【デレマス×ワートリ】P「広域仮想空間での集団戦闘訓練だ」【ランク戦編 ROUND.1】

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99 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:09:27.62 ID:v+83LJnc0
早苗「(だから飽きる程見たっての。トリオン誘導でしょ)」

敵を追尾するトリガー、ハウンド。その追尾の仕方には2種類あり、使用者の視線の先に向かっていく視線誘導と近くのトリオン反応を感知し追尾するトリオン誘導がある。

透明化している相手に撃つのがどちらかは言うまでもない。

唯「わっ!?」

美波の前方に放たれたハウンドは、大きく弧を描きながら唯に吸い込まれていく。

美波「唯ちゃん!? 防いで!」

早苗は美波がハウンドを放つ前からそれを予測し、美波と自分で唯を挟む位置に移動。美波がハウンドを放ちそれが唯へと向かったのを確認するとバックワームを解除しカメレオンを起動、唯との距離を一気に詰める。

不意を突かれた唯は美波のハウンドを躱す事が出来ず、シールドで防いだ。当然その背後を取っている早苗にとっては隙だらけだ。

唯「きゃ!?」ブォン

早苗「(いっちょ上がり!)」

美波と同じように透明化されたまま綺麗に腰で投げられ、唯は地に伏した。透明化を解除しスコーピオンを構える早苗だったが、その背後を覚悟の決まった顔の美波が取っていた。その周囲には2?、8個のアステロイドがふわふわと周回している。

唯「ゆいごとやって!」ガッ!

早苗「!」グラッ

唯はそれを見て叫びつつ、倒れたままの状態で早苗の足を蹴った。

唯はこんな所で、こんな形で脱落するのは不本意だった。しかし、「早苗さんとゆいのトレードならおつりであと2,3人ゆいが買えるくらいだよね!」とも考えていた。
100 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:11:43.18 ID:v+83LJnc0
早苗「(それじゃ崩せないわ)」スッ…

しかし早苗はすぐに蹴られた足を浮かせ、膝下の力を抜いて唯の蹴りをいなし、踏み込み直す──

美波「アステロイド!!」ギュン!

──までの一瞬の隙を突き、美波はアステロイドを放った。

早苗「(あのアステロイド、相当威力と弾速にトリオンが割り振られてる! 分割数が少ないから!? ヤバい!)」

早苗はアステロイドが放たれた瞬間、美波のアステロイドの性質を見抜いた。

片足が浮いていてすぐに回避行動が取れない。かといって、背中を向けた状態で正確にかなりの威力・速度のアステロイド群全てを防ぐ大きさ・位置のシールドをこの一瞬で生成出来る自信はなく、万一防げたとしても正面の唯に対して無防備になる。

早苗「(これしかない……!)」

早苗は咄嗟に踏み込み直そうとする足の下に真横に飛ぶような角度で設置、それを踏んだ早苗はきりもみ状態で思いっ切り吹っ飛ばされた。

早苗「(危なかった……! けど美波ちゃんとあたしの直線上にいた唯ちゃんはここで──)」

唯「……っ」

唯も、早苗が離脱したのを見て無念のままに脱落する事を覚悟した──

フッ

唯「……きえた? ゆい生きてる?」


──が、アステロイドは唯の目の前で消失していた。唯は目を見開き、ぱちくりと瞬きをした。

美波「唯ちゃんすぐ立って!」

唯「う、うん!」バッ!
101 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:17:32.28 ID:v+83LJnc0
>>99
訂正
2?、8個のアステロイド ?
2の3乗、8個のアステロイド 〇

立方体のトリオンキューブを縦横高さで綺麗に8分割したと考えてもらえればOKです
102 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:18:24.95 ID:v+83LJnc0
茜『ややっ!!? あれはPさんの技では!?』

真奈美『新田隊長はアステロイドのトリオンを威力と弾速に大きく割り振り、射程に使うトリオンを極少にしながら調整する事で、「片桐隊長には当たるがその直線上にいる大槻隊員には当たらない、絶妙な射程距離のアステロイド」を撃った。日野隊員が言うようにP本部長が得意としている技だが、新田隊長が行った今のは少し違う』

真奈美『P本部長のは射程の分のトリオンを限界まで節約する事で、弾速と威力を出来る限り大きくして「接近戦専用のアステロイド」を展開しアタッカーとしての立ち回りを強くする事が目的だ。つまり「相手に当たればいい」』

真奈美『だが、今の新田隊長のは「相手に当てつつ味方に当てない」という超高度で精密なトリオンコントロールを要した。しかもあの土壇場でだ』

ありす『つ、つまり新田隊長は、あのP本部長よりもすごい事をした、という訳ですか?』キラキラ

真奈美『P本部長はそもそもの使い方や立ち回りが違うが、それもまた超人の域で新田隊長のそれとは別種の難しさだ。一概には言えないな』

ありす『そ、そうですか』

真奈美『しかし、あれだけ繊細なトリオンコントロールが出来るシューターはボーダーには川島隊長と速水隊長くらいしか居ないと思っていたが……いや、驚いたよ』

ありす『ですよね! 友紀さんは強いけど大雑把ですし! ……あ、こほん』
103 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:19:14.98 ID:v+83LJnc0
みく「そうなの? 飛鳥チャン、比奈チャン」

飛鳥「うーん……いや、違うんじゃないかな。川島さんはトリオン割り振りの精度に関しては上の下程度だと思う。トップレベルではあるが最上位レベルではない……あぁいや、済まない。比奈さんの隊長を悪く言ったつもりは無いんだ」

比奈「いえいえ。飛鳥ちゃんの言う通り、川島さんは違いまスよ。自分とこの隊長だから分かりまスけど、あの人は確かに一流のシューターですけど奏ちゃんほど微細なトリオンコントロールに秀でてはいないっス。木場さんも流石にシューター界隈の事は詳しくないみたいっスね」

みく「え、そうなの? でも川島さん、奏チャンの師匠なんでしょ?」

比奈「奏ちゃんなんてもう免許皆伝、とっくに暖簾分けしてるッスよ」

みく「じゃあ、奏チャンは師匠の川島さんを超えちゃったって事かにゃ?」

比奈「それもまた否ッスよ。2人の強みはそれぞれ別っス。ウチの隊長は『読み』の力が凄いんス。敵の動きを予測して先読みし、そこにバイパーを置いとくんスよ。どうやってるのかは分からないっスけど大体読みは当たってるっス」

みく「……A級って、人間やめてる人ばっかだよね」トオイメ

比奈「A級の中にもアタシみたいに凡人はいますし、B級の中にも怪物は沢山いるっスよ」
104 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:20:25.41 ID:v+83LJnc0
美波は孤月を手に走り出していた。唯も慌てて立ち上がり、美波に続く。

早苗「(ふふ、凄いじゃない)」

グラスホッパーで吹っ飛ばされている最中、早苗はその様子を目の端で捉え、素直に心の中で賞賛していた。

早苗「よっと」ババッ ズザザ

美波「ハウンド!」

唯「アステロイド!」

早苗は両手を地面に付けて体を跳ね上げ、バック転の要領で綺麗に受身を取ったものの、足元が安定しない中ブレーキをかけて体勢を崩したこのチャンスを見逃す訳にはいかない。美波は一気に畳み掛ける。

唯もそれに続き、突撃銃を二丁構えて渾身のアステロイドを放つ。

早苗「(またまたいいタイミングね。避けらんないわ)」

早苗はフルガードせず、敢えて一枚のシールドで防いだ。美波と唯はアタッカートリガーも持っているオールラウンダーなので、シールドを張ったまま動かずにいると二対一の状態で撃たれながら寄られてジリ貧になる。その状態で対処出来ると考える程油断出来る相手ではない。

そう考えた早苗は、シールド一枚で射撃をある程度受けたあと美波達と距離がある内にシールドを解除して距離を取り、一旦仕切り直そうとした。

ガキキキン! …パキ

早苗のシールドが美波達のトリオン弾を受け、ヒビが入る。それを確認した早苗が、美波達の張る弾幕の僅かな切れ目を見切りシールドを解除する──

早苗「ッ!」

と同時に遠方から狙撃されるが、なんとか回避し弾丸は首の根本の右、僧帽筋がある辺りを穿いた。
105 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:21:17.08 ID:v+83LJnc0
──250m西──

文香「……掠った程度ですか」

文香は、持ち前の忍耐力と一度本を読み始めると何をされようが動じない集中力を発揮し、ひたすら機を窺っていた。美波や唯が倒されそうな時もずっと耐え忍び、早苗を狙撃出来る絶好のチャンス、その一点のみを考え狙っていた。

今の狙撃は渾身の一発だった。

──それを、外した。

文香「(……狙撃位置を変えましょう)」

だが、文香はすぐに切り替えていた。文香は我慢強い子だ。

文香「(……次は、必ず)」メラメラ…!

それと同時に、意外と負けず嫌いな子でもあった。
106 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:22:14.56 ID:v+83LJnc0
早苗「3対1は流石にキツいわね……」


誰に言うともない早苗の呟きを、鼻の利く彼女は聞いていた。


ギィン!




志希「ざんね〜ん、3対1対1でーす♪」
107 : ◆AXT/uuswxI [sage]:2020/04/13(月) 22:28:05.43 ID:v+83LJnc0
今日はここまで。

戦闘描写を分かりやすく書くのは難しいですね。逆に解説パートはどうしてもクドくなってしまいます



今日のウワサA戦えるオペレーターは、志希と奏以外にもいるらしい。


それでは、おやすみなさい
108 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:17:57.56 ID:VpKPXEPs0
志希の得意とするバックワームでの奇襲。両手にスコーピオンを持ち、早苗に斬りつけた。だが、当然と言うべきか早苗のスコーピオンに防がれ、鍔迫り合いのような形になる。

早苗「(やけにバカ正直に突っ込んで来るわね……)」

志希「」ニタァ スンスン

志希は不敵に笑いながら、何かの臭いをかいでいる。

早苗「(って、またどーせ何か企んでるんでしょうけど)」ギチチ

志希「ごー」ギギギ

早苗「何もさせないわよ」フッ

早苗は不意にスコーピオンを消し急に力を抜くと、志希の手首を掴んで転がるように後ろへと倒れ込んだ。志希は鍔迫り合っていた時の勢いのまま早苗の方へよろけた。

早苗「んッ!」ドッ!

そのまま巴投げをすると思いきや、跳ね起きをする前の姿勢のように両手を顔の横の地面に着け膝を胸元に引き付けて腰を浮かせ、そのままバネのように全身を伸ばして志希を蹴り上げた。

早苗は足の裏にスコーピオンを仕込もうとも考えたが、志希が蹴られるであろう腹にピンポイントで集中シールドを張っていたので諦め、シールドごと蹴り飛ばす。

志希「よん」ヒュヒュッ

志希は何かを投げるような動作をした。体から切り離したスコーピオンだ。
109 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:18:41.85 ID:VpKPXEPs0
早苗「(カウントダウン? ……いや、いつもの心理トラップね。気にした時点で志希ちゃんの術中だわ)」

入隊前から、もっと言えば学生時代から百戦錬磨の早苗は弟子の夕美とは違い、志希の意味深なカウントダウンを思考の外に完全に追いやり、目の前の志希に全集中する。

ザク ザクッ

蹴り上げられて体勢を崩したせいか、志希がイタチの最後っ屁の如く投げたスコーピオンの刃はあらぬ方向に飛び、早苗の斜め後方の左右に刺さった。

早苗「終わりよ」パッ

志希「ありゃ」ズダンッ

早苗は蹴り上げた先にグラスホッパーを下向きに設置した。それに触れた志希は勢いよく真下に弾かれ、ぐしゃっと地面に叩きつけられた。早苗は志希が地面に叩きつけられる前から、着地するであろう位置に向かって刃を走らせていた。

その首を狙いスコーピオンを振り下ろす早苗。だが──

志希「さん」

それまで楽しげな表情だった志希の眼が突然肉食獣のような獰猛な光を放ち、ペロリと妖しげに舌なめずりをした。

志希「──『韋駄天』」

韋駄天は、あらかじめ設定した軌道で高速移動出来る、言わば人間バイパーのようなトリガーだ。

志希が突然弾丸のように高速移動し、早苗を全方位から攻撃しながら飛び回った。

ギンギギギギン!

早苗はトリガーを変えている暇はないと判断し、スコーピオンのみで志希の超連撃をしのぎ切った。だが──

早苗「ぐッ!」ミリリ…

早苗はワイヤーに四肢を拘束されていた。
110 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:19:29.35 ID:VpKPXEPs0
なんと、志希は空中に蹴り上げられた時に苦し紛れのように投げたスコーピオンにスパイダーを括りつけており、その反対側は韋駄天の連撃に使ったスコーピオンに繋がっていた。

言わば、紐が長い刃型のヌンチャクのような形状だ。

最初に投げたスパイダー付きスコーピオンは地面に突き刺さりしっかりと固定されているので、後は志希が早苗の周りを計算された軌道で飛び回れば早苗は拘束されるといった寸法だ。

韋駄天からのスコーピオンの超連撃で倒せるならよし。失敗しても拘束出来ればよしの二段構えの作戦だ。

早苗「(それにこのスパイダー、雪に紛れるように白色に設定してある。きっと即興よね。抜け目ないわね)」

志希「にー」ヒュッ

早苗「まだよ!」ユル… ガキッ

今がチャンスとばかりに早苗の首に斬り掛かる志希だが、一瞬で拘束から脱出した早苗のスコーピオンに阻まれた。

早苗はワイヤーが体に触れ己が攻撃されながらスパイダーで拘束されていると悟った瞬間、早苗は全身に力を込めてトリオン体の筋肉に当たる部分を膨張させていた。

そして拘束後力を緩め、動くようになった手にスコーピオンを発生させ、全身を撫でるように刃を走らせ拘束を解いた。

警察官時代に学んだ縄抜けの術(すべ)は、ここでも活かされている。
111 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:20:18.12 ID:VpKPXEPs0
早苗「今度こそ──」

志希「いち」バッ!

何を思ったか、志希はおもむろに後方に高くジャンプした。

まるで、何かに巻き込まれるのを避けるかのように。

その志希と入れ替わるように、何本ものトリオン弾が早苗に直進する。

早苗「(ここでアステロイド!? てことは美嘉ちゃん!? ヤバ……!)」

志希「……アステロイド♪」

その光の筋は、急に弾道を不規則に変え始めた。

早苗「……バイパーじゃない! んもう!」

志希「にゃは♪」ニヤ

早苗「(カウントダウンはこれの布石だったのね……!)」

志希の心理トラップだと断じて切り捨てたカウントダウンはバイパーが到着するまでの時間だった。そう理解した早苗は、ここまでの自分の動き、果てはここに至るまでの秒数までが志希の手のひらの上だった事に戦慄した。

カウントダウンが決まった所で何がある訳でもない。だが、純粋な戦闘力では圧倒的に勝っている志希に、自分の土俵である筈のアタッカーの間合いで全てを読み切られた。余裕綽々で遊び心を見せられた。この事実が早苗の思考を一瞬支配し、0コンマ数秒間早苗の動きを止めた。

早苗に安い挑発は効かない。それは今までに何十戦とやったランク戦で分かり切っている。

にも関わらず、志希は敢えて早苗の精神に揺さぶりを掛けた。「一流のアタッカー相手に、その間合いを維持しつつカウントダウンを成功させる」という超高難度かつ回りくどいやり方を通し、歴戦の猛者たる早苗を動揺させた。



──早苗もまた、志希の心理トラップからは逃れられなかった。
112 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:21:15.40 ID:VpKPXEPs0
二段構えの作戦──ではなかった。あの韋駄天も拘束も、早苗をバイパーの終着点とした定位置から動かさないようにする為のもの。

志希は早苗に斬り掛かる前に、時間差で到着するようにバイパーを仕込んでいた。

早苗「くぉんのぉ……!(この子ったら何手先を読んでるのよ!)」

普段なら声に出して素直に賞賛していたのだが、この時ばかりはそんな余裕は無かった。

早苗は褒め半分苛立ち半分の心境でシールドを張る。ほぼ全方位から攻撃する弾道に設定しているので、早苗は半球状のシールドを張らざるを得なかった。

奏『完璧なタイミングね──』

リアルタイム弾道引きバイパー使いの奏も、内部通信で賞賛を送った。それもそのはず。

奏『──我ながら♪』

弾道を引き、タイミングを指示したのはオペレーターである奏だ。志希は視界に表示された弾道をなぞっただけ。


全トリガーを巧みに使いこなす志希は当然バイパーも人並み以上に扱えるが、流石の志希もリアルタイムで弾道を引く事は不可能だ。

だが、志希には相手に「あれ程なんでも出来るのなら、あるいは弾道引きも出来るのでは?」と思わせる「スゴ味」があるのだ。

志希「ぜろ」キィン

志希は既に「黒い」トリオンキューブを四角錐の形に3等分し、展開していた。

志希「『鉛弾(レッドバレット)』」ビギュン

鉛弾はシールドを透過する。

早苗「やられた──」ガキン!

3本のバイパーに乗せた鉛弾が、半球シールドを張っていた早苗の右上腕部と左側腹部に突き刺さり、錘を発生させた。残りの1本はなんとか紙一重で避けた。

カウントダウンは1で終わりと誰が言ったのか。早苗は志希を見誤っていた。

そう、志希の作戦は二段構えではない。四段構え──

「ぼんじゅーる♪」

でもなかった。
113 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:24:07.02 ID:VpKPXEPs0
フレデリカ「ぼんじゅーる♪」

早苗の正面斜め上5メートルの空中に、フレデリカが突然現れた。目線の先数10メートル程度の距離の瞬間移動が可能なトリガー、テレポーターを使ったのだ。

志希「あー楽し♪ トリップしちゃいそー……♪」ゾクゾク

──そう、五段構え。これが「早苗とのワンセット」における志希の作戦の全容だ。


フレデリカ「『旋空弧月』」ヒュッ

孤月専用オプショントリガーの旋空による拡張斬撃が早苗の首に迫る。

早苗「(やば、重りの付いたこの体じゃフレちゃんには対応出来ない……殺られる──)」

「んぎぃ!」ヒュッ

ガキッ!

旋空同士がぶつかり合う。

心「ふぃー。うっし、間に合ったぜ姐さん☆」キラン

志希「(はぁとさん? あれ? なら夕美ちゃんは?)」

早苗「ちょっと何カッコ付けてんのよ! 5秒遅いっての!」

雫『私も助けて貰えませんでしたしねー』

紗南『しかもんぎぃ!って。全然スウィーティーじゃないじゃん』

心「いじわる〜い仕掛け方のワイヤートラップに引っかかってたの!! なにさはぁとだって必死に頑張ってるもん!! 泣くぞ!?」ナミダメ

志希「あっそれあたしが仕掛けた〜♪」

心「やっぱりお前か! 覚えとけコンニャロー☆」
114 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:24:56.65 ID:VpKPXEPs0
事実、雫を助けるべく直線経路で屋根の上を全速力で走っていた為、致命傷は何とか回避したものの何度も周子に狙撃されている。

周子は何やら忙しそうな心を見て反撃はないと悟り、嬉々として心を撃ちまくっていた。お陰で心は四肢の欠損こそ無いが、所々輪郭が欠けてしまっていた。ツインテも片方無い。

前述の通り、心はこういう役回りが多い。

心「さてと! どーする姐御? 錘ついてるけど」

早苗「もちろん」ザシュッ プシュー!

