白菊ほたる「傘を弔う」

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21 : ◆wsnmryEd4g [saga]:2020/02/24(月) 19:23:29.60 ID:3k7Y9koF0
……わたしたちがそれぞれ別の道を歩み始めたことについて、その具体的な経緯ははっきりと覚えていない。
気が付いたらわたしはこの街に暮らしていて、あのアパートの101号室は空っぽになっていた。

けど、わたしたちが別れることになった理由やきっかけを語るのは実はそんなに難しいことじゃない。
わたしに言わせればそれは単なるタイミングの問題。
あるいは、茄子さんの言葉を借りるなら、これもまた運命なんだろう。
きっと。

『だって、別れる時はいつか必ずやってくるんです。だから出会いだって偶然なんかじゃない。そう思わない?』

……ねえ、茄子さん。
今のわたしなら、そういう考え方も嫌いじゃないって言えるよ。
でも、運命なんて大げさな言葉じゃなくたっていい、わたしはただわたしたちの思い出が偽物じゃなかったってことを誰かに証明してほしいだけなんだ。
それってそんなに難しいこと?



地下鉄を降りて地上に出ると外は相変わらずひどい雨風、わたしはふたつの傘をしっかりと手に握り、コンクリートの大地を踏みしめ歩いていく。
そうして巨大なビルの隙間、細い裏通りの交差点に差し掛かった時、

「あっ!」

突風が吹き、傘ごと体が引きずられる。
わたしは思わず目をつぶり、転ばないよう必死に踏ん張った。
ところがどんなに踏み出そうとしてもわたしの足は大地に届かず、スカスカと宙を蹴ってばかりいる。

ふわり、と体が浮く感覚。
おそるおそる目を開けると、眼下には石でできた巨大な街が広がっている。
それはまるで雨の底に沈んだミニチュアの箱庭で、そしてわたしは空を飛んでいた!
ぶ厚い雲の裂け目から晴れ間が覗き、その陽光の中にわたしは見たんだ。
雨の中を泳いでいく傘たちの群れ。
きらきら瞬く太陽の粒。
空には虹がかかっている。

わたしは今、とっても幸せ!


おしまい。
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