【安価】ようこそ実力主義の教室へ

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494 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/10/29(金) 02:30:32.08 ID:EuStPG2u0
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495 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:00:16.81 ID:5KhXMOCj0
>>493
 8:翌日】

 昨晩の衝撃は今でも鮮明に思い出せる。
 いやぁ……そっかぁ。居るところには居るもんだね。
 そういった第三者の視点でしか語れないところがもどかしいけれど、それ以上もそれ以下でもなく、彼らは血の繋がっていない兄妹という事実だけが確かにある。
 ここでふと考えてみると、この世には兄妹同然に育ってきたから義理の兄妹なんてものから、兄妹の契りを盃で交わすこともあると言う。
 最も、後者は兄妹というより、強面の叔父様が兄弟の盃を交わすイメージの方が強いけれど。
 結局、気になるのは彼らの出自について。
 5月1日の朝にお兄さんの方から余計な詮索はするなと釘刺されていても、気になってしまう。あの2人はどういった経緯で兄妹に至ったのか。
 と、そんなことを考えながら校門を通り過ぎたところで、目の前に聳え立つ巨大な校舎の目立つところに設置されている時計が目に入る。

「……あ」

 短針が8を、長針は12を指している。
 5月30日の朝8時。
 1年生の間でのみ実施されている特別試験の通達最終日。干支の最後、『いのしし組』の発表当日。
496 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:00:51.98 ID:5KhXMOCj0
 我らがCクラスからは雨宮さんと、話題に尽きない望月くんが該当する。
 今ごろ通達のメールが届いた頃だろうか。
 いずれにしても、わたしが他グループへ関与をしない(出来ない)と心に決めたことは記憶に新しい。
 立ち止まって考えていても仕方がない。このまま教室へ─────その時だった。
 鞄を伝って手が振動を感知する。歩いていたら気付かなかった程度の振動。他でもない、携帯がメッセージを報せてくれている。
 このタイミングであること、周囲に生徒の影が少ないことから、わたしは少し逸れた場所で携帯を取り出して通知を確認する。
 送り主は学校からだった。

『いのしし組の試験が終了しました。
 いのしし組の方は以後試験へ参加する必要はありません。
 他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください。
 なお、6時間目の学級活動の時間は教室で自習となります。』

 目を疑う内容だった。
 『いのしし組』の特別試験は、通達より1分も経たずに強制的に幕を閉じた。
 終わらせたのは、他でもない昨晩に勝利宣言をした望月くんを除いて他に居ないと思う。
497 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:01:18.75 ID:5KhXMOCj0

◇◇◇

 教室に到着すると、望月くんは自席で文庫本のページを捲っていた。
 他に生徒の姿は見られず、今日も彼は一番乗りのようだ。

「おはよう。望月くん」

「おはよう、春宮さん。昨晩はありがとう。おかげで余計なリスクを取らずに試験を終えることができた」

 やっぱり彼だったらしい。
 通達のタイミングとほぼ同時に期日前投票を終わらせてしまうなんて……。一緒の組になった人たちは、たった一度の会話の機会も得られずに試験が終了してしまったのだから不完全燃焼だと思う。
 ……あ、もしかしてリスクってそういうこと?

「君としても、雨宮さんが話さなければならない機会は潰しておきたいだろう? 話すということは、その分だけ彼女の正体がバレることに繋がるからね」

「寛大なご配慮ありがとう」

 ファンとして、なのか。
 その殊勝な意気込みは賞賛に値する。
 なまじわたしがこの試験をほぼ放棄しているだけに、とても立派なように思えてしまう。

「この試験の結果は決まった。安心していい、僕たちの完全勝利だ」

 僕たち。
 おそらく東雲さんの居るAクラスも含まれているのだろう。
 少なくともわたしたちCクラスが大きくクラスポイントを削がれる、という事象を避けられただけ良しとするべきか。
 いや、まだ結果も出ていないから分からないけどね。もしかしたら『王様』の法則を読み違えて大敗北という結果もあり得る。
 改めて文庫本へ視線を落とした彼を他所に、わたしは自席に着いた。
498 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:01:54.31 ID:5KhXMOCj0

◇◇◇

「天音、お前も一枚噛んでるのか?」

 6時間目の視聴覚室。
 入室してまず第一声が奥の方の席から浴びせられる。
 一応まだ休み時間のため議論を行う義務はないけれど、彼を放っておくとややこしいことになるため答えておくことにした。

「わたしは知らないよ」

「……」

 訝しげな視線を向けられながらも、わたしはここ2週間近く通い続けている視聴覚室の中でもお決まりになった席に着く。
 結局、こうして6時間目を迎えられたのは、わたしたち『ねずみ組』と他5組の合計6組。
 残りの組については各授業と授業の間の休み時間に今朝の『いのしし組』同様に通達があった。内容は寸分違わず、試験が終了した報せ。
 おそらくAクラスとCクラスの『王様』がそれぞれ所属する組が残ったんだと思う。現に、Cクラスの『王様』が所属する組はまだ試験が終わっていない。

「どうやらわたくし達が最後のようですね」

 昨晩ぶりに東雲さんを視認する。
499 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:02:22.89 ID:5KhXMOCj0
 相変わらずの毅然とした表情。多少の誇らしい表情を浮かべていてもおかしくないと思ったけれど、そういうところは流石だと思った。

「東雲。お前がやったのか?」

「さぁ。なんのことでしょう」

 涼しい声色で答える東雲さんに、辻堂くんは何を思うのか。
 いずれにしても立て続けに発生した期日前投票は、どこかのクラスが集中的に行っていると想像がついているはず。そして試験が終わっていないのは残り6クラスのため、どこかのクラスが手を取り合っていることまで分かっているかもしれない。
500 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:03:00.39 ID:5KhXMOCj0

◇◇◇

 6時間目の開始を告げるチャイムが鳴り響く。
 そして6時間目の終了を告げるチャイムもまた、きっちり50分後に鳴り響いた。
 本日『ねずみ組』で行われた議論は以前と変わらずトランプゲームを経て、ジェンガへと移行する。ジェンガでは悔しくもわたしが負けて2度目の『一般人』告白をして幕を下ろす。
 12日間に渡って行われたゲームでは、無事にCクラスの『王様』を隠し通すことができた。唯一にして一番の難所を乗り越えられ、わたしは内心でホッとする。

「名残惜しくはありますが、これで。また特別試験でご一緒になった時は、よろしくお願い致します」

 東雲さんの退室に倣い、続々と視聴覚室を出て行く『ねずみ組』の面々。最後まで窓の外を向き続ける辻堂くんが気になったけれど、今回の試験はこれまでだと思う。
 立役者はともかく、AクラスとCクラスの2人勝ち。
 クラスポイントもプライベートポイントも大きく加算されて万々歳。そしてわたしには一つミッションが課せられることになる。せっかくなら雨宮さんから良い返事を貰えると良いんだけどね。


【コンマ判定
 奇数:夕方(生徒会室)
 偶数:夜(自室)
 0:夜(外)
 ゾロ目:夜(学校)
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/29(金) 22:08:55.35 ID:vZIzh2Sq0
502 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 23:29:33.20 ID:5KhXMOCj0
>>501
 5:夕方(生徒会室)】

「天音ちゃんはどう?」

「そうですね……」

 無人島にひとつだけ持ち込めるとしたら何を持っていくかという話題で、生徒会室は盛り上がっていた。
 サバイバルナイフ、浄水器、釣り竿、マッチ、虫眼鏡と様々なモノが挙がった末に、わたしに振られる。
 無人島に持ち込めるとしたら…。
 考えたことがあるようで無かった。
 服は着て行くモノだから当然として、先に挙がったサバイバルナイフやマッチは必須というレベルで重宝しそう。
 ……でも、強いて言うなら、やっぱり。

「日焼け止めですかね」

「逆に一周半まわって面白い! そうだよね、日焼け止めは必要だよねー。特に夏だと陽射しが気になるもんね」

 乙葉先輩や夏帆先輩といった女性陣が頷く中、男性陣は「そうかぁ?」といった表情。
 本当に無人で鏡さえ存在しない島であれば日焼けしても気にならないのかもしれないけど、肌荒れは直接精神を削ってきそう。遠くない未来に自死を選ぶ道も用意されているほどに。
503 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 23:30:04.34 ID:5KhXMOCj0

「というか、どうしてこんな話を?」

「……まぁ、なんとなく? 学生なら一回はこういう話をしておかないとね。定番の話題ってヤツだよ」

「そういうものなんですね」

 挙動不審な乙葉先輩の動向からは色々読み取れる。
 しかし無人島。無人島かぁ。
 特別試験で50万円〜200万円相当のプライベートポイントを配ろうとしている超特権的なこの学校といえど、流石に無人島は所有していない……よね?
 無人島レンタルなんて素敵なビジネスがあるのならいざ知らず。流石に持ち物として保持していることは無いと思う。

「ちなみに乙葉先輩は何を持っていきたいですか? 携帯は無しで。使えませんから」

「それくらい分かるって。私的にはぁ、天音ちゃんかな。食べられる葉っぱとか知ってそうだし、猛暑日でも島とか海を駆け回って食糧探してくれそうだし」

「先輩、わたしのことそんな風に見てたんですね…」

「わ、違う! 違うって! 今のは冗談だから! いや天音ちゃんなら本当に出来そうだけど!」

 実際問題、それが出来るかと言われたら……。


【コンマ判定
 学力:97(超優秀) 補正あり
 身体能力:99(超優秀) 補正あり
 1・3・7:超余裕だと思う
 2・5・9:余裕だと思う
 4・8・0:……なんとか出来ると思う
 6:絶対に無理。無人島とか無理ですから。
 ゾロ目:超超余裕だと思う(島経験あり)
 下1でお願いします。】
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/29(金) 23:43:09.43 ID:PXdBxgr50
ふん
505 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/30(土) 23:07:45.09 ID:sIx2y35x0
>>504
 3:超余裕だと思う】

 うん、出来るとは思っている。
 経験こそ無いものの知識だけは充分にあるし、山や海で動き回り続けられる自信もある。現実は思っているほど甘くはないんだろうけどね。
 それでもわたしの取り柄を活かせることに違いはない。
 ただ、その自信はこの場で高らかに発せるほどではない。ここは無難にこう言っておくことにしよう。

「そんなことないですって」

「またまたぁ」

 それから数分間、無人島に関する話題が続くいた。
 結局、わたしについては「さすがに天音ちゃんといえど無人島は厳しいかぁ」という評価で落ち着く。思った通り無難なところで話が済んだと思う。

「私としては宇宙の方が良いんだけどさぁ」

 さっきまで無人島の話をしていた人が大きく上空の話をし始めたところで、生徒会室の扉がノックされる。
506 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/30(土) 23:08:15.02 ID:sIx2y35x0

「なに? また部費の相談とか? 追い返して来る」

 もはや恒例となった乙葉先輩を誰も止めることはしない。
 本当に追い返した末に、ユキ先輩、夏帆先輩が話をきちんと聞きに行くからだった。各部の部長もそのことを知っての上のようなので、今さら気にする必要はない。

「はいはーい」

 意気込んで扉を開けた乙葉先輩は、

「……おおっと」

 扉の向こうに居た人物を想定していなかったらしく、少し大袈裟に驚いたようにして、その人物を生徒会室へ招き入れる。

「失礼いたします。1年Aクラスの東雲と申します」

 入り口で綺麗にお辞儀をして見せた東雲さんは錦山会長、乙葉先輩、と視線を合わせて行く。
 このことに一番驚いたのは同じクラスの神宮くんだった。

「どうしたの、東雲さん」

「少々、生徒会の皆様にご相談がありまして。神宮さまはお気になさらず、業務を行なっていて下さい」

「お前、クラスメイトに様付けで呼ばれてんの?」

「いえ、これは……!」

 うっちー先輩こと内山先輩が面白そうに茶化している内に、東雲さんは錦山会長の目の前まで迫っていた。
507 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/30(土) 23:08:45.79 ID:sIx2y35x0
 手にはホチキス止めされた数枚の印刷物がある。

「こちらを。企画書になります」

「は、企画書?」

 この学校をより良いものにしていくための嘆願書ではなく、企画書。文字やイラストが綺麗に敷き詰められた一見良さそうな資料に見える。
 ただ、ここは生徒会室であって会議室ではない。
 会長はパラパラと企画書とやらを捲り、

「えーっと。企画書だな、これは。で、なにこれ」

 読んでも分からなかったようで、再度尋ねる。
 気になったのか乙葉先輩やユキ先輩、内山先輩、新汰先輩がその企画書を覗きに行く。

「簡潔に申しますと、6月2週目の日曜日に特別棟の教室を利用したいのです。担任の教師に確認を取り、五万ポイントで貸していただくことについては承認を得ました。しかし条件として生徒会に許可を取らなければならない、と」

「へー、よく出来てるじゃん。良いんじゃない?」

 乙葉先輩を始め、うんうんと頷く先輩方。
 そこまでいくと断然と興味が湧いて来る。

「ありがとうございます。参加するのはわたくしを含めて四名。そうですよね、春宮さま」

「え、あぁ、うん。あの件ね」

 昨晩話した望月くんとの件。
 彼が言っていた同席者とは、薄々予感はしていたけど東雲さんのことだったらしい。確かに大切な人と言っていたからその通りだ。
 それにしても教室を借りて何をするつもりなのだろう。わたしは会長席に近付き、覗き見る。

「わたくし共は教室をお借りして『夏祭り』なるものをやってみたく考えております。もちろん安全には最大限の注意を払うつもりですし、花火は致しません。小さな小さな文化祭とお考えいただければ」

 言っていた通り、企画書には『夏祭り』の出店によくあるようなお店の名前が並んでいる。
 焼きそば、たこ焼き、わたがし、スーパーボールすくい、射的、その他。
508 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/30(土) 23:09:19.47 ID:sIx2y35x0
 とても興味を惹かれるような内容だけど……これを雨宮さんとしたいと言うの?

