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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」

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352 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:24:47.40 ID:Zv5Aj/0to

利根「冗談はさておき、筑摩の利根に対する執着は相当なものだ。なんとかうまい落としどころを考えて欲しい」

提督「……落としどころねえ……」

利根「貴様は不器用ながらも人を案じてくれるし、それよりなにより運が良い……」

提督「運……?」

 (利根の顔が提督の方を向き)

利根「でなくば吾輩たちと話すこともなかったであろうからな……!」

提督「……!」

 (ゆっくりと開かれた利根の両目が青白い光を放っている)

利根「ふふふ……頼むぞ准尉。吾輩たちは草葉の陰から応援しておるぞ」

提督「……っ!」

利根「ではな……さらばだ、准尉……」

 (目を開いたときと同じように、利根がゆっくりと目を閉じて、そのまま眠りにつく)

提督「……ったく。草葉の陰、か……幽霊が言うなよ、洒落が効きすぎだ」ハァ

利根「」スー…

提督「……良く寝てやがる。いっそ暁みたいに忘れられりゃ楽なんだろうけどな……体の傷もあることだし、そうはいかねえか」ハァ…

提督「とにかく、筑摩をなんとかしねえとな……」
353 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2021/01/26(火) 23:25:51.75 ID:Zv5Aj/0to
今回はここまで。

354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/27(水) 01:48:14.04 ID:bFb2lNbU0
乙です
355 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:01:24.40 ID:DOuvdaS5o
続きです。
356 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:02:16.88 ID:DOuvdaS5o

 * 工廠 *

 鉄扉<ゴンゴン

提督「……話は終わったか?」ギィィ

明石「あ、提督!」

長門「まあ、あらかたの話は終わったぞ……」

提督「……? やけに空気が重てえな」キョロ

白露「ちょっと提督! 聞いてるだけで鳥肌立ってきたんだけど!」ブルブル

武蔵「ああ、まったくもって信じられん……!」ガタガタ

黒潮「ほんま、洒落ならんて。五月雨なんか気分悪くしてずっとこんなんや」アオザメ

五月雨「……」ウズクマリ

提督「黒潮たちも来てたのか……って、何したらこんなことになってんだ?」

明石「不知火ちゃんから預かってた資料が思いのほかグロくて……」

提督「おいおい、こりゃ見せちゃ駄目なやつだろ。なんでこんなガチな資料貰ってきてんだよ、不知火のやつは」

明石「ですよねえ……軽い気持ちで見たらいきなりこれだから、びっくりしましたよ」

提督「これじゃ別のトラウマ産み付けかねねえぞ。精々におわす程度の話で済ませたかったんだ」
357 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:03:01.46 ID:DOuvdaS5o

龍驤「キミもしかして、こうなることを予想しとったんやな?」

提督「ああ、知って気分のいい話じゃねえからな、さらっと流したかったんだが」

龍驤「うん……ま、そうなんやろなあ」チラッ

雲龍「」カチーン

龍驤「雲龍なんか、あんまりな話やったから固まって動かなくなってしもたんよ。ほら、起きやー?」ホッペムニー

雲龍「……あ」ムニー

提督「お、帰って来た。雲龍、大丈夫か」

雲龍「ごめんなさい、頭が理解するのを拒否していたわ……何の話だったかしら」

提督「まあ、これもある意味正しい反応だよな……」チラッ

筑摩「……」ウナダレ

提督「筑摩は動けねえか。さて……長門、五月雨と白露は休ませて欲しいんだが、任せていいか?」

長門「あ、ああ」

五月雨「い、いえ、私は、だいじょう……うぶっ」ヨロッ

提督「そんな真っ青な顔して大丈夫なわけねえだろ。いいから休んどけ」
358 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:03:46.89 ID:DOuvdaS5o

白露「あ、あたしは大丈夫だよ!?」

提督「かもしれねえが大事は取っとけ。さっきまで俺を背負って猛ダッシュしてたんだ、大人しくしてろっての」

白露「うー……」

提督「黒潮もありがとな、非番だってのに駆けずり回ってくれて」

黒潮「うちはええよ〜」ヒラヒラ

提督「さてと……」

筑摩「……」

提督「おい、筑摩」

筑摩「」ビクッ

提督「とりあえず利根の事情は理解できたか?」

筑摩「ど……して……」

筑摩「私は……たた利根姉さんと一緒にいたかっただけなのに」

筑摩「どうして利根姉さんがあんな目に遭っていたんですか!」

筑摩「利根姉さんは、なにも悪いことをしてないじゃないですか!?」

筑摩「これじゃ……これじゃ利根姉さんが可哀想です……!」

提督「……可哀想、ねえ」
359 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:04:46.82 ID:DOuvdaS5o

筑摩「提督!? なんでそんなあきれたような言い方をするんですか!?」

提督「利根が錯乱したのはお前のせいじゃねえのかよ」

筑摩「どうしてですか!? 私は何も知らなかったんですよ!?」

提督「知っていようがいまいが関係ねえよ。それを言ったらここにいる連中も知らなかったんだぜ?」

提督「だいたい夕べも、過度なスキンシップはやめろって利根から言われたよな? お前がそれを聞き入れてりゃあ良かったんだよ」

筑摩「そ、それは照れているだけだと……!」

提督「手前の都合のいいように解釈してんじゃねえよ。それが間違ってたから結果こうなったんじゃねえか」

提督「利根の錯乱を防ぐ術はあった。利根がお前を拒絶したのは、その予兆があったからだ」

提督「利根がああなったのは、お前がその警告を聞き入れず、お前が自分の欲を満たすことを優先した結果だろうが」

筑摩「……っ!」

提督「ただ、利根が何も悪いことをしていない、というのには同意する」

提督「こればっかりは、生まれてきた場所が悪かったとしか言い様がねえ」

筑摩「利根姉さんは、そんなこと、言わなかったのに……」

提督「言えるかよこんなこと。自分の口から話せるようになってたら、思い出してぶっ倒れたりしてねえよ」

筑摩「なんて……私は、なんてことを……!」ウナダレ

提督「……」
360 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:05:31.80 ID:DOuvdaS5o

筑摩「……死んでしまいたい……」ポツリ

提督「そうかよ、好きにしろ」

武蔵「!?」

提督「どこへでも行って野垂れ死ね」

黒潮「!?」

龍驤「うおおおおい!?」

五十鈴「ちょっと!? 提督何を言ってるの!?」

提督「あぁ? 死にたいなら死ねって言ってるだけだぞ」

明石「また始まった……」アタマカカエ

武蔵「て、提督! 貴様、筑摩にフォローのひとつも入れてやれないのか!?」

提督「なんでだよ面倒臭え」

黒潮「」

五十鈴「」

雲龍「面倒……?」ドンビキ

龍驤「お、おお……アカン、もう本当にアカンわこの人……」クラクラ

武蔵「……い、い、言うに事欠いて面倒とは……っ!!」

明石「あー、武蔵さん、この程度でこの人に怒ってたら身が持ちませんよ」

武蔵「し、しかしだな……!」
361 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:06:16.41 ID:DOuvdaS5o

明石「提督。ここに来る前に利根さんと話をしてきましたよね?」

明石「利根さんは筑摩さんについて、なんと言ってたんですか?」

提督「ああ? 利根たちからなら、筑摩を助けて欲しいと言われたさ。だが、筑摩がこんなこと言い出すようなら……」

筑摩「利根姉さんが言うなら生きます!!」シャキーン

提督「……」

明石「……」

筑摩「私は死にません! 利根姉さんが悲しむようなことはしません!」

提督「……」

明石「……」

五十鈴「……なんか、ごめんなさい」

武蔵「ま、まあ、いきなり死ぬとか言い出してびっくりしたが、良かったんじゃないか? なあ?」

提督「そいつはどうだろうな? 今んとこ、自分に都合のいい言葉しか拾ってねえぞ、筑摩の耳は」

明石「でも、提督は利根さんから助けて欲しいと言われたんでしょう?」

提督「……言葉ではそう言えても、実際はどうだかな」

武蔵「どういう意味だ?」

提督「見てりゃわかるさ。武蔵、悪いが明日以降も利根たちの様子を見ててくれ」

武蔵「あ、ああ……」
362 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:07:01.48 ID:DOuvdaS5o

 * 翌日の昼 執務室 *

提督「ま、当然だろーな」

武蔵「貴様はわかってて好きにさせたのか?」

提督「説明するよか早え。利根の精神状態が今どうなってるか、これ以上なくわかったろ」

武蔵「確かにそうだが……」チラッ

筑摩「……」ションボリ

提督「昨日あんだけ派手に利根を怯えさせたんだ、利根には避けられて当たり前だろ?」

提督「あいつのトラウマは俺たちが理解できるほど浅くねえぞ。昨日の今日で構ってもらえたら奇跡だと思ってるぜ俺は」

武蔵「……何かいい方法はないのか?」

提督「ないな。俺は、時間をかけて忘れさせてやるのが一番いい方法だと思ってる」

提督「利根に無理させてますますぶっ壊れたらどうするよ? 原因作ったのは筑摩なんだから、筑摩が退くのが筋だろ」

武蔵「む、むう……!」

提督「とりあえずもう昼だ。おとなしく食堂行って飯にしとけ」

筑摩「……利根姉さんが……」ボソッ

提督「!」
363 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:07:46.87 ID:DOuvdaS5o

筑摩「……利根姉さんが、昼餉を取り終わってから……食堂に行きます……」

武蔵「筑摩……!」

提督「そうか。立ちっぱなしも疲れるだろ、ソファに座って待ってな」

筑摩「……はい……ありがとうございます……」ユラ…ストン

武蔵「おい! 筑摩がまるで幽霊みたいで見ていられないぞ……!」

提督「そうか? 利根のことを考えられるようになった分、昨日よりだいぶマシになったと思うがな」

武蔵「そ、そうかもしれないが……!」

提督「ところで利根はどうしてる」

武蔵「今は古鷹と朝雲と一緒に食堂に行っているはずだ。食べ終わったら気晴らしに散歩に連れて行くと古鷹が言っていた」

提督「……朝雲がいるんなら、心配しなくても良さそうだな」

武蔵「そこは古鷹じゃないのか?」

提督「古鷹もお節介焼きが過ぎるところがあって危なっかしいからな。おそらくこの島で一番常識人なのは、俺の感覚では朝雲だぞ」

武蔵「そうなのか!?」

提督「この島に着任した艦娘のほとんどが轟沈させられたり、前の鎮守府の事情で追い出されたり逃げざるを得なかったり……」

提督「ま、いろいろあるんだよ。朝雲はその中でも比較的、傷が浅いほうだと思ってる」
364 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:08:31.53 ID:DOuvdaS5o

提督「明るいし気遣いができるし面倒見もいいし……如月みたいにべたべたくっついてきたり、朝潮みたいに俺を盲目的に全肯定しないのもいい」

提督「おかげでここじゃあ苦労人ポジションになっちまってるけどな」

 電話<RRRR...

