【安価】ようこそ実力主義の教室へ

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169 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/14(火) 23:26:28.42 ID:uJ9TLURy0
>>168
 5:Aクラスの神宮】

 わたしが生徒会入りを決断した夜。
 勧められたゲームが意外にも面白く、『生徒会(仮)』とのチャットを行き来していると、一件の個別チャットが届く。
 相手は『神宮紫苑』。
 わたしと同じく、生徒会に加入することになった一年Aクラスの男子生徒だ。
 ゲームを中断してチャットアプリを起動する。
 彼から確かに一件の通知が来ていた。

『急なご連絡ですみません。もしよろしければお話できませんか?』

 挨拶もそこそこに、会えないかと送られてきた。
 時刻は二十時を回ったところ。高校生にしてみればこの時間帯に会うことも不思議ではない。それに寮の中でとなれば、会える場所はいくらでもある。
 わたしはすぐに返信をする。

『わかりました。ひとまず寮のロビーで待ち合わせでもよろしいですか? 時間はお任せします』

『もちろんです。それでは三十分後に』

 短くそうやり取りをして、わたしたちは三十分後に落ち合う約束を取り決めた。
 エレベーターが毎階止まることを想定しても二十分程度は余裕がある。とはいえ、相手を待たせるのは気が進まないため身嗜みを整え次第、すぐ移動しよう。
170 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/14(火) 23:27:02.81 ID:uJ9TLURy0
◇◇◇

 わたしがロビーに着くと、ソファに腰をかけて携帯を弄る生徒が数名いた。その中で男子生徒に絞り込みをすると0人。
 約束の時間まであと十分近くある。彼がもう到着している可能性も僅かながらあったが、さすがに早すぎたようだ。
 わたしはエレベーターから近いソファに腰をかけ、人を待つ。その間、何人もの一年生がわたしの隣を通り過ぎて行った。
 つい先ほどまでケヤキモールで遊んでいたと見られる制服姿の生徒、コンビニに買い出しに行くのか軽装の生徒。そのどれもがわたしに一度視線を向けてくる。どうやら水泳の授業での顛末は早速知れ渡っているみたいだった。
 わたしが到着してから五分ほど経って、明確にわたしに近づいて来る者の気配があった。携帯をしまい、立ち上がって彼の姿を視認する。
 一言で表すと、普通の生徒だった。
 身長は百六十五センチほどで、高すぎるほどでも低すぎるほどでもない。顔は童顔、色白、そして体格は痩せ身と、服装以外では女の子と見間違えるほどだ。

「初めまして、一年Aクラスの神宮です」

「こちらこそ初めまして、一年Dクラスの春宮です」

 寮の一階、ロビーで握手を交わす。
 しかしここでは通行人に目立つこともあり、裏口から出た先で話し合うことになった。
171 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/14(火) 23:27:35.85 ID:uJ9TLURy0
 人気の無い落ち着いたベンチに腰をかけ、ゆっくりと話を始める。

「錦山会長から聞いたよ。今日、春宮さんが生徒会に入ることになったって。そして同時に、僕も入ることになったって。Cクラスの立石くんには謝るとも」

「……そのようですね」

 遅かれ早かれ、わたしに声をかけるつもりだったとは聞いていたが、どうにも立石くんの枠を奪ってしまった気がしてならない。ただ、そのことを訊いても明確な回答は貰えないだろう。
 わたしは首を振り、そのことを忘れようとする。

「春宮さんのことは聞いているよ。去年の全国模試で一位を取ったことも、今日の体育のことも。僕なんかとは違って、才能に恵まれているようで羨ましいよ」

 やや皮肉げに言う彼に、何かを言ってあげたかったがそれは叶わない。わたしは彼のことを一切知らず、彼はわたしの成績を知っている。
 「わたしなんかより」という話は出来ない。
 神宮くんとはどんな生徒なのか、今のところわたしに一切情報がない。錦山先輩が彼を選んだ。ただそれだけの情報しか持ち合わせていない。

「ごめん。わたし、神宮くんのことを何も知らない」

「あはは、そうだよね。まだ学力テストとかもやってないし、僕のクラスは体育もまだだから。強いて言うなら、そうだね。自己評価になってしまうけど、僕は普通だよ。勉強が得意な訳でも、運動が得意な訳でもない。かと言って苦手でもない」

 普通であること。
 それは、難しいらしい。
 人は普通に憧れる、と本で読んだことがある。
172 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/14(火) 23:28:07.88 ID:uJ9TLURy0

「理解できないよね、春宮さんには。言い方は悪いけど、君は普通じゃない。良い方向に才能が上振れし過ぎている人間の代表例だ。もし君が普通であることを渇望するとき、それはその他大勢の人が望む普通とは真逆なんだろうね」

 言っていることの理解はできる。
 実際にわたしは普通であることを何度か望んだことがある。それは、テストで良い点数を取りすぎないこと。限りなく普通を示す平均点を取ろうと努力した経験が昨日のように思い起こされる。
 その一方、点数の悪い学生は一回は考える。せめて普通くらいの点数を取れたら、と。
 わたしは100点を50点に、他の人は10点を50点に。
 そういう意味で、真逆の普通なんだろう。

「あぁ、気を悪くしたらごめんね? 決して悪気は無い、つもりなんだ。僕は君が憎いほど羨ましいから」

「……そう、ですか」

 ここで「わたしなんて碌な人間じゃないです」と答えるのも何か違う気がする。
 今はまだ神宮紫苑という男子生徒のことを理解できていない以上、肯定も否定もするべきでない。
 ただただ彼の言葉に耳を傾け続けるべきだ。

「と、ごめん。こんな話をしにきたんじゃなかった。改めて来週から、僕たちは生徒会の一員となる。その挨拶をしようと思ったんだ。まずは同学年の春宮さんにね」

「こちらこそよろしくお願いします。わたしも近々、お会いする機会を探そうと思っていました」

「そう? なら良かった。あと、出来ればタメ口にしてもらえないかな? 一応、同学年なわけだしね」

「ぁ……うん、わかった」

 わたしが頷くと、彼は携帯を取り出す。

「先輩たちに勧められたゲーム、やってる?」

「うん、まだ全然だけど─────」

 春とはいえ、今夜は冷える。
 しかしそれが気にならないほど、わたしと神宮くんは話し込む。主にゲーム、いや、ゲームの話だけで。
 彼はゲームが得意なようだった。
 わたしが行き詰まっているところもすぐに解決し、その先へ進むことができた。
 およそ一時間。二人でゲームをして、解散となる。
173 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/14(火) 23:28:54.07 ID:uJ9TLURy0




 結論として。
 神宮紫苑は、今のところ最も警戒すべき一年生としてわたしの中で順位付ける。
 彼の目に宿る憎しみ。
 それは、一朝一夕で賄えるものではないだろう。




174 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/14(火) 23:29:26.82 ID:uJ9TLURy0
【少し早いですが、今回はここまでにします。
 遅筆なこともあってなかなか進まないですが、明日以降はペースアップしていきます。
 ほぼダイジェストのような形で早見有紗との放課後、生徒会に入ることが全校生徒に広まる、を行ないます。
 その後は中間テストをやります。
 中間テストを無事乗り越えた後は特別試験となります。
 引き続きお願いします。お疲れ様でした。】
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/15(水) 17:10:25.53 ID:RRLcAk0CO
主人公がとても優秀だあ
176 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/15(水) 22:17:41.78 ID:92epslBg0
【再開します。】
177 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/15(水) 22:18:10.18 ID:92epslBg0
 わたしが生徒会に入ることを決めた翌日。
 生徒会のお仕事は週明けからということになっているため、今日は元々の予定を遂行できる。
 そう、放課後に早見さんとお出掛けすることだ。
 この前は白髪の男子生徒に水を差されて打ち切りとなってしまったが、今日は無事にゆっくりとお茶ができるだろう。
 午前と午後の授業を乗り越え、各々が部活やケヤキモール、寮へと向かい始めたとき、わたしは早見さんに声をかける。

「早見さん、今日の予定は大丈夫かな」

「は、はい…。大丈夫、です」

 未だにやや警戒されているところだが、こればかりは少しずつ距離を縮めていくしかない。
 わたしは早見さんと横並びになり、教室を出る。
 教室の扉を閉めるまでわたし達の背中に向けられていた視線について、今追及することは避けよう。

「今日もケヤキモールでいいかな」

「はい」

 短くそう返ってくる。
 とはいえ、娯楽施設がケヤキモールという一つのショッピングモールに集中しているため、寄り道をするにはケヤキモールかコンビニかの二択になる。
 放課後に友達と向かう先といえば、ケヤキモール一択になるだろう。
 今日は暖かく、学校を出ると暖かい空気がわたし達を包み込む。窓側の席だけあって授業中に眠気を感じなかったかと聞かれれば怪しいところだが、こうして外に出るととても気持ちが良い。
178 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/15(水) 22:19:04.12 ID:92epslBg0
 学校から徒歩数分でケヤキモールの入り口に着く。
 お互いに買い物をするつもりはなかったため、そのまま幾つかのカフェが集中している場所へと向かう。
 この前は無理矢理誘って、無理矢理カフェを決めさせていたため、わたしは入念に下調べをしてきた。

「ここでも良いかな?」

「はい、そちらで大丈夫です」

 確認を取った後、各々が注文をする。
 この前のお礼も兼ねて奢ると言ったのだが、それは拒否されてしまった。理由があるとはいえ2回連続で奢られることにはわたしも抵抗があるため、そこは受け入れることにした。
 わたしはアイスティー、早見さんはアイスレモンティーが入ったカップを持って席に着く。放課後間もないこともあり、埋まっている席は疎らだ。

「あの、前から気になっていたのですが」

 席に着いてすぐ、早見さんからそう切り出してきた。
 わたしは頷き、質問に答える姿勢を見せる。

「変な意味ではないのですが、どうしてわたしとお茶してくれるんですか?」

 お茶をしてくれる。
 そう聞いて、自己評価の低い女の子だと再認識する。
 対等な関係であれば「お茶をするんですか」と少し突き付けるような言葉でも良かったはずだ。彼女なりに気を遣った線も考えられるが、おそらく自己評価の低さからのものだろう。
 わたしは至極当然のように、その質問に答える。


【安価です。
 1.「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから」
 2.「余計なお世話かもしれないけど、わたしはクラスの全員が仲良くしてほしいと思ってる。もちろん早見さんもその内の一人」
 下1でお願いします。】
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/16(木) 00:42:57.21 ID:6qQCrznfO
1
180 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/16(木) 08:38:51.46 ID:DpbNaL2rO
undefined
181 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/16(木) 08:39:19.97 ID:DpbNaL2rO
>>179
 1. 「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから」 】

 彼女が極度の人見知りでクラスに馴染みにくそうだったため、わたしが橋渡し的な役割を担おうという本質的な部分が第一に思い浮かぶ。
 ただ、それは彼女からしてみれば余計なお世話かもしれないし、言葉を間違えばわたしが偽善者として映ってしまうのは避けられない。
 そのため第二に思いつく運命的な出会いの旨を話すことにする。

「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから、かな」

 クラス内が自己紹介をしようと話している中、彼女が気分を悪そうにして教室を出て行く姿は記憶に新しい。席が近くなければ彼女の顔色は伺えなかったし、結果として彼女が駆け込んだトイレで数言交わすこともなかった。

「ぁ……そう、なんですね。すみません変なこと聞いてしまって。他意は無いんです。春宮さんが良い人ってことは分かっていますから」

「良い人って言われると少し照れるけど、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」

 疑惑が晴れたためか、その後は純真な目をして色々なことを話すことが出来た。
 好きなこと、好きな食べ物飲み物、春夏秋冬でどれが好きか、誕生日について。
 他愛のない話。ほんの雑談程度の話。
 それでも彼女は、わたしに心を開いてくれた。
 この調子で席の周りの子と話せるように調整できれば、今月中には人見知りも多少緩和されるだろう。
 彼女が半歩ずつでも前進できることを隣で、あるいは後ろの席からサポートしていきたいと思う。
182 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/16(木) 08:40:11.62 ID:DpbNaL2rO
【週末イベント安価です。
 1.ケヤキモールへ
 2.人と会う
  1.早見有紗 (前の席の女子)
  2.一色颯 (クラスをまとめる男子) ?  3.一之宮重孝 (全国模試二位の男子) ?  4.宮野真依  (水泳で競い合った女子)
  5.錦山暁人 (信頼できる生徒会長)
  6.花菱乙葉 (信頼できる生徒副会長)
 3.寮で過ごす
  勉強と運動の必要性がまったく無いため、先日購入した料理の本を読んで料理スキルアップです。
 2の場合は「2-1」などでお願いします。
 下1でお願いします。

