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土屋亜子「アタシも大好きやで、Pちゃん」
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84 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:45:39.00 ID:ZnT9OyOd0
女性P「実はそれとなく聞こうと思っていたのだが」
テーブルに着くと、Pちゃんのお母さんはそうアタシらに切り出した。
女性P「あの子はなぜ、君たち3人のプロデュースをしているのだ? どういった経緯が?」
かな子「あの子?」
泉「えっと、私たちのプロデューサー……かな子ちゃんのプロデューサーの息子さんなんです」
かな子「え?」
女性P「社長は……ウチの人も私も、あの子に疎まれていた。それはいい、思い当たることも申し訳なくも思っている。しかしそれならと自立を促し家から出したら、今度はプロデューサーに自分もなると言い出して、候補生も連れてきた。なにがあったのか、私にはまったくわからない」
かな子「え?」
女性P「教えて欲しい。なにがあったのだ? どうしてあの子は、プロデューサーに?」
かな子「え?」
Pちゃんのお母さんは真剣やったし、かな子ちゃんは状況をまったく理解できてない。
そらまあ、そうや。
け、けど説明いうたかて……
85 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:46:26.81 ID:ZnT9OyOd0
亜子「い、いずみ」
泉「なに? 亜子」
亜子「いずみ、説明して。経緯いうか、こう……事情を」
泉「わかった。当事者は言いにくいみたいなので、私が説明します」
助かった……いずみなら上手いこと説明してくれるやろ。こう……デリケートな部分はオブラートに包みながら。
泉「そもそもプロデューサーが、亜子に『好きだからつきあって欲しい』って告白したことが発端でした」
亜子「ぶうーーー!!! げほごほ」
かな子「え? え?」
いずみー! オブラート!! オブラートはどこいったん!!!
86 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:47:03.67 ID:ZnT9OyOd0
女性P「ほう……」
亜子「や、あ、あの……」
泉「それに対し亜子が……」
結局、いずみによるなにひとつ包み隠さない説明に、Pちゃんのお母さんとかな子ちゃんは、驚きながら聞き入っている。
いやまあ、明らかになっている事実を敢えて無視するというのはいずみの不得手とするところではあるけれど、そんなあからさまに……いずみ……
さくら「それでぇ、亜子ちゃんがそう言ったからプロデューサーさんはきっと、ものすごくがんばってくれてぇ……亜子ちゃんもだんだん、がんばってるプロデューサーさんのことやさしい目で見るようになってぇ……」
いや、さくら。そこに揣摩憶測を混ぜんといて、しかもなんや、ロマンス風に。
そんなやったっけ? そんな甘酸っぱいこと、アタシらしとった? ホンマに?
かな子「なんだか素敵なお話だね」
亜子「え?」
87 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:47:52.92 ID:ZnT9OyOd0
かな子「私もそんな風に一途に想われてみたいなあ……」
亜子「や、え、そ、そんなエエもんやないですよ? なんやあのPちゃんのペースにいつの間にかこう巻き込まれてたいうんか……」
女性P「Pちゃん、と呼ぶのだな」
亜子「え?」
女性P「あの子のこと」
亜子「え? あ、あれ?」
言われてみると、いつの間にかアタシはPちゃんと彼を呼んでいた。いつからやったっけ? なんでやっけ?
泉「そうなんですよね。急にそう呼び出したんですけど、それを指摘したらせっかく2人が上手くいきそうになっているのに、水を差すんじゃないかと思って」
さくら「わたしが、黙ってようねって言ったんだよねぇ」
亜子「ええっ!?」
なんやのそれ! 2人、そんなこと思うてたんかいな。
いや、さすがは親友であるいずみとさくらや。
アタシの性格もようわかってるから、見守っててくれたんやな。
88 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:48:33.60 ID:ZnT9OyOd0
女性P「かかる不思議のあることよ」
亜子「なんですか?」
女性P「私は……いや、私たちはあの子に後を継がせたかった。出来れば現場を経験し、私たちと同じ道を歩んで欲しかった。しかし、彼はそれを嫌がり私たちを疎んじていた。それがわかった時、私たちは決心した」
亜子「Pちゃんを、家から出したんですね」
女性P「世間をもっと見て、彼の行きたい道を見つけてもらおうと思った。高校なりその先の進路なりを自分で考え、探して欲しいと……だがその結果、彼は戻ってきて私たちと同じ道を行くと言い出した」
亜子「……確かに、お母さんからしたら不思議かも知れへんですけど」
女性P「別に、不思議なことではないと?」
亜子「ハンギキョート、食べさせてもろてエエですか?」
女性P「無論、頼んであるが……」
Pちゃんのお母さんが店員に目配せをすると、店員さんが大きな肉の塊が吊られたモンを、ワゴンで運んできてくれた。
89 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:49:08.68 ID:ZnT9OyOd0
