高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今日も、私とあなたとの時間を」

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87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 18:57:55.50 ID:WDIZ97tn0
席に戻ると、加蓮ちゃんがからかうようにして言います。
「今日もサービス精神豊富だねぇ?」
だって、私のことを応援してくださる方には、できるだけ応えたいですもん。

「加蓮ちゃんだってそうでしょ? この前の小さなLIVEで歌い終わった後、しばらくステージの上でみなさんを見渡していて、進行の方にマイクを渡されてた時……あの時、ファンのみなさん1人1人の顔を、じっくり見ていたでしょ? 目を見れば、わかりましたよ」

ほっぺたをつねられました。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 18:58:55.98 ID:WDIZ97tn0
>>87 申し訳ございません。2行目を訂正させてください。

誤:「今日もサービス精神豊富だねぇ?」
正:「今日もサービス精神が旺盛だね」


加蓮「藍子?」

藍子「はい。何ですか?」

加蓮「……次のラジオのフリートーク、覚えておきなさいよ?」

藍子「へっ? ……待って、加蓮ちゃんっ。何のお話をするつもりですか? 加蓮ちゃん!?」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 18:59:25.39 ID:WDIZ97tn0
時計の音が、3時だって教えてくれました。ぼーん、ぼーん、ぼーん……聞いていると、少しだけ眠たくなってきちゃう。
ふわ、と小さくあくびをすると、加蓮ちゃんが座っている隣をぽんぽんってしてくれて。
「ちょっとだけ寝とく?」
それはとっても魅力的な提案ですけれど、今は、もう少しお話していたい気分かも?
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 18:59:56.45 ID:WDIZ97tn0
「あのぉ〜」
「書いているところにすみません。私たち、そろそろ帰ります」

加蓮「そっか。2人も、またね」

藍子「今日はあまりお話できなくてごめんなさい。また、ここでお話しましょうね」

「アヒッ」
「…………」

加蓮「……頑張って?」

藍子「あ、あははは……」

「えぇ……まぁ。おかげ様で体力までついてきた始末ですから……。よしっ。じゃ、失礼します!」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:00:25.62 ID:WDIZ97tn0
<くそぅ……! 分かってはいたけどやっぱりキツイ……! しかも最近また太ったでしょコイツ! ぐんぬぬぬ……!


加蓮「目が覚めるまで待てばいいのに……」

藍子「何か用事があったのでしょうか。今は……わ、もう5時半っ」

加蓮「道理でちょっと寒くなってきちゃったんだ……。コラム、あとどれくらい書く予定?」

藍子「だ、大丈夫です。今日中には、今日中には絶対に……!」

加蓮「……なんか前奈緒が手伝ってた比奈さんがこんな感じだったって言ってたような……。別にそれは大丈夫なんだけど、そろそろ中に入らない?」

藍子「あっ……そういうことだったんですね。そうしましょうかっ」

加蓮「んじゃ先に行って店員さんに伝えてくる」

藍子「ありがとうっ」

加蓮「もう少しの辛抱だよー、って。あっ。どうせなら今日の藍子のことを少し話しちゃおっかな? 店員さんうらやましがるかなー」

藍子「……あの、優しくしてくれるのはすごく嬉しいんですけれど、普通に中に入りますよとだけ伝えてあげてください」

加蓮「ふふっ。しょうがないなぁ。そうするね」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:00:56.97 ID:WDIZ97tn0
――おしゃれなカフェ――

加蓮「はい。コーヒー。それから店員さんからのメッセージ。頑張ってください、だってさ」

藍子「ありがとう、加蓮ちゃん。店員さんも……。これが終わったら、いっぱいお礼を言いたいな……」

加蓮「ふふっ。藍子がお礼を言われる側なのに」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:01:55.73 ID:WDIZ97tn0
こころなしか、カフェ全体が静かな雰囲気になりました。
キッチンの方からも、皿や水の音、調理の音が聞こえなくなってきて……。
店員さんが、カウンターの向こうでゆっくりしています。

なんとなく、何もしない時間をみんなで共有しているみたい。

けれど、加蓮ちゃんを見るとまた違った感じがして……ここに、私と加蓮ちゃんしかいないような気分になります。
最初は、落ち着きませんでした。でも、今はそういうものだって……そういう世界なんだって思ったら、ちょっとずつ、心地よさの方が上回って……。
加蓮ちゃんのことを、じ〜っ、と見ると、加蓮ちゃんは小首を傾げて、それから私のことも、じ〜っ、と見てくれます。

今、加蓮ちゃんは、何を考えているのかな……?
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:02:26.22 ID:WDIZ97tn0
藍子「……」