早苗はおもむろに左手を振ったかと思うと、錘が右腕ごと落ち左の脇腹の錘も落とし、そこからトリオン漏出を示す煙が勢いよく噴出していた。早苗はすぐにスコーピオンを左脇腹から出して薄く延ばし、傷口を覆って漏出を防いだ。

早苗「こうするわよ」

心「わお。流石の即断即決っすね」

早苗「当たり前じゃない。あのフレちゃん相手じゃこんな重いの付けてるあたしなんてなんの役にも立ちゃしないわ」

早苗「さぁ」


早苗「短期決戦よ!」ドン!

早苗のトリオン体の頭の中に、システムアラートが響いた。

『警告:トリオン漏出甚大』
115 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:26:01.53 ID:VpKPXEPs0
一旦ここまで
116 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:04:44.63 ID:VpKPXEPs0
──観戦ルーム──

ありす『えー、状況を整理すると、新田隊長と大槻隊員が片桐隊長の体勢を崩した所に一ノ瀬隊員が奇襲、その知謀策謀により片桐隊長にレッドバレットの重りを付けて追い詰めた所を宮本隊員が更に奇襲、そこを佐藤隊員が止めた形になりますが……えー……』

シーン…

ありす『一瞬で色んな事が……。ええと……あまりの出来事に、観客席の皆さんも言葉を失い、静まり返っています。私も、その……』チラ

茜『……』プルプル

ありす『……茜さん?』

真奈美『』スッ ←耳を塞ぐ

茜『志希ちゃん!!! 素晴らしいです!!!!!』キーン!

ありす『うっ』グワングワン

茜『あの!! 早苗さんにっ!! 対してっ!! 先の先のそのまた先のもっと先を読むかのようなとてもすごい戦略モコモゴ』

真奈美『声が大きい』ギュムー

茜『ふみまへん!!』

ありす『……』カチッ ←茜のマイクを切る音

真奈美『……一ノ瀬隊員だが、彼女はこういう戦い方を好む。その場の思いつきで適当にいくつもの布石をばら撒き、使えると思った時に使う』

茜「あと、何か変わった作戦を使う時には必ず手堅い作戦を裏に控えて、失敗するリスクのケアをしている印象ですね!!」

真奈美『もちろんそんな事はA級部隊やB級上位部隊なら当たり前にやっている事だが、それは事前にチーム全員で時間をかけて話し合いを行って練り上げたり、自分のチームの得意なセットアップを想定しパターン化する』

真奈美『翻って志希はそれをその場のアドリブでたった一人で思いつき、より高い質の作戦を練り上げる』

ありす『ひえぇ……』

茜「志希ちゃんとそうですが、凄いのは速水隊の他のメンバーも志希ちゃんのアドリブ作戦に対応し、キッチリと連携を決めてくる所です! まさに阿吽の呼吸!! いやー、惚れ惚れします!!!」

真奈美『新田隊も、少し緊張気味だがあの片桐隊長を相手にしながらも動きは悪くないし、全員なんとか無傷だ。さて……』

真奈美『役者は揃った。ここから一気に試合が動くぞ』
117 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:05:33.18 ID:VpKPXEPs0
フレデリカ達に向かって走りながら、早苗は紗南に内部通信で指示を飛ばす。今や敵とぶつかるまでの数秒も無駄には出来ない。

ここで、早苗はあるアイデアを思い付いた。

早苗『そうだ、紗南ちゃん、あたしがトリオン切れでベイルアウトするまでの秒数を視界に表示できる?』

紗南『ん、めっちゃ余裕』カタカタカタカタカタッタン!

『ベイルアウトまで残り 164 秒』ピピ

紗南の素早く正確な機器操作により、早苗の視界の端に残り時間が表示される。

早苗「(3分弱って意外と持つじゃない。あたしってやっぱりトリオン多いのね)」

早苗が己のトリオン量について無頓着なのは、純粋なアタッカーがトリオン量の恩恵を受けにくい為だ。射撃トリガーと違い、近接トリガーは使用者のトリオン量の多寡に関わらず一定の威力を持つ。

紗南『意外と長いとか思ってるかもしれないけど、当然トリガー使ったりカメレオン使う為に蓋代わりのスコピ解除なんかしたらガンガン減ってってマジですぐ死ぬからね! スコピ解除しないにしても半分くらいに見といた方がいいよ!』

早苗『えっ……わ、分かってるわよ!』

早苗が内部通信で素早く準備を済ませている間に、心は威力を限りなくゼロに近づけたアステロイドを早苗の背中に向けて撃った。

射撃トリガーに乗せて撃った相手にマーカーを付けるトリガー。スタアメーカーだ。

早苗「さ、やるわよ」

心「うっす!」

早苗「(……あら?)」



早苗「(美波ちゃんと唯ちゃんがいないわ)」

118 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:06:24.26 ID:VpKPXEPs0
こっそりと夕美が合流しこの場に3人(文香はスナイパーの為遠方)が揃った美波達は、真正面から早苗&心と対峙するフレデリカ&志希を挟んで、片桐隊の反対側に付かず離れずの位置で半円状の陣形を組み、バックワームを起動して身を隠していた。

つまり真っ向から速水隊と対面する片桐隊と潜伏する新田隊で、速水隊の2人を挟んだ形になる。

地形的にも雫に破壊されていないポイントであり、射線が通りにくくスナイパーの横槍をあまり気にしなくていい場所で向かい合う速水隊と片桐隊。

新田隊にとっては、落ち着いて潜伏出来る状態だ。

美波「(今までは数の差でなんとかやれてたけど、志希ちゃんが早苗さんに奇襲して結果的に大ダメージを与えた所にフレちゃんが合流、早苗さんに心さんが合流して状況がガラリと変わった。私達が4人揃ったとは言っても三つ巴だし、速水隊の他の2人や鷹富士隊の姿が見えない以上慢心は出来ないわ)」

夕美「(なら、位置取りとその情報アドバンテージの差で勝負するっ! これならまだこの場にいない子達に奇襲される可能性は低いし、こっちが奇襲出来るチャンスもあるもんねっ!)」

文香「(強化嗅覚のサイドエフェクトを持つ志希さんには恐らく匂いで私達の位置が露見してしまっているでしょうが……早苗さんや心さんの相手をしながらこちらに襲撃しに来るのは難しいでしょう……)」

唯「(なら、早苗さん達とフレちゃん達が戦ってる隙を見て倒せそうな方から倒す! どうせ早苗さんは大ケガしてるから何もしなくてもしばらくしたらいなくなるし!)」

愛梨『えぇっと、効果的な襲撃ポイントと見つかっちゃった時の4人分の逃走ルートを絞り込んで……』

どんな有利な状況においても徹底的に負け筋を潰し、常に手堅く、しかし必要とあらば大胆に。これが新田隊の戦い方だ。
119 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:06:52.49 ID:VpKPXEPs0
真奈美『なるほど。やるな美波』

ありす『これは……。片桐隊長が深手を負った事で速水隊が有利となるはずが、新田隊が宮本隊員と一ノ瀬隊員を片桐隊と自隊で挟む形で潜伏する事で、速水隊不利の状況に持ち込んだ、という認識で合っていますか?』

真奈美『あぁ、その通りだよ。新田隊からすれば、放っておけば勝手に落ちる強い敵に積極的に絡みに行く理由は無いからな。なら、現状最も厄介なのは次に強い宮本隊員だ』

真奈美『そして片桐隊には選択肢はない。片桐隊にとっても最も厄介なのはやはり宮本隊員であり、これを落としておかないと片桐隊長がベイルアウトした後に宮本隊員を倒せる者は居なくなる。つまり負けだ』

茜『隠れている新田隊を探す時間なんてありませんしね!!』

真奈美『そして現状は速水隊が不利だが、時間が経つにつれ……』

ありす『片桐隊が不利になる。そして、新田隊の有利は揺るがない』

茜「いつでも奇襲出来る状態ですからね!! 全員が射撃トリガー持ちなのも追い風です!!!」

真奈美『一番実力で劣っていたはずの新田隊が、いつしか戦況をコントロールし主導権を握っている。ここまでの展開を志希が奇襲を仕掛けたあの一瞬で読み、指示をしたのであれば……ふふ、新田隊長への評価を私の中で一段階上げねばならないな』

オォォ...! ザワザワ…

ありす「(あの真奈美さんにここまで言わせるなんて……! 美波さん、凄いです!)」キラキラ
120 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:07:21.08 ID:VpKPXEPs0
少し巻戻り、早苗が新田隊の潜伏に気付く少し前。

志希『奏ちゃん』

奏『なぁに?』

志希『新田隊が隠れちゃったこの状況、ヤッバイよね〜』ウズウズ

奏『そうね』

志希『そこでなんだけど〜、志希ちゃんフレちゃんと2人で好き勝手していい? 奏ちゃんオペレーターで忙しいし〜』

奏『ふふっ、今度はどんな面白実験をするのかしら?』

志希『やる事はシンプルだよ。まずはね〜……』

奏は言うまでもなく速水隊の隊長だが、オペレーターとして4人の情報支援をしながら指揮を執るとなると相当の負担となる。

そこで、奏がオペレーターであり、かつ志希が「面白いコト」を思いついた場合に限り、現場で奏に代わり作戦立案・指揮を行う事になっている。

といっても平時、志希は基本的には指揮などせず自由にやっており、他のメンバーも事前に話し合って決めた作戦に沿って動いている。そして志希が何かを思いついた時に奏に提案し、通れば実行という形になる。


つまり、奏が戦場に立つ時はその的確な指揮により高いレベルで安定したチームになり、志希が戦場に立つ時には不安定で波があるがアドリブの作戦がハマればとんでもない爆発力を発揮するチームになる。

これもまた、速水隊が変幻自在のチームと言われる所以の1つなのである。
121 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:08:06.63 ID:VpKPXEPs0
志希『……ってのが狙い。ほぼノーリスクでリターンおっきいよ』

奏『是非もないわ』

フレデリカ『採用だって! 我が社で頑張ってくれたまえ!』

志希『あはは〜失踪しまーす』

早苗達が少しの間動かず準備を進めている間に、志希達も作戦を共有し終えたようだ。そもそも早苗が自傷したのを確認した時点で、志希達は早苗達にいくら作戦立案に時間を使われても利しかない。

こちらの方が戦術では勝っているという自信があるからだ。

志希「──ってコトで。おっけーフレちゃん?」

フレデリカ「オールオッケー! やっちゃうよー! 雪の日のフレちゃんはわくわくでパワーが1.2倍になるのだ〜!」

志希「割と現実的〜」

122 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:08:47.21 ID:VpKPXEPs0
向こうから早苗と心がこちらへ猛然と走り出したのをフレデリカは見て、志希は嗅いで感知した。

早苗はカメレオンを使っていない。トリオンを温存するつもりらしい。

志希「……ん。来たね」クンクン

フレデリカ「んじゃ作戦どーり!」

フレ志希「「逃げろー!」」ダッ

早苗心「「ッ!?」」

猛然と迫る片桐隊の2人に対し、フレデリカと志希は隙のない構えを維持しつつ脱兎の如く逃げ出した。

早苗「(そう来たかぁ……! あーもう時間ないってのに面倒臭いわね!)」

フレデリカ「上に逃げるよ! ほい志希ちゃんもっ!」パッ

志希「んじゃ、消耗戦といこーか♪」パッ

フレデリカはグラスホッパーで志希と共に開けた場所から高層ビルの陰に隠れるように斜め上に飛び、スナイパーの射線を切りつつ早苗にグラスホッパーを使ってのトリオン消費を強要した。

早苗「もー! 逃がしちゃダメ! グラスホッパーの消費くらいたかがしれてるわ! 追うわよ!」

早苗は舌打ちすると、先程のフレデリカと同じように自分と心にグラスホッパーを使い、フレデリカ達を追うが──

ビヨン グルン!

早苗「!?」

心「おわぁ!? 早苗さん!?」
123 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:09:41.10 ID:VpKPXEPs0
志希「あーあーグラスホッパーで加速なんてしちゃうから〜」ニヤ

早苗はラリアットでも受けたかのように空中で足が先行し、そのまま回転しながら勢いよく落下した。

志希の仕掛けた、白く着色されたワイヤートラップを首に引っ掛けたのだ。

普段なら見切ったであろうスパイダーも、グラスホッパーで加速した状態でかつ雪で視界が若干悪く、更に時間がないという焦りから見切る事が出来なかった。

その上、フレデリカ達が逃げたのは風上。吹きつける雪の影響を最も受ける方向だ。

早苗「ッ!!」

が、潜伏している新田隊が体勢を崩した早苗を見逃す訳もなく。

夕美「ここっ!」ダンッ! ダンッ!

美波「今よっ!」ギュンッ!

唯「てぇーい!」タタタタタンッ!

3つの建物の陰から、アステロイド群が早苗に殺到する。

志希「バイパー」ギュパッ

志希も当然隙を狙い撃つ。

早苗「くっ!」

早苗は全方位からの射撃にたまらず2枚の半球シールドを張るが、流石に広く張ったシールドでは4人からの集中攻撃には耐えられず、

バリン! パキキ…

1枚が割れ、もう1枚にもヒビが入った。

美波「(普通ならとっくに割れてる。あの広さのシールドでもこんなに硬いの……!?)」

文香『割ります』ダンッ!

バキン!

早苗「ぐッ!」

遠方からの文香の研ぎ澄まされたアイビスでの一射が、シールドごと早苗を貫いた。

トリオン量の多い文香のアイビス。それまでの一斉射撃の一射一射とは一線を画す威力だ。
124 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:10:24.16 ID:VpKPXEPs0
早苗「危な………!」シュウウウ

だが、新田隊の一斉射撃を受けた段階で文香の狙撃を予見していた早苗は致命傷となる胸への一撃をギリギリで回避し、左肩を貫かれた。



美波『今ので位置がバレたから移動して!』

夕美唯文香『『『了解!』』』

新田隊は深追いしなかった。あくまで有利状況の維持を徹底するようだ。
125 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:11:20.68 ID:VpKPXEPs0
ありす『辛くも首の皮一枚繋がった! 片桐隊長、先程からずっとマスタークラス以上の隊員達から集中攻撃を受けているにも関わらず、物凄い生存能力です!』

真奈美『完全回避しようとするのは難しい。ならば致命傷だけを避ければいい。口で言うのは簡単だが、A級の猛者達を相手にそれを成すのは極めて困難だ』

茜「さすが早苗さんですね!! 私はよく対戦相手に全力タックルで突っ込んで早々に落ちているので、尊敬します!!!」



飛鳥「……ウチのチームメイト達が天からの授かり物に思えてきたよ」※蘭子、小梅、ありす

藍子「ほ、本田隊だって皆仲良しで良い子ですし……!」※未央、ユッコ、茜

藍子「ただちょっと作戦を聞いてくれなかったり……美城司令の車を両断しちゃうくらいで……始末書も……いっぱい……」ズーン…

飛鳥「えっ……あぁいや違うんだ、ほら、元気なのはいい事だよ。ボク達のように変にヒネた子供より、まっすぐなキミ達の方が一般市民の方々には好まれやすい面もあるじゃないか」オロオロ
126 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:12:15.55 ID:VpKPXEPs0
数秒遡り、早苗が集中攻撃を受けている最中。

心「ん!」

早苗の少し後ろを飛んでいた心は早苗が引っかかった辺りに目を凝らし、仕掛けられたワイヤーを見切って左手で掴み、ぐるんと大車輪のように体を一回転させてそのまま前方に飛んだ。

心「旋空弧月!」ヒュン!

叫びと共に、旋空に追従させるようにアステロイドを放つ。

フレデリカ「よっと」

やはり総合3位。テレフォンパンチは通じない。

距離もあり、あっさりと躱された。
127 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:13:15.38 ID:VpKPXEPs0
心「おっけおっけ」

だが、心もそんな事は百も承知。この旋空孤月は周りのスパイダーを切断しつつ、アステロイドでこの場で一番厄介なフレデリカを牽制して早苗にこれ以上追撃をさせない意図からだった。

心は早苗の元に着地した。

心「(早苗さんのトリオン漏出を狙っての時間稼ぎかー。普通に戦ってもむちゃくちゃ強いクセに徹底してんなー☆)」

と心は思ったが、志希やフレデリカにとってはそうではなかった。

早苗「ありがと!」ダッ

早苗は心に短く礼を言うと、ノータイムでフレデリカ達の方へと駆ける。

『ベイルアウトまで残り 95秒』

肩を穿たれ漏出が更に早まってしまった今は1秒すら惜しい。心もそれを理解し、追走する。

しかし志希は満身創痍の早苗に、更に追い討ちを掛ける。

志希「スゥーッ……」

志希は早苗から全力で逃げながら、大きく息を吸い込んだ。フレデリカはギラついた眼でその隣でいつでも斬りかかるぞと言わんばかりの攻め気味の体勢で孤月を構え、早苗を牽制している。
128 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:15:53.97 ID:VpKPXEPs0
志希「美波ちゃんはあの建物の1階!! 夕美ちゃんはあのコンビニの中!! 唯ちゃんはあそこの路地裏だよ!!」


志希「(文香ちゃんは遠くて分かんな〜い)」

志希は「潜伏している新田隊にも聞こえそうな程の」大声で、一息に叫んだ。

新田隊「「「「ッ!!?」」」」

心「そう来たか☆」

早苗「……!!」

この大胆な戦法に対するそれぞれの表情は、想像にかたくない。

志希「どうする? このままあたし達と鬼ごっこするか、あたしの言葉を『信じて』バラけてる新田隊の皆を1人ずつ倒してくか。どうするのが正解か、よ〜く考えてね? 『時間はたぁっぷり使っていいから』」ニタァ

フレデリカ「わーおシキちゃん悪役みたいでカッコイー! あっ早苗さん、こっち来るならまた糸に引っ掛けられないように気を付けてね? フレちゃん早苗さんのカッコ悪い所もう見たくないなぁ♪」ニコニコ

早苗「」



早苗「」メキ

奏『……うわぁ』タラー

奏は画面越しに、戦略とはいえよく早苗さんをここまで煽れるわね、と志希とフレデリカを半分尊敬し半分呆れていた。
129 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:16:33.66 ID:VpKPXEPs0
心「(うっわこれはキレるわ)」タラー

早苗「こんのぉ……! あの子達はホントに……!」プルプル…!

