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【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】
- 540 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:26:17.61 ID:BBrd2CUc0
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夏葉「あなた、状況を理解しているの? あなたは私たちをこのコロシアイに巻き込んだ、この企てを行った人間の一人と目されているのよ?」
透「違うよ」
(……!)
透「それは、違う。……けど、言えないから……ごめん」
摩美々「何を言えないことがあるのー? 摩美々たちにとってプラスなら、言えばいいじゃんー」
透「……」
摩美々「黙秘権を行使します……ってコト?」
雛菜「なんで……?」
雛菜「透先輩……? 雛菜には話してくれるよね……?」
透「……雛菜」
雛菜「透先輩……!」
透「……ごめん」
雛菜「……そん、な」
(……チッ)
夏葉「……透のことは一旦、後に置いておきましょう。ともかく、にちかはこの透に対する疑念を拭い去ることができなかったのね?」
冬優子「そして、その疑念から……犯行を決意しちゃったってことなんだね……」
にちか「私は……浅倉さんなら殺してしまってもいい、むしろ殺すべきだって……私たちのことをコロシアイの標的に選んだ黒幕の側の人間なら、許しておけない……死んじゃえって……!」
- 541 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:26:54.49 ID:BBrd2CUc0
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モノクマ「何被害者ぶってんの?」
- 542 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:27:59.45 ID:BBrd2CUc0
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ルカ「……ッ!?」
モノクマ「さっきから黙って聴いてればさぁ……七草さんの話って要は『自分が帰りたいから、比較的怪しい人間を狙って殺しました』ってだけだしさ」
モノクマ「しかもそれも黙って自分自身のうちにしまっておかずに直ぐにみんなに言えば良かったじゃん!」
モノクマ「それなのにこんな結末って……」
モノクマ「一番仲間のことを信じてなかったのは七草さんなんじゃーん!」
ルカ「……ッ!」
(こ、こいつ……塗り替えるつもりか?)
(七草にちかへの同情を、もっと別の……どす黒い感情で……!)
にちか「それ、は……」
モノクマ「それとも……もしかして、唾をつけておいたのかな? 後でこいつは私が殺す、そのための正当な名目は自分だけのものだ……ってね!」
七草にちかに向けられる視線が少しずつその色合いを変えていく。
悲哀の別れを演出する、冷たくも温かい視線から、疑いの籠った純然たる熱を帯びた視線。
肌を灼くようなその視線を前にして、七草にちかの体はまるで凍えるかのように振動を始めた。
- 543 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:29:02.13 ID:BBrd2CUc0
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モノミ「ち、違いまちゅ! 七草さんは……疑心暗鬼を食い止めようとしただけなんでちゅ!」
モノミ「こんなみんなが不安に感じて日々を過ごしている中で、浅倉さんの不審な行動を共有すればみんながきっと暴走してしまうって……」
モノクマ「だからそれが七草さんの不信なんじゃん!」
モノクマ「お互いが仲良しで、本当に信じ合えるんだったらその疑心暗鬼だって生じない!」
モノクマ「どれだけ取り繕っても七草さんが283プロ同士の信頼と絆を信じていなかった事実は覆らないよ!」
わざとらしく仰々しく、その声を張り上げるようにして私たちに呼びかけるモノクマ。反論の言葉を返すものはいなかった。
信頼なんてもの、証明のしようが無い。
手を繋いで、隣でニコニコ笑っていても、その腹の中はその本人にしかわからない。
自分が信頼していたって、相手はそうじゃない。
私も、その信頼の脆弱さを誰よりも一番理解している。
____だから、この酷く沈んだ膠着状態で口を開いたのもまた、【脆弱さを一番理解している人間】だった。
- 544 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:29:33.32 ID:BBrd2CUc0
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美琴「少し黙って」
- 545 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:31:16.09 ID:BBrd2CUc0
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にちか「み、美琴さん……」
美琴「にちかちゃんは確かに私たちにその疑念を打ち明けようとはしなかった。でもそれが信頼していなかったことと同じかどうかはわからないでしょ?」
美琴「信じているからこそ、言えないことだってある。相手のことを思うからこそ、黙っていることがある」
美琴「だって、にちかちゃんが本当に私たちのことを信じていないなら……自分から罪の告白なんてしないでしょ?」
《にちか「……最初はね、私も勝とうとしたんだ」
にちか「だから芹沢さんの推理に便乗したし、机を倒した人の時にも名乗りを挙げなかった」
にちか「でも……ほかのみんなが必死に議論をして、生き残ろうとしている中で自分だけみんなを欺こうとして……」
にちか「私が生き残るってことは、その全員を殺すことになるから……それはできないなって途中で思ったんだ」
にちか「こんなので一番になったからって……私は、うれしくない」
にちか「きっともうイヤだって! めちゃくちゃに後悔して……そんで、呆れるくらいに死にたくなるに決まってる」
にちか「だから、もう……終わらせてください。これ以上は、もう」》
美琴「少なくとも、今のにちかちゃんは私たちを利用しようという気持ちじゃない。それにきっと……ずっと苦しみ続けてきたんだろうと思うから」
美琴「私たちのことを信頼していない自分と、私たちのことを信頼している自分。その鬩ぎ合いに」
- 546 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:32:57.97 ID:BBrd2CUc0
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ルカ「……ケッ」
ルカ「おい、そろそろ腹を括るタイミングらしいぜ、七草にちか。お前が死ぬ前に私たちに、美琴に届けたい言葉……聞かせてみろよ」
ルカ「ただし、それを変に取り繕うようなことがあれば……分かってるな?」
にちか「……ルカさん」
にちか「それじゃ、見といてくださいよ。今からやるのはルカさんにとってのお手本なんですからね!」
(ハッ……)
クソ生意気に私に向かって拳を向けた七草にちか。いつの間にかその体の震えはひいていた。
ブレることないその拳を引っ込めて、意を決したように向き直る。
それに正対するのは、美琴だ。
- 547 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:33:52.15 ID:BBrd2CUc0
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にちか「……まず第一に、私のやったことは間違いじゃないと思ってます。私が動かなくちゃ浅倉さんが何をしていたか分からない、それに家族のことだって一生わからないまま。そんなのでどうやって生きていくんですか」
にちか「でも、それとは別に。後悔をずっとしてます。どうしてそれを打ち明けられなかったのか、皆さんに……そして、美琴さんに」
にちか「ずっと、ずっっっと思ってたんです。私は美琴さんのことが大好きで、憧れで……でも、美琴さんはきっとそうじゃない」
にちか「美琴さんにとって私はきっとただのお荷物。歌もダンスも足元にも及ばない。経験だってない」
にちか「そんな年下のお守りを無理やりさせられて……私のことをよく思うはずなんかない」
にちか「……私なんかいらないんじゃないかって」
にちか「だから、話せなかった。話したくなかった。言ってしまえばきっと、美琴さんに余計なものを背負わせてしまうから」
にちか「重たすぎる荷物を、下ろされるのが怖かったんです」
美琴「……ッ!」
- 548 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:34:48.21 ID:BBrd2CUc0
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正直言って、妬けてしまう。
私の時に、そんな表情でもして見せたかよ。
私の時に、そんな涙を流したかよ。
私の時に、そんなに優しく抱きしめたりなんかしてくれたかよ。
……嗚呼、きっと私という失敗例があるからこそお前はその一歩を踏み出せたんだよな。
一度掴み損ねた“ソレ”をお前は思ってくれてたんだよな。
【もう、二度と離したくない】……って。
- 549 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:36:33.64 ID:BBrd2CUc0
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にちか「み、美琴さん……!?」
美琴「ごめんね……」
にちか「美琴さんが謝ることないですよ……私が、私が……」
美琴「違う……自分の気持ちを伝えていなかった私が悪いから」
美琴「にちかちゃん……さっき、エレベーターに乗っている時にした話、覚えてる?」
にちか「奈落……ですか?」
美琴「うん……ステージに出る前、いつも考えているの。この先にある、一瞬のパフォーマンスのために私の【すべて】はある。その【すべて】のために、私はある」
美琴「でもね……その【すべて】は私一人じゃ作れないの」
にちか「……!!」
- 550 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:37:49.46 ID:BBrd2CUc0
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美琴「隣で歌ってくれる、踊ってくれる。ちょっと遅れちゃっても一生懸命についてきてくれる」
美琴「そして、私のことを気にかけて無理やりにでも笑顔を見せてくれる」
美琴「ごめんね、少しだけ嘘をついた」
美琴「私のとっての奈落はもう一つ」
美琴「奈落」
美琴「ステージの下。私は一人になる。誰の助けもない、誰も隣にいない。出番を待つその時間に、自分自身を顧みる」
美琴「……でも、ここを出れば私は孤独ではなくなる。私を待ち構えてくれる人が、ファンが、スタッフが、プロデューサーが」
美琴「……そして、隣に立ってくれるパートナーがいる。その人たちのために、【すべて】がある。私の【すべて】はそのためにある」
美琴「……なんて」
にちか「美琴さん……あはは、美琴さんは……ずっと見てくれてたんですね」
にちか「それなのに、私ってば、本当に救えないなー!」
にちか「バカ、バカ、バカ……本当に私って……」
にちか「バカすぎじゃないですか……」
- 551 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:38:52.38 ID:BBrd2CUc0
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誰も言葉を挟み込みはしなかった。
まるで姉妹であるかのように抱きしめ合う二人の姿をただ傍観していた。
283プロでは唯一の二人ユニット、その二人の間に横たわる関係性……絆とも言い換えられるそれは、他の人間のそれとは違っていたからだ。
もともと歪な関係性だった。かたや一度解散を経験した曰く付きの物件、かたやただの一般人上がりの没個性な小娘。
……それが今や、これだ。
ここ島に来てからもずっと、私は考えていた。
どうして美琴は私ではなく、こんなガキを選んだのか。
人間というのは面倒な生き物だと思う。
感情をすべて素直に伝えられれば丸く収まるというのに、その口は、手は、足は……思うように動かないことの方が多い。
その意味では、やっとこいつは救われたんだ。
ずっとその胸に押し込んでいた感情を吐き出すことができた。
それに、その感情を相手にも返してもらえたんだから。
七草にちかはこれ以上なく幸せ者で、
- 552 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:39:41.08 ID:BBrd2CUc0
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___________私がなれなかった“私”だ。
ルカ「ハッ……」
- 553 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:40:55.24 ID:BBrd2CUc0
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____だけど、そんな感慨に耽る時間は唐突に終わりを告げる。
モノクマ「さて、そろそろ始めちゃいましょうか!」
- 554 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:42:11.82 ID:BBrd2CUc0
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ルカ「……おい、始めるってまさか」
冬優子「おしおき……処刑……!?」
美琴「……!」
愛依「た、タンマタンマ! べ、別にいいじゃん! にちかちゃんも反省してるし、灯織ちゃんもにちかちゃんのことを恨んでなんか……!」
モノクマ「何か勘違いをしてるようだけど、処刑ってね。誰かの溜飲を下すわけにやるんじゃないんだよ?」
モノクマ「許されざる大罪を背負った人間に、然るべき罰を下す! ただそれだけのことなんだから!」
夏葉「大罪って……あなたがいなければにちかはこんな人を殺めたりなんかしなかったのよ?!」
モノクマ「うぷぷ……だからって罪が消えるわけじゃないよね? 他の誰かに唆されたら無罪だってんなら、戦争はなんになるの?」
モノクマ「お国のために他の国の人間を山ほど殺しても仕方ないことで終わらせるの?」
夏葉「そ、それは論点のすり替えだわ……!」
モノクマ「小宮さんの大好きなヒーロー特撮でも、悪いことをした悪役は必ずその報いを受けますよね?」
果穂「そ、そうじゃない怪人だっています……! 反省した怪人は、まちの平和のためにヒーローを助けてくれることも……」
モノクマ「……」
モノクマ「ま、どうあれおしおきを止めるなんてあり得ないので止めるだけ無駄ですよー!」
智代子「む、無視なんて酷すぎるよ!」
モノクマ「うるさいうるさい! ボクがクロといえばクロ、シロといえばシロ! それがすべてだよ!」
摩美々「モノクロツートンの存在がそれ言うー……?」
モノクマ「キッチリカッチリ、七草さんには死んでもらいますからね!」
にちか「……死ん、で……」
モノクマ「おしおきのないコロシアイなんて、お魚抜きの海鮮丼ですからね!」
(……くそッ!)
