藤原肇「まだ眠そうですね」

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1 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:17:53.27 ID:b/59r0tJ0

――夕暮れ

モバP(以下P)「ごめんな、肇」

藤原肇「Pさんが謝ることじゃないですよ」

P「いや。俺がしっかりしていれば、こんなことにはならなかった」

肇「そんな……それを言ったら、私があんな提案をしなければ……」

P「無理を言ったのは俺だ。あの時引き返していれば、こんなことには……」

肇「自分を責めないでください、それなら私だって同罪です」

P「……ほんの少し……一人にしてしまうな」

肇「……大丈夫です。Pさんの、アイドルですから……」

P「……そうだな。あぁ、そうだ」

チャリ…

P「これを渡しておく……」

肇「……わかりました。お預かりします」

P「わかっていると思うが」

肇「ええ、使用はこのボタンのみ。なにがあってもこちらの鍵は使いません」

P「いい子だ。それと……やっぱり持ってけって」ガサッ

肇「受け取れないって言ったじゃないですか」

P「……相変わらず、頑固だな」

肇「お互いさまですよ……Pさんが目覚めた時に、お願いします」

P「……わかったよ。そうだな、起きたら……飯を食べよう。たくさん、すきなだけ……」

肇「Pさん……?」

P「すまん……もう、目が開かないんだ」

肇「……」

肇「分かりました。待ってます、だから」

肇「起きたら、一緒にご飯を食べましょう……」



P「じゃ、すまんがちょっと寝るな」

肇「ちゃんと温かくしてくださいね」

P「ジャケットくらいはかけるよ。毛布でも車に積んでくればよかったなぁ」

肇「では私は、ちょっと出てきます」

P「おー、車の鍵だけ頼むな」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1585909072
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/03(金) 19:18:55.74 ID:b/59r0tJ0

