女「私は鼻が効きますから」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/06/21(日) 22:47:04.45 ID:YHIwkFnj0
男「へ??」
女「なので探し当てることができました」
男「???」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1592747224
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 22:49:04.77 ID:YHIwkFnj0
男(容姿端麗。眉目秀麗。仙姿玉質)

男(彼女を一言で言い表すならどれが相応しいのだろう)

男(才色兼備で高嶺の花。俺がどう足掻こうが決して掴むことの出来ない存在)

男(いや、俺だけじゃない。彼女は誰も寄せ付けない雰囲気を纏っている)

男(冷酷無情の如くバッサバッサと斬り捨てられた男達が何人もいるからだ)

男(そんな彼女に……)

男(そんな彼女に今俺は……何故か呼び出されているのだが……)
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 22:50:51.22 ID:YHIwkFnj0
男「女さん、悪いけどもう一度言ってもらっていいかな?」

女「私は鼻が効きます」

男「鼻が……効く??」

女「嗅覚が敏感という意味です」

男「あ、はい」

女「なので人混みなどが苦手です」

男「う、うん?」

女「満員電車は以っての他です」

男「あー、うん」

女「教室も……汗や体臭、香水などの匂いが入り混じり、とても耐え辛い空間です」

男「えと、それは……なかなか大変ですね」

女「ええ」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 22:52:11.12 ID:YHIwkFnj0
男「……えっと……」

女「……」

男「も、もしかして俺、なんか臭う?」

女「はい。とても」

男(ま、まさか呼び出しって!このことかぁぁぁ)ズーン

男「毎日風呂入ってるんだけど……そんな臭いなら朝シャンもしてくるよ……その、なんかごめん」ズーン

男(マジか……俺、そうだったのか……自分じゃ気付かないっていうけど……マジかぁぁ)
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/21(日) 22:54:42.29 ID:YHIwkFnj0
女「結構です」

男「え?」

女「そのままで結構です」

男「んん??」

女「教室に様々な臭いが入り混じる中、快然たる香りもありました」

男「か、かいぜんってなに?」

女「気になるなら調べてみては?」

男「う、うん」

男「かいぜん、かいぜんっと……」ポチポチ

男「あったあった。えっと……」

男「心地よいさま。気がかりのないさま。病気がよくなるさま」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 22:56:06.60 ID:YHIwkFnj0
男「えーっと……つまり?」

女「私が今まで出会ったことのない匂い。それを辿ると貴方に行き着きました」

男「は、はい」

女「無粋ではありますが、一度嗅がせていただいても宜しいですか?」

男「ええ!?」

女「お願いします」

男「え、えーっと、制服でいいのかな?」

女「いえ。体臭です」

男「た、体臭!?」

女「はい」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 22:57:30.29 ID:YHIwkFnj0
男「手……とか?」

女「色々な所に触れた手は雑臭がするので遠慮させて頂きます」

男「髪の毛……とか?」

女「わざわざ嗅がなくても判別できるので遠慮させて頂きます」

男「じゃあ具体的にどこの匂いを嗅ぎたいの?」

女「首筋を」

男「く、首!?」

女「駄目……ですか?」

男(な、なんで残念そうな顔してるの!?そんな顔されたら断りにくいじゃないかっ!)
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 22:58:50.76 ID:YHIwkFnj0
男「……」

女「……」

男「臭くても責任とれないよ?」

女「はい。構いません」

男「じ、じゃあ……いいよ」

女「ありがとうございます」

女「では失礼しますね」スッ

フワッ

男(女さんが近付いて……!なんかすげー良い匂いがするっ!)
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/21(日) 23:00:30.00 ID:YHIwkFnj0
女「」クン

男「!!」

男(近いっ!想像以上に近い!!)

女「」スンスン

男(こ、こ、この距離は心臓に悪すぎるっっ!!)

女「ふ……はぁ……」

男「!!」

男(お、女さんの吐息が首に……っ!)

女「」スンスン

男「あ、あの……」

女「!」

スッ

女「失礼しました」

男「い、いえ」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:01:53.86 ID:YHIwkFnj0
女「ありがとうございました」

男「……その、どうでしたか?実際嗅ぐとか想像とちょっと違かったりとか」

女「ええ。想像以上でした」

男(想像以上!?それって……どういうことだ??)

男「あの、それって」

女「では私はこれで失礼します」

男「あ、はい」

スタスタスタ

男「行ってしまった……」

男「なんだったんだ一体……」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:03:21.23 ID:YHIwkFnj0
――自宅

男(それにしても今日は驚いたなぁ)

男(想像以上ってきっと良い意味だよな?)

男(信じられない。あの女さんが)

男(あの高嶺の花である女さんが……もしかしてこれって……期待しちゃってもいいやつ?)

男「なんてそんな都合良くいくわけ……」

男「でも期待しちゃうよなぁ」デレ
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:04:49.74 ID:YHIwkFnj0
――朝 教室

男(期待してた俺が馬鹿でした)

男(いつも通り話しかけるなオーラがプンプンと漂ってやがるぜ)

男(いや、別にショックはないよ?元々手の届かない存在だと思ってたし)

男(でも……折角だからもうちょっと仲良くなりたかったな……)

友「よう!男!」ポン

男「おはよ、友」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:05:45.19 ID:YHIwkFnj0
友「今日の四限体育だぜ?腹が減ってる時間にきっついよなぁ〜」

男「ああ、そうだね」

友「しかも男子は持久走だと。今から憂鬱になるぜ」

男「はは……考えただけでも嫌になるな」

友「ま、お互い適当に頑張ろうぜ」

男「ああ」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/06/21(日) 23:06:53.21 ID:YHIwkFnj0
――昼休み

友「飯だ飯だ飯だーー!!」

友「もう汗だくでクタクタだわ……早く飯行こうぜ男!」

男「そうだね」

女「ちょっといい?」

男「!?」

友「え!?お、女さんっ!?どうしたの?」

女「彼に用事が……」

男「お、おれ?」

女「はい」

友「え?ええぇ!?」

男「えーっと、何かな?」

女「……」フラ

男(?なんか具合悪そうな気が……)
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:10:12.56 ID:YHIwkFnj0
女「うっ……」

男「!?」

男(なんだ!?明らかに様子がおかしいぞ)

男「場所移そうか?」

女「ええ……人が、いない場所に……」

男「人が?……じゃあこっちに」

友「どういう事だ!?あの女さんがっ男に!?」

男「悪い友、先に飯食ってていいから!」

友「あ、ああ」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:11:30.07 ID:YHIwkFnj0
――校舎裏

男「誰もいない場所って行ったらココくらいしか思いつかなかったけど……」

女「……」

男「本当にココでよかったの?保健室とかの方が……」

女「……」ブンブン

男「大丈夫?なんか具合悪そうだけど」

女「体育の後は臭いが……」

男「あっ……そうか、なるほど……」

女「……」

男「えっと、外の空気に当たってたら落ち着く?」

女「……せてください」ボソ

男「え?」

女「匂いを……嗅がせてください」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:12:56.33 ID:YHIwkFnj0
男「ええ!!?俺も走って汗かいちゃったし……いくらなんでも臭いよ!」

女「お願いします」

男「でも!…………余計気持ち悪くなっても知らないよ?」

女「はい」

男「えと……じゃあ、どうぞ?」

女「失礼します」

スッ フワッ

男(うぅぅ……なんていい匂いなんだ女さん!俺なんかよりも君の方がとてもいい匂いのような気がするけど)
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:15:50.89 ID:YHIwkFnj0
女「」スンスン

男(き、昨日と同じ首筋を……)

女「!!」

男「?」

女「」スンスンスンスン

男「……」

女「ふわぁ……」

男(これ、誰かに見られたらヤバイ絵面なのでは……)

女「」スンスン クンクン

男「……」

女「はぁ……ふぅ……」

男(な、艶かしい吐息ががが……!)

