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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2
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2 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 02:43:12.12 ID:eLOLjL7n0
■Chapter049 『雪山にて』 【SIDE Shizuku】
──事が起こったのは、かすみさんがヒナギクジム戦を終えた次の日のことだ。
かすみ「よーーっし!! それじゃ、グレイブマウンテン目指して、レッツゴ〜!!」
「ガゥガゥ♪」
しずく「その前に……ちょっと、じっとしてて」
かすみ「へ? なになに?」
しずく「これから行く場所は山だから……山は絶対に甘く見ちゃいけない場所」
かすみ「う、うん……」
しずく「だから──お守り」
私は、そう言ってかすみさんの髪の左側に──髪飾りを付けてあげる。
かすみ「これって……」
2つの三日月と星があしらわれた髪飾り。
しずく「これ、御守り。星や三日月は厄除けや幸運を呼び込む象徴として、グレイブマウンテンに登山する人が好んで身に着けるんだって♪」
かすみ「もしかして、買ってくれたの……?」
しずく「うん♪ 昨日、町を巡ってるときに見つけて……かすみさんに似合うかなって」
かすみ「……えへへ、嬉しい♪ ありがと、しず子♪ これがあれば、絶対遭難しないね!」
「ガゥガゥ♪」
しずく「ふふ、そうだね♪」
──登山にかこつけてプレゼントしたけど……歩夢さんが侑先輩から贈ってもらった髪飾りを見て、私も何かかすみさんに贈りたいと思ったというのが本音だ。
かすみさんには、感謝してもしきれないことがたくさんある。
だから、万が一何かがあったとしても、この月と星が、かすみさんを守ってくれればという願いを込めて……。
しずく「それじゃ、行こっか♪」
かすみ「うん! 今度こそレッツゴ〜!!」
「ガゥ♪」
💧 💧 💧
グレイブマウンテン登山を始めて、数時間。
かすみ「ふぅ……もう結構登ってきた?」
「ガゥ!!」
しずく「そうだね……一旦休憩しようか」
かすみ「うん」
雪の上に座ると濡れてしまうので、シートだけ敷いてから、二人で腰を下ろす。
かすみ「それにしても、思ったよりは登りやすいね。かすみん、もっとキツイの想像してたから、ちょっと拍子抜け〜……」
しずく「ヒナギクが面してる南側は、登山道があるからね。でも、北側から登るのはかなり過酷らしいよ」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/12/16(金) 02:47:04.39 ID:eLOLjL7n0
尤も……私たちの目的は登頂ではないので、北側に近付くことはないんだけど……。
しずく「そろそろ、クマシュンの生息域に入ったと思うし……山登り自体はここまでかな」
かすみ「あとは見つけるだけだね!」
しずく「って言っても……ポケモン自体が少ないから、簡単には見つからないだろうけどね……」
ここまで登ってくる最中も、遭遇した野生ポケモンはバニプッチを1匹見かけた程度。
過酷な環境なこともあって、大きな山の面積に対して、ポケモンの数は圧倒的に少ない。
加えて……保護色になっているポケモンが多いため、目を凝らしていないと見落としてしまう。
生息域に入ったからと言って、そう簡単に遭遇出来るわけじゃ──
かすみ「あれ? あそこにいるのって、もしかしてクマシュンじゃない!?」
しずく「え……!?」
かすみ「ほら、あそこ」
かすみさんが指差す方向に目を凝らすと──確かに遠くの斜面に小さなシロクマのようなポケモンが歩いていた。
しずく「ホントだ……!? まさか、こんなにすぐに見つかるなんて……!」
かすみ「ふっふ〜ん、褒めてくれていいんですよ〜」
しずく「うん! すごいよ、かすみさん!」
かすみ「それで、クマシュン……捕まえるの?」
確かに、当初の目的ではクマシュンを会ってみたいと言って、グレイブマウンテンまでやってきたわけだけど……。
しずく「……うん! せっかくなら捕獲したい……!」
ここまで来て、せっかく野生のクマシュンに遭遇することが出来たわけだ。可能であれば、捕獲したい。
しずく「クマシュンは、臆病なポケモンだから……こっそり近付かないと……」
かすみ「それじゃかすみん、ここで待ってるね! 二人で動くと、見つかっちゃうかもしれないし……」
しずく「わかった、それじゃ行ってくるね」
かすみ「ここで見てるから頑張ってね、しず子!」
しずく「うん!」
かすみさんに見送られながら、雪を踏みしめて、クマシュンの方へと歩を進める。
一面が真っ白なせいで、距離感を測るのが難しいが……クマシュンのいる場所まで、恐らく十数メートルと言ったところ。
出来る限り音を立てないように努めながら、雪を踏みしめていく。
「クマァ…」
クマシュンは私にはまったく気付いていない様子で、座り込んだまま、雪を丸めて遊んでいる。
距離は十分に詰めた……!
しずく「出てきて、サーナイト……!」
「──サナ」
「クマ!?」
クマシュンがこちらに気付くが、この距離ならすぐ逃げられる心配はない。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/12/16(金) 02:49:18.02 ID:eLOLjL7n0
しずく「“サイコショック”!」
「サナーーー」
サーナイトが前方に手をかざすと、クマシュンの周囲にサイコパワーで作り出しキューブが出現し── 一気に襲い掛かる。
「ク、クマァ…!!!」
クマシュンが念動力の衝撃で、コロコロと雪の上を転がる。
「ク、クマァ…」
クマシュンは戦闘慣れしていないのか、そのまま雪の上にへばってしまう。
しずく「これなら、すぐに捕獲できそう……!」
私はボールを構えて、クマシュンの方に走り出し──た瞬間、
「クマァァァァァァ」
クマシュンが大きな“なきごえ”をあげた。……というか、
しずく「!? な、泣かせちゃった……!?」
「クマァァァ…クマァァァァ…」
クマシュンはポロポロと大粒の涙を零しながら、泣き出してしまった。
しずく「あ、え、えっと、ご、ごめんなさい、そんな、泣かせるつもりなんかじゃなくって……」
まさか、野生のポケモンに泣かれると思っていなかったので、動揺してしまう。
動揺で次の行動に迷っていた、そのとき──
「──ベアァァァァ!!!!!」
しずく「!?」
山側の方から、野太い鳴き声が降ってきて、視線をそっちに向けると、
「──ベァァァァァ!!!!!」
大きなシロクマのようなポケモンが、猛スピードで斜面を駆け下ってきているではないか。
しずく「つ、ツンベアー……!? もしかして、あのクマシュンの親!?」
まさか、あの泣き声──親のツンベアーを呼ぶためのもの!?
しずく「さ、サーナイト!! “サイコキネシス”!!」
「サナ」
迫り来るツンベアーを無理やり、“サイコキネシス”で食い止める。
「ベ、アァァァァァ!!!!!」
強力な念動力で動きを止められたツンベアーは雄叫びをあげながら──口から強烈な冷気を吐き出してくる。
「サ、サナ…」
しずく「これは、“こおりのいぶき”……!」
5 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 02:51:31.82 ID:eLOLjL7n0
冷たい吐息で、サーナイトの体が急激に霜に包まれ、パキパキと凍り始める。
それによって、集中が切れてしまったのか、
「ベアァァァァァ!!!!」
“サイコキネシス”の制止を振り切って、ツンベアーがこちらに向かって、再び猛スピードで突っ込んでくる。
しずく「サーナイト、戻って!!」
「サナ──」
ここは選手交代……!
しずく「バリヤード!!」
「──バリバリ♪」
バリヤードは足から発した冷気で、氷を作り出し、それを蹴り上げて壁にする。
しずく「“てっぺき”!!」
「バリバリ♪」
「ベアァァァァァ!!!!!」
──ガァンッ!! と音を立てて、ツンベアーが氷の壁に衝突する。
間一髪だ……!
かすみ「しず子ー!!」
名前を呼ぶ声に気付いて振り向くと、かすみさんがこっちに向かって駆けよってきている。
しずく「かすみさん! 私は大丈夫だよ!」
かすみ「ほ、ホントにー!?」
しずく「むしろ、ツンベアーも一緒に捕まえられそうで、嬉しいくらいだよ……!」
もともとクマシュンが欲しかったのは、ハチクさんと同じツンベアーに憧れていたからだ。
なら、これはむしろ好都合……! クマシュンと一緒に捕獲してしまいたいくらいだ。
かすみ「でも、クマシュン逃げちゃいそうだよー!?」
しずく「え!?」
言われてクマシュンの方に目を向けると、
「ク、クマァ…」
親のツンベアーが戦っている間にクマシュンがとてとてと逃げ出していた。
「ベアァァァァァ!!!!!」
その間にも、ツンベアーは氷の壁を“ばかぢから”で殴りつけ、それによって、壁にヒビが入る。
しずく「“マジカルシャイン”!!」
「バリバリ〜!!!」
氷の壁越しに、強烈な閃光を放ち、
「ベアァァッ!!!!?」
6 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 02:52:41.05 ID:eLOLjL7n0
ツンベアーを一瞬怯ませる。その隙に、私はクマシュンの方へと駆け出す。
ここまで来て、逃げられましたなんて終わり方は、私もさすがに嫌です……!
「ク、クマーー…」
駆け寄ってくる私に驚いたのか、クマシュンは頑張って逃げようと足を速めるが、
「クマッ!!!?」
それが原因で、逆に足をもつれさせて、雪の上にぽてっと転ぶ。
クマシュンはもう、目と鼻の先……!! 今なら……狙える……!!
しずく「行け……!! モンスターボール!!」
私はクマシュンにモンスターボールを投擲した。
モンスターボールは真っすぐクマシュンに当た──ると思いきや、おかしな方向にすっぽ抜けていった。
しずく「あ、あれ……? も、もう一回です……!!」
私は振りかぶって、もう一度ボールを投げます……!
今度こそ、ボールはクマシュンに吸い込まれるように一直線に飛んで──行くことはなく、明後日の方向にすっ飛んでいきました。
かすみ「しず子、ノーコンすぎでしょ!?」
しずく「もう〜!? なんで!?」
自分が球技が苦手なのは知っていたけど、まさかこんな至近距離の相手にボールが当てられないなんて思わなかった。
自分のノーコンっぷりに失望しながらも、
しずく「直接ボールを押し当てるしかない……!!」
相手は転んだクマシュンだ……!! ボールを直接押し当てさえすれば、捕獲出来る……!
私が駆け出すと同時に、
「ベァァァァァ!!!!!」
かすみ「しず子ーー!! 後ろーーー!!」
ツンベアーの雄叫びとかすみさんの声。
“マジカルシャイン”での目くらましに、もう目が慣れて追ってきたのだろう。
しずく「間に合って……!!」
クマシュンに手を伸ばそうとした、そのときだった──
突然、ゴゴゴ……と地鳴りのような音が山側から聞こえてきた。
咄嗟に音のする方に目を向けて──私は目を見開いた。
しずく「嘘……」
前兆なんて全くなかった。なのに私たちに向かって──雪崩が押し寄せてきているではないか。
今すぐ身を翻して、逃げようとしたが、
「ク、クマァ…!!!!」
7 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 02:55:16.29 ID:eLOLjL7n0
クマシュンは完全に押し寄せる雪崩にビビッてしまい、動けなくなっていた。
しずく「い、いけない……!?」
私は持っていたボールを放り捨てて──クマシュンに覆いかぶさって、庇うように胸に抱きしめる。
かすみ「しず子ッ!!?」
響く、かすみさんの声。
直後──私は轟音を立てながら押し寄せる雪崩に、クマシュンもろとも飲み込まれた。
一瞬で視界が真っ白に染まり、身体が大量の雪に押し流されていく。
「──ベアァァァァァ!!!!!!」
雪崩の轟音の中、一瞬ツンベアーの声を聞いた気がしたけど──私の意識は間もなく、真っ白な闇に呑み込まれていった──
💧 💧 💧
🎹 🎹 🎹
侑「──かすみちゃーん!!」
かすみ「ゆ゛う゛せ゛んぱーい……っ……」
ウォーグルの“そらをとぶ”を使って、超特急でグレイブマウンテンまでやってきた私たちは、かすみちゃんを見つけて、降り立っていく。
かすみ「……どうじよう゛、ゆ゛う゛せ゛んぱいぃぃ……っ……しず子がぁぁ……っ……」
「ガゥゥ…」「バリバリ…」
泣きじゃくるかすみちゃん。そして、そんなかすみちゃんを心配そうに見つめるゾロアと、困り果てた様子のバリヤード。
歩夢「かすみちゃん、落ち着いて……! 大丈夫だから……!」
かすみ「ひっく……えぐ……っ……あゆ゛む゛せ゛んぱいぃ……っ……」
歩夢がかすみちゃんを抱きしめて、背中を優しく撫でて落ち着かせる。
侑「私、探してくる……!! 歩夢はかすみちゃんをお願い!」
「ブィ!!」
歩夢「うん……! 気を付けてね……!」
侑「行くよ、ウォーグル!!」
「ウォーーー!!!!」
8 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 02:57:50.30 ID:eLOLjL7n0
ウォーグルと一緒に、再び飛翔する。
──大体の事情は、通話で歩夢がどうにかこうにか、パニックを起こしているかすみちゃんから聞き出してくれた。
しずくちゃんと一緒にグレイブマウンテンまでクマシュンを捕まえに来た事。
その最中に予兆もなく発生した雪崩に襲われ、クマシュンを庇ってしずくちゃんが巻き込まれてしまったこと。
かすみちゃんもどうにか、流されたしずくちゃんを助けようとしたけど……崖下まで流されてしまって、とてもじゃないけど、救出に行けなかったこと……。
侑「リナちゃん! しずくちゃんの図鑑の位置わかる!?」
リナ『すぐサーチする!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナちゃんが、バッグから飛び出してくる。
私は右手でウォーグルの脚を掴んだまま、左手でリナちゃんを掴んで、マップ表示を確認する。
侑「そんなに遠くない……!」
「イブィ!!」
リナ『地図だと平面的な位置しかわからない……! Y軸は私が口頭でガイドする! とりあえず、下に降りて!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「うん! ウォーグル! 行くよ!」
「ウォーーッ!!!!」
私はウォーグルに掴まったまま、図鑑の反応を頼りに、谷へと下っていく──
💧 💧 💧
「──フェロ」
──ものすごく美しいポケモンが居た。
その色香は、見ているだけで私を狂わせる、最上の美……。
私はそこに向かって手を伸ばす。
噫、もっと、もっと近くで見たい……触れたい……。
──この美しさに、一生溺れていたい……。
私は手を伸ばす。
あと少しで、それに触れられそうになった──そのとき、
──『しず子っ!!!』
声が響いて、私は手を止めた。
──『あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?』
かすみさんが、私に向かって、叫んでいた。
──『毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんな変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!』
かすみさんの声が、私の中で木霊している。
私は──
しずく『……そうだ……こんなものに……こんなまやかしに……負けちゃ、ダメだ……!!』
私は、目の前の幻想を──振り払った。
9 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:02:22.71 ID:eLOLjL7n0
──
────
──────
──なんだか、おかしな夢を見た。
しずく「──……ん……」
目が覚めると──そこは薄暗い場所だった。
しずく「ここ……どこ……?」
身を起こそうとして、
しずく「痛……っ……」
身体のあちこちが痛くて声をあげる。
そうだ、私──雪崩に巻き込まれたんだ……。
しずく「そうだ、クマシュンは……!?」
「クマ…」
クマシュンが私の胸の中で声をあげる。
しずく「よかった、無事だったんだね……」
「クマ…」
クマシュンが無事で一安心。だけど……周囲を確認する限り、ここは谷底だろうか……?
頭上を見上げると、遥か遠くに空が見えた。かなり落ちてきたに違いない……。
確かに身体は痛むけど……骨が折れたり、打撲しているような激痛ではない。どうして、自分が助かったのが不思議でならなかったけど──その答えは、私のすぐ下にあった。
「ベァァァ……」
しずく「え!?」
私の真下から聞こえてきた鳴き声に驚きながら、目を向けると──
「ベァ……」
真っ白な巨体──ツンベアーの姿だった。
どうやら私は、今の今まで、ツンベアーの上で気を失っていたようだった。
お陰で骨折も打撲もせずにすんだが……。
しずく「ツンベアー……貴方が助けてくれたんですか……?」
「ベァァ…」
ツンベアーはかなり衰弱していた。
私はすぐにツンベアーから降りて、バッグから小型のライトを出して、ツンベアーの体を確認する。
脚に触れると、
「ベ、ベァァ…」
10 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:03:08.17 ID:eLOLjL7n0
ツンベアーが苦悶の声をあげる。
恐らく、脚の骨が折れている……。しかもこの高さ……折れているのは脚だけじゃないかもしれない。だから、ここから動けないんだ……。
しずく「どうして、私を庇ったりなんか……」
「ベァァ…」
私の問いにツンベアーは、
「クマ…」
首をクマシュンに向けて、答える。
しずく「私が……クマシュンを庇ったから……?」
「ベァァ…」
しずく「……ごめんなさい。そもそも、私がクマシュンを驚かせたりしなければ良かった話なのに……」
「ベァァ…」
ツンベアーはゆっくり首を振る。
しずく「……ありがとう。……貴方は絶対に私が助けます。だから、今だけでいいので……ボールに入ってくれますか……?」
「ベァ…」
弱々しく頷くツンベアー。私は頷き返して、ボールを押し当てた。
──パシュンと音を立てて、ツンベアーがボールに入る。
「クマァ…」
しずく「大丈夫。貴方もちゃんと、私がお家に返してあげますよ」
「クマァ…」
それくらいの責任は果たさなくてはいけないだろう。
とはいえ、どうしたものか……。
私は飛行の手段を持っていない。
アオガラスでは私をぶら下げたまま、“そらをとぶ”のは無理だろうし……。
しずく「……そもそも、さっきの雪崩……」
そうだ、そもそもさっきの雪崩はなんだったのだろうか……?
前兆が全くなかったというか……目の前で急に雪が襲い掛かってくるような……妙な違和感があった。
まるで、雪崩が意思を持って、私たちを狙ってきていたような……。
しずく「……さすがに考えすぎでしょうか……?」
「クマ…?」
しずく「……とりあえず、少し移動しましょうか……。もしかしたら、どこかから、上に登れるかもしれませんし……」
「クマ」
歩き出そうとして──
しずく「あ、あれ……?」
脚に力が入らず膝を突いてしまう。
しずく「な、なに……?」
11 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:04:58.75 ID:eLOLjL7n0
身体が……重い……。
気付けば吐く息は真っ白で──私の肩に、膝に、腕に、霜が降りている。
しずく「や、やっぱり……なに、か……へ、ん……」
「ク、クマ…」
──急激に気温が下がって、空気を吸い込むたびに肺が痛くて、苦しくなってくる。
熱を奪われ、身体がどんどん動かなくなっていく。
しずく「……ぐ……」
急激な寒さに、思考もどんどん重くなっていく。
しずく「だ、めだ……!!」
「クマ…」
考えを止めちゃダメだ──これは明らかに異常だ。
寒くて、身体の動きがどんどん鈍くなっていく中──私はゆっくり首を動かしながら、周囲の様子を伺う。
すると──私の周囲に……何か、キラキラしたようなものが舞っていることに気付いた。
それは、谷底に僅かに差し込む光を反射して、ささやかにその存在を主張している。
まさか──
しずく「細氷……?」
細氷──即ち、ダイヤモンドダストと呼ばれる現象だ。
大気中の水蒸気が氷結する現象。だけど、細氷の発生条件は氷点下10℃以下でないと発生しないと言われている。
急に、ここの気温が下がった。ここは確かに寒い場所だけど、そこまで急に起こるとは考えづらい。なら──
しずく「外的要因で空気が冷却されている……!」
私は、寒くて震える腕に力を込めて──ボールベルトのボールの開閉ボタンを押し込んだ。
「──カァァーーー!!!!!」
しずく「アオガラス……っ、“きりばらい”……っ」
「カァァァァァ!!!!!」
アオガラスが、周囲の冷たい空気を吹き飛ばす。
すると──すぐに体感でわかるくらいに、気温が上がるのが肌で感じられた。
しずく「やっぱり……! 私たちの周辺の空気だけ、気温が下げられてた……!」
「クマ…」
何かわからないけど──目に見えない敵がいる……!
しずく「逃げなきゃ……!!」
私が走り出そうとした瞬間、
しずく「きゃっ!?」
私は前につんのめって転んでしまう。
しずく「こ、今度は何が……!?」
12 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:22:21.00 ID:eLOLjL7n0
自分の足に目を向け、驚愕する。
私の足に氷で出来たような鎖が巻き付き──氷漬けにしているではないか。
姿の見えない敵。氷の鎖。超低温を操る能力。こんな能力を兼ね備えたポケモンは1匹しか思い当たらない……!
しずく「フリージオ……!!」
「────」
名を呼ぶと、大きな氷の結晶のお化けのようなポケモンがパキパキと音を立て、結晶化しながら姿を現した。
フリージオが姿を現すと──より一層冷気が強くなり、私の足から足首へ、足首からふくらはぎへと氷が侵食してくる。
フリージオは氷の鎖で獲物を捕まえて連れ去る習性がある。その獲物というのは──もちろん、私だ。
しずく「まさか、さっきの雪崩は貴方が“ゆきなだれ”で起こしたもの……!?」
「────」
上にいる時点で私は狙われていたということだ。そして、まんまと谷底に落とされ──このままでは氷漬けにされる。
しずく「う、ぁ……」
どんどん身体が凍り付いていく。
──絶体絶命なそのとき、
「──“めらめらバーン”っ!!!」
「イ、ブィッ!!!!!!」
「────」
空から、炎を身に纏った、イーブイがフリージオ目掛けて、飛び込んできた。
炎の直撃を受けると、フリージオは蒸発するように掻き消える。
この技が使えるのは……!
しずく「ゆ、う、先輩……っ……!」
侑「しずくちゃん、大丈夫!? イーブイ!」
「ブイ!!」
イーブイが私の足元に近付き、炎でゆっくりと氷を溶かしてくれる。
しずく「あ、ありがとう、ございます……」
侑「うぅん、しずくちゃんが無事でよかった……。それよりも、今のポケモンは……」
リナ『今のポケモンはフリージオだよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナ『フリージオ けっしょうポケモン 高さ:1.1m 重さ:148.0kg
体温が 上がると 水蒸気に なって 姿を 消す。 体温が
下がると 元の 氷に 戻る。 氷の 結晶で できた 鎖を
使い 獲物を 絡め取り マイナス100度に 凍らせる。』
しずく「“とける”で姿を消しています……侑先輩、気を付けてください……」
侑「気を付けるって言っても、相手が見えないんじゃ……!」
しずく「確かに……まずはどうにかして、姿を捉えないと……!」
このままじゃ、全員じりじりと体温を奪われていって最後には氷漬けにされて連れ去られてしまう。
そのとき、
「ブイ…!!!」
13 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:24:52.94 ID:eLOLjL7n0
イーブイがぶるぶると震えだす。
侑「イーブイ、どうしたの……?」
次の瞬間──イーブイの前方に、黒い結晶体が成長を始めた。
しずく「な、なんですか……!?」
侑「ま、まさか……!?」
リナ『新しい“相棒わざ”!! “こちこちフロスト”だよ!! イーブイがこの雪山の環境に適応したみたい!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||
「イ、ブイッ!!!!」
その結晶体は成長しきると、バキンっと砕け散って、周囲に黒い霧状のものをまき散らす。
それと同時に、
「────」
フリージオが突如、姿を現した。
しずく「フリージオが現れた……!?」
リナ『“こちこちフロスト”は“くろいきり”と同質の氷の結晶で相手を攻撃する技だよ!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||
侑「そうか……! それで、“とける”が解除されたんだ……!」
確かに“くろいきり”は相手の変化技を打ち消す技だ。侑先輩のイーブイが覚えた新しい技のお陰で窮地を脱したらしい。
「────」
自分が姿を消せないことを悟ったフリージオは、すぐさまここから離脱しようと、ふわりと浮き上がって上昇していく。
しずく「逃がしません……!! アオガラス、“ドリルくちばし”!!」
「カァーーーー!!!!!」
“ドリルくちばし”でフリージオを攻撃すると──フリージオはそれに合わせて、猛スピードで回転し始める。
リナ『“こうそくスピン”で威力を殺してる!?』 || ? ᆷ ! ||
「────」
攻撃を最小限に抑えきったフリージオはアオガラスを弾き飛ばし──今度こそ、上昇していく。
しずく「お、追いかけなきゃ……!!」
見失うと間違いなく厄介なことになる。
あのポケモンは今倒しきるべきだ。
侑「しずくちゃん!! ウォーグルの背中に乗って!!」
しずく「は、はい! クマシュン、アオガラス、行くよ!」
「クマ…」「カァーーー!!!!」
クマシュンを抱きかかえて、ウォーグルの背に飛び乗る。
侑「ウォーグル、飛んで!!」
「ウォーーー!!!!!」
14 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:26:13.89 ID:eLOLjL7n0
ウォーグルの飛翔に合わせて、侑先輩がウォーグルの脚にしがみつく。
力強い羽ばたきで一気に上昇する──が、思ったようにフリージオと距離が詰められない。
それどころか──
侑「ひ、引き離されてる……!」
リナ『さ、さすがに重量オーバー!? 二人乗せたまま戦うのは無茶だよ!?』 || ? ᆷ ! ||
しずく「わ、私やっぱり降ります……!!」
侑「一人になって谷底で襲われたら、さっきみたいに逃げ場がなくなっちゃうって!!」
しずく「でも……!!」
見失ったら“とける”でまた姿を消されて、それこそ繰り返しになる。
そんな私たちの問答を打ち切ったのは──
「カァーーー!!!!!」
アオガラスだった。アオガラスは足を開いて、私の両肩を掴む。
しずく「アオガラス……!? 貴方まさか……!?」
そして、バタバタと激しく羽ばたき始めた。
すると──
侑「う、浮いた……!? アオガラスが持ち上げて飛んでる……!!」
しずく「アオガラス、貴方……」
「カァァーーーー!!!!!!!」
──ポケモンは時に、ライバルと言える相手を見つけると、その潜在能力が開花することがあるらしい。
奇しくも、アオガラスの進化系のアーマーガアと、ガラルの地で空の派遣を争ったと言われるポケモンは──ウォーグルだ。
自分も鳥ポケモンなのに、ご主人様がウォーグルの背に乗って飛ぶ姿が──アオガラスの闘争本能に火を点けた。
「カァァァァァーーーー!!!!!!!!!」
そして、その闘争本能は──アオガラスに新しい姿と力を与えた。
しずく「進化の……光……!!」
──噫、やっと……やっと、貴方と飛翔べるんだ……!!
