他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
【ウマ娘】トレーナー「なんかループしてね?」ターボ「3スレ目だ!」【安価】
Check
Tweet
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/29(水) 13:06:31.05 ID:PbPi1C9v0
VRウマレーター内かなとも思ったけど、このSSの開始はVRイベより前みたいだから違うよね多分
しかしこの流れは某古典部を思い出すな
推理物を途中まで見せて、犯人予想という体で無自覚にコンペをさせて、良さそうな案を募ってましたっていうアレ
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/29(水) 13:27:28.59 ID:xT7vHo2w0
いっそ「ウマ娘プリティーダービー」というゲームの中の世界で、ループするのが”仕様”であるが故にループすることに『理由など存在しない』ッ!
え?だめ?
207 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/09/29(水) 13:33:22.80 ID:hhQA1gqA0
>>200
余興なので、間違っていても特に何も起こりません。正解してたら追加イベントが発生します。
>>205
愚者のエンドロールは割とすきなお話しでした。ただ、もう既にヒントを仕込んでいるので、その手は使えませんね……
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/29(水) 14:34:49.24 ID:FXs7lQ3yO
ループの概念においてどういったことを的中させるのが正解に当たるのかも気になる
例えばループそのものの仕組み自体を当てるのか、ループの原因、きっかけ、或いは黒幕を当てるのか
209 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/09/29(水) 18:14:10.28 ID:hhQA1gqA0
>>208
・ループと呼称されている現象について
・ループと呼称されている現象が開始した根本的な理由
以上二点の回答のどちらかに、皆様の考察が的中したのであれば……といった感じです。
黒幕はいるかもしれないしいないかもしれません、黒幕の正体を当てろ、という質問をこちらからしていないのは、皆様の想像の幅を狭めないためでもあります。
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/29(水) 20:57:34.24 ID:axWzkGizO
とりあえず、該当するうま娘達に過去の事完全に思いださせる
後、ループに関しても認識をしてもらう感じでいけば
なんとかなるようなならないような
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/29(水) 21:46:14.24 ID:FXs7lQ3yO
神様出てきてたあたり三女神の像がループの明確な原因になっててもおかしくない
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/30(木) 00:58:13.51 ID:eWaIY+vG0
短絡的だが、シンボリルドルフが関係してるんじゃないのか。
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/30(木) 20:01:44.43 ID:koMxHesJo
基本的にはゲームのシステムに準じてる気がする。
ループと呼称される現象
→ループじゃなくて別世界?での育成。
ミッション失敗の場合、トレーナーの記憶が保持されて、トレーナーを介してウマ娘のスキルを引き継げる。ウマ娘は記憶がなくなるが、関係があると多少記憶が継承されてしまう。
ゲームでいう、あきらめる=スレだとトレーナーの死?だと、育成ウマ娘の記憶が継承され、トレーナーは忘れる。
根本的な原因
→ルドルフ育成時のトレーナー。何かに気づいて自[
ピーーー
]ることでこの現象を産んだとか?
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/30(木) 20:21:51.06 ID:0vz5gBiiO
やり直しのアイテムが目覚まし時計…
これはつまりトレーナーは夢を見ている事を意味している
すなわち、現実のトレーナーはタキオンの実験の失敗で、脳味噌だけになって水槽に浮かんでいる
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/30(木) 20:50:48.27 ID:Oy9zraxI0
キーワードも「おはよう」だし夢は絶対考えるよな
自殺したとカイチョーは言ってたけど、実際には自殺未遂の昏睡状態で、
何らかの技術、または生きたいというトレーナーの願望か何かで夢を見ている説とか提唱してみる
216 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/09/30(木) 21:44:47.91 ID:vhWGVaUw0
人間案外凄いんだな、と一種超然とした心持ちで見ています。多分今日更新します。
217 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/30(木) 21:48:40.79 ID:qfp0lLGD0
このセリフで
>>1
ウマ娘説出てきたな
218 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/30(木) 21:51:24.27 ID:1O8H0J4lO
説得力あるレスが何個もあるのスゴい
219 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/01(金) 00:00:42.45 ID:53k8qWyp0
「……おい、トレーナー」
トレーナー室に入るなり、リョテイに詰め寄られた。
いつもの飄々とした雰囲気ではなく、どことなく真剣さを感じさせる雰囲気。
俺は思わず背筋を伸ばして、リョテイと相対する。
「……どうかしたのか、リョテイ」
「どうかしたのか、じゃないんだよな。アンタ、自分でわかってないんだろうけど……最近ホントに疲れてないか?」
「この前も休ませてもらったし、そんなことはないはず……だけどな」
寮までお姫様抱っこされて運搬されたのは、今となってはいい思い出だ。……いや、別にいい思い出もないな。
あの日、俺は確かにそこそこ充実した休暇を取ったはずだ。疲れも特に残っていないし、考えられる原因が一切ない。
……いや、待てよ、そう言えば一つだけある。
「……なぁリョテイ、会いたい人がいて、その人と会うことが出来るならリョテイはどうする?」
「は? んなもん会うに決まってんだろ」
「まぁ、そうだよな。……じゃあさ」
「――要するに、アンタのその顔は、"ループ"からくるモンなんだな」
たとえ話を続けようとする俺を、リョテイはバッサリと切り捨てる。
一瞬驚きに思考がフリーズしたが、しかしこれはこれでありがたい。
ここまで来て回りくどい手段をとろうとする俺自身に若干呆れながら、とりあえずは腰を落ち着けようとソファに座り込む。
リョテイもついてきて、対面のソファに腰かけた。それから俺は腕を組んで、口を開く。
「ご明察、ってまずは言おうかな」
「わかりやすすぎんだよ、アンタは」
小さく笑い、同じく腕を組むリョテイ。
そんなにわかりやすいだろうか。俺は自分の顔をもんだ。
「そういう所作するところも、な」
「……本題に入るぞ」
「へいへい、膨れるなって」
茶化しながらも、リョテイのまなざしは真剣だ。
これが口を滑らせるためのジョークであることを、本人も理解して発言していることが見て取れる一幕。
小さな気遣いに感謝しながらも、しかし俺は――次の句を継ぐのを躊躇った。
理由は……。
「……あれ、なんで躊躇ったんだっけ?」
「どうしたんだよ、いきなり」
「いや、本題に入ろうと思ったんだけどさ。なんか次の言葉を言うの、凄く躊躇ってさ」
首をかしげるリョテイ。俺も同じ気持ちである。
何故そんな気持ちになるのかわからない。
……そう言えば、最近こんなことが多い気がする。
紅茶の時もそうだし、ルナの頭を撫でた時もそう。
夏、精神世界に送られて、あちらのルナと会話した時からずっとこうだ。
まるで、何か俺に塗布されていたメッキが剥がれ落ちていくような、そんな薄気味悪さを感じて。
「トレーナー」
「……どうした、リョテイ?」
「アンタが何をやりたいか、手に取るようにわかるぜ」
220 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/01(金) 00:01:09.18 ID:53k8qWyp0
そう言いながら、気持ちのいい笑みを浮かべて、俺の手を取るリョテイ。
何を、と口に出す暇もなく、俺は彼女に連れ出される。
教室を、ジムを通り過ぎて――まるで何かを探すかのように、ぐるぐると学園内を回るリョテイ。
いや、確かにこれは何かを……もっと言えば誰かを探している。
「リョテイ」
「ん、何だよトレーナー」
「……俺を誰に会わせようとしてる?」
「そりゃお前、昔の担当ウマ娘に決まってんだろ」
まるで挨拶でもするような気軽さで、リョテイはそう言った。
「……会って何をさせようと?」
「会長さんから聞いてんだろ、おまじない」
"トレーナーくん、君がもしそれを望むのであれば、会いたい人の下に出向いてたった一言、こう言えば良い――おはよう、とね。"
あちらのルナは、確かにそう言った。その発言の意図はわからないが、しかし言う通りに出向き、挨拶したら……俺にとって望ましい何かが起きることは明確に理解できていた。
でも、望ましい何かが起きることは理解しているが……怖い。
「怖いって顔してんな、トレーナー」
「……そうだよ、怖いんだ」
「何が怖いのか、どうしてそう思うのかはわかんねぇよ。でも、それをやらずに、アンタは前に進めんのかよ?」
進めるか、と問われて、俺は真っ先に「進めない」と思った。
多分、どれだけ恐ろしくても、どれだけ怖くても、今の俺なら前に進んでいけるんだろう。
でも何故か、この心のもやもやは晴らさなければ動けない気がして。
「進めねぇんだろ。わかるぜ」
「……」
「それに、そのおまじないは……一回きりしか使えないのか?」
「恐らくだけど……そんなことはないと思う。多分、何度でも使える」
だったら、と。リョテイはこぶしを握って力説する。
「アンタにとって大事なウマ娘なのはわかる。そのおまじないが何か……途轍もない変化をもたらすのもなんとなくな。でも、一度くらい試したって誰も文句は言わねぇよ。それに……」
「それに……?」
考えこむように、俯くリョテイ。
小さく漏れた息は、彼女の中に沸き上がるやるせなさのような、厚ぼったい感情を吐き出すようにも聞こえた。
……少しして、言葉が決まったのか顔をあげるリョテイ。そこには、淡い笑みが浮かべられていた。
「――アンタも、少しは報われていいって、アタシは思ってるんだよ」
221 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/01(金) 00:32:05.75 ID:53k8qWyp0
あまりにも眠いので今日はここで終わりです。引き続き皆様の見解については募集しておりますので、ぜひお寄せください。
222 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/01(金) 00:51:03.30 ID:lfzLSTBto
おつおつ
223 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/01(金) 01:39:52.31 ID:G6SviYWY0
そういやマヤノの時なぜネイチャもトレーナーのこと覚えてたんだ?
