少年「アヤカシノート」

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2 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:09:28.22 ID:qYsOfvLU0
■第一幕 トモダチ■



ーーー学校 教室ーーー



ガララ



同級生A「今日の体育しんどかったわー」

同級生B「ほんとな。マラソン大会の為の外周とか、喜ぶの陸上部くらいだろ……俺昼食い過ぎてめっちゃ脇腹痛くなってた」

同級生A「ゲボッたらお前のあだ名ゲロリアンにすっから」

同級生B「お前にかけたるわ」

ギャハハ!



少年「……」テクテク

少年(…うるさいな。下らないこと喋り続けるなよ)

少年(まぁいいや。次の授業までに早く着替えちゃわないと)ガサゴソ

少年「……!」

同級生A「」ニヤニヤ

同級生B「」ニタニタ

少年(っ……)



『6月10日  曇りのち、雨

鞄の中に絵の具を散らされた。
町中を自分色に染めたがる"イロヌリ瘴女"なる妖怪に目を付けられたみたいだ。ついてない。』




3 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:11:33.81 ID:qYsOfvLU0
ーーー学校ーーー

少年「……はぁ」テクテク

少年(今日もあいつらの居る教室に行かなくちゃいけないのか……早く夏休みにならないかなぁ)



テクテク ガララ...



「あ、来たよ」

「うわ…確かにあれはやってそうな顔してる」

「こっち見てない?きもっ」

ヒソヒソ...



少年「…?」

少年(なんだ?クラスの奴が見てくる…)

少年(……席着こう)

ストッ



...トットットッ



同級生A「なぁ聞いたぜ?」

同級生B「少年さ、お前本当面白いよな」ニヤニヤ

少年「…何だよ」

同級生A「お前昔好きな女子のリコーダー舐めて泣かせたんだって?やっべぇな!今時そんなことするとか勇者かよ!」ゲラゲラ

同級生B「いやー流石だわ!俺たちにゃ出来ないことやってきてるよなぁ!」ギャハハ

少年「はっ!?なんだそれ!そんなことしてるわけないだろ!」

同級生A「今更隠さなくてもいいって!今朝からみんなその話で持ちきりなんだしよ」ニヤニヤ



ヒソヒソ ジロジロ



少年「……っ」



『6月20日  嫌になるほど、晴れ

根も葉もない噂を流された。
雨の様に噂を垂れ流すのが好きな妖怪"イイフラシ"の奴らの仕業だろう。』



4 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:12:19.07 ID:qYsOfvLU0

少女「……」

「少女、どうしたの?」

少女「ん?いや…なんでも」

「それよりさ、今日はどこ行く?」

少女「校庭かなー」

「またー?どうせ今日もノックでしょ」

少女「うん。付き合ってくれる?」

「えー…私はもうパスさせてもらおうかな。行きたいお店あるし」

少女「あはは…そうだよね」

「少女もいい加減その趣味はどうなの?女の子が野球っていうのも変な話」

少女「ほっといて。気が紛れるからやってるだけ」

「ふーん」




5 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:20:31.83 ID:qYsOfvLU0
ーーーーーーー

教師「期末テストの結果、返してくぞ。順番に名前呼ぶから取りに来い。まずは少女」

少女「はい」

教師「ぼちぼち…ってとこだな」

教師「猫又娘」

猫又娘「はーい!」

教師「返事だけなら満点なんだがなぁ…もうちょっと真面目に勉強も取り組むように」

猫又娘「…はーい」

教師「二つ編み」

二つ編み「はい」

教師「…うん。言うことなしだ。この調子で頑張れ」

二つ編み「ありがとうございます」

教師「次は──」

少年(……ほんと、うんざりだ)

少年(バカみたいなことしてくるあいつらにも、それに便乗するクラスの奴らも)

少年(…けどもっと嫌んなるのは、みっともない逃避に縋る自分)

少年("アヤカシノート")

少年(いつからだっけな。こんな風にノートに嫌な出来事を書き付けるようになったのは)

少年(あいつらに言い返すこともしないで、自分で考えた妖怪のせいなんかにして……)

教師「派手娘」

派手娘「ん」

教師「…席ぐらい立ちなさい」

派手娘「はぁ?目の前なんだからそのまま渡して下さいよ」

教師「派手娘」

派手娘「…分かったわよ。面倒くさっ」

少年(……いや、どうせ奴ら様の仕業だ。この世の嫌なこと全部全部、悪い妖怪が起こしてるんだ)

少年(だからしょうがないんだよ。僕が何も出来ないのは。相手は恐ろしい妖怪なんだから)

教師「──少年、居ないのか?」

少年「!は、はい」

教師「聞こえてるなら早く来なさい。後回しにするぞ」

クスクスクス

少年「……」スクッ

少年(……はぁ)



少女「………」



.........




6 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:22:25.16 ID:qYsOfvLU0

教師「お前たち、期末テストが終わったからって気を抜くんじゃないぞ。うちは夏休み前の基礎学力テストがあるんだからな」

教師「内申点に大きく関わってくるから、推薦組もそうだが一般受験組にとっても大事な試験だ」

教師「それが終われば……いよいよ本格的な受験勉強の始まりだ」

少年(受験か…面倒だなぁ嫌だなぁ)

少年(入試なんて、いっそ妖怪が食べてしまってくれたらいいのに)

少年(……ここの奴らと離れられるのだけは清々するけど)







ーーー数日後ーーー

「起立、気を付けー、礼」

全員「さようなら」

ガタッ、ガタッ

「今日から俺塾なんだよね」

「そうなの?あれ、部活は?」

「県予選で負けて引退。いいとこまでいったんだけどさー」

ガヤガヤ

少年(塾…僕もそのうち行けって言われるのかな)

少年(今の成績じゃあんまりいいとこ行けないのは分かってるけど……めんどい)

少年「……ん?あれ…?」

ゴソゴソ

少年(おかしいな、財布、ここに入れといたはずなんだけど)

ガサゴソ

少年「……」

少年(……まさか、あいつら……)



『7月1日  晴れ、のちのち憂鬱

買ったばかりの財布が無くなった。
あームカつく。本当嫌んなる。奴らはきっと知らんぷりだろうし。
……そう、どうせ"カネクイ蟲"にでも喰われたんだ。とんだ災難だ。』




7 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:24:41.30 ID:qYsOfvLU0
ーーー翌日ーーー

少年「……」テクテク

少年「……」テクテク

少年(……くそ……)

少年(今日は靴を隠された。これから帰ろうって時にうざったい。そんなことしてる暇があるならお前らこそとっとと帰れよ)

少年「……」テクテク

少年(…靴の事はまあいい。どうせ教室のゴミ箱辺りから出てくる)

少年(それより、もっとまずいのは…)





少年(──ノートをどこかに落としたみたいだ)





少年(見つかるのが教師ならまだいいけど、あんなのがクラスの誰かに見られたら……)

少年(見つけ出さないと。早く、早く…)

少年「……」スタスタ

少年(やっと戻ってきたか、教室)



ガラッ!



