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【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】

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602 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:03:59.34 ID:Gmun8+E70

だって、こんなコロシアイだなんて外の世界じゃまずありえないじゃないっすか?
明日自分が生きているかもわからない、そんな状況映画でしか見たことがないっす!

わたしもすごい毎日ドキドキして、夜になると体が意味もなく震えたりするんっす。
多分これって「怖い」って事だと思うんっすけど、それって本当にみんな同じなんすかね?

だって、今から人を殺すって人が「怖い」って思ってたら殺すこともできないじゃないっすか。
だからきっと、わたしたちと違った気持ちの人がいると思うっす。
今はいなくても、やがて「怖い」じゃなくて別の気持ちになる人が出てくると思うんすよね。

そういう人が何を考えて、何を感じて、何を思って人を殺すのか。
そして、人を殺した後、学級裁判に挑んでる時はどんな気持ちになるのか。

わたしはそれがすっごく気になるっす。



……だって、わたしはそんなこと今まで考えたこともなかったっすから!



603 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:05:07.75 ID:Gmun8+E70
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CHAPTER 02

厄災薄命前夜

(非)日常編


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604 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:05:55.30 ID:Gmun8+E70



《美琴「奈落」

美琴「ステージの下。私は一人になる。誰の助けもない、誰も隣にいない。出番を待つその時間に、自分自身を顧みる」

美琴「……でも、ここを出れば私は孤独ではなくなる。私を待ち構えてくれる人が、ファンが、スタッフが、プロデューサーが」

美琴「……そして、隣に立ってくれるパートナーがいる。その人たちのために、【すべて】がある。私の【すべて】はそのためにある」》




605 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:07:06.35 ID:Gmun8+E70
【ホテル ルカの部屋】


「……クソッ」


ベッドから見上げた天井はシミひとつなく真っ白で、忙しなくファンだけが回り続けてブンブンと音を立てる。
その音が妙に煩わしく感じると同時に、喉に渇きを覚えた。
備え付けの冷蔵庫には一応の飲料はあるが、そういう気分じゃない。


……一応は私も成人している身だ。
こういう気分の時には【その力】に頼ることが許される。


「……行くか」

606 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:08:32.90 ID:Gmun8+E70
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【ロケットパンチマーケット】


さっきの今で、月明かりが薄気味悪い。
背中を突き刺す光の一つ一つに嫌悪感を覚えながら、足早に目的を果たすためだけに向かう。


道中特に人影はなし。誰ともすれ違わなかったのはラッキーだ。
どうせ283プロの連中は七草にちかの一件でまだ立ち直ってもないだろうし、煩わしい会話もしなくて済む。
用件だけ済ませてさっさと個室に戻ってしまおう。
あのスーパーの棚の並びはなんとなくは頭に入っている。

と、私はまるで無警戒に店内に踏み入ってしまった。




……もっと慎重になるべきだったという後悔を、私は数分の後にすることになる。


607 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:09:49.46 ID:Gmun8+E70





千雪「……あら? ルカちゃん……?」

(……!)





608 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:11:59.67 ID:Gmun8+E70

高校生以下が半数以上の283プロ、まさかこんなところにいるとは思いもしなかった。
手芸女は口をポカンと開けて間抜けに私の姿に驚いている。


ルカ「……帰る」

千雪「ま、待って! 大丈夫……その、誰にも言わないから……」

(誰にも言わないってなんだよ……私が気恥ずかしさから逃げようとしてるとでも思ってるのか?)

ルカ「……私は誰かと話をしに来たんじゃない、そこの棚のそれに用があるだけ」

千雪「ここの棚って……お、お酒……?」

ルカ「……悪いかよ」

(学校の先生にでもなったつもりか?)

千雪「……ううん、ルカちゃんの気持ちはわかるから」


そういうと手元の籠を少し揺らして、私に中身を見せてきた。
なるほどこいつの籠にも酒瓶の影が見える。
裁判の疲れと心に追った傷とを癒すためにそのはけ口を探しにやってきたらしい。
何もこちらから言葉は送らなかったが、手芸女は何を思ったのか自嘲気味に口を開いた。
609 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:13:02.25 ID:Gmun8+E70

千雪「大人ってずるいよね、こんな時でも逃げ道があるんだもの。……でも、今この島にいるみんなはそんな逃げ道もなく現実に向き合うしかない」

ルカ「卑怯者って言いたいのか?」

千雪「ち、違うの! えっと……その……」

(なんでこいつはこんなあたふたしてまで私を呼び止めるんだ? 話題もちゃんと用意してすらいないくせに……)

(……チッ、七草にちかに限らず283プロの連中はこんなのばっかかよ)


いつまでたっても理由なく会話を続けようとする手芸女に業を煮やした私は語気を強めて言葉を吐き捨てる。


ルカ「悪いけど、お前の無駄話に付き合うつもりはない。イラつくんだよ」

ルカ「言いたいことがあるなら、もっとスパッと言ったらどうなんだよ」

千雪「……!」


針で刺すような私の言葉に手芸女は面食らった様子で、左足を少し後ろにやった。
私はこういう交渉には慣れっこだ。相手が少しでも下手に出る様子があるなら、圧で押し通してしまえば相手は臆して勝手に引っ込んでいく。
今回もその範疇。普段からほんわかした雰囲気を巻き散らかしているような、奥手で弱気な相手なら私が御しきれない道理がない。
610 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:14:27.08 ID:Gmun8+E70




____そう、思った。




千雪「……わかった」

ルカ「……あ?」

手芸女は一度は引いたその左足を、今度はもっと図々しく私の方に向かって踏み込んできた。
逃避の防御姿勢とは魔反対、臨戦態勢といったところ。

不安で揺れる瞳を私のもとに矯正して、奥歯で何かをぎりぎりと噛み潰している。
手芸女は生唾をひとつごくりと飲み込むと、口を開いた。



千雪「ルカちゃん、本当にありがとう」



611 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:17:02.41 ID:Gmun8+E70

「ありがとう」その五文字が理解できず、一度目の前の宙に描いてみた。
やっぱり違う。裁判の終わりにも283プロの連中が私たちに投げかけてきたその言葉は、何度確かめようとも私には不適切な言葉だと思う。
何かを施してくれた相手に、その謝意を示すために使われるその言葉は、もっと善人で、もっと余裕綽々として、もっと背筋の伸ばした日の当たる人間に向けられるべき言葉だ。
少なくとも、私が受けていい言葉なんかじゃない。
だから私は強い言葉でその五文字を拒絶した。


ルカ「……裁判終わりにも言ったはずだ、私は何も礼を言われる謂れはない」

ルカ「不愉快なんだよ、押し付けてくんじゃねー」


それでも、手芸女はその身を揺らがせることもせず、正対したままだ。


千雪「ルカちゃん、あなたが言っているのは私たちを立ち直らせたにちかちゃんの言葉についてのこと……だよね?」

ルカ「じゃあ……違うのかよ?」

千雪「うん……私はルカちゃん自身が美琴ちゃんと向き合ってくれたことに対する感謝をしたいの」

ルカ「美琴と……?」

千雪「私たちと美琴ちゃんとの間にはまだ隔たりがある……そして、それを真に理解してあげられるのはルカちゃんだけだもの」

(……! こいつが言ってるのは、美琴と私との【解散】のことか……)


何を理解した風な口ぶりで、本来ならそうやって言葉を返すところだが、手芸女にその言葉はぶつけられない。
こいつからにじみ出ているものは、そういう表面的なものではない。
もっと奥底にしみついた、海泥みたいなドロドロとした淀んだ感情。私もよく知るそれが透けて見えている。
612 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:18:02.31 ID:Gmun8+E70

千雪「裁判の時……ルカちゃんが美琴ちゃんと正面からぶつかり合ってくれたおかげで、最後の最後にシーズの二人はお互いの素直な感情を打ち明けられたんじゃないかなって思うの」

ルカ「……」

千雪「美琴ちゃんが納得していなくても、多数決の投票できっと間違った道にはなっていなかった。でも……それじゃダメなんだよね」

千雪「本当の気持ちを押し殺したままなんて……辛いもの」

ルカ「……お前、それって」

千雪「……」

(こいつも、そういう経験があるってことか……?)


私に手芸女のことはわからない。
所詮美琴と同じプロダクションに所属しているだけの存在で、それ以上の興味も関心もない。
だが、こいつが持っているそれは、近からずも遠からずという距離感で私と美琴の間の溝と類するものらしい。



でも、だからと言って……受容するわけにはいかない。


613 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:19:58.87 ID:Gmun8+E70

ルカ「……手芸女、お前の言いたい事はわかった。わかったけど……それでも違うんだよ」

ルカ「私は……まだ向き合えちゃいない」


情けない話だけど、私はまだ七草にちかのように一歩を踏み出す事ができていない。
私が裁判でやったのは、ただの癇癪のぶつけ合い。
シーズの二人が、死の間際にいつかの私たちのような道に向かおうとしていたから、それが見苦しくて足掻いただけ。
実際、七草にちかもそれはよくわかっていた。

じゃないと、【私の手本】なんてクソ生意気な口を叩くわけない。
あいつは、私に美琴のことを託そうとした。
あいつの願いを受け入れるつもりは全くない。

でも……私がここで生きていくのなら、それと同じことをしなくては生きては行けないだろう。
今この瞬間も、美琴のことを思うだけで胸が張り裂けそうだ。



千雪「____別に、いいんじゃないかな」



614 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:21:28.06 ID:Gmun8+E70

ルカ「……はぁ?」

千雪「まだ向き合えていない……きっとそれでもいいと思うの」

ルカ「お前……他人事だからって適当なこと……!」

千雪「適当なんかじゃないわ。……私たちは、にちかちゃんに生かされた。生きている私たちには時間がある、悩んで、つまづけるだけの時間があるんだもの」

ルカ「……!」


『七草にちかに生かされた』。
とんでもないことを口にしてくれたものだ。あんなに憎くて恨めしくてたまらない存在だったあいつに恩義を感じろとでも言うのか?