加蓮「藍子?」

藍子「……こうして、1日のことを思い出しながら書いていくと……私の周りには、色んな人がいるんだなぁって、改めて思ったんです」

藍子「ここだって、加蓮ちゃんがいて、店員さんがいて。普段はあまり姿を見せませんけれど、店長さんがいて」

藍子「ときどき、あのお2人がいらっしゃって。他のお客さんもいて。たまに、見たことのある方もいらっしゃったりします」

藍子「私の周りには……私の過ごしている時間には、色んな人がいるんだ、って。……ふふ、今さらかもしれませんね」

加蓮「あははっ。今更」

藍子「や、やっぱり?」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:02:55.86 ID:WDIZ97tn0
加蓮ちゃんが、メニューに手を伸ばそうとして、途中で引っ込めてしまいます。
「何か、飲みますか?」
「ううん、いい。そういう気分じゃない」
それからはずっと、机の真ん中の辺りを、ずっと見つめてばかり。

ちょっとだけ、悩みました。顔を上げて? って言うか、それともこのまま待つか。
悩んでから、私は待つことにします。その代わりに、できるだけ笑っていられるようにして……加蓮ちゃんがいつ、私の顔を見てくれてもいいように。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:03:25.60 ID:WDIZ97tn0
加蓮「でも、いいんじゃない? 今更の話を何度したって。そこにある大事な物を、意地を張って見落としたり、捨てちゃったりするよりは、ずっと」

藍子「……加蓮ちゃん」

加蓮「私が聞いてあげる。……ほら、答え合わせ。何回やったっていいんだよ」

加蓮「自分の周りには誰がいるんだろう、って。何度確かめても、聞いてもいいんだよ」

加蓮「ま、加蓮ちゃんのことだけは、せめて覚えててほしいけどね?」

藍子「忘れませんよ。加蓮ちゃんのこと……言葉だって、顔だって。忘れる訳、ないじゃないですか」

加蓮「そっか……」

藍子「……」

加蓮「……ほら、続き。その続きって――私が、あの話をした時のことでしょ?」

藍子「……はい。そうですね」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:03:55.71 ID:WDIZ97tn0
加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……加蓮ちゃん」

加蓮「ん」

藍子「少しの間だけ、何も言わないで。でも――ずっと、そこにいてください。そうしたらきっと、私は……私を見失わないで、向かい合うことができるから……」

加蓮「……いいよ。でも、さっきの言葉は忘れないで――あははっ。忘れる訳ないって言ったばっかりか」

藍子「そうですよ〜。加蓮ちゃんの方こそ、忘れないでくださいっ」

加蓮「ごめんごめん。じゃ……頑張れ、藍子」

藍子「……はいっ」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:04:25.67 ID:WDIZ97tn0
「何が不安なんだろうね、私」

加蓮ちゃんが、ぽつりと呟きました。

「アイドルとしてこんなに輝けて……夢だって叶って。ううん、やりたいことがどんどんできてさ。みんなも私のこと、見てくれて……それなのに、なんで不安なんだろうね」
「それは……何かあったから、ですか?」
「本当に何もないの。全部が順調。うまくいっていないこともない。……だからなのかな」

やっと顔を上げてくれた加蓮ちゃん。けれど――
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:04:55.57 ID:WDIZ97tn0
藍子「……」

藍子「…………」

藍子「…………………………」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:05:26.45 ID:WDIZ97tn0
けれどその顔は、私が見たい顔ではありませんでした。

「ときどき、現実がぜんぶ嘘になってしまうような……そんな予感がして、ずっと拭えないの。ある時一瞬にして全部が終わっちゃうんじゃないかって」

ちいさな女の子が、お母さんとはぐれてしまって、探しているような顔。

「その時はきっと、藍子も隣にはいてくれないの。プロデューサーさんも、凛も奈緒も、他のみんなだって。……そんな未来なんて訪れる訳がないって、思えば思う程に、世界が真っ白になる想像がもっとリアルになるの」

なんの音もしなくなってしまったカフェを見渡して、掠れた声で。
「なんなんだろう」
と最後に言って、また俯いてしまいました。

得体の知れない不安を、どうすればいいのか分からないで、私にまで伝わってしまいます。
思わず、胸の前でぎゅっと手を握りました。そのまま、どこかへ消えてしまいそうな気持ちになって……。
でも、何も言わないでいると、加蓮ちゃんがいなくなってしまうような、そんな気すらしたんです。

答えは分からなくても、何かを言うことはできます。

だって加蓮ちゃん、何かを言ってほしそうにしているから。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:05:55.80 ID:WDIZ97tn0
「加蓮ちゃん」