少年「!」

少女「あ…」フリムキ

少年(…誰だっけ。確か同じクラスの……)

少年(…気にしない気にしない。とりあえず靴を見つけてしまおう)チラッ

少年「──!?」

少女「……」

少年(おい……嘘だ……)

少年(この人が手に持ってるの……僕のノート……?)
8 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:26:18.28 ID:qYsOfvLU0

少年「………」

少女「……これ、あなたのだよね?」

少年「……」

少年「……見たのか?」

少女「…まぁ、ちょっとだけ」

少年「………」

少年(……あぁ……最悪だ……)

少年(最悪の失態)

少年(あんな奴らにいいようにやられてるってだけでも情けないのに、居もしない妖怪なんかのせいだと書き殴って…)

少年(こんな惨めな方法で、自分で自分を甘やかしてんだ)

少年(なのに…)



少女「……」



少年(なんでそんな目で見てくるんだよ)

少年(バカにするならバカにしろよ!哀れむなら哀れめよ!)

少年(何もかも見透かしたようなその目をやめろよ…!)

少年「……」グッ...

少年(さっきからなんなんだ…)

少年(こんなしょうもない僕に何か用かよ……)

少年(情けない……情けない……勝手に涙まで出てきそうだ)

少年(??面白いものが見られて良かったろ?満足したならもう消えてくれ)

少年(……そんなこと言えるはずもない)

少年「は……はは……」

少年「どうしようもないだろ。そんな日記」

少女「………」

少年「さぁ、笑ってくれよ」

少年「こんなバカな僕を」

少女「……」

少女「………」

少女「……ううん」フルフル

少年「…?」

少女「ふふっ、違うよ。バカにしたいとかじゃなくて」

少女「…ねぇ、少年君」

スッ(手を差し出す)





少女「友達になってくれませんか?」




9 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:27:43.67 ID:qYsOfvLU0

少年「………は?」

少女「……」ニコッ

少年「え……え?」

少女「もう、いいからっ」ギュッ



グイッ(腕を引く)



少年「わっ」

少女「ちょっと付き合って。最近みんなさ、ぼくの暇つぶしについて来てくれなくなっちゃったんだ」

少年「暇つぶし?な、なにが…」

少女「これだよこれ」

少年「……野球ボールと、バット……?」







ーーー第二校庭ーーー

少女「それじゃ、いくよー」

少年「お、おう」

少女「」スッ



カキン!



ゴロッゴロッ

少年「おっと…!」キャッチ

少女「大丈夫ー?今のでも軽く打ったつもりなんだけどー!」

少年「軽くって言ったって…僕こういうことほとんどしたことないから!」

少女「そうかい?なら良い運動になるよー!」

少年「これからも続ける前提なのか…?」

少女「それよりボールボール!こっち投げて!」

少年「……」

ブンッ

少女「」パシッ

少女「二球目いくよー」

少年「……うーい」



カキン!



.........




10 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:30:23.24 ID:qYsOfvLU0

少年「はぁ……はぁ……疲れた…」

少女「少年君、最初の一球以外ほとんど捕れなかったね」フフッ

少年「だから……慣れてないんだって…!」

少年「…きみはいつもこんなことを?」

少女「きみ…?…あ、もしかして少年君、ぼくの名前知らない?」

少年「う……だって喋ったこともなかったし…」

少女「少女だよ。同じクラスの帰宅部の」

少年(同じクラスなのは知ってたけど、帰宅部…)

少年「…部活、引退したとかじゃなくて?」

少女「いや?元から何も入ってないの。…参考までに訊くけど、ぼくって何部の印象?」

少年「えっと……」チラリ



(手に握られたバット)



少年「……野球部?」

少女「……んふ、ははっ」

少女「ねー、今このバットとボールだけ見て言ったでしょ」

少年「そりゃそうだよ。っていうかもうその印象しかないんだけど」

少女「別にぼく、野球が好きってわけじゃないんだ。ただ、こうやって何も考えないで打ったり捕ったりするのが落ち着くんだよね」

少年「……」

少女「ほら、うちの学校って校庭が二つあるじゃない?放課後、部活でこっちの校庭使われること滅多にないからさ、よくこうやって身体動かしてたんだ」

少年「ふーん、通りで。僕も帰宅部だけど、帰りに少女さんのこと見かけた記憶がないわけだ」

少女「そもそも二年生まではクラス違ったけどね。……ま、最近はもう友達もみんなぼくに付き合ってくれなくなっちゃって。そろそろこの趣味も限界かなって思ってたの」

少年「……それで僕を?」

少女「それもある」ニッ

少年「……」

少年(……)

少年「…あの、さ」

少女「ん?」

少年「見たんだよね……その……ノート」

少年「何も…思わなかったの…?」

少女「思ったよ」

少年「……」
11 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:33:44.56 ID:qYsOfvLU0



少女「──諦めないで、ちゃんと精一杯抵抗してるんだなって」



少年「え」

少年「抵抗…?あのノートの意味、分かってる…?」

少女「もちろん。やられたこと、妖怪の仕業にして日記みたいにつけてたんでしょ?」

少年「分かってるなら──」

少女「だからだよ」

少年「…?」

少女「例え妖怪のせいにしてるんだとしても、嫌なものは嫌だってはっきりと書いてるじゃん」

少女「きみの気持ちはまだ泣き寝入りしてない」

少年「?!」

少年(僕の…気持ち…)

少女「それにさ、ぼく、前から気に入らなかったんだよね。ああいうの」

少年「同級生A達のこと?」

少女「そ。自分さえ面白ければいいと思ってる。いつまでもちっさい子供のままの精神年齢」

少女「ね、何でちょっかい出されるようになったの?」

少年「……なんか、自分のこと僕って言うのが変だってところから絡まれ始めた…」

少女「……」

少女「あっきれた。そんなしょうもないことでずっといじり続けてるんだ?」

少女「ほんと、どこにでもいるんだよね。少しでも周りと違うところがあると鬼の首取ったみたいに騒ぎ立てる人」

少年「…なんか、少女さんてさ」

少女「なに?」

少年「大人っぽい考え方してるね」

少女「…別に。そういう理に適ってないバカバカしいことが嫌いなだけ」

少女「でも、ぼくとおんなじだね」

少年「え、少女さんもあいつらに…?」

少女「違う違う。"ぼく"、だよ」

少年「……!あ」

少女「ふふ」

少年(…さっきも思ったけど、綺麗な笑い方する人だな…)
12 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:35:37.36 ID:qYsOfvLU0

少女「というか!」

少女「なに他人事みたいに話聞いてるの!当事者はきみなんだからね?」

少年「んなこと言ったって……僕から何かしてもますます面倒なことになるだけだよ」

少女「だから、何のためにぼくがいると思ってるの」

少年「…はい?」

少女「あっちは二人、こっちは一人じゃ不公平だもの。ぼくを入れて二人。これで対等」

少年「えー…つまり?」

少女「明日から、ぼくと一緒に過ごせばいいってこと」

少年「……少女さんと?」

少女「」ウンウン

少年「…僕が?」

少女「やっぱり一人の方がいいって?」

少年「い、いやいやそんなこと言ってないけど…!」

少年「……いいの?僕なんかと一緒に居るなんて……」

少女「いいって言ってるでしょう」

少女「あ、その代わり、この二人野球には付き合ってもらうから」ニッ

少年「…次は僕にも打つ方やらせてくれよ?」

少女「!…ふふ、いいよ」

少女「でも、とりあえずそれは少し先になりそう」

少年「え。しばらく僕は捕球の練習してろってこと!?」

少女「違いますー。基礎学力テストが近いでしょ?その勉強しとかないと」

少年「……捕球の方がまだマシだ」

少女「勉強も付き合ってあげるから」

少女「何はともあれ──」





少女「これからよろしくね」ニコッ





少年「……こちらこそ」




13 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:36:50.46 ID:qYsOfvLU0
ーーー神社ーーー

(………)

(………)

(……!)



