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【ウマ娘】エアグルーヴ「たわけがッ! 今日が何の日か知らんとは……」
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1 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/16(金) 00:36:15.50 ID:YZ47s4oM0
今日は何の日?
1日1回、その日に沿ったSSをぶん投げるだけのスレッド。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1626363375
2 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/16(金) 00:37:45.30 ID:YZ47s4oM0
7/15
■
「貴様ッ、また仕事にかまけて寝てないな!」
「……あはは。わかっちゃう?」
「まったく……! あれほど寝ろと言い付けておいたのに……このたわけ!」
朝から物凄い剣幕で怒鳴っているのは、僕の担当ウマ娘――エアグルーヴ。
普段から(一応は)年上の僕を「貴様」呼びしたり、事あるごとに「たわけ」と叱るウマ娘だ。
そんな彼女は生徒会の副会長。気位が高いのも頷ける。常に生徒たちの模範であろうという意識も、気位の高さに拍車をかけている。
要するに、とても凄いウマ娘なのだ。なんで僕がトレーナーになっているかわからないくらいには――。
「おい貴様、話を聞いているのか?」
「ごめん、ぼーっとしちゃって」
「たわけが……。集中力の低下は睡眠不足の典型的な症状の一つだ!」
「でもそうしなきゃ終わらない仕事があったから……」
トレセン学園におけるトレーナーの仕事は、それなりに多い。
担当ウマ娘の体調等の管理や、出走レースの提案、出走する場合は出走に際する処理など――。
それに加えて、練習等にかかった費用などの稟議書作成や、育成に関する報告書の作成……。
ウマ娘とのトレーニングの時間は削れないから、一番削りやすいものを削った。それが睡眠だった、という話で。
エアグルーヴも副会長。仕事が多いだけに感じたことがあったんだろう。じっとりと僕のことを見つめて、深い、深い溜息を吐いた。
「……貴様がいつも、私のために時間を割いてくれているのは解っている。それが貴様の身に強い負担をかけていることもな」
「――そんなこと!」
「心情はどうあれ、事実だ。トレーニングの時間を減らせば、それだけ貴様にかかる負担は少なくなる。そうだろう?」
「それはそうだけど……」
正直、確かにね、と思ってしまう。
でも、エアグルーヴとのトレーニングの時間を減らすことはできない。
かの”女王”に並ぼうと努力しているエアグルーヴを僕のわがままで止めてはいけないし、止めたくもない。
どれだけ無理をしてでも、僕は彼女を――目下の目標である秋華賞に勝たせなければいけない。
トレーナーとして、当然の責務だと思っている。
「だけど――」
「”だけど”……何だ? 私の歩みを邪魔したくない、などと考えてはいないだろうな」
「……よくわかったね」
「――たわけがっ! だいたいお前はな――」
ぐら、と視界が揺らいだ。全身に巡っていたはずの血の温かさが消えていく。
あ、これヤバいかも――そう思った時には、僕の体は傾いていた。
流れる視界。コンクリートが映り、でも体は動かせない。
地面に倒れ伏せる瞬間、遠くからエアグルーヴが僕を呼ぶ声がした。
心配――かけるだろうなぁ。
3 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/16(金) 00:39:29.23 ID:YZ47s4oM0
■
「………さま」
微睡の中、誰かが僕のことを呼ぶ声がした。
滅茶苦茶重いまぶた。開くことがとても面倒くさいくらいに重い。
でも、その声を聞いていると今すぐにでも開けなければ、と思ってしまう。
「………さま、だい……ぶか、おい………!」
その上、頬になにかひんやりとしたものが触れている。
目覚めろ、と。だんだんと現実のものへと戻っていく感覚。
血が巡って、体が再起動する。指先を少し動かして――目を開いた。
……するとそこには、必死なエアグルーヴの顔がいっぱいに広がっていた。
「貴様……トレーナー、返事をしろ………」
「……」
「脈はある、まだ生きてはいる――。除細動器は……あちらかッ!」
「待ってエアグルーヴ! 僕生きてる! 生きてるよ!」
ぴた。
………と止まることにはならず、10メートルほど制動距離を取って――こちらに振り向くエアグルーヴ。
その表情は、本当に驚いているようで。にじみ出る汗が、完璧だったエアグルーヴのアイシャドウを崩していた。
「………無事なのか?」
「うん、ちょっと気を失っただけみたい」
「……よかった」
「何か言った?」
「言ってない、このたわけがっ!」
明らかに怒っている言葉と裏腹に、エアグルーヴの表情は安堵しているようだった。
もしかして、僕のことで心配させてしまったのだろうか。
だとしたら、申し訳ないな。今後何をしても無理をしていないか心配させてしまうだろうし……。
4 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/16(金) 00:41:58.51 ID:YZ47s4oM0
「はぁ……。貴様、今日が何の日か知っているか……?」
「……7月15日。何かの祝日でもないし、特別印象に残っている日でもないなぁ」
「……今日はな、とある言葉を贈る日だ」
とある言葉?
