男「帰りのコンビニと、美味しい肉まんと、いつものギャル」

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1 : ◆qhZgDsXIyvBi [sage saga]:2020/02/17(月) 21:22:42.10 ID:zNWUekts0
「ありがとうございました〜」

男「はむっ……うむ」

男(やっぱりここのコンビニの肉まんは最高だな)

男(美味しいだけじゃなくて、満足度が違う)

男(家の帰りにこのコンビニがあるのは感謝しかない)

男「……ん?」

女「……」

男(出た、いつものギャルだ)

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2 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:25:01.72 ID:zNWUekts0
男(制服で……いつもいる)

男(何をしているんだろ)

女「……ねえ」

男「!」

女「美味しそうなの食べてるね? 一口ちょうだい」
3 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:25:38.51 ID:zNWUekts0
軽やかなステップで僕の方へやってきた彼女は。

僕が手に持っている肉まんを、とんでもなく自然な流れで頬張った。

女「んーっ、美味し! えっ、ヤバいねこれ」

男「い、一応人気商品、だから」

言葉がつい、きょどってしまう。

女「あはは、変な言い方」

いきなりこんなことされたら、こうなるさ。
4 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:27:17.21 ID:zNWUekts0
女「その校章、同じ高校だね」

胸ポケットから校章を取り出して、僕の襟についていた校章と照らし合わせた。

女「何年生?」

男「二年生」

女「あ、同じだね。……はじめまして、メガネくん」

勝手にあだ名を付けられた。なんなんだ。

しかも安直だ。
5 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:27:55.94 ID:zNWUekts0
女「結構このコンビニ来てるよね。帰り道?」

僕は頷いた。

女「なるほどね。だからか」

彼女はそういうと、コンビニの車止めの上に乗って空を見た。

女「また会ったら肉まん、ご馳走してよ」

ニコッと笑って、そのまま帰ってしまった。
6 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:28:48.04 ID:zNWUekts0
なんなんだ、一体。

僕は食べられた肉まんを見る。

彼女のらしきリップクリームが付いて、少しツヤっとした肉まんの生地。

男「……忘れろ忘れろ!」

そう言って、肉まんを全部食べ切った。
7 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:29:17.58 ID:zNWUekts0
次の日。

女「おっ、メガネくん」

ギャルはまたコンビニにいた。

女「昨日はありがと。今日も肉まん食べるの?」

男「まあ」

女「そっか。じゃあ外で待ってるね」

もらう前提じゃないか、それ。
8 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:29:55.95 ID:zNWUekts0
「ありがとうございましたー」

男「……」

女「おかえり。買った?」

男「う、うん」

また食べられるのか……。

女「よーし……じゃんっ」

あれ、肉まん……?
9 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:32:14.69 ID:zNWUekts0
女「一緒に食べようと思って待ってたんだ」

男「え……」

女「いただきまーす。あむっ……ん、食べないの?」

男「ど、どうして待ってたの?」

女「へ? 食べさせてくれたじゃん」

いや、そうだけど。

理由になってない。
10 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:32:40.34 ID:zNWUekts0
女「んー、初めて食べたんだよね、ここの肉まん」

僕を指さして。

女「美味しさ教えてくれたのがメガネくんってことで」

それが理由だよ、と。

ニコッと笑う。

男「……」

可愛い。
11 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:33:46.18 ID:zNWUekts0
この現状はなんだろう。

僕は今、ギャルの隣で一緒に肉まんを食べている。

いつも遠目で見ていた彼女が。

今、すぐそこにいる。

彼女は黙々と食べる。

僕も黙々と食べる。

内心、凄く緊張しながら。
12 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:34:15.78 ID:zNWUekts0
女「メガネくんさ、学校楽しい?」

男「え……別に」

女「ふーん? じゃあ一緒だね。私もあんまり楽しくない」

男「な、なんで?」

女「ん? なんかあんまり合わないんだよね、クラスメイトと」

肉まんを頬張りながら、そう言った。
13 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:34:42.05 ID:zNWUekts0
女「ノリって言うのかな。あんまりワイワイするのも好きじゃないんだよね」