――少し前

ブロロロ…

P「ふぁー……」

肇「わ、大きなあくび。大丈夫ですか?」

P「うん、いや、うん。運転していると集中はできるから」

肇「すいません、私が釣りをしたいと言ったばかりに」

P「ソロ曲のお祝いだってリクエスト出すよう言ったのは俺だろ」

肇「でも、今日空けてもらうために、昨日遅くまで……」

P「仕事溜めたのは自分のせいだよ。それより朝早くて驚いたけど」

肇「そ、それも申し訳ないです」

P「いや、俺もマズメ時とか良く知らなかったし」

肇「早朝は魚の食事時間なのと、釣り人も入っていなければ警戒心も薄いので」

P「あー、そういうのもあるんだな。魚が警戒するって言うのは聞いたけど」

肇「そうですよ。特に渓流の魚は」

P「ボウズだからってまだ上流に行くとか言わなけりゃ、こんな時間にならなかったな」

肇「でも、上流の方が釣果があがりやすいですから。お陰でPさんも釣れました」

P「まあね」

3 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:19:57.86 ID:b/59r0tJ0

P「ふぅ……んー、ガム残ってるか」

肇「ええと……」カパ

肇「あ、ボトルの中カラです」

P「だよなー、食べきった気がしてたんだ」

肇「あの、私が言うのも何ですけど、運転できないほどでしたら休んだ方が……」

P「確かにそうなんだが、でもそうなると帰りがなぁ」

肇「明日早いんですか?」

P「俺じゃなくて肇の方だよ。女子寮、遅くなるとまずいだろ」

肇「食事がいらない旨を伝えておけば大丈夫ですよ」

P「そうか……でも、門限は?」

肇「10時ですが……そんなに遅くなりますか?」

P「いや、それなら大丈夫か」

P「じゃあそうだな、次のサービスエリアで少し休憩しよう」

肇「はい」

4 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:20:31.23 ID:b/59r0tJ0

ブロロロ…

P「ふわぁ〜あ」

肇「ふふ」

P「いや、すまん。休憩できると思ったら少し気が緩んだ」

肇「仕方ないですよ。いっそ、仮眠をとられてはどうでしょう」

P「それはさすがに無理じゃないか。それこそ門限間に合わなくなる」

肇「……私は、大丈夫ですよ」

P「大丈夫って、締め出されてどうするんだよ」

肇「それは……電話しておけば、大丈夫です」

P「そうだったけ?」

肇「こっそり鍵開けてくれるよう、寮に居る人に連絡するんです」

P「……こっそり?」

肇「あー……ええとですね、仕事とか終わって間に合わない人とか用に、ちゃんと、その……」

P「んん? 仕事ある子は送迎ありだから、堂々と入れるように連絡しているだろ」

肇「あ……」

P「プライベートは関係ないよな?」

肇「そのぅ」

P「肇ちゃん?」

肇「す、すいません……」

5 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:21:09.30 ID:b/59r0tJ0

P「なるほど、そういう抜け穴を使っていたとはな」

肇「あの……」

P「その悪知恵を教え込んだのは誰かな」

肇「い、いえっ、それはさすがに……」

P「つまり、下手人はいるわけだ」

肇「ああぅ〜」

P「……まぁ、多少遅くなっても大丈夫ということなら、見逃すか」

肇「あ……ありがとう、ございます」ホッ

P「アイドルの夜歩きは感心しないけどな」

肇「わわ、私はしないですよっ?」

P「その方がいい。別に品行方正であれとは言わないが」

肇「それ、言っていんですか」

P「肇だからいいんだよ。ちょっとはハメの外し方を知ってもいいぞ」

肇「はぁ……」

6 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:21:35.57 ID:b/59r0tJ0

P「しかしそうなると、本当に仮眠の選択肢もありだなぁ……」

肇「安全第一ですよ」

P「ああ、事故起こすよりはマシだな」

肇「その通りです」

P「うん、わかった。じゃあ、少しだけ寝かせてもらうか」

肇「ええ、構いません。けど、どこで寝るんです?」

P「え。駐車場に車止めたらそのまま運転席で」

肇「だ、だめですよそんな」

P「とは言ってもなぁ。SAで豪華なとこなら、ゆっくりできる休憩所もあるけど」

肇「この先には無いんですか?」

P「どうだったかな……あっても長距離トラックの運転手用とかだったかも」

肇「そうですか……」

P「大丈夫だって、社用車での居眠りは営業する人間にとって必須スキル……」

肇「……」ジトー

P「なんてこともないだろ?」

肇「そういうこと言うんですね、ふーん」

P「ちひろさんには是非内密に」

肇「……ふふっ、大丈夫ですよ。私も内緒にしてもらっていますから」

P「……」

肇「……」

P「ははは」

肇「ふふふっ」

7 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:22:01.73 ID:b/59r0tJ0

P「ま、車で寝るだけで十分だよ。本格的に寝ちゃったら、それこそ帰れなくなる」

肇「そうは言いますが…… ……あっ」

P「ん?」

肇「Pさん、あれは違うんですか?」

P「あれ?」

肇「あのお城みたいな建物は」

P「違います」

肇「え、でもホテルとかリゾートって」

P「違うんです。いいですか、帰っても誰にも聞かないように」

肇「はい?」

P「聞かないでください、頼むから」

