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【ミリマス】まつりのスタンドお披露目タイムなのです!【ジョジョパロ】
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171 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:16:17.41 ID:ArvRQigk0
バンドマン「何だぁーーーーっ!? この期に及んでまだイキがる気か、このヴォケが!」
バンドマン「許さねえ…もう一秒たりともテメーがいい気になるのを許しちゃおけねえ……」
バンドマン「泣いて土下座して侘びたところでもうおせぇーーー! 覚悟しやがれ、イカれ女っ!」
172 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:16:44.28 ID:ArvRQigk0
まつり「口を慎みなさい、卑劣漢。覚悟が必要なのはそちらの方よ」
まつり「あなたはこの九条まつりが直々に叩きのめす」
173 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:17:10.67 ID:ArvRQigk0
●シャルロット・シャーロット そのA●
まつりは『幻影』をそばに控えさせながら、『糸』に向かって駆け出す!
バンドマン「ケッ! 生意気にも向かってくるか! 俺の考えた通りみてーだなーっ」
174 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:17:38.45 ID:ArvRQigk0
まつり「(確かに)」
まつり「(私の『魔法』――バンドマンの男は『スタンド能力』と呼んでいた――はせいぜい1〜2メートルくらいしか私から離れられない)」
まつり「(あの糸の『スタンド』はどうやらそうではない。『スタンド』にはそれぞれ『射程距離』があるということ!)」
175 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:18:29.81 ID:ArvRQigk0
バンドマン「けどよぉ、その他大勢のファンごときがステージ上のスターに近付くなんざ、恐れ多いにもほどがあるんじゃあねえかぁ!?」
まつりが嫌な予感とともに目線を下げると、敵スタンドの糸状の下半身は地面に向かって伸びていた!
まつり「――ッ!」
まつりがスタンドの力を利用して遮二無二飛び退くのと同時、
ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ン!!
耳障りな騒音とともに、地面の上でクモの巣状に広がっていた糸に衝撃波が走る!
なんとかかわせたものの、まつりの態勢は大きく崩れる。
176 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:19:01.73 ID:ArvRQigk0
バンドマン「隙だらけだぜ!」
まつりの元へ、『これが本命』と言わんばかりに、太く束ねられた糸の群れが襲いかかる!
まつり「なんの! なのです!」
まつりのスタンドも負けじと両拳で応戦を試みる。
高速のラッシュは鞭のようにしなる無数の糸を尽く弾き飛ばしていく。
177 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:19:31.00 ID:ArvRQigk0
バンドマン「チィ……!」
バンドマン「やはりパワーもスピードもテメーのスタンドの方が上……だが」
バンドマン「そんなことはハナっから想定内なんだよ、バカが!」
まつりがハッとして目をこらすと、いつの間にかスタンドの右足に、エミリーの手首を傷つけたものと同じくらい細い糸が巻き付いている。
178 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:19:56.14 ID:ArvRQigk0
まつり「(『本命の本命』はこっち――!)」
即座に糸を外そうとするも、『一手』遅れたまつりよりもバンドマンの方が早かった!
バンドマン「太く束ねた糸の中に一本だけ極細の糸を紛れさせた! そしてくらえ!」
ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ン!
179 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:20:23.48 ID:ArvRQigk0
まつり「ッ! あああッ!」
糸の衝撃波がまつりのスタンドを傷付けると、体の同じ箇所に激痛が走り、血が吹き出した。
まつり「――痛ッ!」
苦痛に顔を歪ませながらも、まつりは思考を止めることなくフル回転させる。
180 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:20:51.00 ID:ArvRQigk0
まつり「(スタンドが傷つけばそれを『心のパワー』で動かす自分自身――いわば『本体』にも返ってくる、か……。あまり気持ちのいい話ではないけれど……)」
まつり「(だんだん『ルール』がわかってきた! 同時に私がやるべきことも!)」
まつり「(倒すべきは『本体』の方だわ! 糸のスタンドに攻撃が通じにくいのなら、本体を直接叩く!)」
まつり「(私とは違うタイプみたいだけれど、同じ『スタンド能力』である以上、射程距離にも限界があるはず!)」
まつり「(そして対応や狙いの正確さから考えて、きっとバンドマンは近くで私達を見ている! なんとかして『本体』を探し出さなくては!)」
181 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:21:20.13 ID:ArvRQigk0
まつりがさらなる決意を固めたとも知らず、糸のスタンドは満足げに下卑た笑いを漏らす。
バンドマン「ンッン〜〜〜〜♪ 実に! スガスガしい気分だッ!」
バンドマン「欲を言えばもうちょい悲鳴とかあるといいんだけどなぁーーーーーっ。ま、ノリの悪いクソ客がいるのもライブの常だもんなぁ!」
バンドマン「んーーーー♪ そうだなあ、俺のこの『才能』にも名前が必要だな」
182 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:22:21.16 ID:ArvRQigk0
バンドマン「どんなものにもそれにふさわしい『名前』があるもんだもんなぁーっ。バンドや曲みてえによぉ〜〜〜」
バンドマン「『ゼビ』って芸名を思いつくには一晩かかっちまったが、今の俺には自然とイカしたのがピーンと降ってくるはずだぜ。ん〜〜〜〜〜〜」
ドリュデドリュデドリュドリュドリュラドギュギララ
糸のスタンドが己の下半身をギターの『弦』のようにしてかき鳴らす。
バンドマン「! ククク……」
183 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:22:50.76 ID:ArvRQigk0
バンドマン「降ってきたぜ〜〜。俺の才能を表現するスンバラシイのがよぉ〜〜〜」
バンドマン「『ガストノッチ』ッ! 絶好調な俺にピッタリな最高の名前だぜッ!」
ドギュギュウウゥゥウン(うっとり)
184 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:23:16.85 ID:ArvRQigk0
まつり「ほ?」
まつり「最高の絶好調というのはかよわい女の子の足にかすり傷を付けることを言うのです?」
まつり「これなら転んで膝を擦りむいた時の方が痛かったのです」
バンドマン「なんで最近の女ってやつはこうも生意気なんだ?」
185 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:23:48.62 ID:ArvRQigk0
バンドマン「まあいい。どれだけ減らず口を叩こうがダメージがあることには変わりがねえ」
バンドマン「これでお前はもう素早い動きが出来ないッ!」
バンドマン「あとは俺に狩られるだけのプルプル足震わせる小鹿も同然なんだよォォォーーーーーー!」
勝ち誇った笑みでまつりを見下ろす糸のスタンド。
右足から血を流して膝をつくまつり。
バンドマンの言葉は両者の構図を正しく言い表しているようでもある。
186 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:24:16.26 ID:ArvRQigk0
スタンドが見えないエミリーは、傷ついたまつりを目にして、もはや言葉すら挟めずにいた。
なぜならば、
エミリー「(どうして)」
エミリー「(あなたはどうして、そこまで強くあれるのですか……?)」
傷ついてなお、まつりの瞳には精神的動揺とは無縁の、『青く燃える勇気』が燦然と輝き続けていた!
