【ミリマス】まつりのスタンドお披露目タイムなのです!【ジョジョパロ】

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71 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:17:37.20 ID:ArvRQigk0
「この世の法則は『等価交換』。もし君の才能が私のプロデュースに過不足無く見合うものなら」

「君の才能が君自身信じるだけの大きなものなら」

「私が与えた『ピース』は君を新たなる段階へと引き上げる」
72 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:18:15.34 ID:ArvRQigk0
 男の声が聞こえているのかいないのか、バンドマンは虚ろな目で何事かをつぶやき、やがて薄汚れた路地裏に倒れ込んだ。

「……」

 早くもバンドマンに興味を無くしたかのように、スーツ姿の男は首を背ける。

「『Lesson1』だ。――――まつり君」

 その視線の先には遠く、異国の少女と連れ立って歩くお姫様のような少女の姿があった。
73 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:18:43.84 ID:ArvRQigk0
●九条まつり!大和撫子に会う そのA●

 まつりはエミリーを連れて近くのファミレスを訪れていた。

エミリー「やっぱり申し訳ないです……。たくさん助けていただいたのにその上甘味を御馳走だなんて……」

まつり「大丈夫なのですよ。まつりは暇とお金だけはたくさん持て余してるのです」
74 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:19:10.94 ID:ArvRQigk0
エミリー「そ、そうなのですか? でも……」

まつり「無理やり連れてきたのはまつりなんだから、エミリーちゃんは遠慮なんてしなくていいのです。それに」

まつり「まつりはエミリーちゃんともっと仲良くなりたいのです。ね?」

エミリー「……! はい!」

エミリー「私ももっとまつりさんとお話がしたいです!」
75 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:19:37.70 ID:ArvRQigk0
まつり「大和撫子というのは『アイドル』のことだったのですね」

まつり「エミリーちゃんはどうしてアイドルに?」

エミリー「両親、特に父が日本贔屓で、幼い頃からこの国の素晴らしさを聞かされてきました」

エミリー「そして以前、神社で舞を奉じるアイドルの凛とした美しさを見て、私の心にさわやかな風が吹くのを感じました。その時から不肖エミリー・ランカスターは」

エミリー「『大和撫子』に憧れるようになったのです!」
76 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:20:07.04 ID:ArvRQigk0
エミリー「……まだ公式初舞台も踏んでいない新参者ですが」

まつり「つまり、デビュー前の新人さんなのです? でもさっきのステージはそうとは思えないほど堂々としててとってもわんだほー! だったのです」

エミリー「い、いえ、私なんてまだまだ未熟者です! うう……お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

まつり「そんなことはないのです。エミリーちゃんは将来立派なお姫様になれるのですよ。この九条まつりが保証するのです」
77 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:20:35.79 ID:ArvRQigk0
エミリー「お姫様、ですか? でも私は大和撫子に」

まつり「『お姫様』と『大和撫子』は同じ場所を目指しているのです。少しばかりアプローチの仕方が違うだけなのですよ、きっと」

エミリー「はあ……。まつりさんのお話はちょっと難しいです」
78 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:21:30.29 ID:ArvRQigk0
まつり「ところでずっと気になっていたのですが……エミリーちゃんには『プロデューサー』はついていないのです?」

エミリー「プロデューサー……ですか?」

まつり「さっきの現場はエミリーちゃん一人だったのです。もしちゃんとエミリーちゃんの面倒を見てくれる人がいたなら、危ない目にも合わなかったかもしれないのです」

エミリー「そうですね……。一応予定を管理してくださる方はいますが、何分私の所属事務所はごく小規模なものですから。私のような新人に付きっきりというわけにはいかないのだと思います」
79 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:22:07.07 ID:ArvRQigk0
まつり「そうなのですか。むむむ、それはわんだほーに由々しき事態なのです」

エミリー「まつりさん、プロデューサーとはそんなに大事なものなのでしょうか」

まつり「もちろんなのです!」
80 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:22:36.42 ID:ArvRQigk0
まつり「アイドルにとってプロデューサーは例えるならお姫様を守るナイト! 諏訪彩花ソロ曲の作詞作曲を手掛ける松井洋平! 井口達也の原作に対する歳脇将幸の『チキン』! 女の子が輝き、立派なお姫様になるためのお手伝いをしてくれる一蓮托生のパートナーなのです!」

エミリー「そ、それほどまでに……! 今まであまり困ったことはなかったのですが……。なんだかちょっと不安になってきました」
81 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:23:04.15 ID:ArvRQigk0
まつり「大丈夫なのですよ。きっとすぐにでもエミリーちゃんを見初めた素敵なナイト様が迎えに来てくれるのです。ね?」

