男「サラリーマンとは、闘い也!」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:52:07.95 ID:ic0sodUd0
< 自宅 >

ジリリリリ……!

男「起床ッ!」バッ



起床とは、闘い也!

布団をすみやかに脱出し、目覚めから0.15秒未満で直立すべし!

夢への未練、目覚めから0.25秒未満で断ち切るべし!

辛く険しい現(うつつ)と、向き合わねばならぬのだから……。



男「完全覚醒ッ!」キリッ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1609041127
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:53:33.27 ID:ic0sodUd0
男「洗顔ッ!」



洗顔とは、闘い也!

妻が用意せし熱く煮えたぎった湯の摂氏、限界突破の800℃!

これを躊躇なく顔面に浴びせられる漢でなくば、サラリーマンは務まらない!



バシャッ! バシャッ! バシャッ!

男「適温ッ!」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:54:29.55 ID:ic0sodUd0
妻「ヒゲを剃りましょうね、あなた」チャキッ

男「頼むよ」



ヒゲ剃りとは、闘い也!

エプロン姿の新妻が持ちし、金剛石をも断ち切る名刀『愛妻』!

これを秒速500kmを超える速度で振り回し、ヒゲを剃るのである!

むろん、妻の手元が僅かでも狂わば、男の首が飛ぶことスペースシャトルの如し!

サラリーマンとは常に死と隣り合わせである!

たとえ不慮の事故で命失おうとも、一片の悔いなし!



ヒュバババババッ!

妻「ヒゲ剃り完了」チン…

男「剃り残し、無しッ!」ツルツルッ
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:55:03.97 ID:ic0sodUd0
男「いただきます」

妻「バターを塗ったトーストと玉露は、よく合いますのよ」

男「ありがとう」




朝食とは、安らぎ也!

朝のニュースを眺めながらの、ブレックファストとティータイム!

会社という戦場に旅立つ前の、ほんの一時の至福である!

焼け石に水、と嘲笑(わら)う者があるかもしれない。

だが、笑いたいものには笑わせておけばよい!

笑う門には、福が来るのだから……。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:55:44.88 ID:ic0sodUd0
男「行ってきます」ザッ

妻「行ってらっしゃい」



出勤とは、闘い也!

夫婦の別れに涙はいらぬ!

夫の外出を見届けた妻は、即座に白装束となり液体窒素を体に浴びせるのである!

これすなわち、祈願!

我が身を凍結する代わり、夫を生還させよという自己犠牲的発想!

夫の身を案ずる余り、誰に命じられたわけでもなく身についた習慣である!



ザバァァァ……!

妻「あなた……どうかご無事で」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:56:20.52 ID:ic0sodUd0
< 電車 >

ガタンゴトン……

満員電車とは、闘い也!

座席、壁際、手すり、つり革、乗客同士の寄りかかり!

生き馬の目を抜くようなポジションの奪い合い!

コーナーキックを待ち受ける、プロサッカー選手に匹敵する攻防!



中年(さて降りるか……)スッ…

男(チャンス!)ダダダッ

男(ポジション、ゲット!)スチャッ



座れはせずとも!

男はドアの両側、通称“寄りかかれるスペース”をゲット!

本日、絶好調!
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:57:09.39 ID:ic0sodUd0
しかし──

満員電車には恐ろしい罠(トラップ)が存在する!



女子高生「きゃあ〜!」

女子高生「この人、痴漢ですぅ! お尻をさわってきました〜!」

男「!」

男(痴漢など、私はやっていない……!)

女子高生「…………」ニヤッ



男は見た!

女子高生のデーモン笑み! 犯罪! 冤罪! 万歳!
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:57:54.40 ID:ic0sodUd0
ザワザワ…… ドヨドヨ……

絶体絶命!

痴漢冤罪の罠にかからば、懲戒免職、家庭崩壊、実刑判決は免れない!

もはや男は、蜘蛛の巣に捕らわれた哀れな蝶々!



男(先手を取られた──ならばッ!)