かな子「うわ、おっきいですね」
さくら「骨がついてて……これ、足かなぁ」
泉「生ハムの原木……じゃないですよね」
女性P「これがハンギキョート。羊肉の燻製かな……有り体に言えば」
話してる間に、店員さんはその肉の塊を薄く削ぐようにして切り分けて、全員の皿にのせてくれる。
女性P「アイスランド料理はシンプルだ。ハンギキョートも羊肉を塩と少しのスパイスに漬け、燻製にしたものなんだ」
かな子「いただきまーす。……うん、美味しいですね」
さくら「羊さんのお肉って久しぶりだよねぇ。小学4年生のお泊まり旅行の富士宮でジンギスカン食べていらいかなぁ」
泉「亜子が食べ放題だからってお肉3皿食べて、その後苦しんでいたあの時以来」
亜子「ちょっと! 今、出さんといてよその情報!」
女性P「先ほど聞いていたな、ハンギキョートについて」
亜子「え?」
女性P「あの子も食べたことあるのか、と」
90 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:49:48.25 ID:ZnT9OyOd0
亜子「……はい。実はアタシ、Pちゃんから聞いてました。ハンギキョートっていう料理がある、て」
女性P「あの子が……」
亜子「アタシが聞いた事もないような料理て言うて、Pちゃんが最初に口にしたのがそれやったんです。お母さんは、自分はPちゃんに疎まれていたて言いますけど、それやったらスッとそんな名前出えへん思うんです」
女性P「……」
亜子「Pちゃんはきっと、お母さんの好物をずっと覚えてんのやないか、てアタシ思います」
女性P「……5歳の頃でも、覚えているものなんだな」
亜子「あの、アタシも聞いてもエエですか?」
女性P「ああ」
91 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:50:25.09 ID:ZnT9OyOd0
亜子「Pちゃんの好物、お母さんは知ってはります?」
女性P「? コロッケだろう?」
即答やった。良かった。
お母さんもちゃんと、Pちゃんのことわかってはるんや。
女性P「あの子の5歳の誕生日に、お祝いとしてここに連れてきた。その時に私が好きだと言ってハンギキョートも食べさせたが、本人は『おかあさんのつくったコロッケのほうがおいしい』と言ってたな」
亜子「え!?」
女性P「なんだ?」
亜子「コロッケ……作らはるんですか!?」
女性P「作るのが手間だから、そう機会はないが……それでも昔は。そう、彼が5歳になって以降は仕事も大幅に増え、作ってくれと言われても家政婦に作らせていたな」
Pちゃんのお母さんは、コロッケを作ってくれていないわけではなかった。
いや――物心ついて「作って」と頼んでも、お母さんは作ってくれなくなったことがPちゃんの誤解になっているのかも知れなかった。
92 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:51:02.98 ID:ZnT9OyOd0
かな子「プロデューサーさん、なんだかごめんなさい」
女性P「ん?」
かな子「私たちのせいで、ご家庭……息子さんとうまくいってなかったんですね」
女性P「いや、かな子や他の担当のせいではない。仕事が忙しくても上手くやれている親子はいる。これは単純に、私が良い母親ではなかったというだけのことだ」
かな子「でも……」
亜子「あの」
かな子「え?」
亜子「ちょっとご相談があるんですけど、エエですか?」
93 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:51:34.03 ID:ZnT9OyOd0
かな子「最後に出てきたポンヌコークルっていうデザート、美味しかったよね!」
泉「アイスランド風パンケーキという説明でしたけど、パンケーキというよりはクレープみたいでしたね」
さくら「スキールっていうクリーム、ちょっとチーズっぽくって気に入りましたぁ」
亜子「ホンマごちそうになってしもて、すんません。ありがとうございました」
女性P「流石は我が息子、と褒めたい気持ちだな」
亜子「え?」
女性P「すごい候補生を、見つけて連れてきたものだ」
亜子「そんなん言ってもらえて嬉しいですけど、まだアタシらなんも結果を出せてませんから」
女性P「先ほどの話、進めておく」
亜子「お願いします。アタシらもレッスン、がんばりますよって」
94 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:52:10.29 ID:ZnT9OyOd0
P「デビューイベントが決まった……んだけど」
Pちゃんのお母さんにアイスランド料理の店に連れてってもらってから一週間後、Pちゃんはそう切り出した。
意外にも口ぶりが重い。いや、気も重そうや。
泉「なにか問題でもあったの? プロデューサー」
さくら「顔色、わるいよぉ?」
P「ニューウエーブのデビューイベントだ。大々的に行いたい、そうプランニングしてたんだけど、思わぬ横やりが入って……」
亜子「横やり?」
P「いつだったか会っただろう? 三村かな子ちゃん」
さくら「うんうん」
P「彼女がアメリカツアーを行うことになり、それに我々も帯同することになった」
泉「わあ、アメリカツアー……え? 帯同?」
95 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:52:53.46 ID:ZnT9OyOd0
