西城樹里「タケウチ」

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380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:34:12.62 ID:9H96sgaS0
凛「ていうか、今日来た用事は、別に講釈するためじゃないから」

樹里「あぁ、そういやそうだったな」

智代子「樹里ちゃん家に遊びに来たんじゃないの?」

樹里「なんか料理教えてほしいってさ」

智代子「うああぁ、何それ! 私も一緒にいたい、けど……!」

智代子「不肖、園田智代子。
    これから咲耶ちゃんの新ラジオ番組のゲストに呼ばれておるのです……!」

樹里「超重要なヤツじゃねーかそれ、さっさと行ってこいよ」

凛「咲耶、聞き上手だし、誰かと話をするのも好きそうだし、適任だよね」

智代子「うええぇぇん、樹里ちゃん、後で私にも教えてねぇぇ……!」ポロポロ

樹里「な、泣いてるし……」


智代子「それでは、後はお若い二人でごゆっくり」ニコォォ…!

樹里「うるせぇ、さっさと行けって」

ガチャッ

バタン
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:35:22.78 ID:9H96sgaS0
凛「……ふーん」キョロキョロ

樹里「別に面白いモンなんかねーぞ」

樹里「で、何を作りてぇんだ?」

凛「何を、ってほどでもないけど……」


凛「例えば、その……お弁当、とか?」


樹里「弁当? 昼メシの?」

凛「うん」コクッ

樹里「弁当、って……
   んなもん、適当に空いてるスペースに色々ぶち込めばいいだけじゃねぇか」

凛「適当にぶち込んでるように見えないんだけどな……」

樹里「あん?」

凛「あ、ううん、何でもない」

凛「でも、普段料理しない身からすると、その適当にっていうのが難しくてさ」

樹里「ふーん……まぁ、いいけどよ」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:36:57.62 ID:9H96sgaS0
樹里「でも、本当に何でもいいんだったら、冷凍のおかずで事足りんだろ?」

樹里「何か、これだけはちゃんと作ろうって、イメージしてるモンとかあるのか?」

凛「ちゃんと作るもの……」

凛「…………」


  ――それでは、私はハンバーグを。

  ――おおっ! 紅蓮の業火に灼かれし禁断の果実!
     我が友も、彼の贄を所望するか!

  ――らんらんもハンバーグ大好きだもんねー。


凛「……ハンバーグ」

樹里「おー、ハンバーグな。いいトコ突くじゃねーか」

樹里「アタシも最近、色んな作り方を研究しててさ。
   少なくとも冷凍のヤツよりかは、うまく作れる自信あるぜ」

凛「へぇー、樹里がそこまで言うの、期待しちゃうね」

樹里「まぁな。よし、じゃあまずは材料買いに行くか。
   せっかくだし、他にもひと通り思いついたヤツ作ろうぜ」

凛「うん」
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:38:32.62 ID:9H96sgaS0
トントントントン…

樹里「玉ねぎはこうしてみじん切りにして……」トントントン…

凛「……」ジーッ

樹里「……っと、こんな感じ。ほら、半分やってみ?」スッ

凛「う、うん」


トン トン …

凛「……樹里みたいに、早く、できない……」トン…

樹里「焦んなよ、早くやる必要ねーんだからこんなの」

樹里「ほら、端っこの方切る時あぶねぇぞ。
   無理しないで、向き変えて寝かせてみな」

凛「む、向き?」トン…

樹里「玉ねぎの。あぁ、そうそう」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:40:23.88 ID:9H96sgaS0
樹里「先に飴色になるまで炒めて、コクと香りがどうとかって作り方もあるけど……」トントントン

樹里「弁当用のだからな。いちいちそんな時間かけらんねーし」ササッ

樹里「それに、生のままならサッパリ、しかも水分が出てジューシーになったりするし」スイッ

樹里「まぁ、好みの問題ってヤツ?」パッ パッ

凛「……」フムフム


樹里「これと、パン粉と卵、牛乳……」サァーッ…

樹里「んで……氷水」ジャーッ

凛「氷水? 入れるの?」

樹里「いいや、こうしてボウルを冷やすんだ」ガショッ

樹里「手の熱で肉の脂が溶けちまうと、良くないんだってさ。
   そんで、挽肉に、塩をしっかり入れて……」ササッ

樹里「よし、混ぜる。はい」スッ

凛「わ、私?」

樹里「お前が作んだろ」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:42:02.05 ID:9H96sgaS0
凛「…………」ネリネリ

樹里「うん、いいんじゃねぇか?
   そして、そこにさっきのつなぎを投入」ザザーッ

凛「……なんか、くすぐったいね」ネリネリ

樹里「あぁ、わかる」


凛「どう、先生?」

樹里「先生じゃねーし。でもまぁ……そんなもんだろうな」

樹里「んで、こうして手に取って、成形して……」ペタペタ

凛「なんか、手の平でキャッチボールするって聞いた事あるけど」

樹里「あぁ、そうそう。空気抜くんだよな」ペタペタ

凛「ふふっ」ペタペタ


樹里「そんで、表面をなるべく滑らかに……
   こうすると、表面が割れずに、肉汁を閉じ込めやすくなるんだぜ」

凛「なるほど……」フムフム
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:43:16.66 ID:9H96sgaS0
ジューーッ…!

樹里「…………」

凛「……」チラッ


樹里「………………」ジューッ…


凛「……ふふ」

樹里「ん? どうした?」

凛「ううん、ごめん。すごく真剣な表情だな、って」

樹里「あ? あぁ、まぁ……一番大事な工程だからな」

樹里「焼き加減一つで、それまでの苦労が台無しになる事もあるし」

樹里「別に、自分用のズボラ飯だったら適当にガァーッてやってパパッと済ますんだけど、
   今回は一応、何つーか……」

凛「……」

樹里「凛に教えるんだし、ハンパはできねぇ、なんてな」
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:44:33.63 ID:9H96sgaS0
凛「……最近ハンバーグを研究してるの、プロデューサーが好きだから?」

樹里「まぁな。アイツ、何個入れてもペロリと食べやが…」

樹里「!! ……なっ!?!?」ドキッ!

凛「ふふっ」クスッ


凛「プロデューサー用のお弁当も、そうやっていつも真剣に作ってるんだ?」


樹里「〜〜〜〜!!!」カァーッ!

樹里「てんめぇ……! からかうんだったら教えてやんねーぞ!!」

凛「ごめんごめん」

樹里「ほらっ! 蓋っ!! 蒸し焼き!!」ガションッ!

凛「自分でやってるし」



樹里「……これしか」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:45:46.06 ID:9H96sgaS0
凛「え?」


樹里「これくらいしか、ねーからな……アタシにできんの」

樹里「いつも世話になってんだし……」

樹里「ちゃんとすんの……何もおかしかねーだろ」


凛「……ごめん、そこまで言うつもりなかった」

樹里「ああ……いいよ」

凛「…………」

ジューーッ…


樹里「……っし、どうだっ!」パカッ!

ホカホカ…!

凛「! すっごく、良い匂い……!」

樹里「だろ? 後でソースも作んねーとな」ニカッ
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:46:53.72 ID:9H96sgaS0
凛「ほうれん草のゴマ和えと、厚焼き卵、筑前煮……」

樹里「あとはまぁ、こうしてサラダとかもあれば……
   ほら、何となくサマになんだろ?」スッ

凛「……すごいね」

樹里「何もすごくねーよ、筑前煮なんて途中端折ったしな」


樹里「んじゃ、食べようぜ」

凛「うん」

樹里・凛「いただきます」


パクッ

凛「…………」モグモグ

樹里「ど、どうだ……?」
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:48:17.97 ID:9H96sgaS0
凛「……聞くまでもないでしょ」ニコッ

凛「こんな美味しいハンバーグ、今まで食べたこと無い」


樹里「お、おう……ヘヘッ!」

樹里「まぁな!」ガツガツ!