さて、ここで早苗視点でここまでの試合を事を振り返ってみよう。

鷹富士隊に出し抜かれて茄子を取り逃し、美波と唯と志希に集中狙いされ、志希にハメられて錘を付けられ、苦肉の策でトリオン体ごと切り落としタイムリミットを課せられたと思うとワイヤートラップに無様に転ばされ、そこをまた集中狙いされ、時間の無い中究極の2択を迫られた挙句ここぞとばかりに煽り散らされた。

早苗は一流の武術家であるが故にここまで冷静さを保っていたが、本来気の長いタチではなかった。

早苗「アンタ達ねぇ大人をナメんじゃないわよ!! 上ッ等じゃないやったろうじゃないの!!!」ガオォォォ!!

雫『あー……』

紗南『いや、むしろここまでよく我慢したよ。あたしならとっくに台パンしてるわ』

不憫な早苗に思わず同情したが、しかし紗南はオペレーターとして冷静に現状を早苗に伝えた。志希が喧伝したポイントへのタグ付けは既に済ませてある。

紗南『気持ちは分かるけど早苗さん、志希ちゃんとフレちゃんの言った事よーく考えてね。あたしらにとってはマジで究極の2択だよ』

早苗『全部分かってるわよ!! だからこそイラついてんの!! あの子達ったら憎たらしいほどうまいことこっちを追い詰めて来るんだから!! もうっ!!』プンスカ

紗南『よかった。思ったよりは冷静だね』

紗南はオペレーターとしてクールに早苗を宥めつつ、志希の仕掛けた択について思考を続けていた。

志希が大声で放った言葉は、挑発以上の大きな意味を持つ。
130 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:17:51.60 ID:VpKPXEPs0
茜「ややっ!? 志希ちゃんの声がこちらへ聞こえて来ましたよ!!」

ありす『一ノ瀬隊員に関しては音声が聞き取れないとお二人が解説のしようがない場合があったので、内部通信でちひろさんに頼んで特別にあの戦闘域の音声をこちらに繋いで貰いました。多少の雑音はご了承下さい』

茜「おおっ!! やりますねぇありすちゃん!!」

真奈美『ふふ、二宮隊のオペレーターは戦闘中の情報支援以外でも仕事が出来るようだ。偉いぞ』

ありす『えっ……いえそんな、私なんて……えへへ』テレテレ



飛鳥「ふっ」ニマニマ

みく「飛鳥チャンニヤニヤして嬉しそうだにゃー」

藍子「分かります、チームメイトを褒められると嬉しいですよね」ニコ

飛鳥「えっ……あ、あぁ、そうだね」

比奈「(耳が真っ赤っスよ、飛鳥ちゃん)」クス
131 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:19:51.72 ID:VpKPXEPs0
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132 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:20:53.15 ID:VpKPXEPs0
真奈美『さて。さっきの一ノ瀬隊員の言葉だが、聞いての通り志希が強化嗅覚を使って感知した新田隊のそれぞれの位置を片桐隊に伝えた形だ。そして教えた位置が本当かどうかは、この解説席の後ろの各隊員の位置を示す大画面モニターを見れば分かる通りだ』

真奈美『そして音量は自動調節されている為分かりにくいが、息づかいと間の取り方、音割れの具合いから相当の大声だったと予測出来る。これが何を意味するか分かるか?』

茜「とっても気合いが入っていたのでしょう!! クールな志希ちゃんも早苗さんを相手にする時には気合いが必要という事ですね!! 私も解説として負けていませんよ!! マイクなんてなくてもモゴゴ」

ありす『うるさいです。……新田隊にも聞こえるように、という事ですね』

真奈美『その通り。片桐隊に新田隊の各隊員の位置を教えた事を大声で伝える事で、片桐隊には時間がない中での二択を強要し、新田隊にはコソコソさせずに無理矢理表へ叩き出させる。二隊同時にプレッシャーを掛けた』

茜「なるほど!! 流石志希ちゃんですね!!!」

ありす『片桐隊にとっては「逃げに徹する宮本隊員と一ノ瀬隊員を同時に相手取るか」と「胡散臭い一ノ瀬隊員の言葉を信じて新田隊を1人ずつ倒すか」の択、という訳ですね。しかもタイムリミットがある片桐隊長にとってはより効いてくるんじゃないですか?』

真奈美『そうだな。シールド技術がボーダー随一である宮本隊員は、守りに徹した場合相当立ち回りが硬い。そこに一ノ瀬隊員が加わっており、かつ時間制限がある今の状況でそこを攻めるのは精神的に相当キツいだろう』
133 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:22:43.59 ID:VpKPXEPs0
真奈美『更に先程スパイダーのトラップがあるのを見せつけられて、この2人を攻めるのは二重苦三重苦の状態。それにあの一ノ瀬隊員の事だ、それを四重苦、五重苦にもしてくるような策を用意している事は今までの経験からも百も承知だろう』

真奈美『一方新田隊をやる方の択を選んだとしても、教えられた位置がどこまでが本当なのか分からない。万一全て本当だったとしても、自然と速水隊の2人と新田隊に挟まれる形になる』

真奈美『かといって悠長にしていると、位置をバラされて新田隊側も余裕がなくなった今4人に集結され、手堅い新田隊長の事だからトリオン切れを待たれる守りの戦法を取られるだろう。やるなら今すぐに行くしかない』

真奈美『また、新田隊があの場から逃げる可能性もある。一旦点を取るのを諦め、速水隊と削り合わせて片桐隊長がいなくなるまで待ち、消耗した所を攻めるという作戦も全然アリだからな』

真奈美『だが、片桐隊としては新田隊に逃げられると得点源が減る。そうすると片桐隊の勝利は更に遠のく』

ありす『ほ、本当に究極の2択なんですね……』

真奈美『「時間がない」という片桐隊長の弱みを最大限に利用している。これは相手の強さや己の練度に左右されないという点においても効果的な作戦だ』

茜『……私、今の早苗さんの立場じゃなくてよかったです……!』プルプル
134 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:23:52.58 ID:VpKPXEPs0
真奈美『また、あの位置ばらし作戦を決行したタイミングも中々いやらしい。位置の真偽という不確定要素を含む以上、普通なら速水隊を攻める方を選び、新田隊が逃げない事に賭けるのが片桐隊長としては確実で太い択だったのだろうが、敢えて最初のタイミングでは仕掛けずに攻めさせ、トラップに上手く引っかけダメージを与え、結果片桐隊の攻撃は失敗した。つまり──』

ありす『つまり?』

真奈美『「──今速水隊を攻めるのは間違いではないのか?」という印象を片桐隊に与えた』

ありす『そこまで……』ゾクッ

茜「ち、知恵熱が出そうです……! IQが上がってしまうぅ……!」ガタガタブルブル

真奈美『ここまで長々と説明はしたが、一ノ瀬隊員にとっては多少時間を稼いで片桐隊長に精神的ダメージを与えられただけで十分なのだろう。一ノ瀬隊員の作戦は深く考察しようとすれば複雑怪奇だが、構造はシンプルだ。まぁ、だからこそ恐ろしいのだがな』



比奈「……なんか、ここまで来ると早苗さんが可哀想になってきたっス。や、真剣勝負だし仕方ないんスけどね」

菜々「ナナもです。はぁ、今日の飲み会は早苗さんの愚痴で長くなりそ……ハッ!」
135 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:25:35.83 ID:VpKPXEPs0
早苗「悠長に考えてる暇なんてないわ。新田隊の位置が嘘だった時に2隊に挟まれたら一巻の終わりよ。目の前のおてんば娘達をやる。リスクは高いけど勝ちを狙うならそれが1番確実でしょ」

1秒すら惜しいと走り出す早苗に、紗南が慌てて声を掛ける。

紗南『待っ……走りながらでいいから聞いて! あの大声は新田隊に「片桐隊(ウチら)にやられるかも」ってプレッシャーを掛けて炙り出す意図もあったはずでしょ? なら本当の位置じゃないと成立しなくない?』

紗南『それに、新田隊が逃げる可能性もある。そうなったら早苗さんが落ちた後、ウチらどこから点取るの? それこそはぁとさんがフレちゃんにキルされて終わりじゃん』

早苗「……!」

早苗は確かに、と納得した。もし志希が嘘の位置を教えていたのであれば、新田隊は動く必要が無い。結果、新田隊への揺さぶりは無意味となる。

早苗は焦燥から自分の頭が鈍っている事を痛感した。

心『そう思わせといて実は裏の択でしたって可能性は? ウチらに新田隊追わせといて速水隊は早苗さんが落ちるまで退避する狙いかもじゃん? 紗南ちゃんの言う通りはぁとじゃフレちゃん倒せないよ。それに美波ちゃんの性格上ここで逃げはないっしょ』
136 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:26:19.89 ID:VpKPXEPs0
紗南『そうしたところで新田隊の有利は動かないし、もしあたしらが速水隊を狙った場合に速水隊的にはディスアドでしかないじゃん? それにさっきまで速水隊が不利だったんだからそんな余裕は無いと思う。退避した先に新田隊が居て奇襲されるかもだし。リスクリターンの釣り合い考えたら、速水隊の行動は「新田隊の本当の位置を言う」がド安定だよ』

早苗「(確かに……。速水隊は変な作戦ばっかりやってる博打打ちの印象を持たれがちだけど、不利な状況ではちゃんとリスクの少ない安定感のある変な行動なのよね。案外博打は打たないのよ)」

早苗「(美波ちゃんの性格に関しては私も同意見ね。あの子インテリな優等生タイプに見えて案外ノリが体育会系なのよ。負けず嫌いだし、一度やられかけてるあたしやそのあたしを追い詰めた志希ちゃんを前にして逃げはないわね。それが美波ちゃんよ)」

雫『でも、じゃあどうして志希ちゃんは嘘を匂わせるような事をー……?』

紗南『択の内容を複雑化させる事で回答を遅らせて、時間を稼いでるんだよ。事実こうやって話が長引いて稼がれてるし』

心『えっ、ご、ごめんなさい』

心は時間が惜しいとばかりに早口で捲し立てる紗奈の語気に少しビビり、不用意な質問で時間を使ってしまった事を思わず素で詫びたが、紗南は特に気にしていない。

裏択の可能性の考慮は出て当然の疑問だと思ったし、その疑問を抱かせたまま2人を戦わせて集中を欠かせるよりはマシだと考えたからだ。

紗南は志希に片桐隊なら焦燥の中でもこれに気付けると信じられていた事に少し嬉しく思いつつ、そこまでが考慮の内だった志希に恐怖を感じた。

「作戦を立てるなら、相手の思考レベルも考慮に入れる」。これは昔、紗南がオペレーターとして1期先輩の志希に戦術指南を乞うた際に教えて貰った言葉だった。

紗南『あたしが出来るのはここまで。判断は任せたよ、隊長』

早苗「……」


残された時間は僅かばかり。早苗はこの試合最後の思考に入った。
137 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:27:42.94 ID:VpKPXEPs0
早苗「(紗南ちゃんの指摘で新田隊の方の択が太くなったわね。どっちを選んだ方がより試合に勝てるか……大事なのは試合全体の流れ)」

早苗「(まずあたしが時間切れになった時の事を考えなきゃね。あたしが落ちた後、残りは心ちゃんだけ。そうなったら格上アタッカーのフレちゃんが相当ツラい。ならフレちゃんはあたしが倒しとかなきゃダメよね)」

早苗「(でも、それをあの速水隊が分かってないはずがない。だからフレちゃんを大事にしてくる戦法を絶対に取ってくる。なんならあたしが落ちるまで一旦フレちゃんを避難させてくる事だって全然有り得るわ)」

早苗「(それに、この場がこの試合の主戦場になってて心ちゃんはそのド真ん中に立ってる。スナイパーもまだいっぱい残ってるし、ウチはほぼ生存点は取れないわね)」

早苗「(ならあたしが生きてる間に何とかフレちゃんを倒しつつ点を稼いで、その後心ちゃんには隠れて貰って他の隊の邪魔をしつつ時間切れまで粘るのが1番太い勝ち筋かしらね)」

早苗「(……いや違う! 新田隊が逃げてなくてかつ位置が正しいと仮定すると新田隊は各個撃破される事を警戒して集合してるはず。なら、あたしが落ちた後心ちゃんが3人(+スナイパー1人)集まった状態の新田隊に勝てる? いや流石に無理ね。あの子達はエース以外の2人でも、あたしに押されつつも渡りあった実力を持ってる)」

早苗「(それなら……新田隊を狙うフリをして表に引っ張り出して、あたしらと速水隊と新田の乱戦状態を作る。それを利用してフレちゃんを倒す! これよ!)」
138 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:28:31.18 ID:VpKPXEPs0
残り時間はとっくに1分を切っている。

早苗『──作戦は以上よ。その後の作戦はあたしが落ちてから伝えるから』

『『『了解!』』』

数秒で練り上げた作戦を素早く伝えた早苗。

早苗「(後は……あたしが勝負所で強いかどうかね)」

そして、早苗はフレデリカに目を遣る。

隙あらばこちらを喰わんとばかりに大きな碧眼が爛々と踊り、待ち構えている。

それを見た早苗の口は、ゆっくりと弧を描いた。

時間がないってのに、余計な時間を使わせてくれたわね。

でも、喰うのは私のほうよ!

と。
139 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:32:05.29 ID:VpKPXEPs0
今日はここまで。

それでは、おやすみなさい
140 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:43:08.09 ID:hMFTjfZN0
志希「(さて……。早苗さんは『どっち』を選んだのかにゃ〜?)」



矢のように駆け出した早苗。何かのトリガーを使ってるようには見えないのに、その場の誰もが少しだけ普段より速く感じた。

フレデリカ「……?」ジッ…

フレデリカは早苗の速度に違和感を抱き、静かに早苗を観察し始めた。

志希『あれ悠貴ちゃんのマネだよー。足裏トゲトゲ』

フレデリカ『あ、そっかぁ』

すぐに仕掛けに気付いた志希は、違和感を抱かせたままフレデリカを戦わせないように種明かしをした。双葉隊の乙倉悠貴がよく使う、足の裏に棘のような短いスコーピオンを生やし、陸上のスパイクのようにして滑りにくくする工夫だ。

トリオン消費を最小限にしつつ少しでも急ぎたいという事だろう。

そしてその早苗が向かった先は──

心「旋空弧月☆」

──堪らず姿を現した新田隊の方だ。
141 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:44:32.06 ID:hMFTjfZN0
フレデリカ「またシキちゃんの狙い通りだね〜」

志希「美波ちゃんなら出て来るよねー。これで早苗さんのタイムリミットまでフレちゃんを守り切れそ〜。そーだ、ヒマだからスパイダー張ってよっと」

フレデリカ「アタシはツカーズ・ハナレーズの位置でプレッシャー掛けてールネ!」

心はフレデリカと志希の煽りを意に介さず、その辺り数棟の建造物を何回も斬りつけて薙ぎ倒した。それらが轟音を上げて地面へと沈んでいく。

夕美「くっ!」ガラガラッ

唯「たぁっ!」タタタタンッ

美波「夕美ちゃん!」ギュンッ

心「(決断遅かったしやっぱ集合されてるか)」

瓦礫の雨に打たれながら転がり出る夕美を援護すべく、唯と美波もバックワームを解除して姿を現し、早苗に向かって牽制射撃をした。

夕美「やっ!」ダンダンッ

3人固まった位置から唯は左へ飛び出し、左足の裏から火花が出る勢いで急ブレーキし両手に持ったアサルトライフルからアステロイドを。美波はそのままの位置で右方向にハウンドを撃ち、夕美は正面から両手に構えたハンドガンでそれぞれ3方向から早苗を狙い、火力を集中させた。

早苗は傷口を塞ぐ為、常にスコーピオンを使用しているのでシールドは1枚しか張れない。その上早苗も心も遠距離攻撃を持たないので、反撃はないと踏んでの大胆な攻撃。

息ピッタリの、流れるような連携だ。
142 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:45:23.28 ID:hMFTjfZN0
心「よっ」ガキキン!

しかし、早苗に追走する心が早苗の走路から左斜め前方向へ逸れて美波のハウンドを引き寄せシールドでガード、もう1枚の遠隔シールドで唯のアステロイドから早苗を守った……がやはり2つのアサルトライフルから放たれるアステロイド、火力が高く心のシールドが貫かれる。早苗はそれを自身のシールドでガードした。

美波「(シールド硬い……!)」

そして1番弾幕が薄い正面の夕美のアステロイドを紙一重で躱し、美波の前に出た夕美と5メートルの距離まで迫る。

その瞬間タイミングを合わせて左右に飛び出し、早苗の背後を取ろうとした美波と唯は、心の旋空と早苗のマンティスに牽制され失敗に終わる。

唯「んもぉはぁとちゃん邪魔しないでっ!」

美波「押し通ります!」

早苗「そっち頼んだわよ!」

心「この2人同時に相手とかキッツ☆」

ギュンッ

心「おっと」サッ

心をイーグレットの弾が掠める。3人ですよと言わんばかりに文香も加勢する。


心は夕美と交戦する早苗の方をチラ見すると、美波達から一度距離を取った。
143 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:46:11.34 ID:hMFTjfZN0
数秒巻き戻り、早苗が夕美に迫り邪魔者が消え、一対一になった頃。

夕美「」スッ

早苗「!」サッ

夕美に右手の拳銃の銃口を向けられた早苗は反射的にその射線上から(夕美から見て右に)体を外したが、それはフェイント。避けた先に夕美の肘からスコーピオンが伸びる。

早苗「ん」ギィン!

しかし早苗はそれをスコーピオンの受け太刀で凌ぎ、右足の甲から脛に掛けて発生させたスコーピオンで足払いを掛ける。

早苗の足払いをジャンプで避けた夕美は早苗の額に視線を注ぎ、そこに右の銃口を向けた。

早苗は咄嗟に六角形のシールドを上半身を隠すように張ったが、

夕美「」スッ ダンッ!

それもまたフェイント。夕美は足元に左の銃口を向け、早苗の右足の甲をノールックで撃ち抜いた。

夕美「(やっぱり早苗さんの右手がない今は左からの攻撃が通りやすい! それに、この取り回しの良さがハンドガンの強さだよっ!)」ニヤ

早苗「やるじゃない!」

美波「上手いわ!」
144 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:47:16.55 ID:hMFTjfZN0
しかし、早苗もただでは転ばない。

早苗「だっ!」ガッ

夕美「あっ!」

早苗は下に向けられた夕美の左手を、足先を撃ち抜かれつま先が無い右足で蹴り上げてハンドガンを弾きつつ夕美のバランスを崩すと、すぐさま左手でよろめいた夕美の首目掛けて斬りかかった──

夕美「!!(シールド間に合って……!)」

──ように見えた。しかし、実際には早苗は腕を振っただけでスコーピオンを手から出していなかった。

早苗にとっては絶好のチャンス。夕美にとっては絶体絶命のピンチ。早苗の攻撃速度から考えると首を守るシールドが間に合うかどうかの瀬戸際。

そんな場面で、早苗は敢えて攻撃しない事を選んだ。その狙いは……。

早苗「」ガシッ

夕美「!?」

斬りかかるように見せかけた勢いそのままの、

早苗「でりゃあ!」ブンッ!

