【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」吹雪「その4です!」

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268 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:33:48.39 ID:1LUsbeXzo

隼鷹「いやあ、いくらなんでもさあ……提督の両親はいったいどんな悪いことしてきたの?」

提督「その因果が俺に回ってきてるってか? あのくそどものことだし、十分にありうるな」ムスッ

隼鷹「否定しないの!? とことんひどい星の元に生まれてんだねえ、提督ってば……」

提督「ま、いま生きてるし、人間と話す機会も激減してくれたおかげで、まあまあ人生楽しめてるけどな……うん?」

隼鷹「? 誰かいるねえ? ありゃあ、初春かな?」


 *


提督「よう」

初春「おお、提督か。隼鷹とはまた、珍しい取り合わせじゃな?」

提督「まあ、たまたまだ。お前こそこんなところで佇んでるなんて、珍しいな?」

初春「わらわとて、たまにはメランコリーな気分になるときもある」ハァ…

初春「酒飲みたちが頻繁に酒を勧めてくるわ、若葉は疲労を忘れてひねもす働こうとするわ、白露たちはしょっちゅう暴走するわ……」

初春「わらわが神経質になりすぎなのかもしれぬが、いささか目に余る行動が多くてのう……」

提督「ふーん……」チラッ

隼鷹「あ、あたしは別にお酒に誘ったりしてないよ!?」アセアセ
269 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:34:31.22 ID:1LUsbeXzo

初春「まあ、良い機会じゃ、提督よ。貴様に尋ねたいことがある」

提督「なんだ?」

初春「貴様は、この島にやってきた無礼者たちを、何故あの程度で済ませておるんじゃ?」

提督「面倒臭えから」

隼鷹「!?」

初春「……」

提督「なんだ、納得いかねえのか」

初春「納得いかぬな。貴様は手ぬるい! 少しは痛い目を見せて懲らしめようと思わぬのか!?」

初春「N中佐のときもそうじゃったが、仁提督のときも大した罰も与えず手打ちにしておったようじゃし」

初春「テレビ局の連中に至っては、鹿島たちの件で懲らしめはしたものの、わらわたちへの無礼と歓待には詫びも礼もないときておる」

初春「躾のなっていない小童どもの尻を叩いてやるのじゃ。彼奴らのためにもなろう!」

提督「それこそ面倒臭えってんだよ。懲らしめるとは言うけどよ、結局はお前が叩きのめして満足したいって話だろ?」

初春「む……」

隼鷹「……ちょっとごめんよー? 話が見えないんだけど……」

提督「あー、この鎮守府に、何回か余所の提督が来たりしてんだけど、そいつらが問題あるやつばっかりでな」
270 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:35:15.37 ID:1LUsbeXzo

初春「洗脳ツールを使ってわらわたちを意のままに操ろうとしたN中佐や、長門をけしかけわらわたちを?っ攫おうとした仁提督……」

初春「それから忘れておったが、己の見栄のために秘書艦を島に残して観艦式に向かったL大尉も、不始末を起こした一人であったのう?」

隼鷹「えええ……」

初春「そしてふた月ほど前には、駆逐艦と抜け駆けしようとした遠大佐と、鎮守府を娼館と勘違いしたテレビ局の馬鹿どもと……」ギリッ

初春「貴様はその場を諫めるだけで、処罰はみな上に任せておる! 何故、わらわたちで彼奴らをがつんと引っ叩くことができぬのじゃ!?」

隼鷹「待って待って、なんでこの島にそんな問題ある人ばかり来てんの……!?」

提督「この島自体にろくでもねえ噂をたてられてるから、そもそもまともな人間が寄り付かない、ってだけじゃねえかな」

提督「それをわかってない非常識な奴が、勝手に羽目を外して勝手に恥を晒してく、ってケースが殆どだったよな」

隼鷹「……あああ……なんか、勝手に羽目を〜ってくだり、自分のことを言われてるみたいで恥ずかしいねえ……」

提督「思い返して恥だと思えるんならいいさ。そこまで気にすんな」セナカポンポン

初春「うむ、かように貴様が艦娘に寛容であること、これまでの境遇も踏まえて、わらわたちは良き理解者を得たと思っておる」

初春「しかしじゃ! 貴様はこれまで人間に酷い目に遭わされてきたにも関わらず、あやつらにも寛容と言ってよい扱いをしておる!」ビシッ!

提督「そうか?」

初春「そうであろう! その証に、貴様、これまで来た人間に対して手を挙げたことはないじゃろう?」

提督「あー……いや、テレビ局の連中のときは、黒潮や白露、摩耶たちに好きに痛めつけろと指示したぞ?」

初春「あれは艦娘への凌辱に対するお仕置きじゃろう。そうではなく、あ奴らのこの鎮守府に対する狼藉そのものに対してじゃ!」
271 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:36:00.98 ID:1LUsbeXzo

初春「まともに詫びを入れてきたのは、頭を丸めてきたL提督くらいなものではないか!」

提督「……俺、艦娘にでこぴんやらアイアンクローやらかましてきたけど、それはいいのか?」

初春「……それは、艦娘の救済のための必要悪じゃろう。それはともかく」プイス

提督「ごまかしたか?」

隼鷹「ごまかしたねえ?」

初春「ともかくと言うたであろう!」ムキー!

提督「人間に対して甘いっつってもなあ、必要以上に敵視することはねえだろ」

提督「少なくとも俺と同じ提督稼業で生きてる人間だ。嫌われてもいいが恨まれるのは後々面倒臭え」

初春「……」

提督「仁提督に関して言えば黒潮の姉妹艦の面倒を見てもらってるし、N中佐にしても事情を聞いた卯月たちが厳しくするなっつったしな」

提督「留とかいう奴も、帰り際にはしおらしくなってたんだから、必要以上にぶっ叩かなくていいと判断したんだ」

提督「叩きすぎると恨みや復讐心を持たれる。次に会ったときに睨み利かせてくるような敵を作っても面倒臭えだけだ」

提督「恨みが直接俺に返ってくるならいいが、全然関係ねえお前らや、それこそ無関係の艦娘に飛び火するのは嫌すぎる」

初春「……それが貴様の処世術ということか」

提督「攻撃的な奴ほど敵を作りやすいもんだ。そうだろ?」
272 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:37:00.76 ID:1LUsbeXzo

隼鷹「大人だねえ……」

提督「そうか? 俺自身は衝突を避けたい臆病者のやり方だと思ってるんだが」

隼鷹「衝突を避けようってあたりがもう大人じゃんか」

初春「普段の態度のわりに、そういうところはしっかりしておるのう……貴様、本当に人に嫌いなのか?」

提督「いくら俺が人を嫌いでも、俺が嫌だと思ってる奴等と同じになりたかねえんだよ。そういう意味での人でなしにはなりたかねえ」

提督「言うだろ、仰ぎて天に恥じず、って。これでも自分がやったことや選んだことを後悔したくねえんだ」

初春「むう……」

提督「嫌われるにも嫌われ方ってのがある。愛想が悪い程度なら無視されて終わりだが、手癖が悪いとなれば警戒されて見られ続けるよな?」

提督「ヒーロー気取りで悪者退治するのも同じだ。手柄を立てたら次も期待されるし、期待する奴らは無責任にこっちに責任を丸投げしやがる」

提督「俺はそういうのが嫌だから、そういうのは全部余所に押し付けて、無名無風であり続けるほうがいいと思ってる」

隼鷹「……名誉欲とは無縁の人だね、こりゃあ」

提督「あ、でも、お前らの戦果は別だからな? そっちは正当に評価してもらえるように根回ししてるから安心してくれよ」

初春「……いや、もう良い。わらわが何を言おうと、貴様は貴様で変わらんのだろうな」フゥ…

隼鷹「初春?」
273 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:37:45.64 ID:1LUsbeXzo

初春「わらわは、朧を沈めたN中佐が、這いつくばって朧に詫びを入れるところを見たかった」

初春「開き直り自分を正当化し、初雪を見捨てて大和を意のままにしようとしたあの男が、額を床に擦り付け、許しを請うさまを見たかった」

初春「それがまさかあのような、ちゃちな輪ゴム一発で済まされるとは夢にも思わなんだ」ハァ…

提督「不満だったか?」

初春「ああ、不満じゃったな。不服であった。まったくもって、腑に落ちぬ。なれど、それはわらわが受けた仕打ちではない」

初春「朧が納得したというのなら、わらわも納得せざるを得ぬ……」

初春「かつてわらわも、その鎮守府の提督からただの一声もかけられず海に放たれ……そして何の得心も得ぬまま、砲火を浴びて海へ沈んだ」

初春「水面の下の、深く暗い青色を見た時の虚無感よ……忘れたくとも未だ時折夢に見る」

初春「のちにわらわが沈んだことにされ、それが捨て艦などという忌むべき戦い方だと知ったときの失望感もまた、到底言葉にできぬものじゃった」

隼鷹「捨て艦、って……!」

初春「なればせめて、同じ策を弄した輩が無様に泣き叫ぶ様でも見れば気も晴れようかと思っておったが……それも叶わず終いであった」

提督「……」

初春「のう、提督よ……?」
274 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:38:30.55 ID:1LUsbeXzo

初春「この、わらわの無念は、どうやって晴らせば良いのじゃ?」グリッ

初春「わらわの恨みは、いずこへ向ければ良いのじゃ……!?」

初春「わらわのこの沈んだ心は、いつ海の底から掬われてくれるのじゃ……?」ハイライトオフ

隼鷹「……っ」ビクッ

提督「ったく、この馬鹿が」

初春「なんじゃと……?」ギロリ

隼鷹「ちょっ!? なに言ってんの!?」

提督「馬鹿だろうが。初春、お前、俺の何を見てきた?」

提督「俺はこれまで、島に来た連中にさんざん言ってきたぞ。生きたいか死にたいか。何が望みか、ってな」

提督「俺に心を読む力なんてねえ。言われたことしか聞けねえとも言ってきた。お前も知らねえとは言わさねえぞ」

初春「……」

提督「隼鷹」チラッ

隼鷹「おっ!?」ビクッ

提督「悪いが、この場は俺と初春だけにしてもらえるか?」

隼鷹「う、うん、わかった! あたしは引き上げるよ!」

提督「おう」テヲフリ

 タタタッ…
275 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:39:15.61 ID:1LUsbeXzo

提督「さて……」

初春「……」

提督「……で、初春。お前はその恨み言、どうしたい?」ズイッ

初春「……」ジトリ…

提督「つうかお前、なんでそういうのをため込んでんだよ。とっとと吐き出しゃ良かったじゃねえか」

初春「……吐けるものか。わらわの、はらわたの奥底に沈んだ、穢らわしい呪詛のごとき言の葉を、吐き散らす無様な姿なぞ……」

初春「そのような醜い姿なぞ、誰にも見せられたものではない……」

提督「お前がぶっ壊れるより百倍マシだろうが。つうか、隼鷹がいたのにそんな目ができる時点で、もう壊れかけてんじゃねえのかよ」

提督「それともなにか? お前はこのまま黒いの抱えて死にたいってのか?」

初春「……」

提督「それもできるわけねえよな。暁が助けてくれたことを、お前は感謝していたはずだ」

提督「せっかく救ってもらった命を、投げ出すわけにはいかないと言っていたのも、その時だよな?」

初春「……」

初春「……わらわは……」

初春「咎人が、目の前で罰せられることを望んでおった」
276 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:40:00.88 ID:1LUsbeXzo

初春「大方の、読み物の大筋はこうじゃ。事件が起き、悪事が暴かれ、罪を犯した者が罰せられる……悪の栄えたためしなし、とな」

初春「わらわは、そのような結末が好きじゃ。そういう結末を望んでおる。でなくば、気持ちよくなかろう……? 面白くなかろう……!」

初春「私利私欲に走り、他者を陥れた者が、己の所業を悔いることなく物語が終わったのでは、貶められた者が救われぬ……!」

初春「そのような話の、何が面白いのじゃ……! 作り話であっても、悲嘆に暮れてそのまま終わることの何か良いというのじゃ……!」

提督「……」

初春「気に入らぬものを叩いて何が悪い……? わらわたちに仇なすものを、徹底的に打ちのめすことの何が悪い……!?」ギリギリッ…

初春「先に力を行使したのは彼奴らぞ……! 先にわらわたちのすべてを踏みにじろうとしたのは、彼奴らぞ!」クワッ!

