貴方「僕がヒロインを攻略するまどか☆マギカ…オカルト?」マミ「それは終わったわ」

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708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/24(月) 01:01:36.19 ID:jTbVHQ9v0
乙です

あーあ、あすみの危惧通りばれちゃったか・・・
佐倉家が原作みたいな流れにはならないとは思うけど拗れはしそうだなぁ
709 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 22:02:28.95 ID:T9pvnxi10


なぎさ「ええっ!?」


 驚きました。そして……何かしなくてはと考えます。

 しかし、戸惑ったところでなぎさには人目をごまかす魔法なんてありませんし、都合よく忘れさせる魔法もないのです。

 そんなのは、たしかに、考えるまでもなく…… とっくにわかってたことでした。


なぎさ「い、いえ! なぎさですよ! 一緒に遊んだ……! 知ってますよね!?」

モモ「知ってる、けど…… 見たもん。なぎさ、なんでそんなほうに行くんだろうなって、また遊びに誘おうかなって思ってたら……」

モモ「キラキラ光って箱が出てきたの。なぎさが女神様なんでしょ!?」

なぎさ「それは……――――」


 そこまで見られてしまっては言い逃れができません。


 仮面のヒーローの素顔がバレるのは、いつかあすみが言ってたように『こっけい』なことでしょうか?

 それどころか今のなぎさは…… この人たちにとっては女神様、なのです。

 感謝されたくてしてたわけじゃないですが……。


モモ「あのね! 女神様に会ったら、ずっと言いたかったことがあるの!」

なぎさ「な、なんでしょうか?」

モモ「いつもおいしいケーキをありがとう……ございます! 私たち家族のことをいつも見てくれて、見捨てないでくれて……!」

なぎさ「そ、そんな、改まらなくても……!?」

モモ「だって、神様なんだもん! これからもどうか……!」

なぎさ「は――はいっ! これからももちろん、なぎさの助けが必要ならお助けしますので!」


 ……頬が熱くなります。

 感謝されたくてするわけじゃなくても、感謝されるのは悪いことじゃないんじゃないか――そう思ったのでした。



――――

――――
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/24(月) 22:42:11.15 ID:jTbVHQ9v0
即効でバレましたなぁ・・・
このなぎさちゃんはすみみとの事とかで心に余裕がないせいか、色々と隙がありますね
711 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 23:34:08.49 ID:T9pvnxi10



 約束通り、次の日もマミとの訓練の前に教会へケーキを置きにいきます。


 バレてしまったものはしょうがありません。見られたのはモモだけですが、一家に広まってたらと思うとどうしたらいいか。

 それでも前よりも気を張らなくてよくなったぶん、気分的には楽になりました。

 こっそり、っていうのも意外と疲れるのです。



なぎさ(今日はチョコレートケーキ……)


 ケーキの入った箱を置いて、文房具を取り出していつものメッセージを書きます。

 それから戻ろうとすると、待っていたようにモモがいました。


なぎさ「あのっ、なぎさのことって他のみんなにも話しました?」


 モモは首を横に振ります。ちょっとホッとしました。

 さすがに一家の全員から女神様と崇められたら気後れしてしまいます。


なぎさ「じゃあ、ヒミツにしててくれませんか? みんなと会うときのなぎさは、ただのなぎさだと思ってほしいのです」

モモ「女神様ってすごいです! こんなによくしてくれるのに謙虚で。本当に今日もありがとうございます!」

なぎさ「えへへ……」


 ……他の人からは女神様と呼ばれないで済むみたいですが、モモの態度は元には戻らなさそうです。


モモ「これからはもっとお祈りを頑張るので……!」

なぎさ「は、はい」

モモ「……明日はモンブランがいいな、なんて」


 何かかしこまった雰囲気と思ったら。


 これも、すがおがバレたっていうのでしょうか。

 たしかに見られてしまったけど、ホントのなぎさは女神様ではないのです。

 でも、女神じゃなくても魔法で叶えることはできます。なぎさの得意な、幸せのお菓子の魔法。


モモ「あ! ごめんなさい、わがまま言っちゃって!」

なぎさ「いえいえ、そのくらいならお安い御用なのですよ! 女神様にまかせなさいなのです!」

712 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/25(火) 00:35:04.91 ID:LUNAnkwB0

モモ「もう行っちゃうんですか?」

なぎさ「はい、これから予定があるので…… それが終わったらまた来るのです!」

モモ「はい! いつでも待ってます!」


 ふかぶかとお辞儀をする姿に手を振り、訓練場所へと行くことにします。

 ――……その時、なぎさの背後では、モモの姿を探して杏子が外を見に出てきていました。


杏子「……モモ、そんなとこでなにやってんの?」

モモ「ううん、ヒミツ! それより今日も裏見てみてよ。女神様に感謝の祈りを捧げなきゃだよ!」

杏子「お、今日も来てるんだ! 今日は何かな?」



 素直に喜んでいた杏子でしたが、なぎさの行ったほうを見て、少しだけ不可解な表情を浮かべます。

 とはいえ、その場を見ていない杏子にはすぐに正体と結びつけることは出来なかったのですが――――というのは、なぎさの知らない部分のおはなし。



――――



なぎさ「マミ、遅くなってごめんなさいなのです!」

マミ「いえ。でも、最近少し来るのが遅いことが多いけど……もしかしてまた教会に?」

なぎさ「ま、まあそうですね!」

マミ「お祈りでもしてるの? そんなにハマるような場所なのかしら……?」

なぎさ「え、ええと! お祈りもしてませんし怪しいものにハマったとかっていうわけじゃないのですよ!? むしろなぎさが祈られてるっていうか……」

マミ「……え?」

なぎさ「なんでもないのです! さあ訓練訓練!」



 半ば強引にごまかすように訓練に移ります。

 マミは同じ魔法少女ですし、モモに女神様……なんて呼ばれてることは、なんとなく恥ずかしいので知られたくありませんでした。



 ――――モモにも言ったので、訓練が終わったらまた教会に向かいます。今度はただのなぎさとして。



なぎさ(あ。あすみ……?)


 扉を開けた途端にまず目に入ったのは、教会の家族ではなくあすみの姿でした。

 ガラ空きの椅子の端にぽつりと座っていて、なんだか寂しそうに映ります。

 そうでした。最初にここに来たのもあすみがきっかけだったことを思い出します。

 特に何をしている様子でもなく、ただそこにいるだけ。


あすみ「…………」


 あすみもこちらに気づいただろうに、目を合わせてくれません。

 話しかけるなオーラと言いましょうか……意図的に無視している雰囲気を感じました。



なぎさ(さすがになぎさもそのくらいは読めますけどね……)


 そうしていると、あすみが席を立ちました。なぎさと入れ違いになるように去っていくつもりみたいです。

 モモたちがいるので厳密には一人じゃないですけど、一人になりたかったんでしょうか……? そんな感じにも見えました。

713 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/25(火) 00:40:23.58 ID:LUNAnkwB0
------------------------------
ここまで
次回は27日(木)夜の予定です
714 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 00:52:16.44 ID:5lUs1dkn0


 しばらくあすみのことを考えてましたが、声をかけられます。


夫人「あら、ようこそ。今日もきてくれたのね」

モモ「わあ! いらっしゃい!」


 ひときわ明るい声で寄ってきたモモの手には分厚い本があります。勉強中だったのでしょうか?


なぎさ「むずしそうな本を読んでるんですね〜」

杏子「まあそうだね。これは聖書だよ。だから、神様の勉強。なんだかモモったら急に精を出しててさ。今日なんて遊ぶより勉強するって言うから驚いたよ」

神父「あのケーキのこともあって、目覚めたのかもしれないね。もちろん私としては嬉しい限りだ」

モモ「うん! だって今こうしているのも全部神様のおかげなんだもん!」


 モモはそう言って満面の笑みをなぎさに向けます。

 それは、なぎさを神様と思ってのことです。


なぎさ「ふふ。あ、あんまり無理はしなくて良いのですよ」


 ――なんて、ちょっと調子にのって言ったら、モモ以外からは『?』というような反応を返されてしまったのですが。


神父「まあ、ずっと本を読んでいたら目を悪くしてしまうかもしれないし、小さい頃は外で遊ぶことも大事だね」

神父「せっかくなぎさちゃんも来てくれたんだし、一緒に遊んできてもいいんだよ」

モモ「うん。じゃあ、遊びに行きましょう! めが……、なぎさ!」

なぎさ「は――はい!」



 それから、今日は暗くなるまでモモと杏子と一緒に三人で遊びました。

 学校の友達との遊びとなるとゲームなどのインドアになることが多いので、めいっぱい身体を動かす遊びはむしろ新鮮に感じます。

 もちろん、手加減はしなくちゃならないのですが……。


 魔法少女になってから近い年の子と遊ぶこと自体減ってしまったので、一緒に遊ぶ時間は楽しい時間でした。

715 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 01:00:48.86 ID:5lUs1dkn0
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亀更新すぎるんですがとりあえーず1レスだけ投稿しつつ…
次回は28日(金)夜からの予定です
716 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 23:19:05.45 ID:5lUs1dkn0
――――――



あすみ「…………」


 ……なんとなく暫く外から眺めてたら、なぎさと教会の娘らが飛び出していくのが見えた。


 ケーキの件からなぎさがここの奴らに関わってることは知ってた。

 飢えなくなって多少賑やかになってからも私一人だとまだ静かだが、なぎさが来たら空気はまるで別物へと変化してしまった。


 なぎさはああいうやつだから。マミが来てから余計に元気になってるみたいだし。

 あの空気の中にいる気はなかった。忠告ならこの前に済んでる。



あすみ(寂しい? 違う。別にそんな感情を埋めるために立ち寄ってたわけじゃない)



 ――だけど、なんか。

 なにかが気に入らなくて、立ち去った。


――――――
――――――




モモ「め…… なぎさ、ちょっとあっちで話せる?」



 ――――また次の日も教会に行くと、みんな歓迎してくれて、とくにモモはリクエストのモンブランのケーキを喜んでくれました。

 本当にすごい、ありがとうって。

 わざわざモモは教会の裏で感謝を伝えてくれたのです。


 でも、なんだか、昨日よりも少し元気がないようにも見えました。


なぎさ「あっ、またリクエストあったら聞きますよ?」

モモ「えっと、じゃあ、すっごくひさしぶりに豆腐じゃないホンモノのお肉とかも食べたいなぁ……って」

なぎさ「あ……それはできないのです。ごめんなさいなのですが……実はなぎさ、お菓子しか出せないのです。それもチーズを使ってないお菓子だけで……」

モモ「えっ、い、いいえ! ケーキ大好きです! こちらこそわがままを言ってしまってすみませんでした!」

717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/28(金) 23:35:40.23 ID:z3gxEXvB0
なぎさはお菓子しか出せないからね
ケーキばかりなのは流石にね

あとあすみが何か複雑な感情抱いたね、嫉妬?
あすみも意地張らないで少しでもなぎさに歩み寄れればねぇ・・・
718 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:14:39.12 ID:TAt5j0GZ0


モモ「……本当にごめんなさい、女神様。全然信仰を増やせなくて……。こんなに良くしてくれてるのになにもできてないです」

なぎさ「そ、そんなの、全然気にしてないのです……! ――――あ、というか……」


 なんと言っていいかわからず、言いかけた言葉を引っ込めます。それと同時に胸が痛みました。

 こうやって申し訳なさそうにされると困ってしまいます。

 なぎさは本当は女神様じゃないから……。


モモ「このままじゃうちは教会じゃなくなってしまうかもしれません……だから、少しでいいので、協力してもらえませんか?」

なぎさ「ええと、なぎさはなにをすれば……?」


 モモのことは今ではただ純粋に、なぎさのお友達だと思ってます。

 だから、神も魔法少女も関係なく、できることなら協力はしたいと思うのです。……でも、何か嫌な予感がします。


モモ「『神様として』布教を手伝ってほしいんです!」

なぎさ「でも、それは……」

モモ「お願いします! こんなにすごい神様がいるんだって知ってもらえれば、みんなも信じてくれるはずだから……!」


 いつになくモモは食い下がります。

 当たり前です。自分の家の命運がかかっているのですから、そう簡単には引けません。

 なぎさが『神様として』魔法少女の力を見せつければ、信仰してくれる人は増えるかもしれません。モモの家は教会を続けていけるかもしれません。


なぎさ「……………あの、ですね」


 ……でも、もう限界だと思いました。

 これ以上自分を神様だなんて言い続けたら、人を騙してるのと同じ。



 そう思って言いかけた言葉は、不意に表のほうから響いた声のせいで遮られました。


719 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:18:30.05 ID:TAt5j0GZ0
>>718 【訂正】 数行抜けてる!
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モモ「……本当にごめんなさい、女神様。全然信仰を増やせなくて……。こんなに良くしてくれてるのになにもできてないです」