そういう風には、とてもじゃないけど見えない。

女「……疑ってる?」

疑ってはいない。

けれど。

男「僕と……一緒だと思って」

なんだか、少しだけ安心した。
14 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:35:52.43 ID:zNWUekts0
女「ん〜? メガネくんと一緒かぁ」

唇を一回りペロリと舐めて、

女「悪くないかもね」

と、僕に笑いかけた。

女「それにしても、この肉まん最高だね」

男「うん」

なんだか、和やかなムードだ。
15 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:36:19.26 ID:zNWUekts0
次の日。

女「あ、メガネくん」

男「や、やあ」

女「そろそろ私のこともなんか呼んで欲しいな〜」

男「えっ」

まだ、僕らは一度も名前を名乗っていない。

女「第一印象メガネだったから君はメガネくん。じゃあ私は?」

キラキラした眼を向けられても困る。
16 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:36:49.78 ID:zNWUekts0
男「怒らない?」

女「え、どんな印象!?」

男「……ぎゃ、ギャル」

女「えー! ギャル!? ギャルなのか〜」

ちょっとだけ落ち込んでいる様子だ。

嫌なのだろうか。

女「じゃあ、『ギャルちゃん』って呼んでよ」

男「え……」

急にそんなこと言われても。

は、恥ずかしい。
17 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:37:15.35 ID:zNWUekts0
女「はいメガネくん! せーのっ」

男「……ギャルちゃん」

女「……ぷっ、あははははは!」

なんで笑うんだ。

女「あははははははは……おっかし」

言えっていうから言ったのに。

酷い仕打ちだ。
18 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:37:47.04 ID:zNWUekts0
女「ふー……なんでギャルなの? そんな要素ある?」

男「茶髪だから」

女「え、それだけ!?」

僕は頷いた。

女「なるほど、メガネくんにとっては茶髪はギャルなんだ〜?」

下から顔を覗いてくる。

すっごいニヤニヤした顔で。
19 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:38:52.03 ID:zNWUekts0
女「ギャルは好き?」

男「す、好きじゃない」

女「あ、そうなんだ」

男「……」

また頷く。

女「すっごくストレート否定されちゃった」

男「あ……う……」

なんか、ちょっと罪悪感。
20 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:39:23.64 ID:zNWUekts0
女「じゃあメガネくんは私のこと嫌いなの?」

男「き、嫌いじゃない!」

女「なんだ、良かった」

自分の髪を触って、いつもより控えめに笑った。

女「さっ、肉まんも食べ終えたし、帰るね」

包み紙を丸めてゴミ箱にバスケみたいなシュート。

見事ゴール。

女「よっし! んじゃね、メガネくん」
21 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:40:37.24 ID:zNWUekts0
男「……」

ペースはずっと、彼女に持っていかれている。

次はもっと、ちゃんと。

男「……って、何を考えてるんだ僕は」

次があるかもわからないのに。

ちょっと期待している僕は、バカだ。
22 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:41:26.16 ID:zNWUekts0
次の日。

女「毎日毎日肉まん買えるお金があって凄いなーメガネくん」

男「バイトしてるから」

女「えっ、すごっ!」

別に、凄くない。

女「……ねえ、まだ今日ギャルちゃんって呼ばれてないよ」

男「えっ」

きゅ、急過ぎる。

女「はい。呼んでー、どぞっ!」

男「ぎゃ、ギャゥちゃん」

女「噛んだー!! あはははっ」

……恥ずかしい。
23 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:43:25.64 ID:zNWUekts0
次の日。

女「あれ、今日は肉まん買わないの?」

男「毎日食べてると、身体に良くないから」

それに、毎日買えるほどの財力はない。

……昨日言われたけれど、流石に毎日は買えない。

女「え〜、ちょっともらおうと思ったのにな」

昨日も一昨日もあげたじゃないか。

女「ま、いいや。お話しよ」

仕切り直して、彼女は笑う。
24 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:44:58.49 ID:zNWUekts0
彼女と僕は、コンビニでしか会わなかった。