「そうだな。断るつもりもない。ただし、天音以外に生徒会から一名を同席させろ。それなら俺たちから言うことは何もない」

「えー、いいじゃん。せっかくならみんなで参加しようよ! 暇な人は自由参加ってことでさー」

「申し訳ありませんが、人数が増えすぎると少々不都合があるのです。ご迷惑をおかけしますが、ご理解いただければ幸いです。ただ、一名であれば許容範囲内です」

「だそうだ。残念だったな、乙葉」

「やりたいやりたい! 参加したい!」

「春宮さま、どなたか一名を選んでいただけますか。同席させるということは、あの事を知るということ。充分にご考慮した上で、お決めいただければ」

 今さらまだ雨宮さんのことを誘えていないとは言い出し辛いものの、ひとまずこの場は誰かを選ぶことにしよう。


【安価です。
 まだ全然交流が無い人は省きます。
 それぞれの白石詩波(雨宮春香)についてのイメージです。
 1.錦山暁人「白石詩波? あぁ、乙葉が好きなアイドルだっけ? あ、女優? あんまり興味ねぇな」

 2.花菱乙葉「え、ウタちゃんじゃん。すっご。私、めっちゃファンだよ! 同じ学校だったなんて!」

 3.如月深雪「ん、あれ、白石詩波? 同じ学校だったのか? そうかそうか、なんて言うか、こういうこともあるもんなんだな」

 3.四条夏帆「えぇ!? あの白石詩波っ? すご……なんていうか、恐れ多いですね……」

 4.神宮紫苑「白石詩波……? あの? 同じ学年だったなんて驚きだな…」

 下1でお願いします。
 白石詩波が参加できるかどうかはコンマ判定を今後行います。高確率で参加にするつもりではいます。】
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/31(日) 21:54:13.12 ID:ewVeamiwO
3 四条
510 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:16:40.60 ID:FvWwTJodO
【長く出来ず申し訳ありませんでした。
 再開します。】
511 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:17:21.46 ID:FvWwTJodO
>>509
 3:四条夏帆
 3番2つありましたね。申し訳ありません。】

 すぐに結論は出る。

「夏帆先輩、お願いできますか?」

「あ、私ですか? はい、もちろん構いませんよ」

「ま、妥当なとこだな」

 錦山会長が汲んでくれた通り、夏帆先輩には何と言っても調理の腕がある。もしかしたら絶品の一品を作ってくれるかもしれないという淡い期待と、万が一の防災に備えることが出来そうなところが他の人より優れていた。
 表立って言えない事として、雨宮さんの秘密を守ってくれそうな人として筆頭に挙げられるのもポイント高い。

「えー、ずーるーいー、わたしもわたしもー」

「今回の企画のために購入した製品はしばらく保管予定です。もしご希望がございましたら無料でお貸ししますので、そのときはぜひ生徒会の皆様で」

「ぁ、そう? ふふふ、なら今回はいいかなー」

 乙葉先輩以外の生徒会役員全員が「おぉ」と感嘆を漏らす。東雲さんは早くも乙葉先輩の扱い方を理解したようだった。
512 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:17:58.63 ID:FvWwTJodO

「それでは四条様、当日はよろしくお願い致します。もちろんタダでとは言いません。ここは言い値で1日を譲ってください─────と言いたいところですが、恥を承知で限度額について先にお話させてください」

「いえ、いいですいいです。私は居るだけですから」

「そう仰らずに。来たる日に備え、プライベートポイントを少しでも多く持っておくことは決して無駄ではないでしょう。佐倉様はどう思われますか?」

「ん、俺か?」

 東雲さんが指名したのは2年生の佐倉新汰先輩。
 ここでどうして新汰先輩が? という疑問は一瞬で自己解決に至る。
 プライベートポイントの使い道は、わたしの知らない常軌を逸したカタチで多岐に渡ると考えられる。
 2000万ポイントでクラス移動が良い例。
 試してはいないけれど、もしかしたら筆記試験の点数さえもプライベートポイントで買うことが出来てしまうかもしれないし、1年生と2年生の教室のフロアを交換なんてことも出来てしまうかもしれない。
 夏帆先輩のクラス移動に用いられたポイントの出どころは検討もつかない。しかし今、確実に言えることとして、新汰先輩のクラスは潤沢なプライベートポイントの保有はしていない。
 つまり偶然にも舞い降りたプライベートポイントの入手機会は願ってもない絶好の機会。
 下級生に心配されると言う恥さえ呑み込んでしまえば断る理由はひとつも見つからなかった。
513 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:18:24.23 ID:FvWwTJodO

「ひとつだけ確認させてくれ。どうして俺なんだ?」

「二年生は佐倉様と化野様の両局に分かれて、今もなお牽制し合っていると風の噂で耳にしました。それならば少しでも軍資金が多い方が良いのでは、と考えた次第です。余計なお世話であれば申し訳ありません」

「……なるほど。それは正しいな。悔しいが正しい」

 どうやら東雲さんは夏帆先輩のクラス移動によりポイントが枯渇していることは知らない様子。まぁ、本当に出どころが不明のため、実際枯渇しているのかは分からないけれど。

「気持ちはありがたいが、下級生に心配される程じゃない。夏帆がいいと言うなら受け取るつもりはない」

「承知いたしました。元より無くなる予定のポイントですので、もし当日までにお気持ちが変わるようでしたらご遠慮なくお声掛けください」

 実際、新汰先輩にポイントが必要だったかどうかは表情から読み取ることは出来ない。内心を窺わせないところは流石だと思った。
 それから数言だけ錦山会長と言葉を交わした東雲さんは生徒会室を後にする。最後の最後で視線が合い、「あの件はお願いしますね」と目で訴えられる。
 約束は可能な限り守るつもり。ただし、本当に今回の特別試験で望月くんの属する『いのしし組』の勝利、そして結果的にCクラスがBクラスに上がることが出来れば、の話だけれど。
514 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:18:51.46 ID:FvWwTJodO

◇◇◇

 6月1日の朝6時前。
 わたしはいつもよりほんの少しだけ早く起床する。
 覚醒しきっていない頭が真っ先に命令したことは、学生証端末を手に取って起動することだった。
 氏名、顔写真、学籍番号が表示されていく中、一際大きく目立つように表示される保有ポイント。昨晩と比べてどのくらい増えているかでおおよその特別試験の結果に見当がつく。

『161540ポイント』

 増えたのは69000ポイント。
 1ポイントにつき1円の価値があるため、一介の高校生へのお小遣いとしては充分だとしても。
 先月と比べて2000ポイントほど減っているのはやっぱり特別試験による影響が大きいんだと思う。中間テストで平均91点という好成績を収めても尚、結果としてわたしたちは先月より20クラスポイントを失った。
 ここでようやくわたしはこの学校における特別試験の重要性について理解する。ただ単に勉強が出来る、運動が出来るだけではダメなのだと。
 はたして次の試験では何が求められるのか。
 それさえ予めに分かっていればクラスで結束してその能力の底上げを図れるものだけど、それは今の段階では知り得ないこと。
 幸い、生徒会では特別試験の監督も行うようなので、他学年や全学年で行われる試験を知れるのは大きい。数回かこなしていく内に法則性、あるいはわたしが2年生へ進級したときに有効活用できるかもしれない。
515 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:19:17.73 ID:FvWwTJodO

「よーっし」

 気持ちを切り替える。
 ややマイナスイメージだったマイナス20ポイントの現実を反転させて、20ポイントで済んで良かったと。Cクラスのボロ負けで500クラスポイントを切る可能性だってあり得たかもしれない。
 実のところは望月くんと東雲さんにもう少しだけ便宜を図って貰いたいところだったけど、その分の対価を考えるとこの結果は重畳と言える。
 「上出来、上出来っ」と気持ちを振り切って前向きに朝の支度を行う。部屋を出るには少し早すぎる時間だけど、朝のお散歩をするでも教室で自習するでも時間の使い道はいくらでもある。
516 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:19:55.08 ID:FvWwTJodO

◇◇◇

 午前8時に学校からメールが届く。
 まだ誰も登校していない教室の隅の方、自席でそのメールを開く。
 題名は『特別試験 結果』。
 本文には淡白にそれぞれの組の結果が並んでいる。

????-
子(鼠):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
丑(牛):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
寅(虎):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
卯(兎):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
辰(竜):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
巳(蛇):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
午(馬):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
未(羊):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
申(猿):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
酉(鳥):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
戌(犬):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
亥(猪):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3

????-

 これはまた、かなり結果が二分化されたと言える。
 結果1〜4まであったゴールの内、実現したのは半数の2つ。結果1と結果4を導き出した組は無かった。
517 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:20:22.84 ID:FvWwTJodO

投票日:5月31日
結果1:投票日に全員の解答先が『王様』であった場合
結果2:投票日に誰か1人でも誤った解答をした場合
結果3:投票日前に『王様』が所属していないクラスの『一般人』が『王様』を解答して正解した場合
結果4:投票日前に『王様』が所属していないクラスの『一般人』が『王様』を解答して誤っていた場合

 端的にまとめるとこんなルールだった。
 結果2もしくは3のどちらかで締め括られるのは分かりやすくて良い。
 『いのしし組』は望月くんが言い当てて、それ以外の結果3となっている5組については東雲さんの手引きでAクラスが言い当てたと考えられる。そして、それ以外の組は無事に投票日を迎えて正解できなかった。ただそれだけのこと。
 そして結果2と3には莫大な報酬も待ち構えている。

結果2:『王様』は200万プライベートポイントを獲得し、誤った人が所属するのクラスから“30”クラスポイントを貰える(クラスポイント移動の重複は無し)
結果3:解答者は50万プライベートポイントを獲得し、『王様』が所属するクラスから“50”クラスポイントを貰える

 プライベートポイントは言わずもがな。特に結果2は200万円分のポイントが一括で手に入ることになる。結果3の50万プライベートポイントでも大層な額。
 しかし今後のクラスの発展を考えるなら、気にするべきはクラスポイントの移動について。
 クラスポイントとは、毎月1日にそのクラスに所属する全員のプライベートポイントに直結する。50クラスポイントはプライベートポイント換算で5000ポイント、1クラス40人のためそれだけで20万プライベートポイントとなる。減らさなければ継続して毎月貰えるため、単純計算で10ヶ月失わなければ200万プライベートポイントまで届く。
518 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:20:56.34 ID:FvWwTJodO
 特に結果2のクラスポイントの移動についても気にしなければならないところだけれど、すべては後の祭り。今さら気にしても仕方がない。
 今回の特別試験を経て、お題目であった『シンキング能力』を培うことが出来たのかは怪しいところ。『王様』の法則性を導き出した望月くんと東雲さんが一番よくシンキングしていたかもしれない。
519 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:21:41.09 ID:FvWwTJodO

◇◇◇

「それではこれより、本日時点の各クラスのポイントを発表します。こちらを」

 どちらかと言えば「ずーん」とした擬音が似合うマイナス思考だったクラスメイトは電子黒板へ注目する。
 伊藤先生は避けるように教壇を降りて、リモコンを数回操作すると各クラスのクラスポイントが発表される。


Aクラス:1391ポイント
Bクラス:540ポイント (Cクラスへ降格)
Cクラス:690ポイント (Bクラスへ昇格)
Dクラス:0ポイント   (マイナス185ポイント


 まず第一に望月くんの公約通り、CクラスはBクラスへの昇格を果たした。よかったよかった。
 で、そんなことよりも。

「なんだよ、1300って……」

「1300っていうか、1400だし……。倍だよね、ウチらの」

 Bクラスに上がれたことを喜ぶ気配は無い。
 誰もがわたし達Bクラスと2倍の差をつけているAクラスへ注目している。今朝の結果通達メールの内容からは汲み取れなかった明確な勝敗の結果がそこには如実に表されている。
520 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:22:18.57 ID:FvWwTJodO
 誰がどう見てもAクラスが大勝したのは明らかだった。
 安堵できる点として、高校生活が始まってまだ2ヶ月目であること。今後の特別試験やテストの点数次第では逆転の余地は幾らでもある。
 悲しむべき、危惧すべきこととして、圧倒的な差に向上心が失われてしまうこと。2倍の差はとてつもなく大きい。単純にAクラスは毎月14万円分のポイントを得ているというのも羨ましいと考えてしまう。

「本日より皆さんはBクラスになります。今後も頑張ってください。それではホームルームを終わります」

 労いの言葉も無しに颯爽と立ち去っていく伊藤先生。
 もしかしたら今後のクラスの方針を立てるための早めに退いてくれたのかもしれない。考えすぎかな?
 クラスのリーダー格である一色くんが率先して教壇に立つと、ざっとクラスを見渡して発言を始める。

「みんな、ひとまずBクラスに上がれたことを喜ぶべきだ。確かにAクラスとはとても大きく引き離されてしまった。だが、まだ3ヶ月目だ。挽回─────いや、巻き返す機会は幾らでもあるだろう」

「だ、だよな? そもそもDから2ヶ月でBまで上がった訳だし……」

「そうだよね! ウチら頑張ったもん!」

 一色くんの言葉に呼応するようにクラスの至るところから声が挙がる。どれも前向きな思考によるもの。非常に良い傾向だった。
521 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:22:55.41 ID:FvWwTJodO
 しかしそんな中でひとつ。

「とは言うけどさぁ、その確証はあるの? もしかしたら特別試験なんてのはアレ1回きりだったかもしれないよね」

 そう発言したのは秋山さん。
 あまり率先して発言するようなタイプではなかったけど、今回ばかりは何か思うところがあったのかもしれない。

「……確かに、特別な試験は1回きりという線も捨てきれない。Aクラスがテストで点数を落とすということも考えにくい。そうなればポイント差を縮める手段は普段の素行のみ……ということになるね」

 既に次の試験に向けて生徒会は動き出していることをわたしだけが知っている。
 次はもっと頑張ろう! と声高らかに言いたいところだけれど、それは同時に生徒会役員という肩書きが許さない。うっかりでも口を滑らせれば生徒会を退くだけでは済まないかもしれない。
 わたしの方を何人かがチラチラと見てきているだけに心苦しい。

「今は考えても仕方がない。僕たちは頑張った。それで納得するべきだ。どうかな、本来なら中間テスト終わりにやりたかったけど特別試験で延期になっていたお疲れ様会を週末に開くっていうのは」

「おぉ、いいなっ」

「さんせーっ!」

 一色くんの言葉はどんよりとしていたBクラスに良く働いた。
 改めて、今は喜ぶべき。先延ばしになっていたお疲れ様会を開くには絶好の機会だと思う。
 わたしも都合が合えばぜひ参加したいと思う。


【コンマ判定
 奇数:イベント
 偶数:夜(雨宮綾香と約束の件について)
 ゾロ目:「春宮天音はいるか?」
 下1でお願いします。】
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/10(水) 23:43:20.92 ID:SGxOoThr0
523 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 07:35:47.94 ID:5hWlcGYzO
>>522
 2:夜(雨宮綾香と約束の件について)】

 6月1日の夜、雨宮さんを部屋に招き入れる。
 例の件は置いておいて、中間テスト対策から一ヶ月足らずでわたしと雨宮さんの距離はかなり縮まった。今ではこうして週に数回、一緒に夜ご飯を食べる機会も自然と儲けられるほどに。

「あれ、さっき帰ってきたかんじ?」

「ちょっと生徒会の仕事がね。ほら、月初だし」

「へぇー、大変ね。作るの代わろうか?」

「ううん、いいの。また先輩に教えて貰った料理を試したいから」

 本当につい3分ほど前にわたし自身も帰ってきたこともあって着替える暇も無かった。
 わたしの料理スキルアップに向けて付き合って貰っているため、空腹のままお待たせする訳にはいかない。
524 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 07:36:19.83 ID:5hWlcGYzO
 すぐに部屋着に着替えたわたしは夏帆先輩から戴いたエプロンに袖を通して台所に立つ。雨宮さんからの視線が少し気になるけど、調理を開始しよう。

