【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」吹雪「その4です!」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

204 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:30:16.66 ID:gHWMKc/ro

鹿島「迅鯨さん? この手錠、使います?」ジャラッ

迅鯨「……要らないわ。そんなものがなくても、私たちは大丈夫」ニィッ

鹿島「そうでしたね。差し出がましいことをしました、ごめんなさい」ニコッ

迅鯨「さあ、行きましょ? 私たちの執務室に」ガシッ

留提督「う、うああ……た、たす、たすけ……」

鹿島「助けて? うふふっ、そうやって許しを請う女性を、あなたは何人手籠めにしたんでしたっけ?」ニタァ

留提督「……っ!」

鹿島「迅鯨さん。その人、絶対に手離さないでくださいね」

迅鯨「……ええ、勿論」ニタァ

留提督「い……嫌だ、助けて……助けてくれええ!!」

 鉄扉<ギィィ…ガジャン!

 <タスケテクレエエエエ!

 <ガジャン…!

鹿島「あーあ。行っちゃいましたね、楽しくお仕置きできるかと思ったのに」

鹿島「……さあて、それじゃあ皆さん! 教育を再開しましょうか!」クルリ

部屋にいる男たち「ひ、ひいいい!!」
205 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:31:01.55 ID:gHWMKc/ro

 * *

 鉄扉<ギィィ…

ホーネット「Com'in.」

クルー2「あ、ああ。ありがと……!?」

クルー2(なんだこの部屋……鉄アレイとかバーベルとか、めちゃくちゃ置いてあるぞ!?)

ホーネット「さて。改めて、私はホーネットよ。よろしくね」

クルー2「よ、よろしく……それにしても、すごい部屋だなあ?」

ホーネット「ここは私の部屋じゃないんだけれど、普段は……寝るとき以外はいつもここにいるわね」

クルー2「あ、ホーネットの部屋じゃないのか……ジムみたいなところか?」

ホーネット「ええ。もっとも、ここを利用しているのは私だけのようなものなのだけれど、ね」

クルー2(一緒に気持ちよく汗を流そう、って言ってたのはそういうことか……)

クルー2(いや、でも、一緒にトレーニングしていい雰囲気になれば……!)

ホーネット「そうね……それじゃさっそく、日課のトレーニングを始めようかしら。あなたもやるでしょう?」

クルー2「!?」

クルー2(冗談だろ? ウエイトリフティング用のウエイトを、フリスビーみたいにひょいひょいと……)
206 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:31:47.47 ID:gHWMKc/ro

ホーネット「どうしたの? ほら、早くこっちに来て……」

クルー2(おおお、セリフの色気がやべえ……どうせなら同じセリフをベッドの上で聞きたいぜ)

ホーネット「じゃあ、あなたはこれを使って」スッ

クルー2「え? これ、って、50キロおぉおおお!?」ズシーッ

クルー2「ちょっ、待っ……重、げほっ! と、取って! 取り除いてくれええ!!」ベシャア

ホーネット「え? この程度のウエイトに押し潰されるなんて……あなたちょっと、か弱すぎない?」ヒョイ

クルー2「げ、げほっ、げほっ……し、死ぬかと思った……」ゼーゼー

ホーネット「仕方ないわね。それじゃこっちをあげるわね」スッ

クルー2「って、ちょっと待っうぐおおおおお!?」ズシーッ ベチャ

ホーネット「えええ? 嘘でしょう? 40キロも耐えられないの?」

クルー2「こんなもんいきなり渡されても無理だ! 無理!! 殺す気か!? 俺を死なせる気か!!」

ホーネット「冗談はやめて。そんな弱さで海軍でやっていけると思ってるの? いくらなんでもひどすぎるわ」

クルー2「じょ、冗談はあんたのほうだろ!? 俺は海軍でやってくなんて一言も言ってないぞ!?」

ホーネット「……なんですって?」

クルー2「俺は軍人なんかにならねーよ! ここへも無理矢理連れてこられたんだぞ!?」
207 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:32:31.79 ID:gHWMKc/ro

クルー2「あんたも聞いてんだろ!? 俺たちは、新しい艦娘のモニターになれって言われただけなんだ!」

クルー2「それなのに、勝手に提督になったことにされて……なんでこんなバカみたいなトレーニングをさせられなきゃなんないんだ!」

ホーネット「……」

クルー2「そういうのは正式に海軍に入ったやつにやってくれよ! 俺は違うんだぞ!」

ホーネット「あなた、それ、本気で言ってるの……?」ザワッ

クルー2「ああ本気だよ!!」

ホーネット「……それじゃ、あなたは一体何者なの?」ザワザワザワッ

クルー2(な、なんだ!? ホーネットの髪の毛が逆立って……なんだこの息苦しさは?)

ホーネット「やっと、私の提督が見つかったと思ったのに……あなたは、この海を守ろうというつもりはないの?」ギンッ

クルー2「そ、そんなものは艦娘が自主的にやってくれよ! もういいだろ!? 早く家に帰してくれ!!」

ホーネット「……ふざけないで……!」

クルー2(な、なんだ……!? ホーネットがどんどん青ざめて……背後に、でかくて透明な魚のような……鯨!?)

ホーネット「そんな軟弱な人間に……私は……ワたシは……!!」

ホーネット「ア、アぁあア……二度ト、何者ニも負けナイタめニ、ワタシハ……アァァアアアア!!」ゴォッ!

クルー2「ひぐっ!?」ビクッ

クルー2(い、息ができない……!? なんなんだこの、体全体を押し潰すような圧力は……!)グラッ
208 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:33:20.22 ID:gHWMKc/ro

クルー2(……体が動かないし、うすら寒いのに汗が止まらない……重たい……!!)ベタッ

ホーネット?「……オ、マエ、ハ……」ジャキッ

 (土下座のような恰好でうずくまるクルー2の頭に艤装の銃口を突き付けるホーネット)

ホーネット?「答エロ……オマエハ、提督デハ、ナイノカ?」

クルー2(これ……嘘でもいいから、提督だって言わないと……俺、殺されるんじゃ……?)

クルー2「……っぐ、う……」

クルー2(駄目だ、息が……体が重くて顔も上げられない……)

ホーネット?「答エラレナイノナラ……」

クルー2(もう、駄目……だ……)


 ドパァン!!

 ビチャッ ビチャビチャッ


クルー2(……)

クルー2(……)

クルー2「あ、あれ……?」
209 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:34:01.82 ID:gHWMKc/ro

クルー2「体が……動く!?」

クルー2「な、なにがあったん……」ミアゲ

 (クルー2に銃口を向けたまま仁王立ちしているホーネットの頭の上半分が吹き飛んでいる)

クルー2「ひ!?」

 (力を失ったホーネットの手からライフルが落ちて、ガシャンと重い音を立てる)

 (それとともに、ホーネットの身躯がぐらりと傾いて)

クルー2「う……ぁ」

 ドチャァ! (クルー2のほうへ前のめりに倒れこむ)

クルー2「っっ!!」クチヲパクパク

クルー2「」

クルー2「」

クルー2「」

クルー2「」バタッ
210 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:34:46.46 ID:gHWMKc/ro

 * ??? モニタールーム *

 (気絶したクルー2の姿を映すモニターを、研究者風の男性3人が眺めている)

眼鏡の男「やれやれ。なかなかうまくいかないもんだな……」

白衣の男「いきなり頭がぶっ飛んだな。何か仕込んでたのか?」

眼鏡の男「対象に対する反抗心が一定以上になったときに、頭部を破壊するよう爆弾を埋め込んである」

スーツの男「なあ、あのサンプル俺にくれよ。深海化した艦娘のサンプルなんて貴重なもの、捨てるとか言ったりしないよな?」

眼鏡の男「好きにしてくれ。俺もあの個体がなんで深海化したのか、原因を知りたい」

スーツの男「っしゃあ! まあ任せとけ、こいつを足掛かりに一気に仕組みを解明してやるぜ」

白衣の男「それにしても、だ。まだ特別海域でも発見できていない、未知の艦娘の建造なんて、結構な成果じゃないか」

眼鏡の男「ガワができたってだけだ。先行して建造できても、生まれてくるのが頭のおかしい欠陥品じゃ意味がない」

眼鏡の男「連中にあてがった試作型も、これまでの失敗作を元にセッティングしたんだが、どうもな……」

白衣の男「金髪以外も問題があるのか?」

眼鏡の男「いろいろ設定を誤った。もともとの性格がわからないから、初期設定を誤ると暴走しやすくなるんだ」

スーツの男「そういうもんなのか?」
211 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:35:46.67 ID:gHWMKc/ro

眼鏡の男「例えばあの小さい艦娘だが、ああいうタイプはどこまで精神を大人にしてやるかの調整が難しい」

眼鏡の男「性格の設定を幼くし過ぎるということを聞かないし、大人っぽくすれば今回みたいにただのマセガキになる」

スーツの男「なるほど……」

眼鏡の男「黒髪のやつは、命令をきくように、設定を『提督』への好意に振ったんだが、どうも偏らせすぎたみたいで逆に危うくなった」

眼鏡の男「金髪のやつは、黒髪のやつの失敗をもとに、逆に好意を抑えて任務に備えさせるように設定したんだが、まああの有様だ」

白衣の男「……忠誠心を減らしすぎた、ってところか?」

眼鏡の男「そうだな。貴重なサンプルではあるが、外部からの『お客様』を怪我させるわけにもいかないし、爆殺処分もやむなし、と」

スーツの男「青い髪のやつは?」

眼鏡の男「あれは試験的に『提督』と認めた対象の脳波を読み取る能力を備えさせた実験作だ」

眼鏡の男「見た目が陰気臭そうな雰囲気の個体だったから、少し積極的にかかわらせようと思ったんだが、それも裏目になった」

スーツの男「なるほどねえ……個体の性格なんて見た目からなんてわかんねえしな。そういう話なら、俺たちだって失敗してただろうよ」

スーツの男「とはいえ……本当に良く見つけたもんだ。輸送ワ級が艦の魂を運搬してるとか、聞いただけだと意味が分からなかったぞ」

眼鏡の男「あのワ級が珍しいサンプルだったからな。これまでよりも慎重に調査したら、見たことのない分析結果が出てきてくれただけだ」

白衣の男「かつての軍艦の因子を海底からサルベージして、深海勢力として利用する……か」

スーツの男「因子というか、艦の魂というか、深海棲艦や艦娘を構成する核のようなものだった、と……」
212 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:36:32.05 ID:gHWMKc/ro

白衣の男「ワ級がその因子を運搬することで、海域的に無関係なはずの艦娘がそこに現れる、か。説としても面白いな」

眼鏡の男「とにかく、形を作るところまではできている。あとは中身……従順さだ」

眼鏡の男「無条件に人間に平伏して体を差し出すくらいのサンプルを作れないと、売り物にもならないしお前らの研究にも使えないだろう?」

白衣の男「まあな。そのレベルで協力的なモルモットができてくれれば、俺としてもありがたい」

スーツの男「その『設定』ってのは、今はどうしてるんだ?」

眼鏡の男「建造中の人口音声による刷り込みだ。今はそれである程度はいじれているが、これ以上何をすればいいのかわからなくてな」

眼鏡の男「艦娘を率いている現職の提督の音声も使ったりしているが、それでも、対象に適度な好意を抱くように、と言うのが難しい」

眼鏡の男「設定にしくじると、エゴの強すぎる個体ができることが多くて、使い物にならないんだ」

スーツの男「かといってその設定を控えめにすると、今度は対象に対して暴力をふるうようになるってか」

眼鏡の男「ああ、さっきの金髪みたいにな」

スーツの男「微調整が難しい、か。そいつはどうしたもんかな……」

白衣の男「……あまり、気が進まないんだが……」

眼鏡の男「なんだ?」

白衣の男「この前告発された、洗脳ツールがあっただろう。妖精の音声の波長を利用したとかいう……」

スーツの男「ああ、あったな、そういえば」
213 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:37:16.84 ID:gHWMKc/ro

白衣の男「妖精なんて目にも見えないもの、俺は信じたくはないんだが……そのツールが使った音を利用する、というのはどうだ」

眼鏡の男「……悪くないな。試してみる価値はありそうだ」

白衣の男「聞いたどころか見たこともない妖精の声なんて不確かなもの、個人的には勧めたくないが……」

スーツの男「だが艦娘を洗脳できてる実績はあるからな。俺も見たことがないから言うが、本当に妖精なんているのか?」

眼鏡の男「一部の人間には妖精の姿が見えるらしいぞ。血縁が海軍の関係者だったり、今の『提督』や関係者の子供だったり……」

眼鏡の男「もともとの艦船や、艦娘に関わることが多い人間の縁者に、その兆候が良く見られるそうだ」

スーツの男「そうなのか? だったら俺たちにも見えてくれて良さそうなもんだが」

白衣の男「やめてくれ。俺たちに妖精が見えたら、俺たちが研究材料にされちまう」

スーツの男「ハハッ、確かにそりゃ勘弁だ」

眼鏡の男「海軍はそういった人間を『提督』に据えているわけだが、妖精の声が聞こえるのは、さらにその中の一握り、稀有な存在と言われている」

眼鏡の男「どんなやつなのか、一度お目にかかってみたいものだが……」

白衣の男「ああ、できれば数体連れてきて欲しいな」

スーツの男「で……結局、妖精の存在は疑わしいが、否定はできない、ってことか?」

眼鏡の男「その認識でいいだろう。じゃなきゃ、この施設内に妖精感知センサーなんてものがついたりしていないからな」

白衣の男「どこまで役に立っているのか、わかったもんじゃないがな……」
214 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:38:01.64 ID:gHWMKc/ro