学校で見たこともないし、お互いに探そうともしていなかった。

コンビニでいつも会えるから、僕はそれでいいと思っていたし。

きっと、彼女もそうなんだと思う。

そもそも、学校で僕と彼女が一緒にいたら不自然だ。

それくらい、一緒にいるような人間じゃないと思っているから。
25 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:45:24.38 ID:zNWUekts0
女「ねえメガネくん」

男「なにギャルちゃん」

もう、お互いに呼び合うのは慣れてきた。

女「この前学校でメガネくん見かけちゃった」

いやにニヤニヤしてるなぁ。

女「隣にいた女の子誰なのかな〜?」
26 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:45:56.02 ID:zNWUekts0
隣にいた女の子……?

ああ、日直で一緒だったあの子か。

男「なんでもないよ、別に」

女「ふーん」

自分から聞いてきたのに。

つれない返事だ。
27 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:46:25.30 ID:zNWUekts0
女「結構可愛かったじゃん」

男「そうかな」

女「大人しそうな感じ」

男「そうだね」

間違いなく君よりは。

大人しい人だと思う。
28 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:48:37.97 ID:zNWUekts0
女「ああいう子が好きなの?」

男「えっ」

どうしてそんな話になるんだ。

女「あれれ、図星?」

ニヤニヤするギャルちゃん。

こういうの、慣れてないからやめて欲しい。
29 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:49:04.73 ID:zNWUekts0
少し戸惑いながらも、僕は答える。

男「好きじゃないって言ったら嘘になる……よ」

日陰者の僕にも普通に接してくれるクラスメイトなので。

良くも悪くも、だ。

女「ふーん」

スクールバッグからスティックキャンディを取り出して、

女「つまんないの」

と、呟いたのだった。

……どういう意味だ。
30 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:49:31.23 ID:zNWUekts0
女「なんかさ〜好きな人とかいたら面白いのになって思ったのに」

男「いたらいいね」

女「できたら教えてよ」

やだよ。

女「ちなみに好きなタイプは?」

なんで教えないといけないんだ……。
31 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:49:57.67 ID:zNWUekts0
男「言わなきゃダメ?」

女「ないなら別に」

彼女はスカートのポケットから、飴を取り出した。

棒付きキャンデーというやつだ。

男「……」

僕は少し考える。

好きなタイプ、か。

男「静かな子……かな」

女「やっぱりさっきの娘じゃん」

決めつけないでくれ。
32 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:50:42.70 ID:zNWUekts0
女「もー、応援してあげるのに。見栄張っちゃってさ」

ニシシと笑う彼女。

男「待ってくれ。確かにあの娘はわりと当てはまってるけどさ」

女「うん」

男「……付き合いたいとかじゃ、ない」

なんだそれ。

自分で言ってても不思議な発言だ。
33 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:51:09.10 ID:zNWUekts0
女「……ふーん」

彼女は空を見上げて、飴を楽しんでいた。

さっきから、返事が悪いな。

男「……ギャルちゃんは、どうなの」

聞き返してみる。

女「私? 私は好きになった人が好きだよ」

なんだよ、その答え。

ズルい。
34 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:51:40.70 ID:zNWUekts0
女「まぁ、前に言ったけど、私もやかましい人は好きじゃない。疲れるから」

男「一緒だ」

女「そだね、だから……」

彼女は携帯を取り出す。

女「こうやって勝手に連絡先を誰かから聞き出してくる奴らはみんな嫌い」

見せてきた画面には、男子の名前が羅列していた。

ああ、そうだった。

彼女はギャルで。

僕とは住む世界が違うんだった。
35 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:52:11.97 ID:zNWUekts0
男「……凄いね」

