エンド・オブ・ジャパンのようです

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262 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/08/23(水) 23:22:56.84 ID:YMhrknSl0
それでも、彼らは武器を振るう手を鈍らせない。どれ程自分たちが信じていた“正義”に反する行為でも、どれ程自分たちの“心”を踏みにじり傷つける行為であっても、機動隊員たちは血反吐を吐くようにして感情を撒き散らしながら【暴徒】を薙ぎ倒し続ける。

後ろにいるであろう避難民を守るために、その身を以て盾になる。永久に魂に刻み込まれるであろう業を、咎を、明確に存在する命のために自ら背負う。
そんな彼らの決意が、“覚悟”が、強烈な熱風となっていくさ場に吹き荒れ、徐々に前線を“陣地”から引き離し始めた。

『『キィアアアアアアッ!!!』』

「くっ……きゃあっ!?」

……まぁ、その、ねえ?機動隊の突入を“誘発”した責任も、あるわけだから。








「───退きなさい!!」

『『キュコォッ!?』』

「!?」

私がその熱に当てられちゃうのは、割りと仕方ないことよね!ええ!!

全っ然!これっぽっちも!大洗女子学園に関わることだから入れ込みすぎてるなんてコトにはならない、自然な流れだもの!!
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/08/24(木) 09:02:58.36 ID:K4QawAKw0
更新おつです
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/10(土) 18:55:55.37 ID:wu/6Dwb20
保守
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/03/04(月) 18:51:50.62 ID:W6PYPV1kO
続き待ってます
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/04/23(火) 12:51:13.81 ID:3eXHPaRu0
私も待ってますよ
267 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/07/12(金) 23:47:38.50 ID:eHYGMVxz0
ブレイドを一振り。まとめて5、6匹の【寄生体】を叩き斬る。夕闇の中でも容易く解る、ヌメヌメとした気色悪い光沢を放つ胴体の束がボトリと地面に落下し、其の向こう側で面食らった様子の【暴徒】が一人棒立ちになっている。

「ウギェッ』

『ゲファッ……」

顔面を鷲掴みにし地面に叩きつけ、そのままブレイドを逆手に持ち替えつつ後ろに突き出す。挟み撃ちを狙った別の一人が胸板を貫かれ、血反吐を撒き散らしながら私の背にもたれかかる。

『キェエエエエエエえ゛ぅ゛ッ」

家庭菜園でもやってたのかしらね、割烹着に麦わら帽とフェイスガードという出で立ちをした年配女の【暴徒】がスコップを振り下ろしてきた。今し方背に乗った“盾”を翳して受け止め、“盾”ごと刺し貫きつつ蹴り飛ばす。

『ギィッ………キキャッ!!?』「ロヴッ……』『ゲヴァッ!?」

その背を突き破って現れた寄生体は首根っこをひっつかみ、即座にブレイドを引き抜いて三枚卸に。踏み込み、横薙ぎで一閃。一気に数人の【暴徒】を斬り伏せる。

止まることなく突貫。斬撃を連ね、屍を重ねる。

「──っくぅ………!」

だけど、嗚呼もう。

情けないったらないわね、限界が近いって自覚はたしかにあったけど、ここまで深刻だなんて。
たかが15人、たかが数秒。その僅かな“運動”で、息が乱れ、身体から力が抜け、前のめりに崩れ落ちて膝を着く。

『「『アァアアアアアッ!!!」』」
「『「ギィイイイイイッ!!!』」』

最大の脅威かつ障害が無防備にど真ん中で膝をついたとあり、“群れ”のボルテージが一気に跳ね上がる。仮に捕らえるつもりだったとしてもそのまま圧殺されかねないほどの勢いで、【暴徒】と【寄生体】が私に向かって殺到する。

「───突入ーーーーーーー!!!!!」

「「「ぉおおおうっ!!!!!」」」

その全方位から押し寄せてきた幾千の“人の波”をこちらに達する前に堰き止めたのは、僅か数十人からなる“人の壁”。
268 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/12(金) 23:48:25.38 ID:eHYGMVxz0
盾を構えた学園艦機動保安隊、その数はせいぜい50に届くかどうか。包囲している“群れ”の規模からすれば、寡兵という言葉さえ生温い圧倒的な物量差ね。

だけど機動保安隊の面々は、食い止めていた。それも驚嘆すべきことに、ほぼ完璧に。1人2人の突破も、1メートルの後退も、ただの一揺れすらなく、頑強に“波”を遮っている。

「ゴッガァッ!!!』
『ギィッ、ギィッ、ギィッ!!!!」

「っおおおお………腰に、腰に響く………!!」

「畜生、せっかくいいゴルフクラブなのにそんな使い方するんじゃねえ!!」

「班長、今は結構こっち側にも刺さるんでそれ!!」

無論、流石に余裕綽々からは程遠い。練度なんかなくてもその物理的重量だけで十分な脅威と成り得る人数が血眼で殺到し、しかも接触した前面の連中は狂乱状態で武器を振り下ろしてくるのだから。たった一個小隊分の兵力でこれを止めただけでも勲章・階級特進モノだけど、そうしていられる時間は決して長くはない。
多分、せいぜいあと一、二分ってところでしょうね。

それでも、時間は稼げた。例えインスタント食品の調理に間に合うかすら微妙なラインの僅かなものであっても、“群れ”による攻勢は寸断され、停まった時間が出来た。

どれ程短くはあっても、それは大きく明確な“隙”。

そして。

《────指揮車より狙撃班各員に伝達!!》

バリケードの中から采配を振るう“軍神”は、その隙を逃さない。

《白兵戦発生区域の接敵面に全火力を集中!【ヌタウナギ】を優先排除しつつ、敵前衛を崩してください!!》
269 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/07/12(金) 23:54:45.46 ID:eHYGMVxz0
└(*・ヮ・*)┘《心得たぁ!!》

『グプッ!?』『プギァッ!?』

西住さんの号令に、いの一番に応えたのは鈴だった。有言実行、明朗快活な返事と共に放たれた弾丸は、一発で今まさに機動保安隊の前衛に向かって跳躍した2匹の【寄生体】──恐らくは西住さんたちにとっての【ヌタウナギ】──を纒めてぶち抜きその頭部を吹き飛ばす。

└(*・ヮ・*)┘《いっえええええいナイッショー!!》

《五月蝿えぞ、はしゃぎすぎだ阿呆!》

《だが“Nice shot”なのは事実だ、狙撃班各位は牛尾巡査に続け!!》

《畜生、何で俺は国民を、住民を狙って…………撃っ……て………!》

《“今”は化け物だ!…………そう、思い込め!!》

無理からぬことだけど、機動保安隊同様決してその心中は穏やかじゃないようね。……鈴はどうだかちょっと判別つかないけど。

「ゴペッ!?』
『ウギムッ」
「ぎゅプッ……』

ただ、それで狙いが疎かに、とはならない。飛来する弾丸は全て、寸分の狂いなく首や胸、喉笛など【暴徒】たちの急所を射抜いていく。

敵兵力の漸減・撃滅を主目的とするなら、本来狙撃は適切な攻撃手段とは言い難い。万に届こうかという圧倒的物量に対し即効性があるのは相応の火力を用いた面制圧火力であり、例え一撃一撃は必殺でも削れるのが“点”では焼け石に水。ただ闇雲に撃つだけなら足止めの役割すら禄にこなせないでしょうね。

『ギピイッ……」
「うわっ!?おい、邪魔すnブギュルッ』

だけど鈴たちの射撃は、機動保安隊と“群れ”の接地箇所………さらにその中でも、【暴徒】や【寄生体】による流入の動線部分に集中している。

『ファゴッ!!?」
『『ギギイッ!!?』』

規模が超超超ド級とはいえ、ここは船の甲板上。通常の地上戦よりも更に空間が限定された戦場だ。その中で半径200m程度の空間に万単位の兵力を注ぎ込むとなれば、動線維持の重要性はこの“群れ”の継戦能力そのものと直結する。

然るに、大軍勢が殺到・密集している状況下で、その動線で例え数人ずつ、数体ずつでも倒れる者が現れ続ければ。

『いぎぁっ!?」
「おい、退け……ギュフッ』
『ま、また撃たれたァ………!」

攻勢自体が、大幅に停滞する。
270 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/12(金) 23:56:04.05 ID:eHYGMVxz0
末恐ろしき我らが指揮官様は、まさかと思うけどこの効果も見越して…………いえ、愚問だったわね。

ここまで散々あの神算鬼謀ぶりを見せつけられてきて、今更これに関してはただの偶然を疑う方がどうかしてるもの。

《撃て!!》

見てみなさい。まさしく今し方放たれたW号による砲撃なんて、狙撃班の火線集中で取り分け大きく混乱が生じていた動線部分に直撃ドンピシャリよ。

「指揮車による支援砲撃が弾着!【暴徒】前衛、損害大!」

「よし!そぉれ押し返せぇえええ!!!!」

「「「おおおおおう!!!」」」

「うわわわっ!!?』
『ギャアッ、ギャアッ………クピュッ』

前線兵力の単純な大幅減と、これを補う後続流入の動線における混乱。戦術的にも物理的にも、機動保安隊に対する圧力が急速に弱まる。
それに伴って機動隊は姿勢を「耐久」から「前進」に変更し、私の周囲やバリケードから“前線”を引き剥がしていく。

「射撃準備!!」

「了解!……各位、装填及び動作再確認!!」

少しずつ、ゆっくりと、だけど確実に歩を進めていく機動保安隊。

その後ろには、背を丸め彼らに隠れるようにして、更に何人かの人影が続いている。

「目標ラインに到達!!」

「バッシュ!!!!」

『グガァッ!!?」「げぃんっ!?』『ギギギィッ!!!』

「伏せぇ!!」

14〜5m程前進したところで、機動隊は全員で一際強く盾を押し出し、押し寄せてきていた【暴徒】や【寄生体】を一気に跳ね飛ばす。元々私の突貫と狙撃班による継続的なハラスメントで浮足立っていた“群れ”の陣形は、この一撃を以て決定的に崩れた。

すかさず、前衛部隊がしゃがみ込む。入れ替わりに立ち上がるのは、後続していた別の隊員6名。

「射撃開始、フルオート!!」

彼らが構えるのは、89式小銃及びH&K MP5。
271 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/12(金) 23:58:47.19 ID:eHYGMVxz0
『ウギッ……」「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!?』『逃げ………ぶぼっ」

『『『ギャッ、ギャッ、ギィッ!!!』』』

一斉に火を吹く6つの銃口。六方へ伸びた火線は、容赦なく進路上の人体を引き裂き、薙ぎ倒す。

【寄生体】の方は、流石にそこまで芳しい戦果とは言い難い。89式の方なら正確に命中させれば撃破もできるでしょうけど、何分弾幕展開を重視するなら精度は犠牲になる。
けれど、牽制としては十分過ぎる効果を発揮し、銃火の圧に押し止められて十数体にも及ぶ“ダマ”が突入を遮られてグネグネと気味悪く蠢いている。

『ギギギッ──グキャッ』
『『『ギィいいいいいいアァアァアァアアアアアッ!!!?!?!』』』

業を煮やしたらしき“ダマ”は、数と耐久力に物を言わせて強行突破しようと弾雨の中突貫の姿勢を見せた。
でもその試みは、量と殺傷力を大幅に増した新たな弾幕によって頓挫する。

《【ヌタウナギ】群体に弾着!効果あり、多数撃破!!》

∬#´_ゝ`)《ドイツの科学力は世界一ね!まぁこの機関銃厳密にはスロバキア製だけど!!

