上杉風太郎「一花、お前はかわいいよ」中野一花「ッ……!」

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16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/03(火) 23:48:15.45 ID:elO9kpWFO
「ごめんね、フータローくん」
「なんだよ、急に潮らしくなって」
「こんな馬鹿で情けない生徒でごめんなさい」

留まってくれた家庭教師に自らの醜態を謝罪すると、彼はくしゃくしゃと私の短い髪を撫で。

「そんなところが、最近可愛く思えてきた」
「か、かわっ……!?」

フータローくんが、私を可愛いって。
彼の目には私は可愛く映っているらしい。
それは役者を目指す私にとってどんな映画評論家の賞賛よりめ喜ばしく、とても嬉しかった。

「そうでも思わないとやってられないからな」
「へっ?」
「無理にでも可愛いと思わないと、お前たち姉妹の家庭教師なんて務まらないという意味だ」

あっそ。なーんだ。はいはい、わかってるよ。

「髪、伸ばそっかな……」
「は? なんで?」
「その方が君の好みかと思って」
「いや、見分けつかなくなるからマジやめて」

ふんだ。髪の長さで見分けられなくなるような家庭教師なんて皆から嫌われればいいじゃん。

「それに、その……」
「まだ何かあるの?」
「短いほうが、お前には似合ってると、思う」
「っ……!」

はい決めました。もう一生髪は伸ばしません。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/03(火) 23:50:12.56 ID:elO9kpWFO
>>16の「潮らしく」は「しおらしく」の誤りです
確認不足で申し訳ありませんでした
それでは以下、続きです
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/03(火) 23:51:06.77 ID:elO9kpWFO
「ね、可愛いって、もっかい言って?」
「嫌だね。あれは言葉の綾だ」
「可愛いって言って、頭を撫でて」
「なんで俺がそんなことを……」
「お兄ちゃんだから」

すっかり形骸化した設定を蒸し返して詰め寄ると、彼は心底嫌そうな顔をしておざなりに私の頭をペシペシ叩いて、すごくむかつく口調で。

「はいはい、かわいいかわいい」
「もっと真面目にやってよ」
「んなこと言われても……」
「らいはちゃんと同じように、やって」

彼の妹を引き合いに出すと、ようやく観念したらしく、咳払いをしてから真剣な声音で。

「一花、お前はかわいいよ」
「ッ……!」

思わず息が詰まって、顔があっつい。恥ずい。

「これでいいか?」
「う、うん……ありがと」
「これからはちゃんと言うことを聞けよ?」
「ぜ、善処しましゅ」

こんなご褒美にがあるなら、いくらでもお願いを聞いてあげたいというか、もうお姉さんは君の奴隷になってもいいかなって本気で思うよ。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/03(火) 23:52:26.77 ID:elO9kpWFO
「ふうん? 珍しく素直じゃねーか」
「お、おかしい?」
「別に。ただ少し意外だと思っただけだ」
「誰だって……きっと嬉しいよ」

自分で要求したけど、こんなの反則だと思う。

「なるほどな。褒めて伸ばすのもありか」
「フ、フータローくん……?」
「お前がここまで従順になるなら、他の奴らもベタ褒めして飼い慣らすべきかも知れんな」
「そ、そんなのダメだよっ!?」

思わず叫んでしまった。
そのくらい、嫌だった。
それは紛れもなく嫉妬。

やっぱり、私は最低だ。
長女の癖に、心が狭い。
そんな自分が、嫌いだ。

「どうした、一花……?」
「フータロー、くん……」
「なんだよ」
「私は……私はね、君に嫌われたくないよ」
「いや、まったく話が見えないんだが」

察しが悪くて助かる。醜い自分が見えてない。

「よくわかんないけどよ」

それでも彼なりに想いを汲んでくれたらしく。

「誰にだって、嫌なところはあって、そんな自分が嫌で嫌でたまらなくて、だから嫌われるのが怖いってのは、まあ、なんとなくわかる」
「うん……」
「だけど、嫌なところも含めてお前はお前なんだからさ……その、あんまり気にすんなよ」

時折、彼は鈍感でなくなるから困ってしまう。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/03(火) 23:53:02.93 ID:elO9kpWFO
「フータローくん」
「なんだよ」
「君は私の何を知ってるの?」

彼が私についてどこまで知っているのか気になり、尋ねると、彼は再び鈍感な男の子となり。

「いや、正直全然わからん」
「はあ……お姉さん、君にはガッカリだよ」
「でもまあ、妹が居る立場としてだったらなんとなく、大変さとか、辛さはわかるつもりだ」

鈍感な男の子は、今度は兄の表情を浮かべて。

「だから、お前はよくやってると思うよ」

嬉しさが胸を満たしてじんわり広がっていく。

「フータローくんは上から目線だね」
「ああ、俺は家庭教師だからな」
「今は私のお兄ちゃんでしょ?」
「兄だろうが姉だろうが関係ない」

いろんな一面がある家庭教師はきっぱり諭す。

「俺は俺の好きなようにする。だから、一花。お前も、お前の好きなようにすればいい」
「……はい」

その教えを生徒として姉として、受け入れた。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/03(火) 23:53:41.78 ID:elO9kpWFO
「というわけで……」
「どういうわけだ?」
「そろそろお姉さん限界なんだけど?」
「限界というと?」
「おしっこ」

