高山紗代子「敗者復活のうた」

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1 : ◆VHvaOH2b6w [saga]:2019/12/29(日) 08:59:26.55 ID:ck9R+qDf0
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「……よーちゃん……」

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2 : ◆VHvaOH2b6w [saga]:2019/12/29(日) 09:00:30.79 ID:ck9R+qDf0
     『私は敗者だった』

高山紗代子(17)
https://i.imgur.com/u3LfIXX.jpg
https://i.imgur.com/lWoglmn.jpg
https://i.imgur.com/04jKXzf.jpg
3 : ◆VHvaOH2b6w [saga]:2019/12/29(日) 09:01:41.43 ID:ck9R+qDf0
高山紗代子「今度は……今度こそは……2度あることは3度あった落選だけど、これまで7回チャレンジしてこれが最後……七転び八起きで今度こそ!」

真壁瑞希「ずいぶんと、気合いが入っていますね」

紗代子「きゃっ!?」

瑞希「これは驚かせてしまったようで、申し訳ありません。私、真壁瑞希と申します」

紗代子「あ、い、いいえ。私こそ緊張してて。えっと、瑞希……ちゃんもこのオーディションに参加を?」

瑞希「はい。こういう場は初めてなので、緊張しています……ドキドキ」

紗代子「そうは見えないんだけど……ううん、私いつもオーディションだと緊張してるから……あ、私は高山紗代子。今日はよろしくね」

瑞希「はい。どうやら同じぐらいの年齢で、同じように緊張しておられるようでしたので、つい話しかけてしまいました。ご迷惑……だったでしょうか?」

紗代子「ううん。むしろちょっとホッとしたよ。ありがとう」
4 : ◆VHvaOH2b6w [saga]:2019/12/29(日) 09:02:48.05 ID:ck9R+qDf0
瑞希「いいえ……先ほど高山さんは『私いつも』とおっしゃいましたが、もう何度もオーディションを受けているんですか?」

紗代子「う……うん。でも一度も通ったことがなくて……だから私、今回を最後にしようと、全力でオーディションを受けようって思っているの」

瑞希「最後……ですか?」

紗代子「もう7回も落ちてて……もちろん、アイドルになるって夢はあきらめられないけど、さすがに七転び八起きでも受からないとなると……」

瑞希「なるほど。わかりました、私も高山さんを見習って全力でオーディション受けてみます」

紗代子「一緒に合格できるよう、がんばりましょうね!」

瑞希「はい」

紗代子「……いつかも、こうだったっけ」

瑞希「? なんでしょう、高山さん」

紗代子「あ、な、なんでもないの! あ、私が呼ばれてるみたい。じゃあ……行ってくるね」

瑞希「はい……一緒に合格して、一緒にがんばりましょう」

紗代子「うん!」
5 : ◆VHvaOH2b6w [saga]:2019/12/29(日) 09:03:16.81 ID:ck9R+qDf0

紗代子「13番、高山紗代子です。よろしくお願いします!」

6 : ◆VHvaOH2b6w [saga]:2019/12/29(日) 09:03:50.44 ID:ck9R+qDf0
「今回は残念ながら……」

 面接官の言葉は、非情だった。
 さすがに紗代子も、その後どこをどう辿って家に帰り着いたのかを覚えてない。
 気がつけば、部屋にいた。
 ベッドに突っ伏し、涙を枕に吸わせていた。

紗代子「七転び八起きでもダメだったな……やっぱり私じゃあ、アイドル……なれないのかな……」

『そんなことない!』
 いつもなら出てくるその言葉が、今日の紗代子には出せなかった。
 ダメでも次がある! 次こそはがんばろう!!
 オーディション落ちも、最初の3回まではそれでもそうやって自分を鼓舞してきた。
 三度目の正直と勢い込んだ、3回オーディションに落ちてもまだ大丈夫。
 それが、4回5回と重なる度、さすがに心中穏やかにならなくなった。
 少しだけ弱音を吐き、溜息をつくようになる。
 心の隅に押し込んできた、生来の後ろ向きでネガティヴな自分が顔をもたげてくる。
 そしてとうとう今日、紗代子は決定的ともいえる落選を宣告された。
7 : ◆VHvaOH2b6w [saga]:2019/12/29(日) 09:04:31.31 ID:ck9R+qDf0
「私には……無理なんじゃないかな? だって私は特別な事なんかなんにももってないし、だから誰が見ても私は落選だったじゃない?」

 そう問いかけてくる自分を、これまでは必死の努力でまた押し込めてきた。

紗代子「そんなことない! 私はできる!! 私はやれる!!! あの子が……待ってるんだから」

 だが今夜の紗代子には、それもできなかった。
 それだけに最後の望みとして、一番憧れているアイドル事務所……765プロのオーディションを受け、そして不合格だったのだ。

 この日、高山紗代子はアイドルへの挑戦という道が途絶えた。
 望んでいた、願っていた未来へと羽ばたけない自分に絶望するしかなかった。

 結局、ほとんど一睡もできぬまま朝が来た。
 リビングで顔を合わせた弟が何かを言いかけるが、紗代子の顔色と表情を見て押し黙る。
 自身も一言も発せぬまま、紗代子は家を出た。
 正直、学校に行くような気分ではなかったが、かといって体調不良でもないのに学校を休むわけにはいかなかった。
 その時だ。
8 : ◆VHvaOH2b6w [saga]:2019/12/29(日) 09:06:03.30 ID:ck9R+qDf0
紗代子「あれ? スマホ……鳴ってる? はい、もしもし?」

「……」

紗代子「あの、もしもし?」

 知らない番号からの着信は、無言電話だった。
 普段なら「こういうことはやめてください」とでも紗代子なら言っただろうが、落ち込んでいる今の彼女にはその元気が出せなかった。
 無言で着信を切る。
 が、暫くするとまた同じ番号から着信が入る。

紗代子「もしもし?」

「……」

 やはり無言。
 少し怖くなり、慌てて紗代子は着信を切る。
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