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土屋亜子「アタシも大好きやで、Pちゃん」
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1 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:17:49.14 ID:ZnT9OyOd0
P「土屋さん、好きです。僕とつきあってください!」
この男の子、後にPちゃんとアタシも呼ぶようになる、一週間前クラスに転校してきた男の子が、その日いきなりアタシに告白してきた。
後ろではさくらが「うわあ」とか言ってるし、いずみが男の子とアタシの反応を分析しようと凝視しているのがわかる。
いや、2人だけやない。道行く学生もヒソヒソと話しながら、こちらに視線を向けているのがわかる。
なんちゅうデリカシーのなさ!
普通こういうのって、2人きりの時するもんちゃうの?
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1612055868
2 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:19:44.88 ID:ZnT9OyOd0
https://i.imgur.com/lBdyya0.jpg
https://i.imgur.com/fq7QDtq.jpg
土屋亜子(15)
https://i.imgur.com/8veJd20.jpg
村松さくら(15) 土屋亜子(15) 大石泉(15)
https://i.imgur.com/sAmUKGg.jpg
https://i.imgur.com/o5g8dtc.jpg
3 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:21:40.72 ID:ZnT9OyOd0
亜子「おあいにくさまやけどな、アタシそういうの興味ないから」
P「そういうの、って?」
亜子「レンアイとかな、おつきあいゆうん、アタシ興味ないねん。それどこやないねんから」
P「それってつまり……」
亜子「なんやの?」
P「別に今、誰ともおつきあいしてないってことだよね?」
亜子「は?」
4 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:22:38.38 ID:ZnT9OyOd0
P「もう誰かとつきあってたらどうしようと思ってたけど、良かった。安心した」
亜子「いや……そうやないのよ。アタシは別に誰ともつきあわへん言うてんの!」
P「それは一生?」
亜子「はあ?」
P「一生、誰ともつきあわずに、結婚もしないの?」
亜子「そんなわけあらへんやろ! そりゃアタシだっていつかは……」
P「なら僕にも可能性はあるんじゃないかな」
亜子「んーそれはそうや……いや、そんなわけないやん!!」
P「どうして?」
亜子「どうして、て……あ、あんな、アタシはアホな人は嫌いやねん」
P「なるほど」
亜子「なるほど……て、アンタはアホやろ」
P「なんで?」
5 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:23:26.00 ID:ZnT9OyOd0
亜子「こないデリカシーのない男の子が、頭いいはずあらへんやんか!」
P「デリカシーと知性に関連性はない。むしろ、天才と呼ばれるような人物は往々にして常識の外にいると歴史も示唆している」
後ろでいずみが大きく頷いてるのがわかる。いずみ、アンタどっちの味方やの? さくらは相変わらず嬉しそうにしているし。
P「わかった。じゃあこうしよう。来週の定期テスト、そこで僕がアホではないことを証明する」
亜子「はあ?」
P「アホなら成績でトップを取ることはできないから、逆説的にトップを取れば僕はアホではないことになる」
亜子「はああ?」
P「見ていて、土屋さん。君のために、トップをとってみせる」
亜子「はああああ?」
6 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:24:37.45 ID:ZnT9OyOd0
亜子「待った、さくら。なんも言わんでエエから。いずみも」
村松さくら「アコちゃんすごいねえ、良かったねえ」
亜子「エエことあるかいな! もう、恥ずかしい」
大石泉「まさか登校中に往来で告白されるとは思わなかったよね。でも、デリカシー云々というより、彼も必死だったんじゃないかな」
