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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」

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53 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:21:45.92 ID:RP3H2uY3o

金剛「私も一緒に探しマース!」ズイッ

大和「私も拝見しますね!」ズイッ

提督「……お前らもうちょっと離れろよ……まあいい、マイクから探すか」

霧島「マイクでしたら私にお任せください!!」グワッ!

全員「「!?」」


雲龍「……」

龍驤「? 雲龍? どないしたん?」

雲龍「……なんでもないわ。ぼーっとしてた」

龍驤「大丈夫なんか?」

雲龍「ええ」コク

雲龍「……」

54 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:22:32.20 ID:RP3H2uY3o

 * 夕刻 執務室 *

提督「まあ、ステージ用の設備はこんなもんか……」

 コンコン

提督「うん?」

雲龍「提督。ちょっといいかしら」

提督「ああ、入れ」

雲龍「失礼します」チャッ

提督「……珍しいな。お前、この時間はいつも食堂にいたろ?」

雲龍「気になることがあるんです。川内って子のことなんだけど」

提督「なに?」

55 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:23:15.90 ID:RP3H2uY3o

 * 翌朝 食堂 *

神通「実は、川内姉さんに気をつけろと言われたのは、利根さんからなんです」

提督「利根から?」

神通「はい。川内姉さんはいつも明け方に戻ってきているので、迎えに行ったことがあるんです」

神通「そのときに、丁度利根さんが埠頭にいて……そのときにそう言われまして」

神通「それがどういう意味かと尋ねたところ、雲龍さんに相談しろと……」

提督「……そうか。にしても、なんで利根が明け方に埠頭なんかにいたんだ?」

神通「それは答えてもらえませんでした……」

提督「……何を考えてんのか、よくわかんねえな。おい、雲龍」クルッ

雲龍「……」モギュモギュ

龍驤「あー、あかんよ、食事中の雲龍は食事に集中したいから、話し掛けてもそうそう答えへんで」

提督「」

神通「」
56 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:24:01.35 ID:RP3H2uY3o

提督「……とにかくだ。神通、川内は相変わらず夜中に出撃してるんだよな?」

神通「はい。今朝も夜明け前に帰ってきて、お風呂に入ってからそのまま布団に倒れ込んで眠ってしまいました」

提督「ここんとこはずっとそんな調子か」

神通「毎日ハードワークしているようで、日に日に眠っている時間が長くなってはいますね」

神通「でも、起きたら起きたで楽しそうに夜戦の話をするので、ストレスがあるわけではないみたいで……」

提督「楽しそうに、ねえ。無理してる感じはねえのか」

神通「肉体的には疲れてはいると思います。それでも、今まで夜戦できなかった反動ではないかと」

提督「気になる点はいくつかあるが……のんびり構えてはいられねえんだよ」

神通「?」
57 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:24:47.43 ID:RP3H2uY3o

 * 夕方 鎮守府埠頭 *

川内「うーん……!」ノビーッ

川内「いい夕焼け! さあ、早く夜戦しに行かないと!!」

提督「またこんな時間に単艦で出撃か」

川内「あっ、提督! ごめんね、どうしても夜戦がしたくって!」

提督「お前の生活のリズムが俺たちと逆転してるからな。誰かしら随伴できりゃあいいんだが」

川内「あはは、大丈夫だよ、寂しくないから!」

提督「なんだそりゃ。連れでもいるのか?」

川内「んー、まあ、そんなとこかな?」ニカッ

提督「それから、これ持ってけ。握り飯だ」

川内「!」

提督「休みなく戦う訓練もいいが、飲まず食わずじゃ体がもたねえ。戦い続けたいなら腹に何か入れろ」

川内「……えへへ、そうだね。ありがと!」

提督「……」
58 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:25:31.22 ID:RP3H2uY3o

川内「じゃ、行ってきます!」

 ザァッ

提督「……」

神通「……姉さん、大丈夫なんでしょうか」スッ

雲龍「どうでした?」スッ

提督「飯を素直に受け取ったあたり、川内自身はまともなんだろうけどな」

龍驤「なんやなんや、また面倒事かいな」

提督「そういうこった。さて、俺は寝る」

龍驤「は? まだヒトハチヨンヨンやろ?」

提督「3時くらいに起きて見張りをしなきゃなんねえんでな」

雲龍「私もよ」

龍驤「な、なんなん? いつの間にそんな話になっとん!?」

提督「やんなきゃいけねえことがあるんだよ。なんならお前も一緒に起きるか?」

龍驤「うぐぅ……な、なんで雲龍がそんな時間に起きなあかんねん」

雲龍「彼女が起きている間に対応しないといけないの」

龍驤「???」
59 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:26:16.28 ID:RP3H2uY3o

 * 深夜 某海域 *

 ドーン…

川内「ふう、ふう……今の相手、なかなか手強かったなあ」

川内「……さすがに、ちょっと、疲れちゃった……」

川内「そうだ、提督からおにぎり貰ったんだっけ」ゴソゴソ

川内「えへへ、いただきまー……」

川内「……」

川内「……え?」

川内「……」

川内「……でも、食べないと……」

川内「……」

川内「……」

川内「……」

 ポロッ

川内「あっ!」
60 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:27:01.39 ID:RP3H2uY3o

 チャポン…

川内「おにぎりが……!」

 ――そんなことより、夜戦しようよ

川内「……」

 ――食べてる時間だって、もったいないよ

川内「……」

 ――今まで、ずっと時間を無駄にしてきたんだよ

川内「……」

 ――さあ、早く、夜戦しよう!

川内「……そう……」

川内「そうだね……」

川内「……夜戦、しないとね……!」

 ――そうだよ、もっと、もっと夜戦しようよ……!

川内「……うん!」

 ――ふふっ、ふふふふ……!
61 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:27:46.54 ID:RP3H2uY3o

 * 翌日未明 入渠ドックそばの大浴場 *

 シャワーーーー…

川内「……今日も疲れたぁ……へとへとだあ」フラフラ

川内「こんなに夜戦できて、幸せぇ……」ウツラウツラ

 ワシャワシャ…

川内「……! 背中、流してくれるの……?」

川内「あはは、ありがとう……気持ちよくて、このまま寝ちゃいそう……」フラッ…

 パタッ…

川内「……」

 ――いいよ。ゆっくり、休んでて



 ――あとは、私に任せて、ずーっと休んでて





 ――  い  い  か  ら  ね





.
62 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:28:31.33 ID:RP3H2uY3o

「急急如律令」

 ゴォォッ!!

 ――!?

 衝撃波<ガォォォンッ!!

 ――ぐううっ!?

雲龍「……そこまでよ」

 ――どうして……どうして!?

 ジワッ

幽霊『どうして邪魔するの……!?』

雲龍「邪魔をしない訳にはいかないわ。その子を衰弱死させるつもり?」

幽霊『ちょっと体を借りるだけだよ! 私だって同じ川内なんだから!』

雲龍「同じ……?」

川内の幽霊『そうだよ! ちょっと体を借りようとしただけだよ!』

川内の幽霊『私だって夜戦したい! でも、体はボロボロで、この島に流れ着いたときは、そんなことできなかったんだもの!』

川内の幽霊『だから、こっちの川内に眠ってもらって、私が代わりに夜戦しようとしてたんじゃない!』
63 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:29:16.17 ID:RP3H2uY3o

提督「朧の時みたいに体を乗っ取って、か?」スッ…

川内の幽霊『!』

提督「川内の装備の妖精から話を聞いたが、お前、川内に預けた握り飯を捨てさせたらしいな?」

川内の幽霊『そうだよ……疲れてなきゃ駄目なんだ。彼女が起きてたら、私が体を操れないじゃないか……!』

提督「そのためには、そこにいる川内の命はどうなってもいい、ってか」

川内の幽霊『彼女は夜戦したがってた! だから私が誘って思いっきり夜戦させてあげたんだ!』

川内の幽霊『こんどは私の番! 私が夜戦する番だよ!!』

提督「……」

雲龍「提督。長くこの世に留まった幽霊は、人に害をなすと言うわ」

提督「ああ。聞く耳持たねえんじゃ、相手するだけ無駄なようだな」

川内の幽霊『……なによ! 結局、私に夜戦させてくれないんじゃない!』ザワッ

川内の幽霊『この子ばっカりずるい! ずるいずるイ!!』
64 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:30:00.90 ID:RP3H2uY3o

川内の幽霊『私だっテ夜戦しタいノ! 夜戦! 夜戦!! ヤセンンン!!』

 グォォォッ…

提督「……なんだ!? でかくなりやがった……!」

川内の幽霊『ヤァァセェェェンンン!!』グワッ

雲龍「大丈夫よ」

 シャラン

雲龍「自此莫過、祓給清給。願主雲龍、道切修奉」

 ゴゴゴゴ…

川内の幽霊『……!?』

雲龍「あなたの居場所はここではないわ。天か、海か、好きな方へ向かいなさい」シャラン

 ゴォォッ!!

川内の幽霊『イ、イヤッ……イヤダァアアア!』


 バシュン!!