提督「うん? 内線か。執務室だ」ガチャ

通信『もしもし、大淀です。提督、そちらに筑摩さんと武蔵さんがいらっしゃいますね?』

提督「おう」

通信『そちらにこれから昼餉をお弁当にしてお持ち致します』

提督「なに?」

通信『朝雲さんから事情は聴きました。利根さんと筑摩さんが鉢合わせしないようにするのなら、この方法が無難だと思いますが』

提督「気が利きすぎだろ……ありがたいけどよ」

通信『お弁当は提督の分も含めて3人分でよろしいですね?』

提督「ああ、悪いが頼む」

通信『はい。お任せください』

 チン

提督「というわけで、朝雲の提案で大淀が弁当を持ってきてくれるそうだ」

武蔵「……」
365 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/02/06(土) 13:09:17.16 ID:DOuvdaS5o

 *

提督「……やっぱり、しばらくは筑摩が我慢するしかねえな」

武蔵「やはりそうなるか……応急処置にしても、なかなかいい方法がないものだな」

 扉<コンコン

大淀「失礼します、お弁当お持ちしました」ガチャ

提督「おう、気を使ってもらって悪いな」

大淀「いえ」ニコ

提督「おい筑摩、お前も飯は食っとけよ。何かあったときに動けねえのは困る」

筑摩「……はい……」

武蔵「なんというか、痛々しくて見ていられないな……」

提督「なんならお前が利根の代わりになってみるか?」

武蔵「は……!?」

大淀「……似合いませんね……」ウーン

武蔵「何を想像してるんだ大淀!?」

筑摩「……」ジッ

武蔵「いや、そんなふうに見つめられても多分代わりは務まらんぞ!?」

 シレイ! シレイー!

提督「!」

武蔵「この声は……!」

朝雲「司令っ! 大変よ大変!!」バンッ

提督「朝雲……!? なんだ、利根か!?」

筑摩「!」ガタッ

朝雲「利根さんじゃないわ、古鷹さんが……!」

提督「古鷹!? なんでそっちが大変なんだよ!?」ガタッ
366 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2021/02/06(土) 13:10:06.39 ID:DOuvdaS5o
短いですが、今回はここまで。
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/06(土) 15:49:22.93 ID:JesVH9Tw0
乙です。
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/06(土) 08:43:29.50 ID:+uHD5SDm0
ほしゅ
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/10(水) 18:40:26.43 ID:lsIJ9jGy0
保守
370 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:05:32.37 ID:Apnnl4pjo
保守ありがとうございます。
体調崩していました、すみません。

おかげでうーちゃんと衣笠さんを取り逃がし……。
衣笠さん……ああ、駆逐艦衣笠さん……じゅうごまん……。


続きです。
371 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:06:24.66 ID:Apnnl4pjo

 * 北東の砂浜 *

朝雲「こっちです!」タタタッ

提督「まだ息があるんだな!?」タッタッタッ

朝雲「はい!」

武蔵「おい、良かったのか!? 筑摩まで連れてきて!」タタタタッ

筑摩「……」タタタタッ

提督「四の五の言わずに今は手伝え!」

武蔵「……勝手なことを……!」

朝雲「いた……! 古鷹さん!」

古鷹「しっかり! しっかりしてえええ!」ウワーン

利根「おお! 来たか、ていと……!」ビクッ

筑摩「……っ」

提督「おい古鷹!」

古鷹「! 提督……! 加古が……加古が大変なんです!!」グスグス

加古(大破)「……」グッタリ
372 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:07:19.12 ID:Apnnl4pjo

提督「倒れていたのはこいつだけか?」

利根「い、いや……向こうにも、もう一人おる」

提督「武蔵、頼む。まずは入渠させるぞ、連れてくることができそうなら、そうしてくれ」

武蔵「む……わかった。利根、案内してくれ!」

利根「あ、ああ」

古鷹「加古、目を覚ましてええええ!」ウワーン

朝雲「古鷹さん落ち着いて!」

古鷹「で、でも!」

提督「古鷹、少し下がってろ。おい、加古っつったな?」

加古「……い」

提督「ん?」

加古「……ねむい……」ムニャァ

提督「……」
373 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:08:03.74 ID:Apnnl4pjo

加古「……おねがい……おねがいだから……ねかせてぇ……」

提督「……」

古鷹「ちょっ、眠っちゃ駄目ぇぇぇ!!」ウワーン

提督「……」アタマオサエ

朝雲「し、司令、どうしよう……?」

提督「こいつが寝るっつってんだから寝かせてやるしかねえだろ。ここで寝かせるわけにはいかねえけどな」

武蔵「提督、連れてきたぞ」

 (武蔵にお姫様抱っこで抱えられている鳥海)

提督「ん……衣装が摩耶と同じか?」

武蔵「おそらく彼女は高雄型重巡の鳥海だ。気を失っているだけのようだが、無理に起こす必要はないな?」

提督「ああ、起こさなくていい。そのまま運べそうなら、そのままドックまで運んでやってくれ」

武蔵「わかった。こちらは任せておけ」スッ
374 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:08:49.20 ID:Apnnl4pjo

提督「それからこっちは……」

古鷹「加古ーー! しっかりしてぇぇぇ!!」ユサユサ

加古「うあぁあぁあ〜!?」ユサユサ

提督「……」

朝雲「あ」

 バッヂィィィン!

古鷹「いったぁぁぁぁああい!?」ブットビ

朝雲(重巡でもぶっとぶんだ、あのでこぴん……)タラリ

提督「少し落ち着けこの馬鹿たれ! ったく……筑摩!」

筑摩「!」ビクッ

提督「加古を背負ってドックまで行けるか? 古鷹があれじゃ心配すぎる」

筑摩「……」チラッ

利根「!」ビクッ

筑摩「……」シュン

提督「筑摩、どうだ。頼めるか?」

筑摩「……わかりました……」コク
375 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:09:34.44 ID:Apnnl4pjo

提督「よし。ほれ加古、眠れる場所に移動するぞ」

加古「むにゃあ……」ムクッ

朝雲「あ、筑摩さん手伝います!」

古鷹「いたた……提督、なにをするんですか!」プンプン

提督「そりゃこっちの台詞だ、眠てえっつってんだからドックで好きなだけ寝かせてやれってんだよ」

提督「わかったら筑摩と朝雲手伝え。とっとと加古を入渠させろ」

古鷹「は、はい!」タッ

提督「さてと……利根、あとは他に誰もいねえんだな?」

利根「……う、うむ……」

提督「……」

利根「……」

提督「……おい」ズイ

利根「な、なんじゃ?」

 ガシッ

利根「な、なにをする提督!? 手を離さんか!」アタマツカマレ
376 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:10:19.20 ID:Apnnl4pjo

提督「利根。お前は、俺が怖くないのか?」

利根「き、貴様は理由もなく他人を襲ったりせんだろう!」ジタバタ

提督「……」

利根「どうせこれも、筑摩のことを考えてのことじゃろう! 吾輩とてそこまで愚鈍ではないわ!」ンギギ…

提督「ふん……察しがいいのも困りもんだな」パッ

利根「や、やっと離したか、この馬鹿力め……ううむ、嫌な汗をかいたぞ」

提督「やっぱり怖かったんじゃねえのか」

利根「吾輩はまだ貴様の本気のアイアンクローをくらったことがないからな。未知の体験に少々緊張しただけである」

提督「それを怖いっつうんじゃねえのか。素直じゃねえな」

利根「貴様にだけは素直じゃないなどと言われたくないぞ! まったく……」

提督「ふん、元気そうだな。余計な心配だったか?」

利根「……そういうわけでもない。不本意極まりないが、筑摩の姿を見ると足がすくんでしまうのは認めざるを得ん」

利根「明石にも詫びを入れねばならん。せっかく作ってくれた個室の風呂も、怖くて入れなくなってしまったからな……」

提督「……」

利根「このままでは駄目なのは理解しておる。筑摩とも仲直りして、古鷹のように心配しあえる仲に戻らねばならん」

提督「……俺はドックに行くつもりだが、利根はどうする」

利根「うむ……吾輩も参ろうか。いつまでも目を背けてはおれん」

利根「いずれは筑摩と……この海を征きたいからな」

提督「……」
377 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:11:04.02 ID:Apnnl4pjo

 * 一方の入渠ドック *

古鷹「加古は大丈夫かなあ……」ウロウロ

朝雲「もう、大丈夫だって明石さんも言ってたでしょ? 古鷹さん心配しすぎ!」

筑摩「……」

朝雲「筑摩さんがいて本当に良かったわ……ありがとうございます!」

筑摩「……いいえ……できることを、したまでだから……」ニコ…

朝雲「あの、筑摩さん、大丈夫なんですか? すごく元気がないですけれど」

筑摩「……利根姉さんには、本当に申し訳ないことをしたから……」

筑摩(……)

 提督「今の筑摩は利根に警戒されてる。弁明どころか声をかけられただけで利根は逃げてくだろう」

 提督「だったら筑摩が利根に危害を与えることはないことを証明し続けるしかねえ。あえて利根に姿を見せてな」

 提督「だから、利根がいても絶対に筑摩からは近づくな。利根の方から近づいてくるまで、絶対にコンタクトを取ろうとするな」

 提督「挨拶せざるを得ない状況でも、会釈までで我慢しろ。それができなきゃ、あの利根とは二度と話ができねえと思え」

 提督「自分に危害を加えてきた奴が、どうやったら許せるか考えてみろ。多分、ひたすら頭を下げるしかねえんじゃねえか?」

 提督「そして絶対に害意がないことを態度で示して、それで許せるかもしれない、って心変わりを待つしかないと思うぜ」

筑摩(……)
378 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:11:48.98 ID:Apnnl4pjo

朝雲「……利根さん、ここに来た頃は本当に元気なかったから……筑摩さんもそんな感じだと、心配です」

筑摩「……大丈夫。きっと……大丈夫になってみせるわ。姉さんも、そうだったんでしょう?」

朝雲「はい……!」

筑摩「そうね……利根姉さんを見習わないと」

古鷹「う〜……」ウロウロソワソワ

朝雲「ああもう、古鷹さんは落ち着いてー!」

 扉<チャッ

武蔵「古鷹はまだ落ち着かないのか? それで加古が元気になるわけではないぞ」ヌッ

朝雲「武蔵さん……!」

武蔵「気持ちもわかるが、今はゆっくり休ませてやれ。加古に無理をさせて怪我を悪化させるのは古鷹の望むところではないだろう?」

古鷹「は、はい……」シュン

提督「だがまあ、今回の古鷹の心配は仕方ないと言えば仕方がないな」スッ

利根「うむ……」

古鷹「提督……利根さんも!」

摩耶「よっ。あたしも来たぜ」

朝雲「摩耶さん!」
379 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:12:34.80 ID:Apnnl4pjo

提督「摩耶にはあの艦娘が鳥海かどうかを確認してもらったんだ」

摩耶「まったく、びっくりしたぜ。明石からは鳥海も加古も助かるって言ってたから良かったけどさ」

武蔵「摩耶は落ち着ているな」

摩耶「そりゃあ、あたしが騒いだって鳥海が元気になるわけじゃねーからなあ。元気になってから、ゆっくり話を聞くさ」ニッ

古鷹「あ、あうう……す、すみません、私もそうします……」ショボン

摩耶「ああ、そうしたほうがいいぜ。でなきゃ、誰をぶちのめさなきゃいけねえか、聞き出せねーもんな!」バキバキ

朝雲「それはそうかもしれないけど!?」

利根「う、うむ……仇討ちが目的というのもな……」

提督「そうか? 俺はいいと思うが」

武蔵「ああ、同感だ」ウンウン

摩耶「だよな!」パァッ

朝雲「あーそうだったわ……武蔵さんも武闘派だし、司令もやり返さないと気が済まない人だったわ……」アタマカカエ

提督「そうじゃなくても無理もねえよ。加古と鳥海は轟沈してるらしいんだからな」

朝雲「え?」

筑摩「沈んだん……ですか!?」
380 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:13:19.18 ID:Apnnl4pjo

