【ミリマス】矢吹可奈「思いを歌に込めて」

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106 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 17:05:11.02 ID:vxATPOLO0

(わわっ!)

そのまま私の前まできたから少し驚いてしまった。あっちは私に気付いてないみたいで、ぶつかる!って思ったけどそのまますり抜けていってしまった。ここにきて私はようやくこれは夢か何かだと気づいた。

通り抜けていったあの子の後を追う。後を追っていくと、その子はある部室の前で立ち止まった。
中に入りたいのかな。でも、しばらくしてその子は教室の前から立ち去ってしまった。教室の入り口には「合唱部」という看板が立っていた。
107 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 17:05:53.51 ID:vxATPOLO0

そのあともいろんな場面が切り替わった。

お友達からすごいすごいって言われているところ。

一人でひっそり歌っているところ。

何かの賞状をもって写真を撮られているところ

合唱部の部室に入ろうとしてやっぱりやめたところ。

また部活に勧誘されているところ。

誰かの前で歌っているところ。

でも、あまりいい顔をされていないところ………
108 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 17:06:28.70 ID:vxATPOLO0

「どうして!」

聞こえてきたのは悲痛な叫び声。
次に移ったのは家の部屋の中だった。そしてあの子もいる。じゃあ、ここが―

「ヘタクソなのはわかってるわよ!ヘタクソでも好きでいいじゃない!」

誰もいない部屋で一人、心の中の鬱憤を吐き出すように叫んでいる。

「こうなるんだったら、こんな才能なんて全部いらなかった……」

そして、すすり泣く声。

「ユキちゃん……」

私がぽつっと漏らすようにいった言葉はあの子―この部屋の主、ユキちゃんには当然届かない。
今わかった。これはユキちゃんの記憶なんだ。
そっか、やっぱりユキちゃんも歌が大好きだったんだね。でも、これは……
109 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 17:06:54.59 ID:vxATPOLO0

『可奈の歌には人を元気にする力がある、俺はそう思ってるよ』

さっきプロデューサーさんに言われた言葉がふと頭に思い浮かんだ。
本当に私にそんな力があるなら―

「……怖がらないでいいんだよ」

「―!!」

ユキちゃんの手をとる。表情はわからないけど、ユキちゃんははっと顔を上げた、気がする。

「私が、一緒に歌ってあげる!待っててね!絶対にユキちゃんを元気にするから……きゃあ!」


その瞬間部屋一面がまぶしい光に包まれた。そして、また私の意識がうっすらとしていく

「――」

「えっ―」

薄れていく意識の中で一瞬影みたいに真っ黒だったユキちゃんの顔が見えた気がした。でも、あれって―。
110 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 17:07:20.74 ID:vxATPOLO0

     * * *

「―な!かな!」

「……っは!プロデューサーさん!」

目を開けると、私の肩に手をかけて心配そうに見つめるプロデューサーさんがいた。

「どうした?いきなりぼーっとして」

どうやらユキちゃんの記憶を見ているあいだ、私の意識が飛んでいたらしい。私が反応を示したことにプロデューサーさんは安心した表情を浮かべた。
111 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 17:07:46.85 ID:vxATPOLO0

今のは何だったんだろう。手の中にある携帯はいつも通りの画面を表示している。
でも、やることはわかった。

待っててね、ユキちゃん。
まだ、一緒に歌うっていう約束、果たせてないんだよ。

「あの、プロデューサーさん。お願いがあるんですけど……」
112 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 17:08:13.88 ID:vxATPOLO0
今夜で終わる予定です
113 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 22:59:40.03 ID:vxATPOLO0



〜〜♪〜〜♪〜〜



『―ただいま、留守にしています』

本番直前、私は何度も電話をかけ続ける。他のみんなは先に舞台袖に行っている。何度かけても相手は出てくれないけど、それでも諦めずにかけ続けた。
でも、そろそろ本番が始まっちゃう……お願い、早くでて……!