 春宮天音
 学力:97(綾小路) ? 身体能力:99(綾小路) ? 直感・洞察力:91(坂柳) ? 協調生:53(1年後半堀北) ? 成長性:74(高) ? メンタル:86(龍園) ? 料理:27(苦手)】
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/16(木) 10:26:30.40 ID:MPje5HRm0
184 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/16(木) 22:32:00.95 ID:eLEr/yxwO
>>183
 1.ケヤキモールへ】

 高校生活6日目。
 初めての週末、いつも通りの時間にわたしは目を覚ます。平日でも休日でも、こういう習慣的なところは高校生になっても変わらない。
 窓を開ければ春の風が部屋中を満たし、爽やかな気持ちにさせてくれる。身体を伸ばし、深呼吸をすると頭がクリアになっていくのが分かる。
 ちなみにわたしの部屋は11階であり、近い距離に高い建物は無いためカーテンを開けても部屋の中を覗かれる心配は無い。ただ、目の前に見える学校から望遠鏡を使えばその限りではないかもしれない。
 下らない思考は捨て、まずケトルでお湯を沸かす。
 湧き上がるまでの時間を使って顔を洗い、寝間着から部屋着に着替え、洗濯機を回すとちょうどケトルは電子音を鳴り響かせる。
 お気に入りのマグカップとアソートティーバッグの中から気分で紅茶を選択してケトルをカップへ傾ける。
 ベッドに腰をかけ、マグカップを軽く口元へ傾けることでようやく一日の始まりを実感する。
 さて、今日はどうしたものか。
 特別、連絡先を交換した人からの誘いはない。
 こちらから誘うにしても、この週末を利用して平日には出来なかった買い物をする人も多くいるだろう。
 ベッドの上で軽く身体を解しながら考えていると、ひとまず今日の予定が決まる。

「よし、決まった」

 そう声に出して、わたしはケヤキモールが開店する10時前まではインターネットサーフィンをすることにした。
 部屋に備え付けられたデスクトップパソコンは、動画を見たり調べ物をするのには最適だ。おそらく銃を使ったりするゲームは出来ないだろう。
 日本国内外を問わずトレンドになっている記事を眺め、ただただ時間を潰す。
185 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/16(木) 22:32:28.19 ID:eLEr/yxwO

◇◇◇

 9時50分に外行きの服に着替えて寮を出る。
 ロビーには多数の一年生が居た。待ち合わせをしている者、ケヤキモールの開店時間までもう少し待機する者など、ざっと二十人程度。同じクラスの男子も居たが、特に話す込むようなこともなかった。
 桜が散りつつある並木路を通ってケヤキモールへ。
 入り口の前には学年を問わずチラホラと学生が開店待ちをしていた。わたしは少し離れた日陰でジッと待つ。
 誰かと話すこともなく、邪魔にならない場所でアプリゲームを少しだけ進めて待っていると10時になる。
 わいわいとモールへ入り込む学生。
 あっという間に入り口付近は人が疎らとなり、その頃を見計らってわたしも入店する。
 今日の目的は、特にない。
 この学校に通う限りはこの敷地内でしか生活ができないため、暇つぶしといえばモールを訪れてショッピングくらいしかないのだ。
 本屋で時間を潰すも良し、おそらく買う機会の無い高級家具や家電製品に触れるも良し。娯楽施設の整った4階で遊ぶのも良いだろう。ゲームセンター、カラオケ、ボウリングまで揃っている。いずれも小規模だが、順番待ちなどは携帯から確認ができる。少なくとも今は待ち時間なく遊べるはずだ。
 そんなことを考えながら、わたしは徘徊する。


【安価です。
 1.カラオケ(イベントなし。この後音楽センスについて安価実実施)
 2.ボウリング(コンマ1桁が3・7で生徒会のメンバー)
 3.本屋(コンマ1桁が1・5・8・0で荒垣)
 4.食品売り場(コンマ1桁が1・4・7・0で神宮)
 5.カフェ(コンマ1桁が2・5・9で宮野)
 選択と同時にコンマ判定でイベントの有無も行います。
 下1でお願いします。】
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/16(木) 23:50:23.30 ID:rk80RbES0
1
187 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 00:41:24.73 ID:aQQAOj52O
>>186
 1.カラオケ】

 わたしはケヤキモール内の4階にあるカラオケへやって来た。開店から間もないこともあり、4階というフロア自体にも人の姿は少ない。そんな中でもカラオケの受付はガラッと空いていた。
 受付のお兄さんと数言交わして3時間コースを取り、学生証端末を専用の装置にかざして手続きが完了する。
 この後誰かと待ち合わせの予定は無かったがマイク2本を受け取り、指定された部屋へと赴く。
 室内はとても綺麗で十人弱は優に入れそうだった。
 そんな広い部屋に荷物を置いた後、フリードリンクを取りに行く。ジュース各種、お茶各種、コーヒー、水、さらにはコーンスープまで。
 少し迷った末、わたしはボタンを押して緑茶を注ぐ。なんとなくジュースの気分でもコーヒーの気分でもなかった。
 ドリンクの入ったグラスを手にして部屋へ戻る。
 そこに誰かが居るわけでもなく、改めてこの広い部屋で喉を潤す。

「あ、ここにはないんだ」

 ふと天井を見上げ、監視カメラが無いことを確認する。
 学校では教室や廊下、ケヤキモールでは基本的に全ての店舗、通路、またカラオケの受付にも監視カメラが設置されていることを何となく把握していた。
 しかしこの個室はプライバシーのためかカメラが設置されていない。大人数での密会にはうってつけの場所なんだろう。
 と、そんな分析はそのくらいにして。
 カラオケに来た理由はただひとつ。
 そう、─────。

【天音の音楽センスについて。
 歌唱センスもそうですが、楽器センスも込みです。
 下1のコンマ2桁を反転でお願いします。
 例: 27 → 72
 ゾロ目は再安価の権利になります。
 この場で再安価でも良いですし、この先のコンマ安価です再安価の権利を使用することもできます。】
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/17(金) 01:37:36.41 ID:H5MRl3BF0
189 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 05:22:28.23 ID:xdm9w7UYO
>>188
 41 → 14(下手)】

 そう、わたしには音楽的なセンスが欠けらもない。
 中学生の頃まではなんとかなっていたが、もうそれも限界だろう。何より学校の敷地内にこのカラオケ施設がある時点で今後の付き合いは免れない。
 わたしは前向きに短所を克服するため、初めてのカラオケに一人で来たのだった。

「よし」

 歌を歌うだけで音楽センスが光り輝くとは考えにくいが、何事も挑戦を繰り返し成功と失敗を積み重ねて学習するだけだ。
 帰りに本屋で楽器や歌に関する本の購入を視野に入れて、わたしは3時間歌い続ける。
 およそ人様に聴かせられるような歌声では無かったと思うが、幸い今日のわたしは一人。防音性もかなり優れたこの部屋からわたしの声がすることはなかっただろう。
 3時間後、わたしは1500ポイントと高くも安くもないポイントを支払って誰にも見られることなく退出することに成功する。
 実感として、ほんの少しだけ音楽というものに理解を示せた……というのは気のせいだろうか。


【安価です。
 次に行く場所について(昼)
 1.本屋(料理もしくは音楽に関する本の購入可能)
 2.食品売り場(この後寮で料理をしてスキルアップ)
 3.寮へ戻る(先日購入した料理の本を読み切る)
 下1でお願いします。

 また、今回カラオケを行ったことで春宮天音の音楽センスがレベルアップします。
 上の安価平行してコンマ安価を行います。
 コンマ2桁反転(例17 → 71)で、下記の通り音楽センスが上昇します。
 01〜29:2
 30〜49:3
 50〜79:4
 80〜89:5
 90〜98:7
 ゾロ目:10
 ※成長率74(高)ボーナス込みです。】
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/17(金) 07:58:25.23 ID:LlEwAkmH0
2
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/17(金) 08:09:43.93 ID:Vlvkm0P+o
趣味的技能の能力がかなり低い…真面目系かな
192 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 08:38:14.21 ID:HxUFjgJ7O
>>190
 音楽センス 23 → 32 :3上昇
 14 → 17

 今のところのステータスです。
 学力:97(綾小路)
 身体能力:99(綾小路)
 直感・洞察力:91(坂柳)
 協調生:53(2年堀北)
 成長性:74(高)
 メンタル:86(龍園)
 料理:27(苦手)
 音学:17(苦手)

 続きは今晩にします。
 お疲れ様でした。引き続きお願いします。】
193 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 21:59:52.10 ID:wAYHW6+C0
【再開します。】
194 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 22:00:17.56 ID:wAYHW6+C0
>>190
 2.食品売り場】

 10時きっかりに入店してカラオケで3時間を費やす。
 すると時刻は13時を回っていて、歌い続けていたことも手伝ってお腹が空いてきた。
 カラオケのある階から1つ下の階まで移動すれば様々な飲食店が立ち並んでいたが、わたしはエスカレーターを降りながらそれをスルーして1階の食品売り場へと向かう。
 そこは地元のスーパー顔負けな品揃え。
 スーパー内で調理されたお弁当やお惣菜、パンから始まり、生鮮食品、調味料、冷凍食品、インスタントラーメン、お菓子、飲み物など。本当に全てが揃っていると言っても過言ではない。
 わたしはカゴを持ち、調理済みのコーナーをスルーする。今日ばかりは自炊に挑戦しようという気構えだからだ。
 生鮮食品コーナーに着くと、無意識のうちに手を顎に当てて考えこんでしまう。
 さて、どうしたものかと。

「……」

 周囲の人は疎らであるため長時間立ち尽くしていてもそれほど迷惑にはならない。
 時間をたっぷりと使って、高確率で失敗を回避できそうなレシピを思い浮かべる。
195 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 22:00:50.02 ID:wAYHW6+C0
 ここでふと、先日購入した料理の本の序盤に書いてあったことを思い出す。それは初心者がまず挑戦するべき料理の系統について。

「煮込み……」

 それは決まった食材を切って、鍋に入れて決まった時間加熱するだけの調理法。炒め物などとは異なり、スピード感が求められない料理は初心者向けらしい。
 もちろん世間一般の初心者よりもわたしの手際が劣っている可能性もあるが、誰かに食べさせるわけでもない。第一歩として挑戦してみる価値はある。
 そうと決まればわたしは本屋で立ち読みしたレシピを思い出す。
 チキンのトマト煮込み、煮込みハンバーグ、ビーフシチュー、極論クラムチャウダーとかも煮込み料理なのかな。いや、ということはお味噌汁も煮込み?
 煮込みという言葉がゲシュタルト崩壊を起こす中、せっかくなら挑戦してみたいという気持ちが強くなるのを実感する。
 立ち尽くしていた時間は20秒ほど。
 わたしは最初に思いついたチキンのトマト煮込みを作るため、レシピ本に書かれていた食材と調味料をカゴの中へと入れていった。
 お会計は5020ポイント。
 かなり行ったなぁ、と思ったが、今回使用する調味料以外にも普段使い用の調味料を揃えたのが大きかったと思う。あと5キロのお米も買っておいたため、それらの合計と考えれば納得だ。
 寮まで持って帰るのが億劫だなと考えていると、お会計金額が5000ポイント以上を超えた場合は寮まで運んでくれるサービスもあるらしい。狙ったかのようにサービスを受けれる金額のため、わたしはお願いすることにした。
 さぁて、料理、頑張るぞー!
 心の中で自らを鼓舞して、軽い足取りで寮への帰路に着く。