エミリー「だといいのですが……いえ! つまりはどなたかの目に留まるように精進あるのみ、ということですよね!」

まつり「ぐっど! その意気なのです!」
82 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:23:34.38 ID:ArvRQigk0
エミリー「それにしてもまつりさんはアイドルにとてもお詳しいのですね……ハッ!?」

エミリー「まつりさんは『お姫様』なんですよね」

まつり「ほ?」

エミリー「ひょっとして同業のお方、それもご先輩だったりするのでしょうか!?」

まつり「…………」
83 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:24:01.17 ID:ArvRQigk0
まつり「まつりはお姫様で魔法使いですが、アイドルではないのです」

まつり「ただ、まつりの身内がアイドルだったから、ちょっと知る機会があっただけなのです」

エミリー「まあ、ご家族が! 素敵です! 今もご活躍されているのですか?」
84 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:24:31.26 ID:ArvRQigk0
まつり「……いえ」

まつり「『姉』はもう、アイドルは、辞めちゃったのです」

エミリー「……そう、なんですか」

まつり「………………」
85 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:25:22.89 ID:ArvRQigk0
店員「お待たせいたしました。『花咲夜の贈り物〜和甘味三種盛り合わせ〜』と『娼婦風スパゲティ』でございます」

エミリー「あ、ありがとうございます」
86 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:25:58.12 ID:ArvRQigk0
まつり「さあさあエミリーちゃん、立派なお姫様になるなら甘くてフワフワしたものをたくさん食べないといけないのです」

エミリー「そうなんですか? あれ? でもまつりさんの方は」

まつり「まつりは生まれたときからお姫様だからいいのです」

エミリー「なるほど、まつりさんはもう遥か高みにおられるのですね、尊敬します! それでは、いただきます」

エミリー「ん〜♪ 苺の甘みと絡み合った抹茶の苦味が芳醇な香りとなって鼻から抜けて……はう〜……幸せでしゅ……♪」

まつり「すぐにでもお仕事が来そうなわんだほーな食レポなのです」
87 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:26:32.51 ID:ArvRQigk0
エミリー「さっきのまつりさんの『魔法』、あのような力は初めて見ました。あれはどういった仕組みなのでしょう?」

まつり「魔法……、ああ、あれは……そうですね、むむむ」

エミリー「ああいえ! お答えしにくいことでしたら別に構わないんです、ちょっと興味が湧いただけで……。私ったらまたはしたないことを……」
88 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:00.67 ID:ArvRQigk0
まつり「…………エミリーちゃん」

 スゥゥゥ…
 ドン!!

まつり「『これ』、見えるのです?」
89 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:27.66 ID:ArvRQigk0
エミリー「……え? 何がですか?」

まつり「……いえ、なんでもないのです」

 スゥゥゥ……

エミリー「??? まつりさん?」

まつり「実はまつりにもよくわからないのです」

エミリー「え?」
90 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:57.05 ID:ArvRQigk0
まつり「ある日、突然さっき見せたようなことが出来るようになったのです」

まつり「わかるのは、まつりの魔法は『破壊されたものを治せる』ということだけ」

エミリー「『治す』……」
91 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:28:30.16 ID:ArvRQigk0
まつり「今までに同じような力を使える人には会ったことがないのです」

まつり「(『これ』が見える人も)」

まつり「だから、これが本当に魔法なんて呼べるようなものなのかも――」

エミリー「すごいです! とっても素敵な力だと思います!」


92 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:28:58.51 ID:ArvRQigk0
まつり「……ほ? ……素敵?」

まつり「気味が悪い、とは思わないのです?」

まつり「お話の中の魔法使いは悪い人もたくさんいるのです」
93 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:30:51.69 ID:ArvRQigk0
エミリー「とんでもない!」

エミリー「まつりさんがいなければ私はどうなっていたかわかりません」

エミリー「運良くこの身は無事だったとしても、割れてしまった大切な手鏡を前にただ途方に暮れるしかなかったでしょう」

エミリー「赤の他人であるはずの私を助けてくださったまつりさんの魔法は、私にとってこの世のどんなものよりも強くて優しい力です」

まつり「……優しい、力……」
94 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:31:19.62 ID:ArvRQigk0
エミリー「何度でも言わせてください。本当にありがとうございました。まつりさんは私の恩人です」