この気高き姿を前に、エミリーはまつりの戦いを留めさせる言葉を持たなかった!
187 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:24:43.76 ID:ArvRQigk0
バンドマン「もういつでもお前を倒せる状態になったんだしよぉ……。テメーだけに構っててもしょーがねーよなぁ……」
糸のスタンドの言葉よりも早く、まつりは既に行動を開始していた!
『ゲス野郎』のおキマリの発想などお見通しとでもいう風に!
エミリー「――え!?」
『エミリーの元』へ、糸とまつりが競うように疾走る!
188 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:25:10.76 ID:ArvRQigk0
バンドマン「――! ふん! ならまとめてくたばれや!」
右足の痛みに顔をしかめながらも、まつりは力を振り絞って足を動かす。
まつり「はいほーーーーッ!」
糸の進路上に立ちふさがったまつりのスタンドが足元のアスファルトを割り、瓦礫が淡い光を纏って宙に浮かぶ。
189 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:25:46.84 ID:ArvRQigk0
バンドマン「はん! また石の壁で糸を防御しようってか?」
バンドマン「バカの一つ覚えが! そんなもんこうするだけだボケ!」
糸の群れはまつりを避けるように軌道を変え、蛇のようにエミリーの元へ向かう。
190 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:26:15.73 ID:ArvRQigk0
まつり「ほ!」
だがまつりはそれを読んでいたかのように、スタンドの手刀で糸の一本を断ち切る。
他の糸はそれに構うことなく、なおもエミリーに襲いかかるが、
まつり「させないのです!」
まつりはラッシュの要領で残っていた糸を全て掴み取った!
191 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:26:42.97 ID:ArvRQigk0
バンドマン「自ら掴むとはバカなやつ! さっきと違っていつでも攻撃の準備は出来てるんだぜ!」
バンドマン「『ガストノッチ』!」
ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ン!
192 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:27:10.97 ID:ArvRQigk0
まつり「――――ッッ!」
スタンドを通して衝撃波のダメージがまつりの両腕を伝う。それはドレスの肩口まで裂くほどだったが、
バンドマン「んなっ……!?」
それでもまつりは、歯を食いしばりながら決して糸を手放さなかった!
193 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:27:36.61 ID:ArvRQigk0
まつり「防御なんてすっとろいこと……」
まつり「最初から考えてないのです!」
まつりは糸を掴んだ拳を自ら破壊した地面に叩きつける。
その部分の修復は、まだ終わっていなかった!
まつり「アスファルトを『糸ごと』直す!」
194 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:28:11.10 ID:ArvRQigk0
ギュギュウゥゥゥン…
ピタァァッ!
バンドマン「な、」
バンドマン「何ィィーーーーーーーー!?」
糸のスタンドは下半身の部分を地面に縫い付けられるようにして身動きを封じられる。
バンドマン「ヒィィィ! う、動けねェ!」
195 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:28:42.13 ID:ArvRQigk0
まつり「まるで昔のデパートの屋上にあったっていうアドバルーンみたいなのです」
まつり「あんまり可愛くないからお客さんが逆に離れていきそうですが」
まつり「さて、これでゆっくりと本体が探せるのです。エミリーちゃん、行きましょう」
エミリー「は、はい……。……!」
196 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:29:51.33 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん、酷い怪我です……」
まつり「ほ? 大丈夫なのです。ちょっと見た目が派手なだけなのです。あんまりパワーのない能力で良かったのですよ」
エミリー「でも……! あ、そ、そうですよ! まつりさんの『魔法』で治せばいいのでは?」
まつり「くればーな名案なのです! では、悪い人を懲らしめた後でゆっくり治すのです」
まつり「そこで神妙にしているのですよ。大人しくしていれば悪いようにはしないのです」
バンドマン「く、くくく……」
まつり「?」
バンドマン「ギャーーーーーーーーーッハッハッハッハ〜〜〜〜〜〜! なァんてなァァ〜〜〜〜〜!」
197 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:30:18.66 ID:ArvRQigk0
敵スタンドは下半身の部分を切り離して地面の拘束から脱出すると、即座に新たな糸を生み出して瞬く間にまつりを縛り上げる!
