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【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】

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603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/10(火) 22:24:40.62 ID:HP0eRMWs0
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/10(火) 22:24:58.76 ID:0Kj8PHS30
ひぃん
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/10(火) 22:25:22.29 ID:v4DRdTi6O
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/10(火) 22:26:13.76 ID:0Kj8PHS30
ひおひお……
607 :お疲れ様でした。 ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/10(火) 22:29:55.16 ID:bCNSqp6T0

【コンマ判定 70+53+62+76+29+76】

【スキル効果でさらに+25されます】

【コンマ合計値 315】

【全論破】

灯織「真実から目を背けないで!」

【BREAK!】

灯織「……もう、結論は出てるんです」

灯織「めぐるの居場所も、死因も、樋口さんの策略も……これが議論の行き着く先、たった一つの真実なんです。だからこそ、その真実から目を背けないでほしいんです」

灯織「たとえ辛い、残酷な真実であっても……それが真実である限りは、私たちにはそれを選ぶほかないはずです」

灯織「……そして、みなさんならそれができるって私は知ってますから」
608 :お疲れ様でした。 ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/10(火) 22:31:04.01 ID:bCNSqp6T0

摩美々「そんなのって反則だよ、灯織―……」

雛菜「灯織ちゃんにそんな風に言われたら……」

愛依「うぅ……なんで、なんで灯織ちゃんが……」

智代子「……やだ、いやだよ、やっぱり」

灯織「……最後までご一緒できず、すみません」

灯織「みなさんなら、きっと生きて還れると信じてますから。めぐると、真乃と、みなさんと一緒に見守ってます」

灯織「モノクマ、始めてくれますか」

モノクマ「ラジャ―!それでは議論の結果も出た様子なので、投票タイムと参りましょう!」

摩美々「……」

モノクマ「オマエラはお手元のスイッチで犯人と思う生徒に投票してください!」

灯織「みなさん、投票をお願いします。もちろん、投票先は私で」

愛依「……押せないよ、うちには」

智代子「わたしも、押したくないよ……」

雛菜「雛菜も、こんなのやだ……」




摩美々「………………」
609 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/10(火) 22:32:33.11 ID:bCNSqp6T0



摩美々「灯織、化けて出ないでよー?」



灯織「……!!摩美々さん……!!」

摩美々「灯織ってば寂しがりだから、死んじゃっても枕元に出てきそうで心配って言うかぁ……幽霊になってもねちっこいかもしれないですよねー」

灯織「わ、私ってそんなに粘着質ですか?!」

摩美々「ふふー、冗談ですよー」

灯織「もぅ……摩美々さんったら……」

摩美々「灯織はホント、からかいがいがありますねー」

愛依「摩美々ちゃん……?これって……」

摩美々「そんなんだから円香にもいいように騙されちゃうんだよー?」

灯織「うっ……それは言わないお約束でしょう……」

智代子「いつもの二人の、からかい合い……」

摩美々「それに灯織ってば鈍感だからぁ、現場にあったダイイングメッセージにも気づいて無かったよねー?」

灯織「そ、そんなのあったんですか?!それなら早く言ってくださいよ!」

雛菜「雛菜たちの、日常……」

摩美々「ほら、すぐ騙される―」

灯織「なっ……!!また嵌めましたね、摩美々さん……!?」


それは、摩美々さんの決意の表れ。
私に別れを告げるために、私に私の意志を継いだことを伝えるために、
絆がそこにあることを証明するために、別れを決してつらいものにしようとする摩美々さんの気位だった。

これまで積み重ねて来たいつも通りの日常をこの場所に持ってくることで、その場に居合わせた全員に伝播させたメッセージ。
610 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/10(火) 22:33:48.64 ID:bCNSqp6T0

雛菜「……」

雛菜「あは〜♡灯織ちゃんってば、いっつも面白いよね〜!」

灯織「ひ、雛菜まで……!?」

愛依「……」

愛依「アハハ、ちょいちょい!灯織ちゃんも困ってるって!」

灯織「め、愛依さんの言う通りですよ!少しは控えてください!」

智代子「……」

智代子「まあまあ、議論のし過ぎで疲れちゃったよね!お菓子持ってきてるんだけど、ちょっとここで休憩にしない?」

摩美々「お、気が利くじゃーん」

愛依「うちももらっていい?」

雛菜「も〜らい!」

灯織「あ、それ私の分だよ雛菜!」

智代子「あはは、しっかり灯織ちゃんの分もあるから大丈夫だよ!」


そして私たちは同時に口の中に一口大のチョコを放り込んだ。
クラスの中の良い同級生と昼休みを過ごすときのように顔を見合わせ、笑みを浮かべてちょっとばかしの涙も滲ませて。

頬からはじんわりとほぐれていく。
別れの味がほろ苦いなんて、そんなの嘘っぱちだ。
私にとってお別れは、こんなにも優しく、温かい……





______甘い味だ。
611 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/10(火) 22:34:46.85 ID:bCNSqp6T0

摩美々「それじゃあ、そろそろ観念しますー?」

雛菜「だね〜、名残惜しいけど、それが灯織ちゃんの望んだことだもんね〜」

愛依「ごめんね、灯織ちゃん……何度も逃げちゃって。でも、うちももう逃げないよ!」

智代子「うん!わたしも覚悟を決めたよ!灯織ちゃんのために……わたし自身のために!」

灯織「……ありがとうございます、それが一番うれしい言葉です」

モノクマ「……えーっと、もう流石にいいんだよね?いいよね?」

モノクマ「投票の間近になってこんな遅延行為をされると思わなくて正直びっくり仰天だったんだけど……ボクは空気が読めるクマなので!」

モノクマ「それでは気を取り直して、改めてお手元のスイッチで投票しちゃってくださーい!」

モノクマ「裁判の結果導き出したクロは正解なのか、不正解なのかー!さあ、どっちなんでしょうかね?」

612 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/10(火) 22:35:35.07 ID:bCNSqp6T0
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    【VOTE】
〔灯織〕〔灯織〕〔灯織〕

 CONGRATULATIONS!!!!

   パッパラー!!!


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613 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/10(火) 22:36:08.35 ID:bCNSqp6T0






【学級裁判 閉廷!】





614 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/10(火) 22:39:51.42 ID:bCNSqp6T0

というわけで本日の更新はここまで。
5章の学級裁判は灯織がクロで幕を下ろします。
事件発生時からなんとなく分かっていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このまま一気に5章を明日で終わらせてしまうつもりです。
灯織のおしおき〜5章完結まで、明日8/11(水) 21:00〜で予定しています。

それではお疲れ様でした。
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/10(火) 22:45:46.32 ID:fR/Zq7sF0
お疲れ様でした
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/10(火) 22:47:25.35 ID:v4DRdTi6O
お疲れさまでした!
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/10(火) 22:52:48.05 ID:CP+3e6yT0
お疲れ様でした
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/11(水) 01:16:03.22 ID:5Cdotqta0
乙でした!
死体発見アナウンスから薄々感じてはいましたがやはり……
619 :それでは5章ラストまで参ります ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:05:32.47 ID:H8GPE6RA0

……もし、透と小糸が今でも生きていたなら。

私がこれからすることをどう評しただろう。
自分の命を懸けてまで、怨恨と憎悪の計画を実行する私を馬鹿にするだろうか。叱りつけるだろうか。

小糸はきっと必死に止めようとする。
私の袖を引いて、必死の表情で額に汗を滲ませながら説得を試みるはず。

透は多分何も言わない。
切なそうな表情で、手を伸ばすこともせず。名前を呼ぶくらいはするかもしれないけど、きっと踏み込んではこない。


……わかってる。
私のこの感情はいつしか二人の想いからも逸れかけていたことは重々承知。
灯織に同調するわけじゃないけど、二人が心から復讐を望むことは考え難い。でも、それは私が辞める理由にはならない。

私はただ仇討ちのために動いているんじゃない、大義名分なんか関係ない。
幼馴染を奪った甘言を許せないから、幼馴染を守ることのできなかった自分を許せないから、このくだらないゲームを許せないから……

全部全部、エゴイズムだ。
人間なんて行き着く先はそんなもの。
思いやりや滅私奉公なんて言ったところでそこにはエゴイズムが透けている。
聖人君主なんか存在しないし、存在するべきじゃない。

もしそんな人間が存在するなら、私のように復讐の獣のその身を堕とした人間はどこまでも惨めで軽蔑されるべき存在になってしまう。

だから私は、もう戻れない。

_____戻ることなんて、許されないから。





「……私は」


620 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:07:33.94 ID:H8GPE6RA0
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モノクマ「ひゅー!今回の見事に大正解だぜブラザー!」

モノクマ「樋口さんの計画に嵌って犯人に仕立て上げられちまった哀れな英雄、風野灯織さんに餞の拍手をお送りください!いよーっ!」


投票を涙ながらの笑顔で終えた私たちだったけど、流石に拍手は誰も行わなかった。
何も黒幕の非道な考え方に染まったわけじゃない、皆さんは私に純粋な優しさを向けてくれただけだったから。

私のクロが確定した今も、必死に涙を見せまいとしてくれている皆さんの顔を見ると、自然と言葉が口を継いで出た。


灯織「投票してくれて、ありがとうございました」

摩美々「ホント、結構覚悟要ったんだからぁ」

愛依「灯織ちゃんを信じてたからだかんね!」

智代子「うん!最後に迷いはなかったよ!」

雛菜「いつかスイーツでも食べに行こ〜!灯織ちゃんの奢りね〜!」

灯織「雛菜……うん、それぐらいなら」


いつもと変わらない日常をずっと演じ続けてくれる皆さん。

621 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:09:20.31 ID:H8GPE6RA0

灯織「皆さん、本当にありがとうございました。…………でも、そろそろ本当の別れに向けて、私からの言葉を素の、この学園で生きていく皆さんで聞いてもらえませんか」

摩美々「……はぁ、灯織はやっぱ真面目だよねー」

灯織「すみません、がこれは通しておきたい義理ですので」


でも、いつまでも今のままというわけにはいかない。
別れを辛いものにしないための演技で、最後の想いまで覆いつくしてしまうのはそれまた辛いものになる。

……最期くらいは、本音で語り合いたい。


智代子「……」

愛依「……」

雛菜「……」

摩美々「……」


_____皆さんに、自分自身の言葉で伝えるんだ……!

622 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:10:06.34 ID:H8GPE6RA0

灯織「チョコ、樹里と凛世……二人とおしおきという形で別れることになったチョコにこれを言うのは心苦しい部分もあるんだけど、できれば私のおしおきからも目を背けないでほしいかな」