しずく「……行こう──アーマーガア!!」
「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
アーマーガアは今度こそ私の肩をガッチリと掴むと── 一気に高度を上げて飛翔する。
アオガラスのときからは想像も出来ないような、力強い飛翔能力。
これが──
しずく「ガラルの空の覇者……!!」
「ガァァァァァ!!!!!!!!」
一気に上昇し、
「────」
15 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:28:26.30 ID:eLOLjL7n0
谷の外に逃げたフリージオを完全に射程に捉え──
しずく「今度こそ、仕留めます……!! “はがねのつばさ”!!」
「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
鋼鉄の翼で──フリージオを切り裂いた。
「────」
直撃を受けたフリージオの身体は、ビキリッと音を立てながら、亀裂が入り、
「────」
戦闘不能になって、真っ逆さまに谷底に落下していったのだった。
しずく「……やったね、アーマーガア」
「ガァァァァァ!!!!!!!!」
勝利の雄叫びをあげるアーマーガア。そこに侑先輩たちも追い付いてくる。
侑「すごいすごい!! この状況で進化して、一撃で倒しちゃうなんて……!! 私、すっごくときめいちゃった!!」
しずく「ふふ♪ アーマーガアの翼はどんなポケモンにも負けない、最強の翼ですから♪」
「ガァァァァァァ!!!!!!!」
私が褒めてあげると、アーマーガアはもう一度、大きな勝鬨をグレイブマウンテンに響かせるのだった。
💧 💧 💧
かすみ「しず子ぉ゛〜……っ……よか゛った゛よぉ゛〜……っ……!!」
しずく「ごめんね、かすみさん……心配掛けちゃったね……」
かすみ「馬鹿しず子……っ……!! アクセサリーくれたしず子が遭難してどうすんの……っ……馬鹿ぁ……っ……!!」
しずく「うん、ごめん……」
泣きじゃくるかすみさんを抱きしめる。本当に……心配掛けちゃったな。
歩夢「一件落着……みたいだね」
侑「うん」
リナ『一時はどうなることかと思った……。リナちゃんボード「ドキドキハラハラ」』 ||;◐ ◡ ◐ ||
しずく「侑先輩たちも……ありがとうございました。まさか、駆け付けてくれるなんて……」
侑「お礼ならかすみちゃんに言ってあげて! かすみちゃんが報せてくれたことだから!」
しずく「そっか……ありがとう、かすみさん」
かすみ「うぅ……っ……ぐす……っ……もう、無茶しちゃダメだよ……しず子……っ……」
しずく「うん、ありがとう……」
私は、もう一度かすみさんをぎゅっと抱きしめて、お礼の言葉を口にするのだった。
16 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:29:05.58 ID:eLOLjL7n0
💧 💧 💧
さて……全員揃って、ヒナギクシティに戻ってきた私は、すぐさまツンベアーをポケモンセンターに預けた。
大怪我を負っていたツンベアーは、緊急手術になりました……。
ただ、そこはさすがポケモンセンター。一晩掛けて行われた手術は無事に成功し、ツンベアーはどうにか一命を取り留めることが出来ました。
しずく「それじゃ、クマシュン。お母さんと仲良くね」
「クマ…」
ポケモンセンターのポケモン用の入院部屋に、クマシュンを放してあげる。
クマシュンはとてとてとお母さんのもとに駆け寄り、
「クマァ…」
「ベァ…」
クマシュンはお母さんに頬を摺り寄せ、ツンベアーは愛しい我が子をペロリと舐めて愛情を示す。
かすみ「しず子、いいの? クマシュン……欲しかったんでしょ?」
しずく「それはそうなんだけど……やっぱり、親子は一緒の方がいいのかなって」
ツンベアーは当分ここで病院暮らしだ。その間、一緒にクマシュンもポケモンセンターでお世話してくれるということだったし……。
しずく「私の気持ちよりも……クマシュンの気持ちを優先してあげなきゃ」
「クマ♪」
「ベァ…」
クマシュンはお母さんの前で嬉しそうに頷くと──とてとてと私の足元へと戻ってくる。
しずく「どうしたの? お別れの挨拶してくれるの?」
「クマ」
そして、何故か私の脚に抱き着いてきた。
しずく「あ、あれ……?」
かすみ「しず子」
歩夢「ふふ♪ しずくちゃん。クマシュンの気持ち、優先してあげないとダメだよ?」
しずく「え、ええ!? で、でも、お母さんも心配ですよね!?」
私がツンベアーにそう訊ねると、
「ベアァ…」
ツンベアーは優しい顔をしながら首を振った。
しずく「え、ええ……!?」
侑「……たぶんなんだけど」
しずく「?」
侑「今の自分じゃ、クマシュンを満足に育てられないから……しずくちゃんに代わりに育てて欲しいんじゃないかな」
しずく「……!」
17 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:32:10.52 ID:eLOLjL7n0
私は侑先輩の言葉でハッとする。
しずく「ツンベアー……そういうことなの?」
「…ベァ」
ツンベアーはもう一度優しい顔をして、頷いてくれた。
しずく「…………。……わかりました」
私はクマシュンを抱き上げる。
「クマ♪」
しずく「この子は私が立派に育ててみせます……! 立派に育てて、また貴方のもとに戻ってきますから!」
「ベァ…」
しずく「クマシュン、これからよろしくね」
「クマ♪」
こうして、私の6匹目の手持ち──クマシュンが仲間になったのだった。
🎹 🎹 🎹
リナ『みんな、今後はどうする予定なの?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「もともとの話だと……ローズに戻るってことになってたけど……」
侑「ローズはもともと合流場所って話だったからなぁ……」
「ブィ?」
かすみ「みんな、ヒナギクに集まってきちゃいましたしねぇ……」
「ガゥ?」
しずく「う……私の不手際で……面目ないです……」
どっちにしろ、ジム戦をこなすにはローズに戻る必要があるけど……数日待てばヒナギクのジムリーダーも戻ってくるらしいし……。
そうなると、無理に急いで戻る理由も薄くなってくる。
しずく「あ、あの……それよりも……」
侑「ん?」
しずく「私たち、やっと飛行手段を手に入れたんですから──行ってみたくありませんか?」
そう言いながら、私たちの視線は自然と──南にあるオトノキ地方のカーテンへと注がれる。
かすみ「確かに……あの絶景、旅の間に見なくちゃ損ですよね!」
「ガゥガゥ♪」
歩夢「旅に出たばっかりのときは……あそこを登るなんて想像も出来なかったけど……行ってみたい! わ、私は……乗せてもらうだけになっちゃうけど……」
侑「ふふ、いいよ! みんなで登ろうよ!」
「イブィ♪」
しずく「ええ! 皆さん全員で、大空の旅を楽しみましょう♪」
リナ『次の行き先、決まったね!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「うん! 行こう──カーテンクリフへ!!」
「イッブィ♪」
18 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 03:33:25.19 ID:eLOLjL7n0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ヒナギクシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. ●____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.40 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.39 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.40 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.40 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.40 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
クマシュン♂ Lv.23 特性:びびり 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:199匹 捕まえた数:15匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.53 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.48 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.46 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.47 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.47 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.46 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:190匹 捕まえた数:9匹
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.58 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.58 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.53 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.46 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.52 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
タマゴ ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:196匹 捕まえた数:7匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.48 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.47 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.43 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.39 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.38 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:197匹 捕まえた数:17匹
しずくと かすみと 侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
19 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 17:54:58.45 ID:eLOLjL7n0
■Intermission🍊
──私たちは今、例の如く、ウルトラビースト出現の反応に従い、“そらをとぶ”で現場に急行している。
千歌「……この場所って、カーテンクリフの西端だよね?」
さっき送ってもらったマップデータを見ながら、後ろに乗っている遥ちゃんに訊ねる。
遥「はい……まさか、こんな場所にまで出現するなんて……」
千歌「今回こそは、空振りじゃないといいけど……」
ここ最近、誤報なのか私たちが到着する前に逃げられているのかわからないけど、現場に着いたら、もうすでにウルトラビーストがいない……なんてことが続いている。
もちろん、万が一があるし、無視するわけにはいかないけど……。
彼方「そういえばー……カーテンクリフの西端って、遺跡になってるんだっけ〜……?」
千歌「確か……なんかすごい大きな階段みたいなのがあった気がします……。私も1回くらいしか行ったことないけど……」
穂乃果「なんか大昔の人たちが作った祭壇があるんじゃないっけ? お日様とお月様にお願い事する場所だって、前に海未ちゃんが言ってた気がする」
遥「大切な文化財があるんですね……。人的被害はないかもしれませんけど……遺跡を壊される前に、追い払わないと……」
千歌「うん、急ごう!」
「ピィィィーーー!!!!!」
私のムクホークと、穂乃果さんのリザードンは風を切りながら、現場へ急ぐ──
🍊 🍊 🍊
──カーテンクリフ西端の遺跡。
彼方「うわ……すっごい長い階段……絶対に自分の足じゃ、登りたくないよ〜……」
遥「すごい……想像していたものよりもずっと大きな遺跡です……」
彼方「こんな標高の高いところに、こんなものどうやって作ったんだろう〜……。昔の人たちってすごかったんだね〜……」
遺跡上空を飛行しながら、彼方さんと遥ちゃんが驚きの声をあげる。
穂乃果「彼方さん、ウルトラビーストの反応は?」
彼方「うーん……頂上からずっと動いてないみたい……」
遥「そうなると……ツンデツンデかな……」
千歌「ツンデツンデなら、そこまで焦らなくてもいいのかな……?」
ツンデツンデはウルトラビーストの中でも、かなり温厚なポケモンだ。
こちらからちょっかいを掛けなければ、暴れ出すことはほぼない。
穂乃果「それを確認するためにも、急がないとね!」
千歌「ですね」
遺跡をムクホークとリザードンで一気に昇ると──開けた場所に出る。
この遺跡の祭壇だ。
20 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 17:55:45.07 ID:eLOLjL7n0
千歌「ツンデツンデは……」
祭壇を空から見回してみるが──
千歌「いなさそう……」
穂乃果「ツンデツンデほど大きなウルトラビーストだったら、見逃すわけないし……彼方さん、まだ反応ってある?」
彼方「んー……まだ頂上にあるよ〜……」
彼方さんが端末とにらめっこしながら、困ったような声で言う。
千歌「んー……おっかしいなぁ……」
私はもう一度目を凝らして、祭壇の上を見渡してみる。
千歌「……あれ?」
私は──祭壇上に影を見つけた。
でも、ウルトラビーストじゃない……あれは──
千歌「人……?」
そのシルエットはどう見ても人間のものだった。本来探していた対象よりも小さかったからか、すぐに気付けなかった。
このだだっ広い祭壇に……女性が一人。ちょうどこちらには背を向けているので、顔は見えないけど……青みがかったウルフカットの女性。
でも、どうしてこんな場所に……? いや、それよりも……。
千歌「とりあえず、ここは危ないってこと伝えに行かないと……!」
穂乃果「……そうだね」
彼方「んー……? あの人、どこかで見たような……?」
遥「お姉ちゃん……?」
私たちは、その女性たちのもとへと、降りていく。
千歌「すみませーん! あの、ここに今ちょっと危ないポケモンがいるんで、避難して欲しいんですけどー!!」
ムクホークをボールに戻しながら、女性たちに駆け寄る。
でも──彼女たちは全く反応がなく、振り返りもしない。
千歌「? もしもーし!!」
さらに近寄りながら、大きな声で呼びかけると──女性はやっとこちらに顔を向けてくれる。
女性「……ふふ、やっと来てくれた」
千歌「え……?」
彼方「あー!! もしかして、モデルの果林ちゃんじゃない!?」
彼方さんが、驚いたような声をあげる。
言われてみて、私も気付く。確か、モデルをやっている人だ。
果林「……モデルの人……ね」
果林さんは、彼方さんを見て──寂しそうに言葉を漏らす。
21 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 17:56:18.01 ID:eLOLjL7n0
果林「……貴方にとって、私はもう……ただのモデルの人なのね……」
彼方「え……?」
千歌「あ、あの! それよりも、ここは危ないので、避難を──」
果林「ふふ、それって────ここにウルトラビーストがいるからかしら?」
千歌「っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、
穂乃果「──ピカチュウ!!」
「──ピッカッ!!!!」
いつの間にかボールから出されていた穂乃果さんのピカチュウが、果林さんの首元に尻尾を向けていた。
一瞬で電撃による攻撃が届く間合いだ。
果林「……あら怖い」
穂乃果「あなた……何者なのかな?」
千歌「二人とも……下がって。ネッコアラ」
「──コァ」
彼方「う、うん……」
遥「は、はい……」
私もネッコアラをボールから出しながら、彼方さんと遥ちゃんを庇うようにして、後ろに下がらせる。
果林「そんな怯えた顔しないでよ──彼方。遥ちゃんも」
遥「……!?」
彼方「え……な、なんで私たちの名前……」
果林「やっぱり……本当に忘れちゃったのね……」
彼方「え……」
果林さんはそう言いながら一瞬──酷く悲しそうな顔をした。
果林「……でも、大丈夫──きっと嫌でも思い出すから……」
果林さんが──腰に手を伸ばした。
穂乃果「“10まん──」
「──ダメダメ、穂乃果はこっち♪」
「リシャンッ」
穂乃果「え!?」
目の前に、急に金髪の女の子が出現し──穂乃果さんの腕を取ると、瞬く間に姿が掻き消える。
──穂乃果さんもろとも。
千歌「穂乃果さ……!?」
果林「よそ見してる場合かしら?」
千歌「っ!? “まもる”!!」
「──フェロッ!!!!!」
「コァァッ!!!!」
22 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 17:57:10.74 ID:eLOLjL7n0
咄嗟の指示で、ネッコアラが敵からの攻撃を丸太で受け止める。
い、いや、それよりも、果林さんが出してきたあのポケモン……!
千歌「ふ、フェローチェ……!?」
それはフェローチェだった。
しかも本来、全身雪のように真っ白い普通のフェローチェと違って、下半身はまるでドレスでも履いているかのように黒い──色違いのフェローチェだ。
千歌「ウルトラ、ビースト……!?」
果林「……」
なんでこの人はウルトラビーストを使っているの? なんで穂乃果さんは消えた? あの金髪の女の子は?
大量の疑問が、頭の中を埋め尽くし混乱する中、
遥「──……い、いやぁぁぁぁぁ……!!!」
千歌「!?」
急に背後で遥ちゃんの絶叫が響き、振り返ると、
遥「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!!」
彼方「──ぁ……ぐ……あ、たま……い、いたい……」
遥ちゃんはその場に蹲り、ガタガタ震えて、泣きながら謝罪の言葉を唱え始め、彼方さんに至っては頭を抱えたまま、倒れているではないか。
果林「……そうよね、フェローチェを見たら……嫌でも思い出すわよね、私のこと。いいえ──私たちのこと……」
何が起こっているのか理解できなかった。理解できなかったけど── 一つだけわかることがある。
この人は──……敵だ!
千歌「“ウッドハンマー”!!」
「コァァッ!!!!!」
フェローチェに向かって、ネッコアラが大きな丸太を振りかぶった──瞬間、フェローチェの目の前の空間が歪んで、影が飛び出した。
「──カミツルギ、“つじぎり”」
不意の一撃。
「コ…ァ…」
千歌「な……」
丸太ごと斬り裂かれ、ネッコアラが崩れ落ちる。
でも、それ以上に衝撃だったのは──その攻撃の主だった。
千歌「嘘……」
黒髪のストレートロングを右側で一房、バレッタで纏めた少女。
見間違えるはずがない。──いや、見間違えであって欲しかった。
千歌「せつ菜……ちゃん……?」
せつ菜「…………」
23 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 17:58:02.90 ID:eLOLjL7n0
せつ菜ちゃんが──見たこともないような、冷たい目をしたせつ菜ちゃんが、そこに立っていた。
☀ ☀ ☀
愛「──愛さん、とうちゃ〜く♪」
「リシャン♪」
穂乃果「……っ!」
「ピ、ピカ…!?」
周囲を見回すと──港だった。
ここはまさか──
穂乃果「フソウ港……!?」
愛「フソウ“ポート”に“テレポート”、なんつって! そんじゃね〜♪」
「リシャン♪」
そしてすぐに、金髪の女の子は再び“テレポート”を使って、姿を消してしまった。
穂乃果「待っ……!!」
「ピ、ピカ…」
穂乃果「……やられた……っ!」
一瞬で地方の真逆の場所まで飛ばされた……!
全員を遠ざけるのではなく、私“だけ”を戦線から離脱させて、分断させる。この手際の良さ……これは、事前に計画されていた作戦。敵の狙いは──恐らく、
穂乃果「千歌ちゃんが危ない……っ!」
🍊 🍊 🍊
千歌「せつ菜……ちゃん……どう、して……」
せつ菜「…………」
「────」
せつ菜ちゃんがどうしてここにいるの……? いや、それより、せつ菜ちゃんが使っているポケモン──
シャープなフォルムの熨斗のような姿をしたあのポケモンは──カミツルギ……ウルトラビーストだ。
せつ菜「千歌さん」
千歌「……!」
せつ菜「早く、次のポケモン、出してください」
千歌「……た、戦えないよ!!」
せつ菜「……じゃあ、いいです。出さざるを得なくするだけなので──カミツルギ、“リーフブレード”」
「────」
千歌「……!」
私は咄嗟に飛び退く。直後──直撃してないはずなのに、斬撃によって空気が斬り裂かれ衝撃波が発生し、それによって吹っ飛ばされる。
24 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 17:59:11.86 ID:eLOLjL7n0
千歌「ぐっ……!?」
どうにか受け身を取って衝撃を殺して、すぐに身体を起こす。
千歌「……っ……! せつ菜ちゃん、やめて……!!」
せつ菜「次は当てますよ……ポケモンを出しなさい」
千歌「っ……」
どうする……!? 私だけなら、最悪逃げるのも手だけど──
遥「……はぁ……っ……!! ……はぁ……っ……!!」
彼方「はる、か……ちゃん……っ……。おねえちゃん、が……いる、から……っ……! づ、ぅ……っ……!!」
あんな状態の彼方さんたちを放っておくわけにはいかない。
彼方さんは苦悶に顔を歪めながらも、遥ちゃんを抱きしめて、必死に後方へと下がっていく。
意識が朦朧としていながらも、遥ちゃんが巻き込まれないように、戦線から下がっているのだ。
でも遥ちゃんは未だに酷いパニック状態で、すでに過呼吸を起こしている。かなり危険な状態。
もう、もたもたしてられない……!
千歌「ルガルガンッ!!」
「ワォンッ!!!!」
せつ菜「やっと……戦う気になりましたか……。“はっぱカッター”!」
「────」
千歌「“ステルスロック”!!」
「ワォンッ!!!!」
周囲に鋭い岩を発射して、“はっぱカッター”を撃ち落とす。
せつ菜「ふふ、本来攻撃技ではないはずの“ステルスロック”で“はっぱカッター”と撃ち合うとは、さすがですね。なら、こういうのは──」
千歌「せつ菜ちゃん、もうやめて!! お願いだから!!」
せつ菜「……何故?」
千歌「そのポケモンは──ウルトラビーストは危ないの!! だから──」
せつ菜「……自分は『特別』を使うのに」
千歌「……ぇ」
せつ菜「……それなのに、私が『特別』を使うことは許さないんですか!? カミツルギッ!!!」
千歌「っ……!! “ストーンエッジ”!!」
「ワォンッ!!!!」
迫るカミツルギに“ストーンエッジ”をぶつけて牽制するが、
せつ菜「“シザークロス”ッ!!!」
カミツルギは飛び出してくる鋭い岩石を、豆腐のように切り捨てる。
せつ菜「ああ、そうだ、やっぱり私を馬鹿にしてたんだ。自分が『特別』だから、『特別』じゃない私のことを……!!」
千歌「ち、違う……! そんなこと思ってないよ……っ……! ──……あなた!! せつ菜ちゃんに何したの!?」
私はせつ菜ちゃんの背後にいる、果林さんに声を飛ばす。
果林「あら……何をしたなんて、人聞きの悪い」
25 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 18:00:17.78 ID:eLOLjL7n0
果林さんは興奮して「フーフー」と息を荒げるせつ菜ちゃんを後ろから抱きすくめて、
果林「私は、この子に力をあげただけ……選んだのはこの子。……そして、選ばせたのは──貴方じゃない」
千歌「……え」
果林「可哀想なせつ菜……貴方にとって、すごくすごく大切なバトルだったのに……。チャンピオンはそんなバトルをただの一撃で終わらせた。圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……」
千歌「そ、それは……」
果林「だから、あげたの──『特別』を。──ウルトラビーストを」
千歌「そん、な……」
じゃあ、せつ菜ちゃんがこうなっちゃったのは……私の、せい……?
果林「せつ菜……貴方の力を見せて? 『特別』になった貴方は──チャンピオンにも負けないわ」
せつ菜「はい……。約束は守ります。私は、チャンピオンを討ちます……!」
千歌「わ、私……」
私は、もしかして……とんでもないことをしてしまったんじゃないか?
私がせつ菜ちゃんを傷つけてしまった。
私はチャンピオンで、みんなにバトルの楽しさを知って欲しくて、表舞台に出ていたのに──バトルで彼女を傷つけたんだ。
一番バトルの楽しさを伝えなくちゃいけない──この地方のチャンピオンなのに。
せつ菜「“れんぞくぎり”!!!」
「────」
連続の斬撃は、衝撃波となり、石で出来た祭壇の床を豆腐のように斬り裂きながら迫る。
棒立ちの私に向かって。
「ワォンッ!!!!」
ルガルガンは、そんな私の服にたてがみの岩を引っかけ、無理やり背中に乗せ、後方に向かって飛び出した。
直後──私の居た場所は、まるでみじん切りにでもしたかのように、石畳の表面が細切れになる。
千歌「ルガルガン……!」
「ワォンッ!!!!」
ダメだ……!! 落ち込んでる場合じゃない……!!
彼方さんたちもあんな様子なのに、私が立ち尽くしてる場合じゃ──
せつ菜「“しんくうは”!!」
「────」
「ギャンッ!!!?」
千歌「っ!!?」
逃げるルガルガンを真空の刃が斬り裂き──私は放り出されて、祭壇の岩畳の上を転がる。
千歌「ぅ……ぐぅ…………っ……」
落下の衝撃で、一瞬息が出来ずに呻き声をあげる。
痛みを堪えながら、顔を上げると──
「ワ、ワォン…」
ルガルガンが倒れていた。
26 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 18:01:14.17 ID:eLOLjL7n0
千歌「……っ」
床に伏せる私に向かって、
せつ菜「……早く立ってください」
せつ菜ちゃんが冷たく見下ろしながら、言葉をぶつけてくる。
千歌「せつ菜……ちゃん……」
せつ菜「ほら、出してくださいよ──バクフーンを」
千歌「……っ」
私はバクフーンのボールに手を掛ける。
だけど──手が震えていた。
──『圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……』──
千歌「……っ」
あのとき、本当はどうするべきだったのか、わからなかった。
どうすれば、せつ菜ちゃんを傷つけない──ポケモンバトルの楽しさを伝えられる、チャンピオンであれたのか。
今更考えても、後悔しても、どうにもならない。
でも、
千歌「……行けっ!! バクフーンッ!!」
「──バクフーーー!!!!」
せつ菜ちゃんをこのままにしちゃいけない。
私がせつ菜ちゃんを止めないと……!!
せつ菜「あはは……! やっと出しましたね、貴方の『特別』……!」
また傷つけちゃうかもしれないけど、それでも──このままじゃ絶対によくないから……!
千歌「バクフーーーーンッ!!!!」
私の腕のZリングが光る。
“ホノオZ”のエネルギーをバクフーンに送ろうとした、瞬間──
私は、
果林「…………へぇ」
果林さんを見てしまった。
──『圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……』──
千歌「……っ!!」
また、彼女の言葉がフラッシュバックした瞬間──私の腕の“ホノオZ”は輝きを失っていく。
──出来なかった。今、この技を撃つことは……出来ない。
せつ菜「カミツルギ!! “ソーラーブレード”!!」
千歌「──“かえんほうしゃ”っ!!」
「バクフーーーーーンッ!!!!!!」
27 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 18:01:52.48 ID:eLOLjL7n0
振り下ろされる、陽光の剣に向かって──バクフーンが口から業炎を噴き出す。
陽光のエネルギーを押し返すように、燃え盛る爆炎。
だけど、振り下ろされる剣は、炎を斬り裂きながら、迫る。
──『……自分は『特別』を使うのに……それなのに、私が『特別』を使うことは許さないんですか!?』
私──『特別』に選ばれたから、チャンピオンになれたのかな。
わかんない。……自分が『特別』だなんて、考えたこともなかった。
初めてのバトルで、梨子ちゃんに負けたあの日、『強くなろう』って、そう決めて、ただ必死に我武者羅に歩んできただけのつもりだった。
一歩一歩みんなで歩いて、新しい力を手に入れたらみんなで喜んで、終わったらまた新しい何かを掴むためにまた進んで……。
でも……違ったのかな……。私はただ、『特別』に選んでもらったから、ここにいるのかな。
わかんないよ、そんなこと……。
わかんない──……でも、それでも……。そうだとしても──
せつ菜「…………」
──あんなに悲しそうな顔でバトルをするせつ菜ちゃんを、放っておいていいはず──ない!!!