眼鏡の男「とにかく試してみるか。意外と良い方法かもしれない」

 ピピピッ

眼鏡の男「ん? ……何のメールだ?」

 ピッ

眼鏡の男「お、新しい余剰品の入荷の目途が立ったようだぞ」

スーツの男「おお、やっとか!」

白衣の男「この前送られてきた分もそろそろ在庫切れになりそうだったし、助かる。今度はどこのだ?」

眼鏡の男「呉で左遷される奴の艦娘がフリーになるそうだ。生憎と珍しい艦娘は引き抜かれてるが、数はそこそこ揃うらしい」

スーツの男「借金が原因じゃねえだろうな? この前の連中みたいに借金のかたがどうのこうのみたいな三文芝居見せられるのは御免だぞ」

眼鏡の男「今回は純粋に不始末らしいな。そこの提督が駆逐艦娘と駆け落ちを狙ってたらしい」

白衣の男「おやおや……幼女趣味とは業が深いな?」

眼鏡の男「どこの国も同じようなもんさ。日本はそれでもまだマシな方だが……」

スーツの男「へっ、そいつぁどうかねえ?」

 ポチッ

スピーカー『うふふ……こんなところを踏まれて、嬉しいんですか?』

スピーカー『ふおおおお!? ありがとうございますぅぅ!』
215 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:38:46.51 ID:gHWMKc/ro

スピーカー『危険ですね……こっちは、もっと危険……!』

スピーカー『あっ!? ああ、ああああぁぁぁあ!?』

スピーカー『危険がいっぱい……うふふふ……』

 ポチッ

スーツの男「ぶははは、駄目じゃねえか」

眼鏡の男「ふざけてるようならお前に艦娘は回さないぞ?」

スーツの男「んくく、すまんすまん……ひひっ」

白衣の男「ま、見捨てられた艦娘なら、扱いやすいだろう。観念もしてるだろうしな」

眼鏡の男「ただでさえ、解体やら近代化改修やらでなかなかこっちに艦娘を回してもらえないからな。有効利用しろよ?」

白衣の男「ああ。次にいつ来るか、わかった物じゃないしな」

スーツの男「そういや、お前の作ったあの失敗作、いつ処分するんだ? このまま使い続けるわけじゃないんだろ?」

眼鏡の男「ああ、だいたい一か月か二か月ってとこだな。今回の客もそのくらいで帰すらしい」

スーツの男「あの客ども、依存して離れられなくなったりしないか?」

眼鏡の男「解体して首だけにでもなった姿を見せてやりゃあ目も覚めるだろう」

眼鏡の男「所詮は作り物だ、作り物でいいって言うならダッチワイフと結婚すりゃあいい」

スーツの男「あの銀髪は?」

眼鏡の男「鹿島か? しばらくはあの役割で使い続けるつもりだ。珍しく俺の言うことなら何でも従う成功例だしな」

スーツの男「へえ……なんでもするのか」

眼鏡の男「ああ、豚の真似も喜んでやるくらいだ、死ねと言えば喜んで死ぬだろうな。ただ、俺以外の人間の指示はまったく受け付けん」

眼鏡の男「俺以外の命令も聞くような個体が量産できなきゃ意味がない。その開発ができるまでは、せいぜい有効利用させてもらうさ」
216 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:40:02.84 ID:gHWMKc/ro

 * J少将鎮守府 執務室 *

K中佐「……報告は以上になります」

J少将「ほう……新造した艦娘が深海棲艦になったと」

K中佐「はい」

J少将「では、人為的に艦娘を深海棲艦にすることも可能である、と言えるわけだな」

K中佐「はい。できるはずだ、と」

J少将「そうか。ようやく、光明が差したか」

K中佐「……」コク

 (海の見える窓の前に立ち、水平線を眺めるJ少将)

J少将「ふふ……ふふふふ!」ニヤリ…

J少将「この海は我々が護ってきたものだ。あんな小娘もどきや、化け物どもに、誰が譲ってやるものか……!」ググッ

K中佐「……! 閣下、失礼を……!」スッ

J少将「どうした」

K中佐「今、海に何者かが……!」

J少将「なんだと!? あれは……艦娘か? 勝手に海を出て、なにをしているか……!」

K中佐「至急確認致します」クルッ タッ

J少将「ん、任せる」

 チャッ パタン

J少将「……」

J少将「……」

J少将「見せしめが……要るか」ギリッ
217 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/08/27(土) 11:41:01.65 ID:gHWMKc/ro
と言うわけで今回はここまで。
笑いながらおぞましい話をする狂った悪役を描くのは楽しいですねえ!


J少将や研究者たちの話を覚えてない方は、
こちらのその2スレの374あたりからをご参照ください。
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529758293/374
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/08/28(日) 14:15:33.32 ID:cGtLK6c80
乙です。イカれ具合ハンパないねJ少将
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/08/31(水) 11:05:44.36 ID:JwobcyOg0
次墓場島来るの誰かなーと罠だらけと並べて読んでます
220 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:30:13.87 ID:IsSLY4A+o
今回はちょっと閑話休題的なお話です。

続きです。
221 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:31:02.63 ID:IsSLY4A+o

 * 2か月後 *

 * 墓場島 執務室 *

提督「……」カリカリ(←書類整理中)

千歳「……」カリカリ(←書類整理中)

敷波「……」(←ソファで読書中)

提督「んー……っ」ノビーッ

千歳「お疲れ様です、提督」

提督「少ないとはいえ、やっぱ書類仕事は体が固まっていけねえな……」ウデヲグルグル

千歳「提督は、執務中にお茶とかお召し上がりにならないんですか?」

提督「まあな。特に飲む習慣もないし、年中夏みたいな気候だし。どうせ氷で薄まるなら水でいいか、ってな」

千歳「それで水筒に氷水なんですか。せっかくの秘書艦ですし、張り切ってお茶くみしようと思ってたんですけれど」

提督「いや、別に気にしなくていいぞ?」

千歳「いえいえ、気にしますよ? この鎮守府の最高司令官であるあなたに気持ちよくお仕事をしていただいて……」

千歳「そして一番いいパフォーマンスを発揮できるようにサポートするのが、秘書のお仕事だと思っていますので」

千歳「あなたが艦娘のみんなに対して普段からしていることと同じです。そのくらいはサービスしますよ?」
222 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:31:47.41 ID:IsSLY4A+o

敷波「そうやって気を使われたり、お世話されたりするのが苦手だもんね、司令官って」

千歳「あら、そうなの?」

敷波「そうだよ。むしろ艦娘の誰かの役に立とうとしてる時のほうが、司令官はやる気出てる感じだしね」

敷波「あとは、例えば司令官は渋めのお茶とか好きなんだけど、それだと出してくれた人も同じお茶を飲むわけじゃない?」

敷波「でも、駆逐艦の子なんかは渋いお茶が好きな子、少ないでしょ? 自分の好みを押し付けたくなくて、遠慮してるんだよ」

千歳「あらあら。そうなんですか?」

提督「……まあ、そうだな……」

敷波「そういえば。司令官ってさ、食べ物は薄味が好きなのに、お茶やコーヒーは渋めとか濃いめが好きって、どうなの?」

千歳「うーん、食べ物は口の中に残るけど、飲み物はすぐに通っていくから、とかかしら?」

敷波「あ、それ、なんか納得できるかも」

千歳「それで加古に酔い潰されたんでしたよね? 薄まるのが嫌だからってストレートのウイスキー飲んで」ニヤリ

提督「……まあな……」ハァ…

千歳「どうせなら私ともご一緒してくださいませんか? 良かったら今晩にでも……」

提督「俺は下戸だっつってんだろ。また酔い潰されるのは御免だ」

千歳「もう、つれないですね。頑固なんだから」
223 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:32:32.05 ID:IsSLY4A+o

 扉<コンコン

電「失礼します! 司令官さん、長門さんたちから海域の突破に成功したとの連絡が入ったのです!!」ガチャー

提督「ん……! 全員無事か?」

電「はい! 古鷹さんが中破した以外は、皆さん損傷軽微と聞いているのです!」

提督「よし、若葉がいるから大丈夫だと思うが、油断せずに気を付けて帰ってくるよう伝えてくれ」

提督「それから明石と、厨房にも連絡頼むぞ。いい知らせだ、いいもの用意して待っててやらないとな」

電「了解なのです!」ビシッ

 タタッ パタン

提督「……そういや、新しい海域の突破も久し振りだな」

敷波「千歳さんが発破掛けてくれたおかげだね」

千歳「そうかしら? この鎮守府の艦娘のみんなの力なら、突破自体は私が言わなくてもできてたと思うけど?」

敷波「そこは司令官が過保護だからねー」

提督「過保護? どこがだよ」

敷波「過保護だよ? さっきのお茶の話とかもそうだし、普段から私たちに自由にやらせたいって感じがすっごいし」

敷波「出撃も最低限でいいって言うし、私たちってばこれ以上なく好きにやらせてるじゃない?」
224 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:33:16.56 ID:IsSLY4A+o

千歳「そうね、規律って意味では、ここって甘々のゆるゆるよね。提督、少し甘やかしすぎじゃありません?」

提督「……そうか?」

千歳「そうですよ? 海域の攻略をほったらかして、艦娘に好きにさせてる鎮守府なんて、そうそうありませんよ?」

千歳「波大尉もそういうところがあったから、ときどきつついてあげないといけなかったんですよね」

敷波「波大尉……って、千歳さんが前にいた鎮守府の司令官?」

千歳「そうそう。民間からいきなり連れてこられた人だから、軍隊のぐの字もわからない人だったのは仕方ないんだけれど……」

千歳「民間から来た人たちって、とにかく被害を出すのを嫌がるのよ。小破してもすぐ引き返して修理、みたいな運用する人が多くって」

千歳「だから、これくらいなら行けますよ! って感じの指針を示してあげて、少し強引なくらいに引っ張ってあげないと駄目だったのよね」

千歳「そういう意味では私たちのことをすごく心配してくれてたのよね〜。懐かしいなあ、ふふっ」

敷波「あー……そっか、この鎮守府、前に出て引っ張ってく感じの人が少ないんだ」

敷波「朧や吹雪はやる気あるほうだけど、意外と司令官の言うこと素直に聞いちゃうし」

敷波「長門さんとか龍驤さんとかも、やると決まったら勢い付くんだけど、意外と慎重派で腰が重たいんだよねー」

敷波「若葉とか五月雨は、どっちかというと海域の解放より自分の練度を上げるほうが優先度高いし。川内さんもそういうとこあるかな?」

敷波「あとは、最近入った五十鈴さんや那智さんもやる気出してるけど、もともと新しい海域へ挑める練度じゃないみたいだし」

敷波「今までいなかったんだよ、千歳さんみたいにここへ行きましょう! って言ってくれる人」

千歳「うーん……これはある意味、問題ね」
225 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:34:16.47 ID:IsSLY4A+o

敷波「まあ、司令官の考えもわかるんだけどさ。海域を順調に突破しすぎると、上に目を付けられるのが嫌だ、とか?」

敷波「ル級さんが知り合いだから、余所の海域とはいえ同じ顔の深海勢力を倒すのがちょっと気が引ける、とか」

千歳「そうなんですか?」

提督「……まあ、否定はしねえよ。けど、新しいチャレンジってのも必要ではあるからな」

提督「いつまでも一歩引いたところで見物しちゃいられねえ、とは思ってるさ」

提督「長門が慎重なのも、下手にうちの懐事情を知ってるせいで、試しに突っ込んで資材を無駄にしたくないと思ってるせいだな」

提督「足柄と隼鷹が経験があって協力的だし、行けそうだって確信が持てそうなら長門も遠慮しねえだろう」

提督「龍驤が気にかけてる艦載機の問題も、千歳と隼鷹のおかげで解消でき始めているし……」

提督「お前たちの後押しのおかげで、霧島や鳥海が新海域の攻略と解析にやる気を出してるのもいい傾向だ」

提督「なんだかんだで千歳たちが入ってくれたおかげで、艦隊に新しい活力が生まれたのは確かだ。そこはありがたいと思ってる」

千歳「あら、そうですか? ふふふ、そう言っていただけると光栄です」

提督「ただな、嬉しいことがあるとすぐに酒飲みに誘うとこは何とかなんねえのか」ハァ…

千歳「ん−、そこは私が可能な限り善処しますね」ウフフ

敷波(あ、これ絶対やらないやつだ)

 …タッタッタッ

足柄「入るわね!」ガチャー
226 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:35:01.30 ID:IsSLY4A+o

千歳「足柄!?」

足柄「みんな、これ見て、これ! この週刊誌の記事!」バサッ

千歳「どうしたの、ノックもなしにそんなに慌てて……」

提督「んん……なに? 『留父氏、芸能界を電撃引退』……?」

千歳「この人がどうかしたの?」

足柄「忘れたの!? 私たちと一緒に来てた芸能人の一日提督の留提督! あの人のお父さんよ!!」

千歳「えええ!? この人が!?」

提督「……なんか、見たことあるな。映画とかテレビのCMとかで見た記憶がある」

敷波「え、司令官、映画館とか行ったことあるの?」

提督「映画館の前のポスターに、こいつの顔がでかでかと出てたんだよ。別に入って見たわけじゃねえ」

敷波「なーんだ」

提督「けど、随分老けた感じがするな? 俺が最後に見たのが3年前としても、頭が真っ白じゃねえか」

千歳「そうね、少し前は真っ黒だったんだけど、染めてたのかしら」
227 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:36:01.97 ID:IsSLY4A+o

