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北条加蓮「藍子と」高森藍子「見てあげているカフェテラスで」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:38:56.81 ID:pPHQRd1B0
――おしゃれなカフェテラス――
高森藍子「――はいっ。季節のタルトと、コーヒーを2人分、お願いしますっ。えっ、コーヒーは食べた後か一緒にかですか? う〜ん……では、一緒にで♪」
北条加蓮「お願いね、店員さん……」ジー
藍子「……? 加蓮ちゃん、どうかしましたか?」
加蓮「……頭撫でていい?」
藍子「!?」
加蓮「あ、いやゴメンっ。今のナシ、ナシっ」
藍子「加蓮ちゃんが撫でたいなら、いいですけれど……」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1604227136
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:39:31.86 ID:pPHQRd1B0
レンアイカフェテラスシリーズ第140話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
〜中略〜
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「思い出のあふれるカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「朝を過ぎてのカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「緑色と紅色のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「人から離れたカフェで」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:40:06.13 ID:pPHQRd1B0
藍子「これくらい前に出ればいいかな……? はい、どうぞ」
加蓮「……それもなんか違うの!」
藍子「はあ」
加蓮「そうじゃないでしょっ。頭を撫でられる子って、そうじゃなくてこう……。こう……」
藍子「……?」
加蓮「……もう、色々ナシにしてもらっていい?」グデー
藍子「どうぞ……」
加蓮「……」グデー
藍子「……」ナデナデ
加蓮「……そういうことでもなくて」
藍子「はあ」
加蓮「撫でるのをやめろって言ってる訳でもないのっ」
藍子「はあ」ナデナデ
加蓮「……」
藍子「……」ナデナデ
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:40:35.33 ID:pPHQRd1B0
加蓮「……全部、モバP(以下「P」)さんのせいだ」
藍子「Pさんのせい?」
加蓮「聞いてよっ」ガバッ
加蓮「Pさん、あくどいことするんだよ。ハロウィンの時に私がお菓子持ち歩いてて、事務所のみんなに分けてあげたりしてたのをさ――」
加蓮「なんか勘違いしてみたみたいでっ。加蓮って優しいんだな! とか、お姉さんしてるな〜、とか!」
藍子「……えっと。それって何か、違うところがあるんですか?」
加蓮「私はイタズラされたくなくて、イタズラしたいって理由だけでお菓子を持ってきてたの。それに、お菓子を渡してあげたらがっかりしてた子だっていた訳だし」
藍子「いたずらを頑張って考えたのに、できなくなっちゃったから……とか?」
加蓮「多分。その後で奏が来たんだけど、同じように……あの時は確か薫ちゃんだっけ。同じようにトリックオアトリート! って突っ込んでいって、奏、わざとお菓子を持ってないって言ったんだよね」
加蓮「後で私が同じこと言ったらあっさり渡してきたけど。しかもお母さんの味の飴。すっごいドヤ顔でムカついた」
藍子「加蓮ちゃんも、奏さんには敵わないんですね」
加蓮「……煽ってんの?」
藍子「えっ?」
加蓮「な訳ないっか……。藍子だし。でさー。あぁ、それが正解なんだっていうか、そうしてあげた方がよかったかなーって……ちょっと悔しい気持ちにもなったかな」