千雪「ゆっくりでいいの、ゆっくりとでもルカちゃんの答えが見つけられればそれでいいんじゃないかな」

ルカ「……知ったような口利きやがって」

千雪「ごめんね、お節介焼いちゃって」


正直なところ、手芸女の論法は非常に癇に障った。
自分の中の経験と勝手に類似を見出して推し量り、分かったような気になる。それでいて臆面もなく教訓じみたくさい言葉で諭してくる。
ドラマに出てくる『理想の教師』みたいなそれは、私が一番苦手とする相手だ。
615 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:22:32.23 ID:Gmun8+E70

ルカ「本当、メーワクこの上ねーよ」



でも、だからこそ……こいつのその腹の内を見てやりたいと思った。

たった数年ごとき年上だからって、よき理解者ぶった余裕を見せびらかしてくる、その面の皮の厚さを検証してやりたいと思った。
無駄に透き通ったその言葉に、一点の濁りもないのか、明かりに透かして見てやりたいと思った。
……幸いにも、今日は月光夜だ。
夜を利用して、それを検証するにはもってこい。


ルカ「……だから、迷惑料。付き合ってくれんだろ」


千雪「……! ふふ……ええ、喜んで」

ルカ「言っとくけど、まだ成人したばっかなんだよ。酒の良し悪しなんか知らないから、任せる」

千雪「それじゃあ熱燗なんか挑戦してみる? 日本酒もコンロも揃ってるから……案外おいしいの」

ルカ「……おう」

千雪「やった! それじゃあおつまみも選んじゃおうかな〜」

ルカ「……好きにしな」

616 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:23:41.20 ID:Gmun8+E70
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【千雪のコテージ】


千雪「ごめんね、少し散らかっているけど……好きなところに座ってくれていいから」

ルカ「……おう」

(なんだ、この部屋。やたらといい匂いっつーか……雰囲気が違うっつーか……)

千雪「さっそく始めちゃいましょ! ……ふふ、誰かと飲み交わすなんて久しぶりだからなんだかテンション上がっちゃうな!」

ルカ「……そうかよ」

千雪「よし、それじゃあ早速ルカちゃんには私のとっておきの飲み方を伝授しちゃうぞ!」

ルカ「……」


スーパーを出た私たちはそのまま手芸女の部屋へ。
薄桃色でファンシーな雰囲気ある部屋はなんとも収まりが悪くてはじめソワソワしていたが、
その中で飲み交わす日本酒のミスマッチさが妙に滑稽ですぐに部屋の空気は気にならなくなった。
617 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:25:01.53 ID:Gmun8+E70

はじめこそ無言だったものの、酒を入れ始めるとアルコールが口元の緊張をほぐしていき、自然と口から言葉が継いで出た。
私の口から出る愚痴や妬み嫉みも、手芸女は文句ひとつ言わず受け止めて、真剣に話を聞いていた。
そんな手芸女に気をよくしたのか何なのか、私も自然と守ろうとする領域の防衛線を徐々に徐々に無自覚に下げ始めていた。


ルカ「……別に七草にちかに嫉妬してたわけじゃねえんだよ、それより____」

千雪「……それより?」

ルカ「美琴を失ったことが辛くて……この島で美琴を見た時に、嬉しさと辛さが同時に湧き上がってきて、さ……」

千雪「そっか……」


裁判を終えた疲れからか酔いは思ったよりも早く回って……正直記憶もしっかりしない。
酒の勢いに任せて余計なことも口走った気がする。

618 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:26:00.44 ID:Gmun8+E70

ルカ「美琴のやつはさぁ! 放って置いたらすぐに食事をゼリーとかで済ませようとするからさぁ! 私は、私は毎回お弁当作ってやったりさぁ!」

千雪「確かに美琴ちゃんの食生活はちょっと心配かも……」

ルカ「だろぉ?! あいつやっぱ変わんないんだな……!!」

◇◆◇◆◇◆

ルカ「美琴の家すごいんだぞ?! マジで家具なんかも全くないから……どういう生活してんだって話だ!」

千雪「そういえばこの前家電を新しくするとかで、事務所に美琴ちゃん用の荷物が届いてたのをちらっと見かけたなぁ」

ルカ「ま、マジか……?! あいつ、家電とか使えんのか!?」

千雪「ふふっ、それはちょっと美琴ちゃんに失礼よ」

◇◆◇◆◇◆

ルカ「あいつ、寝るときはやけに寝相がよくてよ……子供みたいな顔して眠るんだ」

千雪「ふふっ、美琴ちゃん普段は大人っぽいから意外ね」

ルカ「そう! そうなんだよ! 寝息も静かでさ、だからついつい構いたくなっちまうっつーか……!」

千雪「あら、美琴ちゃんのがお姉さんでしょ?」

ルカ「そうなんだけど、そうなんだけどさ……わかんだろ? な?!」


というか、もはや酒のせいで体裁を取り繕うことすらもおざなりになっていたはずだ。
本当、酒というものは恐ろしい。自分の中の知らない自分を曝け出し、本人はそれすらも無自覚なのだから。

何時間話し続けていたのかもわからないが、手芸女はずっと表情豊かに私の話に耳を傾け続けて、
それが心地よくて心地よくて、気がつけば私は机に突っ伏して眠ってしまっていた。
619 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:27:07.02 ID:Gmun8+E70
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≪island life:day 6≫
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【千雪のコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も前回気分で張り切っていきましょう〜!』


「……はっ?!」

酒に完全に呑まれていた私は目を覚まして困惑。私の部屋とは雰囲気が180度違う、ファンシーな空気感。
まさに『知らない部屋』というやつだ。そして傍には手芸女が幸せそうに口元を緩めて机に涎を垂らしながら眠りこけている。
620 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:28:42.52 ID:Gmun8+E70

「なんで私がこんなところに……」


スーパーでこいつと言葉を交わした事はなんとなく覚えている。ただ、そこからここに来るまでの経緯の記憶は朧げだ。
283プロの連中のことだ、どうせ余計な世話を焼いて無理矢理にでも私を連れ込んできたんだろう。


(……チッ)


余計な真似をしやがって。
顔を見た瞬間虫唾が走り、私を立ち上がらせた。足早に扉へと向かい、そのドアノブを掴む。


「……」


手首を少し下げるだけ、それだけのことなのに扉は開かなかった。
どうも手に力が入らないらしい、苦笑混じりのため息をつくと、私は踵を返してそのまま近くのベッドに座り込んだ。


「……ったく」


確かこいつらは8時から朝礼をやってるんだったか。30分前に起こせば用意も間に合うだろう。
……私が付き合うのは、それまでだ。
621 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:29:57.05 ID:Gmun8+E70

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千雪「……! や、やだ……寝ちゃってた……」

ルカ「みたいだな、アホ面晒してよく眠ってたよ」


なんて軽口を叩くと手芸女は途端に顔を赤くして自分の手で覆った。
おいおい、私より年上なのになんだその『花も恥じらう乙女』風な反応は。


千雪「ごめんね……ルカちゃん、私恥ずかしいところ見せちゃったかな」

ルカ「……お互い様だと思う、私も大概だったよ」

千雪「じゃあ……今日のことは二人だけの秘密にしよっか」


そういって手芸女は右手の小指を私に向かって突きつけてきた。
おいおい、今度は『指切りげんまん』ってか……? 流石にそいつは勘弁だ。
私は手の甲で適当にそれを跳ね除けると、背を向けて再度扉の前に立った。今度こそこの部屋を出ていく。

622 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:31:28.74 ID:Gmun8+E70

千雪「あら? どこに行くの?」

ルカ「どこって……自分の部屋に決まってるだろ」

千雪「……朝ごはんは?」

ルカ「こっちで適当に済ませる、放っとけ」


こいつとの晩酌はほんの一晩の気まぐれ。この先交わることのない平行線が、たまたま掠めた程度のこと。

そのはずなのに、私じゃないもう一方の平行線は、突如として折れ曲がり、私の行く先を塞いだ。


千雪「ダメ、通しません」

ルカ「は、はぁ? なんでお前にそんなこと言われなきゃなんないんだよ」

千雪「ダメったらダメなんです! こうなったら私、結構しぶといんだから」

ルカ「答えになってねー……」


頬を風船みたいに膨らませて、手をブンブンと振り回して私の行く先を塞ぐこいつはとても年上には見えない。
それなのに、その振る舞いの先にある空気感が妙に幅を利かせてきて、私はしどろもどろになる。
623 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:33:53.98 ID:Gmun8+E70

千雪「朝ごはん、今日からルカちゃんにも一緒に食べてもらいます!」

ルカ「……嫌だ」

千雪「食べてもらいます!」

ルカ「嫌だっつってんだろ!」

千雪「めっ! ちゃんと年上の言うことは聞きましょう!」


……ダメだ、こいつ本当に譲る気ないみたいだぞ。


千雪「ずっと皆心配してたんだから……ルカちゃん、私たちを殺すなんて大見得切って、一人で行動してばっかりで」

ルカ「……それは、その言葉は……まだ生きてるかんな?」


せっかくの脅しの言葉もこいつの前ではすっかり鈍刀だ。
語尾が妙にうわずって様子を伺うようじゃ、むしろ逆効果。ここぞとばかりに手芸女は詰めてくる。

624 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:35:35.78 ID:Gmun8+E70

千雪「……気持ちはわかるわ、でもね。このままずっと一人でいたんじゃ、生き残れるものも生き残れなくなっちゃうかもしれないわ」

ルカ「余計なお世話だ、私は自分のやりたいようにやって生き延びる……」

千雪「ううん、それじゃルカちゃん、いつか一人で抱えきれなくなって倒れちゃうかもしれないじゃない?」

ルカ「だからそんなのしないって……」

千雪「どうして言い切れるの?」


……クソッ、どこまで纏わりつくんだよ。

正直なところ、こいつの言うところは所々で私の急所をついてきている。
誰かを殺す、なんて宣言をしたもののその所在は今や私にも分からない。
元々そんな勇気があったのか、七草にちかの顛末を見届けてからはそれすらも確証を持てなくなっていた。

そして、一人で過ごすことのリスクをこの前の裁判で嫌と言うほど思い知らされた。
七草にちかとあの中学生の猛追。七草にちかが心変わりしていなかったなら、私の方が骸になっていた可能性は十分ある。


千雪「ねえ、ルカちゃん。今日だけでもいいの。私たちと一緒に朝ごはんを食べてくれないかな?」


……クソッタレ。

625 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:36:30.70 ID:Gmun8+E70

ルカ「……った、わかったよ! 行けばいいんだろ!」

千雪「わぁ! よく言えました!」

ルカ「お、おちょくってんじゃねー……」


いつもの威勢がまるで出やしない。こんなんじゃ、『カミサマ』も聞いて呆れる。


千雪「じゃあちょっと待ってて、私もすぐ支度するから」

ルカ「……は?」

千雪「え? 行くんだよね、朝ごはん」

ルカ「いや行くけど……おい、まさか一緒に行くとか言うつもりじゃねーよな?! それは流石に受け入れられねーから!」

千雪「もう、ルカちゃんさっきと言ってることが違うぞ?」

ルカ「いや、だから! ちゃんと朝食会には顔出すから! 一緒に行くとかそれは流石に……ない!」

(小学生でもそんなのやんねーって!)

千雪「ふふ……じゃあ、ちゃんと朝食会に顔を出してね? 信頼してますからね」

ルカ「はいはい……」


ったく……あいつが起きるのを待ってたせいでひどい約束を取りつけられてしまった。
なんとか一緒にレストランに行くなんて脳内お花畑な約束だけは退けたが、こりゃ顔出さないとしつこいだろうな……

私は一度自分の部屋に戻って身なりを整えるだけ整えて、重い足取りでレストランへと向かった。
626 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:37:44.01 ID:Gmun8+E70
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【ホテル レストラン】


ここに来るのは、島に来た初日。探索段階の時に来たっきりだ。
食事はスーパーのレトルトで済ませていたし、283プロの連中が集まる空間は自分から避けていた。
そしてそれは283プロの連中も知ってのことで。


結華「おはよー……ってルカルカ?! な、なんで?!」

ルカ「なんで……って」

(クソッ……どこから説明すればいいんだ)


メガネ女の向こう側にはすでに283プロの連中が何人も集まっており、須く全員が私に向かって驚愕の表情を浮かべている。
そんなに私が来るのが意外……まあ、そりゃあ意外だよな……
627 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:38:55.32 ID:Gmun8+E70

メガネ女への申し開きが思いつかず、説明しあぐねていると、私の後ろで扉が開いた。


千雪「ごめんなさい、遅くなっちゃって……」

結華「あっ、ちゆきち姉さん! 見て! ルカルカが今日は参加してくれるみたいで……」

ルカ「……よぉ」

千雪「わぁ! 本当に来てくれたのね、ありがとう!」

(お前が無理矢理来させたんだろうが……)

千雪「よくできました!」

ルカ「な、バッカ……頭を撫でんのはやめろ!」

結華「えーと……これは、ルカルカの反抗期が終わったとかですか?」

ルカ「調子乗んなメガネ女!」

結華「……そういうわけじゃなさそうだね」


私の朝食会参加というイレギュラーは手芸女が代わりに経緯を説明してくれた。
とはいえ二人きりで飲み交わした、なんてところは暈しながらだったけど。
628 :×ちゆきち姉さん 〇千雪姉さん ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:40:12.10 ID:Gmun8+E70

