【艦これ】神風「最初の一人」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

250 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:02:58.62 ID:zJyYpUOOO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

艦娘は兵器だ。

この場合兵器というのは戦う力という意味。

つまり

叢雲「戦えないって、どういう事よ」

その力がないというのは艦娘の根底を覆す事になる。

時雨「僕は砲撃音がダメでね。近くで聞くと思考が飛ぶんだ。PTSDに近いらしいよ」
北上「わっ!!!」
提叢「「!?」」ビクッ




時雨「いや別にこれくらいでどうこうなったりはしないよ?」

北上「だってさ」

提督「え、あ、そうかい」

叢雲「ビックリした…」

むしろこの状況で隣からいきなり大声出されてピクリともしないのって逆に凄いんじゃないかしら。
251 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:03:34.26 ID:zJyYpUOOO
北上「私は死ぬのが怖い。戦いたくない。それだけ」

叢雲「沈むのが?」

北上「いんや。死ぬのが。沈むのは、別に」

叢雲「?」

それって同じ事じゃないの?

時雨「ここら辺は僕達と君達じゃ認識にだいぶ齟齬があるからね。かくいう僕も北上の言う事を十全に理解してるわけじゃないんだ」

北上「私そーとー変わり者だかんねぇ。今でこそこんなだけど、昔は自分が変わり者とすら思ってなかったし」

そう言って最後のお菓子を口に放り込む。

うわ、もう全部食べてるし。変わり者というかなんというか。

提督「戦えないから、三課に入ったって事かい?」

時雨「いや、それは少し違くて「戦えない艦娘は破棄される」…北上」

北上「およ?自分で言いたかった?」

時雨「いいや。君に任せるよ」

北上「そうそう。善意は素直に受け取らなくちゃあ」

ため息をつく時雨とニヤと不思議な笑みを浮かべる北上。この二人仲がいいのか悪いのかイマイチ分からないわ。
252 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:04:12.32 ID:zJyYpUOOO
提督「艦娘の所有権は国にある。そしてその管理、運用等のあらゆる権利はこの戦争中、鎮守府という特殊な場所においてその司令官に一時的に譲渡される」

北上「そう。その処分もね。そしてそれはあくまで上が何も言わなければでしかない」

叢雲「それってどういう意味よ」

北上「弾の出ない銃を置く場所はないって事だよ」

北上がロングスカートを思い切り蹴りあげて足を組む。その挑発的なにやけ顔は私を向いていた。

叢雲「…私達はそんな存在じゃないわ」

北上「かもね。でも人間の認識は違う。彼等にとって私達は正しく兵器でなくっちゃあいけない」

叢雲「それは、間違ってはいないでしょうけど」

北上「そう間違ってない。不良品を箱に詰めた時の奴らの目を見れヴェア!?」
時雨「はいストーップ」グイッ

おさげを思いっきり引っ張られている。アレは痛い。
253 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:04:56.97 ID:zJyYpUOOO
提督「なるほどね。君達のような艦娘を助けるために作った、というのはそういう事か」

時雨「そ。初めて僕らは戦う以外の事をしたんだ。それに戦力以外に艦娘をさく余裕がない戦況で三課が出来たのもこれが理由。何せ戦力外の艦娘で構成されたんだから」

提督「それがしーちゃんの目的か。若いのに凄い人がいるもんだなぁ」

時雨「凄い人ねぇ。まあそうかもね」

コイツら、一々思わせぶりな事ばかり言うわね。しかも十中八九楽しんでる。

提督「全ては艦娘の為を思ってというわけだ」

時雨「宣伝活動も人間に僕達の事正しく知ってもらうため。そして僕達が人間の事を知るためでもある。どこまでいっても僕達のためさ、ねえ北上」

北上「…」

北上は、さっき後ろから髪を引っ張られた時の姿勢のまま顔を天井に向けながらソファにどっかりと座っていた。

時雨「…」

北上「…」

時雨「うん、冷静になってさっきの自分の発言を思い返して反省と恥ずかしさで不貞腐れてるみたいだね」
北上「ちょっと!」

時雨「違うのかい?」

北上「あーはいはいなんでもございませんって」

提督「ははは、仲良いねえ」

時北「「何処が」」

提督「ははは」
254 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:05:56.49 ID:zJyYpUOOO
叢雲「はぁ、結局何がしたいのよ貴方達」

時雨「今説明したじゃないか」

叢雲「それは組織の、しーちゃんの目的でしょ?貴方達はどうなのって聞いてるの」

時雨「あぁそういう事かい」

北上「私はしーちゃんの助けになりたい、かな。特に自分の目的とかないし」

時雨「ドラマーはいいの?」

北上「路頭に迷ったらそっち方面もいいかもねえ」

時雨「僕もしーちゃんを手伝いたいっていうのはあるけど、僕自身人と触れ合いたいというのが目的と言えるかな」

北上「艦娘だからね、人と付き合うには色々と壁があるわけよ。あ、時雨眼鏡貸して」

時雨「いいけど。え、なんで?」ハイ

北上「ふむ、これで髪をほどくと。どお?知的に見える?」

叢雲「文学少女って感じね」

提督「図書館とかにいそうな」

叢雲「そうなの?」

提督「あくまでイメージだけどね」
255 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:06:24.85 ID:zJyYpUOOO
北上「そ、イメージ。イメージだよ。偏見、固定観念とも言えるね」

時雨「北上?」

北上「艦娘はどうやっても人に紛れ込めない、なんて言うけど、こうしてちょっと工夫すれば案外溶け込めたりするんだ」

叢雲「…」

提督「変装って事かい?」

北上「違うよ。艦娘と人との間に壁を作ってるのは人だけじゃない。艦娘もそうだって事。朱に交わろうとしてないのさ」

時雨「それは、確かにそうかもね。しーちゃんもそうだ。あの人が変えようとしてるのは人間の意識だけじゃない。僕らの意識もだ」

提督「流石、説得力というか、経験が違うね」

時雨「戦う場所が違うだけだよ。大変なのはお互い様さ」

叢雲「意識、壁か…」

それはきっとその通りなんだろう。
256 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:09:11.42 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「失礼しまーす」ガチャ

北上「あ、終わった?」

しーちゃん「あら可愛い」

北上「でしょ」ドヤサ

時雨「気をつけなよ。アレはイベントで使えるとか考えてる顔だから」

提督「検査の方は?」

しーちゃん「ばっちしです」

提督「お疲れ様です。どうでした?」

男「問題なしです。詳しい報告はまた」

しーちゃん「というわけでさっさと撤収しましょう。この時間なら帰りに温泉とか寄ってお土産買っていけます」

北上「えマジ?よっしゃサクッと撤収だ」ダッ

時雨「ちょ北上!…いいの?」

しーちゃん「こんな機会中々ないですし、後はバレなきゃ」

時雨「はぁ、りょーかい。温泉は入りたいしね」

北上「しぐ〜その前に髪結んで」

時雨「自分でやれ」

北上「えぇ!?」

しーちゃん「というわけでサッと片付けて帰りますので、詳しい話はお、課長さんからどうぞ」

提督「了解。お疲れ様です」

しーちゃん「あ、今のは聞かなかったことでお願いします」

提督「今の?はてさてなんの事やら」

しーちゃん「いえいえちょっとした独り言です」
257 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:09:45.42 ID:zJyYpUOOO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲「で、どうたったのよ」

男「どうも何も無いよ。普通の艦娘だった。少なくとも外から観測する分にはこれまでの例と変わらない」

提督「ならいよいよかな」

男「ええ。外に出てもらう事になります」

叢雲「そこについてはまた話し合わなくちゃね」

提督「だね。それに名前もだ」

男「えぇ、そうですね」

叢雲「あー、その前にしーちゃんを見送ってくるわ、一応」

提督「一応って。貴方もお見送りに行きます?」

男「いや、それはいいですよ」

叢雲「そ、なら行ってくるわ」

男「俺は彼女のとこに戻るよ。そろそろ夕飯ですし」

提督「なら話し合いはその後で」
258 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:10:17.95 ID:zJyYpUOOO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

鎮守府の門で待機する三台のトラック。その先頭に話しかける。

しーちゃん「あれ?男さんは?」

叢雲「誘ったけど別にいいって言ってたわ」

しーちゃん「むー、薄情な人ですねぇ」

叢雲「貴方達、どういう関係なの」

しーちゃん「…どういう関係に見えます?」

叢雲「別に」

ダメだ。この人にはなんか勝てる気がしないわ。

しーちゃん「何か、聞きたいことがあるんじゃないですか?」

叢雲「貴方、結局どっちなの」
259 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:10:52.68 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「どっちだと思います?」

叢雲「聞いてるのはこっちよ」

しーちゃん「答えるとは言ってませんからね」

例の爽やか無害スマイルでサラッと言われた。相手が運転席の中でなければ頬を抓ってやるところだ。

叢雲「…人、には思えないわ」

最初は艦娘だと思った。そう確信していた。

でもそれは違った。確信したのは"人ではない"という部分だ。

こうして改めて聞かれて思った。"人でない"という事と"艦娘である"という事は、多分イコールじゃない。

しーちゃん「…八十点」

叢雲「え」

しーちゃん「というわけでご褒美です。誰にも内緒ですよ?」

そう言って運転席から少し体を乗り出す。

私も体を出来るだけ伸ばして顔を近づける。

しーちゃん「私も、昔は艦娘になりたいと思っていたんですよ」

叢雲「え、それってどういう」
しーちゃん「それではまたお会いしましょう」
叢雲「あちょっと!」
260 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:11:25.18 ID:zJyYpUOOO
日向「ふむ、行ってしまったな」

叢雲「門閉めたままで話せば良かったわ」

日向「それは次回に生かすといい。で、何を話していたんだ」

叢雲「…ねぇ、艦娘になりたいってどんな気持ちなのかしら」

日向「そう言っていたのか?」

叢雲「あっ、い、言ってない!言ってないから!例えよ例え」

日向「まあ何にせよ、艦娘である以上私には答えられない問だな。"海を走りたい"や"深海棲艦と戦いたい"等であれば分からなくもないが」

叢雲「そういうものなの?」

日向「"鳥になりたい"と"空を飛びたい"は別だろう?そういうことだよ」

叢雲「そういうものなのね」

日向「恐らくな。さて、そろそろ夕食だ。戻ろう」クルッ

私は、私はどうだろう。

私は

叢雲「昔は、人になりたいなんて思わなかったのに…」
261 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:12:07.16 ID:zJyYpUOOO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『見て見て!』