65 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:30:45.92 ID:RP3H2uY3o

雲龍「……」

提督「……」

雲龍「ふぅ。終わったわ」

提督「そうか。ありがとな」

雲龍「一応言っておくけど、退治した訳ではありません。ここから追い返しただけ」

提督「……道切(みちきり)修し奉る、とか言ってやがったな。悪い者が入ってこないようにするためのまじないか」

雲龍「はい。あとで略式でもいいからお祓いをした方がいいと思います」

提督「まったく、手間ァかけさせやがって……やっぱり水葬してやった方がこいつらのためだったのかね」ハァ

雲龍「それは少し違うと思います。彼女は……もっと艦娘として戦いたかっただけなんだと……」

提督「……んじゃあ、未練、ってやつか」

雲龍「私も、艦娘として誰の役にも立たないまま死にかけた身です」

雲龍「理由はどうあれ、艦娘の役目を背負って戦えることが、きっと、羨ましかったんだと……」

提督「やれやれ……それじゃあ、どうしたもんかね」

雲龍「……ごめんなさい」

提督「謝んなよ、独り言だ。誰も知らねえんなら調べるしかねえ」

提督「とにかく、お前のおかげで川内も助かったんだ。改めて礼を言わせて貰うぜ」

雲龍「……はい」ニコ

提督「よし、俺は退散だ。神通を呼んで川内を診て貰わねーとな」
66 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:31:35.12 ID:RP3H2uY3o

 * 埠頭 *

提督「……利根は、いねえな」キョロキョロ

雲龍「提督」スッ

提督「うん? なんだ?」

雲龍「利根に、直接話をするのは、やめた方がいいわ」

提督「どういう意味だ」

雲龍「川内は、悪い霊に取り憑かれていたのだけれど、利根は、そうではないんです。共存できているようなんです」

提督「共存? ……取り憑かれ、て……利根にもか!?」

雲龍「はい。それも、何体か」

提督「!?」

雲龍「提督は、心当たりはありますか。利根に、複数の霊が取り憑いていることについて」

提督「……利根に、霊が、取り憑いてる……?」

提督「まさか……前に利根がいた鎮守府で、殺された利根たちの霊が取り憑いてるってのは、関係あんのか!?」

雲龍「……なるほど。そういうことですか」ウーン

提督「おいおいおい……大丈夫なのかよ利根は」
67 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:32:16.22 ID:RP3H2uY3o

雲龍「少なくとも、私が話した利根の幽霊の一人は、今の利根に害を与えるつもりはないみたいです」

雲龍「ただ、主人格の利根が眠っているときに、目覚めて体を借りていると」

雲龍「あまり動きすぎると体の疲れが取れないから、短時間かつ交代で体を借りているらしいです」

提督「……肉体のルームシェアかよ。本当に大丈夫なんだろうな、利根は……」

提督「まあいい、ともかくこの件もあまり他言しねえ方が良さそうだ。こんなオカルト話、下手に流して利根が避けられても困る」

雲龍「……」ニコ

提督「……なんだその笑顔」

雲龍「いえ。優しいんですね」

提督「やめてくれ、くすぐってえ。それより悪かったな、こんな早くに大事な仕事させちまって」

雲龍「あ……提督」

提督「今度はなんだ?」

雲龍「お腹がすきました」

提督「……」
68 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:33:01.16 ID:RP3H2uY3o

 * 食堂 *

雲龍「……」モグモグ…

川内「がつがつがつがつ!」

雲龍「……」モグ…

川内「ばくばくばくばく!」

雲龍「……もう少し、落ち着いて味わって食べたらいいと思う。もったいない」

川内「へっ? あー、ごめんごめん。おいしくて箸が進んじゃってさあ」エヘヘー

提督「つうか川内お前、しばらくまともに食ってなかったろ」

川内「うーん、そうだっけ? 確かにお腹ペコペコだし、食べてなかったかも」

提督「覚えてねえのかよ」

川内「うん。……ここ最近の記憶、ちょっと曖昧、かなあ」

提督「……」

神通「姉さん、まさかお風呂もまともに入れてないんじゃ……」

川内「あー、それは大丈夫だって。まあ、幽霊に背中流して貰ってたりしてた気がしたけどさあ」

神通「!?」
69 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:33:46.12 ID:RP3H2uY3o

提督「あぁ!? 自覚あったのかよ!!」

川内「この島に来て最初の夜だったかな。うるさくすると提督に怒られるよ、って幽霊に言われたんだ」

川内「それから一緒に夜戦して、夜通し付き合って貰ってさ!」ニコニコ

川内「二人で戦ってるみたいで楽しかったなあ」フフッ

提督「……」アタマカカエ

神通「姉さん……少しは危機感というものがないんですか」

川内「でもさあ、夜戦できないまま沈んだっていうし。可哀想じゃない」

川内「だったらせめて、私に同行させて一緒に夜戦すれば、気が晴れてくれるかなって」

川内「私もさ、夜戦できない苦しさはわかってるつもりだからね……」

神通「一歩間違えたら死んでいたかもしれないんですよ!?」

神通「気絶していたのがお風呂の湯船の中だったらどうする気だったんですか!」

川内「えへへ……ごめんごめん。気をつけるからさ?」

提督「やれやれ……雲龍もなんか言ってやれよ」

雲龍「……提督」マジッ
70 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:34:30.35 ID:RP3H2uY3o

雲龍「あなたの作った朝餉、とってもおいしいわ」

神通「!?」

川内「あ、私もそう思う!」

提督「いや、そういう話じゃなくてな」

雲龍「私にはこの朝餉のほうが大事。提督、どうしてあなたが料理を作らないの?」

提督「いや俺は他人に料理作るような奴じゃねーし」

提督「そもそも比叡たちが毎日作ってる量より全然少ねえから、味付けもしやすいってだけだろ」

雲龍「私は提督に毎日御飯を作って欲しい」キラキラキラッ

提督「」

川内「えっ!? なにそれ、プロポーズ!?」

神通「姉さん!? 雲龍さんも変なこと言わないでください!」

雲龍「変じゃないわ。本気よ」
71 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/17(日) 23:35:16.53 ID:RP3H2uY3o

龍驤「ふわぁ……結局起きれへんかったわ。雲龍ー、大丈夫やったん?」スタスタ

雲龍「龍驤。提督に、私たちに毎日朝餉を作ってくれるよう、お願いして」

龍驤「」

龍驤「」

龍驤「雲龍、キミ何言っとるん!?」

雲龍「私は本気よ」

龍驤「提督キミィ、うちの雲龍なに誑かしとんねん!」ギロリ

提督「……」

神通「提督、面倒臭がってないで、説明してください」

提督(もう喋んのも面倒くせえ)

川内「本っ当、面白い鎮守府だねー」アハハ

神通「川内姉さんが言わないでください!」プンスカ!
72 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2020/05/17(日) 23:36:48.05 ID:RP3H2uY3o
というわけで今回はここまで。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/05/18(月) 02:32:05.97 ID:sVHgIRB80
今回もとても面白かったです!
お体に気を付けてお過ごしください。
陰ながら応援させていただきます。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/05/18(月) 16:44:30.02 ID:1j/SMV5sO
待ってました!!
続きお待ちしてまっす!
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/05/21(木) 03:46:03.76 ID:vsNu6OLy0
最近読み始めてやっとここまで来ました! 
楽しみにしています!
76 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 22:58:35.77 ID:1m+de9zfo
更新スピードにムラがあるのはご容赦願いたく。

続きです。
77 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 22:59:16.20 ID:1m+de9zfo

 * その日の夜 鎮守府内、廊下 *

川内「んーっ、よく寝たぁ……!」ノビーッ

川内「よーっし、今日も頑張って夜戦しよっと!」

川内「……あれ? 今日は声が聞こえないな」

川内「昨日無理しすぎてたからなあ……向こうも遠慮してるのかな。それともみんなにばれちゃったからかなあ」

暁「あ、川内さん! またこれから出かけるの?」

川内「! あ、あぁ、暁……か」

暁「? どうしたの?」

川内「え? な、なんでもないよ。またこれから夜戦の練習にね」

暁「暁も自主的に練習したほうがいいかしら」ウーン

川内「あ、うん……そう、かもね」

暁「でも、明日の朝は朝ごはんの準備があるから駄目ね。明日、長門さんと相談して暁も一緒に練習できる日を作ってもらうわ!」
78 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:00:02.29 ID:1m+de9zfo

川内「……」

暁「川内さん? どうしたの?」

川内「あのさ、暁……I提督、って、知ってる?」

暁「I提督……?」

川内「……」

暁「うーん……」クビカシゲ

川内「……」

暁「ごめんなさい、I提督って人のこと、暁は知らないわ」

川内「知らない……?」

暁「うん、初めて聞いた名前だから……川内さんの知ってる人?」

川内「……いや、いいよ、忘れて。変なこと言ってごめんね」

暁「?」

川内(そうだよね、知ってるわけないか……ここへ来たときに暁から『初めまして』って言われたときにわかってたはずなのに)

川内(でも、暁を見ていると、どうしてもあの暁を思い出すのはなんでなんだろう……)

川内「とにかく、私はそろそろ行ってくるね。暁は明日の朝早いんでしょ? 早く寝なよ?」
79 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:00:46.17 ID:1m+de9zfo

暁「わかったわ! 川内さんも気を付けて、いってらっしゃい!」

川内「……っ! う、うん、行ってくるよ!」タッ

川内(……あの『いってらっしゃい』の言い方、I提督に似すぎてるよ……)

川内(でも、あの暁は……別人、なんだよね)

暁「? あんなに慌てて、何かあったのかしら」

暁「それにしても……I提督って誰なんだろう」

暁「I……提督……」

 ズキッ

暁「ぐっ……!?」ヨロッ

暁「な、なに……!? あ、頭がぁ……!」ズキズキズキ

暁「く……う……っ!!」ズキーッ

暁「……っは、はぁ、はぁ……!」ガクッ

暁「な、なんだったの、今の……」フラフラ

暁「あれ? 私、何の話をしてたんだっけ……さっき川内さんと……うーん?」

暁「いけない! 明日早起きしないといけないんだったわ!」タッ

80 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:01:31.14 ID:1m+de9zfo

 * X提督鎮守府 執務室 *

X提督「I提督鎮守府の近海から、暁の艤装の一部が見つかったんだ」

ヴェールヌイ「そ、それは確実なのか……!?」

X提督「その艤装から装備妖精たちを救助できた。その妖精たちが、かつてI提督の元で働いていたと、話しているそうだよ」

ヴェールヌイ「……!」

X提督「……妖精の話によると、暁はI提督の尋常ならざる姿を見て狂乱し、そのまま鎮守府を飛び出して戦闘に突入したらしい」

X提督「暁の取り乱しようは尋常じゃなく、妖精さんが声を張り上げても、とても聞き入れられる状態でもなく……」

X提督「パニックに陥ったまま、暁は敵陣を突っ切っていったそうだ」

X提督「響が言っていた当時の状況と合致してるね」

ヴェールヌイ「……」コク

X提督「その後、衰弱した暁が波にのまれ、装備妖精たちは破損した艤装と一緒に海に放り出され……」

X提督「そのまま暁とはぐれて海を彷徨うことになってしまったそうだ」

ヴェールヌイ「……」ウツムキ

X提督「……響」

ヴェールヌイ「司令官……大丈夫」

X提督「……」
81 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:02:15.93 ID:1m+de9zfo

ヴェールヌイ「暁が……深海棲艦に殺されていないことがわかっただけでも……」ボウシオサエ

X提督「……僕たちのもとへ届いた情報は以上だ」

X提督「暁が沈んだと思われる場所の捜索を、かつてI提督のもとにいた艦娘たちが行っているそうだけど、その捜索もじきに打ち切られるだろう」

ヴェールヌイ「……」グッ

X提督「……」

ヴェールヌイ「……I提督が」ボソッ

X提督「……」

ヴェールヌイ「I提督が、連れて行ったのかな……翔鶴さんと、一緒に」

ヴェールヌイ「あの人、意外と……寂しがりやだったから、ね」

X提督「……」

ヴェールヌイ「……」 クル スタスタ…

ヴェールヌイ「……仕方ない人だなあ……」

 チャッ パタン(執務室を出ていくヴェールヌイ)