あとルナが言った
君にはもう負けているんだよ、トレーナーくん
何を負けたんだろう
224 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/01(金) 05:48:43.72 ID:RAwDRLv8O
うま娘達とは言ってないからターボのみ会うんだろうな
ネイチャはともかく、マヤノはループ理解しているのか?演技してるだけかもしれないが
PS
マヤノまで記憶取り戻して前みたくイチャイチャしたら、
リョティ拗ねないですかね?
225 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/01(金) 07:45:47.76 ID:Gag7noaw0
会長とトレーナーがかつてどれほどの仲だったのかわからないけどマヤノと同じかそれ以上の仲だったら残酷な現実だな
226 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/01(金) 07:57:36.16 ID:W3yST3ds0
フフフ…うまぴょい!うまぴょい!みんなうまぴょいし続けろ!
激しく!もっと激しく!!
227 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 01:27:35.34 ID:hz0YCbH10
「……お、噂をすればってやつだな」
リョテイがそう言って、目線を送る。俺もそちらに目線を送ると――そこには、鮮烈なマリンブルーの髪の毛を夕陽にたなびかせる、ツインターボの姿があった。
なるほど、どうしてここまでリョテイが探し回っていたのか、ようやく理解できた。
ツインターボ、俺が担当していた時もそうだが、かなり奔放なウマ娘だと言える。彼女がその時どの場所にいるかなんて、少なくとも俺たちの周辺でわかる者はいない。
……ナイスネイチャに聞けば、おおよその推測くらいは立つだろうが。
思考という体のいい逃避に浸っていた俺は、しかしリョテイが背中を軽く叩く衝撃で現実に戻る。ツインターボは、今にでも建物の影に隠れようとしていた。
「ほら、行って来いよ」
「……本当にいいんだろうか」
「んなのわからねぇよ。でもな、トレーナー。担当トレーナーってのは、ウマ娘にとって――唯一無二の味方なんだぜ」
アンタが悪意を持って接しようとしているわけじゃない以上、それはきっと、アイツらにとっては喜ばしい行為なんだって、アタシは思う。
静かに、けれど力強くつぶやいたリョテイ。その言葉を噛み締めるのもつかの間、不意に俺の体はツインターボの視界の中へ躍り出る。
何があったのかわからない。振り向けばサムズアップするリョテイ。……突き飛ばされたのだ、と理解した。
その瞬間の出来事だった。前方にいたツインターボがこちらに気付いたようで、「あーっ!」と声を上げた。
「オマエ、あのレースの……!」
蘇るあの時の記憶。走っていたツインターボに轢かれて気を失った後、こんな感じで声を掛けられたことがあったっけ。
雲のように移ろいそうな思考を元に戻して、今何をすべきか――肝に銘じ、改めてツインターボをまっすぐ見据える。
夕焼けに照らされた相貌は、突然こちらをまっすぐ見てきた俺に一瞬たじろぐ様子を鮮明に映し出した。
……やっぱり、俺の知るツインターボではない。俺が担当した彼女であれば、俺の顔にたじろいだりすることはない。
ツインターボたちにとって、喜ばしい行為、か。
「……な、なんだよぅ。いきなりジッと見られると、ターボ、少し怖いよ」
「すまない。少し考え事をしていてね」
「へー。やっぱり会長が参加してるチームのトレーナーだから、いろいろ考えることがあるってことね」
「……そうとも限らないけどな」
素直に君のことで悩んでいる、なんて言えないから。俺は彼女の邪推に乗っかってはぐらかす。
ツインターボは純粋なウマ娘だ。俺が嘘をついてしまえば、カラスが黒になったりするかもしれない。
その純真さを利用するようで、少しちくりと胸が痛んだ。
「それで、ターボに何か用か?」
「……」
たった一言。たった一言"おはよう"と言うだけなのに、口が鉛のように重い。
羞恥や躊躇いなんかじゃない、そんなものとは比較しようがない何か重大な意味がこの言葉には含まれているような気がして。
世間話で誤魔化すのもアリだと思った。でも、そんなことをしてしまえば、(多少強引にではあるが)信じて送り出してくれたリョテイに合わせる顔がないのも事実で。
乾く唇をかるく湿らせて、まずは小さく口だけ開く。……問題ない、話すことは出来そうだ。
声が出るか、小さく声を出す。……こちらも問題ない、声を出すことも出来そうだ。
自分の意思の薄弱さが、余りに露骨に出てしまう。ありあわせの勇気の大半は、リョテイから受け取ったものだった。
でも、それでいいとも思えた。俺はきっと、彼女たちの力を借りなければ、この世界でちっぽけに生きることしかできないのだから。
正しい選択なのだろう、と。薄弱な意思とは裏腹に、確信できた。
228 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 01:29:21.88 ID:hz0YCbH10
「ツインターボ、君に言いたいことがある」
正しく口は回り、声が出る。
目を瞬かせるツインターボ。一種無垢さすら感じるその表情に向けて、俺はたった一言。
さながら、銃のトリガーを引くように――。
229 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 01:29:48.64 ID:hz0YCbH10
「"おはよう"」
――言い放つ。
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/10/03(日) 05:35:08.40 ID:/KpXAdnoo
さてどんな反応が
231 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 10:58:42.27 ID:hz0YCbH10
瞬間の出来事だった。
呆けたような表情のツインターボ。
風が吹き、一瞬の間に。
つう、と。ツインターボの鼻から血が流れだした。
驚いたツインターボは自らの鼻を拭うそぶりを見せるが、止まる気配がない。
「大丈夫か!?」
急いで駆け寄って、ハンカチを手渡すが反応がない。
まるで魂がすっぽりと抜け落ちてしまったかのように、そこに意思というものが見受けられない。
相反するように流れ出ていく血液はとどまることを知らず、俺が彼女の鼻にあてているハンカチはその大半が赤黒く染まっていた。
「トレーナー、とりあえず医務室に――」
慌てて出てきたリョテイに頷こうとした、その時だった。
不意にターボの瞳の焦点が、戻った。
鼻から流出する血液は止まることはなく、ツインターボはそれに驚いた様子を見せた。
「ターボ、なんでマチタンみたいに……?」
「大丈夫か、ツインターボ。気分は悪くないか?」
「……え?」
俺の声が聞こえていなかったのだろうか。気分はどうだ、と繰り返そうとしたとき。
「これ、夢……?」
小さく、小さくツインターボは呟いた。
その声があまりにか細くて、今にも消えそうで。
声の様子に、二の句を継ぐことは憚られた。
ツインターボはぱちりと目を瞬かせて、両腕を動かし、手を握ったり開いたりする。そして自らの頬を強く引き――。
これが、現実だと認識するように、改めて俺を見た。
「トレーナー……?」
確認するような声音だった。そこに俺がいることを疑うような。
瞳の不思議な虹彩は、昏く何をも見通していなかった。いつもの彼女のような、透明で、透き通っているそれは、此処にない。
……なんとなく、瞳に湛えられた感情は絶望なんじゃないか、と思えた。
「トレーナーだよね……?」
そうであってほしい。ツインターボはまるで願うように、問いかける。
俺が突然消えて、どれだけ苦しい思いをしたのだろう。どれだけ悲しい思いをしたのだろう。
ツインターボが背負った苦難の道のりは、想像できないほどに険しいもので。
「――俺なんかが君のトレーナーであり続けていいのなら、俺は君のトレーナーのままだ、ツインターボ」
果たして俺にツインターボのトレーナーたる資格があるのかすらも、疑問に思えた。
俺自身はツインターボのトレーナーでありたいとは思っている。過去に担当していたウマ娘だからって、俺はそのウマ娘たちの担当トレーナーではなくなったという認識を抱けない。
でも、突然俺が消えた世界で孤独に戦っていたツインターボは、果たして俺のことをトレーナーだと思ってくれているのだろうか。
……浅ましいまでの確認の言葉だった。
232 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 11:20:40.51 ID:hz0YCbH10
「……」
静かな、何処までも静かな沈黙が横たわった。
風の音しか聞こえない。草木が揺れる音すら聞こえない。
数分の間の後、「トレーナー」とツインターボは静かに言った。
「ターボ、今までたくさん良いことしてきたよ。ほかの子たちが困ってたら力を貸してあげたり、外で困ってる人がいたら助けたり」
何の話だろうと、首を傾げる。
しかし、ツインターボの話はとどまることはない。
彼女はまるで――もと来た道のりを辿るかのように、訥々と言葉を連ねていく。
「レースだってたくさん勝った! 負けたレースもあったけど……」
「べんきょーも出来る範囲で頑張った! でもやっぱり、上手くいかなくて……」
「ターボ、ずっと頑張ったよ。頑張り続けたら、いつかトレーナーが迎えに来てくれるって思ってたから」
静かに、ツインターボが連ねていく言葉を受け止める。
それが俺がやらなければならないことだと、確信した。
233 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 11:22:07.30 ID:hz0YCbH10
「ずーっと、ずっと頑張ってきたよ、トレーナー。だから、これはご褒美なのかな?」
「……トレーナー。ターボはずっと待ってたよ」
「オールカマーでも、菊花賞でも、有馬でも――」
「春も、夏も、秋も、冬も、朝も、夜も、いつだって……」
「競争バを引退して、お仕事してる間も」
「歳を取って、おばあちゃんになっても」
「出来るだけ泣かないように、笑顔でいるようにって」
「だから、死ぬ時も――笑顔でいたよ、トレーナー」
「いい子で待ててたから、死んでからもっかい会えたのかな……?」
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/10/03(日) 11:29:10.33 ID:AMcFmwsRO
トレーナーがいた世界の記憶と今いる世界の記憶が同時に存在するのかな
おばあちゃんになったって事は前の世界でしっかり生きてたんだなって感動
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/03(日) 11:43:06.02 ID:BU3Tv1eM0
スペ(1代目)が有馬獲った場面とか見せられてたしな
世界がリセットされるんじゃなくて並行世界にTだけスライドしてるんやな
236 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 11:54:13.20 ID:hz0YCbH10
「――っ」
その場に立ち尽くすことしか、出来なかった。
俺がループした後のことは、考えていたつもりだった。
どれだけ苦しい思いをして競争バとして過ごしてきただろう、とか。
どれだけ悲しい思いをしてこれからを過ごすのだろう、とか。
違う――そんな甘いものじゃなかった。
一生だ。一生俺が与えた傷が、彼女たちには残り続ける。
永遠に訪れない再会の機会を待ち望んで、望み半ばで死んでいく。
どれだけ会いたいと思っても、絶対に会うことは出来ない。どれだけ絶望したくても――俺が会いに来るかもしれないという希望が、彼女たちに絶望を許さない。
いっそ俺の記憶が彼女たちから消えてしまっていたほうが、救いがあった。
でも記憶は消えることはない。どれだけ忘れたくても、消失なんて鮮烈な記憶がなくなるはずがない!