智代子「そんなの、無理だよ……!灯織ちゃんが死ぬ瞬間を見ちゃったら……それを認めないといけなくなっちゃうよ……!」

灯織「樹里も凛世も、チョコに辛い現実でも向き合ってもらうことを望んでいた。どんな苦境でもへこたれず前を向ける、私なんかよりよっぽど強くてエネルギッシュな……唯一無二のアイドルが園田智代子だよ」

智代子「……わたしは灯織ちゃんが言うほどすごいアイドルじゃ、ないよ」

智代子「でも……それを目指すことは、わたしにも出来ることだもんね……!」

灯織「うん、期待してる」

智代子「任せて!頑張る、頑張るよ……!」

623 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:10:51.03 ID:H8GPE6RA0

灯織「愛依さん……いつも私が挫けかけた時でも明るく励ましてくれてありがとうございました。愛依さんがいなければ、私は凛世の裁判と樋口さんの計画で完全に折れていたかもしれません」

愛依「うちは何もしてない、灯織ちゃんについていこうと必死なだけだったし……」

灯織「自分がどう思っていても、他人からの評価では全く違う側面が見つかることがある。私も人のことは言えないんですが、愛依さんももっと自分自身を評価すべきだと思います。愛依さんも他の誰にも負けず劣らず魅力的で……私にとってあこがれのお姉さんですから」

愛依「アハハ、お姉さんってば照れんね……うち、そんなにホスピタリティ?があるのかはわからないけど……灯織ちゃんがいなくても、みんなが折れないように、がんばって励まし続ける……!それが灯織ちゃんの願いなんじゃん?!」

灯織「はい、身勝手なお願いだとは思いますが……お願いできますか?」

愛依「もちろん!うち、頑張るから!」
624 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:11:39.05 ID:H8GPE6RA0

灯織「雛菜、この合宿生活で大きく変わった雛菜ならもう心配はないと思ってるよ。心の中に無意識に作っていた線引きを踏み越える勇気を手にして、私たちも本当の意味で仲間になれた」

雛菜「でも、その仲間から灯織ちゃんがいなくなるなんて……雛菜は嫌だよ〜〜〜〜!」

灯織「最後まで一緒にいられなくて、ごめんね。雛菜を無理やり引っ張り出したのは私なのに、無責任だよね……でも、私たちはずっと一緒、でしょ?」

雛菜「その言葉、ずるいよ〜……雛菜、諦めるしかなくなっちゃうじゃん」

雛菜「も〜〜〜〜!灯織ちゃんのバカ〜〜〜〜〜!……そういうところが雛菜は嫌いで、大好きだったよ」

灯織「私も、雛菜のことが好きだったよ」

雛菜「雛菜の方が灯織ちゃんのこと、好きだもん〜〜〜!灯織ちゃんが死んじゃっても、これは譲らないから〜〜〜!」
625 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:13:02.44 ID:H8GPE6RA0

灯織「……摩美々さん」

摩美々「……」

灯織「私がここまで皆さんと来れたのは、生き延びてこれたのは間違いなく摩美々さんのおかげです。裁判で行き詰ったときに動かしてくれたのはいつも摩美々さんですし、摩美々さんがいらっしゃらなければたどり着けなかった真相ばかりです」

摩美々「……」

灯織「不穏な流れになったときでも、私と一緒に対策を考えてくれた。聡明で、機転が利いて、そして誰よりも仲間想い。そんなあなただからこそ、私も安心して背中を任せられた……摩美々さん、私亡き後も皆さんを引っ張って行ってくれますか?」

摩美々「……はぁ」

摩美々「咲耶と同じで自分勝手。自分は先に死ぬからって後に色々託し過ぎじゃないー?摩美々の体は一つなんですケド」

摩美々「……ま、やるだけやってはみるよー」

灯織「ふふ、そう言ってくれると信じていました」
626 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:14:58.78 ID:H8GPE6RA0

……言えた。死の間際になって、やっと思いが伝えられるなんて、我ながら情けない。
でも、悔いはない。皆さんに私のすべてを託す準備は、委ねる覚悟ができた。


摩美々「……」


摩美々さんと自然と目が合い、お互い示し合わせたわけでもなく頷きあった。
私はいつの間にか図々しくも皆さんを率いるような立場に就かせていただいていた。
私なんて推理も一人じゃできないし、誰かを鼓舞するにも仲間の力を借りてようやくといった頼りないリーダーだったはず。
だから、そんなリーダーがいなくてもきっとやっていける、私なんかよりも立派なリーダーが、私の意志を受け継いでくれるだろうから。

真乃、めぐる……私、やりきったよね?


モノクマ「ま、今回はうっかりクロになっちゃったってだけだしそう長話することもないでしょ?もうおしおきしちゃっていいっすか?」

灯織「……モノクマ、その前に一つ聞いてもいいですか?」

モノクマ「ん?どうしたよ、風野さん。なぜなに期?」

灯織「めぐるが最期に、樋口さんとどんな会話を交わしていたのか教えてもらってもいいですか?めぐるのことです、きっと最期まで樋口さんの説得を試みたんじゃないかと思って」

モノクマ「あー、まあそれくらいならいっか。ちょっと待っててね、すぐに監視カメラの映像を映してあげるから!」


私の申請を存外すんなりと受け入れたモノクマはすぐにコードを繋ぎ、モニターに映像を映し出す。
映像は植物庭園の倉庫の中だろうか、ぼんやりとした暗い空間に見なれた金髪の少女が両手足を拘束された状態で言葉を投げかけている。

627 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:16:54.64 ID:H8GPE6RA0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
めぐる『円香……本当に、やるの……?わたしを殺して、灯織たちに絶望させるつもりなの……?』

円香『……そうだけど』

めぐる『これ以外の方法はなかったの?……どうしても、みんなはわかり合えなかったの?』

円香『……しつこい、言ったでしょ。分かり合うとか分かり合えないとかの次元じゃない。国籍が変われば言葉は通じないのと同じ、そもそも別の種類の人間だったってだけ』

めぐる『ちがうよ』

円香『……は?』

めぐる『言葉が通じなくても、気持ちは通じ合える……円香が別の種類の人間だって思っても、心を通わせることはできるはず……!灯織たちは、円香が思うような悪い子たちなんかじゃ……!』

円香『やっぱりわかってない。灯織たちの掲げる絆とやらの崇高さ、美徳は十分に理解してる。……そのうえで、それを掴む権利が私には無いってだけ』

めぐる『そんなことないよ!』

円香『……もういい?めぐると雑談している間に邪魔が入っても困るから』

めぐる『……わかった、でも最後に一つだけ円香に聞いてもらってもいいかな』

円香『……何?』

めぐる『わたしも、灯織も、摩美々も愛依もチョコも雛菜も……これまでに犠牲になったみんなも……全員が、円香のことを大好きだから!』

円香『……今からその相手に仲間を殺す道具として使われても?』

めぐる『円香のすることは許せないよ。確証のない計画で仲間の命を巻き込んで……でもね、円香という一人の女の子が元々すごく優しい子だってことは知ってるから』

円香『……罪を憎んで人を憎まずってわけ?お涙頂戴でも狙ってるの?』

めぐる『円香、助けてあげられなくてごめんね』

円香『……うるさい』


ブツンッ!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
628 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:18:24.03 ID:H8GPE6RA0

モノクマ「うぅ……泣けますね、涙の説得に全く耳を貸そうともしない樋口さん。いったいいつから道をたがえてしまったのか……」


……やっぱり、めぐるはめぐるのままに死んでいったんだな。
私だってめぐると気持ちは同じだ。あれほど敵意を向けられようとも、樋口さんのことを憎んだり恨んだりはできなかった。
他の誰とも変わらない仲間の一人、事務所で一緒に過ごしただけの時間があったから。

私もやっぱり、樋口さんのことが好きだったから。


灯織「ありがとうモノクマ、最後にめぐるの気持ちに触れることができてよかったです」

モノクマ「……やめてよ感謝の言葉なんか!耳が腐っちゃうじゃないか!ボクはそういう感動ポルノが世界で1番嫌いなんだよ!」

摩美々「そうですかぁ?摩美々は結構好きだったりしますケド」

愛依「……うん、うちも刺さった。めぐるちゃんの気持ち、絶対大事にする!」

モノクマ「はぁ〜、流すんじゃなかったよこんな映像。後でさっさとこんなの消しとこ、ハードディスクの容量の無駄。深夜帯のエッチな番組が撮れなくなっちゃう」


……さて、そろそろ潮時かな。
もうこれ以上は死から逃れる猶予もない。

私は改めて皆さんの方へ向き直る。これで見納めとなると、流石に寂しさは感じるけど贅沢も言ってられない。
629 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:19:27.04 ID:H8GPE6RA0

モノクマ「ま、これで用件も済んだでしょ!今度こそお待ちかねの時間と行きましょうかね!」

智代子「……そん、な」

雛菜「……おしおきタイム、なんだよね」

灯織「大丈夫、私は覚悟はもうできています」

摩美々「……はぁ、見送る側もしんどいんだよー?」

愛依「……泣かない、泣かないから、うち……!」

モノクマ「うぷぷぷ……これまでみんなを引っ張ってきた風野さんのおしおき、思わず興奮してきちゃいますね!」


……残り最期のわずかな時間。
その終わりのコンマ一秒まで、私は命を賭して言葉を紡ぐ。

630 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:20:58.99 ID:H8GPE6RA0

灯織「……樋口さんの仕掛けた計略、それに私はかかってしまいました」

灯織「樋口さんはきっとあの状況ならば私が真っ先に覆面を外しに行くことも見越していたんでしょうね。めぐるが目の前からいなくなって、実際冷静を欠いていましたし」

灯織「そこで覆面の下に爆弾を仕掛けておけば、起爆するのは十中八九私。犯行にはもともと無関係だった人間が、罠に引っかかって最終的なトリガーを引いてしまう」

灯織「その結果、犯人になってしまうのは……私」


モノクマ「惨たらしく、みじめな死にざまを風野さんにお届けできると思うとオラワクワクしてくっぞ!」


灯織「でも、これってもともとは真乃が浅倉さんの事件で、最初の事件で愛依さんに仕掛けた罠と同じなんです」

灯織「絆を、仲間を、想いを……訴え続けて来た私にそれと同じことをすることで、仲間自身が足を引っ張り死へと引きずり込むことで、意趣返しの目的があったのでしょうね」

灯織「きっとそうして、絆というものの脆弱性を示そうとしたんだと思います。幼馴染という繋がりを失ってしまった樋口さんだからこそ、その繋がりの希薄さを証明することで……自分自身を宥めようとしていたのかも」