血の気が引く、とはまさにこのことを言うんだろう。
手足の力が地面に吸い取られるように抜けていき、体温が急速に冷めていく。
反対に込み上げてくるのはむせ返るような嫌悪感。嘔吐感にも近しい衝動が私の喉元を襲った。
- 555 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:43:45.21 ID:BBrd2CUc0
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モノクマ「今回も、超高校級の幸運である七草にちかさんのためにスペシャルなおしおきを用意しました!」
にちか「美琴さん、最後に本当のことを言えて、本当のことを聞けて良かったです」
にちか「えっと……その……私はこれから死んじゃうみたいなんですけど……頑張ってください!」
にちか「美琴さんは絶対絶対ぜっったい! 一番のアイドルになれるので!」
にちか「【SHHisの緋田美琴】として……一番になってください!」
モノクマ「それでは張り切っていきましょう! おしおきターイム!」
- 556 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:44:48.55 ID:BBrd2CUc0
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にちか「【奈落】の底からでも、応援してますから!」
- 557 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:46:46.70 ID:BBrd2CUc0
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GAMEOVER
ナナクサさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。
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- 558 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:48:08.59 ID:BBrd2CUc0
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あまり恵まれた家庭環境ではないお家に生まれた七草さん。
そんな彼女がアイドルとしてデビューして、もうそれなりの月日が流れました。
憧れの緋田さんとタッグを組んでスターダムを上り詰める彼女の姿には本当に勇気をもらえますね。
でも、そんな彼女は……今本当に輝いているのでしょうか。
今彼女の履いている靴は……
___一体誰の【靴】なんでしょう?
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ヴぇりべりいかレたサいゴ
超高校級の幸運 七草にちか処刑執行
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とある敏腕プロデューサーがこんな言葉を口にしたことがあります。
「足に合わせるんじゃない、靴に合わせるんだ」
そう、トップアイドルならどんな靴でも華麗に着こなして、そのレッテルに見合うだけのパフォーマンスを披露できるはず!
- 559 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:50:02.12 ID:BBrd2CUc0
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七草さんもこれから上を目指していくなら、ありとあらゆる靴を履きこなせるはずですよね。
玉座に手や膝をベルトで固定された七草さん、そんな彼女に今回用意された靴はこちら!
編み込みの決まったお洒落なブーツ!……ただし、【鉄製】の物ですが。
でも、まだこのブーツは七草さんには少し大きいみたいです。足を入れてもまだブカブカ。
なら、キチンとサイズに合わせないとですよね!
せっかくなら、その隙間はファンからのプレゼントで埋めてしまいましょう。
ファンレターに寄せ書き、花束にプレゼント、スタミナドリンクやチョコレートまで。
ドンドンドンドンファンからの愛がブーツに詰まっていきます。
やがて七草さんの足とブーツとに空いていた隙間は無くなり、ギチギチに。
……でも、まさかファンからの想いを受け取らないなんて言いませんよね?
まだまだファンからのプレゼントはたくさんありますよ〜!
監視カメラに盗聴器、GPSなんかも貰っちゃって! 愛されてますね〜!
え? 靴にはもう入らない?
それもそうですね、これは七草さんのためだけに職人が作り上げた鉄製のブーツ!
強固な作りのブーツはそう簡単には形も変わりません。
でもでも……「足に合わせるんじゃない、靴に合わせるんだ」でしたよね!
- 560 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:51:34.75 ID:BBrd2CUc0
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バキッ ボキッ グシャッ
七草さんの足をバキバキに押し潰しながらでもプレゼントは受け取ってもらいます。
それがファンからの愛、そしてトップアイドルになる上での痛みなのですから。
自分自身を変えずにトップになれる存在なんていません、今一度の苦しみを受け入れないで何だと言うんですか。
……あれ?
もしかして、足の骨がバキバキに砕かれた痛みで気を失ってます?
あーもう、仕方ないなぁ!
その程度の覚悟しかない「灰被り」にはシンデレラストーリーなんか似合わないってことで!
七草さんの頭上にあったカボチャのくす玉からは大きな大きなガラスの靴が落ちてきて。
……グシャァ
アイドルになる心構えもなってない只の一般人は、自分の身の丈に合わない【靴】に押しつぶされて死んでしまいましたとさ。
- 561 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:52:17.44 ID:BBrd2CUc0
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___七草にちかが死んだ。
- 562 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:54:38.39 ID:BBrd2CUc0
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美琴の周りをブンブン飛び交う煩わしい蝿のような女が死んだ。
そんな願ってもない事態を前にして、晴れやかな感慨を……抱けなかった。
想定外に私の膝は支柱を失ったかのように崩れ落ち、気がつけば両の掌を地面にくっつけて、体を戦慄かせるようにしていた。
一言言葉を吐き捨ててやりたかった。
されども私の喉は何かに打ち震えたようで、口から出るのはそれこそ羽虫の羽音のように聞くに耐えない弱々しい絞り出したような声だった。
私が、七草にちかの死を前にして抱いているこの感情はなんだ?