「掴み」からの「投げ」。
145 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:48:06.07 ID:hMFTjfZN0
投げられた先には速水隊の2人。

夕美「(私を美波ちゃん達と引き離すと同時に、フレちゃん達と挟まれないように私を足止め要員にするなんて……!)」

夕美は、再生成したハンドガンをしっかり握りしめて地面を見据え、着地に備える。

しかし────

夕美「っ!?」ガッ

着地の寸前、夕美は「何か」に足を取られ前のめりで倒れかけるが、スコーピオンを伸ばして杖のように使い、転倒を回避する。

フレデリカ「旋空」

夕美はフレデリカが孤月を振る動作を目の端に捉えた。

夕美「ッ!」

夕美は真上からのフレデリカの声に反応し、慌てて飛び退く。



その先にフレデリカがいた。
146 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:48:54.32 ID:hMFTjfZN0
フレデリカ「うそ♪」

夕美「わっ!!?」

旋空。その言葉は夕美に回避行動を取らせ、その隙を狩る為の嘘だった。フレデリカは志希の張り巡らせたワイヤーと己のグラスホッパーを併用して底上げされた機動力で行動を先読みし、背後に回り込んだ。

文香「」ビギュン

フレデリカ「!」サッ

夕美「くっ!」ザシュ

間一髪、文香のライトニングによる神速の一射がフレデリカを掠め、美しいブロンドが僅かに散った。

フレデリカは上体を反らせながら狙撃を躱しつつ、その勢いのまま下から夕美を斬り上げた。

フレデリカの斬撃は狙撃を避けながらの攻撃の為正確性を欠き、夕美の左の前腕を切断するに留まった。

美波『そっちに早苗さんが向かってるわ! 気を付けて!』

夕美『……! 了解!』


志希「(文香ちゃん、さっきから地味にいい仕事するね〜)」

繰り返すが、夕美が投げ飛ばされた先にいたのは総合3位のフレデリカと変幻自在の策略家、志希。

なんとか凌いだはいいものの、夕美の絶望的状況は依然変わりない。
147 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:49:31.59 ID:hMFTjfZN0
少し遡り、夕美が早苗に投げ飛ばされた直後。

美波「いけない──」

唯「やばっ──」

心「させねーよ☆」

美波達が夕美の援護に行かなければとそちらに意識を向けた瞬間、その隙を突いて心の旋空弧月が襲いかかる。

美波「くっ!」バッ!

唯「わっ!?」サッ

美波は伏せて躱しすぐさま夕美の援護へ向かったが、唯は飛び上がって躱した。

その判断も悪くはなかった。

しかし、絶対強者の前では1つの甘い判断が命取りとなる。

飛び上がった先には「見えない」早苗がいた。

メキィ!

唯「あうっ!」ドシャア

全身を回転させながら弓のようにしならせ、それにより生まれた全ての力を余す所なく右足に伝えた早苗の蹴りが唯の首の真芯を捉え、そのまま右足の軌道は弧を描き唯を地面に叩き落とした。

もし相手がトリオン体でなく生身だったなら、間違いなく首の骨が折れていた程の強烈な一撃だ。

美波「唯ちゃん! させな──」

早苗「遅いわ」ヒュッ

ザシュッ

警戒していたフリー状態の唯が早苗に投げられた美波をカバー出来た先程とは違い、完全に不意を突かれた美波は唯を助ける事が出来なかった。

『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
148 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:50:33.49 ID:hMFTjfZN0
早苗は、美波達が夕美に意識を向けた瞬間にカメレオンを発動していた。それを見た心は、「その目で」早苗の位置を確認しながら、そこに追い込むように旋空弧月を放った。

心は早苗に打ち込んだスタアメーカーにより、カメレオン状態でも早苗の位置が視覚的に分かる。それにより、お互い邪魔になりがちなカメレオン状態の味方との密な近接連携が可能なのだ。

しかし、美波達はもちろん事前の下調べで過去の片桐隊の戦闘ログを見ている。その連携方法を知らないはずはない。

それなのに綺麗に連携を決められてしまったのは、早苗の現在の状態に起因する。早苗は今トリオン体が激しく損傷しており、カメレオンでその傷口を塞ぎトリオン漏出を防いでいる。

そして、カメレオンは使用中、それ以外のトリガーを一切使用できない。よって、万が一透明化したとしてもトリオン漏出の煙がその位置を露わにするだろう。

これらの理由から美波達は早苗はカメレオンを積極的には使えないだろうと考え、無意識にカメレオンへの警戒度を下げてしまっていたのだ。

だが実際の所、早苗は武術に精通している為接近戦にさえしてしまえば煙やレーダーで大まかな位置がバレた所で闇雲な攻撃は喰らわず、打撃・投げ・拘束技のどれかは大概決まる。なので、トリオン漏出による位置バレは相手に近付きさえすれば大した問題ではなかった。

早苗にとって警戒すべきは距離を取っての面攻撃であり、レーダーを見て「この辺だろう」と当たりをつけた程度の近距離攻撃など恐るるに足らず。



体捌きが常人のそれとは格が違うのだ。
149 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:51:04.97 ID:hMFTjfZN0
唯『う〜、ごめんねみんな〜』チュー

ベイルアウトした唯は新田隊の作戦室で、申し訳なさそうにパックの100%オレンジジュースを吸っていた。
150 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:52:20.02 ID:hMFTjfZN0
早苗が唯からもぎ取った1点の代償は大きい。

『警告:トリオン漏出甚大 ベイルアウトまで 残り 29秒』

早苗は夕美からダメージを受け、カメレオンによりスコーピオンを強制解除されトリオン漏出が進行した事で残り時間が一気に減少した。

早苗「(さっさと決めないとマズいわね)」

点を取りいくらか精神的に余裕が生まれた早苗。だが────



清良『狙撃位置に着きました』

クラリス『こちらもですわ』



茄子『了解! 撃ちます!』

────休まる暇はない。
151 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:53:45.64 ID:hMFTjfZN0
ドドドドドン!

茄子の爆撃が射線を切っていた建物を砕き、射線を通した。

崩れ落ちる瓦礫から出る砂埃を突き抜けて来たのは、狙い澄ました2本の光。

清良「」ギュン

クラリス「」ビギュン

心「よっ!」サッ

フレデリカ「わお」サッ

清良は早苗を、クラリスはフレデリカを狙撃。しかし、茄子が射線を通す為に建物を爆破し注目を集めた方角からの狙撃であった為、難なく躱される。



当然狙いは別にあった。強力な早苗とフレデリカに圧力を掛けると共に、しばらく身を隠していた為に点が取れていない鷹富士隊の得点源にしたい新田隊を守る動きだ。

清良・クラリス両名の正確な狙撃により、美波と夕美はそれぞれ肉薄されていた心とフレデリカから距離を取る事に成功した。

美波「(鷹富士隊に助けられた……?)」

夕美「(ここが正念場っ!)」
152 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:55:10.77 ID:hMFTjfZN0
ありす『数分の間沈黙を保っていた鷹富士隊、ここで動いた! 漁夫の利を狙うつもりです!』

真奈美『片桐隊長と宮本隊員が敵に捕まるのを待っていたな。強者が接敵状態なのを期に横から丸ごと掻っ攫う気か』

茜「おおっ!!! 盛り上がって来ました!!!!!」



美波『早苗さん達を強引に突破して夕美ちゃんと合流します。文香ちゃん、夕美ちゃんの援護を続けながら私が早苗さん達を突破する瞬間だけこちらを援護出来る?』

文香『やります』

美波『ご……お願いっ』

唯がベイルアウトし、早苗と心という格上2人を同時に相手取るのは不可能。しかしこのまま夕美をフレデリカと志希2人の相手をさせるのも無謀。

今、夕美は応戦しつつフレデリカ達から挟まれないよう、建物などの遮蔽物や茄子の爆撃を上手く利用しつつ必死に立ち回っている。かなり苦しい状況で、いつ崩されてもおかしくない。

ならばと、美波は勝負に出た。

その援護を文香に出来るかと訊ねた時、文香からは自信に溢れる「出来ます」でも自信なさげな「やってみます」でもなく、「やります」と帰ってきた。

その短い一言から美波は文香の覚悟を感じ取り、口から出かかっていた謝罪の言葉を飲み込んだ。

美波「美波、行きます!」

心「ごめん作戦変更☆」

美波「えっ!?」

早苗は唯を倒し、清良の狙撃を躱してから2秒ほど美波を視線で牽制しながら清良達を警戒していたが、とうとう美波に背を向けた。

心も同様。いや、若干心が早苗の前に出ているだろうか。

向かう先は、フレデリカ・志希が夕美を追っている所だ。

美波は出鼻をくじかれた事に若干不満を抱きつつすぐさま追う。同時にフレデリカ達の相手で手一杯であろう夕美に注意を促す。

美波『そっちに早苗さん達が向かってるわ! 気を付けて!』

夕美『……! 了解!』

早苗『紗南ちゃん、残り時間をカメレオン状態基準に切り替えて』

紗南『! 了解』
153 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:56:05.53 ID:hMFTjfZN0
それまでは、スコーピオンでトリオン漏出を抑え、かつ消費の激しいカメレオンを使っていない状態を基準としたカウントダウンだった。

紗南は早苗がここで勝負に出たと悟り、素早く表示を切り替える。

『ベイルアウトまで残り 15秒』

次の瞬間、早苗の姿が消えた。

「「「「「!!!」」」」」


早苗「(ここで決める)」


それにより、その場にいた片桐隊と文香以外の誰もがそちらに一瞬注意が逸れた。

夕美「(早苗さん!? そんな……!)」

フレデリカ「(なになに? 早苗さん来ちゃう?)」

志希「(ふむふむ)」

フレデリカと志希は夕美を攻めつつ、意識を半分程片桐隊に割いた。

心「旋空弧月☆」

心の放った旋空は、寸分違わずさっきまで夕美の首があった場所を通過した。

夕美「くっ!」

夕美は辛うじて避けたが、フレデリカ達に攻撃を受けていた所を狙われたせいで体勢を大きく崩された。

『ベイルアウトまで残り 12秒』

早苗「(集中)」

早苗の姿はまだ見えない。しかし、レーダーにはその位置がはっきりと映っている。フレデリカ達から見て心の後ろだ。
154 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:57:33.26 ID:hMFTjfZN0
心「」サッ

「「「!!」」」

旋空を放った直後、心は右に一瞬目を遣りながらおもむろに夕美への道を開けるように左へ大きく動いた。それにより、早苗と夕美の間を遮るものがなくなった。

夕美「(来る!)」

夕美は早苗の襲来に身構えたが、

夕美「……?」

来ない。

ならどこに?

レーダーを見る。

一瞬見えた早苗を示す光点が消えた。

バックワームだ。

レーダーから目を離し、周囲を見渡す。

またいない。今度はカメレオン?

レーダーを見───

フレデリカ「ッ!!」

早苗「こっちよ」パパッ

奏『グラスホッパー……!』

姿を現したのはフレデリカの方だった。
155 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:58:51.88 ID:hMFTjfZN0
心の挙動から早苗が夕美を狙うと思っていて、かつバックワームとカメレオンを高速で切り替える早苗に意識がレーダーと目視で右往左往していたフレデリカは、完全に意表を突かれた。

だが、「完全に意表を突かれた」だけならばフレデリカはすぐさま反応し早苗の攻撃すら捌いていただろう。

攻撃をせずとも、防御に徹していればあと数秒で早苗は落ちる。数秒間早苗の攻撃を近距離で凌ぐ程度、フレデリカにとっては容易い事だ。

しかし、この瞬間フレデリカにはほんの僅かな隙があった。

その布石はもっと前。志希が片桐隊に究極の2択を迫った時からだ。その時片桐隊は悩みに悩み、貴重な時間を考察に割いてまで考え抜き答えを出した。

その答えは、「新田隊」だった。

つまり、フレデリカは「片桐隊は新田隊狙いと決めた」という印象を植え付けられた。

片桐隊は新田隊とのコンタクトの後もしっかりと新田隊からポイントを取り、新田隊狙いの印象を強めた。

志希が択を押し付けてから今までの間、アドバンテージは常に速水隊にあった。

寸前の心の「夕美への直線上から退く」という行動も、時間のない早苗の状態とマッチしていて違和感はない。

ただ、これは片桐隊が苦し紛れに打った布石だ。

倒せたかもしれない夕美をわざわざこちらへ投げて寄越した点や、早苗が夕美を攻撃するつもりなら心は最初から邪魔になる位置にいる必要はなかった点など、散りばめられた僅かな違和感にフレデリカが気づけなかったのは事実。

片桐隊が選んだ択は最初から決まっている。「新田隊を引きずり出し、かつフレデリカを倒す」、この1点のみ。

しかし、フレデリカもアタッカーとしては達人の域。敵が来れば考える前に体が動く。そのレベルまで体を慣らしている。

マスタークラスの美波ですらギョッとしてしまうであろう奇襲も、フレデリカは「なんだアタシか〜」くらいのものだ。

片桐隊の死力を尽くした布石を、「一瞬の隙」に押さえ込んだ。

並のアタッカーなら「隙」とも認識出来ないレベルの「隙」。



しかし、早苗はその僅かな隙をこじ開ける。
156 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 22:59:41.87 ID:hMFTjfZN0
早苗は極限状態にありながらも攻撃のタイミングをしっかりと計り、ほぼ隙のないフレデリカへと完璧に攻撃を差し込んだ。

早苗は、追い込まれる程真価を発揮する。
背水の陣に己を追い込み、極限まで集中した早苗のこの一撃はこの試合で最も鋭く、最も雑念が排除された純粋な刃だった。

フレデリカ『ごめん☆』

フレデリカは己の負けを悟った。
157 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:01:26.19 ID:hMFTjfZN0
しかし志希は違った。



志希「『韋駄天』」

志希は韋駄天の超高速移動でフレデリカと早苗の間に体を滑り込ませた。


早苗「」ヒュカッ


志希は、アンダーバストの辺りから胴体を横薙ぎにされた。


早苗「!」ハッ

極限まで集中していた早苗は、志希を斬った事実に数瞬後に気付いた。

『ベイルアウトまで残り 4秒』

早苗「まだ終わってないわ!」

志希「『メテオラ』」

ボボボボッ

志希はベイルアウトするまでの僅かな時間、韋駄天を使う前から己の背後に展開し隠してあったバイパーを、口ではメテオラと言いながら己の体を貫通させる直線経路で撃ち出してきた。

フレデリカ「旋空」ヒュ

更にその向こうでは、志希がもう助からないと悟ったフレデリカが志希ごと早苗を斬り裂くべく旋空弧月の構え。

早苗「バイパーでしょ!!」パッ

早苗はグラスホッパーで上へ逃げた。

志希「シールド張んなかったかー。よく反応出来たねー」
158 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:01:57.31 ID:hMFTjfZN0
そう、志希は違ったのだ。

志希は片桐隊の違和感に気付いていた。片桐隊の真の狙いも。

しかし、フレデリカが志希の導き出した結論に至っていないという事には気付けなかった。

フレデリカも当然気付いているものと思っていた。

だから、志希はフレデリカにそれを伝えなかった。



今回の試合、志希の唯一のミスだ。



『トリオン器官損傷 ベイルアウト』
159 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:03:13.70 ID:hMFTjfZN0
ここで志希が脱落。

早苗「」ブゥン

早苗はカメレオンを起動した。

残り時間は3秒。

早苗「(この1秒間カメレオンを使ってあたしの動きから狙いを読ませないようにする)」

早苗「(次の1秒で近付いて投げ・拘束・打撃のどれかをその状況を見て反射で決める。最後の1秒で──)」


早苗「(──仕留める)」


フレデリカはすぐに防御に入る。旋空弧月のモーションのせいで対応が遅れ、テレポーターでの回避は間に合わない。

残り2秒。

早苗「(さぁ、これがラストチャ──)」



ドンッ



────まさかの、透明化状態へのヘッドショット。

『戦闘体活動限界 ベイルアウト』

清良『早苗さんを仕留めました。攻勢に出ましょう』

茄子『はいっ!』

決めたのは、最強のスナイパー。
160 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:03:50.70 ID:hMFTjfZN0
──片桐隊作戦室──

早苗「わっ」ドサッ

紗南「……あちゃー」

早苗「ちょっと紗南ちゃん! あと2秒って表示されてたのに時間切れになっちゃったじゃない! しっかりしてよね!」プンプン

紗南「いや、今のは清良さんのヘッドショットだよ」

早苗「……は? 嘘でしょ? だってあたしさっきカメレオン使って」

紗南「ごめん集中させて」

早苗「……うん。ごめんなさいね」

紗南「大丈夫。ありがとう。お疲れ様」

早苗「(フレちゃん、倒せなかったわね)」

早苗「(……悔しいわ)」

雫「早苗さん、牛乳飲みますかー? 私が搾ったものなんですけど、良かったらー」

早苗「……ありがと、いただくわ!」ニコッ
161 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:04:18.09 ID:hMFTjfZN0
──速水隊作戦室──

志希「わふ」ドサッ

奏「お疲れ様。凄かったわ」

志希「おっつー♪ 早苗さん落ちた?」

奏「清良さんに横取りされたわ」

志希「うそー!? んーでも清良さんならそれくらいやるか。でもどうやって?スッゴイ気になる! ね、ログ見ていーい?」ウズウズ

奏「ダメよ。後にしなさい」

志希「むー。はぁーい」

奏「まだ貴女の仕事は終わってないわ。今度はここで頭脳労働よ」

志希「りょーかい♪ 隣座るね〜」ギシ
162 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:07:49.31 ID:hMFTjfZN0
ありす『な、なんと! 鷹富士隊の柳隊員、カメレオンで透明化していた片桐隊長を狙撃! ヘッドショットで仕留めてしまいました!』

茜「うえぇぇえぇぇぇ!!?!!?!?」

ありす『うるさいです』

真奈美『……』ポカーン


みく「しまいました! じゃないにゃ! なにあれ!? あんなの変態にゃ! 変態スナイパーにゃ!」

菜々「こぉら。みくちゃん、女の子が変態変態言うものじゃありませんっ」メッ

比奈「いやぁ、あれは紛れもない変態っスよ」

飛鳥「違いない」

藍子「あはは……」
163 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:08:32.21 ID:hMFTjfZN0
ありす『あ、あの……お気持ちは分かりますが、解説をお願いします。木場隊長、柳隊員はどうやって狙撃を成功させたのですか?』

真奈美『あぁ、済まない……あのレベルのスナイパーの技術的な面や感覚に関しては理解の外なので説明出来ないな。……はぁ、彼女はとんだ解説殺しだよ』

ありす『木場隊長はカメレオン状態の片桐隊長に旋空弧月を当てている記録があります。その感覚を交えて、推測で構わないのでお願い出来ますか?』

真奈美『そうか、そうだな……。片桐隊長はカメレオンとグラスホッパーを時間差で起動する事で併用する手段をよく使う。なので何百回と戦っていれば、グラスホッパーを踏むタイミングや踏んだ後の動きを読んで動線を斬るイメージで旋空を放てば当たる事もある』