『―……なによ』
114 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:00:31.02 ID:vxATPOLO0

「あっ!よかったー!やっと出てくれた!」

『うっさい。耳元で大声出すな』

両手で数えきれないくらいかけなおすと、やっと電話の向こうからいつもよりさらに不機嫌そうな声が聞こえた。

「……あのね、今日私のライブなんだ」

『……だからなに?話はそれだけ?じゃあ切るわよ』

「待って!」
115 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:01:14.88 ID:vxATPOLO0

電話を切ろうとするユキちゃんに慌てて待ったをかける。

『……なによ』

「私も、まだ歌は全然ヘタッピかもしれない。小鳥さんはどこかに行っちゃうし、カタツムリさんは殻に閉じこもっちゃうし。歌よりもっと上手にできるものもいっぱいあるかもしれない……でもね―」

そこで私は一拍おいて深呼吸する。

「でもね、やっぱり私は歌が好き。歌うことが一番大好き!」

『……それがどうしたのよ。私には関係な―』

「だから!……ユキちゃんにも諦めてほしくない!嘘までついて嫌いなんて言ってほしくない!だから今日のライブ、ユキちゃんも見ていて!私の歌、絶対にユキちゃんの心に届けて見せるから!」

『は?どういう―』
116 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:01:49.31 ID:vxATPOLO0

「おーい!可奈、そろそろ時間だぞ!」

その時、ちょうどプロデューサーさんが私のことを呼びに控室に入ってきた。

「プロデューサーさん!これ、お願いします!」

「は?ちょっ!?なんだあ?おい可奈!」

そう言って私はプロデューサーさんに携帯を預けて、控室を飛び出した。
見ててねユキちゃん。絶対に届けて見せるから……!
117 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:04:44.44 ID:vxATPOLO0



〜〜♪〜〜♪〜〜



「まったく、なんなんだ。可奈のやつ」

ステージへと駆けて行った可奈から押し付けられた携帯をプロデューサーはまじまじと見つめる。
それにしても可奈の携帯ってこんなに無骨だったか、確かキーホルダーかなにかがつけられていたような……。以前志保と買い物に行ったときに買ったものだと嬉しそうに教えてくれたはずなのだが。
118 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:05:11.40 ID:vxATPOLO0

『―まったく、なんなのよいきなり……』

ふといきなり声がした。女性の声だ。プロデューサーは驚いてあたりを見回すが、声の主は見当たらない。当然だ、ここは控室。可奈が飛び出していった今、ここには自分しかいない。どうやらその声は自分の手の中かからしたようだ。

「ん?この携帯か?可奈のやつ、本番直前に誰と電話してたんだ?」

どうやら声の出どころは自分の握っているこの携帯だとあたりをつけたプロデューサー。そのまま携帯を耳にあてる。
119 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:06:00.37 ID:vxATPOLO0

「もしもし。どちらさまで?」

『……誰よアンタ?』

「その声……可奈か?」

よく聞くとその声は聞き覚えのある人物だった。しかし、その声の主はたった今、控室から飛び出していったはずだ。第一口調が違う。

『……ええ、そうよ』

一拍おいて返ってきたのは肯定の言。おいおいマジかよ、とプロデューサーは心の中で呟いた。
120 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:06:26.65 ID:vxATPOLO0

「えーっと……可奈、でいいんだよな?」

『だからそう言ってるじゃない。私の名前は矢吹可奈。アンタたちとは多分別の世界の、同一人物よ』

「並行世界の可奈ってことか?なんか不思議な気分だなあ、声は同じなんだが、性格がまるで違う」

『ちょっと、どういう意味よ!』

電話越しに怒鳴られてプロデューサーは思わず、携帯を耳から外した。
なんだか水桜みたいだなあ。志保の指導のおかげとは言ってたが、魔法学園といい、アイツにこういう役やらせるとなぜかハマるんだよな。その理由をプロデューサーはなんとなくわかった気がした。
121 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:07:07.83 ID:vxATPOLO0