(裂けた1枚の紙札)



(これは……)

(……良くないことになったようで……)

(………)

(油断していた……)

(まさか……歪み出すか……)



(この世界が──)




14 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:38:42.45 ID:qYsOfvLU0
ーーー翌日 学校ーーー

少女「おはよ、少年君」

少年「あ、おはよう」

少女「思ったんだけど、ぼくたちって席前後同士だったんだね」

少年「そうだね…」

少年(全然気付いてなかった…)

少女「…なんか少年君、かたくない?具合でも悪い?」

少年「いや、その…」

少年(だってクラスの…それも女子と話すことなんて今までなかったし…)

少女「いっつもこの時間てさ、本読んでなかったっけ」

少年「え、うん」

少女「どんなの読んでるの?よかったら少し教えて欲しいかも」

少年「…今読んでるのはこれで」ゴトッ

少年「舞台はファンタジーチックな世界なんだけど、魔法とか剣とかほとんど出てこなくて、むしろ主人公の女の子が最初記憶喪失でさ──」

少女「うん、うん、それで──」



ガララッ



同級生A「へぇ。それマジなの?」

同級生B「最近やたら噂になってんの、聞いたことない?」

同級生A「いや初めて聞いたわ。その、なんだっけ」

少年(…あいつら…)

同級生B「"トドノツマリ様"な」

同級生A「そうそう。願いを聞いてくれるって、試した奴いんの?」

同級生B「そこまでは知らん。なんか代償として血を抜かれるとか人格を取られるとかいう話だしな」

同級生A「ほーん……お、丁度いい奴がいんじゃん」ニヤ

同級生B「俺も、多分お前とおんなじこと考えてる」ニヤ
15 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:40:45.34 ID:qYsOfvLU0

同級生A「おーい、少年よ」

少年「……」

同級生B「無視すんなって(笑)」

少年「…もうすぐ先生来るぞ、座ってろよ」

同級生A「まだ5分以上あるわ。んなことよりさ、お前トドノツマリ様って知ってるか?」

少年「知らない」

同級生B「ま、少年は自分の噂話にも疎いもんな」ククッ

少年「っ」

同級生A「でよ、何でもその人(?)に願いを言うと叶えてくれるんだってよ。お前ちょっとやってみてくんない?」

少年(…全部聞こえてたけどな。代償の話も。どこまで人をバカにすれば気が済むんだ)

同級生A「噂だと場所は神社だって話だぜ。石段の無駄に長いあそこ」

少年「…南町神社だろ?」

同級生A「おう。なぁお前さ、今日か明日かどうせ暇だろうし願い事の一つでも──」

少女「ねぇ、その話長い?」

同級生A「え…」

少女「今ぼくが話してたんだけど、それ長くなるならまた今度でもいいかな?」

同級生A「あ…?いやお前──」



猫又娘「はいはーい、どいてどいてー!」トットットッ



同級生A「おぅ…!?」ドカサレ

同級生B「なんだよ…」サッ

猫又娘「あれ?キミたち、もう先生こっちに歩いて来てるよ?席戻った方がいいんじゃない?」

同級生A・B「「……」」

テクテク

猫又娘「♪」テッテッテッ

少年「……」

少女「……クスッ」ピース

少年「……くふっ」




16 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:43:17.97 ID:qYsOfvLU0
ーーー昼休みーーー

同級生A「──なぁどこ行こうとしてたんだよぉ」

少年「どこだっていいだろ…!離せよ…!」

同級生B「昼飯の時間になって速攻で出てこうとしてたじゃん。…もしかして便所飯とかか?」

同級生A「ぎゃっはは!してそー!便所飯始めましたってか?」

少年「してねーよ。時間なくなるから離せって!」



少女「何してんの?」



同級生A「お?」

同級生B「ん?」

少女「…ぼくと少年君、ご飯食べに行くんだけど、何か用?」ツカツカ

同級生A「用っつーか…こいつがどこ行くか聞いてただけで」

少女「ならもう済んだじゃない」

少女「さ、行こ。少年君」スッ

少年「あぁ…」



スタスタスタ...



同級生B「………」

同級生A「……チッ」







ーーー第二校庭 端のベンチーーー

少年「外で昼食べるのって初めてだ」

少女「そうだねー。普通は教室で食べるからね。でもうち中学なのに購買あるし、その辺結構自由なんだと思ってる」パカッ

少年「まぁね…僕は行ったことないけど」カパッ

少女「…お弁当、それお母さんに作ってもらってるの?」

少年「うん」

少女「いいなぁ。ぼくの家親が忙しくてさ、お金渡すか自分で作るかのどっちかだって言われちゃって」

少年「ん…?じゃあそれは自分で?」

少女「そ。どう?最近は少しずつ慣れてきたと思ってるんだけど」

少年「どう、って……」

少年(すごい綺麗に盛り付けられてるし、美味しそう…)

少女「…ふふ、ありがと」

少年「え!?何も言ってないよ!?」

少女「目、見れば分かるから」クスッ

少年「そ、そんな分かりやすい顔してたかな…」
17 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:45:30.32 ID:qYsOfvLU0

少年(………)

少年「…あの、ありがとう」

少女「んー?」ハムハム

少年「あいつら、追い払ってくれたから。僕に突っかかってきてた時に」

少女「呼んでもないのに邪魔してくるからどいてもらっただけだよ」

少年「……僕より男らしい……」ボソッ

少女「聞こえてますよー。本当はきみがあの人達に強く言えば済むことかもしれないんだよ?」

少年「そう…かな…」

少年「そうは思えなくて…調子に乗ってもっとやられる気がする…」

少女「昨日も同じようなこと聞いた」

少年「……」

少女「そう考えちゃうのは仕方ないと思うけどさ……どこかで変えなくちゃ」

少女「他人を変えたいならまず自分が変わること。そうしないと、ずーっとそのままだよ」

少年「……もうすぐ卒業だし、別に僕が変わらなくても、周りが変わっていくよ……」

少女「……」

少女「それも、一つの考え方かもね」

少年「……」...パク

少女「……」ハム..ハム..