奴は憎しみ、嫉み、煩わしいだけの存在だったはずだ。
私と美琴の間に横たわる軋轢を土足で踏み荒らして、図々しくも自分の了見で食ってかかってきた余所者でしかなかった。
なら、この上体を支えている両腕を上げて万歳でもしてやればいい。
あいつの死に為るべきは歓喜じゃなかったのか。
その掌は、溶接されたように地面から離れない。
「……畜生」
私の口から出てくるのは、その一言だけだった。
- 563 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:56:41.04 ID:BBrd2CUc0
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モノクマ「ヒャーッホウ! 久しぶりのおしおきで思わず昂っちゃうね!」
モノクマ「ビンッビンだぜ! これが……生の悦び?」
千雪「……」
恋鐘「……」
愛依「……」
モノミ「うぅ……七草さん……モノクマ、なんて酷いことをするんでちゅか……」
モノクマの品性のかけらも無い煽り文句。
本来なら激昂しそうな連中も、その拳は垂れ下がったまま。言葉一つ出てこない様子を見るに、相当キているらしい。
そして、言うまでもなく一番、そういう状態なのは……
美琴「……」
ルカ「……美琴」
美琴はまるで魂が抜けたみたいに動かなかった。
さっきまで手に抱き抱えていた相方が奪われ、その先で惨たらしい死を遂げた。
尊厳を踏み躙られて、人生そのものを嘲笑うような、そんな最悪の方法だった。
もう、今の美琴に言葉は届きそうもない。
(……何が『美琴さんは任せましたよ』だ)
(私に出来ることなんか、何にもない……お前の穴を塞ぐことなんて、お前にしかできねえだろ……)
- 564 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:58:33.60 ID:BBrd2CUc0
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果穂「夏葉さん……夏葉さんの手で何にも見えないです……にちかさんは、どうなったんですか……?」
夏葉「……」
果穂「にちかさんは……しんじゃったんですか……?」
夏葉「……っ!」
夏葉「モノクマ! もういいでしょう! あなたの目論見通り、仲間同士でコロシアイが起きて、あなたの私刑でにちかも……!」
夏葉「あなたの目的は果たされたはずでしょう?! 私たちを解放しなさい!」
モノクマ「うぷぷぷ……目的が果たされた? バカを言っちゃいけないよ」
モノクマ「これはまだ第一歩、スタートラインから一歩踏み出しただけに過ぎないんだよ。まだまだゴールテープは遠く先さ」
夏葉「あ、あなたは何を目的にしているの……?!」
モノクマ「それはオマエラも知っての通りさ! これはあくまで希望ヶ峰学園歌姫計画なんだからさ」
モノクマ「このコロシアイを生き抜いて勝利する……そんな最高の希望の象徴たるアイドルを作り出すこと、それが目的なんだよ」
モノクマ「だから、まだまだ終われない。むしろここからが本番だよ! 最初のコロシアイを経たオマエラがどうするのか……目が離せないよね!」
摩美々「……モノクマの狙い通りになんかさせませんケド」
モノクマ「ぶひゃひゃひゃひゃ! この惨状を前にしてそんなこと言われても説得力ないんですけど!」
- 565 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:00:42.74 ID:BBrd2CUc0
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恋鐘「うちらはもうこれ以上間違えんよ……今度こそ、ちゃんとお互いを信用して……全部全部共有するばい」
恋鐘「秘密も不安も、全部仲間で分かち合えば何も怖いことなんかなか……!」
モノクマ「……? やれやれ、カーカー喧しいから何かと思えば、月岡さんは人間じゃなくてカラスさんなの?」
恋鐘「な、なん……!?」
モノクマ「だって、ついさっきのことを忘れちゃって……それって丸っ切り鳥頭じゃん!」
モノクマ「秘密を共有するも何も、浅倉さんがダンマリじゃんかー!」
透「……」
(……そうだ、こいつは)
結華「ま、待ってよ……とおるんは確かに三峰たちに秘密を抱えてるけど、敵対してるわけじゃないんだしさ……」
モノクマ「そうだね、浅倉さんはそう言ってたね!」
摩美々「何ぃ? その言い方ぁ?」
モノクマ「別にー? 浅倉さんはそう言ってたなーってそれだけだよ?」
モノクマ「ま、ボクが内通者だとしても同じように言い訳するかもなーなんて思わなくもないけどさ!」
- 566 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:01:59.04 ID:BBrd2CUc0
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透「……ちが」
モノクマ「そりゃ素直に黒幕と繋がってますなんて普通は言わないよ、そんなの針の筵になりにいくようなもんだからね!」
……やられた。
こいつがやったのは、疑念をほんの僅かに後押しするだけの一言。
でも、そのほんの一言は真っ白なシーツに一滴こぼれただけのコーヒーの染みのように気になって仕方がない。
浅倉透という人間を前にした時に、脳裏にその僅かな可能性がよぎってしまう。
私たちに、そういう呪いをかけてきやがった。
そして、タチが悪いのが最初に浅倉透への疑念を口にしたのが、今もうこの場所にはいない七草にちかだということ。
その事実を前にした時、【あいつ】はまともじゃいられなくなる。
美琴「……にちかちゃんはあなたのことを疑っていたけど、あくまで答える気はないの?」
透「……」
美琴「……そう」
(美琴……)
字面だけ言えば淡白に尋ねただけ。
ただ、私にはわかる。その瞳に仄かに灯っているワインレッドの火種、これがある時の美琴は大抵碌でもないことをしでかす。
____そして、その予感はやっぱり的中した。
- 567 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:03:35.38 ID:BBrd2CUc0
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パンッ
透「……痛ッ」
美琴「……私はあなたを信用できない。本当のことを話さない限りはね」
ルカ「……美琴ッ!」
慌てて美琴を羽交い締めにした。
誰かを引っ叩くなんて今まで見たこともない。
美琴自身も、自分自身の感情の向け所を見失っているのだ。
私の腕に収まった美琴は抵抗するでもない、ただ静かにその肩を震わせていた。
千雪「落ち着いて……何も透ちゃんが敵だと決まったわけじゃないでしょう?」
あさひ「でも、味方とも言えないっすよ?」
智代子「だからって、手をあげたりしちゃダメだよ……!」
緊張の海に美琴が投じた一石が、水面を揺らし、波は畝り、そして決壊したように溢れ出た声が一つ。
- 568 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:05:04.91 ID:BBrd2CUc0
-
雛菜「うるさ〜〜〜〜〜〜い!」
雛菜「透先輩のことを信じられない人は好きにすればいいですけど、雛菜はどうだって透先輩のことを信じてるもん〜〜〜!!」
冬優子「ひ、雛菜ちゃん……落ち着いて……」
雛菜「もう知りませ〜ん!」
浅倉透の腕を引ったくるように掴んだかと思うとズイズイと私たちの間を通り過ぎて、二人そのままエレベーターに乗り込んでその姿は見えなくなった。
果穂「雛菜さん……」
愛依「行っちゃった、ね……」
モノミ「い、市川さん! 浅倉さん! 待ってくだちゃい!」
モノクマ「うぷぷぷ……何だっけ、信頼? 友情? それって今のオマエラに使う権利のある言葉なのかな?」
モノクマ「この、空中分解寸前のオマエラの間に絆なんかあるのかな?!」
最悪の捨て台詞を吐き捨ててモノクマはその姿を消した。
- 569 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:06:26.38 ID:BBrd2CUc0
-
「「「……」」」
また、不信の果てに大切なものをその手から溢してしまった。
残された私たちには、そういう退廃的かつ諦観的な重たい空気が漂っている。
(……知ったことかよ)
でも、私にはそれは関係ない。
私はこいつらとは違う。
自分が生きるために七草にちかという人間を切り捨てて、はなから信用なんかもしていない。
私は私、ただそれだけで生きていけばいい。
美琴をその手から離すと、踵を返して背を向け、私もエレベータへと向かう。
知ったこっちゃない。
勝手に意気消沈してればいい。
私は巻き込まれただけの部外者だ。
信じるだの信じないだの、決めるのはお前たちの仕事だろ。
- 570 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:07:52.50 ID:BBrd2CUc0
-
(……あ?)
でも、何故かその足が動かない。
エレベーターに乗り込もうとするその一歩が踏み出せない。
こいつらの状況を見かねて、後ろ髪を引かれているとでもいうのか?
そんなわけない、私は慈善主義でも博愛主義でもなんでもない。
神様なら救いの手を差し伸べるかもしれない、でも生憎私はカミサマだ。
そんな選択肢は毛頭持ち合わせちゃいない。
___私に出来るのは、その背中を見せることだけだ。
ルカ「……死にたくないんだよ」
- 571 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:09:57.21 ID:BBrd2CUc0
-
ルカ「こんなところで、283プロの連中に足を引っ張られて死ぬなんか最悪だ。勝手に内輪揉めして内部分裂しかかってる間抜けな連中、死ぬなら勝手にそっちで死んでくれ」
ルカ「でも、今は私もお前らと一蓮托生らしいからな。この学級裁判とやらで負ければ私も一緒に死ぬ……本当に、どこまで行っても最悪だよ」
夏葉「ルカ……あなたね……!」
ルカ「だから、いつまでそんなしょうもないとこにいるんだよ。一生そのまま不信を嘆いてるつもりなのか?」
恋鐘「……!」
愛依「……!」
ルカ「信じられなかったんだったら今から信じればいいんだろ? 七草にちかが、そうやって信じ直してくれたから私たちは今生きてるんじゃ無かったのか?」
美琴「……ルカ」
あいつの死に様を利用するのは癪だけど、今のこいつらにはあいつが必要だ。
283プロの間にある信頼を、絆を、証明したままに死んでいった【あいつ】の力が。
ルカ「七草にちかのことを信頼してるんなら、エレベーターに乗れよ。……こんな所にいるより、さっさと帰ったほうがいいだろ」
- 572 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:11:01.09 ID:BBrd2CUc0
-
私の言葉にも明確な返答はしてこなかった。
憎まれ口の私に対する敵対心なのか、それともまだ踏ん切りをつけられていないからなのか。
ともかく、言葉では何も返ってこなくとも、行動は正直な連中だ。
一人、一人と私の横を通って、エレベーターへと乗り込んでいく。
まあ、中には何を勘違いしたのか感謝の言葉を投げてくる奴もいたけど。
それは当然ながら無視してやった。
感謝される謂れはひとつもない、するとしても相手は私じゃないだろ。
そして、最後の一人。
美琴「……」
美琴も無言で歩き出し、私の隣へ。
表情はまだずっと暗いまま、口もギュッと結ばれていた。
それなのに、すれ違うその一瞬の間に……美琴の声を聞いた気がした。
- 573 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:11:50.03 ID:BBrd2CUc0
-
「……信じてた」
- 574 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:13:56.85 ID:BBrd2CUc0
-
それは、その言葉は……
『私は七草にちかのことを』?『283プロのみんなのことを』?
それとも________
いや、どうでもいい。
今の私に大切なのは、私自身が生き延びることだ。
間違っても、絆を改めて見定めることなんかじゃない。
それにきっと今のは幻聴だ。
私も長時間の議論で疲れていただけなんだろう。
そう思って眉間を指で押さえて、息を一つ。
何故だか、次はその一歩を踏み出せた。
- 575 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:15:07.21 ID:BBrd2CUc0
- -------------------------------------------------
【第1の島 ホテル】
裁判が終わった後の感想戦なんかに付き合ってる暇はない。
地上へと戻った私は他の連中とは行動を一緒にせず、そのままホテルへと戻ることにした。
疲れている。
ホテルに帰る道中でも手や足には倦怠感を覚えたし、頭はずっとキリキリと痛む場所がある。胸には何かがつっかえたようでどことなく息苦しい。
ゆっくりと寝でもしたら少しは回復するだろうか。
そんなことを考えながらホテルに帰った私。
だがその私の考えは他所に、体と本能とは、別の場所に私を運んだ。
-------------------------------------------------
- 576 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:22:29.63 ID:BBrd2CUc0
-
【旧館】
……ハッ。
どういうつもりだよ、自分が参加していなかったパーティで人が死んだ。
今更そのことを悔やみにきたってのか?
まさか風野灯織の死を悼みにきたってのか?
