夕美「……うん、おかげさまで」

ちひろ「ありがとうございます。それと……」

ちひろ「ごめ…」

夕美「言わないで、ちひろさん」

ちひろ「…………」


夕美「……あぁ、樹里ちゃんの気持ち、ちょっと分かるなぁ」
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:23:38.85 ID:QvLQwGsg0
ちひろ「夕美ちゃん……」

夕美「やっぱり、悲しいな……本当に、ちょっと、ううん……」


夕美「悲しんだり……寂しがった方が、良いのかな」

夕美「樹里ちゃん達みたいに……」

夕美「えへへ……分かんないや……」


ちひろ「強がらなくて、いいんです」

夕美「…………」

ちひろ「あなたの素直な気持ちなんですから……悲しいのも、寂しいのも」

ちひろ「どうか……夕美ちゃんのためにも、我慢しないであげてください」



ツー…

ポタッ


夕美「……うんっ」ポロポロ
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:24:58.76 ID:QvLQwGsg0
タタタ…!

未央「と、とは言ったものの……!」


ブロロロロ…! ププー…!

未央「タクシーなんて、そんな都合良く捕まらないよぉしぶりん!
   も、もっと駅の方まで歩かなきゃダメかなぁ……?」

ブロロロロロ…!


キキィッ!

未央「……へ?」

未央(何か、すっごい高そうな車が止まったけど……)


ウィーーン

夏葉「お急ぎかしら? 未央」
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:26:13.87 ID:QvLQwGsg0
未央「な、なつはし!?」

智代子「私もいるよ、未央ちゃん!」ニュッ

未央「チョコまで! 二人ともどうしたの!?」


夏葉「咲耶が楓の説得に向かっていてね。迎えに行く所なのよ」

未央「説得……」

智代子「ほ、ほら。楓さん、その……」

未央「う、うん。分かってる」


未央「引退説……」

未央「一応、同じ事務所だし……色々聞こえてきちゃったりするし」

夏葉「やはり、本当なの?」

未央「普段見かけないような偉い人達が、フロアを大慌てで走り回ってるのを見ちゃうと、ね」

智代子「咲耶ちゃん……楓さんと話、できたのかな……?」
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:28:24.05 ID:QvLQwGsg0
夏葉「それはそうと、未央はどこへ行くつもりなの?」

未央「えっ? あ、えっと、家に急ぐ用事があって!」

智代子「家? 未央ちゃんの?」

未央「そう! ちょっと忘れ物というか、取りに行きたい物が…!」

夏葉「乗りなさい。送るわ」クイッ

未央「ええっ!? い、いやいや! さくやんと楓さんを迎えに行くんでしょ!?」


夏葉「あの二人の事なら、咲耶に連絡をすれば足りるわよ」

夏葉「咲耶だって、きっと楓との時間を大事にしたいでしょうし」ニコッ

智代子「めくるめく二人きりのアブナイひととき……
    あっ、い、今のはちょっと不謹慎でした! 失敬!」ブンブン!


未央「……ありがとう! じゃあお言葉に甘えて!」ガチャッ

ササッ バタン
819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:30:04.13 ID:QvLQwGsg0
夏葉「ところで、家まで取りに行きたい物って何?」

未央「あぁ、バスケットボール」カチャッ

未央「何に使うか分かんないけど、しぶりんがすぐに取ってきて、って」

夏葉「そう言われただけで取りに行く未央も、随分とお人好しね」クスッ

未央「なつはしも、でしょ?」ニカッ

夏葉「フッ……ご自宅はどこかしら?
   モタモタする気は無いわ! しっかり掴まっていなさい!」グッ!

未央「ちょっ、法定速度は守ってよなつはし!?」


智代子「あ、あの……ちょっといいかな?」スッ

未央「ん?」

夏葉「どうしたの、智代子?」


智代子「か、買えばいいんじゃないかな? って……バスケットボール」

智代子「わざわざ未央ちゃんの家まで行かなくても、その辺のスポーツショップで……」


未央・夏葉「……ッッッ!!?」

智代子「顔ッッッッ!!!」
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:30:47.78 ID:QvLQwGsg0
〜駅前〜

タタタ…!

凛「はぁ、はぁ……!」タタタ…!

『こっちの方はいません、凛ちゃん!』

凛「うん……もう少し探そう!」

『はいっ!』


凛「くっ……樹里……!」タタタ…!

凛「……!」



凛「あ、あのー!!」


オォォ…?  ドヨドヨ…
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:31:54.61 ID:QvLQwGsg0
「え、ウソ? しぶりんじゃない!?」
「ずっとテレビとか出てなかったよね?」
「制服着てる。オフかな……」
「めっちゃ可愛い〜……!」

ザワザワ…!


凛「じゅ、樹里を……西城樹里を探していますっ!!

凛「誰か、樹里を見た人はいませんか!?
  こっちの方に走っていったと思うんです!!」

ザワザワ… エェェ…?


凛「すみません! どんな情報でもいいんです!!」

凛「誰か……誰か、西城樹里を知りませんか!?」


ザワザワ…


凛(くっ……反応ナシ、か)



女の子「あ、あの……」スッ
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:33:03.73 ID:QvLQwGsg0
凛「!?」クルッ

女の子「ひぇっ! あ、す、すみません…!」

凛「あ、ううん、こちらこそ……何か知っているんですか?」

女の子「もしかしたら、っていうレベルなんですけど……」

女の子「金髪の子が、あっちの方に歩いて行くのが、見えた気がして……」スッ

凛「……行ってみます!」ダッ!

女の子「じゅ、樹里ちゃんは……」

凛「え?」ピタッ


女の子「樹里ちゃん……前に一度、握手してもらったこと、あって……」

女の子「きっと、迷惑かけちゃったのに……樹里ちゃん、すごく優しく応じてくれて」

女の子「ありがとな、って……照れ臭そうに、な、何度も、握り返してくれたんです」


凛「……そうなんだ」ニコッ
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:37:30.31 ID:QvLQwGsg0
女の子「樹里ちゃん、応援しています……凛ちゃんも」

女の子「もし困ってるなら……樹里ちゃん、助けてあげてくださいっ」

凛「ありがとう!」ダッ!

タタタ…!



凛「卯月! 道玄坂の方に行って!」タタタ…!

凛「今ツイスタ見たら、それっぽい目撃情報呟いてる人も結構いる!」

『わ、分かりました!』


凛「樹里……!」タタタ…!


  ――許されていいヤツじゃねぇんだよアタシはっ!!


凛「勝手なこと、言わないでよ……馬鹿……!」
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:38:54.16 ID:QvLQwGsg0
〜夏葉の車〜

ブロロロロロ…!

未央「うええぇぇっ!? し、しぶりん何してんの!?」ギョッ!?

