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結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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492 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/20(土) 23:21:37.49 ID:TJ4tDQ6ko
同日 18:40
-第七学区・路地裏-
黒子「……貴女でしたのね。第七学区内を逃走していた強盗犯。結標淡希」
結標「ご、ごう、とう……?」
美琴「えっ、強盗!? 無能力者狩りの犯人じゃないの!?」
黒子「無能力者狩り? いえ、そんな通報受けては、ってお姉様? 貴女がここにいるのとその無能力者狩りというのはもしかして何か関連性があるんですの?」
美琴「え、えーと、その……」
黒子「お姉様。わたくしはあれだけ口を酸っぱくして申し上げましたのに、何でまた厄介事に首を突っ込んでいるのでしょうか?」
美琴「しょ、しょうがないじゃない! 助けてって言われたら助けに行くしかないじゃない!」
黒子「そういうのはジャッジメントやアンチスキル等の治安組織の管轄ですのよ! 一般人のお姉様がどうにかするのは本来は違反になるんですの!」
美琴「わかってるわよそれくらい」
黒子「……さて、与太話はこの辺にして仕事の方に戻りましょうか」
結標「はぁ、はぁ………」
黒子「結標淡希。まさか貴女がまたこのようなことをしているとは思いませんでしたの」
結標「な、なにを言っているの? 私はそんな、強盗なんかじゃ、ない」
黒子「ほう、しらばっくれるつもりですの? ではその手に持っているキャリーケースは一体なんなんでしょうか? 貴女の持ち物ですの?」
結標「こ、これはおばあちゃんの荷物を、代わり持ってあげてた、だけよ」
黒子「そのおばあちゃんとやらがこの場では見当たりませんが?」
結標「はぐれたのよ、こ、ここまで来る道のどこかで」
黒子「ここの通路は一本道です。わたくしはあちらの方から来ましたが、そのような人は見かけませんでしたの。ちなみにお姉様は?」
美琴「私はこっちから来たけど人なんて通ってなかったわよ?」
結標「そ、んな……」
黒子「というわけで貴女を容疑者として拘束させていただきます、と言っても貴女もテレポーターです。対空間移動能力者用の拘束具を今持ち合わせていませんので形だけの拘束となりますが」
黒子「大人しくこのまま連行されていただけると非常に助かりますの」
結標「な、なんで……イヤ……」
ガチャリ
493 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/20(土) 23:22:31.53 ID:TJ4tDQ6ko
美琴(……? 結標ってこんなに大人しく捕まるようなヤツだったっけ? それにさっきから様子がおかしいみたいだし)
黒子「どうかなさいましたかお姉様?」
美琴「いや、何でもないわ」
黒子「そうですか。えー、こちら白井。容疑者を拘束いたしました。しかし容疑者の能力はテレポートですので、至急、対空間移動能力者用の拘束具を要請しますの」
結標「……し、らい。しらい、くろこ………?」ズキッ
黒子「? どうかなさいましたか?」
結標「あ、貴女は、『白井黒子』っていう、の?」
黒子「そうですが。というか何で今さら名前を確認いたしますの? まさかわたくしの名前を忘れていたなどとはおっしゃりませんよね?」
結標「白井……黒子……うぐっ」ズキンッ
『今からその腐った性根を叩き直して差し上げますの!!』
結標「!!!?!!!?」ドサッ
黒子「ッ!? ちょ、ちょっと貴女どうかなさいましたの!? いきなりうずくまって!」
美琴「やっぱり様子がおかしい……! 黒子、一応医療施設の手配もしておいたほうがいいかもしれないわよ」
黒子「そ、そうですわね。こちらしら――」
ドオオオオォォォォン!!
494 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/20(土) 23:23:26.93 ID:TJ4tDQ6ko
黒子「ぐっ!?」
美琴「な、なにっ!? いきなり空から何かが降ってきたッ……!?」
????「――ったくよォ、たかだか缶コーヒー買いに行くだけでどンだけ時間かけるつもりだよ? こちとらもォ喉が渇き過ぎて、喋るのもダルくなってきてンだっつゥの」
美琴「あ、アンタは……『一方通行(アクセラレータ』!?」
一方通行「あン? 超電磁砲じゃねェか。それに白井、だったか。何だこの面子は……あァ?」
美琴「な、なんでアンタがここに……」
黒子「貴方はたしか、初詣のときにお会いした殿方?」
結標「…………」
一方通行「……ガキども、コイツはどォいう状況だ?」
――――――
495 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/20(土) 23:26:06.87 ID:TJ4tDQ6ko
誰も望んでいない展開定期
次回『S3.タイトル未定』
まだ全然そういうの決めれてねンだわ
496 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:18:27.04 ID:G65aU121o
今回からクソみてえな地の文がつく
台本形式やし地の文は読み飛ばしてもええかもわからん
先に行っとくけど戦闘描写は極力省くわ下手クソ地の文の戦闘長々やってもしゃーないしね
投下
497 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:20:30.47 ID:G65aU121o
S3.トリガー
第七学区にある地裏の開けた場所、そこに四つの人影があった。
一つは一方通行(アクセラレータ)。
杖の付いていない左手を首に当て、頭左右に揺らしてゴキリと音を鳴らしながらその場に立っていた。
一方通行の位置から五、六メートル離れた位置には三つの少女の影。
一人は御坂美琴。
目の前に急に現れた一方通行を警戒するように、彼の姿を目に見据えながら身構えていた。
一人は白井黒子。
同じく突然現れた一方通行に驚き、少し混乱している様子だった。
一人は結標淡希。
少女二人の足元でうずくまり、頭痛がひどいのか両手で頭を抱えている様子だった。
一方通行「――もォ一度聞く」
沈黙を破ったのは一方通行だった。
一方通行「これは一体どォいう状況だ? ここで何があったって言うンだ?」
美琴「そ、それは……」
黒子「お姉様」
何かを喋りだそうとした美琴の前に、黒子は手を出し制止した。
ここは風紀委員(ジャッジメント)として自分が喋らなければいけないという、意志の表れだろうか。
黒子「本日の一七時四〇分頃、わたくしが所属している風紀委員活動第一七七支部へ強盗事件が発生したという旨の通達を受けました」
黒子「わたくしはその強盗犯を拘束する任に付き、今まで追跡行動を取っていました」
黒子「そして、その結果こうして強盗犯を確保することができ、これから連行をしようしているところです」
黒子がひとしきり説明したあと、一方通行が口を挟む。
一方通行「……で、そこに転がっている女がオマエの言う強盗犯っつゥことか?」
一方通行は二人の後ろでうずくまっている少女に視線を移した。
腰まで伸ばした赤髪を二つに束ねていて、腰に巻かれたベルトには軍用懐中電灯が引っ掛けられている。
結標淡希。先程まで自分と行動をともにしていた女。
何度見返しても紛れもない自分のよく知る女が目に映るだけだった。
その彼女が強盗犯という扱いを受けていると知り、一方通行は口を開く。
一方通行「ソイツは何かの間違いだろ? その女が強盗犯なわけがねェだろ」
黒子「それは、どういうことですの?」
一方通行「その女にはアリバイがある。なぜなら、アイツはその事件発生時は俺と一緒にいたからな」
一方通行は先程少女の言った言葉を思い出していた。
今日の一七時四〇分頃に事件発生の通達が来た。つまり、事件はその時間以前に起こったことになる。
その時間帯は、たしかに自分と結標淡希が一緒に居た時間だ。ショッピングモールからの帰り道で歩きながらなんてことのない雑談をしていた記憶がある。
自分の記憶が正しければ彼女はそんな強盗なんていう行為はしていないし、自分の目を盗んでそういう行為を行う時間もなかったはずだ。
498 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:22:29.39 ID:G65aU121o
黒子「……この場合、貴方がこの女をかばって虚偽の情報を言っている可能性がありますが、それが虚偽ではないという証明はできますの?」
一方通行「その時間は第七学区の駅周辺を歩いていたはずだ。そこらの監視カメラとかの映像を見れば証明できるだろ」
黒子「しかし、それを確認するためには手間と時間がかかりますわ」
一方通行「どォいう意味だ?」
黒子「こちらがもらった犯人の容姿と彼女の容姿は告示しておりますし、わたくしも衛星カメラからの映像で追跡してここまでたどり着き、彼女と出会いました。そして何より」
黒子が結標の側で倒れているキャリーケースへ目を向けた。
黒子「盗難品であるこのキャリーケースを持っていたという事実があります。貴方の言うように犯人では無いにしろ、何かしら事件へ関わりがあったということが考えられますの」
黒子「強盗犯の疑いがある以上、ここで拘束させていただき、連行させていただくことには変わりはありませんわ。アリバイ等の確認はそれ以降になるかと」
一方通行「…………」
たしかにそうだ、と一方通行は言葉を飲んだ。
あのキャリーケースは自分も知らないものだ。自分と一緒に居たときはあんなものの存在は欠片たりとも認識していなかった。
そこで一方通行の中で一つの疑問が浮かんだ。
彼女はいつ、どこであれを手に入れたのだろうか。
一方通行「……オイ、白井」
黒子「何でしょうか?」
一方通行「その女と話をさせろ」
黒子「……それは構いませんが、妙なことをしましたら貴方も共犯者とみなし拘束対象になるということは忘れずに」
一方通行「ああ」
そう返事をし、一方通行は結標淡希へ向けて足を進めた。
しゃがみ込み、うずくまっている彼女の肩を揺さぶりながら喋りかけた。
一方通行「オイ。オイ、淡希」
美琴(……淡希?)
美琴が彼の言葉に眉をひそめた。
しかし、一方通行はそれに気が付くことなく続ける。
一方通行「聞こえてンのか? オイ!」
結標「…………、うっ」
何度もかけられた声にやっとのこと結標は反応を示した。
唸り声のようなものを吐きながら、少女は目の前に顔を上げた。
結標「だ、誰……ッ!?」
一方通行「あン?」
結標と一方通行の目が合った。その瞬間変わった。
少女の顔に映る、何が起こっているのかわからないと困惑している表情から一気に。
死を目の当たりにしたときのような、恐怖で顔を歪めた表情に。
結標「あ、一方通行……?」
一方通行「……どォした? あわ――」
結標「い、イヤッ!!」
一方通行「ッ!?」
結標は短い悲鳴を上げた瞬間、空気を切るような音とともにその姿を消した。
その場に残っていたのは彼女の手の自由を奪っていた拘束具と、アスファルトに倒れたキャリーケースだけだった。
499 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:24:05.74 ID:G65aU121o
美琴「き、消えた!?」
黒子「しまったッ!? くっ、どこにッ!?」
黒子が周囲を見渡した。数秒も経たないうちに目標を捉える。
黒子「ッ、いましたわッ!!」
結標淡希は先程居た位置から一〇メートル程離れた位置。路地裏の細い通路に入りかかる場所に立っていた。
黒子「やはり大人しく捕まる気はなかったようですわね。こうなったら力尽くで――ってちょっと!?」
黒子が武器である金属矢を収納している、太腿に巻いたホルダーへ手をかけようとしたとき、彼女の目に少年の姿が映った。
機械的な杖を器用に使いながら、結標淡希へと足を進める一方通行の姿が。
一方通行「オイ、何をそンなにビビってンだオマエ? 一体どォしたっつゥンだよ」
結標「や、やめて。来ないで……」
一方通行「……、オマエ、まさか――」
一方通行が何かに気付き、顔を歪める。
それを見た結標がビクリと体を震わさせて、
結標「こっちに来ないでよ!! この『化け物』ッ!!」
叫び声とともに、結標は再び空気を切るような音とともに姿を消した。
一方通行は彼女がいたはずの空間を大きく見開いた目で見ながら、呆然と立ち尽くしていた。
黒子「あの状態でのテレポートならそう長い距離は跳べないはず。すぐに追跡を――」
黒子は逃げ出した結標淡希を追うべく、身構えた。
彼女の能力は空間移動能力(テレポート)。手に触れた物体や自分自身の体を転移させる能力。
この強力なチカラを使えば、再び逃走者を補足することも可能だろう。
だが、黒子がこのチカラを行使し追跡を開始することはなかった。
なぜか。
黒子「――がっ!?」
一方通行「…………」
一方通行。学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)。その中の頂点である第一位の能力者。
その怪物の左手が、白井黒子の首を鷲掴みにして宙へ釣り上げていたからだ。
500 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:25:34.28 ID:G65aU121o
黒子(!!!?!!!? い、息が、できッ!?)
一方通行「超能力っつゥのはただ能力を使います、って思えば使えるほど簡単なモンじゃねェ。それを使うために脳みそフル回転させて式を立てて、演算する必要がある」
顔を真っ赤にさせながら足をバタつかせている黒子を眺めながら、一方通行は語りかける。
一方通行「白井。オマエの能力はたしかテレポートだったか? よく知らねェが結構複雑な演算すンだろ?」
黒子(に、逃げなければ、だ、だめだ、頭がまわら)
呼吸困難になった黒子の表情が大きく崩れる。
顔にあるあらゆる穴から体液が漏れ出し、赤くなっていた肌の色が段々と青ざめていく。
一方通行「あはっぎゃはっ!! 突然首ィ絞められるみてェな急激な状況の変化ァ、そンな中で演算なンかに思考を回す余裕ねェよなァ!?」
悪魔のような笑い声を上げながら少女へ圧倒的なチカラを振るう一方通行。
しかし、引き裂くような笑顔が次第に冷静な表情へと変化した。
一方通行「あの女に何をしやがった? 悪りィが全部吐いてもらうぞ? できねェっつゥならこのままこの首をへし折って――」
美琴「一方通行!!」
遮るように一方通行を呼び掛ける者がいた。
一方通行は首だけを動かし、声のした方向を見る。
そこには御坂美琴が立っていた。特になにか構えることもなく、ただそこに立っていた。
美琴「……やめてよ、一方通行」
一方通行「そォいやオマエも居たな。オマエにも聞きてェことが腐るほどあンだ。コイツから吐かせたあと相手してやっから――」
美琴「お願い!! やめてよ。黒子を離してあげてよ、一方通行……」
一方通行「ッ」
不安で押しつぶされそうな表情をした美琴を見て、一方通行の脳裏に一人の少女がよぎった。
打ち止め(ラストオーダー)。
御坂美琴の提供したDNAマップから生まれた体細胞クローンである少女。自分が守ると決めた、自分の生きる意味を教えてくれた少女が。
一方通行の左手から力が消え、緩やかに開いた。
黒子「ごほっ!? がはっ、おぇ、ごほっ、ごほっ、すぅ、がふっ!!」
一方通行の魔手から逃れた黒子は両手を地面に付け、顔を下に向けながら呼吸を必死に整えていた。
501 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:26:49.15 ID:G65aU121o
一方通行「……悪りィ。ちょっと頭に血ィ昇ってた」
首元の電極にのスイッチを押し、能力使用モードを解除する。
美琴「ねえ。アンタって結標淡希とどういう知り合いなわけ?」
一方通行「……別に大した知り合いじゃねェよ」
美琴「嘘よ」
一方通行「あァ?」
美琴「アンタがあんなに取り乱したところなんて見たことない。つまり、それだけの関係ってことでしょ?」
一方通行「…………」
美琴「それにアンタあの人のこと『淡希』って呼んでた。アンタが名前で呼ぶような人がただ知り合いなわけない」
一方通行「…………はァ」
一方通行はため息をつき、しばらく空を見上げた。
日は完全に沈んでおり、空には星の光が点々としていた。
そして少年は、面倒臭そうに口を開いた。
一方通行「アイツは……俺の恋人ってヤツだった」
美琴「ッ!?」
一方通行「今日は朝から一緒に出かけてて、映画行って、メシ食って、買い物して、さっきまでそこの公園のベンチに座って馬鹿みてェな話してたところだった」
美琴「…………」
一方通行「だからこそ知りてェンだよ。ここで何があったのか。アイツの身に何があったのかをよ」
―――
――
―
502 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:29:14.06 ID:G65aU121o
黒子「こちら白井。申し訳ございません。犯人の逃亡を許してしまいました」
白井黒子が耳に取り付けた端末で風紀委員(ジャッジメント)の仲間と通話していた。
黒子からの任務失敗の報告に対して、真っ先に返事をしたのは先輩である固法だった。
固法『……そう。相手がテレポーターならしょうがないわ。初春さん、追跡を再開してもらえる?』
初春『了解です』
固法の指示に対し、バックアップ担当の初春が一言で返事をする。
黒子「初春。ちなみに逃亡者の名前は結標淡希ですの」
初春『結標淡希……ってあのときの!?』
黒子「そうですの。なので今回の事件発生当時の、この辺り周辺の監視カメラの結標が映っている映像データの解析も並行してお願いできます?」
初春『なるほど。アジト等の隠れ家の位置を見つける手がかりになるかもしれませんしね。わかりました』
そう言うと初春の電話口からカタカタとキーボードを叩く音が聞こえてきた。
固法『こっちは他の一七七支部のメンバーと合流したわ。すぐそちらに合流する』
黒子「……いえ。実は逃げられるときに少し負傷してしまいまして。すぐに応急処置して合流しに行きますので、追跡のほうを優先してください」
固法『大丈夫? 救援のために一人くらいそちらに送りましょうか?』
黒子「だ、大丈夫です。本当に大したものではありませんので! で、では治療のために一度こちらからの通信は切ります」
耳に付けた端末をオフにしながら、黒子はため息を付いた。
そして視線を一緒にいる美琴へ向ける。
黒子「……さて、これで少しの間だけお話する時間は取れましたのよ?」
美琴「ごめんね黒子。これって思いっきり規則とかの違反になっちゃうよね?」
黒子「当たり前ですの。これがもしバレたら始末書アンド始末書のフルコース確定ですわよ」
美琴「ありがとうね。この埋め合わせは必ずするから」
黒子「それならば今度の週末一日デートでお願いしますの。もちろん二人きりで」
あはは、と苦笑いする美琴。
「絶対ですよ」と念押しした後、黒子が彼女へ向けていた視線を一方通行へ移す。
黒子「……本当は暴行罪及び治安維持妨害で貴方を拘束してやりたいところですが、お姉様に免じてとりあえずは不問といたします」
一方通行「悪かったな」
首に残った痛みを手でほぐしながら、黒子は問いかける。
黒子「で、聞きたいこととはなんでしょうか?」
一方通行「さっきも言ったが、この現場で何があったのかだ。事細かく喋れ」
黒子「ふむ、そうですわね……」
黒子は考え込みながら、美琴の顔を見る。
黒子「わたくしが喋るより、先にお姉様から話したほうがよろしいのでは?」
美琴「私?」
黒子「わたくしがここに到着したときには、すでにお姉様はここにいましたでしょ?」
美琴「え、ああ、そうね。えっとどこから喋れば……」
503 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:30:52.21 ID:G65aU121o
顎に手を当てしばらく考え込む美琴。
考えがまとまったのか、うん、とつぶやき一呼吸置いてから再び喋り始める。
美琴「私が寮へ向かう帰り道のことだったわ。道端に傷だらけでボロボロになっている男の人を見かけたのよ」
美琴「ほっとくわけにはいかないから、その男の人に声をかけて、喋っているうちにその怪我はある能力者にやられたってことがわかったわ」
美琴「で、この路地裏でその能力者に仲間が襲われているから助けてくれって言われたから、ここまで走ってきたってわけよ」
美琴の説明を聞き、黒子はなるほどと納得したような声を出して、
黒子「それでお姉様は結標淡希を無能力者狩りの犯人だと思っていたのですね」
美琴「そういうこと」
黒子「……というかお姉様? 普通そういうことはアンチスキルやジャッジメントへ通報するのが先ですのよ?」
美琴「はいはいわかってるわよ。そう何回も言わなくても」
黒子「本当にわかっているんですの?」
一方通行「で、そのあとはどォなったンだ?」
話が逸れていきそうになっている先輩後輩コンビの会話に割って入る一方通行。
ごほん、という咳払いをしてから美琴は話を再開した。
美琴「やったことって言っても大したことはしていないわよ? ちょっと会話したくらいよ」
一方通行「会話? 内容は?」
美琴「……えっと」
一方通行「あン?」
美琴「あ、一方通行? ちょっと耳貸してちょうだい」
そう言うと美琴は一方通行の隣に行き、口を耳元に近づけた。
美琴「(結標とした会話の内容をちょっとこの子に聞かれたくないのよ。突き詰められたらあの『実験』のこととか喋らなくちゃいけなくなるし)」
一方通行「(『実験』っていうのは『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』のことか?)」
美琴「(そうよ。結標とは直接的には関係はないんだけど、全容を喋るってなるとどうしても引っかかってくるっていうか)」
一方通行「(オマエ、もしかして『残骸(レムナント)』のこと言ってンのか?)」
美琴「なっ、なんでアンタがその名前をッ!?」
思わぬところから思わぬ単語が出てきたことにより思わず美琴は声を荒げてしまった。
大声を浴びた一方通行は貸していたほうの耳を弄りながら、
一方通行「……うるせェな。耳元で大声上げンじゃねェよ」
美琴「ご、ごめん」
二人の様子を見ていた黒子が怪訝な表情を浮かべながら、
黒子「さっきから二人で何コソコソ話していますの? というかお姉様? そんな不用意に殿方と近寄ってはいけませんのよ! ただでさえあの腐れ類人猿と――」
美琴「ちょっと! それは今の話とは全然関係ないことでしょ!?」
一方通行「また話が逸れ始めてンぞ。早く話ィ進めろ超電磁砲」
ごめん、と美琴は謝ってから再び話を続ける。
504 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:32:53.16 ID:G65aU121o
美琴「……まあ、そうね。簡単に言うと、去年の九月頃に、あるモノを巡って私と結標淡希の間に因縁みたいなものがあったのよ」
美琴「結果的に、結標淡希はそのモノを手に入れることができず、それは破壊された。それを壊したのは私じゃないけど、私がそれを手に入れることを妨害していたっていうのは事実ね」
美琴「で、私はそれを彼女が未だに根に持ってて、その憂さ晴らしで無能力者狩りなんて行為をしているんだと思った」
美琴「だからそんなことはやめろ、やめないなら私が代わりに相手になってやるって言ってやったわけよ」
美琴「そのあとに黒子が来たのよね? たしか」
急に話を振られた黒子は首を傾げる。
黒子「たしかと聞かれましても、わたくしは会話自体は聞いていませんのでそこは答えかねますの」
一方通行(……『残骸(レムナント)』、か)
御坂美琴が言っていた『残骸(レムナント』と、それを巡った抗争があったことは一方通行は知っていた。
あくまで打ち止めを経由して聞いたミサカネットワーク上に流れていた情報だけだが。
いろいろな組織が動いていて大事になっていたことは聞いていたが、まさか彼女たちのオリジナルである御坂美琴も抗争に参戦していたとは思いもしなかった。
まあ、彼女の心境からしてこれを知ってしまったら、参戦しないという選択肢はないに等しいのだろうが。
一方通行(…………ということは)
黒子「さて、今度はわたくしの番ですわね」
一方通行は様々な考えを巡らせていたが、黒子は気にせず自分の話を始めた。
少年は適当にため息をつき、黒子の方へ視線を向ける。
黒子「今回起きた事件に関しては、先程説明させていただきましたので省かせていただきます。わたくしは衛星カメラの映像をもとにターゲットの追跡の任についていましたの」
黒子「徐々にターゲットとの距離を詰めていき、最終的に接触できる位置まで追い詰めることができました」
黒子「しかし、接触できる直前ターゲットに気付かれてしまったようで、ターゲットは逆向きに逃走。それをわたくしが直接追いかけましたの」
黒子「そして、わたくしがターゲットをここに追いついたと思いましたら、そこにいたのは結標淡希と、彼女と対峙していたお姉様でしたわ」
黒子の話を聞いて美琴が眉をひそめる。
美琴「……何かその話おかしいわね」
一方通行「どォいうことだ?」
美琴「私が結標を発見したときはそんな急いで逃げている様子はなかったわ。それに私の顔を見たとき困惑した表情をしていたのよ。例えるならなんだこいつ……? みたいな」
一方通行「そォか。普通逃走中の身なら出会った人間全てが追跡者に見えてもおかしくはねェ。なのに、そンな表情を浮かべる余裕があるっつゥことは、ソイツは逃走劇なンて繰り広げている気はなかったっつゥことか」
黒子「で、ですがわたくしは衛星カメラの映像情報をもとにこちらに来ましたのよ? もちろんその映像には彼女に酷似した容姿の方が映っているという情報も得ていますので人違いもありませんの」
そう言うと黒子は携帯端末に複数枚の画像を映し出した。
そこにはぼやけていてハッキリとは確認できないが、結標淡希のような容姿をした少女が映っていた。
髪型も服装も盗難品であるキャリーケースも、全てがまったく同じ少女が。
それらを見て、一方通行があることに気付く。
一方通行「……結構な枚数の画像があるが、どれも顔が写ってねェよォだが?」
黒子「ええ。運が悪いというか、逃走者がうまく動いていたというか、ここまで顔がまったく映らず逃走をしていたことになりますわね」
一方通行「それは監視カメラの方でも同じか?」
黒子「そうですわね」
つまり、街中にある膨大な監視カメラと衛星軌道上に浮いている衛星カメラから逃れていたということだ。
まったく映らないように立ち回ることは可能だろう。だが、映ってなお顔だけ映さないようにするなど可能なのか?
