ターニャ・フォン・デグレチャフ「自動、手記人形……だと?」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/09(土) 23:33:10.73 ID:PWWmuiJvO
「 敵の数が多すぎる!」

目下交戦中の帝国と共和国が接する国境。
そこは過酷なライン戦線の主戦場である。
一進一退を繰り返す、陣取り合戦の場だ。

両国ともこの戦線を突破されれば組織的な抵抗が困難となり、それは敗戦を意味する。
故に数多の将兵がこの戦場に投入され夥しい屍を積み上げ、今日まで均衡を保ってきた。

しかし、それもどうやら、幕引きらしい。

「このままではもたんぞ!」
「少佐殿。如何しますか?」

敵の攻勢が始まったのは、本日明け方。
どこに戦力を隠し持っていたのかと思うほどの兵員と航空機を用意して畳み掛けてきた。
現時刻は既に昼過ぎで、飯を食わずとも満腹であり、もうおかわりなどいらないのに。

「見ろ! 更なる敵の増援だ!」
「はい。敵歩兵の軍団を視認致しました」
「おまけに航空支援付きだ!」
「はい。敵航空魔導中隊並びに、敵爆撃機、敵戦闘機の姿も視認致しました」

いかにターニャ・フォン・デグレチャフ少佐率いる精鋭、第二〇三航空魔導大隊とて朝から休まずに戦闘をしていれば当然疲弊する。

「少佐殿。ご決断を」
「くっ……!」

少佐はここが引き際であると、判断した。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1589034790
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/09(土) 23:35:56.19 ID:PWWmuiJvO
「伝令を用意しろ! 無線は役に立たん!!」
「はっ。既に天幕にてご用意しております」

妨害電波により、無線は機能していない。
仮に届いたとしても敵に傍受されてしまう。
いかに便利な魔法があれども、最後に縋るのは人間の足というのがなんとも皮肉だった。

「ヴァイス。貴様は戦場に戻れ」
「はっ。セレブリャコーフ少尉には何と?」
「必ず戻ると。それだけを伝えろ」
「はっ。小官もお待ちしております」
「ああ、すぐ戻る。行け」

戦場での一時の離別は永遠の別れに等しい。
また会える保証はなく、言葉は空虚に響く。
確固たる意志で補強して、少佐は離脱した。

「死ぬな」

背後には、戦場上空を雲霞のように漂い。
スズメバチのように攻撃的な猟犬の群れ。
大隊全員の息災を祈る少佐はまさに女神。

「勝つために死ぬならばともかく、敗北がわかりきった戦場で死ぬことなどこの私が許さん! 人的資源の無駄遣いなどさせん!」

少佐の代わりに第一中隊の指揮権を掌握し、毅然とした姿で戦闘指揮を執る副官の姿。
手ずから育てあげたセレブリャコーフ少尉の勇姿を目に焼き付けて、少佐は伝令が待つという後方拠点の天幕まで急ぎ戻った。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/09(土) 23:38:31.08 ID:PWWmuiJvO
「第二〇三航空魔導大隊、大隊長のターニャ・フォン・デグレチャフ少佐である!」
「お待ちしておりました」

最大速力で後方拠点まで帰還した少佐は、目当ての天幕に入り、伝令に名乗った。
そこには戦場には場違いなほど着飾った、ひとりの少女が佇んでおり、彼女も名乗った。

「お客様がお望みならどこでも駆けつけます。自動手記人形サービス、ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」

ヴァイオレット・エヴァーガーデン。
その美しい響きに相応しい、可憐な少女。
年の頃は、せいぜい十代半ばに見える。
何故、こんな子供が戦場に居るのか。
いや、それよりも気になる単語があった。

「自動、手記人形……だと?」
「はい。お客様のお心を汲み取り、お手紙を認めるのが自動手記人形の仕事です」

言われてみれば、たしかに人形めいている。
表情の乏しさや、静かな佇まい。無機質だ。
生気を感じさせない雰囲気が、漂っていた。

そしてもっとも興味を引くのはその両腕だ。

「それは義手か?」
「はい。ですが、任務には支障ありません」
「任務、か……失礼だが、従軍経験が?」
「はい。丁度、お客様の年齢くらいから」
「ならば結構。任に耐えうると理解した」

なんとも、ひとは見かけによらないらしい。
見た目は子供、中身は中年の少佐は自分のことは棚に上げ、可憐な伝令の認識を改めた。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/09(土) 23:40:53.43 ID:PWWmuiJvO
「では、早速仕事に取り掛かります」
「ああ。差出人は私で、宛先は参謀本部で頼む。ことは一刻を争うので手短に頼む」
「了解しました」

天幕に設置された椅子に少佐が腰掛けると、自動手記人形が正面に座った。
そしてテーブルに置いたタイプライターに、銀の義手の指先を添え、言葉を待つ。

「始める前に君は従軍時に士官だったか?」
「いえ。一兵卒でした」
「ならば、戦況分析は無理か」
「はい。お手数ですが、詳しいご説明を」
「わかった」

もしやと思い尋ねてみたが当てが外れて、少佐は仕方なく現在の戦況をヴァイオレットに説明してから、本題へと移った。

「というわけで、戦線は崩壊寸前だ」
「なるほど」
「そこで君には死守命令を覆せるような嘆願書を書いて貰いたい。どうだ、出来るか?」
「嘆願書の作成は業務とは異なります」
「事務的な書類で上層部を動かせるとは思えない。君の言う心のこもった手紙が必要だ」
「はい。それなら問題ありません」

ヴァイスが何故彼女を呼んだのか、その真意を察した少佐はこの自動手記人形こそが大隊を救う最後の手段であると考え、依頼した。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/09(土) 23:42:54.84 ID:Ou9hiJtko
フハッ! フハハハハッ!(フライング脱糞)
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