照準維持、尚も火線展開!》

《了解!》

バリケードの一角に備え付けられていた、ブルーノVz.37重機関銃。W号の予備装備を持ち出しでもしたのだろう、第二次大戦式とはいえ7.92mm口径を誇る弾丸は、【寄生体】の胴をミンチにし頭部を打ち砕き当たるを幸い蹂躙していく。

“ダマ”が沈黙しただの屍の塊になるまで、要した時間はほんの数秒だった。

「───ふぅっ!」

そして、機動保安隊のファランクスからブルーノの掃射に至るまでの時間で、私は………さっきみたいな“軽い運動”程度なら数分こなせるだけの体力を取り戻している。

「盾を!!」

「おうさ!!」

私の叫びの意図を汲み取り、特にガタイがいい機動保安隊の内1人が反転。膝を着き、ライオットシールドを自分の体に立て掛けるような形で構えた。

さながらスキーのジャンプ台………って、この表現はちょっと正確じゃないわね。

だって、“さながら”どころか用途はジャンプ台そのものだし。

「いよっっ!!!」

土台の役を担う保安官は威勢のいい掛け声とともに、私が足を乗せると同時に盾を思い切り跳ね上げる。おかげでより高く、より大きく跳躍できた私の身体は、壊乱している前線を悠々と飛び越えていく。

『『ギョキャッ』』
「なんっ……グウサン!?』

【寄生体】数匹の頭部を踏み砕きながら着地した先は、まだ幾らか統制を残していた集団のド真ん中。
眼前で驚愕に目を見開いていた【暴徒】を、裏拳でそのままぶっ飛ばす。

「っはぁあああああああっ!!!!!!」

全身を捻り、ブレイドを構え、全力で振り抜きながら一回転。

周りを囲んでいた【暴徒】と【寄生体】、併せて20体ほどの敵影が一気に切り裂かれた。
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/16(火) 14:33:54.14 ID:AiBTEnhm0
ちょっと見ない間に更新されてた!
執筆おつです待ってました
これからも待ってます
273 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/07/22(月) 23:12:02.11 ID:XXdSh8X20
即席で実行した“空挺強襲”の効果は、絶大だった。戦場の空気が大きく変わったのを、どこぞの人としての汎ゆる機能を脊髄に集約して生まれてきたキングダム及びクソ映画フリークの司令官様風味に言うなれば、敵勢から戦意の“火”が完全に消え去ったのを肌で感じる。

まぁ、ただでさえ前線は機動保安隊との交戦地点を中心に総崩れの様相を呈しつつある中だし無理もないわね。その混乱を収めるために進出させた後方予備戦力に艦娘が空飛んで斬り込んできただなんて、深海側からすれば驚天動地もいいところでしょうよ。
おまけに奇襲開始からコンマ1秒で増援は二個分隊相当の兵力を喪失。私がそれをされた立場だとしたら、そこら中のものと司令官に八つ当たりしてるもの。

『か、艦娘だ………あばっ!?」

「アギャッ』『ひぃっ……ごえっ!?」

『『『ギギャアッ!?』』』

とはいえ、攻め手はまだ緩めない。どれ程立て直しが不可能に近い崩れようだろうとも、ここまで散々に討ち破って尚横たわる物量差は極めて膨大。今押し寄せてきている“群れ”が完全に敗走・撤退を開始するその瞬間までは、一体でも多く敵の数を減らし続ける。

………統制は失いつつも個々でまだ飛びかかってくる【寄生体】はともかく、混乱の坩堝に陥り逃げ惑うだけが大半の【暴徒】に刃を振り下ろし突き立てる作業は、愉快からは程遠いものだったけれど。

「邪魔っ!!!」

『『『グケケケッ!!?』』』

それでも、その「司令官がたまに視聴してる“お宝”と称されたこの世で最もその単語から遠い映画のようなナニカを30分以上視界に入れてしまった時」のものを1000倍ほど酷くした気分を抱えながら、手は止めない。
反転攻勢の流れを作ったさっきの突貫より更に速く、激しく、斬撃を繰り出し続け屍を周囲に増やしていく。

「たぁっ!!!!」

『ぶごぁっ!?」『ギャインッ……』

《機動保安隊各位、突撃準備!

射角調整、指名榴弾!……Feuer!!》

<(' _'#<人ノ《装填完了、発射!!》

「「「おおおおおおぉおおっ!!!」」」

最早一周回って憎らしさすら感じるほど聡い“軍神”は、私が乏しい体力を圧してまで次の攻勢を始めた意図に気づいたらしい。
W号による新たな砲撃で進路を開き、即座に保安隊を私がこじ開けたスペースへと送り込む。

そして、この一連の動きを。

まるで、私達が本格的な敵陣打通及び反転攻勢に移ろうとしているかのように猛烈な動きを目の当たりにして。

『─────ッ、ギャギャギャアッ!!!!』

狙い通り、チ級はこちらの持つ継戦能力を誤認した。

恐らくは撤退を告げるであろうヤツの叫び声が響くと同時、引き潮の如く“群れ”の前線が下がっていく。
274 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/22(月) 23:13:57.83 ID:XXdSh8X20
《指揮車前進!撃て!!》

li イ; ゚ -゚ノl|《う、Ураaaaaaaa!!!》

<(' _';<人ノ《急にソヴィエト》

最後の最後まで、西住さんは抜け目ない。機動保安隊の突撃が私の元まで届き、“群れ”の敗走が本格的に始まった瞬間、W号を一気に陣地の入り口付近まで進出させて砲弾を放つ。

『………ヂギッ!!』

当然、チ級はそちらを警戒する。私達が攻勢に(本当に)出るとしたら、【駆逐艦・叢雲】共々その柱となる存在が前に出てきているのだから。

「…………。主砲射角調整、11時方向、20度!本校舎南部屋上!

機動保安隊の皆さん、突入姿勢取りつつ待機を!!ドラゴンさん分隊は弾薬装填確認し機動保安隊に後続!!第二波戦列、門付近に集結し交戦用意!!

各機銃座、友軍前衛に火線集中、合図があり次第射撃を開始してください!!!」

両手の機関銃を向けるチ級に対し、西住さんもまた敗走していく“群れ”の後背への追撃を狙い撃つ気満々の指示を矢継ぎ早に飛ばす。W号の主砲射角もしっかりとチ級に向けられ、今まさに突撃命令が出たとしてもおかしくない緊張感が戦場を満たす。

「(艦娘・叢雲、保護完了!!)」

「(………西住さんから合図が出次第後退を開始します。叢雲さん、準備を)」

「ハーッ、ハーッ………(………ええ、解ったわ。ありがとう)」

だけどその実、“群れ”を突破し密集陣形で周りを囲んだ機動保安隊の背後では、自動小銃装備の分隊が私の介抱と撤退準備を始めている。
より一層苛烈に動いた分今回の“限界”は正直なところかなり重く、保安官の一人に肩を支えてもらっていなければそのまま地面に倒れ込みかねない程状態が悪い。

こんな有り様、もしチ級にバレたら即座に“総寄せ”が再開されるでしょうね。向こうにとっては【暴徒】なんて消耗品以上の何物でもないでしょうし、W号の砲火力じゃ雷巡レベルのものであっても船体殻突破は不可能。
【駆逐艦娘・叢雲】が万全ならば他の使い方でいくらでも有効な作戦が取れるけど、生憎小指一本動かすのにすら軽い痛みが伴う始末では難しい話ね。

故の、ハッタリ。W号を、自分が乗っている車両を、旧式でしかもスポーツ仕様の戦車を囮にした、目眩まし。無線を使わずわざわざ声を張り上げて部隊に指示を出しているのは、向こうに聞かせるためってところかしら。
……それらをこの齢で、顔色一つ変えず実行できる糞度胸ぶりには私でさえ舌を巻く。生まれ持っての才か“後天的なもの”なのか、彼女が戦車道ではなく賭博師としての道を歩み始めたらラスベガスは事前にこの子を出禁にしておくべきよ。
275 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/22(月) 23:15:51.29 ID:XXdSh8X20
そこから数十秒、周りでは喧しく砲声が響き続けているのに、それらを押し潰しかねないほど重く息苦しい“静寂”が戦場を支配する。
W号とチ級が互いの武装を向けてにらみ合う中、“群れ”は本校舎の前を通り過ぎ、校門を出、軽空母ヌ級の傍を駆け抜け、尚も歩みを止めず遠ざかっていく。

『……………ヂィッ!!』

「……………各位、防衛陣地内に後退!!」

やがて口元を歪めたチ級が、「もうやめだ」とでも言うように一声鳴いて機銃の照準をW号から外す。その艦影が再び居住区へ跳び下がっていく光景を見届けた西住さんが指示を下したところで、ようやくこの空間は音を取り戻した。

「ひぃっ、ひぃ〜………し、死ぬかと思った…………」

「(バカ、気を抜くな!こっちがギリギリだったとバレたら今度こそ“かと思った”で済まなくなるぞ!!)」

「(バリケード内に撤収するまでは戦闘態勢取り続けろ、まだ比較的元気なやつで外側を固めるんだ!)」

それでも、まだ緊張は解かれていない。保安官の一人が(小声でどやすという実に器用なやり方で)若手隊員を諭した通り、西住さんのハッタリを看破されれば私達は瞬く間に窮地に陥る。わざわざ“群れ”を呼び戻さなくても、チ級一隻だけで戦力としては本来なら十分以上に可能だ。

実行しなかったのは、さっきも考察した通り【駆逐艦・叢雲】という存在が戦闘の長期化に応じて自分たちの“事故”に繋がりかねないから。その最大の懸念が実はほぼ機能不全であると知れば、攻撃再開の可能性は決して否定しきれない。

故の、臨戦態勢維持。W号をしんがりに、僅かでも隙があったなら即座に攻勢に転じてやるという“素振り”を見せつつ、焦る気持ちを抑えてゆっくりと保安隊はバリケードの内側へ退がっていく。

「───車両、後退!閉門!!」

こうしてバリケード外に展開していた全ての保安官が中へ引っ込み、現時点で周囲を取り巻く者が折り重なる【暴徒】や【寄生体】の屍だけになったところで、西住さん自身もようやく後退を開始する。

li イ; ゚ -゚ノl|《く、クリアーです!》

《OK!Command Tankより格納庫、大至急用意可能な飲料水と多少でいいから手当の心得があるヤツよこして頂戴!それから機銃の予備弾薬もね!》

W号がバリケードの中へ完全に車体を入れる間際、最後の警戒のため砲塔をゆっくりと旋回させる。

その様子はまるで、死線を数え切れないほどくぐり抜けてきた歴戦の老兵が、油断なく睨みを効かせているように感じられた。
276 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/22(月) 23:18:22.42 ID:XXdSh8X20
「…………あだだだだだだぁっ!?」

「う………げェッ………」

「オボロロロロロロ」

門が閉まると同時に、元々間近だった保安官達の「限界」が一斉に訪れた。疲労、酸欠、負傷、様々な理由で次々と崩れ落ちコンクリートの上に突っ伏す。

数にして20前後。仮にさっきの乱戦でこの状態が起きていたら、崩壊したのは私達の側だったわ。

(本当の本当に、紙一重だったの…………ね……ッ!)