加蓮「……そういえば薫ちゃん、よく奏に突っ込んでいったね。薫ちゃん的には、奏も優しいお姉さんなのかな」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:41:07.39 ID:pPHQRd1B0
藍子「子どものいたずらに付き合ってあげるお姉さんも、優しいのかもしれません。でも、お菓子を分けてあげるのも、じゅうぶん優しいお姉さんですよ」
加蓮「えー。空気読めてなくない?」
藍子「……そうだったのかな? もしそうなら、その失敗は次に活かしましょうっ」
加蓮「1年後かぁ。じゃあ、それまでトリックオアトリートって言われるおねーちゃんでいないとね」
藍子「目標が1つ、できちゃいましたね」
加蓮「……1年後にトリックオアトリートって言われるお姉ちゃんが目標って何??」
藍子「くすっ♪ それに、加蓮ちゃん。加蓮ちゃんだって、ちゃんと自分のことを、優しいお姉さんだって分かってるじゃないですか」
加蓮「はぁ?」
藍子「ほら、奏さんのことを言った時に、加蓮ちゃん、奏さん"も"、優しいお姉さんなのかなって。これって、加蓮ちゃんのことも、優しいお姉さんってことになりますよね」
加蓮「……いやいやいや。そんなことないって」
藍子「加蓮お姉ちゃんっ♪」
加蓮「うりゃ」
藍子「痛いっ」
加蓮「ほーら優しくない。私は酷い女だよ」
藍子「……加蓮ちゃんだって、とっても優しいのに。いつになったら、素直になってくれるんですか」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:41:35.19 ID:pPHQRd1B0
加蓮「でさ。まぁハロウィンは終わったからいいとして。Pさんが悪どいって話なんだけど」
藍子「そうでしたね。Pさんが……ふふ。少しだけ、あくどいんですよね?」
加蓮「ハロウィンが終わったら、次のイベントは――はい、光ったのは藍子ちゃん! 答えをどうぞっ」
藍子「え、えっ? え〜っと……クリスマス?」
加蓮「正解っ」
藍子「やった♪」
加蓮「なんか欲しいものある?」
藍子「そうですね〜……。じゃあ、もう少しだけ、加蓮ちゃんと一緒にいる時間を♪」
加蓮「……そーいうこと不意打ちで言ってくる?」
藍子「えへへ。なんてっ。すぐには思いつかなかったので、ちょっとずるいことを言っちゃいました」
加蓮「今は私より自分のことを優先しなさいよ。売れっ子アイドルさん」
藍子「……そういう言い方をされるのは、好きじゃないですよ」
加蓮「ん、ごめん」
藍子「ううんっ。それよりも、Pさんと加蓮ちゃんのお話。クリスマスのことですよね? もしかして、加蓮ちゃん。また、サンタさんをやることになったとか……」
加蓮「さすがにそんな先の予定は決まってないけど、あの感じ……。なんかそういう雰囲気なんだよねー」
藍子「ふんふん」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:42:05.28 ID:pPHQRd1B0
加蓮「露骨に、子供相手のお仕事が増えてきちゃって」
藍子「加蓮ちゃん――あっ。加蓮お姉ちゃんのっ?」
加蓮「なんで言い直したの……。ちびっこのトレンドを伝える番組とか、今の小学生が好きなことの話とか。うちの事務所のみんなとも、なんかしょっちゅう一緒になるし」
藍子「確かに、この前も千枝ちゃんと一緒に、レッスンを受けていましたよね」
加蓮「メイクの練習と新商品のってお仕事のね。あれはまだ違うんだけどさー……」
加蓮「とにかく、それこそ藍子の言う"やさしーおねーさん"のお仕事ばっかり。ううん、すごく楽しいんだけどね。子供って結構好きだし」
藍子「ちいさい子とお話する時の加蓮ちゃん、いつもとは少しだけ違う、すっごく優しい笑顔ですっ。そうそう、この前も写真を1枚頂いて――」
加蓮「捨てろ」
藍子「嫌ですよ〜」
加蓮「藍子に渡したの、どこの誰よ……。あとでぶっ飛ばしてやるっ」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:42:35.14 ID:pPHQRd1B0
藍子「ええと、Pさんがこの前渡してくれたのと……未央ちゃんと茜ちゃんは、こっそり撮ったって言ってたっけ」