結華「えーっと席は……」


メガネ女が座席を探しに見やると、それに応えるようにして美琴が美琴の隣の席を引いた。


ルカ「美琴、い、いいのか?!」

美琴「ここ以外に座れないでしょ、早く座って」

ルカ「お、おう!」


意気揚々と美琴の隣に腰掛ける。
美琴のやつ、相変わらず最低限しか食べてないんだな……また料理作ってやりたいけど……今はまだ食べてくれないだろうな……

久しぶりに相方の隣に座ってソワソワしていたが、すぐ後に違和感を感じとる。この場にいる全員の視線が私に注がれている。
殺せる宣言をしておいて朝食会に突然参加してきた人間への好奇の視線……というだけではない。
むしろ、そんな表面的な部分じゃなくて、もっと奥底のものを覗いているような。

(……ああ、そういうことか)

気づいた。
この席は、元々使っていた人間がいたんだ。
そして、この席は美琴の隣の席。ともなると、元の持ち主は言うまでもない……



____七草にちかの席だったんだ。


629 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:41:18.68 ID:Gmun8+E70

智代子「なんだか……ちょっとだけ、寂しくなっちゃったね」

千雪「ルカちゃんが来てくれたけど……灯織ちゃんとにちかちゃん……それに透ちゃんと雛菜ちゃんも来なくなっちゃったから……」

美琴「……浅倉、透……」

結華「ま、まあ、今まで来なかったルカルカが来てくれた方に目を向けようよ! これからは協力してくれるってことなんでしょ?!」

ルカ「え? いや、別にそんなつもりじゃ……」

あさひ「……」


始まった朝食会はまるでお通夜のような雰囲気だった。
私がいることもあるんだろうが、裁判自体が昨日の今日で誰も立ち直れてなんかいない。

会話をまともに交わすこともなく、淡々と食事を口に運んでいる。
なんとも居心地が悪くて、料理もまるで味がしない。
さっさと食べ終えてこの場を後にしたい。

そんな想いが込み上げてきていたところで、それは始まった。
630 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:42:35.53 ID:Gmun8+E70

バビューン!!

モノクマ「この度はお悔やみ申し上げます!」

ルカ「モノクマ……出やがったな」

美琴「……!」


すっかり意気消沈している283プロの連中を嘲笑いに現れたかのようなタイミング。
そしてそれは当たらずも遠からず、お通夜のような雰囲気に合わせたのか何なのか、モノクマのやつは喪服の格好をしていやがった。


恋鐘「こげんタイミングでなんの用たい?! うちらはまだ、二人のことを……」

モノクマ「えーっとどうするんだっけな……」

冬優子「あのー……聞いてますか?」

モノクマ「わっかんねぇな……」

愛依「馬の耳にナントカってカンジだね……」
631 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:44:00.79 ID:Gmun8+E70

モノクマ「ホラ、モノミ! 先に行ってこいよ」

モノミ「えぇ……? あちしが先なんでちゅか……? あちしもやり方わかんないでちゅよ……」

モノクマ「いいからいいから、焼香なんて大体皆毎回適当にやってんだから! 適当にちぎって握ってポイしてこい!」

モノミ「ぼんやりしすぎでちゅ! 更年期のおふくろさんじゃないんでちゅから!」

モノクマ「じゃあ灰を全部握り込んで、死体の上から振りかけるんだっけ?」

モノミ「そんなアウトローな焼香聞いたことないでちゅよ! おおうつけでちゅ!」

モノクマ「じゃああれだ、灰を枯れた木に振りかけて……」

モノミ「それじゃ花咲か爺さんじゃないでちゅか! このお葬式はペット葬じゃないんでちゅよ!」

モノクマ「もうええわ!」

モノミ「それはあちしの台詞でちゅ!」

夏葉「……そんなくだらないやりとりを見せつけるためだけに現れたのなら帰ってもらえるかしら」

夏葉「まして喪服なんて着込んで……灯織とにちかの死を踏み躙るなんてこの上なく不愉快だわ」

モノクマ「ちぇー、オマエラがすっかりお通夜だから葬式ごっこしたら乗ってくれると思ったのになー」

摩美々「やるわけないじゃーん……ほら、さっさと撤収てっしゅー」

モノクマ「はいはい、分かりましたよ! ノリ悪いんだから、ったくもう……」


ただただ不快なショートコントを繰り広げたモノクマはすぐにその姿を消した。
本当にこのためだけにやってきたってのか……なんなんだ、あいつ。


不味かった食事が更に不味くなって、手をつける気力も失いかけたところで、モノクマに取り残されたモノミの姿が目についた。
632 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:46:01.33 ID:Gmun8+E70

ルカ「お前は帰んねーのかよ」

モノミ「……」

千雪「……モノミちゃん?」

モノミ「違うんでちゅ、あちしは……あちしは……ミナサンのお役に立ちたいんでちゅ!」

ルカ「よく言うぜ……この前の事件の時だってお前はただ指を咥えて見てただけ。裁判で私たちを助けようともしなかったじゃねーか」

モノミ「指を咥えようにも全身縄で縛り上げられてまちたし……管理者権限は全部モノクマに奪われてまちゅから……」

(……管理者権限?)

モノミ「でも、それでも! あちしの想いはミナサンと常に共にありまちゅ!」

摩美々「口だけなら何とでも言えるケドー、今のモノミの信用度って相当に低いよー?」

モノミ「分かってまちゅ……だから今回はミナサンのために、ちゃんとした成果をもってきまちた!」

美琴「……成果?」


モノミ「はいっ! ミナサンのために、モノケモノを一体倒して、第2の島への入口を解禁してきまちた!」

633 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:47:31.89 ID:Gmun8+E70

愛依「第2の……島?! ま、マジで?!」

果穂「たしか中央の島からわたれるゲートの前に、ずっとモノケモノがいたはずです……あれをモノミさんが、たおしたんですか?!」

モノミ「はい! マジカルステッキが無い分苦戦しまちたが、ステゴロでどうにか倒してきまちた!」

果穂「すごいですーーーーーーー!!」

冬優子「じゃあ……新しいところに行けるんですね?」

美琴「もしかしたら……この島では見つからなかった手がかりも、その新しい島なら見つかるかもしれない」

智代子「脱出の方法もあったりしないかな?!」

摩美々「まあ過度な期待はしないほうがいいかもだけどー、調査はしないとダメだねー」

(新しい島、か……)

夏葉「モノミ、まだあなたを完全に信用することはできない……」

夏葉「あなたに対する信頼は、今後じっくりと時間をかけて検討していくわ、ごめんなさいね」

モノミ「有栖川さん……いいんでちゅ。ミナサンに罪は無いんでちゅからね、あちしはあちしの働きで、いつかミナサンからの信頼を勝ち取ってみせまちゅ!」

結華「それじゃあ今日は朝食食べ終わったらすぐにそっちに移動かな?」

ルカ「まぁ、そうするしかねーな」

千雪「透ちゃんと雛菜ちゃんはどうしようか……」

モノミ「それならあちしにお任せくだちゃい! ミナサンと違って、あちしは元々信頼されてないでちゅから、拒絶もされにくいはずでちゅ!」

冬優子「それ、自分で言っちゃうんだね……」

結華「ここはモノミの言う通りにしようか! とにかくさっさと朝ごはん食べて、調査に出かけましょー!」


さっきまでのカタツムリみたいな速度が嘘のように、私たちは咀嚼もそこそこに食事をかっ込んだ。
脱出の方法があるかもしれない。そんな希望が薄いことは全員わかってはいた。ただこの不安に満ちた鬱屈した空気の中に投げ込まれた明確な行動理由、それに飛びつかないわけがなかった。

何かをして気を紛らわせたい、そういう後ろ向きかつ前向きな感情で私たちは島を渡った。

634 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:48:37.73 ID:Gmun8+E70
-------------------------------------------------
【第2の島】


「ここが第2の島……」


第1の島とは少し雰囲気が違う。
南国めいた陽気は少しばかり息を潜め、どこか原生風な空気感とも言うべきか。
とにかくやたらと目を引く大樹がこの島の一角を占めているらしい。


結華「さ、調査は分担して行おうか!」

(……まあ、そうなるか)


朝食会の流れのまま来てしまったために、283プロの連中と一緒だ。
こいつらとわざわざ一緒に捜査なんてしたくないし、手芸女との約束は朝食会の参加までだ。

……ここから先は自由にさせてもらう。


千雪「ルカちゃん、一緒に捜査しない?」

ルカ「……嫌だ」

635 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:50:32.06 ID:Gmun8+E70

千雪「もう……つれないなあ。私たち、一緒に朝ごはんを食べた仲じゃない?」

ルカ「それなら283プロの連中の方がよっぽどだろ、なんでわざわざ私なんだよ」

千雪「ルカちゃんと一緒にやりたいから、それが理由です」

ルカ「理由になってない……さっきもこんなやり取りしなかったか?」

千雪「ふふ……ホントね! でも、それならもう分かるんじゃない?」

千雪「こうなった時の私は、しぶといんだって」

(……チッ)

ルカ「わかったよ、好きにしろ」

千雪「はーい♪」

(283プロの連中ってのはどいつこいつもこうなのかよ……!)


さて、とりあえず電子生徒手帳でマップの確認をしておくか。

パッと目につく大樹の纏わりつくそれは【遺跡】と呼ばれるものらしい。
ジャバウォック諸島というのはそれなりに歴史のあるものだと風野灯織が言っていた。それにまつわるものなんだろう。

この島にも【ビーチ】があるようだけど、規模は第1の島より大きいな。
【シャワールーム】と【ダイナー】も併設されていて、海水浴場といった方が正確かもしれない。

【ドラッグストア】……スーパーマーケットにはなかった医薬品が手に入るのか?
確かにこの島で病気でも拗らせようもんならたまったもんじゃないな。

【図書館】……まあ、私は基本は用事はないだろうけど、一応見ておくだけは見ておこう。


千雪「ルカちゃん、どこから探索する?」

ルカ「……黙ってついてこい」


【探索開始】

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.遺跡
2.ビーチ
3.ドラッグストア
4.図書館

↓1
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/12(水) 22:09:44.61 ID:iGbaLVHo0
2
637 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:14:43.06 ID:Gmun8+E70
2 選択

【コンマ 61】

【モノクマメダル1枚を獲得しました!】

-------------------------------------------------
【ビーチ】

ビーチに行くにはこの駐車場付きの【ダイナー】を抜けていく必要があるらしい。
ダイナーなんて日本じゃそうそう見かけない、洋画なんかでは割とポピュラーなジャンクなレストランといったところだ。


千雪「……」

ルカ「……何ボーっとしてんだよ」

千雪「え? ううん、別に……なんでもないの」

(そんな物欲しそうな顔しておいて何でもないことはないだろ……)

ルカ「ついでだ、ちょっと腹ごなししてから行くぞ」

千雪「えっ、う、うん……! ありがとう……!」

ルカ「チッ……」

638 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:15:54.48 ID:Gmun8+E70
-------------------------------------------------
【ダイナー】


ボックス席とカウンター席がそれぞれいくつか設けられており、入店するとすぐにジャンキーな香りが鼻をくすぐる。
ジュークボックスに南国風な観葉植物があちらこちらに見受けられ、まるで異世界のような空気感だ。
大きな窓は開けた視界からの陽光を余すところなく店内に取り入れ、日中なら照明をともす必要もないだろう。


千雪「う〜ん、いい香り! なんだかお腹が空いてきちゃうかも!」

ルカ「……おう、そうだな」

智代子「あっ! 千雪さん、ルカちゃん! せっかくだから一緒に食べない?」

果穂「ハンバーガー、すっごくジューシーでおいしいです! 二人もいっしょにどうですか!?」

千雪「せっかくだしいただいちゃおうか、ね?」

ルカ「……おう」

智代子「すぐそこのカウンターにハンバーガーのセットは揃ってるから温めたらすぐに食べられるよ!」

ルカ「このパティとか誰が用意してるんだよ」

千雪「わぁ、トッピングも自由にできるのね! せっかくだから色々詰め込んじゃおうかな?」

(……いつだったか、美琴とファストフードの店に行った時)

(あいつはハンバーガーなんか目もくれずにサラダを貪り食ってやがったな……)
639 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:17:09.84 ID:Gmun8+E70

智代子「はい、ボックス席だから四人掛けで座れるよ! ルカちゃん隣どうぞ!」

ルカ「……っす」

果穂「千雪さんはこっちにどうぞ!」

千雪「ふふっ、お邪魔します!」

智代子「せっかくだし食べながらでいいから、ここまでの調査の共有でもしませんか!」

果穂「はい! あたしたちは放クラのみんなと……【美琴さん】といっしょに調さをしてました!」

ルカ「……っ!? み、美琴と?!」

智代子「うん……前回はにちかちゃんと一緒に調べたみたいだけど、もういなくなっちゃったから。仲のいい夏葉ちゃんと一緒に行動することにしたみたい」

(……美琴)

ルカ「二人は今、どこにいるんだよ」

果穂「今はビーチのシャワールームのほうにいると思います……ルカさん?」

智代子「す、すごく鼻息荒いよ……?!」

ルカ「うっせえ……なんでもないっての」

(さっさとこれを食べ終えてシャワールームに行かねーと!)