「にしてもさぁ、『いのしし組』はなんか一瞬で終わっちゃったよ。私としては喋る機会が全く無くて助かったんだけどね?」

「あぁ、特別試験のアレね」

 特別試験12日目の『いのしし組』の通達があった日。
 同じく『いのしし組』の望月くんが通達の時刻に合わせて期日前投票を行った結果、誰が『王様』かを話し合う機会すら貰えずに試験が終了したあの件。
 思っていた通り、雨宮さんとしては助かっていたらしい。発言をすれば注目されること間違いなし。眼鏡を掛けていても有名人の風貌は隠し切れる訳ではない。

「ね、春宮さんはそれについて何か知らない? というかCクラスにも『王様』が何人か居たんでしょう? 何百万ってプライベートポイントを貰えて憎たらしいとは言わないけどさ、羨ましいって気持ちはあるよね」

 夕食後にしっかりと話そうと思っていたけど、意外なことに結構早い段階でそれに触れることになった。
 ここで変に誤魔化しても悪印象なだけか……。

【安価です。
 1.素直に特別試験であったこと全てを話す
 2.事情は話さず、6月中旬の休日を空けてもらうように話す
 3.一旦、別の話題に切り替える
 下1でお願いします。】
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/11(木) 15:30:18.45 ID:d6/hW9VWO
1
526 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 23:47:02.44 ID:yneQpvKSO
>>525
 1:素直に特別試験であったこと全てを話す】

 調理が煮込みの段階に入ったところで雨宮さんが寛ぐ居間へ紅茶の入ったマグカップを持って移動する。
 先ほどまでバラエティ番組の音が背中の方から聞こえていたけれど、今はCM中らしい。車のCMには興味が無いらしく、持ち込んでいた雑誌を捲っている。

「で、さっきの話の続きだけど」

「うん。聞かせて聞かせて」

 話を切り出すと雨宮さんは雑誌を閉じて話を聞く態勢に入ってくれた。
 紅茶で一息ついた後で、特別試験の裏で行われていた情報戦擬きのあらましを順を追って説明し始める。

「事態が動き始めたのは11日目の夜。『いのしし組』の通達の前日だね。わたしは望月くんに誘われてケヤキモールのカラオケに行った」

「歌えないのに?」

「そこは関係ないからっ。あそこは監視カメラとか無いからさ、そういう話をするのにちょうど良いみたいだよ」

「そういう話って? 告白されたの?」

「……わざとでしょ」

「ごめんごめん、特別試験の話だよね。その話するって言ってたもんね」
527 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 23:47:41.89 ID:yneQpvKSO

 からかってくる雨宮さんは楽しそうにする。
 それこそカメラを構えれば良い画になりそう。
 ただわたしの私物では携帯のカメラ機能しかない。せっかくならもっと高画質なカメラで記録に残したいところなのに残念。
 気を取り直して話を戻す。

「望月くんには特別試験でキーになる『王様』が誰かを見つける算段がついていたみたいでね。手始めにCクラスの『王様』を教えて欲しいって言ってきた」

「で、教えちゃったんだ」

「大きなポイントも動くからね。ここで何十万、何百万ってポイントを手に入れておくのは有効だと思った。普段の生活的にも、今後の試験対策としても」

「……うん、そうだね。ポイントは持っておいて損はないよね。でも、結局大きく勝ったのってAクラスだよね? 望月くんの算段ってのが間違ってたってコト?」

「ううん、そうでは無いみたい。わたしがCクラスの『王様』を教えたのは2人。望月くんと、Aクラスの東雲さん……って言って、わかる?」

「東雲さん? えっと、えっとぉ……あぁ、あの日本人形みたいな綺麗な子? なんか言葉遣いとか綺麗だよね。何回かすれ違ったことはあるよ。よく印象に残ってる」

「そう、その人。それでね、望月くんとその東雲さんが兄妹らしいの」

「兄妹? 兄妹って、あの? へぇー、そっかぁ。確かに言われてみれば似てるような……気もするね、うん」
528 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 23:48:11.93 ID:yneQpvKSO

 実際のところは血の繋がっていない兄妹らしいけれど、それはわたしの口から話すべきではない。
 ちなみにあの2人は、わたしから見ると似ていない。ただ血の繋がりについて伏せられていれば、きっとわたしも「言われてみれば似てるような」と同じ感想を抱いていたと思う。

「それで望月くんは一つの条件を出して、『いのしし組』では完全勝利を約束してくれた。その他の組については何も取り決めていなかったから、今朝のようなポイント差になったのは当然の結果だね」

「いや、そこ冷静に言うところ? 教えていなければ『いのしし組』も含めてもう少し他クラスとの差が均等になっていたんじゃない?」

「それは……うん。否定は出来ない。ごめん」

 確かに『いのしし組』では完全勝利を収められたけれど、結果的にはAクラス以外がクラスポイントを落とす形になった。無論、わたしたち元Cクラスも含めて。
 ……うん、わたしの所為かもしれない。
 あの2人の関係を知って冷静でなかったのは事実。
 そして、よく思い返してみれば今回の件はわたしにとってメリットが小さかった。『いのしし組』の完全勝利の代償として、クラスポイントの均衡と雨宮さんの件を引き受けているのだから。
 胸の奥にモヤモヤとした感情が滲み出る。
 ただ約束は約束。こればかりは可能な限り果たす努力をしよう。

「『いのしし組』の試験についてだけどね。あの日、8時の通達からすぐに試験終了の連絡が来たでしょ? あれって望月くんが即投票したみたいなの」

「あー、そっか。そこに繋がるワケね。それで私たちだけ話し合いの場が無かったと。嬉しいような残念なような。で、当たってたんだ」

「うん。今朝に正解報酬の50万ポイントが支給されている画像が送られてきたよ」

「ふーん、そっか。ま、良かったんじゃない? 負けもせず勝てもせずってかんじだったけど、Bクラスに上がれたワケだし」

「そうだね、そこは喜ぶべきだと思う。今朝、一色くんが言っていたみたいにね。……それでね、望月くんのことなんだけど」
529 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 23:48:43.56 ID:yneQpvKSO

 話が一区切りついたと思っていたためか、雨宮さんは「まだあるんだ」と相槌を打ってから、きちんと聞く態勢に戻ってくれた。

「雨宮さんのこと気付いてるっぽいの。というか、確信を持ってるみたいだった」

「─────そっか、うん。それで?」

「ええと、雨宮さんと一緒に遊びたいって」

「ふぅん。遊ぶ、ねぇ」

 わたしは雨宮さんの表情で即結するつもりだった。
 もし嫌そうな顔をしたら即、望月くんと企画書を持ち込んでくれた東雲さんには悪いけど、この件は断ると。
 しかし実際に彼女の表情を見て、わたしは決めかねていた。
 それは喜怒哀楽のどれにも属さない表情。人の表情から心理を見抜くことについては人一倍の自信があったけれど改めなければならない。あるいは、女優として活躍する彼女が表情を作ることに慣れているのか。
 どちらにせよ、わたしは言葉で尋ねる手段を選ぶ。

「それで、これが企画書……」

「企画?」

 東雲さんから預かった企画書を机の上に出すと、雨宮さんはパラパラとめくり始める。
 たった数秒で目を通した雨宮さんは、


【コンマ判定
 4:なんとも言えない表情をした。(断る)
 それ以外・ゾロ目:口元を釣り上げて微笑んだ。(承諾)
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/12(金) 00:38:17.48 ID:42Hwc8hk0
531 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/12(金) 01:32:32.02 ID:upz9k2xEO
>>530
 8:口元を釣り上げて微笑んだ。(承諾)】

 雨宮さんは、口元を釣り上げて微笑んだ。

「うん、面白そう。私からいいよって伝えればいいの?」

「あ、いいんだ? 一応、断れるよ?」

「ううん、私も夏祭り的なの体験してみたかったからちょうど良い……というか、半年くらい前の雑誌の取材で夏祭りに行ってみたいって答えたことがあってね。多分、それを見てくれたんだと思う。じゃなかったら逆に突拍子もなくて面白い人だって」

 どうして6月中旬という微妙なタイミングで夏祭り?という疑問はようやく解消される。
 雨宮さん自身がそうしたいと言ったことがあるのならそれが正解なんだと思う。
 確かにこの閉鎖された学校では縁日に参加することは出来ない。もしかしたらケヤキモール周辺で屋台を出してくれるかもと期待する程度。ファンとして夢を叶えてあげたいという気持ちが伝わってくる。やや重たいと感じるのはさておき。
532 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/12(金) 01:33:01.04 ID:upz9k2xEO

「これって私と望月くんの2人きり?」

「ううん、雨宮さんと望月くんと東雲さんと、わたしと2年の生徒会の先輩の5人。特別棟の空き教室で屋台を開くに当たって、生徒会の承認とか諸々でね。信用のできる先輩を呼ぶからそこは安心してもいいよ」

「なら安心ね。ちなみに、これはアレよね。『白石詩波』として参加しろってコトよね」

「そう……だと思う。2人とも結構好きみたいだから」

「うん、なら話が早くて助かるわ。どうせいつまでも隠し通せるなんて思ってもいなかったし、私が『白石詩波』を忘れないための練習にもなるしね」

 曰く、今正体がバレるのはダサいらしい。
 正体を晒すだけで校内が騒然とすることは容易に想像がつく。そんな中で赤点候補だったというのが雨宮さんとして恥辱で仕方がないみたい。どうせバレるならせめて欠点が無い学生としてバレたいと。
 芸能活動休止にもあった通り、現在彼女は勉学に励んでいる。おそらくこのままいけば半年後には学年の中でも前3割には入れると思う。バレるならその辺り以降がベストかもしれない。

「じゃあ、わたしから連絡しておくね」

「おっけー、おねがーい」

 手元の携帯で望月くんと東雲さんの両方に例の件で承諾を得られたことを伝える。
 すると両方から返事はすぐに返ってきた。
533 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/12(金) 01:33:38.87 ID:upz9k2xEO
 ただ、その返事の方法が歪だった。

「ん、どうしたの? 予定変更?」

「……ううん、そうじゃなくって」

 わたしはつい数分前とはガラッと一部が変わった学生証端末を雨宮さんに見せる。

『1160900ポイント』

 桁が1つ増えていた。
 50万と50万、合わせて100万プライベートポイントがわたしへと振り込まれる。もちろん振り込み元は例の2人。示し合わせたのか、あるいは偶然か。どちらにせよとてつもなく大きな臨時収入となった。もちろん話を聞いてから返すことを前提としている。

「いいじゃん、貰っておきなよ。私を口説いたってコトでさ」

「そういうわけには……」

 せめて半々にするとか……いやいや、それでも多すぎる。わたしはただ誘ったに過ぎないのに。

「とりあえず持っておきなよ。そんな大金、なかなか手に入らないでしょ? この学校もまだ分からない部分が多いし、ポイントは持っておいて損はないって」

 そのいずれもが正論で、わたしは頷く。
 100万かぁ。今日は特別試験の報酬も含めて、大きなポイントが動いた日だと思う。今朝のポイント支給だけでもかなり持て余しそうだったのにこんなに貰ってしまって。何かに使える機会があればいいんだけど…。
 とりあえず明日は両名に直接話を聞いてみよう。おそらく有耶無耶に流されるんだろうけど。

 ということで、無事に雨宮さんを誘えた。
 わたし自身も夏祭り的なものには興味津々のため、この機会はぜひ楽しませていただこう。
534 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/12(金) 01:34:23.01 ID:upz9k2xEO


【今日はここまでにします。
 かなり今更ですが、春宮天音の家族構成について安価で決めます。
 1・8:父母、兄、天音の4人(全員存命) 暖かい家庭
 2・9:父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭
 3・6:血の繋がった家族は知らない。孤児院育ち
 4・0:父母、妹、天音の4人(全員存命) 冷たく厳しい家庭
 5・7:父母、天音の3人(母故人)冷たく厳しい家庭
 ゾロ目:超高等教育特別施設育ち
 下1のコンマ1桁(ゾロ目の場合は2桁)でお願いします。】


535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/12(金) 02:11:43.92 ID:42Hwc8hk0
536 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:06:50.69 ID:mGptKTHrO
>>535
 2:父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭】

 翌日、1時間目の学級活動の時間では学校開発のアプリを携帯端末へインストールする機会があった。
 どのようなアプリなのかはインストールをしてからということなので、各自が教科書代わりのタブレット端末へ映し出されたマニュアルを読みながら作業を進めていく。
 インストールが終わると、携帯には『OAA』という名称で新しいアプリが追加されていた。マニュアルやホームページでもこの名は数回見かけている。何かの略だと想定されるが、その全貌は起動してみなければ分からない。

「ここまではよろしいですか。躓いている者は挙手を」

 QRコードで読み取った学校ホームページからダウンロードのボタンをタップするだけという簡単な作業に手間取る生徒は居なかった。先生は頷くと、

「それでは『OAA』というアプリを起動して下さい。起動後、学生証端末をカメラで読み取ることでログインが完了します」

 『OAA』を起動すると、先生の言った通り自動的に携帯のカメラ機能が立ち上がる。学生証端末をかざし、数秒待つとわたしの顔写真と氏名が現れる。
 右下の本人認証というボタンをタップすると、すぐ1学年〜3学年までのクラスが表示された画面が現れた。
537 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:07:28.44 ID:mGptKTHrO

「皆さんに今インストールして戴いたのは、通称『OAA』と呼ばれるアプリです。正式名称は『Over All Ability』。学生の能力を学校側が客観的に見て数値、アルファベット化したものです。手始めに『1学年』の『Bクラス』を選択して下さい」

 『1学年』をタップすると『Aクラス』〜『Dクラス』までのプルダウンリストが現れる。さらに『Bクラス』をタップするとクラスメイト40名分の氏名がずらっと並ぶ。
 早速、自分の名前をタップしている生徒も周りには居るみたい。わたしも客観的な評価が気になったため、期待と不安を半々に抱えながら『春宮 天音』の名前を選択する。

??-
1-B 春宮 天音(はるみや あまね)

学力    95(A+)
身体能力  93(A)
機転思考力 81(A-)
社会貢献性 86(A)
総合力   89(A)
??-
538 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:08:05.67 ID:mGptKTHrO