初春「何故、わらわたちが彼奴らを討つのは許されぬ……? 何故じゃ……!?」

初春「わらわを沈めたのは彼奴らぞ!! 彼奴らも同じように、沈め返されよと言うのじゃ!! 地獄を見ろと言うのじゃ!!」

初春「なぜ、やられっぱなしを許容せねばならぬ!! わらわが彼奴らの無様な姿を見るのは悪と言うのか!?」

初春「彼奴らは敵ぞ! 叩き潰せ! 撃ち滅ぼせ!! わらわたちが、深海棲艦にしたように!!」

提督「……」

初春「ふ、ふふ……のう、提督よ?」

初春「どうじゃ。いまのわらわの顔は、醜かろう……?」ニタァ

提督「……」
277 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:40:45.53 ID:1LUsbeXzo

初春「提督の言うとおりじゃ。わらわの望みは、望まぬ敵を作る望み。憎悪の連鎖を作り出す望みじゃ」

初春「吐いたところで、みなを慟哭させるだけじゃろう……わらわの一方的な恨み辛みじゃ」

提督「だから、言わなかったってか」

初春「そうじゃ……それにわらわには、別の望みもある……」

提督「……どんな望みだ?」

初春「それは、わらわたちの……朧や、暁や、みなの笑う顔じゃ。貶められた者への、心の救いじゃ……!」

初春「ここで、朧や、他の者たちの憂いが払われ、平穏を得られたことは、わらわにとっても喜びである……」ニコ…

初春「じゃから、先の言葉は、どうあっても言えぬのじゃ。祝福された者たちに、わらわの復讐の道連れなど決してさせられぬ」

提督「……」

初春「しかしのう……それも所詮は建前に過ぎぬと知った。わらわもいつしか、朧たちのようにと……」

初春「わらわ自身の、恨みを……無念を晴らしたいと、願ってしまうようになったんじゃ……!」

初春「今更になって欲が出てきたのじゃ……! 嫉妬したのじゃ……!! 憑き物が失せ、心の底から笑えるようになった、仲間に!!」

初春「我ながら、なんとさもしい……なんと卑しいことか……!! 我ながら情けない……!」

初春「ふたつもみっつも、かような欲を抱えて……欲張りじゃ。業突張りじゃ……わらわが忌み嫌う者どもと同じじゃ……!!」
278 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:41:30.63 ID:1LUsbeXzo

初春「わらわが……こんな……狭く小さい器だったとは……思いとうなかった……!!」ホロッ…

提督「……」

初春「……」

提督「……別に小さくもねえだろ」ナデ

初春「……!」

提督「みんなと同じになりたかった、って思うのは、あっていい望みだ」

初春「ぐ……っ!」

提督「妖精が見えるってだけで仲間外れにされる。それがなぜなのか、ガキの俺にはわからなかった」

提督「大人になれば少しは変わるかと思っていたが、社会に出てからも何も変わらなかった」

提督「それが、ここへきて、艦娘たちと一緒になって、妖精と話すことをからかわれることもなくなった。驚かれることはあったがな」

提督「俺の感覚が普通になれたんだ、と……お前たちと同じになれたって思えたのが、俺も、心地いい、と思ったさ」

初春「……っ」

提督「だから、そういうの、少しわかる気がするぜ。一緒に、共有できる喜びが欲しいって、そう思ったんじゃねえのか?」

提督「お前も、自分のことを誰かに一緒に喜んで欲しかったんだろ?」

初春「ぐ、ううう……!」
279 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:42:15.42 ID:1LUsbeXzo

提督「なら、俺にもそのお前の悩みを共有させろよ。答えは出せなくても、向き合うことくらいはできる」

提督「必要なら……そいつがお前が忌み嫌うほどの外道なら、手を汚すのも、悪くねえ……!」

初春「ぐ、あ、あああああ……!! ば、馬鹿者……馬鹿者がぁ……!!」ポロポロ…

初春「なぜ……なんで貴様は、そこまで言えるんじゃあ……!」

提督「俺も、お前たちと同じだからな。助けてやりたいってだけだ」

初春「きさ、ま、はぁぁああ……あああぁぁ……!!」ボロボロボロ

提督「……」ナデ…

提督「……叩き潰す、か」

提督「確かに、できてたかもしれねえな……」

初春「うっ、うっ……ぐすっ……」

提督(俺も、いつかは……腹を括んなきゃな)

提督(そのときは……こいつらを、ちゃんと守ってやらねえとな……)

280 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:43:00.97 ID:1LUsbeXzo

 * 鎮守府埠頭 *

 彩雲<バウーン

由良「あれは……新型の偵察機ね」

隼鷹「やほ〜」フリフリ

電「隼鷹さん!」

由良「さっきの偵察機は隼鷹さんのですか?」

隼鷹「うん、彩雲だよ〜」

電「あれが彩雲なのですか!? すっごく速かったのです!」

隼鷹「でしょでしょ〜? 我に追いつくものなしって言うくらいだからねえ!」

隼鷹「ところでさ、二人ともどこ行くの? 砂浜?」

由良「はい、また見回りに……」

隼鷹「それなんだけどさあ、ちょっといま取り込み中なんだよね。悪いけど、後にしてくんない?」

由良「え?」

電「入っちゃダメなのですか?」
281 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:43:45.88 ID:1LUsbeXzo

隼鷹「平たく言えばそうだねえ。ちょっと理由は言いづらいけど……あたしも引き上げてきたとこだしさ。ね?」

由良「……」カオヲ

電「……」ミアワセ

由良「もしかして、それで彩雲を飛ばしてたんですか? 人が入ってこないように」

隼鷹「おやおや、鋭いねえ」

電「そこまで仰るのなら、従うのです」コク

隼鷹「そう? 助かるよー」

隼鷹「しかし……なんだねえ? あたしも結構ひどい目に遭ったなあって思ってたんだけど、それ以上の子が多いんだねえ……」

電「……なのです」

隼鷹「捨て艦だって数人いるって聞いたしさ。ひどいもんだよ……」

由良「捨て艦……? ってことは」

電「朧ちゃんか吹雪ちゃんか初春ちゃんなのです」

隼鷹「……」

電「朧ちゃんと吹雪ちゃんは、踏ん切りがついたって言ってたから……」

由良「初春がなにかしてるってこと?」

隼鷹「……いやあもう、この推察力っていうの? なんなの? せっかく言葉を濁してたのに……」
282 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:44:30.67 ID:1LUsbeXzo

由良「由良たちは、鎮守府ができて間もないころから在籍してたから、ねっ」

電「そこそこみんなの事情を知ってるのです」

隼鷹「……まー、理解が早いのは助かるけどさ……?」

電「ちなみに電たちも大破進軍で轟沈させられたのです」

由良「ねっ」

隼鷹「……」

電「気にしちゃ駄目なのです。いまこうやって生きてるのですから、割り切って前を向いて歩くのです!」フンス!

由良「そうそう、ねっ?」ニコー

隼鷹「いやあ、当事者がそう言うならいいけどさあ……ここまで察しがいいのもどうなのかねえ……」

電「それにしても、初春ちゃんはそういう悩みを誰かに言うタイプには見えなかったのです……」

由良「そうね。いつも余裕ぶってみせてる感じなのに」

隼鷹「そりゃー、理想があるからじゃない?」

電「理想……ですか?」

隼鷹「そ、理想」ウンウン
283 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:45:16.02 ID:1LUsbeXzo

隼鷹「ほら、誰かに頼りにされたいとか、誰かの隣にいるのにふさわしくなりたい、とかさ?」

隼鷹「それとか、弱いところを見せたくない、とかさ。特にあたしらみたいに大人になると、弱ってるところなんか他人に見せたくないじゃん」

由良「ああ……そうですね」

隼鷹「こんななりして人前でぼろぼろ泣くわけにもいかないし、ねえ?」

電「……悲しい時は悲しいで、やせ我慢しないほうがいいと思うのですが」

隼鷹「そうもいかないよ。それこそ、恥も外聞もない、みたいな言われ方されちゃうよ、ここに来た時のあたしみたいにさ」

電「そうなのですか……?」

由良「そうね……いい大人がわんわん泣いてたら、みんなびっくりするわ」

隼鷹「理想ってなぁ、そういうもんさ。人に見せたくない恰好、誰にだってあるもんだよ」

隼鷹「……そういうあたしは、その理想をR提督に押し付けちゃったせいで、ここにいるようなもんなんだけどさぁ」

由良「……」

電「おとなになる、って、難しいのです……」

隼鷹「……ほーんと。そうだねえ……」
284 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:46:30.84 ID:1LUsbeXzo

 * 砂浜 *

提督「……」

初春「……はぁ。わらわとしたことが……なんと情けない」

提督「あー、そうか。お前、割と見栄っ張りっつうか、他人にゃあ余裕ぶっていたいタイプだもんなあ」

初春「む……」セキメン

提督「とにかく、今の話は誰にも言わねえよ。安心しろ」

初春「まったく、不覚じゃの……」プイ

提督「また吐き出したくなったら早めに呼べよ。黙って聞けと言えばその通りにすっからよ、俺を掃きだめと思って捨てに来い」

初春「ふ、ふふ……まったく。人に嫌われる覚悟のできた人間は、言うことが違うのう?」

提督「そうでもねえぞ。お前らに嫌な顔されるの、最近はちょっと嫌だからな……」

初春「む!? そうなのか!?」

提督「誰とは言わねえが、飯のときに俺が食ってるデザートをうらやましそうに見てる奴がいるんだよ」

提督「俺が食い終わると残念そうな顔をして、ちょっと睨まれるんだ。それがちょっと心苦しいっつうか……」

初春「それは意地汚いだけで、普通に怒って良いと思うぞ……?」

提督「そうか?」

初春「……ちなみに、それは潮か?」

提督「いやいや、潮もそこまで欲張りじゃねえよ。余りがなくて、しょんぼりしてるのはたまに見るけどな」

初春「むう、違うのか……だとすれば、あやつかのう」

提督(……あとで大和には厳重注意かねぇ……)
285 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:47:17.75 ID:1LUsbeXzo

提督「ま、それはそれとして、だ。お前の心残りもどうにかしてやるから、あとでお前がいた鎮守府がどんなところか教えろよ」

初春「!」

提督「潰したいんなら、それなりに前準備が欲しいからな。どうやったらそいつの顔を潰せるか、一緒に企んでやろうじゃねえか」

初春「……ふ、ふふ、良い良い。わらわのことは後で良い」

初春「ああは言うたが、これまで何の音沙汰もないのじゃ。貴様の言う通り、下手に関わらぬのが最上かも知れぬでの」

提督「いいのか?」

初春「うむ、今時点で彼奴らが我らを敵視しておらんのじゃ。わざわざこちらからちょっかいを出す必要はあるまい」

初春「それに、中佐に比べれば、取るに足らぬ小者じゃ。先に始末すべきはそちらではないのか?」

提督「……!」

初春「心残りで、目障りなのじゃろう? 貴様にとっても、みなにとっても」

提督「そうだな……その通りだ。あの野郎に限ってだけは、お前にとっても胸がすくような結末を準備してやるぜ」

初春「ふふ、そうじゃ。それで良い。あの外道のなすところは、わらわも外でよぉく聞き及んでおる」

初春「わらわこそ汚れ仕事も引き受けよう、いくらでも声をかけるがよい」フフッ

提督「……そうか。頼もしいな」ニッ

初春「当然じゃ。わらわの望みはみなの笑う姿じゃ。当然、貴様も含んでおる」

提督「!」

初春「今の笑み、我らが仇敵を討ち果たしたあとも、わらわたちに見せるがよいぞ?」

提督「へっ……やれやれ」アタマガリガリ
286 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:49:46.88 ID:1LUsbeXzo
ということで、今回はここまで。