提督「明石の見立てではな。二人に当時の状況を聞かないと確定はできねーが、全身ずぶ濡れだったことを考えると、沈んでた可能性も否定できねえ」

提督「特に加古は足元の艤装の損傷がひどい。航行不能な状態になっていたからこそ、古鷹も狼狽えてたんじゃねえのか?」

古鷹「はい……!」

提督「まあ、あとは重巡がふたりも轟沈してるっつうのが気に入らねえ。何したらそんな被害になるんだ?」

武蔵「うむ……余程の無理をしない限り、2隻沈むというのは考えられないな」

提督「なんにしてもだ、目が覚めたらあいつらに生きる意志があるかどうか確認しねえとな」

武蔵「なんだそれは? せっかく助かったのに死にたいなんて言う艦娘がいるのか?」

提督「いたら困るから訊くんだよ。死にたい奴を助けて後から文句言われたくねえ」

筑摩「……あの……」

提督「ん?」

筑摩「あくまで老婆心ですが……加古さんをこちらへ運ぶ際に、死ぬほど寝たいと言っていましたので……誤解のないようにお願いします」

提督「なんだそりゃ? そんなに寝たかったのか、あいつ」

筑摩「いえ、その……もともとだと思います。前の鎮守府にいた加古さんも、暇さえあればお昼寝していましたから」

提督「……マジか」

古鷹「聞く限りはそうみたいなんです……」ハァ…

朝雲「L提督の鎮守府にいたときは加古さんいなかったから、写真でしか見たことなかったんだけどね」
381 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:14:08.72 ID:Apnnl4pjo

筑摩「私が知る限りでは、任務中もあくびしながら航行していたのは珍しくありませんでした」

筑摩「そういう意味で不真面目に見られていましたが、戦闘では真面目でしたよ。効率よく確実に戦うことを信条にしてましたから」

提督「ふーん……」

摩耶「もしかして、寝る時間を増やしたくて真面目に戦ってたとかか?」

全員「「!?」」

朝雲「そういう考えもあり得るわね……」

古鷹「そ、そんなわけないですよね!? ね!?」オロオロ

筑摩「……」メソラシ

古鷹「筑摩さん何か言ってぇぇぇ!?」ガビーン

提督「昼寝のために全力を出すってか……いいなそれも」

武蔵「いいのか!?」

提督「悪くはねえだろ。自分が後で楽になるために、今を一生懸命になるのはいいことじゃねえか?」

武蔵「……いや、まあ、確かにそうだが」
382 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:14:49.00 ID:Apnnl4pjo

提督「とりあえず寝るのが大好きだったんだな、お前がいた鎮守府の加古ってのは。じゃあ、鳥海はどんな奴だった?」

筑摩「そう、ですね……真面目を絵に書いたような艦娘でした」

筑摩「性格的には霧島さんに近い感じですが、普段は物静かで、こちらの摩耶さんとは対照的ですね」

提督「ふぅん……物静かで霧島に似てる、ねえ。言葉遣いはどうなんだ?」

筑摩「……丁寧で穏やか、大人しいといった印象です。荒っぽい感じはありません」

摩耶「あたしと違ってお淑やからしいからな、鳥海は!」フフン!

提督「……何でお前が威張ってんだ」

摩耶「ああ!? 自慢しちゃあいけねえのかよ、くそが!」

提督「お淑やかなのを自慢するんなら、そのお前の最後の一言はなんとかなんねえのかよ」

摩耶「んぐ……あ、揚げ足取りやがって。お前だって似たようなもんだろ!? ちょっとウザいぞ!」

提督「へーへー。まあいいや、ここへ流れてきた二人の性格がその通りかどうかも、まだわかんねえからな」

提督「早いとこ目を覚ましてもらって直接話を聞けりゃ、古鷹の心配も多少はなくなるだろ」

古鷹「は、はい、とにかく話ができるくらいに回復してくれれば、私も安心です」
383 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:15:34.14 ID:Apnnl4pjo

提督「じゃ、この場は明石に任せて、二人の回復待ちだな。武蔵、筑摩、戻るぞ」スクッ

朝雲「武蔵さんたちも戻るの?」

提督「昼餉がまだだからな。これだけ働かせて飯抜きはねえだろ」

筑摩「あ……!」

武蔵「……そういえばそうだったな。言われてみると確かに腹が……」

摩耶「あたしも戻るか。鳥海が目を覚ましたら、あたしにも声をかけてくれよ?」

提督「おう」

 スタスタスタ…

筑摩「……」スクッ

利根「……」ジリッ

筑摩「……」スタスタ…

提督(利根はまだ筑摩に怯えてやがんな。こりゃ時間がかかるか……仕方ねえ)
384 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:16:19.21 ID:Apnnl4pjo

 * 執務室 *

大淀「提督、お茶をどうぞ」コト

提督「ん……ありがとな」モギュモギュ

武蔵「それにしても、この短期間に4隻も艦娘が流れ着いてくるとは……」

提督「生きて4人は珍しいが、同時に何人も流れてくること自体はそんなに珍しくもねえ」

提督「新しい海域への攻撃が始まったとか、特別海域の攻撃命令が来たときとか、見たことない深海棲艦が現れたときとか……」

大淀「確かに、戦線に動きがあったときが多いですね」

提督「ま、そう考えると、場所や理由がバラバラでも、根っこを辿って行ったら原因は同じだった、ってのはあるかもしれねえな」

武蔵「ふむ……」ズズ…

提督「ただまあ、今回の筑摩たちの事情と、加古たちの状況は全然違うからな。別件と思っていいだろう」

提督「なあ大淀、不知火に頼んだ轟沈のリストはまだ来てないか?」

大淀「まだですね。おそらく明日以降になるのではないかと」

武蔵「轟沈艦のリスト? そんなもの何に使うんだ」

提督「公式に、筑摩たちが轟沈した扱いになってるかどうかを確認したい」

筑摩「!」
385 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:17:04.08 ID:Apnnl4pjo

提督「本営も一応は、各鎮守府で邂逅した艦娘の情報を収集してる。例えば艦娘が不法に取引されないようにな……それも怪しいもんだが」

提督「連中の本音はどうあれ本営は、各鎮守府の建造でも解体でも記録を取って、艦娘の在籍状況を逐一管理してるんだ」

提督「うちに流れてきた艦娘が元の鎮守府に戻していいかどうかも、それを見りゃあ判断できる」

武蔵「それは貴様が言っていた、轟沈した艦娘は元の鎮守府に戻れないという制約からか?」

提督「だな。リストに載りゃあ死んだも同然、戻ったところで解体だろう。それが嫌ならここに着任するか? って話になる」

提督「あとは身元確認の意味合いが強いな。その鎮守府の提督を要注意人物として把握しておきたい」

提督「そういや、筑摩は知ってたか? 昔、轟沈した艦娘が戻ってきて、ある日突然深海棲艦になって鎮守府が壊滅した話」

筑摩「……知ってはいますが、作り話だと思っていました……」

提督「知らないわけじゃない、か。ま、確かに、話が本当かどうかは確認してねえし、しようがねえな」

大淀「提督、この鎮守府はそれを確かめるために、轟沈した艦娘を運用する運びになったのではありませんでしたか?」

提督「それこそ建前ではな? そんなこと起こらねえと思ってるから油断しまくってるけどよ」

武蔵「では本音はなんだ」

提督「最初にこの島に轟沈してきた如月を、この鎮守府でそのまま運用するためだ。その後も轟沈艦が何人も流れ着いてきたし、結果的には正解だった」

提督「あとは、人間が俺たちに関わってこない環境を作りたかった。その条件は奇しくも中佐が御膳立てしてくれたわけだが」

筑摩「……どういうことですか?」
386 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:17:49.23 ID:Apnnl4pjo

提督「中佐は俺が邪魔なんだよ。俺が妖精と話ができるってのが、中佐にとっては相当に都合が悪いらしい」

提督「それで中佐は、こんな人の寄り付かないこの島に俺を幽閉して、誰も立ち入らないように手厚く手厚く保護してくれてるわけだ」

提督「ついでに艦娘が轟沈すると深海棲艦になるって噂も、真偽はどうあれ人を遠ざけるのにちょうどいいから遠慮なく利用してる」

提督「この島で轟沈した艦娘に自由を与えて、俺がその責任を取ると言えば、連中もノーとは言わないだろうさ」

筑摩「准尉は、それでよろしいんですか……?」

提督「ん? よろしいんじゃねえの? 俺は何も困らないぞ?」

筑摩「ええ……?」

提督「俺はそもそも人間と関わり合いになりたくないし、何より人間の勝手で轟沈した艦娘をそのままにしておく方が余程気分が悪い」

提督「そういう意味では、俺と中佐の利害が一致してるっつうのが気に入らねえが、そこは呑み込むとして」

武蔵「むう……」

提督「俺は基本、艦娘の味方だ。あいつらを見捨てた人間と同じになりたくないだけの……手前がかわいい身勝手な人間だよ」ハァ…

大淀「……それでどうして提督が落ち込むんですか」

提督「結局は自分のためなんだよなあ。よくよく考えりゃ、俺がいい気持ちになりたくて誰かを利用してんだよ」

提督「俺が救われたくて、俺に似た境遇のあいつらを助けようとしてるだけじゃねえか……」
387 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:18:33.91 ID:Apnnl4pjo

大淀「動機はどうあれ、ここへ来た艦娘が前の環境より良い境遇にあることは事実じゃないですか」

筑摩「そういう意味では、艦娘が自分の欲求を満たすため、未練を晴らすために提督を利用しているとも言えるのではありませんか?」

提督「それはいいんだよ。艦娘が俺を利用するのはいいんだ」

筑摩「失礼ですが、矛盾しています。それでは提督は、人間にも利用され、艦娘にも利用されることになるのではありませんか」

提督「……ああ、そういう意味か」ジロリ

筑摩「!」

提督「俺たちを利用した人間どもを、このままにしておくつもりはねえさ。いずれは、奴らも……!」ギリッ

筑摩「……!」ゾクッ

武蔵「提督……貴様!?」ガタッ

 スパーン!

武蔵「」

筑摩「」

提督「……いてぇ……」

大淀「……」ゴゴゴゴ…
388 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:19:18.99 ID:Apnnl4pjo

武蔵「お、おい、大淀。お前、提督の頭をバインダーで思いっきり……」

大淀「ええ、叩きましたよ」ニコッ

武蔵「」

大淀「提督? これまでに何度も申し上げておりますけれど」ズイ

大淀「そのような不謹慎な発言は、くれぐれも、控えてくださいね?」ニコァ

武蔵(大淀が怖い)シロメ

筑摩「あの……い、いろいろといいんですか?」

大淀「本営の肩を持つ気はありませんが、提督の物騒な発言によって余計な波風が立つのを見過ごすわけにはいきません」

提督「……ったく、しゃーねーな……」ハァ…

 扉<コンコンコン

霧島「霧島です。よろしいでしょうか」

提督「ん、いいぞ」

霧島「失礼致します」チャッ

提督(……なんか、霧島も殺気立ってるか?)