まつり「……………」

まつり「エミリーちゃん」

まつり「まつりは、『あの日』からずっと、この力の意味を考えてきたのです」
95 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:31:55.25 ID:ArvRQigk0
エミリー「え?」

まつり「『優しい力』。そんな風には考えたこともなかったのです」

まつり「私の『魔法』は、本当にそうやって誰かを……、」

まつり「………………?」
96 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:32:23.51 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん?」

まつり「エミリーちゃん、頭に糸くずが……」
97 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:32:50.39 ID:ArvRQigk0
 まつりには、エミリーの金髪に紛れる『糸』の煌めきが見えたような気がした。

エミリー「え? 糸くず? どこですか?」

まつり「ほら、そこ、に…………!?」
98 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:33:20.61 ID:ArvRQigk0
 僅かな違和感はゾッと肌が粟立つようなおぞましさに!

 今までけっこう呑気してたまつりに、一気に緊張が走る!

まつり「(違う!!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
99 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:33:48.11 ID:ArvRQigk0
まつり「(こ……、これは…………!)

まつり「(糸くずなんてものじゃあないッ!)」

まつり「(エミリーちゃんに『糸』が絡みついている! どうして気付かなかった!?)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
100 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:34:14.85 ID:ArvRQigk0
まつり「(いいえ、エミリーちゃんだけじゃない)」

まつり「(私にも、奥のテーブルにも、天井から床まで……!)」

まつり「(『糸』は……)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

まつり「(この店内の至るところに張り巡らされているッ!)」
101 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:35:12.99 ID:ArvRQigk0
エミリー「ま、まつりさん? どうしたのですか? いきなり怖い顔をされて」

まつり「……!?」

まつり「エミリーちゃん……この糸が…見えていないのです……?」

エミリー「糸……?」

まつり「(見えていない!)」

まつり「(エミリーちゃんだけじゃなく、店の中の誰にもッ!)」
102 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:35:45.43 ID:ArvRQigk0
まつり「(何が何だか分からないけれど)」

まつり「(この糸は、何かマズイ!)」

まつり「伏せてエミリーちゃん!」

エミリー「へ? ……キャッ!?」

 キョトンとするエミリーを、まつりは有無言わさず床へ押し倒す。

 二人が床に倒れた一瞬の後、『それ』は起こった!

 ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ン!!!
103 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:36:22.57 ID:ArvRQigk0
 耳障りな音色がまつりの耳朶を打つと、遅れて店中から次々と音が炸裂した!

 テーブルの料理がぶち撒けられ、グラスや照明が割れ、誰も座っていない椅子の足が折れる!

 それらはすべて、糸が走っていた場所だった!
104 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:36:50.85 ID:ArvRQigk0
まつり「(い、今のは……!)」

まつり「(張られた糸に衝撃波のようなものが伝って……そこに触れていたものを破壊した!)」

まつり「(そしてなんてこと! 糸に触れていたのは、『もの』だけではない!)」
105 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:37:18.58 ID:ArvRQigk0
『キャアアアアアッ!』

『いってえええっ! な、なんだこりゃあああ!』

『いきなり血が、血がァァ!!』

 昼下がりの穏やかな空気に包まれていた店内は一転、次々とものが破壊され、人々が傷つき、悲鳴と怒号が飛び交う阿鼻叫喚の様相を呈していた!
106 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:37:46.69 ID:ArvRQigk0
まつり「怪我はないのです? あればすぐに治すのです」

エミリー「ま、まつりさん……!? 一体何が……!」

まつり「わかりません。わかりませんが……」

まつり「こいつはわんだほーに危険な状況であることは間違いないのです!」
107 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:39:27.62 ID:ArvRQigk0
エミリー「そ、そんな……!」

まつり「エミリーちゃん、絶対にまつりから離れないでいて欲しいのです。ね?」

エミリー「……っ!(コクン)」
108 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:39:54.22 ID:ArvRQigk0
まつり「(さて、どうしたものかしら?)」

まつり「(怪我人も出てるみたいだから治療にいきたいところだけど……)」

まつり「(今はエミリーちゃんがいる。一刻も早くこの子の安全を確保しなければ)」

まつり「(幸い重傷者はいないみたい。救急車を呼べばあとはなんとかしてくれるはず)」

109 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:40:23.06 ID:ArvRQigk0
まつり「というわけでエミリーちゃん」

エミリー「え?」

まつり「スタコラ逃げるのですよ!」

エミリー「は、はい!」
110 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:40:57.42 ID:ArvRQigk0
 既に出入り口に殺到している人々にまつりたちも続く。

 が、

まつり「――――ッ!?」

 まつりはブレーキを掛けるように唐突に足を止めた。
111 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:41:34.11 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん!? どうしたのですか、私たちも早く逃げないと!」

 まつりは出入り口の扉を凝視したまま動かない。

 いや、動けない。

 外への脱出口は、格子状に編まれた糸で塞がれていたのだ!