エミリー「きゃああああっ!?」
エミリー「そ、そんな! まつりさん! まつりさーーーーーん!」
198 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:30:45.24 ID:ArvRQigk0
エミリーにはまつりがまるで不可視の糸によって空に磔になっているように見える。
その非現実的な光景は恐怖と絶望以外の何物でもなかった!
バンドマン「どマヌケが! あんな程度で俺を捕らえたつもりになりやがって!」
バンドマン「ギターと同じよ! 『弦』の部分なんていくらでも替えがきく消耗品に過ぎねーんだぜッ!」
まつり「く、ううう……!」
バンドマン「アドバルーンになるのはテメーの方だったなァァー! 俺様の偉大さを宣伝するためのよォォーーーーーッ!」
199 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:31:18.69 ID:ArvRQigk0
糸のスタンドはギリギリとまつりの全身を締め上げる。
首を締め付ける力を四肢よりも弱くしたのはまつりの悲鳴と命乞いを聞きたいという最低の発想からであったが、まつりは苦しげに喘ぎながらも決してバンドマンの思う通りにはならなかった。
その点は少しばかり不満だったものの、しかし糸のスタンドは愉快げに口の端を歪める。
バンドマン「ウププ! クケッ! ウプップププププ!」
バンドマン「いい気になってたヤツの足元を掬ってやると今の俺みてーに笑顔が心の底からこみ上げてくるよなあ? 幸せってのはこういうことを言うんだろーなあーー!」
200 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:31:49.43 ID:ArvRQigk0
エミリー「お願い! 近くで見ているんでしょう? あなたの望みはなんでも聞きますから! だからもうやめて!」
バンドマン「ヒーーッヒッヒッヒ! ああァ〜〜〜〜心に染みる最高の歓声だぜ〜〜」
バンドマン「テメーもこのガイジンと同じくらいの可愛げがありゃちっとは俺様も優しくなれたかもしれねえのになあ。実に残念だァ〜〜〜」
201 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:32:16.58 ID:ArvRQigk0
バンドマン「次の攻撃で最後だ」
バンドマン「じっくり準備して最大のパワーで演奏してやる。そうすりゃあおめえ……」
バンドマン「完璧にイッちまうかもなァァァァーーーーーーーーーーッ! 『マイケル・ジャクソン』を前にしたファンのようによォォォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
糸のスタンドは狂ったように笑いながらメチャクチャなリフを弾き出す。本命のメインフレーズの前フリというように!
202 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:32:48.04 ID:ArvRQigk0
エミリー「ごめんなさい……ごめんなさい……。もう……許して……。まつりさんを……まつりさんを……傷つけないで……」
まつり「エミリー……、ちゃん……」
エミリー「! まつりさん!」
まつり「許しを…乞う…、だなんて…、そんなことをエミリーちゃんが、する、必要、…全然…ない、のです」
エミリー「でもこのままじゃまつりさんが……まつりさんが……!」
まつり「エミリー、ちゃん」
まつり「『鏡の中のシャーロット』の結末を、覚えているのです?」
203 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:33:41.96 ID:ArvRQigk0
エミリー「……!? 今そんなことを話している場合では…………ッ!」
まつり「…………」
まつりの目があまりにも真剣だったので、エミリーは危機的状況にはそぐわない質問に答えてしまった。
エミリー「主人公のシャルロットは……鏡の中のシャーロットが消えてしまったことで、一番のお友達とお別れをしなければなりませんでした」
エミリー「とても悲しくて…寂しい幕引きだったと思います…」
まつり「でもシャルロットは……『一歩を踏み出す』勇気と強さを……シャーロットに貰ったのです」
204 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:34:10.42 ID:ArvRQigk0
まつり「確かに寂しいけれど……決して悲しいだけの物語では……なかったのです」
まつり「今日までのまつりは……シャーロットを失ってもまだ屋根裏部屋に閉じこもって……窓からお花畑を眺めることしか出来ない……弱いままのシャルロットだったのです」
まつり「でも、エミリーちゃん」
まつり「あなたのおかげで、まつりは少しだけ前に進める気がするのです」
205 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:34:42.19 ID:ArvRQigk0
エミリー「…………え?」
まつり「私は『あの日』からずっとこの力の意味を考えていた。大切なものを救えなかったこの力は、『呪い』や『悪霊』に過ぎないのではないかと怯えたこともあった」
まつり「そんなまつりの力を、エミリーちゃんは『優しい』と言ってくれたのです」
まつり「本当に、本当に、救われたのです」
206 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:35:09.03 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん……」
まつり「それにエミリーちゃんは『強さが欲しい』、なんて言ったけれど」
まつり「あなたは既に、それを手にしているのです」
207 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:35:47.55 ID:ArvRQigk0
まつり「恐い目にあった後だというのに挫けることなくステージをやり切った『勇気』、自分の笑顔で他の誰かをも笑顔に変えてしまえる『強さ』」
まつり「こんなことが出来る女の子が弱いなんて、有り得ないのです」
まつり「エミリーちゃんはもう、立派な『アイドル』なのです」
まつり「あなたに『勇気』と『強さ』を分けてもらったまつりが保証するのです」
208 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:36:24.67 ID:ArvRQigk0
エミリーが返す言葉を持たないでいると、(彼女に聞こえていないのは不幸中の幸いだったが)唐突に耳障りなリフがピタリと止んだ。
『最後のフレーズ』の準備が出来たのだ!