男「ああ、私を痴漢をした」

女子高生「え?」

男「さわったばかりではない」

男「私はこの可憐な少女を──押し倒し、接吻し、なぶり、犯したッ!」

女子高生「!?」



女子高生の言いがかりを“先の先”とするならば──

男はあえて冤罪を受け入れることで“後の先”を取ったのである!

これすなわち、カウンター! 威力は倍増され、敵に返還される!
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:58:51.19 ID:ic0sodUd0
女子高生(この人、私のウソをあえて全部受け止めてくれた……!)ドキン…

女子高生「ごめんなさいっ! 全部、ウソなんですっ!」

女子高生「なんか最近ムシャクシャしてて、つい──」

男「気にするな。過ちを悔いる心、それだけで私は嬉しい」



男の度量にて、不良女子高生の凍てついた心は春の雪解け水が如く溶解した。

この女子高生、この事件を機に自らの半生を猛省し、

後にノーベル平和賞を受賞することになるが──それはまた別の話。



女子高生「本当にあなたの女になったらダメですか?」

男「悪いが、私には愛する妻がいる」

パチパチ……! パチパチ……!

拍手喝采である。

満員電車では皆が敵同士、だからとて祝福の心を忘れたわけではない。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 12:59:43.75 ID:ic0sodUd0
男(む、あの座席が空いたッ!)キリッ

男(初速1,200m/sで動けば、あの座席に座れるッ!)ダッ

シュザッ!

男「!」

エリート「…………」ニコッ

男(先に座られた……! 速いッ……!)

エリート「残念、この座席はボクのものです」

エリート「でも……どうしても座りたければ、ボクの膝の上に座ってかまいませんよ」



タッチの差で座席に奪われた男を見上げながら見下ろす、エリートの露骨な挑発である。

だが男はあえて──



男「座らせてもらう」スッ…
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:00:36.13 ID:ic0sodUd0
直後、尻全体に鋭利な痛みが走った!

自らの尻を確認するや否や、目に飛び込んできたのは無数の画鋲!



男「貴様ッ! いつの間に膝の上に画鋲を……ッ!」

エリート「最初からですよ」

エリート「しかし、ボクの挑発に乗り、冷静さを失っていたアナタは気づかなかった」

エリート「社会人にあるまじき、注意力散漫だ……」

エリート「先ほど女子高生を手玉に取った実力を見込んで、試してみたんですが──」

エリート「どうやら期待外れだったらしい。ガッカリだ」

男「あ……あ、あ……」



ガーン!

男の目に涙を浮かばせたるは、尻の痛みでなく心の痛み!



    完    全    敗    北    !    !    !
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:01:09.59 ID:ic0sodUd0
< 駅 >

キヨスクとは、闘い也!

目的駅についた男、まっすぐ会社には向かわずにキヨスクへ直行!

理由はもちろん、完全敗北を喫した我が身を奮い立たせるため──



おばちゃん「いらっしゃいませ」

男「棚にある栄養ドリンクを──全部ッ!」

おばちゃん「あいよッ!」



宇宙最強の栄養素と名高いタウリンが、男の打ちひしがれた心を復活させる!

これぞモーニングドーピング!

サラリーマンにとって、ドーピングは反則ではない。日常である!
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:01:44.05 ID:ic0sodUd0
< 会社 >

男「おはようございます」

同僚「よう」

OL「おはよう!」

係長「おはよう」

課長「うむ、おはよう」

男「……しかし、私はキヨスクに寄ったせいで始業時間には間に合ったとはいえ」

男「いつもの出勤時刻より五分ほど、遅れてしまいました」

男「よって、私に対して『おはよう』は相応しくないのです」

男「やり直しを要求させていただくッ!」



挨拶とは、闘い也!

漫然と決まり文句を交わす習慣にあらず!

自分に相応しくないとあらば、断じて拒否せねばならない!
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:02:20.50 ID:ic0sodUd0
同僚「おおそう! 待ちくたびれたぜ」

OL「おおそう!」

係長「おおそう」

課長「うむ、おおそう」



男の心意気を飲み込んだ課の仲間4名!