【コンマ安価です。
 現在の料理スキル:27(苦手)
 ゾロ目:大大成功(8ポイントアップ)
 7:大成功(5ポイントアップ)
 1・5・:成功(3ポイントアップ)
 2・4・8:微妙(1ポイントアップ)
 3・6・0:失敗(2ポイントダウン)
 下1でお願いします。】
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/09/17(金) 22:03:44.40 ID:LtXuTJN+0
スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています

何故一旦停止しないのですか

何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?
197 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 22:56:36.37 ID:wAYHW6+C0
>>196
 0:失敗】

 結果だけ簡潔に述べると、わたしは失敗したらしい。
 やや酸味と塩味が強く、鶏肉の食感も合格点には程遠い。あらゆる面で劣っているソレは、失敗と称するに相応しい出来だっただろう。
 自分のポテンシャルの低さを想定して少なく作っていたことが幸いして食べきることは出来た。確かに空腹は満たせたが、それは有意義な食事ではなかった。
 レシピを立ち読みで覚え切った罰か。
 しっかりレシピ本を購入することを視野に入れ、また料理が得意な人に教わることを前向きに検討して片付けを始める。

「わたし、料理の才能ないのかな…」

 わたしはそう呟いた。
 食器についた泡を水で流す音で相殺されてしまいそうなほど小さな声は、わたしが胸の内でショックを受けていることを明確に示していた。
 なんだか料理の腕が落ちた気がする。


【料理スキル 27→25】
198 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 22:57:09.15 ID:wAYHW6+C0
◇◇◇

 週明け、高校生活も2週目に突入した。
 今日は朝から全校集会が予定されている。
 わたしは講堂へと向かう途中で伊藤先生に呼び止められ、本来生徒が集まる場所とは異なる場所で待機することとなる。

「天音ちゃん、おはよー。元気元気?」

「乙葉先輩、おはようございますっ。週末にちょっと嫌なことがありましたけど、元気です!」

「ん、嫌なこと? 相談してね、ユキちゃんに!」

 乙葉先輩の隣に居る如月深雪先輩─────通称、ユキ先輩は生徒会におけるわたしの直属の上司というか指導役になる。
 今後生徒会の仕事だけでなく、もしかしたらプライベートの相談にも乗ってくれるかもしれない。

「おい、……まぁ、私で良ければ相談には乗るが」

「もう一回挑戦してみて、挫折しそうになったら相談させてください!」

「何のことかは知らないが、自分の中で一区切りつくまで挑戦するのは良い心掛けだな。そして壁に当たったときは早めに相談するのも良いだろう」

 早速ありがたいお言葉を頂戴し、わたしはユキ先輩と他愛も無い雑談を幾つか交わす。
 気が付けば全校集会は始まっていて、どうしてわたし達がこんなにも私語に花を咲かせることができるのか。それは舞台袖に待機しているからだ。
199 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 22:57:37.79 ID:wAYHW6+C0
 周りには生徒は居らず、先生も居ない。
 ただ、ほんの少し前へ踏み出せば全校生徒の注目の的となるポジションだ。当然、緊張はしている。
 後ろに居る神宮くんは膝を震わせているほどだ。

「天音ちゃんは結構大丈夫そうだね。こういう場所って慣れてるの?」

「いえ、まったく。ただ緊張しすぎても意味がないって自分の中で折り合いをつけているだけです」

「お、いいねぇ。そーいうの大事だと思うよ」

「おい、そろそろだぞ」

 ユキ先輩の言葉に、わたし達は口を閉じる。
 向こう側の舞台袖から錦山先輩─────錦山暁人生徒会長が全校生徒の前に立つ。
 息を呑む音が聞こえて来そうな緊張感だった。
 淡々と進行を進めていき、今年度の生徒会メンバーを発表する場へと移る。
 役職順に呼ばれていき、三年生の書記であるユキ先輩が呼ばれた。その次は─────わたし。

「書記。一年Dクラス、春宮天音」

「はい」

 なるべく生徒のことは視界に入れず、ユキ先輩の隣に立つ。前を向くと、嫌でも無数の生徒が視界に入る。決してわたしを見ている訳ではないと理解していても、見られていると錯覚してしまう。
 舞台上からは全校生徒の顔がハッキリと見えた。
 同じクラスの生徒はとても驚いた表情をしている。
 ここまで内緒だと箝口令が敷かれていたとはいえ、かなり申し訳ない気持ちになる。
 副会長以下九名が錦山生徒会長の後ろに立つと、そのまま錦山生徒会長は締め括りの言葉を口にする。
200 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/17(金) 22:58:14.56 ID:wAYHW6+C0
 これでお披露目の式は完遂された。
 舞台袖に戻ると、わたしはふぅっと息を吐く。

「緊張したか?」

「そう、ですね。やっぱり緊張しました」

「まぁ、程良い緊張は、人を成長させるための良い刺激になるだろうよ」

 ありふれた言葉かもしれないが、良いことを言う先輩だなと改めて実感していると、全校集会そのものが締め括られる。
 ここで一旦わたしたちも解散となり、また放課後に生徒会室で集まるようにと指示を受ける。
 各々が教室へ戻っていく中、わたしは同じ一年で戻る方向も同じな神宮くんに声をかける。

「一緒に戻ってもいい?」

「うん、もちろんだよ」

 中性的な顔立ちをする彼がそう頷くのを確認後、わたしは彼と肩を並べて教室までの廊下を歩く。

「緊張したねー。ただ立っているだけなのに、もう膝から崩れ落ちちゃいそうだったよ」

「僕は舞台袖に居た頃からずっとそんなかんじだったよ。錦山先輩はすごいなぁ、あんなに堂々と話しているんだもん」

「そうだね。経験の差があるとはいえ、自分が全校生徒の前で話す想像はつかないよね」

 そんなことを話していると、あっという間に教室前へと到着した。講堂の方からだとAクラスが近く、また放課後に合流する約束を神宮くんとして別れる。


【イベント安価です。
 奇数:白髪の男子生徒
 偶数:1年Dクラス
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/18(土) 00:05:03.98 ID:R5d3OilN0
へい
202 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/18(土) 21:00:44.61 ID:OvX+OJOdO
>>201
 8:1年Dクラス】

 Aクラス前の教室で神宮くんと別れ、Bクラス、Cクラスの前を通っていく。もう間も無くホームルームであるためか廊下で人とすれ違うことなく、Dクラスの教室、その後方の扉の前に立つ。
 わたしの席が窓側の一番後ろであるため、登下校のときは良くこちら側の扉を利用している。全校集会後も例外でなく、自然と足が伸びてしまった。
 扉の前で小さく深呼吸をする。

「……ふぅっ」

 生徒会の役員になることが決定してから約五日。
 クラスの人には黙ってきた。
 そして先ほど集会の場で全員に知れ渡った。
 この扉の先には、どんな感情が渦巻いているのか。

「よし」

 扉を開けると、全員の視線を一斉に浴びる。
 わたしは特に何もなかったかのように自分の席に着こうとするが、やはりそうは問屋が下さない。
 まず水泳の授業を通して仲良くなった宮野さんが駆け寄ってくる。それから彼女と仲の良い女子も数名。

「春宮さんっ! すごい! 生徒会なんて!」

「そ、そうかな? たまたま声をかけて貰ってね?」

「良いと思うよ! 本当は水泳部に入って欲しかったけど、生徒会なら納得ってかんじ!」

 この中に生徒会入りを希望していた人が居たとすれば、わたしは憎まれる対象になるかもしれない。
 ただ、そんな人はいなかった。
 おおよそ想定通りの祝福ムードといえる。
203 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/18(土) 21:01:15.20 ID:OvX+OJOdO
 それから数言交わしていると、伊藤先生がホームルームのため教室前方の扉から入ってくる。宮野さん達が席に戻るのを見送って、わたしも席に着く。

「全校集会お疲れ様でした。ご存知の通りかと思いますが、このクラスから春宮さんが生徒会の書記となりました。色々と頼りにするのは結構ですが、頼りすぎないよう注意してください」

 どうしてか今日の伊藤先生の背筋は伸びているように見える。クラスから生徒会役員が出た為か。
 わたしの観察を知る由もなく、先生は続ける。

「なお、学校の歴史を見ても1年Dクラスから生徒会役員が出たことはありません」

 そこでわたしは首を傾げる。
 なんだか奇妙な言い回しに聞こえたからだ。
 1年Dクラスから生徒会役員が出たことがない?
 偶然そういうこともあり得るの……かな?

「連絡事項は以上です。1時間目の準備をするように」

 そう言い残して出席簿を片手に教室を出て行く先生。それと入れ替わるように数学担当の先生が教室に入ってきた。
 後を追って話を聞こうかと思ったが、それを阻まれた形となる。友達同士の雑談も出来ないまま、わたしは数学のノートを机に出し、タブレット端末から数学の教科書を起動する。
204 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/18(土) 21:01:50.95 ID:OvX+OJOdO
◇◇◇

 放課後、わたしはAクラスの教室前まで来ていた。
 お昼休みに神宮くんとチャットをして、今日の放課後は一緒に生徒会室へ行くことを約束していたからだ。
 1分ほど外を眺めて待っていると、彼はやって来る。

「ごめん、お待たせ」

「ううん。大丈夫だった? お友達とか」

「先生と少し話していただけだから。さ、行こっか」

 神宮くんと並ぶように生徒会室へと向かう。
 わたしとしては道を引き返す形となり、Bクラス、Cクラス、そしてDクラスの教室の前の階段を使って降りる。
 道中、かなり多くの人に注目されていて緊張する。
 生徒会役員になったからには、あまり恥ずかしい真似はできない。1人カラオケとかしていると後ろ指を指される、なんてことも。
 そんなことを考えていると生徒会室前へ到着する。
 前に訪れた時と異なり、ノック等は不要らしい。ただ『生徒会(仮)』のチャットに入室する旨を書くように言われている。
 内山先輩曰く、

「生徒会のメンツでノックなんて他人行儀だろ? だからと言って何の前触れも無しに扉を開けるのはノーだ。俺たちは一応ゲームしているのを後ろめたく思ってるからな。先生かと勘違いする。つまりチャットで連絡しろってコトだ」

 とのこと。
205 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/18(土) 21:02:27.24 ID:OvX+OJOdO
 今回は神宮くんがチャットを送ってくれた。
 特に返事がある訳ではないため、そのまま扉を開く。

「おっつー」

 この前と同じくソファで寝転がる乙葉先輩。
 生徒会長である錦山先輩はユキ先輩に生徒会長席を奪われて内山先輩の隣に座っている。今日も今日とてゲームで盛り上がっているみたいだった。

「暇なのかな」

「乙葉ちゃーん、声に出てるー」

「まぁ間違ってはいない」

 ハッと口元を抑えるが手遅れだった。
 しかしそんなわたしを嗜めることなく、ユキ先輩が同調してくれた。この人はかなり真面目系だと思っていたが、例に漏れず混ざってゲームをしていた。

「ま、適当なところ掛けてよ。この部屋、無駄に広いし、役員分以上に椅子もあるんだしさ」

 そう促されてわたしと神宮くんは端の方に座る。
 さて今日は何をするんだ?と考えていると、


【イベント安価。
 奇数:「水泳部が新生徒会に宣戦布告だって!」
 偶数:「あと10分もしたら他の連中も来るだろ」
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/18(土) 23:13:00.67 ID:XFclaIk5O
207 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 14:00:10.89 ID:wv2ppvvR0
>>206
 7:「水泳部が新生徒会に宣戦布告だって!」】
 
「おっと。今年は早いなぁ」

 ゲームを嗜む乙葉先輩が小さく呟いて数秒後、鞄の中に入れていた携帯が通知を知らせてくる。
 わたしは鞄から、神宮くんはブレザーのポケットに入れていた携帯を取り出そうとしたとき、乙葉先輩がソファの背もたれに掴まって起き上がる。同時に錦山先輩と内山先輩、生徒会長席で寛ぐユキ先輩までもが立ち上がった。

「よし、行くぞ」

 錦山先輩が先導して生徒会室の扉から廊下へ出る。
 ひとまずわたし達も立ち上がり、並行して携帯に届いた通知を確認する。想定通り『生徒会(仮)』のグループチャットに向けて一通の連絡事項が届いていた。
 その内容は─────。