バクバクバクバク


千雪「まぁ! ルカちゃん、よっぽどお腹が空いてたのね……それじゃあ私も」

ルカ「……さっさと食わねーと置いてくからな」

千雪「いただきまーす!」


ボトボトボトボト


ルカ「!?」

果穂「ち、千雪さん……! 中身がいっぱいおちちゃってます!」

智代子「あはは、ハンバーガーって食べるの難しいよねー!」

千雪「ごめんね……なかなか慣れてないから」

(こいつ……急がないといけないってのに……!)

640 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:20:03.82 ID:Gmun8+E70
-------------------------------------------------
【シャワールーム】

海水浴場の手前のそこそこの大きさの平屋。
扉はダイナー側と海水浴場側の二か所で、海水浴場側は砂浜と直結している。
内装はと言うとシャワールーム兼更衣スペースの他に倉庫とそこそこ大きな休憩スペース。
備え付きの冷蔵庫には飲料水をはじめとした飲み物が所狭しと並んでいる。


夏葉「水泳は全身を扱う運動として、トレーニングにはもってこいだわ。運動の後のエネルギーチャージにうってつけの飲料も揃っているし、ここはいい環境みたいね」

美琴「水泳か……ちょっと興味があるな。教えてもらってもいいかな」

夏葉「ええ、もちろんよ」

(……美琴)


美琴は小金持ちと一緒にトレーニングを話のタネに談笑していた。
もともとストイックなところがある者同士、意気投合するのは納得はいく。

だけど、緋田美琴という人間を知っている私からすれば、二人の交流の様子はどこか寂し気で、見ているだけで空虚なものがこみあげてくる印象だ。

641 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:22:22.45 ID:Gmun8+E70

ルカ「……美琴」


思わず言葉が口を継いで出た。


美琴「……何?」


美琴と最後にちゃんとした言葉を交わしたのはあの裁判きり。今朝の朝食会で隣に座ったものの、会話という会話はしていない。


ルカ「……」


私が美琴に言うべき言葉とは何なのだろうか。解散した時からずっとそれを悩んでいた。
美琴という存在が私のそばを離れてから、ずっと私の人生は無価値だった。
何をしたって、感じるものはない。誰に応援の言葉をかけられても胸に響かない。
名前が売れて、アイドルとして成功を重ねても達成感も何もない。

今の私は、がらんどうだ。
斑鳩ルカ、カミサマという器でしかなくて、その中には何も入っていない。
これを満たすことができるのは、美琴だけだ。


ルカ「……あ、あのさ」


だから、私が言うべき言葉は本当は、分かり切っている。
七草にちかが死の間際にぶちまけたように、惨めに、図々しく、泣き縋って、自分の存在を無理やりにでも美琴に刻み付けるべきなんだ。
言葉らしい言葉なんて本当は必要じゃない。


____七草にちかに、ならなきゃいけない。

642 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:24:09.56 ID:Gmun8+E70

美琴「……」

ルカ「……ッ」


わかっているのに、何も出てこなかった。
必死に水面にそれを持ち出そうとしても、上から強い力で押し込められる。
顔を出して呼吸することもできない息苦しさに悶えるだけ。
肩で呼吸をすることが抑えられない。

私はまだ、七草にちかにはなれない。


ルカ「……」

千雪「ルカちゃん……」

美琴「……ごめん、夏葉ちゃん。もう大丈夫、行こうか」

夏葉「美琴……あなたはそれでいいの?」

美琴「……今はまだ、私も前に進めそうにないから」

夏葉「……ええ」


砕けそうな膝を抑えながら、二人の背中を見送ることしかできなかった。

643 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:25:20.71 ID:Gmun8+E70

千雪「……一回、深呼吸しよっか」

ルカ「……あ? お、おう……」


手芸女が私の背中をさする。それに合わせてゆっくりと息を吸い込み、吐いた。


千雪「……ルカちゃん、ゆっくりでいいの。私たちはまだそれだけの時間がある」

千雪「……そばにいるからね」


うざったい。鬱陶しい。
そういう言葉が沸き上がってきたけど、それは口には出さなかった。

ただ黙って立ち上がって、シャワールームを出た。
手芸女もまた、それに黙ってついてきた。


____本当に283プロの連中ってのはおせっかいなもんだ。


-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.遺跡
2.ドラッグストア
3.図書館

↓1
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/12(水) 22:57:14.31 ID:UB6NHFZE0
1
645 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 23:14:25.50 ID:Gmun8+E70
1 選択

【コンマ31】

【モノクマメダル 1枚を手に入れました!】

-------------------------------------------------
【遺跡】


島に入った時から嫌でも目に付くのがこれだ。数千年という時が流れでもしない限り、こんな風に木の根っこが建造物に絡みついたりはしないだろう。
天高く聳え立つそれは麓からでは全貌が見えない。


ルカ「とりあえず近づいてみるぞ」

千雪「あっ……待って!」


近づいてみたが、あるのは私の身長を優に超す大きさの扉。
しかもドアノブがあってそれをひねって開けるような単純な扉ではなく、もっと電子的で近未来的な……全く見なれない扉だ。


ルカ「……これ、なんなんだ?」


しかもその扉の表面にはデカデカと『未来』の二文字。
私たちの良く知る漢字で掘られている……ということは、この遺跡は私たちと同じ文化圏のものだということになる。それもまた妙な話だ。


千雪「扉を開けるには、そっちのパネルでパスワードを入力するみたいね」

ルカ「……なるほど、なんか適当に入力してみるか?」

千雪「ま、待って! それはやめた方がいいと思う……ほら」


手芸女が指さした先、そこには洋画に出てくる武装組織が振り回しているようなマシンガン銃、その銃口が私へと向けられていた。


ルカ「おいおい……マジかよ」

千雪「下手に失敗しちゃうと、その後がわからないから……皆にも近づかないように言った方がいいかなぁ……」

ルカ「遺跡だっつーのに電子盤だのマシンガン銃だの近未来なのか古代なのかどっちなんだよ……」


少なくともこの扉は今は開けられそうにない、立ち去るほかないか……。
そう思って振り返った直後。
646 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 23:15:24.43 ID:Gmun8+E70

透「えっ」

ルカ「……て、てめェ……!」


浅倉透とそのお仲間の登場だ。
ここにまさかいるとは思っていなかったのか、虚を突かれた様子で間抜けに口をポカンと開けている。
掴みかかって詰問の一つや二つやってやろうかと思ったが、反応が早かったのは向こう側。
能天気女が浅倉透の服の裾を強引につかみ、そのまま引っ張り去ろうとした。


雛菜「透先輩、別のところ行こ〜?」

千雪「ま、待って……! 二人とも!」

雛菜「え〜、雛菜たちは何の用もないし、話したくもないんですけど〜」

ルカ「待てよ、何もこっちだってただ疑おうってんじゃねー。話せる範囲でいいからそいつから話を聞きたいだけなんだっての」

透「……」

雛菜「何も透先輩から話すことなんてありませ〜ん!」

千雪「雛菜ちゃん……」

雛菜「別に雛菜たちも他の人の邪魔するつもりはないから、もう放っておいてください」

雛菜「雛菜たちは雛菜たちで何か別の道を探しますから〜」
647 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 23:16:14.26 ID:Gmun8+E70






雛菜「もし邪魔してきたら、こっちだって手段は考えますけど」





648 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 23:17:44.93 ID:Gmun8+E70

ルカ「……ッ!」

(こ、こいつ……今何考えてやがった……!?)


能天気女のこちらに向けた視線は、この島に来てから何度か私たちの間に存在したそれだ。
かつて私が七草にちかに向けたもの、そして死の間際七草にちかが浅倉透に向けたもの。
研ぎ澄まされた、冷たくて鋭利で、淡々としたもの。


____【殺意】だ。


雛菜「じゃ、雛菜たちはまだ調査の途中なので〜」

千雪「行っちゃった……」

ルカ「……チッ」


私からすれば傍目に見る仲たがいというだけで、この状況には少しばかりの居心地の悪さで済む話だが、283プロの連中は違う。
仲良しごっこが生き甲斐みたいな連中の間で起きた裏切り行為について、こいつらの受けている衝撃は私が思うよりも大きいみたいだ。
手芸女は何か大切なものを失ってしまったといった表情で、俯いて言葉を発さない。

649 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 23:18:23.11 ID:Gmun8+E70

ルカ「……」

かといって私も励ましの言葉なんてかけたりはしない。
別にこっちからすれば本当にどうでもいい話だ。
ただ重要なのは浅倉透という人間が敵なのか味方なのかがわからないという一点のみ。
私はこの島で生き残ると決めた、その障害となるかどうかだけは見定める必要がある。


……それにはこいつらの力が必要だというのも確かだろう。


ルカ「……行くぞ」

千雪「え、う、うん……」

ルカ「……止まっててもしょうがない、違うか?」

千雪「……ふふ、ありがとう。ルカちゃん」

ルカ「……チッ」


しかし課題は山積だ。浅倉透に話を聞こうにも、あの能天気女が遮ってくるんじゃどうしようもない。
梃子でも動きそうにないあいつをどうにかする必要があるな……
650 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 23:20:00.96 ID:Gmun8+E70

申し訳ない、今日の所はこれでいったん終了です。
また明日、探索パートの途中から再開します。
安価だけ出しておくので、どなたか書き込んでくださると幸いです。
それではお疲れさまでした。

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.ドラッグストア
2.図書館

↓1
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/13(木) 00:27:05.19 ID:WuUBTWhl0
1
652 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:07:14.16 ID:IfDtM3Tz0
1 選択

【コンマ判定19】

【モノクマメダル9枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…81枚】

-------------------------------------------------
【ドラッグストア】

ドラッグストアなんて最近だといろんな物を取り扱っているイメージだが、ここは文字通り【ドラッグ】の【ストア】らしい。
目に入るのは薬品類のみ。鼻を突くのはツンとした化学系の香り。思っていたよりディープな意味でのドラッグストアのようだ。