智代子「ツイスタですごい拡散されてるね、凛ちゃんが駅前で大声上げてる動画」


夏葉「ふふ、凛もやるわね」

未央「笑ってる場合じゃないってなつはし!
   一応私達、事務所から謹慎っていうか自粛命令みたいなの出てるんだよ!?」

未央「こんなに目立っちゃう事したら、どんなお咎めが待っているか…!」ハラハラ…!

夏葉「それでも、樹里のためを思っての行動なのでしょう?」


夏葉「……敵わないわね、凛には」フッ

智代子「ん? どうしたの、夏葉ちゃん?」

夏葉「何でも無いわ」
825 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:40:14.36 ID:QvLQwGsg0
〜カフェ〜

店員「有栖川様よりお聞きしております。ごゆっくりどうぞ」カチャッ

咲耶「どうも」

スタスタ…


咲耶「聞いての通り、夏葉から教えてもらったお店なんだ」

咲耶「ここなら、人目を気にせずゆっくりアナタと話ができると思ってね」


楓「…………」


咲耶「お酒が好きなのは聞いている。だが、生憎私は未成年だからね」フッ

咲耶「それとも、お酒が入っていた方が、アナタの素直な気持ちを聴けただろうか」
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:41:25.31 ID:QvLQwGsg0
楓「…………」


咲耶「……本題に入ろう」

咲耶「楓……アイドルを辞める意向があるというのは、本当かい?」



楓「……今西部長は、346プロのアイドル事業部を立ち上げた人でした」

楓「第一期のメンバーに、私もお声がけいただいて……」

咲耶「…………」


楓「その際、当時モデル部門にいた私を、スカウトに来たのが……あの人だったんです」


咲耶「プロデューサーが……?」

咲耶「あの人は……かつて、アナタの担当プロデューサーでもあったのかい?」
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:43:57.64 ID:QvLQwGsg0
楓「右も左も分からない私を、あの人は親身に支えてくれました」

楓「もちろんあの人自身も、アイドル部門は未知の領域で、
  四苦八苦されていた所も、あったでしょうけれど……」

楓「不器用ながら、私と向き合ってくれる……とても誠実で真摯な方であると、感じました」

咲耶「…………」


楓「でも……人事異動があって、あの人は私の担当を外されました」

楓「私は大人ですし、一人でもある程度活動はできますから、
  若い子達をサポートする方が良い、との判断があったそうです」

楓「それはもっともだと、私も納得しました。
  そして、私の後にあの人が担当したのが……」

咲耶「……相葉夕美、だね?」


楓「とても快活で、心根の優しい、良い子でした」

楓「彼女と接した人は皆、笑顔になれる……
  私などよりも、ずっとアイドルに向いている、本当に花のような子でした」
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:47:13.91 ID:QvLQwGsg0
楓「……彼女が不幸な事件の被害者となった時、私は……とても悲しみました」

楓「でも……ふと、思ったんです」

咲耶「……?」


楓「彼女に対する嫉妬心は、本当に無かったと言えるのだろうか、と」

楓「あの子さえいなければ、私はまだ、あの人の担当アイドルでいられたのではないか」

楓「その気持ちが、無意識のうちに態度に表れて、どこかへ伝わって誰かに…!」

咲耶「楓っ!」ガタッ!


咲耶「アナタは誰かの不幸を願い、喜べるような人じゃないっ!」


楓「……咲耶ちゃんにそれが、分かるのですか?」

咲耶「え……」


楓「軽々しく……知った風に、言わないで」

楓「私でさえ、自分自身が……もう、分かりません……でも!」ギュッ

楓「私さえいなければ……あの人も……!」
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:49:29.93 ID:QvLQwGsg0
咲耶「分かるさ」

楓「……安い慰めを、言ってもらいたいのではありません」

咲耶「“安い”だって?」


咲耶「アナタだって知った風に決めつけているじゃないか! 私の気持ちをっ!」

楓「……!」ピクッ


咲耶「……楓の言う通りさ。
   私はアナタのことを、私という一方向の視点でしか理解できていない」

咲耶「いや、そもそも誰かを真に理解することなんて、本当は不可能なのかも知れない」

咲耶「だから私達は、寄り添い合おうとすることが出来るんだ、って……
   そう想うのは“安い”ことなのかい?」

楓「さ、咲耶ちゃん……」


咲耶「未央からさっき、連絡があった」

咲耶「私と一緒に、来て欲しい所があるんだ、楓」
830 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:50:53.74 ID:QvLQwGsg0
〜街中〜

凛「はぁ……はぁ……!」タタタ…!


「あ、マジでいた!」
「凛ちゃーん!」

「さっき樹里ちゃんもいたよな?」


凛「……!」ピクッ


「え、やっぱあれ樹里ちゃんだったの?」
「番組の企画とかかなぁ……」


凛「ど、どっちですか!?」ズイッ

男A「うわっ!?」

凛「樹里は、どこに……!?」

男B「な、生しぶりんだ……じゃなくて、あ、あっちの方っす」スッ

凛「ありがとうございます!」ダッ!
831 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:51:24.97 ID:QvLQwGsg0
トボトボ…

樹里「…………」


樹里「……ちきしょう…………」



子供「あれ?」


樹里「?」ピタッ



子供「おねえちゃん?」
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:52:36.38 ID:QvLQwGsg0
樹里「……! あ、お前……あん時の迷子か!?」


子供「おねえちゃんだー!」タタタ ダキッ

樹里「わっ! たっ、と……ちょ、どうしたんだよ、ママは一緒じゃねぇのか?」

子供「ううん、あっちでおかいもの」スッ

樹里「はぁ……この間迷子になったばかりだってのに、暢気なもんだな」


子供「おねえちゃんは、まいご?」

樹里「!」ピクッ


子供「……?」ジーッ

樹里「そ……そんなワケねぇだろ」ポリポリ

樹里「ただまぁ、ちょっと、その……気晴らしっつーか」

子供「きばらし?」

樹里「だーもう。いいんだよ気にしなくて」

樹里「ほら、ママが心配するといけねぇから、さっさと帰んな」
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:53:40.58 ID:QvLQwGsg0
子供「おねえちゃん、たのしくなさそう?」

樹里「た……?」

子供「たのしいこと、してないの?」


子供「ママがいってた」

子供「かえでさん、っていうアイドルと、おねえちゃんはおんなじだって」

子供「ぼくやみんなをえがおにしてくれる、すごいひとなんだよって」

子供「たのしいこと、たくさんしてもらえてよかったねって」


樹里「……そっか」

樹里「ただ、ごめんな……
   今はちょっとおねえちゃん、アイドルはおやすみ中なんだ」ナデナデ

子供「どうして?」

樹里「どうしても」
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:55:23.15 ID:QvLQwGsg0
子供「どうして、たのしいことをしないの?」

子供「アイドルって、たのしくないの?」



樹里「……楽しいさ」

樹里「本当にな……楽しいこと、たくさんやりたいに決まってるよな」

樹里「でも……ハハハ、うーん」

樹里「悪ぃ、ちょっと……説明すんの、難しいや」

子供「?」キョトン



タタタ…!