バンドマン「フゥゥゥゥ……かなりテンションが上がってきたなァァァ……」
バンドマン「今なら『ジミヘン』だってチビッちまうくらいのヤバいプレイが出来るぜェーーーっ!」
バンドマン「アー・ユー・レディィィィーーーーーーーッ! スタンドパワーを全開で最大出力だ!」
バンドマン「遺言考えるくらいの時間を与えてやった慈悲に感謝するんだな、イカれ女!」
209 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:36:53.69 ID:ArvRQigk0
まつり「最大出力?」
まつり「それは…辞めておいたほうが……いいのです」
バンドマン「ああん?」
まつり「まだ気が付かないのです?」
まつり「あなたが独りよがりの演奏をしていた時間はまつりが遺言を考えるのではなく」
まつり「あなたが頭を冷やして反省する最後のチャンスだったことに」
210 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:37:21.90 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ふぅ〜〜〜〜〜」
バンドマン「今更強がってどうする? ムカつく通り越してもはや哀れだぜェ〜」
バンドマン「手も足も出ないそのザマでイキがろうと俺様の勝利はもう決まっているゥゥゥーーーーーーーーーーーーーッ!」
バンドマン「テメーの身の程知らずを後悔してくたばりやがれーーーーッ!」
バンドマン「『ガストノッチ』ッ!!」
211 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:37:49.74 ID:ArvRQigk0
ギュゴゴゴガガワワワワワワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
もはや『騒音』の域を超えた『音の暴力』とともに、より強烈な衝撃波が走った!
「あああああああああああああああああああああああああッ!!」
212 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:38:16.42 ID:ArvRQigk0
エミリーにはスタンドの発する音は聞こえない。
だが、耳をつんざくような絶叫が辺りに響き、エミリーは思わず目と耳を塞いでしまった。
やがて絶叫が止み、辺りが静寂を取り戻す。
目を開いたとき、そこにあるのはボロボロに傷ついた少女の姿。
狂いそうな想像に苛まれながら、エミリーが恐る恐る目を開けると、
エミリー「……?」
エミリー「……………………え!?」
213 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:38:43.91 ID:ArvRQigk0
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
まつり「結局」
まつり「ちっともお話が通じなかったのです」
まつり「みんなニコニコ、笑顔の魔法はとっても難しいのですよ」
まつり「ね? エミリーちゃん」
214 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:39:10.67 ID:ArvRQigk0
まつりはさっきまでと変わらない様子で、小首を傾げながらエミリーにウインクを向けていた!
何がなんだか理解できないエミリーだったが、もし彼女に『スタンド』が見えていたなら、何が起こったかなど一目瞭然だっただろう!
バンドマン「……ッ! …………ッ!(パクパク」
ボロボロに傷ついて姿を保つのもやっとの、息も絶え絶えになっている糸のスタンドの有様が見えさえすれば!
215 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:39:53.80 ID:ArvRQigk0
まつり「糸を切り離せようが関係ないわ」
まつり「あらかじめ切っておいた『糸』を治した。あなたが自ら糸を切断して張り直した瞬間に」
まつり「そしてあなたの体に治りに戻った糸を上半身に巻き付けておいたのよ。ちゃんとあなた自身にも衝撃波が通じるように」
まつり「自分が張ったものではない細い糸は、離れた場所からスタンドを操作しているあなたには気づけなかったようね」
バンドマン「………………!」
まつり「こちらが手も足も出せないのなら、あなた自身にトドメのスイッチを押してもらうまで」
216 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:40:23.39 ID:ArvRQigk0
まつり「さて、声はこちらの方から……」
エミリーを連れてまつりが軽い足取りで、港に積み上げられたコンテナの一つに向かう。
その影には、スタンドと同じく言葉を発するのもままならない様子で地べたに這いつくばる一人の男の姿があった。
それは紛れもなく、エミリーを襲ったあのバンドマンの暴漢だった!
