【安価】ようこそ実力主義の教室へ

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474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/21(木) 23:09:13.27 ID:ncSgBFWS0
2
475 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/22(金) 22:20:16.77 ID:/NaFHEJy0
>>474
 2:寮で1人で過ごす(料理の本を読む、自己学習など)】

 特別試験もいよいよ数日と迫った休日。
 わたしは午前中を部屋の掃除に費やし、午後は勉強机に備え付けられた椅子に座って外を眺めて過ごしていた。
 ここから見える景色はいつ見ても変わらない。
 綺麗な校舎と部活棟。あいにく、グラウンドで部活動に励む生徒の姿は校舎が邪魔をして見ることが出来なかった。

「……」

 ダメだ。何かしよう。
 このままでは気が付いたら夕方、夜なんてこともありえる。
 ただ、なにをしたものか……。


【安価です。
 学力:97(超優秀)
 身体能力:99(超優秀)
 直感・洞察力:91(優秀)
 協調性:53(普通)
 成長性:74(高)
 メンタル:86(高)
 料理:39(まぁまぁ?)
 音楽:22(下手)
 所持ポイント:112540
 所持している本:料理

 1.料理の本を読む
 2.その他の本を購入して読む
  1.学力アップ 2000ポイント
  2.身体能力アップ 2500ポイント
  3.直感・洞察力アップ 2000ポイント
  4.音楽センスアップ 1500ポイント
 それぞれ安価で1〜3ポイント上昇します。
 2の場合は「2-1」のようにお願いします。
 下1でお願いします。】
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/22(金) 23:08:28.71 ID:q+DX96t10
1
477 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/24(日) 21:00:41.95 ID:tOhkUR4E0
>>476
 1:料理の本を読む】

 引き出しの中から入学式当日に購入していた料理に関する本を取り出す。
 そういえば序盤の包丁の持ち方講座あたりを読んだきり、その先を読んでいなかった。
 ちょうどいい機会だし、今日はこの本を最後まで読み進めることにしよう。1日を過ごすには物足りないページ数だけど、じっくり読み進めていけば夕方頃までは楽しめそうだ。
 

【コンマ判定
 成長性:74(高) 補正あり
 1・2・3:料理1アップ
 4・5・6:料理2アップ
 7・8・9・0:料理3アップ
 2桁ゾロ目:料理5アップ
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/24(日) 21:18:25.70 ID:+ROC6Tew0
479 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/24(日) 22:46:31.97 ID:tOhkUR4E0
>>478
 0:料理3アップ
 料理39 → 42 】

 5月29日、月曜日の夜。
 わたしはクラスメイトから連絡を貰ってケヤキモール内のカラオケまで来ていた。
 誘い文句は内密に話をしたいとのこと。
 言及はされていなかったけど、おそらく歌うことはないんだと思う。暇を見つけては雨宮さんから音楽のことは教わっていても、まだまだ歌唱力は平均を大きく下回っている自覚はある。
 時刻は21時を回ったところ。明日も学校ということもあって、寮からカラオケまで人とすれ違う機会も少なかった。ただ、23時まで営業しているカラオケは全ての部屋が満室だった。
 わたしは事前にチャットで聞いていた部屋番号を店員さんに話すと、数秒後にはどうぞと案内される。

「……」

 どうか、変なことにはなりませんように。
 心の中でそうやって気休め程度のお祈りをしてから扉を数回ノックする。
 「どうぞ」とは聞こえてこない。というか、聞こえてきたら困る。防音がしっかりされていないと、以前ここを利用したときのわたしのお粗末な歌声が衆人に聞かれていることとなってしまう。
480 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/24(日) 22:47:00.88 ID:tOhkUR4E0
 扉はすぐ、向こうの方から開かれた。

「ごめんね、わざわざ」

「ううん、いいの。でも珍しいね」

「そうかな? あ、何か頼みたいものがあったら注文して。そこのタブレットから出来るから。僕はさっき注文したから大丈夫」

 そう言って、望月くんが腰を下ろしたソファの向かいにわたしも座る。
 彼は数十分は前に来ていたらしく、アイスコーヒーがもう氷の溶け水でかなり薄まっていた。次の飲み物も頼んでいたようなので、わたしはアイスティーを注文してタブレットを閉じる。
 ここは基本的にドリンクバー形式を取っているものの、サービス料を支払えば持ってきて貰うことも出来るらしい。1杯につき100プライベートポイントというのは、少々高額な気もする。

「僕の話はすぐに済む。せっかくだから少し歌っていってもいいけど?」

「明日も学校だから、早めに本題に入ってくれると嬉しいかな」

 そこだけは譲れない、と学校を免罪符にして本題に入ることを促す。
 彼は肩をすくめるような仕草をした後、薄まったコーヒー風味の水をストローで飲み干してから話し始める。
481 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/24(日) 22:47:28.12 ID:tOhkUR4E0

「じゃあ率直に聞くことにする。Cクラスの『王様』を教えて欲しい」

 望月くんが特別試験そのものにあまり興味がないだろうな、とは思っていた。しかしそんな折、彼の属する最後の干支『いのしし組』の通達を明日に控えたこのタイミングで呼ばれたということから、もしやと予想はしていた。
 わたしとしては教えることにそれほど抵抗がある訳ではない。もしかしたらCクラスの『王様』3人の共通点を見つけ出し、他クラスの『王様』を見つけてくれるかもしれない。
 ただ、それは他クラスにCクラスの『王様』がバレるかもしれないという危険も同時に発生する。もし望月くんが他クラスに100万プライベートポイントで買収されていた場合など、可能性はわずかに存在している。

「ええっと、素直に聞いてくれたから、わたしも素直に訊かせて。信用してもいいの?」

「そこは理由を尋ねるところじゃないかな。ただ、その質問に答えるとすれば、信用してくれていい。僕の『いのしし組』の勝利は約束しよう」

「Cクラスの『王様』がいるグループについては勝利の約束は出来ない訳だね」

「そうなるね。ただ、条件次第では確実にCクラスを1つ昇格させることは出来る」

 昇格。
 それはつまり、CクラスからBクラスへと、Aクラスに近付くことを指す。
482 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/24(日) 22:48:02.88 ID:tOhkUR4E0
 5月1日の時点でクラスポイントは拮抗していた。

Bクラス:719ポイント
Cクラス:710ポイント

 日々の生活態度でクラスポイントが減算されることを知らされた今、両クラスで大きく減算されている可能性はほとんど無い。
 差が縮まる、差を引き離すという意味では、先の中間テストの結果が大きく反映される。おそらく全教科の平均点でクラスポイントが上昇されると予想でき、わたしたちCクラスの平均は91点のため、800クラスポイントを越すことになる。
 ただ5月はまだ終わっていない。
 今日、明日、明後日のうちに生活態度が悪ければマイナスとなるし、何よりも特別試験の結果次第では大きくクラスポイントを下げることになる。結果次第ではDクラスまで陥落とはいかないまでも、現在のAクラスやBクラスと大きく引き離される可能性は十分にある。
 そんな中で、彼は条件次第で確実にBクラスまで上げる算段があると言う。

「えっと、まずはその方法から教えて貰える?」

「簡単だよ。投票期日前の投票で誤った『王様』を選択させる。Bクラスの人に投票させれば100ポイントずつ離れていくだろ?」

 さらりと言ったけど、結果4の難易度は高い。


結果4:役職『王様』以外の者が投票期日よりも前に解答を行い不正解だった場合、役職『王様』には50万プライベートポイントを支給し、解答者が所属するクラスのクラスポイント“50”が役職『王様』が所属するクラスのクラスポイントへ移動する。
483 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/24(日) 22:48:34.18 ID:tOhkUR4E0


 投票期日は明後日。投票期日前の投票は明日の19時までとなっている。それまでに他クラスへ偽の『王様』情報を流し、信じ込ませて投票させる。
 どう考えても今からでは間に合う気がしない。

「半日もあれば投票させることは容易い。君には無理でも、僕なら出来る。乗る気になってくれたかな?」

「……うん、そこまでは分かった。あとは条件だね」

 実際、どんな手段を用いて彼が結果4に導くかは教えて貰えそうにない。今のところ半信半疑といった状況だけど、クラスメイトとして信用したいという気持ちと、確信している目を見てしまっては信用する方へ意識が傾いてしまう。
 彼は運ばれてきたアイスコーヒーを飲んでから、ふぅと意を決したように深呼吸をしてから話し始める。

「雨宮さんと遊びにいけるように手を回して欲しい」

「………………………んん?」

 雨宮さん?
 雨宮綾香さんは、Cクラスのクラスメイトで、今は活動を停止している女優『白石詩波』その人で、今回の特別試験では望月くんと同じ『いのしし組』でもある。
 と、そこまで振り返って、1つもしやと頭の隅に仮定が生まれる。
 目の前の望月くんは、結構ドラマや映画といった創作物が好きらしい。5月1日に彼と2人きりの教室で猿芝居をしたのは記憶に新しいし、たまに聞こえてくる望月くんが他の男の子と話している様子ではドラマや映画に関する話が多かったと思う。
484 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/24(日) 22:49:03.60 ID:tOhkUR4E0
 つまり彼は、雨宮さんが『白石詩波』だと気が付いて─────。

「素人の目は誤魔化せても、僕の目は誤魔化せない」

 そんなドラマの中だけみたいな台詞。
 なんの恥ずかし気もなく発する。

「もちろん僕と彼女2人きりという訳じゃない。それは彼女に対して恐れ多い。僕の大切な人と、春宮さんも同行して貰えればそれでいい」

 これまで望月くんに対しては、実力を秘めている超実力者というイメージがあったけれど、そんなイメージは今晩で瓦解した。
 まぁ確かに、売れっ子女優であり売れっ子アイドルと休日を過ごしてみたいという気持ちは分からなくもないけどね。
 この事について話を詰める前に、一点だけ確認しておかなければならない。わたしがうっかり口を滑らせたという事にはならないように。

「一応だけど、確認させて貰えるかな。雨宮さんのことは─────」

「白石詩波だろう? 入学式の日から気付いてるよ」

 彼がもう知っていることについては確認は取れた。
 ただ厄介なことに、彼が今の時点で疑惑の段階だった場合、わたしが認めてしまった時点でそれは確信に変わってしまう。
 何にしても、雨宮さんの居ない場所でこの交換条件を飲むのは憚られる。

「ごめん、その条件は飲めない」

 わたし1人で解決できることや、敢えて区別するなら一般人とのデートのセッティングをする協力であればわたしも即決できた。ただ雨宮さんの場合はそうもいかず、これ以上はボロが出てしまいそうになるため話を切り上げることにする。
485 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/24(日) 22:49:29.75 ID:tOhkUR4E0

「わかった。君の心境、立場も理解できる。気が早かったお詫びと言ってはなんだけど、今回の試験では『いのしし組』を勝利させた上で、CクラスをBクラスに上げる。その条件で、改めて再考して欲しい」

「うん、それなら─────」

 って、つい話に流されてしまっていたけど、そもそもCクラスの『王様』3人のことを話すとまでは約束していない。かなり教える方に偏ってはいるけどね?
 それに、本当にBクラスに上がることが出来れば、現在のCクラス全体の士気が高まる。より一層、テスト対策などに力を入れてくれるかもしれない。
 危惧するべきは望月くんがBクラスやDクラスに『王様』の情報をリークして当てられてしまうケース……だけど、もし本当に雨宮さんとのお出掛けを望んでいるのであれば一生の亀裂を生み出しかねない。彼が裏切った場合のデメリットはとても大きい。
 つまり信用する、というのが正しい選択か……?