「叢雲さん!?」

尤も、私だってそんな“紙一重”の内の一人。流石に嘔吐失神とまではいかないけれど、脚に力が入り切らず大きく蹌踉めく。両脇の保安官さんたちに支えられてなければ、もう少し無様な姿を晒すことになっていたでしょう。

「叢雲さん、しっかり!誰か医療班員を!こっちに最優先で回してくれ!」

「経口補水液と氷嚢も持ってきてください!速やかに回復を!」

「ちょっと待って、気持ちはありがたいけど私は別に……ああもう」

疲労も、ダメージも、正直“大した事”ある。少なくとも、リ級以上の艦種がこの場に現れれば、仮に通常種でも死を覚悟せざるを得ないぐらいには状態が悪い。
ただ、どこまでいっても艦娘の身体は人間より頑丈で強靭ね。ここまでになって尚、あと10分も休めれば恐らくさっきまでの“軽い運動”を7〜8回連続でこなせる程度までは回復する。

それに、学園艦に本格的な艦娘整備用の設備なんてあるはずもない。ちょっと包帯巻いたり水飲んで休んだぐらいで十全に戦えるようになるなら、艦娘実装から1週間も経たずに人類は勝っていたでしょう。
これぐらいの“治療”ではあまり回復しないどころか、ただ物資を無駄に減らすだけ。だから他の負傷者にそれらの人手とモノを割いた方が、合理的で正しい。

(…………の、だけどねぇ)

抗議と説明の声は上げようとした。だけど群がる保安官達………それから、ちらほら混ざる格納庫の方から走ってきた医療班と思わしき人たちに十重二十重に包囲されて、あっという間に身動きが取れなくなってしまった。

で、介抱にしても四肢広げられて四人がかりのマッサージって何よ。王族か何かか私は。

∬メ;´_ゝ`)「………………様子を見に来たんだけど、早速大層なおもてなしぶりね。私もなんかお願い事聞いた方がいい?」

「なら是非お願い。今は私を見ないで頂戴。このままだと情けなさのあまり死んでしまうわ」

……彼ら彼女らに悪意はない。ただ純粋に感謝し、そして縋っているのだ。
艦内が無数の化け物とその眷属によって埋め尽くされ、本土もどんな有り様になっているか全く解らない中で現れた、艦娘という救世主に。悪化の一途を辿る状況の中で、唐突に差した希望の光に。

確かに私は世の中全てが正義と善意に満ち溢れていると信じられるほど世間知らずな小娘じゃない。けれど、恐怖と不安の後押しがあるとはいえ、純粋な好意から成されたものを合理性のみで怜悧に否定できるほど大人でもなかった。
277 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/22(月) 23:20:48.77 ID:XXdSh8X20
…………。その上で一つ、気にかかる。

「処置完了だ。未だ行けるな!?」

「勿論ですよ、このままじゃ終われません!!」

「よく言った、それでこそ日本男児だ!!」

「こんなの、足の甲に徹甲弾落とした時と比べれば擦り傷みたいなもんです!」

「流石は戦車道元日本代表候補ってところかしら?心配損だったみたいね、次は誰?!」

この異様なまでの、人々の士気の高さが。

「包帯と湿布寄越してくれ!とりあえず宮西は応急処置で大丈夫とのことだ!」

「重傷者はいる?戦えない程の怪我や症状が出てる人は申し出て頂戴!……申し訳ないけど“噛み跡”は確認させてもらうわよ!今のところなさそうとはいえ、【T-ウイルス式】の可能性は未だゼロになったわけじゃないからね!!」

「途中で艦娘が来てくれたとはいえあの大群に2度も襲撃されて死者が1人も出てないなんて……これが、西住流………!」

「ああ、この調子なら本当に………!」

保安官達だけじゃない。非戦闘職………服装的にヘタしたらズブの一般人さえ混じっていそうな衛生班も、忙しなく負傷者の治療に飛び回りながら軽快活発に会話を交わしている。
無論疲労や焦りは見られるが、恐怖、絶望といった色が驚くほど薄い。

………喜ばしいことよね、本来なら。意気消沈し、恐慌に駆られ、悲嘆に染まった集団を率いて戦うよりは、今の有り様の方が余程やりようはある。

けれど、私はそれを覚悟の上でここを目指していた。

非戦闘員・一般乗員・学園生徒は言うまでもなく、学園艦保安隊だってあくまで本質は警察組織。
艦内比では図抜けた武力の持ち主であれど、自衛隊や艦娘のように深海棲艦との直接的な戦闘を想定した組織・集団じゃない。

ましてや今回は艦娘ですら──私も“実体験”は今日が初めてだもの、ムルマンスクでは留守番だったから──ごく一握りしか経験したことがない未曾有の事態。仮に保安官であったとしても、パニックに陥ったり特に【暴徒】への対処の戸惑いから戦意を喪失することは十分に有り得る。

寧ろ、それこそが“自然”な状況よ。昨日まで普通に生活していた居住者や観光客が突然深海棲艦の眷属に成り果てて暴れ出し、深海棲艦そのものも何百何千と艦内や周辺の海に現れて本土に砲弾ぶっ放し始め、外界には禄に連絡すら出来ず救助や援軍の目処不明。
こんな有り様を、つい今朝方まで普通の世界で生きてきた人間があっさり受け止められると思う?そんなの、頭のネジが一本たりとも残っちゃいない“海軍”の連中だけで十分だわ。
278 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/22(月) 23:24:31.52 ID:XXdSh8X20
極一部が「そう」である分には、未だ納得できた。例えば警察機構全体で見ても最精鋭の一角である機動保安隊、鈴のように個人が何かしら“特殊”な事例、或いは六年前、つまり深海棲艦出現直後の暴動未遂や廃艦騒動関連の経験からくる耐性。
これらの理由から平静を保っている一部が中核となって、辛うじて組織系統を維持している………こんな形なら、私も特に疑問に思うことはなかったわ。

でも、少なくとも眼に入る範囲の百数十人ほぼ全員が「そう」というのは、不自然と結論せざるを得ない。
たまたま鋼の如き精神力の人間がこの人数一堂に介した?ハッ、仮にそんな奇跡が起きたなら………まさしく大洗女子学園戦車道チームの設立経緯を考えると完全な否定ができないわね………

(と、とにかく!!“極めて稀な確率”で「それ」がまた起こり得たとしても、主要な可能性として考慮すべきじゃないわ)

一応思考の片隅でそちらの線も残してはおくとして、では他に“現実的に起こり得る”要因としては何がある?

1つ目、自分で言うのも小っ恥ずかしい話だけど、艦娘・叢雲到着の報が防衛陣地全体に流布したことで全員が希望を見出し、一気に士気が向上した。………まぁ、一番リアリティはあるけど情報伝達速度が流石に異常過ぎる。共に戦っていた機動保安隊はまだしも、医療班まで隅々に私の存在が行き渡る程の時間はなかった。
逆に保安隊は保安隊で、単純な火力や装甲厚で比較する際に駆逐艦が“戦闘艦種”の中でもかなり下位に位置することは一定数が知識として知っている筈。たかが駆逐艦娘が一人増えたからといって、ここまで劇的に士気を挙げられるのかと問われれば幾らか首は傾げてしまう。

2つ目、絶望的な状況故に楽観論が蔓延しており、その余波で現状が発生した。これも、不自然さは残る。
よくある話ではあるけど、ならば私が到着した時寧ろその士気は地の底まで落ちる筈。私服の艦娘が青息吐息満身創痍の状態で学生の戦車に乗せられて陣地に入ってきたとなれば、艦内全体における状況の絶望度や救援作戦が未だ目処すら立っていないことは容易く察せられるのだから。

3つ目、空元気。これもないわね。その程度の演技も見破れないような眼力ならあの鎮守府で秘書艦なんてやってないし、仮にそうなら2つ目の説同様私の姿を確認した時点で恐らくその虚勢は跡形もなく崩壊する。楽観論より反動は小さいかもしれないけれど、心の奥底では“現実”を認識している分逃避していたソレを突きつけられれば崩壊は免れない。

その上でなお人々が演技してる可能性?つまりこの陣地にいる数百人は挙って全員偶然にも鋼の精神力に加えてジャック=ニコルソンも真っ青の演技力を備えてることになるわね。それが偶然として許されるなら、いよいよこの世から無神論者は駆逐されるでしょうよ。
279 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/22(月) 23:27:38.80 ID:XXdSh8X20
依存、誤認、逃避。上げた可能性は何れもリアリティはあるけど、今ひとつ決定打に欠ける。
別に好都合なら細かいことは気にせず状況を甘受してしまっていいじゃないかと私自身思うけど………数多の戦場で培った“勘”が、その妥協を拒絶する。

何かが、危ういと。

(とは、言ってもねえ。結構色んな角度から考察してみたけど、どの可能性も微妙に合致しない部分があるし………まさか本気でこの場の全員がたまたまウチの連中も真っ青なバッキバキの精神力持ちってことじゃ────)

確かに、一つ一つの可能性を“別々”に考えた場合、そのどれも条件が合致しきらない。

でも、“全ての条件が満たされているから”だとしたら、どうだろうか。

例えば、私の到着を待つまでもなく、既にこの防衛陣地に籠もる人々は“縋る相手”を見つけているとしたら。

例えば、楽観視ではなく、自分たちが生還できる、この状況を打破できることに何らかの確信を得ており、その打破に至る材料の一つが「私の保護」であったとしたら。

例えば、誤認でも逃避でもなく、全員が確固たる希望を抱き、それに向けて立ち働いているのだとしたら。


例えば。












「───艦娘・叢雲さんですね?」

例えば、誰かしら極めて優れた手腕とカリスマ性を持つ“指揮官”が人心を掌握していたとしたら。

その指揮官がこの陣地内の人間に、彼女ならきっと何とかしてくれると盲信されているとしたら。

この異様な空気の全てに、合理的な説明がつけられる。
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/23(火) 11:32:21.06 ID:B9qjm+jnO
祝2週連続投下
更新おつです
281 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/07/29(月) 23:01:57.36 ID:eAQesrsX0
艷やかな栗色のボブ・ショートヘア、髪と同じ色をしたパッチリと大きな瞳、どこか優しげで人懐こさを感じさせる、可愛らしい小動物のような風貌。

紛れもなく、美少女と呼ぶに値する容姿。パッと見はとても装甲兵器を扱った特殊な武道に精通した人間であるようには、況してや名門学園艦チームを破り、大学選抜をさえ薙ぎ倒し、遂には界隈から“軍神”とまで称されるほどの人物だとは思えない。

「初めまして、大洗女子学園の西住みほといいます。

先程はありがとうございます、本当に助かりました。

お身体の方は大丈夫ですか?」

「…………ええ、お陰様で。こちらこそ、助かったわ」

西住みほ。

私は、彼女のファンだ。彼女の戦車道に魅せられ、インタビュー内容や試合中の言動から伺える人柄に惹かれ、彼女の事を応援している。
恥を凌いで言うならば、彼女とその友人達の“日常”を守ることは、私が戦う理由の一端として決して小さくない割合を担ってもいる。

なのに。そんな、“憧れの人物”が、すぐ眼の前に立っているという状況で。

私の身体はまるで、単身でFlagshipクラスのヒト型と相対した時のように強張った。

「……………あの、私の顔に何か付いてますか?」

「ああいや、別に。そうね、流石に少し疲れて、ちょっと頭が働いてなかっただけよ」

「あっ、そうですよね!あんな数に囲まれながら戦っていたんですから………本当に、叢雲さんのお陰で助かりました。重ね重ね、ありがとうございます」

「気にしないで頂戴。軍人として、艦娘として、務めを果たしたに過ぎないから」

思い切り俗な言い方をすれば、“推し”と真正面から向かい合っての会話。きっと世の全てのオタクたちが垂涎と共に羨望の声を挙げるようなシチュエーションなのでしょう。

「…………?」

だけど私は、喜ぶどころか益々緊張を強くする。物理的な緊張もより一層はっきりと表出したらしく、右手を甲斐甲斐しく揉んでいた女保安官が不審げに眉根を寄せた。

さっき妥協を拒絶した私の“勘”が、比べ物にならないほど激しく警鐘を鳴らしている。

これ以上、ここに居てはいけないと。

西住みほに、これ以上語らせてはいけないと。

(………………………ああもう!!!)

