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魔王と魔法使いと失われた記憶
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604 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/11/30(月) 22:07:07.24 ID:KnL3hUx3O
「メディアっ!!!」
カルロスの別荘に着くや否や、彼はメディアの方に駆け寄った。そして、感極まったように彼女を胸に抱く。
「……良かった……本当に……!!」
「……ごめんなさい。私、言っていないことが……言えなかったことが、たくさんある」
「いいんだ……君が戻ってきただけでも、俺は……」
カルロスが涙をゴシゴシと拭いて、あたしを見た。
「……心底恩に着る。あんたは親父の仇だけど……もう、いい」
「……問題は、これからだと思うけどねえ」
逃げ去り際にちらっと見えた、あの惨劇。エストラーダ侯に、一体何があったのだろう?
あんなことになった以上……もう、ただじゃ済まない。既にベーレン侯の元には、軍の派遣を要請する早馬が飛んでいるはずだ。
そして、それにこのメディアという女は、恐らく深く関わっている。これで「めでたしめでたし」となることは、まず考えられない。
「まず、エリックを待つにゃ。あいつなら、少なくとも逃げ切れると思うけど……」
シェイドの言う通りだ。あいつの「加速」は恐ろしく汎用性が高い。どういう原理かは分からないけど、認識速度まで加速されているようだった。だから、防御に徹すればそう簡単にはやられない。
1年前にカルロスの父親を討った時、「回転銃」の銃弾の雨を容易く潜り抜けていったのを思い出す。
「あ」
プルミエールが街の中心部の方を見た。エリックが、息を切らしながらこちらに走ってくる。
「エリック!!」
着くや否や、エリックは力尽きたように崩れ落ちた。それをプルミエールが抱きかかえる。
「……大丈夫、だ。魔力を、使いすぎた、だけだ」
「アヴァロン大司教と、エストラーダ侯は」
「……逃げた。まず、少し、休ませてくれ……色々、話したい、ことがある」
メディアが視線を落とした。感情が薄い子だと思っていたが、その行動からは幾許かの後悔のようなものが見えた。
……さて、鬼が出るか蛇が出るか。
605 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/11/30(月) 22:07:51.35 ID:KnL3hUx3O
#
「さあて、色々聞きたいことはあるんだけど……まずはあんたが本当は何者か、だねえ」
メディアの表情は乏しいけど、僅かに沈んでいるようにも見える。
カルロスが、彼女の右手に自分の手を重ねた。
「……メディア、俺は大丈夫だから」
微かに彼女が頷く。
「まず確認にゃ。君は、『女神の樹の巫女』。それで合っているにゃ?」
「……それが本当は何者なのか、あなたは知っているの」
「……あ、言われてみればにゃ。古い歴史書の、断片的な記述でしかボクも知らないにゃ……」
「でしょうね。都合の悪い箇所はユングヴィ教団が徹底して消したから」
「……解せんな。なぜユングヴィの連中が絡んでくる?」
体力回復の薬湯を飲みながら、エリックが訝し気にメディアを見る。
「ユングヴィが絡む理由は多分分かるにゃ、ボクを呼んだユリウスって男から聞いたにゃ。
150年前に、『女神の樹の巫女』の子供がユングヴィ教団の幹部まで登り詰めたって話はしたにゃ?その子供が、大量殺戮を行ったらしいのにゃ。
ただ、何がどうなってそんなことになったかは知らないにゃ。君は何か知ってるにゃ?」
「……ええ。それには、私の正体を言わなければいけない」
「正体?」
チラリ、とメディアがカルロスの方を見た。
「俺は大丈夫、覚悟はできてる」
「……ありがとう。まず、私は人間じゃない。あの、『女神の樹』の一部」
「……『一部』?」
「ええ。私……『女神の樹』は、繁殖する相手を持たないわ。同族に雄体はいないし、受粉もできない。
ただただ長い間、孤独に生きるより他ない生命。ただ、それでも本能が、子を残そうとすることはある。
そういう時に私が生まれるの。『雌蕊』として」
「『めしべ』?何だそれは」
ポンとシェイドが手を叩いた。
「学術書にあったにゃ。植物は、雌蕊に花粉を受粉することで繁殖するにゃ。……ああ、つまり」
「ええ。私は、ヒトの精を受けるための器。そして、子を為したら消える運命」
606 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/11/30(月) 22:09:18.48 ID:KnL3hUx3O
「……!!そんなっっ!!?」
ガタン、とカルロスが立ち上がった。
「……ああ、そういうことかい。あんたがこいつに抱かれなかった理由は」
こいつはこいつなりに、カルロスを愛しているのだろう。だからこそ、永遠の別れに繋がる行為を避けていたわけか。
「……それもある。でも、あと2つ理由がある」
「2つ?」
「ええ。まず、私の体液は強力な薬になる。原液を直接飲めば、人外の力を得られるほどに。
そして、続けて飲み続ければ……人の姿を失い、『雌蕊』を守るための騎士となるわ」
「……まさかっ!!?」
プルミエールが顔面蒼白になった。メディアが顔を伏せる。
「……ええ。あなたたちが見た、あの男性。彼は、私の血を飲んでしまったのだと思う」
「血?」
「あのアヴァロンという司教に囚われ、私はまず指を切られたわ。そして、血を採取された。
150年前にあったことは、ユングヴィの中では語り継がれていたみたい。前の『私』の伴侶が、私の死後に怪物と化したことを含め」
ドンッ
激しい音がした。エリックが、薬湯の入った陶器を机に叩きつけたのだ。
「外道がっ……!!アヴァロンは、初めからそのつもりでエストラーダを生かしておいたわけか!!
奴は血を得るために、お前を捕らえた。違うか」
607 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/11/30(月) 22:10:09.76 ID:KnL3hUx3O
そういうことか。……確かに、反吐が出る。
アヴァロン大司教の人となりは、薄っすらではあるけど聞いていた。
教義に忠実で温厚篤実、弱者に手を差し伸べる聖人。
……ただし、敬虔な信徒相手に限る。
モリブスの世俗派を、奴は獣より下の存在としか見ていない。
そんな奴が、モリブスの世俗派の長であるネリドと一緒にエストラーダ邸を訪れていたという時点で何かを察するべきだった……!
メディアが、軽く首を振る。
「それはあると思う。でも、それだけじゃない」
「もう一つの理由……子供が、大量殺戮を行ったという話にゃ?」
シェイドに、小さく彼女が頷いた。
「150年前、何が起きたかという記憶は『本体』を通して知っているわ。そして、『本体』は当時の『娘』と精神的に繋がっていた。
何が起きたかは、詳しくは分からない。でも、『女神の樹』はヒトから樹の姿に変わる時に、多量の生命を必要とするわ。多分、その時に……」
「生命としての本能、というわけにゃ。……そして、アヴァロンはその可能性を摘もうとしたわけにゃ」
「ええ。あの人は、邪悪ではない。少なくとも、本人は正しいことをしているとしか思っていない。
そして、世界のことだけ考えるなら、それは正しい。私は……子を為してはならぬ運命(さだめ)」
「ふざけるなっ!!!」
カルロスが立ち上がった。
608 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/11/30(月) 22:10:49.85 ID:KnL3hUx3O
「君はどう考えているんだ!!世界のことなんて、そして今後のことなんてどうでもいいっ!!
君の、本当の気持ちを知りたいんだよ!!」
メディアが言葉に窮した。会ってから僅かの時間しか経ってないけど、この娘は無感情じゃない。少しだけど、感情はちゃんとある。
長い沈黙の後、彼女の目から涙が一筋流れた。
「……分からない。これが『本体』の本能なのか、それとも私の感情なのか。
でも……許されるなら……私は、カルロスともっと一緒にいたい。でも、そんなこと……できるはずもない」
「メディアっ……!!」
カルロスが、彼女を胸に抱いた。
……若さだねえ。ただ、感情だけではどうしようもないことは、ある。
「じゃああんたはどうすればいいと思うんだい?清い関係を一生続けたまま、遠くに逃げるのかい?」
「……いや、アヴァロン大司教は討つ。……話はそれからだ。とにかく俺にも、何か手伝えないか??」
「……あんたは、その子の側にいてやんな。それがその子のためにもなるはずさ」
カルロスは、前線には出せない。アヴァロンたちをここで迎え撃つことになるだろうけど、迂闊に彼を晒せばまず狙われるだろう。
それに、彼女の精神を安定させる要因にもなる。多分、これが最適だろうね。
ところが……シェイドが納得していないように首を捻った。
「……どうしたんだい?」
「いや、あまり良くない予感がするにゃ。根拠はないにゃ、ただ……」
「ただ、何だい?」
「誰かもう一人、2人についているべきだと思うにゃ。万一の時の備えにゃ」
「まあ、そうだねえ……」
そうなると、アヴァロンとエストラーダ相手に3対2か。ただ、あの怪物と化したエストラーダ相手にこれは少し難しいかもしれない。
それに、テルモン軍とユングヴィ教徒もいる。味方ごと殺したアヴァロンに、どれだけ付いてくるかは別としてもだ。
あたしは悩んだ挙げ句、結論を下した。
「いや、2人の所まで辿り着けないようにすればいいさ。テルモン軍への工作は、あたしがやっとく」
「どうするにゃ」
「カサンドラを通してみるさ。第4皇子が彼女の客として来たからね、そこから頼み込んでみるよ。
さすがにアヴァロンの今回の所業は、テルモンとしても看過できないはずさ」
「……分かったにゃ。ボクも同行していいかにゃ?」
「構わないよ」
609 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/11/30(月) 22:11:16.74 ID:KnL3hUx3O
#
この時下した選択を、あたしは後悔することになる。
610 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/11/30(月) 22:11:44.18 ID:KnL3hUx3O
キャラクター紹介
メディア(?)