「その言葉って――」
「――ッ! たわけ、たわけ、たわけーッ! 聞き返す前にまずは寝ろ! 休暇の申請はこちらから出しておく! いいか、これは担当ウマ娘命令だ! 決して違えるなよ!」
「ええ! 困るよ、仕事も溜まるし……」
「おおたわけが! こちらで処理をしておくから絶対にこっそりやったりするなよ……!」
……そこまで言われると、強くは出れない。
そもそも僕が無理をしているというのは真実なので。
というわけで、エアグルーヴに監視されながら、僕はトレーナー用の寮に戻った。
その間、エアグルーヴはいつもよりも少しだけしおらしい――気がしたけど、多分僕の勘違いだろう。
「……そういえば、今日って何の日だったんだろう?」
床に入る準備をしながら、ふと思った。
あれだけの反応を見せられたら、気になってしょうがない。寝ようにも寝ることができない。
エアグルーヴには悪いけど、こっそりと検索させてもらった。
……。
「……こちらこそ、なんだよねぇ」
僕は一人ごちって、瞳を閉じるのだった。
5 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/16(金) 00:42:56.24 ID:YZ47s4oM0
7/15
https://okwave.co.jp/news/info/6359/
6 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/16(金) 01:28:03.29 ID:YZ47s4oM0
7/16
■
「トレーナー、まだ足りないぞ……!」
「マジ、か」
空になりかけた財布をひっくり返して、空虚な気持ち。
懐が寒いとは良く言うが、実際そうなってみると寒いのは懐というより心だった。
かたりかたりと小刻みに揺れるサイドテーブルは、もはやそこにテーブルの面影を見せていない。
そこにあるのは山ほどの――駅弁の残骸だった。
「オグリ、さぁ。どこにそんな量の飯が入るんだ……?」
「解らない。でも入るという事は食べろという事だ。さぁトレーナー、もう10個」
「残念だがオケラだ。もう俺の財布には一銭も入っとらんわ」
え。オグリから言葉が漏れる。
葦毛の怪物だとかなんとか呼ばれてるが、俺からしてみたら葦毛の怪物じゃなくて食い気の怪物だ。
どうやら母親公認の食いっぷりのようで、それなりに高価なシューズやトレーニング着をして”アンタの食費より安い”と言わしめるほど。
オグリキャップの母親から教わった、「安い、早い、多い」の”はやお”料理で今まではどうにか凌いできた。
が――電車の中でおなかが減ったと言われて咄嗟に出せる食べ物なんてない。
つまり答えは駅弁。そして今に至る。
7 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/16(金) 01:29:31.22 ID:YZ47s4oM0
「お前なぁ、これから笠松に帰るっていうのに……ちょっとは緊張したりしないのか?」
「どうして緊張する必要がある? 私は故郷に帰るだけだぞ」
「オーケイ、錦を飾るって言葉をお嬢さんはどうやら甘く見ているようだ」
あと2日もすれば新年だ。
トゥインクル・シリーズも無事に乗り越え、あとは寂しく新年を迎えるだけだと思っていたが、そんなときにオグリから帰省に誘われた。
ただ一つ、通常の帰省と違うところがあるとすれば、それは俺たちがつい先日行われた有馬記念の勝者である、という事だ。