505 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:37:09.14 ID:G65aU121o
黒子「……では、少し話が逸れましたので戻しますわ。彼女と接触したときの会話は、軽い尋問のようなことをしました」
一方通行「尋問だと?」
黒子「ええそうですわ。彼女が自分は強盗犯ではないと言い張りますので。質問内容はそうですね……」
地面に転がっているキャリーケースを見ながら黒子が続ける。
黒子「盗品であるキャリーケースを何故持っていたのか? ですわね」
一方通行「それでアイツは何て答えたンだ?」
一方通行の問に黒子は当時を思い出しながら、
黒子「たしか、このキャリーケースは荷物が重くて困っている老年女性の代わりに持ってあげていた、と言っていましたわ」
黒子「しかし、その肝心な老年女性の方が見当たりませんので、とっさについた嘘だとわたくしは判断しましたの」
黒子「そのあと、対空間移動能力者用の拘束具がなかったため、通常の拘束具で形だけの拘束したあと、貴方がここに現れましたのよ」
一通り話すことが終えたのか、黒子はふうとため息をついた。
黒子「何か他に質問したいことはありますの?」
一方通行「……そォだな。オマエらと接触していたときの結標のヤツの様子が知りてェ」
美琴「様子ね。そういえば私と話しているとき、急に様子がおかしくなったわね」
一方通行「おかしくなった? 具体的にどォおかしくなったンだ?」
質問に反応した美琴へと視線を向ける。
美琴「何か急に頭を抱えだして、顔色が悪くなってたわ」
一方通行「オマエと会話をしてからか?」
美琴「うん、たしかそう」
黒子「そういう話なら、わたくしも少し違和感のある行動がありましたわ」
一方通行「違和感?」
黒子が不満げな顔を浮かべながら思い出す。
黒子「わたくしの名前を確認してきましたのよ? 貴女は白井黒子っていうんですか? みたいな感じに」
黒子「たしかに最後に会ったのは去年の九月の話でしたけど、そうそう忘れてしまえるような関係ではなかったと思いますのに」
黒子が腕を組みながら考え込む。そんな彼女に一方通行は確認する。
一方通行「……オマエもアイツと知り合いだったのか?」
黒子「え、ええ。先程お姉様が言っていたいざこざに、わたくしもジャッジメントとして首を突っ込んでいましたのよ」
美琴が言っていたいざこざというのは『残骸(レムナント)』のことだ。
つまり、黒子も美琴と同じ理由で結標淡希と関係があったということになる。
黒子「まあ、わたくしは大して力にはなれませんでしたが」
美琴「そ、そんなことないわよ黒子! アンタがいてくれたから結標淡希の野望を打ち砕くことができたのよ? アンタは頑張ったわよ」
黒子「……ふふっ、そう言ってもらえますとわたくしも嬉しいですわ。けど事実は変わりませんわ」
506 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:38:32.09 ID:G65aU121o
美琴「黒子……あっ、そういえば」
少し悲しげな表情を黒子が浮かべている中、美琴があることに気付く。
美琴「その会話してからよね? 結標が急にうずくまったのは?」
一方通行「その話っつゥのは、白井の名前を確認したっつゥ会話のことか?」
黒子「たしかそうでしたわね。急なことでしたので忘れていましたわ」
一方通行(やっぱりそォか。オマエはもォ……)
一方通行は何かを悟った。
そして、そのことから目を背けるように再び星空を見上げた。
その様子を見て少女二人が首を傾げる。
黒子「ところでもうお話はよろしくて? そろそろわたくしも追跡の任に戻らないと仲間たちに不審がられますの」
一方通行「ああ。悪かったな」
美琴「ありがとね黒子」
黒子「はい。では――」
黒子が動こうとした瞬間、ピピピという電子音が流れた。
その音源は黒子の持つ携帯端末からのようで、少女は携帯端末のボタンを押し通話モードにした。
黒子「こちら白井です。遅くなってすみません、今から追跡班に戻りますの」
謝りの言葉を返し、通話中いくつかの返事した。どうやら指示か何かを受けているのだろう。
そのあとさらにいくつか返事をすると、
黒子「――えっ?」
黒子の表情に驚きのようなものが現れた。
―――
――
―
507 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:40:34.88 ID:G65aU121o
風紀委員(ジャッジメント)の同僚との通話を終えた黒子が端末を切った。
険しい表情をしている黒子を見て、美琴が問いかける。
美琴「どうしたのよ黒子?」
黒子「……いえ、急に結標淡希の追跡が打ち切りになったという連絡を受けましたのよ」
一方通行「何だと? どォいうことだ白井」
黒子「盗難品であるキャリーケースを確保できているから、それ以上の追跡は無意味ということで打ち切りになった、と上から通達が来たそうです」
一方通行「上、っつゥのは」
黒子「はい。ジャッジメントの上層部のことですわ」
一方通行「……チッ、そォいうことかよクソッタレが」
黒子の言葉を聞いてから、一方通行の表情が怒りの表情へと変化していく。
歯を食いしばり、ギシシと擦れる音が鳴る。
美琴「ど、どういうことなのよ? 何かわかったの一方通行!?」
一方通行「……オマエら、結標と知り合いだったよな」
黒子「はい。さっきも言ったとおり」
美琴「それがどうかしたのよ?」
一方通行「だがオマエらは知らねェよな? アイツが記憶喪失になっていたっつゥことはよォ?」
黒子「なっ!?」
美琴「記憶喪失!?」
一方通行からの出てきた突然の事実に、二人は驚愕する。
一方通行「ああ。アイツは去年の九月一四日以前の記憶がない、記憶喪失者だ」
美琴「九月一四日っていえば……あの日じゃない!」
黒子「たしか結標淡希は何者かの襲撃を受けたことにより大怪我を負い、病院に搬送されたと聞きましたわ」
一方通行「その何者っつゥのがこの俺、一方通行だ」
美琴「あ、アンタがあれをやったっていうの……? たしかにあの現場を見る限り、あんなことができるのはアンタくらいしかいないけど……」
美琴が顎に手を当て考え込む。当時のことを思い出しているのだろう。
一方通行は当時結標淡希を狩るために、一帯にある道路を砕き、周囲にあるビルのガラスを叩き割った。
大地震が起きた後のような惨状だった。たしかに、美琴の言う通りあのようなことができる者は限られるだろう。
黒子「なぜ貴方がそんなことを?」
一方通行「あァ? それはそこにいるオマエのお姉様と同じ理由だ。つまり詳しくは聞くなっつゥことだ」
美琴「あ、アンタもあの子達のために……?」
美琴は一方通行の赤い瞳を見る。一方通行は特に答えない。
目で会話している二人を見て、黒子はため息をついてから、
黒子「わかりましたわ、詳しくは聞きませんの。で、つまり貴方が結標淡希を病院送りにして、それが原因で彼女の記憶が喪失した、そう言いたいんですのね?」
一方通行「物分りが良くて助かる」
美琴「たしかにそう考えたら、アイツの反応や行動に対する違和感に説明がつくわね」
そこで「んっ?」と黒子の動きがピタリと止まる。
508 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:43:49.72 ID:G65aU121o
黒子「そういえば貴方は、結標淡希と恋人関係にあると言ってらっしゃいましたよね? もしかして恋人を病院送りにしたということなのですか貴方は?」
一方通行「イイや、違う。そのときの俺たちは初対面の完全な他人だった。アイツとそォいう関係になったのはもっと先、最近のことだ」
美琴「どういうこと?」
そォだな、と一方通行は面倒臭そうに頭を掻く。
一方通行「記憶を失ったアイツはどォいう経緯でかは知らねェが、俺が居候している住処に居候として移住してきたンだ」
一方通行「そして俺とアイツは同じ学校の同じクラスへ編入された。敵対関係にあった女と、同じ家に住む居候同士でありクラスメイトでもあるという、奇妙な共同生活が始まったっつゥことだ」
アイツが来たのが一〇月半ばの頃だから半年近い期間になるか、と付け加えた。
美琴「なるほど。その中でアンタと結標がその、こ、恋人っていう関係になったってわけね」
一方通行「ああ」
黒子「しかし、結標淡希のあの事件後の来歴はわかりましたが、それと今回の事件に関連性があるとは思えませんが」
一方通行「…………」
一方通行は神妙な顔つきになり数秒口を閉じた。
そして自分の中での考えがまとまったのか、再び口を動かし始めた。
一方通行「こっから先俺が言うことは、学園都市のドス黒い裏の話だ。できれば記憶に留めるな。留めるにしても絶対に口外なンてすンじゃねェぞ?」
美琴「……ちょっと待って」
一方通行の発する雰囲気からただならぬものを感じた美琴は、視線を黒子の方へ向けた。
美琴「黒子。アンタはこれ以上の話は聞かないほうがいいわ。今すぐジャッジメントのみんなのところに帰りなさい」
黒子「なっ、なにを言っていますのお姉様!? ここまで聞いてあとはお預けなんてわたくしには耐えられませんわ!」
美琴「一方通行がこんなこと言うなんておそらく本当にヤバい話よ? たぶんフェブリのときとは比べ物にならないくらいの暗部の」
美琴と黒子、そしてその仲間たちは、とある暗部組織の野望を阻止するために、その暗部組織と戦った過去があった。
そのときは一歩間違えれば命を落としてもおかしくはないような、過酷な戦いだった。
だが、それより危険な何かを美琴は直感で感じ取っていた。
美琴「そんな話を、私は大事な後輩に聞いて欲しくない!」
黒子「……お姉様。こちらからも一つ言わせてもらってもよろしいですの?」
美琴「何よ?」
黒子「お姉様がわたくしを想ってくれていることは大変嬉しいですの。けど、わたくしからも同じことをお姉様に対して想っているっていうことをわかって欲しいですの」
美琴「黒子……?」
黒子「お姉様はここでの話を聞いたら、おそらく、いや必ずそれに首を突っ込もうとする思いますわ」
美琴「うっ」
図星を突かれたのか美琴が一歩後ろに退いた。
それを追うように黒子は距離を詰め、美琴の目を見つめながら、
黒子「だから、その話を聞いた上でわたくしはお姉様を止めないといけませんの」
そしてそのまま横目で一方通行を見る。
黒子「それに一方通行さんがわたくしにも話そうとしてくれているということは、それはわたくしにも関係があるという話ですの」
黒子「ならば、わたくしはそれから逃げたくありませんわ。もうすでにあのとき、片足突っ込んでいるようなものなのですから」
509 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:46:30.12 ID:G65aU121o
黒子の真剣な目付きからどうやら彼女の決意は堅いようだ。
それを察した美琴は諦めのため息をついた。
美琴「……わかったわ。一方通行、お願い」
一方通行「ああ、わかった」
そう言われて一方通行は二人を見る。
一方通行「これはあくまで俺も聞いた話に過ぎねェから、そォいう話もあるかもしれねェくらいで留めておけ」
二人が黙って頷いたことを確認し、一方通行は話を始める。
一方通行「結標淡希が持つ能力『座標移動(ムーブポイント)』。これを利用した計画が存在する」
美琴「計画……? も、もしかして、アンタのような……?」
黒子「?」
一方通行「いや、そこまではわからねェ。俺もあくまで聞いただけの話だからな」
そう、と言ってから美琴は黙った。
一方通行「当たり前だがその計画は表には絶対に公表されないよォな、いわく付きのモンだっつゥことは間違いねェ」
一方通行「その計画に必要なモノは、当たり前だが結標淡希本人だ。だが、その結標淡希は記憶喪失していて表の世界で何事もなく過ごしていた」
一方通行「そンな表の住人であるヤツを裏の計画に引き入れる手段なンざ大きく分けて二つしかねェ」
指を一本立てて一方通行を説明を続ける。
一方通行「一つは、人の善意に付け込ンで騙し、本人はそンなクソみてェな計画に加担していることなンてこと悟らさせずに、計画へ参加させる手段」
美琴「…………」
美琴の表情が険しくなる。
なにか思い当たる節があったのだろう。
一方通行「もう一つは、何らかのソイツの弱みを握り、それをチラつかせることによって計画に参加せざる得ない状況を作り上げる手段」
一方通行は二本目の指を立てる。
一方通行「だが、結果的に見れば、この二つの手段が結標淡希を計画に参加させるために有効な手段かというと、そォじゃなかったわけだ」
黒子「今の今までそのような計画に参加している様子がなかったから、でしょうか?」
一方通行「そォいうことだ」
一方通行は首を縦に振った。
一方通行「一つ目に関しては、俺が結標に裏ではそォいう事情があるっつゥことを教え込ンでやった。だから、そォいう関係の話は全部断るよォにしていたはずだから有効には働かない」
一方通行「二つ目に関しては、弱みさえ作らなければ向こうは攻め入ることはできねェ。今までその手を使ってこなかったっつゥことは、ヤツらは弱みを握ることができなかったっつゥことだ」
一方通行「さて、この二つの方法が使えない場合、結標を計画に参加させるにはどォすればイイか……」
一呼吸置いてから、再び口を開ける。
一方通行「それは結標が裏の住人になってもらうことだ。表の住人を無理やり計画に引き込ンでやろォモンなら、オマエらジャッジメントやアンチスキル等の治安組織や、一般人の目に止まってしまう可能性が高くなるからな」
一方通行「それに比べて裏の住人なら、人権なンてあったモンじゃねェ。拉致なりなンなりして計画に参加させればそれで問題ねェっつゥことだ」
一方通行「もともと結標は裏の住人だ。ここまで言えば何となく俺が言いたいことがわかってくるンじゃねェか?」
510 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:49:49.96 ID:G65aU121o
その言葉に美琴が理解したような反応をする。
美琴「……そうか。結標が記憶を取り戻したら、裏の記憶や知識を取り戻すということだから、必然的に裏の世界に戻ってくるってことね?」
黒子「しかしそれはおかしくはないでしょうか?」
美琴「おかしい?」
黒子の反論に美琴が首を傾げる。
黒子「ええ。記憶を取り戻してもあくまで元の記憶や知識が蘇るだけですの。その時点では自分は記憶喪失中は表の住人だったという記憶も存在するはずですので、必ず裏の世界とやらに行くとは限らないのでは?」
一方通行「それに関しては裏に行くという確信のある情報がある」
黒子の推論を否定するように情報を後付する。
一方通行「結標淡希の記憶喪失は元あった記憶とその人格が奥底に封じ込まれ、新しい人格が記憶のない状態から結標淡希を演じるというタイプのものらしい」
黒子「なるほど。つまり、記憶を取り戻した時点で記憶喪失中の記憶はない、九月一四日時点の裏の住人である結標淡希の人格が蘇るということですわね」
美琴「な、なんでそんなことがわかるわけ? 記憶喪失なんて症状見ただけじゃどういうのなんかわからないじゃない」
一方通行「これは第五位。精神系能力者の頂点に立つ食蜂操祈から教えてもらった情報だ。あえて虚偽の情報を教えられたとかじゃねェ限り間違いねェよ」
美琴「……アンタ、あのときそんなことを話してたの?」
一方通行「ああ」
美琴は三月一三日のことを思い出していた。
一方通行と食蜂操祈が神妙な顔付きで話をしていたときのことを。
それに、と言って一方通行は付け加える。
一方通行「さっき結標が俺に向けてきた目は、まさしく九月一四日、俺と敵対関係にあったときのアイツと同じモノだった。つまり、第五位の言ったことは間違いなかったっつゥことだ」
その目付きとは恐怖。嫌悪感。絶望。様々な負の感情が混ざりあったモノ。
今までの結標淡希が決して向けてくることがなかった目だった。
話が逸れちまったな、と流れを修正し一方通行は続ける。
一方通行「さて、これでクソ野郎どもの目的が『結標淡希の記憶を取り戻す』ことに定まった。なら、ヤツらはどォ動くか」
黒子「在り来たりなところを挙げると、学園都市には記憶喪失を治療する薬品などザラにありますの。それを結標淡希に投与すれば戻るのでは?」
一方通行「それがわかりやすい方法だろォな。だが、その薬品をどォやって結標に投与する?」
黒子「そ、それは……」
すぐに思いつく答えが出ないのか、黒子は言葉を詰まらせる。
一方通行「脳への投薬は風邪薬みてェに錠剤飲むだけで終わるよォなモンじゃねェ。然るべき施設で専用の機器を使うよォな治療になる」
一方通行「そンな大掛かりなことをやる場合必ず足がつく。表に情報を晒したくねェヤツらは絶対にこの方法を避けるだろォ」
一方通行「それを度外視したとしても、まず結標の同意を得て施設に招き入れなきゃいけねェ。だが、俺に言われて警戒心が強まっている結標をそンなところに騙し入れるなンて難しいだろォよ」
つまり投薬で記憶喪失を治そうとするのは難しい、と一方通行は言う。
ならばと美琴が代替案を出す。
511 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:54:53.76 ID:G65aU121o
美琴「精神系能力者に治させるとかは? 食蜂のヤツはもちろん、食蜂以外でも記憶喪失を治せるような精神系能力者の人がいると思うわ」
一方通行「そォだな。それが可能なら一番イイ方法だ。けど、実際に今日までその方法が使われてないっつゥことはそれができなかったっつゥことだ」
美琴「うーん、まあたしかにそうね。食蜂がそんな誘いに乗るかどうかも怪しいし、仮に他に治せる能力者たちがいたとしても同じく協力してくれるとは限らないわね」
一方通行の視点から見ても第五位の少女は、このような話に賛同しないことは何となくわかっていた。あくまでそんな気がする程度の話だが。
彼女のことは基本的に謎に包まれている。彼女が何を思い、何のために、どういう行動をするのか。彼は何も知らない、わからない。
ということは、食蜂は基本的に表に素性を出さないようにしているということだ。
そんな彼女が表に出せないような計画のために、一人の少女の記憶喪失を治してくれ、と言われて二つ返事で了承するとは思えない。
その行動一つで、どれだけの自分の情報をバラ撒いてしまうのかわからないのだから。
一方通行「こォいう感じにヤツらの中にある案が次々と挙がっては却下されていったンだろォ。そして、ヤツらは結局この方法を取った」
美琴と黒子を一度見たあと、一方通行はその方法を挙げる。
一方通行「記憶が回復するきっかけを無理やり起こすことにより、記憶を回復させるっつゥ手段だ」
黒子「きっかけ、ですの?」
一方通行「ああ。第五位が言っていたが、あのタイプの記憶喪失はふとしたことがきっかけで回復することがあるらしい」
美琴「へー、つまりそのきっかけっていうのを自発的に起こして記憶を戻させるってことね?」
黒子「しかし、それは難しいのではないでしょうか? まずそのきっかけというのがなにかわからなければいけませんし、何よりそれを自発的に起こすことによりその方たちの足がついてしまうのでは?」
一方通行「オマエの言う通りだ白井。しかし、そのきっかけっつゥのがすでにわかっていて、それを足がつかないよォに行えることなら可能なンじゃねェのか?」
黒子「た、たしかにそうですが」
美琴が眉をひそめながら一方通行を見る。
美琴「……アンタ、知っているのね? そのきっかけっていうヤツを」
一方通行「知っている、っつゥのは語弊があるかもな。あくまでそォじゃねェかっつゥ推測に過ぎねェ」
一方通行は手品のネタバラシをするかのように、ゆっくりと喋り続ける。
一方通行「去年の九月一四日。結標淡希を中心とした抗争。その中でアイツと深い関わりのあった人物との接触」
それを聞いて美琴がピクリと反応する。
美琴「それってまさか……!」
一方通行「ああ。『御坂美琴』。『白井黒子』。そしてこの俺『一方通行』のことだ」
黒子「なっ……!」
自分たちの名前が突然出てきたことにより、少女二人の動きが固まる。
それに対して一方通行は何も喋らない。
沈黙。ビルの裏に取り付けられている換気扇のファンの音だけが耳に入ってきた。
しばらくして、美琴がはっ、した。
美琴「……ってことは私たちは、その計画を実行したいヤツらに嵌められてこんなところに立っているってこと!?」
美琴は先程出会った男を思い出していた。ボロボロの体で自分へ助けを求めてきた男を。
たしかによくよく考えてみればおかしい点がある。彼はここに能力者に虐げられている仲間がいると言っていたはずだ。
しかし、ここにはそんな人たちは見当たらず、いたのはたしかに結標淡希ただ一人だった。
黒子「ば、馬鹿なッ! わ、わたくしはジャッジメントとしての任務でここまで来ましたのよ!? それがそんな訳のわからないものたちの策略などと……!」
大きく目を見開かせながら声を荒げる黒子。
彼女はジャッジメントの仕事を自分の誇りとしている少女だ。そんな部分を利用されたと知れば、こうなるのも無理はない。
だが、一方通行はそれを冷静に返す。
512 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/27(土) 23:58:26.04 ID:G65aU121o
一方通行「そォだ。オマエはジャッジメントとして上からの指令に忠実に動いた。だが、そンなオマエでも何あったンじゃねェのか? 今回の任務の中で違和感が」
黒子「そんな……」
黒子は否定の言葉を言いながらもどこかでそれを考えていた。
ジャッジメント上層部からの支部へ直接通達されるという異例。
本来のジャッジメントとしての管轄ではない、強盗犯の確保という任務。
なぜか一七七支部だけに通達されているという状況。
たしかに、一方通行の言ったことを前提として考えれば、これらのことに対して納得がいく。
だが、黒子の中には一つだけ解せない点があった。
黒子「仮にこれが裏で暗躍している連中が仕組んだことだとするなら、わたくしは一体誰を追いかけてここにたどり着いたんですの!?」
ここにいる三人の発言を全て真実とするなら一つ矛盾点が発生していた。
それは事件発生時、一方通行と結標淡希が一緒にいたという事実と、その間に衛星カメラや監視カメラの映像を元に黒子たちジャッジメントが追跡劇を繰り広げていたという事実だ。
一方通行が嘘を言っているとは思わないが、かといって一七七支部でバックアップしてくれていた少女、初春飾利からの情報が間違っていたというのも信じがたいことだった。
一方通行「オマエが疑問に思っているのは、衛星カメラとか監視カメラの映像についてじゃねェのか?」
一方通行は見透かしたように黒子の浮かべている疑問を口に出した。
一方通行「ああいうのは、技術があるヤツが使えばダミーの映像へ差し替えることができンだろ? それに踊らされたっつゥのが一番ありえる話だろォな」
黒子「た、たしかにそういう技術は存在しますわ! けどそれをやられたとしてあの初春がそれに気付けないなどということが……!」
一方通行「その初春っつゥのがどれだけ電子戦に長けたヤツかは知らねェが、学園都市の闇は深けェ。それより上のハッカーがいるか、またはシステムが存在するか」
黒子「ぐっ……」
たしかに初春飾利は優秀なハッカーだ。彼女の力には黒子も何度も助けられている。
だが、実際黒子は彼女がどれだけすごい技術を持っているのかを知らない。黒子自身がその分野に関しては知識が足りていないからだ。
だから、一方通行の言ったことに即座に切って捨てることができなかった。
言葉を詰まらせる黒子をよそ目に一方通行は続ける。
一方通行「ま、そォいうわけだから結標が言っていたババァもその手先と考えたほうがイイな」
そう言いながら一方通行は、横に転がっている盗難品であるキャリーケースの目の間に立った。
そして首元に手を当て、電極のスイッチを入れる。
美琴「――ちょ、ちょっとアンタなにを!?」
制止しようとする美琴を無視しながら、一方通行はキャリーケースを軽く小突く感じにつま先を当てた。
ガンッ、という音とともにキャリーケースの施錠が破壊され、蓋が勢いよく開く。
その中を見て黒子が目を見開かせる。
黒子「な、中身がない……?」
黒子の言う通りキャリーケースの中身は空だった。
正確に言うなら中にある物を固定するベルトや、外部からの衝撃を吸収する防護材などがあるが、これらはこのキャリーケースに備え付けられた機能に過ぎない。
一方通行「そォいうことだ。オマエらを釣るための盗難品っつゥ役割を果たすだけなら中身はいらねェからな」
一方通行「それにアイツは九月一四日当時、同じよォなデザインのキャリーケースを持っていた。おそらくコイツにも記憶回復を助長させる意味があンだろォな」
中身のないキャリーケースを見つめながら、一方通行はつぶやく。
513 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:00:33.07 ID:MJMUKdI8o
一方通行「……ふっざけやがって」
歯をきしませる音が聞こえるくらい怒りに震えている少年を見て、美琴は問いかけた。
美琴「アンタ、これからどうするつもりなのよ?」
一方通行「決まってンだろ。結標を追う」
まるで当たり前かのように一方通行は即答した。
だから、美琴は率直に思ったことをそのまま聞く。
美琴「……追ってどうするのよ?」
一方通行「どォするだと?」
一方通行は首をかしげた。言っている意味がわかっていないように。
そんな彼を見て美琴は顔をしかめた。
美琴「だって今の結標はアンタと恋人だった結標とは別人なのよ? まったくの赤の他人、いや、当時のことを考えればもっと最悪な関係性よ。そんな女を追いかけて捕まえられたとして、今のアンタに何が出来るっていうのよ?」
一方通行「さァな」
特に美琴の言葉に感情を揺らされることなく一方通行の顔は冷静だった。
一方通行「だが、俺は行かなきゃいけねェンだ。アイツと『約束』したからな」
美琴「『約束』……?」
一方通行「ああ。だから俺は止まるわけにはいかねェンだよ」
冷静な口調だが、その言葉には力強さのようなものがあった。
一方通行の真紅の瞳から絶対的な意思のようなものが映っているように見える。
どんなことがあっても折れない、鋼のような意思を。
この少年を止めることの出来る言葉はもう存在しない、そう美琴は感じ取った。
―――
――
―
514 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:02:11.65 ID:MJMUKdI8o
ピィー!! ピィー!! ピィー!!
深夜の学園都市。ビル街の中に電子音が響く。
ビルとビルの間を飛行機のように飛行する超能力者(レベル5)の少年、一方通行がチョーカーに取り付けられた電極に手を当てる。
一方通行(――そろそろバッテリー切れの時間か)
先程の音は能力使用モードの残り時間が一分を切ったという合図だ。
自分の生命線である電極のリミットが近づいたことに気付いた一方通行は、適当な歩道に着地しスイッチを切り替える。
一方通行(……今何時だ?)
携帯端末の画面を点灯させる。
そこには『23:58』という数字が表示されていた。
一方通行(結標が行きそォな場所片っ端から回ってみたがいなかった)
一方通行(ま、当たり前か。そもそも今のアイツは俺の知っている結標じゃねェ。だから、記憶喪失中のデータを使って捜したところで意味ねェだろォが)
一方通行(チッ、ナニやってンだ俺ァ? 普通に考えればそれくらいわかるだろォよ。残された時間がどれくらいかわからねェっつゥのに、無闇に時間とバッテリーを浪費しやがって)
一方通行(……いや、違う。俺ン中でまだどこかで捨てきれていなかったのか? もしかしたらまだ結標が俺の知っている結標なンじゃねェのかっつゥ甘ったるい希望を)
力のない笑い声をこぼしたあと、一方通行は地面に唾を吐き捨てた。
一方通行(馬鹿なこと考えてンじゃねェよ一方通行。そンなクソみてェな幻想はもォ捨てろ。今俺がやるべきことはどォやってアイツを見つけるかっつゥ方法考えることだ)
一方通行は自分の中の考えをまとめるために、公園にあるベンチへ腰を掛けた。
一方通行(捜し人を捜すのに一番効率のイイ方法は、風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)に協力を仰ぐことだろう)
一方通行(ヤツらなら街中の監視カメラ、衛星軌道上にある衛星カメラの映像から人を捜すことが出来る)
しかし、この方法には一つ問題があった。
一方通行(今回の件でジャッジメントが利用されたっつゥことは、その上層部とクソ野郎どもとが繋がっているっつゥことだ)
一方通行(下手に協力を要請したら、俺の目論見がバレてもみ消される可能性がある)
一方通行(アンチスキルの方も同じだ。アンチスキルはジャッジメントとは指揮系統が違うから、まだ上層部が繋がっているとは決まったわけじゃないが、可能性がある以上避けたほうがイイ)
一方通行(そォいうわけでヤツらは使えねェ)
最も確実な方法が使えない状況に、一方通行はこれといって悲観することなく思考を続ける。
一方通行(表の住人が使えねェっつゥなら裏の住人を使うしかねェっつゥことだ)
515 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:05:43.53 ID:MJMUKdI8o
一方通行の中にはすぐコンタクトの取れる宛が二人いた。
一人は木原数多。元暗部組織『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』に所属していた男。
現在はその猟犬部隊が解体された為、表の世界で『従犬部隊(オビディエンスドッグ)』という会社を立ち上げ、なんでも屋の仕事をしている。
そのはずだが、近隣の住民の信用をまだ得ていないためか、依頼の入ってくる仕事はほとんどが殺しや盗み、運びなどの裏の仕事らしい。
ちなみにそのなんでも屋の業務の一環で、自宅に大人がいないときに打ち止めを預かる、保育園の代わりのようなこともやっている。
一人は土御門元春。暗部組織の中でもトップシークレットに当たる組織『グループ』に所属している男。
通常時は一方通行と同じ学校、同じクラスに通う学生をしている。
暗部絡みの問題に巻き込まれたときのサポートや、一方通行や結標への裏からの働きかけを処理しているなどと、その日常を守るために尽力しているように見える。
一方通行(コイツらなら裏の顔も利くだろォし、やろうと思えば結標の確保も容易にやってのけるだろう)
一方通行(だが、今となったらコイツらも信用できるかわからねェ)
一方通行(なぜなら俺はアイツらの真意を知らねェからだ。今まで手を貸してくれていたのも、今日の件を見越してのことかもしれねェ)
一方通行(木原に至ってはそれらしい行動が一つあった。遊園地でのことだ)
一方通行は結標淡希に自分の過去のことを話した。
『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』。
『打ち止めと一方通行のこと』。
『結標淡希の記憶喪失のこと』。
しかし、これらのことを一方通行の口から話す前から結標淡希は知っていた。
話す直前に木原数多が彼女にそれらのことを話していたからだ。
一方通行(それが原因で記憶が回復する可能性だってあった。つまり、木原は記憶喪失が回復した結標が必要だという見方もできるっつゥことだ)
つまり、この二人に協力を仰ぐのは危険だ。
そう結論付けた一方通行は次の案へとシフトする。
一方通行(やっぱり俺自身が自力で結標を見つけ出すしかねェ。だがどォやって見つけ出す?)
一方通行(俺が知っている結標に関する情報はあくまで記憶喪失以降の情報だ。そンなモンあったところで糞の役にも立たねェ)
一方通行(そンな状態でいくら闇雲に動いたって見つけられる可能性はほぼゼロに近い。やるならヤツの記憶喪失前の情報が必要だ)
一方通行(けど、そンなモンどォやって手に入れる? 書庫(バンク)のデータなンざ一般人が容易に手に入れられるモンじゃねェ)
一方通行(施設でも襲って無理やり手に入れるか? いや、そンなことすりゃ俺がアンチスキルを敵に回すことになる)
それに情報を得たところで確実に結標を見つけ出すことが出来るとは限らない。
そんな不確定なものの為に、学園都市の治安組織を敵に回すのは割に合わないどころではない。
自分の中でその案を却下する。以降ひたすら頭を働かせるが別の案は生まれなかった。
一方通行(クソっ、何で俺はそォいう関係のデータっつゥのを持ってねェンだ? あンだけゴミクズどもと接してきたっつゥのに俺には何にも残されちゃいねェじゃねェか)
一方通行(せいぜい残ってるっつったら、冥土帰しからもらった超能力者(レベル5)の……待てよ?)