少年「………」

少年「…やっぱりさ、怖いよ」

少女「何が?」

少年「こうやって、僕と一緒に居て、あいつらの邪魔してたらさ…少女さんまで変なちょっかい出されそうで…」

少年「僕のせいで少女さんが目付けられるのは……」

少女「………」

少女「……これ、もらうね」ヒョイッ、パク

少年「…?あ!僕の唐揚げ!」

少女「油断大敵です♪」

少女「あのね、きみはそもそもぼくの心配をする資格はありません!」

少年「へ…?」

少女「自分のこともいっぱいいっぱいの人が他人の心配なんか出来なくていいの」

少女「それに、ぼくがそんなこと気にする人だったら、元より少年君と関わろうとなんか思わないよ」

少女「きみは大人しくぼくの"暇つぶし"に付き合ってくれてればいいんです」

少年「………」

少年(……なんだろう……上手く言い表せられないけど)

少年(…心がくすぐったい)
18 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:48:12.02 ID:qYsOfvLU0

少女「はい」スッ

少年「!」

少女「唐揚げの代わり。要る?」

少年「卵焼き…?」

少女「なーに?唐揚げとじゃ釣り合わないって?」

少年「そうじゃないけど」

少年(これ、少女さんの箸…)

少年「……食べていいの?」

少女「どうぞどうぞ」

少年「……」



パクリ



少女「!?」

少年「」ムグムグ

少女「ぁ…と…」

少年「」ゴクン

少年「うん、美味しいよ。…ってどうしたの?」

少女「いや、てっきりフタか何かに乗せて食べるもんだと思ってたから…」

少年「……あ」

少年(今、そのまま箸ごと口に入れて……!)

少年「ご、ごめん!だよね、普通そうだよね!?箸洗ってくるよ!貸して貸して!ほんとごめんこんな気持ち悪いこと…!」

少女「……ぷっ、あはは!」

少女「いくらなんでも慌て過ぎ!早口言葉じゃないんだから…んふふ…」カタフルワセ

少年「」ポカン

少女「気持ち悪いなんて思ってないよ。ちょっとびっくりしただけ。箸もこのまま使えるから、ぼくは気にしないよ」

少年(き、気にしないって)

少女「」ハムハム

少年(僕が気にするんですけど……)ドキドキ
19 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:49:05.03 ID:qYsOfvLU0

少女「そうそう、後は今日の放課後ね」

少年「あ、もしかして」

少女「うむ」



少女「勉強!」
少年「野球!」



少女「……少年君」

少年「う……」

少女「ぼく言ったよね?基礎学力テストに向けて対策だって」

少年「本当にするのぉ…?」

少女「知ってるんだよ?少年君そんなに成績良くないよね」

少年「」グサリ

少女「基礎なんだから、時間かけてちゃんとやれば確実に点が取れるテストなんです!ここで少しでも内申上げとけば後々本番で効いてくるからさ」

少年「分かってるけどさ」ウーン

少女「…1時間くらい。短く効率的にやろ。ダラダラつまんなく勉強するのも嫌でしょ?」

少年「……」

少年「よろしくお願いします、先生」ペコ

少女「よろしい」ニッコリ




20 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:51:27.02 ID:qYsOfvLU0
ーーー夕方 町中ーーー



テク..テク..



黒服男「……」テク..テク..

黒服男「……」テク..テク..



「わははは!おまえの宝はいただいていくぞー!」タタタッ

「待てー!怪盗エックス!この聖剣で成敗してくれる!」タタタッ

「誰が捕まるものかー!わっはっは」タタタッ

ドンッ

「いたっ」

黒服男「………」

「あ……ごめんなさい」

「なにぶつかってんだよっ」

「だって曲がったらいきなり居たんだもん…」

「…あっちの公園で続きやろう!」タッタッ

「待ってよ!」タッタッ

タッタッタッ...

黒服男「……」

黒服男(随分と)

黒服男(ここの景観も変わったものだ)

黒服男(俺の知る頃とはまるで違う。最早別の世界へ足を踏み入れたようだ)

黒服男(……む?)



同級生A「なぁ、お前、俺たちのこと少女になんか言ったのか?」

少年「言ってないけど…」

同級生B「嘘つけ。あいつ明らかに俺らを敵視してたろ」

同級生A「何チクったんだよ。正直に言え」

少年「だからなんも言ってないって」

少年(自分からはな)
21 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:53:39.27 ID:qYsOfvLU0

少年(……)

少年「…お前らこそさ、少女さんが居ないところでしか僕にでかい顔出来ないの?」

同級生A「…あ?」

少年「こんな時間まで僕のこと待ち伏せて…女子一人にビビってるとか?」

同級生A「あんま調子に乗ってんじゃねーぞっ」ドンッ

少年「っ!」ドサッ

同級生B「抑えろって。こんなザコにムキになるなよ」

同級生A「……はー」

同級生A「俺たちにビビって女子に助けてもらってんのはお前だろ?よかったでちゅね、僕ちゃん。守ってくれるママが出来て」

同級生B「ぶはっ!ほんと、だっせーよなぁ」ケラケラ

同級生A「じゃあな弱虫くん。せいぜいおままごとでも続けてな」ハハハ

テクテクテク...

少年「……く…っそぅ……」

少年(やっぱ、俺が言うだけじゃ……)

少年「……」スクッ

少年「帰ったら…ノートに……」ブツブツ

スタスタ...



黒服男「……」

黒服男「……やはり」

黒服男(景色、時代は変われど)

黒服男(──人間は何一つ変わっていない)

黒服男(愚かで傲慢)

黒服男(醜悪な独善)

黒服男「………」

黒服男(…あの男。何を思い、過ごすのだろうか)

黒服男「……」



ススッ...




22 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:57:25.99 ID:qYsOfvLU0
ーーー数日後 学校ーーー

少女「もー…普通昼休みに機材運搬とか頼むかな。いくら日直だからって」テクテク

少女「うちの担任人使い荒い気がする」テクテク

少女「……戻ったら少年君に今日の勉強の話でもしてやろっかな。どんな顔するだろ」フッ

...トットットッ

同級生A「……」

同級生B「……」

少女「……何?」



黒服男「ほう、これは……」

黒服男(面白いな)







ーーー教室ーーー

ワイワイ ガヤガヤ

少年「……」

少年「………」

少年(少女さん、荷物運んでくるだけって言ってたけど遅いな…)

少年(ちょっと見てこよう)

少年「」ガタッ



トットットッ...




