侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part3

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1 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:04:27.72 ID:mgX0GYuD0
前スレ

侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1667055830/
侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671125346/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1673413466
2 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:10:51.27 ID:mgX0GYuD0

■ChapterΔ001 『伝説のポケモン』 【SIDE Yu】





──ウルトラスペースでの戦いから、早くも半年が経とうとしていた。

私と歩夢は、


侑「ふぁぁ……」

歩夢「侑ちゃん、眠そうだね? また、遅くまでバトル大会のビデオ見てたんでしょ?」

侑「ちょっとだけ……」
 「ブイ…」

リナ『昨日は4時まで見てた。すごい夜更かし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「……り、リナちゃん……!」

歩夢「もう……侑ちゃんったら……」


ゆったりとした日々を過ごしていた。

今日も歩夢から、ベランダ越しに寝不足を指摘されている。


侑「あはは……何もないと思うと……つい……」

歩夢「前の旅が終わってから、ちょっとだらけ過ぎだよ?」

リナ『また旅に出る?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うーん……って言ってもなぁ……」


私たちはあの戦いの後も、何度か旅をしているけど……ここ1ヶ月くらいはセキレイシティでのんびりしている。


侑「オトノキ地方の、どこを見て回ろうか……」

リナ『確かに、この半年で割と行きつくしたかもしれない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「結構な頻度でいろんなところ行ってたもんね……」

侑「うん……」


もちろん、旅に出たら出たで楽しいし、毎回新しい発見もあるけど……初めて旅に出たときに比べれば、目新しさというものはやはり減っている。


侑「なんかすっごくときめいちゃうような何か……ないかなぁ……」


なんて、ぼやいていたその時だった。


 「──なら、良いお話がありますよ!」

侑「え?」


空から声が降ってきて、上を見上げると──エアームドの背に乗って降りてくる少女の姿。


侑・歩夢「「せつ菜ちゃん!?」」

せつ菜「お久しぶりです! 侑さん! 歩夢さん! リナさん!」

リナ『せつ菜さん、久しぶり!』 || > ◡ < ||

 「ブイ♪」「シャボ」

せつ菜「イーブイとサスケさんもお久しぶりです♪」


せつ菜ちゃんはニッコリ笑いながら、私たちの前に止まる。
3 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:11:37.24 ID:mgX0GYuD0

侑「急にどうしたの!?」

歩夢「良いお話って……?」

せつ菜「ああ、そうでした! 私、今からある場所に向かおうと思っているんですが、せっかくなので侑さんと歩夢さんもお誘いしようと思いまして!」

侑「ある場所……?」
 「ブイ?」

リナ『どこなの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それは移動しながら、お話しします! 旅の準備をしてください!」

侑「わ、わかった……!」


私はバタバタと部屋へ戻っていく。


侑「って、あれ……!? ボールベルトどこ置いたっけ……!?」

リナ『だらけていた弊害が……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
 「ブイ…」

侑「あ、歩夢〜!! 手伝って〜!!」

歩夢「もう侑ちゃんったら♪ 今そっち行くから〜」

せつ菜「ちゃんと待っていますので、焦らず準備してください♪」


私は歩夢に手伝ってもらいながら、慌ただしく旅立ちの準備を始めるのだった。





    🎹    🎹    🎹





侑・歩夢「「──伝説のポケモンを探しに行く?」」

せつ菜「はい!」


南方面に向かって空を飛びながら、せつ菜ちゃんが私たちに話し始める。


せつ菜「半年前の戦い以降、この地方には何度かウルトラホールが開いたことがあったのは聞いていますよね?」

侑「うん。特に事件直後は、結構頻繁に開いてたんだよね」

リナ『私たちが行ったり来たりしてたからね。その影響でホール自体が少し開きやすくなってた』 || ╹ᇫ╹ ||


その影響で、事件収束直後もジムリーダーたちは町の護衛に大忙しだったし……私たちも何度か、ウルトラビーストの撃退に駆り出された記憶がある。


歩夢「でも、最近は落ち着いてきたんだよね……?」

せつ菜「はい。今では通常の頻度まで戻ったと伺っています」

侑「それと……伝説のポケモンを探しに行くことが関係してるの?」

せつ菜「はい! 実は、そのウルトラホールから……ファイヤーが飛び出してきたという噂があるんです!」

侑「ファイヤー? ……ファイヤーってあの……?」
 「ブイ?」

リナ『ファイヤー かえんポケモン 高さ:2.0m 重さ:60.0kg
   夜空 さえも 赤く するほど 激しく 燃え上がる 翼で
   羽ばたく 伝説の 鳥ポケモン。 昔から 火の鳥伝説として
   知られる。 姿を 見せると 春が 訪れると 言われている。』

せつ菜「はい! そのファイヤーです!」

侑「ど、どういうこと……?」


てっきりウルトラホールから飛び出すポケモンは、ウルトラビーストしかいないんだと勝手に思っていたから、まさに寝耳に水な話だった。
4 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:12:26.20 ID:mgX0GYuD0

せつ菜「私も気になって……この間、彼方さんにお会いしたときに聞いてみたんですが、ウルトラスペースの中には、この世界で言う伝説のポケモンと呼ばれる存在が生息している世界もあるそうなんです!」

侑「そうなの!?」


思わずリナちゃんを見ると、


リナ『うん、あるよ。私たちはウルトラスペースゼロって呼んでた』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな回答が返ってきた。


リナ『ウルトラスペースから何かの拍子にそういうポケモンたちが流れ込んでくる可能性は十分ある。そもそも、今鞠莉博士の手元にいるディアルガやパルキアも、ウルトラスペースから来たって博士は考えてたし』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「その話を聞いて、ますます信憑性が増してきました!! やっぱりファイヤーはいたんですね!!」

リナ『頻繁にホールが開く環境になってたから、起こり得ると思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

せつ菜「というわけで……!! 侑さん歩夢さんと一緒に、伝説のポケモンを探しに行きたいなと思いまして、お声を掛けさせていただきました!!」

侑「なにそれ! めちゃくちゃ楽しそう……! なんか、ときめいてきちゃった……!」
 「イブィ♪」

歩夢「確かに……珍しいポケモンに会えるなら、私も会ってみたいかも♪」

せつ菜「はい! お二人ならきっとそう言ってくれると思っていました! そして今から向かうのは、あそこです!!」


そう言ってせつ菜ちゃんは前方にある──大きな樹を指差す。

それは──オトノキ地方の中心に聳える大樹……。


侑「音ノ木……!」

歩夢「だから南に向かってたんだね」

せつ菜「はい!! なんでも最近、音ノ木の周辺ではポケモンの唸り声のようなものが聞こえることがあるそうなんです!!」

侑「それって……龍の咆哮……?」

せつ菜「という説も考えましたが……今はメテノの季節ではありません」

歩夢「じゃあ、その鳴き声は……」

せつ菜「はい!! 伝説のポケモンのものである可能性は十分にあると思います!!」

侑「あそこに伝説のポケモンが……!」


そう考えたら急にワクワクしてきた。


せつ菜「私たちで伝説のポケモンをこの目で確かめましょう!! そして、可能であれば戦って捕獲もしてみたいです!!」

侑「うん!! 行こう!! 音ノ木の頂上へ!! ウォーグル、お願い!!」
 「ウォーーーッ!!!!」

侑「歩夢! 振り落とされないようにね!」

歩夢「う、うん! わかった!」

せつ菜「エアームドも、行きますよ!!」
 「ムドーーーーッ!!!!」


私たちは音ノ木の頂上を目指します。



5 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:13:13.60 ID:mgX0GYuD0

    🎹    🎹    🎹





少しずつ高度を上げながら、頂上を目指す途中、


リナ『そういえばせつ菜さん。あの事件の後3ヶ月くらいは、ずっとローズに居たんだよね?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが思い出したかのように訊ねる。


せつ菜「はい! ペナルティで社会奉仕活動をしていたので! 毎日ゴミ拾いをして、ポケモンバトル施設で子供たちにポケモンバトルを教えたり……あと、ローズジムに代理で入った梨子さんのお手伝いと……とにかくいろいろしていました!」

