甜花「なーちゃんを元に戻すだけのお話です」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 23:26:26.68 ID:Z3zZVn3T0

なーちゃんがおかしくなってしまったのは、
一か月前の交通事故があってからでした。

交差点で車にはねられたなーちゃんは、
奇跡的に一命をとりとめました。
だけど、頭を強く打ったせいでプロデューサーさんのことを
甜花だと思いこむようになりました。

甜花にとってそれはとってもつらいことでした。
だから、甜花の役目は、変になったなーちゃんを
もとのなーちゃんに戻すことでした。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1576506386
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 23:30:07.69 ID:Z3zZVn3T0

甜花は、なーちゃんのために、いろんなことをしました。
例えば、

@なーちゃんのほっぺたを抓る
Aなーちゃんの頭をたたく
Bなーちゃんに抱き着く
C布団にもぐりこんでみる

だけど、どれもうまくはいきませんでした。
なーちゃんは、相変わらずプロデューサーさんを
甜花だと勘違いしたまま過ごしていました。

だからこそ、甜花は困り果ててしまいました。
どうすれば、なーちゃんは元に戻ってくれるだろう?

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 23:31:48.68 ID:Z3zZVn3T0

なーちゃんは事故のせいで、性格も変わってしまいました。
もとから甜花のことを人一倍心配してくれたなーちゃんは、
プロデューサーさんが自分から離れることを、とっても嫌がるようになりました。

それに、プロデューサーさんが自分以外の誰かと話していると、
きまって不機嫌そうな顔をするようになりました。

なーちゃんは甘えん坊さんになってしまったみたいで、
「甜花ちゃんはずっと甘奈といっしょにいなくちゃダメ」
というのがなーちゃんの口癖になりました。

「……なーちゃんは心配性だなあ」と甜花はおもいました。

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 23:34:24.43 ID:Z3zZVn3T0

だけど、なーちゃんのいう「甜花」はプロデューサーさんのことなので、
なーちゃんと手をつなぐプロデューサーさんはいつも困っていました。

なーちゃんは、事故の後、病院でめをさましてすぐに、
ベッドの隣に立つプロデューサーさんをみて
「甜花ちゃん!」と言って抱きつきました。

プロデューサーさんは、そんななーちゃんに
何度も「自分はプロデューサーだよ」と説明をしていました。

それをそばで見ていた甜花は、
本当の甜花はここにいるのに、とおもいました。
でもなーちゃんにとって、プロデューサーさんこそが
本当の甜花だったのです。

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 23:40:03.62 ID:Z3zZVn3T0

病院を退院したあと、なーちゃんは、ますますおかしくなりました。

夜になって隣に"甜花"がいないとベッドの上で泣きさけんだり、
お父さんとお母さんに部屋にあるモノを投げつけたり、
そういうことをするようになりました。

それから、なーちゃんは、思うように眠れなくなってしまいました。
なーちゃんは「不眠症」になってしまったのです。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 23:41:37.75 ID:Z3zZVn3T0

なので、甜花は夜になるとなーちゃんの部屋に行って、
ベッドでいっしょに寝てあげるようになりました。

名前を呼んでも、なーちゃんは気づいてくれないので、
甜花はそっと後ろからだきしめてあげました。

甜花はなーちゃんのお姉ちゃんなので、
子供のころは、よくこうやってふたりで寝ていました。
それを思い出して甜花はすこしだけ笑いました。
でもその声がなーちゃんに聞こえないのは、
ちょっぴりさみしいなと思いました。

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 23:46:19.21 ID:Z3zZVn3T0

背中越しに、甜花は「なーちゃん」と呼びました。
返事はなかったけど、ひとりごとだと思って、
だいすきだよと言ってあげました。

いつもより悲しそうな、なーちゃんの声を聴いて、甜花は瞼を閉じました。

どうか、なーちゃんが元のなーちゃんに戻りますように。
甜花は祈るように、眠りにつきました。

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 23:49:46.22 ID:Z3zZVn3T0


だけど、日に日になーちゃんの容態は悪化していきました。


9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/17(火) 00:01:11.10 ID:AGDlh3VUo
あれ、もしかして甜花ちゃん……
なーちゃんに気付いてもらえないのもなーちゃんがこんな壊れ方してるのも説明がつくし……
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/17(火) 00:05:44.34 ID:m7EVYDbo0

そんなありさまを伝えられたプロデューサーさんは、
なーちゃんと自分が一緒に暮らすことを提案しました。

最初は渋っていたお父さんも、なーちゃんが
プロデューサーさんのことを「甜花ちゃん」と呼ぶのを見て
ついにはなーちゃんのわがままを許してしまいました。

甜花は「ほんとうにいいの?」と言いましたが、
お父さんもお母さんも返事はしてくれませんでした。
もしかすると、ふたりとも、甜花が思うよりもずっと
今の生活に疲れてしまっていたのかもしれません。