……目下最大の問題は、私が“善意の拘束”を受けてる真っ最中ってところかしらね。陣地入り直後に纏わりついてきた“お世話係”たちは、あいも変わらず懸命に私の四肢を揉みほぐしてくれている。
282 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/29(月) 23:04:19.31 ID:eAQesrsX0
この諺を、遥か昔のヨーロッパで最初に口にした人が思い描いたであろうシチュエーションとは方向性が違う、その事は重々承知しているわ。

それでも私の脳裏には、“地獄への道は善意で舗装されている”という言葉が思い浮かんでいた。

(振りほどくわけにもいかないし………)

別にカマトトぶってるワケじゃない。行動に支障をきたさない範囲なら誰に何人に嫌われようがどうだっていいし、これは西住さんに対しても同様。私自身への好感度なんて彼女の生命を護ることに比べれば全くどうでもよく、向こうが私をどう思おうとも私が彼女を推し続けることに何ら支障はない。

ただ、前時代とはいえ軍艦1隻分の力を人間大まで凝縮した身体が下手に今の状態で身動きすれば、嫌われる云々の前に重大な怪我を負わせかねないというだけの話で。

損傷・艤装不足による出力の大幅な低下はあれど、故に加減が殊更難しい。ここまでになって尚人一人どころか三、四人纒めて放り投げるぐらいの膂力はまだ発揮できるのよ?
有効性はともかくとして、私を介抱する為に立ち働いてくれている人たちをバリケードに叩きつけかねないのに振りほどくなんてできるわけ無いわ。

「あー、西住さん?今言った通り私も流石に疲れてるし……それにほら、こんな姿を見られて嬉しいレディっていないと思うの。だからその、もし他に話があるならもう少し後にしてもらえると………」

「……本当にすみません。疲労困憊であることは承知してます。ただ、深海棲艦による“次”がいつ来るか正直読めないので………すぐに終わらせますし、その後速やかに休養の時間を設けますので、少しだけお時間いただけないでしょうか?」

(まぁそうなるわよね畜生……!)

一応抵抗はしてみたが、アヒルさんチームの駆る89式のごとくあっさりと躱された。

そして、“筋”は通っているのがより拒絶しづらい。“勘”が鳴らす警鐘は、最早実は本当に響いていて西住さんたちにも聞こえてるんじゃないかと錯覚するほど大きく激しくなっている。

「叢雲さん、いきなりで本当に不躾ですが、私達に──」

(…………っ)

いよいよ“本題”が始まろうとする中、諦めず逃げ口上を探し続けるが見当たらない。
万事休すかと、内心で唇を噛んだその矢先。


「───Hey、何やってんのよアンタ達!!」

救いの手は、意外な形で差し伸べられた。
283 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/29(月) 23:06:17.38 ID:eAQesrsX0
1人の少女が、ズカズカと大股で肩を怒らせながらこちらへ歩み寄ってくる。

年の頃は西住さんと同じぐらいで、不健康寄りな白さの肌と鼻の頭のあたりに散りばめられたそばかすが先ず視線を引く。やや癖っ毛気味なブラウン色の髪を乱雑に両脇で束ね、垂れ目でありながらその奥の瞳は存外気の強そうな輝きを放っていた。

大いに礼を失することを承知の上で評するなら、西住さんや同じアンコウさんチームの五十鈴華さん、或いは知波単学園の西絹代さんのように衆目を集める美少女とは言い難い。
ただそれは彼女が容姿に劣るわけではなく、自分の強みを理解しておらず、また自身への頓着が無いため損をしている……という印象を受けるわ。

「…………、……………フゥ」

少女は勢いそのままに私たちの直ぐ側まで来ると、西住さん、私、周りの保安官、そして阿音の順に視線を巡らせる。数秒の沈黙の後につかれた溜め息は、心底からの呆れを吐き出し───

──同時に、自分の中で抱えている何らかの緊張をほぐそうとしている様にも、私には見えた。

「アンタ達、もう一度聞くわよ。一体全体何をしてるの?」

「な、何って、叢雲さんの介抱だけど…………というか、何でアリサちゃんはそんなに怒ってるの?」

(………ああ、大会一回戦フラッグ車の)

左脚をこっちが申し訳なくなるほどの必死さで揉みしだいていた女保安官が困惑と共に口にした名を聞いて、ハタと思い当たる。
サンダース大附属高等学校の通信手で、西住さん達の無線を傍受していたとかで物議を醸した子だ。

「怒ってないわよ、呆れてるだけ」

少女──アリサさんはもう一度ため息を付くと、ややオーバーな動きで額に手を当てて軽く俯いてみせた。

「あのねぇ、艦娘ってのはかなり特殊な存在なんでしょ?確かに見てくれの体格はアタシやニシズミと同じだけど、軍艦1隻分の戦闘力を持ってるって話じゃない。実際W号の車内から見てる限り、アタシら普通の人間なんか足元どころか小指の先っぽにも及ばない暴れぶりだったわ。

そんなASTRO BOYも真っ青なトンデモパワーの持ち主の身体が、貧弱な人間の力で“撫で回して”やった結果また回復すると本気で思ってるの?」

「そ、それは………」

「見たところ、ムラクモの装備は最低限度、しかも損傷してる。多分、Privateの満喫中にこの乱痴気パーティに巻き込まれたんでしょうよ。

──Hey」

∬メ´_ゝ`)「………」

女保安官は反論ができず言い淀み、他の三人の動きも止まる。間髪入れず、アリサさんは視線を阿音に向ける。

「貴女、その服装見る限りJSDFの関係者でしょ?あくまで推測だけど、ムラクモの“修理”には専用の設備が必要だし、戦闘力を上げるならそもそももっと充実した装備を用意しなきゃならない………ってコトで間違いないかしら?」
284 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/29(月) 23:08:22.21 ID:eAQesrsX0
∬メ´_ゝ`)「…………。ええ、そうよ」

(…………上手いわね)

強引に話の腰を折って機先を制し、更に“関係者である第三者”の見解を交えることで自分の論を補強させた。しかもあえて私自身には話を振らないことで、「本人が休養を得るためいい加減に話を合わせている」という線も同時に消している。

完全に、アリサさんは西住さんから場の主導権を奪った。

∬メ´_ゝ`)「厳密には私も陸自だからそこまで詳細には開示されてないけど、艦娘の修繕・治療は特殊な修復剤を用いた“入渠”という行為が必要で、艤装の着脱や変更についても鎮守府内における専門施設で行われているわ。

少なくとも、この陣地内で彼女を著しく回復させる方法は多分ないわね。強いて言うなら、少しでも精神的に安んじさせて上げるのが一番」

「Thanks.

…………これで解ったでしょ?アンタたちがやってることは、Ticonderoga-classの装甲を頑張って素手で捏ねてるのと同じぐらい非効率的なことなの。寧ろムラクモからしたら、ちょっとでも身動ぎしたら吹っ飛ばしかねない連中が手足に纏わりついてるような状況よ?身体どころか心さえ休まらないと思わない?」

「た、確かに………」

「ごめんなさい叢雲さん!私達、艦娘について無知すぎた!」

「え、ええ。別に構わないわ、善意でやってくれていたのは解ってるし」

「……………」

機銃掃射のごとく淀みないアリサさんの論陣で、我に返った面々は謝罪の言葉を残して次々と私の傍から離れる。
“拘束”から開放される私を見る西住さんが一体内心で何を思っているのかは………正直言って、私には窺い知ることができなかった。

「............ By the way, Self-Defense officer, what is your name?

(ところで、自衛官さん。貴女の名前を伺ってもいいかしら?)」

∬メ´_ゝ`)「My name is Ane-Sasuga.

I belong to the Japan Ground Self-Defense Force and my rank is 2nd Lieutenant. Nice to meet you.

(私の名前は流石阿音。日本陸上自衛隊所属の2等陸尉よ。以後よろしく)」

「「「…………………!!?」」」

唐突に、アリサさんは英語で話し始める。阿音は即座に対応したけど、周囲の面々は驚愕のあまり僅かに後退った。

まぁアリサさんの出身校と自衛隊という組織における語学力の重要性を考えれば決して不思議な光景じゃないんだけど……日本人という人種の英語耐性の無さを考えると、突然予期せぬ形で会話が発生したのだから無理のない反応かしらね。
285 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/29(月) 23:10:08.11 ID:eAQesrsX0
「I am sorry for all the rudeness earlier. I'd like to ask you a question in English because I don't really want everyone to hear it... is that a problem?

(さっきは色々礼を失したわ、ごめんなさい。周りの連中にあんまり聞かせたくない内容だから英語で会話させてほしいんだけど……不便かしら?)」

∬メ´_ゝ`)「No problem.

(ええ、大丈夫)」

「Thanks. ...... Uh, I just wanted to get your honest opinion on how things were going on the ship.

(ありがとう。……あー、率直な意見を聞かせて頂戴、艦内の状況はどうだった?)」

∬;メ´_ゝ`)「Well, if I may be so bold as to say so, it was hell. It was Raccoon City, and to be honest, if Murakumo hadn't been there, I would have been dead by now.

(まぁ、気を使わずに言わせてもらうなら地獄だったわねぇ。まんまラクーンシティだったもの、正直叢雲がいてくれなかったら今頃生きてないと思う)」

「OK, I understand. .......... Damn, that's what I would have done. I'll take you to the water station anyway, I want you both to get a good rest.

Murakumo, do you understand English?

(オーケー、理解したわ。…………畜生、そりゃあそうなるわよね。とりあえず給水所に案内するわ、二人共しっかり休んで欲しいし。

叢雲、貴女は英語解る?)」

「......... Yes. I understand the conversation you guys have had so far.

(………ええ。ここまでの貴女たちの会話も理解できてる)」

「That's fine. Well, you two, come with me. I'm sorry it's not ice cold, but I can give each of you a bottle anyway. I'd like to call the sheriff who was riding in the tank with us earlier if I can...

(そりゃケッコーね。じゃあ二人共着いてきて。キンキンに冷えたやつじゃなくて申し訳ないけど、とりあえず1人一本は渡せるわ。さっき一緒に戦車に乗ってた保安官も呼んで──)」

「Um, excuse me, Alisa?

(あの、ごめんなさいアリサさん)」

「………………What? Nishizumi.

(………………一体何かしら?ニシズミサン)」

「The decision to rest itself is correct in my opinion as well. However, with the possibility of another attack by Deep One in the next few seconds, it is imperative that we share and coordinate our operational policies. May I ask for a moment of your time so that I can finish quickly?

(お二人に休養してもらいたいのは私も山々です。ですが深海棲艦はまた直ぐにでも襲ってくるかもしれませんし、その際に防衛戦の意思疎通に支障が出れば致命傷になりかねません。手短に終わらせるので、お時間をいただいてもよろしいですか?)」
286 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/29(月) 23:14:31.03 ID:eAQesrsX0
………考えてみたら、西住流という戦車道の中でも名門中の名門をルーツとし、元よりその才覚は高く評価されていた身だ。“国際的なデビュー”を見越して、そうした教育についても力を入れられていた可能性は十分に考えられる。確か姉の西住まほさんは、実際にドイツへの留学経験もあったはずよね。

ただそうした面を考慮に入れても尚、彼女の「流暢さ」に対する驚きは収まらない。何度か作戦を共にしたアメリカ艦や米海兵隊、或いはウチのウォースパイトなんかの英語と比べても違和感は殆どなかった。

「Yes, your impatience certainly has a point.

(まっ、アンタの言い分も確かに一理はあるわね)」

アリサさんも、一瞬目を見開き驚きを露わにする。それでも、すぐに立て直して彼女は反撃に転じる。

「But think about it. If the Deep Ones were to attack again, and if that huge army were to come again, we could certainly get an indication of it before it happened. For example, if we had to "dress up" a bit to get Murakumo to come back from her break, do you think it would take hours, like a madam with heavy make-up?