藍子「あと奈緒ちゃんが意外そうに言っていたのを分けてもらったのと、そうそう、仁奈ちゃんも言っていました♪」
藍子「それから志希さんが、私の真似〜、って楽しそうに言っていたのが1枚と――」
加蓮「事務所ごと爆破させるわよ!?」
藍子「ひゃっ」
加蓮「なんで? なんでうちのアイドル達はこぞって私の写真を撮りまくってんの? そしてなんでそれが藍子の元に集まるの!?」
藍子「だってみなさん、私にもおすそ分けって言ってくれますもん。せっかくなら、頂いちゃおうって。あっ、それとお返しって言ってくれる人が多いんです。昔、私が加蓮ちゃんの写真を、よく渡してあげていたからかな?」
加蓮「……………………、」
藍子「痛いっ。加蓮ちゃん、足踏んづけちゃってます! ぐりぐりしないで〜っ」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:43:05.32 ID:pPHQRd1B0
……。
…………。
加蓮「藍子が変なこと言うから、店員さんが来にくかったってさー」
藍子「変なことを言っていたの、ぜったい加蓮ちゃんの方……」
加蓮「タルト、いただきます」
藍子「いただきますっ」
加蓮「……ん。あーそっか。今の季節か」
藍子「甘い、りんごの味ですね♪ 少し、しゃくしゃくってしたみずみずしい食感が残ってて、タルトのふんわり感といい感じに合わさってますっ。美味しい……♪」
加蓮「いろんな食感があるのって、それだけ食べてて美味しくなるよね」
藍子「はいっ」
加蓮「そしてあっという間に半分食べきっちゃう藍子ちゃん。食欲の秋だねー」
藍子「そういう加蓮ちゃんだって、ひとくちで一気に食べちゃってますよ」
加蓮「食欲の秋だし」
藍子「食欲の秋ですから」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:43:35.35 ID:pPHQRd1B0
加蓮「ふうっ。一気に食べちゃった。ごちそうさま」
藍子「ごちそうさまでした。甘いタルトを頂いた後には、ちょっぴり大人のコーヒーを。こういう時には、つい、背筋を伸ばしちゃう……」
加蓮「子供も大人も楽しめる、そんなカフェで楽しいひとときを」
藍子「加蓮ちゃん、それって何かのキャッチコピーですか?」
加蓮「今考えただけー」
藍子「すてきですっ。加蓮ちゃんも、すっかりカフェアイドルですね」
加蓮「ん……コーヒー、なんかちょっと苦いかも」
藍子「今日の加蓮ちゃんは、子どもの気分ってことでしょうか」
加蓮「ちびっこ達とばっかりだったし、もしかしたらつられちゃってたかもね」
藍子「加蓮ちゃん、加蓮ちゃん」クイクイ
加蓮「ん?」
藍子「もう1回、頭、なでますよ♪」
加蓮「もう1回足を踏んづけてぐりぐりしてやるわよ」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:44:05.12 ID:pPHQRd1B0
加蓮「ずず……」
藍子「ん……♪」
加蓮「ふうっ。……でも、いい具合に落ち着いたかも。とりあえずうちの事務所の爆破計画は破り捨ててあげるね」
藍子「それ、落ち着けなかったら、本当にやるつもりだったんですか……?」
加蓮「さぁ? で、えーっと……そうそう。やさしーおねーさんはいいんだけど、ほら、次のイベントってクリスマスだよね」
藍子「クリスマスですね。……あっ、ひょっとして、Pさんは加蓮ちゃんに、サンタさんをやってほしいのかもしれません。だから、子どもたちとのお仕事が――」
加蓮「うん。私もそう思う。……味をしめちゃったかな。この前の私ので」
藍子「Pさんも、加蓮ちゃんの優しさに、もう1回気がついたのかも」
加蓮「もう1回、か」
藍子「うんっ。もう1回。もしかしたら、もう10回くらい?」
加蓮「見過ぎー」
藍子「でも、それが嬉しいんですよね?」
加蓮「ふふっ。どうだか……」ズズ
藍子「……」ズズ
加蓮「……ごちそうさま」
藍子「ごちそうさまでしたっ」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:44:35.19 ID:pPHQRd1B0
