【安価】ようこそ実力主義の教室へ

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269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 13:32:22.97 ID:CmB9Piz/O
はい
270 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 14:46:18.28 ID:rlQZRnFe0
>>269
 7:四条夏帆(生徒会副会長、料理上手) 】

 生徒会の業務を終えたのは18時を回った頃だった。
 20時からクラスメイトと勉強会の約束を控え、かなり時間がある。その間に夕食を済ませてしまうべきか。それとも適当に時間を潰すべきか。
 そんなことを考えながら生徒会室の戸締りをして鍵を職員室へ返す。職員室前で乙葉先輩と夏帆先輩が待っていた。
 じゃんけんをして、乙葉先輩が勝ったら夏帆先輩が手元のクッキーを与えている。これは餌付け?
 その光景を少し観察していると、乙葉先輩がわたしに気が付く。

「お、きたきた。おっそーいよ、天音ちゃん」

「すみません、先生と少し話していまして。えっと、わたし待ちでしたか?」

「そーそー。夏帆ちゃんに用があるってユキちゃんから聞いてさ。このわたしじゃなくて夏帆ちゃんなのは何か理由があるのかな?」

 乙葉先輩は自分が頼られなかったことに少し憤りを感じているようだった。しかしその直後に口へクッキーが放り込まれると、すぐに機嫌を直したようだ。
271 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 14:46:50.25 ID:rlQZRnFe0
 夏帆先輩は乙葉先輩の手懐け方を熟知しているように、口を挟む暇を与えず次々にクッキーを与える。

「天音ちゃんにはお世話になってますから、私に出来ることであればなんでもしますよ?」

 先日ユキ先輩に相談した料理上達の件。
 裏から手を回していてくれたようだ。
 ありがたく、この機会に告白してしまおう。

「わたし、全然料理が出来なくってですね、夏帆先輩に教えていただくことは出来ないかなーって」

「そんなことでいいんですか? それくらいならお任せ下さい! 洋食屋の娘として、きっと天音ちゃんを料理上手にしてみせます。天音ちゃんには運動部の対決でお世話になっていますからね」

 夏帆先輩は笑顔でそう快諾してくれた。
 初めて運動部への道場破りを促されるままに行ってきて良かったと思った。

「ええと、いつがよろしいですか? この後、乙葉先輩と私の部屋でご飯を食べる予定でしたが」

「あ、そうですね…。20時から予定があるんですけど、なんとかなったりしますか?」

「簡単なものなら間に合うと思いますよ。あと1時間と少しありますからね」

 左手に付けたレディース用の腕時計を見て、夏帆先輩は答えてくれる。
 何をしようかと考えていたが、ちょうど有効的に自らを高めることのできる機会に遭遇できた。
272 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 14:47:17.47 ID:rlQZRnFe0
 ここはありがたく教えて貰うことにしよう。

「わかりました。それではよろしくお願いします!」

「はい、それじゃあ行きましょうか」

 わたし達は2年生の寮へと向かう。
 1年生の寮から近い距離にあるその建物は、この1ヶ月間で近付いたこともなかった。
 中の造りはまったく一緒のようで、ほぼ1年生の寮と変わらない風景を目にエレベーターを上がる。13階で降りたわたしたちは、そのまま夏帆先輩の部屋にお邪魔する。

「わ、かわいいお部屋ですね」

「そうかな? あまり意識してなかったんだけどね」

 カーテンとか掛け布団とか、所々にピンク色が使われている。目に痛くない程度の薄い色は、第一印象で女性らしい可愛らしさを彷彿とさせる。
 未だに白一色なわたしの部屋とは大違いだ。

「乙葉先輩はテレビでも見て待ってて下さいね」

「うん、楽しみにしてるよー。頑張ってね、天音ちゃん」

「はい!」

 手をふらふらと振る乙葉先輩を居間に置き、わたしと夏帆先輩は台所に立つ。
 部屋の作りもまったく一緒のはずだが、調理器具や調味料の整い方はわたしの部屋とは段違いだ。特にスパイスの量が尋常ではない。おそらくスーパーで販売されているものは全て揃えているのだろう。
273 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 14:47:56.69 ID:rlQZRnFe0

「参考までに、苦手なものとかありますか?」

「いいえ、特に。アレルギーも無く、なんでも食べられます」

「そうですか。えっと、時間が無いようですので、ハヤシライスでもよろしいですか? お米を炊いている時間にさっと作れる簡単なものです」

「そんな簡単に作れるんですか?」

「はい。少し裏技的なことをしますがね」

 そう言って夏帆先輩はデミグラスソース缶と野菜ジュースを取り出す。それをどう使うか検討もつかなかったが、洋食屋の娘というポジションが絶対的な信頼度を誇っている。
 その後、わたしは夏帆先輩の指示に従って調理を進めていく。
 結果として絶品の一皿が出来上がった。
 もちろん乙葉先輩にも大絶賛で、わたし自身も信じられないほど美味しいと感動する。
 今回のことからわたしが得た教訓は、既製品のものを利用することは悪ではないということ。デミグラスソース缶を利用することで何時間も煮込んだかのようなハヤシライスを作ることが出来た。
 そこには化学も愛もないことを知る。
 早速、明日も1人でハヤシライスを作ってみようと意気込んで、夏帆先輩にお礼を言って2年生の寮を離れる。
 時刻は19時45分。
 勉強会まで残り15分と、ちょうど良い時間だ。


【料理スキル上昇
 現在:料理:25(下手)
 基本的にコンマ1桁で決めます。減少はありません。
 1:プラス1
 2〜4:プラス3
 5〜8:プラス5
 9・0:プラス7
 2桁がゾロ目:プラス10
 下1でお願いします。】
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 15:10:05.49 ID:p0U6kiCZ0
275 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 15:27:31.11 ID:rlQZRnFe0
>>274
 9:プラス7
 25 → 32(ちょっと下手)


 勉強会に行く前に、人に教える能力を決めます。
 コンマ反転 27 → 72

 01〜19:下手
 20〜39:ちょっと下手
 40〜59:普通
 60〜79:ちょっと上手
 80〜90:上手
 91〜98:かなり上手
 ゾロ目:かなり上手

 学力:学力:97(超優秀) ボーナスで
 反転後の値にプラス15します。
 下1のコンマ2桁反転でお願いします。】
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 16:12:16.85 ID:+xjZVp7I0
ゾロ
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 17:48:46.34 ID:CmB9Piz/O
普通ですね…
278 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 20:25:20.03 ID:rlQZRnFe0
>>276
 85 → 58
 学力ボーナス:プラス15
 58+15 = 73
 73:ちょっと上手】

 19時55分、わたしは7階にある一色くんの部屋のインターホンを直接押す。事前に部屋番号を教えて貰っていたため、玄関から呼び出す手間は省けた。
 間もなくして一色くん本人が扉を開けてくれて、わたしは一色くんの部屋に入る。
 思い返せば男の子の部屋に入ったのは初めてだ。
 内心ドキドキとしながらも居間まで通されると、赤点候補者の5名の男子他、宮野さんが居た。水泳部の練習終わりに合流したようだ。彼女は赤点からかなり遠い位置に居たため、わたしと同じく先生役だろう。

「あ、春宮さん。良かった、男子ばっかりで花がないって思っていたところなの」

 彼女はそう出迎えてくれた。
 そうだね、とも言えず、わたしは宮野さんから遠い位置に座る。先生役が一箇所に固まっていても仕方がない。

「で、どんなかんじ?」

「ひとまずテスト範囲を洗い直しているところだよ。時間はまだあるからね。少しずつ積み重ねていけば問題なさそうだ」

 前回の小テストをもとに、解けていなかった箇所から教えているようだ。
 確かに小テストで出題された問題が本番の試験で出されることも多い。それに中学生レベルの問題も出題されているため、個人の苦手な教科も分かりやすい。
279 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 20:25:50.01 ID:rlQZRnFe0
 一色くんと宮野さんの教え方も上手く、このままいけば問題なく中間テストを越えることが出来そうだった。

「つーか、退学ってマジなのかな。そこんところ、生徒会役員なら知ってるみたいなところない?」

 20時30分、勉強を始めておよそ45分が経過した頃に候補者の1人である明道くんが気の抜けた声色で呟く。
 ここまで拍子抜けと思わせてくれるほど真面目に勉強に取り組んでいてくれたため、私語として咎めることはない。
 わたしへ向けられた質問に対して、わたしは嘘偽りなく率直に答えることにした。

「たぶん本当だね。今日みたいに多額のポイントを生徒全員に支払ってるなんて普通じゃないでしょ? だったら赤点を取っただけで退学なんてことも有り得る話なんじゃないかな」

「はー、そうだよなぁ、やっぱなぁ」

「それに生徒会長も生徒会から退学者を出したくないって話をしてた。あ、これオフレコでお願いね?」

 おそらく隠すことでもないが、秘密の話っぽくしておけば信憑性も増すだろうと錦山先輩の言葉を口にする。
 効果は絶大だったらしく、改めて候補者は勉強を再開する。
 わたしの受け持ちは2人、一色くんも2人、臨時参加となった宮野さんは1人に対して勉強を教える。
 幸いにも、わたしの教え方は下手ではなかったようだ。少しずつ理解をしてくれているようで嬉しい。
 そうして21時をまわった頃、本日の勉強会がお開きとなる。進捗次第では22時を覚悟していたが、まったくそんなことはなかった。
 今朝を持ってCクラスとなった女子の部屋は4階上の11階に位置する。宮野さんも11階らしく、エレベーターに乗りながら世間話をする。
 ほんの短時間であったが、部活の話、今日から1ヶ月限定のカフェの新作ドリンク情報など大変有意義な話を聞けた。


【天啓
 奇数:クラスから退学者が出た場合について
 偶数:中間テストを乗り越える方法
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 20:27:40.55 ID:p0U6kiCZ0
281 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 21:07:27.66 ID:rlQZRnFe0
>>280
 5:クラスから退学者が出た場合について 】

 5月2日の午前2時、わたしは目を覚ます。
 この人生で最も目覚め良く、まるでスイッチのオンオフを切り替えたかのように頭が覚醒している。
 直前まで学校生活の夢を朧げに見ていた。
 昼は教室で授業を受けて、夕方は生徒会室で業務をこなし、夜は夏帆先輩に料理を教わる。そして2年生の寮からの帰り道、1年Dクラスとなった辻堂くん姿を目にして目を覚ます。
 こんな時間に目を覚ましたのはあの人のせいだと言っても過言ではないだろう。ついさっきまでご飯を食べて幸せな夢を見れていたのに……。
 だが、その一方でひとつ気が付いたことがある。

 元Bクラスは先日に退学者を1名出した。
 退学者を1名出して435クラスポイント。
 そのクラスが4月のうちにどれだけ不真面目に授業を受けてきたかは分からないが、それでも確実にクラスから退学者を出したペナルティが課せられていると考えるのが自然だ。
 わたしたちCクラスと同じくらい授業中に私語をして携帯を触り、無断欠席などが発生したと仮定して残700クラスポイント。そこから更に退学者を出したペナルティとしてマイナス300クラスポイントされていれば計算が合う。
 もちろん実際はマイナス100ポイントだったとも、マイナス500ポイントだったとも考えることも出来る。
 総じて言えることは、次の中間テストで退学者を出したとき、0クラスポイントになる恐れがあるということ。
 わたしの見立てでは3人退学者を出すだけでマイナスに振り切れる。なんとしてでも退学者を出す訳にはいかない。
 そうと決まれば、今は寝ることにしよう。
 徹夜漬け否定派のわたしは、計画を立てて赤点候補者への教育を行なっていきたい。
 そのためにはまず、勉強会不参加を宣言した雨宮さんを説得しなければならない。昼休み、放課後にはすぐ席を立ってしまう彼女を逃さないように……寝よう。


【コンマ1桁判定
 奇数:呼び止めること出来ず
 偶数:雨宮綾香
 下1でお願いします。】
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 21:48:47.57 ID:WjifbbtAO
偶数
283 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 20:29:52.91 ID:1ouIvNPrO
>>282
 7:呼び止めることできず】