ルカ「……おい、これって毒薬じゃねーのか?」

千雪「う、嘘……毒薬……?」

ルカ「コトキレルX……これなんかモロだな。飲んだら遅効性の毒で呼吸困難だってよ」

千雪「そ、そんな……本当に?」

ルカ「本当も何も、今の私たちの状況はそういうもんだろうがよ」

千雪「……」

(……警戒はしておいた方がいいだろうな)

摩美々「霧子がいれば、色々聞けたかもねー。正直こんな薬だけ見せられても何が何だかサッパリじゃない―?」

結華「あはは、確かに……風邪薬とかの見慣れたやつ以外は何が何だか……」

恋鐘「なんね、このラムネみたいな薬……?」

摩美々「えっ、ちょっ……それって……法的にまずいやつじゃないのー……?」

恋鐘「ふぇ、ふぇ〜〜〜〜〜〜?! こ、これってそげんまずかもん〜〜〜〜〜?!」

ルカ「学校で習うだろ……間違っても服用なんかすんじゃねーぞ」

(……まあ、この島で司法なんか機能していないような気もするけど)

(ていうか、そもそもどこの国なんだ? ここ……)

-------------------------------------------------
【残り選択肢が一つになったので自動で進行します】

【コンマ判定によりモノクマメダルの獲得枚数を決定します】

↓1
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/13(木) 21:21:14.43 ID:ZoTUtcTX0
ほわっ……
654 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:25:59.85 ID:IfDtM3Tz0

【コンマ判定 43】

【モノクマメダル3枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…84枚】

-------------------------------------------------
【図書館】

これまたとんでもない図書館があったもんだ。
四方八方を本棚という本棚が埋め尽くし、空間には本特有のどこかかびたような匂いが立ち込めている。
その脇には悪趣味なモノクマの銅像も添えて。
まあ……私がここに世話になることはそうそうないだろう。


あさひ「すごいっす! 見たことない国の言葉の本もあるっす!」

愛依「あさひちゃん、それ読めるの?」

あさひ「読めない!」

愛依「アハハ、それでも楽しめちゃうんだからやっぱあさひちゃんすごいわ〜!」

ルカ「……図書館にはおおよそ似つかわしくないやかましい連中だな」

千雪「そうかなぁ? あさひちゃんにはこの図書館はうってつけだと思うけど」

あさひ「わっ! 世界殺人鬼名鑑!? 変わった本がいっぱいっす!」

冬優子「あさひちゃん、本を持ち出すときにはこのカウンターに書いておかないとダメみたいだよー?」

あさひ「了解っす! ……ありゃ、本によっては持ち出せない本とかもあるっすね」

愛依「キンオビ……デ?」

千雪「禁帯出じゃないかな、持ち出しちゃいけない本にはこのマークがついているみたいよ」

冬優子「あさひちゃん、本を借りるときは注意してみるようにしようね」

あさひ「……」

(……おいおい、あいつの集中力どうなってんだ……? さっきの今でまるで聞いてないぞ……?)


まあここに来ることはそうそうないだろうけど、本の貸し借りにはカウンターを経由する必要があること、
なかには禁帯出の本もあるってことぐらいは覚えておいた方がいいだろうな。
655 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:26:53.90 ID:IfDtM3Tz0
◇◆◇◆◇◆

ルカ「大体調査はこんなところか……」

千雪「脱出の方法は見つからなかったね……」

ルカ「そんなもん期待するだけ無駄だってことだよ。わかり切ってたことだろ」

千雪「うん……」

ルカ「……」

ルカ「じゃあな、お疲れさん」

千雪「えっ、ル、ルカちゃん?! どこ行くの?」

ルカ「あ? 調査は終わっただろ、帰るんだよ。自分の部屋に」

千雪「ダメよ、この後はみんなでまた調査結果の報告をしなくちゃ」

ルカ「おいおい……まさかそれにまで付き合えって言うんじゃねーだろうな」

千雪「人と一度交わした約束を破っちゃダメなんだぞー」

ルカ「そんな約束なんかした覚えもないんだけど……」

千雪「……」

(……すごい圧を感じる)

ルカ「はぁ……わかった、わかったよ。いけばいいんだろ」

千雪「やったぁ!」

(……やれやれ)
656 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:28:44.69 ID:IfDtM3Tz0
------------------------------------------------
【第1の島:ホテル レストラン】


夏葉「皆、とりあえず調査お疲れさま。さっそく情報の共有と行きましょう!」

結華「う、うん……そうしよっか」

(……ほかの連中の反応も芳しくはない、どこも同じようなもんか)

あさひ「図書館にはすごいたくさんの本があったっす! 気になったんで、ちょっと持ってきてみたっす!」

冬優子「本を持ち出すときには、ちゃんとカウンターで手続きをしなくちゃいけないみたいで……一部本は持ち出し出来ないものもあるみたいです」

果穂「あさひさん! どんな本を借りたんですか!?」

あさひ「これ! 世界殺人鬼名鑑!」

智代子「えっ、ええっ!? あ、あさひちゃん!?」

(……おいおい、この状況じゃ洒落になんねーぞ)

あさひ「世界のいろんな殺人事件について書いてあるんだけど……これとか面白いよ! ライスボール・ダイナソー!」

愛依「ら、ライスボール……? ダイナソー……?」

摩美々「直訳すればおむすび……恐竜……?」

千雪「え……?」

あさひ「なんか殺した相手の口におにぎりを詰め込んだことからついた名前らしいっす、事件自体は未解決みたいっすね」

果穂「そんな……ゆるせません! そんな悪がのさばってるなんて、ゆるせません!」

夏葉「あさひ……その本が興味深いのは理解したわ、ただ今この場で共有するコトは控えてちょうだい。私たちは人の生き死にの少し敏感になっているの、人によっては刺激に感じてしまうわ」

あさひ「え……ごめんなさいっす」

愛依「あさひちゃん、今じゃなくて後でうちと一緒に読も〜!」

657 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:30:14.36 ID:IfDtM3Tz0

◆◇◆◇◆◇◆◇

摩美々「第2の島ではドラッグストアもあったケド、どっちかと言えば薬品保管庫っていう方が正しいかもー」

恋鐘「薬の中には人の体によくない毒もあったばい……持ち出されないように警戒したほうがよか!」

結華「うん……図書館と違ってこっちには持ち出しに制限とかもなさそうだから、目を光らせておいた方がいいかもね」

美琴「ただちゃんと有用な薬も入ってはいたよね」

摩美々「それはそうー、ちゃんと風邪薬とか解熱剤はあったからぁ、病気しても大丈夫にはなったねー」

冬優子「いくらか使えそうなものはまとめてこの救急箱に入れておいたので……千雪さん、預かってもらっていてもいいですか?」

千雪「まぁ、ありがとう。うん、責任をもって預かっておこうかな」

果穂「千雪さんなら安心です!」

(……まあ、おせっかいなこいつが持っているのが一番だろうな)

◆◇◆◇◆◇◆◇

果穂「第1の島より大きな海水浴場がありました!」

夏葉「ダイナーとシャワールームが備え付けられていた、本格的なレジャー施設といった様相だったわ」

美琴「倉庫にはウエットスーツやカヤックも入っていたから、興味があれば覗いてみるといいと思う」

智代子「なんだか色々できそうだよね! せっかくだし何かイベントでもやってみるといいかなー!」

愛依「ダイナーもだし、このレストランも出し、食材はマジでどっから補充されてんだろうね?」

あさひ「モノミが補充してるって最初は言ってたっすけど、やっぱり魔法なんっすかね?」

(得体も知れねー方法だけど、とりあえずはそれに肖るしかねーんだよな……)

658 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:31:42.74 ID:IfDtM3Tz0

◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「……島の一角にあった遺跡は見たか? あの建物自体は謎だが……立ち寄らないほうがよさそうだ」

千雪「扉にはパスワード式の認証モニターがついていたけど、その脇にマシンガンがついていたから……下手に刺激してほしくはないかな」

智代子「ま、マシンガン?!」

夏葉「ブローニングM2式機関銃……今もアメリカをはじめとした世界中で量産されていているごく一般的なマシンガンだったわ」

(マシンガンにごく一般的も何もないだろ……)

あさひ「やっぱりパスワードを間違えて入力したらそれで撃たれちゃうんすかね?」

果穂「そ、そんな……マシンガンでうたれちゃったら、しんじゃいます!」

摩美々「基本的には無視するしかなさそーだねー……」

結華「パスワードがこれだ!って分かるものとかあれば使えるけど……流石に確証もない状態で使う訳にはいかないなぁ……」

659 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:33:09.75 ID:IfDtM3Tz0

全員が全員同じような報告をし終えて、進展は当然何もなし。
こうなると改めて八方ふさがりだという現実に直面せざるを得ない。
息の詰まるような閉塞感がまたやってきた。


結華「……とりあえずは、それぞれ警戒しながらまたここで過ごすしかないってこと……なんだよね」

摩美々「来るかもわからない助けを待って、ね……」

冬優子「大丈夫です、きっと誰かが来てくれますよ……ふゆたちのことを心配して皆動いてくれているはずです!」

智代子「そう思うしかない……いや、そう信じるしかないもんね……!」

(……どこまで行っても空元気、か)


椅子を引いて立ち上がった。
報告会も終わり、これで手芸女からの要求もすべて満たしてやった。
ここまでするつもりもはじめはなかったのに、我ながら人が良いことで。

660 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:34:31.73 ID:IfDtM3Tz0

ルカ「……じゃ、とりあえず私は行くぞ。もう今日は何もないだろ?」

結華「あっ……え、うん! ルカルカ……今日はありがとう!」

冬優子「うん! ルカちゃんと一緒に行動できて、今日はすごくうれしかったな!」

ルカ「……チッ」

果穂「ルカさん! またいっしょに調べましょう!」

あさひ「ルカさん、明日の朝ごはんも待ってるっすよ!」


ただ退出する、それだけのことなのに283プロの連中はいつまでも声を張って私の背中に呼びかけ続けていた。
言葉を返しもしない、振り返りもしない、悪態をつくだけの存在に、だ。

本当に、理解しがたい。
でも、その理解できなさは不思議と不快じゃなかった。



……いや、こういうと情にほだされたみたいで気持ちが悪いな。

訂正する。正確には、『もっと気になるものがあって283プロの連中どころではなかった』、だ。

661 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:35:21.11 ID:IfDtM3Tz0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


一日ぶりに自分の部屋に戻った私はすぐにシャワーを浴びて、楽な格好でベッドに横になった。
酒に呑まれるままの睡眠では精神の疲弊を解消しても、体の疲れはとれちゃいない。
やっと得られた休息に歓喜するように足はすぐにどろっと蕩けていき、マットレスから離れられなくなってしまった。
手足をそこに投げ出して、頭だけを働かせる。

今日は手芸女のせいで散々な目にあった。
出たくもない朝食会に顔を出して、したくもない共同調査をして、最終的には報告会までも参加してしまった。
……この島に来てから久しぶりの交流、完全に嫌だったとは言わない。
言わない……が、ずっと脳裏にあるもののせいで満足に楽しめない節はあった。
662 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:37:36.32 ID:IfDtM3Tz0

浅倉透の存在、それが気がかりなのは間違いないが、あいつよりもよっぽどの危険分子が私たちの中には存在している。
七草にちかと風野灯織の事件、その裏で動いていた何者かの存在。
平気な顔して私たちの中に潜んで仲間面して、二人の死に涙を流して見せた【狸】。


≪「私たちの中に潜む【狸】は何を考えてやがる……?」

「あはは、やっぱり気づいてたんっすね」

思わず振り返った。
今のは、幻聴じゃない。
確実に私の後ろにいた、【何者か】の声だ。≫


……あの時私が聞いた声は、確かに【超中学生級の総合の時間 芹沢あさひ】だった。
あいつが、本当に【狸】なのか……?
だとすれば、あいつと一緒に行動しているストレイライトの連中は……?