男『…なんだそりゃ』

『診察カードだって!今日の記録が書いてあるの』

男『いつの間にそんなものを。ってそれよりその服は』

『しーちゃんから貰ったの。今日使ってた診察用の服』

男『まあ服が増えるのはいい事か』

『次が楽しみだわ』

男『気に入ったようで何よりだよ』

『でも、ちょっと疲れたわ』

男『もうすぐ夕飯だが、その前に少し横になってもいいんじゃないか』

『そうする』

ベットに飛び込むような形で寝転ぶ。

白いベッドに緋色の髪が綺麗に広がっていく。

男『眠くはないのか?』

『ううん、全然。まだ夜って程じゃないわよ?』

男『…だな。夕飯持ってくるから待っててくれ』

『はーい』
262 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:13:15.80 ID:zJyYpUOOO
廊下を歩きこの建物から食堂のある本館へ向かう。

男「睡眠か。深く考えたことはなかったな」

艦娘は夢を見ない。

脳の構造が人間とは違うのだ。いやそもそも脳があるのかもよく分からない。

故に夢を見るというシステムがないのだ。

ならば艦娘にとってそもそも眠るとはどういう事なのか。

建物を出ると丁度夕日が海に沈むところだった。

先程のしーちゃんの言葉を思い出す。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

しーちゃん「艦娘が夢を見ないのは知ってますよね?」

男「そりゃ勿論」

しーちゃん「なら艦娘が眠るってどういう事か分かります?」

男「どういう事って言われると、睡眠は睡眠だろ。極論無くても身体に影響はないだけで、彼女達の生活の上ではやはり必要というか」

しーちゃん「そうじゃなくて、艦娘の睡眠というのがどういう状態なのかって事ですよ」

男「状態?」

しーちゃん「そうですねえ。就寝時間を設定している鎮守府とそうでない鎮守府がありますが、それ以外に等しく艦娘が長時間じっとしていなければいけない時があります。さあなんでしょう」

男「…じっと、入渠か」

しーちゃん「え、正直正解すると思いませんでした。その通り。バケツは無限ではありません。駆逐艦でも長ければ五時間は超えますし、戦艦ともなれば丸一日かかります」

男「確かに睡眠以上だなその時間は」
263 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:14:46.66 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「その間、艦娘って何してると思います?」

男「…暇潰し、ってレベルの時間じゃない時があるな」

しーちゃん「寝てるんですよ」

男「寝る?」

しーちゃん「見えますか?あの建物。ここは四つですね。入渠ドック」

男「あぁ。工廠横の三角屋根だろ」

しーちゃん「あの中に一人で半日ってどうです?誰かと話したり何かしたりとか出来なくは無いですけど、それでも半日とかになればどうしようも無いです」

男「なら寝るしかない、のか」

しーちゃん「そう。寝るんです。でもそれは体を休めるために機能を落とすという生物的な物じゃないんです」

男「夢を見ないって話か?」

しーちゃん「いえ、暇と感じるその意識を落とすんです」

男「…ん?」

しーちゃん「想像しにくいとは思います。でも艦娘はそういう事が出来る。そういう事をするんです。必要でない時、人という部分を落とせる。まるで誰も乗っていない船みたいに」

男「誰も、乗っていない…」

しーちゃん「今回の三十分放置はそのテストです。これまでの経験から体を静止させ目を瞑った状態からなら概ね三十分以内に艦娘は意識を落とします」

男「今は、今はどうなんだ?」

しーちゃん「今は目を瞑っているだけですね。そこら辺はこの機械でバッチリ分かります」

男「…」

しーちゃん「知らなかったでしょ。まあ私も最初は知りませんでしたけど。よくよく知れば、艦娘はあまりに人間と違うんです」

男「お前は、出来るのか?」

しーちゃん「…私には多分もう、出来ないでしょうね」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
264 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:15:26.33 ID:zJyYpUOOO
叢雲「何ボォーっとしてんのよ」

男「ん?あぁ、叢雲か」

いつの間にか夕日を眺めたまま立ち尽くしていた。

叢雲「もうすぐ夕餉でしょ。今日はどうするの?」

男「今考えていたとこだよ」

叢雲「何も無いならこっちで決めてもいいかしら」

男「もちろん構わないが」

叢雲「今日吹雪と、あーウチの姉妹が何人か当番なのよ。だからあの娘に何か作ってもらおうと思って」

男「助かるよ」

叢雲「ならそう伝えとくわ」

男「なあ叢雲」

叢雲「何よ」

男「最後に寝たの何時だ?」

叢雲「はあ?昨日よ昨日。ちゃんと司令官の言う通り寝てるのよ」

男「…寝てる時って、どんな感覚だ?」

叢雲「寝てる時って言われても、寝てるのよ?そんなの分かりっこないじゃない。そこにいないんだもの」

男「あぁ、そうか。そうだな」

叢雲「?ほら、行くわよ」
265 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:25:21.74 ID:zJyYpUOOO
少し遅めのゴールデンウィーク

生きてました。まだまだ色々と大変な時期ですが頑張って提督やっていきたいです。

入渠ドックの外見はゲーム内に鎮守府のイラストがあるという話を何処かで見てそれを思い出したのですが実際どのイラストなのかは忘れました。記憶違いなのか…?
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 02:26:14.51 ID:/MxgXHWUo
おつです
しーちゃんはなんじゃろな
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 02:48:05.53 ID:2ASycq3qo
otu
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/27(水) 12:36:42.09 ID:LJFIjVj60
おつ
ゆっくりでもいいから完結頼むぜ
楽しみにしてるんだ
269 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 02:58:22.36 ID:UO9Mmx190
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『おはよう』

『おはよっ、課長さん』

扉を開けると既に起きて本を読んでいた彼女がこちらを向いて挨拶をする。

何事も無ければこうして規則正しい生活は出来るようになってきた。

『あら、今日は司令官も?』

提督「おはよう」

『今日は何の用かしら』

提督「大切な話があるんだ。君に関わる大事な事がね」

『私?』

提督「そう。君に自身の名前を決めて欲しいんだ」
270 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:00:52.64 ID:UO9Mmx190
それは昨日の夜決めた事だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

提督「名前を、まあ僕が付けるってのはいいんですけど。いざ付けるとなると迷いますね」

男「極端な話記号でも良いんですよ。いえ良くはないんですけど、肝心なのは提督である貴方が仮のあだ名を付けるって点なので」

叢雲「無難に今あるあの娘のあだ名から選べばいいんじゃない?」

提督「えっと、赤子・紅・赤ずきん・緋色・さくら・撫子…」

叢雲「座敷童子・姫ちゃん・官女・お雛様。後はピーちゃんとかワラビーとか訳わかんないのも聞いたことあるわ」

男「だからなんで皆統一しようとしないんだ…」

提督「うーん責任重大だなあ。あそうだ。今の中からあの娘に選んでもらうというのはダメですかね」

男「選ばせる、か。確かにそれは悪くない」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『…ワラビーって?』

男『気にしなくていいよ。よく分からないから…』

『この中だったら、そうね。緋色!緋色がいいわ!』

提督「了解。なら少しの間かもしれないけれど、よろしく。緋色」

緋色『ええ、こちらこそ』

そうしてお互いに握手をする。

そう。これが大事なんだ。
271 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:01:51.81 ID:UO9Mmx190
男『さて。仮とはいえ名前も決まったし、昨日の検査で問題なしとなった。今日からは外に出て色々と学んでもらう』

緋色『本当!?やった!』

男『あぁ、だがそ』
叢雲『その前に!』バタン

緋色の部屋の扉を勢いよく開けて叢雲が入ってくる。

緋色『?』

叢雲『掃除するわよ!』

提督「…と言って聞かなくてね」

叢雲『必要な事よ!』

そこには箒を持った叢雲がいた。

エプロンをして三角巾を被りマスク代わりの布を首から下げるその姿は、うん、正直おばさんくさい。言わないけど。
272 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:03:10.08 ID:UO9Mmx190
叢雲『この建物。こうして他の建物と離れた所にあるのを見て分かるかもしれないけど後から追加で建てられたものなのよ』

緋色『確かに、あっちの大きいのとは全然材質が違うものね』

叢雲『で、色々あって貴方…えっと、』

提督「こちら、緋色嬢でございます」

緋色『ひ、緋色です。よろしくお願いします』ペコリ

叢雲『緋色が来るまで放置されてたのよ』

男『見ての通り何も無いしな』

叢雲『一応サッと掃除はしたのだけれどね。それじゃあ不十分。物もない。それに掃除する係もいないからほら』サッ

廊下の床を指でなぞって見せる。

叢雲『こんなにホコリが溜まってる!』

小姑みたいだな。

提督「小姑みたいだね」

叢雲『』ガンッ

箒の柄を床に叩きつけて黙らせる。これはオカンだな。
273 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:03:55.33 ID:UO9Mmx190
叢雲『掃除も皆持ち回りでやっている鎮守府の大切な仕事よ。まずはそこから学んでもらうわ』

緋色『は、はい!えっと、先生?』

叢雲『先生…そうね、ええ。先生よ!』ドヤサ

なんだか嬉しそうだ。

提督「そんなに嬉しいかい?」

叢雲『』ガンッ

何でいちいち口に出すんだコイツ。

叢雲『とはいえこの人数じゃ無理があるものね。なので今回は助っ人を連れてきたわ』

江風『いよっス』ヒョコ

男『江風か』

今日はジャージのようだ。掃除するのだから当たり前か。

江風『へへ〜ンおっひさぁ。それに初めましてだな、緋色。江風ってンだ。よろしくな』

緋色『よ、よろしく』
274 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:04:38.75 ID:UO9Mmx190
江風『いやぁ飛龍さンの言ってた通りだな!めっちゃ可愛いじゃンか!』

緋色『ひ、飛龍さん!?』ビクッ

江風『…なンかすげぇ怪訝そうな面持ちなンだけど』

男『ちょっとな。別に仲が悪いわけじゃないんだが、第一印象がこう、合わなくてな』

江風『あぁ、なンか想像ついたわ』

叢雲『さて。とりあえず廊下の掃除からよ。道具もそこに置いといたから』

緋色『はい!』
江風『ほ〜い』

男『…俺もか?』

叢雲『当たり前でしょう』

ですよねぇ。

提督「じゃあ叢雲、あとは頼んだよ」

叢雲『ん』
275 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:05:28.82 ID:UO9Mmx190
叢雲『掃除の基本は?』

江風『え』

叢雲『基本よ。前に言ったじゃない』

江風『めっちゃ頑張って磨く』

叢雲『アンタはそれやると力加減間違えそうだから止めて』

緋色『上からやる!』ビシッ

叢雲『正解』

緋色『よし!』

江風『なるほど、まずは制空権を取るのか』

叢雲『それっぽい事言ってもアンタが今新人より下の立場になった事に変わりはないわ』

江風『チャンスを!もう一回チャンスを!!』

叢雲『二人はまず廊下の窓を掃除。そうね、江風は外から、緋色は中からにしましょう』

江風『この長屋って課長と緋色ンとこ以外にも部屋がいくつかあるけど、そこの窓はいいのか?』

叢雲『長屋とか呼ばれてるのねここ。そっちの部屋はどうせ使わないからまだいいわ』

江風『ほーい』
276 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:06:09.70 ID:UO9Mmx190
叢雲『道具はこのバケツに入れたから好きに使ってちょうだい』