【安価です
 1.正しい『王様』を教える(協力関係)
 2.誤った『王様』を教える(敵対関係)
 3.教えない(やや敵対関係)
 下1でお願いします。】
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/26(火) 20:41:40.77 ID:8Hvwm+jMo
1
487 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/28(木) 12:20:23.08 ID:uYjGEDJrO
>>486
 1:正しい『王様』を教える】

 昔の自分らしく、自分の損益だけで物事を考える。
 どうするのが一番わたし自身の利益になるのか。
 どうなるのが一番わたし自身の損失になるのか。
 散らかっていた思考が消え、結論だけが残る。

「わかった。その条件でいい。ただし雨宮さんの保証は出来ないからね。その場合は、また別途わたしに出来ることを考えてくれると嬉しいかな」

「もちろんそのつもりだよ」

 短く答える望月くん。
 雨宮さんを誘えなかったとき、わたしに振られる対価はどの程度のものか。考えられるものとして、毎月数万のプライベートポイントの要求、生徒会役員という立場を利用した悪事、今後の特別試験で無条件にわたしが彼に協力する、など。そのあたりか
 悪事の片棒を担ぐのだけはしっかり拒否しないといけないとして、これで話はまとまった。

「それじゃあ改めて。まず、春宮さんが僕にCクラスの『王様』を教える。そして僕は、僕の『いのしし組』を勝たせた上で、結果的にCクラスをBクラスに上げる。もしその2つが達成された場合、春宮さんが雨宮さんを誘う。これでいいかな?」

「うん、それでいいよ。ただし、わたしに出来るのは普通に誘うまで。強制は出来ないし、強制もさせない」

 おそらくわたしは数日後、雨宮さんにこの場で起こったことを素直に話すことになる。
 第一声と表情で判断しよう。
 少しでも嫌そうな素振りを見せれば、やんわりと誘えなかった旨を望月くんに伝えることとする。その場合、わたしが振れ幅の想像がつかない損失を被ることになるけど、結果的に良かったとは思えるはず。

「取引成立だ。早速だけど教えて貰おうかな。Cクラスの『王様』を」

 ぐいっと身を寄せてくる望月くん。
 わたしは─────。


【コンマ判定
 直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
 1・2・3・5・7・9・0:「待って」
 4・8:「1人目は─────」
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 2桁がゾロ目の場合は「待って」になります。

 続きは今晩にします。】
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/28(木) 12:37:50.20 ID:qgJs+JAK0
今度こそ
489 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/28(木) 22:30:17.54 ID:Tcd2BeMpO
>>488
 0:「待って」
   待って、とは言いませんでした。
   申し訳ありません。】

 わたしは、テーブルの下から携帯を取り出して画面の方を望月くんに見せつける。

「教える前に、まずはこの事を話さないとだよね」

 携帯の画面上部には『望月弘人』と、下部には『通話を切る』マークが表示されている。
 この画面は他でもない、電話の画面。
 5分ほど前から掛け続けているものの、テーブルに裏返しにして置かれた彼の携帯は着信音を鳴らすことも、バイブレーションで着信を報せることもしていない。
 この事が指し示すのは、彼の携帯の充電が切れているか、通話中のどちらか。更に、このカラオケでは携帯の充電器の貸し出しを無料で行っていることから、自ずと答えは一つになる。

「見せなくていい。わたしが見るから」

 彼はテーブルに置かれた携帯に手を伸ばそうとするが、その前にわたしが静止する。
490 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/28(木) 22:30:45.46 ID:Tcd2BeMpO
 彼と繋がっている人物を探る手間が省けた。このままわたしが彼の携帯を手に取り、画面を見れば誰と通話中であるかはその場の証拠として押さえられる。

「詰めが甘いけど、及第点だ」

 携帯を手に取った瞬間、彼はそう口にした。
 決定的な証拠である携帯の画面を見る、あるいはその言葉の真意を頭で理解する前に─────。

「入ってきていいよ」

 彼の一言の後、間も無くしてカラオケルームの部屋が第三者によって開かれる。

「どうやら機転も効くご様子。これは益々、わたくし共と一緒に来ていただく必要性が高まったのでは?」

 そう問いかける第三者。
 一歩、そして二歩と踏み出して部屋に入ると、扉を閉めた上で彼女は長いスカートの裾を摘んで恭しく挨拶をして見せる。

「こんばんは、春宮さま。兄が失礼をしたようで、妹としてまず謝罪を。大変失礼いたしました。お戯れが過ぎたようですね」

 情報の多さに、わたしの頭は一瞬だけ澱む。
 兄? 妹? そして、この人は─────。
491 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/28(木) 22:31:16.72 ID:Tcd2BeMpO

「……えっと、兄弟なの? 東雲さんと?」

「生憎、血は繋がっていないけどね」

 望月くんが頷いて肯定したことで、段々と理解も及んでいく。
 つまり、1年Cクラスの望月弘人は、1年Aクラスの東雲雪菜と血の繋がっていない兄妹ということ。
 これはこの学校に入って、それこそ雨宮さんの正体を知ったことの次に衝撃を受けた。

「兄様。ここはやはり、他の者から携帯を借り受けるべきだったのでは? こうなることは予想できていたでしょうに」

「それはそれでつまらないだろう?」

 望月くんの隣に腰をかけた東雲さんは兄妹で距離の近い話をし始める。
 話の内容は理解できる。
 わたしが電話を掛けることを予め察して、他の人から携帯を借りて東雲さんと通話中にしておく。その後、わたしは先の流れに沿って望月くんの携帯を取り上げたものの、通話の履歴は一切見つからなかった─────なんてオチの未来もあり得たということらしい。
 詰めが甘いと言われたことにも納得がいく。

「というわけで、こんなかんじだ。これから先、妹共々よろしく頼むよ。で、Cクラスの『王様』の件だけど。聞かせて貰えるかな?」
492 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/28(木) 22:31:42.12 ID:Tcd2BeMpO

 1人はクラスメイトである味方。
 もう1人はAクラスの、いわば敵の存在。
 しかも同じ『ねずみ組』なのだから、これから話すCクラスの『王様』を語れば、それは彼女が期日前投票が出来てしまう。
 やや気が乗らないけれど、どちらにせよ目の前の兄妹は両クラスの『王様』を共有していたと思う。
 全12名の『王様』の内、半数の6名が分かってしまえば、『王様』として選ばれる法則も想像がつくはず。

「今さら断ることも出来ないしね。話すよ」

 と言ったものの、話が違うと断ることは出来たと思う。
 素直に話そうと思ったのは、やはり彼らが兄妹であると知れた情報の方が大きかった。今後の特別試験において、望月くん経由で絶対的なAクラスとの共闘が出来るかもしれない。

「まずは1人目だけど─────」

 わたしは正確なCクラスの『王様』を語る。
 偽の『王様』をでっち上げるという選択肢もあったけど、その場合に敵が多くなり過ぎる。それだけは避けなければならないと理解が及ぶまで一瞬だった。


【コンマ判定
 奇数:その後の夜
 偶数:翌朝
 ゾロ目の場合は再安価の権利を獲得し、今回の安価は下1桁に準じます。
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/28(木) 22:42:33.68 ID:oRA62cm50
494 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/10/29(金) 02:30:32.08 ID:EuStPG2u0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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495 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:00:16.81 ID:5KhXMOCj0
>>493
 8:翌日】

 昨晩の衝撃は今でも鮮明に思い出せる。
 いやぁ……そっかぁ。居るところには居るもんだね。
 そういった第三者の視点でしか語れないところがもどかしいけれど、それ以上もそれ以下でもなく、彼らは血の繋がっていない兄妹という事実だけが確かにある。
 ここでふと考えてみると、この世には兄妹同然に育ってきたから義理の兄妹なんてものから、兄妹の契りを盃で交わすこともあると言う。
 最も、後者は兄妹というより、強面の叔父様が兄弟の盃を交わすイメージの方が強いけれど。
 結局、気になるのは彼らの出自について。
 5月1日の朝にお兄さんの方から余計な詮索はするなと釘刺されていても、気になってしまう。あの2人はどういった経緯で兄妹に至ったのか。
 と、そんなことを考えながら校門を通り過ぎたところで、目の前に聳え立つ巨大な校舎の目立つところに設置されている時計が目に入る。

「……あ」

 短針が8を、長針は12を指している。
 5月30日の朝8時。
 1年生の間でのみ実施されている特別試験の通達最終日。干支の最後、『いのしし組』の発表当日。
496 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:00:51.98 ID:5KhXMOCj0
 我らがCクラスからは雨宮さんと、話題に尽きない望月くんが該当する。
 今ごろ通達のメールが届いた頃だろうか。
 いずれにしても、わたしが他グループへ関与をしない(出来ない)と心に決めたことは記憶に新しい。
 立ち止まって考えていても仕方がない。このまま教室へ─────その時だった。
 鞄を伝って手が振動を感知する。歩いていたら気付かなかった程度の振動。他でもない、携帯がメッセージを報せてくれている。
 このタイミングであること、周囲に生徒の影が少ないことから、わたしは少し逸れた場所で携帯を取り出して通知を確認する。
 送り主は学校からだった。

『いのしし組の試験が終了しました。
 いのしし組の方は以後試験へ参加する必要はありません。
 他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください。
 なお、6時間目の学級活動の時間は教室で自習となります。』

 目を疑う内容だった。
 『いのしし組』の特別試験は、通達より1分も経たずに強制的に幕を閉じた。
 終わらせたのは、他でもない昨晩に勝利宣言をした望月くんを除いて他に居ないと思う。
497 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:01:18.75 ID:5KhXMOCj0

◇◇◇

 教室に到着すると、望月くんは自席で文庫本のページを捲っていた。
 他に生徒の姿は見られず、今日も彼は一番乗りのようだ。

「おはよう。望月くん」

「おはよう、春宮さん。昨晩はありがとう。おかげで余計なリスクを取らずに試験を終えることができた」

 やっぱり彼だったらしい。
 通達のタイミングとほぼ同時に期日前投票を終わらせてしまうなんて……。一緒の組になった人たちは、たった一度の会話の機会も得られずに試験が終了してしまったのだから不完全燃焼だと思う。
 ……あ、もしかしてリスクってそういうこと?

「君としても、雨宮さんが話さなければならない機会は潰しておきたいだろう? 話すということは、その分だけ彼女の正体がバレることに繋がるからね」

「寛大なご配慮ありがとう」

 ファンとして、なのか。
 その殊勝な意気込みは賞賛に値する。
 なまじわたしがこの試験をほぼ放棄しているだけに、とても立派なように思えてしまう。

「この試験の結果は決まった。安心していい、僕たちの完全勝利だ」

 僕たち。
 おそらく東雲さんの居るAクラスも含まれているのだろう。
 少なくともわたしたちCクラスが大きくクラスポイントを削がれる、という事象を避けられただけ良しとするべきか。
 いや、まだ結果も出ていないから分からないけどね。もしかしたら『王様』の法則を読み違えて大敗北という結果もあり得る。
 改めて文庫本へ視線を落とした彼を他所に、わたしは自席に着いた。
498 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:01:54.31 ID:5KhXMOCj0

◇◇◇

「天音、お前も一枚噛んでるのか?」

 6時間目の視聴覚室。
 入室してまず第一声が奥の方の席から浴びせられる。
 一応まだ休み時間のため議論を行う義務はないけれど、彼を放っておくとややこしいことになるため答えておくことにした。

「わたしは知らないよ」

「……」

 訝しげな視線を向けられながらも、わたしはここ2週間近く通い続けている視聴覚室の中でもお決まりになった席に着く。
 結局、こうして6時間目を迎えられたのは、わたしたち『ねずみ組』と他5組の合計6組。
 残りの組については各授業と授業の間の休み時間に今朝の『いのしし組』同様に通達があった。内容は寸分違わず、試験が終了した報せ。
 おそらくAクラスとCクラスの『王様』がそれぞれ所属する組が残ったんだと思う。現に、Cクラスの『王様』が所属する組はまだ試験が終わっていない。

「どうやらわたくし達が最後のようですね」

 昨晩ぶりに東雲さんを視認する。
499 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:02:22.89 ID:5KhXMOCj0
 相変わらずの毅然とした表情。多少の誇らしい表情を浮かべていてもおかしくないと思ったけれど、そういうところは流石だと思った。

「東雲。お前がやったのか?」

「さぁ。なんのことでしょう」

 涼しい声色で答える東雲さんに、辻堂くんは何を思うのか。
 いずれにしても立て続けに発生した期日前投票は、どこかのクラスが集中的に行っていると想像がついているはず。そして試験が終わっていないのは残り6クラスのため、どこかのクラスが手を取り合っていることまで分かっているかもしれない。
500 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 22:03:00.39 ID:5KhXMOCj0

◇◇◇

 6時間目の開始を告げるチャイムが鳴り響く。
 そして6時間目の終了を告げるチャイムもまた、きっちり50分後に鳴り響いた。
 本日『ねずみ組』で行われた議論は以前と変わらずトランプゲームを経て、ジェンガへと移行する。ジェンガでは悔しくもわたしが負けて2度目の『一般人』告白をして幕を下ろす。
 12日間に渡って行われたゲームでは、無事にCクラスの『王様』を隠し通すことができた。唯一にして一番の難所を乗り越えられ、わたしは内心でホッとする。

「名残惜しくはありますが、これで。また特別試験でご一緒になった時は、よろしくお願い致します」

 東雲さんの退室に倣い、続々と視聴覚室を出て行く『ねずみ組』の面々。最後まで窓の外を向き続ける辻堂くんが気になったけれど、今回の試験はこれまでだと思う。
 立役者はともかく、AクラスとCクラスの2人勝ち。
 クラスポイントもプライベートポイントも大きく加算されて万々歳。そしてわたしには一つミッションが課せられることになる。せっかくなら雨宮さんから良い返事を貰えると良いんだけどね。


【コンマ判定
 奇数:夕方(生徒会室)
 偶数:夜(自室)
 0:夜(外)
 ゾロ目:夜(学校)
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/29(金) 22:08:55.35 ID:vZIzh2Sq0
502 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 23:29:33.20 ID:5KhXMOCj0
>>501
 5:夕方(生徒会室)】