真奈美『……柳隊員はそれを使うと読んだ上で、あの状態の片桐隊長が上へ逃げる事を読み、更に日頃から片桐隊長が使うグラスホッパーの飛距離を普段からよく観察し知った上でその速度や最高到達点を読み切り、天才的な勘と技術で当てたとしか……』

ありす『偏差射撃の極地とも言える神業ですね……』

真奈美『片桐隊長は極限まで集中を高めていた。故に生半可な攻撃は反射で躱せただろう。あの一射は完全に意識の外からの攻撃だった。あれは私も躱せる気がしないよ』

真奈美『……浅い解説で済まない。私にはここが限界だ。悪いが気になる者は各々本人かスナイパー上位勢に訊いてくれ』
164 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:14:46.20 ID:hMFTjfZN0
undefined
165 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:16:01.69 ID:hMFTjfZN0
ありす『い、一ノ瀬隊員が片桐隊長の宮本隊員狙いを読み切ったのは何故でしょう?』

真奈美『恐らく、宮本隊員を倒さないと片桐隊が試合に勝てないからだと思う。片桐隊長は自分が落ちた後の戦況を考え、残り時間の少ないあの状況では宮本隊員を狙うしかなかった。一ノ瀬隊員はそれを読んだ』

ありす『なるほど。片桐隊長が目の前の新田隊長を見逃してまで宮本隊員を倒しに言ったのもその為ですね』

真奈美『その通りだ。時間の無さもあるが、貪欲に1位を狙いに行った結果だろう。片桐隊はそういうチームだ』

ありす『もしあのまま片桐隊長が落ちていれば、得点は速水隊に入っていたんですか?』

真奈美『そうだな。通常自殺はペナルティだが、審議の結果戦略的と判断されればその限りではない。今回の場合はそのまま行けばレッドバレットを撃ち込み自傷の原因となった一ノ瀬隊員のポイントとして処理されるはずだった』

ありす『なるほど、ありがとうございます』

茜「しかし、志希ちゃんは落ちる最後の1秒まで仕事をしましたね!! 私も見習いたいです!!」

真奈美『ふふ、そうだな』

茜「ふーむ! 流石A級の試合、私も学ぶ事が多いですね!!」

茜「…………むむむ」ジー

ありす「……?」
166 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/17(金) 23:17:12.02 ID:hMFTjfZN0
今日はここまで。
もしかしたらこのss誰も読んでないのかも…

167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/04/18(土) 00:08:36.65 ID:cGWIlyYoO
乙です!読んでますよー!
前回ののあさんの変態狙撃を越える変態狙撃とは流石スナイパー1位…
168 : ◆AXT/uuswxI [saga >>164の分です]:2020/04/20(月) 17:21:25.70 ID:atZJrtOA0
比奈「やー、あんなの上位勢でも頭捻るんじゃないっスかね」

菜々「そうですねぇ」

飛鳥「……ちなみに菜々さんはあの狙撃はどうやって決めたのだと思う?」

菜々「ナナは狙撃技術に関しては明るくないので分かりませんが、あの状況まで追い込まれた早苗さんは絶対に『研ぎ澄まされた最高の動き』をすると清良さんは知っていたんだと思います。いえ、『最高の動き』をするしか無かった。そうしなければフレちゃんは倒せません」

菜々「それは一切無駄のない動きです。何年もかけて最適化された、これ以上ない動き。つまり──」

菜々「──『一定の動き』」
169 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:22:17.16 ID:atZJrtOA0
菜々「そして、清良さんは早苗さんの『最高の動き』を知っています。清良さんは早苗さんが絶対にフレちゃんを倒せる鋭さの動きをすると同じボーダーの仲間として『信じていた』からこそ、清良さんは早苗さんに弾を当てる事が出来たんだと思います」

菜々「つまりランク戦でのライバルとして徹底的に調べ上げた『観察眼』と『努力』、スナイパー1位としての並外れた『技術』、仲間としての『信頼』。このいずれか1つが欠けても成し得なかったとナナは思ってます」

一同「「「……」」」ポカーン

比奈「アチャー……」

菜々「……ってア゛ッ!!? いや、これはですね!? えっとその私も古株ですし友人としてって言いますかお父さんがプロ野球観戦の時に野次る素人がやりがちなアレと言いますか」アタフタ

真奈美『……拙い解説の補足をありがとうございます、菜々さん。私もまだまだ至らぬ身、これからも精進します』ペコリ

ナナサンスゴーイ! ザワザワ…!

菜々「ヴッ……」ピクピク

比奈「……飛鳥ちゃんどこまで知ってるんスか?」ヒソヒソ

飛鳥「フフ、菜々さんの隠し事かい? この間夜遅くに基地内を歩いていたら、たまたまこっそり射撃訓練している所を見てしまってね。どこまでと言うのなら、『何を』隠してるかは知ってるが、『何故』隠してるかは知らないよ。とはいえ、ボクはただ菜々さんに話を振っただけだ。悪意はないよ」ヒソヒソ

比奈「はぁ……菜々さんの自爆グセは飛鳥ちゃんも知ってるでしょうが」

飛鳥「さて、なんの事やら」クス
170 : ◆AXT/uuswxI [saga ここから続きです]:2020/04/20(月) 17:23:22.67 ID:atZJrtOA0
ありす『い、一ノ瀬隊員が片桐隊長の宮本隊員狙いを読み切ったのは何故でしょう?』

真奈美『恐らく、宮本隊員を倒さないと片桐隊が試合に勝てないからだと思う。片桐隊長は自分が落ちた後の戦況を考え、残り時間の少ないあの状況では宮本隊員を狙うしかなかった。一ノ瀬隊員はそれを読んだ』

ありす『なるほど。片桐隊長が目の前の新田隊長を見逃してまで宮本隊員を倒しに言ったのもその為ですね』

真奈美『その通りだ。時間の無さもあるが、貪欲に1位を狙いに行った結果だろう。片桐隊はそういうチームだ』

ありす『もしあのまま片桐隊長が落ちていれば、得点は速水隊に入っていたんですか?』

真奈美『そうだな。通常自殺はペナルティだが、審議の結果戦略的と判断されればその限りではない。今回の場合はそのまま行けばレッドバレットを撃ち込み自傷の原因となった一ノ瀬隊員のポイントとして処理されるはずだった』

ありす『なるほど、ありがとうございます』

茜「しかし、志希ちゃんは落ちる最後の1秒まで仕事をしましたね!! 私も見習いたいです!!」

真奈美『ふふ、そうだな』

茜「ふーむ! 流石A級の試合、私も学ぶ事が多いですね!!」

茜「…………むむむ」ジー

ありす「……?」
171 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:24:08.56 ID:atZJrtOA0
清良『早苗さんを仕留めました。攻勢に出ましょう』

茄子『はいっ!』

亜里沙『まぁ! 清良さん流石です!』

鷹富士隊、エースの鼓舞に応えられない者が1人。

クラリス「きゃっ!」

クラリスは立体駐車場内部でアイビスを抱えながら車に背を預けていた。そこを車ごと美嘉のメテオラで吹き飛ばされ、勢いよく地面を転がった。

美嘉「ごめんねクラリスさん。ここで終わりだよ」

美嘉はジリジリとクラリスを追い詰めていた。

奏は鷹富士隊が姿を現した段階で、その近くに居た美嘉と周子をそちらに向かわせていた。フレデリカ達の邪魔をさせないよう、裏から鷹富士隊を潰す狙いだ。

なお、まだ周子は姿を見せず機を窺っている。

美嘉は攻撃をする毎に遮蔽物となる車を吹き飛ばし、クラリスを徐々に駐車場の角に追い詰める。

一手毎に確実にクラリスの負けが近付いていた。
172 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:25:39.03 ID:atZJrtOA0
クラリス「くっ……!」

亜里沙『クラリスさんが美嘉ちゃんに奇襲を受けています! 援護を!』

清良『すみません、こちらからは射線が通りません』

茄子『清良さんは引き続き向こうの戦場を、出来ればフレちゃんを狙って下さい!私はクラリスさんを援護します!』

清良『了解。茄子ちゃんはクラリスちゃんのいる立体駐車場の上を吹き飛ばして下さい。クラリスちゃんは周子ちゃんを釣る動きを。おそらく私達は周子ちゃんの射程圏内に入っています。位置をあぶり出しましょう』

クラリス『了解』

茄子『了解!』
173 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:27:14.51 ID:atZJrtOA0
車のフロントガラスに光が反射し、美嘉の目を眩ませる。

ズンッ

美嘉「!?」

次の瞬間、立体駐車場の屋上が大きく欠けた。

美嘉とクラリスがいる階は最上階。上がガラ空きになった。

降り注ぐ瓦礫の雨から両腕で体を守りながら、美嘉はクラリスを見遣る。

美嘉「っく……。早めにクラリスさん落とさないと──」

焦る美嘉の「真上」に、茄子の適当メテオラが落ちてくる。

美嘉「くっ!」
174 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:28:51.83 ID:atZJrtOA0
美嘉『茄子さんの爆撃が邪魔で仕留めきれない! 周子ちゃんどっちか撃てない? 射線通ったでしょ』

周子『撃てるけど今はなんか撃ちたくないな〜。スナイパーの勘ってやつ?』

美嘉『……どういう事?』

周子『ん? ん〜……。ごめん、あたし感覚派だから説明しろって言われるとよく分かんないや』

美嘉『……ん! オッケー、その分後で仕事してよね!』

周子の適当な説明に美嘉は腑に落ちない様子。だが、美嘉は周子の事をチームメイトとして心から信頼している。周子の言っている事は理解出来なかったが、周子なりの理由があるのだろうと自分を納得させた。

周子『ん』

奏『美嘉』

そこに、奏が助け舟を出した。

美嘉『!』

奏『鷹富士隊視点では周子以外のスナイパーが出尽くしてる点、フレデリカ達の戦闘に周子らしきスナイパーが介入しなかった点を踏まえると周子は鷹富士隊を狙ってると考えるはずよ。スナイパーをスナイパーで抑えるのは基本戦術の一つだもの』

志希『その上でわざわざ向こうから射線を通して来たって事は、クラリスさんを囮に周子ちゃんを釣り出したいのかも〜。鷹富士隊的には美嘉ちゃんと周子ちゃんさえどうにかすればあっちの戦場を横から撃ち放題だし。でしょ、周子ちゃん?』

周子『あ、言われてみればそんな事考えてたかも』

美嘉『そっか、位置がバレてない有利を大事にして初撃で決めたいって事ね。オッケー、納得した。んじゃアタシは引き気味の立ち回りでいいんだね』

志希『そそ。ま、鷹富士隊もこのまま膠着状態だとポイント差で負けちゃうからどっかで動いて来ると思うよ〜。そこをシューコちゃんお得意のカウンタースナイプでもいーし、なんなら死なない程度に適当に相手してればフレちゃんが点差広げて勝ってくれるよ』

周子『なるほど。あたしは鷹富士隊に適当に嫌がらせしても美波ちゃんや心さんに遠くからチクチク撃っても仕事した事になる、楽で美味しいポジションな訳ね』

奏『こっちは大忙しよ。羨ましいわ』

美嘉『こっちもだよ! 茄子さんのメテオラマジで外れないんだから』

周子『はいはいふぁいとー』

美嘉『もーっ!』
175 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:29:43.37 ID:atZJrtOA0
話が一区切り着いた所で、奏は周子に個人で通信を繋いだ。

奏『周子。あなた説明面倒だから省いたでしょ。あまり美嘉の信頼に甘えちゃダメよ』

周子『そこはほら、奏ちゃんや志希ちゃんへの信頼に甘える事でバランス取ってるからさ〜』

奏『……あなたって人は。本当、悪い女誑しね』

176 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:31:22.58 ID:atZJrtOA0
クラリス「(茄子ちゃんのお陰で倒されはしないけど、美嘉さんの弾幕と立ち回りが硬くて脱出出来ない……!)」

美嘉「(じゃ、ちょっと揺さぶろうかな。今のお互いの状況は……)」

周子の意図を理解した美嘉は自分1人で出来る事がないかと思案し、実行に移した。

美嘉「今っ!」ジャキ

クラリス「(……? どこに銃口を向けて……っ!?)」

ドォン! ドォン!

美嘉の放った無分割メテオラがビルの真ん中辺りに直撃し、その上が崩落し始めた。

クラリス「まさか!?」

美嘉が壊したのは、とあるタワーマンションと茄子を結ぶ直線上に位置していたビルだ。

まるで「射線を通した」ような行動。

茄子「っ!」バッ

たまらず回避行動を取る茄子。

茄子「……!?」

しかし、タワーマンションに周子はいなかった。
177 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:33:43.72 ID:atZJrtOA0
美嘉「(爆撃が止んだ!)」ダッ!

すかさずクラリスへと疾走する美嘉。

クラリス「」ダンッ!

しかしクラリスも黙って美嘉に落とされる女ではない。走りながらのスコープを覗かない車越しの狙撃は正確に美嘉へと飛んで行ったが、美嘉のエスクードに阻まれる。

クラリスは美嘉が顔を出した瞬間撃ち抜けるよう構えたが、美嘉はエスクードから出てこなかった。

クラリス「(……? 動かな──)」

キラッ

クラリスが訝しんだ瞬間、左目の端で光を捉えた。

クラリス「横からっ!? 避け──」ドッ

クラリスは右に躱そうとしたが、先程まではなかったはずの壁に阻まれた。

クラリス「(エスクード!? いつの間に……!)」

美嘉「終わりだよ、クラリスさん」ガチャ!

クラリスは美嘉のアステロイドに貫かれ、蜂の巣にされた。

『トリオン体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』

志希『ひゅー』

周子『やっるぅ♪』

奏『あら、引き気味に立ち回るんじゃなかったの?』クス

美嘉『倒されるリスクを抑えながら立ち回るのが「引き気味に」でしょ★ どっか危なっかしかった?』キメッ

奏『……ふふっ。いいえ、全く』

フレデリカ『わぁおカッコイー! さっすがカリスマギャル!』
178 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:34:12.00 ID:atZJrtOA0
余談ではあるが、速水隊の特徴として戦闘中の雑談が多い事が挙げられる。

一見無駄で不真面目なようだが、これにより戦闘行為中での並列処理能力・思考力が鍛えられると共に、常に熱くなり過ぎず余裕を持った立ち回りが可能になる。

またどんな状況でも冷静な精神状態をキープし、任務時においても迅速な報告・情報伝達が出来るのだ。

更にチーム内のコミュニケーションを増やす事で、チームワークの向上や戦術思考の相互理解にも繋がっている。それにより、ランク戦での流れるような連携が可能なのだ。


……というふうに、以前美城司令に「お前達は内部通信すらやかましいのか」と叱られた時に言い訳をしていた奏であった。
179 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:35:10.91 ID:atZJrtOA0
──鷹富士隊作戦室──

クラリス「きゃっ」ドサッ

亜里沙「クラリスちゃん、お疲れ様。冷蔵庫に肉まんあるけど食べる?」

クラリス「……いただきますわ」

茄子『あ、クラリスさん!私の分の肉まん残しといて下さいね! 清良さんの分は食べていいですから!』

清良『茄子ちゃん?』

クラリス「……♪」ワクワク

チーン!

クラリス「あひゅい! はふはふっ」
180 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:36:55.11 ID:atZJrtOA0
ありす『城ヶ崎隊員、エスクードに隠れて視線を切りクラリス隊員に近い位置の車の陰にテレポーターで瞬間移動、そのままクラリス隊員を撃破しました!』

茜「素晴らしいですね!!! 見事なカウンターです!! 車だらけの状況を上手く使って、相手の意識をズラしてのアステロイド!! 更に逃げ道を塞ぐエスクード!! いやー抜かりない!!お見事です!!!」

真奈美『あのビル破壊は良い手だ。「塩見隊員の位置が分からないが確実に近くにいる」という鷹富士隊が握る情報を最大限に利用してきたな。これが『塩見隊員の位置が分からない』ではダメだった
。流石城ヶ崎隊員、視野が広い』

ありす『塩見隊員の位置が分からないからこそ、鷹富士隊長はタワーマンションからの狙撃を警戒せざるを得なかった。潜伏状態の味方スナイパーまで利用するとは……驚きました』

茜「美嘉ちゃんは視野が広く機転も利いて、安全策も型破りな策もなんでもこなせる万能型ですね!! いるだけで速水隊というチームの安定感がぐっと増している感じがします!!!」


ありす『こほん! さて、ここでポイントを整理しましょう。モニターをご覧下さい』




片桐隊 2pt (一ノ瀬志希 大槻唯)
速水隊 2pt (及川雫 クラリス)
鷹富士隊 1pt (片桐早苗)
新田隊 0pt ()

─────────────────────

生存者

片桐隊 佐藤心
速水隊 宮本フレデリカ 塩見周子 城ヶ崎美嘉
鷹富士隊 鷹富士茄子 柳清良
新田隊 新田美波 相葉夕美 鷺沢文香

181 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:37:57.21 ID:atZJrtOA0
茜「片桐隊と速水隊が並んでますが、生存者の差で速水隊がかなり有利ですね!!」

真奈美『この試合、一ノ瀬隊員の活躍もあって序盤の流れが片桐隊にとって完全に向かい風だったからな。しかし、まだどの隊にも勝機はある。チームの地力と隊長達の采配が試される場面だ』
182 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:47:26.76 ID:atZJrtOA0
フレデリカ『ねーねーシューコちゃん、今アタシの方に射線通る?』

周子『電波塔の上の方にいるから割とどこでも通るよ〜。1番高い建物だから全員の上取ってるし。建物内部とかには壁抜きしない限り無理だけど』

フレデリカ『りょーかい! じゃあもう少ししたら援護お願いするかも! 骨は拾ってね♪』

周子『いや死ぬ前に助け求めんかい。いつでもええよー』

フレデリカ『らびゅー♪ んっちゅ!』

志希『んルルルァビュー♪』

周子『巻舌』

フレデリカ『タン塩☆』

志希『たんしおみ〜』

周子『うっさいあほ』

美嘉『緊張感っ!』

奏『ムダよ』

美嘉『……でも大丈夫? 周子ちゃんの位置バラしちゃって』

周子『まーいいんじゃない? あたし的には美嘉ちゃんがクラリスさん落とした時点でしばらく鷹富士隊には手を出すつもりなかったし。要所での美嘉ちゃんアシストの為の潜伏だったから』

フレデリカ『だいじょぶだいじょぶ♪ シューコちゃんが取る予定だったポイントは──』


『アタシが取るから♪』
183 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:52:04.75 ID:atZJrtOA0
考案した策を内部通信に乗せて飛ばしながら、フレデリカは新田隊や心と激闘を繰り広げていた。

フレデリカは志希の作ったスパイダー地帯を中心に立ち回り、様子を見つつ新田隊や心を上手くいなしていた。トリオンを温存しつつ、機を見て鋭く反撃する事でジリジリと敵のトリオンを削っていった。

