【艦これ】曙「はじまりの場所」

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43 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:00:32.91 ID:P245md5N0




元工員(かつての自分の亡骸なんだ……あの時、こいつも何かを悟ったんだろう)

元工員(そのマニラにおいて、生き残った『曙』乗員たちはろくな武器も食料も持たぬまま戦地へ投入され……)


あけぼの「……」

元工員(俺も随分長く黙祷を捧げていたと思ったが、俺が目を開けてもこいつはまだ微動だにしていなかった)


元工員「……」

元工員「……積もる話もあるだろう。俺は先に車に戻っているからな」

あけぼの「……」コクッ


コツ コツ コツ



44 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:02:30.76 ID:P245md5N0




あけぼの「……」



あけぼの「……」



あけぼの「……」



あけぼの「……みっ」



あけぼの「……みんな……みんな……みんなっ!!」



あけぼの「ご……ごっ、ごめんっ……!!」



あけぼの「かっ、帰らせてあげられなくて……うぐっ……ごめん……ごめんなさい……」



あけぼの「ううっ……うううう……」



45 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:03:20.45 ID:P245md5N0




* * *



46 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:04:49.05 ID:P245md5N0




元工員「……」

元工員「!」


あけぼの「……」トテトテ


元工員「……もういいのか?」

あけぼの「えぇ」

元工員(目が赤いな……)