食事会では口にしなかったが、このまま私たちが何かの進展を見いだせない限りは【狸】は必ず仕掛けてくる。
コロシアイの連鎖を絶やさないために、事件を起こしに来るはずだ。
【狸】自身が手を汚すにしろ、汚さないにしろ。
663 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:38:59.98 ID:IfDtM3Tz0

私は、あいつらが仲間割れをする分には別に問題ない。
むしろ今の仲良しムードには反吐が出るくらいだ。
ただ、その仲間割れの結果私の命まで脅かされるというのなら、それは阻止しなくちゃいけない。


「……チッ」


【狸】を見極めるために、やらなくちゃなんねーか……


【斑鳩ルカの自由行動において交流が解禁されました!】


□■□■□■□■□■□■□■□■
☆斑鳩ルカの交流について

新主人公におきましても自由行動で他のアイドルの皆さんと交流をすることができます。
前章で惨たらしい死を遂げた前主人公から受け継ぐものは、アイテムと希望のカケラ、そしてモノクマメダルの三つになります。
わずかばかりに上がっていた親愛度は引き継がれてはおりませんが、ご了承くださいませ。

なお、現在のシナリオの状況として【浅倉透】【市川雛菜】【緋田美琴】の三人とは親愛度を上げる交流ができないことをあらかじめご了承ください。
シナリオの進展によって彼女たちとの交流が解禁されるかも、一生そのまま解禁されないかも……?
□■□■□■□■□■□■□■□■

664 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:40:37.70 ID:IfDtM3Tz0
____
______
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=========
≪island life:day 7≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


耳障りなアナウンスとともに目を覚ます。今日は、傍らに手芸女の姿はない。一晩ぶりの穏やかな夜に、疲れは十分とれたみたいだ。
ただ、気分は晴れない。ずっと【狸】の影が頭をチラついて、吐く息はどっしりと重たい。

今日から私がするべきなのは、この【狸】の動きを封じるための監視。
万が一にも私が巻き込まれて死なないように、学級裁判なんて博打に挑まされないように、そのための安全確保。


「……気は進まないな」


手っ取り早いのは毎朝の朝食会への参加。そこに顔を出せば嫌でも他の連中と顔を突き合わせる。
……行くしかないだろうな。


そう思って扉を開けた途端。


千雪「おはよう、ルカちゃん」

ルカ「……うわ」


……手芸女が満面の笑みで待ち受けていた。
665 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:41:25.53 ID:IfDtM3Tz0

千雪「ルカちゃん、生活習慣はしっかりしているのね。えらいえらい」

ルカ「……っせえ」

千雪「ルカちゃん、これからどうするの?」

ルカ「どうするこうするも……朝食会だろ、わざわざ迎えに来なくても行くから」

千雪「えっ!?」


よほど私の口から参加の意志が出たことが意外だったらしい。
わざとらしいほどに口を開けて、それを手のひらで覆い隠す。


ルカ「……5分だ。5分経ってからレストランに来い。私と同じタイミングで来たら殺す」

千雪「もう、冗談でもそんな言葉使っちゃダメよ」

ルカ「……じゃあ、殴る」

千雪「及第点かな」

ルカ「……ハッ!」

(……あ?)

(……私、何笑ってんだ? いや、嘘だろ……気持ち悪い)


私は自分の気色の悪い笑い声に戸惑いながら、足早にレストランへと向かった。
666 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:43:04.00 ID:IfDtM3Tz0
-------------------------------------------------
【レストラン】

ルカ「……」

結華「る、ルカルカ……おはよう! 今日も来てくれたんだ!」


流石にまだ私の存在には全員慣れていないらしく、入室と同時にどよめきが起きる。
そんなこと気にしていても仕方ないので、目も向けず、耳もくれずに美琴の隣に腰かける。


美琴「……」

ルカ「……」


……相変わらず、私たちは無言だ。

667 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:44:22.42 ID:IfDtM3Tz0

結華「今日でこの島に来て一週間かぁ……」

恋鐘「もうそがん経つと? ……はぁ、助けも全く来んねぇ……」

夏葉「ダメよ、気を落としては。ここはジャバウォック島……日本から遠く離れた異国の地。助けが来るまでにはそう……時間がかかるのよ」

あさひ「そういえばジャバウォック島ってどこにあるっすか? これだけ温かいし、南半球っすか?」

夏葉「ええ……確かそうだったような……」

夏葉「……あれ、おかしいわね。正確な情報が思い出せないわ……」

あさひ「……?」

ルカ「……ったく」


毎日毎日同じような会話をして気を紛らわして、生産性なんかなにも無い。
得るものも何もないし、監視という役目がない限りは御免こうむりたい空気感だ。
私は誰とも会話をすることなく、淡々と食事を口に運びながら他の連中の様子を伺っていた。


___そんな中、突然。


果穂「ルカさん、ルカさん! お話、きいてみてもいいですか?!」

ルカ「……あ?」

果穂「この島に来てから、ルカさんとお話したことまだあんまりなくて……ルカさんのこと、もっと知りたいと思ったんです!」


私の返答も確かめぬまま、小学生は近くの椅子を引いてきたかと思うとそこにチョコンと腰かけた。
背丈こそ成人女性並みのこいつだが、その表情と素振りと内面は幼いらしい。
私の苛立ちには鈍感な様子で、首を傾げて返答を待つ。
一言激烈なものをぶつけて退けようとも思ったが、ここは283プロの連中の目がある。
下手なことはできやしない、観念して小学生と会話してやることにした。


千雪「……ふふっ」


……遠くに手芸女の影が見えたのが、ひどく目ざわりだった。

668 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 21:46:56.39 ID:IfDtM3Tz0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

ひどいパッションのごり押しを受けた。
質問にどれだけ適当に返してもやたら食いついてきやがって、無理やりに話を引き延ばされた。
逃げよう逃げようとしても食いつかれて、いい迷惑だ。
あの小学生がテンションを上げれば、周りの連中もそれに呼応して盛り上がって、いつの間にか私もその輪の中に入れこまれたかたち。
手芸女はそこまで見越して、あのガキを差し向けてきやがったんだろう。

本当におせっかいで鬱陶しい女だ、次あったら文句の一つや二つ言ってやらねえと気が済まない。
それで……また迷惑料を取り立ててやるのも悪くないかもしれない。


「……は?」


前言撤回、流石に今のはない。
違う、違うんだって。


【自由行動開始】


気を取り直して、監視の再開だ。
怪しい行動をしている人間、変な腹積もりを抱えた人間がいないかどうかのチェックの時間だ。

……気は進まないけど、やるしかない。


1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/13(木) 21:54:06.68 ID:WuUBTWhl0
1 果穂
670 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 22:03:59.71 ID:IfDtM3Tz0
1 果穂選択

【第2の島 図書館】


最初の監視の対象には、小学生を選んだ。
さっきの今で話をしたばかりだし、こいつなら他の連中のように色眼鏡をかけてくることもない。
取っ掛かりとしては一番気楽だ。
……まあただ、こいつと絡んでいるのを他の連中に見られるのはどことなく気恥ずかしい。


ルカ「……こんなとこで何してんだ」

果穂「あっ、ルカさん!」

果穂「……あ、大きな声出しちゃいました……えっと……ジャスティスファイブの本をさがしてるんですけど……」

ルカ「ジャス……なんだ?」

果穂「ジャスティスファイブ、すっごくかっこよくてつよい、正義のヒーローです!」

ルカ「……はぁ」


正義だのなんだの、やっぱり中身はただのガキだな。
でも、この年頃の女って、もっと普通……ヒロイン物とかを見るんじゃねえのか……?

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【キルリアンカメラ】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/13(木) 22:14:06.93 ID:Yd+mBBEn0
2
672 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 22:16:29.90 ID:IfDtM3Tz0
2 選択

【プレゼントを渡しませんでした】

-------------------------------------------------

……しかし、全く持って謎だ。
私は芸能界に飛び込んでから、組んだのは美琴ぐらいのもので解散して以来はずっと孤独の身。
ただ一人での立ち回りばかりだった私からすれば、この小学生の活動は完全に理解の外だ。
5人もの大人数のユニットで、更には年齢もバラバラ。
そしてそれを率いているのがこの最年少の小学生だという。


果穂「……ルカさん? あたしの顔に、なにかついてますか?」

ルカ「いや、別に……よくわかんねーと思ってよ」

果穂「え?」

ルカ「いや、お前は確か……ユニットのセンターなんだろ? あんな年上ばっかりのユニットで、やりづらかったりしねーのか?」

果穂「しません!」

ルカ「即答だな……」

果穂「夏葉さんも樹里ちゃんも凛世さんもちょこ先輩も、みんなみんなすっごくすっごくたよりになるんです! あたしがちょっとこまることがあったら、すぐに気付いて声をかけてくれますし……」

果穂「何かできてないことがあったら、ちゃんと教えてくれて、あたしも勉強になります!」

(……こいつはよく懐いてるみたいだが、まあそんなものか)

(ユニットのセンターなんて所詮はお飾り、別にだれがなろうと変わんねえんだろ)

果穂「それに、そんなみなさんが、あたしにセンターをまかせてくれているから……あたしも、みなさんに恥じないような最高のリーダーになろうってがんばってます!」

ルカ「あ……?」

果穂「放クラのみなさんが、センターは小宮果穂ってどうどうと言えるように、夏葉さんみたいにかっこよくて、凛世さんみたいにやまとなでしこで、樹里ちゃんみたいにやさしくて、ちょこ先輩みたいに明るいセンターになるのをめざしてるんです!」

(……ハッ、殊勝なこった)

(まだ、こいつは芸能界って言うのがどんな世界か知らねえ。この世界が救いもない非情な世界だってことを知らねーから、目を輝かせていられる)

(……こんなやつも、いつかはこの世界の澱みと汚れを知る時も来るんだ)


1.……まあ、せいぜい頑張りな
2.あんまり夢見んじゃねーぞ
3.自由安価

↓1
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/13(木) 22:25:35.63 ID:WuUBTWhl0
1
674 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 22:37:53.75 ID:IfDtM3Tz0
1 選択

283の連中はいけ好かねえが、わざわざ小学生を泣かすような真似はすることもない。
この場は適当に流しておくとするか。


ルカ「……まあ、せいぜい頑張りな。お前の周りにいる年上連中も、それなりに期待してるからこそ託してるんだろうしな」

(ユニットの中がどうあれ、結果を決めるのはその外側の人間社会だ)

(……じきに思い知るだろ、そう甘い世界じゃないってのは)

果穂「はい、ありがとうございます!」

果穂「放課後クライマックスガールズが最強最上、銀河一のアイドルになる日までがんばります!」

(……ここまで来たらもういっそお笑いだな)

果穂「ルカさんにも負けない、かっこいいセンターになって見せます!」

ルカ「……私? かっこいいって、そんな風に見えてんのか」

果穂「……? ルカさんって、カミサマって言われててすごくたくさんの人に応えんされてますよね?」

果穂「それって、ルカさんがすごくかっこいいからですよね……?」

ルカ「……お前は銀河一になるんだろ、私なんかに目くれてる暇があったら、もっと別のやつをライバル視しとけ」

果穂「どういう意味ですか……?」

ルカ「……悪い、邪魔したな。私はもう行く」

果穂「あ、ルカさん……!」


私があいつらに応援されてる……?
流石は小学生、なんにもわかってねーんだな。
あいつらはただ無責任に、思考停止に、私に自己を投影して悦に浸ってるだけの存在でしかない。


……【応援】なんて、今までもらったこともねーのに。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【小宮果穂の親愛度レベル…1.0】
675 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 22:43:38.07 ID:IfDtM3Tz0
【ルカのコテージ】