一方通行の口角が釣り上がる。
まるで獲物を見つけた狩人のように。
一方通行「あンじゃねェかよ。俺にもまだ手段っつゥモンがよォ」
そう呟くと一方通行は首元にある電極のスイッチを押す。
バッテリー切れ間近の警告音が公園の中に鳴り響く。
ドンッ、という地面を抉るような音を上げて、一方通行は再びビルの上空を飛んだ。
―――
――
―
516 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:08:17.76 ID:MJMUKdI8o
一方通行「そォいや今日のメシはハンバーグだったか」
一方通行は現在、自分の居候している住処であるファミリーサイドの二号棟にある一室、黄泉川愛穂の部屋のリビングに立っていた。
食卓に置かれている、ラップがかけられたハンバーグの乗った皿を見ながら少年はそうつぶやいた。
ハンバーグの乗った皿は二食分置かれていることから、もう一人のこれを食べる予定だった住人がここには戻っていないということを証明している。
その事実を確認し、舌打ちをしながら一方通行は自室へと移動した。
自室に辿り着いた一方通行は真っ先に自室に置いてある机の引き出しを開けた。
一方通行「――あった。コイツだ」
自室にある机の引き出しから、一方通行は一冊のファイルを取り出した。
ファイルの表紙などに中身の表記などをしているわけではなかったが、彼にはこれの内容がわかっていた。
一方通行(超能力者(レベル5)八人全員のパーソナルデータ。コイツがあれば結標のことがナニか分かるかもしれねェ)
これは以前カエル顔の医者からもらったものだ。
一方通行はある決心をしていた。
どんな敵と対峙しても絶対に負けない。自分の敗北によって自分たちの日常は壊させない。
その為、手始めとして自分の敵になりうるであろう超能力者(レベル5)の情報を得るために要求したものだ。
一方通行(コイツの中にはそれぞれの能力の詳細だけじゃなく、ソイツの経歴データとかも詳しく載っていたはずだ)
一方通行(その中にあるはずだ。結標淡希の手がかりとなる情報が)
一方通行はファイルの他に予備の電極と充電用のケーブルを持ち、何も入っていない学校指定のカバンに放り込んだ。
部屋を一望して特に忘れ物などがないことを確認してから、少年は再びリビングに戻る。
リビングに戻った一方通行は、電話機の横においてある小さなメモ用紙を一枚剥がし、ペンを走らせた。
書きたいことを書いた一方通行はメモ用紙を食卓の上に置く。
一方通行「……行くか」
そうつぶやいて一方通行はリビングをあとにしようする。
すると、一方通行は背中に気配を感じ、後ろを向いた。
打ち止め「――帰っていたの? ってミサカはミサカは目をこすりながら聞いてみる」
一方通行「打ち止め……」
いつの間に一方通行の後ろには、パジャマ姿でカエルのキャラを模した抱き枕を持った少女が立っていた。
その様子からさっきまで就眠していたことがわかる。
打ち止め(ラストオーダー)。この家に居候する同居人のうちの一人であり、一方通行が絶対に守ると決めた存在。
517 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:11:22.01 ID:MJMUKdI8o
一方通行「悪りィ、起こしちまったか」
打ち止め「ううん、いいよ。おかえりなさい。随分と遅くまで遊んでいたんだね、ってミサカはミサカは時計を見ながら言ってみる」
時計の針は深夜の十二時をゆうに過ぎていた。
ふわぁ、とあくびをしながら打ち止めは続ける。
打ち止め「ところでアワキお姉ちゃんはいないの? お風呂? ってミサカはミサカは一人のあなたに対して尋ねてみたり」
一方通行「……ちょうどイイ。オマエには直接面と向かって喋っておきたかった」
そう言うと一方通行は、先程食卓の上に置いたメモ用紙を握りつぶしてズボンのポケットに押し込んだ。
その様子を見て打ち止めはきょとんとした表情で首を傾げる。
一方通行「打ち止め。もう結標はこの家には戻ってこねェ」
打ち止め「……どういうこと?」
一方通行「そのままの意味だ。アイツはもォこの家には戻ってくることはねェって言ってンだ」
打ち止め「だからどういうこと? あなたの言っていることがわからないよ? どうしてアワキお姉ちゃんが帰ってこないの? ってミサカはミサカは具体的な質問をしてみる」
一方通行「オマエの知っているアワキお姉ちゃんは、もォこの世にはいねェンだよ」
打ち止め「え……」
一方通行「アイツは記憶を取り戻して、九月一四日ンときの結標淡希に戻っちまったンだよ」
打ち止めは目を大きく見開き、手に持っていた抱き枕が床に転がった。
声を震わせながら少女は口を動かす。
打ち止め「そ、それじゃ、アワキお姉ちゃんはもう覚えていないの? ミサカたちと一緒に遊んだことも、ご飯を食べたことも、お風呂に入ったことも、笑ったことも」
打ち止め「ぜんぶ、ぜんぶ忘れちゃったってことなの? ってミサカはミサカは問いかけてみる」
大きな瞳に涙をにじませながら、打ち止めは恐る恐る問いかける。
その姿を見た一方通行は歯噛みしながら、
一方通行「……ああ」
打ち止め「う、嘘……だよね? み、ミサカをからかうための嘘、なんだよね……?」
一方通行「…………」
打ち止め「うっ……わっ、ああ、……」
打ち止めは少年の表情から、これは紛れもない事実なんだと、察しのだろう。
だから、それに気付いた打ち止めは膝から崩れ落ちた。
目から大粒の涙がフローリングへとこぼれ落ちていく。
一方通行「すまねェ」
一方通行はしゃがみ込み少女の頭を撫でながら謝った。
いくら結標淡希の記憶の回復が意図的に行われたことだろう。しかし、それがなくてもいつかは記憶を取り戻して、同じ状況にはなっていたはずだ。
結局、いつまでも問題を先延ばしにしていた自分のせいだ。自分が目の前にいる少女を傷付けた。
518 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:13:45.34 ID:MJMUKdI8o
打ち止めは一方通行を見上げながら、
打ち止め「……ねえ、あなたは悲しくないの? ってミサカはミサカは冷静な表情のあなたを見て聞いてみる」
一方通行「俺には悲しンでいる暇なンてねェよ。俺にはやることがあンだ」
打ち止め「やること?」
一方通行「ああ。これから結標には命を狙われるに等しいくらいの危険が迫ってくるだろォ。だから、そォなる前に俺が見つけ出してやらなきゃいけねェ」
以前、打ち止めの流す涙は止まらない。
だが、彼のその言葉を聞いて打ち止めの口元が緩む。
打ち止め「……そう、なんだ、ってミサカはミサカは勝手に納得してみる」
一方通行「あァ? ナニ勝手に納得してンだ?」
一方通行の問に対して特に返答することなく打ち止めは立ち上がる。
涙に濡れた目を服の裾で拭いて、赤みがかった目を一方通行へと向けた。
打ち止め「ねえ、アクセラレータ。アワキお姉ちゃんを絶対に連れ戻してね、ってミサカはミサカはお願いしてみたり」
一方通行「連れ戻すだァ? 馬鹿なこと言ってンじゃねェよ。今の結標はオマエの知っている結標じゃねェっつっただろォが。そンな女を連れ戻してどォするってンだ」
打ち止め「たしかに今までのことも覚えていないのかもしれないし、性格だって全然違うくなってるかもしれないよ。けどね」
打ち止めは笑った。ニッコリと、心の底から溢れ出てきたような笑顔で。
打ち止め「アワキお姉ちゃんがアワキお姉ちゃんであることには変わりないよ! 一度仲良くなれたんだから、もう一度仲良くなることだってできるよ! きっと!」
打ち止めの一切の疑いもない自信に溢れた目を見て、一方通行は馬鹿馬鹿しいと思った。
結標淡希はもともと裏の人間だ。裏にいるってことはそれ相応の闇を見てきたということだ。
そんな女と目の前にいる少女が以前の関係を取り戻すことができるとは到底思えない。
だからこそ一方通行は、
一方通行「わかった。あの馬鹿女を必ずここに連れ戻してきてやる」
打ち止め「うん! 約束だよ、ってミサカはミサカは小指を突き出してみたり」
一方通行「ああ、約束する」
二人の小指が結ばれた。
これ以上、絶対にこの少女を泣かせてはいけない。そのためには、必ず結標淡希を見つけ出さなければならない。
一方通行は、自分の中にある意思がより強まったのを感じた。
一方通行「……さて、俺は行く。いつ戻れるかわからねェし、何なら戻ってこられるかもわからねェ。それだけは覚悟しとけ」
打ち止め「覚悟なんていらないよ。どうせあなたは帰ってきてくれるでしょ? だって約束したんだもの、ってミサカはミサカは当たり前のことを言ってみたり」
自信満々の顔をする打ち止めを見て少年はげんなりとした表情を浮かべる。
一方通行「あー、そォいや一個言うの忘れてた」
打ち止め「何?」
一方通行「明日……いや今日か。今日の八時くらいにここへある人が尋ねてくるはずだ。オマエは俺がいない間ソイツと行動をともにしろ」
打ち止め「それはいいけど、ある人って誰なの? ってミサカはミサカは疑問を浮かべてみたり」
一方通行「なァに、オマエがよく知っているヤツだよ」
―――
――
―
519 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:15:37.14 ID:MJMUKdI8o
阿部食品サンプル研究所第三支部。
第一〇学区にある、文字通り次世代の食品サンプルを開発ために尽力している研究施設。
ここが開発した『本物と全く同じ感触で同じ匂いのする食品サンプル』は学園都市の中でも一時期話題になったことがある。
そんな研究所の三つ目の支部のとある一室に、初老の研究員と若い研究員がいた。
初老「よし、今日はこんなところでいいだろう」
若い「ふわぁー、もう日付変わってんじゃないすか。こりゃ今日も晩酌できそうにねえや」
若い方の研究員がボヤきながら帰り支度をする。
初老「別に飲みたければ飲めばいいだろう。明日は午後からの予定だろ?」
若い「さすがにそんな元気はないっすよ。俺もおっさんになっちまったすねー」
初老「まだ二十代だろうに」
若い「サーセン。じゃ、お疲れ様でーす」
部屋の自動ドアが開いたあと、若い研究員は適当な挨拶をして部屋の外へ出ていった。
初老「……素晴らしいな。これだけのデータが集まれば十分実用可能なレベルだ」
ディスプレイを見ながら笑みを浮かべる初老の研究員。
クククク、と絶えず不気味な笑いを発していた。
初老「さて、私もそろそろ帰るとするか」
そうつぶやいたとき、後ろから自動ドアの開く音がした。
初老「なんだ忘れ物か? まったく相変わらず不注意なヤツだ」
研究員は画面を見たまま小言を言う。
先ほどまで一緒にいた若い研究員が戻ってきたと思ったのだろう。
しかし。
??「――そうね。忘れ物、というより探し物があると言ったほうが正確かしら」
研究員の背後から聞こえてきた声はよく知る若い男の声ではなかった。
少女の声。この研究所ではまったく聞くことのない声だった。
初老「だ、誰だ!?」
初老の研究員は声の主を確認するために、椅子ごと体を後ろに勢いよく向けた。
そこには一人の少女が立っていた。
赤髪を二つに結んで背中に流しており、腰に巻いたベルトに警棒のようなものをぶら下げている。
520 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:18:27.24 ID:MJMUKdI8o
初老「お、お前は結標淡希……!」
男からその少女の名前が呼ばれる。
彼の反応はその少女のことを知っているようなものだった。
初老「なぜお前がここにいる!?」
結標「ここにある研究データ、全部私にいただけないかしら?」
結標はメモリースティックを研究員に投げた。研究員は反射的にそれを受け取ってしまう。
初老「馬鹿なッ!! そんなことができるわけないだろう!!」
結標「別にデータを奪おうなんて思っているわけではないわよ? ただコピーしてそれに入れて欲しいと言っているだけ」
初老「データが流出するという意味では同じことだろう!! お前にやるデータなどない!! 帰れ!!」
結標「ふーん」
鬼のような形相で怒鳴る男を前にしても結標は不敵な笑みを崩さなかった。
ふぅ、というため息を一度付き、床に指を指す。
結標「貴方が協力しないというなら、貴方にもこの人のような目に合ってもらうってことなんだけど」
初老「ッ!?」
初老の研究員が少女の指した指の先に目を向ける。
そこには先ほどこの部屋を出たはずだった若い研究員のようなものが、いつの間にか転がっていた。
ようなもの、と形容したのはなぜか。
転がっている男の体の至るところに、研究で使うメスやハサミなどの器具、事務で使うボールペンや定規などが突き刺さっていて、剣山のようになっていたからだ。
結標「お分かり?」
初老「……殺したのか?」
結標「いいえ、生きてはいるわ。気絶はしているけど。だけど、このまま放置していたらいずれ死ぬでしょうね」
クスッ、と笑ったあと結標は続ける。
結標「データを渡したあとこの人を病院に担ぎ込んで二人とも生き残るか、データを渡さずに二人仲良くピンクッションになるか」
研究員は後ずさりしながら机の裏に手を入れる。この裏には緊急事態時に押すボタンがある。
これを押すことで自動的にアンチスキルへ通報され、駆けつけてくるという仕組みだ。
だが、そのボタンは押されることはなかった。
初老「ごっ、がああああああああああああああああああああああッ!?」
ドスリ、という音とともに男の手の平から甲にかけて金属矢が突き刺さったからだ。
あまりの痛さに床でのたうち回る研究員。それを見下ろしながら結標は再び喋り始める。
結標「――どっちの人生が貴方にとってお好みかしら?」
――――――
521 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/11/28(日) 00:23:39.53 ID:MJMUKdI8o
地の文やっぱつれぇわ
次回『S4.タイトル未定』
ライブ感で書いてるから矛盾発生するかもだけど許してね
522 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:39:11.31 ID:WGxiRQYAo
ここから登場人物増えまくって視点が変わりまくる群像劇の猿真似をするよ
投下
523 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:40:06.83 ID:WGxiRQYAo
ムーブポイント
S4.結標淡希を追え
午前七時五五分。ファミリーサイド二号棟のエントランスに一人の少女が立っていた。
肩まで伸ばした茶髪に花形のヘアピンをした、名門常盤台中学の冬服を着用している少女。
御坂美琴。学園都市にいる八人の超能力者(レベル5)の中でも第三位。常盤台の超電磁砲(レールガン)の異名を持つ少女だ。
美琴「――号室の黄泉川さん、だったわよね? たしか」
美琴は住民呼び出し用のインターホンに四桁の部屋番号を入力した。
美琴「しかし黄泉川っていう名字どこかで聞いたことがあるような……まあいいか」
プルルルル、という呼び出し音が三回くらい流れたあと、ブツンという音とともに音声が聞こえてきた。
??『はい、黄泉川ですけど?』
美琴「あっ、えっと、私、常盤台中学二年の御坂という者なんですけど」
??『御坂さん?』
美琴「その、そちらに打ち止めちゃんっていう子がいると思うんですが、いらっしゃいますでしょうか?」
??『…………』
美琴「?」
しばらく沈黙が続いた。
思わず部屋を間違えたか? と思う美琴だった。
だが、二〇秒くらいするとガチャン、というエントランスにある入り口のロックが外れる音がした。
??『どうぞ入ってちょうだい。一三階だからエレベーターを使うことをおすすめするわ』
美琴「は、はい」
そう言うと電話口の声が切れた。
言われた通り美琴はエレベーターに乗り、一三階へと向かっていった。
美琴(……はぁ、まさかこんなことになるなんてね)
御坂美琴がこんな場所にいる理由。
それは昨晩の結標淡希に関する一方通行からの話を受けたあとのことだった。
524 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:42:20.81 ID:WGxiRQYAo
〜回想〜
黒子「では、わたくしは一七七支部に戻って残っている仕事を片付けなければいけませんので」
一方通行との話が終わった黒子はそう言って、開いた盗難品のキャリーケースを閉じた。
しかし、一方通行が無理やりこじ開けたモノなので、なかなか良いように閉まらない。
軽くイライラしている黒子へ美琴が言う。
美琴「黒子。わかってるわね?」
黒子「……ええ、わかっていますわお姉様。ここで話したことは初春や固法先輩、他のジャッジメントの皆様には内密に、ですわよね?」
一方通行「ああ。下手に触れ回って連中に気付かれてもいけねェしな」
そう言って一方通行は忠告する。
今回の件に対して何かしらのアクションを起こしている者がいると向こうにバレれば、何かしらの対策を講じてくるかもしれないからだ。
それによって彼女たちの身に何が起こるのか。良いことにはならないことは確実だ。
黒子「承知しております、わっ!」
バキッ!! 黒子はキャリーケースを蹴り、無理やり閉めた。
蓋はきちんと閉まったが、外部に明らかに凹んだ跡が見える。彼女は犯人との交戦で破損したとか適当に言い訳でもするつもりなのだろうか。
黒子「ではこれで」
そう言うと黒子は一礼し、盗難品ということになっているキャリーケースを持って、空を切るような音とともに姿を消した。
美琴「さーて、私も帰りますか……げっ、よく見たら門限完全に過ぎてるじゃない!? あーこれはペナルティー&説教確定ね。はぁ」
美琴が携帯電話を開いて、時間を確認したあとため息交じりにぼやく。
そんな美琴に一方通行は話しかける。
一方通行「超電磁砲」
美琴「何よ?」
一方通行「オマエに頼みてェことがある」
美琴「頼み事? もしかして結標捜しを手伝えとか言わないわよね?」
一方通行「いや、そンなことは言うつもりはねェよ」
たしかにオマエが入れば捜すのは楽になりそうだがな、と一方通行は付け加えて続ける。
一方通行「打ち止めの面倒を見て欲しい」
美琴「打ち止めの? 何でよ?」
一方通行「アイツは結標と同じくらい、クソどもから価値のある研究対象として見られている」
一方通行の言葉は予測とか想像とかでもなく事実である。
その理由として過去に、打ち止めを狙った組織が彼女の面倒を見ていた木原数多たちを襲撃した事件があった。
彼が聞いた件はそれだけだが、もしかしたら水面下で数々の組織が彼女を狙い、木原たちに潰されていった可能性だってある。
一方通行「今までは俺の存在で躊躇していた三流組織が腐るほどいたかもしれねェ。だが俺が結標を追って裏に潜り込ンだことを知れば、ソイツらはこぞって動き出す可能性がある」
美琴「そんな状態で今までよく生活してこられたわね」
一方通行「一応は打ち止めの用心棒件保育担当のヤツがいる。だが、正直今はソイツを信用できねェ状況にある。そこで超能力者(レベル5)第三位のオマエのチカラを借りてェ」
美琴「なるほどね。私に打ち止めのボディガードをしろって言いたいわけ?」
一方通行「ああ。オマエなら妹達の事情のことも知っているし、戦闘力も申し分ねェ。何よりオマエなら信用ができる」
美琴「何か買いかぶり過ぎな気がするんだけど」
居心地が悪そうに美琴は頭を掻いた。
525 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:43:49.62 ID:WGxiRQYAo
一方通行「オマエにも事情っつゥモンがあるってことはわかっている。オマエにも危険が及ンでしまうかもしれねェ。それについてはすまねェとは思っている」
一方通行「けど、オマエしかいねェンだ。あのガキを任せられるヤツはよォ。だから、頼まれてくれねェか?」
頼み事をする一方通行の目は真剣そのものだった。
それに対して美琴は、
美琴「うん、いいわよ」
即答だった。まるで消しゴムを貸してくれと言われて了承するように。呑気な笑顔で。
あまりの即答に一方通行は怪訝な表情を浮かべる。
一方通行「返答早ェよ。頼ンだ俺が言うのも何だがもっと考えて返事しろォ」
美琴「だって断る理由ないじゃない」
軽い感じに美琴は続ける。
美琴「大切な妹に危機が迫っているから助けてくれって言われて、それを嫌ですって断る姉がいる?」
一方通行「…………」
美琴「私だってあの子の、あの子たちの姉なんだから。その役割を果たさせてよ」
一方通行「……悪りィ。助かる」
美琴「それに……」
美琴が一方通行の顔から目をそらした。
彼女の表情にはどこか悲しげなものが映る。
美琴「アンタには、その、悪いことしちゃったみたいだしね」
一方通行「気にするな。いずれこォなることはわかっていた」
ふぅ、と美琴が息を吐いてから、再び一方通行を見る。
美琴「で、どのくらいの期間になるわけ? 一週間も二週間も預かれって言われたら、さすがの私にもキツいものがあるわよ?」
一方通行「わからねェ。この件が終わるまで何とも言えねェよ。明日になるかもしれないし、俺がくたばって永遠にその時が来ねェかもしれねェ」
美琴「たしかにそうね。暗部っていうのはそこまで簡単なことじゃないわよね」
一方通行「ああ」
美琴「まあ期間に関してはその時考えるとして、打ち止めはいつ迎えに行けばいいのよ? 今から? それならちょっとこっちも準備の時間が欲しいんだけど」
一方通行「それなら明日の朝でイイ。そォだな朝八時くらいにしとくか」
美琴「いいの? そんなのんびりしてて」
一方通行「まァ、その時間までは他の住人がいる上に、あのマンションのセキュリティもそれなりに高い。そンなすぐのすぐにあのクソガキが狙われることはねェだろ」
楽観的な考えだがな、と一方通行は付け加える。
一方通行「そォいうわけだ。クソガキを頼むぞ」
美琴「任せときなさい。だからアンタは絶対に帰ってきなさいよ? それまで絶対に打ち止めを守り切って見せるから」
〜回想終わり〜
526 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:44:37.19 ID:WGxiRQYAo
美琴(学校が始まるのが三日後だからそれまでは何とかなりそうだけど、それ以降もとなるとちょっと辛いわねー)
そんなことを考えてながら歩いていると、美琴は目的の部屋の前へとたどり着いた。
美琴(やっぱり知らない人の家のインターホン鳴らすのって、なんだか緊張するわよね)
すぅ、と呼吸を整えて美琴はインターホンのボタンを押した。
ピンポーンと小さな音が聞こえる。室内にドアベルの音が流れたのだろう。
すると間髪入れずに施錠を解除する音がし、ドアが勢いよく開いた。
打ち止め「わーい!! お久しぶりお姉様ー!! ってミサカはミサカは喜びの気持ちともに飛びかかってみたり!」
美琴「ちょ、打ち止め、うわっ!?」
思わぬ突撃に耐えられず、美琴の体は打ち止めごと床に倒れ込んだ。
打ち止め「大丈夫? お姉様? ってミサカはミサカは心配してみたり」
美琴「あははは、大丈夫大丈夫。大丈夫だから降りてもらえる?」
はーい、と言って打ち止めは馬乗りを止め、美琴の体から降りた。
??「何をやっているのよ貴女たち。ご近所さんの目もあるし早く中に入りなさい」
玄関から一人の大人の女性が現れた。
肩に届かない程度の長さの黒髪で、シャツの上からカーディガンを袖に通している。
この人が黄泉川さんなのかな、と美琴は思った。
打ち止め「了解、ってミサカはミサカは敬礼してみる」
美琴「あ、はい。お邪魔します」
挨拶をし、美琴は打ち止めとともに部屋へと上がっていった。
美琴(うわー広いリビング。さすが高級マンションね)
普段は手狭な学生寮の部屋か、コインロッカー代わりに使っているホテルくらいしか見ない美琴の目には、高級4LDKマンションの一室は新鮮に映ったようだ。
??「御坂さん? そっちのソファに適当に座っててちょうだい。飲み物は何する? お茶? コーヒー? 紅茶?」
美琴「紅茶でお願いします」
そう返した美琴はL字型のソファの端の方へと腰をかける。
その隣を追うように打ち止めが飛ぶように座った。
527 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:45:59.55 ID:WGxiRQYAo
打ち止め「ミサカは牛乳を飲んでいるんだ! 早く大きくなりたいから、ってミサカはミサカはマグカップを片手に願望を口走ってみたり」
美琴「もう二、三年すれば私くらいの大きさにはなっているわよ」
打ち止め「うーん、ミサカはもうちょっと大きくなりたいなぁ、ってミサカはミサカは意味深なことをつぶやいてみたり」
美琴「うふふ、それはどういう意味かな打ち止めちゃん?」
視線を顔から三〇センチほど下に落としやがった打ち止めを見ながら、美琴は引きつった笑顔を浮かべていた。
そんな彼女の目の前のテーブルにティーカップが置かれた。
??「はい、紅茶よ。と言ってもインスタントの安物だからお嬢様には物足りないかしら?」
美琴「い、いえ全然大丈夫です。ありがとうございます。えっと、黄泉川さん?」
芳川「ああ違うわ。私の名前は芳川桔梗よ。その子と同じここに住む居候の一人。家主の黄泉川愛穂は仕事で今いないわ」
美琴「あっ、ご、ごめんなさい!」
芳川「いいのよ。勘違いは誰にでもあるわ」
慌てふためく少女を見て芳川はくすりと笑みをこぼした。
コーヒーを一口飲み、芳川は話し始める。
芳川「その子から大体の経緯は聞いたわ。ウチの同居人たちの問題に巻き込んじゃって申し訳ないわね」
美琴「そんな。謝ることようなことじゃないですよ。私が好きでやってることですから」
芳川「ふふっ、ありがとうね。けど、こうやって子どもたちが大変なことになっているときに、大人として何もできない自分が悲しくなってくるわね」
美琴「…………」
そんなことないですよ、そう言おうと思った美琴だったが、そんな適当なことを言っていいのか? そんな身勝手なことを言っていいのか?
そういった考えが頭の中で交錯して言葉を飲み込んだ。
芳川「同じ大人でも愛穂はどうにかしようと頑張っているわ。けどたぶん、今回の問題に関してはおそらく空回りしそうね」
美琴「愛穂さん、って黄泉川さんのことですよね? どういう人なんですか?」
打ち止め「ヨミカワはアンチスキルなんだよ、ってミサカはミサカは説明してみる」
美琴「アンチスキル? 黄泉川さん、アンチスキル、……もしかして」
美琴の中には黄泉川という名前のアンチスキルに心当たりがあった。
美琴は過去結構な数の事件に首を突っ込んでいるような少女だ。
その中でアンチスキルに助けてもらう機会があったが、そのときに主で動いてくれた女性。
よく会ったり喋ったりしたから、なんとなく顔見知りみたいな感じになっていた。
芳川「思い当たるような人がいるみたいね。たぶん、その人で合っているわよ」
美琴「ここ、あのアンチスキルの人の部屋だったんですね」
改めて部屋をキョロキョロ見渡している美琴を無視して芳川は話を続ける。
芳川「アンチスキルはあくまで表の世界の治安維持をしている組織。何かしらの裏の敵対組織を相手にしようとするなら、その敵対組織を表に引きずり出さないといけない」
芳川「けど、今あの子たちが関わっている件はおそらく学園都市の深い闇の部分。一介のアンチスキルが動いたところで、どうにかできるようなものではないわ」
528 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:47:22.22 ID:WGxiRQYAo
表の世界や学園都市の闇などという言葉を平然と口に出す芳川。
そんな彼女を見ながら美琴は尋ねる。
美琴「芳川さん。あなたは一体……」
芳川「私は学園都市の抱える闇の一端に触れていた元研究員。それは貴女もよく知っている闇だと思うわ」
美琴「……まさか」
美琴はふと隣に座る打ち止めを見た。
マグカップを両手に持った打ち止めがそれに気付いて、首をかしげる。
芳川「そう。『絶対能力者進化計画(レベル6シフト)』。貴女が最も忌み嫌っているだろう実験に協力していたたくさんの研究者たち、そのうちの一人よ」
美琴「ッ……!」
美琴の目が大きく見開く。バチッ、と彼女の体に紫電が走った。
その音にビクッ、とさせた打ち止めが慌てながら、
打ち止め「お、お姉様!? どうかしたの、ってミサカはミサカは聞いてみる」
打ち止めの言葉は美琴には届かなかった。
まっすぐと芳川を睨みながら美琴が問いかける。
美琴「なんであんな実験を行ったのよ……!」
美琴の鋭い視線に動じることなく、芳川は答える。
芳川「私は雇われの研究者だったから、と言っても貴女には言い訳にしか聞こえないかしら?」
芳川「それとも、この実験自体がなぜ行われたのかと聞いているつもり? それなら、貴女のほうがよく知っていると思うけど」
ぐっ、と美琴はたじろぐ。
たしかにこの質問には最適解などない。つまり、意味のない八つ当たりのような質問だ。
芳川という女性はそれを気付かせるために、あえてああいった答えを突き付けたのだろう。
それを理解した美琴は深呼吸して息を整える。
美琴「すみません、取り乱しました」
芳川「別にいいわよ。同じ立場なら誰だって激昂すると思うわ」
美琴「……けど、最後に一つだけ聞いていいですか?」
芳川「何かしら?」
529 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:48:29.63 ID:WGxiRQYAo
美琴「あなたにとって、打ち止めは何なんですか?」
美琴は彼女の真剣な眼差しで問いかける。どうしても知りたいことを。
芳川「そうね」
前置きをして、芳川はコーヒーカップに口を付けてから、答える。
芳川「血の繋がっていない家族、かな? 彼女は娘であり、妹でもある。そんな感じの存在かしら?」
美琴「……そう、ですか」
その答えを聞いた美琴は、安心したように小さく微笑んだ。
打ち止め「うおおっ! ミサカもヨシカワのことお母さんのように思ってるよ! ってミサカはミサカは乗っかってみたり」
芳川「打ち止め。そこはお姉さんと言いなさい」
打ち止め「ええぇー? でもお姉さんというには歳が――」
芳川「お・ね・え・さ・ん・よ?」
美琴「……ふふっ」
二人の言い合いを前に、美琴は思わず笑いがこぼれた。
打ち止め「あっ、お姉様が笑ったー! ってミサカはミサカは指摘してみる」
芳川「あら? 何か言いたいことでもあるのかしら御坂さん?」
美琴「ご、ごめんなさい! つい何か笑っちゃって」
芳川「笑われてるわよ打ち止め」
打ち止め「えー? ヨシカワのほうでしょー、ってミサカはミサカは会話を思い出しながら言ってみる」
また同じようなことを始めて美琴は笑いそうになったが、出されていた紅茶を無理やり一気飲みして全部飲み込んだ。
芳川「……あら、もうこんな時間」
ふと、壁にかかった時計を見た芳川が呟く。
芳川は自分の使ったカップを流しに置き、床においていた鞄を手にした。
芳川「そろそろ私はバイトに行かなきゃいけない時間だからここを出るけど、貴女たちは?」
美琴「あ、はい。ここにいるわけにはいきませんので、私たちも一緒に出ます」
打ち止め「わーい!! お姉様とお出かけだー!! ってミサカはミサカは小躍りしながらハシャイでみたり」
芳川「じゃあ御坂さん。打ち止めのことをよろしくね」
美琴「はい、任せてください」
彼女たちは部屋をあとにし、それぞれの行き先へと足を進めた。
―――
――
―
530 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:50:06.61 ID:WGxiRQYAo
とあるホテルの一室。
一方通行はベッドの上に座り、コンビニで買ってきたフライドチキンをかじりながら、テレビの画面を見ていた。
テレビ『今朝のニュースです。昨晩、学園都市内にある研究施設が何者かに襲撃されるという事件がありました』
テレビ『被害があった施設は三軒。阿部食品サンプル研究所第三支部、岡本脳科技工所、日野電子材料開発部門。いずれもデータを強奪されるという被害にあったようです』
テレビ『被害にあった研究施設の研究員からの証言で、その犯人は何かしらの能力者だということです。手口は全て同じなため、同一犯による犯行の線で捜査が進められています』
フライドチキンの骨を口に加えたまま一方通行は思考する。
一方通行(おそらく、このニュースの犯人は結標だろォ。理由はアイツの記憶が蘇って失踪してから今までの間に起きたから、っつゥ何のひねりもねェ推理だが)
結標淡希が記憶を取り戻し、逃走を始めたのが一九時頃。ネット記事によると最初の襲撃は深夜〇時過ぎ頃。
約五時間といったところか。これくらいあれば行動に移すには十分な時間だ。
しかし、これだけではこの犯人が結標だと断定はできない。稚拙過ぎて推理とも言えない。
こんなものに頼らないといけないほど、一方通行はよくない状況にあるということだ。
一方通行(結標。いまオマエは何を考えている? 何を目的に行動しているンだ?)