『まったく、なんでアイツはいつまでたっても気づかないのかしら』

「アイツ?ああ、こっちの可奈のことか?まあ、自分の声ってわからないもんだろ?」

『……アンタは驚かないのね』

「いや、十分驚いてるさ」

正直、事態はまったく呑み込めていなかったが、とにかく今電話で話しているのは、現在ステージの上に立つ可奈とは別の、自分たちとは別の世界で生きている矢吹可奈であるとプロデューサーは無理やり理解した。どういう理屈でそうなっているのかはわからないが、事実として自分はその相手と話しているのだから。なにより、この劇場で働いていると、劇場の魂とやらの相手もしなければいけないのだ。こんなことで驚いていてもしょうがない。
122 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:08:15.02 ID:vxATPOLO0

「まあどういうわけかはわからないが、なんかあってこっちの可奈とつながってたんだろ?」

『……見せたいものがあるって』

「ん?」

『アイツ、見せたいものがあるって電話かけてきて、そこで見ててねって行ったきりどっか行っちゃったのよ』

なるほど、俺にこの携帯を押し付けてきたのはそういうことか。それに、こちらの可奈よりはかなりキツイ性格をしているみたいだけど、根っこの部分はやっぱりな可奈だな。
123 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:09:52.02 ID:vxATPOLO0

「そういや。この携帯、ビデオ通話ってできるのか?」

『は?』

携帯を操作しながらプロデューサーは続ける。あったあった。別の世界につながるという、わけのわからない機能がついている割には、そのほかの機能はどこにでもある携帯と同じようだ。

「事情はよくわかんねえが、見てくれって言われたんだろ?可奈のステージ」

プロデューサーも可奈の後を追い、控室の外に出る。もうそろそろライブが始まるのだから、自分もいつもの持ち場につかなければいけない。そして、可奈からのお願いだ。かなえてあげないわけにはいかない。

「さすがに客席ってわけにはいかないけどな。特等席へのご案内だ」
124 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:10:54.31 ID:vxATPOLO0



〜〜♪〜〜♪〜〜



『みなさんー!楽しんでますかー?』

未来がそう言うと、わああと歓声が客席にこだまする。ライブの序盤戦が終わり、MCパートに入った。
プロデューサーは、いつも通り舞台袖から可奈たちを見守る。
ただ、今日はいつもと違い胸のあたりに携帯を横向きに掲げている。

「どうだ?見えるか?」

ビデオ通話にしている関係上、必然的に通話の相手の顔が見えるのだが、やはりというか、画面越しの彼女は現在元気にMCを回している彼女と瓜二つだった。
125 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:20:31.61 ID:vxATPOLO0

『…………』

「どうだ?いいだろ、うちのアイドルたちは」

彼女―こっちの可奈にはユキと名乗っていたらしい―は食い入るように画面を見ているせいか、こちらの問いかけには反応しなかった。

「先輩たちにも負けちゃいないさ」

ステージ上の彼女たちに何もできないもどかしさと、特等席から彼女たちの雄姿を見ることのできる優越感を感じるこの時間が彼は好きだった。
126 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:21:03.64 ID:vxATPOLO0

『それじゃあ、ここからは今日の主役の可奈にバトンタッチしまーす!』

『み、みなさん!こんにちは!今日は私のセンター公演に来てくれて、ありがとうございます!』

未来からマイクを渡された可奈にMCが移る。可奈の挨拶にふたたび客席がわあと沸いた。

『突然ですけど、みなさんには好きなものはありますか……?』

可奈が話し出すと同時に歓声が鎮まった。
127 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:21:39.93 ID:vxATPOLO0

『私にはあります。でも、好きなものと得意なものって一緒じゃないんですよね……』

『例えどれほど好きでも、どれだけ練習しても、なかなか上手くいかなくて。でも、違うものはあっさりできてしまったり。周りからもそっちしか認めてもらえなかったり……』

可奈の台詞を観客は誰もがじっと黙って聞いていた。
128 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:27:28.78 ID:vxATPOLO0