「なーにしてるの? 行くよ?」

 その連絡事項の意味が分からず立ち尽くすわたし達に上機嫌な乙葉先輩が声をかけてくれる。
 わたしは改めて連絡事項の一文を読み返すが、やはり理解が追いつかない。無理に考えるのは諦めて、携帯の画面を先輩に見せながら訊いてみる。

「水泳部と対決するからプール集合ってどういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ? 宣戦布告されたから、ちょっと懲らしめに行ってやろうってね」

「懲らしめる……」

「そうそう。新生徒会の力を見せてやろうじゃないかってハナシ。売られた喧嘩は買うのが生徒会だからねー」

 言っている意味は理解できたが、行動に移す意味が分からない。ただそれでも先輩方が決めたのなら、下級生であるわたしが否定する権利もない。
 わたしと神宮くんは顔を見合わせてお互いの動向を伺うが、それもほんの少しの間だけ。
 二人揃って乙葉先輩の後を追うように生徒会室を出る。

 新生徒会が発足して初日。
 早速、この生徒会室は無人の部屋となった。
208 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 14:00:41.73 ID:wv2ppvvR0
◇◇◇

 プール前に新生徒会の全員が揃っていた。
 今朝の全校集会前に軽く挨拶をしただけの先輩が四人もいる。いずれも一学年上の二年生だ。
 急にプール集合となったことについて何の疑問も抱いていないようで、「またか」とか「勝てば済む話だろ」など和気藹々としている。
 ここで錦山先輩が手を2回叩き、わたしを含めた新生徒会メンバー全員の注目を集める。

「さて」

 そう一間置いて、話し出す。

「乙葉の連絡通り、まぁ例年通りのアレだ。水泳部に喧嘩を売られた。部費を増やせとか、生徒会が偉そうにしているのが気に入らないとか、役員に対しての私怨とか、乙葉がポイントを返さないとか、そういうのじゃねぇ」

 最後のは喧嘩を売られるどころか、教師を巻き込んだ苦情になりかねない案件だと思うが、ここで口出しは出来ない。先輩の言葉は続く。
209 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 14:01:16.98 ID:wv2ppvvR0

「売られた喧嘩は買う。そしてタダでは済まさない。俺たちが勝てば向こうの奢りで飯だ。神宮、十九時からケヤキモールの焼肉屋を予約しておけ」

「は、はい」

「名義は三年Bクラスの麻倉だ。人数は……」

「今朝の時点で水泳部は27名、生徒会を併せて37名です。顧問の大島先生を入れると38名になります」

「とりあえず40人分の席を取ってくれ。残りは適当なヤツを呼んでおく」

 途中、副会長の1人である二年生の佐倉新汰先輩の一言もあり、予約人数が決定する。隣の神宮くんは早速携帯で予約を取り始める。
 それにしても、なるほど。
 水泳部との競泳対決。勝てば向こうお奢りで焼肉。
 非常に魅力的だと思う反面、言及していなかったが負ければこっちの奢りになる可能性は充分にある。それを考えるとやや頭が痛いが、先輩たちの余裕そうな振る舞いからして勝機はあるんだろう。
 競泳対決の時点で向こうにかなりの分がある。タイムか距離か、メンバーの選出でハンデが設けられてようやく互角といったところか。

「やるからには勝つ。いや、勝たないとヤバい。この10人で教師を除く37人分を奢りは笑えない」

「ちなみにわたしの残ポイントは0だからね!」

 引きつった笑みを浮かべる乙葉先輩以外の面々に対して、本人は満面の笑みだった。よほど焼肉が楽しみと見える。それは勝つことを確信しているから…かな。
 何も考えずにノーリスク・ハイリターンを望んでいるのなら、一刻も早くその認識を改めて欲しい。

「どちらにせよこの後は親睦会の予定だった。向こうの奢りになれば、この上なく最高だろ?」

 その一言に、新生徒会は盛り上がる。
 一方、わたしは頭の中で1人あたりの出費を算出してしまい、どうにも盛り上がれないでいた。
 この対決は、今後わたしが人並みな生活を送れるかどうかが決まる重大な分岐点になる。もしわたしが選出されるようなことがあれば、その時は勝利を取りに行くしかないだろう。
210 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 14:01:52.22 ID:wv2ppvvR0
◇◇◇

 競泳100メートルを最大3回行い、2回勝った方が勝者として奢りの恩恵を受けられるというルールになった。
 勝敗を決するには良いルールだと思う反面、水泳部との直接対決となれば飛び込みや50メートル地点でのターンなどの技術力も勝敗に大きく関わってくる。つまりハンデがそれなりに大きくなければ勝ち目は薄いだろう。

「で、ハンデについてだが─────」

 水泳部の部長である麻倉舞香先輩が錦山先輩に提案しようとしたところで、

「ハンデは要らない。ウチには超絶優秀な新人が入ってきたからな。ユキとアイツで2回の勝ちは取れる」

「あのDクラスのヤツか。なかなか傾奇者だな、貴様も」

 ジッと頭から爪先まで舐められるような視線で見られると、わたしは一歩後退りをしてしまう。

「噂には聞いていたが、とてもそうは見えないな」

「まぁやってみろって。お前がアイツとぶつかっても良い。なんであれ勝つのは俺たちだ」

「大した自信だな。で、選出は?」

「新汰、ユキ、天音だ」

「承知した。こちらからも男子生徒1人、女子生徒2人で対決と行こう」

 以上で、生徒会長と水泳部部長の会合は終わる。
 わたしが泳ぐのは確定のようだった。
 数時間前の授業に続いて、まさか1日に2回も水着を着ることになるとは思わなかった。
 まぁ、やるからには勝とう。数時間後にはなんの憂いもなく焼肉を食べられることを願って。


【安価で試合結果を決めます。
 天音の身体能力もあるため高確率で勝利です。
 4・8:水泳部勝ち
 それ以外:生徒会勝ち
 ※ゾロ目の場合も生徒会勝ちとなります
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 14:55:46.56 ID:4ORJfrtnO
212 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 15:42:55.96 ID:wv2ppvvR0
>>211
 6:生徒会の勝利]

 新汰先輩は水泳部の次期部長候補である新山先輩のタイムに僅かに届かず、ユキ先輩は去年の雪辱戦だと名乗りを挙げた倉島先輩に勝利を収める。
 そして迎えた勝っても負けても最後の対決。
 結果として、わたしは水泳部部長の麻倉舞香先輩に勝利した。つまり生徒会側の勝利が確定する。

「よーしっ! よくやった、天音!」

 先輩方が非常に喜んでいるのを確認した後、プールに入ったまま隣のレーンの麻倉先輩を労う。

「お疲れ様でした、麻倉先輩」

「なんだか嫌味っぽいが、まぁ素直に受け取っておくことにしよう。それにしても噂の一年がここまでだとは思ってもいなかった。学年差も水泳に対しても私の方がずっと先輩だと思っていたのだがな」

「少しだけ運動には自信があるんです」

「それ、同じクラスの宮野にも言ったみたいだな」

 視線を横にずらすと、宮野さんがこの対決の様子を伺っていた。もう彼女からわたしという存在については聞き取り調査済みらしい。
213 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 15:43:32.77 ID:wv2ppvvR0

「負けたのは事実だ。完敗だった」

「もしよろしければ、再戦させてください」

「それは負けたヤツの台詞だ。またわたしに負けろって言いたいのか?」

「そ、そうじゃないですっ」

「はは、冗談だ。まぁとりあえず上がるか」

 たった100メートルくらいで疲労感は無く、わたしはプールサイドに上がる。そこには神宮くんがタオルを持って待っていてくれた。

「お疲れ様。間近でオリンピックを見ているような気分だったよ」

「それは言い過ぎじゃない? でも、確かに勝ったよ」

「うん、ずっと見てた。瞬きを忘れるくらいに」

 この対決が始まる前、わたしは神宮くんに一つ約束をしていた。
 『わたしは必ず勝つ』と。
 実力の測れない麻倉先輩相手では勝てるか不安な部分もあったが、自分を信じて競技に臨んだ結果、無事に約束を果たすことができた。
 その後に上がってきた麻倉先輩には水泳部の女子生徒がタオルを手渡し、軽く水滴を拭き取った後で錦山先輩のもとへと寄る。

「この勝負、私たち水泳部の負けだ」

「ウチの新人は有望だろ?」

「あぁ。本気で水泳部に欲しくなった。春宮、これからの放課後、休日、暇なときはここへ来い。部員でなくともお前ならいつでも大歓迎だ」

 生徒会役員である以上、水泳部に入部することはできない。しかし部長直々にお許しを戴いたとなれば、今後自由に練習に参加することは出来るのだろう。
 暇なとき、ここに寄るのもありなのかもしれない。
 そんな予期せぬ収穫もありながら、第一の目標であった焼肉を奢って貰える権利を獲得した。
 乙葉先輩がとても喜んでいるようで何よりだ。


【休日に水泳部を訪れることが可能になりました。
 ここで1年Dクラスの雰囲気を安価で決めたいと思います。
 7・0:生活態度が真面目なクラス
 その他:授業中の私語・遅刻欠席が頻発するクラス
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 16:23:28.07 ID:eg9sxgS10
へい
215 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:14:50.15 ID:wv2ppvvR0
>>214
 7:生活態度が真面目なクラス
 少し時間が飛びます。

 四月下旬の週末。
 ゴールデンウィークを目前に控えた頃。
 昨日と今日の各授業で小テストが行われた。
 その内容は中学三年生程度の簡単なものから昨日の授業で習ったことをそのまま出すといった、比較的難易度の低いテストだったと言える。
 少し気になったのは成績には反映されないと前置きがあったこと。あくまで現時点の学力を測るため、と先生は言っていたが、その真意は汲み取れない。
 各々が本気でやるにしても手を抜いてやるにしても、やや緊張感のある二日間を超えたからこそ、金曜日の放課後には緩みが生じる。

「でさ、今日の帰りはどうする?」

「来週にはさ、またポイントが振り込まれるわけだし、ちょっと良いもの食べたいよね」

 食べ物、服、家具と。
 週明けの1日に振り込まれるポイントをあてに、各々が財布の紐を緩めようとする。
 わたしは教室を出て行く彼女らの背中を見送りながら、ひとり教室の端の席で現状を整理する。
216 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:15:18.31 ID:wv2ppvvR0

 まず、この1年Dクラスにおけるリーダー的存在について。
 男子生徒では間違いなく、初日に自己紹介を提案するなど様々な場面でクラスを引っ張っていった一色颯くん。生活態度も真面目そのもので、このクラスだけでなく他のクラスの人、さらには部活動を通して上級生にも伝手が生まれているらしい。
 女子生徒は幾つかの派閥に分かれていることもあり、一人に絞り込むことは難しいが、ある程度の勢力図は目に見えている。
 宮野真依。水泳を通して仲良くなった彼女は気立が良く、クラスの女子のおよそ半数を率いるほどになった。聞いた話では一色くんと良い雰囲気だとか。
 倉敷春香。コミュニケーション能力と分析力に優れていて、まるで相手が望む言葉・行動が分かっているように事を進めることで信頼を構築している人物だ。クラス内からの信頼度は宮野さんには一歩劣るが、クラス外の伝手はかなり有力だと見える。

 その他、人を率いる力は無いものの学力や身体能力が秀でている生徒は何人も居る。実際に授業を通してその能力の片鱗が垣間見えている。
 他クラスの雰囲気はあまり把握できていないが、なかなか優秀なクラスだと素直に思った。無断欠席や遅刻、もちろん暴力事件は起こっていない。
 授業中に少し話したり、眠くなる程度はご愛嬌だろう。
217 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:15:53.07 ID:wv2ppvvR0
 わたしが入学間もない頃に危惧した事態は回避されたと見ても良い。これで一安心して月初を迎えることができる。
 そう、思っていたとき─────。

「Bクラスのヤツが退学になったってよ!」

 つい先ほどクラスを出ていったばかりの、クラスメイトの一人が慌てた様子でそう言い放った。
 退学? 聞き間違い?