足柄「それよりも! 下のほうに留提督のことが書いてあるのよ! ほら、ここ!」

千歳「……はあ? 書類送検!? ……3年前に婦女暴行!?」

足柄「息子の不祥事に激怒して遺産相続はさせず、留父氏は所有する財産を海軍と病院に寄付だって」

提督「ふーん……ま、どうでもいいな」

足柄「いいの!?」

提督「もう関わることのねえ他人だからな。今更どうなろうと、どうでもいいさ」

足柄「うーん、提督にはさほど重要じゃなかったみたいね?」

提督「ま、あの馬鹿が二度と来ることがなさそうな状況だってことが分かったのはいいニュースだな。わざわざ悪いな」

足柄「ええ、とりあえず報告は以上よ! それじゃ、荷下ろしに戻るわね!」

 タタタタ…

提督「……こういう週刊誌、まともにこうやって見るのは初めてだな」ペラリ

千歳「お嫌いですか?」

提督「好きとは言えねえな。面白けりゃ何を書いてもいいって考えてる奴らが作った本だからなあ」

提督「中には事実も確かめずに、憶測か妄想書き散らしただけの自己満記事もあるっつうしな。そんなもんに金なんか出したかねえ」

千歳「ふむふむ、そうですか」
228 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:37:02.27 ID:IsSLY4A+o

敷波「……」ペラリペラリ

記事『特集 政治とカネ 艦娘の裏で蠢く巨額の政治資金の行方』

記事『……艦娘は「提督」と呼ばれる特定の能力を持つ人間によって指揮されており……』

記事『能力を持った提督を引き入れるため、多額の賄賂を支払ったと言われる■■議員は……』

敷波「……」ペラリ

記事『少女に迫る魔の手! 現代人が背負った屈折した心の闇』

記事『……先週、少女誘拐の容疑で逮捕された自称テレビカメラマンの〇〇容疑者は……』

記事『警察の調べに対し「小さい女の子に踏んで欲しかった」などと供述しており……』

敷波「……」ペラリ

記事『ついに脱いだ! 美しすぎる美少女アイドル△△のヌード解禁!!』

敷波「うへえ……」ペラリ

敷波「……こんなの、どこがおもしろいんだろ。不祥事とか犯罪とか嫌なことばっかじゃん」ポイ

千歳「政治家さんは結構気にするみたいよ? こういう本から不祥事を追及して、敵対組織の要職の幹部を攻撃したりね」

敷波「ふーん……」

提督「その手の雑誌は、人間の悪意を集めて煮詰めた毒みたいなもんだ。俺は読むのはおすすめしねえぞ」

千歳「世の中の動向を見るのには丁度いいかと思ったんですけど」

提督「事実だけ書いてありゃあいいんだよ、余計な味付けはいらねえんだ。そう言う点でも新聞の方がましだな」ハァ

敷波「そうだね……そもそも、司令官はこういうの嫌いだもんね」ヌードページペラリ

提督「ああ、鼻くそも出ねえな」

千歳「さすがに二人とも達観しすぎじゃないかしら」タラリ
229 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:37:46.28 ID:IsSLY4A+o

 * 提督の私室 *

初雪「……」スヤァ…

 扉<キィ…

加古「んぉ? 先客がいる」

 タイマー<ピロピロピーー ピロピロピーー

加古「うおっ」

初雪「……んう……」ムクッ

加古「あー、びっくりした。目覚まし付けてたの?」

初雪「ん……おはようございます……それ、なに?」メヲコスリコスリ

加古「あー、これ? 抱き枕だよ〜」

加古「この抱き枕と一緒に、ここにあるベッドのシングルサイズを買ってもらったんだけど、こっちだけ先に届いちゃってさあ」

加古「だから抱き枕の使い心地を、こっちのベッドで試そうと思ってさ……ふわあぁ……お邪魔していい?」

初雪「うん……それじゃ、私は戻る……ごゆっくり」

加古「うん、ありがとねー。おやすみぃぃ……」ゴローン

加古「……すぴー……」

初雪(寝るの早すぎ……)タラリ
230 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:38:31.73 ID:IsSLY4A+o

 * 入渠ドック *

利根「……すまんな、明石」

明石「いえいえ。これはまあ仕方ないことですよ」チラリ

利根「うむ……」チラリ

隣の医務室で鼻に詰め物されてベッドに寝かされている筑摩「うふ、うふふふ……」

明石「で? 利根さん今度は何をしたんです?」

利根「それが……吾輩がちょっとよろけたところを、筑摩が支えようとして、その結果勢いよく抱き着いてしまっただけである」

明石「それだけですか?」

利根「うむ。それで筑摩が鼻血を噴き出して気絶したんじゃ。出会った時の筑摩からは想像できん有様で、正直戸惑っておる」

明石「ですねえ……利根さんに対する免疫力が、どうしようもないくらいに駄々下がりって感じですね」タラリ

明石「そういう利根さんは大丈夫ですか? 筑摩さんから、怪しい視線を感じたりしてません?」

利根「むう……時折、筑摩からそういう視線を感じることはあるが……なんというか、吾輩が怖いと感じる視線ではないな」

利根「吾輩をどうにかしたい、という目つきから、何かされるのを待ち望んでいるような目つきになったというか……」

利根「ただ、吾輩と向き合うときには、そういう目つきが消えておる。相当に我慢してくれているようじゃな……」
231 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:39:16.48 ID:IsSLY4A+o

明石「ということは、その我慢している影響で、利根さんの接触が嬉しくて仕方ない、という感じなんですかね?」

利根「かもしれんなあ……なんだか筑摩に無理を強いているようで、申し訳がないな」

明石「でも、それを許してしまうと今度は利根さんがおかしくなっちゃうんですから。自衛のためにも仕方ないことですよ」

明石「筑摩さんのせいで利根さんが壊れるのも、逆に筑摩さんのせいで利根さんが壊れるのも、みんな望んでいないでしょうからね」

利根「うむ……」

明石「それからついでにのお話なんですが。利根さんの火傷跡の治療、これ以上はなかなか難しくて……」

利根「以前話していた、特殊メイクみたいになる、という話だったか」

明石「そうですねえ。利根さんの場合、患部が、その……アソコとかじゃないですか。そういうもので全部覆い隠すわけにもいかないんですよ」

利根「……実は、吾輩も今、とある治療法を試しておる。生活習慣のようなものなのじゃが……」

明石「えっ!?」

利根「これをやることによって自然治癒を促すという、ごくごく自然的な方法を試しておるんじゃ」

明石「そんな治療法が!? い、いったいどんな治療法なんですか!?」

利根「今、吾輩は下帯を履いておらんのだ」

明石「」
232 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:40:01.68 ID:IsSLY4A+o

利根「胸のさらしは外しておらんが、あの火傷の跡を風にさらすことで免疫力を高められまいかと思って、数日前から試しておる」

明石「」

利根「腹も圧迫されんし、思いのほか快適での。当面はこのままで過ごそうと思っておる」

明石「」

利根「明石?」

明石「……下帯、って……」

利根「俗に言う、褌のことであるな」

明石「つまり、はいてない、と」

利根「うむ」

明石「……いえ、いいんですけどね……?」アタマオサエ

利根「ちなみに先日、提督にも見てもらったが、以前よりだいぶ良くなったと言ってくれた。これも明石のおかげである」

明石「提督に見せたんですか」

利根「うむ。これまでも何度か見せておる」

明石「何度か?」

利根「そのたびに眉間にしわを寄せてはいたが、今回は割と良い反応が……む? どうしたんじゃ」

明石「……いえ、いいんですけどねぇ……?」アタマカカエ
233 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:40:46.28 ID:IsSLY4A+o

 * 墓場島 埠頭 *

武蔵「……」ボロッ

長門「ル級、お前、また強くなったか?」

ル級「ソウ思ウ? オ前タチトハ何度モ演習シテイルカラネ。動キモ良クナッテ当然ダト思ウケド」フフッ

那智「謙遜かもしれないが、深海の戦艦はあんなに動けるのか? これでは砲撃を当てられる自信がないぞ」

長門「いや、あの動きができるのは、ここのル級だけだろう。外海の戦艦はもっと動きが緩慢というか、雑だからな」

鳥海「そうですね。私の計算外の動きをしていました」

ル級「伊達ニ長生キシテイナイカラネ」

武蔵「……ん? というと、お前たちは基本的に短命なのか?」

ル級「ソウネエ。私ガ知ル限リハ、発生シテ、スグ沈メラレル艦ノ方ガ多イカモシレナイ」

ル級「遠方ノ海ニハ、モット長生キシテイル艦ガイルト聞イテイルケレド。例エバ、オ前タチガ『鬼』ヤ『姫』ト呼ヨブ艦タチトカネ」

那智「そいつらはこちらに攻めてこないのか?」

ル級「ソレハ聞イタコトガナイ。深海棲艦ハ、自分ノ縄張リヲ大事ニスルカラ、塒ヲ放棄シテ移動スルナンテ、ナカナカナイハズヨ?」
234 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:41:31.71 ID:IsSLY4A+o

鳥海「なるほど……ということは、鎮守府近海の深海棲艦が弱いのは、私たちが見つけ次第駆逐しているからかもしれませんね」

鳥海「そうなると、仮に近海であっても戦闘せずに放置した場合、力を蓄えて強くなる可能性が……」

ル級「戦ワナイデ強クナル、トイウノハ、チョット疑ワシイト思ウケド?」

鳥海「そ、そうですか? 遠方の海域の深海棲艦が強い説明になるかと思ったんですが……」

那智「人の手が入りにくいせい……だとしても、それだと戦う回数がそもそも少ないという話になるか。説明しづらいな」

長門「ル級はもともと東オリョール海にいたんだったな?」

ル級「ソウネ」

長門「北方や南方には姫級がいると聞いているが、そちらに行ったことがないとすれば、ル級が知らないのも無理はないか」

武蔵「構わんさ。我々が力をつけて見に行けばいい話だ、まさかル級に見て来いと言うわけにもいくまいよ」

鳥海「そうですね。演習相手にまでなっていただける深海棲艦さんに、そのようなお願いはいささか厚かましいかと」

那智「そうだな……」

ル級(別ニ行ッテモイイケドネ。興味アルシ)
235 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/09/09(金) 21:42:22.91 ID:IsSLY4A+o
今回はここまで。

ちょっとこちらの続きが書けてないので、
次の投下までは少し時間がかかりそうです。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/11(日) 11:46:48.17 ID:W40hLX/40
乙です。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/07(金) 05:47:32.61 ID:oITLXswV0
お待ちしてます。
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/07(金) 19:17:19.05 ID:TLpEPjzC0
sageてやるぜ
239 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 19:57:33.52 ID:KkxFXQkAo
やっと書けた!(陽炎並感想)

続きです。
240 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 19:58:17.83 ID:KkxFXQkAo

 * 別のある日 *

 * 休憩室 *

雲龍「……」

黒潮「……んふっ」

龍驤「……ぷくくっ」

 DVDプレーヤー<ゴメンクサイ! コラマタクサイ!

黒潮「く、くくっ」

龍驤「ふひっ」

 DVDプレーヤー<ワシャトマルトシヌンジャアア!

黒潮「ふひー!」

龍驤「うはははは!」

雲龍「……?」

吹雪「あれっ、今日はDVD鑑賞会ですか?」コヅツミカカエ

雲龍「ええ。笑い声で少しうるさくなるだろうから、このお部屋を借りてたの」
241 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 19:59:01.98 ID:KkxFXQkAo

雲龍「だけど、私にはちょっと意味が分からなくて」クビカシゲ

吹雪「お笑いのツボが違うんですかね……」

雲龍「でも、龍驤たちは楽しめてるみたいだし」ニコ

雲龍「……飲み物、持ってこようかしら」スクッ

吹雪「……」チラッ

 *

雲龍「……あら?」

 DVDプレーヤー<モガケバモガクホドクイコンデイクンヤー!

吹雪「ぷふーっ!」

黒潮「あっはっはっは!」

龍驤「ひー、ひー……!」

雲龍「吹雪はわかるのね。羨ましいわ」フフッ

 小包<オイテキボリデス

雲龍「……これ、大淀宛てね。代わりに持っていくわね」ヒョイ
242 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 19:59:47.80 ID:KkxFXQkAo

 * 通信室 *

大淀「届けてくださったんですか、わざわざありがとうございます」

雲龍「吹雪が持ってきたんだけど、途中で用事ができちゃったから」ニコ

大淀「そうでしたか。確か彼女も非番でしたね、あとでお礼を言っておきますね」ガサガサ

雲龍「……本を頼んだの?」

大淀「はい、有名棋士の指南本です。L大尉がこちらに来ることができなくなったと仰っていましたが、私はリベンジするつもりですので!」フンス!