「天音ちゃんはどう?」

「そうですね……」

 無人島にひとつだけ持ち込めるとしたら何を持っていくかという話題で、生徒会室は盛り上がっていた。
 サバイバルナイフ、浄水器、釣り竿、マッチ、虫眼鏡と様々なモノが挙がった末に、わたしに振られる。
 無人島に持ち込めるとしたら…。
 考えたことがあるようで無かった。
 服は着て行くモノだから当然として、先に挙がったサバイバルナイフやマッチは必須というレベルで重宝しそう。
 ……でも、強いて言うなら、やっぱり。

「日焼け止めですかね」

「逆に一周半まわって面白い! そうだよね、日焼け止めは必要だよねー。特に夏だと陽射しが気になるもんね」

 乙葉先輩や夏帆先輩といった女性陣が頷く中、男性陣は「そうかぁ?」といった表情。
 本当に無人で鏡さえ存在しない島であれば日焼けしても気にならないのかもしれないけど、肌荒れは直接精神を削ってきそう。遠くない未来に自死を選ぶ道も用意されているほどに。
503 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/29(金) 23:30:04.34 ID:5KhXMOCj0

「というか、どうしてこんな話を?」

「……まぁ、なんとなく? 学生なら一回はこういう話をしておかないとね。定番の話題ってヤツだよ」

「そういうものなんですね」

 挙動不審な乙葉先輩の動向からは色々読み取れる。
 しかし無人島。無人島かぁ。
 特別試験で50万円〜200万円相当のプライベートポイントを配ろうとしている超特権的なこの学校といえど、流石に無人島は所有していない……よね?
 無人島レンタルなんて素敵なビジネスがあるのならいざ知らず。流石に持ち物として保持していることは無いと思う。

「ちなみに乙葉先輩は何を持っていきたいですか? 携帯は無しで。使えませんから」

「それくらい分かるって。私的にはぁ、天音ちゃんかな。食べられる葉っぱとか知ってそうだし、猛暑日でも島とか海を駆け回って食糧探してくれそうだし」

「先輩、わたしのことそんな風に見てたんですね…」

「わ、違う! 違うって! 今のは冗談だから! いや天音ちゃんなら本当に出来そうだけど!」

 実際問題、それが出来るかと言われたら……。


【コンマ判定
 学力:97(超優秀) 補正あり
 身体能力:99(超優秀) 補正あり
 1・3・7:超余裕だと思う
 2・5・9:余裕だと思う
 4・8・0:……なんとか出来ると思う
 6:絶対に無理。無人島とか無理ですから。
 ゾロ目:超超余裕だと思う(島経験あり)
 下1でお願いします。】
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/29(金) 23:43:09.43 ID:PXdBxgr50
ふん
505 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/30(土) 23:07:45.09 ID:sIx2y35x0
>>504
 3:超余裕だと思う】

 うん、出来るとは思っている。
 経験こそ無いものの知識だけは充分にあるし、山や海で動き回り続けられる自信もある。現実は思っているほど甘くはないんだろうけどね。
 それでもわたしの取り柄を活かせることに違いはない。
 ただ、その自信はこの場で高らかに発せるほどではない。ここは無難にこう言っておくことにしよう。

「そんなことないですって」

「またまたぁ」

 それから数分間、無人島に関する話題が続くいた。
 結局、わたしについては「さすがに天音ちゃんといえど無人島は厳しいかぁ」という評価で落ち着く。思った通り無難なところで話が済んだと思う。

「私としては宇宙の方が良いんだけどさぁ」

 さっきまで無人島の話をしていた人が大きく上空の話をし始めたところで、生徒会室の扉がノックされる。
506 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/30(土) 23:08:15.02 ID:sIx2y35x0

「なに? また部費の相談とか? 追い返して来る」

 もはや恒例となった乙葉先輩を誰も止めることはしない。
 本当に追い返した末に、ユキ先輩、夏帆先輩が話をきちんと聞きに行くからだった。各部の部長もそのことを知っての上のようなので、今さら気にする必要はない。

「はいはーい」

 意気込んで扉を開けた乙葉先輩は、

「……おおっと」

 扉の向こうに居た人物を想定していなかったらしく、少し大袈裟に驚いたようにして、その人物を生徒会室へ招き入れる。

「失礼いたします。1年Aクラスの東雲と申します」

 入り口で綺麗にお辞儀をして見せた東雲さんは錦山会長、乙葉先輩、と視線を合わせて行く。
 このことに一番驚いたのは同じクラスの神宮くんだった。

「どうしたの、東雲さん」

「少々、生徒会の皆様にご相談がありまして。神宮さまはお気になさらず、業務を行なっていて下さい」

「お前、クラスメイトに様付けで呼ばれてんの?」

「いえ、これは……!」

 うっちー先輩こと内山先輩が面白そうに茶化している内に、東雲さんは錦山会長の目の前まで迫っていた。
507 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/30(土) 23:08:45.79 ID:sIx2y35x0
 手にはホチキス止めされた数枚の印刷物がある。

「こちらを。企画書になります」

「は、企画書?」

 この学校をより良いものにしていくための嘆願書ではなく、企画書。文字やイラストが綺麗に敷き詰められた一見良さそうな資料に見える。
 ただ、ここは生徒会室であって会議室ではない。
 会長はパラパラと企画書とやらを捲り、

「えーっと。企画書だな、これは。で、なにこれ」

 読んでも分からなかったようで、再度尋ねる。
 気になったのか乙葉先輩やユキ先輩、内山先輩、新汰先輩がその企画書を覗きに行く。

「簡潔に申しますと、6月2週目の日曜日に特別棟の教室を利用したいのです。担任の教師に確認を取り、五万ポイントで貸していただくことについては承認を得ました。しかし条件として生徒会に許可を取らなければならない、と」

「へー、よく出来てるじゃん。良いんじゃない?」

 乙葉先輩を始め、うんうんと頷く先輩方。
 そこまでいくと断然と興味が湧いて来る。

「ありがとうございます。参加するのはわたくしを含めて四名。そうですよね、春宮さま」

「え、あぁ、うん。あの件ね」

 昨晩話した望月くんとの件。
 彼が言っていた同席者とは、薄々予感はしていたけど東雲さんのことだったらしい。確かに大切な人と言っていたからその通りだ。
 それにしても教室を借りて何をするつもりなのだろう。わたしは会長席に近付き、覗き見る。

「わたくし共は教室をお借りして『夏祭り』なるものをやってみたく考えております。もちろん安全には最大限の注意を払うつもりですし、花火は致しません。小さな小さな文化祭とお考えいただければ」

 言っていた通り、企画書には『夏祭り』の出店によくあるようなお店の名前が並んでいる。
 焼きそば、たこ焼き、わたがし、スーパーボールすくい、射的、その他。
508 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/30(土) 23:09:19.47 ID:sIx2y35x0
 とても興味を惹かれるような内容だけど……これを雨宮さんとしたいと言うの?

「そうだな。断るつもりもない。ただし、天音以外に生徒会から一名を同席させろ。それなら俺たちから言うことは何もない」

「えー、いいじゃん。せっかくならみんなで参加しようよ! 暇な人は自由参加ってことでさー」

「申し訳ありませんが、人数が増えすぎると少々不都合があるのです。ご迷惑をおかけしますが、ご理解いただければ幸いです。ただ、一名であれば許容範囲内です」

「だそうだ。残念だったな、乙葉」

「やりたいやりたい! 参加したい!」

「春宮さま、どなたか一名を選んでいただけますか。同席させるということは、あの事を知るということ。充分にご考慮した上で、お決めいただければ」

 今さらまだ雨宮さんのことを誘えていないとは言い出し辛いものの、ひとまずこの場は誰かを選ぶことにしよう。


【安価です。
 まだ全然交流が無い人は省きます。
 それぞれの白石詩波(雨宮春香)についてのイメージです。
 1.錦山暁人「白石詩波? あぁ、乙葉が好きなアイドルだっけ? あ、女優? あんまり興味ねぇな」

 2.花菱乙葉「え、ウタちゃんじゃん。すっご。私、めっちゃファンだよ! 同じ学校だったなんて!」

 3.如月深雪「ん、あれ、白石詩波? 同じ学校だったのか? そうかそうか、なんて言うか、こういうこともあるもんなんだな」

 3.四条夏帆「えぇ!? あの白石詩波っ? すご……なんていうか、恐れ多いですね……」

 4.神宮紫苑「白石詩波……? あの? 同じ学年だったなんて驚きだな…」

 下1でお願いします。
 白石詩波が参加できるかどうかはコンマ判定を今後行います。高確率で参加にするつもりではいます。】
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/31(日) 21:54:13.12 ID:ewVeamiwO
3 四条
510 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:16:40.60 ID:FvWwTJodO
【長く出来ず申し訳ありませんでした。
 再開します。】
511 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:17:21.46 ID:FvWwTJodO
>>509
 3:四条夏帆
 3番2つありましたね。申し訳ありません。】

 すぐに結論は出る。

「夏帆先輩、お願いできますか?」

「あ、私ですか? はい、もちろん構いませんよ」

「ま、妥当なとこだな」

 錦山会長が汲んでくれた通り、夏帆先輩には何と言っても調理の腕がある。もしかしたら絶品の一品を作ってくれるかもしれないという淡い期待と、万が一の防災に備えることが出来そうなところが他の人より優れていた。
 表立って言えない事として、雨宮さんの秘密を守ってくれそうな人として筆頭に挙げられるのもポイント高い。

「えー、ずーるーいー、わたしもわたしもー」

「今回の企画のために購入した製品はしばらく保管予定です。もしご希望がございましたら無料でお貸ししますので、そのときはぜひ生徒会の皆様で」

「ぁ、そう? ふふふ、なら今回はいいかなー」

 乙葉先輩以外の生徒会役員全員が「おぉ」と感嘆を漏らす。東雲さんは早くも乙葉先輩の扱い方を理解したようだった。
512 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:17:58.63 ID:FvWwTJodO

「それでは四条様、当日はよろしくお願い致します。もちろんタダでとは言いません。ここは言い値で1日を譲ってください─────と言いたいところですが、恥を承知で限度額について先にお話させてください」

「いえ、いいですいいです。私は居るだけですから」

「そう仰らずに。来たる日に備え、プライベートポイントを少しでも多く持っておくことは決して無駄ではないでしょう。佐倉様はどう思われますか?」

「ん、俺か?」

 東雲さんが指名したのは2年生の佐倉新汰先輩。
 ここでどうして新汰先輩が? という疑問は一瞬で自己解決に至る。
 プライベートポイントの使い道は、わたしの知らない常軌を逸したカタチで多岐に渡ると考えられる。
 2000万ポイントでクラス移動が良い例。
 試してはいないけれど、もしかしたら筆記試験の点数さえもプライベートポイントで買うことが出来てしまうかもしれないし、1年生と2年生の教室のフロアを交換なんてことも出来てしまうかもしれない。
 夏帆先輩のクラス移動に用いられたポイントの出どころは検討もつかない。しかし今、確実に言えることとして、新汰先輩のクラスは潤沢なプライベートポイントの保有はしていない。
 つまり偶然にも舞い降りたプライベートポイントの入手機会は願ってもない絶好の機会。
 下級生に心配されると言う恥さえ呑み込んでしまえば断る理由はひとつも見つからなかった。
513 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:18:24.23 ID:FvWwTJodO

「ひとつだけ確認させてくれ。どうして俺なんだ?」

「二年生は佐倉様と化野様の両局に分かれて、今もなお牽制し合っていると風の噂で耳にしました。それならば少しでも軍資金が多い方が良いのでは、と考えた次第です。余計なお世話であれば申し訳ありません」

「……なるほど。それは正しいな。悔しいが正しい」

 どうやら東雲さんは夏帆先輩のクラス移動によりポイントが枯渇していることは知らない様子。まぁ、本当に出どころが不明のため、実際枯渇しているのかは分からないけれど。

「気持ちはありがたいが、下級生に心配される程じゃない。夏帆がいいと言うなら受け取るつもりはない」

「承知いたしました。元より無くなる予定のポイントですので、もし当日までにお気持ちが変わるようでしたらご遠慮なくお声掛けください」

 実際、新汰先輩にポイントが必要だったかどうかは表情から読み取ることは出来ない。内心を窺わせないところは流石だと思った。
 それから数言だけ錦山会長と言葉を交わした東雲さんは生徒会室を後にする。最後の最後で視線が合い、「あの件はお願いしますね」と目で訴えられる。
 約束は可能な限り守るつもり。ただし、本当に今回の特別試験で望月くんの属する『いのしし組』の勝利、そして結果的にCクラスがBクラスに上がることが出来れば、の話だけれど。
514 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:18:51.46 ID:FvWwTJodO