亜子「いずみまで、そないなこと言わんといて!」
さくら「それでぇ? どうするの? アコちゃん」
亜子「どうするて?」
泉「つきあってあげるの? 彼と」
亜子「いやアタシ、断ったやんか」
泉「え?」
さくら「断った……かなあ」
7 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:25:49.04 ID:ZnT9OyOd0
亜子「おつきあいなんかせえへん、言うたやろ?」
さくら「言ってたかな、イズミン?」
泉「言ってない」
亜子「え?」
泉「恋愛やおつきあいに興味ないって、亜子は言った。断ってはいない」
亜子「誰ともつきあわへん、とも言うたやろ?」
泉「それについて、彼は論駁した。一生誰ともつきあわないのか、と。亜子はそれについて、そうではないと認めた」
亜子「いずみ、アンタどっちの味方やの!?」
泉「私はもちろん、亜子の味方だよ」
亜子「ならなんでアッチの肩を持つのん!」
8 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:28:31.66 ID:ZnT9OyOd0
泉「大切で大好きな親友が、異性からも魅力的であると認められ、それに対し勇気ある行動までとらせたことは単純に嬉しい」
亜子「え?」
さくら「わたしも! アコちゃんが可愛くてステキだって言われたみたいで嬉しいよぉ?」
なるほど、この幼なじみで親友の2人が彼に対して好意的なのは、そういうことか。
せやけど……まあ、確かに男の子から告白されるいうんは、恥ずかしいけどマンザラでもない。
いやまあ、ちょっとは嬉しい……かな。
泉「ともあれ、亜子は少し考えておいた方がいいと思う」
亜子「へ? なにを?」
さくら「さっきの彼がぁ、本当に成績トップをとったらどうするの?」
亜子「いや、そんなことはあらへんやろ。クラスでトップ言うたら、アタシかてそこそこの成績とるし、いずみかておるんやで」
泉「可能性は0じゃないよ。もしそうなった時に、どうするのかってこと」
亜子「いやいやいや、ありえへんて。クラスでトップなんて」
9 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:29:48.48 ID:ZnT9OyOd0
〜2週間後〜
泉「トップ……とっちゃってるね。彼」
さくら「それもクラスでじゃなくて、学年トップだよぉ?」
掲示板に張られた今期テストの成績上位者を見て、アタシたちは驚いた。
件の彼は、ほぼ満点で学年首位という結果やった。
アタシといずみの得意な数学でさえ、彼はいずみと並んで満点であった。
P「土屋さーん!」
ギクッとアタシはなる。
泉が示唆したこういう事態を、アタシは今の今まで想定していなかった。
P「見てくれた? 成績、トップだったよ」
亜子「あ、あああ、せ、そ、そうみたいやね」
P「これで僕と、つきあってもらえるかな?」
10 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:30:29.60 ID:ZnT9OyOd0
亜子「あ、あの……」
P「どうかな?」
亜子「あ、あた、アタシは……」
P「え?」
亜子「ナンボ頭いい言うたかて、頭デッカチは好きやないねん。むしろ、スポーツとか得意な方が……」
P「なるほど」
亜子「だ、だからやな、つまりその……」
P「わかった。証明するよ、スポーツが得意なこと」
亜子「へ?」
11 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:31:39.32 ID:ZnT9OyOd0
泉「悪手」
亜子「言いたいことはわかるけど、言わんといて……」
さくら「あくしゅ? 握手?」
泉「断るにしても、ああいうのは良くないよ」
亜子「反省してます、て。成績、あんなエエなんて思わへんかったから、つい口から……」
さくら「これでぇ、またスポーツで成績を残したりして」
亜子「やめて、さくら。言わんといて」
泉「覚悟は決めておいた方がいいよ、亜子」
亜子「お、脅かさんといてやいずみ……」
12 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:32:38.90 ID:ZnT9OyOd0
その彼が、実際に1ヶ月後にはテニスで全国中学生大会に出場し、全国優勝をしてしまったことにアタシは呆然とした。