なんというか、事務所の気風を体現しているような奴だったな。
自分たちの未来が明るいものだと信じて、仲間とともに突き進む。

今の私からしてみれば対極ともいえるような存在だ。

……私にもかつて、あんな時があったのだろうか。

自分の幼少期の思い出を掘り起こそうとしたが、やっぱりやめた。
記憶の奥底に潜ろうとしても、その手前で躓いてしまうのだ。

きっと、私がそうだったであろう……あいつと組んだ当初の記憶を見るのが怖くなる。

【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…84枚】
【現在の希望のカケラ…18個】

1.交流する【人物指定安価】※美琴、透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/13(木) 22:44:42.17 ID:ZoTUtcTX0
1 千雪さん
677 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 22:51:44.53 ID:IfDtM3Tz0
1 千雪選択

【第1の島 牧場】


(……うわ)

千雪「あら、ルカちゃん……お散歩?」

ルカ「お前と一緒にすんな、これは……その、偵察だ」


誰でもいいから適当に監視しようと思ったら蛇が出た。
よりにもよっての相手は、私と出会えたことがよっぽど嬉しいらしく、今朝も見たあの胸やけがしそうな程の笑顔を浮かべている。


千雪「今朝は果穂ちゃんとお話してたみたいだけど、どう?」

ルカ「どう……って言われてもな」

千雪「……」ニコニコ

ルカ「……ンだよ」

千雪「……」ニコニコ

ルカ「そ、それやめろ……マジで!」

千雪「はーい、ごめんなさーい」

(こいつ……ホントに年上かよ……)

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【キルリアンカメラ】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/13(木) 23:05:49.45 ID:ZoTUtcTX0
連投ですが
1 家庭用ゲーム機
679 :人も多くないですし連投大丈夫です ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:13:56.78 ID:IfDtM3Tz0

【家庭用ゲーム機を渡した……】

ルカ「これ、使わねーから貰っとけ」

千雪「あら、プレゼント……?」

ルカ「廃品回収だ。……なんか、てめェはガキ連中の面倒を見る機会も多いみたいだからな、それでも使えば時間つぶしにはなるんじゃねーのか」

千雪「あら、ゲーム? ……ふふ、こうみえて、私甜花ちゃんに鍛えられてるから結構強いんだぁ」

ルカ「あっそ」

千雪「ルカちゃんも今度やってみましょう! 負けないんだから!」

ルカ「……やらねーよ」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します】

-------------------------------------------------

千雪「ルカちゃんが朝食会に出席してくれるようになって、私すごく嬉しいなあ」

ルカ「お前が無理やりに出席させてんだろうが……」

千雪「一人で食べるご飯より、みんなで食べるご飯の方がちょっとだけ美味しかったりしない?」

ルカ「別に、味は何も変わんねーよ」

千雪「……でも、食べるものの栄養価もずっと良くなってるのよ?」

ルカ「……は?」

千雪「ずっと、レトルトしか食べてなかったでしょ。ダメなんだぞー、若いうちからそんな食事してちゃ」


手芸女はむすっと頬膨らませて私の食生活を非難した。
実際、手芸女の言うとおりだ。283プロの連中を避ける目的から、食事はもっぱらスーパーのレトルト食品。
でも、別に我慢してまでやっていたわけではなく、この島にくる以前から私の食事はそういう傾向にあったのだ。
ライブパフォーマンスをすればするほどすり減る精神とともに食欲も減るようで、旨いまずいも気にしなくなっていた。
時間のかからない食事を、適当に済ませれられればそれでいいと思っていた。


千雪「ちゃんとお野菜を取らないと、美容にも悪いわ。せっかくのすべすべのお肌も荒れちゃったら勿体ないでしょう?」

ルカ「私はそういうのは別にどうでもいいんだよ」

千雪「どうでもよくない、お姉さんが許しません」

ルカ「お前一体いつから私の姉貴になったんだよ……」


別に私は一人でいいってのに、こいつは何かにつけて付きまとおうとしてくる。
そこまでして283プロの気色の悪い仲良しの輪に取り込みたいのか。

……ここで一発、ガツンと言ってやるか。
私は馴れ合いはしねえ。ただ自分が生き残ることしか頭にないってことを分からせてやる。


1.うるせえ、ほっとけよ
2.そういうの迷惑なんだよ
3.自由安価

↓1
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/13(木) 23:31:43.41 ID:Yd+mBBEn0
1
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/13(木) 23:33:01.26 ID:Yd+mBBEn0
1
682 :今日は7日目までにしておきますね ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:40:26.23 ID:IfDtM3Tz0
1 選択

ルカ「うるせえ、ほっとけよ……てめェは善意でやってるのかもしれねーが、それが相手にとって迷惑になるとか考えたことはないのかっての」

千雪「えっ……」

かましてやった。
実際これは自分の本意。
裁判の後、確かに一時の疲労から心を許してしまった瞬間こそあったが、別に私はこいつに信頼も何も抱いているわけじゃない。
むしろそれで調子づいて面倒役を買って出ているこの状況は鬱陶しくて仕方がない。

それに、私と一緒に行動すればこいつが283プロの連中と過ごす時間も減る。
それは私以外の連中からしても望ましいことじゃないだろう。

残念なことだが、水と油という言葉は覆せないのだ。
私と連中とでは、どうやっても入り混じることなどできやしない。

私の強い拒絶を前に、流石に手芸女も口をポカンと開けてショックに打ちひしがれていた。
あんな生ぬるい環境にいれば、衝突らしい衝突も今までまともになかったんだろう。
だが、そんなことは私の知るところではない。


ルカ「じゃあな、二度と顔見せんなよ」


これで終わり、そう思った。


千雪「確かにあなたからすれば迷惑かもしれない……けどね、だとしても引いちゃいけない局面があるって思うの」

ルカ「はぁ?! お、お前……」

千雪「ルカちゃん、あなたをこのまま一人にして……後悔だけはしたくないの」


手芸女はなおのこと食い下がる。
そして、それは……無性に私の癇に障った。


ルカ「……ざけんな」


一気に手芸女に詰め寄って、どすの利いた声を放つ。
これ以上寄り付くな、そういうメッセージを込めて、睨みつけた。



……それでも。


千雪「私は真剣です」


手芸女は私の目を見て、少しも億す様子すら見せなかった。


ルカ「……チッ」


気が付けば私は背を向けて走り出していた。
手芸女の据わった肝を前にして、敗北を認めたのか、こちらが恐怖したのか。
その答えは知らない、知りたくもない。
ただ、私は『二度と顔を見せるな』という言葉の効力を失う形でその場を離れてしまったことだけは事実だった。


千雪「……私、あきらめは悪い方なんだから」

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【桑山千雪の親愛度レベル…2.0】

【絆のカケラを手に入れました!】

【現在の絆のカケラの数…19個】
683 :今日は7日目までにしておきますね ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:41:48.60 ID:IfDtM3Tz0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


当然と言えば当然だが、目立って怪しい人間はいなかった。
まあここでボロを出すようじゃこっちも苦労していない。
前回の事件では私たちも気づかぬうちに工作をし終えていて、その暗躍に気づいている人間すら、そう多くはない。
私の関知しないところで、【狸】の化かしは既に始まっているのかもしれない。

……ダメだ、手掛かりも確証も何もない。


「……チッ」


そう思うとなんだか気が立って、眠る気にはならなかった。


684 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:42:54.41 ID:IfDtM3Tz0
-------------------------------------------------
【第1の島:ビーチ】


眠れないままに身を任せて、島を歩いていた。
相変わらず空には全く様相の変わらぬ満月が照り付けており、肌に張り付くような嫌悪感を抱かせた。
夜風に当たれば気分がよくなるなんて、まやかしだと思う。
そうして歩くうちに、自然と足は私をまたあの海岸へと運んでいた。

いつだか、美琴と七草にちかがレッスンをしていた……あの海岸。

もう時計はとっくに十時を回っている。
流石の美琴もレッスンを切り上げて自分のコテージに戻っていることだろう。
そう思っていた。


美琴「……はぁっ……はぁっ……」

(み、美琴……?!)


満月の月光しか明かりのない、暗闇の中で美琴はそのすらりとした手足を相も変わらず振り回していた。
それはダンスの練習というにはあまりにも余裕がなく、自傷行為というにはあまりにも美しいものだった。
シャツは汗で全身にぺたりと貼りつき、息をするたびに全身が浮き沈みを繰り返す。


____はっきり言って、異常だった。

685 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:44:48.58 ID:IfDtM3Tz0

ルカ「……バカ野郎!」


気づけば私の体は美琴を無理やりにその場に突き崩していた。
美琴の体はまるで紙のように軽く、無抵抗なままに砂浜に倒れ込んだ。
たった一瞬の接触だったのに、私の手には美琴の汗がべたりと付着した。


ルカ「お、お前……いったい、いったいいつからやってんだよ……!」

美琴「……はぁ……はぁ……」


私の問いかけに美琴は答えない。というよりも、答えることができない。
さっきの今で呼吸が収まっちゃいないのだ。


ルカ「なんで……こんな真似を……お前……」


島に来た時から毎晩のようにレッスンをしていたことは知っていた。
それでも、ここまでのことはしていなかったはずだ。
地に付す美琴の体は引きつり痙攣すらも引き起こしており、水分をまともにとっていないことが一目に見て取れた。
すぐに美琴の口にミネラルウォーターを当てて無理やりにでも流し込む。


美琴「……げふっ!」


呼吸が上がったままの美琴は苦しそうにそれを吐き出した。

686 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:46:59.11 ID:IfDtM3Tz0

ルカ「……おい、美琴……? 何やってんだよ……」

美琴「……はぁ……ルカ、離して……私は、やらなくちゃいけないの……」

ルカ「は、はぁ?! バカ言うなよ……そんな体でこれ以上やったら、お前が死んじまうって!」

美琴「……それでも、やらなくちゃ」


介抱する私の腕を跳ね除ける美琴の力は、異常なまでに強かった。
その細腕のどこにそんな力があるのか、私をそのまま突き飛ばすようにしたかと思うと、すぐに立ち上がってその身を乱暴に捩り始めた。


美琴「……はぁ……はぁ……」

ルカ「美琴……お前、何やってんだよ……!」


その時の光景は、あの日によく似ていた。

私の手から美琴が離れてしまった『あの日』。
あの日も確か、月が嫌味なほどに綺麗に照りついていた。
私の言葉に無機質に返事をして、そのままレッスンを再開した時の美琴の姿。
私がいくら言葉を投げかけても美琴は聞こうとせず、一心不乱に自分の体を無理に動かしていた。

687 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:48:30.41 ID:IfDtM3Tz0

いつか美琴は言っていた。

どれだけ辛い時があろうとも、どれだけ悲しい時があろうとも、レッスンに打ち込んでいる時間はそれを忘れられる。
無理やりにでも未来に目を向けて、体を動かしていれば零れ落ちる涙もない。涙に割く水分は、すべて汗に変わる。

今の美琴は、【泣いている】。
全身に涙が伝い、シャツがその身に張り付くほどに、泣いている。

____その理由は、分かり切っていた。


ルカ「お前……【七草にちか】がそんなことを望むと思ってるのかよ……!!」

美琴「……!」


嗚呼、本当に病みそうだ。
どこまでいっても、『七草にちか』という存在が美琴にとって大きいものになっていたということを実感させられる。
無理やり突き飛ばしても止まらなかった美琴の動きは、その名前一つで止まってしまうのだから。