肇「……ええと、Pさんが仰るなら……」

P「ありがとうございます」

肇「なぜ敬語なのでしょう……?」

P「生殺与奪を握られているからかな」

肇「?」

P「まぁ、気にするな」

8 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:22:28.70 ID:b/59r0tJ0

P「あー。肇の主張は、仮眠と言っても横になってちゃんと休めってことなのか?」

肇「そう、ですね。座ったまま寝ていたら、疲れ取れないじゃないですか」

P「それはその通りだな。じゃあ、そこのところはクリアできそうだ」

肇「え?」

P「そんじゃ、次のSA入るよ」

肇「あ、えっと、はい」

P「1時間半も寝れば、帰るまでは持つからさ。それまでちょっとSAでも見て時間潰してくれよ」

肇「はい、大丈夫です」

P「この時間だから……起きたらもう夕食時だな。夕飯はSAで食べて帰ろう」

肇「あ、それはちょっと楽しみですね」

P「そんじゃぁ、女子寮へ連絡もしておいてな。こっそりと」

肇「ふふっ、わかりました。こっそりと」

9 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:23:14.85 ID:b/59r0tJ0

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――駐車場

ギッ カチ

P「ふぅ、ひとまず無事到着、と」

肇「お疲れさまです」

P「それじゃ、寝床つくるか」ガチャ

バタン ガチャ

肇「後部座席ですか?」

P「そういうこと」

ガチャ

P「この車はな、後部座席倒すとほら」

ガタッ ガタガタ ガチッ

P「フラットになるんだ」

肇「へぇ、よく出来てますね。でも、ちょっとでこぼこしてます」

P「まぁ、それくらいは。だいぶマシだろ」

肇「そう……ですね」

P「じゃあ、肇の許可も出たことだし…… ……ふあぁ、いかん、いい感じに眠気が回ってきた」

肇「早速寝ちゃいます?」

P「ああ、そうするよ。ええと……」

P「あ、運転席だ」ガチャ

肇「何ですか?」

P「車の鍵、渡しておかないと」

肇「えっ、私に、ですか?」

P「一応はね。中で俺が寝てるとはいえ、鍵開けっぱなしってのはちょっと」

肇「確かにそうですね…… あのっ、私にも使えますか……?」

P「……自信ないの?」

肇「恥ずかしながら、先日芳乃さんとカラオケに行った時も七転八倒でして……」

P「あー、うん、まぁ、ふたりとも初めてなら仕方ないか……?」

P「これはボタン二つしかないから、見ればすぐわかるよ」

肇「は、はいっ」

P「あ、さすがにエンジンは掛けないで」

肇「心配しなくてもそんなことは……あっ」

P「?」

肇「ぼ、ボタンでエンジンかかりますか?」

P「かからんかからん」

10 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:24:21.55 ID:b/59r0tJ0

P「あとは……ああ、お金ちょっと渡しておこうか」

肇「えっ、い、いいですよ」

P「最近のSAグルメは美味しいらしいぞ」

肇「自分の分は自分で買いますって」

P「きっちりしてるなぁ」

肇「私のために今日を開けて頂いたんです。受け取れません」

肇「それに……約束したじゃないですか、夕食一緒に食べるって」

P「ん……ああ、そうだったな」

肇「だから、その時に……えっと、ご馳走になっちゃいます」

P「おう、分かった」

肇「ず、図々しいでしょうか」

P「そんなことないよ。むしろ、年相応に甘えてくれた方がいいさ」

肇「……はい」

P「あー」

ゴロン

P「うん、いい感じだ。スマホで……1時間半後に……」

P「それじゃあ、肇。すまんが少し……」

肇「大丈夫ですよ」

P「あー、すぐに落ちそう、だ……」

肇「ふふ……おやすみなさい」

P「ん……」



――冒頭の茶番へ

11 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:25:07.72 ID:b/59r0tJ0

――サービスエリア

肇(……というわけで、少し時間ができました)

肇「まぁ、1時間半なら、すぐに過ぎますね」

肇「……」

肇(まずはお手洗い、と)

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ジャー

肇「さて……」フキフキ

肇(サービスエリアって、どんな施設があるんでしょうか)

肇(ん? このスペース、流しは無くて鏡だけ。……化粧台かな)

サッサッ

肇(……髪は崩れてませんね。ファンデーションとかどうしよう。今日は釣りだからノーメイクできたけど……メイクポーチはあるんですよね)

肇(ああでも、これからしっかりメイクするって言うのも……)

肇(……あれ、そういえば私、何で今日は作務衣を着てこなかったんだろう)

肇(動きやすい服装を選びはしたけど、釣りに行くならいつもの恰好の方が……それなら、ポーチも必要なかったはず……)

肇(なんでって…… ……それは……)

12 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:25:36.74 ID:b/59r0tJ0

肇(な、なんて。なーんて)

肇(……)

肇(……化粧水だけ)

パシャ パシャ

肇(と、軽くファンデーションだけ……)

肇(これはその、誰のためとか、特別な意味は無く、そう、変装の一環、的な)

