白雪千夜「私の魔法使い」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

102 : ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:31:45.36 ID:ldlfMP+C0
27/27



 事務所の自室で1人、プロデューサーは茫然自失になりながらデスクで千夜からの連絡を待っていた。

 ちとせから託されたもう1つの大事な物。千夜に宛てられた手紙を会場から撤退する際に渡してから、1日が経過していた。

 千夜のLIVEパフォーマンスはレッスンでも見られなかったほどの素晴らしいものだった。

 1人用に組み直されていたはずのダンスや歌唱のところどころに、ちとせを彷彿とする優雅な笑みや気品を浮かばせて、2人で舞台に立っているような気にさせられたのだ。

 長年の付き合いが為せる業なのか、それともちとせが本当にそばに付いていてくれたのか。

 極めつけは、プロデューサーも見たことのない千夜の笑顔がステージを彩っていた。

 ちとせに届けようとしていた笑顔は、ちとせの思い出として刻まれていた太陽のような輝きを、どこまで取り戻したものなのか。それを教えてくれる人はもう、いない。

 そんな最高の舞台を1人で創り上げて帰ってきた千夜に待っていたのは、プロデューサーからの称賛ではなく、残酷な報せであった。

 LIVEを終えすぐにでもちとせのもとに向かおうとする千夜へ、プロデューサーは何も告げられないまま封筒を手渡す。

 尋常でない気配を察してか読む前から陰り始めた千夜の面持ちは、やがて絶望に染まっていく。アイドルの絶望、プロデューサーがアイドルたちを輝かせてきた裏で、何度も経験してきた光景だ。

 光を失い、笑顔を失う。共に歩んできたアイドルに一番してほしくなかった顔をさせてしまっている。

 ちとせがいなくなったことで、こうなることは予測していた。それでも現実を突きつけられると頭が真っ白になる。

 千夜の場合、アイドルとしても1人の少女としても輝いていけたはずなのに。

 ちとせが消えてしまった原因はわからないままだが、もしアイドルを続けたからこうなってしまったというなら、なんという皮肉だろう。

 手紙を読み終えるなり、自分の荷物を粗暴に手にして千夜は衣装のまま走り去っていく。追い掛けたかったのに、身体がとっさに動かない。

 いつかちとせが倒れたというメールを受け取り、何も考えず飛び出していった身体を凍り付かせてしまうほど、プロデューサーもまた希望を失っていた。

 絶望の淵に追いやられていったかつてのアイドルたちの影も重なり、夢を悪夢へ変えてしまった魔法使いに何が出来るというのか。

 そう自分を責めながら、小さくなる背中を目で追うことしか出来なかった。

 千夜をそうさせた手紙に何が書いてあったのかは、想像はつくが具体的にはわからない。

 わかることがあるとすれば、ちとせはプロデューサーのすぐそばで消えるようにいなくなった、それだけだ。
103 :27/27  ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:33:21.09 ID:ldlfMP+C0
 そうして千夜までもいなくなってから、何度も連絡を取れないか持たせてある携帯電話へメールも電話も試してみたが、千夜からの応答はまだ無い。

 回収してある千夜が会場に残していったものはちひろに管理してもらい、いつ千夜が事務所に戻ってきてもいいよう、会場を後にしてから今に至るまでプロデューサーは事務所の部屋で待機している。

 さっき夜が明けたばかりのはずが、既に西日が差し込んできていた。

 懐から時を刻むべく動き出した懐中時計をもう何度目になるのか手に取り、どうしてちとせはいなくなってしまったのか振り返ろうとした時。ふと、ちとせから渡されたものを思い出す。

「……そういえば、もう1つ……」

 ちとせから渡されたものは3つあった。手元に残ったちとせの家の鍵だけはプロデューサーに持たせるためにちとせから託されている。

 ちとせが何かを見据えて、これを持っていてほしいと渡してくれたのなら、使いどころは今しかない。

 家に帰っているのならひとまずは安心だ。だが、その昔ちとせが目の当たりにしたという、千夜が闇に沈んでいってしまうのを誰の手も届かないところで迎えてしまっていたら。

 とにかく千夜を独りにさせてはいけない。連絡もつかないのだ、他に手掛かりもなければそれに賭けるしかない。

「待ってろよ……千夜」


 ちとせの家までの道のりは完璧に覚えている。早く向かってやらなければと、気持ちがはやる。だがここで何かあってはいけない、平常心で運転出来る自信は無かったのでタクシーを拾って急いでもらうことにした。