千歌「バクフーーーーンッ!!!!! いけぇぇぇぇ!!!!!!!」
「バク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!」
私の心に呼応するように、バクフーンの背中の炎が燃え盛り──火炎の勢いが一気に増す。
せつ菜「……!」
勢いを増した炎は──陽光の剣さえも凌駕し、
千歌「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「バクフーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
全てを爆炎で飲み込んだ。
──お互いのエネルギーがぶつかり合い、その余波でフィールド全体に熱波が吹き荒れる。
千歌「……っ!!」
バクフーンにしがみついて、耐え……爆炎が晴れると──
「────」
その先に、黒焦げになったカミツルギがいた。
黒焦げになったカミツルギは間もなく──石畳の上に崩れ落ちた。
せつ菜「…………」
千歌「…………はぁ……はぁ……」
せつ菜「…………」
せつ菜ちゃんをウルトラビーストから、解放した。
これで──
28 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 18:02:38.01 ID:eLOLjL7n0
せつ菜「出てきなさい──デンジュモク」
「────ジジジジ」
千歌「2匹……目……?」
せつ菜「今の私は……貴方よりもたくさんの──『特別』を持ってるんです……」
私はへたり込んでしまった。
今の私の想いじゃ──せつ菜ちゃんの心に、届かない……。
せつ菜「──“でんじほう”」
「──ジジ、ジジジジ」
巨大な電撃の砲弾に、バクフーンもろとも飲み込まれて──私の視界は、フラッシュアウトした。
🎙 🎙 🎙
千歌「…………」
気を失った千歌さんを見下ろす。
果林「せつ菜、今の気分はどう?」
せつ菜「……あっけない。こんなものなんですね……」
果林「……そう」
せつ菜「…………」
……やっと、千歌さんに勝利したが──すがすがしい気分とは言い難かった。
せつ菜「……どうすればいいですか」
果林「ん?」
せつ菜「彼女の身柄が欲しかったんでしょう?」
果林「あら……まだ手伝ってくれるのね」
せつ菜「力をくれたんです。義理は……通します」
果林「……そう、ありがとう」
せつ菜「それに──もう、帰る場所なんて……ありませんから……」
果林「……そう」
私は千歌さんを背負い──目の前に現れたホールに向かって歩き出す。
──そのときだ。
フィールドに倒れていた、ルガルガンとバクフーンが──
「ワ、ォォンッ!!!!」「バク、フーーー!!!!!」
せつ菜「……っ!?」
私は驚き、背負っていた千歌さんが滑り落ちる。
最後の力を振り絞って、こちらに向かって飛び掛かってきた──と、思ったら。
──パシュンと音を立てて、千歌さんの腰についたボールの中に戻っていった。
29 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/16(金) 18:03:48.61 ID:eLOLjL7n0
せつ菜「……」
果林「主人と引き離されないように、最後の力でボールに戻ったみたいね……よく訓練されてる」
せつ菜「…………」
最後の力を振り絞ってまで、千歌さんの傍にいようとする彼らを見て……いろんな感情が湧き出てきそうになったが──無理やり心の底へと押し戻す。
私は今度こそホールに入るために、千歌さんを背負おうとしたそのとき──
「──せつ菜ちゃん、何してるの……!?」
聞き覚えのある声がして、私は動きを止める──
振り返ると──見慣れたツインテールを揺らしながら、信じられないようなものを見る目で──
せつ菜「……侑さん」
侑「せつ菜ちゃん……何、してるの……?」
侑さんが揺れる瞳で……私のことを見つめていた。
………………
…………
……
🎙
30 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:00:14.14 ID:Lud+ZHkk0
■Chapter050 『終わりの頂』 【SIDE Yu】
──ヒナギクシティを発ち、私たちは今カーテンクリフの上空を飛んでいるところだった。
かすみ『すごいすごーい! あーんな高かった壁より高く飛んでますよー!!』
『ガゥガゥ♪』
しずく『ただ、風が強いですね……』
侑「そうだね……。歩夢、飛ばされないようにね!」
歩夢『うん。侑ちゃんも気を付けてね』
飛行中は、歩夢とかすみちゃんがそれぞれウォーグルとアーマーガアの背中に乗って、私としずくちゃんはそれぞれのポケモンに脚で掴んでもらって空を飛んでいる。
だから、会話はポケギア越しだ。
私のバッグの中にいるリナちゃんが中継局の代わりをしてくれていて、トランシーバーのように使って会話しながら移動している。
歩夢『それにしても、本当にすごいね……まさか自分たちが、家から見てたカーテンクリフの上を飛んでるなんて……今でも実感が湧かないよ……』
侑「カーテンの頂上って、雲の上だもんね……私たち、雲の上まで来られるようになったんだね」
「イブィ♪」「ウォーーーー!!」
自分たちの成長を実感する。成長して……今までの私たちじゃ見ることが出来なかった景色を見られるようになって……。
なんだか、嬉しいな……。
かすみ『でも、この後どうします? カーテンを越えて、ダリア側に降りますか?』
しずく『あ、それなら……西側に行くのはどうかな?』
かすみ『西側に何かあるの?』
歩夢『あ……確か、遺跡があるんだっけ……?』
しずく『はい! かなりの規模の遺跡があるそうです! せっかく、カーテンクリフを登れるようになったんですから、一度見てみたくって……!』
侑「それ私も見てみたい!」
かすみ『じゃあ、決まりですね! 西の遺跡に向かいましょう〜!』
リナ『カーテンクリフは東西に一直線に伸びてるから、尾根伝いに進んでいけば辿り着けるはずだよ!』
と、ポケギアの通信にリナちゃんの声が入る。
侑「了解! ウォーグル、真っすぐ行って!」
「ウォーー!」
しずく『アーマーガア、侑先輩たちと同じ方向へお願い』
「ガァーー!」
私たちはカーテンクリフを西側に進んでいく──
🎹 🎹 🎹
尾根は長く続いていたけど──その尾根の途中に、石で出来た階段が見えてくる。
かすみ『な、なんですか、これぇ……!?』
『ガゥゥ…!!』
31 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:00:53.15 ID:Lud+ZHkk0
かすみちゃんたちが驚くのも無理はない。
ただでさえ、標高が高いのに──その階段はさらにずっと先……遥か遠くまで伸びていたからだ。
侑「本当にすごい……! しずくちゃん、一旦降りてみよう!」
しずく『了解です、侑先輩』
ウォーグルとアーマーガアに指示を出して、私たちは階段へと下降していく。
侑「……よ、っと!」
着地出来る場所が近づいてきたところで、ウォーグルに爪を放してもらって着地する。
その後、ウォーグルもゆっくり着陸し……歩夢が降りられるように、その場に屈む。
歩夢「ありがとう、ウォーグル♪」
「ウォー♪」
歩夢がウォーグルの頭を撫でながら、階段に降り立つ。
かすみ「実際に階段に立った状態で見ると……さらにヤバイですぅ……!」
「ガゥ…!!」
しずく「これは……圧倒されちゃうね」
同じように降り立った二人の言葉を聞きながら、私たちも階段を見上げる。
本当に……天まで続いているんじゃないかと錯覚するような階段が、そこにはあった。
幅は3メートルくらいあって、人が数人並んで歩いても、結構余裕があるくらいの広さ。
そして高く高く続いていく階段の脇には、ちょっとした塀こそあるものの──塀の向こうにあるのは雲だけ……即ち、この階段の外側は完全に空の上ということだ。
かすみ「皆さん! せっかくここまで来たら登らない手はありませんよ! ゾロア! 頂上まで競争しよ!」
「ガゥガゥ♪」
歩夢「あ、かすみちゃん……! 走ったら危ないよ……!」
しずく「かすみさん、落ちないでよー!? はぁ……もう……。……私たちは雲海を見ながらゆっくり行きましょう」
侑「あはは、そうだね……」
リナ『──侑さーん、行く前に出して〜』
侑「あ、ごめん……! リナちゃん、今出してあげるね!」
背中側からリナちゃんの声が聞こえてきて、慌ててバッグを開けると、リナちゃんがふよふよと外に出てくる。
リナ『ふぅ……やっと外に出られた……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「ごめんね、窮屈な思いさせて……」
リナ『大丈夫。飛ばされちゃうより全然いいから』 || ╹ ◡ ╹ ||
……とはいえ、これからは飛行での移動も増えるだろうし、何か考えた方がいいかもなぁ……。
ぼんやり考えていると、
かすみ「もう〜!! 皆さんも早く来てくださーい!!」
上からかすみちゃんが急かしてくる。
歩夢「侑ちゃん、行こう♪」
侑「あ、うん」
「イブィ」
32 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:01:24.75 ID:Lud+ZHkk0
私たちは階段を登り始める。
🎹 🎹 🎹
かすみ「──……ぜぇ……はぁ……も、もう……無理……脚、上がらない……」
「ガゥ?」
しずく「はぁ……なんかこうなる気はしてたんだよね……。はい、お水」
しばらく登っていくと、かすみちゃんがへばっていたので、階段に腰かけて一旦休憩になった。
ゾロアはまだ物足りないみたいだけど……。
歩夢「見て、侑ちゃん……! 見渡す限り雲しか見えないよ!」
「イブィ〜〜…!!!」
侑「うん……! 本当に雲海のド真ん中にいるみたいだ……!」
まさに見渡す限り雲の海しか見えない。
しずく「もう完全に雲の上ということですね……」
リナ『カーテンクリフの頂上が、だいたいグレイブマウンテンの頂上と同じくらいの標高って言われてる。だから、クリフの頂上から伸びてるこの先の祭壇は、オトノキ地方で一番高い場所って言われてるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「へー……でも、こんな高い場所に、こんな長い階段どうやって作ったんですかね……?」
かすみちゃんが尤もな疑問を口にする。
しずく「それは今でも謎って言われてるみたいだよ。この石段はカーテンクリフの鉱物と違うから、下から切り出した石材って言われてるけど……」
かすみ「え……? 下からここまで運んできたの?」
リナ『だから謎って言われてる。どうやってこれだけの石材を運んだのかって』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「だから、宇宙人が作った〜とか、神様が作った〜とか言われてるんだよね」
しずく「ですね」
侑「まあ、確かに……これだけのものを、この高さに作ったなんて言われても、信じられないもん……」
「ブィィ…」
今登っている真っ最中だと言うのに、人が作ったものとは到底思えない……。あ……いや、ポケモンが作った可能性もあるのかな?
しずく「さて……そろそろ、休憩終わりにしようか」
かすみ「えー!? まだかすみんくたくただよぉ……」
しずく「でも、登っている最中に夜になっちゃったら、階段で野宿だよ?」
かすみ「そ、それは嫌かも……。わかったよぉ……登ればいいんでしょぉ……」
「ガゥガゥ…♪」
しずく「ほら、頑張って」
しずくちゃんがかすみちゃんの背中を押しながら、登っていく。
そのとき、ふと──私の上に一瞬、影が差した。
33 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:08:39.99 ID:Lud+ZHkk0
侑「ん……?」
「ブイ?」
歩夢「侑ちゃん? どうかしたの?」
侑「あ、いや……今何かが上を通り過ぎたような……?」
歩夢「え?」
侑「大型の鳥ポケモンかな……? まあ、いいや。行こう」
歩夢「あ、うん」
🎹 🎹 🎹
──階段を登り続けること30分ほど。
かすみ「あー!! 見て、しず子!! 頂上!! 頂上だよ!!」
しずく「本当だ……!」
かすみちゃんが言うとおり、視界の先に階段の切れ目が見える。
歩夢「あの先が、頂上の祭壇になってるんだね……」
侑「歩夢、大丈夫?」
歩夢「ちょっと疲れたけど……あとちょっとだから平気♪」
侑「そっか、もう少し頑張ろう」
歩夢「うん♪」
最後の一息だと思って、歩き出したそのとき、
かすみ「……あれ?」
かすみちゃんが何かに気付く。
しずく「どうかしたの?」
かすみ「……あそこにいるの……人じゃない……?」
侑「え?」
言われて、私も視線を階段の上の方に上げると──確かに人影が2つ見えた。見えた、けど……。
しずく「あの人たち、倒れていませんか……!?」
遠くてわかりづらいけど、その人たちはまるで階段に倒れているように見えた。
歩夢「た、大変……!」
かすみ「登ってる最中に体調を崩しちゃったのかもしれないですよ……!」
侑「行こう!! 助けなきゃ!!」
私たちは、倒れている人たちのところへと大急ぎで駆け出し、近付いていく。
近付いて、
34 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:09:28.10 ID:Lud+ZHkk0
侑「……え?」
歩夢「あ、あの人たちって……!?」
歩夢とほぼ同時に、その人に気付いた。
しずく「ま、待ってください……あの人たちって……!!」
かすみ「──彼方先輩とはる子じゃない……!?」
しずくちゃんとかすみちゃんも、私たちと同じように驚きの声をあげる。
私たちは、階段を一段飛ばしで、彼方さんたちのもとへと駆け寄る最中──頂上からドォンッ!!! と大きな爆発音がして、階段が揺れる。
かすみ「わ、わぁぁぁ!!?」
侑「な、なに!?」
いや、爆発もだけど──まずは彼方さんたちを助けるのが先……!
遥「──いや、いやぁ……っ……!!」
彼方「──遥ちゃん……だい、じょうぶだから……っ……!」
侑「彼方さんっ!!」
彼方「ゆう……ちゃん……? みんな……? どうして、ここに……」
彼方さんは私を見て、心底驚いたように目を見開く。
ただ、彼方さんは見るからに顔色が悪く、顔面蒼白で、じっとりと掻いた脂汗が額に浮かんでいるのが、すぐにわかるほどだった。
でも──それ以上に、
遥「──……ごめんなさい……っ……ごめんなさい……っ……」
遥ちゃんの様子がおかしかった。ガタガタと震え、ぽろぽろと涙を流しながら、しきりに謝罪の言葉を呟いている。
彼方さんは、そんな遥ちゃんを抱きしめたまま、姉妹揃って階段に倒れている状態だった。
しずく「お二人とも、大丈夫ですか!?」
歩夢「どこか痛むんですか……!? 応急セットを今出すので……!」
「シャボ」
歩夢が動くよりも早く、起き出したサスケがもうすでに、歩夢のバッグから応急セットを取り出して、歩夢の手元に運んでいた。
さすがの緊急事態にサスケも寝ている場合じゃないことに気付いたのだろう。
でも、彼方さんは、小さく首を振る。
彼方「わたし、よりも……千歌、ちゃんが……」
しずく「え……?」
侑「千歌さんが……!?」
その直後──バヂバヂバヂ!!! と強烈な稲妻が放射されて、雷轟と共に、空が白く光る。
かすみ「わひゃぁぁぁぁ!!?」
リナ『強烈なでんきタイプのエネルギーを感知!! 上で戦闘が起こってる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
何が起きているのかわからない。だけど──上で千歌さんが何者かと戦っていることだけはすぐに理解出来た。
35 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:10:01.73 ID:Lud+ZHkk0
侑「歩夢はここで二人を診てあげて!! 行くよ、イーブイ!!」
「ブイッ!!!」
リナ『私も行く!!』 || ˋ ᨈ ˊ ||
歩夢「え!? 侑ちゃん!? リナちゃん!?」
私はイーブイと一緒に、彼方さんの横をすり抜けて駆け出す。
かすみ「かすみんも行きます!!」
しずく「わ、私も……!」
かすみ「ダメ!! しず子はそこで待ってて!!」
しずく「で、でも……!!」
かすみ「危ないから来ちゃダメ!! 絶対だからね!! 行くよ、ゾロア!!」
「ガゥッ!!!!」
しずく「かすみさん!!」
かすみちゃんと二人で階段を駆け上がって頂上の祭壇へと出ると──
侑「え……」
そこには千歌さんがいた。ただ──気を失い、ぐったりとした状態で……だ。
そして、そんな気を失った千歌さんを──せつ菜ちゃんが、引き摺り起こして、背負おうとしているところだった。
侑「──せつ菜ちゃん、何してるの……!?」
私は思わず、声を張り上げた。
せつ菜ちゃんは私の声に気付いて、ゆっくりとこちらを振り返る。
せつ菜「……侑さん」
侑「せつ菜ちゃん……何、してるの……?」
彼方さんは、千歌さんが危ないと言っていた。そんな千歌さんは、
リナ『お、大怪我してる……! 早く治療しないと……!?』 || ? ᆷ ! ||
かすみ「……ひ、酷い……」
かすみちゃんが口元を覆いながら、そう言葉にしてしまうくらい、ボロボロだった。身体のあちこちに切り傷があり、血が滲み、服はところどころが焼け焦げている。
そして、そんな彼女を乱暴に引き摺り起こそうとしているのは……。
信じたくない。信じたくないけど、こんなのどう見ても──
侑「せつ菜ちゃんが……やったの……?」
せつ菜ちゃんがやったとしか思えなかった。
せつ菜「…………」
侑「せつ菜ちゃん、答えて!!」
私が前に一歩踏み出した瞬間、
かすみ「侑先輩!! 危ないっ!!」
侑「っ!?」
36 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:10:41.66 ID:Lud+ZHkk0
かすみちゃんに押し倒される形で、前に倒れこむ──と同時に、私の頭の上を火の玉が通過していった。
ハッとして顔を上げると──せつ菜ちゃんの奥に、もう一人いることにやっと気付く。
モデルのような長身に、ウルフカットの青髪……確かあの人は……。
侑「果林、さん……?」
リナ『二人とも、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「う、うん……」
かすみ「ちょっとぉ!! 危ないじゃないですか!? どういうつもりですか!!」
果林さんの横には、キュウコンの姿。おそらく今の火の玉はあのキュウコンの攻撃だ。
果林「せつ菜、行きなさい」
せつ菜「……はい」
かすみ「無視しないでくださいよっ!!」
せつ菜ちゃんは果林さんの言葉に頷くと、今度こそ千歌さんを背負い上げ、歩き出す。
その先には──得体の知れない、空間にあいた穴のようなものがあった。
侑「待って、せつ菜ちゃん!! どこに行くの!? 千歌さんをどうする気!?」
せつ菜「…………」
実際に見ていたわけじゃない。だけど、あんな風にボロボロになっている千歌さんを見たら──全うなバトルをした結果じゃないことなんて、見ればすぐにわかった。
せつ菜ちゃんは千歌さんを誰よりも尊敬していたことを私は知っている。なのに、せつ菜ちゃんが千歌さんをあんな風に傷つけたなんて、信じられなくて、
侑「ねぇ、なんでこんなことするの……!?」
せつ菜「…………」
侑「せつ菜ちゃん……!! 答えてよ……!!」
せつ菜「…………」
侑「……っ……──いつものせつ菜ちゃんだったら、こんなこと絶対しないじゃん……っ!!」
私は叫んでいた。
これは何かの間違いなんだって。いつもみたいに無邪気な笑顔で周りも元気にしてくれて……それでいて誰よりも頼りになる、私の憧れのせつ菜ちゃんに戻って欲しくて。
──叫んだ。
だけど、せつ菜ちゃんは──私を氷のような瞳で一瞥したあと、
せつ菜「貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……」
そう吐き捨て──空間の穴の中へと消えていった。
侑「せつ菜……ちゃん……」
「ブィ…」
果林「ふふ、残念。貴方の声、届かなかったわね」
侑「……っ!」
私は果林さんを睨みつける。
果林「あら、怖い……招かれざる客なのに。……いいえ、この場合──開いた口へ牡丹餅……かしら?」
果林さんがそう言うのとほぼ同時に、
37 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:11:19.50 ID:Lud+ZHkk0
歩夢「侑ちゃん……!!」
侑「歩夢!?」
歩夢が階段を駆け上がってくる。
侑「下で待っててって……!!」
歩夢「火の玉が飛んでくるのが見えて、心配で…………え?」
歩夢もそこでやっと、果林さんがいることに気付く。
歩夢「なんで、こんなところに果林さんが……?」
歩夢はぽかんとする。──が、
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ガゥゥゥ!!!!」
ゾロアがキュウコンに向かって攻撃を放つ。
果林「あら……“あくのはどう”で打ち消しなさい」
「コーーーンッ!!!」
キュウコンはそれを難なく相殺してみせる。
歩夢「か、かすみちゃん……!?」
かすみ「歩夢先輩!! あの人は敵です!!」
果林「あら、酷いじゃない……前に助けてあげたのに」
かすみ「先に攻撃してきたのは、そっちじゃないですか!!」
果林「全く……こっちはやることが出来ちゃったんだから、邪魔しないで──」
そう言って、果林さんがすっと手を真上に伸ばすと、
かすみ「……んぎっ!?」
「──ガゥ!!?」
歩夢「……えっ!?」
「シャボ…!!」
侑「……か、身体が……!?」
「イブィッ!?」
リナ『みんな!?』 || ? ᆷ ! ||
私たち3人とそれぞれの手持ちたちは、一斉に身体が動かせなくなる。
侑「“かな、しばり”……!?」
「ブ、ブィ…!!!」
果林「ふふ、正解」
一気に3人同時に“かなしばり”状態にされ、動けなくなる。
リナ『侑さんたちを放して……!!』 || ˋ ᨈ ˊ ||
果林「貴方……さっきから、うるさいわね。少し黙ってて」
「コーンッ!!!」
リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||
キュウコンが吐き出した“ひのこ”がリナちゃんに直撃し、吹っ飛ばされる。
38 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:11:56.43 ID:Lud+ZHkk0
侑「リナちゃん!?」
リナ『ボディ損傷──ボディ損傷──ストレージ保護のため、緊急休止モードに移行します』 || ERROR ||
リナちゃんは、地面を転がったのち、エラーメッセージを吐いて、動かなくなってしまった。
果林「とりあえず……これで、うるさいのはいなくなったわね」
歩夢「ひ、酷い……」
侑「……っ」
果林「それで……確か、あの子でいいのよね──」
果林さんがそう言いながら振り返ると──
果林さんの背後に、
「──うん、そっちのお団子の子ね」
「リシャン♪」
ワープでもしてきたかのように、女の子が突然現れた。
歩夢「え……」
侑「うそ……」
かすみ「今度は、誰ですか……!?」
明るい金髪をポニーテールに結った──見覚えのある女の子。
侑「愛……ちゃん……?」
愛「やっほーゆうゆ、歩夢ー♪ 久しぶりー♪」
愛ちゃんは楽しそうに笑いながら、手を振ってくる。
果林「……愛」
愛「おっと、馴れ合い禁止ってやつ? 怖い怖い」
果林さんは、愛ちゃんを一瞥して、小さく溜め息を吐いたあと、こちらにゆっくり歩いてくる。
かすみ「こ、こっちきたぁ……!」
「ガ、ガゥゥ…!!!」
侑「ぐ、ぅ……! うご、け……!」
「ブ、イィ…!!!」
身体を必死に動かそうとするけど、全く自由が効かない。
果林さんは、そんな私たちの目の前までやってきて──素通りした。
侑「……!?」
かすみ「え?」
私たちを無視して、果林さんは──
果林「貴方が……歩夢ね」
そう言いながら、歩夢の頬に手を添える。
歩夢「え、えぇ!?」
39 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:13:23.38 ID:Lud+ZHkk0
突然のことに歩夢が酷く動揺した声をあげる。しかも、あろうことか──
果林「すんすん……」
果林さんは、歩夢の首筋に顔を近付けて、匂いを嗅ぎ始めた。
歩夢「な、ななな、なにしてるんですかっ!?///」
「シャーーーーッ!!!!」
果林「……よくわからないわね」
愛「あはは♪ 人間の鼻じゃ、わかんないよ」
果林「そういうものなの?」
愛「そういうもんだよ」
──二人は何の話をしてるの……?
果林さんはサスケに威嚇されているのに、無視し、
果林「まあ、いいわ。ねぇ、歩夢」
再び歩夢の頬に手を添え、顔を覗き込みながら、
果林「──私たちの仲間になってくれない?」
そんなことを言い出した。
歩夢「え……?」
侑「は……?」
かすみ「はい?」
果林さんの言葉に3人揃って固まる。……いや、もう既に固まって動けないんだけど……。
歩夢「な、なに……言ってるんですか……?」
果林「私たち、貴方の力に興味があるのよ」
歩夢「私の力……? 何の話ですか……?」
果林「貴方には──ポケモンを手懐ける特別な力があるの。それを私たちのために使ってくれないかしら?」
歩夢「え……!?」
侑「な……」
歩夢「わ、私にそんな力ありません……! だから、放してください……!」
果林さんの言葉を否定し、もがく歩夢。
だけど、
愛「いーや、あるよ」
今度は逆に、愛ちゃんが歩夢の言葉を否定する。
歩夢「あ、愛ちゃん……?」
愛「アタシたちね、さっきカリンが言った──ポケモンを手懐ける才能を持った子をずっと探してたんだよ」
歩夢「な、なに……言って……」
愛「まあ、もともとはカリンが他の人を捕まえるつもりだったんだけど……倒すならともかく、捕まえるにはあまりに強すぎてね。んで、その間アタシは地道に探してたわけ」
40 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:13:58.56 ID:Lud+ZHkk0
地道に……?
侑「……まさ、か……」
愛「そう、そのまさか。愛さん、ドッグランで張って、立ち寄るトレーナーを観察してたんだよ。んで、見つけた」
歩夢「う、そ……」
侑「それ、じゃ……あのとき、育て屋にいたのは……」
愛「ああ、いやいや、タマゴからエレズンが孵って、ラクライたちに狙われてたのはホントだよ? ちょっと、帰るのめんどいなーって」
歩夢「めんどいって……」
愛「ただね、あそこで地道に張ってた甲斐あったよね……本当にお目当ての力を持った子が現れたんだもん」
歩夢「じゃあ……私たちを……騙したの……? あのとき、言ってくれたことも……嘘、だったの……?」
愛「嘘なんかじゃないよ。だって歩夢──ちゃんと強くなってるじゃん。愛さんの見立てどおりに、ちゃんと強くなってくれた。きっとあのときよりも、ポケモンを手懐ける力も強くなってるよ♪」
歩夢「そん……な……」
歩夢が言葉を失う。
そんな歩夢に、
果林「それで、どうするの? 仲間になってくれるのかしら?」
果林さんがそう詰め寄る。
歩夢「ぜ、絶対に……なりません……」
果林「へぇ……」
果林さんは歩夢の頬から手を離しながら、冷たい目を向け──
果林「“ほのおのうず”」
「コーーンッ!!」
歩夢「……っ!? 熱……っ!!」
「シャーーーボッ!!!」
歩夢に向かって、“ほのおのうず”を放つ。
侑「歩夢っ!?」
かすみ「歩夢先輩!!」
果林「ほら、早くうんって言った方がいいわよ? 熱いの嫌でしょ?」
歩夢「っ゛……い、いや、です……」
果林「……」
侑「……歩夢を、放せぇぇ……!!」
「ブ、ィィ!!!!」
動けない中……イーブイの尻尾から、タネが1個ポロリと床に落ち──直後、メキメキと音を立てながら、一気に樹に成長していく。
果林「!? 何……!?」
侑「“すくすくボンバー”ッ!!」
「ブゥィィ!!!!」
成長しきった樹から巨大なタネを、キュウコンに向かって降らせる。
果林「ちっ……“ひのこ”!!」
「コーーーンッ!!!!」
41 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:14:29.68 ID:Lud+ZHkk0
キュウコンの尻尾にポポポッと九つ火が灯り、それがタネに向かって的確に発射される。
タネは着弾することなく、空中で焼き尽くされるが、
かすみ「と、わたた……!? あれ、動ける!?」
「ガゥッ!!!」
侑「解除された……!!」
「イブイッ!!!」
“かなしばり”が解除される。
愛「ありゃりゃ、技を使う拍子にキュウコンの集中が切れちゃったか」
侑「歩夢を、放せぇぇ……!! “びりびりエレキ”!!」
「ブ、イィッ!!!!!」
イーブイから放たれる電撃。
果林「“じんつうりき”」
「コーンッ!!!」
それを念動力によって、地面に叩き落とす。
かすみ「ゾロア!! “スピードスター”!!」
果林「“かえんほうしゃ”」
「コーーーンッ!!!!」
かすみちゃんの援護射撃も、なんなく焼き尽くし相殺する。
かすみ「侑先輩!! 二人で協力して、あの人倒しますよ!!」
侑「わかってる!!」
歩夢を目の前で傷つけられて、私は完全にトサカに来ていた。
絶対に許さない……!!