即座に『おはよう』を『おおそう』に切り替える、チーター以上の瞬発力!

男の目に、またもうっすらと涙が光る……。



男(みんな……ありがとう……)キラッ…
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:02:52.37 ID:ic0sodUd0
電話取りとは、闘い也!

電話のベルが鳴ってからでは遅すぎる!

先方が電話をかけてきた瞬間では遅すぎる!

真のサラリーマンたる者、先方が電話をしてくるのを見切って、

こちらから電話をかけねばならない!

先手必勝の精神が、予知能力の如き直感を生むのである!



男「お電話ありがとうございます」

客『おお、今まさに君に電話をかけようとしていたところだよ』

客『やられたよ……完敗だ!』ニィッ

男(勝利ッ!)
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:03:35.33 ID:ic0sodUd0
デスクワークとは、闘い也!

男のパソコンの実力たるや──

ワード二段! エクセル四段! パワーポイント六級!

すなわち、2×4×6=四十八!

これはかの忠臣蔵の赤穂浪士四十七名をも上回る、驚異的数値である!

なお──



男(ここでエンターキーを押すッ!)

男「はっ!」

メキィッ!



男はエンターキーだけは、肘(エルボー)で押すという

非常に厳しい制約を課している! 壊したキーボードの数、実に数千!
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:04:10.09 ID:ic0sodUd0
男(この書類、10部ほどコピーするか)ダダダッ

同僚「この資料、コピーしねえと!」ダダダッ

男「!」

同僚「俺の方が0.18秒、コピー機に着くのが早かった」

同僚「だが──お前だって急いでるんだろ? 俺に勝てたら先にコピーしていいぜ」

男「望むところッ!」



コピー取りとは、闘い也!

己とコピー機の一対一(タイマン)を邪魔する者あらば、

命を奪う覚悟、奪われる覚悟を以って、駆逐すべし。

譲り合いなどあってはならぬ。

コピー機とは、真の強者にのみ心を開いてくれるのだから……。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:05:24.57 ID:ic0sodUd0
同僚「お前相手に手加減はできない……使わせてもらうぜ、ネクタイを」シュルッ…

男「本気のようだな」



ネクタイとは正装にあらず、武装也!

鞭の如く扱い打撃! 手錠の如く扱い緊縛! 縄の如く扱い絞殺!

たった一本のネクタイで、かのように多彩な攻撃が可能である!

まして同僚はネクタイ術に関しては、右に出る者なし!

男の額に、じんわりと冷や汗が浮かぶ!



同僚「そうらッ!」ヒュバッ

バチィィッ!

男「ぬう……ッ!」



蛇のように動くネクタイ! 男の皮膚が弾け飛ぶ!
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:06:13.29 ID:ic0sodUd0
同僚「よっと」ヒュッ

ガシッ……!

男(右腕を絡め取られた!)

同僚「ネクタイ一本釣りッ!」ブオンッ

ドガッシャァンッ!



ネクタイで絡め取った男を投げ飛ばし、そのままコピー機に叩きつける残虐技!

しかし、大ダメージにもかかわらず、男は反撃の狼煙を上げようとしていた!



男「ぐふっ……。ならば私も使わせてもらおう、ネクタイを!」

同僚「!」

同僚(コイツの戦闘術は素手専門だったはずだが──)

同僚「おもしれえ! やってみなッ!」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:07:13.27 ID:ic0sodUd0
男「今私が締めているこのネクタイは──」

男「去年、私の誕生日に、妻が買ってくれたものなのだ」

男「妻よ……私は勝つッ! 勝ってコピーを完遂するッ!」ゴゴゴ…

同僚(ネクタイを通じて奥さんからの愛を受け取り、パワーアップッ!)

同僚(これもまた立派なネクタイ術じゃねーか! さすがだぜ!)

同僚「俺、この会社に入ってよかった! お前みたいな好敵手に出会え──」

ボゴォッ!

同僚「た」



一撃!

吹き飛ばされた同僚の体はコピー機と激突し、コピー機を跡形もなく粉砕した!