女「凄くない。ウザいし」

彼女は一切、連絡を返していなかったように見えた。

女「○○ちゃんから教えてもらいました、みたいなのばっかでさ」

ケラケラと笑う。

女「本人から直接聞けないくせに、連絡してくんなって話」

冷めたトーンで、彼女は言った。

女「本当に、嫌になる」
36 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:52:46.08 ID:zNWUekts0
男「……」

僕は何も言えなかった。

彼女の立場に僕は立てなかったから。

想像が一切できなかった。

僕は友達なんて全然いない。話す相手だっていない。

だから、彼女に対して尊敬というか、なんというか。

とにかく凄いと思うことしかできなかった。
37 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:54:11.46 ID:zNWUekts0
女「メガネくん、茶髪はどうなの?」

どや顔で髪をなびかせる。ふふんと鼻を鳴らしている。

男「……黒髪の方が、いいかも」

率直に答えた。

女「えー、せめて私の前では好きって言って欲しかったな」

男「えっ、あっ、うぅ……」

女「ま、いいんだけどね。メガネくんは嘘をつけないタイプだ」

うんうんと腕を組んで見せる。

すると、彼女の携帯からいくつもの通知が鳴り響く。
38 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:54:39.32 ID:zNWUekts0
女「げっ、通知消し忘れてた。うざー」

恐らく、さっき言っていた男子たちからだろう。

彼女は深いため息を吐いて、通知を切った。

女「あーあ、気分落ちちゃった。……メガネくん」

男「ん? んあっ?!」

何かを口に入れられる。

女「今日は帰るね。バイバイ」

男「あ……バイバイ」

口の中に入っていたのは、さっきまで彼女が舐めていた棒付き飴だった。
39 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:55:10.07 ID:zNWUekts0
結局、その週の平日はずっと彼女に会ったのだった。

どうして僕と話をする(してくれる)のかは、まだわからない。

でも、コンビニに行けばさらっと会話が始まって。

僕は嫌ではなかった。

男「……今、なにしてるのかな」

ふと、ギャルちゃんのことを思い出す。

彼女のことを思い浮かべる。

……ちょっと、照れ臭くってすぐにやめたけれど。
40 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:57:16.53 ID:zNWUekts0
僕は週末にバイトをしていた。

だから、休日はほとんど働いている。

そのお金で、肉まんを買っているわけなのだけれど。

それ以外はほとんど何も使っていないので、ほとんど肉まんを買うだけに使用されている。

他に使うこともないし。

週末は、彼女に会うことなく、バイトで過ぎていった。
41 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:57:42.44 ID:zNWUekts0
女「メガネくん身長いくつ?」

男「君より低い」

女「うん、知ってる」

顔を若干上に向けて見下してくる。

女「あはは、そんな怖い顔しないでよ」

情けない。
42 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:58:08.93 ID:zNWUekts0
女「はー、お金欲しいな」

男「バイトしないの?」

女「この前辞めちゃった」

してたんだ。

男「どうして辞めたの?」

女「無理だなと思って辞めた」

全然わからない。

厳しかったのかな。
43 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:58:34.93 ID:zNWUekts0
女「でもバイトしないとな〜」

男「何か欲しいものがあるの?」

女「もちろん。服とかさ」

男「服、か」

制服しか見たことがないから、わからないけれど。

きっと何を着ても似合うんだろうな、ギャルちゃんは。
44 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:59:10.42 ID:zNWUekts0
女「メガネくん、服興味無いでしょ」

突然問われる。

確かに、私服はいつも一緒の服を着ているかも。

男「そ、そうだね」

女「ダメだよー。大学入ったら、毎日私服なんだから」

そう言って携帯をイジる。

女「……帰るね」
45 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 21:59:36.29 ID:zNWUekts0
男「えっ」

そういうと、彼女は早歩きで去って行った。

一体、なんだったんだろう。

「あれ、いねーな」

少しして、ある一人の男がそう言った。

「よくこのコンビニに来るって聞いてたんだけど……ちぇっ」
46 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:03:16.12 ID:zNWUekts0
と、もう一人の男が呟く。