あけぼの「……」

あけぼの「お願いを……してきたの」

元工員「お願い?」

あけぼの「同じ失敗は繰り返さないから、見守っていてって」

元工員「……そうか」



47 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:06:26.56 ID:P245md5N0




あけぼの「……」

あけぼの「そうだ」

元工員「?」

あけぼの「一つ聞いていい?」

元工員「……ご随意に」

あけぼの「今度は……なんで私が選ばれたんだと思う?」


元工員「……そうさなぁ」

元工員「まぁ21世紀の『はじまり』ってのはあるだろうなぁ。それに……」



48 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:07:52.93 ID:P245md5N0




元工員「……」

元工員「ウチの工場、再来年の4月に閉鎖って話はしただろう? おまけに造船事業自体も分社化されちまうみたいだが、横浜の工場を使って事業は続けていくらしい」

元工員「始まりがあれば終わりがあるように、終わりの後には、また新しい始まりがやって来る」

元工員「ウチの工場としては終わりでも、新しい工場、新しい会社としては始まりだ。心機一転、そんな『はじまり』でもあるんじゃないか?」


あけぼの「……ふぅん」


元工員「俺も、老体に鞭打って新工場に語り継がなきゃな。波瀾万丈の経験談をよ」

あけぼの「『波瀾万丈』ねぇ」

元工員「手塩にかけて建造した護衛艦娘に蹴りを入れられた話……とかな」ニヤッ

あけぼの「ぶっ! も、もっとマシなことを伝えなさいよ!」

元工員「え〜? 聞こえん。年寄りだから全然聞こえんなぁ〜?」



49 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:09:37.16 ID:P245md5N0




あけぼの「ふんっ!!」ゲシッ

元工員「あがっ! お……お前、か弱いお年寄りに何ということを……」プルプル

あけぼの「ふぅ、これで少しは耳の聞こえもよくなったんじゃないかしら? ほら、昔の物って叩けば調子がよくなるって言うでしょう?」ニヤ

元工員「俺は家電じゃないっちゅうに……」


元工員「あ、蹴られた衝撃で思い出した。『はるかぜ』がまだ広島におるぞ」


あけぼの「……は!? はるかぜって……あの『はるかぜ』?」

元工員「あぁ。お前みたいに代替わりはしとらん。永久保存するかどうかで、係留されとるらしい」

あけぼの「……へぇ。流石、甲型国産第一号は違うわね」



50 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:11:07.42 ID:P245md5N0




元工員「会いに行ってやれ」


あけぼの「え?」

元工員「姉妹じゃないにしろ、当時の同期みたいなもんだろう。『ゆきかぜ』はもういなくなっちまったが……幸い『いなづま』と『いかづち』はお前同様代替わりして現役だ」

元工員「その2人にもツテを使って話を通してある。流石に広島までは送ってやれんから、途中からは2人に曳航でもしてもらえ」


あけぼの「……」

あけぼの「……いいの?」

元工員「……ま、1日2日の遅れどころじゃなくなっちまうが、折角の機会なんだ」

元工員「俺がまた方々に頭を下げて回れば何とかなるだろう」

あけぼの「……そう」


あけぼの「……」



51 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:12:55.26 ID:P245md5N0




元工員「さて、ひとまずは東京に帰るぞ」


あけぼの「……あ、あの」

元工員「ん?」


あけぼの「そ、その……ぁ……あり……とぅ」ボソボソ


元工員「は? 今度は本当に聞こえとらんぞ。何て?」

あけぼの「……ああもうっ! 察しなさいよ! このクソ老人!!」

元工員「えぇ……理不尽過ぎる。これがキレる若者ってやつか……」



あけぼの「ふんっ!」



─────────
─────
──



52 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:14:42.71 ID:P245md5N0





………
……………


「……それにしても、まだあんたがいたとはね」

「今はここで神社の真似事をやっています」

「じ、神社?」

「もうっ! あけぼのったら、まーたそんな口聞いて! 本当ははるかぜさんに早く会いたくて急いで来たクセに」

「あけぼのちゃんはまだ進水したばかりで就役してはいないのです」

「なっ!?」///


……………
………




53 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:16:05.72 ID:P245md5N0




───── 2002年

・石川島播磨重工業東京第一工場、老朽化および臨海部開発に伴い閉鎖
・石川島播磨重工業の船舶海洋事業が分社化となりMUと統合され、「アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド(IHI MU)」となる



───── 2013年

・日立造船と日本鋼管(現在のJFEホールディングス)の船舶部門からなる「ユニバーサル造船」とIHI MUが経営統合し、「ジャパン マリンユナイテッド(JMU)」となる



54 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:17:05.95 ID:P245md5N0




護衛艦「あけぼの」の竣工後、石川島播磨重工業東京第一工場は閉鎖されました。

同工場は戦後最初に建造した自衛艦が先代「あけぼの」であり、当代「あけぼの」で役目を終えるという、まさに彼女と共に生きた工場でした。

現在は同工場があった豊洲から少し離れた神奈川県横浜市にて、造船事業を受け継いだJMUが自衛艦の建造・修繕を行っています。

「ひゅうが」型DDHや「いずも」型DDH、「まや」型DDGといった現在の海自を代表する艦たちを巣立せたこの工場には、かつて「あけぼの」で培われた技術が受け継がれているのです。



55 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:18:00.36 ID:P245md5N0




あけぼの型護衛艦 DE201「あけぼの」

基準排水量:1,060t
長さ:92m
幅:8.7m
馬力:18,000PS
速力:28kt
主要兵装(就役時):50口径3インチ単装砲×2、56口径40mm連装機銃×2、ヘッジホッグ×1、爆雷投射機(K砲)×8、爆雷投下軌条×2



むらさめ型護衛艦 DD108「あけぼの」

基準排水量:4,550t
長さ:151m
幅:17.4m
馬力:60,000PS
速力:30kt
主要兵装:62口径76mm単装速射砲×1、高性能20mm機関砲×2、VLS装置、SSM装置、3連装短魚雷発射管×2、哨戒ヘリコプター×1



56 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:19:06.35 ID:P245md5N0




【おまけ+エピローグ】



57 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:20:35.37 ID:P245md5N0




ワイワイ ガヤガヤ


じんつう【建造:日立造船 舞鶴工場】「えー……それでは、本日の司会は私、第13護衛隊所属『じんつう』が務めさせていただきます。よろしくお願い致します」


パチパチパチパチ


せんだい【建造:住友重機械工業 浦賀工場】「よっ、いいぞー! じんつう!」

じんつう「も……もう、調子が狂うからやめてください……」///

とね【建造:住友重機械工業 浦賀工場】「相変わらずじんつうは初心じゃのう。どれ、それなら吾輩が代わりに司会を───」

ちくま【建造:日立造船 舞鶴工場】「姉さ……とねさん、美味しそうな料理を取り分けましたから、落ち着いて食べていましょう?」

とね「おぉ! 気が利くのう!」



58 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:21:44.93 ID:P245md5N0




かが【建造:ジャパン マリンユナイテッド 横浜事業所磯子工場】「まだ乾杯すら済んでいないでしょう。料理に手を付けるのは待ちなさい。私も我慢しているんだから……」カタカタ