七草にちかという名前を前にした美琴は途端冷静になり、次の瞬間には敵意を私に向けてきた。

688 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:50:27.81 ID:IfDtM3Tz0

美琴「……勝手なことを言わないで。私はにちかちゃんと約束した、必ずSHHisの緋田美琴としてアイドルの頂点に立つ。そのために一分一秒だって無駄にできない」

ルカ「お前とあいつとの約束はわかる。でも……それが自分の命を削ってまで練習することと同じじゃないだろ……?! お前の今のダンスで感動する人間なんかいないって……!!」

美琴「ふざけないで」

ルカ「ふざけてんのはお前だよ、美琴……!!」


私の絶叫を境に、やり取りは途絶えた。
美琴は肩で呼吸をしながら押し黙り、ただ私のことを見据えている。その傍らには敵意を添えて。
きっと美琴は私のことを見ていない。


美琴が見ているのは、『七草にちか』の影だ。

689 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:51:10.27 ID:IfDtM3Tz0


美琴「……帰るから」


静寂は四、五分と経たなかった。私たちの間ではそれほどの時間ですら耐えづらい。
同じ空間にいるというだけで、お互いがお互いの胸を刺す。
先に耐えかねたのは美琴の方だった。
適当に荷物をその手に抱えると、私の隣をすり抜けて早足に逃げていった。

流石に、今の様子を見ても練習を再開することはないだろう。だが……


ルカ「……七草にちか、私は……」


あの時七草にちかが死に際に見せたお手本、私がなるべき『私』の姿……私が私自身に向き合って、美琴にも向き合う。
本当の自分自身で、美琴と正面からぶつかり合う。
そのために残された時間は……そう長くはないらしい。



_____美琴が、自分自身を壊してしまう前に。




690 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/13(木) 23:53:15.54 ID:IfDtM3Tz0

というわけで本日はここまで。
途中でもありましたが、安価の回りもそう早くは無いので連投でも全然OKです。
人が多くなることがあればその時はその時で調整します。

それではお疲れさまでした。
明日も21:00より更新予定です。
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/14(金) 00:05:18.88 ID:DMPUMGfR0
お疲れ様でした!
692 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/14(金) 21:04:32.22 ID:EbFPAfXe0
____
______
________

=========
≪island life:day 8≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


美琴を突き飛ばした時の感触が、妙に手に残っていた。それは一晩明かした後でも同じこと。
無論汗が付着した手は洗ったし、そのじっとりした感じこそ残ってはいないのだが、この手に残っているのは美琴の体の【軽さ】だった。
美琴という存在を失って空っぽになった斑鳩ルカの器と同様に、中身を失って空虚な器と化した緋田美琴のその体は、見かけ以上に軽かった。

あいつは、その器にそそぐものを求めて、自分の命を削っているんだ。

窓から太陽を見上げた。こちらの事情を何ら知らない太陽は、今日も我が物顔で空を陣取り、鬱陶しい日差しで照り付ける。
その明るさは、何も秘密を許さない。
腹に抱えたものを引きずり出して、曝け出させようとしてくる。

うるさい、うるさい、うるさい……!
言われなくても、私が一番わかっているんだ。

……わかっては、いるんだ。
693 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/14(金) 21:05:42.10 ID:EbFPAfXe0
-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】

これで参加するのも三回目。
どよめきは一日ごとに小さくなり、わざわざ視線を向けてくる人間の数も減った。

しかし、これで過ごしやすくなるとはいかないのが昨日の事情。
美琴は私に対して一切の反応を見せず、顔を背けるようにして外を見つめている。


(……チッ)


その隣に座る勇気は持ち合わせていなかった。


ルカ「……おい、手芸女」

千雪「ん……? ルカちゃん……?」

ルカ「その……一緒に食べていいか」


手芸女は私からのお願いに一瞬表情をぱぁっと明るくしたが、すぐに美琴に視線を向けて、その表情を押し戻した。
私と美琴との間に横たわる事情、その一端を知る数少ない人間は、致し方がないことといった様子でしずしずと席を空けた。

694 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/14(金) 21:06:53.93 ID:EbFPAfXe0

千雪「うまく……いかなかったのね」

ルカ「……おう」

千雪「ルカちゃん、前にも言ったけど……焦る必要はないの。私たちには時間があるんだから」

千雪「生き残った私たちには悩んで、ぶつかって、解決するまでの時間が残されているの」

ルカ「……」


本当にそうだろうか。生きながらえたからと言って、時間が残されていると言えるのだろうか。
少なくとも、私たちの間に横たわる問題は時間で解決されるようなものじゃないし、緋田美琴という人間はその時間の間に壊れてしまう恐れさえある。


(お前に、何が分かるんだよ)


心の中で悪態をついた。
目の前で穏やかな微笑みを見せているこの女に、手元のフォークを突き立ててやりたいほどの衝動が沸き上がり、それを無理やり押さえつけた。


(自己嫌悪、どころじゃない)

695 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/14(金) 21:09:20.55 ID:EbFPAfXe0

千雪「……ルカちゃん?」

ルカ「……悪い、私と美琴のことは……もう、触れないでくれ」

千雪「……」

ルカ「……」


手芸女は何も言葉を発さずに、ゆっくりと頷くようなそぶりを見せた。
頷いたと断定しないのは、それが不完全な所作だったから。
首を完全に縦に振るのではなく、少しだけ下に落とすだけのような行動。
きっと私の要求をそのまま飲み込む気にはならなかったからだろう。本当にお節介な女だ。


千雪「……」


必死に何か言葉を探しては、これじゃない、それじゃないと落胆するような息をつく。
そんな真似をされると、こちらに非がなくとも罪悪感が湧いてくるというものだ。
今回ばかりは、別の話題を自分から持ち出す。


ルカ「な、なあ……昨日話した小学生、あいつってさ。確かセンターやってんだろ……? す、すげえよなぁ……」

(あー……くそ、死にたい)


普段から人づきあいが広い方じゃない。
自分が行けると思った人間とだけしか深い交流はしてきていない、自分自身の会話下手を呪った。
696 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/14(金) 21:11:15.28 ID:EbFPAfXe0

私の素っ頓狂な話の持ち出し方に、手芸女は少し苦笑する。
ただ、この話題自体はそう悪いものでもなかったのか、それを発端として話題を切り返してきた。


千雪「……ねえ、ルカちゃん、今日ね。何人かで海水浴をすることになっているの。もしよかったら、来てくれないかな」

ルカ「……は?」

千雪「さっきルカちゃんも気にしてた、果穂ちゃんも来るの」

ルカ「……嫌だ。泳ぐのとか、趣味じゃない」


せっかく気を回してくれたのに、勝手に口から拒絶の言葉が出た。
でも実際、考えたくもない。こいつらと一緒に海水浴だなんて。


千雪「ううん……大丈夫。私も今日は泳ぐつもりはないから、今日は保護者係。水分補給とか、パラソルとかで面倒を見てあげるの、手伝ってもらえないかな?」

ルカ「……」


美琴の方を見やった。私への拒絶から始まったぴりつきが、ほかの人間にも広がりを見せているのか、今日の美琴は一人で黙々と食事をしている。


ルカ「……」


あの細身に、食事はどれほど届いているんだろうか。
私の目には美琴の食事がアンドロイドがオイルを充填しているような、動力源を確保するためだけの無機質な光景に映った。


ルカ「……わかったよ、お前の手伝いをすればいいんだろ」

千雪「ありがとう、ルカちゃん。お昼、第2の島のビーチに集合ね」


手芸女の誘いを私は受けることにした。
697 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/14(金) 21:12:38.29 ID:EbFPAfXe0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

(……)

(……まだ、あいつの誘った海水浴までは時間があるな)

【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…84枚】
【現在の希望のカケラ…19個】

1.交流する【人物指定安価】※美琴、透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/14(金) 21:17:28.28 ID:7mlQnUTA0
1 千雪さん
699 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/14(金) 21:23:41.89 ID:EbFPAfXe0
1 千雪選択

【ホテル レストラン】

さっきの今だが、妙に美琴の姿が頭にこびりついてしまっていた。
元からそんな表情豊かに食事をしたり、味の感想をしゃべったりする性質ではない奴だが、
あそこまで無機質に食事を摂っている姿は流石に見ていて胸が苦しい。

あれは食事なんかじゃなくて、がらんどうになった体の中に押し込むためだけの動作でしかない。

……そんなやつが、何がパフォーマンスだよ。


千雪「あら、ルカちゃん……もしかして、朝ごはん足りなかった?」

ルカ「ちげーよ……お前は何してんだ」

千雪「海水浴の準備、ジュースとかはここの冷蔵庫のものを持って行こうかと思って」

ルカ「……ふーん、まあガキどもにはジュースぐらいがちょうどいいだろうな」

千雪「……大体の物は見繕ったから、そろそろ休憩にしようかな」

ルカ「やかんなんか取り出して、コーヒーでも淹れんのか」

千雪「インスタントだけどね。ルカちゃんも飲む?」

ルカ「……一杯だけな」

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【キルリアンカメラ】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/14(金) 21:28:23.22 ID:wzFqNtRW0
1 携帯ゲーム機
701 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/14(金) 21:42:47.06 ID:EbFPAfXe0

【携帯ゲーム機を渡した……】

ルカ「……いらねえからやる」

千雪「また廃品回収?」

ルカ「そうだ、他意はねーから要らなかったらそっちで捨てろ」

千雪「はーい。……それにしても、またゲーム?」

ルカ「この前のはガキと遊ぶ用、そっちはてめェで遊ぶ用だ」

千雪「……このゲーム機、甜花ちゃんも持ってたものかしら」

ルカ「……その辺の事情は知らねーけどよ」

千雪「……うん、ありがとう。ルカちゃん」

(……まあ、普通には喜んだか)

-------------------------------------------------

ルカ「……」

千雪「……」


さっきの今、私は拒絶したばかり。
流石に美琴のことについて踏み込んでくるつもりはないらしい。
多分、そういうのは……【後】でやるんだろう。

それに私も、まだ話す整理がついていない。
お互いが押し黙るこの空間も嫌なので、海水浴という分かりやすい話題に飛びついた。


ルカ「海水浴って誰が来るんだ?」

千雪「えっ……えっと、あさひちゃんと果穂ちゃんと、それに愛依ちゃんと夏葉ちゃんが一緒に遊んであげるんだって」

ルカ「なるほど、ガキ連中とその世話役か……」

千雪「ふふっ、あさひちゃんも果穂ちゃんも第2の島に渡れるようになってからずっと泳ぎたがってたから念願適ったって感じかな」

ルカ「そういやモノクマが出てくる前も、真っ先にモノミに水着貰いに行ってたな……」

千雪「こんなに美しい海なんだもの、きっと楽しいと思うわ」

ルカ「……海は確かに綺麗かも知んねーけどよ、状況が状況だろ」

千雪「え?」

ルカ「コロシアイなんて強いられて、実際死人も出てるのに……ガキってのは気楽なもんだな」


しまった。別に空気を壊したかったわけでもないのに、昨晩のことを引きずって沈んだ心が勝手にネガティブな言葉を吐き出した。
海だの南国だの、そういう眩しい言葉が出てくるたびに、私には影が落ちる。
明るい話題になると、マイナスな考えばかりが浮かんでくるのはもはや病気のようですらある。

流石にこればっかりには少しばかり手芸女も不愉快な思いをしたようで、一瞬眉を顰めるようにした。


千雪「ルカちゃん……私にはいいけど、そういうことはあの子たちの前では言わないでほしいかな」

ルカ「……悪い」

千雪「できる限り、不安とか恐怖とか、そういうものは私たちで遠ざけてあげたいの。少しの間でも忘れられるように、楽しい、嬉しいの時間をあの子たちのために作ってあげたいと思っているの」

ルカ「……」


1.だったら、私なんか呼ばない方がよかったんじゃねーのか
2.でもいつかは向き合わねーといけないだろ
3.自由安価

↓1


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