「今日の夕食を賭けてもいい。笠松のみんなは絶対オグリのことを大仰に迎えるはずだ……!」
「みんなはいつも応援してくれるが、無理はしなくていいと伝えている。昼間に行くわけだし、そんな大げさな準備は……」
「していない、と言いきれるか? 有馬記念の時だって、あんなに笠松の人たちは来ていたのに?」
ぐぬ、とオグリは口ごもる。どうやら疑わしくなってきたようだ。
オグリを応援してくれている方々――その中で最も熱狂的で真摯なファンは、間違いなく地元・笠松の人たちだ。
そんな素晴らしいファンたちだからこそ、結果がどうなるかなんて解り切ったことだった。
「トレーナー、今からでも遅くない……! 笠松のみんなが出迎えをしていない方に夕食を賭けるんだ……!」
「どうして負けることが確定している賭けに乗っからなきゃいけないんだよ……。やだよ……」
「これでは、私の夕食が……」
がっくりとうなだれるオグリ。
「……オグリお前、まだ食うつもりか」
「当然だ。医食同源、食べることは健康に繋がると教えられた」
「シンボリルドルフ……やってくれたなぁ……ッ! だいたいオグリ、お前太ったら来年のレース出れなくなるぞ! ほれほっぺだって……!」
「いはいお、ほれーはー!」
「いつも通りだ――」
「――ッ。体型意地に余念はない!」
「うるさい、人の金で食う飯はうまいか?!」
「うまい!」
「だろうな!!」
餅みたいなほっぺたを引っ張り、オグリは引っ張る俺の手を放そうとする。
だが離れない。
……ウマ娘の力をもってすれば簡単にはがせるので、これもスキンシップの一つだと認識しているのだろうが――俺にとっては懐事情に直結する有事である。
唯一の救いは、これも経費として落とせることだろうか。さすがに上限はあるので、三割程度は自費負担だろうが……。
「トレーナー! あれを見てみろ!」
「なんだいきなり……。ふむ、”弁当の日限定、飛騨牛丼”……ってお前まさか」
「トレーナー、今からトレーナーのことを揺すったら金が出てきたりしないか?」
「お前は俺のことを、金のなる木か何かだと思ってないか?」
「……オ、オモッテナイゾ」
「こりゃ思ってる顔だ……」
はぁ、と息を吐くが、これもまぁ冗談で。
「勿論嘘だ。トレーナーは私にとって、一番大事な人だからな!」
「――。お前、それ他の誰にも言うなよ……?」
「何故だ? そもそも一番大事な人はトレーナー以外に居ないだろう。言う機会もない」
「それでもだ!」
妙なところでこんな言葉が飛び出してくるから、放っておけない。
やっぱり愛くるしいウマ娘なんだ、オグリキャップというウマ娘は。
だから愛されるし、俺もこれからこいつを愛していくんだと思う。
「オグリ、来年もよろしくな」
「ああ……! こちらこそよろしく頼む」
――美味しいご飯も!
続けられたオグリキャップの言葉に、思わずずっこけた。
8 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/07/16(金) 01:30:51.66 ID:YZ47s4oM0
7/16
https://j-town.net/2014/07/16188413.html?p=all
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/16(金) 14:42:16.02 ID:nS9h7dcco
乙
毎日尊死させて頂けるって最高じゃないですかー!