 しかし、それ以上にまつりの足を留めさせるもの、それは!

まつり「(偶然や、ましてや自意識過剰なんかじゃあ断じてない!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
112 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:42:04.59 ID:ArvRQigk0
まつり「(今、私たちが出ていこうとする瞬間に合わせて糸が張られた!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 

まつり「(まさか……)」

まつり「(狙いは、私たち!?)」
113 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:42:34.57 ID:ArvRQigk0
『おい、こんなところに突っ立てるんじゃあねーぜ!』

『ど、どいて! 邪魔よ!』

 糸は先ほどのように衝撃波を発することもなく、逃げようとする人々をすんなりと素通りさせる。

 それがかえって不気味!

 目の前の光景は、まつりの懸念を裏付るものに他ならない!

 さらに周りを見渡して、まつりは戦慄する。
114 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:43:01.49 ID:ArvRQigk0
まつり「くっ……!」

 既に糸は、出入り口だけでなく窓やカウンター正面のガラス張り……外にアクセス出来そうな場所を全て塞いでいた。
115 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:43:35.82 ID:ArvRQigk0
エミリー「ま、まつりさん……」

 エミリーには、『糸』が不気味に張られた異様な光景は見えない。

 しかし、強張ったまつりの表情を見て、エミリーも直感で理解した。

 自分は、自分たちは、逃げることすらままらない、袋小路の真っ只中にいるのだと。

 ナイフを持った暴漢にも怯まなかったまつりでさえも、この状況に恐怖しているのだと。
116 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:44:06.16 ID:ArvRQigk0
まつり「わんだほー」

 だが、この少女は!

 この物語の主人公『九条まつり』は!

 囚われた檻の中でただ己の運命を嘆くだけのか弱いお姫様などではない!
117 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:44:54.94 ID:ArvRQigk0
まつり「逃げ道は全部塞がれたのです」

まつり「どうやらこの『何か』はどうあってもまつりたちを無事に店から出す気はないみたいなのです。万事休すってやつなのです」

118 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:45:23.50 ID:ArvRQigk0
 言葉とは裏腹に、まつりは至って冷静だった!

 それどころか、小首を傾げ、頬に人差し指を添える彼女特有の所作は、『余裕と不敵さ』さえ漂わせていた!
119 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:45:49.44 ID:ArvRQigk0
まつり「理想は素敵な王子様が白馬に乗って助けに来てくれること。でも今はちょっと期待できそうにないので……」

まつり「自分で、檻から出るのです!」
120 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:46:16.22 ID:ArvRQigk0
 そう言うやいなや、まつりはエミリーの手をとって駆け出した、が、

エミリー「ま、まつりさん!? どこへ行くんですか!?」

 エミリーが戸惑いの叫びをあげるのも無理はなかった。なぜならば、

エミリー「そちらは、『壁』です!!」
121 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:46:50.55 ID:ArvRQigk0
 エミリーの忠告にも構わず、まつりは出入り口に殺到する客を避けながら、明後日の方向へひた走る。

 まつりがある種の確信とともに、一瞬だけ振り向くと、

まつり「……! わんだほー!」

 案の定、背後から無数の『糸』が追いかけてくる!
122 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:47:22.29 ID:ArvRQigk0
 さらにスピードを上げたまつりに手を引かれるエミリーは、足が縺れそうになりながらも必死で走る。

 エミリーにとっては絶望しかない『行き止まり』に向かって!

エミリー「まつりさん! ――まつりさんってばッ!」

まつり「大丈夫なのですよエミリーちゃん。何も問題は無いのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
123 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:47:55.30 ID:ArvRQigk0
エミリー「何がですか!? 逃げる方向が違います!」

まつり「いいえ、こちらで合っているのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「これがまつりたちの、『逃走経路』なのですッ!」

 ドギャン!!
124 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:48:22.55 ID:ArvRQigk0
まつり「はいほーーッ!!」

 ドゴォ!!
125 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:48:50.31 ID:ArvRQigk0
 エミリーは、三度、まつりの『魔法』に驚愕することになる!

エミリー「え、ええーーー!?」

 エミリーには見えない『拳の幻影』が、丈夫な壁をまるで重機のようにいとも容易くブチ抜く!