凛(いい食べっぷり)

樹里「とにかくよ、大体覚えただろ?」

凛「うん……一人でやるのは、ちょっと大変そうだけどね」

樹里「いいんだよ、最初から上手くできるヤツなんかいねぇんだし」

樹里「そうだ! 夏葉や咲耶達にも、いつか教えてやってもいいかもな」

樹里「特に、夏葉は外食ばっかで自炊してる感じしねぇし、
   料理で見返してやるってのも悪かねぇ」ドヤァァ

凛(すっかり得意になってる……ふふ)クスッ
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:49:24.07 ID:9H96sgaS0
凛「今日はありがとう、樹里」

樹里「おう、また来いよ」

凛「うん」

凛「…………」


凛「……あっ、あの、さ」

樹里「ん?」


凛「私のプロデューサーも、好きなんだ……ハンバーグ」


樹里「へー……そうなのか」

凛「うん……さっそく明日、お弁当作ってみるね」


樹里(……って)

樹里(何でそんなのをアタシに言うんだよ!?)カァーッ
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:50:17.40 ID:9H96sgaS0
樹里「あ、えぇっと……なんだ……」ワシャワシャ

樹里「頑張れ、よ……?」

凛「……うん」


凛「じゃあ、またね」ガチャッ

樹里「おう」

バタン



樹里「…………」

樹里「なんか……急に腹、一杯になっちまったな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:52:00.21 ID:9H96sgaS0
『……フフッ、智代子は本当にグルメへの造詣が深いんだね。
 ぜひ一度、ご教示賜りたいものだよ』

『そ、そんな大それたものじゃないよぅ、咲耶ちゃん。
 ただ食べるのが好きってだけで、あんまり自分じゃ作れないし……』

『そういう咲耶ちゃんだって、一人暮らしだよね?
 自炊したりするの?』

『私は、人並み程度と言ったところかな。
 威張れるほどの技量は持ち合わせていないさ』

『だが、もし智代子が来てくれるなら、最大限のもてなしをすると約束しよう。
 ちょうど今は、カツオが美味しい時期だ。実家から取り寄せて、寮の皆にも振る舞おうじゃないか』

『か、カツオ!? 魚の!? ひょっとして捌けるの、咲耶ちゃん!?』

『ああ』

『即答ッッッ!!!』


『そうだ! お料理といえば、私の友達にもすっごく上手な子がいてね?』
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:53:52.13 ID:9H96sgaS0
『へぇ。智代子をも唸らせるほどの腕前なのかい?』

『うんっ! 樹里ちゃ……ああいやいや』

『その子ときたら、凄いんだよ!
 お味噌汁一つ作るのだって、即席のじゃなくてちゃんとお出汁を丁寧に取って、すごく美味しくって』

『揚げ物だって、温度の見極めっていうのかな?
 ピタッ! ジュワーッ! という感じで、お加減バッチリなモノをパパッと作れちゃうの!』

『なるほど、手際が良いということか』

『そうっ! まさしくだよ!』

『そういったスキルは、普段の日常生活で行っていないと習熟できないものだ。
 とても家庭的な子なのだろうね』

『いやぁ、普段はメンドクセーなんて言って、あまり作ってはくれないんだけどね?
 私なんかはもうその子に胃袋掴まれっぱなしで』

『ふむ……そういう事なら、私が対抗馬として名乗りを上げても良いかな?』

『美食の姫にご満足いただけるよう、記憶に残る一皿を献上してみせよう、マイレディ』

『そりゃあ、カツオを目の前で捌かれたら忘れられないよねぇ』
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:55:17.37 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


  う、ううむ……

「どうした、プロデューサー?」

  いえ、その……
  お腹が空いて、どうにも力が出ないようでして……

「何だか、アンパンのヒーローみてぇな言いぶりだな……」

「でも、今日はアタシ弁当作ってきてねーしなぁ」

  それは、困りましたね……



  プロデューサー、これ。

  えっ?


「おっ、それひょっとして弁当か? へぇー、やるじゃねぇか」

  明日作ってみる、って言ったでしょ?

「あぁ、そうだったな」
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:56:56.46 ID:9H96sgaS0
  うわぁぁ〜! このハンバーグ、すっごく良い匂い!

  はいっ! とても美味しそうです!

  樹里に教えてもらったんだ、作り方。

「よ、よせよ。いちいち言わなくていいだろ、そんなの」

  樹里ちゃんのハンバーグ!? わ、私にもどうか一口……!

  なるほど。これは私も食指が動いてしまうね、フフッ。

  ハンバーグってすごいのよ!


  ど……どう、プロデューサー?

  はい。とても美味しいです。ありがとうございます。

  そ、そう……ふーん。まぁ、良かったかな。


「何だよ。別にアタシが弁当作らなくても良かった、ってことか」

「二人とも、末永くお幸せに、なんてな」

  ちょ、ちょっと樹里! 変なこと言わないでよ。

「アハハハ」


――――

――――――
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:57:53.89 ID:9H96sgaS0
〜翌日〜

チュン チュン…


樹里「…………」ムクッ

樹里「……」ポリポリ


樹里(今日は久々に、あの夢を見なかったな……)

樹里(でも、なんか……代わりにすげーヘンな夢、見た気がする)


樹里「ふわぁ……」ノビー…


樹里「さて……今日も弁当作ってやっか」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:58:44.51 ID:9H96sgaS0
ジューーッ…!

樹里「…………」ジュー…!

樹里「……」トントントン



樹里「………………」



樹里「…………」スッ

ポパピプペ


プルルルルル…


樹里「……あぁ、もしもし? アタシ。おはよう」

樹里「あのさ、プロデューサー」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:00:11.89 ID:9H96sgaS0
樹里「悪ぃんだけど、今日は弁当作れねぇわ」

樹里「だから、適当に外で食うとか、してくんねーか?」

樹里「あぁ、買わなくていい……いや、分かんねぇけど。
   ほら、結構外食できそうなトコあるじゃん……そう、例えばの話、っつーか」

樹里「ああ……ごめんな、うん……それじゃ」

ピッ!


樹里「…………」


ポパピプペ

プルルルルル…


樹里「……あぁ、チョコ? あのさ」


樹里「良かったら今日、弁当作ってきてやるよ」
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:01:24.58 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

武内P「…………」カタカタカタ…


未央「んー? あれあれぇ〜?」クンクン

武内P「な、何でしょうか、本田さん?」


未央「プロデューサーの鞄から、いつもの良い匂いがしませんなぁ」

未央「今日はジュリアン、お弁当作ってくれなかったの?」

武内P「は、はい……鋭いですね」

卯月「未央ちゃんの嗅覚は、これすなわち生への執着ですねっ」

未央「しまむー、ちょいちょいヒドいね!?」

武内P「とりあえず、これから出張する際に、どこか外で済まそうかと……」
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:03:22.47 ID:9H96sgaS0
凛「プロデューサー、これ」

武内P「渋谷さん?」

凛「はい」スッ


未央「こ、これはまさか……!?」ワナワナ…

卯月「お弁当! 凛ちゃんお手製、ですか!?」


武内P「……これは」

凛「お昼ご飯、無いんでしょ?
  たまたま私、自分用に作ってきたんだけど」

凛「プロデューサーの方が、忙しいんだし……これ、あげる」

武内P「し、しかし……」

凛「いいからっ」ズイッ!

武内P「は、はい」

未央(何というパワープレー……!)
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:04:45.37 ID:9H96sgaS0
武内P「ありがとうございます、渋谷さん」

凛「……ッ」

凛「い、いいって……普通だし、美味しくないかも、だけど……」モジモジ

武内P「いえ、そんな事はありません。大事にいただきます」

凛「うん……」


卯月「えへへっ。凛ちゃん、何を作ってきたんですか?」

未央「そうだぞー? この未央ちゃんにも内緒にしおってからにー♪」ウリウリ

凛「うぇ、いや、あの……は、ハンバーグ?」

未央「それ、プロデューサーのバッチシ大好物じゃーん!」ヒューッ!


武内P「これは、期待せざるを得ませんね」ニコッ

凛「もうっ。からかわないで……!」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:05:57.02 ID:9H96sgaS0
〜961プロ近くの公園〜

智代子「あーー、んっ!」ハムッ!