女性。長い緑髪と白い肌で、どこか超然とした印象を与える。
基本的には無表情に近いが、感情がないわけではない。人間性は僅かながらにある。
その正体は「女神の樹」の「雌蕊」。樹本体から分離し、人間に擬態することで男性の精を受ける。こうすることで、次世代の樹を生み出す。
子供は女性しか生まれない。成人と共に樹に形を変え、周辺の生命エネルギーを吸い取ることで成長する。
そして、その際には甚大な被害が発生する。これが150年前にイーリスで起きた事件の真相である。
この際に、当時の大司教が「グロンド」を使って僻地に樹を飛ばしたことで一応の決着を見ている。
女神の樹の自意識としては、自己の生殖本能が人類にとって害であることを認識しており、それはメディアにも受け継がれている。
そもそも女神の樹自体が現在進行形で僅かながらもロックモール住民の生命を吸うことで存在しているため、人に危害を加えかねない繁殖の帰結は望ましいものではないという意識があるようだ。
メディアが自分の死に対して諦観していたのは、これが理由である。
とはいえ、人間的感情がないわけではないでもなく、カルロスに対する恋慕の感情もまた本物である。
この結末がどのようになるのかは、現状では全くの不明である。
なお、彼女の存在をアヴァロンがどうして知ったのかは別途明かされることだろう。
ちなみに、メディア自身の実年齢は1歳である。その1年で彼女が誰の元にいたのかは、まだ明かされていない。
611 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/11/30(月) 22:13:22.60 ID:KnL3hUx3O
今日はここまで。
次回ですが、少し思案中です。以下のどれかから多数決で選ぼうと思います。
なお、大筋に影響はありません。
1 このまま26話へ(戦闘メイン)
2 エリックとプルミエール
3 アヴァロンの現状
3票先取とします。
612 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/11/30(月) 22:28:11.36 ID:iPz53eh10
2
613 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/11/30(月) 22:53:03.48 ID:TITpAFaDO
2
614 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/01(火) 00:11:21.13 ID:uDSzzSe+0
2
615 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/01(火) 09:31:17.04 ID:iyEjcrKOO
2とします。
展開上一度アヴァロン側は書かなければならないことが判明したので、そっちはさらっとやります。
616 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 21:54:39.25 ID:bvl3ZNmeO
第25-5話
617 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 21:55:33.73 ID:bvl3ZNmeO
海が良く見える岩場に、彼は腰掛けていた。ザザァ……と波の音だけが聞こえる。
「エリック、そろそろ時間」
「……もう、か」
潮風が、彼の赤みがかった髪を揺らした。月光に照らされた彼の顔は、普段よりずっと精悍に見える。
「何か変わったことは?」
「いや、何も」
アヴァロン大司教の夜襲に備え、私たちは交替で見張りをしていた。彼が最初で、私が2番目だ。
夜目が利くシェイド君がその次で、最後がデボラさんという順番になっている。
「くれぐれも、無理はするな。多少は場数を踏んだとはいえ、お前1人で戦いは……」
「分かってる。怪しい気配があったら、すぐに家に戻って対応、でしょ?」
「ああ。向こうの人数にも依るが、基本は逃げだ。テルモンの支援を受けられるのは、明日からだからな」
デボラさんとシェイド君が、夕方にテルモン軍と話を付けてくれたのは大きかった。
テルモン軍にも犠牲者がおり、大司教への不信が出始めているという。「少なくとも大司教の確保までは協力しよう」ということらしい。
それでも、ユングヴィの神官兵はまだいる。彼らがどれだけいるのかは知らないけど、一気に来られたら厳しい状況には変わりないのだ。
「そうね。じゃあ、あとは私に任せて。まだ疲れ、抜けてないんでしょ?」
「いや……少し俺も残る」
「え」
「嫌か?」
私はブンブンと首を振った。嫌なはずがない。ただ、予想だにしなかっただけだ。
ポンポン、と彼が岩場を叩いた。ここに座れ、ということみたい。
「……いいの?」
「そこにずっと突っ立ってるつもりか?」
私はおずおずと座った。何か、心臓の音がうるさい。
エリックは何も話さず、私の方も見ずに月をじっと見ている。警戒はまだ解いてないみたいだけど、何か話してくれればいいのに。
私はというと、会話のきっかけを掴めずにいた。エリックは、何のために残ったんだろう?
618 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 21:56:04.10 ID:bvl3ZNmeO
沈黙を破ったのは、彼の方だった。
「……どうするんだろうな」
「えっ」
「カルロスとメディアのことだ。全部終わって、奴らが生き延びれたとして……そこに未来はあるのか?」
「未来って……一緒に生きられるんだから、あるに決まって」
「いや、違う。カルロスは男で、メディアは女だ。人外だとしても。
そして、互いに想い合っている。そういう男女が、全く触れ合わずに生きることなどできるのか?」
できる、と言いかけて私は口をつぐんだ。前の私なら、躊躇わずそう言っていただろう。でも、今の私は……違う。
隣の少年に、もっと触りたい。触ってほしいと思っている。許されるなら、その先まで。
彼は意識しているか分からないけど、口付けだって交わしている。あの感触は、まだ忘れてはいない。
だから……カルロス君とメディアさんが繋がれた枷が、あまりに重いことを私は理解してしまった。
そう、愛し合っている2人は、1つになりたいと思うはずだ。それが決して許されないとしたら?
エリックが溜め息をついた。
「……分かったみたいだな」
「そんな……!!じゃあ、どうすればいいのよ……」
「それに答えが出ているなら、ここに残りはしないさ」
彼は足元の小石を拾い上げ、海へと放り投げた。
「俺は男だ。だから、カルロスが自分の欲求に耐えられるとは、そんなに思っていない。
まして20になるかどうかのガキだ。普通に考えたら、好き合ってる女がいたらヤりたくて仕方ないに決まってる」
「じゃあ見捨てろって言うの??」
「……いや、それはできないし、したくもない。だから上手い解決法がないか、あの話を聞いてからずっと考えていた」
「だから、私に?」
彼が頷いた。
「もしお前がメディアなら、どうする?」
「私がメディアさんなら?」
「ああ。俺は女じゃないからな。それはお前の方がきっと良く分かる」
私が彼女なら……どうするだろう?
619 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 21:56:52.61 ID:bvl3ZNmeO
決して結ばれることはできない。それはカルロス君の破滅だけでなく、多くの犠牲を招きかねないからだ。
なら、彼に抱かれるのを拒みつつ、一緒に生きられるだけで良しとするの?それはそれで、生き地獄を彼に味わせることになる。
とすれば……私なら、きっと身を引く。トンプソン先生のように、精神感応魔法に長けているわけじゃないけど……できれば、彼の記憶を消した上で。
傷付くのは、自分だけでいい。彼には、自分のことは忘れてもらって幸せに生きてほしい。……そう考えるんじゃないか。
でも、じゃあメディアさんはどうするのだろう?自ら命を絶つのだろうか。自分の生死には頓着がなさそうな人だ、そうするかもしれない。
もし、記憶を消す手段があるとしたら……
私は首を強く振った。そんな結末は、あっちゃいけない。
620 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 21:57:25.79 ID:bvl3ZNmeO
「どうした?」
「ううん……ちょっと。嫌なことを考えちゃって」
「……そうか」
エリックが、もう一度足元の小石を投げた。さっきより強く。
「2人は、どこまで分かってるんだろう」
「さあな。カルロスは多分、そこまで考えていないだろう。ただ、メディアは違うはずだ。
だから、意図してあいつを遠ざけていた。そんな気がする」
「……!でも、さっきは……」
「ああ。あの娘もカルロスに惚れている。会えば耐えられなくなると、知ってたんだろう。
あるいは、無感情に見えるのも演技かもしれない。自分を騙すための」
「……本当に、何もできないの?例えば、彼女を人間にするとか……」
荒唐無稽な思い付きだった。それができれば、どんなに幸せだろう。
でも、そんな奇跡は起きないのを、私は知っている。エリックも、不快そうに顔を歪めた。
「……できるわけがないだろう。そんな、お伽噺じみたことが……」
その時、エリックの表情が固まった。
621 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 21:58:20.31 ID:bvl3ZNmeO
「どうしたの?……まさか、アヴァロンが来たとか」
「いや……違う。お伽噺じゃない。不可能じゃないぞ、それは」
「え?」
「魔物が人間になった例を、俺たちは知ってる」
「えっ、誰なの?」
エリックがニヤリと笑った。
「察しが悪いな。シェイドだ」
622 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 21:58:49.52 ID:bvl3ZNmeO
「ああっっ!!!」
私は思わず叫んだ。そうだ、シェイド君はもともと偽猫(デミキャット)だった。それがアリス教授によって亜人の姿になれるようになったんだった。とすれば……
「鍵はアリス教授が握っているわけ?」
「そうなるな。まあ、それも全部アヴァロンたちを何とかした上でのことだが」
エリックが立ち上がり、うーんと伸びをした。
「2人には、このことを話すの?」
「いや、全部終わってからだ。第一今日はもう遅い。……やはり、残って良かった」
「え?」
「お前のおかげだ。俺だけじゃ、こんな考えにはたどり着けなかったからな。……見張り、よろしく頼む」
エリックは微笑むと、ポンと私の肩を叩いて家の方に消えていった。
#
そして……夜が明けた。長い1日が、始まろうとしていた。
623 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 21:59:41.56 ID:bvl3ZNmeO
用語紹介
偽猫(デミキャット)
猫に良く似た魔獣。人里周辺に住んでおり、農作物を荒らす害獣として知られる。猫との違いは尻尾が2本ある点にある。
7〜8歳児並みの知能を持ち、とても悪戯好き。簡単な言葉を話す個体もいる。
好事家の中には偽猫をペットとして飼う者もいる。ただ、とにかく悪戯好きのため、飼い慣らすのは苦労するようだ。
戦闘能力も魔獣としては高めのため、冒険者でも中級以上ないと戦闘は回避すべしというのが定評である。
シェイドはもともと偽猫としてはかなり知能が高く、それが魔術生命体にする一助になったようだ。
なお、シェイドは悪戯好きではないが、その欲求が大体(巨乳の)女性に向いているもよう。
624 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:00:08.49 ID:bvl3ZNmeO
第26-1話
625 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:00:54.94 ID:bvl3ZNmeO
目が覚めて時計を見る。5と半刻。枕は変わっても、寸分違わないことに私は満足した。
ここには信徒はいない。いるのは私と、「魔法環」で拘束されているエストラーダだけだ。
残る血はわずか。完成前に彼を解き放ったのは、私らしからぬ失敗だった。
闖入者の存在に気付いた時、私は行動の予定を早めてしまった。メディアと、「女神の雫」を奪われるのを避けるためだ。
しかし……相手の力量は、私の想定を上回っていた。……何たる失態。
しかも、こういう時のために「契約」を結んでいたはずのオーバーバックが寝返ったのは、完全に考えもしていなかった。
626 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:01:21.83 ID:bvl3ZNmeO
……許されない。
許されない許されない。
許されない許されない許されない許されない。
627 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:02:03.06 ID:bvl3ZNmeO
全ては、予定通り、予想通りに行われねばならない。こんなことはあってはならぬ。断じて。そう、断じて。
掌に熱い痛みを感じた。血が一筋、流れている。拳を握りすぎたらしい。
……いけない、怒りを、外に出してはならない。神は、それをお許しにはならない。
そもそも、最初に予定を破ったのは、私だ。その後の一連の「予想外」は、全て戒律を破った私への天罰なのだ。
大きく呼吸をする。大丈夫、全て問題ない。心の在り方も、平時に戻った。
メディアと「女神の雫」は、すぐにでも取り戻せる。オーバーバックにしても、そもそも信頼などしていなかった。
まずは盗人たちを討ち、その上で彼女を殺す。ロックモールの邪教徒どもは、その上で浄化してやればいい。予定は狂ったが、台無しになったわけではない。
私は最後の血の瓶を手に取り、自我を失ったエストラーダに与えた。もう、口で飲ませなくてもよい。ただかけるだけで、植物のように吸収するのだ。
「……………カァァァァ…………!!!」
叫びと共に彼の身体が桃色に輝いた。……よし。これで昨日のようなことはあるまい。
エリック・ベナビデスが退いてくれたのは幸甚だった。
あの時、もうエストラーダは動けなくなっていた。私が戦えば問題なかっただろうが、私が自ら手を下すのは教義に反する。
時計は6の刻に近付いていた。ここには、食事番の信徒はいない。だが、何も問題ない。
私は部屋の片隅にある銀色の大きな箱……「冷蔵庫」を開けた。そこには、蒸し芋の裏ごしとケルの葉のサラダ、そして「トフ」が入っている。
事前に命じておけば、これは必ず望み通りの物を時間通りに作ってくれる。冷えているのは、この際やむを得ない。予定通りの時間に、予定通りのものが食べられることが何より大事だ。
食事の後は説法。聞く者が邪教徒のエストラーダだけであっても、時間通りにこなさねばならぬ。ロックモールの「浄化」と、盗人たる魔王の討伐は……それからだ。
628 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:02:36.44 ID:bvl3ZNmeO
ジリリリリ!!!