 先ほど店内で起こった破壊がちっぽけに思えるほどの、まるで規模の違うパワー。

 しかしまつりの作る『逃走経路』はここからが本番だった!
126 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:49:18.52 ID:ArvRQigk0
まつり「さあ、急いで『穴』から出るのです」

まつり「壁が『直る』のですよ」

 ドリュリュリュリュウン…

 ピッタァァッ!!
127 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:49:45.29 ID:ArvRQigk0
エミリー「こんなにあっという間に……」

まつり「これでしばらくは時間が稼げるのです」

まつり「エミリーちゃん、もう少し頑張れるのです?」

エミリー「は、はい! もちろんです!」

まつり「わんだほー。では、お転婆プリンセスたちの逃避行、始まり始まり、なのです」

まつり「お姫様がエスコートするのは本当はあべこべなのですがそうも言ってられないのです」
128 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:50:24.26 ID:ArvRQigk0
 『その男』は、レストランから道路を挟んだ向かい側のカフェから、まつりの『魔法』を目撃していた。

「逃れやがった……。俺の包囲網から無傷で逃れやがったぞ……」

「あの反応……やはりあのイカれ女は俺の『弦』が見えている……。それに……」

「遠目ではあるが……確かに見たぞ」
129 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:50:53.02 ID:ArvRQigk0
「奴が向かった先の壁が突然ぶっ壊れて、そして一瞬で元に戻ったッ!」

「同じだ……俺の右手と……! あれは俺の勘違いなんかじゃあなかったってことだッ!」

「『能力』! あのイカれ女も俺と同じ『能力』を持っている!」
130 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:51:23.13 ID:ArvRQigk0
「……」

「ク……、クックック……」

「なら、俺はあの女と同じ土俵に立ったということ」
131 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:52:07.01 ID:ArvRQigk0
「さっき好き放題やられたのはノーカンだ。あのイカれ女が卑怯な手ェ使いやがったってだけだからなあ〜〜〜。俺の才能が目覚めた今なら、同じ能力を持っている今なら! あんなイカれ女に負けるはずがねーーっ!」

「俺のサウンドにビビってひれ伏した客どもがその証拠! 心地いいぜ〜〜。あんな風にわーきゃー騒がれたことは一度もなかった。ようやく世の能なしどもが俺の才能に気づいたってわけだ!」


132 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:52:32.78 ID:ArvRQigk0
「今日は門出だ。約束されていたこの俺のスター街道のな!」

「俺自身の手で祝ってやるぜ〜〜。まずは俺を見下していい気になってやがるあのクソ女どもを血祭りにあげてなぁ〜〜っ。ヒ、ヒヒ! ヒヒヒヒヒ!」
133 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:53:00.50 ID:ArvRQigk0
●シャルロット・シャーロット その@●

 まつりはエミリーを連れて人気の少ない港まで逃れていた。

 もしも本当に狙いが自分たちなら、無関係の人たちまで巻き込んでしまう恐れがあった。

 まつりの想定する敵は、そのような蛮行を平気で侵す者だ。
134 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:53:41.87 ID:ArvRQigk0
まつり「エミリーちゃん、落ち着いて聞いて欲しいのです」

まつり「さっきのお店で起こったことは、ひょっとしたらまつりの魔法と同じ力によるものなのかもしれないのです」

エミリー「同じ、力……?」

まつり「まつりにはお店の中にびっしりと張られた『糸』が見えていたのです。それが、あの破壊をもたらした」

まつり「そしてここからが大事なのですが……」

まつり「あの力の持ち主は、明らかにまつりとエミリーちゃんに『悪意』を持っているのです」

エミリー「――っ!」
135 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:54:25.65 ID:ArvRQigk0
まつり「(私個人への悪意なら立場上想定できることではあるけれど)」

まつり「(『糸』は、『他はついで』という感じで、私と……エミリーちゃんを中心に張られていた)」

まつり「(そうなる心当たりなら、嫌というほどある)」

エミリー「……私が、演奏集団の方たちと揉めたことと関係があるのでは?」

まつり「……」

まつり「今日が初対面であるまつりたちが一緒に襲われる動機といえばあの諍い、もっと言えばまつりたちに強い恨みを持ちそうな人物は、ナイフを振り回したあのバンドマンただ一人なのです」
136 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:55:03.62 ID:ArvRQigk0
エミリー「……」