凛「……!」


凛「樹里っ!!」
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:55:49.62 ID:QvLQwGsg0
樹里「!?」

ダッ!

子供「あっ」


凛「待って、樹里!!」ダッ!

タタタ…!



タタタ…

樹里「クッソ……はぁ、はぁ……!」
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:57:07.04 ID:QvLQwGsg0
凛「……!」タタタ! バッ

ガシッ!

樹里「くっ……!」グッ…!

凛「じゅ、樹里っ……!」グイッ


樹里「放せ……クソ、放せよ!!」ガバッ

バシッ!

凛「うっ! ……ッ!」ガクッ

樹里「!? り、凛っ!」


樹里「わ、悪ぃ……つい、力入っちまって、手が……大丈夫か!?」

凛「……ッ!」スッ

バチンッ!

樹里「ぐぁ、いって!? ……!?」

樹里「な……何すんだよ!」


凛「おあいこだよ」

凛「これで、樹里が私に引け目や負い目を感じる必要なんて、無いよね?」
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:59:03.03 ID:QvLQwGsg0
樹里「……調子乗んな」

樹里「そんなんでチャラにできるほど、アタシのやった事は安かねぇんだよ」

凛「じゃあ、もっとぶてばいいってこと?」スッ

樹里「それで凛の気が済むならな。ふざけやがって」

凛「ふざけた事言ってんのは樹里でしょ」

樹里「あ? 何だと?」ピクッ


凛「私がそんな事して満足するとでも思ってんの?」

凛「殴らせることで気を済ませたいのは、私じゃなくて樹里の方だよね?」


樹里「てめぇ……!」ツカツカ…!

ガッ!

凛「……ッ」グイッ!

樹里「そんなにアタシにケンカ売りてぇかよ!!」
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/24(金) 23:59:49.32 ID:ApKCZaSC0
سۇمىكا ئالتۇن دورا بېلىتى 100 يوكا خىروگارۇ خولو نەق مەيدان توكيو مانگا تارىخى بېلەت باھاسى
يېڭى مۇھەببەت ھېكايىسى
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:01:24.49 ID:mUoeDtH10
タタタ…!

卯月「……あ、いた! って、じゅ、樹里ちゃん!?」


凛「そうだと言ったら?」

樹里「もうアタシに構うんじゃねぇってんだよ!!」

樹里「ウンザリだっつってんだろ! 気持ち悪いんだよお前らっ!!」

卯月「……っ!」ビクッ


樹里「! 卯月……」

卯月「じゅ、樹里ちゃん……」


樹里「……チッ……あぁそうだよ、気持ち悪いね」

樹里「今さらそういう上っ面な仲良しこよしなんざ……ウンザリなんだよ」

卯月「……ッ」ウルウル
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:03:21.00 ID:mUoeDtH10
凛「心にも無いこと言って、私達を遠ざけようとしないでよ」

樹里「…………」

凛「来て」ガシッ

樹里「放せ……!」

凛「来てっ!」

樹里「……!?」


凛「プロデューサーに会いたいんでしょ?」


樹里「……ふざけてんのか?」

樹里「アイツはもういねぇ。アタシが…!」

凛「いるっ!」

樹里「ふざけんなっ!! アイツはもう、もういねぇんだよ!!」

樹里「いい加減、目ぇ覚ませっ!!」ガバッ
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:04:42.73 ID:mUoeDtH10
パシッ

樹里「!?」

凛「……樹里の方こそ、目、覚ましてよ」

樹里「お前……」


凛「プロデューサーはいる。生きてる……私達の中に、ずっと」

樹里「……ポエムなら勝手にやってろ」

凛「それを誰よりも分かっているのは自分自身だ、って……樹里は気づいてる」

樹里「やめろ……!」

凛「誰よりも許せないのも自分だから、塞ぎ込んでる……
  また同じ事をするつもりなの? バスケの時と同じように」

樹里「うるせぇんだよ!! やめろっ!!」


凛「やだ。やめない……!」ジワ…!

樹里「! り、凛……」
842 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:07:09.31 ID:mUoeDtH10
凛「放っておけなんて……構うな、って!」ツー

卯月「凛ちゃん……」


凛「そんな自分勝手なこと、言わないでよ!」

凛「あの人が樹里を放っておけなかったのと同じように、
  私だって樹里を放ってなんてできない!」

樹里「!」

凛「ずっと、友達でいさせてよ!」

凛「勝手なこと、言わないでよ……!」



樹里「…………」

凛「……来て。賭けをしよう」

樹里「……? 賭け?」


凛「一緒に公園に来て」
843 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:09:35.14 ID:mUoeDtH10
〜公園〜

キュッ! キュキュッ!

ダムッ!

未央「あ、あぁっ!?」


パスッ!


智代子「おぉ〜、さすが夏葉ちゃん!」パチパチ


夏葉「……ふぅ、こんな所かしらね」

未央「この未央ちゃんをあっさり抜くとは、やるではないかなつはし」フフン

夏葉「私も、兄と少し嗜んでいた時期はあったから」


楓「…………」
844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:10:30.57 ID:mUoeDtH10
咲耶「皆、どうやらお遊びはそこまでのようだ」

一同「!」


楓「……樹里ちゃん」


テクテク…


ザッ



樹里「……皆」

凛「お待たせ」

夏葉「えぇ……待っていたわ」


卯月「あ、未央ちゃん。バスケットボール……」

未央「えへへ。なつはしに買ってもらっちゃった」
845 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:11:32.04 ID:mUoeDtH10
夏葉「はい、凛。ボールを」スッ

凛「ありがとう」


樹里「……こんな所で、何しようってんだよ」

樹里「賭けとか言ったな。まさかアタシと1on1でもする気か?」


ダムッ!

凛「私がシュートする」


樹里「……」

凛「もし入ったら、樹里はアイドルを続ける。
  入らなかったら……樹里の好きにする」

凛「どう?」
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:13:20.24 ID:mUoeDtH10
樹里「……凛。バスケの経験は?」

凛「学校の体育の時間くらい、かな」


樹里「無理だな」

樹里「アタシでさえ、この距離は一度も入った事がねぇ。
   凛だって見たろ? あの日のアタシのシュート」

樹里「お前じゃあ、決められっこねぇよ」


凛「ふーん……賭けに乗った、って事でいいんだよね?」スッ

智代子「え、凛ちゃん……!?」

ダムッ! ダムッ!