霧島「……摩耶の姉妹艦が流れ着いてきたそうですね?」

提督「おう。なんで流れ着いてきたかはわからねえから、鳥海の回復を待って事情聴取するつもりだ」
389 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:20:19.20 ID:Apnnl4pjo

霧島「……できれば、私も同席したいのですが」

提督「いいぞ。ただし、暴れるのは全部話を聞いてからだ」

霧島「!」

武蔵「……まあ、眉根にそんなしわを作っていては、提督にからかわれても仕方ないぞ」

霧島「顔に出ていましたか……失礼致しました」

提督「別にからかっちゃいねえよ、暴れたいんなら俺に断ってからにしろ。有耶無耶にしてやるからよ、俺ができる範囲で」

霧島「は、はあ……」

武蔵「提督、貴様が適当なことを言うから霧島がどう反応したらいいか困ってるぞ?」

提督「困るって言われてもな。俺の言葉は言葉の通りだぞ? うちの艦娘が間違ってないなら俺も暴れろって言うからな?」

武蔵「いかんだろうそれは……貴様は止める立場の方だぞ?」

提督「止めたくねえなあ……なんにしてもだ、まずは鳥海がちゃんと話を聞いてくれることが一番なんだが……」

武蔵「その辺は問題ないだろう。鳥海は真面目だと聞いたぞ?」

提督「そうか? 真面目な方が厄介な気がするぜ。真面目ちゃんは言い換えれば頑固で、融通が利かねえことが多いんだ」ハァ

提督「前の鎮守府の理不尽な命令を律儀に守り続けてたり、目的のために視野狭窄に陥ったり……言われたことを延々と気にしたり、なあ?」

霧島「!」ビクッ
390 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:21:03.96 ID:Apnnl4pjo

提督「自分でも言ってることが極端だとは思うが、その極端な奴が流れ着いてくるのがこの島だからな……」

大淀「そうですね……でも、最初から最悪を想定して話を進めなくても良いのではないですか?」

提督「そうは言うが、その最悪を飛び越えてくるケースが何度もあったろ……」

 扉<コンコン

伊8「提督、戻りました?」ガチャ

提督「おう」

伊8「海底に散らばってた、二人のものらしい艤装の破片、集めて明石さんに預けてきました」

提督「そうか、ご苦労さん……って、そういえばはっちゃんもそうだったっけな」

伊8「なにがです?」

提督「前の鎮守府で無理矢理東オリョール海を往復させられて轟沈したってのに、それでも前の鎮守府に戻るとか言ってたの」

武蔵「んなっ!?」

霧島「そ、そうなんですか?」

伊8「あー、そうでしたね。はっちゃんがおかしくなってたときの話です」
391 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:21:49.03 ID:Apnnl4pjo

提督「真面目な奴ほど命令には逆らえなかったり……まあ、はっちゃんの場合は恐怖を植え付けられてたって感じだったが……」キョロキョロ

霧島「どうなさいました?」

提督「いや、メガネが多いな……と」

霧島「!」

大淀「!」

武蔵「!」

伊8「あー」

筑摩「そ、そうですね……」

提督「まあ、言わずもがな真面目なメンツが多いな……」

大淀「そ、それは、まあ、ふざけるわけにはいきませんので」

提督「……鳥海もこんな感じなのかねえ。一人くらいちゃらんぽらんなメガネがいてもいいだろうに……」

武蔵「さすがにおらんだろう、そんな奴は」

提督「……あ、いるわ。余所の鎮守府に」

伊8「え?」

提督「しかも俺に似てる」

霧島「ええええ……?」
392 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:22:36.17 ID:Apnnl4pjo

 * V提督鎮守府 *

望月「ぅえっきしょ」

弥生「なに? いまの無気力なくしゃみ」

卯月「望月、風邪ひきぴょん?」

望月「うんにゃ、鼻がムズった」ゴロン

卯月「だったら早くパジャマから着替えるぴょん。もう11時だっぴょん!」

望月「えー、めんどくせ〜」ゴロゴロ

393 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/13(土) 21:23:20.53 ID:Apnnl4pjo
今回はここまで。

いろは順で行くと、次は「ぬ(奴)」なのですが、
「奴」の字はそれなりに使用しているので、次の「留(る)」「遠(を)」を使います。
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/14(日) 03:56:05.20 ID:EQfZpE5w0
続きキター!寿命が伸びるわぁ
保守
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 17:08:14.53 ID:mJP0IZD+0
投稿乙です
過去スレで提督が叱られてましたが体調管理だけは気をつけて...
396 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:22:17.32 ID:yO92N9VFo
では、続きです。
鳥海と加古のお目覚め。
397 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:23:00.79 ID:yO92N9VFo

 * その日の夕方 入渠ドック前 *

提督「よう、二人とも目を覚ましたんだな?」

明石「はい! 怪我の方もばっちり治しました!」

明石「摩耶さんや古鷹さんも呼んでいるので、少しお待ちください!」

提督「この島のことについては何か話したか?」

明石「説明したのはこの島に流れ着いてきたときの状況だけですね」

提督「そうか。んじゃ、俺の方からここがどういう場所か、簡単に話しとく」

提督「摩耶たちが揃ったら、これからどうするのかの話を始めるぞ」

明石「了解です!」

 * *

加古「轟沈した艦娘が流れ着く島ぁ?」

鳥海「私たちが轟沈したと仰るのですか……?」

提督「明石が言うには、艤装の被害を見るに航行可能な状態にはなかったと言われたが、お前ら自分が沈んだかどうかの自覚がないのか?」

鳥海「も、申し訳ありません、私は無我夢中で……」

加古「あたしは准尉の言う通り、沈んだと思ってるよ」

提督「覚えてるのか?」
398 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:23:45.76 ID:yO92N9VFo

加古「この姿になって、初めて水の中から空を見た記憶があるんだけど……やっぱ、やだねえ。ははっ、思い出しただけで寒くなってきた」

提督「まあ、無理に思い出さなくていいぞ。で、鳥海は自分が轟沈していないと思ってるのか?」

鳥海「はい。私は、轟沈すると深海棲艦になるという噂を耳にしたことがあります」

鳥海「ですので、もし私が轟沈していたとしたら、艦娘としてこの場にはいないのではないかと思っています」

提督「俺はそっちの話の方が初耳だな。鳥海の話が本当なら、この島に漂着してきた艦娘の遺体が深海棲艦になってないと辻褄が合わねえ」

鳥海「! それは……」

加古「っていうかさあ、轟沈したかどうかの判断基準ってなに?」

提督「自力で水上に立てなくなった、あるいは浮き上がることができなくなったら、そうなんじゃねえか?」

提督「他人が判断する場合は、本営の判断でそういう扱いになる場合がある。あとは、その鎮守府の提督がその艦娘について虚偽の報告をした場合だな」

加古「ふーん……じゃあ、沈んでなくても沈んだことにできるんだ?」

提督「まあ、それもできるな」

加古「そっか……それなら……」

鳥海「それなら、沈んだかどうか誰も判断できない艦娘は、元の鎮守府に戻れる可能性もあるわけですね?」

加古「!」

提督「……多分、な」
399 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:24:32.41 ID:yO92N9VFo

鳥海「良かった……! それなら、加古さん! 私たちは早く鎮守府に戻りましょう!」

加古「!」

提督「お前は元の鎮守府に戻るつもりでいるのか」

鳥海「はい、皆さんに迷惑をかけるわけにもいきませんし。早く鎮守府に戻って、みんなを安心させてあげないと!」

加古「……」

鳥海「加古さん?」

加古「あのさ……本当に戻るの?」

鳥海「え、ええ……そのつもり、ですけど」

加古「悪いんだけどさぁ、あたしパス。あの鎮守府には戻らないよ」

鳥海「な、なにを言ってるの!?」

加古「鳥海こそ本気で戻るって言ってんの? あたしゃ今のあの人にはついていきたいと思わないよ?」

加古「鳥海は義理を重んじてるんだろうけどさあ、無茶な注文言われて轟沈して、それで戻って義理を果たそうってお人好しが過ぎない?」

鳥海「でも、司令官さんは司令官さんなりに頑張って……」

加古「あれで頑張ってるって言うの? あたしが言うんだよ? 相当なもんじゃないのかねえ?」
400 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:25:15.80 ID:yO92N9VFo

加古「あの一日提督の言うことに何も口を出さないくらいともなると重症だよ。お人好し通り越して他人任せになってんじゃないか」

鳥海「司令官さんには司令官さんのお考えがあります! それに、進軍の判断をしたのは私たちよ!?」

鳥海「加古さんだって、進むべきか退くべきかを訊かれたときに、進んでいいと言ったじゃない!」

加古「……」

提督「お前らの細けえ事情は知らねえが」

加古「!」

鳥海「!」

提督「加古が戻る意思を見せてない以上、今の状況なら戻るのは鳥海だけだな」

鳥海「そんな……!」

提督「鳥海は加古ともども元の鎮守府に戻る気でいた。加古、お前はどうだ? 鳥海は戻ったほうがいいと思うか?」

加古「……」

鳥海「……」

提督「……」

加古「……あたしは、引き留めないよ。けど、戻ったほうがいいなんて、あたしの口からは言いたくないねえ」

提督「……」
401 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:26:01.17 ID:yO92N9VFo

明石「提督ー!」

提督「!」

明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」

霧島「失礼いたします」

摩耶「よっ、悪りーな、遅くなっちまって」

鳥海「摩耶!? ど、どうしてあなたがこんな鎮守府に!? あなたも轟沈したの!?」

摩耶「してねえって。人の心配する前に鳥海は自分の心配しろよなー?」

鳥海「そ、それはそうかもしれないけど……でも、摩耶は轟沈したわけじゃないのね。良かった……」

明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」

明石「代わりに朝雲ちゃんが来るらしいですよ? 古鷹さん、加古さんが心配すぎて落ち着いていられないから、落ち着かせてから来るって」

提督「……そうか」アタマオサエ

加古「なに? ここの古鷹ってばお節介焼きなの?」

提督「まあな……今はそうでもないと思うが」

加古「ふーん……?」

 タタタタッ

朝雲「ごめんなさい、遅くなりました!」
402 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:26:45.61 ID:yO92N9VFo

提督「古鷹はまだそわそわしてんのか?」

朝雲「あー……古鷹さんは、武蔵さんに無理矢理大人しくさせられた、っていうか……気絶させられたっていうか」トオイメ

加古「はあ!?」

提督「そうか。しょうがねえな」

朝雲「そういうわけだから、古鷹さんは武蔵さんと筑摩さんに任せてきちゃった」

加古「あー、ちょっと、余所様の艦隊に言うことじゃないかもなんだけど、大丈夫なの?」

提督「うちの連中もそこまで遠慮なしじゃねえから、大丈夫だろ。とりあえず朝雲も来たことだし、話を始めるぞ」

提督「まず、この二人にはこの島がどんなところか説明した」

提督「この島の砂浜に流れ着いたときには二人とも意識がなかったんだから、俺は二人とも轟沈したと考えるんだが、鳥海はその自覚がないらしい」

霧島「では、鳥海は轟沈したわけではないと?」

提督「主張はそういうことらしい。俺には自分の不始末を認めたくないだけに見えるがな」

鳥海「……」ムッ

提督「でだ、そもそもこんなことになった原因について、お前らに話してもらいたいんだが、できるか?」

加古「……」チラッ

鳥海「は、はい……わかりました」
403 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:27:31.06 ID:yO92N9VFo

提督「それじゃ、自己紹介と所属か。どこから来たんだ?」

鳥海「では、改めて。私は重巡洋艦、鳥海です。そして、こちらが同じく重巡洋艦、加古」

加古「……」ペコリ

鳥海「私たちは呉にある遠大佐鎮守府に所属する艦娘です」

朝雲「遠大佐……?」

霧島「呉で大佐ということは、大きめの鎮守府のようですね」

加古「いんや、呉にある鎮守府のなかでは小さいほうだよ。言っちゃあれだけど、いくつかある港の隅っこに追いやられてるし」

摩耶「そうなのか?」

鳥海「え、ええ……末席から数えたほうが早いのは本当よ。大将や中将の鎮守府もあるし、そちらと比べたら鎮守府の規模は小さいわ」

霧島「なるほど。かつて海軍工廠があった港だけあって、海軍の中でも重鎮が集まるのは当然と……」

提督「で、実力はどうあれ、その呉に居を構える遠大佐が、なんでまた重巡二人を沈めるようなヘボい指揮を執ったんだ」

鳥海「そ、それは……」

加古「その時指揮を執ってたのは遠大佐じゃなくて、留提督だよ。一日提督のね」

霧島「いちにち……?」

加古「そ。なんかねえ、留って人が今売り出し中の大人気男性アイドルなんだって。あたしは聞いたことないんだけどさ?」
404 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:28:17.03 ID:yO92N9VFo