僕と、同じ制服を着ていた。

「……ん?」

二人の男は僕を見る。

気にしないように、持っていた肉まんをゆっくりと食べる。

ちょっと、震えつつ。
47 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:03:57.41 ID:zNWUekts0
「ぷっ」

「おい、笑うなって……くふっ」

笑い声が聞こえる。

僕を見ながら、二人はバカにしたように笑った。

ああ、そうだ。

僕は地味で、こうして遠くから笑われるような人間だ。

しょせん、日陰者さ。
48 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:08:17.85 ID:zNWUekts0
肉まんを食べながら考える。

きっとこの二人は、ギャルちゃん目当てでやってきたのだろう。

それを察して、彼女は帰った。

以前言っていた男子たちの一部だろう。

僕は少し、苛立ちを覚えた。

……とは言っても。

別に、僕は彼女のなんでもないのに。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/17(月) 22:08:18.73 ID:/6dHRAm7O
C
50 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:11:16.84 ID:zNWUekts0
次の日。

彼女は姿を現さなかった。

というよりも。

昨日いた男子たちがたむろしていたのだった。

男子たちは携帯を眺めている。

僕は、肉まんも買わずにコンビニを素通りして帰った。
51 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:11:57.20 ID:zNWUekts0
次の日。

男子たちはいなかった。そして、ギャルちゃんもいない。

昨日は肉まんを食べられなかったので、今日は食べたいとコンビニに入ろうとした矢先、

とんとん、と肩を叩かれた。

振り向くと、頬にツンとした感触。

誰かの指だ。

女「やっほメガネくん」

ギャルちゃんが、にや〜っと僕を見ていた。
52 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:14:45.80 ID:zNWUekts0
男「あ、ギャルちゃん」

女「一昨日ぶり」

男「うん、一昨日ぶり」

女「この前はさっさと帰っちゃってごめんね」

男「いいよ」

理由はよくわかったから。
53 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:17:57.44 ID:zNWUekts0
女「昨日はそもそも会わなかったもんね」

男「そうだね」

女「なんか、不思議な感じした。毎日会ってるからかな」

首を傾げて、そう言う。

男「実は、僕もそう思ってた」

女「やっぱり? だよね」

彼女は控えめに笑った。
54 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:20:34.67 ID:zNWUekts0
男「大変そう?」

女「ん、何が?」

男「えっと……」

なんて言えばいいのかな。

男「……人間関係?」

女「人間関係?」

聞き返されてしまった。

言い方、間違えたかな。
55 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:21:00.29 ID:zNWUekts0
女「んーん、別に気にしなくていいよ」

あ、通じているようだ。

女「ほら、入り口付近で立ってたら邪魔! さっさと買ってきな〜〜」

そう言って、ずっと頬に当たっている指をグリグリとされる。

地味に痛い。
56 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:24:05.55 ID:zNWUekts0
「ありがとうございました〜」

無事、肉まんを買った。一昨日ぶりの肉まん。

女「おっ、来た来た」

男「……はい」

女「え、なに?」

男「一個あげる」

今日は、二つ買った。
57 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:24:31.41 ID:zNWUekts0
女「いいの?」

男「うん」

女「……にしし、ありがとメガネくん」

彼女は顔をクシャッとさせて笑った。

男「ど、どういたしまして」

本当に、可愛い人だ。
58 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:24:57.66 ID:zNWUekts0
彼女とこうしてゆっくり肉まんを食べている時間。

僕は凄く、好きなのかもしれない。

女「去年やってたクリスマスパーティーって行った? 学校の」

男「行ってない。バイトしてた」

女「そうなんだ。私も行ってないんだけどね」

じゃあなんで聞いたんだろう。
59 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:25:34.99 ID:zNWUekts0
女「でもさ、メガネくん酷いよね」

男「え」

女「女の子に肉まんあげるなんて」

頬を膨らませて、睨んでくる。

な、なんでだ?