侑「その後は、いつもどおり地方を巡って修行してたの?」

せつ菜「はい! お陰でポケモンたちもまた一回り強くなりましたよ!」

侑「じゃあ……! 強くなったポケモンたちと一緒に、チャンピオンの座を懸けて、またポケモンリーグに行くんだよね! そのときは呼んで!! 絶対に応援に行くから!!」


せつ菜ちゃんと千歌さんの戦いがまた見れると思ったら、それだけでときめいてきてしまう。

どんな予定があっても、応援に行きたい気持ちだったけど──


せつ菜「あ、え、えっと……はい! ありがとうございます!」


せつ菜ちゃんは少し歯切れが悪そうだった。


歩夢「せつ菜ちゃん?」

侑「どうかしたの……?」

せつ菜「あ、えっと、その……。……実は、今の私が千歌さんと戦っていいのか……少し迷っていまして……」

侑「え!? な、なんで!?」

せつ菜「私は……自分が図鑑所有者に選ばれなかったことが悔しくて、それをバネに頑張ってきたつもりでした……。……ですが、今の私は最初のポケモンもポケモン図鑑も持っています……」

侑「それは……そうかもしれないけど……」

せつ菜「前にも話しましたが……この地方の歴代チャンピオンは皆、ポケモン図鑑所有者です。……私はその歴史を塗り替えるつもりで戦っていましたが……こうして図鑑を頂いて……逆に目的を見失ってしまったと言いますか……」

侑「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「もちろん、千歌さんと戦うのが嫌なわけではありません。ですが、こんな気持ちのままチャンピオンの座を懸けて戦うのは、どうなのかなと……」

侑「…………そっか」


せつ菜ちゃんはせつ菜ちゃんなりに……自分がどうありたいのかを考えている途中なのかもしれない。


せつ菜「あはは、すみません……応援してくださっているのに、なんか変な感じになっちゃいましたね……」

侑「う、うぅん! 私も変なこと言っちゃってごめんね……! でも、どんな形であっても私はせつ菜ちゃんのこと応援してるから!!」

歩夢「私もせつ菜ちゃんがせつ菜ちゃんのペースで、なりたい自分を目指せれば、きっとそれが一番いいことだと思うよ♪」

せつ菜「侑さん……歩夢さん……。……ありがとうございます!」


そんな話をしながら私たちは、間もなく──音ノ木の頂上へとたどり着こうとしていた。



6 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:13:54.27 ID:mgX0GYuD0

    🎹    🎹    🎹





──大樹・音ノ木は雲まで届くほど大きな樹で、幹の太さはもちろん、葉も一枚一枚がとんでもない大きさをしている。

そして、頑丈で分厚く……人が乗っても問題がないくらいだ。

手を広げたように伸びている巨大な葉の上はほぼ平らで、安定した足場のようになっていた。


侑「……よっと」
 「ブイ」


私は掴まっていたウォーグルの脚から、音ノ木の葉っぱの上に飛び降りる。


せつ菜「ここが……大樹の頂上……」


せつ菜ちゃんもエアームドから飛び降り、辺りを見回している。

そして最後に、大樹の上に降り立ったウォーグルが、歩夢が降りやすいように身を屈める。


歩夢「ありがとう、ウォーグル♪」
 「ウォーグ♪」


ウォーグルにお礼を言い、頭を撫でながら、歩夢も大樹へと降り立つ。


歩夢「すごく広いね……」

せつ菜「そうですね……グラウンドくらいの広さはありますね……」

リナ『運動するには、風が強いけどね……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「標高が高いだけあるね……」
 「ブイ…」


ビュウビュウと強い風が吹く中……ふと──


侑「あれ……?」

歩夢「? どうかしたの?」

侑「……あれ……人じゃない……?」

せつ菜「え?」


私が指差した先には──二人の女の子がいた。

一人は薄桃色のロングヘアーを両側で結んでいる女の子。

もう一人はプラチナブロンドのショートヘアの女の子。

二人とも私たちに背を向けて、立ち尽くしている。


侑「こんなところで何してるんだろう……?」

リナ『それを言ったら、私たちも同じ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「まあ……確かに……」

せつ菜「は……まさか……! あの方たちも、伝説のポケモンの鳴き声を聞きつけて……!?」

歩夢「確かにせつ菜ちゃんが気付いたんだったら、他の人が気付いて同じことしててもおかしくないもんね」

せつ菜「はい! こうしてはいられません!! あのーーーーっ!!! すみませーーーーーんっ!!!!」


せつ菜ちゃんが声を張り上げながら走り出す。


ロングヘアーの子「什么?」
7 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:14:35.80 ID:mgX0GYuD0

ロングヘアーの子はせつ菜ちゃんの声に振り返る。


ショートヘアの子「何、ランジュ……助っ人でも呼んでたわけ?」

ランジュ「呼んでないわよ。貴方たち誰かしら?」


ランジュと呼ばれた女の子は、腕を組みながら私たちに問いかけてくる。


せつ菜「私はユウキ・せつ菜です! そして、こちらは侑さんと歩夢さん!」

侑「初めまして、侑です」

歩夢「あ、歩夢って言います……」


私たちが名乗ると、


ランジュ「初次见面。私はランジュ。ショウ・ランジュよ。そして、この子はミア・テイラー」

ミア「……」


自分と隣に居たショートヘアの女の子を紹介してくれる。


せつ菜「ミア・テイラー……?」

侑「……あれ、テイラーって……どこかで……」

歩夢「……?」


私とせつ菜ちゃんは、ショートヘアの女の子──ミアちゃんの名前が気になったけど……。


ランジュ「それはそうと、貴方たち……ここにいると危ないわよ」

侑「え?」


ランジュちゃんがそう言った直後──ゴォォォォッという音と共に、音ノ木の頂上一帯に急に強風が吹き荒れ始めた。


歩夢「き、きゃぁ!?」

侑「歩夢!?」


バランスを崩して転びそうになった歩夢を咄嗟に支える。


歩夢「あ、ありがとう、侑ちゃん……」

侑「怪我してない?」

歩夢「うん……」

せつ菜「な、なんですか……! この強風……!」


立っているのも困難なほどの強風が、絶えず吹き付けてくる。


侑「とりあえず……固まろう……! 吹き飛ばされちゃう……!」
 「ブ、ブイ…!!」

せつ菜「は、はい……!」

歩夢「サスケ、吹き飛ばされないようにね……!」
 「シャボ」


3人で身を低くしながら手を繋ぐ。
8 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:15:17.49 ID:mgX0GYuD0

ランジュ「だから言ったのに……」

せつ菜「い、一体何が起こっているんですか……!?」

ランジュ「……烈空坐──龍神様のお出ましよ」

侑「龍神……様……?」


吹き荒れる風の中──


 「──キリュリリュリシイィィィィィィ!!!」

侑「え!?」

せつ菜「なっ……!?」

歩夢「な、なに……!?」


そのポケモンは突然現れた。

緑色の巨大な体躯の──龍のようなポケモン。


 「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!」


そのポケモンは現れると同時に、大きな鳴き声を轟かせながら、私たちを睨みつけてくる。


リナ『レックウザ……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「レックウザって言うの……!? あのポケモン……!!」

せつ菜「まさか、本当に伝説のポケモンがいたということですか……!!!」


せつ菜ちゃんは心なしか嬉しそうだけど──歩夢は、


歩夢「……っ……!」


カタカタと身を震わせていた。


侑「あ、歩夢……? 大丈夫……?」

歩夢「あ、あのポケモン……ものすごく怒ってる……」

せつ菜「怒ってる……? 何にですか……?」

歩夢「……わ、わからないけど……とにかく、ものすごく怒ってるのはわかるの……」

ミア「そりゃま……寝覚めで機嫌が悪いんだろうね」


ミアちゃんが肩を竦めながらそんなことを言う。

寝覚めって……?