亜子「ほな、なにか? アタシらもアメリカに行く……いうことかいな!?」
P「……そうなるね。彼女のプロデューサーが、大々的にというなら海外でデビューイベントはどうだ? って言ってきて」
頭の中で、Pちゃんのお母さんがウインクしている姿が浮かぶ。
いや、お母さん。確かにアタシが提案したことやけど、ここまでオオゴトにせんかて……
――いや。
亜子「血、やな」
P「ち?」
亜子「なんでもあらへん。要はかな子ちゃんに帯同しつつ、アタシらもアメリカでデビューゆうことなんやろ?」
P「え? あ、ああ。少なくともバックダンサー的扱いではない。無論、一緒に歌ったり踊ったりもするけど、あくまでニューウエーブはニューウエーブで、舞台に立つ。そこは譲らなかった」
亜子「ほんならそれに向けて、レッスンあるのみやな」
さくら「わたし、英語とかできないよぉ」
泉「日常会話ぐらいなら私がなんとか。それにプロデューサーもいるし」
P「そうだな。初舞台が海外で面食らったけど、いいチャンスかも知れない。日本へも配信されるそうだし」
亜子「よーし。いよいよアタシらの夢への一歩なんや、がんばってくで! いずみ、さくら、Pちゃん!!」
泉さくらP「おーーー!!!」
96 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:53:37.05 ID:ZnT9OyOd0
〜1ヶ月後 カリフォルニア州ロサンゼルス〜
亜子「やってきたで! アメリカはロサンゼルス!! 通称、ロスへ」
泉「亜子」
亜子「へ?」
泉「ロサンゼルスはロスとは略さない。ロスはスペイン語の定冠詞losと同じ発音だから通じない」
亜子「ほんなら、なんて呼ぶん? 現地の人は」
P「LAかな。ついでに言っておくと、いわゆる日本人の発音でのロサンゼルスも現地ではなかなか通じない。ローサンジャラスって発音する」
亜子「Pちゃん、アンタ……」
P「な、なに?」
亜子「初めてやないな!? アメリカ!!」
P「まあ、何度か」
亜子「裏切りモンーーー!!!」
97 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:55:16.85 ID:ZnT9OyOd0
さくら「まあまあ、アコちゃん」
泉「経験者がいた方が、頼りになるじゃない」
亜子「……なるほどそうか。頼むで、Pちゃん」
P「任せて。そして初ライブはLAのウオルト・ディズニー……」
さくら「ええ? もしかしてぇ、ディズニーラン……」
P「ウオルト・ディズニー・コンサートホールだ」
さくら「……それってディズニーランドにあるんですかぁ?」
P「いや、ディズニーランドにはない。ディズニーランドは同じカリフォルニア州だけどアナハイムにある」
さくら「えぇー……」
P「今回は仕事優先だから、ディズニーランドはまたいつか」
亜子「お、言質とったでさくら」
泉「いつか連れてきてくれるんだね、プロデューサー」
P「わかった。約束する」
さくら「わぁい」
やったな。Pちゃんがこう言うたなら、勝ったも同然や。
4人でディズニーランド、もろたで!
98 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:55:58.62 ID:ZnT9OyOd0
かな子「あ、みんな来たね」
さくら「こ、ここがディズニーホール……」
泉「ウオルト・ディズニー・コンサートホールね。でも……」
亜子「お、大っきない? ここ」
P「収容人数は2千人ちょっとかな」
それが多いんか少ないんかも、ようわからん。
なんせ初めてなんやでアタシら、Pちゃん。なんや緊張してきたな……
支配人「責任者は? どこにいる!?」(※英語)
かな子「え?」
支配人「責任者だ! 話がある!!」(※英語)
さくら「なんだか恐い人ぉ」
泉「えっと。プロデューサー、呼ばれてる?」
P「みたいだ」
99 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:57:13.65 ID:ZnT9OyOd0
P「私です」(※英語)
支配人「お前が!? 責任者だぞ!?」(※英語)
P「そうです」(※英語)
支配人「今日はエイプリルフールじゃないよな?」(※英語)
P「日付変更線を超えたので、今日は8月6日です。もちろん、エイプリルフールではありません」(※英語)
支配人「なんてこった、日本じゃ子供が責任者でツアーをやるのか」(※英語)
P「いや、日本でもスタンダードなスタイルではないと思う」(※英語)
支配人「フン、面白いやつだ。だが、まだ信じたわけじゃないぞ?」(※英語)
P「信じようと信じまいと、責任者は私です」(※英語)
支配人「じゃあ聞くが、リハーサルは? やるなら用意はすぐできる」(※英語)
P「では30分後に。機材の準備は?」(※英語)
支配人「要らん心配だよ、子供の責任者」(※英語)
100 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:58:06.85 ID:ZnT9OyOd0
さくら「どうしたんですかぁ?」
かな子「何か問題でも? 私のプロデューサーさん、まだ席を外してるんだけど……」
P「なんでもない。リハーサルをやるって、30分後に。かな子さんはプロデューサーと合流してからにしましょう。先にニューウエーブが。着替えはしなくていいけど、コンディションを整えていて」
かな子「あ、はい」
さくら「はぁい」
泉「亜子、さくら、ちょっと」
亜子「ん? なんや、いずみ」
