【ミリマス】恋知れ北沢チョコ渡せ

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2020/03/04(水) 21:53:47.07 ID:/vJmgnsF0

葉っぱも落ち切った街路樹に雪が足跡を残している。

風に触られ、冷たくなっていた公園のベンチに腰を下ろし、私はその時を待っている。

お昼前。街で一番人通りが少なくなる頃合い。

閑散とした園内の、入り口にある車止めを乗り越えてあの人は姿を現した。

普段通りの気取らない格好で、でも、少しだけ緊張してる……かな?

それが私の気持ちと一緒だなんて、些細な共通点が妙に嬉しくって。


良かった。

私はホッとすると立ち上がって胸を撫で下ろした。

彼との距離が狭まって行く。

一歩、二歩。公園の中央。

向かい合ってお互いに見つめ合う瞳と瞳。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1583326426
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2020/03/04(水) 21:55:58.44 ID:/vJmgnsF0

「待った?」

「いいえ、今来た所です」

答えると、彼の指が私の鼻先に添えられた。

ほんの一瞬、微熱同士が通じ合って。

「でも、ほら、赤くなってる」

「それは……」

寒い中待ってたからじゃなくて。

言葉と裏腹。

誤魔化しの効かない天然のメイキャップに"ごめんね"なんて言わないで欲しい。

……言い当てられた私は慌て顔だ。

だけど、そんなカッコのつかない一面だって、
彼に見られるならむしろご褒美みたく思えちゃうから……恋って、とても不思議。
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2020/03/04(水) 21:58:01.56 ID:/vJmgnsF0

私は鞄から包みを取り出した。

きっと覚悟はしてきていたハズの、彼だって表情を引き締めた。

ビロードを思わせる深い赤に、差し色の入ったリボンで飾り付けられたソレは。


「……あの、これを」


私の抱えた正直な気持ちを、届けたくて、形に込めた。

"バレンタインは素直になる為の素敵な魔法。"

……受け取って、貰えるのかな?
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2020/03/04(水) 21:59:12.32 ID:/vJmgnsF0

ドキドキ、ドキドキ……。心臓が大きく脈を打って。

まるで一時停止のスイッチを押されたような時間。

遠慮がちに突き出した両腕が固まっている。

そうして、包みを握る指の感覚が信用できなくなった頃に、スッと、両手が軽くなった。

その瞬間に私の気持ちは私を離れ。

今は、ほら、照れ隠しの笑顔の隣に並んでる――言わなくっちゃ、あの台詞を。


「好きです。ハッピーバレンタイン」


ざあっと風が髪をさらう。

私も飛び切りの笑顔を披露して見せた。
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2020/03/04(水) 22:01:09.02 ID:/vJmgnsF0
===

でも結局の所、バレンタインなんて単なるお祭り騒ぎなんだ。


「俺の顔に、何かついてるかな?」

そうやって会話が始まった。

一月十八日だった。

私にとっては特別な日でも、誰かにとってはただの一日。

その時間、道路には沢山の車が走っていて、いわゆる帰宅ラッシュだった。

先に進めば進むほど渋滞模様を作る道は、なんだか人生に似てるような。

飽きずに繰り返される日常。積み重ねられていく平凡。

ただ、カレンダーの中には飛び石みたいな"今日"があって。

それは時々特別なイベント事を兼ねる。
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2020/03/04(水) 22:02:12.38 ID:/vJmgnsF0

太陽はとっくに沈み切って、等間隔で並ぶ街灯とカーライトが混ざり合っては離れていく。

無機質な、闇を裂く無邪気さのじゃれ合い。

テンポが一定のダンスみたいで見ようによってはとても綺麗。

夜は始まったばっかりだった。

蠢く光の列の中に、ありふれた水色の大衆車が一台。


そのカーオーディオから流れているのは、往年のアイドルソングメドレー。
7 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2020/03/04(水) 22:04:19.31 ID:/vJmgnsF0

それを、助手席で聴いていた。

北沢志保。中学生で十四歳になったばかり。

緩くウェーブの癖がついている、背中まで伸ばした髪は重い栗色。

スタイルについては公式プロフィールを参照のこと。

ネットに繋いで私の名前を検索欄に入力すれば、知りたい情報はすぐにも入手できるハズだ。

他にも一緒に出て来る写真とかで分かる――例えば顔立ち。は、そこそこ整ってる方だと思う。

ただ目つきが良いとは言われないな。自分でもそうは思わないし。

一応「美人だ」とか「綺麗だ」なんて評価を場合によっては受け取るけれど、
きっと「生意気」や「冷血」に「愛想って言葉とは生まれた時に生き別れてそう」って噂されてる方が多いと思う。


……でも、まあ、言わせてもらえば全ては余計なお世話というやつで。

見てくれだけで計れるほど、私はそんなに単純じゃない。
8 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2020/03/04(水) 22:06:47.67 ID:/vJmgnsF0

ただ、運転席に座ってる人――
プロデューサーさんにしてみれば、そんな悪口も結構な誉め言葉だそうで。

「つまり志保は、クールビューティなんだ!」

なんて思わず歯が浮くようなフォロー、私だったら絶対に言えない。


……一応、話の流れ上、彼のことも紹介しておくことにする。

じゃないと私が自分のことしか説明しない、本当に冷たい人間みたいだから。
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