ミア「それよりランジュ……さっさとしてくれよ。このままじゃ、ボクたちまで吹き飛ばされかねない」

ランジュ「わかってるわよ。……レックウザ!!」

 「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!」

ランジュ「貴方──ランジュのモノになりなさい」


そう言いながら、ランジュちゃんは──ポケットから紫色のボールを取り出した。


侑「あ、あれって……!?」

せつ菜「マスターボール……!?」


ランジュちゃんはそれを振りかぶって──
9 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:16:16.99 ID:mgX0GYuD0

ランジュ「はぁ……!!」


レックウザに向かって投擲した。

──が、


 「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」


レックウザが一際大きな鳴き声を上げると同時に、周囲に強烈な風が発生し、


ランジュ「きゃぁ……!?」


マスターボールを風で弾き飛ばした。


ランジュ「ちょっとぉ……!! 絶対に捕まえられるボールだって聞いてたんだけど……!!」

 「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」


直後、レックウザは大きく身をしならせながら飛翔し──風を纏いながら、猛スピードでこっちに向かって突っ込んできた。


リナ『“ガリョウテンセイ”!? 逃げて!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんが叫ぶ。

だけど、強風でまともに身動きが取れない中、突っ込んでくるレックウザに対して、私たちは逃げる余裕すらない。

そのとき、


せつ菜「ウーラオスッ!!!!!」
 「──ラオスッ!!!!!」

侑「……!」


せつ菜ちゃんが手持ちを出しながら、私たちの前に立つ──


せつ菜「“あんこくきょうだ”!!」
 「ラオスッ!!!!!!」

 「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」


気合いの掛け声と共に前に踏み出し──突っ込んでくるレックウザに向かって、ウーラオスが正拳突きを叩き付ける。

ウーラオスの強烈な拳によって、レックウザの攻撃の軌道を上に逸らすことには成功したが──


侑「わぁっ……!!?」
 「ブイッ…!!!?」

歩夢「きゃぁっ!!!?」
 「シャボ…!!」

せつ菜「くっ……!!?」
 「ラオスッ…!!!」


弾ける風のエネルギーによって、私たちは音ノ木の上から吹き飛ばされる。

強烈な風によって宙に放り出された瞬間、


侑「ウォーグル!!」
 「──ウォーーーーッ!!!!」

せつ菜「エアームド!!」
 「──ムドーーーッ!!!!」


私とせつ菜ちゃんは、ウォーグルとエアームドをボールから出し、それぞれのポケモンの脚を掴む。

それと同時に──
10 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:16:51.00 ID:mgX0GYuD0

歩夢「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!?」


歩夢の悲鳴を聞き、すぐにそっちに顔を向ける。


侑「歩夢ッ!!!」


──歩夢は空を飛ぶ手段がほぼないに等しい。

私よりも遠くに飛ばされていた歩夢が空中でくるくる回りながら、落下しているのが見え、


 「ウォーーーーッ!!!!!」


ウォーグルが飛び出す。

落下する歩夢に向かって、ウォーグルで急降下しながら接近する。


侑「歩夢ーーーーーッ!!!」


大きな声をあげながら、歩夢に手を伸ばす。


歩夢「侑ちゃぁぁーーーーんっ!!!!」


歩夢も手を伸ばし、伸ばしたお互いの手は──すんでのところで届かずに空を掻く。


歩夢「ぁ……」

侑「ッ……!!! 歩夢ーーーーーーッ!!!!!」
 「ウォーーーーグッ!!!!!」


ウォーグルはスピードを上げながら、降下するが──重力にしたがって落ちていく歩夢のスピードはそれを上回っていて、どんどん引き離されていく。

高い高い大樹の上にいたはずなのに、猛スピードで落ちる歩夢の背後に──地面が見えてきた。


侑「歩夢ッ!!! 歩夢ーーーーーーッ!!!!!」


このままじゃ歩夢が地面に激突しちゃう……!!

なのに──歩夢との距離はどんどん離れていく。

そのときだった。音ノ木の大きな葉の上から、


 「──ピィーーーー!!!!」

歩夢「!? ピィ!!?」


1匹の小さなポケモンが飛び出してきて、歩夢に飛び付いた。

直後、歩夢の身体が光に包まれて──そのポケモンごと、消えてしまった。


侑「……な……!?」

リナ『き、消えちゃった!?』 || ? ᆷ ! ||


私とリナちゃんはその光景に驚きの声をあげる。


せつ菜「侑さーーーーんッ!!!!!」
 「ムドーーーッ!!!!!」


そこにせつ菜ちゃんも追い付いてくる。
11 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:17:32.90 ID:mgX0GYuD0

侑「せつ菜ちゃん……!! どうしよう、歩夢が……!!」

せつ菜「見ていました……! ピィが飛び付いてきたと思ったら、歩夢さんの身体が光に包まれて……!」

侑「あ、歩夢に何かあったら……ど、どうしよう……は、早く探さないと……!」

せつ菜「落ち着いてください侑さん……! 姿が消えたということは、少なくとも落下はしていないということです!」

侑「じ、じゃあ、どこに……」

せつ菜「リナさん、確か図鑑にはサーチ機能がありましたよね……?」

リナ『もうやってる。……だけど、歩夢さんの図鑑がサーチできない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「ど、どういうこと……?」

リナ『……少なくとも、私がサーチできる範囲内に……歩夢さんの図鑑が存在しない……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

せつ菜「サーチ範囲内って……具体的に、どれくらいの範囲なんですか……?」

リナ『……オトノキ地方全域くらいはカバーしてる』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「え……」


じゃあ、歩夢は……。


侑「歩夢は……どこに行ったの……?」





    🔔    🔔    🔔





ミア「……ランジュ。あいつら、落ちちゃったよ。どうすんの」

ランジュ「……ここまで自力で来られるトレーナーだったら、自分たちでどうにか出来るでしょ」

ミア「まあ……別にボクは構わないけど。……それよりも」


ミアは肩を竦めながら、


 「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」

ミア「そいつ……さっさとどうにかしてよ」


風を纏い、唸りながらこちらを睨みつけてくるレックウザをどうにかしろと言ってくる。


ランジュ「わかってるわ。レックウザ」

 「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」

ランジュ「ランジュがここに来たのは、貴方と交渉するために来たの」


そう言いながら、ポケットから──翠色に輝く珠を取り出す。


ランジュ「今、貴方はオトノキ地方に封じられてる自分の力を取り戻したいんじゃないかしら? それをランジュが代わりに集めてきてあげる」

 「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!」

ランジュ「ただ、その代わり、その力を集めてきたら──ランジュと戦いなさい」

 「…リュリシイィィィィィィ…!!!」

ランジュ「そして、全ての力を取り戻した貴方を倒したときは……ランジュに従いなさい」

 「…キリュリリュリシイィ」


レックウザはしばらくランジュの手にある宝珠を真っすぐ見つめていたけど──
12 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:18:13.74 ID:mgX0GYuD0

 「…キリュリリュリシイィィィィィィ」


程なくすると、高度を上げながら背を向けて、北の方へと飛び去って行った。


ミア「……あれ、ホントにわかってんの?」

ランジュ「大丈夫よ。栞子の言っていたとおりなら、レックウザは人の言葉を理解する知能はあるはずだし……少しでも早く力を取り戻したいレックウザにとっては、悪い話じゃないはずだからね」


恐らく飛んでいった先は、自分の力を取り戻しながら、休息の出来る場所だろう。

そして、ランジュの手元にある宝珠はレックウザのエネルギーに当てられたのか──何かに反応するように、光を脈打たせていた。


ミア「……それが、龍脈ってやつに反応してるの?」

ランジュ「ええ。そんなに大急ぎでやる必要はないけど、のんびりもしてられないわ。行くわよ、ミア」

ミア「命令しないでくれないかな……。ボクは自分の目的のために力を貸してるだけだよ」

ランジュ「大丈夫よ。すぐに証明してあげるわ──ランジュがミアの育てたポケモンを使って……最強のトレーナーになってあげる」





    🎹    🎹    🎹





ひとまず……私たちは地上に降りてきた。


侑「歩夢……」

せつ菜「リナさん、歩夢さんは本当に今この地方に居ないんでしょうか……?」

リナ『少なくとも……私の観測上ではそうとしか言えない……。図鑑が故障したって可能性ももちろんあるけど……歩夢さんが消えた瞬間に図鑑の反応も消えたから、壊れたよりかは私がサーチできる範囲の外に行っちゃったって考えた方がいいと思う』 || 𝅝• _ • ||

侑「とにかく……探さなきゃ……」


私は歩き出す。


せつ菜「侑さん、落ち着いてください……」

リナ『心配なのはわかるけど……どこにいるのか見当もつかないまま探しても……』 || 𝅝• _ • ||

侑「そうだけど……じっとなんかしてられないよ……」

せつ菜「侑さん、歩夢さんもあの戦いを乗り越えたトレーナーの一人なんです。これくらいのことでどうにかなったりしません」

侑「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「それに……侑さんが一番歩夢さんのことを信じてあげないといけませんよ。大切な幼馴染なんでしょう?」