智代子「……んん〜〜〜〜っ!!」

樹里「いちいち大袈裟だなぁ、リアクション」

智代子「そんなこと無いって! すっごく美味しいよぉ、樹里ちゃん」キラキラ

樹里「まぁ、喜んでくれんのはありがてぇけどよ」


智代子「特にこのハンバーグ! 全然、お店屋さんに出せる味だよ!」

樹里「ヘヘッ、だろ? ソイツは自信あんだよなー」

樹里「昨日も凛に作り方教えてやってさ。喜んでくれたんだぜ?」

智代子「私も一緒に受けたかったなぁ、樹里ちゃんのお料理教室」


智代子「でも、何で今日は作ってくれたの? お弁当」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:07:14.33 ID:9H96sgaS0
樹里「えっ? あぁ、いや……別に」ポリポリ

樹里「む、虫の知らせ、みたいな……」

智代子「虫の知らせ?」キョトン

樹里「あぁいや! 違う違う、今のナシ」ブンブン

樹里「まぁその……ほら、何だっていいだろ。気分だよ、気分」

智代子「へぇー、たまたまその気になってくれたってことかぁ」ウンウン

樹里「ま、まぁな」


智代子「何にせよ、こうして樹里ちゃんのお弁当食べれるなんて万々歳だし、
    どんどんその気になってくれて私は一向に構わんですよ、樹里ちゃんッ!」

樹里「まぁ、チョコくらい喜んでくれた方が作りがいがある、ってのはあるかもな」

智代子「でしょ?」

樹里「考えとくよ」スクッ
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:11:20.68 ID:9H96sgaS0
智代子「あれ? もう行くの?」

樹里「ああ、これからレッスンだからな」

智代子「レッスン……」

樹里「何だよ、練習は大事だろ?
   チョコだって、午後は夏葉や未央達と秘密特訓じゃねーか」

智代子「あ、はい! そ……そうだね、そうそう! 秘密特訓っ!」

樹里「何でそんなにキョドってんだよ」

智代子「いえ、何も他意は無いです、何も」ブンブン


智代子「あっ、ていうかお弁当箱、洗って返すね!」

樹里「いいって、アタシが持って帰る。ほら」スッ

智代子「そ、そう? ……ごちそうさまでした」

樹里「はい、お粗末さんでした」

樹里「アタシはこっちのがあるから今日は行けないけど、怠けんじゃねーぞ」

智代子「も、もちろんですとも……」

スタスタ…



智代子「……樹里ちゃん、まだ活動再開しないのかなぁ」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:12:05.73 ID:9H96sgaS0
〜961プロ レッスンルーム〜

ガチャッ

樹里「お疲れ様でー、す……?」


武内P「あ……西城さん」

樹里「おう、プロデューサー」


樹里「……弁当、食ってたのか」

武内P「申し訳ございません」

樹里「謝んなよ、だから」



樹里「……それ、アンタが自分で作ってきたのか?」


武内P「いえ……」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:13:01.79 ID:9H96sgaS0
樹里「だろうな」

樹里「…………」



樹里「その……他に担当してる、アイドルからの……か?」


武内P「……はい」



樹里「ちなみに、何が入ってたか……聞いてもいいか?」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:14:22.65 ID:9H96sgaS0
武内P「そうですね」


武内P「ハンバーグと……」

樹里「…………」


武内P「ほうれん草のゴマ和えと、厚焼き卵……」

武内P「それと、筑前煮……野菜も、サラダなどが、入っていました」

武内P「大変美味しく、栄養バランスも良い、ありがたいものです」



樹里「………………」


武内P「? ……西城さん、いかがさ…」

樹里「よく分かった」

武内P「え?」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:15:17.29 ID:9H96sgaS0
樹里「よく分かったと言ったんだ」


樹里「悪ぃが、今日は帰る。ちょっと……気持ちの整理っつーか」クルッ

武内P「さ、西城さ…」

樹里「来んなっ!!」

武内P「!?」


樹里「ちょっと…………一人にさせてくれ……」


ツカツカ…! ガチャッ

バタンッ!



武内P「…………西城さん」

武内P「まさか……?」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:16:47.88 ID:9H96sgaS0
〜346プロ近くのジム〜

卯月「ひぇぇぇ……つ、疲れました……」グッタリ

凛「いつも以上に、ハードだったね……」

未央「ぜぇ、ぜぇ……どう考えても、原因は……」


夏葉「さぁ、仕上げのダウンジョグに行くわよ!」バァーン!

夏葉「近所の川沿いまで往復5km、暗くなる前に終わらせましょう!」

咲耶「ま、まぁまぁ夏葉。
   今日のところは、整理体操くらいにしておくのはどうだろう?」

夏葉「それでもいいわよ。
   いずれにせよ、十分に時間をかけて筋疲労を取り除かなくてはね」


未央「283プロとの、合同レッスン……!」

卯月「夏葉さん、本当にストイック、なんですねぇ……」

智代子「」デローン

凛「智代子なんかもう溶けてるし……」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:17:52.80 ID:9H96sgaS0
夏葉「全ては自分を律するところからよ」

夏葉「高い目標を達成するには、一瞬たりとも自分を甘えさせてはいけないわ」

未央「なつはしの人生哲学だねぇ」

智代子「それを強いられる身にもなってほしいよ、夏葉ちゃん……」

夏葉「ふふっ、智代子?」スッ

ツン

智代子「オウフ」

夏葉「だいぶ引き締まってきたじゃない。
   私の言った通り、食事メニューもちゃんと気を遣っているようね」

智代子「いやぁ……樹里ちゃんのお手製弁当が無かったら即死だったよぉ」

夏葉「樹里の?」

凛「……」ピクッ
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:19:34.17 ID:9H96sgaS0
夏葉「詳しく聞かせてもらえるかしら。
   今日のレッスン前に、あなたは何を摂取してきたの?」

智代子「わわっ!? な、夏葉ちゃん落ち着いて!
    偏食なんかほど遠い、極めて栄養バランスの良いぃお弁当だよ!」

智代子「ほらっ、写真! 皆も見てよ、すっごく美味しかったんだから!」サッ


未央「おおー」

卯月「うわあぁぁ……このハンバーグ、とっても美味しそうです!」キラキラ

咲耶「なるほど、智代子が舌を巻くわけだね」


凛(……当たり前だけど、私のよりも綺麗)


夏葉「あなたの言う通り、見る限りでは身体に悪いものでは無さそうね」

智代子「美味しいものは身体に良いんだよ!」

夏葉「あの子にこんなスキルがあったなんて、樹里も隅に置けないわね。
   今度、私にも教えてもらおうかしら」
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:21:11.42 ID:9H96sgaS0
凛「うん。樹里もそう言ってたよ」

夏葉「あら? 凛は樹里の料理について知っているの?」

凛「昨日樹里に教えてもらったんだ、私。同じお弁当の作り方」


卯月「そうだったんですか!?」

未央「それ私達も誘ってよー、しぶりん!」

智代子「本当だよぉ! 何で凛ちゃんだけ!」

卯月・未央・智代子「ずーるーい! ずーるーい!」エッサ! ホイサ!

夏葉「十分元気じゃない、あなた達」


ヴィー…! ヴィー…!

咲耶「おや?」
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:22:25.98 ID:9H96sgaS0
咲耶「このスマホは、凛のかい?」スッ

凛「ありがとう」


凛「…………!」ピクッ



 『外で待ってる』



凛(樹里……)


卯月「凛ちゃん、どうしたんですか?」

凛「ごめん、ちょっと先に行ってるね」スッ

未央「へ?」

ガチャッ

バタン
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:35:57.56 ID:9H96sgaS0
スタスタ…


凛「……」スタスタ…

凛「…………」ピタッ



樹里「…………」



樹里「……今日は皆、秘密特訓してるモンだとばかり思ってた」

樹里「でも、秘密特訓ってより、むしろ……合同レッスン、って言った方がしっくり来るよな」


樹里「283プロと346プロの、合同レッスン……」


凛「樹里……」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:36:56.80 ID:9H96sgaS0
樹里「…………ッ」スッ

ツカツカ…!


ガッ!

凛「……ッ!」グイッ


樹里「てめぇ……!」ギリッ…!

凛「…………」


樹里「……そうじゃなければいいと思ってた」

樹里「だから……あの時聞くのが怖かった、ってのは認めるよ」

樹里「だけど、まさか……アイツも同じだったなんてよ……!」
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:38:14.74 ID:9H96sgaS0
凛「……薄々勘づいていたくせに」

樹里「あ?」

凛「だから、今日はお弁当、作らなかったんでしょ? “私のプロデューサー”に」

樹里「……ッ!!」グッ


凛「私が言ったんだ」

樹里「何……!?」


凛「私が最初に、樹里には秘密にしようって、皆に言ったんだよ」

凛「わざわざ都合の悪いこと、樹里に言うことなんか無い、って」

樹里「! ……」


凛「あの時打ち明けようと思ったのだって、
  智代子が復帰して、樹里の346プロに対する憎しみが薄れたのを見て取ったから」

凛「つまり、自分達に都合の良いように、私は樹里に接してきたってこと」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:39:11.09 ID:9H96sgaS0
タタタ…!