 4項目+4項目の総合点が表示される。
 これは……いいのかな。Aの上にSとかあるのなら是非狙いたいところだけど。

「うっわ、春宮さんすっごい。全部Aじゃん」

 教室前方の方からそんな一言が発せられる。
 その言葉には少し恥ずかしいものがあったけれど、ひとつ「そうか」と気が付くことがあった。
 このアプリには1年生〜3年生までの全生徒の能力値が登録されている。生徒会の仕事を利用した生徒名簿では氏名と顔写真、所属クラスしか分からなかった。このアプリを使えば誰がどの分野を得意としているかが丸わかりとなる。
 そうと決まれば早速─────。

「人の評価を見るのは自由ですが、先に説明を。早く済めば残りの時間は見ていただいて構いませんので、もう少しだけお静かに」

 先生の指摘に手先の操作が止まる。
 このアプリは今後ずっと携帯に残り続ける。今すぐに確認しなければならないことではない。話を聞きながら目でインプットしていくことも可能だけど、ここは聞くことだけに集中しよう。
539 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:08:39.18 ID:mGptKTHrO

「先ほどの学生証端末の読み込みで、携帯にアカウントが紐付けされました。そのため今後はOAAを起動する度に学生証端末をかざす必要はありません」

 それはそうでないと困ると言いたいところ。
 いちいち学生証端末をかざしてログインというのは数秒で事済んだとしても手間に感じてしまう。
 より一層の携帯の紛失には気を付けなければならないけれど、こういった当たり前のように思える技術を組み込んでくれた開発者の方には感謝しかない。

「次に各項目の説明を。こちらをご覧ください」

 電子黒板に表示された各項目の説明。
 学力〜総合力までの内容説明だった。



学力……主に年間を通じて行われる筆記試験での点数から算出される

身体能力……体育の授業での評価、部活動での活躍、特別試験等の評価から算出される

機転思考力……友人の多さ、その立ち位置をはじめとしたコミュニケーション能力や、機転応用が利くかどうかなど、社会への適応力を求められ算出される

社会貢献性……授業態度、遅刻欠席をはじめ、問題行動の有無、生徒会所属による学校への貢献など、様々な要素から算出される

総合力……上記4つの数値から導き出される生徒の能力だが、社会貢献性に関してのみ総合力に与える影響は半減される 
※総合力の具体的な求め方(学力+身体能力+機転思考力+社会貢献性×0・5)□350×100で算出(四捨五入)

540 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:09:12.55 ID:mGptKTHrO

 ここで改めてこの2ヶ月間、精力的に活動をしてきて良かったと思えた。
 継続して予習復習を繰り返すことで中間テストでは満点を、授業や生徒会の仕事の一環として運動部と対決を、そして生徒会の仕事を通して他学年との交流の機会も人一倍多かったはず。
 学校側はわたしをこの点数、このアルファベットで評価してくれている。それは十分すぎるほどに報われたと感じさせてくれる。

「学年やクラスごとに学力順、身体能力順とソートも出来るため、人によっては嬉しかったり悲しかったりすると思います。評価は1ヶ月に1度行われるため、より一層の皆さんの努力に期待します」

 先月と比べて1ポイント下がったとか、1ランク上がったとかが目に見えて分かるというのは画期的。それを甘んじて受け入れるか、それを糧として成長を志すかは生徒に委ねられている。
 これは、なかなか厄介でもあり情報収集には適しているアプリが登場したと考えさせられる。
 ひとまず先生のお話も終わったようなので気になる生徒を順に見ていく。
 真っ先に確認するのは生徒会のメンバー。
 特に気になるのは3年Aクラスの花菱乙葉。
 あの先輩には窺い知れないところがある。こうして客観的な学校側の評価を通して知れるというのは願ったり叶ったりだった。
541 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:09:42.54 ID:mGptKTHrO
 このアプリの操作性は快適そのもので、すぐに『花菱乙葉』の名前を見つける。


??-
3-A 花菱 乙葉(はなびし おとは)

学力    ???
身体能力  ???
機転思考力 ???
社会貢献性 ???
総合力   ???
??-

 一瞬だけ思考が停止する。
 すぐ近くの別の生徒を選択すると、わたし同様に各項目が何点でランクは幾つでといった表示がされる。
 乙葉先輩だけがこの謎に包まれた表示。
 まだ接敵していない相手のステータスを知れない仕様のゲームじゃないんだから。ここは公平に情報を開示して欲しかった。

「先生。すべてが『?』になっている生徒が居るのですが」

「毎月1万ポイントを支払うことで情報の開示を停止できます。もちろん当人の認証が済まされた携帯からだと確認は出来ます」

 ……なるほど。
 乙葉先輩は1万ポイントを支払って情報を隠した。
 その意図は汲み取れないけど、あの人のことだから楽しんでやっていそう。
 それに対して2万ポイントを支払うことで見れるようになる、といった機能は存在していないようなのでここは引き下がるしかない。
542 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:10:12.77 ID:mGptKTHrO
 わたしはその後、生徒会のメンバーを順に見た後、2年生の中で要注意といわれている化野先輩とその周囲の人、最後に1年生の東雲さんを始めとしたライバルとなりそうな人の情報を頭に入れていく。
 結果的に情報を隠していた生徒は乙葉先輩だけだった。あの人、毎月「ポイントないない」と言っていたのは、こういうところでポイントを使っていたからか。

「今後はこのアプリを使って色々なことをします。操作に慣れておくと良いと思います。それでは授業を終わります」

 先生が授業終了を告げるチャイムと同時に教室を退室する。生徒のほとんどがOAAに釘付けになっていた。もちろんわたしも。
 暇を見つけて全員分を覚えておいて損はない。幸い、顔と名前が既に頭に入っているため、あとは評価を紐付けるだけ。それほどの手間ではない。


【安価です。 夜
 1.1人で過ごす
 2.ケヤキモールへ(コンマエンカウント)
 3.人と過ごす
  1.雨宮綾香(Bクラス、実は白石詩波という芸能人)
  2.望月弘人・東雲雪菜(B・Aクラス、実は義兄妹)
  3.生徒会メンバー
  4.先生達と
 下1でお願いします。
 3の場合は「3-1」のようにお願いします。】
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/16(火) 14:53:06.19 ID:Zfq4SFCAO
1
544 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/16(火) 22:09:25.30 ID:a9hdhSbO0
>>543
 1:1人で過ごす

 >>534>>535で決めた家庭環境についてもう少し深く決めます。

 ・父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭

 1・6:父母は交通事故死、姉は病院で寝たきり(意識不明)
 2・7:父母は交通事故死、姉は社会人
 3・8:父母はほぼ同時期に病死、姉は病院で療養中(意識あり・記憶あり)
 4・9:父母はほぼ同時期に病死、姉は都内大学生
 0:父母は交通事故死、姉は病院で療養中(意識あり・記憶なし)
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 ゾロ目ボーナスは無しです。】
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/16(火) 22:34:42.94 ID:5OsJwiC00
546 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/17(水) 22:11:31.03 ID:7WItTcwO0
>>545
 4:父母はほぼ同時期に病死、姉は都内大学生】

 およそ1時間をかけてOAAに登録された全生徒の情報を記憶する。もともと全生徒の顔と名前、所属クラスは把握していたため成績の紐付けは容易だった。
 成績の判定は“D-”〜“A+”まであるらしく、優秀な生徒が集まると聞くAクラスは”B“以上の判定を持つ生徒が多かった。一方、わたしたち元Dクラスは”C“判定が目立つ。
 欲を言ってしまえば、『学力』という項目で一括りにせず教科ごと出してくれれば苦手克服に向けて動き出せたのだけどね。まぁ、それは各クラスで聞き取り調査をしろってことなのかな。

「……」

 やることを終えて、部屋の明かりを消す。
 時刻は二十三時を回った。
 高校生が寝るには遅くもなく早くもない、ちょうどいい時間だと思う。ややジメジメとした空気が気になるけれど、それもあと少しで気にならなくなる。
 なかなか慣れないと思っていた備え付けの枕にも愛着が湧き、今宵も深い眠りへと導いてくれる。
 レム睡眠とかノンレム睡眠とか……確か、ノンと付いた方が深い眠りだったような……。



547 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/17(水) 22:12:07.55 ID:7WItTcwO0

◇◇◇

 夢を見る。
 海岸に佇むわたしと姉の姿。
 2人はじっと夕日の沈む水平線を眺めている。
 かくいう今のわたしは、海の方から2人を見ていた。俯瞰的な視点で、まるで映画のワンシーンのように第三者として。
 砂浜の方に2つの影が見える。子供達を呼んでいる。
 ……顔は見えない。背格好からして大人、男の人と女の人。お父さんとお母さんなのかな。顔くらい見せてくれてもいいのに。
 子供達は海、あるいは空に向かって何かを叫んだ後で大人の方に駆け寄っていく。何かに引っかかったのか子供のわたしが躓く。そして起き上がっては涙を流している。
 自分のことながら恥ずかしい。何もない砂浜で転ぶだなんて。寄ってきた姉と2人の大人はわたしの手を引いて去っていく。なんとも微笑ましい光景。
 ただ、わたしの記憶にはこんな経験は無い。
 忘れているだけ……にしては、なんとも奇怪な思い出し方。確かにノスタルジックで良い雰囲気の記憶を掘り起こせたけれど。
 わたしはほとんど意識を保ったまま海そのものの上で佇んでいた。海岸には誰も居らず、徐々に向こうが暗闇に侵食されていっている。わたしが立つ海が暗闇に呑み込まれるまでそう時間はない。
 振り返って、いつの日か見たと思う夕焼けを脳に焼き付ける。
 綺麗、美しい、写真に収めたい、絵に描きたい。
 そんな感情が胸の奥から湧き上がってくるのを感じて、わたしは闇に呑まれた。そこで意識はプツンと途切れる。


【コンマ判定
 0・ゾロ目:電話
 その他:翌日
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/17(水) 22:27:57.92 ID:6KUUuV/eo
ほい
549 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:28:29.82 ID:g0NBQbZ10
>>548
 2:翌日】

 6月2日の夕方、生徒会室。
 いつも通り神宮くんと放課後の業務をこなそうと赴くと、部屋は真っ暗になっていた。カーテンは閉められ、蛍光灯は落とされている。
 そんな中でも人影は見える。わたしたち1年生以外は全員揃っていて、加えて3年生の担任の笹原先生がソファに座っていた。手元にはパソコン、プロジェクターが稼働可能な状態にあること、壁際のスクリーンが降ろされていることから、何か説明会でも行うのかなと想像が働く。

「早速で悪いが今日はゲームの時間なしだ」

「さっきまでやってたの知ってるからね、君たち」

「……席につけ、紫苑、天音」

 笹原先生の鋭い指摘に生徒会長様は気まずそうに指示を出す。
 わたしたちは顔を見合わせた後、いつもと同じ席に着く。

「じゃあ、ぱぱっと説明しちゃうから。あ、1年生の君たちは携帯の電源切って貰える? 回収の方が早いのは分かっているけど、面倒だからナシで」

 言われた通りに携帯の電源を切る。
 ここでようやく一つ思い至る。
 生徒会の業務として特別試験の監督補佐がある。これから行われるのは、今後予定されている特別試験の説明会なのでは、と。
550 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:28:59.84 ID:g0NBQbZ10
 正式な試験発表の前に情報流出を防ぐため携帯の電源を落とすように促されている。他に録音機など隠し持っていれば話はまた変わってくるけれど、そんなつもりはない。事実、こうして携帯の回収をされなかっただけ一定の信頼は得ていると思い込みたい。

「はーい、じゃあスクリーンの方に注目ね」

 スクリーンの方を向く。
 笹原先生がノートパソコンを操作すると、暗かった部屋はプロジェクターによって明るくなる。


『特別試験 無人島サバイバル』


 大きく映し出された題名に、わたしは気圧される。
 この前、生徒会室で「無人島に1つだけ持って行けるなら何を持っていく?」という話をしたばかり。あれはこの事を見越してのことだったのかもしれない。
 それにしても、本当に無人島サバイバルなんて……。
 かなりの危険が伴う一大イベント。高校生とはいえ世間的に見れば子供の部類。一歩か二歩を踏み誤れば大事故に発展しかねない。特にその辺り、どれだけ学校側が配慮しているのかはこの後の説明で果たされると信じたい。


日時:7月19日 学校グラウンドに集合し、バスで移動、港より客船に乗り込み移動
   7月20日 特別試験開始 試験の説明および物資の受け渡しなど
   7月26日 特別試験終了 船内にて結果発表を行い、順位に応じて報酬を支給
   7月27日 船上クルージングで終日自由行動
   8月2日  港に到着 学校へと戻り解散



551 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:29:46.66 ID:g0NBQbZ10


 まず映し出されたのは特別試験の日程について。
 この学校の生徒で居るうちは学校の敷地から出ることは無いと思っていたけれど、特別試験は例外らしい。バスで移動後、客船とは夢がある。ただし満喫できるのは特別試験後らしく、1週間の無人島サバイバルを乗り越えなければならない。

「コレの通り、試験は1週間ね。数年前の試験では2週間無人島サバイバルだったらしいけど、大人の色々な都合で1週間になったワケね」

 まだ大雑把に無人島サバイバルとしか聞かされていないけれど、2週間もその生活を続ければ体か心のどちらかに支障を出しそう。1週間で良かったと喜ぶべきところだと思う。

「船は? 去年とか一昨年みたいなカンジ?」

「そうね。えーっと別の資料に……っと」

 一度特別試験に関する資料を閉じて、別の資料を映し出す。
 船の大きさ、乗船可能人数、何階にどんな施設があるかといった情報が図面に表れる。大きさや乗船可能人数についてはともかく、施設には心を惹かれるものがあった。
 衣類等のショップ、安め〜高めまでレストランが十軒以上、貸切プール、自由解放プール、遊戯室、映画館、カラオケ、リラクゼーションサロン、学生には馴染みの無いバーなど。試験後の1週間では遊び尽くせなそうなほど多くの施設が入っているみたい。
552 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:30:14.91 ID:g0NBQbZ10

「あー! 中華料理のお店変わってるじゃん。去年と一昨年はあったお店! 好きだったのに!」

「あ、ほんとだ! そういえば、麻婆豆腐が辛すぎって苦情があったような。苦情を出すくらいなら頼むなってハナシよね。先生も好きだったのになぁ。ちょっとこれは先生も言っておく! 直談判するから!」

 その話は聞き逃せない。
 この前、担任の伊藤先生とケヤキモール内の中華料理屋さんで麻婆豆腐を食べてからというもの、わたしは辛さに魅了されてしまった。噂の麻婆豆腐は是非とも食べてみたい。先生の直談判に期待する。

「っと。話が逸れちゃったけど、こういった施設は本告知で配られる資料を見てね。さて、話は戻って1週間の無人島サバイバルね」

 資料を開き直して、改めて試験の説明に戻る。

「まず、今回の特別試験は1年生から3年生まで共通で同じ試験に挑むことになります。そして同時に学年を越えてみんながライバルなワケね」

 つまり全生徒、452名による試験ということ。
 この場の生徒会役員も例に漏れずライバルとなる。
553 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:30:43.53 ID:g0NBQbZ10