樹里「素人が投げて入るような距離じゃねぇ」

凛「分かった」

ダムッ


凛「…………」


卯月「り、凛ちゃん……」

未央「まさか、マジで入れる気……?」
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:14:27.15 ID:mUoeDtH10
テクテク…

冬馬「……チッ」

北斗「最近元気が無いじゃないか、冬馬」

翔太「冬馬君、TAKE−UCの大ファンだったもんね。僕も心配だなぁ」

冬馬「なっ!? ち、ちげぇよ! 誰があんなヤツら……!」


シャニP「でも、こうして捜索に手を貸してくれるのは嬉しいよ」

冬馬「だからアンタの用事なんか関係ねえって!」

シャニP「俺も社長から、西城さんを保護するように言われたけど、心当たりのある場所が…」

冬馬「聞けよ、人の話っ!!」

冬馬「ん?」ピタッ



ダムッ ダムッ…
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:16:47.90 ID:mUoeDtH10
翔太「あれ……凛ちゃんと、樹里ちゃん達だ」

冬馬「高垣楓までいるじゃねーか」

シャニP「夏葉達も一緒か……しかし、あんなに勢揃いしていては…」

北斗「えぇ、目立ちすぎる。
   誰かが見つけて騒ぎ立てれば、この一帯は混乱するでしょうね」

冬馬「……」チラッ


アハハ…!

女の子A「マジだってほら! 樹里ちゃんと凛ちゃん!」

女の子B「うっそぉ〜!? 目撃情報こんなにあるのヤバくない!?」

女の子C「しかも結構近いじゃん! 今もその辺にいたりして」



冬馬「…………」

冬馬「北斗、翔太」
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:17:20.21 ID:mUoeDtH10
翔太「オッケー♪」

北斗「お前もよくよく、お人好しだな」フッ

冬馬「そんなんじゃねぇ。
   アイツらが俺達より目立つのが許せねぇだけだ」


シャニP「えっ? ど、どうしたんだ皆……?」

冬馬「アンタはさっさとアイツらのトコに行ってこい」プイッ

スタスタ…


シャニP「……?」
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:19:13.17 ID:mUoeDtH10
女の子B「絶対いるって! ちょ、ツイスタ見てみよ…!」

女の子A「アハハ、ちょっと興奮しすぎ! 何マジになってんの?」


「「ゲッチュウ!!」」


女の子C「へ……?」ピタッ


冬馬「ちょっとした気まぐれ! だぜ!!」

北斗「往来の皆さん、お騒がせしてすまない」

翔太「僕達ジュピターの、野外ゲリラライブ! あっちでオンステージだよー!!」


女の子達「きゃああぁっ!!?」「え、ジュピター!?」「冬馬クン!!」


冬馬「あっちの広場でやるぜ!! 皆、ついてきな!!」

北斗「はーい、ジュピターを見たい人達はこちらへどうぞー」

翔太「バスケコート使ってる人達の迷惑にならないようにねー♪」フリフリ


キャアァァァ! ガヤガヤ…!  ゾロゾロ…!
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:19:53.70 ID:mUoeDtH10
凛「…………」スゥーッ

凛「……」スッ

シュッ!



咲耶「……これは」

夏葉「…………」



楓(全然、届かない……)


スカッ


   テンッ テン テン テテテテ…


智代子「あ、あぁ……!」
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:20:56.58 ID:mUoeDtH10
凛「…………」


卯月「凛ちゃん……」



樹里「………………」



スタスタ

ヒョイッ


樹里「……チッ、ほら見ろ」

凛「樹里……?」


樹里「全然なってねぇな、ったく。そこに直れ」ダムッ
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:23:34.63 ID:mUoeDtH10
未央「あ、あれ? ジュリアン……」


凛「なってねぇな、って……これでも、左手は添えたけど」

樹里「他のやるべき事を色々やった上で、最後に“左手は添えるだけ”なんだよ。
   凛のは本当にただ左手を添えてるだけじゃねーか」


樹里「いいか? まず膝」パシッ

樹里「ここをちゃんと柔らかく使って、その屈伸の力を上体に伝えんだよ」グッ

凛「うわ、何か本格的…」

樹里「真面目に聞け。その場で屈伸、やってみな」

凛「?」スッ スッ

樹里「体幹は曲げんな。真っ直ぐのまま屈伸」

凛「体幹?」

樹里「上体を地面に対して垂直のまま屈伸しろってこと。こう」スッ スッ
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:24:52.52 ID:mUoeDtH10
卯月「……樹里ちゃん」


凛「……」スッ スッ

樹里「うん、まぁいいか。
   それで、膝と上体を意識して投げてみな」スッ

樹里「未央っ! ボール!」

未央「は、はい!?」ピシッ

樹里「そこに立って、凛がシュートしたヤツを拾ってくんねぇか」

未央「……あぁ、なるほど! オッケー、ジュリアン!」タタタ!


卯月「未央ちゃん、私も手伝います!」タッ

未央「よーし、じゃあそっちから半分、しまむーお願いね!」

卯月「はいっ!」ギュッ


樹里「ほら、凛。膝からの力を上体へ連動させるように」

凛「う、うん……」
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:26:16.21 ID:mUoeDtH10
凛「……」スッ

シュッ!


スカッ

   テンッ テン

未央「ああぁ、まだ届かない……」パシッ


樹里「片手じゃ無理そうだから、両手投げだな」

凛「えっ。でも、バスケって普通片手で皆シュートしてない?
  樹里だって片手で……」

樹里「ボースハンドシュートっつって、女バスは両手打ちも普通だよ。
   アタシは片手の方がやりやすいってだけ」

樹里「ていうか、リングに届かなきゃ話になんねーだろ」

凛「まぁ、そっか」

樹里「素人が一丁前に口出しすんな。
   未央ー、ボール」

未央「あ、はーい、ごめーん!」ヒュッ
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:27:30.33 ID:mUoeDtH10
樹里「よっ、と」パシッ

樹里「手首を柔らかく、スナップを利かせる感じで打ってみな」スッ

凛「……」スッ

シュッ!


スカッ

卯月「わっ! っとと」パシッ

未央「距離は出てるよ、しぶりーん!」

卯月「樹里ちゃん、パス! えいっ!」ヒュッ

ダムッ

樹里「サンキュー、卯月。はい、次」パシッ スッ

凛「ちょ、ちょっと休ませて…」

樹里「始めたばっかじゃねーか。甘ったれんな、ほら」
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:29:14.68 ID:mUoeDtH10
樹里「リリースポイントは高めに、山なりの軌道を描く感じで、だぞ」

凛「もう……!」スッ

シュッ!