「墓場島鎮守府?」シリーズとしてのお話は、あと数回分の投下で終わります。
終わり方としては中途半端感がありますが、
「鎮守府が罠だらけ?」シリーズが続きとしてあることを
前提に書いておりますので、ご容赦願えればと思います。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/30(日) 06:21:32.29 ID:3+RpokRb0
まあ展開ワンパターン気味だしこのままずるずるしてあっち疎かにしてもな〜
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/30(日) 21:28:06.81 ID:7PH3t7Ju0
1乙&下げ
289 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:53:09.30 ID:pvq18zcIo
続きです。
290 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:54:16.37 ID:pvq18zcIo

 * 数か月後 *

 * 墓場島鎮守府 応接室 *

 扉<コンコン ガチャ

提督「悪ぃ、遅くなった」

艦娘たち「「!」」 ガタガタッ

提督「わざわざ立たなくていい。座ってていいぞ」

大淀「引継ぎに随分時間がかかりましたね?」

提督「ちょっと余計な話をしてきたんでな。あの野郎、俺なら何を愚痴ってもいいとか思ってんじゃねえだろうな」

大淀「ああ、あの大佐の元部下だった方ですか」

提督「あれが大佐に昇進してから半月か? 未だに俺にぶちぶち言いやがる。別にそれで手前が大佐になれたわけじゃねえっつうのによ」

提督「中将に目をかけてもらって、連絡員として引き立ててもらっただけでも良かったと思えってんだ」ハァ…

提督「まあいい、愚痴はこのくらいにしとくか。お前らが余所から転籍になった艦娘だな?」

青葉「はいっ! 青葉です! よろしくお願いします!」

伊勢「あたしは超弩級戦艦、伊勢型の一番艦、伊勢です!」

日向「……同じく、日向だ」
291 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:55:00.85 ID:pvq18zcIo

提督「よし、じゃあお前らに最初に質問だ。お前ら、死にたいか生きたいか、どっちだ?」

青葉「はい!?」

伊勢「いきなり何言い出すの!?」

日向「……」

大淀「……提督。毎度のことですが、その質問の出てくるタイミング、なんとかなりませんか」アタマオサエ

提督「いつ訊いたって同じだろ。こういうのは早いほうがいい」

伊勢「え、ええーっと、少なくともあたしは死にたいとか答える気はないんだけど。死にたいって答える人、いるの?」

提督「ん−……今はいねえかな? 途中で言い出す奴もいたが、そのあとに撤回はしてるな」

青葉「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? 死にたいなんて口にするからには、それなりの事情があるんじゃないですか!?」

青葉「そういう相手からはちゃあんと事情を聴いて、立ち直らせるところからケアしてあげないと……」

提督「なんで俺がそこまでお膳立てしてやんなきゃなんねえんだよ。面倒臭え」

青葉「はいっ!?」

伊勢「めんど……って、ちょっと!?」

日向「……」

大淀「……まったくもう、何度目なんですかねこのやり取りは」アタマオサエ
292 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:55:46.04 ID:pvq18zcIo

日向「いつもこんな調子なのか」

提督「まあな。お前らみたいな自称善人には奇異に映るかもしれねえけど、俺は俺なりの基準でものを言ってるつもりだぞ」

日向「では、その助けないと言った根拠は何だ」

提督「そいつが助けを求めてもいないのに、俺が勝手に張り切って助けてやることが、果たして本当に、正しくて、いいことなのか?」

日向「……介錯するのも武士の情け、と、言いたいのか」

提督「まあ、そうだな、それが近いか。死にたきゃ一人で死ね、誰かを巻き込むな、って言いたいところだが」

日向「……」

提督「とりあえず、お前らもまだ死ぬつもりはないんだな?」

日向「ああ。死ぬ理由はない」

青葉「あ、青葉だってありませんよ!?」

提督「んじゃあもうひとつ確認だ。お前ら、この島がなんて呼ばれてるかは知ってるか?」

青葉「はいっ! 青葉、知っています! 墓場島と呼ばれているんですよね!?」

伊勢「え、なにそれ!?」

日向「……」
293 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:56:31.59 ID:pvq18zcIo

提督「ほーぉ、よく知ってんな。じゃあ、なんでそう呼ばれるようになったかは知ってるか?」

青葉「えーと……いわゆる姥捨て山ですかね〜。処分するのに面倒な艦娘が送られる島、と聞いています」

提督「そっちか……じゃあお前も自分が面倒になった理由ってのをわかってるってことか?」

青葉「そうですねえ。青葉はおそらく、写真を撮りすぎたんでしょうね〜」

提督「なんだそりゃ?」

青葉「えっとですねえ、前にいた鎮守府の司令官が大の写真嫌いだったんですよ」

青葉「それで鬱陶しがられてこちらに送られた、と青葉は認識しています!」

提督「そんな程度でかよ……ってことは、お前、カメラ持参でこっちに来たのか?」

青葉「いえ、カメラは没収されました……」タハハ

提督「ふーん。で、伊勢と日向も何か問題起こしたのか?」

伊勢「問題は別に起こしてないかな。干されてたってのはあるけど」

提督「? そりゃ珍しいな、それだけでこの島に送られるなんて初めてだぞ。ほかに理由はないのか」

伊勢「うーん、思い当たるところはない、かなあ」

提督「よくわかんねえな。日向はどうなんだ」

日向「……私は、煙たがられた、と言えばいいのか。青葉と似たような感じだが、ごくごくつまらない理由だ」ハァ…
294 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:57:15.95 ID:pvq18zcIo

日向「良い機会だ、提督、あなたにも訊こう。艦娘は、なんのために存在している?」

提督「……なんだそりゃ」

日向「真面目に答えろ。艦娘とは何者だ? 深海棲艦とは、いったい何だ?」

提督「ああ? そんなもん俺が知るかよ」

日向「……」

伊勢「ちょ……」

大淀「……」アタマオサエ

青葉「あ、あの、ちょっとテキトーすぎでは……」

提督「どっちの意味の適当だ? ふざけたつもりはねえぞ」

提督「俺はこれまでそんなことは考えたことはねえ。それをごくごく正直に答えただけだ。不服か?」

大淀「言い方に問題がありすぎます!」

日向「……」

伊勢「えっと……提督?」

提督「なんだ?」
295 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:58:00.67 ID:pvq18zcIo

伊勢「日向が前の鎮守府から追い出されたのは、こういう質問を繰り返していたから、らしいんだ」

提督「それこそなんだそりゃ?」

伊勢「あたしが聞いた話だと、出撃前にそこの提督を質問攻めにするわ、出撃してからも急いでるのにゆっくり進軍するわ……」

伊勢「一応、要所要所で敵旗艦は沈めてたらしいけど、結局足並みを乱したことに変わりないし、帰投後もまた提督を質問攻めするわ……」

伊勢「そこまでやったら、まあ、そうなるよね、っていう……ね?」

提督「なるほど。そりゃウザがられるな」

伊勢「それで、同型艦の伊勢がいれば少しおとなしくなるんじゃないか、って話で、あたしが呼ばれて、一緒にこの島に送られたわけなの」

提督「はぁ? 伊勢と日向は別の鎮守府だってのか!? ……伊勢は完っ全にとばっちりじゃねえか」

伊勢「そう思うよね?」

提督「なに考えてやがんだよ、アホじゃねえのか、あっちの連中は……」

青葉「あのう、准尉さん? この島には、そういう、何かやらかした艦娘ばかりが集められている、という認識でいいんですね?」

提督「いいや? 俺の認識じゃあそっちのが少数派だ」

青葉「違うんですか?」

提督「お前ら、島の丘の上に置いてあるもの、見てきたか?」

伊勢「え、ええ、この島に来る途中で。艤装みたいなのがたくさん置いてあったのは見たけど……」
296 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:58:46.66 ID:pvq18zcIo

提督「この辺の潮流が特殊なせいで、この島の砂浜には轟沈した艦娘がよく流れ着いてくるんだ」

提督「水葬もできねえし燃やすような設備もねえ。だから、俺があの丘に土葬した」

日向「だから、墓場島……か」

提督「そういうこった」

日向「なぜそんなことをした?」

提督「あいつらは人間の言う平和のために戦って死んだんだ、人間の俺が弔ってやらねえと可哀想だし不義理ってもんだろう」

青葉「それじゃ、青葉が聞いてきた話は嘘だったんですか……」

提督「ある意味じゃ間違っちゃいねえよ。墓場島の名前だけが伝言ゲームで伝わった結果出来上がった間違った噂だが」

提督「結果的にそういう噂が信じられて蔓延ったせいで、実際にそういう扱いをされて送られてきた艦娘もいる」ハァ…

伊勢「それで私たちも?」

提督「まあ、お前らはそうなのかもしれないが……原因はだいたいそこにいた人間どもなんだがな」

提督「この島にはそれ以外に、かつて所属していた鎮守府から逃げてきた連中もいる」

提督「そこの提督の横暴に耐えられなかった奴や、反抗してそいつに暴力振るった奴とか……まあ、どこもかしこもむかつく話ばかりだ」

伊勢「うへえ……」
297 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:59:31.03 ID:pvq18zcIo

提督「ところで青葉。お前、人のことを詮索するのが好きらしいな?」

青葉「い、いえいえいえ! そんなことは!! ちょぉっと、人に取材をするのが好きなだけでして……」

提督「どっちでもいいが、一応、釘を刺しとくぞ」

提督「この鎮守府にいる艦娘はほぼ全員、面白くねえ過去を背負ってる」

提督「下手に詮索して他人のトラウマ呼び起こすような真似をしたら……」

青葉「……したら……?」

提督「そうだな。少なくとも、死んだほうがましだったって思えるくらいのことはしてやるよ。覚悟しとけ」

青葉「」

伊勢「それ、一番最悪なやつじゃない……?」

提督「生き地獄を味わってきた奴らもいるんだ、それを思い出させたいんなら手前にも同じ地獄を見せてやろう、ってだけじゃねえか」

日向「……」

提督「そういうわけだから、くれぐれも仲間割れはしないでくれ。俺も楽なほうがいい」

提督「あとは飯食ってるときに騒ぐなとか、ごくごく常識的な範疇の生活ルールがあるくらいで、余所の鎮守府より甘々のゆるゆるだ」

提督「出撃に関してもある程度は自由だから、出撃したいときは申請してくれ」

伊勢「出撃も自由なの?」
298 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:00:17.87 ID:pvq18zcIo

大淀「出撃に関しては、艦娘が独自に日程を組んで出撃しています。提督からの指示は特にありません」

提督「ぶっちゃけ丸投げ状態だ。なにかあっても責任は俺に押し付けていいから、自殺以外は好きなようにやってくれ」

大淀「もちろん、問題にならないように調整していますので、ご安心ください」

伊勢「えええ……」

提督「まあ……大まかな説明はこんなとこか?」

大淀「提督、一番肝心なことを伝え忘れていますよ? お話しして下さると思って言いませんでしたが」

提督「ん? なんか抜けてたか?」

大淀「この島には、轟沈して流れ着いた艦娘を埋葬しているとは言いましたが」

大淀「その中で、息のある艦娘をそのままこの鎮守府で登用していることまでは伝えていません」

青葉「いっ!?」

日向「!!」

伊勢「え? な、なに? 二人ともなんで驚いてるの?」

提督「……俺、言ってなかったか」

大淀「はい」

提督「……この二人の驚きようを見ると、確かに伝え忘れてたみたいだな。悪い、大淀、助かった」

大淀「はい」ニコ
299 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:01:00.89 ID:pvq18zcIo