Five or ten minutes, we can work it out. Then again, the raid might start in a minute, so it would be reasonable to use that minute for a precious break. Am I wrong?

(だけど考えてみて。深海連中がもう一度攻勢をかけてくるとして、あの大軍勢が再度押し寄せるなら確実にその兆候は事前に掴めるわ。例えば叢雲に休憩から戻ってもらう時多少の“おめかし”が必要だったとして、若作りに必死なクソババアよろしく何時間もかかると思う?

5分や10分なら、アタシ達で充分捻り出せる。ならばそれこそ、1分後には襲撃が始まるかもしれないのだからその1分を貴重な休憩に使うのは合理的判断ってやつよ。何か間違ってる?)」

「......... Unforeseen circumstances may arise. For example, new deep ones may appear. For example, a "humanoid" could come directly into this camp. For example, stray bullets may fly in during an artillery battle with the mainland. It is not a waste of time to share information in preparation for such a situation.

(………不測の事態が発生する可能性があります。例えば、新たな個体が出現する可能性。例えば、“ヒト型”がこの陣地に直接乗り込んでくる可能性。例えば、本土との砲撃戦に際して流れ弾が飛んでくる可能性。そうした事態に備えて、今の内に情報を共有しておくことは決して無駄じゃありません)」

「No, it's useless. I can assure you. Nishizumi, is your plan flexible enough to be implemented without any problem after just a few minutes' discussion in advance when such a "contingency" arises?

(いいや、無駄ね。断言してやるわ。ニシズミ、アンタが考えている作戦計画は、その“不測の事態”とやらが起きた時にたかが数分事前に打ち合わせた程度で問題なく実行に移するほど柔軟性に富んでるのかしら?)」

「We are standing on the assumption that some vertical depth is anticipated, hence .........!

(元々ある程度の縦深は見越した上で立てています、ですから………!)」

「I wonder if it's deep enough to fill a situation where you have to confront a "humanoid" who jumps into the water with one fully wounded KANMUSU and a clunky old competition model tank.

(その縦深とやらが飛び込んできた“ヒト型”に満身創痍の艦娘1人とポンコツ旧式競技用モデルの戦車で立ち向かわなきゃいけない状況を埋められるほどの深さであることを願って止まないわ)」

「……………!」

「Nishizumi, I understand your talent. I can't explain your impatience to ............ reason, but I understand your impatience itself.

But that's why I dare to say this. Calm down.

This is not only about you, but about most of the people in this camp.

(ニシズミ、アンタの才能は解る。アンタの焦りも…………理由までは無理だけど、焦ってる事自体は解る。

でも、だからこそ敢えて言うわ。落ち着いて。

これはアンタだけじゃない、この陣地にいる大半の連中に共通する話よ)」

「…………………………」

「I'm not stupid, but to be honest, my brain is still far behind yours. I am sure that you can see and think through things that I can't even imagine. I'm sure you can see and think through things that I can't even imagine.

...... But you know what, I've got a woman's "gut feeling" that's completely defeated by you. ............I'm not sure how much I'm going to be able to do with this.

(バカじゃないつもりだけど、オツムの出来はアンタに完敗してる。きっと、アタシが思い及ばないところまでアンタには見えて、考え抜いてもいるんでしょうよ。

……でもね、アタシの“勘”だけど………マズイことになる気がするわ、このままだと)」

そこまで言い切って、アリサさんは私と阿音を促しながら背を向ける。言葉も態度もぶっきらぼうだったけど、背けた顔には心の底から西住さんを心配する表情が浮かんでいる。
287 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/07/29(月) 23:16:13.09 ID:eAQesrsX0
.




「………………………………………」

だけど、そんなアリサさんに視線を送る西住さんの表情は能面のような“無”であり、

「(英語のやり取りだからよく解んなかったけど………今アリサちゃん、西住さんの指示を蹴ったってこと?)」

「(雰囲気的には、多分………)」

「(はあ!?パニクってるのかもしれないけど、この非常時に何考えてるのよ……!)」

その周りから飛んでくる視線や小声での会話は、お世辞にも好意的なものとは思えなかった。



.
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/30(火) 11:50:20.51 ID:dYw+n8780
投下おつです
善意で舗装されようが、悪意に引き摺られようが
ここからは地獄への一本道ですね
289 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/08/01(木) 23:54:54.67 ID:5POtTtSP0
西住さんの視線にも、それを取り巻く保安官や衛生班の囁きにも、どちらも恐らく気づいている筈。アリサさんはその中を、怯むことなく肩で風を切り堂々と去っていく。

「………、………………、〜〜〜〜〜っ!!!」

ただしその歩調は、西住さん達から離れるにつれて加速する。7、8メートル離れたところで大股に、15メートル程になると小走りに近くなり、視線が完全に切れたところでほぼほぼ“疾走”と表現していい速度になる。

イヤ私と阿音の疲労回復云々はどこいったのよ。

「─────ぶぁはぁっ!!!」

そうして格納庫の裏手にある給水所と思わしき場所──と言っても、単に様々な飲料水が乱雑に置かれてるというだけの代物だけど──まで来たところで、アリサさんは大きく息を一つ吐いて先程までの機動保安隊よろしく地面に膝から崩れ落ちた。

さっきの論戦、余程心理的な負担が凄まじかったみたいね。ほんの1分ほどの移動なのに、ウチの司令官から初訓練を施された直後の新入り艦娘並に全身汗だくだわ。
両手両足は地面に大の字状態で放り出されており、戦車道の理念に基づくなら恐らく何れの国及び地域の文化思想に照らし合わせても“淑女”たる姿からはかけ離れているでしょうね。

∬メ´_ゝ`)「Is it safe to speak Japanese now?

(もう日本語で話しても問題ないかしら?)」

「………Suit yourself, asshole.

(…………勝手にしなさいよクソッタレ)」

∬メ´_ゝ`)「ありがとう。いやー見応えがあったわねアリサちゃん。差し詰め諸葛孔明の赤壁開戦を促す大論陣?

或いは、主君・小寺政職に織田信長への恭順を解く黒田官兵衛孝高?

貴女の学校に合った喩えならベンジャミン=フランクリンの独立戦争支援建付けの方がしっくりくるかしら?」

「フランクリンなんて当時のフランス社交界で上流階級のお姉様方を片っ端から虜にした合衆国史を代表する陽キャじゃないのよ、アタシみたいなバリバリのナードじゃ不適格にも程があるっての…………嗚呼もう!!!」

ここで、メンタル面においてもアリサさんは限界を迎えたらしい。伸ばしていた手足を激しくバタつかせながら、ほぼ涙目で捲し立て始める。

「自覚あったわよぉ自分が陰険でヘタレなナードの立ち位置だって事ぐらいぃ!少しでもケイさんやナオミの役にちゃんと立ちたいからって反則技カマそうとした挙げ句看破されて利用されて返り討ちに合うなんてムーヴする女、主役どころかピーター=パーカーの親友役だって務まりゃしない!!戦車道界におけるヒロインはどう見たってニシズミであってアンコウチームだわ!!

ええ解ってましたともこんな女にタカシが振り向くわけ無いなんてさ!なのに何で今更こんな役回り回って来んのよぉ!!

ホント勘弁してよ、タケベとかアキヤマとかカドタニとかサワとか、“ヒロイン”の支え役なんて幾らでも何人でも適役いたじゃないの!!何でアタシだ!?この学園に潜入したから!?今すぐ一日巻き戻しなさい昨日密航準備してた自分の顔面に一発食らわせてやるわバーーーーーーーカ!!!!!」
290 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/08/01(木) 23:57:31.88 ID:5POtTtSP0
…………さっきの“大論陣”の前にも色々と積み重ねがあったらしい。壊れ方の激しさも然ることながら、言ってる内容の意味不明ぶりがウチの司令官とタメ張れるレベルだわ。

そう言えば、アリサさんに想い人がいるってのは割とこの界隈じゃ有名な話ね。恐らく“タカシ”とやらがその相手なのでしょう。
例の全国戦車道大会における西住さん達に対しての無線傍受の件とコレが合わさり、屈指の名門校においてフラッグ車を任されるほどの腕前を持ちながら彼女の人気は少なくともウェブ上の関連ニュースなんかを見る限り決して高いとは言い難い。

反則云々はともかく、女子学生が同年代の男の子に懸想するという極自然な現象に対して目くじら立ててる連中って何なのかしら。男女問わず気色悪いったらないわ。

とりあえず、アリサさんからのアプローチを片思いに甘んじさせてるタカシとやらに相当見る目がないことだけは確かみたい。
西住さんとあそこまで渡り合えるような才女から言い寄られたら、寧ろこっちから頭下げてでも“お付き合い”すべきだと思うけど。

「…………アレ?」

一通り悶え喚いたところで、アリサさんはハタと動きを止める。彼女は僅かに身を起こし、不思議そうに阿音を見上げた。

「そう言えば、私自己紹介なんてしたっけ?ニシズミも別にアタシがサンダース大附属だとかは言ってなかったと思うケド」

∬メ´_ゝ`)「あら、知らなかった?貴女の知名度、自衛隊や在日米軍なんかじゃべらぼうに高いわよ。それこそ西住家姉妹、島田家長女に次ぐぐらい」

対する阿音は、ちょっと驚いたように眉根を上げながら答える。

∬メ´_ゝ`)「気球通しての無線傍受なんて真似を先ず実行できる事自体女子高生離れしてるし、その上で大洗女子学園側の戦術ほぼ把握できる精度だったんでしょ?並の技術じゃないもの、そりゃあ一目置くわよ。

ルール違反やらの辺りは、隊長さんの性格考えるに十分絞られてるだろうから今更部外者がどうこう言うものでもないわ」
291 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/02(金) 00:00:33.66 ID:Aw4fNQD/0
「……因みに、海自や鎮守府関係者の間でもなかなか有名よ、アリサさんは」

さり気なく阿音から行われた目配せの意味を察知し、私も後を受けて便乗する。

……まっ、今し方助けて貰った恩があるからメンタルケアぐらいは吝かじゃないわ。それに、別段嘘はつかないし。

「理由は概ね阿音が言ってた通り技術面での評価だけど、他に【大鍋(カルドロン)】を見た人も結構いるわよ。

ウチの鎮守府でも、私含めて何人か【大鍋】でアリサさんの事を知ってる艦娘はいるもの」

筆頭例は明石ね。元々は“鬼”が使ってたあのイカれた性能の小型戦車にご執心だったけれど、関連してアリサさんの事を知ってからはたまに会話の流れで名前が出てくるようになった。
生粋の技術屋(マッド・サイエンティスト)として、未だ女子高生でありながら高い技術水準を見せたアリサさんはしっかりロックオンされたらしい。

あとは、どうやらあのクソムカつく“技研”のセールスレディも注目している。別件で二度目(ナオルヨ!君を持ち込んだ時をカウントするなら実質三度目)の訪問の時、所属の人手不足を嘆きつつ彼女とレオポンさんチームを勧誘できないかと零していた。
あの時は恥ずかしかったわね。私ったら、レオポンさんチームの名前が出た瞬間動揺のあまり手が滑って、あの女が“別件”として持ってきていた最新鋭の白兵戦闘用超硬質ブレイドを思わず叩き折ってしまったもの。

生憎あの時のアイツは着替えを持ってきてなかったから、残りの滞在時間中をずっと半ベソで過ごしてから帰ったわ。

「……………………………………ふーーーーん」

一通り私と阿音から話を聞き終えたアリサさんは、完全に起き上がるとあらぬ方向に視線を向ける。……腕を組んで胡座をかき如何にも気にしていませんという素振りを見せてはいるものの、垂れ目からはフニャリと力が抜け、口元は綻び、頬から鼻周りにかけて軽く赤みが差している。