◇◇◇

 6月1日の朝6時前。
 わたしはいつもよりほんの少しだけ早く起床する。
 覚醒しきっていない頭が真っ先に命令したことは、学生証端末を手に取って起動することだった。
 氏名、顔写真、学籍番号が表示されていく中、一際大きく目立つように表示される保有ポイント。昨晩と比べてどのくらい増えているかでおおよその特別試験の結果に見当がつく。

『161540ポイント』

 増えたのは69000ポイント。
 1ポイントにつき1円の価値があるため、一介の高校生へのお小遣いとしては充分だとしても。
 先月と比べて2000ポイントほど減っているのはやっぱり特別試験による影響が大きいんだと思う。中間テストで平均91点という好成績を収めても尚、結果としてわたしたちは先月より20クラスポイントを失った。
 ここでようやくわたしはこの学校における特別試験の重要性について理解する。ただ単に勉強が出来る、運動が出来るだけではダメなのだと。
 はたして次の試験では何が求められるのか。
 それさえ予めに分かっていればクラスで結束してその能力の底上げを図れるものだけど、それは今の段階では知り得ないこと。
 幸い、生徒会では特別試験の監督も行うようなので、他学年や全学年で行われる試験を知れるのは大きい。数回かこなしていく内に法則性、あるいはわたしが2年生へ進級したときに有効活用できるかもしれない。
515 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:19:17.73 ID:FvWwTJodO

「よーっし」

 気持ちを切り替える。
 ややマイナスイメージだったマイナス20ポイントの現実を反転させて、20ポイントで済んで良かったと。Cクラスのボロ負けで500クラスポイントを切る可能性だってあり得たかもしれない。
 実のところは望月くんと東雲さんにもう少しだけ便宜を図って貰いたいところだったけど、その分の対価を考えるとこの結果は重畳と言える。
 「上出来、上出来っ」と気持ちを振り切って前向きに朝の支度を行う。部屋を出るには少し早すぎる時間だけど、朝のお散歩をするでも教室で自習するでも時間の使い道はいくらでもある。
516 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:19:55.08 ID:FvWwTJodO

◇◇◇

 午前8時に学校からメールが届く。
 まだ誰も登校していない教室の隅の方、自席でそのメールを開く。
 題名は『特別試験 結果』。
 本文には淡白にそれぞれの組の結果が並んでいる。

????-
子(鼠):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
丑(牛):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
寅(虎):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
卯(兎):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
辰(竜):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
巳(蛇):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
午(馬):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
未(羊):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
申(猿):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
酉(鳥):投票日に誤解答をしたクラス有のため結果2
戌(犬):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3
亥(猪):投票日前に正解をしたクラス有のため結果3

????-

 これはまた、かなり結果が二分化されたと言える。
 結果1〜4まであったゴールの内、実現したのは半数の2つ。結果1と結果4を導き出した組は無かった。
517 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:20:22.84 ID:FvWwTJodO

投票日:5月31日
結果1:投票日に全員の解答先が『王様』であった場合
結果2:投票日に誰か1人でも誤った解答をした場合
結果3:投票日前に『王様』が所属していないクラスの『一般人』が『王様』を解答して正解した場合
結果4:投票日前に『王様』が所属していないクラスの『一般人』が『王様』を解答して誤っていた場合

 端的にまとめるとこんなルールだった。
 結果2もしくは3のどちらかで締め括られるのは分かりやすくて良い。
 『いのしし組』は望月くんが言い当てて、それ以外の結果3となっている5組については東雲さんの手引きでAクラスが言い当てたと考えられる。そして、それ以外の組は無事に投票日を迎えて正解できなかった。ただそれだけのこと。
 そして結果2と3には莫大な報酬も待ち構えている。

結果2:『王様』は200万プライベートポイントを獲得し、誤った人が所属するのクラスから“30”クラスポイントを貰える(クラスポイント移動の重複は無し)
結果3:解答者は50万プライベートポイントを獲得し、『王様』が所属するクラスから“50”クラスポイントを貰える

 プライベートポイントは言わずもがな。特に結果2は200万円分のポイントが一括で手に入ることになる。結果3の50万プライベートポイントでも大層な額。
 しかし今後のクラスの発展を考えるなら、気にするべきはクラスポイントの移動について。
 クラスポイントとは、毎月1日にそのクラスに所属する全員のプライベートポイントに直結する。50クラスポイントはプライベートポイント換算で5000ポイント、1クラス40人のためそれだけで20万プライベートポイントとなる。減らさなければ継続して毎月貰えるため、単純計算で10ヶ月失わなければ200万プライベートポイントまで届く。
518 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:20:56.34 ID:FvWwTJodO
 特に結果2のクラスポイントの移動についても気にしなければならないところだけれど、すべては後の祭り。今さら気にしても仕方がない。
 今回の特別試験を経て、お題目であった『シンキング能力』を培うことが出来たのかは怪しいところ。『王様』の法則性を導き出した望月くんと東雲さんが一番よくシンキングしていたかもしれない。
519 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:21:41.09 ID:FvWwTJodO

◇◇◇

「それではこれより、本日時点の各クラスのポイントを発表します。こちらを」

 どちらかと言えば「ずーん」とした擬音が似合うマイナス思考だったクラスメイトは電子黒板へ注目する。
 伊藤先生は避けるように教壇を降りて、リモコンを数回操作すると各クラスのクラスポイントが発表される。


Aクラス:1391ポイント
Bクラス:540ポイント (Cクラスへ降格)
Cクラス:690ポイント (Bクラスへ昇格)
Dクラス:0ポイント   (マイナス185ポイント


 まず第一に望月くんの公約通り、CクラスはBクラスへの昇格を果たした。よかったよかった。
 で、そんなことよりも。

「なんだよ、1300って……」

「1300っていうか、1400だし……。倍だよね、ウチらの」

 Bクラスに上がれたことを喜ぶ気配は無い。
 誰もがわたし達Bクラスと2倍の差をつけているAクラスへ注目している。今朝の結果通達メールの内容からは汲み取れなかった明確な勝敗の結果がそこには如実に表されている。
520 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:22:18.57 ID:FvWwTJodO
 誰がどう見てもAクラスが大勝したのは明らかだった。
 安堵できる点として、高校生活が始まってまだ2ヶ月目であること。今後の特別試験やテストの点数次第では逆転の余地は幾らでもある。
 悲しむべき、危惧すべきこととして、圧倒的な差に向上心が失われてしまうこと。2倍の差はとてつもなく大きい。単純にAクラスは毎月14万円分のポイントを得ているというのも羨ましいと考えてしまう。

「本日より皆さんはBクラスになります。今後も頑張ってください。それではホームルームを終わります」

 労いの言葉も無しに颯爽と立ち去っていく伊藤先生。
 もしかしたら今後のクラスの方針を立てるための早めに退いてくれたのかもしれない。考えすぎかな?
 クラスのリーダー格である一色くんが率先して教壇に立つと、ざっとクラスを見渡して発言を始める。

「みんな、ひとまずBクラスに上がれたことを喜ぶべきだ。確かにAクラスとはとても大きく引き離されてしまった。だが、まだ3ヶ月目だ。挽回─────いや、巻き返す機会は幾らでもあるだろう」

「だ、だよな? そもそもDから2ヶ月でBまで上がった訳だし……」

「そうだよね! ウチら頑張ったもん!」

 一色くんの言葉に呼応するようにクラスの至るところから声が挙がる。どれも前向きな思考によるもの。非常に良い傾向だった。
521 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/10(水) 23:22:55.41 ID:FvWwTJodO
 しかしそんな中でひとつ。

「とは言うけどさぁ、その確証はあるの? もしかしたら特別試験なんてのはアレ1回きりだったかもしれないよね」

 そう発言したのは秋山さん。
 あまり率先して発言するようなタイプではなかったけど、今回ばかりは何か思うところがあったのかもしれない。

「……確かに、特別な試験は1回きりという線も捨てきれない。Aクラスがテストで点数を落とすということも考えにくい。そうなればポイント差を縮める手段は普段の素行のみ……ということになるね」

 既に次の試験に向けて生徒会は動き出していることをわたしだけが知っている。
 次はもっと頑張ろう! と声高らかに言いたいところだけれど、それは同時に生徒会役員という肩書きが許さない。うっかりでも口を滑らせれば生徒会を退くだけでは済まないかもしれない。
 わたしの方を何人かがチラチラと見てきているだけに心苦しい。

「今は考えても仕方がない。僕たちは頑張った。それで納得するべきだ。どうかな、本来なら中間テスト終わりにやりたかったけど特別試験で延期になっていたお疲れ様会を週末に開くっていうのは」

「おぉ、いいなっ」

「さんせーっ!」

 一色くんの言葉はどんよりとしていたBクラスに良く働いた。
 改めて、今は喜ぶべき。先延ばしになっていたお疲れ様会を開くには絶好の機会だと思う。
 わたしも都合が合えばぜひ参加したいと思う。


【コンマ判定
 奇数:イベント
 偶数:夜(雨宮綾香と約束の件について)
 ゾロ目:「春宮天音はいるか?」
 下1でお願いします。】
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/10(水) 23:43:20.92 ID:SGxOoThr0
523 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 07:35:47.94 ID:5hWlcGYzO
>>522
 2:夜(雨宮綾香と約束の件について)】

 6月1日の夜、雨宮さんを部屋に招き入れる。
 例の件は置いておいて、中間テスト対策から一ヶ月足らずでわたしと雨宮さんの距離はかなり縮まった。今ではこうして週に数回、一緒に夜ご飯を食べる機会も自然と儲けられるほどに。

「あれ、さっき帰ってきたかんじ?」

「ちょっと生徒会の仕事がね。ほら、月初だし」

「へぇー、大変ね。作るの代わろうか?」

「ううん、いいの。また先輩に教えて貰った料理を試したいから」

 本当につい3分ほど前にわたし自身も帰ってきたこともあって着替える暇も無かった。
 わたしの料理スキルアップに向けて付き合って貰っているため、空腹のままお待たせする訳にはいかない。
524 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 07:36:19.83 ID:5hWlcGYzO
 すぐに部屋着に着替えたわたしは夏帆先輩から戴いたエプロンに袖を通して台所に立つ。雨宮さんからの視線が少し気になるけど、調理を開始しよう。

「にしてもさぁ、『いのしし組』はなんか一瞬で終わっちゃったよ。私としては喋る機会が全く無くて助かったんだけどね?」

「あぁ、特別試験のアレね」

 特別試験12日目の『いのしし組』の通達があった日。
 同じく『いのしし組』の望月くんが通達の時刻に合わせて期日前投票を行った結果、誰が『王様』かを話し合う機会すら貰えずに試験が終了したあの件。
 思っていた通り、雨宮さんとしては助かっていたらしい。発言をすれば注目されること間違いなし。眼鏡を掛けていても有名人の風貌は隠し切れる訳ではない。

「ね、春宮さんはそれについて何か知らない? というかCクラスにも『王様』が何人か居たんでしょう? 何百万ってプライベートポイントを貰えて憎たらしいとは言わないけどさ、羨ましいって気持ちはあるよね」

 夕食後にしっかりと話そうと思っていたけど、意外なことに結構早い段階でそれに触れることになった。
 ここで変に誤魔化しても悪印象なだけか……。

【安価です。
 1.素直に特別試験であったこと全てを話す
 2.事情は話さず、6月中旬の休日を空けてもらうように話す
 3.一旦、別の話題に切り替える
 下1でお願いします。】
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/11(木) 15:30:18.45 ID:d6/hW9VWO
1
526 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 23:47:02.44 ID:yneQpvKSO
>>525
 1:素直に特別試験であったこと全てを話す】

 調理が煮込みの段階に入ったところで雨宮さんが寛ぐ居間へ紅茶の入ったマグカップを持って移動する。
 先ほどまでバラエティ番組の音が背中の方から聞こえていたけれど、今はCM中らしい。車のCMには興味が無いらしく、持ち込んでいた雑誌を捲っている。

「で、さっきの話の続きだけど」

「うん。聞かせて聞かせて」

 話を切り出すと雨宮さんは雑誌を閉じて話を聞く態勢に入ってくれた。
 紅茶で一息ついた後で、特別試験の裏で行われていた情報戦擬きのあらましを順を追って説明し始める。

「事態が動き始めたのは11日目の夜。『いのしし組』の通達の前日だね。わたしは望月くんに誘われてケヤキモールのカラオケに行った」

「歌えないのに?」

「そこは関係ないからっ。あそこは監視カメラとか無いからさ、そういう話をするのにちょうど良いみたいだよ」

「そういう話って? 告白されたの?」

「……わざとでしょ」

「ごめんごめん、特別試験の話だよね。その話するって言ってたもんね」
527 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 23:47:41.89 ID:yneQpvKSO

 からかってくる雨宮さんは楽しそうにする。
 それこそカメラを構えれば良い画になりそう。
 ただわたしの私物では携帯のカメラ機能しかない。せっかくならもっと高画質なカメラで記録に残したいところなのに残念。
 気を取り直して話を戻す。