たかなみ【建造:住友重機械工業 浦賀工場】「かがさん、もう少し、あともう少しの辛抱かもです」アセアセ

てんりゅう【建造:住友重機械工業 浦賀工場】「オレも先に料理を取り分けとくかな。かがさんに全部食われかねねぇや。ほら、ひらど、適当に見繕ってやるからお前も皿寄越せよ」

ひらど【建造:ジャパン マリンユナイテッド 横浜事業所鶴見工場】「あ、ありがとうございます……で、いいのでしょうか?」

ひゅうが【建造:アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド 横浜工場】「いかん、場が荒れているな。……よし、ここは一つ効率的なHS運用の話で場を繋いで───」

いせ【建造:アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド 横浜工場】「ひゅうが、ステイ」



59 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:22:54.91 ID:P245md5N0




******

 閑話休題

******



60 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:24:33.63 ID:P245md5N0




じんつう「今回からは当会メンバーとして、新たにまやさんとはぐろさんが加わりました」

じんつう「はぐろさんは公試運転中のため残念ながら欠席されています。ではここで、まやさんから一言ご挨拶いただきたく存じます」


まや【建造:ジャパン マリンユナイテッド 横浜事業所磯子工場】「え゙っ!?」

まや「お、お疲れ様です! えーと、昨年3月に就役した『まや』だ……です。所属は第1護衛隊群第1護衛隊、母港は横須賀です。……あーっと、頑張りますのでよろしくお願いします」ペコッ


パチパチパチパチ


まや「……ふぃーっ」ドカッ

ちょうかい【建造:石川島播磨重工業 東京第一工場】「ふふ、お疲れ様。それにしても、まやにしては珍しく緊張してたわね。ちょっと意外かも」

まや「んだよ、いいだろ別に。大勢の前でスピーチとか苦手なんだよ……」



61 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:25:58.55 ID:P245md5N0




まや「大体よぉ、この会って結局何の会なんだよ? ンなことすら教えてもらえずに連れて来られたんだぞこっちは」

ちょうかい「そうね……『同じ造船会社生まれの艦』が集まる会ってところかしら」

まや「え? いやいや、そもそもアタシとお前の時点で───」


あまぎり【建造:石川島播磨重工業 東京第一工場】「そっから先はあたしが説明しようか?」ヌッ


ちょうかい「あまぎりさん、お疲れ様です」

まや「うーす」

ちょうかい「確かに、この中では一番のベテランですものね。私より適役です」

あまぎり「まぁ今日来てない艦も入れれば、あさぎり姉の方が上だけどな」



62 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:27:56.55 ID:P245md5N0




あまぎり「それはさておき説明の続きだが、この会は元々『石川島播磨』出身艦の懇親会ってことで、ひえいさんが始めたんだ」


まや「へー……ちょうかいもそこの生まれだよな?」

ちょうかい「そうよ。でも、会の創設者がひえいさんというのは初耳でした」

あまぎり「姉のはるなさんが三菱長崎出身の艦で『長船会』を立ち上げるってのを聞いて羨ましくなったらしい」

まや「動機が……」

ちょうかい「ひえいさん……」


あまぎり「だから、創設時は『いしはり会』って名前だったんだ」

ちょうかい「あ、私が加入した時もその名前でした」



63 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:29:21.24 ID:P245md5N0




あまぎり「ただ、平成の業界再編で色んな会社がくっついただろう?」

ちょうかい「石川島播磨に住友重機械、日立造船、日本鋼管……」

まや「ははぁ」

あまぎり「そうそう。んで、今はJMUとしてまとまっちゃいるが、だからって『JMU会』ってのも妙な話だろう?」

ちょうかい「そうですね……今がそうだと言っても、生まれた当時は別の会社だった訳ですから」

まや「アタシは純粋にJMU出身だから言えるのかもしれねぇけど、んな難しく考える話かねぇ」

あまぎり「ははは……まぁあたしも別にかまやしないクチなんだが、もやもやする奴がいるのも事実だ」

あまぎり「懇親を深めようって会なのに名前ごときで揉めるのも、ってことで『名無しの会』になっちまったって訳さ」



64 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:30:33.03 ID:P245md5N0




まや「ほー。けどよ、会のことを説明する時はどうすんだ? 名無しじゃ困るんじゃねえか?」

あまぎり「んー……まぁ既に知ってる連中は『あの会』だとか『いつもの』で通じるし、初めての奴らは同じ護衛隊にいる会員だとか姉妹艦辺りが引っ張ってくればいい訳だ。首に縄付けて、な」