しかし両者ともそれを黙って受け入れる程甘くはない。心や夕美がスパイダーを少しずつ切断し、段々とフレデリカが不利な状況に傾きつつあった。

新田隊も心も、お互いにフレデリカを倒してからお互いを相手した方が分がいいと判断したのだろう。フレデリカは集中的に攻撃されていた。

更に先程から手が空いた茄子がこちら側の戦場に爆撃を仕掛けて場は大荒れ、混乱状態に発展していた。


心「(フレちゃん以外から適当に点取って逃げ切りも考えたけど、点差的にも物理的にもフレちゃんから逃げ切るの無理ぽいよなー。新田隊まだ0点だし、最悪フレちゃん向こうに取られても痛くないからその後で新田隊やるか。てか1人まじキッツ☆)」

紗南『心さんごめん! 難しい事は言わないからスナイパーの狙撃は全部避けてそこにいる敵全員倒して!』

心『おい無茶言ってんぞ☆』

早苗『心ちゃんなら大丈夫よ! そうだ、もし後2点取ってくれたら今夜の飲み会はあたしのオゴりよ!』

心『やってやんよちくしょうめ☆』

紗南『あ、大人だけズルい!』

夕美「(倒し切れない……! 茄子さんのメテオラで場が荒れてる今がチャンスなのに!)」

美波「(もう少し……)」

皆が爆撃を凌ぐ為に防御寄りの立ち回りになる中、最初に動いたのはフレデリカだった。
184 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:57:08.02 ID:atZJrtOA0
フレデリカ『周子ちゃんお願い♪』

周子『はいよー』ダンッ ダンッ

夕美「! 周子ちゃん?」サッ

心「そこか☆」ガキン

やはり遠距離からの狙撃、10000pt越えの強者たる2人には反応されてしまう。

フレデリカ「あでゅー♪」ギュン

「「「!!」」」

当然そんな事は想定内。周子が敵の動きを止めた一瞬のスキを突き、その場から離脱した。

心「マジかよ! 真奈美ちゃんから逃げ切ったフレちゃんどーやって捕まえんのさ」

美波「(フレちゃんが逃げた方向は……鷹富士隊がいると思われる方向! さっき向こうで誰かがベイルアウトしたから戦闘があったと考えるべき。つまり美嘉ちゃんと合流が目的!? いけない!)」

美波は誰かがベイルアウトした地点にフレデリカが合流しようとしている事から、やられたのは清良かクラリスと推測。周子の位置は今確認出来たので、美嘉の位置も特定した。

美波「(美嘉ちゃんと合流されたらほぼ負けが確定しちゃう……!)」

心、美波、夕美、文香が一斉にフレデリカを狙い撃つ。
185 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 17:59:30.53 ID:atZJrtOA0
フレデリカ「準備おっけー♪」キィン フッ

疾走するフレデリカ。トリオン弾の群れが彼女に直撃する寸前、グラスホッパーを前方数十メートルの位置に設置してからテレポーターを起動し回避。

フレデリカ「」パッ

瞬間移動先ドンピシャの位置に設置していたグラスホッパーを踏み横飛び、直角に方向転換した。

心「お、勘当たった☆」

心だけはフレデリカの逃走経路を直感で読み切り、最短距離で追い詰めていた。

この試合がA級ランク戦の初戦である新田隊と、何度も戦いお互いをよく知る心との経験の差だ。

ドゴォ!

フレデリカ「きゃっ!?」

更に茄子のメテオラが運良くフレデリカの行く先数メートルに着弾、フレデリカは雪で地面が滑りやすくなった影響もあって大きく体勢を崩し、地面を転がった。

心「旋空ぅ」バッ

当然そんなチャンスを見逃す心ではない。軽く飛び上がり、旋空弧月の構えをとる。フレデリカは転がりながら孤月を地面に突き刺し、棒高跳びのようにして体勢を立て直した。

パッ

フレデリカ「(ありゃ、避けられない──)」

更に心が先程までいた位置からアステロイドがフレデリカに殺到する。

心「孤月☆」
186 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:07:56.58 ID:atZJrtOA0
更に心が先程までいた位置からアステロイドがフレデリカに殺到する。

心「孤月☆」

心は飛び上がる直前、背後に隠していた27分割のアステロイドを時間差で発射するよう設定していた。

飛び上がる事で視線を上に誘導し地上に置いてきたアステロイドをバレにくくさせ、もし気付かれても今度は2方向を警戒させる事で注意を散漫にさせる二段構えの戦術だ。

達人であるフレデリカは当然アステロイドに気付いた。だからこそ一瞬隙が出来た。

テレポーターは連続使用制限(インターバル)がある為、今は使えない。


躱せない。


心「隙ってのは窺うんじゃない、作るんだよ☆」ギラッ

獰猛な笑み。心もまた早苗の薫陶を受けた1人だ。
187 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:11:54.37 ID:atZJrtOA0
フレデリカ「やっ!」キィン

それに対し、フレデリカは両手でシールドを起動。

1枚はアステロイドを防ぐ為に自らの正面へ。シールドの面積を広げ、確実にダメージを抑える狙いだ。

そしてもう1枚は「長方形にして右側を手前に傾け」、心との直線上に設置。

心「(1枚シールドじゃ旋空は防げねーぞ☆)」ヒュッ

フレデリカ「きゃ!」ズカッ

心の思った通り旋空弧月はシールドを叩き割り、フレデリカの右腕を切り飛ばした。

──「右腕だけ」を。

心「……ズラされたかぁ」

アステロイドはノールックで撃ったせいか弾の収束が甘く、難なくシールドに防がれた。

フレデリカ「やーいへたっぴ〜」パッ

心「うっせ、コレ(アステロイド)はスタアメーカー乗っける用と牽制用だっての! はぁとは孤月1本でメシ食ってくスタイルだぞ☆」キャピ

紗南『それはいいけど、魅せプ狙うなら練習しなよ』

早苗『あんたねー、これ若い子達に見られてんのよ? 記録にもしっかり残るし』

雫『ふふ、いいじゃないですかー。さっきのかっこよかったですよ? 「隙ってのは窺うんじゃない、作るんだよ☆」って。私も言ってみたいですー』ニコッ

心『……やめてぇ』カアァ

ここでテレポーターのインターバルが終了、フレデリカは心の有効射程から脱出した。
188 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:12:47.97 ID:atZJrtOA0
そう、長方形のシールドは最初から防ぐ事ではなく旋空弧月の軌道を僅かにずらす事が目的だった。

心はフレデリカがグラスホッパーで空中に回避する事を読み横薙ぎではなく縦に旋空弧月を放ったが、それも読んでいたフレデリカは何とか利き腕である左を守る事に尽力したのだ。


窮地を脱したフレデリカは、オフィスビルの入口のガラスと回転扉を斬り飛ばした。



夕美「くっ……!」

美波「夕美ちゃん、バックワームを」ビュウン

夕美「……うん」ビュウン

フレデリカには追いつけないと悟った美波は、次に備えてバックワームを起動した。
189 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:13:22.19 ID:atZJrtOA0
オフィスビルの内部に侵入したフレデリカはそのまま正面の3つあるエレベーターの真ん中の扉を切り刻み中の空間へと侵入、グラスホッパーで上層階へと上がる。

心もフレデリカの開けた穴に飛び込むが──

フレデリカ「下に参りまーす♪ 地中海行きだよー☆」ブチッ

心「げ、旋空間に合わ──」

ドガシャアァン!!

心「ぶへぇ」

フレデリカが空中で真ん中のエレベーターの「箱」を吊り下げているワイヤーを切断し落下させ、心を押し潰した。

心「死ぬかと思っ」

トリオン体である為当然無傷だが──

美波「今よ!」

夕美「うんっ!」

心「ちょ」

追い付いた美波と夕美の連携挟撃。

中途半端にフレデリカを追い詰めた事が仇となったようだ。

『トリオン供給器官破損 緊急脱出(ベイルアウト)』
190 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:15:15.78 ID:atZJrtOA0
──速水隊作戦室──

志希「観戦ルーム用の映像見てたけど、はぁとさん潰された時のポーズが轢かれたカエルみたいなガニ股だったよー! んでそのままベイルアウトしてった! きっと作戦室でもあのカッコだよ! ニャハハハハハ」

奏「コラ、笑わないの……」プルプル

フレデリカ『わお! 後で対戦ログ見返してみよ♪』

──観戦ルーム──

ありす『……日野隊員、一言お願いします』

茜「女の子なのにあんな恥ずかしいポーズを大勢に見られちゃうなんて可哀想だなと思いました!!!」

ありす『ありがとうございました』


──片桐隊作戦室──

心「」ドサッ ←ガニ股

心「……」スッ…

早苗「……今夜オゴるわ」ポン

心「あい……」グスン
191 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:15:41.09 ID:atZJrtOA0
フレデリカは適当な階でエレベーター空間から飛び出してオフィスフロアに入り窓ガラスを孤月で粉砕、そのまま一気に美波達の射程外へと脱出した。

美波達はフレデリカを見失った。

フレデリカ『シューコちゃん、さっきので分かった?』

周子『うん、見とくね』

周子との謎のやり取りの後、フレデリカはバックワームを起動しレーダー上から姿を消した。
192 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:18:00.52 ID:atZJrtOA0
──電波塔/展望台──

周子「」ダンッ ダンッ

少し遡り、周子が狙撃した直後。

清良「」ダンッ

電波塔の外壁と周子のいる展望台フロアの床をぶち抜く清良の鋭い壁2枚抜きスナイプが、まっすぐ周子へと飛んで行く。

ギィン!

周子「おーこわ」

それを予測していた周子は、二重コの字型に設置し自身をガードしていたエスクードで狙撃を防いだ。

それがなければ、今頃周子の胸には大穴が空いていただろう。

しかしスコープを覗き込んだ周子は、すぐ背後で鳴った死神の足音とも言える弾着音を聞いても眉一つ動かさなかった。

ギャァン!

先程と寸分違わぬ位置。初撃で電波塔に空けた穴を「通って」来た二撃目が全く同じ位置に再び直撃、1枚目のエスクードを破壊して2枚目に着弾した。

しかし周子は仕事を任された以上、集中は乱さない。

周子「よっ」ダンッ!

お返しとばかりに2枚目のエスクードの上から腕をぶら下げて、清良が空けた穴を周子も同様に通した超人的カウンタースナイプ。背を向けていた為清良の位置が目視出来ずとも、同じ穴を寸分違わず通せばその先にいる清良へと弾が向かうのは道理である。

しかし、清良はベイルアウトせず。当然見切り躱していた。

追加攻撃はない。狙撃位置を変えたのだろう。

周子「ふー、これでしばらくは安全だね。あっごめんフレちゃん、ちょい清良さんとイチャついてた」

負傷したフレデリカに援護出来なかった事を詫びて、しばらくたった後。

先程の内部通信が入った。

フレデリカ『シューコちゃん、今ので分かった?』

周子『うん、見とくね』

これで一段落。後はフレデリカを美嘉と合流させるだけ。

周子「はー、スナイパーは楽でいいね」

周子はマイペースだ。
193 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:18:57.58 ID:atZJrtOA0
美波『私達も向こうへ移動しましょう!』

夕美『了解!』

美波『愛梨ちゃん、射線が通りにくいルートを選定して!』

愛梨『はぁい』

文香『了か……きゃっ!?』

周囲に誰も居ないはずの文香の悲鳴。

美波『文香ちゃん!? 状況の報告を!』

さっきの謎のやり取り。フレデリカが周子に「見ていて」と頼んだのは──

文香『フレデリカさんがこちらに……! 私も移動しようとした所を見つかってっあっ、私の事は構わず、先に──』ザシュッ

──逃げるフレデリカを狙撃した文香の位置だ。

『伝達系切断 緊急脱出(ベイルアウト)』

鷺沢文香、呆気ない幕切れ。

心を譲った分はキッチリ取り返したと言わんばかりのフレデリカの強気の攻め。

寄られれば弱い、それがスナイパー。

美波「……っ!」グッ…

夕美「行こう! 美波ちゃん!」

美波「ええ!」
194 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:20:57.37 ID:atZJrtOA0
周子『フレちゃんないすー』

フレデリカ『おっ、よく分かったねシューコちゃん! フレちゃんこう見えてゴハン派なの!』

周子『はいはいライスね』

志希『あたしパン派だよー。サクッと片手で食べられるし〜』

フレデリカ『わぁお、シキちゃんフレちゃんよりおフランス〜♪』

志希『フランスパンは端っこ固ったいしあんま好きじゃなーい』

フレデリカ『分かる〜☆』

周子『えー、焼きたては端っこもパリもちで美味しいよ?』

フレデリカ『あ、シューコちゃんパリ名物のパリもちを知ってるとはオメガ高い! あれおいしーよね♪』

志希『何それ? どんな奴?』

フレデリカ『知らなーい☆ ところでパリってどこの国の県庁所在地だっけ?』

美嘉『………………(頭痛)』

奏「(方針間違えたかしら……)」ハァ
195 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:23:35.35 ID:atZJrtOA0
ありす『あーっ! フレデリカさんが文香さんを撃破! 不意打ちなんてズルいです! 上手いですけど! ここで速水隊、トップに躍り出ました!』グヌヌ…

真奈美『流石だな。一旦城ヶ崎隊員の方向へ向かい、自分が逃げたと見せかける事で新田隊を動かし、鷺沢隊員を誘き出しつつ新田隊長と相葉隊員の思考を「宮本隊員を追いかける」という方向に誘導した』

茜「走っているスナイパーはアタッカーにとっては格好の的ですからね!」

ありす『……狡猾なあの人達の事ですから、潜伏していた塩見隊員に撃たせて離脱の手助けをして貰うと同時に、消去法で城ヶ崎隊員の位置を敢えて新田隊に教える事で速水隊合流の危険性をより強く意識させた、という狙いもありそうです』

真奈美『せっかく追い詰めた「強い宮本隊員」を逃がしてしまうという焦燥。己より戦闘力が高い者への対処は緊張を生み、余裕を失わせる。これを克服するのは難しい』

真奈美『そこに舞い降りた佐藤隊員撃破という一時の安堵。そこに虚を突く鷺沢隊員への回り込み。思考誘導が上手い』

茜「うーん……! 私なら直線経路で文香さんに全力で突撃していたと思います!! ユッコちゃんと一緒に!!!」



飛鳥「まず相対している美波さん達を倒す以外の選択肢が無いんじゃないかな」

みく「みくもそう思うにゃ」

藍子「もう、そんなはっきり言わなくたって……。それが茜ちゃんの本能なんですから仕方ないじゃないですかっ」プンプン

比奈「いや本能って」

菜々「アハハ……」
196 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:25:07.25 ID:atZJrtOA0
ありす『……しかし、宮本隊員はなぜわざわざ脱出を? 認めたくはありませんが、あの人の強さならあの状況でも何とか出来たと思うんですけど……』

真奈美『それについては、大まかに理由は2つあると私は考えている。まず1つは不確定要素の多さ。スナイパーである鷺沢隊員の存在、集中攻撃を受けていて多対一である、かつ三つ巴という混戦状態。更に鷹富士隊長の爆撃だ。「運要素」が強く絡むこの状況、何かの拍子に落とされてもおかしくはない』

ありす『なるほど。確かに、攻撃が当たれば倒せるのがトリガー使いの戦闘ですからね。戦闘に関しては素人の私でも、トリオン体に換装して起動した孤月が相手に当たりさえすれば、例え相手が総合1位の木場隊長であっても倒せてしまいますから』

真奈美『その通りだ。そして2つ目は「点取りエース」としての思考』

茜「……!!」ハッ

真奈美『宮本隊員は自らの生存が味方にとって戦略的・精神的余裕をもたらし、相手にとってはその逆となって襲いかかる事を理解している。現に佐藤隊員は相当立ち回りに余裕がなかっただろう? 片桐隊長が生きていれば、彼女は宮本隊員に対してあそこまで深く踏み込まなかった。それがエースとしての心構えだ』

茜「それが、エース……」

真奈美『そうだ。宮本隊員は奇抜な策を編み出す思考を持ちながら、時には慎重な安全策を選べるクレバーさも持ち合わせている。彼女を評価する際には戦闘能力に目が行きがちだが、こういった思考回路を有している事も無視出来ない。A級ランク戦において、「ただ強いだけ」の者はすぐ壁に直面するだろうな』

茜「むむむ……?!」



菜々「茜ちゃん、何やら考え込んでますね」

藍子「茜ちゃん……」

みく「……藍子チャン、気持ちは分かるけど」

藍子「知恵熱が出ないといいんですけど……」

みく「そこかい」
197 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:26:07.74 ID:atZJrtOA0
──新田隊作戦室──

文香「きゃっ」ドサッ

愛梨「文香ちゃん、おかえりなさ〜い♪」

唯「おっつー☆ オレンジジュースのむ?」スッ

文香「はい、いただきます……」ニコ

唯「どうだった? 初めてのA級ランク戦!」

文香「チュー……ぷは。はい、とても緊張致しました……」

唯「あ、ゆいもゆいもー! 早苗さんチョー怖かったー!」

夕美『文香ちゃんお疲れ!』

美波『お疲れ文香ちゃん。唯ちゃんもだけど、十分な働きだったわ』

文香「そうですか……。しかし、こう言っては何ですが」



文香「落ちてしまったのが私で良かったです」ニコ…
198 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:29:36.15 ID:atZJrtOA0
その時、新田隊を除くマップにいる全員が一瞬空を見上げ、あるいはモニターに目を釘付けにされた。

茄子「わっ! これって……!」

清良「……屋内戦ですか」

亜里沙『これは……かなり苦しい展開ですね』

フレデリカ「わぁお♪ 美波ちゃんってば分かってる〜♪」

周子「……うげー、外出たくないなー。出るけどさ」

美嘉「っく、前が見えない……!」

奏『……合流地点を変更するわ。いい? まずは
──』



猛吹雪だ。



美波「思ったより試合展開が早かった……。けどやるしかない! 行くよ、夕美ちゃん!」

夕美「うんっ!」

仮想空間に残る全員が、バックワームを起動した。
199 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:30:15.34 ID:atZJrtOA0
周子「さてと」

外は数メートル先も見えない程の猛吹雪。

周子「ここにいても役に立てないし、行きますか……っと!」

周子はメテオラで電波塔の外壁を破壊した。暴風が起こす轟音と共に、強い吹雪が中へと吹き込んでくる。

周子「よっと」ピョン

すぐ下すら見えない視界の中、周子は地上数百メートルの高さから紐無しバンジーを敢行した。
200 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:35:23.69 ID:atZJrtOA0
undefined
201 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:37:22.82 ID:atZJrtOA0
ありす『「天候変化」です! なんと新田隊長、天候設定を「雪」にしただけでなく、時間経過により豪雪吹き荒ぶ猛吹雪に変化するよう設定! これにより視界が悪化、生存するスナイパー達がほぼ機能停止してしまいました!!』