未央「い、いた! あっ……!」

卯月「凛ちゃん……じゅ、樹里ちゃん!?」


咲耶「樹里……!」



凛「私は樹里を騙して、振り回した……それは言い逃れしないよ」

凛「何か文句ある?」

樹里「…………」



智代子「と、止めないと…!」ダッ

夏葉「待って、智代子」

智代子「ふぇっ!?」ピクッ


夏葉「…………」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:40:11.79 ID:9H96sgaS0
樹里「…………」

樹里「……ッ」グッ

パッ

凛「? ……え」


樹里「…………チッ」ワシャワシャ

樹里「あぁ、文句ならあるぜ」

樹里「凛らしくもねぇ……そうやってつまらねぇウソをつくの、やめろよな」

凛「……!」


樹里「……アタシに気づかせるためだったんだな」

樹里「おかしいと思ったぜ。何で急に、弁当作りを教えろなんて……」

樹里「それもプロデューサーのための……明日作るんだ、なんて、わざわざアタシに……」

凛「…………」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:41:29.55 ID:9H96sgaS0
樹里「お前が誰かを騙すとか、そういう狡い真似、できるわけねぇだろ」

樹里「もう分かってんだよ……
   アタシに隠すよう言ったのは、プロデューサーだってことくらい」

凛「樹里……」


卯月「じゅ、樹里ちゃんっ!!」ダッ!

未央「あ、しまむ…!」


樹里「! ……卯月」

卯月「樹里ちゃん、待ってください!
   プロデューサーさんは、悪気があったんじゃないんです!」

卯月「いつだって、プロデューサーさんは私達みんなのこと、大事に思ってくれていて……!」

卯月「だから、樹里ちゃんを騙そうとか、そんな……そんな事なんかじゃ…!!」

樹里「あぁ、分かってる」


卯月「……ふぇ?」
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:42:29.50 ID:9H96sgaS0
樹里「曲がりなりにも、アタシだってアイツの担当アイドルだ。
   どんな考え方してるかくらい、少しは分かるよ」

樹里「だけど……筋は通してもらわねぇとな」


樹里「凛。プロデューサー、後であの公園へ連れてきてくれ」

凛「え?」



樹里「ついでにもう一つ」

樹里「動きやすい服装で来い、ってな」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/20(月) 23:45:07.49 ID:9H96sgaS0
今回はここまで。
次回は明日の夜8時〜11時頃の更新を予定しています。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/20(月) 23:45:32.37 ID:CUehpB+ho
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:50:47.16 ID:sUxM0O3Y0
〜346プロ 常務室〜

美城「園田智代子をゲストに指名しただと? 283プロの?」

美城「即刻キャンセルだ。
   わざわざ格の低いアイドルを選んで共演するなど、デメリットでしかない」

『そ、それがもう、当初の候補だった人達も予定が埋まってしまって、
 今から調整は不可能でして……』

『それに、高垣楓さんがどうしてもと、強く要望されたそうなのです……
 せ、責任も、自分と346プロが取りますから、と……』

美城「……それほどに、か」


美城「話は分かった」

ガチャッ
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:51:37.63 ID:sUxM0O3Y0
美城「…………」

美城(……然したる主体性など、有していないアイドルだと思っていた。
   波風を立てず、しかし持ち前のポテンシャルでなるべくして結果を得てきたものだと)

美城(しかし、高垣楓……
   私のプロジェクトへの参加を拒むばかりか、独断でそのような事を進めるなど)

美城「……!」ピクッ


カタカタカタ…

美城「園田智代子……あのオーディション」カタカタ…

美城「そして、その同伴者……」カタカタカタ…

美城「……西城樹里!」カチッ


美城(そして、ここ最近連続して発生している、業界人達の不可解な失脚……)

美城(先日、黒井祟男から聞き出した話の内容……)


美城「………………」



美城「そういうことか」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:52:09.61 ID:sUxM0O3Y0
〜公園〜

スタスタ…

武内P「……そうでしたか」


凛「……ごめん」

凛「私が、勝手なことを……」

武内P「いえ……時間の問題だとは、考えていました」


未央「……ジュリアンたしか、こっちの方へ来い、って」

スタスタ…



卯月「ここは……バスケットコート?」
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:53:15.47 ID:sUxM0O3Y0
樹里「来たか」

武内P「!」クルッ


ダムッ!


未央「ジュリアン……?」


ダムッ!


卯月「……バスケット、ボール」


ダムッ

樹里「動きやすい服装で来い、っつったろ」ダム ダム …

武内P「…………」

樹里「まぁ、アンタらしいけどよ」スッ
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:54:17.56 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「樹里……あまり乱暴はしちゃダメよ」

咲耶「どうか感情的にならないようにね」

樹里「この格好見て分かんねぇかよ? 大きなお世話だぜ」

智代子「う、うん……」


未央「さくやん達も、来てたんだ……」


樹里「おい、そこに立ちな」

武内P「……?」スッ

ザッ



樹里「アンタ、バスケの経験は?」
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:01:30.65 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……学生時代に、少々」

樹里「ふーん、“少々”ね……」


樹里「……」ヒュッ

武内P「!」パシッ

武内P「あ、あの……西城さん、これは……?」

樹里「あ? 寝てんのか?」


樹里「1on1だよ。アンタとアタシ、10点先取だ」

武内P「……」

樹里「アンタが勝てば、何も文句は言わねぇ。このままアイドル続けてやる」

樹里「そのかわり、アタシが勝ったら……」


樹里「洗いざらい話してもらうぜ……アンタがアタシに隠していたこと、全部」
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:02:04.51 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」


樹里「おら、ボール」クイッ

武内P「……」ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダッ!

武内P「ッ!?」


樹里「……」キュッ!

ダムッ! ギュォッ!
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:03:42.24 ID:sUxM0O3Y0
武内P「む、お……!?」グラッ

武内P「ッ!!」ドテッ

樹里「……ッ」ダッ!

シュバッ!


パスッ…!


   テンッ テン テン テテテテ…


武内P「……!」


未央「あ、アンクルブレイク……!」

夏葉「からのレイアップシュート……見事なスピードとキレね」

卯月(か、カッコいい……)
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:04:31.80 ID:sUxM0O3Y0
樹里「フンッ」

スッ

武内P「…………」


樹里「アンタの番だぜ」


武内P「…………」ヒュッ

樹里「……」パシッ ヒュッ

武内P「……」パシッ


武内P「…………」ダムッ

ダムッ


樹里「……」ザッ


樹里「言っとくけど……
   女が相手だと思って、手加減なんか考えんなよな」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:05:34.27 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……」ダムッ

樹里「部活は中学で辞めてっけど、
   野良で男子連中に混ざってストバスやってた時期もあったんだ」

樹里「フィジカル頼りのパワープレーしか脳がねぇヤツなんざ、
   アタシにとっちゃカモなんだよ」

武内P「……」ダムッ


樹里「いや……アンタの場合、
   気に掛かるのは女というより、“担当アイドル”が相手、ってところか?」

樹里「なぁ、“プロデューサー”?」


武内P「……」ダムッ

ダッ!

樹里(来る……左っ!)ザッ!
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:07:35.44 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……!」ギュッ!

ダムッ! バッ!

樹里(違う、ターンして逆か!)

樹里(デケぇ身体を背にしてアタシからボールを隠すように……!)

樹里(へっ、やっぱりフィジカルか! 甘ぇんだよ!!)キュッ!

ザゥッ!

樹里(シュートモーションに入る時にはゴールに正対せざるを得ねぇ……!)

樹里(アタシを躱せるかってんだよ!)


キュッ! ダムッ!

樹里(ここだっ! もらった!!)バッ!
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:08:45.21 ID:sUxM0O3Y0
サッ スカッ

樹里「!?」

キュッ! ブオッ……!


樹里「なっ……!?」

武内P「……」フワッ…

シュッ!