なぎさ「そ、そんなの、全然気にしてないのです……! ――――あ、というか……」


 なんと言っていいかわからず、言いかけた言葉を引っ込めます。それと同時に胸が痛みました。

 こうやって申し訳なさそうにされると困ってしまいます。

 なぎさは本当は女神様じゃないから……。


モモ「みんなが話を聞いてくれないのは、きっと、神様なんていないと思ってるからです。神様はこうしてちゃんといるのに」

モモ「今日は、学校でも神様のこと馬鹿にされてモモの家がヘンだって言われて……すごく悔しかったんです」


 今まで見たことがない怒りの表情を見せます。それにきっと、その怒りはなぎさのためでもあるのです。

 モモが元気がないのはそのことがあったせいでした。


モモ「このままじゃうちは教会じゃなくなってしまうかもしれません……だから、少しでいいので、協力してもらえませんか?」

なぎさ「ええと、なぎさはなにをすれば……?」


 モモのことは今ではただ純粋に、なぎさのお友達だと思ってます。

 だから、神も魔法少女も関係なく、できることなら協力はしたいと思うのです。……でも、何か嫌な予感がします。


モモ「『神様として』布教を手伝ってほしいんです!」

なぎさ「でも、それは……」

モモ「お願いします! こんなにすごい神様がいるんだって知ってもらえれば、みんなも信じてくれるはずだから……!」


 いつになくモモは食い下がります。

 当たり前です。自分の家の命運がかかっているのですから、そう簡単には引けません。

 なぎさが『神様として』魔法少女の力を見せつければ、信仰してくれる人は増えるかもしれません。モモの家は教会を続けていけるかもしれません。


なぎさ「……………あの、ですね」


 ……でも、もう限界だと思いました。

 これ以上自分を神様だなんて言い続けたら、人を騙してるのと同じ。



 そう思って言いかけた言葉は、不意に表のほうから響いた声のせいで遮られました。


720 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:21:49.91 ID:TAt5j0GZ0
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ここまで
次回は30日(日)夜からの予定
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/29(土) 01:22:44.43 ID:XlhuLAgC0
あすみが危惧した通り、なんかめんどくさい展開になってきましたね
722 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/30(日) 21:30:57.29 ID:J12IF2ye0



*「ここがアイツの家? こんな町外れのド田舎みたいなとこにホントーに住んでるヤツなんていたんだな!」

*「おい、嘘つきモモ! きてやったぞ! 歓迎しろよ!」


 なにやら乱暴な声です。

 モモと一緒に表に駆け寄ってみると、モモと同じくらいの年の男の子二人がいました。


モモ「あ、あんたたち…… 何しに来たの!?」

*「お前がクラスの人みんなに『お願いだから来てください〜』って頼んでたから見にきてやったんだよ」

*「てかマジで来たのオレらだけ? オレらってやさしー。みんなモモの家はおかしいから近づいちゃいけませんって言われてるもんな」

モモ「みんな? そんなはずない!」

*「ホントだよ。モモと違って嘘つきじゃないし。モモには言わないだけだよ」

なぎさ「あ、あなたたちはバカにするためにここまできたのですか……?」


 ムッとして尋ねます。興味がないなら来なければいいのに。

 モモは学校でも広めようとしてたみたいです。モモを馬鹿にした人たちというのはこの二人なのでしょう。


 表で騒いでいたのに気づいたのか、神父さんと杏子も出てきました。


神父「何やら声がしたが、お客さんかね……?」

杏子「あんたたちモモのクラスメイト?」

*「あ、嘘つき宗教の神父だ! 逃げろー!」

*「神父さん! 信者を増やすためなら嘘言ってもいいんですか?」


 嘘……。さっきも『嘘つき』って言われていました。

 もしかして、それなぎさのしたことが関わっているのでしょうか。


神父「嘘……とは何のことかな? 嘘はもちろん良くないよ。娘たちにもそう言って聞かせているが」

*「じゃあこの教会に困ったときに助けてくれる女神様って本当にいんの? 女神様が毎日ケーキくれて、願いを聞いてくれるって!」

神父「ああ、ケーキのことは心当たりがあるが、願いというと……――」

モモ「本当だよ! 今日のモンブラン、私がお願いしたんだもん」

杏子「モモ、それホントに!? 偶然とかじゃなくて?」


 モモの言う願いとは、あのリクエストのことだったのです。

 なぎさは大した事はできませんし、大したことをした気もありませんでした。でもモモにとっては十分すぎるほどの奇跡で――。


モモ「女神様、お願いします! 嘘つきじゃないって証明してよ!」

723 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/30(日) 23:18:39.75 ID:J12IF2ye0


なぎさ「………………」


 なぎさがここで何もしなければ、モモは嘘つきって言われ続けるのでしょう。

 もしかしたら神父さんや杏子にも怒られてしまうかもしれません。


なぎさ「…………」


 それに……、

 モモからは『見捨てられた』と思われてしまうでしょう。そう思うといても立ってもいられず――。


 ……ソウルジェムから魔力を練りました。


なぎさ「……これ、明日の分のケーキなのです!」

杏子「な、何もないところから!」

神父「なんと…… 人の力ではないのかもしれないとは薄々思っていたが、君が…… いや、貴女が……」

なぎさ「き、気づいてると思いますが、腐ったりしませんので……受け取ってください」


 メッセージはないけれど、いつもと同じ箱入りのケーキです。


*「う、嘘だろ!? なんかの手品だよな!?」

*「いやいや……信じらんないけど、これ手品とかじゃないって! 神様って本当にいたんだぁ……」

なぎさ「……」

モモ「あ、ありがとうございます! ほら、わかったでしょ!? 嘘つきなんかじゃないんだから!」

*「あ、あの……神様? お、オレらのこと祟ったりしないですよね?」

なぎさ「……きょ、今日のところは許しててあげるのです。ただし、これからモモのことをバカにしたら許しません」


 男の子たちは、ぺこぺこと謝って帰っていきました。


 ……やってしまいました。これでもう、モモ以外からも今までのように接してもらえなくなるかもしれません。

 でも、騙したままじゃ、やっぱりダメだと思うのす。


杏子「モモは知ってたんだな」

モモ「うん。たまたま見ちゃって……」

なぎさ「あの、モモ。また少し話してもよろしいでしょうか……?」

モモ「?」

724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/30(日) 23:34:59.17 ID:+oCQ2JHR0
魔法バレしちゃったか
725 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/31(月) 00:41:05.49 ID:g+caFouE0


 教会の裏。ふたりになると、なぎさは決心します。


なぎさ「実は……なぎさは神様ではないのです」

モモ「え……!? で、でもっ、ケーキを出してずっと助けてくれたじゃないですか!? さっきだって!」

なぎさ「あれは魔法なのです!」

モモ「魔法……?」


 こんなことを急に言われたって混乱するでしょう。

 モモの前にソウルジェムを見せます。手に乗せて差し出した宝石をモモは呆然と見ていました。

 思い切って変身してみせると、更に驚いた表情になりました。


なぎさ「今まで隠しててごめんなさい。なぎさは……魔法少女なのですよ。今見せた宝石が魔力のモトで、こうやって変身して魔女と戦って街の平和を守っているのです」

なぎさ「なぎさもただの人間なのです。キュゥべえと契約すればみんな魔法少女になれるのですよ」

モモ「み、みんなって、モモもなれるの……? モモもケーキを出せるように……?」

なぎさ「ケーキを出したのはなぎさの願いから生まれた魔法です。キュゥべえが願いを叶えてくれて、その代わりに戦うことになるのです。だから、そう願えば……」

なぎさ「……お、怒ってませんか? 騙してたこと!」

モモ「ごめんなさい…… まだ混乱してて…………」

なぎさ「そ、そうですよね! こんなこといきなり言われても困ってしまいますよね……」

モモ「…………」

なぎさ「では……もう行きますね。みんなの前で話す勇気はなくて。でもモモには知っていてもらいたかったのです」



 ……落ち着かない気持ちのまま変身を解いて表のほうに向かい、教会から離れていきました。

 みんなと今なんて話したらいいのかわかりません。

 明日からどうすればいいのでしょうか。


726 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/31(月) 00:52:59.00 ID:g+caFouE0
---------------------
ここまで
次回は2日(水)夜の予定です
727 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/03(木) 22:48:22.10 ID:pVwAJIwe0
――――――
――――――


 中に戻ってみると、みんなまだ女神様――なぎさからもらったケーキの箱を神妙な表情で眺めてた。


神父「神様は私達を見捨てないはずだとは信じていたが……こうして目に見える形で姿を現すことがあるとは、正直思っていなかったな」

夫人「そうね。でも、目の前で見てしまったもの。まさか本当にあの子が女神様だったなんて……」


 まだみんな不思議そうにしてるみたい。

 人の力じゃありえないこと。それを神の力だと思っていたけれど、さっきの話はそれを否定した。


モモ「おねえちゃん」

杏子「モモ、どうした? そういえばなんか話してきたの?」

モモ「うん。……ちょっと」



 みんなより一足先に部屋のほうに戻っていく。そこでお姉ちゃんにさっきのことを話してみた。

 まだ整理がつかないから、まずは聞いたことをそのまま。



杏子「実はさ、前にモモが裏で話してるの知ってからちょっと怪しい気はしてて、もしかしたらなぎさが女神様なんじゃないか……とか考えたりはしてたんだ」

杏子「だって、あんなタイミングよくなぎさが来てすぐケーキ見つけるって普通ないでしょ。……でも、ホントに合ってたって思ったら今度は魔法少女って」


 今も信じられない。でも、そんな変な嘘つく意味もない。

728 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/03(木) 23:36:10.26 ID:pVwAJIwe0

モモ「女神様だと思ってたなぎさは魔法少女で……じゃあ女神様は本当はいないの?」

杏子「あのメッセージに書いてあった『女神様』はいないだろうけど、神様はいるよ。最近熱心に祈ってたのもきっと無駄じゃないさ」

モモ「う、うん。そうだよね……」

杏子「それにしても、人間と魔法の力を与える契約なんてするやつがいるっていうのか……?」


 そしたら、このプライベートな空間で聞くはずのない知らない声とともに小さな影が現れた。


「うん。いるよ」

杏子「わ、わぁっ!?」

モモ「も、もしかして……」

QB「僕がなぎさの言ってたキュゥべえだよ。魔法の使者さ。願い事があれば叶えてあげることができる」

杏子「……」

モモ「……」



 お姉ちゃんと二人で顔を見合わせる。そのときわたしたちが思いついた願い事は“ふたつ”だった。



――――――

―――
―――



なぎさ「み、みなさんこんにち……あ、あれ? お客さん?」


 あれからなぎさは気まずくて、昨日はついに顔を出しませんでした。

 あの時は渡したのは『翌日の分』でした。だから、まだ今日の朝までは足りているはずなのです。


 今日はちょうどお休みなので、朝に来てみました。

 だって、助けてほしいというのはモモからの頼みでもあるのです。今から見捨てるわけになんていきません。


 ――――でも、そこにあったのはいつもとは違う光景で。


神父「ちょうどよかった。……どうぞお入りください」

なぎさ「ふえ……?」

神父「日曜日は礼拝の日。皆様は神様……いえ、『貴女』のためにお集まりいただいているのです」

なぎさ「……ふぇぇ!?」


 中にいるのは決して大人数ではありませんが、今までと比べれば多い人数です。

 子連れの家族も多く……あの時の男の子も来ていました。

 その視線が一斉にこっちに向きます。


729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/04(金) 00:08:15.73 ID:Q8p8joRH0
あー、杏子がひょっとしたらモモっも契約しちゃったのか・・・
この話だとなぎさは魔法少女の真実知らないままだし、こりゃとんでもないことになりそう
730 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/04(金) 00:22:20.27 ID:DRJfaEhv0


