甜花「なーちゃんを元に戻すだけのお話です」

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61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 12:58:43.02 ID:9hCF7dup0

それからは、なーちゃんの診断が始まりました。
その間、甜花たちはロビーで待たされることになりました。

診断が終わったのは、日が暮れる頃でした。
プロデューサーさんと一緒にやってきたお医者さんは、
千雪さんも含めて病室に招き入れました。

カルテを眺めながら、白衣を着たその人は、
こちらを一瞥しました。

「結論から言うと、大崎さんの心の病を直すことはできます」

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 13:08:31.47 ID:9hCF7dup0

その言葉に甜花たちは歓喜しました。
なーちゃんが元に戻る、それは途方もない道のりに思えました。

しかしお医者さんは「ただし」と付け加えました。

「催眠療法は完全な治療ではなく、あくまで効果的な方法のひとつにすぎません。
なにかのきっかけに、閉じ込めた記憶を思い出す可能性だってあります」

「思い出す?」と千雪さんは答えました。

「はい。つまり、この治療では大崎さんの中に潜む記憶を、
全く別の記憶に置き換えてしまうということになります」

「それは……?」

「つまり、記憶の改ざんということです」

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 13:43:26.30 ID:9hCF7dup0

「具体的には、どういうことをするんでしょう」
千雪さんは不安そうに声を震わせました。

「事故の記憶を、別の記憶にすり替えるのはとても難しいです。
仮に、それができたとしても解決には至らないでしょう」

「ええ」

「つまり……今回の問題は、彼女のお姉さんが亡くなったことに他なりません」

お医者さんは少しばつが悪そうな顔で、甜花たちの顔を見つめました。

「私の提案は――彼女には初めから姉がいなかった、
という記憶に塗り替えるということです」

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 13:47:09.00 ID:9hCF7dup0

それからのお医者さんの説明は、
どこか他人事のように聞き流していました。

つまり、なーちゃんを助けるためには、
甜花のことをひとつ残らず忘れてしまう必要があったのです。

それは甜花にとって、どれくらい辛いことだったか、
自分でもすぐには理解できませんでした。

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 13:55:43.06 ID:9hCF7dup0

「どうしましょうか」
診察室から出てきた千雪さんは、
とても困ったような顔で俯いていました。

プロデューサーさんもおなじです。
じっと、千雪さんの方を見つめていました。

ただ、甜花だけは、すでに覚悟を決めていたのです。

「千雪さん、……甜花ね、なーちゃんをたすけてあげたいの」

66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 13:56:26.34 ID:9hCF7dup0

甜花がそういったとき、千雪さんは
瞳からぽろぽろと涙を溢れさせて、
それからプロデューサーさんの肩で
ずっと泣いていました。

プロデューサーさんも、なにかを察したかのように、
千雪さんのことをなぐさめていました。

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:06:58.82 ID:9hCF7dup0

それからすぐにやって来たお父さんとお母さんにも、
プロデューサーさんは事情を説明していました。

「本当にこれでよかったの?」
ソファに座っていた甜花に
千雪さんはやさしく声をかけてくれました。

「うん。甜花は、なーちゃんが元気になってくれたら。それで……」

「……そう」

千雪さんは、それ以上はなにもいわないで、
少しだけ悲しそうな顔をしていました。

「甘奈ちゃん、元気になるといいね」

うん、と甜花は一度だけ頷きました。

68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:09:33.25 ID:9hCF7dup0

それから、なーちゃんの治療が始まりました。
強い暗示をかけるには、時間がかかるということもあり、
なーちゃんはその病院で入院することになりました。

『先ほども言った通り、暗示も完全なものではありません』

『閉じ込めた記憶は、何かのきっかけで再び記憶が蘇ることもあります』

『それを避けるためにも、亡くなったお姉さんの思い出はすべて――』

69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:13:23.11 ID:9hCF7dup0

甜花は、きっと、この瞬間のために、
再びなーちゃんのところに現れることができたのでしょう。

月明かりの差し込む病室で、なーちゃんの寝顔を見つめていた甜花は
そのほっぺたにふれて、それから一度だけキスをしました。

「……にへへ。さよなら、なーちゃん」

甜花の声は、さみしく響き渡りました。

70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:20:37.72 ID:9hCF7dup0


そうして、なーちゃんは、元のなーちゃんに戻ることができました。