時計の音さえも静まり返る中、私が名前を呼ぶと、加蓮ちゃんはぴくりと肩を震わせました。

「大丈夫ですっ。……そうやって不安に思うことは、私にもありますから」

思っていたのとは、違う言葉だったからでしょうか。ゆっくりと、顔を上げます。
それが……なんだか睨まれているように思えて、正直に言って、ちょっぴり怖かった。
でも、怖がっていたら、今加蓮ちゃんのことを分かってあげられる人はきっといなくなっちゃう。
……大丈夫。
覚悟は決めました。傷ついてでも、ちゃんと話そうっていう、覚悟を。

「うまくいっているからこそ、ですよね。失敗している時は……落ち込んだりするけれど、目標があるから、不思議と足を止めずに済むんです。でも、うまくいっている時は、そういうのもないから――」
「違うっ! ……だって……藍子は独りぼっちになったことがないから! こういう感覚なんて知らないでしょ!」
「……」
「分からない癖に分かるのをやめなさいよ! 知らない癖に、私のことに気付くの、やめてよ……!」

……私、ときどき、加蓮ちゃんのことが分かってしまって……普段は冗談で、その見抜くのをやめて、って言われたりするんですけれど。
分からない癖に分かるのを、知らない癖に気付くのを……。

そうですよね。
私と加蓮ちゃんとでは、そこがあまりにも違うんです。
だって私の側には、いつも誰かがいてくれるから。
加蓮ちゃんは……きっと、そうじゃない時間の方が長かったから。
それは今埋めているものだとしても、まだ埋めきったものではありません。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:06:26.09 ID:WDIZ97tn0
「あ……」

加蓮ちゃんが、歯をぎゅっと食いしばります。謝ろうとするその口の動きを、手で制しました。

「……加蓮ちゃん。私は、加蓮ちゃんのことを知らなくて、分からなくて、加蓮ちゃんも、私のことを知らなくて、分からなくて……最初は、そうでしたよね」
「でもっ」
「うん。たくさんの時間を一緒に過ごして、分かることや知っていることが増えてきました。でも……それはきっと、全部じゃありません」
「っ……」
「そしてきっと、これからも、全部にはなりません。……もしも全部になった時は、その時はきっと、一緒にいたくなくなっちゃいますから」

私と加蓮ちゃんはよく同じことを考えたりします。メニューを選ぶ時に、同じものを指さすことだってよくあります。
同じところがあって、違うところもある。
だからこうして、喧嘩をして、ぶつかって……傷ついて。

傷つきたいとは思いません。けれど、傷つくことを拒んではいけないんだって思います。
だって、そうしたら。

「でも、違うからって、知らないからって気付くなって言うのなら、誰が加蓮ちゃんの本音に気付いてあげられるんですかっ!!」

私でなくてもいい。……ううん、それは嘘。私でいたい。
心が寂しがっているのなら私が包み込んであげたい。優しくしてあげたい。
お返しなんていらない。……ううん、それも嘘。同じだけ優しくしてほしい。
誰かに助けてもらったことを、覚えていてほしい。加蓮ちゃんがいつか、優しくしてあげられることになるから。

「……」
「……」
「……」
「……藍子」
「はい。何ですか?」
「1回だけ言わせて」
「どうぞ」
「ごめん」
「いいえ。私の方こそ、ごめんなさい」
「……ねえ、教えて。この不安は、どうすればなくなるの?」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:06:57.18 ID:WDIZ97tn0
「そうですよね。そのお話でしたっ」
「……もう。忘れちゃってたの?」
「ふふ。つい」

いつの間にか、カフェに音が戻ってきていました。他のお客さんの話し声や、お皿の音。遠くから、じゅう、って音がして……いい匂いは、うぅ。お腹が鳴っちゃいそう。
あ……さっき、私が大声を出した時にみなさんがびっくりしてしまったようで、それについては謝り回りました。
いつもごめんなさい……。

「加蓮ちゃん」
「うん」
「いつも努力を続けている加蓮ちゃんに、これ以上頑張れ、なんて言ったら、プロデューサーさんやファンのみなさんに怒られてしまうかもしれませんけれど」
「みんなサボってても過保護でうるさいから大丈夫だよ」
「えぇ……。……どこに行けばいいか分からなくなった時。なんとなくで、不安になった時は、道を見つけましょ?」
「道――」
「新しいことをやってみたり、これまでのことを振り返ってみてもいいかもしれませんね。その中に、今度はこれをやってみたい、って思うことがあるかもしれませんよ」
「見落としてるもの、ってことかな……」
「はいっ」

加蓮ちゃんは、額に手を置いて何やらぶつぶつ言い始めました。これまで立ったステージや頑張ったレッスンのことを思い出しているのかな?