女「太っちゃうじゃん。バカ」

彼女はまた笑って、肉まんを頬張った。
60 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:27:04.93 ID:zNWUekts0
そうか、この肉まん。

美味しい分、カロリーも高い。

なんだか申し訳ないことをした。

女「そんな沈まないでよ、冗談冗談」

手をパタパタと振っている。

僕にとっては、判断が難しい。
61 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:27:31.21 ID:zNWUekts0
女「学校に行ってさ」

男「うん」

女「ここに来るじゃん」

男「うん」

女「……にししし」

なんで笑うの。
62 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:30:19.49 ID:zNWUekts0
女「ここに来るのが楽しみなんだよね最近」

男「……どうして?」

女「え、言わせるつもり?」

わからないから、聞いてる。

女「それはね、メガネくんに会えるからだよ」

男「……」

どうしよう。

多分、顔真っ赤だ。
63 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:31:36.86 ID:zNWUekts0
女「照れてんの? あはははっ」

そりゃ照れる。

こんなこと、生まれて初めて言われた。

どう返せばいいんだろう。

男「……ありがとう」

女「なんでありがとう?」

男「……なんでだろ」

女「あはは、おっかし」

……笑い飛ばしてくれたから、良しとしよう。
64 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:32:07.14 ID:zNWUekts0
僕らは、コンビニで会うことを続けた。

約束なんてしていないのに、時間も決めていないのに。

僕とギャルちゃんは、会えるのだ。

学校は一緒なのに、名前も連絡先も知らない。

でも、それでいいと思った。

僕はメガネくんで、彼女はギャルちゃん。

それだけで良かった。
65 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:32:33.36 ID:zNWUekts0
そんなこんなで1ヶ月ほど経った日のこと。

僕は、初めて学校で彼女を見た。

男「あっ……」

思わず声を出す。

女「……」

ギャルちゃんは炭酸の乳酸飲料を持ちながら歩いていた。
66 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:32:59.49 ID:zNWUekts0
声をかけるべきだろうか。

立ち止まって思案する。

男「……」

でも、待てよ。

僕、名前を知らないんだった。

彼女はどんどん離れていく。
67 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:43:42.54 ID:zNWUekts0
男「ギャルちゃ――」

途中まで言いかけた彼女の呼び名。

しかし。

最後まで言わなかった。

僕のようなやつに声をかけられたら、周りが不審に思うかもしれない。

そんな不安が頭を駆け巡って。

最後まで、言えなかったんだ。
68 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/17(月) 22:44:08.29 ID:zNWUekts0
そそくさと彼女から見えない場所に移動した。

ギャルちゃんがこっちを向いた気がした。

でも、僕はそれを確認することはできなかった。

男「……」

これでいい。

きっと。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/17(月) 22:44:43.82 ID:zNWUekts0
ここまで。

明日完結します。

よろしくおねがいします。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/18(火) 01:09:21.20 ID:2Q6dYh0G0
雰囲気とか好き
71 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:30:23.84 ID:Iye83NiB0
その日のコンビニ。

僕は肉まんを食べながら、彼女を待っていた。

いつもより遅い。どうしたんだろう。

男「あっ」

彼女のシルエットを遠くから確認する。

男「……?」

一人ではない。
72 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:30:49.61 ID:Iye83NiB0
あれは、男子だ。

隣に、見慣れない男子。

男「……」

コンビニに近づいてくる。

黙々と肉まんを食べる。

ギャルちゃんは、楽しそうだった。
73 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:31:33.34 ID:Iye83NiB0
彼女達はコンビニを素通りして、そのままいなくなってしまった。

離れたのと同じくらいに、僕はいつもより早く肉まんを食べ切っていた。

男「……」

食べたはずなのに、肉まんの味がまったく感じられない。

一緒に買ったお茶を飲む。

男「うっ!? ゴホッゴホッ」

勢い良くむせた。

男「……」

落ち着いて、僕は帰路についた。
74 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:32:42.41 ID:Iye83NiB0
帰り道。