泉「さっきの人、たぶんここの支配人。それでね、プロデューサーのこと、子供だって言ってた」
亜子「なんやて!? ホンマか?」
泉「たぶん、間違いないと思う。かなり馬鹿にした言い方だった」
さくら「そんなぁ……」
亜子「ほう……Pちゃんを馬鹿にするとは、エエ度胸しとるやないか。いずみ、さくら、ここはアタシらが見せたろ?」
泉「うん、いいね」
さくら「わたし、がんばっちゃいまぁす」
101 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:59:22.84 ID:ZnT9OyOd0
P「時間だ。3人とも準備は……」
亜子「出来てるで」
泉「いつでもいけるよ、プロデューサー」
さくら「どうですかぁ?」
P「衣装はまだ、着なくてもいいと……」
亜子「この方がも気合い入るやんか」
泉「本番のつもりでいくから」
さくら「見ていてくださいねぇ」
アタシらは、ステージに駆け上がった。
本番さながらのアタシらを見て、スタッフらしき人たちはちょっとビックリしたみたいやけど、何人かが口笛を吹き、手を叩いてくれた。
ノリ、エエやんかアメリカの人。
102 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:02:18.89 ID:ZnT9OyOd0
亜子「いっせーので、いっしょにせーの♪」
泉「色々いいでしょ、いっしょのせーの♪」
さくら「イイトコさがして、いっしょにせーの♪」
亜子泉さくら「「私とあなたと、あなたと私、いっしょがいいでしょ、いっしょにせーの♪」」
観客はまだ誰もおれへんけど、部台設備や照明は本番さながらにやってくれてる。
その中でアタシらは、不思議と緊張もせんと歌ってるし踊れてる。
なんやろ、なんか楽しなってきた。
やっぱりレッスンと本番はちゃうねんな。
アタシ、だんだんノッてきたで!
亜子泉さくら「「だからいつも♪ いっしょにせーのしよう♪」」
1曲目を歌い終えたアタシらはエエ気分やった。
と、その時、観客のいないはずのホールのあちこちから歓声と拍手がきこえてきた。
「いいぞジャパニーズガール」(※英語)
「さすがニンジャの国!」(※英語)
「最高! 素晴らしいよ!」(※英語)
「もっと聞かせて、魅せてくれ!!」(※英語)
「アイラブユー!!!」
103 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:02:59.04 ID:ZnT9OyOd0
さくら「うわぁ。ありがとうございまーす!」
泉「あれ? さくら、なんて言ってるかわかるの?」
さくら「ううん。でも、なんとなく……うん、伝わりましたぁ」
亜子「そうか……うん。なんか嬉しいな、こういうの……あ」
と、感激のアタシらに先刻の支配人がやって来た。
泉「なにか問題でも?」(※英語)
支配人「……パーフェクトだ。エクセレント! 日本の淑女達よ」(※英語)
亜子「な、なんやて?」
さくら「すごいね、って褒めてくれてるみたいだよぉ」
亜子「ホンマ? いずみ」
泉「うん。あ、プロデューサー」
P「良かったよ、3人とも」
104 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:03:47.60 ID:ZnT9OyOd0
P「そしてありがとうございます、事前の指示通りの舞台演出でした」(※英語)
支配人「改めて聞くが、この淑女達のプロデューサーなんだな?」(※英語)
P「そうです」(※英語)
支配人「グレート。ユー・ザ・マン」
P「え?」
支配人「馬を見れば乗り手がわかる。お前は偉大なプロデューサーだ。俺は認める」(※英語)
P「ど、どうも。ただどちらがどちらに乗っているのかは、我々の場合定かではありませんが」(※英語)
支配人「どっちだっていいさ。今回の公演で、どんな協力も俺は惜しまない」(※英語)
P「助かります。ミスター」(※英語)
105 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:04:27.53 ID:ZnT9OyOd0
支配人「グレートプロデューサーよ、今いくつだ?」(※英語)
P「15歳です」(※英語)
支配人「15! 俺が15歳の頃は、まだポニーテールの女の子を追っかけてたぜ」(※英語)
P「……僕も同じですよ。もっとも、ポニーテールじゃないですけど」(※英語)
支配人「ヒューッ! なるほどな。今後、俺のことはロジャーと呼べ」(※英語)
P「ありがとうロジャー。僕はPだ」(※英語)
支配人「イエッサー、ミスターP」
亜子「なんて? いずみ」
泉「まだ1曲目が終わっただけだから、リハーサルが全部終わってから話すよ。亜子が照れて続けられなくなるといけないから」
亜子「へ?」
さくら「きっとプロデューサー、亜子ちゃんのことが好きなんだって説明したんだよぉ。あの支配人さんに」
亜子「な! ほ、ホンマか!? いずみ!!」
泉「どうでしょう……あ、2曲目が始まった」
亜子「いずみぃー!?」
このリハーサルでアタシらは、完璧にスタッフを味方にできた。
かな子ちゃんとの連携も上手くいったし、本番も成功を収めた。
そしてそれは、その後続くラスベガスでもナッシュビルでもニューヨークでも同じやった。
三村かな子ちゃんとニューウエーブのアメリカ公演とそのお披露目は大成功に終わった。
106 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:28:40.98 ID:ZnT9OyOd0