加蓮「あぁ、店員さん。相変わらずいいタイミングで来るねー。見計らってた?」
藍子「タルト、すごくおいしかったです。ごちそうさまでした!」
加蓮「で、嬉しそうに早歩きで行くのもか。いつも通りって感じだね」
藍子「あはは……」
加蓮「ま、別に嫌なこととか、Pさんへの愚痴とかじゃないんだけどさ。ただこう、悪どいなーって思ったのとか、んー……。藍子も一緒に参加する?」
藍子「一緒にって、加蓮ちゃんがサンタさんになる時ですか? 加蓮ちゃんがいいなら、一緒にやりたいですっ」
加蓮「そっか」
藍子「ふふ。まだ気は早いかもしれませんけれど、いろいろ考えちゃいますね。サンタさんと言ったら、パーティーもするのでしょうか。プレゼントを選んだり……なんて言って渡してあげるか考えたり……♪」
加蓮「じゃあ藍子でも着れる小学生の服を用意しとかなきゃ」
藍子「他にも――……はい?」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:45:05.20 ID:pPHQRd1B0
加蓮「さすがにチャイルドスモックはキツイでしょ? いや藍子がやるっていうなら全然オッケーだけど、私も……うん。見たいかって聞かれると微妙だし。ほら、今の小学生の流行なら熟知してますからっ。なんたってお仕事でいっぱい知れたしねー。さーてどんなコーデにしよっかなー。あれがいいかなー、これがいっかなー」
藍子「待ってくださいっ。どうして、そこで小学生の服が……? えっ。もしかして、私はプレゼントをもらう側ってことですか?」
加蓮「何言ってんの。当たり前でしょ」
藍子「なんで!? 私がやりたいのは、サンタさんの方ですっ」
加蓮「えー」
藍子「なんで!?」
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:45:35.57 ID:pPHQRd1B0
□ ■ □ ■ □
加蓮「あ、そうだ。藍子、1つ相談いい?」
藍子「はい。何ですか?」
加蓮「私のことじゃないんだけど。ほら、ちびっこ向けの番組に出ることが増えたって言ったじゃん」
加蓮「その中に、相談室みたいなのがあったの。……といっても相手は幼稚園とか小学生の低学年とかだから、可愛い相談ばっかりでねっ」
加蓮「くくっ。ピーマンを食べたくありません、どうすればいいですか? とか」
藍子「ふふ、可愛い♪ 加蓮ちゃんは、なんて答えてあげたんですか?」
加蓮「えーっと、確か親子連れでいる子から飛んできた相談だから、まずお母さんの方に話を聞いてみて……」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:46:05.01 ID:pPHQRd1B0
加蓮「で、ご飯でピーマンの料理ばっかり出してるみたいだったの。なんでって聞いたら、最初に作ってあげた料理を美味しいって言ったからみたい」
加蓮「なんだけど、その子が美味しいって言ったのはお母さんの料理のことで、ピーマンのことじゃなくて……」
加蓮「あと、その子、最近反抗期……ってほどじゃないけど、素直じゃないことを言うことが増えたみたいで」
加蓮「素直に、お母さんの料理を美味しいって言えなくなっちゃったんだって。でも……いい機会だから、って、素直に美味しいって言って」
加蓮「そうしたらお母さん、ちょっぴり涙ぐんじゃった。私、お礼まで言われちゃったんだよね。ちょっと恥ずかしかったなー……感情移入してたし、私も少し泣きかけてたなぁ……」
藍子「……い、意外と壮大なお話になったんですね」
加蓮「ね。その後でスタッフさんから、なんで? みたいな顔されて、そしたらその場の全員が気付いたの」
加蓮「あれ、ピーマンが食べれないって相談じゃ?? あとはもう……大笑いだよねっ」
藍子「ふふっ。みなさん、一生懸命になっちゃったのかな。きっと加蓮ちゃんが、真剣に相談を聞いてあげたからっ」
加蓮「えー。私のせい?」
藍子「加蓮ちゃんのおかげです」
加蓮「納得いかないなー……」
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:46:35.25 ID:pPHQRd1B0