「望月くんには特別試験でキーになる『王様』が誰かを見つける算段がついていたみたいでね。手始めにCクラスの『王様』を教えて欲しいって言ってきた」

「で、教えちゃったんだ」

「大きなポイントも動くからね。ここで何十万、何百万ってポイントを手に入れておくのは有効だと思った。普段の生活的にも、今後の試験対策としても」

「……うん、そうだね。ポイントは持っておいて損はないよね。でも、結局大きく勝ったのってAクラスだよね? 望月くんの算段ってのが間違ってたってコト?」

「ううん、そうでは無いみたい。わたしがCクラスの『王様』を教えたのは2人。望月くんと、Aクラスの東雲さん……って言って、わかる?」

「東雲さん? えっと、えっとぉ……あぁ、あの日本人形みたいな綺麗な子? なんか言葉遣いとか綺麗だよね。何回かすれ違ったことはあるよ。よく印象に残ってる」

「そう、その人。それでね、望月くんとその東雲さんが兄妹らしいの」

「兄妹? 兄妹って、あの? へぇー、そっかぁ。確かに言われてみれば似てるような……気もするね、うん」
528 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 23:48:11.93 ID:yneQpvKSO

 実際のところは血の繋がっていない兄妹らしいけれど、それはわたしの口から話すべきではない。
 ちなみにあの2人は、わたしから見ると似ていない。ただ血の繋がりについて伏せられていれば、きっとわたしも「言われてみれば似てるような」と同じ感想を抱いていたと思う。

「それで望月くんは一つの条件を出して、『いのしし組』では完全勝利を約束してくれた。その他の組については何も取り決めていなかったから、今朝のようなポイント差になったのは当然の結果だね」

「いや、そこ冷静に言うところ? 教えていなければ『いのしし組』も含めてもう少し他クラスとの差が均等になっていたんじゃない?」

「それは……うん。否定は出来ない。ごめん」

 確かに『いのしし組』では完全勝利を収められたけれど、結果的にはAクラス以外がクラスポイントを落とす形になった。無論、わたしたち元Cクラスも含めて。
 ……うん、わたしの所為かもしれない。
 あの2人の関係を知って冷静でなかったのは事実。
 そして、よく思い返してみれば今回の件はわたしにとってメリットが小さかった。『いのしし組』の完全勝利の代償として、クラスポイントの均衡と雨宮さんの件を引き受けているのだから。
 胸の奥にモヤモヤとした感情が滲み出る。
 ただ約束は約束。こればかりは可能な限り果たす努力をしよう。

「『いのしし組』の試験についてだけどね。あの日、8時の通達からすぐに試験終了の連絡が来たでしょ? あれって望月くんが即投票したみたいなの」

「あー、そっか。そこに繋がるワケね。それで私たちだけ話し合いの場が無かったと。嬉しいような残念なような。で、当たってたんだ」

「うん。今朝に正解報酬の50万ポイントが支給されている画像が送られてきたよ」

「ふーん、そっか。ま、良かったんじゃない? 負けもせず勝てもせずってかんじだったけど、Bクラスに上がれたワケだし」

「そうだね、そこは喜ぶべきだと思う。今朝、一色くんが言っていたみたいにね。……それでね、望月くんのことなんだけど」
529 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/11(木) 23:48:43.56 ID:yneQpvKSO

 話が一区切りついたと思っていたためか、雨宮さんは「まだあるんだ」と相槌を打ってから、きちんと聞く態勢に戻ってくれた。

「雨宮さんのこと気付いてるっぽいの。というか、確信を持ってるみたいだった」

「─────そっか、うん。それで?」

「ええと、雨宮さんと一緒に遊びたいって」

「ふぅん。遊ぶ、ねぇ」

 わたしは雨宮さんの表情で即結するつもりだった。
 もし嫌そうな顔をしたら即、望月くんと企画書を持ち込んでくれた東雲さんには悪いけど、この件は断ると。
 しかし実際に彼女の表情を見て、わたしは決めかねていた。
 それは喜怒哀楽のどれにも属さない表情。人の表情から心理を見抜くことについては人一倍の自信があったけれど改めなければならない。あるいは、女優として活躍する彼女が表情を作ることに慣れているのか。
 どちらにせよ、わたしは言葉で尋ねる手段を選ぶ。

「それで、これが企画書……」

「企画?」

 東雲さんから預かった企画書を机の上に出すと、雨宮さんはパラパラとめくり始める。
 たった数秒で目を通した雨宮さんは、


【コンマ判定
 4:なんとも言えない表情をした。(断る)
 それ以外・ゾロ目:口元を釣り上げて微笑んだ。(承諾)
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/12(金) 00:38:17.48 ID:42Hwc8hk0
531 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/12(金) 01:32:32.02 ID:upz9k2xEO
>>530
 8:口元を釣り上げて微笑んだ。(承諾)】

 雨宮さんは、口元を釣り上げて微笑んだ。

「うん、面白そう。私からいいよって伝えればいいの?」

「あ、いいんだ? 一応、断れるよ?」

「ううん、私も夏祭り的なの体験してみたかったからちょうど良い……というか、半年くらい前の雑誌の取材で夏祭りに行ってみたいって答えたことがあってね。多分、それを見てくれたんだと思う。じゃなかったら逆に突拍子もなくて面白い人だって」

 どうして6月中旬という微妙なタイミングで夏祭り?という疑問はようやく解消される。
 雨宮さん自身がそうしたいと言ったことがあるのならそれが正解なんだと思う。
 確かにこの閉鎖された学校では縁日に参加することは出来ない。もしかしたらケヤキモール周辺で屋台を出してくれるかもと期待する程度。ファンとして夢を叶えてあげたいという気持ちが伝わってくる。やや重たいと感じるのはさておき。
532 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/12(金) 01:33:01.04 ID:upz9k2xEO

「これって私と望月くんの2人きり?」

「ううん、雨宮さんと望月くんと東雲さんと、わたしと2年の生徒会の先輩の5人。特別棟の空き教室で屋台を開くに当たって、生徒会の承認とか諸々でね。信用のできる先輩を呼ぶからそこは安心してもいいよ」

「なら安心ね。ちなみに、これはアレよね。『白石詩波』として参加しろってコトよね」

「そう……だと思う。2人とも結構好きみたいだから」

「うん、なら話が早くて助かるわ。どうせいつまでも隠し通せるなんて思ってもいなかったし、私が『白石詩波』を忘れないための練習にもなるしね」

 曰く、今正体がバレるのはダサいらしい。
 正体を晒すだけで校内が騒然とすることは容易に想像がつく。そんな中で赤点候補だったというのが雨宮さんとして恥辱で仕方がないみたい。どうせバレるならせめて欠点が無い学生としてバレたいと。
 芸能活動休止にもあった通り、現在彼女は勉学に励んでいる。おそらくこのままいけば半年後には学年の中でも前3割には入れると思う。バレるならその辺り以降がベストかもしれない。

「じゃあ、わたしから連絡しておくね」

「おっけー、おねがーい」

 手元の携帯で望月くんと東雲さんの両方に例の件で承諾を得られたことを伝える。
 すると両方から返事はすぐに返ってきた。
533 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/12(金) 01:33:38.87 ID:upz9k2xEO
 ただ、その返事の方法が歪だった。

「ん、どうしたの? 予定変更?」

「……ううん、そうじゃなくって」

 わたしはつい数分前とはガラッと一部が変わった学生証端末を雨宮さんに見せる。

『1160900ポイント』

 桁が1つ増えていた。
 50万と50万、合わせて100万プライベートポイントがわたしへと振り込まれる。もちろん振り込み元は例の2人。示し合わせたのか、あるいは偶然か。どちらにせよとてつもなく大きな臨時収入となった。もちろん話を聞いてから返すことを前提としている。

「いいじゃん、貰っておきなよ。私を口説いたってコトでさ」

「そういうわけには……」

 せめて半々にするとか……いやいや、それでも多すぎる。わたしはただ誘ったに過ぎないのに。

「とりあえず持っておきなよ。そんな大金、なかなか手に入らないでしょ? この学校もまだ分からない部分が多いし、ポイントは持っておいて損はないって」

 そのいずれもが正論で、わたしは頷く。
 100万かぁ。今日は特別試験の報酬も含めて、大きなポイントが動いた日だと思う。今朝のポイント支給だけでもかなり持て余しそうだったのにこんなに貰ってしまって。何かに使える機会があればいいんだけど…。
 とりあえず明日は両名に直接話を聞いてみよう。おそらく有耶無耶に流されるんだろうけど。

 ということで、無事に雨宮さんを誘えた。
 わたし自身も夏祭り的なものには興味津々のため、この機会はぜひ楽しませていただこう。
534 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/12(金) 01:34:23.01 ID:upz9k2xEO


【今日はここまでにします。
 かなり今更ですが、春宮天音の家族構成について安価で決めます。
 1・8:父母、兄、天音の4人(全員存命) 暖かい家庭
 2・9:父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭
 3・6:血の繋がった家族は知らない。孤児院育ち
 4・0:父母、妹、天音の4人(全員存命) 冷たく厳しい家庭
 5・7:父母、天音の3人(母故人)冷たく厳しい家庭
 ゾロ目:超高等教育特別施設育ち
 下1のコンマ1桁(ゾロ目の場合は2桁)でお願いします。】


535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/12(金) 02:11:43.92 ID:42Hwc8hk0
536 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:06:50.69 ID:mGptKTHrO
>>535
 2:父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭】

 翌日、1時間目の学級活動の時間では学校開発のアプリを携帯端末へインストールする機会があった。
 どのようなアプリなのかはインストールをしてからということなので、各自が教科書代わりのタブレット端末へ映し出されたマニュアルを読みながら作業を進めていく。
 インストールが終わると、携帯には『OAA』という名称で新しいアプリが追加されていた。マニュアルやホームページでもこの名は数回見かけている。何かの略だと想定されるが、その全貌は起動してみなければ分からない。

「ここまではよろしいですか。躓いている者は挙手を」

 QRコードで読み取った学校ホームページからダウンロードのボタンをタップするだけという簡単な作業に手間取る生徒は居なかった。先生は頷くと、

「それでは『OAA』というアプリを起動して下さい。起動後、学生証端末をカメラで読み取ることでログインが完了します」

 『OAA』を起動すると、先生の言った通り自動的に携帯のカメラ機能が立ち上がる。学生証端末をかざし、数秒待つとわたしの顔写真と氏名が現れる。
 右下の本人認証というボタンをタップすると、すぐ1学年〜3学年までのクラスが表示された画面が現れた。
537 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:07:28.44 ID:mGptKTHrO

「皆さんに今インストールして戴いたのは、通称『OAA』と呼ばれるアプリです。正式名称は『Over All Ability』。学生の能力を学校側が客観的に見て数値、アルファベット化したものです。手始めに『1学年』の『Bクラス』を選択して下さい」

 『1学年』をタップすると『Aクラス』〜『Dクラス』までのプルダウンリストが現れる。さらに『Bクラス』をタップするとクラスメイト40名分の氏名がずらっと並ぶ。
 早速、自分の名前をタップしている生徒も周りには居るみたい。わたしも客観的な評価が気になったため、期待と不安を半々に抱えながら『春宮 天音』の名前を選択する。

??-
1-B 春宮 天音(はるみや あまね)

学力    95(A+)
身体能力  93(A)
機転思考力 81(A-)
社会貢献性 86(A)
総合力   89(A)
??-
538 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:08:05.67 ID:mGptKTHrO


 4項目+4項目の総合点が表示される。
 これは……いいのかな。Aの上にSとかあるのなら是非狙いたいところだけど。

「うっわ、春宮さんすっごい。全部Aじゃん」

 教室前方の方からそんな一言が発せられる。
 その言葉には少し恥ずかしいものがあったけれど、ひとつ「そうか」と気が付くことがあった。
 このアプリには1年生〜3年生までの全生徒の能力値が登録されている。生徒会の仕事を利用した生徒名簿では氏名と顔写真、所属クラスしか分からなかった。このアプリを使えば誰がどの分野を得意としているかが丸わかりとなる。
 そうと決まれば早速─────。

「人の評価を見るのは自由ですが、先に説明を。早く済めば残りの時間は見ていただいて構いませんので、もう少しだけお静かに」

 先生の指摘に手先の操作が止まる。
 このアプリは今後ずっと携帯に残り続ける。今すぐに確認しなければならないことではない。話を聞きながら目でインプットしていくことも可能だけど、ここは聞くことだけに集中しよう。
539 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:08:39.18 ID:mGptKTHrO

「先ほどの学生証端末の読み込みで、携帯にアカウントが紐付けされました。そのため今後はOAAを起動する度に学生証端末をかざす必要はありません」

 それはそうでないと困ると言いたいところ。
 いちいち学生証端末をかざしてログインというのは数秒で事済んだとしても手間に感じてしまう。
 より一層の携帯の紛失には気を付けなければならないけれど、こういった当たり前のように思える技術を組み込んでくれた開発者の方には感謝しかない。