 5月2日の放課後。
 結論から言ってしまうと、雨宮さんと話すことは出来なかった。
 ほんの一瞬だけ目を離した隙に彼女は居なくなっていた。、あるいは神隠しを疑うほど忽然と姿を消すものだから大変驚いた。
 どこか喪失感を覚えながらも、すぐに切り替えて明日以降の方針を立てる。
 まず授業と授業の間の休み時間を利用して彼女に話しかけること。お昼休みか放課後が良いと思っていたが、今日のように彼女が消えてしまう可能性がある。
 再来週明けに実施される試験に向けて、ひとまず意思確認だけでも早めに取っておきたい。
 そんなことを自席で考えていると、隣の席の一之宮くんが話しかけてくる。

「春宮、勉強会の件なんだが…」

「あ、うんうん。放課後組を担当してくれているんだよね?」

 わたしがそう聞くと、彼は一度頷く。
 昨年の全国模試で同率2位を取った一之宮くんは、先日の小テストでもケアレスミスで落とした1科目以外は満点を獲得していた。そのため先生役としてはこの上ない適任で、彼も教えることに抵抗は無いようだった─────が。
284 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 20:30:30.63 ID:1ouIvNPrO
 どうやら昨日の勉強会は上手くいかなかったようで、重苦しい表情をしている。

「正直、あそこまで理解が及んでいないとは思わなかった。具体的に言うと小学生の範囲も理解できていない。まだ初日を終えた段階だから弱音を吐くのはダサいことだが、どうしたものかと悩んでいる」

「そっか。……そうだなぁ」

 正直、次の中間テストは付け焼き刃で乗り切れるとは思っている。しかしそれ以降のテストは幾度となく訪れる。その度に今回の規模で勉強会を行うのは負担になってくるだろう。
 なんとか自主性に任せて勉強を促したいものだが…。

「ごめん、ちょっと考えてみるね。本当に悪いんだけど、もうしばらくは今の体制で協力して貰えないかな?」

「春宮が悪いわけじゃない。……まぁ、アイツらが悪いと決めつけるのも違うんだろうな、この場合は」

 日々の学習を怠っていた彼らを責めることなく、一之宮くんは頷いた。しばらく負担をかけてしまうことに胸の奥が痛くなる。
 部活動組の勉強会は滞りなく進みそうだったが、放課後組は雨宮さんの件と理解度の件が2つ重なっている。頭を抱えたい気持ちは間違っていない。
 彼が自分のことだけでなく、クラスメイトのことを想える人格者であることを認識して、わたしは一之宮くんと別れる。
 この件は今週中にケリをつけないと厳しそうだ。
285 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 20:31:44.87 ID:1ouIvNPrO

【ここから5回(プラスα)の自由行動の間は以下を行うことができます。
 1.部活動組の学力向上
  現在の部活動組学力:35(今回の中間テスト範囲)
  自由行動で1を選択する度に学力プラス5されます。
  →55の場合は退学者0
  →50の場合はコンマ判定10分の1で退学者1名
  →45の場合はコンマ判定10分の2で退学者1名、10分の1で退学者2名(10分の3で退学者が出ます)
  →40の場合はコンマ判定10分の2で退学者1名、10分の2で退学者2名(10分の4で退学者が出ます)
  →35の場合はコンマ判定10分の3で退学者1名、10分の2で退学者2名(10分の5で退学者が出ます)
 2.雨宮綾香の説得 (最低1回、最大3回会う必要あり)
 3.自主的に勉強させる方法の模索(今回の安価かその次の安価で必ず選択する必要があります)
 4.今回のテストの攻略法を模索(最低1回、最大2回選択する必要あり。攻略法を思いつけば学力45で退学者が出る確率が0になります。40以下は低確率で退学者あり)
 5.四条夏帆に料理を教わる(優先度低)
 6.誰かと遊ぶ(優先度低)

 ☆1つの自由行動後、コンマ判定を行い、10分の3で自由行動を1回獲得できます。

 今回の安価かその次の安価で3を実施する必要があります。
 1〜6の行動をします。下1でお願いします。
 また同時にコンマ1桁が「0」「3」「7」の場合は自由行動を1回獲得します。】
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/24(金) 21:50:55.88 ID:vn4MkRz30
4
287 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:42:09.77 ID:1ouIvNPrO
>>286
 4:今回のテストの攻略法を模索
 ゾロ目ボーナスの記載を忘れていました。
 後出しで申し訳ありませんが自由行動プラス1です。
 自由行動残り4 → 5】

 5月2日の夜、わたしは初めて湯船にお湯を貯めた。
 この1ヶ月間はずっとシャワーだけで過ごしてきたが、今日は夏帆先輩から入浴剤を譲ってもらったので使ってみることにした次第だ。
 感想は、最高の一言に尽きる。
 浴室に広がるジャスミンの香りは心身を癒やし、入浴剤の裏に書かれていた様々な効能は現実味を帯びる。
 まさに極楽浄土。至福の瞬間とはお風呂に浸かっている瞬間だと実感する。
 この寮生活において、水道代やガス代、電気代は請求されない。使い過ぎれば注意が入るかもしれないが、毎日湯船に浸かるくらいは許されるだろう。つまり日替わりで入浴剤を愉しんでも家計に響くことはない。
 今度の休日は入浴剤を買い込み、夏帆先輩とその素晴らしさを共有しようと考えたところで、頭のスイッチを切り替える。

「どーしよっかなぁー」

 閉鎖された浴室にわたしの声が響く。
 このまま勉強会を開けば運動部組は問題なし。
288 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:42:43.41 ID:1ouIvNPrO
 しかし放課後組が危ないようだ。良くてギリギリ退学者なし、悪くて3人ほど退学の恐れがあると聞く。なんとかそちら側の勉強会に混ざって状況を把握したいところだが、生徒会の業務の手前そうもいかない。
 赤点候補者の自主性に任せる。
 一之宮くんを始めとした放課後組の先生役に託す。
 その他に、わたしが打っておける手段と言えば…。

「……一か八か、賭けてみるか」

 正攻法の道を一歩踏み外した一か八かの賭け。
 失敗すればプライベートポイントの減少に止まらず、クラスから退学者を出すことになる。
 しかし成功すれば退学の恐れはほとんど無くなり、またクラスメイト全員が高得点を狙える。ひいては来月のクラスポイントが80〜90ほど高くなり、1人あたり8000ポイント〜9000ポイント程度の収益が継続的に見込める。
 賭けてみる価値は十分にある、と意気込んだわたしは明日のお昼休みに早速行動を移すことにした。
289 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:43:09.04 ID:1ouIvNPrO

◇◇◇

 入浴剤で癒された翌日のお昼休み、わたしは友達のお誘いを断って、一人で食堂を訪れていた。
 ランチAセットの券を購入して、わたしは食券機近くでただその時を待つ。こうしている間にもお腹は段々と空いていくが、この機会を無駄には出来ない。
 約5分ほど待つと、待ち人はやって来る。
 やや肥満気味な男子生徒。確か苗字は鈴木さんといったか。名前までは思い出せない。また生徒会室に置かれている生徒名簿を読み返しておく必要がある。
 ともあれ彼は重い手つきで食券機の右下にある『0ポイントの山菜定食』を選択した。ポイント振り込み日である5月1日から間も無いが、3年Dクラスのクラスポイントはかなり困窮していると見える。
 わたしは先輩の後を着いていくようにして、先輩が山菜定食を食べ始めたところで声をかける。

「お食事中に申し訳ありません。わたし、1年Cクラスの春宮といいます。お食事をしながらで結構ですので、お話を聞いていただくことはできますか?」

「し、知ってるよ…。錦山くんの生徒会に入った1年だろう? それに君は、何かと噂になってる」

 無視を貫かれたらどうしようかと思ったが、わたしの肩書きと道場破りの悪名は良く轟いているようだ。
 先輩の向かいの席に座り、和食のDセット─────1050ポイントというお高い昼食を見せつける。
290 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:43:47.80 ID:1ouIvNPrO
 ゴクリ、と息を呑む音がハッキリと聞こえて来る。

「手短に済ませます。先輩、」

 いよいよ交渉が始まる、というところで背後から聞き覚えのある声がわたしを呼び止める。

「お、天音ちゃん。なーにしてるの? 鈴木くんとお話? 知り合いだったの?」

 振り向くと、そこには乙葉先輩が居た。
 手元には鈴木先輩と同じ山菜定食。
 この人はAクラスだったと記憶しているが、本当にもうプライベートポイントが空なのだろうか。そんな疑問を抱きながら、わたしは否定する。

「いえ、少しお話をと思って─────」

 ふと乙葉先輩から鈴木先輩へ顔を向けると、鈴木先輩の顔には陰が出来ていた。視線が定食へと落ちている。

「わたしは外した方が良いかな?」

「いえ、構いません。乙葉先輩もご一緒に」

「わーい! 天音ちゃんは優しいねー、その調子で海老の天ぷらもくれると嬉しいんだけどなー」

「いいですよ。少し多いと思っていましたから」

「冗談だって。今わたしが出せる対価は無いからね。今晩も夏帆ちゃんのウチで美味しいもの食べさせて貰うから、今は我慢だよ我慢」

 饒舌な乙葉先輩はわたしの隣に座り、山菜定食を食べ始める。それから口を開く様子は見られず、わたしと鈴木先輩の話を傍観するようだった。
291 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:44:16.83 ID:1ouIvNPrO

「鈴木先輩、ご相談です。1年生の5月に行われた中間テストの問題用紙を持っていませんか? もし可能であれば4月末に行われた小テストの問題用紙も戴きたいです。もちろんポイントをお支払いします」

 一瞬、鈴木先輩は顔をあげてこっちを見た。
 わたしと乙葉先輩。その両方に視線を向け、そしてまた視線を定食の方へと落とす。
 そんな光景を見かねたのか、隣の先輩が口を開く。

「ま、フツー持ってないよね。くしゃくしゃにしてポイだよ。過去のテストなんてさ。ね?」

「……あ、あぁ。そうだな。花菱の言う通りだ」

 どうにも乙葉先輩が姿を現してから鈴木先輩の様子がおかしい。さっきまでは警戒されつつもお互いが持つ武器を見せ合うことくらいは出来そうだったのに…。
 乙葉先輩の手前、わたしも強く揺することは出来ない。交渉はたった1度の掛け合いで幕を閉じる。

「そうですか。わかりました。無理を言って申し訳ありませんでした」

 わたしは頭を下げながら、状況を整理する。
 今回、上級生に交渉を仕掛けたのは中間テストの問題用紙を譲ってもらうため。過去の問題と全く一緒のものが出題されるとは考えにくいが、それでも参考にはなるはずだと考えた。
 その対価として3万程度のポイントを失う覚悟は出来ていたが、空振りに終わる。
292 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:46:06.77 ID:1ouIvNPrO
 この一連の流れから推測できることは3つ。
 1、学校から過去の問題用紙をバラまくことを禁じられている。破った場合はクラスポイントもしくはプライベートポイントにペナルティがある恐れ。
 2、上級生を取りまとめる1人、あるいは数人の生徒が1年生に対して問題用紙を渡さないように規制をかけている。
 3、本当に問題用紙を捨ててしまった。
 可能性として濃厚なのは1か2。
 状況から見ても2の可能性が高い。
 しかも鈴木先輩の様子を見るに、乙葉先輩が諸悪の根源である可能性が高い。というか絶対に犯人だ。すごく無邪気にわたしのDセットの方をチラチラと見ながら山菜定食を摘んでいるが、その胸の内では何を考えているか分からない。
 わたしは海老の天ぷらをひとつ乙葉先輩のお皿に乗せて、食事を始める。どちらにせよ揚げ物ランチセットは胃に悪い。食べ切れるか不安だったため、ちょうど良かった。