女「」クンクン スンスン

男「お、女さんっ、そろそろ」

女「!」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:17:07.16 ID:YHIwkFnj0
スッ

女「失礼しました」

男「う、うん。大丈夫?」

女「はい。おかげ様で良くなりました」

男「昨日より臭かったと思うんだけど……」

女「はい。昨日以上に芳しい香りでした」

男「そ、そう?ならよかった……のかな?」

女「ありがとうございました」

男「でもこれじゃあ毎回体育の後なんて大変なんじゃない?」

女「今日はそれ用のハンカチを忘れてしまって……」

男「それ用のハンカチ?あ……あぁ!たまにハンカチで口元を覆ってる時あったけど、それってもしかしてこういう事態に備えて?」

女「はい。普段使い用のハンカチでは防げないので、別途それ用のハンカチを用意しています」

男「それを忘れちゃったんだね」

女「はい」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:18:19.39 ID:YHIwkFnj0
男「なんていうか……お役に立ててよかったです」

女「助かりました」

男「あ、あの!もし今後、辛い時は遠慮なく頼ってくれていいから!」

男(言った!俺、頑張った!!)

女「……」

男「……?」

女「見返りを要求されても困るのでハッキリ申し上げておきますが、私にはお礼の言葉を口にすることしかできません」

男「見返りなんて求めないよ!ただ、少しでも……その、仲良くなれたら……」

女「……」

男「えと、その……」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:19:47.85 ID:YHIwkFnj0
女「誤解のないよう事前に申し上げます」

男「?」

女「私は貴方に対して好意はありません」

男「あ、うん」

女「今後好意を抱く事もありえません」

男(ありえない、と明言された……いや、分かってたけどね……分かってたけどさぁ)

女「貴方が今後、私に対して特別な感情を持ってもそれには応えられません」

男「そんな事は!……思ってもないし、考えてもないよ……」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:21:10.18 ID:YHIwkFnj0
女「ただ私にとって貴方は快然たる香りの持ち主だという事は事実です」

男「は、はい」

女「それを踏まえた上で利用させて頂けるという事でしたら、その時はまた宜しくお願いします」

男「うん、全然気軽に頼って下さい」

女「では失礼します」

スタスタスタ

男(告白してもないのにフラれた気分だ)

男(俺も元々女さんに好意を抱いていた訳じゃないし、手の届かない存在だと思ってる)

男(けど、ここまでハッキリ釘刺されると……笑うしかないよなぁ)

男「はは、は……」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:22:52.23 ID:YHIwkFnj0
――教室

友「おい!男!どういう事だよ!説明しろ!」グラグラ

男「別にお前が思ってるような事じゃないって」

友「でもあの女さんだぜ?こんなこと今まで一度もなかったのに!」グラグラ

男「たまたま……困ってるのを助けてただけだよ」

男(嘘は……言ってないよな?)

男(女さんの体質のこと、俺の口から言うような事じゃないと思うし)

友「それでもあの女さんと接点持ったんだろ?羨ましい奴だぜ、コンチクショー!」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:24:45.88 ID:YHIwkFnj0
男「あ、ははは……友が思うような事はありえないから安心していいよ」

友「当たり前だろ。難攻不落で有名な女さんだぜ?俺らのような取り柄もない人間がどうこう出来るお人じゃない!」

男「うんうん」

友「ほら見ろよ、あの儚げな表情……美しいよな……」

男(知ってしまうとあれはただ、教室の臭いを我慢してるだけなんだよなぁ)

男(あ、そういえば……)

男(ハンカチを忘れたって言ってたな)
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:27:09.79 ID:YHIwkFnj0
――放課後

男「」コソコソ

男「女さん、そのままでいいから聞いて」ボソ

女「……」

男「帰りの電車は大丈夫なの?」

女「……」

男「もし必要なら……利用する?」

女「……」チラッ

男(否定がないって事は……やっぱり辛いのか)

男「最寄り駅は?」

女「……」

男「……」

女「〇〇駅」

男「!」

男(俺の最寄駅の隣!?そんな近くに住んでたなんて知らなかった!)

男「俺、その隣の××駅だから……どう?」

女「……」コクン

男「じゃあ先に駅のホームで待ってるから」

女「……」コクン

男(逆方向でも送るつもりだったけど、まさか隣の駅だったなんて)

男(よし、行くか)
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:29:01.50 ID:YHIwkFnj0
――駅 ホーム

女「あ……」

男「お、きたきた」

女「お待たせしました」

男「ううん。考えなしに誘っちゃったけど、電車内で密着するわけにもいかないし、あまり意味ないかもなーって後から思った……ごめんね」

女「いいえ。隣にいるだけで中和されますから」

男「中和……そんなもんなの?」

女「はい。鼻が効くので」

男「ははっ、そっか」

男「あ!ちょうど電車来たみたいだね」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:31:23.08 ID:YHIwkFnj0
男「端っこの座席が空いてるよ!女さん!」

女「……」

男「どうぞ」

女「どうも」ストン

男「じゃあ俺は……隣に失礼します」ストン

ガタン ゴトン ガタン ゴトン

男「事前に申し上げますが、見返りとか求めてないので安心して下さい」

女「はい」

男「まさか隣の駅だったのは驚いたけどね〜」

女「…………」

女「そう、ですね」

男「この時間は比較的に空いてるけど、やっぱりキツイの?」

女「朝ほどではないですが、アレがないので少し……」

男(アレ?……ああ、対策用のハンカチか)

男「そっか」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:33:46.30 ID:YHIwkFnj0
女「……」

男「朝の電車は大丈夫なの?」

女「女性専用車両を利用してます」

男「おお、なるほど」

女「……」

男「女性専用車両っていい匂いしそうだもんなぁ」

女「化粧品。香水。柔軟剤。混ぜるな危険……です」

男「あ、なるほど……」

女「……」

男「……」

女「貴方はいつもどこに……いえ、なんでもありません」

男「俺?朝は6号車に乗ってるよ」

男「降りたらすぐ階段だから遅刻しそうな時とかスタートダッシュが切れるんだ!」

女「……」

男「……」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:35:54.26 ID:YHIwkFnj0
ガタンゴトン ガタンゴトン