*「この子がその!?」

*「信じられない……見た目は普通の子供なのに! でもそれも聞いたとおりだわ……」

*「お祈りすれば私達にも奇跡が起こるの!?」


 たしかになぎさの魔法で、ここのみんなのことは助けることができました。

 でもなぎさはこんなに多くの人の『神様』にはなれません。どう答えようか迷っていると、神父さんが制しました。


神父「静粛にお願いします。お祈りや信仰とは下心を持ってするものではありません」

神父「『していただく』のではなく、神の為、人の為――ひいては世の中の為に自らが奉仕すること。そう考えているからこそ神様は目を向けてくださるのだと信じています」

神父「……そう、ですよね?」

なぎさ「は、はい。なぎさもそう思います」

なぎさ「すぐにみなさんの悩みが解消するわけじゃないかもしれませんが……きっと、良いことしてればいつかは報われると思います」


 ……結局なぎさは曖昧なことしか言えませんでしたが、みんなは納得してくれたみたいでした。


*「今日はお試しのつもりだったけど、これからもお祈りしてみようかな……」

*「でも……女神様? 怒られるかもしれませんが今は本当に困ってるんです。これから大事なピアノの発表会が控えてるのに指を骨折してしちゃって」

なぎさ「おケガですか……それくらいなら、なぎさの力でも治せるかも」

*「ほ、本当ですか!?」

なぎさ「――はいっと、これでどうでしょう?」


 女の子の差し出した手を包み込み、その中で見えないようにソウルジェムを具現化して魔力を使いました。


*「あ、あ! 治ってる! ありがとう、ありがとうございます!」


 その言葉に教会内は一斉に沸き立ちました。

 ……なぎさの魔法を見た男の子もいるし、戻れないのは今更です。でも。

 治ってよかったという安堵と、文字通り神様のように称賛されるてれくささ。それと同時に、騙しているという罪悪感が膨らみます。


モモ「…………」


 モモのほうを見ると目が合いましたが、すぐに隣にいる杏子のほうを見てしまいました。

 二人は何を考えているのでしょうか。それはなぎさにはわかりません。


――――
――――
731 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/04(金) 00:25:45.05 ID:DRJfaEhv0
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ここまで
(水)はちょっと仮眠とろうとおもったら朝まで寝てました
次回は5日(土)夜からの予定です
732 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 00:14:20.79 ID:Zsqn73UJ0


 礼拝が終わるとお客さんが神父さんと話しにきました。この前見た男の子も一緒にいますし、その子の母親なのでしょう。

 なんとなくやりとりを見ていると、何かを渡して頭を下げてから帰っていきました。


 ……なぎさは今日は、初めて見る人たちに注目されてすっかり疲れてしまいました。しかし、ここにきた目的を忘れるわけにはいきません。


神父「神様――いえ、本来ならこうして直接話すことすらおこがましいのですが……」

なぎさ「そ、そんなにかしこまらなくてもいいのです……! それで、なんでしょうか?」

神父「うちの教会にもあれからこうして私達の教えを聞いてくれる人がきてくださるようになりました」

神父「一昨日のことがあってから、あの男の子が広めてくれたみたいでね……モモから聞いた話だと、あの子たちはクラスでも発言力の高いガキ大将だったらしい」

神父「あの子たちの友達、親、そのつながりから興味を持ってもらえたようで、あのご婦人は息子がモモをいじめてすまなかったとお詫びまでしてくれて……」

なぎさ「そうだったのですね……」


 あの時神父さんや男の子たちの目の前で力を使ったことがきっかけでこんなことになるなんて。

 みんなを騙してしまうことにはなりましたが、めでたし……なのでしょうか?


神父「なんと感謝すればいいのか……。これからはなんとか暮らしていけそうです。貴女のおかげで私達は、生活していける力まで手に入れることができました」

なぎさ「! そ、そうですかっ。よかったのです!」

神父「これからもどうか私達を見守りください」


 そんなとき、向こうから家族を昼食に呼ぶ声がしました。

 今までずっと魔法のケーキを差し入れてきましたが、ついになぎさが何かをしなくてもよくなったのです。


 あの時は叶えてあげられませんでしたが、モモもやっと本物のお肉を食べられます。

 ……すれちがいざま、モモはこっちを見てそっとつぶやきました。



モモ「……ありがとう」



 真実を知っているのはモモだけ。

 モモはまだなぎさが話したことは胸に留めたままのようです。少なくとも、神父さんには話していません。

 これからもずっと、本当のことは知られないままなのでしょうか……?

733 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 00:17:47.84 ID:Zsqn73UJ0
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次回は6日(日)夜に…
734 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 21:04:20.12 ID:Zsqn73UJ0
――――――
――――――


 ――――……わたしたちが思いついた願い事は“ふたつ”だった。


モモ「……ぜんぶ叶っちゃったね」

杏子「……そうだね」


 ひとつは、なぎさのようにたべものを生み出す魔法を手に入れること。なぎさは本当は神様じゃなくてモモたちにもできるなら、モモたちがやるべきだ。

 そしてもうひとつは、うちが教会を続けていけるようにすること。


 結局その時にはまだキュゥべえには願わないで、その次の日になったら、なぎさが力を見せつけたときの話が広まってた。


モモ「早まらないでよかったの、かな?」

杏子「じゃあ……他の願いにする?」

杏子「まだ叶えられるんだよね。どんなことでも」

モモ「他のこと……」


 あの時すぐに浮かんだのはふたつで、他のこととわれるとすぐには浮かばなかった。

 美味しいものを食べたり、キレイなお洋服を着たり、たくさんのお金をもらったり……とか。

 今よりさらにイイ思いをすることもできるんだろうけど、そのために願うってどうなんだろう? なんだか、ズルしてるような気がした。


モモ「お姉ちゃんはなにか思い浮かぶの?」

杏子「いや……。でも」

モモ「?」

杏子「なぎさのことも契約のことも、父さんたちに話さないでいいのかな。あたしたちだけで抱えていていいことじゃない気がするんだ」

モモ「…………」


――――――
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/06(日) 22:32:56.17 ID:SbtzUd9Q0
杏子たちはまだ契約してなかったのか
話さないと原作同様に禄でもないことになりそう・・・
まずはあすみに話して欲しいなぁ
736 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 23:24:39.18 ID:Zsqn73UJ0


 あれからはなぎさも毎日教会に行くことはなくなって、今までどおりマミと訓練したりパトロールに行ったりして過ごしました。


なぎさ(思えば最近は訓練で見てられる時間も減ってしまってて……マミには申し訳ないことをしてしまいました)

なぎさ(今日も訓練しようってマミにメールしてみますか。でも、たしか今日は――)


 一週間ぶりの礼拝の日。みんなは元気にやれているのでしょうか。

 マミとの予定は午後にして、あの教会のある街の外れのほうに向かうことにします。


 すると、その途中であすみと鉢合わせます。そしてなぜか……引き止められてしまいました。


あすみ「……今あいつらに近づかないほうがいいよ」

なぎさ「な、なんでですか?」

あすみ「教会は閉まってる。畳むことにしたんだってさ」

なぎさ「え……!? そんな、どうして? この前ちゃんと人も来てたのに?」

あすみ「人は来てるよ。だからアンタが近づいたらヤバいことになるんだって」


 あすみはそう言いますが、なぎさにはなにがなんだかまったくわかりませんでした。

 でも、わからないままにしたくはありません。


なぎさ「……何かが起きているのですね。もしかしたら、それってなぎさのせいでしょうか?」


 わからないなりに思い至ったのは、なぎさの嘘がバレる日が来てしまったのかもしれない――ということでした。

 なぎさにもみんなを騙してた自覚はありました。おそらく、それがみんなにバレた時には良くないことが起こるだろう、ということも。


なぎさ「そうだとしたら、なぎさがなんとかしないとです! もちろんそうでなくても……何かあったら助けるって約束しました」

あすみ「…………」


 あすみの横を抜け、さらに道を進んでいきます。

737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/06(日) 23:29:33.77 ID:SbtzUd9Q0
あ、これは・・・
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 23:51:26.83 ID:wu2qOrfTO
なーんか杏子の父親の矛先がなぎさに向かいそうだな
739 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/07(月) 00:37:29.53 ID:0B5p2dYf0


*「あ、女神様だ!」

*「女神様!」

なぎさ「え?」


 教会の建物の前にはたしかに人が集まっていて、それを見た時なぎさは責められるんだと覚悟していました。

 でも、その反応は予想と違いました。この前と変わらない照れくさくなるような呼ばれ方。バレてはいないのでしょうか?


 そう思った時、扉にある大きな貼り紙が目に入ります。


なぎさ「これは……」


 『申し訳ございません。私達は皆様を騙してしまいました。
  女神と名乗った者は神などではありませんでした。魔女だったのです。
  償いとして今日でこの教会は終わりにします』


 貼り紙には目立つ赤い文字でこう書かれていました。

 正体がなぎさたちが倒すべき“魔女”として書かれているのには悲しみを覚えましたが、ますます疑問がわきました。


なぎさ「どうしてこれを読んだのに、みんな……?」

*「女神様でも魔女様でも本当に力はあるなら教会なんてどうでもいいわ。もともと神なんか信じてたわけでもないもの」

*「そうだそうだ。あいつらなんか何もできないくせに!」

なぎさ「…………」


 ……教会に来てくれた人たちは魔法の力で起きた奇跡に興味を持ったのであって、教えに興味を持っていたのではなかったのです。

 それならもう、これで神様ごっこはちゃんと終わりにすることにします。


なぎさ「みなさん、まだ騙されてますよ。……ここまでバレちゃったらしょうがないから言いますけど!」

なぎさ「傷が治ったなんてサクラです! ほんの冗談だったのですよ。魔女っていうのは……たぶん、『嘘つき』って意味なのです」

なぎさ「……だから、ごめんなさい。魔法なんてあるわけないのですよ」


 みんなしばらくざわめいていましたが、なぎさにそう言い張られては仕方ないと思ったのか、次第に興味をなくしたように帰っていきます。

 ……良くも悪くも、彼らの多くは目に見えるものしか信じようとしない人たちでした。

 教会という大人の関わる組織がついていればまだしも、なぎさだけでは神というにも魔女というにも、常識を覆すには説得力が欠けるというものです。


 結局最後の最後まで、なぎさは嘘つきになってしまいました。でも神父さんたちだけが悪く思われたままになるのはあんまりだと思ったのです。

740 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/07(月) 00:40:42.06 ID:0B5p2dYf0
----------------
次回は8日(火)夜の予定
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/07(月) 00:43:20.65 ID:4MRhPWBD0
やっぱりこんな感じになったか
>>738の通り神父がなぎざに何か言いそうだなぁ・・・
742 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/08(火) 23:22:51.29 ID:YTdhnism0


 やがて表は静かになって、なぎさはしばらく扉の前に立ち尽くしていました。

 いつもは開放されていたはずの扉でしたが、今は鍵がかけられているようです。


なぎさ「…………」


 もう一度貼り紙の字に目を向けます。

 なぎさはもう、ここには来てはいけないのでしょう……。友達だと思っていたモモとも、もう……。


 そんな時、中から声がしました。


モモ「……なぎさ、外にいるんだよね?」

なぎさ「! ……モモ?」

神父「やめなさい……モモ」


 もう一つ聞こえてきたのは、それを制止する神父さんの声でした。


神父「あの子は神を騙った。許されない事だ。それに、その力は神の力ではなかった」

神父「私達は日々祈っている。しかしそれは、すべてが叶えられるわけじゃない。世の為に奉仕する行為こそが重要なのだ」

神父「聞くところでは、例の契約は『何でも叶える』のだろう? 彼女が何を願ったかは知らない。だが、もし平和のための布教を願ったらどうなる?」

神父「文字通り、叶えられるのだろう。だがそこにはなんの過程もない。どんなに良いことを願ったとしても、自らの思い通りになる奇跡など……私達にとっては邪悪でしかないんだよ」

なぎさ「…………っ」


 神父さんたちからすればなぎさたちは卑怯に見えるのでしょう。

 しかし、そう言い切られてしまうと何かモヤモヤとした気持ちが沸き起こりました。

 ……怒りでしょうか、悲しみでしょうか。なぎさは叶えてもらったことに後悔なんてしてないから。でも、なんと言い返せばいいのかわかりません。


神父「得体の知れぬ存在に望みを叶えてもらう契約なんて、古より伝わる悪魔に魂を売り渡す契約と何も違わない」


 キュゥべえは得体の知れない存在だなんて……――そう口に出そうと思いましたが、

 よく考えればキュゥべえについて知ってることなんてほとんどありませんでした。


神父「そして、そんな力に頼らなくては誰も寄り付かぬ教会など……もう私達も諦めるべきだったんだ」

なぎさ「こ、これからどうするのですか?」

神父「仕事でも探すさ。君が心配することではないよ」


 なぎさは突き放されたのでしょうか。

 しかし、神父さんの声は悲しげでありながらもどこか吹っ切れたようにも聞こえました。


 ……多分、なぎさはもうこの家に関わることはなくなるのです。

743 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/09(水) 00:21:44.00 ID:Qe7EciPy0


あすみ「邪悪な力だとしてもそれに命拾われたのは事実だろーが! なんて思っててもいいけどまずはそれに感謝するのが人の心じゃーないわけ?」

あすみ「でも一応やっと現実見たみたいで良かったよ! 現実見えてない正論振りかざすとことか嫌いだった!」

なぎさ「へっ?」

あすみ「……ヒトツだけアドバイスしとくと、そういうとこ直さないと次の職場でも浮いちゃうよ?」


 なぎさがしんみりしていると、急にあすみが割り込んで扉に向かって言い放っていきました。最後のチャンスとばかりに……。

 いつのまについて来てたんでしょう?