「ありがとー! 天音ちゃん! わたしが問題用紙持っていたら渡せたのになー。渡せたのになー」

 もはや隠す気がないんじゃないかと思えるほど露骨にそんなことを口にした。
 わたしの敵は案外身近に居たみたいだ。
 ともあれこれでわたしの攻略は封じられる。
 さてさて、どうしたものか。今のところ少し時間を無駄にしたくらいで、ほぼノーダメージと言っても過言ではない。今ならまだ正攻法の道に戻れるが…。


【コンマ判定
 直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
 1・3・5・6・7・9・0:最後の手段を実行(自由行動消費なし)
 2・4・8:考える(自由行動を消費して実行 or 他の選択肢を実行)
 ゾロ目も最後の手段を実行できます。
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/25(土) 00:29:43.75 ID:3ZfZ4rr0O
294 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:52:54.19 ID:TuZ+rf/1O
>>293
 5:最後の手段を実行】

 昼食後、わたしは乙葉先輩に連れられて特別棟の屋上を訪れた。鍵は掛かっておらず、誰でも屋上に入ることが出来る。それが出来るのは監視カメラ1台と、高いフェンスが色々な問題を解決しているからだろう。
 フェンス近くで乙葉先輩は長い黒髪を靡かせ、わたしの方を振り向く。

「何がとは言わないけど、良い線は行っていたよ」

 十中八九、ポイントが不足している上級生にポイントを譲渡する代わりに中間テストの問題用紙を手に入れようとしたことだ。
 裏から手を回していたことを自白するように乙葉先輩は笑う。

「嫌がらせがしたい訳じゃなくってね。それこそ天音ちゃんが一人で利用する分には良かったよ。でもそれでクラスメイトの子達を助けようとしているのなら、それは反対かな」

「反対……というと?」

「なんていうか、普通なんだよね。ちょっと賢い子が機転を利かせればそれくらいのことは思いつく」

 そこで一呼吸を置いて、先輩は続ける。

「あっくんから聞いていたよ。中学3年生の頃に転校してきた1年生の子が天音ちゃんの幼馴染で、彼から君に関することをたくさん教えて貰ったって。当時、小学生とは思えないほど頭が良くて、身体も動かせたこととかたくさんね」

 入学式の日、錦山先輩からその事については聞かされていた。幼馴染の平塚邦彦くんが錦山先輩の居た中学校に転校して、わたしのことを話していた。
295 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:53:28.93 ID:TuZ+rf/1O
 そのエピソードを錦山先輩が乙葉先輩に話していても何の不思議はない。特に話されても困るような内容でもない。

「実際、日々の生徒会の業務と運動部との試合で天音ちゃんが聞いていた以上に優秀だってことは分かった。それは生徒会の全員が認めている。だからこそ、過去の中間テストの問題用紙を手に入れてテスト対策とかして欲しくないんだよね」

 ここで乙葉先輩は暗躍していたことを認めた。
 表情には何の悪びれる様子もなく、それどころかわたしに対して期待の眼差しを向けて来る。

「天音ちゃんには驚かせて欲しいんだ。常人には思いつかないようなこと、常人には為し得ないことをもって、この中間テストを乗り越えてほしい」

「……買い被り過ぎですよ。わたしはそんな人間ではありません」

 口では否定をするが、1つだけ策は残っている。
 それは奇抜でも常軌を逸脱した策でもなく、ただ一か八かの賭けの部分が強い。しかしわたしならきっとやれると信じている1つだけの対策法。
 きっとそれは他の人では精度が落ちることだろう。
296 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:53:55.51 ID:TuZ+rf/1O
 そういう意味ではわたしが適任で、常人には為し得ないと言えるかもしれない。

「1つだけ約束してください」

「うん、言って言って。まずは聞くだけだけどね」

「1年生から流れてくる噂を全部無視して下さい。それがどんな噂であっても、です」

「噂かぁ。うん、過度なもので無ければおっけーかな。ユキちゃんが誰かと付き合っているとか、そういう個人に迷惑をかける根も歯もない噂でなければ無視してあげる」

「そんなことはしません。ありがとうございます」

「お礼を言われる立場じゃないって。ちょっかいを出しているのはこっちなんだからさ。3年生と2年生、その両方に噂を無視するように言っておく。あとは中間テストが終わった頃に種明かししてくれると嬉しいな」

「はい、もちろんです」

「じゃあ戻ろっか。もう少しで授業だからねー」

 フェンスから離れた先輩はわたしの手を取って屋上の扉へ向かう。
 足取りは軽く、心の底から楽しんでいるようだ。
 ほぼ正攻法に近いこの策は、果たして有効に働くか、そして乙葉先輩を楽しませることが出来るか。
 それはテストの結果が出てからのお楽しみだ。
297 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:54:24.29 ID:TuZ+rf/1O
【テスト攻略法を思い付きました。
 学力による退学者を出す確率が下がります。
 赤点候補組の学力 現在:35
 45:必ず退学者なし
 40:コンマ判定10分の1で退学者1名
 35:コンマ判定10分の2で退学者2名

 次の行動は強制的に『自主的に勉強させる方法の模索』になります。
 自由行動残り5 → 4】
298 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:55:05.05 ID:TuZ+rf/1O

 乙葉先輩と対峙してから二日後の金曜日。
 週末が差し迫り、放課後組の勉強を教える一之宮くん達の限界が近づいて来た頃。
 わたしは生徒会の業務を一度抜け、図書室の隅で行われている勉強会に顔を出した。
 テストを目前に控えたタイミングであれば、もちろん小声の条件で私語が咎められることはない。生粋の読書好きの方々もそれは承知のようで、各所から聞こえてくる小声を聞かなかったフリしてくれている。

「春宮、生徒会は大丈夫なのか?」

「うん、少しだけならね。どう様子は?」

「不参加の雨宮を除いて、前よりはマシになった。だがこのままでは不安も残る」

 そう言って問題に取り組む4人に視線を向ける。
 一之宮くんの中では4人中2人がセーフラインを越える想定、そして残りの2人はギリギリ踏めないと言う。
 後ろにはわたしの策も控えているが、根本的な学力向上を図らなければ今後のテストの度に躓くことになる。互いが負担を感じるような事態は避けるべきだ。
 なんとか自主的に勉強に取り組むモチベーションを上げておきたい。
299 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:55:31.94 ID:TuZ+rf/1O
 すっごく単純に考えて、思いついたのは2つ。
 1、毎月1万ポイントを払うから勉強してとへり下る
 2、無事に終わったらみんなで焼肉パーティ
 どちらもポイントがかかってしまう安易な考え。特に1はパッと思いついた中でも最低な提案だろう。
 仲間意識を持たせて2という選択肢はアリだ。
 テストを無事乗り越える度にお疲れ様会的なことをすればモチベーションも上がるだろう。また互いに教え合うという理想のシチュエーションも作れるかもしれない。

「ね、中間テストが終わったらみんなでご飯食べに行こうよ」

 候補者の4人は怪訝そうにこちらを見てくる。
 急に顔を出しただけのクラスメイトに言われたことが癪に触ったのか、とも思ったが。

「え、春宮ちゃんとご飯?」

「いくいく、ぜってぇ行く」

「つかさ、テスト後なんて言わず今晩にしない?」

 などと、意外にも好感触だった。
 それは想定していたお疲れ様会とは異なる様子だったが、モチベーションが上がってくれるならそれでいい。

「見事だな」

「そんなことないって」

 やや茶化すように言ってくる一之宮くんの言葉を否定して、生徒会室へと戻るため踵を返す。
 かくして、意外と単純に放課後組のモチベーションを上げることに成功した。
 部活動組も勉強に対しての姿勢は整っている。
 中間テストを無事乗り越えることができれば、ちょっとした大人数で楽しくお疲れ様会ができそうだ。
300 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:55:59.44 ID:TuZ+rf/1O
【放課後組のモチベーションを上げることに成功しました。
 自由行動残り4回。
 1.部活動組の学力向上(現在の学力:35)
  45:必ず退学者なし
  40:コンマ判定10分の1で退学者1名
  35:コンマ判定10分の2で退学者2名

 2. 雨宮綾香の説得 (最低1回、最大3回会う必要あり)
 3. 四条夏帆に料理を教わる(優先度低)
 4.誰かと遊ぶ(優先度低)

 下1でお願いします。
 同時にコンマ1桁が「0」「3」「7」もしくはゾロ目で自由行動1回獲得です。】
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/25(土) 14:42:59.00 ID:CBbQRUoY0
2
302 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 16:20:21.11 ID:TuZ+rf/1O
>>301
 2:雨宮綾香の説得
 コンマ2桁ゾロ目のため自由行動1回獲得
 自由行動残り4回】

 5月6日、土曜日の朝10時。
 わたしは1年生の寮の玄関で部屋番号を入力してインターホンを鳴らしていた。『1111号室』。
 わたしの部屋が『1101号室』のため、雨宮さんの部屋が同じ階にあったことをコンシェルジュさんに訊いて驚いた経緯がある。
 この時間はケヤキモールの開店時間ということもあり、とにかく玄関周辺の人の出入りが激しい。どうして同じ1年生がわざわざ玄関でインターホンを押しているのかと奇怪なモノを見るような目で同級生が通り過ぎていく。
 鳴らしてから10秒ほどが経って、

『はい』

 そんな声がした。
 雨宮さんの声は初めて聞いたため、この声の主が本人であるという確証も無い。ただ、別人である可能性こそ少ないため、本人でほぼ間違いない。
 凛とした声。少なくとも寝ているところを起こしてしまった訳ではなさそうで安心する。

「同じクラスの春宮です。今、大丈夫かな?」

『……どうぞ、11階へ』

 そう言って玄関の扉を開けてくれた。
 ありがたくそのままロビーを抜けてエレベーターへ。押し慣れた11階のボタンを押して昇って行く。
 やや気の抜けた音がエレベーター内に鳴り響き、11階に到着する。扉の前で宮野さんと軽い挨拶を交わして入れ違うように11階のフロアに降り立つ。
303 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 16:20:53.03 ID:TuZ+rf/1O
 エレベーターを出て左側がわたしの部屋がある1101号室方面、右側が雨宮さんの部屋がある1111号室方面だ。
 部屋番号を確認しながら右へ歩くと、右側の角から5つ目に『1111号室』と表札が掲げられている部屋を見つけた。部屋の前のインターホンを鳴らして数秒。扉が開かれる。
 眼鏡をかけた部屋着の少女が姿を見せる。

「あんまり長話はしたくないから、要点からどうぞ」

「なら率直に言うね。勉強会に─────」

「やだ。人と会いたくないの。今回だって本当は無視するつもりだったけど、この際に言っておいた方が良いって思った。学校で話しかけられても嫌だからね」

 出鼻を挫かれる。
 会うことを承諾してくれた以上、交渉の余地はあると思っていた。しかし実際は、ほぼ出会い頭に誘うなとノーを突き付けられる。
 まともに交渉に応じてくれなさそうな雰囲気だが、ひとまず話だけはしてみよう。

「次の中間テスト、赤点を取ったら退学なんだよ?」

「そもそも、たかだか小テストの結果が微妙だったから私に声をかけてきた訳でしょ? 本番のテストで赤点を取らなければ退学にはならない。違う?」

「それはそうだけど……。一緒に勉強会をした方が点数が取れるんじゃないかなって」

「必要ない。一緒に勉強会って、あの男達とでしょ? 普通に無理だから」

 放課後組の男子生徒4人のうち3人は女子から煙たがられている側面がある。口が軽いとか、いやらしい視線を向けてくるとか、そんな話が絶えない。
304 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 16:21:23.07 ID:TuZ+rf/1O
 雨宮さんが勉強会を拒否する理由が彼らにあるのなら、わたしは別の対応をするまで。

「なら部活動組の方はどうかな? 夜8時からになるけど」

「それも嫌。汗臭いの嫌いだし」

 きっぱりと断られてしまう。
 実際に一色くんの部屋に集まって勉強会をしている限りでは、あまり汗臭さとか感じないけどなぁ。
 なまじスポーツを齧る身には分からないだけで、実際スポーツを一切やらない人からすれば違うのか。
 ややショックを受けながら、わたしは提案する。