亜子「海外でデビューイベントを大成功させ、凱旋帰国かあ。空港にファンやマスコミが押し寄せてたら、どないする?」
さくら「そうなったら、すごいねぇ」
泉「日本でも配信されていたとはいっても、そう大事にはなってないとは思うけど」
亜子「まあ、せやな。かな子ちゃんのネームバリューや実力もあっての、ツアー成功やったしな」
さくら「でもこれで、晴れてわたしたちも本物のアイドルなんだよねぇ?」
泉「うん。ちゃんとお客さんの前でライブをやったんだから、私たちはもうプロだよ。本物のアイドル」
亜子「ハッ! そ、そんでPちゃん、アタシらどんぐらい儲かったん!? このツアーの売り上げは!!」
P「正確な収支決算はまだだけど、まあ……」
亜子「な、ナンボ!? ナンボなん!!」
P「ほぼ……」
亜子「うんうん!!!」
P「ゼロかな」
亜子「へ?」
P「ゼロ」
亜子「なんでやのーーー!!!!!!」
107 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:30:31.52 ID:ZnT9OyOd0
泉「まあ仕方ないよ。まだ初めてのお仕事なんだし、これまでの宣伝費や準備費用もかかってるんだし」
さくら「レッスンだって、させてもらってたんだよねぇ。そういえば」
亜子「うう……せやった。アイドル活動も先行投資が必要なんて、考えればわかりそうなこと忘れてたわ……」
P「まあでも、悲観することはない」
亜子「え?」
P「今も言ったよね? ゼロだ、って」
亜子「えっと、それって……」
泉「つまりわかりやすく言えば、固定費÷(限界利益÷売上高)の値が0だってこと?」
さくら「わかりやすくないよぉ」
P「大石さんの言う通り。つまり……」
亜子「損益分岐点を越えたんやな!」
P「そうだよ」
泉「やったね!」
亜子「ほんなら、これからはがんばった分だけ儲かるんやな!」
さくら「よくわかんないけど、わぁい!」
108 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:31:08.55 ID:ZnT9OyOd0
海外ツアーでの初ライブだったアタシたちだったけど、そのライブだけで先行投資分をペイしてしまったらしい。
つまり、今回のライブツアーだけで、準備や広告ねそしてアタシらの育成費用は回収できたという事だ。
これは快挙であるらしく、その証拠に……
亜子「な、な、なんやのん、この人出!」
泉「これじゃあ、空港から出られないんじゃ……」
さくら「おかえりなさい三村かな子ちゃん……それから、うわぁ、わたしたちの名前も!」
帰り着いた空港は、大変な騒ぎとなっていた。
そう、日本に帰ってくると、アタシらはちょっとした有名人になっていた。
ファンが押し寄せ、テレビのリポーターもやって来ていた。
P「どうしようか、空港に連絡して裏口からでも」
亜子「なに言うてんの」
P「え?」
109 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:32:45.53 ID:ZnT9OyOd0
亜子「ちゃんとアイサツして、そんでお礼言わんと」
P「……」
泉「うん、こんなに喜んでもらえてるんなら」
さくら「ごあいさつしたいな」
P「わかった。じゃあ、行こうか」
若干、揉みくちゃにされながら、アタシらはファンに手を振り、笑顔でお礼を言いながら空港を出た。
翌日には、かな子ちゃんも加えてテレビの朝の情報番組にも急遽出演することとなった。
そう。Pちゃんはやってくれた。
まだアタシらはトップアイドルにはなってへんけど、決意とやる気だけのアタシらを、ちゃんとアイドルにしてくれた。
きっとこれからも、そうなんやろう。
どこへ向かって、どう行けばエエんかをPちゃんが教えてくれる。
そうすれば、アタシらはずっと4人一緒にいられる。
もう、漠然とした不安はない。
Pちゃんは見事に、アタシらの不安を消し去ってくれた。
次は――
亜子「アタシの番やで」
110 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:33:26.62 ID:ZnT9OyOd0
P「祝勝会?」
亜子「せや。まあ、ご苦労さん会でも初ライブ成功記念会でもなんでもエエんやけど、ささやかなお祝いをしよう思てな」
P「それだけ?」
亜子「わかってる、て。初ライブ成功のゴホウビも兼ねてやから」
P「覚えいてくれて嬉しいよ。でも、どこで?」
亜子「場所はアタシに心当たりがあるから任しとき。ほな、明日の夜は予定開けといてな」
P「わかった」
111 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:34:54.90 ID:ZnT9OyOd0
〜翌日 シンデレラガールズ女子寮〜
P「え? 寮でやるんじゃないんだ」
さくら「プロデューサーさんは、寮に長居はできないでしょぉ?」
P「まあ、他のアイドルや候補生も大勢いるからね」
泉「気を使わなくていいように、お店をとってあるから」
P「え? 外なの?」
さくら「心配しなくてもぉ、アコちゃんは先に行って料理にとりかかってるから」
泉「お店の厨房、使わせてもらってるんだって」
P「なるほど。じゃあ、行こう」
112 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:36:45.93 ID:ZnT9OyOd0
〜都内アイスランド料理店 エイヤフィヤトラヨークトル〜
P「え? ここって……」