楓「…………」

智代子「な、何か……いつの間にか、樹里ちゃんのバスケ教室が……?」

夏葉「当初の趣旨と変わっている気がするわね」


咲耶「……だけど、楽しそうだ」フッ

夏葉「そうね、ふふっ」

智代子「えへへ」

楓「…………」



樹里「手首の使い方がブレブレなんだよ。
   もっとカチッと固定させろ。じゃないと方向も定まらねぇだろうが」

凛「さっき、手首は柔らかく使えって言ったじゃん」ムスッ

樹里「そ、ソレはソレだよ、うるせぇな! ほら次!」ムッ!
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:32:26.45 ID:mUoeDtH10
楓「樹里ちゃん……」


咲耶「……ねぇ、楓」

咲耶「アナタは言っていたね。
   自分さえいなければ、こんな事にはならなかったと」

咲耶「でも、あの二人の姿を見てごらん」

楓「…………」



樹里「だからぁ! 肘を曲げんなっての!」

凛「肘曲げなきゃ投げれないじゃん!」

樹里「変な風に曲げんなっつってんだよ! こう!」

凛「こう?」

樹里「ちげぇよ! 何つーか、真っ直ぐ曲げんの!」

凛「……樹里、教え方下手だね」

樹里「ああっ!?」カチン!
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:34:48.41 ID:mUoeDtH10
咲耶「確かにあのオーディションは、
   智代子や夏葉をはじめ、多くの人達を傷つけたのかも知れない」

智代子「……」

咲耶「でも……結果論ではあるけれど、
   あの出来事が無かったら、今目の前で起きている事は存在し得なかった」

咲耶「私達が出会い、こうして絆を深め合うことも無かったかも知れない」


咲耶「あの凛と樹里の姿を……アナタは否定できるかい?」

楓「…………」



樹里「貸せ! 手本を見せてやる!」パシッ

樹里「よっ」シュッ!

ガコンッ!

凛「入ってないじゃん」

樹里「お前のよりは数段マシだろうが! 卯月、ボール!」

卯月「はいっ!」ヒュッ



夏葉「……それを言うなら、私の方こそ」

楓「夏葉ちゃん……?」
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:36:37.10 ID:mUoeDtH10
夏葉「もしあのオーディションで、私がミスをしなければ……」

夏葉「そう思わなかった日は無いわ」

楓「…………」

夏葉「全力を出し切った上で智代子と戦い、勝利を収めたのなら、
   きっと私は何も疑うことなく、その合格を受け入れていた」

夏葉「智代子も、きっと必要以上に落ちこむことも無かったでしょうね」

智代子「夏葉ちゃん……」


夏葉「楓……あなたは何も悪くないわ。全て私のせいなのよ」

夏葉「私がミスさえしなければ、誰もあのオーディションで不条理に傷つく人などいなかった」

夏葉「そう。でも……でもね、楓?」ギュッ…!


夏葉「こんなの……到底許される感情でないのは、理解しているつもりよ」

夏葉「とてもロジカルに説明なんてつくものじゃない、だけど……!」
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:40:53.94 ID:mUoeDtH10
夏葉「私には……今流れているこの時を否定することが、とても出来ない」

夏葉「本当に、どうしようもなく自分勝手だけれど、私は……愛おしいの」

夏葉「肯定できない出来事も含めて幾重にも偶然が折り重なった末にある今が、私には……」



樹里「モーションが雑になってきてんぞ! 焦んな!」

凛「はぁ、はぁ……急かしてるの、そっちのクセに……!」

樹里「何か言ったか?
   おら、アタシから言われたこと一コずつ整理してみろ」スッ

凛「くっ……
  ひ、膝を柔らかくして、上体を真っ直ぐ……手首を柔らかく、でも打つ瞬間は……」



楓「……夏葉ちゃん。それは違います」

楓「夏葉ちゃんがあのオーディションに来てくれたのも、私が原因なんです」

楓「全て私が…!」

智代子「私はっ!」ピョンッ

楓「! ち、智代子ちゃん……」


智代子「私は、自分の意志で346プロのオーディションを受けに来ました!」
862 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:42:50.82 ID:mUoeDtH10
智代子「そりゃあ、楓さんみたいに素敵なアイドルになれたらなーって気持ちもありましたけど、えへへ……でも」

智代子「私がアイドルを目指したのは、楓さんにお願いされたからじゃなくて、
    自分でなりたかったからで……」

智代子「あっ!? ちょ、ちょっと今の言い方はナマイキだったかもですけど!
    す、すみません!」ペコペコ!

楓「いえ、大丈夫です、お気になさらないで…」

智代子「はい……で、えぇと、確かにあの時は、本当に悲しかったんですけど……
    でも、今だから思えることがあるんです」


智代子「本気で一生懸命に頑張っていたから、あれだけ「悲しい!」って気持ちになれたんだ、って」


楓「悲しい気持ちになれた……?」



ガゴッ!

未央「オッケーイ、しぶりん!」パシッ

卯月「あとは方向さえちゃんとなったら、入りそうですっ!」

ヒュッ

樹里「卯月の言う通りだぜ。ほら、もう一踏ん張り」パシッ スッ

凛「はぁ、はぁ……!」
863 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:46:39.75 ID:mUoeDtH10
智代子「アレが無かったら、今私はこんなにアイドルの事を、
    本気でしっかり考えていなかったんじゃないかなぁって」

智代子「確かに、一時はすっごくアイドルが嫌になったりもしたんですけど……」

智代子「すごく頑張ったから……好きだったからこそ、嫌いになって。
    それだけ本気で向き合えるものが、私にはどれだけあるんだろう、って」

智代子「こんなに悲しいのは、何よりもアイドルが好きな証拠なんだって気づけたんです」

智代子「私のために、一生懸命にアイドルを頑張ってくれた樹里ちゃんのおかげで」

楓「智代子ちゃん……」

智代子「えへへ、だから! 私も、夏葉ちゃんと同じ気持ちでありますっ!」ムフン

夏葉「……ありがとう、智代子」



咲耶「“原因”とアナタは言ったけれど……私達にとっては、そうじゃない」

咲耶「アナタは“きっかけ”だったんだ、楓」

楓「……!」
864 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:52:54.00 ID:mUoeDtH10
ガゴンッ!

樹里「よーし、そうそう! 雰囲気出てるぜ」

凛「ちょ、ちょっと……もう、腕が上がらない……!」ガクッ

ヒュッ パシッ

樹里「いつもこんなのよりずっとハードなレッスンしてるじゃねーか。
   頑張れ、ほら」スッ

樹里「大丈夫だ。凛ならやれる」

凛「……もうっ」クスッ



咲耶「アナタはあまりに優しすぎて、臆病で、心の弱い部分も持っているのだろう」

咲耶「だから、自分の行いに正しさを求めている」


咲耶「確かに、アナタや私達が招いたものは、いつも正しいものばかりじゃなかった」

咲耶「だけど……正しさでは測れないものも、きっとあったんだ、楓」

咲耶「アナタが無自覚に弾いた石は、たとえ一時の智代子達を傷つけたとしても、
   その石が生んだ波紋は、私達をこの場所に引き寄せた」

咲耶「今の私達が抱いている気持ちのように……決してマイナスばかりなんかじゃない」
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:59:00.84 ID:mUoeDtH10
咲耶「私達だけじゃない。きっとアナタのファンだって同じさ」

咲耶「アナタの歌声を愛おしいと思わないアイドルファンはどこにもいない。
   たとえアナタが言うように、それが作り上げられた虚構の偶像だったとしても」

咲耶「アナタのファンが抱く気持ちに、嘘なんかどこにも無いんだ」

楓「…………」


咲耶「だって……だって、私がそうなのだから……!」

咲耶「今の私達が立っている場所は、マイナスなんかじゃないんだと信じたい」

咲耶「もっと高垣楓を応援したい……寄り添い、肩を並べて、同じ夢を見ていたい」

咲耶「そんな私達の……私の気持ちまで、否定するようなこと、しないでよ……!」


楓「…………ッ」ポロポロ…!