いや、そんなちゃちな感慨ならこんな所には来ない。
私がここにきたのはもっと別な理由だ。
それは言うなれば、一つの好奇心。
私には、どうしても知りたいことがあった。
その答えがここにはきっと眠っている。
「……そうだよな、この事件はまだ終わってなんかない」
「風野灯織を殺したのは七草にちかだった。ただ、それだけのことなんだよ」
「まだ、出てきてないものがある。顕在化していない悪意がある」
「七草にちかの裏に姿を隠した、【狸】が紛れ込んでるんだよ」
- 577 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:23:51.20 ID:BBrd2CUc0
-
≪にちか「死体のそばに落ちていた暗視スコープ……あれ、実は使えなかったんです」
千雪「使えなかった……?」
にちか「はい、レンズの上から【黒い絵の具か何かで塗りつぶされてて】、暗闇どころか向こう側も見えないぞって感じなんですよ。だから逆にあれをつけちゃえば見えてるものも見えなくなるぐらいで……」
にちか「暗視スコープがあったからって風野さんが辺りを見えてたとは限らないんじゃないですかね!」
千雪「たしかにそれはそうかも……でも、なんでスコープのレンズが塗りつぶされてたのかな?」
美琴「それこそ犯人の策略なんじゃないかな」
美琴「犯人が灯織ちゃんの暗視スコープの準備を知ったうえで、それに黒い絵の具を塗りつけたのだとしたら……意図的に隙を作ることができるよね」≫
「……風野灯織が停電中に仕様を試みた暗視スコープは何者かにレンズ部分が黒塗りにされる細工をされていた」
「でも、七草にちかはそんなの犯行計画には入れていなかった。それも当然だ、あいつは風野灯織を狙ってなんかいなかったんだからな」
「しかも、それだけじゃない」
≪恋鐘「こん鉄串を犯人が使ったからって大広間の人間が犯人とは限らんばい!」
ルカ「なんでだよ! 鉄串は大広間にしかないもんだろ? 料理を作った後は備品も全部ホクロ女に回収されたって……」
恋鐘「だって、この【鉄串はうちが厨房入った時には既にもう一本無くなっとった】けん!」
にちか「う、嘘……!?」
恋鐘「厨房には備品リストがあって、スプーンから鍋までなんでも数が書いてあるんよ。それに照らし合わせたら、確かに鉄串が一本足り取らんかったばい」≫
「旧館の鉄串は風野灯織殺害に使われた一本以外にももう一本、その所在が分からなくなっていた。しかもそれを持ち出した人間はいまだにわかっちゃいない」
「私たちがこの島にくる以前になくなってた……そんなことがあるってのか?」
「私たちの中に潜む【狸】は何を考えてやがる……?」
- 578 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:25:00.39 ID:BBrd2CUc0
-
「あはは、やっぱり気づいてたんっすね」
- 579 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:26:09.04 ID:BBrd2CUc0
-
思わず振り返った。
今のは、幻聴じゃない。
確実に私の後ろにいた、【何者か】の声だ。
でも、視界には何の姿も捉えることはできなかった。
人気もない物静かな夜にプールの水音がするだけ。
波ひとつない水面には、満月が綺麗にそのまま象られている。
「ハッ……あんな事件があったってのに嘘みたいだな」
月光というのは不思議なものだ。
月そのものが光っているわけでもないのに、太陽の光を我が物顔で地球に押し付けてくる。
満月ともなると虎の威を借る狐っぷりにも拍車がかかる。
闇に姿を紛れさせようとしても、その光の元に晒される。
夜だというのに、満月の元では隠れることすらままならないのだ。
- 580 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:28:15.62 ID:BBrd2CUc0
-
「……ん?」
そこで漸く、気づいた。
今私の目の前で、プールの水面に写っているのは紛れもない月だ。満月だ。
東京に居たんじゃなかなか見ることのできない、立派なまでの満月だ。
「どうなってる……?」
でも、それはおかしい。
私が満月を見れるはずがない。
「なんで、なんでだよ……」
月というのは一ヶ月の間に満ち欠けを繰り返す。
先の二週間で満ちた月は、後の二週間でその姿を欠いていく。
……じゃあ、なんでこの月はずっと変わらない……【満月のまま】なんだ?
- 581 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:29:05.18 ID:BBrd2CUc0
-
この島に来た、はじめの夜。
≪煌々と輝く【満月】の月光の元、沈黙だけが流れた。
伏目がちに猜疑の視線を送る人、仲間をかばうようにして背を向ける人、狼狽えた様子で口をパカパカさせる人……その反応はまちまちだが、恐怖と不安というマイナス感情の鎖には全員が全員縛り上げられている。≫
あの時も変わらず満月が出ていたはずだ。
途端に全身の毛が逆立つような感覚を覚えて飛び上がった。
「……気色悪い」
もう私の目の前にあるそれを、私の知るそれとは思えなかった。
……目眩がするような感覚だ。
千鳥足のようになりながら、ヨタヨタと私は自分の部屋へと戻っていった。
- 582 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:30:24.14 ID:BBrd2CUc0
- -------------------------------------------------
【???】
「やっぱり、話してくれないの?」
「……」
「そっか〜……」
「……」
「ううん、気にしないで〜。それでも、もう信じるって決めたから」
「……でも」
「何があっても、雛菜は透先輩の味方だよ。他の全員を敵に回しても、雛菜だけは絶対に透先輩を見放さない」
「……」
「……そう約束したからね〜〜〜〜〜!」
-------------------------------------------------
- 583 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:31:20.29 ID:BBrd2CUc0
- -------------------------------------------------
CHAPTER 01
MIDNIGHTのせいにして
END
残り生存者数
14人
To be continued…
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- 584 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:32:22.75 ID:BBrd2CUc0
-
【CHAPTER 01をクリアしました!】
【クリア報酬としてモノクマメダルを60枚獲得しました!】
【アイテム:割れた名盤を手に入れました!】
〔CHAPTER01を生き抜いた証。かつて流星のごとく姿を現し、そして短い活動期間のもとに消えていった伝説的なアイドルのレコード。ある少女の胸を打ち、夢を抱かせた伝説的なサウンドは、レコード自体が割れてしまった今となっては聞く術もない〕
- 585 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:38:36.29 ID:BBrd2CUc0
-
というわけで第一章はこれにて終了です。
次章からは主人公を新たにルカに替えて物語が進行していきます。
丁度今日シーズの感謝祭イベントシナリオが追加されましたね。
新規ユニットということもあり、原作シャニマスのシナリオ次第で軌道修正も視野に入れていましたが……
とりあえず今回は大丈夫そうかな……?
ルカのメンタル面がちょっと本作では強すぎな感じもしますが。
さて、第二章なのですがまだまだ書き溜めは出来ておりませんので、しばらくお待ちいただくこととなります。
恐らく年内更新は難しいと思います……来年の一月に公開できればいいな、ぐらいに考えています。
それにシャニは年末年始クソ長シナリオ君が追加されるのは確定事項みたいなものですしね……
それではひとまずお疲れさまでした。
またよろしくお願いいたします。
- 586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/30(火) 23:39:40.86 ID:StSRVgT70
- お疲れ様でした!楽しみにしてます!
- 587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/12/01(水) 00:02:28.85 ID:rRyB3Fs1O
- 乙です
キャラの魅力をちゃんと発揮させつつダンガンロンパしてるのがすごいです
1月まで楽しみに待ってます
- 588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/01(水) 14:41:53.88 ID:bT3LiANj0
- お疲れさまです あさひが狛枝ポジになるのかな?あそこまで壮絶なキャラにはならなそうだけど不思議と納得できてしまう
- 589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/12/26(日) 23:17:48.78 ID:w+a1yeTg0
- 今追いつきました乙
- 590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/09(日) 00:44:24.78 ID:Sa0eRoC10
- 前作のその後の詳細がわかんなかったり、死んだはずのキャラが出てたりして、原作の2やった時ぐらいワクワクしてる。
- 591 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:37:43.10 ID:VIg00xsT0
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GAMEOVER
カザノさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。
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- 592 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:38:30.08 ID:VIg00xsT0
-
かつてこの国を席巻した大予言、ご存知の方も多いでしょう。
来る世紀末、空から恐怖の大魔王がやってくる。
地上は等しく滅ぼされ、人類も滅亡し、新しい世界がそこから始まるとかなんとかかんとか。
よくもまあこんな突拍子もない話をメディアやマスコミで持て囃し、終わりの時がやってくるなんて喚いていたんだからお笑いですよね!
子供世代はそんな話があったこともつい知らず、すくすくと育っとりますがな!
……でも、その予言は本当は外れてなんかいなかったんです。
滅亡の時は、今この時。
神殿の祭壇、その上で空を仰ぐ風野さん。
その眼前には今にも地上に降り注ごうとしている流星群の数々が……!
- 593 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:39:02.83 ID:VIg00xsT0
- -----------------------------------------------
落下予測地点
超高校級の占い師 風野灯織処刑執行
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- 594 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:40:09.40 ID:VIg00xsT0
-
神仏の怒りを鎮めるにはお供物と昔から相場が決まってますよね!
恐怖の大魔王だって、きっと捧げものをすれば鎮まってくれますよ!
風野さんも粛々とそのための儀式を執り行います。
トライアングルを象った魔法陣を描き、その四隅にはパリパリに焼いた餃子を並べていきます。
そして捧げるのは彼女の歌声。
イルミネーションスターズのアイドルとして活躍する彼女の歌声は聞く者すべてを魅了しますね。
清流のように澄んだハミングが空に響き、魔法陣もそれに共鳴するように輝き始めます!
トライアングルの三頂点から発せられたピンクと黄色と蒼の光は空で交わり一つの閃光に。
さあ、届けよう!
私たちの希望、そして私たちの祈りを!
天に打ちあがる輝きを、恐怖の大魔王は受け入れてくれるのか________!
- 595 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:41:33.32 ID:VIg00xsT0
-
*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*
さあ、今日の運勢一位は獅子座かそれとも魚座かどっちなんでしょう〜?
ごめんなさーい、今日一番悪い運勢なのは魚座のあなた!
神様にお願いしても、聞いてもらえないかも!
どれだけ頑張っても無理なものは無理だと諦めるのも一つ選択肢ですよ!
ラッキーアイテムは傘、空から降り注ぐ隕石もこれで防げちゃうかも?
それでは今日も1日張り切っていきましょう!
いってらっしゃ〜い!
*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*
……あ、いってらっしゃいも何ももう、風野さんは隕石が祭壇に直撃して瓦礫の下でペシャンコでしたね。
せっかく綺麗に焼いた餃子もこれじゃ台無しだよ!