『私だけじゃないと思います。この会場にも、日本中にも、そういう人はいっぱいいると思います!』

『そういえば可奈って結構なんでもできるよね〜』

『えへへ〜、ありがとう。でも、得意なことがいくつあっても、やっぱり私の一番は歌だなあ。いろんなことができて、それでいっぱい褒められるのもとっても嬉しいけど、やっぱり歌うことが一番大好き。今日は、そんな思いをこめて歌いたいと思います!』

そこで可奈はすうっと一拍置き、このパート最後の台詞を口にした。


『それじゃあ、聞いてください!―オリジナル声になって』
129 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:27:55.00 ID:vxATPOLO0




〜〜♪〜〜♪〜〜



『―歌が大好き♪』


可奈が歌い終わると、歓声の代わりに拍手が鳴り響いた。

「……いい歌だろ?」

『…………』

プロデューサーは電話の向こうの相手に問いかける。拍手はまだ鳴りやまない。
130 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:28:28.86 ID:vxATPOLO0

「今日はいつも以上に感情がこもってたな。いいパフォーマンスだ」

プロデューサーは独り言のように感想を呟く。


『……やっぱり、私は歌が好きです』

拍手が鳴りやむのを待ち、可奈はMCを続ける。

『まだまだヘタッピでも、だれかに向いてないって言われても、私は歌うことが好きです!』

『でも、そんな一歩を踏み出せない人もいると思います。怖くて前に進めない人だってきっといます。だから、私の歌がそんな人たちが一歩を踏み出す勇気になれるよう、次の曲を歌います!』、

おおっ!?というどよめきが客席から聞こえた。
131 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:28:55.11 ID:vxATPOLO0

「本当は一曲だけだったんだけど、本人経っての要望でな。2曲続けて歌うことにしたんだ、」

プロデューサーは胸の前で構えた携帯に向かって呟く。

「これが可奈なりの、顔も知らない、どこかの誰かへのメッセージだ。しっかり受け取ってくれよ」

『もう一曲続けて、聴いてください!―』
132 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:29:51.99 ID:vxATPOLO0



〜〜♪〜〜♪〜〜


『〜〜♪』

しっとりとした一曲目とは打って変わって明るく軽やかな二曲目。それでいて可奈らしさが伝わってるくる歌詞。電話越しに聞こえてくる可奈の歌声に、向こうの世界の可奈は聞き入ってしまっていた。

「楽しそうに歌うだろ?」

また、プロデューサーが電話越しに声をかけてくる。

ステージで歌う可奈は、心の底から楽しそうで、心の中のモヤモヤや恐怖もすべて吹き飛ばしてくれそうだった。

こっちの自分はなんて楽しそうに歌うんだろう。
私も、あんなふうに歌えていたら―。

画面越しに、向こうの世界の可奈はそんなことを思い始めた。
133 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:30:18.00 ID:vxATPOLO0
そして、歌も終盤に差し掛かるころ、可奈がいきなり舞台袖の方を向いた。

『―――約束だよ!』

右手は甲、左手は手のひらを上に向けてお互いの小指を結びながら。

「あいつ……だから舞台袖向くのはやめろって……」

プロデューサーはそう言って苦笑する。観客席の方を向いてやれ。これは後でお説教だな。という考えが頭をよぎったが、ああとひとり合点のいった様子で胸の前に構えた携帯に目線を落とした。
134 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:32:01.91 ID:vxATPOLO0

―可奈ちゃんはなんでもできてすごいねえ。

いつからだろうか。

―矢吹さん、これもできるなんてすごいわね。

歌うことが嫌いになったのは。

―可奈ちゃんこれもできるの!?すごーい!

褒められることは確かに嬉しかった。

―可奈ちゃんは天才だなあ。

でも、別に褒められなくてもよかった。

――だから矢吹さんは歌以外のことに挑戦してみない?

私は、歌うことが好き。

―可奈ちゃん、絶対にこっちのほうがいいって!