ガゴゴンッ!

卯月「ああぁ〜〜!! おっしぃ〜〜!」パシッ

未央「もうほぼ入ってたじゃん今のー! このイジワルリング〜〜!!」

ヒュッ

樹里「ハハハ。ついてねーな、凛」パシッ

凛「くっ……はぁ、はぁ……!」
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:59:53.00 ID:mUoeDtH10
樹里「でも、逆に言やぁ、運以外の要素はもう出来てる」

凛「……そう、かな」

樹里「あとちょっとだ、凛」スッ

凛「……うん」コクッ


凛「………………」スゥー…


凛「……ッ」スッ

シュッ!


フワッ…





パスッ!


未央「…………ッ!!」パシッ

卯月「は……!」


凛「入った……!」
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:00:55.28 ID:mUoeDtH10
智代子「ぃやったあーー!!」ピョンッ

夏葉「ナイスシュートだったわ、凛!」

咲耶「……」パチパチ



凛「樹里……!」クルッ


樹里「ヘヘッ……やったな、凛」

凛「うん……!」


凛「……樹里」

樹里「ん?」



凛「入ったよ」

凛「私のシュート……入った」


樹里「…………」
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:02:53.75 ID:mUoeDtH10
凛「さっきの賭け……樹里も、気づいていたんでしょ?」

凛「私のシュートの回数に、制限なんて無いってこと」

凛「だから、私の勝ち……そうだよね?」


樹里「……いいや、賭けはアタシの勝ちだ」

凛「……」

樹里「だから、アタシは賭けのルールに従った」

樹里「入らなかったから……アタシの好きにしたまでだ」

凛「樹里……」


樹里「弁当の時といい……お前もしたたかなヤツだよな」

樹里「どっちに転んでも、アタシがそうなるように仕向けたんだろ?」


凛「ううん、違うよ」フルフル

凛「樹里なら、自分の気持ちに気づいてくれる……その背中を、私は押したかっただけ」
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:06:51.23 ID:mUoeDtH10
樹里「……ほんとさ」

樹里「本当に……大したお節介焼きだぜ」

樹里「余計なお世話なんだよ……そういうのもう、嫌なんだよ……!」

樹里「嫌だって……思いたいのによ……!」グッ

未央「ジュリアン……」


樹里「どこにもいないんだ……アイツはもう」

樹里「そう自分に言い聞かせて、納得して……受け入れたつもりでいたかった」


樹里「そうするフリして……アタシは、忘れたかった。
   逃げたかったんだ」

樹里「大切なものを失うことの辛さから……
   アイツのことだって、さ、最初っからさ……!」

樹里「あんなヤツ、最初からいなかったんだ、って……!」ジワ…

凛「樹里……」

樹里「全部……ぜんぶ、忘れたかった!
   無かったことすりゃ、アタシは何も失ってないって!!」

樹里「なのによ……!」ポロポロ
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:08:21.16 ID:mUoeDtH10
卯月「樹里ちゃん……」

樹里「どうしようもねぇんだよ!! あ、うぁ……ぅ……!」

樹里「アタシ、ずっと目瞑ってるのに、気づけばアイツを探してて!
   どこにも見つかんなくって!! 逃げたいのに追っかけて!!」ボロボロ

樹里「忘れたいのに……アイツ、あ、ぁ、い……ひ、ぃ……!!」

樹里「アイツに会いた、て……話、したくて……!」

凛「樹里……」スッ

ダキッ

樹里「うあぁっ、ぁ……! ぃやだ……や、ぁ……!」ボロボロ


凛「いたでしょ、プロデューサー……?」

凛「私達や……樹里の中に、たくさん……たくさんっ」ギュッ

樹里「あぁ……プロデューサー……!」

樹里「プロデューサー……! ひ、あぁぁ……!!」ギュゥ
871 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:09:47.29 ID:mUoeDtH10
凛「寂しいよね…………悲しいよね……
  でも、寂しくないよ」

凛「私達だって、寂しいから……!」

凛「樹里の悲しみが、痛いほどに分かるから……!」ギュゥ…!

樹里「ぃやだ…………うぁ、やだ、ぁあ、ああぁぁ……!」ポロポロ

凛「だから、一緒に探していこうよ……プロデューサーとの、思い出の欠片を」

凛「皆と一緒に、たくさん……」

凛「私の中にいるプロデューサーも…………樹里のものだから……」


樹里「プロデューサー……うぁっ! あぁぁ……!」ボロボロ

樹里「プロデューサぁぁぁ……!!」ギュゥ…!

凛「…………」ナデナデ
872 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:11:27.93 ID:mUoeDtH10
楓「樹里ちゃん……」


夏葉「謝ってはダメよ、楓」

楓「……夏葉ちゃん」

智代子「…………」ポロポロ


楓「……はい」



樹里「ヒック……ヒック……!」

樹里「…………」


樹里「……」





スッ

凛「……落ち着いた?」
873 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:12:50.43 ID:mUoeDtH10
樹里「……うん。ありがとう、凛」

凛「もう……服がベチャベチャ」クスッ

樹里「うるせぇ」



ザッ

シャニP「……さ、西城さんっ」


樹里「? あ、アンタ……283プロの……」

シャニP「すまない。ちょっと、声を掛けるタイミングが無くて……」


咲耶「もっと早く入ってきてくれて良かったのに」クスッ

シャニP「えっ、き、気づいていたのか、咲耶!?」

夏葉「咲耶だけじゃないわ。当たり前でしょう、ねっ、智代子?」

智代子「もっ、も、もちろん……!」
874 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:18:01.71 ID:mUoeDtH10
凛「樹里」

樹里「あぁ、分かってるよ」


シャニP「……君を迎えに来た、西城さん」

シャニP「社長は俺に、君のことを保護するようにと言った」

樹里「保護?」

シャニP「その意図は、俺にもよく分からないのだけど……
     でも、それとは関係無く、俺は君に用があったんだ」

樹里「……何だよ」


シャニP「単刀直入に言おう、西城さん」

シャニP「君を283プロのアイドルとして、スカウトさせてほしい」


シャニP「俺は……まだ彼のような立派なプロデューサーではないのかも知れない。
     だけど、俺にも託されたものがある」

シャニP「その答えが何なのか、君と一緒に、探していきたいんだ」
875 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:19:18.88 ID:mUoeDtH10
樹里「いいぜ」