果林「はぁ……これだけ力を見せてあげても、二人なら勝てる、なんて思っちゃうのね。“れんごく”!」
「コーーンッ!!!!」
──キュウコンから放たれた、紫色の炎が、
「ガゥァッ!!!?」
ゾロアに直撃し、一撃で戦闘不能に追い込まれる。
かすみ「つ、つよっ!?」
侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
「ブイィィッ!!!!」
その隙に、イーブイが泡を飛ばして攻撃する。……が、
果林「“ねっぷう”!」
「コーーーンッ!!!!」
強烈な“ねっぷう”が吹き荒び、
「ブィィッ!!!!?」
42 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:15:03.22 ID:Lud+ZHkk0
“いきいきバブル”を蒸発させながら、イーブイごと焼き尽くす。
しかも、その技の範囲が尋常ではなく、
かすみ「あち、あちちちっ!?」
侑「ぐ、ぅぅぅぅっ!!?」
私たちトレーナーの方まで熱波が襲ってくる。
咄嗟に顔を庇うが──熱だけでなく、強烈な風によって、
かすみ「ぴ、ぴゃぁぁぁぁ!?」
侑「ぐぅ……!!」
立っていることもままならず、かすみちゃんもろとも吹き飛ばされて、地面を転がる。
転がりながらも、
侑「っ……! い、イーブイは……!」
どうにか顔を上げると、
「ブ、ブィィィ!!!?」
「コーン!!!!」
イーブイはすでにキュウコンに前足で押さえつけられていて、
果林「“かえんほうしゃ”!!」
「コーーンッ!!!!」
「イブィィィィッ!!!!!!」
侑「イーブイ!?」
至近距離から強烈な火炎によって焼き尽くされた。
「イ…ブ、ィ…」
侑「イーブイ……っ……!」
果林「これでわかったでしょう? 力の差は歴然──」
侑「ライボルト!! ウォーグル!!」
「ライボッ!!!」「ウォーーーッ!!!」
かすみ「ジュカイン!! テブリム!!」
「カインッ!!!」「テブテブッ!!!」
果林「……愛、手伝ってくれない?」
愛「アタシはパ〜ス♪ エンジニアだし〜♪」
果林「都合のいいときだけ、エンジニア気取りするんだから……。はぁ……わかったわよ」
果林さんは溜め息を吐いて、
果林「本当の絶望を──見せてあげるわ」
そう言って、パチンと指を鳴らした、瞬間──
「ウォーーッ!!!?」
ウォーグルが何かの攻撃を受けて後方に吹っ飛んだ。
侑「え……?」
43 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:15:39.00 ID:Lud+ZHkk0
何が起きたのか、理解する間もなく。
「カインッ!!!?」
今度はかすみちゃんのジュカインが上から攻撃を叩きつけられて、足元の石畳にめり込む。
かすみ「ジュカイン!?」
侑「敵の動きが、見えない……!? ……っ、“ほうでん”!!」
「ライボッ!!!」
私は咄嗟に範囲攻撃で対応する。
いくら速くても、周囲に展開される、電撃なら……!
果林「範囲攻撃なら……当たる、とでも?」
侑「……!?」
直後、
「ライ、ボッ!!!!」
ライボルトの懐に潜り込み、顎下から蹴り上げるポケモンの姿が見えた。
真っ白な上半身と、真っ黒下半身をした──細身のポケモン。見たことのないポケモンだった。
侑「ライボルト……!?」
ライボルトは真上に向かって数メートルは吹っ飛ばされ──しばらく空中を舞ったあと、強く地面に叩きつけられた。
侑「っ……ドロンチ!!」
「ロンチッ!!!!」
私が次のポケモンを繰り出した直後、
かすみ「……フェロー……チェ……?」
かすみちゃんが声を震わせながら、そう言葉にした。
侑「フェローチェ……? かすみちゃん、何か知ってるの……!?」
かすみ「なんで……なんで、そんなの……──ウルトラビーストを使ってるんですか!?」
ウルトラ……ビースト……?
果林「なんでって──ウルトラビーストをこの世界に呼んだのは、私たちだもの」
かすみ「!! じゃあ、お前のせいで、しず子が……!!」
果林「はぁ……もう、そういう熱血展開飽きちゃったわ、フェローチェ」
「フェロ」
果林さんが溜め息を吐きながら、言った瞬間、
「テブッ!!?」
目にも止まらぬスピードで、テブリムが蹴とばされる。蹴とばされたテブリムは剛速球のように──ヒュンと風を切りながら、
かすみ「ぐぇっ……!?」
44 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:16:12.29 ID:Lud+ZHkk0
かすみちゃんのお腹に直撃し、ポケモンだけでなくトレーナーごと吹っ飛ばした。
侑「かすみちゃんっ!?」
テブリムと一緒に数メートル吹っ飛んで、石畳の上を転がり──かすみちゃんは……くたりとして動かなくなった。
歩夢「いやぁぁぁぁぁッ!!!!?」
それを見て、歩夢が絶叫する。
そして、次の瞬間には、
果林「“じごくづき”」
「フェロ」
「ロンチ!!?」
ドロンチが攻撃を受けて、私の真横スレスレを猛スピードで吹き飛んでいった。
侑「…………う……そ……」
私は、ペタンと尻餅をついた。
ダメだ……勝てない……。
相手が……強すぎる……。
果林「……おイタが過ぎたわね」
「フェロ」
フェローチェが私の目の前で足を振り上げた。
歩夢「逃げてええええぇぇぇぇっ!!!!」
響く歩夢の絶叫。
尻餅をついた私に振り下ろされる、フェローチェの脚、スローモーションになる景色。
そのとき──私の目の前に影が割って入った。
彼方「“コスモパワー”!!」
「────」
──ガキィンッ!! と音を立てて、フェローチェの攻撃が弾かれる。
果林「……! 彼方……」
侑「か、彼方、さん……」
彼方「侑ちゃん……へい、き……っ゛……?」
私そう訊ねながらも、彼方さん相変わらず酷い顔色のままで、足元が覚束ない。
果林「ふふ……随分、体調が悪そうじゃない」
彼方「……果林、ちゃん……狙いは……私とこの子、でしょ……! 関係ない子たちに……手を、出さないで……!」
「────」
この子──彼方さんのすぐ傍にいるポケモン……金色のフレームのようなものの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている姿をしたポケモン……。
あれ、どこかで……。
侑「……そうだ、ロッジの天井にあったオブジェ……」
45 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:17:25.76 ID:Lud+ZHkk0
そのポケモンはコメコの森のロッジに泊まったとき、天井に釣り下がっていたオブジェと同じ姿をしていた。
果林「……どこに隠したのかと思ったら──コスモウムに進化していたのね。……それじゃ、もうエネルギーにならないじゃない」
愛「どーりでいくら“STAR”を探しても、センサーすら反応しないわけだ……」
彼方「いい、から……! ……歩夢ちゃんを……放して……!」
果林「断るわ。この子は私たちのこれからの計画に必要なの」
彼方「い、一体……なにする、つもりなの……!?」
果林「もう利用価値のない人間に、教えることはないわ──“むしのさざめき”!!」
「フェローーーー!!!!」
──目の前フェローチェから、とてつもない高周波が、発せられ、
「────」
振動の衝撃で、彼方さんのコスモウムと呼ばれていたポケモンを吹き飛ばす。
しかも、フェローチェの“むしのさざめき”はそれだけに留まらず、
侑「ぃ゛、ぁ゛……ッ!!!」
余波だけで近くにいた、私たちトレーナーも巻き込み始める。
直撃しているわけじゃないはずなのに、頭が割れそうになるような、とつてもない高周波。
だけど、私なんかとは比べ物にならないくらいに、
彼方「──あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁッ!!!?」
彼方さんが苦しみ始めた。
侑「かな゛、た゛、さん……ッ……!?」
彼方「う゛、ぁ゛、う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁッ!!!!」
彼方さんは、瞳孔が開ききり、頭を押さえて、のたうち回っている。
果林「ふふ……ただの攻撃だったら耐えられたかもしれないけど──貴方たち姉妹の記憶には、この音に対する恐怖が刻みつけられているものね……」
彼方「あ゛、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!!」
侑「ぐ、ぅぅぅぅ……ッ……!!!!」
私も、もう限界だった。意識が飛びそうになった、そのとき──目の前に紺色の袋のようなものが飛び込んできた。
かすみ「──“じばく”……ッ!!」
「ブクロォォォ!!!!」
「フェロッ!!?」
果林「!?」
それはヤブクロンだった。かすみちゃんのヤブクロンが飛び込んできて──フェローチェの目の前で、“じばく”した。
侑「っ゛!?」
至近距離で起こった爆発によって、身体が宙を浮いた瞬間、
「──ニャァッ!!!」
ピンチを察したのかニャスパーが勝手にボールから飛び出し、“テレキネシス”で私と彼方さんの身体を浮かせて落下の衝撃を防いでくれる。
46 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:18:07.17 ID:Lud+ZHkk0
侑「はぁ……っ……はぁ……っ……あ、ありがとう……ニャスパー……」
「ニャァ」
彼方「ぅ……ぐ、ぅ……」
かすみ「侑、先輩……っ……! かな、た先輩……っ……!」
かすみちゃんが、よろけながら、私たちのもとへと歩いてくる。
かすみ「だいじょうぶ……ですか……」
侑「……か、かすみちゃん……身体は……」
かすみ「かす、みん……これくらい……へい、き……です……」
かすみちゃんはそう言うけど、見るからに満身創痍。もう限界だ。
彼方「かす、み……ちゃん……たた、か……っちゃ……ダメ……ゆうちゃん、と……逃げ、て……──」
侑「彼方さん……っ!!」
彼方さんは最後にそう言い残すと──意識を失ってしまった。
かすみ「歩夢、先輩……取り、戻したら……そっこーで、逃げ、ますよ……」
侑「……かすみ、ちゃん……」
あくまで強がるかすみちゃんを見て、果林さんは感心した風に口を開く。
果林「……さすがに驚いたわ。咄嗟に身を引かなかったら、やられてたかもね」
「フェロ…」
かすみ「どんな、もんですか……! ヤブクロン、が……一発、かまして、やりましたよ……!」
果林「はぁ……弱いネズミでも、追い詰められると噛み付いてくるものね。……いいわ、ちゃんと──殺してあげる」
果林さんの目に──明確な殺意が宿った。
歩夢「侑ちゃんっ!! かすみちゃんっ!! 逃げてぇぇぇっ!!」
果林「フェローチェ」
「フェロ」
またしても、フェローチェの姿が掻き消える、そして次の瞬間には──かすみちゃんの目の前で脚を振り上げたフェローチェの姿。
でももうかすみちゃんには、どう考えても避ける体力すら残ってない。
侑「──かすみちゃん……っ!!」
かすみ「ゆ、ぅ……せんぱ……」
私はかすみちゃんを庇うように、飛び付く。
でも──振り下ろされる脚を避け切るのは不可能……もう、間に合わない。
ぎゅっと目を瞑って──死を覚悟した、そのとき、
歩夢「──もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!!」
歩夢の叫びが一帯に響き渡った。
──フェローチェの脚は、私の脳天を掠るか掠らないかの場所で、ピタリと止まっていた。
47 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:18:45.17 ID:Lud+ZHkk0
果林「……」
歩夢「もう……もう、やめてください……っ……!! これ以上、侑ちゃんたちに、酷いことしないで……っ……!! か、果林さんに……付いていきます……だから、もう、酷いこと……しないで……っ……」
侑「あゆ、む……?」
果林「貴方たち、歩夢のお陰で命拾いしたわね」
そう言うと、歩夢の周囲にあった“ほのおのうず”が掻き消える。
果林「さぁ、行きましょう。歩夢」
歩夢「……はい……っ……」
「シャーーーーッ!!!!!」
歩夢「サスケ……大人しくしてて……」
「シャ、シャボ…」
愛「ん、話付いたみたいだね」
直後、愛ちゃんの背後に──さっきせつ菜ちゃんが消えていった空間の穴のようなものが出現する。
歩夢は果林さんと一緒にそこに向かって歩いていく。
ダメだ──
侑「歩夢……行っちゃ……ダメだ……!」
私は、力を振り絞って、立ち上がった、けど、
歩夢「侑ちゃん……来ないで……」
侑「……!!」
歩夢の言葉に私の身体が固まる。
歩夢「ごめんね……」
侑「あゆ……む……」
私は、へなへなとその場にへたり込む。
果林「さぁ、歩夢この穴に──」
「──待ってください!!」
突然、通る声が響く。それは、
しずく「…………」
しずくちゃんだった。下で待っていたはずのしずくちゃんが、ここまで登って来ていた。
かすみ「しず……子……?」
しずくちゃんは、ツカツカと果林さんたちの方へ歩いていき、
しずく「…………私も、連れて行ってくださいませんか……♡」
信じられないことを口にした。
かすみ「しず……子……!?」
侑「え……」
48 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:19:18.88 ID:Lud+ZHkk0
しずくちゃんの様子がおかしい。
まるで熱にでも浮かされているような、トロンとした瞳で──フェローチェを見つめている。
しずく「フェローチェ……! 私はそのポケモンにまた会いたいとずっと思っていたんです……♡」
果林「ふふ……やっぱり来たわね、しずくちゃん」
しずく「はい……♡」
かすみ「しず子、ダメ……! そっちに行っちゃ……!」
果林「いいわ。私の言うことを聞けるって約束してくれたら……たくさんフェローチェを──魅せてあげる」
しずく「本当ですか……♡」
しずくちゃんの表情がぱぁぁっと明るくなる。
かすみ「……っ……!! サニーゴ……! “パワージェム”……!」
「……サ」
かすみちゃんが、サニーゴをボールから出し──直後、ヒュンヒュンと光がフェローチェの方に向かって飛んでいく。
が、フェローチェはそれを軽々と脚で切り払うようにしてかき消す。
果林「まだ、立つ力が残ってるのね……」
かすみ「しず子は……行かせない……ぜ、ったいに……」
果林「……しずくちゃん、連れて行くには条件があるわ」
しずく「なんでしょうか……♡」
果林「あのうるさいのを──黙らせなさい。貴方の手で」
しずく「……はい、わかりました♡」
かすみ「え……」
しずく「インテレオン」
「──インテ」
ボールから出てきたインテレオンが──かすみちゃんに向かって指を向ける。
かすみ「うそ……だよね……? しず子……?」
しずく「……」
かすみ「負けないでって……言ったじゃん……! あんなのより、かすみんを見てって……言ったじゃん……!」
しずく「私の邪魔、しないで……──“ねらいうち”」
「インテ」
インテレオンの指から、音よりも速い水の弾丸が飛び出し──かすみちゃんの頭の左側に直撃する。
かすみ「っ゛……ぁ……」
侑「かすみちゃん!?」
着弾の衝撃で、かすみちゃんが石畳の上を転がる。
一拍置いて──カツーンと髪飾りが床に落下し、音を立てた。
49 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:20:08.69 ID:Lud+ZHkk0
かすみ「しず……子……」
しずく「次は髪飾りじゃなくて……眉間に当てるよ」
かすみ「しず……子……っ……」
しずく「……これで、よろしいですか♡」
果林「ええ、上出来だわ。……いらっしゃい、しずくちゃん」
しずく「はい♡」
しずくちゃんが、軽い足取りで果林さんのもとへと駆けていく。
愛「……あーあ、酷いことするね、カリン」
愛ちゃんが穴に吸い込まれるようにして消え、
果林「さぁ、しずくちゃん、この先に行くのよ」
しずく「はい♡ 仰せのままに……♡」
しずくちゃんが消え、
果林「次は貴方の番よ」
歩夢「……はい」
歩夢が、穴へと、歩き出す。
侑「歩夢……い、行かないで……」
歩夢「…………」
私の声を聞いて、歩夢の足が止まる。
50 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:20:49.29 ID:Lud+ZHkk0
果林「歩夢」
歩夢「…………っ」
侑「やだ……行かないでよ……歩夢……!!」
歩夢「侑ちゃん……」
歩夢が半身だけ振り向き、私を見て、言った。
歩夢「私はいつでも……侑ちゃんのこと、大切に想ってる……っ……。……どんなに離れていても……想いは同じだよ……っ……」
いつか、言ってくれた、伝えてくれた、言葉を。
侑「待って……待ってよ……歩夢……!!」
歩夢「……ちょっと……行ってくるね……っ……」
ポロポロと涙を零しながら、にこっと笑って──
果林「行くわよ」
歩夢「……はい」
侑「歩夢……っ!!!」
歩夢は、果林さんに背中を押され──空間の穴に消えていった。
侑「歩夢うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!!」
私の叫びは……この地方の一番高い場所で──空に溶けて、消えていった……。
51 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/17(土) 16:21:23.68 ID:Lud+ZHkk0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【黄昏の階】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.●⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.59 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.59 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.55 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.47 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.54 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
タマゴ ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
バッジ 6個 図鑑 未所持
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.54 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.51 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.49 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.49 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.49 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.48 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:191匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/12/17(土) 21:54:06.73 ID:QM1x0j150
頭の中のアニメの動きと台詞全部書き連ねましたみたいな冗長さ
くどくても読ませる文章ならいいけどこのレベルでは……
ポケライブSS好きだけど流石にギブ、すまんな
53 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:11:43.19 ID:X9ltvPdj0
■Chapter051 『──かすみの願い』 【SIDE Yu】
──あの戦いのあと、私たちがどうなったのかはよく覚えていない。
気付いたら病院で治療を受けていて、気付いたら病院のベッドで寝ていた。
幸い、私の傷はそこまで酷くなかったが、ポケモンたちは酷く傷ついていたため、治療室で過ごしているそうだ。
かすみちゃんは……どうしているだろう。壊れてしまったリナちゃんは……彼方さんや遥ちゃんは無事だろうか……。
みんなの顔を見に行った方がいいのはわかっているけど──今は何もする気が起きなかった。
ただ、日がな一日、ベッドの上でただ窓の外をボーっと眺めながら過ごして……。
日に三度、規則正しく出てくる食事は……取ったところでほとんど吐いてしまうため、1口2口食べて後は全部残す。
でも……不思議と空腹は感じなかった。まるで、空腹というものを心が忘れてしまったかのようだった。
入院してすぐにお父さんとお母さんが持ってきてくれた果物も……食欲がなくて、全く手を付けていない。
看護師さんにはすごく心配されるけど、言っていることがあまり頭に入ってこず、全てが右から左へ通り抜けていく。
夜は消灯時間を過ぎても全然眠くならなかった。
ただ、ベッドで身を起こしたまま──真っ暗な病室でただ窓の外の月を眺めていた。
たまに意識が遠のいて──気絶したように眠り、起きたらただボーっとベッドの上で過ごす。それの繰り返し。
そんな風に過ごして──もう5日が経とうとしていた。
……そういえば、3日目くらいに、ポケモンリーグの理事長──すなわち、元四天王の海未さんが私の病室を訪れた。
事情を訊きたいとのことで。
私は訊かれた質問に対してただ淡々と答えた。
カーテンクリフに行ったこと。
せつ菜ちゃんが、ボロボロになった千歌さんを連れ去ったこと。
果林さんと愛ちゃんが悪い人だったこと。
しずくちゃんが付いて行ってしまったこと。
──歩夢が、行ってしまったこと……。
普段の私だったら、あの海未さんが目の前にいるとなれば、大はしゃぎだったと思う。
だけど……何も感じなかった。なんの感情も、湧いてこなかった。
──自分の中で大切な何かが壊れてしまったんだと、どこか俯瞰気味に自分を見つめている私がいた。
🎹 🎹 🎹
──コンコン。病室がノックされる。
侑「…………」
善子『──侑……私、善子だけど……入るわよ』
今日も変わらずぼんやりと窓の外を眺めていると、病室にヨハネ博士が顔を出す。
54 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:12:32.44 ID:X9ltvPdj0
善子「侑……大丈夫──……なわけないわよね……。ごめんなさい……」
侑「…………」
善子「ご飯食べてる……? 親御さんが心配してたわよ……」
侑「…………」
善子「……侑……」
侑「…………出てこないんです」
善子「え……?」
侑「すごく……悲しいはずなのに……。……涙が、出てこないんです」
善子「…………」
侑「私……おかしくなっちゃったのかな……」
善子「……侑……っ……」
ヨハネ博士が、私の手をぎゅっと握る。
善子「……ごめんなさい……」
侑「……謝らないでください……博士……。……ヨハネ博士は、何も悪くないんですから」
善子「…………っ……」
きっと、ヨハネ博士も辛いよね。自分が旅に送り出した子たちが……こんなことになって。
ヨハネ博士は言葉を探していたけど──結局見つからなかったのか唇を結ぶ。
善子「……そうだ」
ヨハネ博士は自分のカバンからボールを6つ出して、ベッドの上に並べる。
善子「…………侑、貴方の手持ちとタマゴよ。みんな元気になったって」
侑「……そっか……よかった」
善子「……あと……かすみが貴方に会いたがってたわ」
侑「……かすみちゃん……元気になったんですね」
善子「えぇ……まだ頭に包帯巻いてるけどね。……無理にとは言わないけど、今病院の中庭にいると思うから……侑が嫌じゃなかったら、会いに行ってあげて」
侑「……はい」
善子「……それじゃあ、お大事にね」
ヨハネ博士はそう残して、病室から静かに立ち去った。
侑「…………」
私は少し悩んだけど……別に他にやることがあるわけでもないし、と思い……ベッドから出て上着を羽織る。
ボールベルトを巻こうと手に持とうとすると──手が震えて、うまく持てなかった。
侑「…………あはは……ダメだ……」
私はベルトを着けるのを諦め、手持ちのボールをバッグに詰め──片側だけ肩に掛けるようにして、自分の病室を後にした。
55 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:13:05.54 ID:X9ltvPdj0
🎹 🎹 🎹
──中庭に行くと、かすみちゃんはすぐに見つかった。
かすみ「さぁ、みんな! あと10周いくよー!」
「ガゥ!!」「クマァ」「カイン」「ヤブク〜」「テブ!!」
「…サ…コ」
かすみ「サニーゴは……まあ、いいや……。速く動けないし……」
侑「……何、してるの?」
かすみ「え?」
声に振り返ったかすみちゃんは──私の顔を見て目を丸くした。
そして、すぐにぱぁぁっと花が咲いたように笑顔になる。
かすみ「侑先輩!! もう、いいんですか!?」
侑「あ、うん……かすみちゃんこそ、平気……?」
かすみ「はい! もう完全回復です! だから今、特訓中なんです!」
そう言いながらも──二の腕や手、太ももや足首と、あちこちに包帯が巻かれているし、何より……頭部に巻かれている包帯が痛々しい。
そんな私の視線に気付いたのか、
かすみ「あ、これですか……? ホントはちょっと擦りむいただけなんですけど……大袈裟ですよね! まー痕とか残っちゃったらイヤなんで、治療はちゃんと受けますけど……。あ、でもでも、かすみんあの戦いの中でも、顔だけは絶対死守したんですよ〜! 偉いと思いませんか、侑先輩♪」
侑「……」
私はかすみちゃんの腕をぐっと掴む。
かすみ「いたっ……!!」
侑「やっぱり……治ってない……。大人しくしてないと……」
かすみ「も、もう侑先輩ったら、急に掴んだら痛いじゃないですかぁ〜! いくら侑先輩でも、そういうことされたら、かすみんぷんぷんしちゃいますよ〜!」
侑「かすみちゃんっ!!」
かすみ「……!!」
私が大きな声を出すと、かすみちゃんはビクリとする。
侑「病室に戻りなよ……看護師さん、心配してるでしょ……?」
かすみ「……侑先輩のお願いでも、それは聞けません」
かすみちゃんは私からぷいっと顔を背ける。
56 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:13:40.00 ID:X9ltvPdj0
かすみ「かすみん……もっともっと、強くならないといけないんです……! だから、寝てる場合じゃないんです!」
侑「……強く、なる……」
かすみ「はい! 強くなって、しず子たちを助けに行くんです! だから、侑先輩も、一緒に特訓しましょう!」
侑「……私は……いい……」
かすみ「……やっぱり、まだ調子悪いんですかね……? 大丈夫です! かすみん、侑先輩が元気になるまでちゃんと待ってます! あ、でもでも……あんまりのんびりしてると、かすみんどんどん強くなって置いてっちゃいますよ〜?♪」
侑「……もう……やめようよ……かすみちゃん」
かすみ「……え?」
侑「こんなことしても……意味ないよ……」
かすみ「……ち、ちょっと、侑先輩〜、どうしたんですかぁ〜?」
侑「……私たちが頑張ったところで……勝負にならないよ……」
かすみ「侑……先輩……?」
侑「……きっと今、もっと強い人たちがどうするか考えてくれてる……」
海未さんが私のもとを訪れたのはそういうことだろう。
何せ、ポケモンリーグのシンボルたるチャンピオンが連れ去られたんだ。
リーグ側が何もしないなんて、それこそありえない。
侑「ジムリーダーとか、四天王とか……そういう人たちに任せた方がいいよ……。……私たちじゃ、足手まといになるだけだよ……」
かすみ「……侑先輩、それ……本気で言ってるんですか……?」
侑「……だって、果林さんの強さ……身を持って思い知ったじゃん……」
──本当に圧倒的な力の差だった。今五体満足で生きていることが、奇跡なんじゃないかというくらいに……。
侑「……私たちがちょっとやそっと頑張ったって……勝てないよ」
かすみ「…………」
侑「だから……もう、やめよう……。きっと、歩夢たちのことも強い人たちがどうにかしてくれる……。だって、この地方には強いトレーナーがたくさんいるから……だからさ──」
そのとき──
かすみ「……サニーゴ」
「──サ」
かすみちゃんが名前を呼ぶと同時に、サニーゴが私の顔に向かって──水を噴き出してきた。
侑「わ……!?」
私は驚いて、尻餅をつく。その拍子に、バッグが中庭の地面に放り出される。
侑「……かすみ、ちゃん……?」
かすみ「…………ジュカイン……! “このは”!!」
「カインッ!!」
侑「う、うわぁ!?」
今度は“このは”が襲い掛かってきて、腕で顔を覆う。
幸い、“このは”は強い技じゃないから、“このは”がべしべし当たって、ちょっと痛いくらいだけど──
侑「なにするの……!?」
思わず声を荒げる。
57 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:14:15.69 ID:X9ltvPdj0
かすみ「……侑先輩が、そんなこと言う腰抜けさんだったなんて……知りませんでした……!!」
侑「……腰抜けって……」
かすみ「その根性──かすみんが叩き直してやります……!! ゾロア!! “あくのはどう”!!」
「ガーーーーゥゥ!!!!!」
侑「うわぁっ!!?」
私は咄嗟に身を屈めて避ける。
侑「や、やめてよっ!! かすみちゃん!!」
かすみ「やめて欲しかったら、力尽くで止めればいいじゃないですか!! ジグザグマ!! “ミサイルばり”!!」
「ザグマァッ!!!」
侑「……っ」
私に向かって──“ミサイルばり”が当たりそうになった瞬間、
「──イブィッ!!!!」
イーブイがバッグの中に入れたボールから勝手に飛び出し──バキンッ! と音を立てながら、黒い氷塊を作り出して、“ミサイルばり”を弾き飛ばした。
侑「イーブイ……!?」
それを皮切りに──
「ライボッ!!!」「ウォーーー!!!!」「ロンチィ…!!!」「ニャー」
私の手持ちが次々と、勝手に飛び出してくる。
侑「み、みんな……!? ダメ、ボールに戻って!!」
かすみ「侑先輩と違って、ポケモンたちはやる気みたいですね……!! テブリム!! “サイコショック”!! ヤブクロン!! “ヘドロばくだん”!!」
「テブリッ!!!」「ヤーブゥ!!!!」
かすみちゃんは、飛び出してきた私の手持ちを見て、ますます激しく攻撃をしかけてくる。
侑「あーもうっ!!! ニャスパー、“サイコキネシス”!! ドロンチ、“りゅうのはどう”!!」
「ニャー」「ロン、チィィィ!!!!」
ニャスパーが“サイコショック”を“サイコキネシス”で静止させ、ドロンチが“りゅうのはどう”で“ヘドロばくだん”を撃ち落とす。
かすみ「やっとやる気出しましたね……っ!! じゃあ、これならどうですか!!」
そう言いながら、かすみちゃんはテブリムを持ち上げ──ニャスパーに向かってぶん投げてくる。
「テブッ!!!」
「ニャッ!?」
テブリムが拳を構えて迫ってくるが、
侑「ウォーグル!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
「テブッ!!!?」
ウォーグルが上から爪で叩き落とす。
が、
58 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:14:51.77 ID:X9ltvPdj0
「ウォッ!!?」
テブリムを抑えつけたはずのウォーグルの動きが急に止まり、
侑「な……!?」
「テブッ!!!」
「ウォーー!!!?」
足元のテブリムが、拳を振りかぶって、ウォーグルを殴り飛ばした。
「サ……」
侑「サニーゴの“かなしばり”……!」
どうやら、サニーゴによるサポートで動きを止められたところをやられたらしい。
かすみ「さぁ、ガンガン行きますよ!! ジュカインッ!!」
「カインッ!!!!」
かすみ「“リーフブレード”!!」
ジュカインが、地面を蹴って飛び出してくる。
標的は──
「ブイッ…!!」
イーブイだ……!