考えたところで答えは出ない。
なぜなら、今の彼女は自分の知っている結標淡希ではないのだから。
一方通行(……しかし、これを結標の犯行だとすると妙な点があるな)
ニュースを読んでいるうちに、彼の中に違和感が現れる。
一方通行(ヤツらは結標の確保を企てているはずだ。そのためにヤツの記憶を蘇らせて確保のしやすい裏に引きずり込ンだ)
一方通行(それならば結標が何かしらの事件を起こした場合、こォやってニュースなンかで表沙汰にする必要はねェはずだ)
情報操作は裏の連中からすれば十八番だ。都合の悪いニュースはもみ消したり、改竄したりする。
例えば今回の件に当てはめれば、わざわざ能力者の仕業などと言わずに、コソドロが忍び込んだとすればいいだけだ。
研究所に物理的に大きな被害が出ているのであれば、ただの事故として扱えば問題なく処理できるはずだ。
一方通行(表沙汰にすればアンチスキルが動く。そォなったら結標の動きが少なくなり、ヤツを補足するのが困難になる)
一方通行(さらに言うなら、結標を確保しようとする勢力も動きづらい状況になるだろうし、メリットなンざ皆無っつゥことだ)
このことから考えられるのは、この犯人を表沙汰にしたい連中がいるということ。
結標やそれを狙う組織の動きを制限させたい連中がいるということ。
一方通行(……つまり、この件に関係している勢力が一つだけじゃねェっつゥことだな)
結標の記憶を蘇らせた勢力と、その勢力を邪魔して先に結標を確保しようとしている勢力。
この二つの勢力がいるということにすれば、この疑問を解消できる。
しかし、この場合はある問題が起こることに一方通行は気付いた。
一方通行(……その他の勢力が一つだけとは限らねェかもしれないっつゥことか)
結標の記憶を蘇らせた勢力はほぼ間違いなく一つだ。だが、その勢力を妨害しようとする勢力が一つとは限らない。
それが二、三勢力くらいの可能性もあれば、一〇以上の勢力が入り乱れる混戦状態になる可能性もある
一方通行(そンな中、俺はたった一人でソイツらと渡り歩かなきゃいけねェっつゥわけだ。ソイツらの中にはグループやスクールみてェな暗部組織や、木原の野郎もいるかもしれねェ)
一方通行はフライドチキンの食べ柄をゴミ箱へ投げ捨て、舌打ち混じりに言う。
一方通行「面倒臭せェ……」
―――
――
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531 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:51:30.71 ID:WGxiRQYAo
第七学区。人通りの少ない裏通り。
道路沿いに黒塗りのキャンピングカーが一台停まっていた。
その中にある居住スペースに四つの人影があった。
黒夜「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!! どうだい!? 今までちまちまと守り続けたモンがあっさりとぶち壊される気分はさぁ!?」
土御門「…………」
黒を基調にしたパンク系衣装に身を包んだ見た目一二歳の少女、黒夜海鳥は高笑いしながら居住スペースに備え付けられているモニターに指をさす。
モニターには白の背景に黒色の文字が並んでいるというたんぱくなものであった。
書かれている内容は『座標移動(ムーブポイント)の回収。生体が好ましい。死体の場合、脳髄及び脊髄への損傷は避けること』。
これが暗部組織『グループ』へ通達された指令であった。
黒夜「この指令はおそらく他の暗部組織にも流れているよ。スクールとかアイテムとか同ランクの組織はもちろん、名前も知らないような弱小組織とかにもねェ!」
海原「…………」
黒夜「始まるのさ!! アンタらがビビって先延ばしにしてきた抗争がねッ!! 座標移動っていう獲物を巡って起こる楽しい楽しいコロシアイがなァ!!」
番外個体「嬉しそうだね。クロにゃんのそんな笑顔始めて見た気がするよ」
黒夜「そういうアンタもイイ顔してんじゃないのさ。番外個体(ミサカワースト)」
棒付きキャンディを口に咥えながら番外個体と呼ばれる少女はニヤリと笑う。
番外個体「そだね。座標移動が堕ちたってことは必然的にミサカのターゲットも堕ちてくるってことだからね」
咥えていたキャンディを噛み砕く。飴の欠片がソファや床にボロボロと落ちていった。
番外個体「早く会いたいなぁー、第一位♪」
土御門「……お前ら、盛り上がるのは勝手だがあくまで仕事の内容は座標移動、結標淡希の回収だ。それを忘れるな」
金髪サングラスでアロハシャツの上から学ランを着た少年、リーダー土御門元春は冷静に忠告する。
黒夜「ヘイヘイわかってるよ。だからわざわざ私が報道関係に働きかけて、あの女がやらかしたことを表沙汰に出してやったんでしょうが」
番外個体「へー、あれってクロにゃんの仕業だったんだ。そういうチマチマした仕事はやらなそーな感じなのにねー」
黒夜「まあたしかに好きじゃないよ。でもこれをすることで、一番最初に動いた組織をおびき出すエサにできるからね。さっさとバトりたい私からしたら大事な下準備ってわけさ」
海原「そんなエサに引っかかってくれるほど、簡単な相手ではないとは思いますけどね」
見た目爽やか少年の、海原光貴と名乗る男はやれやれといった感じに首を振る。
黒夜「うるせえな、そんなことはわかってるよ。だけど、これのおかげ座標移動の動きを制限させて生存率上げてやってんだ。感謝はされても文句を言われる筋合いはないね」
海原「ですがそのおかげで、こちらも結標さんの動向を掴むのに難航しているということも忘れないでください」
黒夜は舌打ちをし、バツの悪そうな顔でフライドチキンを頬張った。
532 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:53:14.68 ID:WGxiRQYAo
土御門「とりあえず結標は生きて回収する。そのためにお前たちは常に対空間移動能力者用の拘束具を常に携帯しておけ」
黒夜「面倒臭いなー。脳みそが無事ならいいって書いてあるんだから、サクッと心臓ぶち抜いて上に報告すりゃいいと思うけどね」
海原「結標さんは仮にも超能力(レベル5)の能力者ですよ? そう簡単に殺せるとは思わないことですね」
黒夜「なにブルっちゃってんですか海原クン? ちょっと前まで大能力者(レベル4)だった女に、この私が遅れなんて取るわけないだろ?」
番外個体「同じくレベル4のミサカに手も足も出ないクロにゃんが随分と強気じゃないかにゃーん?」
自分の両手人差し指の先を向かい合わせて、間に電気を走らせながら番外個体はニヤニヤする。
黒夜「うるせェ! アンタは別だよ別ッ!」
番外個体「というか座標移動がレベル5になれたのって記憶喪失してたおかげじゃなかったっけ? トラウマを忘れているから自由自在に自分の転移をできるからって」
海原「ええ、たしかそのはずです」
番外個体「でも今の座標移動は記憶喪失治っちゃったんだよねー? てことはまた自分自身の転移ができないレベル4に戻っちゃったことじゃないの?」
土御門「それに関してはそう簡単ではなさそうだぞ」
土御門が報告書のようなものを見ながら、会話に割って入る。
土御門「結標と接触した下部組織の連中からの話によると、連続転移を使用していたらしい。それによる体調不良も見られなかったそうだ」
番外個体「へー。つまり、完璧な座標移動に加え、テロリスト時代の知識と戦闘技術を持っているってことか。クロにゃんじゃ負けそう」
黒夜「何だとッ!?」
海原「99.9999999%負けますね」
黒夜が額に青筋を立てながら、椅子から立ち上がった。
ギロリと目線を海原へと向ける。
黒夜「……よォし、まずオマエから殺してやる。座標移動はそのあとだッ!!」
番外個体「い・つ・も・の♪」
いつの間にか番外個体が黒夜の後ろに回り込んで、電磁波を浴びさせていた。
黒夜はサイボーグだ。二本の腕やそれを支える肩甲骨部分を中心に、上半身の各所を機械化している。
そのため、発電能力者の番外個体とは相性が最悪だ。
黒夜「あばばばばばばばばば!! だから電気はやめめめめめめめめめめめめ!!」
このように制御を奪われたりして玩具にされるからだ。
目を回しながらロボットダンスみたいなことをしている黒夜を見て、ため息交じりに土御門が頭を抱える。
土御門「……お前らいい加減にしろ。遊ぶなら任務が終わってから勝手にやれ」
はーい♪ という反省する気のない返事をして、番外個体は黒夜を開放した。
自由の身になった黒夜は、番外個体の座っている場所とは対角線の位置に座り、涙目でブツブツ何か言っていた。
静まったことを確認したあと土御門は続ける。
土御門「とにかく、オレたちの目的は結標淡希を生きたまま確保することだ。勝手に殺すのは認めない。その目的に立ち塞がる者がいれば全て潰せ。それがスクールだろうとアイテムだろうと――」
土御門のサングラスの奥の目付きが変わる。
いつもの悪ノリをしているときのようなおちゃらけた目付きから。
獲物を見据えた冷酷な狩人のような瞳へと。
土御門「第一位だろうと、な」
―――
――
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533 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:54:53.17 ID:WGxiRQYAo
上条「……げっ、昼メシに食べられるもん何にも残ってねえじゃねえか」
とある高校の男子寮にの中にある一室。
冷蔵庫と戸棚の扉を開けっ放しにしたまま上条当麻はつぶやいた。
上条「しょうがねえ。買い出しに行くか」
禁書「とうま? お出かけするの?」
純白の修道服に身を包んだ少女、インデックスが飼い猫スフィンクスと戯れながらたずねる。
上条「ああ、ちょっとスーパーへ買い出しにな。本当はタイムセールの時間に行きたかったけど、そのために昼飯抜きにするのもあれだしな」
禁書「そう。いってらっしゃい」
そう一言だけ見送りの挨拶をしたあと、インデックスは再びスフィンクスと遊び始めた。
それを見た上条の眉毛がピクリと動く。
上条「……インデックスさん? たまには買い物に付いてきてお荷物の一つでも持つの手伝いましょうかとか、そういう心温まる言葉くらい言えねえんですかね?」
禁書「ちょっと今スフィンクスと遊ぶのに忙しいかも」
遊ぶのに忙しいもクソもあるか! 心の中で上条はそうツッコンだ。
まあ、こんなやり取りは今に始まったことではないので、上条はため息交じりに諦める。
上条「もういいよ。いってきます」
そう外出の挨拶をしてから玄関へ向かう。
上条(まあよくよく考えたら、アイツが下手に付いてきてスーパーの道中にある食べ物屋とかに反応して、割高な食い物をせびられても困るしな)
そんな危険予知的なことをしながら上条は部屋を出ていった。
―――
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534 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:56:22.49 ID:WGxiRQYAo
春休み期間ということもあって朝から私服の学生たちが闊歩している街中の歩道。
その中で二人の少女が仲良く手をつないで歩いていた。
御坂美琴と打ち止め。知らない人が見れば姉妹が一緒におでかけしているのだと思うだろう。
背中にリュックを背負った打ち止めが聞く。
打ち止め「お姉様? ところでこれからどこに向かうの? ミサカ的には映画館とか行ってみたいな、ってミサカはミサカは要望を遠慮なく口にしてみたり」
美琴「映画館か。そういえばあの馬鹿と一緒に行ったっきり行ってないわね。というかあんときのアイツは本当に……」
ブツブツなにかをつぶやいている美琴に首を傾げる打ち止め。
それに気付いた美琴はごほん、と咳払いをしてから話を続ける。
美琴「とりあえず今私たちが向かっているのは、私の知り合いがいるジャッジメントの支部よ?」
打ち止め「ジャッジメント?」
美琴「そうよ。私のルームメイトが働いているところなんだけどね。昨晩帰ってきてなかったからどうしてるのかな、って様子見に行こうと思ってて」
打ち止め「へーそうなんだ。ミサカジャッジメントさんが働いているところに行くの初めて! ってミサカはミサカは胸を躍らせてみたり」
美琴「アンタが胸を躍らせるようなものは何もないと思うけどね」
他愛のない会話しながら二人はとある一棟のビルの前にたどり着いた。
入り口には『風紀委員活動第一一七支部』と書かれたプレートとそれが2Fもあるということを表したプレートがあった。
二人はその順路通り階段を上がっていき、二階にある一一七支部のドア前に着く。
美琴(黒子いるかな……?)
ドアの横に付いている呼び出しのインターホン。そのボタンを押そうとした瞬間、
??「――見損ないました!! 白井さんがそんな人だとは私思いもしませんでした!!」
少女の怒号が聞こえてきた為、美琴の指がピタリと止まった。
美琴(今のは初春さんの声? 一体何が)
と考える間もなく美琴はドアを開けてしまう。
535 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:57:32.08 ID:WGxiRQYAo
美琴「どうしたの黒子!? 初春さん!?」
初春「み、御坂さん!?」
黒子「お姉様……」
美琴の目に映ったのはデスクチェアに座って腕と足を組んだ白井黒子と、その目の前に食って掛かるように立っている初春飾利だった。
美琴「ど、どうしたのよ二人とも。二人してそんな怖い顔して」
黒子「いえ、何でもありませんわ」
美琴「何でもないってことはないでしょ」
黒子「お姉様には関係ありませんの。わたくしたち一七七支部の中の問題ですので」
初春「…………」
支部内に重苦しい空気に包まれた。
なにを喋ろう。
この雰囲気をどうにかしようと頭をフル回転させる美琴をよそ目に一人の少女が発言する。
打ち止め「ねえねえ。よくわかんないけどケンカはいけないと思うよ二人とも、ってミサカはミサカは殺伐とした空気を和らげる清涼剤になってみたり」
黒子「!? ち、小さいお姉様!?」
初春「たしか御坂さんの従妹の……打ち止めちゃんでしたっけ?」
打ち止め「お久しぶりだねクロコお姉ちゃんにカザリお姉ちゃん! ってミサカはミサカは再会の挨拶をしてみる」
初春「どうしてこんなところに?」
美琴「ああ、ごめんね。今私この子の面倒見てて」
初春「そうだったんですねー。あっ、打ち止めちゃんなにか飲みます? って飲み物何かあったかなー?」
わーい、とハシャギながら打ち止めはソファの上に飛び乗った。
それに続いて美琴もソファに腰掛ける。
536 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:58:31.23 ID:WGxiRQYAo
黒子「……言っておきますがお姉様? ここは託児所ではありませんのよ?」
美琴「わ、わかってるわよそれくらい!」
黒子「でしたらお姉様はどうしてここに来られたんですの?」
美琴「いや、昨日アンタ寮に帰ってこなかったでしょ? だからどうしてるかなーってちょっと様子見に」
黒子「そうだったんですのね。一応、寮監には門限延長から外泊許可への変更の連絡は入れておいたのですが、申し訳ございません。お姉様には連絡入れるの忘れてましたわ」
美琴「別にいいわよ。昨日あったことがあったことだし」
黒子「……ええ」
美琴「で、初春さんと言い合ってたのはその件についてかしら?」
黒子「…………」
黒子は喋らなかったが美琴はその雰囲気で何となく察した。
やはりこの子はあの場にいるべきじゃなかったんじゃないか、そんなことを思う美琴だった。
初春「打ち止めちゃん、オレンジジュースならありましたよ!」
打ち止め「わーい、ありがとー! ってミサカはミサカはきちんとお礼が言えるいい子!」
ストローを咥え、オレンジジュースを吸い込む打ち止めを横目で見ながら美琴は考える。
美琴(さて、これからどうしようかしらね)
ここはジャッジメントの詰め所だ。そこら辺の公園とかにぼーっと立っているよりはいくらか安全だろう。
しかし、それすら障害とは思わないような輩がここに攻め入ってくる可能性がないわけじゃない。
もしそんなことになれば、ここにいるみんなを巻き込んでしまうことになる。
美琴(あんまりここに長居するわけにはいかないわよね)
打ち止め「ところでお姉様? 映画館に行くっていう話はどうなったの? いつ行くの? ってミサカはミサカは聞いてみる」
初春「映画観に行くんですか? いいですねー何観るんですか?」
打ち止め「ミサカはそげぶマンが観たいな! 『劇場版そげぶマン 奇蹟の歌姫編』! ってミサカはミサカは映画タイトルまるまる言ってアピールしてみる」
初春「ああ、あれですか。面白かったですよー、最後はヒロインが――」
打ち止め「わーだめだめネタバレはNGだよー! ってミサカはミサカはカザリお姉ちゃんの暴挙を阻止してみたり!」
真面目な考え事をしている美琴のことなどつゆ知らず、打ち止めはこれからの遊びのスケジュールを一生懸命立てていた。
やれやれ、と美琴はため息を付いた。
―――
――
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537 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 22:59:59.18 ID:WGxiRQYAo
スーパーからの帰路。
上条当麻は食材やら何やらが入ったレジ袋を片手に街中を歩いていた。
上条(今日の昼飯は何にしようかなー)
何となく卵の気分だから親子丼とかいいなあ、いやオムライスも捨てがたい。
そんなことを考えながら歩いている上条の視界に見知った人が入った。
赤髪を二つに結んで背中に流していて、腰に巻いたベルトに軍用懐中電灯を付けている少女。
上条(あれは結標じゃねえか)
クラスメイトを発見した上条はおーい、と声をかけようとしたが、少女はすぐに路地裏の方へ入ってしまった。
上条(路地裏なんかに入ってどうしたんだアイツ?)
何度か彼女と街中を歩いたことはあるが、進んで路地裏なんていう場所を歩きたがるような人ではなかったはずだ。
違和感を覚えた上条は、結標淡希を追いかけて路地裏に入っていった。
上条(近道とかそんな感じじゃなさそうだよなー)
たしかここの路地裏を進んだ先は行き止まりだったはずだ
普段から怖いお兄さんたちとやりたくもない追いかけっこをしているため、裏道とかに詳しい上条にはすぐそれがわかった。
しばらく進んだところにある曲がり角。そこに彼女はいた。
ビルの壁に背中を預けて、荒げている息を整えている様子だった。
上条「……結標? どうしたんだよこんなところで?」
結標「ッ!? 誰!?」
いきなり声をかけられて結標は壁から背を離し、上条と対面して身構えた。
上条「誰、って俺だよ俺。上条さんですよ」
結標「だから誰よ!?」
上条「えっ?」
初対面のような反応をされて少し戸惑う上条。
もしかして人違いか? と思い何度も目の前の少女を目で確認するが、どう見ても自分の知る結標淡希だった。
ふと、そのとき上条は気付く。
彼女の着ている洋服のところどころに赤い染みのようなものが付いていた。
538 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:01:20.72 ID:WGxiRQYAo
上条「お、おい結標。それなんだよ……? もしかして血じゃ――」
上条が近づこうとした瞬間、結標は腰につけている軍用懐中電灯を抜いた。
そしてそれを真横に振るう。
ドスリ。
上条の左肩に鋭い痛みが走った。
上条「なっ、があっ……!?」
思わぬ痛みに持っていたレジ袋を地面に落としてしまう。
中に入っていたものが散乱する。
上条(こ、これってテレポートの……!)
肩に手を当てる。
そこには錆びついた五センチくらいの長さの釘が突き刺さっていた。
それを確認したせいか、さらに痛みが増していくように感じる。
結標「貴方。さっきから私のことを追いかけてきているヤツらの一員ね? 一般市民の知り合いを装って話しかけて来るなんて姑息な手を使うわ」
上条「何言ってんだ、お前……」
結標「何? もしかして本当に一般の人だった? それならごめんなさいね」
軍用懐中電灯を適当にいじりながら結標は続ける。
結標「でも私は貴方のことなんか一ミリたりとも知らないわけだし、不用意に近付いてきた貴方が悪いってことで許してもらえないかしら?」
上条「知らない、だと? そんなわけねえ、だろ」
結標「事実よ。ま、貴方が無関係な一般人の可能性を考慮して、これ以上の攻撃をするのはやめてあげるわ」
結標は軍用懐中電灯を再び腰に付けて、上条に背を向ける。
結標「ただし、次私の前に姿を現したときは、私を追う刺客とみなして容赦はしないわ」
上条「ま、まちやが――」
結標「だから気をつけてね。上条君?」
軽い感じに手を上げ、結標は空気を切る音とともに姿を消した。
人がいなくなった空間を見つめて、上条は呆然と立ち尽くす。
上条「うそ、だろ? 結標……?」
少年の問いかけに答える者は、もうここには誰もいない。
―――
――
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539 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:02:25.14 ID:WGxiRQYAo
一方通行は第一〇学区にある阿部食品サンプル研究所第三支部という研究所の近くに来ていた。
ここは今朝のニュースで話題に上がった、能力者による襲撃を受けた場所の一つである。
事件が発生した場所だけあって、駐車場にはアンチスキルの使う車輌が複数台止められており、研究所周辺には見張りをしているアンチスキルも複数人いた。
一方通行(犯人は現場に戻るなンつゥ言葉があるが、まァそンな簡単な話はねェっつゥことだな。どォでもイイが)
一方通行は遠目で研究所の様子を見ながら手に持っているファイルを眺める。
一方通行(阿部食品サンプル研究所第三支部。中に入ることができりゃ分かるが研究所の名前はダミーで、ここは空間移動能力者(テレポーター)を専門している研究機関だ。他の二施設も同様にな)
一方通行(結標がテレポート関連の実験を受けた履歴の中に、コイツらの名前があった。つまり、アイツは過去に実験を受けた施設を襲撃しているということか)
一方通行(理由はなンだろォな。過去に受けた実験の復讐っつゥのが妥当なところか。いや、データを強奪されたとか言ってた気がするから何かのデータを探してンのか?)
一方通行は頭から余計な考えを飛ばすように頭を横に振った。
一方通行(……ンなモン考えたところでしょうがねェか。今考えるべきは結標のこれからの行動予測だ)
一方通行は携帯端末をポケットから取り出し、地図アプリを起動する。
一方通行(結標の今まで実験を受けた施設の数は、今回狙われたものを含めて全部で八九種類。当時存在したが現在は閉鎖されているものを減らせば三二種類か)
一方通行(これらの施設全部を回っていくことは不可能じゃねェが、回ったところでヤツと遭遇しなけりゃ意味がねェ)
一方通行(アイツが行きそォな場所を予測して、待ち伏せるなりなンなりして見つけ出さなきゃいけねェっつゥことだ)
一方通行(すでに狙われたところを抜いても二九種類。そン中から一つをドンピシャで当てるのは難しいっつゥレベルじゃねェ)
一方通行(例えばアイツの狙いが何らかのデータだっつゥなら、それを手に入れたらこの襲撃して回ンのが終了するっつゥことだ)
一方通行(そンな状況でいずれここに来るだろう、って特定の場所に一晩中張り込ンでいてもリスクが増すだけだ)
地図アプリを操作し襲撃のあった地点にマーカーをつける。
時間軸で並べるとそれは北へ北へ、第七学区方面へ向かっていることがわかった。
一方通行(おそらく第七学区にある寝床に向かっていったって考えるのが妥当だろォ。アイツがもともと使っていた住処か、はたまた普通にホテルか)
540 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:03:21.80 ID:WGxiRQYAo
時間を見る。ちょうど昼の一一時を回ったところだった。
一方通行(昨日の最初の襲撃が深夜一二時から一時の間。これは人目のつかない深夜だからこの時間にスタートしたってことか……いや)
一方通行(そもそも記憶が戻ったのが夕方のことだ。そこから自分の状況を把握して、研究所襲撃をするという行動方針を決めるのにそれなりの時間がかかったはずだ)
一方通行(つまり、夜じゃねェと襲撃しねェっつゥ固定概念を持っちまうのは危険だ。大事なチャンスを逃すかもしれねェ)
携帯端末を眺める一方通行の耳に、なにやらざわついた音が聞こえてきた。
何かと思い、音のする阿部食品サンプル研究所第三支部の建物がある方へ目を向ける。
そこには慌てて研究所から出ていくアンチスキルの姿があった。
一方通行(……何だ? 昼休憩にはまだ早いだろォに)
たまたま近くに見張りを続行しているアンチスキルの男がいたため、一方通行は聞き込み調査を始める。
一方通行「オイ」
アンチスキル「うん? 何だお前?」
一方通行「あそこで大急ぎで退却しているお仲間がいるが、何かあったのか?」
アンチスキル「ああ、あれだよ。今朝のニュースでやってただろ? 研究所の襲撃事件。あれの四つ目が今発生したらしい……おっと、こんなこと一般人に言っちゃいけねえや。忘れてくれ」
一方通行「そォか。アリガトよ」
お礼を言って、研究所のある方向から真逆の道を歩いていく。
一方通行(表はオマエの襲撃で大騒ぎしてるっつゥ状況で、こンな昼間っから動くなンざ随分な余裕じゃねェかよ)
一方通行の口元は、引き裂いたような笑みを浮かべていた。
―――
――
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541 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:05:47.21 ID:WGxiRQYAo
佐天「――つまり映画とは、最初の一〇分でそれが面白いかどうかを判断することができるのだ!!」
打ち止め「うおおおおおおおっ!! ってミサカはミサカは拍手喝采を送ってみたり」
一時間ほど前に一七七支部に遊びに来た少女、佐天のネットから持ってきた眉唾ものの話一つ一つに目を輝かせる打ち止め。
そんな二人をヤシの実サイダーという缶ジュースを片手に美琴は眺めていた。
美琴(そろそろここを出ようかって思ってるけど、佐天さんと楽しそうにしているのを見るとなかなか言い辛いわね)
佐天「あとこの噂知ってる? 超能力者(レベル5)には何と幻の八人目の能力者がいるっていう話」
打ち止め「うん、さすがのミサカでもそれは知ってるよ、ってミサカはミサカは得意げに答えてみたり」
佐天「あちゃー、知られてたかー。やっぱこれは有名な噂話だったかな」
打ち止め「噂話というか、その八人目の人ってミサカがよくしって――はっ、これはトップシークレットだった、ってミサカはミサカはお口にチャックをしてみたり」
佐天「えっ!? もしかして打ち止めちゃん八人目が誰か知っているの!?」
打ち止め「し、知らないよー、すひゅーすひゅー、ってミサカはミサカは露骨な態度で誤魔化してみたり」
教えろー、と言いながら佐天は打ち止めの脇腹をくすぐる。
あまりのくすぐったさにギャーギャー騒ぐ打ち止め。
その騒音で仕事のためにキーボードを叩いていた黒子の額に青筋が浮かぶ。
黒子「ちょっと佐天! あんまり騒ぐようならここから出ていってもらいますわよ!」
佐天「ええぇー? ちょっとくらいいじゃん。ほらほら打ち止めァー、ネタは上がってるんだぜい! 吐け吐けー!」
打ち止め「し、しらっ、しらな、はひっ、ミサカは第八位の超能力者なんか――」
くすぐられて呼吸困難になっている中、打ち止めの脳裏には超能力者(レベル5)第八位の少女、結標淡希の姿が浮かんだ。
半年という短い期間。だが打ち止めにとっては、生まれてから今までの半分以上の期間を一緒に過ごしたお姉さんのような存在。
その楽しかった思い出たちが次々と流れていった。
それと同時に、一方通行から告げられた一言も思い出していた。
『オマエの知っているアワキお姉ちゃンは、もォこの世にはいねェンだよ』。
その瞬間、打ち止めのつぶらな瞳から大粒の涙が流れた。
それに気付いた佐天が少女からぱっと手を離す。
佐天「ご、ごめん! 痛かった!?」
打ち止め「う、ううん、平気だよ! ちょっと笑いすぎて涙出ちゃっただけだよ、ってミサカはミサカは最もなことを言ってみる」
黒子「まったく貴女って人は。加減というものを考えなさいな」
気をつけますー、と佐天は頭を掻いた。
そんな彼女を横目に、黒子はポケットからハンカチを取り出し打ち止めに差し出す。
542 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:06:52.79 ID:WGxiRQYAo
打ち止め「あっ、ありがとクロコお姉ちゃん! ってミサカはミサカはお礼を言ってみる」
黒子「ふぐぅっ、い、いえ。どういたしまして」
佐天「どうかしたの?」
黒子「何でもないですの。ただ妹キャラのお姉様はやはり強力過ぎるというかなんというか……」
美琴「聞こえているわよー黒子ー?」
変態後輩に釘を差しておく美琴。
わたくしはお姉様一筋ですの、といういつもの発言を適当に流しながら、美琴は空になった缶ジュースを捨てるために立ち上がる。
そのとき、一生懸命ディスプレイとにらめっこしている初春飾利が目に入った。
よくこの一七七支部には顔を出すので彼女が仕事している風景はよく見かけるのだが、今の彼女の机の上の環境は今までとは明らかに違っていた。
外付けのディスプレイやノートパソコンなど全て合わせて八つの画面が机の上にあった。
気になった美琴は初春の席へ向かう。
美琴「初春さん?」
初春「はひっ!? あっ、何でしょうか御坂さん?」
美琴「大変そうね。ジャッジメントの仕事?」
初春「は、はい。ちょっといろいろありまして……」
初春はきまりが悪そうに愛想笑いを浮かべていた。
ちらりと目線をディスプレイの方へ向ける。たくさんの文字列やらグラフやらがずらりと並んでいた。
一般人なら視界に入れた瞬間理解することを諦めそうな画面だった。
そんな中、美琴は一枚の画像データがあることに気がつく。
美琴(あ、あれは、昨日の……!)