咲耶「フェイダウェイ……!?」


樹里「……ッ!」クルッ


パスッ


   テンッ テン テン テテテテ…


卯月「ぷ、プロデューサーさんもカッコいい……」

智代子「素人目でも、すっごい綺麗なフォームだったねぇ」
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:09:56.69 ID:sUxM0O3Y0
樹里(完全にマークを外された……あのバックステップのキレ味)

樹里(そっから飛んでシュートを打つまでの動作移行……体幹の維持)

樹里(しかも、あんな踏ん張りのきかなそうな革靴で……)


樹里(ふざけやがって、何が“少々”だ)


武内P「あなたの番です」スッ

樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダムッ


樹里「……そのガタイでトリックプレイとはな。恐れ入ったぜ」ダムッ

武内P「…………」

樹里「いや……トリックってほどじゃねーか。単にアタシの判断ミスだ」ダムッ
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:11:43.30 ID:sUxM0O3Y0
樹里「だがなっ!」ダッ!

ダムッ! ダッ!

武内P「!」キュッ!

樹里(……と見せかけて右!)バッ!

武内P「……!」ザッ!

樹里(読まれたか! ヘッ!)キュッ! ダムッ!

樹里(織り込み済みだぜっ!!)ザォッ!

キュッ! シュバッ! 

武内「むっ!?」


樹里(こういうのはどーよ!?)グオッ!

シュッ!


夏葉「フックシュート!?」

凛(プロデューサー、出遅れた……!)
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:12:13.15 ID:sUxM0O3Y0
武内P「ッ!」バッ!

樹里「……な!?」


武内P「……むぅん!」ブンッ!


バチィンッ!!


樹里「うおっ!?」

ダンッ!


卯月「うひゃあっ!?」バシッ!


武内P「あっ! し、島村さんっ!」

未央「うっひょぉ〜〜……見事なハエ叩き」
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:13:05.76 ID:sUxM0O3Y0
武内P「も、申し訳ございません! お怪我はありませんか!?」

卯月「い、いえ、全然……」

武内P「……」ホッ


武内P「…………」チラッ


樹里「……タイミングを外したつもりだったんだけどな」

樹里「やるじゃねぇか。膝にバネでも仕込んでんのか?」

武内P「…………」


樹里「面白ぇ」ニヤッ
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:14:20.55 ID:sUxM0O3Y0
ダムッ! ダンッ!

樹里「うぉらぁぁ!!」グァッ!

武内P「うっ……!」


智代子「な、なにィ!?」

未央「出たぁー!! ジュリアンのダブルクラッチだァァーーッ!!」



武内P「フッ!」ダムッ!

樹里「くっ! うぉ!?」

シャッ! ザォッ!


夏葉「フェイント!?」

卯月「プロデューサーさんが二人になってます!!」

凛「いや、なってないから」
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:15:23.62 ID:sUxM0O3Y0
〜数十分後〜

樹里「うりゃ!」バチンッ!

武内P「ぐっ!」

テンッ テン テテテテ…


樹里「っし! ……ハァ……ハァ……!」

武内P「くっ…………はぁ……はぁ……」ガクッ


智代子「8対6……!」ゴクリ…


咲耶(……プロデューサーの動きに、精彩さが失われてきている)

咲耶(まして、樹里との接触を極力避けるプレースタイルを続けていては、
   明らかにプロデューサーの分が悪い)
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:16:43.15 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダムッ

樹里「…………」ダムッ


武内P「はぁ……はぁ……」



智代子「プロデューサーさん……ひょっとして、樹里ちゃんに遠慮してるのかな」

夏葉「そうだとしても、どのみち体力面でのハンディキャップは否めないわね」

未央「現役アイドルな上に、バスケの腕も運動神経も抜群だよねぇ、ジュリアン」


凛「…………」
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:17:53.24 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ダムッ

武内P「はぁ、はぁ……ッ」グッ


樹里「……」ダムッ

ダムッ! ヒュバッ!

武内P「く……!」

ガッ!

武内P「ッ!?」グラッ

樹里「……」ザゥッ!

キュッ!

シュッ


パスッ


樹里「……」スタッ


武内P「はぁ……はぁ……はぁ……!」
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:18:43.25 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「これで9対6……どうやら勝負あったようね」

卯月「プロデューサーさん……!」ギュッ


武内P「はぁ…………はぁ……」ググッ…


樹里「……気張ってみろよ」スッ

武内P「…………」

樹里「アタシに秘密を明かしたくねぇんならな」


武内P「……」ヒュッ

樹里「……」パシッ ヒュッ

武内P「……」パシッ


樹里「…………」ザッ
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:19:32.14 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」ダムッ

ダムッ


ダムッ


ダムッ ダムッ

武内P「……ッ」ダムッ!

ダムッ! ダッ!


智代子「行った! 正面!?」

咲耶(いや、性格からしてプロデューサーは強引には行かない……!)

咲耶(必ずサイドに躱そうとするはずだ。そして樹里には既に見抜かれている!)


樹里「……!」バッ!

ダッ!
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:20:44.15 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「!?」

未央「わっ、ちょっ……!」

凛(ボールではなく、真っ直ぐにプロデューサーへ……樹里!?)


武内P「な……!?」

樹里「う、おおおぁぁぁぁっ!!」グオッ!

ドガッ!

武内P「むぅっ!!」

樹里「! ぐぁっ……!!」

ドサッ

グキッ!

樹里「ぐっ!! う……!」


夏葉「! 樹里っ!!」

卯月「樹里ちゃん!! 大丈夫ですかっ!?」ダッ!

タタタ…!
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:22:33.49 ID:sUxM0O3Y0
樹里「く……っ痛……!」グッ…!

武内P「西城さん!」

智代子「じゅ、樹里ちゃん、血が……!」


夏葉「見せて、樹里」スッ

樹里「い、てて……大丈夫だって、騒ぐ、な……ッ!」

夏葉「……」グイッ

樹里「ぁい゛っっ!! ……ッ!」ズキンッ

未央「ジュリアン……!」


夏葉「……接触時に、額をプロデューサーの肘にぶつけた。
   出血しているとはいえ、そっちは大した怪我ではないようだけれど……」

夏葉「倒れて右手を地面についた際、手首を捻ったようね。
   早めにお医者様へ診せた方が良いわ」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:24:23.00 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「確か、公園を出てすぐ近くにクリニックがあったはずだ。
   専門医に診てもらえるか、問い合わせてみよう」スッ

夏葉「えぇ、お願い。
   さぁ樹里、まずはあそこの水道で冷や…」

樹里「いいって、言ってんだろ……!」グッ

夏葉「言うことを聞きなさい」


武内P「西城さん……なぜ……」

武内P「なぜ、あのような無茶をされたのですか……」

樹里「…………」


武内P「ラフプレーに頼らずとも、あなたであれば、
    今の私からボールをカットする事は容易かったはずです」

武内P「たとえそれが敵わず、点を入れられても、9対7……
    残りのゲームで、じっくり勝利を決めることもできた」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:26:27.39 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……アンタの言う事は正しいよ」

樹里「そうやって勝利をたぐり寄せた方が、確かに利口だよな」


樹里「でも……この勝負は、元々アタシに有利なモンだ」

樹里「アンタがここまでバスケできるとは思ってなかったけどよ……」

樹里「それでも、アタシはこんな準備してきて、アンタは普通のスーツ姿で……
   運動の習慣だって、どうせロクに無かったろ?」

樹里「こんなハンデで勝っても、なんかちげーな、って……
   ちゃんと、なんつーか……」

樹里「勝ちに、行きたかったのかもな……アタシなりに、納得できる形で……」


未央「ジュリアン……」

凛「…………」


武内P「……勝負は、私の負けです」

樹里「まだ終わってねぇだろ、いっ……ッ!」ズキンッ
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:27:42.57 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「先ほどのクリニックだが、すぐに診てもらえるそうだ。
   さぁ行こう、樹里。智代子もついて来てくれるかい?」

智代子「う、うん!」


樹里「やめろっ!!」

智代子「ひぇっ!?」ビクッ


咲耶「……それは聞き入れられないよ。
   樹里のケガは、早急に手当てが必要のはずだ」

咲耶「それを拒むというのなら……理由を聞かせてほしい」

咲耶「私達だって、樹里への想いに納得が必要なんだ」


樹里「…………」



樹里「……もう、同じ思いをするのは嫌なんだよ」

樹里「あんな、惨めな思いは、もう……」グッ…
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:29:14.22 ID:sUxM0O3Y0
凛「……樹里、中学までバスケをやってたんだよね?」