加古「で、どっかのテレビが呉にある鎮守府を取材したいとか、一日提督をやらせて艦娘の指揮を執らせたいとか、そういう申し入れをしたんだって」

加古「それで引き受けたのが、うちの遠大佐なんだ」

明石「……一日提督、って、芸能人が一日警察署長とか、あの一日って意味ですか!?」

摩耶「それじゃ、何も知らねえド素人が、艦隊の指揮を執ってお前らを轟沈させたってのか!?」

霧島「……そんな馬鹿な」クラッ

鳥海「で、でも、進軍を決めたのは私たちで、別にその方のせいでは……!」

提督「加古。鳥海の話は本当か?」

加古「うん。無理を承知で進んだのはあたしたちの判断だよ。けど、最初から無理があったと言えば無理があったんだ」

加古「派手な砲撃戦が見たいっていうから戦艦や重巡をメインにしたのに、どうして潜水艦がいる海域を選んだんだ、とかさ」

霧島「潜水艦……もしかして、南方海域……?」

加古「そ。駆逐艦も一人連れてったんだけど、対潜装備も載せなかったもんだからひどい目に遭ってさぁ」

加古「あたし以上にうっかりが多すぎるんだよ、最近の遠大佐は……」ハァ

明石「ですが、どうしてそんな状況で進軍しようとしたんですか」

摩耶「そうだよ。引き返すことだってできたろ?」

鳥海「それは……」ウツムキ

加古「……」
405 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:29:01.47 ID:yO92N9VFo

鳥海「私たちの、慢心だと……」

明石「……」

霧島「……」

提督「加古はどうなんだ」

加古「……それ、あたしはちょっと違うと思うなあ」

鳥海「え?」

加古「多分あのとき、あたしたちは期待されてたんだよ。大破した艦娘もいながら、この窮地を無事乗り越えて、帰ってくる……」

加古「そういうストーリーを、あたしたちは暗に求められちゃったんだよ。で、おそらく鳥海は、その期待に応えようとしたんじゃない?」

鳥海「……そうかもしれないわ。でも……」

加古「それになにより、深海棲艦の侵攻は止めなくちゃいけない……!」

鳥海「そう……だから、私たちは進むことを決意したんです」

提督「……」

明石「でも、それで沈んでしまったら元も子もないでしょう!? なんでそんな無茶を、美談みたいに話せるんですか!」

加古「そうだねえ……沈んだら終わりだよねえ。今思えば、ほんと、あたしも馬鹿なことしたもんだよ」
406 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:29:45.98 ID:yO92N9VFo

提督「じゃあなにか? お前らはその一日限定の留提督とやらの綺麗事にまんまと乗せられたってことか?」

鳥海「っ!!」

摩耶「お、おい!」

霧島「司令、その言い方はさすがにどうかと……!」

加古「いや、その通りだよ」

全員「!」

加古「留提督は、そうやってあたしたちを鼓舞して、勝ってこいって無茶ぶりしたわけだもの」

加古「それであたしは、もう駄目だ、って思って、諦めたんだ」

明石「そ、それってどういう……」

加古「あたしはあのとき、最初から勝つつもりで進軍したわけじゃない。あたしは、最初から沈むつもりで先に進んだんだ」

鳥海「え!?」

摩耶「はぁ!?」

霧島「!?」

朝雲「……」

提督「どういう意味だそりゃ。そんなにその留提督が気に入らなかったのか?」

加古「いいや? どっちかっていうと遠大佐に愛想が尽きたっていうか、今回の件が決定打になったって感じかねー……」
407 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:30:30.77 ID:yO92N9VFo

提督「ほう。決定打ってのはどんなどこだ?」

加古「昔みたいに捨て艦するならいざ知らず、今は大破したら引き返すってのが鉄則でね。遠大佐はそれを守る人だと、あたしは思ってたんだ」

加古「それが今回、留提督がいいところを見せたいがための進軍の指示を、止めようともしなかったんだ。それで幻滅したってのが一番だね」

加古「あとは、留提督の進軍を促す言い方が気に入らなかった」

加古「途中撤退は海軍として恥ずかしくないかとか、目的を果たせないのは格好がつかないとか、まー聞いてていやらしい台詞が聞こえてきたんだ」

加古「さもあたしたちが進みたくて進んだと言わせたくて、そういう言い方をしたんだろうね」フン

提督「そいつらが責任を負いたくないからか」

加古「わかんないけど、そんなとこだろうねえ。それであたしもちょっとむかっと来ちゃって」

加古「本当ならさ? そんなことを留提督が言おうものなら、遠大佐が諫めてくれてもいいじゃないか」

加古「でも、遠大佐は何も言わなかった」ウナダレ

加古「だからあたしは、いいよ、進もう、って言ったんだ」

鳥海「……!」

提督「諦めの意味での、もういいよ、か」

加古「うん……なんていうかさあ、なんて言ったらいいかわかんないけど、糸がぷっつり切れちゃったんだよね」

加古「ああ、もうどうでもいいやって。もう暴れるだけ暴れて、終わっちゃおうってねぇ……」

提督「……」
408 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:31:16.13 ID:yO92N9VFo

加古「留提督への当てつけも少しはあったかな……」

加古「自分が指揮執ったときに艦娘沈めるのって、ああいう人たちにとってどのくらい痛手なのかもわかんないけど」

加古「でもさ、今思い起こしてみても、一番腹が立ったのはやっぱり遠大佐かなあ」

加古「ちょっと来ただけのやつに好きに言われて黙ってるって、あんたそこまで腑抜けたのかって」

鳥海「……」

加古「ま、あたしにゃいろいろ思うことあったんだけど、鳥海を巻き込む気はなかったんだ」

加古「落伍すんのはあたしだけで良かったんだよ。なんでぼろぼろの鳥海が、あたしをかばったりなんかしたのさ?」

鳥海「……昔を、思い出したの」

加古「昔……? ああ、艦だったころの……」

鳥海「二度も、私の目の前で沈むのを、見過ごせるわけないじゃない……」

加古「そっか……そだね。ごめん」

提督「……こいつらもあれか。艦だったころの因縁を覚えてるわけか」ヒソッ

明石「そういうことですね」ヒソッ
409 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:32:00.77 ID:yO92N9VFo

提督「とりあえず、お前らんとこの遠大佐が何を考えてるのかって話になるんだが……」

加古「あーごめん、遠大佐についてはもう勘弁。あたしはもう関わりたくないっていうか、見せる顔がないっていうかさあ」

鳥海「加古さん!? それとこれとは話が別でしょう!? お別れするならするでご挨拶しないと!」

加古「えーー?」

摩耶「……鳥海ってこんなに面倒臭かったっけか?」

霧島「真面目な艦娘ね……」

朝雲「え、えーっと、話の途中でごめんなさい。ちょっといい?」

提督「? どうした?」

朝雲「鳥海さんと加古さんに聞きたいんだけど、遠大佐ってさ、もしかして……」


朝雲「秘書艦に、雷を連れてない?」


加古「!」

鳥海「そ、そうだけど……あなた、遠大佐を知ってるの?」

朝雲「あー、はい。まあ……そっか、そうなんだ……」

提督「朝雲?」

朝雲「あ、司令。もしかしたら気付いてるかもだけど……」
410 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:32:46.75 ID:yO92N9VFo

朝雲「遠大佐の秘書艦の子、古鷹さんが超過保護になった原因かも……」

提督「」

明石「」

鳥海「!?」

加古「え、なにそれ」

朝雲「えーと、私、この鎮守府に来る前にL大尉……その時は少佐だったんだけど……」

 * かくかくしかじか *

朝雲「……というわけで、古鷹さんも、過保護通り越して介護してるような感じだったのよね」

加古「うわあ……」ドンビキ

提督「俺の風呂やトイレまで世話しようとした時はどうしようかと思ったぜ」

鳥海「そんなことまで……」

朝雲「うちの古鷹さんが遠大佐の雷に触発されて、重度の世話焼き重巡になっちゃったんだけど、じゃあ当人はどうなのかな? って思って」

加古「雷がそこまでやってる可能性……ないとは言えないねえ」

朝雲「少なくとも、私たちが演習で出会ったころの遠大佐はまだまともだったと思いたいけど、あれから1年以上経ってるわけだし?」

明石「雷ちゃんにしても遠大佐にしても、いろいろこじらせて悪化してても不思議ではない、と」

霧島「悪化……」
411 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:33:31.25 ID:yO92N9VFo

摩耶「なあ提督、あたしたちは全くの外野だけどさ、話だけ聞く限りだと、やっべえんじゃねえの? そいつ」

加古「いやー、あたしは身内だけど、ぶっちゃけやばいと思ってるよ。実際、今回出撃する前から常々、誰か早く何とかしてーって思ってたし」

提督「明石は俺と同じ顔してるからまあ察するとして」

明石「えー!?」

提督「異論はねえだろ。霧島は今の話、どう思う」

霧島「……い、いえ、私が人様の判断をしていいのかどうか悩みますが」

提督「言い淀んでるってことはろくな感想じゃねえってことだな」

霧島「!?」

提督「で、鳥海は」

鳥海「……」アタマカカエ

提督「もはやフォローの言葉もねえ、と」

鳥海「准尉さん!?」ガタッ

提督「この中で、おそらく一番遠大佐を信頼しているであろうお前が、そういう顔してる時点でもうダメだろ」

提督「思い当たる節があるから考え込んでたんだろ? お前が無意識に目を背けてたのか、意識して目を瞑っていたのかは知らねえが」

鳥海「あうぅ……」
412 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:34:15.82 ID:yO92N9VFo

提督「もしかしたら、遠大佐がそういう状態だからこそ、戻って支えてやらないとって考えてたか?」

鳥海「そ、それは……」

提督「……」

鳥海「……そう、かも、しれません」

提督「そうか。そうしたいなら引き留めはしねえが……遠大佐にしても秘書艦にしても、更生させんのはくっそきっついだろうなあ」ウンザリ

朝雲「そうね……香取さんからも話を聞いたけど、すっごい大変だったみたいだし」ウンザリ

提督「まあいいや、どうせ遠大佐がどんな奴だろうと、俺には関係ねえしどうこうするつもりもねえ」

鳥海「じ、准尉さんっ!?」ガタガタッ

提督「そこ驚くところかよ? 俺がどうにかできると思ってんのか?」

明石「まあ、普通に考えたら何もできないですよね。秘書艦変えてくれ、って言って変えてもらえるかどうかはそこの提督次第ですし」

霧島「そもそも、お相手が大佐ですから司令の階級ではちょっと……進言したくてもできる立場にないと思いますが」

摩耶「おまけにうちの提督、態度も口も悪りーもんなー」

摩耶「お前の秘書艦なんとかしろとか、上から言われてもフツーにむかつかれるだろーに、こいつが言ったらどうなるかわかったもんじゃねーぞ?」

鳥海「ま、摩耶!? あなた、司令官さんに向かってなんてこと言うの!?」

提督「うん? 摩耶の言う通りだと思うが?」

鳥海「えええ……?」
413 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:35:15.98 ID:yO92N9VFo