23 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 18:58:12.88 ID:qYsOfvLU0
ーーーーーーー

少女「どいてくれない?そこ邪魔なんだけど」

同級生A「…お前さ、どういうつもりだよ」

少女「は?何が?」

同級生A「何がじゃないっつの。なんであいつの肩持ってんだって訊いてんの」



黒服男(あの娘、かの男を常に見守る者…)

黒服男(否。無償の善意など人の世に存在しない)

黒服男(その心積もり、ついに聞くる時が来たか)



少女「肩を持つ?そうかもね。最近勉強教えてあげてるし」

同級生B「そうじゃない。少年の近くでさ、目障りだから消えてくれって言ってんだよ」

少女「何の目障りになってるの?」

同級生B「そりゃ……」

同級生A「……」

少女「……」

同級生A「…つーかお前、少年のこと好きなん?」

同級生B「おー、なるほど。通りで」

同級生A「マジかぁ。申し訳ないけど、男の趣味見直した方がいいぜ?」

ギャハハ

少女「…答えに詰まったら話を逸らして人格攻撃?ほんと、小物感すごいねあなたたち」

同級生A「は?」

少女「別に少年君のことどう思ってるとか、あなたたちに教える必要ないよね」

同級生B「否定しないってことは好きなんだろ?陰キャラ同士お似合いじゃん」

同級生A「うーわ、おもしれーな。大スキャンダルです!あの少年氏に熱愛が発覚!僕僕コンビの結成と相成りました!」

同級生B「僕僕コンビて(笑)」

少女「……フッ。また噂でも流す?」

少女「この前少年君にしたみたいに」ニヤリ

同級生A・B「「……」」



黒服男「………」

黒服男(……違う)




24 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:03:28.71 ID:thfh8h7eO
ーーーーーーー

テクテク

少年「」キョロキョロ

少年「…どこだろう」

少年(確か視聴覚室とか言ってたけど……もうすれ違ったとかかな)

少年「……」テクテク

少年(あの日から毎日、学校では少女さんと一緒に行動している)

少年(彼女は竹を割ったような性格で、何かとおどおどしてしまう僕とは対照に、常に落ち着いている)

少年(でも急かされてるとか見下されてるとかそういうのはなくて……何だか居心地が良い)

少年(僕に突っかかってくるあいつらも少女さんと居る時は手を出してこなくなった)

少年(……彼女は、何だろう)

少年(僕の都合の良い夢とかじゃあないよな…?)

少年(……いや、絶対夢なんかじゃない。彼女と出会ってからこんなに楽しい時間が、夢でたまるか)

少年(勉強に関しては若干圧を感じなくもないけども……)

少年「…ここだ」



札『視聴覚室』



少年(着いたけど)

少年(…居る気配はしないな。やっぱりもう戻ってるんだろうな)

少年「……?」



黒服男「……」(窓の外を眺めている)



少年(……誰だ…?制服みたいな格好だけど……ここの卒業生?)

黒服男「……」

少年「……」

少年(……気にしてもしょうがない。戻らないと、少女さんに探され──)



黒服男「面白いものが見えるよ」



少年「……え」

黒服男「……」

少年「…僕、ですか?」

黒服男「ほら、見てみな」

少年(?面白いもの…確かにこの人さっきから何を)チラリ

少年「──!」
25 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:05:10.78 ID:thfh8h7eO



同級生A「……──、─!」

少女「──、──?」

同級生B「───。──、──」



少年(少女さん……?)

少年(なんで、あいつらと……)







ーーーーーーー

同級生A「だーかーらー!どこに俺たちが流したっつー根拠があるんだよ!」

少女「根拠、証拠って、推理アニメの犯人の台詞そのもの」

少女「そんなのさ、誰だって分かってるよ。あなたたちが少年君にしてることみんな知ってるし」

少女「…それも知っててあんな茶番やってるんだよね?虚しくならないの?」クスッ

同級生B「あー…お前面倒くさいなぁ」

少女「あなたたちよりはマシだと思うけど」

同級生A「……はっ、正義の味方気取りか」

少女「常識の味方です」フフッ







ーーーーーーー



少女「──」クスッ



少年「……」

少年(何か楽しそう…?いやそんな…)

黒服男「随分仲が良さそうだよね」

少年「……いえ、あの子はあいつら二人が嫌いなのでそんなことは」

黒服男「本当に?俺が見てる時からあんな雰囲気だったけど」

少年「え…」

黒服男「それ、きみの思い込みじゃなくて?よくいるだろう、仲悪いフリしてる人が実は裏では親密な付き合いを続けているなんて」

黒服男「あるいはその逆も」

少年「……」

黒服男「あの女の子も、彼らと楽しく陰口ででも盛り上がっているんじゃないかな?」



黒服男「─一同じクラスの誰かさんの、とか」


26 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:07:06.66 ID:thfh8h7eO

少年「……そんなこと……」

黒服男「そう言い切れるか?」

黒服男「きみはあの娘のことをどれだけ知ってる?」

黒服男「あの娘の本質を」

少年「………」

少年(………)

少年(……ないだろ、少女さんに限って)

けどもしも、その通りなら?

少年(………)

本当はあいつらと裏で繋がっていて、僕をからかうための芝居を打ってるだけだとしたら…?

少年(……そんなの……)

少年「……」グッ...

黒服男「………」

黒服男(……そうだ。これだ)

黒服男(感じる、この男の"黒き心")

黒服男(紛うことなき人間の本質)

少年「……少女……」

黒服男(人の心など、信ずるに値しない愚物)

黒服男(裏切り、憎しみ、排他)

黒服男(あらゆる汚物で組成されたもの)

黒服男「……」ニィ

黒服男(…若き男よ。俺がその感情の手助けをしてやろう)スッ...



ドクン



少年「………」

少年(…そう、か。よくよく考えればおかしいことだらけだ)

少年(僕のノートを見ても引かないどころか友達になりたがったり、こんな数日であそこまで仲良くしてくれたり)

少年(初めから全部、あいつらの差し金だったんだ)

少年(僕は結局一人アホみたいに舞い上がって……)

少年「……」

少年(あぁ……嫌だ)

少年(僕をバカにする奴も、陰で嘲笑う奴も、みんなみんな…)





──憎い




27 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:08:11.59 ID:thfh8h7eO
ーーーーーーー

同級生A「だー!もうわっかんねーかなぁ!俺たちの前にしゃしゃり出てくるなっつってんの!」

少女「どこで何してようがぼくの勝手じゃない」

同級生B「……あのさ、ムカつくんだよお前。その喋り方とか、余計に」

同級生B「マジで俺らの邪魔しないでくんね?痛い目見ても知らねぇよ?」

少女「……それ脅してるの?」

少女「クスッ、言葉じゃ勝てないから?」

同級生A「………」

同級生B「チッ……」

同級生A「……ぶっ飛ばす」

少女「……その気なら、相手になるけど」

ゴソ...

同級生A「…!?」

同級生B「バット…?」

同級生A「ど…どっから出したんだよ…」

少女「……」ザッ

少女「なに?やるんじゃないの?」スッ...

同級生B「……っ」

同級生B「こいつ、やべぇ…」

同級生A「頭おかしいわ…」



タッタッタッ...