樹里「…………」

凛「それと、関係があること……?」



樹里「……アタシがいた中学のバスケ部は、創部以来初めて県大会優勝してさ」

樹里「関東……ゆくゆくはインターハイも夢じゃねぇかも、
   なんて、メンバー皆ではしゃいでた」


未央「……えへへ、すごいじゃん!」

樹里「へっ、アタシが凄かったんじゃねぇよ……」


樹里「キャプテンで……いわゆる、司令塔のポジションを担うヤツがいてさ」
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:31:55.72 ID:sUxM0O3Y0
樹里「背はそんな高くねぇけど、ボール捌きが抜群に上手くて、視野も広くて……
   それに、明るくて優しくて、皆のムードメーカーで」

樹里「いつも皆の中心で笑ってて、チームの力を実力以上に引き出してた……
   ソイツがいたから、アタシ達は勝てたようなモンだった」

樹里「親友だったんだ……アタシだけじゃなく、皆そう思ってただろうな」


樹里「ある時、ソイツが練習時間になっても来ねぇからさ……探しに行ったんだ」

樹里「学校の隅っこの、もう使われてないオンボロ倉庫の中に、ソイツはいた」


樹里「人目に隠れて、タバコを吸ってたんだ」


凛「……!」

卯月「た、タバコ……!?」

樹里「中2だぜ? 結構ヤンチャしてるよな、ハハ……」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:34:07.18 ID:sUxM0O3Y0
樹里「親父のを、黙って持ってきたんだってよ……
   その時初めて吸った、って……それはたぶん、本当なんだと思った」

樹里「知らなくても一目で分かるくらい、まるで手つきが慣れてなかったからな……」


樹里「初めての関東大会で、部の内外からも期待を集めて……
   相当、プレッシャーを与えちまったんだと思う、アタシ達も」

樹里「それに、ソイツの家庭も、ちょっと問題を抱えてたみたいでさ……
   親父や母親からも、怒鳴られたり、暴力とかも……全然アタシ、知らなくて……」

樹里「友達ヅラして、一方的に追い詰めてた……
   たどたどしくタバコを持つソイツの姿を見て、初めてその事に気づいたんだ」

未央「そんな、ジュリアン……!」


樹里「咄嗟に、ソイツに言ったんだ……アタシがやった事にしろ、って」
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:35:07.59 ID:sUxM0O3Y0
智代子「!? そ、そんなの……!」

夏葉「……樹里、それは間違っているわ」


樹里「ああ、そうだよ。間違ってた」

樹里「たぶん、そん時も気づいてたさ……でも、そうするのが一番良いと思った」

樹里「ソイツがいなきゃ、関東も、その先も勝ち抜けるワケがねぇんだからな」

樹里「それがチームのためになると思ったんだ」


樹里「でも、アイツは自白して……辞めた」

咲耶「…………」


樹里「代わりに関東大会初戦のコートに立ったのが、アタシだった」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:36:58.15 ID:sUxM0O3Y0
樹里「結果は散々……ってほどでもなかったかな。
   中盤までは、まだ勝負になってた」

樹里「でも、第3クォーターから、やっぱり地力の違いが出てきてさ……
   点差も、どんどん開いてって……」

樹里「アタシがやらなきゃ、って思ったんだ……
   ここでスリーを決めて、チームを勢いづけて第4クォーターを迎えれば、勝ち目が見えてくる……!」

樹里「アイツの代わりに、アタシが皆の精神的支柱になってやるんだ、って!」グッ…


樹里「でも……アタシのボールは、リングに届きすらしなかった」

樹里「相手チームに取られて、あっさりカウンター決められて、ますます点差が開いて……」


樹里「元々厳しい先生だったけど……ウンザリするほど責められたな。
   逆に、チームのメンバーは、皆アタシを擁護してくれた。励ましてくれた」

樹里「その優しさが、すげぇ辛くてさ……」

卯月「……樹里ちゃん」ジワッ
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:38:13.96 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あの日から……アタシは、空っぽになった」

樹里「あれだけ一生懸命、自分の全てとさえ思ってたバスケを辞めて……
   まぁ、そりゃそうだよな」


樹里「あんなに夢中になって頑張ってたから、全てだったんだ」

樹里「だから、アタシは……夢中になる事が、怖くなった」

武内P「……!」ピクッ

咲耶「そうか……樹里、君は……」


樹里「……なぁ、プロデューサー」

樹里「初ステージの時、アタシ……途中で身体固まって、動かなくなってたろ?」

武内P「……はい。子供が落ちそうになっていたのを、目の当たりにされて」

樹里「違うんだよ」
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:39:56.57 ID:sUxM0O3Y0
樹里「子供は関係ない……思い出しちまったんだ」

樹里「土壇場でスリーを外した、あの試合を……トラウマ、ってヤツなのかな」

武内P「! ……」


夏葉「……ひょっとして、サマーフェスのアレも?」

樹里「ヘッ、やっぱ夏葉も気づいてたか……あぁ、そうだよ」

樹里「絶対にミスしちゃダメだ、って……思えば思うほど、あのスリーを思い出しちまう」

樹里「バスケに全てをかけてたアタシの心の傷は、アタシが考えている以上に深かった」

樹里「夏葉の言う通りだぜ。
   手を伸ばさないままでいれば、ケガをする事もねぇ」

夏葉「ッ……私は、そんな……!」

樹里「いいんだ」フルフル


樹里「それもあるのかな……
   本当はアタシ、今は346プロにさほど怒りを感じちゃいねーんだ」

樹里「薄々、自覚しちゃいたけどな……」
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:45:16.20 ID:sUxM0O3Y0
樹里「智代子が立ち直ってくれた後、アイドルを辞めようと思えばできた。
   でも……手放す度胸が持てなくて、かといって、のめり込む勇気さえ無くて……」

樹里「アイドルを好きになりそうな自分が怖くて……
   自分の中で、アイドルがどんどん大きくなっていくのが怖くて……」

樹里「だから、打倒346プロっていう建前を振りかざして、
   一生懸命やるフリだけしながら、一線を引いてさ」

樹里「プロデューサーが、ロクな活動を寄こしていないのも、認識してた。
   踏ん切りつかないアタシは……そのぬるま湯にダラダラと浸かってたんだ」

樹里「ハンパはしたくねーとか言っといてな……ほんと、自分勝手だよな、ハハ……」



咲耶「樹里……いや、これはプロデューサーに聞くべきだろうか」

武内P「……? 何でしょう、白瀬さん」

咲耶「一つ確認させてほしいんだ。
   樹里がアイドルを辞められなかったのは、樹里の気持ちだけじゃない」

咲耶「樹里の事を狙う者達がいるからだと、私は認識していたのだが……違うのかい?」

武内P「! ……どうして、それを」


凛「私が言ったんだよ」

武内P「渋谷さん……」

凛「プロデューサーや樹里だけが、抱え込んでちゃいけないと思ったから」

樹里「…………」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:51:25.82 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「どうか凛を責めないでほしい、プロデューサー」

咲耶「私も、天井社長から薄々話を聞かされていたから、何となくの察しはついている。
   だから……本当のことを聞かせてくれないか」


武内P「……正直に打ち明けますが、その通りです」

武内P「かの346プロのオーディションでの不正の事実を知る西城さんは、狙われている……
    身柄だけでなく、その命さえも」

未央「い、命……!?」

武内P「不正を知られて最も困るのは、346プロです」

智代子「そんな事まで……」

夏葉「なるほど、だからあなたは346プロではなく、961プロとして樹里をスカウトしたのね」

夏葉「それに、身柄の安全を確保するために樹里を匿おうにも、
   346プロとしてスカウトしたのでは樹里は応じないだろう、と」

武内P「はい、仰る通りです」


夏葉「だったら、樹里を救う方法はあるわ」

武内P「……?」

樹里「は?」
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:54:03.79 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「あのオーディションの実態を知る当事者が、ここにも一人いるのをお忘れかしら?」ニコッ


卯月「な、夏葉さん……!」

武内P「待って下さい、有栖川さん。良からぬ事を考えるのはおやめください!」

夏葉「何? 良からぬ事って」

武内P「あなたがこの問題に関わると、あなたにも危害が及ぶ事になります!」


夏葉「あまり自分で言いたくはないけれど、私も世界的な大企業を営む有栖川家の人間なの」

夏葉「当代たる父の影響力をフルに活用して、346プロの追求を牽制し阻む事は、不可能ではないわ」

夏葉「つまり、樹里ではなく、実際にそのオーディションに参加した私がその不正を告発する……
   もし私の身に何かあれば、有栖川グループの総裁が黙っていないだろう、ともね」