ラッキーアイテムをちゃんと持ち歩かないからこういうことになるんですよ?
皆さんはちゃんと朝の占いを聞いてから出かけるようにしましょうね♪
- 596 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:49:40.40 ID:VIg00xsT0
-
というわけでお久しぶりです、そしてあけましておめでとうございます。
前回の更新から丸一か月以上空いて、その間にシーズ・斑鳩ルカ周りに色々と供給がありましたね。
今後が気になるところです。
2章更新の準備があらかた整いましたので、事前の告知に参りました。
更新は1/12(水)の21:00〜を予定しています。
自由行動パートも含まれると思いますので、どなたでも参加していただけますと幸いです。
※あらかじめ申し上げておきますと、主人公交代で親愛度がリセットする都合上二章は大目に自由行動パートを用意しています。
- 597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/10(月) 18:49:26.89 ID:GeYZp9L8o
- 了解です!
- 598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/12(水) 01:11:46.27 ID:CUAq4iRJ0
- あけましておめでとうございます!楽しみにしてます!
- 599 :更新前に現在の状況を整理します ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:00:35.72 ID:Gmun8+E70
- 現在の主人公の情報
【超社会人級のシンガー】斑鳩ルカ
‣習得スキル…特になし
‣現在のモノクマメダル枚数…70枚
‣現在の希望のカケラ…18個
‣現在の所持品
【キルリアンカメラ】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】
- 600 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:01:23.31 ID:Gmun8+E70
-
‣親愛度
【超高校級の占い師】風野灯織…0【DEAD】
【超社会人級の料理人】 月岡恋鐘…0
【超大学生級の写真部】 三峰結華…0
【超高校級の服飾委員】 田中摩美々…0
【超小学生級の道徳の時間】 小宮果穂…0
【超高校級のインフルエンサー】 園田智代子…0
【超大学生級の令嬢】 有栖川夏葉…0
【超社会人級の手芸部】 桑山千雪…0
【超中学生級の総合の時間】 芹沢あさひ…0
【超専門学校生級の広報委員】 黛冬優子…0
【超高校級のギャル】 和泉愛依…0
【超高校級の???】 浅倉透…0
【超高校級の帰宅部】 市川雛菜…0
【超高校級の幸運】 七草にちか…0【DEAD】
【超社会人級のダンサー】 緋田美琴…0
- 601 :それでは2章スタートです ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:02:40.82 ID:Gmun8+E70
-
_____みんながどう思うのか気になるんすよ!
- 602 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:03:59.34 ID:Gmun8+E70
-
だって、こんなコロシアイだなんて外の世界じゃまずありえないじゃないっすか?
明日自分が生きているかもわからない、そんな状況映画でしか見たことがないっす!
わたしもすごい毎日ドキドキして、夜になると体が意味もなく震えたりするんっす。
多分これって「怖い」って事だと思うんっすけど、それって本当にみんな同じなんすかね?
だって、今から人を殺すって人が「怖い」って思ってたら殺すこともできないじゃないっすか。
だからきっと、わたしたちと違った気持ちの人がいると思うっす。
今はいなくても、やがて「怖い」じゃなくて別の気持ちになる人が出てくると思うんすよね。
そういう人が何を考えて、何を感じて、何を思って人を殺すのか。
そして、人を殺した後、学級裁判に挑んでる時はどんな気持ちになるのか。
わたしはそれがすっごく気になるっす。
……だって、わたしはそんなこと今まで考えたこともなかったっすから!
- 603 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:05:07.75 ID:Gmun8+E70
- -------------------------------------------------
CHAPTER 02
厄災薄命前夜
(非)日常編
-------------------------------------------------
- 604 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:05:55.30 ID:Gmun8+E70
-
《美琴「奈落」
美琴「ステージの下。私は一人になる。誰の助けもない、誰も隣にいない。出番を待つその時間に、自分自身を顧みる」
美琴「……でも、ここを出れば私は孤独ではなくなる。私を待ち構えてくれる人が、ファンが、スタッフが、プロデューサーが」
美琴「……そして、隣に立ってくれるパートナーがいる。その人たちのために、【すべて】がある。私の【すべて】はそのためにある」》
- 605 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:07:06.35 ID:Gmun8+E70
- 【ホテル ルカの部屋】
「……クソッ」
ベッドから見上げた天井はシミひとつなく真っ白で、忙しなくファンだけが回り続けてブンブンと音を立てる。
その音が妙に煩わしく感じると同時に、喉に渇きを覚えた。
備え付けの冷蔵庫には一応の飲料はあるが、そういう気分じゃない。
……一応は私も成人している身だ。
こういう気分の時には【その力】に頼ることが許される。
「……行くか」
- 606 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:08:32.90 ID:Gmun8+E70
- -------------------------------------------------
【ロケットパンチマーケット】
さっきの今で、月明かりが薄気味悪い。
背中を突き刺す光の一つ一つに嫌悪感を覚えながら、足早に目的を果たすためだけに向かう。
道中特に人影はなし。誰ともすれ違わなかったのはラッキーだ。
どうせ283プロの連中は七草にちかの一件でまだ立ち直ってもないだろうし、煩わしい会話もしなくて済む。
用件だけ済ませてさっさと個室に戻ってしまおう。
あのスーパーの棚の並びはなんとなくは頭に入っている。
と、私はまるで無警戒に店内に踏み入ってしまった。
……もっと慎重になるべきだったという後悔を、私は数分の後にすることになる。
- 607 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:09:49.46 ID:Gmun8+E70
-
千雪「……あら? ルカちゃん……?」
(……!)
- 608 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:11:59.67 ID:Gmun8+E70
-
高校生以下が半数以上の283プロ、まさかこんなところにいるとは思いもしなかった。
手芸女は口をポカンと開けて間抜けに私の姿に驚いている。
ルカ「……帰る」
千雪「ま、待って! 大丈夫……その、誰にも言わないから……」
(誰にも言わないってなんだよ……私が気恥ずかしさから逃げようとしてるとでも思ってるのか?)
ルカ「……私は誰かと話をしに来たんじゃない、そこの棚のそれに用があるだけ」
千雪「ここの棚って……お、お酒……?」
ルカ「……悪いかよ」
(学校の先生にでもなったつもりか?)
千雪「……ううん、ルカちゃんの気持ちはわかるから」
そういうと手元の籠を少し揺らして、私に中身を見せてきた。
なるほどこいつの籠にも酒瓶の影が見える。
裁判の疲れと心に追った傷とを癒すためにそのはけ口を探しにやってきたらしい。
何もこちらから言葉は送らなかったが、手芸女は何を思ったのか自嘲気味に口を開いた。
- 609 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:13:02.25 ID:Gmun8+E70
-
千雪「大人ってずるいよね、こんな時でも逃げ道があるんだもの。……でも、今この島にいるみんなはそんな逃げ道もなく現実に向き合うしかない」
ルカ「卑怯者って言いたいのか?」
千雪「ち、違うの! えっと……その……」
(なんでこいつはこんなあたふたしてまで私を呼び止めるんだ? 話題もちゃんと用意してすらいないくせに……)
(……チッ、七草にちかに限らず283プロの連中はこんなのばっかかよ)
いつまでたっても理由なく会話を続けようとする手芸女に業を煮やした私は語気を強めて言葉を吐き捨てる。
ルカ「悪いけど、お前の無駄話に付き合うつもりはない。イラつくんだよ」
ルカ「言いたいことがあるなら、もっとスパッと言ったらどうなんだよ」
千雪「……!」
針で刺すような私の言葉に手芸女は面食らった様子で、左足を少し後ろにやった。
私はこういう交渉には慣れっこだ。相手が少しでも下手に出る様子があるなら、圧で押し通してしまえば相手は臆して勝手に引っ込んでいく。
今回もその範疇。普段からほんわかした雰囲気を巻き散らかしているような、奥手で弱気な相手なら私が御しきれない道理がない。
- 610 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:14:27.08 ID:Gmun8+E70
-
____そう、思った。
千雪「……わかった」
ルカ「……あ?」
手芸女は一度は引いたその左足を、今度はもっと図々しく私の方に向かって踏み込んできた。
逃避の防御姿勢とは魔反対、臨戦態勢といったところ。
不安で揺れる瞳を私のもとに矯正して、奥歯で何かをぎりぎりと噛み潰している。
手芸女は生唾をひとつごくりと飲み込むと、口を開いた。
千雪「ルカちゃん、本当にありがとう」
- 611 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:17:02.41 ID:Gmun8+E70
-
「ありがとう」その五文字が理解できず、一度目の前の宙に描いてみた。
やっぱり違う。裁判の終わりにも283プロの連中が私たちに投げかけてきたその言葉は、何度確かめようとも私には不適切な言葉だと思う。
何かを施してくれた相手に、その謝意を示すために使われるその言葉は、もっと善人で、もっと余裕綽々として、もっと背筋の伸ばした日の当たる人間に向けられるべき言葉だ。
少なくとも、私が受けていい言葉なんかじゃない。
だから私は強い言葉でその五文字を拒絶した。
ルカ「……裁判終わりにも言ったはずだ、私は何も礼を言われる謂れはない」
ルカ「不愉快なんだよ、押し付けてくんじゃねー」
それでも、手芸女はその身を揺らがせることもせず、正対したままだ。
千雪「ルカちゃん、あなたが言っているのは私たちを立ち直らせたにちかちゃんの言葉についてのこと……だよね?」
ルカ「じゃあ……違うのかよ?」
千雪「うん……私はルカちゃん自身が美琴ちゃんと向き合ってくれたことに対する感謝をしたいの」
ルカ「美琴と……?」
千雪「私たちと美琴ちゃんとの間にはまだ隔たりがある……そして、それを真に理解してあげられるのはルカちゃんだけだもの」
(……! こいつが言ってるのは、美琴と私との【解散】のことか……)
何を理解した風な口ぶりで、本来ならそうやって言葉を返すところだが、手芸女にその言葉はぶつけられない。
こいつからにじみ出ているものは、そういう表面的なものではない。
もっと奥底にしみついた、海泥みたいなドロドロとした淀んだ感情。私もよく知るそれが透けて見えている。
- 612 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:18:02.31 ID:Gmun8+E70
-
千雪「裁判の時……ルカちゃんが美琴ちゃんと正面からぶつかり合ってくれたおかげで、最後の最後にシーズの二人はお互いの素直な感情を打ち明けられたんじゃないかなって思うの」
ルカ「……」
千雪「美琴ちゃんが納得していなくても、多数決の投票できっと間違った道にはなっていなかった。でも……それじゃダメなんだよね」
千雪「本当の気持ちを押し殺したままなんて……辛いもの」
ルカ「……お前、それって」
千雪「……」
(こいつも、そういう経験があるってことか……?)