緋色『はい』

江風『よっしゃ江風一番乗りだぜい!』ダッ

叢雲『廊下は走らない』ガッ

江風『ハイッ』

男『…俺はどうする?』

叢雲『これで高いとこのホコリを叩いといて』

男『なるほど。となるとマスクか何か欲しいんだが』

叢雲『あー、確かにそうね…』

緋色『あ、私いいもの持ってるわ!』

男『いいもの?』

緋色『ちょっとまってて』パタパタ

嬉しそうに自分の部屋に戻っていく。

男『子犬みたいだな』

叢雲『可愛いじゃない。素直で』

先生呼びされてから緋色に凄い甘い気がする。別に悪い事ではないが。
277 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:06:38.07 ID:UO9Mmx190
緋色『これなんかどうかしら!』

男『…緋色さん』

緋色『何?』

男『その、これは?』

叢雲『』プルプル

緋色『下着だけど?』

男『いやダメだろ!』

緋色『ダメなの!?』ガビーン

男『なんでそんな微妙な倫理観が抜け落ちてるんだよ!?』ガビーン

緋色『先生から頂いた物なのに!』

叢雲『そこわざわざ言わなくても良かったじゃない!?』


江風『…何やってンスか』
278 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:07:21.60 ID:UO9Mmx190
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

結局江風のマフラーを借りた。

大切な物だからとジャージの下に巻いていたらしいがそんな物をマスク代わりに貸してもいいのだろうか。

借りる側だしそれ以上追求はしなかったが。

男「潮の香りだな」

あれ、もしかしてこれ傍から見ると少女から借りたマフラーを嗅ぐ変態なのではなかろうか。

廊下の奥の方を見る。

江風と緋色が何か話しながら窓を拭いている。

なんだかんだすっかり仲良くなっていた。

叢雲『手ぇ止まってるわよ』

男『いや、サボってる訳じゃなくてな』

叢雲『冗談よ。しっかし凄い埃ね。想像以上』

男『俺が来る前に軽く掃除したんじゃなかったのか?』

叢雲『そんな所までやる余裕はなかったもの。だからそうね、年末の大掃除が最後かしら』

男『五ヶ月以上放置か。納得の量だ』

叢雲『こういうのってやろうやろうと思っていても中々出来ないのよねえ』

男『分かる』
279 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:07:58.05 ID:UO9Mmx190
しかし長屋、長屋か。その呼び方はきっと実に正しい。

鎮守府にある建物は生活の為の部屋と業務の為の部屋に分かれる。

それで言えばここは前者だ。

だが、他の建物から隔離されてるとも言える立地。共同の風呂が一つ。女性用ではなく男性用のトイレ。誰も使っていない長屋。つまりここはなんなのか。

男『ここに実際に"人員"を入れた事は?』

叢雲『あるわ。最初は人手が欲しくてね。でも合わなかった。私もそうだけど』

男『そうか』

鎮守府に提督以外の人員を配属するか否か。これは未だに正解の見えない問題でもある。

人と艦娘が上手くやっている所もあれば、艦娘だけの所もある。

ここのように一度人と触れ、そしてやはりダメだった場合も。
280 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:08:58.56 ID:UO9Mmx190
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『後は廊下を拭いて終わりね』

男『水道とか風呂はどうするんだ?』

叢雲『水道は私がやったわ。お風呂とトイレは使った人が掃除する事』

つまり俺か。

江風『よっしゃ雑巾がけタイムだ!』

叢雲『なんでそんなに張り切ってるのよ』

江風『聞いたぜ叢雲。お前吹雪型の中で二番目に速いんだろ?』

叢雲『誰から聞いたのよそんなの…』

江風『勝負だ!』

男『何の話だ?』

叢雲『雑巾がけのスピードよ』

子供か!

…子供か。

いや子供か?

叢雲『残念だけどこれからお風呂掃除とかのレクチャーがあるの。それに面倒だからどの道パスよ』

江風『ちぇー』
281 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:09:47.52 ID:UO9Mmx190
叢雲『…そうね。でも貴方の実力次第では考えてあげなくもないわ。試しに緋色とやってみたら?』

江風『ほンとか!?よっしゃやろうぜ緋色!』

緋色『えぇ!私も?』

江風『なあなあいーじゃンか!貸しって事でもいいぜ』

緋色『まあ、別に嫌ではないけれど』

江風『決まりっ!スタートラインあっちな』

緋色『待って、具体的にはどうやるの?』

江風『そりゃ簡単よ。こう両手で雑巾を床に押し当ててそのままダッシュ。手が浮いたらアウト』

緋色『よし、分かったわ』

江風『初めてだし試しに一回やってみっか』

緋色『えぇ』
282 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:10:30.56 ID:UO9Mmx190
これまで緋色と過ごして来て分かった事がある。

彼女は意外と活発的だ。

最初はオドオドした所が目立ったが、それは記憶の無さから来る恐れや不安に起因するものだったのだろう。

それが飛龍や江風との接触を経て少しずつ素の緋色が出てくる様になったと思う。

未知に期待を寄せ、友人と楽しげに会話し、こうした勝負事では以外にも負けず嫌い。

そんな緋色が

叢雲『…同じ目ね』

男『ん?あぁすまん。ぼーっとしてたか』

叢雲『司令官と同じ様な目をしていたわ』

男『俺が?』

一体どんな目だ?そう問いかけて見ようとした時だった。

『フギャッ!?』バチン

叢雲『!』
男『!?』

江風『あ』

緋色『』

廊下で顔面からズッコケた緋色がいた。
283 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:11:09.69 ID:UO9Mmx190
男『緋色!大丈夫か!!』

緋色『イタタ…思いっきり躓いちゃった』

江風『おー鼻真っ赤』

叢雲『まったく』ヤレヤレ

男『え?』

いやいや待て待て顔面から行ったんだぞ?落ち着き過ぎじゃ

叢雲『お願いだから入渠沙汰になるような事はしないでよね』

江風『それくらいは弁えてるって』

緋色『顔、変じゃないかしら?』

叢雲『ええ平気よ』

あぁ、そうか。そうだった。

男『鼻血とか、大丈夫か?』

江風『おいおいおい、この程度でウチらが血ぃ流すわけないじゃンか』ハッハッハッ

男『…だな』

少し痒そうに鼻を擦る緋色を見て思い出す。

艦娘は人とは違うんだ。
284 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:11:57.66 ID:UO9Mmx190
緋色『…』

叢雲『どうしたの?』

緋色『外に出て、いいえ。部屋にいる時も少し思うことはあったのだけれどね』

江風『何が?』

緋色『この袴動きにくい!』

男『そりゃまあ、袴だしな』

勿論実際履いた事なんかないから偉そうな事は言えないが、叢雲の短いワンピースとタイツ、江風のジャージに比べれば動きの制限はかなりのものだろう。

江風『ンあ〜確かにこりゃなあ。すっげぇ長いもンなこれ』

叢雲『今度余ってるジャージ持ってくるわ』

男『過去類を見ないタイプの服装だしな』

それ故に名前の特定に難航しているのだが。船だけに。

江風『…よし。江風さンのを貸してやろう』

緋色『いいの?』

江風『勝負挑ンだのはこっちだしさ。だから』ヌギ

男『え』

江風『ほい』スッ

男『脱ぐの?』

緋色『ありがとう!』スルッ

男『そっちも!?』
285 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:12:49.56 ID:UO9Mmx190
男『なんか俺が変に気にしてるだけみたいで辛い』

叢雲『ここら辺はまあ、慣れてとしか言えないわね…』

江風『どうした課長さン』

男『清々しい、清々しいぞこの縞パン』

江風『ン?あっ、ぶるまってやつの方が良かったか?』

叢雲『どこで聞いたのよそんなの』

緋色『わ〜すっごい!ジャージ凄いわ!動きやすい』

男『ところで今緋色が履いてる下着ってむr『掃除、するわよ』ハイ』

江風『よっし仕切り直してもっかいだ。スタートラインまでゴー』

緋色『ゴー』

ジャージにパンツと着物にジャージ。いっそ恐怖すら感じる奇妙な絵面だ。
286 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:13:23.94 ID:UO9Mmx190
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲「排水溝の髪の毛はちゃんと捨てておいてよね」

男「う、そうするよ」

長屋の風呂は俺しか使っていない。よって自分の後始末は自分でしなくてはならない。

しかしこうしてあれこれ注意してくる様は小姑よりも母親を思い出す。

叢雲「アイツも何度も注意してるのに掃除しないのよねえ」

男「はは」

母親というか奥様だった。

男「提督は何処の風呂を使っているんだ?」

叢雲「執務室の横に私室があるのよ。そこのをね」

男「ほぉ」

叢雲「流石に私達の使ってる浴場を使わせる訳にはいかないでしょう」

廊下からドタバタと激しい足音が聞こえてくる。

レースは白熱しているようだ。

叢雲「アレちゃんと掃除できてるんでしょうねぇ」

男「廊下走っていいのか?」

叢雲「掃除してるならセーフ」

男「適当な」
287 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:14:45.63 ID:UO9Mmx190
男「そういえば、艦娘ってやはり気にならないものなのか?その、下着とかって…」

叢雲「しないわよ。そもそも見られて困るって考えはそういう価値観を知らず知らず教えこまれるから芽生えるものでしょ?原人が裸を恥じるかしら」

男「なるほど。最もな意見だ」

叢雲「気にするとしたら露出ではなくそうなる程被弾した事実でしょうね。ま、たまに人間からの下卑た視線に辟易する事はあるけれど」

男「ホントすまん」

叢雲「鼻の下を伸ばすんでなければ別にいいわよ。アレは、私達を船でも人でもないもっと下劣な物と捉える目付だから気に食わないだけ」

男「お世辞じゃなく艦娘はみな見た目が綺麗だからな。下心が、そりゃ全くないわけじゃなかろうが皆が皆そんな目で見ているわけじゃないだろう」

あまりに人間を敵視する叢雲につい擁護の声を上げてしまう。

実際艦娘は人々にとって救世主であり英雄であり救いの女神だ。加えてその容姿からある種の信仰とも言える支持を集めているのも事実だ。

叢雲「あら、慰めてくれるの。それとも人類が貶されるのは我慢ならない?」

これまでの経験から分かってはいたが、この手の話になると叢雲はすぐカッとなる。

こういう時叢雲のスラリとした矮躯は、その鋭い目付きからたまに弾丸のような印象を受ける。

男「俺は皆の味方だよ」

叢雲「都合のいい言い方ね」

男「オブラートに包んだと言ってくれ」
288 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:20:35.05 ID:UO9Mmx190
叢雲「そぉ、ね」