X提督「……響……」
82 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:03:03.87 ID:1m+de9zfo

 * それからしばらく後のある日 墓場島鎮守府 廊下 *

朧「あ、提督。少しいいですか?」

提督「ん? なんだ?」

朧「提督は、この島に来た艦娘に、生きるか死ぬかを聞いてますよね」

提督「ああ」

朧「あれって、何かの本の影響ですか?」

提督「本?」

朧「お腹の胎児に、生まれてきたいかそうじゃないかを聞く下りがあって……」

提督「……ああ、もしかしてあれか。まあ、影響受けてなくもねえけど、きっかけはそれじゃねえな、それを読むより前の話だ」

朧「違うんですか……」ウーン

提督「どっから話しゃあいいかな……学生の頃、いじめられてたやつを助けたことがあったんだよ」

朧「え? 提督が、ですか……?」

提督「結果的に、だがな。そもそも助けようと思って助けたわけじゃねえ」

朧「? ……よくわからないです」
83 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:03:45.24 ID:1m+de9zfo

提督「あの時俺は、いかにもないじめられっ子が、5対1で囲まれてたのを、ただ見てただけなんだ」

提督「そしたら、5人組が俺に何見てんだよ、って突っかかってきて……」

提督「ただ、俺も悪い意味で有名人だったんで、そいつらは結局、俺の悪口言うだけ言って逃げてったんだ」

朧「逃げた? 提督、やっぱり喧嘩が強かったんですか?」

提督「それなりにな」

朧「5対1で逃げられるなんて、それなりってレベルじゃないと思うんですけど……」

提督「5人組もそこまで強そうじゃなかったからな。ちょっとイキってただけの連中だ、腕っぷしで負ける要素はなかったな」

提督「まあとにかくだ、結果的にはそれでいじめっ子を追い払ったんだが、それがまずかったんだろうな……そいつ、結局自殺したんだよ」

朧「ええっ!? どうしてですか!?」

提督「俺と仲が良いなんて噂が立って、そいつが孤立しちまったんだ。そのくらい嫌われてたんだよ、俺は」

提督「正直、俺としてもその噂は面白くねえ。そういう噂が流れて暫くしてから、そいつに言われたんだ」

提督「なんであの時、俺を助けた。俺は助けてなんて言ってない、ってな」

朧「!!」
84 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:04:31.29 ID:1m+de9zfo

提督「俺だって最初から助けるつもりであの場所にいたわけでもねえし、助けたつもりもねえ。そいつのことは、本当にどうでも良かった」

提督「だから俺も、助けたつもりはない、あいつらが勝手に怯えて逃げてっただけだ、ってそいつに言って、それで終わりにしたんだ」

提督「それで、そいつと俺に繋がりがないってことが知れ渡って、結局またいじめられて。それでそいつはビルの上からサヨウナラ、と」

朧「……」

提督「教師どもはその責を俺に押し付けようとしたんだが、この時ばかりは親が出てきて弁護士呼んじまった。だから俺は全然喋ってねえ」

朧「……いじめてた人たちはどうなったんですか」

提督「知らねえな。興味もねえ」

朧「朧は、そういう人たち、許せないです……! 提督、どうにかできなかったんですか?」

提督「そういうふうに義憤にかられることも昔はあったけどな。もう諦めちまった」

朧「諦めた、って!?」

提督「だってなあ、いじめられるよりも、妖精とお話しできちゃう気狂いの仲間に見られる方が嫌だ、って言われてるんだぜ」

朧「……っ!」

提督「俺が誰かの味方になること自体、望まれても許されてもねえんだ。俺が善意で動いても拒絶されて終わりさ」

提督「だから諦めた。本当に俺に向かって、助けて欲しいと言われない限り、手も口も出すのを諦めた。それだけの話だ」

朧「提督……」
85 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:05:15.89 ID:1m+de9zfo

提督「……如月のときも、体中傷だらけでひどい有様だった。いっそ死んでしまったほうが楽なんじゃねえか、って思いもしたんだ」

提督「助けてやろうと俺から言わなかったのも、助けを望んでないならただのお節介、有難迷惑にしかならねえからだ」

提督「あいつみたいに、助けて欲しいなんて言ってない、なんて言われたくなかったからな……いっそ介錯してやろうかとも考えたくらいだ」

朧「……」

提督「だが、如月は、助けて欲しいと言った」

提督「どうせ死ぬなら、この世界の嫌なものを一つでも消して、少しでも自己満足を満たしてから死にたかったからな。刺し違えるのも悪くねえ」

提督「……でも、よく考えたら、俺もとんでもねえ卑怯者だな」

朧「ど、どうしてですか!?」

提督「だってなあ、生きたいか死にたいか聞いて、わざわざ言質取ってんだぞ? 自分が責任を取りたくねえ教師どもと同じじゃねえか」

朧「っ……そんなことないです! 朧は、いつもそうやって、自分のことを悪く言う提督はキライです!」ガシッ

提督「!」

朧「提督は、いつも朧たちの味方になってくれるじゃないですか! それこそ提督が悪者になることもいとわずに!」

朧「提督は、何も悪いことをしていないのに、そこにいるだけで悪者にされてきただけです!」

朧「提督は、悪い人なんかじゃありません!」
86 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:06:01.18 ID:1m+de9zfo

提督「……」

朧「……」

提督「そういうことにしとくか……また頭突き貰いたくねえしな」

朧「もう……! 提督はどうしてそう一言多いんですか!」

提督「しょうがねえだろ、俺が生きてていいのか、未だに疑ってるくらいだからな」

提督「でもまあ、朧にそこまで言ってもらえるんなら、悪くはねえか」ナデ

朧「提督……」

提督「! 朧、この本……」

朧「あ……」

提督「ああ、こいつか。これ書いたの、芥川龍之介だったか」ペラペラ

朧「読んだことあるんですか!?」

提督「だいぶうろ覚えだけどな」

朧「そうですか……!」パァ

提督「?」

朧「あの、提督は、ほかにどんな本を読んでたんですか?」

提督「いや、もうタイトルとか作者とか、殆ど覚えてねえんだけどなあ……」

朧「どんな話でした? 教えてください!」

提督「んーとな……」
87 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:06:45.95 ID:1m+de9zfo

 * その日のお八つ時 食堂 *

霞「って言う話を立ち聞きしたんだけど」

摩耶「あいつ、尋常じゃねえ嫌われ方してたんだな」

霧島「……司令も、肯定してもらえない苦しみを理解しておいでだったんですね」

陸奥「っていうか、よくそれで生活できていたわよね……」

利根「それは妖精さんたちのおかげであろうな」

潮「……」

潮(朧ちゃん、提督のこと好きだよね……?)

潮(それに加えて、その提督が読書仲間で嬉しいんだろうなあ……)

潮「うふふふ……」ニコニコー

摩耶「お、おい、潮?」

霞「あんた、なににやにやしてんの?」

潮「ふえっ!? あ、いえ、提督も、穏やかになったんですね、って! 思っただけです!」アセアセ

霞「穏やか……まあ、そうね。一昔前なら朧も追い払われてたんじゃない? 素直になったと思うわよ」
88 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:07:46.11 ID:1m+de9zfo

摩耶「アタシは霞の素直っぷりにも驚いてんだけどなあ……」

霞「私も諦めてるだけよ。あいつに何を言ったって、どうせ蛙の面に水なんだもの」

利根「面倒臭いと常々言っておきながら、やるべき仕事はきっちりやっておるからの。叱責するにも責がないのではな」

摩耶「それで大和さんにもモテて、ってか。けっ、完璧すぎて面白くねーな」

利根「いやいや、あの性格だぞ? 自力で立ち上がれない者にすら容赦ない物言いじゃ、周囲の顰蹙を買うこともままある」

陸奥「それに、提督は結婚願望ないわよ? それこそ大和みたいに提督が好きな艦娘たちにとっては、報われようがなくて不憫なんだけど」

霧島「……金剛お姉様も厄介な人に目を付けたんですね……」

陸奥「そうね……懲りないながら楽しそうだけど」

潮「……あ、それから、提督は泳げないですよね」

摩耶「ぶっ! マジかよ、だっせえな」

霞「あまりそういうこと言わないでくれる」ギロリ

摩耶「!?」ビクッ

潮「あ、あはは……えっと、あと、絵をかくのも苦手みたいです」

摩耶「ふーん。なーんか、つついてもしょうがねえ欠点だなあ……」
89 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:08:32.64 ID:1m+de9zfo

霧島「摩耶。あなた、司令のことを調べてどうする気なの?」

摩耶「だってあいつ、生意気じゃないっすか。ああいう天狗になってる奴は、一回何かで勝負して、鼻をへし折ってやんねーと!」

潮「天狗……?」

陸奥「天狗になってるところ、あったかしら」

利根「むしろ自分を卑下してばかりじゃろう……?」

潮「態度は悪いですけど、自分は間違ってない、って自負してるから、あんな感じなんですよね」

摩耶「それこそ自惚れじゃねーか?」」

霞「っていうか、多分勝負とか挑んでも意味ないわよ。あいつ、絶対『面倒臭いから全部負けでいい』って言うから」

利根「あり得るな」

陸奥「間違いなく言いそうね」

潮「か、簡単に想像できちゃいますね……」

摩耶「はぁ!? 腰抜けかよ!」

霞「あいつに何を言ってもいいけど、やる気にさせる言葉なんてないわよ。できてたら私が言ってるわ」

陸奥「なんていうか、霞が言うと説得力があるわね」
90 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:09:31.09 ID:1m+de9zfo

摩耶「……くそっ、なんとかあいつをぎゃふんと言わせる方法はねえのかよ!」

霞「案外、言うんじゃない?」

陸奥「頼めば言ってくれそうよね、ぎゃふんの一言くらいは」

摩耶「意味ねえええ!」

霧島「摩耶、どうしてあなたはそこまで司令に突っかかるの?」

摩耶「あいつの態度が気に入らねーんすよ!」

潮「そ、それは、多分、直らないと思います……」

霞「そうね、私もそれは諦めたほうがいいと思うわ」

利根「むしろ、これまで鎮守府で起こったトラブルを収めてきたのは、あの性格あってのことではないか?」

陸奥「だとしたら直しようがないわね……」

摩耶「……」

霧島「摩耶、やめておきましょう?」

摩耶「納得いかねえっすよ……」ガックリ
91 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:10:16.09 ID:1m+de9zfo