茜「おおおっ、吹雪ですか!! 向かい風の方向に全力ダッシュしたあの冬の日を思い出します!!! いやー、あれはいいトレーニングでした!!」

ありす『そして天候の変化とほぼ同時に、全員がバックワームを起動しました! 日野隊員、これはどういった狙いでしょうか?』

茜「これだけ視界が悪いと、敵を見つけるのがレーダー頼りになってしまいますからね! これではバックワームを着けたほぼ発見が出来ないような敵に一方的に攻撃されてしまうので、そうならない為だと思います!!」

真奈美『これは……珍しい手だな。しかし理にかなっている。いや、これは面白いな……』

ありす『前シーズン、前々シーズンの全試合を通しても、「天候変化」設定が使われた記録はありませんでした。木場隊長、この狙いはスナイパー封じでしょうか? しかしなぜ今……?』

真奈美『おそらく、試合の流れをシミュレーションし展開の推移を予測した結果だろう』
202 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:37:59.56 ID:atZJrtOA0
ありす『……というと? えっと、まずは対戦の序盤から流れについて解説をお願いします』

真奈美『承った。だが序盤の前に、まずマップ選択の所から解説していこうか』

ありす『そこからですか……? わ、分かりました』

真奈美『この「都心A」というマップはどういう特徴があるか覚えているか、日野隊員』

茜「アタッカー有利です!!」

真奈美『その通り。背の高い建造物や車などの遮蔽物が多く射線が通りにくい為、小回りが利くアタッカーが基本的に有利なマップだ』

真奈美『私も当初、少し疑問を抱いていた。作戦としてナシではないが、片桐隊長や宮本隊員といった強力なアタッカーがいる今回のマッチングでなぜこの選択なのか、と。しかし今納得が行ったよ』

ありす『ど、どういう事でしょうか?』

真奈美『片桐隊長と宮本隊員。ただでさえ強い彼女達が更に強くなるマップを選ぶ事で序盤から彼女達の警戒度を一気に引き上げ、ヘイトを集中させる狙いだったんだ』

ありす『確かに試合の最初からずっと特に派手に暴れた訳でもない片桐隊長にヘイトが集中し、ベイルアウトしてしまっていましたね。それでも2ポイント取ってますけど』

真奈美『それに加えて、常に全ての隊から警戒されている及川隊員と鷹富士隊長もいる。だが試合前時点での新田隊のA級上位チームから見ての印象は、「連携は一級品だが、個としては最近実力を伸ばして来た相葉隊員のみ一応警戒」程度だった』
203 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:38:55.01 ID:atZJrtOA0
みく「いやそれはおかしいにゃ。B級ランク戦で新田隊とやった時も美波チャンも唯チャンも文香チャンもすっごく強かったもん。みく達もよくタイマンで負かされてたにゃ」

飛鳥「夕美さん以外もしっかりマスタークラス(8000Pt↑)だからね。総合ランキング上位に名を連ねる猛者達にとっては物足りないのかもしれないが」

比奈「アハハ、別に美波ちゃん達を侮ってる訳じゃないっスよ。ポイントも7000もあればどこの隊に行ってもちゃんと戦力になる優秀な隊員っス。けどA級ランク戦ともなるとマスタークラスくらいはザラにいるんで、いちいち警戒してもキリがないってだけのハナシっスよ」

藍子「そ、それはそれでなんというか……。すごい話ですね」
204 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:56:24.17 ID:atZJrtOA0
undefined
205 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:57:43.47 ID:atZJrtOA0
ありす『新田隊はその厄介な隊員達の影に隠れて狙われる事を避けつつ、敢えて敵アタッカーを強化する事で他の隊も利用して2人の強力なアタッカーを倒そうとした、という事ですね』

真奈美『その通り。だが、私の考えが正しければ新田隊長はこうも考えただろう。「及川隊員や鷹富士隊長の処理が長引けば、いずれマップを平らにしてしまうのでは?」とな。そうすると射線が通りやすくなり、柳隊員、及川隊員、塩見隊員といった各隊の強力なスナイパーが台頭し勢力図が一変する。だからこその天候変化だ』

茜「おお、真奈美さんが試合の前に言っていた事ですね!!」

ありす『なるほど……! アタッカーが有利で不利なスナイパーは潜伏しがちな序盤はアタッカーをわざと有利にさせて他の隊と協力して囲い潰し、その後に地形を変えて強引にスナイパーの射線を通そうとする片桐隊と鷹富士隊を吹雪で封殺する狙いだったんですね!』

茜「マップで対策出来るのは1種類のポジション、という常識を覆す一手ですね!!!」

真奈美『それに吹雪を嫌って屋内に逃げたとしても、結局スナイパー不利アタッカー有利な事には変わりないからな』

ありす『……つまり新田隊の狙いは、序盤はマップの特性でアタッカーにヘイトを集中させて片桐隊長と宮本隊員を倒す。そしてもし後半マップが鷹富士隊長や及川隊員の手によって変えられたとしても、吹雪のお陰でスナイパーは怖くない……』

真奈美『それにこのマップは鷹富士隊不利だからな。序盤は潜伏すると読んだのだろう。なら後々鷹富士隊が出てきても怖くないように吹雪に設定するのは理にかなっている』
206 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/20(月) 18:59:12.09 ID:atZJrtOA0
真奈美『更に新田隊は「他の厄介な者達程はヘイトを集めない」近・中距離両対応のオールラウンダーが3人もいる。雪原迷彩も相まって、序盤から終盤にかけてずっとバトルフィールドが新田隊に有利に働いてくれる訳だ。自分達の能力、そして敵から戦力的にどう見えているかをきちんと理解している』

真奈美『今の状況は新田隊にとって全く予測通りとまではいかないだろうが、勝ち目はまだ残っているし決して悪い状況でもない。想定の範囲内ではあるだろう』

ありす『美波さん、凄いです……!』キラキラキラ

真奈美『一見奇抜な作戦のように見えるが、これはマップ戦略の基本を極めた先、地続きにあるものだ。しっかり地に足がついたいい作戦だ──』

ありす『わぁ……!』

真奈美『──新田隊長の望んだ通りに片桐隊長と宮本隊員が倒された「理想の展開」ならな』

ありす『……!』ハッ

真奈美『宮本隊員が生きている時点で、作戦には大きな歪みが生まれているだろう。新田隊長も今頃そこをどうするか頭を捻っているはずだ。彼女をどう処理するかが勝敗の分水嶺だ』


現在のスコア 倒した相手

片桐隊 2pt (一ノ瀬志希 大槻唯)
速水隊 3pt (及川雫 クラリス 文香)
鷹富士隊 1pt (片桐早苗)
新田隊 1pt (佐藤心)
207 : ◆AXT/uuswxI [sage]:2020/04/20(月) 19:02:16.46 ID:atZJrtOA0
今日はここまで。
四つ巴の戦いを頭脳戦っぽくそれぞれを活躍させながら描くのがしんどすぎて途中心が折れそうでした

解説がクドいこのssをここまで読んで下さってありがとうございます、最後まで頑張ります
208 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/21(火) 19:40:49.29 ID:g8UvGpT10
フレデリカ「さてと♪」

マップの状況が変わり生存する全隊員が忙しなく動く中、1番最初に足を止めたのは速水隊。

美嘉「次の戦闘で多分ラストかな」

周子「あーもう隊服の中までびしょ濡れだよー」

合流が完了した。

志希『メテオラ設置かんりょー。周子ちゃんおつー』

周子『あいよー』

奏『解析完了。「大型家電量販店」の見取り図を転送するわね』

美嘉『ありがと、奏ちゃん!』

志希は得意分野である罠設置ポイントの指示とそのタグ付け、奏はマップ解析。

オペレーター経験者が作戦室に揃った際には、こういった分担も可能なのだ。

志希『あーあ、志希ちゃん生きてたらスパイダーでアレコレできたのににゃー……』

フレデリカ『ごめんねシキちゃん、アタシを守ってくれたせいで……。後でお尻ペンペンしていいから……美嘉ちゃんの』

美嘉「ちょっと、なんでアタシのお尻なの!? させないから!」

奏『ふふっ、贅沢言っても仕方ないわよ。それじゃ──』

ここは地上5階に地下2階、計7階層の「大型家電量販店」の3階。

所狭しと敷き詰められた商品棚は、極めて射線を通しづらい構造となっている。

奏『──籠城戦と行きましょうか』

フレデレカ・美嘉・周子は、同時にバックワームを「数秒」OFFにした。
209 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/21(火) 19:42:10.50 ID:g8UvGpT10
ありす『これは……! 速水隊、一瞬レーダー上に姿を表した後、すぐにまたバックワームを起動しました! これはやはり……?』

茜「『こっちに攻めて来い!』という誘いですね!!」

真奈美『速水隊が生き残った他2隊に2点差でリードしている事から、新田隊と鷹富士隊は攻めざるを得ない。罠だと分かっていてもな。こうなってくると鷹富士隊はかなり苦しいぞ』

茜「すぐにバックワームを起動したので、待ち伏せによる奇襲も考えられます!!」

ありす『それなら、鷹富士隊長が外からメテオラで建物を破壊すれば良いのでは?』

真奈美『そんな事をしてもバックワームを付けたまま別の建物に逃げられるだけだし、鷹富士隊長のトリオンも無限ではない。彼女のトリオン量は相当なものだが、試合開始から既に相当撃っているし余裕はないだろう』

ありす『あ、そっか……』

真奈美『速水隊からすれば、点数でリードしている今別にこのまま時間切れでもいいんだからな。いずれにしろ建物には入らなければならないという訳だ』



真奈美『いずれにしろ、決着は近い』
210 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/21(火) 20:13:49.90 ID:g8UvGpT10
美波「(大丈夫、ここまでは想定済み。屋内戦になる事を見越してある程度の大きな建物の内部構造を頭に叩き込んでおいてよかったわ)」

美波「次で決める! 行くよ、夕美ちゃん!」

夕美「うんっ!」

勤勉な美波は、この日に向け周到に準備していた。出来る事は全てやった。想定出来る事は全てシミュレーション済み。覚えておいた方がいい事は全て頭に叩き込んだ。

夕美「」ヒュカッ

美波達は入口からではなく2階の外壁を切り刻んで穴を開け、ジャンプして侵入した。

1階は恐らく罠や待ち伏せが想定される。美波が予想したのは1階入口近くにフレデリカや美嘉を置いて、1階奥か2階からスナイパーが援護する形の陣形。

そう予想した美波はまず周子を倒す事を考え、頭に叩き込んだ地形から考えてスナイパーが隠れそうなポイントからの侵入を図った。後衛から倒すのは戦闘における定石の1つだ。



しかし、実戦では当然のように想定外の事態が起こる。
211 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/21(火) 20:16:34.72 ID:g8UvGpT10
美波「……!?」

夕美「これって……!」


店内は、爆破テロでも起きたかのように損壊していた。

商品のレイアウトはグチャグチャ。天井にも床にも大穴が空いており、外壁には雪が吹き込む風穴すらあった。


そう、速水隊が強引に内部構造を変えたのだ。


美波「……っ」

唯『そんな、せっかく皆で頑張って覚えたのに〜!』

美波『多少構造を変えられたって大元は覚えた通りよ。大丈夫』

夕美「進もう、隊長さんっ」

穏やかに笑いかける夕美。

美波「ええ」

美波も同じ心持ちのようだ。

覚悟は決まった。不安も緊張ももうない。してもしょうがない。

後は全力を尽くすだけだ。
212 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 19:55:11.84 ID:9gbMfeFC0
奇襲を警戒し、液晶テレビコーナーを慎重に進む2人。敵はすぐに見つかった。

周子「うひゃあ! そっから来るの!? やばっ」

夕美「予想的中っ!」

追う美波達。しかし、地の利は向こうにある。

周子「エスクード!」

周子はエスクードを広く積み上げるように縦に2つ、横に6列展開し、自身の姿を隠しながら美波達の行く手を阻んで迂回を強制した。

美波「火力集中で一点突破よ! 私の正面!」

夕美「了解っ!」

美波夕美「「はぁっ!!」」ギィン!

周子「息ピッタリやん! もうっ」

美波の孤月、夕美のスコーピオンの見事な連携でエスクードを破る様子を見た周子は、全く時間稼ぎにならなかった事に嘆息しながら逃走する。

周子「んもー今のトリオンめっちゃ消費したのに。よっ」タンッ

周子が突然ジャンプしたかと思うと、そのまま天井に吸い込まれて消えた。
213 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 19:55:53.72 ID:9gbMfeFC0
美波「(消えた!? ……いや、天井の穴に飛び込んだのね!)」

夕美「(下じゃなくて上!? じゃあフレちゃん達も上にいるんだ!)」

早速変えられた地形を利用され、歯噛みする美波。2人は周子の後に続くように穴に飛び込んだ。


3階。そこは既に戦場だった。

アサルトライフルを持った茄子と美嘉がお互いにシールドを張りながら撃ち合い、清良は上層階から壁抜きショットを連発して茄子に接近しようとするフレデリカを牽制していたが、さすがにそれだけでは抑えきれずジワジワと茄子に接近しつつあった。

周子「鷹富士隊!? ごめん新田隊引っ張って来ちゃった!」

周子の反応を見るに、鷹富士隊もつい今しがた建物に入り戦闘を始めたという所であろう。

恐らく自隊のみの特攻では速水隊に手も足も出ないと判断した茄子が、自分達が突入するのを見届けてから突入しようと判断したのだと美波は予測した。

美波は、速水隊に狙いをつける。

美波「(速水隊さえ落とせば、後は屋内に押し込まれた鷹富士隊を倒して勝てる!)」
214 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 19:56:29.69 ID:9gbMfeFC0
美嘉「周子ちゃん一旦逃げて!」

ドォォン! ドンッドォォン!

言いながら、美嘉は清良が居そうな所に当たりをつけ天井に向けてメテオラを連発。

清良「くっ」ガラガラッ

清良が落下してきた。

清良「」ガチャッ

フレデリカ「!」バッ

清良がイーグレットを構えたのを見たフレデリカは、すぐに遮蔽物に身を隠した。

美波はそこにアステロイドを放ちフレデリカを牽制、フレデリカがシールドを張ったのを確認した夕美は逃げる周子との距離を一気に詰める。

美嘉「カバー入……くっ!」バッ

周子のカバーに入ろうとした美嘉だったが、茄子のアステロイドが周子と美嘉を分断するように放たれ、美嘉はそれをジャンプで飛び越えようとしたが──。

すかさず目標を浮いた美嘉に切り替えた夕美が美嘉にスコーピオンで地上から切り付ける。

美嘉「シールド!」ギィン!

夕美「無駄だよっ!」ドンドンドンッ!

そのシールドに向かって、威力と弾速重視のハンドガンで3連撃。

バリィン!

美嘉「ごめん周子ちゃんっ! フレちゃん後に頼んだよ!」パキキ…

周子「やーこっちこそ。後でなんか奢るわ」

フレデリカ「アタシパフェがいい!」

『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
215 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 19:57:02.94 ID:9gbMfeFC0
シールドを破壊され、見事に近距離からのヘッドショットを決められてリタイア。

夕美はそのまま周子を追う。しかし、美嘉に数秒足止めされた為間に合わない。

周子「よっ。フレちゃん倒しても生存点はあげないよー!」ガシャアン!

周子は体を丸めながら窓ガラスに勢いよく体当たりし、建物から脱出した。

フレデリカは茄子を一旦諦め、美波達に肉薄する。

美波「(わざわざ2対1でやってくれるなら好都合!)」

夕美「(茄子さんと清良さんの位置からの射線も切れてる! ここで決めるっ!)」

美波はフレデリカにアステロイドを放ち牽制。テレポーターで躱されるが、それを読んで先回りしていた夕美がスコーピオンを叩き込む。

フレデリカ「っ、位置取り上手いね」ガキン!

孤月で受け太刀をとるが、既に孤月を構えた美波が背後を取っていた。

美波「終わりよ!」ヒュッ


『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
216 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 19:57:49.84 ID:9gbMfeFC0
美波「……え?」

落ちたのは、美波だ。

周子「はーい、しゅーこちゃんだよー」

周子は脱出などしていなかった。

ガラスを割り建物から飛び出した後バックワームを起動、すぐ真下に建物からエスクードを生やして着地。あとは階段のようにエスクードを生やして登り、飛び出てきた穴から顔を出して美波を狙撃したのだ。

当然フレデリカはそれを知っていた。だから美波達を茄子達からの射線が切れる所に誘導し、わざと美波に背を向け隙を見せた。

周子への信頼がなせる連携だ。
217 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 19:58:27.08 ID:9gbMfeFC0
フレデリカ「はい、じゃあ夕美ちゃん倒して終わりね♪」

夕美「(まだ終わりじゃない! ここで周子ちゃんを倒してから鷹富士隊を巻き込んで乱戦に持ち込むっ!)」

周子「エスクード」

周子は先程のようにエスクードを2枚重ねて壁を作るように生やした。

夕美はそれを最短ルートをとって躱すが──。

周子「残念」ダンッ

カッ

夕美「っ!?」

ドォン!

周子は夕美が最短ルートをとれば必ず通るであろう位置に仕掛けた置きメテオラが来るようにエスクードの生やす位置を調整。反転し、落ち着いてメテオラを撃ち抜いた。


爆炎の中から光線が飛び出す。

「──それくらい」

光線は周子の胸を貫いた。

周子「……あちゃー」

夕美「読めてる!!」

夕美は攻撃するように見せかけ、フルガードで突っ込んでいた。

今試合、ここまで散々速水隊の面々に手玉に取られてきた夕美。

彼女は戦いの中で成長した。

『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
218 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 19:59:24.71 ID:9gbMfeFC0
ここで周子が脱落。

夕美「まだまだ! 私1人でも、絶対に勝って見せる!!!」

この戦いで試合が決まる。夕美は己を奮い立たせた。


フレデリカ「亡きシューコちゃんのカタキ!」

清良「」ドンッ

夕美に斬り掛かるフレデリカだったが、伏せた清良の地面スレスレの一撃に左足首から下を吹っ飛ばされた。

片足、つまり機動力を大きく削がれた。

フレデリカ「おっとっと」

たまらず一旦距離を取るフレデリカ。

茄子「そこです!」

そこに茄子のアステロイドが殺到する。

フレデリカ「んっ、片足だと、しんどいねっ」タンッ タンッ

フレデリカ「いくよ?」

それを片足でうまく跳ねながら躱したフレデリカは、大量のグラスホッパーを様々な角度・位置に出現させた。


グラスホッパーとテレポーターを入れているフレデリカは、他のアタッカーに比べて片足を失った時の弱体化の幅が小さい。

これらのトリガーは勿論フレデリカの使う戦術上の都合もあるが、最後まで役に立てるようにというエースとしての意識の高さから入れているという理由もある。

フレデリカより上の実力者である真奈美、早苗はそもそも片足を落とす事すら極めて難しいのだ。
219 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:00:48.04 ID:9gbMfeFC0
夕美「……!」

フレデリカ「今から夕美ちゃんを倒すね。覚悟は出来た?」

夕美「私はフレちゃんを倒す覚悟しかしてない! それ以外要らないっ!!」


──これが最後だ。


夕美「せいっ!」ガンッ! ドシャアァ

片足飛びで迫ってくるフレデリカと自分の間に、夕美は電子機器が陳列されているキャスター付きの商品棚を蹴り倒して商品を散乱させて足場を悪くした。

フレデリカ「!」

夕美「(こうすればフレちゃんは──)」

フレデリカ「」パッ!