地獄だ。周囲に分かち合える人がいないのであれば、猶更……!
「ねぇ、トレーナー……。ターボ、トレーナーにもう一回会ったら言ってほしいことがあったんだ」
ツインターボはゆっくりと、こちらに歩み寄ってくる。
その歩みに、どう相対していいのか、俺にはわからない。
ツインターボの抱える気持ちと俺の覚悟は、明らかに釣り合っていないというのに。
「――トレーナー、ターボ、がんばった?」
ああ、と答えかけた口は閉ざされた。その言葉は、俺が簡単に言っていい言葉じゃなかった。
俺がツインターボを、こんな表情にしてしまった。不可避の現象があったとはいえ、俺は、ツインターボを孤独にしてしまった。
それも一生!
自らの命を捧げても、きっと足りない程の罪科。どれだけ赦しを乞うても、もう二度と巻き戻らない時。
俺は、本当に、言葉を返してもいいんだろうか……?
「……おい、トレーナー」
「……リョテイ?」
「――不相応でもいい。アンタが何を感じてるか何となくはわかる。とにかく応えろ」
胸倉をつかまれ、耳元にささやかれた言葉。嘘でも何でもいいから、言葉を返せ、と。
どうせ罪を背負うなら、背負わせたものは降ろせと。
贖罪なんてない、死を以て贖ってもなお深い、いわば冒涜とも呼べる仕打ちを行った俺に取れる責任は、確かにそれくらいなのかもしれない、と思える。
「ターボ……」
「……トレーナー」
「――ターボ、よく頑張ったな」
恐る恐る手を伸ばして、ツインターボの頭を優しく撫でる。
心が軋む音がして、でもどこか安心した。
明確に拒絶されたら、もう俺はトレーナーとして立ち直れなかったはずだから。
だから、伸ばした手が弾かれなくて、本当に良かった、と。
どこか安心している俺がいた。
237 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/03(日) 12:18:02.98 ID:c+9CAJv30
鼻血のせいで脳にものすごい負担がかかってそうな感じがして怖いな…
ターボ死んだりしないよね…?もしそうなったらトレーナーも最悪自[
ピーーー
]るか良くてまた自閉モードに入りそう
238 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 12:46:46.86 ID:hz0YCbH10
しばらく撫でていると、ツインターボはついに堪えきれなくなったのか、俺の胴に顔をうずめてきた。
じんわりと腹部が温まっていく。……ツインターボは、泣いていた。
悲しみを俺が全て感じ取ることは出来ない。その涙の本当の意味を、俺はよく知らない。知れない。
いつか、その悲しみの総てを汲み取ることが出来る日が来るまでは、この心の痛みを抱えて生きるのが、俺に課せられた罪。
静かに、宥めるように、ツインターボの頭を撫で続け――気が付けば、辺りはとっぷりと暮れていた。
「……もう夜だな、送ろう」
俺がそう言えば、ツインターボは服を握る力を強くした。……言葉に出さないまでも、この所作が意味するところは理解できる。
つい、とリョテイに視線を向ければ「従っとけ」と言わんばかりに顎をしゃくられた。
……つまり、ツインターボが満足するまで一緒に居てやれ、という事らしい。
多少の叱責はこの際覚悟するとして、問題は寮長……つまりヒシアマゾンへの説明だが。
「担当トレーナーが別のウマ娘とイチャコラしてるのは、正直妙な気持ちだが、まぁ事情が事情だしな」
……と、リョテイが説明してくれることになった。こうなれば憂いはない。……いや、あるにはあるが。
こんな憂いなんて、ツインターボのそれと比べたらなんてことないものだ。今は、彼女のしたいようにさせたい。
「ねぇ、トレーナー」
「……どうした?」
「ターボのこと、ターボって呼んでほしいんだ!」
突然の申し出だった。でも言われてみれば、担当ウマ娘なのに他人行儀だったのかもしれない。
ターボ、と口に出して反芻すれば、ターボも満足したようで、ふんすと鼻を鳴らした。
瞳は若干暗いままだけど、変わっていない態度に安堵する。
「なぁターボ、一つ聞いていいか」
「ん、どうしたの、トレーナー?」
「ターボはさ、俺が突然消えても……それでも俺のことを信じてたのか?」
かねてから聞いてみたかったことだ。
"だって、一番の味方だよ……? 何か理由があっていなくなったんだ、って思う。"
"――そしてそれが多分、自分のせいなんだろうなって思う。"
……マヤノから聞いた言葉がずっと引っかかっていた。あの場では納得していたけれど、やっぱり本人に聞いてみないと本当のところはわからない。
ターボはきょとんとした表情で俺のことを見て――そして、いつもの、見る者に元気を与える笑顔を浮かべて、言った。
「――信じてた! じゃなかったら頑張ってなんかない!」
何処までも眩しい笑顔に、俺はこの日初めて、なんだか救われるような気がした。
自分勝手な思いなのかもしれないけれど、でも、ターボと話せてよかった、と。
手を差し出せば、それを握るターボ。正眼に彼女のことを捉えて。
「――ッ?!」
妙な気配が奔った気がした。
しかし、ぐるりと見渡しても、それらしいナニカはそこにない。
ターボもこちらのことを心配そうに見つめていて……。
粗方眺めて何もなかったので、気のせいだと判断することにした。これ以上ターボを不安にさせてはいけないだろうし。
(……だけど、なんだか胸騒ぎがするな)
ふと見やった三女神像の方から、カラスが一斉に飛び立っていた。
239 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 12:48:19.65 ID:hz0YCbH10
―――――――――――――――――――――――――――――――
▼リミテッドイベント「回顧」が終了した。
▼トレーナーの"現象"に対する理解が深まった。
リミテッドイベント「例えば幾星霜が過ぎたとして。」が追加で発生します。
▼過去の担当ウマ娘の記憶を呼び覚ました。
サポートカード[ツインターボ]を入手しました。
サポートカード[ツインターボ]がアクティブ化しました。
リミテッドイベント「夢千夜」のフラグが立ちました。
▼ツインターボから受け継いだ因子が強化された。
スピード★☆☆→★★☆
先手必勝★☆☆→★★☆
逃げ★☆☆→★★☆
これが諦めないってことだァ!★★☆→★★★
―――――――――――――――――――――――――――――――
【アナウンス】
現時点で考察の的中度が一定以上に達しているため、リミテッドイベント「回顧」の追加イベント、[例えば幾星霜が過ぎたとして。]が発生します。
これからも考察などは受け付けてまいりますので、皆様の自由な発想をぜひお聞かせください。
―――――――――――――――――――――――――――――――
240 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/03(日) 15:35:39.46 ID:Xm1Qs/9Qo
曇りターボ→復活ターボはあーだめだめ涙腺に来ます
>「オールカマーでも、菊花賞でも、有馬でも――」
ここ、師匠成し遂げたんやろうか…アカン少しなk
241 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/03(日) 17:32:17.35 ID:mWg39hOIO
前
>>1000
はその辺のこと語られる話ですね間違いない
少し泣く
242 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 18:58:14.47 ID:hz0YCbH10
>>1
より
243 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/03(日) 18:59:40.18 ID:hz0YCbH10
読んでいただける皆様へ、信愛を込めて。
https://imgur.com/Moufv17
(文字無し)
https://imgur.com/TolO6zD
244 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/10/03(日) 19:04:35.76 ID:hz0YCbH10
あ、多分今日はもう1、2回くらい更新します。よろしくお願いいたします。
245 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/03(日) 19:19:41.38 ID:xRdcyno7O
リョテイなかなかクールな感じですね
これからも楽しみに読ませてもらいます
246 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/03(日) 19:21:10.25 ID:kOF/jrkDo
ターボでこれならマヤやんがどれほどの反動になるか怖い
247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/03(日) 19:28:12.81 ID:/J6CkVAgo
ネイチャ(マヤちん周)の頑張りに掛かっている…!
