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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.3

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765 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:50:19.09 ID:LUS5eqqE0

智代子「あっちのコンピュータにあったデータなんだけど……どうやらコロシアイに私たちが従わなかった時の強要の武力手段みたい」

智代子「通常モードとは別に嬲るための手加減モードまであって……用意周到って感じだったよ……」

あさひ「モノケモノの改良版、みたいなもんっすかね」

ルカ「……改悪だよ、こんなの」


赤、緑、青、ピンク、黄色、白。
ハの字に並んだ機体が私たちを見下ろしているこの空間はなんとも居心地が悪い。


あさひ「……」

ルカ「おい、もういいだろ。いくぞ」


あさひは、私とは魔反対の反応を見せていたが。
一体、このロボットの何がそんなに心を射止めたのか。
本当に、よくわからないガキだな。

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【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.モノクマ工場
2.屋台村

↓1
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/11(土) 22:58:37.94 ID:G6swC7Fw0
1
767 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:00:02.52 ID:LUS5eqqE0
1 選択

【コンマ判定 94】

【モノクマメダル4枚獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数……100枚】

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【モノクマ工場】

もしこの世界に醜悪な建造物を決めるコンテストがあるなら、この建物はかなり上位に食い込むだろう。
モノクマそのものを象ったドーム状の天井が、汚く濁った黒い煙を吐き出して空を穢す。
見ているだけで胸やけがしそうな光景だ。


あさひ「これ、何作ってるっすかね?」

ルカ「……まあ、碌なもんじゃねえだろうな」


工場には倉庫も隣接して建てられているらしい。
一応後で確認しておいた方がいいか?
768 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:01:07.92 ID:LUS5eqqE0
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【工場内部】

ルカ「な、なんだよ……これ……!?」


工場に大蛇のように縦横無尽に張り巡らされたベルトコンベア。
その上に載せられているのは寸胴な形をした素体。
それがコンベアを進むにつれて毛を纏い、彩色され、そして頭部や手足を身につけて行く。
最後には腹部に不細工な臍を取り付けて完成。


そこで作られていたのは_____




あさひ「モノクマの工場っす!」

ルカ「おいおい……なんだよこれ……」



確かにあいつはスペアの存在を仄めかしてはいたが、そんなレベルの話じゃない。
私たちの頭数の何十倍かという数のモノクマが息を吸って吐いての間に量産されているのだ。

769 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:02:48.92 ID:LUS5eqqE0

あさひ「あれ、全部一つ一つに爆弾が埋め込まれてるっすよ?」

ルカ「……」

あさひ「それに、武器もちゃんと全部に取り付けられてるし……あ、カメラもスピーカーも!」


立ち眩みがした。
この島に逃げ場はない。そんなことは分かり切っていることだと思っていた。
でも、まだまだ認識が甘かった。
私たちに課せられているのは制限付きの区画ではなく、絶対的な監視と拘束に紐づけられた、檻。
視界の端々まで連なる格子が、途端に実態を伴って現れたのだ。
その壮大さと荒唐無稽さの前に、膝を折る以外の反応など示せようもない。


モノクマ「やあやあ! ボクの生まれ故郷にようこそ!」

あさひ「あ、モノクマ! ここで作られてるのって……」

モノクマ「うん、ボクそのものだよね。いまこうやってお話している『ボク』と性能に何ら遜色ないボクが今この瞬間も量産されているんだよ」

あさひ「じゃあ、モノクマはいくら破壊しても意味ないってことっすか?」

モノクマ「なんでそんな物騒な質問をするのかは置いといて、実際その通りだね。ゴキブリ以上の繁殖能力を持つボクを一体一体潰しても無駄だし、そもそも校則違反でオマエラが死んじゃうよ」

ルカ「……こんなに量産して、お前はいったい何を企んでんだよ……!」

モノクマ「企む? うーん、何って言われてもなぁ……しいて言うなら、世界デビューかな?」

ルカ「はぁ?」

モノクマ「これだけの数があれば、世界中にばらまいても足りるでしょ? モノクマの名をワールドワイドにするその足掛かりにでもしようかな!」

(こいつは何を言ってるんだ……)

あさひ「……」

あさひ「ねえ、モノクマ。あっちの部屋は何っすか?」

モノクマ「ん? ああ、あれはバックヤードで、別に何も面白いものはないよ? 掃除用具とか、そういうのの簡易的な物置さ」

あさひ「へぇ……」


モノクマの馬鹿げた数と、馬鹿げた展望とに頭痛を起こしながら私は工場を後にした。

-
770 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:03:29.40 ID:LUS5eqqE0
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【工場倉庫】


ルカ「……あいつの言ってた世界進出とやら、案外本気なのか」


倉庫を開けた瞬間にげんなりする。
そこら中に転がるのはモノクマの等身大パネルに、マスコットサイズのぬいぐるみ。
雑多な用品も並んではいるものの、埃をかぶっているあたり普段から使われてはいない様子。


あさひ「何か使えそうなものとかないっすかね?」

ルカ「……特にはない、か」


辺りを一応調べては見るが、何も実用的なものはなさそうだ。
工具などの専門的なものはそもそも使い方も分からない。
ここは、そういう空間があったで納得するしかなさそうだ。

771 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:04:43.88 ID:LUS5eqqE0

そう諦めて、出ようとしたその時だった。
1枚のすすけたファイルが視界に入る。
青色のファイルには、簡素なテープが貼り付けられ、マーカーペンで何か書かれてある。


ルカ「『ジャバウォック島再開発計画』……?」

あさひ「……? 変っすね、この島ってもともと観光地だったっすよね? そんな場所で再開発をするっすか?」

ルカ「……ちょっと読んでみるか」


パラパラとめくって確かめていく。
そういえば、この島に来てまだ日も浅い時……風野灯織が何か言っていた気がする。、


≪灯織「皆さんは中央の島の公園には行かれましたか?」

夏葉「ええ、確か巨大な銅像が置いてあったわね。動物を模したものだったはずよ」

愛依「あー! あのあさひちゃんが登ってたやつ!」

にちか「えぇ……?」

灯織「あの銅像を見た時に、以前聞いた話を思い出したんです。太平洋に浮かぶ小さな島で、風光明媚な常夏の楽園という呼び方をされるにふさわしい島の存在を……」

灯織「中央の小さな島を中心にして、“5つの島”から構成されるその島々は同じく“神聖な5体の生物”を島の象徴にしているらしいんです」

にちか「えっ……?! そ、それって……」

灯織「確か、その名前は【ジャバウォック島】」

雛菜「ふ〜ん? 雛菜はあんまり聞き覚えない感じですね〜」

夏葉「……以前父の海外赴任の際に一度耳にした名前だわ。でも灯織、それっておかしくないかしら」

果穂「おかしい……ですか?」

灯織「はい……ジャバウォック島は確か……もう人が住んでいないはずなんです」

恋鐘「ふぇ? でも実際島には誰もおらんよ?」

摩美々「そうじゃなくて、管理する人間もいないぐらいの廃島ってことでしょー?」

灯織「はい……こんなに環境が整備されているというのがなんだか気になって」≫

772 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:05:28.65 ID:LUS5eqqE0

この島はもともと廃島になっていた、それなのにこれほどの設備環境が、手入れをされた状態で残っている。
希望ヶ峰学園歌姫計画とやらで連れてこられたと聞いていた私たちは、あれほどの資金のある組織ならと納得していたのだが……

このファイルに記されている開発元の名前は『希望ヶ峰学園』ではない。


ルカ「……『未来機関』ってのはなんだ?」

あさひ「……このロゴ、何かで見たことあるっすね」

ルカ「私もだ……でも、一体……どこで見た?」


妙に角ばった書式の2文字。
それとにらめっこすること数十秒。
凝り固まった記憶の奥底に、該当するものを掘り出すことに成功する。


≪ルカ「とりあえず近づいてみるぞ」

千雪「あっ……待って!」


近づいてみたが、あるのは私の身長を優に超す大きさの扉。
しかもドアノブがあってそれをひねって開けるような単純な扉ではなく、もっと電子的で近未来的な……全く見なれない扉だ。


ルカ「……これ、なんなんだ?」


しかもその扉の表面にはデカデカと『未来』の二文字。
私たちの良く知る漢字で掘られている……ということは、この遺跡は私たちと同じ文化圏のものだということになる。それもまた妙な話だ。≫


773 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:06:32.87 ID:LUS5eqqE0

ルカ「……第二の島の、遺跡か……!」

あさひ「ああ、あのツタの絡まってたところっすね!」

ルカ「あの遺跡……何やら厳重な装備がされてたよな……そういえば、あそこのパスワードも結局分からずじまいだよな」

あさひ「……ルカさん、これどういう意味っすかね?」

あさひ「ジャバウォック島の中央に位置する行政施設を改築し、未来機関の活動拠点にする……そんな建物、中央の島にあったっすか?」

ルカ「……いや、あの島にはモノクマロックと、モノケモノの入ってた銅像しかない。それ以外には、何も無いぞ」

あさひ「……それに、ほかにもおかしなところがあるっすよ。手付かずの無人島になっていたこの島で、被検体を見つけたとか……敵対組織が根城にしてたとか……ちんぷんかんぷんっす」

ルカ「被検体……何か実験でもしてたのか?」

ルカ「……」

ルカ「……!」


実験、その言葉を口にした瞬間に昨夜の写真がフラッシュバックする。
あそこに収められていたのは、前回のコロシアイとやらで生き残ったとされる連中が昏睡している私たちを眼前に白衣を着こんだ姿。
実験と言う言葉に当てはめるならあれ以上にうってつけの材料はない。


そしてそうなると、ここにあるもう一つの言葉『敵対組織』というものが当然紐づいてくる。
もしかすると、あのコロシアイを生き延びた5人はその組織とやらに所属していて未来機関との間に何か衝突を起こしていたのではないか?



となると……私たちにとって味方となるのは、そのどちらなんだ?