 ドタドタドタ…

雲龍「あら?」

吹雪「ごめんなさああああい!!」キキーッ

大淀「吹雪さん? どうしたんですか?」

吹雪「ごめんなさい大淀さん! 私、大淀さん宛ての小包を……」

雲龍「それなら私が届けたわ」

吹雪「ズコー!?」ズデーン

大淀「!?」

雲龍「吹雪? 大丈夫?」
243 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:00:31.87 ID:KkxFXQkAo

吹雪「あ、いえ、大丈夫です! じゃなくって! 雲龍さんすみません! 本当が私が頼まれてたのに……!」

雲龍「構わないわ。面白かったんでしょう? あのDVD」

吹雪「は、はい……!」

雲龍「非番なのはお互い様だから。次からは、用事が済んでから、一緒に見てあげて」

吹雪「はいっ!! すみませんでした!!」ペコッ

 タタタ…

雲龍「……うーん」クビカシゲ

大淀「どうしました?」

雲龍「吹雪が『図工』って言って倒れてたでしょ。あれはなにかと思って」

大淀「あ、ああ……あの、雲龍さん? さっき、吹雪さんがDVDを見てたって言いましたけど」

大淀「もしかして、龍驤さんが買ったお笑いのDVDですか?」

雲龍「ええ、そうよ。龍驤と黒潮が見てたの」

大淀「ああ……それであのリアクションですか」

雲龍「?」
244 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:01:17.23 ID:KkxFXQkAo

 * また別の日 *

 * 執務室 *

伊8「……」ムスッ

提督「……」

龍驤「伊8はどないしたん?」

伊8「提督が、はっちゃんと一緒に温泉に入ってくれません」

龍驤「いや、それは普通やったらあかんやつやん」

雲龍「如月たちがいたら大変なことになってるわね」

提督「はっちゃんには、体にタオルを巻けって言ってんだけどな」

龍驤「巻いてへんのかい! もっとあかんやんか!」

雲龍「大胆」

伊8「タオルを湯船に入れてはいけません」

龍驤「いや、さすがに提督と入るんなら巻いときや? ちゃんと隠さんと」

雲龍「そうね。女性同士ならともかく、男性と入るとしたらそのほうがいいんじゃないかしら」
245 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:02:02.50 ID:KkxFXQkAo

伊8「提督とは何かあってもいいんです」

龍驤「……ああ、むしろそういうのを望んでるんか」

雲龍「それならタオルは無粋ね」

提督「お前ら速攻で掌返してんじゃねえよ」タラリ

伊8「そういうわけですから、提督ははっちゃんとお風呂に入ってください」

提督「……これまで3回くらい入っただろ……」

伊8「全然足りません。最上さんと三隈さんなんか、この短い間に温泉に10回くらい入ってます」

龍驤「え、そんなに入ってるんか」

提督「あいつらは仲が良いからいいだろ……そもそも最上が温泉好きだしな」

龍驤「あの温泉、最上たちが訓練中に見つけたんやっけ?」

提督「ああ。航空巡洋艦になって水上機が運用できるようになったから、って、飛ばしまくってたら見つけたって」

提督「だから作ったはっちゃんを呼び出して、他の艦娘が使っていいかを相談したわけだが……」

伊8「はっちゃん、あんなに大人気になるなんて思ってませんでした」

雲龍「ああいうプライベート空間って、大事よ」
246 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:02:47.11 ID:KkxFXQkAo

龍驤「ある意味、この島唯一の観光地みたいなもんやしなあ」

雲龍「私たちもありがたく使わせてもらってるけど、いい場所よ。提督、歓迎されてるんだから、もっと使ってあげたら?」

提督「いい場所なのはわかっちゃいるけどよ……一人で入りたいんだよ、俺は。鳥海だって一人で長風呂してるって聞いたぞ」

龍驤「そこは鳥海関係ないよ。作った当人の希望も聞いてあげなきゃあかんよ?」

提督「……」アタマガリガリ

伊8「じゃあ、今度提督が入るときにお邪魔しますね」

提督「……しゃあねえな……龍驤、雲龍、この話は他言すんなよ」

龍驤「んふふ、わかってるって」

雲龍「面倒なことになりそうだものね」ウフフ

 扉<コンコン

陸奥「提督、入るわね」

提督「おう」

陸奥「ねえ、龍驤、雲龍が……って、あら、ここにいたの?」チャッ

雲龍「何かあったの?」
247 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:03:32.19 ID:KkxFXQkAo

陸奥「工廠で明石が開発をしたいから手伝って、って。千歳や隼鷹も来てるから、いよいよ新しい艦載機の開発に本腰を入れるみたいよ」

龍驤「おおう、準備できたんか!」

陸奥「それから、伊8もいるなら丁度いいわ。千歳が甲標的の話をしたいんだって」

伊8「!」

龍驤「そういうことなら工廠に行こか。善は急げや!」

陸奥「ええ、お願いね」

雲龍「はっちゃんも、行きましょ?」

伊8「はい。それじゃ提督、さっきの話、よろしくお願いしますね?」

提督「わかったわかった」

 扉<ガチャ パタン

陸奥「……」

提督「……」

陸奥「……さっきの話って?」

提督「あいつが露天風呂作ったのは知ってるよな? 俺に一緒に入れとよ。他言すんなよ?」

陸奥「ふふっ。相変わらず、好かれてるのね」

提督「いいんだか悪いんだか」
248 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:04:17.07 ID:KkxFXQkAo

陸奥「悪いことではないと思うけど?」

提督「だといいがな……ところで、陸奥もだいぶマシになったように見えるが。気分は大丈夫か?」

陸奥「ええ。おかげさまで」

提督「だったらいいがな。くれぐれも無理はすんなよ?」

陸奥「ええ、わかってるわ」スッ

 (陸奥が提督に近づいて)

陸奥「このくらいでも……大丈夫よ」

提督「……マジで無理すんなよ? 震えてんじゃねえか」

陸奥「……」

提督「……また、背中向いたほうがいいか?」クルッ

陸奥「……」

提督「……」

陸奥「あなたが、言うほどでも……ないわよ」ス…

提督「!?」

 (陸奥が提督の背中に抱き着いて、後ろから手を回す)
249 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:05:02.54 ID:KkxFXQkAo

提督「む、陸奥……!?」

陸奥「何を、驚いてるのよ……」

提督「そりゃ驚くだろ……この前まで俺にだって怯えてたんだぞ」

陸奥「……どきどきしてる? 背中から、心音が聞こえてくるんだけど」

提督「まあ、な……」

陸奥「……そう……」ギュ…

提督「……」

陸奥「……」

提督「……」

陸奥「……」

提督「……陸奥?」

陸奥「ん……なに?」

提督「ああ……何も言わないから、どうしたのか気になっただけだ」

陸奥「照れてるの?」
250 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:05:48.87 ID:KkxFXQkAo

提督「……潮が俺の背中に寄りかかって、そのまま寝ちまったときがあったんだ」

陸奥「そうなの?」

提督「お前がそうなることはないと思うが……」

陸奥「そう……ね」

 扉<コンコン

提督「!」

陸奥「!」

朝雲「失礼しま……って、陸奥さん!?」ガチャ

陸奥「あら。どうしたの朝雲」

朝雲「それはこっちのセリフですよ!? 背中から抱きついたりしてるんだもの!」ドキドキ

陸奥「あらあら。ちょっと提督をからかってただけよ、うふふっ」パッ

朝雲「もー、陸奥さんったら……」

提督「……やれやれだな。朝雲はどうしたんだ」

朝雲「さっき、五月雨が書類持って畑に来たんだけど、ホースに足を引っかけて転んじゃったの! そのときにおでこを打ったらしくて」

提督「は? それで五月雨はどうしたんだ?」
251 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:06:32.26 ID:KkxFXQkAo

朝雲「大丈夫だとか言ってたけど、武蔵さんがドックに運んで行ったわ。それと、ホースの取り付け口の金具が壊れたみたいなの」

朝雲「水を出すと蛇口からホースが外れちゃって、水かけできなくて困ってるのよ」

提督「その辺の部品も明石が管理してたはずだな。俺もドックに行こう、朝雲も一緒に来てくれ」

朝雲「わかったわ!」

提督「陸奥、悪いが留守番頼めるか?」

陸奥「え? ええ、いいわよ」

提督「助かる。行くぞ、朝雲」

朝雲「ええ!」

 扉<パタン

陸奥「……」

陸奥(朝雲には、ばれなかったみたいね……)ホッ

陸奥「……」

陸奥(私……提督に……)

陸奥「……」カァァ…

陸奥(私、何をしてるのかしら……)ミミマデマッカ
252 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:07:31.93 ID:KkxFXQkAo

 * 工廠 *

五月雨「だ、大丈夫ですってば! 大袈裟です!」

武蔵「大袈裟なものか!? すごい音がしたぞ!」

明石「五月雨ちゃん、また受け身取らなかったんでしょ? ほら、おでこ出して!」

五月雨「ううう……」

明石「海の上ならいざ知らず、陸で転んで手もつかないとか、危ないにも程があるでしょ!?」

五月雨「書類で手が塞がってたんですよ……」

武蔵「書類なんぞよりお前の体のほうが大事だ、馬鹿者」

提督「おう、説教食らってるか。いい気味だ」

五月雨「提督!?」

提督「お前、自分より仕事を大事にするきらいがあるからな。特に秘書艦やってるときが一番そうなってる」

提督「書類なんて読めりゃいいんだよ、読めりゃ。武蔵の言う通り、お前の替えはねえんだから、そっちを大事にしろ」

五月雨「うう……」

提督「五月雨は任せるとして、明石、ホースの取り付け口の金具の替えはあるか?」

武蔵「それなら私が把握している」

提督「じゃあ、それだけもらって畑に行くか。五月雨はちゃんと治してもらえ、今日はもう仕事もねえしな」

五月雨「す、すみません提督……」シュン…

提督「面倒な仕事はお前が朝一に片付けてくれたからな。あとはまるっと休憩に充てて、のんびりしてな」

朝雲「ってことは、あとはいつもの散歩だけ?」

提督「まあ、そうだな。畑に行ったら、そこから丘に……いや、一旦執務室に戻るか。陸奥に留守を任せたまんまだしな」
253 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:08:16.98 ID:KkxFXQkAo

 * ビニールハウス内 *

 (ビニールハウス内の一角にビーチチェアとパラソルのセットが置いてある)

提督「……」

初雪「……」

提督「いつ来ても、ここにこれがあるのは変な感じだな……?」クビカシゲ

初雪「そう……?」クビカシゲ

提督「いや、景観的に違和感があるだけで、用途としてはベンチとかより、これのほうが適当なんだよな」

初雪「うん。横になりたいし」

山雲「司令さ〜ん?」トテテッ

提督「よう、山雲、そっちのハウスの水は大丈夫そうか?」

山雲「は〜い、大丈夫ですぅ〜」

提督「こっちのハウスも問題なしだ。壊れたのが取り付け金具だけでよかったぜ」

初雪「うん……広くしたのに、また、じょうろ使うことになると、大変……」

山雲「あー、そうだ、司令さ〜ん? ちょおっと、こっちで見てほしいものがあるんですけど〜」テマネキ

提督「なんだ?」
254 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:09:02.37 ID:KkxFXQkAo

山雲「こっち、こっちですう〜」

提督「……こっちって、なにかあったか?」スタスタ

山雲「あのですねえ〜、耳を貸してもらえます〜?」ヒソヒソ

提督「なんだ、お前の要件はハウス絡みじゃねえのか……」シャガミ

山雲「そうなんです〜。それでですねぇ〜……」

山雲「初雪ちゃんは〜、どうして、胸にさらしを巻いてるんですか〜……?」ハイライトオフ

提督「……」

山雲「……」ヌタァ…

提督「お前、また胸のでかい奴を目の敵にしてんのかよ……どうやったら気付けられるんだよ、ったく」ハァ…

山雲「しゃがんだときに〜、膝が胸にあたって、盛り上がっていましたから〜。ちなみに、気付いたのは最近ですよ〜?」ニコァァ…

提督「その濁った眼をしたまま、にこやかに笑うのはやめろ」アタマオサエ

山雲「えへへぇ〜、ごめんなさ〜い」ニタァァ…

提督「……初雪がそれを隠してる理由は、そういう悪目立ちする部分を変な目で見られたくないからだって聞いてる」

提督「吹雪型で胸がやたら大きい個体はいないらしい。ほかの奴と違うからってからかわれたくもないし、特別扱いも仲間外れも嫌なんだと」
255 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:09:47.03 ID:KkxFXQkAo

提督「だから隠して目立たなくして、波風立たないようにおとなしくしてんだよ、あいつは。つっても、すでに一回騒ぎが起きてんだけどな」

山雲「ふぅ〜ん……」

提督「端的に言えばそういうことだ。あいつも平穏を望んでんだから、これ以上、騒ぎになりそうなことはすんなよ?」

山雲「わかってます〜。だから、山雲も〜、最初に司令さんに訊いたんですよ〜?」ハイライトオン

提督「……」

山雲「なるほど〜、そういうことですかぁ〜」ウンウン

提督「あいつが出撃したがらねえのも、多分そのせいだな。中破して服が破けたら、ほかの奴にばれちまうし」

山雲「ん〜……でも、遠征なら〜……」

提督「遠征はもっと嫌がるんだよ。洗脳ツールを装備させられて、眠る間もなくずっと遠征し続けてたせいでな」

山雲「え、えー……!?」

提督「そうか、お前はその話は聞いてないのか。まあ、今は起きそうもない話だし、しょうがねえか」

提督「ともかく、初雪は出撃も遠征も嫌だから、せめてこっちで役に立とうって思ってくれてるって感じなんだろうなと俺は思ってんだ」

提督「練度は高いが、戦力として期待して欲しくないっつう、面倒臭い立ち位置だが……ま、あまり悪く思わないでくれ」

山雲「そ、そうですねぇ〜……」
256 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:10:34.65 ID:KkxFXQkAo

初雪「なに? どうかした……?」ヌッ

山雲「!」ギクッ

提督「ん? ああ、ちょっと話の流れで、初雪の練度が不自然に高いのがなんでか、って訊かれてたんだ」

山雲「!」

初雪「……あー……」

提督「洗脳ツールの話は、しても良かっただろ?」

初雪「うん……話してくれて、いいです……もう、寝ないで働くのは、嫌だし」

山雲「あ……それで、ハウスの中に、すぐ横になれるよう、ビーチチェアがあるのねぇ〜……」

初雪「おぉ……わかって、もらえた……!!」パァッ

提督「まあ、布団のありがたみは俺もよくわかってるつもりだしな」

初雪「睡眠、大事……!」フンス!