さくら「前に三村かな子ちゃんと、かな子ちゃんのプロデューサーさんに連れてきてもらったんでぇす」
泉「私たち、東京で知ってるお店ってここだけだから」
P「そ、そうか。そうだよね」
亜子「お、来たなPちゃん。ほな、揚げようかな」
P「お願い。いやー、この日がくるのを一日千秋の思いで待ってた」
亜子「このアタシがPちゃんの為に、腕によりをかけたからな。待っててや」
さくら「楽しみだねぇ」
泉「亜子のコロッケは、私たちも久しぶりだよね。中二の夏以来?」
さくら「うん、そうじゃなかったかなぁ。ほら、特売でひと駕籠200円のジャガイモを売ってた時の」
泉「確かに。玉ねぎも安かったから、一緒に買った記憶がある」
亜子「揚がったで! さあさあ、冷めへんうちに食べような」
さくら「……あれぇ?」
泉「亜子?」
113 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:37:33.37 ID:ZnT9OyOd0
亜子「ほらほら、Pちゃんの為に作ったんやで? 食べてみて」
P「これ……いただきます」
亜子「どや?」
P「このコロッケ……」
亜子「……」
P「お母さんのコロッケの味がする……」
亜子「あはは、やっぱわかるんやな。Pちゃん」
P「これ、土屋さんが作ったんじゃないの!?」
亜子「約束通り、ちゃんとアタシが作ったで。材料のジャガイモかて、わざわざ三島から持ってきたんやから」
P「でもこれ……お母さんのコロッケだ……お母さんのコロッケの味だ……」
亜子「思い出したやろ? Pちゃんのお母さん、ちゃんとコロッケ作ってくれてたんやんか」
P「うん。確かに……思い出した。家で食べたっけ、このコロッケ」
114 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:38:25.18 ID:ZnT9OyOd0
泉「得心した。なるほど、亜子のコロッケじやないとは思った」
さくら「アコちゃんのは、小判型してるコロッケだもんねぇ」
P「え? すると、この俵型のコロッケは……」
亜子「Pちゃんのお母さんに聞いたんや。お母さんの作り方を。な! お母さん」
女性P「教えただけで、この再現度は見事なものだ」
P「……お母さん」
115 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:38:57.41 ID:ZnT9OyOd0
女性P「その、私は……」
P「ごめんなさい」
女性P「謝ることなど、なにもない」
P「お父さんにも……」
女性P「社ちょ……あの人も後で来る」
P「良かった。プロデュースというものをやってみて初めて、お2人の……お父さんとお母さんの苦労と仕事に対する熱意が理解できたよ」
女性P「すまなかった」
P「ううん。でも、もうひとつわかったこともある」
女性P「言わなくてもわかっている。アイドルのプロデュースは楽しい……だろう?」
P「さすが、僕のお母さんだ」
2人は抱き合っていた。
わだかまりのあったPちゃんとご両親が和解したのは、あきらかやった。
アタシは心底、良かったと思った。
116 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:39:37.06 ID:ZnT9OyOd0
泉「初ライブが成功したら、ご両親も一緒にお祝いしたいって言ってたのはこういうわけだったんだね」
亜子「Pちゃんは、アタシらそれぞれの家庭の事情を解決してくれたやんか。ほんなら、アタシらもPちゃんの家庭の問題を解決してあげんとな」
さくら「うん! ずっと4人でいっしょだもんねぇ」
亜子「そういうこと。これからもずっと、4人で仲良うやっていこうな」
泉「ふふっ。今、私たちの家庭の事情÷(アイドルとしてのスタート÷未来への期待)がゼロを超えました!」
亜子「あはは、いずみらしいな。さあさあPちゃん、お母さん直伝だけやのうて、アタシ本来の作り方のコロッケもあるねんけどな?」
P「あ、食べたい! 食べます!!」
女性P「私もご相伴にあずかりたいな」
117 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:40:11.32 ID:ZnT9OyOd0
この後、気を利かせた社長さん……いや、Pちゃんのお父さんがかな子ちゃんも連れてきてくれ、アタシら7人はアメリカツアーの成功をコロッケで締めくくった。
ちょっと酔っ払ったPちゃんのお父さんは、プロデューサーの心得なるものを大声でPちゃんに説きはじめ、Pちゃんは真剣な顔でそれを聞き、Pちゃんのお母さんは笑いをかみ殺していた。
かな子「あんなプロデューサーさんを見るの、初めてかも」
亜子「まあ……あれは、家庭での顔なんやと思いますけど」
かな子「うん。でも、それが見られたお陰で私もホッとしたよ」
亜子「はい」
かな子「コロッケも美味しかったし」
亜子「ありがとうございます」
118 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:40:52.35 ID:ZnT9OyOd0
2日後。
日常生活に戻ったアタシらは、一躍学校の有名人となっていた。
遠巻きに熱い眼差しを受け、クラスでは全員に囲まれてアメリカでのことをあれこれと聞かれ、下級生からサインを求められる。
亜子「やっぱりスゴイな。アイドルになる、いうんは」
泉「なんだかずっと見られてて落ち着かないけど、応援してくれてるんだと思うと嬉しいよね」
さくら「CDとかいつ発売になるの、っていっぱい聞かれたよぉ」