774 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:06:59.64 ID:LUS5eqqE0

ルカ「……」


でも、その疑問を口にすることはできない。
冬優子が託した手掛かりは不安と疑念を振りまくためのものではない。
真実にたどり着くための一ピース、切りどころはしっかりと見極めないと。


まだ、あさひにも言うべきじゃない。


ルカ「それにしても、聞いてた話とあまりにも違うな……この様子だと、無人島ですらなさそうだよな」

あさひ「うーん……人が過ごしてたっぽい形跡……あんまり感じなかったっすけどね……」

ルカ「この島で言ってるジャバウォック島と、私たちのいるジャバウォック島って本当に同じものなのか……?」


ふつふつと湧き上がる疑問を前に、首をひねるしか出来ないのがはがゆい。
せめてこの島の事を知っていた風野灯織か有栖川夏葉でも残っていれば話はまた違ったんだが……

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【残り選択肢が一つになったので自動で進行します】

【コンマ判定によりモノクマメダルの獲得枚数を決定します】

↓1
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/11(土) 23:14:49.42 ID:G6swC7Fw0
むん
776 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:20:06.90 ID:LUS5eqqE0

【コンマ判定 42】

【モノクマメダル2枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数……102枚】

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【屋台村】


恋鐘「あ、二人とも〜! ちょっと食べて行かんね〜?」


黒と灰色で作られた無機質な街並みの中に突然姿を現す、人々の活気ある声が聞こえてきそうな軒の数々。
そこかしこから香ばしい香りが鼻をくすぐり、提灯の明かりも目を引いた。


ルカ「よう……ここは?」

恋鐘「見ての通りたい。でも、お祭りとかをやっとる雰囲気じゃなかね」

あさひ「とんこつラーメン、おでん、焼き鳥……なんだか社長さんが好きそうなものばっかりっす」

ルカ「梯子酒でもしろってか……?」

恋鐘「別にここにならんどる食べ物に害はなかよ、小腹が空いたらつまんでもいいと思うばい」


試しに近くのおでんの屋台から大根を引き抜いて口に運ぶ。
……うまい。
出汁がよく染み込んでいるし、型崩れもしていない。
島の外の店にも全く引けを取らない味だ。

……でも、どうして?
なんでこんなところに食べ物を用意する必要が?


ルカ「何か手掛かりの類いはなかったのか?」

恋鐘「んー……ざっと見た感じは特にはなさそうたい」

ルカ「おいおい……いよいよなんのためなんだ、これ」

あさひ「モノクマ、無意味なことも好きっすからね」

ルカ「にしてもなぁ……」
777 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:21:10.92 ID:LUS5eqqE0

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

最後の島の探索は私たちに更なる謎と威圧感とを齎した。
圧倒的な武力を前にして私たちに抵抗の手段などないだろうし、この島の暮らしに希望的な展開は待っていない。
それを改めてまざまざと見せつけられたような気分だ。


あさひ「うーん、手がかりないっすね……」


冬優子に押しつけられたガキの世話にも手応えがないし、美琴のことは言うまでもない。
私たちの背中にのしかかるものばかりが増えていく。
パンクしてしまうのも時間の問題といったところか。


ルカ「……病んだ」


口癖のように、乾いた悲鳴をあげた。


あさひ「ルカさん?」

ルカ「ああいや……とりあえずレストランに戻るか、情報共有だろ」

あさひ「はいっす」

778 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:22:26.99 ID:LUS5eqqE0
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【ホテル レストラン】

智代子「モノクマ……黒幕は、モノケモノ以上の武力を持ってたよ。量産されるモノクマに、新型の人型破壊兵器……軍事基地のものも合わせたらひとたまりもないかも」

恋鐘「それとは対照的になぜか屋台が並んでいる区画があったばい、何の目的があってあんなもん作ったとやろ」


レストランに持ち帰った情報も、どれも不穏なものばかり。
口々の報告のいずれもその言葉尻は重たい。


あさひ「そういえばルカさん、あの工場の倉庫で見たファイルの話はいいんすか?」

ルカ「……! ああ、そうだったな」

雛菜「ファイルですか〜?」

ルカ「ああ、あの悪趣味な造形した工場。そのすぐ隣にはちいさな倉庫があってな、そんなかで見つけたやつなんだよ」

ルカ「『ジャバウォック島再開発計画』、ってな」

智代子「再開発……? あれ、でもジャバウォック島はそもそも廃島だったんだよね?」

恋鐘「そいを希望ヶ峰学園が買い取って改造した島とやろ?」
779 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:22:56.68 ID:LUS5eqqE0

ルカ「だが、そこに書いてあった内容は大違いだ。どうみてもこの島には人が住んでいるコミュニティが存在していたし、更には……未来機関の敵対組織もいたらしい」

雛菜「未来機関……なんか聞いたことだけはあるかも〜」

透「第二の島の遺跡、あれだよね」

ルカ「ああ、厳重なロックでとても出入りはできやしねーけどな。浅倉透、お前は何か知ってるか?」

透「……未来機関自体はあんまり。島の外のことはあまり知らないし」

雛菜「ふ〜ん……」

あさひ「なんだかわたしたちの知ってる情報とチグハグな感じがして気持ちが悪いっす」

ルカ「だな……まあ分かっちゃいたが、答えを与えてはくれないのがこの島だ。手がかりを探しながら考えるしかねー」


未来機関の話を持ち出しては見るものの、それを知っている人間など要るはずもなく。
結局のところ私たちはただ行動範囲を広げただけで、それ以上の意味もそれ以下の価値もない。
結局はこの鬱屈とした南国生活を延長するほかないのである。

780 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:24:08.43 ID:LUS5eqqE0

ルカ「……なあ」

ルカ「誰か、美琴の姿は……見なかったか?」


そんな中で私は切り出した。
聞いたところでどうにかなるわけでもないのに、それでも縋ってしまうのは我ながら情けないと思う。
第4の島ではジェットコースターと言う明確な協力の動機があったが故、あいつの姿を追うことができたが、今回はあいつの影を掴むことすらできなかった。
今朝がたレストランで見てから、それっきり。
今のあいつは、あれだけの物騒な品の数々を見て何を思っているのだろうか。


智代子「……ごめん、ルカちゃんには悪いけど美琴さんは見かけてないよ」

恋鐘「美琴も第5の島の探索はしとったはずやけん、誰か一人でも見とってもおかしくなかと思うけど……」

透「……見てないかな」

雛菜「うん、ここの人たち以外は見かけてないです〜」

あさひ「わたしたちもっすよね」

ルカ「……チッ」


闇の中に身を隠す美琴、それが異様に不気味で胸がざわついた。
かつての相方に向ける感情としてはあまりにもそれはザラついていた。



781 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:24:59.08 ID:LUS5eqqE0

ルカ「……こんなこと言いたかねーけどよ、今の美琴はマジで狂ってる。どこで誰に刃を向けるとも限らねーんだ。警戒しとけよ」

あさひ「……」


無意識なんだろう、あさひは私の裾を握っていた。
ユニットの仲間の死を2回も経験したこいつも、自覚しないうちに精神の衰弱を迎えている。
他の連中も下唇を少し強く嚙んだようにして、身を寄せ合う。
どこからやってくるかもしれない外敵に対する、生物の本能から来る防衛機制だ。


透「あ、それじゃあ」


そんな空気の重たいレストランで、浅倉透が一歩踏み出した。
懐を少しまさぐって、少し大きめな石ぐらいの大きさの巾着をいくつか取り出した。
それを机の上に並べて、私たちを見やった。


透「これ、お守り……全員分あるからさ、使ってよ」


不細工な装丁には283プロダクションのマークが縫い付けてある。
これは、こいつ本人がやったのだろうか?
私はその所属ではないのだが、一応は手に取って証明に掲げてみる。

782 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:25:54.20 ID:LUS5eqqE0

あさひ「これ、何が入ってるっすか?」

透「中は……今は見ないで、いざというときに使ってほしい」

智代子「いざというときって……」

恋鐘「自分の命ば危なくなったときってことたい……?」

透「それは……任せた。でもきっと、みんなの役に立つから」


開けるなのお達し通り、かなり厳重に巾着の口も縫い付けてある。
よほどがない限りはこのままにしておけと言うことなのだろう。
私は素直に従い、懐にしのばせることにした。


透「……前に言ってたでしょ。もう事件は起こさせないって」


≪ルカ「言っただろ、お前の目論み通りにはならねえって」

モノクマ「なぬ?」

ルカ「例えこの中にまだ殺しを企んでる奴がいようとも、他の6人でそれを封殺する。私たちはもう誰も死なさない、事件なんて起こさせない」》

783 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:26:38.02 ID:LUS5eqqE0

透「私も、そうしたい。もう誰にも死んでほしくなんかないから」

透「生き残ろ。絶対」

智代子「うんうん! 透ちゃん、ありがとう! 透ちゃんの想いのつまったお守りがあると心強いよ!」

恋鐘「うちもおんなじ気持ちばい! ここにいるみんなで揃って島を出る、これはもう確定事項やけんね!」


ここにいるみんな、にここにいない一人が含まれるのか尋ねるのはやめておいた。
もしそれに漏れているのなら、枠に戻してやるのはそもそも私の役目だから。

それができるのかどうか、正直なところ自身は毛ほどもないが……


ルカ「このお守りが、それを助けてくれる……だろ?」

透「うん、神様が見てくれるよ。プリーズ、ご加護」



……自覚がない皮肉が、少しだけ胸を刺した。



784 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:27:26.90 ID:LUS5eqqE0
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【ルカのコテージ】

日が沈んで夜が覆い、外は草木の息吹だけが響く。
この島に私たち以外の人気はない。
人数が少なくなるにつれ、その静寂は増す一方だった。

そんな静寂の中に、身を隠して殺意を研ぎ澄ます。
あいも変わらずも眩い満月を見上げると、自然とお守りを握る手にも力がこもった。

神頼み、ではないが標にはなる。
私は一人で戦っているわけではないというだけの指標で、心もとはない。
それでも妥協して、私は扉に手をかけた。

785 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:28:45.44 ID:LUS5eqqE0
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【第5の島】

この島はやっぱり異様だ。
他の島と違って草木が風に靡くような音は聞こえてこない。
コンクリートで取り囲まれた環境は、うるさすぎるほどの静寂を生む。
自分の靴音だけが響く静けさに、思わず耳を覆った。