肉薄してきた、刃が振り下ろされようとした瞬間、
「ロンチッ!!!」
かすみ「うわ!? なんか出てきた!?」
ドロンチが地面から現れ、イーブイが掬い上げるようにして頭に乗せて、ジュカインの攻撃を肩代わりする。
それと、同時にイーブイの体が燃え上がり──
侑「“めらめらバーン”!!」
「ブーーーイィッ!!!!」
「カインッ!!!?」
ドロンチの頭を踏み切って、ジュカインに至近距離から炎の突進を食らわせる。
効果は抜群だ……! 燃えながら、吹っ飛ぶジュカイン。
かすみ「ジュカインッ!?」
そして畳みかけるように、
侑「ライボルト、“かみなり”!!」
「ライボォッ!!!!!」
“かみなり”をサニーゴの頭上に落とす──が、
かすみ「“ミラーコート”!!」
“かみなり”は反射され──
59 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:15:35.94 ID:X9ltvPdj0
「ライボッ!!!?」
侑「ライボルト!?」
ライボルトに返ってくる。
かすみ「へっへーん!! 強力な技でも跳ね返しちゃえばいいんですよー! さぁ、サニーゴ続けて行きますよ!!」
「……サ」
調子付くサニーゴ──その背後に、ユラリと、
「ロンチィ…」
かすみ「へっ……!?」
影が現れた。
侑「“ゴーストダイブ”!!」
「ロンチッ!!!」
「サ……コ……」
ドロンチに尻尾を叩きつけられ、サニーゴが吹っ飛ばされて地面を転がる。
かすみ「サニーゴ……!? ぐぬぬ……ジグザグマ──」
飛び出そうとするジグザグマを──
侑「“フリーフォール”!!」
「ウォーーー!!!!」
「クマァッ!!!?」
ウォーグルが強襲して、上空に連れ去る。
かすみ「ちょ……!? 連れてかないでくださいよっ!?」
ジグザグマを戦線離脱させ、
「テブッ!!?」
「ニャー」
かすみ「テブリム……!?」
気付けば、ニャスパーがテブリムを上からサイコパワーで押さえつけている。
かすみ「ぞ、ゾロア……!!」
かすみちゃんはゾロアへ指示を出そうとするけど──
かすみ「って、へ!?」
「ガ、ガゥゥ…」
ゾロアの周囲は泡に囲まれていた。
「ブィ」
もちろん泡の出どころは“いきいきバブル”。イーブイがこっそり、フィールド内に展開させていたものだ。
60 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:16:12.68 ID:X9ltvPdj0
侑「ジュカイン、サニーゴ戦闘不能……! ジグザグマは運び出して、テブリムはサイコパワーで押さえつけてる……! ゾロアの動きも封じた……! もう、十分でしょ!?」
かすみ「まだヤブクロンがいます!! “ダストシュート”!!」
「ヤーーーブゥッ!!!!」
侑「……っ……ニャスパー!!」
「ニャァーー!!!」
「テブッ!!!?」
ニャスパーは、サイコパワーで押さえつけていたテブリムを──“ダストシュート”に向かって吹っ飛ばす。
かすみ「え、ちょ!?」
「テブッ!!!?」
テブリムが“ダストシュート”をぶつけられて、落っこち、
かすみ「て、テブリム!?」
そして、動揺した隙を突いて──
侑「“かみなり”!!」
「ライボォッ!!!!」
「ヤブクゥゥゥーーー!!!?」
今度こそ、“かみなり”を直撃させる。
かすみ「や、ヤブクロン……!!」
侑「もう、これで終わりでいいでしょ……!!」
かすみ「……っ……まだです!! ジュカイン、“ソーラーブレード”!!」
「──カインッ」
侑「なっ……!?」
──戦闘不能になったはずのジュカインが、いつの間にか起き上がり、
「ウォーーーッ!!!?」
上空のウォーグルの翼を、陽光の剣が貫く。そして、その拍子に自由になったジグザグマが、
かすみ「“ミサイルばり”!!」
「クーーマァッ!!!」
「ウ、ウォーーッ…!!!!」
空中で体を回転させて、全身の針を飛ばしながら、ウォーグルを牽制する。
侑「な、なんでジュカインが……!?」
戦闘不能にし損ねてた……!? そんなはず……!?
──動揺して判断が遅れた瞬間、
「ロンチィ…!!?」
ドロンチが飛んできた“シャドーボール”に吹っ飛ばされる。
侑「ドロンチ!?」
──ハッとして、攻撃の出所に目を向けると、
61 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:16:44.89 ID:X9ltvPdj0
「サコ…」
気付けば、サニーゴまで復活している。
侑「な、なんで……!!」
確かに戦闘不能にしたはずなのに……!!
何かからくりがあると思って、フィールドに視線を彷徨わせると──
「ヤ、ヤブ…ク…」
ヤブクロンが最後の力でフィールドを這いながら──かすみちゃんのバッグに顔を突っ込む。
侑「……!?」
直後、
「ヤブクゥッ…!!!」
元気になって復活する。
かすみちゃんのバッグに入ってるものって──
侑「“げんきのかけら”……!? そんなのズルじゃん!?」
かすみ「これは、かすみんのジグザグマが拾ってきたアイテムだもんっ!! ズルじゃないもんっ!!」
侑「ただの屁理屈じゃん!!」
かすみ「屁理屈でもなんでもいいですっ!! ジュカイン!! “リーフブレード”!!」
「カインッ!!!」
ジュカインが剣を構えて飛び出して来る──が、
「ウォーーーッ!!!!」
上空から強襲するウォーグルが、その刃を受け止める。
2匹が鍔迫り合いを始めると──その最中にイーブイの目の前の地面から、
「──ガゥッ!!!!」
ゾロアが“あなをほる”で飛び出してきて、イーブイに飛び付いてくる。
「ブ、ブイィッ!!!!」
「ガゥ、ガゥゥ!!!!」
2匹は取っ組み合いを始め──フィールド上では、さっき倒れたテブリムのもとへ、
「クマァ」
「テブ…」
ジグザグマが“げんきのかけら”を運んで復活させる。
62 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:17:20.60 ID:X9ltvPdj0
かすみ「“げんきのかけら”、まだまだありますよっ!!」
侑「……っ……!! もう!! いい加減にしてよっ!! いつまでやるつもりなのっ!!?」
かすみ「侑先輩の根性が直るまでですっ!!!」
侑「余計なお世話だよっ!!! 私はもう戦いたくないんだよっ!!!」
かすみ「それが甘ったれてるって言ってるんですっ!!!!」
侑「私が戦いたくないって言ってるのに、なんの権利があって、戦うことを強制するのっ!!!?」
気付けば子供の喧嘩のような口論になっていた。
でも、もううんざりなんだ、
侑「ここまで旅して、頑張ってきて、少しは強くなったって思ってたけど──本当に強い人の、足元にも及んでなかった……っ!!! そのせいで、ポケモンたちをたくさん傷つけてっ!!!!」
私のポケモンたちは可哀想になるくらいボロボロにされて、
侑「リナちゃんが壊されて……っ……!! せつ菜ちゃんもおかしくなっちゃって……っ……!!! 千歌さんも攫われて……っ……!!! しずくちゃんもいなくなっちゃった……っ……!!!」
そして、私の脳裏に浮かんだのは、歩夢の言葉。
──『もう……もう、やめてください……っ……!! これ以上、侑ちゃんたちに、酷いことしないで……っ……!! か、果林さんに……ついていきます……だから、もう、酷いこと……しないで……っ……』──
そして、ポロポロと涙を零しながら、私たちのために、いなくなった……歩夢の姿。
侑「私が弱いせいで──歩夢にあんなこと言わせたんだ……っ……!!!! 私のせいで……っ……!!!! 歩夢もいなくなっちゃったんだ……っ……!!!!」
──もう、私には、
侑「私には……っ……!!!! もう、なんにも残ってないんだよっ!!!!!!!」
かすみ「──まだっ!!!!!! かすみんがいますっ!!!!!!!!!!!!!」
侑「……っ!?」
かすみ「まだ、かすみんが残ってますっ!!!!! だから……っ!!!! だからぁ……っ……! そんな、悲しいこと……っ……言わないでよぉ……っ……」
侑「かすみ……ちゃん……」
気付けば、かすみちゃんは大粒の涙をぽろぽろ零しながら──泣いていた。
私は……急に脚の力が抜けて、へなへなとその場にへたり込む。
──考えてみれば、当たり前だった。かすみちゃんだって、不安なんだ。
でも、その不安に必死に立ち向かおうと、前を向こうとしていたんだ。
それなのに、私は……一人で勝手に落ち込んで、かすみちゃんに八つ当たりして……。
俯く私に向かって、かすみちゃんはしゃくりをあげながら──
かすみ「ぅぐ……ひっく……っ……それに……っ……侑先輩の冒険の旅は……っ……ぐす……っ……歩夢先輩がいなくなっちゃったら……全部、無くなっちゃうものだったんですか……っ……?」
侑「え……?」
そう、訊ねてきた。
……私がこの旅で、見つけたモノは──何もかもなくなってしまったのか、と。
「ウォー…」「ライボ」「ロンチ」「ニャー」
私の旅は──歩夢がいなくなったら、全部無くなっちゃう?
63 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:17:57.08 ID:X9ltvPdj0
侑「……違う」
「…イブィ」
──ああ、どうして……どうして、こんな当たり前のことに……気が付かなかったんだ……。
侑「……まだ……、みんながいる……っ……」
やっと気付いて──
侑「……ポケモンたちが……っ……ずっと、支えて来てくれた……っ……みんなが、いる……っ……」
「ウォーグ」「ライボッ」「ロンチ♪」「ニャァ」
「…イブィ♪」
こんな当たり前のことも忘れていた、馬鹿な私なのに……それでも傍で支えてくれるポケモンのことを考えたら──涙が溢れてきた。
侑「ウォーグル……っ、ライボルト……っ、ドロンチ……っ、ニャスパー……っ、──……イーブイ……っ……」
「ウォグ♪」「…ライボ」「ロンロン♪」「ウニャァ」「…ブイ♪」
そして──私は……この子たちにも聞かなくちゃいけなかった。
侑「みんな……っ……歩夢を、助けたい……っ……?」
「イッブィ!!!!」「ウォーグ!!!」「ライボッ!!!!」「ロンチッ!!!」「ニャー、ニャー」
私の問いに、ポケモンたちは力強く頷いた──歩夢を、助けたい、と。
侑「そうだよね……っ……、そうだった……っ……、みんな、歩夢のこと……大好きだもんね……っ……」
「ブイブイ♪」「ウォーグ」「…ライ」「ロン♪」「ニャァ」
かすみ「侑先輩……っ」
侑「かすみ、ちゃん……」
かすみ「出来るか、出来ないかは二の次です……っ……、侑先輩は──歩夢先輩たちを助けたいですか……?」
改めての問い──そんなの、
侑「助けたいに決まってる……っ!!」
今すぐにでも、歩夢の傍に行きたい。歩夢の手を取って、抱きしめて、助けに来たよ、もう大丈夫だよって言ってあげたい。そう言って、安心させてあげたい。
それに──歩夢と約束したじゃないか。
──『私は歩夢を守れるようにもっともっと強くなる』──
きっと、歩夢は私の言葉を信じて待っているはずだ。だから……!
侑「……私が──歩夢を……みんなを、助けに行かなきゃダメなんだ……っ……!!」
かすみ「……っ……はいっ!! 一緒にしず子たちを救いに行きましょう……っ!!」
侑「……うんっ……!!」
私は力強く頷いて──かすみちゃんを抱きしめた。
侑「かすみちゃん……っ……ごめんね……っ……。私が馬鹿だった……甘ったれだった……っ……」
かすみ「ぅ……ぐす……っ……えへへ……っ……かすみん、侑先輩だったら……わかってくれるって、信じてましたから……っ……♪」
侑「ありがとう……っ……お陰で、目が覚めたよ……っ……。私には……頼もしい仲間がいるんだって……思い出せた」
「イブィ♪」「ウォーグ♪」「…ライ」「ロンチ」「ニャァ」
イーブイ、ウォーグル、ライボルト、ドロンチ、ニャスパー。順番に顔を見て、頷き合う。
そこで、
64 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:18:29.34 ID:X9ltvPdj0
「…ロン」
ドロンチが、地面に落ちたままだった、バッグをひっくり返し──出てきたボールの開閉スイッチを押す。
侑「……ふふ、そうだね。その子も、一緒に旅してきたもんね」
「ロンチ♪」
ドロンチが──頭にタマゴを乗せて、嬉しそうに鳴いた……まさに、そのときだった。
──ピシッ。
侑「え……」
タマゴにヒビが入った。
──ピシ、ピシピシ……ッ!
タマゴのヒビは音を立てながらどんどん広がっていき──
──パキャッ……! と音を立てて──
「──フィォ〜」
侑「うま……れた……」
ポケモンが──タマゴから、孵った。
透き通る水のような体をした、小さなポケモンだった。
「フィォ?」
侑「……見たことない、ポケモンだ……」
かすみ「かすみんも……見たことないです……」
私は突然タマゴから孵ったポケモンを見て、唖然としてしまう。
生まれる前兆なんて、全然なかったのに……どうして急に……?
かすみ「そ、そうだ……図鑑で、名前を……」
今手元に図鑑がない私の代わりにかすみちゃんが、ポケットから図鑑を出そうとした、そのとき、
「──そのポケモンの名前は、フィオネだよ」
背後から聞き覚えのある女性の声。
かすみちゃんと二人で振り返るとそこには──紺碧のポニーテールを揺らして、
果南「──や、二人とも、久しぶり!」
侑「果南さん……!?」
かすみ「果南先輩……!?」
果南さんが立っていた。
果南「実はさっきの二人のバトル……見てたんだよね」
侑「え……」
かすみ「み、見てたんですか……!?」
ってことは……さっきの子供の喧嘩みたいなのも……。
侑「わ、忘れてください……///」
65 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:19:02.23 ID:X9ltvPdj0
急に恥ずかしくなってくる。
果南「ふふ♪ いいじゃん、若者っぽくて」
果南さんは嬉しそうに笑いながら、
かすみ「わっ!?」
かすみちゃんの頭を撫でる。
かすみ「え、な、なんでかすみん、頭撫でられてるんですか……?」
果南「かすみちゃんのガッツが私の心に響いたからかな♪」
かすみ「は、はぁ……まあ、それはなによりですけど……」
果南さんはよっぽどかすみちゃんが気に入ったのか、しばらく撫でくりまわす。
かすみ「うぅ〜……もうやめてください〜……髪崩れちゃいます〜……」
果南「おっと、ごめんごめん」
果南さんは、苦笑しながらかすみちゃんを解放する。
果南「さて、それじゃ……侑ちゃん、かすみちゃん。行こうか」
侑「え?」
かすみ「行くって……どこにですか?」
二人で首を傾げていると、
果南「──歩夢ちゃんとしずくちゃんを助ける準備をしに……かな♪」
果南さんはニッコリ笑って、そう答えたのだった。
66 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/18(日) 20:19:38.27 ID:X9ltvPdj0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.62 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.63 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.59 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.53 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.56 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.1 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 6個 図鑑 未所持
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.63 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.56 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.54 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.56 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.55 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.56 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[age]:2022/12/18(日) 22:48:47.63 ID:MWhQJduUo
『MG総会アフタートーク』
(22:09〜放送開始)
https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
68 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 00:37:21.46 ID:c3b0uZJF0
■Intermission🎀
──私が果林さんに付いていった直後のこと……。
果林「──さぁ、こっちよ歩夢」
歩夢「……」
空間にあいた穴を潜ると──通路のような場所に出る。
果林「あと、そのアーボ。ボールに戻してくれるかしら? 敵意むき出しで怖いわ」
「シャーー…!!!」
歩夢「……ごめんね、サスケ。ボールに入ってて」
「シャーボ──」
私はサスケをボールに戻す。……果林さんだったら私に抵抗されたところで、どうにでも出来る気がするけど……。
果林「良い子ね。それじゃ、行きましょう」
歩夢「……はい」
果林さんの後ろに付いて歩き、突き当りに着くと──目の前の壁がプシューと音を立てながら、自動でスライドする。
どうやら、ドアだったようだ。……まるで、SFの世界で見るような自動ドア。
果林「入って」
歩夢「……」
促されるまま、部屋に入ると──
歩夢「何……ここ……?」
大きな椅子が3つ、その前にはそれぞれキーボード……のような入力装置が並んでいる。
そして、何より……前面に大きな窓があって──その先には、宇宙空間のようなものが広がっていた。
まるで……宇宙船の船内のような場所だ。
そして、そこには、
愛「姫乃っち、留守番ありがとね! 代わるよ」
姫乃「留守を守るのは不本意でしたが……愛さんのリーシャンの方が“テレポート”の精度が高いので……」
愛ちゃんと……初めて見る黒髪の女の子。
しずく「あの、果林さん……♡ 早く、フェローチェを……♡」
果林「ふふ、後でね」
しずく「はい……♡」
相変わらず、様子のおかしいしずくちゃん。
そして、
千歌「…………」
せつ菜「…………」
69 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 00:37:54.13 ID:c3b0uZJF0
気を失ったまま、床に寝かされている千歌さんと……その横で不機嫌そうな顔をして腕を組んでいる、せつ菜ちゃんの姿。
今入ってきた私と果林さんを含めて、7人いる。
あとは……。
「ベベノー♪」
愛「おっとと……あはは♪ ただいま、ベベノム♪」
「ベベノー♪」
黄色と白色をした小さなポケモン──ベベノムと呼ばれたポケモンが愛ちゃんに飛び付く。
愛ちゃんはその子を大切そうに抱きしめているし、ベベノムも愛ちゃんに頬ずりをしている。
それだけで、両者の関係がわかるくらいによく懐いているのがわかった。
ただ、
歩夢「見たことない……ポケモン……」
まるで、見たことがないポケモンだった。
そんな私の視線に気付いたのか、
愛「歩夢はウルトラビースト見るのは初めてっぽいもんね」
と、そう声を掛けてくる。
歩夢「ウルトラ……ビースト……?」
そういえば、さっきも戦いの合間にそんな話をしていた気がする。
果林「ウルトラビーストは……ここ、ウルトラスペースからやってきた、あの世界にはいないポケモンのことよ」
歩夢「あの、世界……?」
果林「まあ、話は追い追いしてあげるわ」
歩夢「……」
わからないことだらけで困惑していた、そのとき──
「ピューーーイッ!!!!!」
──私の胸に何かが飛び込んできた。
歩夢「きゃぁっ!? え、な、なに!?」
「ピュィ…」
それは、小さな小さな……紫色をした雲のようなポケモンだった。
愛「ありゃ、また逃げ出したんだ」
姫乃「みたいですね……」
歩夢「逃げ出した……?」
「ピュィ…」
その小さなポケモンは何故か、私に身を摺り寄せている。
果林「でも、早速歩夢の能力が見られたみたいね」
──能力。……さっき、果林さんや愛ちゃんが言っていたこと……だと思う。
70 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 00:38:44.35 ID:c3b0uZJF0
歩夢「あ、あの……私に、ポケモンを手懐ける力なんてありません……」
愛「ま、自覚はないだろうね。でもね、歩夢にはポケモンを落ち着かせる特殊な雰囲気があるんだよ」
歩夢「雰……囲気……?」
愛「詳しい理由はわからないんだけど、極稀にそういう子供が生まれてくることがあるらしいんだよね。……ポケモンだけが持ってる特殊な電磁波を感知出来る第六感があるとか、特殊なフェロモンを持ってるとか、いろいろ説はあるんだけど……とにかく、ポケモンから好かれる特殊体質が歩夢にはあるってこと」
歩夢「……」
なんだか、突飛なことを言われて面食らってしまうけど……旅の中でも、似たようなことを人から指摘されたことが何度かあった。
エマさんや、ダイヤさんだ。私にはポケモンを想い、ポケモンに想われる力があるって……。
果林「ただ……匂いに関してはよくわからなかったわ」
姫乃「っ!? 果林さん、あの子の匂いを嗅いだんですかっ!?」
愛「人間にはわからないって、前にも言ったのにね」
姫乃「わ、私だって、そんなことしてもらったことないのに……!!」
姫乃と呼ばれていた子から、すごく睨みつけられてる……。
私のことを睨まれても困る……。
「ピュイ…」
それに……この子、どうすれば……。
果林「とりあえず、“STAR”──コスモッグは歩夢に預けておきましょうか」
歩夢「え?」
愛「いいん?」
果林「もうエネルギーは十分集めたからね。無理にエネルギーを吸ったら、彼方のコスモッグみたいに休眠して、コスモウムになっちゃいかねないし。歩夢の傍にいるとリラックス出来るなら、ガスの充填も早くなるだろうしね」
愛「ま、それもそっか」
歩夢「え、えっと……」
「ピュィ…」
何故か、私はこの子を預けられてしまった……。
愛「それはそーと、この後どうするん?」
果林「ウルトラディープシーに向かって頂戴」
愛「ん、りょーかい!」
愛ちゃんが頷きながら、キーボードをカタカタと操作すると──ゴウンゴウンと音を立てながら、動き出す。
宇宙船のようなもの……というか、宇宙船……なのかもしれない。
歩夢「じゃあ、ここは……宇宙……?」
愛「ちょっと違うかな。ここは──ウルトラスペースだよ」
私の疑問に愛ちゃんが答えてくれる。
歩夢「ウルトラスペース……?」
愛「そ。……まーひらたく言えば異世界ってところかな」
歩夢「い、異世界……?」
71 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 00:39:26.94 ID:c3b0uZJF0
あまりに突飛な話が次々飛び出すせいで、そろそろ頭がパンクしそうだった。
そんな中、口を開いたのは、
せつ菜「あの……ちょっといいですか」
せつ菜ちゃんだ。
せつ菜「この人……いつまでこうしておくんですか」
千歌「…………」
そう言いながら、目で示すのは──足元にいる千歌さんだ。
せつ菜「せめて、ベッドに寝かせるくらいは……」
果林「あら、あれだけ酷いことしたのに……随分優しいのね?」
せつ菜「…………」
果林「まあ、抵抗されても困るから、手持ちのボールを回収して開閉スイッチを壊して……本人をベッドに縛り付けておくくらいはした方がいいかしらね……」
そう言いながら、果林さんが千歌さんに近付き──千歌さんの腰に手を伸ばす。
果林「貴方に恨みはないんだけれどね……貴方の強さは、私たちの計画を実行するに当たって邪魔なの。ごめんなさいね」
そして、彼女のボールベルトから、ボールを外そうとして──
果林「……あら?」
ボールを掴んで、引っ張るが──ボールはベルトから外れるどころか、びくともしない。
果林「外れない……?」
姫乃「どうかされましたか……?」
果林「ベルトからボールが──」
千歌「──……このベルトについてるボールは、私にしか外せないよ」
果林・せつ菜「「……!?」」
急に発せられた、千歌さんの声に、果林さんとせつ菜ちゃんが驚いて飛び退く。
歩夢「ち、千歌さん……!?」
千歌「……いたた……死ぬかと思った……」
果林「貴方……いつから、意識が……」
千歌「今さっき……。……ここ……ウルトラスペースかな……? 来たのは初めてだけど、こんな感じなんだ……」
愛「……へー……。そこまで知ってるんだ」
千歌「私たちもずっと調べてたからね……」
千歌さんは喋りながら、ゆっくりと身を起こしながら、腰に手を伸ばす。
果林「……それ以上、動かないで」
「──コーンッ!!!」
気付けば、果林さんのキュウコンがボールから飛び出し、尻尾の先に炎を灯しながら、千歌さんに突き付けていた。
72 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 00:39:58.43 ID:c3b0uZJF0
千歌「……」
果林「……この人数相手に戦うなんて言わないでしょ?」
千歌「……確かに、今この人数相手はちょっと無理かも……あはは」
そう言いながら、千歌さんはチラりとせつ菜ちゃんに視線を送る。
せつ菜「……!!」
せつ菜ちゃんは千歌さんからの視線を受けると、さらに距離を取って、ボールに手を掛ける。
千歌「…………」
千歌さんはその姿を見て、少し悲しそうな顔をしたあと、
千歌「フローゼル!!」
「──ゼルルッ!!!」
果林・せつ菜・姫乃「「「!!?」」」
千歌「“ハイドロポンプ”!!」
「ゼルルルルルッ!!!!!!」
フローゼルをボールから出すのと同時に──攻撃を繰り出した。
でも、果林さんやせつ菜ちゃんに向かってじゃない──背後にある壁に向かってだ。
果林「な……!?」
野太い水流がいくつも壁を貫き──その穴の向こうに……ウルトラスペースが見えた。
千歌さんはその穴に向かって──
千歌「……行くよ、フローゼル!!」
「ゼルルッ!!!」
自ら、飛び込んでいった。
果林「ま、待ちなさい!? キュウコン!! “マジカルフレイム”!!」
「コーーンッ!!!!」
千歌「“みずのはどう”!!」
「ゼーールゥッ!!!!」
飛んでくる“マジカルフレイム”を“みずのはどう”によって、一瞬で消火しながら、
千歌「待てと言われて待つ奴なんていないって!」
果林さんの制止を意にも介せず、千歌さんは──ウルトラスペースに吸い込まれていった。
果林「……っ」
愛「あー、やられたねー。とりあえず、穴塞がないとだね。ルリリ、“あわ”」
「──ルーリ!!」
愛ちゃんがボールから出したルリリが、“あわ”で空けられた穴を塞ぐ。
73 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 00:40:32.07 ID:c3b0uZJF0
愛「とりあえず応急処置っと……」
姫乃「あの人……生身でウルトラスペースに飛び込むなんて……」
せつ菜「…………千歌、さん……」
愛「生存して、どっかの世界に落ちる人もいるからねー。運が良ければ生きてる可能性はあるかな。とりあえず、今から壁直してくるから、操縦席に誰か居てもらっていい? あ、操縦自体は自動だから、触んなくていいけど」
果林「え、ええ……わかったわ」