「で、ここからが重要なのだけれど、グループという制度があります。2年生と3年生は同学年から最大3人、1年生は最大4人のメンバーで組むことが出来ます。男女問わず、クラスも問いません。1年生の場合、AクラスからDクラスまで1人ずつでも組めちゃうってコト」

 パッと思いつくのは、Bクラスの望月くんとAクラスの東雲さん。彼らは兄妹ということで、グループとしての活躍が見込めそう。その他にも同じ部活に所属するメンバーとか、気が合う友達と無人島で生活というのは絆が深まる一大イベントとなりそう。
 ただわたしから見れば上級生の先輩方と組むことは出来ない。この場で言うと、神宮くんとは組めるけど、夏帆先輩や乙葉先輩とは組めない。

「実際に無人島でして貰うことだけど、こちらをご覧ください」

 スクリーンの中心には島が映っていた。
 そしてその島を縦と横に9等分ずつされた線が引かれている。縦はA〜Iまで、横は1〜9まで。左上がA1、右下がI9と線引きされた枠内に書かれている。

「試験中、朝9時〜夕方5時までの8時間、2時間ごとに移動の指示が出ます。例えばB4に行け、だとか、I7に行けとかね。その指示を出すのはこの腕時計」

 傍らの鞄から腕時計を取り出す。
 液晶画面が付いていて、今時の腕時計らしさを思わせる。
554 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:31:13.96 ID:g0NBQbZ10

「時計機能はもちろん、さっきの指示だったり、あと期間中のバイタルを学校側が確認できる代物ね。GPS機能が付いていて、高熱が出たとか、心拍数がとんでもないことになったりしたらアラームが鳴ります。そしてアラームが5分間鳴り止まなかった場合は先生たちが駆け付けることになってるから、その点は安心してもいいかな」

 試しに先生が腕時計を操作する。
 するといかにも危険を報せるようなアラームが生徒会室に響いた。

「こうして自分で鳴らすことも出来ます。たds注意して欲しいのは、駆け付けるのにも時間はかかっちゃうこと。5分か10分、遠ければ1時間はかかっちゃうかもしれない。だから、もし自分で事前に気付けたら早めに鳴らしてくれると助かるかな。お互いに」

 その機能があれば無人島に放り出されても幾ばくかは安心して過ごせそう。それにアラームの音も結構大きいし、通りすがりの生徒同士で助け合うことも出来るはず。

「この時計に届いた指示通りに、例えばB4というエリアに足を踏み入れた時点で1ポイントゲット。さっき言ったグループが仮に3人だとして、3人でエリアを踏めば一気に3ポイントゲットね」

「グループのポイントは共通な訳だな」

「そう。だからグループを組んだ方が細かいポイントは稼げるね。問題は大きめのポイント。全校生徒が一斉にB4に行けって言われても困っちゃうじゃない? そこで出てくるのがテーブル制度。A〜Jまであって、全部で10通りの指示が出ます。テーブルAはB4へ、テーブルBはG5へ、みたいな」

 確かに全生徒が揃いも揃って同じ方向に進むだけではつまらない。このテーブルに属する人は東の方、西の方など行き先がバラついていた方が面白い。
555 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:31:44.66 ID:g0NBQbZ10

「2時間に1度変わる行き先だけれど、テーブルごとに着順ボーナスってのがあってね。最初に着いたグループは10ポイント、2着は5ポイント、3着は3ポイントを追加で貰えるの。ただ注意事項として、グループ全員がエリアを踏まないと着順ボーナスは貰えない。その分、1人で挑むっていうのはメリットがある。自分さえとにかく早く着いちゃえばいいんだから」

 仮にわたしが神宮くんと組んだとして、わたしだけがエリアを踏むだけでは1ポイントだけしかゲットできない。遅れて合流した神宮くんがエリアに足を踏み入れてようやく着順ボーナスをゲットとなる。
 ただし神宮くんが到着するまでに他のグループが先に全員でエリアを踏んでいたら着順ボーナスは無しとなる。
 一方、1人のメリットは大きい。正直、体力には自信があるため着順ボーナスでポイントを稼ぐのは悪くない。グループを組んでそっちに合わせるよりもポイントは格段に稼げそう。

「ポイントを稼ぐ方法はもう1つ。試験開始時、腕時計と一緒に配られるこのタブレット端末。自分が居る位置を報せてくれるのと、テスト会場の位置を報せてくれる機能がある」

 続けて取り出したタブレット端末。
 起動すると画面には学校の生徒会室の位置に赤いポインターがついている。腕時計と連動していることはすぐに分かった。

「テスト会場っていうのは、その名の通りテスト会場ね。数学とか英語とか、あとはビーチフラッグとかのテストを行うことになってる。学科テストは学年のレベルに合わせるから安心して。1年生は1年生の範囲のテスト、3年生は3年生の範囲だから」

「はいはい! 天音ちゃんは勉強にすっごく自信があるので、3年生の範囲でやるみたいです!」

「やりませんっ!」

 中華料理の件から黙って聞いていた乙葉先輩が唐突に言い出したことに、わたしはすぐ否定しておく。
 本当に3年生の範囲になったら頭を使いそう。出来るだけ頭を休めながら試験には臨みたい。
556 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:32:33.52 ID:g0NBQbZ10

「乙葉には悪いけど、1年生は1年生の範囲って決まってるからそれはナシで。本人たっての希望なら……ギリありだと思う」

 当然と言えば当然の回答。
 ただわたしが希望すれば3年生のテストも受けられるらしい。これは見ようによっては、わたしたちが3年生になった時に出題される中間テストなどの予行演習を出来るということではないか。
 うん、それもアリかもしれない。

「テスト会場には先生とかスタッフが居るから、その人に参加希望の旨を伝えればオッケー。テストにもよるけど、基本的に参加人数は5人〜15人。ああいや、5グループから15グループかな。内容によってはグループ参加も可能だよ。グループ内で助け合ってテストをこなすのも良しだね」

 勉強が得意な人は勉強系のテストでポイントを稼ぎ、運動が得意な人は運動系のテストでポイントを稼いでグループに貢献する。
 それはとても合理的で良いと思う。

「テストによって貰えるポイントは異なり、基本的には1位〜3位までしかポイントは貰えない。最低では5ポイントとかだったかな。最高は忘れた。また本告知で説明あると思うから、その時に聞いて」

「……あの、もし参加人数が集まらなかったらどうなるんでしょう?」

「その場合は残った人たちでテストを実施。もし1グループだけだったら1位を、2グループだけだったら1位か2位を決める勝負をして貰う。ちなみに同点の場合は貰えるポイントを半分こね。奇数ポイントを2グループで分ける場合に余った1点は捨てることになります」

 参加人数が不足した場合にテストは未実施となるのが最悪なケースだった。人数不足でもポイントを貰える機会があるというのは、積極的にテストへ挑める。
557 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:33:24.26 ID:g0NBQbZ10

「テスト中はタブレットの充電をしておくように。あとテストの参加賞や順位ボーナスで食べ物とか飲み物を貰えるようになってるから、その辺りは積極的に参加しないとアレするやつだね」

 アレとはつまり、脱水症状で命のピンチということだと思う。もちろんその場合は腕時計がアラームを鳴らして先生が駆け付けることになる。

「というわけで、指示通りにエリアを踏むこと、グループ全員がエリアを踏むこと、テストで点数を得ることでグループ毎の順位を決めていきます」

 ポイントを稼ぐ方法については分かった。
 あとは日程にも書かれていた通り、特別試験終了後の結果発表と順位について。

「試験終了後、船内で結果発表を行います。もちろん試験中に稼いだポイントで順位を決める。詳しいことはこちらに」

 スライドが切り替わる。


 1位:300クラスポイント、200万プライベートポイント
 2位:100クラスポイント、100万プライベートポイント
 3位:50クラスポイント、50万プライベートポイント


 1位が頭抜けて破格の報酬だった。
558 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:34:05.18 ID:g0NBQbZ10
 この際、プライベートポイントについては置いておくとして、300クラスポイントは大きい。
 それは毎月1日に支給されるポイントが3万ずつ増えることを意味しており、1クラス40人のため120万プライベートポイントとなる。報酬の200万も破格だけれど、たった2ヶ月でそれを上回るポイントを得られる。
 それに、Aクラスとの差を縮め、Cクラスとの差を広げるにはこの300クラスポイントは是非とも欲しいところ。
 ただ当然のように注意しなければならない点として、3年生の乙葉先輩や2年生の新汰先輩と競い、勝たなければならないこと。せめて1年Aクラスに渡さないよう努めることで良しとするべきか。

「Aクラス〜Cクラスまでが1人ずつで構成された3人グループが1位を取った場合は、全部山分けってことになるからね。それぞれのクラスが100ポイントずつ、66万プライベートポイントずつ。余ったものはジャンケンとかで決めて貰うから」

「Aクラスが2人、Bクラスが1人の場合だと?」

「それも一緒。合算してしまえばAクラスは200クラスポイントと132万プライベートポイント、Bクラスは100クラスポイントと66万プライベートって具合に山分け」

 となれば、学年内で好きにグループが組めると言ってもクラスはまとまっていた方が良いかもしれない。
 特に本気で表彰台を狙えるようなメンバーを固めに行く場合は尚のこと。
 ……考えることが多い。外の空気を吸いたくなってくる。

「はい、じゃあ最後にペナルティについて。下位8グループは退学ね。以上。質問は?」

 あまりにもサラッとされた宣告。
 特別試験の結果次第では『退学』という道も見えていたけれど、こんな簡単にそのワードが飛び出てくるとは思わなかった。
559 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:35:15.39 ID:g0NBQbZ10
 それに8グループ。仮に下位すべてが1年生だったとして、最大で32人も退学者を出すことになる。わたしたちBクラスも例に漏れず。

「あ、ごめん。1つ忘れてたことあった。グループは最大で3年生と2年生が6人、1年生は8人ね。7月15日までにまず3人もしくは4人のグループを決めて貰って、6人か8人のグループに合併できるのは試験中。さっき言ったテストの順位ボーナスで合併の権利を獲得できるよ」

 えっと、つまり8人グループを組んだ1年生が下位に沈めば最大で64人の退学者を出すことになる、と。
 これはまずい。報酬は美味しいけれど、そのぶんペナルティは不味い。この際、他のクラスを助けようとするのは不可能。せっかくなら学年から退学者を出さずに卒業したかったけれど仕方がない。
 わたしが優先して守るべきはBクラスのみんなで、特に……雨宮さんになるのかな。中間テストをきっかけに一緒にいる時間が長いため親近感が湧いている。それに彼女には事情もあるし、みすみすと退学はさせられないし、他の人とグループを組ませるのも難しい。
 あれこれ頭の中で模索をしていると、

「あ、ごめん。あと1つ……ああいや、あと2つ。まず1つ目。ペナルティで退学になった人は、プライベートポイントで退学を回避できます。ただし試験が開始される前にポイントは自分で持っておくこと」

「ポイントは幾ら必要?」

「グループで痛み分けってかんじかな。1人なら600万、2人なら300万ずつ、6人なら100万ずつ。差し出せた人だけが回避できる。全員が出さないと回避とはならないから安心して。最低限、自分だけが出せればオッケーだから。あ、ちなみに1年生は半額で回避ね」

 つまり最低の1人なら300万、最大の8人なら37万5千プライベートポイントを差し出せば退学を回避できる。
560 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:35:51.38 ID:g0NBQbZ10
 ただしそんなポイントは先に特別試験で稼いだ大きいポイントしかアテはない。それに、そのポイントを持っている人も限られてくる。
 それにそれに、試験開始前に危うそうな人全員にポイントを均等に振り分けておくのは無理がある。せめて退学が決まった後でクラス内でポイントの受け渡しが可能だったら良かったのに……。

「2つ目。試験開始の時、特別なポイントを全員に5000ポイントずつ支給します。そのポイントの使い道は、バックパックとかテントとか、食料とか水と交換することが出来ます」

「テントは1人用?」

「1つで4人入れる物もあるよ。グループを組んでテントは1つだけ、とかも戦略としてはアリだね。ただし男女で一緒のテントは使わないこと。これは口頭での注意にしかならないけど。GPSでこの2人の距離が近いってのは分かっていても確かめる術がねぇ…」

 どこか遠い視線を向こうへとやる先生。
 それはともかく、グループ内で上手くポイントの節約は非常に有効だと思う。テスト参加前に飲む用として水も幾つか手に入れておきたい。夏場のため、紙コップなどに移して飲む必要があるのは当然のこと。
 うーん、難しい。どうしよう。

「あと言ってないことあったかな……」

「3人もしくは4人の具グループが6人もしくは8人のグループに合併したらどうなるんだ?」

「あ、その場合は足して2で割ることになってる! ありがとう、忘れてた!」

 この分だと、笹原先生の話には随分と穴がありそう。
 ひとまず試験の概要は分かった。この場で詰め込みすぎても良くないため、本告知にて更に理解を深めることにしよう。

「あ、ちなみにちなみに。スタート地点の砂浜には無料で利用できる給水所とかトイレとか、シャワーも設置してあるから是非使ってね!」

「─────」

 その一言を聞いてわたしは、


【コンマ判定
 直感・洞察力:91 補正あり
 7・0・ゾロ目:この試験の方針を定める
 その他:また考えることにしよう
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/18(木) 23:48:23.43 ID:7fmi9h7h0
562 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:40:06.06 ID:mmhXVp5S0
>>561
 3:また考えることにしよう】

 うん、今日のところは試験概要を理解しただけで留めておこう。具体的にどう動くのかは、本告知の後でも遅くはない。この様子だと、あと1、2週間後には本予告もされそうだし。

「ちなみにグループはOAAから誰と誰が組んだのか確認できるからね。ちなみにちなみに、一度組んだらグループの解消は出来ないからよーく考えること」

「もし当日、体調不良になった場合は?」

「グループで残った人たちで試験開始。これは試験開始後に体調を崩したり怪我をした人にも共通で言えることだけど、グループの人が残っている限りはリタイアした人も即退学とはならないよ。逆に、1人で挑んで体調を崩したら退学まっしぐらだね」

「グループ全員がリタイアした場合、ポイントはどうなる」

「どれだけポイントを稼いでもグループ全員がリタイアすれば0ポイント。どんなに頑張ってもポイント没収だなんて酷いハナシだよねー。ま、さっさとポイント稼いであとは船で先に満喫なんてされても困るからさ。当然と言えば当然なんだけど」