シャニP「えっ!?」

樹里「何で誘った方がビックリしてんだよ」

シャニP「い、いや、あまりにアッサリとしていて……良いのか?」


樹里「むしろアタシの方からお願いしたいと思ってたんだ」

樹里「アイツも、アタシには283プロが合ってるって、言ってたし……」

樹里「さっき、賭けにも“勝っちまった”からな」ニカッ

凛「ふふっ」クスッ


智代子「やったぁ、樹里ちゃん!」

夏葉「こんなに嬉しいことは無いわ、樹里」ニコッ

樹里「ヘッ。なんか……新鮮さはねーけどな」

咲耶「それだけ深め合ったものがあるということさ」バチコーン☆

樹里「やめろってそういうの」
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:21:05.86 ID:mUoeDtH10
シャニP「ありがとう……これからよろしく頼むよ、西城さん」ペコリ

樹里「樹里だ」

シャニP「えっ?」


樹里「アタシのことは、樹里って呼んでくれよ」


シャニP「あぁ……分かった、樹里」

樹里「……ヘヘッ」


樹里「それと……」クルッ



楓「……? 樹里ちゃん?」

樹里「なぁ、楓さん」
877 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:23:11.34 ID:mUoeDtH10
樹里「アタシと、賭けをしてみませんか?」

楓「賭け……」

ダムッ!

樹里「さっきの凛と同じ、この位置からアタシがシュートを打つ」

楓「…………」


樹里「……引退の噂があったのは、知っています」

樹里「もしそれが本当だってのなら……
   このボールが入ったら、楓さんはアイドルを続けてください」

楓「……入らなかったら、私の好きに、ですか?」

樹里「ハハハ。あぁ、そう」



楓「……樹里ちゃん」

楓「私は……やはり、メディアに全てを打ち明けたいと思います」
878 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:27:46.82 ID:mUoeDtH10
智代子「えっ……!」

卯月「ちょ、楓さん……!?」

シャニP「……それは、今世間を騒がせているあの動画の内容について、
     公式に真偽を言及するという事ですか?」

シャニP「あなたほどの人がそれを発言したら……」

楓「分かっています……私はもう、アイドル業界にいられなくなるかも知れません。
  それどころか、多くの人をご迷惑に……」

楓「でも、やはりそれは、ケジメなんです」

咲耶「楓……」


楓「その上で、私は……樹里ちゃんの投げたボールが入る事を、信じたいと思います」


夏葉「……損な性格をしているわね、楓」

未央「でも、楓さんらしい、かな?」


樹里「……一応もう一度、言っときますけど」ダムッ

樹里「アタシ、ここからシュートして入ったこと無いけど、いいんですか?」
879 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:29:20.41 ID:mUoeDtH10
楓「やる前から結果が分かっているものは、賭けとは言いません」

楓「そうでしょう?」ニコッ


樹里「……ヘヘッ」

樹里「みんな! ゴール下についてくれ!」


凛「うんっ」

未央「ほい来た!」

卯月「任せてください!」

咲耶「私はこちらで良いかな」

智代子「じゃあ私はこの辺で!」

ザザッ


シャニP「まさか……入らなかったボールを処理して、皆で入れようと?」

シャニP「た、確かに“ボールが入ったら”という条件ではあるが……何か、ずる…」

夏葉「プロデューサー! あなたも早く配置につきなさい!」

シャニP「あ、あぁ!」ザッ
880 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:31:13.12 ID:mUoeDtH10
樹里「よし……いいですね?」

楓「はい。お願いします、樹里ちゃん」

樹里「…………」ダムッ ダムッ


樹里(きっと、これから先も……アタシ一人の力じゃ届かねぇんだろうな)

ダムッ

樹里(でも、アタシは一人じゃない)

樹里(皆と一緒だから……アタシは、勝てる)

樹里(どこまでも、羽ばたいていける……)


樹里「…………」

樹里「……」スッ



樹里(そうだろ? プロデューサー)



シュッ!


――――

――――――
881 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:36:38.29 ID:mUoeDtH10
――――――

――――


  >今日のステージにタケウチ出るんだっけ?
  >出るもなにも大トリだぞ、運営も明らかに狙ってやってる
  >注目度だけじゃなくて、期待を裏切らない実力を見せてくるのはさすがだわ
  >ワイは最初からタケウチが来るって分かってた

  >ずっと思ってたんだけどさ
   『タケウチ』じゃなくて『タケウチャー』じゃね? どちらかと言うと
  >タケちゃん定期
  >今さら呼称を覆すのは無理だろ、明らかにタケウチが浸透しすぎた
  >実際呼びやすいしな
   全国のタケウチさんはネタにされちゃうだろうけど
  >カラオケでタケウチの曲を歌わされるタケウチさん続出してそう

  >しかしまさか楓さんが復活するとは思わなかったわ
  >いや、当たり前やろ
   楓さん何も悪いことしてないじゃん
  >その辺りは俺らには知る由も無いけどな
  >何でもいいよ、これからも上手に俺達を騙してほしいってだけ

  >樹里ちゃんも収まる所に収まった感あるわ
  >あの子もなんか雰囲気落ち着いたよな
   961にいた頃は必死な感じがしてウザかったけど
  >今ではすっかり283プロの良心
  >牙を抜かれたどころか、周りに濃いメンツいすぎてツッコミが追いつかない
  >胃薬のCM出始めたのほんと草生える
882 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:40:31.08 ID:mUoeDtH10
『……さぁ、ここでアイドル・アルティメイト決勝戦にコマを進めた、
 その最後のユニットのご紹介になります』

『さぁ見えました、『TAKE−UC HIGHER』!』

『以前行われたクリスタルウィンターにおいて優勝を果たした『TAKE−UC』、
 その5名に、283プロの白瀬咲耶さんを加えた6人組のユニットとなります』

『いえ、正確には『TAKE−UC』本来のメンバーには白瀬さんも入っていたのですが、
 アクシデントにより急遽346プロの高垣楓さんが代わりのメンバーとなっていたとのことで』

『ある意味では最終進化形と言えるユニットになったということでしょうか』

『ところで、この『TAKE−UC HIGHER』について、
 ファンの間でユニークな愛称が流行っているそうですね』

『あぁ、“タケウチ”という』

『ユニット名をローマ字読みした発音から、そう呼ばれていると。
 彼女達自身も気に入っているそうですよ』

『さぁ、その“タケウチ”ですが、今日のステージで披露する楽曲は、
 メンバーの皆が胸に秘めたある想いがテーマになっているそうです』
883 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:43:56.13 ID:mUoeDtH10
ワアアアァァァァァァァァ…!!!