「なんか派手に喧嘩したみたいでさ。Cクラスのヤツがひでぇ怪我してて、それをやったのは俺だってBクラスのヤツが自白したらしくて……」

 このクラスから加害者と被害者が出なかったのは幸いだが、その話は非常に居た堪れないものだった。
 怪我の具合も気になるし、退学という処罰の重さ。殴って蹴って骨折程度でも停学が落とし所だと思い込んでいた。
 わたしはその話を一番よく聞けそうなBクラスの前へと赴く。するとBクラスの前だけやけに人が集まっているのが遠くから見ても分かった。
 その中に神宮くんが居るのを視認して近付く。

「あぁ、春宮さん。聞いた? あの話」

「うん。でも、信じられなくて─────」

 その時、ガラッとBクラスの扉が開かれる。
218 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:16:26.06 ID:wv2ppvvR0
 先には一人の男子生徒が居た。

「チッ、もう馬鹿共が寄ってやがる。人の噂ってのはあっという間に広がるもんだな。なぁ、宇垣」

 見覚えのある銀髪の男子生徒に続くように、体格の良い男子生徒が三名出てくる。その内の一人、おそらく宇垣くんは同調するように笑みを浮かべる。

「今日はアイツの退学祝いに─────っと」

 そして偶然、銀髪の男子生徒とわたしの目が合う。
 ゆっくりと人だかりに突っ込むようにわたしの方へと向かってくる。自然と彼とわたしの間には無人の道が出来上がっていた。

「なんだ、お前も来たのか。春宮」

 クク、と彼は笑って見せる。
 薄気味悪い笑い方は、見た者の背筋を凍らせる。

「この一件、興味があるのか?」

「退学になるって相当だと思います。何をしたのか教えて貰えますか?」

「それは生徒会としての言葉か?」

「いいえ、わたし個人のです」

 わたし達から距離を取りつつも、取り囲むように人だかりが出来ていた。全員が退学になった理由を知りたいのだろう。
219 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:16:59.00 ID:wv2ppvvR0
 そんなギャラリーを全く気に留めることなく、彼はもう一度乾いた笑い声を発する。

「そうか、興味があるか。なら─────」

 彼は右手の人差し指を自らの足元へ向ける。

「膝と手、そして額を床に付けてお願いしてみろ」

 理解が及ばなかった。
 もともと彼の素振りからまともな話を聞けるとは思ってもいなかったが、口から出たのは想像を遥かに上回る一言だった。
 土下座をして頼み込め、と。
 入学して間もない頃に彼がわたしに言ってきた『1億ポイント』でのクラス移動の件に通じる吹っ掛け方だ。
 彼とまともに取り合うことは不可能だと判断する。
 踵を返して立ち去ろうとしたとき、さらに後ろから声が掛かる。

「ひとつ教えておいてやる。コレはまだまだ序盤だ。お前にはもっと面白いもん見せてやる。だから今はせいぜい良い子ぶってるんだな。参考までに、今の二年生は149人らしいぜ?」

 その言葉を聞いてわたしは何か反応することもなく、その場を立ち去る。
 すぐ後ろを神宮くんが付いてくる。

「春宮さん、辻堂くんと知り合いでしたか? かなり雰囲気が悪そうなかんじでしたが……」

「前に少しだけね。ただ、そんな話すような仲ではないよ。一方的に喋られているだけ」

「そう、でしたか……。彼は危ない人ですね」

 素行も悪そうな印象を受けたが、何より。

 『コレはまだまだ序盤だ』

 その言葉が示すものは、平和を想定した学校生活を不穏そのものにさせるものだ。
 十中八九、クラスの生徒の退学騒ぎには彼が関係している。つまりこの先に待つのは、彼による退学者の続出。
 ハッタリである可能性も多いにあるが、その後に言っていた二年生の人数が気になる。
 149人。それは11人もの退学者が出ているということ。
 この学校が暴力に対して厳罰を下しているのか?
 その答えは、生徒会室へ行けば直接的なことを聞かずとも分かるだろう。
220 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:17:34.36 ID:wv2ppvvR0
◇◇◇

 生徒会室には一年BクラスとCクラスの担任の先生が顔を突き合わせていた。
 錦山先輩は生徒会長の席に腰をかけ、話を聞いている。乙葉先輩や内山先輩も真剣な表情でその様子を見守っていた。

「つきましては本人が望んでいる以上、退学にするしかないというのが学校側の対応です」

「そうですね。妥当…ではないと思いますが、本人の希望であれば仕方がありません」

 話は終盤だったのか、その二言だけ聞き届けて先生が立ち上がる。わたしと神宮くんは生徒会室の扉を開けて見送る。
 扉を閉めた直後、緊迫していた生徒会が弛緩する。

「はぁ……。まーた面倒ごとを持ち込みやがって」

「ほんとだよねー。Bクラスって疫病神みたいな?」

 Bクラスが起こした問題は今回が初めてではないらしい。わたしと神宮くんが知らない間に、何かが起きていたようだ。

「天音と紫苑は気にするな。今回は本人の希望でさっさとケリがつきそうだ」

 そう言われても納得は出来ないが、頷くことしか出来ない。前回の一件すら省かれていたのだから、首を突っ込む余地はないだろう。
 一年Bクラス。辻堂くんという生徒が率いるクラスは、今後わたし達Dクラスの前にも大きく立ち塞がってくるかもしれない。


【週末の自由行動です。
 1.ケヤキモールへ
 2.人と会う
  1.早見有紗(前の席の女子生徒)
  2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
  3.一之宮重孝(全国模試2位の男子生徒)
  4.一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
  5.神宮紫苑(同級生の生徒会役員)
  6..花菱乙葉(信頼のできる生徒会役員)
  7..如月深雪(信頼のできる生徒会役員)
 3.寮で本を読む
 4.学校へ
 下1でお願いします。】
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 19:58:14.12 ID:k24mEo9so
7
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 20:01:41.33 ID:k24mEo9so
2-7です、すみません
223 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 21:10:19.77 ID:wv2ppvvR0
>>222
 2-7.如月深雪】

 入学して間もない一年生から退学者が出た。
 そんな信じられないような出来事が起きた翌日、わたしは如月深雪先輩こと、ユキ先輩と会う約束をしていた。
 こと始まりは先週に生徒会の会計という役職繋がりで、神宮くんと二年生の和泉紗希さんが遊んだという話から始まる。
 それはそれは盛り上がったようで、同じ書記として前々から親睦を深める意味で休日に会いたいねという話をしていたわたし達の背中を後押しする事となる。
 特別予定も無かったため日程を任せたところ、今日に至るというのが経緯だ。

「……あと30分か」

 時計を見て待ち合わせの時間を確認する。
 この学校の生徒である限り、遊ぶ場所はケヤキモールに限られる。都内の他の学校であれば池袋や渋谷など、遊ぶ場所は多々あっただろう。
 学校の制度として毎月1日に1ポイントイコール1円の価値を持つポイントを多く配布しているため、並の学生のようにお金に困ることは少ない。ただ、それでも遊ぶ場所が限られるというのは残念だと思った。
 とりあえず部屋着から外行きに服に着替えようとしたところで、

【コンマ安価です。
 奇数:ユキ先輩から一通の通知が届く。制服に着替えて、体操着とジャージを持ってこい、と。
 偶数:わたしはそのまま私服へと袖を通す。
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 22:38:16.31 ID:QWW5gV0po
225 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:00:27.47 ID:ClJgpcB/0
>>224
 1:ユキ先輩から一通の通知が届く。制服に着替えて、体操着とジャージを持ってこい、と。】

 外行きの服に着替えようとしたところで、机の上に置いていた携帯がピコンと通知音を鳴らせる。
 少し早いがユキ先輩だろうかと考えながら覗き込むと、制服に着替えて体操服とジャージを持って学校の正門前集合と書かれている一文を目にする。
 確かにケヤキモールでランチとか、そういった取り決めはしていなかった。
 少々予想外だが、特別わたしの方でもこのお店に一緒に行きたいとか希望があったわけではないため、すぐ了承の旨をチャットで送る。

「さて」

 ちょうどウォークインクローゼットから私服を取り出したところだったが、すぐにしまう。
 その代わりに制服と体操着、ジャージを取り出す。
 この学校は休日であっても制服でなければ学校の敷地には入れないというルールがある。職員室でもプールでもグラウンドでも、その限りではない。
 やや面倒だなとか、部活やってる人は大変だなとか考えながら支度を済ませる。

「行きますかっ」

 念のために水着も含めて、忘れ物がないかをチェックしてから部屋の戸締りをして部屋を出る。
 エレベーターに乗ると偶然Aクラスの女子と遭遇する。彼女とは神宮くん待ちでAクラス前で佇むとき、たまに話している仲だ。

「わ、春宮さん、今日も学校に? 生徒会?」

「ううん、ちょっと先輩と約束をね」

「へぇー、暑いのに大変だねぇ」

 二人揃って寮のロビーを出ると、むわっとした熱気が襲ってくる。年中ブレザーの制服を強制されている学生にとって、とても辛い時期に入っていくと改めて実感する。
 寮を出たところでケヤキモールへと向かう彼女を見送り、わたしは学校の方角へ。学校までが徒歩五分圏内であることが唯一の救いだろう。
226 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:00:54.40 ID:ClJgpcB/0

◇◇◇

 わたしが到着した頃には先輩が正門近くに立っていた。
 結構早めに着いたはずだったが、先に来ていたユキ先輩に驚きを─────いや、そんなことじゃない。ユキ先輩の格好にわたしは驚いた。

「おはようございます。待たせてしまいましたか? というよりその制服は……」

「おう、いきなり質問だらけだな。まず待ってない。さっき着いたところだ、本当に。で、これはこの学校の夏服だな。ポイントを払えば制服と着る権利を購入できる」

「はー、なるほど! 参考にします!」

 暑さにめっぽう弱い方ではないが、これは良いことを聞けた。この制服も可愛くて気に入っていたが、夏服のデザインも良さげだ。
 本格的な夏になったタイミングでアナウンスされるのだろうか。そんなことを考えながらユキ先輩の後を着いていく。
227 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:01:30.82 ID:ClJgpcB/0

「今日は何するんですか?」

「ちょっとばかし生意気な陸上部をシメにいく」

「……乙葉先輩もですけど、物騒ですよね」

「ん、そうか? アイツが去年も一昨年もこんなかんじで殴り込みしてたからな。移ったのかもしれない」

 稀に部費の相談などで生徒会室を訪れる各部の部長を乙葉先輩は幾度も追い払っている。門前払いとでも言いたそうに、生徒会長である錦山先輩まで辿り着かせようとしない。
 ただその後、副部長の新汰先輩と会計の紗希先輩が生徒会室を追い出された部長らと会合の場を設けているらしい。まともな会話はそこで成立しているため、今のところは苦情が寄せられていない。
 そうこうしているとグラウンドに着く。
 わたしとユキ先輩の姿を見つけた一人の男子生徒が近寄ってくる。

「ユキ、そいつが例の一年か? 水泳、バスケ、サッカー、テニス、卓球、それだけに懲りず今度は陸上の道場破りか?」

「そうだ。そろそろ乙葉がゴネる頃だからな。この部活にも生徒会の糧になって貰う」

「そいつぁ良い度胸だな」

 そう、わたし達をが勝利を収めたのは水泳だけでない。あの後、バスケット部とサッカー部、テニス部、そして卓球部と対決をして全てで白星を勝ち取っている。
228 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:02:05.69 ID:ClJgpcB/0
 気を良くした乙葉先輩はすべての部活にご飯奢りを掛けた試合を申し込もうとしてたところを、生徒会役員全員で止めた─────はずだったが、これはどういうこと?
 側からは進んで喧嘩を売っているように見える。

「新庄、お前は長距離だったな」

「いや、そうだけど、流石にキツイだろ。1対1で単純なタイム争いは。せめて十人でリレーとかあるだろ?」

「生憎、中途半端な奴を入れる気は無い。こっちは私と天音の二人だ。そっちはお前と一年の女子生徒を出せ。距離は400メートルと600メートルだ」

「なるほど、わかった。それで決まりだ。文句は言うなよ?」

 ひとまず話はまとまったようだ。
 わたしとユキ先輩は体操着に着替えるため更衣室へと向かう。その道中、ルール決めの真意について問う。

「どうして400と600なんですか?」

「単純にグラウンド一周が400だからだ。400と400でも良かったが、どうせなら1キロちょうどにしたいと思ってな」

 この話題はそれほど盛り上がることなく、ただ単にこのグラウンドが400メールであることを知るだけとなった。
 思いがけず休日に道場破り対決となってしまったが、ユキ先輩と乙葉先輩が喜んでくれれば文句はない。それにわたしも奢りでご飯を食べられるというのは胸躍る権利だ。ご飯のためにも頑張ろう。
229 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:02:35.20 ID:ClJgpcB/0