私に手芸女のことはわからない。
所詮美琴と同じプロダクションに所属しているだけの存在で、それ以上の興味も関心もない。
だが、こいつが持っているそれは、近からずも遠からずという距離感で私と美琴の間の溝と類するものらしい。
でも、だからと言って……受容するわけにはいかない。
- 613 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:19:58.87 ID:Gmun8+E70
-
ルカ「……手芸女、お前の言いたい事はわかった。わかったけど……それでも違うんだよ」
ルカ「私は……まだ向き合えちゃいない」
情けない話だけど、私はまだ七草にちかのように一歩を踏み出す事ができていない。
私が裁判でやったのは、ただの癇癪のぶつけ合い。
シーズの二人が、死の間際にいつかの私たちのような道に向かおうとしていたから、それが見苦しくて足掻いただけ。
実際、七草にちかもそれはよくわかっていた。
じゃないと、【私の手本】なんてクソ生意気な口を叩くわけない。
あいつは、私に美琴のことを託そうとした。
あいつの願いを受け入れるつもりは全くない。
でも……私がここで生きていくのなら、それと同じことをしなくては生きては行けないだろう。
今この瞬間も、美琴のことを思うだけで胸が張り裂けそうだ。
千雪「____別に、いいんじゃないかな」
- 614 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:21:28.06 ID:Gmun8+E70
-
ルカ「……はぁ?」
千雪「まだ向き合えていない……きっとそれでもいいと思うの」
ルカ「お前……他人事だからって適当なこと……!」
千雪「適当なんかじゃないわ。……私たちは、にちかちゃんに生かされた。生きている私たちには時間がある、悩んで、つまづけるだけの時間があるんだもの」
ルカ「……!」
『七草にちかに生かされた』。
とんでもないことを口にしてくれたものだ。あんなに憎くて恨めしくてたまらない存在だったあいつに恩義を感じろとでも言うのか?
千雪「ゆっくりでいいの、ゆっくりとでもルカちゃんの答えが見つけられればそれでいいんじゃないかな」
ルカ「……知ったような口利きやがって」
千雪「ごめんね、お節介焼いちゃって」
正直なところ、手芸女の論法は非常に癇に障った。
自分の中の経験と勝手に類似を見出して推し量り、分かったような気になる。それでいて臆面もなく教訓じみたくさい言葉で諭してくる。
ドラマに出てくる『理想の教師』みたいなそれは、私が一番苦手とする相手だ。
- 615 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:22:32.23 ID:Gmun8+E70
-
ルカ「本当、メーワクこの上ねーよ」
でも、だからこそ……こいつのその腹の内を見てやりたいと思った。
たった数年ごとき年上だからって、よき理解者ぶった余裕を見せびらかしてくる、その面の皮の厚さを検証してやりたいと思った。
無駄に透き通ったその言葉に、一点の濁りもないのか、明かりに透かして見てやりたいと思った。
……幸いにも、今日は月光夜だ。
夜を利用して、それを検証するにはもってこい。
ルカ「……だから、迷惑料。付き合ってくれんだろ」
千雪「……! ふふ……ええ、喜んで」
ルカ「言っとくけど、まだ成人したばっかなんだよ。酒の良し悪しなんか知らないから、任せる」
千雪「それじゃあ熱燗なんか挑戦してみる? 日本酒もコンロも揃ってるから……案外おいしいの」
ルカ「……おう」
千雪「やった! それじゃあおつまみも選んじゃおうかな〜」
ルカ「……好きにしな」
- 616 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:23:41.20 ID:Gmun8+E70
- -------------------------------------------------
【千雪のコテージ】
千雪「ごめんね、少し散らかっているけど……好きなところに座ってくれていいから」
ルカ「……おう」
(なんだ、この部屋。やたらといい匂いっつーか……雰囲気が違うっつーか……)
千雪「さっそく始めちゃいましょ! ……ふふ、誰かと飲み交わすなんて久しぶりだからなんだかテンション上がっちゃうな!」
ルカ「……そうかよ」
千雪「よし、それじゃあ早速ルカちゃんには私のとっておきの飲み方を伝授しちゃうぞ!」
ルカ「……」
スーパーを出た私たちはそのまま手芸女の部屋へ。
薄桃色でファンシーな雰囲気ある部屋はなんとも収まりが悪くてはじめソワソワしていたが、
その中で飲み交わす日本酒のミスマッチさが妙に滑稽ですぐに部屋の空気は気にならなくなった。
- 617 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:25:01.53 ID:Gmun8+E70
-
はじめこそ無言だったものの、酒を入れ始めるとアルコールが口元の緊張をほぐしていき、自然と口から言葉が継いで出た。
私の口から出る愚痴や妬み嫉みも、手芸女は文句ひとつ言わず受け止めて、真剣に話を聞いていた。
そんな手芸女に気をよくしたのか何なのか、私も自然と守ろうとする領域の防衛線を徐々に徐々に無自覚に下げ始めていた。
ルカ「……別に七草にちかに嫉妬してたわけじゃねえんだよ、それより____」
千雪「……それより?」
ルカ「美琴を失ったことが辛くて……この島で美琴を見た時に、嬉しさと辛さが同時に湧き上がってきて、さ……」
千雪「そっか……」
裁判を終えた疲れからか酔いは思ったよりも早く回って……正直記憶もしっかりしない。
酒の勢いに任せて余計なことも口走った気がする。
- 618 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:26:00.44 ID:Gmun8+E70
-
ルカ「美琴のやつはさぁ! 放って置いたらすぐに食事をゼリーとかで済ませようとするからさぁ! 私は、私は毎回お弁当作ってやったりさぁ!」
千雪「確かに美琴ちゃんの食生活はちょっと心配かも……」
ルカ「だろぉ?! あいつやっぱ変わんないんだな……!!」
◇◆◇◆◇◆
ルカ「美琴の家すごいんだぞ?! マジで家具なんかも全くないから……どういう生活してんだって話だ!」
千雪「そういえばこの前家電を新しくするとかで、事務所に美琴ちゃん用の荷物が届いてたのをちらっと見かけたなぁ」
ルカ「ま、マジか……?! あいつ、家電とか使えんのか!?」
千雪「ふふっ、それはちょっと美琴ちゃんに失礼よ」
◇◆◇◆◇◆
ルカ「あいつ、寝るときはやけに寝相がよくてよ……子供みたいな顔して眠るんだ」
千雪「ふふっ、美琴ちゃん普段は大人っぽいから意外ね」
ルカ「そう! そうなんだよ! 寝息も静かでさ、だからついつい構いたくなっちまうっつーか……!」
千雪「あら、美琴ちゃんのがお姉さんでしょ?」
ルカ「そうなんだけど、そうなんだけどさ……わかんだろ? な?!」
というか、もはや酒のせいで体裁を取り繕うことすらもおざなりになっていたはずだ。
本当、酒というものは恐ろしい。自分の中の知らない自分を曝け出し、本人はそれすらも無自覚なのだから。
何時間話し続けていたのかもわからないが、手芸女はずっと表情豊かに私の話に耳を傾け続けて、
それが心地よくて心地よくて、気がつけば私は机に突っ伏して眠ってしまっていた。
- 619 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:27:07.02 ID:Gmun8+E70
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=========
≪island life:day 6≫
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【千雪のコテージ】
キーン、コーン…カーンコーン…
『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』
『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』
『さぁて、今日も前回気分で張り切っていきましょう〜!』
「……はっ?!」
酒に完全に呑まれていた私は目を覚まして困惑。私の部屋とは雰囲気が180度違う、ファンシーな空気感。
まさに『知らない部屋』というやつだ。そして傍には手芸女が幸せそうに口元を緩めて机に涎を垂らしながら眠りこけている。
- 620 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:28:42.52 ID:Gmun8+E70
-
「なんで私がこんなところに……」
スーパーでこいつと言葉を交わした事はなんとなく覚えている。ただ、そこからここに来るまでの経緯の記憶は朧げだ。
283プロの連中のことだ、どうせ余計な世話を焼いて無理矢理にでも私を連れ込んできたんだろう。
(……チッ)
余計な真似をしやがって。
顔を見た瞬間虫唾が走り、私を立ち上がらせた。足早に扉へと向かい、そのドアノブを掴む。
「……」
手首を少し下げるだけ、それだけのことなのに扉は開かなかった。
どうも手に力が入らないらしい、苦笑混じりのため息をつくと、私は踵を返してそのまま近くのベッドに座り込んだ。
「……ったく」
確かこいつらは8時から朝礼をやってるんだったか。30分前に起こせば用意も間に合うだろう。
……私が付き合うのは、それまでだ。
- 621 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:29:57.05 ID:Gmun8+E70
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_________
千雪「……! や、やだ……寝ちゃってた……」
ルカ「みたいだな、アホ面晒してよく眠ってたよ」
なんて軽口を叩くと手芸女は途端に顔を赤くして自分の手で覆った。
おいおい、私より年上なのになんだその『花も恥じらう乙女』風な反応は。
千雪「ごめんね……ルカちゃん、私恥ずかしいところ見せちゃったかな」
ルカ「……お互い様だと思う、私も大概だったよ」
千雪「じゃあ……今日のことは二人だけの秘密にしよっか」
そういって手芸女は右手の小指を私に向かって突きつけてきた。
おいおい、今度は『指切りげんまん』ってか……? 流石にそいつは勘弁だ。
私は手の甲で適当にそれを跳ね除けると、背を向けて再度扉の前に立った。今度こそこの部屋を出ていく。
- 622 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:31:28.74 ID:Gmun8+E70
-
千雪「あら? どこに行くの?」
ルカ「どこって……自分の部屋に決まってるだろ」
千雪「……朝ごはんは?」
ルカ「こっちで適当に済ませる、放っとけ」
こいつとの晩酌はほんの一晩の気まぐれ。この先交わることのない平行線が、たまたま掠めた程度のこと。
そのはずなのに、私じゃないもう一方の平行線は、突如として折れ曲がり、私の行く先を塞いだ。
千雪「ダメ、通しません」
ルカ「は、はぁ? なんでお前にそんなこと言われなきゃなんないんだよ」