【コンマ判定
 4・9:「わかった。……でも、諦めないから」
 それ以外・ゾロ目:「もし、わたしと一緒に勉強しようって言ったら……どうかな?」
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/25(土) 17:30:16.05 ID:TMymUI4XO
それ!
306 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 18:35:23.07 ID:TuZ+rf/1O
>>305
 5:「もし、わたしと一緒に勉強しようって言ったら……どうかな?」】

 今のところ、彼女の言い分としては男子と一緒に勉強をしたくないというところが強く感じられる。
 ならば同性のわたしはどうか提案する。

「わたしと勉強しようって言ったら……どうかな?」

「春宮さんと二人きりで?」

「う、うん。言い方がアレだけど、そうなるね」

「なら……」

 ダメ元ではあったが、かなり好感触。
 真っ直ぐに伸びた艶やかな黒髪を指に絡めながら、わたしの目をじっと見つめてくる。

「……うん、春宮さんと二人ならいいよ」

「えぇっ、ほんと? いいの?」

「だからいいって。まぁ、教えて貰う立場で偉そうなことは言えないけどさ。春宮さんって頭良いし、1人でやるよりも捗るみたいな?」

「そっか、わかった。わたしも頑張るね」

 意外と簡単にオーケーが出て、わたしは内心で裏があるんじゃないかと勘繰る。
307 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 18:35:53.83 ID:TuZ+rf/1O
 しかしそんな様子は見られず、チラチラとわたしの方を見てきている。恋する乙女らしい仕草。

「申し訳ないんだけど、空いている時間が平日の18時30分から19時45分、もしくは21時以降しかないんだ。その2つだとどっちの方が都合良いかな?」

「早い時間で。あんまり遅い時間はダメだから」

「うん、わかった。じゃあ18時30分に……。わたしの部屋にする? この階の端だけど」

「そうして貰えると嬉しいかな。春宮さんの部屋は興味あるし」

「いや、何にもないけどね? まぁとりあえず了解。月曜日の18時15分には寮に戻って来れると思うから、その後に来てくれるのを待ってる」

「り」

「……? うん、ばいばい。今日はごめんね急に」

「いいって。女の子なら」

 別れ際に彼女が言い残した一文字は、後になって調べてみると『りょうかい』という意味らしい。かなり短い挨拶用語だが、それすらも短縮してしまうとは…。
 それも込みで、意外と話しやすい子だった。どうしてこれまで一言も話したことがなかったのか分からなくなるほどに。
 ともあれ、雨宮綾香さんの退学はほぼ回避されたと言っても過言ではない。もともと彼女の学力は赤点候補組の中でもトップの学力だった。1週間も勉強すれば合格ラインには優に届くだろう。
 それに加えてわたしの策もある。その策は今朝完成した。お披露目は8日後の日曜日。テスト前日となる。
 あとは部活動組の勉強を見つつ、一之宮くんから放課後組の進捗を聞いて不足の事態があれば力を貸すくらいでなんとかなるだろう。
 かなりスケジュールがカツカツになるかと思ったが、案外この1週間目で片がついた。
 わたしはホッとしてケヤキモールへ入浴剤を買いに出かけるのだった。
308 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 18:36:22.47 ID:TuZ+rf/1O
【雨宮綾香との勉強は自由行動を消化する必要はありません。勉強会の約束を取り付けた時点で退学は回避です。
 自由行動残り4回。
 1. 部活動組の学力向上(現在の学力:35)
  45:必ず退学者なし
  40:コンマ判定10分の1で退学者1名
  35:コンマ判定10分の2で退学者2名
 2. 四条夏帆に料理を教わる(料理の腕が上がります)
 3. 誰かと遊ぶ(3を選択後、人を選びます)
 下1でお願いします。】
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/25(土) 20:14:27.29 ID:CBbQRUoY0
1
310 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 22:32:16.77 ID:TuZ+rf/1O
>>309
 自由行動残り4回 → 3回
 1:部活動組の学力向上(現在の学力:35)
 書いていなかったですが、コンマ1桁「0」「3」「7」以外のため自由行動のプラスはありません。

 部活動組の勉強は特に描写することもないため、雨宮綾香との勉強会についてやります。】

 週明けの月曜日。
 生徒会の業務終了後、夏帆先輩のありがたいお誘いを断って寮へと急ぐ。幸い、時刻は18時を過ぎたところで余裕で約束の時間に間に合った。
 改めて部屋が散らかっていないかを確認して15分ほど待つと、まずわたしの携帯に待ち人からチャットが届く。返事をして1分程度で部屋の前のインターホンが鳴った。

「どうぞ、入って」

「お邪魔します」

「ココアとピーチティーとアップルティーなら、どれがいいかな」

「あ、じゃあアップルティーで。ありがとう」

 おとなしめの私服に身を包んだ雨宮さんを居間へ通し、わたしは予め沸かしていたケトルからマグカップへお湯を注いでアップルのティーバッグを入れる。
 雨宮さんは部屋を見渡している。
311 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 22:32:44.13 ID:TuZ+rf/1O
 そういえば人を部屋に招いたのは初めてだっけ。どこかおかしいところとかあったかな。

「……なんか、入学したときのままじゃない?」

「そうかな? そんなことないと思うけど」

 確かに改めて見渡すと、最初から備え付けられていたカーテンにベッド、机など変化が無いように見える。
 シンプルイズベストを信条として掲げている身だけあって、入寮時の状態を無意識に保っていた。ここ1ヶ月で購入したものといえば、部屋着や外行きの服、マグカップといった家具以外の物だった。

「なんかつまらない女ってかんじよね」

「ひっどーい……」

「ま、これはこれで悪くないんじゃない」

 思ったことを率直に言う子だなぁ、と思った。
 普段の口数の少なさからは考えられないほど軽々と言葉が飛び出てくる。
312 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 22:33:13.64 ID:TuZ+rf/1O
 まだ熱々なアップルティーを一口飲んだ後、持参していた勉強用具を広げる。

「ゆっくりしてていいよ。分からないところあったら聞くから」

「そう? じゃあお言葉に甘えて」

 この後の部活動組の勉強会には制服で参加する予定だ。理由はひとつ、生徒会の業務帰りだとアピールするため。なんとなく忙しいイメージを付けておきたかった。
 着替え直すのも面倒だとすると、やることは限られてくる。
 パソコンでネットニュースを見るにしてもタイピング音とかマウスのカチカチとした音が雨宮さんの勉強を阻害する。携帯でゲームをして時間を潰すのも…。
 そう考えていると、

「あー、これ邪魔だな」

 雨宮さんは眼鏡を外した。
 そうすると、ガラッとイメージが変わる。
 かなりおとなしそうな印象から、先ほどまでの会話通りの活気のありそうな印象へと。
 眼鏡ひとつでここまで変わるんだなぁと感心する一方、彼女の姿に見覚えのあるような気が湧いて出てきた。

「ん、なに? 間違ってる?」

「ううん、大丈夫」

 結局、わたしは雨宮さんの向かいに座布団を置いて勉強姿を眺めることにした。基本的には机の方を一緒に見て、たまに彼女の顔を見るを繰り返す。
313 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 22:33:39.49 ID:TuZ+rf/1O

「タブレットの授業って持ち運びとかが無い分、楽だけどこういう時に困るのよね」

「そうだね。小さい携帯の画面かパソコンでしか見れないっていうのはデメリットかも」

 普段の授業で使われているタブレットには全教科の教科書がインストールされている。悪用や故障のリスクを下げるため教室からの持ち出しは禁止となっており、必要に応じて携帯もしくは自室のパソコンで確認することで各自勉強の姿勢を取っている。
 紙媒体の教科書は各々がケヤキモール内の本屋さんで購入する必要があるようだ。もちろん自費で。
 それから数言やり取りをしながらも、彼女の自習は続いていく。時折口を挟んで指摘することもあったが、概ね問題がないように見えた。
 今日一日を通して、1週間後の試験は余裕だと早い段階で気付くことができた。


【自由行動残り3回。
 1. 部活動組の学力向上(現在の学力:40)
  45:必ず退学者なし
  40:コンマ判定10分の1で退学者1名
 2. 四条夏帆に料理を教わる(料理の腕が上がります)
 3. 誰かと遊ぶ(3を選択後、人を選びます)
 下1でお願いします。
 同時にコンマ1桁が「0」「3」「7」もしくはゾロ目で自由行動1回獲得です。】
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/26(日) 08:31:49.62 ID:vVFancku0
1
315 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/26(日) 22:14:42.96 ID:CwWc8uazO
>>314
 1. 部活動組の学力向上
 学力40→45(退学のリスクなし)
 自由行動残り3回→2回
 今回も部活動組で描写することもないので、部活動組前の雨宮綾香との勉強をやります。】

 5月10日、水曜日。
 今日も引き続き雨宮さんを部屋に招き入れた。
 持参してくれたフィナンシェを戴き、わたしは自室で図書室から借りてきた本を読んで過ごす。少し視線を前に向ければ上機嫌で鼻唄を口ずさみながら勉強する雨宮さんの姿がある。
 鼻唄は一切邪魔だと感じなかった。彼女自身、音楽のセンスがあるんだろう。どこかで聞いたことのあるようなリズムは心地良く、時間はあっという間に過ぎていく。
 勉強を開始して30分が経とうとした頃、彼女は「あ」と声を出す。

「……ごめん。うるさかった? つい癖で」

「ううん、全然。ずっとしてても良いくらい」

「そう言って貰えると嬉しいな。これ、一応私の持ち歌なんだけどね」

「へー、持ち歌かぁ……ん? 持ち歌?」

「そうそう」

 何事もなかったように、自身の発言を撤回することなく肯定した。
316 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/26(日) 22:15:18.37 ID:CwWc8uazO
 楽器に明るい人であれば、自作で曲を作るという話は聞いたことがある。だが、先ほどから彼女が口ずさんでいた曲はわたしにも身に覚えがある。
 即ち、それが示すのは─────。

「……もしかして、天才作曲家とかそういう肩書きをお持ちですか?」

「なんで敬語? まぁいいわ。私の肩書きは、強いて言うならアイドルってやつなんじゃない?」

「アイドルっ?」

 少し的外れなところを突いてしまったが、それならば彼女の持ち歌という発言に理解が及ぶ。
 雨宮綾香という少女はアイドルをしている。その活動のひとつとして、先ほど口ずさんでいた曲があるのだろう。
 比較的俗世間の流行に疎いわたしでも知っているような曲の持ち主である以上、かなりの有名人ということになる。
 わたしは改めて彼女の顔をジッと見つめる。
 切り揃えられた艶やかな黒髪。ぱっちりとした目は印象強く、鼻筋や口元にもそれらしさを感じさせる。また、綺麗でもちっとしていそうな白い柔肌は念入りに手入れがされているようだ。

「そんなに驚くこと?」

「いや驚くよ! 初めて芸能人見たんだもん!」

「そんな大したことないって。ちょっとCDが売れて、ちょっとドラマとか映画に役者で出演したことある程度だって」

「……」

 空いた口が塞がらないとは、この事だろう。
 常人には理解の及ばない活躍の仕方。
 ちょっとドラマや映画に出演した経験があるだけでも雲の上の存在であることには変わりない。
317 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/26(日) 22:15:50.25 ID:CwWc8uazO
 呆然と座るわたしに、彼女は訊いてくる。

「ちなみに、私が誰か分かる?」

「…………………ほんっとうにごめん。わたし、あまりテレビとか見ないんだ。でも、歌は聞いたことある! 何かで聞いたことあるよっ」

「じゃあ次会うときまでには突き止めておいてね」

「うん! そうだ、サイン! サイン欲しい!」

「アイドルのサインは高く付くよ? まぁ、そうね。勉強を教えてくれたお礼ってことで、中間テストの後ならいいけどね」

「やった」

 早速、週末にサイン色紙を買いに行こう。
 この閉鎖された学園の中でサイン色紙を買ってどうするのか、と何も知らない店員さんは疑問を浮かべるのだろう。しかし実際、目の前にはアイドルがいる。
 このサインは大切に保管して、卒業後に家族に自慢しよう。クラスメイトに有名なアイドルが居たって。
 浮き足立つわたしはココアのお代わりを淹れることを進言するが、軽くあしらわれてしまう。