肇(……無理がありますね)

肇「ふふ……」

肇(アイドルになるまで、メイクのことなんて全く分からなかったのに)

肇(変わるもの、ですね)

13 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:26:03.46 ID:b/59r0tJ0

肇「……では」ビシッ

肇「サービスエリア探検、開始ですっ」

ガヤガヤ ザワザワ

肇「わー……」

肇(さっきより人が増えてきたような。皆さん、家路の途中なのでしょうか)

肇(それにしても、広いです)

肇(さて……やっぱり最初はお土産屋さんかな)

肇「……ん、お野菜……?」

おばちゃん「はいよー、朝採れた野菜だよー」

肇(あ、農家さん直売の野菜かぁ。響子ちゃんとか葵ちゃんが喜びそう)

肇(……とはいえ既にクーラーボックスに魚がいるんですよね)

肇(さすがに今回は見送りかな)

肇(へぇ、中じゃなくて外にもいろいろ軽食のお店があるんですね)

肇(たこ焼き、フランクフルト、クレープ……)

肇「……」クゥ

肇(……な、なかなか手ごわいですねこれは……)

肇(とはいえっ、Pさんが起きたら一緒にご飯ですので、ここは我慢)

14 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:26:41.59 ID:b/59r0tJ0

肇(外は誘惑が多いから、中に入っちゃいましょう)

肇(お土産コーナーは……わ、コーナーというか、エリアって規模です)

肇「へぇ……」

肇(クッキー、チョコレート、おまんじゅう。定番って感じ)

肇(事務所に買って帰るなら、やっぱりお菓子でしょうか)

肇(こっちはちょっと渋めに、ふりかけ、お漬物……ご当地ラーメン?)

肇(食べ物以外だと、民芸品……小物入れとか、ポーチ)

肇(……? キーホルダー?)

肇(なんでしょうこの……剣と、龍……? 名産なのでしょうか。……蘭子ちゃんが好みそうな造形ですね)

肇(あ、ご当地ぴにゃ)

−−−

肇「……ん? あっ」

肇(陶器! サービスエリアにもあるんですね)

カチャ

肇(……製陶所で作られている、ちゃんとした焼き物)

肇(高いものではないけど、飾り気なくて、気安く普段使いに良さそう)

肇(特徴のない器であっても、だからこそそういう使い方もできる)

肇(……なるほど)

肇「……」

肇(買い物自体は、また後でもいいかもしれませんね。さてと……)

肇(あちらは、食堂……あ、フードコートって言うんですね。いろんな料理のお店が並んでいますね)

肇(中も結局誘惑が強いじゃないですかぁ…… あ、でもこっちの外はお店が無いみたい?)

15 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:27:07.51 ID:b/59r0tJ0

ウィーン

肇(……日が暮れてきましたね。車を止めた時点で夕方でしたから)

肇(う〜ん、こちらには特に施設は無いのでしょうか)

肇(? あっちに広場みたいなのが)

テテテ…

肇(これは……ドッグラン? あ、長時間のドライブで、わんちゃん達がストレスを発散できるようにできているんですね)

肇(夕食時で日も暮れていますからでしょうか。誰もいませんね)

肇(……残念)

肇(遠くにはガソリンスタンドもありますね。あれは、出口の方かな)

肇(車というのもいいですね。こうやって遠出して、釣りにも行ける)

肇(あ、原付免許ならもう取れましたね)

肇(でも、釣り道具が大変かも……延べ竿は無理ですね)

肇(釣りをするということだけで言うなら、河川沿いに住むというのもいいかもしれません)

肇(できれば窯も家の裏手にあるような……さすがにそれは欲張りすぎ?)

肇(でも、そんな家に、住むのは……一人ではなくて……)

肇(……)

肇(いえっ、決して誰か特定の人を想像していたわけでは……!)

肇(そんなことも無くはない素敵な話だなって思っただけで……!)

肇(というか私は誰に向かって弁解をしているのでしょう!)