248 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/10/03(日) 21:03:49.80 ID:hz0YCbH10
■リミテッドイベント[例えば幾星霜が過ぎたとして。]
……ツインターボに、前ループの記憶を取り戻させてから、数日が経過した。
相変わらずターボは俺にべったりで、離れようとしない。あまりにべったり過ぎるせいで、トレーニングも俺たちチームと一緒に行っている程だ。
リョテイは面白そうに、ネイチャは不思議そうに、ルナは苦笑を浮かべて、それぞれターボが元気にトレーニングに励む姿を見ている。
これで何か問題が発生するのであれば何か策を講じなければならなかったが、ネイチャはターボとそれなりに仲が良いし、ルナは生徒会長である為、問題を起こすはずもなく。
そんなわけで、ターボは実質チームメンバーのように扱われている。お節介かもしれないが、ターボの練習メニューを纏めてみようかな。
「……とはいえ、こんな時間か」
時刻は既に0時過ぎ。中天に月が昇り、静穏たる光を優しく降らせていた。
軽く伸びをして、明日に備えようと着替えて寝よう。そう考えた時だった。
こんな時間だというのに、携帯が震えだす。
何か起こったのだろうかと、少しだけ不安になりながら携帯を掬いあげる。液晶には、ルナからの着信を示す文字列が並んでいた。
ルナから電話がかかってくるとは珍しい。よっぽどのことがなければメッセージで送ってくるはずだけど……。
少しだけ気構えをしたうえで、電話を取る。
『……もしもし?』
『夜分遅くに申し訳ないね、トレーナーくん。今、大丈夫か?』
『ああ、今しがたやらなきゃいけないことが終わったところだ』
『いつもお疲れ様、あまり無理はしないようにな――って、今から呼び出す私が言っても説得力がないな』
ふむ、呼び出す。
こんな夜も遅い時間に呼び出しを行うという事は、それなりに重要度が高くて、誰にも聞かれたくない話なのだろう。
案の定そうらしく、ルドルフは小さく笑いながら、声を潜めて話を続ける。
『今から……そうだな、校門前に来てくれないか?』
『校門前か。分かった、準備したらそちらに向かうよ』
随分と急な提案だが、何か急いで伝えなければならないことがあったのだろうか。
電話を切って、とにかく急いで校門前に向かうことにしよう。早急に対処しなければならない事項なら、時間は命であるとも言えるし。
俺は急いで身支度して、玄関から外に出ようとした時だった。ふと、前回のループでマヤノが見つけた、古い日記らしき何かのことを思い出した。
急ぐ必要がある上で、あえてそれを見る必要性はないと思われたけれど、何故か無性にそれを見つけておかなくてはならない気がして。
小走りでベッドに向かって、下を覗き込む。
すると、そこには――マヤノが見つけた時よりもなおボロボロになった、日記が存在した。
「……これは一体何なんだろうな」
疑問に思うが、今はとにかくルナとの用事だ。
俺は急ぎ足で校門へと向かうのだった――。
249 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/04(月) 01:31:04.85 ID:y4Erd8qR0
「……やぁ、トレーナーくん。いきなり呼び出してすまないね」
校門前にたどり着くと、そこには既にルナが立っていた。
いつもの制服姿ではなく、黒を基調としたラフなルームウェア。少し新鮮さを感じるが――気にしなければならないのはそこではない。
「何かあったのか?」
「……少し、話したいことがあってね」
ルナは言うと、近くに設置されている遊歩道へと俺を手招きした。
確かに校門前ではそれなりに目立つし、人が通りかかる可能性もある。
俺は素直に、ルナの招きに追随することにした。
■
夜の遊歩道は、夜だというのにそれなりに明るい。月の光が街灯代わりになっているようだ。
虫と風の音を聞きながら、静かに遊歩道を歩く。
こうして夜のトレセン学園をゆっくり歩くのも久しぶりだ。大体はトレーナー室で仕事を終えたら、そのまま職員寮へ直帰するからなぁ。
たまにはこうして散歩することも必要なのかもしれないな、とふと思う。
「……ふふ、ようやく元の君に戻ったようだ、トレーナーくん」
「元々の俺?」
「ああ。私が大事な話をするかも、と思っていたのだろう? 緊張しているように見えたからね」
小さくルナが笑う。その笑みを見て、確かに余裕がなかったな、と思った。
まぁ余裕がなくなっていたのも元はと言えばこの連絡のせいで――。
「まぁまぁ、そう怒らないでくれ。話をしなければならなかったのは本当なのだから」
「……で、その話って?」
「――君のループについての話だよ、トレーナーくん」
その一言で、俺の中に潜んでいた小狡い怒りは直ぐに霧散した。
確かに、俺はツインターボとのやり取りの中で少し疑問に思っていたことがある。
近々話すべきかと思っていたところだったから、まさしくクリティカルヒットと言うべきだろう。
……ルナは、どうやら俺のそんな思惑も読めていたらしい。いつもの微笑みを浮かべて、「何から話そうか」と一瞬逡巡した。
「そうだな、話すことが多いから――トレーナーくん、君のこのループという現象についての見解を聞かせてくれるか?」
「……ループについての見解、ねぇ」
静かに考える。ターボと話したとき、感じた疑問点。
それは――ループ後は一体どこに"ループ"しているのか。
何となくだが、平行世界のような場所に移されている、と考えていた。でもターボと話した後、なんとなくその答えに違和感を感じた。
適宜的に平行世界とするが、平行世界に俺がループしたとする。であれば、奇妙な点が一つ発生する。
……過去に関わったウマ娘たちが、ほんのわずかだが俺との記憶を保持していること。
平行世界にループしたのであれば、過去に育成したウマ娘とこの世界に居る同名のウマ娘は別の存在。俺の考え得る限りでは、記憶を継承する要素は皆無だ。
そのことを考えれば――ある程度の推察は立つ。
「……同じ世界線をループしてる、とか」
「……ふむ、詳しく聞かせてもらえるか?」
「ルナをはじめとして、過去に担当したウマ娘には大なり小なり記憶の継承が行われる。継承が行われるという事は、この世界が"前回ループした世界"と地続きであることが予測できる。逆説的に、記憶の継承が行われるという事は、平行世界への移動などは考えづらい」
なるほどな、と頷くルナ。瞳に輝く知性の色が、ことさらに濃くなったように見える。
「これは仮にそうなのかもしれない、という話だが――紙の中央に一本線を引いて、丸めて端と端をくっつけた自称じゃないんだろうか、このループという現象は」
「……そこまで考えが及んでいるのであれば、大丈夫だな」
250 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/04(月) 01:53:20.97 ID:y4Erd8qR0
何が、と問う前に、ルナは淡く微笑んだ。月の光に照らされた、彼女のアメジストの瞳が、妖しく、昏く、輝く。
「トレーナーくん、私は一つ思っていることがあるんだよ」
一歩、俺より先にルナが踏み出した。そのまま軽く勢いをつけて、踵を軸にして体を一回転させる。
改めて向き直るように顔を合わせる俺とルナ。遅れて体の動きに散らばった髪の毛がふわりと元に戻った。
その所作に、懐かしさを感じて。でも、その懐かしさがなんだかとても切ないものである気がして。
俺は思わず、胸に手を当てた。
「君は知るべきだ」
さぁ、と。風が吹いて頬を叩く。
月の光が舞い踊る木々によって塞がれて、不思議な煌めきを持ったアメジストの瞳だけが、まるで暗中に浮くように輝いた。
真っすぐ、そしてしっかりと。俺のことを見据えた両の瞳の真意は――俺には読めない。
ただただ、まるでそこに元々ある景色であるかのように、無色。そこには何の感慨もなくて、感情がない。そんな気さえする。
「なぁ、トレーナーくん。不思議には思わなかったか?」
「……何を?」
聞き返す俺に、ルナは少し考えて――そして口を開く。
「いろいろあるが、一番は――なんで約5年も待たされたのに、私が君に強く何かを求めないか、とか」
「……」
確かに。ルナは約5年の間、俺のことを待ち続けてきたと考えられる。
彼女の会話の節々からは、俺と彼女がそれなりに親密な仲であったことがうかがえる。そんな相手を目の前に5年も待つことが出来るのだろうか。
……俺であれば、否だ。現に、ループが開始してまだ一年も経っていないのに、ターボの記憶を呼び覚ましている。
理解は出来る。だけど、何故それを今話始めるのかがわからない。
「……理解はできるが、何故その話をしたのかがわからない、という顔だな、トレーナーくん」
「ああ。最初はマヤノに遠慮して、とか、そう言う話かと思ったけど――違うみたいだしな」
「そうだ。私は元から、君のことを唯一無二のパートナーだと信じてやまない一人のウマ娘だ。遠慮する理由などない」
確実に、しっかりと、言い切った。生徒会長――"皇帝"シンボリルドルフの姿はそこに無く、ただただ一人のウマ娘、シンボリルドルフがいた。
彼女はどこか切なそうに息を吐いて、でも瞳はしっかりと無を湛えて、俺に相対している。
等身大の彼女と、等身大の俺とで。
何故か、そこに、埋まらない感情の壁があるような。
「例えばの話だ」
待ってくれ、その先を言わないでくれ。
「君が私だとして――」
いくら願っても、言葉にしなければ始まらない。
止まることはない。
251 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/04(月) 01:55:55.22 ID:y4Erd8qR0
「――250年待たされるのを、都度4回繰り返されたら、どう思う?」
252 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/10/04(月) 01:59:49.91 ID:y4Erd8qR0
今日の更新はここまでです。
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 02:47:17.84 ID:X43EKYdt0
エンドレスエイトかなにか?
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 06:09:59.46 ID:EUc3hOtS0
精神が老化してしまってるのかな
その結果欲求も少なくなり悟りの境地か
255 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 08:13:22.43 ID:fKR+pih4o
おおう…
い、いきなりしっとりルナはなさそうですね!(現実逃避)
つらい……
256 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 08:41:56.11 ID:nuc2BPs+O
一番かわいそうなのは今回主人公のリョティだと思うんですが、
完全に空気だぞ
257 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 09:10:22.63 ID:2zZ3gnOG0
せめてマヤノルートくらい、あるいはそれ以上長い事カイチョールートをやってきたならまだしも、
読者的にはカイチョールートは一切やってない事だからなぁ
トレーナーは受け入れてるけど、何の積み重ねも無く「元パートナーでした」とか「1000年待ちました」とか言われても
数字がデカすぎるのも相まってへーそうなんだくらいにしか感じねぇ…
258 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/04(月) 11:53:37.23 ID:Dtb1SR7q0
あえて言うのであれば、その困惑こそ意図するところです。
トレーナー自身も、漠然と「親しかったような……?」と思ってるくらいですし。
「ループの記憶が無く、なぜ好意を寄せられているのか分からないトレーナー」と、「マヤノみたいに描写されてない記憶を主張する展開に困惑する皆様」で、ある程度共通する項が生まれたのではないか、と邪推します。
さて、あえてこうして説明したのには理由があります。
つまり……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
下8 トレーナーはこの言葉にどう返す?
259 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 12:11:17.60 ID:IUNfNEwvo
↓8までをまとめた感じになる?