なぎさ「あ、あすみ……!?」

あすみ「いこっ」


 ……あすみの物言いはキツいですが、なぎさが言葉にできなかったモヤモヤがちょっとすっきりしました。

 あっけにとられてましたが、ようやくなぎさも教会に背を向けようとします。

 そのとき、背中のほうから再びモモの声が聞こえてきました。


モモ「……この前も言ったけど、ありがとう! なぎさは神様じゃなかったけど助けてくれたし助けようとしてくれたよね……」

杏子「ああ、あんな美味しいケーキなんて食べたことなかったし夢のようだったよ。あれがなかったら……」

杏子「なぎさと会えてよかった。思えばそれだって奇跡だ。だから、モモもさ、神様に祈ってたのは無駄じゃなかったんだよ」

モモ「うん!」


 奇跡……キュゥべえに願ったものじゃない、ホンモノの奇跡。

 考えたことはなかったですが、人との出会いも奇跡なのでしょう。だったら、きっとなぎさは恵まれています。



神父「確かに、そういう考えも出来るね。 ……ありがとう」



 ……少し遅れて、神父さんの声も聞こえました。

744 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/09(水) 00:26:12.27 ID:Qe7EciPy0
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ここまで
次回は12日(土)夜の予定です
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/09(水) 00:29:56.99 ID:B0Fag+980
あすみ、なぎさについて来てくれてたのか
言ってることはキツくても、あすみはなぎさや佐倉家のことちゃんと気にかけてくれてたんだね
アニメ本編とは違い心中にならなくてよかった・・・
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/09(水) 19:08:54.64 ID:8FuU47DdO

佐倉家、これはこれで救いのある終わり方かな?
あすみがしっかりなぎさをサポートしてるのも良し

747 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/12(土) 20:42:59.14 ID:BrQl52Dp0
――――――



 “あなたたちの女神より”……手書きで可愛らしいメモ帳に書かれたメッセージは拙く、

 上等な造りの箱とその中身のケーキがなければ、子供のイタズラとすら思いかねないようなシロモノだった。


 ……神? そんなのいないから代わりにやってるんだ。何もしてない神に感謝されることになっても。

 でも『女神』なんて、どうしてちょっとだけ自分を出すような書き方をしたんだ。神を名乗るならただ神とだけ書けばいいのに。


あすみ「本当は最初からさ、感謝されたいって気持ちもあったんじゃないの? 『神様』って讃えられるのはイイ気持ちだったでしょ?」

あすみ「やり方だってずさんだよ。身を隠すのに特化した魔法を持ってるわけでもないんだし、毎日コソコソ置きにいってたらそりゃいつかバレる」


 きっと、深く考えていなかったんだろう。助けたらどうなるかもバレた時のことも、あの家族の前で神様を名乗る意味も。


なぎさ「……そうですね。ちょっと浮かれてたとこはありました。でも、段々と騙してるって気持ちのほうが大きくなりました」

あすみ「まー、感謝されていいようなことしてるんだからそう思うのは当たり前なんだけど」

あすみ「良いことしても上手くいかないもんだよね? 恩が仇で返ってくるようなことだってあるしさ?」

あすみ「私は優しさなんて誰かに付け入られるだけの『弱み』だと思ってたよ。今も思ってる」

なぎさ「だからですか? あすみがなぎさたちとは離れて活動しているのって」

あすみ「……」


 たまに通りがかりにでも訓練場に顔を出すようにはしたり、露骨に避けたりしてないつもりだったけど、さすがにそう思われてたんだ。


なぎさ「前はよく一緒にいろんなことしてたけど、今はあすみがどうしてるのか全然わからなくて」

なぎさ「そんなときあすみがあの教会に行ってたことを知って、なぎさも行ってみたのです。そしたらちょっとわかるんじゃないかって」

あすみ「私のことを知るために……?」

なぎさ「はい。あすみはどうして行ってたのですか? お祈りにきてたわけではないのですよね?」

748 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/12(土) 22:08:11.72 ID:BrQl52Dp0


 そう問われると答えに困った。

 最初は傘がなかったからって流れ的に。それからは……他に行くとこがないからだった。しいていうなら。


あすみ「そうだね、なんとなく? 何も言われなかったし」

なぎさ「なんとなくで教会に通いますかね……」


 さすがにこんなんじゃ納得しないかな、と思ってたらなぎさはこんなことを言いはじめた。


なぎさ「……でも、何も言われないからっていうのは納得しました。前見かけたとき、そんな感じがしたのです」

あすみ「あぁ、そう? 納得してくれたならいいけど……」

なぎさ「もしかしたら…… 今、そういう場所がほかにないってことですよね」

あすみ「!」

なぎさ「あすみが自分のことを言わないのは前からでした。でも今は携帯も使えなくなったって言うし本当に心配で」

なぎさ「もしかしたら出会う前から何か抱えてたのかもしれないけど……何かが起きてるんじゃないですか?」


 やめてよ、見透かされたくない。

 人を見透かすのは得意だけど見透かされるのは嫌いだ。なんだかみじめな感じがする。

 でも、そんな心まで読んだかのようになぎさは言う。


なぎさ「あすみは前、『いざというときに頼れるのが友達』だって言ってくれましたよね。今がそうなんじゃないですか? だったらもっと、頼ってほしいのです!」


……そりゃ読めちゃうか。

 もう付き合いも長いし、『友達』――って認めちゃったんだから。諦めるしかないようだ。


あすみ「言ったとこでなんもできないと思うよ? 嫌な気持ちになるだけだよ? それでも聞きたいの?」

なぎさ「それでも何も知らないままよりいいはずです!」

あすみ「もう、仕方ないなぁ」


――――
――――
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/12(土) 22:23:37.32 ID:DwGpGjmC0
あすみの過去はなぎさにはキツいだろうな
それと魔法少女の真実も話すかね?
そろそろ知っておかないとヤバいだろうし
750 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:29:06.46 ID:IsKfL80Q0


 契約する前のこと、契約してからのこと……――――



あすみ「多分まぁ私のもありふれた不幸だよ。心読んでみると家庭環境とかやべーのってたまに見たし。そのほうがキュゥべえがつけ入りやすいでしょ」

なぎさ「つけ入るって……あすみも神父さんが言ってたようにキュゥべえを悪魔みたいに思ってるのですか?」

あすみ「あぁ、あれに関してはほぼ同意だったよ。神父サンやってたからかしんないけど、そこそこ真に迫ってるなぁと思ってた」


 そんな前置きをして。


あすみ「私もお母さんいないってのは言ったじゃん。そのときにキュゥべえは来なかったってのも」

なぎさ「そうですね……聞きました」

あすみ「私の場合、お父さんも最初から家にいなかったんだ。じいちゃんばあちゃんもいない。だから、わけわかんないとこに飛ばされた」

なぎさ「ま、まさかそれでロトーに!?」

あすみ「……結論は合ってるんだけどね。さすがにそんなに簡単には路頭に迷わせられないかなー。おせっかいなことに、子供には大人が必要だってことでどっかにはあてがわれるから」

なぎさ「け、結論は合ってるのですか……?」

あすみ「うん。マミくらい大きくて家に金があれば一人暮らしもできたんだろうけど、私は無理だった。……私の場合は、父親がテキトーに友人に手を回したんだって」

あすみ「私からすれば知らない人。父親でさえよく知らないのに。向こうからしても、知らない子供なんてサンドバッグ兼ダッチワイフが手に入ったくらいにしか思ってなかったわけね」


 ……そのことはごくざっくりとだけ。

 特にあの男のことなんか詳細に話しても嫌な気持ちになるどころじゃないし、大して話したくもない。


あすみ「しかもその時の私って暗かったから友達もいなかったんだ。前まで普通に話してた人まで離れるどころかいじめる側に回った」

あすみ「そうなるともう、目に入るもの全部、醜いなー……って思って。だから、そいつら全員『不幸』になるようにって呪って契約してやった」

なぎさ「呪いって……どうなったのですか?」

あすみ「あの男は魔女に食われて死んだ。私も途中で『口づけ』に気づいて見送ったよ。念入りに他の魔法少女がいないことも確かめて」

あすみ「いや、私が助けなきゃ助けられるはずないんだよね。それが不幸というものだから。他も……事故に遭った奴とかいたかな。全部の末路は知らないけどね」

なぎさ「殺されそうになって殺したって……そういうことだったのですね……」

あすみ「そう。心を削るような暴力も、いじめも、見殺しも立派な殺しだよ。それで私は今晴れて路頭に迷ってるとこ」

あすみ「でももちろん前よりはいいよ。あの家に居続けたくもないし、あの街の魔法少女と醜い小競り合いしてるよりはアンタみたいなのに出会えた分よかったと思う」


 誰かにこんなこと話すのははじめてだった。

 なぎさがどう思ってるのか気になる。でも、魔法で覗きたくはない。

751 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:31:56.19 ID:IsKfL80Q0


あすみ「家にあったもの持ち出してこっちに来たんだけど、そろそろ色々と使えるものがなくなっちゃってさ」

あすみ「それに心置きなく休める居場所ってのも結構大事だったんだなって思った」

なぎさ「居場所……ですか…… あと携帯やお金?」

あすみ「不便だけど、携帯はなければないで慣れるよ。前まで携帯なんて持ったことなかったし」

なぎさ「たしかにとりあえずお金とおうちのほうが重要ですよね……うーん」


 なぎさはあれこれと考えているようだった。

 なんとかしようと考えてるのか? どうせ何も出来ないって言ったのに。


なぎさ「でも、居場所なら…… 訓練場所は好きにいてくれて構わないのですよ。訓練中も気にしませんから。たまにアドバイスとか、参加してくれたりすると嬉しいですし!」

なぎさ「そうでした。今日もマミに訓練しようって誘ったんでした。多分もうすぐ……」



 ……私達はいつも訓練に使ってる場所からも少し離れたところにいた。

 もしマミが偶然ここに来たりしても大丈夫なようにと思って選んだ場所だ。もちろん関係ない人がよく通る場所でも話しにくいし。



なぎさ「ここからちょっとですし、あすみも来ませんか? マミのことだしちょっと早くにきて訓練はじめてると思うのですよ!」

あすみ「……まあ、いいけどさ」



 行く場所もないし、行ってやってもいいか。

 ――――……そう思ってついていったが、なぎさの予想に反してマミの姿はまだなかった。

752 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:35:43.16 ID:IsKfL80Q0
-----------------------
ここまで
次回は13日(日)夜の予定です
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/13(日) 00:57:18.59 ID:cKhhSFlT0
乙です

あすみの事情、なぎさにはまだ理解できないところがあるのはどうしようもないですからボカして正解かな、と
マミはなぎざにマンツーマンで訓練受けてたから、もう弱くはないとは思うけど逆に無理しちゃうかも?
754 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 22:01:17.43 ID:IsKfL80Q0


あすみ「私達だけみたいだね」

なぎさ「うーん、予想はずれちゃいましたねー……」


 それならそれで、訓練中しててもそうじゃなくても居るだけなら関係ない。

 すると、なぎさは思いついたように言い出した。


なぎさ「そういえば、さっきの話を聞いてもわからなかったことがあるのですが……」


 ……なんだ。もしかしてダッチワイフってなんですかとでも言うつもりか。

 そんなことを考えたが、それも違うようだった。


なぎさ「結局どうしてキュゥべえのことを嫌ってるのです? あすみは神父さんのような理由では嫌わないんじゃないかと思ったのです」

あすみ「あー……」


 どう返したものかと悩む。そういえばそこには一切触れていなかった。その真実自体は、『私の過去』ってわけじゃないから。

 たしかに私は心を読むまで、キュゥべえのことは助けてくれた恩人だとすら思っていた。


あすみ「……まあそれもいつか、話すよ」



 私が話すのと自ら知ってしまうのと、どっちが早いだろうか。

755 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 22:10:45.55 ID:IsKfL80Q0
――――――