エミリー「本当に、」

まつり「え?」

エミリー「本当に、すみません」

まつり「エミリーちゃん? ど、どうして謝るのです?」

エミリー「私のせいで……私を助けたばかりに……本来無関係なまつりさんまで危険な目に巻き込んでしまって……」

エミリー「私……なんてお詫びしたらいいか……」

まつり「それは違うわ!」

エミリー「!」
137 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:55:38.88 ID:ArvRQigk0
まつり「私があなたを助けたのは他ならぬ私の意思。あの場面で傍観者を気取ることは九条の、そしてこの私の信条にもとること。だから、私は自分から無関係でいることを辞めたの」

 面食らった様子のエミリーに、まつりは首を傾げて頬に人差し指を添えながら笑う。

まつり「それに、おまわりさんの言う通り、まつりがあの人を刺激したから余計な恨みを買っちゃったのかもしれないのです。だから、巻き込まれたのはエミリーちゃんの方とも言えるのです」

エミリー「そ、それは違……」

まつり「はいストップ! なのです」

エミリー「!」
138 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:56:10.64 ID:ArvRQigk0
まつり「ここで『違う違う』と言い合ってもしょうがないのです。重要なのは、これからどうするかということ。だから、お互い謝るのはなしにするのです。ね?」

エミリー「……はい!」
139 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:56:36.87 ID:ArvRQigk0
まつり「(そう、問題はこれからのこと)」

まつり「(このままエミリーちゃんを一人で帰すわけにはいかない。所属事務所とご家族に話を通して私の家で保護する必要がある)」

まつり「(でも長期戦は避けなければならない。エミリーちゃんの生活に支障が出るし、そうじゃなくてもいつ襲われるかわからないストレスなんて、そう長く耐えられるものでもない)」

まつり「(顔がわかっているのは幸いね。公園には監視カメラもあるし、彼ほど目立つ存在なら近辺のスタジオや路上ライブできそうな場所を当たればすぐ見つかるはず。『九条』の名前の使い所かしら)」
140 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:57:03.24 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん」

まつり「はいなのです。エミリーちゃん、今後についてなのですが」

エミリー「まつりさんは、本当に頼りになるお方です」

まつり「……え?」
141 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:57:31.76 ID:ArvRQigk0
エミリー「私を助けてくれたときも、たった今も、まつりさんはいつも恐怖することなく、危険に立ち向かおうとされています」

エミリー「それに引き換え、私は、何も出来なくて……」

エミリー「悔しいです、情けないです……! 私も……まつりさんのような『勇気』が……」

エミリー「『強さ』が欲しい……!」
142 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:58:00.25 ID:ArvRQigk0
 ――――――まつりは本当に強くて頼りになるね
143 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:58:26.51 ID:ArvRQigk0
まつり「――――」

 フラッシュバックした『在りし日の思い出』は、自然とまつりの口を動かそうとしていた。

 悔し涙を流すエミリーに投げかける言葉を紡ぐべく。

まつり「エミリーちゃん、あなたは――」
144 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:58:57.08 ID:ArvRQigk0
 ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ンッ!

 プシュッ
145 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:59:39.06 ID:ArvRQigk0
「――――――え」

 まつりとエミリーは、自分たちの間に飛び散った『それ』を、まるでスーパースロー再生されたものでも見ているように、ただ呆然と眺めていた。

 一瞬遅れて、理解の追いついたまつりが目を見開く。

エミリー「き、」

 そしてエミリーは飛び散ったものの正体を、

 己の手首から『血』が吹き出ている現実を、激痛とともに思い知った!

エミリー「きゃあああああーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
146 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:00:14.37 ID:ArvRQigk0
まつり「エミリーちゃん、エミリーちゃんッ! ――ッ!?」

 まつりの『心の目』は、血に紛れるかすかな煌めきを捉えた。

まつり「こ……」

まつり「これはッ!」
147 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:00:40.24 ID:ArvRQigk0
 まつりは己の迂闊さを呪った!

 エミリーの手首に、『糸』が巻き付いていたのだ!

 『糸』は目をこらしてようやく見えるかというほどの細さだったが、それは紛れもなく、レストランに張られていたのと同じものだった!
148 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:01:10.49 ID:ArvRQigk0
エミリー「あ、あああああああああああ!」

まつり「落ち着いて! 傷は浅いのです! いいえ、深くたって私が――!」

「傷が浅い? そいつは困るなぁ〜〜〜〜〜〜」

まつり「!?」
149 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:02:05.53 ID:ArvRQigk0
 まつりの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んで来る。

 振り向いた先では『糸の塊』が不気味に蠢いている。

「追跡に気づかれないように限界まで細くしたとはいえ、やはりあの程度じゃあパワー不足って感じか」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
150 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:02:39.48 ID:ArvRQigk0
「結構気合入れて『演奏』したのにちょっぴり手首を傷つけただけとはな〜〜〜」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

まつり「(『線』が固まって……)」

まつり「(『立体』に!)」
151 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:03:07.34 ID:ArvRQigk0
 まつりの目の前で、糸は徐々に『形』を為していく。

 最初は腹、次に胸、腕、そして顔!