 大自然の中、いつ体調を崩すかは分からない。
 いち早く「これくらい稼いでおけばいいだろう」という目測のもと稼いだポイントを持ったまま、1週間を待たずして船に戻ることは許されないらしい。
 1週間、走って問題を解き続けるしかないと。
563 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:40:50.55 ID:mmhXVp5S0

「仮に9グループがリタイアした場合は?」

「その場合は船の中で別の試験を設けるみたい。グループは引き継ぎで、何をやるかはその場で発表だって」

 さっき見た日程を鑑みると、その試験は自由行動の時間に行われそう。無人島を潜り抜けた生徒がクルージングを満喫する一方で、何処かの部屋では退学を掛けた試験を行なっていると。
 それはやだなぁ。せっかくなら無人島生活1週間の後、豪華クルージングの旅を1週間を満喫したい。もし1位を取れれば手元には200万プライベートポイントもあるし、クルージング中にはポイント支給日の1日が含まれている。きっと遊ぶお金には困らない。

「うん、こんなところかな。で、ここからが生徒会のみんなにやって貰いたいこと」

「えー、ぜったい面倒なやつ!」

「そう言わないの。えっと、みんなには船の中で出来る催し物を企画して欲しいの。無人島の後の1週間の内、1日か2日で全生徒が任意で参加できるやつね。こういうのは学校側が企画するより、生徒側で企画した方が生徒も参加しやすいでしょ?」

 そういう話なら前向きに考えられる。
 もちろん予算の都合もあるけれど、定番なところで言えばビンゴ大会などが該当しそう。大きめのホールを1つ借りることが出来れば、あとは装飾を施すだけで立派な会場となる。
564 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:41:27.21 ID:mmhXVp5S0

「予算は生徒会の特別活動費から出してね」

 時々見かけていた『特別活動費』。
 これまでずっと未使用だったお金で、何に使うものか聞いてもはぐらかされていたけれど、こういう機会に使われるものなんだと理解する。

「7年前は船内で宝探しゲームをしたみたいだよ。参加費は1万ポイントで、船内の入れる場所に隠したQRコードを携帯で読み取って10万ポイントとか5000ポイントをゲット! みたいなね」

 そういうのもアリなのか。
 宝探しだけれど、宝くじのような夢を提供するのは良いと思う。誰でも一攫千金の夢を見れるのは公平性もある。件の宝探しの『宝』がどれくらい散らばっていたかにもよるけど。

「なるほどなるほど。つまり、生徒会 vs 生徒ってことね。こりゃあやる気を出さないとだ」

「どうしてそうなるんです?」

「特別活動費がそういうものだからだよ。このお金は何代か前の生徒会からずっと引き継がれているもの。ここでゼロにするわけにはいかないでしょ」

「はぁ……なるほどぉ」

 夏帆先輩が納得……は、出来ていないみたいだけど何度か頷いてみせる。
 つまり、いかに還元率を低く出来るかが勝負どころになってくる。これは悪知恵を働かせなければならないみたい。
565 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:42:01.43 ID:mmhXVp5S0
 例えばわたしが真っ先に思いついたビンゴ大会では全員無料参加とはいかない。用意する景品にもよるけど、最低でも1万ポイントずつ参加費として徴収する必要があるかもしれない。

「ま、そんな訳だから6月末には申請を出せるように資料をまとめておいて。先生が確認して、その後で偉い人の許可を幾つか取らないといけないから」

「へーい」

 乙葉先輩の軽い返事に先生は特に反応することもなく、ノートパソコンを閉じて見本として見せてくれた腕時計とタブレット端末をしまって生徒会室を後にする。
 3年Aクラスの担任、笹原真香は噂通り生徒と距離の近い先生らしい。実際、生徒からのタメ口を嗜めるようなこともなかった。年齢も先生の中では若く、話が合う先生かもしれない。
 総合的に見て、良い先生だなぁと思った。

「っし、じゃあその件は来週の月曜日に1人1案考えてくるってことでいいな。予算は……天音」

「53万7527円です」

「ごじゅう……なんだって? あー、50万で。どうせなら増やそう。1000円、1万円増やしただけじゃあつまらねぇ。目標は100万だ。各自、ギャンブル性の高い企画を考えるように。以上、解散!」

 昨日まで業務を頑張った代わりに、今日はこの説明だけで生徒会の仕事は終わる。
 次の試験内容をじっくり整理したかったし、これは素直にラッキーだと喜ぼう。ついでにギャンブル性の高い企画を考えないと。
566 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:42:33.90 ID:mmhXVp5S0

【週末
 1.1人で過ごす
 2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と遭遇)
 3.人と会う
  1. 雨宮綾香(クラスメイト 白石詩波という芸能人)
  2. 宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
  3. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
  4.望月弘人(ちょっと謎なクラスメイト)
  5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒 生徒会役員)
  6.東雲雪菜(Aクラスの女子生徒)
  7. 花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
  8. 如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
  9. 四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
  10.佐倉新汰(信頼のできる2年生の男子生徒)
 下1でお願いします。】
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/21(日) 00:08:57.51 ID:kw9sUh+f0
3-9
568 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/22(月) 21:59:42.56 ID:GHq/dL3a0
>>367
 3-9:人と会う - 四条夏帆】

 特別試験の結果発表に続いて、早速次の特別試験の概要を聞くなど忙しかった1週間の週末。
 わたしは2年生の寮の前で携帯を触って待っていた。待ち合わせの時間まで残り10分程度。たまに通りかかった先輩と少し話していると時間はあっという間に過ぎる。

「おはようございます。毎度のことながら早いですね」

「おはようございます。夏帆先輩こそ、まだ5分前ですよ」

「ううん、これでも遅かったってことだよね」

 気を使わせてしまった。
 早く来すぎるのも少し考えものかもしれない。
 今度からは10分前行動ではなく5分前行動を守るようにしよう。

「さて、それでは行きましょうか。と言っても、行くアテはケヤキモールしかありませんけどね」

 わたしは頷いて夏帆先輩の隣を歩く。
 そして今、夏帆先輩の発言でふと気になったことを聞いてみることにした。
569 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/22(月) 22:00:11.37 ID:GHq/dL3a0

「あの、ケヤキモールしか遊ぶ場所が無いって退屈しませんか? もちろん娯楽施設やお店の品揃えが良いのは分かりますが」

「そうですねぇ。確かに、飽きてきますよね。普通の学校に通っていれば、電車で移動とかも出来たわけですし」

 東京なら原宿や渋谷など若者で溢れているようなスポットがたくさんある。ちょうど昨晩のテレビ番組でもお洒落なかき氷特集を見かけた。最近では、味勝負ではなく映えるかどうかに重きを置いているらしい。
 その他、上野で美術館や博物館をまわったりするのも良いかもしれない。やや人を選ぶようなイメージが強い施設ではあるけれど、きっと楽しいはず。

「ただ、普通の学校に通っているだけでは得られなかった貴重な経験をさせて貰っているとは思いませんか? 寮で1人暮らしをして、毎月高額のお小遣いを貰って自炊したり遊んだり……自分でお金の使い道を決めるのはきっと将来の役に立つと思います」

「……そうですね。はい、その通りだと思います!」

「と、良いことを言った風ですが、天音ちゃんの『退屈』っていうのはその通りですね。私が言ったのはあくまでも過ごし方についてであって、環境のことではありませんから」

 先輩の言うことはよく分かる。
 ただ普通に実家から高校へ通う、ではこんな貴重な経験は出来なかったと思うし、仮に進学に伴い一人暮らしを始めていてもここまで充実した生活を送れていたとは限らない。
570 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/22(月) 22:00:48.97 ID:GHq/dL3a0

「この学校って季節のイベントとかあったりしますか? 夏は屋台とか花火、冬はクリスマスツリーを飾ったり……とか」

「花火はありませんが、屋台とクリスマスツリーは去年ありましたよ。小さい手持ち花火くらいなら、売っていたのでおそらく可能だと思います」

「あ、じゃあみんなでやりましょう! 花火っ」

「生徒会の終わりとかに出来たらいいですね」

 とか、そんな話をしているうちにケヤキモールの入り口に到着する。
 えーっと、今日の予定は……。


【安価です。
 1.ショッピング
 2.映画館
 3.喫茶店でお話
 4.買い物をして料理(料理スキルアップ)
 下1でお願いします。】
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/23(火) 16:37:54.76 ID:Ers71d1p0
4
572 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/24(水) 08:47:18.94 ID:ClnhHB9nO
>>571
 4:買い物をして料理(料理スキルアップ)】

 そう、今日『も』になってしまうけれど、夏帆先輩と買い物をしてから料理を教えて貰うんだった。

「そろそろ1ヶ月と半月程度になりますからね。平日も自炊しているようなので、私が見た感じでは天音ちゃんの料理スキルは相当上昇していると思います」

「そう……でしょうか?」

 確かに自炊可能なレパートリーは増えてきた。
 ただ、お店レベルには到底及ばないし、センスのある人がなんとなく初見で作った料理と比べても勝てそうにない。
 それに客観的な意見を貰うため雨宮さんに試食していただいたときは「まぁまぁ……かなぁ?」という微妙な評価だったのが記憶に新しい。

「最初は包丁の持ち方も怪しかったですからね。格段に上手になったと思いますよ。さて、今日は色々なものを少しずつ作ってみましょうか」

「はい、わかりました」

 道中、そんな会話をしながら食品売り場を目指す。
 お昼にはまだ早い時間だけれど、お腹が空いてきた。今日のお昼は何かな、と期待感を抱くわたしでした。


【コンマ判定
 1・3・5・9:3上昇
 2・6・8:2上昇
 7・0:5上昇
 4:1上昇
 ゾロ目:8上昇
 下1のコンマ1桁でお願いします。

 -現在の能力値-
 学力:97(超優秀)? 身体能力:99(超優秀)? 直感・洞察力:91(優秀)? 協調性:53(普通)? 成長性:74(高)? メンタル:86(高)? 料理:42(まぁまぁ?)? 音楽:22(下手)】
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/24(水) 11:10:31.21 ID:ZgtXZV0Jo
はい
574 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/24(水) 23:21:52.26 ID:5u8NO6rVO
>>573
 1:3上昇

 学力:97(超優秀)
 身体能力:99(超優秀)
 直感・洞察力:91(優秀)
 協調性:53(普通)
 成長性:74(高)
 メンタル:84(高)
 料理:42 → 45(まぁまぁ)
 音楽:22(普通)】


 週明けの夕方。
 生徒会室の明かりは落とされ、スクリーンには大きく『企画会議』の4文字が映し出されている。

「各自考えてきたな? じゃあ順番に会計の方から。まずは端的に話せ。話し合うのは後だ」

 企画会議とは他でもない7月下旬に予定されている一週間クルージングの中で行う学生間の催し物のこと。主催は生徒会とし、他の生徒は任意での参加を募る。
575 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/24(水) 23:22:19.62 ID:5u8NO6rVO
 錦山会長の指示のもと、生徒会室の端の方の席から意見を挙げていく。

「参加費は1万ポイント、勝ったら予算の50万ポイントを賞金として差し出すという条件で─────天音さんと任意の教科もしくは種目で勝負はいかがでしょうか。参加人数は50名を想定しています」

 2年の先輩、紗希先輩は初っ端からとんでもないことを言い出す。
 その条件だと、わたしが50連勝しなければ目標お額には届かないんだけれど……。とてもではないけど現実的ではない。間違ってもそんな催し物は企画されるべきではない。
 今は端的に案を出す時間らしいので、色々と言い出したい気持ちをグッと堪える。何人かが「うんうん」と頷いているのを見て見ぬふりをする。

「7年前と同じ宝探しゲームで良いと思います」

 神宮くんの案。
 7年前に実施されたというゲームを知る生徒は居ない。そのため宝探しゲームをしても二番煎じと言われることなく進行が出来そうだし、一度やっているだけに教師陣からの承認も取りやすい。
576 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/24(水) 23:22:47.68 ID:5u8NO6rVO
 それからわたしを含めて淡々と案を出していく。

・屋内プールで水泳大会
・ビンゴ大会
・遊戯室で大会(麻雀・ダーツ・ビリヤード・卓球など)
・遊戯室で賭け麻雀(教師の了承取れない可能性大)
・クイズ大会
・人生ゲーム大会
・天音ちゃん vs みんな
・オセロ大会

 と、紗希先輩と神宮くんの後にこんな案が続く。
 まともに考えていない人も居たようだけど、この中から実際の催し物が決まる。

「なんつーか、ありきたりなものばっかりだな。どれもパッとしねぇっていうか」

「公平性のあるものがいいですね。胴元の生徒会が儲けるっていうのは目に見えていても、誰にでもチャンスが無いと参加する生徒が居ないですから」

「かと言って、紗希と乙葉の天音を使ったのもなぁ。運動部との対決で勝ち目が薄いのは分かってるだろ。参加者が50人も集まらねぇ」

 良かった。危惧していた案が無しの方向で話が進んでいる。正直、人数が集まる集まらない以前に、クルージング期間の全てを費やしても1日あたり7人を倒していかなければならないのは難しい。
577 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/24(水) 23:23:27.62 ID:5u8NO6rVO
 ということを踏まえて、前向きに検討できるのはビンゴ、クイズ、人生ゲーム、オセロ、7年前と同じく宝探しゲームあたりが残る。いずれもほとんど公平に戦うことが可能ではある。

「予算50万で景品を用意してビンゴ大会、優勝者に50万のクイズ大会、50万をバラした宝探しのどれかだな。多数決で決めるか。案を出したやつ以外でやるぞ」

 わたし、夏帆先輩、神宮くんの提案に絞り込まれる。あとは多数決。いずれにしても半日程度で終わるため生徒も参加しやすいと思う。
 さてどうなるかな……。


【コンマ判定
 1・4・7・0:ビンゴ大会(景品買い出しのイベント)
 2・5・8:クイズ大会
 3・6・9:宝探し
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/24(水) 23:27:51.45 ID:akZDy63j0
579 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/25(木) 01:10:40.91 ID:xaYy5BJrO
>>578
 5:クイズ大会】

 多数決の結果、クイズ大会に決まった。
 3つの選択肢の中では最も運要素が少なく、知識という実力差が如実に現れる。また、景品を用意する必要が無いため参加者を青天井に呼び込める利点もある。
 よく考えてみれば、なるべくしてなった結果と言えるかもしれない。

「よし、じゃあ決まりだな。あとはクイズの出題形式とか問題は誰が考えるとかは真香ちゃんに報告してからだな」

 真香ちゃん、というのは先日試験の説明をしてくれた笹原先生のことだと思う。ちゃん付けで呼ばれていたんだ、あの先生。確かに年齢も距離も近い先生ではあったけれど。

「夏帆、行くぞ」

「あ、はいっ」

 案を出した夏帆先輩が着いて生徒会室を出て行く。
 残されたわたし達は部屋の明かりをつけて通常の業務に戻る。
 週明けということもあって書類がたくさん。今年は早めに梅雨入りしたこともあり、外はしとしとと雨が降っている。これは……少し憂鬱だなぁ。
 帰宅する頃には19時を回っているかもしれない、と考えながら筆を手に取り書類に目を通して行く。