217 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:40:52.77 ID:ArvRQigk0
バンドマン「か……は……ぐ……ううう…………!」
まつり「はいほー、お兄さん。改めてお久しぶりなのです。ところで」
まつり「あなたが並べ立てた笑顔のお話ですが……こうして今のあなたを見下ろしてもちっとも笑顔なんて湧いてこないのです」
まつり「やっぱりあなた、最初から最後までエミリーちゃんの足元にも及んでいないのですよ」
218 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:41:19.79 ID:ArvRQigk0
●シャルロット・シャーロット そのB●
まつり「さあて、おまわりさんに突き出す前に聞いておくのです」
まつり「あなたのバックにいる人物について……ね?」
エミリー「? それはどういう……」
219 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:41:54.87 ID:ArvRQigk0
まつり「このお兄さんはエミリーちゃんに絡んできた時点では明らかにまつりの力が見えていなかったのです。つまりこの短時間で能力を身に着けたということ」
まつり「それ自体はまつりたちへの恨みがわんだほーなみらくるを起こした、と強引に解釈できるとしても……」
まつり「『スタンド能力』、と言いましたか。彼はどうやってこの力のことを知ったのでしょう? まつりなんて力の名前すら知らなかったというのに」
エミリー「あ……!」
まつり「答えは簡単。彼に『スタンド能力』のことを教えた『何者か』がいるのです」
バンドマン「…………ッ!」
まつり「そして恐らくその『何者か』は、彼が『スタンド使い』になった経緯にも関わっていると見るのが自然!」
220 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:42:30.61 ID:ArvRQigk0
まつり「素直に話してくれますよね? 話してくれたらまつりもあなたも皆はっぴー! なのです。……ね?」
まつりのスタンドがバンドマンに触れると、ボロボロだった体が瞬く間に全快する。
目を白黒させて驚いたのもつかの間、まつりのスタンドが放つ『スゴみ』を前にして、バンドマンは媚びたような笑みを浮かべた。
バンドマン「わ…わかった、話す、話すよ……。別に奴に義理立てする必要はねーし口止めもされてねーからなぁ〜。へ、へへ……」
バンドマン「そうだ……俺の『スタンド能力』の才能が目覚めたのは、あの『スーツの男』の『プロデュース』のおかげだ」
まつり・エミリー「『プロデュース』……?」
221 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:42:56.86 ID:ArvRQigk0
バンドマンは駅前広場から逃走した後に起こったことを話した。
エミリー「なんだか……俄には信じがたい不気味なお話ですね……」
バンドマン「テメーらがほら話と思おうがどうだっていいがなぁ〜〜。俺の話はこれが全てさ」
まつり「……」
222 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:43:32.53 ID:ArvRQigk0
まつり「その『スーツの男』というのは……いくつくらいの人だったのです?」
バンドマン「さあな。『二十代の若者』にも見えたし『枯れたおっさん』のようにも思えたぜ。ま、何かを頭にぶち込まれたせいか意識がモーローとしてたし、顔をよく見る前に俺は気を失っちまったがよぉ〜〜」
まつり「………………」
エミリー「……? まつりさん?」
まつり「(『プロデュース』……『等価交換』……)」
まつり「(まさか、ね)」
223 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:44:18.45 ID:ArvRQigk0
まつりが黙考にふけっている中、バンドマンもまた、思考を巡らせていた。
もちろん『自分の行いへの反省』だとか『怪我を直してもらった情けへの感謝』だとか、そのような良心や謙虚さの類とは無縁の考え!
ここまで追い詰められてなお、バンドマンはまだ『バラ色の未来』を諦めていなかった!
その悪党特有のハングリー精神を以て、男はついに『逆転への一手』を見出す!
224 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:44:46.25 ID:ArvRQigk0
バンドマン「…………!」
バンドマン「(こ…こいつは……!)」
バンドマン「(へへ……! ツイてるぜ……!)」
バンドマン「(こんなところにマンホールがあるじゃあねえか!)」
バンドマン「(そしてこのマンホールは……)」
バンドマン「(ガイジンの足元の排水口と繋がっているッ!)」
225 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:45:36.90 ID:ArvRQigk0
バンドマン「(『弦』が届きさえすれば! ガイジンの方を捕らえて人質にして一気に形勢逆転だ!)」
エミリー「これからどうしましょう……?」
まつり「ふーむ、そうですね。『スーツの男』の存在がとっても気になるところですが、とりあえずまつりの家……もといお城に来てほしいのです。お時間は大丈夫なのです?」
エミリー「もちろんです! ……あ、いけない、その前に事務所と家族に連絡をしないと!」
バンドマン「(バカめ! 完全に油断しきってやがる! その間に……)」
バンドマン「(『弦』は排水口の出口まで来た! ……や…やった! 届いたぞ!)」
バンドマン「(ヒヒヒ! やはり俺は『持っている』ッ! そりゃそうだ、神が未来のスターを見捨てるわけはねェェーー!)」
バンドマン「(結局最後に笑うのはこのゼビ様ってわけだ!)」
226 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:46:03.24 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ギヒヒヒ終わったァーーーーッ!」
エミリー「え――?」
バンドマン「今だッ! 『ガストノッ』――」
ボゴォオ!!
227 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:46:30.26 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ッ!? ぷげえッ!?」
バンドマン「(――え!?)」
バンドマン「(な、なんだこのスピード、は、速すぎ――)」
バンドマン「ぐぎゃあああああーーーーーーーーっ!」
228 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:47:09.74 ID:ArvRQigk0
糸がエミリーを捕らえるよりも一瞬速く、まつりのスタンドはバンドマンの顔面に拳を叩き込んでいた!
それは紙一重なれど、まつりとバンドマンを天と地ほどに隔てる決定的な差!
フッ飛んだバンドマンを見つめるまつりの視線は、養豚場の豚でも見るかのように冷ややかだった!
まつり「本当に」
まつり「とことん予想の下の下をいってくれる、救いようなくつまらない悪党なのです」
229 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:47:36.63 ID:ArvRQigk0
バンドマン「あ…ががが……ッ」
まつり「けれど」
まつり「そんなあなたもたった一つだけ良いことを言ったのです――『どんなものにもそれにふさわしい名前がある』」
230 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:48:02.86 ID:ArvRQigk0
まつり「私は、屋根裏部屋を出ることに決めたわ」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
まつり「『シャーロット』に勇気と強さを貰った『シャルロット』のように」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
まつり「手にしたこの力が何も救えない『呪い』ではなく、誰かを笑顔に出来る『魔法』になれると信じて、私のそばに立つもう一人の私を」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
まつり「『シャルロット・シャーロット』――――そう呼ぶ」
ドォォーーーーz_ン
231 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:48:42.98 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ひ、ヒィィィィーーーーーーーーーー!」
まつり「ほ?」
バンドマンは吹っ飛ばされて距離が空いたのを良いことに、脱兎の如く逃げ出す!