 1分、1秒でも早く着くことを願いながらようやく2人の住むマンションの前まで来ると、財布に入っていたお札を丸ごと運転手に握らせてエントランスに急ぎ、インターホンで呼び出してみる。
 が、応じる気配は一向になかった。

 それならと、ちとせから渡された鍵でオートロックを解除し中へ進んだ。ホテルのロビーのような空間からエレベーターへ一直線に向かい、彼女たちの住んでいる階層のボタンを押す。

 目的の階に着くまで待っている間、昨日も訪れたばかりのはずがやけに別世界のように感じられた。千夜は家にいるのだろうか。ちとせは……家にいないのだろうか。

 はやる気持ちを抑え、迷わずちとせの家がある部屋の前までたどり着く。念のためノックをしてみるが、やはり反応は返ってこない。

 ここに千夜がいなければ、お手上げだ。千夜から連絡をしてこない限り、どこにいるのか追い掛けることもままならない。どうかここにいてくれるよう、プロデューサーは祈るように渡された鍵を使わせてもらう。

 真っ先に玄関にある靴を見やると、普段履いていたちとせの分も千夜の分も置いてなかった。衣装のまま帰ってきているとしても、それすらもない。ここにはいないのだろうか。

「千夜、俺だ! いないのか!?」

 いきなり押し入ってきたのがプロデューサーであるとわかるように、声をあげながら中へ入る。見慣れたリビングはカーテンが閉め切られ何の音もなく、人の気配も――

「……千夜?」

 いや、いる。足元まで衣装姿のままの千夜が、手紙を手にしたままフローリングに力なくへたり込んでいた。

 ゆっくりと近付くと、ようやく誰かが家に入ってきたことに気付いたのか、千夜は俯いていた顔をはっと上げた。
104 :27/27  ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:34:29.27 ID:ldlfMP+C0
 そこにいたのが求めていた人物ではなかったからか、とっくに涸らしていただろう涙の跡にまた雫が流れていく。頬をつたった涙が2つのネックレスへとこぼれていく。

「…………。お前がここに来たということは……お嬢さまはもう、戻ってこないのですね?」

 掠れ切った千夜の声が胸に深く突き刺さる。憔悴しきった目の前の少女が、昨日あれだけのLIVEをこなしたアイドルとは到底思えない。

 千夜はちとせがいなくなったことだけは理解しているらしい。そして、それの証左となったのがプロデューサーの到来、そのような口ぶりだ。ちとせはどんな手紙を書き残したのだろう。

 プロデューサーはどう返したものか言葉に詰まる。目を離した隙に消えた、なんて本気で信じる人間はいない。ただの人間であれば、だが。

「……そうだ。ちとせはもう、帰ってこない」

「…………どうして、ですか」

「俺だって聞きたいよ。でも」

「どうして私に、何も言ってくれずに……。私はまだ、あの人に何も……」

 嗚咽を漏らす千夜に近寄り、どうするべきか迷ってから、そばに座り込んで頭を撫でてやることにした。

 それが発端となり、千夜はプロデューサーの胸元を頭で埋めると、両腕でしがみついて声を上げて泣き始める。

 残された僅かな温もりをどこへも行かせまいと込められた力は、千夜の細腕のどこにあったのか。涸れ果てているだろう涙がとめどなく流れることは無かったが、千夜はそれでも泣き続けた。