侑「…………」


せつ菜ちゃんの言葉を聞いて、私は一度大きく息を吸って……深く吐く。

焦った頭に酸素が取り込まれて、少しだけ気分が落ち着いてくる。


侑「……ごめん、せつ菜ちゃんの言うとおりだ……私が歩夢のこと信じてあげないでどうするんだ……」

せつ菜「もちろん心配するなとは言いません。ですが、心配しすぎて焦ってはいけませんから」

侑「……うん」


とりあえず……今は落ち着いて、歩夢がどこに行っちゃったのかを考えないと……。

それを考え始めようとしたまさにそのとき、


 「──さっきの子は、朧月の洞って場所に飛ばされただけだよ」
13 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:19:06.58 ID:mgX0GYuD0

音ノ木の方から、そんな声が聞こえてきた。


侑「え?」


その声のする方へ振り返ると──そこには赤いメッシュの入った黒髪ロングの女性が、音ノ木の根本に立っていた。


侑「あなたは……?」

薫子「ああ、アタシは薫子って言うんだけどさ」

リナ『その服……もしかして、リーグの職員?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「あ……確かに、リーグ職員の方はそういう制服でしたね」


確かに言われてみれば彼女が着ている服は、どこかの組織の規定服のようなデザインをしていた。

かなり着崩しているせいで、言われないとわからないけど……。


薫子「うん、そうだよ。アタシはリーグの職員。実はここの監視を担当してるんだよね」

せつ菜「監視……? 音ノ木のということですか……?」

薫子「まあ、そんな感じ」

侑「あの……それで、さっき言ってた朧月の洞って言うのは……?」

薫子「あー……なんていうか、説明が難しいんだけどね。世界の狭間にある結界の中……みたいな場所かな」

侑「歩夢は……そこに居るんですか?」

薫子「うん、そうだよ」

リナ『どうして貴方はそんなこと知ってるの?』 || ╹ᇫ╹ ||

薫子「ちょっと事情があってね……妹がそこに住んでるんだよ。栞子って言うんだけどさ」


なんだか、よくわからないけど……。


侑「とりあえず……歩夢は無事……ってことでいいんですか……?」

薫子「うん、恐らく無事だよ。少なくとも地面に激突してるってことはない」

侑「そうなんだ……なら、よかった……」


歩夢はひとまず無事と考えていいと聞いて、少しだけ安心する。

もちろん、実際に顔を見ないと完全に安心することは出来ないけど……。


薫子「あーところでさ、君たちって、この間のDiverDiva事件を解決したトレーナーたちだよね?」

侑「え……どうしてそのことを……?」

薫子「こんな身なりでもリーグ職員だからね。一応、いろいろ知ってるんだよ。……んでさ、そんな君たちの実力を見込んでちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」

せつ菜「お願い……ですか……?」


──リーグ職員の人が、私たちに何をお願いするんだろう……と思ったけど、


薫子「……君たちにはレックウザを止めて……妹の──栞子を救ってやって欲しいんだ」


薫子さんが口にしたのは──そんな内容だった。



14 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/11(水) 14:19:52.92 ID:mgX0GYuD0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【大樹 音ノ木】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
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  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回●|     |        :  ||
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  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:270匹 捕まえた数:12匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:195匹 捕まえた数:51匹


 侑と せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



15 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 00:03:46.50 ID:7Lt++ad/0

 ■Intermission🎀



先ほどまで、猛スピードで音ノ木から落下していた私は──


歩夢「……ここって……」
 「シャボ」


気付けば……洞窟のようなところに居た。

いや、ここは……前にも訪れたことがある……。


歩夢「……朧月の洞……」

 「ピィ…」


気付けば私の足元にはピィが居て、ぴょこぴょこと跳ねながら鳴き声をあげる。


歩夢「また、あなたが助けてくれたんだね……ありがとう」
 「ピィ…」


ピィは一鳴きすると、ぴょこぴょこと奥の部屋へと歩いて行く。


歩夢「……付いてこいってことかな……?」


私がピィの後を追っていくと──


 「ピィ…」

歩夢「……え?」


ピィが心配そうに見つめる先に──


栞子「…………っ…………ぅ…………」


栞子ちゃんが倒れていた。


歩夢「栞子ちゃん……!!?」


私はすぐさま栞子ちゃんに駆け寄り、抱き起こす。


歩夢「栞子ちゃん!? 大丈夫!?」

栞子「……あな、たは…………あゆ、む……さん…………?」


栞子ちゃんは薄っすらと目を開けて、ぼんやりと私の名前を呼ぶ。

抱き起こした栞子ちゃんの身体は……すごく熱かった。


歩夢「栞子ちゃん、酷い熱……!」

栞子「…………あゆむ、さん…………」


栞子ちゃんが弱々しく私の袖を掴む。


栞子「…………わた……し…………ラン、ジュを……とめ……ない、と……」

歩夢「え……ランジュちゃん……?」

栞子「…………で、ない……と…………オトノキ……地方……が…………。…………」


その言葉を最後に──栞子ちゃんの腕が力を失って、落ちる。
16 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 00:04:50.39 ID:7Lt++ad/0

歩夢「栞子ちゃん!?」

栞子「………………ぅぅ……」


栞子ちゃんは高熱だけでなく、呼吸が浅く、顔色も真っ青を通り越して蒼白だった。


歩夢「このままじゃ危ない……!! サスケ! 手伝って!」
 「シャボッ」


私はサスケに協力してもらいながら、栞子ちゃんを背負い、


歩夢「ピィ!! 外に案内して……!! すぐにでも病院に連れて行かないと……!!」
 「ピィ…!!」


ピィと一緒に、外の世界に戻るために──朧月の洞の中を走り出した。


………………
…………
……
🎀

17 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 11:52:44.29 ID:7Lt++ad/0

■ChapterΔ002 『翡翠の巫女』 【SIDE Yu】





私たちは……あの後、音ノ木の大きな根っこに腰掛け、歩夢を待っていた。


侑「……ここに居れば、歩夢は戻ってくるんだよね……?」

せつ菜「薫子さんは、そう言っていましたね」

リナ『少なくとも、サーチはずっと続けてるから。サーチ範囲内に歩夢さんの反応があったら、すぐに知らせるよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん、お願いね。リナちゃん」


まさにそのときだった──突然目の前に、先ほど歩夢が消えた時と同じ光が発生する。


侑「……! これって……!」

リナ『! 歩夢さんの図鑑の反応! 目の前から!』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんの言葉と共に──


歩夢「──外……出られた……! ここは……音ノ木の根本……?」


歩夢が飛び出してきた。


侑「歩夢……!!」
 「ブイ!!」

せつ菜「歩夢さん!!」

歩夢「! 侑ちゃん! せつ菜ちゃん!」


私たちは歩夢に駆け寄る。その際──歩夢の背中に、女の子が背負われていることに気付く。

しかも、その子は──


女の子「………………ぅ、ぅ…………」


脂汗を掻き、顔面蒼白で、苦しそうに呻き声をあげている。


侑「そ、その子、大丈夫……!?」

歩夢「そうだ……! この子、すごい高熱で……今すぐにでも病院に連れて行かないと……!」

せつ菜「ここからだとセキレイの病院が近いはずです……! すぐにでも移動して──」

女の子「…………病院、は……やめて……くだ、さい…………」

歩夢「栞子ちゃん……!?」


歩夢に栞子と呼ばれたその子は苦しそうな息遣いのまま、


栞子「……私たち……翡翠の一族は…………表、舞台に……立っては……いけない…………病院は、困り、ます…………」

歩夢「でも……! 栞子ちゃん、すごい熱が出てて……!」

栞子「……ですが……病院は……ダメ……です……」


頑なに病院に行くことを拒否する。


栞子「……お願い……します……」

歩夢「でも……」
18 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 11:56:55.25 ID:7Lt++ad/0

歩夢は酷く困った表情をする。


せつ菜「……病院に行かないにしても、どこか休める場所に行く必要があります」

侑「……そうだね」

歩夢「でも……仮に私の家に連れて行っても……こんな苦しそうな子見たら、お母さんたちがお医者さんを呼んじゃうよ……」

せつ菜「それは……確かに……」

侑「病院に連絡されずに……事情を理解してくれそうな、落ち着ける場所なんて……」


私たちは困ってしまうが、


リナ『なら、セキレイに良い場所がある』 || ╹ᇫ╹ ||


それに答えたのはリナちゃんだった。


歩夢「本当……!?」

リナ『今連絡を入れちゃうから、みんな移動の準備をして!』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった……!」