山雲「……ねえねえ、司令さ〜ん? 今の話聞いてて思ったんだけど〜……」ヒソヒソ

山雲「なんだか〜、この島にこたつがあったら〜、初雪ちゃん、ず〜っと出てこなくなりそうじゃな〜い〜?」

提督「この島に冬が来なくて、良かったのかもな……ただでさえ働かざる者食うべからず的な空気もあるし」

初雪「?」クビカシゲ
257 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:11:16.92 ID:KkxFXQkAo

 * 執務室 *

陸奥「あら、おかえりなさい」

那珂「提督さん、やっと戻ってきた! さっきまでどこにいたの!?」

提督「工廠回って畑に行ってたんだが、どうかしたのか?」

那珂「んむー……提督さん、ここへ来る少し前に、怒ったり機嫌が悪くなったりした?」

提督「いいや? 俺は特に怒ったりはしてねえが……」

那珂「そう? んじゃ、どこからだろう……」

提督「とりあえず何の話かわかんねえぞ。何かあったのか?」

那珂「あ、ごめんなさい。以前、那珂ちゃんは、提督から深海棲艦の気配がする、って言ってましたよね?」

那珂「それと似たような気配を感じたんで、提督さんになにかあったのかと思って来てみたんです!」

提督「……あー……」

陸奥「? 何か心当たりがある顔ね?」

提督「それ、俺じゃねえや。山雲だ」

陸奥「!?」

那珂「へっ!? 山雲ちゃん!?」
258 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:12:01.91 ID:KkxFXQkAo

提督「そうだ。お前ら、あいつがなんで海で倒れてたかは知ってるよな?」

陸奥「ええ、敵の空母と接触事故を起こしたって……」

那珂「そ、そのせいなの!? 山雲ちゃんがここに運ばれてきたときは、そんな気配は感じなかったんだけど!?」

提督「そりゃ多分山雲が気絶してたせいだな。元気になってから、ここで少し雑談したときに……あー……」

陸奥「……」

那珂「……」

提督「雑談したときに……その、山雲が、落ち込んだっつうか、思い悩んでたっつうか……」ウーン

提督「まあ、なんだ。ちょっとよろしくねえ精神状態になって、そんときも深海棲艦っぽい雰囲気が山雲から出てたんだ」

陸奥「今の間はなんだったの」

提督「……それは訊くな」アタマオサエ

那珂「山雲ちゃんも、そうなんだ……」

提督「そうなったのも、空母棲姫に衝突事故をもらったせいだと俺は見てるんだ。ル級にも聞いたが、多分そうなんじゃないかって見解だった」

提督「明石にもほかに影響がないか調査はしてもらってるものの、特にこれといった異常もないから騒ぎ立てはしてなかったんだが」

提督「那珂は今日は装備の点検で埠頭にいたんだったよな?」

那珂「はいっ! 衣装チェックしてました!」
259 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:12:47.01 ID:KkxFXQkAo

提督「離れた場所にいたお前が気配を感じ取ってるようだと、あまり放置もできねえか?」

那珂「うーん……回数的には滅多に感じ取らないから、那珂ちゃんも気のせいかな? って感じで済ませてたんだけど、心配は心配ですね〜」

提督「そういうお前も大丈夫か? そこまで深海棲艦に対する感度がいいと、慢性的にストレス感じたりしてねえか心配なんだが」

那珂「那珂ちゃんなら大丈夫です! むしろこのくらい感度が良くないと、艦隊のセンターは務まりません!」

提督「そう言うんなら信じるけどよ。いくらアイドルでもオフの日があるだろ」

陸奥「まあまあ、那珂の自然体がこうだとしたら、無理にオフモードを押し付けなくてもいいじゃない」

陸奥「いつも背筋伸ばしてる朝潮とか、レディーな振る舞いの暁にも、同じこと言ってる?」

提督「……あー、まあ、それもそうか。あいつらあれが平常運転だもんな」

那珂「提督さんの言いたいこともわかりますけどねー。加古ちゃんとか、オフとオンの差がすごいし!」

那珂「那珂ちゃん、これでも適度に気を抜いてるんですよ? この鎮守府、カメラがありませんから!」

提督「あー……まあ、確かになあ」

那珂「大きな鏡を用意してくれたのはすごく嬉しかったですけどぉ、那珂ちゃん的にはやっぱりカメラ映りも気にしたいなあって思います!」

提督「……」

那珂「あ! ご、ごめんなさい! カメラは、そのぉ……」

提督「ああ待て待て、那珂は謝んな。お前が悪いんじゃねえんだから」
260 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:13:34.61 ID:KkxFXQkAo

陸奥「あら、カメラって鎮守府になかったの? カメラくらい買ってあげたらいいじゃない」

提督「買うつもりではいたんだよ。っつうか、申請もしたんだが、中佐の野郎に全部握り潰されてるんだ」

提督「テレビ局の連中が来たときも話題になったんだが、あいつはこの鎮守府の記録を取られるのを極端に嫌がってる」

提督「いま使えるのは、不知火が本営の中将から預かってる、轟沈した艦娘を撮影する用のデジカメくらいしかねえ」

提督「俺もカメラくらい買ってやりたいが、ちょっと裏ルートでも開拓しねえと無理そうなんだよなあ……」

那珂「那珂ちゃんもつい勢いで言っちゃいましたけど……買えなかったって話は、提督さんに前もしてもらってるんです」

提督「むしろそっちのほうが那珂にとっては迂闊に口に出るほどストレスなわけだな。どうすっかねえ……」

陸奥「……この前のテレビ局のカメラ、1台くらい隠して持っていけば良かったわね?」

提督「そうだなあ……あ、でも駄目だ。あいつらリスト作ってたから、どっちみち全部回収されてたな」

陸奥「あらあら、それじゃ駄目ね?」

提督「まあ、全然手を打ってないわけじゃねえんだ。限りなく望み薄なところに頭を下げてんだが……あまり期待はしていない」

那珂「いくら那珂ちゃんのためとはいえ、あんまり危ない橋は渡って欲しくないから、あまり変なことはしないでくださいねー?」
261 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:14:17.26 ID:KkxFXQkAo

提督「ああ……とりあえず、お前にしても他の奴にしても、穏やかじゃないなら早めに言ってくれよ。那珂の心配事はそれだけか?」

那珂「ん−と、そうですね! 那珂ちゃんからは以上でーす!」ビシッ!

提督「おう、報告ありがとな」

那珂「それじゃ、那珂ちゃんは現場に戻りまーす!」

 扉<チャッ パタン

提督「うーん……山雲はどうしてやるかな……」

陸奥「……ねえ、提督?」

提督「うん?」

陸奥「さっき、那珂が、提督から深海棲艦の気配がするとか言ってたけど……」

提督「ああ、それか。那珂が来たばかりのときに言われたんだよ、俺が深海棲艦なんじゃないかって。マジな目されて砲口向けられた」

陸奥「ええっ……!?」

提督「あいつがなんでそんなことを言ったのか、俺にもさっぱり心当たりがねえんだが……」

陸奥「……全然、そんな感じはしないんだけど」

提督「みんなそう言ってくれてんだけどな。ただ、那珂にしても根拠もなくそう言うとも思えねえ」
262 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:15:02.11 ID:KkxFXQkAo

提督「実際、轟沈したことのある艦娘からも同じ雰囲気を感じたって言ってたしな」

陸奥「……」

提督「俺が轟沈した艦娘を弔ってるからとか、轟沈艦を集めてるからとか、たまにとはいえル級と普通に一緒に過ごしてるからとか」

提督「そういう、普通の鎮守府じゃ起きてないことに関わってるからじゃねえのかな? って、考えてはいるんだけどな」

陸奥「……」

提督「ま、俺のことは後回しだ。山雲の治療っつうか、不安要素を取り除いてやるほうが先決だな」

陸奥「そうは言うけど……こんな話聞かされたら、提督も心配よ?」

提督「心配なんかいらねえよ。少なくとも人間が深海棲艦になるような話は、どこからも聞いたことねえしな」

提督「それに、俺に万が一があったらお前たちに撃ってもらえばいいだけの話だ」

陸奥「……」

提督「……ん?」
263 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:15:47.18 ID:KkxFXQkAo

陸奥「あなたは、どうしてそういうことを言うの?」

提督「いや、どうして、って……」

陸奥「簡単に撃てとか言うけど、お世話になった人に対して、何の躊躇いもなく撃てるわけないでしょ?」

陸奥「あなたが言うほど簡単に割り切れるものじゃないわ。そのくらい、もう少し考えて喋ってほしいんだけど?」ムスッ

提督「……」

陸奥「なによ?」

提督「……お前も、怒るんだな?」

陸奥「え?」

提督「ずっと怯えてた顔してたからな。お前のそういう顔を見るのは初めてだ」フフッ

陸奥「……!」

提督「ああ、別にお前を怒らせたくて言ったわけじゃないからな?」

陸奥「……提督って、そういう人よね」

提督「ま、こればっかりはな。そういうもんだと思ってくれ」ハァ…

陸奥(ため息つきたいのはこっちよ……私、いまどんな顔してるのかしら)セキメン
264 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/19(水) 20:16:31.93 ID:KkxFXQkAo
今回はここまで。
265 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:30:28.54 ID:1LUsbeXzo
こちらも続きです。
266 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:31:30.65 ID:1LUsbeXzo

 * 砂浜へ続く道中 *

隼鷹「ああ、提督、お疲れさん」

提督「よう。何を眺めてたんだ」

隼鷹「ちょっと、砂浜をね。ここ、綺麗な砂浜だよねえ……この浜に何人も打ち上げられてたなんて、聞かないとわからないよ」

提督「……」

隼鷹「どしたの?」

提督「ああ、こんなところで佇んでる奴がいるのが珍しいと思ってな。お前、最近は工廠にいなかったか?」

隼鷹「そうかもねぇ。最近は明石んところで艦載機の開発に付き合ってるほうが長いんだけど、散歩も結構好きだよ?」

隼鷹「ほら、軍港だとこういう砂浜とか、波打ち際とかお目にかかれないしさ。ゆっくり眺めていたくなっちゃってね」ニッ

提督「なるほど……」

隼鷹「こっちの砂浜も綺麗だけど、西側の崖もなかなか風情があって良かったねえ」

提督「崖? ……って、お前、西側に行ったのか!?」

隼鷹「え? 行っちゃまずかったの?」オロオロ

提督「いや、まずいっつうか、妖精たちも俺たちも西の林にはあまり立ち入ってねえんだよ。お前が怪我とかしてないならいいんだが……」

隼鷹「あ、そうなの? なんか見ちゃまずいもんがあるわけじゃないんだ?」
267 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:32:30.57 ID:1LUsbeXzo

提督「俺たちが見られて困るようなもんはねえな。この前、テレビ局の連中が林に入って人骨見つけたらしいけどよ」

隼鷹「人骨!?」

提督「ああ。この島がかつて戦場になってたなら、そこまで珍しいもんでもねえと思ってる」

提督「ただなあ、その死んだ理由が、例えば毒蛇だとか、落とし穴とか地雷みたいな罠だったりしたら嫌だろ?」

提督「そういうのにお前らが引っかかったら嫌だなって考えてたんだ」

隼鷹「あー……なるほどねえ」

提督「撤去しようにも安全を確認するための装備や、怪我したとき用の薬とかがないからな。下手に立ち入らずに探索しないことにしてたんだ」

提督「けど……そうか、お前には連絡が行ってなかったか。悪かったな、申し訳ない」

隼鷹「いやいや、いいってば。結果論だけど、こうやって五体無事なわけだし!」

提督「本当に結果論だけどな……ちなみに、その時にどのルート辿って西端へ行ったのか、あとで教えてくれ」

隼鷹「うん、いいよ〜。しっかしアレだねえ……この鎮守府の前任者ってどんな人だったんだろうねえ。引継ぎとかしてないの?」

提督「いや、引継ぎも何も、前任者とかいねえし。俺はここに何にも知らされずに連れてこられたんだぞ。妖精以外に誰もいなかったしな」

隼鷹「……」

提督「なんだよその顔は」
268 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:33:48.39 ID:1LUsbeXzo

隼鷹「いやあ、いくらなんでもさあ……提督の両親はいったいどんな悪いことしてきたの?」

提督「その因果が俺に回ってきてるってか? あのくそどものことだし、十分にありうるな」ムスッ

隼鷹「否定しないの!? とことんひどい星の元に生まれてんだねえ、提督ってば……」

提督「ま、いま生きてるし、人間と話す機会も激減してくれたおかげで、まあまあ人生楽しめてるけどな……うん?」

隼鷹「? 誰かいるねえ? ありゃあ、初春かな?」


 *


提督「よう」

初春「おお、提督か。隼鷹とはまた、珍しい取り合わせじゃな?」

提督「まあ、たまたまだ。お前こそこんなところで佇んでるなんて、珍しいな?」

初春「わらわとて、たまにはメランコリーな気分になるときもある」ハァ…

初春「酒飲みたちが頻繁に酒を勧めてくるわ、若葉は疲労を忘れてひねもす働こうとするわ、白露たちはしょっちゅう暴走するわ……」

初春「わらわが神経質になりすぎなのかもしれぬが、いささか目に余る行動が多くてのう……」

提督「ふーん……」チラッ

隼鷹「あ、あたしは別にお酒に誘ったりしてないよ!?」アセアセ
269 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:34:31.22 ID:1LUsbeXzo