 約一年。……それは、私が契約してからの期間だった。

 でもそんなの、特に実感は沸かない。その間に私の中で何かが変わったとも思ってなかった。

 たしかに一人の生活は大変で、今でもたまにまだ心細くなる。でもそんなとき――――私は本当の意味で一人じゃなかったから。


 自分より経験の長い人しかいない中で、自分がベテランだとも思えない。

 でも――。


 最初の頃に感じていた“死と隣合わせの恐怖心”というものはいつしか薄れ始めていた。

 ずっと訓練してきたし、魔女とも戦ってきた。確実に強くはなれている。



 『年月以上に、その覚悟の違いって大きいよ? いざという時を経験してきてない人に負けることなんてないって』



 だから、この言葉に反感を抱いていたんだと思う。

 そろそろ自分の腕を試してみたい気持ちもわき始めていたんだと思う。


 ずっと大事に守られてきた。でも、頼ってばかりじゃなくてもう一人でもやれるんじゃないかって。やってみたいって思った。


 ――――……多分それは覚悟なんかじゃなくて、慢心だったんだ。

756 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 23:33:39.12 ID:IsKfL80Q0


 甲高い笑い声が結界内に響き渡る。

 それは倒すべき魔女の声。今私は結界の奥地にまでたどりつき、頭に角を生やした大柄な魔女と対峙していた。


 その姿をもう一度確認して、手に持った斧の他に攻撃手段がないことを確認する。


マミ(大きいのに動きはすばしっこいのね……セオリーからは外れてるわ。でも、縛ってしまえばこっちのものよ)


 手から出したリボンで攻撃を受け流しつつ、相手の隙をうかがう。

 比較的攻撃の軌道は読みやすい。それに、振るった後は隙が必ず生まれる。敵の動き自体が速めだから僅かな時間だけど、狙うならそこしかない。


マミ(今!)


 手足からすばやく絡め取ることに成功する。斧が手から落ちたのを見て、私は勝利を確信した。

 でも時間をかけるわけにはいかない。

 そこに魔力を集中していく。なぎさちゃんと一緒に考えた必殺技。絡め取った相手を爆発四散させる技。


マミ「――――『フィナーレ』!」


 技を打つ魔力を充填し、これで仕留められたはず……だった。

 しかし再び斧は振りかぶられる。


マミ「つっ……――!? え…… どうしてまだ動けるの?」


 いつのまにか斧はまた魔女の手の中にあって。私の渾身の必殺技にも、ものともしてないみたいだった。

 避けきれなくてできた傷が痛んだけど、それも気にしてる場合じゃない。思えば、なぎさちゃんと一緒に戦ってた時はケガなんてほとんどしたことがなかった。



 『アンタも気をつけなよ? 今は怖い怖いって思ってるかもしれないけど、いずれは力の使い方に慣れて、気づいたらすっかり染まってないように』


 ――――これまで魔法少女の力があっても悪いことはしていない。私たちには目指す道があるから。

 でも、力の使い方に慣れたことで変わってしまっていたことに気づいたのは、再び『死と隣合わせの恐怖心』を味わってからだった。


757 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/14(月) 00:16:50.11 ID:oFrl1bZU0
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ここまで
次回は15日(火)夜からの予定です
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/14(月) 01:29:59.57 ID:RPhOmzOzO

ここまで順調過ぎたのが慢心になっちゃったわけか
リボンだけだと火力低いまんまくさいな
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/14(月) 20:50:40.51 ID:Jf2wKIYq0
乙です

やっぱりあすみにとってなぎざは特別な存在なんだと改めて思いました。
このあすみが過去を話すなんてとても考えられないことですからね・・・

>>私が話すのと自ら知ってしまうのと、どっちが早いだろうか。

なんか嫌なフラグが立ってるような・・・マミさん、ピンチだから早く助けてあげて!
760 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/15(火) 23:40:46.75 ID:rDoTqNWE0


マミ(私の必殺技は一度使えば拘束が解ける。もう一度縛ってもこんなにすぐ回復されるんじゃ……)


 実際にやってみれば一人で魔女を倒すことはあっけなくできていた。

 そこで薄れはじめていた恐怖はほとんど消えてしまってた。


マミ(……最初に抱いた恐怖はいつでも持ってなきゃいけないものだったのよね)

マミ(もしここで負けたらどうなるの? ……誰にも気づいてもらえないの?)


 ケガをリボンで止血する。

 魔女は攻撃のペースを緩めない。小細工でどうにかなる相手じゃない。

でも、きっとこんな時でも――。


 なぎさちゃんがいてくれれば。いつもならちょっと苦戦することがあったって最終的にはなんとかなってた。

 それってきっとすごいことだったんだ。


 一人前になったつもりで突っ走ったのは私なのに。


マミ(ダメだわ……いくら隙を狙ってもこのくらいじゃ全然倒せない。こっちは怪我を治す暇もないのに)

マミ(ダメ元で、もう一度大技を当ててみましょうか……?)


 でも、それで勝てればいいけどもし倒せなかったら。

761 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/16(水) 00:06:04.05 ID:wR508BNU0



 リスクの高い選択のほかに、もう一つ浮かんだのは逃げるということ。

 ……すごく情けないし、よくないことだというのはわかっているけれど。


 逃げてなぎさちゃんに連絡したほうが戦いも長引かず、犠牲が出る前に決着がつけられるかもしれない。

 ここで私が負けたって街の人を危険に晒すのは同じだもの。


 結局、勝てなくて悔しいのはプライドの問題で……他に考えなきゃいけないことはたくさんあって。

 それに、私はもちろんまだ死にたくない。こんな形で死んだら死んでも死にきれない。


マミ(それにしても……重そうな見た目に反して軽々振り上げてるのに、攻撃の重さは見た目通りだなんて反則だわ)

マミ(大技でも効かなかったのに、ちょっと攻撃を当てたくらいじゃすぐに回復されて……)


 まるで『実体がない』かのよう。


マミ(――?)


なぎさ「――――あすみ、ちょっと魔女縛っててください!」

あすみ「はいよ、言われなくても」


 …………私が逃走を決めたその直後、突然声がして、鎖が“斧だけを縛り上げていった"。


なぎさ「あっ、やっぱり見分けついてました?」

あすみ「とーぜん。私の魔法なんだと思ってんの。それよりアンタのほうが『そんな』魔法もないのにさすがじゃん」

なぎさ「伊達に見滝原のヒーローやってないのですよ!」


 それはついさっきまで絶望感溢れる戦場だったこの場に似つかわしくない声だった。

762 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/16(水) 00:29:19.08 ID:wR508BNU0
----------------
次回は16日(水)夜からの予定です

比べやすい戦闘なのでわかると思いますが、このマミは本来のマミより戦闘面でもメンタル面でも弱いです。
というより、強くなる必要がなかった…というある意味平和な姿です。
あくまでこの話はあすみとなぎさがメインということで…。
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/16(水) 09:19:10.22 ID:splyNrO0O

斧の魔女だったか
マンガ同様風見野から流れて来たのかね?
764 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/16(水) 22:40:06.50 ID:wR508BNU0
――――――
――――――



なぎさ「って、マミ! 怪我してるじゃないですか! 下がっててください!」

マミ「え、ええ……」


 武器を取り上げられた魔女はシャボンの中に溺れてもがき、

 斧――不快な呪いを発する魔女の本体は即座に鉄クズと化した。


あすみ「いくら擬態したって魔女なんて“ダダ漏れ”で駄目だね。茶番に付き合ってやる気なんてないよ」

あすみ「マミが苦戦するくらいには身体能力も高……く見せかけてるみたいだけど? ハリボテ殴って鍛えるならなぎさとやってたほうがまだマシ」


 グリーフシードを手の上で回しつつつぶやく。


 マミが遅いせいでついに特訓なんてものに巻き込まれ、こんなところにまでついてくるハメになったのだから機嫌は悪い。

 こいつがマミの家まで迎えに行くなんて言い出さなければ念願の原っぱで昼寝でもしてたんだけど。


なぎさ「じゃあもう一回やりますか!?」

あすみ「当分いい」


 最近この街も平和だし、スポーツみたいなものとはいえなぎさと全力でやりあってみるのは興味がなくはなかった。

 ……けど、敗因があるとしたら最終目標が『拘束』だったことかな。呪いをぶつけ合う戦いしかしてこなかったから。



 ふとなぎさとマミのほうに目を向けてみれば、手当てされてたマミはまだ呆然としていた。



なぎさ「よしよしっ、治ったのですよ! もう痛いとこないですか?」

マミ「ありがとう、なぎさちゃん。二人が助けに来てくれてよかったわ。もう駄目だと……」

なぎさ「もー、なぎさも心配したのです! これからは無理しちゃ駄目です! 一緒に戦いましょ!」

あすみ「……」


 ……相変わらず過保護だなあという感想しか出てこない。

 いつのまにか親鳥の巣から抜け出そうとしてた雛は、今回の一件でまた巣に籠もるのだろう。

 でもそれは悪いことじゃない。仲良しのまま一緒に暮らしていくのもきっといいことだ。ここは厳しい野生ではないのだから。


あすみ「……じゃ、戻るよ。まあ、私はただあの場所に居座るだけなんだけど」

なぎさ「はいっ! 行きましょ!」


――――
――――
765 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 00:06:47.68 ID:BilfRiJR0



 それから訓練場所に戻って、私は言ったとおり何もせず二人の様子を眺めてた。

 教会と違ってひとつ難点なのは、ここが野外だってことか。雨風を凌ぐには良い条件じゃない。


 二人はまた前みたいに模擬戦をやっていた。


なぎさ「さてっ、ぜひとも破って近づいてみてくださいなのですよ! なぎさはここからでも捕まえられるのです!」


 大量のシャボンに阻まれると近づくのも難しい。

 ああ見えて結構器用なコントロールまでやってたらしいから、油断してると誘導されてとっ捕まりかねない。攻撃範囲の広さは大きいメリットだ。


 私なら力任せに破って突き進めるけどマミには難しいだろう。そもそも見てた限りじゃ……あいつのリボンは狙いが読みやすすぎる。

 ――そろそろまた負けるかと思っていた矢先に魔力の小爆発が起きて、シャボンの群れが一気に弾けていった。


なぎさ「!」

マミ「毎回敵を縛って安全を確保してからじゃ、本当に最後にしか使えない。それに、『最後』になるかもわからないわよね」

マミ「だから、遠くからでも必殺技が使えないか考えてみたの。名前はまだつけてないけど……」


 どうやら、先に魔力を込めたリボンの塊を作っておいてパチンコのように跳ばしたらしい。

 なぎさの態度からして、いつもマミに危険が迫る前になぎさがなんとかしてるんだろう。

 さっきの戦いでマミは何かを考えたらしい。……巣立つことはできなくても、無駄な経験にはならなかったようだ。


マミ「はじめて近づけたわ!」

なぎさ「ありゃ、でも近づけたからって終わりじゃないのですよ? 勝負はこれからです!」


 なぎさはというと、拘束のリボンを寸手で回避。

 そりゃそうだ。私相手に勝っておいて、接近戦に持ち込まれたくらいで負けてもらっちゃ困る。



あすみ(……まあでも、思ったよりは面白い試合が見れたかな)


766 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 00:10:44.12 ID:BilfRiJR0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
次回は17日(木)夜からの予定。多分あと少しのはず。
767 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/06/17(木) 02:49:05.37 ID:10BBjVZ80
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768 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 23:10:13.51 ID:BilfRiJR0