まあでも、ここまではいずみやさくらをアイドルにしよ、思ってから思い描いていた光景やった。
アイドルになったらきっと、学校中の注目を浴びるで! て。
そう。これは思い描いてた、想定していた光景やったけど、そこに意外な副次効果の光景が発生した。
女生徒1「P君、私もアイドルになれないかな?」
女生徒2「ちょっと私の歌とダンスを見てくれない?」
女生徒3「P君は、もう誰かとつきあってるの……?」
亜子「ぐうううぅ〜! なんやのん、あれ!! Pちゃんもヘラヘラしてなんやのん!!!」
泉「プロデューサーは別に、ヘラヘラはしていない」
さくら「むしろ、困ってないかなぁ……あ、こっち来たよ」
119 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:45:19.37 ID:ZnT9OyOd0
P「いやあ、まいった。みんな僕のことを、アイドルの窓口みたいに思ってるみたいだ」
亜子「……ふうん、そうですか!」
P「え? あれ? もしかして怒ってる?」
亜子「怒ってへん!!」
P「なにかあった?」
泉「悋気」
P「え!?」
さくら「アコちゃんのご機嫌、プロデューサーさんがなおしてくださぁい」
P「えっと、そう言われても……あ、そうそう。今日なんだけど、学校終わったらウチに来ない?」
泉「プロデューサーの家?」
P「うん、土屋さんが見たいって言ってたDVDを、みんなで一緒に見ようかと」
亜子「へ? アタシ、そんなこと言うたかな?」
P「ほら、プラン9・フロム・アウタースペース」
120 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:46:15.50 ID:ZnT9OyOd0
頭の端っこに引っかかってた記憶が、ようやく思い出させてくれる。
アレか、史上最低の映画監督とかいう人の映画やっけ。
史上最低の映画監督の映画ということは、史上最低の映画ということになるんやろうし、まあその映画に興味ないことはないんやけど、それに加えてPちゃん家かあ……アンタ、どないなトコに住んでんの?
P「どう……かな、お菓子とか飲み物も用意するけど」
亜子「Pちゃんのオゴリなんやな? ほな、行こうやいずみ、さくら」
さくら「わぁい! ただで映画!」
泉「映画……どんな内容? ジャンルは? 私、興味をひかれなくて、暗くて、音楽が流れていると意識蒙昧になることが……」
P「内容は、ない」
泉「え?」
P「あってないようなものと言うか、ストーリーは気にしなくていいというか、気にする必要がないというか」
泉「え? え? え?」
亜子「あはは。いずみ、こら見てみんとアカンな」
泉「そうだね。興味わいてきた」
さくら「じやあ、放課後ね」
P「うん」
121 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:46:48.53 ID:ZnT9OyOd0
亜子「ちゃんとキレイにしてあるんやろな? 女の子が3人も来るんやから」
P「特に君が、ね」
綺譚のない返事と笑顔に、こっちの顔が赤くなる。
もう、ホンマにデリカシーがないなPちゃんは。
いやでも、これもPちゃんのエエとこなんやろな。
122 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:47:23.52 ID:ZnT9OyOd0
〜放課後〜
泉「ワンルームなんだ。あんまり物はないんだね」
亜子「いやいや、確かPちゃんが言うてたけど……ほら」
アタシがクローゼットを開けると、中からガラガラとDVDが崩れ出てくる。
P「あ、いや、これはまあ」
亜子「ホンマやったんやな。DVDが山のようにある、いうんは」
さくら「えへへ」
亜子「なんや? さくら」
さくら「ごちそうさまでしたぁ」
亜子「え?」
泉「私たちの知らない情報を、亜子がちゃんと知っているという事への安堵と驚嘆と軽い揶揄」
亜子「た、たまたまや。たまたま!」
P「ま、まあとりあえず見ようか。プラン9・フロム・アウタースペース」
誤魔化すように、PちゃんはDVDをデッキに入れる。
123 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:48:09.77 ID:ZnT9OyOd0
P「これ、デジタルリマスターされた総天然色版なんだ」
ということは、元々はシロクロの映画なんかいな。
そして始まった鑑賞会。
この史上最低の映画監督作成の史上最低の映画に、1番食いついてきたのはなんと意外にもいずみやった。
泉「待って、このシーンさっきも見なかった?」
P「実はこのドラキュラ役のベラ・ルゴシ、この映画の撮影が始まってからすぐに亡くなってしまった」
泉「え?」
P「なので彼の出るシーンは、同じカットの使い回しなんだ」
泉「え? え?」
P「ほら、彼が出てるシーンのバックで白い車が通るのがわると思うけど、これ彼の出てるシーンでは毎回必ず通るんだ。使い回しだから」
泉「え? え? え?」
亜子「ホンマや! あはははは」
さくら「あ、またドラキュラさんの出番。じゃあ後ろに白い車が……」
亜子「はい、通ったー。あはははははは」
124 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:49:03.54 ID:ZnT9OyOd0
泉「このUFO……なんていうか……」
P「これ、タイヤのホイールを使って撮影してるんだ」
亜子「それはエエけど、吊ってる糸が見えてるやないの!」