「いいって、気を遣わなくて。というか、気を遣って欲しくないの。春宮さんは信用できそうだから明かしたけど、他の誰にも言ってないんだから」

「あぁ、なるほど。有名人だもんね」

「眼鏡をするとかなり印象が変わるタイプでね。多分、眼鏡を外すとすぐにバレちゃう。逆に眼鏡を付けているうちは大丈夫だと思う」

「はぁー。なるほどね」

 確かに一昨日、「邪魔だな」と言って彼女は眼鏡を外した。そのワンポイントだけで随分と印象が変わり、どこか見覚えがある気がしていた。
 彼女が消極的にクラスメイトと関わらないこと、ひいては勉強会に参加しない理由も正体がバレたくないという思いからなのかもしれない。


【安価です。
 1.アイドル活動について
 2.この学校に入学した理由
 3.歌を教えてもらう(後日、一緒にカラオケで音楽スキルの向上)
 下1でお願いします。】
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/26(日) 22:25:44.39 ID:mKRVc0S00
3
319 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/26(日) 23:36:35.82 ID:CwWc8uazO
>>318
 3. 歌を教えてもらう】

 ペンを握る手を止め、彼女は告白を始める。

「私は幼少の頃から芸能活動一本ってかんじでさ。ろくに学校には通わなかったし、まともに勉強もしてこなかった。その結果、赤点候補者に名を連ねてるんだからダサいよね。やるなら勉強もある程度できた上で仕事をしなってね」

 自虐気味に笑う雨宮さんを、わたしは笑わなかった。
 正面に座り、純粋な気持ちを伝える。

「凄いと思うよ、芸能活動をしながら勉強って。確かにこの前の小テストは赤点近かったけど、この3日間雨宮さんの学力を見てきて基礎はしっかりと理解できてるなって思った。雨宮さんは十分、仕事と学業を両立できてるんじゃないかな」

 そう言うと、彼女は少しの間だけ硬直した後、大袈裟に手のひらで顔を煽ぐようにする。

「……や、やめてよね。なんか泣く流れみたいじゃん。でも、ありがとう。そう言って貰えると嬉しい」

「うん。で、」

「で?」

「ここ1週間半の間、生徒会と勉強会の両立をしているわたしからのお願いなんだけど」

「おおっと? そういう流れ? 断れない流れじゃん。とりあえず聞いてあげる。なんでしょうか?」
320 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/26(日) 23:38:09.89 ID:CwWc8uazO

「わたしに音楽のことを教えてください」

「…………はい?」

 雨宮さんは首を傾げた。
 確かに支離滅裂なことを言ってしまったなと思う。
 改めて一から告白することにする。

「わたし、料理と音楽が出来ないんだよね。料理に関しては、生徒会にすっごく上手な先輩が居てね、現在進行形で教わっている途中」

「あー、なるほど。欠点の音楽を私から教わることで補おうと?」

「端的に言ってしまうと、そんなかんじ。ダメかな」

 すごく率直なお願いに、雨宮さんは大きく笑ってみせた。とは言っても、さすが芸能人。品良く、貞淑に口元を隠して笑っている。

「うん、いいよいいよ。歌でもピアノでもギターでも、割となんでも出来るから。もちろんその道のベテランには及ばないかもしれないけどね。センスを磨くって話なら私でも役に立てると思う」

「ほんと? よかったぁ」

 交渉材料として分かりやすいポイントを献上して講師をして貰うプランも考えていたが、彼女は快く引き受けてくれた。
321 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/26(日) 23:38:51.32 ID:CwWc8uazO

「でも、どうして急に? 春宮さんって自分の弱点的なところを人に話すのはしないタイプだと思った」

「周りを頼り辛いな、っていうのはあるかも。でも、雨宮さんが先にバレたくないことを告白してくれたから、かな。これでお互いが周りにバレたくないことを知っている、みたいな?」

「なにそれ。めちゃくちゃだけど、嫌いじゃない。その案乗った。私の抱えている内容に比べたら、些か春宮さんの秘密は弱い気がするけどね」

 確かに雨宮綾香という少女のアイドル人生そのものの秘密と、春宮天音という少女の出来ない事というのは釣り合っていない。
 だが、目の前の芸能人はそれでも構わない、という表情をして初めて右手を差し出してきた。
 わたしもその手を取り、ここにひとつの友情が出来上がる。友人関係として、時折勉強を教え、時折歌を教え合うような関係を。


【コンマ判定
 7・0:将来について
 その他:自由行動終了
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/27(月) 01:19:50.24 ID:IhMxGGho0
323 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/27(月) 22:00:46.42 ID:GIad6ZCMO
>>322
 4:自由行動終了】

 あっという間に雨宮さんとの勉強会の時間は過ぎ、その後わたしは一色くんの部屋で部活動組の勉強を見る。
 そんなルーティンワークをこなした後、夕食やシャワーを浴びたりと寝る前の準備をすると日付が変わる直前になっていた。
 ベッドに座り、携帯を取り出す。
 少し考えた後、以下のワードで検索を行う。

 『黒髪 中学生 アイドル』

 すると眼鏡を外した雨宮さんそっくりの人物の画像が次々に出てきた。中学生でアイドルをしている時点でかなり絞り込みが出来たのだろう。
 芸名は『白石詩波』。『ウタちゃん』の愛称で幅広い年代に男女問わず人気があり、色々なサイトで絶賛されている。あの百科事典のサイトに登録までされているのだから驚きだ。
 そういえば乙葉先輩が自分の名前と似ているからという理由で応援していたような。それを知れば驚いて喜ぶ姿が想像できる。ただ、少なくともわたしからそのことを仄めかすことはないだろう。彼女が隠したがっていることを勝手に語るつもりはない。

「…………………重責だなぁ」

 ベッドに倒れ込み、目を閉じる。
324 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/27(月) 22:01:20.92 ID:GIad6ZCMO
 知っている分、隠し通すことを第一に考えなければならない。もし何かの拍子にバレることがあれば、友情に亀裂が入る。
 何も知らずに「雨宮さんって白石詩波ってアイドルに似てない?」とわたしから発言するリスクが事前に回避できただけ御の字とポジティブに考えるべきか。
 気軽にサインが欲しいと言ったものの、部屋に飾ることはできない。誰かが部屋へ来たとき、それは決定的な証拠になりかねない。

「でも……」

 秘密を打ち明けてくれたのは嬉しかった。
 信頼してくれていることが心の底から嬉しかった。
 公には『学業優先』と発表して休業している彼女を退学にさせるわけにはいかない。彼女のアイドル人生を守るためにも。


【週末の土曜日 自由行動
 残り2回(土曜日・日曜日)
 1.部活動組の学力向上(現在の学力:45)
  退学者の恐れなしのため優先度超低
 2.誰かと遊ぶ
  1.早見有紗(前の席の女子生徒)
  2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
  3. 一之宮重孝(全国模試2位の男子生徒)
  4. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
  5. 神宮紫苑(同級生の生徒会役員)
  6. 花菱乙葉(信頼のできる生徒会役員?)
  7. 如月深雪(信頼のできる生徒会役員)
  8. 四条夏帆(信頼のできる生徒会役員 料理スキルアップ)
  9.雨宮綾香(信頼のできるクラスメイト 音楽センスアップ)
 3.1人でケヤキモールへ(コンマ判定で誰かと会うなどランダム要素大)
 下1でお願いします。
 2の場合は「2-1」のようにお願いします。】
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/27(月) 22:54:07.40 ID:LWsIda2YO
2ー8
326 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/27(月) 23:33:05.60 ID:GIad6ZCMO
>>325
 2-8:四条夏帆】

 週末の土曜日。
 わたしはケヤキモール内のスーパーで夏帆先輩と待ち合わせしていた。予定よりも10分ほど早く着き、今は端の方で携帯を触っている。
 昨晩、雨宮さんと部活動組のテスト対策は完了した。この目で直接見たわけではないが、放課後組の勉強もひとまずはひと段落がついたようだ。
 明後日の試験への対策はほぼ万全。あとはわたしの限りなく正攻法に近い秘策がどれだけ通用するかだ。
 そんなわけで、2週間弱に及ぶ勉強会は一時的に解散となり、各々が勉強もしくは息抜きに遊びに出掛けることが許可された。
 わたしもその内の一人で、今日は料理スキルを磨く日と決めた。何を作るかは先輩任せだが、きっと美味しいものが作れると信じている。

「天音ちゃん。待ちましたか?」

「いいえ、全然。さっき来たところですから」

「うん、なら良かったです」

 ほぼお決まりと言ってもいい挨拶を交わした後、カゴを持ってスーパーの中を巡る。

「今日はビーフシチューにしようかなぁって」

「いいですねっ! 自宅で作れたら最高です!」

「良い反応をありがとうございます。パンと一緒に食べるも良し、オムライスにかけて食べるのもいいですね。せっかくのお休みだから本格的に煮込もうかなって思いますが、時間は大丈夫ですか?」

「はい、もう明日の夕方くらいまでなら」

「そんなに時間は取りませんよ。超本格的に作るなら何十時間煮込みたいところですが、今日は5時間くらいを想定しています」

 そう言って、次々にカゴへ食材を入れていく。
327 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/27(月) 23:33:32.86 ID:GIad6ZCMO
 結局、先輩とスーパーをまわった時間は5分程度と、熟練者のそれを感じさせた。お肉、野菜、そのどれもが一瞬で見極められる。調味料は先輩の部屋にすべて揃っているにしても、非常に迅速な買い物だった。

「良いお肉があって良かったです」

「……そうですねっ」

 わたしにはほぼ一緒と思われたお肉だが、先輩の目にはひときわ輝いている物があったらしい。
 そういう目利きが出来ると料理が一層に楽しく感じるんだろうなぁと思っていると、あっという間に2年生の寮に到着し、先輩の部屋まで辿り着く。

「さて、早速ですが作りましょうか。11時なので、今から作り始めて夕方頃には出来上がります。ただその時間も微妙なので、そのまま夜ご飯にしますか? お昼は別のものを作りましょう」

「わかりました! よろしくお願いします!」

 先輩の指導のもと、料理の特訓が開始する。
 具体的で細かい指示。そのどれもが温かみがあり、決して手を動かす人を否定しない。
 この2種間近く人に勉強を教えるということを通して感じた『指導力』。
 夏帆先輩はその能力がとても強い。きっと料理だけでなく、勉強を教えることも得意なのだと想像に難くない。
 良い先輩を持てたなぁとしみじみ思った。


【安価です。
 1.実家の洋食屋について
 2.生徒会について
 3.2年生について
 4.世間話
 下1でお願いします。】
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/28(火) 00:00:42.94 ID:X+Im36410
1
329 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/28(火) 01:05:36.86 ID:bvotKctjO
>>328
 1:実家の洋食屋について】

 ビーフシチューは煮込む段階に入った。
 弱火でじっくりと味に深みを出している間、自然とわたし達は居間でお茶することになった。
 冷たい緑茶で喉を潤しながら先輩と世間話を始めて数分。ふと思ったことを聞いてみる。

「先輩のご実家って洋食屋さんでしたよね」

「はい、そうですよ。ご期待ほど大きいお店ではありませんけどね」

「いえ、そういうのではなく。どんなお店だったか聞いてもよろしいですか?」

「そうですねぇ……。ありふれたエピソードになりますが、それでもよろしければ」

 わたしが頷くと、夏帆先輩は話し始める。

「まず両親は若い頃に2人で今の洋食屋を開いたそうです。当時はもう赤字続きだったとか。何度も何度もお店を畳もうとしましたが、それでも味を気に入ってくれる常連さんの手前、閉めれなかったそうです」