夏葉「実家に頼ることは本意ではないけれど、樹里を守るためなら是非も無いことよ。
   何より、当事者である私が告発した方が、信憑性も話題性も担保できる」

夏葉「どう? 何かご不満はあるかしら」ファサッ


武内P「う、うむ……」

未央「ブレの無いなつはしのつよさよ」ゴクリ…
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:55:47.06 ID:sUxM0O3Y0
樹里「余計な事をしないでくれ」

樹里「元々アタシが吹っ掛けた喧嘩なんだ。夏葉には関係ねぇ」

夏葉「あら。あのオーディションの参加者でないあなたよりは、関係あると思うけど?」

樹里「そういう事じゃなくて、あーもう……!」ワシャワシャ


夏葉「あなたの過去も知らずに、身勝手なことを言ったのは謝るわ」

夏葉「それでも、身勝手をさせてほしいのよ。
   あなたに気兼ねなく、アイドルを続けてもらえるように、ねっ?」ニコッ

樹里「……知るか」


智代子「……樹里ちゃん、聞いて」

智代子「私が立ち直れたのってね……
    樹里ちゃんがアイドル、やってくれたおかげなんだよ?」

樹里「…………」

智代子「ガラじゃねぇ、だなんて、あんなに恥ずかしがってた樹里ちゃんが、えへへ……
    私なんかのために、あんなに、一生懸命、キラキラで……」

智代子「すっごく練習、したんだろうなぁ、って……!」グスッ
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:58:14.87 ID:sUxM0O3Y0
智代子「だからね、樹里ちゃん?」ジワ…

智代子「樹里ちゃんがやってきたこと、ハンパなんかじゃ……!」

智代子「……ッ!」ゴシゴシ

智代子「ハンパなんかじゃ全然ないよっ!」

智代子「私はずっと! 樹里ちゃんに感謝しなくちゃ、って……だから!
    それを伝えるために、アイドルやってたい、って! 思って……!」

智代子「今度は、私の番だ、って、うぁ……お、思うから……っ!」ポロポロ

智代子「あぁ、アイドルってすごいなぁ、いいなぁ、って……!
    樹里ちゃんにも、おも……ひ、ぃ、思って、もらいた、て、わたし……!」

樹里「チョコ、もういい……もういいよ」

智代子「よくないっ!! い、ぃぅぅ……!」ボロボロ


樹里「アタシなんかのために、皆もう……そういうの、やめてくれよ」

樹里「怖くなっちまうんだよ……アイドルのことも、皆のことも……」



武内P「……西城さん。一つ、誤解されていることがあります」
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:59:58.70 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……?」

武内P「私が西城さんの仕事量を、意図的に少なくしていたのは、
    西城さんがこれ以上、アイドルに没頭するのを避けたかったからではありません」

樹里「知ってるよ……やべぇヤツらからアタシを守るためだろ?」

武内P「はい。ですが、それだけではありません」

樹里「え?」


武内P「私も、恐れたのです……プロデューサーとしての本来業務を果たす事を」


樹里「な……何だよ、それ?」


武内P「黒井社長から、先日指摘された事があります」

武内P「西城さんを表舞台に出そうと出すまいと、既に動向を観察している者はいる。
    どう立ち回ろうと、もはや注目は逃れられない、と……」

咲耶「…………」

夏葉「それじゃあ……なぜあなたは、樹里に目立った活動をさせずに匿い続けたの?」
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:01:41.90 ID:sUxM0O3Y0
武内P「資格が無いのではと、考えるようになりました」

武内P「私のような人間が、アイドルを輝かせようなどという資格が……」

未央「え……」

凛「……詳しく聞かせて」


武内P「……かつて、担当していたアイドルがいました」

武内P「聡明、かつ快活な人柄で、誰からも愛される、花のような人でした」

武内P「しばらくは、順調に活動を続けていたのですが……」


武内P「ある時、とある週刊誌に突然、彼女に関するゴシップ記事が掲載されたのです」

樹里「ゴシップ?」

武内P「男性芸能人との不倫……それも、一人や二人ではなく、あらゆる方面の……
    当然ですが、根も葉もないものでした」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:04:27.69 ID:sUxM0O3Y0
武内P「ですが……当事者たる芸能人達含め、関係者が皆、口裏を合わせたのです」

武内P「ゴシップであるはずのその記事は、やがて真実として各所で報道される事になりました」

智代子「そ、そんな……!?」


武内P「彼らにとっては、ある種の炎上商法と言うのでしょうか……
    多少の汚名よりも、話題性を得る事を良しとする者達で、結託をしたようです」

武内P「そして、それを指揮していたのは、
    当時ライバル関係にあったアイドル事務所のプロデューサーでした」


武内P「私の担当アイドルは、ご家族も含め、メディアに食い潰され……
    そのまま、引退に追い込まれたのです」


夏葉「何てこと……」

未央「そんな……後でそれがウソでしたって、釈明できなかったの!?
   そんなのあんまりだよ!」

武内P「もちろん、力を尽くしました。ですが……」

凛「覆せなかったの……? そんな、酷いことって……!」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:06:04.79 ID:sUxM0O3Y0
武内P「私は、そのライバル事務所のプロデューサーに、抗議をしました」

武内P「ですが、彼は鼻で笑い、こう答えたのです」


武内P「“事故”にあったようなものだ……
    この業界、こんなのはよくある事だろう、と」

武内P「これからは、身の振り方を弁えるんだな、とも……」

樹里「…………」


武内P「私は、怒りと憎悪に取り憑かれました」

武内P「不条理な動機と手段で、私の担当アイドルを社会的に殺したその男を」

武内P「何より、彼女の汚名を晴らすことができなかった、私自身の無力さにも」



武内P「だから私も……同じ事をしたのです」

凛「……!?」ピクッ
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:08:24.15 ID:sUxM0O3Y0
武内P「その男と、彼の担当アイドルを……“事故”に遭わせました」


一同「!!」


武内P「主に行うことは、業界関係者への根回しと誇大広告、SNS上での宣伝工作……」

武内P「興信所に依頼し、相手の汚点となるネタを掻き集め、
    これをマスコミや週刊誌にリークするなども行いました」

武内P「当時持っていた私財のほとんどを費やし……
    それでも足りない分は、事務所の資金を横領して、この活動に充てました」

武内P「あの時の私は、自分の行いは正しいのだと、信じて疑わなかった。
    いや……信じ込もうとしていた」

武内P「担当していた、彼女の無念を晴らすためなのだと」

武内P「後で自分や事務所がどうなろうと、関係無い。
    今すべきことに、全てをかけ、全てを失う覚悟で、私は……復讐を果たしました」


卯月「……ッ」ポロポロ

凛「プロデューサー……」


武内P「本懐を遂げた私に、やがて近づく男がいました。
    961プロの、黒井祟男社長です」
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:12:04.44 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……気になってた事がある」

樹里「アンタが346プロの人間であるのは分かったけどよ……
   961プロのプロデューサーだってのは、結局ウソだったのか?」


武内P「はい。厳密に言えば、正しくはありません。
    あくまで私は、346プロのプロデューサーです」

武内P「ですが、961プロにおいても、それとほぼ同等の権利を与えられている、ということです」

未央「……それって、つまり?」


武内P「黒井社長が私に、協力関係を持ちかけたのです」

武内P「有事の際に、961と346、双方にとって害を為す存在を抹消する……
    その手を下すことを、担ってくれないかと」

武内P「協力をしてくれるなら、私の社会的なステイタスを、全て保障する……
    確実に隠蔽するし、私が無断で横領した346プロの資金も、961プロが補填をしよう、と」

武内P「そうすれば、まだ貴様は、アイドルのプロデューサーを続けられるだろう……」


夏葉「……あなたはそれに従った、ということね」

武内P「そうです。そして……
    346プロの会長と961プロとで、正式かつ秘密裏に、契約が結ばれたのです」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:13:24.28 ID:sUxM0O3Y0
武内P「間接的に相手を陥れるものや、直接的なもの……
    “仕事”の内容は、様々でした」

智代子「直接的、ってどんな事、ですか……?」

武内P「とてもあなた方に、お教えできる事ではありません」

智代子「……!」ゾクッ

武内P「それだけの事を、私は重ねてきたのです」

咲耶「…………」


武内P「これは“事故”なのだ……よくある事なのだ、と……」

武内P「不条理に手を染める私の心を慰めたのは、皮肉にも、あの憎き男の言葉でした」

武内P「この行いは、私の担当アイドルのためなのだと」

武内P「そう、心の中で繰り返し、黙して“仕事”をこなしてきた……
    そんなある日の事でした」
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:15:47.07 ID:sUxM0O3Y0
武内P「繁華街を通りがかった時、路上で泣き叫ぶ一人の女性を見かけました」