______ガガ


音が指の隙間から飛び込んできた。
遠くの方から、怪獣が一歩を踏み出したような音。
思わず首を振り回して音の主を探してしまう。

何度首を振ってもどれだけ目を凝らそうともすぐにはわからない異音に、自然と足が動き出す。

その音は少しずつ、ゆっくりと大きくなり、近づいている。

「……美琴!」

その名前を口にしながら、駆け出した。

786 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:29:15.48 ID:LUS5eqqE0
------------------------------------------------

【ワダツミインダストリアル】

その音は、夜の裂け目から。
高く高いシャッターの隙間から見える光の奥で影が動くのが目に入る。
照明を足元から浴びているのか、その影は異様に大きく、そしておおよそ人とは思えない輪郭をしていた。
妙に角ばった形に、細長い線が付きまとう。
シルエットだけでは何か伺い知れず、息を殺しながらシャッターに近づいた。
気取られないように、そっと首を伸ばした。

____ガガ

聞こえていた異音は機械音。
ゆっくりと動かすその腕と、処理をするCPUが呟く声。

____ガガ

悠然と我が物顔で手足を動かしているそれは、先ほど称した通り怪物そのものに見えた。
腕の先には尖った爪のような備わり、どっしりとしたその脚は家屋も踏み倒してしまいそう。
その怪物に、私は見おぼえがあった。

つい昼方に初めて見たばかり……
私たちが黒幕の持つ力について、その認識と恐怖とを新たにした火付け役。



……エグイサルが、動いていた。


787 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:30:01.58 ID:LUS5eqqE0

「……こ、こいつ動くのかよ……!?」

まだ実践で投入されることはないだろうと高をくくっていた。
反抗的な口は聞きつつも、コロシアイには参加してしまっていた私たちは黒幕にとって脅威でも何でもないはず。
そう思っていた。

でも、とっくにお相手は痺れを切らしていたようだ。
今すぐにでもと言わんばかりの暴力を目の前にして、思わずその場にへたり込む。

一瞬にして全身の血の気が引いた。
と、同時に冷めていく体温の中で少しだけ脳は醒めていた。
ここまでの生活の中で麻痺していた部分が、かえって役に立つ。
恐怖よりも先に立った冷静が、眼球を動かした。

今エグイサルが動いているということは、動かしている人間がいるということ。

そして、それは私たちにとっての敵に他ならないだろう。
狸なのか、はたまた黒幕なのか……なんにせよそれを知っておくことには大きな意味がある。
息を呑んで目を見張った。

……でも、そこに人の影はなかった。
エグイサルの足元、奥、整備のための鉄橋、隅々まで目を凝らしても人の姿はない。


「もしかして……入ってやがんのか?」


となると、残される空間はただ一つ。
エグイサル、そのものの内部だ。
コックピットの中になら、その姿を潜ませることができる。
でも、どうやってその正体を探ればいいというのだろうか。
今ここにいるのだって危険なのに、そもそも近づくなんて自殺行為。
788 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:31:13.78 ID:LUS5eqqE0


「……チッ」

歯がゆさに舌打ちした。




……それがまずかった。




_____ブー! ブー!


「な、なんだ……?!」

何がきっかけになったのかはわからない。
だが、私の舌内を皮切りに辺り一帯に鳴り響きだすブザー音。
侵入者を感知したと声高に叫ぶそれに呼応して、地響きが始まった。


エグイサルが、こちらに近づき始めていた。
789 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:32:40.69 ID:LUS5eqqE0

(ま、まずい……!)

見つかったら私なんて二秒で肉塊だ。
慌てて辺りに身を隠せるところを探す。

……が、見つからない。
そんなもの、あるはずがない。
この島には自然がそもそも無いのだから。
開けた無機質な視界には、障害物と呼べそうなもの一つ見当たらなかった。

(……終わった)

万事休す、その言葉が脳裏によぎった瞬間。





バッ!!




「……!?」


私の身体は強い力で引っ張られ、その場に崩れ落ちた。
790 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:33:45.36 ID:LUS5eqqE0


そしてその直後、真っ暗闇に染まる視界。
思わず抵抗しようともがく。



「……動かないで、じっとして」



そんな私を厳しく諭すように、耳元で呟いた。



「……美琴」




その声には、聞き覚えがあった。


「大丈夫、このシートの裏に隠れていれば見つからないから」
「な、何を……」
「夏葉さんと同じ……赤外線カメラは、アルミシートの裏にあるものを判別できない」
「……!」
「……静かにしてて」


私に覆いかぶさるようにしているその重みに、身をゆだねた。

791 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:34:12.87 ID:LUS5eqqE0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

そこから何分が経っただろうか。
辺りに鳴り響いていたブザーが鎮まり、地響きも完全に収まった。
とりあえずは、凌いだということなのだろう。

私の視界にもゆっくりと星明りが差し込んでくる。


「……危ないところだったね」


ゆっくりと視界がその明るさに慣れていく。
目の前に立つ長身のシルエット、その全貌も見えてきた。
グラデーションがかった毛先、赤と黒のブルゾン、あのころと変わらないペンダント……


「美琴……オマエ、どうしてこんなところに」


やっぱり緋田美琴に変わりない。


「ちょうど用事があって立ち寄ったところだったの。でもちょうどよかった、ルカには死んでほしくないから」
(私、には……)


その瞳には、かつてのハイライトはもう灯っちゃいない。


「用事ってなんなんだよ、こんな島に何の用事があるって……」
「分かってるでしょ?」
「……!」


美琴の肩には頑丈なつくりをしていそうなバッグがかかっていた。
最近はやりのフードデリバリーのカバンを小ぶりにした代わりにポケットを増やした感じだ。
そのポケットの所々から、何か柄のようなものが見えているのが、嫌。


「私も口だけじゃいられないから。そろそろちゃんとしないと」
「ざけんな……冬優子の裁判の時の私の言葉、忘れたとは言わせねえぞ……!」
「殺しを誰かが企んでも、残りの6人で止める、だっけ?」
「そうだよ! だから、美琴もいい加減に____」
792 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:35:28.40 ID:LUS5eqqE0






「本当に止められると思ってる?」





793 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:36:08.09 ID:LUS5eqqE0

美琴はこれまでと違って、私の前から逃げようとはしなかった。
むしろその逆、覗き込むようにしながら、一歩ずつ距離を詰めてくる。
思わず私はその迫力の前にあとずさり。


「あ、当たり前だろ……! 美琴だって、体格は私たちより大きいかもしれないけど全員で押さえつけられたらどうしようもないし……!」
「……ルカ。さっきの、見たよね?」


一歩、一歩。


「さっきの……だと……?」
「エグイサル。もし、あれを使って誰かが誰かを殺そうとしたとして、止められるの?」
「は、ちょっと待て……」
「ファイナルデッドルームなんかもあったよね、あそこにも武器は沢山」
「み、美琴……!」


いよいよ背中に壁がぶつかった。
794 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:37:06.53 ID:LUS5eqqE0





「無理だと思う。私は」





795 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:38:39.73 ID:LUS5eqqE0

壁にもたれかかって、ズルズルとその場に座りこんだ。
私を見下ろす美琴の背後で満月が笑っている。


「美琴……」


名前を呟くしかできなかった。
手足から力が抜けきってしまっていたから。


「それじゃあ、おやすみ。ルカ」


アルミシートを乱雑にまとめ上げて、背を向けた。
美琴の姿はすぐに闇夜に呑まれて輪郭を見失う。


「……」


30分ほど、そこに座っていた。
796 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:47:00.09 ID:LUS5eqqE0

というわけで本日はここまで、物語の終わりの始まり、5章がついに幕をあけました。
なかなか5章は事件もその後の展開も考えるのにカロリーを使いましたが、楽しんでいただけるものになっていると思います……!
どうかお付き合いください!
余談ですが今章のチャプタータイトルは「アイオーン」のラテン語表記と言う力技です。
滅茶苦茶好きな曲なので、なんとか章題にねじ込みたかった……

次回更新は6/13(月)の21:30前後を予定しています。
それではまたよろしくお願いします、お疲れさまでした。
797 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:48:14.60 ID:LUS5eqqE0

【5章段階での主人公の情報】

‣習得スキル
・【花風Smiley】
〔毎日の自由行動回数が2回から3回になる〕

・【アンシーン・ダブルキャスト】
〔学級裁判中誤答するたびにコトダマの数が減少する〕

・【つづく、】
〔学級裁判中発言力がゼロになった時、一度だけ失敗をなかったことにしてやり直すことができる(発言力は1で復活する)〕

・【cheer+】
〔発言力ゲージを+5する〕

・【ピトス・エルピス】
〔反論ショーダウン・パニックトークアクションの時コンマの基本値が+15される〕

‣現在のモノクマメダル枚数…102枚

‣現在の希望のカケラ…15個

‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【オカルトフォトフレーム】

798 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:48:41.02 ID:LUS5eqqE0

‣通信簿および親愛度

【超高校級の占い師】風野灯織…0【DEAD】
【超社会人級の料理人】 月岡恋鐘…5.5
【超大学生級の写真部】 三峰結華…0【DEAD】
【超高校級の服飾委員】 田中摩美々…0【DEAD】
【超小学生級の道徳の時間】 小宮果穂…1.0【DEAD】
【超高校級のインフルエンサー】 園田智代子…6.0
【超大学生級の令嬢】 有栖川夏葉…12.0【DEAD】
【超社会人級の手芸部】 桑山千雪…10.5【DEAD】
【超中学生級の総合の時間】 芹沢あさひ…8.0
【超専門学校生級の広報委員】 黛冬優子…12.0【DEAD】
【超高校級のギャル】 和泉愛依…0【DEAD】
【超高校級の???】 浅倉透…12.0
【超高校級の帰宅部】 市川雛菜…5.5
【超高校級の幸運】 七草にちか…0【DEAD】
【超社会人級のダンサー】 緋田美琴…4.0
799 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:21:46.54 ID:/lNWkEhY0
____
______
________

=========
≪island life:day 23≫
=========

------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

ようやっと手足の実感が戻ってきた。
萎びてしまった気力から、シワシワにでもなっていないかと思ったがさすがにそれは無かった。
ただ、手足はなんだかいつも以上に細く見えて血管が鮮明に見えた。