その画像は監視カメラの映像を停止したものだった。
時刻は昨日の一七時五七分三一秒。映っているのは街中。
たくさんの通行人の中に一人だけ、美琴にとっては異質な存在が映っていた。
昨日の夕方に会った、結標淡希と全く同じ格好をした少女。
結標淡希と断定しないのはその人物の顔がカメラからは写っていないからだ。
美琴(……なるほどね。やっぱり今朝のケンカの原因はあの件だったってわけか)
初春「?」
美琴「自販機行ってくるけど、よかったらついでに何か買ってきてあげましょうか?」
初春「わー、ありがとうございます。でしたらいちごおでんをお願いします」
どうせだし、と他のメンバーの分も買ってくるか。
人数分の欲しい飲み物を聞いて、美琴は自動販売機へ向かうために一七七支部をあとにした。
―――
――
―
543 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:07:38.78 ID:WGxiRQYAo
ビルの入り口から徒歩一分もかからないところに自動販売機はあった。
中身のバリエーションは、相変わらず学園都市独特の変わった飲み物が並んでいる。
だが、彼女たち学園都市の住人からしたら見慣れたものなので、特に気にすることなく硬貨を自動販売機へ入れていく。
美琴「――黒子が黒豆サイダーに打ち止めもヤシの実サイダーで」
自販機で買い物をしていると美琴の耳にある足音が聞こえてきた。
足音というのは普通一定のリズムを刻んでいるようもなものだが、それは不規則かつ安定しないリズムで聞こえてくる。
こんな時間から酔っ払った大人でもいるのか、と美琴は怪訝な表情で音の発生する方向へ目を向けた。
その目に飛び込んできた光景を見て、少女はぎょっとする。
美琴「ちょ、ちょっとアンタ!? どうしたのよその怪我!!」
上条「……み、御坂、か?」
そこには左肩を抑えてふらつきながら歩く上条当麻がいた。
肩には釘のようなものが刺さっており、そこから出血したのか腕を伝って左の手から赤い液体がポタポタ垂れていた。
美琴は携帯電話を取り出し、
美琴「びょ、病院、救急車呼ばないと……!」
上条「ま、待て御坂! そんな大した怪我じゃねえよ」
美琴「でも、血が……」
救急車を呼ぶことを拒否した少年に戸惑う美琴。
しかし、本人が言うような大した怪我じゃないことは目を見て明らかだ。
何が何でも早く治療しないと、と少女は思い、
美琴「……私の肩に捕まって」
上条「な、何で――」
美琴「いいから!!」
上条「お、おう……」
美琴の迫力に負け少年は大人しく言う通りにした。
上条当麻の体を支えながら美琴は先ほどまで自分がいた、ジャッジメントの第一七七支部のあるビルへと足を進める。
ゆっくりとしたペースで階段を上がっていき、呼び出し用のインターホンを鳴らさずにドアを勢いよく開けた。
―――
――
―
544 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:09:02.88 ID:WGxiRQYAo
黒子は自席で頬杖を突きながら、パソコンのディスプレイをぼーっと眺めていた。
画面には一人の少女のパーソナルデータが映し出されている。
黒子(……どうやらあの人の話は本当だったようですわね。たしかに結標淡希は去年の一一月に霧ヶ丘から別の高校へ籍を移している)
黒子が見ているのは結標淡希の情報。風紀委員(ジャッジメント)の権限を使い書庫(バンク)から入手したモノだ。
顔写真や能力、学歴といったプロフィールのデータがまとめられている。
彼女が見ているのは学歴の部分。『霧ヶ丘女学院 入学』の次の行には、以前見た時には書かれていなかった文字列があった。
黒子(――高等学校。……はて、どこかで聞いたことがあるような。まあ、その程度の認識ということは、別に名門校とかではないということですわね)
他にもいろいろ見てみたが、これと言って役に立ちそうな情報はなさそうだった。
黒子がため息を吐くと、
美琴「――黒子!!」
第一七七支部の部屋内に美琴の声が鳴り響いた。
それを聞いた黒子が体をビクッ、とさせて入り口の方を見ながら、
黒子「な、なんですのお姉様? そんな大声で呼んで……ってあ、貴方は!?」
入口の方向を見た黒子の表情に驚きと、嫌なモノを見たときのような色が浮かぶ。
目に映ったのは御坂美琴、と彼女に体を支えてもらっている少年、上条当麻だった。
応接スペースで遊んでいる二人の少女もそれを見て、
佐天「御坂さーん。このあとお昼にファミレスに行こうって話してて――あっ、上条さんだ! どうしてこんなところに!?」
打ち止め「わーい、ヒーローさんだ……ってええっ!? ち、血がだらだら垂れてる!? ってミサカはミサカは突然のバイオレンスな光景に戸惑いを覚えてみたり」
上条「あ、あれ? 俺ジャッジメントの支部に入ったんだよな? なんだこのメンツ」
明らかにジャッジメントと無関係そうな少女たちがワイワイ騒いでる様子を見たせいか、上条は困惑した顔をしていた。
美琴「黒子、ちょっと救急箱貸してちょうだい。コイツすぐに手当してあげないと」
黒子「そ、それはよろしいですが、そのような怪我なら病院に行ったほうが良いかと思いますが……」
美琴「なんか知らないけど病院行きたがらないのよコイツ」
上条「…………」
上条のバツの悪そうな表情を見て黒子はため息を付く。
黒子「何か訳ありってことですわね。わかりました。わたくしが治療いたしますので、その殿方をソファに座らせてくれます?」
美琴「えっ、でも黒子……」
黒子「お姉様。素人が下手に触って怪我を悪化させたりしたら大変ですの。ここはジャッジメントとして訓練を受けている、わたくしにお任せくださいませ」
美琴「……ありがと、黒子」
545 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:10:58.97 ID:WGxiRQYAo
ソファに座っている少年の隣に黒子は座り、傷の確認をする。
黒子(錆びた釘が刺さっておりますわね。出血しているのは無理に抜こうとして傷口を広げたとかそんなところでしょうか。とにかく釘を抜いて傷口を洗浄する必要がありますわね)
黒子が見た通り、上条の肩には服の上から錆びた釘が突き刺さっていた。
釘の頭部が見えているところから、先端部分は体内だ。まるでトンカチで叩かれたかのようだった。
一体、何をしていたらこんな怪我を負えるのか、と黒子は疑問に思った。
黒子「初春!!」
黒子はパーティションの向こう側へ向けて声をかけた。
その声が聞こえたのか、パーティションの端から覗き込むように初春が出てきた。
初春「な、なんでしょうか……って上条さんじゃないですか!?」
黒子「初春。怪我人の応急処置をしますわ。今すぐ応急セットと新品のタオル何枚か持ってきてくださる?」
初春「は、はい! 了解です!」
そう返事すると、初春は頼まれたものを準備するために部屋の中を小走りに動き始める。
黒子「待っている間、上に着ている衣服を脱いでいただきますわ」
上条「あっ、うん。じゃあ」
黒子「いえ。脱ぐときに傷口に刺さった釘に接触して、傷口が広がってはいけませんので貴方は何もしなくてよろしいですわ」
失礼、そう一言告げて黒子は上条の衣服に触れる。
シュン、という音を立て上半身の衣服が消え、ソファの前にあるテーブルへと移動した。
美琴「なっ、えっ、なっ、ちょっ、ちょっとぉ!?」
佐天「おっ、おうふっ、たくましい身体ですね……」
打ち止め「うわー、あの人とはぜんぜん違うや、ってミサカはミサカは率直な感想を述べてみる」
黒子「貴女たち怪我人に失礼ですわよ?」
隣にいた少女たちが、三者三様のリアクションをしながらその風景を眺めていた。
それに対して黒子は呆れ顔で注意する。
初春「白井さん! 準備ができました!」
そう言って初春はテレポートされた衣服をどけて、そこに救急セットと封の開いていない袋入タオルを一〇枚ほどをテーブルの上に置いた。
黒子「では早速釘を抜きます。抜くときの痛みはないとは思いますが、一気に血が吹き出てきますので覚悟だけはしておいてください」
上条「ああ、やってくれ」
黒子は上条の左肩に刺さった釘に触れ、テレポートを行使する。
左肩から釘が消え、少女が言ったように栓を失った傷口からは大量の血液が溢れ出てきた。
546 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:12:48.21 ID:WGxiRQYAo
黒子「続いて洗浄スプレーで傷口を洗い流します。少し痛むとは思いますが我慢してくださいな」
黒子は救急セットとからスプレー缶を取り出す。生理食塩水を噴射することができる医療用のスプレーだ。
蓋を開けて、傷口に向かって噴射する。
上条「ッ……!?」
上条が痛みで顔を歪める。
負傷部分の周りにあった血液や汚れが一気に流されていく。
黒子(こ、これは……!)
あらわになった傷口を見て黒子は目を細めた。それを見て何かに気付いたという様子だ。
だが、彼女は止まらず応急処置を続行した。
黒子は救急セットからチューブ状のものを取り出す。
黒子「対外傷キットですの。これで傷口を塞ぎますわ」
新品のタオルの封を一枚切り、そのタオルで肩の周りにある血液や水分を拭き取る。
そのあとチューブを押し、ジェル状のものを手にとって傷口に塗りつけた。
ドロドロだったジェルは次第に固まっていき、傷口を塞ぐ蓋となる。
傷口がふさがったことを確認した黒子は、包帯を取り出し鮮やかな手さばきで巻いていく。
黒子「これで処置は完了いたしましたわ」
上条「お、おう……」
黒子の手際の良さに驚いているのか、上条は唖然とした様子だった。
気にせず黒子はいくつか未開封のタオルを手に取り、
黒子「あとはタオルを何枚か渡しますので、血で汚れた体をそれで拭いてくださいな。それくらいは一人で出来ますわよね?」
上条「……ああ、サンキュー白井」
黒子「ふんっ、これはあくまで応急処置ですので。このあと病院に行き、然るべき処置を受けることをおすすめいたしますわ」
不機嫌そうに眉を上げて、黒子は推奨する。
一連の応急処置の様子を見ていた佐天が目を輝かせながら、
佐天「おおおおおっ!! さすが白井さん! 初春なんかとは比べ物にならないね」
初春「ちょ、ちょっと佐天さん! それは聞き捨てならないです! 私だって同じ訓練を受けているんですからね!」
初春が顔を真赤にしながら反論する。
何やってんだか、とそれを見ている黒子へ、美琴が名前を呼んで、
美琴「ありがとね。助かったわ」
黒子「いえ。ジャッジメントとして当然のことをしたまでですの」
じゃなければ誰が好き好んであんな腐れ類人猿の怪我の治療なんか。
ぶつぶつと負のオーラをまとっているような後輩を見て、美琴は苦笑いする。
547 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:14:03.49 ID:WGxiRQYAo
佐天「よし! 一件落着しましたのでこれからみんなでお昼にいきましょー!」
初春「ちょっと佐天さん!? まだ話終わってませんよ!」
怒っていた初春の相手をするのが飽きたのか、空腹が絶えきれなくなったのか、佐天が拳を突き上げながら提案する。
打ち止め「うおおっ! お昼だファミレスだっ! ってミサカはミサカは子どもらしくハシャイでみたり!」
美琴「そんな話になってたの?」
黒子「みたいですね。あの子たちが勝手に決めただけでしょうけど」
佐天「……! そうだ!」
佐天が体の汚れを拭いている上条を見て、
佐天「せっかくだし上条さんも一緒にどうですか!?」
美琴「!?」
美琴が体をビクッっとさせる。
なっ、なっ、なっ、と戸惑いの声を上げているが、顔を紅潮させて少しニヤついた感じが見えるので嫌ではなさそうだ。
忌々しい、と黒子は誰にも聞こえないように舌打ちする。
少女たちに昼食を誘われた上条だが、表情を暗くし、視線を下げて、
上条「……ああ、悪い。ちょっと行くところあるから行けないんだ」
断りの言葉を入れた。
そうですか、と残念そうな顔をする佐天を見て「誘ってくれてありがとな」と礼を言ってから、上条は血が付いた自分の衣服を着直し、部屋を出て行こうする。
その姿を見て美琴は思わず呼び止める。
美琴「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
上条「何だよ? まだ何か用があんのか? あっ、そういやお前にもお礼言わなきゃな。サンキュー御坂」
美琴「お礼なんて別にいいわよ。それより私にはアンタに聞きたいことがあんのよ!」
上条「聞きたいこと?」
美琴「アンタ一体何があったのよ? そんな怪我してるってことは、また何か変なことに巻き込まれているんじゃないでしょうね?」
美琴は質問した。怪我をした彼を見てからずっと疑問に思っていたのだろう。
上条当麻はよく厄介事に巻き込まれる体質にある。だから、この怪我も何かしらの事件に巻き込まれて負ったものじゃないかと、美琴は勘を働かせたのだろう。
少女の茶色い瞳が上条を見つめる。
しかし、上条はあはは、と軽く笑ってから、
上条「いや、ほんと何でもないんだ。ちょっと変な感じにずっこけちまうっつー不幸があっただけだよ」
美琴「そ、そう……」
あっさりと軽い感じに返された。
この言葉が嘘か本当かは美琴では判断できない。
だが、仮にこれが嘘だとしてもこれ以上詮索することは彼に失礼に値する行為だ。
そう思ったから、美琴は変な相槌しか打てなかったのだろう。
548 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:15:31.05 ID:WGxiRQYAo
上条「じゃあ行くよ。世話になった」
上条が出入り口のドアのノブに手をかける。
が、そのドアノブが回されることはなかった。
黒子「先ほど拝見させていただいた傷口についてなのですが、皮膚や肉がまるで釘に押しのけられたように周りに広がっていましたわ」
黒子が腕を組み壁に背を預けながら、上条の怪我についての話を始めたからだ。
黒子「普通に刺さったのでしたら、あのような形にはなりませんわ。しかし、わたくしはそのような怪我を負わせる方法を一つ知っておりますわ。なぜならわたくしも同じ怪我を負ったことがありますから」
全てを見透かしたように少女は言葉を続ける。
黒子「その傷、もしかして空間移動能力者(テレポーター)が行う物質の転移によって負ったものではありませんか?」
上条「ッ」
上条がピクッと少女の言葉に反応した。
それをは確認した美琴が彼女の言いたいことを察したのか、打ち止めの方を見る。
美琴「打ち止め。ごめんだけど私たちちょっと話があるから、先に佐天さんとファミレスに行っててちょうだい」
打ち止め「へっ? う、うんわかった、ってミサカはミサカは了承してみる」
美琴「佐天さん。お願い」
佐天「あっ、はい。……じゃあ行きますか打ち止めちゃん」
そう言って佐天は頭にハテナマークを浮かべている打ち止めの手を引いて、一七七支部の部屋を出ていく。
佐天もただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、特には言及することはなかった。
黒子「さて、初春。貴女も一緒にお昼に行ってきなさいな。居ない間はわたくしがここで留守番しておきますので」
初春「……白井さん。一つ聞いてもいいですか?」
黒子「何ですの?」
初春が黒子を見る。その表情からはいつもののほほんとした雰囲気は感じられない。
問い詰めるかのような口調で初春は聞く。
初春「もしかして上条さんの怪我の原因は、昨晩の事件に関係しているんじゃないですか?」
黒子「…………」
昨晩の事件。それだけで彼女が何が言いたいのか、黒子は理解していた。
理解していたからこそ、黒子は何も答えない。
喋らない黒子に対して、初春はジッと彼女を見つめながら、
549 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:17:20.97 ID:WGxiRQYAo
初春「どうなんですか?」
黒子「……関係、ありませんの」
いつもらしからぬ少女の圧に、黒子は思わず口を開けた。
その言葉を聞いた初春は、
初春「嘘ですね?」
一蹴する。看破したように。
黒子「何で貴女にそんなことがわかりますの?」
初春「……そんなの決まっているじゃないですか。だって、……私は白井さんのパートナーなんですよ?」
黒子「ッ」
初春の言葉に聞いて、黒子はたじろいでしまった。
そんな様子を気にしていないのか、気付いていないのかわからないが、初春は内のものを吐き出すように続ける。
初春「だから、わかりますよ。白井さんが何か隠し事をしていることも、何か深刻なものを抱え込んでいることだって」
初春「もしかして、私を巻き込みたくないと思っているから話してくれないんですか? そうなら私を見くびらないでください!」
初春「私だって風紀委員(ジャッジメント)です! ですから戦う覚悟は出来ていますから!」
言い切った初春は息を荒げていた。目が潤んでいるように見えた。頬がほのかに赤く染まっていた。
それだけ一生懸命声に乗せたのだろう。自分の気持ちを。
黒子「初春……」
黒子は迷っていた。たしかに、彼女はジャッジメントであり、同僚であり、パートナーでもある。
だからといって、彼女をこれ以上こちらの問題に巻き込んでもいいものか、すぐには判断が下せなかった。
そんな黒子の様子を見ていた美琴がため息をつく。
そして語りかける。
美琴「黒子、もういいんじゃない?」
黒子「し、しかし……」
美琴「初春さんの決心は本物だと思う。昨日のアンタと同じでね」
黒子「…………」
黒子は考え込むように口を閉じた。昨日のことを思い出す。
自分は御坂美琴に帰れと言われて、何と言い返したのか。そのときの自分はどんな想いを持っていたのか。
550 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:18:48.75 ID:WGxiRQYAo
黒子「…………はぁ」
黒子は呆れた。自分に対して。
そして少女は見る。目の前の少女を。こんな馬鹿な自分をパートナーと呼んでくれた少女を。
黒子「初春。覚悟はよろしくて?」
黒子の表情は今までのどこか張り詰めたようなものではなく、穏やかな友人に向けるものであった。
初春「……はい! もちろんです!」
同じように、初春も微笑むように笑い、そう返した。
上条「あのー」
少女たちが友情やら信頼やらの話をしている中、蚊帳の外にいた上条が発言する。
上条「よくわかんないけど、俺ってもう帰っていいのか?」
その言葉を聞いた三人の少女たちは目を見合わせた。
目線だけで会話をしたのか三人はにっこり笑い、一斉に上条の方へ顔を向ける。
「「「いいわけないでしょ!!」」」
三人のツッコミが一七七支部内に響いた。
―――
――
―
551 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:21:51.84 ID:WGxiRQYAo
お昼時。とあるファミレスの一角にある六人掛けのボックス席に四人の少女たちが座っていた。
麦野沈利。フレンダ=セイヴェルン。絹旗最愛。滝壺理后。
学園都市の非公式の暗部組織『アイテム』の顔触れだ。
麦野「……やっぱりコンビニのヤツは微妙ね。チッ、無難に鮭弁にしとけばよかったか」
透明のプラスチック容器に入ったサーモンのマリネサラダを箸でかき混ぜながら、麦野はぼやく。
横に乱雑に置いてあるビニール袋と彼女のセリフからして、これはどこかのコンビニで購入されたものなのだろう。
フレンダ「結局それって、この前行った高級レストランで同じようなもの食べちゃったせいじゃない? 自分の中の期待値が高くなっているみたいな」
それに比べてサバ缶はいつ食べても期待通りの味で最高って訳よ、と付け加えながら、フォークに刺した鯖のカレー煮を口に運ぶフレンダ。
彼女の対面の席に座っている絹旗が、フライドチキンを片手に呆れ顔で見ながら、
絹旗「よくもまあ、そんな毎日毎日サバ缶ばかり食べて超飽きませんね? 私なら三日も同じものを食べたら超嫌気が差しますが」
フレンダ「大抵の人って主食としてご飯やパンを毎日食べてるじゃん? つまり、そういうことって訳よ」
絹旗「その魚類を主食として超カテゴライズしてもいいのか果てしなく疑問ですが。滝壺さんはどう思います?」
滝壺「……北北東から信号が来てる」
絹旗の左の席にだらんとした感じに座っている滝壺が呟く。
その眠そうな瞳の焦点はどこに合わせているのか傍から見てもわからなかった。
絹旗「……うん、滝壺さんもこう言っていることだし、サバが主食なのは超ありえませんよ」
フレンダ「えっ!? 今の言葉の中のどこにそんな意味が隠されていたの!?」
そんなコントのような会話を繰り広げている席に一人の少年が近付いてくる。
片手に二つずつ、合計四つのグラスを手にしドリンクバーから戻ってきた、アイテムの下部組織という名のパシリをやっている浜面仕上だ。
浜面「ほら、ドリンクバーのおかわり持ってきたぞ」
麦野「遅せーぞ浜面。飲み物汲んでくるのにどんだけ時間かけてんだよ」
浜面「しょうがねえだろ? 今は飲食店のピークタイムだ。ドリンクバーだってそりゃ人が並ぶよ」
弁解をしながら浜面はグラスを少女たちの目の前に置いていく。
置かれたグラスを手に取り、麦野はそれを一口飲んでから開口する。
麦野「さて、下僕が帰ってきたところで例の件の話を始めるとしましょうか」
絹旗「例の件というのは座標移動(ムーブポイント)の超捕獲任務のことでしょうか?」
麦野「そうそう。正直あんま乗り気じゃないけど、指令を受け取った以上やらないといけないわけだからね」
浜面「座標移動って結標の姉さんのことだよな? 何であの人を捕まえろなんていう指令が降りてきたんだ?」
麦野「さあね。ヤツは空間移動能力者(テレポーター)の中じゃずば抜けて優秀な人材みたいだし、それを実験動物にしたいっつーヤツが上層部にいるってことじゃない?」
浜面「実験動物って……ひでえ話だな」
浜面はその言葉に嫌悪感を抱き、苦虫を噛み潰したような顔した。
しかし、そんなことを思っている人は他にはおらず、滞りなく会話は進行する
552 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:22:38.35 ID:WGxiRQYAo
絹旗「超捕獲するためにはまず座標移動を見つけなければいけないわけですが」
フレンダ「見つけるなら滝壺の能力追跡(AIMストーカー)を使えばすぐじゃない?」
滝壺「ごめん。私その座標移動のAIM拡散力場を記録していないから、それはできない」
フレンダ「あ、そっか。雪合戦のときは、第一位の分析に全力注いでたから記録できなかったんだっけ」
絹旗「ということは超面倒臭い任務になりそうってわけですね」
麦野「ま、でも宛がないというわけじゃないわよ」
麦野は携帯端末を操作し、ニュースアプリ表示させてテーブルの真ん中に置く。
そこには四箇所の研究施設が謎の能力者の襲撃を受けたという記事が載っていた。
浜面「これってたしか、今朝からニュースで大騒ぎになっているやつじゃねえかよ」
フレンダ「よく知ってるじゃん浜面。浜面でもニュースくらいは見るんだね」
浜面「お、俺もそれくらい見るっつうの!」
滝壺「このニュースがどうかしたの?」
麦野「ニュースに書かれている襲撃者、こいつが座標移動の可能性が高い」
絹旗「どういうことですか?」
麦野「あくまで推測の域だけどね。理由は三つあるわ」
そう言うと麦野は再び携帯端末を操作して、何かのリストのようなものを表示する。
そこに書かれていたのは研究施設の名前の羅列だった。
絹旗「これは?」
麦野「学園都市内にあるテレポーターについて研究している研究所の一覧。表に公表されているものはもちろん、秘密裏に動いているヤツ含めて全部よ」
麦野は携帯端末の画面をスクロールさせ、ある位置で止めた。
麦野「ここに書かれている研究所の名前、どっかで見たことないかにゃーん?」
そう聞かれて他四人は画面を覗き込む。
浜面「阿部食品サンプル研究所第三支部……ってたしかニュースで被害に遭ってた研究所の名前じゃねえか」
フレンダ「岡本脳科技工所、日野電子材料開発部門、SATO新エネルギー開発。うん、見事に四箇所全部あるって訳よ」
麦野「そ。つまりこの犯人はテレポーターに関する何らかの情報が欲しいヤツってことよ。しかも、四箇所も襲っているってことは、狙いは相当な機密データじゃないかと予測できるわね」
絹旗「しかし、それが座標移動が犯人だという超理由に繋がりますかね?」
麦野「ま、それだけじゃ無理ね。ちなみに今言ったのが一つ目の理由。次は二つ目だけど」
ドリンクをもう一度口へ運び、喉を潤してから麦野は続ける。
553 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:24:14.71 ID:WGxiRQYAo
麦野「研究所を四つも襲撃してアンチスキルどもがまったく足取りをつかめていない状況。この時点で相当高位な能力、またはそれに準ずる技術を持ったヤツが犯人ってことにならないかしら?」
浜面「たしかにそうだな。現にニュースに書かれているのは謎の能力者っつー感じだし」
フレンダ「なんかいつかの第三位を思い出すね。電子的な警備を全部掌握して侵入してたとかいう話だったし」
麦野「嫌なモン思い出させてんじゃねーよ」
彼女たちの言うように、昔アイテムは超能力者(レベル5)第三位の少女、御坂美琴と交戦したことがあった。
そのときも今と同じような状況で、とある研究施設を襲撃しているインベーダーが御坂美琴だったというわけだ。
滝壺「むぎのは座標移動に、第三位と同じくらいのチカラあるって言いたいの?」
麦野「そりゃさすがにあのションベン臭いガキのほうが圧倒的に上よ? けど、座標移動でも同じ結果を出せるくらいのチカラはあるんじゃないのかとは思うわ」
絹旗「たしかにテレポートは壁を越えて超移動できますし、点と点の超移動だから監視カメラとかの死角から死角へ飛ぶとかすれば、超避けることもできそうですね」
麦野「そういうこと。これが二つ目の理由よ。で、三つ目だけどこれはシンプルね」
麦野は携帯端末を手に取り、素早い指さばきで操作してある画面を映して再びテーブルの中央に置く。
そこには『座標移動(ムーブポイント)の回収。生体が好ましい。死体の場合、脳への損傷は避けること』という文章が表示されていた。
麦野「この指令を受領した時期と事件が発生しニュースで騒がれだした時期が重なっている。これを偶然と片付けるにはちょっと無理があるんじゃないかしら?」
絹旗「た、たしかに……」
浜面「つまり、その襲撃犯を追っていけば自ずと結標の姉さんのところへたどり着ける、っつーことか?」
フレンダ「そういうことにはなるけど、かといってどうやってターゲットを追いかけるのよって話にならない?」
フレンダの言う通り、彼女がいくらテレポーターの関連施設を狙っているとわかっていたとしても、その襲撃候補の数は膨大だ。
そこからいつどこを彼女が襲撃するのかを予測するのは大変困難なこと。
しかし、麦野はニヤリと口角を上げた。
麦野「実はあるのよね。ヤツがいずれ狙うであろう研究施設の候補がわかる情報が」
テーブルの中央においてある端末をそのままの位置で操作し、別の画面を表示させる。
それは何かのリストのようなものだった。中身を読んだ絹旗が問う。
絹旗「これは……学園都市にある民間警備会社の超警備先のリストでしょうか?」
浜面「うわっ、すげえ。こんなの絶対外部に漏れちゃいけねえ企業機密みたいモンだろ」
麦野「私たちからすれば、こんなもん機密でもなんでもないけどにゃーん」
重大な情報を軽い感じに扱っている麦野を見て、浜面は改めてアイテムという組織のヤバさを認識して唾を飲み込んだ。
麦野「この中に今朝ある警備会社と新規に契約した研究施設があるわ。それが櫻井通信機器開発所」
滝壺「……もしかしてその研究施設も」
麦野「そう。さっき見せたテレポーターの研究をしている研究施設のリストに名前が載っているところよ。もちろん、名前の通り表向きにはそれを出してはいないけどね」
麦野「さらに言うとこの契約は、研究所を襲撃しているヤツがいるっていうニュースが流れてから行われているわ。つまりこの研究施設は、自分たちが狙われるとわかっているから警備会社に泣きついたってことにならない?」
フレンダ「なるほどね。ここを張っていれば座標移動と接触できる可能性が高いっていう訳か」
絹旗「そうと決まったら早く現場に超出向いたほうが良いのでは?」
554 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:25:00.92 ID:WGxiRQYAo
せっかく来る場所がわかっていても、ターゲットが来たときに自分たちがいなければ意味がない。
一刻も早く動くべき状況だ。しかし、麦野は特に慌てた様子もなく、
麦野「それに関しては問題ないわ。四つ目に狙われたSATO新エネルギー開発の襲撃があったのが三〇分ほど前。そこから櫻井通信機器開発所に行くには車で飛ばしても二時間弱はかかる位置よ」
フレンダ「テレポーターって連続使用してまっすぐ進めば、時速換算でニ、三〇〇キロくらい出るんじゃなかったっけ? 間の障害物も越えられるし、もっと早く着くんじゃない?」
滝壺「いや、それは難しいと思う。一応は身を隠している逃亡犯なのだから、そんな派手な動きを取るのは理にかなっていないよ」
フレンダ「あっ、そっか」
麦野「滝壺の言う通りよ。ま、でもここでいつまでものんびりしていい理由にはならないし――」
そう言って麦野はぼーっと突っ立っている下っ端の方へ目を向ける。
麦野「というわけで浜面。さっさと足の確保しなさい。三分以内」
浜面「へいへい、わかりましたよー」
軽く返事をし、浜面はファミレスの外へ車を探しに出るためにファミレスの出入り口へと向かった。
そんな少年をなんとなく頬杖付いて眺めていたフレンダ。
すると、彼女の視界にある出入り口の扉から、ある人物たちが入店してくるのが目に入った。
フレンダ(ッ!? あ、あのコは……!)
それは二人組だった。
一人は肩まで伸びた茶髪に自己主張の激しいアホ毛が特徴の見た目一〇歳前後の少女。
もう一人は背中まで伸びる黒髪ロングへアーに白梅の花を模した髪飾りを付けている少女。
その少女たちをフレンダは見覚えがあった。というかアイテムとか全然関係ないところでの知り合いだった。
フレンダ(や、ヤバっ!? 見つかったら絶対話しかけてくるって訳よ。今仕事中だってのに不用意に一般人と接触するわけにはいかない……!)
何という運の悪さか、二人組の少女はフレンダたちのいる席に近い場所を店員に案内されようとしている。
フレンダは不味いと思い被っているベレー帽を目深に被った。
その様子を見て三人は、
絹旗「何やっているんですかフレンダ? 新しい超ファッションかなにかでしょうか?」
麦野「フレンダがそんなダセーことするわけないでしょ。もしこれをファッションと言い張るなら幻滅だわ」
滝壺「大丈夫だよフレンダ。私はそんなださいフレンダを応援している」
555 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:26:29.19 ID:WGxiRQYAo
フレンダフレンダフレンダと自分の名前を連呼する同僚たち三人に向かって、フレンダは人差し指を口元に持っていき黙れのジェスチャーをする。
もちろん意図がわからない三人は揃って首を傾げた。
そんなことをしているうちに、店員に席を案内されていた少女二人は斜向かいの席に座った。
席の配置の都合上、黒髪ロングの少女の目がこちらに向いた状態で。
フレンダ(ひ、非常にマズイ状況って訳よ……)
フレンダは出来る限り見えないようにしようと、対面に座る絹旗の陰に隠れようと身をかがめる。
だが、その動作が逆に目立ってしまったようで、黒髪ロングの少女の視線が明らかにこちらを向いた。
そのとき、
ピピピピピピピッ!!