 おそらく世間には同じような経験をしてきたお店も多いのだろう。どんなに味に自信があっても、最初はそういう道を辿るのが料理屋の登竜門なのかもしれない。
 特に脱サラをしてラーメン屋を開く、なんて話は比較的よく聞く。
330 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/28(火) 01:06:09.38 ID:bvotKctjO
 会社を辞めてラーメン屋を開く。そして1年後には赤字が続いて閉店する。
 話す分には二言で済むが、その過程には強い想いがあるはずだ。しかし現実は厳しく、お店を畳んだ後は借金もしくは残高が大きく減った通帳が手に残る。すぐ会社員に戻れる訳でもない。
 夏帆先輩の実家も例に漏れず同じような状況に陥りながらも、常連さんのためにお店を開け続けたという。

「私が産まれて間もない頃、実家に転機が訪れました。ドラマの撮影と雑誌のインタビューが重なったんです。それで一躍有名になったお店は、着々と事業が安定していったという訳ですね。本当によくある話だと思います」

「はい、それでも。それでも、先輩のご両親はとてもご立派だと思います。本当に。先輩の真っ直ぐなところはご両親譲りですね」

「……天音ちゃんは人をたらし込む才能もありますね。もう、私だから良いものの、クラスメイトや乙葉先輩にも同じようなことをしてるんじゃないですか?」

「そ、そんなことはっ……ないと思います!」

 たらし込むだなんて、人聞きが悪い。
 わたしは思ったことを素直に言っただけなのに。
331 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/28(火) 01:06:42.50 ID:bvotKctjO
 わたしの否定に先輩はクスッと笑い、話を続ける。

「まぁいいでしょう。ともかく、そうして有名になったお店は現在でもそこそこ繁盛して、毎月それなりに貯金できるくらいには儲かっているということです。ちなみにお店の雰囲気もさることながら、味も絶品だと思っています。多少贔屓目かもしれませんが」

「先輩の料理はどれも素晴らしいです! ご実家の洋食屋さんもきっと美味しいはずです!」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ぜひこの学校を卒業したらいらしてください。腕によりをかけて、私の両親が作ります! 私は未熟者なのでお手伝いをしています」

 思い返せば、先輩の料理を教えてもらうとき、先輩は包丁を握ることもフライパンの持ち手を握ることも無かった。ずっとわたしだけが手を動かして、先輩は口頭で指示を出すだけだった。つまり先輩の指導力は確かなものだが、その腕は未知数だ。
 ただ生徒会の仕事を通して超器用な人だということは分かっているし、物事を並行に進めることも得意だと理解している。きっと口先だけではない実力を秘めているのだろう。
 どんな時でも親の背中は大きく見えるもの。
 それが、先輩が自分自身を未だ未熟者として思い込んでいる原因なのかもしれない。

「はい! 楽しみにしています。この学校を卒業したら、真っ先に先輩のご実家にお伺いしますね」

 雨宮さんのアイドル活動のライブ、そして夏帆先輩のご実家。卒業後の楽しみがまた一つ増えた。
 それから話が途絶えることなく、夜まで続いた。
 約7時間煮込んだビーフシチューの味は端的にいって超絶美味しかった。レトルトや固形ルーとして売られいるものとは全く違う深みを始めて知った。
332 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/28(火) 01:07:57.63 ID:bvotKctjO

【今日はここまでにします。お疲れ様でした。
 続きは今晩にします。

 料理スキルアップ
 現在:料理:32(ちょっと下手)
 基本的にコンマ1桁で決めます。減少はありません。?
1:プラス1?
2〜4:プラス3?
5〜8:プラス5?
9・0:プラス7?
2桁がゾロ目:プラス10?
下1でお願いします。】
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/28(火) 01:17:34.89 ID:bRtUAeQ4O
ゾロ来い!
334 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/28(火) 01:32:22.02 ID:bvotKctjO
>>333
 9:プラス7
 32 → 39(まぁまぁ?)

 自由行動残り1回
 1. 部活動組の学力向上(現在の学力:45)
  退学者の恐れなしのため優先度超低
 2. 誰かと遊ぶ
  1. 早見有紗(前の席の女子生徒)
  2. 宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
  3. 一之宮重孝(全国模試2位の男子生徒)
  4. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
  5. 神宮紫苑(同級生の生徒会役員)
  6. 花菱乙葉(信頼のできる生徒会役員?)
  7. 如月深雪(信頼のできる生徒会役員)
  8. 雨宮綾香(信頼のできるクラスメイト 音楽センスアップ)
 3. 1人でケヤキモールへ(コンマ判定で誰かと会うなどランダム要素大)
 下1でお願いします。
 2の場合は「2-1」のようにお願いします。】
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/28(火) 01:56:23.37 ID:X+Im36410
2-8
336 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/29(水) 01:19:31.69 ID:O9o61/1lO
【色々と立て込んで進められませんでした。
 申し訳ありません。
 少しだけ更新しておきます。】
337 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/29(水) 01:20:06.17 ID:O9o61/1lO
>>335
 2-8:雨宮綾香】

 いよいよ退学を賭けた中間テストを翌日に控えた日曜日。わたしは朝9時30分に寮のエレベーター前で雨宮さんと待ち合わせをしていた。
 きっかけは十分な学力を有していると判断した金曜日。ケヤキモールまでお出掛けしようと誘ったところ快諾してくれた。
 もちろん学校で悪目立ち? をしているわたしと居れば雨宮さんが人の視界に入る機会が増える。そのため短い時間、可能な限り目立たないようにすることを目標に行動することにした。
 ケヤキモールの開店時間は朝の10時。よっぽどの理由がなくとも、開店待ちをする生徒は多い。しかし10時以降もまた、寮とケヤキモールを繋ぐ道には人の姿が絶えることがない。
 どちらの方がリスクを抑えられるか考えた結果、開店前に寮側ではない出入り口から入ることで多少人目につかないよう立ち回る事が出来ると計画を立てた。
 5分ほど待つと、雨宮さんが部屋から出てきた。それでもまだ待ち合わせ時刻の10分前だ。

「わ、早いね。待った?」

「ううん、ちょうど来たところだから。雨宮さんを待たせないように早く出てきて正解だったよ」

「そ。良い心がけね。感心感心。ありがと」

 エレベーターの降りボタンを押すと、割と早く到着する。扉の先には2名の女子生徒。携帯の方を見て、こちらには目もくれていないようだ。
338 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/29(水) 01:20:43.19 ID:O9o61/1lO
 今日も雨宮さんは伊達眼鏡をかけている。まじまじと顔を確認しなければ正体に気付かれることはないだろう。
 ちなみに帽子やマスクを付けて露出面を減らさないのかと聞いたところ、

「そういうあからさまな変装はバレやすいし、私は眼鏡で結構印象が変わるからね。髪型をおさげとかにしておけばそれっぽいでしょ?」

 と、今日は物静かそうな子を演出している。
 見た目だけでなく、根からそういう子なんだなと思わせるオーラまで漂っている。
 よく出来た変装─────役に没頭するかのような姿勢にはつい目を奪われる。
 そんなことを考えていると寮のロビーへ着く。
 幸い、人はちらほらと見受けられる程度だった。足早に寮を出てケヤキモール方面へ。そして真正面の入り口を迂回して遠い出入り口へ。こちらの方はまったく人がいなかった。

「で、今日はなにするの? あんまり目立つのは勘弁だからね」

「そうだね─────」

 このケヤキモールで人目につかない事といえば、もはやそれは決まっているようなもの。
 そう、それは……。

【安価です。
 1.カラオケ(音楽センスアップ)
 2.楽器屋(音楽センスアップ)
 3.映画館(主演:白石詩波 信頼度アップ)
 4.個室カフェでお茶(信頼度アップ)
 下1でお願いします。】
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/29(水) 01:58:56.72 ID:wMGMqMHSO
2
340 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/29(水) 23:02:06.63 ID:CzbvQSmYO
>>339
 2.楽器屋(音楽センスアップ)】

 わたし達は2階の楽器屋を訪れていた。
 ケヤキモール2階の隅の方にあるせいか、この辺りは人の姿がない。それに準じたようにお店の規模も小さいものだった。
 入り口付近にはギターやベースが並び、奥の方には電子ピアノが置かれている。
 やはり楽器なだけあって、お値段もそれなりだ。

「まぁ、寮でギターなんて弾いたら隣に迷惑だからね。この学校に軽音部とかあったっけ?」

「うん、あるよ。1年生は2人、2年生は4人、3年生は3人の合計9人。2年生の1人が幽霊部員気味らしくて、実際は8人みたいだね」

「すっごく正確な回答をありがとう、生徒会役員さん」

 どの部活が何人構成であるかぐらいは守秘義務に該当しないと判断して気軽に話す。
 新入生が部活動に入部する時期は4月中旬から下旬に掛けてが最も多い。一方、決断に至らなかった生徒もしくは乗り気でなかった生徒は、その後自由に参加可能な見学を通して入部することができる。
341 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/29(水) 23:02:32.27 ID:CzbvQSmYO
 見学という仕組みを利用すれば構成人数を調査することくらい誰にでも出来るという訳だった。

「〜♪」

 上機嫌な雨宮さんはギターコーナーを抜けて電子ピアノコーナーへ。数台置かれているだけだが、値段は安いと感じるものから数ヶ月分のポイントを必要とするものまで幅が広い。
 ここでふと、フルートやクラリネットは置かれていないと気が付く。あまり詳しくないけれど、あれは吹奏楽の楽器なのかな。この学校に吹奏楽が無いため、ここでは取り扱われていないのかもしれない。
 軽音と吹奏楽の違いもよく分からないけれどね。
 そんなことを考えていると雨宮さんがこっちを向いて聞いてくる。

「春宮さん、つまらない?」

「え、ううんっ。楽しいよ。全然わからないけどね」

「じゃあ試しにちょっと弾いてみようよ」

 そう言って、雨宮さんは店員さんに一声かけて許可を取る。今はわたし達以外に人が居ないため自由に弾いてもいいようだ。
 座って座って、と電子ピアノの前に設置された椅子に座ることを促され、素直に座る。

「弾いたことある?」

「ほんの少し触ったことがあるくらいかな。ここがドだよね」

「あ、そうそう。いけそうだね」

 雨宮さんはわたしの後ろに周り、鍵盤に乗せた手のひらに手を重ねてくる。

「お馴染みの曲ね」

 わたしの手の上に乗せられた雨宮さんの手が動く。
 ゆっくり、聞いたことのある曲が奏でられる。
 お店の閉店間際に流れる例の曲だ。
342 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/29(水) 23:03:08.39 ID:CzbvQSmYO
 つい「おぉ」と感嘆が漏れてしまうほど良く弾けている。開店して間もないこの時間にこの曲は少し罪悪感があるけど。

「これくらい弾ければ話題作りにはなるでしょ?」

「うん、なるなる! 片手でも弾けるのも良いね」

 この曲はマスターしたと言っても過言ではない。
 今度、音楽室を訪れる機会があれば弾いてみるのも良いかもしれない。
 それから誰もが一度は聞いたことがある音色を簡単に弾かせてくれる。その時間はとても楽しく、勉強になった。
 音楽に対する苦手意識が若干薄れたような気がする。


【音楽センスアップ(マイナスはありません)
 現在:17
 1:プラス1
 2〜4:プラス3
 5〜8:プラス5
 9:プラス7
 下1のコンマ1桁で決めます。
 2桁がゾロ目の場合はプラス10です。】
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/29(水) 23:07:39.18 ID:+U9FDsX80
344 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 00:16:33.86 ID:rzJGhzMtO
【ここ数日、全然できなくて申し訳ありません。
 バタバタとしていましたが、今日からは大丈夫だと思います。
 再開します。】
345 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 00:17:10.01 ID:rzJGhzMtO
>>343
 8:プラス5
 音楽センス:17 → 22】