いや――実を言うと、いずみやさくらにナイショで全中のテレビ中継を見て、不覚にもアタシはときめいてしまった。
なんや、かっこエエやんか。
準決勝でのピンチ、アタシは思わず声を出して応援をしてた。
お母さんがビックリしてアタシの方を見たため、慌ててテレビを消したけど、後で無事に勝ったことを知り、自分でも不思議なほどホッとした。
そしてPちゃんは、全中から静岡に帰ってくるとその足でアタシの家にやって来た。ユニフォーム姿に、手には優勝のトロフィーを持って。
満面の笑顔に、どういう仕組みなのか歯まで光ってる。
キザやな。
アタシはちょっと笑ってしまった。
しかしやっぱりPちゃんにはデリカシーがないので、その堂々とした、そしてわかりやすい姿での登場に、ウチの周囲には人だかりができてしまってた。
「全中テニスで優勝したP君だってよ」「テレビに出てたあの子よね!?」「無名の新人が無名の公立中から全国優勝って新聞でも見たわ」「学校の成績もすごいんでしょ?」
ウチの前に大勢の人が集まる。
そして同じ団地に住んでいるので、いずみとさくらもやってきた。
13 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:34:33.77 ID:ZnT9OyOd0
P「君のために取ってきたんだ」
トロフィーを手渡され、アタシは真っ赤になってもうた。
ホンマこのPちゃんは、デリカシーがない。遠慮も忌憚もてらいもない。
しかしアタシもアタシで、ついトロフィーを受け取ってしまう。
そして実際に、アタシの為に彼が取ってきてくれたその証を手にして、普段ならここで「このトロフィー、ナンボやろ?」と皮算用を始めるであろうアタシでさえも、単純につい嬉しくなってしまう。
P「それでどう? これで、つきあってくれるかな? 僕と」
Pちゃんの言葉に、人だかりの顔が一斉にアタシを見る。
こんなマンガやドラマみたいなこと、アタシ恥ずかしい、て。
それでついつい、アタシはまた言ってしまった。
14 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:35:21.84 ID:ZnT9OyOd0
亜子「……や」
P「え?」
亜子「男はな、成績でもスポーツでもない、お金や! 経済力や!!」
P「なるほど」
Pちゃんはまたいつもの、確信と決意を込めた目でアタシを見ていた。
15 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:35:57.17 ID:ZnT9OyOd0
泉「亜子」
亜子「反省してます……」
さくら「かわいそうだよぉ」
亜子「それはホンマ、アタシも悪いと思ってるて……」
泉「まあ3度目にしてようやく、亜子が本心をさらした事には、一定の評価をするけど」
亜子「え?」
さくら「お金は、大事だもんねぇ」
2人の言葉に、アタシは嘆息する。
そう、経済的事情は、アタシたち共通の認識でありまた、最大の不安と問題であった。
16 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:37:17.16 ID:ZnT9OyOd0
アタシたち3人は、お互いが最初の友達で、幼なじみで、ご近所さんやった。
おない歳の、気の合う、それでいて質の違うアタシたちは、親友と自他共に認める間柄だ。いや、親友を越えて家族にも等しい心情を持っている。
だが同時にアタシたちは、それぞれの家庭の問題も抱えている。
アタシは母子家庭であり、家計は苦しく母親は仕事で家を空けることが多い為に家事もほとんどアタシがやっている。高校生になりアルバイトができるようになれば、家事に加えそれによって家計を助ける気満々でいる。
いずみは病気の弟がおり、その治療でやはり色々と大変であり、転地療養の話もある。加えていずみ本人が成績優秀であるため、補助のある海外留学の誘いがある。補助が受けられれば、いずみの家庭はいずみの弟にかかる諸々の経費が軽減できる。
さくらは両親の両親、つまり彼女の祖父母達とはなれているため、なるべく会う機会を増やそうと高校生になったらアタシ同様アルバイトで移動費を得るつもりでいる。しかしこの天然無垢な彼女をアタシやいずみが心配なように、さくら本人も自身に果たして世間で働くということができるのかという不安を持っている。
要するに、進学をして高校生になればアタシたちはバイトや留学でバラバラになってしまうのではないかという漠然とした不安を抱えている。今までのように、いつも一緒ではいられなくなるのではないだろうか……?