少女「………」

少女「口ほどにもない奴ら」

少女「…なんて、一回口に出して言ってみたかったんだよね」フフ

少女「無駄な時間使った。早く戻ろ」




28 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:10:04.90 ID:thfh8h7eO
ーーー教室ーーー

少女「ごめん、遅くなっちゃった」

少年「………」

少女「もうお昼の時間半分くらいしかないけど……ってあれ、お弁当先食べててよかったのに」

少女「わざわざ待っててくれたの?そういうとこ、律儀だよね。嫌いじゃない」ニコッ

少年「……」

少女「…少年君?」

少年「ね…あいつらの言ってたさ、あの噂」

少女「噂?」

少年「トドノツマリ様」

少女「それどうせ眉唾ものだよ」

少年「僕、少し気になるかも」

少女「えー……」

少年「今週の土曜日さ、一緒に確かめに行ってみない?」

少女「土曜日……空いてるといえば空いてるけど…」

少年「だめ?」

少女「……じゃあその後、勉強まで付き合ってくれるって言うならいいかなー」

少年「決まりだね、行こう」

少女「即決っ」

少女(…なんか反応が薄い…?)

少女「…テストまで後1週間ちょっと。そろそろスパートかけてくけどついてこれるかな?」

少女「あそこで黙々と勉強してる二つ編みさんみたいに」



二つ編み「……」カキカキ



少女「それとも、ちょっと休憩するとき打ってみようか?今度は少年君がね」

少年「……いや、いいよ。ノックはテストの後でも」

少女「……そう?」

少女(……?)




29 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:12:21.65 ID:thfh8h7eO
ーーー夜 少女家ーーー

少女「……」スマホイジイジ

少女「……」スッ、スッ

少女「……んー……」

少女「トドノツマリ様、とどのつまりさま…?」

少女「ダメだなー、どう検索しても引っかからない」

少女(LINEで訊いてみよ。えーと、同じクラスの……)

少女「」スッスッ



少女『トドノツマリ様って知ってる?』



少女「……」



ーーーーー

少年「──いや、いいよ。ノックはテストの後でも」

ーーーーー



少女(……お昼の時から、口数が減った気がする)

少女(気のせいかな)

ピロリン



『知ってるよー。なんか噂になってるやつだよね?神社に居る神様?みたいな』

少女『そうそう。願いを叶えてくれるけど、その代わり何かを取られるって。そんな話聞いたことない?』

『いくつかパターンがあるみたいよ』

『でも意外。少女ってそういうオカルトとか興味ないと思ってた』

少女『んー、まあ誘われたから付いてくだけだよ』

『それで下調べ?結構気合い入ってるじゃん!』

少女『余計な勘繰りしないでよろしい』
30 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:13:00.90 ID:thfh8h7eO

少女『で、パターンがあるって?』

『大抵は願いを叶える対価としてこっちの私物とか身体の一部とか要求されるって話じゃない?』

『けど一つ、私が聞いた中で異色だなって思ったのが』





『願いを聞いてもらうと世界が捻じ曲がるほどの災いが起こる』





少女「はぁ…?」



『んだってー。私的にはそっちの方が後からついてきた創作だと思うんだけどね』



少女「世界って…」

少女(ただの七不思議程度の知名度の割に、大袈裟な話)

少女(余計嘘臭さが助長されてる)

少女(……)

少女「……まぁいっかな」

少女「少年君が満足するまで付き合ってあげますか」ノビー

少女(せっかく向こうから誘ってくれたんだしね)

少女(…そう考えると……ふふっ。ちょっとわくわくしてきたかも)




31 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:15:28.63 ID:thfh8h7eO
ーーー土曜日ーーー

少女「……」テクテク

少女「…あ」

タッタッタッ

少年「……」

少女「早いね。もしかして結構待たせちゃった?」

少年「……あんまり」

少女「ほんとに?実は楽しみ過ぎて1時間くらい前から着いてたとか…」

少年「楽しみではあったよ」

少年「というか少女さん、その服…」

少女「ん?あー……最近もう暑くなってきたしさ、今日神社まで行くんだよね?だから動きやすい格好をってね」

少年「それにしたってTシャツとハーフパンツ……男の子みたい」

少女「失礼な。そういう少年君こそ、なんで制服のワイシャツ?学校に立ち寄る用でもあるの?」

少年「…別に、手近なもの着てきただけだよ」

少女「わざわざ着替えて?そのまま私服で来れば良かったのに。…ふふっ、なんか変だね」

少年「」ピクッ

少年「……行くよ」...テクテク

少女「あ、待ってよ」テッテッ



.........







ーーー神社 石段前ーーー

少女「………」

少年「………」

少女「……これ、登るんだよね?」

少年「……うん」

少女「頂上が見えないんだけど」

少年「……」

少女「…そういえば、夏休みに入った後だけど、ここ大きなお祭りがやってるよね」

少女「石段沿いに屋台がずらりと」

少女「…あれに比べたら手ぶらのぼく達の方が身軽で楽なのかな」

少年「……」...トットッ

少女「……」

少女(………)




32 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:16:58.83 ID:thfh8h7eO
ーーー神社 境内ーーー

少女「はぁ……はぁ……」

少女「さすがに……疲れた……」

少年「」ハァ..ハァ..

少女(少年君なんか肩で息してる)

少女(そんなに無理してでも来たかったのかな。でも……)

少女(それを抜きにしても、石段登ってくる最中一切会話もないなんて…)

少女(4日前くらいからだ。少年君の様子がおかしくなったのは)

少女(どこか後ろ暗いというか、ぼくが話しかける前の少年君に戻っているというか…)

少女(…まさか、見えないところであの二人に嫌がらせされてるんじゃ…)

少年「──少女さん」

少女「!なに?」

少年「なに、じゃなくてさ」

少年「ここだよ。トドノツマリ様が居るって場所」

少年「でも何をすればいいのかな。呼び出す手順なんて聞いたことない…」

少女「そんなの……お願いすればいいんじゃない?」

少年「……」



(数歩前に出る)



少年「……トドノツマリ様!居るならどうか聞いてください!」

少年「僕は平穏な学校生活を送りたいです。誰にも関わらず、誰にも干渉されない、そんな日々を下さい」

少年「……」チラリ

少女「……」

少年「……トモダチなんか、要りません……」ボソッ

少女(……誰にも干渉されない……)

少女(少年君、きみはまだ……)

少年「…叶ったかな」

少女「いくらなんでもせっかち過ぎるよ……学校はまた明後日から!」

少年「………」
33 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:18:46.37 ID:thfh8h7eO

少女「……ふぅ」

少女「ねぇ、任せてよ。それくらいのお願いなら、ぼくが叶えてあげるからさ」

少年「……」

少女「これで一応気は済んだ?結局少年君、すぐに叶うかどうか分からないお願いにしちゃったね」

少女「次はぼくが分かりやすいものを試してみようか?超能力に目覚めさせて下さい!……なんてどう?」フフッ

少年「……」ジロッ

少女「…!」

少女(冷たい、目)

少女(……その目はまさか)



少女(──ぼくに向けられてる?)