 その後、疎らに席が埋まるカフェで甘い飲み物と軽食をテイクアウトして寮への帰路に着く。
 5月も中旬に差し掛かった今日は、一段と強い陽射しがアスファルトを焦がしていた。陽炎が見えるほど気温も高く、蝉が鳴いていないのが不思議なくらいだ。

「……あっつい」

 半歩後ろを歩く雨宮さんは前のめりになり、今すぐにでも倒れそうだった。
 やや後方に注意を払いながらも無事に寮に到着したわたし達は1101号室、つまりわたしの部屋へと直行する。

「おじゃましまーす」

「はい、誰もないけどね」

 机の上に置いてあったエアコンで空調を効かせて、手洗いうがいを済ます。
 こういう時期は体調を崩しやすいため念入りに行う。もしやらずに風邪を引いたとき後悔しないようにするためだ。
 わたしに続いて雨宮さんも済ますと、居間で買ってきたものを広げて寛ぐ。今頃、この寮の何処かで必死になって勉強している人も居るかもしれないが、わたし達はそれほど切羽詰まっていない。
346 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 00:17:44.51 ID:rzJGhzMtO
 涼しい部屋でのんびりと過ごす。
 冷たいピーチティーで喉を潤したところで、雨宮さんが口を開く。

「変なこと聞いてもいい?」

「うん。答えれるどうかは保証できないけど、答えられる範囲でよければ答えるよ」

「じゃあ遠慮なく。春宮さんってさ、彼氏とか居たことある? というか現在進行形でどうなの?」

 一瞬、わたしの思考が止まる。
 かれし、カレシ……彼氏かぁ。彼氏ねぇ。
 他の何者でもない、友人以上の関係の異性だろう。
 そういった人は……。


【コンマ判定
 1・7・0:彼氏居たことがある
 2・3・4・5・6・8・9:居たことがない
 ゾロ目:彼女が居たことがある
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/01(金) 01:14:33.69 ID:WjHbsCm50
348 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 22:55:53.97 ID:v4CAPZ5Z0
>>347
 9:居たことがない】

 わたし達はまだ15歳から16歳になる年。
 彼氏が居ない歴イコール年齢というのは恥ずべきことではない。むしろ普通のことだと思う。たった15年で会える人の数はごく僅かだ。
 それに学校という閉鎖的な身分に縛られている内は出会いも少ない。社会人になってから日本全国、あるいは海外で一生のパートナー候補を見つけ、友人から始まり恋人、そして結婚に至るのではないだろうか。
 ……と、わたしは考えているけれど、重いかな?

「あ、ごめん。彼氏って言い方は今どきアレだね。恋人だ。春宮さんは恋人とか居たことある?」

 余計な気を遣わせてしまったかもしれない。
 確かに今どきその辺りは人それぞれだからなぁ。

「居たこともないし、現在進行形で居ないよ。高校では良い出会いもありそうなものだけどね」

「へー、意外。まぁ春宮さんは真面目だもんね。恋人を作るってことは、結婚を前提に考えちゃう系でしょ?」

「そんなことは……ある、かも?」

「そういう生き方も全然アリだと思うけどね。取っ替え引っ替えで恋人を作ると軽く見られがちだし、前の彼氏に好きって言ってたのはどんな意図があってのことなのかってカンジだよね」

「そうそう、それ!」
349 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 22:56:21.10 ID:v4CAPZ5Z0

 「好き」は気軽に言うべきでない言葉のひとつ。
 ライクを意味する「好き」は多用しても問題ないが、ラブを意味する「好き」は人生で一度きり。たった一人、この人と残りの人生を添い遂げると覚悟をもって発する言葉だと思う。

「私は春宮さんと同じ考えの側かな。仕事の都合で同年代の美男美女と話す機会が多くあったけど、一部は取っ替え引っ替えで恋人を作ってたね。そして私は軽い男だな、とか軽い女だなとか思ってた」

「へー、どこもそんな感じなんだね」

「芸能人でも所詮は十代だからね。普通の学生より自分がカッコいい、カワイイって自覚している分、かなりタチが悪いよ。そういう軽い男の告白は容赦なく一蹴することにしているし」

 わたしのように狭い地元の中学に縛られることなく、様々な学校、幅広い年代の人と絡む機会が多い彼女が言うのだから間違いない。

「軽くない男の子の告白は断ってないの?」

「少し迷ったこともあったけど、この人とは結婚までは行けなさそうだなって思って断ったよ。顔は悪くないし性格も悪くない。でも、たったひとつだけ。私が彼に興味が持てなかったっていう理由でね」

「……そっか。確かにそれは大切だよね」

 互いに相手に対して興味関心を持ち続けることは長く付き合っていく上で必須だというのは賛同できる。

 興味が尽きてしまえば、刺激の無い日々が続く。
 それは惰性で生きているのと何ら変わりない。
 部屋で携帯を触って過ごすのと大差ないと思う。
 恋人でいる必要はないと、思い至るだろう。

 考えれば考えるほど奥深い。
 恋とは、結婚とは。
 それを考えるのは、この未熟な頭では結論が出ない。
350 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 22:56:54.71 ID:v4CAPZ5Z0

「あ、ごめんね。なんか真面目な話になっちゃった。本当は過去の恋人のこと、今の恋人のこと聞き出そうと思ったのに」

「聞き出してどうするの?」

「高校を卒業した後に映画が決まっていてね。春宮さんのこと、居たかもしれない彼氏のことが分かれば、役の参考になるかもって」

「卒業って……まだ、学生生活ほぼ残り3年だよ?」

「5年後というか、卒業後2年先まで予定が埋まっている私にそれ言う?」

「……まじかぁ。すっごいなぁ」

 彼女の経歴は歌って踊るアイドルというよりは、女優そのものだった。
 子役から始まり中学生になって幅広く迫真の演技を可能とする彼女は同年代の役者の中でも頭ひとつ飛び出ていると称されている。
 そんな彼女が卒業後2年先のスケジュールが決まっていると言えば、わたしは素直に信じてしまう。

「あぁ、急に話は変わるんだけど……」

 雑談は続く。夕方五時になるまで。
 その時間はとても楽しく、後から考えてみれば何の中身もない話だったかもしれないけれど、非常に有意義な時間の使い方だったと言えるだろう。


【コンマ判定
 ゾロ目:将来について
 4:家族について
 それ以外:夜へ
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 00:19:22.61 ID:L6WAn+0q0
352 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 07:59:52.30 ID:TvV/xGYLO
>>351
 1:夜】

 その日の夜、わたしは深く考えずクラスチャットに対して何枚かの画像を送る。
 ものの5秒ほどで10件の既読、20秒も経てばクラスメイトのほぼ全員から既読がつけられる。
 30秒ほど経って、ようやく1人が反応を示した。

『これ明日の試験問題?』

『三年生の先輩から貰った過去問題』
『そのまま出題されるかどうかは分からないけどね』

 素早く返信すると、続々とレスポンスが返ってくる。

『うわ! まじか!』

『さっすが生徒会役員! 助かる〜!』

『これ覚えれば満点いける?』

 信じるか信じないかは各々の判断に任せるとして、ひとまず上手くいった。
 生徒会役員という肩書きのおかげで、他の人よりも上級生との繋がりが強いことを信じ込ませることは容易い。
353 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 08:00:20.44 ID:TvV/xGYLO
 それからしばらく反応を見た後、わたしからは特に何も発することなくチャットのアプリを落として、ベッドに倒れ込む。
 真っ白な天井を仰ぎ、目を閉じた。

「これでおっけーかな」

 本当は三年生の先輩から過去問題は貰えていない。
 周知した過去問題はわたしが手作りしたもの。
 高校受験のとき、そして先日の小テストでの問題用紙の形式が同一であったため、その形式もとに出題されそうな問題をひたすらに打ち込んだ。

 わたしが行ったのは出題されそうな問題予想と嘘をつくこと。

 前者は真っ当な試験対策。
 後者は許されることではないかもしれないけれど、三年生にはどんな噂が流れてきても無視するように手は回してある。
 つまり嘘はわたしの中でのみ発生する罪悪感であり、他人からすれば真実そのものとなる。
 問題の精度はまずまずだと思うが、所詮は過去問題。そのまま出題されるこの方が少ないだろう。

 かくして、わたしの手作り試験問題は1年Cクラスの皆に実際の過去問題として知れ渡った。
 前日の夜にこうして発信したのは他クラスへ流出する可能性を限りなく小さくするため……だったが、もう既に他クラスのグループチャットに回っているかもしれない。
 それは仕方がないことだと割り切り、わたしは明日のため就寝の準備を進める。

 クラス全員が他クラスを蹴落としてAクラスに上がるという共通の目標を持ってくれたら……。
 そんな淡く、悪い思いを胸に秘めて。


【赤点候補者の学力は45のため退学者は0です。
 手作りした過去問題の精度を判定で決めます。
 コンマ2桁を反転して判定します。
 学力:97(超優秀) 補正あり
 直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
 01〜29:50%
 30〜59:75%
 60〜89:90%
 90〜98・ゾロ目:100%
 学力が優れているため最低でも50%以上の精度になります。
 また、学力・直感・洞察力の補正としてコンマ判定の値にプラス15されます。
 下1でお願いします。】
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 08:38:52.07 ID:uNS7VPKFO
高めもしくはゾロ
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 08:39:28.99 ID:uNS7VPKFO
ぎゃあ
すまん
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 10:07:09.16 ID:GxHWl+Zso
まあ見たことないテストだからしかたないね
357 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:36:32.80 ID:oaa+Ihd4O
>>354
 07 → 70(反転) → 85(学力直感洞察力補正込み)
 85:90%
 >>353のコンマ判定の3行目に2桁反転と書いています。
 もう少し下の方に書いた方が分かりやすかったですね。
 次から気をつけます。】

 週明け水曜日の朝。
 2日間の中間テストを終え、通常の学校であれば各教科の授業にて採点済みのテスト用紙が返却されるところだが、この学校では翌朝のホームルームで一斉に発表される。
 誰もが一刻も早くテスト結果を知りたいと思い、浮き足立ったまま迎えた定刻。
 ホームルーム開始を告げるチャイムが鳴ると同時に伊藤先生が教室前方の扉から入ってくる。
 いつもと何ら変わりのない雰囲気を纏う先生はノロノロと教卓に着くと、手元のリモコンを操作する。
 間もなくして背後の電子黒板の表示が切り替わる。

『1年生 1学期初回中間テスト 結果』

 至るところから息を飲む音がした。
 5分後には退学が宣告されるかもしれないという状況だが、今さら気にしても仕方がない。

「え、2日間に渡る中間テスト、お疲れ様でした。色々と言いたいことはありますが、まずはこちらをご覧ください」

 先生は教壇を降り、ついさっき入ってきた扉の前まで移動する。
358 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:37:03.68 ID:oaa+Ihd4O
 クラスメイトの全員が教卓の奥、電子黒板の方へ注目する。
 次の瞬間、画面は切り替えられる。
 出席番号順ではなく、良いものから悪いものまで上から下へ名前と点数が書き連ねられている。
 わたしは真っ先に各教科の一番下の点数を見て安堵する。どの教科も最低の点数が70点を超えている。この時点で退学者はゼロという重畳の結果が分かる。

「ぁ……よかったぁ」

「っし!」

 クラス中からそんな声が聞こえる。
 その雰囲気に喜びを感じながら、わたしは頭の中で全教科の平均点を算出した。

 『91点』

 それが1年Cクラスの平均点。
 つまり、おそらくこの中間テストにおいて獲得のできるクラスポイントは『91』で、5月1日時点の保有クラスポイントは『710』だったため合計で『800』を超える。
 授業を受ける態度などに問題がなければ、わたし達は来月には80000円分に相当するプライベートポイントを貰えることになる。この結果も含めて、この上なく上出来と言えるだろう。
 ちなみに全教科満点の生徒がわたしを含めて数名いた。その他も全教科90点以上が半数を上回り、赤点組も全教科70点以上を出して勉強に対してのモチベーションを上げることが出来たのではないかと思う。