「まぁ別に?自衛隊や艦娘に知られてるからってそれが何って話よね?関係ないというか、ねぇ?いやまぁ嫌われてるよりは評価してもらってる方が嬉しいけれど?でもその………ありがとう……というか……」

(あらかわいい)

∬メ´_ゝ`)「あらかわいい」

タカシだっけ?フルネームも顔も知らないけれど、改めて言うわ。

マジで女を見る目無いわよアンタ。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/08/02(金) 13:05:42.60 ID:mbtn+/ec0
更新おつです
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/08/05(月) 01:28:32.82 ID:jCyH7wwuo
続き来てた!また楽しみに待ってます!
294 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 21:56:19.71 ID:A23xFse80
……さて。

和気藹々とした“ガールズトーク”で緊張はほぐれ、僅かな時間だけどそれこそしっかりまともな休息を取ることができた。

それじゃ、憩いの時間は終わり。仕事を再開しなくちゃね。

∬メ´_ゝ`)「で、アリサちゃん。西住家の御息女様は、一体全体何を“やらかそう”としてるのかしら?」

「あーー…………まぁ、やっぱりソコはツッコまれるわよねぇ」

トロトロに崩れていたアリサさんの表情が一転して引き締まり、細められた眼に宿る光が暗く陰を帯びたものに変わる。とはいえ、さっきの状態でこの話に移行すればそもそも会話になるかも怪しいほどの錯乱に繋がったでしょうから、やはり“メンタルケア”を間に挟んだのは正解だった。

ま、別に私自身や私周りのアリサさんに対する評価は嘘偽りなかったけどね。タカシとやらの審美眼についても、直接口にこそ出してないけど割と本音だし。

「でも、“やらかそうと”ってのは流石に言い過ぎなんじゃないかしら?この防衛陣地に奴らが雪崩込んできたら待っているのは死、そりゃあ多少の気負いはあるでしょうし、指揮は全力で取るわ。

……それをHigh School girlが先陣切ってやってるってのはまぁ異様かもしれないけど、でもニシズミの才能を考えれば摩訶不思議って程じゃない」

∬メ´_ゝ`)「確かにねぇ。ただアリサちゃん、私達の論点は実はソコじゃないのよ」

阿音の口調は飄々としたもので、浮かべているのは優しげな微笑み。だけどその目は笑っておらず、奥でよく研がれた刃のように眼光が煌めいている。

└(;*・ー・*)┘

で、いつの間にやら合流した鈴は、口を真一文字に引き結び脇に開けたばかりのアクエリアスのボトルを置いて正座状態で待機してる。
イヤなんでアリサさんは阿音に真っ向から向かい合えてるのにアンタが気圧されてるのよ。四捨五入したらSATみたいなもんでしょうに。

∬メ´_ゝ`)「西住さんが防衛指揮を取っていること、それ自体には私達も異論はない。勿論、本当はあっちゃいけないことだし、防げなかったのは我ながら情けないけどね。

だけどその後の行動が、“防衛”という目的に対して違和感しか無いのよ。

仮に西住さんの中にある目的が“防衛”であるなら、何故撤退直後から衛生班を乗り込ませてまで負傷者の回復を急がせる必要があったのかしら?

そして何故、私や叢雲の勧誘をするにあたって、あんなにも回りくどく話し出す必要があったのかしら?それも、あそこまで強い“圧”を作ってまで」
295 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/08/07(水) 21:57:45.23 ID:A23xFse80
そう。私の“勘”が激しく打ち鳴らした警鐘も、冷静に辿れば異様なまでの士気の高さ以外で出所は今阿音が指摘した内容だ。

西住さんがこの陣地の指揮官に“なってしまった”ことは、最早やむを得ない。自身の無力さに悔いと苛立ちはあっても、周りであれ本人であれ取った選択肢そのものに目くじらを立てるのはただの八つ当たりよ。

一介の女子学生でしかない本人はともかく、周りの“大人”は止めるべきだった。……なんてことをしたり顔でほざく「専門家」は後を絶たないでしょうけど、「現場の人間」から言わせて貰えばそんなもんは無責任極まりない傍観者の結果論でしか無いわ。
この前代未聞にも程がある異常事態において何が正解かなんて、ロマさんやあの深海魚首相でもたどり着けるか怪しいものね。

何なら、私自身の“お気持ち”と倫理観というフィルターを取っ払ってみた場合、諸々の事情を鑑みればこれこそが最適解だったかもしれないぐらい。結果がついてきてしまっているから尚更に。

……だからこそ。防衛戦が“成功”しているからこそ。

そこに自分で綻びを作りかねない手を次々と打つ彼女の姿が、気にかかる。

「本当に正直な話をすると、私達をわざわざ陣地から突貫してまで救出したところから軽く疑問ではあるのよ、助けて貰った身で言うのも烏滸がましい話ではあるけどね。

………だって西住さんは、誰よりも彼女自身が“指揮官不在の集団”の脆さを知っている筈だから」

艦娘、自衛官、機動保安隊の生き残りを確保できたなら防衛戦力の大幅な増強でしょうし、それこそ指揮官を“武道を嗜んでいるだけの女子高生”から“深海棲艦退治の専門家”或いは“軍事組織の尉官”に変えられる。
そう考えると一見理解できなくはないけれど、仮に間に合わなければ、仮にそもそも追われていた人員がただの一般人でしかなければ、といったリスクは避けられない。

もしこの防衛陣地が殆ど西住さん一人によって持ちこたえていたのだとしたら、艦娘や自衛官の存在が不確定の状態で指揮官自らが救援に打って出るのは博打として分が悪すぎるように感じるわ。

まぁそこが西住さん自身の並外れた慧眼によって私達の構成を──少なくとも艦娘が含まれていることを──確信した結果だとしても、では“その後”は?

「それでも、私たちを救援したことは“防衛”を主軸で考えた場合でも無理やり理由付けができる。

だけど、阿音が指摘した二点はどうしても矛盾が出てくるわ」
296 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 21:59:18.02 ID:A23xFse80
先ず前者、負傷者の回復。確かに陣地の戦闘人員が潤沢とは言い難いことは理解できるけど、それでも明確に予備兵力と呼べる存在はいる。西住さんがチ級にハッタリかます際に“門”付近で待機させた、50人ほどの集団がソレだ。
負傷者・戦闘不能者の人数は見たところせいぜい20人前後、しかも重篤者は殆どいなかった。

防衛体制を整えるだけなら、これらを入れ替えれば済むはず。わざわざ非戦闘員をこっちから投入してまで急ピッチで治療させる意味合いは、限りなく薄い。
寧ろその只中に突然チ級が乗り込んできたり【暴徒】や【寄生体】が紛れ込み侵入していれば、混乱はより拡大する。あの時点における再襲撃の可能性が何処まで0に近くとも、“防衛”に当たって余分な動きを挟む理由にはならない筈だ。

そして、後者。

艦娘・叢雲は、深海棲艦殲滅のプロフェッショナル。自衛官・流石阿音は、国防と戦闘を専門とする公務員。もしも西住さんが考えていることが“防衛”であり、かつ“指揮権の移乗”が目的の内に入っていたとしたら、彼女はただ一言口にすればソレで済んだわ。

助けてくださいって。

少なくとも私が知る限り、彼女は意志の強さは極め付きだけどプライドや自惚れは皆無に近い。例えば功名心や自己承認欲求から“目立ちたがり”で指揮権を維持しようという動きは幾らなんでも考えづらい。

故に、西住さん自身が何かしらの明確な“目的”に基づき敢えてそうした、という結論にたどり着く。

∬メ´_ゝ`)「で、其の“目的”は、私や叢雲に素直に話したら却下されるモノである可能性が高い。指揮権を私達に譲渡したら実行されないモノであると認識している。

だから、素直に“依頼”せず“巻き込もう”とした。それもわざわざ、叢雲が逃げることも断ることも極めて難しくなる環境を見極めながら」

ここまで来ると、保安官達による“善意の拘束”も恐らく西住さんの差し金よね。陣地内で彼女が絶対の信頼を勝ち取っているとしたら、単純に私の行動を制限できるだけじゃなく彼女の“要望”を雰囲気で、或いは直接後押ししてくれる人員を直ぐ側に複数人用意できるんだもの。

……末恐ろしいどころの話じゃないわね。謀略、戦術眼、カリスマ性、汎ゆる物が武道云々の域を超えて既に一級品。

ソレが今この瞬間、正しい方向で使われているかは別にして。
297 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 22:02:13.79 ID:A23xFse80
「………OK!」

アリサさんは瞑目し俯きながら、私と阿音が代る代る口にする“推理”を聞いていた。やがてこちらが語り終わると、大きく笑みを浮かべ瞳を見開き、ハタと両膝を打つ。

└(*゚ヮ゚*)┘〜゚

因みに鈴は、漫画やアニメなら頭から煙を吹いてそうな表情で座っている。しっかりなさい。

「安心した、ちゃんと“頼れる専門家”が来てくれたみたいね。

これで心置きなく言えるわ、Thank you」

∬メ;´_ゝ`)「………!」

「………………」

アリサさんからの予想外の言葉に、思わず私は阿音と顔を見合わせる。
この子、要は私達が西住さんに良いように使われてしまうようなタマじゃないか試したってわけ?

呆れた、さも悲しき凡人みたいな顔でさっきは嘆いてたけど、アナタ十分“アッチ側”に片足突っ込んでるじゃない。

「……………大人をからかうのはいい趣味とは言えないわよ、アリサ」

なら、もう“さん付”は必要ないわね。少なくともこの場においては私達と対等だもの、この子。

「さっき逆に助けて貰った恩でトントンと見てあげるけど、この緊急時だから尚の事いい気分にはならないわ」

「Sorry,もうやらないわよ。………まぁでも、見たでしょ?あの雰囲気。正直もうなりふり構ってる暇が無くなってきてるのよ」

∬メ´_ゝ`)「映画【ミスト】のMrs.カーモディ及びその信者達、みたいなヤバい感じは確かに出つつあったわよねぇ。滅多刺しの末外に放り出される役回りだけは御免被りたいところだけど」

「Self-Defense-Forceが【アローヘッド計画】に携わってないことを願うしかないわね………尤も、ニシズミがカーモディの役割で留まってくれるならどんなにいいかしら」

「…………………どういう意味?」

私も(不本意ながら)司令官の影響で幾らか映画への知見はある。【ミスト】のカーモディといえば、作中での異常事態を黙示録による終末と捉え避難民を先導し、挙げ句その終末を“生贄”によって回避させようとした狂信ババアよ。
保安官ら大人連中ですら精神的に依存させて場を仕切るという現状がカーモディを彷彿とさせる、という言い分はまぁ理解できるけど……ソレより更に悪いってこと?