灯織「樋口さんの目論見は、その意味では途中まで成功していましたね」

灯織「事実罠にかかったのは私、めぐるを手にかけることになったのは私。見事狙い通りに私にクロを押し付けることに成功したんです」


モノクマ「じゃあそろそろ始めちゃいましょうか!」


631 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:23:21.71 ID:H8GPE6RA0

灯織「……でも、樋口さんにとってきっと今の私たちは完全に目論見通りではないはず」

灯織「だって私は、折れてなんかいませんから」

灯織「自分自身がクロとなって、死を目前に控えた今、私はかえって皆さんとのつながりを、絆を強く実感しているんです」


モノクマ「今回も、超高校級の占い師である風野灯織さんのためにスペシャルなおしおきを用意させていただきましたぞ〜〜〜〜!!」


灯織「私のことを思って涙を流してくださる……私との間の絆を、大切に思ってくださっている」

灯織「それはある意味では悲嘆、絶望になるのかもしれません。永遠の別れを前にその感情を抱かない人間はいませんから」

灯織「でも、その絶望は希望を奪い去る深い闇のような絶望なんかではなく……むしろ前に進むための力になる、バネにすることのできる前向きな絶望なんです」

灯織「ふふっ、樋口さんもまさか『絶望計画』で与えた絶望の先に希望があるとは思っていなかったでしょうね」

灯織「だから……みなさん、諦めないでください。負けないでください」


モノクマ「それでは張り切っていきましょう!おしおきタイム〜〜〜!」


632 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:25:09.70 ID:H8GPE6RA0

灯織「挫けそうになったら、辛くなったら……よろしければ私のことを思い出してください」

灯織「絆を掲げて、絶望に抗おうとした直情的なアイドルのことを、忘れないでいてくれると幸いです」

灯織「さようなら……!」





________私が最期に見た景色は、みなさんの涙交じりの笑顔だった。





633 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:26:52.02 ID:H8GPE6RA0
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GAMEOVER

カザノさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。



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634 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:29:03.93 ID:H8GPE6RA0

風野さんが教室でポツンと独りぼっち。
黒板に向き合うように教室の椅子にお行儀よく座っています。
でも、体が強張ってしまっているのか机椅子から離れようにも離れられません。
え?どうして体が強張るのかって?無粋だねぇ、彼女は今から『卒業』を迎えるんですよ?

卒業、それは誰しもに訪れる別れと成長の時。
教育者としては、教え子が一つの区切りを迎えることほど感慨深いこともありませんね。
卒業生はほんの少し寂しさと希望と夢を胸に、新天地へと旅立つのです。

ま、風野さんが胸に抱いているのは絶望ですけどね!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  卒業
〜graduate〜

超高校級の占い師 風野灯織 処刑執行

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さあ、この学園を旅立つ風野さんのために私たちもできることをしてあげましょう。
この学園で過ごしたという、楽しい楽しい思い出、忘れたくとも忘れられない思い出を、
その体に刻み付けちゃいましょう!
635 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:30:03.21 ID:H8GPE6RA0

思い出強制マシンが作動!
教室の中央の床が一気に抜けたかと思うと、大きなカメラが姿を現します。
カメラは旧式のシャッターカメラ。眩いばかりのフラッシュと共にシャッターが下りて、思い出の一瞬を写真に焼き付けます。

床の中央が抜けたことで、教室の床全体があり地獄のように傾く形に。風野さんの座っていなかった机椅子は次々に落下。
落ちてきたのと同時にシャッターが下りる!

バキッバキバキッ

カメラのシャッターが無慈悲に机をかみ砕きます。
うんうん、これもまた思い出だね。

教室のみんなで書いた書初めも。

バキッバキバキッ

ロッカーに押し込められた学生カバンの数々も。

バキッバキバキッ

全部全部思い出として刻み込みましょう!

636 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:30:56.97 ID:H8GPE6RA0

教室の傾斜はどんどん増していくばかり。
風野さんも座ったままではいられなくなり、
立つことも危うくなり、
柱にしがみつかないといけなくなり、
その柱も折れてしまうので窓枠にしがみつき、
最終的には、そのフレームまで剥がれてしまい、

シャッターチャーンス!

おおなんということでしょう、卒業生の風野さんが素敵な素敵な卒業写真になってしま……あれ?



ガシュゥゥゥゥッゥ プスプス

巨大カメラが謎の緊急停止。シャッターは降りることなく、風野さんはそのまま窓枠と一緒にカメラを通過。
カメラは地下のゴミ捨て場と直通になっています。そりゃそうでしょ、思い出なんかくっだらない写真も所詮はただの紙だしゴミと変わらないもの。

そ、そんなことより風野さんは……思い出を刻み付けられることもなく……



___おしおき、失敗?

637 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:33:46.92 ID:H8GPE6RA0
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モノクマ「……は?」

智代子「ひ、灯織ちゃん……!?」

愛依「おしおきが、失敗した……?」

モノクマ「……いやいやいやいや!何が起きてるのさ、な、なんで……!?」

摩美々「……な、なにが起きてるんですかぁ?」

モノクマ「こっちが聞きたいよ!なんでこんな大事な局面でおしおき装置が停止するの!?オマエラが何かした……わけはないし、まさか……!!」

雛菜「心当たりでもあるの〜?」

モノクマ「……畜生、あいつらめ……とうとう邪魔してきやがったか……!もう怒ったぞ、もう怒ったからなァーーーーーッ!!!」

摩美々「や、怒ってるのは分かったケド、これって扱いとしてはどうなるわけー?摩美々たちはこれからどうすればいいの?」

モノクマ「風野さんのおしおきは不完全燃焼だけど、しょうがない。それは諦めることにするよ。あのままゴミ捨て場に真っ逆さま、出てくることなんかできるわけないしどうせそのまま死んじゃうからほっとけばいいや」

モノクマ「だから学級裁判はここでお開き!閉廷だよ閉廷!」

雛菜「あは〜、滅茶苦茶ですね〜」

モノクマ「滅茶苦茶だよ!滅茶苦茶を超えてドチャクチャだよ!あ〜、もう!ボクは今からやることができたから、オマエラはさっさと自分の部屋に戻ってくださーい!」
638 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:35:08.77 ID:H8GPE6RA0

愛依「……行っちゃった」

智代子「ど、どうしよう……灯織ちゃん、どうなっちゃったのかな」

雛菜「モノクマが言ってたことを信じるとゴミ捨て場に行っちゃったみたいだよね〜?ゴミ捨て場ってことはトラッシュルームの地下かな〜?」

摩美々「……もしかして、灯織はまだ生きてるかもしれない」

愛依「えっ……!?」

摩美々「ゴミ捨て場にあるごみの種類によってはクッションみたいになってる可能性もあるから……無事を信じて助けに行くことができる、かも……?」

愛依「ま、マジ……!?」

雛菜「モノクマも今回のことは想定外だったみたいだし、助けに行くなら今の内かもしれないよね〜」

智代子「そ、それなら早く行こうよ!灯織ちゃんを助けてあげないと!」

摩美々「ちょっと落ち着いて―……可能性があるってだけだし、準備をしてから助けに行かないと困るのはこっち……共倒れになってもダメでしょー」

愛依「そ、そっか……」

摩美々「ひとまず学校に戻って対策会議と行こっかぁ」

智代子「うん!絶対灯織ちゃんを助け出そうね!」

摩美々(……灯織、少しの辛抱だから待ってて……!絶対、助けるから……!)






摩美々(この希望を、摩美々も絶対に絶やさないから……!)

639 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:37:16.79 ID:H8GPE6RA0
-------------------------------------------------
【???】

モノクマ「あ〜もうクソ!ここまで邪魔してきやがって!いい加減にしろ!がっつきすぎる男子は嫌われるんだぞ!」

モノクマ「……これか、学園内の施設設備を管理するシステムにハッキングを受けた後がある。これでボクのおしおきを邪魔したんだなぁ〜!?」

モノクマ「……そうか、そう来るんだな。だとしたらボクが僕自身の手で見せてやるよ!ボクは間違ってない、ボクが何よりも正しい!」

モノクマ「ボクの生み出す絶望、そして希望がこれまでのどれよりも正しく、深く、輝いている、真理だって証明してやる!」

モノクマ「見てろよ……ボクをコケにしたことは、絶対に許さないからな!」

▶activating the file 【希望ヶ峰歌姫計画】
▶now loading…

モノクマ「クックックッ……これで全部整うんだ」

モノクマ「ボクの追い続けた理想が叶い、ボクの夢が成就して、ボクの復讐がやり遂げられて、ボクの計画が完遂されて……」
モノクマ「全部全部きっちりがっちりしっかりねっとり……整うんだ」

モノクマ「そして新しい時代がやってくる……すべてのアイドルが過去になる、エンタメとしても、人類としても新しい時代」





モノクマ「人類としての次のステージがね!」




-------------------------------------------------
640 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:38:37.77 ID:H8GPE6RA0


……ザザ………ザ……

ザザ……ザザザ………



「……絶対に、止めてみせる」




641 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:39:21.85 ID:H8GPE6RA0
【???】


「……絶対に、止めてみせる」

「こんなの、間違ってる……これが正しい筈がないだろ……!」

「もう、遅いのかもしれない。それでも、だからといって逃げる理由にはならない」

「守らないと……絶対に……救わないといけないんだ」

「彼女たちを誰よりも近くで見て来た、誰よりも彼女たちのことをよく知る俺だからこそ」






「このイかれたコロシアイを、俺が止めなくちゃいけないんだ……!」






642 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:40:06.42 ID:H8GPE6RA0
-------------------------------------------------


【CHAPTER 05 Die the sky】

    END

残り生存者数 4人…?