「モニター」の近くから音が鳴る。……耳障りな音だ。
しかし、これが……「電話」が鳴ることはほとんどない。誰だ?
私は受話器を手に取った。
「……もしもし」
『やはりいたかよ』
「……!!デイヴィッド・スティーブンソン!!?」
629 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:03:12.71 ID:bvl3ZNmeO
あまりに予想外の声に、私は絶句した。なぜ彼が?
そして……なぜ私がここにいることを知っている?
……気に食わない。心底気に食わない。現状は、あまりに想定を外れている。
そんな私を嘲笑うように、スティーブンソンは「ククッ」と嗤った。
『さぞ腰を抜かしてるだろうなあ、偽善者の司教さんよ。まあ隠す理由もねえから種明かししてやる。『シェリル』の『パランティア』だよ』
「何ですって」
『あんたの戻りが遅いから念のため『見たら』この有り様だ、そうだ。で、俺にお鉢が回ってきたってわけだな』
「……彼女自身が来ればいいでしょう」
『ところがそうも行かねえ。トリスで『本体』がヤバくなりかけてな、『主端末』ごと逃走中だ。まあ、亡命先はうちの国だろうよ。
そんなわけで、俺がそっちに向かうことになったってわけだ』
「貴方自身の任務は?アリス・ローエングリンを追っているんでしょう」
『ああ、『それも兼ねて』だ。モリブスのジャック・オルランドゥのとこを急襲したが、藻抜けの殻でな。どこかに消えやがった。
とすれば、魔王御一行がいるここが目的地と踏んだ。援軍が来て嬉しいか?』
「手出しは無用です。予定にない」
カカカカカと、耳障りな笑いが受話器から響いた。目の前にいたら、躊躇わず「グロンド」を握っていただろう。
『と言うだろうと思ったぜ。まあそっちはそっちでやりな。俺は勝手にやらせてもらう、魔王狩り含めてな』
「……それが言いたかっただけですか」
『いや……ハーベスタ・オーバーバックの件だ。なぜ裏切られた?』
スティーブンソンの声が低くなった。
630 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:03:47.93 ID:bvl3ZNmeO
「私の知ったことじゃない」
『にしてもだ。俺たちは15年も、『契約』であいつを縛り付けてきた。逆に言えば、15年は従順だった。それが何故急に心変わりする?』
「……待たせ過ぎた?」
『それなら不平不満は言ってたはずだ。それに、極力そうならないように、あいつにはでき得る限りの自由を与えていた。
さらに言えば、あいつには多分、普通の時間の概念がない。1年も15年も似たようなものだ。……何かやらかしたな?』
いや、そんなはずはない。むしろ、相当気を遣っていた。だから、魔王は余程の「好条件」を出したはずだ。
強敵と戦う機会?魔王たちと戦うという話なら、こちらもいつだって命じられる。それは決定打じゃない。
……
…………まさか。
「プルミエール・レミュー……」
631 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:04:19.95 ID:bvl3ZNmeO
『…………!!!それか!!!』
「ええ。彼女の『追憶』が、人に対しても使えるなら……人の記憶を思い出させるものならば……寝返りは、あり得る」
そうだ。彼女の魔法は、土地の記憶を呼び起こすものとばかり思っていた。クリス・トンプソンの情報からも、そう判断していた。
しかし、もし人の失われた記憶も取り戻せるなら。「自分が何者かを調べる」ということを契約の対価とする私たちより、遥かに彼女は優位に立つ。
そして、オーバーバックの正体は……
ゾクンッ
凍り付くような悪寒。もし、彼が自分が何者かを思い出せば……世界は破滅へと近付くと、私は確信した。
「サンタヴィラの惨劇」と同じか、あるいはそれ以上に……この真実は「知られてはならない」。
632 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:04:47.05 ID:bvl3ZNmeO
『……まずいな』
「ええ。本当に始末すべきは、彼女だった」
『了解だ。俺も極力急ぐ』
電話がブツリと切れた。時計はもう6の刻。朝食を取るべき時間を過ぎている。
「……忌々しい……!!!!」
私は椅子を蹴り上げた。あらゆることが、予定通りになっていない。心底忌々しい……!!
彼らがどこにいるか、凡その見当は付いている。襲撃予定は朝の9の刻。
予定された、平穏で無駄のない日々を取り戻すのだ。
633 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:05:13.55 ID:bvl3ZNmeO
用語解説
「冷蔵庫」
秘宝の一つ。我々が知る冷蔵庫とかなり近いが、動力源は謎。温度調整は任意でできる。
また、事前に命令した食事を自動で作り、冷蔵庫で保存する機能もある。食材がどこから来ているのかは謎だが、かなり幅広い注文に対応できるらしい。これがロックモールにある理由は現状では不明。
なお、アヴァロンがいる場所は以前六連星のリモート会議が行われた場所でもある。
これがある部屋は、ロックモール市街からやや離れた場所にあるようだ。
634 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/04(金) 22:06:23.44 ID:bvl3ZNmeO
今日はここまで。次回以降は戦闘シーン多めです。
なお、この「冷蔵庫」は過去作に近いものが出ています。
635 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/04(金) 22:30:43.23 ID:/QifgMJn0
乙
636 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 21:56:45.08 ID:NFy1JhCKO
第26-2話
637 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 21:58:37.50 ID:NFy1JhCKO
「思っていたよりは寄越したものだねえ」
目の前には重装備のテルモン兵が7人。小隊長と思われる男が、兜を片手にあたしとシェイドの所に来た。
年齢は40ぐらいか。無精髭で武骨な印象を与える。場数はそれなりに潜っているようだ。
「カルツ・ヴェルナーだ。シュヴァルツ第4皇子の命でこちらに参上した」
「ああ、よろしく頼むよ。にしても、思ったよりちゃんとした援軍で驚いたね」
「皇子の命だからな。モリブスとはあまりいい関係ではないが、テルモンがモリブスを攻撃したという風説が流布されれば国益に関わる。
何より、昨日の殺戮。こちらも6人が死んだ。ユングヴィには適切な回答を求めたいものだが」
「なるほどにゃ、ロックモール制圧はユングヴィの意向が強いということにゃ?」
「と聞いている。彼らからの要請を受け、皇帝陛下が我々を送ることを決断された。
まあ、陛下の御心は分からないが、シュヴァルツ皇子はそもそも乗り気ではないよ」
「だろうねえ」
もしテルモンが本気でロックモールを制圧しようというなら、皇子は娼館に通わないだろう。
利権拡大を狙ったテルモンが、アヴァロンの誘いに乗ったというのが妥当な読みか。
問題はアヴァロンだ。あいつはメディアを奪うためなら手段を選ばない。
さらに、エリックが言っていた「救済」の言葉も気になる。ユングヴィ教に背くとして、この街そのものを破壊しつくそうとしている可能性すらある。
シュヴァルツ皇子の説得には、この仮説が効いた面もあった。あたしたちにとっても、そしてテルモンにとっても、アヴァロンは敵なのだ。だから、この男たちを寄越したのだろう。
「街中の警備はどうなってるにゃ」
「万全だ。しばらく戒厳令を敷くということにはなってい……」
あたしの視線の向こう。防風林に隠れる形で、何人かの人影が見えた。
そしてそこから放たれたのは……緑色の「枝の槍」。
「伏せなッッ!!!!」
ザクッッ!!!!
「グハッ!!?」
血飛沫が、あたしの頬にかかった。数十メド先から放たれた「槍」の何本かが、反応が遅れたテルモン兵の胸を貫いたのだ。
やられたのは、3人か。さすがに隊長のヴェルナーは避けている。
「なっ!?」
「家の中に逃げなっ!!あたしたちが対処するっ!!」
「しかし……」
「しかしもクソもないよ!!死にたいのかいっ!?」
ヴェルナーが家に向かって駆け出すのと同時に、防風林から、5人の人影が現われた。アヴァロンとエストラーダ侯、そしてあとの3人は教団の兵士か。
「愚かな……あの皇子は、神に逆らう選択をしたようですね」
「……どこの神様かねえ」
あたしは銃を構える。杖を構えたアヴァロンが、一瞬光ったように見えた。
「来るよ!!!」
あたしとシェイドも、家の方に走る。それから程なくして、何者かが近くに現れる気配があった。
シャアアアアッッ!!!
「枝の触手」が、あたしたちに襲い掛かる。来やがったね!!
638 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 21:59:49.89 ID:NFy1JhCKO
「加速(アクセラレーション)5」
ザンッ!!!ザンザンザンッ!!!
千切られた「触手」が宙に舞う。あたしたちの後方に、エリックが飛んできたのだ。そして……
ゴウッッ!!!
「なっ!!?」
激しい振動。振り向くと、エリックとアヴァロンの間に、大きな陥没ができていた。
「次は外さない」
家の陰から、プルミエールが「魔導銃」を握って現れた。……役者が揃ったね。
「……無駄な足掻きを」
アヴァロンが、少し距離を取った。それを守るかのように、エストラーダ侯が無数の触手を背中から生やして立ちはだかる。
教団兵は家の方に向かっているけど、そこはヴェルナーらテルモン兵の生き残りに任せるしかない、か。
パウッ!!!
アヴァロンに向けて放った魔弾は、エストラーダ侯の「枝の盾」に防がれた。盾は激しく砕かれたけど、すぐに元通りに修復される。これは埒が明かないね。
ダッッ!!!
エリックが短剣でエストラーダ侯に斬りつける。「それ」は剣を触手で受けつつ、後方から別の触手が彼を掴もうとした。
「させないにゃ!!!」
シェイドがそれを蹴り飛ばす。アヴァロンが、さらに距離を取ろうとしたのが見えた。
「逃げる気かいっ!!!」
奴が杖を構えた。転移?いや、違う。これは……
「光の矢(セレスティアルアロー)」
上空に、強大な魔力を感じた。……こいつはまずいっ!!!
639 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:00:36.89 ID:NFy1JhCKO
ゴウッ!!!