10 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/07/19(月) 17:09:23.93 ID:/dmU8I1q0
7/17
■
「トレーナー! 今日付き合ってよ!」
「テイオー、いきなりどうしたの?」
「買いたいものがあるんだー。ね、一緒に買い物いこーよ―」
小さな手が、私の腕を掴む。
トウカイテイオーはいつだって私の腕を引っ張ってくれて、私はそれが大好きだった。
この手に連れていかれるのであれば、たとえ地獄であろうとも向かってもいいと思っているくらいには。
「トレーナー? また変なこと考えてるでしょ?」
「え? ああ。ごめんなさいね。少し考え事をしていて……」
「もー! そんなんじゃ甘いよ、これから行くのは”皇帝”ご用達のお店なんだからっ」
皇帝……シンボリルドルフさん。テイオーが憧れている最強の三冠ウマ娘だ。
彼女のあり方はテイオーに強い影響を与えているけれど――時折妙な方向にテイオーが突き進む原因にもなっている。
今回は妙なものでなければいいんだけど……。
「む、トレーナー、何か疑ってるー?」
「疑ってなんかないよ! ただ、皇帝御用達のお店ってどんなお店なんだろうって思って……」
「ふふーん。それは行ってみてのお楽しみだよ、トレーナー!」
テイオーはいつも通りのドヤ顔をこちらに向け、白い歯を見せる。
最初のころはこの笑顔がとても頼もしく見えたけど、今となっては――少し怖い。
いや、テイオーが怖い、ってわけじゃない。なにが起こるのかわからないという意味で、怖い。
テイオーのお転婆ぶりは私もよく知るところ。だからテイオーが悪いわけでもないんだけど……。
「トレーナー、行くよ?」
「あ、ごめん。……どこに行くんだっけ?」
「あー、聞いてなかったんだぁ……? いっけないんだー。人の話はちゃんと聞かなきゃ!」
「うっ……。その通りだ、ごめんねテイオー」
「はちみーで手を打とうじゃないかー!」
「濃いめ固め多め、だよね」
わかってるねトレーナー!、とテイオーは握った手をぶんぶんと振る。
どうやら機嫌を直してくれたようだ。
「それで、どこに行くのか改めて教えてほしいんだけど……」
「どこって、皇帝御用達のお店だよ?」
「具体的に、それは何のお店なのかな?」
テイオーの視線が「待ってました!」とにやついた。
「――書店だよ、トレーナー!」
「ああ、書店ね……書店?」
皇帝御用達の書店……?
11 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/07/19(月) 17:10:41.17 ID:/dmU8I1q0
■
「着いたよ、トレーナー!」
「……普通の書店だ」
「え? 普通の書店だよ?」
「いや、うん。ルドルフさんが使ってる書店だっていうから、もうちょっとこう……オシャレなものを想像してた……」
「ちょっとわかるかも。カイチョーだったらこう……。びしっと決めたおじいさんが店主してるお店とかで、眼鏡キラーン! ってさせながら本探してそうだもんね!」
「いや、そこまでは……」
……でも、確かに似合いそうではあるな。なんて思ってたら、テイオーに腕を引っ張られて店内へ。
中に入ってみると、やっぱり普通の書店なんだな、と再確認する。
特別目につくところはない。駅前にある少し狭めの書店だな、という印象。
テイオーが目的とする場所は少し奥まった場所にあるようで、引っ張られるままに向かう。
「よし、ここだ……!」
「えーっと……。単行本、諸芸・娯楽――?」
皇帝のイメージにはそぐわない本が揃っているコーナー。それが私の抱いた第一印象だった。
「カイチョーが言ってた本ってこれだったっけ……」
「”究極のウケを狙え! 必殺ダジャレ百連発”……?」
はた、と気づいた。ルドルフさんには悪癖が一つだけあったことに――!