 * 数日後 食堂 *

霧島「あー、あー、ワン、ツー。テス、テス」

提督「ん、マイクのテストか」

霧島「はい! 司令もお使いになるでしょうから、テストにお付き合いください。マイクに向かって一言どうぞ」

提督「そうだな……なんて言えばいい?」

霧島「……!」ピーン

霧島「ぎゃふん、でお願いします」

提督「ぎゃふん」

霧島「……」

提督「これでいいのか?」

霧島「ほ、本当に言うんですね……」

提督「お前がお願いしますって言ったんじゃねーか」

金剛「テートクゥゥ! 次は『金剛愛してる』って shout してくだサーイ!」

提督「面倒臭え」

金剛「Whaaaaaaaaaaaat's !?」
92 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/05/24(日) 23:14:42.05 ID:1m+de9zfo
今回はここまで。

動画サイトから来た人が多くてびっくりです。影響力でかいのですね……。
ただ、あちらは続きが投下されてないせいで、
検索履歴に「墓場島鎮守府5」が出てきてるのが、なんと言いましょうか。

日常編はもう少し続きます。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/25(月) 18:35:11.34 ID:Yw732zD90
芥川龍之介の河童かなと思ってたら
芥川って名前が出てきて確信、作者さんは本好きね
あれ、語り手が最後精神病院に押し込められているっていうオチも
なんというか色々考えさせられる話なんよね
いつも楽しみによんでおります、次回更新もお待ちしております
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/05/26(火) 03:23:06.50 ID:1TRHKKLb0
楽しみにしてます。体には気を付けて
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/05/27(水) 22:22:46.31 ID:dhzCxVljO
お疲れ様です。
続き待ってます!
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/06/02(火) 00:26:27.52 ID:XpGC+EfY0
最高っす
97 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:29:44.42 ID:kqphyG/co
最後の書き込みのときだけ上げるので
普段はできるだけsage進行でお願いしますね。

続きです。
98 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:30:34.44 ID:kqphyG/co

 * 二週間後 執務室 *

(廊下からかけてくる足音)

 タタタタ…

 タンッ!

 クルクルクル…

那珂「提督さぁぁぁん!」スターン!

那珂「素敵なステージをありがとーーー!」シャラーーン!

提督「……あぁ?」ギロリ

那珂「ヒィィ!?」ビクッ

不知火「申し訳ありません、丁度望ましくないニュースを司令にお伝えしたばかりだったので」

那珂「そ、そうなんだ……そういうことならしょうがないけど……」

提督「そういや今日がお披露目だったな。まあ、普通なら盛大に祝ってやるところなんだろうが……!」

提督「ったくよぉ……本っ当に、人間ってやつは訳がわかんねえ!!」

那珂「……な、何があったの?」

不知火「黒潮がいた鎮守府の保提督が、自首したんです。よりによって、警察に」

那珂「え?」
99 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:31:17.71 ID:kqphyG/co

不知火「当然、鎮守府にも関係者にも警察の捜査の手が回ります。保提督は、そうなるようにこっそりと警察に連絡を入れたそうです」

不知火「海軍も突然のスキャンダルの火消しに躍起になっていますが、一番ダメージが大きいのは現政権でしょう」

那珂「な、なんで?」

提督「保提督は部下の艦娘に売春させようとしたんだよ」

那珂「んいっ!?」

提督「その売った相手が与党議員の息子だって話だ。そいつらから艦娘を助けたのが保提督の部下だった黒潮だ」

提督「先月の黒い雲の話も知ってるな? あれを引き起こしたのが、その売られかけた艦娘の一人、雪風だ」

提督「羅針盤を無視して黒潮を探し回ってる間に、空母棲姫に因縁付けられてああなった」

提督「黒潮は、保提督鎮守府の陽炎型の一番上、まとめ役だったからな。妹が心配なのはどの艦娘も一緒だろう」

那珂「……う、うん、それはそうだよね。那珂ちゃんも、神通ちゃんにいっぱい心配してもらったし……」

提督「不知火も中将んとことの行き来がある。寂しい思いはさせたかねえんだが、こればっかりはな」

提督「ともかくだ、保提督が自首したっつうのも突然の話でなあ……残った連中のことは考えてねえのかよ」

不知火「いえ、保提督は既に余所の鎮守府へ、艦娘の異動を打診していたそうです」

不知火「この鎮守府への異動は認められませんでしたが」

提督「……問題起こすか、轟沈するか。素行か縁起の悪い艦娘以外、こっちには着任させたくねえってか」ケッ
100 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:32:03.33 ID:kqphyG/co

提督「くだんの雪風ならと思ったが、そっちも異動済みだって話だしな。まったくもってままならねえぜ、くそっ」

提督「黒潮も最近は飲まず食わずでやつれてきてるしな。我慢を強いるのも限界だって時に、事態が悪化したんじゃどうなるかわかんねーぞ」

不知火「……」

那珂「……保提督はどうするつもりなのかな」

不知火「可能な限り重い罪状で、刑に服すことを望んでいるようです」

那珂「反省してる、ってこと……?」

不知火「それもありますが、共犯だった相手……自分を脅し続けた三人に重い罰を与えるのも狙いのようです」

提督「いじめられっ子の最後の抵抗、ってとこか? 遅きに失した感はあるがな……今更なんで考えが変わったのか、さっぱりだぜ」

那珂「……」

提督「だがまあ悪い話ばかりじゃねえな。艦娘に手を出して重い罪が課せられるようになるなら、以後に対する多少の抑止力にはなってくれるか」

那珂「……そんなの、悲しすぎるよ。私たちは、人を信じて戦ってるのに……!」

提督「人間なんてそんなもんだ。自分の立場が悪くなりゃあ、ころっと手のひら返して裏切るなんてよくある話だろ」

那珂「で、でも! そんなこと言ったら……提督さんも、なの……?」

提督「当然、俺も含めてだ。むしろ俺みたいなやつが一番信用できねえだろ」

不知火「……」ジロリ

那珂(不知火ちゃんの提督さんを見る目つきが怖い!)ビクッ
101 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:32:47.85 ID:kqphyG/co

如月「ふぅ〜ん……?」

那珂「!?」フリムキ

如月「司令官ったら……懲りずにまだそんなことを言うの?」ユラァ

那珂「!?」ビクビクッ

妖精「提督は、ちょっと目を離すとすぐにこうだもんね」ヒョコッ

提督「妖精……お前、如月に知らせたのかよ」

如月「あら、そこで妖精さんを咎めるのは違うんじゃないかしら?」ツカツカ

 ガシッ (提督の顔を両手で挟むように掴む如月)

如月「司令官? あなたこそ、できもしないことを嘯くの、やめてくださいます?」

提督「むぐ……」

如月「嫌われたほうが、いなくなった時に誰も悲しませずに済む、とか、考えてるんでしょう?」

提督「……」

如月「そういうの、如月は許さないんだから」ズイ

如月「たとえあなたが地獄に逃げても、如月はどこまでもお傍にいますから……ね?」ニコォ

提督「……」タラリ

那珂(如月ちゃん、提督さんに鼻がくっつくくらい顔を近づけてる……)ドキドキ
102 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:33:35.05 ID:kqphyG/co

如月「そういうわけだから」パッ

 (如月が人差し指を立てて提督の口に押し当てる)

如月「あまり死ぬ死ぬ詐欺みたいなこと、言わないでくださいね?」

提督「……」

不知火「不知火も同意見です、司令。ご自身の命を軽視する発言は控えるべきかと」

提督「……仕方ねえな……くそ」アタマガリガリ

那珂(提督さんから深海棲艦みたいな雰囲気を感じたのは、こういう破滅的な性格のせいなのかなあ)ウーン

 コンコン

山城「ドアも開けっ放しで何してるのよ」

那珂「あっ、山城ちゃん!」

提督「いろいろ報告受けてただけだよ」

山城「ふーん。駆逐艦に迫られるのが報告なの?」

提督「別に迫られてもいねえよ」

山城「ああ、そう。とにかく、報告中ってことなら、私も便乗させてもらうわ」ショルイサシダシ

提督「? こいつは……」

不知火「演習の申込書、ですか」
103 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:34:17.36 ID:kqphyG/co

山城「補給物資の荷物の中に入ってたわ。それじゃ、私は荷下ろしに戻るから」

提督「……おい」

山城「なによ」

提督「食堂のステージが完成したぞ」

山城「……本当!?」パァァ

提督「良かったな那珂。めちゃくちゃ喜んでる奴がいるぞ」ニヤリ

那珂「……はいっ!!」

山城「っ……!! と、とにかく、私は戻りますから!」イソイソ

不知火「山城さん、満面の笑みでしたね」

如月「那珂ちゃんが発声練習してると、聞きに行きたくてそわそわしてたものね」

那珂「そっか……じゃあ、頑張ってみんなを元気にしてあげないとねっ!」

如月「うふふ、楽しみにしてますね」

不知火「さすがに気分が高揚します」

那珂「なんで加賀さん!?」
104 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:35:02.20 ID:kqphyG/co

提督「まあいいや、はしゃぎすぎて怪我だけすんなよ」

那珂「はいっ! 気を付けまーす!」

提督「で、3日後の13時半からだっけか?」ガサガサ ペラリ

那珂「はいっ! 明後日はリハーサルでーす!」

提督「……」マユヒソメ

如月「えっ、その顔……どうしたの!?」

提督「タイミング悪いな……どうしてそうくるかね」ハァ

提督「那珂。悪いがお前の初ライブ、一日見合わせろ」

那珂「ええええええええええええええ!?」

提督「どうしてライブ予定の日に演習なんかぶっ込んでくんだよ、くそが……」

不知火「……」アタマオサエ

如月(山城さんが持ってきたから、っていうのは山城さんが可哀想よね……)


 * 埠頭 *

山城「へっっぢん!」

 ガッ

山城「……っっ!!」プルプル

電「山城さん!? どうしたのです!?」

神通「くしゃみした反動で脛を箱に打ち付けたみたいです……」

電「弁慶の泣き所ですか……」
105 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:35:47.33 ID:kqphyG/co