少女「………」

少年「どうせ後で……するくせにさ……」ポツリ

少女「え?なに?」

少年「……トドノツマリ様、ここじゃないのかもしれない」

少年「噂では神社ってなってたよね?でも神社のどこかまでは具体的に言及されてないし」

少女「だったらどこだっていう話だけど……まさか、石段の1段1段なんて言わないよね!?」

少年「……こっち」スタスタ

少女「どこ行くの!そっち林道…」



スタスタスタ...



少女「……」

少女(絶対、何かあった)

少女(…少年君…後でちゃんと聞いてあげるからね)

少女「」タッタッタッ





(……あの少年、もしや……)




34 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:21:11.72 ID:thfh8h7eO
ーーー林道ーーー

少年「……」ザッザッ

少女「……」ザッザッ

少年(………)



ーーーーー

少女「──それくらいのお願いなら、ぼくが叶えてあげるからさ」

ーーーーー



少年(よくもまぁわざとらしいことをペラペラと)

少年(僕が何も知らないと思って…)



ーーーーー

同級生A「──!───」

少女「──」クスッ

ーーーーー



少年(………)ギリ...

少年("友達"なんて都合の良い言葉、振りかざす連中は嫌いだ)



──ドクン



少年「……」ザッザッ

少年(……憎い)

少年(バカ正直に人を信じようとした自分が)

少女「……」ザッザッ

少年(僕を嘲笑う、こいつが)



ザッザッ...



少年「………」

少女「へー……」



(大きな池)



少女「こんなところに池なんかあったんだ。ここ、普段来ることなんてなさそうなのによく知ってたね?」

少年「……」

サッサッサッ(数歩前に出る少女)

少女(でも)

少女「……」ジッ

少女(この池、底が暗くて見えない。そんなに深いのかな)

少女(……ちょっと不気味)
35 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:26:08.47 ID:qYsOfvLU0

少女「……ここでお願いすれば、池から出てきてくれるのかな」

少女「泉の女神様みたいに。金の斧と銀の斧じゃなくて二つの願い事を提示してくれたり?」

少年「……」



──ここでこいつを突き落とせばいい



少年(………)

少年(……この人を……突き落とす……)

少年(あぁそうだ……そうすればこいつもあいつらも少しは懲りるかもな……)

少年(他人を変えたいならまず自分が変わること)

少年(きみもそう言っていたしな)

少年(望み通り、変えてやろうじゃないか…)

少年「……」

少女「さて、早いとこ実証して引き返そうよ。ぼく、ここあんまり長居したくないかも」

少年「」スッ



ソー...(手を伸ばす)


36 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:26:48.13 ID:qYsOfvLU0



ーーーーー

少女「──ぼくとおんなじだね」

ーーーーー



少年「………!」

少年(……僕は、何をしようとしてるんだ)

少年(正気の沙汰じゃない…少女さんを池に落とそうとするなんて…!)

ドクンッ!

少年(うっ……頭が、痛い……)



──どうして留まる。それが良心というものか?



少年(ぐ……!)ズキッ



──下らぬ……俺が手を貸してやろう



少年「え……?」スッ

少女「少年君?」フリカエリ





ドンッ





バシャン!

少年「…!?」

少年「少女さんっ!?」

少年(僕が突き落とした!?いや違くて今手が勝手に…!)




37 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:28:32.22 ID:qYsOfvLU0
ーーーーーーー

少女(!…!?)

ゴボゴボ

少女(なに…!?池に落ちたの…?)



ーーーーー

少年「」ドンッ

ーーーーー



少女(なんで……少年君……)

少女(…とにかく上に)



グンッ..グンッ



少女(…!上がれない…!どうして…)

少女(それどころかどんどん下に引っ張られてる…!?)

少女「」ゴパッ

少女(息が……)

少女「……っ」グンッ...



(水面に映る少年の姿)



少女(……少年、君……)

少女「………!」





黒服男「」ニタァ





少女(少年君の、後ろに…)

少女(……あれは……だれ……)

少女「………」



ゴポゴポ...




38 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:29:31.46 ID:qYsOfvLU0
ーーーーーーー

少年「少女さん……」ヒヤリ

少年(上がってこない…!)

少年(助けないと!このままじゃ少女さんが…!)

少年(僕もこの池に飛び込んで──)





グネ..グネ..





少年「ひっ…!?」アトズサリ

少年「な、何だよ今の…!?」

少年(手…みたいだった…池の底から伸びてくるような無数の何か……)

少年「……あ……」

少年「うわぁあああ!!」ダッ!



タッタッタッ...



.........





...ザッ

黒服男「………」

黒服男「当然の帰結」

黒服男「それがお前達人間の、醜い業だ」

黒服男「………フッ」



黒服男「さぁ、始めようか」




39 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:31:18.24 ID:qYsOfvLU0
ーーー神社ーーー

(……!)

(やはり……そうか)

(滲み出してしまった)

(この星の歪み……遠い昔の怨恨……)

(………)





少年「──どうか、どうか!お願い致します…!」





(!この者……)



少年「トドノツマリ様!いらっしゃるのなら僕の願いを聞き届けて下さい!」ポロ..ポロ..



(我、驚愕せり)

(外聞もなく泪を零す、矮小な人であるもしかし)

(──未だ嘗て無い程の、強き心)



少年「どうか、元に戻して下さい…!」

少年「溺れてしまったあの子……」ポロポロ

少年「──僕が殺してしまった少女さんを!」ポロポロ



(………)



少年「お願いです……どうか……」



(叶えようか。其の望みを)



少年「ああぁ……僕は……なんで彼女を……」ウツムキ

少年(違うんだ……あんなの僕のしたかったことじゃ……)



...ガタ、ガタガタ



少年「!…この音……神社から…?」
40 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:32:19.71 ID:qYsOfvLU0



(組み替えよう、生命のベースを)



ガタン!



少年「……?」



──ヒュオオォ



(歪んだ憎悪に蝕まれた哀れな少年よ)

(其の意思、確かに伝わった)



ゴオオオォ!



少年「ん……!」

少年(なんだこの風…!)



(─其の代わり)

(我は欲する)

(そなたの最たる大切物)



ブワァッ!



少年「わっ…!」ズテッ





シーン...





少年「……」

少年「……」

少年「………」




41 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:34:23.23 ID:qYsOfvLU0
ーーー夜 自室ーーー

少年「………」

少年「………」

少年(あれから、どう帰ったのかもよく覚えていない)

少年(気が付いたらもう日は沈んでいて、僕は自分の部屋でこうやってただ座っていた)

少年「……」

少年(…日中の出来事は全部夢だったんじゃないか)

少年(不意に、そう思うこともあった)

少年(……けど)



ーーーーー

──バシャン!

ーーーーー



少年(彼女を突き飛ばしたあの感触は、今もはっきりとこの手に残ってる)

少年(……)

少年(僕はどうして少女さんをあんなに憎んだんだ…?)