甲高い電子音が鳴った。麦野沈利の携帯端末の着信音だ。
麦野は端末を手に取り、通話モードに切り替える。
麦野「はい」
浜面『ワンボックス一台かっぱらってきたぜ。いま表につけてるから早く来いよ』
麦野「タイムはニ分五二秒。ギリギリだけどよく出来ました浜面君♪」
浜面『ま、マジかあぶなっ!?』
どうやら下っ端浜面が移動手段の準備が出来た電話だったようだ。
その聞き耳を立てていたフレンダがバッ、と立ち上がる。
フレンダ「じゃ、私は先に行っておくって訳よ! それじゃっ!」
麦野「あ? ちょ、フレンダ――」
麦野の制止を耳にも止めず、フレンダは競歩の選手じゃないかと思うくらいの早足で出口へ向かい、駆け抜けた。
麦野「……? 何やってんだアイツ?」
滝壺「さあ? お腹でも痛かったんじゃない?」
絹旗「いや、それならそこにあるトイレに超駆け込むでしょ」
フレンダの奇行に疑問符を浮かべながらも、他のアイテムのメンツも彼女の後を追って店外へ出ていった。
―――
――
―
556 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:27:13.30 ID:WGxiRQYAo
一方通行「チッ、遅かったか……」
一方通行は新井植物科学研という研究施設の周辺にいた。
この研究施設も彼の持つファイルの中にあるリストに載っていた、過去に結標淡希が実験を受けた空間移動能力者(テレ ポーター)を研究する施設だ。
なぜ一方通行がここにいるのか。
一方通行(建物ン中から次々と避難している研究員たち。つまり、予想だけは当たってたっつゥことか)
一方通行は狙われた研究施設四つの共通点を考えた。そこで浮かんできたのは規模の大きさだった。
大々的な研究をするためにはある程度のまとまった資金が必要だし、機材を置くためのスペースだって必要だ。
それに大きい研究所なら自然と集まるデータも膨大になる。
その共通点を前提に、一方通行は最後に狙われた施設であるSATO新エネルギー開発から最も近い、かつ同程度の規模の研究施設。
そこに結標淡希が現れると予想をして、この場にたどり着いた。
しかし、そこに広がっていた光景は、警報音のようなものを鳴らしている建物内から避難している研究員たちだった。
一方通行(あンだけ人が避難してるっつゥことは侵入してもォだいぶ経ってやがる。アイツはすでに逃げたあとだろう)
間に合わなかったものはしょうがない。
そう考え、一方通行は携帯端末で地図アプリを起動する。
一方通行(ここから近い同程度の施設っつったら……チッ、一〇キロ圏内だけでも三つもありやがる)
端末のディスプレイに表示されているのは自分の位置を表す三角形と、そこから東西南の位置に一つずつ目的地のマークが記されていた。
一方通行はとりあえず一番近い位置にある目的地へタップし、ナビゲーション機能を起動する。
それと同時に首元にある電極のスイッチを入れた。
地面を蹴り、目的地のある方角へ飛び上がる。
一方通行(クソが、こンなンじゃ一生アイツに追いつけねェぞ? どォにかしやがれ一方通行)
ビルの屋上を弾丸のような速度で飛び移っていく。
彼の表情はいつも以上に険しいものだった。
―――
――
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557 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:28:19.34 ID:WGxiRQYAo
上条「そう……だったのか」
上条が落胆したような声を出す。
ここは風紀委員活動第一七七支部の事務所。部屋の中にある応接スペースのソファに少年は腰掛けていた。
初春「まさかそんなことがあったなんて……」
上条の隣に居る初春も似たような反応だった。
美琴「そうよ。今話した話は憶測部分を除けば全部事実よ」
目の前に座っている美琴が肯定する。
美琴と黒子は昨晩あったことを二人に話した。
一方通行には口止めをされていた。
しかし、実際に事件の重要部分に関わっている初春と、事件の延長線上で関わった上条にはきちんと話しておくべきだ。
そういう判断だった。
初春「ぐっ、私がリアルタイムでダミーの映像に気付けなかったせいでそんなことに……情報分析担当失格ですっ」
葉を食いしばる初春。
あっさりと出し抜かれてしまった自分への戒めの気持ちと、電子戦という自分が一番得意とする分野で不覚を取ったことによる悔しさが、彼女の中で渦巻いているのだろう。
黒子「気にするなとは言いませんわ。しかし、過去をいくら振り返ったところで意味はないですの。考えるべきはこれからのことでは?」
初春「……はい!」
対面いる黒子からの言葉に、初春は力強く返事をした。
上条「結標の記憶喪失が治ってたなんて全然知らなかった。何で教えてくれなかったんだよ一方通行」
美琴「たぶん、アイツなりにアンタを巻き込みたくないと思ってのことだと思う」
上条「……ふざけんじゃねえ」
上条は膝の上に置いた拳を力強く握りしめる。
上条「巻き込みたくないって、俺だってアイツとは友達なんだよ。それなのに、友達が大変なことになってるってときに蚊帳の外なんて、そんなのねえよ……」
美琴「それでアンタはこの話を聞いてどうするつもりなのよ?」
上条「決まってんだろ! 結標を捜す!」
今まで伏し目がちだった顔を上げる。
558 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:29:21.16 ID:WGxiRQYAo
上条「俺なんかが結標に会ったところで何が出来るかなんてわからない。けど、歯を食いしばってこのまま何もしないなんてこと俺には耐えられねえよ」
美琴「……はぁ、言うと思った。わかってたわ、アンタがそういうヤツってことは」
美琴はやれやれという感じに額に手を当てた。
黒子「しかし、捜すと言ってもどうやって捜すつもりですの?」
上条「そ、そりゃ決まってんだろ。街中走り回って……」
黒子「馬鹿ですの? もしかしてお猿さんは頭の中もお猿さんでしたの?」
上条「ぐっ……」
年下の女子中学生に憎まれ口を叩かれているが、言っていることは間違っていないため、反論できない上条だった。
言葉を詰まらせている上条に、隣りに座っている少女が恐る恐るという感じで、
初春「……あの、上条さん」
上条「なんだ? えっと、初春さんだっけ」
初春「はい。よろしければ結標さんを捜すのをお手伝いしましょうか?」
上条「えっ、いいのか?」
いいですよ、と初春が了承する。
それを見ていた黒子が机を叩く。
黒子「ちょっと初春!」
初春「何でしょうか?」
黒子「貴女この一般人である腐れ類人猿の為に、監視カメラ情報を取得してさしあげようと考えてますの?」
初春「ええ、まあ。私にはそれくらいしか出来ませんので」
黒子「そんな職権乱用行為、わたくしは認めませんわよ? もしバレたら始末書ではすみませんわ」
初春「たしかにそうですね。けど、ここで発想の転換ですよ」
そう言って初春は上条の方を向いて、
初春「上条さん、この一七七支部に電話してもらえませんか? 内容はそうですね、迷子の捜索依頼みたいな」
上条「ま、迷子? もしかしてその迷子って結標のことか?」
初春「はい、そういうことになります」
559 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:30:11.58 ID:WGxiRQYAo
あまりに斜め上過ぎる言葉を聞いて戸惑いながらも、上条は携帯電話を出した。
こちらが番号になりますんで、と初春が番号の書かれたメモ用紙を差し出す。
黒子「……もしかして貴女、たかだか迷子の捜索程度で監視カメラ情報の取得をしようと考えておりますの?」
ジトーっと見ていた黒子が呆れたように尋ねる。
それに反論するように初春が、
初春「たかだかとはなんですか! 迷子の捜索だって立派なジャッジメントの職務です!」
鼻息を荒くする。
まあたしかにそうだが、と黒子も思っているのかそれに対しては言及しない。
だが、
黒子「そんなことでアンチスキルが監視カメラの情報を提供するとお思いですの?」
基本的に監視カメラの情報を管理しているのはアンチスキルだ。情報取得の許可を得るためには、様々な工程を経なければならない。
迷子の場合ならいなくなった地域や日時などを、その工程の中で報告する。
そのため、例えばアンチスキル側がそれを元に、何日の何時から何時の第七学区の一部分だけの監視カメラ情報だけ許可する、となればその一部分しか情報を得ることができなくなる。
今回の場合は結標淡希がどこにいるのか皆目検討も付かないので、その程度の情報では役に立たない可能性が高い。
逆に地域や日時がわからないと報告すれば、行方不明者となりアンチスキルの管轄になってしまうかもしれない。
そんな事情があることは初春も知っている。知っているからこそ初春は言う。
初春「大丈夫です白井さん。ちょちょっとハッキングして情報をいただければ問題ありません」
黒子「……言うと思いましたの」
黒子がげんなりとする。
黒子「というか最初からハッキングするつもりなら、わざわざ迷子の捜索などという名目を立てる必要ないんじゃありませんの?」
初春「何言っているんですか白井さん。私的な目的のためにハッキングするのは完全なコソドロですけど、ジャッジメントとしての使命を果たすためハッキングするのは『それならしょうがないかー』ってなりますよね?」
黒子「んなわけねえですの。五十歩百歩ですわ。どちらにしろバレたらただじゃ済みませんわよ?」
初春「平気ですよ。だって私、そんなバレるなんてヘマしませんので!」
ニコッ、と笑う初春飾利。
その笑顔の奥に何か黒いオーラのようなものが見えるのは絶対に気のせいじゃない。
上条「……す、すげえな御坂。お前の友達」
美琴「え、ええ、ほんとそう思うわ」
二人が初春飾利に圧倒されているとき、美琴の持つ携帯電話から着信音が鳴り響いた。
それに気付いた美琴はポケットから携帯電話を取り出し、ディスプレイを見る。
『佐天涙子』。
美琴「あっ、そういえばお昼にファミレス行くんだった……」
黒子「いってらっしゃいませお姉様。わたくしたちは外食するほどの時間が取れなさそうですので」
美琴「そう。わかったわ」
そう返事をして、美琴は電話を通話モードにしながら、部屋の外へ駆け出した。
―――
――
―
560 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:30:54.55 ID:WGxiRQYAo
一方通行が目的地である日高新薬研究センターにたどり着いて三〇分ほど経過していた。
ずっと様子をうかがってはいたが、関係者と思われる人や車が何回か出入りしただけでとくに異変のようなものは見つからなかった。
一方通行(三択を外しやがったか……)
一方通行の中に焦りのようなものが渦巻いていた。
だが、この程度のことで動じていては彼女にたどり着くことは出来ない。
そう考え、一方通行は携帯端末を手に持った。
一方通行(外した、っつゥ判断をするのはまだ早ェか。状況が状況だからアイツもほとぼりが冷めるまで襲撃を控えたっつゥ可能性もある)
この短時間で二箇所の研究施設が襲撃されている。
そのため街中はたくさんのアンチスキルやその車輌、警備ロボ等がせわしなく動き回っていた。
こんな状況で好き放題動くのは至難の業だ。
一方通行(ニュースやSNS上にも六箇所目の襲撃情報は上がってねェ、てことはそォいうことだと思ってイイだろう)
一方通行(ま、それはアイツがまだ求めている情報を手に入れてねェっつゥ、楽観的な状況である前提だ)
一方通行(もし逆の状況にあったなら、俺はもォヤツを追うための最大のチャンスを逃した、つまり完全な敗北ってことになる)
一方通行(そォじゃねェこと神に祈るだけだな……ケッ、似合わねェなクソッタレ)
一方通行はため息を付いた。そのとき、ふと近くに自動販売機があることに気がつく。
コーヒーでも飲むか、そう思い自動販売機の元へと足を進める。
一方通行(しかし、考えるべきはこれからどォするかだ。このままここに待機するか、それとも監視場所を別に移すか)
一方通行(待機の場合他の場所を襲撃されたときに対応できず、別に移した場合入れ違いでここを狙われてしまえば対応できねェ)
一方通行(どっちも可能性がある以上、どっちが正解なンかわかりゃしねェ)
決断を迫られている一方通行だったが、彼には他にも気になる点があった。
一方通行(街ン中駆け回っているときに感じたあの気分の悪りィ感覚、やっぱりあのクソ野郎どもも動いているっつゥことだな)
学園都市の暗部組織。この街の裏の世界を暗躍する者たち。
一方通行は今まで何回かその者たちと接触したことがある。
そのときに感じた肌にまとわりつくような嫌な感覚、それと似たようなものを彼は感じていた。
一方通行(とにかく、俺に遊ンでいる時間なンざ残されていねェっつゥわけだ)
561 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:31:25.81 ID:WGxiRQYAo
自動販売機で買った缶コーヒーを開け、一口含む。
少年に、近づく人影達があった。
一方通行「……あン?」
スキルアウト「よお。お前一方通行だろ?」
気付いたら一方通行は一〇人くらいの男たち囲まれていた。
彼らの格好を見る限り、健全な学生生活を送っているような者には見えなかった。
武装無能力集団(スキルアウト)。真っ当な学生というレールから外れた無能力達が集まった武装集団。
そんな男たちが一方通行の行き先を阻む。
一方通行「人違いだ。人ォ捜してンならアンチスキルかジャッジメントに行け」
スキルアウト「嘘ついてんじゃねえよコラ! わかってんだよこっちはよ!」
吠える男を見て一方通行は面倒臭そうに頭を掻く。
一方通行がとある無能力者(レベル0)に敗北してからは、こういう勘違いした馬鹿が絡んでくることはよくあった。
おそらく今回も同じようなことだろう。そんなことを思いながら左手を首元にある電極のスイッチへと運ぶ。
スキルアウト「ちょっと聞きたいことがあってよ。俺たち人を捜してんだけどな」
一方通行「オマエらの事情なンざ知ったことねェよ。これ以上邪魔しよォなンて考えてンならミンチにして――」
スキルアウト「お前『結標淡希』と知り合いだろ? アイツが今どこにいるかとか教えてくんねえかな?」
一方通行「……は?」
スイッチを押そうとした手が止まる。
明らかに無関係だろう人間から、今自分にとって一番優先度の高い名前が出てきたからだ。
スキルアウト「俺らちょっとやばいことになっててよ。どうしてもその女をある『場所』に連れて行かなきゃいけねえんだ」
この言動から彼らは何者かに脅されて、結標淡希を捜索していることがなんとなく分かる。
その何者かとは、結標を狙っている者、または組織。
彼らをたどっていけば、彼女を追っている何かに近付くことができるのではないか。
ひいては、結標淡希へたどり着くための何かを得ることが出来るのではないか。
一方通行「……喜べオマエら。オマエらにチャンスをやる」
スキルアウト「あ? 何言ってんだテメェ! 質問に答えやがれコラ!」
真ん中に立っていた男に同調するように周りに居た他の男達も野次をあげる、
だが一方通行はそれを気にも止めない。
一方通行「オマエらが結標を連れて行かなきゃいけねェっつゥ『場所』を吐きやがれ。そォしたらよォ――」
白い少年は口元を引き裂いたような笑顔を浮かべた。
一方通行「いつもなら愉快なオブジェになってもらうところを半殺しで勘弁してやるからよォ」
電極のスイッチが押される。
この場の全てを支配する、圧倒的なチカラを振るうためのスイッチが。
一方通行「っつゥわけで選べェ。まァ、オマエらにとっては選択肢なンざねェ、優しい優しいサービス問題なンだけどなァ?」
――――――
562 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/04(土) 23:35:18.27 ID:WGxiRQYAo
行間主人公化とした一方さん
次回『S5.空間移動中継装置計画(テレポーテーションけいかく)』
563 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 22:45:39.60 ID:EQdefISBo
今回で実はあれそうやったんかみたいな話出るけど8割くらい後付サクサク
投下
564 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 22:48:29.46 ID:EQdefISBo
S5.空間移動中継装置計画(テレポーテーションけいかく)
固法「――まったく、ここは溜まり場じゃないって何度言えば……というか何か増えてるし」
佐天「あはは、すみません」
打ち止め「お邪魔してまーす! ってミサカはミサカは元気よく挨拶してみたり」
固法「誰この子? こころなしか御坂さんに似ているような気が……」
打ち止め「お姉様の従姉妹の打ち止めでーす、ってミサカはミサカは自己紹介してみる」
固法「そ、そう。固法美偉よ。よろしくね打ち止めちゃん」
部外者二人組が真面目なジャッジメントの先輩固法美偉と挨拶をしている中、他のメンツは初春飾利の席周辺に集まっていた。
初春がキーボードを高速でタイピングしている中、上条が問いかける。
上条「ところでどうやって結標を見つけるつもりなんだ?」
初春「えー、シンプルに監視カメラや衛星カメラの映像から捜す方法ですかねー」
美琴「でもそれって危険じゃないかしら? 昨日黒子の動きを誘導するために映像を差し替えられてたのよね?」
初春「そうですね」
美琴「その差し替えしたヤツらも結標を狙っている=他の勢力には狙わせたくないってことだから、今もなお結標の映像を隠している可能性があるわ」
初春「正解ですよー御坂さん。実際映像を偽装されている可能性が高いですねー」
そう言うと初春はキーボードのエンターキーを押す。
正面のディスプレイに監視カメラの映像と思われる動画ファイルのサムネイルがずらっと並んでいる映像が映った。
初春「なぜなら、昨日の朝六時から今現時刻にかけて結標さんと思われる人物を検索をかけたところ、出てきたのは事件当時のヤツだけでしたから」
上条「それはおかしいな。昨日は一日一方通行と結標は一緒に外出してたはずだ。だったらどっかのカメラに映っててもおかしくはないはずだ」
上条は昨日その二人に会っていた。場所はショッピングモールだった。
その建物内にも監視カメラは存在するだろうし、そこまで行く道中にも数え切れないほどの監視カメラがあるはずだ。
黒子「ということは、その結標を狙う勢力とやらは今現在も、監視カメラに映る結標淡希の映像を全て別の映像に差し替えているということですの?」
初春「そういうことになりますねー」
美琴「厄介ね」
美琴が考え込むように目を細める。
美琴「ああいうのって監視カメラが壊れてました、とか監視カメラを整備のため切ってました、とかみたいな言い訳して証拠隠滅するのがお決まりのパターンでしょ?」
美琴「それだったら映像が消えている監視カメラには結標が映っていた、ってことでそこを手がかりにすればいいわけだけど、それが使えないってことになるわよね。今回の場合」
同じく黒子も考え込みながら美琴に続く。
黒子「まあ、そもそも結標淡希が監視カメラの映る場所を歩いてくれているかどうかも怪しいですわね」
上条「どういうことだ?」
黒子「もともと彼女は裏の人間なのでしょ? でしたら監視カメラや衛星カメラを避けて移動する技術を持っていてもおかしくはないですし」
黒子「そもそもずっと監視カメラがない場所に隠れているというパターンもありますわね。ホテルとか自宅とかそういう場所にいるのならカメラに映りようがありませんし」
初春「それに関しては問題なさそうですねー。ここ数時間監視カメラの映像が偽装された痕跡がありますので、間違いなく彼女は映っていますよ」
美琴「えっ、そんなことがわかるの?」
初春「ええ、まあ。頑張ってあぶり出しました」
黒子「よくそんなことができますわね。偽装というのは元あった映像を違和感のない映像に差し替えているようなものでしょう? 傍から見たら絶対に気付けないと思いますが」
初春「たしかにこれをやった人は映像を差し替えた、という形跡自体消しちゃっているので普通に見ればまずわかりませんよ。けど、実はこの映像の差し替え自体は完璧な差し替えじゃないんですよねー」
黒子「完璧じゃない?」
565 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 22:51:51.09 ID:EQdefISBo
はい、と返事をして初春はキーボードを叩く。
するとデスクの上にある八つのディスプレイが一気にある映像に差し替わる。
黒子「これは……昨晩の事件のときの映像ですの?」
初春「そうです。私たちが苦渋を味わされた忌々しい映像ですねー」
軽い感じで言ってはいるが初春の目の中は笑っていなかった。
初春「一番わかり易いやつだとそうですねー、この左上のディスプレイを見てください」
ディスプレイに映っていたのは三人の人物だった。
一人はサラリーマン風の男。バス停の前でバスを待っている様子だ
もう二人は男女の学生だった。仲良く談笑しながら画面から見て手前へ向かって歩いていく。
車道側を男子学生が歩いているところから見て、気配りのできる少年なんだとわかる。
上条「……? なにかこれおかしいのか?」
初春「いえ、これだけではおかしいかどうかは判断できません。この映像をAの映像として、次にその右隣の画面を見てください」
先ほどの映像と似たような風景のものだった。
ところどころ細部が違うためおそらく同じ場所にある別の監視カメラなのだろう。
その証拠に先ほど映像に映っている歩道の向きは逆になっている。
そのため男女二人組が左右同じ位置で奥に向かって、同じように談笑しながら歩いている。
しかし、その映像には結標らしき人物が歩道から路地裏に入るシーンが映っていた
初春「このカメラはAの映像を撮ったカメラと同じ場所にあるものです。この二つは死角を消すためにV字に隣接して設置されています」
美琴「なるほどね。つまりこのカメラは、さっきのカメラが映している場所から見て隣の位置を映しているわけか」
初春「そうです。ちなみにこの映像は見て分かる通り、結標さんが映っているので何者かに差し替えられた偽の映像です」
黒子「でしょうね。事実この時間帯では結標本人は別の場所にいたはずですから」
初春「では、この映像をBとしてさらに右隣の画面も見てください」
映っていたのはやはり同じような背景の映像だった。
角度が大幅に変わっているが先ほどのカメラたちと同じ歩道を映していることが分かる。
その映像にも相変わらず車道側に男、歩道側に女という並びで同じ男女が歩いていた。
初春「このカメラも設置場所は違いますが、先ほどの結標さんが映っていたカメラをカバーする形で映像を撮るようになっています」
黒子「それはなんとなくわかりますわね。三つとも同じ二人組が歩いていますので。で、これがどうかしたのでしょうか?」
初春「わかりませんか? この映像をCとして、ABCの映像を時系列通り順番に見てみるとある違和感が浮かび上がってくるんですよ?」
そう言われて三人は三つの画面を凝視する。
繰り返し流れる映像を見るうちに上条はなんだか目が回るような気分になってきた。
そんな少年に構わず少女二人は、
美琴「……なるほど。そういうことね」
黒子「……はい。わかりましたわ」
上条「えっ、マジで?」
呆気を取られる上条。
早抜け方式のクイズで他の人が次々と抜けていく中、答えがわからず孤立していく解答者はこういう気分なのだろう。
美琴「アンタこんなのもわからないわけ?」
黒子「しょうがないですわよお姉様。見るからしてこのような間違い探しみたいなものが不得意そうな感じですし」
上条「おのれ! 馬鹿にしやがって! 見てろよ!」
566 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 22:54:25.80 ID:EQdefISBo
人を馬鹿にしたような目で見てくる女子中学生二人を尻目に、再びリピートされ続ける映像に目を向ける。
何度も眺めているうちに上条はあることに気付く。
上条(……あれ? 何かBの映像おかしくねえか? よく見たら女の子が車道側を歩いているように見えるんだけど)
上条の思っている通りBの映像に映っている少女は車道側を歩いていた。
Aの映像とは逆向きに歩道を映しているからなかなか気付けなかったのだろう。
上条(AとBの映像の中で入れ替わったのか? いや、待てよ? その場合Cの映像でまた同じ位置に戻ったってことにならねえか?)
上条の言ったことを実践した場合、AからBへ移り変わるタイミングで男女が位置を入れ替わり、BからCのタイミングで元の位置に戻ったということになる。
ハッキリ言ってそんなことをするのは不自然だ。狙ってやらないとそんな変な挙動が起きることはまずないだろう。
上条はBの映像は何者かに差し替えられたもの、という先ほどの初春の言葉を思い出していた。
上条「つまり、このダミー映像を作ったやつが男女の位置をミスって配置してしまった、ってことか?」
初春「はい! 正解です!」
初春が正解者に向かってにっこりと笑った。
初春「このような矛盾した映像が差し替えられたモノの中にいくつか見られました。もちろん、ここ数時間で差し替えられたものにも」
黒子「しかし、このようなところに穴があるとは、相手方も思ったより間抜けのようですので」
初春「いえ。おそらくこの差し替え用の映像はツールかなにかで機械的に作ったものだと思います。こんなものを人力でやるとしたら難易度と手間が一気に上がりますからね」
美琴「そっか。機械だからこそ矛盾点ってやつに気付かずに映像を作ってしまった。差し替えているやつも差し替える作業でいっぱいいっぱいだからそれに気付けかなかった」
初春「そうです。なので、リアルタイムで監視カメラ映像を監視していき、差し替えられた映像を見つけることができれば、その近くに結標さんがいるということがわかります」
美琴「……ちょっと待って初春さん」
美琴がなにかに気付いたように止める。
美琴「今リアルタイムにカメラの映像を監視するって言ったけど、学園都市の中には何十万単位で監視カメラが存在するのよ? それを全部一人で解析するつもり?」
初春「あっ、その点は大丈夫です。目には目を理論で機械相手にはこちらも機械を使います」
そう言うと初春は片手でキーボードを走らせる。
すると画面に『違和感さがすくん』というアプリが表示された。
初春「こんなこともあろうかと午前中に作ったものです。先ほどのような簡単な矛盾点程度なら自動で抽出してくれるツールですよ」
「それでも漏れはありますので、結局私が直に見て回らないといけないことは変わりませんけどね」と初春は付け加える。
黒子「貴女、そんなものを作っていたなんて最初からこの件に関わる気満々でしたのね?」
初春「はい。白井さんと同じですよ」
黒子「ッ」
黒子が体をピクリとさせる。
初春「知ってますよ? あれから結標さんに関する資料を片っ端から漁っていたのを」
美琴「そうだったのね」
黒子「……たまたま! たまたまですの!」
照れくさそうにほのかに頬を紅潮させ、黒子は目を逸らした。
その様子を見て微笑む他少女二人を見て「もう!」と声を上げる。
567 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 22:56:38.90 ID:EQdefISBo
初春「ちなみにこの矛盾映像から結標さんの行動を分析してみたところ、どうやら今ちまたを騒がせている研究所襲撃犯が結標さんっぽいんですよね」
上条「えっ、結標がそんなことを!? なんでっ!?」
パイプ椅子から飛び上がるように上条は立ち上がった。
それに戸惑いながら初春は首を傾げる。
初春「さ、さあ? こればかりは私にもさっぱり」
黒子「たしか盗まれているものは研究データとかでしたか? 狙われている研究所のジャンルはバラバラのようですが」
美琴「何か共通点があるってことかもね。私たちにはわからない何かが」
上条「……ま、考えてても仕方がねえか」
そう言うと上条は部屋の出口へと体を向ける。
美琴「どこに行くつもりなのよ?」
上条「研究所を狙っているってことは、そういう施設が集まっている場所に結標がいるってことだろ? 行ってみればもしかしたらバッタリ会えるかもしれねえ」
初春「えっ、でもどこにいるかわかってから動いたほうが効率がいいと思うんですが」
上条「ああ、それはわかってる。けどこんなところでジッと待ってるなんて俺にはできねえ」
美琴「はぁ、アンタらしいわね」
上条「なんかわかったら携帯に連絡してくれ。番号は御坂が知っているから」
上条はそう言い残して部屋の出口へと足を進めた。
自席で仕事をしていた固法が気付く。
固法「……あら? お話はもういいのかしら?」
上条「はい、助かりました。部外者が長時間居座っててすんません」
打ち止め「あっ、ヒーローさんもう帰っちゃうんだ! もっと遊びたかったなー、ってミサカはミサカは残念がってみたり」
佐天「また遊びに来てくださいね上条さん! 御坂さんが待ってますよー?」
美琴「ちょ、佐天さん!! 変なこと言わないでよ!!」
姦しい少女たちの声を背に上条当麻は部屋の外へと出た。
上条「……さて、行くか」
階段を駆け下りる。結標淡希にもう一度会うために。
たとえ一方通行に恨まれようが。この足を止めることはない。
なぜなら、これが今の自分がやるべきことだと信じているからだ。
―――
――
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568 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 22:59:00.74 ID:EQdefISBo
とある高層ビルの中にある一室。
テーブルといくつかのイス、観葉植物が数本置いてあるだけの簡素な部屋。
暗部組織『スクール』の複数ある隠れ家の中の一つ。
そこに一人の少女がイスへ腰を掛けて携帯端末で通話していた。
海美「――つまり、私たちの工作がバレ始めている、ってコトかしら?」
ホステスが着るような丈の短いピンク色のドレスを着た中学生くらいの少女、心理定規(メジャーハート)こと獄彩海美が問いかける。
誉望『始めているってよりたぶんもうバレてますね』
通話先の相手は誉望万化。
彼女と同じくスクールに所属する少年だ。
誉望『こっちが情報操作した監視カメラがある周辺エリア、そこに対するアクセス数が明らかに増加しているんスよ。それってつまりそういうことっスよね?』
海美「どうやってこちらが操作した監視カメラを割り出したのかしらね?」
誉望『さあ? 俺の隠蔽工作にミスはないとは思ってますから、おそらくこのツールに何か穴があったとしか思えないスね』
海美「ああ、例の組織から共同戦線を張る代わりにもらったものね。あそこはそういうの専門の組織だった気がするから、不備があるとは思えないけど」
誉望『どうせあれっスよ。試作品を俺たちに押し付けてデータを取ろう、っつー魂胆スよ』
海美「ま、いずれにしろ今ウチに勝負を挑んできているハッカーさんは、相当の技術を持っているってことよね?」
羨望『そうスね。一体どこの誰だか』
海美「わからないの? アクセスログから逆探知するとかして」
羨望『あー、一応やってはみたんですが時間がかかりすぎそう、っつーか無理っぽいスね』
バツの悪そうに誉望は諦めた感じに、
誉望『何か複数の海外サーバーを経由してアクセスしてるみたいなんスよ。しかも一つ一つのサーバーの中にダミーをいくつも仕込ませて』
誉望『そんなもんに時間をかけてもあれだし、下手にやってこっちの情報すっぱ抜かれたらたまったもんじゃねえスからね』
海美は空いた手を顎に当て考える。
海美「たしかにそれは賢明ね。学園都市は外への情報流出対策に内外からSランクのセキュリティーを張っているわ。海外サーバーを利用しているということは、つまりそれらを掻い潜っているということ」
相手が悪すぎるわ、と付言する。
羨望『でもどうするんスか? このままいけば次座標移動が監視カメラに映れば、いくらこっちがダミーを張ろうが向こうは居場所を補足するってことになりますよ?』
海美「……そうね」
??「なーにコソコソ話してんだ心理定規」
電話をする海美の後ろから声がかかった。
少女は携帯電話を耳に当てたまま振り返る。
569 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:01:05.96 ID:EQdefISBo
海美「あら? 垣根じゃない。別に。ただ誉望君とお仕事の話をしていただけよ?」
垣根「へー、そうか。スピーカーにしてどういう状況になっているのか話せ」
言われた通り少女は端末を操作してスピーカーモードにする。
そこから誉望により事細かく状況説明が行われた。
垣根は説明を聞き、口角を上げる。
垣根「別にいいじゃねえか。放っておけよ」
羨望『えっ、いいんスか? このままじゃ計画が狂ってアイツらとの協定違反になってしまうんじゃ……』
垣根「その謎のハッカーとやらの裏にヤツがいるかもしれねえんだ。俺が興味あるのはヤツだけだからな」
不敵な笑みを浮かべつつ垣根は続ける。
垣根「大体、協定違反になったところで俺たちには何にも関係ねえだろ。逆らえば潰す。それだけだ」
海美「正直、私はあの組織との正面衝突は避けたいのだけど。いくら超能力者(レベル5)第二位のあなたがいるからと言ってもね」
垣根「そうかよ。なら、せいぜい死なねえように周到に生き残る準備しとくことだな」
そういうわけでそのまま情報操作は続行だ。
そのセリフを聞いて電話先の羨望は「はい」と一言だけ返し電話を切った。
海美「ところで貴方は今までどこに行っていたのかしら?」
垣根「ただの昼休憩だよ」
海美「そう。せっかくなら誘ってくれたら良かったのに」
垣根「俺に昼飯代奢らせようとする気満々の女なんざ誘うわけねえだろ」
海美「それは残念」
クスリと笑う少女を見て、垣根は舌打ちをした。
そんな中、再び海美の持つ携帯端末に着信が入る。
垣根「あん? また誉望の野郎か?」
海美「いいえ、違いそう。……こちら心理定規」
?????『……私だ。進捗状況を聞くために電話した』
電話口から聞こえてきたのは少女の声だった。
幼さを残した声色とは裏腹に冷静かつ自信に溢れたような。
海美「どうでもいいけど名前くらい名乗ったほうがいいと思うけど? 誰かわからないから名乗れ、っていう面倒なやり取りが起こるかもしれないからね。ショチトルさん?」
ショチトル『貴様はそんな面倒なやり取りをさせるような輩ではないだろう』
彼女の名はショチトル。垣根たちスクールと同等のランクの暗部組織『メンバー』に所属する少女。
海美が知っているのはその程度の知識であった。
570 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:03:13.49 ID:EQdefISBo
海美「進捗状況はあまり良くはないわね」
ショチトル『どういうことだ? こちらが送ったツールとやらを使ってはいないのか?』
海美「使っているわよ。そのうえで良くないと言っているのよ」
「このままじゃ他の組織が先にターゲットを捉える可能性があるわ」と海美は付け加えた。
ショチトル『それは困る。どうにかしろ』
海美「どうにかと言われてもこっちが困るのだけど。こちらも優秀なハッカーが工作しているけど、向こうは向こうでそれを上回る技術を持っているみたいだし」
ショチトル『そんな事情こちらとしては知ったことではない。出来ないというのであれば貴様らの目的のものをこちらで潰す。そういうことになるが』
ショチトルの発言をスピーカーで聞いていた垣根は舌打ちをし、海美の携帯端末を取り上げた。
海美「ちょ、ちょっと――」
垣根「わかったわかった。こちらとしてもスケジュールは守る。そのほうがこちらとしてもメリットがあるからな」
ショチトル『当然だ』
垣根「だが、これだけは言っておくぜ」
垣根の表情が変わる。いや、正確には彼のまとっている雰囲気が。
立ち塞がるものは全て破壊してやる。邪魔するヤツは全て殺す。歯向かうものは絶対に許さない。
そんな彼の意思をそのまま現したようなドス黒いものへと。
垣根「テメェらとは利害の一致で手を組んでいるに過ぎねえ。部下になったつもりも仲間になったつもりもねえ。だから、あんまり調子乗ってると皆殺しにすんぞ?」
そう言い残すと垣根は手に持った携帯端末を握り潰した。
バラバラになった端末が部品と残骸になって床に落ちて散乱する。
海美「……もう! その端末のデザイン気に入ってたんだけど?」
垣根「悪い。ついやっちまった。反省はしてねえ」
垣根は適当に謝りながら部屋の奥へと足を進めていく。
海美「どこに行く気かしら?」
垣根「誉望のところ。俺もそろそろ仕事しねえとな」
ニヤリと笑う垣根の背中に一瞬だが天使の羽根のようなものを海美は見た。
目の錯覚のような現象だったが海美は特に驚くことなく見送る。
なぜなら、それが彼の超能力者(レベル5)としてのチカラだと知っているからだ。
―――
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571 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:05:43.63 ID:EQdefISBo
第一〇学区にある廃工場。
錆びついた機械や中身のない埃のかぶったコンテナが積まれているところから長い間放置されていることがわかる。
人一人いないそんな廃墟に一台の白いバンが入ってきた。
物資の搬入口付近に停まり、中から一人の男が出てきた。
短髪に丸メガネをし、白衣を上から着ているいかにもな研究職の人間だ。
研究員「お、おい! 来たぞ! どこにいいる!」
周りに他の人がいないからか、大声で誰かを呼んでいる様子だ。
研究員「早く来い! 私も忙しいんだ! 座標移動を早く引き渡せ!」
しかし、いくら研究員の男が叫んでも誰一人返事がない。
おかしいなと思ったのか男がなにかを確認するためか、携帯端末を取り出したとき、
ガキキキキキッ!!