 * 3日後 墓場島鎮守府 埠頭 *

電「し、司令官さん? この人たちが演習の相手なのですか?」

提督「だとよ……」ピキピキ

仁提督「よぉ、久しいな准尉! あの日のリベンジをさせてもらうぜ!」ガハハハ

提督「帰れ」

電「!?」

仁提督「おい!?」

提督「ったくよぉ……仰々しい書類が来たから、ちったあ神妙に受けるかと思ったら、どこぞの戦艦馬鹿じゃねーか……」

仁提督「言うに事欠いて馬鹿とはなんだ貴様! 目上の相手に対する言葉か!」

提督「褒めてんだよ、一応」

仁提督「そんな褒め言葉があるか! とってつけたような言い訳をするな!」

提督「とりあえず適当に相手するから終わったらとっとと帰れ。あと大和はやんねーぞ」

仁提督「ふん、お前のところの大和なんぞこっちから願い下げだ」

仁提督「本営で噂になってたぞ、この島の大和はお前の狂信者だってな」

電「あー……」

提督「狂信者、ねえ……」
106 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:36:32.08 ID:kqphyG/co

仁提督「世話になっている少将も身をもって経験済みだし、何よりあの中佐が大怪我をしたと聞いているからな。反論しようと思ってても無駄だぞ」

提督「いや、別に反論なんかねえよ」

仁提督「ないのかよ!?」

提督「よろしくねえ評判が立ったなら、この島に近づこうとするやつも減るだろうしな。願ってもねえ」

仁提督「どこまでも厭世的な奴だな……」

提督「とにかく、さっさと演習して……」

仁提督「まあ待て、慌てるな。その前にだ、あの丘の上の艤装がこの島に流れ着いた艦娘の墓標だな?」

提督「ん? あ、ああ」

仁提督「実をいうと演習はついででな。この島に連れてきたい奴らがいて、貴様に演習を申し込んだんだ」

提督「なんだそりゃ」

仁提督「金剛! 連れてこい!」

仁金剛「イエース!」

 ゾロゾロ

電「!!」
107 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:37:17.67 ID:kqphyG/co

仁提督「まあ、今回の演習にも参加してもらうんだが……」

提督「こいつら……駆逐艦か!?」

仁提督「ああ。陽炎型の萩風、嵐、それから雪風だ」

提督「ゆき……っ!?」

仁提督「あの日、貴様から話を聞いた後、本営に駆逐艦を寄越せと掛け合ってな。それなら、と言って連れてきたのがこの件の雪風だ」

雪風「……」ウツムキ

提督「あ、あの雪風か!? 空母棲姫に追われてた!」

仁提督「ああそうだ。腹の立つことに、その空母棲姫の邀撃が済んで、用がなくなったからと俺に引き合わせてきたんだよ」

仁提督「俺が必要にしていたからいいものの、あいつらは本当になんとも思ってなくて俺ですら絶句したほどだ」

提督「……」

仁提督「それから、保提督だったか? この雪風が元いた鎮守府の提督にも、挨拶と説教をしに行ってきた」

仁提督「そこで雪風を引き取ったことを伝えたら、この二人も引き取ってほしいと頼まれてな」

仁提督「何か思うことがあったのかと思ったら、あの自首騒ぎだ。もしかしたら、俺が雪風を引き取ったのが引き金だったのかもしれん」

提督「……」
108 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:38:02.46 ID:kqphyG/co

仁提督「でだ、黒潮が流れ着いたというこの島に来ていたのも何かの縁だ、演習という形で連れて行けば文句もないだろうと思ってな!」

雪風「し、しれぇ……」

仁提督「なんだ?」

雪風「こ、この人が……黒潮お姉ちゃんを……」

仁提督「ああ、そうだ。この島に流れ着いた黒潮を埋葬したんだ」

仁提督「そういうわけで、この島に来たのは墓参りが目的だ。准尉! 案内しろ!」

提督「……」アッケ

電「し、司令官さん!」

提督「ん、おお……仁提督はちょっと待ってろ。電、ちょっと来い」

電「は、はい!」

提督「いいか? ごにょごにょ……」

電「! わ、わかったのです! 電、すぐに行ってくるのです!」タッ!

提督「頼んだぜ。……さて、待たせたな」

109 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:38:50.29 ID:kqphyG/co

 * 丘の上 *

萩風「轟沈した艦娘が、こんなにたくさん……」

仁提督「……改めて見ると、なんとも言えん光景だな」

嵐「こん中に、黒潮姉が……」

雪風「お姉ちゃん……!」グスッ

提督「……」

神通「提督……こちらの皆さんはどうなさったんですか?」

提督「仁提督が、保提督んとこの陽炎型を引き取ったんで、この島に連れてきたんだとよ」

神通「え? それでは、どうしてこちらに?」

提督「案内しろっつうから案内してやっただけだが?」ニヤリ

神通「……」アタマオサエ

提督「しょうがねえだろ、あんなツラしたまま引き会わせるわけにはいかねえ」

神通「提督、それだけじゃないでしょう?」

提督「まあな。百聞は一見にしかずってやつだ」
110 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:39:34.82 ID:kqphyG/co

萩風「……あ、あのぉ、何の話なんでしょう?」

提督「ん? 気にすんな。それより、そろそろ来るかと思ってんだが」

 ドドドドドド…

提督「うん?」

嵐「なんだこの音?」

仁提督「なんだあの土煙は……」

白露「いっちばーん!」ドドドドドド

島風「はっやーい!!」ドドドドドド

白露と島風に手を引っ張られる黒潮「ちょっ、待ちい!! 腕が抜ける! 腕がーー!」グリングリン

電「み、みんな待って欲しいのですーー!」

提督「なにやってんだ、あいつらは……」アタマオサエ

白露&島風「とうちゃーく!!」キキーーッ

黒潮「ぜぇ、ぜぇ……うぷっ、気持ち悪……」オメメグルグル

提督「お前らなあ……連れてくるにももう少し加減ってもんがあるだろうが」

島風「えー!? 黒潮が全速力で、って言ったんだよー?」
111 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:40:32.34 ID:kqphyG/co

白露「いっちばん速く、って言われたんだもの、手を抜くわけにはいかないでしょ?」

提督「だからって黒潮がこれじゃ意味ねえだろが」

黒潮「ほげぇ……」グロッキー

萩風「あ、あの、提督准尉……?」

提督「おう、紹介が遅れたな。こいつらは島風と白露、もと仁提督鎮守府にいた駆逐艦だ」ニヤリ

仁提督「……っ!」

提督「で、知ってると思うがこいつが黒潮だ。もと、保提督鎮守府の、な」ニヤニヤ

仁提督「なにぃ!?」

萩風「……!」

嵐「ってことは……!」

仁提督「准尉! 貴様、言っていい冗談と悪い冗談があるぞ!!」

提督「冗談? 俺は黒潮が沈んだとも埋葬したとも、一言も言ってねえぞ?」

提督「あんたが勝手にそう思い込んで、勝手に勘違いしただけじゃねーか」ニヤリ

仁提督「貴様……どこまで俺たちをコケにすれば……!!」

提督「あん時ゃ俺はあんたを信用してなかったんだ。下手なこと言って黒潮連れ去られて解体になったら元も子もねえからな」
112 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:41:17.55 ID:kqphyG/co

雪風「ほ、本当に……黒潮、お姉ちゃん、なんですか?」

黒潮「……お」

提督「お?」


黒潮「おえええええ……」


雪風「」

萩風「」

嵐「」

仁提督「」

神通「」アタマカカエ

電「」アタマカカエ

提督「おい……白露、島風……!」ユラリ

白露「ご、ごめんなさーい!」ダッ

島風「あっ、白露待って!」ダッ

提督「くそが……あいつら後でお仕置きだ」
113 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:42:03.07 ID:kqphyG/co

電「黒潮ちゃん、しっかりするのです」セナカサスリ

神通「お水です。これで口を漱いでください」スイトウトリダシ

黒潮「お、おおきに……」

神通「まともに食事を摂っていなかったせいで、胃液も出なかったようですね」

電「弱ってるのに無理矢理引っ張られたら、こうなるのも無理はないのです……」

提督「まったく、顔だけでも洗ってこさせろって指示したのに、あいつらのせいで台無しじゃねーか」

嵐「つ、つうか准尉さんよぉ、わざわざ俺たちをここに連れて来なくても良かったんじゃ……!?」

提督「こういう場所だって言う説明を省くのと、まあ、時間潰しだな。女の身支度は時間がかかるだろ」

仁提督「回りくどい真似を……!」

雪風「……お姉、ちゃん、なんですよね……!?」

黒潮「!」

雪風「お姉ちゃああああん!!」ダッ

黒潮「雪風……!!」

萩風「姉さん!」ダッ

嵐「姉貴!」ダッ

黒潮「……ほんまに、来たんや……来てくれたんやな……!」ダキヨセ
114 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:42:47.53 ID:kqphyG/co

仁提督「……」

電「良かったのです……!」ホロリ

神通「ええ……!」

提督「……やれやれ。おい、仁提督」

仁提督「なんだ」

 スッ

提督「保提督鎮守府の艦娘と、我が艦隊の黒潮を引き合わせてくれたこと、感謝申し上げる」ケイレイ

仁提督「……ふん。貴様も、礼くらいは言えるんだな……!」ケイレイ

電「あ、あの! 電からも、お礼を言わせて欲しいのです!」ペコッ

神通「仁提督、ありがとうございました」フカブカ

仁提督「……まあ、いい。連れてきて間違いではなかったってことだな」

提督「神通、黒潮を入れて、今回の相手といい勝負できそうなメンバーを選出してくれ」

神通「はい」

提督「それから電、茶と茶菓子と……そうだな、那珂にも一曲披露してもらうか?」

電「はいなのです!」
115 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:43:32.63 ID:kqphyG/co

 * その後、演習中 埠頭 *

 ドーン

仁提督「……はしゃぎすぎだ。演習とはいえニコニコしすぎだ」

提督「……で? これが終わったらあいつらは解体すんのか?」

仁提督「チッ……そんな気はない。陽炎型にはこれからもしっかり働いてもらう」

提督「どうだか」

仁提督「貴様もいちいち癇に障る男だな……」

提督「へっ、人間なんてそう簡単に根っこは変わらねえよ」

仁提督「それこそどうだかな。良くも悪くも変化のない人間なぞおらん。言うことがころころ変わる奴だって少なくなかろう」

提督「……」

仁提督「なんだその目は」

提督「その理屈だと、あんたも変わったってのか? 随分都合がいいもんだ」

仁提督「……ああ、都合よく思い出しちまったんだよ。初めて雪風に会ったときに、ユキマル……俺が飼ってた犬のことをな」

仁提督「もともと捨て犬だったんだ。人が怖くてしょうがないって目をしててなあ」

仁提督「雪風も同じ目をしてたもんで、不覚にも情がわいた……ってとこだ。会う前にここで話をしていたから猶更だ」

提督「……」
116 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:44:32.18 ID:kqphyG/co