 夢を見せた結果がこれなのか。千夜が泣きやむまでの間、何度も繰り返してきた自責を再び繰り返す。

 ……悪夢でしかないなら、この夢は今にでも覚めなければならない。

 魔法使いと呼んでくれた2人の少女のためにも、プロデューサーは千夜を離し、代わりにある物を取り出す。

「これな、動き出しちゃったんだ。千夜の手で止めてくれないか?」

「……?」

「頼む……。俺が千夜に掛けてやれる、最後の魔法だから」

 千夜の頭で取り出せなかった、懐の懐中時計を千夜に持たせる。こんなものをどうするのかと問われる前に、魔法という言葉を口にして。

 仕掛けを教え、回ってしまった針を逆に回転させていく。動き出してから1日と数時間は過ぎているので、長針が12時を3回まわったところで止めさせた。

「あとはここを押せば……夢は覚める」

「……夢?」

「悪い夢からは、覚めなきゃな」

 戸惑う千夜の手に自分の手を重ねたプロデューサーは、そのままある部分を押し込ませる。

 刹那、ステージ上のライトにも匹敵する眩い光が辺りを包み込み、全てを白が飲み込んだ。

 千夜に夢を見せるきっかけとなった、あの瞬間まで時を遡る。この行為を人は魔法と呼ぶかもしれない。これを行使する者もまた、魔法使いと呼ぶのだろう。

 形は違えど、魔法使いと呼んでくれた少女のために、プロデューサーは再び過去に戻ってやり直す。絶望を希望へと変えるために許された、己が使える唯一の魔法をもって。

 そうして意識すらも白に飲み込まれていく中、遠くで千夜の呼び声が、聞こえてきたように感じた。



105 : ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:35:41.54 ID:ldlfMP+C0
27/0



 白へと落ちていった先には、黒が待っていた。

 正確には夜の世界だ。頭がぐらつきながら、桜もこれから色めこうとしている気候を肌で感じ、だんだんとはっきりしていく視界には――

「……ねぇ、聞いてる? ボーッとしないで」

 聞き覚えのある声の主は、いなくなったはずの少女のものだった。

 何もかもが灰色に見えていた世界で出会い、言葉を交わし、再びアイドルのプロデューサーとして歩むきっかけをくれた少女の名を、忘れるわけがない。

 そして――千夜と出会うきっかけをくれたのも、彼女だ。

「ああ、聞こえてる。……黒埼ちとせ、さん」

 少女の名を口にすると同時に、微笑みはそのままに紅い瞳がプロデューサーを射抜く。初対面のはずが名前を知られていたとなれば、警戒もするだろう。

 このリスクがあるため本来は様子を探り、それまでの会話の流れを掴むまで相手のことを知らない前提で話さないといけない。

「ふぅん……様子がおかしくなったと思ったら。本当は知ってて私に近付いたんだ」

 背筋がたちまち凍っていく。声だけでこんなにも相手を圧倒する迫力が出せるとは。

 しかし、怯むわけにはいかない。これもちとせの新たな一面を引き出す好機だったと捉えよう。

「知ってるよ。知ってきた、と言うべきか」

 紅い瞳を真正面から見つめ返す。意味深な物言いに興味を持ってくれたのか、下がっていた周囲の気温が上がったように感じた。

「……あなた、面白いこと言うね。私の何を知ってきたというの?」

 答えた内容によっては何をされてもおかしくない、という雰囲気を残して尋ねられる。

 はたしてプロデューサーはちとせの何を知ってきたというのか。お互いに踏み込まないまま別れることになったではないか。

 ちとせについて知っていること。確かに言えることがあるとするなら、それは彼女が大切にしていたもののことだけだ。

「太陽、みたいだった女の子のために、自分の命を燃やしていること……ぐらいなら、知ってる」

 ちとせと過ごしてきた時間は、千夜のためにあったといっても過言ではない。

 だが、ちとせの願いだったかつての千夜を取り戻すためには、ちとせの存在が必要だとわかってしまった。

 ちとせにはあんな風に消えてもらっては困る。千夜が自身を取り戻すまで、どうかそばにいてほしい。

 ちとせがアイドルを続けていけるように、ちとせのことを知らなければ。光明が見出せるとすれば、それしかない。

「……ふふっ」

 千夜のことを触れられ意表を突かれたのか、目を丸くしていたちとせがやっとプロデューサーに審判を下したようだ。

「……あはははは♪ そんな口説き文句、どこで覚えてきたの? 私にしか通じないんじゃない?」

「いいんだよそれで。そのために戻ってきたんだ」

 射抜くような視線は解除され、朗らかな笑い声に場の空気が弛緩していく。

「今度は推理ゲーム? くすっ、戻ってきた、かぁ」
106 :27/0  ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:37:03.67 ID:ldlfMP+C0
 一転して、あの全てを見透かすような瞳になった。やっと記憶にあるちとせの雰囲気に近付いてきたが、それはそれで緊張する視線でもある。