 糸の塊は『人型』を形成し、腕を組んで下卑た笑みとともにまつりを見下ろしている。

 下半身は足の代わりに無数の糸が垂れ下がっていて、クラゲかタコを連想させる。

 だが、そんな不気味な外見よりも異質な点。

 まるで『亡霊』か『立体映像』だかが漂っているように、糸の像の向こう側が透けて見えた!
152 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:03:33.59 ID:ArvRQigk0
まつり「(この『像(ビジョン)』……この『エネルギーの形』……)」

まつり「(やはり私と同じ能力!)」
153 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:04:13.56 ID:ArvRQigk0
糸の像「まっ! かなりコツは掴めてきたからよぉ〜〜〜」

まつり「!」

糸の像「次は、確実に『始末』出来るぜぇ」

糸の像「行けッ! 『弦』ども!」

 糸の像は二人に向かって下半身の糸を伸ばした!

 束ねられた糸はまるで魚の群れを狙う投網のように、まつりたちを飲み込もうと襲いかかる!
154 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:05:02.97 ID:ArvRQigk0
まつり「…………」

 だが、まつりは逃げようとも隠れようともせず、ただ佇む!

 拳は強く握りしめられ、向かってくる糸を瞬きもせず見据えるその目には、氷のような冷静さと揺らめく炎のような輝きを讃えていた!

 まつりの瞳の中で青く燃える光の名、それは『怒り』!

まつり「ほッ!!」

 ドコドコドコドコ!!
155 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:05:34.73 ID:ArvRQigk0
 まつりが繰り出した『幻の拳』が周囲の地面を叩く!

 破壊されたアスファルトは淡い光に包まれ、即座に修復される。

 まつりとエミリーを守るドーム状の『シェルター』に形を変えて!

糸の像「何っ! 俺の『弦』を防ぎやがった……ハッ!?」
156 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:07:08.69 ID:ArvRQigk0
 ドゴォ!

 ガラガラガラ……

糸の像「うう……!」

 内側からシェルターを破壊して歩み出たまつりは、『糸の像(ビジョン)』を一瞬恐怖させるほどの『スゴみ』を放っている!

 像が怯んだ隙をつき、『拳の幻影』がシェルターに阻まれ行き場を無くしていた糸を鷲掴みにする。

糸の像「しまっ……!」
157 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:08:26.92 ID:ArvRQigk0
まつり「やああああああッ!」

 『拳』が糸を思いっ切り引っ張り、『糸の像』を引き寄せる!

 そして怒れる主人の心に応えるように、まつりの『魔法』は自らを真の姿へと変えた!

 ドギャン!!
158 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:09:11.33 ID:ArvRQigk0
まつり「はいほーーーーッ!!」

 ドゴォ!!!

糸の像「グゲェーーーーッ!」

 まつりの『そば』から現れた『人型の幻影』が、その右拳で『糸の像』を思い切り殴りつける!

 ふっ飛ばされた『糸の像』は、形を保てなくなったように再び『立体』から『線』へと四散した。
159 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:09:41.69 ID:ArvRQigk0
 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 『それ』はまつりが『魔法』と呼ぶものであり、まつりの『心』そのものであり、常にまつりの『そばに立つ』もの。

 『それ』は玉座に冷厳と君臨する『女王』のようでもあり、まつりというお姫様に付き従う忠実な『ナイト』のようでもある。

 『それ』の頭上では陽光を受けたティアラが煌めき、精悍な体つきにはある意味似つかわしくない純白のドレスを風向きとは無関係に靡かせる。

 女性らしい顔つきの上半分はバイザーのようなものに覆われ表情こそわかりにくいものの、『それ』は主たるまつりと同じく、全身から『悪に立ち向かう意志』を漲らせていた!
160 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:10:13.79 ID:ArvRQigk0
 ズキュン!!

