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真・恋姫無双【凡将伝Re】4
- 483 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/09/14(月) 22:20:21.34 ID:MO/NhoCH0
- 誰ともなく趙雲は呟き、巧みな運足でその身を隠す。誰あろう夏侯淵から、である。
だが、それでも、だ。夏侯淵の視線は明確な殺意をもって趙雲を視線のみで貫く。
一矢一殺。
その妙技も恐るべきものではある。何せ人馬一体となったあの呂布をして愛馬を喪わせたくらいなのだ。そして趙雲は舌打ちを重ねる。
いっそ可視化できるくらいの殺意。全身を貫く射線。瞬き一つのうちに貫かれるという確信。一歩、二歩と技巧の限りを尽くして距離をとるくらいしか対策はない。
「正直、たまらんな……」
不敵で無敵を本領とする趙雲ですら弱音を吐くほどに、夏候姉妹の連携は完璧であった。これが実戦ならば、と思うと暗鬱としてしまうほどである。
「はっはは!見事。小手調べでは失礼だな!ならば受けよ、必殺の一撃を!」
す、と夏候惇は腕を上げる。
それまで絶えず趙雲を捕捉していた殺気が霧消する。ほ、と息を吐くその瞬間に押し寄せる気迫。
「おおおおおおおおおおお!」
その艶やかな黒髪が逆立つのを幻視すらするほどの気迫。天を衝かんばかりの気迫と共に夏候惇は愛刀である七星餓狼を振りおろす。
「く!」
殺った。その確信をもって振るうその一撃。それを振り下ろそうとするその瞬間。悪寒が夏候惇の背筋を駆けあがる。咄嗟に斬撃の勢いそのままに前方に転げてその悪寒を躱す。
「小癪な!」
再び、必殺の一撃を放とうとするが。
「なんとぉ!」
確かに先手を取ったはずの夏候惇を趙雲の一撃が襲う。無理やりに躱すその動作に頑強な身体が悲鳴を上げ、軋(きし)む。
「面妖な……」
吐き捨てながらも、夏候惇は沸く。纏わりつく死の気配。ここまでの武芸者に会えたという幸運、更には矛を交えているという僥倖。
ニヤリ、と口角を吊り上げてただ目の前の獲物を屠るために全身全霊を特化していく。
我こそは曹家の大剣。ならば断てぬ者はなし。
乾坤一擲。例えこの身が儚くなろうとも、だ。骨を斬らせて命を絶つ。それこそがこの身の在り方。
趙子龍よ。
我が必殺の一撃、受けてみるか。
「姉者!」
そんな夏候惇の思考を断ったのは妹の叫び。窘めるような、それでいて必死な響きが夏候惇の物騒な思考を遮る。
そうだ。そうじゃあなかった。忘れていたわけではないのだが。
残念無念。しかして自分の存念よりも大事なことがある。あるのだ。
「ふ、はは!見事。流石一騎当千の異名は伊達ではないな!
本気で貴公と命のやり取りを楽しむ心算であったわ」
ふう、と一息吐いて趙雲は応える。
「ふむ。ご満足いただけたかな?」
ニヤリ、と双方が笑みを浮かべる。視線は互いに逸らさない。
そして数瞬の火花。だが、口を開いたのは夏候惇であった。
「馳走になった。
いや、かの万夫不当を単騎で退けた武威、確かなり。
いやさ。いずれまた手合せ願いたいものだ」
ほう、と頷きながらも趙雲は構えを崩さない。
「ご満悦のようだが、それでいいのか?」
むしろ趙雲が訝しげに問う。
「なに、あれこれ能書きを垂れたがな。それもこれも貴公と遣り合っていたらどうでもよくなった。
第一、だ。我が主華琳様は賢明なお方だ。
どうして漢朝に弓引くことあろうか」
呵呵大笑して夏候惇は宣言する。
「これより曹家軍は洛陽の守護者となる。聞いたぞ、知ったぞ!
無辜なる民を締め上げて私腹を肥やす、肥やそうとする者ども!
この夏候惇の目が黒いうちには好きにはさせんぞ!
命が惜しくないならばかかってこい!」
吠える夏候惇の気迫に圧されたのか、集う諸侯から異議が出されることはなかった。
――反董卓連合の、勝利が確定したのはこの時であった。というのが通説である。
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