「次に各項目の説明を。こちらをご覧ください」

 電子黒板に表示された各項目の説明。
 学力〜総合力までの内容説明だった。



学力……主に年間を通じて行われる筆記試験での点数から算出される

身体能力……体育の授業での評価、部活動での活躍、特別試験等の評価から算出される

機転思考力……友人の多さ、その立ち位置をはじめとしたコミュニケーション能力や、機転応用が利くかどうかなど、社会への適応力を求められ算出される

社会貢献性……授業態度、遅刻欠席をはじめ、問題行動の有無、生徒会所属による学校への貢献など、様々な要素から算出される

総合力……上記4つの数値から導き出される生徒の能力だが、社会貢献性に関してのみ総合力に与える影響は半減される 
※総合力の具体的な求め方(学力+身体能力+機転思考力+社会貢献性×0・5)□350×100で算出(四捨五入)

540 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:09:12.55 ID:mGptKTHrO

 ここで改めてこの2ヶ月間、精力的に活動をしてきて良かったと思えた。
 継続して予習復習を繰り返すことで中間テストでは満点を、授業や生徒会の仕事の一環として運動部と対決を、そして生徒会の仕事を通して他学年との交流の機会も人一倍多かったはず。
 学校側はわたしをこの点数、このアルファベットで評価してくれている。それは十分すぎるほどに報われたと感じさせてくれる。

「学年やクラスごとに学力順、身体能力順とソートも出来るため、人によっては嬉しかったり悲しかったりすると思います。評価は1ヶ月に1度行われるため、より一層の皆さんの努力に期待します」

 先月と比べて1ポイント下がったとか、1ランク上がったとかが目に見えて分かるというのは画期的。それを甘んじて受け入れるか、それを糧として成長を志すかは生徒に委ねられている。
 これは、なかなか厄介でもあり情報収集には適しているアプリが登場したと考えさせられる。
 ひとまず先生のお話も終わったようなので気になる生徒を順に見ていく。
 真っ先に確認するのは生徒会のメンバー。
 特に気になるのは3年Aクラスの花菱乙葉。
 あの先輩には窺い知れないところがある。こうして客観的な学校側の評価を通して知れるというのは願ったり叶ったりだった。
541 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:09:42.54 ID:mGptKTHrO
 このアプリの操作性は快適そのもので、すぐに『花菱乙葉』の名前を見つける。


??-
3-A 花菱 乙葉(はなびし おとは)

学力    ???
身体能力  ???
機転思考力 ???
社会貢献性 ???
総合力   ???
??-

 一瞬だけ思考が停止する。
 すぐ近くの別の生徒を選択すると、わたし同様に各項目が何点でランクは幾つでといった表示がされる。
 乙葉先輩だけがこの謎に包まれた表示。
 まだ接敵していない相手のステータスを知れない仕様のゲームじゃないんだから。ここは公平に情報を開示して欲しかった。

「先生。すべてが『?』になっている生徒が居るのですが」

「毎月1万ポイントを支払うことで情報の開示を停止できます。もちろん当人の認証が済まされた携帯からだと確認は出来ます」

 ……なるほど。
 乙葉先輩は1万ポイントを支払って情報を隠した。
 その意図は汲み取れないけど、あの人のことだから楽しんでやっていそう。
 それに対して2万ポイントを支払うことで見れるようになる、といった機能は存在していないようなのでここは引き下がるしかない。
542 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/13(土) 23:10:12.77 ID:mGptKTHrO
 わたしはその後、生徒会のメンバーを順に見た後、2年生の中で要注意といわれている化野先輩とその周囲の人、最後に1年生の東雲さんを始めとしたライバルとなりそうな人の情報を頭に入れていく。
 結果的に情報を隠していた生徒は乙葉先輩だけだった。あの人、毎月「ポイントないない」と言っていたのは、こういうところでポイントを使っていたからか。

「今後はこのアプリを使って色々なことをします。操作に慣れておくと良いと思います。それでは授業を終わります」

 先生が授業終了を告げるチャイムと同時に教室を退室する。生徒のほとんどがOAAに釘付けになっていた。もちろんわたしも。
 暇を見つけて全員分を覚えておいて損はない。幸い、顔と名前が既に頭に入っているため、あとは評価を紐付けるだけ。それほどの手間ではない。


【安価です。 夜
 1.1人で過ごす
 2.ケヤキモールへ(コンマエンカウント)
 3.人と過ごす
  1.雨宮綾香(Bクラス、実は白石詩波という芸能人)
  2.望月弘人・東雲雪菜(B・Aクラス、実は義兄妹)
  3.生徒会メンバー
  4.先生達と
 下1でお願いします。
 3の場合は「3-1」のようにお願いします。】
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/16(火) 14:53:06.19 ID:Zfq4SFCAO
1
544 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/16(火) 22:09:25.30 ID:a9hdhSbO0
>>543
 1:1人で過ごす

 >>534>>535で決めた家庭環境についてもう少し深く決めます。

 ・父母、姉、天音の4人(父母故人) ギリギリ暖かい家庭

 1・6:父母は交通事故死、姉は病院で寝たきり(意識不明)
 2・7:父母は交通事故死、姉は社会人
 3・8:父母はほぼ同時期に病死、姉は病院で療養中(意識あり・記憶あり)
 4・9:父母はほぼ同時期に病死、姉は都内大学生
 0:父母は交通事故死、姉は病院で療養中(意識あり・記憶なし)
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 ゾロ目ボーナスは無しです。】
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/16(火) 22:34:42.94 ID:5OsJwiC00
546 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/17(水) 22:11:31.03 ID:7WItTcwO0
>>545
 4:父母はほぼ同時期に病死、姉は都内大学生】

 およそ1時間をかけてOAAに登録された全生徒の情報を記憶する。もともと全生徒の顔と名前、所属クラスは把握していたため成績の紐付けは容易だった。
 成績の判定は“D-”〜“A+”まであるらしく、優秀な生徒が集まると聞くAクラスは”B“以上の判定を持つ生徒が多かった。一方、わたしたち元Dクラスは”C“判定が目立つ。
 欲を言ってしまえば、『学力』という項目で一括りにせず教科ごと出してくれれば苦手克服に向けて動き出せたのだけどね。まぁ、それは各クラスで聞き取り調査をしろってことなのかな。

「……」

 やることを終えて、部屋の明かりを消す。
 時刻は二十三時を回った。
 高校生が寝るには遅くもなく早くもない、ちょうどいい時間だと思う。ややジメジメとした空気が気になるけれど、それもあと少しで気にならなくなる。
 なかなか慣れないと思っていた備え付けの枕にも愛着が湧き、今宵も深い眠りへと導いてくれる。
 レム睡眠とかノンレム睡眠とか……確か、ノンと付いた方が深い眠りだったような……。



547 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/17(水) 22:12:07.55 ID:7WItTcwO0

◇◇◇

 夢を見る。
 海岸に佇むわたしと姉の姿。
 2人はじっと夕日の沈む水平線を眺めている。
 かくいう今のわたしは、海の方から2人を見ていた。俯瞰的な視点で、まるで映画のワンシーンのように第三者として。
 砂浜の方に2つの影が見える。子供達を呼んでいる。
 ……顔は見えない。背格好からして大人、男の人と女の人。お父さんとお母さんなのかな。顔くらい見せてくれてもいいのに。
 子供達は海、あるいは空に向かって何かを叫んだ後で大人の方に駆け寄っていく。何かに引っかかったのか子供のわたしが躓く。そして起き上がっては涙を流している。
 自分のことながら恥ずかしい。何もない砂浜で転ぶだなんて。寄ってきた姉と2人の大人はわたしの手を引いて去っていく。なんとも微笑ましい光景。
 ただ、わたしの記憶にはこんな経験は無い。
 忘れているだけ……にしては、なんとも奇怪な思い出し方。確かにノスタルジックで良い雰囲気の記憶を掘り起こせたけれど。
 わたしはほとんど意識を保ったまま海そのものの上で佇んでいた。海岸には誰も居らず、徐々に向こうが暗闇に侵食されていっている。わたしが立つ海が暗闇に呑み込まれるまでそう時間はない。
 振り返って、いつの日か見たと思う夕焼けを脳に焼き付ける。
 綺麗、美しい、写真に収めたい、絵に描きたい。
 そんな感情が胸の奥から湧き上がってくるのを感じて、わたしは闇に呑まれた。そこで意識はプツンと途切れる。


【コンマ判定
 0・ゾロ目:電話
 その他:翌日
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/17(水) 22:27:57.92 ID:6KUUuV/eo
ほい
549 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:28:29.82 ID:g0NBQbZ10
>>548
 2:翌日】

 6月2日の夕方、生徒会室。
 いつも通り神宮くんと放課後の業務をこなそうと赴くと、部屋は真っ暗になっていた。カーテンは閉められ、蛍光灯は落とされている。
 そんな中でも人影は見える。わたしたち1年生以外は全員揃っていて、加えて3年生の担任の笹原先生がソファに座っていた。手元にはパソコン、プロジェクターが稼働可能な状態にあること、壁際のスクリーンが降ろされていることから、何か説明会でも行うのかなと想像が働く。

「早速で悪いが今日はゲームの時間なしだ」

「さっきまでやってたの知ってるからね、君たち」

「……席につけ、紫苑、天音」

 笹原先生の鋭い指摘に生徒会長様は気まずそうに指示を出す。
 わたしたちは顔を見合わせた後、いつもと同じ席に着く。

「じゃあ、ぱぱっと説明しちゃうから。あ、1年生の君たちは携帯の電源切って貰える? 回収の方が早いのは分かっているけど、面倒だからナシで」

 言われた通りに携帯の電源を切る。
 ここでようやく一つ思い至る。
 生徒会の業務として特別試験の監督補佐がある。これから行われるのは、今後予定されている特別試験の説明会なのでは、と。
550 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:28:59.84 ID:g0NBQbZ10
 正式な試験発表の前に情報流出を防ぐため携帯の電源を落とすように促されている。他に録音機など隠し持っていれば話はまた変わってくるけれど、そんなつもりはない。事実、こうして携帯の回収をされなかっただけ一定の信頼は得ていると思い込みたい。

「はーい、じゃあスクリーンの方に注目ね」

 スクリーンの方を向く。
 笹原先生がノートパソコンを操作すると、暗かった部屋はプロジェクターによって明るくなる。


『特別試験 無人島サバイバル』


 大きく映し出された題名に、わたしは気圧される。
 この前、生徒会室で「無人島に1つだけ持って行けるなら何を持っていく?」という話をしたばかり。あれはこの事を見越してのことだったのかもしれない。
 それにしても、本当に無人島サバイバルなんて……。
 かなりの危険が伴う一大イベント。高校生とはいえ世間的に見れば子供の部類。一歩か二歩を踏み誤れば大事故に発展しかねない。特にその辺り、どれだけ学校側が配慮しているのかはこの後の説明で果たされると信じたい。


日時:7月19日 学校グラウンドに集合し、バスで移動、港より客船に乗り込み移動
   7月20日 特別試験開始 試験の説明および物資の受け渡しなど
   7月26日 特別試験終了 船内にて結果発表を行い、順位に応じて報酬を支給
   7月27日 船上クルージングで終日自由行動
   8月2日  港に到着 学校へと戻り解散



551 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:29:46.66 ID:g0NBQbZ10


 まず映し出されたのは特別試験の日程について。
 この学校の生徒で居るうちは学校の敷地から出ることは無いと思っていたけれど、特別試験は例外らしい。バスで移動後、客船とは夢がある。ただし満喫できるのは特別試験後らしく、1週間の無人島サバイバルを乗り越えなければならない。

「コレの通り、試験は1週間ね。数年前の試験では2週間無人島サバイバルだったらしいけど、大人の色々な都合で1週間になったワケね」

 まだ大雑把に無人島サバイバルとしか聞かされていないけれど、2週間もその生活を続ければ体か心のどちらかに支障を出しそう。1週間で良かったと喜ぶべきところだと思う。

「船は? 去年とか一昨年みたいなカンジ?」

「そうね。えーっと別の資料に……っと」

 一度特別試験に関する資料を閉じて、別の資料を映し出す。
 船の大きさ、乗船可能人数、何階にどんな施設があるかといった情報が図面に表れる。大きさや乗船可能人数についてはともかく、施設には心を惹かれるものがあった。
 衣類等のショップ、安め〜高めまでレストランが十軒以上、貸切プール、自由解放プール、遊戯室、映画館、カラオケ、リラクゼーションサロン、学生には馴染みの無いバーなど。試験後の1週間では遊び尽くせなそうなほど多くの施設が入っているみたい。
552 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:30:14.91 ID:g0NBQbZ10