朝雲「ねえ司令、この二人はこれからどうするの?」

提督「とりあえず、本営からの情報が来るまではこの鎮守府で預からねえとな」

提督「リストに載っかってくりゃあ、ここで働くかどうかの二択だが、そうでなかったときは鳥海は戻ってもいいだろう」

提督「そのときに、加古も一緒に戻るかどうかは、加古の判断に任せるってだけの話だな」チラッ

加古「……」

提督「……?」

加古「……ぐぅ……」コクリコクリ

朝雲「寝てるーー!?」ガビーン

提督「」

霧島「」

摩耶「いや寝られんのかよ、この流れで!」

鳥海「寝ちゃうのよ、加古さんは……」ガックリ

明石「聞きしに勝るほどの図太さですねえ……」
414 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:36:16.21 ID:yO92N9VFo

 * 一方そのころ 本営 *

不知火「……」スタスタスタ

金剛?「……ヘイ、不知火」コソッ

不知火「? 金剛さん……?」

仁金剛「イエス、私は仁提督の秘書艦の金剛デス。あなた、墓場島の不知火デスヨネ?」

不知火「仁提督の……! よく、あの島の不知火だとお気づきになりましたね」

仁金剛「中将のオフィスから出てきたところを、こっそり追いかけてきマシタ」

不知火「そうでしたか、気付かずに申し訳ありません」

仁金剛「こちらこそ尾行みたいなコトをしてソーリーネ。部屋を出てすぐ声をかけるのも、ちょっと憚られるからネ……」

不知火「承知しております。不知火と親しくしてあらぬ噂を立てられるのは、金剛さんにしても仁提督にしても困るでしょうから」

仁金剛「……それはそうなんだケド、あの島を流刑地だとか、これから死ぬ人間が行く島だとか……」

仁提督「関わったら自分の艦娘が轟沈したり、深海棲艦化するだとか……私が聞いた噂だけでもヒドイと思うヨ?」

不知火「立ってしまった噂を必死に弁解しても面白がられるだけですから。それより、不知火に何か御用でしょうか」

仁金剛「イエス、私の仁提督から伝言デス。なんでも、墓場島のことを詳しく調べている人がいるらしいヨ?」ヒソヒソ

不知火「! ……どういうことですか」
415 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/03/25(木) 20:37:23.32 ID:yO92N9VFo

仁金剛「轟沈した艦娘を助ける方法を、熱心に聞いて回ってるみたいネ。それで墓場島の噂を聞きつけたみたいなんだケド」

仁金剛「妙に張り切ってて、あの勢いだと最悪、墓場島に乗り込んで行くかもしれないワ……!」

不知火「しかし、轟沈した艦娘を自分の鎮守府に連れ帰ることは……」

仁金剛「イエース、私もそれは知ってるし、わかってるつもりヨ? でも、あの人たちはそんなことはお構いなしみたいで……」

仁金剛「むしろ、悪評の多い墓場島から、轟沈した艦娘を助け出したら逆に評価されるんじゃないかー、とか?」

仁金剛「トンチンカンなコトを言ってたらしいカラ、墓場島の関係者に知らせないと、って、仁提督が言ってたんデス」

仁金剛「それで以前、中将と関係があると聞いて、丁度良く不知火の都合が聞けて、私に伝言を頼んだわけデース」

不知火「! それは……ありがとうございます」

仁金剛「あなたはこれから墓場島に戻るのでショウ? 提督准尉に、伝えてあげてくだサイ」ニコッ

不知火「はい……お心遣い、本当に痛み入ります」ペコリ

仁金剛「ユーアーウェルカム! ついでに料理上手な比叡と、妹思いの黒潮にも、よろしく伝えてネ!」

仁金剛「それでは私は仁提督のもとへ戻りマース! シーユー!」タタッ

不知火「……」ケイレイ
416 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2021/03/25(木) 20:38:09.19 ID:yO92N9VFo
今回はここまで。
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/27(土) 02:03:05.11 ID:2GJVtibU0
更新が早い!のは嬉しいけど無理して書いたりはしないでね?
ホシュー
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/28(日) 13:46:40.74 ID:XuyRKm610
利根の霊や筑摩の問題、テレビ出演に浮かれるアホ提督やマスゴミの問題、それに加えてまた面倒くさそうな2人(留提督を入れれば3人)の問題もあって段々複雑になってきてるけど、これが全部解決すればすごいスッキリしそうですね。
応援してます。頑張ってください!
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 11:10:41.65 ID:xMJAebYMO
>>417
早いか?めちゃくちゃ遅いだろ
楽しみにはしてるから待ってるよ
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/30(火) 16:53:09.61 ID:Nwr2FHkb0
このスレにしては早いほうなんじゃない?
空白の半年とか色々あったからな
421 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 00:57:46.01 ID:N8s463Dyo
少しだけ続きです。
422 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 00:58:30.88 ID:N8s463Dyo

 * 数日後 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「……つうことはなにか? 遠大佐がこの島に乗り込んで鳥海たちを連れて帰ろうとしてんのか」

不知火「はい。まだ可能性の段階ですが」

提督「やれやれ……どいつもこいつも勝手な真似しやがって」

電「雷ちゃんが一枚かんでると思うと申し訳ないのです……」(←今日の秘書艦)

提督「何度も言うが、お前が委縮する必要はねえぞ?」

電「……なのですか?」

不知火「はい、あなたに落ち度はありません」

電「……」ションボリ

提督「と言っても気に病むのがお前らなんだよなあ……いくら姉妹艦だっつっても、一度も話してなきゃ他人だろうがよ」

不知火「ところで」チラッ

武蔵「む、どうした」

筑摩「?」

不知火「いえ。筑摩さんが、伺っていたよりも顔色が良いといいますか」
423 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 00:59:16.91 ID:N8s463Dyo

筑摩「一応、ね。浮かれてはいけないと思ってるんだけど……」

武蔵「利根と2秒ほど目を合わせても避けられなかったそうだ」

不知火「2秒、ですか……」

提督「あれで利根も努力というか、筑摩を怖いと思わないように必死になってくれてるからな」

提督「筑摩も筑摩で利根との接触を避けるために執務室に引き籠ってるわけだが、居場所がわかってる分、利根も安心してるみたいだし」

提督「お互い我慢もこの調子で続けてもらって、そう遠くなく良い結果になってくれりゃあ御の字だ」

提督「武蔵には、出撃せずに筑摩に付き合ってもらうっていう、別の意味で我慢を強いてるところもあるがな」

武蔵「いいさ、出撃するにも資材を節約せざるを得ない現状だ。今は執務で鎮守府に貢献させてもらおう」

提督「畑仕事も頼りにされてるみたいだしな」

武蔵「ああ、いい汗をかかせてもらっている」フフッ

 <シレーカーン!

提督「!」

扉の外の声「司令官、ごめんなさい! 両手がふさがってるから、扉を開けて欲しいの!」

電「この声は暁ちゃんなのです!」スクッ
424 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 01:00:00.88 ID:N8s463Dyo

不知火「不知火が開けます」ガチャ

暁「ありがとう司令か……じゃなくて、不知火? 戻ってきてたの?」カチャカチャ

武蔵「おや、お茶の時間か?」

暁「ええ、今日は電が秘書艦だから、なにか差し入れようと思って、作ってきたの!」

暁「こっちのラスクは金剛さん、ミルクティーは比叡さんに教えてもらったのよ!」エッヘン!

筑摩「あら、美味しそう。こんなに器用な暁ちゃんは初めてだわ。電ちゃんのお姉さんはすごいわね」ニコッ

電「!」

暁「そ、そんなに褒められると、ちょっと照れちゃうわ。えへへ……ありがとう筑摩さん」

武蔵「せっかく持ってきてくれたんだ、取り分けるくらいは手伝おうじゃないか」

電「い、電も手伝うのです!」

武蔵「……なあ筑摩。姉のことで電が落ち込んでいるのに気づいてたな? 貴様もなかなか妹思いじゃないか」ヒソヒソ

筑摩「ふふ……なんのことでしょう? 私は末っ子ですよ?」ヒソヒソ

不知火「……」チラッ

提督「……」

不知火(司令が心なしか笑っているようにも見えますが……言わないほうがいいでしょうね)
425 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 01:01:31.32 ID:N8s463Dyo

 * *

武蔵「それにしてもだ」フゥ…

武蔵「こんな島だからいろいろと不自由ばかりだと思っていたが、これほど自由というか、良い意味で緊張感がないとは思わなかったな」

筑摩「そうですね……」

提督「? どういう意味だ」

武蔵「轟沈した艦娘をそのまま運用すると、やがて深海棲艦になる……という話があったな?」

提督「おう」

武蔵「その割には鎮守府内に制約らしい制約がないなと、筑摩と話をしていたんだ」

筑摩「流れ着いた轟沈艦を運用し、深海棲艦になるかを調べるという建前があるのでしたら……」

筑摩「例えば監視カメラですとか位置情報システムですとか」

提督「ああ、そういう意味か……」

筑摩「立地はともかく、設備や機能が圧倒的に足りなさすぎではないかと。この体制で本営は納得しているのでしょうか?」

提督「本営の連中がとやかく言ってこないのは、自分の発言がきっかけで余計なことに巻き込まれたくないってのあるんじゃねえかな?」
426 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 01:02:15.82 ID:N8s463Dyo

提督「ただでさえ、俺が外と連絡とること自体を、中佐が良く思ってねえ」

提督「おそらくこの島に人を近づけさせないために、中佐が一枚も二枚も噛んでるんだろうな」

提督「俺もいたずらに中佐を刺激する動きを取って、こっちの身動きを制限するような真似はしたくねえ。準備ができるまでは大人しくしてるさ」

武蔵「なんだその準備というのは。物騒なことを考えていないだろうな!?」

提督「物騒じゃねえよ。いずれはこの島をどうにかして、艦娘たちだけの島にしたいと思ってるだけだ」

武蔵「!」

提督「治外法権と言えばいいか、領土と言えばいいか……不可侵領域みたいなものを、作ってやりたいと思ってる」

筑摩「……まるで国家ですね」

提督「!」

暁「……司令官?」

提督「そうだな……その形が、今のところは理想だな」

武蔵「おい、本気か!?」

提督「ああ、悪くねえな。悪くねえ……!」ニヤァァ

電「司令官さんの笑顔が相変わらず悪人みたいなのです……」タラリ
427 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 01:03:00.47 ID:N8s463Dyo

暁「暁たちのためなのはわかるけど、司令官はもっと普通に笑ったりできないの?」タラリ

提督「うん? 俺みたいなのがお前らみたいににこにこしてたら気持ち悪くねえか?」

暁「そんなことないわ、大人だって笑ってた方がいいわよ。金剛さんや比叡さんだって、にこにこしてるでしょ?」

提督「まあそうだけどよ、俺にはあいつらほど可愛げはねえぞ? それに、不知火だって滅多に笑わねえよな?」

電「そういえばそうなのです」

不知火「いえ、不知火は笑いたいときには笑いますので、どうぞお気遣いなく」

暁「……そういえば……」

提督「どうした?」

暁「扶桑さんって、ここへ来たばかりのときは全然笑わなかったんだけど、今はずっと笑顔よね? 笑ってないときがないくらい……」

提督「あー……あいつは前の鎮守府の扱いが非道かったからな。その反動じゃねえかな?」

暁「司令官は理由を知ってるの?」

提督「ああ。知りたいんなら扶桑を呼ぶぞ?」

暁「そ、そこまでしなくていいわ!?」
428 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 01:03:46.10 ID:N8s463Dyo