あたしの横を、魔力の塊が通り抜ける!!!アヴァロンはすんでのところでそれを交わした。上空の魔力は、霧散したようだ。
「よくやったよ!!」
プルミエールが「魔導銃」を放ったのだ。彼女が銃を構えながら、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
「大丈夫ですか」
「ああ……あれはやばかった」
忌々しそうにアヴァロンがこちらを見る。エストラーダ侯とエリック、そしてシェイドは少し離れた所にその戦いの場を移していた。あの手数に接近戦で対応するには、2人に任せた方がいい。事前に取り決めた通りだ。
そして、アヴァロンに対峙するのは……あたしとプルミエールだ。迂闊に近付けば、「グロンド」の「転移」の餌食になるからだ。
それにしても、さっきの「光の矢」……溜めが必要な魔法だったようだけど、あれはエストラーダ侯を含めた、あたしら全員を消し去りかねないほどの威力だったかもしれない。
魔法使いとしての純粋な力量も、相当高いのはもはや疑いない。軽い震えを、背中に感じた。
「……皆殺しにするつもりかい」
「正当防衛なら、神もお許しになるでしょう」
「……どこが正当防衛だよ」
この男の身体能力そのものは、そこまで優れてはいないはずだ。だから、あたしとプルミエール2人で銃を撃ちまくれば、アヴァロンを殺すことはさほど難しくないだろう。
……でも、それを躊躇させる何かがある。いや、既に罠を張っているかもしれない。
アヴァロンが「グロンド」を構えた。……「瞬間移動」でも使うつもりかい!?それとも「光の矢」?
あたしはその刹那、違和感を覚えた。さっきは身体が光っていた。しかし、今は……光っていない。
その杖の先は、プルミエールに向けられている。まずいっ!!!
「歪めなさい、『グロンド』」
640 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:01:31.89 ID:NFy1JhCKO
「え」
彼女の前に、黒い歪みができた。木の葉がそこに吸い込まれていく!?
「どきなっ!!!」
プルミエールを突き飛ばす。右足が、何処かに吸い込まれていく感覚がした。その先は……とてつもなく冷たい。
「ぐうっっっっ!!?」
「デボラさんっ!!」
プルミエールが、歪みの中に魔弾を放つ。「コォォォオオ…………」という魔獣か何かの叫びが聞こえると、吸い込む力が急に弱まった。
右足を引き抜く。氷の欠片が、ビッシリとついている。恐らくあのまま放っておいたら、あたしは吸い込まれて魔獣の餌食になっていたわけか。
仮に魔獣を倒せたとしても、酷寒で死ぬ。……いい神経してるじゃないか。
チッ、とアヴァロンが舌打ちをした。
「余計な真似をしますね……貴女、お会いしたことは?」
「ないね。だけど、初対面だけどあんたから胸糞の悪さしか感じないね」
「邪教徒が良く言います……ああ、なるほど。そういうことですか」
ククク、と愉快そうにアヴァロンが嗤う。酷く不快だ。
「何がおかしい」
「いえ……既視感の正体が分かったので。なるほど、オーバーバックが貴女たちを……いや、貴女を見逃したわけだ」
「……?」
「判断の早さと洞察力は父譲り、見た目は母譲り、ですか。なるほど、貴女も生かしておくと厄介になりそうだ」
何を言っている?父さんと母さんのことを、アヴァロンがなぜ知っている?
嫌な想像が、頭に浮かんだ。血が沸騰しそうに沸き立つ。
「オーバーバックが父さんと母さんを……リオネル・スナイダとパメラ・スナイダを殺したのは……あんたも噛んでるね」
アヴァロンの笑みが深くなる。
「彼の元にお二人を『案内』しただけですよ」
641 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:01:59.25 ID:NFy1JhCKO
ゾワッッッ
激情に任せ、あたしは引き金を引く。次の刹那……
バァンッッッ!!!
あたしの右肩が、砕けた。
642 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:02:31.23 ID:NFy1JhCKO
武器・防具紹介
「冥杖グロンド」
特級遺物の一つ。発動により自己とその周囲の物質を転移する力を持つ。
溜めの時間に応じて転移範囲は変えることができるが、最大で半径50メドぐらいまでの転移が可能。
転移先は実際に行ったことがある場所でなくても地図の座標がある程度分かれば指定できる。
都合の悪い人間を魔獣の巣があり酷寒のイーリス北西部「ガルバリ山脈」の山中に連行するのがアヴァロンの常套手段である。
そして連行した後にすぐに自分だけ逃げることで、「自分の手を汚すことなく」始末するわけである。
基本的に自己の周囲に領域展開し自分ごと移動するが、視界の届く範囲に転移の歪みを作り出すことも可能。
この場合、自分から入るように誘い込むか、あるいは吸収能力を持つ魔獣の住処を転移先にすることになる。
今回は後者。発動をいち早く察していなければプルミエールは「吸い込まれていた」であろう。
643 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:02:58.51 ID:NFy1JhCKO
第26-3話
644 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:03:48.82 ID:NFy1JhCKO
「あああああっっっっ!!!!!」
叫びに思わず視線を移した。崩れ落ちるデボラさんが見える。
「デボラさんっっっ!!!」
彼女の危機はすぐに分かった。激しい出血。すぐ手当てしないと……!!!
ビュンッッッッ!!!
その刹那、触手の鞭打がボクを襲う。飛び退くと、頬に熱い痛みを感じた。……危なかった。
一撃はそれほど速くもないけど、手数がとにかく多すぎる。反動の大きい「限界突破(リミットブレイク)」なしでやるのは、限界だった。
エリックすら交わすのに精一杯だ。そして、手数に押されてボクらはエストラーダの本体にすら辿り着けていない。あの、エリックをもってしてもだ。
「限界突破」は、切り札としてギリギリまで温存しておくつもりだった。エリックも「音速剣(ソニックブレード)」は使っていない。
人外と化したエストラーダは、まだ底を見せていない。早めに手札を晒すのは自殺行為だ。そう、御主人やアリスさんには教わっている。
でも……使うなら、今しかないっっ!!!
エリックと目が合う。「行け」と視線で分かった。
「限界突破(リミットブレイク)ッッッ!!!!!」
645 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:04:33.86 ID:NFy1JhCKO
アヴァロンに向けて走り出す。その直後、後方から気配を感じた。
ビシイッッッッ!!!
脚を薙ぐような触手。ボクはそれをすんでの所で跳んで避ける。「主人」のアヴァロンには近付けさせない、というわけか。
だけど、もうすぐ間合いだ。あと一歩踏み込めば……
アヴァロンがニィと笑った気がした。
寒気を感じ、ボクはデボラさんたちの方に退いた。
「限界突破」を解く。一瞬しか発動していないのに、酷く怠い。
「貴方ですか?例の盗人は」
「お前、何かしてるにゃ?」
「それを漏らして、何の得になりますか?」
違いない。ただ、見当は付いている。会話をしているのは、デボラさんの治療時間を稼ぐためだ。
奴の方は良く見ていない。ただ、詠唱はなかったはずだ。無詠唱でも使え、かつ魔法の発動を悟られないようにする魔法は、そうない。
「魔法障壁」なら、発動が分かるだろう。それが反射効果まで持つものなら、なおさらだ。それを無詠唱で行うのは、御主人ですら無理だ。
つまり、奴が使っているのは……「目には目を(アイフォアアンアイ)」。自分が受けた傷を、相手にそのまま返す呪法だ。
646 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:05:15.35 ID:NFy1JhCKO
……聖職者が聞いて呆れる。だが、その欠点から無詠唱で使うのは難しくはない。
奇妙なのは、アヴァロンが無傷な点だ。別の魔法を使っているのか……いや、あの法衣だ。多分、あれも遺物だろう。
攻撃を無力化するとなると、1つしかない。「大高僧モーロックの法衣」だ。「遺物大全」に、確かあった。
高速で思考を巡らせながら、ボクはアヴァロンに悟られぬよう治癒魔法をかけていた。さほど程度の高いものじゃないけど、止血の役には立つ。
(悪い、ね……また下手を、打った)
弱々しく見上げるデボラさんに、ボクは小さく首を振った。
あそこで撃つのは当たり前だ。ボクだって、あいつが「モーロックの法衣」を着ていると分からなかったら、同じ行動を取る。
……変だ。じゃあ何でさっき、エストラーダに受けさせた?
いや、それだけじゃない。プルミエールさんの銃も避けている。つまり、いつでも傷を反射できるわけじゃない?
アヴァロンはもう次の攻撃体制に入っている。……そういうことか!!
647 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:05:46.71 ID:NFy1JhCKO
治癒魔法で、体力はさらに消耗している。「限界突破」の残り発動時間は、せいぜい10秒。
……その間に、決着を付ける。プルミエールさんに、一瞬視線を送った。彼女が察してくれるかは、賭けだ。
「うおおおっっっっ!!!」
大地を強く蹴る。アヴァロンが一瞬たじろいだ。
「チッ」
「グロンド」に集まっていた魔力が薄らいだ。恐らく、「状態(モード)」を変えたのだ。
「高僧モーロックの法衣」は、特級ではなく一級遺物だ。「大全」にはその詳しい理由が書かれていなかったけど、無条件で攻撃を遮断できるほど、都合のいいものじゃないのは理解した。
つまり、攻撃時にはその効力を発動できず、逆に守備時には攻撃できない。
とすれば、アヴァロンが次に取る手は何だ?一回ボクに攻撃させて、反射で苦悶している所でじっくり殺すだろう。いや、そこで全員転移させて、魔獣に殺すよう仕向けるか。
なら……「攻撃しなければいい」。
648 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:06:25.21 ID:NFy1JhCKO
ボクは態勢を低くし、両腕で奴の脚を狙った。殴るのでも、突くのでもない。そのまま倒し、奴と「グロンド」を引き離すのだ。
アヴァロンとの距離が3メドほどになった時、奴の顔色が変わった。悟られたかっ!?
「エストラーダッッッ!!!」
叫びと共に、「枝の触手」が一気に伸びてくる。これまでとは全く比較にならない程の速度っ!!
ボクは右拳でそれを弾く。アヴァロンが実に忌々しそうな表情で再び間合いを取り、「グロンド」を突き立てた。
「つくづく予定に合わぬ行動をするっっ……!!」
鞭打の手数が一気に増していく。ボクは、それを避け続けた。
攻撃なんて、とてもじゃないけど無理だ。やはり、まだ本気じゃなかったか。
アヴァロンの杖が、黄色く光り始めた。
それとほぼ同時に、急に身体が重くなる。「限界突破」の効力が、切れたのだ。
だけどボクに驚きや落胆、そして絶望はない。
なぜなら、それは……「予定通り」だったから。
649 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:06:53.25 ID:NFy1JhCKO
「失せなさ……」
「それは、こっちの、セリフにゃ……」
光が満ちようとした、その瞬間。アヴァロンの頭が、白い霧で覆われた。
「『幻影の霧(ミラージュ・ミスト)』ッッッ!!!」
650 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:07:59.17 ID:NFy1JhCKO
武器・防具紹介
「高僧モーロックの法衣」
一級遺物。見た目は白い法衣にしか見えない。ユングヴィ教団に「グロンド」と共に伝えられる神宝であり、歴代の大司教に受け継がれるものである。
魔力を通すことで着用者に与えられる全ての物理・魔法攻撃を無力化できる。ただし、一定の集中が必要なため、発動中に他の魔法を使うことは至難である。
アヴァロンは平行して「目には目を」を自らにかけているが、普通はこれすらまず実行できない。
必然的に、攻撃や激しい運動をする場合には発動を解く必要がある。防御に徹すれば完全無欠だが、さりとて万能でもない。
また、シェイドが試みたようにタックルによるテイクダウンなどへの防御効果は薄い。
仮にそのまま持ち上げられ、海に投げ捨てられればアヴァロンは普通に死ぬ。あくまで直接攻撃にしか効かない能力である。
そして、状態異常を防ぐ力もない。この点をシェイドは看過していたわけである。
651 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/08(火) 22:08:45.24 ID:NFy1JhCKO
今回はこれまで。26話は多分7〜8部構成です。
次でようやく折り返しになります。
652 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/10(木) 00:14:24.05 ID:OUMdxgbDO
乙乙
653 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:08:43.02 ID:6QjOvduJO
第26-4話
654 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:09:10.27 ID:6QjOvduJO
霧に包まれた瞬間、目の前が虹色に光った。そこにいたのは……神であった。
長く清らかな黒髪に、慈愛に満ちた微笑み。手を広げ、私を温かく抱いて下さろうとしている。……何という至上の幸福!!