隣にいる甜花には目をくれずに、
次の日にはなーちゃんを乗せた車は、
プロデューサーさんの家へと走り去っていきました。

11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/17(火) 00:08:34.62 ID:m7EVYDbo0

なーちゃんが行ってしまった後、
「どうしてこんなことになっちゃったのかな」
そう言って、お母さんは泣きくずれてしまいました。

「あの事故さえなければ」とお父さんは言いました。

そうだね、と甜花はうなずきました。
なーちゃんがああなっちゃったのも、
きっとあんな事故があったせいなんだよね、
甜花はそうやってふたりに声をかけてあげようとしました。

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/17(火) 00:15:33.69 ID:m7EVYDbo0

「……甜花が生きていてくれたら、どんなに良かったか」
お父さんはそういってお母さんを寝室につれていきました。

甜花は、なにもいわないで、リビングに飾られた額縁を眺めました。
写真の中に収められた甜花は、今よりもずっと、とびきりの笑顔でいたのです。

そうして、ひとりぼっちになった部屋の真ん中で、
誰にも聞こえない声で「そうだね」と甜花はつぶやきました。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/17(火) 00:30:39.23 ID:m7EVYDbo0
つづきます。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/17(火) 12:21:20.69 ID:EwagAjgN0
今度は最後まで書く?
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/19(木) 23:55:56.50 ID:fXRLO4MQ0

その事故は、ほんとうは、ふたりに訪れたものだったのです。
甜花となーちゃんのふたりに、です。

交差点を渡るなーちゃんをめがけて
走ってくる車をみつけたとき、
どうしてか、甜花のからだは勝手に動いていました。

あと、もう一歩、でした。
あとすこしでなーちゃんは事故に
巻き込まれることはなかったはず、でした。

運動不足なのがわるかったのかもしれません。
あたり一面の悲鳴と、体中の痛みをかんじた時、
甜花はじぶんが死んでしまうことを知ったのです。
プロデューサーさんのいうことをきいて
ゲームをひかえていればな、と甜花はおもいました。

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/20(金) 00:04:57.47 ID:wgYoLY+J0

次に目をさましたのは、病院のなかで、
なーちゃんの泣く声をきいたときでした。

病室には、窓際に花束がそえられていて、
ベッドの隣に置かれた椅子に、甜花はすわっていました。

たくさんの涙をながしているなーちゃんに
甜花は「なーちゃん」と声を掛けました。
それなのに、なーちゃんからは、返事のひとつもありませんでした。

それから、壁に立てられた鏡をみて、甜花は思わず声をあげました。
そこには、なんと、甜花の向こう側の空が透けて映っていたのです。

そこで初めて、甜花は、自分がゆうれいになったことを知ったのです。

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/20(金) 00:21:45.24 ID:wgYoLY+J0


甜花はもう一度、「なーちゃん」と呼びました。
だけど、なーちゃんはずっと泣いているだけでした。


18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/20(金) 00:24:04.02 ID:wgYoLY+J0

これは後で知ったことですが、
なーちゃんをつきとばした甜花は、
なーちゃんのかわりに、ぐちゃぐちゃの身体に
なっていたそうです。

打ちどころが悪かったのかもしれません、
とにかく“悲惨な光景”だったとききました。

でも、甜花はそれを聞いたとき「よかった」と思いました。
なーちゃんが生きていてくれるなら、それで甜花はよかったのです。

甜花はもうなーちゃんとおしゃべりもできないけど、
それなのに、こうしてなーちゃんの隣でもう一度すごせることが、
甜花にはとってもうれしかったのです。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/30(月) 14:21:11.71 ID:i5Lgphnr0

「泣かないで」と甜花はいいました。
それから、なきむしのなーちゃんの頭をなでてあげました。

それでもなーちゃんは、泣き止みませんでした。
ずっとずっと、泣いたままでした。

もしかすると、甜花がこうしてこの世界にやってきたのは、
なーちゃんのためだったのかもしれません。
そう思った甜花は、これからはずっと、
なーちゃんのために生きてあげようと考えました。

少しだけ大人にみえる、子供みたいななーちゃんを見て、
甜花はちょっぴり笑いました。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/30(月) 14:22:25.44 ID:i5Lgphnr0

「どうしたら、なーちゃんは元に戻るのかな」
ふたりが行ってしまった後、
頭を抱えた甜花は、頼れるひとを思い出しました。
そうだ、千雪さんところに行ってみよう!