◇◇◇

 携帯に続々と通知が届く。

『よくやった』

『陸上部は寿司にしません?』

『先日、テニス部とお寿司の約束を取り付けました』

 などなど。『生徒会(仮)』のチャットは休日にも関わらず大盛り上がりを見せた。
 女子更衣室に設置されたベンチに腰掛けるユキ先輩は楽しそうにそのやり取りを見ている。

「大喜びだな」

「ユキ先輩がリードを作ってくれたおかげです」

「そのリードをキープ出来ただけでも上出来だ」

 前半の400メートルをユキ先輩と陸上部の1年生が走り、その後の600メートルはわたしと陸上部部長の一騎討ちとなった。
 ユキ先輩が作った10メートルほどのリードをキープし続けてゴールし、対陸上部も生徒会の勝利で幕を下ろす。

「にしても、やるなぁ天音。これまで3年生を相手に連戦連勝じゃないか。これでは3年生のメンツが丸潰れだ。不得意な競技は無いのか?」

「苦手かどうかは分かりませんが、走り高跳びとかはやったことが無いですね。あと弓道とかも」

「なるほど。走り高跳びはともかく、弓道の経験者は生徒会に三人いる。弓道部との対決はアイツらでやるか」

 早速、次の部活に対して宣戦布告を考えている様子。
230 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:03:02.92 ID:ClJgpcB/0
 この半月の間、部活動との対決ばかりだ。肝心の生徒会としての仕事はほとんどしていない。わたしの知らないところでBクラスのいざこざを対応していたという話は聞いたが……。

「よし、ちょっと外で動こうか。1時間くらい遊んだらケヤキモールに行こう。勝利祝いだ、多少は奢ってやる。いや、そういえば飲み物の礼がまだだったな」

 ユキ先輩と最初に出会ったとき、わたしは水泳の授業で一位を取ったボーナスとして5000ポイントを貰った。その臨時収入をもとにユキ先輩達には飲み物を奢ったこともあった。

「今日は勝利祝いといこう。飲み物の礼はまた今度させてくれ」

「はい、わかりました。ご相伴に預かります」

 時刻は11時前。
 これから少し動いてシャワーを浴びて移動すればちょうど良い時間になるだろう。
 ご飯のことを楽しみにしながら、わたしはユキ先輩の後ろを着いていくようにして外に出た。
231 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:03:36.15 ID:ClJgpcB/0

◇◇◇

 陸上部との激闘を終えたわたし達はケヤキモールへと移動する。休日に制服を着ているのは少し浮いているような気もするが、周りからの視線は特に感じなかった。

「天音、なに食べたい?」

「涼しいのが良いです。お蕎麦とか」

「よし、じゃあ蕎麦屋にしよう」

 制服を着て学校からモールへ移動するだけでかなり体温が上がった実感がある。冷たいもので一息つきたいという思いが強かった。
 ケヤキモールの三階にあるお蕎麦屋さんは少し混み合っていた。10分ほど外の待合席で待機して店内へ移動する。この間もわたし達の間に会話が途絶えることなく、またユキ先輩は多数の生徒に話しかけられていた。二年生、三年生からの人望が厚いと見える。

「好きなの頼め。ポイントは気にするな」

「じゃあ、ランチセットAで……いいですか?」

「また安いのを頼んだな。上でも特でも好きなの頼んでも良かったのに」

 ざるそばとミニ天丼もしくはミニカツ丼のセットで700ポイント。おそらく一般的な価格、あるいは少し良心的な価格か。
 ユキ先輩もわたしのと同じものを注文して待つ。


【安価です。
 1.「ユキ先輩は乙葉先輩達とは長いんですか?」
 2.「ユキ先輩って料理とかできますか」
 3.「そういえば図書室って利用したことありますか?」
 下1でお願いします。】
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/20(月) 12:56:25.95 ID:4VQedhm60
2
233 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 15:44:49.81 ID:ClJgpcB/0
>>232
 2. 「ユキ先輩って料理とかできますか」】

 料理が運ばれてくるのを待っている間、ふと思いついたことを聞いてみる。

「つかぬことをお伺いしますが、ユキ先輩って料理とかできますか?」

「急だな。まぁ、苦手ではないと自負しているよ。得意とも言えないがな。もう2年間も寮で1人暮らしをしているんだ。嫌でも覚える」

「そうなんですね!」

 そっか、まだわたしは寮生活を始めて1ヶ月。
 まだまだある寮生活の間に料理の技術を身に付ければいいのか。

「残念だが、この学校に調理部はない。お得意の道場破りは出来ないってわけだ」

「いえ、わたしは料理が出来ないので、もし調理部があっても勝負にもなりませんよ」

「そうなのか? 意外だな。てっきり料理も出来ると思ってた」

「……壊滅的なんですよねぇ。本屋さんに置いてあるレシピ本は暗記したんですけれど、どうにも上手くいかなくて」

「暗記するな。買えよ。というか寮に備え付けのパソコンでも携帯でもレシピが見れるだろ」

「それでやっても上手くいかないんです…」

 先週に煮込み料理に挑戦して以降、平日の夜に何度か台所に立って料理に臨んだ。その結果は壊滅的。もはや才能が無いと確信するほどだった。
234 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 15:45:16.91 ID:ClJgpcB/0

「そうか。なら、夏帆を頼るといい。アイツは実家が洋食屋で、何度か作って貰ったがどれも絶品だった。手際も良いし、学べることもあるだろう」

「はい、わかりました。頼ってみます」

 夏帆とは、副会長の1人である四条夏帆さんのことだ。穏やかな佇まいをする方で、放課後の生徒会室ではよく乙葉先輩のお世話をしている。
 かなり話しやすい人で、わたしも何度か話したことがある。頼るのは難しくなさそうだ。

「お前には運動部との対決で活躍して貰っているからな。夏帆も二つ返事で了承してくれるだろう」

 上級生の一部からは道場破りキャラとして警戒されているという悪評を耳にしたが、それでも生徒会のメンバーからは好意的な目で見て貰えている。
 来週か再来週、夏帆先輩に連絡してみるのもアリかもしれない。
 今後の予定が決まったところで料理が運ばれてきて、少し遅めのランチを取る。
 書記ペアの親睦会かつ祝勝会と称したそのランチは会話が途切れることなく盛り上がり、その後はカフェで一息ついて夕方頃に解散となる。
 今日はかなり充実した一日になった。
 そんな感想を抱きながら、一日を終える。
235 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 15:45:47.49 ID:ClJgpcB/0
【一旦ここまでにします。今晩、続きをします。
 現在の色々です。
 春宮天音
 学力:97(超優秀)
 身体能力:99(超優秀)
 直感・洞察力:91(優秀)
 協調生:53(普通)
 成長性:74(高)
 メンタル:86(高)
 料理:25(下手)
 音楽:17(下手)
 残ポイント:67850ポイント

 1年Dクラスからの評価:話しやすく、勉強もできて運動もできるため頼り甲斐のある人物。
 1年Dクラス以外からの評価:去年の全国模試で一位を取り、運動神経も抜群らしい。もし敵対するようなことがあれば要注意。
 2年生からの評価:3年生の運動部部長を負かしている1年がいるらしい。
 3年生からの評価:道場破りのつもりか、手当たり次第に勝負を挑んでは勝ちをさらっていく。厄介者であることは否めないが、その身体能力の高さは認めるしかない。
 生徒会からの評価:超絶優秀な1年が入ってきた。
 担任の先生からの評価:素行は非常に良く、クラスメイトに勉強を教えたり、体育の授業では積極的に他の生徒のフォローに回るなど状況が良く見えている生徒です。生徒会に連れられて色々な部活に顔を出しているそうですが、本人が望んで双方が納得のいくように事が収まっているのなら良いのではないでしょうか。今後もDクラスを支える人物として成長していただき、将来的には学校を支えられるようになって欲しいと思います。】
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/20(月) 15:57:01.95 ID:vN8FU7k30
よう実度外視したなら見れるけど
正直よう実っぽくはないですね
237 : ◆yOpAIxq5hk [sage]:2021/09/20(月) 16:28:08.08 ID:n4KgulOUO
ID変わっていますが>>1です。

>>236
現在、ちょうど4月が終わった段階になります。
5月1日に学校の制度について改めて説明、中間テストの告知が行われ、中間テスト後は特別試験を考えています。

今のところはただの学校生活ですが、この後からよう実らしさを出せればと思います。引き続き読んで頂ければ幸いです。
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/20(月) 19:51:15.78 ID:2661leSio
乙 期待
239 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:00:14.27 ID:6iS857jM0
【昨日は続きが出来ず申し訳ありませんでした。
 再開します。】
240 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:00:39.70 ID:6iS857jM0

 5月1日。
 わたしは起きて真っ先に学生証端末を起動した。
 顔写真、氏名、学生番号、クラス、そして保持ポイント。昨日と一箇所だけ変わっている部分に注目する。

『138850ポイント』

 昨晩まで『67850ポイント』であったことを考えると、今日5月1日の振り込まれたポイントが『100000ポイント』でないことは一目瞭然だ。
 覚醒しきっていない頭の中で引き算を行い、増額されたポイントを算出する。『71000ポイント』。
 入学時に配布された額には至らないが、これはなかなか上出来なんじゃないだろうか。わたしの見立てでは最悪『1ヶ月0ポイント生活』もあり得た。
 そんなポイントの増減についても今日話が聞けるだろう。Dクラスだけでなく、他クラスの間でもこの話題は尽きないはずだ。
 身を起こし、身体を伸ばしながらカーテンを開く。
 灰色の灯りが部屋に射し込む。それは真っ黒な雲が太陽の光を遮っているからだった。今日は雨らしい。なんとなく月の始まりと週の始まりが重なる今日がこんな天気だと気分も憂鬱になる。

「ふぅっ」

 ため息をすると幸せが逃げる、という一文を割と信用しているわたしは、小さく深呼吸をした。
 何も悪いことなんてなかった。ポイントについては最悪のケースを避けられたし、こうして雨が降る前に目を覚ましたことも幸運だった。
 さて、雨が降る前に学校に行ってしまおう。少し早すぎる時間だが、本を読むなり自習するなりやることはいくらでもある。
241 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:01:13.95 ID:6iS857jM0

◇◇◇

 珍しく教室に一番乗りしたわたしは1日のスケジュールを確認した後、なんとなくタブレット端末を手に取って自習を始める。
 とっくに学習し終えている高校一年生の範囲の教科書に真新しいことは書いていないが、それでも過去の偉人らが見つけてきた功績を眺めるのは悪くない。
 特に化学は好きだ。元素とか格好良くてテンションが上がる。これを見つけた人はすごいなぁと思う。
 ただ同時に『料理は化学』と世間的に言われていることを思い出す。

「……空腹か、愛か」

 わたしは誰も居ない教室で独り言を呟く。
 化学のことは理解しているつもりでも、料理は上手く出来ない。そこに足りないのは第二、第三の要素。つまり空腹もしくは愛というスパイスに他ならない。
 空腹が最大のスパイスである訳は理解できる。お腹が空いている時に食べるご飯は美味しい。それは間違いない。
 なら、愛はどうなのか。
 空腹が口に入れるときに美味しく感じる要因だとすれば、愛は作っている最中だろう。わたしも大切な人に手料理を振る舞う機会があれば、自然と愛を込めることが出来るのだろうか。
242 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:01:52.04 ID:6iS857jM0
 その辺りも含めて、生徒会一料理上手な洋食屋の娘である四条夏帆さんに聞いてみよう。実際のところは愛情なんて不要だと一蹴されるかもしれないが─────。

 と、そのときだった。
 ガラッと教室前方の扉が開かれる。

「あれ、早いね、春宮さん」

「ぁ……望月くん、おはよう」

 爽やかな格好良い男子生徒、望月弘人くんが姿を見せる。
 思い返せば彼は、いつもわたしが登校した頃には席に着いていた。今日のように一番乗りを日常的にしているのかもしれない。
 連日の一番乗り記録を阻んでしまった罪悪感を胸に、一応聞いてみる。