ああ、ようやくお会いできた。涙が溢れそうになる。
それと共に、強烈な違和感を覚えた。
……何故私は、神にお会いできたのだ?
一途な祈りが通じたのか?それとも、たゆまぬ修練の成果か?
否、この程度で神は私を「お許しにならない」。
私は、一度だけ手を血に染めている。その罪は、一生かけてようやく贖えるものだ。
だからこそ、私は一念に神にその身を捧げ続けた。神の教えを広めるために、ありとあらゆることをやった。
しかし、まだ足りぬ。
足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ……!!!
655 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:09:40.24 ID:6QjOvduJO
#
「うおおおおおっっっっ!!!!」
裂帛の気合いと共に、私は幻想の神を打ち破った。そして代わりに目の前にあったのは……銃口。
「……まだ殺しはしません」
ゴウッッ!!!!
「グロンド」を握っていた右腕の先が、消し飛んだ。
「ぐあああっっっっ!!!じゃ、邪教徒風情がっっっ!!!!」
「……自分に背く者は、全て邪教徒なのですか?……哀れですね」
眼鏡の女……プルミエール・レミューが憐憫の目で私を見た。……何と言う屈辱……!!
「お前たちは、自分たちが、何をしようとしているのか……分かっているのかっ!!?その行いは、神に背き、世界を破滅へと導くものだぞっ!!?」
「分かりません。1つ言えるのは、多くの関係のない人々の命を奪った貴方こそ、神に背く邪教徒であるということです」
「笑止っ!!邪教徒は人に非ずっ!!何より、命を奪ったのはあの邪教徒の成れの果てだっ!!」
「……詭弁も、いいところにゃ」
ゆらりと、亜人の少年が立ち上がった。疲弊しているのか、大分ふらついている。
「お前は、生きてはいけない存在にゃ。……デボラさんには悪いけど、代わりに仇、取らせてもらうにゃ」
レミューが私の額に銃口を向ける。……その手は震えていた。
「……プルミエールさん」
「ええ、分かってる」
……予定外、それも最悪の予定外だ。ここで終わるとは……
もはや「グロンド」も使えない。ここで、神に召されるのか……
刹那、視界の端にエストラーダの触手が見えた。
……否。まだ、神は私を見捨ててはいない。
「『騎士』よ、我が身を守りたまえッッッ!!!」
叫ぶと一瞬のうちに、私の身体は樹の枝で覆われた。
エストラーダは、エリック・ベナビデスに決定打を打ち込めないでいた。こちらの援護に少し回ったことで、徐々に劣勢にもなっていたようだ。
このままでは、どちらにしても終わりだろう。だとすれば……これしかない……!!
意識が、身体が溶けていく。……エストラーダに、生命を吸われているのだ。そして、魔力も、意識も……
その行き着く先は。
656 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:10:47.62 ID:6QjOvduJO
……
…………
視界が切り替わった。見下ろす先には、魔王エリックがいる。
全て、予定通りだ。私は満足して、新たな身体の口の端を上げた。
『さあ、神にその身を捧げなさい』
657 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:11:23.46 ID:6QjOvduJO
キャラクター紹介
「エストラーダ」
メディアの血の摂取で怪物となったエストラーダ候。既に自我はほとんど失われ、血を与えたミカエル・アヴァロンを護り、奉仕する存在へと成り果てている。
基本的にはアヴァロンの意のままに動き、無数の枝の「触手」で攻撃、「補食」する。
枝に捕まった者は生命を吸われ、息絶える。それが「エストラーダ」の養分となるのである。
勢い、その身体の維持には相当数の「養分」が必要である。このため、「完成体」となってもその寿命は基本的に短い。
本文の描写で対エリックはまだ省かれているが、手数こそ多いもの速度は遅く、2倍速で対応できる程度ではある。
また、アヴァロンの意識と切り離された場合、自我が薄いため十全な能力は発揮できない。アヴァロンの呼び掛けに応じた時に速度が速まったのは、再びリンクが張られたからである。
とはいえ、圧倒的な手数と防御能力に対しエリックも決め手を欠いており、「音速剣」の使用を検討している最中に今回の「同化」が発生してしまった。
なお、プルミエールは殺害を一瞬躊躇っていたが、アヴァロンの「同化」は反応不可能な速度で行われたため、彼女を責めるのは酷というものだろう。
同化後にエストラーダ候の自我がまだあるかは不明。
658 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:12:24.22 ID:RHoKoq5QO
第26-5話
659 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:13:40.93 ID:6QjOvduJO
エストラーダ候の背中から伸びる、歪んだ幹。その先にアヴァロン大司教の上半身がくっついている。
その異形の怪物を見た時、私は激しい絶望と後悔に襲われた。
人を殺すのは、初めてだった。エリックと一緒に行動するようになってからも、私自身が直接誰かを傷付けたことは、ない。
だから、目の前にいた男が、どんな鬼畜であろうと……それを撃つことに対して躊躇がなかったかと言われたら、それはきっと、違う。
でも、それでも即座に撃たなきゃいけなかった。それが、こんな事態に繋がってしまったんだ。
「……プルミエールさんは、悪くないにゃ」
シェイド君が、呟いた。
「あの速度では、誰も反応、できないにゃ。それより、エリックを……」
「シェイド君!?」
彼が崩れ落ちる。その瞬間、激しい衝撃を私は感じた。
「きゃああっっっ!!?」
3メドほど、シェイド君ごと飛ばされただろうか。右腕の上が、激しく痛む。シェイド君は無事みたいだけど、それでもかなり身体を強く打っているようだった。
『……まだ加減が上手く行かないですね。当てたつもりだったのですが』
私は、アヴァロンの右腕……というよりは巨大な「幹」の風圧が、私を薙ぎ倒したのをようやく理解した。
……風圧だけであの威力?直撃なんてしたら……
いや、怖がってる場合じゃない。悔やんでる場合でもない。
シェイド君は限界だ。デボラさんは立ち上がったけど、右肩を押さえている。あんな短時間で、治るわけがない。
右手を曲げる。痛いけど、骨は折れてない。エリックを助けられるのは、私だけだ。
「シェイド君、デボラさんを連れて家に逃げて」
「家に?……ああ、そうだにゃ。了解にゃ」
シェイド君が、よろめきながら走り始めた。もちろん、ヴェルナーさんたちの支援という意味もある。でも、それだけじゃない。
カルロス君とメディアさんが隠れている地下室。そこには、崖の方に抜ける隠し通路がある。
多分、彼らはそれを使って逃げているはずだ。そして、直接戦えなくなったら、彼らに追い付き、守ってあげる。
ある程度状況が煮詰まった時にはそうすると、事前に決めていた。
『逃げるつもりですか?』
巨大な幹が、シェイド君に向けて振り下ろされる。
「させないっ!!!」
「魔導銃」が火を吹き、幹に直撃する。
それを破壊するまでは至らなかったけど、それでも大きく向きを変えることぐらいはできた。
ズォォォォンンッッッッ!!!
巨大な地響きが耳を突いた。
「助かったよ!!」
シェイド君と合流したデボラさんが叫ぶ。2人は、家の中へと消えていった。
660 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:14:28.11 ID:6QjOvduJO
『……そういうことですか。まあ、予定に変更はありませんが』
エリックはというと、激しくエストラーダ候の触手とやりあっていた。触手の攻撃は激しさを増している。……見るからに厳しそうだ。
「エリック!!!」
「来るなっ!!!お前も逃げろッッ!!!」
見たところ、アヴァロンとエストラーダ候は繋がっているけど、動きは独立したもののようだった。
細かい、無数の「枝の触手」はエストラーダ候。そして、幹による攻撃はアヴァロン。つまり、私がここを去れば……1対2でエリックは戦うことになる。そんなのは無茶だ。
「でもっ!!?」
「でももこうもないっ!!巻き添えを食らいたいのか阿呆がっ!!!」
そうか!エリックの「加速」は、10倍速以上だと周囲に被害をもたらしかねない。
彼が本当の全力を出すには、私は邪魔でしかないのだ。
でも、この怪物に果たしてそれが通用するの??
そもそも、アヴァロンの力量を私は……いや、私たちは見誤っていた。隠密魔法で気配を消し、シェイド君を囮に「幻影の霧」を当てる。その狙いは、見事に当たった。
でも、彼はあっさりと幻術から抜け出した。それだけ、彼のマナは膨大なのだ。
さっきから、アヴァロンは力任せの攻撃しかしていない。でも、これで魔法が使えたら……
私は、ふと「グロンド」が転がっていた地面を見た。……ないっ!!?