甜花は、家を飛び出て、事務所へと急ぎました。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/30(月) 14:24:36.54 ID:i5Lgphnr0

千雪さんは、アルストロメリアという名前で、
なーちゃんと甜花の三人でユニットをくんでいて、
いつだってなーちゃんと甜花のことを
気にしてくれていました。

千雪さんは、とっても優しいので、
なーちゃんのことをなんとかしてくれるかもしれない、
甜花のことも気づいてくれるかもしれない。

そんな淡い期待を抱いたまま、
事務所についた甜花を待っていたのは、
「撮影禁止」という札のかかった寂れたビルでした。

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/28(土) 15:14:18.95 ID:d8JxcFhv0
期待してたのに、悲しい
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/13(土) 20:49:58.23 ID:usXGZXW+0

「なにか、あったのかな……」
事務所の前で立ち尽くしたまま、辺りをみわたします。

むかしの賑わいが既に薄れてしまったその場所に、
甜花は、すぐに違和感を覚えました。

まるで「廃墟」にでもなってしまったかのような、
そんな只ならぬ雰囲気を感じていたのです。

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 00:15:24.74 ID:RKgzRyGx0

「おじゃま、しまぁす……」
甜花は、おそるおそる事務所のなかへと入ります。

見つかったら誰かにおこられるかも、
なんてことが頭によぎりましたが、
幸いなことに今の甜花はゆうれいなので、
そんな心配をする必要もありませんでした。

これは意外にも、べんりな身体なのかもしれません。
……なーんて。にへへ。


25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 00:18:38.39 ID:RKgzRyGx0

さて、気を取り直して事務所をのぞいた甜花は、
おもわず声をもらしてしまいます。

しかし、それは予想通りといったところで、
かつて事務所だった場所はすでに人気もなく、
閑散とした状態になっていました。

ソファも、テレビも、プロデューサーさんの机も、
そこはなにひとつなくなってしまった、もぬけの殻でした。


26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 00:23:49.13 ID:RKgzRyGx0

「どうして……こんなことに?」
暗がりのなかで、甜花は途方に暮れてしまいます。

もしかすると、知らないうちに283プロダクションは
なくなってしまったのかもしれません。

しかし、それは無理もありませんでした。
「あんなこと」が起きた後で、アイドル事務所を続けるのは、
とてもたいへんなことに違いないと、甜花は少なからず勘付いていたからです。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 00:30:46.60 ID:RKgzRyGx0

「これから、どうしよう……」
甜花はすぐさま途方に暮れてしまいます。

頼みの綱だと考えていた事務所ですらも、
今はこのような有様になっていたのですから、
それは無理もありませんでした。

だけど、なーちゃんを助けるためには、
どうしても、千雪さんと出会わなければなりませんでした。

甜花ひとりでは、もうどうすることもできないと、
それを知っていたからこそ、この場所に望みを賭けるしかなかったのです。

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 00:32:14.41 ID:RKgzRyGx0

「……千雪さんに、会わなくちゃ」
そのとき、甜花はちいさな決心をします。

この場所で、ずっと待っていようとしたのは、
ただ、闇雲に探し回るよりも良いはずだと思ったからでした。

それが、本当にただしいのかは分かりませんでしたが、
今の甜花には、これしか出来ることがなかったのです。

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 00:37:33.31 ID:RKgzRyGx0

その日から、もう誰もいなくなった事務所の中で、
甜花は、たったひとりで待ち続けることにしました。

他に、なんにもやることがない中で、
窓から鳩が飛び立って行く様子を眺めたり、
植木鉢に咲いたお花に話しかけたりするのは、
不思議とこころが安らいでいくようでした。

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 14:05:11.38 ID:RKgzRyGx0

それからしばらくの間、甜花はひとりで過ごし続けました。
……それは、途方もなく長い時間にも感じました。

ですが、晴れの日も、雨の日も、
甜花は辛抱強く、待ち続けたのです。

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 14:06:55.91 ID:RKgzRyGx0

ただ、暗い事務所で眠りにつくのは、
なぜだか、とても寂しい気持ちになりました。

そんな時は、なーちゃんや、千雪さんや、
みんなのことを思いながら、まぶたを閉じました。

そしたら、すぐに楽しかった思い出が溢れだしてきて、
その気持ちだけで、甜花はすやすやと眠ることが出来ました。

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 14:08:57.27 ID:RKgzRyGx0

その日、甜花は夢を見ました。

それは、なーちゃんと、千雪さんと一緒に、
プロデューサーさんの車で、海へと遊びに行く夢でした。

帰り際になって、夕日を見つめるなーちゃんが、
ふいに甜花の手を取るので、
甜花は「どうしたの?」と訊きました。

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