愛ちゃんがパタパタと部屋から出ていき、果林さんは動揺した様子を見せながら、さっきまで愛ちゃんが座っていた場所に腰を下ろす。
しずく「果林さん、私はどうすればいいですか?♡」
果林「そうね……姫乃」
姫乃「はい」
果林「歩夢としずくちゃんを部屋に案内してあげて……」
姫乃「わかりました。皆さん、付いてきてください」
しずく「……」
果林「しずくちゃん、その子……姫乃に案内してもらって」
しずく「はい♡ わかりました♡」
歩夢「……」
たぶん……今逆らっても、仕方ない……かな。私も大人しく、姫乃さんの後に続く。
果林「せつ菜も……休みなさい。貴方はあのチャンピオンを倒したんだから、疲れてるでしょう?」
せつ菜「…………わかりました」
結局、姫乃さんに連れられて、私としずくちゃんとせつ菜ちゃんは部屋を後にした。
🎀 🎀 🎀
せつ菜「──私は……少し休ませてもらいます……失礼します」
姫乃「はい、ごゆっくりお休みください」
せつ菜ちゃんは気分が悪いのか……頭に手を当てながら、部屋へと戻っていく。
姫乃「そして、こちらが歩夢さん。こちらがしずくさんのお部屋です」
歩夢「は、はい……」
しずく「はい、ありがとうございます」
姫乃「ただ、歩夢さんとしずくさんのお部屋には外からロックを掛けさせていただきます。くれぐれもおかしなことはしないように」
歩夢「……」
しずく「これも、果林さんからの指示なんですよね? でしたら、私は従うだけです♡」
しずくちゃんはそれだけ言うと、何も疑わずに部屋へと入って行ってしまった。
74 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 00:41:06.51 ID:c3b0uZJF0
姫乃「尤も……千歌さんのようなトレーナーでも無い限り、壊して脱出するなんて出来ないでしょうけど……。さぁ、歩夢さんも」
「ピュィ…」
歩夢「……この子は一緒でいいんですか……?」
姫乃「ええ、そのポケモンは“はねる”か“テレポート”しか出来ませんから。それに愛さん曰く、“テレポート”はこの宇宙船内では無効化されるそうですし、どこかに行ってもすぐに追いかけて捕まえられますから」
歩夢「そ、そうですか……」
姫乃「それでは、ごゆっくり」
歩夢「……はい」
私も大人しく部屋へと入る。
中はベッドが置いてあるだけの簡素な部屋だった。
……奥にあるのはたぶん、お手洗いかな。本当に最低限という感じ……。
とりあえず、出来ることもないので、私はベッドに腰掛ける。
「ピュィ…」
歩夢「これから、どうしよう……」
今後どうなってしまうのか……不安に駆られながらも、今の私には天井を仰ぐくらいのことしか出来なかったのだった……。
………………
…………
……
🎀
75 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:52:49.44 ID:c3b0uZJF0
■Chapter052 『作戦会議』 【SIDE Yu】
侑「あの……果南さん……」
果南「ん?」
私は前をぐんぐん進んでいく果南さんに訊ねる。
侑「一体……どこに向かってるんですか……?」
「ブイ」
かすみ「それはかすみんも気になります!」
イーブイを抱きかかえながら歩いているここは──ローズシティの中央区。
中央区だから、出来ればボールに入れたかったけど……絶対に入る気がなさそうだったので、上着の前を締め、絶対に飛び出さないように、その中に入れて抱きしめているような状態だ。
……もふもふだから、ちょっと気持ちいい。
果南「あそこ」
そう言いながら、果南さんが指差すのは──ローズシティの中央に聳える大きなタワー。
あれって確か……。
侑「セントラルタワー……?」
果南「そうだよ。あそこの会議棟に向かってる」
かすみ「? そこで何かあるんですか?」
果南「うん。これから、あそこでね──」
果南さんが説明を始めたちょうどそのとき、
「かなーんっ!! やっと、見つけた!!」
前方から、見慣れた金髪の女性がこちらに向かって駆けてくる。
あの人って……。
侑・かすみ「「鞠莉博士!?」」
鞠莉「え? 侑に……かすみ……?」
私たちを見て、きょとんとする鞠莉博士。
そして、そんな鞠莉博士が持っていたカバンから──
リナ『侑さーん!!』 || 𝅝• _ • ||
侑「リナちゃん!?」
リナちゃんが飛び出してきた。
リナ『侑さん!! 侑さん……!! 無事でよかった……』 || > _ <𝅝||
侑「リナちゃんも、無事だったんだね……! よかった……」
私はリナちゃんを抱きしめる。
76 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:54:02.36 ID:c3b0uZJF0
リナ『博士が直してくれたんだよ!』 || > ◡ < ||
鞠莉「あなたたちを病院に搬送した際に、一緒にローズに届いていたらしいんだけど……話を聞いた善子がすぐにわたしの研究所に送るように手配してくれたの。それに、緊急停止モードが功をなしたみたいで、ストレージには一切問題がなかったわ」
リナ『だから、元通り!』 || > ◡ < ||
侑「そっか……よかった……」
それを聞いて、私はホッとする。
リナちゃんに関しては事件後、どこに行ったのかもよくわかっていなかったから……こうして元気な姿を見ることが出来て、心底安心している自分がいた。
リナ『あと、歩夢さんたちのことも聞いた……力になれなくてごめんなさい……』 || 𝅝• _ • ||
侑「うぅん……こうしてリナちゃんが戻ってきてくれただけで、嬉しいよ……」
リナ『侑さん……うん』 || 𝅝• _ • ||
かすみ「リナ子だけでも無事でよかった……」
リナ『かすみちゃんも無事でよかった』 || 𝅝• _ • ||
お互いの無事を喜んでいると、
果南「それはそうと鞠莉……私のこと探してたの?」
果南さんは鞠莉博士に向かってそう訊ねる。
感動の再会で忘れかけていたけど……言われてみれば鞠莉博士、結構焦っていたような……。
鞠莉「あ、そうだった……! この忙しいときに、どこほっつき歩いてたの!?」
果南「ちょっと病院まで……。街を歩いてたら、バトルの音が聞こえてきたからさ」
鞠莉「病院でバトル……? ……会議に遅れたりしたら、また海未さんに怒られるわよ?」
侑「会議……? そういえば、さっき会議棟に向かってるって……」
「ブイ?」
果南「うん。今からあそこで、今回起きたチャンピオン連れ去り事件について、対策会議をすることになってる」
侑「え……?」
鞠莉「ち、ちょっと果南!? 会議内容については内密にって……!」
果南「大丈夫。この子たちはその会議に参加してもらうから」
侑・かすみ「「え?」」
「ブイ??」
あまりに唐突な話だったため、かすみちゃんと二人でポカンとしてしまう。
鞠莉「...What?」
いや、私たちだけじゃなくて、鞠莉さんもポカンとしていた。
77 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:54:33.94 ID:c3b0uZJF0
果南「ほら、時間ないんでしょ? さっさと行かないと」
鞠莉「ち、ちょっと待って……! 海未さんに許可は貰ったの!?」
果南「これからもらう」
鞠莉「あ、あのねぇ……! 部外者連れ込みなんて、許してもらえるわけ……!」
果南「この子たちは部外者じゃない。鞠莉も概要は確認したでしょ?」
鞠莉「……そ、それは……」
果南「それに、参考人は一人でも多い方がいい」
鞠莉「…………はぁ……わかった。……どうせ、わたしが何言っても聞かないんでしょ……? 海未さんに怒られても知らないからね……」
果南「大丈夫。私、海未より強いから」
鞠莉「そういうことじゃ……まあ、いいわ……」
果南「それじゃ、行こう」
鞠莉「はいはい……」
果南さんがセントラルタワーに向かって歩き出すと、鞠莉さんも呆れ気味にその隣に並ぶ。
果南「ほら、侑ちゃんとかすみちゃんも早くー!」
かすみ「……侑先輩、かすみん……一体なにがなにやら……」
侑「私もわかんないけど……とりあえず、付いていこう」
「ブイ」
リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > ◡ < ||
完全に話に付いていけていないけど……果南さんは、歩夢たちを助けるための準備をしに行くと言っていた。
現状、私たちはどうやって歩夢たちを助けに行くか、思いついているわけでもないし……もし、その対策会議とやらに参加させてもらえるなら、またとないチャンスだ。
私たちは、果南さんと鞠莉さんの後を追って、セントラルタワーへと向かいます。
🏹 🏹 🏹
──セントラルタワー。会議棟。
私、ポケモンリーグ理事こと──海未は、四天王のことり、希、ダイヤを引き連れ、ここローズシティのセントラルタワーを訪れていた。
ツバサにはこういう会議の場に欠席しがちな英玲奈を、何がなんでも連れてくるようにと頼んでクロユリに送り出した──少し間の悪いトラブルもあったようですが……。
なにはともあれ、ツバサは英玲奈と一緒にここに来ているはずだ。
ダイヤ「…………」
ことり「ダイヤちゃん、大丈夫……? 体調悪いなら無理しない方が……」
ダイヤ「いえ……お気になさらず……」
希「きつかったら、遠慮せずにちゃんと言うんよ……?」
ダイヤ「はい……お気遣い感謝しますわ……」
78 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:55:31.98 ID:c3b0uZJF0
ダイヤは千歌が攫われた報せを受けてから、ずっと顔色が悪い。
無理もないでしょう。元とは言え……教え子が連れ去られたのですから。
そして、それは私にとっても同様の話……。
正直、今でも千歌が戦いに敗れて攫われたというのは信じ難かった。
ですが、私はこの地方のポケモンリーグの長として……落ち込んでいるわけにはいかない。
──会議室へ向かう道すがら、
穂乃果「彼方さん……体調が悪かったら、無理しないでね?」
彼方「うぅん……大丈夫だよ〜……。……それに、今彼方ちゃんがお休みしてる場合じゃないから……」
穂乃果がオレンジブラウンの髪色をした女性──名前は確か彼方だったと思います──と話しているところに出くわす。
ことり「穂乃果ちゃん……!」
穂乃果「! ことりちゃん! ……それに、海未ちゃん」
海未「……穂乃果」
私は穂乃果にツカツカと歩み寄る。
海未「……穂乃果、貴方ずっと千歌と一緒に行動していたそうですね……。貴方が付いていながら、どうしてこんなことになるのですか……?」
穂乃果「……ごめん」
ことり「う、海未ちゃん……!」
彼方「ほ、穂乃果ちゃんを責めないであげて……!」
私の言葉を受けて、ことりと彼方が穂乃果を庇うように言う。
穂乃果「うぅん……海未ちゃんの言うとおりだよ。私は千歌ちゃんとお互いをフォローし合うためにいたはずなのに……まんまと相手の策に引っ掛かって……」
彼方「穂乃果ちゃん……」
ことり「穂乃果ちゃん、そんなに自分を責めないで……? 海未ちゃんも千歌ちゃんが攫われたって聞いて……気が立ってるだけなの……」
海未「ことり……! 余計なことを言わないでください……! 私は理事長として──」
希「ストーーップ! それは、今ここでする話じゃないんやない?」
再び言い合いになりそうなところに、希が仲裁に入る。
希「それに、ダイヤちゃんもいるんよ?」
ダイヤ「わ、わたくしは……大丈夫ですけれど……」
確かに希の言うとおりだ。……今ここで口論をしている場合ではなかった。
海未「……すみません、言い過ぎました……」
穂乃果「うぅん、大丈夫だよ」
希「とりあえず……会議室へ向かおう? そろそろ、他のみんなも集まってる時間だし」
希に促されて私たちは、会議室の方へと向かう。
79 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:56:25.30 ID:c3b0uZJF0
🏹 🏹 🏹
──会議室内では、すでに招集した人間がほとんど揃っていた。
ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイ、ローズ、ヒナギク、クロユリのジムリーダーたち。
ちょうどローズを訪れていた理亞には、そのままローズに残ってもらっていた。
そして、ツバサを派遣した甲斐もあって、英玲奈もちゃんと出席している。
加えて──
善子「ずら丸……あんた、どういう肩書でここにいるの……?」
花丸「人間、人には言えないこともあるんだよ、善子ちゃん」
善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」
事態が事態なだけに、ダリアジムからは、にこだけでなく、花丸にも出席してもらっている。
なので、ジムリーダーは9人。四天王4人に、地方の博士である善子と鞠莉。加えて歴代チャンピオンの穂乃果と果南。参考人として彼方に同席してもらうことになっている。
即ち、ポケモンリーグ理事長である私を含めて──19人という大所帯だ。
海未「……果南と鞠莉はまだ来ていないみたいですが……」
どうやら、彼女たちの到着が最後になりそうだ。
席に着いて、彼女たちの到着を待とうとした矢先、
花陽「海未ちゃん……!!」
花陽が駆け寄ってくる。
海未「花陽? どうかしましたか?」
花陽「わ、わたし……っ……果林さんがずっとコメコに住んでること、知ってたのに……なんにも気付かなくて……っ……」
海未「……花陽。その話は、会議が始まってから──」
花陽「でも……っ……! 私がもっと早く気付いていれば、千歌ちゃんだって……っ……!」
ことり「落ち着いて、花陽ちゃん……。……花陽ちゃんのせいじゃないよ」
花陽「でも……!」
花陽は人一倍責任感が強い。故に自分の町に今回の事件の主犯格が潜んでいて、それに気付けなかった自分に負い目を感じているのだろう。
そんな彼女をことりが宥める中、
英玲奈「──花陽、ジムリーダーがそのように取り乱すのはみっともないぞ」
英玲奈が花陽に向かって厳しい言葉を飛ばす。
もちろん、そんなことをしたら黙っていない人物がいる。
凛「ちょっと!! かよちん落ち込んでるんだよ!? そんな言い方しないでよ!!」
凛だ。
80 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:56:57.45 ID:c3b0uZJF0
英玲奈「私たちは町のリーダーだ。そんな泣き言を言うためにここに来たのか?」
ツバサ「英玲奈、やめなさい」
英玲奈「私は有意義な話し合いをすると聞いてここに来たのだが……。その気がないのなら、クロユリに戻ってもいいか? 私はこんなところにいる場合じゃないんだ」
凛「何、その言い方!!」
希「凛ちゃん、やめとき」
ツバサ「英玲奈も、言葉を選びなさい」
英玲奈「……」
海未「英玲奈……クロユリが大変な時なのは理解しています。ですが、私の顔に免じて……一旦矛を収めてもらえませんか」
私は頭を下げる。
クロユリが大変な時──クロユリシティは……数日前、謎の大型ポケモンの襲撃を受けた。
英玲奈が撃退をしたそうだが……未だにそのポケモンの正体はわかっていない。
空間の穴から突然現れて、倒したら再び穴の中へと逃げ帰っていったとのことだ。
英玲奈はそんな中で、緊迫したクロユリの地を空けて、わざわざローズまで来ているのだ。苛立ちや焦りがあっても仕方ない。
英玲奈「頭を下げないでくれ……。……すまない、私も口が過ぎた……謝罪する」
花陽「い、いえ……わたしも……ごめんなさい……」
凛「り、凛は謝らないよ!」
希「こら、凛ちゃん。そういうこと言わない」
凛「にゃ……ご、ごめんなさい……」
英玲奈も花陽も凛も、動揺が見て取れる。
いや、彼女たちだけじゃない。
ルビィ「お姉ちゃん……大丈夫……?」
ダイヤ「ルビィ……えぇ、わたくしは大丈夫ですわ……」
相変わらず真っ青な顔色のダイヤ。それを心配するルビィ。
にこ「真姫……あんた大丈夫? 目の下酷い隈よ……?」
真姫「ごめん……ちょっと……あんまり、眠れてなくて……」
真姫もあまり体調が芳しくないらしい。
理亞「…………」
理亞はそんな中なせいか、とにかく居心地が悪そうな顔をして座っている。
地方を取りまとめる存在であるはずのジムリーダーたちが、揃いも揃って酷く動揺しているのが目に見えて明らかだった。
それもそのはずだ。……チャンピオン──即ち、この地方最強のトレーナーが敵の手に落ちるとはそういうことなのだ。
……会議室内の空気が酷く重い。
こんな雰囲気で会議を始めていいのだろうか……そう思っていた、そのとき、
「──あの、皆さんっ!!」
一人のジムリーダーが、立ち上がりながら、大きな声をあげた。
全員の視線がその声の方に向く。
声の主は──
81 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:57:45.75 ID:c3b0uZJF0
曜「一度、落ち着いてください!」
──曜だった。
曜「千歌ちゃんが攫われて……みんなショックを受けてるのはわかります。でも、今やるべきことはショックを受けて足を止めることじゃないはずです!」
ことり「曜ちゃん……」
曜「それに……千歌ちゃんはきっと大丈夫です!! あの千歌ちゃんがこのくらいのことで、どうにかなったりするわけありません!」
ダイヤ「曜さん……」
曜「むしろ、今頃敵の隙を突いて、脱出してるくらいだと思います! 皆さんも千歌ちゃんなら、それくらいやりそうって思いませんか?」
善子「ふふ……全くね」
曜「だから、今は落ち着いて、今後どうするかを考えた方がいいと思います!」
曜の言葉で一瞬、室内が静寂に包まれたが、
ツバサ「……曜さんの言うとおりよ。私たちが動揺している場合じゃないわ」
ことり「うん! 私たちジムリーダーや四天王が落ち込んでたら、街の人たちも不安になっちゃう! 私たちはちゃんと前を向いてないと!」
ダイヤ「……教え子に諭されていてはいけませんね。自分を律して、今出来ることを為さなくては……」
希「こんなときこそ、平常心やんね。みんな一旦深呼吸しよか」
四天王たちがそれに同調すると、場の空気が一段階軽くなったような気がした。
それは、曜も肌で感じ取れるものだったのか、
曜「……はぁ……よかった」
彼女は安堵の息を漏らす。
そんな彼女の背中を隣に座っていた善子が──バシンッ! と勢いよく叩く。
曜「いったぁ!? ち、ちょっと、何すんの善子ちゃん……!?」
善子「あんたの成長を目の当たりにして、嬉しかっただけよ。あと、ヨハネよ」
曜「そういうことは口で言いなよ……」
善子「千歌が海に放り出されたとき、わんわん泣いてたあの曜がねー……」
曜「ちょ!?/// 今、それ言う!?///」
二人のやり取りに、くすくすと笑い声さえ聞こえてくる。
お陰で暗い空気が随分払拭された。
そして、ちょうどそのとき、
果南「──なんか、思ったより盛り上がってるじゃん」
鞠莉「I'm sorry. ごめんなさい、遅くなったわ……」
果南と鞠莉が遅れてやってきた。これで面子は全員揃った。
海未「果南たちも来ましたね、それでは会議を始め──……ん?」
そのとき、ふと──果南と鞠莉の後ろに少女が二人いることに気付く。
侑「え……な、なんか、すごい人たちばっかいるよ……!?」
「ブィィ…」
かすみ「か、かすみんたち……もしかして、場違いってやつですか……?」
82 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:59:10.72 ID:c3b0uZJF0
──確かあの子たちは……。数日前に事情聴取をした、事件に巻き込まれた少女たち。……確か、侑とかすみと言っただろうか。
彼方「侑ちゃん……!? かすみちゃん……!?」
侑「! 彼方さん……!」
かすみ「彼方先輩!? 身体の方はもう大丈夫なんですか!?」
彼方「うん……とりあえずは……。二人も大丈夫そうだね……」
侑「はい!」
かすみ「えっへん! かすみんこれで結構丈夫ですから!」
彼女たちは、一緒に巻き込まれた彼方とお互いの安否確認を始めているが……。
海未「果南……どういうことですか」
私は果南を睨みつける。
果南「この子たちも、会議に参加してもらおうと思って」
海未「自分が何を言っているのか理解してますか?」
果南「参考人は多い方がいいでしょ?」
海未「……貴方、何か企んでいますね?」
果南「いいから始めようよ。時間もったいないでしょ?」
海未「こちらは貴方たちが来るのを待っていたんですが……」
果南「侑ちゃん、かすみちゃん、ここに座って!」
そう言いながら果南は、壁側に立てかけてあった椅子を持ってきて、勝手に席を作り出す。
侑「え、えっと……いいのかな……?」
「イブィ…?」
かすみ「果南先輩がいいって言ってるんだから、お言葉に甘えちゃいましょう!」
侑「え、えぇ……?」
リナ『かすみちゃん、さすがの図太さ……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
何やら、ロトム図鑑らしきものもいますし……。侑に至ってはポケモンを同席させている。
果南「さ、始めて始めて!」
海未「……言いたいことは山ほどありますが、貴方の強引さに付き合うとロクなことになりませんからね……。お小言は後にしてあげましょう」
果南「海未が相変わらず、話のわかる人で嬉しいよ」
海未「あとで……問題にしますからね」
果南「へいへい」
果南の突拍子もない行動に一つずつ言及していたら、それだけで日が暮れてしまう。
この頑固者は、一度決めたら私に何を言われようが絶対に意見を曲げないんです。
バタバタしましたが──対策会議はこの21人と1台の図鑑によって始まることとなった。
83 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 11:59:54.08 ID:c3b0uZJF0
🎹 🎹 🎹
──なんだか、とんでもないところに来てしまった……。
とりあえず、それが私の感想だった。
地方中のジムリーダーに四天王たちが一堂に会している光景は、ポケモンリーグのエキジビションくらいでしか見たことがない。
海未「なるべく多くの情報をまとめるために……長い会議になるとは思いますが、お付き合いいただけると助かります」
海未さんはそう前置いて、会議を切り出し始めた。
海未「──まず軽く事件の概要に触れましょう。もうすでに、全員ご存知かと思いますが──チャンピオンである千歌が拐かされました。他にも一般人が2名。ウエハラ・歩夢さん。オウサカ・しずくさんも連れ去られたと報告を受けています。そして、この事件の犯人ですが……アサカ・果林、ミヤシタ・愛、ユウキ・せつ菜の3名が関与していると見られています」
真姫「…………」
海未さんの説明と共に、会議室内のスクリーンに果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんの写真が映し出される。
ただ、愛ちゃんの写真だけは何故かスーツを着ていて……遠くから撮った、監視カメラからの写真のようなものだった。
海未「後ほど詳しく彼女たちについて話したいのですが、その前に前提の話として……穂乃果と彼方──貴方たちは長い間、千歌と行動を共にしていたそうですね」
穂乃果「うん、ここ1年半くらいは千歌ちゃんや彼方ちゃんたちと一緒に行動してたかな」
海未「その話を詳しく聞かせてもらってもいいでしょうか?」
彼方「あ、あのー……」
海未「なんでしょうか?」
彼方「詳しくって言うのは……どこまで……」
海未「可能な限り多くの情報を喋っていただけるとありがたいのですが……」
彼方「で、ですよねー……」
海未「何か言えないことでも……?」
彼方「えーっと……」
海未さんの視線に、困惑した表情をする彼方さん。
彼方さんが助けを求めるように穂乃果さんに視線を送ると、
穂乃果「隠さなくていいよ彼方さん。こういう事態になっちゃった以上……無理に隠す方が却って混乱を招くからって、相談役から言われてるんだ。向こうとは相談役が話を付けるから、気にしなくていいって」
彼方「そ、そっか……そういうことなら……」
ことり「相談役って……リーグの相談役……?」
穂乃果「うん、ことりちゃんのお母さんだよ」
海未「……言われてみれば、千歌も相談役と何かと話をしていることが多かった気がしますね。……穂乃果、貴方たちは一体何をしていたんですか?」
穂乃果「うーんとね、私たちはポケモンリーグ経由で──国際警察からの仕事を請け負ってたんだ」
海未「……は?」
海未さんが素の反応を示した。
海未「ち、ちょっと待ってください……国際警察……? いつからですか……?」
穂乃果「私がチャンピオンになって1年くらい経ったときからだから……えっと……」
海未「ま、待ってください! それって10年以上前ではありませんか!?」
穂乃果「うんとね、この地方でチャンピオンになったときに、ことりちゃんのお母さんからお願いできないかって話があって……。歴代チャンピオンは、みんなお願いされてたみたいだよ」
84 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:00:38.15 ID:c3b0uZJF0
それを聞いて、海未さんが果南さんの方に視線を向ける。
海未「果南、本当ですか?」
果南「あー……? そういえば、なんかそんな感じのこと言われたかも……国際組織から私宛てにお願いがあるんだけど、聞いたら受けてもらわないといけないから、聞くか聞かないか選んで欲しい、みたいな……私は断ったんだけど……」
海未「……なるほど。……侑? どうかしましたか?」
海未さんが急に私に声を掛けてくる。
何故なら──私が相当驚いた顔していたからだろう。
侑「──か、果南さんって……チャンピオンだったんですか……?」
果南「うん、そうだよ。千歌の前のチャンピオン」
かすみ「えぇ!? うそ!?」
海未「果南はかなりクローズドでチャンピオンをしていましたからね……知らないのも無理はありません」
確かに千歌さんの前にもチャンピオンはいたはずだけど……本当に全く知らなかった……。
海未「それでは、千歌もそれを受けることを選んだということでいいんですか?」
穂乃果「うん。だから、それ以来千歌ちゃんとはツーマンセルで彼方さんと、妹さんの遥ちゃんの護衛任務をしてたんだ」
ツバサ「護衛……? 守ってたってこと? 何から?」
彼方「えっと……そのためには、わたしが何者なのかから、話さないといけないんだけど……。……実はわたしと妹の遥ちゃんは……もともとこの世界の人間じゃないんだ」
会議室内が静まり返る。
侑「この世界の……人間じゃない……?」
にこ「まるで、この世界以外の世界があるみたいな言い方ね……」
にこさんが疑いの眼差しを向けながら言う。
でもそれに対して、
鞠莉「……もしかして、ウルトラホール……?」
鞠莉博士には心当たりがあったらしい。
穂乃果「え!? 鞠莉さん、もしかして知ってるの!?」
鞠莉「知ってるというか……そういう文献を読んだことがあるというか……。善子、あなたにも見せたことあるわよね?」
善子「善子言うな。……えっと、確か私たちの住んでいる時空よりも、さらに高次元に存在する空間みたいなものだった気がするわ。……アローラの方で研究してる財団があったような」
彼方「うん。ウルトラホールの先には、ウルトラスペースっていう空間が存在してて……いろんな世界と世界を繋いでるんだ。わたしたち姉妹は、そのウルトラスペースを通って、こっちの世界に落ちてきたの……」
穂乃果「稀にそういうことがあるらしくって、ウルトラスペースを通ってこっちの世界に落ちてきちゃった人のことを国際警察では“Fall”って呼んでるんだ。……そして、国際警察は“Fall”の人たちを保護してる」
海未「……突拍子もなさすぎて、理解が追い付かないのですが……」
海未さんはそう言いながら、眉を顰めている。
希「保護してるんはええんやけど……なんで、護衛する必要があるん?」
彼方「それを説明するには……先にウルトラビーストについて説明しないといけないかな……」
ことり「ウルトラビースト……?」