小悪党のちっぽけなハングリー精神は、まつりの一撃でいとも簡単に折れきっていた!
232 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:49:09.48 ID:ArvRQigk0
エミリー「ああ、そ、そんな! まだあんな元気が! ここで逃げられたら、またいつ襲われるか……!」
まつり「のーぷろぶれむ、なのですよ」
エミリー「え?」
まつり「すでに、『直す』ことは終わっているのです」
233 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:49:41.85 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ハア……ハア……!」
バンドマン「じ、冗談じゃねえ! 俺はただいい気になってるあのクソ女どもをシメてやれりゃあそれでよかったのに!」
バンドマン「こんなはずじゃなかった! こんなはずじゃなかったッ! ちくしょう!」
バンドマン「だが、なんとかしてここを逃げ切れりゃあまたチャンスはいくらでも! そうだ、逃げ切れば……、」
234 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:50:09.22 ID:ArvRQigk0
バンドマン「逃げ、切れ……!?」
バンドマン「な、何だぁーーーーー!? 前に進めねえ! い、いや、それどころか……」
エミリー「Wow! まるで釣り竿に引っ張られるお魚のように、こちらに戻ってきます!」
235 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:50:36.35 ID:ArvRQigk0
まつり「『シャルロット・シャーロット』」
まつり「さっき殴り飛ばしたとき、ついでに『ベルトのバックル』も壊しておいたのです。ゴツゴツしててまつりの趣味には合わないですが、これを直してあげれば――」
まつり「ベルトは、あの男ごと直りに戻ってくるのです!」
236 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:51:21.49 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ま、待て、待ってくれッ! ちょっとした悪ふざけだったんだッ!」
バンドマン「そう、新しく買ったギターを試すような、そんな他愛もない出来心だったんだよぉぉ〜〜〜! だからマジになるなって! な!?」
まつり「わんだほーに面白い冗談なのです」
まつり「ぜーんぜん笑顔にはなれませんが」
まつり「それに、最初に言ってあるのです」
まつり「『叩きのめす』、と」
237 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:51:55.96 ID:ArvRQigk0
バンドマン「う、」
バンドマン「うわあああぁぁあああああああぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」
238 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:52:54.68 ID:ArvRQigk0
これは『魔法』を解く物語――。
『夢』と『魔法』に溢れたおとぎ話の中でお姫様になれるのが少女たちの特権ならば、
『現実』と『おとぎ話』の間で明日を歩む勇気と強さを育むのが少女たちの義務である。
やがて大人へとなる少女たちは、『フェアリーテイル』だけでは生きられない。
だから、いつか『魔法』は解かれなければならない。
今を生きるための力をくれる『魔法』が、人を過去へと縛り付ける『呪い』へと変わる前に。
私の名前は『九条まつり』。
これは、大人になろうとしている、ある一人の少女のお話。
239 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:53:41.06 ID:ArvRQigk0
「ルミルミルミルミルミルミルミルミ
ルミルミルミルミルミルミルミルミルミ
ルミルミルミルミルミルミルミルミルミ!!!」
240 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:54:58.70 ID:ArvRQigk0
ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ!!
バンドマン「ぐげごがぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」
『シャルロット・シャーロット』と名付けられたまつりのスタンドは、高らかに産声を上げるように、超高速のラッシュをバンドマンに叩き込む!
そして『ゲス野郎への怒り』と『九条まつりの誇り』を込めて繰り出されたトドメの一撃は、バンドマンの描いた『完璧な計画』を完全に打ち砕いたのだった!
まつり「イルミネーション(光らせちゃうわ)」
バアァァーーーーーーz__ン
241 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:56:10.80 ID:ArvRQigk0
●九条まつりの冒険●
まつり「今度こそりたいあ! なのです」
まつり「まずはおまわりさんよりもお医者さんのお世話になるのですよ」
242 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:56:38.08 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん!」
まつり「おっと、あまり見ないほうがいいのですよ」
エミリー「いえ、私なら平気です。それよりもまつりさん」
まつり「ほ? ケガのことなら気にしなくていいのですよ。こんなのまつりの魔法で」
エミリー「まつりさんの魔法ではご自分の怪我は治せないのでしょう?」
まつり「ほ、ほ?」
エミリー「出来るのでしたらとっくの前にやってるはずですから」
まつり「う……バ、バレバレだったのです?」
243 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:57:07.95 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさんはご自分の意思を貫かれました。だから、もう謝罪はしません」
まつり「そうですそうです、ごめんなさいなんて最初からいらないのですよ。ね?」
エミリー「やはりまつりさんへの言葉はこれに限ります」
エミリー「『ありがとうございます』」
まつり「ほ? 別にお礼もいらないのですよ? まつりはエミリーちゃんの言う通りまつりの意思で」
エミリー「まつりさんは言ってくれました。私は『勇気』と『強さ』を持っていると」
まつり「――!」
244 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:57:34.83 ID:ArvRQigk0
エミリー「やっぱりまつりさんのおっしゃることは難しくて、自分では全然実感出来ないんですけど」
エミリー「でも、まつりさんの言う『人を笑顔に出来るアイドル』。とっても素敵だと思いました!」
エミリー「きっとこれこそ、私の憧れる『大和撫子』に違いありません!」
エミリー「私、頑張ります! 今はまだ初舞台も踏んでいない新人ですが……」
エミリー「まつりさんのお言葉に見合うような、立派な『大和撫子』になるために」
エミリー「もっともっと、精進してみせます!」
245 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:58:01.68 ID:ArvRQigk0
エミリーの言葉には『夢』があった。
それはバンドマンの語る空虚な絵空事などとは根本から違う、『未来への希望』だった。
まつりの顔に、エミリーの笑顔に釣られるように同じ表情が浮かんできた。
まつりはエミリーの持つ強さを確信し、彼女の語る『黄金のような夢』を心から祝福した。
まつり「ようこそ、『アイドルの世界』へ」
まつり「なんて、ね?」
246 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:58:27.42 ID:ArvRQigk0
バンドマン「う……うう……」
まつり「ほ? まだ意識があったのです? なかなかタフなのです」
エミリー「……?」
エミリー「まつりさん、何か……様子がおかしくありませんか?」
まつり「え?」
パキ
247 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:58:55.68 ID:ArvRQigk0
まつり「…………?」
パキパキパキ
まつり「――な!?」
この期に及んで信じがたいことが起こった!