漠然とした不安というものは、時として厳然たる現実よりも始末が悪い。具体的な対処方法や回避案がないのやから。
17 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:39:09.96 ID:ZnT9OyOd0
亜子「な、高校も3人、おんなじトコ行こうな」
泉「うん。約束だよ」
さくら「わぁい。高校でもみんな、いっしょだね」
中学3年になり、アタシらはそう誓い合った。あれからまだ数ヶ月しか経っていないが、現実はその誓いにも暗い影を確実に落としている。
そう、お金だ。お金さえあれば、アタシは家計を助け、いずみは弟を心配しつつの海外留学などをしなくてよく、さくらも穏やかに高校生活をおくれるだろう。
なんとか、お金を得る方法はないものやろうか……アルバイトとかではなく、3人が一緒にいられ、それでいて儲けられるというもんは……
18 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:40:31.48 ID:ZnT9OyOd0
さくら「アコちゃん、あったよ洗剤。広告の12%引きっていうの」
亜子「ありがとうな、さくら。よし、これで買い物バッチリや。せやろ? いずみ」
泉「今、計算してる……うん、1998円。予算内だよ」
亜子「ご合算やな。それじゃこれ、お願いします」
店員「はい……合計で1998円になります。……はい、2千円からお預かりいたしまして、お釣りは2円になります。あ、それとこちら、福引き券となっております」
泉「福引き券?」
店員「はい、千円お買い上げ毎に1枚ついてきておりまして、あちらで引くことができますので」
さくら「わあ、やったねアコちゃん」
亜子「どれどれ……おっ! 1等は稲取温泉の宿泊券やて!!」
泉「でも1名様分みたいだよ。交通費だってかかるし」
亜子「いやいや、宿泊券を売ったら儲かるやんか」
19 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:41:21.76 ID:ZnT9OyOd0
さくら「2等は……ぶつぞう?」
泉「もらって嬉しいかな? 仏像」
亜子「しかもけっこう大きいなあ。これ、売れるかな?」
泉「なんでもかんでも売ろうって考えないでよ。あ、3等……」
さくら「わあ。図書券1万円分だってぇ」
亜子「……いずみ、欲しい?」
泉「え?」
亜子「あれだけあったら、欲しい本買える?」
泉「……それより4等の」
亜子「アカンか」
泉「……足しにはなるけどね。でも、もし当たっても私もお金に換えちゃうかな」
さくら「お金は……大事だもんねぇ」
20 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:42:17.66 ID:ZnT9OyOd0
亜子「よっしゃ! ほんならやっぱり、狙うは1等や。稲取温泉の宿泊券を換金して、いずみの本を買うたるわ!!」
さくら「仏像さんも、お願いしまぁす」
泉「欲しいの!?」
さくせ「綺麗なお顔でぇ、ピカピカなんだもん」
亜子「ようわからんけどわかったから任しとき! 南無八幡大菩薩……どやあっ!?」グルグル
カランカラン♪
店員「おめでとうございまーす」
亜子「こ、この黄色い玉! 黄色は何等なん!? 何が当たったん!!」
21 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:43:03.29 ID:ZnT9OyOd0
店員「黄色は6等、カラオケボックス青波の2時間無料券+ドリンク飲み放題券です」
亜子「あらら……」
泉「ふふっ、まあそううまくはいかないよね」
亜子「くうう〜こないなことなら、もう2円分なんか買うて2回引くべきやったかぁ……」
さくら「アコちゃん元気だしてよぉ。ね、この無料券でカラオケ行ってみようよ」
泉「うん。そうしようよ、亜子」
亜子「まあ……せやな、過ぎたこと悔やんでもしょうがないもんなあ。よし、行こうやカラオケボックス」
22 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:44:41.61 ID:ZnT9OyOd0
さくら「わたし、カラオケボックスって初めてなんだぁ」
泉「私も。えっと、このタブレットで歌いたい歌を選ぶんだ……なるほど。そしてここで音程の調整とかもできて……なるほど」
亜子「アタシも初めてなんよ。あ、注文もここからて店員さん言うてはったで」
泉「うん。ドリンクは無料なんだよね。なに飲む?」
亜子「なにがあるん? アタシなるたけ高いの!」