取り敢えず一番引っかかる所聞く
「250年ってどういう事だ……?」
260 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 12:45:07.81 ID:EUc3hOtS0
1000年か。俺ならその間に悲しみ、嫉妬し、恨んで……
そのうちそういった執着心もなくなってしまうんだろうな
261 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 13:18:14.15 ID:YftUnn9Jo
加速がてら
瞬間トレーナーの脳内に溢れ出した、存在しない記憶
262 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/10/04(月) 13:51:58.16 ID:ldU1nru2O
もう君が過ごした果てしない時を取り消す事は出来ないだろう
だがこれ以上君にはループさせないよう全力を尽くさなきゃいけないな
263 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 14:18:09.98 ID:RPDl20glo
報復を望み、君が救われるのなら
何でも受け入れよう
264 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/10/04(月) 14:54:22.65 ID:Dtb1SR7q0
下8つめのレスをトレーナーのセリフないし指針とします。
遠目に設けているのは、少しだけ考える余地を設けたかったからです。いざとなればこちらでkskもします。
よろしくお願いいたします。
265 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 16:06:51.92 ID:efxtAhfPO
1000年と言う時間がどれぐらい長く感じるのかは俺には想像も付かない。
でも、たとえ10000年先だとしても俺はあのマヤノを片時も忘れたりしないと思うし、会いたいよ。
シンボリルドルフは…ルナはどうなんだ?
俺にはここに君が居ることが答えだと思える。
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 16:38:22.78 ID:EUc3hOtS0
>>265
で
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/04(月) 18:56:34.23 ID:q94nLH1eo
>>265
で
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/05(火) 04:16:05.45 ID:8UBH2e/lO
ウソをついても仕方ないから本音で話すが
お前と過ごした日々が俺の記憶から欠落してるんだ
でなければもっと早くお前を迎えにきてやれたのにな
269 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/06(水) 06:28:22.29 ID:FbABJENh0
「君が私だとして――250年待たされるのを、都度4回繰り返されたら、どう思う?」
ルナは静かに、だけど確かにそう言った。
冗談だと唾棄しそうなそれを、しかし俺は何故だか冗談であると判断することが出来なかった。
それが紛れもない真実であることは、少なくとも俺の中では違いようのない真実だと言える。
250年を4度――つまり、1000年。歴史を現代から遡るのであれば、平安時代の末期にまで至るほどの期間。
あまりに遠大で、想像すらできないほどの期間。それを理解し、咀嚼し、共感してあげることは、俺にはできない。
……取り繕って出た共感の言葉は、きっといたずらにルナのことを傷つけてしまうことは明白で。
だから、俺が出来ることは。
「……正直に、君に俺の心のうちを話すよ、ルナ」
「……ああ」
小さく、声が響く。
「――正直な話、1000年という時間が、どれくらい長く感じるのか……俺には想像がつかない」
相槌も、頷きも返ってこない。ルナ自身も万感の思いをあの言葉に込めたはずで、俺の言葉に対して安易に頷くことは出来ないのだろう。
俺の言葉に安易に頷くことは、ルナが送ってきた悠久の旅路を彼女自身で矮小化してしまう行為だから。
それに俺も、ルナの言葉を――想いを余すことなく受け取りたい。これは義務ではなく、俺の願いだ。
……続けて、と言わんばかりに、ルナの相貌はこちらを見据えて離さない。どうしたら俺のこの思いを余すことなく伝えることが出来るか――考えて、放つ。
例えそれが、彼女の想いの一部を、否定することになったとしても。
「でも、でもだ。――たとえ10000年が経ったとしても、俺はマヤノを片時も忘れたりしないと思うし、会いたいよ」
「……その先に待つ事実が、どんなものであったとしても?」
「……ああ」
俺は小さく頷いて――ルナへと近づく。
彼女は拒まない。遠ざからない。
互いの体温すらわかるほどの距離、俺とルナはそこで初めて、お互いの表情を確認する。
「シンボリルドルフ――ルナ、君はどうなんだ?」
「……私が、か?」
「ああ。君が、だ。……俺には、此処に君がいることが答えだと思える」
「……」
苦しみから逃れる一番の方法は、逃げることだ。
俺はそのことをよく知っている。マヤノと一緒に暮らした時期、一度目のクリスマス。
あの時、俺は逃げた、自らの不出来を嘆き、世界を恨み、苦しみから逃れるように。
雪のように儚く、泥のように絡まる苦しみ。ルナはそれから逃れる方法を知っているはずだ。
記憶を引き継いでいるという事は、自死すれば記憶を引き継がないことを承知しているという事なのだから。
それでも彼女は、此処にいる。俺が此処にいるのと同じように、此処にいる。
共感や同情なんかじゃない。君と俺は似た者同士で、どれだけ傷付いても手放したくないものがあって。それを手に入れるためならば、傷付くことを厭わない。
いうなれば、この言葉たちが示す意味とは――。
「ルナ、君と俺は――"同じ"なんだよ」
俺は、ルナが浮かべているのと同じ、柔らかな笑みを浮かべてそう言った。
270 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/06(水) 07:15:31.52 ID:FbABJENh0
「――さて、種明かしをしようか」
観念したように息を吐き、ルナは破顔する。
突然の変わりように、俺は思わず「は?」と声をあげる。
そこには先ほどの剣呑ともいえる雰囲気を醸し出すルナの姿はなく、いつもの彼女がいた。
「驚かせてしまったかな? トレーナーくん」
「……本当に聞きたいんだが、何?」
「これくらいしないと、君の本心を聞くことが出来なさそうだな、と思ってね」
茶目っ気たっぷりにウインクすら送ってくるルナ。俺は疑問符で頭がいっぱいだ。
何処からが冗談だったのだろう。それともただ単にからかわれただけなのか。
それにしても、ルナの話には真実の気配がした。ならば何故、そんな態度を取らなければならなかったのか。
俺の本心を聞くだけなら、直接――。
「そうか、君は――本心以上に、俺の覚悟を見たかったわけだ」
「ご名答」
小さく笑うルナは、「まずは座ろうか」と近くにあるベンチを指さした。
「まずはどこから話をしようか。……そうだな、前提として、先ほどまでに話したことは全て事実だ」
「……それはなんとなく理解してたよ。約1000年とはすさまじいな」
「ああ、それなんだが――真実ではあるが、あえて説明していない部分がある」
……なんですと?
「確かに私は、ループされるたびに約250年の間、自らの生誕を待つことになる。だが、生誕を待つ間は知能を持つことはない。まぁ、感覚的には気付いたら250年経っている、と言えばわかるかな」
「……つまり?」
「私が産まれ、約2年が経過し物心が付いた段階で記憶が継承される」
……つまり、250年間はルナはルナとして存在するけれど、そこに知能はない。
知能がなければ時間の経過を感じることはない。
「物は言いよう、ってことか」
「トレーナーくんには悪いとは思ったけれどね」
前々から思っていたことだが、俺はルナに言葉遊びで勝つことができない。
特に問題ないとは思っていたが、こんな風に弄ばれるならば勉強するのもやぶさかではない。
少しじとりとした目でルナを見ると、彼女はばつが悪そうに視線をずらす。
「……250年という年月が何か、トレーナーくんは見当がつくか?」
「話題を逸らしたな。――250年前、1770年くらいか……」
1770年頃と言えば、思い当たる節が一つある。
「"Eclipse first, the rest nowhere"――唯一抜きん出て、並ぶ者なし」
「ふむ、流石はトレーナーくん。勉強も出来ているようだね」
にこりと微笑むルナだが、これくらいはトレーナーにとって常識だ。
史上最高の競争バと言えば誰か、と言われれば、様々なウマの名前が上がるだろう。
だが、最も有名な競争バと言えば、と問われれば、異口同音に人々は3つの名を挙げる。
エクリプス、マッチェム、そして――ヘロド。
特に有名なウマとしてエクリプスの名が挙げられるが、その所以が"Eclipse first, the rest nowhere"である。
即ち、「エクリプス一着、二着なし」。
エクリプスが他のウマと圧倒的な差をつけたことに起因する言葉だ。
271 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/06(水) 08:03:54.91 ID:FbABJENh0
「なるほど、250年前というのは君のご先祖様にあたるヘロドが引退した辺りの年か」
「ご明察だ。遠いご先祖様が引退し、連綿と受け継がれてきた血の末に私がいる」
ルナは誇らしげに語るが、そう考えると少し妙な話になる。
そう、先に上げた三つのウマ。
特にエクリプスというウマの話題で頻出する、ある特徴と言うか――逸話がある。
……些細とは呼べそうにもない違和感だが、今それを口にするべきではない、と思った。
恐らく、この特徴はルナの知るところに無く、俺が知るところにある。
それには何かの意味がある。きっと。
「……どうした、トレーナーくん?」
「いや、何でもない。遠大な年月に思いを馳せていただけだよ」
「……? まぁ、何でもないならいいんだ。それで、もう一つの種明かしだ」
そう言いながら、ルナはどこからか取り出した眼鏡を付けた。
外出するときに着けているのを見るが、どうやら伊達らしい。今つけたのも、雰囲気を出すためなのだろう。
「ループの真実について、だ」
「……真実、か」
「ああ」
ルナは頷いて、メモ用紙を一枚取り出した。
その中央に一本線を引いて、線の先端と終端がくっつくようにそれを丸めた。
俺が一度ルナに話した時に例えた、それそのものを今提示されたことになる。つまり俺の考察は合っていたのだろうか。
……どうやらそうでもないらしい。ルナは「大枠は君の考察通りだが」と前置きして話す。
「時間は特定地点を座標としてループしているんだよ」
「……それも250年前?」
「もっと詳しく言うのであれば、1600年末――約300年前という事になる」
なるほど、と心の中で呟く。
俗に言う"三大始祖"の中で最も早い生まれだとされるのがダーレーアラビアン、先に話題に上がったエクリプスの先祖にあたるウマである。
その生まれが1600年の末頃。なぜそこがループの起点となっているかはさておき、競争バたるウマ娘たちに関連する事象の起点としてこれ以上に相応しい地点はない。
「……ルナ、どうして1600年末くらいが起点になるのかとかはわかるか?」
「すまない、トレーナーくん。それは私も探ってみたんだが……解らずじまいでね」
……今の答えで確信した。
俺とルナには、所有する知識に何か違いがある。
仮に1600年末……ダーレーアラビアンの生誕日を知っているのであれば、ルナは即座に懸念事項として話をするはずだ。
だが、ルナはその話をしなかった。そこに決定的な違いが垣間見える。
……と、また考えこんでしまった。いろいろ考えるのはまた後でもできそうだし、今はルナから話を聞くことが先決か。
そう思いながらルナの方を見ると、じとりとした目でこちらのことを見ていた。
「……不満だったか?」
「いや、そんなことはない。むしろ300年前からループが始まっていると知れただけでも大きな収穫だよ」
笑いかけるが、ルナは満足していないらしい。少し目を細めて、訴えかけるように呟く。
「――論功行賞。優れた行いに対しては相応の褒美が必要だと思うのだけれどね、トレーナーくん」
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/06(水) 10:10:14.90 ID:ReBBx+BNO
拗ねカイチョーかわいい
273 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/12(火) 02:21:03.35 ID:60cjC9k60
「論功行賞、ね」
俺は小さく呟いて、思案する。
確かに、ルナの齎した情報は絶大で、このループの真実にほど近い情報だと言える。
普段ならば手放しで褒める、褒めるのだけれど……。
「なぁルナ、一つ聞いてもいいか?」
「何でも聞いてくれ、トレーナーくん」
「――俺は、君のことを覚えていない。忘れてしまっている以上、俺は君の知る俺ではない。……それでも、俺のことをトレーナーとして認めてくれるのか?」
俺と、ルナを担当した俺はほぼ別人だと言ってもいい。
同じ顔をしていて、声が同じで――でも、明確に違う。それが俺だ。
そんな俺をルナは認めてくれていたと思う。だから俺は、トレーナーとしてルナに接し続けていた。
だけど、ことここに至って、俺は結論を出した。明確に、彼女と二人三脚で歩んできた歴史を、俺自身の記憶を根拠に否定した。
それでも俺を認めてくれるのであれば、この手の行く先が見つかる。だけど、認めてくれないのであれば――この手は空を切ることになる。
俺は手を差し出した。この手を取るのであれば、君は俺のことを認めたという事になるし、払えば認めなかったという事になる。
言葉には出さない。出さなくてもルナにはわかると信じている。
「……トレーナーくん」
「……なんだ?」
「君の問いに答えるのを失念していたね」
たとえ10000年が経ったとしても、俺はマヤノを片時も忘れたりしないと思うし、会いたいよ。
シンボリルドルフ――ルナ、君はどうなんだ?