せつ菜「栞子さんはエアームドの背中に固定して運びましょう。紐を出します」
 「ムドーー!!!」

歩夢「私、一緒に乗る……!」

せつ菜「はい、落ちないように見てあげてください!」

侑「それじゃせつ菜ちゃんはウォーグルの背中に乗って……!」
 「ウォーーグ!!」

せつ菜「はい! よろしくお願いします!」


エアームドが身を屈め、3人掛かりでその背に栞子ちゃんを寝かせ──せつ菜ちゃんが用意してくれた毛布と紐で身体を固定する。


栞子「…………あゆ、む……さん…………」

歩夢「少し苦しいかもしれないけど……我慢してね……」

栞子「………………は、い…………」


歩夢が栞子ちゃんと一緒にエアームドの背に乗る。


せつ菜「エアームド! 任せますよ!」

 「ムドーーッ!!」
歩夢「エアームド……お願いね」

侑「私たちも行こう……!」

せつ菜「はい!」


私たちは大急ぎでセキレイへと飛び立つのだった。



19 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 11:57:28.69 ID:7Lt++ad/0

    🎹    🎹    🎹





善子「──それで、私の研究所に来たってことね」


ヨハネ博士はそう言って肩を竦める。


せつ菜「すみません……押しかけてしまって……」

善子「大丈夫よ、ワケアリなんでしょ? それに貴方たちは私のリトルデーモンなんだから」

侑「ありがとうございます、ヨハネ博士……!」

善子「苦しゅうない」


ヨハネ博士は、ベッドに寝かされた栞子ちゃんに目を向ける。


栞子「………………すぅ…………すぅ…………」

歩夢「……よかった……やっと、落ち着いてきたみたい……」


栞子ちゃんはベッドに寝かされ、氷嚢を頭に乗せたまま、穏やかな寝息を立てていた。


善子「歩夢、しばらく看病してあげて」

歩夢「はい」

せつ菜「とりあえず……人が大勢居るとゆっくり休めないでしょうし……」

善子「そうね。私たちは一旦下の研究室に行きましょう」

侑「わかりました。……歩夢、後はお願いね」

歩夢「うん、任せて」


私たちは部屋を後にし、1階の研究室まで移動する。


善子「んで……何があったの?」

侑「えっと……」


私たちはとりあえず、起こったことをありのままに説明し始める。

音ノ木の頂上に伝説のポケモンを探しに行ったこと。

そうしたら、先客──ランジュちゃんたちが居たこと。

レックウザが現れて、吹き飛ばされ……落下する歩夢がピィと一緒に消えてしまったこと。

その後、現れた薫子さんという女性に、歩夢の無事を聞かされ……それと同時に頼み事をされたこと。

そして、薫子さんの言うとおり歩夢が戻ってきたと思ったら……ぐったりとした栞子ちゃんを背負っていた……。


善子「……情報量が多いわね」

せつ菜「あはは……確かに……」

善子「んで、その薫子って人から何を頼まれたの?」

侑「えっと……」


私たちは薫子さんとの会話を反芻しながら、話し始める──

20 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 11:58:02.64 ID:7Lt++ad/0

──────
────
──


侑「妹を……救って欲しい……?」

リナ『リーグ職員なら、リーグ主導で解決した方がいいんじゃない?』 || ╹ᇫ╹ ||

薫子「なんというか、そういうわけにもいかないというかさ……」


薫子さんはリナちゃんの言葉に頭を掻く。


せつ菜「どういうことですか……?」

薫子「実はアタシは……翡翠の民って呼ばれてる一族の末裔なんだ」

侑「翡翠の……民……?」

薫子「翡翠の民は、このオトノキ地方に棲んでる、怒れる龍神様を鎮めるために存在してるんだ」

せつ菜「怒れる龍神……? ……この地方に伝わる龍神伝説のことですか……?」

薫子「それそれ」

侑「でも……あれって、あくまで伝説で……」

薫子「火のないところに煙は立たないって言うでしょ? 龍神は実際に居るんだよ。そして、君たちはまさに今、その龍神を目の当たりにしてたじゃない」

侑「え?」


まさか、それって……。


侑「レックウザ……?」

薫子「そういうこと」

せつ菜「待ってください。龍神様は私たちを見守ってくれているんじゃないんですか? 確か伝説ではそういう内容だったような……」

薫子「……まあ、最初は守ってくれてたんだけどね……。……ちょっといろいろ事情が変わっちゃってさ。今は人間に対して、あんまり友好的じゃなくてね……」


そういえば、歩夢もレックウザは怒っているって言っていたっけ……。


薫子「んで、その怒りを鎮める役割を担っていたのが翡翠の民であり……その中でも、一番近くで龍神様のお世話をしていたのが、翡翠の巫女──アタシの妹の栞子ってわけ」

リナ『さっき、レックウザを止めて欲しいって言ってたけど……止めなくちゃいけないような状態ってこと?』 || ╹ᇫ╹ ||

薫子「本当は栞子がずっと怒りを抑えてたんだけどね……ちょっと事情が変わっちゃってさ」

侑「事情が変わった?」

薫子「上で、女の子に会わなかった? 薄桃色の髪した子」

侑「あ、はい。会いました。ランジュちゃんですよね?」

薫子「あの子がね……なんか、レックウザの封印を解いちゃったみたいでさ」

侑「え……!?」

せつ菜「ランジュさんが怒れる龍神様を解き放ってしまったということですか……!? それって、まずいんじゃ……」

薫子「そうなんだよ……結構まずいんだよねー」


薫子さんの雰囲気のせいか、全然危機感が伝わってこないけど……。

確かにあんなパワーを持ったポケモンが怒り狂ったまま解き放たれてしまったんだとしたら……相当まずい事態な気がする。


薫子「ただ……翡翠の民とリーグ協会はちょっと折り合いが悪くてねー……」

侑「折り合いが悪い……? 薫子さんってリーグの人なんですよね……?」

薫子「ま、表向きにはね」

侑「表向きには……?」
21 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 11:59:57.29 ID:7Lt++ad/0

私はその物言いに首を傾げてしまうが、


せつ菜「……まさか……!! 薫子さんは、翡翠の民を守るために、リーグに潜入しているという展開ですか!!?」


せつ菜ちゃんが目を輝かせながら言う。いや、さすがにそんなことは……。


薫子「簡単に言うとそんな感じかな」

せつ菜「やはりですか……!!」

侑「え、ホントにそうなの……!?」

せつ菜「つまり翡翠の民としては、自分たちの失態でレックウザが解き放たれてしまったということが、リーグに露見する前に解決したいということですね!!」

薫子「おー、理解が早くて助かるよ」

リナ『折り合いが悪いって言うのは具体的にどういうことなの?』 || ╹ᇫ╹ ||

薫子「説明すると長くなっちゃうから省くけど……翡翠の民はあくまで龍神様と共存する方針で、リーグは地方を守るために討伐しようとしてたって感じかな。まあ、正確に言うとリーグの前身組織の考えなんだけどね。大昔に考えの違いで対立してたってわけ」

リナ『それは今も続いてると……』 || ╹ᇫ╹ ||

薫子「今となってはリーグ上層部しか知らないことだけどね。ただ、意志としては生きてる。翡翠の民は龍神様を守る代わりに、それによって問題が起こった際には責任を取るって取り決めを大昔にリーグとしちゃってるってわけ。……だから、リーグ側が事態を解決しても、翡翠の民──特に翡翠の巫女は責任を取らされることになる。……それは避けたいんだ」

侑「救って欲しいって言うのは、そういうことか……」

せつ菜「だから、対立が発生する前に、私たちに解決して欲しいということですね!」

薫子「身勝手なお願いだってことはわかってる。リーグ側のスタンスも理解してる……でも、翡翠の民も、妹も……大事だからさ」

せつ菜「妹さんを想って単身敵組織に乗り込み、守ろうとする姿……感動しました!! 是非、お手伝いさせてください!!」


せつ菜ちゃんが目を輝かせながら、薫子さんの手を両手で捧げ持ちながら言う。


リナ『せつ菜さんが完全に雰囲気に呑まれてる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「あはは……」