 ――――しばらくすると、真上にあった太陽はいつのまにか傾いていて、二人ももう訓練をやめにして帰る支度をはじめているところだった。


 平日だったらもう少し遅くまでやってただろうか。今日は礼拝の日の予定だった日曜日だ。長いこと曜日なんて気にしてなかったけど。

 なぎさは家族の時間を大切にしたいと言ってたし、最近はあの教会のことばかり気にかけていたからさっさと日常に戻ったほうがいいんだろう。


あすみ「……ねえ、アンタもこれから帰るんでしょ。いつも一人で何してんの」

マミ「えっ? そうね……授業の予習をしたり、紅茶に合うおやつを作ってみたりとか」

あすみ「ふーん」


 聞いてはみたものの、こいつとも違いすぎた。


なぎさ「あすみったらいつもこうなのですよ。聞いておいて興味なさそうにするのです!」

あすみ「私そんな高尚な趣味ないし」

マミ「やってみたら楽しいと思うのだけどねぇ……」

なぎさ「あ、でも今度久しぶりに一緒に料理してみるのはどうです?」

あすみ「私はいい。マミに聞けばいいでしょ」

なぎさ「たしかにマミはいっぱいおいしくて見た目もキレイな料理を知ってますが……なぎさはただ、またあすみとも一緒に色んなことしたいだけなのですよ」


 ……確かに言われてみれば、マミが来てから暇でしょうがない時間が増えたんだった。

 だからって別にマミを疎んだり、拗ねてるわけじゃない。

 ただ、一年前のほうが居場所がないとか、何をするか悩むような暇もなかったのかもしれないな。


あすみ「はあ。……じゃあ今度ね」

なぎさ「! ホントですか! 約束ですよ!」

769 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 23:39:48.75 ID:BilfRiJR0


 そんな約束をして、なぎさは帰っていく。するとこの場に残ったのは私とマミだけだった。


マミ「……神名さんはまだいるの?」

あすみ「そっちこそ」


 私がマミを見かける時は大体なぎさも一緒にいた。

 こいつと二人になるのって最初の契約したての時以来かもしれない。


あすみ「私はこれでもアンタのこと一応は認めてるよ。なぎさがついてるからってのもあるだろうけど、クズにはならなかったみたいだし」

マミ「ええ、私もできるだけこの力はいい事に使いたいしね……。でもあなたは私のことはあまり認めてくれてないのかと思ってたわ」

あすみ「あいつが張り切って甘やかしすぎてんのよ。自分が守るんだって。何でも危険を摘み取ってやってたらそりゃ、自分以上になるわけないじゃん」

あすみ「でも、今日はちょっとだけ自分で戦いの中から何か掴んだみたいね」

マミ「あの新技のこと? あなたにそう言ってもらえると嬉しいわ。本当に褒められてるって気がするから」

マミ「なぎさちゃんにはありがたいと思ってるわよ。今日のことは本当にどうしようかと思ったもの……」


 今日の戦いでも魔女の正体に気づかずチンタラやってたようだけど、本当に一人だったらいつか自分で気付けるポテンシャルはあったかもしれない。

 でも、やっぱりそうはいかずに死んでたかもしれない。今となってはわからないことだ。


あすみ「で? まだ一人で訓練でもすんの?」

マミ「いえ、そこまではいいかしら。私もそろそろ帰るわね」


 少しだけ話してからマミも帰っていく。

 ……――みんなそれぞれの道へ帰っていった。



あすみ(私はもう少し暗くなるまでここにいるかな)



 明日からはまた平日だ。なぎさも少しは暇になるだろう。

 そしたらさっきの約束でも果たしに行ってやろうか?


 私の生活はこれから大きく変わることはないだろうけど、その時のことを考えたら少しは暇つぶしになった。




―『続々・なぎさとあすみとマミの見滝原』END―
770 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 23:49:15.71 ID:BilfRiJR0
--------------------------------------------
ここまで
次回は21日(月)夜からの予定

『続々』まで無事終了
これからどうするか(続きor別の、もしくはカットされたあすみVSなぎさの詳細みたいなおまけパートとか)は次回までのレスの流れ見て決めますー。
引き続きの場合は時間が飛びます。もう過去ではなくなるのでさすがに最後になると思います。
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/18(金) 20:01:32.75 ID:zCR/Y+H9O

一先ず続けて欲しいけど、カットされたあすみVSなぎさを見たいね
でもそんなシーンあったっけ?
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/20(日) 19:54:49.09 ID:hY/gRfvi0
遅くなりましたが『続々』終了おつかれさまです。

あすみとなぎさの関係やっぱり強い感じですね。
さぎさは神様がいなくても頑張ってますし、あすみもマミも事も一応認めたとかあすみ編のときよりも若干まるくなってうかな?


自分も続きを希望しますが、次は原作時間軸かな?
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/20(日) 20:31:46.06 ID:e1CGrOq+o
おつ
実はそろそろ安価に戻りたい
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/21(月) 08:39:24.53 ID:h0QDMqAQO
あすみVSなぎさってマミを助ける前の模擬戦のことか
続きの前にそのカットされた模擬戦を見たいね
775 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/22(火) 00:27:04.96 ID:FZ0SctsH0
----------
日付変わってた。今日はもう寝よう…
次回は22日(火)夜の予定ですー、おまけからで。
776 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/06/22(火) 02:54:16.91 ID:BgKaeewY0
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777 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/22(火) 23:09:59.90 ID:FZ0SctsH0
---------------------------------------------
おまけ * あすみとなぎさの模擬戦のようす
>>755 あたりの二人のほうの視点
---------------------------------------------


 人目につかない訓練場所。

 いつもなら私の代わりにこの場にいたマミがまだ来てないから、この場所はいつになく静かだった。


 両者ともにまだ動きはない。


あすみ「で、合図は? こっちはいつでもいーよ」


 余裕を醸し出して笑む。

 私もなぎさも素早さに自信のあるタイプではないが、わずかでも先行して動けたほうが有利なのは変わらない。

 ただ、余裕がないと思われるのは癪だった。……いまさら、こいつ相手にそんなこと気にする意味もないかもしんないけど。


なぎさ「なんだか余裕そうなのです! これは今のところ模擬戦不敗のなぎさも負けてはいられませんね」


 それに対するなぎさの調子はいつも通り。


 ――これまで一緒に魔女や不届き者と戦ったことならあったが、武器を構えて向かい合うのは初めてだった。

 特訓と言うが、マミが来るまでの暇つぶしの一つだ。マミの面倒を見るのは興味がないが、なぎさとだったらやってみてもいい。

 戦いは好きだし得意なほうだと思ってる。私のほうは、もちろん“模擬戦”なんて初めてなんだけど。


なぎさ「それならふかーく息を吸い込んで……1,2の3ではじめるのです!」


 カウントがはじまる。

 きっかり三秒―――ののち、虹色をした小さな球体が視界を飛び回って吹き出してきた。


あすみ(へえ、こんなに出せるようになってたんだ……ちょっと驚き)


 数は多いがシャボンの一つ一つは小さめで、魔力に任せた物量作戦というわけでもないのだろう。

 そのシャボンができるだけこちらに届かないうちに、踏み出した勢いを止めることなくなぎさとの間合いを詰める。

778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/22(火) 23:28:26.86 ID:6DKrrd4Y0
なぎさは遠距離、あすみは近距離型。
互いにシャボンと鎖で牽制が可能だしこの2人が組むと普通に強いよね
779 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/23(水) 21:57:37.45 ID:+atVmq5q0


 虹色に包まれた幻想的な景色を突き進む。


あすみ(勝負を仕掛けるなら――このタイミング!)


 途中で足を止めて鉄球を振りかぶると、破裂音とともに虹色は破れ、空気を裂くように鋭く正面へと鎖が伸びていく。

 小さく密度の高いシャボンは相手に届かせることを重視した牽制だろう。攻撃の勢いまで防げるものじゃない。

 一度勢いをつければ私が足を止めても鉄球は加速したまま前へ進む。うまくいけば一発で拘束を決めることもできるかもしれない。


 どうせシャボンはこれから増える一方。鉄球が当たれば簡単に破れるとしても、妨害にはうってつけの武器だ。囲まれるのは厄介。


あすみ(……なら、速いうちに)

なぎさ「あわわっ、思ったよりも強引に突破してこれるんですね〜……!?」


 なぎさは飛び退いて避けると、こちらに向けていたシャボンをその場に留めて守りを固め、さらにシャボンを追加してくる。

 さっきと同じ小さいシャボン。これならまだ次を打てる。


 そう思った瞬間、周りのシャボンが次々と弾けていく。小さいけれど、鎖を巻き込んで爆発されると狙い通りの軌道にならない。

 ……正直ちょっと、油断してた。鎖の軌道を曲げるほど的確に位置やら弾けるタイミングやら調整できると思ってなかったから。


あすみ「ま、こんなに早くは決まらないか」


 武器を引いて鉄球を戻す。その過程でもできるだけシャボンは破って“道”を作る。ますます囲まれたら厄介ってわかったし、それだけでも収穫としておこう。

 そして、鎖を巻取り――――鉄球が柄の先にカチリとはまる音がした。

 離れた位置から狙うには繊細なコントロールが必要だ。だったら、さらに自ら距離を詰めればいい。フレイルは最後の一手のためにとっておく。


あすみ「インファイトのがやっぱ燃えるでしょ?」


 さらに踏み込む。勝つのに必要なのは、自分のペースを作ること。

 それはなぎさにとっては相手をできるだけ多くのシャボンで囲って安全な位置まで遠ざかること――私は逆だ。

 中距離くらいまでなら戦えるが、なぎさの得意としてない接近戦に持ち込んだほうが隙は突ける。


 もちろんシャボンにも囲まれやすくはなる。でも、こんなのちまちまと破ってたらいつまでたっても勝てない。

 この戦い、長引かせたほうが不利になるのは最初に思った通りみたいだから。


あすみ(――それにしても)


 ――戦術を考えながらふと思った。いつもなら『聞こえてくるもの』が今はない。

 いくら遊びったって、『ミスしろ!』くらい思ってもいいもんなのに。


あすみ(久しぶりに静かな戦いだな)


――――――
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/23(水) 22:02:53.10 ID:QOhlLJQL0
なぎさにはあすみへの悪意がないわけだから、あすみの固有魔法は発動しないのは当然か。
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/23(水) 22:11:33.35 ID:VF64MWBbO
ここでなぎさがトランペット超音波出したら意表をつけそうだな
あすみが超音波知らなければだけど
782 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/23(水) 23:05:58.21 ID:+atVmq5q0
――――――



 シャボンを敷き詰めて遠ざけるつもりが予想に反して、あすみはこちらへ急接近してきました。

 鎖のないモーニングスターを携えて。


あすみ「インファイトのがやっぱ燃えるでしょ?」


 ……いや、やっぱりこういう大胆な戦い方があすみらしいのかもしれません。

 とはいえ、接近戦の間合いに入られるといくらか焦ります。新しくシャボンを出して位置を調整するのにも時間はかかるわけですし、戦いづらいのです。

 あすみとの間にあったシャボンはいつのまにかキレイに消されています。


 あすみはダイナミックにバトンでも扱うかのごとく鉄球を振り回します。

 攻撃に巻き込まれたシャボンはあっけなく破られ、避け続けるのは長くは持たないでしょう。さっきみたいに鎖を狙って軌道を曲げることもできません。


 どうやらなぎさは、このままではちょっとまずい状況のようです。ですが、このままでいる気もありません。


なぎさ「いーえっ――悪いですが、それはおことわりなのですっ!」


 重い武器を振りかぶるタイミングを見計らって、脇をすり抜けます。

 懐に潜り込むというのは一番に接近する瞬間でもあります。あすみもむしろ、このタイミングは狙ってくるでしょう。

 同時になぎさはいっぱいに息を吹き込み、いつもの笛の音とともにシャボンの嵐を吹かせます。……これを至近距離で聞かせるのも、もしかしたら集中妨害になるでしょうか。


 重い武器を振るうのはただでさえ体制を崩しやすい瞬間。なぎさの狙い通り、足元で起こった『小さな衝撃』にあすみはバランスを崩します。


あすみ「なっ……!」


 最初のよりもさらに小さいシャボンを混ぜたのです。威力はありませんが作るのも狙った位置にすぐに届かせられますし、注意をそらして忍ばせやすいのです。


 それに……怪我をさせるほどの威力がないからこそ、安心してぶつけられます。

 さすがのあすみもこんな小さなシャボンにやられるとは思っていなかったでしょう。

 今まで手早さ重視の小さいシャボンしか作っていませんでしたが、やっと人一人覆えるくらいの大きなシャボンを作る暇ができました。


なぎさ「これでかくほ! なのです!」

あすみ「…………あーあ、参りました」



 あすみは負けても余裕そうでした。そこになんだか安心します。

 ――――こうしてあすみとの初めての勝負は決着がついたのでした。

783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/23(水) 23:18:27.44 ID:QOhlLJQL0
なぎさ、こうやって勝ったのか。
あすみはちょっと油断してたのと悪意が聞こえないので少し調子が狂ったかな?
784 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/23(水) 23:48:43.59 ID:+atVmq5q0