という金属が捻じ曲がるような音が背中から聞こえてきた。
研究員「なっ、何だ!?」
異様な音に驚き、後ろへ目を向ける。
そこに映ったのは、上から落石でも受けたように天井から潰れているバンだった。
予想外の光景に男はひっ、と小さな悲鳴を上げる。
潰れたバンの中から一人の少年が立ち上がった。
学園都市最強の少年が。
一方通行「よォ、オマエだよなァ? あのスキルアウトどもに結標淡希の捕獲を依頼した三下野郎はよォ?」
研究員「お、お前はあ、一方通行ッ!?」
一方通行「ほォ、俺のこと知ってンのか? それなら話が早ェ」
そう言うと一方通行は軽くバンを踏みつける。
バガン、という轟音を上げ足元にあったバンが鈍角のVの字にひん曲がった。
同時に少年はふわっと宙に浮かび上がり、男の目の前に着地する。
一方通行「この俺に逆らったらこォいうことになるってことぐれェ、すでに理解しているっつゥことだよなァ?」
研究員「な、なぜお前がこんなところにッ!? スキルアウトどもはどうしたッ!?」
一方通行「さァな? その不細工な顔ォグッチャグチャに整形してみれば、もしかしたらわかンじゃねェのかなァ?」
研究員「ひっ、ひぃ!?」
男はあまりの恐怖に腰を抜かして尻餅をついてしまう。
一方通行はそれを見下ろしながら、悪魔の笑顔を浮かべ、
一方通行「オマエらのアジトを教えろォ。そォしたらこのまま何事もなかったかのよォに見逃してやるからよォ?」
人一人すらいないはずの廃工場。
そこから悲痛な断末魔が鳴り響いた。
―――
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572 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:07:18.23 ID:EQdefISBo
円周「……うーん、ここをどーんってやってかーんって感じでやればいけるかなあ?」
木原円周。
お団子頭を左右に揃えた黒髪で、首には携帯電話・小型ワンセグテレビ・携帯端末をストラップをつけてぶら下げているのが特徴。
『従犬部隊(オビディエンスドッグ)』という会社のオフィスに居候している中学生くらいの少女だ。
フローリングに座って、部品やら工具やらを広げて何かを組み立てている様子だった。
円周「やっぱり違うかなあ? ぽーん、って感じ? いや、きゅいーんってのも捨てがたい」
数多「何一人でわけのわからねえことブツブツ言ってんだ?」
円周「あっ、数多おじちゃん」
円周を見下ろしている数多おじちゃんと呼ばれている男。
木原数多。色素を抜いたような金髪と顔面左部分に大きく刺青を入れている、従犬部隊の社長をしている科学者だ。
科学者だからか会社の社長という立場なのに白衣を袖に通していた。
円周「ちょっといろいろ実験しているんだー。ねえ数多おじちゃん、ぱこーん、と、どかーん、はどっちが正解だと思う?」
数多「わかるか。ちゃんと日本語で喋れ」
円周の奇天烈発言を適当に流し、数多はA3用紙が丸々入りそうな大きな黒いカバンを持って玄関の方へ向かう。
円周「あれ? 数多おじちゃんおでかけ?」
数多「昼飯食ってるときに言っただろうが。仕事だよ仕事」
円周「本当にー? 真っ昼間からえっちな店に行くつもりなんじゃないのー?」
数多「そんな暇人みてぇなことはしねぇっつーの。俺はあいにくと大忙しなんだよ」
円周「じゃあ一体何の仕事に行くつもりなの?」
数多「何って、ただの開発関係の打ち合わせだ」
円周「曖昧な言い方だなー。これはあれだね、女の子身体を開発する的な意味の開発なんだね」
数多「んなわけねぇだろ。つかお前最近下ネタ多いぞ? 一体誰の思考をトレースしてやがんだ」
数多は呆れた顔で靴を履き、玄関のドアへ手をかける。
数多「晩飯までには帰る」
円周「帰りにケンタッ○ーのフライドチキン買ってきて」
数多「あん? お前そんなもんが食いてぇのか?」
円周「うん。今日の私はそういう気分なんだあ」
目を輝かせながらこちらを見てくる円周を見て、数多はため息を吐いて、
数多「へいへい。買ってきてやるから帰るまでにそのガラクタ片付けとけよ」
円周「わあい」
無邪気に喜ぶ少女をよそ目に、数多はドアを開け部屋の外へと繰り出した。
―――
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573 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:09:49.42 ID:EQdefISBo
櫻井通信機器開発所。一般的には通信機器の開発をしていると公表されている施設だ。
一〇階建てのビルを、しかも一号棟と二号棟の合わせて二棟をそのまま与えられていることから、この研究機関の大きさが伺える。
その付近に一台の黒塗りのワンボックスカーが停車されていた。
滝壺「……なかなか動きがないね」
滝壺がぼーっと車の窓から外を見ながら呟く。
絹旗「というか座標移動(ムーブポイント)の動き自体超なくなってますよ? 新井植物科学研襲撃のニュースから超更新がないところから見るに」
座席にもたれ掛かりながら、絹旗が携帯端末を操作してニュースサイトを確認する。
何度更新をしても変わらず同じニュースがトップに上がった。
フレンダ「もしかしてこれって、ターゲットが欲しいモノ手に入れちゃったってことじゃない?」
麦野「そうかもね」
麦野が頬杖を付き、窓の外の景色を眺めながらフレンダの問いかけに適当に返した。
フレンダ「ちょ、それってマズイんじゃない!? このままじゃ私たち、タバコ臭い車でドライブだけして任務終了報酬なしってことになる訳だけど!」
麦野「うるせーな。まだそうと決まったわけじゃないでしょ。そういう言葉は一晩明けてから言いやがれ」
絹旗「たしかにそうですね。こういう破壊工作がやりやすいのは超夜中です。少なくとも夜が明けるまで様子を超見ないと判断がつきませんね」
フレンダ「えぇー? もしかして最悪こんな場所でこんな車の中で一晩を明かさなきゃいけないって訳? 嘘でしょ?」
麦野「ま、そうならないことをせいぜい祈ることね。神様に、いやこの場合は座標移動様、にかな?」
その言葉を聞いてフレンダはくたびれた表情をする。本当に疲れたのか座席をめいいっぱい後ろに倒してから寝転んだ。
やれやれ、と言った感じに麦野は視線を運転席の方へと移す。
麦野「つーわけで浜面? そろそろティータイムの時間だから適当にお菓子と飲み物買ってきて」
今まで会話に参加せずハンドルに顔を突っ伏していた浜面は、ゆっくりと顔を上げる。
はいはい、と適当に返事をして車のパーキングブレーキを解除し、シフトレバーをDに持っていく。
麦野「は? 何やってんのよ浜面?」
浜面「何って車の発進準備をしてんだけど?」
麦野「誰が車使って買いに行けっつったよ?」
浜面「はあ!? おま、近くのコンビニまで徒歩二〇分くらいかかんだぞ!? それを歩いていけって言うのかよ!」
ぎゃーぎゃー吠える浜面を麦野は舌打ちしてから睨みつける。
その迫力に思わず浜面はひっ、と声を上げた。
麦野「私らがここ離れている間にターゲットがここを襲撃しにきたら駄目でしょ? だから、ここで待機しとかなきゃいけないってわけ」
浜面「だ、だったらお前らだけ車から降りて待機しとけばいいだろ?」
その発言を聞き、女性陣が一斉に浜面仕上を見る。
麦野「は? 何で私たちがこんなクソみてえな道端で突っ立ってなきゃいけねえんだ?」
フレンダ「そうだそうだ麦野の言う通り! 結局、そんなことで仕事に使う大事な体力を使うわけにはいかないって訳よ」
絹旗「アスファルトの上って立っているだけでも超体力持っていかれますからね。私たちがそれで消費する体力と浜面がコンビニまで往復する体力、どっちが超重要か考えるまでもないですよね?」
滝壺「大丈夫だよはまづら。そんなはまづらを私は応援してるから」
ひでえ女たちだ。
そう思いながら浜面は車を降り、近くのコンビニがある方向へ走った。
―――
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574 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:12:58.06 ID:EQdefISBo
初春「――ッ!? こ、これは」
黒子と初春は監視カメラの情報の監視を続けていた。
先程まで一緒に居た美琴は、本来の役目でもある打ち止めの面倒を見るために、応接スペースに行き佐天と一緒に遊んでいる。
黒子「どうかなさいましたの?」
黒子は大きく目を見開いている初春を見て、その視線の先へ目を向ける。
そこには学園都市全体の地図が映っているディスプレイがあり、その中にある第七学区の南東部分に赤い点の集合があった。
黒子「もしや結標淡希に動きがありましたの?」
初春「いえ、そうじゃありません。くっ、やられたっ……!」
初春が苦虫を噛み潰したような表情をする。
そんな彼女を見て、黒子はもう一度地図の映っているディスプレイに目を向けた。
そしてその原因に気付く。
黒子「監視カメラの偽装情報が複数箇所にある……?」
彼女の言う通りディスプレイに映っている地図には点の集合が複数あった。
最初に気付いた第七学区の南東部分、第一〇学区の中心部分、第一七学区の東部。
計三箇所の地域に監視カメラの映像を操作された形跡が残されていた。
初春「この展開を予想していなかったわけではありませんが、いざやられると辛いものがありますね」
黒子「いろいろな地域に偽装情報をばら撒き撹乱させるのが目的ですわね」
初春「一度に作成できる偽装映像の数は一地域分が限界だと踏んでいたのが仇になりました」
黒子「一地域分の物を三つに分散したのではありませんの?」
初春「いえ、作りの粗い偽装映像しか抽出しないとはいえ、一箇所にある点の数は今までの一箇所分とほぼ同等の数はあります」
ツールの性能を上げたか同じツールを三つに増やしたか。
初春は次々と予想を口にするがいくら考えても答えがわかるわけではない。
黒子「この中のどれかが本物で、そこには結標がいる可能性があるってことですわよね? 正解が分かればそこに向かうことが出来ますのに、歯がゆいですわね」
初春「断言は出来ませんがこの中に本物はないと思いますよ?」
黒子「そうなんですの?」
初春「結標さんはほとんど研究所周辺のカメラに映り込んでいます。つまり、襲撃するときだけ顔を表に出しているということです」
初春はマウスを操作して三箇所それぞれを拡大表示し、周辺情報を見えるようにした。
初春「見ての通り周囲一〇キロ以内に研究施設は存在しません。今までは遠くても二、三キロ以内でした」
黒子「つまり、これらのダミーは我々を混乱させるためだけに作られたものというわけですわね?」
初春「そうです。が、その可能性が一〇〇パーセントというわけではないので、さっきも言ったとおり断定はできませんが……」
黒子「しかし、そう考えねば相手の思うつぼになってしまいますの」
初春「幸いなのは、相手がまだ私たちが襲撃犯=結標淡希という前提で動いているということに気付いていないことですね」
もし気付いていたら、研究所三箇所にダミーを撒くなどしてくるはずだろう。
初春は冷や汗のようなものを額に浮かべながら、
初春「仮に相手がそれに気付いてしまったら、今までの方法では正確の情報を掴むのが困難になってしまいます」
黒子「……何か策はありますの?」
初春「今の所お手上げですねー残念ながら。けど、どうにか出来ないか考えてはみますよ!」
575 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:14:16.58 ID:EQdefISBo
ふんっ、と鼻息を荒げ両手ガッツポーズを胸辺りに持ってきてやる気アピールをする初春。
明るく見せているが内心焦りやプレッシャーに苛まれていることに、黒子は何となく察していた。
黒子「しょうがないですわね。息抜きにでも、わたくしが紅茶でも入れて差し上げますわ」
初春「わぁ、いいんですか? どうせならティースタンドにお菓子とか載せてアフタヌーンティーやりましょうよ!」
黒子「調子に乗るんじゃありませんの」
黒子はえへへと誤魔化し笑いをする初春を背に給湯室へと向かう。
ふとその道中に応接スペースの方へ目を向けると部外者三人組がトランプをして遊んでいた。
注意をしていた固法はもう諦めたのかデスクに座って事務作業をこなしていた。
黒子(……そういえば映画映画言っていましたが、結局行かなかったのですわね)
そんなことを考えながら給湯室にたどり着き、ティーポットに入れるための湯を沸かし始める。
その様子をぼーっと眺めていた黒子に近付いてくる者がいた。
美琴「黒子?」
黒子「あっ、お姉様?」
肩をトンと叩かれたため少し体をビクつかせる。
黒子「な、なんでしょうか?」
美琴「あんまり状況は良くなさそうね」
美琴は黒子の浮かない表情から事態を察したようだ。
大切なお姉様に余計な心配をさせるなんて何をやっているんだ。
黒子は自分を戒める。
美琴「私に手伝えることある?」
黒子「いえ、大丈夫ですわ。お姉様はお姉様の役割を果たしてくださいまし」
黒子の言う通り彼女には彼女のやることがある。打ち止めという少女の面倒を見ること。
嵌められたとはいえ、自分たちのせいで今もどこかで戦っているだろう少年、彼からの頼み事だ。
彼女にはそれを疎かにしては欲しくはなかった。
美琴「……わかったわ。でも、何かあったら私を頼りなさいよ? 私はアンタのお姉様なんだからね」
黒子「ありがとうございますお姉様」
心強いお姉様の言葉を聞き、黒子は柔和な表情を浮かべた。
―――
――
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576 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:16:56.29 ID:EQdefISBo
第一〇学区にある閉鎖された研究施設。
有刺鉄線に巻かれ錆びついた鉄柵に囲まれており、敷地内は整備されていないのか雑草がところどころ生い茂っている。
正門には『関係者以外立ち入り禁止』の看板がでかでかと番線で括り付けてあった。
その看板の前で、一方通行は腰を落としながら首に付いている電極をいじっていた。
一方通行「――よし、予備のバッテリーに交換完了だ。とりあえず用が終わったらメインの方を充電しねェとなァ」
一方通行の電極には今サブのバッテリーが取り付けられている。
能力使用モードの持続時間は一五分間とメインの半分だが、彼にとっては有用な戦力だということには変わりない。
バッテリーの交換が終わった一方通行は立ち上がり、敷地内を眺めながら柵の外を歩いて回る。
一方通行(ここがヤツらの住処だということは間違いないだろォ。ヤツの状態からして嘘は付いていなかったはずだ)
ここの情報は先程接触した研究員から得たものだ。
口で脅しても吐かなかったから、軽く拷問じみたことをしただけですぐに吐いた安い情報。
その真偽は一方通行が能力による生体電流の読み取りと、嘘にまみれた世界で磨き上げた洞察力によって正しいものだと判断した。
もしこれが嘘だとしたら、あの研究員はハリウッド俳優も霞むほどの名演技をしたということだろう。
そんなことを考えていた一方通行だが、あるものを見てこの考えが杞憂だったことにすぐに気付いた。
一方通行(この監視カメラ、一見劣化して機能停止したスクラップ品に見えるが、動いてやがンな)
金属部分は錆びついており、起動しているということを表すランプも消えている。
電気を通すためのケーブルは断線しており、誰がどう見ても壊れた監視カメラだった。
しかし、一方通行はそれらの情報などまったく気にしていない。見ているのはレンズの奥。
機械の内側で目の前の景色を映し出そうとする部品の動きを。
一方通行(さて、住処の入り口はどこだァ? 普通に考えりゃあそこにある施設の建物だろォが)
壁は土で汚れ、窓は割れ、中は埃でまみれている。
扉の蝶番の部分は遠目で見ても錆びついているし、付近は草で生い茂っていた。
どう見ても人の入ったような形跡は見られない。
一方通行(……となると)
一方通行は敷地内にある研究施設にしては広い庭地に目を向ける。
背の低い草が点々と生えている以外はこれといった特徴はない、普通の人間ならそう判断するだろう。
しかし、一方通行の眼はそれを見逃しはしなかった。
一方通行(あそこだけ一センチくらい地面が浮いてやがンな。しかも不自然なことに直線にな)
一方通行の目線の先にある地面は彼の言うように他の部分より一センチほど高かった。
ただ高いだけなら地面が荒れることによってできた凹凸として判断できるが、その一センチの高台は一〇メートルほど直線に伸びていた。
一方通行は電極のスイッチを入れ、鉄柵を伸び越えてその不自然な地面の前へと着地する。
よく見てみるとその直線は別の直線と繋がっており、それらを全て繋げると一〇メートル四方の正方形が出来上がった。
一方通行「……ここだな」
そうつぶやき、一方通行はその一センチの台を蹴る。
すると、その四角形は金属が無理やり折り曲げられたような鈍い音を上げ、地面と垂直になるように跳ね上がった。まるで蓋が開くように。
四角形のあった場所には地面の中へと続く坂道が地下へと伸びていた。
そこの風景は、地上にあるまったく整備の行き届いていない廃墟と違う、明らかに作りの新しい研究所を思わせるようなものだった。
577 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:19:17.57 ID:EQdefISBo
一方通行「ここがヤツらの巣かァ? アハッ、害虫駆除と行くかァ」
能力使用モードを切り、機械的な杖を使いながらそのスロープを降りていく。
一〇〇メートルほど進んだところでスライド式の扉が見えた。
扉は分厚い鋼鉄製で、扉の横ではパネルのようなものが設置されていた。
パネルには手形のようなものが書かれているところから、指紋や生体電流等が一致しないと開かないセキュリティのようだ。
一方通行はそれを見て何となく手と手形を合わせてみる。当たり前だが『ERROR』の赤文字がパネルのディスプレイ部分に浮かび上がる。
一方通行「……はァ、面倒臭せェ」
そう言って電極のスイッチを入れ、能力使用モードを起動する。
右手を鋼鉄の扉に押し付ける。
扉から働く抗力等のベクトルが反射され、五指が全て扉の中に埋まった。
そのまま一方通行は扉を無理やりスライドさせる。
機械をプレス機にかけたときのような激しい音を上げ、扉が強引に開かれた。
その瞬間、建物内に警報が流れた。
一方通行「遅せェな。監視カメラに俺が映った時点で鳴らしとけよ。もしかして俺のこと舐めてンのかァ?」
グシャグシャに破壊された玄関を後にし、一方通行は奥へ奥へと進んでいく。
横幅五メートルもない殺風景な廊下をしばらく行くと、広間のようなところに出た。
そこは一言で言うなら工場。
何に使うのかわからない機械があちらこちらに設置されていて、迷路のように入り組んでいる。
壁や天井を見る限り、高さは二〇メートルくらいで、横幅はざっと二〇〇メートルほど、奥行きは四、五〇〇メートルはあるだろうか。
あの廃墟の地下にこんな広大な空間があるという事実に、一方通行は驚きを覚えた。
一方通行(一体ここで何を作ってやがンだ? 見たところ機械は動いてねェよォだが)
侵入者が現れたから急遽停止したのかと思ったが、そもそも機械が動いていた形跡はなかった。
その点から考えられるのは、作るものを作ったからもう機械を動かす必要のないということだろう。
一方通行(まァイイ。ンこと気にしても仕方がねェ。俺に出来ることは前に進むことしかねェンだよ)
一方通行は再び歩き始めた。
入り組んだ迷路を進んでいき、行き止まりになればベクトル操作で障害物を退かす。
そうしながら進んでいくうちに一方通行はあることに気付く。
一方通行(別に素直に下の道進まなくても、上から跳ンで行きゃイイじゃねェか)
何やってンだ俺は、そう思いながら一方通行は電極のスイッチに手を伸ばす。
すると、
ドスリッ。
左腕に何かが刺さった音が聞こえた。
一方通行「がっ……!?」
左腕を見る。そこには一〇センチくらいの長さの金属矢が突き刺さっていた。
あまりにの痛さに壁に寄りかかりながら、右手で左腕を押さえる。
ふと、自分の歩いてきた方向を見る。
578 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:22:53.81 ID:EQdefISBo
一方通行(駆動鎧……!?)
そこには真紅の駆動鎧を着た何者かが立っていた。
アンチスキルが使っているタイプよりは少し小型になっており、手には釘打機にサブマシンガンのマガジンが取り付けられたようなものを持っている。
駆動鎧はその釘打機のようなものを一方通行へ向けて、引き金を引いた。
それを見た一方通行は反射的に地面に倒れ込むように横に飛ぶ。
すると、一方通行のちょうど頭のあった空間に金属矢が突然現れた。
一方通行(あれは空間移動(テレポート)ッ!? あの野郎ォ空間移動能力者(テレポーター)かッ!!)
駆動鎧が再び一方通行へ向けて引き金を引く。
一方通行は無傷の右手で無理やり首筋にある電極のスイッチを入れる。
反射という圧倒的なチカラが一方通行の体にまとわれた。
一方通行の頭部を狙った金属矢は彼に届くことなく跳ね返る。一一次元のベクトルを介して、元あった釘打機のようなものの銃口の中へ。
金属矢が発射されたときとは釘打機の位置に微妙なズレがあったのか、金属矢は銃身へと突き刺さっていた。
反射により武器が破損し戸惑っている姿を一方通行は見逃さない。
一方通行は飛び上がり、脚力や空気抵抗等のベクトルを操り、弾丸のような速度で駆動鎧へと突撃する。
しかし、衝突する前にその駆動鎧は姿を消した。一方通行はそのまま地面に激突し、床に亀裂が走った。
一方通行「チッ、消えやがった。どこに行きやがったッ!?」
一方通行は三メートルくらいの高さがある機械の上に飛び乗った。
辺りを見回し消えた赤い駆動鎧を捜す。
テレポーターはモノを七、八〇メートル近い距離飛ばすだけで優秀と言える。
つまり、大抵のテレポーターは長距離の転移をすることはできないということだ。
ましてや緊急回避で高度な演算をする余裕のない状態での転移などなおさら長距離飛べるわけがない。
そう考え、近くを見渡したが見つからなかった。
一方通行(連続で転移してここを離れたか、物陰に潜ンでやがるか。いずれにしろ厄介な状況には変わりねェ)
首元にある電極に手を触れる。
この電極には一五分間のタイムリミットがある。
いや、ここまで来るのに能力を度々使っていた為、もっと短い時間になっているだろう。
バッテリーの節約の為にスイッチを切りたいが、切ると当たり前だが能力が使えなくなる。
無防備な状態で物質の転移などと言う凶悪な不意打ちを受けてしまえば、命など容赦なく消えてしまうだろう。
そのため一方通行は一刻も早く敵を始末したかった。
そんなことを考える一方通行の身体にある感覚が走った。
反射が働いたという感覚。それはつまり、攻撃を受けているということ。
一方通行はその感覚を頼りに後方を見る。
二〇メートルほど先の床の上、そこには先ほど見たものと同じタイプの赤い駆動鎧が釘打機のようなものを構えていた。
しかし、それが先ほど自分と交戦した駆動鎧ではないことはすぐにわかった。
なぜなら、
一方通行(三機だとッ!? )
同タイプの駆動鎧が三機いた。
直近に戦った駆動鎧は金属矢を反射することにより釘打機のようなものを破損させている。
だが、その三機の手に持つ物は全て無傷だ。
つまり、まったくの別の個体ということになる。
一方通行(テレポーターが四人。笑えないねェ。厄介ってレベルじゃねェぞこれは)
一方通行は足元にある機械を踏み付ける。
機械は軋むような音を上げる。
ネジやナットを等の細かい部品が外れ、銃弾のような速度で駆動鎧達の方向へ飛んでいく。
部品の弾丸は道中にある鉄板等の障害物を突き破りながら進む。散弾銃が如く破壊が駆動鎧達へ襲いかかる。
しかし、攻撃が届く前に駆動鎧三機は姿を消した。
579 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:24:49.71 ID:EQdefISBo
一方通行(チッ、ヤツらあと何機居やがるッ!? 四機いたっつゥことはもっと居てもおかしくねェっつゥことだ)
一刻も早く敵を殲滅しなければいけない状況、だがまずは敵の戦力を把握することが重要だと一方通行は考えた。
再び少年は足元の機械を踏みつけ、二〇メートルほどの高さがある天井に向かって飛び上がる。
そしてベクトル操作をして手と足を天井に張り付けて、獲物を捜すトカゲのように工場の中を見回した。
一方通行(……全部で一二機か。面倒臭せェことになってきやがった)
工場の中をうごめく赤い影は一二機。
一機で行動する者も居ればスリーマンセルを組んでいる者も居る。
駆動鎧たちはターゲットが射程距離外にいるためか、攻撃を行わずただただ天井にいる少年をじっと見つめているようだった。
一方通行(おそらくアイツらは全員テレポーターだろう。そういえば学園都市にいるテレポーターの数は五八人とか聞いたことあるが、アレはそのうちの一二人っつゥことになンのか?)
その五八人には結標淡希や白井黒子も含まれている。
そんな希少な能力者の二〇パーセントがこんな場所にいるということに、一方通行は疑問を感じていた。
一方通行(全員が駆動鎧を着て同じ武器を携帯している、っつゥことはヤツらの使っているテレポートは機械のチカラっつゥこととも考えられる)
だが一方通行はその考えも素直に納得できるものではなかった。
空間移動の機械での再現は困難だ。発電能力の電気や発火能力の炎を再現するのとは次元が違う。
そんなものを駆動鎧という小さな機械で再現し、ましてや量産しているなどとは信じがたいものがあった。
一方通行(ま、今はそンなこと考えたところでしょうがねェ。今はどォやってこの場を切り抜けるかだ)
電極のバッテリーの残り時間はおそらく一〇分もない。
その状態でテレポーター一二人と戦わないといけない状況。
一方通行(ヤツらは俺のことを知っているはずだ。もちろンこの能力使用モードのこともな)
つまり、相手からしたら一〇分間逃げ回るだけで勝ちということだ。
対してこちらは一〇分以内に敵を殲滅。さらに言うなら敵はこの駆動鎧だけではないかもしれない。
余力を残した状態でここを潜り抜けなければいけないということ。
厳しい勝利条件を突きつけられた一方通行。しかし彼は止まらない。逃げ出さない。
一方通行(こォいう状況になるなンてこたァ初めからわかってたことだ。あの女を追うと決めた時からなァッ!!)