男「そろそろ女さんの降りる駅だね」

女「……」

男「俺はこの次」

女「……」

男(せめて一言だけでも返事がほしい……)

男(いやいや、強引に誘ったのは俺だし……興味ないってハッキリ言われてるもんなぁ)

『まもなく〜〇〇、〇〇でございます』

男「……」

女「……」

『ドアが開きます。ご注意ください』

男「着いたね、じゃあまた明日」

女「私はいつも7時10分の電車に乗ってます」スク

男「え?」

女「ありがとうございました。失礼します」

スタスタスタ

乗務員『ドアが閉まります。ご注意下さい』

男「??」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/06/21(日) 23:39:09.94 ID:YHIwkFnj0
――翌日 朝 ホーム

男(思わずいつもより早く来てしまった)

男(〇〇駅に7時10分ってことは、この駅だと7時6分発の電車ってことだよな)

男(でも女さんは女性専用車両に乗ってるはずだし……早くにきて何してんだ俺は……)

『まもなく列車が参ります。白線の内側までお下がりください』

男(まぁいいや、俺はいつも通り6号車で)

『ドアが閉まります。ご注意ください』

男「……」

男(この時間帯でも混み具合は変わらないんだな)

男(それに今まで意識したことなかったけど、たしかに臭いが……)

男(女さんは女性専用車両もキツイと言ってたけど、こっちよりか幾らかはマシだよなぁ)

男(だからきっと、今日も女性専用車両に乗るはず)
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:41:24.06 ID:YHIwkFnj0
『次は〇〇、〇〇でございます』

男「……」キョロキョロ

男(うん、わかってたけどね)

『ドアが閉まります。ご注意ください』

男(何やってんだろう俺は……。明日からいつも通りの時間に行こう)

――学校 最寄り駅 ホーム

男「ふぅ……」

男(おおっ!のんびり歩いても学校に着くまで全然余裕があるぞ!)

男(たまには早く電車乗るのもアリかもしれない……)

男(なんて嘘!眠い!二度とこんな時間に乗ってやるもんか!!)

男「ふわぁぁぁ!」

女「」チラッ

男「!」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:42:48.05 ID:YHIwkFnj0
男(女さん!うわぁぁ女さんに大アクビしてるとこ見られた!恥ずかしい!!)

男(ていうか、この時間に俺がいること……女さんに何て思われただろう)

男(俺が何か期待してるって誤解されちゃったら嫌だな……)

男(いや、まぁしてないと言えば嘘になるけど……でも、それだけじゃなくて!うーん)

男(っていつの間にか居なくなってるし……)

男「本当なにしてんだ俺」

男「はぁ」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:11:39.83 ID:e+El0FAq0
――教室

男(おー、やっぱり朝早いだけあって人も少ないなー)

男(女さんは……)チラッ

男(いつも通り本を読んでる)

男(ていうか気まずいな……ちょっと遅れて教室に入ればよかった)ズーン

女「おはようございます」

男「え!?」

女「……」

男「あ、おはよう」

男「……」ストン

男(初めて女さんに挨拶された……)

男(たったそれだけの事なのに嬉しいと思ってしまうのはきっと俺が単純だからだろう)

男(やべっニヤける、とりあえず寝たフリして過ごそう)
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:14:42.03 ID:e+El0FAq0
――放課後

男(今日は特に女さんに呼び出されることもなく)

男(いや、当たり前といえば当たり前なんだけどね!)

男「友!今日一緒に帰らないか?」

友「わりぃ、今日はバイト!急いでるからじゃあな!」

男「あー頑張ってね」

女「」スクッ

男(女さんは今から帰るのか)

男(付き纏ってると思われるのも嫌だし、図書室によって帰るかな……)

女「」パサッ

スタスタスタ

男「あっ、あれは……」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:16:19.69 ID:e+El0FAq0
男「女さん!ちょっと待って!」

女「?」クル

男「はい、これ落とし物!」サッ

女「え!?あ!」

男「これって例のハンカチだよね?」

女「はい……ありがとうございます」スッ

男「よかった、大事な物だもんね」

女「…………」

男「えと……じゃあ俺は図書室に用があるからこれで――」

女「あの!」

男「??」

女「か、嗅ぎましたか?」

男「ふぇ??」

女「ハンカチの匂いを嗅ぎましたか!?」

男「えと、嗅いでないけど……」

女「本当ですか!?」

男「うん」

男(なんかそこまで言われると気になるな……どんな匂いするんだろう)

女「ならいいです。ありがとうございました」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:17:54.29 ID:e+El0FAq0
男「女さん、そのハンカチの匂い嗅がせてって言ったら嫌かな?」

女「!?」

男「臭い対策のハンカチってどんな香りがするのか気になっちゃって」

女「だ、だ、ダメです!!」

男(おー、慌ててる女さん……新鮮だ!)

男(ていうかそこまで拒否られると余計気になるのが人の性ってもんだろ)

男「お願い女さん!代わりに俺の匂い嗅いでいいから!」

女「……で、でも……うぅぅ」

男(あと一押しでいけるっ!!)

男「どこでも好きなところ嗅いでいいって言ったらどう?」

女「」ピク

男「……」

女「どこでも……」

女「わ、わかりました」

男(勢いでとんでもないこと言ってないか?俺)

男(まぁいいか、そんなに変なところは嗅がれないだろ)

女「どこでもか……ふふ……」

男(嗅がれない……よな?)

女「では人の少ないところへ」

男「う、うん」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:20:17.37 ID:e+El0FAq0
――屋上前 踊り場

男「じゃあ先にハンカチを貸してもらってもいい?」

女「はい……いえ、でも……ううぅ」

男「やっぱりやめておく?」

女「うう……背に腹は変えられません」

女「ど、どうぞ!」サッ

男「う、うん」スッ

男「じゃあ、失礼します」

女「……」

男「……」スンスン

女「うぅぅ……」

男「?」

男(あれ?もっと柔軟剤とかの匂いを想像してたけど……ちょっと違うな)

男「……」クンクン スンスン

男(優しい感じというか、たしかに落ち着く匂いかも)

男「……」クンクン スンスン
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:22:01.31 ID:e+El0FAq0
女「……あ、あの……」

男「あ、ごめん!」

男「はい、ありがとうね」サッ

女「い、いえ……」スッ

男「……」

女「えと……臭かった、ですか……?」

男「いや?想像と少し違ったけど、なんか優しくて落ち着く匂いだったよ」

女「え!?」

男「人工的な匂いじゃないっていうか……言葉では言い表せないけど、俺はこの匂い好きだな」

女「はぅ……」カァァァ

男「!?」

男(赤面!?あの女さんが!?)