男「?」

つかつかと叢雲が俺に歩み寄ってくる。というよりもこれはもう、

迫り来ると言うべきだ。

男「叢雲!?」

思わず一歩右足引いたところ残った左足を払われた。

体制を崩し後ろに倒れる瞬間胸ぐらを捕まれ、結果として壁に寄りかかる形でゆっくりと座らされた。

流石艦娘。技術も力も凄い。

男「で、なんの真似だッ!?」グイッ

そのまま胸ぐらをぐいと引き寄せられ叢雲に顔を付き合わせられた。

いくら小柄な駆逐艦とはいえこうして座らされてしまうと上から見下ろされる形になってしまう。

先程"艦娘は皆見た目が綺麗"等と宣ったがこれに関しては完全に主観だ。客観的に見ても恐らくそうだが先の言葉は間違いなく自分の抱いていた感想から来るものだ。

事実、目の前の小さな顔の大きなオレンジの瞳に見惚れている。

叢雲の薄い雲のかかった青空のような色の髪が、まるで雫のようにこちらの頬に撓垂れ落ちてくる。

叢雲「なぁに顔赤くしてんのよ」

男「え、うわっ」

パッと手を離され開放される。

クソ、少しドキドキしてる自分が情けない。年下の少女にからかわれ、年下?年下でいいのかな。
289 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:21:46.13 ID:UO9Mmx190
叢雲「司令官だってそんな顔はしなかったわよ」ニヤニヤ

それ暗に同じような事したと言ってるようなものなんじゃ。

男「で、何がしたかったんだ。まさか掃除サボって大の大人をからかう為じゃあるまいな」

叢雲「いえ、ただ貴方、どうして提督にならないの?」

男「え」

叢雲「だってそうでしょ?貴方、私達に自然に接してくるし、なにより"話せる"し"聞ける"じゃない」

提督になる為の素質はいくつかある。その中でも分かりやすく、かつ大きい要素が一つ。

それが艦娘の声を聞き、意思疎通が可能かどうかだ。

艦娘は日本語、あるいは外国語までもを理解し読み書き出来る。もちろん筆談も出来る。だがどういうわけか普通の人間と"会話"が出来なかった。

声が、人の声が艦娘には届かず、また彼女達の声も人には届かなかった。
290 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:23:59.58 ID:UO9Mmx190
言語は理解しているのに言葉が届かない。そこには不思議な壁があった。

それは単純に先頭の指揮や業務に影響が出るだけではなかった。彼女達との繋がりを築けないという事でもあった。

故に会話の可能な人材は誰であろうと集められた。ある程度戦局の落ち着いた今でさえ一年か二年程の教育で鎮守府に配属されるという。昔なら即日だったとか。

でも

男「なれなかったんだよ」

叢雲「なれない?」

男「俺は聞こえるだけで、伝わる事も伝える事も出来なかったんだ。提督にはなれなかったよ」

嫌な思い出だ。

いたたまれなくなって風呂場を出てそのまま廊下への扉を開ける。

江風『ヒャッホーいいぞいいぞ!』
緋色『それーー!』




男「」

思考が目の前の光景を理解する前に停止した。
291 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:30:24.32 ID:UO9Mmx190
全く関係ないけどづほの七周年ボイス可愛い

激しい運動をするのでなければ袴はこの時期非常に快適なのでオススメです。
しかし改めて露出度的な意味でも神風型の服って艦娘の中でもかなり異色ですよね。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/30(土) 03:41:25.33 ID:qJnR1XI+o
おつおつ
露出的にも普段着で通用するやね
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/30(土) 05:58:25.71 ID:85mjA0YL0
おつ
カギカッコが「」と『』で混じってるのは意味があるんかな
294 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:19:21.88 ID:clR9XJvv0
「」と『』はそれぞれ人の言葉と艦娘の言葉で分けてます。
人間と艦娘で意思疎通出来るとは限らないのでは、というのがこれを書くきっかけになったのでおいおい説明していくつもりです。
295 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:20:25.87 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

提督なれなかった、という意味を私は十全に理解できなかった。

でも逃げる様に風呂場を出て行くその背中にそれ以上の質問を投げかけるのは流石に憚られる。

それでも何か声をかけようと私も風呂場を出て、出た所で

男「」

叢雲「…ん?」

固まってる。

両手で顔を覆い廊下へ出る直前の所で固まってる。泣いてる、とかじゃないわね。

え、何?ちょっとわかんない。

入口で立ち尽くす課長の横から江風と緋色の声が響く廊下に顔を出す。

江風『あ、終わったか?』
緋色『お疲れ様〜』

そこにはジャージにパンツの江風と、完全に下着姿の緋色がいた。

下着?

なるほど、これは固まるのも納得だわ。

叢雲「…ふむ」

少し迷って私は、廊下に立てかけておいた箒は古い物だし振り回して折れても問題ないだろうと言う結論を出した。

どうせ江風のせいでしょう。
296 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:21:10.45 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『それじゃあ道具はトイレ横のロッカーに入れて置いて。使う時はそこからね』

男『あぁ、ありがとう』

江風『秘書艦殿この折れた箒は如何致しましょう』

叢雲『捨てといて』

緋色『うぅ、ごめんなさい』

男『緋色のせいじゃない、と思うぞ多分』

江風『それよか!早くやろうぜ課長さン』

叢雲『江風、アンタこの後の護衛任務忘れてないでしょうね』

江風『覚えてるって。信用ねぇなぁ私』

叢雲『動きやすくするなんて理由で下着姿にさせる奴を信用する程私は冷静さを失ってないのよ』

江風『悪かったって…』

叢雲『緋色も、なんか変なことされたらすぐに言いなさいよ』

緋色『はーい』
297 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:22:09.58 ID:clR9XJvv0
建物を離れ執務室に向かう。

どうやら今度は三人で雑巾がけ大会をするらしい。

叢雲『何やってんだか』

しかし掃除というのは上手くいった。

何も今回のは本当に掃除がしたかったからという訳じゃない。

鎮守府内では基本的に身の回りの事も全て自分たちでやらなければならない。その為炊事洗濯掃除に至るまで全てがシフト制になっている。

ウチはまだ117しか艦娘がいないが、それでも出撃遠征船団護衛等々がどれだけ重なっても半数弱は鎮守府にいる事になるのだ。何だかんだで生活は回っている。

そのシフトにあそこの、長屋の掃除を加えて少しずつ緋色と皆を会わせていこうという魂胆だ。

叢雲『となるとシフトを少し変えなきゃね』

頭のどこかでシフトを組み替えつつ執務室の扉を開ける。

提督「おかえり」
吹雪『あ、おかえり〜』

叢雲『あら、てっきりまだ工廠の方かと思っていたわ。それに吹雪も、どうしてここに?』

提督「有難いことに存外早く終わってね」

そう言って机の上のPCと睨めっこを再開する。

吹雪『私はちょっと報告にね。もしかしてお邪魔だったかなあ』ニヤニヤ

叢雲『…』イラッ

吹雪『叢雲はさ、機嫌悪い時の自分の顔を一度鏡で見た方がいいと思うんですお姉ちゃんは』

叢雲『アンタも一度私をおちょくってる時のニヤケ顔を確認してみた方がいいわよ』

提督「仕事中に戯れないで。そっちはどうだった?」
298 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:22:52.19 ID:clR9XJvv0
叢雲『まあ上手くいったと思うわよ。それで昨日話してた掃除のシフトの件なんだけれど、以前B班とD班でメンバーを変えようって話が出てたじゃない?それも含めて』

提督「あー待って待って、今こっちを片付けたいから。そうだね、案があるならまとめといてくれないかな。終わったらそれを見て決めるよ。と言っても僕が口を挟む余地はない気もするけど」

叢雲『りょーかい』

そうだった。司令官は私達みたいに"自分のどこかに思考を任せる"事は出来ない。一つの事に集中するので手一杯だ。

基本的に生物としての能力は艦娘の方が遥かに上になる。

シフト表のB案をまとめつつ司令官の座る机に向かいながらそんな事を考える。

肉体的にはもちろん脳の処理能力も単純に人の数十倍はあるだろう。それでも司令官というか存在が必要なのは、私達に無いものがあるからだ。
299 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:23:33.45 ID:clR9XJvv0
叢雲『それは?』

提督「ここよりもう少し南の、ほら前に演習をした鎮守府があったろ?あそこからの報告で深海棲艦に少し妙な動きがあるらしくてね。以前タンカー襲撃があったのもここだ」

叢雲『…ウチの船団護衛のルートにも近いわね』

提督「それで吹雪に来てもらったんだ」

吹雪『はい。私の艦隊も今日そこを通ったの』

叢雲『どうだった』

吹雪『航路自体には何も。でも司令官から聞いて一応偵察機を広く出してたんだけど、そしたら敵の艦載機みたいなのを何度か確認したみたいで』

叢雲『へぇ…そう。どう思う?』

提督「憶測だけじゃまだ何も言えないね。ただもう少し監視と護衛を強化するべきかもしれない」

叢雲『そうね。それには賛成だわ』

提督「次は、また吹雪の艦隊になるね。頼んだよ、吹雪」
300 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:24:01.95 ID:clR9XJvv0
吹雪『はいっ!お任せ下さい』ビシッ

嬉しそうに、とても嬉しそうに。跳ね上がらんばかりにビシリと敬礼をしてみせる吹雪。

そう。

私達にはこれが必要なのよ。

前に進めという指針が。

背中を押す声が。

駆逐艦叢雲の歩んだ歴史は、経験は、私のこの足で歩んできたものじゃない。私達は皆結局のところ生まれて間も無い赤子に過ぎない。

司令官はそんなまだ空っぽな船の中を満たしてくれる、そういう存在。

なんて。別に難しい話じゃないわ。

海がしょっぱいのと同じ様に、船には船長が必要なのよ。ただそれだけの単純な話。
301 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:24:50.56 ID:clR9XJvv0
提督「よし終わり。工廠の方も片付いたし後は、は…あれ?」

吹雪『どうしました?』
叢雲『どうしたの?』

提督「…明石から貰ったデータの奴って吹雪持ってる?」

吹雪『え?あのメモリーって司令官が受け取ってたじゃないですか』

提督「うわぁ、忘れてきた…」

叢雲『なぁにしてんのよ』

提督「ゴメン」

吹雪『あ!じゃあ私ちょっと取ってきますね』

提督「ごめん、頼むよふb…え?」
叢雲『ちょ、え?』

吹雪『よいしょ』ガラッ

おもむろに吹雪が窓を開ける。三階に位置する執務室は海に近い事もあって非常に風通しがよく夏は重宝するがこの時期はまだ開けるには寒い。

ましてその窓に足をかけたりはしない。

提督「…何してんの?」
吹雪『とう!』バッ
叢雲『とうじゃないでしょお!?』
302 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:25:30.30 ID:clR9XJvv0
提督「…」