To be continued...


-------------------------------------------------
643 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:41:30.41 ID:H8GPE6RA0
-------------------------------------------------


【CHAPTER05をクリアしました!】

【学級裁判クリア報酬としてモノクマメダル41枚を入手しました!】

【CHAPTER05クリア報酬としてアイテム『星のヘアゴム』を手に入れました!】
〔CHAPTER05を生き抜いた証。めぐるが生前着用していたヘアゴム。かつて夜空に輝いた星は墜ち、やがて燃え尽きる〕

【CHAPTER05クリア報酬としてスキル『アップ・トゥ・ユー』を習得しました!】
〔学級裁判中任意のタイミングで発動可能。モノクマメダルを消費することで回答を導く。要求枚数は回数ごとに増加〕


-------------------------------------------------
644 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/08/11(水) 21:49:02.66 ID:H8GPE6RA0

というわけで5章もこれにて終了です。
事件自体はそう難しくはないものでしたが、物語のキーとなる灯織めぐる円香を絡めた事件の構図を考えるのに結構時間がかかりました……

さて、物語は佳境も佳境、次の章が文字通りの最終章となります。
第六章では前にもお伝えした通り自由行動も発生せず、最初っから非日常編の捜査パートになりますね。
灯織たちがどんな謎と向き合うことになるのか、楽しみにしていただければ幸いです。
ここまでお付き合いいただいてる方の中には流石にいないとは思いますが、
最終章はこれまで以上にダンガンロンパシリーズ原作のネタバレが含まれて参りますので、未プレイな方は先にプレイすることを強く推奨いたします。


また暫くは書き溜めのためにお時間をいただきます。
流石に最終章ともなると規模感が違うので5章の時と同じかそれ以上にお待たせする可能性もあると思います。
物語の終結まではやり遂げるつもりですので、どうか温かい目で見守っていただければと思います。

更新が再開した際には、どうか最後まで見届けてやってください。

それでは5章もお疲れ様でした!
またよろしくお願いします!
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/11(水) 21:50:18.34 ID:vWG9lT9Q0
お疲れ様でした!更新楽しみにしてます!
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/11(水) 21:52:44.73 ID:NGmJFNPl0
お疲れ様でした
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/11(水) 22:04:39.39 ID:NFzaJV3c0
お疲れ様でした
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/11(水) 22:08:15.71 ID:kEqt6DbPO
お疲れさまでした!
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/09/05(日) 12:29:22.47 ID:SAijimp1O
お疲れ様でした!めっちゃ面白いです!!
650 : ◆zbOQ645F4s :2021/09/29(水) 20:11:04.91 ID:w1WP8DMN0
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GAMEOVER

ハチミヤさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。



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651 : ◆zbOQ645F4s :2021/09/29(水) 20:11:47.97 ID:w1WP8DMN0

運動神経抜群の八宮さん、本当に人気者ですね!
彼女はスタイルも抜群、愛嬌も満点、嫌いになる人なんかいるはずもありませんとも!
今日もあっちこっちで運動部の助っ人。
お友達のためならなんのその!

か〜っ!スポーツで描く汗は一際爽やかですよね!
さあ、今日も青春に汗を流しましょう!

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HANAREBANARE‼️

超高校級の助っ人 八宮めぐる処刑執行



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652 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/29(水) 20:12:53.94 ID:w1WP8DMN0

次から次へと運動部連中が押し寄せて参ります。
バスケ部、バレー部、サッカー部、野球部、水泳部……さらにはカバディ部なんてマイナー部活まで。
八宮さんはその全てに嫌な顔一つせず力を貸していきます。


流れるようなレイアップシュートを決めたかと思うと、
冴えわたるようなマイナステンポスパイクで一撃。
かと思うと今度は華麗なエラシコでごぼう抜き!
快音響かせホームランを打った後には、バタフライで新記録を塗り替える!
最後のおまけにドゥッキで相手の死角を突く!


いやはや……八宮さんの卓越したスポーツセンスには舌を巻くばかりです。
そんな八宮さんの活躍を見ていた観客たちもどんどんヒートアップ!
「もっと彼女の活躍を見たい!」「別のスポーツではどうなんだ?!」
そんな声が聞こえてくるようです。

そして八宮さんはそんな声にもどんどん答えていきます。
卓球部、テニス部、バトミントン部、柔道部、レスリング部……さらには相撲部にも力を貸してくれるそうじゃないですか!
ああ、なんと心優しき八宮さん!


チキータで高速の返球を行い、
スライスでたたきつけるように得点を奪うと、
ヘアピンでテクニカルなポイントもゲット。
大外刈りも堂に入ってますね!
アンクルホールドで自分の体も顧みない激しい戦いっぷりを見せた後は、
威風堂々の一本背負い。


すごい!すごすぎるぞ!八宮めぐるーーーーーッッッッッ!
お前にできないスポーツはないのかーーーッッッ?!
653 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/29(水) 20:13:51.25 ID:w1WP8DMN0

そんな彼女の素晴らしいパフォーマンスに次々とスポーツのオファーが舞い込みます。
八宮さんの力を借りるために水球部にセパタクロー部、アルティメット部にペサパッロ部。ヤールギュレシ部もやってきました。
文字通りの引く手数多、引っ張りだこ!
彼女の運動センスを前に黙っていられる部活などあるはずもありません!


八宮、お前の力を貸してくれ!
めぐるちゃん、私たちの部活を手伝ってよ!


___あっ、ちょっとちょっと! 八宮さんってば体は一つしかないんですよ!?
___そんなに一気にお願いされても無理なものは無理でしょう?!


めぐる、お前ならうちでもやっていけるぞ!
ミス・ハチミヤ、ともに世界を目指しましょう!


___引っ張らないで! 引っ張らないで!
___順番に、順番に、ね?!


でもでも、運動部の底なしの体力とちっぽけな脳みそは暴走を止めません。
人気者の八宮さんはその手足をそこら中の運動部全員から四方八方に引っ張られ、引っ張られ……


____ブチィッ!!


運動部といえばしゃらくさいミサンガをつけて、
千切れたら願いが叶うだなんてほざいていやがりますけど体そのものが千切れた場合はどうなんですかね。

ま、願いどころじゃないか! ガハハ!
654 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/29(水) 20:14:38.26 ID:w1WP8DMN0
-------------------------------------------------



GAMEOVER

ヒグチさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。



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655 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/29(水) 20:15:07.22 ID:w1WP8DMN0

本当に樋口さんは軽やかにステップを刻みますね。
複雑なステップだって目立って手こずる様子はありません。
指先まで伸びやかで、一挙手一投足のそのすべてが洗練されています。
見ているこちらが思わず目を奪われてしまう、
彼女のパフォーマンスは天性のアイドルの才能というやつでしょう。


きっと彼女は今日、ここに至るまで____


大した苦労もしてこなかったんでしょうね。


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心臓を握る

超高校級のディベート部 樋口円香処刑執行



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656 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/29(水) 20:16:50.66 ID:w1WP8DMN0

薄明りのステージの中央で、彼女は歌い、踊り続けます。
それはもう軽やかに、音もたてることなく、悠然と。


ただ、その自分自身の軽やかさが樋口さんにとっては痛みであり憎しみでもありました。
樋口さんが見てきたアイドルたちはみんなその足取りが鈍重で、
彼女たち自身の存在を、努力、その歩みをステップの音に響かせていたのです。
その音を聞くうちに、樋口さんは自分自身の靴が奏でる音の空虚さに胸を押さえて悶えるようになりました。


ステージの音で響き渡る、ほかのアイドルたちの……靴の音。
ステップが刻まれるたびに、その何もかもが自分とは違っていて。


___私たちはこんなにも苦労してきた

聞こえない幻聴がうるさい。


___私たちはすべてを詰め込んでパフォーマンスをしている

靴の音は木槌の音。私の心臓に杭を打ち付ける、拷問の音。


___それなのに、私たちはあなたのようにはなれない

それは深く深く突き刺さって、私の心臓を蝕んでいく。


___あなたは恵まれている

私という人間を、蝕んでいく。




___あなたは私たちのことを憐れんでいるの?



657 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/29(水) 20:17:31.83 ID:w1WP8DMN0

樋口さんはその場に倒れこんでしまいました。
動悸が収まらず、呼吸も浅くなるばかり。
苦しみ悶える中でその視点も定まらなくなっていき、ほかのアイドルたちの姿が蜃気楼のように歪んでいき、そして消えていきます。

ステージに残されたのは、吹けば飛ぶような空虚なアイドルただ一人。
彼女には何もありません。
はじめからほかの人よりも多くのものが揃っていた彼女には、後から詰め込むようなものなど、何も。
彼女の軽やかさはその身軽さからくるものだったのです。


……でも、彼女にもかつて“重みのあるもの”がありました。
それは遠い昔、いつからかクローゼットの隅に押し込んで、忘れてしまっていたもの。
彼女自身の心をえぐるもの。
丁寧に宝石箱の中に押し込んで、鍵をかけてしまいこんでいたもの。


……いや、そうじゃない。

658 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/29(水) 20:18:15.23 ID:w1WP8DMN0

ステージの向こうに、きれいな宝石箱が見えます。
それに向かって手を伸ばす。
かつて自分からかなぐり捨てたそれを取り戻すために、元あるべき場所に戻すために。

その、【オルゴール】に手を伸ばす。



___ズシーン! グチャ…グチャ…



でも、遅かった。
オルゴールに指先が届くこともなく、もっと大きくて、重たいものに彼女の体は押しつぶされてしまいました。
ステージを揺るがすほどの大きな衝撃と音を伴って落下したそのプレス機。


樋口さんは死の間際にゾウの足みたいだと感じたんですって。
うーん、ポエミーな感性でございますわね!
659 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/29(水) 20:25:30.99 ID:w1WP8DMN0

というわけでお久しぶりです。
なんとか九月中に帰ってまいりました。
最終章である6章更新の準備が整いましたことのご報告になります。

完成間際にPCが水没してデータが一部吹き飛ぶアクシデントに見舞われ、
一時心が折れかけましたがなんとか意地で最後まで書き溜めを作って参りました。

はっきり言ってボリュームは過去最大になります、おそらくこのスレだけでは完結できず次スレに少しだけかかってしまうと思います。
色々書いてたら収まらなくなってしまいましたが、それだけ読み応えのあるものに仕上がったと思いますのでどうかご容赦を!