「あー! 中華料理のお店変わってるじゃん。去年と一昨年はあったお店! 好きだったのに!」

「あ、ほんとだ! そういえば、麻婆豆腐が辛すぎって苦情があったような。苦情を出すくらいなら頼むなってハナシよね。先生も好きだったのになぁ。ちょっとこれは先生も言っておく! 直談判するから!」

 その話は聞き逃せない。
 この前、担任の伊藤先生とケヤキモール内の中華料理屋さんで麻婆豆腐を食べてからというもの、わたしは辛さに魅了されてしまった。噂の麻婆豆腐は是非とも食べてみたい。先生の直談判に期待する。

「っと。話が逸れちゃったけど、こういった施設は本告知で配られる資料を見てね。さて、話は戻って1週間の無人島サバイバルね」

 資料を開き直して、改めて試験の説明に戻る。

「まず、今回の特別試験は1年生から3年生まで共通で同じ試験に挑むことになります。そして同時に学年を越えてみんながライバルなワケね」

 つまり全生徒、452名による試験ということ。
 この場の生徒会役員も例に漏れずライバルとなる。
553 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:30:43.53 ID:g0NBQbZ10

「で、ここからが重要なのだけれど、グループという制度があります。2年生と3年生は同学年から最大3人、1年生は最大4人のメンバーで組むことが出来ます。男女問わず、クラスも問いません。1年生の場合、AクラスからDクラスまで1人ずつでも組めちゃうってコト」

 パッと思いつくのは、Bクラスの望月くんとAクラスの東雲さん。彼らは兄妹ということで、グループとしての活躍が見込めそう。その他にも同じ部活に所属するメンバーとか、気が合う友達と無人島で生活というのは絆が深まる一大イベントとなりそう。
 ただわたしから見れば上級生の先輩方と組むことは出来ない。この場で言うと、神宮くんとは組めるけど、夏帆先輩や乙葉先輩とは組めない。

「実際に無人島でして貰うことだけど、こちらをご覧ください」

 スクリーンの中心には島が映っていた。
 そしてその島を縦と横に9等分ずつされた線が引かれている。縦はA〜Iまで、横は1〜9まで。左上がA1、右下がI9と線引きされた枠内に書かれている。

「試験中、朝9時〜夕方5時までの8時間、2時間ごとに移動の指示が出ます。例えばB4に行け、だとか、I7に行けとかね。その指示を出すのはこの腕時計」

 傍らの鞄から腕時計を取り出す。
 液晶画面が付いていて、今時の腕時計らしさを思わせる。
554 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:31:13.96 ID:g0NBQbZ10

「時計機能はもちろん、さっきの指示だったり、あと期間中のバイタルを学校側が確認できる代物ね。GPS機能が付いていて、高熱が出たとか、心拍数がとんでもないことになったりしたらアラームが鳴ります。そしてアラームが5分間鳴り止まなかった場合は先生たちが駆け付けることになってるから、その点は安心してもいいかな」

 試しに先生が腕時計を操作する。
 するといかにも危険を報せるようなアラームが生徒会室に響いた。

「こうして自分で鳴らすことも出来ます。たds注意して欲しいのは、駆け付けるのにも時間はかかっちゃうこと。5分か10分、遠ければ1時間はかかっちゃうかもしれない。だから、もし自分で事前に気付けたら早めに鳴らしてくれると助かるかな。お互いに」

 その機能があれば無人島に放り出されても幾ばくかは安心して過ごせそう。それにアラームの音も結構大きいし、通りすがりの生徒同士で助け合うことも出来るはず。

「この時計に届いた指示通りに、例えばB4というエリアに足を踏み入れた時点で1ポイントゲット。さっき言ったグループが仮に3人だとして、3人でエリアを踏めば一気に3ポイントゲットね」

「グループのポイントは共通な訳だな」

「そう。だからグループを組んだ方が細かいポイントは稼げるね。問題は大きめのポイント。全校生徒が一斉にB4に行けって言われても困っちゃうじゃない? そこで出てくるのがテーブル制度。A〜Jまであって、全部で10通りの指示が出ます。テーブルAはB4へ、テーブルBはG5へ、みたいな」

 確かに全生徒が揃いも揃って同じ方向に進むだけではつまらない。このテーブルに属する人は東の方、西の方など行き先がバラついていた方が面白い。
555 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:31:44.66 ID:g0NBQbZ10

「2時間に1度変わる行き先だけれど、テーブルごとに着順ボーナスってのがあってね。最初に着いたグループは10ポイント、2着は5ポイント、3着は3ポイントを追加で貰えるの。ただ注意事項として、グループ全員がエリアを踏まないと着順ボーナスは貰えない。その分、1人で挑むっていうのはメリットがある。自分さえとにかく早く着いちゃえばいいんだから」

 仮にわたしが神宮くんと組んだとして、わたしだけがエリアを踏むだけでは1ポイントだけしかゲットできない。遅れて合流した神宮くんがエリアに足を踏み入れてようやく着順ボーナスをゲットとなる。
 ただし神宮くんが到着するまでに他のグループが先に全員でエリアを踏んでいたら着順ボーナスは無しとなる。
 一方、1人のメリットは大きい。正直、体力には自信があるため着順ボーナスでポイントを稼ぐのは悪くない。グループを組んでそっちに合わせるよりもポイントは格段に稼げそう。

「ポイントを稼ぐ方法はもう1つ。試験開始時、腕時計と一緒に配られるこのタブレット端末。自分が居る位置を報せてくれるのと、テスト会場の位置を報せてくれる機能がある」

 続けて取り出したタブレット端末。
 起動すると画面には学校の生徒会室の位置に赤いポインターがついている。腕時計と連動していることはすぐに分かった。

「テスト会場っていうのは、その名の通りテスト会場ね。数学とか英語とか、あとはビーチフラッグとかのテストを行うことになってる。学科テストは学年のレベルに合わせるから安心して。1年生は1年生の範囲のテスト、3年生は3年生の範囲だから」

「はいはい! 天音ちゃんは勉強にすっごく自信があるので、3年生の範囲でやるみたいです!」

「やりませんっ!」

 中華料理の件から黙って聞いていた乙葉先輩が唐突に言い出したことに、わたしはすぐ否定しておく。
 本当に3年生の範囲になったら頭を使いそう。出来るだけ頭を休めながら試験には臨みたい。
556 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:32:33.52 ID:g0NBQbZ10

「乙葉には悪いけど、1年生は1年生の範囲って決まってるからそれはナシで。本人たっての希望なら……ギリありだと思う」

 当然と言えば当然の回答。
 ただわたしが希望すれば3年生のテストも受けられるらしい。これは見ようによっては、わたしたちが3年生になった時に出題される中間テストなどの予行演習を出来るということではないか。
 うん、それもアリかもしれない。

「テスト会場には先生とかスタッフが居るから、その人に参加希望の旨を伝えればオッケー。テストにもよるけど、基本的に参加人数は5人〜15人。ああいや、5グループから15グループかな。内容によってはグループ参加も可能だよ。グループ内で助け合ってテストをこなすのも良しだね」

 勉強が得意な人は勉強系のテストでポイントを稼ぎ、運動が得意な人は運動系のテストでポイントを稼いでグループに貢献する。
 それはとても合理的で良いと思う。

「テストによって貰えるポイントは異なり、基本的には1位〜3位までしかポイントは貰えない。最低では5ポイントとかだったかな。最高は忘れた。また本告知で説明あると思うから、その時に聞いて」

「……あの、もし参加人数が集まらなかったらどうなるんでしょう?」

「その場合は残った人たちでテストを実施。もし1グループだけだったら1位を、2グループだけだったら1位か2位を決める勝負をして貰う。ちなみに同点の場合は貰えるポイントを半分こね。奇数ポイントを2グループで分ける場合に余った1点は捨てることになります」

 参加人数が不足した場合にテストは未実施となるのが最悪なケースだった。人数不足でもポイントを貰える機会があるというのは、積極的にテストへ挑める。
557 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:33:24.26 ID:g0NBQbZ10

「テスト中はタブレットの充電をしておくように。あとテストの参加賞や順位ボーナスで食べ物とか飲み物を貰えるようになってるから、その辺りは積極的に参加しないとアレするやつだね」

 アレとはつまり、脱水症状で命のピンチということだと思う。もちろんその場合は腕時計がアラームを鳴らして先生が駆け付けることになる。

「というわけで、指示通りにエリアを踏むこと、グループ全員がエリアを踏むこと、テストで点数を得ることでグループ毎の順位を決めていきます」

 ポイントを稼ぐ方法については分かった。
 あとは日程にも書かれていた通り、特別試験終了後の結果発表と順位について。

「試験終了後、船内で結果発表を行います。もちろん試験中に稼いだポイントで順位を決める。詳しいことはこちらに」

 スライドが切り替わる。


 1位:300クラスポイント、200万プライベートポイント
 2位:100クラスポイント、100万プライベートポイント
 3位:50クラスポイント、50万プライベートポイント


 1位が頭抜けて破格の報酬だった。
558 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:34:05.18 ID:g0NBQbZ10
 この際、プライベートポイントについては置いておくとして、300クラスポイントは大きい。
 それは毎月1日に支給されるポイントが3万ずつ増えることを意味しており、1クラス40人のため120万プライベートポイントとなる。報酬の200万も破格だけれど、たった2ヶ月でそれを上回るポイントを得られる。
 それに、Aクラスとの差を縮め、Cクラスとの差を広げるにはこの300クラスポイントは是非とも欲しいところ。
 ただ当然のように注意しなければならない点として、3年生の乙葉先輩や2年生の新汰先輩と競い、勝たなければならないこと。せめて1年Aクラスに渡さないよう努めることで良しとするべきか。

「Aクラス〜Cクラスまでが1人ずつで構成された3人グループが1位を取った場合は、全部山分けってことになるからね。それぞれのクラスが100ポイントずつ、66万プライベートポイントずつ。余ったものはジャンケンとかで決めて貰うから」

「Aクラスが2人、Bクラスが1人の場合だと?」

「それも一緒。合算してしまえばAクラスは200クラスポイントと132万プライベートポイント、Bクラスは100クラスポイントと66万プライベートって具合に山分け」

 となれば、学年内で好きにグループが組めると言ってもクラスはまとまっていた方が良いかもしれない。
 特に本気で表彰台を狙えるようなメンバーを固めに行く場合は尚のこと。
 ……考えることが多い。外の空気を吸いたくなってくる。

「はい、じゃあ最後にペナルティについて。下位8グループは退学ね。以上。質問は?」

 あまりにもサラッとされた宣告。
 特別試験の結果次第では『退学』という道も見えていたけれど、こんな簡単にそのワードが飛び出てくるとは思わなかった。
559 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:35:15.39 ID:g0NBQbZ10
 それに8グループ。仮に下位すべてが1年生だったとして、最大で32人も退学者を出すことになる。わたしたちBクラスも例に漏れず。

「あ、ごめん。1つ忘れてたことあった。グループは最大で3年生と2年生が6人、1年生は8人ね。7月15日までにまず3人もしくは4人のグループを決めて貰って、6人か8人のグループに合併できるのは試験中。さっき言ったテストの順位ボーナスで合併の権利を獲得できるよ」

 えっと、つまり8人グループを組んだ1年生が下位に沈めば最大で64人の退学者を出すことになる、と。
 これはまずい。報酬は美味しいけれど、そのぶんペナルティは不味い。この際、他のクラスを助けようとするのは不可能。せっかくなら学年から退学者を出さずに卒業したかったけれど仕方がない。
 わたしが優先して守るべきはBクラスのみんなで、特に……雨宮さんになるのかな。中間テストをきっかけに一緒にいる時間が長いため親近感が湧いている。それに彼女には事情もあるし、みすみすと退学はさせられないし、他の人とグループを組ませるのも難しい。
 あれこれ頭の中で模索をしていると、

「あ、ごめん。あと1つ……ああいや、あと2つ。まず1つ目。ペナルティで退学になった人は、プライベートポイントで退学を回避できます。ただし試験が開始される前にポイントは自分で持っておくこと」

「ポイントは幾ら必要?」

「グループで痛み分けってかんじかな。1人なら600万、2人なら300万ずつ、6人なら100万ずつ。差し出せた人だけが回避できる。全員が出さないと回避とはならないから安心して。最低限、自分だけが出せればオッケーだから。あ、ちなみに1年生は半額で回避ね」

 つまり最低の1人なら300万、最大の8人なら37万5千プライベートポイントを差し出せば退学を回避できる。
560 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/18(木) 23:35:51.38 ID:g0NBQbZ10
 ただしそんなポイントは先に特別試験で稼いだ大きいポイントしかアテはない。それに、そのポイントを持っている人も限られてくる。
 それにそれに、試験開始前に危うそうな人全員にポイントを均等に振り分けておくのは無理がある。せめて退学が決まった後でクラス内でポイントの受け渡しが可能だったら良かったのに……。