叢雲『…』

提督「だ、大丈夫だった?」

叢雲『着地はちゃんと出来てたわ。失敗しててもたいした事はないと思うけど』

提督「吹雪ってなんか凄いズレてる所あるよね」

叢雲『悪気はないんだけれどね…いやだからこそ余計悪いというか』

提督「なんか学生の頃思い出した」

叢雲『どうして?』

提督「お昼の購買に行く時窓から飛び降りたら近道なのになあとか考えてたんだよ」

叢雲『こうばい?』

提督「アイテム屋だよ。昼食が売ってるんだ」

叢雲『ふぅん』

とりあえず窓は閉めた。

提督「吹雪には後で言っておいてね」

叢雲『嫌よアンタが言えばいいじゃない』

提督「姉妹だろ?」

叢雲『あれ程タチの悪い姉はいないわ』
303 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:26:15.29 ID:clR9XJvv0
提督「誰か真似するといけないしなぁ。ここは提督としてビシッと言わなきゃか」

叢雲『そうよ。アンタが私達の』

"なれなかったんだよ"

叢雲『…私の』

"提督になれない"

提督「叢雲?」

司令官の両肩を掴みぐいと顔を引き寄せる。

椅子に座っているとはいえそれでも司令官の背は私より少しばかり大きい。

提督「えっと、どうしたの?」

お互いに目を合わせる。

司令官は特に動じることも無く不思議そうに私を見つめている。

眼鏡のレンズに映った私が見える。

司令官の見ている私は、はたしてそこに映っている私なのだろうか。

それとも司令官の瞳には、何か別のモノが写っているのだろうか。

レンズに映る私の瞳が水平線に沈む夕陽のように不安定に揺れている。それが堪らなく情けなくて

叢雲『あっ』ギュッ

不意に抱き寄せられた。司令官の左肩に顎を載せる形で体を重ねる。

私よりも太くて長いその弱々しい手が私の腰周りを包んでいる。

司令官の心臓の鼓動が波のように私の中に反響して、
304 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:26:49.55 ID:clR9XJvv0
吹雪『取ってきましたあ!』バタンッ
叢雲『!?』バッ

提督「あら、おかえり。あった?」

吹雪『はい!明石さんは何か色々と言いたそうでしたけど』

提督「うん、後で謝っておくよ」

吹雪『…叢雲?』

提督「あー、そうだ吹雪。さっきの話、瑞鳳達にも伝えておいてくれるかい。明日もまた同じ艦隊だろ?」

吹雪『了解です。えと、それでは失礼しまーす』




提督「あぁ、注意するの忘れてたな」

提督「まさか他にもあんな事してる娘いないよね」

提督「叢雲さーん?」

叢雲『今夜』

提督「へ?」

叢雲『今夜、空いてるわよね』
305 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:27:21.82 ID:clR9XJvv0
提督「…君が仕事をしろと言わないのなら空いてるよ」

叢雲『仕事はしなさい。無理のない範囲で』

提督「そういえば、緋色が来てからもう二週間は経つね。ここ暫くはご無沙汰だったか」

叢雲『…そうね』

提督「んー?なんだいなんだい、寂しかったのかい」

叢雲『さて、C案まで出来たわ。今から書き出すから吟味しなさい。仕事よ し ご と』

提督「艦娘ってホント便利だね」

叢雲『まあね』

提督「でもそうやってずっと頭使ってると疲れるだろう。少し他の娘と同じに普通に過ごしててもいいんだよ」

叢雲『問題ないわ。それに秘書艦だもの。お陰様で休息はとれているし』

提督「なら、僕も応えないとね」
306 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:28:38.43 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

朝から始めた掃除を終え江風と共に昼食を食べ、そのまま江風にここでの生活や業務を緋色に説明してもらった。

意外にもちゃんと説明出来ていて驚いたが、叢雲曰く体を動かさない限りはマトモな娘だそうだ。

夕食も江風と共に摂るつもりだったが緋色の意識が落ちてしまったので今日はお開きとなった。

そしていつもの報告会。

男「流石にお風呂に入れても大丈夫でしょう」

提督「掃除の後ですしね。緋色は今も?」

男「ぐっすりですよ。明日の朝には起きると思いますけど」

叢雲「ようやくね」

男「助かったよ今まで」

叢雲「まさかアナタにやらせる訳にはいかないものね」

艦娘は基本的に動かなければ何も消費しない。黙って座っていれば何時まででも変わらずそこに居られるという。

睡眠は生物的な必要性はなく、食事も動く分だけ必要とする。船として動くには燃料を。人として動くには食事をという違いでどちらも燃料と言っていいだろう。

身体は改装による変化、もしくは進化のでしか変わらず成長は一切ない。身体の維持も生物ではなく船を基準としており老廃物等は食べたものしか出ないそうだ。

それ故部屋に篭っているだけの緋色はこれまで叢雲に身体や髪を拭いてもらう程度で生活していた。汗や匂いを気にしなくていいのは少し羨ましい。
307 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:29:12.42 ID:clR9XJvv0
提督「でも夕方頃に寝たのなら一昨日みたいに今頃起きるんじゃないですかね」

男「そこはなんとも。それならそれで今日お風呂に入れられますし」

叢雲「お風呂って長屋の、アナタが使ってるやつよね」

男「あぁ」

お風呂は共同の少し大きめのものだ。如何にも男性用と言った感じだが。

叢雲「あの娘一人で大丈夫なの?」

提督「流石にお風呂くらいは、大丈夫ですよね?」

男「大丈夫かと聞かれたら不安要素はあるとしか言えないじゃないですか…」

お互いに顔を見合わせる。

脱走、なんて事は無さそうだが未だいつ意識を失うか分からない緋色を一人お風呂に入れるのは確かに怖い。艦娘だから溺れたり頭をぶつけたりなんていうのは驚異ではないが。

叢雲「はぁ、仕方ないわねえ」

また叢雲を頼る事になるが致し方ない。

叢雲「…ん」

男「ん、どうした?」

自分がやる、といった素振りを見せていた叢雲が不意に固まる。

叢雲「いえ、別にアナタが見張ればいいじゃない」

男「俺が!?」
308 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:29:46.04 ID:clR9XJvv0
叢雲「中に入らなくったって脱衣場で待ってれば事足りるわよ」

男「いやいやそれが不味いだろって話じゃないのか!?」

叢雲「直接見るわけじゃないし扉越しに声でも掛けてればいいわよ。あの娘も気にしないと思うわよ」

男「向こうはそうかもしれんが…なんでまた急に。今日明日なにかあるのか?」

叢雲「ッ」ビクッ

え?何だこの反応?

提督を見てみる。

提督「あはは」

少し困った様な、でも叢雲の反応を楽しんでいる笑い方だ。

男「はぁ。まあ緋色が嫌がらないのであれば別にいいか」

いいのかなぁ。
309 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:31:24.00 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「聞こえてるか?」

「聞こえてるよー。でも音がなんかちっちゃい。んん?この接続端末って、もしかしてワイヤレスイヤホン繋いでる?」

男「あぁ」

「なんでまた、今部屋にいないの?」

男「風呂の脱衣所にいる」

「は?」

男「緋色が、あぁあの娘の仮の名前な。緋色になった」

「へぇ緋色、緋色かぁ。いい名前じゃん」

男「そう、だな」

「はいはいそこ暗くならなーい。で何?緋色ちゃんのパンツでも漁りに来てるの?」

男「割と笑えないからやめてくれ」

「え」

男「緋色が今風呂入ってんだよ」

「え」

男「見張ってんだよ脱衣場で」

「もしもしポリスメーン」

男「違うんだよやめてマジやめて」
310 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:32:19.21 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「へぇそれで見張りねえ。いやそうはならんやろ」

男「なったんだよ何故か」

「いやまあそこまでは百歩譲って良しとしよう。なんで私呼んだのさ」

男「いたたまれないんだよ…」

「は?どゆこと」

男「今すぐそこの風呂場で少なくとも見た目で言えば小学生くらいの女児が素っ裸で居るんだぞ…それを一人黙って脱衣場で見張るとか辛すぎる…」

「ご褒美じゃん」

男「そう感じるのはお前の描いてる二次元の世界を好む者だけだろ」

「悲しい事に割とそうでも無いけど今は別にいいや」

男「何よりもしこれで性的興奮とかしてしまったらと考えるとこの場で自害したくなるから少しでも気を紛らわしたくてな…」

「それで脱衣場でイヤホンしてボソボソ喋る中年が生まれたわけね」

男「やめてくれ…」
311 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:33:12.05 ID:clR9XJvv0
「でも性的興奮自体は別に普通なんじゃない?女性の肉体の全盛期って中高生辺りっていうじゃん。

駆逐艦って背丈こそ小さいけど肉体はお前のような駆逐艦がいるかってくらい発達してるからさ。発達度合いは振れ幅がでかいけど」

男「だからなんだよ」

「緋色ちゃんも背丈こそ小さいけど胸は確実にあるし肉付なんかも結構成熟してるわけでね。つまり女性の肉体としては非常に魅力的と言える状態でそれに興奮するのは男なら仕方ない」

男「仕方ないじゃねぇよ仮にそうだとしても俺のプライドが許さん」

「変なプライドもってるなぁ」

男「人としての矜恃だろ」

「はいはいそーですか」

男「…シャワーか」

「あ、ホントだこっちまで音聞こえてきた。ふぅん今緋色ちゃん身体洗ってるわけかぁ。あの小さくてスラリとした子供のような体型。それでいて二の腕や腰、お尻や太腿なんかは子供特有のもっちりとしたものではなくクビレが見て取れる程で、まだ慎ましやかな胸は手にすっぽりと」
男「切るぞ」

「えーいい所だったのにぃ。薄い本かよ!?って展開なんだよ今まさに」

男「変な想像させんなマジで」

「ホントに余裕ないのね…」
312 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:34:04.34 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「とまあ今日の活動はこんな感じだ」

「ふむふむ。オーケーオーケーまとめとくよ」

活動記録は大切な物だ。いつもは寝る前に報告しているが今日はここで済ます。

男「流石に今日は疲れた」

「お疲れちゃん。課長ももう中年だもんねぇ。肉体はすぐに置いてかれるって言うよ」

男「馬鹿言えまだ三十路一歩手前だ」

「28超えたらおっさんよ」

男「嘘だろ…」

「まあ肉体の全盛期と本来60程度の寿命とを考えればあながち間違いじゃないわよねぇ」

男「それは確かに」

「歳は取りたくないものねえ」

男「全くだよ。今でこれだとあと数年したらどうなるか…」
313 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:34:57.97 ID:clR9XJvv0
「でもさぁたかが雑巾がけでしょ?」