661 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:14:55.23 ID:6QjOvduJO
『早速ですが、まずはさっき逃げたスナイダ夫妻の娘と、亜人の盗人から消えて貰いましょうか。ついでに、メディアも。
『女神の雫』は大変惜しいですが、後で取りに行けば十分でしょう』
幹の先には……「グロンド」があった。……そんな。
「やめてええええええっっっっ!!!!!」
次の瞬間。別荘は、光に包まれて……消えた。
662 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:15:35.84 ID:6QjOvduJO
キャラクター紹介
「アヴァロン」
「エストラーダ」と一体化した姿。背中の辺りから生えた高さ4mほどの幹の先端に、上半身裸のアヴァロンがくっついた異形と化している。
そこからは腕のような巨大な幹が左右に生えている。「腕」の先端には枝があり、これで物を取ったりすることが可能。
自我を保っていられるのは、本人が持つ巨大な魔力による。なお、エストラーダから生えている枝は操作不能であり、あくまで動かせるのは幹部分だけである。
言ってみれば、2つの意思が1つの身体を共有し、それを分割して動かしているというべきかもしれない。
通常の攻撃手段は幹を使い殴るのみ。ただ、その攻撃力は計り知れない。
また、「グロンド」を手にしたことで強力な魔法攻撃も可能となっている。
なお、燃費は極めて悪い。
663 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:16:03.29 ID:6QjOvduJO
第26-6話
664 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:16:41.58 ID:6QjOvduJO
別荘が消えた瞬間、さすがの俺も崩れ落ちそうになった。……最悪だ。
プルミエールは責められない。彼女は、もともと戦闘慣れしていない。そういう奴でもない。
本当なら、のんびりとオルランドゥ魔術学院で魔法研究に生涯を捧げるはずの女だ。心根も真っ当な、こういう修羅場にいてはいけない類いの人物だ。
それに、何よりアヴァロンは強大に過ぎる。こうなる前に、俺がエストラーダを討たねばならなかった。
「音速剣(ソニックブレード)」や「閃(フラッシュ)」の発動を躊躇していなければ……こうはならなかったはずだ。
ただ、もし発動していたら、プルミエールたちは無事では済まなかったかもしれない。どちらが正しかったのか、俺には分からない。
一つ言えることは……絶体絶命ということだ。
665 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:17:28.70 ID:6QjOvduJO
満足そうに嗤うアヴァロンの顔が、急に渋くなった。
「……!??……おかしいですね」
……間に合ったのか。俺は大きく息をついた。まだ、最悪ではない。
恐らく、アヴァロンは誰を転移させたかというのを把握できるのだ。
そして、転移した中に……多分、シェイドやデボラ、そしてメディアたちはいない。
俺は短剣を構え、エストラーダと向き合う。まずは、こいつを何とかしないといけない。
ビヒュンッッッ
「ぐっ」
触手を横っ飛びに交わす。攻撃は相変わらず激しい。だが、2倍速でも避けられなくもない。
元は普通の男であるエストラーダの攻撃は、ある程度は読める。速度もさほど速くもない。
ただ、触手を斬ってもすぐに再生される。そして、本体に近付こうとすると触手の盾で防がれる。それを破壊しても、すぐに別の盾が現れ、キリがない。
「音速剣」の使用を躊躇っていたのは、奴の再生速度と余力を読みきれていなかったのもある。もし「音速剣」を使って仕留められないなら、その時こそ本当の終わりだ。より危険性が高い「閃」は尚更だ。
666 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:18:09.56 ID:6QjOvduJO
……何か妙だ。
エストラーダがアヴァロンを吸収した時の触手は、恐ろしく速かった。アヴァロンの意思が反映されていたにせよ、だ。
あの速度で攻撃されていたなら、2倍速じゃ太刀打ちできない。30秒しか持続できない5倍速か、さらに持続時間が短い「乱」を使うしかなかったはずだ。
そして、今2人は一体化している。アヴァロンの意思が、こちらにさらに反映されていても不思議ではない。
にもかかわらず、俺はまだ攻撃に対処できている。いや、むしろ……遅くすらなっている。
導き出せる答えは1つ。
エストラーダにはまだ自我が残っている。そして、それはアヴァロンに僅かながらでも抵抗している。
とすれば……自我を完全に取り戻せば!!?
667 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:18:49.97 ID:6QjOvduJO
そのためにはどうすればいい。自分が、ロペス・エストラーダであると思い出させるには……
激しい攻撃のさなか、まだ愕然としているプルミエールが見えた。アヴァロンが幹の腕を振り上げ、止めを刺そうとしている。
「加速(アクセラレーション)5!!!」
大地を思い切り蹴り、プルミエールのもとに向かう。俺が彼女を抱いて逃げるのと、奴の攻撃が再び空振り地面を揺らすのとは、ほぼ同時だった。
『つくづく無駄な足掻きを……』
「何を呆けているっっっ!!」
「でも、皆……」
「多分無事だっ!!俺を信じろっっ!!」
青ざめながら、プルミエールが頷く。豊かな胸元に、首飾りが見えた。
……いや、これは違う。金属を紐で繋いだだけの代物だ。確か、これは……
……そうか。これがあった。
668 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:19:16.96 ID:6QjOvduJO
「プルミエール、これは……ファリスが持っていたアミュレットの欠片か?」
「え?」
「今すぐそれに『追憶(リコール)』をかけろっ!!物にかけた場合、手にした者にその『物の記憶』を思い出させる効果があったはずだっっ!!」
「で、でも、なんでっ!?」
「エストラーダを正気に戻すためだっっ!!ファリスが死んだ夜のことを、『思い出させろ』っ!!」
「でも、そんな時間なんて」
「俺が何とかするっっ!!!いいからやれっっ!!!」
プルミエールが、戸惑いながら詠唱を始めた。修練の結果、こいつの魔力もかなり向上している。1分足らずで、詠唱は終わるはずだ。
だが、1分という時間をアヴァロンが許すはずもない。
だから、そのための「加速」だ。
俺はプルミエールの頭に手を乗せる。そして、「10倍速」を発動した。
マナの残量からして、「音速剣」を1度撃つのが限界だ。だが、これくらいしかもう思い付かない。
669 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:19:44.69 ID:6QjOvduJO
#
俺の「加速」は、動きを速める魔法ではない。
自分と、自分が触れた物の「時間を加速する」魔法だ。ベナビデス王家の血族だけが使える、秘術でもある。
2倍速なら、周囲の2倍。5倍速なら、周囲の5倍の時間の中を、俺は動ける。俺以外の世界で起きていることは、全てその分ゆっくりと動く。
命のない物の時間は加速させやすい。物を枯らしたり、朽ちさせたりするのは比較的楽だ。
だが、命があるものだとかなり疲弊する。ジャックの元での修練がなければ、2倍速すら大変だっただろう。……だが、今なら。
670 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:20:32.45 ID:6QjOvduJO
#
視界の端で、ゆっくりと「グロンド」が光るのが見えた。まずい。詠唱が終わりきる前に撃たれたら、さすがにどうしようもない。
早く終わってくれ……その想いは通じた。
「終わった!」
「よくやった!!」
俺は紐の部分を持ち、「5倍速」に切り替えてエストラーダに向かう。「グロンド」を発動しかけたアヴァロンが、一瞬怪訝そうになった。
『…………?』
エストラーダの触手が5本、俺に襲い掛かる。それを他愛もなく避け、俺は欠片をエストラーダに投げ付けた!
「キシャアアアアアッッッ!!!」
奇っ怪な叫びと共に、巨大な「枝の盾」が現れる。しかし、「5倍速」で投げられた欠片は、それを易々と砕いた。
……そして。
ダンッッッッ!!!
身体に、欠片がめり込む。エストラーダの動きが、止まった。
671 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:21:01.79 ID:6QjOvduJO
『……何を』
……ア
…………アア
『……………アアアアアアア!!!!!』
エストラーダが吼えた。何かに苦しむかのように身をよじらせ、そして踞る。目からは、赤い涙が流れていた。
エストラーダは、「思い出した」のだ。自分が何者であるかを。そして、同時に娘が何者であったかも、その末路も、あるいは……死ぬ間際の想いも……全て知ることになった。
672 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:21:31.94 ID:6QjOvduJO
『なっ!!?』
アヴァロンの「幹」が大きく揺れる。それは、根本から折れようとしてた。
自我を取り戻しつつあるエストラーダが、アヴァロンを拒絶し始めたのだ。
そして、この瞬間こそ……俺が狙っていたものだ!!!
右手を、短剣の束にかける。狙いは上方の、アヴァロンの身体。失敗は、許されない。するつもりもない。
エストラーダの枝を踏み台にして、俺は飛び上がる。……今だ!!!
「音速剣(ソニックブレード)!!!!」
…………ザンッッッッッッ!!!!!
『え』
間の抜けた声と共に、アヴァロンの身体は……上下に両断された。
673 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:21:58.56 ID:6QjOvduJO
魔法紹介
「加速」
エリックら魔族の王にしか使えない魔法。名前からすると動きを加速させているように見えるが、その実は「自分の時間を加速させる」魔法である。
このため、発動中は周囲の動きがスローモーションになる。例えば2倍速なら半分、5倍速なら5分の1の速度になる。故に攻撃の回避は容易になる。
しかも自分の拳や剣の速度は加速されているため、威力は跳ね上がる。攻防両面で極めて強力な魔法であると言える。
ただ、それ故に魔力の消費も激しい。エリックが乱発できているのは、彼の才能と修練の結果である。
現状20倍速までは可能だが、10倍速以上の攻撃だと音速を超えるため衝撃波による周辺被害が発生する。このため、10倍速以上を発動した状態での攻撃は一瞬しかできない。
ただ攻撃を伴わないなら、今回のように10倍速を使うことは不可能ではない。
なお、極めた先には別の効果もあるらしいが、その領域に達したとされるのはエリックの父ケイン程度である。
触れた物の時間を加速させる効果もある。第3話の終わりに死体を塵にしたのはこれである。
命がない物の加速は容易いらしく、100倍速ぐらいはできるようだ。半面、(植物含め)命がある物に対する難度は高い。
674 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/10(木) 23:23:54.12 ID:6QjOvduJO
今回はここまで。諸々の伏線回収回でした。
なお、ファリスの死体の処理にも「加速」を使っています。
第26話はあと2パートです。短めになるはずです。
675 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/11(金) 15:13:44.31 ID:0E97GYNT0
イナズマイレブンの安価SSもあるので読者はどんどん参加してくださいね
676 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/11(金) 15:19:20.73 ID:gNj1/M8DO
注:イナイレの安価はやっていないので誤爆かと思われます。念のため。
677 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/11(金) 15:56:42.05 ID:FFhfEo9DO
乙です
678 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/14(月) 16:30:36.55 ID:9GqEijSDO
乙乙
679 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 18:56:16.39 ID:CRgXx40Z0
てすと
680 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 18:57:04.08 ID:CRgXx40Z0
第26-7話
681 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 18:58:10.44 ID:CRgXx40Z0
視界が、ゆっくりと落ちていく。何が起きた?
…………ドスン
地面に叩き付けられる衝撃。声を出そうとしたが、なぜか何も出てこない。
私の身に、何があった?エストラーダが急に喚いたかと思った瞬間に、私の前に魔王が出てきた。そして、これだ。
私は、何かの攻撃を受けた。それだけは分かった。
そして、この状況は私の予定にはない。本来なら、プルミエール・レミューはガルバリ山中に送られ、魔獣ノーサの餌食になっていたはずだった。
魔王エリックも同様だ。あの小柄な身体で、私に勝てるはずもない。そのはずだった。
視界が、急速に暗くなっていく。
神は、私をお助けにならないのか?
682 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 18:59:01.91 ID:CRgXx40Z0
#
私は、12の時からずっと、一念に神に祈りを捧げ続けた。自らの贖罪のために。
そう、私は母を殺した。ユングヴィの神学校へと通わせるため、折檻を加え続ける母を殺した。
母は悪魔に魅入られていた。しかし、悪魔払いはその筋に任せるべきであった。自ら行ったことで、私は深い禁忌を犯した。
だが、母は自殺……狂死として処理された。私がそう装ったからだ。
そして、それを幸いに、私は神に強く帰依するようになった。自らのために、そして神のために。
祈り続けていれば、我が罪は浄化され、神の御心が私をお救いになる。そう信じて35年以上生きてきた。
果たして強い神への想いは、自らを高みへと押し上げた。だが、足りない。私をお救いになった神への感謝は、こんなものでは足りない。
皆に救いを。そして、それを拒む愚者には裁きを。信じ続けた果てに、神はおわすのだ。
683 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 18:59:57.60 ID:CRgXx40Z0
#
しかし、神の姿は、未だ見えない。私は腕を天に伸ばした。
ああ、我が神よ。私は自らを、貴女に捧げ続けました。せめて、どうか一目でも……!!