どうか完結までお付き合いいただけたらなと思います。
更新はすぐにでも、今週来週で一気に駆け抜けるつもりでいます。
直近は明日9/30の21:00〜より、非日常編から更新予定です。
捜査パートが長く続きますので安価のご参加お待ちしております。

それではまた暫くの間よろしくお願いします!
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/09/29(水) 20:56:05.48 ID:9ysVGaNi0
"待"ってたぜェ??
この"瞬間"をよォ??
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/29(水) 21:43:55.59 ID:yUfYWPYO0
PCが水没って水害でもあったんか?と思ったけどノートならあり得るか
全裸正座待機してる
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/30(木) 06:23:16.78 ID:FI0JBYoKo
ついにきたか
663 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 18:12:14.46 ID:PKHgrFLn0
>>661
ノートPCですね……
がっつりコーヒーをこぼしてそのままデータが消えてしまいました
皆様はお気を付けください


本日より再開予定でしたが、22:00〜で予定が入ったので
すこし前倒しで20:00〜からの再開にいたします。
664 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 19:59:31.77 ID:PKHgrFLn0
-------------------------------------------------
【6章現在での主人公の情報】

・習得スキル
【一番星の魔法】
〔自由行動二回目終了時にモノクマメダル10枚を消費することで、その日の自由行動を一回プラスすることができる〕

【ポシェットの中には】
〔自由行動のある日に限り一日の終わりにコンマ判定を行い、末尾の数字の枚数分だけのモノクマメダルを獲得できる〕

【意地っ張りサンセット】
〔反論ショーダウン・PTAのコンマ値の基礎値が+10される〕

【包・帯・組・曲】
〔学級裁判で不正解時のペナルティを三回まで無効化する〕

【HAPPY-!NG】
〔交流による親愛度上昇が+0.5される〕

【摩的・アンチテーゼ】
〔反論ショーダウン・PTAでコンマ値の基礎値が+15される〕

【水色感情】
〔学級裁判で不正解時コトダマが減少して正解が導きやすくなる〕

【アップ・トゥ・ユー】
〔学級裁判中任意のタイミングで発動可能。モノクマメダルを消費することで回答を導く。要求枚数は回数ごとに増加〕


・現在のモノクマメダル枚数…43枚
665 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:00:12.31 ID:PKHgrFLn0
・現在の所持品
【虹色の乾パン】
【色恋沙汰リング】×2
【スカラベのブローチ】×2
【あしたのグローブ】
【おでこのメガネ】×2
【はっぱふんどし】×2
【もちプリのフィギュア】
【ラジオ君人形】
【残鉄剣】
【狂戦士の鎧】
【毛虫くん】
【昭和ラジオ】
【黄金のスペースシャトル】
【聖徳太子の地球儀】
【ミレニアム懸賞問題】
【携帯ゲーム機】
【プロジェクトゾンビ】
【動くこけし】
【オブラート】
【スモールライト】
【古代ツアーチケット】×2
【もしもFAX】
【隕石の矢】
【アゴドリル】×2
【みどりの着ぐるみ】
【あかの着ぐるみ】
【EYE GRASS】
【ジャスティスV変身ベルト】
【ログインボーナス】


・特殊アイテム
【虹の羽】
〔輝く羽は希望を語る。ロジカルダイブで誤答した時、どこの選択肢があっていてどこが違うのかがわかる〕

【スーパーはづきさん人形】
〔どんな事務仕事もたちどころに終わらせてしまう伝説の事務員を模した人形。反論ショーダウンでコンマ値をあげるスキル・アイテムがパニックトークアクション、議論スクラムでも適用されるようになる〕
666 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:01:13.73 ID:PKHgrFLn0
【ここまでの親愛度】

・【超高校級の飼育委員】櫻木真乃……1.0【DEAD】
・【超高校級の占い師】風野灯織……(主人公)【DEAD?】
・【超高校級の助っ人】八宮めぐる……5.0【DEAD】

・【超高校級の保健委員】幽谷霧子……0【DEAD】
・【超高校級のモデル】白瀬咲耶……3.5【DEAD】
・【超高校級の服飾委員】田中摩美々……12.0

・【超高校級の幸運】園田智代子……3.0
・【超高校級の応援団長】西城樹里……3.0【DEAD】
・【超高校級の日本舞踊家】杜野凛世……2.0【DEAD】

・【超高校級のゲーマー】大崎甜花……3.0【DEAD】
・【超高校級のスタイリスト】大崎甘奈……1.0【DEAD】

・【超高校級のギャル】和泉愛依……4.0

・【超高校級の???】浅倉透……0【DEAD】
・【超高校級のディベート部】樋口円香……7.5【DEAD】
・【超高校級の帰宅部】市川雛菜……12.0
・【超高校級の学級委員】福丸小糸……12.0【DEAD】

-------------------------------------------------
667 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:02:28.72 ID:PKHgrFLn0





……どうもこんにちは!




668 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:03:17.06 ID:PKHgrFLn0

私、都内のある企業で勤続12年ほどになるサラリーマンなのですが、
こうして皆さんの前でお話しさせていただく機会はそうそうなく……
お恥ずかしながら現在少々緊張しております、何分普段は表に出る仕事ではありませんので。
そういったわけですので自己紹介なんかも今回は割愛させてもらいますね。

ええ、まあ私という人間なんて本当につまらないものですよ。
生まれた時から日陰暮らし、小中高大……いずれの学生生活でも目立った活躍なんて全く。

部活に入ったはいいもののレギュラーはもらえずずっとスタンド応援。
成績も並みで、そこそこの大学に入って研究もせずに遊び惚けて。
やっとつかんだ就職先では毎日頭を下げて日銭を稼ぐ毎日。

日々のノルマをこなすうちに、
いつの間にかこんなに年数も経ってしまい、家庭も築いてしまっておりました。

ええ、まあ……幸せは幸せでございます。
この不況の時代に、手に職をつけて一応は安定した収入をいただいておりますから。
669 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:04:29.34 ID:PKHgrFLn0

ですがやはりストレスというものは溜まってしまいます。

職場のストレスなんかはその代表ですね。
取引先のパワハラ、上司からの理不尽な要求、後輩に対する気回し……どうしても窮屈に感じる場面は多々ございます。
白状しますと妻のご実家に帰るのもかなりストレスですかね。
お義父さんが厳格な方でいらっしゃって、おちおち目の前で携帯を触ることもできないんです。
それにお義母さんには庭の草取りを頼まれますし、断るわけにもいきませんから……
それに最近は娘も反抗期に入りましてね、洗濯物は私と別にしてくれなんて言うんです。
同じ血を引いているというのに、どうにも心苦しいものですよ。
愛した妻だって、若いころの面影はもうすっかりありませんよ。
ゴミ出しぐらいは手伝いますが、少しは感謝の言葉をかけてもらいたいものです……


お酒でも飲んで気晴らし……若いころはそうでした。
ですがもう私もそれなりの年、だんだんと胃にたまるものもございます。

……ガス抜きのための何かを、ずっと探しておりました。


670 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:05:19.21 ID:PKHgrFLn0





_____そんなときです、私が出会ったのは。





671 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:06:14.90 ID:PKHgrFLn0

ええまあ、出会ってからというもの、世界はガラッと変わりましたとも!

しょうもない言いがかりをつけてくる営業先のジジイも、
加齢臭のしみ込んだ産業廃棄物じみたシャツを着ている上司も、
いっちょ前に権利だけを主張するでくの坊の若手社員も、
傲慢不遜な態度しか生き甲斐のない枯れ木のような義父も、
申し訳なさそうな態度さえしておけばすべてが許されると思い込んでいる義母も、
産んでもらった恩を忘れて文句を垂れる娘も、
不細工な肉付きをして加齢の色も隠せなくなった妻も、

全部全部、どうせ死ぬんですから!
そう思ったら随分と楽になりましてね!

ああ、こいつはどれほど惨めに死ぬんだろう。
どんな醜悪な辞世の句を並べ立てるんだろう。

そう思うとなんだか滑稽ですらありますよね!


……え?
あはは、そんな直接手を下すなんてするはずないじゃないですか。
人が人を殺すなんて、そんなのフィクションですよ。
672 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:07:22.70 ID:PKHgrFLn0





______ええ、フィクションですよ。

______私たちとは縁遠い世界のお話なんです、人の生き死になんて。




673 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:08:03.77 ID:PKHgrFLn0
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CHAPTER06

なんどでも祈ろう

非日常編



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674 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:08:37.27 ID:PKHgrFLn0

…………

……………………

…………………………………………
…………………………………………


暗く、昏く、深い地の底。私の体は重力に導かれるままに、堕ちていく。
耳元では風がゴウゴウと吹き上がり、私の体の逆をいく。
全身に感じる強く引力が死というものを強く感じさせる。


おしおきは消化不良なまま終わった。
ただ、この落下速度と落下時間。
言うまでもなくその末路は悲惨なものになるはずだ。
675 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:09:47.81 ID:PKHgrFLn0

私は諦観にも似た感情を抱き、目を瞑っていた。
瞼の裏には走馬灯のように、これまでにめぐると過ごした記憶が流れていた。
めぐると出会った頃のぶっきらぼうな反応をしてしまった私、体調を崩して看病に来てくれためぐる。
思えばあの時から心を開くことができたんだっけ。
この学園に来てからも、めぐるは常に私の傍にいて、依代であり支えになってくれていた。

……そのめぐるを、私が殺した。
自分の掌を見た。
おしおきの最中、抜けていく床と残された柱とに何度もしがみついたその手にはいくつもの擦り傷。

ただ、それを上塗りするかのように私の目には赤黒い染みが見えるのだ。
それは言うまでもなく、罪の証。

めぐるが最後に残した、生命の息吹。
覆面を外した時のあの瞬間、あの感触が染み付いている。
焦燥から私の手は手汗に塗れていて、掴んだ布地は妙に重たかった。

……ただ、めぐるは私のことを恨んではいないと思う。
傲慢ではなく、これは親友だからこそわかる確信だ。
きっとめぐるは誰にどんな理由で殺されたとしても、それを受け入れてしまう。
そんな彼女の寛容さに私自身ずっと甘えてきた。