男(てかなんですかそれ!普段とのギャップもあって可愛すぎなんですけど!!)
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:23:25.19 ID:e+El0FAq0
男「あー、えと、じゃあ次は女さんの番だけど……嗅ぎますか?」

女「はい……勿論です」

男「俺はこのまま立ったままでいい?」

女「そうですね……座ってもらえますか?」

男「わ、わかった」ストン

女「では」スッ

男(女さんが俺の前にしゃがみ込んで……って)

男「あ、ちょっと待って!」

女「?」

男(俺の鞄に制服の上着をかけてっと)ガサガサ

男「はい、この上に膝置いていいから」

女「……」

男「……?」

女「慣れてる?」

男「こんな事初めてです!!」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:25:03.13 ID:e+El0FAq0
女「そう。それでは改めて失礼します」スッ

男(胡座をかく俺の前に、膝立ちの女さん……これってなんか、なんか!ドキドキするよぉぉぉ!)

女「ではまず頭皮から」

男「と、頭皮!!?」

女「はい。肩、お借りしてもいいですか?」

男「う、うん」

女「では」スッ

男(俺の両肩に女さんの手が……)

男(そして俺の頭皮に女さんの顔が……なんだこの状況……)

女「……」スンスン

男「うう……」

女「……」スンスン

男(恥ずかしいよぉぉ!)

女「うーん……」スンスン

男「??」

女「わかりました」バッ

男(なにがわかったの!?聞きたいけど聞きたくないっ!!)

女「頭皮は微妙ですね。シャンプーなどの匂いが邪魔で純粋な匂いが嗅げません」

男「そ、そうですか」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:27:05.88 ID:e+El0FAq0
女「では次」

男「次!?」

女「どこでも嗅いでいいと言ったのは貴方ですよね?」ジト

男「はい、その通りでございます」

女「ではそのまま横を向いてもらえますか?」

男「うん……こう?」

女「はい。では失礼します」スッ

男「!?」

男(耳っ!?いや、違う!これはっ!!)

男(耳裏!!)

女「……」スンスン

女「っ!!」バッ

男「えっ!?」

女「し、失礼しました……もう一度嗅ぎます」

男「あ、はい」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:29:19.72 ID:e+El0FAq0
女「……」スッ

女「」スンスン

女「ふぁ……」

男「!?」

クンクン スンスン

女「んっ……はぁ……」

男「っ!」

男(女さんの吐息が耳にかかって……ゾクゾクするっ!!)

スンスン クンクン

女「んんっ……しゅごい……はぁ……」

男「!!」ゾクゾク

女「あっ……」クンクン

男(ヤバい!ヤバいすぎる!!耳元でエロい吐息は危険すぎるっ!!)

スンスン クンクン

女「はぁ……んっ……」

男「お、女さんっ、くすぐったいんだけど」

女「!!」バッ

女「し、失礼しました」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:31:14.59 ID:e+El0FAq0
男「いえ……その、大丈夫だった?」

女「はい……意識がもっていかれそうなほど、濃厚な匂いでした」トロン

男「濃厚……?」

女「濃厚すぎて普段使いには向いてません」

男(普段使いってなにっ!!??)

女「では次は首筋です」スッ

男「あ、うん」

女「……」スンスン

男(ここは何度か嗅がれた事があるから、いくらか耐性がついたな)

女「あれ?」

スンスン クンクン

男「??」

女「……」バッ

男「女さん?」

女「物足りない」

男「ええ?」

女「いい匂い……なんですけど、耳の濃厚な匂いのあとだと……物足りなく感じます」

男「あーなるほど」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:33:15.56 ID:e+El0FAq0
女「では次」

男「はいはい、次はどこです?」

女「脇でお願いします」

男「脇ね、はいはい……って脇っ!?」

女「はい」

男「それはちょっと!てか、絶対臭いからやめた方がいいよ!!」

女「それは私が判断しますから脱いで下さい」

男「脱ぐ!?」

女「ハンカチ……嗅ぎましたよね?」

男「えぇぇぇ」

男(俺が言い出した事だし仕方ない、ワイシャツのボタン開けて……と)

男「はい、どうぞ!」

女「少し腕を上げててください」

男「ううう……恥ずかちぃ……あんまり見ないで……」クイッ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:35:22.81 ID:e+El0FAq0
女「では」スッ

スンスン クンクン

女「!!」

スンスン クンクン

女「んんっ!」

男「えっ!?」

スンスン クンクン

女「ふむふむ」

男(な、なにを納得してるんですかっ!!?)

スンスン クンクン

女「……んん……」

男「ぐ……ぬぬ……」

スンスン クンクン

女「はぁ……うんうん」

男「女さん!ストップ!ストーーップ!!」

女「……」スッ

男「これ以上は、勘弁して下さい……」

女「はい」

男「むぅ」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:36:57.41 ID:e+El0FAq0
女「脇は首や耳とは違い、少し酸味が加わった独特な香りがしました」

女「少し癖があり、落ち着く香りとは言い難いですが……これはこれで中々乙なものでした」

男「解説ありがとうございます」

女「ですが、残念ながら私の求める匂いとは少し違います」

男「そうですか」

女「耳と首の中間の匂い……どこかありませんか?」

男「知りませんっ!!」

女「……耳と首の中間……」

男「もうこれくらいでいいよね?そろそろ終わりに――」

女「最後に一つだけ嗅ぎたいのですが、よろしいですか?」

男「む……下半身や足は却下します!」

女「上半身です」

男「それなら……いい、かな?」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:39:28.67 ID:e+El0FAq0
女「ではそのまま、絶対に動かないで下さい」

男「??……うん、いいけど」

女「失礼します」スッ

男「!!」

男(女さんの両手が俺の両頬に添えられてる!?)

男(一体なにをするつもりなんだ!?)

女「いいですか?動かないでくださいね」ジー

男「う、うん」コクコク

女「……」スー

男(えっ!?な、なんで顔を近付けてくるの!?)

女「……」スー

男(え?え!?まてまてまて待て!!まさかアレか!?口と口が触れ合う伝説のアレか!?)

男(うわ!さらに近付いてきてる!!どうしたらいいの!?こんなの授業で習ってねぇぇよ!先生ぃぃぃぃ!!)

女「っ……」スー

男(だ、だめた!目を開けてられない!もうなるようになれだ!!)グッ
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:41:41.78 ID:e+El0FAq0
女「……」ピタ

男(あれ?止まった気配が……)

女「……」スンスン

男(スンスン!?え?どこを嗅いでるの!?)

女「ふわぁ……」

スンスン クンクン

男(吐息がっ!!ええっ!?)

スンスン クンクン

女「んんっ……んん……」

スンスン クンクン

女「はぁ……んっ……」

男(でたエロ吐息っ!!一体どこを嗅いでるんだ?目を開けていいよな?)

男(開けるぞ!目を開けるぞ!!)

パチッ

男「!!!!」

男(うっわ!!近っっ!!!)
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:43:34.54 ID:e+El0FAq0
女「んん……はぁ……ふぁ……」クンクン
男(ヤバいヤバいヤバい!!過去最大にヤバい!!)