男「あの体勢で走るのめちゃくちゃ辛いんだぞ」

「筋肉痛?」

男「ん、いやそんな感じはしないな。寝て起きたらなってるかもしれないが」

「課長昔はスポーツマンだったんでしょ?肉体のステータスは高いと思うよ。問題は体力だね。アレはすぐ落ちる」

男「お前に身体の事を賢しら顔で語られても説得力がなあ」

「ネットで見た」

男「ますます説得力ねぇよ」

「でも実際落ちてるでしょ?」

男「まあな。ストレッチでもするかな」

「ランニングとかいいんじゃない?道具も要らないし」

男「でも鎮守府はおいそれとは出れないし、敷地内で俺が走ってたら色々とトラブルが起きそうだろ」

「エッチなハプニング?」

男「俺をよく思ってない娘に絡まれるとかそういう奴だよ!」

「んじゃ朝は?起床前とか朝食の時間帯ならセーフなんじゃん?」

男「あぁ。それはありかもしれんな…」

「だしょ」
314 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:36:46.65 ID:clR9XJvv0
男「そろそろ切るよ」

「もういいの?」

男「シャワーの音が止んでしばらくたったし、そろそろ上がるだろう」

「なるほど。着替え覗いちゃ ダ メ よ 」

男「はいはい。さてもう11時か。髪の毛乾くのに時間かかるだろうし、こりゃ夜更かしかもな」

「課長ぉ女の子の髪の乾かし方とか分かるのぉ?」

男「うるせぇ。そういやお前は今日は寝るのか?」

「寝る寝る。最近ゲームばっかで寝てなくてさー。これからぐっすり寝るわけです」

男「原稿は」

「ゲームはね、インスピレーションが刺激されるのよ」

男「あぁ、そうか…」

「そういう反応がいっちゃん心にくる…」

男「ま、仕事してくれりゃ文句はねえよ」

「キャー素敵。それじゃおやすみ」

男「おやすみ、"秋雲"」

通信が切れる。

耳のワイヤレスイヤホンを外しポケットに戻す。
315 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:38:08.78 ID:clR9XJvv0
緋色「上がったよー」ガラッ

男「おう、分かっtなんでもう出てきてんだよ!?」

素っ裸。素っ裸の緋色が出てきた。なるほど先程の秋雲の描写は実に的確だなって何考えてる俺。

緋色「え!?だって上がったから…」

男「ま、いやちょ、待て待て今出る!出るから!」

緋色「いいわよ別に、ここ広いし。あ、そこの棚に入れてある下着取ってくれない?」

男「」

緋色「課長?」

次があるなら絶対叢雲に頼もう。
316 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:40:05.78 ID:clR9XJvv0
緋色『上がったよー』ガラッ

男『おう、分かっtなんでもう出てきてんだよ!?』

素っ裸。素っ裸の緋色が出てきた。なるほど先程の秋雲の描写は実に的確だなって何考えてる俺。

緋色『え!?だって上がったから…』

男『ま、いやちょ、待て待て今出る!出るから!』

緋色『いいわよ別に、ここ広いし。あ、そこの棚に入れてある下着取ってくれない?』

男『』

緋色『課長?』

次があるなら絶対叢雲に頼もう。
317 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:43:38.74 ID:clR9XJvv0
叢叢してきた

言った傍から間違えました。「」と『』は自分で書いてて紛らわしいと思ったりしますが、文字だとこれが一番なのかなと。
艦娘117人というのは自分の鎮守府準拠ですが、多いところだと今は200とか300になるんでしょうか。
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/15(月) 03:22:42.88 ID:A37L3JUDO
おつです
この間提督と叢雲は…昨夜はお楽しみでしたねしないと
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/15(月) 05:53:43.64 ID:Y3j8LMWfo
おつおつ
艦娘の入浴とか余裕で興奮するからね、仕方ないね
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/15(月) 08:23:08.29 ID:y4KTgFcJ0
海外艦の予備で3人とか鈴熊全種もちとか
まるゆ貯金?とかしてるからうちの鎮守府は350やな
枠だけでいえば390まで開けてるけど、次イベでまたあけるの間違いないわ
321 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:51:06.30 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「よし」

準備運動が終わった。

久々なのでラジオ体操なんかをやってみたのだが思いの外動きを身体が覚えていて驚いた。

時刻は朝の五時半。総員起こしの六時までまだ時間はある。鎮守府は眠ったままだ。

昨夜緋色も風呂に入った後何事もなく寝てくれた。

寝巻きのつもりで持ってきていたジャージはこの時期の朝には少し寒かったが動けば問題ないだろう。

鎮守府の港側は昼夜を問わず一定の艦娘がいるのでそこを避けて回るか。

小さいと言っても一つの鎮守府だ。それでもジョギングに十分な広さはある。

自分の体力を確かめるため少し軽いペースで走り始めた。
322 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:51:35.15 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「あ」

大鳳『え』

目が合った。

走り始めて一分も経たずに。

多くの艦娘が寝泊まりし執務室などもある鎮守府で一番大きい建物。その裏にまわろうとした所だった。

茶色の入った黒髪。もみあげの長さが特徴的なショートボブ。服装は、詳しくはわからないが陸上選手などがしている露出度の高いピッチリしたものだ。ブルマではないのは分かる。

腕を振り準備運動をしている姿からこれからジョギングをしますというのが察せられる。

大鳳『』

男「」

大鳳『あー、えっと。ご一緒します?』

少し恥ずかしそうにそう提案する彼女から敵意は感じなかった。
323 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:52:14.51 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『何時もこうやってジョギングを?』

大鳳『はい。課長さんもですか?』

男『最近運動不足を痛感してね。鍛える、という程でなくとも健康体ではいたいからジョギングをしようと思いたって』

大鳳『なるほど』

装甲空母大鳳。比較的小さいと知ってはいたがこうして並んで走ると想像以上だ。叢雲より少し上くらいの身長だろうか。

男『しかし、その、意外だな。ジョギングをしている、艦娘がいるとは』

大鳳『よく言われます。なんでそんな事してるのかって。実際運動としての意味は無いですしね』

そう言って少し困ったように笑う。

艦娘に肉体的な能力の向上はない。

あまり前と言えば当たり前だ。鍛えたら船の馬力や砲の火力が上がった、なんて事はありえないのだから。

彼女達の訓練は砲撃の精度や波風を読んだ速力の出し方、回避運動の方法等の動作の練度を上げるものであり、それこそが彼女達のステータスと言える。

着任したての大鳳と歴戦の大鳳でもそのスペック自体はなんら変わらないのだ。問題はそれを使って何ができるか、だ。
324 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:53:02.52 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『私、走るのが好きなんです』

男『ほう、ジョギングが、趣味か』

大鳳『ジョギングというより運動が、ですかね。この身体で海で戦う以外の動きができるのが、なんだか楽しくって』

男『それは確かに、珍しい』

楽しい、と言ってから大鳳のペースが少し上がった。一応合わせてペースを上げたが、もう既にきつい。かなりきつい。久々に運動するやつのペースじゃない。

大鳳『課長さんはジョギング好きですか?』

男『き、嫌いでは無いはずだ』

畜生流石艦娘。こうして走ってるのにまるで座って話してるかのように普通に喋ってきやがる。

大鳳『あ!』キキッー

大鳳が突然ブレーキをかけた。

大鳳『すみません!その、少し休憩しますか?』

優しい気遣いだ。だが、

男『それは、有難いが、少し歩こう』ゼェゼェ

大鳳『休まなくても大丈夫でした?』

男『えっと、だな。人間は激しい運動の、後にな、急に止まると、心臓に悪い』

大鳳『へぇ。それはいい事を聞きました』

いい事?何がだ?

そう聞こうかと思ったが心臓と肺がそれを許してくれなかった。
325 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:54:06.38 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

港とは逆の森に面する方にあったベンチに座る。もっとも森は壁に阻まれてあまり見えないが。

朝の湿気でじんわりと湿ったベンチがなんとも言えない不快感を与えてくる。

男『』チーン

が、それよりも疲れた。

大鳳『お水持ってきましょうか?』

項垂れる俺をに鳳は心配そうに話しかけてくる。こうして座ってようやく目が合うくらいだな。

…緋色の方が胸あるな。待てそうじゃない。

男『いや大丈夫だ。久々の運動で少し身体が驚いてるだけだ』

大鳳『あ〜機関部とかも放っておくとダメになりますものね』

男『お、おう』

機関部…人間の俺には全く共感できない。

男『こりゃ帰ったら朝風呂かな』

既に背中にじんわりと汗を感じる。もう少し薄着でも良かったか。
326 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:54:56.61 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『…』ジーッ

男『どうした?』

依然情けなく項垂れている俺を大鳳がしゃがみこんで覗き込んでくる。

大鳳『いえ!大した事じゃないです!すごい汗だなぁと』バッ

かと思うと急に思いっきり後退りして距離をとる。

男『何もそんなに離れなくても。く、臭かったか?』

大鳳『そういうわけではなくて…なんというか、距離感と言いますか、間合い?がよく分からなくて』

そう言って一歩だけ、恐る恐る踏み出す。

それは初めて猫や犬を目の前にしてどうしていいかと慌てる子供のようだった。

無理もない。慣れていない艦娘にとって人間とはそういうものなのだろう。

男『フフッ』

大鳳『えっ!なんで笑うんですか!?』ガーン

男『いや悪い。昔の事を思い出してな』

かつて初めて艦娘に触れた時、あいつから見た俺もきっとこんな感じだったのだろう。

そう思うとおっかなびっくり近づいてくる大鳳が妙に可笑しかった。
327 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:55:58.34 ID:N7J8Cfyv0
ようやく隣に座った大鳳が流れる汗をじっと見つめてくる。

男『汗って珍しいか?』

大鳳『確かに私達は汗とかかきませんしね。でもそれよりも、同じなんだなって思ったんです』

男『同じ?何がだ』

大鳳『提督と』

そりゃ同じく人間だしな。どう意味だ?