だからこの掌の赤い染みは、めぐるの怨恨ではなく私が私に課した、重責なのだ。

676 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:11:16.67 ID:PKHgrFLn0


……まだ数秒、死までは時間があるらしい。

最期の最期に、私はもう一度目を閉じた。
死の間際に見る光景は、この学園の無情さではなく美しい記憶の残響がいい。

最期くらい、我儘を言っても許されるかな。



……ただ、私は忘れていた。
この学園は、私たちの覚悟や決意、そして道理をも裏切って嘲笑う。
死を前にして行った私の葛藤の全ては……





___徒労に終わった。


677 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:12:17.08 ID:PKHgrFLn0

ドサッ

「痛っ……?!」

全身を襲う鈍い痛み。
急速に異常なまでの滞空時間で落下した私の骨という骨は見るも無惨に砕け散り、
臓物はぐちゃぐちゃに掻き乱されて虫けらのような骸と化す……はずだった。

その痛みは死というにはあまりに優しく、まるでプールの飛び込み台から正面落下したような“打ち身”だったのだ。

「助かった……?」

そしてそれと同時に襲ってくるのが……

「な、なに……この匂い……」

臭気。
夏の終わり、三角コーナーに溜め込んだ野菜が放つような鼻を刺す刺激臭。それがあたり一体に立ち込めている。

どうやら私の鼻の感覚はそれなりに信頼できるらしい、
つい今し方“夏の終わりの三角コーナー”と評したその臭いは、その比喩と当たらずも遠からずだったのである。
私の死を打ち身にとどめた緩衝材の正体は、ゴミ袋。
文字通りに山積みになったゴミ袋が私の体を優しく受け止めて、あたり一体に残飯を撒き散らしている。
中には数日前に食堂で見かけた食材なんかもある。
678 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:13:16.55 ID:PKHgrFLn0

どうやらここは“ゴミ捨て場”、その終着点のようである。
学園にはトラッシュルームが存在し、手頃なものなら焼却処分ができるが、そうでないものは全てここに押し込められているようだ。
故障したクローゼットや怪しい機材なども投棄されており、手付かず。
臭いものには蓋をする、煩わしいものは目の届かないところに押し込む。
なんとも杜撰な処理の形だ。

ただ、今回ばかりはそれに助けられたのも事実。
暫く打ち身に身を捩っていた私も、その身を起こしてあたりの散策を始めた。
つい先ほどまで死を覚悟していたというのに、いざ生を掴んだからといって縋るのは醜いだろうか。

ただ、どれほど醜くても生に縋らないのは不誠実だと思う。
それはこの学園で生きてきた私だからこそ、犠牲になった皆さんの思いを引き継いだ私だからこそ。
真乃とめぐるとも約束をしたんだから。


……生きないと。

679 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:14:09.63 ID:PKHgrFLn0

強い決意と共に、手当たり次第にそこら中のゴミ袋に手をつけた。
食べられるもの、飲めるもの。
とにかく食いつなげるものを探した。

見上げた天井は目視できないほど遠く、そして暗い。ここから助けなしに脱出することは不可能だろう。
なら、摩美々さんたちを信じてなんとか生き延びる他ない。

「……うう、これも腐ってる」

だが、事はそううまくはいかなかった。ゴミ袋は、”ゴミ“が入っているからこそゴミ袋なのであり、実用性のあるものはそもそも入らない。
まして、口に入れていいものなんかは。

「……お腹空いたな」

空間の隅から隅まで、目につくものは一通り調べ尽くした。ただ、どれほど探そうとも成果を上げる事は出来ず。
体力を消費して汗をかいただけの骨折り損。腹の虫も癇癪を起こして煩い。

このままでは、まずい。

せっかく掴んだ生、それを繋げていくに必要なものが見当たらなかった私は……





____ひたすらに眠った。

680 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:16:09.89 ID:PKHgrFLn0

全ての体力消費を抑えて、空腹や喉の渇きを体に感じさせる時間を削った。
目が覚めるたびに無理矢理に瞳を閉じて再度眠りにつく。

それを何度も繰り返し、数時間、数日……ただ、絆を信じて眠り続けた。





___ドサッ


そして、その時は来た。
いつもより鈍い音を立てて何かが落下した、その衝撃からか自然と目が覚めた。
硬い床に何も敷かずに長時間横になっていた全身がバキバキと聞いたことのない軋みを立て、痛みを伴う。
そんな満身創痍な体で落下した何かに向かって近づいていくと……

「……え?」

モゾモゾとその“何か”は動き出す。
内側から蹴破ろうとしているのか、あちらこちらから内側で暴れている痕跡が浮き上がる。
そこから暫く、まるで蛹から蝶が孵化するかのように彼女は姿を表した。

「……ふー、やっと出れたぁ」
「ま、摩美々さん?!」
681 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:17:43.99 ID:PKHgrFLn0
◆◇◆◇◆◇

摩美々さんは首や肩をポキポキと鳴らしながら立ち上がると、私の顔を見ていつものほくそ笑みを披露した。


摩美々「お久しぶりです、覚えてますかぁ? 田中摩美々と申しますー」

灯織「覚えてますよ、当然じゃないですか!」

摩美々「おー、ツッコむ元気があるぐらいには健康そうでなによりー」


開口一番に揶揄いから入るあたりやっぱり摩美々さんだ。
数日間一人っきりで悪環境に置かれていたこともあり、いつも以上にコミュニケーションが心に沁みる。
そんな会話に思わず目頭が熱くなりかけたのだけど……


灯織「……あの、摩美々さん」

摩美々「んー?」

灯織「その、頭にカップヌードルの容器が」


摩美々さんの頭に載っているそれがどうも目について涙は引っ込んでしまった。


摩美々「……」


本人はどうやら気づいていなかったらしい。
無言で後ろを向いて、頭のカップヌードルの容器を払うとすぐにこちらに平然と向き直った。
……ただ、その耳は真っ赤に染まっている。
682 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:19:11.48 ID:PKHgrFLn0

摩美々「それよりお腹空いてないー?」

(なかったことにするんだ……)

灯織「ええ、まあ……食べるものどころか飲むものすら無くて今も息絶え絶えです」

摩美々「だと思ったのでー……じゃーん、摩美々からのプレゼントだよー」


摩美々さんが懐から取り出したのは水に入ったペットボトルとあんパン。
これまた数日ぶりに目にする文化的な食事。何も口にしていなかった体は、それを目視した瞬間に一気に口に涎を充満させた。


摩美々「その前に、ちゃんと手、拭いてからねー。今の灯織ってば手がネチャネチャだよー」

灯織「え」


久方ぶりに掌を見ると、成る程摩美々さんの言う通り。
食い繋ぐためにゴミ袋を漁ったその掌はこれまでに経験したことのないような感触の膜が貼られている。
……このまま食べたらお腹を壊すどころじゃ済まなさそうだ。

摩美々さんから除菌ティッシュを譲り受け、ちゃんと清潔にしてから食事を口へと放り込んだ。
栄養が枯渇状態にあった体にはほんの一口でも染み渡るようで、思考が冴え渡り、肉体の疲労が吹き飛んでいくのを感じる。

なんとか私は、【生】を守り抜いたんだ。
683 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:20:59.72 ID:PKHgrFLn0

摩美々「数日ぶりの食事はどうだったー?」

灯織「大変美味しかったです……ありがとうございました」

摩美々「その調子だと本当に何も口にしてなかったんだねー、口元が緩みきってるよー」

灯織「め、面目ないです……」

摩美々「ま、仕方ないでしょー」


食い意地の張った私を一頻り揶揄い終えた摩美々さんは、近くに腰掛けて私に向き直る。
つい数瞬前とは異なる、真剣な面持ちだ。


摩美々「……ねえ、灯織」

灯織「……摩美々さん?」


その声色も、これまでと違った熱を帯びている。
胸を抑えながら声を絞り出すような、これまでに見たことない摩美々さんを前に思わずこちらも襟を正す。


摩美々「ごめんね、中々助けに行けなくてー……ずっと一人で大変な思いをさせて……辛かった、どころじゃないと思うしー」

灯織「い、いえそんな……」
684 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:23:18.43 ID:PKHgrFLn0

摩美々「おしおきが失敗した瞬間、なんとか灯織を助けなきゃって……みんなでどうにかここまでくる方法を考えて考えて、でも糸口が見つからなくて……なんとかチャンスを見つけ出して……」

摩美々「もしかして、こうしてる間にも灯織は死んじゃってるんじゃないかって……それでまた焦って……」

摩美々「本当に、生きてくれててよかった……生きてて、良かったよ灯織」

灯織「摩美々さん……」


初めての表情だった。
揶揄いや悪巧みで誤魔化していない、素のままありのままの摩美々さんの表明した【安堵】。
いつもなら取り繕うだろう頬の綻びもそのままに、優しい言葉をかけてくれる摩美々さんを前に、私の目頭は再度熱を帯び始めた。


灯織「私も……生きて、再度会うことができて……本当に良かったです……」

摩美々「……!! も、もぅ……泣かないでよー」

灯織「ふふ……摩美々さんこそですよ」

摩美々「え……はぁ、摩美々の涙なんかレア物なんだから、光栄に思いなよー」


摩美々さんは照れくさそうにしつつも、その涙を隠そうとはしなかった。
私のために流してくれているその涙、それを思うとより一層私の視界も滲む。

暫く、感情に身を委ねて泣き続けていた。
何か再会を喜んだり、励ましたり、言葉を交わすわけでもない。
ただかけがえのない友人との再会、その間のある絆を噛み締めて、身を浸していると自然とそれ以外の選択肢が消えていた。
これまでに過ごした時間や感傷が何度も何度も浮かび上がり、その度にピークを迎えて収まる余裕はなく。

落ち着くまでのどれほどの時間を要したのかはわからない。
ただ一言言えるのは全てが収まった時には私の服の裾はすっかり水に浸されていたということだけだ。
685 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:25:06.22 ID:PKHgrFLn0