武内P「見るからに正気ではなく、呂律も回っていない……
    みすぼらしい風貌の、若い人でした」

武内P「気にも留めまいと、通り過ぎようとしたのですが……
    よく見て、気がついたのです」


武内P「その女性は、私が陥れたあの男の、担当アイドルだった人でした」

樹里「……ッ!?」

卯月「もう、やめて……!」


武内P「何を言っているのかは分からない。
    ですが……あらん限りの憎しみや怨嗟を、周囲に吐き出しているのが見て取れました」

武内P「かつて復讐を遂げた相手の、変わり果てた姿を見て、私は……
    逃げるようにその場を後にしたのです」


武内P「その日以来、私は……眠ることが出来なくなりました」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:18:17.71 ID:sUxM0O3Y0
武内P「目を閉じると、瞼の奥に、私の担当アイドルとその女性の姿が重なるのです」

武内P「かつて“事故”に遭わせた、数々の芸能関係者達もまた……同じ末路にあるのだと」

武内P「私は、多くの光を奪った……その私が、誰かに光を諭す事など……」

武内P「まして活躍をさせて注目を浴びれば、同じ目に遭わせようとする者も現れるかも知れない……
    かつての私の担当アイドルや……私が陥れた者達のように」

武内P「だから、私は西城さんを、守るという名目で、活動をさせてこなかった……
    いえ、活動させることが出来なかったのです……」


凛「……やっと、分かった」

凛「プロデューサーの事だったんだね……復讐に身を任せ、暗く深い闇に堕ちた者って」

凛「取り返しのつかない所までいって、二度と光を見ることはできない……」

武内P「…………」


凛「でも……それでもプロデューサーは、助けようとしたんでしょ?」

凛「樹里のことを……樹里が、自分と同じ道を進んじゃう前に」

凛「苦しみを知っているからこそ、見過ごせなかったから助けた、って、言ってたじゃん」

樹里「……知らなかったぜ。そんな話をしてたのか」


凛「それで……樹里はもう、346プロにさほど怒りを抱いていない、って、それは本当?」
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:19:41.31 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……あぁ」

樹里「別に、凛達が346プロだって分かったからじゃない」

樹里「それにまだ、智代子を苦しめた事が許せねぇって気持ちも、もちろんある」

智代子「樹里ちゃん……」


樹里「でも、まぁ……薄れちまった、ってトコだ」ポリポリ


凛「ありがとう、樹里」

凛「だったら……プロデューサーはやっぱり、樹里を救ったんだよ」

武内P「……私が、西城さんを?」

凛「うん」コクッ

凛「だから、その……あんまり自分を責めなくてもいい、っていうか……」

夏葉「凛」

凛「えっ?」


夏葉「私はプロデューサーを許してはいけないと思うわ」
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:21:09.40 ID:sUxM0O3Y0
凛「ッ……!」

智代子「な、夏葉ちゃん、そんなまた水を差すような事…!」

夏葉「彼の話が本当であれば、簡単に見過ごして良いはずがないでしょう」


武内P「有栖川さんの言う通りです。
    元より私の大義は、復讐を果たしたあの時から、既に失っています」

武内P「いかなる誹りも裁きも、免れる事はできません」

武内P「そのために、西城さん」

樹里「……何だよ」


武内P「もし、有栖川さんのご提案に従うのであれば……
    あなたが346プロからその身を狙われる心配も無くなります」

武内P「つまり、自身を守るためにアイドルを続ける必要が、無くなるのです」

樹里「…………」


武内P「今後の方針を振り返るには、良い頃合なのかも知れません。
    私も……あなたを導く自信が、薄れてきている」

武内P「何者にも脅かされることなく、それまで通りの生活に戻る事も……あなたが望むのであれば」
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:22:40.89 ID:sUxM0O3Y0
智代子「樹里ちゃんのプロデュース……諦めるんですか?」

武内P「…………」


未央「ちょ……あ、あの、なつはし、ちょっと待って! あのさ!」

未央「プロデューサーを勘弁してあげるの、できないかな!?
   だ、だって! プロデューサーだって深い事情があって…!」

夏葉「事情があれば他人を陥れて良い道理があると、未央は思っているの?」

未央「うっ……!」ギクッ

卯月「夏葉さんっ……お願いです、そんな!」

咲耶「残念だけど、卯月、未央……夏葉の言っている事は正しい」

卯月「ううぅ……!」


夏葉「彼の手によって、智代子と同じ、いや……智代子以上に苦しめられた人達が何人もいる。
   その事実から、私達は決して目を背けてはならないわ」

凛「夏葉……」


夏葉「かと言って、責任から逃がれる事も許されないわよね」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:24:05.01 ID:sUxM0O3Y0
未央「へ?」

武内P「あ、有栖川さん……」

夏葉「聞こえなかったの?」

夏葉「樹里のプロデュースを辞める事は、逃げだと言ったのよ」


咲耶「樹里とプロデューサー……
   図らずも、二人の間に生まれたモラトリアムに、お互いが利害の一致を見たという訳か」

咲耶「そして、それを氷解するきっかけとなったのが、凛のお弁当だった」

咲耶「私達が考えるべきは、逃避なんかじゃない。
   過去に縛られ、道半ばで自ら夢を絶つなど、この業界に生きる者の本分ではないはずだ」


凛「咲耶……」

未央「えへへ……やっぱりさくやんってば、カッコイイこと言うよねー」ウリウリ

咲耶「そうかな。思ったことを言ったまでさ」ニコッ
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:25:27.61 ID:sUxM0O3Y0
樹里「み、皆……?」

卯月「……ねぇ、樹里ちゃん」

卯月「樹里ちゃんは、私達が構うの、迷惑ですか?」

樹里「め、迷惑……なんかじゃねぇって。この間も言ったろ?」

卯月「だったら!」スッ

ギュッ!

樹里「う、うわっ!?」ドキッ

卯月「もっともっと、そばにいさせてください」

樹里「……ッ!」

卯月「私達が差し伸べる手を、怖いなんて言わないでくださいっ!」

樹里「お、お前……」


智代子「えへ……えへへ」ニコニコ

智代子「モテモテですなぁ、樹里ちゃん?」

樹里「は、はぁ!?」
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:27:20.47 ID:sUxM0O3Y0
未央「ジュリアン、ユーもう観念しちゃいなよ。
   これだけのお節介焼きに囲まれて、逃げきる方が無理ってもんだよね?」

樹里「う、うるせぇ! お節介を焼く側が言う事かよ!」

未央「あはは、それもそっか!」ニコッ

凛「でも、未央の言う通りだよ」


凛「たとえ樹里やプロデューサーが諦めようと、私達は諦めたくない」

凛「これだけ深い間柄になれた人を、放っておけなんて……
  そんな悲しい事、言わないでよ」

武内P「渋谷さん……」

凛「大体、樹里のプロデュースを諦めるクセに、私達の事は何も言わないの、おかしいよね?」クスッ

武内P「う、む……」ポリポリ


咲耶「さて……私達の想いは、今述べた通りだ」

夏葉「あとは、あなた達の気持ち次第よ」


武内P「…………」

樹里「……おい、プロデューサー」

武内P「は、はい。何でしょう……?」
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:28:29.38 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ボール、取ってくれ」スクッ


智代子「……えっ!?」

未央「ちょ、ジュリアン…!」


樹里「まだ9対7だ、勝負は終わっちゃいねぇ。
   次はアタシがオフェンスだったよな」

武内P「し、しかし……」

樹里「いいから、ほら」クイッ


武内P「…………」スッ

樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ


樹里「ッ……!」ズキッ

武内P「…………」


ダムッ
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:29:52.48 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ダムッ


ダムッ


卯月「……あ、あれ?」

咲耶「リングから、遠ざかって……?」


武内P「あ、あの……西城さん?」

樹里「確か、ここだ」ダムッ

武内P「えっ?」


樹里「あの時、アタシがスリーを打ったのは、この辺りだった」スッ


凛「樹里……」



樹里「なぁ、プロデューサー。一つ賭けをしてみねぇか?」

武内P「賭け?」
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