提督「さてと、俺の落ち度で言い忘れていたが……」

提督「大淀が言ったとおり、この島には轟沈を経験した艦娘が、いまはだいたい4割、ってとこか? そのくらい在籍している」

提督「その理由はそれぞれだが、その轟沈経験艦をそのまま運用できる鎮守府は、おそらくここしかねえ」

提督「伊勢だけ理由を知らないみたいだが、青葉と日向は知ってるのか?」

青葉「は、はい、確か、轟沈した艦娘は、深海棲艦になる、って……実際にあったかどうかは眉唾だそうですが」

提督「ああ、それが海軍内の通説だ。実際に、昔そういうことがあったらしいが、何がきっかけで深海棲艦になるのかまではわかってねえ」

提督「俺もその話は知らなかったんだが、ある日ここに轟沈して息のある艦娘が流れ着いてきて、俺はそいつに助けてと言われた」

提督「それで俺が中将に掛け合って、離島なんだし、ここでなら運用してもいいだろう、と特例にしてもらった」

青葉「よ、よく許可してもらいましたね……?」

提督「まあな。これで深海棲艦になるきっかけが判明すればそれはそれで良し。ならないのなら、それもそれで良し」

提督「ただ、いつなんどきに艦娘が深海棲艦になるかはわからない、気の長い検証だ。だから、この島には俺しか人間がいない」

伊勢「……提督は寂しくはないの?」

提督「いいや? むしろ快適極まりねえ。くそ面倒臭え人間を相手することがなくて、ずっとこのままでいいくらいだ」
300 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:01:45.75 ID:pvq18zcIo

青葉「あ、あの〜、確か、准尉さんは国会議員の息子さんだと聞いているのですが……なぜこの島に」

提督「ああ?」ギロリ

青葉「」

大淀「青葉さんはピンポイントに提督の嫌なところをつつきますね……」アタマカカエ

日向「君の生い立ちはともかく。君が、どうしてここで提督として在籍しているのかについては、私も知りたいな」

提督「……経緯だけ掻い摘んで言えば、俺は妖精と話ができるから海軍にスカウトされた」

提督「ところが、中将の息子の大佐が、妖精から何を聞かれるかわからないから、と俺を煙たがった」

提督「民間から登用した人間を不審死させるわけにはいかねえ。だから、あいつは俺を秘書艦もつけずにこの島へ放り込んだ」

提督「ここから出てくるな、そのまま野垂れ死ね、って感じでな」

日向「……」

提督「それから、親からは勘当されてる。妖精が見えるなんてとち狂ったことをほざく人間は、我が家には要らねえとよ」

伊勢「だから青葉が睨まれちゃったわけかあ……」

青葉「……理不尽です」

提督「つうかお前、俺の親の話はどこから掴んできたんだよ」

青葉「え? あ、いやあ、まあ、いろいろと。あははは……」
301 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:02:31.12 ID:pvq18zcIo

提督「つくづく良かったなあ、詮索した相手が俺で。これが艦娘相手で下手打ってたら、お前どうなってたろうな?」ニタァ

青葉「」

提督「ま、俺も愉快な過去は持っちゃいないんでな。聞きたきゃ答えるが、俺の機嫌がどうなるかは保障しねえぞ」フン

青葉「それ、遠回しに『聞くな』と言ってるようなものじゃないですか……」

提督「俺が不機嫌になるだけだ。悪いとは言ってねえ」

青葉「良くないようにしか聞こえませんよ!?」

伊勢「……なんか、すごいところに来ちゃったね」

日向「ふむ……」

大淀「ええ、皆さんそう仰います」

提督「誰か来るたびにこの話をしてるからな。いい加減話すのも飽きてきたぜ」ハァ

日向「だったら、退屈しない話をしようじゃないか」ニヤ

日向「提督、君は何のために生きている?」

提督「……」

日向「実の親を忌み嫌い、上官にも恵まれず、こんな場所で艦娘を従えて生きている、君の生きる目的はなんだ?」

提督「……艦娘が、人間の手を借りなくても、生きていける場所を作る。そいつが俺の望みだ」

日向「ほう……!」
302 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:03:31.36 ID:pvq18zcIo

提督「日向、そう言うお前の望みはなんだ?」

日向「私たち艦娘は、深海棲艦とは、いったい何者なのか。何のために生きているのか。それが知りたい」

提督「ふーん……そりゃまた面倒臭え望みだな」

大淀「提督、そういう真面目な話に面倒とか言うのはやめてください……」アタマカカエ

提督「面倒臭えもんは面倒臭えと言うしかねえだろが。俺に嘘をつけってか? それとも日向のご機嫌を取れってか?」

大淀「もう少し言い方を考えてくださいと言っているんです」ジトッ

伊勢「大淀、苦労してるみたいだね……」

大淀「ええ、もう……こういう場では本当に無礼というか礼儀知らずというか……」ガックリ

提督「別にいいだろ。本音が聞きたいなら、むしろこんな感じで明け透けに言わなきゃ説得力がねえ」

日向「なるほど。理屈としては面白いが……面倒臭いというのはどういうことだ?」

提督「あんな哲学的な問い、普通は唐突に訊かれてすぐ答えが出るもんじゃねえよ。だから俺は面倒臭えと言ったんだ」

日向「君はさらりと答えたようだが?」

提督「具体的に、目的と訊かれたからな。俺がいま生きてる理由と受け取っても差し支えない」

提督「が、そんなことより直近ではこの鎮守府をどうやって問題なく運用していくかのほうが重要だな」

提督「日向の問いの真意に当たる部分を考えてる余裕はない」

日向「ふむ……」
303 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:04:16.01 ID:pvq18zcIo

提督「とりあえずだ、金や資材の面では不自由させるかもしれねえが、可能な限りは我儘は聞いてやる」

提督「ま、日向の相談に限っては、俺が役に立てるかはわかんねえな」

日向「……そうだろうか?」

提督「俺はそうだと思ってるけどなあ? 俺みたいにある程度目的が決まった奴だと、その道を外れるような意見には否定的になるだろうし」

提督「お前が多様な意見が欲しいとか言うなら、すでに人生の方針が固まってる俺だけから話を聞いたら絶対思想が偏るだろ」

提督「人によって大事なものが違うんだし、手前の考えをこれこそが真理だ、みたいな感じで押しつけられんのも、うざってえよな?」

日向「確かに……」

提督「所詮、他人は他人。すべての人間、すべての艦娘が、まったく同じ目的のために生きてるわけじゃない」

日向「それはそうだろうか? 少なくとも艦娘は、戦いに勝って戦争を終わらせるという目的は同じだと考えられるのだが」

提督「目的が同じでも手段は様々だろ。ある時点での人間の生きる目的がひとつだったとしても……」

提督「誰が先導するか、どんなアプローチをとるかで意見も分かれるだろうし、そうなりゃ派閥もできて諍いも起きる」

提督「もしそうじゃなかったら、極端な話、戦争自体が起きなかったかもな。下手すりゃ艦娘も、軍艦も生まれなかったかもしれねえ」

日向「……」
304 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:05:31.02 ID:pvq18zcIo

提督「それに、確かに生きる目的が決まってた方が生きやすいってのはあるが……」

提督「誰かが作った結論一つを、人生の目的として決めつけちまうのを面白くねえと思う奴もいるだろうよ」

日向「そこで面白いかどうかで生き方を決めるのはどうだろうな……?」

提督「いや、ありだろ? というか重要だろ。面白いことや楽しいことといった『快楽』がなかったら、それこそ何のために生きるんだ?」

提督「お前が今ぐじぐじ言ってんのも、自分の中でもやもやしてることを、すっきりさせて『気持ちよくなりたい』からじゃねえのかよ」

日向「む……!」

提督「俺はこの島に来て良かったと思ってる。俺が付き合ってきたのは心底気分が悪くなる人間ばかりだった」

提督「同じように人間に苦痛を受けた艦娘が、ここで少しでも笑ってられるんなら、俺の生きてた意味はあった」

提督「だから俺の結論はそれでいい。俺はその考えを続けていくし、今、これ以上深く掘り下げる必要はないと思ってる」

提督「そこで考えを止めてる俺が、お前の問いの核心となるような答えを返せるとは思えねえな」

日向「私の問いは、君が考える問題ではない、と?」

提督「ああ、お前のいう次元の話は、金持ちが何もかも手に入れた末に暇つぶしに考えるレベルの話に思えるな」

提督「人間だろうと艦娘だろうと、無理に生きる意味なんか考えなくても生きていけるし」

提督「そんな大層なこと考えながら生きなきゃならないなんてこともないだろ?」

日向「……それが君の見解か……」
305 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:06:16.15 ID:pvq18zcIo

提督「大雑把に言えばな。ただ、深海の連中が何のために生きてるか、ってのは、暇なときに考えてもいいかもな」

提督「あいつらが何を悦びや愉しみにしてるのかは、ちょっと興味がある」

日向「喜び……楽しみ……か。確かに、彼らがそういう感情を抱くか自体も、わかっていないな」

大淀(微妙に言ってるニュアンスが違う気がするけど……気のせいかしら)

伊勢「ねえねえ日向、提督ってば結構いい人なんじゃない?」

日向「思ったよりは、な。第一印象ほどではなさそうだ」

大淀「ええ、基本的なところは……これで口と態度の悪ささえなんとかなってくれればいいんですが……本当にもう」ハァァ…

提督「俺がそんなことになったら気持ち悪くねえか?」

大淀「迂闊な発言をされるよりはましです。第一印象でどのくらい心証を悪くしてるか少しは理解していただきたいんですが」キッ!

伊勢「少しは気持ち悪いってところも否定してあげようよ」

青葉「あの〜、司令官? もしかして、上官に対しても同じ態度をとってたりしませんよね……?」

提督「中将あたりにはさすがに猫を被るかね。大佐の野郎にゃ死んでも媚びたくねえが」ケッ

青葉「中将クラスじゃないと態度を改めないんですか」タラリ

提督「そもそも、この鎮守府に関わってくる人間が極端に少ないからな。お偉方なんざ滅多に来やしねえし」
306 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:07:01.45 ID:pvq18zcIo

提督「今までこの鎮守府に来た海軍の人間、この前のテレビ関係の奴ら除くと何人だ?」ヒーフーミー

青葉「テレビ関係? この島がテレビに出たんですか?」

提督「いいや? テレビ局の連中が来て、この島を取材したいとか言ってやがったが、カメラも企画も全部潰してやった」

青葉「!?」

提督「不本意ながら死人も2人出たしな。ま、鎮守府の私物化を企んでたような奴だったし、因果応報ってなもんだ」

大淀「ええと、留父さんって知ってますか? 少し前に芸能界を引退宣言した……」

伊勢「うわ、知ってる!」

青葉「青葉も知ってます!! あの人がここに来たんですか!?」

提督「違えよ。来たのはそいつの息子だ」

青葉「うーん、そうだったんですか……来たのがお父さんなら良い感じに有名になれたのに、惜しいですねえ」

日向「青葉は有名になりたいのか?」

青葉「あ、いえ、どちらかというと、そういう方々とお近づきになれたらいいな、とは思いますね〜。面白そうな話、たくさん聞けそうですし」

日向「そうか。提督は、そういうものは望んでいなさそうだな?」

提督「ああ、いらねえなあ。有名になったところで、面倒が増えるだけだ」
307 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:08:00.83 ID:pvq18zcIo