あまぎり「……身に覚えがあるんじゃないか?」フフフ

まや「はっ、なるほどな」


じんつう「それでは、当会幹事によります鏡開きと乾杯の挨拶です」


あまぎり「お、じゃあ話のキリもいいし、あたしは戻るよ」

ちょうかい「はい、ありがとうございました」

まや「あんがとなー」



65 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:31:45.81 ID:P245md5N0




ちょうかい「どう? この会のこと、分かった?」

まや「あぁ。思いのほかマトモな『名無し会』だな。幹事とか、そういう役職もちゃんといるみたいだし」

ちょうかい「幹事は数年ごとに持ち回りでやってるんだけどね。で、今はあの子」

まや「ほぉ……」



あけぼの「……」カチンコチン



まや「絵に描いたように緊張してんな」

ちょうかい「ふふっ、そうね。あの子も誰かさん同様、大勢の前で話したりするのは得意じゃないみたいだから」

まや「」



66 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:37:33.02 ID:P245md5N0




じんつう「……あら? 鏡開き用の樽がありませんね」

あけぼの「え? あ、あら本当ね! これじゃ鏡開きができないじゃない! まったくもう」

あけぼの(やったわ! これで喋らなくても済む───)


ゆうだち【建造:住友重機械工業 浦賀工場】「お待ちどうっぽい〜!」

さみだれ【建造:石川島播磨重工業 東京第一工場】「た、樽を持ってきましたぁ……」フラフラ


あけぼの「げ」

じんつう「ありがとうございます。……あの、大分ふらついているようですが大丈夫ですか?」

ゆうだち「何てことないっぽい! 2隻合わせて12万馬力っぽい……ふぬぬぬ」フラフラ

あけぼの「いや、どんな樽よ」



67 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:39:28.51 ID:P245md5N0




じんつう「ではそちらに……さみだれさん! 足下に───」


バナナの皮<ヤア


ツルッ


さみだれ「わわっ! ど、どうしてこんなところにバナナの皮がぁ!?」

ゆうだち「ぽいっ!? 急にバランスを崩さないで欲しいっぽいいぃぃぃ!」


ドダンッ


あけぼの「ッ! ちょ、ちょっとあんたたち大丈夫!?」

じんつう「怪我はありませんか!?」



68 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:40:54.55 ID:P245md5N0




さみだれ「ててて……はい、何とか大丈夫です」

ゆうだち「奇跡的に無傷っぽい〜。樽もかなり強めに置いちゃったけど無事っぽい───」


パカッ


「「「「あ」」」」


いせ「ありゃ、叩いてないのに開いちゃった」

ひゅうが「まぁ、そうなるな」

まや「アタシの進水式のくす玉よりは縁起いいだろ。叩かなくても開いたには開いたんだし」


あけぼの「よくないわよ!!」



69 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:42:10.75 ID:P245md5N0




******

 再びの閑話休題

******



70 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:43:50.01 ID:P245md5N0




じんつう「で、では、仕切り直して幹事の挨拶です」



あけぼの「んんっ、えー……幹事を務めていますあけぼのです」

あけぼの「自分でもこうした話が苦手な自覚はあるので、手短に」


あけぼの「私は、何だかんだ言って、この会が嫌いではありません」

あけぼの「最初連れて来られた時は、同じ造船会社出身で集まってどうするんだ、何の意味があるんだと思ったけど……」

あけぼの「私みたいにフネ付き合いがお世辞にも得意でない艦には、正直ありがたい場でした。ここで会っていたおかげで、その後助けられたことも1度や2度ではありません」


あけぼの「今となっては『同じ会社出身艦の集い』というのも半ば形だけになってしまいました」

あけぼの「やろうと思えば、それまでのメンバーだけで閉鎖的に……排他的にやることもできたはずです」

あけぼの「でも、そうしなかった……何と言うか、懐の深さみたいなものは今後も大事にしたい、引き継がれていって欲しいところです」



71 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:45:04.81 ID:P245md5N0




あけぼの「今現在、世の中は新型コロナウイルスによる感染症の流行により、かつてないほど混乱した状況下にあります」

あけぼの「私たちは艦ですから直接的な影響はありませんが、無関係ではいられません。既にあらゆる面で影響が出ています」

あけぼの「年々厳しくなる財政状況による予算の逼迫や、少子化による人員不足の常態化、東アジア情勢の更なる緊張など、暗い話題には事欠きません」


あけぼの「それでも、『明けない夜はない』という言葉があります」


あけぼの「私たちは私たちにできることをやっていきましょう」

あけぼの「そしてまた、この騒々しくて、滅茶苦茶で、バカな会を……一隻も欠けることなく開きましょう」



72 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:46:12.84 ID:P245md5N0