あまり突っ込む話題でもないと思って話をそらす。

男『いつも一人でジョギングを?』

大鳳は動きたくてうずうずしているのか座ったまま足をブラブラとさせながら話す。

大鳳『毎日走っているのは私だけですね。決まった曜日に長良ちゃんとか朝霧ちゃん達。たまに川内さん達や駆逐艦が数人』

男『意外といるんだな』

大鳳『動く事で体を起こす、というのに丁度いいんだそうです。川内さんみたいに有り余る衝動を発散させに来る方もいますが』

男『何処の川内も同じか。島風なんかはどうだ?』

大鳳『あの子はどうして皆が全力疾走しないのか本気で納得いってないみたいで』

男『島風もブレないなぁ』
328 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:56:35.78 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『一時期提督もジョギングをしていた事があって、その時は結構いたんですけれど』

男『あぁそれで俺と同じだと。しかし彼もジョギングを』

大鳳『本当に一時的でしたけれどね。仮にも提督だと言うのにあんまりにも貧弱だから、と叢雲が無理やり色々と鍛えようとした事があって』

男『うわぁ。さぞスパルタだったろう』

大鳳『それはもう。内容自体は提督の体力レベルに合わせてましたけど、ともかく引き摺ってでもやらせていましたから』

男『想像に難くないな』

大鳳『結果一週間と経たずに提督が音を上げて。その分仕事を頑張りだしたので叢雲も諦めたんです』

男『諦めたのか。てっきり無理矢理でもやらせるものと』

大鳳『それくらい提督の拒否反応が凄かったんですよ。大好きだった唐揚げが喉を通らなくなったそうですし』

なんかそれ前にも聞いたな。唐揚げ嫌いにそんな理由があったとは。
329 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:57:19.75 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『一年前の事なのにもう随分昔の事のように感じます。あの時もこうやって』

男『お、おい?』ドキッ

大鳳が俺の身体に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。小柄な女性に匂いを嗅がれるというなんだ、なんだこの状況。

ただでさえ今の大鳳の服装は非常に露出が多い。失礼な感想かもしれないが陸上選手はよくこの格好で人前に出れるものだ。

大鳳『私達からはしない匂いです。でもどこか知っている匂い』

男『海の男達か』

大鳳『血なまぐさいよりはいいでしょう』

男『…さてもう一走りするか』

大鳳『もういいんですか?』

男『あぁ』

走ってもいないのに鼓動が早くなる心臓をとりあえず抑えたかった。

大鳳『でしたらその前に一ついいでしょうか』

男『なんだ?』

大鳳『その、汗を!舐めてみてもよろしい、でしょうか』ズイッ



男『はい?』
330 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:57:59.27 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『ですから、課長さんの汗をですね』
男『いやいやなんでだ!なんで汗を舐める!?』

大鳳『大した意味は無いんです。興味本位というか』

大した意味があろうがなかろうが汗を舐めるってどういう事だ。

男『いや流石にそれは…』

大鳳『すみません。やっぱり失礼だったでしょうか』シュン

男『んー失礼かと聞かれると、あまりにも予想外すぎて最早そういう次元じゃないというか…なんでまた?』

大鳳『以前飛龍さんが言ってたんです。提督の汗は海みたいにしょっぱかったって。それが気になっていて…』

男『…なら提督に提案してみたらどうだ』

大鳳『そ、それは!恥ずかしいデスシ…』カァァ

あ、そういう恥じらいはあるんだ。

ビビって離れたかと思えば至近距離で匂いを嗅いだり、確かに距離感の取り方がめちゃくちゃだ。価値観がよくわからん。

このままだと本当に舐められかねないのでとりあえず走ろう。
331 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:58:38.71 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

大鳳『もうすぐ六時ですね』

男『あぁ、そろそろ戻ろうか』ハァハァ

大鳳『明日も走りますか?』

男『身体が持てばそうしたいな』

想像以上に鈍っていた身体が今日一日でこの疲労を回復できるかはちょっと怪しい。

大鳳『こうして誰かと走っていると、あぁちゃんと地に足が着いてるんだなあって実感できるので、出来ればまたご一緒させて下さい』

男『大事なのか?誰かと一緒というのが』

大鳳『海だとこんなに近くに並んで航行は出来ませんから。この身体で陸を歩けるからこそなんです』

そう言って大きく伸びをする。

脇…じゃない。

腕や足、腰や腹。どこを見てもとても軍人とは思えないほど華奢だ。引き締まってはいる。だがやはりこれでは陸上選手とすら言えないだろう。

そんな身体で、海を渡り戦場を駆け抜けている。

男『なるほど。善処するよ』

その助けになるなら、ジョギングくらい軽いものだ。

男『なら、約束ついでにひとつ聞いてもいいか?』

大鳳『いいですよ?私で答えられることなら』
332 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:59:29.06 ID:N7J8Cfyv0
男『こんなことを聞くのは失礼だとは思うんだが、その、どうして"人間"と走ろうと?』

大鳳『あ〜、そこですか…そうですよね』

少し寂しそうな表情が返ってくる。だから聞きたくなかったのだが、しかしここはハッキリさせておきたい所でもある。

大鳳『私ここに着任してまだ日が浅いんです。と言っても一年半程前ですが。その、人間は確かにあまり好きとは言えません。でも他の皆さんや、加賀さんみたいに蛇蝎の如く人間を嫌う程の理由はまだないんです』

確かに新米であればそれだけ人との関わりは少ないだろう。あの距離感の取れなさもそれか。

それより今加賀を殊更強調して言ったな。正規空母加賀。要注意かも知れないな…

大鳳『それに、私達空母には飛龍さんがいるじゃないですか』

男『あぁ。なんとなく分かったよ』

大鳳『ふふ、凄いですよねあの人』

男『それには同意だな』

大鳳『飛龍さんだって嫌な思いはしているはずなんです。でもあの人はいつだって人間の事を信じてる。確かに私だって人間が皆私達を忌み嫌っているとは思いません。

でもわざわざ人間の肩を持とうとも思いませんでした。何処にいるかも分からない優しい人間を信じる理由がないですからね』

それはきっと正しい。

人間が艦娘に抱く恐怖にも似た感情は迫害だとか差別と言った類のものではない。

生物的な本能。"これは違う"という拒否反応。

それがない者が、まともな感性が壊れているものこそが提督と呼ばれるある種の才能を持った人間なのだから。

大鳳の言う"優しい人間"なんてのは本質的には存在しないのかもしれない。
333 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:00:26.75 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『人間の事を話す時の飛龍さんはいつもキラキラとした目で、まるで水平線の向こうを見るかのように私には見えないどこか遠くを見ているんです。それが、私の憧れなんです』

男『確かに。あいつの価値観は変わっている。あんな艦娘に出会ったのは初めてだ』

大鳳『だから応援してますよ。貴方の事も』

男『俺も?』

大鳳『提督とは違うけれど、貴方もまた変わった人間です。だから飛龍さんや緋色ちゃん、そして私達にとってこの出会いがいいものでありますように』スッ
男『え』

一瞬何が起きたか分からないほどスムーズにこちらに近づいてきた大鳳がそのまま背伸びをし、疲れて立ち尽くしていた俺の首筋に流れる汗をペロリと舐めた。

男『お!おま!?』

大鳳『あ、本当にしょっぱいんですね。でも海ほど濃くは無い』

男『』

大鳳『不思議ですね。私達からはそんなもの生まれないのに。それでは課長さん、また明日』

男『…オウ』

大鳳が駆けて行く。




男「風呂入ろ」
334 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:01:23.95 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

秋雲「え、で、何?朝から上司に競技用ユニフォームという中々フェチ度の高い服装の小柄な少女に汗を舐められた事を相談された私はどう反応を返したらいいわけ」

男「やめろ反復するな」

画面の中の秋雲が凄い冷たい視線を送ってくる。

朝風呂に入り自室に戻った俺はとりあえず秋雲と話す事にした。

秋雲「課長はホントさあ…動揺してるのは分かるけどとりあえず頭乾かしたら?」

男「そのうち乾くだろ」

秋雲「まだ少し涼しい時期だし湯冷めするよぉ。あ、緋色ちゃんはまだ寝てるの?」

男「あぁ。起床時間は過ぎてるけど、昨晩風呂に入ったせいで寝るのが遅かったしもう少し寝かせておこうと思う」

秋雲「別に艦娘なら寝たっていう事実があれば睡眠時間なんて気にしなくていいと思うけどね」

男「…緋色はまだ"艦娘かどうか"すら定かじゃないよ。名前が見つかるまで油断はできな」

秋雲「言うと思った。で、要件は?まさか舐められて興奮したとか脇フェチでしたとかいう告白が目的じゃないでしょうねえ」

男「違うわ」

先の出来事が頭から離れないからとりあえず誰かに話してしまいたい、というのは確かだが。
335 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:03:09.43 ID:N7J8Cfyv0
男「艦娘にとって匂いというのがどういう意味を持つのか気になってな」

秋雲「あぁ、そこか。確かに匂いって今までになかった観点よねえ」

男「ちなみにお前はどうなんだ?匂いとか」

秋雲「"今の私"にわかると思う?」

男「…だな。何か匂いに関連する物を少し調べたりして欲しい」

秋雲「はいは〜い。それじゃ課長、ハーレム目指して頑張ろぉ!」

男「誰が目指すか」

秋雲「あーそうだ忘れてた!昨日のお風呂イベントは何か面白いことあった!?」

画面から飛出てくるんじゃないかという程顔を近づけて興奮気味に聞いてくる部下。

男「大変だったよ…全裸で、いや全裸なのは当たり前なんだが、脱衣場に俺がいるにも関わらず普通に出てくるしな」

秋雲「どうだった?ロリっ子の全裸」

男「思い出させるな…まあ自分がロリコンの変態じゃないと分かったのは安心したが」

秋雲「え…課長ロリコンじゃないの…?」

男「なんでそこで驚くんだよ!?」

秋雲「いやぁてっきりロリコンだからこの秋雲さんを手篭めにしたのかと」

男「何が手篭めだ勝手に話を盛るな。でもやっぱ裸を見たという事実はこう凄い罪悪感がな…」

秋雲「真面目ねぇ…でも同じロリ体型なのに大鳳にはときめいたんだ」

男「ときめいてねえって」
336 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:03:44.94 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『アナタ、朝大鳳とジョギングしたそうね』

男『情報早いなおい』

緋色の部屋に朝食を持ってきてくれた叢雲が早速話題を振ってきた。

叢雲『空母と駆逐の情報伝達の速度は凄いわよ。砲弾並みね』

男『それは恐ろしい…』

緋色『課長さんジョギングしてたの?』

男『あぁ。身体が鈍ってたからな』

緋色『へ〜いいなぁ』

叢雲『ジョギングか、ありかもね』

緋色『本当!?』

叢雲『考えとくわ。運動は大事だものね』

そう言いながら机に朝食を並べていく。

飛龍なんかは運ぶの楽だからと丼物や麺類ばかりだが叢雲は毎回和食を持ってくる。こだわりなのだろうか。
337 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:04:36.07 ID:N7J8Cfyv0
男『いい匂いだ』

今日の魚は鯵か。

叢雲『護衛の代金に貰ったりしてるのよ。今日のは釣れたて』

緋色『本当にいい匂い!ん?』

男『どうした?』

緋色『…ん?ん〜』クンクン

目を瞑り子犬のように鼻で匂いを辿っている。

男『?』

叢雲『一体何が…え』

少し辺りを嗅ぎ回り、最終的に叢雲の目の前でピタリと止まった。

叢雲『?』チラリ
男『?』チラリ

思わずお互いに目を合わせる。一体どうしたんだ?