肇「……すぅ、はーっ……」

肇(……Pさんがいまここにいなくてよかった……)

16 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:27:39.06 ID:b/59r0tJ0

肇「うーん……」

肇(あまり見るべきところはなかったですね。やはり建物内を見て回るのが良さそうです)

ピッ ガタ ガタン

肇(自動販売機コーナー? こんなに何台も並んでいるのは、初めてみるかもしれません)

肇(飲み物だけじゃなくて、軽食なんかもあるんですね)

肇(……画面付き、コーヒー自動販売機?)

肇「?」

肇(他は普通の飲み物が多いけど……あのコーヒーのだけ、どことなく異質です)

肇(あ)

男性「うーん、まぁブラックでいいか」

肇(あの方、あの自販機で購入していますね。果たしてあの自販機はいったい……)

チャリン ピ ピ

肇「……」ジー

テレンテンテンテンテレレレテーテン

肇(音楽流れるんですか!?)

肇(あ、コーヒーの豆が画面に……挽くところを見られるんですね)

肇(……)

肇(……要ります?)

肇(待ち時間に見られるものがあるのは、何もないよりいいのかもしれませんが……)

肇(……)

肇(……車に戻るとき、Pさんにコーヒーとか買っていこうかな)ソワソワ

17 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:28:12.91 ID:b/59r0tJ0

肇(こっちは……ああ、コンビニが併設されているんですね)

肇「……」テクテク

肇(普通のコンビニ……いえ、コンビニはそれでいいはずなのですが)

肇(雑誌の立ち読みというのも、いささかはしたない気がしますね……)

〜♪ ネェ ミテ ホラ キレイナツキダヨ

肇(あ、店内有線……奏さんの曲です)

肇(知っている曲が流れると、ちょっと嬉しいですね)

肇(といっても、結局見るものなんてあまり無いでしょうし)

肇(なんかこう、コンビニの商品を見て回るレベルというのは、だいぶ限界が近い気がします……)

肇(……ワンデイスキンケアセット?)

肇(なるほど、急なお泊りに……便利ですねぇ)

肇(……お泊り……)

肇(い、いえっ、そのようなことは無いはずですがっ……!)

肇(でももしかしたら……いやいやいや、そんなこと……!)

肇「……はぁ、はぁ……」

肇(ああもう、先ほどから、なんか変な考えが頭をよぎりますね……)

〜♪

肇(わん・つー・きす・き……)

肇(……)

肇(いやいやいや、そんなこと!)

18 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:28:39.68 ID:b/59r0tJ0

肇(な、何故かコンビニにいるだけなのにゴリゴリと疲れが……)

〜♪

肇(あ、えっ、この曲……)

〜♪ ツチーノウエヘーミズノナーカヘー

肇(……この前の公演を思い出しますね)

肇(……)

肇(そ、外で、自分の曲を聴くの、ちょっと恥ずかしすぎます……!)

タタタ…

肇「……ふぅ」

肇(思わず逃げてしまいましたが……)

肇(芳乃さんだったら、その場で歌い始めていたかもしれません)

19 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:29:10.19 ID:b/59r0tJ0

肇「ふふ……」

肇(あの時作った、2人の器)

肇(ライブで浴びた、この手に受け止めきれないほどの、熱い歓声)

肇(一つ一つ形作っていくステージは、私たちの大切な器)

肇(比奈さんと柚さん、裕美ちゃんに巴ちゃん。加蓮さんと、飛鳥さんと)

肇(これまで手掛けてきた器たち)

肇(そして)

肇(……Pさんがいなければ、できなかっこと……)

肇「ふふ……」

肇(などと、詮ないことを考えてしまいますね)

肇(……じゃあ、私は……?)

肇(私一人でできることは。私ができることは、何なのでしょう)

20 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:29:50.37 ID:b/59r0tJ0

テクテク…  ガヤガヤザワザワ

肇(だいぶ人が増えましたね。軽く飲み物でもいただこうかな……ん?)

肇(無料のお茶、ですか。こんなのもあるんですね)

肇(カップは……ボタン?)