確かにせつ菜ちゃんはこういう展開好きそうだけど……。


リナ『侑さんはどうする……?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……もし、私たちで解決出来るなら、変に対立が起こる前にどうにかしてあげたい気はするかな……」

リナ『いいの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「歩夢が飛ばされたのは翡翠の巫女の──栞子ちゃんが住んでる場所なんでしょ? だったら、歩夢を助けてもらった恩もあるわけだし……」

リナ『それは確かに』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「それにリーグの方針では最悪討伐になっちゃうわけだから……それなら、もっと友好的な解決を探したいなって思って」

リナ『わかった。そういうことなら、私は侑さんに協力する』 || > ◡ < ||


もちろん、どちらかにつくという話ではなく……あくまで無用な争いが起こらないように手を貸すだけだけど。


薫子「ありがとう。そう言ってもらえてホッとしてるよ……。それじゃ、アタシはリーグ内に情報が回らないように止めておくから」

せつ菜「はい!! 後のことは私たちにお任せください!! 必ず解決して見せます!!」

薫子「お願いね。朧月の洞に飛ばされた子は……恐らく戻ってくるときは入った場所の近くに出るはずだから、ここに居れば大丈夫なはずだよ」


──
────
──────

22 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:00:33.49 ID:7Lt++ad/0

せつ菜「──ということで、薫子さんのお願いを聞くことになりました!」

善子「あんたたち、安請け合いしたわね……」

侑「やっぱり……よくなかったですか……?」


ポケモンリーグは、この地方の治安を維持している組織でもある。

私たちの行動はある意味、治安を守る組織の意思に反した行動と取れなくもない……。

ただ、ヨハネ博士は、


善子「貴方たちが自分たちの意思で決めたのなら、私からは特に言うことはないわ。結果として、人とポケモンを守るための選択なわけだしね」


そんな風に言う。


せつ菜「はい! 博士ならそう言ってくださると思っていました!」

善子「ただ、やるからにはちゃんとやり遂げなさい。わかった?」

侑「はい!」

せつ菜「お任せください!!」

善子「よろしい。そうなると、あの翡翠の巫女の子……栞子にも事情を聞かないといけないだろうから、あの子の容態が落ち着くまではここに泊まって行きなさい。上の部屋は自由に使っていいから」

侑「ありがとうございます」

せつ菜「お世話になります!」


こうして私たちは、レックウザを止めることになったのだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「歩夢、入るよ」
 「ブイ」

歩夢「あ、侑ちゃん」


歩夢が栞子ちゃんを看病している部屋に入る。


侑「栞子ちゃん……どう?」


そう訊ねながら、栞子ちゃんを見ると──


栞子「…………すぅ…………すぅ…………」


穏やかな寝息を立てながら眠っている。顔色も随分よくなってきた気がする。


歩夢「大分落ち着いたよ。熱も下がってきたし……ヨハネ博士のくれた薬が効いたんだと思う」

侑「そっか……よかった」


安堵の息を漏らしながら、改めて眠っている栞子ちゃんを観察する。


栞子「…………すぅ…………すぅ…………」


歳は……私たちと同じか、少し下くらいかな……。

枕元には、
23 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:01:48.56 ID:7Lt++ad/0

 「ピィ…」


ピィが一緒に眠っている。


侑「この子が翡翠の巫女……」

歩夢「え……? 侑ちゃん、なんでそのこと……」

侑「歩夢……そのことについて、ちょっと聞いて欲しい話があるんだ」

歩夢「聞いて欲しいこと……?」





    🎹    🎹    🎹





歩夢「……そんなことになってたんだ……」


私は歩夢を部屋の外へ呼び、先ほどヨハネ博士にしたのと、同じ内容を説明した。


侑「それで……私とせつ菜ちゃんは薫子さんに協力することにしたんだけど……」

歩夢「もちろん、私も協力するよ。栞子ちゃんのこと……放っておけないし」


まだ部屋の中では栞子ちゃんが眠っているからか、声のボリュームを抑え気味にしながら、歩夢が協力の意思を伝えてくれる。


侑「わかった。それじゃ、せつ菜ちゃんにもそう伝えておくね」

歩夢「うん、お願いね。私はもう少し栞子ちゃんのこと見てるから……」

侑「了解。あ……栞子ちゃんの容態がよくなるまで、ここに泊まっていいってヨハネ博士が言ってたから」

歩夢「あ、そうなんだね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな……」

侑「うん。それじゃ、また後で様子見に来るね」

歩夢「はーい♪」





    🎹    🎹    🎹





部屋を後にし──再び1階に戻ると、


善子「そういえば菜々、最近ポケモンリーグに行ってないって聞いたわよ」

せつ菜「あ、えっと……はい」


せつ菜ちゃんとヨハネ博士の会話が聞こえてきた。
24 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:02:43.06 ID:7Lt++ad/0

善子「千歌が、貴方が来ないって連絡を寄越してきてね……今まで、それなりの頻度で挑戦しに来てたから、突然来なくなって心配してるみたいよ」

せつ菜「…………」

善子「千歌も、自分が全力で戦える相手が出来て嬉しいんだと思うわ。また行ってあげたら?」

せつ菜「あの……そのことなんですけど」

善子「ん?」

せつ菜「私……もう、チャンピオンを目指すのは止めようと思うんです……」

善子「どうして?」

せつ菜「それは……。……その……」


せつ菜ちゃんはヨハネ博士に訊ねられて歯切れが悪くなる。……確かに最初のポケモンと図鑑を貰ったからなんて、ヨハネ博士本人には言いづらいだろう……。

だけど、ヨハネ博士はそんなせつ菜ちゃんの様子を見て、


善子「……はぁ……」


溜め息を吐いた。


善子「……貴方が今、何考えてるか当ててあげるわ」

せつ菜「え?」

善子「今の自分がチャンピオンになっても、結局図鑑を持った選ばれたトレーナーだから……今までのような、普通のトレーナーでも、チャンピオンになれるんだって証明にならない。そう思ってるんでしょ」

せつ菜「ど、どうしてそれを……」

善子「貴方はわかりやすいからよ」

せつ菜「……。……あの、そういうことなので……私はもうチャンピオンを目指すのは……」

善子「……菜々」


ヨハネ博士が名前を呼び、


せつ菜「……なんですか?」


せつ菜ちゃんが顔を上げるのと同時に──


善子「てい!」

せつ菜「いた!?」


頭にチョップした。
25 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:05:40.31 ID:7Lt++ad/0

善子「菜々。貴方は……図鑑を貰っただけでチャンピオンになったつもりなの?」

せつ菜「え……?」

善子「確かにこの地方の歴代チャンピオンは皆ポケモン図鑑所有者だったかもしれない。でも、図鑑所有者が全員チャンピオンになったわけじゃない。それなら私だってとっくにこの地方のチャンピオンよ」

せつ菜「それは……」

善子「目的に掲げていたものがなくなって戸惑うのは理解出来る。でも、貴方がポケモンバトルをしていたのは、図鑑を持っていなかったからなの?」

せつ菜「……違います。……ポケモンバトルが……好きだからです……」

善子「でしょ? それにチャンピオンになったトレーナーは、最初のポケモンと図鑑を貰ったから、チャンピオンになったんじゃない。……誰よりも、ポケモンのことを信頼して、強くなることにひたむきに向き合って努力し続けた結果なの。それは貴方が一番よくわかってるでしょう?」

せつ菜「……はい」

善子「本当にチャンピオン──最強のトレーナーになることに興味がなくなったのなら、私は何も言わないわ。だけど、図鑑を貰ったことが理由だって言うなら……そんなものチャンピオンになってから考えなさい。まだ、貴方は一度も千歌に勝ててない。今でもチャレンジャーなんだから」

せつ菜「……はい」

善子「……あと個人的なわがままを言うなら……」

せつ菜「……?」

善子「私も……自分のもとから旅立ったトレーナーがチャンピオンになる姿を見てみたい……」

せつ菜「ヨハネ博士……」

善子「もし、目的を見失ってどうすればいいのかわからなくなっちゃったなら……私の夢を一緒に叶えることを目的にして欲しいわ。菜々がチャンピオンマントを背負う姿を……私に見せて」