「望月くんはいつも早いの?」

「そうだね、この1ヶ月は毎日一番を目指していたよ。五月早々に阻まれてしまったけどね」

「う……ごめん、じゃあわたしが五月担当ということでどうかな? 四月は望月くん、五月はわたしということで」

「あはは。いいよ、そんなの。それこそ五月病ってヤツになりそうだ」

 そう言いながら彼自身の席に着いてわたしの方を向き、一呼吸を置いた後に続きを話す。
243 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:02:18.35 ID:6iS857jM0

「自らに何かを強いることは過ちだ。目標を掲げて突き進むのが人間─────って、僕のお世話になった人が日常的に言っていてね。こうして一番乗りを目標にして努力する分にはいいけど、朝5時とかに目覚ましをかけて無理やり来るのは違うんじゃないかって」

「……おぉ。なるほど。良いこと言うね、その方」

 こうして望月くんと話す機会は初めてだったが、非常に興味深いことを聞けた。一理ある、どころか全面的にその意見には肯定したい。
 そこでふと、彼という存在について思い出す。
 望月くんといえば、四月上旬に行われた水泳の授業でどうにも本気を出していないように見えた。このクラスでも随一の運動神経を持っていそうなのに、彼は九位という結果に留まった。そのことが気になって仕方がなかったのに、すっかりと失念していた。
 この機会に、遠回しに聞いてみよう。

「今日も水泳の授業あるね」

「そうだね。温水プールが完備されているとはいえ、四月から水泳の授業なんて珍しいよね。おかげで未だにグラウンドを使った授業をしていない訳だけど」

「珍しいよね。ところで、」

「ところでさ、聞いてもいいかな?」

 ずっとこちらを向いていた望月くんが、ここで立ち上がった。わたしの言葉に被せてきたことも込みで、ややプレッシャーを感じる。
 ところで、何を聞いてくるつもりなんだろうか。
 カツ、カツと足音が近付いてくる。
244 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:02:49.82 ID:6iS857jM0
 彼は、私の前で窓の外を眺めるように佇む。
 その姿は、なんだか見覚えがあるような気がした。

「いや、今のは春宮さんの言葉を遮っただけだ。特に深い意味はない。ただ本当に、僕のことはあまり詮索しないでくれって話だ。訳ありな人間なんていくらでもいるんだから」

「……うん、そうだね。わかった。望月くんが何でどんな結果を残そうと、わたしは関与しない。ただ、テストで赤点を取らない限りは」

「面倒見が良いんだね。でも大丈夫、高校生程度のレベルの低い学習はとうの昔に終えたから。まぁそれでも春宮さんには劣るのかな?」

「やめてよ、そんなことないって」

 わたしの否定が届かなかったように、彼は続ける。

「そんなことあるよ。君の学力、身体能力は『僕たち』に負けず劣らず─────いや、それ以上かもしれない。一体どうやったらそうなれるのか教えて欲しいところだけど、これ以上はやめておく。君が僕のことを詮索しないと約束してくれた以上、僕も礼儀は尽くす」

「……あー、その、えっと……」

「だから僕たちは敵対し合うことはないと思うんだ」

 彼はそう言った後、「ふぅ」と軽く息を吐いた。
 そして改めてわたしの方を向いて笑顔を見せてくれる。
245 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:03:22.62 ID:6iS857jM0

「─────ノリが良いんだね、春宮さんって。ノってくれなかったらどうしようかと思った」

「うん、でも途中のセリフ忘れちゃった。ごめんね?」

「気にしないで、僕もなんだか適当なことを口走っちゃってた気がするから。会心の出来だったよ」

 そう、この一連の流れは昨晩放送されたドラマのシーンをなぞったもの。
 わたしたちの入学式前日に第一話が放映された高校を舞台にしたドラマは、毎話で視聴者の期待を遥かに上をいく展開が続いて各地で話題になっている。当然、この学校の中でも話題に挙がることは多い。
 望月くんが今にも雨降り出しそうな外を眺めている姿を見て、昨晩の記憶が鮮明に甦った。役者の経験は無かったが、なかなか上手くできたんじゃないだろうか。最後の方はセリフが飛んでいたけど。

「うん、まぁ、今話したのは事実だからよろしく」

 気軽に言って彼は自席へと戻っていった。
 確かに会話の内容はとてつもない才能を隠す男子生徒が主役のドラマと酷似している。ただ、その全てが演技というわけではない。
 彼は詮索されることを嫌っているようだった。
 ならわたしは詮索しないでおく。これを冗談だとは受け止めずに。彼は真面目に授業を受けてくれている。それだけで十分だ。
246 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:04:00.36 ID:6iS857jM0

◇◇◇

 朝のホームルームを報せるチャイムが鳴ると同時に、くたびれた背広を着た伊藤先生がやって来る。
 表情、無精髭、ボサボサの髪、足取り、その全てが先週と何ひとつ変わらなかったものの、なんだかいつもと異なる雰囲気を感じた。
 教壇に立ち、出席簿を教卓に置いた直後、教室前方から早速声が上がる。

「せんせー、今日のポイントなんですけどー。71000ポイントってバグっすか? いや十分ではあるけど、足りないっていうかー」

 そうそう、とクラスから賛同の声が上がる。
 1人暮らしのため様々な出費が嵩むとはいえ、71000円分のポイントは高校生にとって多すぎる。
 寮の宿泊費や電気水道ガスなどが徴収されない以上、食費を抜いても十分すぎるほどに余る。そのため強い声こそ上がらなかったものの、多少の意見はこうやって飛び出る。

「今から説明します。えー、Cクラスの皆さんはよく聞くように」

「C? いや、せんせ─────」

 先生の後ろにある電子黒板の画面が切り替わる。

Aクラス:979ポイント
Bクラス:719ポイント
Cクラス:710ポイント
Dクラス:435ポイント
247 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:04:42.05 ID:6iS857jM0

 わたしたちDクラス─────いや、Cクラスの隣には『710ポイント』と記載されていた。
 これは今朝振り込まれた『71000ポイント』と無関係でないことはすぐに分かる。

「えー、この学校では、クラスの成績や評価が毎月一日のポイントに関わってきます。授業中の私語31回、授業中に携帯を触った回数15回と、例年のDクラスと比較するとマシな方でした」

「な、なんだよ、それ…!」

 クラスの一人がそう呟く。
 彼は私語と携帯を弄った者に該当しない方だろう。
 連帯責任という形でポイントの減額をされるのは、決して額の問題ではなく心の負担になる。

「当初、こちらのポイントは全てのクラスで1000ポイントでした。お気づきの通り、100を掛けた数字が振り込まれるわけですが─────先ほど言ったマイナス事項を踏まえて710ポイント、ひいては71000ポイントというわけです」

 クラス中からヒソヒソと声が挙がる。
 その大半は『無いよりはマシだった』というものだが、そもそも告知もせずにそんな監視のような真似をされていたことに腹を立てる声も聞こえて来る。

「Sシステム─────リアルタイムで生徒の成績を査定して、数値として算出するアレですが、まぁその辺りは良いでしょう。率直に言って、上出来でした」
248 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:05:15.92 ID:6iS857jM0

 先生は一呼吸ついて、電子黒板に表示された数字に改めて注目する。

Aクラス:979ポイント
Bクラス:719ポイント
Cクラス:710ポイント
Dクラス:435ポイント

「四月まではBクラスにあったクラスがこの五月からはDクラスへと降格しました。見ての通り、ポイントの高い順にクラスが変わります。これからの学校生活でCクラスの皆さんが超まじめに授業を受けてテストでも良い点数を取れば、Aクラスにもなれるということですね。一方で、悪さをすればDクラスにもなります」

「……なんの意味があるんですか、AとかDとか」

「卒業後の進路に関わってきます。えー、そう、皆さんはこの学校の特典目当てで入学してきたと思います。この学校を卒業すれば良い会社、良い大学に進学できる、とかそういうアレです。全員がそんな都合の良い話にありつけるとでも? そんなわけないですよね」

「っ……」

「言い方は悪いですが、Aクラスが優秀なクラスであることに対して、Dクラスは不良品とかガラクタとか、そうやって揶揄されることがあります。先ほど言った特典はもちろんAクラスで卒業をした生徒のみです」

 クラス内が静まる。
 入学できた時点で勝ち組だと息巻いていたからだ。
 実際はAクラスで卒業しなければ、意味がないと分かったこの段階で各々が考え込むのも無理はない。

「ただ、先ほども言った通り上出来だったのは間違いありません。多少の反省点はあるものの、もう早速Cクラスに上がっているんですから。それにBクラスとの差も9ポイント。授業中に携帯を一回触る度の減額ポイントについては教えられませんが、ほんの少し控えていればあなた達はBクラスでした」

 次は「おぉ」と声が挙がる。
 それでもAクラスとの差は200ポイント以上と、決して大きくも小さくもない数字の差があるが、十分に巻き返す機会は多くあると見える。
249 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:05:43.94 ID:6iS857jM0
undefined
250 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:06:10.16 ID:6iS857jM0
undefined
251 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:06:55.51 ID:6iS857jM0
 それにBクラスから落ちてDクラスとなったクラスとも300ポイント近くの差が出来ている。これから差が縮まる、広がることを考えてもこの結果は非常に良いと言える。

「こちらの数字はいわゆるクラスポイントと呼ばれているものです。そして皆さんに振り込まれたポイントはプライベートポイント。つまり今月は710クラスポイントに、71000プライベートポイントとなります」

 淡々と説明を続けていく先生に、一色くんが立ち上がって質問をする。

「先生、ポイントがマイナスされることは分かりました。逆に、増えることはあるのでしょうか。今後、ただ減る一方ということは……」

「もちろんあります。全部のクラスがただクラスポイントを減らすだけで順位を付けていくわけではありません。直近で言えば次の中間テスト。最大で100クラスポイントを獲得できます」

 100クラスポイント。それはこの1年Cクラスの生徒に等しく10000円分のプライベートポイントが支給されるということ。
 あくまでも最大という前提付きだが、これはBクラスに勝るため、そしてDクラスを引き離す意味でも重要な試験となる。

「つきましては、こちらをご覧ください」

 先生が手元のリモコンを操作すると、画面が切り替わる。
252 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:07:22.42 ID:6iS857jM0
 見出しには『小テスト結果』と書かれている。
 中学生レベルの問題も出されたあのテストだ。
 いずれの教科でもわたしの名前が一番上に100点と付いて表れていたのは喜ばしいことだが、先生の意図は他にある。

「次回以降の中間テスト、期末テストで赤点となった生徒は退学となりますので、ご注意ください」

 皆が息を呑む。
 赤点を取ったら補修ではなく、退学。
 それはこの学校から追放されることを意味する。
 無茶だと思う反面、この学校が政府の息がかかっているということ、広大な敷地の中にはケヤキモールという巨大な施設があること、曲がりなりにも入学式当日に10万円分のポイントが支給されていたこと、そして今朝7万円分のポイントが支給されたことを考えると、そういった超特権的なことをしてもおかしくはない。

「以上でホームルームを終わります」

 先生はそう言い残して締め括り、教室を出て行く。
 退学というワードを聞いて呆然とする生徒を残して。


【赤点候補の人数を決めます。
 0:赤点候補なし
 1〜3:10人
 4〜6:5人
 7〜9:3人
 人数によっては勉強会を開いたりなど強制的なイベントが発生します。
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/21(火) 22:14:49.72 ID:Ev35Cg4H0
254 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:52:04.09 ID:6iS857jM0
>>253
 2:10人】

 ホームルームが終わってすぐ、わたしは電子黒板に映ったままの小テストの結果から赤点の可能性がある生徒の名前をノートに書き連ねていく。
 このままいけば赤点になる生徒、赤点になる可能性のある生徒を合わせて10名。なかなか危うい。
 クラスの中がまだ騒然とする中、一色くんが教壇に立って2回手を叩いて注目を集める。