初春「まあ、良い機会じゃ、提督よ。貴様に尋ねたいことがある」

提督「なんだ?」

初春「貴様は、この島にやってきた無礼者たちを、何故あの程度で済ませておるんじゃ?」

提督「面倒臭えから」

隼鷹「!?」

初春「……」

提督「なんだ、納得いかねえのか」

初春「納得いかぬな。貴様は手ぬるい! 少しは痛い目を見せて懲らしめようと思わぬのか!?」

初春「N中佐のときもそうじゃったが、仁提督のときも大した罰も与えず手打ちにしておったようじゃし」

初春「テレビ局の連中に至っては、鹿島たちの件で懲らしめはしたものの、わらわたちへの無礼と歓待には詫びも礼もないときておる」

初春「躾のなっていない小童どもの尻を叩いてやるのじゃ。彼奴らのためにもなろう!」

提督「それこそ面倒臭えってんだよ。懲らしめるとは言うけどよ、結局はお前が叩きのめして満足したいって話だろ?」

初春「む……」

隼鷹「……ちょっとごめんよー? 話が見えないんだけど……」

提督「あー、この鎮守府に、何回か余所の提督が来たりしてんだけど、そいつらが問題あるやつばっかりでな」
270 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:35:15.37 ID:1LUsbeXzo

初春「洗脳ツールを使ってわらわたちを意のままに操ろうとしたN中佐や、長門をけしかけわらわたちを?っ攫おうとした仁提督……」

初春「それから忘れておったが、己の見栄のために秘書艦を島に残して観艦式に向かったL大尉も、不始末を起こした一人であったのう?」

隼鷹「えええ……」

初春「そしてふた月ほど前には、駆逐艦と抜け駆けしようとした遠大佐と、鎮守府を娼館と勘違いしたテレビ局の馬鹿どもと……」ギリッ

初春「貴様はその場を諫めるだけで、処罰はみな上に任せておる! 何故、わらわたちで彼奴らをがつんと引っ叩くことができぬのじゃ!?」

隼鷹「待って待って、なんでこの島にそんな問題ある人ばかり来てんの……!?」

提督「この島自体にろくでもねえ噂をたてられてるから、そもそもまともな人間が寄り付かない、ってだけじゃねえかな」

提督「それをわかってない非常識な奴が、勝手に羽目を外して勝手に恥を晒してく、ってケースが殆どだったよな」

隼鷹「……あああ……なんか、勝手に羽目を〜ってくだり、自分のことを言われてるみたいで恥ずかしいねえ……」

提督「思い返して恥だと思えるんならいいさ。そこまで気にすんな」セナカポンポン

初春「うむ、かように貴様が艦娘に寛容であること、これまでの境遇も踏まえて、わらわたちは良き理解者を得たと思っておる」

初春「しかしじゃ! 貴様はこれまで人間に酷い目に遭わされてきたにも関わらず、あやつらにも寛容と言ってよい扱いをしておる!」ビシッ!

提督「そうか?」

初春「そうであろう! その証に、貴様、これまで来た人間に対して手を挙げたことはないじゃろう?」

提督「あー……いや、テレビ局の連中のときは、黒潮や白露、摩耶たちに好きに痛めつけろと指示したぞ?」

初春「あれは艦娘への凌辱に対するお仕置きじゃろう。そうではなく、あ奴らのこの鎮守府に対する狼藉そのものに対してじゃ!」
271 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:36:00.98 ID:1LUsbeXzo

初春「まともに詫びを入れてきたのは、頭を丸めてきたL提督くらいなものではないか!」

提督「……俺、艦娘にでこぴんやらアイアンクローやらかましてきたけど、それはいいのか?」

初春「……それは、艦娘の救済のための必要悪じゃろう。それはともかく」プイス

提督「ごまかしたか?」

隼鷹「ごまかしたねえ?」

初春「ともかくと言うたであろう!」ムキー!

提督「人間に対して甘いっつってもなあ、必要以上に敵視することはねえだろ」

提督「少なくとも俺と同じ提督稼業で生きてる人間だ。嫌われてもいいが恨まれるのは後々面倒臭え」

初春「……」

提督「仁提督に関して言えば黒潮の姉妹艦の面倒を見てもらってるし、N中佐にしても事情を聞いた卯月たちが厳しくするなっつったしな」

提督「留とかいう奴も、帰り際にはしおらしくなってたんだから、必要以上にぶっ叩かなくていいと判断したんだ」

提督「叩きすぎると恨みや復讐心を持たれる。次に会ったときに睨み利かせてくるような敵を作っても面倒臭えだけだ」

提督「恨みが直接俺に返ってくるならいいが、全然関係ねえお前らや、それこそ無関係の艦娘に飛び火するのは嫌すぎる」

初春「……それが貴様の処世術ということか」

提督「攻撃的な奴ほど敵を作りやすいもんだ。そうだろ?」
272 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:37:00.76 ID:1LUsbeXzo

隼鷹「大人だねえ……」

提督「そうか? 俺自身は衝突を避けたい臆病者のやり方だと思ってるんだが」

隼鷹「衝突を避けようってあたりがもう大人じゃんか」

初春「普段の態度のわりに、そういうところはしっかりしておるのう……貴様、本当に人に嫌いなのか?」

提督「いくら俺が人を嫌いでも、俺が嫌だと思ってる奴等と同じになりたかねえんだよ。そういう意味での人でなしにはなりたかねえ」

提督「言うだろ、仰ぎて天に恥じず、って。これでも自分がやったことや選んだことを後悔したくねえんだ」

初春「むう……」

提督「嫌われるにも嫌われ方ってのがある。愛想が悪い程度なら無視されて終わりだが、手癖が悪いとなれば警戒されて見られ続けるよな?」

提督「ヒーロー気取りで悪者退治するのも同じだ。手柄を立てたら次も期待されるし、期待する奴らは無責任にこっちに責任を丸投げしやがる」

提督「俺はそういうのが嫌だから、そういうのは全部余所に押し付けて、無名無風であり続けるほうがいいと思ってる」

隼鷹「……名誉欲とは無縁の人だね、こりゃあ」

提督「あ、でも、お前らの戦果は別だからな? そっちは正当に評価してもらえるように根回ししてるから安心してくれよ」

初春「……いや、もう良い。わらわが何を言おうと、貴様は貴様で変わらんのだろうな」フゥ…

隼鷹「初春?」
273 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:37:45.64 ID:1LUsbeXzo

初春「わらわは、朧を沈めたN中佐が、這いつくばって朧に詫びを入れるところを見たかった」

初春「開き直り自分を正当化し、初雪を見捨てて大和を意のままにしようとしたあの男が、額を床に擦り付け、許しを請うさまを見たかった」

初春「それがまさかあのような、ちゃちな輪ゴム一発で済まされるとは夢にも思わなんだ」ハァ…

提督「不満だったか?」

初春「ああ、不満じゃったな。不服であった。まったくもって、腑に落ちぬ。なれど、それはわらわが受けた仕打ちではない」

初春「朧が納得したというのなら、わらわも納得せざるを得ぬ……」

初春「かつてわらわも、その鎮守府の提督からただの一声もかけられず海に放たれ……そして何の得心も得ぬまま、砲火を浴びて海へ沈んだ」

初春「水面の下の、深く暗い青色を見た時の虚無感よ……忘れたくとも未だ時折夢に見る」

初春「のちにわらわが沈んだことにされ、それが捨て艦などという忌むべき戦い方だと知ったときの失望感もまた、到底言葉にできぬものじゃった」

隼鷹「捨て艦、って……!」

初春「なればせめて、同じ策を弄した輩が無様に泣き叫ぶ様でも見れば気も晴れようかと思っておったが……それも叶わず終いであった」

提督「……」

初春「のう、提督よ……?」
274 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:38:30.55 ID:1LUsbeXzo

初春「この、わらわの無念は、どうやって晴らせば良いのじゃ?」グリッ

初春「わらわの恨みは、いずこへ向ければ良いのじゃ……!?」

初春「わらわのこの沈んだ心は、いつ海の底から掬われてくれるのじゃ……?」ハイライトオフ

隼鷹「……っ」ビクッ

提督「ったく、この馬鹿が」

初春「なんじゃと……?」ギロリ

隼鷹「ちょっ!? なに言ってんの!?」

提督「馬鹿だろうが。初春、お前、俺の何を見てきた?」

提督「俺はこれまで、島に来た連中にさんざん言ってきたぞ。生きたいか死にたいか。何が望みか、ってな」

提督「俺に心を読む力なんてねえ。言われたことしか聞けねえとも言ってきた。お前も知らねえとは言わさねえぞ」

初春「……」

提督「隼鷹」チラッ

隼鷹「おっ!?」ビクッ

提督「悪いが、この場は俺と初春だけにしてもらえるか?」

隼鷹「う、うん、わかった! あたしは引き上げるよ!」

提督「おう」テヲフリ

 タタタッ…
275 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:39:15.61 ID:1LUsbeXzo

提督「さて……」

初春「……」

提督「……で、初春。お前はその恨み言、どうしたい?」ズイッ

初春「……」ジトリ…

提督「つうかお前、なんでそういうのをため込んでんだよ。とっとと吐き出しゃ良かったじゃねえか」

初春「……吐けるものか。わらわの、はらわたの奥底に沈んだ、穢らわしい呪詛のごとき言の葉を、吐き散らす無様な姿なぞ……」

初春「そのような醜い姿なぞ、誰にも見せられたものではない……」

提督「お前がぶっ壊れるより百倍マシだろうが。つうか、隼鷹がいたのにそんな目ができる時点で、もう壊れかけてんじゃねえのかよ」

提督「それともなにか? お前はこのまま黒いの抱えて死にたいってのか?」

初春「……」

提督「それもできるわけねえよな。暁が助けてくれたことを、お前は感謝していたはずだ」

提督「せっかく救ってもらった命を、投げ出すわけにはいかないと言っていたのも、その時だよな?」

初春「……」

初春「……わらわは……」

初春「咎人が、目の前で罰せられることを望んでおった」
276 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:40:00.88 ID:1LUsbeXzo

初春「大方の、読み物の大筋はこうじゃ。事件が起き、悪事が暴かれ、罪を犯した者が罰せられる……悪の栄えたためしなし、とな」

初春「わらわは、そのような結末が好きじゃ。そういう結末を望んでおる。でなくば、気持ちよくなかろう……? 面白くなかろう……!」

初春「私利私欲に走り、他者を陥れた者が、己の所業を悔いることなく物語が終わったのでは、貶められた者が救われぬ……!」

初春「そのような話の、何が面白いのじゃ……! 作り話であっても、悲嘆に暮れてそのまま終わることの何か良いというのじゃ……!」

提督「……」

初春「気に入らぬものを叩いて何が悪い……? わらわたちに仇なすものを、徹底的に打ちのめすことの何が悪い……!?」ギリギリッ…

初春「先に力を行使したのは彼奴らぞ……! 先にわらわたちのすべてを踏みにじろうとしたのは、彼奴らぞ!」クワッ!

初春「何故、わらわたちが彼奴らを討つのは許されぬ……? 何故じゃ……!?」

初春「わらわを沈めたのは彼奴らぞ!! 彼奴らも同じように、沈め返されよと言うのじゃ!! 地獄を見ろと言うのじゃ!!」

初春「なぜ、やられっぱなしを許容せねばならぬ!! わらわが彼奴らの無様な姿を見るのは悪と言うのか!?」

初春「彼奴らは敵ぞ! 叩き潰せ! 撃ち滅ぼせ!! わらわたちが、深海棲艦にしたように!!」

提督「……」

初春「ふ、ふふ……のう、提督よ?」

初春「どうじゃ。いまのわらわの顔は、醜かろう……?」ニタァ

提督「……」
277 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:40:45.53 ID:1LUsbeXzo

初春「提督の言うとおりじゃ。わらわの望みは、望まぬ敵を作る望み。憎悪の連鎖を作り出す望みじゃ」

初春「吐いたところで、みなを慟哭させるだけじゃろう……わらわの一方的な恨み辛みじゃ」

提督「だから、言わなかったってか」

初春「そうじゃ……それにわらわには、別の望みもある……」

提督「……どんな望みだ?」

初春「それは、わらわたちの……朧や、暁や、みなの笑う顔じゃ。貶められた者への、心の救いじゃ……!」

初春「ここで、朧や、他の者たちの憂いが払われ、平穏を得られたことは、わらわにとっても喜びである……」ニコ…

初春「じゃから、先の言葉は、どうあっても言えぬのじゃ。祝福された者たちに、わらわの復讐の道連れなど決してさせられぬ」

提督「……」

初春「しかしのう……それも所詮は建前に過ぎぬと知った。わらわもいつしか、朧たちのようにと……」

初春「わらわ自身の、恨みを……無念を晴らしたいと、願ってしまうようになったんじゃ……!」

初春「今更になって欲が出てきたのじゃ……! 嫉妬したのじゃ……!! 憑き物が失せ、心の底から笑えるようになった、仲間に!!」

初春「我ながら、なんとさもしい……なんと卑しいことか……!! 我ながら情けない……!」

初春「ふたつもみっつも、かような欲を抱えて……欲張りじゃ。業突張りじゃ……わらわが忌み嫌う者どもと同じじゃ……!!」
278 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:41:30.63 ID:1LUsbeXzo

初春「わらわが……こんな……狭く小さい器だったとは……思いとうなかった……!!」ホロッ…

提督「……」

初春「……」

提督「……別に小さくもねえだろ」ナデ

初春「……!」

提督「みんなと同じになりたかった、って思うのは、あっていい望みだ」

初春「ぐ……っ!」

提督「妖精が見えるってだけで仲間外れにされる。それがなぜなのか、ガキの俺にはわからなかった」

提督「大人になれば少しは変わるかと思っていたが、社会に出てからも何も変わらなかった」

提督「それが、ここへきて、艦娘たちと一緒になって、妖精と話すことをからかわれることもなくなった。驚かれることはあったがな」

提督「俺の感覚が普通になれたんだ、と……お前たちと同じになれたって思えたのが、俺も、心地いい、と思ったさ」

初春「……っ」

提督「だから、そういうの、少しわかる気がするぜ。一緒に、共有できる喜びが欲しいって、そう思ったんじゃねえのか?」

提督「お前も、自分のことを誰かに一緒に喜んで欲しかったんだろ?」

初春「ぐ、ううう……!」
279 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:42:15.42 ID:1LUsbeXzo