倒れ伏すバンドマンの体が、まるで水晶と化すように固まっていく!
まつり「こ、これは――! 一体!?」
エミリー「あ…ああ……!」
パキパキパキ
248 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:59:30.04 ID:ArvRQigk0
人が人ならざるものに変貌していく、悪夢のように不気味な光景!
まつりが瞠目し、エミリーが顔を青褪めさせる前で、バンドマンの結晶化はどんどん進行していく!
バンドマン「う……ああ……」
パキパキパキパキ
バンドマン「う、嘘だ……」
バンドマン「お…俺には……才能が……ビッグな才能が…あるはず……なん、だ……!」
パキパキパキパキパキ
249 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 12:59:58.30 ID:ArvRQigk0
バンドマンが救いを求めるように結晶化した右腕を伸ばす。
そこにヒビが入ったのを見て、まつりはとっさにエミリーの目を手で覆った。
息を呑むまつりの前で、バンドマンの右腕はガラス細工のようにあっさりと砕け散ったのだった。
まつり「――ッ!」
まつり「『シャルロット・シャーロット』!」
ズキュン!!
250 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:00:24.43 ID:ArvRQigk0
まつりはとっさに治療を試みるが、
まつり「な、」
まつり「『治せない』ッ!」
まつり「(私の『スタンド』は破壊されたものを治す能力。ただ腕が千切れただけなら治せないことはないはず!)」
まつり「(まるで『命の終わり』、あるいは『世界からの消滅』だわ! この世から失われたものは私の能力でも決して治せない!)」
251 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:00:55.05 ID:ArvRQigk0
まつりが為すすべもなく立ち尽くしている間にも、バンドマンの体はみるみるうちに崩れ落ちていく。
しかしバンドマンは苦痛すら感じていないように、ひたすらうわ言をつぶやき続けるのみ。
バンドマン「嘘だ……嘘だ……あ…ああああ……!」
パキパキパキパキパキパキパキ
バンドマン「あ」
パキィ…
サラサラサラ……
やがてバンドマンの体は完全に崩れ去って砂となり、まもなく風と一緒になった。
252 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:01:24.30 ID:ArvRQigk0
まつり「……」
エミリー「まつりさん……彼は……」
まつりが首を横に振ると、エミリーは全身から力が抜けたようにその場に崩れ落ちそうになる。
慌ててまつりが抱きとめると、
エミリー「あの人には確かに酷いことをされました……。まつりさんのこともたくさん傷つけて……」
エミリー「でも、だからといってこんな終わり方……」
エミリー「まつりさん、私、怖いです……。とてもとても……怖いです……」
253 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:01:53.06 ID:ArvRQigk0
エミリーは、崩れ去ったバンドマンのために泣いていた。
恐怖も多分にあろうが、その涙には確かに、『いなくなった者への悲しみと弔い』が込められていた。
まつり「(本当に優しい子なのね)」
まつり「エミリーちゃん、とにかく行きましょう。まつりのお城でティータイムなのです。それでちょっと一息入れましょう。ね?」
エミリー「……(コクン)」
254 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:02:24.43 ID:ArvRQigk0
まつり「(とりあえず目の前の危機は退けたけど、とてもドス黒い気分だわ)」
まつり「(何か、知らぬうちに日常が侵食されていくような、少しずつヘドロに足を取られていくような、そんな嫌な感じ)」
まつりたちがその場を去ろうとしたその時、
ドスッ
255 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:02:50.92 ID:ArvRQigk0
「――――――――――え?」
まつりは一瞬、目の前で起こったことが理解できなかった。
バンドマンとの戦いの最中ですら決して冷静さを失わなかったまつりの思考が吹き飛ぶほどの光景。
『腕』がエミリーの胸を背後から貫いていた!
256 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:03:16.66 ID:ArvRQigk0
エミリー「――――――――――――あ、」
エミリー「まつ、り、さ――――――」
腕が引き抜かれると、エミリーはそのまままつりの方へ倒れ込む。
まつり「う、」
まつり「うわああああああーーーーーーーーーーーッ!」
257 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:03:51.79 ID:ArvRQigk0
まつり「ば、バカなッ! エミリーちゃん! エミリーちゃんッ!」
まつり「――――ハッ!」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
倒れたエミリーの背後には、『人』が立っていた。
いや、正確にはそれは『人型』なだけで人間にしては異様な外見。
全身は青白い陶器のように無機質な質感で、人間の目に当たる部分には眼球の代わりに宝石が埋め込まれている。それも右側だけに。
『それ』は、紛れもなく人型のエネルギー――『スタンド』だったッ!