「かみ、よ……」
『神はもういない』
どこからか、声が聞こえた。
「え」
『神はもういない。お前はそこで、朽ちていけ』
今際の際に聞こえたその声は……20年前に死んだはずの、魔王ケインのものだった。
……そんな。こんなことが、あっていいはずがない……!!
私の祈りは、神への想いは、一体……!!!
ぐしゃり
それきり、私の意識は、永遠に途絶えた。
684 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:00:40.88 ID:CRgXx40Z0
キャラクター紹介
カエラ・アヴァロン(享年35)
ミカエル・アヴァロンの母。夫はアヴァロンが4歳の頃に流行り病で死んだ。
上級貴族の娘であり、ユングヴィの上級司教であった夫が亡くなるまでは幸せな家庭を築いていたようだ。
ただ、夫が亡くなったことへのショックと、子育てのストレスから精神が崩壊。過度に教育と神への帰依をアヴァロンに押し付けるようになった。
耐えきれなくなったアヴァロンは、12歳の時に彼女を殺害。ただ、衝動的なものではなく、ある程度計画的に自殺に見せ掛けていたようである。
なお、アヴァロン自身の記憶も自己正当化のためかなり歪められている。
アヴァロンの性格の一端が幼少期の虐待にあったのは疑い無い。
ただ、独善的で狡猾な性格は、母親殺害時には既にできていたようである。それは彼女の殺害により、より深刻なものとなったと言えるだろう。
なお、アヴァロンはこの後神童として異例の出世を果たす。
20年前の時点では「六連星」ではなかったが、それでも各地の首脳と会える程度の地位にはあったようである。
685 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:01:39.08 ID:CRgXx40Z0
第26-8話
686 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:03:04.99 ID:CRgXx40Z0
ぐしゃり
エリックがアヴァロンの頭蓋を踏み砕いたのが見えた。巨大な幹は白い石のようになり、既にさらさらとした砂になり始めている。
「エリック!!」
「もう、大丈夫だ……」
はぁはぁと、肩で息をしている。彼の元に走り、崩れそうになっているのを支えた。
「本当に、大丈夫なの」
「かなり、無茶をしたが、な。……あいつらの、後を追う……」
近くで、何か動く気配がした。……白髪になり、枯れ果てたようにしわくちゃになっている、エストラーダ候だった。
「えっ」
「……君、たちは」
枝に寄りかかり、手を伸ばそうとしている。……意識があったんだ。
そしてようやく、私はエリックの意図を正確に理解した。ああそうか、ファリスさんのアミュレットの欠片は、彼の記憶を呼び戻すために使われたのだ。
あの混乱の中、言われるがままに「追憶」を掛けていたけど……とすれば。
「エリック、逃げないとっ」
「いや、もうエストラーダに、そんな力は、ない。それに……」
小さくエストラーダ候が頷いた。
「ファリスは、逝ったのだな。自らの、意思で」
「そうだ。怪物になり果てた自分を、知られたくない、と」
「……私にも責任が、ある」
「え?」
エストラーダ候が苦笑した。
「アヴァロンが、ネリドと私の前に現れたのは……1ヶ月と少し前、だ。その時、私は……クーデターの計画を、持ち掛けられていた。そして、君たちの排除も。
それに向けて、隠密裏に動いてもいた。思えば、アヴァロンは……あの指輪のことも、知っていたのだろう。そして、計画を知ったファリスが、どう動くであろうかも……グフッ」
「エストラーダさんっ!!」
「もう、いい。寿命が来ているのは、分かる。それに、ファリスの想いも知った……これ以上の殺戮を犯さずに、済んだ……アヴァロンは」
「死んだよ。俺が殺した」
満足そうに、彼は微笑む。
「……そうか。アヴァロン大司教からは、ファリスの居場所を、君らが知っていると聞かされていたが……私は、いいように使われていた、わけだな」
「ああ。だが、落とし前はつけさせた」
「そうか……プルミエール君、だったな。……これを」
胸に刺さっていた金属の欠片を取り出すと、エストラーダ候は穏やかな声で私に言う。
「ファリスのことを……忘れないでくれ。もう、君だけが……彼女と心通わせた人間、だ」
「……はいっ」
目から涙が溢れ出す。……ファリスさんは、エストラーダ候には普通に生きていて欲しかったはずだ。……こんな結末なんて、ない。
私の思考を読んだかのように、エストラーダ候は首を横に振った。
「私のことは、いい。狂人に踊らされただけのこと、だ」
彼は、ロックモールの青空を見上げる。雲一つない、透き通るような空だ。
「……ファリス、今逝こう。愚かな父を、赦してくれ」
カァァァッッ
不意に一瞬、金属が赤く、温かく光った。
687 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:03:38.67 ID:CRgXx40Z0
これが何だかは、正確には分からない。でも、多分……ファリスさんの答えなんだ。
根拠はないけど、なぜかそう思えた。
エストラーダ候の身体が、白い石に変わっていく。そして、端から砂となって、砕けていった。
彼は、穏やかに笑った。
「……そうか。ありがとう……」
それが、エストラーダ候の、最期の言葉だった。
688 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:04:22.05 ID:CRgXx40Z0
#
私はエリックを支えながら、なくなった別荘へと向かう。崖を見ると、階段が下まで続いていた。
私は涙を拭う。皆に、追い付かなくちゃ。
「……歩ける?」
「何とか」
海岸伝いにずっと歩けば、通りに出る。逃げる場合は、そこで落ち合う手筈になっていた。
もう、大丈夫だろう。転ばないように、慎重に一歩ずつ階段を下っていった。
その時だ。
ズズンッッッ!!!!
向こうから、地響きのような音が聞こえた。そして、そこから感じられたのは……強大で邪悪な、2つの魔力。
「……何っ?」
「何だ、これはっ」
砂浜の向こうから、誰かが走って来るのが見えた。……デボラさん??
「来るなっ、引き返しなっっ!!!」
「ど、どうしてですかっ??アヴァロンは、もう……」
「それどころじゃないんだよ!!!」
心を落ち着けるように、大きくデボラさんが深呼吸する。顔色は、顔面蒼白だ。
「カルロスが…………怪物になっちまった」
689 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:05:39.91 ID:CRgXx40Z0
第27-1話
690 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:06:44.17 ID:CRgXx40Z0
「どこだっ、探せっっ!!」
男たちの声が、遠くに聞こえた。地下室には、厳重に鍵をかけている。だが、いつまでもつのか。
エリックたちが簡単にやられるとは思わない。未だにいけすかないが、あいつの腕は確かだ。デボラ・ワイルダもいる以上、助けはいつかは来るはずだ。
問題は、それまでここがもつかどうか。召使のザンダを家に帰しておいたのは、正解だった。
「邪魔だぁっっ!!」
別の誰かが入ってくる気配があった。ワイルダが事前に手配していた、テルモン兵か。
メディアを見る。表情はさほど変わらないが、視線は沈んでいる。短い付き合いだけど、彼女の感情はなんとなく分かるようになっていた。
俺は手を彼女のそれに重ねる。
「……行こう」
「え」
「逃げは早めに打った方がいい。アヴァロン大司教も戦闘に手一杯で俺たちのことまで気付かないはずだ」
分厚い樫の扉の向こうからは、剣戟の金属音と叫びが聞こえてきた。戦況は、ここからじゃ分からない。でも、先手を打つことの大切さは、親父を反面教師にして知っている。
親父がどうやって討たれたかは、伝聞でしか知らない。ただ、「高速回転銃」を手にして傲り、悠長に過ごしていた所をエリックたちにやられたとは聞いていた。
地下室の片隅の床には、金属の扉がある。それは、有事の際にと先祖が作った、抜け道に通じる扉だ。
ゴンザレス家は、しばしば密談にこの別荘を使っていたという。それにはちゃんとした理由があった。
まず、街からここまではほぼ一本道で、誰かが来たのを見付けるのが容易い。そして、いざという時はここから崖下まで降り、砂浜伝いに歩けば街道に出れるようにもなっている。
俺は先人に心から感謝した。それを今こそ使わせてもらう時だ。
「うおおっっ!!!……はあっ、はあっ……開いた」
扉は錆び付いていたが、何とかギィという気持ち悪い音と共に開いた。潮の匂いが一気に広がる。
「行こう」
小さく頷くメディアの手を取り、階段を降りる。段々と光が強くなっていく。
そして、開けた先には……足を踏み外せば遥か下の海に落ちてしまいそうな、長い階段が崖に張り付いていた。
……ゴクリ
ボロボロのロープを頼りに、くりぬかれた階段を慎重に降りる。上からは、誰か女の叫び声が聞こえた。……急がないと。
降りた時には、酷く疲弊していた。メディアはというと、心配そうに俺を支えていた。
……情けねえな、守るべき女に支えてもらってるんじゃ。
「大丈夫、急がないと」
「……うん」
俺たちが下にいると悟られないように、小走りで砂浜を駆ける。昨日の騒動で戒厳令でも出ているのか、普段なら水着の男女で溢れている海水浴場には人影もまばらだった。目立たず動けるのは幸運だ。
とりあえず、何かあったら「蜻蛉亭」まで逃げろとは言われている。あそこには、テルモンの皇子がいると聞いていた。テルモンの連中に頼るのは少し癪だけど、四の五の言っていられる状況じゃない。
……ゾクン
背中に寒気が走った。メディアを見ると、凍り付いたように立ち止まっている。
691 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:07:43.96 ID:CRgXx40Z0
「どうしたんだ?」
「……ダメ、戻らないと」
「何でだよ……」
彼女が向こうを指さした。15メドほど先に、皮鎧を着た、短い金髪の男がいた。腰からは、やたらと長い剣の鞘がぶら下がっている。
俺は戦いの訓練を受けているわけじゃない。でも、そいつが只者じゃないのは、すぐに分かった。
「……逃げよう」
彼女が頷いたその瞬間、俺たちの横を何かが通り過ぎたのが分かった。
ザンッ
ドゴォという地響きとともに、後にあった椰子の樹が倒れた。……え??
「逃げようとしても無駄だ。次は当てる」
「……誰だよ、お前は……」
「アングヴィラ王国近衛騎士団団長、デイヴィッド・スティーブンソン。エリック・べナビデスとプルミエール・レミューの居場所はどこだ?」
692 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:08:40.93 ID:CRgXx40Z0
……メディアが狙いではないのか?そもそも、はるか西のアングヴィラの近衛兵団団長ともあろう者が、わざわざ単騎でエリックやプルミエールさんを狙うなんて……
金髪の男は、深紅の大剣を地面に突き刺して言う。
「居場所を教えれば見逃してやるよ。俺はその『女神の樹の巫女』には興味がないんでな……」
「……何でエリックたちを。アヴァロン大司教とは、仲間なのか」
「仲間……というより同盟だな。ただ、互いにやることは干渉しないことになってる。ま、『魔王エリック』と『魔女プルミエール』を殺したいのは同じだが。
お前があいつらと一緒にいたことは知ってる。素直に吐きな」
俺は悩んだ。エリックたちには恩もある。ただ、あいつが親父の仇であるのには変わりない。
ここであいつらを売っても、問題はないんじゃないか。俺にとって大事なのは、メディアとこの街を抜け出して逃げ切ることだ。
「あ、あいつらは……」
「駄目」
メディアが、鋭い目で俺を見ると、小さく首を振った。
「あなたは、そういう人じゃない。それに、教えてもきっと……彼は私たちを殺す」
「え」
もう一度、デイヴィッドと名乗る男を見る。……目の底に、深い闇が見えた気がした。
……確かに、こいつの言うことを信じられる保証はない。
……俺は悩んだ。行くも地獄、退くも地獄。そして、俺には……力がない。
「どうしろと言うんだ」
「私に任せて、あなたは逃げて。『あなたは助かる』」
分かったと言いかけて、俺は強烈な違和感を覚えた。「あなたは助かる」?つまり、自分を犠牲にすると?