男(女さんの顔が朝至近距離に……鼻か!?鼻の匂いを嗅いでるのか!?)

クンクン スンスン

女「ぁっ……んん……」

男(鼻の横の窪みか!?なんでそんなところを!!)

男(それにしても近い、近過ぎる!!口と口の距離が数センチしか――)

男(なるほど、だから絶対動くなって言ってたのか……納得)

スンスン クンクン

女「んっ……ん……」

男(ヤバい……これ間違って少しでも動いたら、口と口が……)

男(ん?待てよ……少しでも動いたら……女さんと……)

男(って!おいこら俺!!今なにを考えた!?ダメだ!それは人としてやってはいけない!!)

男(それにこんな事考えてる時点でそれは事故ではない!!故意だ!!いや、恋だ!!!)

男(って、何を言ってるんだ俺はぁぁぁぁ!!)
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:45:52.62 ID:e+El0FAq0
男「ぐ……」

スンスン クンクン

女「ふわぁ……んん……」

男「だ、ダメだーー!!」グイッ

女「きゃっ!!」

男「お、女さん!これはちょっと――」

女「見つけた」

男「へっ!?」

女「ひと嗅ぎした瞬間わかりました、私の理想とする匂いだと」

男「で、でも少しでも動いたら危なかったよ!?」

女「?」

男「口と口が触れ合ってもよかったの!?」

女「それは絶対嫌です」

男「あはは、ですよねー」

女「あの、もう一度よろしいですか?」

男「はあ!?ダメだって!」

女「お願いします……」ウル

男「うっ……」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:47:17.07 ID:e+El0FAq0
――電車内

ガタンゴトン ガタンゴトン

男(結局あの後も鼻を嗅がれてしまった)

男(隣にいるこの人はよく冷静でいられるな)

男(俺は意識しちゃって顔を見るのも恥ずかしいってのに……)

男(あ……そうか……)

男(俺のこと……人ではなく匂いとして認識してるからか……)ズーン

女「そういえば」

男「……?」

女「今朝は同じ電車に乗っていたのですね」

男「うん……だけど、明日から普通に戻すよ」

女「……」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:48:13.98 ID:e+El0FAq0
『まもなく〇〇〜、〇〇でございます』

女「戻してしまうのですか?」

男「え?」

女「一緒に乗ってくれるならそれだけで助かります」

男「でも俺の乗る車両は満員だし……」

女「自然と密着できて嗅ぎ放題です」

男「……!」

女「それでは、失礼します」スクッ

男「う、うん」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:50:11.76 ID:e+El0FAq0
――翌朝 電車内

男(自然と密着できて嗅ぎ放題)

女「……」クンクン

男(近くにいるだけで中和されると言ってたのに……)

男(俺の首筋に鼻をくっつけてくるのは何故ですか?)

女「……」クンクン

男「……」

ガタンゴトン ガタンゴトン

女「……うっ」フラッ

男「え?」

女「……」サー

男(女さんの顔色が!?)

男「もしかして中和できてない!?」

女「……」コクン

男「マジか……」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:51:47.24 ID:e+El0FAq0
男(今、俺の体で一番匂いが濃そうな場所はどこだ!?)

男(脇ならどうだ?……でも電車内で……いや、そんな事言ってられない!)

男(ボタンを開けて)ガサガサ

男「女さん、ここに」

女「ん」スッ

男(自分から提案しておいてアレだけど)

男(俺のワイシャツに顔を突っ込む女さん……いいのか、それ)

女「……」スンスン

男「大丈夫そう?」

女「」コクン

スンスン クンクン

男「よかった……」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:53:41.35 ID:e+El0FAq0
――朝 通学路

男「……」

女「……」

スタスタ

男「……」

女「……」

スタスタ

男(目的地が同じだから一緒に歩いてるけど、まさか俺が女子と登校する日がくるとは……)

男(しかも相手はあの女さんときたもんだ)

男(世の中わからないもんだなぁ)

女「……」

スタスタ

男(ま、会話はないけどね!)

女「……」

男「……」

女「学校に着いたら屋上前の踊り場に行きましょう」

男「へ??なんで?」

女「確認したい事があります」

男「わかった」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:55:15.78 ID:e+El0FAq0
――屋上前 踊り場

女「ジッとしててください」スッ

男「ええ!?」

男(これは!まさか鼻!?朝からなんて大胆なっ!!)

女「……」スンスン

男(めっちゃ鼻をくっつけてきてるけど、いいのか女さん)

男(貴女の綺麗なお顔に、俺の鼻油ついちゃいますぜ?)

女「……」スンスン

男「……」

女「やはり……」スッ

男「ん?」

女「放課後、またここに集合で」

男「あ、はい」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:57:59.23 ID:e+El0FAq0
――放課後

男「言われた通りに来てみたけど、どうしたの?」

女「……」スッ

男「またいきなり鼻!?」

女「黙っててください」

男「はい。すみません」

女「……」スンスン

女「!!」

男「?」

女「んっ……」クンクン

男「……」

女「ふぁ……ん……」スンスン

男「!?」

女「ふう……」スッ

男「ど、どうだった?」

女「素晴らしい匂いです」トロン

男「それならよかった……のか?」

女「朝は貴方の匂いが薄かったです」

男「やっぱりそうだったのか」

女「はい。時間が経った今、貴方の匂いは濃さを増しています」

男「時間経過で匂いが増すのか」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:59:56.00 ID:e+El0FAq0
女「今朝シャワーを浴びてきましたか?」

男「いや、いつも通り寝る前に入ったけど……」

女「……」

女「もういっそのこと入らなくてもいいのでは?」

男「ええぇぇ、本気で言ってる!?」

女「はい」

男「いやいや!逆に聞くけど女さんは毎日お風呂に入らなくても平気?」

女「絶対に無理です」

男「あはは〜、俺も俺も〜!」

女「むぅ……」

男「でもこれじゃあ、朝は別々の方がいいかもね」

女「!!」

男「毎回、脇の匂いを嗅がせるわけにはいかないし」

女「……」

男「今までだってなんとかなってきたから、大丈夫だよね?」

女「…………」

男「女さん?」

女「はい、わかりました」ジワッ

男「え??」

女「今までご迷惑をおかけしました」

男「え!?」

女「これからは今まで通り自分でなんとかします」

男「ちょ、違う、そんな意味で言ったんじゃ――」

女「失礼します」ウル

タタタタタ

男「……」

男「瞳が潤んでた……なんで?」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:02:13.76 ID:/LehkniF0
――自宅

男(理由はわからないけど)

男(やっぱりあの時の女さん、泣いてたよなぁ)

男(それに最後のあのセリフ……今後俺の匂いは利用しないってことか?)