夕美「(床に散らばったものをグラスホッパーで避けてから──)」

フレデリカ「」フッ

夕美「(追撃されないようにテレポーターで消えて、その先には──)」

フレデリカ「」パッ!

夕美「(最初に仕掛けたグラスホッパーで──)」

夕美「私の背中を狙ってくる!!」ドンッ ドンッ!

フレデリカ「……!」

夕美は全てを読み切った。高速で動くフレデリカを目で追い常に視界に収め、完璧にアステロイドを合わせた。

フレデリカの表情に余裕はなかった。
220 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:02:36.09 ID:9gbMfeFC0
フレデリカ「旋空弧月っ!!」

夕美のアステロイドがフレデリカの右の脇腹を抉る。

夕美が放ったアステロイドは2発。その両方がフレデリカの頭と胸を正確に狙っていた。

フレデリカは既に攻撃モーションに入っていた。回避や防御は間に合わない。夕美のカウンターは完璧だった。


しかし、フレデリカは咄嗟に調整しヘッドショットになるはずだったアステロイドごと斬った。


もう1発は体を捻り、脇腹に逸らせたのだ。

夕美「……すごいなぁ」

ここまで読み切ってもまだ届かないのか、と。

夕美は総合3位との差を体で感じた。

フレデリカ「夕美ちゃんもスゴかったよ♪ お疲れさま!」ニコッ

夕美「……うん、ありがとっ」ニコ

2人のエースは、互いの健闘を讃えあった。

『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
221 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:03:16.78 ID:9gbMfeFC0
フレデリカ『夕美ちゃん強かったねー! 後で褒めてあげなきゃ! ね、シキちゃん?』

志希『にゃはは、そだねー♪』


フレデリカ「さてとっ」

茄子と清良の姿はない。

奏『このままでもフレデリカは落ちるから、不利なステージで戦うよりは生存点を狙いに行ったんでしょうね』

フレデリカ「じゃあかくれんぼだね! フレちゃん絶対見つけちゃうよー!」




フレデリカが待つだけで向こうから来てくれた先程までとは状況が違う。今のフレデリカは右腕と左足首を失い、右の脇腹に穴を空けられている。

このままではトリオン切れでベイルアウト、自身の1点はトリオン漏れの最大の原因である右腕切断をもたらした心の属する片桐隊に入り、生存点は鷹富士隊に譲る事になる。

速水隊は既に5点取っており、片桐隊も鷹富士隊も2点なのでそうなっても負ける事はないだろう。


しかし、速水隊にそれで妥協する者は居ない。


フレデリカ『シキちゃんどこに逃げたか分かる?』

志希『鷹富士隊がこの建物に入って来た時の穴じゃない? この吹雪なら外に逃げたら勝ちでしょ。さっきの今だからそう遠くには行ってないよ』

フレデリカ『わかった!』

フレデリカはバックワームを起動した後グラスホッパーを駆使し、片足がない事を感じさせない程のスピードで穴から飛び出した。
222 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:04:50.16 ID:9gbMfeFC0
フレデリカはバックワームを起動した後グラスホッパーを駆使し、片足がない事を感じさせない程のスピードで穴から飛び出した。

轟音が鼓膜を叩き、暴風と豪雪が全身に叩き付ける。

フレデリカ『足跡はっけーん!』

志希の予測は的中した。

奏『この雪でも流石にこの短時間じゃ消えないようね。予想される逃走ルートを表示するわ』

そして、フレデリカが数十メートルほど走った所で。

フレデリカ「……見つけた!」

茄子「えっ!? はや……!」

この視界が悪く轟音で隣の者が発する声も聞こえないような吹雪の中、フレデリカの接近に気付ける訳もなく。

フレデリカ「旋空弧月!」

茄子は真っ二つにされた。


例えば、とても幸運だが力は平凡な男がプロのボクサーと戦うとしよう。

もしそこが肉食獣がうろつくアフリカのサバンナなら、ライオンがプロの格闘家のみを襲うだろう。

しかし、そこが誰の邪魔も入らないリングの上なら。何がどう転ぼうと幸運な男がプロのボクサーに勝つ事は無い。

「運要素」ではどうにもならない状況だからだ。

小さな隕石が降ってきてボクサーだけに当たり男は奇跡的に無傷……という可能性もゼロではないが、それはもはや超常の力に値する。

「サイドエフェクト」は超常の力ではない。あくまでも人間の持つ力の延長線上。


「幸運」が無敵の能力ではないのは、茄子にとって幸か不幸か。

茄子『……清良さんっ!』

『トリオン器官損傷 緊急脱出(ベイルアウト)』
223 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:05:33.72 ID:9gbMfeFC0
清良「」ドンッ

フレデリカ「……わぉ」

最初から茄子は囮だった。逃げ切れるならよし、見つかっても少し前を清良が走り、茄子が捕まった所でカウンタースナイプを決めればいい。

どう転んでも鷹富士隊に生存点が入る作戦だったようだ。



清良の存在は、茄子の「幸運」とは別の所。

清良は茄子の人柄に惹かれ、鷹富士隊に入ったのだ。

『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』

長い試合が終わった。
224 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:07:00.27 ID:9gbMfeFC0
ありす『ここで試合終了! 鷹富士隊の柳隊員が最後に生存していた為、2点の生存点が入ります!』

ありす『最終スコア2対5対4対3! 速水隊の勝利です!』


最終スコア 内訳

片桐隊 2pt (志希 唯)
速水隊 5pt (雫 クラリス 文香 美波 夕美)
鷹富士隊 4pt (早苗 周子)+生存点
新田隊 3pt (心 美嘉 周子)


茜「片桐隊、速水隊、鷹富士隊、新田隊の皆さんお疲れ様でした!!!」

真奈美『建物内に入ってからはやはり展開が早かったな』

ありす『では、試合の振り返りを。まずは日野隊員、お願いします』

茜「ややっ、私ですか!! そうですねぇ、志希さんが早苗さんを徹底的に抑え、フレデリカさんが暴れて順当に速水隊が勝ったという感想です!!」

ありす『ありがとうございました。では木場隊長、お願いします』

真奈美『私も概ね同意見だ。ではまず片桐隊から講評していこうか』

真奈美『片桐隊は新田隊の戦略と速水隊の戦術にやられた、といった印象だ。新田隊のマップ選択によるヘイト誘導、一ノ瀬隊員の策を跳ね返せなかったな。開幕及川隊員が落とされたのは不運としか言えないが、片桐隊が搦手に比較的弱い事は確かだ』

ありす『私の個人的な印象では、策略という面では速水隊、川島隊が頭一つ抜けている感じがします。今回の試合で新田隊が3番手に着けました。私の中では、ですけど』

真奈美『ハハ、確かに私の隊は策略という感じではないしな。新田隊については後で話そう。しかし、今回の片桐隊長の生存力は凄まじかった。私が片桐隊長の立場であれば、一ノ瀬隊員を倒すまでに1回か2回は倒されてそうだ。ウチののあの援護が無ければな』

茜「私なら5回は死んでますね!!!」

ありす『圧倒的強者たる片桐隊を最下位に引きずり下ろし番狂わせを起こしたのは、新田隊の戦略と速水隊の戦術という訳ですね』
225 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:07:44.04 ID:9gbMfeFC0
真奈美『続いて速水隊。言うまでもないが、今試合のMVPは一ノ瀬隊員だ。格上チームの要の1つである及川隊員を暗殺、新田隊のエースを揺さぶり、今試合最強の片桐隊長に致命傷を負わせ、窮地に陥った際には新田隊を巻き込んで切り返し、自隊のエースである宮本隊員を守り、自らが落ちた後もスパイダーで味方を支援した。120点どころではない。普通なら3人でこなす量の仕事を1人でこなした、300点の働きだ』

ありす『……一ノ瀬隊員は、ゲームで例えるなら「自分のパラメータを好きに振り分け出来る万能キャラクター」のようだと思いました。多様な作戦を考案し、「それに合った自分を構築して」色んな所に特化させる事が出来る……。その戦術も含めて、戦闘力以外の強さというものを目の当たりにしました』

真奈美『鷹富士隊は新田隊にかなり抑え込まれたな。マップが都心Aでなければ鷹富士隊長はもっと得点しやすかっただろうし、後半の吹雪がなければ他の3隊がぶつかっている所を横から一方的に撃てていただろう。城ヶ崎隊員と塩見隊員をどうにかすればな』

ありす『普段はもっと場の支配権を握っていますからね。鷹富士隊長がメテオラを撒き散らしてヘイトを集めまくるのに幸運とカメレオンのコンボ+スナイパー2人の援護があるので極めて倒しにくく、かといって放置すれば一方的に撃たれるだけですから』

真奈美『基本戦術が強力な分、それを封じられた時の弱さが出たな。それでも柳隊員は異次元の狙撃を見せてくれたが。あのマップで4点も取るのは驚嘆に値するよ。序盤の判断は正しかった。潜伏していたからこその生存点だ』
226 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:09:13.34 ID:9gbMfeFC0
真奈美『最後に新田隊。彼女達はA級ランク戦初参戦ながら、素晴らしい戦いを見せてくれた。新田隊ならば我々に大きく引けを取る事はないだろう。正直ここまでやるとは思わなかったよ』

真奈美『しかし、やはり初戦ともあって新田隊長と相葉隊員は少し動きが固かったな。相葉隊員は一ノ瀬隊員の挑発に揺さぶられて合流が遅れた。新田隊長は目立ったミスはなかったものの、予期せぬ事態に直面した時にまず思考から入る癖がある。その点に関しては大槻隊員の動きが良かった。鷺沢隊員も、スナイパー不利なマップながら上手く位置取りをして戦力として腐る事なく活躍したな。そこは良かったと思う』

ありす『さすが文香さんです』ムフー

真奈美『作戦は良かった。ただA級隊員との戦闘の経験不足が散見されたな。相葉隊員はA級隊員と個人戦をしている所をよく見るが、他の2人ももう少し個人戦をしてみるのはどうだろう』

真奈美『先程も述べた通り、戦略・戦術面に関しては我々と遜色ない。足りないのは決定力、つまり個人の強さだ。もしあの時に片桐隊長を、宮本隊員を倒し切れていたら。そんな場面がいくつかあったはずだ』

真奈美『……さて、これで振り返りは終わりだ。初参戦というだけあって、新田隊は少し長くなってしまったな』フフ

ありす『ありがとうございました。これにてA級ランク戦・ROUND1は終了となります隊員の皆さん、お疲れ様でした』

茜「あまり解説出来ずに申し訳ありません!! ありがとうございました!」

真奈美『あぁ、ちょっと待ってくれ。美波、もし今の試合を復習したいなら木場隊の作戦室に来るといい。勤勉な君の事だ、あれだけの講評では足りないだろう。それでは失礼する』
227 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:10:06.86 ID:9gbMfeFC0
ありす「あ、あの、真奈美さん!」

真奈美「ん? どうしたありす」

ありす「……私、ちゃんと出来てましたか?」

真奈美「あぁ、解説の話の振り方も上手かったよ。ありがとう」ナデ

ありす「……! は、はい!」ニコッ

茜「ありすちゃん! すみません、真奈美さんのように上手く話が出来なくて……! せっかくPさんに指名していただいたのに」

ありす「……いいえ。茜さんの解説も良かったと思います。茜さんのアタッカーとしての造詣の深さには驚きました」ニコ

茜「……! でも、私はまだ……」

茜「……」

茜「……真奈美さん!」

真奈美「うん? どうした茜」

茜「美波さんとの復習、もしやるなら私も参加していいですか!!?」

真奈美「もちろんだ。一緒に行こう」ニコ

茜「ありがとうございますッ!!!!!」グアッ!!

ありす「うるさいです」


飛鳥「さて、帰るか。奏さんに修行をつけて貰う約束だったしね」

みく「さーて、みく達も帰るにゃ! 前川隊も、美波チャン達に負けないように特訓にゃー!」

藍子「私は未央ちゃんと始末書を片付けて来ます」

菜々「な、ナナも手伝いましょうか?」

イエ、ナナサンニ メイワクヲ カケルワケニハ… イエイエ イインデスヨ!

比奈「……」スタスタ

比奈「……時子さん」ピタッ

時子「何よ」

比奈「もしもの時は頼りにしてるっスよ?」

時子「……フン。さっさと行きなさい」

法子「あは♪ 時子さん嬉しそう!」

仁奈「えー? でも時子さま、にこにこしてねーでやがりますよ? 嬉しい時はにーっ! って笑うでごぜーますよ! こーやって!」ニーッ

時子「……チッ」
228 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:11:07.99 ID:9gbMfeFC0
──新田隊作戦室──

美波「……ふぅ。負けちゃったわね。課題も山積みかぁ」

唯「なにいってんの、3位だよ3位!」

文香「あの片桐隊に勝利したと考えれば、重畳の至りと言えましょう……」

夕美「うんっ! 私達、A級の人達とそんなに大きく離されてる訳じゃない! それにまだまだ足りない所だらけって事は、伸びしろたっぷりだよねっ!」

愛梨「そうですよ〜、皆さんすごかったです! 私興奮して暑くなっちゃいましたもん〜」

美波「……そうよね。今回は少し緊張しちゃったけど、次は必ず速水隊に……」

奏「あら、私達に……何ですって?」

フレデリカ「はぁい♪ 皆お疲れさま〜♪」

周子「おっつーん、皆強くなってたねー」

志希「ね、ねぇあたしそろそろラボに戻らなきゃ……干してた白衣取り込んでなかったからさー」ダラダラ

美嘉「はいはいバレバレの嘘つかなくていいから!」

美波「! 奏さん! 速水隊の皆も!」

奏「お疲れ様。ちょっとお話がしたくて」

夕美「あ、志希ちゃん!」

志希「ぎくー!」

夕美「ひどいよ、私が緊張してたからってあんな事! もーっ」ホッペムニー

志希「らってほのくらいおいふめなひゃひみらいひー」

周子「分からんて」

美波「あっ……えっと、私達今から木場隊の方に行こうと思ってて」

奏「勤勉な美波の事だもの、分かっているわ。ただ約束を取り付けに来ただけよ。どう? その後、新田隊と速水隊の皆で食事にでも行かない?」

美波「……! ええ、ぜひ!」ニコッ
229 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:11:51.63 ID:9gbMfeFC0
undefined
230 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:13:36.87 ID:9gbMfeFC0
──本部長室──

P「今戻りました。はぁ……やっと美城司令の正論攻撃から解放されたよ。ユッコの奴め……」

ちひろ「お帰りなさい。和久井隊がスカウトして来た新人の子達、今は訓練中みたいですよ」

P「へぇ、もうですか。そうだ、あの子達の入隊時ポイントを見せて貰えますか?」

ちひろ「はい、これですね」

P「ありがとうございます。どれどれ……お、あきらと千夜は優秀だな。それぞれFPSプレイヤーとお嬢様の護衛メイドか。入隊時ポイントもそれぞれ3000、2800とかなり高いな。りあむは乳がでかいからシューターでやってけるだろ」

ちひろ「ちとせちゃんは体が弱くて生身ではあまり動けない分、トリオン体ならめいっぱい動けるってはしゃいでましたよ」

P「久川姉妹も双子なのに全くタイプの違う戦い方をするし、それでいて既に連携はある程度取れている。あかり、この子は?」

ちひろ「なんか『山形りんごで一発当てる足掛かりにするんご』とかなんとか」

P「えぇ……」

ちひろ「あ、それとA級ランク戦と同時進行しているB級ランク戦の組み合わせも決まりましたよ! 的場隊のデビュー戦です!」

14位 ヘレン隊
17位 早坂隊
18位 的場隊 new!

P「うわぁ……初っぱなからヘレンさんか。かわいそうに」

ちひろ「まぁ、いずれ当たる壁ですからね」
231 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:14:18.11 ID:9gbMfeFC0
P「……ん?」

ちひろ「どうされました?」

P「いや、ネイバーフッドの星間図にちょっと違和感が……。ほら、この星。いままでに無い程我々の世界に接近して来てるんです。トリオン信号等は受け取っていませんね……」

ちひろ「あら、それは変ですね。こちらから信号を送りましょうか」

P「……いや、変に刺激するのはやめておきましょう。たまたま星の軌道が近くを通っていて何も起きない可能性もある。俺達は基本的に同盟国以外には不干渉ですから。念の為出動可能人員を多めに取っておいて下さい。彼らの星が離れていくまでに1ヶ月ある。それまでは静観しましょう」

ちひろ「で、でも……!」

P「ウチには無敵の芳乃がいるじゃないですか。あの子のサイドエフェクト『完全空間把握』と『悪意感知』があれば我々の世界に侵入して来た瞬間あの子が感知して俺達に知らせてくれます。今も『上の方』で街をパトロールしてくれてますよ」

P「……まぁ、芳乃のサイドエフェクトもなくし物を探す事に使う位がちょうどいいんですけどね。出来ればあの子が本格的に動かなきゃいけないような事態は避けたいものです」

ちひろ「……」

P「いざとなったら俺も出ます。旧ボーダー時代の早苗さん達のワンオフトリガーも解禁しましょう。ですから今は情報を川島さん達幹部候補を含めた上層部に留めて、無用な混乱は抑えましょう」

ちひろ「……分かりました。今はランク戦ですね! 梨沙ちゃん達のデビュー戦、応援しましょ!」

P「はい」ニコ
232 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:17:22.37 ID:9gbMfeFC0
──ボーダー/上空2000メートル──

先程のランク戦の仮想空間の悪天候とは打って変わって、日差しがほんのりと暖かい晴天の空。

はるか上空に浮かぶボーダー最強の少女は、バランスボールより一回りほど大きな光る玉にまるで座布団に座っているかのように静かに正座していた。その周りには同じような光る玉が7つ。少女を切れ目にして円形に並ぶその様子は、まさに雷神の太鼓のよう。

その光はさながら神の威光か。

依田芳乃(S級隊員)「ふむー、何やら禍々しき気を感じましてー。はて、これはー……」

少女は眼を閉じながら、何かを「視て」いた。
233 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/22(水) 20:20:23.56 ID:9gbMfeFC0
これで終わりです。ここまでお読み下さってありがとうございました
大規模侵攻編が始まりそうな締め方ですが、書くかは未定です

始まるとしたら他のどこかのアイマスシリーズとのクロスになると思います

それでは、おやすみなさい
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/04/24(金) 01:11:38.40 ID:a0LhItsZO
乙ですー
最後まで手に汗握る熱い駆け引きでした!
大規模侵攻もB級戦も気になる!
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