かすみ「かすみん、ウルトラビーストなら知ってますよ! 異世界から来た、超強いポケモンのことで──もがもがっ!!」
侑「す、すみません、続けてください」
自信満々にかすみちゃんが解説しようと口を挟むけど、たぶん話がややこしくなりそうだから、口を押さえる。
85 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:01:37.17 ID:c3b0uZJF0
彼方「ウルトラビーストって言うのは、ウルトラスペースに住んでるって言われる特殊なポケモンのことだよ。ウルトラスペースは特殊なエネルギーに満ちてるらしくって……それを浴び続けた結果、ウルトラビーストたちは普通のポケモンとは一線を画した強さを持ってるんだ……」
穂乃果「それと……“Fall”もウルトラスペースを通ってきてるから……身体にそのエネルギー浴びちゃってて、それに惹かれてウルトラビーストが寄ってきちゃうんだって」
ダイヤ「では……穂乃果さんと千歌さんは、“Fall”故に寄ってきてしまうウルトラビーストから、彼方さんや妹さんを護衛していたということですね」
穂乃果「うん、そういうこと」
穂乃果さんはダイヤさんの言葉に頷く。
凛「ねぇねぇ、聞きたいんだけど……」
彼方「んー、何かな?」
凛「ウルトラスペースってところを通ってきたってことは……彼方さんにはもともと住んでた世界があったってことでしょ? そこには帰ったりしないの?」
彼方「あー、んー……えーっと……」
穂乃果「えっとね、“Fall”の人はほとんどが記憶を失ってるんだ。……彼方さんや遥ちゃんも例外じゃなくって……だから、元居た世界の記憶が──」
彼方「あのー……それについてなんだけど……」
穂乃果「ん?」
彼方「実は彼方ちゃん……記憶、戻ったみたいなんだよね……」
彼方さんの言葉に穂乃果さんは一瞬フリーズする。
穂乃果「……ええぇぇぇ!!? わ、私聞いてないよ!?」
彼方「退院出来たのが昨日だし……話すタイミングがなくって……」
穂乃果「でも、なんで急に……!?」
彼方「……きっかけは──果林ちゃんの持ってた色違いのフェローチェ。……わたしと遥ちゃんは……ウルトラスペースを航行中に、果林ちゃんのウルトラビースト──フェローチェに襲われて、この世界に墜落したんだ……」
穂乃果「え……?」
海未「ちょっと待ってください……果林はそのウルトラビーストとやらを持っていたということですか……?」
彼方「えっと……果林ちゃんと愛ちゃんは、わたしと同じ世界の出身……というか、もともと同じ組織の仲間だったんだ」
──場が再び静まり返る。
ルビィ「えっと……果林さんと愛さんが彼方さんと同じ世界の人で、仲間なんだけど……果林さんが彼方さんを襲って……? あれ、なんかこんがらがってきた……」
理亞「……仲間割れってこと?」
花丸「うーん……この場合、組織にとって大切な機密や物を盗んで、彼方さんが逃げちゃったって言う方がしっくりくるかな?」
ルビィ「は、花丸ちゃん! そういうこと言ったら失礼だよ!」
花丸「あ、ごめんなさい……物語だとそういうパターンの方がわかりやすいかなって思って……」
彼方「うぅん、花丸ちゃんの言ってることであってるよ」
ルビィ「えぇ!?」
海未「つまり……現在は彼女たちの味方ではないと考えていいんですね」
彼方「うん。……わたしと遥ちゃんは、組織のやり方に賛同できなくて……コスモッグっていうポケモンを連れて、自分たちの世界を脱出したの……。ただ、ウルトラスペースはウルトラスペースシップって専用の船で航行するんだけど……すぐに気付かれて、果林ちゃんのフェローチェに撃墜されちゃったんだ……」
海未「その組織というのは……具体的に何をしようとしていたんですか?」
彼方「……私たちの住む世界を蘇らせるための活動……かな」
曜「蘇らせる……?」
彼方「あのね、想像が難しいかもしれないんだけど……わたしたちの世界は全部合わせても……この地方くらいの土地しか残ってなかったんだ……」
かすみ「オトノキ地方くらいの土地しかない……世界……? どゆこと……?」
彼方「正確には、それくらいしか住める場所が残ってなかったんだ……大半の陸が崩落して海に沈んで……多くの海や大気が有毒な物質で汚染されて、人もポケモンも生きていけない……だから、わたしたちの世界の人とポケモンたちはその少ない土地の中で暮らしていた……。その中でもわたしたちは……プリズムステイツって場所で暮らしてたんだ」
善子「じゃあ、貴方はそこから妹と一緒に亡命でもしようとしてたってこと?」
彼方「亡命……うん、そうかも」
86 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:02:29.18 ID:c3b0uZJF0
彼方さんは、ヨハネ博士の言葉に頷く。
かすみ「あ、あの侑先輩……」
侑「……なにかな」
かすみ「かすみん、彼方先輩が何言ってるのか全然理解出来ないんですけど……」
侑「大丈夫、私も全然頭が追い付いてないから……」
あまりに突拍子もない話が多すぎて、脳がうまく情報を処理しきれていない。
とりあえず、一個ずつまとめていこう……。
……彼方さんや果林さん、愛ちゃんはもともと異世界に住んでいて、その世界を救うための組織にいた。
だけど、考え方の違いから、彼方さんは遥ちゃんと一緒に、組織の大事なものを盗んで他の世界に逃げだしたけど……その最中──果林さんに襲われて、この世界に落ち……記憶を失って、この世界で生活していた……って感じかな。
海未「その亡命の理由とやらは……聞いてもいいですか?」
彼方「……プリズムステイツに存在する政府組織は……世界再興のために──他の世界を滅ぼすことを計画したんだ」
海未「……なんですって?」
世界を滅ぼす──物騒な言葉に海未さんが顔を顰める。
鞠莉「Hmm... あなたたちの住んでいる世界が破滅の危機に瀕していて、それを救おうとしていることはわかったわ。だけど、それと他の世界を滅ぼそうとすることに何の因果関係があるの?」
彼方「あの……ここまで言っておいて、あれなんだけど……実は彼方ちゃんは基本的には実行部隊みたいな立ち位置だったから、具体的にどうしてそうすると世界が救われるのかはよくわかってなかったんだ……。ただ、エネルギーの流れを変えるとか……そんな感じのことは言ってたけど……」
にこ「わかんないのに、そんな組織に身を置いてたの……!?」
真姫「……逆でしょ」
にこ「……逆?」
真姫「理屈もわからないのに、他の世界を滅ぼすことが自分たちの世界を救う方法だ、なんて言われたから……逃げることにしたんでしょ」
にこ「あ、なるほど……」
海未「どういう組織だったのか……もう少し具体的に教えてもらってもいいですか?」
彼方「えっと……もともとはプリズムステイツの研究機関が基になってて……そこにいた二人の天才科学者が、ウルトラスペースを発見したことから始まった組織なんだー……。ただ、実際にウルトラスペースは危険を伴う場所だったし、ウルトラビーストと戦闘になることもある……だから、実行部隊っていう戦う専門の部隊が出来たんだ。その組織をプリズムステイツの偉い人たちが管理してたって感じかな……」
穂乃果「彼方さんは、その実行部隊にいたんだね」
彼方「うん……それで、その組織の中で戦闘の実力がトップの二人には……それぞれ“SUN”と“MOON”って称号階級と一緒にポケモンが渡されてたの……」
そう言いながら、彼方さんは腰からボールを外して──ポケモンを出す。
「────」
彼方「それが……この子」
侑「遺跡で戦ってるときに私を助けてくれたポケモン……」
あの、金色のフレームの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている姿をしたポケモンだ。
87 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:03:05.67 ID:c3b0uZJF0
ツバサ「……その称号と一緒に渡されるポケモンを持っているってことは、貴方はその称号を持った幹部だったってこと?」
彼方「えっと……確かに彼方ちゃんは実行部隊で2番目に強いトレーナーだったから、副リーダーみたいな扱いで……一瞬だけ称号階級を持ってたタイミングはあったんだけど……もともとは違う人が持ってたんだ……」
英玲奈「……もともとは違う? 君は実行部隊で2番目に強いトレーナーだったのだろう? それだったら、最初からその階級称号を持っていたんじゃないのか?」
彼方「階級称号は実行部隊のトップ2に贈られるものじゃなくて……組織全体で見て戦闘の実力がトップの二人に贈られるものなの」
ルビィ「えっと……どういうこと……? 実行部隊のトップ2はバトルのトップ2じゃないの……?」
花丸「……そっか、研究者の中に実行部隊よりもバトルが強い人がいたんだ」
彼方「うん、そういうこと」
曜「あーなるほど……」
彼方「……果林ちゃんは“MOON”の称号を持ってた実行部隊のトップの人で、“SUN”は……科学者でありながら、戦闘で果林ちゃんに匹敵する実力を持ってた愛ちゃんだったんだ。それでこの子は、もともと愛ちゃんが持ってたコスモッグなんだけど……理由があって愛ちゃんの手を離れたときに、わたしが組織から持ち出したポケモンなんだ。……この子を持ち出せば、一時的にでも計画を止めることが出来るから」
花陽「一時的に計画を止める……?」
彼方「このポケモン──コスモウムは……もともとはコスモッグっていうポケモンが休眠状態になった姿なの。コスモッグは大量のエネルギーを体に蓄えていて……そのエネルギーはウルトラスペースを自由に航行出来るほどだった。……だけど逆に言うなら、コスモッグがいなくなってウルトラスペースを自由に行き来出来なくなったら、計画は頓挫する。だから、彼方ちゃんは遥ちゃんと一緒に、コスモッグを連れ出して、組織から逃げて来たの」
穂乃果「あれ……? でも、コスモッグは“SUN”と“MOON”に渡されてたんだよね……? なら、2匹いたんじゃ……」
彼方「うん。彼方ちゃんたちも最初は2匹とも連れ出せればとは思ったんだけど……1匹は果林ちゃんが普段から持ち歩いてたから、連れ出すのはとてもじゃないけど、無理だった」
にこ「そういうのって片方残ってたら意味ないんじゃないの……?」
彼方「コスモッグは一度にエネルギーを吸いつくしちゃうと、休眠して二度とエネルギーを出せなくなっちゃうから……2匹のコスモッグから交互にエネルギーを貰ってたの。だから、1匹減るだけで計画の効率はすごく下がるんだ」
海未「果林のコスモッグは無理だったのに、愛のコスモッグは連れ出せたということですか? 愛も貴方より強かったのでは……?」
彼方「彼方ちゃんたちが脱出するとき……愛ちゃんは“SUN”の称号階級を剥奪されてて、繰り上がりで私が貰うことになってたんだ……だから、わたしがコスモッグを連れ出せたんだよ」
海未「階級の……剥奪……? 何故……?」
彼方「あるとき、愛ちゃんが……組織の施設を破壊して回ったから……」
かすみ「……?? なんか、全然意味わかんないんですけど……」
確かに随分唐突な話な気がする。
花丸「もしかして……愛さんも、彼方さんみたいに組織のやり方に反対してたってこと?」
彼方「愛ちゃんがどうしてそんなことしたのか、詳しい理由はわからないんだけど……組織のやり方に反対してたって噂はずっとあったんだ。それに……」
鞠莉「それに?」
彼方「愛ちゃんが、施設を破壊する直前……大きな事故があったんだ」
ことり「事故……?」
彼方「さっきも言ったけど……この組織は二人の天才科学者を端にして作られたんだけど……一人はもちろん愛ちゃんのこと、そして──もう一人は愛ちゃんの一番大切な人だった」
海未「……まさか、その事故というのは」
彼方「……うん。そのもう一人の研究者が……ウルトラスペース調査中に……亡くなったんだ。その子の名前は──」
彼方さんは急に、私の方──いや、私の傍に居るリナちゃんに視線を向ける。
彼方「──テンノウジ・璃奈」
リナ『……!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「え……!?」
私は驚いて思わず声をあげる。
彼方「……記憶が戻ってから、ずっと気になってたんだ……。リナちゃんは……わたしの知ってる璃奈ちゃんなの……? 名前もだけど……喋り方とか……そっくりなんだ……」
リナ『…………』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「リナちゃん……そうなの……?」
リナ『……ごめんなさい、わからない……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「わからない……?」
88 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:03:58.87 ID:c3b0uZJF0
自分のことなのに、肯定でも否定でもなく、わからないって……?
そんな疑問に答えたのは、
鞠莉「リナにも……記憶がないのよ」
リナちゃんの生みの親である、鞠莉さんだった。
侑「リナちゃんにも記憶がない……?」
鞠莉「ただ、これは彼方たち“Fall”の記憶喪失とは違う。根本的に記憶がないの」
海未「……待ってください、そもそもそのリナというポケモン図鑑は何者なんですか? 私はてっきりロトム図鑑のようなものかと思っていたのですが……」
鞠莉「リナは……やぶれた世界で見つかった──情報生命体を使って作ったポケモン図鑑よ」
──会議室内が、またしても沈黙した。
凛「うぅ……凛、そろそろ頭が痛くなってきたにゃ……」
にこ「さ、さすがのにこにーも脳みそが破裂寸前にこ……」
かすみ「……じょーほーせーめーたい……? つまり、どーゆーこと……?」
花丸「まるでSF小説を無理やり頭に詰め込まれてる気分ずらね!」
ルビィ「花丸ちゃん……なんか、楽しそうだね……」
何人かはそろそろ理解が追い付かず悲鳴をあげ始める。
正直、私もそろそろ脳が理解を拒み始めているけど……でも、リナちゃんのことと言われたら聞かないわけにはいかない。
鞠莉「以前、果南がやぶれた世界に行ったときがあったでしょ?」
海未「グレイブ団事変のときですね……」
理亞「……」
果南「なんかそのときに私の図鑑に入り込んだらしいんだよね。そんでそれを鞠莉が発見して、リナちゃんを作ったんだよ」
ダイヤ「すみません果南さん。今貴方の大雑把な解釈を聞かされると、却ってわけがわからなくなるので、少し静かにしていただけると……」
海未「右に同じです」
果南「え、酷くない……?」
果南さんがあからさまに不満そうな顔をする。
鞠莉「まず最初に気付いたきっかけは──この子」
そう言って鞠莉さんがボールからポケモンを出す。
「──ポリ」
ダイヤ「ポリゴンZですか……?」
鞠莉「真姫さん。この会議棟に給湯室ってあるかしら?」
真姫「あるけど……。この部屋を右に出て突き当りにある部屋よ」
鞠莉「Thank you. ポリゴン、いつものお願い」
「──ポリ」
鞠莉さんに言われて、ポリゴンZがドアを“サイコキネシス”で開けて、外に出て行く。
89 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:04:38.21 ID:c3b0uZJF0
ダイヤ「あの……一体何を……」
鞠莉「まあ、ちょっと待ってて」
海未「……中央区の施設でポケモンを自由に動き回らせて大丈夫ですか?」
真姫「まあ……今はこの会議棟自体貸し切りにしてるから、大丈夫よ」
鞠莉さんに言われたとおり──待つこと数分。
「──ポリ」
──ポリゴンZが部屋に戻ってきて、一人一人の前に、カップを置いていく。
海未「……なんですか、これは」
鞠莉「ロズレイティーよ」
そう言いながら、鞠莉さんはロズレイティーを飲み始める。
鞠莉「ん〜おいしい♪ 今日も最高の入れ具合よ♪」
「ポリ」
海未「……鞠莉、貴方ふざけているのですか?」
ダイヤ「まさか……紅茶が飲みたかっただけとか……?」
真姫「……おいしい」
海未「真姫、貴方まで……」
真姫「……ありえない」
海未「……はい?」
真姫「ポリゴンZにこんな繊細に、紅茶を入れられるはずない。ポリゴンZは進化して力を手に入れた代わりに、致命的なバグ挙動を起こすようになったポケモンよ。こんな複雑で繊細なことを、自己判断だけでするのは不可能なはず……」
海未「確かに……言われてみれば……」
真姫「これじゃまるで──ポリゴン2よ」
鞠莉「そう、この子はポリゴンZの見た目をしているけど……ポリゴンZの姿のまま、バグが取り除かれて正常化された──いわばポリゴン3と言っても過言ではないポケモンよ」
「ポリ」
侑「ポリゴン……3……?」
私も思わず首を傾げる。そんなポケモン見たことも聞いたこともない……。
果南「つまり、図鑑に入り込んだリナちゃんがポリゴンZの中身をポリゴン2にしたってことだよ!」
鞠莉「まあ……果南ってこんな感じに説明とか大雑把じゃない? だから、ポケモン図鑑みたいな精密機械をよく壊すのよ……」
果南「……なんか、私の扱い全体的に酷くない?」
鞠莉「ポリゴンが自身をデジタルデータ化することによって、電脳空間に入ることが出来るのは、知ってるわよね?」
海未「ええ、まあ……リーグ本部でもデジタルセキュリティにポリゴンを使っていますので……」
鞠莉「だからわたしは定期的に、調子の悪くなった果南の図鑑にポリゴンZを入れて、エラー部分を排除させてたの」
ルビィ「あ、あの……ルビィ詳しくないからよくわかんないけど……ポリゴンZさんには繊細なエラー修正は出来ないんじゃ……」
善子「……そんなことしてるから、調子悪くなるんじゃないのかしらね」
……鞠莉さんも大概大雑把なんじゃないだろうか。
90 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:05:29.53 ID:c3b0uZJF0
鞠莉「いつものように、修復作業をやってたんだけど……図鑑から出てきたポリゴンZからは、ポリゴンZというポケモンが持っている異常行動がほぼ解消されていて……何故かポリゴン2のような挙動になっていた。わたしはそれに気付いて、図鑑のプログラムを自分で直接解析してみたんだけど……」
ルビィ「あ、あの……自分で出来るなら、最初からそうした方が……」
善子「ルビ助……これ以上、突っ込まないであげて。そういう人なの……」
鞠莉「そこには、コンピューターウイルスのような謎のプログラムが存在していた。その最上部に9文字の信号あったんだけど……『・・・−−−・・・』と記されていたわ」
海未「……とんとんとんつーつーつーとんとんとん……? あの……もう少しわかりやすく言っていただけると……」
曜「……もしかして……SOS?」
海未「SOS……どういうことですか……?」
曜「『・・・−−−・・・』ってモールス信号でSOSって意味なんです」
海未「……モールス信号……! なるほど……」
鞠莉「そう、これを見た瞬間、わたしに対して助けを求めてるんだって理解した。だから、わたしはこのプログラムを少しずつ展開して、解析していった結果──かなり高度な人工知能のプログラムに近いものになっていることがわかった。それも今の人間には到底作れないレベルのもの。ただ、そんなものは移植するのも簡単に出来るわけじゃない、だから……」
リナ『鞠莉博士はそのプログラム──つまり私に開発環境へのアクセスを許可してくれた。そこから、私は言語情報を介して、人とコンタクトを取れる形に自身のプログラムを書き換えた』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「それが自己進化型AIリナの正体よ」
侑「そう、だったんだ……」
ただの図鑑じゃないことはわかっていたけど……リナちゃんが生まれた理由は私の想像の何倍も上を行っていた。
いや……ここにいる誰もが、想像しえなかったことじゃないだろうか。
ダイヤ「そんなことが……ありえるのですか……?」
鞠莉「まあ、実際にリナは、こうしてここにいるわけだしね」
花丸「事実は小説よりも奇なりとはこのことずら……」
リナ『ただ……私は自分の名前がRinaだってことと、誰かと繋がりたい、お話ししたいって気持ちがあることしか覚えてなかった』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「だから、図鑑に組み込んで……いろんなデータを参照できるようにしてあげたの」
リナ『お陰ですごい物知りになった』 || > ◡ < ||
鞠莉「肝心の記憶が蘇ることはなかったけどね……」
海未「……リナがそういう存在であることは理解しました。……では、やぶれた世界から来たという根拠は?」
鞠莉「……まあ、正直これに関しては消去法ね。リナを発見したときのメンテナンスの直前に果南はやぶれた世界に行っていた。あそこなら何かおかしなことがあっても不思議じゃないし……そこに当たりを付けたの。それに……」
海未「それに……?」
鞠莉「果南は……やれぶた世界で不思議なものを見てる」
海未「不思議なもの……ですか……?」
果南「やぶれた世界で、私はギラティナを止めるために……かなり下層まで潜ったんだけど……。そこで見つけたんだよね」
理亞「見つけたって……何を……?」
果南「……とんでもない大きさのピンクダイヤモンドを」
ルビィ「え……ま、まさかそれって……!」
理亞「ディアンシーの……ダイヤモンド……!?」
ルビィさんと理亞さんは心底驚いたような反応を示す。
ダイヤ「……そういえば鞠莉さん、それくらいの時期に、宝石に意思は宿るか……なんてことを、わたくしに訊ねてきたことありましたわね」
鞠莉「そのときダイヤは、宝石には持ち主の意思や魂が宿ると昔から考えられているって答えたのよね。それを聞いて……そのピンクダイヤモンドに、リナの素になった存在の“魂”みたいなものが宿っていたんじゃないかと仮説を立てた」
果南「もしリナちゃんの“魂”の本体が、今もあのピンクダイヤモンドに閉じ込められてるなら、もう一度あそこに行く必要がある。でも……やぶれた世界へのゲートはグレイブ団事変のあと、なくなっちゃったんだよね……」
鞠莉「だから、確認は出来ていない。お陰で仮説の域を出ていないのだけど──彼方の話を聞いて、この仮説はわたしの中で確信に変わりつつある」
鞠莉さんは、彼方さんの方に向き直る。
91 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:06:39.78 ID:c3b0uZJF0
鞠莉「彼方、あなた……リナがそのテンノウジ・璃奈さんとそっくりだって言ったわよね?」
彼方「うん。喋り方も、考えた方も……雰囲気とかもそっくりだなって……。あと、リナちゃんボードって口癖……璃奈ちゃんも同じことをよく言ってたんだ」
リナ『そうなの……?』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「……うん。璃奈ちゃん、感情表現が苦手で無表情なのが悩みだったみたいなんだけど……愛ちゃんが、それを補うためのボードを作ってあげて……それに『璃奈ちゃんボード』って、名前が付いてたんだ……」
鞠莉「……こんな偶然、ありえるかしら? これってつまり──璃奈さんの“魂”がなんらかの理由でやぶれた世界に流れ着いて……わたしたちと、どうにかコンタクトを取ろうとした結果──リナというプログラムを作って、果南の図鑑に忍ばせた」
海未「……随分突飛な話ではありますが……一応、筋は通っていますね……」
海未さんは腕を組んで唸りだす。
確かに一個一個は突飛なことのはずなのに……何故かそれが繋がって行っている気がする……。
海未「リナのことは、ひとまずわかりました。ただ、少し話が戻るのですが……解せないことがあります」
穂乃果「解せないこと……?」
海未「愛は璃奈を失ったことで組織へ不満を持ち、それがきっかけで破壊活動を行い……結果、幹部称号を剥奪されたんですよね?」
彼方「う、うん……そうだけど……」
海未「なら何故、愛は未だにその組織に協力しているのですか?」
ことり「あ、確かに……」
海未さんの言うとおり、施設を破壊するくらい組織に反対していたなら、今協力しているのは少し違和感がある。
でも、その疑問に答えたのは、
リナ『それに関しては……愛さんは従わされてる可能性がある』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんだった。
海未「従わされている……? どういうことですか?」
リナ『愛さんは前に会ったとき、首にチョーカーをしてた』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「あ……確かに……」
なんか、癖みたいに首のチョーカーを指でいじっていた気がする。
言われて、海未さんが改めて表示されている画像を確認すると、
海未「……確かに着けていますね」
粗い画像ながらも、確かに首にチョーカーを着けているのがわかる。
リナ『あのチョーカーは発信機になってる。たぶん居場所を知らせるためのもの』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……え?」
リナ『しかも……チョーカーの裏側はスタンガンみたいに、信号を送ると電撃が走るようになってた。近くで確認したから間違いない』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そ、それじゃ……」
彼方「愛ちゃんは組織のために、首輪を着けられてるってこと……?」
リナ『その可能性は高い』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「……なるほど」
海未さんはリナちゃんの言葉に頷く。
……だけど、
穂乃果「……私はそうは思わないかな」
92 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:07:22.77 ID:c3b0uZJF0
穂乃果さんが異を唱えた。
海未「何故ですか?」
穂乃果「……従わされているって言うには、少しふざけてるというか……追い詰められてるような雰囲気を感じなかったんだよね」
侑「確かに……愛ちゃんはなんというか……終始ふざけているような感じだった気がします」
穂乃果「うん。協力的ではないけど……消極的でもなかったというか……」
かすみ「確かに、ずっと周りを小馬鹿にしたような喋り方する人でしたね! かすみん、ちょっとイライラでした!」
海未「ふむ……」
海未さんは口元に手を当てる。
海未「……どちらにしろ、彼女に関しては情報が少なすぎて、ここで結論を出すのは難しそうですね……。リナの言うとおり、発信機とスタン機能の付いている首輪の存在は気になりますが……」
海未さんは愛ちゃんに関しては、ひとまずそうまとめて、
海未「わかる方の情報を整理しましょう」
次の話へと移る。
海未「情報がほとんどない愛に対して──果林は情報が多いです。彼女は言わずと知れた有名なモデルで、メディアにも多く露出していました。この場にいる人も、彼女を知っている方は多いんじゃないでしょうか」
ことり「うん……コーディネーターとしても有名だから、ことりは何度かお話ししたこともあるよ」
曜「私も、何回かコンテスト会場で会ったことがあるかな。……いっつもファンに囲まれてて、本当にカリスマファッションモデルって感じだった……」
海未「彼女のモデルとしての実力は本物なのでしょう……ですが、冷静に見てみると、おかしな点がいくつかあります」
ことり「おかしな点……?」
海未「彼女は──4年程前から、唐突に芸能界に現れているんです」
曜「そうなんですか……?」
海未「はい。経歴を洗い出してみたら……本当にある日突然、大企業のファッションモデルとして抜擢されているんです」
ことり「言われてみれば……確かにそうだったかも」
海未「いくら実力があっても……唐突に大企業からのバックを得るのはさすがにおかしいと思いませんか?」
曜「確かに……協賛契約を結ぶのって大変なんだよね……」