彼女みたいに、ただそれだけでよかったのに。
135 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:32:31.47 ID:vxATPOLO0

いつの間にか、嫌いと思い込んで。好きだったものにふたをして。自分の心の底にしまい込んでしまっていた。そのずっと昔にしまい込んでしまっていたものを、引っ張り出される感覚。
一緒に引っ張り出されてきたのか、可奈の頬につうっと一筋が伸びた。聞くのも野暮かとプロデューサーは考え、そっとミュートにした。

『音符と私が出会うよ♪』

可奈が歌い終わると鳴りやまない歓声が、会場中に響き渡った。
136 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:33:05.50 ID:vxATPOLO0



〜〜♪〜〜♪〜〜



『ありがとうございましたー!』

公演が終わった。たくさんの声援を背に、私たちは舞台袖へと戻っていく。

「プロデューサーさん!」

「おつかれさま。はい」

舞台袖にもどった私は真っ先にプロデューサーさんの元に向かった。プロデューサーさんは予想していたのか、私が近づくなり、すぐに携帯を手渡してくれた。
私の手の中に納まった携帯をごくりと見つめ、意を決して耳に当てる。;
137 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:33:31.22 ID:vxATPOLO0

「……もしもし?」

携帯を耳にあて、恐る恐る話しかける。

『……見てたわ』

「あっ!見てくれてたんだ!よかったあ……」

『アンタが見ててくれって言ったんでしょ』

奥のほうで、未来ちゃんが「あれ?可奈、誰と話してるの?」って言ってるのをプロデューサーが「あとでな」ってなだめて控室に連れて行ってるのが見えた。
138 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:35:03.08 ID:vxATPOLO0

『……ごめんなさい。あの時、酷いこと言って』

「い、いいよいいよ!全然気にしてないから」

『まだアンタみたいにはいかないかもしれないけど、私ももう一回頑張ってみる。そう思えた。だから……ありがとう、私』

「……うん!」

その言葉に、少し涙ぐんでしまった。
139 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:37:25.96 ID:vxATPOLO0
そして、お別れは唐突にやってきた。


『……そろそろお別れみたいね』

「えっ?」

『もう、バッテリーがないのよ』

「あっ本当だ」

そういえば、この携帯を拾ってから充電したことがなかったけ、どむしろなんで今まで大丈夫だったんだろう。

『私のおかげで私が立ち直れたから、もう終わりの時間ってことなのかしらね』

「そうなんだ……。じゃあ、これが本当に」

『……ええ。本当にサヨナラよ』

「そっか。なんだか寂しいね……」

本当はもっとお話したかった。まだまだ話せてないことやできてないことがたくさんあった。あれも、これも、ということがいーっぱいある。
まだまだ足りないことだらけで、ここでオシマイって言われてもなかなか理解しきれていないところもある。
140 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:38:00.50 ID:vxATPOLO0

『……そろそろお別れみたいね』

「えっ?」

『もう、バッテリーがないのよ』

「あっ本当だ」

そういえば、この携帯を拾ってから充電したことがなかったけ、どむしろなんで今まで大丈夫だったんだろう。

『私のおかげで私が立ち直れたから、もう終わりの時間ってことなのかしらね』

「そうなんだ……。じゃあ、これが本当に」

『……ええ。本当にサヨナラよ』

「そっか。なんだか寂しいね……」

本当はもっとお話したかった。まだまだ話せてないことやできてないことがたくさんあった。あれも、これも、ということがいーっぱいある。
まだまだ足りないことだらけで、ここでオシマイって言われてもなかなか理解しきれていないところもある。
141 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:38:30.07 ID:vxATPOLO0

「私、もっといっぱいお話とかしたかったな」

『ええ、私も。でも、これで本当にお別れ。ありがとう、私ももう一回、頑張ってみる』

「うん!またいつか!絶対に会おうね!」

『ええ。それじゃあ。……ありがとう』

そこで、通話は完全に終わった。
終わったのと同時に携帯のバッテリーが切れたのか、画面が真っ暗になってそれ以降点くことはなかった。
142 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:39:01.18 ID:vxATPOLO0