武蔵「提督よ、ここでお前が話せばそれまでじゃないか?」

提督「この手の話は本人不在のところで話したくねえんだよ。当人のあずかり知らねえところで、俺がべらべら喋ってたら気分悪いだろ」

武蔵「しかし、利根のときは」

提督「利根は話が別だ! 思い出させたらぶっ倒れるような話、本人にさせられるかよ!?」

武蔵「ぐ……」

提督「正直、利根の過去はできれば誰にも知られずに、触れられなければいいと思ってたんだ」

提督「だが、事情を知らないがために利根があんな目に遭うなら、知ってる奴が……っつうか、この場合俺だよな。俺がどうにかするしかねえ」

提督「利根自身の名誉もある。ことがことだけに、あんまりおおごとにしたくなかったんだがな」

筑摩「……」ウツムキ

電「司令官さん以外には、このことを知ってる人は誰だったのですか?」

提督「来た当初からその辺の事情を知ってたのは、確か朝潮だけだったはずだ。その後、長門にも軽く話して……」

提督「明石と如月にも話したんだが、それはそれからもう少したってから……利根がだいぶ良くなってからだな」
429 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 01:04:30.98 ID:N8s463Dyo

暁「……ねえ、司令官? もしかしてその話、利根さんが入渠しないのと関係ある?」

提督「……」

暁「……ふーん、そう。そういうことなの」ウナヅキ

電「あ、暁ちゃん? どうかしたのですか?」

武蔵「おい、どういう意味だ」

暁「司令官がそういう顔をして押し黙ったってことは、当たってるけど答えたくない、ってことでしょ?」

提督「そういうこった。ったく、お前らほんとに察しが良くて助かるぜ」ハァ…

武蔵「おい、まさか……」

提督「言うなよ武蔵。利根がああなったのは、『ああなりそうになった』ってことだぞ?」

武蔵「で、では、利根は……!!」ワナワナ

提督「それ以上話したいんなら明石んところに行け。どんな顔されるかは知らねえがな」

武蔵「……!!」

筑摩「なんて……なんてこと……!!」ボロボロボロボロ

電「筑摩さん……!」
430 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 01:05:15.71 ID:N8s463Dyo

提督「……」

暁「……食器、下げるわね」

不知火「手伝います」

 カチャカチャ…

提督「……暁は、筑摩に声をかけないのか?」

暁「それはもう電がしているもの。駆逐艦に寄ってたかって励まされても、ちょっとね……?」

提督「なるほど。お前も声をかけるタイプだと思ってたが、それもそうか」

暁「司令官は声をかけないタイプよね?」

提督「ああ。俺が言っても逆効果だからな」

不知火「……当事者にしかわからない感情に口を出したくない、でしたか」

暁「ああ、そういうこと。司令官らしいわね」

提督「……」
431 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/04/26(月) 01:06:00.72 ID:N8s463Dyo
今回はここまで。

だいたい投下できないときは、話の結末に悩んでいるか、
書いて読み直して気に入らなくて書き直しているか、どちらかです。
ご容赦願いたく。
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/27(火) 17:04:44.29 ID:qyYF6UGD0
乙です。
艦娘による国家…見てみたいですね。罠だらけを見てないのでなんとも言えませんけど。
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/01(土) 01:49:58.58 ID:ptkLuddJ0
一瞬罠だらけのエンド1思い出した
434 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:20:53.58 ID:QzRUn/eeo
お待たせしました、続きです。
435 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:21:47.41 ID:QzRUn/eeo

 * 鎮守府内 会議室 *

(会議室内に、提督、不知火、朧、若葉、朝潮、吹雪、電、神通、那珂が集まっている)

提督「時間だが……古鷹がいねえな?」

那珂「朝雲ちゃんに呼ばれてるから、少し遅れてくるって言ってましたー!」

提督「そうか……まあ古鷹は接触させる気ねえから、後でもいいか」

朧「? 何の話ですか?」

提督「不知火からの情報だ。この島の鎮守府に、テレビの撮影班が入るかもしれねえ、って情報があってな」

吹雪「テレビですか!?」

提督「はしゃいでんじゃねえよ。俺はこの島のことをテレビに映す気はねえぞ」

吹雪「え?」

提督「お前たちに集まってもらったのは、この島の映像や音声が外に出るのを阻止してもらうためだ」

朝潮「阻止、ですか?」

若葉「……那珂さんにそれをさせるのか」チラッ

那珂「!」

提督「ああ、だから最初に那珂には謝らないといけねえ」
436 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:22:47.01 ID:QzRUn/eeo

提督「テレビのことを知ってそうだからこそ協力を仰ぎたいわけだが、この話は那珂の望みとは真逆のはずだからな」

若葉「提督が、テレビに映ることを拒否する理由はなんだ?」

提督「とにかく目立ちたくねえってだけだ。俺はこの島の存在自体を世間から隠し通したい」

提督「ま、俺の考え関係なく、ただでさえ余所から蛇蝎のごとく嫌われてる鎮守府がテレビに出てちやほやされたら、面白くねえと思う連中が大多数のはずだ」

提督「万が一があったら、くっそつまんねえ理由で因縁つけられて陰湿な嫌がらせを受けるのは目に見えてる」

神通「でしたら、そのテレビ局が入ってこないようにするのが一番なんでしょうが……」

提督「それが難しい。この前、島に流れ着いてきた加古と鳥海。あいつらの轟沈の原因になった無理な指示を飛ばしたのが、芸能人だって話でな」

提督「その汚名を返上したいんだか何だかで、調べてるうちにこの島のことを嗅ぎつけたらしい。だよな不知火?」

不知火「はい。仁提督の秘書艦の金剛さんから、そのように伺っています」

提督「仁提督がそうだったように、そこがどういう場所か知らない奴は、こっちの都合なんか知ったこっちゃねえし、何をしてくるかもわからねえ」

神通「留提督……でしたか。彼が、自分が正しいと思っているのなら、私たちが受け入れられない要求をしてくる可能性もあるわけですね?」

提督「ああ。だからこうやって、心構えだけでもしておきたくて、集まってもらったわけだ」

電「その人は、轟沈した艦娘がここ以外では運用できないことを知らないのですか……?」

提督「知ってるはずっつうか、調べてりゃ嫌でも知ると思うが……」
437 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:23:32.52 ID:QzRUn/eeo

不知火「むしろ、轟沈した艦娘をこの島から助け出すことが良いことであると思い込んでいる可能性があります」

不知火「金剛さんも、あのままでは島に乗り込みかねないと仰っていました」

電「……それってもしかして、司令官さんが悪者みたいな扱いになってませんか?」

朧「あー、ありそう……」

提督「そういうのは慣れてるから気にすんな」

吹雪「慣れちゃだめですよ!?」

提督「仮に俺が正しかろうと、奴らがこの島に来る時は、鳥海や加古を連れ戻しに来る時だ」

提督「否応なしにやりあう羽目になるんだろうな……面倒臭え」ハァ

提督「それでだ、少し脱線したが、那珂にはそういう意味で我慢を強いることになる……すまない」ペコリ

那珂「……!」

提督「俺は、この島にやってくるテレビ局の連中を、どんな手を使ってでも追い返すつもりでいる」

提督「その時にお前がいて、追い出すのに加担したように見られたんじゃ、お前が将来テレビに出て有名になろうって時にマイナスになるだろう」

提督「だから、この島に那珂がいること自体、悟られたくない。この島では隠れていて欲しいんだ」

電「司令官さん……」
438 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:24:17.50 ID:QzRUn/eeo

提督「もっと言えば、那珂がこの島にいること自体、那珂にとってはマイナスだと思ってる」

那珂「え……? ど、どういう意味……!?」

提督「だってなあ、この島に関わっただけで本営にいい顔をされてねえんだぞ?」

提督「それだけじゃねえ。那珂は、この島の鎮守府に在籍してただけじゃなく、轟沈してこの島に流れ着いてる」

提督「メディアに出たいって望みがあるなら、このふたつは絶対に秘密にして隠し通すべきだと、俺は思ってるんだ」

提督「できることなら余所の鎮守府に移籍して、そこの鎮守府出身ってことで出自を偽るのも必要悪じゃねえかと思ってる」

全員「「……!」」

神通「この鎮守府とはかかわりがないように見せたい、と……?」

提督「そういうことだ。俺は俺が日陰者であることを望んでいるが、お前たちはその限りじゃないだろう」

提督「朧や吹雪みたいに轟沈したことがわかってるとさすがに厳しいが、那珂は所属すらわかってねえし、誤魔化そうと思えば……」

那珂「でも……でも、それじゃ!」

提督「!」

那珂「この鎮守府でお世話になったみんなを……応援してくれたみんなを、見捨てるようなこと、できないよ……!!」

提督「……」
439 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:25:02.30 ID:QzRUn/eeo

那珂「ファンやスタッフを大事にするのが、那珂ちゃんが目指すアイドルだもん……!」

那珂「ステージも作ってもらって、そのステージに立つ前から、拍手も、応援や励ましもたくさんもらって……!」

那珂「こんなにお世話になったのに、この島の思い出を捨てちゃうようなことしたら、自分が許せないよ……!」

提督「そうか。そりゃあ……困ったな」

神通(困ってるようには見えませんね……)

不知火(微妙に嬉しそうですね……)

提督「俺はテレビ局の連中を陥れようとしてる。奴等が来た時に那珂がいるとは思われないようにしねえとな」

朝潮「ということは、那珂さんの存在を知られないようにすることも任務の一つですね!」

提督「ああ、そうだ」

吹雪「それじゃ、あとはどうやって追い返すか、ですね……」

神通「提督、今回の任務はどこまでを想定していますか?」

提督「俺はもう上陸されること前提で考えてた。この手の連中はこっちの静止なんざお構いなしだろうしな」

電「そういえば、仁提督のときも勝手に上陸されてたのです」

朝潮「霞からはむこうの長門さんに追いかけられたと聞いてますが……それも連絡なしだったと?」

朧「うん。事前連絡なしで来たらしいよ?」

朝潮「えぇ……」
440 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:25:47.58 ID:QzRUn/eeo

提督「ともかく、あいつらが勝手に鎮守府内を歩き回る事態は避けたい。まずは戦艦を並べて上陸を拒否するつもりだ」

提督「で、万が一島に入られた場合なんだが、若葉、朝潮、朧には、奴らが変な動きをしないか取り囲んで見張ってて欲しい」

朝潮「!」

若葉「変な動き?」

提督「ああ。一番はなにより盗撮されたくねえ」

提督「最近の撮影機器は小さいからな、手元でなにかを動かしたり、もぞもぞしてるようなことがあれば、すぐに俺に教えてくれ」

提督「肩から下げたカバンの向きをわざとらしく動かしたり、ずっと腰に手を当ててたりするやつも要注意だ。カメラを仕込んでる可能性がある」

神通「提督、彼女たちが選ばれた理由を伺っても?」

提督「完全に俺の独断と偏見だが、テレビカメラを向けられても愛想を振りまかないことができるか、だな」

提督「潮みたいに恥ずかしがったり、暁みたいに愛想がよくても付け込まれるからな。無視と無関心があいつらの一番困る反応だ」

朧「笑わないようにしないといけないんですね?」

提督「どんなふうに映されるかわかんねえからな。ちょっと笑っただけで気があるみたいな壮絶勘違い編集されても困る」

提督「戦艦に頼もうかとも思ったが、霧島はここへきて日が浅いし遠慮がち、長門以外はちょっと愛想が良すぎる」

吹雪「山城さんもですか?」

提督「あいつが一番愛想いいだろ。自分からネタ振っていじられに来てんだぞ、あいつ」

朧「多分、そんな意図ないと思いますけど……」
441 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:26:32.22 ID:QzRUn/eeo