「大丈夫、もう取って食べようなんて思ってないから。そんな寂しそうな顔されてても美味しくなさそうだし、ねっ」

 早くも見透かされたものの、この瞳さえあれば何とかなるような気がしてくる。何とかしなくては、悪夢は覚めないままになってしまう。

 ……取って食べるとは文字通りの意味なのだろうか。得体が知れないままなのはいろいろよくない、そう直感するプロデューサーだった。

「なあ、君の……その。正体? 教えてくれないか?」

「なぁに? もう知ってるんじゃないの?」

「何となくは。本当にそうなのかまでは聞かなかったし、確かめようもないから」

「なら、あなたの考えてる通りで合ってると思う。それよりも……今度は私の番ね」

 楽しそうなちとせを見ているだけで、この時まで戻ってきたかいがあったというものだ。

 順番とばかりにちとせは同じ質問を返した。

「あなたは何者なのか。これから知っていけばいいかと思ったけど、ショーの始まりは突然なんだもの。ねぇ、今ここで教えて?」

「当ててみたら?」

「……予言者、ってわけじゃなさそうだし、私を捕まえに来た危ない人! って感じなら、そんな顔しないよね」

 よほど顔に出ているのだろうか。これがそのうち老け込んだ、に変わっていくことは経験から学んできた。実際に戻ってきた分は老けているので間違いではないのだが。

「もしかして、魔女さんの知り合い?」

「その魔女さんがどんな人か知らないけど、似たようなものかな」

 プロデューサーは懐から懐中時計を取り出す。針は12時で重なったまま動かない。

 新しい思い出となった2人の少女と過ごした日々を、再びこの時計に刻まれる時がこないことを信じて。

「魔法使い、だよ。ろくでもない夢を無かったことにするしか出来ない、最低の……ね」


107 :27/0  ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:38:16.62 ID:ldlfMP+C0


 翌日、プロデューサーは朝早くから事務所の自室に訪れていた。

 部屋にアイドルの痕跡が何もなくなった時間へと戻ってくるのはこれが初めてなので、失ったものの大きさに胸が押し潰されそうになる。何度失くしては拾い上げてきたかも覚えていない。