せつ菜「……博士……。……わかりました、いつか必ず……博士にチャンピオンマントをお見せします。……私、この地方の……チャンピオンになります……!」

善子「ん、よろしい。……それでこそ、私が見つけ出した最高のリトルデーモン・菜々よ……。……頑張りなさい」

せつ菜「……はい!」


影から二人のやり取りを見ていた私を見てリナちゃんが、


リナ『侑さん、入らないの?』 || ╹ ◡ ╹ ||


そう訊ねてくる。


侑「邪魔しない方がいいかなって」


ヨハネ博士が、図鑑を渡したトレーナーたちに優劣を付けているわけじゃないけど……それでもせつ菜ちゃん──菜々ちゃんとの絆は少し特別なものだろうから。


リナ『……そうだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「ちょっと散歩でもしてこよっか」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||


少しの間、セキレイの街を散歩することにしたのであった。





    🎹    🎹    🎹





──翌日。


歩夢「……うん! 熱も下がってる!」

栞子「……すみません、ご迷惑をお掛けしてしまって……」


栞子ちゃんの容態はすっかり安定していた。


栞子「皆さんも……助けてくださって、ありがとうございます……」
26 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:06:29.93 ID:7Lt++ad/0

栞子ちゃんはベッドの上で、三つ指をつきながらお礼を言う。


せつ菜「お気になさらないでください! 困ったときはお互い様です!」

侑「栞子ちゃんが元気になったなら、それで大丈夫だよ♪」

栞子「ありがとうございます……」


栞子ちゃんは重ねてお礼を言ってから、


栞子「改めまして……私は栞子──ミフネ・栞子と申します……。この子は家族のピィです」
 「ピィ」


そう自己紹介をする。


侑「私は侑。タカサキ・侑。この子は相棒のイーブイ」
 「ブイ♪」

せつ菜「ユウキ・せつ菜です!」

リナ『リナだよ。侑さんのポケモン図鑑』 || ╹ ◡ ╹ ||

栞子「侑さんとイーブイさん、せつ菜さんにリナさんですね。よろしくお願いします」


栞子ちゃんは私たちの顔を順番に見たあと、また恭しく頭を下げる。

すごく礼儀正しい子みたいだ。


歩夢「それで……何があったのか、聞いてもいい?」

栞子「……えっと、その前に……翡翠の巫女について説明させてください。……私は翡翠の民と言われる一族で──」


翡翠の民と翡翠の巫女について説明を始める栞子ちゃんを見て、せつ菜ちゃんが耳打ちしてくる。


せつ菜「……あの……本当に薫子さんのこと……言わなくていいんでしょうか……」

侑「……薫子さんが言わないで欲しいって言うんだから、とりあえず言わない方がいい……んだと思う」


──実は、薫子さんに会ったことは、栞子ちゃんには伝えないで欲しいと言われている。


薫子『栞子はアタシが今ポケモンリーグにいることを知らないんだよね。あの子真面目でね……きっとその話聞いたら、ショック受けちゃうだろうから、可能であれば栞子には言わないでくれると助かるかな……。もちろん、説明しなくちゃいけない状況になったら君たちの判断で言ってもらっても構わないから、アタシがそんなこと言ってた程度に捉えておいてくれると助かるよ』


とのことだった。

なので、可能な限り薫子さんに会ったことは黙っておくことにしている。
27 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:07:42.83 ID:7Lt++ad/0

栞子「──……私は、龍神様にお仕えする巫女をしていました……」

歩夢「その龍神様が……私たちが音ノ木の頂上で見た、レックウザだったんだよね……?」

栞子「……はい」

歩夢「レックウザ……すごく怒ってたけど……」

栞子「……すみません」

歩夢「あ、ご、ごめんね、責めてるんじゃなくて……。どうして、怒ってたのかなって……」

栞子「それは……私が封印を強めて、閉じ込めていたからなんです……」

侑「閉じ込めていた……?」

せつ菜「翡翠の巫女は龍神様のお世話をする存在なのではないんですか?」

栞子「本来はそうなのですが……。……龍神様は地方に何かしらの異変が起こると、地方のポケモンたちを守るために外に出て行かれてしまうことがあるんです……」

リナ『それって、何か問題があるの?』 || ╹ᇫ╹ ||

栞子「はい……。……龍神様はポケモンは守りますが……基本的に人間を守る気はないんです」

歩夢「え……?」


歩夢が困惑した声をあげた。

いや、困惑したのは歩夢だけじゃない……私たちもだ。


侑「昔聞いたお伽噺とかだと……龍神様は、この地方を見守ってくれてるって聞いてたから……てっきり、私たち人間も見守ってくれてるんだと思ってたんだけど……」

せつ菜「私もそういう理解をしていました。……違うんですか……?」

栞子「それを話すには……少しオトノキ地方の歴史に触れないと説明が難しいのですが……。長くなってしまうので……」

歩夢「……わかった。とりあえず、龍神様はポケモンを守るけど、人のことは守ってくれないから、解き放つと大変って理解しておけばいい?」

栞子「はい、概ねその理解で合っています。私たち翡翠の民は、そういうときに龍神様の怒りが世界に向かないように鎮めるのが役割なんです……。……そして、どうしても鎮めきれない場合……翡翠の巫女は儀式によって、龍神様の力を一時的に封印するんです」

リナ『一時的にってどれくらい?』 || ╹ᇫ╹ ||

栞子「龍神様が落ち着かれるまでです……。……3年前は私の巫女としての力が未熟だったため、外に出て行かれてしまったんですが……今回はどうにか、抑えていたんです」

歩夢「ま、待って……! 落ち着くまでずっと抑えてたって……事件が起こったのは、もう半年も前だよ……?」

栞子「……はい。ですから、半年間……抑え続けていました」

歩夢「栞子ちゃん一人で……!? 半年間も……!? そんなことしたら、倒れちゃって当然だよ……!」

栞子「……ですが、それが翡翠の巫女の役割なんです……」


その封印の儀式というのが、具体的にどういうものなのかわからないけど……それでも、半年間ずっと怒れる龍神様を抑え続けていたのは、栞子ちゃんにとって相当な負担だったに違いない。

どうりで、あんなに疲弊しきっていたわけだ。

むしろ、事情を聞いてからだと……1日眠っただけで、ここまで快復出来たことの方が驚きかもしれない……。


せつ菜「……あれ? でも、栞子さんは龍神様を抑えられていたんですよね……? でも、龍神様は……?」

栞子「はい……。……封印の儀式を継続している最中に、幼馴染が──ランジュが現れて、儀式を中断させられてしまったんです……」


それは薫子さんに聞いた話とも合致する。問題は……。


侑「どうしてランジュちゃんはそんなことを……?」

せつ菜「私たち、ランジュさんには音ノ木の頂上でお会いしているんですが……」

栞子「そうだったんですね……。……ですが、私にも理由がわからなくて……」

歩夢「ランジュちゃんは何か言ってなかったの……?」

栞子「……すみません……龍神様が解き放たれたときの衝撃で……私は気を失ってしまったので……」
28 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:09:05.22 ID:7Lt++ad/0

つまり、ランジュちゃんの目的は栞子ちゃんにもわからないらしい。

ただ……。


侑「ランジュちゃん……レックウザに向かって、ボールを投げてたよね」

せつ菜「はい。失敗していましたが……」

栞子「捕獲しようとしていたということですか……? ですが、今の状態では捕獲は難しいと思います……」

歩夢「どういうこと?」

栞子「今の龍神様は……力の大半を封印されている状態のまま解き放たれています。モンスターボールはポケモンが持っている固有のエネルギーに反応して、機能すると伺ったことがあるのですが……」


栞子ちゃんの言葉を聞いて、私たちの視線がリナちゃんに集中する。


リナ『うん。モンスターボールは確かにそういう方法で、ポケモンを判別してる』 || ╹ᇫ╹ ||

栞子「ですので、今の不完全な状態の龍神様は、逆にポケモンとは認識されづらくなっているはずです……」

侑「なるほど……」

せつ菜「だから、マスターボールでも捕獲出来なかったんですね……」


しかし、それはそれとして……。


侑「ランジュちゃんはなんで、レックウザを捕獲しようとしてるんだろう……?」

栞子「それは……私にもよくわかりません……」

せつ菜「とりあえず……それは本人を探して聞くしかなさそうですね」

歩夢「でも、今どこにいるんだろう……」


私たちは歩夢の救出に手一杯で、あの後ランジュちゃんがどこに行ったのかは全くわかっていない。

だけど、


栞子「……もし、ランジュが龍神様を捕獲しようとしているなら……龍神様の封印を完全に解こうとするはずです。恐らく、オトノキ地方にある龍脈に向かったんだと思います」


栞子ちゃんには心当たりがあるようだ。


歩夢「龍脈って……?」

栞子「翡翠の巫女は、龍神様の膨大なエネルギーを封じるために儀式によって、龍神様の力を音ノ木を介して大地に流すんです。大地に流れ出した龍神様のエネルギーは龍脈というエネルギースポットに自然と集まっていきます。ですので、各地の龍脈を訪れて龍神様のエネルギーを回収して、お返しすれば……恐らく龍神様の封印を完全に解くことが出来ると思います」

侑「じゃあ、その龍脈の場所に行けば……!」

栞子「ただ……龍脈は一定の場所に定まっているわけではなくて……時代によって移り変わってしまうので、見つけるには王都にある宝珠が必要なはずなんです」

侑「王都……?」


王都なんて呼ばれてる場所……オトノキ地方にあったっけ……?