緋色『なんだかいつもと違う匂いがする』

叢雲『え?』

男『違うってどんな?』

緋色『う〜ん…上手い言葉が見つからないのだけれど、そうね。いつもは海の匂いなのよ。飛龍さんや江風もそう。それに焦げ臭い感じの匂いや、鼻につく変な匂い。でも今日は嗅いだことない匂いなの』
338 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:05:07.71 ID:N7J8Cfyv0
叢雲『匂いって言われてもねぇ』クンクン

男『今朝は何食べたんだ?』

叢雲『まだこれからよ。それまでだって特にいつもと変わった事はー…ぁー…』

男『叢雲?』

緋色『?』

フリーズした。叢雲がフリーズした。それに心無しか顔が青ざめているような。

叢雲『用事思い出したわ』スッ

男『え、おい』

叢雲『それじゃ召し上がれ』バタン

追求したらコロスとでも言わんばかりの勢いでドアを閉め出ていってしまった。

緋色『…えーっと、いただきます?』

男『あぁ、うん。食べようか』

なんだったんだ?
339 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:05:46.35 ID:N7J8Cfyv0
しかし匂い、また匂いか。

男『なあ緋色、俺ってどんな匂いがする?』

緋色『匂い?んー…男の人の匂い、かしら』

男『…臭い?』

緋色『臭くはないわよ。でも皆と違って、変わった匂いだわ』

加齢臭?加齢臭か!?いやまさか、俺はまだおじさんて歳じゃねえ。断じてねえ!!

緋色『そうだ!私は?私はどんな匂いがする?』

男『緋色の、匂い?いやそれはちょっと』

緋色『なんでよ、気になるじゃない』

男『う…』

だって匂い嗅いだらこう、犯罪臭がするし…緋色からじゃなく俺から。

緋色『ほら』

食事の並べられた机の前に行儀よく正座した緋色が目で早くと訴えかけてくる。

腹を括るか…考えてみりゃ別に理由があってやるわけだし、何かいかがわしいと考えるからそう思えるんだ。

緋色の、文字通り緋色の髪に顔を近づける。

男『…』クンクン
緋色『どう?』

男『シャンプーの匂いがする』

緋色『あー』
340 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:06:19.95 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『そろそろお昼だな』

緋色『疲れたぁ…』

艦娘になる為、という名目の勉強会はある意味順調だ。緋色が意識を失う事はほとんど無く、抜け落ちていた知識などを補えている。

最も肝心な記憶の方はサッパリだが。

男『昼食までまだ時間があるな。休憩にしよう』

緋色『ふわぁい』

ぐったりと
机につっぷす
ピンク色

男『歴史嫌いか?』

緋色『嫌いではない、と思う。でもどこの国でも戦争は嫌よ』

日本史から遠ざけ世界史に触れさせてみたが、戦争というだけで精神的に負担になっているのだろうか。

男『これが終わったら緋色の興味ある歴史にするか』

緋色『私古墳とかはにわがいいわ!』

男『中々微妙なところ突いてくるな』
341 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:07:05.37 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

緋色に教材代わりのタブレットを渡し部屋を出る。意外にも読書好きなのか電子書籍を暇さえあれば漁っている。

男『さぁて』

今の時間なら昼食には間に合うだろう。端末を取りだし電話をかける。

叢雲『もしもし…何かあった?』

俺からの唐突な電話に真剣な声になる叢雲。

男『大丈夫だ。緋色の事じゃない。その、少し電話を借りたくてな』

叢雲『電話を?』

鎮守府で外と連絡を取る手段は制限されている。この端末も連絡ができるのは鎮守府内だけだ。その為外に電話をするには借りる必要がある。

叢雲『そうねぇ。ビーチ、って言っても分からないか。前に見せたPCとかゲーム機が色々置いてあった場所があるじゃない?みんなのたまり場でビーチって呼ばれてるのだけれど、そこに電話があるわ』

男『何故ビーチ…いやしかし、そのだな』

叢雲『ま、そんなたまり場にアナタ一人が行くってのはちょっと問題よね』

男『あぁ。また瑞鶴辺りに睨みつけられたらたまらん』

叢雲『それとも、そういう回線じゃかけたくない相手、なのかしら?』

男『んー微妙なところだな』

叢雲『微妙って何よ微妙って』
342 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:07:39.20 ID:N7J8Cfyv0
鎮守府の数少ない外と繋がる回線は当然監視されている。機密が漏れたりしたら事だし当然ではある。

だからまあ内緒話には向いてない。

叢雲『執務室に行ってちょうだい。司令官の部屋に電話があるわ。最もこっちだって監視はあるけれど』

男『それで十分だよ。ありがとう』

電話を切り執務室に向かう。お昼前という事もあって建物の中に艦娘の姿は殆どなかった。
343 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:08:11.22 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

提督「おはようございます、と言うべきですかね」

男「どちらでも構いませんよ。しかし…」

提督はデスクで作業をしていた。していたのだが、

男「何やってるんです」

提督「ほら、もうそろそろ梅雨じゃないですか」

男「えぇ。確かにもう何時梅雨入りが発表されてもおかしくは無いですね」

提督「そうなると駆逐艦なんかがよくこれを持ってくるんですよ。ですからお礼にコチラもこれをあげようと思いましてね」

男「…てるてる坊主を」

提督「はい。とりあえず20個くらい作ろうかなと」

男「てるてる坊主を」

提督「ちゃんと作ろうとすると意外と難しいんですよねぇ」

これは流石にサボりじゃなかろうか。俺がとやかく言うことではないが。
344 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:08:45.88 ID:N7J8Cfyv0
男「えっと、今回は電話を借りたくて来たのですが」

提督「叢雲から聞きましたよ。そこの扉から私の部屋に入って向かって右の所にあります。ご自由にどうぞ」

男「え、部屋入ってしまっていいんですか」

提督「構いませんよ?見られて困るような部屋でもないですし。あーでもベッドの下はNGで」ハハハ

男「はぁ」

ベッドの下?掃除してないのだろうか。だとしてもそんなとこ覗く奴いるのか?

執務室の奥にある扉を開け部屋に入る。

簡素な部屋だ。ビジネスホテルの一室といったイメージになる。

ベッドに小さなデスク、本棚とクローゼット。あくまで寝るだけの場所、ということか。

脇にあった電話を手に取り番号を押す。

今回は別に盗聴なんかを気にする必要は無いだろう。
345 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:09:18.50 ID:N7J8Cfyv0
繋がった。

「」

男「もしもし?」

「ふぁい、もひもひ」

男「おい今何食ってる」

「モグモグ」

男「…」

「ゴックン お饅頭です」

男「今お昼だぞ…」

「ほら、ウチの子達結構な頻度で各地に飛んでて、その都度お土産買ってくるのでタイミングが合うとお菓子が沢山溜まるんですよ」

男「だからって今食う事はないだろ。身体に悪いぞ多分」

「大丈夫ですよ。一応そこそこ丈夫ですし、あれから身体が成長する様子もないので気にしてません」

男「さいで…で、一つ聞きたい事が出来たんだが今いいか?しーちゃん」

しーちゃん「大丈夫です。食べながらでよければ」

男「いや食べるのは一旦やめろ」
346 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:09:56.53 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

しーちゃん「ふむ、"匂い"ですか」

男「あぁ。これまで気にした事は無かったんだが、しーちゃんは何か心当たりとかないか?」

しーちゃん「秋雲さんには聞いたんですか?」

男「アイツは、ほら、分からねえって…」

しーちゃん「なるほど。そうですねえ、匂い…心当たりはありますね」

男「本当か!」

しーちゃん「はい」ビリビリ

男「…次はなんだ」

しーちゃん「シューアイスです。ちょうど良い感じに溶けてますねぇ。一応私達グッズとかも出してるので出来れば食べ物なんかとコラボしたいと考えたりはしてるんですけど、これが中々上手くいかないんですよ」

男「なんでだ?」

しーちゃん「食べ物っていうのは人の生活にモロに関わる部分ですからね。そういう所に艦娘が関わるのを良しとする人は少ないんです。あとは利権絡みですねぇ」

男「なるほどね、って今はそれはいいんだよ」

しーちゃん「冷たっ!まだ溶けきってなかった…」
347 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:10:34.30 ID:N7J8Cfyv0
男「で!心当たりって!」

しーちゃん「私達三課は当然というか人と関わることが多いです。そうやって人と仕事をして帰ると、たまにあるんですよ」

男「何が」

しーちゃん「この前そちらに伺った北上さんなんかもそうですね。他の娘が人と接触して帰ってきた時言うんです。"人と合ってたの?"って」

男「!」

しーちゃん「そういう娘達に色々聞いたこともあります。でも皆あやふやな感じで、そういう気がした、そんな匂い、気配がしたとか言うんです」

男「匂いに限らないのか」

しーちゃん「私の見解としては、匂いではなくそれに準ずる何か。彼女達艦娘しか感じ取れない感覚的な物じゃないかと」

男「それは人と会った時だけなのか?」

しーちゃん「今のところ、私が知る限りはですが」

男「ふむ」

人と会う、か。この鎮守府で人と言うと俺か提督しかいない。

しかし提督だとしたら秘書艦の叢雲は常にそういう匂いがするんじゃないだろうか。

俺、はないだろう。接触する機会はどう考えても提督より少ない。その密度も。
348 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:11:08.29 ID:N7J8Cfyv0
男「北上なんかが何か感じ取った時の"人と会う"ってのは具体的にどんなレベルの接触なんだ?」

しーちゃん「そうですね…」ウーン

しーちゃんが何やら考え込む。

考え込んでるのか?聞こえないようにお菓子食ってんじゃねえだろうな。

しーちゃん「この前そっちの鎮守府に行って貴方に会った時なんかも言われましたよ」

男「俺?」

あの程度の接触で匂いがするなら叢雲はやはり常にそういう匂いがするはずだ。そもそもあの時は緋色もいたし。

男「ぁぁああ分からん。艦娘ってのは本当に分からん」

しーちゃん「頑張ってくださいね。調査員さん」

男「声援より応援が欲しいな。誰か空いてる人員いないのか?」

しーちゃん「ウチもカツカツなので」

男「あれ、というか緋色の名前知ってるのか」

しーちゃん「報告者には目を通してますから」

男「相変わらず情報の早い事で」

しーちゃん「それではまた、息災で」

男「あぁ、ありがとう」
349 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:11:49.63 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

緋色の部屋に戻りながらしーちゃんの話を頭で反復する。

男「匂いかそれに近い何か、か。少なくともそういった感覚があるのなら緋色はある程度艦娘としての力や感覚はあるわけだ」

そこは少し安心出来る。

緋色の部屋の前まで来て中から飛龍の声がした。どうやら今日の昼食の当番は飛龍らしい。

男「…」

そっとドアに近寄り耳を澄ます。些か罪悪感を覚える行為ではあるが緋色がどういった反応をしているのか気になるのは確かだ。

緋色『じゃあ飛龍さんも釣るの?』

飛龍『私は釣りはからっきしなのよねぇ。蒼龍によく飛龍は大雑把過ぎるって言われる』

緋色『あー』

飛龍『しちゃう?やっぱ納得しちゃう?』

緋色『はい…』

飛龍『ま、これも私の持ち味って事よ。大胆さなら負けないわ』

大雑把から大胆に変化した。こういうのは捉え方にもよるから間違いではないが。

しかし二人きりでも思ったより緋色は飛龍と仲良くしているようで安心した。
614.84 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)