【コンマ判定
 奇数:ケヤキモールでイベント
 偶数:週末
 ゾロ目:「春宮さん……お願いがあるんだけど」
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/25(木) 04:11:35.14 ID:3X8vqpUJO
581 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/25(木) 08:48:04.73 ID:xaYy5BJrO
>>580
 4:週末】

 週末の土曜日。
 わたしは寮から徒歩5分程度の学校に登校していた。
 今日は数週間に1度のボランティア活動の日。
 ボランティアといっても近所のお年寄りや子供と触れ合うようなイベントではなく、単純に校庭の草むしりをするだけ。誰がやってもペースの誤差こそあれ、結果に差が出ない作業のため気楽で良い。
 周りを見渡すと、思いのほか参加する生徒が多かった。1年生から3年生まで合わせて51人。特に1年生の姿が目に留まる。
 参加目的は大きく4つほど思い浮かぶ。

 1つ、単純な慈善活動
 2つ、OAAの『社会貢献生』という項目の点数稼ぎ
 3つ、参加特典のケヤキモールで利用可能なミールクーポン
 4つ、わたしみたいに参加を半ば強制されている人

 1年生の姿が多いのは、つい先日もOAAによる客観的な評価を目にしたからだと考えられる。こういうところで評価を上げる姿勢はとても良いと思う。
 わたしは生徒会役員ということで参加している。これまでも4回ほど休日に駆り出されていたけれど、そのおかげでOAAの評価に繋がったと考えると非常に報われた気持ちになる。
 その他にも、ついさっきまでグラウンドで部活動に熱を入れていた野球部とサッカー部はユニフォームで全員参加らしい。

「そろそろ持ち場につけー」

 野球部の顧問の先生が指示を出し、各自が持ち場につく。作業中は、他の人の迷惑にならなければ私語も許される。スポーツドリンクも自由に取れるらしいので、適度に休憩しながら程々に進めていこう。

【コンマ判定
 1・5:生徒会役員 1年
 2・8:生徒会役員 2年
 3・7:生徒会役員 3年
 4・6:一色楓・宮野真依(クラスメイト)
 9・0:東雲雪菜(1-A)
 ゾロ目:化野(2-A)
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 続きは今晩にします。】
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/25(木) 13:43:08.90 ID:ctn9ScqS0
583 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:41:26.45 ID:YgBFoyleO
>>582
 0:東雲雪菜

 遅くなってしまいました。
 続きは26日の夜にします。】

「春宮様、お隣よろしいですか」

「あ、東雲さん。うん、もちろんいいよ」

 艶やかな黒髪を結った女子生徒────東雲雪菜さんが話しかけてくれた。
 彼女とは先の特別試験にて接点を持ち、最近では廊下ですれ違うと挨拶が出来るような友達に近い存在。はっきりと友達と言い切れない最大の理由は『様』を付けて呼ばれていること。なんとか『さん』まで持っていきたいんだけれど、なかなか難しい。
 彼女はどこか絶対的な一線を引いているように感じる。おそらくこの先、本当に余程の事がないとその一線を越えることは出来ないと思う。

「春宮様は生徒会役員として参加、といったところでしょうか」

「うん、そうだよ。あ、でも別に嫌って訳ではないんだよ? ミールクーポンも貰えるし」

「高校生の貴重な3時間を使った報酬が1500円相当のミールクーポンというのは、法外な賃金ではありますけれどね」

 東京都の最低賃金を鑑みると、時給にして半分以下。仮にも国立校を謳う学校がするべきではない。
584 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:41:57.96 ID:YgBFoyleO

「まぁ、でもボランティアだからね。校庭をまずまず綺麗に出来れば良いってレベルだし、それこそ完璧なものを求めるなら業者を呼んだ方が早いだろうし」

「そうですね。一般の学校では無償だと聞きます。学校の敷地内で利用できるミールクーポンを配布というのは、この学校らしいですね」

 皮肉っぽく言う東雲さん。
 学校生活を満喫していらっしゃる。

「東雲さんはどうしてボランティアに?」

「先日に発表されたOAAの点数稼ぎです。どうやら春宮様には随分と差をつけられてしまったようなので、少しでも追い着きたいと考えた次第です」

 1年生のライバルの中でも東雲さんは筆頭として挙げられる。トップで独走しているAクラスのリーダーであることもそうだし、未だに未知な面が大きい。
 そんな東雲さんのOAAの評価は確か……。

??????
1-A 東雲 雪菜(しののめ ゆきな)
学力    89(A)
身体能力  76(B+)
起点思考力 81(A-)
社会貢献性 72(B)
総合力   80(A-)
??????


585 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:42:29.98 ID:YgBFoyleO

 確かに『社会貢献性』が他の項目と比べて少し弱かったと思う。それでも学年の平均55をずっと上回る値だけどね。

「ただ、こうして春宮様も参加されていると追いつこうにも追いつけませんね。引き離されないだけマシだと考えましょうか」

「あ、なんかごめんなさい」

「謝ることではありません。来年は生徒会に所属することも視野に入れておくだけです。その頃にはきちんとOAAの評価も出来ていると思いますし」

「きちんと、って?」

「聞いていませんか? 1年生の評価の約半分程度は中学校卒業時の成績を反映していると。まだ学校側も測れていない部分があるのでしょうね」

 なるほど。それは聞いていなかった。
 聞かないと教えてくれない、というのもこの学校らしい。知らないは一生の恥とも言うし、学校独自のルールについて疑問に思ったことがあれば聞くようにした方がいいかもしれない。
 そんなことを話しながら手元の作業を進めて行く。
 何の工夫も要らない草むしりのため、みるみると校庭から雑草が消えて行く。野球部とサッカー部の全員参加効果は絶大だった。

「この調子なら早めに終わりそうですね」

「そうだね。あ、東雲さん。もしよかったら、この後一緒にケヤキモールに行かない? 用事があるならまた今度でも構わないんだけど」

「シャワーを浴びた後でよろしければ、ぜひご一緒させて下さい。寮に戻って……いえ、それだと……」

「水泳部のシャワーなら使えると思うよ」

「それは助かります。どうにも暑いのは苦手で」

 見た感じ、汗をかいているようには見えないけれど、ジャージの下はどうか分からない。
 実際、わたしも長袖の下はやや蒸されて気分が良いとは言えない。日焼けを気にせず半袖で挑めたら良かったんだけど、なかなか色々な事情で難しい。

「急いでやっちゃおうか」

「はい。春宮様もご無理をなされぬよう」

 約束を取り付けている間にも他の生徒の作業ペースは右肩上がりで、ほとんどが片付いてしまっている。ほんのあと5分くらいで終了の合図がかかると思う。
 よし、もう少しだけ頑張ろうっ。
586 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:43:14.35 ID:YgBFoyleO

◇◇◇

 ミールクーポン1500円分を貰って、わたしと東雲さんは競技プール場の方へと向かう。
 水泳部にもクラスメイトの宮野さんをはじめ、知り合いが多い。部長の麻倉先輩とは結構気兼ねなく話せる関係まで仲良くなれた。

「??????はい、ではお借りします」

 代わりに今度の部活動に臨時で参加することになってしまったけれど、それはわたしにとっても望むところ。喜んで快諾をさせていただき、更衣室とプール場の間のシャワー室へ。
 備え付けのシャンプーやトリートメント、ボディーソープ、清潔なタオルが置いてあり、同時に8人が利用できる親切設計。
 また、更衣室に戻れば化粧水や乳液まで置いてあるのだから嬉しい。もちろん個人的なお気に入りの商品は持ち込むしかない。

「……とても品のある良い香りがします」

「ん、あぁ、これかな? ヘアオイル。少しだけ持ち歩くようにしてるんだ」

 以前、宮野さんに教えて貰ったシトラスのヘアオイルを出しているメーカーが夏限定として売り出したローズのオイル。試しに買ってみて気に入り、普段から少量を持ち歩くようにしていることが功を奏した。
587 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:43:47.70 ID:YgBFoyleO

「もしよかったら使ってみる?」

「…………わたくしは、そういうのは……」

 日頃、常に余裕を感じさせる表情を絶やさない東雲さんだけれど、この瞬間だけは伏し目がちに暗い表情を見せる。
 ヘアオイル自体が嫌いなのか、手に取ったことがないモノへの抵抗感か。
 ライバルという関係であっても、彼女とは仲良くしたいと考えている。そこに損益は存在せず、ただひたすらに彼女とは学生として、そして人間として成長し合える何かがあると直感で感じ取れる。

「嫌い?」

「き、嫌いでは……ないんですけれど」

「じゃあ付けてみようよ。今も綺麗な髪だけど、もっと綺麗になると思うから」

 わたしは東雲さんの後ろに立ち、ヘアオイルを少々ずつ手に取って長い黒髪に馴染ませていく。
 普段使いしている洗髪剤の香りとローズの相性は悪くなさそう。きっと喧嘩しないで良くまとまってくれるはず。
 一通り馴染ませた後、僭越ながらドライヤーで髪をしっかりと乾かしていく。ローズの香りが心地良い。東雲さんもリラックスしてくれているようで何より。
 10分近くかけて乾かし、ドライヤーを置く。
588 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:44:19.22 ID:YgBFoyleO

「あ、ありがとうございます。良い香りがして、なんだか艶もある気もしますし、とても嬉しいです」

「うん、よかった。髪とか結んだりしない?」

「このままか、まとめたりする程度ですね。あまり編み込んだりするのは、試してみたことがなく……」

「ほんのワンポイントだけでも三つ編みにしてみるとかね。この辺りとか」

 左頬付近の髪を少量だけ手に取り、軽く編み込みをする。このまま下までやって、あとはリボンなどで留めれば華が出る。
 確か、夏帆先輩から戴いたのが鞄にあったような。貰い物なので譲ることは出来ないけれど、試してみる分には利用できる。

「ちょっと待ってて」

 更衣室のロッカーまで戻り、鞄から白いリボンを取って東雲さんのもとへ。じっと座って待っててくれた彼女の髪を改めて編んでいく。リボンで結ぶと、予想通り可憐な少女が鏡に映った。

「他にもアレンジは色々あるけどね。東雲さんの髪なら色々と試せると思うよ」

「そ、そうですか。……今度、試してみますね。ええと、これはどうしたら」

「解散する頃に返して貰えればいいよ。せっかくならこのまま外に行こうよ」

「春宮様が、そう仰るのなら……」

 照れている様子は初めて見た。
 申し訳ないけれど、あんな表情は出来ない人だと心のどこかで思い込んでいたため驚く。
 ただ驚いてばかりではいられない。東雲さんより髪が短い分、一足早くに髪を乾かし始めていたけれど、それも途中だった。かなり時間が経ってしまったけどきちんとやっておこう。

589 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:44:48.92 ID:YgBFoyleO

◇◇◇

 ケヤキモールへと移動した。
 ジャージや体操着はクリーニングに出し、わたし達は登校時の制服姿で飲食店を目指す。
 時刻は13時に迫り、やや混んでいるけれどきっと良いお店は見つかる。

「何か食べたいものはある?」

「春宮様にお任せ致します。好き嫌い、アレルギーはございません」

 さっきまでの照れた表情は何処へ。
 普段通りの余裕のある笑みを浮かべたライバルの姿。その方が東雲さんらしくはあるけれど。
 ただ、それでも髪のリボンと匂いは嬉しそうなのが滲み出ている。

「じゃあ和食で。結構空いてそうだったし」

「承知しました」

 侍女のように半歩後ろを着いてくる彼女に隣を歩けとは言い出せないまま目的地へ。やはり空席が目立ち、すぐに奥の方の席へ案内される。
 一息ついた後、ミールクーポン1500円分を堪能できるように食後のぜんざいまでを注文して待つ。


【安価です。
 1.「普段はお化粧とかしないの?」
 2.「雨宮さんのことだけどさ」
 3.「休日って何をしているの」
 下1でお願いします。】
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/26(金) 17:46:54.11 ID:BHJei12XO
3
591 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:48:12.89 ID:BuUp22UaO
>>590
 3:「休日って何をしているの」
 最近更新できず申し訳ありません。】

 ふと思う。
 放課後や休日に東雲さんは何をしているのか、と。
 ほぼ毎日のようにケヤキモールへ立ち寄っているけれど、本当に東雲さんの姿を見かけたことがない。1度目はクイズ大会にて、2度目は望月くんとの約束に現れた時に話したくらい。
 何をしていても彼女の自由だけれど、とにかく気になる。ここは思い切って聞いてみよう。

「東雲さんって、休日とか何をしているのか聞いてもいい?」

「わたくしの休日ですか? 寮の部屋もしくは学校の図書室で過ごすことが多いです」

「クラスメイトの人と遊んだりは?」

「一度もありません。……あぁ 先月のクイズ大会は別です。わたくしが我が儘を言って、神宮様にはお越し頂きました」

 ということは、基本的にはずっと一人ということ。
 一人で過ごすことを否定するつもりはないけれど、そこまで徹底する根本的な意志が気になる。きっと誘われることも多いはずなのに。
 ここは……。
592 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:48:51.03 ID:BuUp22UaO

「東雲さん、そろそろ『様』付けはやめない?」

「大変恐縮ですが、それは万に一つもありえません。わたくしが何方かと親密になることはないでしょう。兄様は例外ですが」

「そ、そっか。うーん。わたしは東雲さんともっと仲良くなりたいんだけどなぁ」

 紛れもない本音を伝える。
 ただ彼女の意志は堅いようなので……おや?

「……春宮様が、ですか」

 少し気まずそうに目を逸らす東雲さん。
 露骨な拒否反応、あるいは涼しい顔で「春宮様といえど、例外なく親密な関係になることはありえません」なんて言われるかもと思っていたのに。
 これはもう少し押し込めばいけるのか……?