いや、そもそも王様がいないし……。
29 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:10:08.36 ID:7Lt++ad/0

せつ菜「……もしかして、ダリアシティのことですか?」

侑「え? ダリア?」

せつ菜「はい。ダリアは遥か昔、オトノキ地方を統治していた王族が住んでいたと言われている場所なので……」

栞子「せつ菜さんの言うとおり、今はダリアシティがある場所ですね。……そこに宝珠が保管されているはずなんですが……」

歩夢「じゃあ、ランジュちゃんはそこからその宝珠を持って行っちゃったってこと……?」

栞子「わかりません……。……ですが、実際に行って確認をした方がいいかもしれません」

リナ『なら、行き先は決まったね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん。とにかく、一旦ダリアシティに行ってみよう」
 「イブイ♪」


私たちはかつての王都こと──ダリアシティに向かうことになった。





    🎹    🎹    🎹





侑「それじゃ、ヨハネ博士! 行ってきます!」
 「ブイ♪」

善子「行ってらっしゃい。何かあったら、連絡しなさい」

せつ菜「ありがとうございます!!」

栞子「ご迷惑をおかけしました……」

善子「栞子、貴方も何かあったら言いなさい。寝床くらいなら、いつでも貸せるから」

栞子「はい……! ありがとうございます……!」


ヨハネ博士に見送られながら、私たちはダリアに向かうために、ポケモンたちを出す。


侑「ウォーグル!」
 「──ウォーーッ!!!」

せつ菜「エアームド!」
 「──ムドーッ!!」

せつ菜「歩夢さんは侑さんと一緒にウォーグルに乗ると思うので……栞子さんはエアームドに一緒に乗っていただけると……」

栞子「あ、いえ……! 私も飛べるポケモンは持っているので……! 出てきてください!」


そう言いながら、栞子ちゃんがボールを放ると──


 「ウォーーー…」


ボールからウォーグルが飛び出す。


侑「栞子ちゃんもウォーグル持ってたの……!? ……って、あれ……? なんかちょっと見た目が違うような……」


栞子ちゃんの出したウォーグルは、私のウォーグルと違って、白と灰色の羽を持ち、冠羽も紫色で特徴的な目のような模様が浮かんでいる。

さらに、私のウォーグルに比べると体も一回り大きい気がする。
30 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:10:45.60 ID:7Lt++ad/0

リナ『ヒスイウォーグル……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ヒスイウォーグル……?」

リナ『ウォーグル(ヒスイのすがた) おたけびポケモン 高さ:1.7m 重さ:43.4kg
   敵を 見つけると 鬼気迫る 大きな 雄叫びを 上げ
   大きな体を 使って 狩りを 行う。 湖の 水に 向かって
   衝撃波を 放ち 水面に 浮かんできた 獲物を 捕まえる。』

リナ『すごく珍しいリージョンフォルム』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「久しぶりだね、ウォーグル」
 「ウォー」


歩夢は顔見知りなのか、ウォーグルの頭を撫でている。


歩夢「そういえば、栞子ちゃん……ダリアの場所はわかる?」

栞子「え、えっと……大まかに西側ということくらいなら……」

歩夢「それなら、私が一緒に乗って案内するよ♪」

栞子「は、はい! そうして頂けると助かります!」

歩夢「侑ちゃん、私、今回は栞子ちゃんのウォーグルに一緒に乗せてもらうことにするけど……いい?」

侑「え? う、うん、構わないけど……」

歩夢「うん! それじゃ、ウォーグル。お願いね♪」
 「ウォーグ…」


歩夢が身を屈めたヒスイウォーグルの背に乗り、


栞子「歩夢さん、後ろから失礼します。……落とされないように、気を付けてくださいね」

歩夢「はーい♪」


栞子ちゃんがそのすぐ後ろに座る。

私のウォーグルよりも一回り体が大きいから、背中に二人乗せても大丈夫なようだ。


栞子「ウォーグル、飛んでください!」
 「ウォーーーグ」


栞子ちゃんの指示と共に、ヒスイウォーグルが飛翔する。


せつ菜「それでは侑さん! 私たちも参りましょう!」

侑「うん、そうだね!」

 「ウォーーグッ!!!!」「ムドーーーッ!!!」


私たちもポケモンたちの力で空へと飛び立ち、ダリアシティへ向けて飛び立つのだった。



31 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/12(木) 12:11:20.18 ID:7Lt++ad/0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:270匹 捕まえた数:12匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.68 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.64 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.64 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:249匹 捕まえた数:24匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:195匹 捕まえた数:51匹

 主人公 栞子
 手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
      ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
      ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
      マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 侑と 歩夢と せつ菜と 栞子は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



32 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/13(金) 12:14:37.91 ID:fZboHQww0

■ChapterΔ003 『オトノキ地方』 【SIDE Yu】





空を飛んで数十分ほど。

ダリアシティの大時計塔が見えてくる。


侑「ウォーグル、降りるよ」
 「ウォーグ!!」


私が高度を落とすと、それに合わせてせつ菜ちゃんと栞子ちゃんも一緒に降下を始める。


侑「到着っと……ここまで、ありがとう。戻って、ウォーグル」
 「ウォーグ──」


ウォーグルをボールに戻しながら、ダリアのポケモンセンターの前に降り立つ。


せつ菜「ここに王家の秘宝が眠っているんですね!! なんだか、宝探しみたいでワクワクしてきました!!」

リナ『微妙に大袈裟になってる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……。……それで、栞子ちゃん。どこに行けばいい?」


歩夢がそう訊ねるけど、


栞子「え、えっと……」


栞子ちゃんはダリアの街をキョロキョロと見回しながら、狼狽えている様子だった。


歩夢「栞子ちゃん……?」

栞子「あ、あの……ここがダリアシティ……なんですよね?」

歩夢「え? う、うん」

栞子「その……私が昔写真で見たものとは全然様相が違うと言いますか……」


そう言いながら、栞子ちゃんがバッグから写真を1枚取り出す。

それをみんなで覗き込むと──それは白黒の写真だった。


侑「こ、これ……もしかしてダリアの写真……?」
 「ブイ?」

栞子「はい……。……これが旧王都の今の姿だと……」

せつ菜「……100年以上前の写真な気がしますね」

歩夢「そういえば……歴史の教科書で見たことあるかも」

リナ『カメラが一般普及し始めたくらいに資料として撮られた街並みの風景だね。私のデータベースにもあるよ』 || ╹ᇫ╹ ||

栞子「そ、そうなのですか……!? すみません……これがそんなに古い写真だったなんて……。……私、小さい頃から翡翠の民の里と、朧月の洞以外の場所はほとんど見たことがなくて……」

歩夢「うぅん、大丈夫だよ♪ どこに宝珠が保管されてるかは聞いてる?」

栞子「詳しくはわかりませんが……ダリア王家と翡翠の民が地方を守るために預けた宝珠ですので、王家の名残のある場所にあるはずです。ダリア王宮はどこでしょうか?」

せつ菜「だ、ダリア王宮ですか……!?」


せつ菜ちゃんが眉をハの字にしながら声をあげる。


栞子「は、はい……どうかされたんですか……?」

歩夢「えっと……ダリア王宮は、100年前にあった地震で修復不可能なくらいの損傷を受けて……安全のことも考えて解体されたの……」

栞子「え……!?」
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