男「はぁ」ゴロン

男(別に女さんと、どうこうなりたいなんて期待は今は持ってないけど)

男(このままで終わりっていうのはなんか嫌だ)

男(それならせめて良い思い出として、俺のことを記憶してもらいたい)

男「時間経過……汗……」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:08:21.79 ID:/LehkniF0
――朝 電車

ガタンゴトン ガタンゴトン

男(やれる事はやった)

男(匂いに関しては多分大丈夫だと思う)

男(問題は……)

『次は〇〇、〇〇でございます』

男(女さんの最寄駅)

男(多少強引になるけど、仕方ない)

男(さあこい!)

『ドアが開きます。ご注意下さい』

男「よし!!」

ダダダダ

男(女さんは……いた!やっぱり女性専用車両の前に!!)

男「女さんっ!!」

女「えっ!?」

男「こっちに!」グイッ

女「きゃっ!!」

『ドアが閉まります。ご注意下さい』

男「はぁはぁ……間に合った」

女「え!?なんで、どうして……」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:10:38.89 ID:/LehkniF0
男「急にごめん、でももう一度確認してほしかったんだ」

女「なにを?」

男「もちろん、俺の匂いを」

女「……」

男「ほら、嗅いでみて?」

女「はい……」

男「あ、鞄は持つよ。揺れるから俺の制服掴まってて」スッ

女「う、うん」

男「はい、どうぞ」

女「……」クンクン

男「……」

女「!!」

男「どうかな?匂いする?」

女「ん」コクン

スンスン クンクン

男「よかったぁ」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:12:58.90 ID:/LehkniF0
――通学路

女「どうやって朝から匂いを?」

男「実は……昨日、あれから考えてたんだ」

男「朝から匂いを出す方法を」

女「……」

男「風呂に入る時間を早くして、寝る前に筋トレしてみた」

女「えっ」

男「はは、おかげで筋肉痛だよ!でも匂いしたでしょ??」

女「はい……」

男「よかったぁー!これでダメだったらどうしようかと思ってた!」

女「……」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:14:40.87 ID:/LehkniF0
女「どうしてそこまで……」ボソ

男「え?」

女「どうしてそこまでしてくれるのですか?」

男「それは……」

女「……」

男「女さんと仲良くなれて嬉しかったんだ」

女「仲良く……」

男「あ!別に下心とかはないよ!」

女「はい」

男「期待だってしてないし、そういうのじゃなくて!えと、なんて言えばいいのかなぁ……」ポリポリ

女「……」

男「高校生活も残り半分くらいでしょ?」

女「そうですね」

男「少しでも思い出に残るような事があれば……」

女「……」

男「大人になって、あの時はこんな事があったなぁって思えたら……」

男「それってとても素晴らしい事だと思わない?」

女「…………」

男(あれ?俺なんかとんでもなくクサイこと言ってない?)
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:15:55.67 ID:/LehkniF0
女「ふふ」

男「?」

女「随分と素敵なこと考えるのね」

男「!?」

男(なんだ?急に女さんの雰囲気が変わった?)

女「残念ながら私には縁もない話ね」

男「そんな事ないでしょ」

女「そんな事あるのよ」

男「どうしてそう言い切れるの?」

女「私が思い出す過去なんて苦痛な記憶しかないわ」

男「……」

女「友達もいない、行きたいところもいけない、やりたいことも出来ない」

女「それもこれも全てこの体質のせい」

男「……」

女「クラスメイトと友達になりたくてもなれない気持ち、貴方にはわかるのかしら?」

男「そ、それは……わからないかもしれない」

女「ま、一人の方が気楽だし、私はそれで満足してるからいいけど」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:17:37.76 ID:/LehkniF0
男「それじゃあ、ずっと孤独なままじゃないか」

女「ええ。今の私はそれを望んでいるもの」

男「今の?じゃあ昔は違ったの??」

女「昔は……そんな私と友達になってくれようとした子もいたわ」

男「!」

女「嬉しかった……でも駄目だった」

男「え……」

女「この体質のせいで他でもない私自身がその子を拒絶しちゃうのよ」

男「…………」

女「私には縁のない話だという事、お分かり頂けたかしら?」

男「うん、そうだね」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:18:55.71 ID:/LehkniF0
女「じゃあもうこの話は――」

男「でもこれからはきっと、変わっていくんじゃないかな」

女「はあ!?私の話聞いてた?」

男「うん」

女「私は一人でもいいって言ってるの!!」

男「本当にそう思ってるの?」

女「なに!?これ以上私に我慢しろっていうの!?」

男「違う!そうじゃない!」

女「なら余計なこと言わないで!」

男「女さん、話を聞いてくれ!」

女「貴方になにがわかるのよ!私の事なにも知らないくせに!!」

男「ああ、たしかに知らない事だらけだよ!」

女「だったら黙って匂いだけ提供してればいいのよ!!」

男(なんだそれ……)カチン
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:20:27.70 ID:/LehkniF0
男「結局、女さん自身が変わることを恐れているだけじゃないか!!」

女「違う!私は一人を望んで――」

男「じゃあ女さんが今一緒にいるのは相手は誰だよ!!」

女「!!」

男「今の女さんは一人なんかじゃない!俺がいるだろ!!」

女「……」

男「俺は快然たる香りの持ち主なんでしょ?」

女「それは……」

男「俺がいれば出来ることも増えるはず」

女「……」

男「見返りなんて求めてない。ただ将来振り返った時にこんな奴がいたなぁって思い出してくれればそれで満足だから」

女「……」

男「もっと俺を頼ってよ」

女「……」

男「……あ……」

女「……」

男「その、なんかごめ――」

女「お先に失礼します」

タタタタタ
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:21:43.73 ID:/LehkniF0
男「…………」

男(うわぁぁぁぁ!!俺はなんてことを!!)

男(偉そうに説教っぽいことしちゃってさぁ!!)

男(クサイセリフのオンパレードだし!女さんはなんか怖かったし!!)

男(うわぁぁぁぁ!!穴があったらはいりてぇぇぇぇ!!!)

バタバタバタ

友「何してんだお前」

ピタッ

男「別に」

友「なんで一人で悶えてたんだ?」

男「いや、気のせいだろ」

友「そうか」

男「ああ」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:22:39.80 ID:/LehkniF0
――昼休み

友「おい男!!お前どういうことだ!?」

男「いきなりなに??」

友「お前今日の朝、女さんと言い争ってたらしいじゃねーか!!噂になってんぞ!」

男(通学路だし、そりゃ誰かに見られるよなぁ……)

男「色々あるんだよ」

友「その色々を俺はまだ聞いていないっ!!」

女「男くん……ちょっといいですか?」

男「!?」

友「ええっ!?女さんっ!?」

女「ついてきてください」

男「う、うん」

友「へ??なんで??」

男「すまん友、そんなわけだから」

友「どんなわけだ!?」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:26:34.84 ID:/LehkniF0
男(朝の一件があったから気まずい……非常に気まずい)