ポチ  カコ

肇(……ちょっとたのしい)

肇(これをこっちに置いて)ポチ

トポポポ…

肇「わぁ」

肇(無料でお茶やお水、ささやかに嬉しいですね)

肇(……席は、いま少し混んでるので、立ちながら飲んじゃいましょう)

肇(さすがにこのままじゃ、お土産は見られませんね……どうしようかな)

肇(あ。あれは……)

21 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:30:18.16 ID:b/59r0tJ0

肇(高速道路の交通情報。こんな大きな画面に映るんですね)

肇(……私が映った渋谷交差点の画面の方が大きいですよ)

肇「なんて……ふふっ」

肇(……へぇ)

肇(渋滞、工事ランプ閉鎖、片側交互通行、渋滞、事故、渋滞)

肇(……いまがこのSAだから、ここからこう行って……ええと、行きに乗ったインターチェンジってここら辺だったかな)

肇(そして、今日はあそこのインターから降りて、さらにそこから沢に入りましたね)

肇(今日一日で、ここからあそこまで)

肇(……Pさんと2人で、こんなに一緒にいたんですね……)

肇(朝からずっと……)

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――渓流

パシャッ

肇「よしっ」

ビチビチビチ

P「もう5匹か……すごいな」

22 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:30:44.52 ID:b/59r0tJ0

P「それにしても、天気はいいし、空気は美味しいし、水音が心地いいけど……まったく釣れないなぁ」

ヒュッ

P「うーん、餌もとられていない……」

肇「針もハリスも私と同じものですよね。餌のたらしがちょっと長いかも……?」

P「はぁ。なんかコツってある?」

肇「そうですね……魚がどこにいるか、どこなら安心して餌に喰いつけるか考えたり、でしょうか」

P「うぅむ……」

肇「お、おさかなのきもちになるですよー」テレテレ

P「は? かわいいの権化か?」

肇「えぇ、なんで怒るんですか……」

23 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:31:12.17 ID:b/59r0tJ0

肇「あとは、もうちょっと上流にいってみますか? すこし山登りですけど」

P「上行くと変わるのか?」

肇「ええ、いまここは少し警戒されている気がします」

P「警戒って、魚にも危機感があるのか」

肇「人が川岸を歩くだけで、岩陰に隠れちゃいますからね」

P「へぇ」

肇「なので、魚に気づかれないようにすることは重要なんですよ」

P「そうか。よし、行ってみよう」

肇「はいっ」ニコニコ

24 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:31:38.79 ID:b/59r0tJ0

ググッ

P「おっ!?」

肇「かかりましたっ?」

バシャバシャ

P「おおっ、泳いでるのわかるっ!」

肇「無理に引き上げなくていいですよ。そうそう、動きに合わせて」

肇「そのまま竿を立てて、水から引き上げちゃってください」

P「よっ」

パシャッ

肇「Pさん、このタモに……!」

P「おっ」

肇「よいしょっ」

ポスッ  ビチビチ…

P「……おーっ、やった!」

肇「おめでとうございますっ」

P「よかったー、どうにか1匹は釣ったぞ」

肇「ボウズは逃れましたね」

P「ボウズ?」

肇「釣果0のことです。あの、お坊さんの、頭がって由来らしいんですけど」

P「あー。……お、20cm? ないくらいかな?」

肇「ええ、いい型の岩魚ですね」

P「これぐらいサイズで、あんなに引くんだな」

肇「指先に生命力を感じますよね」

P「ああ」

肇「……ふふ、楽しんで頂けて、良かったです」

25 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:32:05.64 ID:b/59r0tJ0

肇「実を言うと、今日はちょっと不安でした」

P「うん?」

肇「いくら私へのご褒美とはいえ、慣れないことに誘ってしまったかと」

P「いやぁ。確かに慣れないことだけど、経験はしてみたかったから」

肇「そうなんですか?」

P「釣りって、趣味にあげる人は結構いるだろ。そんな凝り性じゃないけど、いろんな体験をしておくのはいい事だし。会話のきっかけで仕事がはかどるかもしれないし」

肇「なんでも仕事に結びつけるのはどうかなとも……」