「えー、正直、驚きました。お見事でした」

 先生が数回手を叩き、賞賛を送ってくれる。
359 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:37:37.64 ID:oaa+Ihd4O
 クラスの大半が伊藤先生に対して好意的な意識は持っていないが、それでも褒めて貰えたことが嬉しいのかクラス中に笑顔が溢れる。

「春宮さんのおかげだね!」

「あれが無くても俺は大丈夫だったが、この結果はあれが無いと出せなかった! 良かったな!」

 偽の過去問題作成については、わたしの中で反省点が残る。予想問題の約9割は実際に出題されたが、残りの1割は予想から外れていた。
 次回のテストでは精度100%を目指したいと目標が定まった頃、

「みなさん、携帯を机の上に出してください」

 冷たい言葉が伊藤先生から発せられる。
 テスト結果に浮かれているところを釘刺される形になり、クラス中に緊迫感が漂う。
 中間テストの後、結果発表の後。
 このタイミングでの携帯が指し示すものは、不正行為の確認か。わたしがグリープチャットへ送った自作の問題用紙が不正に触れることはないとして、やはりカンニングが濃厚な線か。
 生徒は全員、机の上に携帯を出す。
 後ろの席から確認できる範囲では、誰一人としてその行為に躊躇う様子はなかった。何もやましいことはしていない、と堂々としている。
 腕時計を見て少しの間を置いた後、先生は改めて教壇を登って教卓の前に着く。

「先に言っておきますが、中間テストに関することではありません。不正はありませんでした。皆さんが積み重ねてきた学力、そしてこの2週間のテスト期間で取り組んできた勉強の成果が後ろの点数です」

 赤点を取ったら退学を提示してくる学校のため、不正行為は最低でも停学、あるいは退学そのものを突き付けられるかもしれないと思っていただけに、その言葉を聞いて安心する。
360 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:38:07.03 ID:oaa+Ihd4O
 ただ、ならどうしてこのタイミングで携帯を出したのか。その意味は、直後に理解することになる。
 全員の携帯が一斉に着信音を鳴らす。
 チャットではなくメール。送り主は学校からだ。
 メールの題名には短く『特別試験開始のご連絡』と書かれてた。

「これより特別試験を開始します」

 特別試験?
 中間テストという分かりやすい試験はともかく、特別? こんなすぐにまた試験?
 疑問を抱きながら、メールは開かず先生の方を向く。

「みなさんの携帯に今、メールが届いたと思います。私の言葉を聞きながらで構いませんので、メールをご覧ください」

 そう促され、改めて携帯へと視線を下ろして特別試験の案内メールを開く。

『特別試験を開始いたします。
 このあと9時に特別棟の視聴覚室へお越し下さい。
 所要時間は20分ほどになります。お手洗いなどを済ませた上、携帯は電源を切るかマナーモードにしてお越し下さい。
 10分以上の遅刻はペナルティを科す場合がございます。
 体調不良の場合は担任へ申告して下さい。
 本日欠席の場合は、下記URLよりテレビ電話を繋いでください。カメラとマイクはオフで構いません。』

 事務的なメールの内容が書かれていた。
 9時に視聴覚室……1時間目の授業が学級活動だったのは、この説明のためか。
361 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:38:35.63 ID:oaa+Ihd4O
 もう1度本文を最初から読み直そうと思ったとき、雨宮さんから特別試験に関するメールが転送されてくる。
 内容は概ね同一だったが、1箇所だけ異なる。
 わたしが視聴覚室集合だったのに対して、雨宮さんは理科室集合となっている点。
 周囲の様子を伺うと、特別棟の空き教室や体育館、音楽室集合となっている生徒も居るようだった。

「メールを確認していただけましたでしょうか。各個人宛へメールを発信しています。各自、9時には指定の場所に到着しているようにお願いします。特別試験の概要はそちらでお話いたします」

 そう言い残して伊藤先生は教室を出ていく。
 出ていく前と後、どちらも生徒の間では不安という感情が蠢いていた。その本質的な部分は決定的に異なるものの、特別と名のついた試験を急に宣告されたことは生徒に大きな混乱を与える。
 ひとまず9時を15分後に控えたクラスメイトは移動を開始する。わたしはその様子を後ろから見守り、人が少なくなったところで教室の扉へと向かう。

「どう思う?」

「とりあえず聞いてみないと。あとでまた話そう」

 さりげなく雨宮さんと短く話す。
 今の段階ではなんとも言えない。
 わたしは視聴覚室へと向かう。


【コンマ判定
 奇数:視聴覚室
 偶数:イベント
 ゾロ目は今後のコンマ判定1回やり直しストックとし、下1桁に準じて奇数・偶数判定を行います。
 下1桁のコンマ1桁でお願いします。】
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 14:17:13.10 ID:HXd++92A0
363 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 21:59:54.64 ID:P4T3KZk70
【ここ2日間できず申し訳ありませんでした。
 これから特別試験の概要説明になります。】
364 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:00:28.63 ID:P4T3KZk70
>>362
 0:イベント】

 廊下では多数の一年生が話し込んでいた。
 話に耳を傾けたい気持ちもあったが、わたしは特別棟まで移動しなければならないため昇降口へと急ぐ。
 その途中で気付いたこととして、おそらく『特別試験』案内のメールを受け取ったのは一年生のみであること。稀に上級生を見かけるが、ただ移動しているだけだと思われる。
 一年生のみに通知された『特別試験』。
 説明をするのであれば講堂などで一斉に説明した方が手間も省けるし、同じような質問が各所で発生することを避けられる。
 わざわざ少人数を招集する理由は─────。

「……嫌な予感しかしないなぁ」

 今にも雨が降り出しそうな空を仰ぎ、わたしは小さく呟いた。
 中間テストで赤点を取ったら即退学と言い出す学校のため、今回の特別試験でも退学、あるいはクラスポイントに大きく影響を及ぼすものだと確信できる。
 ひとまずはそのことだけを胸に留め、わたしは足早に特別棟への道のりを急ぐ。
365 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:01:03.00 ID:P4T3KZk70

◇◇◇

 特別棟の視聴覚室の前には数人の生徒が居た。

 Aクラス、神宮紫苑くん、東雲雪菜さん
 Bクラス、立石樹くん、白城拓也くん、間宮志穂さん
 Cクラス、一色颯くん、宮野真依さん
 Dクラス、辻堂大和くん、西野桜さん

 そしてわたしが加わると、AクラスとDクラスの生徒が2人ずつ、BクラスとCクラスの生徒が3人ずつとなる。
 少し教室を出るのが遅く、もう9時1分前であることを鑑みると、わたしで最後か。
 人数差に意味があるのか考えていると、例によって白髪の男子生徒─────何かとわたしに興味を抱いてくれている辻堂くんが近寄ってくる。
 相変わらず、言い方は悪いけれど薄気味の悪い笑みを浮かべて。

「よう、天音。どうだった? 中間テストは」

「超上出来でした。そちらは?」

 興味はないけれど、一応聞いてみる。
366 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:01:31.76 ID:P4T3KZk70
 すると辻堂くんは壁に寄り掛かり、少し間を置いて勝ち誇ったように微笑んだ。

「こっちも上出来だ。3人も消せたんだからな」

「は……?」

 消せた?
 それは、退学者を出したということ?
 口ぶりから察するに、赤点を取らせたようだけど…。
 意味が分からない。自分のクラスから退学者を出してどうするつもりなのか。

「そんな驚くようなことじゃねぇだろ。1ヶ月も同じ教室にいれば、誰が何を出来るのか、出来ないのか。優秀なヤツと無能なヤツを見極めるのは難しいことじゃない。クラス一丸となって上を目指すには不要なヤツを切り捨てる。当然のことだろ?」

 わたしの目を見て訴えかけてくるが、その意図は言葉通りの意味だったとしても理解できない。
 優秀とか無能とか、たった1ヶ月で判断できるはずがない。体育の授業を取っても未だに水泳しかやっていなくて、陸上競技や球技の実力は未知数なのに。
 Dクラスから合計4人の退学者が出ている。その人たちの最終学歴は中学卒業になるのか分からないけれど、かなり難しい人生を強いられることになる。
 前々から好きにはなれない人だな、と思っていたけれど、今は確信を持って彼のことを敵視できる。

「クク。良い目をしているな。益々気に入いったぜ」

「辻堂くんのやり方は間違っています……!」

「それを決めるのはDクラスだ。今のお前はCクラスの生徒で外野に過ぎない。さっさとDクラスに来いよ、天音。そうすればゆっくり話し合えるし、お前なら無能なヤツを導いていけるんじゃねぇのか?」

 彼の言っていることは、悔しいけど正しい。
 わたしは他クラスの生徒で外野に過ぎない。
 それに見方を変えれば、今回の中間テストを経てCクラスとDクラスの間には大きなクラスポイント差が生まれた。
367 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:02:07.90 ID:P4T3KZk70
 想定ではCクラスが800ポイント、Dクラスはあっても100ポイントがせいぜいだろう。
 側から見ればDクラスは自滅をしている。それは他クラスにとってプラスの話だ。もちろんCクラスにとっても後ろに控えるクラスと700ポイント差があれば安心できる。
 しかし……。
 本当に残念だという気持ちはある。
 彼の悪行を止めるためDクラスに移動するという選択肢が僅かに存在しているのは間違いない。

「まぁ、想定よりもだいぶ少ないがな。ただ約束は変わらねぇ。お互い半々を出し合って移動しようぜ?」

「そんなつもりは……ありませんから」

 クラス移動に必要なポイントは2000万。
 その半分を出し合うとすれば1000万。
 来月以降、Cクラスでは1人あたり8万ポイントが支給されるため、都合の良い名目で集金というシステムを構築すればたくさんのポイントを集めることは出来る。
 もちろんそんなことをするつもりはないけどね。
 いずれにしても、どういう手段を用いたのかは分からないけれど彼はこれまで4人の人生のレールを悪い方向に切り替えている。それは到底許せることではない。
 彼と直接対決できる機会があれば、これ以上の犠牲者を増やさないよう徹底的に叩く必要が─────。

「つーかさ、もう9時過ぎてるけど? みんな仲良くペナルティくらいたいわけ?」

 Bクラスの白城拓也くんがわたし達の間に割り込んで、そのやり取りを静止する。
 窓から見える時計は確かに9時を回っていた。

「また後で楽しもうぜ? 天音」

 辻堂くんが視聴覚室に入ると、その後を追うように続々と他クラスの生徒が部屋に入っていく。
368 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:02:37.88 ID:P4T3KZk70
 あっという間に廊下にはCクラスのクラスメイトだけが残る。

「大丈夫? 春宮さん」

「あの人と知り合い?」

「うん、大丈夫だよ。何かと目をつけられていてね」

 一色くんと宮野さんが駆け寄って心配してくれる。
 わたしは胸の内側にある感情を抑え、出来るだけ笑顔を取り繕って話す。

「何かあったら─────いや、もう後戻りは出来なさそうだね。僕も協力させてくれないかな? 彼は1年生全体、そしてCクラスにとっても脅威になる。なんとなくだけど、そういう雰囲気を感じるから」

「私も! 困ったことがあったら言ってね!」

 ありがたい申し出にわたしはお礼を言って、ペナルティを頂戴しないためにも視聴覚室へと入る。
 部屋の中は約100人程度が収容可能な広い部屋だった。前方には巨大なスクリーンが、そして5人掛けの机と椅子が2行10列になって並んでいる。
 ぱっと見、同じクラス同士の人たちで固まっているようだった。Dクラスの辻堂くんと西野桜さんは、おそらく西野さんが嫌がって遠い席に座っているけれど。
 わたし達Cクラスも適当な位置の席に腰をかけたところで、スクリーンの前に立っていた先生が視聴覚室の扉を閉める。

「3分遅刻ですが、まぁいいでしょう。私は3年Bクラスの担任をしている中田庄司です。早速ですが、特別試験の概要をご説明いたします」
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