仁提督「だからといって、雪風たち陽炎型だけを贔屓するわけにもいかん。鎮守府に戻ったら、遠征専門だった睦月型も演習に出撃させる」

仁提督「足止めを食らっているのも駆逐艦でないと突破できない北方海域だからな。戦術の見直しに丁度いい」

仁提督「そういう評価を怠って駆逐艦の間で対立が起こっても面白くない。どうもあのくらいの年齢の女児の相手は、苦手だ」

提督「ああ……」

仁提督「それに……そもそも水雷戦隊なんて俺の柄じゃないんだが。あまり気乗りせん」

提督「ふん、駆逐艦舐めてると痛い目見るぞ」

仁提督「そうか?」

 ドーン

仁提督「! あいつ……金剛の砲撃を避けたのか?」

提督「ああいう速さってのは、戦艦にはない駆逐艦の強みだよな。回避力ってのは馬鹿にできねえぞ」

提督「被弾が少なきゃ中破も減る、進軍もできるし修理にかかる素材も節約できる」

提督「戦艦並べて長距離高火力で相手に何もさせずに殲滅ってのは確かに安全だが、潤沢な資材が必須条件だ」

提督「懐事情の厳しい俺たちには、これも必要な戦法だと思うが?」
117 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:45:17.07 ID:kqphyG/co

仁提督「……そうだな、考えてやってもいい。だが、俺が一番信頼しているのは戦艦たちだ」

仁提督「俺はあいつらを主力から外すつもりはないぞ」

提督「……ふん、そうかい。そう決めたんなら、それでいいんじゃねえの」

仁提督「ったく……貴様の大和がああでなければ、うちの主力として戦線を切り開いてもらいたかったんだがな」

提督「ま、運良く建造できても、今のあんたの立場じゃあ、活躍させる前にお上に寄越せって言われるかもな」

仁提督「……ぐぬ……」

提督「そろそろ決着がつきそうだな」

仁提督「……」

提督「……」

 ドカーン

提督「あ」

仁提督「あ」
118 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:46:02.36 ID:kqphyG/co

 * 二時間後 食堂 *

山城「ちょっと提督!? どうして那珂ちゃんのステージが1曲だけなんですか!」

山城「最後に私が被弾して中破したからですか!? ペナルティですか!? ああ、不幸だわ……!!」

提督「あぁ? んなもん関係ねーよ、最初から1曲の予定だったろ。一日前倒しで哨戒任務に出張ってる連中のことを考えろ」

那珂「そーだよー、それに今日の主役は黒潮ちゃんでしょ? ね?」

山城「那珂ちゃん……あなた天使なの?」

那珂「もー、提督さんがそう言ってたでしょー!」

山城「私は聞いてないわ。そもそもこの男がそんなふうに他人を思い遣った台詞を吐くわけないじゃない」

扶桑「山城? 提督は最初から1曲だと仰っていましたよ?」

山城「扶桑お姉様……!」
119 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:46:47.66 ID:kqphyG/co

扶桑「あまり提督を困らせてはいけませんよ。めっ!」

山城「」ズギューン

那珂「そうだよー! 山城ちゃん、めっ! だからね!」

山城「」ズギューン

山城「」

山城「」

山城「尊い……!」ドシャァ

扶桑「山城っ!? なんで倒れるの!?」

那珂「山城ちゃん!? 女の子がしちゃいけない顔してるよ!? 山城ちゃーん!!」

霧島「司令、なんで山城さんが倒れているんですか?」

提督「知らん。それよりどうだった、今回のステージは」

霧島「少人数でも観客がいる状態ですと、音の響き具合も違いますね。それから厨房にも結構響いてましたので、調理にも影響が出そうです」

霧島「厨房に音がいかないように、スピーカーの設置場所を調整したほうが良いかと。この食堂を囲むように設置しても良いかもしれません」

提督「スピーカーを分散させるのか」

霧島「はい。明日の朝に少し調整してみますね」
120 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:47:35.26 ID:kqphyG/co

提督「おう、任せるぜ。それから……」チラッ

霧島「!」


黒潮「雪風、ほんま無事で良かったなあ」ニコニコ

雪風「で、でも……」

黒潮「雪風のせいやないて。なあ」

嵐「けど、姉貴にばっかりつらい思いさせちまって……」

黒潮「そうやって心配してくれてるやんか。みんな同じや」ニコー

萩風「黒潮姉さん……」ウルッ


提督「……まあ、あっちは心配なさそうだな」

霧島「姉妹水入らず、ですね」

提督「で、こっちは……」チラッ


仁提督「なぜだ……なぜお前らはそんなにまともなんだ!?」

長門「そう言われてもな……」

仁金剛「比叡の料理がこんなにおいしいなんて、夢みたいデス……」
121 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:48:17.75 ID:kqphyG/co

比叡「あのう、そちらの私にはちゃんと味見させてますか?」

仁金剛「あ、味見……ッ!?」ズガーン

比叡「そんな衝撃を受けるほどのことなんですか!?」ガビーン

仁提督「比叡もそうだが長門だってそうだ。うちの長門は駆逐艦を見ればだらしない顔をして追いかけ回すし……なんとかならんか!?」

長門「そうだな……一度、駆逐艦を追いかけ回している姿を撮影して、本人に見せてやるのはどうだろうか」

仁提督「むう、それだけで大丈夫だろうか……駆逐艦欠乏症なんて訳の分からんことを言い出しているくらいなんだが」

長門「私個人の体験談だが、ここへ来る前の鎮守府で、強烈な反面教師を目にしているのでな。ビッグセブンとしての自覚を刺激するのも手だ」

長門「それから、欠乏症云々はそちらの長門の詭弁だろうが、それを言わせないためにも、駆逐艦も編成に入れた艦隊運営を考えたほうがいい」

長門「潜水艦がいる海域や、砲撃より雷撃が有効な相手もいる以上、駆逐艦や軽巡の育成をしないのはどうかと思う」

長門「仁提督も見ていただろう、演習の最後に、雪風の雷撃で山城が中破したのを」

仁提督「……あれは単なるラッキーヒットだろう?」

長門「その運を味方にできるのが雪風だ。空母棲姫の騒動は、羅針盤の指示を無視して進軍したイレギュラーな結果だと考えている」

長門「そちらの金剛の砲撃を回避した不知火も陽炎型の駆逐艦だ。金剛も、不知火を駆逐艦と侮ったわけではあるまい?」

仁金剛「イエス、やるからにはテートクに勝利をプレゼントするのが私たちの務めデース」

仁提督「むう……」

122 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:49:02.28 ID:kqphyG/co

提督「……そういや、雪風から本当に羅針盤を無視した結果なのか、確かめてなかったな。きりのいいところで訊いてみるか」

霧島「? 何のお話ですか?」

提督「ああ、そりゃあな……」

 タタタタッ

大和「提督! ただいま演習から帰還しました!」ガバーッ

提督「うおっ!?」ダキツカレ

大和「この大和がMVPです! それもこれも提督のおかげです!」ダキシメホオズリ

提督「だっ、だからっていきなり抱き着いてくる奴がいるか!」

金剛「大和ォォ!? 何してるデェェス!!」ウガーッ

如月「金剛さんが変な前例作ったからでしょ!?」

那珂「ちょっ、大和さん、こんなみんながいるところでそんなことまでしちゃダメだよぉぉ!?」

 ギャーギャー

仁提督「なんというか……あんな大和は初めて見たぞ。准尉のあの性格でなぜあそこまで慕われてるのか、いまいち解せんが」

仁金剛「ノープロブレム! テートクには私がいマース!」

仁提督「そういう意味じゃなくてだな……」
123 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:49:47.73 ID:kqphyG/co

長門「どうかしたのか?」

仁提督「あれだけ大和に好かれているのに、准尉は嬉しそうにしてないなと思ってな」

仁提督「見返りを求めないにしても、艦娘を大事にしている以上、艦娘に好かれるのを嫌がらなくても良いだろうと思うんだが」

長門「あの男の望みは、人間がいなくても艦娘が生活できる環境だ。あの男は、自分も含めて人間が不要な世界を作りたがっている」

長門「だから我々に好かれては困る、というのがあの男のスタンスだ」

仁金剛「オゥ……」

仁提督「理由はどうあれ、お前たちに依存したくないしさせたくもない、というわけか……」ウデグミ

仁金剛「……うちのテートク、この頃少し変デース。以前この島に来た時から、考え込む時間が増えてマス」

仁提督「准尉の姿勢に思うところがあってな」

仁金剛「と、言いマスと?」

仁提督「……提督業に就く者は艦娘と一定の距離を保つべき、と言われている。なぜだと思う?」

仁提督「准尉にも言ったが、艦娘を兵器、もしくは備品と見なしているからだ」

長門「……」

仁提督「金属や燃料を素材にドックで建造され、解体すれば資材が残る。艦娘とは何者か? 艦娘でさえも正確に答えられる者はいない」

仁提督「俺もお前たちを人であるなどとは言えん。准尉のように、人と同じように艦娘と接していたのでは、いつか狂ってしまいかねないからな」

比叡「狂うって、そんな……!」
124 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:50:32.47 ID:kqphyG/co

仁提督「考えてもみろ、仮に今日艦隊の誰かが沈んで、翌日同じ艦娘が建造されたらどう思う?」

仁提督「死んだはずの人間が、同じ姿かたちで別人として蘇るんだ。まともに考えて頭が受け付けられるとは思えん」

仁提督「実際に、艦娘に入れ込むあまり骨抜きにされた者もいれば、沈んだ艦娘の後を追う者もいた」

仁提督「特定の艦娘を殺して飾ったという狂気じみた事件も、その艦娘に入れ込んだがためだ」

長門「……」

仁提督「艦娘は人と思わず道具と思え、という話も、そういう意味では正しいことになる」

仁提督「俺も現在進行形で艦娘との接し方についていろいろ考えさせられたが、今の俺には准尉と同じように接することはできん」

仁金剛「……それはちょっと残念デス」

仁提督「しかし、この島はそうじゃない。轟沈してこの島に流れ着いた艦娘たちも、深海棲艦になることもなく准尉と暮らしている」

仁提督「もしも、准尉がこの鎮守府の運営に成功し、誰しもが納得する成果をあげられたのなら……」

比叡「あげられたのなら……?」

仁提督「……いや、その先は言えんな。無責任なことは言えん」

比叡「そんなあ! 思わせぶりなことを言っておいて、その先を言わないほうが無責任ですよぉ!」

仁提督「あるかどうかもわからない希望をちらつかせる方が無責任だろう」

仁提督「むしろ、提督の望む道が艦娘だけの世界だとしたら、逆に本営には危険視されるかもしれん」

長門「謀反の可能性を恐れている、と?」
125 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:51:47.64 ID:kqphyG/co