女「……」

男「あの、女さん……一体どちらへ」

女「生活指導室です」

男「生活指導室??」

女「はい」

男「どうしてそこに?」

女「私の体質を知ってる先生がお昼休みの間だけ貸してくれているんです」

男「あ……なるほど」

ガチガチ ガチャン

女「どうぞ」

男「……失礼します」

バタン

??「あれは……」
??「噂の……」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:28:12.28 ID:/LehkniF0
――生活指導室

女「男くん」

男「は、はい」

女「あの……その……朝は本当にごめんなさい!」ペコ

男「いや……」

男「俺の方こそ熱くなっちゃってごめん」ペコ

女「私こんな事初めてで……なんというか……その……本当に失礼なことを……」

男「でも女さんの言う通りだった」

女「え……」

男「俺、女さんがそこまで悩んでたなんて知らなかった」

男「ちょっと考えればわかる事なのに、自分の事ばっかで……だから謝るのは俺の方なんだ」

女「男くん……」

男(昨日の涙も……朝の通学電車がそれだけ負担だったって事だもんな)
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:29:36.06 ID:/LehkniF0
男「あ!てか名前呼ばれたの初めてな気がする!」

女「!!」

女「…………」コクン

男「やっぱり!すげー嬉しいよ!」

女「え……そうなの?」

男「うんうん」

女「そっかぁ……」

男「あと朝も途中から敬語じゃなくなった!」

女「え……あ……ごめんなさい!」

男「え?なんで謝るの?」

女「だって、その……わからなくて」

男「え?」

女「私、こんなんだから……人との接し方がよくわからなくて、その……」

男「あ、女さん」

女「は、はい?」

男「昼休みなくなると困るから、とりあえず飯食わない?」

女「え……はい……」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:30:45.55 ID:/LehkniF0
――――
――

女「敬語じゃなくていいのね?」

男「うん、全然。むしろそっちの方が接しやすいよ」

女「ならそうさせてもらうわ」

男「うん」

女「私、口調がキツいでしょ?」

男「えと……それは」

女「気を使わなくても結構よ。自覚してるから」

女「それに無愛想だし」

男「それは……うん、たしかに」

女「物心ついた時からこんな体質だったから、無意識に人を遠ざけちゃう癖がついちゃってるの」

男「あー、なるほど。すごく納得」

女「無愛想で口が悪いと余計感じ悪いじゃない?だからなるべく敬語で接するようにしてるってわけ」

男「おー、そういう事だったんだ」

女「ええ」

男「ってことは俺は認めてくれたってこと?」

女「いえ……貴方には朝の件で吹っ切れたって感じ」

男(つまり認められてはないってことか……)
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:32:33.66 ID:/LehkniF0
女「私、親以外であんな感情的になったの初めてで……正直自分でも驚いたわ」

男「そっか……人を遠ざけてたって事は、喧嘩する相手もいなかったって事だもんね」

女「ええ」

男「女さんの過去のこと、少し考えればわかったはずなのに深く考えてなかった」

女「それは別に……変に気を使われても嫌だし」

男「そうだね。じゃあ女さんも俺のことは気を使わずに接してよ」

女「……」

男「?」

女「あれ?私、貴方にはそんなに気を使ってないかも」

男「うん。そうじゃなきゃ、匂いだけ提供しろ!だなんてセリフでてこないもんねー」

女「……貴方って結構根に持つのね」

男「いや、ショックだったんだよ純粋に」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:33:48.64 ID:/LehkniF0
女「ふふ。でも裏を返せば、言い争いをしてる最中でも貴方の匂いを手放す気にはなれなかったって事よ」

男「うん?」

女「それって凄いと思わない?あんな言葉が出るなんて自分でも思わなかったわ」

男「え、それって……」

女「きっと私にとって、私が思ってる以上に価値があるのよ。貴方の匂いは」

男「俺の匂い……」

女「例えば酸素濃度の低い世界で、目の前に上質な酸素マスクがあったら利用しない手はないでしょ?」

男「え?」

女「つまり、そういうことよ」

男「なるほど、つまり俺は人として認識されてないってことね!」

女「正解です」

男「あはは、やったー」ズーン

女「ふふふ」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:36:04.04 ID:/LehkniF0
男「そろそろ昼休み終わるけど……酸素マスクはご利用なさいますか?」

女「ふふ、そうね……お願いしようかしら」

男「ではご自由にお使いください。私はここで座ったまま動きません。石になります」

女「ぷっ、なにそのキャラ」

男「どうぞ」

女「じゃあお言葉に甘えて」スッ

男「……」

女「……」スンスン

男(スンスンキターー!首ね、もうこれくらいは余裕余裕)

女「……んっ……」

スンスン クンクン

男(女さんの認識で俺は“人”ではなく“匂い”だし、ドギマギするのも馬鹿らしく思えてきた)

女「……はぁ……んっ……」

スンスン クンクン

男(だから余裕……全然余裕……超余裕)

女「んん……ふぁ……はぁ……」

スンスン クンクン

男(余裕……なんてねぇぇぇ!!わざとやってんのか!?)

男(なんだよ、これ!このエロ吐息っ!!)
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:37:56.73 ID:/LehkniF0
女「っ!?」グラ

男「あぶなっ!」ギュッ

男(しまった!体勢崩した女さんを思わず抱き止めてしまった!)

男(怒られるぅぅ!ひぇぇ!)

女「……」スンスン

男(えぇ!?そのまま続行ですか!?)

女「ふぁ……んっ……」

スンスン クンクン
男(女さんが体重を俺に預けてるから……密着度が増して……)

男(や、や、柔らかいところががが!!)

女「……はぁ……ふ……」

スンスン クンクン

男(いや、落ち着け……これは布だ、布と布同士が触れ合っているだけでこの柔らかさは幻想だ)

女「……んんっ……」

スンスン クンクン

男(てか……こうして触れ合ってると見た目以上に華奢で……簡単に壊れちゃいそうだ……)

男(こんな小さな身体で色々抱え込んでるんだな……)

男(匂いだけでもいいや、この人の役に立てるなら……それでいいや)
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:39:57.12 ID:/LehkniF0
女「…………」クンクンクン

ススス

男「!?」

男(ち、ちょちょ、ちょっと、な、なんで匂い嗅ぎながら顔面の方向へ移動してるんですか!?)

女「……」トロン

スンスン
ススス

男(目が虚に!?いや、トロンとしてて……)

女「」ピタ

スッ

男「!?」

男(えぇぇぇぇ!!俺の首に腕を回してきた……だと!?)

男(しかも……こ、このポジションはっ!!鼻横っ!!)

女「んっ……」スンスン

男「!!」

女「ふわぁ……はぁ……んっ……」

スンスン クンクン
男(うわぁぁぁ女さん、目を閉じて堪能してるぅぅぅぅ!!)

男(俺の匂いを堪能してるぅぅぅ!!なんて無防備なんだっっ!!けしからんっ!!)

男(余裕?そんなものは最初っからないっ!!バカヤロウ!!)
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:42:47.15 ID:/LehkniF0
女「んんっ……んっ……ぁぁ……」

スンスン クンクン
スンスン クンクン

女「はぁ……ふわぁ……」

男「」ゾクゾク

男(ヤバっ!!なんだこれ?なんだこれ!?)