それは、壊滅的なまでのジョークセンス。
ありとあらゆることが完璧に見えるルドルフさんだからこそ、際立って見える。
どうやら、エアグルーヴさんもルドルフさんのジョークセンスには苦悩しているらしい……。
そんなセンスまで、テイオーは真似しようとしている。なんとなくだが、それは駄目な気がして。
「て、テイオー! あっちにいい感じの本があったから、そっち見よ?」
「えっ、トレーナー? いきなりどーしたのさ……?」
「ほら、この本とかよさそうじゃない?!」
破れかぶれに、近くにあった本を指さす。
「……ぇ? と、トレーナーって……もしかしてそういう……?」
テイオーの顔が、見る見るうちにゆでだこみたいに赤くなっていく。
見慣れない反応。だけど、その表情が意味するものをちょっと理解してしまって……。
私は、油が差されていない機械みたいに、ギギギと首を本の方へと向ける。
――”白百合学園の事件簿〜弱気な陸上部顧問と、強気な陸上部エースの秘め事〜”と題されたそれ。
表紙に描かれているのは、女性同士で絡み合う、中学生くらいの女の子と大人の女性。
何故か、運命的なまで私とテイオーに似ている登場人物が――その、R-18的行為を行うであろう、漫画。
「……?! こ、これは違うの!」
「ぴっ……?! と、トレーナー! 確かにボクはトレーナーのことが好きだけど、そーいうことをするにはまだ早いっていうか!」
「違うんだよ、テイオー?! これは偶然指さしちゃっただけで……!」
「わかってる、わかってるから――少し落ち着く時間がほしーなーっ!!!」
ばびゅん、と。今までに見たことがない速度でトレセン学園へ向かうテイオーを、私は見送ることしかできなかった……。
12 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/19(月) 17:12:36.17 ID:/dmU8I1q0
7/17
https://zatsuneta.com/archives/107171.html
13 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/19(月) 17:21:34.24 ID:/dmU8I1q0
※7/18分は「光化学スモッグの日」、「ネルソン・マンデラ・デー」が観測範囲では発見しうる記念日ですが、両者とも政治的、あるいは他者に対して心理的負担を与える表現となり兼ねず、これはウマ娘公式が定める二次創作コンテンツのあり方に反すると考えられます。その為、適宜的に2021年7月18日(第三日曜日)の記念日となりますことを予め報告させていただきます。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/19(月) 17:59:27.22 ID:XTLDhbyeO
続けて
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/19(月) 18:02:46.76 ID:TTN1xnguo
配慮◎
テイオー✕女トレーナー最高!
16 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/07/19(月) 18:08:52.32 ID:/dmU8I1q0
「……。どうしたのさー。今日はやたらとべったりじゃないですかー」
「今日だけはこうしたいなーって思って」
「……ま、いいですけどね。釣りの邪魔になったら転がしますよ〜」
「そりゃ勘弁だ」
セイウンスカイの膝の上で、笑いをこぼす。
今日は快晴。絶好の釣り日和という事で――スカイと一緒に沢釣りに来ていた。
が、俺は割と早々に根を上げてしまい、釣り糸を垂らすスカイとじゃれあっていた。
結果としてうざがったスカイが俺のことを膝にのっけて、今に至る――。
「にしても、釣れないな」
「まだ釣り糸垂らして一時間も経ってないじゃないですか。そんなんで根を上げるなんて、トレーナーさんは釣りには向いてませんな〜?」
「そうかもな……。でもまぁ、慣れ親しんでおく必要はありそうだし」
「へぇ〜。どうしてか聞いても?」
「どうせ末永くよろしく、ってことになるだろうし」
へぇ、と頭上から声が降ってくる。
今の会話を聞いた誰かが思うような関係ではないけれど、多分、お互いがお互いの距離感に居心地の良さを感じている以上――近しい関係にはなるんじゃないかな、と考えている。
そもそもこの距離を許してくれているんだ。そう考えても別に――問題はないだろ?