ダメだ、それだけはダメだ。彼女には、生きてもらわないと意味がない。2人で生き残らないとダメだ。
でも、どうすればいい?目の前の男は、間違いなく強い。エリックならともかく、俺でどうにかなる相手じゃ……
俺の頭の中に、恐ろしい考えが浮かんだ。
693 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:09:27.77 ID:CRgXx40Z0
……そうか。これなら彼女を守ることができるかもしれない。とりあえず、2人で生き残るとしたら、これしかない。
俺は、メディアをおもむろに抱きしめた。そして……
「……ごめん」
そう一言言うと、俺は彼女の唇を奪った。そして、舌を深く挿し入れる。
欲情のためじゃない。彼女の唾液を、体液を摂取するには……これしかなかったから。
「むっ……!!?むちゅっ……」
「駄目っ!!!んんっ……それは、んぐっ、それだけは……!!!」
身体が一気に熱くなる。そして、頭が俺のものじゃないかのように、急速にめぐり始めた。
694 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:10:27.28 ID:CRgXx40Z0
背中が、熱イ。両腕ガどこマでも伸びテイク。
そうダ。メディアヲ守ルには……ヒトであルコトヲ、ヤメレバイイ。
「WOOOOOOOO!!!!!」
俺の……カルロス・ゴンザレスの人としての意識は、そこで途絶えた。
695 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:11:10.23 ID:CRgXx40Z0
場所紹介
「ロックモール・イリア海水浴場」
ロックモールの一大名所。富豪の高級別荘が立ち並ぶ一角にある。一般人には解放されておらず、特権階級の憩いの場である。
近くには温泉を活用した「ロックモール総合病院」もある。ここはユングヴィの世俗派が運営する病院であり、アヴァロンら原理主義派との関りは薄い。
なお、イリアとは先代の「女神の樹の巫女」の名である。
人がほとんどいなかったのはカルロスの推測通りであり、テルモン主導で戒厳令が出されたため。
なお、デイヴィッドは「アングヴィラ近衛騎士団団長」であるため、ユングヴィ教団を警戒するテルモンの兵士たちからはスルーされている(というよりテルモンへの協力者と騙っている)。
696 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:12:16.03 ID:CRgXx40Z0
第27-2話
697 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:12:58.93 ID:CRgXx40Z0
「……これは酷いにゃ」
別荘に入るなり、強い血の臭いが鼻についた。玄関先には事切れたテルモン兵が横たわり、その少し向こうにはユングヴィの神官兵が腹を剣で貫かれていた。
内部ではかなり激しい戦闘があったみたいだ。数の上ではこちらが有利だったはずだけど、エストラーダの攻撃を食らったのも確かいたはずだから、全体としてはそう戦力は変わらなかった、ということか。
「気を付けな……まだ、いるかもしれない」
デボラさんにボクは頷く。彼女の顔色は青白いままだ。出血は何とか止めたけど、骨までは治せなかったかもしれない。ボクも限界だけど、残党がいたらボクが戦うしかない。
ゴトッ
抜け道がある地下室に向かおうとすると、何かが倒れる音がした。そこに向かうと……
「ヴェルナーさん、かにゃ?」
頭から血を流しながら立ち上がろうとするヴェルナーさんが見えた。その横には、ハンマーと神官兵の死体が転がっている。
「……アヴァロン、は」
「まだにゃ。向こうでボクらの仲間が戦ってるにゃ。ボクらはカルロスを追うにゃ……歩けるにゃ?」
「かたじけない……こいつら、魔法か何かで強化されてやがった……ただの神官兵と見て、侮ってたよ……」
地下室の扉を開けようとしたけど、しっかりと鍵がかかっていて開かない。中に人の気配はなさそうだ。
「デボラさん、銃を」
「魔導銃」を受け取り、できる限りの出力で放つ。轟音と共に、扉は砕けた。
「大丈夫、かい?」
「……もう余力はほぼないにゃ。でも、行かなきゃ」
案の定、カルロスとメディアは逃げた後だった。どのくらい前に逃げたかは分からないけど、急いだ方がいいと本能が言っていた。
その次の瞬間。
ゾワッ
外から、恐ろしいほどの魔力の高まりを感じた。……まずいっ!!
698 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:13:55.30 ID:CRgXx40Z0
「走るにゃっ!!!」
抜け道に至る扉を確認し、2人を支えながら駆ける。扉を閉めるのと、光と共に何かが消える気配がしたのは、ほぼ同時だった。
「なっ……!!?」
「多分、アヴァロンの魔法にゃ。ボクらを消そうとしたのにゃ」
「『消す』?」
「いいから急ぐにゃ、あの2人だけじゃ身は守れないにゃ」
ふら付きながらも崖を降り切る。カルロスたちの姿は、まだ見えない。
「……上手く、行ったかね」
「分からないにゃ」
彼らが神官兵に捕まらないとは言い切れない。ただ、数はずっとテルモン兵の方が多い。多分大丈夫だろうという、うっすらとした推測はあった。
ただ、どうにも嫌な予感が消えない。砂浜を歩きながら、足がどんどん重くなるのが分かった。理屈じゃない、本能が何かを訴えかけている。
街道が、向こうに見えた。……その時。
ぞわわわわっっっ
強烈なマナ……いや、邪気!?それも、2つ???
699 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:14:30.23 ID:CRgXx40Z0
「何だいこれはっ!!?」
「行くにゃっ!!ヴェルナーさんは、ここで待ってるにゃ!!」
「し、しかし」
「あなたの傷が一番深いにゃ!何かあったら逃げてにゃ!!」
首を縦に振る彼をしり目に、ボクは気力を振り絞って走る。全身が軋んで、すぐにでも倒れ込みそうだ。でも、この中で何とかできるとしたら、ボクしかいない。
そして、ボクが見たものは。
ぞわわわわっっ!!
エストラーダ候と同じように背中から無数の「枝」を生やす、カルロスの後ろ姿だった。そして、彼と対峙しているのは……深紅の大剣を振るう剣士。
「邪魔だあっっ!!!!」
ブンッという風切り音が、ここまで聞こえた。切り落とされた枝の付け根から、間髪を置かず新しい枝が生えてくる!?
「WOOOOOOOO!!!!」
獣のような咆哮。そして、彼がメディアを胸の中に抱きながら戦っていることに、ボクは気付いた。
「カルロスっ!!?」
「ダメっっっ!!!」
メディアの叫びが聞こえると同時に、「触手」が3本、ボクの方に飛んできた。……しまった、反応が……
700 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:15:12.34 ID:CRgXx40Z0
「何ぼーっとしてるんだいっ!!!」
後ろからボクについてきていたデボラさんが、左腕だけで僕を抱えた。勢いあまって倒れたボクらの頭上を、触手が通り過ぎる。
「……あ」
「呆けてるんじゃないよっ!!あれは、もう『カルロス』じゃないっ!!今すぐ戻って、エリックたちに伝えにいくよっ!!」
……デボラさんの言う通りだ。多分、あれは……メディアに近づく人間を全て「敵」と認識しているんだ。こうなった以上、ボクらにできることは、ない。
起き上がって後退しても、「触手」の追撃はない。「カルロス」と戦う男が、ボクらの味方とも思えない。……退く以外に、道はなさそうだ。
「……分かった」
ボクらは、ふらつく足で走り出す。ボクもデボラさんも、正直体力は限界だ。それでも、気力を振り絞らないと。
「彼」がどうなるかは、ボクには全く分からない。ただ、エストラーダと同様殺戮を引き起こすなら……誰かが止めないとダメだ。
じゃあ、それは誰だ?エリックにそこまでの余力が残っていることを、ボクは心から祈った。
……そして、多分それはただの願望であることも、ボクは知っている。
「ぐあっ……」
「シェイド!?」
砂に足を取られた。これ以上は……走れそうもない。猫の姿になった所で、この足場の悪さではエリックたちのところまでは戻れない……か。
「デボラさん、任せたにゃ。ボクは少し……休むにゃ」
「……分かった」
彼女も右肩を負傷してて、全く万全じゃない。ただ、戦闘するならともかく、体力的にはまだボクより余裕はある。ボクにできることは、ただ……これ以上の襲撃がないのを祈るだけだ。
701 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:16:05.25 ID:CRgXx40Z0
サクッ
誰かの足音がする。砂浜にはほとんど人はいない。ヴェルナーさんが、30メドほど離れた木陰で休んでいるのが見えるぐらいだ。
ボクはそのまま寝てしまいたいという欲求を振り払い、身体を起こす。もしさらに追っ手がいるなら……ボクは、ここまでだ。
サク、サクッ
疲れで視界が不鮮明だ。誰かが近付いているのは分かるけど、まだはっきりとは見えない。
「……誰、にゃ」
その顔が見えそうになった瞬間、ボクの視界が白い霧のようなもので覆われた。
「……!!?」
身体から、力が抜けていく。そしてボクは、そのまま意識を失った。
702 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:16:53.18 ID:CRgXx40Z0
キャラクター紹介
カルツ・ヴェルナー(35)
男性。テルモン王国のシュヴァルツ第四皇子付きの騎士。身長178cm、78kgの筋肉質で短い黒髪。眼光鋭く、無精ひげの無骨な男。老け顔。
下級貴族の出だが、その剣術の腕を買われ第四皇子とはいえ皇室付きの騎士にまでのし上がった。
決して剣術の技巧は優れていないが、愚直な太刀筋で相手を消耗させ、頑強な肉体に任せて肉を斬らせて骨を断つ戦術を得意とする。
その剣同様、本人も不器用な職人肌。命令を忠実、着実に不平を言わずこなすため、皇室の信頼は厚い。
皇弟ナイトハルト・ヴォルフガングから召し抱えの話もあったが、シュヴァルツ皇子付きになってまだ1年ということもあり固辞している。
なお、意外にもグルメであり、こっそりと各地のレストランの記録を付けている。あくまで備忘録であり、人に見せるものではないとのこと。
何度も縁談が来ているが、任務以外では口下手なのと強面な外見が災いし未だ独身。
本人は独身であることに負い目や焦りを感じていないというが、ロックモールで主人が娼館に入り浸っているのを見て少し心が揺らいでいる。
703 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/12/15(火) 19:18:40.51 ID:CRgXx40Z0
今回はここまで。
ちょっと息抜きに番外編でもやろうかと思っています。
なるべくぬるーいやつです。(人口が減っている中あるのかは知りませんが)何かリクエストがあればどうぞ。
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