藍子「少し、しんみりしちゃった空気も、みんなで笑えばやわらかくなりますね。次の子も、相談しやすくなったのではないでしょうか」
加蓮「よく分かるねぇ。あ、それで相談なんだけど」
藍子「他の誰かの、質問のことですか?」
加蓮「うん。一応その場では解決ってことになったけど、ちょっとピンと来てなくて……」
藍子「ふんふん」
加蓮「小学校の、3年生の男の子。将来の夢があって……3年生とは思えないくらい、すごく具体的なの。大きくなったらまずはあれをやって、これをやって的な」
藍子「すごくよく考えているんですね。それだけ、夢を想っているってことでしょうか」
加蓮「目が燃えてたもん。でも……。ホントにできるかどうか不安だってさ」
藍子「できるかどうか、不安……」
加蓮「夢を叶えたいって想いが大きくて、具体的な方法も思いついてて。それなのに、不安があるみたい。自分に最後までできるかどうか、って……」
加蓮「話してて分かったんだけど、たぶん、元々自分に自信の無い子なんだと思う」
藍子「あ〜……」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:47:05.11 ID:pPHQRd1B0
加蓮「でさ。私は……自分で言うのも何だけど、夢、叶っちゃってるじゃん」
藍子「そうですね。アイドルになりたいっていう夢……加蓮ちゃんは、立派に叶えてます」
加蓮「それに、やりたいことがあったら大抵のことはできちゃうんだよね。自分で企画を考えたり、Pさんが叶えてくれたり」
藍子「うんうんっ」
加蓮「だからかな。私は……自信とか、自分の力とかより前に、できることはできるんだって分かっちゃってるから」
加蓮「ちょっと一瞬、答えることができなくて……一応、その場ではなんとかうまいこと言えたんだよ? やってみなきゃ分かんない! とか、やらずに後悔するよりやって後悔する方が! みたいな。ま、とてつもなく私らしくない、飾った言葉になってたんだろーけど」
藍子「番組? は、うまくいったんですね」
加蓮「……それでも自分で納得できなくて、収録が終わってからずっと考えちゃってた」
加蓮「想いを、実現する方法。最後に自信をつける方法……。答えれなかったのがずっと悔しかったなぁ」
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:47:35.31 ID:pPHQRd1B0
加蓮「……絶対、やっちゃいけないことなんだけどさ。藍子、これホントに誰にも言わないでね」
加蓮「収録が終わった後、その男の子と約束したの。本当はもっといい答えがあると思う、だけど今は思いつかないから思いついたら教えてあげる、って」
藍子「……?」
加蓮「いや、ほら……。さすがに特別扱いしすぎじゃん。こんなのバレたら怒られちゃうよ」
藍子「あ……そっか。そうでした」
加蓮「……ふふっ。あーあ、どこかのお散歩アイドルさんみたいに、ファンレターへのお返事をいっぱい書いちゃうアイドルってイメージなら、悩む必要もないんだろうけどなー」
藍子「えっ……まって、なんでそれっ」
加蓮「たくさん送られて来た中から時間がかかるのを見越してPさんが3通に厳選したのを、わがまま言って10通まで増やした結果、1日まるまるかかった誰かさんみたいな――」
藍子「なんでそこまで知ってるんですか〜っ」
加蓮「加蓮ちゃんだし」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:48:05.71 ID:pPHQRd1B0
藍子「あれはその……Pさんが選んでくれたファンレターには、すごくたくさんの想いが綴られていて……。そうしたら私も、1人1人に応えてあげたいなって」
加蓮「……」
藍子「……ごめんなさい」
加蓮「ん。まあ、いいと思うけどね。Pさんも許してくれたんでしょ?」
藍子「はい。でも、夜遅くまで付き合わせてしまいましたから……」
加蓮「自分のアイドルの為でしょ。あの人、それなら何時間どころか何日だって平気で使うわよ。で、それを誇りに思うような人でしょ。藍子が気にする必要なんてないの」
藍子「……」
加蓮「ね?」
藍子「……うんっ。あの……私、ちゃんとPさんには謝りましたから。だから、これ以上は気にしないようにしますねっ」