 いや……本当は覚えている。それだけ失いかけた輝きを、やり直すことで取り戻してきた。敏腕プロデューサーなどではなく、ズルをしていただけなのだ。

 プロデューサーとしてアイドルに夢を見せ、魔法使いとして悪夢をなかったことにする。

 1度夢から覚ましたアイドルには、もう同じ手は使えない。目覚めている相手を再び夢から覚ますことは出来ないからだ。

 そうしてついにはやり直せなくなり、袋小路へ追い込まれた挙句、自らの手で光を失わせることを恐れて逃げ出した。

 誰もがやり直しの利かない人生を歩んでというのに、1度頼ってしまえば抜け出せない。魔法も夢も似たようなものだ。

 そんな時に出会ったのが、黒埼ちとせだ。

 初対面でちとせもまた常人ならざる存在であろうと予感だけはしており、アイドルとしての魅力はもちろんのこと、自ら陥った状況を変えてくれることを勝手に期待していた。

 打開する方法は何でもよかったが、彼女を――そして千夜を、やり直さずに一人前のアイドルとして成長させプロデューサーとしての自信をつけること。

 置き去りにしてきたアイドルたちを正面から迎えに行けるようになるとすれば、それが絶対条件だった。

 その条件が満たされる前にちとせは消えてしまい、千夜の絶望を引き金に過去へと戻ってきた。

 プロデュース自体は上手くいっていた……のだろうか、それもちとせに委ねられている。

 あとはちとせを何とかして消えさせない。その方法を探しながら、もう1度だけ彼女たちをプロデュースする。

 そのための仕込みをしにわざわざ早くから事務所の自室に来ている。千夜はちとせの指示でここへ来るはずだ。その前にやっておかなければならないことがある。

「……はは。あの時の俺を撮ってたのか、千夜」

 ちとせと千夜に渡していた携帯電話の初期化をするべく、デスクに保管してあるそれらを充電して中身を確認してみる。

 千夜の携帯電話の方に、遠巻きながらクレーンゲームをしているプロデューサーの画像が保存されていた。

 夢を見ない機械には魔法が通じないらしく、アイドルたちが記録したプロデューサーに関する映像や音声データが残ってしまうのだ。

 わざわざ独自に用意した携帯電話を持たせていたのは、このために尽きる。こうして管理するためだ。

 覚ましたはずの悪夢の内容に触れてしまえば、どうなるかわからない。思い出したところで内容が悪夢なのだから、思い出さないに越したことはないはずだ。

 それに加え本物の魔法の存在を知られることにもなる。知られたところでもう1度掛けてやれもしない魔法に、何の意味があるかは未知数だが。これなら魔法なんてないと思ってもらった方がまだ夢があるだろう。

 アイドルに良い夢を見せるため、魔法使いは今度こそ唯一使える魔法を捨てて、プロデューサーとして魔法を掛ける準備を進める。

 これからここに来るアイドルにも、立ち直るきっかけをくれたアイドルにも、待っててくれているアイドルたちにも、もっと大きな夢を見せるために。


108 : ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:40:31.07 ID:ldlfMP+C0
27/0.5



 お嬢さまの指示により、足を運んだ先は芸能事務所だった。

 何の前触れもなくアイドルになったと昨晩に宣言され、私を戯れに巻き込むためこんなところまで行ってこいという。いつものことながら、勝手なものだ。

 私に拒否権はないので、否が応でもアイドルとやらになることは決定している。突き返されたらその時はその時だ。どうせお嬢さまが何とでもしてしまうに違いない。

 せいぜいお嬢さまがこの戯れに早々に飽き、平穏な日々に帰れたらいい。私はお嬢さまの僕であり、アイドルなど務まりようもないのだから。

 そんなことを考えていると、いつの間にか指示された部屋があるところまで来ていた。

 ……初めて訪れた割には、スムーズに辿り着けたものだ。ここが目的地だとわかっていたかのような、そんなはずはないか。さっさと中に入ろう。

「失礼します」

 ドアを開けると、広さの割には物の少ない空間が広がっていた。

 人が集うにしてももっと小規模の部屋を使えばよさそうなものだが、事務所とはそういうものなのかもしれないと納得することにした。

 その閑散とした部屋の中にあるデスクから1人、スーツ姿の男性がこちらを見ていた。突然の珍客に驚いているかと思えば、どうもそうではないらしい。

 どこか遠くを見据えて懐かしむような、寂しげな目。初めて会う人間にするような顔をしていなかった。

 私はどうしてか彼にそんな顔をしてほしくないようで、胸の辺りがじわりと小さな炎でも灯ったように切なくなる。なんだというんだ……これは。

 よくわからない感情に振り回されてはいけない。彼ももう、そんな顔はしていない。

 私にはここに来た理由がある。大切な人の望みを叶えるため、為すべきことを為そう。

「お嬢さまよりここへ行けと言われました。だから来た。それだけです」




109 : ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:51:50.55 ID:ldlfMP+C0
なんとか生誕祭に間に合わせたかった……疲れた……

なんでこんな長くなっちゃったんだろう……千夜好き……ちとせも好き……

一応続きとか考えた上でのこれなんで、余力があれば11/10までにまた書きたいですね

それではここまでお読みいただけた方、本当に、本当にありがとうございました
110 : ◆KSxAlUhV7DPw [sage]:2020/02/04(火) 21:52:44.23 ID:ldlfMP+C0
あ、それと別スレ放置したままでした……ごめんなさい
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/05(水) 00:55:39.17 ID:0Jdck1vAO
乙。
266.62 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)