仁提督「そうだ。そう考えれば准尉のこれからを心配したほうがいい」

提督「心配しなくても別にいいけどな、俺は」ズイッ

仁提督「うお!?」ビクッ

提督「むしろ外から関わってもらわねー方がいろいろと楽だぜ?」

仁金剛「そういうものデスカ……」タラリ

仁提督「残念だがそうはいかんだろう。良くも悪くも、ここはそれなりに有名だからな」

提督「みたいだな……変な噂もたつし、どうにかなんねーのかよ、くそっ」

仁提督「諦めろ。それから、黒潮の解体命令自体はまだ取り消されていないぞ」

提督「……保提督がどうなったかの続報も出てねえし、そっちも継続中ってか」

仁提督「本当なら俺たちも、雪風たちに一回だけ墓参りのつもりで来たんだが……黒潮が生きてるんなら話は別だ」

仁提督「しばらく、貴様たちとは演習なりなんなり理由を付けて顔を突き合わせなければならんようだな」ガクッ

仁金剛「ちょっ、テートク!? そこは演技でも嬉しそうにするデース!」

仁提督「金剛お前なあ、この島に来るたびこいつと毎回顔を合わせるんだぞ!? 俺の胃のほうがストレスで保たんわ!!」

長門「ああ……」ナットク
126 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:53:49.98 ID:kqphyG/co

仁金剛「テートク、ご本人の前でそういうことを言うのは失礼だと思いマス……」

仁提督「ふん、こいつにそんな気遣いはいらん!」

提督「まあ俺も気にしてねえ。それはそれとしてだ、仁提督」

仁提督「なんだ」

提督「俺としても、あんたたちがこの島に来るのはお勧めしねえ。演習にしても、月に1回あるかないかくらいでいい」

仁提督「……貴様からそういう提案がくるとはな」

提督「ぶっちゃければもう来るな、と言いたいところなんだが、黒潮や雪風のことを考えるとそうもいかねえ」

提督「ただ、来てもらうにしても頻度が高いと怪しまれる。つかず離れず……若干離れ気味が望ましいな」

提督「うちと交流があるってだけで、本営はいい顔しねえしよ。中佐なんかにも目を付けられたかねえだろ」

仁提督「まあな」

仁金剛「ンー、中佐もさることながら、秘書艦の赤城も曲者と言われてマスヨー」

比叡「そうなんですか?」

仁金剛「あの会見を録画で見せてもらいましたが、眉一つ動かさずにあの啖呵デシタ。中佐と比較されて話題になったみたいデス」

仁提督「確かに、本営でも『冷徹』だの『鉄面皮』だの『鉄仮面』だの……どこぞの女性宰相のように『鉄の女』なんて宣う奴もいたな」

仁提督「そのせいで、一部からは『鉄の赤城』なんて呼ばれ方をしているらしい」

提督「……チッ」

長門「確かに表面上はそうかもしれないが……」

比叡「そういう言われ方はおもしろくないですねえ」

仁提督「……なるほど。中佐に忠誠を誓ってあの性格になったのかと思ったが……」

仁提督「お前たちがそういう評価をされるということは、少なくともお前たちには良くしてくれているということか」

仁金剛「ヘイ比叡? 失礼デスけど、准尉はどうしてこの島に着任したんデスカ?」

比叡「それはですねえ……」
127 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:55:17.74 ID:kqphyG/co

 * 夕刻 執務室 *

提督「ふー……珍しく時間かかっちまったな」

大淀「お疲れ様です。今日は大変でしたね」

提督「あいつら、ぎりぎりまで居座ってたからな。もてなすこっちの身にもなりやがれってんだ」

提督「……だがまあ、黒潮も落ち着いたようで何よりだ。まさか仁提督に借りを作ることになるなんて思ってもいなかったがな」

大淀「提督。雪風さんは、やはり羅針盤を無視した航路を取っていたんでしょうか」

提督「そうみたいだな。つうか、そもそも見てなかったらしいが」

提督「黒潮を探すときに『絶対に大丈夫』とか言ってたのが、空母棲姫の逆鱗に触れたらしいな。私たちが不運だから沈んだのか、って解釈されて」

提督「ここまで行くと単なる逆恨みだ。だが、それだけに深海棲艦が憎悪や無念によって生まれた存在、っつうのも、あながち嘘じゃないみたいだな」

提督「とにかく、こんなこともう起きて欲しくはないもんだ。……さてと、大淀、残ってる書類あるか?」

大淀「あとはこちらだけです。サインだけいただければ良い状態にしています」

提督「おう、ありがとな」

 ゴトン

大淀「あ」

 ゴトン

提督「……また駄目だったのかよ」
128 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/04(木) 22:56:20.08 ID:kqphyG/co

島風「もう無理〜〜!」

白露「こんなに長い時間じっとしてられないよー!」

提督「何が難しいんだよ、こんなの。直立して頭に本を載せて5分間落とさないようにするだけだぞ」

提督「俺も大淀も、哨戒任務から戻ったばかりの暁や五月雨も楽勝だったんだぞ?」

大淀「落としたら再チャレンジということでしたが、あれから1時間は経っていますね」

提督「どんだけ落ち着きがねえんだよ、お前らは」ハァ…

大淀「そこへいくと暁さんはすごかったですね。頭に本を載せて歩いても全然落としませんでしたから」

提督「あいつ、社交界マナーの本なんか買ってたからな。ある意味誰よりも大人びてるぞ」

 コソッ

大淀「あっ」

島風「一時間たったからいいでしょ!?」ダッ

白露「もうご飯の時間だよ!!」ダッ

 ドドドドドド…

提督「……」

大淀「て、提督、よろしいんですか?」

提督「もういいや、面倒臭え」ハァ
129 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2020/06/04(木) 22:57:11.44 ID:kqphyG/co
というわけで今回はここまで。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/07(日) 01:12:57.33 ID:urJeDWby0
今回も面白かったです!
続きをのんびり待ってます!
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/06/07(日) 12:36:23.82 ID:dYcRIYuKO
更新ありがとうございます!
次回も楽しみにしています!
132 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:27:43.61 ID:80gS1WPZo
それでは続きです。
133 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:28:35.26 ID:80gS1WPZo

 * 数日後のある日の朝 提督の寝室 *

目覚まし時計<マルゴーフタフター

提督「……んむ……」パチ

提督にくっついて寝てる全裸の伊8「……」スヤスヤ

提督「!?」ビク

伊8「……ん……」モゾ

提督「……」

伊8「ふ、ふあぁ……提督? Guten Morgen」ゴシゴシ

提督「……おい」

伊8「?」

提督「お前、なんで裸なんだ」

伊8「……ああ」スッポンポン

提督「ああ、じゃねえよ。今頃気付いたような言い方すんな」Tシャツヌイデ

提督「とりあえずこれ着とけ、俺に目の毒だ」ポイ

伊8「オゥ、Danke」キャッチ
134 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:30:04.70 ID:80gS1WPZo

提督「で、服はどうした」

伊8「はっちゃん、普段寝るときはいつもこうですよ?」モソモソ

提督「……」

伊8「ここに来るときは遠慮してましたけど、やっぱり脱いだ方がきつくないし」

伊8「水着って、ちょっと窮屈なんです」

提督「あーあー、わかったわかった。ったくよぉ……」

伊8(……性行為のトラウマはまだ治ってないみたい)ウーン

伊8(でも、以前よりは、拒否反応が和らいでるかな……)

伊8(とにかく、この調子でゆっくり押しかけ続ければ、提督のアレも良くなってくれるはず……)

伊8(焦らずじっくりカウンセリングすれば……いつか手を出してくれるはず!)キラリッ

提督「!?」ゾクゾクッ
135 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:31:11.22 ID:80gS1WPZo

 * 執務室 *

提督「……はぁ……」

陸奥「珍しいわね、提督がため息なんて」

大淀「どうかしましたか?」

提督「一応な、俺が寝るときは、部屋に鍵かけて寝てんだよ」

大淀「はい」

陸奥「それがどうかしたの?」

提督「なのに、なんで毎回、誰かが隣で寝てるんだ? いい加減どうにかなんねーのかな、って思ってよ」

陸奥「え、えええ!?」

大淀「っ……そ、そうなんですか!?」アセアセ

提督「そうなんだよ」

大淀(リアクション、ちょっとわざとらしかったかしら……)

陸奥「鍵はかけてるのよね? 壊されてるってこと?」

提督「いや、壊されちゃいねーけどよ……何故か開いてんだ。やっぱり、俺の部屋のベッドだけがいいのがまずいのかね」

大淀「そ、それは違いますよ!?」

提督「違うのか?」
136 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:32:04.45 ID:80gS1WPZo

大淀「勿論です! 提督と一緒にいたいからに決まってます!」

陸奥「!」

提督「……」

大淀「……」

提督「……」プイ

大淀(あれ? 提督、赤くなってる?)