「……気色悪い」

ピンポーン


そう呟いたところでインターホンが鳴る。
気色悪い指で髪をかき上げながらドアを開けた。


あさひ「ルカさん、おはようっす!」

ルカ「……あ?」

800 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:22:51.48 ID:/lNWkEhY0

あさひ「なんでそんな不思議そうなんっすか? 朝ご飯食べないっす?」

ルカ「いや、そりゃオマエ……つい昨日お迎えはいらねえって」

あさひ「冬優子ちゃんはしてなかったってだけっすよ? ルカさんは一緒に行きたいのかなって」

ルカ「……そんなわけねーから、その言いぐさはやめろ。気色悪い」

あさひ「……?」

ルカ「わかった、わかった。とりあえず準備するから、中で待っとけ」

あさひ「はいっす!」


無邪気な返事をするあさひ。
こいつに絡まれているところをほかの人間に見られたくないからあわてて部屋の中にしまい込んだ。
……もう見るようなやつもそんなに残っちゃいないのに。

801 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:25:34.68 ID:/lNWkEhY0

ルカ「いいか? どこも触んなよ、準備はすぐ終わんだから!」

あさひ「はいっす!」


相変わらず信用の置けない明朗な返事にため息。
ベッドの上に座り込ませてそそくさと支度を開始した。


あさひ「……」

あさひ「……」

あさひ「……」


ずっと背後のあさひが気にかかって仕方ない。
別に見られて困るようなものもないのだけど、自分の空間に人が割り込むというのはそれだけでかなりの異物感だ。
ましてこいつともなるとその異物感も倍に増す。
どこかで爆発でも起きるんじゃないかというざわつきばかりが加速した。


ルカ「……あ」

あさひ「ルカさん、どうしたっすか?」
802 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:26:29.12 ID:/lNWkEhY0

見られちゃまずいもの……あった。
裁判終わり、ポストに投函されていた冬優子からの手紙。
あれに同封されていた写真……
見られるわけにはいかない。
コロシアイを防ぐのを本格化しようという段階で、前回のコロシアイの生き残り連中が私たちに何かを仕掛けていた写真は不信を振りまく種になりうる。
まだことの詳細がわからぬうちに見せびらかすわけにはいかない。


ルカ「別に、なんでもねーよ」

あさひ「……? そっすか?」


とはいいつつ強引にベッドの脇のキャビネットから封筒を引っ張り出して自分の懐に忍ばせた。
ガッツリその動作を見られはしたものの、中身は見られていないはず。


ルカ「おら、準備できたぞ。さっさと出ろ」

あさひ「入れって言ったり出ろって言ったりよくわからないっす」

ルカ「飯食うんだよ、ほら!」


そしてとにかく秘密からは目を逸らさせる。
準備は中途半端になってしまったが、まあこの島にはパパラッチなんかもいない。
多少不恰好でも許されるだろう。
今はあさひの関心をよそに飛ばす方が優先される。

私はあさひの背中を無理に押して、後ろ手に扉を閉めた。


ルカ「ついてきな」

あさひ「……? はいっす」
803 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:28:11.73 ID:/lNWkEhY0





あさひ「……ルカさんも、もらってたんだ」




804 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:29:40.15 ID:/lNWkEhY0
------------------------------------------------

【ホテル レストラン】

恋鐘「おはよ〜、ルカ! 今日もあさひと一緒ばい?」

あさひ「恋鐘ちゃんおはようっす! 今朝はわたしが迎えに行ったっすよ!」

透「おー、懐かれてるじゃん。やるね、女ったらし」

ルカ「最悪の言葉選びだな」


レストランに着くと昨日と同じ8人掛けの机に既に他の連中が腰掛けていた。
私とあさひも促されるままに席に着く。


ルカ「……そういえば、昨日あの後美琴に会った」

智代子「えっ?! 美琴さんと?!」

ルカ「ワダツミインダストリアル、あそこで開発されてたエグイサルが夜の間に誰かに動かされててよ。その現場で美琴に鉢合わせた」

智代子「じゃ、じゃあ美琴さんがエグイサルを操縦してたの……?」

ルカ「いや、そうじゃねえ。あいつは私が見つかりかけたところを守ってくれた。操縦してたのはまた別の誰かだ」


一応は昨日のことを報告することにした。
エグイサルが既に実用段階であることは周知しておかなくてはならないし、美琴への対策もやはり必要なのを確認した。
これ以上の死者を出さないと冬優子の裁判で決意したからには、誤魔化すわけにはいかないのだ。



805 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:31:39.66 ID:/lNWkEhY0

恋鐘「そ、そがん危なかこと……一人でそげなところに行ったらいかんばい!」

ルカ「……悪い」

あさひ「なんで美琴さんはそんなところにいたっすかね。操縦してたわけでもないのに」


瞬間、あのときの美琴の荷物を想起する。
鞄から見える柄のような物、その先にはきっと肉を割くには十分すぎる刃物。


ルカ「浅倉透」

透「……うん」

ルカ「美琴は、本気だからな」

雛菜「透ちゃん、大丈夫だよ。雛菜がずっと一緒にいるから……絶対、守ってみせるから」

透「雛菜……サンキュ。でも私だってただお姫様やるわけにはいかないし」

透「争うよ」

ルカ「……下手な接触はしないようにな」

透「分かってるって」

恋鐘「透、困ったときはルカだけじゃなくてうちらにも遠慮なく言って!」

智代子「わ、私も微力ながら助太刀いたしますよ!」

透「やば。めっちゃいるじゃん、用心棒」

ルカ「だからって気抜くなよ、美琴は私たちの誰よりも背丈だって高い。そう簡単に抑え込めるわけじゃない」

智代子「それに美琴さんはファイナルデッドルームもクリアしてるし、武器だって私たちの予想以上のものを持ってるかもしれないよ!」

恋鐘「毒薬だってドラッグストアから調達しとったけん、不意打ちにも注意せんばね!」

ルカ「……そう考えると、恐ろしいな。美琴のやつ」

雛菜「あなたが弱気になっちゃ一番ダメじゃないですか〜?」


806 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:33:23.63 ID:/lNWkEhY0
------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

何も一人じゃないんだ。
私たちは全員が全員、協力する下地ができている。
誰かが狙われようものなら、きっと他の全員で守ることができる。
私も本気でそう考えている。

考えている、のに……


『無理だと思う、私は』


「……チッ」


【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…102枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/13(月) 21:47:44.31 ID:HICo9pII0
1 智代子
808 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:54:56.94 ID:/lNWkEhY0
1 智代子選択

【第5の島 屋台村】


ルカ「……まあ、オマエはここだろうと思ったよ」

智代子「あ、ルカちゃん! ちょうどよかった、いい感じにここのおでん煮えてきてるよ!」

ルカ「さっき朝飯食ったばっかじゃねえのか……?」

智代子「おでんは別腹と昔の偉い人も言ってたじゃないですか!」

ルカ「どこの誰が言ってたんだよ……」


暖簾に油煙が纏う空間は、朝だろうと爽やかさとは無縁だ。
よくもまあこんなところで朝の日差しを浴びることが出来るものだといっそ感嘆した。

……これくらいの気丈さが、自分にも欲しいところだ。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/13(月) 22:00:23.69 ID:ryCc/2O30
1:【ジャパニーズティーカップ】
810 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 22:05:50.82 ID:/lNWkEhY0

【ジャパニーズティーカップを渡した……】

智代子「こ、これは……?! ただの水をも、至極の一杯に変えてしまうという伝説の……?!」

ルカ「……いや、知らねえけど……そんなすげえもんなのか?」

智代子「こ、これを私がちょうだいしても……よろしいんですか?」

ルカ「やたら仰々しくなるのは何なんだ……」

智代子「ははーっ!」

ルカ「……」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します】

-------------------------------------------------

智代子「いやぁ〜、やっぱりおでんは大根が正義だねぇ! 味が染み染みで口当たりもまろやか……!」

ルカ「私は牛筋のが好きだけどな」

智代子「お、ルカちゃんも通だね! さてはお酒のあてにしてちょくちょく楽しんでたり?」

ルカ「……私はそんな、酒とか」


呑まなくはないが、そんな加齢臭の染みつくような飲み方はまだ未経験だ。
……おっさんくさいのみかたなんて、チャンチャラ御免。


智代子「……どうしたの、ルカちゃん?」

ルカ「……いや、別によ」


でも、こう酒に浸されたような淀んだ空気の漂うところでは、飲み交わさずとも変な酔いが回る。
ジジイ連中が酒の席でぐだぐだと愚痴をこぼすのにも、この時ばかりはある程度の理解を示すことができた。
言わなくてもいいのに、言わない方がいいだろうに、口が勝手に暴れ出す。


ルカ「……冬優子の事件、悪かった」

智代子「やだなあ、もうあの事件はふゆちゃんと手討ちにしたんだし、終わったことでしょ?」

ルカ「……あれは、オマエの本意なのか?」


聞かなくたっていい。そんなの答えは分かり切っている。


智代子「……本意かそうじゃないかって言われたら……そりゃ、ね……」

ルカ「……だよな」


なんのための確認なんだ。
……この確認に、一体何の意味がある?