「カーモディは確かにイカれだったけど、少なくともあのババアの暴走は“モールの中”で完結してたでしょ?」

そう言いながら、アリサは立ち上がり格納庫の壁にもたれ掛かる。

吐き捨てるような口調とは裏腹に、その目元には焦りと、苛立ちと……………そして、深い悲しみが浮かんでいるように見えた。
298 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 22:05:37.90 ID:A23xFse80
「ねえムラクモ、サスガ二等陸尉殿。貴女達はニシズミが“ナニカをやらかそうとしてる”事までは察したけど、恐らくその度合を見誤ってるわ。

嗚呼、別に責めてるわけじゃないのよ?だって、一介の女子高生が自発的に並み居るモンスター共と渡り合って制圧された学園艦を“奪還”しようだなんて、ハリウッド映画の脚本並みに十分ブッ飛んでるもの」

「……ええ、そうね。私も、多分阿音も“ソコ”がたどり着いた結論だったわ」

∬メ;´_ゝ`)「さっき挙げたツッコミどころも、防戦じゃなくて“攻勢”の準備としてみた場合大分違和感がなくなるしね……でも、西住さんの目的はソレじゃないってこと?」

「アンタらの回答が零点とは言わないわ。実際、ニシズミ自身オオアライの連中のことはちゃんと助けたいと思ってるし、だからこそこの学園を“奪還”しようとも思ってる。

…………ただ、アイツにとって今それはあくまで通過点なのよ。

勿論、100%そうと断言はしない、だけど───」








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299 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 22:09:01.98 ID:A23xFse80
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「───恐らくあの子は………西住みほは、このオオアライに現れた深海棲艦を“殲滅”しようとしてるわ。

それも本土の自衛隊や艦娘を呼び込んでじゃない、ほぼこの学園艦の中の戦力だけで、それを成し遂げたがっている。

………まぁ、アタシの“勘”だけどね」
300 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 22:18:13.79 ID:A23xFse80
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熱狂。言葉の意味は当然知っているし、イメージも野球やサッカー、あとはオリンピック代表選手の応援団辺りを見れば容易く付く。

何なら、その当事者になったことすらある。

戦車道全国大会の制覇に、続く大学選抜との試合での劇的な勝利。あの時は紛れもなく、私達は熱狂の渦の中心だった。

(……いや、厳密に言えば中心はあくまで西住さんだったな)

ただ、其の余波だけでも凄まじかったことは間違いない。ファンレターは一時(………性別を問わず)ほぼ毎日段ボール数十個の単位で届いていたし、特にスポーツ紙系のマスコミ関係者は入れ代わり立ち代わり学園艦に詰めかけた。
観光客の人数は最早例年とまともな比較ができない程で、商業区はほんの数週間でスカスカだったテナントが全て埋まり学園首脳部及び茨城県庁を大いに高笑いさせたという。

宇津木さんや沙織、河嶋先輩なんかは明らかに浮足立っていたな。カバさんチームの面々も、平静を装っていたが取材には嬉々として答えていた。
………私からすればありがた迷惑も良いところの乱痴気騒ぎだったが。

熱し、狂う。本当に、あの有り様はこの単語にピッタリと一致していた。夏休みの終わり頃にようやく沈静化の兆しが見えた時には心底ホッとして、二度とこんな渦の中には入りたくないと心底願ったものだ。








───だが、私のそんな細やかな願いも虚しく。

「聞いたか、深海棲艦をまた押し返したって……!」

「しかも艦娘と自衛隊員を救出してバリケードの中に呼び込んだんだってさ!」

「すげぇ、ホントに“軍神”じゃん!!」

「わ、私達、助かるの………?」

「きっと大丈夫だよ、西住さんが助けてくれるって!!!」

今格納庫の中は、あの時を遥かに凌ぐ“熱狂”で満ちていた。
301 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/08/07(水) 22:23:10.19 ID:oOsw4SQ90
本校舎の高等部及び中等部女生徒を中心に、観光客や一般居住者、教員など、数にして400人に少し届かない程度。これは“地表”部分にいる人数で、本来弾薬や予備部品をしまう地下の収納スペースに、まだ小さな子供やお年寄りの人、傷病者等100人ほど。

恐らくはその全員が、今し方保安官の一人がもたらした“【暴徒】及び深海棲艦の撃退”という報告に沸き立った。

格納庫自体が、物理的に揺れているように思えるほどの歓声。比較的気力・体力が残っている一部女子生徒や男性教諭なんかは、立ちあがって舞い踊らんばかりに歓喜を爆発させている。

「既に艦娘・叢雲の治療と戦力の再編は始まってる!

機動保安隊及び駐在保安官各位は武器点検急げ!

また、西住さん主導のもと学園艦奪還に向けて【ガッツン作戦】の準備が進んでいる、医療・国防職経験者或いは銃火器関係の資格取得者は協力を願いたい!」

「あ、私中学から高校にかけてタンカスロンのクラブに入ってました!整備関係手伝えます!」

「俺は猟友会だ!実際にクマも撃ったことあるぜ!」

「本土の非常勤医です!衛生班の手伝いに入ります!」

報せを持ち込んだ保安官もまた興奮気味に庫内へ呼びかけ、応じて挙手した人々が我先にと格納庫の外へ駆け出していく。

逃げ込んできた直後からは、すっかり様変わりしている。通夜のようななんて表現すら生温い、あと一つきっかけがあれば集団自殺が始まるんじゃないかと思えるような雰囲気はどこかに吹き飛ばされ、立ち働く人も待つ人も、皆が皆希望に溢れた表情だ。

(………………。喜ばしいこと、の、筈………なのだが)

どうしてか、さっきから胸騒ぎが止まらない。
302 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 23:05:04.66 ID:A23xFse80
深海棲艦を押し返した、バリケードの内側に立て籠もって以降は殆ど犠牲者は出ていない、おまけに艦娘と自衛官までやってきて救助の目処も立ったかもしれない。武器弾薬の問題など不安要素も勿論あるけど、少なくとも現時点まで状況は好転の一途を辿っている。
特に西住さんが本格的に指揮を取り始めてからは、それはとても顕著だ。

なのに、私の胸の中は明るくなるどころか、益々激しく不安を訴える。まるで後ろから得体のしれない何かに追いかけられているかのように、まるで手探りで進む暗い道の先が断崖絶壁であるかのように。

その感覚は、両親と最期の喧嘩をした時に………2人が、永遠に帰ってこなくなってしまった日のものと奇妙なまでに似通っていた。

「…………………なぁ、沙織」
「麻子」

どうしようもなくなって、隣で無線機械と格闘していた沙織に声を掛ける。けど、沙織は食い気味にこちらの台詞を遮った。

「きっと、大丈夫だから。………みぽりんは、大丈夫だから」

決して、私に向けての返事ではない。多分、沙織が自分自身に言い含めているんだろう。だけどその響きは酷く空虚で、繰り返せば繰り返す分だけ、沙織の中で不安が大きくなっているような気がした。

(……………………)

改めて、周りを見回す。格納庫を隅から隅まで満たす“熱狂”の中には、幾つもの見知った顔がある。

「──ええ、とりあえず生徒会としても西住さんには全面的に協力します。現在衛生班に参加している生徒の皆さんは、引き続き医療スペースの拡充を………」

五十鈴さんは、生徒会長としての勤めを全うしようと矢継ぎ早に指示を出している。凛とした姿勢を崩してこそいないが、時折その視線は、物憂げに格納庫の“外”へと向けられる。

「………真田丸で徳川軍を押し返した真田信繁、ってところか?」

「蝦夷へと敗走していく過程で宇都宮城を落とした土方歳三……はしっくりこないぜよ」

「テルモピュライのスパルタ軍………だめだ、どれも玉砕してしまう」

「…………やめよう、縁起でもない」

カバさんチームの四人は“いつものやり取り”をしようとしていたが覇気もキレもなく、最期にはエルヴィンこと松本さんの一声で全員が黙り込んでしまった。

「隊長…………」
「大丈夫だよ梓、西住先輩なら…………」

ウサギさんチームの澤さんは膝を抱えて塞ぎ込む。その横では山郷さんが懸命に元気づけようとしつつ、そんな彼女も今にも泣き出しそうに瞳を潤ませている。

「何にもできないにゃ……私達………」
「仕方ないピヨ………」
「一般人の限界モモ……」

アリクイさんチームの3人も、その隣で無力さに打ちのめされ座り込んでいる。

「砲弾の運搬はこちらです!新たな機銃の設置位置はアリサ殿から伝達を受けています故そちらへ!!」

「他の予備パーツの点検もやっとこう!……西住さんが戦いに行くなら、せめて少しでもその安全を守らないと!」

「いい!?素人は却って邪魔になるから外には出ちゃダメよ!特に中等部は全員地下へ行きなさい!物資運搬は風紀委員まで、それ以外は中等部の子達や小さい子たちを見てあげて!!」

秋山さん、ナカジマさんら自動車部の面々、そど子達風紀委員は、各々駆けずり回って保安官や医療班と共に働いている。けれどその動きは、作業をするためではなく押し潰されそうなほど大きな不安から逃れるためであるように見えた。
303 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 23:20:46.35 ID:A23xFse80
周囲の“熱狂”とは裏腹に、戦車道チームの面々は誰一人として例外なく不安に苛まれていた。そしてその出所は、きっと全員が共通だろう。

(…………大丈夫だ。西住さんは、私達なんかより遥かに強い。だからきっと、大丈b)

『レイゼン、アンタが天才なのは知ってるけどその考え方は頭がいい“だけ”の奴の発想ね』

『独立ってのは響きこそ勇ましいけれど、裏返して言えば常に“孤立の危機”と隣り合わせ。依存先、従属先があるってのは、ある意味孤立とは無縁のぬるま湯なのよ』

「……………………っっ!!!」

言い聞かせようと、思い込もうとした矢先、何故か、ブーン先生の授業の中でアリサさんから言われた言葉がフラッシュバックする。

依存。今私達が西住さんに対してしていることは、依存以外の何だというのだろうか。

西住さんの隣に、今この瞬間、誰か一人でも立てているのだろうか。

「…………………ごめん、麻子。肩凝っちゃったから少しほぐしてくるね」

「…………………。ああ」

沙織の言葉に空返事をしつつ、不安と迷いは益々深くなっていく。

(このままでいいとは、思わない。だけど私に、私達にできることなんて────)













《────おっ!!!》
304 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/08/07(水) 23:24:13.24 ID:oOsw4SQ90
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「……………………!!!?!?」

一瞬、無線機から声が。

聞き覚えのある、親しみやすい、独特の語尾をした男の声が聴こえた気がして、慌てて顔を上げて機器を操作する。


聞き間違いとは思いたくない。だけど、それきり無線機は、どれほどチャンネルを回そうと引き続き意味のない雑音だけを垂れ流すだけだった。



.
305 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/07(水) 23:29:13.20 ID:A23xFse80
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『我々は勝利するであろう。イタリアとヨーロッパと世界に長い平和と正義の時代を齎す為に!

勇猛なるローマの男たちよ!武器を取り、君達の強さを、勇気を、価値を示そうではないか!

優雅なる女騎士の末裔たちよ!その身に流れる高貴なる先祖達の血を以て、偉大なる帝国の名を再び地中海に轟かせようではないか!!』
──1940年6月、ベニート=ムッソリーニによるヴェネツィア宮での宣戦布告演説より抜粋

『諸姉らには、誇り高き“Reich”を導く役割が今日この日より求められる!突き進むのだ、“Reich”の勝利のために!アーリア人の栄光のために!!

劣等なる共産主義者共の腐った納屋を、履帯で轢き潰し、ただ進め!!

エンド・ジークは諸姉らの鋼鉄の意志によって成されるのである!!』
──1942年6月、新規編成された戦車師団閲兵式におけるアドルフ=ヒトラーの演説より

『母なるロシアの大地より、毒を浄化せよ!!勇者たちが放つ雄叫びはシベリアの果まで轟き、戦乙女たちが巻き起こす鉄の暴風は薄汚いファシスト共を薙ぎ払うだろう!!