さくら「見えてるねぇ。あはは」
泉「……プロデューサー、聞いていい?」
P「なに?」
泉「タイヤのホイールをUFOとして撮影しているのは、いい。そういう予算や都合なんだと思う」
P「確かにこの映画は資金繰りが難航した、低予算映画だよ」
泉「でもさっきの登場人物、そのUFOを見て『葉巻型でした』って言ってたよね!?」
P「言ってたね」
125 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:49:34.32 ID:ZnT9OyOd0
泉「あと、なぜこのゾンビに襲われている人たち、直立不動で逃げもしないで『うわー』とか言いながら首を囓られてるの!?」
P「実に当然の指摘で確かに不思議だけど、僕もその疑問に対する答えを持っていない」
泉「それも何度も何度も!!」
P「……なぜだろうか」
126 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:50:08.15 ID:ZnT9OyOd0
泉「それで結局、太陽爆弾ってなんのことなの!?」
さくら「えっとぉ」
亜子「ガソリン缶……やったかな?」
P「そうだね」
泉「おかしいでしょう!!!」
不条理とはまた違う、理屈ではない目の前で繰り広げられる物語にいずみは今まで見たことないようなボルテージで食いついていた。
小学5年生の時に音楽の自習授業で見たアマデウスという映画の時は、あんなに眠そうにしてたのになあ。
けどいずみも、別に怒っているわけやない。
そしてアタシらも、いずみと共に首を捻り、頭を捻り、そして笑っていた。
127 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:50:48.37 ID:ZnT9OyOd0
泉「あのラストシーン、いくら考えても納得がいかない」
さくら「宇宙人の王様さんのお話、ピーンってなって聞いてておかしかったねぇ」
帰り道、アタシらはまだ笑いながらさっきの史上最低の映画の話をしていた。
Pちゃんも駅まで送りに来てくれている。
亜子「あれ? その紙袋はなんやのん、いずみ」
泉「これ? プロデューサーに借りた。さっきの映画」
亜子「そないに気に入ったんかいな」
泉「再検証を兼ねて、弟と見てみるつもり」
128 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:51:27.80 ID:ZnT9OyOd0
さくら「おもしろい映画だもんねぇ」
P「うん。最低ではあるけど味のある映画という認識だったんだけど、みんなでワイワイいいながら見るとこんなに楽しい映画なんだと初めて知った」
さくら「またやってほしいでぇす。映画鑑賞会」
泉「うん。プロデューサーなら面白い映画、たくさん持ってそう」
P「いいよ。僕も楽しみだ」
亜子「ふーん」
P「え? なに?」
亜子「映画は独りの時間を過ごすのにエエ娯楽なんやなかったんかいな」
P「それは3人に出会う前の話だから」
亜子「そっか。うん、せやな」
129 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:52:20.24 ID:ZnT9OyOd0
いずみもさくらも、こんな楽しそうにしてくれるなら、映画も悪ないな。
いや、なにより4人で一緒に楽しめるんは、確かにエエ娯楽や」
P「どうかな。前はあんまり見ないって言ってたけど、土屋さんも映画が好きになってくれたかな?」
聞かんでもわかりそうなことを、Pちゃんが聞いてくる。
当たり前やんか。
でもそこでアタシは、あの日Pちゃんに告白された時の事を思い出していた。
P「土屋さん、好きです。僕とつきあってください!」
あの時アタシは、それどころやないと断った。
けど、あの時とは違う。
アタシは……いや、アタシも今は――
130 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:52:52.65 ID:ZnT9OyOd0
亜子「あんな、今では……な」
P「なに?」
ちょっと笑ってから、アタシは口を開いた。
亜子「アタシも大好きやで、Pちゃん」
見れば、いずみとさくらが笑ってる。
嬉しそうに。
P「それって……」
亜子「さ、帰ろうや! いずみ、さくら」
アタシは両手で2人の手を握り、Pちゃんのに背を向けて走り出した。
真っ赤な顔を、Pちゃんに見られないように。
お わ り
131 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 12:54:47.27 ID:ZnT9OyOd0
以上で終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。
土屋亜子ちゃんは、モバマス登場時から可愛く、明るく、楽しい娘で大好きな娘です。
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/01/31(日) 14:36:35.32 ID:1Gu568HDO
乙
あのZ級映画を持ってくるとか……
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/01/31(日) 14:39:48.63 ID:YLFAkbYnO
乙
このPちゃんはこの後デビルマンとか見せにきそうだW
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