提督「なら、俺にもそのお前の悩みを共有させろよ。答えは出せなくても、向き合うことくらいはできる」

提督「必要なら……そいつがお前が忌み嫌うほどの外道なら、手を汚すのも、悪くねえ……!」

初春「ぐ、あ、あああああ……!! ば、馬鹿者……馬鹿者がぁ……!!」ポロポロ…

初春「なぜ……なんで貴様は、そこまで言えるんじゃあ……!」

提督「俺も、お前たちと同じだからな。助けてやりたいってだけだ」

初春「きさ、ま、はぁぁああ……あああぁぁ……!!」ボロボロボロ

提督「……」ナデ…

提督「……叩き潰す、か」

提督「確かに、できてたかもしれねえな……」

初春「うっ、うっ……ぐすっ……」

提督(俺も、いつかは……腹を括んなきゃな)

提督(そのときは……こいつらを、ちゃんと守ってやらねえとな……)

280 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:43:00.97 ID:1LUsbeXzo

 * 鎮守府埠頭 *

 彩雲<バウーン

由良「あれは……新型の偵察機ね」

隼鷹「やほ〜」フリフリ

電「隼鷹さん!」

由良「さっきの偵察機は隼鷹さんのですか?」

隼鷹「うん、彩雲だよ〜」

電「あれが彩雲なのですか!? すっごく速かったのです!」

隼鷹「でしょでしょ〜? 我に追いつくものなしって言うくらいだからねえ!」

隼鷹「ところでさ、二人ともどこ行くの? 砂浜?」

由良「はい、また見回りに……」

隼鷹「それなんだけどさあ、ちょっといま取り込み中なんだよね。悪いけど、後にしてくんない?」

由良「え?」

電「入っちゃダメなのですか?」
281 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:43:45.88 ID:1LUsbeXzo

隼鷹「平たく言えばそうだねえ。ちょっと理由は言いづらいけど……あたしも引き上げてきたとこだしさ。ね?」

由良「……」カオヲ

電「……」ミアワセ

由良「もしかして、それで彩雲を飛ばしてたんですか? 人が入ってこないように」

隼鷹「おやおや、鋭いねえ」

電「そこまで仰るのなら、従うのです」コク

隼鷹「そう? 助かるよー」

隼鷹「しかし……なんだねえ? あたしも結構ひどい目に遭ったなあって思ってたんだけど、それ以上の子が多いんだねえ……」

電「……なのです」

隼鷹「捨て艦だって数人いるって聞いたしさ。ひどいもんだよ……」

由良「捨て艦……? ってことは」

電「朧ちゃんか吹雪ちゃんか初春ちゃんなのです」

隼鷹「……」

電「朧ちゃんと吹雪ちゃんは、踏ん切りがついたって言ってたから……」

由良「初春がなにかしてるってこと?」

隼鷹「……いやあもう、この推察力っていうの? なんなの? せっかく言葉を濁してたのに……」
282 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:44:30.67 ID:1LUsbeXzo

由良「由良たちは、鎮守府ができて間もないころから在籍してたから、ねっ」

電「そこそこみんなの事情を知ってるのです」

隼鷹「……まー、理解が早いのは助かるけどさ……?」

電「ちなみに電たちも大破進軍で轟沈させられたのです」

由良「ねっ」

隼鷹「……」

電「気にしちゃ駄目なのです。いまこうやって生きてるのですから、割り切って前を向いて歩くのです!」フンス!

由良「そうそう、ねっ?」ニコー

隼鷹「いやあ、当事者がそう言うならいいけどさあ……ここまで察しがいいのもどうなのかねえ……」

電「それにしても、初春ちゃんはそういう悩みを誰かに言うタイプには見えなかったのです……」

由良「そうね。いつも余裕ぶってみせてる感じなのに」

隼鷹「そりゃー、理想があるからじゃない?」

電「理想……ですか?」

隼鷹「そ、理想」ウンウン
283 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:45:16.02 ID:1LUsbeXzo

隼鷹「ほら、誰かに頼りにされたいとか、誰かの隣にいるのにふさわしくなりたい、とかさ?」

隼鷹「それとか、弱いところを見せたくない、とかさ。特にあたしらみたいに大人になると、弱ってるところなんか他人に見せたくないじゃん」

由良「ああ……そうですね」

隼鷹「こんななりして人前でぼろぼろ泣くわけにもいかないし、ねえ?」

電「……悲しい時は悲しいで、やせ我慢しないほうがいいと思うのですが」

隼鷹「そうもいかないよ。それこそ、恥も外聞もない、みたいな言われ方されちゃうよ、ここに来た時のあたしみたいにさ」

電「そうなのですか……?」

由良「そうね……いい大人がわんわん泣いてたら、みんなびっくりするわ」

隼鷹「理想ってなぁ、そういうもんさ。人に見せたくない恰好、誰にだってあるもんだよ」

隼鷹「……そういうあたしは、その理想をR提督に押し付けちゃったせいで、ここにいるようなもんなんだけどさぁ」

由良「……」

電「おとなになる、って、難しいのです……」

隼鷹「……ほーんと。そうだねえ……」
284 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:46:30.84 ID:1LUsbeXzo

 * 砂浜 *

提督「……」

初春「……はぁ。わらわとしたことが……なんと情けない」

提督「あー、そうか。お前、割と見栄っ張りっつうか、他人にゃあ余裕ぶっていたいタイプだもんなあ」

初春「む……」セキメン

提督「とにかく、今の話は誰にも言わねえよ。安心しろ」

初春「まったく、不覚じゃの……」プイ

提督「また吐き出したくなったら早めに呼べよ。黙って聞けと言えばその通りにすっからよ、俺を掃きだめと思って捨てに来い」

初春「ふ、ふふ……まったく。人に嫌われる覚悟のできた人間は、言うことが違うのう?」

提督「そうでもねえぞ。お前らに嫌な顔されるの、最近はちょっと嫌だからな……」

初春「む!? そうなのか!?」

提督「誰とは言わねえが、飯のときに俺が食ってるデザートをうらやましそうに見てる奴がいるんだよ」

提督「俺が食い終わると残念そうな顔をして、ちょっと睨まれるんだ。それがちょっと心苦しいっつうか……」

初春「それは意地汚いだけで、普通に怒って良いと思うぞ……?」

提督「そうか?」

初春「……ちなみに、それは潮か?」

提督「いやいや、潮もそこまで欲張りじゃねえよ。余りがなくて、しょんぼりしてるのはたまに見るけどな」

初春「むう、違うのか……だとすれば、あやつかのう」

提督(……あとで大和には厳重注意かねぇ……)
285 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:47:17.75 ID:1LUsbeXzo

提督「ま、それはそれとして、だ。お前の心残りもどうにかしてやるから、あとでお前がいた鎮守府がどんなところか教えろよ」

初春「!」

提督「潰したいんなら、それなりに前準備が欲しいからな。どうやったらそいつの顔を潰せるか、一緒に企んでやろうじゃねえか」

初春「……ふ、ふふ、良い良い。わらわのことは後で良い」

初春「ああは言うたが、これまで何の音沙汰もないのじゃ。貴様の言う通り、下手に関わらぬのが最上かも知れぬでの」

提督「いいのか?」

初春「うむ、今時点で彼奴らが我らを敵視しておらんのじゃ。わざわざこちらからちょっかいを出す必要はあるまい」

初春「それに、中佐に比べれば、取るに足らぬ小者じゃ。先に始末すべきはそちらではないのか?」

提督「……!」

初春「心残りで、目障りなのじゃろう? 貴様にとっても、みなにとっても」

提督「そうだな……その通りだ。あの野郎に限ってだけは、お前にとっても胸がすくような結末を準備してやるぜ」

初春「ふふ、そうじゃ。それで良い。あの外道のなすところは、わらわも外でよぉく聞き及んでおる」

初春「わらわこそ汚れ仕事も引き受けよう、いくらでも声をかけるがよい」フフッ

提督「……そうか。頼もしいな」ニッ

初春「当然じゃ。わらわの望みはみなの笑う姿じゃ。当然、貴様も含んでおる」

提督「!」

初春「今の笑み、我らが仇敵を討ち果たしたあとも、わらわたちに見せるがよいぞ?」

提督「へっ……やれやれ」アタマガリガリ
286 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/10/29(土) 14:49:46.88 ID:1LUsbeXzo
ということで、今回はここまで。

「墓場島鎮守府?」シリーズとしてのお話は、あと数回分の投下で終わります。
終わり方としては中途半端感がありますが、
「鎮守府が罠だらけ?」シリーズが続きとしてあることを
前提に書いておりますので、ご容赦願えればと思います。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/30(日) 06:21:32.29 ID:3+RpokRb0
まあ展開ワンパターン気味だしこのままずるずるしてあっち疎かにしてもな〜
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/30(日) 21:28:06.81 ID:7PH3t7Ju0
1乙&下げ
289 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:53:09.30 ID:pvq18zcIo
続きです。
290 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:54:16.37 ID:pvq18zcIo

 * 数か月後 *

 * 墓場島鎮守府 応接室 *

 扉<コンコン ガチャ

提督「悪ぃ、遅くなった」

艦娘たち「「!」」 ガタガタッ

提督「わざわざ立たなくていい。座ってていいぞ」

大淀「引継ぎに随分時間がかかりましたね?」

提督「ちょっと余計な話をしてきたんでな。あの野郎、俺なら何を愚痴ってもいいとか思ってんじゃねえだろうな」

大淀「ああ、あの大佐の元部下だった方ですか」

提督「あれが大佐に昇進してから半月か? 未だに俺にぶちぶち言いやがる。別にそれで手前が大佐になれたわけじゃねえっつうのによ」

提督「中将に目をかけてもらって、連絡員として引き立ててもらっただけでも良かったと思えってんだ」ハァ…

提督「まあいい、愚痴はこのくらいにしとくか。お前らが余所から転籍になった艦娘だな?」

青葉「はいっ! 青葉です! よろしくお願いします!」

伊勢「あたしは超弩級戦艦、伊勢型の一番艦、伊勢です!」

日向「……同じく、日向だ」
291 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:55:00.85 ID:pvq18zcIo

提督「よし、じゃあお前らに最初に質問だ。お前ら、死にたいか生きたいか、どっちだ?」

青葉「はい!?」

伊勢「いきなり何言い出すの!?」

日向「……」

大淀「……提督。毎度のことですが、その質問の出てくるタイミング、なんとかなりませんか」アタマオサエ

提督「いつ訊いたって同じだろ。こういうのは早いほうがいい」

伊勢「え、ええーっと、少なくともあたしは死にたいとか答える気はないんだけど。死にたいって答える人、いるの?」

提督「ん−……今はいねえかな? 途中で言い出す奴もいたが、そのあとに撤回はしてるな」

青葉「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? 死にたいなんて口にするからには、それなりの事情があるんじゃないですか!?」

青葉「そういう相手からはちゃあんと事情を聴いて、立ち直らせるところからケアしてあげないと……」

提督「なんで俺がそこまでお膳立てしてやんなきゃなんねえんだよ。面倒臭え」

青葉「はいっ!?」

伊勢「めんど……って、ちょっと!?」

日向「……」

大淀「……まったくもう、何度目なんですかねこのやり取りは」アタマオサエ
292 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:55:46.04 ID:pvq18zcIo

日向「いつもこんな調子なのか」

提督「まあな。お前らみたいな自称善人には奇異に映るかもしれねえけど、俺は俺なりの基準でものを言ってるつもりだぞ」

日向「では、その助けないと言った根拠は何だ」

提督「そいつが助けを求めてもいないのに、俺が勝手に張り切って助けてやることが、果たして本当に、正しくて、いいことなのか?」

日向「……介錯するのも武士の情け、と、言いたいのか」

提督「まあ、そうだな、それが近いか。死にたきゃ一人で死ね、誰かを巻き込むな、って言いたいところだが」

日向「……」

提督「とりあえず、お前らもまだ死ぬつもりはないんだな?」

日向「ああ。死ぬ理由はない」

青葉「あ、青葉だってありませんよ!?」

提督「んじゃあもうひとつ確認だ。お前ら、この島がなんて呼ばれてるかは知ってるか?」

青葉「はいっ! 青葉、知っています! 墓場島と呼ばれているんですよね!?」

伊勢「え、なにそれ!?」

日向「……」
293 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:56:31.59 ID:pvq18zcIo

提督「ほーぉ、よく知ってんな。じゃあ、なんでそう呼ばれるようになったかは知ってるか?」

青葉「えーと……いわゆる姥捨て山ですかね〜。処分するのに面倒な艦娘が送られる島、と聞いています」

提督「そっちか……じゃあお前も自分が面倒になった理由ってのをわかってるってことか?」

青葉「そうですねえ。青葉はおそらく、写真を撮りすぎたんでしょうね〜」

提督「なんだそりゃ?」

青葉「えっとですねえ、前にいた鎮守府の司令官が大の写真嫌いだったんですよ」

青葉「それで鬱陶しがられてこちらに送られた、と青葉は認識しています!」

提督「そんな程度でかよ……ってことは、お前、カメラ持参でこっちに来たのか?」

青葉「いえ、カメラは没収されました……」タハハ

提督「ふーん。で、伊勢と日向も何か問題起こしたのか?」

伊勢「問題は別に起こしてないかな。干されてたってのはあるけど」

提督「? そりゃ珍しいな、それだけでこの島に送られるなんて初めてだぞ。ほかに理由はないのか」

伊勢「うーん、思い当たるところはない、かなあ」

提督「よくわかんねえな。日向はどうなんだ」

日向「……私は、煙たがられた、と言えばいいのか。青葉と似たような感じだが、ごくごくつまらない理由だ」ハァ…
294 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:57:15.95 ID:pvq18zcIo