提督「あまり俺に懐かれても困るんだがな。鍵、意味ねーのかな」アタマガリガリ

陸奥「隣に寝てる以外に被害がないのなら、やめてしまっても同じよね?」

提督「かもなあ……」

大淀(提督も恥ずかしがることがあるんですね……)ウーン

提督「仕方ねえ……それと大淀も、あまり小っ恥ずかしい台詞、言うんじゃねえよ」

大淀「へ……?」オモイダシテ

大淀(うわーーーー!? 何言ってるの私ーーー!?)カオマッカ

提督「?」

陸奥「……提督って、本当に恋愛事に疎いのね……」

提督「しみじみ言うなよ……」
137 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:32:49.48 ID:80gS1WPZo

 * 翌日の朝 如月の部屋 *

如月「司令官の部屋の鍵が開いてた?」

朝潮「はい。昨晩、朝潮が司令官のお部屋にお邪魔した時、ノックをしてから鍵を開ける音がしませんでした」

朝潮「約束では、夜に司令官のお部屋に入るときは、ノックをして妖精さんに鍵を開けてもらうことにしていたはずですが」

朝潮「ノックしてから鍵を開ける音がしなかったので、どういうことかとドアを開けてみたら、開いてしまったんです」

如月「……どういうことかしら……ねえ朝潮ちゃん? このお話、他の人にはしてないの?」

朝潮「まだしていません。司令官のお部屋のお泊りルール発案メンバーのうち、任務がないのは私たちだけですから」

如月「そ、そう……そういうところ、朝潮ちゃんって本当に真面目ね……」

朝潮「はい! 司令官からもお褒めの言葉をいただいていますから!」ドヤッ

如月「……と、とにかく、私の方から司令官に何があったか聞いてみるわ」

朝潮「朝潮も一緒に行きましょうか?」

如月「え、えーっと、変に勘繰られたりするといけないから、私一人で行ってみるわね」

朝潮「そうですか……わかりました」

如月(朝潮ちゃん、妖精さんのことも正直に喋っちゃいそうで怖いのよね……)
138 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:33:34.83 ID:80gS1WPZo

 * 昼下がり 執務室 *

 扉< コンコン

如月「司令官、お仕事中お邪魔しますね?」ガチャ

提督「ん? 如月か、どうした?」

如月「ちょっとお断りを入れておこうかと思って」ウフフッ

大淀「お断り……?」

那珂「何の話?」(←今日の秘書艦)

如月「今夜、司令官のお部屋にお邪魔しますね?」ニッコリ

大淀「き、如月さんっ!?」ガタッ

那珂「えっ? えっ? 何!?」

提督「もしかして……寝に来るってのか?」

如月「ええ、そうよ?」

那珂「んななな、何言ってるのぉぉ!?」ガタガタッ

提督「……まー、いいけどよ」

如月「!」

大淀「!?」

那珂「提督さんっ!? いいけどっていいの!? よくなくないの!?」ギョッ
139 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:34:19.56 ID:80gS1WPZo

提督「いや、本当に今更だぞ。これまでほぼ毎晩、目が覚めると誰かしらが隣で寝てんだぞ? 鍵をかけても一度も役に立ったことがねえ」

提督「だからもういいや、どうせ無駄な抵抗ってやつだ。俺の部屋に入るのは構わねーから、寝る邪魔だけはしないでくれ」

如月「……!」

那珂「!?!?!?」アングリ

大淀「よ、よろしいのですか……!?」

提督「俺の安眠妨害さえなけりゃあな。川内の件で寝るのを邪魔されるつらさはわかってんだろ?」

如月「うふふふっ、それは勿論よ。迷惑にならないようにするわ」ニコニコ

如月「それじゃ、また夜にねっ」ウキウキ

 扉< チャッ パタン

提督「……やれやれ」フー

那珂「ちょっと提督さん!? 今の話、那珂ちゃん初めて聞いたんですけどっ!?」

提督「俺も面と向かって部屋に行くなんて宣言されたのは初めてだよ」

大淀「……」

那珂「い、いくら提督さんが手を出すことがないからって、お、おおお男の人のお部屋っていうか、お布団に一緒だなんてっ!」カオマッカ
140 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:35:04.46 ID:80gS1WPZo

提督「俺もそう思って部屋の鍵をかけてんだけどなあ……」

大淀「……部屋に入るのが構わない……」ブツブツ

那珂「よ、よ、良くないよね! お、大淀ちゃん、そういうのって駄目じゃないの!?」

大淀「へっ!? えっ、あ、そうですね!? それはしょうがないですね!?」

那珂「大淀ちゃん話聞いてた!?」ガビーン

提督「まあ、程度として如月はまだいいんだ。朝潮とか、電あたりも一人寝が寂しいからっつう感じだし……」

提督「どっちかっつうと大和とか金剛とか押しも力も強すぎる連中の方がちょっとな。はっちゃんも何考えてるかわかんねえ」ハァ

那珂「……え、えーっと、この島のみんなのモラルっていうか、道徳観ってどうなの?」

大淀「その辺りは、この島に来た皆さんの事情を考えると、無理もないかと思いますよ。提督に文字通り命を助けられた艦娘も多いですし」

那珂「あ……! そ、そっか……如月ちゃん、すごい傷だったもんね」

那珂「で、でもでもぉ! やっぱり良くないよ! 節度っていうか、うまく言えないけど、なんだかすごく、不健全だよ……!」

大淀「……そうですね、不健全だと思います。憲兵さんがいないことも、この事態に拍車をかけていると思います」

大淀「だからと言って、提督とのスキンシップを制限するのも、私は上策とは思いません」

那珂「な、なんで!?」
141 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:35:49.45 ID:80gS1WPZo

大淀「提督は、この鎮守府の艦娘に対しては、一線を越えない限りは、できる限り好き勝手出来るよう配慮されています」

大淀「提督ご自身が望む望まないに関わらず、提督と一緒にいたいと艦娘が望むならば無碍にはできない、と、提督はお考えなのでは?」

提督「まあ、な……つっても、ここんとこ俺が甘いせいで、どんどん俺の防壁削られてんだけどな」アタマガリガリ

大淀「それを踏まえて、私個人の推測でしかありませんが……」

大淀「提督が私たちに好きにさせているからこそ、轟沈を経験した艦娘が深海棲艦になっていないのではないかと考えているのですが」

提督「……」

那珂「……!」

大淀「提督は、お考えにはなったことはございませんか」

提督「正直、深く考えてなかったな。山雲んときくらいか、やべえなって思ったのは」

提督「ル級みたいなやつもいるから、深海棲艦になってもなんとかなるか、って高を括ってたのもある」

大淀「提督も許容できるのでしたら、私は現状維持が望ましいかと」

提督「あんまり許容したくねーけどな。それに、普通は那珂みたいな反応の方がまともだと思うんだがなあ」

那珂「……提督さんは、結婚願望ないんだよね?」

提督「ああ。それに、那珂も俺の体のことは知ってんだろ?」

那珂「うん……みんなにもその話はしたんだよね」

大淀「それでも、提督が好きな人たちには関係ないでしょうから。変に止めようとしても、どうなることか……」

那珂「あうう、確かに如月ちゃんも、提督さんのことになるとすっごい迫力になるし……」

大淀「如月さんもそうですが、金剛さんや大和さんが素直に応じると思います?」

那珂「……難しそうだねー……」ウーン
142 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:36:34.75 ID:80gS1WPZo

 * 一方、ドアの外 *

如月「うふふっ」ルンルン

朝潮「……!」タタッ

如月「! 朝潮ちゃん!」

朝潮「如月さん! どうでしたか!?」

如月「司令官、鍵をかけるのやめたみたいよ?」

朝潮「本当ですか!?」パァッ

朝潮「やっと司令官が私たちに心を開いてくださったんですね!」

朝潮「……あ、でも」

如月「? なあに?」

朝潮「これまで私たちは、司令官のお部屋の鍵を妖精さんに開けていただいていました」

朝潮「でも、用がなくなったからお礼を渡すのも終わりというのも不義理なのでは……」

如月「朝潮ちゃん、私たちは妖精さんと契約していたのよ? お部屋の鍵を開けてもらう代わりに、資材を渡していたの」

如月「それを、契約が切れたのに資材を渡し続けていたんじゃ、これまで渡していた資材はなんだったのか、わからなくなっちゃうわ」
143 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:37:20.05 ID:80gS1WPZo

朝潮「そ、そうですね……! 理由がないのに渡していては、賄賂も同然です」ソワソワ

如月「……朝潮ちゃん?」

朝潮「す、すみません、司令官が私たちを受け入れてくれたことが嬉しくて、妖精さんたちにどのように喜びを伝えたら良いか……!」

如月「……そういうことなら」ダキヨセ

朝潮「!!」ダキヨセラレ

如月「こうやって、幸せを分かち合うといいと思うわ」

朝潮「……!」

朝潮「な、なるほど……! 如月さん、ありがとうございます!」ギュ

龍驤「演習から戻ったで〜……って、何しとん?」

朝潮「あっ! 龍驤さんおかえりなさい!!」ダッシュアンドダキツキー

龍驤「な、なんやなんや!? えらい熱烈な歓迎やな!」ギュー

霞「ちょっ、何やってんのよ!?」

朝潮「霞もです!」ダキツキー

霞「へっ!? ちょ、えええ!?」ドギマギ
144 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:38:04.45 ID:80gS1WPZo

朝潮「吹雪さんっ!」ダキツキー

吹雪「えっ!? わわ、私にも来るの!?」ギュー

朝潮「川内さんっ!」ダキツキー

川内「よーしよし、何があったか知らないけど元気だねー!」

朝潮「陸奥さんっ!」ダキツキー

陸奥「あら、あらあらあら」ウフフ

朝潮「雲龍さんっ!」ダッ

雲龍「うん、おいで」

朝潮「もぶっ!?」ボユン(←抱き着こうとした雲龍の胸に顔面直撃)

雲龍「あ」

朝潮「はぶあ!?」ゴロズデーン(←そのまま跳ね返って転倒)

吹雪「朝潮ちゃん!?」

陸奥「ちょっと、大丈夫!?」

最上「? なんだか騒がしいね」

三隈「何があったんでしょう?」
145 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/06/28(日) 16:39:04.80 ID:80gS1WPZo

川内「えっとねー、朝潮が雲龍のおっぱいにはねられたの」

三隈「くまりんこーー!?」

吹雪「ち、違いますよ! 雲龍さんのおっぱいバリアーに朝潮ちゃんが突っ込んで弾き飛ばされたんです!」

三隈「くまああああーーーー!?」

最上「三隈落ち着いて!?」

雲龍「その、ごめんなさい……」シュン

龍驤「雲龍は悪うないから。事故や、事故」ナデナデ

朝潮「」タオレタママボーゼン

如月「あ、朝潮ちゃん!? 大丈夫!?」ダキオコシ

霞「しっかりして!?」

朝潮「き、如月さん……霞……!」

朝潮「い……異次元です……! 朝潮は次元の違う壁に阻まれてしまいました……!!」

霞「……うん、異次元なのはよくわかってるつもりだけど」

如月「……朝潮ちゃんが言うと深刻さが増すわね」

朝潮「そう、あれはまさしく脅威……脅威そのものです……!!」ワナワナ

如月「うん、確かにあれは胸囲だけど……」

霞「ギャグのつもりで言ってるわけがないわね」
146 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2020/06/28(日) 16:39:49.56 ID:80gS1WPZo
今回はここまーで。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/29(月) 09:45:23.64 ID:ivSCvRT6o
『おっぱいにはねられた』
 
なんとも酷いワードだww
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/05(日) 03:24:55.04 ID:Sx82VRfU0
更新のんびり待ってます。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/17(月) 00:53:03.35 ID:IHuDNWy0O
のんびりし過ぎや!まってるぞ
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/08/25(火) 22:26:12.43 ID:ADCihHJG0
更新楽しみに待ってるで!
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/04(金) 07:46:50.64 ID:QYSGxwMR0
ほしゅ
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/03(土) 04:19:28.93 ID:I3Bnb4hS0
保守
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