「2つ目。試験開始の時、特別なポイントを全員に5000ポイントずつ支給します。そのポイントの使い道は、バックパックとかテントとか、食料とか水と交換することが出来ます」

「テントは1人用?」

「1つで4人入れる物もあるよ。グループを組んでテントは1つだけ、とかも戦略としてはアリだね。ただし男女で一緒のテントは使わないこと。これは口頭での注意にしかならないけど。GPSでこの2人の距離が近いってのは分かっていても確かめる術がねぇ…」

 どこか遠い視線を向こうへとやる先生。
 それはともかく、グループ内で上手くポイントの節約は非常に有効だと思う。テスト参加前に飲む用として水も幾つか手に入れておきたい。夏場のため、紙コップなどに移して飲む必要があるのは当然のこと。
 うーん、難しい。どうしよう。

「あと言ってないことあったかな……」

「3人もしくは4人の具グループが6人もしくは8人のグループに合併したらどうなるんだ?」

「あ、その場合は足して2で割ることになってる! ありがとう、忘れてた!」

 この分だと、笹原先生の話には随分と穴がありそう。
 ひとまず試験の概要は分かった。この場で詰め込みすぎても良くないため、本告知にて更に理解を深めることにしよう。

「あ、ちなみにちなみに。スタート地点の砂浜には無料で利用できる給水所とかトイレとか、シャワーも設置してあるから是非使ってね!」

「─────」

 その一言を聞いてわたしは、


【コンマ判定
 直感・洞察力:91 補正あり
 7・0・ゾロ目:この試験の方針を定める
 その他:また考えることにしよう
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/18(木) 23:48:23.43 ID:7fmi9h7h0
562 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:40:06.06 ID:mmhXVp5S0
>>561
 3:また考えることにしよう】

 うん、今日のところは試験概要を理解しただけで留めておこう。具体的にどう動くのかは、本告知の後でも遅くはない。この様子だと、あと1、2週間後には本予告もされそうだし。

「ちなみにグループはOAAから誰と誰が組んだのか確認できるからね。ちなみにちなみに、一度組んだらグループの解消は出来ないからよーく考えること」

「もし当日、体調不良になった場合は?」

「グループで残った人たちで試験開始。これは試験開始後に体調を崩したり怪我をした人にも共通で言えることだけど、グループの人が残っている限りはリタイアした人も即退学とはならないよ。逆に、1人で挑んで体調を崩したら退学まっしぐらだね」

「グループ全員がリタイアした場合、ポイントはどうなる」

「どれだけポイントを稼いでもグループ全員がリタイアすれば0ポイント。どんなに頑張ってもポイント没収だなんて酷いハナシだよねー。ま、さっさとポイント稼いであとは船で先に満喫なんてされても困るからさ。当然と言えば当然なんだけど」

 大自然の中、いつ体調を崩すかは分からない。
 いち早く「これくらい稼いでおけばいいだろう」という目測のもと稼いだポイントを持ったまま、1週間を待たずして船に戻ることは許されないらしい。
 1週間、走って問題を解き続けるしかないと。
563 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:40:50.55 ID:mmhXVp5S0

「仮に9グループがリタイアした場合は?」

「その場合は船の中で別の試験を設けるみたい。グループは引き継ぎで、何をやるかはその場で発表だって」

 さっき見た日程を鑑みると、その試験は自由行動の時間に行われそう。無人島を潜り抜けた生徒がクルージングを満喫する一方で、何処かの部屋では退学を掛けた試験を行なっていると。
 それはやだなぁ。せっかくなら無人島生活1週間の後、豪華クルージングの旅を1週間を満喫したい。もし1位を取れれば手元には200万プライベートポイントもあるし、クルージング中にはポイント支給日の1日が含まれている。きっと遊ぶお金には困らない。

「うん、こんなところかな。で、ここからが生徒会のみんなにやって貰いたいこと」

「えー、ぜったい面倒なやつ!」

「そう言わないの。えっと、みんなには船の中で出来る催し物を企画して欲しいの。無人島の後の1週間の内、1日か2日で全生徒が任意で参加できるやつね。こういうのは学校側が企画するより、生徒側で企画した方が生徒も参加しやすいでしょ?」

 そういう話なら前向きに考えられる。
 もちろん予算の都合もあるけれど、定番なところで言えばビンゴ大会などが該当しそう。大きめのホールを1つ借りることが出来れば、あとは装飾を施すだけで立派な会場となる。
564 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:41:27.21 ID:mmhXVp5S0

「予算は生徒会の特別活動費から出してね」

 時々見かけていた『特別活動費』。
 これまでずっと未使用だったお金で、何に使うものか聞いてもはぐらかされていたけれど、こういう機会に使われるものなんだと理解する。

「7年前は船内で宝探しゲームをしたみたいだよ。参加費は1万ポイントで、船内の入れる場所に隠したQRコードを携帯で読み取って10万ポイントとか5000ポイントをゲット! みたいなね」

 そういうのもアリなのか。
 宝探しだけれど、宝くじのような夢を提供するのは良いと思う。誰でも一攫千金の夢を見れるのは公平性もある。件の宝探しの『宝』がどれくらい散らばっていたかにもよるけど。

「なるほどなるほど。つまり、生徒会 vs 生徒ってことね。こりゃあやる気を出さないとだ」

「どうしてそうなるんです?」

「特別活動費がそういうものだからだよ。このお金は何代か前の生徒会からずっと引き継がれているもの。ここでゼロにするわけにはいかないでしょ」

「はぁ……なるほどぉ」

 夏帆先輩が納得……は、出来ていないみたいだけど何度か頷いてみせる。
 つまり、いかに還元率を低く出来るかが勝負どころになってくる。これは悪知恵を働かせなければならないみたい。
565 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:42:01.43 ID:mmhXVp5S0
 例えばわたしが真っ先に思いついたビンゴ大会では全員無料参加とはいかない。用意する景品にもよるけど、最低でも1万ポイントずつ参加費として徴収する必要があるかもしれない。

「ま、そんな訳だから6月末には申請を出せるように資料をまとめておいて。先生が確認して、その後で偉い人の許可を幾つか取らないといけないから」

「へーい」

 乙葉先輩の軽い返事に先生は特に反応することもなく、ノートパソコンを閉じて見本として見せてくれた腕時計とタブレット端末をしまって生徒会室を後にする。
 3年Aクラスの担任、笹原真香は噂通り生徒と距離の近い先生らしい。実際、生徒からのタメ口を嗜めるようなこともなかった。年齢も先生の中では若く、話が合う先生かもしれない。
 総合的に見て、良い先生だなぁと思った。

「っし、じゃあその件は来週の月曜日に1人1案考えてくるってことでいいな。予算は……天音」

「53万7527円です」

「ごじゅう……なんだって? あー、50万で。どうせなら増やそう。1000円、1万円増やしただけじゃあつまらねぇ。目標は100万だ。各自、ギャンブル性の高い企画を考えるように。以上、解散!」

 昨日まで業務を頑張った代わりに、今日はこの説明だけで生徒会の仕事は終わる。
 次の試験内容をじっくり整理したかったし、これは素直にラッキーだと喜ぼう。ついでにギャンブル性の高い企画を考えないと。
566 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/20(土) 23:42:33.90 ID:mmhXVp5S0

【週末
 1.1人で過ごす
 2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と遭遇)
 3.人と会う
  1. 雨宮綾香(クラスメイト 白石詩波という芸能人)
  2. 宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
  3. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
  4.望月弘人(ちょっと謎なクラスメイト)
  5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒 生徒会役員)
  6.東雲雪菜(Aクラスの女子生徒)
  7. 花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
  8. 如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
  9. 四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
  10.佐倉新汰(信頼のできる2年生の男子生徒)
 下1でお願いします。】
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/21(日) 00:08:57.51 ID:kw9sUh+f0
3-9
568 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/22(月) 21:59:42.56 ID:GHq/dL3a0
>>367
 3-9:人と会う - 四条夏帆】

 特別試験の結果発表に続いて、早速次の特別試験の概要を聞くなど忙しかった1週間の週末。
 わたしは2年生の寮の前で携帯を触って待っていた。待ち合わせの時間まで残り10分程度。たまに通りかかった先輩と少し話していると時間はあっという間に過ぎる。

「おはようございます。毎度のことながら早いですね」

「おはようございます。夏帆先輩こそ、まだ5分前ですよ」

「ううん、これでも遅かったってことだよね」

 気を使わせてしまった。
 早く来すぎるのも少し考えものかもしれない。
 今度からは10分前行動ではなく5分前行動を守るようにしよう。

「さて、それでは行きましょうか。と言っても、行くアテはケヤキモールしかありませんけどね」

 わたしは頷いて夏帆先輩の隣を歩く。
 そして今、夏帆先輩の発言でふと気になったことを聞いてみることにした。
569 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/22(月) 22:00:11.37 ID:GHq/dL3a0

「あの、ケヤキモールしか遊ぶ場所が無いって退屈しませんか? もちろん娯楽施設やお店の品揃えが良いのは分かりますが」

「そうですねぇ。確かに、飽きてきますよね。普通の学校に通っていれば、電車で移動とかも出来たわけですし」

 東京なら原宿や渋谷など若者で溢れているようなスポットがたくさんある。ちょうど昨晩のテレビ番組でもお洒落なかき氷特集を見かけた。最近では、味勝負ではなく映えるかどうかに重きを置いているらしい。
 その他、上野で美術館や博物館をまわったりするのも良いかもしれない。やや人を選ぶようなイメージが強い施設ではあるけれど、きっと楽しいはず。

「ただ、普通の学校に通っているだけでは得られなかった貴重な経験をさせて貰っているとは思いませんか? 寮で1人暮らしをして、毎月高額のお小遣いを貰って自炊したり遊んだり……自分でお金の使い道を決めるのはきっと将来の役に立つと思います」

「……そうですね。はい、その通りだと思います!」

「と、良いことを言った風ですが、天音ちゃんの『退屈』っていうのはその通りですね。私が言ったのはあくまでも過ごし方についてであって、環境のことではありませんから」

 先輩の言うことはよく分かる。
 ただ普通に実家から高校へ通う、ではこんな貴重な経験は出来なかったと思うし、仮に進学に伴い一人暮らしを始めていてもここまで充実した生活を送れていたとは限らない。
570 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/22(月) 22:00:48.97 ID:GHq/dL3a0

「この学校って季節のイベントとかあったりしますか? 夏は屋台とか花火、冬はクリスマスツリーを飾ったり……とか」

「花火はありませんが、屋台とクリスマスツリーは去年ありましたよ。小さい手持ち花火くらいなら、売っていたのでおそらく可能だと思います」

「あ、じゃあみんなでやりましょう! 花火っ」

「生徒会の終わりとかに出来たらいいですね」

 とか、そんな話をしているうちにケヤキモールの入り口に到着する。
 えーっと、今日の予定は……。


【安価です。
 1.ショッピング
 2.映画館
 3.喫茶店でお話
 4.買い物をして料理(料理スキルアップ)
 下1でお願いします。】
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/23(火) 16:37:54.76 ID:Ers71d1p0
4
572 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/24(水) 08:47:18.94 ID:ClnhHB9nO
>>571
 4:買い物をして料理(料理スキルアップ)】

 そう、今日『も』になってしまうけれど、夏帆先輩と買い物をしてから料理を教えて貰うんだった。

「そろそろ1ヶ月と半月程度になりますからね。平日も自炊しているようなので、私が見た感じでは天音ちゃんの料理スキルは相当上昇していると思います」

「そう……でしょうか?」

 確かに自炊可能なレパートリーは増えてきた。
 ただ、お店レベルには到底及ばないし、センスのある人がなんとなく初見で作った料理と比べても勝てそうにない。
 それに客観的な意見を貰うため雨宮さんに試食していただいたときは「まぁまぁ……かなぁ?」という微妙な評価だったのが記憶に新しい。

「最初は包丁の持ち方も怪しかったですからね。格段に上手になったと思いますよ。さて、今日は色々なものを少しずつ作ってみましょうか」

「はい、わかりました」

 道中、そんな会話をしながら食品売り場を目指す。
 お昼にはまだ早い時間だけれど、お腹が空いてきた。今日のお昼は何かな、と期待感を抱くわたしでした。


【コンマ判定
 1・3・5・9:3上昇
 2・6・8:2上昇
 7・0:5上昇
 4:1上昇
 ゾロ目:8上昇
 下1のコンマ1桁でお願いします。

 -現在の能力値-
 学力:97(超優秀)? 身体能力:99(超優秀)? 直感・洞察力:91(優秀)? 協調性:53(普通)? 成長性:74(高)? メンタル:86(高)? 料理:42(まぁまぁ?)? 音楽:22(下手)】
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/24(水) 11:10:31.21 ID:ZgtXZV0Jo
はい
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