加蓮「そうしなさいそうしなさい」
藍子「次からは、気をつけなきゃ。あっ……なんだか私のお話になっちゃってすみません。今は、加蓮ちゃんの相談なのに」
加蓮「そだね。まあ……そんな訳で、自信がない少年に"やさしーおねーさん"はなんて声をかけたらいいと思う?」
藍子「そうですね……」
加蓮「難しいよね」
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:48:35.41 ID:pPHQRd1B0
藍子「……ちょっぴり。私も――加蓮ちゃんと同じ、って言ったら、加蓮ちゃんは怒るかもしれないけれど」
加蓮「え、なんで?」
藍子「だって加蓮ちゃん、よく、自分の気持ちを分かったつもりにならないでって……」
加蓮「あぁ、……あははっ。それはほら、ね?」
藍子「……む〜。本当は、ぜんぜん気にしていないんですか?」
加蓮「全然って言われたら嘘だけど。で、私と同じ何?」
藍子「はい。……加蓮ちゃんと同じで、夢を叶えたり、やりたいことができたり……Pさんや、加蓮ちゃんのおかげで、そんなアイドルでいさせてもらっていますから」
加蓮「そこに私が入るんだ。そっか……」
藍子「うんっ。……だから、その子の気持ちになるのは……ううんっ。けれど、悩んでいるなら、解決してあげたいです!」
加蓮「ね。違うなんて言ってあげないで、最後まで考えてあげたいの」
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:49:05.17 ID:pPHQRd1B0
藍子「自信がない……勇気がない、ってことなのでしょうか」
加蓮「どうだろ。自分にできるか分からなくて、最後までやり続けて夢を叶えられるか自信がないって言ってたから、ちょっと違うんじゃないかな」
藍子「では、本当に自信がないってことなんですね。う〜ん……。そういえば、その男の子のまわりには、誰か、夢を応援してくれる人っていないんですか?」
藍子「私も、やりたいことがあって、自信がないって時には、よく背中を押してもらいますからっ」
加蓮「んー……」
藍子「……いないんですね」
加蓮「いや……。そこちょっとムカつくポイントがあって。親がさ、笑ってんの。子供の言うことだからって」
藍子「あ……」
加蓮「……なんかちょっと、ね」
藍子「……」
加蓮「あははっ。ごめんごめん。そうだよね、藍子の言う通り。応援してくれる人がいなくて辛いって感じなのかも。その子も、お父さんに笑われてすっごく悔しそうにしてたし」
藍子「加蓮ちゃんが……応援してるよ、って言ってあげたら」
加蓮「賢いんだ、その子。私が言い淀んだのにも気付いてた。多分……その子1人に肩入れするのが難しいってのも、すぐバレると思う」
藍子「そうですか……」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:49:34.94 ID:pPHQRd1B0
加蓮「応援してあげたいのは、ホントのことなんだけどね。笑われても、ひとりぼっちでも、意地を張って夢を見てる子……ふふっ。昔の私みたいな子だ」
藍子「ひとりで続けることって、きっとすごく難しいことですよ……」
加蓮「だから応援してあげたいの。……世界が広がりすぎちゃうっていうのも、悩みになるんだね。藍子みたいに、もっと1人1人のことを大切にしてあげられる、そんなアイドルだったら今頃こんな――」
加蓮「……、」
加蓮「…………あー」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「いや、……解決方法、ちょっと思いついたかも」
藍子「本当ですかっ? ぜひ、教えてください!」
加蓮「いいけど……ちょっとだけいい? なんていうか……ごめん。ちょっとだけ」
藍子「加蓮ちゃん……? ……ううん。分かりました」
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:50:04.93 ID:pPHQRd1B0
藍子「ゆっくりと、待っています。加蓮ちゃんの気持ちが、ちゃんと整うまで……ずっと待ちますから」
加蓮「ん……ありがと」