「うん、わたしが。この学校の仕組み上、とても親密というのは難しいかもしれないけれど、放課後とか休日にこうやって遊びに行く位の友達になれたらなって」

「……」

 東雲さんと目が合う。
 沈黙ではあるけれど、目を見て分かることはある。
 弱々しい目。何かに怯えるような、臆病という2文字を訴えかける目をしていた。ちょっと触れてしまえば壊れてしまいそうな脆弱性すら垣間見える。
 少し、無理をさせすぎたかもしれない。東雲さん本人が望まないのであれば、わたしたちの関係は同級生でライバル程度に留めておくべきなのだと分かる。
593 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:49:19.76 ID:BuUp22UaO

「ところで話は変わ────」

「……それは、はい。お誘いいただければ」

「…………いいの? 無理してない?」

「人間関係の構築も、わたくしがこの学校に進学を決めた理由の一つです。春宮様にそう言っていただける内は、ぜひお誘いいただきたく存じます」

 まだ揺らいでいるようにも見えるけれど、先ほどまでの弱々しい目の中には前を向こうという強い意志が感じられた。言葉通り、人間関係の構築には彼女自身思うところがあったのかもしれない。

「うん、じゃあ是非。わたしは生徒会の業務があるから平日の放課後は少し難しいかもしれないけれど、お昼休みとか休日にお話できたら嬉しいかな」

「はい。24時間365日、携帯を握りしめてお待ちしております」

 うーん、重たい。
 『友達』という距離感の認識に齟齬があるのかな。

「四六時中は東雲さんも大変じゃない? 気付いたときだけで大丈夫だから。1時間くらいの未読ならわたしも気にならないし」

 本当はすぐにでも返事が欲しいと思ってしまう本心は隠しておく。誰かにメッセージを送った後、少しソワソワしてしまう気持ちは誰にでもあると思いたい。
594 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:49:48.45 ID:BuUp22UaO

「それでは春宮様に失礼です。親しき仲にも礼儀あり、と教官は仰っていました」

「そんなことないよっ? もっとフラットというか気兼ねない関係でもいいんじゃないかな」

「……そこまで仰るのでしたら。ただ、必ず1時間に1度は確認させていただきます。早朝でも深夜でも」

「いや、まず深夜とか早朝に連絡することはないと思う。えっと、朝7時から夜10時まで。その間だけにしよう」

「はい、承知いたしました」

 頷く東雲さん。
 なんだか、用が無くても毎日お話くらいはしないといけない関係性まで発展してしまったような気がする。
 付き合い始めたら毎日連絡を取りたいタイプなのかもしれない。わたしも若干その気があるため、それを咎めることは出来ない。


595 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:51:58.39 ID:BuUp22UaO

◇◇◇

 こうして半ば強制的に参加させられたボランティア活動だったけれど、思いがけない関係性を構築することが出来た。
 東雲さんと仲良くなれるのは良いこと。帰りにお揃いのリボンを買ったことで更にその関係は強固になったと思う。

「………」

 その日の夜10時前。寝る支度を済ませてベッドの上でクラスメイトとメッセージのやり取りをしながら、改めて『東雲雪菜』という生徒のことを考える。
 学校側が生徒に与える正当な評価システムOAAによると、そこには優等生そのものの成績が表れている。

----------
1-A 東雲 雪菜(しののめ ゆきな)
学力    89(A)
身体能力  76(B+)
起点思考力 81(A-)
社会貢献性 72(B)
総合力   80(A-)
----------

 全体的にわたしの方が点数だったりランクが上という事実はひとまず置いておくとして、彼女が文武両道で品行方正という学校側が求める学生のイメージを体現している姿はきっと教師陣も一目置いているところだと思う。
 誰に対しても絶対的な隔壁を置いているところは玉に瑕だけれど、それが実害に及んでいるわけではない。先の特別試験でも言葉数は多かった方だし。
596 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:52:33.17 ID:BuUp22UaO
 そんな東雲さんは、正に人との距離感を掴むのを不得手としているらしい。と言っても、特別クラスで浮いているという話を聞いたこともない。確かな信頼を得ながら、クラスメイトと友人の間に引かれた一本線を越えないようにしていると見受けられる。
 そしてそれは、故意というよりは彼女自身が自然と作り出した偶発的な隔壁であることが今日わかった。
 友人との接し方が分からない彼女なりの処世術なのだと。
 外見や言葉遣い、立ち振る舞いに至るまでいかにも深窓の令嬢感が出ているし、もしかしたら本当に良いところの生まれなのかもしれない。

「……そういえば」

 気になっていたことを思い出す。
 彼女が口にした『教官』という単語。
 教官……ねぇ。小学校や中学校の先生か、塾の先生か、その他の習い事の先生……あるいは、家庭教師のような方をそう呼んでいるのか。
 その姿は靄に包まれて見えない。
 特別気になるという訳でもないけれど、少し言い方が気になっただけ。今時、教官なんてそうそう聞くような単語ではないから。

597 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:53:32.95 ID:BuUp22UaO

「ん」

 と、そんなことを考えていると携帯が震える。
 望月くんからのチャットだった。
 内容は、

『今日は妹と遊んでくれたらしいね。
 ありがとう。
 話して分かったと思うけど、彼女はあんなかんじなんだ。
 もしよければ今後も仲良くしてくれると嬉しい。
 その代わりと言ってはなんだけど、君の知りたいことを1つだけ教えておく。』

 お礼の連絡だった。
 そして程なくして続けて彼からチャットが届く。

『S01T004651』

 どこかで見たようなアルファベットと数字。
 どこで見たっけな……。
 この組み合わせ、文字数はほぼ毎日見ている気もするんだけど……思い出せない。
 それに、わたしの知りたいことって?
 前の特別試験の『王様』の法則性も未だに知れていないまま。ただ、コレはまた別な気がする。
 ひとまず今晩は、望月くんと東雲さんの正体に迫る文字列かもと暗記しておくに留める。
598 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:54:55.59 ID:BuUp22UaO

【安価です。自由行動
 1.1人で過ごす
 2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と会う)
 3.人と会う
  1. 雨宮綾香(クラスメイト 白石詩波という芸能人 安価次第で音楽センスのステータスアップ)
  2. 宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
  3. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
  4. 望月弘人(ちょっと謎なクラスメイト)
  5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒 生徒会役員)
  6.東雲雪菜(Aクラスの女子生徒)
  7. 花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
  8. 如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
  9.四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
  10.佐倉新汰(信頼のできる2年生の男子生徒)
 下1でお願いします。】
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/30(火) 21:16:41.85 ID:yGR7yPUjo
2
600 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 08:36:43.65 ID:B7nbQdOqO
>>599
 2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と会う)】

 生徒会主催の企画が『クイズ大会』として方向性の承認を得られたと報せを受けた日の生徒会業務終了後。
 わたしはケヤキモールに来ていた。
 時刻はもう19時を回っているけれど、この時間帯であってもモール内は生徒で溢れかえっている。
 そういえば、本格的な夏に向けてカフェでは新作のドリンクが出たとか。やけにあちら側に人が見えるのはその効果かもしれない。

「さて」

 立ち寄った明確な目的は、小説と食料品の購入。
 その1つ、小説の購入は先ほど済ませた。そのためあとは食料品売り場へと行くだけなのだが……。


【コンマ判定
 1・7:花菱乙葉・四条夏帆(生徒会)
 2・6:佐倉新汰(生徒会)
 3・9:一色楓・宮野真依(クラスメイト)
 4・8:化野伊吹(2-Aの要注意人物…?)
 5:「あ、あの、春宮さん」 突然声を掛けられる
 0:望月弘人・早見有紗(クラスメイト
 ゾロ目:笹原真中(3-A 担任教師)
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 2桁ゾロ目優先です。】
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/01(水) 09:08:15.06 ID:UODfn2/h0
602 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:05:56.93 ID:GSnRKpMv0
>>601
 6:佐倉新汰(生徒会)】

 途中、わたしは方向転換をする。
 さっきの通路を真っ直ぐ進んでいれば食料品売り場だったけれど、右に曲がったことで雑貨屋が並ぶ一帯へ。
 風鈴や扇子、金魚や向日葵の箸置きなど季節感のある小物を視界に入れながら、手頃な曲がり角を見つける。よしよし、あそこなら人気も少ないし、あらゆる面で都合が良い。お店の人にはやや迷惑かもしれないけれど。
 歩調を一切変えることなく、予定に沿って曲がり、その場で振り返って5秒ほど待つ。すると、後ろを追ってきていた人物と鉢合わせをする。

「っ、と」

「わっ、せ、先輩っ? すみません、危ないですね、この曲がり角は」

「いや、俺の不注意だ。通路も広いし、もう少し大きく回るべきだった。悪いな、天音」

「いえ、先輩が謝るようなことではありませんよ」

 目の前に現れたのは、生徒会の副会長を務める2年Bクラスの佐倉新汰先輩。
 好青年、という3文字がこれほど似合う人は居ないだろうなぁというのがわたしの評価。もちろん第三者的な視点の評価、OAAにおいても3学年を通してもトップクラスに総合点が高いのだから疑う余地は無い。
603 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:06:28.15 ID:GSnRKpMv0
 そんな先輩がわたしを追ってきていたことは本屋を出て少ししてから気が付いていた。流石に数多くの生徒で賑わうケヤキモールの中で誰か特定するのには骨が折れたけれど、近頃の生徒会における先輩の動向を思い出せば納得がいった。
 このタイミングで接触してきたか、なんて。

「この先にご用ですか?」

「あぁ、この先に……いや、違うな。天音のことだから、全部計算尽くか? 俺が追っていることも気付いていたんだろう。思えば、何度も携帯を取り出すのも露骨すぎた」

「む、そうですか? 携帯のカメラで前髪を直す素振りをして背中の方を確認するなんて、誰でもやっていることだと思っていたのですが」

「お前なぁ……。気付いていたなら立ち止まれよ」

「目立つところで立ち止まっても良かった、と?」

「そういう話じゃない。まぁいい、お前はそれくらい好戦的な方が良い」

 好戦的……というより、生意気な後輩?
 いくら同じ生徒会に属していて距離が縮まっているからといって、少しやり過ぎたかもしれない。
604 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:06:56.65 ID:GSnRKpMv0
 胸の内で反省をして、本題を促す。

「わたしに何かご用ですか? 近頃、先輩がわたしの方をチラチラと見ていることと何か関係があるのでしょうか」

「気付いてたなら言えよ。でも生徒会だと乙葉先輩にドヤされるか。言わなくて正解だ、助かった」

「乙葉先輩も気付いていましたけどね。セクハラを受けてるなら相談して、とも言ってくれました」

「ぐ……。ほんとあの人は……」

 こめかみに手を当てて「はぁ」と溜め息を吐く先輩。いけない、本当に意地悪をし過ぎている。
 今度こそ本題へ。明日も学校だし。

「ここじゃあ人通りが全く無いわけじゃない。夜はまだか? よければ一緒にどうだ」

「ありがとうございます。ぜひ、御相伴に預からせて下さい」

「よし、じゃあ行くか」

 先輩の隣を並んで歩く。
 思えば、こうして男の人と並んで歩くのは……あぁ、ほぼ毎日、神宮くんと生徒会室まで行ってるっけ。それを除けば、初めてのような気がする。
 先輩は目測で180cmくらいはあるし、並ぶと私の背の低さが際立つ。どうにかして背を伸ばしたいところだけれど、高校生になってしまった今ではそれも難しい。

「何がいい、奢るぞ」

「今日はお魚の気分です! お刺身、煮付け、フライもいいですね」

「じゃああそこにするか」

 先輩には思い当たるお店があったようで、迷いなくお店へと向かう足が進む。
 道中、学校に慣れたか、とか、生徒会に慣れたか、とかそんなことを話した。他の人に聞かれても困らないような他愛のない雑談を。
605 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:07:34.76 ID:GSnRKpMv0
 そうこうしていると高そうなお店に着く。
 店構えからして1人あたり4000ポイントはしそう。既に入っている客層的にも、あまり学生向けではないかもしれない。ほとんどがこの敷地内で働く大人たちだった。

「よくいらっしゃるんですか?」

「あまり聞かれたくない話をする時とかな。見ての通り、学生は皆無だ。大人に聞かれる分には構わない」

 確かに一介の高校生にディナーで4000円相当はお小遣いの日ーーーーーーつまり、この学校においては毎月1日のポイント支給日のような特別な日でなければ難しい。
 わたしも覚えておくことにしよう。このお店は、今後誰かと内緒の話をするのにはちょうど良い。

「遠慮するな、好きなのを頼め」

「では、お言葉に甘えて」

 と言っても、値段の書かれたメニュー表を見てわたしの食欲は削がれている。1人あたり6000ポイントは下らない。日本酒を嗜む大人はそれ以上か。
 本当に大人向けのお店なんだなぁと思いながら、可能な限り安めでシェアできる料理を挙げていく。
 注文を終えると、いよいよ本題に入るらしい。

「まぁ、なんだ。駆け引きとか見栄は苦手だからな。単刀直入に聞きたい。今度の試験、お前は1位を取りに行くのか?」

 今度の試験。
 それは、先日聞かされた7月下旬の無人島サバイバルの試験のこと。
 期間は7日間。無人島で「ここへ行け」という指示に従う他、学科テストやビーチフラッグなどで得点を稼いで順位付けをするといった内容。
606 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:08:14.20 ID:GSnRKpMv0
 確か、1位を取れば300クラスポイントと200万プライベートポイントだったか。非常に魅力的で、喉から手が出るほど欲しいと感じる生徒も多いはず。

「運動部との対決、中間テスト、そしてOAAの評価を見ればお前が優勝候補だってことは誰にでも分かる。もし本気で1位を取りに行こうとするのであれば……」

「止めますか? 先輩のクラスが化野先輩の居るAクラスに勝つために」

「いや、止めない。むしろ1位を取って欲しいと思っている。あいつのクラスに1位を取らせたら、それこそどうしようもなくなる」

 化野先輩が率いる2年Aクラスと新汰先輩が率いる2年Bクラスのポイント差は121ポイントだったはず。次の試験でどちらかが1位を取れば、その差は逆転するか大きく引き離されるか。
 もしBクラスが勝てば逆転となるけれど、その筋を潰して欲しいと先輩は言う。

「で、どうなんだ実際のところ。前に乙葉先輩が聞いてきただろ。もし無人島生活をするとして、上手く過ごしていけるかどうか」

 5月30日の生徒会室にて、確かにそう聞かれた。
 あのときは謙虚な姿勢も保ちつつ、やんわりと否定していた気がするけれど、実際は自信満々だった。
 試験の概要が発表された今、それはほとんど確信も同然。きっとわたしなら誰よりも早く目的地まで走れるし、学科テストでもビーチフラッグでも1位を取って、その先の総合優勝を狙えると思う。
 問題は、そのやる気があるかどうか。
 1人で挑んでクラスに貢献するか、誰かと一緒に7日間を過ごしてその人がペナルティを受ける可能性をほぼゼロにするか。
 本当は試験の本告知があってから決めようと思っていたけれど……どうしようかな。

【安価です。次の無人島試験の方針。
 1.1人で優勝を狙いに行く
 2.他の誰かと一緒に試験に挑む

 ここでの選択肢が最終の方針になります。
 1を選んだとき、実際1位を取れるかはコンマ判定にもよりますが、そこそこの確率で1位を取れます。
 下1でお願いします。】
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/01(水) 23:15:43.06 ID:SVW6WxxEO
2
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/17(月) 11:49:26.24 ID:qSTYWtdjO
エタってしまったか…
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