同僚「……ん、だから、な……」ガクッ

男「最後まで台詞を言い切るその執念! さすが我が同期ッ!」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:08:21.24 ID:ic0sodUd0
同僚「しっかし、コピー機ぶっ壊しちまったな」

男「仕方あるまい。私が弁償しよう」

同僚「いや、俺が先に勝負ふっかけたんだ。俺が弁償するよ」



すると、コピー機になにやら異変!

二人の漢の熱気を浴び、このまま壊れてなどいられぬと──

機械にあるまじき掟破りの自己再生!

メキメキ……!



コピー機『我、再臨す!』

コピー機『さあ書類を乗せろ。どんな書類でもコピーしてやろう!』

同僚「死の淵からよみがえったことで、自我まで芽生えてやがる!」

男「うむむ、このコピー機こそコピー機の中のコピー機ッ!」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:09:12.13 ID:ic0sodUd0
企画書とは、闘い也!

小脳大脳を捻り上げ、絞り出した、己の創意工夫(アイディア)!

いざ、課長に提出!



課長「ふむ……」ピラッ…

男「いかがでしょう、課長?」

課長「企画自体はよろしい……」

課長「あとは──君の企画に対する“熱意”を示すだけだ。来たまえ」

男「応ッ!」



相手は上司、しかも同僚との死闘のダメージも残る!

だが、相手が社長であろうとも奥歯をもぎ取れるのが、真のサラリーマン!

だが、装甲車にハネられても戦うことができるのが、真のサラリーマン!

男は真のサラリーマンであった……!
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:11:18.39 ID:ic0sodUd0
課長はシャチハタ使い!

両手に持った時価数百円のシャチハタによる高速突きで、精密に急所を狙う!

ひとたび急所に押印されれば、落命は必至!



バババババッ!

課長「さあさあ、どうしたのかね?」バババッ

課長「避けてばかりでは、企画は通らんぞ」バババッ

男(速いッ!)

男(会社帰りのバッティングセンターで銃弾をバットで打ち返す鍛錬を繰り返し──)

男(鍛えに鍛え上げた我が動体視力!)

男(にもかかわらず、課長の突きを完全に見切れないッ! 反撃のスキがないッ!)

課長「打つ手なしか。君には失望させられたよ……ガッカリだ」バババッ

男「!」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:11:51.77 ID:ic0sodUd0
エリート≪どうやら期待外れだったらしい。ガッカリだ≫

今朝の完全敗北、フラッシュバック!

あの痛みが、あの屈辱が、あの不甲斐なさが、男の後退した心と体に火を灯す!



男「見くびらないで下さい、課長!」ダッ

課長「無策で突っ込むか」

課長「無策には、無情で答えるのみ」



メキィッ……!

課長のシャチハタが、男の額にクリティカルヒット!

ひび割れる頭蓋骨!

しかし、割れた男の頭に浮かぶは、勝利の二文字!
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:12:31.75 ID:ic0sodUd0
男「取ったァッ!」ガシッ

課長(これは──関節技!?)



関節技(サブミッション)──腕ひしぎ逆十字!

頭と引き換えに、右腕をゲットだぜ!



課長「参った、ギブアップだ!」パンパンッ

男「折るッ!」グンッ

ボギィッ……!



課長の右腕、あらぬ方向にヘアピンカーブ!

男の勝利である!
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/12/27(日) 13:13:49.36 ID:ic0sodUd0
課長「……よくやった」プラーン…

課長「もし私のギブアップで、折るのを躊躇していたら企画は通さなかった」

課長「君の熱意、受け取ったよ。この企画書はあとで部長に上げよう」ニッ

男「課長」

男「課長の右腕……音を立てて骨を外しただけで、折ってはいませんッ!」

課長「フッ……どうやら、今日のところは私の完敗のようだな」

キーン…… コーン…… カーン…… コーン……



係長「課長、昼ごはんにしましょう」ガタッ

課長「うむ」

OL「あたし、友達と食べてこようっと」ガタッ

同僚「俺は外で食ってくるけど、お前は?」ガタッ

男「私には愛妻弁当がある」
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