さくら「飲み放題なんだから、どれでも同じでしょぉ?」
泉「前に、野菜ジュースが1番コスパというか、原価率が高いって聞いた事があるけど」
亜子「ほな、それ!」
泉「本当に? さくらは?」
さくら「わたし、ピーチジュース」
23 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:50:08.08 ID:ZnT9OyOd0
泉「うん。私はカフェラテにしようかな。歌は……」ピピッ
さくら「うわぁ。虹を見たか、だね」
亜子「へえ。意外やな」
泉「ちょっといいかなって、思ってて。でも歌詞よくわからないけど」
さくら「じゃあ、わたしも一緒に歌おうっと」
泉「夢をみたか夢を♪ 消えない夢を♪
涙より冷たい雨の♪ その後で♪」
さくら「綺麗な七色♪ 重ねすぎた灰色の空♪
君は見たか♪ 虹を、消えない虹を♪」
24 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:51:04.60 ID:ZnT9OyOd0
亜子「……2人とも、上手いな」
泉「そう?」
さくら「ありがとうアコちゃん」
亜子「……!」
さくら「?」
亜子「ふひひ」
泉「……」
25 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:51:49.44 ID:ZnT9OyOd0
泉「さっき笑ってたのはなに?」
さすがというか、付き合いの長いいずみがカラオケ終わりの帰り道、アタシに聞いてくる。
いや、さくらも黙ってアタシを見ているあたり、何かは感づいているようだ。
亜子「エエこと思いついたんよ。アタシらがずっといっしょにいられる、アイデアを」
さくら「それってなぁに?」
亜子「まだナイショや。ま、ちょっと期待してエエから」
泉「亜子」
亜子「え?」
泉「私は亜子を信頼している」
亜子「な、なんやのん急に」
26 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:53:15.95 ID:ZnT9OyOd0
泉「亜子の思いつきや計画を、実際に数字にして補完するのが私の役割だと思ってる。だから、早めに教えて欲しい」
なるほど。いつだってそうだった。なにかを発案し「やろ!」言うんはアタシ、それを計算して足らない部分を補ってくれるのがいずみ、そしてそれを応援してくれるのがさくらというのがアタシたち流やった。
亜子「わかってるて。でもな、いずみやさくらに聞かせるにはまだ、準備が必要やねん」
泉「わかった。待ってる」
さくら「楽しみだねぇ、イズミン」
そう、思いつきはした。しかしまだ、それを具体的にどうすればいいのかを、アタシは調べなくてはならない。2人に相談するのは、それからや。
と、その時はそう思っていたのが、アタシの計画は早々に軌道修正を迫られることになる。
その原因はやっぱり、Pちゃんやった。
27 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:55:08.92 ID:ZnT9OyOd0
あの中インハイ帰りにウチに来て以来、Pちゃんはおとなしかった。
クラスで会うても、挨拶ぐらいしかしない。
この人、ホンマにアタシのこと好きなんかいな? ちょっとそう思わへんこともなかったし、なんやこう胸がチリチリとしたのは確かやったけど、思い返してみるとこのPちゃんはずっとこうやった。
テストでトップになると言い、実際にトップになるまではアタシに何も言わへんかったし、全中で優勝するまでの1ヶ月もほとんど口もきかへんかった。
どうも彼は、アタシに大見得を切ったらその結果を出すまではアプローチはせえへんということらしい。
亜子「律儀やな……そんなん気にせえへんかてエエのに」
泉「なにが?」
亜子「へ?」
さくら「りちぎ、ってなんのことぉ?」
アタシの部屋で3人で宿題をしつつ、アタシはそんなことを考えていたものだから、いずみとさくらに不審がられた。
28 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:55:59.72 ID:ZnT9OyOd0
亜子「あ、や、な、なんでもあらへんから」
泉「もしかして、彼のこと?」
亜子「ちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃうで!?」
さくら「違うのぉ?」
これはアカン。いずみは観察力と推理力に長けてるし、さくらは意外とカンが鋭い。
2人の前で余計な話はできへん!