P「そう思うか? 俺より、肇たちの方がこう言うことの重要度は高いぞ」

肇「え?」

26 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:32:37.43 ID:b/59r0tJ0

P「楽しいこと、辛いこと、ワクワクしたこと、悔しかったこと。ひたむきにレッスンを重ねていたこと、それを披露して最高の気持ちでステージからハケたこと」

P「全ての経験が、君たちのステージを形作る。レッスンだけがアイドルを作るわけじゃない」

肇「……」

P「いずれはこのアイドルの経験だって糧として、肇の最高の器を作ってくれたなら」

P「いい経験をさせてあげられたなと思うよ」

肇「……」

P「んっ。……これは」ググッ

肇「?」

P「お、大きい!? びくともしないぞ!」グイー

肇「根がかりですそれ」

27 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:33:40.49 ID:b/59r0tJ0

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

肇(……自分と向き合うために始めたアイドルでしたね)

肇(未熟ながらここまで走り続けてきて)

肇(不相応なほどの歓声と熱い思いに支えられて)

肇「ああ」

肇(そうか)

肇(私一人でできることは何なのか、分からないままでしたが)

肇(ひとりでも、皆がいる)

肇(Pさんが、同僚のアイドルの皆さんが、ファンになってくれた人たちが)

肇(皆がいるから、私はあのステージに立って、アイドルでいる)

肇(自分と、自分を応援してくれるファンの皆さんに。そして、一番身近な、一番最初のファンの、あの人にも)

肇(いまは、全てに感謝を込めて、想いを返していきたい)

肇(それなら……私一人だけではないのなら、どんな曲でも。どんなステージでも)

肇(どんな器でも創っていける)

肇(私の世界を包む、私という器を、少しずつ広げながら)

28 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:34:09.12 ID:b/59r0tJ0

肇「あ……」

肇(……少し、考え込んでしまいました)

肇(ええと、時間は…… ……まだ、Pさんが起きるには少しありますか……)

肇「……」チャリ

肇(この鍵を持って車に戻ったら、Pさんがいる)

肇(……年相応に甘えて、かぁ)

肇(Pさんにとって、私は甘やかす対象なんですね)

肇(……ちょっと、戻りましょうか)

肇(何故か、無性に)

肇(あの人の顔を見たくなったので)

29 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:34:39.40 ID:b/59r0tJ0

――車内

ピピッ カチャ

肇「……」

パタン

肇(……あ、内側からも閉められる?)

ピピッ カチッ

肇「よし、と」

P「……」

肇(戻ってはきましたが……)

肇(……やはり、まだ寝ていましたね)

30 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:35:05.39 ID:b/59r0tJ0

肇「……」

P「ぐぅ……」

肇「Pさん……」

肇(今日は……本当に、ありがとうございます)

肇(いいえ、今日だけではなく、ここまでの道のりの全てに感謝を伝えたいのだけれど)

肇(我がまま、でしょうか。ここまでだけではなく、これからも、ずっとなんて)

肇(……これからも)

P「……」

肇(寝顔、初めてみたかも……)

サラ…

肇(あ、髪がPさんの顔にかかり……そう……)

肇(……)

肇(近い……)ドキドキ

肇(髪がかからないように……)

肇(抑えながらだと……凄く近づけますね)

肇(……もう、すぐ、そこに)

肇(……)

パタリ

肇(……)ドキドキ

肇(私は)

肇(何を、しようとしたんでしょう……)

31 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:35:38.44 ID:b/59r0tJ0

肇「…………ふぅ」

P「……」

肇「……Pさん」

P「ん……すぅ……」

肇「……」

肇「ふふっ」

肇(たぶん)

肇(こう言うことは、まだ、もう少し先なのかもしれません……)

肇(まだ、これからのこと。急ぎ足だと、楽しみ切れませんよね)

肇(だから、いまは)

肇(もうすこしだけ、この暖かさに触れていたいです)