つくづく自分の身勝手さ、不器用さには辟易する。


1.自分のおでんを一本やる
2.無言でおでんを食べる

↓1
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/13(月) 22:11:51.18 ID:HICo9pII0
1
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/13(月) 22:13:19.16 ID:ryCc/2O30
1
813 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 22:20:30.21 ID:/lNWkEhY0
1 選択

まずいことを言った、という自覚がある。
口に入れていた筋が妙に固くて、なかなか飲み込めない。
目の前にある数本が、とてもじゃないが食べきれないことに気づいた。


ルカ「……悪い、これ詫びな」

智代子「……ルカちゃん」


詫び、と言うかたちで一本を甘党女の皿の上に置く。
キョトンとした顔でそれを甘党女はしばらく眺めていたが、すぐに何を思ったのか急にべらべらとしゃべり始めた。


智代子「お別れってね、残されるほうが辛いんだって最近知ったんだ」

智代子「向こうはあえなくなるってのを知ったままでいけるけど、こっちはそれすらも知らないから……突然に全部を奪われてしまう」

智代子「……夏葉ちゃんと交わしたい言葉、夏葉ちゃんから聞きたい言葉」

智代子「見たい夏葉ちゃんの姿だって、色々いっぱいあったんだ」


どうやらこいつも暖簾が吸い上げたアルコールに中てられているらしい。
梁の向こう、遠いものを見つめながら話す、その口調には回顧が染みついている。


智代子「本当なら、それをどこまで追求したかったし。それを奪った相手を糾弾したかった」

智代子「でもね、そんなことをすれば……その相手に遺される人に、申し訳ないかなって」

智代子「別れは人の数だけ、無限にあるから……誰かがちょっとでも声を挙げちゃったら全部に伝播しちゃう。それは必ずしもプラスじゃないのかなって」


お人よし、とはこういう奴のことを指すのだろうと悟った。
こいつは二回も奪われた。理不尽の前に目の前でユニットのメンバーが二回も命を散らした。
だったら、少しぐらいわがままを言ったところで罰は当たらないだろうに。
それでもこいつは、『甘口』であり続けた。


智代子「……なんだか私も変なこと口走っちゃったかも」


徹底したチョコアイドルっぷりに、私は思わず息を漏らす。


ルカ「……ハッ」

智代子「もう! なんで笑うの、ルカちゃん!」

ルカ「……別に、こんな場で自分の意志と別に本音を漏らすなんて。ジジくせえなっていう自虐だよ」


……やっぱり、私じゃ283プロのアイドルにはなれやしない。


-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【園田智代子の親愛度レベル…8.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…16個】
814 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 22:23:43.95 ID:/lNWkEhY0
------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

後になってさっき口にしたおでんが効いてきた。
寝起きに、しかも朝飯をある程度食ったうえで口に入れるものは、少なくとも普通おでんではない。

こってりとした味付けに、煙の独特な香りが染みついて、後悔を覚えずにはいられなかった。

余計なことを言ってしまったのに関しても、余計なことを訊いてしまったのにも関しても。

あれを聞いてしまったからには、見て見ぬふりなんてもう出来やしない。


「……面倒だよな」


【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…102枚】
【現在の希望のカケラ…16個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/13(月) 22:30:21.05 ID:ryCc/2O30
1:あさひ
816 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 22:33:06.11 ID:/lNWkEhY0
早いですが、本日はここまででお願いします。
次回あさひ選択より再開します……
817 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 22:34:13.01 ID:/lNWkEhY0
次回更新は6/18(土)の21:00前後と少し先になります、申し訳ない……!
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/13(月) 22:36:46.31 ID:HICo9pII0
お疲れ様でした
819 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/06/14(火) 03:15:50.58 ID:1GjQUioD0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/15(水) 16:18:11.77 ID:3BnpKID90
5章更新始まってるのに気づくのめっちゃ遅れた……
冬優子のおしおきが仮に完遂されたらハリボテの教会との板挟みで圧死するの、
ハリボテの教会の飾り付けられた表側とそうじゃない裏側が冬優子の二面性の写像とすると、
救いを求めた結果取り繕った面に阻まれて死ぬことになるわけだし、
最後は壊れたセットのきれいじゃない裏側をメインに映す感じでカメラが抜かれて映像が終わりそうで、
情景を想像してたら悪趣味でとてもおいしいと思った
なんだったら圧死した後に冬優子だったものの跡とかハリボテの教会とかに一切フォーカスすることなく、
衝突したチャリオットを心配する感じとか何も関係ない光景とかをカメラが抜いたりするのも、
みんなを魅了しようとしてた冬優子という存在を映す価値なしみたいにめちゃくちゃ愚弄してる感じがあってそれもそれでおいしい
821 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 21:31:25.04 ID:hWUH9Ue/0
1 あさひ選択

【第5の島 ワダツミインダストリアル】

昼の自由時間、何かと手持ち無沙汰になることはあったがこんなふうにソワソワと落ち着かないことはあまりなかった。
美琴がどこにいるのか、何をしているのかその懸念こそずっと抱いてはいるものの。
私にはそれ以上には目下の不安材料がその未体験のざわつきを抱かせていた。

ルカ「……勝手に一人でぶらついてんじゃねーよ」

あさひ「あっ、ルカさん! どしたっすか?」

ルカ「どしたっすか、じゃねえ。こんな危ねえところ、一人で来ちゃダメだろ」

あさひ「……? 危ない、っすか?」

ルカ「テメェの後ろにあるそいつはなんだ? ただの置物か?」

あさひ「あはは、エグイサルはロボットっす。置物じゃないっすよ、ルカさん変なこと言うっすね」

……もう説得なんかも面倒だ。
いっそ首輪でもつけちまうか?

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/18(土) 21:41:13.31 ID:t+E20L+80
1 【多面ダイスセット】
823 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 21:47:37.04 ID:hWUH9Ue/0
1 選択

【多面ダイスセットを渡した……】

あさひ「何っすか? これ、さいころ?」

ルカ「おう、ただのさいころじゃなくて複数面……かなり多い数だろ。私には使い道はよくわからねえがオマエならなんか適当に暇つぶしに使えるかと思ってよ」

あさひ「……これ、出る目の確率とかってどうなるっすかね」

ルカ「……随分知的な好奇心だな」

あさひ「あはは、最近学校で習ったっす!」

(……確率の計算、か。もう忘れちまったな)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより多めに親愛度が上昇します!】

-------------------------------------------------

あさひ「あっ、あっちの機械見てみたい!」

ルカ「おいコラ、だから勝手に行くなって!」


あさひの関心のスイッチはいつ何に向けられるのか分からない。
目を離した隙に姿を消すし、触れてはいけないものほどよく触る。
この危機管理能力でよくもここまで生き残っているものだともはや感心する。


ルカ「……はぁ、なんでオマエはこう自由なんだ」

あさひ「ルカさん?」


……その感心は、慢心にも似ていた。


ルカ「……ったく、冬優子のやつはどうやってこいつの面倒を」

あさひ「……冬優子ちゃん」

ルカ「……ッ!」


迂闊だった。
自分の中だけに押しとどめているつもりだった言葉が漏れ出ていた。
きっとあさひ本人も無自覚にやっていたこと。
自分の関心にいつも以上に従順になって走り回っているのはその喪失を僅かにでも忘れるため。
気を紛らわさせるために、直視をさせないために別のものを自らに仕向けているはずだったんだろう。
でも、私が手綱を握ろうとするあまり、余計なものまで引っ張り出してしまった。
剥き出しになった喪失感が、あさひの手を緩め、床に金属が衝突する音を響き渡らせる。


ルカ「……悪い、オマエだって辛いのに思い出させちまった」


とりあえずの弁解。
されどあさひの水面には重たく大きな石が既に投げ込まれた。
波紋はそう簡単には止まない。


あさひ「……」


俯いたまま、言葉を発さない。
自分の影を見つめるまま、その奥にないものを探す。

……これは、まずったよな。


1.今は辛いけど、前に進むしかない
2.いつまでも目を背けてても仕方ないだろ

↓1
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/18(土) 22:01:24.53 ID:t+E20L+80
1
825 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:10:36.19 ID:hWUH9Ue/0
1 選択

どう申し開きをすればいいのか、というところから思考は始まった。
でも、それは私向けじゃない。
直面し続けた美琴との軋轢から目を背け、逃げ出した人間がどう謝るというんだ?
私は逃げて逃げて逃げた末になんとかそのチャンスをつかんだだけの事。
しかもそれを、既に逃してしまっている。


ルカ「……うざってえな」


なら、私がすべきことは申し開きじゃなくて、開き直りだ。
自分の口から出た言葉を無責任に肯定して、押し付ける。
それで乗り切るほかない、無茶するしかない。
そんな無茶でもしない限りは、この少女を救い上げられない。


ルカ「いつまでも他人に気を遣わせてんじゃねえ。ここは外の世界じゃねえんだ、オマエだって他の連中と同じ一つの数頭に入ってる」

ルカ「現実に目を向けられない、そんなの甘えに過ぎねえんだよ。どれだけ辛くても前に進まなきゃならねえ、実際冬優子はそうしてただろうが」

あさひ「……冬優子ちゃん、が」

ルカ「せっかく救い出した三峰結華は死んだ、長い間ユニットを組んだ仲間の和泉愛依も死んだ。それでもオマエと言う存在がいたから、あいつは凹む時間も惜しんで前に進んだ」

ルカ「あいつがその感情を乗り切ったかと言われれば答えはノーだ。でも、だとしてもあいつは前に進むことを選んだ。引きずりながらでも前に進むことを選んだ」

ルカ「オマエもあいつを慕ってんなら……その後ろ姿を見習うぐらいしやがれ」


本当に無責任な言葉だ。
自分にもできていないことを相手に要求する、ここにインターネットの眼なんてあろうものなら大炎上だろうな。
でも、ここは絶海の孤島。
誰にも干渉されない、干渉を求めることもできない。
自分に向けられた言葉は、自分で噛み砕くほかない。


あさひ「……難しいっす」

ルカ「……」

あさひ「ルカさんの言葉、難しいんですぐには分からないっす。……でも、分かりたい、理解したいって思ったっす」

あさひ「……だから、ちょっとだけ待ってもらっていいっすか?」

ルカ「……ちょっとだけな」


……言葉が響いたのかどうか、感触は分からない。
ただ、彼女が俯いていた顔を面に上げたのだけは確かだった。

私とあさひはそのまま、言葉を交わすことなくホテルへと戻った。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【芹沢あさひの親愛度レベル…10.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…17個】
826 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:12:50.51 ID:hWUH9Ue/0
------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

分かれるその瞬間まで、珍しくあいつは押し黙っていた。
帰り道をきょろきょろと見まわしていたのは、そこに幻影を追っていたからなのか。
流石にそれを問いただすような残酷な真似はやめておいた。