まや「……苦手な割にいいこと言うじゃねぇか」

ちょうかい「皆が認める幹事だもの」



あけぼの「……あぁっ、その、えーと、それでは」

あけぼの「か、乾杯!」


「「「「「かんぱーい!!」」」」」



─────────
─────
──



73 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:47:08.56 ID:P245md5N0




【あなたが一番大事だと思うことは何ですか?】



74 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:48:42.30 ID:P245md5N0




はたかぜ「一番大事だと思うこと、ですか」

はたかぜ「そうですね……『温故知新』でしょうか」

はたかぜ「自分で学ぶだけでなく人に教えるとなると、昔に学んだことをもう一度調べ直したり、改めて考えたりしなくてはなりません」

はたかぜ「そこから私自身、新しく知ることも、より深く理解することもあります」

はたかぜ「練習艦になってからはより一層、日々勉強、ですね」


しまかぜ「じー」ジーッ

はたかぜ「……あの、どうしたの? しまかぜさん」

しまかぜ「お姉ちゃん、練習艦の制服着てると余計かしまにそっくりだなって」

はたかぜ「えぇっ!?」



75 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:49:28.40 ID:P245md5N0




* * *



76 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:51:06.16 ID:P245md5N0




まや「一番大事なこと、ねぇ」

まや「『固定観念に囚われないこと』かな」

まや「アタシらイージス艦も登場当初は艦隊防空のためだけの存在だったが、今じゃ弾道ミサイルなんて物にまで対応するようになってる」

まや「アタシが女性乗員が乗るようにハナっから設計されてるってのもその一環だよな。昔じゃ考えられなかったろ?」


「Hey Maya, whatcha’ doin’?(あらマヤ、何してるのよ?)」


まや「あ? あー……I’m now being interviewed(今インタビューされてんだよ)」

まや「ふぅ。ん? アイツか? 見ての通り、アメリカの空母さ。この間一緒に訓練やったんだ」


まや「……そーいや、これもそうなのかな」

まや「80年ほど前にゃ、殺し合いやってたんだぜ? アイツらと」



77 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:51:53.71 ID:P245md5N0




* * *



78 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:53:06.55 ID:P245md5N0




すずつき「『諦めないこと』、です」

すずつき「生きることは困難の連続です」

すずつき「嬉しいことや楽しいこともありますが、悲しいことや辛いこともいっぱいあります」

すずつき「それでも、諦めさえしなければ、自分の可能性を自分で見捨てさえしなければ、どうにかなるものだと思います」

すずつき「人事を尽くして天命を待つ、と言い換えても構わないのかもしれません」


すずつき「あら、おふゆさん。どうしたの?」

すずつき「え? さっき私が喋ったことに感動した。録音したいからもう一度喋ってくれないか……って?」


すずつき「えぇと、あの……」///



79 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:53:55.08 ID:P245md5N0




* * *



80 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:55:05.72 ID:P245md5N0




いせ「うーんと、そうだなー……」

いせ「『真っ直ぐであること』かな!」

いせ「真っ直ぐに生きるって、泥臭いし大変だよ。損することも多いと思う」

いせ「でもね、未来の自分に恥じないように生きるとしたら、それしかないんだ。きっと」

いせ「最期には笑っていたいんだ。悔いのない生涯だったなーって」


ひゅうが「いせ、いせよ」チョイチョイ

いせ「何さひゅうが。今取材されてるところなんだけど」

ひゅうが「これを見ろ。新しい艦載機だ。SH-60Lと呼ばれるらしい。早く載せたいものだ」キラキラ


いせ「……」

いせ「ひゅうが、ある意味一番真っ直ぐかもしれないよ、あんたは……」



81 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:55:52.80 ID:P245md5N0




* * *



82 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:57:26.28 ID:P245md5N0




かが「そうね、『未来を見据えること』かしら」

かが「未来を考えることは、よりよい今日を生きることにも繋がっているわ」

かが「一日一字を記さば一年にして三百六十字を得、とも言うでしょう?」


かが「昔の私が、航空母艦として世に出た頃、航空機で艦を沈めるなんて不可能だと何度も言われたわ」

かが「今の私も、自衛隊黎明期は不可能だと言われていた空母となって艦載機の運用を始めようとしている」

かが「それは必ずしも望ましいこととは限らないけれど……」