藍子「いえいえ。でも、これくらいの手助けはいいですよね? すみませ〜ん。店員さん、えっと……考えごとをする時におすすめの飲み物を、お願いしますっ」
加蓮「……あははっ。何その注文ー。店員さん、こんなアホの子の言うことなんて無視――うっわ、いい笑顔で頷きやがった。さては答えを持ってやがるな?」
藍子「よかったね、加蓮ちゃん」
加蓮「はは……。まあね」
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:50:35.43 ID:pPHQRd1B0
……。
…………。
加蓮「ごちそうさま」
藍子「私は、もう少しのんびり頂きますっ」
加蓮「んー……っと。タルト、コーヒー、それからハーブティー。ホント、カフェにいたら悩む気持ちもすぐ消えちゃうね。心が穏やかになって、どこか優しい気持ちになれて……」
藍子「難しいことや、悩んじゃうことがあっても、ここでなら……やすらいで、いいんですよ」
加蓮「ね……」
藍子「うんっ」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:51:04.90 ID:pPHQRd1B0
加蓮「……藍子」
藍子「はい」
加蓮「解決方法っていうのは、藍子のことを見てもらうことなの」
藍子「……え?」
加蓮「藍子、いつも頑張ってるよね。苦手なことがあっても、難しいことがあっても、たくさん時間をかけて……無理だなんて言わないで、ずっと歩き続けてて」
藍子「そう……でしょうか。私だって、無理って言っちゃうことはありますよ……?」
加蓮「でも、途中で引き返したりしないじゃん。足を止めるところは見たことあっても、藍子が引き返してるところ、見たことないよ。私」
加蓮「……私のことだって、あんなに私が拒絶しても、ずっと一緒にいてくれたし」
加蓮「だから、そんな藍子のことを見てたら、途中で諦めたり、自信がなくなったり……そういうことがあっても、元気をもらえるのかなって思ったの」
藍子「……元気や自信を、あげ続けること……」
加蓮「私はほら、背中を押してあげることはできても、背中を押し続けてあげることってちょっと苦手だしっ」
藍子「私のことを、ずっと見ていてくれるのに?」
加蓮「……それは藍子だからだよ。もう」
藍子「あ……」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:51:35.48 ID:pPHQRd1B0
加蓮「と、とにかくっ。私がやるとどーしても急かしちゃいそうだし、ゆっくりでも頑張ってる藍子の方が、見てて自信になるかなーって」
加蓮「でもさ……。それ、なんか私に向く目を藍子に向けることになっちゃいそうで……。私のファンになってくれそうな子を、自分から藍子に譲ってあげるみたいなことなんだよね」
加蓮「もちろん藍子のことは応援するし、トップアイドルになってほしいって心から思うけど……さすがに、少し抵抗ができちゃった」
藍子「それは……。当たり前のことだと思いますよ。だって加蓮ちゃんだって」
加蓮「アイドルですから」
藍子「うんっ」
加蓮「ね。……どうかな。今度、その子に自信をあげて……あげ続けてあげられるかな」
加蓮「藍子、ファン1人1人のことをすっごく大事にしてあげられるじゃん。私よりずっと。そんな藍子なら、あの子にも自信を……って思うんだけど、どう?」
藍子「……、」
加蓮「やっぱり、難しい……?」
藍子「……少し……気持ちが、重いなって思っちゃいます。加蓮ちゃんに任される、ということも……その子の想いも」
加蓮「そっか……」
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:52:07.41 ID:pPHQRd1B0
藍子「でも……やってみます。そうやって……想いを背負うのも、アイドルだと思いますから」
加蓮「!」
藍子「それにっ。加蓮ちゃんのお話を聞いていると……。くすっ♪」
加蓮「え、ちょっと何。なんかその笑い方ムカつくんだけど……」
藍子「ううん。困難なことがあっても、ぜったい夢を叶えたい、ちょっぴり意地っ張りな子。……今は、周りに応援してくれる人が、あんまりいなくて――」