あさひが自分の中で冬優子の背中らから何を学ぼうとするのか、その答えを見つけるまで私は待つだけだ。

「……私も、いい加減答えを」

無責任さには、目を伏せて。


【自由行動開始】

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【現在のモノクマメダル枚数…102枚】
【現在の希望のカケラ…17個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/18(土) 22:15:00.27 ID:Lq4Dl7En0
1.あさひ
828 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:21:29.50 ID:hWUH9Ue/0
1 あさひ選択

【あさひのコテージ】

解答をせかすようで、少しだけ悪いと思った。
でも、きっとどれだけ時間を与えても同じことだ。
頭がどれだけいい人間でも、この問題の答えは分からないだろうし、それに自身も持てまい。

だとしたら、私たちがすべきはその正誤の判定ではない。
解答を練り上げるための議論、検討なんだ。

そのためには、同じ空間にいること、同じ時間を過ごすことこそが重要なのだと思う。

ピンポーン


あさひ「ルカさん、早いっすよ。まだモヤモヤしたままで、よくわかんないままっす」

ルカ「……悪い」

あさひ「……」

ルカ「……」

あさひ「……帰らないっすか?」

ルカ「……とりあえずの答えを聞こうと思ってな」

あさひ「……っす」


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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/18(土) 22:31:32.84 ID:Lq4Dl7En0
1.【絶対音叉】
830 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:48:23.23 ID:hWUH9Ue/0
1 選択

【絶対音叉を渡した……】

あさひ「わっ、何これ! 見たことない!」

ルカ「おいやめろ、鼻に突っ込む道具じゃねえ。音叉……一応音楽関連のもんだが、まあアイドルとはあんまり関係ないからな。音同士が共鳴した時に生じる振動を利用して医療とかに活用しているらしいぞ」

あさひ「へぇ……音で、すごい発想っすね」

ルカ「まあこれは破壊兵器として使うみたいだけどな。音で色々ぶっ壊しちまうみたいだから、使い方には気を付け……」

あさひ「透ちゃ〜〜〜〜〜ん! これ一緒に叩いてみるっすよ〜〜〜〜〜〜〜!」

ルカ「バッカ……!!!! おい、やめろ!!!! やめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

あさひの部屋は、案の定片付いてはいない。
そこらの床には乱雑に紙が散らばり、彼女の関心が尽きたであろう使い道も分からない機材の数々は適当に箱に突っ込まれている。
そこに、彼女に対する認識のずれはない。
私も芹沢あさひと言う少女はそう言うものだと思うし、彼女がここで過ごす時間があったならおのずとそうなるだろう。
それでも違和感がぬぐえないのは、ここに出入りしたであろう人間ならこのままにしていなかっただろう、というところから。


ルカ「……どうだ、冬優子と向き合ってみて」


尖った言い方をした。冬優子はもういない、あくまであさひが向き合うべきなのは『今は亡き冬優子』、あさひの中にいる冬優子、そしていない冬優子だ。


あさひ「ルカさんの言ってることはなんとなくだけど、分かった気がするっすよ。確かに冬優子ちゃんはどんな事件があった後でも、落ち込んだり、凹んだり……じっとしていることはなかったっす」

あさひ「きっと、ルカさんの言うように、わたしのためにそうしてくれてたんっすよね。愛依ちゃんがいなくなってからは、余計に」


冬優子の死に際の光景がどうしても蘇る。
あの不器用すぎる頭を撫でる動作、冬優子の思いの丈がそこに滲み出ていた。


ルカ「……冬優子は、最後になんて言っていた?」

あさひ「自分の想いを、汲み取ってくれって」

ルカ「……そうだったな」


では果たして……冬優子の最後の想い、とはなんなのだろうか。
私がさっき投げかけた言葉のように、辛くても前に進めということなのか。
それとも自分を代償に生きているのだと自覚しろと言うこと?


ルカ「あさひは、冬優子はどう思ってると思う?」


私にも、その答えは測りかねる。
だから、それはあさひに託した。
私よりもよっぽど長い時間を共に過ごして、熱心に彼女の観察を続けてきたあさひなら、きっと納得のいく答えを見つけられる。
それは私が冬優子から引き継いだ、『信頼』だった。




あさひ「……わかんないっすね」



831 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:50:01.45 ID:hWUH9Ue/0

あっけらかんとして、あさひはそう答えた。
それは何も、解答の放棄ではない。
むしろ考えて、考え抜いたからこそ見つけられた答え。
自分の都合に無理やり手繰り寄せた、恩着せがましい責任感ではない。


あさひ「あはは、他の人がどう考えてるのか、どう思ってるのか、なんてことはわたしもわかんないっす」

あさひ「でも、それって悪いことじゃない。当り前じゃないっすか。冬優子ちゃんもよく言ってたっす。他人なんて何を思ってるのか分かんないんだから、用心なさいって」

あさひ「だから、わたしも冬優子ちゃんの考えてることなんてわからないっす。わたしが冬優子ちゃんのために何をすればいいのか、なんて」

あさひ「あ、でもこれじゃ答えにならないっすよね。ちょっと待ってくださいっす、解答を用意するんで」


あさひがあさひらしくある所以、彼女のアイデンティティとも言うべき無責任だった。
誰かにゆだねられて生きるなんて、あさひらしくない。
そんな生き方を、冬優子が望むわけない。
冬優子は誰よりもそばであさひを見続けて、誰よりもねたみ続けてきて、誰よりもその生き方を理解しようとしていた人間だ。
だとしたら、その羽に枷をはめようなんざ思うはずもない。


あさひ「冬優子ちゃんが最期に行っていたのは自分の命を雑に使うなってことだったっす。それなら、わたしは……後悔の無いように生きる。自分は自分のしたいように生きる」

あさひ「冬優子ちゃんがやってたのと似てるかもしれないっすけど、これは私の生き方っす。ちょっとだけ違うんっすよ」

あさひ「えっと、だから……引きずる、とも違うし……えっと」


偶然にも私と同じ結論に帰結していたことに、少しだけ口角を上げながら私は苛立った。
きっとこれは、冬優子の読み通りなんだろうから。
冬優子と私は同族、ということはつまり……その理解者であるあさひもまた同族なのだ。
遺される同族を守れるのは同じ同族だけ、そういう意味で私をあてがっていたのだろう。
ヤロウ、どこまでも私を利用しやがって、気に食わねえやつだ。


ルカ「……ハッ、わかったよ。もうそれ以上は、いい」

ルカ「オマエの言葉なんて元々よくわからねえんだ。無理やり言葉を紡がれても不格好でいけねえ」

あさひ「……? そうっすか?」

ルカ「……これは、私の決めた生き方だ」


そう言って私は掌を差し出した。
こいつと同じく無責任に、その場だけの感情で差し向けた掌。
そこに引き継ぎも何もあったもんじゃない。いますぐにだってこの鎖をほどこうと思えば、ほどいてやれる。

……でも、それをしない。
今は、私がこれをしたいから、それだけの理由だ。


あさひ「あはは、ルカさんの手のひら、冷たいっす!」


偶然、こいつともその『やりたいこと』は今、一致していたらしい。

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【芹沢あさひとの間に確かなつながりを感じる……】

【芹沢あさひの親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:遊園地のぬいぐるみを獲得しました!】

・【遊園地のぬいぐるみ】
〔いつか遊園地に行ったときに持ち帰ったぬいぐるみ。ウサギとネコとクマ、さんたいのぬいぐるみに愛を注いでいたら、不思議なことに一瞬だけ一人でに彼女たちが動いたとあさひは語る〕

【スキル:ジャンプ!スタッグ!!!を習得しました!】

・【ジャンプ!スタッグ!!!】
〔集中力を使用した際の効果が増幅する〕
832 :あさひのイベントと少し表現に矛盾が出る部分が出てくるかと思いますがご容赦ください ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:51:12.48 ID:hWUH9Ue/0
------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

閉塞とした空気感が時計をせっつかす。
いつもよりも早く進んだ時計の針が、太陽を地中に埋めて一度の夜がやって来る。
今日と言う日はあっという間に過ぎてしまった。


「……そういえば、あさひのやつはどうしてんだ」


冬優子に名指しで託された手前、どうしても思考の片隅にあいつの存在がある。
憎たらしい言葉に自分勝手な行動、正直愛想をつかすには十分すぎるほどの理由があるのだが、それ以上の義務感がそれをせき止める。
多分冬優子も生前は一緒だったんだろう。
鬱陶しさと煩わしさと同じくらいに、放っておけない感じが付きまとって仕方がない。


「……顔見るだけ、な」


あいつ自身もこれまでの生活で変化して、多少は聞き訳は良くなったんだと思う。
今朝も部屋に入れたところで好き勝手荒らす様子はなかったし、必要以上に出歩きはしないし、危険に身は置かないとは思う。
それでも、過去の前例から得られた信頼の値のあまりの低さに、黙っていることはできなかった。

833 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:52:54.72 ID:hWUH9Ue/0
------------------------------------------------

【ホテル】

部屋を出る。
コテージの個室はこう見えて防音性が高いらしく、窓を閉めていると風の音すらまるで聞こえてはこない。
今こうして外に出ることで初めて虫が鳴いていることに気が付くくらいだ。


「……何の虫だろうな、これ」


都会の私たちは虫の名前を知らない。
どれだけ心地の良い声であろうとも、その持ち主は永久に分からないままだ。


「……あさひなら、知ってるか」


照れ隠しの言い訳にちょうどいい都合が見つかったとばかりに左を向いた。
あさひの個室はこの向こう。
中央の桟橋を挟んだ別ブロックに彼女の部屋はある。

ぎしぎしと音を立てて板橋の上を歩き始めたその先。
834 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:54:26.49 ID:hWUH9Ue/0





「……やめて〜〜〜!!」





835 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:55:55.62 ID:hWUH9Ue/0

向こうの木に留まっていた鳥たちが一斉に散っていった。
夜を引き裂くばかりの絶叫は、私の背後から。
ソールを横にすり減らして方向転換。
奥歯をバネに、その声のした方へと即座に駆け出した。

声に混ざっていた怒り、憎しみ、悲しみ、苦しみ……それらをすべて絞り出したような切迫。
一秒を争う事態が起きているのは、耳から脳へと情報を明け渡すよりも先にわかった。