樹里「……またこの花束かよ」ポリポリ

凛「夕美もマメだよね」


夏葉「黄色のラナンキュラス……」

咲耶「花言葉は、「優しい心遣い」」

智代子「見た目といい、樹里ちゃんにピッタリのお花だね!」

樹里「うるせぇ」プイッ


楓「会場の皆さん、お待ちかねのようです」

樹里「……ですね」


樹里「じゃあプロデューサー、行ってくる」

シャニP「あぁ」

シャニP「届けてきてくれ。お前達の笑顔を」

一同「はいっ!!」
884 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:45:37.53 ID:mUoeDtH10

 TAKE−UC HIGHER 【 FUTURITY SMILE 】



――――


ドタドタドタ…!

モバP「こ、こら志希! またそうやってふざけた事を……この、待てっ!」

一ノ瀬志希「ふざけてないよー、からかってるだけー♪」

塩見周子「まーまー。大人しくしといた方がかえってダメージ少ないよ、プロデューサーさん」

モバP「悪いことをする側の理屈じゃないか、それ……」


夕美「こらー、二人とも!
   プロデューサーさんを困らせちゃダメって言ったでしょ!」ムンズ

志希「ありゃりゃ、捕まっちゃったー、にゃははー♪」

周子「我が家のママがお出ましだねぇ、頼りになるわ」

夕美「ふざけた事言ってないで、ほら! 早くレッスン行こ!」
885 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:46:54.40 ID:mUoeDtH10
モバP「夕美、いつもありがとう。本当に助かるよ」

モバP「でも……すまない、夕美。ちょうど伝えようと思っていたんだが」

夕美「え?」

モバP「実は、トレーナーさんが風邪ひいちゃって、お休みしてるらしい。
    だから、今日のレッスンはキャンセルだ」

周子「あらら、そりゃ心配だね。そういう人達でも体調を崩すことあるんだ」

志希「絶対の事象なんて無いからねー。
   とりあえずゴシュウショウサマ……ん? 違うか。ぷりーずていくけあ、ゆーとぅー」


夕美「ううん、プロデューサーさんは何も悪くないよっ」フルフル

夕美「それに、レッスンがお休みなら、代わりにやりたい事もあるんだ♪」
886 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:48:21.33 ID:mUoeDtH10
モバP「中庭の花壇の手入れか?」

夕美「うんっ! ほら、志希ちゃんと周子ちゃんも行こう?」

志希(ふむふむ、これはヤダって言っても無理やり連れてかれるヤツと見た)

周子(下手に逆らわない方が身のためよ、志希ちゃん)ヒソヒソ

夕美「行こう??」ズイッ

志希・周子「はい」

モバP「お達者でなー」フリフリ


――――

  当たり前にある今日も
  奇跡だって思うよ
  どうすれば変われるのかを
  考えて過ごしてたの

――――



テクテク…

志希「わぁーっ! 綺麗なお花畑ー!」

夕美「えへへ。そりゃあ、私がお手入れしているからねっ♪」
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:49:41.95 ID:mUoeDtH10
周子「本当、お花に関しては丁寧だよねー」

夕美「ちょ、ちょっと!? アイドルのお仕事もちゃんとやってるでしょ!」プンスコ!

志希「アハハハ」


――――

  トキメキを形にできる場所
  見つけたから 溢れる希望
  その“始まり”を あなたがくれた
  まっすぐ見つめてくれた

――――


志希「ん?」ピタッ

周子「どうかした?」

志希「これ……アグラオネマだよね? こんな所に植えてていいの?」

夕美「あぁ、それはね」


スッ

夕美「この子は、ここでいいの」
888 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:53:05.45 ID:mUoeDtH10
夕美「もちろん、本当は日当たりの良い所に植えちゃいけない品種なんだけどね」

夕美「この子は、大切な人からの……」


――――

  舞い上がり ぶつかって 何度でも
  思い出すあの瞬間(とき) 最初の1ページ
  信じあう 響きあう 高鳴りを
  永遠に そう 忘れない

――――


周子「へぇー、お日様の日光が良くない植物とかあるんだ?」

周子「でもこの、アグラオネマさんは、日当たりが好き?
   色々と変わり者屋さんだね」

志希「まぁ何にでもイレギュラーはあるからねー」

周子「志希ちゃんが言うと説得力あるわぁ」


夕美「えへへ……変わり者なんかじゃないよ」

周子・志希「?」
889 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:56:24.67 ID:mUoeDtH10
  輝こう…!
  大きな空で あなたが誇れる星になろう
  限りない“ありがとう”繋いでゆく 希望のステージ
  羽ばたこう…!
  夢見ることに 全力出せる“今”があるの
  眩しい世界へ いつまでも Stand by Me



ワアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチパチ…!!!!


樹里「はぁ……はぁ……はぁ……」


樹里「……これで安心だろ? プロデューサー」



フッ…


夕美「あっ! ふふ……」

夕美「良い笑顔だねっ!」ニコッ


〜おしまい〜
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/25(土) 02:02:26.51 ID:mUoeDtH10
洋画『レオン』のパロディを書こうとしていたのですが、全然違うものになりました。
色々おかしい所もあるかと思います。

アイドルマスターシリーズの楽曲から、『オーバーマスター』、『1st Call』、『Ambitious Eve』、『FUTURITY SMILE』の歌詞をそれぞれ一部引用している箇所があります。

ひたすら長くなり、すみません。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/02/27(月) 18:15:55.38 ID:8ZpP9TWeO
龍が如くスピンオフ

リーガルサスペンスアクションゲーム

ジャッジアイズ:死神の遺言
(キムタクが如く)最終回

▽第11話〜最終13話
『Back Stage』『Dirty Work』『トカゲの尻尾』
(18:06〜)

https://youtu.be/a_6K0l2_4aQ
892 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/03/01(水) 20:17:54.61 ID:BETezwxDO
第1回ピザラポーカー
supported by エムホールデム
(Tホールデムアプリトーナメント)
オーイシ×加藤のピザラジオ#99SP
(21:00〜)

■もこう、鈴木ゆゆうた、おにや
すたみな(あむあむWORLD)
高井佳祐(ガーリィレコード)
ミト(Clammbon/Ba.)、やしろあずき
岡田紗佳(Mリーグ/角川サクラナイツ)

□解説:けいたん(R.A.B)、ガイP

https://www.youtube.com/live/pYpPF8cDbO8
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/03/04(土) 10:50:51.40 ID:gKYd6OUzo
いいんじゃね?
樹里ちゃんが好きになるSS
894 : [sage]:2023/03/06(月) 23:52:06.49 ID:1HMyapfU0
>>478
誤)樹里「まだ9対7だ、勝負は終わっちゃいねぇ。
正)樹里「まだ9対6だ、勝負は終わっちゃいねぇ。

>>480
誤)樹里「今、9対7……これが入ったら、アタシの勝ち」
正)樹里「今、9対6……これが入ったら、アタシの勝ち」

スコアを間違えていました、すみません。
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