提督「それ以前に、轟沈した艦娘が住む島だからな。お近づきになりたい奴のほうが珍しいと思うが?」

青葉「そこはそうですよね……改めて考えても、青葉、とんでもないところに来てしまいました……!」

提督「おう、絶望は今のうちにしとけ」

大淀「そうですね。ここに在籍している皆さんの前でそれを言って、不興を買うのもよろしくないでしょうし」

青葉「……」

提督「大淀が俺の追い打ちかけるなんて珍しいな?」

大淀「青葉さんの好奇心は少し行き過ぎるところがあると聞いてますので」

青葉「……青葉、少しへこみます……」

提督「それから、この島で生活するにあたって、欲しいものがあるなら申請してくれ。余程じゃねえ限りは通すからよ」

青葉「でしたら、青葉はカメラが欲しいのですが……できればプリンターも」

提督「! ……カメラ、なあ」ウーン

大淀「やはりそうなりますか……」

提督「なんでも、とは言ったが、カメラみたいな撮影器具は、ちょっと調達は難しいかも、だな」

青葉「そうなんですか……?」
308 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:08:45.60 ID:pvq18zcIo

提督「ないわけじゃない。この島には1台デジカメがあるが、そっちは中将の鎮守府からのレンタル品だ」

提督「この島の鎮守府には人間が俺しかいないこともあって、中将麾下の不知火がお目付け役になってくれている」

提督「その不知火が、本営への報告のためにデジカメを持参してきてくれてるんだ」

青葉「では、自由に使えるわけではないんですね……」

提督「そうだな。この島で起こったことを記録することには違いないが、例えばいつ轟沈した艦娘が漂着してきたか、とか」

提督「どの部位が流れ着いてきたとか、あまり嬉しくねえ情報を記録するために使われてるな」

日向「ブイ?」

提督「ああ。埋葬し終わってから腕だけ遅れて流れ着いたりしたときもある。その過去の記録を見るときにカメラを使ってる」

伊勢「うえっ、部位って、そういう……」

提督「轟沈させられてるんだ、五体満足なほうが珍しい。首が無えとか、胴体から真っ二つとか、そういう奴らばかりだ」

提督「極端な話だと、朝に腕が来て、昼間に胴体が来て、晩に艤装が来て、そんで次の日に頭が届く、なんてこともあったからな」

青葉「そういう写真撮影は、さすがに遠慮したいですねえ……」

提督「心情的にはそうなんだがな。けど、艦娘違いで違う奴を埋葬したくないし、せめて一か所に集めて弔ってやりたいってのもある」

提督「そのためには、カメラで記録を取っておくのが一番確実なんだ。今使ってるカメラは、その記録用と本営への報告用ってことだ」
309 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:09:45.98 ID:pvq18zcIo

提督「それから、この島の存在自体を記録に残したくない奴がいるってところも、調達が難しい一因だな」

青葉「は?」

提督「テレビ局が来た時もそうだったんだが、この島の情報は絶対に外に出したくない、というのが俺のすぐ上、大佐の意向らしい」

青葉「……それこそ、どういうことです?」

提督「大佐はこの島の存在を秘匿したいと思ってるみたいなんだよ。この島のどこにどんな不都合があるんだかは知らねえが……」

提督「で、不本意ではあるが、人間と関わりたくない俺の思惑と合致してるから、これまでも文句を言ってこなかったんだ」

提督「その今の状況で、個人でデジカメを使いたいとなると、島の情報が漏洩しないか、大丈夫か? って感じで突っ込まれそうなんだよな」

青葉「うーん……」

提督「プリンタもモノクロのレーザー式しかねえし、新しく頼むとなると確実に調べが入りそうな気がするな」

大淀「ほかにも、ゴムボートのようにこの島から出ることができる装備は却下されてまして……」

伊勢「えええ? いくらなんでもそれはないんじゃない!?」

日向「上官である大佐は、君をそのレベルで嫌っているというわけか」

提督「まあな。俺も俺でいくら中将の息子とはいえ、あのくそ野郎には好かれたくもねえってのはあるが」

日向「その男の下に甘んじているのは、艦娘のためか」

提督「……まあ、そうだな。俺たちの存在を隠したい大佐の思惑は、人間との接触を避けたい俺の思惑に都合がいい」
310 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:10:30.88 ID:pvq18zcIo

提督「艦娘を虐げたり、轟沈させるような真似をする奴らのために働くなんて、俺は嫌だからな」

日向「なるほど……」

提督「ちなみに青葉。お前、カメラで何を撮るつもりだ?」

青葉「それはもう、楽しい写真を撮りたいんです! 何気ない日常をパシャパシャと!」

青葉「それから、できれば皆さんが集まった集合写真なんかも撮らせてもらえると嬉しいです!」

提督「ふーん……」

青葉「あ、あんまり悲しいシーンは撮りたくないので、そこは分別しますよ?」

提督「……」

青葉「ど、どうしました?」

提督「……悪い、聞いたはいいが、どんな写真になるのが想像できなくてな。やっぱり、アルバムとかに閉じたりするのか?」

青葉「印刷した場合はそうですねえ。あとはコルクボードに貼り付けたり、写真立てに飾ったりとか!」

提督「んー……」

伊勢「提督、学校の卒業アルバムとかは見たことないの?」

提督「ない。ガキの頃の話なんざ思い出したくもねえな」

伊勢「どんな学生時代を過ごしてたの……」タラリ
311 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:11:16.12 ID:pvq18zcIo

日向「……」

大淀「もしかして、日向さんも想像できないんですか?」

日向「ああ。写真を飾って楽しむ、という概念が想像できないんだ。どんなふうになるのか、考えたこともなかった」

提督「ぶっちゃけ、写真にいいイメージないんだよな。写真週刊誌みたいに面白くもねえハプニング撮ってどうすんだ、とかよ」

青葉「これは、正しい写真の楽しみ方を教えてあげるところから始めないといけないみたいですねえ……」

提督「その前に、自由になるカメラを手に入れるところからだな」

提督「プリンタも含めて、どっかからこっそり横流ししてもらうしかねえと思うんだが」

大淀「余所の鎮守府からのフォローはおそらく見込めないでしょうね」

青葉「ちなみに、不知火さんのカメラを貸していただくことは……」

提督「あのカメラ、たしかデータ消せねえぞ? 変なもの撮影しないって約束できるか?」

青葉「……何がこの鎮守府の地雷なのか把握できていない青葉が、事故を起こさないとは口が裂けても言えませんね」

提督「理解が早いと助かる」

青葉「……まあ、青葉も平和な写真を撮りたいですからね……」ボソッ

伊勢「?」
312 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:12:01.73 ID:pvq18zcIo

提督「……仕方ねえ」スクッ

大淀「どうしました?」

提督「ちょっとひとっ走りしてくるか。お前らを送ってきたあの士官いるだろ。あいつにカメラを調達できねえか聞くだけ聞いてみる」

青葉「ほ、本当ですか!?」パァッ

提督「おう。とりあえず大淀、この場は任せたぞ」ガチャ タッ

青葉「あ、ありがとうございます!!」スクッ ペコリ

大淀「……さて、任されましたけど、だいたいは説明が終わりましたので……」

伊勢「とりあえず、この鎮守府のみんなに挨拶しにいかないとね」

日向「……」

伊勢「日向?」

日向「あの男。なかなか曲者だな……」

大淀「!」

日向「面倒面倒と言いながら、私の問いに澱みなく答えていた。若いながらも自身の人生観が確立している……興味深い」キラッ

伊勢「あー……」

日向「彼となら、私が望む答えを見つけられそうだ」

青葉「司令官、早速目をつけられた感じですね?」

大淀「そうみたいですね……」

伊勢「まあ、しょうがないよね〜」アハハー
313 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:13:32.38 ID:pvq18zcIo
今回はここまで。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/07(水) 13:03:19.92 ID:x1ergJr3O
保守
315 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/11(日) 22:51:24.39 ID:zj9ZaBPqo
お待たせしてすみませんが、
回収し忘れてる設定がないか見直しながら書いてますので、
こちらはもう少しお待ちを。
316 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:29:09.53 ID:6bIY/N6Ao
続きです。
317 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:30:06.13 ID:6bIY/N6Ao

 * 1週間後 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

仁提督「ほれ。買ってきてやったぞ」ハコサシダシ

提督「……!!」

黒潮「……司令はん、これもしかして……」ハコウケトリ

青葉「デジカメですね!!」パァッ!

那珂「デジカメだって!?」パァッ!

仁提督「こいつがメンテナンスキットで、こっちが替えのメモリーカードで……」

仁金剛「こちらが領収書デース!」

提督「……」

那珂「うわああ……!! 仁提督、わざわざ買ってきてくださったんですか!?」キラキラキラッ

仁提督「俺がスマホを新調するついでだ」

青葉「青葉、感激です!!」キラキラキラッ
318 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:30:49.13 ID:6bIY/N6Ao

仁提督「んん!? お前、青葉か!? 確かこの鎮守府に青葉はいなかったと思ったが……」

提督「先週ここに来たばかりだ」

青葉「ども! よろしくお願いします!」

仁提督「ああ……准尉、貴様も苦労するな」

青葉「どういう意味ですかそれ!?」

提督「なんかあったのか」

仁金剛「ンー、それはデスネー、先週とある鎮守府と演習を行ったんデスが……」

仁金剛「駆逐艦たちが提督の背中に乗っかりまくったところを、演習相手の青葉に撮影されていたんデス」

仁提督「撮った画像を消せというのに面白がっていたからな……」イライラ

仁金剛「ビコーズ、青葉を集中砲火して大破させろと言われマシタ」

青葉「……」

提督「なんで乗っかられてんだよ」

仁提督「雪風がきっかけだと思うが……あいつら、俺をジャングルジムかなにかと勘違いしてるんじゃないか?」
319 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:31:33.45 ID:6bIY/N6Ao

時津風「しれぇ〜!」トテテテテガシッ

文月「しれぇか〜ん!!」トテテテテヒシッ

時津風「この人たちが演習の相手なの〜?」ヨジヨジ

文月「ねえねえ、しれぇか〜ん?」ヨジヨジ

仁提督「だからなんで登ってくるんだお前たちは!!」

時津風「ひゃ〜!」トテテテテッ

文月「しれぇかんが怒った〜」トテテテテッ

提督「……苦労してんだな」

仁提督「まったくだ……」ガックリ

雪風「黒潮お姉ちゃん、准尉さん、お久し振りです!」ビシッ!

黒潮「おー、雪風!」

提督「よう」

青葉「お久し振り……というのは、皆さんお知り合いなんですか?」

黒潮「うん、もともとうちと雪風たちは同じ鎮守府にいたんよ〜」
320 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:32:19.16 ID:6bIY/N6Ao

提督「その鎮守府の司令官が馬鹿やりやがってな。黒潮だけうちで引き取ることになって、雪風たちは仁提督のところに着任したんだ」

青葉「へ〜え、そうでしたか! そういうことなら折角の機会ですし! 皆さん集まってください、さっそくこのカメラで一枚撮りましょう!!」

黒潮「それ、ええなあ!」

雪風「嵐と萩風も早くー!」

仁金剛「テートクは一緒に写らないんデスか?」

仁提督「この組み合わせに俺が入るのは野暮だろう。それより、俺もスマホで4人を撮っておこうと思うんだが」

仁提督「数枚撮ってあとで現像してやれば、普段から飾っておけるしな」

仁金剛「オーウ、それもそうデスネー! あとで私とも一緒に撮影してくだサーイ!」

仁提督「……あとでな」

青葉「えへへ、新品新品〜♪」

仁提督「使い始めはバッテリーも満充電されてないだろうから、あとで充電しておけよ」

青葉「はいっ、了解です!」
321 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:33:04.33 ID:6bIY/N6Ao