海未「それが気になったので……先日彼女に急に大きな仕事を依頼したいくつかの企業の取締役に、精神鑑定を受けてもらったんですが……。……漏れなく、催眠暗示のようなものを受けているということがわかりました」
彼方「……! まさか、フェローチェの毒……」
海未「……やはり、何か心当たりがあるんですね?」
彼方「果林ちゃんの持ってるフェローチェってウルトラビーストは……人を魅了して操る力があるんだ……」
海未「やはりですか……直近で彼女に仕事を依頼したローズのビジネスショウの責任者にも、同様の精神鑑定を受けてもらったら、同じ結果が出ましたし……」
真姫「……え?」
海未さんの言葉を聞いて、真姫さんが驚いたように目を見開いた。
海未「そういえば真姫は……つい数日前に、彼女と仕事の打ち合わせをしたそうですね」
真姫「え、ええ……」
海未「しかも、その日、その会議を行ったビルにて……ポケモンによるテロが起こった。……これは偶然ではなく、恐らくあのテロも一連の計画の中で仕組まれたものだったと考えた方が自然です」
真姫「……! まさ、か……」
海未「ただ、解せないのは……何故彼女がそんなことをしたのか、ですね……。目的が千歌であるなら……わざわざこんな目立つことをする意味がない……となると、他に何か目的が──」
真姫「……っ!!」
真姫さんは──ダン!! と机を叩きながら立ち上がった。
93 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:08:07.10 ID:c3b0uZJF0
にこ「ま、真姫……?」
花陽「ま、真姫ちゃん、どうしたの……?」
真姫「……っ……あのテロは最初から……せつ菜を唆すために起こしたものだったのね……っ!!」
真姫さんはクールで冷静沈着なジムリーダーだと言うのが有名な人なのに──今は私が見ても一目でわかるくらいに怒りを剥き出しにしていた。
海未「真姫……それはどういうことですか?」
真姫「……あの子の父親は……反ポケモン派で有名な人なの……! あの子の父親もあの打ち合わせに居て、あの子が父親の前でポケモンを使うように仕向けられたのよ……!! 目の前で、人がポケモンに襲われていたら、あの子はなりふり構わず、絶対助けるに決まってる……!! だから……!!」
にこ「ま、真姫!! あんた、ちょっと落ち着きなさい!!」
真姫「…………」
海未「真姫、にこの言うとおりです。あの現場でポケモンを無力化したのは一般のトレーナーで、名前は──」
真姫「……菜々でしょ」
善子「……え?」
ヨハネ博士が真姫さんの言葉に反応した。
私もその名前には聞き覚えがあった。菜々って……まさか……。
真姫「ナカガワ・菜々……」
海未「え、ええ……確かに、ナカガワ・菜々さんですが……」
真姫「私の秘書で……──普段は、ユウキ・せつ菜と名乗っているポケモントレーナーよ……」
真姫さんが言うのと同時に──ガタンッ! と大きな音を立て、椅子をひっくり返しながら立ち上がった人がいた。
善子「……どういう……ことよ……」
ヨハネ博士だった。
真姫「善子……」
善子「菜々は…………せつ菜だって言うの……?」
真姫「…………」
善子「まさか……あんた、全部知ってて……」
真姫「…………」
善子「……菜々が……千歌を……攫ったってこと……?」
真姫「…………」
善子「…………ちょっと……どうして、そんなことになるの……? 菜々は誰よりも優しい子なのよ……? その菜々が……なんで、そんなことするようになっちゃうの……?」
真姫「…………ごめんなさい……」
善子「……っ……!! ごめんなさいじゃないでしょ!? あんた、一体菜々に何を教えて──」
鞠莉「Be quiet.」
善子「……!」
鞠莉「善子……座りなさい。ここはケンカをする場じゃないでしょう」
善子「でも……!」
鞠莉「Sit down. 座りなさい」
善子「……っ」
ヨハネ博士は、下唇を噛みながら立ち尽くす。
94 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:08:50.34 ID:c3b0uZJF0
曜「善子ちゃん、座ろう……?」
善子「……」
隣に座っていた曜さんが、倒れた椅子を直しながら、ヨハネ博士をゆっくりと座らせる。
海未「……何か、いろいろと私の知らない事情があるようですね……。……とりあえず真姫、説明をしてもらえますか? あのテロがせつ菜を唆すためのものだったと言っていましたが……」
真姫「……果林たちは、なんらかの方法でせつ菜の正体が菜々であることを掴んで……あの子と父親が同じ場に居合わせるような場を仕組んだ……。菜々がポケモンを使って戦う姿を目の当たりにしたら……あの子の父親は菜々からポケモンを取り上げようとする……。……そうしたら、菜々は……どうにか説得をしようとするはずよ」
海未「……説得というと……」
真姫「……あの子、父親と話をしたあと……チャンピオンになるって飛び出して行ったから……。……父親とそういう約束をしたんだと思う……」
ダイヤ「……確かに……ローズでテロがあった日の夜、ウテナにせつ菜さんが来られました。……千歌さんを探していましたわ」
真姫「その次の日に……千歌から、せつ菜とのバトルを急用で中断することになったと聞かされたわ……。恐らく果林は……その直後に、あの子に接触して……唆した」
穂乃果「……! そっか、あのときの不自然なウルトラビーストの誤報は……!」
彼方「せつ菜ちゃんと千歌ちゃんが戦う機会を設けてから……千歌ちゃんが、無理やり戦闘を中断しなくちゃいけない状況を作るため……。フソウとダリアに愛ちゃんがそれぞれウルトラビーストを放ってたか……それか、まだ他に協力者がいるのかはわからないけど……」
真姫「それも全部……せつ菜を唆して、千歌とぶつけるため……」
海未「……確かに、彼女は今最も千歌に迫る実力を持っているトレーナーと言っても過言ではない……。もし、千歌を無力化させるなら、彼女をぶつけるのが最も効率がいい……」
彼方「それに……せつ菜ちゃんはウルトラビーストを使ってた……。果林ちゃんが、千歌ちゃんを倒させるために、渡したんだと思う……」
海未「少しずつ……全体像が見え始めましたね……。……彼方の言うとおりならば、彼女らの目的はこの世界を滅ぼすこと……なのかもしれませんが、具体的に何をするつもりなのかがわからないと対策の打ちようがない……」
海未さんはまた腕を組んで唸り始める。
確かに具体的に何をしようとしているのかが、よくわからないのは確かだ……。
そこで、私はふと──果林さんたちが戦っている最中に言っていたことを思い出す。
侑「……あの」
海未「侑? どうかしましたか?」
侑「……果林さん、歩夢が自分たちのこれからの計画に必要だって……そう言ってました。もしかしたら……歩夢を利用して、何かをしようとしてるんじゃないかなって……」
海未「歩夢……? 連れ去られた、ウエハラ・歩夢さんのことですか?」
侑「はい」
海未「……必要とはどういうことですか……? 歩夢さんとしずくさんは、人質として連れ去られたのでは……」
かすみ「そういえば……歩夢先輩にポケモンを手懐ける力があるーとかなんとか言ってましたね……」
海未「ポケモンを手懐ける力……?」
侑「その……なんというか、歩夢はポケモンからすごく好かれる体質で……そういうのを言ってるんだと思います……。それがどう必要なのかは……よくわからないんですけど……」
海未「…………」
海未さんは口に手を当てて考え始める。
海未「一つ確認したいことが出来ました。穂乃果」
穂乃果「ん、何?」
海未「ウルトラビーストとやらの姿を確認出来るものは持っていたりしますか?」
穂乃果「あ、うん! 私のポケモン図鑑なら、ウルトラビーストのデータも入ってるから見られるよ!」
海未「わかりました。パソコンに繋げてプロジェクターで映すので、少し貸してもらってもいいですか?」
穂乃果「うん」
海未「鞠莉、少し手伝ってもらえますか? 図鑑の操作なら、貴方が一番だと思うので……」
鞠莉「OK.」
95 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:09:24.37 ID:c3b0uZJF0
海未さんは穂乃果さんから、ポケモン図鑑を受け取り、鞠莉さんと一緒にセッティングをしていく。
程なくしてセッティングが終わり──プロジェクターに図鑑の画面が映し出される。
海未「穂乃果、彼方、侑、かすみ。貴方たちに……果林の使っているウルトラビーストの──フェローチェのことについて、お聞きしたいのですが」
侑「フェローチェのこと……?」
穂乃果「えっとね、フェローチェはこのポケモンだよ」
そう言いながら、穂乃果さんがフェローチェの画面を表示する。
──スラリとした体躯の真っ白なポケモンが表示される。
海未「このポケモンで間違いありませんか?」
かすみ「はい! こいつがフェローチェです! こいつが……しず子を……」
侑「……?」
ただ、私は首を傾げる。
侑「色が……違う……?」
彼方「あ、そっか……侑ちゃんは色違いのフェローチェしか見たことないもんね……」
海未「……それは、どんな色ですか?」
侑「えっと……上半身はこのままなんですけど……下半身が黒くて……」
リナ『博士、私をパソコンに繋いでもらえないかな?』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「いいけど、何するの?」
リナ『画像に直接色を塗って、色違いを再現する』 || ╹ ◡ ╹ ||
鞠莉「なるほど……。OK. わかったわ」
鞠莉さんは手際よくリナちゃんをパソコンに繋ぎ──
リナ『画像を直接いじって、色違いを再現するね。侑さん指示して』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「わかった。えっと、この部分が黒で……」
私はプロジェクターに映った画像を指差しながら、リナちゃんに少しずつ色を付けてもらう。
侑「そうそう……こんな感じだった」
だんだん、完成形が近づいてきたそのとき、
ことり「……あれ……?」
ことりさんが、声をあげた。
曜「ことりさん?」
ことり「……これ、どこかで見覚えが……あ」
ことりさんは立ち上がり、
ことり「あ、あの……リナちゃん! この画面、速く動かしたりって出来る?」
そうリナちゃんに注文を出す。
96 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:10:04.42 ID:c3b0uZJF0
リナ『画面ごと動かせばいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||
ことり「うん! ものすっごく速く行ったり来たりさせてみて!」
リナ『わかった! 動かすね!』 || > ◡ < ||
リナちゃんはことりさんの注文どおり、ものすごいスピードで画面を動かし始める。
花陽「……えっと、ことりちゃんは何を……」
かすみ「う、うぇぇ……これ、ちょっと酔うかもぉ……」
確かに、画面の上を何かが高速で横切っているのが何度も何度も繰り返されている映像は、少し酔いそうになる。
何が映っているかわからないし……見えるのはせいぜい白と黒の残像くらいで……。
ことり「……このポケモンだ」
侑「え?」
ことり「前、ことりを襲ってきたの……このポケモンだよ! この残像、見覚えがあるもん!」
にこ「残像に見覚えがあるって……すごいこと言うわね、ことり……」
海未「やはりそうでしたか……」
ことり「え?」
海未「ことり、以前に言っていたではありませんか、あのとき自分を襲ったポケモンは──人間くらいの大きさで、色は白かったような、黒かったような……と」
ことり「あ……!」
海未「それにポケモンを手懐ける能力……という言い方はあまり好きませんが、ことりはポケモンから好かれやすいというのは私も認めるところです。歩夢さんもそのような人なんだとしたら……」
希「……そっか、もともとはことりちゃんを狙ってたけど……強すぎて捕まえることが出来なかった。でも、同じような体質の歩夢ちゃんなら連れていけるって判断したんやね」
海未「そういうことです。即ち──彼女たちはポケモンを手懐けて何かをしようとしている……」
ツバサ「ポケモンを手懐けて出来ることと言ったら……」
英玲奈「大量のポケモンを捕獲し……それを使った無差別攻撃とかだろうか」
海未「他世界を滅ぼすというのが、どのレベルのものを指しているのかはわかりませんが……純粋に攻撃などをして、機能を低下させることを指しているのだとしたら、ありえない話ではないですね……」
ダイヤ「なら……各町の警備レベルを上げておいた方がいいかもしれませんわ。向こうが襲ってきてからでは、対応も遅れてしまうでしょうし……」
海未「そうですね……出来る限り各町にジムリーダークラスの実力者を常駐させる必要があるかもしれません」
リナ『そろそろ、画面の方はいい?』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「あ、はい。ありがとうございます。侑も、お陰で新しいヒントが得られました。感謝します」
侑「い、いえ! 恐縮です!」
リナちゃんがパソコンから離れて、私のもとへと戻ってくる。
すると画面は再び、果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんを映した画面に戻る。
97 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:11:00.43 ID:c3b0uZJF0
理亞「…………」
ルビィ「理亞ちゃん……? どうしたの、画面をじーっと見て……」
理亞「……やっぱ、この人……見たことある」
ルビィ「え?」
にこ「あのねぇ……果林はかなり有名なモデルなのよ? 確かにあんたはテレビとか興味なさそうだけど、見たことくらいは……」
理亞「いや、そっちじゃない。もう一人の方」
にこ「え?」
海未「理亞……愛に見覚えがあるのですか?」
理亞「うん。……前、グレイブマウンテンの北側の基地で飛空艇を開発してるとき……この人が居たと思う」
海未「……なんですって? それは本当ですか?」
理亞「というか、こっちの青髪の方の人も、実際に見た覚えがある……」
海未「グレイブ団とも繋がりが……? 他には何か覚えていませんか?」
理亞「……やり取りは全部ねえさまがしてたから……それ以上のことは……」
海未「そうですか……」
理亞「せめて……ねえさまが喋れる状態なら……」
海未「……そう、ですね」
海未さんはまた口元に手を当てて思案を始める、が、
かすみ「あのー……ちょっといいですかー?」
かすみちゃんが手を上げて、それを中断させる。
海未「なんですか?」
かすみ「ずっと聞いてて思ったんですけど……皆さん難しく考えすぎじゃないですか……?」
侑「かすみちゃん……? どういうこと……?」
かすみ「この会議って千歌先輩を助けるための会議なんですよね? 向こうの目的とか、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないですか?」
海未「……ふむ?」
かすみ「果林先輩たちは、千歌先輩がいると困るから、千歌先輩を捕まえに来たんですよね? なら千歌先輩さえ取り戻しちゃえば、また相手は困った状態に戻ると思うんですよぉ……だったら、かすみんたちは千歌先輩たちを取り戻すことを一番優先して考えるべきだと思うんです」
海未「……なるほど」
鞠莉「果林たちの計画に千歌の排除が含まれているなら……千歌を奪還しちゃえば、向こうはまたそのプロセスをもう一度踏まないといけなくなる……そういうことが言いたいのかしら?」
かすみ「そうですそうです!」
確かに随分周到な準備をして千歌さんを攫っているあたり、千歌さんの強さというのがよほど障害になると考えていた可能性は高い。
実際、千歌さんが味方にいるのといないのとでは、心強さが全然違うし……。
侑「でも、そのためには千歌さんたちの居場所がわからないといけないし……そもそも、私たちはウルトラスペースに行く方法もないわけだし……」
むしろ、そこが問題なんだ。だけど、かすみちゃんはきょとんとして、
かすみ「え、でも……さっきの話聞いてると、そのウルトラスペースってやつを渡る方法も、全部リナ子の元になった人? が考えたんですよね? じゃあ、リナ子が完全復活しちゃえば、渡る方法も教えてもらえるんじゃないですか?」
そう答える。
98 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:11:44.99 ID:c3b0uZJF0
ダイヤ「仮にそうだとしても……問題はそんな簡単に行くかという話で……」
かすみ「だって、リナ子の居場所は見当がついてる〜みたいに言ってたじゃないですか。やぶれた世界……でしたっけ?」
ダイヤ「ですが、宝石に意思が宿るという話も言い伝えレベルのものですわ……。言ったのはわたくしですが、鞠莉さんがそういう意味で聞いているとは思わなかったので……。正直、まだ仮説の域で……」
かすみ「仮説でもなんでも、可能性があるならまずそれをやるべきですよ! 鞠莉博士の言うとおり、本当にそこにリナ子がいたら、全部解決するんですから!」
かすみちゃんが自信満々に言うと、
果南「あはは、全く持ってそのとおりだ♪」
果南さんが、かすみちゃんの頭をわしゃわしゃと撫で始める。
かすみ「わわっ、や、やめてください〜! 髪崩れちゃいます〜!」
果南「鞠莉、確かにいろんな情報が出てきて混乱するけどさ、私たちは最初からやろうとしていたことをやるべきだと思うよ」
鞠莉「果南……」
海未「最初からやろうとしていたこと?」
鞠莉「わたしたちは……ずっとリナの記憶を元に戻す方法をずっと考えていたの。……そもそも今のリナは少し不自然な状態なのよ」
侑「不自然……?」
リナ『私の記憶領域は飛び飛びになってる。領域が存在してるのはわかるのに、間が抜けててアクセス出来ないところがたくさんある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「えっと……? ……地続きなら読めるんだけど、歯抜けになってるせいで、読み込めない部分があるってこと?」
リナ『そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||
鞠莉「リナは明らかに自分の意志でわたしたちにコンタクトを取って来たわ。なのに、あえて歯抜けになってる自分を作り出すのっておかしくないかしら? 普通に考えたら、より多くの情報が伝えられるように、出来るだけ多くの記憶にアクセス出来るように自分を作るはずよ。でもそうしなかった。そう出来なかっただけという可能性もあるけど……わたしには、自分にまだ足りない記憶や情報があることを伝えるためにやっているように思えるわ」
海未「つまり……最初から、残りの自分の因子を探させるために、不完全な自分を果南の図鑑に忍ばせた……ということですか」
果南「だから、私たちは目的を2つに絞ってずっと行動してた。1つはもう一度やぶれた世界に行く方法。もう1つはピンクダイヤにたどり着いた時に、そこからリナちゃんの“魂”を回収する方法」
侑「“魂”の回収方法……」
確かに、仮にピンクダイヤモンドとやらに、リナちゃんの“魂”があるんだとしても、それを回収する方法がなければ結局意味のない話だ。
だけど……そんな方法あるのかな。
果南「それでね……実は後者の方はもう当てが付いてるんだ」
侑「え……?」
果南「その鍵は……侑ちゃんがすでに持ってる」
侑「え……!?」
私は驚いて声をあげる。鍵って……!? 私、そんな重要なモノに覚えがないんだけど……。
果南「私はずっと、マナフィってポケモンを探してたんだ」
侑「マナフィ……?」
果南「マナフィにはね、心を移し替える“ハートスワップ”って技が使えるんだ」
かすみ「心を移し替えるってことはもしかして……」
果南「そう、この技があれば、ピンクダイヤモンドに宿った“魂”だけをリナちゃんに移動できるんじゃないかってこと」
マナフィにそういう能力があるのはわかったけど……。
侑「えっと……それで、私はそのマナフィへの鍵を持ってる……ってことですか……?」
果南「そういうこと」
侑「えぇ……?」
99 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:12:19.32 ID:c3b0uZJF0
全く心当たりがないんだけど……。
果南「さっき、侑ちゃんが持ってたタマゴが孵ったでしょ?」
侑「え? は、はい……フィオネですよね?」
果南「実はマナフィはね、フィオネたちの王子って言われてるポケモンなんだ」
侑「……え?」
果南「そして、フィオネにはどれだけ遠くに流されても、自分が生まれた海に戻ることが出来る帰巣本能がある」
侑「じゃあ……」
果南「フィオネに案内してもらえば、マナフィのもとにたどり着けるってこと!」
侑「……」
私はポカンとしてしまう。……まさか、さっきタマゴから生まれたポケモンがそんなに重要なポケモンだったなんて……。
果南「あとはやぶれた世界に行く方法を見つけて……リナちゃんの記憶を戻せば、歩夢ちゃんたちを助けに行く道が見えるかもしれない!」
侑「……!」
果南「ただ、フィオネの“おや”は侑ちゃんだから、無理強いは出来ないんだけどさ……手伝ってくれるかな?」
そんなの、聞かれるまでもない。
侑「はい……! 私、絶対に歩夢を助けに行きたいんです……! 協力させてください!」
果南「ふふ、よかった」
かすみ「じゃあ、かすみんはやぶれた世界に行く方法を探しちゃいます! どうすればいいんですか?」
鞠莉「やぶれた世界に行くためには、空間の裂け目を見つける必要があるわ」
かすみ「空間の裂け目……? それってどんなのですか?」
鞠莉「まあ、一言で言うなら空間にあいた穴ね」
かすみ「空間にあいた……穴……?」
かすみちゃんが自分の頭に人差し指を当てながら考え始めたとき、
海未「ちょっと待ってください」
海未さんが待ったを掛ける。
果南「ん、なに?」
海未「さっきから話を聞いていて思ったのですが……まさか果南……侑とかすみを奪還作戦に連れて行くつもりではないですよね?」
果南「ダメなの?」
海未「ダメに決まっているではないですか!? 危険すぎます!! 何を考えているんですか!?」
侑「え……」
最初は強い人に任せようなんて言っていた手前……自分勝手かもしれないけど、私は海未さんの言葉にショックを受ける。
侑「わ、私……歩夢を助けに行っちゃいけないんですか……?」
海未「貴方たちの身の安全を考えたら、当然の判断です」
侑「そんな……」
せっかく、歩夢を助けに行く決心が付いたのに……。
そのとき、
100 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:12:58.04 ID:c3b0uZJF0
かすみ「あーーーーっ!!!!」
海未「!?」
侑「!?」
かすみちゃんが急に大声をあげた。
海未「な、なんですか、急に……?」
かすみ「かすみん……空間の裂け目、見たことあります……!」
鞠莉「……え!?」
海未「なんですって!?」
果南「かすみちゃん、それ本当?」
かすみ「は、はい! 間違いありません! 空間に浮いてる穴みたいなやつですよね! えっと、場所は……」
場所を言いかけて──かすみちゃんは急に黙り込む。
海未「……? どうしたんですか、早く場所を……」
かすみ「……かすみん、しず子を助けに行く作戦には連れてってもらえないんですよね?」
海未「何度も言わせないでください。そのつもりです」
かすみ「……なら、交換条件です!! かすみんが空間の裂け目の場所を皆さんにお教えする代わりに、かすみんと侑先輩を作戦に連れて行ってください!!」
侑「か、かすみちゃん……!?」
海未「……なんですって?」
かすみ「この条件が呑めないなら、かすみん空間の裂け目の場所は教えてあげませーん!」
ぷんと顔を背けながら言う、かすみちゃんに対して、
海未「……いいから、教えなさい」
海未さんがドスの効いた声で返す。
……普通に迫力があって怖い。
かすみ「ぴゃぁーーー……!? そ、そ、そんな風にすごまれても、交換条件が呑めないなら、教えられませんもんっ!!」
かすみちゃんは涙目になって、果南さんの背後に隠れながら言う。
果南「あはは! 一本取られたね、海未」
海未「笑いごとではありません! 一歩間違えれば、命に関わる……そういう相手なんですよ? 貴方たち、それをわかっていますか?」
かすみ「そ、それくらい、知ってますもん……べー!」
侑「……自分なりに覚悟はしているつもりです。私も……私のポケモンたちも」
「ブイ」
少なくとも……私たちは、前回の戦闘で殺されかけている。
歩夢のお陰で命は助かったけど……相手が情け容赦を掛けてくれるような相手ではないというのは、理解しているつもりだ。
……もちろん、今の私たちが実力不足で、だから作戦への参加を拒否されていることも。
ただ、そんな私たちに助け船を出してくれたのは、
希「……ま、ええんやない? 本人たちも覚悟してるんなら」
海未「希……!?」
希さんだった。てっきり四天王だから、海未さん側なのかと思っていたんだけど……。
101 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:13:36.59 ID:c3b0uZJF0
希「3年くらい前にも似たようなことがあったような気がするんよ〜……。そのとき、誰かさんは人の反対も聞かずに、自分の弟子を作戦に参加させようとしてへんかったっけ?」
海未「……そ、それは……」
希「まさか……自分の弟子はいいのに、そうじゃない子はダメなんて、言わんよね〜?」
海未「そ、その言い方は卑怯ですよ、希!」
希「ちなみにことりちゃんと真姫ちゃんは、ウチに賛成してくれると思うんやけど、どうかな〜?」
真姫「……こっちに話振らないでよ……」
ことり「……え、えっと……こ、ことりからは何も言えませーん……!」
曜「あはは……」
希さんの視線から逃げるように目を逸らす、ことりさんと真姫さん。そんな二人を見て、苦笑する曜さん。
なんかわからないけど……賛成してくれる人もいるようだ。これなら……説得出来るかも……!
侑「あの、海未さん……!」
海未「……なんですか」
侑「歩夢は、私にとって……すごくすごく大切な幼馴染なんです。……確かに今の私は弱くて、足手まといかもしれません……でも、それでも、歩夢が怖い思いをしているときに、指を咥えて見てるだけなんて出来ません……!」
海未「…………」
かすみ「それはかすみんも同じです!! しず子は、かすみんが頬っぺた引っ叩いてでも、連れ戻すんですっ!!」
侑「私……歩夢と約束したんです。歩夢に怖い思いさせないために……強くなるって。強くなって、歩夢を守るって……」
……あのとき、歩夢が自分を犠牲にしてでも、果林さんを止めてくれなかったら……私は今ここにいないと思う。
侑「私は歩夢に守ってもらった……。……だから、今度は私が歩夢を助ける番なんです……!!」
「イブィ!!」
海未「……はぁ……ポケモントレーナーというのは、どうしてこう……強情な人が多いのでしょうか……」
海未さんは額に手を当てながら、溜め息を吐く。
海未「……侑、かすみ、貴方たちの気持ちは理解しました」
かすみ「ホントですか!?」
侑「それじゃあ……!」
海未「ですが……ポケモンリーグの理事長として、実力のないトレーナーを危険な地に送り出すことは出来ません」
かすみ「り、理解してないじゃないですかっ!?」
海未「……ですので、条件を出します」
侑「条件……?」
海未「貴方たち、ジムバッジは今いくつ持っていますか?」
侑「えっと……6つです」
かすみ「かすみんも6つです」
海未「残りのジムは?」
侑「ダリアとヒナギクです」
かすみ「かすみんはダリアとクロユリです!」
海未「なるほど」
海未さんは頷くと、
海未「……果南、鞠莉」
果南さんと鞠莉さんの方に目を向ける。
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