あすみ「接近戦に持ち込めれば勝てると思ったのになぁー」

なぎさ「そういえば、あすみはさっきの戦いでも心を読んでたのですか?」

あすみ「……いや。そんな手もあったね。でもそんなヒマなかったよ」

なぎさ「意外と集中力が必要だったりするのです? 最後のは割と思いつきでしたが、それでもあすみなら途中で読めてれば対応できた気もするのです」

あすみ「買いかぶり過ぎじゃない?」

なぎさ「そうでしょうか?」

あすみ「まあ、読むのはやろうと思えばできたかもね。……勝手に読めるのは悪意だけ。いつもはそれで十分だから」


 あすみもさすがにあの棘鉄球で殴ろうとしてたわけじゃありませんし、余計に大ぶりに動く必要があったのも見て取れました。

 きっと、本当はあすみにとっては殴り倒す戦いのほうが早いのでしょう。


 ……でも、これは特訓なのです。お互いに。


あすみ「ていうかまだあいつ来ないじゃん。また暇になっちゃったね」

なぎさ「そうですね……ちょっと遅すぎるのです。家に行ってみませんか?」

あすみ「えー、私は別に」

なぎさ「そんなこと言わずに! なぎさのほうが勝ったんですし、ちょっとくらいわがまま聞いてくださいなのですよ!」

あすみ「そんな約束してないし。……はあ、しょうがないな。確かにこれはなんかあったかもね?」

なぎさ「な、何かあったら困るのです! マミ、今迎えに行くのですよ!」


―END―

>>761に続く…
785 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/23(水) 23:52:05.98 ID:+atVmq5q0
---------------------
ここまで
次回は26日(土)夜からの予定です。
786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/23(水) 23:58:23.23 ID:QOhlLJQL0
乙です。

次はあすみ・なぎさコンビの続きですかね?
またあすみにキリカが傷物にされて織莉子はしばかれるのか・・・w
契約しなかった杏子が再登場してくれたらうれしいかも。
787 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/26(土) 21:02:45.04 ID:YdAb+cdf0
――――――――――――――――――
――――――――



 そういえば、いつ何をきっかけで知ったのかすらもう覚えていないものが多いのですが……。

 長いこと魔法少女をやっているなら知っていて当然の知識というものがいくつかあります。

 最初の頃は魔法少女はなぎさ一人だったのでそういうのに疎く、あすみに世間知らずだってばかにされることも多かったのですが。



なぎさ「あすみは『ワルプルギスの夜』って知ってますか?」

あすみ「……何、どうしたのさ急に?」


 これもいつかの会話。

 みんなが揃ういつもの訓練場所で、ふと口にしたことでした。


なぎさ「あ! あすみもこれは知らないのです?」

あすみ「知ってるよ。結界を持つ必要がないくらい強い超弩級の魔女――とかいうやつのことでしょ」

なぎさ「なーんだ、やっぱり知ってたのですね」

マミ「私は聞いたことないんだけど、そんな魔女がいるの?」

なぎさ「噂ですけどね。過去に世界で起きた大災害がホントはこれの仕業だって……ホントなんですかね」

あすみ「さあね。私はキュゥべえから聞いたし存在自体は疑ってないけど、どれがそうだってのは眉唾だよ」

なぎさ「じゃあワルプルギスの夜の弱点って知ってます?」

あすみ「それは知らないけど」

なぎさ「実は…… 」


 そう言って溜めると、二人は食いついてきました。


なぎさ「なぎさも知らないのです!」

あすみ「はぁ〜、呆れた。昼寝するから起こさないでくれる?」

マミ「……訓練、再開しましょうか」

なぎさ「いや、そんなにがっかりさせる気はなかったのですよ!? みんなで考えてみたら面白いかなって!」



 ……これが『こわいはなし』なら怪物の弱点までセットになっていることは珍しくはありません。

 今まで戦ってきた魔女も、どれだけ強い敵だと思えても探ってみれば弱点があったりしたのです。




――――――――――――――――――


 最終・なぎさとあすみの見滝原


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788 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/26(土) 21:59:21.24 ID:sKOM2Egb0
ワウプルギスの名前が出たと言うことは原作時間軸に突入ですね。
あすみはまだ野宿してるのかな?
789 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/26(土) 22:51:36.23 ID:YdAb+cdf0


*「なぎさちゃん、これからわたしの家で遊ばない? **ちゃんと***ちゃんも来るって」

なぎさ「ごめんなさい、今日も予定があるので」


 ――――今日も学校での一日が終わりました。

 せっかくのお誘いですが、今日もお断りの返事をかえします。


*「ああ、それならいいの。なぎさちゃん忙しそうだもんね」

なぎさ「また休みの日にでも!」


 予定とはもちろん訓練のことです。マミと出会ってからずっと続けてきたそれは、今でももちろん続いています。

 それに今はあすみもよく訓練場所に来てくれるのです。

 学校のお友達と遊ぶことは少なくなったものの、みんなで一緒にいる時間はなにより安心する時間になっていました。


 この見滝原の街にあすみがやってきて、マミと仲良くなって――――あれからなぎさたちはほとんど変わらない毎日を過ごせています。

 しかし、今までであった魔法少女はそれだけではありませんでした。


 縄張りを奪おうとする魔法少女。ちょっとだけ話すことのあった他の町の魔法少女。それに、守れなかった新しい魔法少女。

 訓練にさそったりしてみても、考え方の違いでそれを拒まれたり、最初のうちは来てくれてもいつのまにか来なくなることもありました。

 その結果が、今の『変わらない毎日』になっているのです。


なぎさ(あれ? マミからメッセージが……)



 そして今日、久しぶりにその日々が少し変わりそうな予感がしました。


790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/26(土) 23:32:32.72 ID:sKOM2Egb0
いきなりまどかとさやかを助けてほむほむと遭遇した知らせかな?
もしくはあすみが危険な存在(キリカ)を連れてきたとか?
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/26(土) 23:40:09.89 ID:Fxizy5N8O
あすみ・なぎさ・マミと戦力的にはそうそう引けを取らない面子だよな
なぎさとマミが魔女化の事とか知らないのは不安要素だけど
あとそろそろ安価欲しいね
792 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 00:20:31.88 ID:y9P6nhPt0
――――
訓練場所



 訓練場所にやってくると、マミの隣に見知らぬ人がいることに気づきます。

 マミと同じ制服。きっと見滝原中学校の生徒なのです。


なぎさ「マミ! メッセージに書いてあった子って……!」

マミ「ええ、この子よ。今朝契約したんだって。学校で会ったの」

まどか「はじめまして。わたし、鹿目まどかっていうの」

なぎさ「よろしくなのです! マミ、後輩ができましたね!」

マミ「え、ええ。そうね」


 まだ挨拶だけですが人当たりの良さそうな人です。これからも一人で危ないことをせず、訓練に来てくれるといいのですが……。

 すぐに来てくれなくなったりした人のことを思うと不安もあるのです。

 その人たちが全員どうなったかは知りません。会っていませんから。でも、表向きに『行方不明』となってしまった人もいました。


なぎさ「まどか、魔法少女のことはキュゥべえやマミからどのくらい聞いていますか?」

まどか「魔女と戦わなくちゃいけないってことくらいかな。まだ魔法も使っていからワクワクしてるの!」

マミ「自分の衣装が気になるって言ってたわ。まずは変身してみましょうか。私も初めてのときはいきなりで戸惑ったから」

なぎさ「そうですね! なぎさもまどかの変身した姿気になりますし!」


 まどかはマミと違って怖がったりするよりも、希望でいっぱいみたいです。なぎさも最初の変身のときはワクワクしたことを思い出します。

 まず変身してもらったり、魔法の力でできそうなことを一通り披露してもらっていると、奥の木陰のほうからあすみがこちらを覗いていたことに気づきます。

 多分訓練がはじまるより前に来ていたのでしょう。そういうことも多いみたいですから。

793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/27(日) 00:26:01.79 ID:oZjs2SHsO
いきなりまどか契約してて草w
このまどかが最初のまどかならまだ大丈夫なんだが
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/27(日) 00:30:47.61 ID:Ot4TgdU50
>>793
ほむらがメガほむならまだ手遅れじゃないんですけどね・・・
あすみが木陰からジッと見てるのが不安感バリバリで怖い・・・

>>まだ魔法も使っていからワクワクしてるの!

まだ魔法も使っていないからワクワクしてるの!、かな?
795 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 01:03:18.40 ID:y9P6nhPt0


なぎさ「あっ……、あすみもいたのですね。居るならこっちに来てくださいよ! 新しい仲間なのですよ!」

あすみ「新しいやつね。……あー、うん。よろしく」

まどか「うん。よ、よろしく」


 あすみは見定めるような目で見ています。

 あすみが新人を見て快い反応をすることって、前からあんまりありません。


あすみ「またずいぶん浮かれてるのが来たけど、『大丈夫そう』なの?」

なぎさ「……さっそくなのですが、まどかにお願いがあるのです。出来るだけでいいので訓練は来てほしいのです」

なぎさ「それと……一人では戦わないでほしいのです。危ないですから」


 多分マミと出会う前に会った魔法少女も含めて、マミと他の魔法少女との違い……――――。

 それは、戦いへの考え方だと思うのです。


 魔法の力って、ワクワクするほどすごいです。特に慣れかけの頃ほど、魔女なんて軽く倒せるのが当たり前なんじゃないかって気がします。

 でもマミは最初から『魔法少女』も『魔女』も怖がっていました。戦いも力も、軽く考えたことはなかったのです。


まどか「うん、わかった。約束するね。訓練にもたくさん出るようにするから!」

なぎさ「はい! 約束ですよ!」



 あすみはきっと忠告をしようとしていたのです。思っているより危険だぞって。

 ――――それから今日は基礎的な戦いの訓練だけをして解散としました。


796 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 01:05:49.44 ID:y9P6nhPt0
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ここまで
次回は27日(日)夜からの予定です
797 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 22:14:27.03 ID:y9P6nhPt0


あすみ「新人はまだ連れて行かないんだ」


 この場所を発とうとするなぎさたちを見てあすみが声をかけてきました。


なぎさ「まだやっと魔法の使い方がわかったくらいですから。急に戦えっていわれてもきっとなにをしていいかわからないと思うのです!」


 これからなぎさたちは魔女退治に出かけます。

 まどかも……次くらいには一緒につれていってみましょうか。頭の中で計画を立てます。


あすみ「そういうもんかね…… いや、あいつも戦いとか得意そうには見えなかったな。今まで見た中でも大分どんくさそうな部類じゃない?」

なぎさ「はじめてならしょうがないのですよ。きっと、要領を掴んだら立派に戦えます」

あすみ「また甘いんだから。でも後輩増えたらさすがに一人で全員の面倒見なくてもいいんじゃない? 魔女退治行くにもそろそろ多いでしょ」

なぎさ「! ……じゃあ、あすみが見てくれるのですか?」

あすみ「え、やだよ。そんなことは言ってないって。じゃなくて、後輩の世話は後輩に任せてみたらってこと」

マミ「……私が?」

あすみ「新人ももっと慣れてからのほうがいいだろうけど、二人もいれば前みたいなことになっても安全に逃げられるくらいの余裕はあるでしょ」

あすみ「てか、あれからだってもう……――たしか一年くらい? その時よりは強くなってんでしょ」

なぎさ「訓練ではそれもいいですけど、実戦のほうはまだ無理にしなくても……」

マミ「いえ、私もちょっと頑張ってみたいわ。後輩ってはじめてですもの」

あすみ「なぎさにばっかり先輩としてイイとことられたくないよね?」


 ……またあすみは焚きつけるようなことを言います。

 それに今回はマミも乗り気みたいです……これは困りました。大丈夫でしょうか?