 * 執務室 *

仁提督「電気屋の知人に頼んで見繕ってもらったんだ。丁度モデルチェンジがあるからと、新古品というやつを買わせてもらった」

青葉「ありがとうございます! 目いっぱい使わせていただきます!!」ニコニコー

那珂「動画も撮れるんだよね!?」ウキウキ

青葉「はい! いけますよ! 早速充電しておきましょう!」ルンルン

不知火「仁提督。こちらがカメラのお代金です、お納めください」

仁提督「ん……なんだ? 多くないか?」

提督「それで電気屋の知人になにかご馳走してやってくれ」

仁提督「そういうことか。なら、遠慮せず貰っておこう」

仁提督「しかし、お前らも大変だな。まさかカメラを買うのも一苦労とは」

提督「まあ、俺がそういう部分を利用しながらこの鎮守府を隠し続けてるわけだからな。目的のための必要悪の不自由だ」

提督「俺がこんなだから、あんたたちもこの島に来るのも大変だろう?」

仁提督「それなりにな。最近は北方海域も一通り回れるようになって、南西諸島への出撃もできそうかという評価をもらっている」

仁提督「ここの鎮守府との演習をこじつけるのも、そろそろ大変になってきた。まあ、それでもまだ墓参りという名目はあるがな」

提督「……」
322 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:33:48.54 ID:6bIY/N6Ao

仁提督「貴様のことだ、目立たないように戦果を控えめに報告しているのだろうが……」

仁提督「少しは真面目に戦果をあげないと、悪い意味で目を付けられるぞ」

提督「かもな……」

仁提督「実際に、止提督だったか? 夜戦嫌いの提督が、深海棲艦の撃滅に積極的ではないという理由で僻地に追われたという話も聞いている」

提督「止提督? どっかで聞いたな……夜戦嫌いだって?」

仁提督「ああ。秘書官にも愛想を尽かされ出ていかれたとか聞いたし、貴様も気をつけろ……と言いたいが、そもそもここ以上の僻地はないか」

仁提督「代わりにここに継続着任できるような提督もおらんだろうしな。日本へ帰らないのも、然程、苦にしてないんだろう?」

提督「まあな。仮に処罰があるなら、補給を減らされるかもってくらいか」

仁提督「それはさすがに悪手だろう。この近辺の海域で深海棲艦の襲撃がほぼなくなったのはお前たちの功績だ」

仁提督「海軍の手によってわざわざ沈静化した海域を、また深海棲艦の住処にしたのでは海軍のみならず国家そのものの評価にも関わる」

仁提督「いくら貴様が疎ましかろうと、そこまで海軍が愚鈍だとは思いたくないぞ?」

提督「そりゃどうだろうな?」ヘッ

仁提督「……なんともはや、だな」ハァ
323 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:34:34.14 ID:6bIY/N6Ao

仁提督「それから、貴様の上にいる大佐だが……この前の昇格はいまいち不可解でな。裏があると思っていいのか?」

提督「俺はずっとそうだと思ってるけどな。単に中将のコネもあるんだろうが、それ以上に何か裏がある話だと思ってるぜ、俺は」

仁提督「……そのせいかどうかわからんが、その大佐が自分の部下にした提督たちを集めて、なにやらきな臭い動きをしているようだぞ」

提督「!」

仁提督「なんでも、姫級の深海棲艦の居場所というか、塒を見つけたらしい。そこへの総攻撃の準備をするため、精鋭を集めているんだと」

仁提督「精鋭と言えば聞こえはいいが、集めているのは大佐の息がかかった連中ばかりだ。戦果を独り占めする気じゃないかとしか思えん」

仁提督「手数は多いに越したことはない。貴様にもお呼びがかかっていると思ったんだが」

提督「……俺にもか?」

仁提督「ああ。姫級や鬼級といった強力な連中は、1回や2回の攻撃ではまともに攻め落とせないらしいんだ」

仁提督「波状攻撃で5、6回くらい奴らに膝をつかせないと撃破が難しいから、討伐には複数の艦隊を用意せねばならんと聞いている」

提督「あんたは交戦したことがないのか?」

仁提督「直接はない。その姫級が連れてきた敵空母、ヲ級の上位種と数回交戦した程度だが、それでも酷い目に遭った」

仁提督「当時は北方海域の敵にも手こずっていたし、艦隊の対空要員も育っていなかったからな。それ以来か、榛名に三式弾を持たせたのは」

仁提督「もし貴様にお呼びがかかるとしたら、当時の俺と同じように、姫級の取り巻きを引き付ける囮役を任されると思うんだが……」
324 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:35:19.39 ID:6bIY/N6Ao

仁提督「貴様らのいびつな関係を考えると、この島の艦隊まるごと捨て艦にする気じゃないかという気がしないでもない」

提督「かもしれねえな。つうか、最初からそのつもりじゃねえか? だから俺を呼ばずに作戦を知らせる気もないんだろうさ」

仁提督「貴様も否定せんのか。つくづくどうかしているな……」

提督「どうかしてんのは大佐の野郎さ。そんな重要な作戦、連中だけで片付けられるつもりでいるのが気に入らねえ」

提督「ついこの前、大佐になったばかりのわがまま坊主に、複数の艦隊まとめ上げる指揮能力なんかねえと思ってんだけどなぁ?」

仁提督「そうは言うが、この前の空母棲姫の邀撃はあいつの手腕じゃないのか?」

提督「ありゃあ部下に特攻命じてたようなもんだぞ? 死んでも守れ、じゃなく、全員生還できる戦術を見せろってんだよ……!」ムスッ

提督「それから、あの野郎がそうそう負けを受け入れるとは思えねえからな。多分、なんらかの保険をかけてるとは思うんだが」

仁提督「そういや、どっかの少将の協力をこぎつけたとかなんとか聞いたような気がするな?」

提督「父親の中将じゃなくてか?」

仁提督「ああ。俺の上官も少将なんだが、難しい顔をしながらそんなことを言っていたぞ。どこの少将かは聞けなかったが」

青葉「え? 仁提督の上官も少将なんですか?」ズイッ

仁提督「うおっ!?」

青葉「ちょおっと恐縮ですが……仁提督の上官にあたる少将と言うのは、どなたかお伺いしても?」

仁提督「お、俺の上官か? 与少将だが……」
325 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:36:03.43 ID:6bIY/N6Ao

青葉「ああ、あの! 大和に振り回されたっていう、あの与少将ですか!」

仁提督「……」アタマオサエ

提督「そういや、そういう話だったな……」アタマオサエ

仁提督「事実っちゃあ事実だが……そんな感じで噂が広まっているのか?」

青葉「青葉が聞き込んだ限りはそうでしたねえ。自分の艦隊にいなくて初めて見たから、はっちゃけちゃったと聞いています!」

仁提督「そこまで噂になってんのか……」アタマカカエ

青葉「だた、それ以外の話で聞けば、おおむね好意的でしたね。大規模作戦には、未熟な提督も参加できるよう編成を工夫してあげたり」

青葉「部下の艦隊にいない艦娘との邂逅時には、その艦娘を無償で移籍させてあげたりとか、面倒見の良さには定評があると」

青葉「ご自身が持っていない艦娘と出会ったときに鬱陶しいぐらい羨ましがられる以外は、問題ないと聞いていますね!」

仁提督「……まあ、ちょっと子供っぽくて面倒見が良すぎるところもアレではあるが、致命的な欠点ではないからな。悪い上司じゃない」

青葉「いやあ、そうでしたか! 安心しました!」

仁提督「なんだそれは……」

青葉「いえいえ! どうも失礼しました!」タタタタッ

仁提督「なんなんだあいつは?」ヒソヒソ
326 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:36:48.61 ID:6bIY/N6Ao

提督「……最近来たばかりだから、俺もまだ性格や素性が掴めてねえんだよ。もしかして、出身が少将のとこなのか?」

仁提督「お前も知らんのか」

提督「報告書に、以前どこの鎮守府にいたのかって書いてなかったんだよ。おそらく突っ返されるのが嫌なんだろう、って青葉が言ってたが」

提督「当人もそいつとは縁を切りたがってるらしくて、どこの鎮守府の出なのか頑として言いたがらねえ」

仁提督「向こうも青葉を切り離したがってるんなら、もう関わらない、でいいんじゃないのか? 人嫌いのお前らしくもない」

提督「俺としちゃあ、そいつがいきなり乗り込んでこないか心配なんだがな……」

提督「そいつがどういう気性の奴なのか、どんな事情持ちかがわからねえと、いざ来た時にどうやって追い返すかの対策が立てられねえ」

仁提督「……実に貴様らしい理由だな」ハァ

提督「写真に撮られるのが嫌いらしいから、わざとカメラ向けて追っ払うってのもありなのかもしれねえけど……」

仁提督「誰でもいきなりカメラを向けられたら、いい気分にはならんと思うがな」

提督「とにかく、大佐がそういう行動をしてるって情報はありがたいな。赤城に探りを入れてみるか」

仁提督「なあ、その赤城は本当に大丈夫なのか? 相変わらず、大佐の言うことを忠実に聞く冷徹な艦娘という噂が流れてくるんだが」

提督「気にすんな。それでいいんだ、赤城の奴は」

仁提督「それでいいときたか」
327 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:37:33.51 ID:6bIY/N6Ao

提督「他言すんなよ?」

仁提督「ああ、他言はせん。話そのものはまったくもって気にいらないがな」

提督「……」

仁提督「ふん、そんな目をするな。俺も大佐には関わりたいとは思ってないから、着様らのやることに首を突っ込むつもりはない」

仁提督「が、まるで貴様と赤城が海軍の悪を隠れて退治するために、他人を遠ざけるよう共謀しているように見えて、いろいろと気に入らん」

提督「別にそんなんじゃねえよ。俺は俺の気に入らない奴を潰したいだけだ」

仁提督「本当か? 思えば貴様は人を見限ったようなことばかり言ってるようだが……」

仁提督「正義のために死のうとしてるから嫌われたがってる、ともとれるが?」

提督「正義ぃ!? やめろよ気分悪ぃ。俺は艦娘を食い物にしている連中が許せねえってだけだ」

仁提督「……」

提督「なんだよ、その顔は」

仁提督「なるほど、貴様は艦娘の味方というわけか」

提督「……」

仁提督「まあいい。とにかく、貴様もあまり危ない橋を渡ってくれるなよ? 黒潮にもしもがあれば雪風たちが悲しむ」

提督「そうなる前に、あんたに黒潮を託せられるようにするさ」

仁提督「そうじゃない。貴様も命を大事にしろと言うんだ。貴様がいなくなっては、この鎮守府の艦娘が困るんだろうからな」

提督「けっ。余計なお世話だ」
328 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:38:18.61 ID:6bIY/N6Ao

 * 鎮守府埠頭 *

提督「あのおっさんも随分お節介焼きになりやがったな……命を大事にしろ、か。やれやれ」アタマガリガリ

大淀「ごもっともだと思いますけど?」

五十鈴「そうよ。心配してくれて、いい提督じゃない」

提督「そうでもねえよ。あいつ、この島に来た時は使い捨て出来る駆逐艦を探しに来てたんだぞ?」

五十鈴「そうなの!?」

提督「しかも、そこの長門がちょっと問題でな……締まりのない顔で駆逐艦を追い掛け回してたんだ。うちの長門と大違いだ」

五十鈴「……ここの鎮守府の長門さんのほうが珍しいと思うんだけど」

提督「なに?」

五十鈴「前の鎮守府にいた長門さんも、寄ってきた駆逐艦にはデレデレになって、ラムネで気を引こうとするくらいには甘かったわよ?」

提督「……」

五十鈴「演習で余所の鎮守府の艦隊が来た時も、そこの長門さんがこっちの駆逐艦にやたらとアピールしてたし」

五十鈴「あとはやたらと駆逐艦に過保護な長門さんが来てた時もあったわね。旗艦なのにやたら駆逐艦を庇いまくるの」

五十鈴「ここの長門さんみたいに、駆逐艦に囲まれても穏やかにしてる長門さんのほうが、私は珍しいって思ってるけど」

提督「……マジか」
329 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:39:03.23 ID:6bIY/N6Ao