日向「良い機会だ、提督、あなたにも訊こう。艦娘は、なんのために存在している?」

提督「……なんだそりゃ」

日向「真面目に答えろ。艦娘とは何者だ? 深海棲艦とは、いったい何だ?」

提督「ああ? そんなもん俺が知るかよ」

日向「……」

伊勢「ちょ……」

大淀「……」アタマオサエ

青葉「あ、あの、ちょっとテキトーすぎでは……」

提督「どっちの意味の適当だ? ふざけたつもりはねえぞ」

提督「俺はこれまでそんなことは考えたことはねえ。それをごくごく正直に答えただけだ。不服か?」

大淀「言い方に問題がありすぎます!」

日向「……」

伊勢「えっと……提督?」

提督「なんだ?」
295 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:58:00.67 ID:pvq18zcIo

伊勢「日向が前の鎮守府から追い出されたのは、こういう質問を繰り返していたから、らしいんだ」

提督「それこそなんだそりゃ?」

伊勢「あたしが聞いた話だと、出撃前にそこの提督を質問攻めにするわ、出撃してからも急いでるのにゆっくり進軍するわ……」

伊勢「一応、要所要所で敵旗艦は沈めてたらしいけど、結局足並みを乱したことに変わりないし、帰投後もまた提督を質問攻めするわ……」

伊勢「そこまでやったら、まあ、そうなるよね、っていう……ね?」

提督「なるほど。そりゃウザがられるな」

伊勢「それで、同型艦の伊勢がいれば少しおとなしくなるんじゃないか、って話で、あたしが呼ばれて、一緒にこの島に送られたわけなの」

提督「はぁ? 伊勢と日向は別の鎮守府だってのか!? ……伊勢は完っ全にとばっちりじゃねえか」

伊勢「そう思うよね?」

提督「なに考えてやがんだよ、アホじゃねえのか、あっちの連中は……」

青葉「あのう、准尉さん? この島には、そういう、何かやらかした艦娘ばかりが集められている、という認識でいいんですね?」

提督「いいや? 俺の認識じゃあそっちのが少数派だ」

青葉「違うんですか?」

提督「お前ら、島の丘の上に置いてあるもの、見てきたか?」

伊勢「え、ええ、この島に来る途中で。艤装みたいなのがたくさん置いてあったのは見たけど……」
296 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:58:46.66 ID:pvq18zcIo

提督「この辺の潮流が特殊なせいで、この島の砂浜には轟沈した艦娘がよく流れ着いてくるんだ」

提督「水葬もできねえし燃やすような設備もねえ。だから、俺があの丘に土葬した」

日向「だから、墓場島……か」

提督「そういうこった」

日向「なぜそんなことをした?」

提督「あいつらは人間の言う平和のために戦って死んだんだ、人間の俺が弔ってやらねえと可哀想だし不義理ってもんだろう」

青葉「それじゃ、青葉が聞いてきた話は嘘だったんですか……」

提督「ある意味じゃ間違っちゃいねえよ。墓場島の名前だけが伝言ゲームで伝わった結果出来上がった間違った噂だが」

提督「結果的にそういう噂が信じられて蔓延ったせいで、実際にそういう扱いをされて送られてきた艦娘もいる」ハァ…

伊勢「それで私たちも?」

提督「まあ、お前らはそうなのかもしれないが……原因はだいたいそこにいた人間どもなんだがな」

提督「この島にはそれ以外に、かつて所属していた鎮守府から逃げてきた連中もいる」

提督「そこの提督の横暴に耐えられなかった奴や、反抗してそいつに暴力振るった奴とか……まあ、どこもかしこもむかつく話ばかりだ」

伊勢「うへえ……」
297 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 20:59:31.03 ID:pvq18zcIo

提督「ところで青葉。お前、人のことを詮索するのが好きらしいな?」

青葉「い、いえいえいえ! そんなことは!! ちょぉっと、人に取材をするのが好きなだけでして……」

提督「どっちでもいいが、一応、釘を刺しとくぞ」

提督「この鎮守府にいる艦娘はほぼ全員、面白くねえ過去を背負ってる」

提督「下手に詮索して他人のトラウマ呼び起こすような真似をしたら……」

青葉「……したら……?」

提督「そうだな。少なくとも、死んだほうがましだったって思えるくらいのことはしてやるよ。覚悟しとけ」

青葉「」

伊勢「それ、一番最悪なやつじゃない……?」

提督「生き地獄を味わってきた奴らもいるんだ、それを思い出させたいんなら手前にも同じ地獄を見せてやろう、ってだけじゃねえか」

日向「……」

提督「そういうわけだから、くれぐれも仲間割れはしないでくれ。俺も楽なほうがいい」

提督「あとは飯食ってるときに騒ぐなとか、ごくごく常識的な範疇の生活ルールがあるくらいで、余所の鎮守府より甘々のゆるゆるだ」

提督「出撃に関してもある程度は自由だから、出撃したいときは申請してくれ」

伊勢「出撃も自由なの?」
298 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:00:17.87 ID:pvq18zcIo

大淀「出撃に関しては、艦娘が独自に日程を組んで出撃しています。提督からの指示は特にありません」

提督「ぶっちゃけ丸投げ状態だ。なにかあっても責任は俺に押し付けていいから、自殺以外は好きなようにやってくれ」

大淀「もちろん、問題にならないように調整していますので、ご安心ください」

伊勢「えええ……」

提督「まあ……大まかな説明はこんなとこか?」

大淀「提督、一番肝心なことを伝え忘れていますよ? お話しして下さると思って言いませんでしたが」

提督「ん? なんか抜けてたか?」

大淀「この島には、轟沈して流れ着いた艦娘を埋葬しているとは言いましたが」

大淀「その中で、息のある艦娘をそのままこの鎮守府で登用していることまでは伝えていません」

青葉「いっ!?」

日向「!!」

伊勢「え? な、なに? 二人ともなんで驚いてるの?」

提督「……俺、言ってなかったか」

大淀「はい」

提督「……この二人の驚きようを見ると、確かに伝え忘れてたみたいだな。悪い、大淀、助かった」

大淀「はい」ニコ
299 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:01:00.89 ID:pvq18zcIo

提督「さてと、俺の落ち度で言い忘れていたが……」

提督「大淀が言ったとおり、この島には轟沈を経験した艦娘が、いまはだいたい4割、ってとこか? そのくらい在籍している」

提督「その理由はそれぞれだが、その轟沈経験艦をそのまま運用できる鎮守府は、おそらくここしかねえ」

提督「伊勢だけ理由を知らないみたいだが、青葉と日向は知ってるのか?」

青葉「は、はい、確か、轟沈した艦娘は、深海棲艦になる、って……実際にあったかどうかは眉唾だそうですが」

提督「ああ、それが海軍内の通説だ。実際に、昔そういうことがあったらしいが、何がきっかけで深海棲艦になるのかまではわかってねえ」

提督「俺もその話は知らなかったんだが、ある日ここに轟沈して息のある艦娘が流れ着いてきて、俺はそいつに助けてと言われた」

提督「それで俺が中将に掛け合って、離島なんだし、ここでなら運用してもいいだろう、と特例にしてもらった」

青葉「よ、よく許可してもらいましたね……?」

提督「まあな。これで深海棲艦になるきっかけが判明すればそれはそれで良し。ならないのなら、それもそれで良し」

提督「ただ、いつなんどきに艦娘が深海棲艦になるかはわからない、気の長い検証だ。だから、この島には俺しか人間がいない」

伊勢「……提督は寂しくはないの?」

提督「いいや? むしろ快適極まりねえ。くそ面倒臭え人間を相手することがなくて、ずっとこのままでいいくらいだ」
300 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:01:45.75 ID:pvq18zcIo

青葉「あ、あの〜、確か、准尉さんは国会議員の息子さんだと聞いているのですが……なぜこの島に」

提督「ああ?」ギロリ

青葉「」

大淀「青葉さんはピンポイントに提督の嫌なところをつつきますね……」アタマカカエ

日向「君の生い立ちはともかく。君が、どうしてここで提督として在籍しているのかについては、私も知りたいな」

提督「……経緯だけ掻い摘んで言えば、俺は妖精と話ができるから海軍にスカウトされた」

提督「ところが、中将の息子の大佐が、妖精から何を聞かれるかわからないから、と俺を煙たがった」

提督「民間から登用した人間を不審死させるわけにはいかねえ。だから、あいつは俺を秘書艦もつけずにこの島へ放り込んだ」

提督「ここから出てくるな、そのまま野垂れ死ね、って感じでな」

日向「……」

提督「それから、親からは勘当されてる。妖精が見えるなんてとち狂ったことをほざく人間は、我が家には要らねえとよ」

伊勢「だから青葉が睨まれちゃったわけかあ……」

青葉「……理不尽です」

提督「つうかお前、俺の親の話はどこから掴んできたんだよ」

青葉「え? あ、いやあ、まあ、いろいろと。あははは……」
301 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:02:31.12 ID:pvq18zcIo

提督「つくづく良かったなあ、詮索した相手が俺で。これが艦娘相手で下手打ってたら、お前どうなってたろうな?」ニタァ

青葉「」

提督「ま、俺も愉快な過去は持っちゃいないんでな。聞きたきゃ答えるが、俺の機嫌がどうなるかは保障しねえぞ」フン

青葉「それ、遠回しに『聞くな』と言ってるようなものじゃないですか……」

提督「俺が不機嫌になるだけだ。悪いとは言ってねえ」

青葉「良くないようにしか聞こえませんよ!?」

伊勢「……なんか、すごいところに来ちゃったね」

日向「ふむ……」

大淀「ええ、皆さんそう仰います」

提督「誰か来るたびにこの話をしてるからな。いい加減話すのも飽きてきたぜ」ハァ

日向「だったら、退屈しない話をしようじゃないか」ニヤ

日向「提督、君は何のために生きている?」

提督「……」

日向「実の親を忌み嫌い、上官にも恵まれず、こんな場所で艦娘を従えて生きている、君の生きる目的はなんだ?」

提督「……艦娘が、人間の手を借りなくても、生きていける場所を作る。そいつが俺の望みだ」

日向「ほう……!」
302 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:03:31.36 ID:pvq18zcIo

提督「日向、そう言うお前の望みはなんだ?」

日向「私たち艦娘は、深海棲艦とは、いったい何者なのか。何のために生きているのか。それが知りたい」

提督「ふーん……そりゃまた面倒臭え望みだな」

大淀「提督、そういう真面目な話に面倒とか言うのはやめてください……」アタマカカエ

提督「面倒臭えもんは面倒臭えと言うしかねえだろが。俺に嘘をつけってか? それとも日向のご機嫌を取れってか?」

大淀「もう少し言い方を考えてくださいと言っているんです」ジトッ

伊勢「大淀、苦労してるみたいだね……」

大淀「ええ、もう……こういう場では本当に無礼というか礼儀知らずというか……」ガックリ

提督「別にいいだろ。本音が聞きたいなら、むしろこんな感じで明け透けに言わなきゃ説得力がねえ」

日向「なるほど。理屈としては面白いが……面倒臭いというのはどういうことだ?」

提督「あんな哲学的な問い、普通は唐突に訊かれてすぐ答えが出るもんじゃねえよ。だから俺は面倒臭えと言ったんだ」

日向「君はさらりと答えたようだが?」

提督「具体的に、目的と訊かれたからな。俺がいま生きてる理由と受け取っても差し支えない」

提督「が、そんなことより直近ではこの鎮守府をどうやって問題なく運用していくかのほうが重要だな」

提督「日向の問いの真意に当たる部分を考えてる余裕はない」

日向「ふむ……」
303 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/11/12(土) 21:04:16.01 ID:pvq18zcIo

提督「とりあえずだ、金や資材の面では不自由させるかもしれねえが、可能な限りは我儘は聞いてやる」

提督「ま、日向の相談に限っては、俺が役に立てるかはわかんねえな」

日向「……そうだろうか?」

提督「俺はそうだと思ってるけどなあ? 俺みたいにある程度目的が決まった奴だと、その道を外れるような意見には否定的になるだろうし」

提督「お前が多様な意見が欲しいとか言うなら、すでに人生の方針が固まってる俺だけから話を聞いたら絶対思想が偏るだろ」

提督「人によって大事なものが違うんだし、手前の考えをこれこそが真理だ、みたいな感じで押しつけられんのも、うざってえよな?」

日向「確かに……」

提督「所詮、他人は他人。すべての人間、すべての艦娘が、まったく同じ目的のために生きてるわけじゃない」

日向「それはそうだろうか? 少なくとも艦娘は、戦いに勝って戦争を終わらせるという目的は同じだと考えられるのだが」

提督「目的が同じでも手段は様々だろ。ある時点での人間の生きる目的がひとつだったとしても……」

提督「誰が先導するか、どんなアプローチをとるかで意見も分かれるだろうし、そうなりゃ派閥もできて諍いも起きる」

提督「もしそうじゃなかったら、極端な話、戦争自体が起きなかったかもな。下手すりゃ艦娘も、軍艦も生まれなかったかもしれねえ」

日向「……」
317.99 KB Speed:0.3   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)