千雪「ダメったらダメなんです! こうなったら私、結構しぶといんだから」
ルカ「答えになってねー……」
頬を風船みたいに膨らませて、手をブンブンと振り回して私の行く先を塞ぐこいつはとても年上には見えない。
それなのに、その振る舞いの先にある空気感が妙に幅を利かせてきて、私はしどろもどろになる。
- 623 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:33:53.98 ID:Gmun8+E70
-
千雪「朝ごはん、今日からルカちゃんにも一緒に食べてもらいます!」
ルカ「……嫌だ」
千雪「食べてもらいます!」
ルカ「嫌だっつってんだろ!」
千雪「めっ! ちゃんと年上の言うことは聞きましょう!」
……ダメだ、こいつ本当に譲る気ないみたいだぞ。
千雪「ずっと皆心配してたんだから……ルカちゃん、私たちを殺すなんて大見得切って、一人で行動してばっかりで」
ルカ「……それは、その言葉は……まだ生きてるかんな?」
せっかくの脅しの言葉もこいつの前ではすっかり鈍刀だ。
語尾が妙にうわずって様子を伺うようじゃ、むしろ逆効果。ここぞとばかりに手芸女は詰めてくる。
- 624 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:35:35.78 ID:Gmun8+E70
-
千雪「……気持ちはわかるわ、でもね。このままずっと一人でいたんじゃ、生き残れるものも生き残れなくなっちゃうかもしれないわ」
ルカ「余計なお世話だ、私は自分のやりたいようにやって生き延びる……」
千雪「ううん、それじゃルカちゃん、いつか一人で抱えきれなくなって倒れちゃうかもしれないじゃない?」
ルカ「だからそんなのしないって……」
千雪「どうして言い切れるの?」
……クソッ、どこまで纏わりつくんだよ。
正直なところ、こいつの言うところは所々で私の急所をついてきている。
誰かを殺す、なんて宣言をしたもののその所在は今や私にも分からない。
元々そんな勇気があったのか、七草にちかの顛末を見届けてからはそれすらも確証を持てなくなっていた。
そして、一人で過ごすことのリスクをこの前の裁判で嫌と言うほど思い知らされた。
七草にちかとあの中学生の猛追。七草にちかが心変わりしていなかったなら、私の方が骸になっていた可能性は十分ある。
千雪「ねえ、ルカちゃん。今日だけでもいいの。私たちと一緒に朝ごはんを食べてくれないかな?」
……クソッタレ。
- 625 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:36:30.70 ID:Gmun8+E70
-
ルカ「……った、わかったよ! 行けばいいんだろ!」
千雪「わぁ! よく言えました!」
ルカ「お、おちょくってんじゃねー……」
いつもの威勢がまるで出やしない。こんなんじゃ、『カミサマ』も聞いて呆れる。
千雪「じゃあちょっと待ってて、私もすぐ支度するから」
ルカ「……は?」
千雪「え? 行くんだよね、朝ごはん」
ルカ「いや行くけど……おい、まさか一緒に行くとか言うつもりじゃねーよな?! それは流石に受け入れられねーから!」
千雪「もう、ルカちゃんさっきと言ってることが違うぞ?」
ルカ「いや、だから! ちゃんと朝食会には顔出すから! 一緒に行くとかそれは流石に……ない!」
(小学生でもそんなのやんねーって!)
千雪「ふふ……じゃあ、ちゃんと朝食会に顔を出してね? 信頼してますからね」
ルカ「はいはい……」
ったく……あいつが起きるのを待ってたせいでひどい約束を取りつけられてしまった。
なんとか一緒にレストランに行くなんて脳内お花畑な約束だけは退けたが、こりゃ顔出さないとしつこいだろうな……
私は一度自分の部屋に戻って身なりを整えるだけ整えて、重い足取りでレストランへと向かった。
- 626 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:37:44.01 ID:Gmun8+E70
- -------------------------------------------------
【ホテル レストラン】
ここに来るのは、島に来た初日。探索段階の時に来たっきりだ。
食事はスーパーのレトルトで済ませていたし、283プロの連中が集まる空間は自分から避けていた。
そしてそれは283プロの連中も知ってのことで。
結華「おはよー……ってルカルカ?! な、なんで?!」
ルカ「なんで……って」
(クソッ……どこから説明すればいいんだ)
メガネ女の向こう側にはすでに283プロの連中が何人も集まっており、須く全員が私に向かって驚愕の表情を浮かべている。
そんなに私が来るのが意外……まあ、そりゃあ意外だよな……
- 627 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:38:55.32 ID:Gmun8+E70
-
メガネ女への申し開きが思いつかず、説明しあぐねていると、私の後ろで扉が開いた。
千雪「ごめんなさい、遅くなっちゃって……」
結華「あっ、ちゆきち姉さん! 見て! ルカルカが今日は参加してくれるみたいで……」
ルカ「……よぉ」
千雪「わぁ! 本当に来てくれたのね、ありがとう!」
(お前が無理矢理来させたんだろうが……)
千雪「よくできました!」
ルカ「な、バッカ……頭を撫でんのはやめろ!」
結華「えーと……これは、ルカルカの反抗期が終わったとかですか?」
ルカ「調子乗んなメガネ女!」
結華「……そういうわけじゃなさそうだね」
私の朝食会参加というイレギュラーは手芸女が代わりに経緯を説明してくれた。
とはいえ二人きりで飲み交わした、なんてところは暈しながらだったけど。
- 628 :×ちゆきち姉さん 〇千雪姉さん ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:40:12.10 ID:Gmun8+E70
-
結華「えーっと席は……」
メガネ女が座席を探しに見やると、それに応えるようにして美琴が美琴の隣の席を引いた。
ルカ「美琴、い、いいのか?!」
美琴「ここ以外に座れないでしょ、早く座って」
ルカ「お、おう!」
意気揚々と美琴の隣に腰掛ける。
美琴のやつ、相変わらず最低限しか食べてないんだな……また料理作ってやりたいけど……今はまだ食べてくれないだろうな……
久しぶりに相方の隣に座ってソワソワしていたが、すぐ後に違和感を感じとる。この場にいる全員の視線が私に注がれている。
殺せる宣言をしておいて朝食会に突然参加してきた人間への好奇の視線……というだけではない。
むしろ、そんな表面的な部分じゃなくて、もっと奥底のものを覗いているような。
(……ああ、そういうことか)
気づいた。
この席は、元々使っていた人間がいたんだ。
そして、この席は美琴の隣の席。ともなると、元の持ち主は言うまでもない……
____七草にちかの席だったんだ。
- 629 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:41:18.68 ID:Gmun8+E70
-
智代子「なんだか……ちょっとだけ、寂しくなっちゃったね」
千雪「ルカちゃんが来てくれたけど……灯織ちゃんとにちかちゃん……それに透ちゃんと雛菜ちゃんも来なくなっちゃったから……」
美琴「……浅倉、透……」
結華「ま、まあ、今まで来なかったルカルカが来てくれた方に目を向けようよ! これからは協力してくれるってことなんでしょ?!」
ルカ「え? いや、別にそんなつもりじゃ……」
あさひ「……」
始まった朝食会はまるでお通夜のような雰囲気だった。
私がいることもあるんだろうが、裁判自体が昨日の今日で誰も立ち直れてなんかいない。
会話をまともに交わすこともなく、淡々と食事を口に運んでいる。
なんとも居心地が悪くて、料理もまるで味がしない。
さっさと食べ終えてこの場を後にしたい。
そんな想いが込み上げてきていたところで、それは始まった。
- 630 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:42:35.53 ID:Gmun8+E70
-
バビューン!!
モノクマ「この度はお悔やみ申し上げます!」
ルカ「モノクマ……出やがったな」
美琴「……!」
すっかり意気消沈している283プロの連中を嘲笑いに現れたかのようなタイミング。
そしてそれは当たらずも遠からず、お通夜のような雰囲気に合わせたのか何なのか、モノクマのやつは喪服の格好をしていやがった。
恋鐘「こげんタイミングでなんの用たい?! うちらはまだ、二人のことを……」
モノクマ「えーっとどうするんだっけな……」
冬優子「あのー……聞いてますか?」
モノクマ「わっかんねぇな……」
愛依「馬の耳にナントカってカンジだね……」
- 631 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:44:00.79 ID:Gmun8+E70
-
モノクマ「ホラ、モノミ! 先に行ってこいよ」
モノミ「えぇ……? あちしが先なんでちゅか……? あちしもやり方わかんないでちゅよ……」
モノクマ「いいからいいから、焼香なんて大体皆毎回適当にやってんだから! 適当にちぎって握ってポイしてこい!」
モノミ「ぼんやりしすぎでちゅ! 更年期のおふくろさんじゃないんでちゅから!」
モノクマ「じゃあ灰を全部握り込んで、死体の上から振りかけるんだっけ?」
モノミ「そんなアウトローな焼香聞いたことないでちゅよ! おおうつけでちゅ!」
モノクマ「じゃああれだ、灰を枯れた木に振りかけて……」
モノミ「それじゃ花咲か爺さんじゃないでちゅか! このお葬式はペット葬じゃないんでちゅよ!」
モノクマ「もうええわ!」
モノミ「それはあちしの台詞でちゅ!」
夏葉「……そんなくだらないやりとりを見せつけるためだけに現れたのなら帰ってもらえるかしら」
夏葉「まして喪服なんて着込んで……灯織とにちかの死を踏み躙るなんてこの上なく不愉快だわ」
モノクマ「ちぇー、オマエラがすっかりお通夜だから葬式ごっこしたら乗ってくれると思ったのになー」
摩美々「やるわけないじゃーん……ほら、さっさと撤収てっしゅー」
モノクマ「はいはい、分かりましたよ! ノリ悪いんだから、ったくもう……」
ただただ不快なショートコントを繰り広げたモノクマはすぐにその姿を消した。
本当にこのためだけにやってきたってのか……なんなんだ、あいつ。
不味かった食事が更に不味くなって、手をつける気力も失いかけたところで、モノクマに取り残されたモノミの姿が目についた。
- 632 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:46:01.33 ID:Gmun8+E70
-
ルカ「お前は帰んねーのかよ」
モノミ「……」
千雪「……モノミちゃん?」
モノミ「違うんでちゅ、あちしは……あちしは……ミナサンのお役に立ちたいんでちゅ!」
ルカ「よく言うぜ……この前の事件の時だってお前はただ指を咥えて見てただけ。裁判で私たちを助けようともしなかったじゃねーか」
モノミ「指を咥えようにも全身縄で縛り上げられてまちたし……管理者権限は全部モノクマに奪われてまちゅから……」
(……管理者権限?)