なぎさ「で、でも。それはもうちょっと、まどかが戦えるようになってからなのですよ」

あすみ「まあそうね。それよりまずはバックレないで来てくれることが条件だよね。今度のこそ」


 たしかにそれはずっと気にしていたことでした。一緒に戦う仲間になるという以前のことです。

 あすみは軽く言いましたが……。


なぎさ「とりあえず、まどかとは約束ができましたから! この前の子とは出来なかったですけど……」

なぎさ「まどかは素直そうな子ですし、きっと大丈夫ですよ。なぎさが守ってあげられます」

あすみ「…………」


 そう言うと、あすみは少しだけ何か考えるようにしましたが、こう言いました。


あすみ「まあ、そうかもね」

なぎさ「はい!」



 それから、今日の魔女退治に出発しました。


798 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 23:13:11.59 ID:y9P6nhPt0
――――
――――


 まどかと出会った次の日も――そのまた次の日も。

 同じように訓練は続き、まどかは来てくれました。……心配事は杞憂に終わりました。最初に信じた通りだったのです。


 そして、まどかもなぎさたちと一緒に戦いに参加できるようになった頃でした。

 あすみが提案したように、マミとまどかが二人で魔女を倒してきたというのです。

 しかしそれは偶然のことでした。通学路で襲われてた人がいたから。なんでもそれはまどかのクラスメイトだそうで。


なぎさ「それで、二人が無事なのは本当によかったと思うのですが…… ほむらも魔法少女になりたいのです?」

ほむら「いっ、いえ、まだそこまでは……!」


 ……ほむらには素質があるのだそうです。

 魔法少女と会ったことはありましたが、その『候補』と顔を合わせるのははじめてです。

 どう話せばいいのでしょう?


ほむら「でも、鹿目さんと巴さんに話は聞いて。……力になれたらとは、思います」

なぎさ「そう言ってくれるのはうれしいですけど……」


 正直、そう言われてもしてもらいたいことが何も思い浮かばないのです。

 なぎさは魔法少女の新人のことを守らねばならぬ立場です。魔法少女ですらない人を危険に巻き込むのは言語道断。



1力になれることはありません
2だったら契約してください
3あすみに助けを求める
4自由安価

 下2レス
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/28(月) 00:41:57.05 ID:e3WHPiY1O
確固たる願いがないなら契約をさせる訳にはいかない、と諭す+3
800 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/28(月) 01:30:33.91 ID:GM47767zo
魔法少女になりたいわけじゃないなら引き返すべきだ
1
801 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/28(月) 02:17:54.34 ID:L5dej0rZ0

なぎさ「無理なのです。力になれることはありません」

ほむら「え……っ」


 ハッキリ告げるとほむらは表情を引きつらせました。


ほむら「も、もちろん鹿目さんや巴さんのように戦うことはできないとは思いますけど……こう、武器とか持ってきたりしたら、少しくらいは……」

なぎさ「武器って、そのへんで調達してきたものが魔女に効くわけないじゃないですか!」

ほむら「そ、そうなんですか……」

なぎさ「いいですか? まどかとマミだってまだ二人だけで戦わせるのは不安だったのです! これ以上不安を増やさないでください! 引き返して!」

あすみ「あははははは! なぎさ、よく言ってやったじゃん! ていうかアンタ面白いこと言うね〜、そんなこと言い出すやついると思わなかった」

まどか「ほむらちゃんって意外とアグレッシブだったんだね!」

マミ「心意気はいいけれど……ちょっと無謀だと思うわよ。身体強くないんでしょう?」

ほむら「うう……」

なぎさ「強かったとしてもダメですよ」

ほむら「…………はい」


 シュンとしてしまいましたが、仕方ないです。曖昧に言ってついてこられても困りますから。きっと強く言うことも必要だったのです。

 あすみは他人事みたいに面白そうに笑っています。


ほむら「そうですよね。今日少し動いただけでめまいがしたのに、私なんかじゃ、契約したってきっと……鹿目さんたちみたいには」


 ……しかし、ちょっと落ち込みすぎてしまったでしょうか?

 契約したときのことならさっきのこととはまた関係のない話になるのですが。


 そんなときキュゥべえがなぎさの肩の上に飛び乗って、存在をアピールするようにひょこりと顔を出します。そういえばついてきていたんでした。


QB「まあまあ、そんなに邪険にすることないじゃないか。このまま戦うのは無謀だけど、ほむらだって契約すれば戦えるようになるよ」

QB「魔法少女になれば契約前より強くなれるし、身体を強くすることを祈ったっていいんだからね。なんなら、今ここで叶えることだってできるよ?」

ほむら「……いえ、やめておきます。今はまだ……。変なこと言ってすみませんでした」


 ほむらは縮こまるように頭をさげると、卑屈そうにトボトボと去っていきます。

 その後ろ姿にまどかが声をかけました。


まどか「ほむらちゃん! 契約のことは関係ないとして、これからも仲良くしようね! 戦いについてこなくてもここには来ていいから!」

まどか「今は考えてなくても魔法少女のことだって無関係じゃないでしょ? 訓練の風景とか見てたってきっと損はないよ!」


 まどかの言葉に、ほむらは足を止めます。

802 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/28(月) 02:21:03.23 ID:L5dej0rZ0
-------------------------
ここまで
次回は30日(水)夜の予定
803 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/30(水) 21:20:45.62 ID:SMw/4MZs0


あすみ「おい、バカ!」

まどか「え……?」


 あすみが嗜めるように口を挟むと、まどかは困惑したような声を上げました。

 ダメなこと言っちゃったかなって感じの顔です。

 ……まあ、あすみの考え方からして、新人が増えてほしくないんだろうなってことはわかります。繋がりを持たせるようなこともしたくないのでしょう。


ほむら「…………」


 ほむらは背を向けて立ち止まったままです。


あすみ「勝手に余計なこと言わないでくれない? ココ以外でどれだけ仲良くしてたって構わないけど、ここはそういう場所じゃないから」

まどか「えっと、じゃあどういう……?」


 しかしまどかが困惑するのも無理はありません。

 ここは『訓練場所』ですが、こう言ったあすみ本人が訓練せず専らぼーっとしてたり、読書をしてたりするのですから。


あすみ「なぁに? 新入りがいっちょ前に口答えしないの」

まどか「ご、ごめんなさい。でもさっきも言ったとおり、いつか契約するかもしれないんだし見てる分にはいいんじゃないかなって」


 まどかも負けていません。

 物腰は柔らかいですが、威圧だけで適当に丸め込めるタイプじゃないみたいです。


マミ「確かにそれもそうよね。ここは秘密の場所だし一般人に見られたら困るけど、暁美さんはもうこの場所のことも魔法少女のことも知っちゃったんだもの」

なぎさ「うーん、なぎさもここは同感ですかね。戦いは危険ですが、見る分には安全なのです。訓練中はなぎさが見てますし、危険なことはさせませんから」


 ……そう言うとあすみの鋭い視線が突き刺さりましたが、見なかったことにします。


ほむら「……は、はい。ありがとうございます」


 ほむらはこちらを振り返ると、消え入りそうな声で言いました。

804 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/30(水) 22:18:22.50 ID:SMw/4MZs0


あすみ「――そもそもなんでもここに連れてくればいいと思ってんのが悪い」


 ほむらの姿が見えなくなってからあすみが言いました。

 あすみはまだ不機嫌なようすです。


あすみ「候補者なんてただの一般人でしょ?」

なぎさ「でも……『ただの』では、ないのでは?」

あすみ「同じだよ。というか、どうせただの一般人でいたほうがいいんだよ。せっかく願いもないってのに、下手にこっちの世界に引き込んだせいで契約する可能性が出てくる」

まどか「それって悪いことなのかな?」

あすみ「悪いよー。まどかが増えてうちの縄張りももう4人。今までみたいに余裕はないよ?」

マミ「グリーフシード……ね」

あすみ「それにさ、この場合、単純に興味持ってとかよりそういう状況に追い込まれてする可能性のほうが大きいしヤバいと思うけど」

あすみ「たとえばこの中の誰かがちょっとでもピンチになったりしたらそれが契約理由になるかもしれないんだから。アンタら人の命運背負えんの?」


 あすみは損得だけでなく、もっと重いことを考えていたんだとわかります。

 でも、そういうことなら。


なぎさ「それなら大丈夫なのですよ! みんなのことはなぎさが守りますから!」

なぎさ「だから…… やっぱりまだマミもまどかも別行動で魔女とは戦わないでください。信じてないとは言いませんが、心配なのです」

マミ「ええ……そうね。今回みたいに上手くいくとも限らないものね」

まどか「で、でも、今回のこともわたしたちが駆けつけるのが少しでも遅かったら……」

マミ「それは……緊急のときには仕方ないわね」

なぎさ「じゃ、じゃあそういうときはマミと一緒なら。でもやっぱり一人はダメです!」


 もちろん街の人を守ることは大事な役目です。

 ……だけど、マミもまどかも、なぎさにとってはどちらも大事な弟子ですから。



――――――
――――――
805 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/30(水) 23:49:30.80 ID:SMw/4MZs0



 その翌日、マミとまどかの二人の後ろにくっついてくるようにほむらはやってきた。


 マミとまどかは同じ学校だ。これまでも一緒に来ることが多かった。

 さらにまどかとほむらは同じクラスだと言う。まどかは関わらせる気みたいだし、三人一緒にくるようになるのは必然というべきか。


ほむら「…………」


 同じく訓練を傍観してる位置にいるが、私とはまた離れたとこにいる。

 ちょっとだけつつきにいってみる。せっかくだからいびってやる。


あすみ「ねえ、なんでついてきたの?」

ほむら「つ……ついてきていいと言われたから」

あすみ「いつか契約するかもしれないからってやつ? ……でもアンタってハナから契約する気なんてないでしょ?」

あすみ「コンプレックスがあってもその解消のために契約はしないし、よほどのことがなきゃ契約なんて選択肢にもないくせに」

あすみ「アンタはここに居ても自分が契約することなんて考えてない。考えたとしても子供じみた妄想程度。ただ漠然と『すごいなあ』って思って憧れてるだけ」

ほむら「…………」

あすみ「そうじゃない? 昨日なぎさも言ってたとおり、アンタに出来ることなんてないんだよ。だからついてくる意味なんてないの」

ほむら「……お見通し……なんですか」

あすみ「そう。アンタのチープな野次馬根性なんてお見通し」


 多少のぞかせてもらったが、ほとんど予想通りだった。

 それもそのはず。契約したって自分が戦えると思ってないんだから。『すごい人』にくっついて回りたいだけだ。

 『すごい人』に守られながら横で地味な応援だけして、その一員として役立ってるつもりになりたかったんだろう。


ほむら「……どうしてみんな、あんな怪物を目の前にして戦えるんですか? いくら魔法があったって、私には無理な気がして」

ほむら「契約する前から勇敢だったの? 私なら絶対に足がすくんでしまう。どうせみんなの足を引っ張ることになる……」

あすみ「そんなの人によるんじゃない。そう思うんなら帰れよ」


 とはいえ、どんなに臆病でもいつかは慣れるし、何かがきっかけで思い切ることもある。

 最初はビビってたマミだって今は戦えてる。……それに、私だって。

 だから万が一よほどのことが起きて思い切ってしまう前に離れさせる必要があるのだ。


なぎさ「あれ? あすみ、ほむらと仲直りしたのですか?」

あすみ「するわけないでしょ」


 訓練に区切りをつけたらしいなぎさがこっちに来る。

 ……いびるだけのつもりがこれ以上親近感を抱かれても困る。読書に専念することにした。

806 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/01(木) 00:11:47.03 ID:6/xnKkRA0


あすみ(さて、どこまで読んだっけな…………)


 暇で暇で堪らない日々の中で、読書は新しく身に着けた趣味といえるものだった。

 時間はつぶせる。金もほぼかからない。場所も取らない。


 そういえば学校に通っていた頃は、よく図書室に通っていたと思い出す。

 お母さんは遅くまで仕事してて暇だった。その時も暇つぶしに本を読んでいたんだ。


 ぼんやりと訓練の風景を遠目に捉えつつ、本の世界に入り込もうとする。その時、隣から声がした。


ほむら「その本……」

あすみ「……何? 本?」


 まさか今度は向こうから、またこいつに話しかけられるとは。


ほむら「いえ、読んでたなって……」

あすみ「そう。ネタバレしないでね」

ほむら「あ、もちろんです! ネタバレは一番つまらないので!」

ほむら「でも、下巻のほう読んでないんですよね……。休憩室にシリーズがあったけど、読まないうちに退院しちゃったから……」


 ……そういや身体弱いとか言ってたっけ。

 入院中か。それはまた暇そうだな。口には出さず、心の中でだけ思う。



 ほむらはそれ以上話してくることはなかった。でもたまにこっちを見ている視線を感じた。



 まさか、そんなことで話しかけてくるとは思わなかった。

 そんなことを話す相手がいるとも思ってなかった。でも、こっちが親近感を抱くわけにもいかない。……目を合わせず、冷たく対応することにした。



――――
――――
807 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/01(木) 00:15:44.64 ID:6/xnKkRA0
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ここまで
次回は3日(土)夜からの予定です
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