そんな視線をスカイに投げると、にゃはは、と小さな笑みが返ってきた。
うーん。やっぱりこの空気感がたまらなく好きだな。何というか、阿吽? って感じがして。
「トレーナーさん? いきなりおなかに頭を押し付けられると竿が動いちゃいますってば〜」
「多少動かすくらいなら、逆に魚が食いつくんじゃないか?」
「……一理あるかも」
「だろ?」
「でもそれは少しくすぐったいので辞めてほしい気がしますよ〜セイウンスカイさんは」
「そっか」
「やめてといったんですけどね〜? トレーナーさーん?」
咎めるような言葉。でも、そこに本当に咎める気はない。
もう少しだけ、おなかの柔らかさを感じようとぐりぐりと頭を押し付けようとしたとき――。
17 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/07/19(月) 18:09:34.08 ID:/dmU8I1q0
「――仕返し、しちゃいますからね」
間延びしていて。でも少しだけ真剣みを帯びた声が降ってくる。
しまった、やりすぎたか――そう思った時にはすでに遅かった。
白く細い両手が、俺の頭をかっちりと掴む。がっちりと視線が真上にロックされた。
「にゃは、やっぱり人間って弱いなぁ」
「そりゃウマ娘に比べたらか弱いよ、俺たちは」
「そんな相手にちょっかいを出す魂胆は見上げたもんですよ、トレーナーさん?」
「……はは、何されるんだか」
諦念を込めて、全身の力を抜く。すると、空が映っていた視界が――急に手で遮られる。
ひんやりとしていて、少しゴムの匂いがする手。根っからの釣り好きが、今は俺のことに意識を割いていた。
「何されると、思います?」
「さぁ。今でも君のことを十分に理解していないからね、俺は」
「にゃはは、女は多少ミステリアスなほうがモテるって聞きますからね〜」
「これ以上謎を増やさないでくれ、見失いそうだ」
「心配しなくても、のらりくらりとしたら帰ってきますよ〜。そう、猫みたいに!」
……はぐらかされた、気がする。
まぁ、今此処で殺されようと、俺にとって文句はない。
何なら幸せな気分のまま死にたいから、殺してくれ、とすら思ってしまう。
試しに口に出してみようか。そしたらスカイは、俺のことを殺してくれるのだろうか。
「トレーナーさん? 妙なことを考えてますな?」
「良く解ったな」
「はー。それくらいわかりますってば。何年一緒にいたと思ってるんですか?」
「何年だったっけか」
「……そんなことを言うトレーナーさんにはーこうだっ!」
ば、と。手のひらがどけられる。
そこには、視界いっぱいに広がるセイウンスカイのにやけ顔。
毛先から、その肌から。セイウンスカイが匂った。
何度もどきりとさせられたが、やっぱりどきりとする。何度でもする。
整った顔立ちだとか、雰囲気とかもそう。多分、何というか。
……全部が、好きなんだな、と思う。セイウンスカイの。
あちらが、俺と同じ気持ちなのかはわからないけど――。近しい気持ちであることを願って。
18 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/07/19(月) 18:10:10.15 ID:/dmU8I1q0
「ひゃ」
……変な声が俺の口から漏れた。
ふと見れば、スカイの白く細い指が、俺の脇腹を這うように登っていて。
「ひ、は! そ、それはっ……! あは、駄目だって!」
「うりうり〜」
「ひゃ、う、ひ、はははっ! 駄目、死ぬ、死ぬって! ひへっ!」
「これは罰ですから〜。トレーナーさんが反省するまで止まりませーん」
「は、反省するからっ! やめ、辞めてくれー!」
「しょうがないにゃぁ」
ぱ、と手が離されると、息が苦しかった。
「ま、でも大事なのは今までだけじゃないんですけどね」
「今後も?」
「そう」
「末永く?」
「いえす」
「そりゃいいや」
「でしょう?」
いつもみたいに、猫みたいに笑うスカイ。
そんな頭を乱暴に撫でて、起き上がる。
スカイに肩をくっつけるように座って、大きく欠伸。
「穏やかだなぁ」
「ずっと続くといいですな〜」
「ま、続くんじゃないか?」
「そうですかね?」
「疑問を持たれちゃ弱いよ」
「にゃはは。だって、ほら」
――髪飾りのこれ、タンポポなんですよ?