エミリー「! 怪我が……!」

 まつりのそばに立つ『幻影』がエミリーの手を優しく握ると、血が吹き出ていたのが嘘のように、エミリーの傷が塞がり痕跡もなくなった。

まつり「少し離れていてください。ちょっと危ないのです」

エミリー「え? で、でも……ハッ!?」
161 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:10:54.53 ID:ArvRQigk0
エミリー「ま、まさかまつりさん……今私が怪我をしたのは、さっきのお店と同じことが起こったのでは……! 恐れていたとおり、あの演奏者の男が、襲ってきたのでは……!」

エミリー「そしてあなたは、こんな危険な力を振るう人と、戦おうとしている!」

エミリー「そんなのダメです! いくらまつりさんでも無茶です! もう私のためにあなたが危険に晒されるのは……!」

まつり「エミリーちゃん。さっきあなたは『まつりが巻き込まれた』と言ったのです」

まつり「ぐっど。百万歩譲ってその通りだとするのです」

エミリー「……!?」
162 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:11:39.41 ID:ArvRQigk0
まつり「だけど、『巻き添えの逃避行』は既に、『私自身の戦い』に変わっているのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「あの男はエミリーちゃんを怖がらせるだけじゃ飽き足らず、まるで道端のゴミ箱を蹴っ飛ばすように、なんの躊躇もなく傷つけたッ!」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「これ以上あの男がエミリーちゃんの身を脅かそうと言うのなら……」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

163 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:12:07.03 ID:ArvRQigk0
まつり「今ここで、倒さなければならない!」

 ドォォォーーーーーz__ン
164 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:12:41.41 ID:ArvRQigk0
まつり「すたんだっぷ、なのです。糸くずさん」

まつり「今のは手応えがイマイチだったのです」

 まつりに応えるように、バラバラになっていた糸が固まっていく。

糸の像「な、なんてパワーだ……。あとちょっと『弦』になるのが遅かったらやられていた……」

糸の像「イカれ女! それが、テメーの『スタンド能力』かッ!」

165 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:13:15.30 ID:ArvRQigk0
まつり「……ほ? 『何』能力ですって?」

糸の像「だがよぉぉ……今ので俺を仕留められなかったのはテメーの失敗だぜぇ……」

糸の像「テメーのスタンドはそんなに遠くにはいけねえようだなぁーーっ。じゃなきゃすぐさま追撃に来たっていいはずだもんなぁーーっ!」

 『糸の像』がニタリと笑う。

 対するまつりは表情を変えず、ただ黙して糸の像を睨みつける。
166 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:13:46.53 ID:ArvRQigk0
糸の像「それにさっき見せたように俺のスタンドは『弦の回避』も出来る! 単純なパワーでは俺を捉えることは出来ない!」

糸の像「つまり、同じ土俵に立っちまえば俺の方に分があるってことなんだなぁ!」

糸の像「ドゥー・ユー・アンダスタンンンドウ! さっきいい気になって俺をコケにしたこと、後悔させてやるぜーーーっ!」
167 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:14:23.14 ID:ArvRQigk0
まつり「わんだほー。とてもわかり易い解説だったのです」

まつり「解説ついでに一つ確認させて欲しいのです」

まつり「あなた、さっきエミリーちゃんに絡んできたバンドマンの人でいいのです?」

糸の像「だったらどーしたッ! そうさッ、俺は『ゼビ』! 才能が目覚めた今、すぐにでもこの名前がワールドワイドに知れ渡るぜーーー!」

まつり「ほ? 案外あっさり認めてくれるのです。それに聞いてもいないのにお名前まで」

バンドマン「おかしいか? いーや、全然おかしくねえなぁーー!」
168 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:14:52.14 ID:ArvRQigk0
バンドマン「俺の『スタンド』のやったことは無能のポリ公どもなんぞにはわかりゃしねぇーー。ってことはよぉ……」

バンドマン「ここでテメーらを始末して口を封じさえすりゃ、この先何をやっても誰にもバレねえってことじゃあねえか! ケケケ!」

 馬鹿笑いする糸の像だが、
169 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:15:19.29 ID:ArvRQigk0
まつり「ふむふむ、なるほど完璧な計画なのです」

 それに冷や水を浴びせるように、まつりは小首を傾げて頬に人差し指を添えながら、目を細めて笑う。

まつり「不可能という点に目をつむれば……ね?」
170 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:15:48.40 ID:ArvRQigk0
バンドマン「……何?」

まつり「かくいうまつりにも計画があったのです」

まつり「でもそれは『長期戦』かつ『あなたを探さなければならない』という問題があったのです。考えるだけでゲンナリしちゃうのです。でも――」

まつり「わんだほー、ここであなたを倒せば、一気に全てが解決しちゃうのです」
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