……俺が彼女につきつけた言葉への、答え。
はぐらかされてしまったが、確かに答えはもらっていなかった。
静かにアメジストの瞳が揺れて……そして閉じられた。
「君の言う通りだよ。私は君と再び覇道を歩みたくて待った。例えそれは10000年が経とうとも変わらない鉄心石腸の心持ちだ」
「……じゃあ」
「記憶がなくても、私の知る君ではなくなっていても。――例え、君に想い人がいたとしても。私は君の担当ウマ娘でありたいと思うし、担当ウマ娘だと思っている」
力強く手を握るルナ。静かに開かれた瞳は、いつもの優しげなもので。
「論功行賞、だったか」
「ああ。さて、トレーナーくんはどんなご褒美を私に与えてくれるのかな?」
「……ルナが知っている通り、俺には想い人がいる。だから、あんまり大それたことは出来ない。だから、これで許してくれ」
手を解いて、それを彼女の頭に持っていく。
さらさらと流れる絹糸のような感触に、傷をつけないようにゆっくりと、慎重に指を通す。
小さく、ルナから声が漏れて。その声がどんなものなのかはわからないけれど。
これで正解だったんだと、何故か思った。
かつてルナの頭を撫でた時のような、こうあるべき感覚が俺の記憶をかき乱した。
(でも、俺が本当に好きなのはルナじゃない)
こうあるべきではない。記憶のような何かを否定して、俺は今を選ぶ。
本当に手に入れるべきものは何か、俺は既に知っているから。
この記憶に呑まれるわけにはいかない。抗わなければならない。
(もともとの俺には悪いけど)
それでも、俺は――。
274 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/12(火) 02:22:01.33 ID:60cjC9k60
――俺は、マヤノトップガンのことが好きなんだ。
275 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/12(火) 02:27:07.22 ID:60cjC9k60
指を解いて、ルナから離れる。
糸をほぐす様に、星が瞬き、満ち、やがて欠けるように。
例え幾星霜が過ぎたとして。
想いは変わり、願いも変わる。
置き去りにしてきた想いは小さな傷にして、だけどそれよりも軽やかな羽を伸ばす。
今を生きる俺は、今此処にいる俺だから。
俺は俺を生きるために、この思いを全うする。
それが、君を傷つけるものだとしても。
276 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/12(火) 02:29:55.66 ID:60cjC9k60
―――――――――――――――――――――――――――――――
▼リミテッドイベント[例えば幾星霜が過ぎたとして。]が終了した。
▼エンディングの分岐が発生した。
▼特定のイベントに際し、コンマ判定の補正が追加された。
―――――――――――――――――――――――――――――――
277 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/12(火) 02:42:31.54 ID:60cjC9k60
リョテイ「……ところで、トレーナー」
トレーナー「ん、なんだ?」
リョテイ「最近ターボとか皇帝サンとかによく構ってるよな」
トレーナー「……あー、まぁ確かに。ケアとかも必要だしな」
リョテイ「はぁ。いーか、アンタに絶対不変の真実とやらを教えてやる」
トレーナー「な、なんだよ、いきなり改まって……」
リョテイ「アンタの担当ウマ娘はほかならぬアタシだ。そのことを肝に銘じて日々を過ごせよ?」
トレーナー「……リョテイ」
リョテイ「あ? なんだよ」
トレーナー「ひょっとして、寂しかった?」
リョテイ「……」
リョテイ「…………」
リョテイ「…………まぁ、な」
トレーナー「――」
トレーナー「謝っても遅いよな」
リョテイ「遅いこたねぇよ。だけど、覚えててくれよな」
リョテイ「――アタシにとっては、アンタは唯一無二の味方で、ついでに同志だ」
リョテイ「じゃあ、よろしく頼むぜ――トレーナーサン?」
―――――――――――――――――――――――――――――――
[黄金探しの放浪者]キンイロリョテイ
スピード:610(B)
スタミナ:337(D)
パワー :475(C+)
根性 :306(D)
賢さ :691(B)
―――――――――――――――――――――――――――――――
下1
トレーニング/お出かけ/休憩/メインイベント進行
スキル習得(ウマ娘)/スキル習得(トレーナー)/ライバル研究/その他(良識の範囲内で自由に)
※日本ダービーまであと10ターン(当該ターン含む)。
※休憩効果発動中。次回トレーニング効果2倍
―――――――――――――――――――――――――――――――
ナイスネイチャの好感度:★★★/★★☆☆☆☆☆☆(好感度:+2/好感)
キンイロリョテイの好感度:★★★/★★★★☆☆☆☆(好感度:+4/友人以上)
シンボリルドルフの好感度:★★★/★★★★★★★★(好感度:+8/比翼連理)
ツインターボの好感度:★★★/★★★☆☆☆☆☆(好感度:+3/友人)
―――――――――――――――――――――――――――――――
【現在立っているフラグ】
■エクストライベント
・「祈りは力に、願いは形に」/特定の時期に、ある場所を訪ねる
・「地を支え、海を拝せよ」/探索の進捗を終了させる
―――――――――――――――――――――――――――
■メインイベント
・[地に閃く黄金の旅程]/開始中 2/5
―――――――――――――――――――――――――――
■メジャーイベント
なし
―――――――――――――――――――――――――――
■サブイベント
・[全てはこの一杯の為に――!]/担当ウマ娘とラーメンを食べに行く
―――――――――――――――――――――――――――
■プチイベント
なし
―――――――――――――――――――――――――――
■リミテッドイベント
・夢千夜/記憶を呼び覚ましたウマ娘の好感度を一定以上(+5/親友より上)にする
―――――――――――――――――――――――――――――――
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/10/12(火) 05:50:53.42 ID:IqoLPNRGo
メイン進行
リョテイを追い込みしっかりできるようにしたい
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/12(火) 07:22:05.09 ID:F/U5mpZIo
罪な男やでトレーナーさん……
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/12(火) 08:10:59.63 ID:/SOGYd5QO
会長はどういうわけかウマ娘にループ前の記憶を戻す方法を知っているけど
逆に本当はトレーナーに過去の記憶を取り戻させる方法も知っているんじゃないか?
ループの中心人物がトレーナーだから事情が違って出来ないのか、それとも出来ると知っていて敢えてしていないのか
後者だとしたらなんと報われない想い…
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/12(火) 08:26:37.97 ID:Ju5Ao+JqO
これスペとマヤノもキーワード言って記憶取り戻ししないといきないきゃならないんじゃないか!