摩美々「……さて、ようやく収まったわけだけど」

灯織「ええ、なんとか落ち着きました」

摩美々「そろそろ、脱出と行こうかぁ。いつまでもこんな臭いのするところにいるわけにもいかないし、いい加減にはねー」


そうだ、元々摩美々さんはそのためにわざわざやってきてくれたんだ。
摩美々さんが指さした先は、壁に取り付けられた簡易梯子。
私も落ちたすぐ後にそれを登ろうかと考えたが、
登った先に出口があると言う確証もない、無駄なリスクを踏む事は避けたかったので放置していたものになる。


摩美々「ここに落ちてくる前に、上で扉の鍵は開けておいたのでここを登れば元の生活に戻れるはずだよー」

灯織「なるほど……しかし、かなり長そうですね」

摩美々「まぁねー……何せ学園の本当の意味での地の底なんだしー」

灯織「でも、行きましょう……なんとしても、生きて戻らないと」

摩美々「覚悟は出来てるみたいだねー、それじゃ行こっかぁ」

灯織「はい!」

摩美々「……」

灯織「……」

灯織「…………摩美々さん?」

摩美々「何やってるのー? 灯織が先に登るに決まってるじゃーん」

灯織「え……わ、私ですか……?」

摩美々「だって、ほら。摩美々ってばスカートだしー」

(私もそれはそうなんだけど……)


摩美々さんの言い分には釈然といかない部分もあったけど、ここでごねていても仕方ない。
ひとまず飲み込むことにして、鉄の梯子へと手足をかけた。
686 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:26:34.17 ID:PKHgrFLn0

__

____

_______

カンッ カンッ カンッ

それから暫く。鉄と靴とが奏でる無機質な音だけが響く時間が流れた。
音が耳に届けば届くほど、自分はここまで奥深くまで落下していたのかと驚かされる。
上を見上げても暗闇が続くばかり、まだまだ終わりは見えなさそうだ。


摩美々「ねえ、灯織ー」

灯織「摩美々さん、どうしました?」

摩美々「登りながらでいいからさぁ、脱出した後のことを話しとこうかぁ」

灯織「そうですね……私がいない間の学園の事情なども伺いたいですし……」

摩美々「まぁそれも大事なんだケド……」

摩美々「多分灯織は、ここを出た瞬間モノクマに命を狙われると思うんだよねー」

灯織「ええ?!」

摩美々「しょうがないよー……だって灯織はおしおきが失敗して偶然命を拾った形……モノクマとしてはちゃんと殺すところまでやっておきたいはずでしょー?」

灯織「そ、それはそうかもしれませんが……」

摩美々「出た瞬間その場でおしおき、なんてこともあり得なくはないと思うよー」

灯織「そ、そんな……なら、脱出なんてしたところで……」

687 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:29:06.34 ID:PKHgrFLn0

摩美々「まぁ落ち着きなってー……それをどうにかするために私が来たんでしょー」

灯織「どうにかすると言われましても……」

摩美々「灯織がおしおきを回避する方法はひとつだけ……あのクロ判定が不適切なものだったと証明することだよ」

灯織「……え?」

摩美々「要は、灯織がクロじゃなかったことを証明しておしおき自体を不当なものだったと指摘するんだよー」

灯織「え、ええええ?! 摩美々さん、めぐるの命を奪ったあの爆弾は私の行動が引き金になってですね……?」

摩美々「もう一度、その議論をやり直そうよー。私たちは灯織に死んで欲しくないんだよー」

灯織「し、しかしですね?!」

摩美々「それに、あの議論は……まだ完全じゃないと思うんだー」

灯織「……議論が、完全じゃない……? でも、すべての証拠品を検討しましたし、あらゆる可能性はつぶしたと思うんですが……」

摩美々「確かに摩美々たちの知る証拠品と状況証拠はすべて検討したケド、それがすべてじゃないと思うんだよねー……」

灯織「……」

摩美々「それに、灯織自身はどうなのー?」

灯織「私、ですか……?」

摩美々「めぐるを殺したのが自分で、納得できるのー?」


___納得なんかできるわけない。それは、当然の心理だ。

後にも先にもこれ以上はない親友を手にかけた事実、否定できるのなら私だって否定したい。
でも、その否定をしてしまうことは、めぐるの死から目を背ける以上に不義理だと思う。
自分自身にかかる責任を放棄する、最低最悪の身勝手。


灯織「……だとしても、受け入れるしか」

摩美々「はぁ……灯織ってば相変わらずいい子過ぎー……もっと自分の気持ちに素直になりなよー」

灯織「そうは言いますが……私はめぐるの死においては何よりも事実を尊重したいんです。それがめぐるに対しての誠意であり、義務だと思うんです」

摩美々「……灯織、この前の裁判の最後に見た映像、覚えてるよねー?」

灯織「映像、ですか……?」

(おそらくそれはきっと、めぐると樋口さんが事件の直前に交わした会話の映像……)


688 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:29:37.70 ID:PKHgrFLn0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

めぐる『円香……本当に、やるの……? わたしを殺して、灯織たちに絶望させるつもりなの……?』

円香『……そうだけど』

めぐる『これ以外の方法はなかったの?……どうしても、みんなはわかり合えなかったの?』

円香『……しつこい、言ったでしょ。分かり合うとか分かり合えないとかの次元じゃない。国籍が変われば言葉は通じないのと同じ、そもそも別の種類の人間だったってだけ』

めぐる『ちがうよ』

円香『……は?』

めぐる『言葉が通じなくても、気持ちは通じ合える……円香が別の種類の人間だって思っても、心を通わせることはできるはず……! 灯織たちは、円香が思うような悪い子たちなんかじゃ……!』

円香『やっぱりわかってない。灯織たちの掲げる絆とやらの崇高さ、美徳は十分に理解してる。……そのうえで、それを掴む権利が私には無いってだけ』

めぐる『そんなことないよ!』

円香『……もういい?めぐると雑談している間に邪魔が入っても困るから』

めぐる『……わかった、でも最後に一つだけ円香に聞いてもらってもいいかな』

円香『……何?』

めぐる『わたしも、灯織も、摩美々も愛依もチョコも雛菜も……これまでに犠牲になったみんなも……全員が、円香のことを大好きだから!』

円香『……今からその相手に仲間を殺す道具として使われても?』

めぐる『円香のすることは許せないよ。確証のない計画で仲間の命を巻き込んで……でもね、円香という一人の女の子が元々すごく優しい子だってことは知ってるから』

円香『……罪を憎んで人を憎まずってわけ? お涙頂戴でも狙ってるの?』

めぐる『円香、助けてあげられなくてごめんね』

円香『……うるさい』


ブツンッ!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
689 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:32:06.70 ID:PKHgrFLn0

摩美々「あの映像の内容を振り返ってみると、一つだけ【不自然な点】があるよねー?」

灯織「不自然な点……ですか……?」

摩美々「めぐるの言葉、『確証のない計画で仲間の命を巻き込んで』……これってめぐるの視点から見ると不自然だよねー?」

灯織「……どういうことでしょう」

摩美々「確かにめぐるは今から自分自身が殺されることはわかってる、でも円香の計画まで知ってるのはおかしくないー? 覆面をかぶせて、薬品Aで全身を麻痺させて最終的に灯織に爆殺させる……そんな計画をめぐるは知ってて受け入れたってワケー?」

灯織「で、でも……あのめぐるは拘束されていましたし、受け入れざるを得ない状況だっただけなんじゃ……」

摩美々「……灯織、よく思い出して。八宮めぐるっていう女の子のことを、灯織の一番の親友のことをよく思い出してよー」

(めぐるのことを……?)

摩美々「自分の動きを封じられたぐらいで諦めるような女の子だったぁ? 仲間の命が危険にさらされる計画を聞かされて、黙っていられるような女の子だったぁ?」

灯織「……!!」

(……違う)

(……めぐるはきっと、そんな状況下なら自分の命も顧みずに食ってかかるような……誰かのために動ける人間だ)

(もし、樋口さんの『絶望計画』を聞かされていたなら……もっとそれに抗った痕跡があったはず)

(でも、あの映像のめぐるは……衣服の乱れすら見えなかった。まるで計画そのものに賛同しているかのように)
690 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:32:37.73 ID:PKHgrFLn0

摩美々「……ねえ、灯織。あの映像で二人の言っていた計画って、本当にこの前の裁判の話だったのかなぁ」

灯織「……え?」

摩美々「めぐるはもっと別の何かを知っていて、それであの事件で命を落とすことを……受け入れたんじゃないかなぁ」

灯織「めぐるが……?」

摩美々「ま、あくまで私の想像でしかないんですけどねー。それでも、あの映像に違和感を感じたのは事実だよー」

(……)

(……もし、仮に。もし仮に……あの事件の真相が違っていて、私がめぐるを殺害したのでなかったのなら)

灯織「……摩美々さん、我儘を一つ言ってもいいでしょうか」

摩美々「んー?」

灯織「……もう一度、私と一緒に戦ってはもらえませんか?」

摩美々「……ふふー、望むところですよー」

691 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:33:38.92 ID:PKHgrFLn0

__

____

_______

カンッ カンッ カンッ

そしてまた暫くの時間が流れた。
鉄の足場を掴んでは離して下へと送り、また上から足場が降りてきてそれを掴む。
何度も何度も同じ作業を繰り返すだけの時間、視界の一切も変わらない時間は妙に長く感じられた。

その長い長い単純作業の繰り返しは……今ようやく終わりの時を迎える。


灯織「……摩美々さん、着いたみたいです」

摩美々「ふー、もう腕も足もガクガクだよー」

灯織「天井の扉、こちらを押し開ければいいんですか?」

摩美々「そうだねー、降りてくる前に鍵は開けといたから押せば開くんじゃないかなぁ」

灯織「わかりました……それでは、いきます……!」


グッと体重を乗せて押し上げた。
分厚い鉄板を切り出したような扉は想像以上の重量で、気を抜くと押し負けそうなほどだ。
奥歯をぎゅっと噛みしめて、飛び上がるようにして一気に押し込んだ。


ガコンッ


その力にこたえるかのようにして鉄板は押しあがり、一気に視界には光が飛び込んできた……!
692 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:36:10.30 ID:PKHgrFLn0
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【トラッシュルーム】