我らがソヴィエトはファシストを徹底的に懲罰する!奮起せよ、祖国の勝利のために!!』
──1942年11月、ウラヌス作戦発動に際してヨシフ=スターリンのラジオスピーチより

『今大西洋を超えて欧州には、血と狂気が満ちています。

今太平洋を超えて亜細亜には、侵略と破壊が満ちています。

我々は自由の旗手として、今一度立ち上がらなければなりません。合衆国民は、世界を覆う帝国主義の嵐に立ち向かわなければなりません。

合衆国軍の男性は銃と手榴弾を手に取り、女性は戦車を駆り、世界中で自由を求めて戦っています。

合衆国民の皆様、どうか今年が彼らにとって“良い年”となるよう、汎ゆる分野で協力してください』
──1943年1月、フランクリン=D=ルーズヴェルトによる新年挨拶より

『間もなく、諸君らをナチズムの圧政より解放する救いの手が差し伸べられる。カール帝の子らが、ヴィヴァンディエールを継ぎし者たちが、“自由”の上陸に伴い、その役目を全うすることを望もう』
──1944年9月、シャルル=ド=ゴールよりヴィシー・フランス内へ向けての秘密ラジオ放送より

『アジア、そしてヨーロッパにおける我々連合軍の苦境は、結局のところ“戦車道”の存在に集約される。第三帝国の機甲師団は欧州の大地において獰猛な肉食獣の如く我々を食い散らかし、大日本帝國の戦車団は太平洋の島々において強固な城壁の如く我々の前に立ち塞がってくる。

これはただの妄想に過ぎないが、もしも“戦車道”が無ければ、我々は本来既に「戦勝国」になっていたのではないかと思わずにいられない』
──1946年2月、ウィンストン=チャーチルが知人に宛てた手紙より




『米英軍ノ攻勢ガ尽キテ幾日、兵皆健勝ナリ。幾度ニモ渡ル勝利ト敵軍ノ海上ヘノ追落ニヨリ、自信ト覇気島内ニ満ツル。栗林忠道閣下ヘノ忠節皆厚ク、カノ方ノ下デ戦ヘル幸運ヲ噛ミ締メツツ、漏レ伝ワルインパールニオケル友軍ノ悪闘ブリニ涙ヲ禁ジ得ズ。

又、他方ニ転ズレバ、西住小峰中佐ノ戦ブリタルヤ之正二古今無双也。慧眼ト勇猛ニテ、栗林閣下ノ信厚ク、敵ヲ屠ル事鴨撃チノ如シ。

撃テバ必中護リハ固ク、進厶姿ハ乱レ無シ。

正二鬼神軍神ノ類也』
──硫黄島にて回収された、大日本帝國軍士官のものと思われる手記より。筆者及び執筆時期不明、恐らく1946年中と推定
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/08/09(金) 02:59:49.11 ID:nF6IEOyj0
更新、お待ちしてました
頑張って下さい
307 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2024/08/19(月) 23:41:22.32 ID:G3J+e0ts0
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一口に先生と言っても、その内容は色々だ。

お医者さんはよく先生と呼ばれるし、師匠と書いて“せんせい”と読むケースも有る。塾の先生は大学生の内からアルバイトでなれるが、大半の教育機関の先生、所謂学校教諭は教員免許が無ければ教壇に立つことができない。

更にこの最も一般的な“先生”でも、小中高か、私立か公立か、担当学科・教科は何か等によってそのあり方が大きく変わる。

………あとは政治家も偶に先生って言われてるね。あの人種の中でそう呼ぶに足る存在が何人いるかは甚だ疑問だけど。

で、まぁ、僕が何故こんなにも“教師観”について滔々と語っているのかというと。

(メメ;^ω^)「う゛〜〜〜〜〜〜ん゛…………………」

幾ら“先生”だからって、バリッッッバリの文系教科担当に無線機の修理なんて任せるのはどうなんだろうかって、ふと思ったんだ。

いや全然?怒ってるとかじゃあないよ?ただあくまで、“適材適所”の検討が不十分と言わざるを得ない安易な役割分担に疑義を呈してるだけでさ。
308 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/19(月) 23:48:14.21 ID:G3J+e0ts0
九四式四号丙無線機。それが、今僕の眼の前に鎮座している悩みのタネの正式名称。

大日本帝國陸軍が戦闘車両間通信機として開発した物で、主に磯部さんたち所謂【アヒルさんチーム】が駆る89式中戦車や良くも悪くも世界に名を轟かす“チハたん”こと97式中戦車に装備されていた。

とどのつまり、“第二次世界大戦期に使用されていた戦車装備の一つ”である。恐らく、西住さん達が駆る戦車と同じで遥か昔にこの学園で盛んであったという戦車道チームの名残だろう。無線機だけが転がっていたというのはやや解せないが。

(メメ;^ω^)(或いは、“どん底”のどこかにも隠されているかも解らんおね)

何せ自然観察区の沼地の中に沈んでる車両まであったのだ。沼の底が範囲なら、“船の底”にぐらい戦車の一両や二両あっても驚かない。

(メメ^ω^)(…………。それにしても)

二十数年前。僕やシューが年端もいかぬクソガキで、西住さん達に至っては生まれてすらいなかった時分。この学園艦では戦車道が行われていた。
実際学園史を紐解いてみると、全国大会の出場履歴も複数存在し最高実績ではベスト4まで勝ち進んだ事もあったらしい。黒森峰や聖グロリアーナのような名門とまではいかないものの、確認できた範囲だけでも中堅校ぐらいは名乗っていい程度の戦績を誇る。

そんな戦車道が、“消えた”。緩やかに衰退したとかではなく、二十数年前………より具体的な年代で言えば、1995年頃を境に忽然とこの学園から消失したのだ。

大会に出た、どこまで勝ち進んだといった記録はちゃんと残っている。だがそうした、抹消に多大な労力がかかる“公の記録”以外ではこの学園艦の戦車道に関する事跡を窺い知ることが全くできない。まるで“そうしてほしくない”から、意図的に徹底して消したかのように。

無論、これはあくまで書類上の記録を追っていく中で受けた僕個人の印象論に過ぎない。身も蓋もない話をするなら、結局“当時”の詳細が解らない限りは推測の域を出ることはない。

元々衰退の兆候があった中で当然の帰結だったかもしれないし、不幸な行き違いの連続がたまたま一時的な“休止”に繋がった可能性もある。
記録の消滅についても、当時学園艦に勤めていた天然さんがうっかり関連書類を尽くシュレッダーにぶち込んでしまっただけ……みたいな間抜けなオチの可能性だって否定できない。

だけど。

(メメ^ω^)(……信じがたいほどお粗末な、極めて低い可能性の内容だとしても、“行政上のミス”で記録の乏しさは辛うじて説明できるお。

ただ、じゃあ本当に大洗女子学園の戦車道に関する記録の消失が事故によるもので、戦車道の廃止それ自体は極自然な流れであったとしたら…………)

何故“OG”が、今日この日に至るまでただの1人も現れないのだろうか。
309 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/19(月) 23:50:11.87 ID:G3J+e0ts0
例えば、廃止される直前は履修者が0に近い人数であったと仮定しよう。確かにその場合、戦車整備や備品調達の上で金食い虫である戦車道が“整理”の対象となるのは経営的な点から言えば妥当である。
公立校なのにという声は出るかもしれないが、公立校、即ち税金によって運営されているからこそ無駄遣いは許されない。記録が綺麗サッパリ消えてる点については、さっきの“行政的うっかりミス”説を採用すればなんとか納得できる。

だが無駄遣いは許されないからこそ、その状況が10年、20年と放置されている可能性は0に等しい。実際、少なくとも1992年には全国大会の三回戦まで進出している記録があったのを覚えている。

そこから戦車道が姿を消すまで、推定たった三年程。

或いは1992年は、廃止間近に魅せた最後の輝きだったのかもしれない。ただならば尚更、その当時の履修者にとって西住さん達の鮮烈な活躍は反応せずにいられない筈だ。
マイナー競技だから耳に届かなかった?あり得ない、それこそ西住さんをきっかけに“第三次戦車道ブーム”とも言うべきムーヴメントが起きつつあり、海外のニュースにまでその名を取り上げられているような有り様だぞ?OGのほぼ全員がたまたま何らかの不幸で五感を喪っていたとかでもない限り説明がつかない。

(メメ^ω^)(それに、“売れ残った”とされるW号を始めとした戦車の処理も不可解だお)

倉庫にスクラップとして転がっていた、駐車場に放置されていて誰も気づかなかった、はまだ理解できる。自然区画の池の中やら崖下、放置区画に等しい甲板下の隅っこ、ウサギ小屋の中、揚げ句の果てに沼の底。買い手がつかないからといって、そんなところにわざわざ投棄する労力を割く意味は皆無に近いだろう。

そもそもその“買い手”にしたって、動向に疑問点がある。

他の戦車にどんな物があったかは知らないが、W号といえば様々なマイナーチェンジが施されナチス・ドイツの装甲主戦力の一角を担った名車。カバさんチームのV突も生産量においてはW号をさえしのぎ、実際に長砲身型が黒森峰でも採用されている。
無論各校の車両特色や編成の問題もあるため一概には言えないにしても、大学や社会人チームも含めてありとあらゆる団体が全てたまたまこの二両を必要としない状況だった、というのは少々想像しづらいところだ。
310 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2024/08/19(月) 23:51:51.87 ID:G3J+e0ts0
探偵気取り。僕が推理小説の登場人物だったなら、一連の思考はきっと周囲からそんな風に失笑を買っている事だろう。

そして僕の場合は事実“気取り”に過ぎない。はやみねかおる作品よろしく実は頭脳明晰で……なんて都合の良い話もなく、ただただ平均的な教職員の1人。性能は平凡で色もごくごく普通の肌色であろう脳味噌をどれ程回転させたところで、恐らく妄想の域を出ることはない。

(メメ^ω^)(………原子炉【もんじゅ】のナトリウム漏洩発覚、イギリス・ベアリングス銀行破綻、コスモ信用組合経営破綻、三豊百貨店崩壊事故、フランスによる核実験)

……自覚はあれど、1人の大洗女子学園教諭として、どうしても引っ掛かる。気がつけば僕は、記憶する限りの“1995年の出来事”を羅列しそれらが大洗女子学園の戦車道に何らかの影響を与える可能性はないか検証し始めていた。

(メメ^ω^)(オリックス・ブルーウェーブが11年ぶりのリーグ優勝、野茂英雄MLB挑戦、ってこの辺りは間違いなく全然関係ねえお。あとは…………そう言えば、阪神・淡路大震災と例の宗教団体のクーデター未遂事件もこの年だっtワッヒャウ」

「うひゃっ!?」
「わっ」

突然背中を“サラリ”と異質な感触が撫で、思考の海に沈んでいた僕は素頓狂な叫び声と共に小さく飛び上がる。

慌てて振り向けば、少女2人が少し仰け反った姿勢で眼を丸くして此方を見ていた。

「ああいや、姐さんから“差し入れを持っていけ”って言われたんで乾パンと水を持ってきたんだけど………その、驚かせちまったってんならゴメンよ」

内片方………先の感触の出所と推察される、船舶科の制服を着た絹のように白いロングヘアーの少女が、申し訳無さそうに眦を下げながら此方にペットボトルと乾パンの缶詰を差し出してくる。

「それで先生、修理の進捗はどうだい?」

(メメ;;;^ω^)「………………………………………お゛〜゛〜゛ん゛」

僕はゆっくりと視線を九四式無線機に戻すと、低く唸り声を上げて返事に変える。いや決して、決して事実上修理を放棄していたことが後ろめたくて正面から向き合えないとかそういうワケではない。

「……芳しくないようね」

「まっ、そりゃあね」

もう片方──背が低い、洋風酒場のバーテンダーのような服装の子が察して落胆を露わにし、ロングヘアーの子は肩でも竦めたのか微かに衣擦れの音がした。

「精密機械でしかも骨董品だしね。先生だって一生懸命やってくれてるんだ、仕方ないサ」

……チクチク言葉って純粋な善意と労りから発せられるケースもあるんですね!知りたくなかったなぁ!!!
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/08/23(金) 11:24:59.49 ID:0TkT3efU0
更新おつです
各国首脳のスピーチでこれがガルパン世界なの思い出しました
バックグランドストーリー忘れがちなので助かります
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