一方通行は天井を蹴り、一番近くにいる駆動鎧目掛けて滑空する。
命をかけた一〇分間の鬼ごっこが始まった。
―――
――
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580 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:26:43.22 ID:EQdefISBo
第一〇学区のとあるマンション。その中の一室に大勢の人影があった。
リビングに当たる部分には武装した男たちが一〇人以上。
その隣にある部屋に男一人女二人の三人組がいた。
熊のような大男、佐久が携帯端末を片手に電話の向こうの相手に喋りかける。
佐久「山手。そちらの状況は?」
山手『問題なしだ。大事なモンは全部積んで離脱した。もちろん、例の置き土産は残してきたがな』
山手と呼ばれる男の声の後ろからエンジン音のようなものが聞こえてくる。
彼は現在車か何かの車輌に乗っているようだ。
佐久「ご苦労。これでヤツがくたばってくれるのが一番だが、少しでも心が折れてくれれば成功といったところか」
佐久の隣にいる筋肉質な長身な女、手塩が腕を組みながら質問する。
手塩「本当に、あの程度のもので、心が折れるのか?」
佐久「さあな? まあ心が折れるというより動揺してくれれば、って言ったほうがいいか。そうなればヤツも冷静な行動ができなくなりこちらも動きやすくなる」
佐久が質問に答えたことを電話越しに確認した山手は会話を続ける。
山手『あと例の情報封鎖の件だ。こちらからメディアに手を回したから、これ以後ニュースに流れるとかはないだろうよ』
佐久「ネット関係は?」
山手『そいつは今から向かうところだ。ついでにわかったことだが、今回の情報を無理やり開示させたヤツらは俺たちと同程度の権限を持っている組織だ』
どこのどいつだかはわからなかったがな、と山手は付け加える。
佐久「だろうな。おそらく情報を封鎖したことはそいつらもいずれ気付くだろう。用心はしておけ」
山手『了解』
佐久「手塩。アンチスキルどものほうはどうだ?」
手塩「問題ない。やつらが今できることは、せいぜい襲われた後の、研究所の警備くらい。ターゲットを捕縛するために、大部隊を派遣なんてことは、ないわ」
特に表情を変えることなく、冷静な口調で返答する。
手塩「一人、座標移動について騒いでいる、アンチスキルの女がいるみたいだが、所詮は個人。対して影響はないだろう」
佐久「例の警備の件は?」
手塩「すでに、当日に配置されるアンチスキルは、我々の息のかかった者たちに、なることは確定しているよ」
佐久「そうか。では山手、情報封鎖の件は頼むぞ。手塩は引き続きアンチスキル関連の監視だ」
そう言われて電話越しの山手と手塩は了解と一言返事し、山手は通話を切り、手塩は五、六人ほどリビングにいた男たちを連れて部屋を出ていった。
それを見届けると佐久は同じ部屋にいたもうひとりの少女。白を基調としたセーラー服を着た鉄網に話かける。
佐久「鉄網。これから例の外部組織の代表と直接接触する。お前も付いてこい」
鉄網「了解した」
そう一言だけ返して鉄網は部屋の外へと向かう佐久の後ろをついていく。
そのあとを残った男たちがゾロゾロとついていった。
佐久「……さて、散々今までこき使ってくれやがったクズどもめ。『ブロック』による反逆までの時間は残り一二時間は切った。せいぜい首でも洗って待ってやがれ」
彼らの所属する組織の名前『ブロック』。
グループ、スクール、アイテム、メンバー。それらと同等の権限を持った暗部組織の一つである。
―――
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581 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:28:58.87 ID:EQdefISBo
閉鎖された研究施設の地下にあった工場のような場所。
その中の一角で一方通行は息を荒げながら立っていた。
一方通行「――クソがッ!! ちょこまかちょこまかとうっとォしいィ!!」
一方通行が空間移動(テレポート)という超能力を使用する一二機の赤い駆動鎧との戦いを始めて、既に五分経過していた。
つまり、彼には時間がほとんど残されていないということだ。
五分間という貴重な時間を使って減らせた敵の数はゼロ。
その事実に一方通行は額に汗を浮かべていた。
一方通行(どォやって倒すッ!? 思い切って天井を崩して生き埋めにしてやるかァ?)
地上には使われていない廃墟とした研究所の建物がある。
天井を崩せばそれらが二〇メートル上空から落下してくるということなので、相当な能力者ではないと切り抜けられない状況へと持っていけるだろう。
だが、
一方通行(それは最終手段だ。もしそンなことをしてこの地下施設全体が崩壊しちまったら、情報やらなンやらが全部下敷きになるってことだからな)
そんなことになったら今自分がわざわざこうやって施設に潜り込んで戦っている意味がない。
そのため、一方通行はその手段を取ることを避けていた。
焦燥している少年の後方に一つの大きな人影が現れる。
赤色に塗装された駆動鎧一二機のうちの一機だ。
ヤツらはこうやって急に出てきてはおちょくるように攻撃して、こちらが仕掛ければテレポートして離れるヒットアンドアウェイ戦法を取っていた。
一方通行のチカラは強力だ。その手が駆動鎧に触れるだけで機能停止に陥られるほどに。
だが、それは当たらなければ意味のないチカラ。そのためこの相手は相性が最悪と言えるだろう。
一方通行「ぐゥっ、くたばりやがれクソ野郎がァああああああああああああああああッ!!」
どうせテレポートで逃げられるだろう。しかしわかっていても攻撃しないわけにはいかない。
半ばやけくそ気味に一方通行は地面に転がっていたレンチを蹴り飛ばし、駆動鎧に目掛けて発射する。
駆動鎧へそれが到達する三メートルほど前。転移して逃げるだろうタイミング。
そのとき、なぜか駆動鎧はいつもとは違う動きを見せた。
駆動鎧『――なっ、しまった!! 転移できなッ!?』
駆動鎧は転移せずに焦ったような様子で床を見ていた。
すなわちそれは、一方通行が放った一撃が直撃するということだ。
ガンッ!!
という金属音を上げながらレンチは駆動鎧の頭部へと直撃する。
重要な装置か何かを頭部に積んでいたのかわからないが、機能停止して駆動鎧は動かなくなった。
一方通行(……どォいうことだ。ヤツはなぜテレポートして逃げなかった?)
一方通行は状況の分析を始める。
今自分が行った攻撃は金属で出来た小物を弾丸のような速度で飛ばすベクトル操作。
この戦いの中でも同じようなことは何十回とやってきた。ヤツらはテレポートを使ってそれを容易に回避してきた実績がある。
なのに、コイツは回避せずに攻撃を受け入れた。焦った様子を見る限り、あえて攻撃を受けたということはないだろう。
つまり、
582 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:32:04.68 ID:EQdefISBo
一方通行(空間転移をするためには何らかの条件があって、それを満たせなかったから避けられなかった、ってことか?)
そう考えた一方通行ふと気付いたことがあった。
一方通行(そォいや、ここって最初に駆動鎧のクソ野郎に会ったところじゃねェか)
後ろから突然現れたヤツの釘打機のようなものによる不意打ちより左腕を負傷した場所。
カウンターに空中から駆動鎧目掛けて突撃をしたが、テレポートで逃げられて砕けたのは床だけだった。
そういう出来事があった場所だ。
一方通行はさらに気付く。
一方通行(床……?)
駆動鎧が立っていた足元を見る。
そこにはベクトル操作によって破壊されひび割れた床があった。
近付いてその床をよく見てみると、ランプのようなプラスチック製の黄色い破片があちこちに転がっている。
そしてひび割れた床下部分には断線したケーブルのようなものが埋まっていた。
一方通行「……もしかして、コイツが駆動鎧が好き放題テレポートすることが出来た理由の答え、っつゥことか?」
一方通行は一五メートルくらい上空を飛び上がり、工場全域の床を見回す。
今まで気付かなかったが、床のあちらこちらには直径二メートルほどの黄色い円形のパネルのようなものが埋め込まれていた。
それを見て一方通行は、
一方通行(試してみる価値はあるな)
一方通行は天井から吊るされていた重量物移動用のクレーンを掴み、引きちぎる。
そしてそれをそのまま一機でいる駆動鎧のいる場所へと投げつけた。
攻撃に気付いた駆動鎧は一歩後ろにバックステップをして、クレーンが到達する前に転移して回避する。
一方通行はその光景を見て、
一方通行(思った通りだ。さて、あとは効率のイイ方法を取れるかどうかだ)
空中から床へと着地した一方通行はすぐさま床に埋まっているパネルへ右手を当てる。
そして一方通行は反射以外の演算能力を全て右手に集中させた。
しばらくして一方通行は『何か』のベクトルを操作する。
すると、目の前の直径二メートルの円形のパネルから、空気を切るような音とともに現れた。
真紅の駆動鎧が一機。
一方通行「あはっぎゃはっ!! 残念だったなァ!? 自分の思っていた場所へ転移出来なくてなァ!!」
口元が裂けるような笑顔のまま一方通行は、目の前にいる駆動鎧を思い切り殴りつける。
グシャリ、と金属が砕ける音を上げ、吹き飛んだ。駆動鎧は為す術なく進行方向上にあった機械へ体を叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
583 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:34:48.08 ID:EQdefISBo
一方通行(コイツらのテレポートは能力によるモノじゃなく機械によるモノ。この床のあちこちにあるパネルが全部繋がっていて、そのパネル間を自由に転移できるっつゥヤツだ)
おそらくこの施設内にテレポートを再現する巨大な演算装置が設置されていて、パネルからパネルという限定条件をつけることで制御しているものだろう、と一方通行は適当に推測する。
一方通行(テレポートにもベクトルは存在する。つまりやろうと思えば俺でもそのベクトルを操作することは出来るっつゥことだ)
再び一方通行はパネルに手を当て、『何か』のベクトルを操作する。
そして目の前に別の駆動鎧が一機、再び出現した。
一方通行「つまり、このパネルを介して行うテレポートだってわかってりゃよォ、パネル間に存在するテレポートのベクトルを操作すりゃ出現場所くらい好きに操作することができンだよォ!!」
駆動鎧を蹴り上げる。
ロケットのような速度で駆動鎧は天井へ頭から突き刺さった。
短時間に二機の味方がやられるという異常事態。
それ察知して、様子を見るためか一方通行の後方へ駆動鎧が二機現れた。
気付いた一方通行は右手を近くにあった機械へ突っ込み、引き抜く。
ネジやナット等の部品という名の武器を大量に手にした。
一方通行「ほらほら逃げろ逃げろォ!! こォいう投擲物避けンの得意だろオマエらァ!?」
手にした部品の半分を前方にいる駆動鎧達へ投げ飛ばした。
それを確認した駆動鎧達はテレポートの姿が消えた。
テレポートした瞬間、一方通行は後方へ残りの部品を投げ飛ばす。
ガガガッ、と部品が何かに命中した音がした。
音源のある方向を見る。そこには先ほど消えた駆動鎧二機が転がっていた。
一方通行「タネさえわかりゃ楽なモンだよなァ?」
一方通行は靴裏でずっとパネルに触れていた。
一度目の投擲で駆動鎧達のテレポートを誘い、そのベクトルを察知し、転移の方向を後方にあるパネルへと操作した。
だから、一方通行にはどこにヤツらがテレポートするのかがわかった。
だから、迷いなく転移先の後方へ攻撃した。
一方通行「残りの能力使用モードの時間は四分っつゥところかァ? こンな鉄屑どもォ片付けるだけだったら十分過ぎる時間だなァ、オイ」
一方通行は楽しそうに笑った。
駆動鎧の数は残り八機。
約一分後。その数はゼロとなった。
―――
――
―
584 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:37:31.79 ID:EQdefISBo
初春「――この状況を打破する方法、一つ思いつきました」
風紀委員活動第一七七支部の一角。
自席でキーボードを高速タイピングしながら初春がポツリと呟いた。
黒子「本当ですの初春!?」
初春「ええ、少々危険で真っ黒な方法ですが」
そう言うと初春はディスプレイの一つにあるプログラムを映した。
それを見て黒子が首を傾げる。
黒子「これは?」
初春「ウイルスです。ダウンロードした瞬間、そのコンピュータに自動的にバックドアを作成する強力なヤツです」
黒子「……なんで貴女がそんなものを持っていますの?」
初春「いやー、蛇の道は蛇って言うでしょ?」
黒子は軽く頭痛がするのを感じた。
もちろん原因は一線を走り幅跳びで越えていく目の前にいる相棒である。
初春「安心してください白井さん! これは一般的なウイルス対策ソフトはもちろん、機密程度のセキュリティレベルなら絶対に引っかからない代物ですので」
さすがに書庫(バンク)のセキュリティレベルには引っかかりますが、と初春は付け加えた。
黒子「そんなことは心配してませんわ。貴女はそれを使って一体何をするつもりですの?」
初春「ヤツらのコンピュータにこのウイルスを仕込んでバックドア作り、そこを起点にハッキングして監視カメラ偽装ツールを破壊します」
黒子「……はぁ、見事に予想通りの返答で逆に驚きもしませんわ。しかし、そのウイルスを一体どうやって相手のコンピュータに仕込むつもりですの?」
まさか馬鹿正直にメールで送りつけるとかいいませんわよね? と黒子は顔をしかめる。
質問に対して初春はニッコリ笑顔で、
初春「その辺はたぶん大丈夫だと思いますよ。偽装ツールを使うときは必ず監視カメラから動画データをダウンロードしているはずです。だから、そこを狙います」
黒子「なるほど。偽装されそうな監視カメラを特定して、そこにウイルスを仕込むということですわね。バレたら少年院行き確定ですわよ?」
初春「少年院に行かせるような人たちにはバレないとは思いますので、そこは問題ないと思います。しかし」
初春の顔に少し陰りが見えた。
初春「バレるとしたらこの相手に、ですかね」
黒子「たしかに初春に匹敵する技術を持っている相手ですから、ウイルスに対応できるようなセキュリティを持っているかもしれませんわね」
初春「いや、そこはたぶん大丈夫だとは思うんですけど。問題はハッキングしているときです」
黒子「どういうことですの?」
初春「相手のコンピュータ内部のプログラムを破壊するんですから、こちらもそれなりの代償を払わなければいけないということですよ」
585 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:39:11.67 ID:EQdefISBo
代償。
その重苦しい言葉を聞き黒子は息を飲み込んだ。
初春「あくまで最悪なケースの話ですが、こちらの位置情報等のパーソナルデータが相手に抜かれるかもしれません」
黒子「貴女いろいろな国のサーバーを経由して、そういう逆探知の対策を取っていると言っていませんでしたか?」
初春「それだと処理速度が落ちてしまうんですよ。今回のハッキングは一刻を争う作業です。だから、そういうのは抜きで直接やります」
黒子「しかしそれだと」
初春「そうです。仮にデータを抜かれたら風紀委員(ジャッジメント)の、一七七支部の皆さんに迷惑を掛けてしまうことになります。ですが」
初春は何かを言いかけたまま自分のリュックを開く。
その中から一台のノートパソコンを取り出した。これは初春が個人で使用している私物だ。
初春「これは私が個人的にやろうとしていることです。ハッキングもこれでやりますので、抜かれたとしても私個人のデータです」
初春「ですので、それが原因で一七七支部自体が糾弾される事態になりましたら、遠慮なく私を売っちゃってください」
そう言って初春は微笑んだ。
それに対して黒子は一言言った。
黒子「ふざけんじゃねえですの」
初春「えっ?」
黒子「貴女自分で言っていることわかっていますの? 相手は暗部組織。もしそんなことになったら、貴女の身に何が起こるかわからないわけではありませんよね?」
初春「……そうですね。わかっています」
黒子「でしたら、そんな馬鹿なことなどせずに別の方法を――」
初春「ありませんよ。他に方法なんて」
黒子が言い切る前に初春は否定する。
少女の冷静な口調からしてその言葉は真実なのだろう。
だからこそ、黒子は問いかける。
黒子「どうして貴女はそこまでやりますの? ここでさじを投げても誰も文句を言わない立場だというのに、なぜそこまでの危険を犯してまでこの件に関わろうとしますの?」
黒子にされた論理的な問いを聞き、初春は目を丸くさせた。
そのあと小さく笑いながら、
初春「……ふふっ、すみません。私にもなんでかわかりません」
黒子「はぁ?」
初春飾利から出た予想外な答えに思わず黒子は素っ頓狂な声を上げてしまった。
586 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:41:23.57 ID:EQdefISBo
初春「何と言いますか、上条さんのことを見ていると、その、私にでも何かできることがあるんじゃないか、って思いまして」
黒子「……貴女、もしかしてあの腐れ類人猿のことが……!?」
初春「い、いえそういう意味じゃないです!」
両手を手の前でバタバタさせながら初春は精一杯否定する。
すぐそこにいる誰かさんに聞かれて変な誤解をされても困るからだ。
初春「私たちは強盗犯の結標さんしか知りません。まあ、私に限っては会ったことすらないんですけどね」
黒子「そうでしたわね。あの事件はあのあとすぐアンチスキルに引き継がれましたから、貴女には出会える機会などありませんでしたわね」
黒子のいう事件というのは『残骸(レムナント)』に関わった事件のことだ。
あのとき初春は後方で黒子のバックアップをしていたので、直接現場に赴くことはなかった。
初春「けれど、上条さんや一方通行さんは私たちの知らない結標さんをたくさん知っています。そんな彼らが一生懸命結標さんを追いかけているということは、それだけ大切な存在だったということです」
黒子「しかし、その大切だった彼女はもう既に……」
彼らが接してきた少女は記憶喪失をしていたときの結標淡希だ。
しかし、今彼らが追っている少女は記憶を失う以前の結標淡希。
悪い言い方をすればまったくの別人ということになる。
その意味を理解した上で初春は、
初春「それはあの人たちが一番わかっていることです。なのに、彼らは追いかけることをやめていません」
初春「きっと彼らは信じているんじゃないでしょうか。例え記憶がなくったって、またわかり合うことが出来るんじゃないかって」
勝手に私が思っているだけなんですけどね、と照れくさそうに初春は笑って誤魔化す。
しかし、彼女が冗談で言っていることではないことは目を見ればわかる。
初春「そう考えたら、なんか私も手伝いたいなって思ってしまいまして、なんて」
黒子「……はあ、何と言いますか、甘いですわね。お花畑なのは頭の上だけかと思ったら中までそうだったのですの?」
初春「なんのことですか?」
真顔で首を傾げる初春を見て黒子はたじろいだ。
なんでもないですわ、と黒子が有耶無耶にして目を逸らす。
そんな黒子の様子を見てまた首を傾げながらも、初春は話を続ける。
初春「それに、一度会って話してみたいと思いまして」
黒子「話してみたい? 誰とですの?」
初春「もちろん決まっているじゃないですか。あの人たちがあんなに大事に思っている結標淡希さんっていう人とですよ」
黒子はのん気そうな笑顔で変なことを言う友人を見て再びため息を付いた。
片手で軽く頭を抱えながら黒子は口を開く。
黒子「……ふん、あまり変な期待をしないほうがよろしいかと。ただのいけ好かない女ですの」
初春「ええぇー?」
―――
――
―
587 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:42:49.08 ID:EQdefISBo
ジャッジメント二人がいるブースから少し離れた場所にある応接スペース。
ソファに座ってトランプのカード一枚を片手に何かを考えている御坂美琴がいた。
美琴「…………」
打ち止め「……お姉様? 次はお姉様がカードを引く番だよ、ってミサカはミサカは二枚のカードを突き出して催促してみる」
美琴「あっ、ごめん」
一言謝り打ち止めが持つ二枚のカードのうち一枚を手に取る。そのカードはハートの2。美琴の持つカードはダイヤの2。
美琴は二枚のカードをまとめてテーブルの真ん中へと置く。
どうやら美琴、打ち止め、佐天の三人でトランプのババ抜きをやっているようだった。
打ち止め「ああああ、また負けちゃったー! ってミサカはミサカは悔しさをロックバンド風に体で表現してみたり」
軽いヘッドバンギングのようなことをして、打ち止めの茶髪が上下に激しくなびいた。
生き物のようにアホ毛が揺れる。
佐天があははと笑ってから、
佐天「打ち止めちゃんは表情に出やすいからねー。それに語尾のセリフで何となくババ持っているかどうかわかるし」
打ち止め「な、なんと!? ミサカにそんな弱点があったなんて、ってミサカはミサカは驚愕してみたり」
佐天「その語尾って我慢できないの? そうすれば少しはババ抜きの勝率も上がるんじゃないかなー?」
打ち止め「なるほど。ならちょっとチャレンジしてみようか、ってミサカはミサカは意気込んでみたり」
佐天「もうすでに我慢できてないじゃん」
打ち止め「わわわ、今のはなし今のはなし! ってミサカはミサカはうわあああまた勝手に出てきた、ってミサカはミサカは頭を抱えてみたり」
二人がそんな他愛のない会話をしている中、美琴はソファから立ち上がり、
美琴「さて、打ち止め。そろそろここ出るわよ?」
打ち止め「ん? どこか行くの? もしかして映画館ッ!? ってミサカはミサカは期待の眼差しを向けてみたり」
美琴「違う違う。今日私たちが泊まる予定にしてるホテルよ」
打ち止め「うおお!! ミサカホテルに泊まるの初めてなんだ、ってミサカはミサカはまだ見ぬ世界にハイテンションになってみたり」
佐天「もう帰っちゃうんですか?」
美琴「うん。黒子たちも忙しそうだし、あんまり長居しても迷惑でしょうし」
美琴はパーテーションの向こうで今も戦っているだろう二人の方向を見た。
588 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:44:03.58 ID:EQdefISBo
佐天「そうですね。じゃあ、あたしも帰ろっかな」
その様子を見た佐天も立ち上がり、背伸びをして体のコリを解す。
美琴「黒子ー!」
美琴がパーテション越しにいる黒子に聞こえるように名前を呼ぶ。
呼んだ一秒後、美琴の前に空を切る音とともにツインテ少女がいきなり現れる。
黒子「なんでしょうか?」
美琴「私今日は打ち止めとホテルで寝泊まりするから寮には戻らないわ」
黒子「わかりましたわ。ところでその楽園はどこのホテルの何号室で?」
美琴「来ようとするな!」
冗談ですわ冗談、と黒子はおどけた感じに笑う。
黒子「外泊申請はきちんと出してますの?」
美琴「う、うん。まあ、なんとか、ね……」
遠い目をしながら疲れた笑顔の美琴を見て黒子は不思議な表情をする。
美琴は昨晩門限破りをした。そのため今朝ペナルティを受けたばかりだった。
そんなあとに外泊の申請を出したので凄まじい追求を受けて何とか許可を得たことは、昨晩寮に帰っていない黒子には知りようにないことだ。
美琴「ま、私は帰るけどアンタも早く仕事終わらせて帰りなさいよ?」
黒子「はい、わかっていますわ」
美琴「……じゃ、打ち止め行きましょうか」
打ち止め「はーい!! お邪魔しましたー!! ってミサカはミサカは別れの挨拶をしてみたり」
二人は部屋の奥で親友と適当に挨拶を済ませた佐天と一緒に、一七七支部を後にした。
―――
――
―
589 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:47:13.85 ID:EQdefISBo
一方通行はテレポートを使用する赤い駆動鎧を全滅させ、地下施設の奥に来ていた。
先程までの工場のような背景からは一転して、いかにもな研究施設の中のような廊下を一方通行は歩いている。
しばらく歩くと、分厚そうな鋼鉄の扉に五種類くらいの認証システムを取り付けた、いかにも大事なモノを置いていますよと言う雰囲気を放つ部屋を見つけた。
一方通行(ダミーや罠の可能性も無きにしもあらずだが、迷っている時間はねェ。入るか)
首に巻いたチョーカーに取り付けられた、電極のスイッチを入れる。
地面に転がった空き缶でも蹴るような感覚で、つま先を扉にぶつけた。
グシャリ、と扉は大きく凹み周りの壁にひびが入る。
それを見て舌打ちをし、一方通行は片足を膝くらいの高さまで上げ、足裏で押すように扉を蹴った。
すると扉は床に音を立てて倒れていく。
一方通行「これは……」
中の部屋を見る限り、そこはモニター室のような場所だった。
正面の壁に大きいモニターがあり、それと隣接するように左右斜めの位置にもモニター。
一体化するようにモニター前には、何かのボタンやランプ、小さいモニターみたいなものが付いた機械が置いていた。
一方通行「どォやら当たりだったよォだな。いや、正確に言うなら外れ、か?」
一方通行はこの部屋に入ってからいくつかの違和感を覚えていた。
ここはおそらく実験をモニタリングしてデータを収集したり、それらを解析したりするための部屋だろう。
しかし、
人が一人も居ない。パソコンや実験機器といったものがほとんど見当たらない。
置かれているデスクや戸棚の引き出しが、まるで空き巣にでも入られたかのように乱雑に開かれ、空になっている。
それらの状況を見て一方通行は確信した。
一方通行「チッ、クソどもは大切なモンを抱えてすでにトンズラこいた、ってかァ?」
ここにいた研究員は既に大事なデータを持ち出して逃げた後なのだろう。
すでにここは引き払われる予定だったか、一方通行の襲撃を察知してからか理由はわからないが。
駆動鎧という兵隊を残して時間を稼がせていたところからして、おそらく後者だろうが。
とにかく、一方通行にとって欲しい情報は既にここにはないということを表していた。
一方通行「何もねェンだったらこンなところにいつまでも長居してもしょうがねェか。かえ……あン?」
部屋の中を適当に歩き回りここを後にしようとしたとき、一方通行は地面に転がったトレイの下にある物が隠れているのに気付いた。
トレイを蹴り飛ばしてどける。そこに落ちていたのはメモリースティックだった。
一方通行「ンだこりゃ? ぎゃはっ、もしかしてこれはアレかァ? 慌てて逃げ出したから落としたことに気付かず、ここへ忘れて行っちまったっつゥマヌケがいたってことかァ?」
にやり、と口角を上げ一方通行はそれを拾い上げた。
一般的な電気屋等に並んでいるタイプの物で、自分の持っている携帯端末でも読み込むことができる。
迷わず一方通行はそれを自分の端末へ差し込んだ。
特にパスワード等が掛けられているわけではなく、すぐにダイアログボックスが開いた。
一方通行「パスも掛けてねェなンてなァ。こンなクソみてェな組織に俺はあそこまで追い詰められたってのかよ。とンだ学園都市最強様だよ俺はよォ」
一方通行は皮肉を述べながら端末を操作する。
中に入っているのは実験データだった。
いろいろな能力者や機械類の実験データがフォルダ分けされていたが、中でも一番容量を食っていたのは空間移動能力者(テレポーター)の実験データだった。
そのフォルダを開き中を確認する。中に入っているのは表題通り実験のデータ類だが、一方通行はその中にあった一つのテキストデータを目に付けた。
一方通行「……『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』、だと?」
一方通行は思わず息を飲んだ。
直感でわかった。これは絶対に目にしてはいけないものだと。
だが、これはあの女に繋がる手がかりになるかもしれない、そうだとも感じた。
だから一方通行は、このファイルを開くことに何の躊躇もなかった。
―――
――
―
590 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:48:57.65 ID:EQdefISBo
『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』。
この計画は空間移動能力者(テレポーター)の転移能力を機械的に再現し、非能力者でも再現できるようにすることを目的とした計画。
これが実用可能になれば、学園都市内の交通、流通、運送等あらゆる分野での発展が望めるだろう。
(中略)
最終的には、その転移可能範囲を世界へ広げることにより、学園都市外の全ての国を牽制し優位に立てる戦術兵器にもなりえるだろう。
〜〜
二〇〇X年三月A日。
予測装置『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を用いて演算した結果。
ある一定の数値に達した空間移動能力者を素体とし、一定水準のスーパーコンピューターを一〇八台と連結させ、並行演算させることにより以下の性能を発揮する装置が完成する。
・最大重量:四六万五七三○トン。
・最大飛距離:一万九一三〇キロメートル。
(中略)
素体の候補は、現段階で空間移動能力者最高位の位置にいる大能力者(レベル4)の座標移動(ムーブポイント)、結標淡希が適していると判断。
転移の始点が固定されない能力のため、装置として完成したときにはこの点が強みになるだろう。
〜〜
二〇〇X年四月A日。
身体検査(システムスキャン)により座標移動の能力をレベル4と判定。
最大重量四五二〇キロ。最大飛距離八〇〇メートル。
現状のスペックでは素体としては不十分だと判定。
座標移動には推定値に達するまでの成長が必要である。
しかし、一年前のシステムスキャン時から見てもまったくの進歩が見られていないことが懸念材料だ。
〜〜
二〇〇X年四月B日。
座標移動の成長を阻害する要因が判明。
彼女は二年前のカリキュラムにより自分自身の転移に失敗し、大怪我を負う事故に遭っていた。
以降、それがトラウマとなり自分自身の転移が困難となっている状態である。
(中略)
このトラウマを打ち消すことが、彼女の成長へと繋がるきっかけになることになるだろう。
〜〜
二〇〇X年四月C日。
様々な専門家の意見を統括し、座標移動のトラウマを消すためには超能力者(レベル5)第五位。
心理掌握(メンタルアウト)食蜂操祈の手を借りることが適していると断定。
〜〜
二〇〇X年五月A日。
心理掌握への三度目のコンタクトを取ったが交渉は決裂。
これ以上の彼女への接触は危険とし、心理掌握の能力によるトラウマ削除の計画は白紙とする。
〜〜
二〇〇X年七月二九日。
(中略)
ツリーダイアグラムが正体不明の高熱源体直撃を受け、大破した旨の報告を受ける。
本件に関しての再演算ができなくなったことは痛いが、最初の演算結果を元に計画を続行することを決定。
〜〜
591 :
◆ZS3MUpa49nlt
[saga]:2021/12/11(土) 23:50:16.32 ID:EQdefISBo
二〇〇X年九月A日。
結標淡希の消息が不明となる。
所属する霧が丘女学院に問い合わせても『特別公欠』しているとの一点張り。
一刻も早く彼女を見つけなければ本計画自体が白紙になってしまうだろう。
〜〜
二〇〇X年九月一四日。
結標淡希が発見される。
科学結社という外部組織と協力し、ツリーダイアグラムの『残骸(レムナント)』を手に入れようとしていたようだ。
その件で重症を負い、第七学区の〇〇病院にて入院している。
〜〜
二〇〇X年九月B日。
結標淡希が記憶喪失になっていることが発覚する。
彼女と直接接触し、トラウマも消失していることを確認した。
〜〜
二〇〇X年九月C日。
記憶を失った結標淡希に自分自身の能力について教え、自分自身の転移を試みさせる。
結果、失敗。
記憶はないが、身体にトラウマが染み付いていたようで転移後意識を失った。
そのとき、壁に頭部及び鼻部を強打。
前後の記憶を失い、鼻部を骨折する怪我を負う。
〜〜
二〇〇X年一〇月A日。
ある科学者が発表した実験結果を入手する。
『同系統の能力者が生活を共にすることで、下位の能力者の成長速度が平均三八%向上したことを発表』。
この結果を、当計画にも反映できないか検討。
〜〜
二〇〇X年一〇月B日
座標移動は空間移動能力者の中で最上位の能力の為、彼女の上位の能力者を用意することはできない。
そこで、別系統でも明確に上位の能力者と組み合わせることで同様の結果を生み出すことは出来ないか、と考える。
(中略)
以上のことから、学園都市で最高位の演算能力を持つ一方通行(アクセラレータ)と組み合わせることが適していると断定。
一方通行は現在警備員第七三活動支部所属の黄泉川愛穂宅に居候している。
このことから警備員(アンチスキル)の上層部と交渉、黄泉川愛穂へ結標淡希を預けることが決定。
〜〜
二〇〇X年一〇月C日。
結標淡希が退院。そのまま黄泉川宅への居候生活を開始する。
以降、経過を観察していく。
〜〜
二〇〇X年一一月一九日。
あれから約一ヶ月経過。現状、結標淡希に変化は見られない。
環境を変化させるために学生として学校へ通わせることにする。
高位の能力者が多数在籍している『長点上機学園』が編入先として適していると考え、その方向で話を進める。
〜〜
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