五十鈴「他にも畑仕事に精を出す初雪とか、お料理上手な比叡さんとか、やたら大人びた言動の暁とか、夜中にうるさくしない川内とか」

五十鈴「一体どこから連れてきたの、って言いたくなるような艦娘が多いわよ? まあ、問題がないから誰も言及しないんだろうけど」

提督「そりゃあな。いい傾向なら、別に悪化させなくていい」

五十鈴「そうよねえ。だから、何もないところで転んでる五月雨を見ると、ちょっとほっとするのよね」

提督「……余所でも転んでんのかよ」

大淀「こう言ってはなんですが、ドジな子であるという共通認識ではありますね」

提督「まあ、確かにそういう傾向のところもあるな。余所だと顕著なのか?」

五十鈴「そうねえ、例えば私が居合わせてた時は、提督にコーヒーを運んできたら、必ず頭からぶちまけるくらいには顕著だったわね?」

大淀「それはまた……」

提督「……」

五十鈴「そういえば、ここで提督がコーヒーまみれになってるとこ、見たことないわね?」

提督「うちの五月雨は持ち運んでるものを零したり壊したりしたことはないぞ?」

五十鈴「そうなの!?」
330 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:39:48.40 ID:6bIY/N6Ao

大淀「よく転びはしますが、書類でもコップでもちゃんと落とさず運んできますね」

提督「その代わり、持ち物をかばうようにすっころんでるせいで、額やら腕やらに痣を作りまくってるけどな」

五十鈴「……やっぱり、ここに集まる艦娘って、ちょっと変わってるわね」ウーン

五十鈴「考えてみたら利根さんも、余所の利根さんよりしっかりしすぎてる気がするし、筑摩さんもあんな感じじゃなかったし」

提督「ちょいと複雑な環境にいた奴らばっかりだからな。そういうお前はどうなんだ?」

五十鈴「私? うーん……どうかしら? そりゃあ前の鎮守府には五十鈴がたくさんいたけど、一人目以外はみんな達観してたし?」

五十鈴「一人目の五十鈴も私たちにどう接したらいいかわかんないみたいで、余所余所しかった気がするわ」

提督「まあ、そうもなるか……解体確定の自分と同じ顔した奴だもんなあ」

五十鈴「あ、私、解体って言ったかしら。どちらかと言えば解体じゃなくて近代化改修のほうが多かったわね」

提督「改修? なんだそりゃ」

五十鈴「いわゆる部品取りみたいな感じなんだけど、五十鈴って素材にしてもいい感じみたいなの」

大淀「確か、五十鈴さんが素材になると、対空能力の強化ができたはずですね」

提督「ますますなんだそりゃ。その改修ってのは、艦娘がいないとできねえのかよ」

五十鈴「そうみたいよ? どんな仕組みかは聞かないとわかんないけど」

提督「……今度妖精に訊いてみっか」
331 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:40:33.34 ID:6bIY/N6Ao

 * 執務室 *

青葉「司令官! 質問があるんですが、この島で写真を撮ってはいけない場所はありますか?」

提督「うん? 俺としては特にねえと思ってるが……何を撮る気だ? 風呂場とか盗撮みたいな真似だけはやめとけよ?」

青葉「それは勿論です! 迂闊なことをして不評を買いたくありませんので!」

青葉「ここへ移るときも、ここより僻地はないからせいぜい気をつけろと言われたくらいですから!」

提督「誰だそんなこと言っ……って、あいつか!? あの士官か!?」

青葉「はい、ここに連れてきてくださった、あの士官さんですね」

提督「ったく、あの野郎、好き勝手言いやがって……まあ、間違っちゃいねえけどよ」

青葉「認めるんですか……」

提督「まあな、人に言われるのはむかつくが仕方ねえ。仮にここから追い出すっつっても、あてにできそうな鎮守府がねえのは事実だし」

提督「おまけに呉の中将からは、この島に立ち入った人間と艦娘は呉に近づけるな、みたいなことも言われたしな」

青葉「ええ……?」

提督「良くは知らねえが、よっぽど忌み嫌われてるっぽいぞ。この島そのものが」

青葉「……それじゃ、ここから余所の鎮守府に移る可能性って、ものすごく低いってことですか」

提督「なくは……いや、実際にねえな」

青葉「ないんですか……」
332 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:41:20.43 ID:6bIY/N6Ao

提督「余所の鎮守府の艦娘が数日滞在してて、そいつらがまた別の鎮守府に行ったことはあるが……」

青葉「ここに着任した艦娘が転籍したっていう実績はない、ってことですかぁ」

提督「だな。ただ、ここに来た艦娘のうちだいたい半分……轟沈を経験してる艦娘が、一番長くて2年近く島に滞在して深海棲艦化しなかった」

提督「この事実を本営がどう見るか、そろそろ判断してもらわなきゃなんねえんだよな……してもらいたくねえが」

青葉「司令官は、この島から艦娘を、社会へ帰してあげることを躊躇っておいでですか?」

提督「俺が人間を信用してないからな。少なくとも、この島に対して偏見がある以上、そこから来たとあっては色眼鏡で見られて当然だろうさ」

提督「下手すりゃいじめが生まれるからな。呉のお偉方もそうなんだし、そういう偏見を本営が取っ払えるとは思えねえ。それに……」

青葉「……司令官?」

提督「いや、なんでもねえ」

摩耶「ま、とにかく心配なんだろー? 島から出た艦娘が、まともに取り扱ってもらえるか、って」ヌッ

青葉「!」

摩耶「よっ、邪魔すんぜ。こいつ、使い捨てにされてないか、わざわざ別の鎮守府に移った三日月たちの心配までしてくれてんだ」

摩耶「あたしたちも余所の鎮守府に移ろうもんなら、心配で夜も眠れなくなるんじゃねーの?」

提督「……普通は心配するだろうが。お前はお前で、その言葉遣いをなんとかしねえと、目ぇ付けられんじゃねえのかよ」

青葉「いえいえ、摩耶さんはどこの鎮守府でもこんな感じですよ?」

提督「そうなのか?」
333 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:42:07.39 ID:6bIY/N6Ao

青葉「はい。ほかの艦娘にも、もっと言葉遣いが荒いというか、オラオラした人もいますよ? 軽巡洋艦の天龍さんとか」

提督「は? 軽巡? 神通とか由良とか、あのくらいのなりでか?」

青葉「そうですよ〜、威勢よくに突っかかってきますからねえ。死ぬまで戦わせろよ! って感じで!」

提督「ふーん。そりゃもう駄目だな」

摩耶「あぁ? お前も似たような言葉遣いじゃねーのかよ!」イラッ

提督「俺が駄目だっつったのは『死ぬまで戦わせろ』なんて言ってるとこだよ。摩耶はそんなこと言わねえだろ」

摩耶「お、おう……まあな」

提督「むしろお前の場合は、誰かがそんなこと言ったら、ふざけんなよって止めに入る側だよな?」

摩耶「ま、まあ、そーかもしんねーな……」テレッ

青葉「……」

提督「摩耶は面倒見がいいからな。あえて心配するとしたら、他の奴を庇って無理しないかのほうが心配だ」

摩耶「そ、そうかよ……」

青葉「司令官は摩耶さんを随分信頼してますね?」

提督「まあ、少なくとも大きく間違ったことは言わねえからな。心情的な話になっても頷けることは多いし」
334 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:43:03.12 ID:6bIY/N6Ao

提督「それに、上でも下でも仲間のことをよく見てる。間違いなく俺より気遣いもできるし面倒見も愛想もいい」

摩耶「……」セキメン

提督「おまけに妹思いだ。鳥海褒められて本人より胸張ってんだぜ、どんだけ可愛いんだよ」

摩耶「……」プルプル

青葉(摩耶さん、めちゃくちゃ恥ずかしがってますね……褒められ慣れてないんでしょうかねえ)

提督「ま、そういう感じで気持ちのいい奴だからな。くそが、なんて口の利き方さえしなきゃ、どこ行ってもやっていけるだろ」

摩耶「ああ!? おまえだってくそとか言ってんじゃねーか、くそが!」

提督「ああ!? 俺はくそでクズだからいいんだよくそが! お前がくそくそ言う方が不似合いだっつってんだろが!」

摩耶「そうやって自分を卑下しまくってんじゃねーよ! てめえはあたしたちの上官だろ!? 情けねえっつってんだろーが!」

提督「一丁前に気ぃ遣ってんじゃねえよ! 外の連中なんざ適当でいいんだから、お前らも俺のことは適当にこき使えってんだろーが!」

青葉「……唐突にイチャつかないでいただけませんかね?」

提督&摩耶「「イチャついてねえっつってんだろ!」」

青葉「なんですかその前も言われたことがあるみたいな言い方……」

提督「……まあ、確かに気が合うっつうか馴染むっつうか、摩耶が俺に雰囲気似てんのは不本意ながら認めるけどよ……」

摩耶「だからその不本意ってのはなんなんだよ、くそが……!」
335 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:43:49.38 ID:6bIY/N6Ao

提督「そういう粗野なところは似て欲しくねえってだけだろが。お前、鳥海のことは品があって可愛いって自慢してんだろ?」

提督「鳥海のそういうところをお前が褒めてんのにお前自身がそれを見習う気がねえんじゃ、言ってることとやってることがあべこべじゃねえか」

摩耶「いいんだよ、それが鳥海のいいとこなんだから。あたしにはそういうの似合わねーんだから」

青葉「意外と似合いそうですけどねえ……」ボソッ

摩耶「いいっつってんだろ、そーゆーのは!」

青葉「本っ当に似てますね、摩耶さんと司令官は……」

摩耶「……そーかぁ?」

提督「それより、摩耶はどうかしたのか? お前、今日は休みだろ?」

摩耶「ああ、あたしの用件は特に急がないっつうか、ちょっと相談しに来ただけなんだけどさ」

提督「相談? 困ったことでもあったのか」

摩耶「最近、鳥海がよく温泉に行ってるだろ? 更衣室を作ってもらえないかと思ってさ。岩が目隠しにはなってんだけど、あれじゃなあ……」

提督「あぁ……確かになあ」

摩耶「湯船に浸かってる間はともかく、着替えてるときに最上の飛ばした瑞雲とかが飛んでくると、ちょっと気分良くないだろ?」

摩耶「眺めはいいんだけどよ、いくら防水とはいえ服を入れとく棚だけが置いてあるってのも、どうかと思うんだ。屋根くらいはつけて欲しいんだ」

提督「まあ、確かにな」
336 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:44:34.93 ID:6bIY/N6Ao

摩耶「あの温泉、なんで湯船だけ作ってあるんだ?」

提督「あれはもともと、はっちゃんが自分の体を温めるために作ったやつだからな」

提督「他の人が入ったりとか、そもそもみんなに教えること自体、想定してなかったらしいんだ」

提督「それが今はみんな使うようになったからなあ……確かに偵察機飛ばす練習もするし、温泉の製作者の意見も聞いて検討させてもらうか」

摩耶「お、やってくれんのか?」

提督「ああ、おそらく問題は建材くらいだな。大風呂に個人用を増設したときの木材とかが残ってりゃいいんだが」

摩耶「そっか。屋根があると嬉しいから、マジで頼むぜー。あ、それから青葉」

青葉「はい! なんでしょう?」

摩耶「お前、更衣室にカメラ仕掛けたりすんなよ?」

青葉「しませんよ!?」

提督「やっぱりお前、そういう奴なんじゃねえか」

青葉「風評被害甚だしいですよぉ……」ガックリ
337 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:45:18.50 ID:6bIY/N6Ao

 * 2週間後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

不知火「司令。こちらをご覧ください」

提督「……へえ、いよいよ来たか」

如月「どうしたの?」

提督「本営に来いとよ。噂の姫級の撃滅作戦への参加要請だと」

如月「! いよいよ来たのね……!」

不知火「この招集は中将閣下からですので、不知火が同行します」

提督「……早めに行きたいな。赤城に情報を集めてもらってるんだろう?」

不知火「はい。すでに船も手配しております」

提督「……久し振りの日本か。あの大湊以来だな」
338 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:46:03.28 ID:6bIY/N6Ao