「みんな、気持ちは分かるけど落ち着いて。今はとりあえず再来週の中間テストに備えよう」

 その言葉は赤点候補者へと発せられた言葉。
 事実を重く受け止める者、退学という単語をチラつかせて脅しているだけだと冗談のように受け止める者、興味なさそうに携帯を弄る者と反応は様々だ。

「放課後組と部活動組で2つのグループを作って勉強会を開こうと思う。この前の小テストで危ないと思った人は是非参加してほしい」

 部活動をしていない生徒は17時から、部活動をしている生徒は20時からの2つに分けて勉強会を提案する。
 赤点候補者のうち半数は部活動に所属している。一度に全員の面倒を見るよりは少人数ごとの勉強会を開催した方がずっと有効だろう。
 ただ問題は、該当者が勉強会に参加するかどうか。
 後ろの席から様子を見ている限りでは、せいぜい半数が真面目に取り組めば良い方。すんなりと全員が勉強会に参加すると手を挙げることはないだろう。


【気付きコンマ判定。
 直感・洞察力:91(優秀) のためほぼ気付きます。
 4:気付かない
 それ以外:クラスから退学者が出た場合について
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/21(火) 23:04:05.54 ID:ZaXLtMCMo
はい
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/21(火) 23:04:31.50 ID:ZaXLtMCMo
あっ
257 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 23:54:01.06 ID:6iS857jM0
>>255
 4:気付かない】

 放課後、わたしはすぐに生徒会室へ向かうことなく一色くんの席へと近付いていた。
 他でもない赤点候補者への勉強会について進言しておきたいことがあったからだ。

「一色くん、今いいかな?」

「あぁ春宮さん。生徒会はいいのかい?」

「うん、まだ大丈夫。どうせゲーム……じゃなくて、16時過ぎまではのんびりしてると思うから。で、勉強会のことなんだけど、わたしも参加してもいいかな?」

「春宮さんが? それは願ってもないことだけど、色々と忙しいんじゃないの?」

「今のところ運動部に混ざって運動くらいしかしていないからね。全然忙しくないよ」

 一色くんの所属するバスケ部とは2週間ほど前に対決をして勝利を収めている。その場に居た彼なら、わたしが生徒会で何をしているのか想像がつきやすいだろう。
 本当にわたしは生徒会で何をやっているのだろうか、という疑問は置いておいて、今は勉強会の予定について集中する。
258 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 23:54:32.67 ID:6iS857jM0

「それを言うなら一色くんも練習で忙しいんじゃない? 20時からの勉強会も毎日は大変だよね?」

「そうかもしれないけど、このクラスから退学者なんて出させれないよ。僕にできることならなんだってやるさ」

 彼の目には強い炎が宿っているようだった。
 嘘偽りなく、彼は純粋にこのクラスを大切にしているようだった。

「それでも1人より2人居た方が良いでしょ? お邪魔でなければわたしもいいかな?」

「うん、わかった。じゃあお願いする。夕方17時からの勉強会の先生役はもう他の人にお願いしたから、僕たちは20時からで。もちろん忙しかったりする日は来なくてもいいからね」

 わたしは頷く。
 これで赤点候補者の進行度を近くで確認できる。
 さて、とはいえ問題はここからだ。
 先生役として勉強会に参加すること自体は、こうやって声をかけるだけでなんとかなると想定がついていた。しかしこの先、問題は生徒役である赤点候補者が集まってくれるかどうかが問題だ。

「で、来てくれるのかな? みんなは」

「幸い、部活動をやっている人で危なそうな人は全員了承してくれたよ。毎日は無理かもしれないけど極力参加するって」

「あ、そうなんだ。よかった」
259 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 23:55:13.01 ID:6iS857jM0

 もちろん今の言葉には裏がある。
 部活動をやっている人は、と前置きをした以上、放課後組に勉強会を拒否した人間が居ることは間違いない。彼なりに気を遣って遠回しに言ってくれたんだろう。
 ここで変な駆け引きをしてその正体を探ることこそが無駄だ。わたしは直接聞くことにした。

「放課後組の方はそうもいかなかったんだね」

「……うん、実はね。ただそっちは僕の方でなんとかしてみるから大丈夫だよ。春宮さんは気にしないで」

「一色くんだけに任せるなんて出来ないよ。わたしもこのクラスの一員なんだから、出来ることは協力させて」

 今朝の望月くんとのやり取りを引きずっているのか、ドラマのような台詞を口にしてしまった。
 ただ、これは本心そのものだ。たった1ヶ月を過ごしただけでもこのクラスの雰囲気は好きな方だ。全員と仲良くなれた訳ではなくても、欠けることは避けたい。
 一色くんは指の先を頬に当て、少し掻くような仕草をして対象者の名前を口にする。

「そうか、わかった。雨宮さんだよ。彼女には僕の方から何回か伝えたんだけどね。うまく取り合ってもらえなかった」

「雨宮さん……」

 廊下側の真ん中の席の女子生徒だ。
 わたしが春宮であるため、少し苗字が似ているなと思っていたくらいの生徒。たったの1回も話したことがないような関係性だ。というより声を聞いたことがないというレベルで人と話している姿を見たことがない。
260 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 23:55:41.31 ID:6iS857jM0
 それでも一色くんよりは、同性であるわたしの方が話して貰える可能性は僅かに高い。アタックしてみる可能性はあるだろう。

「うん、わたしの方からも声をかけてみるよ」

「うん、そうしてもらえると助かるよ。難航するようだったら声をかけて。僕にも出来ることがあるはずだから」

 協力的な言葉を戴いて、その場は別れる。彼はバスケ、わたしは生徒会の仕事をするため別々の道を歩き始める。
 その移動時間の中、わたしはやるべき事を整理する。

 第一に20時から行われる勉強会に参加すること。
 第二に放課後組の不参加者である雨宮さんを説得すること。

 雨宮さんはギリギリ赤点になる恐れがある程度のため、本番ぶっつけでもなんとかなる可能性が高い。しかしどうしても退学という自体は避けて欲しい。そのためには勉強会への勧誘は必須となる。
 ふぅ、とりあえず今は生徒会だ。今日は道場破りの予定が入っていなかったため、久しぶりに本来の業務につくことが出来るだろう。


【気付き判定。
 先程のとは異なります。
 直感・洞察力:91(優秀) のためほぼ気付きます。
 4:気が付かない
 それ以外:この試験の攻略法に気付く
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/22(水) 00:02:40.54 ID:V2U0yWVho
あ0
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/22(水) 00:42:50.68 ID:3JKs1XNy0
2連ピンポで草
263 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 10:28:38.47 ID:rlQZRnFe0
【昨日は出来ませんでした。
 再開します。】
264 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 10:29:14.18 ID:rlQZRnFe0
>>261
 4:気が付かない】

 その日の放課後、わたしはいつも通りAクラスの前で神宮くんを待つ。
 半月前は外を眺めたり携帯を触ることが彼を待つことが多かったが、ほぼ毎日こうしてAクラスの前に立てば知り合いも増えてくる。色々な運動部に顔を出していることも手伝って、顔見知りの人は日に日に増して行った。
 今日も先日エレベーターで一緒になった女子生徒と5分ほど話し込み、神宮くんが来たタイミングでお別れをする。

「いつもごめんね。あんまり待つようなら先に行ってくれてもいいのに」

「ううん、気にしないで」

 わたし達はBクラス、Dクラス、Cクラスの教室の前を通って生徒会室へと向かう。
 会話は無い。お互いが廊下を歩き、階段を降りる音だけを響かせる。
 いつもは雑談が絶えないわたしたちでも、今日ばかりはそうもいかない。それは今朝の事が原因だろう。

『Aクラスで卒業しなければ志望した就職先や進学先に進むことは出来ない。ひいてはBクラス、Cクラス、Dクラスで卒業した場合の進路の保証は無い』

 その事実が判明した以上、CクラスのわたしとAクラスの神宮くんは争う立場にある。卒業のとき、どちらかが望む進路を勝ち取り、もう一方は卒業は出来ても入学前に聞かされていた進路の恩恵は受けられない。
265 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 10:29:40.28 ID:rlQZRnFe0
 そこでふと思い出す。
 入学2日目に白髪の男子生徒、辻堂くんがわたしに提案してきた2000万ポイントを支払うことでクラス移動が可能だということを。普通に考えれば現実的ではないが、不可能ではない。
 その手段を用いることで神宮くんと同じクラスになることは出来る。ただ、クラス移動をするなら卒業間際の時点でAクラスの教室に潜り込むのが確実だろう。
 どちらにせよ現時点では2000万ポイントは夢のまた夢で、1年生が始まって間もないこのタイミングは他クラスの状況が把握できていない。力量も測れていない現状ではクラス移動のことを考えるだけ無駄だろう。
 気が付けば職員室前まで来ていた。
 神宮くんはジッと前を見て歩いている。
 もう間も無く生徒会室というところで、


【イベント安価です。
 奇数:「春宮さんはさ、どうしてDクラスに振り分けられたか心当たりはある?」
 偶数:生徒会室へ到着
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 10:50:32.66 ID:p0U6kiCZ0
267 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 11:46:53.19 ID:rlQZRnFe0
>>266
 6:生徒会室へ到着】

 結局、その後一言も話さずに生徒会室へ到着した。
 今日はわたしが生徒会室へと入る旨をチャットで送信した後、扉を開く。
 既に庶務の二人以外が揃っているようで、今日もみんなでゲームをしていた。かなり良いところみたいで携帯に目を向けながら軽く挨拶を交わした後、わたしと神宮くんはいつもの席に着く。

「おう、紫苑、天音。そういえば聞いたぜ? 先月は上手く立ち回ったみたいじゃないか」

 立ち回る?
 その言葉の意味を汲み取れずにいると、錦山先輩は続ける。

「基本的にこの学校は生徒の自主性に任せているからな。無断欠席、無断遅刻、授業中に喋っても携帯を触っても、それが他の生徒に大きく迷惑ならない限りは注意されることもない。ただ、評価は落ちる。何年か前の1年Dクラスは0クラスポイントまで落ちたって聞いたぜ。それに比べれば天音のクラスは良くやってるよ。紫苑のクラスもな」

 錦山先輩はなんてことなさそうに話す。
 常識で考えれば分かることだが、授業中に携帯を触ったらクラスポイントおよびプライベートポイントに影響を及ぼすことを教えて欲しかったというのが本音だが、教えられなかった事情も理解できる。
 学校側から明言されているのか、暗黙の了解的に下級生へ学校のルールを教えることを禁じられているのだろう。教えれば連帯責任としてクラスポイントが減るなど、ペナルティは想像に難くない。
268 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 11:47:20.02 ID:rlQZRnFe0
 それにしても何年か前には本当に『1ヶ月0ポイント生活』を強いられた年があったと聞くと、そうならずに済んで良かったと思う。
 『710クラスポイント』を残して5月を迎えられたことは重畳と言える。

「ま、上出来じゃねーの? 俺たちの代のDクラスは300ポイントくらいしか残ってなかったしな」

「自分のときは250程度でしたね」

 錦山先輩の2年前、そして新汰先輩の1年前のDクラスと比べれば格段に素行が良いようだ。
 現状、後ろの席から傍観しているだけでも特に目立った様子はない。授業態度がポイント評価に直結すると言われれば少なかった携帯を触る行為もほぼ無くなると見ても良い。
 この5月から、クラス間のポイント差が大きく離れることはないだろう。おそらく日々の積み重ねにより追い越した、抜かれたというのが時折発生すると思われる。

「まずは中間テストだな。2人なら退学は無いと思うが、まじで頼むぜ? 生徒会からテストで退学者が出たなんて笑えねぇからな」

 わたしと神宮くんは頷く。
 勉強会の様子次第ではクラスの赤点ラインを下げるため全ての教科で51点を取る選択肢も、頭の片隅で有効な案として思いついている。
 ただ、わたしはわざとテストで手を抜いてすれ違いを起こしてしまった経験があるため、その手段は可能な限り避けたい。
 テストで出そうなところを重点的に教える正攻法こそが最も有効な手段だろうか。ただ、それを3年間続けるというのはお互いに負担になる。自主的に学習して貰えるように矯正して行く必要もあるだろう。


【イベント安価です。
 奇数:四条夏帆(生徒会副会長、料理上手)
 偶数:生徒会の仕事を終えて勉強会へ
 下1でお願いします。】
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