「それから、加蓮ちゃん?」
「うん。……え、なんか怒ってる?」
「はい。勢いで言ってしまうのはわかりますけれど、いきなり「違う」って叫んだら、びっくりしちゃいますっ」
「……ぁー」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:07:26.17 ID:WDIZ97tn0
「加蓮ちゃんは……加蓮ちゃんのことを知らない人が、分かったようなことを言ったら、腹が立ってしまうかもしれませんね」
「いや、待って。あれホントに勢いっていうか藍子は知らない人じゃな、」
「加蓮ちゃん」
「ハイ」
「その時は、叫ぶ前に1度だけ落ち着きましょう。もし、それでも違うって思ったら、怒鳴るのではなくて、落ち着いて言いましょ? ほら、加蓮ちゃん。クールで、ミステリアスさんになるんですよね」
「あ……ははっ。そうだった。うん、そうそう。ミステリアスガール、まだ諦めてないんだっ」

こんな感じ? って言いながら、加蓮ちゃんは不敵に笑います。でもそれはちょっと違う気がして、じゃあ真似してみてよって言われました。
真似……クールな人の真似。ええと、凛ちゃんや蘭子ちゃんを真似すればいいのかな?
思い浮かべて試しにやってみたら、加蓮ちゃんから大笑いされちゃいました。そして、それはただの中二病だって言われちゃいました。
(さすがに何をやったのかは許してください! 凛ちゃんや蘭子ちゃんがやったら格好いいのにっ)

私と加蓮ちゃん、一緒に深呼吸して落ち着いた頃には、もう夜の8時。
外はいつの間にか真っ暗で、カフェには他のお客さんがいなくなっていました。
店員さんも、閉店時間は9時ですけれど、そろそろお店じまいムードです。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:07:55.81 ID:WDIZ97tn0
藍子「…………っ。う、ぁ〜っ!」

加蓮「お疲れ様。……本当にありがとう、藍子」

藍子「なんだか疲れちゃいました……」

加蓮「あとは最後のところだけでしょ? ほら、パッと書いちゃお?」

藍子「うん……。でも、ちょっとだけ。……10分だけっ」

加蓮「はいはい。……にしても、……冷静になって考えると酷いなぁ、私」

藍子「こらっ」ペチ

加蓮「あたっ」

藍子「それは言わないお約束です♪ 不安になってしまうことなんて、自然なことです。それで怒ってしまうのも……」

加蓮「でもさ、……いや。ううん」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:08:25.81 ID:WDIZ97tn0
加蓮「あのさ。もっかいだけ言っていい?」

加蓮「……ありがとう、藍子。いつも話を聞いてくれて、想いを受け止めてくれて」

藍子「どういたしまして。そして、私もっ。加蓮ちゃん、ありがとう。いつも一緒にいてくれて。お話を聞いてくれて♪」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……たははっ」

藍子「ふふっ」

加蓮「だからさ、そーいうのこっ恥ずかしいからやめよ?」

藍子「本当。加蓮ちゃん、顔が真っ赤ですよ」

加蓮「はー? ほら、さっさと続きを書けっ。持ち帰って夜遅くまでとか絶対ヤダだからね!」

藍子「きゃ〜っ。完成まで付き合ってくれるって言ってくれたのに〜っ」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:08:55.80 ID:WDIZ97tn0
晩ご飯をここで食べようかな、とも思いましたけれど、今日はやめにします。
スマートフォンで、お母さんに連絡を……開いたら、たくさんのメールが来ています!
お母さん、ものすっごく怒ってるっ。
思わず助けを求めようとすると、加蓮ちゃんもげんなりとした顔をしていました。どうやら、お互い同じことが起きちゃってるみたい。

「今日は藍子の家に泊めてっ」
「加蓮ちゃん。今日お邪魔してもいいですか?」

私たちは同時に言いました。このままではキリがないので、お互いにお母さんからのメールを見せあって……。
まだ、あまり怒っていなさそうな加蓮ちゃんの家に私がお邪魔することにしました。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:09:25.30 ID:WDIZ97tn0
加蓮「……ちなみに今も同じことが起きてたりするんだよね」