すごく良い雰囲気だけど仕方ない。
なにせ、もう随分と我慢に我慢を重ねた。
先程の教えの通りに、私は私の好きにする。

「やっぱり俺は席を外す……」
「はい、フータローくん。これ持ってて」
「お、俺に持たせるつもりか!?」

この期に及んでまたしても生徒を置き去りにして逃げ出そうとした悪い家庭教師には、罰としてペットボトルを持たせて強制的に拘束した。

「動かさないでね。狙いが外れるから」
「む、無茶を言うなよ!?」
「私は私の好きなようにするの!」
「わ、わかったよ! ちゃんと持っててやるから、するならさっさと済ませてくれ!!」

彼が好きなようにしろと言った。ついさっき。
故に、拒否権はなく、私はわがままを通せる。
彼が持ったペットボトルに、今から放尿する。
想像しただけでゾクゾクする。背徳感が募る。

「フータローくん、出すよ」
「い、いちいち言わなくていいから」
「こっち見て。私の目、見てよ」
「っ……お前、熱でもあんのかよ」

彼と目が合うと途端に顔が火照るのがわかる。
熱なんてあるに決まってる。燃え盛っている。
そんな熱情が熱いおしっことなりて、迸った。

「んっ……ふぁっ」

ちょろろろろろろろろろろろろろろろろんっ!

「フハッ!」

あらあら。興味ない振りしてしょうがないな。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/03(火) 23:54:29.57 ID:elO9kpWFO
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

ああ、これやばい。
おしっこしてるところ見られた。
耳障りな筈の哄笑がすごく心地いい。
気持ち良すぎて、癖になりそうだ。

「はあ……はあ……全部、出たよ?」
「……そのようだな」

いっぱい出た。
きっとペットボトルはたぷたぷだろう。
私のおしっこの重みが彼に伝わっている。

「すげー重い」
「い、言わないで」
「すげー熱い」
「言わないでってばっ」
「すげー可愛かった」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

死んじゃうかと思った。
羞恥心からの悦び。愉悦が溢れる。
嬉しすぎて、胸が苦しい。すごく幸せだった。

「フータローくん……ズルい」
「はあ? ズルいのはお前だろ?」
「な、なんのことよ……」
「おしっこしてる姿が可愛いとか卑怯だろ」

卑怯で結構。彼が悦ぶならなんだってしよう。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/03(火) 23:55:10.13 ID:elO9kpWFO
「はあ〜スッキリした」
「よし。じゃあ、そろそろ勉強を……」
「スッキリしたから、おやすみ〜」
「やっぱりな! だと思ったよ!」

今日、私は学んだ。
ペットボトルがあれば布団から出ずに済む。
彼のおかげでまたひとつお利口さんになれた。

「三度寝なんて許さん! 早く起きろ!」
「あと5分だけ、お願い」

可愛く見えるように首を傾げてみたが、正直期待はしておらず、鈍感な彼には通じないだろうと思っていたのだけど、存外、効いたらしく。

「はあ……あと5分だけだぞ」
「ありがと! フータローくん、大好き!」
「はっ……言ってろ、馬鹿が」

一世一代の告白を鼻で笑われてしまったけど、不思議と落ち込むことはなく、私は彼の腕を抱きしめて再び眠りについた。そして夢を見る。

シンデレラの姉は妹が憎いわけではなく、悪い王子様から可愛い妹を守ろうとしたのだと。
白雪姫の魔女は、美しいお姫様を眠らせることによって悪い王子様から守ろうとしたのだと。

甚だ都合の良い解釈だと思うけれど、それは見方を変えればとても優しい解釈とも取れる。
【5匹の子豚】も、そんな優しい物語だった。

私は彼のそんな素朴な優しさを愛おしく思う。

願わくば、悪い王子様のキスで目覚めたい。
叶わないのならば、このまま眠り続けて悪い狼に食べられてしまっても一向に構わない。
それは自己犠牲ではなく、自分の為の願いだ。

そう遠くない将来、新郎の彼の隣に新婦として立つ自分の姿を夢見て、私は眠り続ける。


【5匹の子豚と眠るシンデレラ】


FIN
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/04(水) 04:12:31.37 ID:pLUcsP7ko
あーあ文章美味いのに性癖隠しきれない素人が、
と思ってたら君か相変わらず上手いよ。そして一花好きはやっぱりおかしい人が多いわ
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/04(水) 07:16:49.62 ID:4oSdLJ9gO
>>19
優しい。嬉しい。すごく嬉しい。
ありがとうございます
また頑張って、今度は四葉かニ乃を書きます
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/04(水) 21:06:51.06 ID:0gyMIqwdO
>>25
一花推しとしてはもっともっと一花SS書いて欲しい
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/04(水) 21:28:39.81 ID:oGng3QpoO
>>26
レスありがとうございます
一花ほんとかわいいですよね!
というか五つ子みんな可愛すぎますよね
次に誰を書くかは悩ましいですが、また読んでくれたら嬉しいです
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/05(木) 01:00:53.94 ID:5brmjkLz0
おつ
作品愛をすごく感じた
もっと書いて欲しい
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/07(土) 17:55:40.14 ID:5UAoJkSUO
>>28
レスありがとうございます!
五等分の花嫁は何度読み直しても飽きのこない、本当に素晴らしい作品だと思います
アニメ2期の制作も決まっておりますので、興味のある方や待ちきれないという方は原作も是非是非読んでみてください
僭越ながらいちファンとして花嫁SSが流行ることを祈っております!
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