 扉<コンコン

大和「失礼いたします」チャッ

 ゾロゾロ

吹雪「失礼します!」

金剛「テートク! 無理は禁物デース!」

提督「おぉ……また大勢で来やがったな」

朧「提督、本営に行くんですか?」

提督「ああ。どこで聞いてきた」

初春「大淀と不知火が神妙な顔をしておったからの。大淀に話を聞いてきたのじゃ」

電「司令官さん、本営に行って大丈夫なのですか?」

提督「そこまで心配すんな、別に腹を切れって話じゃねえからな。まあ、罠の可能性は考えてなくはねえが……」

提督「不知火も赤城もいるし、中将も承知してる。大佐の奴にしても目立ったことはしてこねえだろうさ」

榛名「提督! 私たちもご一緒いたします!」
339 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:46:49.07 ID:6bIY/N6Ao

提督「いや……お前らには、俺自身よりこの島の留守を頼みたい」

初雪「留守……?」

提督「ああ。なんせこの島の人間は俺一人だ。その間に、知らない人間が島に上がってきて好き勝手される方が俺にとっては痛手だ」

潮「そんなことを考える人、いるんでしょうか……」

提督「いずれにしろ、帰る場所は大事だからな。そいつは守っておいてもらいたい」

伊8「はい、それはとっても大事です」

提督「異常があればすぐに知らせてくれ。最悪、やばいと思ったらすぐ反撃していい、最優先は島の防衛だ」

提督「今回は珍しく不知火が無線機を持ってきてくれた。事後でもいいが、できれば早めに連絡を頼む」

不知火「残念ながら旧式ですが、こちらを使えばどこにいても不知火と連絡できます」

大和「……わかりました、お預かりいたします」

提督「先日、不知火経由で中将からの作戦概要を伝えたと思うが、この島が巻き込まれる可能性が高い」

提督「正直、どこでなにがおこるかわからねえ。万全の状態で出撃できるように、各々の装備の確認を済ませておいてくれ」

艦娘たち「「!!」」
340 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:47:48.53 ID:6bIY/N6Ao

 * 工廠 *

最上「ふーん、それで今日は遠征や出撃を控えようって話なんだね」

武蔵「そういうことだ」

足柄「大袈裟ね、って言いたいけど、まあ提督の心配もわからなくないわね」

日向「……つくづく難儀しているんだな、この鎮守府は」

伊勢「どうせなら不知火だけじゃなくって、戦艦や空母の誰かがついて行ったほうがいいんじゃない?」

朝雲「その辺は心配ないですよ、不知火が中将麾下の艦娘ですから」

伊勢「え、そうなの?」

五十鈴「提督以外に人間がいないから、憲兵の代わりのお目付け役なんですって」

隼鷹「憲兵も着任を嫌がってたんだっけ? すごいところだよねえ」

日向「何から何まで提督任せの鎮守府なのだな……」

由良「だからこそ、ここまで鎮守府を好き勝手できたとも言えますけどね?」

山雲「変なお客さんが来なければ、ゆっくりできますし、ねー」

五月雨「山雲ちゃんが言うと説得力あるなあ……」

明石「それじゃあいい機会だし、皆さんの装備の見直しでもしましょうか!」

若葉「それはいいな。若葉も付き合おう」

加古「待った待った、若葉が一緒だと明石が寝不足になるから、時間決めてやってよ」

三隈「先日は明石さんが工廠の床で寝てましたものね……」

青葉「目の下にクマを作られても困りますし、ねえ?」

若葉「むう……」
341 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:48:33.26 ID:6bIY/N6Ao

 * 鎮守府埠頭 *

黒潮「なんや、さっきまで曇り空やったのに、晴れ間が出てきたわ」

龍驤「しっかも、ええ風が吹いてるなあ……」

千歳「本当。穏やかで、気持ちいいわね」

神通「対姫級の作戦ですか……これが嵐の前の静けさとは思いたくありませんね」

古鷹「大丈夫です! 私たちはこれまで、何度もトラブルを乗り越えてますから!」

雲龍「そうね。きっと、嵐が来ても、私たちなら立ち向かえるわ」

鳥海「あっ、司令官さん! お疲れ様です」

提督「……なんだ、もしかして全員出てきたのか」

長門「ああ。以前はこうやって見送ることもできなかったが……」

比叡「今回はみんなで見送ることができますね!」

提督「大袈裟だな……と言いたいが、これから行くところが物騒だからな。ま、お前らの顔見て安心するのも悪くねえな」

霧島「海軍本営が物騒と仰いますか……」

那珂「提督にとっては伏魔殿って感じだよね!」

筑摩「仮にも私たちはその海軍に所属しているのですが……」

白露「とは言っても、信用できないところも多いからねー」
342 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:49:18.66 ID:6bIY/N6Ao

利根「うむ……これまで起きた騒ぎの中で、納得できないことも多かった。そう言う意見が出てもやむを得まい」

川内「提督も提督で、変な考え起こしちゃ駄目だよ?」

提督「ああ、やる時は、ちゃんと考えてからやるさ」

山城「ちょ……やらかす前提で向かうつもり!?」

提督「まあ、多分やらかさざるを得ない状況になるんじゃねえかな……これから行く話に、あの大佐が噛んでんだぜ?」

扶桑「では、そうならないようにお祈りさせていただきましょう」

朝潮「朝潮も同感です! 司令官、どうかお気を付けて!」ビシッ

霞「さっさと用事を済ませて、とっとと帰ってきなさいよ!」

敷波「……素直じゃないなあ」ボソ

霞「何か言った!?」

敷波「ん? 言ってないよ?」シレッ

島風「ほらほら、時間が押してるんでしょ!? 速く行って! そして速く帰ってきてね!」

暁「そうよ、留守は私たちに任せておいて!」

提督「……ああ、んじゃ、任せるぜ」ニッ

摩耶「おう、安心して行ってきな!」
343 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:50:03.38 ID:6bIY/N6Ao

大淀「提督。出航の準備ができました」

提督「ああ、じゃ、行ってくる」

大和「提督! ご武運を!」

吹雪「お気をつけて、司令官!」

如月「司令官! いってらっしゃい!」

提督「おう」ウナヅキ


(提督と不知火が小型輸送艇に乗り込むと、じきに輸送艇が離岸し始める)

 小型輸送艇<ザザァ…


長門「……」

如月「行っちゃったわね、司令官……」シュン…

千歳「大丈夫よ、そこまで長期間の出張ってわけじゃないんだし」

大和「……」

武蔵「……大和?」
344 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:51:03.36 ID:6bIY/N6Ao

大和「はあぁ……」ガックリ

武蔵「おいおい、提督不在と言うだけで大仰にため息をつくな。駆逐艦たちに示しが付かんぞ」

大和「そうは言うけどぉ……鎮守府に提督がいない、って考えると……」

如月「そうなのよね……私たちが遠征や出撃から帰ってきたら司令官がいるっていう、あの安心感……」

朧「あー……」

伊8「わかります」

吹雪「うん、なんとなくわかる……」

榛名「榛名もわかります!」

金剛「テーーートクゥーーー!! Please come baaaaaack !!」

長門「今行ったばかりなのに早すぎるぞ!」

武蔵「本っ当に示しが付かんな!」アタマオサエ

霞「……ま、そのうち帰ってくるでしょ。心配は心配だけど、あたしたちがぐだぐだでどうすんのよ」

大淀「その通りです。留守の間に鎮守府の様子が変わっていたら、提督に余計な心配をさせてしまいます」

摩耶「ま、そうだなー。あたしたちが普段通りに出迎えてやらねーと、あいつ、まーたこーんな顔すんぜ?」
345 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:52:03.45 ID:6bIY/N6Ao

利根「うむ、その通りじゃ。どれ、吾輩たちはカタパルトの整備に行くか」

筑摩「はいっ!」

白露「それじゃ、私たちは航行訓練してくるね!」ダッ

島風「あっ、白露待って!」ダッ

長門「……いつも通り、か」

武蔵「そうだな。これからでかい任務が来るわけだ。備えるとしようか」

 ゾロゾロ…

大和「……提督……」

如月「司令官……!」

金剛「テェーーーーートクゥーーーーーー!!」

 ザザァー…



346 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:52:51.24 ID:6bIY/N6Ao

 * 太平洋上 小型輸送艇内 *

提督「……」

不知火「司令、こちらの資料を。赤城さんからです」

提督「ん……」ペラッ

不知火「そういえば、初めて司令とお会いしたときは、私が島に一人、留守番を務めていましたね」

提督「ああ……如月を連れてこい、って命令されたときの話か」

不知火「はい。大佐……あのときは少佐でしたか。その少佐のスケジュールと、中将閣下へのコンタクトができる時間を調べ……」

不知火「あなたが、刺し違える覚悟で如月と私を助けていただいたこと。感謝しております」

提督「……そうか」

不知火「今度は、私が助ける番ですね」

提督「なに言ってやがる。俺はお前にこれまで散々助けられてるじゃねえか」

不知火「……そうでしょうか」

提督「そうだよ。感謝してるんだぜ、これでも」

不知火「……光栄です」
347 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:53:36.62 ID:6bIY/N6Ao

提督「……」

不知火「……」

提督「……なあ、不知火?」

不知火「はい」

提督「……俺は、どんな手を使ってでも、あいつらを守るつもりでいる」

提督「もし……『もしも』の事態が発生したら……頼むぞ」

不知火「……はい。そうならないことを祈ります」

提督「ああ、そうだな。まったくだ」

提督「そうならないために……俺はどんな手でも、使ってやるぜ」

提督「さて、行くか。俺たちの未来のために」

不知火「……」コク



 小型輸送艇<ザザザァァ…!





 * 「鎮守府が罠だらけ?」に続く *
348 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/31(土) 22:54:33.95 ID:6bIY/N6Ao

 * * *

 * *

 *


??『絶望が近づいている』

??『ようやく……ようやく、彼に絶望の刻が訪れる』

??『絶望が怒りを呼び、悲しみを呼び、憤りを呼べば、我らがあるじが再臨される』


??『ひとたびあるじが目覚めれば、それを慕う者たちがこの世に召喚される』

??『人間も、それを守護する艦娘も、それに仇なす深海の者どもも、等しく魔神様の糧となる……』





??「魔神様」

??「さあ、起きて」

??「人間狩りの時間だよ」



.
349 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2022/12/31(土) 22:55:34.83 ID:6bIY/N6Ao
ということで、この「墓場島鎮守府?」シリーズはここまでで完結です。

中途半端な終わり方になりますが、この続きは本編となる「鎮守府が罠だらけ?」につながっていきます。

本編も続きを書いておりますので、興味ある方はよしなにお願い致します。

数日の間はHTML化の申請はせず、質問等あれば返せる分だけ返そうと思います。

では、見てくださった皆様に感謝しつつ。
良いお年をお迎えください。
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/01(日) 13:58:43.28 ID:g/vLAdaqo
完結乙乙。本編まだ続くみたいだし楽しみにしてます
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/04(水) 03:17:07.02 ID:rLVcbFM80
来た時期が時期だから仕方ないけど
青葉の日常回少なくてすこしカナシイ…
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/04(水) 03:20:17.67 ID:rLVcbFM80
忘れてました
完結お疲れ様です 面白かったです
あけましておめでとうございます
本編の方も楽しみに待ってます
353 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 20:51:41.06 ID:ldf42oh6o
こちらのスレッドは完結しました。
移行先はこちらです。

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515056068/


関係ありませんが、自分の書いたそのほかのSSはこちらです。

【艦これ】提督「明石、下着を買いたいんだが」明石「へっ!?」
ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1486/14868/1486816166.html
【艦これ】朧「秋月型の机の上からカニ食べ放題のグルメ雑誌が見つかった」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1497974830/
【艦これ】大淀「スカートのスリットを隠せ、ですか?」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519551161/
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