藍子「それって、なんだか昔の加蓮ちゃんみたい。そう思うと……応援してあげたくなっちゃいましたっ」
加蓮「ハァ!? 調子に乗ってんじゃないわよっ。ちょっと加蓮ちゃんのことをうまくやったからって!」
藍子「きゃ〜っ。そんなつもりじゃないです! それに加蓮ちゃんだって、同じこと考えてますよね! 昔の自分みたいだ、って!」
加蓮「それは……それは否定できないけどさ。もーっ! でもなんか腹立つんだけど!」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:52:35.19 ID:pPHQRd1B0
藍子「まあまあっ。いいですよ。私は、何をすればいいですか?」
加蓮「……藍子は、今まで通りでいいよ。私がその子に、藍子のことを見せてあげる。ゆっくりでも歩き続けてる、立派なアイドルさんのこと」
加蓮「だから藍子は……ほんのちょっとだけ、そういう子がいるんだって覚えておいてあげて。それだけでいいから」
藍子「分かりました。……ふふっ。いつかその子と、お話できるといいですね。握手会でも、おたよりでも……。お話、聞いてみたいな。私もいろいろ教えてあげたいですっ」
加蓮「ありがとね、藍子」
藍子「こちらこそ、ありがとう。それに、大丈夫。私は……ファンのみなさん、1人1人をたいせつにしながら、トップアイドルを目指すんですからっ」
加蓮「……言おうとしてたこと、バレちゃったか」
藍子「加蓮ちゃんが言いづらそうなので、私から言いました♪」
加蓮「そこまでバレてるかー」
藍子「ふっふっふ〜」
加蓮「もう」
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:53:06.16 ID:pPHQRd1B0
藍子「でも、加蓮ちゃんも……。できると思いますよ。肩入れや、ひいきではなくて、みなさんを大切に想うこと……」
加蓮「ムリムリ。私なんて自分のことばっかりだしー? 藍子ちゃんみたいな優しい子じゃないの、私は」
藍子「そうでしょうか? ほら、サンタさんの時の加蓮ちゃん……病院の子たちとかっ」
加蓮「……あれはほら、藍子とは違う意味で特別だから」
藍子「特別なんじゃないですか」
加蓮「もうっ。だから私は、別に優しいお姉さんでもないし、そこまでみんなを大事にできる優しいアイドルでもないの!」
藍子「む〜。ずっとそんなことばっかり……。もうっ」
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:53:35.94 ID:pPHQRd1B0
……。
…………。
加蓮「すっかり暗くなっちゃったね」
藍子「今日も、いつの間にかいっぱいお話していたんですね……」
加蓮「どう? "加蓮ちゃんとの時間♪"、まだまだ足りなかったりするー?」
藍子「あ、あれは冗談です、冗談!」
加蓮「へぇー。冗談なんだー。さみしいなー」
藍子「……。……そっか。加蓮ちゃんが寂しいから、この後もお話しようってことなんですね♪」
加蓮「足踏みつけるよ?」
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/11/01(日) 19:54:04.86 ID:pPHQRd1B0
加蓮「……」
藍子「あんまり遅くなりすぎると、お母さんが心配しちゃうし……加蓮ちゃんの家にお泊りするにしても、連絡しなきゃ♪ その前に、お会計を――加蓮ちゃん? どうかしましたか……?」
加蓮「……藍子が改めて言うから、なんかもうちょっと喋りたくなっちゃったじゃん」
藍子「加蓮ちゃんっ」
加蓮「あーもうっ。でも相談に乗ってもらったし甘えすぎるのもヤダ! ……あとコーヒーもう1回だけ飲んだら帰るっ。泊めてなんてあげないからね!」
藍子「甘えてくれてもいいのに……。あっ。分かりました。それなら、コーヒーを飲む間の時間で、加蓮ちゃんを説得してみせますっ。ううん、帰る間も、ずっと。加蓮ちゃんが泊めてくれないなら、私の家に泊まりに来てもらいます!」
加蓮「ほぉー。言ったね?」
藍子「諦めませんよ〜?」
【おしまい】
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