男(俺は女さんの身体を抱きしめて支えてて、女さんは俺の首に腕を回してて!うわぁぁ!うわぁぁぁぁぁ!!)

女「……はぁ……んっ……はぁ……」

スンスン クンクン

男(………………ん)

男(んんん?)

男(脳内オーバーフローしすぎて逆に冷静になってきた)

女「んっ……ん……」スンスン

男(つーか、女さん睫毛長いなぁ……)

男(綺麗だな……すごく、綺麗だ)

男「……」ジー

女「……」ピタッ

男「??」

男(あれ?スンスンが止まった……なんで?)

女「……!」パチッ

男「あ……」

男(うへっ!目があった!)
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:44:40.36 ID:/LehkniF0
女「!!!」ガバッ

男「ん?」

女「な、な、な……!!!」カァァァ

男「どうしたの?」

女「な、なにしてんのよっ!!」

男「え?……えぇぇぇぇ!!?」

女「どうしたの?じゃないでしょ!!なんで目を開けてたの!?なんでくっついてるの!?」

男「目を開けてたのはごめん、謝る!」

男「抱きしめてたのは女さんが途中で体勢を崩して受け止めたからで、決してやましい気持ちはございませんっ!!」

女「な、なんで、私はあんな事を……!!」カァァァ

女「貴方、一体なにしたの!?」

男「え?……強いて言うなら石になってた?」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:47:11.92 ID:/LehkniF0
女「そんな、なんで……どうして……。やっぱり貴方が何かしたとしか思えないっ!!」

男「いやいや!むしろ俺が聞きたい!女さんの方からどんどんエスカレートしてったんじゃないか!」

女「そんなこと!!そんな、こと……はぅぅ」

男「そんなことないの?」

女「あぅ……うぅぅ……」シュン

女「ご、ごめんなさい……」シュン

男「あ、いや、なんか俺の方こそ、ごめん」

女「でもあれは!あれはね?私の意思とは別に、身体が勝手に求めちゃって……」

男(いや、その言い訳は余計にエロいっす……とは口が裂けても言えない……)

女「ともかく!事故よ、事故!ノーカウント!」

男「う、うん、よくわからないけど、そうしよう!」

女「それにしても危険だわ……なにか危ない成分でも分泌されてるんじゃない?」ジト

男「人を麻薬みたいに言うのやめて下さい!」

女「……麻薬ね、凄くしっくりくる表現だわ」

男「む……。俺の体臭が麻薬なら、女さんは中毒者ってことになるけどいいの?」

女「む……ぐぬぬ……」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:49:16.52 ID:/LehkniF0
男「しっかし驚いたなぁ。まさか俺の匂いで女さんがあんな事になるなんて……」

女「っっ!」カァァァ

男「……」ジー

女「な、なに?」

男「……」ジー

女「な、なによ!?」

男「ぷっ」

女「へ?」

男「あっはははは!」

女「え!?な、なに?なんなの!?」

男「あはは!ごめんごめん!ぷっくく」

女「人の顔見て笑うなんて……失礼な人!サイテーね!!」プイッ

男「ぷはっ……はぁ、違うんだ女さん」

女「なに?」ツーン

男「表情をコロコロ変える女さんが面白くて、つい……くくくっ」

女「えっ?」

男「照れたり、怒ったり、落ち込んだり……。普段の女さんなら絶対ありえないからさ」

女「そ、それは!だって……貴方がっ!……むぅ……」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:50:32.82 ID:/LehkniF0
男「でもこうやって普通に話せて楽しくない?俺は今すごい楽しいよ!」

女「それは男くんが私をからかってるからでしょ?」

男「もちろんそれもあるんだけど、やっと対等に話せた気がして嬉しいんだ」

女「…………」

男「あれ?怒ってる?」

女「怒ってません!」

男「ならいいけど……あ、ヤベ!もう時間もないから教室戻ろう!」

女「え、ええ……」


??「」ササッ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:52:08.06 ID:/LehkniF0
――教室

友「男!!説明しろ!今すぐにだ!!」

男「あ、そういえば友の存在すっかり忘れてた」

友「忘れてたじゃねぇぇ!!説明しろ!」

男「嫌だよ面倒臭い」

友「あくまでもシラを切り通すつもりか……ならば俺にも考えがある!」

男「面白い、聞かせてみろ……その考えとやらを……」

友「はぁっ!この裏切り者め!!お前なんかこうしてやる!こうしてやるっ!」ペチペチ

男「ふはは!そんな攻撃は効かん!」

友「な、なぜだ!?」

男「我、石なり」

友「なん、だと……!?」

女「はぁ……バカバカしい……」

友「ふぇ!?」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:53:33.67 ID:/LehkniF0
女「私と男くんの間に何かあると?残念ながら貴方が想像しているような事はありえないわ」

友「え、あ、はい」

男(なるほど、間違っちゃいない……想像よりも遥か斜め上だもん)

女「それにもう授業始まります。席についた方がよろしいかと」

友「す、すんませんでした!」

男「……」

女「はぁ」

男「あざっす」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:54:53.80 ID:/LehkniF0
――放課後

友「男!帰るぞ!事情聴取だ、逃がさないぞ!」

男「黙秘権って知ってるか?」

友「だったら力づくでも……」

ガラガラ

友「ん?あの子は……」

男「誰だ?」

友「知らないのか?後輩ちゃんだよ。誰か探してるのかな?」

男「後輩ちゃん?」

友「はぁ……お前そんな事も知らないのかよ。一年生ながらこの学校の美少女四天王の一人に数えられてる超有名人だろうが」

男「四天王?なんだよそれ……初耳なんだけど」

友「前に教えたこの学校の裏SNS、そのコンテンツの一つに美少女ランキングってのがあるだろ?」

男「あー、そのサイトまだ見てないんだよね」

友「はぁ?まぁいいけど。ランキング上位四名は美少女四天王として君臨する、いわば学校のアイドル的存在だ」

男「はあ……」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:56:52.34 ID:/LehkniF0
友「ちなみに一位は女さんね。その媚びない性格と高貴な佇まいから入学以来、不動の一位だ」

男「え、マジか……」

男(たしかに納得の結果だな……)

友「ちなみに後輩ちゃんは、その愛らしいルックスとそれに見合わぬスタイルでランキング三位。所謂、ロリ巨乳ってやつだ」

男「へぇ……」

友「ちなみに二位と四位は――」

男「ストップ、ストーップ!」

友「なんだよ」

男「とりあえず帰ろうぜ?帰りながら続きは聞くからさ」

友「そうだな!お前からも色々聞かなきゃならないし」

友「てか後輩ちゃん、ずっと入り口に立って何してんだろう?なんかこっち見てないか?」

男「さぁ……誰かに用事でもあるんじゃない?」

友「まさか俺に用事だったりして!」

男「んなバカな」
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