非常に面倒くせえなー。
pS まさかとはおもうが、ナリタブライアン、サイレントスズカも以前育成してたけど記憶無いだけですとか無いよな
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/12(火) 15:48:01.66 ID:XzvMjb0c0
とりあえずマヤノを選んだ以上マヤノの記憶は絶対戻したいな
リョテイ…
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/12(火) 17:15:46.65 ID:H8+/AmGAO
ツンケンしてるのかと思ったら想像以上にしおらしくてかわいいなリョテイ
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/12(火) 18:34:13.92 ID:COIngHp/o
>>281
サイレン「ス」スズカな
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/13(水) 00:45:15.12 ID:uSK2kSSt0
全部のルートに行きたい症候群がやばい
286 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/13(水) 03:04:36.77 ID:gOpDRNwB0
「君には足りないものがある、それは何かわかるか?」
「……まぁ、大体アンタが言いたいことは分かるようになってきたぜ、トレーナー」
小さくステップを踏んで、蹄鉄を鳴らしたリョテイ。
彼女は両の拳を鳴らすように合わせ、にかりと笑みを浮かべた。
「――アタシの走法と、作戦が適合してない。アンタが言いたいのはそう言うことだろ?」
「……ああ。ルナとの対決でもよく解ったと思うが、君の本来のポテンシャルは皇帝に勝るとも劣らないものだ」
最後の坂道での直線勝負。ルナが勝利を収めたものの、リョテイの敢闘もまた素晴らしいものだった。
事実、あの日を境にキンイロリョテイの名前は徐々に広がりつつある。
「だったら、今からアタシの走り方をどうこうするか?」
「いや、そうしてしまえば君の持ち味が無くなってしまうかもしれないからな。それはできない」
「……へぇ、ならどうするんだよ」
試すような知性のきらめき。リョテイの浮かべる挑戦的な笑みに、俺も思わず笑みを浮かべてしまう。
夢の共犯者。浪漫の求道者。リョテイは俺を隣に置いてくれている。その信頼がこそばゆくて――でも暖かい。
だから、そんな彼女を失望させたくない。どれだけ受け取っても足りないくらいの浪漫で彼女を満たしたい。
そう、彼女が歩むべきは黄金の旅程。輝かんばかりのウイニング・ロード。
そこへ至るための答えは、たった一つ。
「リョテイ、俺から君に提示することは一つだ」
彼女の脚質が最も発揮されやすい作戦。
追込。基本的な作法は、彼女自身が知っている。ならばどうするべきか。
「――並走トレーニングだ。君の思想を、完璧に、実践的なものに昇華するにはそれが必要だ」
「へぇ、並走ねぇ……。でも誰を?」
「君が選ぶといい。話はこちらでつける」
俺がそう言えば、リョテイは「へぇ」と呟く。
他人と合わせることが、彼女にとってどんな効果となって現出するかはわからない。
それでも、学ぶことはあるはずで。
「ま、次までに考えておくとするか」
「ああ、考えておいてくれ。――君の浪漫への道が、きっと開けるはずだからな」
―――――――――――――――――――――――――――――――
▼[地に閃く黄金の旅程] 3/5
▼次回メイン進行時、[脚質適性:追込]がB以上のウマ娘を一人選択肢、並走トレーニングを行います。
※[脚質適正:追込]B以上
■適性A
・ゴールドシップ
・ナリタタイシン
・ヒシアマゾン
■適性B
・アグネスデジタル
・ハルウララ
・マヤノトップガン
―――――――――――――――――――――――――――――――
下1 誰を並走トレーニングの相手に指名する?
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/13(水) 06:22:19.62 ID:gcMJQRREo
ゴルシ
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/13(水) 09:16:26.82 ID:s4/um7Luo
父息子(娘)併せ馬夢の共演
289 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/13(水) 20:47:57.07 ID:gOpDRNwB0
トレーナー「変わらないものを見ていると落ち着くよな」
トレーナー「何というか、春が来ると桜が咲いたりするの、凄く落ち着くんだけど俺だけか?」
トレーナー「ループなんて事象に巻き込まれてるからか、余計に日常が愛おしく感じたりしてて……」
トレーナー「いろんなものは変わるのに、この風景だけは変わらずやってくるんだな〜って思って安心する」
トレーナー「うーん、言語化が難しいな」
トレーナー「いい風景だ、くらいに留めておいた方が風情があるのかもな、こういう場合は……」
―――――――――――――――――――――――――――――――
[黄金探しの放浪者]キンイロリョテイ
スピード:610(B)
スタミナ:337(D)
パワー :475(C+)
根性 :306(D)
賢さ :691(B)
―――――――――――――――――――――――――――――――
下1
トレーニング/お出かけ/休憩/メインイベント進行
スキル習得(ウマ娘)/スキル習得(トレーナー)/ライバル研究/その他(良識の範囲内で自由に)
※日本ダービーまであと9ターン(当該ターン含む)。
※休憩効果発動中。次回トレーニング効果2倍
―――――――――――――――――――――――――――――――
ナイスネイチャの好感度:★★★/★★☆☆☆☆☆☆(好感度:+2/好感)
キンイロリョテイの好感度:★★★/★★★★☆☆☆☆(好感度:+4/友人以上)
シンボリルドルフの好感度:★★★/★★★★★★★★(好感度:+8/比翼連理)
ツインターボの好感度:★★★/★★★☆☆☆☆☆(好感度:+3/友人)
―――――――――――――――――――――――――――――――
【現在立っているフラグ】
■エクストライベント
・「祈りは力に、願いは形に」/特定の時期に、ある場所を訪ねる
・「地を支え、海を拝せよ」/探索の進捗を終了させる
―――――――――――――――――――――――――――
■メインイベント
・[地に閃く黄金の旅程]/開始中 3/5
―――――――――――――――――――――――――――
■メジャーイベント
なし
―――――――――――――――――――――――――――
■サブイベント
・[全てはこの一杯の為に――!]/担当ウマ娘とラーメンを食べに行く
―――――――――――――――――――――――――――
■プチイベント
なし
―――――――――――――――――――――――――――
■リミテッドイベント
・夢千夜/記憶を呼び覚ましたウマ娘の好感度を一定以上(+5/親友より上)にする
―――――――――――――――――――――――――――――――
290 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/13(水) 20:52:36.55 ID:NZ+VYKlh0
マヤノにおはようと言ってみる
291 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/14(木) 08:13:50.74 ID:PKsYPr1KO
育成は間に合うのか?(汗)全員にかまってたらキリが無いから
レースに向けて調整した方がいいよな
292 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/18(月) 11:41:30.51 ID:maWE6Djg0
リアルの用事で数日間バタバタしていました。今日の夕方からまたぶん投げます……!お待たせしてしまい申し訳ございません……。
293 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/18(月) 12:16:22.92 ID:2Yu538nyo
帰還に感謝…!
294 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/18(月) 17:34:20.80 ID:557iCIeL0
――これは夢だ。
目の前にマヤノが現れた瞬間、無情にも俺の意識はそう断じてしまった。
こんな時くらい、意識を持っていけばいいのに。夢なんて朝起きたら記憶にないものなのだから、都合がいい夢を見せてくれればいいのに。
降りしきる雨に打たれるような、鈍重な気持ちを覚える。だが、夢の中の俺は特に表情にも浮かべず、マヤノといつも通り幸せに会話をしていた。
俺がいるのに、俺だけが置いてけぼりになっていて。どれだけ手を伸ばしても届かないそれが、もうすでに失われてしまったものだと理解できた。
一万年待っても、どんな真実が待っていようとも、マヤノに会いたいのに――。
それはもう叶わないことだと、何故かそう思った。
だって、どれだけ叫んでも、この声は届いていないのだから。
だって、どれだけ焦がれても、最後は此処からいなくなってしまうのだから。
「行かないでくれ――」
失って初めて気付く。
俺は、確かに失う辛さをよく理解していたはずだ。だが、その実咀嚼しきれていなかった。
心の底から焦がれる存在を失うという、潜在的な破滅に。
「行かないでくれ、マヤノ――!」
295 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/18(月) 17:34:56.98 ID:557iCIeL0
■
がばりと起き上がり、周囲を見渡す。
そこはあの世界ではない。現実世界の、トレセン学園敷地内の、ベンチ。
ぴしりと痛む背筋が、それなりの時間ここで眠りこけていたことを意味していた。
……なんでこんなところで寝てたんだっけ?