「終わったか?」

ちょうどタイミングを見計らったかのようにプロデューサーさんが舞台袖に戻ってきた。

「彼女、なんて言ってた?」

「ありがとう。って言われました。私のおかげで立ち直れたって」

「そうか。よかったな」

「プロデューサーさん。私ちゃんとやれてましたか……?ユキちゃんにしっかり届いてたと思いますか……?」

「ああ。彼女にもしっかりと可奈の思いは伝わってたと思うぞ。がんばったな」

そういうと、プロデューサーさんはまたゴツゴツとした大きな手で、私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。やっぱり安心する。
143 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:44:02.08 ID:vxATPOLO0

「えへ♪私、もっともーっと頑張ります!もっといっぱい練習して、世界中の人に私の歌を届けたいです!

私が語った大きな夢にプロデューサーさんはニッコリと笑った。

「よし、そのいきだ。ほら、まずは風邪ひくから早く着替えてこい。未来たちも待ってるぞ」

「はい!わかりました!」

そうして、私は控室の方へ駆けて行った。




「……そうだな。俺も片づけが終わったら走りに行ってみるか」
144 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:44:29.45 ID:vxATPOLO0



〜〜♪〜〜♪〜〜



「矢吹さん」

「うん?なあに?」

「この前のことなんだけど……」

「……ごめんなさい。やっぱり私、今はアイドルに専念したいから」
145 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:45:01.42 ID:vxATPOLO0
…そういうと思った」

「ずっと待ってもらってたのに、ごめんね……?」

「ううん。覚悟はしてたから。……ごめんなさい、あの時酷いこと言って」

「ぜ、全然そんな!だって本当のことだから……」

「でも私、あの時初めて可奈ちゃんの歌を聞いて、好きになった。だから、応援してる」

「……!うん、ありがとう!」

そこで、今日はレッスンだからって言って部長さんとパート長さんと別れた。
校舎から出ると、外はあいにくの雨。傘を広げて歩き出す。
146 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:45:27.66 ID:vxATPOLO0

あれから、ユキちゃん……じゃなかった、向こうの世界の私とお話しすることはできなかった。あのライブのあとの通話を切ってからそれ以降、完全にバッテリーが無くなったのか何をしても電源はつかないし、充電もできなかった。そして、気が付くとあの携帯自体が消えていた。まるで、最初から何もなかったかのように。

もしかしたら夢だったのかもしれない。けど、あっちの私と交わしたものは忘れられない思い出になって今も私の中に残り続けている。

あっちの私は今頃どうしているのかな。結局、あっちの私は一緒に歌おうねって約束していたのに、最後まで一緒に歌うことはできなかった。けど、前を向いて歌ってくれているといいな。
147 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:45:55.95 ID:vxATPOLO0

「あ、カタツムリさん!」

帰り道の途中、雨だからかカタツムリさんが道端の草むらに顔を出していた。ちょっと立ち止まってしゃがみ

込んでみる。

「でんでん〜♪むしむし〜♪可奈を無視〜♪って無視してない!?やったあ!」

カタツムリさんありがとう!って言ってその場を後にする。
148 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:48:21.05 ID:vxATPOLO0

『新曲ですか?』

『ああ、それもだな―』

あの公演の後、見に来ていた作曲家さんが私のことを気に入ってくれたって言って曲を作ってくれた。しかも、歌詞は私に書いてほしいって!
「可奈ちゃんの好きなように考えてほしい」って言われてたけど、ちゃんとした歌詞を書くなんて初めてだからうんうんと悩んでたんだけど、今のこの気持ちを歌詞にすればいいんだ!
149 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:49:30.48 ID:vxATPOLO0

あの公演の後、見に来ていた作曲家さんが私のことを気に入ってくれたって言って曲を作ってくれた。しかも、歌詞は私に書いてほしいって!
「可奈ちゃんの好きなように考えてほしい」って言われてたけど、ちゃんとした歌詞を書くなんて初めてだからうんうんと悩んでたんだけど、今のこの気持ちを歌詞にすればいいんだ!