僕は何も考えられなかった。

コンビニを通ったギャルちゃん。

僕に一切目もくれなかった。

胸がモヤモヤする。

メガネを掛けているのに、視界がボヤけているように見えた。
75 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:33:09.27 ID:Iye83NiB0
次の日。

校内に噂が流れた。

『ある人と、ある人が付き合い始めた』

そんな噂だった。

友達のいない僕の耳にすら入るくらいの大きな噂。

二人とも、聞きなれない名前だったけれど。

そのある人の一人は、ギャルちゃんのようだった。
76 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:33:50.36 ID:Iye83NiB0
思えばおかしかった。

僕のような『空気』みたいな人間が。

他の生徒にも嘲笑されるような人間が。

あんな娘と一緒にいられたこと自体が。

何もかも、おかしかった。

男「……」

あの時、声をかけなくて正解だったんだ。
77 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:34:24.85 ID:Iye83NiB0
世界が違う。

僕は日陰者らしく。

光で照らされた人々の陰に隠れていれば良かった。

男「……」

というか、ギャルちゃんの光に僕は。

隠れていたのかもしれない。

その噂を知り、帰った夜。

僕はずっと涙が止まらなかった。
78 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:34:52.80 ID:Iye83NiB0
次の日。

僕は赤い目を擦りながら、登校して。

何気なく学校を終えて。

コンビニを通らずに帰った。

肉まんを食べる気には、ならなかった。

それに。

コンビニを見るのも、嫌だった。
79 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:35:38.97 ID:Iye83NiB0
その日、僕は何も食べなかった。

お腹が空かなかった。

心は空っぽになっているのに。

お腹は、全然空かなかった。

男「……」

生きている心地がしない。
80 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:36:19.98 ID:Iye83NiB0
目を閉じると、ギャルちゃんが浮かんでくる。

男「……」

やめろ。

僕はもう。

彼女のことを思い出したくないんだ。

本当に、情けない。

辛くて、しかたない。
81 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:37:20.85 ID:Iye83NiB0


数日が経過した。


つまり、ギャルちゃんと会わなくなって数日。

僕は、学校に行かなくなった。

もう、どうでもよかった。

男「……」

考える度に、どれほど情けないかを痛感する。

学校まで休むほど落ち込んで。

僕は、愚かだ。
82 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:38:20.80 ID:Iye83NiB0





あれから、1ヶ月ほどが経過した。





ある日の週末。

夜更かしして、早朝に寝る。

昼頃に起きて、二度寝して。

夕方前くらいに目が覚めるのが当たり前になっていた。

まだ、一日は終わっていない。

男「……あっ」

お腹が大きく鳴る。結構激しく。

男「……何か食べよう」

そう言って、僕はベッドから離れた。
83 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:39:47.45 ID:Iye83NiB0
両親は放任主義で、僕が学校に行かないことを咎めることはなかった。

むしろ、「ちゃんと気持ちの整理がつくまではゆっくりしろ」と。

そう言ってくれた。

食べたいものは家に置いてなかった。

外に出て食べることにした。

男「……」

着替えて、家を出た。

何を食べようか。
84 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:40:14.84 ID:Iye83NiB0
僕はジャンキーな人間だ。

ファミレスよりもファストフード。

ファストフードよりもコンビニ飯。

男「……肉まん、食べるか」

独り言を呟いて、僕はコンビニに向かった。
85 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:40:47.50 ID:Iye83NiB0
一か月ぶりの外出は、すんなりとしていた。

男「……」

いつもとは逆方向から、コンビニに向かう。

コンビニは、通学路であって、普段は通る場所ではない。

なんだか、違和感がある。

それに。

あんまり、行きたくはない。
86 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2020/02/18(火) 22:41:13.88 ID:Iye83NiB0
でも。

もう断ち切らないといけない。

今までの自分を取り戻すんだ。

彼女とのことはひと月だけのことだったんだ。

僕はそれ以上の間、一人でいたじゃないか。

大丈夫。

大丈夫だ。

そろそろ、学校に行かないと。
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