そして本能が嗅ぎつけた緊急は、実際間違ってなどいなかった。


836 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:57:16.15 ID:hWUH9Ue/0



「……な、何やってんだよ……オマエ……!」



半開きの扉から明かりが漏れ出していた。
コテージは入ってすぐに生活空間が見える間取り、廊下らしい廊下もないボックス型の部屋は、その事態を観測するには優れたつくりだった。



美琴が、



____その手に持ったサバイバルナイフで、能天気女の左手をぶっ刺していることがすぐに見て取れたのだから。



837 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:58:23.91 ID:hWUH9Ue/0

美琴「邪魔しないで……!」

雛菜「痛い痛い痛い……!」


肉に深く突き刺さり刃先は貫通している。
だがそれが却って刃にとっては返しとなって、ナイフを抜き取るには障害となっているようだ。
美琴は二の手が撃てない焦りを額の汗で滲ませた。


ルカ「……畜生……!!」

ドンッ


その不意を突いて私は頭から美琴の脇腹に突っ込んだ。
838 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 22:59:29.34 ID:hWUH9Ue/0

ルカ「お、おい……大丈夫か!?」


すぐに私は能天気女の手を取った。
ひどい有様だ、血は止まらないし、断面からはもはや骨が見えてしまっている。
しかも、この刺さり方はまずい。指の根本の神経が密集する部分を狙っているかのような突き刺さり方。
激痛を感じるどころではないはずだ。


透「雛菜……?」


まるで魂が抜けてしまったかのようにへたり込んでいる浅倉透。
彼女はまだ事態が飲み込めていない様子だった。


ルカ「クソ……何がどうなってやがる……! とりあえず、包帯……なんか応急処置できるもんはねえのか……!」

雛菜「痛い……痛いよ……」


私は突然居合わせただけの存在。
夜に照明と赤とが混ざるこの異様な空間に身を置いて、体を火照らせる以外の反応が未だ示せずにいた。
839 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:00:27.31 ID:hWUH9Ue/0

その一方で、一度強制的に隔絶を行われたせいで襲撃者は冷静さを取り戻しつつあった。


美琴「……ルカ、邪魔しないで」

ルカ「み、美琴……!」


美琴はゆっくりと体を起こしたかと思うと、そのまま二本目を取り出した。
能天気女の手に刺さっているナイフと同等かそれ以上の刃渡り。
そんなナイフを両手で持って、浅倉透に向き直る。


雛菜「だ、ダメ……」

美琴「……今度こそ、必ず」

ルカ「バカ……何やってんだ……! 落ち着けって……!」


慌てて遮るようにして前に出る私と能天気女。
能天気女は傷の手当ても何もしていない。体を少しよじるだけでパタタッと音を立てて血のしずくが床に落ちる。
でも、そんな痛切な状態でさえも美琴の視界には入らない。
美琴が見ているのはただ一つ、憎しみを向けるべき存在。

____標的の、浅倉透だけだ。

840 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:01:20.50 ID:hWUH9Ue/0

美琴「……私は冷静だよ。むしろ他のみんなの方がおかしいんじゃないかな。自分は浅倉透を騙る偽物、更にはこの島に私たちを連れてきた張本人だっていう本人の証言もある」

美琴「にちかちゃんは最初から、ずっと……この子の怪しさに気づいていたのに」

美琴「……どうして、どうして……この子を受け入れて、にちかちゃんを拒絶するの……!?」

ルカ「ち、違う……! 私たちは七草にちかを拒んだりなんかしてねぇ、こいつも……それだから敵になるってわけじゃない、私たちに協力を宣言してくれてんだ……!」

美琴「言葉なんか何の信用になるの……!」


聞く耳を持たない人間に説得なんか無意味だ。
言葉は万能じゃない。
燃え盛る油に水を注げば却って激しく燃え盛る様に、美琴は私の言葉で逆上する。
ヘビが獲物を締め上げるような動作で、柄を持つ手にぎゅっと力がこもる。
841 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:02:05.90 ID:hWUH9Ue/0




美琴「私は……こんなところで止まっていられないの!」



身体の震えが、止まった。


(……来る!)


踵が床から離れた。
この部屋はそう大きなスペースではない。
美琴のすらりと長い脚ならば、ほんの数歩のうちに私たちのもとに到達するだろう。
ナイフを持った手なら更に前に伸ばすことだって。
刃が届くまでの時間となると、もはやコンマの世界だったのだろう。
そんな世界、感知しえない。
人間の反射神経ぎりぎりの世界は本能で観測するほかない。
842 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:03:17.33 ID:hWUH9Ue/0





____私の本能は、ギリギリまだ生きていた。





843 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:04:16.66 ID:hWUH9Ue/0

ルカ「……痛ェな……」

美琴「ルカ……!?」


不思議な感覚だった。
こんなにも冷たいものを触っているのに、両手は焼け落ちそうなくらいに熱い。
掌では生暖かいものが蠢いて、ぐじゅぐじゅと音を立てる。
その生暖かい何かは散々蠢いたかと思うと、わずかな隙間から零れ落ちて、床で破裂し、赤く染め上げる。
それを見ているうちに、じんわりと、それでいて確実に。
ズキズキとした感覚が腕を伝って、全身の力を抜いていく。

両手で、ナイフの刃先を掴んでいた。


ルカ「痛いんだよ、バカ野郎……!!」


砕けそうな腰を軸にして、弱弱しく美琴の腹を蹴った。
美琴はさっき以上の軽さで吹き飛んだ。

844 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:05:55.64 ID:hWUH9Ue/0

透「ちょっ、なんで……なんでそんな……」

ルカ「ああ?! 知らねーよ……私だってなんでこんな真似してんのか……」


浅倉透に手首を掴まれた。
翻して証明の元に晒された掌はパックリと切れており、血に塗れていた。


ルカ「それに、私より市川雛菜だろうが……!」


でも、私の切り傷はあくまで表面上にとどまる。
肉を多少割いていたとしても、まだリカバリーは効く。
市川雛菜のそれは、レベルが違った。
ナイフを掴んだことに当惑するばかりの私たちをよそに、市川雛菜はその場にうずくまる。
ナイフの突き刺さった手を腹部の下に隠すようにして、背中を丸めている。


ルカ「クソ……ナイフを下手に抜くわけにもいかねえ……モノミ、モノクマでもいい……! 早く治療してやってくれ……!」

雛菜「うぅ……」


私が余裕なく叫ぶと、すぐにトテトテと場に不似合いな素っ頓狂な足音とともにモノミが姿を現した。

845 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:07:07.31 ID:hWUH9Ue/0

モノミ「な、何が起きてるんでちゅか……!? 市川さんに斑鳩さん……いや〜〜〜〜〜! スプラッタでちゅ〜〜〜〜!」

ルカ「スプラッタでもオモプラッタでもねえ! さっさと治療しろ! このままじゃ市川雛菜の手は……!」

モノミ「は、はい! わかりまちた……斑鳩さんも、治療しまちゅから一緒に病院に行きまちゅよ!」


モノミは市川雛菜に肩を貸すようにしておぶると、私に同行を促した。
見た目の割に力はある、モノケモノを撃退していただけのことはあるらしい。


透「雛菜、しっかり……大丈夫だから」


モノミの背中で浅く呼吸をする市川雛菜に声をかける。
それに応じて、首をしんどそうに傾げて浅倉透の方を見た。


雛菜「透ちゃん……怪我はない〜……?」

透「ないよ、ありがとう……その、だから」


浅倉透の言葉はたどたどしい。
いつも多くを語るような人間ではなかったが、それに動揺が拍車をかけていた。
846 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:08:45.75 ID:hWUH9Ue/0


雛菜「あは〜……それならまあいいや〜……」

透「なんで……私、本当の『浅倉透』じゃないんだよ……ただのコピーでさ、雛菜が体を張ってまで守る意味なんて……」


いつものような余裕がその言葉からは感じられなかった。
自分自身の存在と言う負い目が、この恩義を否定しようとしていた。


雛菜「ん〜……よくわかんないけど〜……」

雛菜「幼馴染だからとか、透先輩と同じ見た目だからとか、そういう理由じゃなくて」



雛菜「雛菜が守りたいと思ったから! それだけじゃダメ〜?」



失血していくさなか、顔色の悪い笑顔だった。
痛々しいその右手で不格好なピースをつくり、プルプルと持ち上げて。
私でも、その光景には感じ入るものがあった。

847 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:09:48.24 ID:hWUH9Ue/0

___でも、あいつはそうではなかった。


美琴「……」


美琴はお腹を抑えるようにして気配無く立ち上がり、そのまま私たちの横をすり抜けていく。


ルカ「ま、待て……美琴!」


掴んだ裾に、私の手のひらの血がべったりと付着した。


美琴「……ルカ、ごめんね」

ルカ「謝んのは私じゃねえだろ……!」



美琴「……もう、目の前に姿は現さないから」


848 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:10:28.83 ID:hWUH9Ue/0

ルカ「……あ?」

美琴「……それじゃあ」


どうやら私の傷も浅くはないらしい。
がっちりと指で挟んで掴んでいたはずの裾はスルリと離れ、その影はすぐに夜の闇と馴染んでしまった。
あいつだって何度も突き飛ばされて無傷でもないはず、それなのに全く追いつけなかったのはその体に背負い込んでいるものの重量の差。
私の足は部屋の内側には軽いが、外側には重たかった。


モノミ「……これ以上の危害を加えてくる気はないんでちゅかね……?」

透「……多分、相方を傷つけたからじゃないかな」

ルカ「……」

透「雛菜を刺したことよりも、多分そっちの方がずっとずっと……痛いんだと思う」

ルカ「……チッ」


私たちはモノミのすぐ後に続いて、部屋を後にした。

849 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:13:28.83 ID:hWUH9Ue/0
------------------------------------------------
【第3の島 病院】