……帰ってきた。
見慣れたような、見慣れないような、そんな不和に充満したこの空間は私もよく知るあの学園の一部屋だ。

灯織「着いた……」


地の底からの生還を喜ぶより先に、その場に倒れこんでしまった。
全身を襲うすさまじいほどの疲労感。手も足ももう棒のようで感覚がおかしい。


(確実に後々筋肉痛になるな……)

摩美々さんも私の後に継いで出てきたものの、むしろ私以上にぐったりした様子だ。床に溶けるように寝そべる様子がなんだかかわいらしい。

灯織「……帰ってこれたんですね」

摩美々「なんとかねー、できればもう地の底にはいきたくないかなー……」


ただ、休む暇など与えてはもらえない。私たちが疲労感に浸り、手足をそこらに伸ばしていたのもつかの間。
見慣れたような、見慣れないような、そんな最悪な存在はすぐにその姿を現した。
693 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:37:21.05 ID:PKHgrFLn0

モノクマ「こらー! なんで生きてんだタコこらー!」

摩美々「うわぁ……もう来た……」

モノクマ「なんだその言いぐさは! ボクだってね、これが仕事なんだよ! 決して学園内の女子高生濃度が上がったからそれをかぎつけてきたとかそういう話じゃないんだからね!」

灯織「はぁ……」

モノクマ「それより! 風野さん、キミもわかってるよね? キミは本来ここにいちゃいけない人間、生きてちゃいけない人間なんだよ」

灯織「……っ!」

(摩美々さんの言ってた通りだ……モノクマはここに私がいることをただ嗅ぎつけただけじゃない……)

(私のことを、殺しに来てる……!)

モノクマ「おしおきは一時失敗しましたがね、今度こそきっちりしっかり執行させてもらいますよ! そうじゃなきゃトッチラケだからね!」

摩美々「灯織、わかってるよね。覚悟を決めるんだよー」

(覚悟……)

(……よし)
694 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:39:09.72 ID:PKHgrFLn0

灯織「モノクマ、私をおしおきする前に一ついいですか?」

モノクマ「ん?」

灯織「本当に、あのクロ認定は正当だったと思っているんですか?」

モノクマ「……なにそれ、どういう意味さ」

摩美々「言葉通りの意味だよ、あの事件は本当に灯織がクロだったと思ってるわけー?」

モノクマ「思ってるも何も、オマエラの推理で導き出した答えがそうなんでしょ! 急に無責任なことを言い出さないでもらえる?」

摩美々「だとしてもだよ、それに考えなしに便乗して灯織をおしおき……まぁ未遂だったケド、それまでしちゃって不正解でしたーなんて、絶対にあっちゃならないよねー?」

モノクマ「うぐっ……で、でもあの事件は状況からみても風野さんがクロで間違いない……」

摩美々「本当にそう? あの爆発の瞬間までめぐるが生きていたかどうか、モノクマは確かめたの?」

モノクマ「うぐぐぐ……」

(さすがは摩美々さんだ……交渉力というか、理で詰めていく凄みは摩美々さんには敵わないな……)

灯織「もし、モノクマがクロをしっかりと把握していない状況下で私を自己判断でクロとして処刑したのであれば……それはルールとして破綻していませんか?」

モノクマ「……オマエラ、自分たちが何言ってるのかわかってるの?」

モノクマ「今オマエラが口にしてるのはボクへのボートク、この合宿生活の管理体制への反発だよ? 特に田中さんはその意味をよく分かってるはずだよね?」

(……!!)

695 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:40:29.98 ID:PKHgrFLn0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

モノクマ「でもさ、今オマエが口にしてるのってこの合宿生活の存亡にかかわる話なわけじゃん?」

モノクマ「ボクのミスだって指摘するんだったら、それに見合うだけの覚悟とリスクを背負ってもらわないと!」

灯織「覚悟と、リスク……?」

モノクマ「田中さんの筋が通らなかったとき、田中さんにはこの合宿生活の存続を妨げた罰としておしおきさせてもらうから!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

摩美々「それはモチロン誰よりも、ねー」

モノクマ「ふーん……ヨユーはシャクシャク。リスクも何もかもわかったうえで、ってことなんだね?」

灯織「もちろんです!」

(……そう、きっとこれはめぐるが私たちのために残してくれた道)

(あの映像の中に見た違和感は、嘘じゃないはず……!)

モノクマ「……よし、わかりました! それならオマエラの上告をボクも受理してあげよう!」

灯織「……!!」

モノクマ「ただし、白瀬さんの事件でも言った通り……もし、この指摘が間違いで、本当に風野さんがクロだと認定されたときにはその責任をとって」
696 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:41:00.49 ID:PKHgrFLn0



モノクマ「二人、いや……全員におしおきを受けてもらおうかな!」



697 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:42:24.10 ID:PKHgrFLn0

灯織「……えっ?」

(全員に、おしおき……?)

灯織「ちょ、ちょっと待ってください! なんでほかの人も巻き込むんですか?!」

モノクマ「だってオマエラの言ってることって学級裁判の否定どころか、ボク自身の管理責任にもかかわる話でしょ? それぐらいのリスクは背負ってもおかしくないよね?」


……めちゃくちゃだ。
そもそもこんな生活に無理やり引きずり込んでいる時点で非は間違いなくあちらにあるというのに、なぜこんな責任まで背負わされねばならないんだ。

不条理を極限まで煮詰めたような理不尽に、一気に血の気が引いていく。
一度振り上げた拳の、その感覚がどんどん遠ざかるような悪寒が全身を襲う。この拳に、全員の命がかかっている……?


そんなの、私は……
698 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:42:51.28 ID:PKHgrFLn0



摩美々「了解でーす」



699 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:43:55.64 ID:PKHgrFLn0

灯織「ま、摩美々さん?!」

摩美々「いいよー、裁判の結果を否定できなければ摩美々たち全員その場でおしおきねー」

モノクマ「うぷぷぷ……随分と思い切りがいいんだね。赤信号、みんなで轢き殺されれば怖くないって?」

摩美々「お生憎ですケド、轢き殺されるつもりは毛頭ありませんのでー」

灯織「摩美々さん、そんなその場の勢いだけで啖呵を切るような真似……」

摩美々「灯織、さっきも言ったケド、“私たち”は灯織に死んでほしくないんだよー? これぐらいのリスク、全員背負う覚悟はしてるんだよねー」

灯織「……!!」

(まさか、私を助けると決めたその時から……?)

モノクマ「やれやれ、勇敢でございますこと! でもそれってさ、蛮勇って言うんだよ? 向う見ずで自分の命を顧みない、さながらギャンブル狂いのようだよね」

摩美々「ギャンブル? ふふー、それだったらむしろ好都合ですねー、摩美々は負ける賭けはしないでおなじみですからー」

摩美々「これが賭けなら、摩美々は勝っちゃいますねー」

(摩美々さん……すごい、モノクマ相手に一歩も譲らない……!)
700 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:45:44.59 ID:PKHgrFLn0

モノクマ「クックックッ……面白い、面白いクマ! オマエラがそれほどの覚悟を持っているというのならボクもそれに答えてやるクマ!」

モノクマ「ボクとオマエラの最終決戦! 次の裁判で雌雄を決すクマーーーーーー!!」

灯織「最終決戦……!!」

モノクマ「風野さんのクロ判定を覆せなきゃおしおき……どうせそれで終わるんなら、もっと大々的なお祭りにしたいじゃない? だからもう一つとっておきの楽しみも用意しておこうかなって!」

摩美々「それってどういう……」

モノクマ「この学園の真実だよ!」

(……この学園の真実……!!)

モノクマ「オマエラはなぜこの学園にいるのか、なぜコロシアイをしているのか、なぜこの学園には他に誰もいないのか、etc…そういう一切合切の謎を全部ここで解き明かしちゃおうよ!」

モノクマ「ビバ! 希望ヶ峰学園・真相編! これは忙しくなるぞーーーー!!」

(な、なんだかすごいことになってしまった……)

(この学園のすべての謎を、この裁判で解き明かす……なんて!)
701 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:46:39.75 ID:PKHgrFLn0

摩美々「灯織、なんだかすごいことになってきちゃってるケド……」

灯織「……」

摩美々「ま、その顔を見ればどうするかなんて聞くまでもないかぁ」

モノクマ「決戦の日は明日! 今日は疲れてるだろうし、ひとまずは体調を万全にしておくことだね! オマエラがどこまでボクに迫れるか楽しみにしてるクマ!」

灯織「……はい」

灯織「モノクマ、いえ……黒幕のあなたこそ覚悟をしておいてください。すべて白日の下に晒されて、己が失態の下にすべてを台無しにする……その覚悟を!」


モノクマは私の言葉を誹りもせずに聞き入れ、そのまま姿を消した。
残された私たち、その体は妙に火照っている。
啖呵を切ったことで血が上っているのはモチロンだけど、それ以上に……
私以外の皆さんが、私のために命をもかける覚悟でいてくれている。その実感が生の熱気を高めてならないのだ。


摩美々「やっぱりこういう展開になったねー、おおむね予想通りだケド」

灯織「やっぱりわかってたんですね……」

摩美々「ひとまず合流しよう、明日の作戦会議もしなきゃだしー」

灯織「は、はい!」
702 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/09/30(木) 20:48:57.65 ID:PKHgrFLn0
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【食堂】

摩美々さんに連れられ食堂に踏み入ると……


智代子「灯織ちゃんだ! 本当の本当に、灯織ちゃんだ!」

雛菜「あは〜〜〜〜〜! 無事だった〜〜〜〜〜〜!」

愛依「だいじょーぶ?! ケガしてない?!」


すぐに皆さんが駆けつけてくれた。
どうやら摩美々さんを地下に見送った後はここで待機する手はずだったみたい。
でも、今この瞬間まで気が気でなかったらしい。机の上のお茶が手付かずでぬるくなっている。

私たちはすぐにここに至るまでの経緯を説明した。
地下でなんとか食いつないだこと、私の命をモノクマが狙っていること、そしてそれを跳ね除けるための裁判が行われること。
その裁判では学園の真実をも解き明かさねばならないこと。そして、皆さんの命もかかっているということ。
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