藍子「えっ? わ、7時! 外は、まだ明るいのに……」

加蓮「この時よりは夏に近付いたからかな。まっ、今日は遅くなるってあらかじめ言ってるからお母さんもうるさくは……」

加蓮「……」

藍子「メールが届いていたんですね……」

加蓮「何なの……。藍子ちゃんに迷惑かけてない? って。1時間おきに送ってくるとか何がしたいの……??」

藍子「あははは……。あっ、私の方にも届いてます。そろそろ迎えに行った方がいい? だそうですよ」

加蓮「藍子のお母さんが優しくてうらやましいよ……」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:09:55.17 ID:WDIZ97tn0
連絡をすると、もうなんだか今日が終わってしまったように、そして、さっきまでお話していたのが別の日の出来事のように、私も加蓮ちゃんも、ほとんど話さなくなりました。
加蓮ちゃんのお母さんが迎えに来た時も、静かすぎて、「加蓮が何かしちゃったの?」と言われてしまうくらい。
でも、加蓮ちゃんの顔を見て、それは違うんだって分かってくれたみたい。

加蓮ちゃんの家にお邪魔して、晩ご飯をいただいて、お風呂をお借りして……その間も、何もお話することはありませんでした。
それは、カフェの中であった無音の世界とはぜんぜん違う、一緒にいるんだってことが分かる時間で、心地よかったですっ。
11時を回った頃、一緒にお布団に入って。
今日は、これにておしまい……。またカフェに行った時は、いっぱいお話しましょうね。加蓮ちゃん。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:10:25.70 ID:WDIZ97tn0
藍子「お母さん、そろそろ迎えに来て。加蓮ちゃんが泊まりたいって言っているけれど、いい? ……はい、送信っ♪」

藍子「あとは、最後のあいさつを書いたら完成です!」

加蓮「ふふっ。……たった1日しか使ってないのに、なんだかすごく時間をかけた気分」

藍子「加蓮ちゃんも? 私もっ。……どうでしょうか。私の見ている世界、みなさんに伝わるかな?」

加蓮「えー、そこで不安になる?」

藍子「つい……」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:10:55.67 ID:WDIZ97tn0
加蓮「伝わるよ。絶対に。だって藍子のファンだもん。きっとみんな優しくて、藍子の言葉を受け止めようって思ってくれるよ」

藍子「……加蓮ちゃん」

加蓮「んー?」

藍子「今日は、ありがとうっ。あとは……胸を張って、みなさんのもとにお届けします!」

加蓮「どう致しまして。……あははっ。もうっ。お礼を言うの、今日で何回目?」

藍子「何度だって確かめていいって言ったの、加蓮ちゃんじゃないですかっ」

加蓮「まぁね? ほら、藍子。締めの挨拶を書かなきゃ。藍子のお母さんを待たせることになっちゃうでしょ?」

藍子「ああっ、そうでした。え〜っと――」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:11:26.13 ID:WDIZ97tn0
――これが、私のある1日のことです。

もちろん、別の日には違うことがありました。
1人でお散歩する日もあれば、みなさんと一緒にお仕事に行ったり、未央ちゃんや茜ちゃんと遊んだり、学校でクラスメイトとお話したり。
もしかしたらその時のことも、いつかこうしてみなさんにお話する時が来るかもしれません。

色々な出来事が起こる日々の中で、一番印象に残っている時間は……カフェで、加蓮ちゃんと過ごす時間。

これまで、たくさんの時間を過ごしてきました。この時みたいに、回りでのできごとに笑い合ったり、時には、大喧嘩もしてしまいます。
加蓮ちゃんに、やってほしいなって思ったり、なってほしいなって思うことは、今でもたくさんあります。
好きってたくさん言ってほしかったり、自分のことを悪く言う癖を直してほしいなって思ったり。

色んなことがあって、色々なことを考えますけれど……。
それを一言で表すなら、きっとこの言葉になると思います。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:11:55.58 ID:WDIZ97tn0


『今日も、私とあなたとの時間を』


【おしまい】
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/10(日) 19:12:26.95 ID:WDIZ97tn0
【あとがき】
4年ほど前、第28.5話『北条加蓮と高森藍子が、静かなカフェテラスで』のあとがきで、
私は「加蓮と藍子が一緒にいるところを、ちょっとだけでも想像してほしいなって思います」と書きました。

あの時に比べて今、
加蓮と藍子の2人のことを好きだと言ってくださる方が、いっぱい増えました。
「蓮藍」という呼び方が主流にもなりました。
2人の映るスクリーンショットを見る機会が増えました。
ここが好きだというお話もたくさん見るようになりました。

すごく、嬉しいです。
この2人のことを好きになってくださったこと、心から感謝します。

ありがとう。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/12(火) 00:31:31.34 ID:/jhXamT20
普段から拝見しています
元々藍子Pでしたが、このシリーズをきっかけに加蓮Pにもなりました
加蓮に出会えたこと、本当に感謝致します
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