提督「ともかく。若葉、朝潮、朧はその撮影グループを取り囲んで監視。で、その後ろをさらに神通が隠れて見張るのがいいだろうな」

提督「俺からの指示がない限りは、そのグループから何を訊かれても無視。任務に集中してくれ」

若葉「ふむ……わかった、任せてくれ」

提督「それから電と吹雪、あとで古鷹にも頼むが、お前たちは、あいつらの行動した場所に変なものが残ってないかを調べて欲しい」

電「へんなもの……ですか?」

提督「中佐のいる鎮守府にもマスコミが入ったんだが、ご丁寧に盗聴器を仕掛けていきやがったそうだ」

吹雪「盗聴器!?」

提督「普段から掃除してる古鷹なら、見たことのない置物が増えたり、コンセントに知らない機械が刺さってたりすれば気付くだろ?」

提督「電と吹雪も、この島の艦娘の中では古参の方だ。壁に変な穴が開いてないかとか、少しでも違和感があったらすぐ教えてくれ」

電「か、考え過ぎではないですか……?」

提督「んなもん石橋叩き割るくらいでいいんだよ」

吹雪「割ったら駄目じゃないですか!?」ガーン

提督「ぶっちゃけ奴らの渡る橋は、連中もろとももれなく叩き落としておきたいくらいだ」

吹雪「しれーかーん!?」ガビーン
442 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:27:34.94 ID:QzRUn/eeo

提督「で、那珂にも協力を仰ぎたいんだが……」

那珂「は、はいっ!」

提督「那珂は俺たちを含めて、俯瞰できる場所から奴らを監視してくれ」

提督「もしかしたら、あいつらが勝手に他の場所に行って、そこから撮影を始めるかもしれねえ」

若葉「別動隊が出ると?」

提督「ああ、だかそれは俺が認めねえ。歩くときは一か所に固まって、神通たちの目が届く範囲にいてもらう」

那珂「うーん、それ、できるかなあ……?」

提督「? やっぱり問題あるのか?」

那珂「野外ロケするときって、ロケしている場所がどんなところかを見せる必要があるんです。周囲の景色が見えるとよくわかるでしょ?」

那珂「まとまって撮影しているグループから離れて、引いた風景を撮影する班も、いるはずなんですよー」

若葉「なるほど……」

那珂「そういうわけだし、見張るんなら見張りグループを複数作らないといけなくないかなー?」

提督「ちっ、くっそ面倒臭えな。撮影できる連中が複数いることを想定しなきゃなんねえのかよ……」

吹雪「それがだめなら、強制的に行動を制限するしかないですよね」

朧「でも提督は、向こうがアタシたちの指示に従わないことを危惧してるわけでしょ?」

朝潮「私たちが見張るとしても、相手が大人数では難しいかと……」
443 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:28:32.37 ID:QzRUn/eeo

提督「そうだな……やっぱ戦艦たちも呼ぶか? それか、指示した場所からはみ出そうようなら、戦艦に強制的に海に投げ落としてもらうか」

若葉「!?」ギョッ

朝潮「!?」ギョッ

那珂「!?」ギョッ

朧「提督……本気ですか?」

提督「おうよ。むしろそっちのほうがいいかもしれねえな、撮影機器もついでにおじゃんにできるかもしれねえ」ニィ

那珂「提督さんってば、テレビを目の敵にしすぎだと思うんだけど……」オロオロ

提督「俺は単純に、この島のことを放っておいて欲しいだけだよ。テレビに映るなんてもってのほかだ」

提督「ん、そうだ、今からでも遅くねえ。中佐にも介入してもらって、奴らの妨害を依頼するか」ニタァ

若葉「」

朝潮「」

提督「俺がテレビで余計なことを言えば、一番困るのは中佐だ。奴ならことを大きくできそうだしなあ……!」ケッケッケッ

電「司令官さんがいつになく悪い顔をしているのです……」タラリ

若葉「だ、大丈夫なのかこの男は……?」

吹雪「もともとちょっと悪人っぽい顔してるけど、ここまで悪い顔は初めて見るかなあ……」

神通「中佐に迷惑をかけることができるからですね……気持ちはわかりますけど」

不知火「ああ、なるほど……納得です」
444 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:29:17.26 ID:QzRUn/eeo

朝潮「」カチーン

朧「って、朝潮が固まったまま動かないんだけど……」

神通「あの、提督? あまり悪い顔をしますと、朝潮さんが認識を拒絶してフリーズしてしまいますので……」

提督「あぁ? こいつまだ俺を善人だと思ってんのか? おい朝潮しっかりしろ! 現実見ろ!」

朝潮「」チキチキチキ チーン

朝潮「はっ!? し、失礼しました司令官!」

朝潮「この朝潮! 司令官のためにならどんな悪事にも手を染める覚悟です!」ビシッ!

提督「だーからそうじゃねえって言ってんだろどうしてそう極端なんだおめーはよおおお!」アタマガシッ

朝潮「し、しれいいい痛い痛い痛いいぎゃあああああ!!?」メキメキメキメキ

吹雪「朝潮ちゃんから、今まで聞いたことないような悲鳴が!?」

那珂「提督さん手加減してあげてー!?」

提督「してるわ手加減くらい! 加減が出来てねえのは朝潮のほうだろどう見ても!」

朝潮「ひいい……この世のものとは思えないくらい痛いです司令官……!」ナミダメ

提督「お前がいろいろ取っ違えてるから、こうなるんじゃねえか。俺は朝潮に悪い事をしろなんて言ってねえぞ」

朝潮「で、ですが、司令官はいつも私たちのために、矢面に立って身を粉にしてくださっています!」

朝潮「その司令官のお役に立てることはこの朝潮にとって喜びです! ですから……」

提督「ったく、お前も面倒臭え奴だな」アタマガリガリ
445 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:30:18.22 ID:QzRUn/eeo

提督「俺はお前らに気分が悪くなるようなことをさせたかねえんだよ。そういうのは全部俺に押し付けとけ」

朝潮「……」シュン…

吹雪「ほんっと、司令官は突き放すふりをして過保護なんだから!」

朧「清濁併せ呑む、って言葉がありますけど、濁ってる方は提督が率先して呑み尽くしに行ってますよね」

提督「ふん……」

朝潮「……司令官。朝潮は、司令官のお力になることを許していただけないのでしょうか……」ポロポロ…

提督「……」ピク

若葉「提督。いいのか、このまま泣かせてて」

提督「……」ムッ…

朝潮「あ、朝潮は、司令官に助けていただいた御恩があります。だからこそ、司令官の苦境ならば、私も……ぐすっ、ぐすっ」

吹雪「泣ーかした、泣ーかした」ボソッ

朧「かーすみーに言ってやろ」ボソッ

提督「ぅっだああああ! 茶化してんじゃねえよ! くそ! ああくそ!」ウガー!

提督「おい朝潮っ!」

朝潮「は、はい!」ビクッ

提督「いいか!? まず、信頼してなきゃここには呼んでねえ!」

朝潮「!!」
446 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:31:02.86 ID:QzRUn/eeo

提督「真面目といえば真っ先にお前が来るくらいにはお前のことを評価してるし」

提督「これからやってもらう任務も人間のためじゃなく、この島のための任務だ。ぶっちゃけ人と関わりたくない俺の我儘だ」

朝潮「……!」

提督「俺一人じゃあ手に負えない。だからお前にも力になってもらおうって話だ。嫌か?」

朝潮「い、いえ! そんなことはありません!!」

提督「協力してくれるなら、頼みたい。大丈夫か?」

朝潮「お任せください! 朝潮は、これからも司令官に尽くす所存です!」ビシッ!

若葉「……なんだか愛の告白みたいな所信表明だな?」

朝潮「!?」カオマッカ

提督「若葉。お前も変なこと言うな」セキメン

若葉「フッ……これは失礼した」

電「痴話げんかはそのくらいにして、とっとと話を進めるのです」チッ

朝潮「!?」ビクッ

那珂「!?」ビクッ

若葉(なんだこのプレッシャーは!?)ビクッ

吹雪(電ちゃんが舌打ち!?)ギョッ

朧(電も感化されてるっていうか、すれてきてるのかなあ)
447 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:31:47.20 ID:QzRUn/eeo

提督「だから茶化すなっつってんだろが……つうか、任務自体はさっき説明したのがすべてなんだがな」

那珂「この島の情報を持ち帰らせるな、ってことですね?」

提督「ああ。俺は、この島の存在は極力世間に公表したくない。海軍にとっても扱いに困るだろうからな」

若葉「海軍もなのか?」

提督「俺の個人的な事情だけでなく、本営も少なからずこの島には関わりたくないみたいなんだ」

若葉「それはやはり、轟沈した艦娘が生活しているからか?」

提督「一番はそこだと思うが……本営でこの島の話題を出すと嫌な顔をされるらしいぞ? L大尉がそう言っていたんだ」

不知火「それに関してですが……」スッ

電「不知火ちゃん?」

不知火「……あまり望ましくない言い方ですが、この島自体が、その……縁起が悪い、と言われているようなのです」

不知火「聞くところによれば、流刑地呼ばわりもあるらしく……島と関係すること自体、忌避されているとも言えましょう」

提督「流刑地ね。へっ、いいじゃねえか、そういう噂があるんなら、ますます人も寄ってこねえ。いい気分はしねえけどな」

若葉「なるほど。それなら確かに、若葉もそうだ」

若葉「止提督は特に世間体を気にしていたから、命令違反した若葉たちを解体以外の方法で抹消したかったと考えれば、合点がいく」
448 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:32:32.07 ID:QzRUn/eeo

朧「それって、朧たちもそういう扱いなのかな……」ムスッ

提督「お前たちは事情が違うだろ……っつうか、悪いのは前の鎮守府の提督じゃねえか」

提督「けど、まあ、そうだな。そういうの関係なく、一緒くたにされてる感じはするな」チッ

提督「気分は悪いが、それで今まで奴らからの干渉がないことを良しとしてきたのも、まあ、俺だからな……」

吹雪「で、でも、そうしないと私たちだって、処分されてたかもしれないんですから!」

朝潮「そうです! 司令官の判断あればこそ、私たちが活動できているんです!」

提督「……」

不知火「司令。僭越ながら、今はこれからやってくるであろう敵に備えるのが最優先ではないでしょうか」

提督「……ああ。それもそうだな。そっちを悩むのは後にするか……」フー

提督「とりあえず今日のところは解散だ。電と吹雪はあとでまた来てくれ、古鷹と調整して話させてもらうからよ」

吹雪「はいっ!」

電「了解なのです」

 ゾロゾロ…

提督「ああ、そうだ、電」

電「はい?」クルリ
449 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/05/09(日) 10:33:17.68 ID:QzRUn/eeo

提督「ちょっといいか?」テマネキ

電「な、なんでしょう?」

提督「……全員行ったな。いや、お前が舌打ちなんて珍しすぎてな」

電「!」

提督「何かあったのか?」ジッ

電「な、なんでもないのです!」ダッ

提督「……そういう奴ほど、なにか抱えてんだよな。やれやれ……」



電「……」

電(電は、司令官さんのお役に立ててるのでしょうか)

電(司令官さんは、信頼してなきゃここに呼んでないと言いましたけど……)

電(電も、朝潮ちゃんのように、ちゃんと気持ちを伝えられれば……)

電「……」

電(B提督鎮守府で、電を初期艦に選んで貰ったとき、一番お役に立てるように、誓ったのに……)

電(……それすら、叶わず……)

電「……」
450 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2021/05/09(日) 10:34:02.51 ID:QzRUn/eeo
今回はここまで。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/11(火) 00:48:23.22 ID:ddVJa4H/0
待ってました!
これから面白くなっていきそうだけど罠だらけじゃないからなぁ...
上手く行くといいが...胸糞展開が待ってる予感
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