「あめのな〜か〜♪」

頭の中に思い浮かんだ歌詞をさっきのフレーズに合わせて口ずさむ。どんよりとした雨のなかでも一緒に歌ってしまいたくなるような、そして晴れ上がったころには心も晴れ晴れしているような、そんな歌。

ねえ、今そっちはどうしているのかな?合唱コンクールはどうなったのかな?もう、そっちのことを知る方法はないけど、もし今、一緒に歌ってくれていたらいいな。
150 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:49:58.29 ID:vxATPOLO0


「―頑張ってね、ユキちゃん」


次々に湧き上がる歌詞をくちずさみながら、帰り道を進んだ。
151 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/01(木) 23:50:25.44 ID:vxATPOLO0



〜〜♪〜〜♪〜〜



「ふんふんふん〜うたおー♪」

「え?今の歌?わからない、なんとなく頭に浮かんできたの」

「よかった?ふふっ。ありがとう!」
152 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/02(金) 00:20:42.46 ID:HNsRzXV+0
終わりです。
やっぱり可奈ちゃんの歌が好きです
お目汚し失礼しました。
153 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2021/07/02(金) 00:24:50.73 ID:IBWuu2WL0
声聞いたことあるときて誰かな思ったがそういう事か。気づかんかった....
乙です

矢吹可奈(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/NGaX5OL.png
http://i.imgur.com/kB9imcc.png
http://i.imgur.com/b2FNm4V.png
http://i.imgur.com/iQbxTk2.png
http://i.imgur.com/vEwpftW.png
http://i.imgur.com/ak5lrPM.png
http://i.imgur.com/zTIWK0N.png
http://i.imgur.com/h2JBqtG.png
http://i.imgur.com/9sYhmVy.jpg
http://i.imgur.com/LZIBHiX.jpg
http://i.imgur.com/Nv3qYyi.jpg
http://i.imgur.com/DCHPo4q.png
http://i.imgur.com/V2e307c.png
http://i.imgur.com/qwPPZmc.png
http://i.imgur.com/sasbC3I.png

>>5
春日未来(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/vahU53m.jpg
http://i.imgur.com/Muafx9w.jpg

>>6
北沢志保(14) Vi/Fa
http://i.imgur.com/gVLQiiV.png
http://i.imgur.com/4s2FnME.jpg

>>53
高坂海美(16) Da/Pr
https://i.imgur.com/V0WHHVd.png
https://i.imgur.com/rLk3e5O.jpg

高山紗代子(17) Vo/Pr
http://i.imgur.com/LoRteOS.jpg
http://i.imgur.com/BXCpqFF.jpg

>>128
「オリジナル声になって」
http://www.youtube.com/watch?v=XGCS8UBJe8I

>>133
「おまじない」
http://www.youtube.com/watch?v=QtKJ1W3R2Z8

>>149
「あめにうたおう♪」
http://www.youtube.com/watch?v=KabTHBernx8
154 : ◆OtiAGlay2E [sage]:2021/07/02(金) 01:38:01.62 ID:HNsRzXV+0
>>148
いまさらながらミスってたので訂正です


「ふんふんふんふん〜ふん♪」

うん。今日はとっても調子がいい。雨は相変わらず降ってるけど、心はとっても晴れやかで、こんな雨なんかも歌で吹き飛ばしてしまえそうで、思わず今度の新曲のフレーズを口ずさんでしまう。……そうだ!

『新曲ですか?』

『ああ、それもだな―』

あの公演の後、見に来ていた作曲家さんが私のことを気に入ってくれたって言って曲を作ってくれた。しかも、歌詞は私に書いてほしいって!
「可奈ちゃんの好きなように考えてほしい」って言われてたけど、ちゃんとした歌詞を書くなんて初めてだからうんうんと悩んでたんだけど、今のこの気持ちを歌詞にすればいいんだ!
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/08/16(火) 01:12:55.28 ID:DKWDypbu0
スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています

何故一旦停止しないのですか

何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?
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