その『スタンド』は右手に光り輝く宝石のようなものを持っていた。
258 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:04:25.01 ID:ArvRQigk0
「コノ『ピース』ノ輝キ……」
「素晴ラシイ」
「磨ケバ光ル『才能』ヲ持ッテイルダケデナク、『心』ソノモノガ夢ヲ目指ス少女ノ『純粋さ』ト『ひたむきさ』ニ満チテイル」
『スタンド』はまつりに目を向ける。
宝石の隻眼からは、人間らしい感情など伺いようもない。
「君トノ出会イモ大イニ影響シテイルヨウダナ。『Lesson1』ノ成果トシテハ申シ分ナイ」
259 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:04:52.90 ID:ArvRQigk0
まつり「ああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーッ!」
まつりは激昂のままに『シャルロット・シャーロット』を叩き込もうとするが、
『ガアッ! ガアッ! ガアァッ!』
まつり「ッ!? 何!?」
まつり「突然『カラスの群れ』がッ! それにこの異様な凶暴さは……!」
無数のカラスが狂ったようにまつりに襲いかかる!
たまらず拳の矛先をカラスの群れに変えると、目の前では更に異様な現象が起こった!
260 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:05:28.13 ID:ArvRQigk0
まつり「く、『空間』が……」
まつり「『裂けた』ッ!?」
まつりがカラスに足止めされている間に、『スタンド』は空間の裂け目に歩み寄る。
261 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:05:55.04 ID:ArvRQigk0
「『スダンド使いハ引カレ合ウ』」
「マタ会ウコトモアルダロウ。君自身ノ言ッタ通リ、君ガ前ニ進ムトイウノナラ」
そう言い残したきり、『スタンド』は空間の裂け目の中に消え、まもなく裂け目自体も何事もなかったようにピタリと閉じてしまった。
カラスの群れがどこかに飛び去ると、後には不気味な静寂さだけが残された。
262 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:06:31.78 ID:ArvRQigk0
まつり「どうして……!」
だが、まつりは気を取り直すどころか、ますます焦燥を深めていた!
今の一連の不可解な出来事が丸っきり些事だというように!
まつり「すでに『シャルロット・シャーロット』は完璧にエミリーちゃんを治し終わっている!」
まつり「いいえ、そもそも怪我なんてしていなかった! どこにも体に異常はない! なのにどうして……」
まつり「どうして、目を覚まさないのよォォーーーーーーーーーーーッ!」
263 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:06:58.75 ID:ArvRQigk0
まつりの冷静さは今や完全に崩壊していた!
傷一つ無い体とまるで安らかな夢の中を揺蕩うように目を閉じた顔。
今のエミリーは、まつりの最も忌むべき記憶と鏡像のように似ていたのだ!
264 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:07:29.00 ID:ArvRQigk0
カラン……
何かが地面に落ちるような音がした。
地面に目を向けると、それはエミリーが大切にしていた手鏡だった。
まつり「――!」
まつりはその手鏡が、まるでエミリーからこぼれ落ちた『命』そのものであるかのような恐怖を覚えた。
その忌まわしい想像を打ち消すように首を振り、手鏡を拾い上げるべく、エミリーを横たえて手を伸ばそうとしたその時だった!
265 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:08:02.39 ID:ArvRQigk0
「ソノ鏡ヲ拾ッタノナラバ……『九条まつり』」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
「アナタノ運命ハ、決定的ニ変ワルコトニナル」
「『コマドリのルビア』ノイナイ非日常ヲ」
「『奇妙な冒険』ノ旅路ヲ、歩ムコトニナル」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
「覚悟ガ決マラナイノデアレバ……鏡ヲ拾ウノハ辞メナサイ」
266 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:08:32.54 ID:ArvRQigk0
手鏡の守護者のように突如出現した存在、それもまた『スタンド』だった!
敵意や悪意を持った様子はなく、『鏡のスタンド』はただまつりに語りかけていた。
だからまつりも言葉を返した。
己自身に言い聞かせて、覚悟とするように!
267 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:09:05.06 ID:ArvRQigk0
まつり「…………」
まつり「私は、とても多くのものを借りている」
まつり「そして今日、また一つ借りが増えたわ」
まつり「エミリーちゃんには『勇気』と『強さ』を貰った! それは今の私に最も必要だったもの!」
268 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:09:31.62 ID:ArvRQigk0
まつり「『借り』は返さなければならない! ならば今日貰った『一歩を踏み出す』勇気と強さは、エミリーちゃんを助けるための歩みに使われるべきだわ!」
まつり「それがこの九条まつりの『運命』! 私の運命は私自身の手で選択するッ!」
269 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:09:57.72 ID:ArvRQigk0
まつりは昨日までの自分を振り切るように、迷いなく手鏡を掴み取る。
それが、少女時代のように長くて短い、九条まつりの冒険の幕開けだった。
←To Be continued
270 :
◆nzxhv4bDzU
[sage saga]:2020/03/07(土) 13:17:50.99 ID:ArvRQigk0
・シャルシャロドラマのカップを治すシーンってクレイジー・Dっぽいな
・まつりのスタンドは絶対に近距離パワー型だよな
この2つの妄想が結びついたらこうなった。すっげー長いな!いやほんとどうしてこんなことに。
余談ですがいわゆる「素まつり」の口調はシャルシャロドラマでまつりが演じたシャルロットに寄せてます。
それではお疲れさまでした。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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