32 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:36:08.28 ID:b/59r0tJ0

ピピピ ピピピ ピピピ

P「……ん……」

P「停止……」

P「……」

肇「すぅ……」

P「…………え」

P「えっ、肇っ?」ガバッ

肇「……ん、Pさん……起きました?」

P「え、うん……いや、なんで隣に……」

肇「ふふ……私も、眠くなってきちゃいました」

P「そ、そう」

肇「Pさんも」

P「ん?」

肇「まだ、眠そうですね」

33 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:36:49.02 ID:b/59r0tJ0

P「いや、うん、まぁ、少しは……」

肇「もう少しだけ、寝ませんか」

P「あ…… ああ……」

肇「では……」

P(……眼冴えたよ……)

肇「……ん」モゾモゾ

P「あの……近くない?」

肇「この方が、暖かくないですか?」

P「それはまぁ、そうだけど……」

肇「……ふふ……」

P(……まぁ、これくらいなら大丈夫、だよな)

肇「すぅ……」

P「……ふぁ」

P(もう一眠り、させてもらうか)

肇「……」

P「……」

34 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:37:15.73 ID:b/59r0tJ0

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

P「うわー、結構寝ちゃったな……」

肇「す、すいません。私も思ったより疲れていたのか……」

P「まぁ、仕方ない。く、うーっ……身体バキバキだ」ノビー

肇「ほんと、ですねーっ……」ノビー

P「肇、女子寮の方大丈夫か」

肇「ええ、周子さんか小梅ちゃんが対応してくれる、と」

P「夜行性組か。……まぁ、少しつつかれるかもしれないけど、そこはうまく乗り切ってくれ」

肇「つつかれる?」

P「いや、その、な。えーと……夜遅くに、男の車で帰ってくるってのはな……」

肇「…………あっ」

P「もちろん、なにもなかったけどな? 事実をそのまま話して問題ないけど」

肇「は、はい」

P「まぁ、少しはからかわれるかもしれない。……まぁ、それは俺もだけど」

肇「……ふふっ」

P「ん?」

肇「いいえ。楽しいなって、思っただけです」

P「あー……そう、ですか」

35 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:37:41.78 ID:b/59r0tJ0

P「じゃあ。なんか食べに行くか」

肇「はい。あ、飲み物でもいかがですか。夕食はご馳走になるって言いましたので、それくらいは私が」

P「ん? まぁ……そうだな、たまにはお言葉に甘えよう」

肇「はいっ。コーヒーの自動販売機がですね、画面が付いていて、コーヒー豆を挽くところが見られるんですよ」

P「あぁ。録画した映像流すだけなんだってな。ちゃんと映してるのもあるらしいけど……」

肇「……」

P「やべ」

肇「んー」プクー

36 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:38:47.38 ID:b/59r0tJ0

P「悪かったって。飯食べいこう、な」

肇「……ソフトクリームも付けてください」

P「はは。わかったよ」

P「今日一日で、結構肇の印象変わったなぁ」

肇「え、そうですか?」

P「悪い意味じゃないよ。あ、単純に仲良くなっただけかな」

肇「……それなら、嬉しいですけど」

P「ちょっとした我がままを言ったりな」

肇「それは……その、私なりの羽目の外し方といいますか……」

肇「甘え方と、言いますか」

肇「ああっ、いえっ、いまのは無しで!」

P「え、いいじゃないか」

肇「いえその……」

P「可愛かったと思うけど」

肇「ぅぅ……」

P「顔赤いのも可愛い」

肇「もうっ、Pさん」

肇「まだ、眠そうですねっ」





おわり

37 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/04/03(金) 19:39:23.74 ID:b/59r0tJ0

肇ちゃんソロ曲おめでとう。楽しみですね。
って書いてたらまさに今日試聴がきて驚きました。
https://t.co/A7vWGawXj9?amp=1

この話は、SAで静かにはしゃぐ肇ちゃんを想像していたら出来ていました。
いままでのこんな雰囲気のSS。よければこちらもどうぞ。

速水奏「はー……」モバP「はー……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546751465/

一ノ瀬志希「失踪しちゃおうか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1552181742/
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/05(日) 01:19:28.19 ID:x2/IPfd6o

肇ちゃん可愛い
SAの雰囲気好きで全く同じ感想持ってる
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