思い返して……そう言えば、今日は書類作業をしていたんだった、と思い出す。
外に出たのは気分転換で、ベンチに座ってぼーっとしていたらそのまま……と言った流れだ。
「バカなことしたなぁ……」
しみじみと呟けど、時間が戻ってくるわけではない。書類作業がまだまだトレーナー室に残っているはずで。
よっこらせ、と声を出して立ち上がろうとして――ふと膝の上に何かが置いてあるのに気が付いた。
なんだこれ、と持ち上げてみる。……どうやら誰かのハンカチらしい。うっすらとシミが付いているので、何かの液体を拭ったのだろうか。
一体なぜ……と思う気持ちはもちろんあるが、気にしてもいられない。リョテイかネイチャ、あるいはルナに聞けば、ハンカチの持ち主はおおよそわかるだろうし、あとで聞いてみようかな。
こんどこそ立ち上がろうとして、地面を見たら。そこから顔が生えてきた。
驚きのあまり声も出ない俺に、見慣れた顔は軽快な動きでベンチから出てきて、俺の前に立った。
「驚かせちゃった?」
「……驚かない奴がいるか、あれで」
お化け屋敷の驚かせポイントで驚かない人間はいない。それくらいの当然さで驚くいたずらである。
早鐘を打つ心臓。それは一旦置いといて……それよりも、俺にはもっと聞きたいことがあった。
「なんで君が此処に居るんだ――マヤノトップガン」
「なんでって、キミがマヤを呼んだんでしょ?」
ふっしぎー、と首を傾げるマヤノトップガンに、俺もまた首を傾げた――。
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/19(火) 08:02:39.78 ID:LlrYnMraO
マヤんと本来の仲に戻るとリョテイがやる気なくしちゃうんじゃないかと心配でもある
297 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/20(水) 00:22:33.19 ID:ezbV7Ab10
■
「――なんでって、キミがマヤを呼んだんでしょ?」
首を傾げるマヤノトップガン。俺も首を傾げざるを得ない言葉が出て驚いている。
そもそもマヤノトップガンの名前を呼んだのはこれが初めて。彼女を呼んだ記憶なんて、俺の何処にもない。
だが、マヤノトップガンが嘘を吐く理由がないようにも思える。一体どういうことなのだろう……。
「にしても、キミって結構うわきしょーなんだね? 担当ウマ娘がいるのにマヤの名前を寝言で呟くなんて!」
「……寝言?」
聞き返す俺に、マヤノトップガンは意気軒昂に頷いた。
「マヤノ、マヤノって、マヤのことを呼ぶ声が聞こえたの。なんでかなって思ってそっちに向かったら、キミがベンチで寝てたんだ。――苦しそうに」
「……なるほどな」
つまり、先ほど見た夢で叫んだ言葉がそのまま口から出ていたという事だろう。
それをよりにもよって本人に聞かれるとか……末代までの恥だ。
「ねね、どんな夢見てたの?」
「……ただの、普通の夢だよ」
「えー? ここまで話したんだから教えてよー! ごえつどーしゅー? ってやつでしょ?」
それを言うなら乗り掛かった舟だろ、とツッコミをとりあえず入れて――悩む。
マヤノトップガンは賢い……というか、非常に洞察力が高い子だ。下手に嘘をついてはぐらかそうとするものならば、直ぐにバレてしまうだろう。
「……やっぱり人に言えないような夢だったんだ?」
「いや、まぁ。いかがわしいってわけじゃないんだけど――」
「――ねぇ、やっぱりキミ、マヤと会ったことあるでしょ?」
金色の瞳が夕焼けに煌々ときらめいて、そこに俺の見知ったマヤノが一瞬宿った気がした。
でもそれは明確に違う。勘違いだ。彼女はマヤノトップガンであり、俺の知るマヤノではないのだから。
……俺の好きな、マヤノじゃないんだから。
「ねぇ、クリスマスの時、マヤを部屋から押し出したときの言葉、覚えてる?」
「……さぁ、なんだかな」
「覚えててくれてるんだ、嬉しいかも! ヒトメボレって言ってたよね?」
言われて、ぎくりとする。
もう会うこともないかもしれない。会うとすればそれは――あのおまじないを使う時だと決めていたから。
思わずそんな言葉が出た。彼女を困惑させるかもしれない一言だったのに、何故か。
……いや、”何故か”なんて白々しい。もう俺は理解しているはずだ。
マヤノトップガン――彼女のその全てが、俺を「自分勝手に動け」と急かしている。
マヤノトップガンが光なら、俺はさながらその光に吸い寄せられる蛾だ。
もう一度話したい、もう一度触れたい、月日を重ねれば重ねるほど、想いは雪みたいに積もっていた。
そう、俺はもうわかっていたんだ。なんであの時そんな言葉が出たのかなんて。
あの言葉を吐けば、きっとマヤノトップガンなら俺に会いに来るはずだ、と。そう直感していたからだ。
俺からは会いに行けない。この意気地なしが邪魔をするのだから。
だから、あちらから会いに来てもらえれば、あるいは。
「ねぇ、キミ――あの言葉の本当の意味を聞かせてよ」
俺は、また君に甘えることが出来る。
甘えてしまえる。
298 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/20(水) 00:44:37.77 ID:ezbV7Ab10
「俺は――」
一つ口に出して、押し黙る。
この先の言葉を紡げば、もう後には戻れない気がして。
この先の言葉を紡げば、俺は少し報われる気がして。
だからこそ、この先の言葉は、簡単には言えない。
「……キミにとって、あの言葉が大事な意味だったってことはホントに理解してるよ。だからマヤ、聞きたいんだ。キミが何をマヤに伝えようとしてくれたのか……」
あの日は追い出されちゃったから聞けなかったけれど。マヤノトップガンはそう言って、小さく笑った。
思わずドキリとするくらいの少女らしさだった。仄かな石鹸の香りも、口をほころばせる所作も、少し高めの声も。
その全てが、俺に刷り込まれていた。それがそうあるだけで、万全であるかのように。
「俺は、君のことを知ってる」
もう、だから。いっそ、この口が動くことが正常であると思うのであれば。
この言葉は紡ぐしかない。口が動いて、伝えるべき言葉を、伝えるだけ。
今までが狂っていたかのように、それだけで心が穏やかになる。
魔法だった。秋風と、石鹸と、あと……にんじん色の。
「マヤノトップガン、君は……もし俺が、君のトレーナーだった、と言ったら信じるか?」
こんな言葉がすらすら出てくるのも魔法で。
言葉に滞りはない。淀んだ水が清らかになって、滑らかに流れていくかのように。
口が開く。言葉を並び立てていく。
「例えば、君と共にいろんな舞台に立ったと言えば信じるか? 例えば君と共にいろんなところに行ったと言えば信じるか?」
例えば。
俺が約束を果たせなかったと言えば、信じるか?
299 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/20(水) 00:46:55.92 ID:ezbV7Ab10
「――信じるよ」
たった一言。たった一言の稲妻が俺を強かに打ち据えて、目を離せなくした。
300 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/20(水) 00:48:08.14 ID:ezbV7Ab10
「――おはよう、マヤノ」
だったら、もう俺は後悔なんてしない。
301 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/20(水) 01:24:56.74 ID:QJpSA7Z+o
この周も目標未達の場合リョテイのためにループ知覚ウマ娘を増やすのも手……だがしかし育成でループ自体を超えるべきか……
なんて考えてたら何か不穏を検知……故障だと思いてぇ
302 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/20(水) 01:45:49.23 ID:ezbV7Ab10
瞬間の出来事だった。
俺とマヤノトップガンの間に冷たい風が吹き抜けた。
お互いの前髪を舞い上げ、視線を視線が混じって。
ぐにゃりと、マヤノトップガンの体勢が崩れた。
咄嗟に駆け寄ってマヤノトップガンの体を抱き寄せるが、体温が異常に高かった。
「……ん、マヤ、倒れちゃった――」
「大丈夫か」
「……`トレーナーちゃん`?」
茹だるような体温。潤む瞳。霞む視界の外側はきっと不明瞭だろうに、マヤノトップガンは――マヤノは俺のことを呼んだ。
小さく漏れ出る吐息は炎よりもなお熱く、脂汗に張り付く前髪は気だるげな表情のマヤノをより強調するようだった。
ハンカチを取り出して汗を拭き、とりあえず近くのベンチに彼女を寝かせる。
枕となるような何かはないので、とりあえず俺の膝にマヤノの頭を乗せて……少しでも落ち着けるように頭を撫でる。
「……少し、落ち着いてきたかも」
「そうか。体調はどうだ?」
「うーん。ちょっと……動きたくないかも」
小さく、細い息を吐いて、うわごとのようにマヤノはつぶやいた。
数か月付き合いがあったツインターボであの反応だったのだ、今のマヤノにどれだけの負荷がかかっているのかなんて想像だに出来ない。
とにかくゆっくりと、いつかみたいにゆっくりと髪に指を通す。
303 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/20(水) 01:46:31.27 ID:ezbV7Ab10
「えへへ、まさかまたトレーナーちゃんに撫でてもらえるなんて思わなかったよぉ」
「……俺だってそうだよ、マヤノ」
「随分と待ったんだよ? おばあちゃんになっても、ずっとずっと……」
……俺が消滅した後の世界は、そのままの時間の流れで進んでいく。
当然だが、いくら俺が特異な存在でも、マヤノやターボたちは特段異常性のないただのウマ娘。
一生を過ごして、永遠の眠りにつくその時まで、二度と会えない俺との記憶を抱えて生きていく。
ひどくむごい話だと思う。実感がわかないのが、なおそう思わせる。
俺が担当ウマ娘にマヤノやターボ、スペシャルウィークを選んでしまったばっかりに、彼女たちは消えない傷を抱えて歩くことを強いられている。
だけど。だからこそ。俺はもう、折れない。折れるなんて、できない。
このまま折れてしまったら、リョテイのことを置き去りにしてしまう。それに、今はターボもマヤノも――。
「トレーナー失格だよな、俺」
「……トレーナーは失格かもね。でも……」
そう言いながら、俺の頭へとゆっくりと手を伸ばすマヤノ。苦し気だけど穏やかな表情に、心が安らぐ気持ちがして。
頭の後ろへと腕を回して、静かに上体を起こすマヤノ。耳元にくっついた唇が震えて、言葉が紡がれる。
「――マヤの最高最強のパートナーとしては、合格だよ、トレーナーちゃん」
小さく、何処までも小さく囁かれたその言葉。微笑んだ気配が伝わって、次の瞬間。
頬に、柔らかな感覚が触れた。
それが何よりの証左だった。それが何よりの希望だった。
迷って迷って歩き続けた道の、一つの答え。
それがこの感触だった。この思いだった。この体温だった。
「もう離さないでね、トレーナーちゃん」
幽かな声が耳朶を捉えて。俺は、瞳から零れだすそれを止めるすべを知らなくて。
声にならない声で、「ああ」と呟くことしかできなかった。
でもそれでいい。これからもっといろんな言葉を交わすことが出来るのだから。
これからもっと、思い出を紡げるのだから――!
304 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/10/20(水) 01:55:52.68 ID:ezbV7Ab10
―――――――――――――――――――――――――――――――
▼過去の担当ウマ娘の記憶を呼び覚ました。
サポートカード[マヤノトップガン]を入手しました。
サポートカード[マヤノトップガン]がアクティブ化しました。
サポートカード[サンライトブーケ:マヤノトップガン]がアクティブ化しました。
▼マヤノトップガンから受け継いだ因子が強化された。
ひらめき☆ランディング★★☆→ひらめき☆ランディング★★★
スタミナ★★★→スタミナ(2ランクアップ)
根性★★★→根性(2ランクアップ)
逃げ★★☆→逃げ★★★
※★3因子がさらに強化された場合、無条件でランクを上昇させる因子に進化します。
(例)スタミナ:80(G+)時に継承するとスタミナ:200(E)となる。
―――――――――――――――――――――――――――――――
485.68 KB
Speed:0.5
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)