亜子「そ、それよりな、こないだの件やねんけど」
泉「この間……もしかして、私たちがずっといっしょにいられるアイデアって亜子が言っていた、あの話?」
29 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:56:48.64 ID:ZnT9OyOd0
亜子「せやせや。あんな、いずみもさくらも歌うまかったやんか」
さくら「そぉかなあ。普通だと思うけど」
亜子「いや、ちょっとすごいな、て思ってんで。それに……」
なぜだかアタシは、そこで少し小声になった。
亜子「いずみは美人やし、さくらは可愛いやんか」
泉「亜子だってそうだと思うよ」
さくら「うん」
亜子「ありがとうな。でも今はアタシはエエねん。2人がアイドルなったらどないか、て思ってんよ」
泉「え?」
さくら「アイドルぅ?」
亜子「アイドルとして活動したら、お金は儲かるし、一緒に活動するなら3人いつも一緒にいられるやろ?」
30 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:57:35.90 ID:ZnT9OyOd0
泉「待って。そんなアイドルとか、私にできると思う?」
亜子「さっきも言うたやろ? いずみもさくらも、美人で可愛いし歌かて上手い。大丈夫やて」
さくら「アイドル……わたし、やってみたい」
亜子「ほら、さくらは乗り気やで。いずみかて、イヤいうわけやないんやろ?」
泉「考えたことなかったから想像できないけど、確かに興味はある。素敵な提案だとは思う。成功すれば、私たちはずっと一緒にいられる。でも待って」
亜子「え?」
泉「私とさくらのことばっかり言ってるけど、亜子は? このプランのどこに亜子はいるの?」
亜子「アタシはプロデューサーや」
さくら「ぷろでゅーさー……?」
亜子「せや。アイドルいうんは、それをどう売り出すか考えたり、売り込んだりする人が必要やねん。それをアタシがやんねん。そういうのアタシ得意やんか」
31 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 10:58:32.50 ID:ZnT9OyOd0
さくら「3人でアイドルをやるんじゃないのぉ?」
亜子「アタシはほら、その……な?」
泉「なに? はっきり言ってよ。亜子らしくない」
亜子「アタシは泉みたいに美人やないし、さくらみたいに可愛くないし」
泉「そんなことない」
さくら「そうだよぉ!」
亜子「メガネやし」
泉「メガネをかけてるアイドルだって、たくさんいるよ」
亜子「あと、歌も上手ないし……」
さくら「いっしょに歌えばだいじょうぶだよぉ」
32 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2021/01/31(日) 11:00:49.53 ID:ZnT9OyOd0
亜子「と、ともかくや、アイドルいうんをちゃんと理解せんとな。宿題も片づいたし、確かそろそろ歌番組が……」
アタシがテレビをつけると、そこには意外な人物が映っていた。
アナウンサー「今日は中学生で起業し、既に年収250万円が見込まれるという学生実業家のP君にお話をうかがいます。よろしくお願いします、P君」
亜子「へ?」
P「どうも」
さくら「あれぇ?」
泉「中学生で起業……って、もしかして……」
いや確かにアタシも言うたで? 男は経済力、て。
けどそれをそのまんま受け取って、起業までする人がどこにおるん!?
……いや、せやった。Pちゃんはこういう人やった。
アタシは甘かった。
せいぜい、アルバイトをこっそりやっておごってくれるとかそういうことをしてくるんじゃないかと思っていたけど、さすがにPちゃんはスケールが違った。
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