かが「目まぐるしく変わっていく情勢に対応するには、常に未来を見据えて行動を……ひいては変化していかなければいけないの」


かが「この国を護るために、ね」



83 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:58:09.31 ID:P245md5N0




* * *



84 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 20:59:45.73 ID:P245md5N0




はるかぜ「『謙虚さ』かと思います」

はるかぜ「私たちが……自衛隊が、守人として認めてもらえるには、まだ時間がかかると思います」

はるかぜ「先の戦争が終わってそう年月は経っていない訳ですから、それも当然でしょう」

はるかぜ「それでも、腐るつもりはありません」

はるかぜ「私たちにできることを、日々こつこつと、ひたむきにやっていくだけです」

はるかぜ「日陰者の行いであっても、見てくれている方はいるはずですから」


ゆきかぜ「姉さん! はるかぜ姉さん!」タタタ

はるかぜ「ゆきかぜさん……どうしたのですか? そんなに慌てて」

ゆきかぜ「あけぼのが北海道から海産物を贈ってくれたみたいです! ほらっ!」

はるかぜ「まぁ! 後でいただきましょうか」



85 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 21:00:34.28 ID:P245md5N0




* * *



86 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 21:01:46.96 ID:P245md5N0




あけぼの「大事なこと?」

あけぼの「……」


あけぼの「決まってるじゃない」

あけぼの「『忘れないこと』。『語り継ぐこと』。そして───」

あけぼの「『同じ失敗を繰り返さないこと』、よ」



87 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 21:03:01.64 ID:P245md5N0




全ての艦に命は宿り 全ての艦に物語がある

(海上自衛隊『もうひとつの観艦式 〜The 2019 Virtual Fleet Review〜』より)




────────── 終わり



88 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 21:04:08.29 ID:P245md5N0

以上になります。
書くのに時間がかかり過ぎて、結果として曙改二記念になりました……。
また、今回をもって一応の最終作となります。

同じ造船会社建造艦の集いは以前から書いてみたかったのですが、
1本のSSにするほどの文量にならないことや、オチに困ったことから今回の話に組み込むことにした次第です。

最終作とは言いましたが、まだ何本か書けそうなネタもあるにはあるので、
もしかしたらまた書くこともあるかもしれません。
その時はよろしくお願いします。

では、これまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
89 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 21:05:02.73 ID:P245md5N0

以前書いたもの↓

・春風「その時、海は歴史を見つめておりました」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515601825/

・加賀「こんな夢を見ました」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527046033/

・伊勢「変わるもの、変わらないもの」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529167792/

・涼月「かえる」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1566360834/

・摩耶「カンパリソーダよ、ウィスキーフロートたれ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1580542423/

・旗風「誰が風を見たでしょう」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1602940905/
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/31(土) 22:15:31.82 ID:H8xf3xq8O

丁寧に作られていて面白かった
ただ史実エピソード紹介は途中に小出しにするよりも
最後にまとめて解説でも良かったかもね
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/01(日) 08:29:04.50 ID:SVj8qMnT0
途中に変なの沸いててワロタ
安価の時点でこの人じゃねーだろ
文の癖とかも全然違うし

乙でした
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/02(月) 14:32:41.56 ID:dqG3VxIgo
乙でした。
毎回楽しみに読ませてもらってました。感謝。
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