71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:23:48.35 ID:9hCF7dup0

「お父さん。荷物は、この段ボールに詰めればいいの?」

「ああ。引っ越しのトラックは明日来るからな」

「はーい」

なーちゃんが、いそいそと自分の荷物を
段ボールに詰めている様子を、
甜花はベッドの上で眺めていました。

あの後、この街を出ることになったのは、
お父さんとお母さんが決めたことでした。
きっと、甜花との記憶を思い出させないために
それは必要なことだったのでしょう。

また、甜花に関わるものをすべて捨ててしまったのも、
ふたりで話し合った結果でした。
ふたりとも、その時はとても悲しそうに泣いていました。

72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:25:56.10 ID:9hCF7dup0

なーちゃんが元気になった後、
プロデューサーさんは何事もなかったかのように
なーちゃんを大崎家に送り届けてくれました。
お父さんもお母さんもプロデューサーさんに
本当に感謝していました。

千雪さんは、雑貨屋さんを続けると言っていました。
別れ際に、甜花が「もっと連絡したほうがいいよ」と言うと、
千雪さんはどこか照れくさそうにしていました。

甜花は心のどこかで、ふたりの行く末を少しだけ期待していたのです。

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:31:21.29 ID:9hCF7dup0

「んー。……でも、こんなに荷物少なかったかなあ」

荷物をまとめていたなーちゃんは小首をかしげると、
そのまま部屋と飛び出ていきます。

そんな様子を見て「なーちゃん」と甜花は声をかけます。
すると、なーちゃんはこちらを一度だけ振り返ります。

「……気のせい、かな?」

それだけ言い残して、なーちゃんは部屋を去っていきました。

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:33:14.42 ID:9hCF7dup0

カーテンが風でなびいて、そのまま甜花は
なーちゃんのベッドに寝ころびました。

なーちゃんの香りを胸いっぱいに感じながら、
これでよかったと甜花は思いました。

ただ、これまでたくさん頑張ったせいで、
どうにも眠たくなってしまった甜花は
そのまま瞼を閉じます。

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:42:07.38 ID:9hCF7dup0

そうしていつの間にか、眠りに落ちてしまった甜花は
まどろみの中で夢を見ました。

その夢には、なーちゃんがいて。
なーちゃんは甜花の手を取って、
力いっぱい抱きしめてくれました。

「そしたら、甜花ちゃんが甘奈のことを治してくれたの?」

「にへへ。……甜花、なーちゃんのためにがんばった」

「甜花ちゃん……。ありがとう、本当に」

「なーちゃん、そんなにしたら甜花つぶれちゃう……」

「でも、これだけしないと伝わらないかなって思って」

「ううん。なーちゃんが甜花のことを好きなのはしってる、から」

「そっかあ。そうだよね」

76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:57:29.44 ID:9hCF7dup0

「ねえ、甜花ちゃん。今度、引っ越す街はね、
海がすぐそこにみえるところなんだって」

「うん」

「千雪さんも、プロデューサーさんも誘って、
みーんなで、遊びにいきたいね」

「……うん」

「もちろん、甜花ちゃんも一緒だよ」

「甜花も?」

「当たり前でしょー? だって、甜花ちゃんは甘奈のお姉ちゃんなんだから」

「……うん。そうだね」

77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 14:58:12.94 ID:9hCF7dup0

「甜花ちゃんのこと、絶対にわすれないから」
なーちゃんは、そういって甜花の小指に触れました。

「だから、甜花ちゃんも甘奈のことずっと忘れないでね」

「……うん。わかった」

甜花たちはひとつの約束をして、
それから、ふたりで子供みたいに笑いあいました。

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/10(火) 15:00:56.90 ID:9hCF7dup0

夢の続きで、どんなことを話したのか、
甜花はすぐに思い出すことはできませんでした。

ただ、とても幸せな夢だったような気がするなと
甜花はただそれだけを覚えていました。


おわり

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/10(火) 15:13:49.87 ID:9hCF7dup0
>>60
なーちゃんの様態についてお医者さん
→なーちゃんの容態についてお医者さん
ですね。。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/10(火) 21:00:11.68 ID:mQqjsfWDO


安易なハピエンドよかしっくりきます……
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/13(金) 13:03:11.01 ID:INO2US400
おつおつ
何回もエタってよく終わらせたな〜
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/14(土) 02:00:34.63 ID:DtkVCG840
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