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トレーナー「ひたいに油性ペン(極太)で“オグリ”と書かれた」
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◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2022/01/09(日) 06:32:52.18 ID:7TLsjr9y0
「オグリ……怒らないから教えてくれないか。何故こんな事をしたのか」
俺は怒っていなかった。
本当に怒っていない。
なぜなら驚きと戸惑いに支配されて、怒るどころではないからだ。
目の前には耳を垂れさせたオグリが、申し訳なさそうに座っている。
今でこそ落ち込んでいるが、つい先ほどまで意気揚々とした様子であった。
――おかしいと感じたのは一時間ほど前の事だったか。
仮眠から目覚めると、いつから部屋で待っていたのかすぐ傍《そば》にオグリが立っていた。
あくびを噛み殺しながらどうしたのかと尋ねてみると“キミの様子を見ていただけだ”といつになく落ち着かない様子で答える。
寝ている俺の様子を見るなんて変わった事をするもんだとは思ったが、彼女の独特の好奇心には慣れている。そこまで不思議に思わない。
違和感を覚えたのは、彼女がクリスマスプレゼントを前にした子どものように目を輝かせ、そわそわとしていたからだ。
もう一度どうしたのかと尋ねたか、オグリは口を子どものようにつぐんで首を左右に振るだけ。
気にはなったけど、今は教えてくれるつもりはないのだろう。気が変わるまで待とうといったん諦め、彼女と連れ立ってグラウンドへと向かった。
グラウンドへと向かう最中に、様々な視線を受けた。
ある者は二度見し、ある者は目を見開いて驚き、ある者はクスクスと笑い、そしてある者はオグリに親指をにこやかに立てる。
何かが起きている事はわかった。だがそれが何であるか、俺にはわからない。
隣を歩くオグリに尋ねても、彼女は“問題無い”と自信満々に言い張るのみ。
もしここで彼女が笑いをこらえたり、申し訳なさそうな様子だったら俺の傷は浅くすんだだろう。
しかし俺の質問に答えるオグリはどこか自慢げな――飼い主に褒められるのを待つ大型犬のようであったため“よくわかんないけどオグリが楽しそうだからいいや”と流してしまった。
その結果、俺はひたいに油性ペン(極太)で“オグリ”と書かれたままグラウンドまで歩き、オグリと共にトレーニングに励むこととなる。
……いや、おかしいとは思ってたんだ。他の練習中のウマ娘が俺の横を走り過ぎたとたんにペースが乱れたり、戸惑いながら俺に話しかけようとする同僚を、その担当ウマ娘が慌てて止めに入ったり。
結局俺がひたいの文字に気がつけたのは、トイレに行って何気なく鏡を確認したからだ。
“オグリ”
ひたい全てをキャンパスに、太さ1センチは超えよう力強い文字がデカデカと主張している。それは眉毛にかからない程度の俺の前髪ではとうてい隠し通せるモノではなく、一瞬にしてこれまでの奇妙な反応について合点がいった。
「お、おお……」
合点はいくが――
「オグリイイイイイイイィィッ!!!」
――納得いくはずが無い。
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