私の傷はナイフを掴んだために皮膚がぱっくりと切れ、一部筋肉を傷つけた程度。
気が飛ぶほど沁みる消毒をした後に、包帯をぐるぐる巻きにすることで何とかなった。

だが、問題は市川雛菜。
明らかに貫通していたナイフを、美琴は抜き取ろうとあがいたことで更に傷を広げていた。
不幸なことに骨とぶつかることもなく突き刺さってしまったがゆえに、出血も激しく病院に着くころには市川雛菜は気を失ってしまっていた。
モノミにとりあえず委ねるほかなく、私と浅倉透はロビーの椅子に腰かけてその時を待った。


ルカ「……突然、押し入ってきたのか」

透「うん……二人で部屋にいたところに、インターホンが鳴って」

ルカ「扉、開けたのか? 不用心だな」

透「……実は、これ」


懐からくしゃくしゃになった紙を目の前で広げる。
罫線が数本横にひかれた長方形の紙、手紙の様式だ。
私はそれを引っ手繰るようにして目を落とした。
850 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:15:24.97 ID:hWUH9Ue/0



『今晩大事な話がある。夜のアナウンスが鳴ってから十分ほど経ったら部屋に行くから入れてくれ』



ルカ「……は?」


成程二人はあらかじめアポイントを受けていたのだ。
これを受け入れてしまっていたがために、美琴の来訪だというのに不用心にも扉を開けてしまい、結果として刺されてしまった。
その流れは飲み込めた。
でも、どうしても飲み込めない一つの事実がある。

それはどれだけ頭を捻ろうとも答えが見つからない、嚥下するにはあまりにも大きくていびつな形をした謎。



_____その手紙は、完全に私の筆跡だったのだ。


851 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:17:07.86 ID:hWUH9Ue/0

どこの教室に通ってもいない、誰にも師事をしていない、ぶっきらぼうで直線的なボールペンの字は私がスケジュール帳に殴り書いた文字と完全に同一。
だが、当然ながら身に覚えなんてない。
私はあの時扉を開けたのは、あさひの様子を見に行くため。
それにアポイントなんかとるつもりもなかったし、そもそも人の都合を伺って訪問をするような几帳面な人間でもない。
それなのに、その筆跡には数年着古したジャケットにそでを通した時のような順応感があった。


透「……この手紙があったから、きっとルカさんが来るもんだと思って」

ルカ「違う、私はこんなの出しちゃいねえ……」

透「……えっ」

ルカ「意味わかんねえ……なんで、なんで私の文字でこんなのが書かれてやがんだ……!」


夢遊病の類いだろうか。それとも別人格?
私が無自覚なうちにこんな手紙を書き記して、浅倉透の部屋に投函してしまったのかもしれない。
……そんなわけない、あるはずがない。

まだ傷がふさがっちゃいない、手のひらの包帯はすっかり血に染まって真っ赤だった。


ルカ「……わけわかんねえ……これを美琴が用意したってのか……?」

透「……」
852 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:18:35.73 ID:hWUH9Ue/0
____
______
________

モノミ「……手術は終わりまちた」


それから数十分後、モノミがようやっと姿を現した。
ピンクと白のツートンの毛はすっかり血の赤色に染まっており、B級ホラー映画の殺人人形のような見た目だ。
だが、そんな映画の中の人形のように狂気的な笑顔を浮かべるでもなく、モノミはただ俯いている。
言葉など聞かずとも、その意味は理解できる。


ルカ「ダメ、だったのか……?」

透「そん、な……」

モノミ「……命を落とすようなことはありまちぇん。輸血も間に合ったので、失血死なんてこともないでちゅ」

モノミ「……でも、市川さんに重篤な後遺症が残ることは間違いないでちゅ。右手の神経は、もうどうしようもありまちぇんでちた」
853 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:19:45.17 ID:hWUH9Ue/0





モノミ「市川さんは今後もう自分の手でお箸を握ることも、誰かと手をつなぐこともできないでちゅ」




854 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:20:57.70 ID:hWUH9Ue/0

言葉を失う、という表現はきっとこの場にはふさわしくない。
もっと前から言葉を咽喉から持ち上げることは出来かねていたし、頭に浮かんだ言葉はシューティングゲームのようにその悉くを撃ち落としていた。
私がこの場において、言うべき言葉なんて何一つない。
喋るべきでない。
だから、多分正しい表現は呼吸をすることも忘れる、なのだと思う。
一人の人生が大幅に歪められてしまった、その場に居合わせることの重大さを前に、私は口を固く締めあげて、空気をかみちぎった。


透「……う、そ」

モノミ「……あちしには、義手に挿げ替える技術はないでちゅ……モノクマのように大幅な人体改造もできないんでちゅ……本当に、ごめんなちゃい……」


地面に額を擦り合わせるようにして許しを求めるモノミ。
本当に不細工なマスコットだ。こいつがしているのはただの自己満足。
自分の実力及ばずと言うのを、悲劇のヒロインぶることで解消しようとしている。
人間の醜さを体現したような在り方に虫唾が走った。

855 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:21:47.25 ID:hWUH9Ue/0

透「……」


浅倉透もそれは感じ取っていたのか、モノミに言葉をかけようとはしなかった。
背を向けて、力なく再び椅子に落ちるようにして腰かけた。


透「何やってるんだろ、私」

透「……みんなを守るために、ここにいるのに」

透「何も守れず、私のせいで……失って」

透「……キツイなー、人生」


煙のように天井に吐き出した言葉に、天井が軋んだ。
856 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/18(土) 23:24:15.46 ID:hWUH9Ue/0

というわけで本日はここまで。
あさひの親愛度がマックスになったり、夜襲があったり、色々と起きましたね……

次回更新は明日21:30頃を予定しています
それではお疲れさまでした、またよろしくお願いいたします。
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/18(土) 23:28:50.69 ID:oOVPKMGo0
>>1
好感度マックスになったのは確かなんだけど
>>1がここであさひの名前を出すのなんか不穏なんだけどまさかね・・・
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/19(日) 01:04:55.29 ID:EQ8hP+wk0
大胆な邪推はイナゴの特権・・・(迫真)
859 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/06/19(日) 03:01:06.44 ID:mMoGzpGu0
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860 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/19(日) 21:34:28.25 ID:zQ5P2I1e0
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≪island life:day 24≫
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【第3の島 病院】

……徹夜だ。
市川雛菜の顛末を訊き遂げてから、この場を離れようにも靴底がのり付けされたように動かず。
そして掌の痛みも相まってすっかり目も醒めてしまっていた。
眠気を全く感じることもなく、気が付けば真っ暗な空がすっかり太陽の熱で溶け消えてしまっていた。


ルカ「……朝らしいな」

透「……」

ルカ「メシ、取ってこようか? オマエ、ここから離れる気ないんだろ」

透「……ん」

ルカ「……わかった、ちょっと待ってろよ」


こいつの気持ちも察して余りある。
流石にここで黙って飯を食いに離れられるほど私も血の通っていない人間ではない。
浅倉透は目線をこちらにくれることもなく、幽かな声量で返事した。
私もそれ以上は言わず、ゆっくりと立ち上がる。
長く座った膝は、それだけでパキッと鳴った。
861 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/19(日) 21:36:27.25 ID:zQ5P2I1e0

その瞬間、



「あれ〜? ご飯食べに行くんですか〜? 雛菜もそろそろお腹すいた〜〜〜〜!」



廊下には、あいつが立っていた。
いつものようにキンキンとうるさいトーンとボリューム。
あからさまなくらいな笑顔で、ブンブンと左手をこちらに向かって振っている。
昨日とほとんど相違ない市川雛菜が、そこにいた。

862 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/19(日) 21:38:46.17 ID:zQ5P2I1e0

ルカ「お、オマエ……! 目、覚ましたのか……!」


駆け寄る私に先行して浅倉透が肩を揺さぶった。


透「雛菜……雛菜……!」

雛菜「あは〜、透ちゃん痛い〜」


でも、その手を払いのけることはしない。
いや、できないんだろう。
ここまでのわずかなやりとりでもわかる、体はどこか傾いたようになっていて比重がうまくのっていない。
完全に動かなくなってしまった右手との帳尻が合わない体は、見ていてもどこか違和感を孕んでいた。


雛菜「起きたのはついさっきで〜、アナウンスが聞こえたんで朝ごはん食べに行こ〜って!」

ルカ「だ、大丈夫なのか……? その、昨日の今日で……」

雛菜「ん〜、大丈夫じゃないですね〜。お箸もスプーンも持てないし、ごはんは雛菜一人じゃ食べれないので〜」

透「……っ!」
863 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/19(日) 21:39:41.37 ID:zQ5P2I1e0


雛菜「だから、透ちゃんは雛菜にあ〜んしてね〜?」



ちょっと転んで擦りむいたぐらいのテンションだった。
これ見よがしに傷を見せびらかすこともせず、なんなら話題をさっさと流そうとすらしていた。
今後一生に関わる話を、日常会話のようなトーンで話す。
彼女のスタンスには従いたいのも山々だが、当事者足る私たちはそれに流石にただ乗りはできず。


ルカ「ちょ、ちょっと待て……その傷、痛むんだろ? 無茶すんなって……」

雛菜「痛いことは痛いですけど〜……え、雛菜がご飯食べちゃなんかまずいんですか〜?」

ルカ「いや、そうじゃなくて……私たちにもなんか……言いたいこととかあんじゃねえのか……?」

透「私は……雛菜の一生を傷つけたんだ」

雛菜「え〜?」

864 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/19(日) 21:42:38.07 ID:zQ5P2I1e0

でも、むしろそれを市川雛菜は鬱陶しそうにあしらった。


雛菜「ん〜、これ昨日も言ったと思うんですけど〜。雛菜は雛菜が守りたいと思ったからやっただけなので、別に透ちゃんもあなたも悪く思う必要なんてないですよ〜」


雛菜「結果として、誰も死ななかったしそっちの方が雛菜はしあわせですよ〜?」


どこまでも単純な論理だった。
市川雛菜にはずっと迷いがない。仲間のことで思い悩むことはあっても、そこから導き出される結論に、彼女自身が絶対の信頼を置いている。

だからぶれない、悔やまない、立ち止まらない。
この島にいる誰よりも、自分自身の在り方と歩み方を持っているのだと今この瞬間に理解した。
ジェットコースターで浅倉透を『透ちゃん』と呼んだ時のような爽やかさが頬を撫でる。


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