そう笑うスカイの笑みに、俺はなんとなく頷けてしまった。
19 :
◆FaqptSLluw
[sage saga]:2021/07/19(月) 18:11:35.07 ID:/dmU8I1q0
7/18(第三日曜日)
・https://www.nnh.to/00/#d3sun
・
http://www.jra.go.jp/
20 :
◆FaqptSLluw
[saga]:2021/07/19(月) 20:08:06.26 ID:/dmU8I1q0
「む、むむむ……!」
「おや、何を悩んでいるのかね、助手君」
「ええ、実は――って、誰が助手ですの?!」
おやおや、意識外から認めさせる作戦は失敗してしまったようだ。
いつもは優等生のメジロマックイーン君に隙があるとすれば、こういう考え事をしているときだと思ったのだがね……。
現実はそう甘くない、という事なのだろうね。
「……それはそうと、何を悩んでいるのかな? 君がそこまで悩むという事は、さしずめスイーツ関連かい?」
「えっ?! 何故それを……!」
「はぁ……。君は君が思っている以上にわかりやすいことを自覚したまえ……」
「わかりやすいってどういうことですの……?」
「いつもは迅速果断なのに、こと菓子類を目の前にしては壮麗なまでの雰囲気が台無しだ、と言いたいのだよ……」
いつもは見惚れるくらいに美しいのに、菓子類がかかわると如何してこうも気の抜けた様子になるのだか。
そんなところもメジロマックイーン君の魅力なのだろうけれど。
まぁ、簡単にほかの人にこんな様子のメジロマックイーン君を見させるわけにはいかないし、情報の操作はさせてもらっているんだけれどね!
理由? そんなものはない。ただ、そう。これはイメージ戦略のためだ。たった今考えた。
……ファンを増やすことを目標とするのであれば、むしろ魅力的な姿を発信するのがトレーナーの役目である気がするが――。いや、気にしないでおこう。
「で、悩みは何かね、助手君」
「もう助手君呼びは治らないんですのね……。観念しましたわ」
「そういう星の下に生まれたと納得してもらえると助かる」
「誰もそんな星の下に生まれていませんわ?! まったく、トレーナーさんったら……」
「まったくとはなんだまったくとは。まるで子供をあやす様な口ぶりだな、心外だぞ!」
「自覚ないんですの?」
「何の自覚だというのだね」
「え、だから……トレーナーさんが子供っぽいっていう自覚ですけれど……」
どちらかというとメジロマックイーン君の方が子供っぽいと思うのだが……これでは堂々巡りだ。
しぶしぶ折れてやる、と目で語れば、メジロマックイーン君は頬を膨らませながら抗議の視線を送ってきた。
どう、どう。
「なんだか腑に落ちませんわ……」
「まぁそれはいいんだよ、助手君。悩みは何かね?」
「実は……この前お菓子の会社からCM出演の依頼が来たではありませんか」
「ああ、知育菓子のCMだね。いやはや、随分と似合っていたよ――」
「誰が似合っていたですか、誰が! ……話を戻しますわね」
「ああ」
「イラッとしますわね、その相槌……。CM出演のお礼に、知育菓子をそこそこの数頂いたのですが、その処理を考えていまして……」
ああ、この前トレーナー室に積み重ねられていた段ボールは知育菓子の山だったのか。
謎が一つ解けて少しホッとした――のだが。
「処理に困るものか? 食べればいいのではないかい?」
「……貴方がそれを言うんですの?! レース前ですのよ?」
「あぁ、そうだった……。軽率だったとは思わないけれど、一応謝っておこう」
「謝罪する気なんて毛頭ないんですのね?!」
「あるよ、だから謝っているんじゃないか」
「心から謝ろうとする人間は一応謝ろうなんて物言いしませんわ……」
はぁ、とため息を吐くメジロマックイーン君。
疲れているのかい? 休みを取ったほうがいいのではないのかい? と聞いたら「誰のせいでッ……!」と怒られてしまった。何故だろう……?
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