モノミ「でも、それでも! あちしの想いはミナサンと常に共にありまちゅ!」
摩美々「口だけなら何とでも言えるケドー、今のモノミの信用度って相当に低いよー?」
モノミ「分かってまちゅ……だから今回はミナサンのために、ちゃんとした成果をもってきまちた!」
美琴「……成果?」
モノミ「はいっ! ミナサンのために、モノケモノを一体倒して、第2の島への入口を解禁してきまちた!」
- 633 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:47:31.89 ID:Gmun8+E70
-
愛依「第2の……島?! ま、マジで?!」
果穂「たしか中央の島からわたれるゲートの前に、ずっとモノケモノがいたはずです……あれをモノミさんが、たおしたんですか?!」
モノミ「はい! マジカルステッキが無い分苦戦しまちたが、ステゴロでどうにか倒してきまちた!」
果穂「すごいですーーーーーーー!!」
冬優子「じゃあ……新しいところに行けるんですね?」
美琴「もしかしたら……この島では見つからなかった手がかりも、その新しい島なら見つかるかもしれない」
智代子「脱出の方法もあったりしないかな?!」
摩美々「まあ過度な期待はしないほうがいいかもだけどー、調査はしないとダメだねー」
(新しい島、か……)
夏葉「モノミ、まだあなたを完全に信用することはできない……」
夏葉「あなたに対する信頼は、今後じっくりと時間をかけて検討していくわ、ごめんなさいね」
モノミ「有栖川さん……いいんでちゅ。ミナサンに罪は無いんでちゅからね、あちしはあちしの働きで、いつかミナサンからの信頼を勝ち取ってみせまちゅ!」
結華「それじゃあ今日は朝食食べ終わったらすぐにそっちに移動かな?」
ルカ「まぁ、そうするしかねーな」
千雪「透ちゃんと雛菜ちゃんはどうしようか……」
モノミ「それならあちしにお任せくだちゃい! ミナサンと違って、あちしは元々信頼されてないでちゅから、拒絶もされにくいはずでちゅ!」
冬優子「それ、自分で言っちゃうんだね……」
結華「ここはモノミの言う通りにしようか! とにかくさっさと朝ごはん食べて、調査に出かけましょー!」
さっきまでのカタツムリみたいな速度が嘘のように、私たちは咀嚼もそこそこに食事をかっ込んだ。
脱出の方法があるかもしれない。そんな希望が薄いことは全員わかってはいた。ただこの不安に満ちた鬱屈した空気の中に投げ込まれた明確な行動理由、それに飛びつかないわけがなかった。
何かをして気を紛らわせたい、そういう後ろ向きかつ前向きな感情で私たちは島を渡った。
- 634 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:48:37.73 ID:Gmun8+E70
- -------------------------------------------------
【第2の島】
「ここが第2の島……」
第1の島とは少し雰囲気が違う。
南国めいた陽気は少しばかり息を潜め、どこか原生風な空気感とも言うべきか。
とにかくやたらと目を引く大樹がこの島の一角を占めているらしい。
結華「さ、調査は分担して行おうか!」
(……まあ、そうなるか)
朝食会の流れのまま来てしまったために、283プロの連中と一緒だ。
こいつらとわざわざ一緒に捜査なんてしたくないし、手芸女との約束は朝食会の参加までだ。
……ここから先は自由にさせてもらう。
千雪「ルカちゃん、一緒に捜査しない?」
ルカ「……嫌だ」
- 635 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:50:32.06 ID:Gmun8+E70
-
千雪「もう……つれないなあ。私たち、一緒に朝ごはんを食べた仲じゃない?」
ルカ「それなら283プロの連中の方がよっぽどだろ、なんでわざわざ私なんだよ」
千雪「ルカちゃんと一緒にやりたいから、それが理由です」
ルカ「理由になってない……さっきもこんなやり取りしなかったか?」
千雪「ふふ……ホントね! でも、それならもう分かるんじゃない?」
千雪「こうなった時の私は、しぶといんだって」
(……チッ)
ルカ「わかったよ、好きにしろ」
千雪「はーい♪」
(283プロの連中ってのはどいつこいつもこうなのかよ……!)
さて、とりあえず電子生徒手帳でマップの確認をしておくか。
パッと目につく大樹の纏わりつくそれは【遺跡】と呼ばれるものらしい。
ジャバウォック諸島というのはそれなりに歴史のあるものだと風野灯織が言っていた。それにまつわるものなんだろう。
この島にも【ビーチ】があるようだけど、規模は第1の島より大きいな。
【シャワールーム】と【ダイナー】も併設されていて、海水浴場といった方が正確かもしれない。
【ドラッグストア】……スーパーマーケットにはなかった医薬品が手に入るのか?
確かにこの島で病気でも拗らせようもんならたまったもんじゃないな。
【図書館】……まあ、私は基本は用事はないだろうけど、一応見ておくだけは見ておこう。
千雪「ルカちゃん、どこから探索する?」
ルカ「……黙ってついてこい」
【探索開始】
-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】
1.遺跡
2.ビーチ
3.ドラッグストア
4.図書館
↓1
- 636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/12(水) 22:09:44.61 ID:iGbaLVHo0
- 2
- 637 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:14:43.06 ID:Gmun8+E70
- 2 選択
【コンマ 61】
【モノクマメダル1枚を獲得しました!】
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【ビーチ】
ビーチに行くにはこの駐車場付きの【ダイナー】を抜けていく必要があるらしい。
ダイナーなんて日本じゃそうそう見かけない、洋画なんかでは割とポピュラーなジャンクなレストランといったところだ。
千雪「……」
ルカ「……何ボーっとしてんだよ」
千雪「え? ううん、別に……なんでもないの」
(そんな物欲しそうな顔しておいて何でもないことはないだろ……)
ルカ「ついでだ、ちょっと腹ごなししてから行くぞ」
千雪「えっ、う、うん……! ありがとう……!」
ルカ「チッ……」
- 638 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:15:54.48 ID:Gmun8+E70
- -------------------------------------------------
【ダイナー】
ボックス席とカウンター席がそれぞれいくつか設けられており、入店するとすぐにジャンキーな香りが鼻をくすぐる。
ジュークボックスに南国風な観葉植物があちらこちらに見受けられ、まるで異世界のような空気感だ。
大きな窓は開けた視界からの陽光を余すところなく店内に取り入れ、日中なら照明をともす必要もないだろう。
千雪「う〜ん、いい香り! なんだかお腹が空いてきちゃうかも!」
ルカ「……おう、そうだな」
智代子「あっ! 千雪さん、ルカちゃん! せっかくだから一緒に食べない?」
果穂「ハンバーガー、すっごくジューシーでおいしいです! 二人もいっしょにどうですか!?」
千雪「せっかくだしいただいちゃおうか、ね?」
ルカ「……おう」
智代子「すぐそこのカウンターにハンバーガーのセットは揃ってるから温めたらすぐに食べられるよ!」
ルカ「このパティとか誰が用意してるんだよ」
千雪「わぁ、トッピングも自由にできるのね! せっかくだから色々詰め込んじゃおうかな?」
(……いつだったか、美琴とファストフードの店に行った時)
(あいつはハンバーガーなんか目もくれずにサラダを貪り食ってやがったな……)
- 639 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 22:17:09.84 ID:Gmun8+E70
-
智代子「はい、ボックス席だから四人掛けで座れるよ! ルカちゃん隣どうぞ!」
ルカ「……っす」
果穂「千雪さんはこっちにどうぞ!」
千雪「ふふっ、お邪魔します!」
智代子「せっかくだし食べながらでいいから、ここまでの調査の共有でもしませんか!」
果穂「はい! あたしたちは放クラのみんなと……【美琴さん】といっしょに調さをしてました!」
ルカ「……っ!? み、美琴と?!」
智代子「うん……前回はにちかちゃんと一緒に調べたみたいだけど、もういなくなっちゃったから。仲のいい夏葉ちゃんと一緒に行動することにしたみたい」
(……美琴)
ルカ「二人は今、どこにいるんだよ」
果穂「今はビーチのシャワールームのほうにいると思います……ルカさん?」
智代子「す、すごく鼻息荒いよ……?!」
ルカ「うっせえ……なんでもないっての」
(さっさとこれを食べ終えてシャワールームに行かねーと!)
バクバクバクバク
千雪「まぁ! ルカちゃん、よっぽどお腹が空いてたのね……それじゃあ私も」
ルカ「……さっさと食わねーと置いてくからな」
千雪「いただきまーす!」
ボトボトボトボト
ルカ「!?」
果穂「ち、千雪さん……! 中身がいっぱいおちちゃってます!」
智代子「あはは、ハンバーガーって食べるの難しいよねー!」
千雪「ごめんね……なかなか慣れてないから」
(こいつ……急がないといけないってのに……!)
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