少年(あいつらと仲良さそうに話をしていたから?……僕を嘲笑うだなんて、彼女がそんなことをしそうにないのは分かっていたはず…)

少年(そう信じさせてくれたはずなのに……)

少年「………」

少年「……寝よう」

少年(寝て起きれば、何か変わってるかもしれない)

少年(──今日の事は全て嘘だった、とか)

少年「……」



ゴロン...




42 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:35:29.44 ID:qYsOfvLU0
ーーー神社ーーー

(………)

(……月が、サカサマに見ゆる)

(其の意味を我は知らない)

(されど、濃密な禍々しさ)

(………)

(顕現の時か)



...スッ



サッ..サッ..



幼女「……」

幼女(かつての悲劇、憎しみ)

幼女(二度と起こらぬよう、世界への干渉を避けてきた)

幼女(しかし)

幼女(蓋をし、重石を載せただけでは消えたことにはならぬ)



ーーーーー

少年「──どうか、元に戻して下さい…!」

少年「──僕が殺してしまった少女さんを!」ポロポロ

ーーーーー



幼女(……)

幼女(嗚呼……誰が気付くだろう)

幼女(この星の怪異。歪曲にも似た魅えざる"張り裂け"を──)

幼女「………」

幼女「……」サッ、サッ、サッ



(床に落ちた1冊のノート)



幼女「…これがかの少年の…」

スッ(拾い上げる)

幼女「……」ジッ...

幼女(………)

幼女(…この書物…は一体…?)




43 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:37:20.17 ID:qYsOfvLU0
ーーー翌日 日曜日 朝ーーー

少年「………」ボー

少年「……」

少年「……」

少年(………)

少年「………」ボー





ーーー昼ーーー

少年「………」ボー

少年「……」ゴロッ...

少年「………」

オヒルハヤクタベチャッテー!

少年「……」



ノソッ...





ーーー夜ーーー

少年「………」

少年「………」

少年(……あ…授業の用意しとかないと)

少年「……」



ガサ..ゴソ..



少年「……あれ」

少年(ノートがない…)

少年(僕の、"アヤカシノート")

少年「……いいや、別に」

少年「………」

少年(明日は学校)



ーーーーー

少女「──きみは大人しくぼくの"暇つぶし"に付き合ってくれてればいいんです」

ーーーーー



少年「……少女さん……」

少年「……」ツー

少年(僕は……僕は………)

少年「うぅ……」ポロ..ポロ..




44 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:38:57.15 ID:qYsOfvLU0
ーーー翌日 学校ーーー

「おはよー」

「おはよ。ねぇ先週の数学のプリントやった?今日小テストだよね、確か…」

「えっ。そうだっけ!?」



ガヤガヤ



少年「……」

少年(……)



(空いた少女の席)



少年(………)



「あのぉ二つ編みさん」

二つ編み「…?なに?」

「数学のプリント、写させてくれないっ?」

二つ編み「…いいよ、はい」スッ

「やった!ありがとう!やっぱり二つ編みさんだね〜、いざというときのセーフティネット!頼りにしてるよ」

二つ編み「どうも…」



猫又娘「数学の小テストぉ?」

猫又娘「みんな慌てなくていいのに。そんなの変えちゃえばいいんよ、こんな風に!」

ポンッ

「おぉ…」

「また猫又娘の手品か?」

猫又娘「にっしし。これで解決!」

派手娘「そのプリント」

猫又娘「」ギクッ

派手娘「提出用なんだけど、元に戻せんの?」

猫又娘「…あはは、平気平気」

派手娘「ふーん」

派手娘「あと、やるなら先生の目の前でやってくれば?追加のプリントいっぱいもらえるわよ」

猫又娘「いやぁ…プリントだけじゃ済まなさそうだから遠慮しときますよー…」ハハハ...
45 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/04(金) 19:40:17.40 ID:qYsOfvLU0



キーンコーンカーンコーン



教師「ホームルーム始めるぞ。席着けー」ガララ



バタバタ



教師「…ん?なんだ、少女はまだ来てないのか?」

少年「っ…」

教師「珍しいな…誰か連絡のあった人はいないか?学校には特にないんだが」

「えー知らない」

「私も。先週トドノツマリ様のことでLINEしたくらい」

「最近少年君とよく一緒に居たよね」

少年「あ…えっと……」



ガラッ

「すいません、遅くなりました」



少年「!」

少年(この声…!)バッ

少年「……!?」

派手娘「は…?」

二つ編み「……」

猫又娘「うそ…」





包帯少女「……」





ザワッ

教師「どうしたんだ…それ。なにでそんな怪我を…」

包帯少女「いえ、怪我というわけでは……」

包帯少女「…あまり気にしないでください」



少年(なんで……あんな)

少年(右膝、左腕、そして右目。包帯が巻かれている)

少年(生きて、いた…?それともトドノツマリ様が…?)

少年(でも、その包帯姿は……)



包帯少女「………」




46 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/10/04(金) 19:42:12.28 ID:qYsOfvLU0
一旦ここまでです。

これで全体の15%くらいです。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/04(金) 19:50:02.56 ID:ULnYpL5F0
45レスで15%か
48 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:24:19.60 ID:qAvjVlqX0
■第二幕 チグハグ■



ーーー教室ーーー

教師「──はい、そこまで」

教師「それじゃあ回収するから、名前書いてあるか確認して後ろから前に送れー」

「やっべぇ…1問しか出来なかった…」

「先生!プリントの問題より全然難しいんですけど!」

教師「そんなの、基礎が出来てればその組み合わせで応用も解けるだろ?いつも言ってるように」

教師「この小テスト、一応基礎学力テストの対策も兼ねてるからな。…間違えた問題は宿題で解き直しだ」



ブーブー



少年「……」スッ(後ろから受け取る)

少年(正直、こんな問題解けないと思ってたけど……この2問目、この間少女さんと勉強したところだ)

少年(………)



包帯少女「少年君」



少年「!…なに?」

包帯少女「なに、じゃないよ」

包帯少女「プリント、早く」

少年「あ、うん」スッ

包帯少女「」クルッ...

少年(──その包帯は何だい?)

少年(そう訊きたいけど、口にしようとする度言葉が喉につっかえる)

少年(見る限り、いつも通りに身体を動かしてる気がする)

少年(そこまで酷い怪我じゃないのかな…?)
49 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:26:06.37 ID:qAvjVlqX0

教師「……」パラパラ

教師「よし、ちゃんと人数分あるな。これは採点して帰りに返すから──」ピタッ

教師「………猫又娘」

猫又娘「はい?」

教師「これは、何だ」



(テストの裏に猫の落書き)



猫又娘「あ、それ可愛く描けたんですよ!」

「ほんと、絵上手!」

「でもテスト用紙に書くなんて、猫又娘さん……」

教師「……お前は、自分の成績が分かってるのか?」

猫又娘「はい!」ニコッ

教師「だったらせめてこういう時くらい真面目にやりなさい」

猫又娘「真面目に考えてよく分からなかったので、少しでも加点してもらおうと思ったんです!」

教師「加点?」

猫又娘「芸術点、とか♪」



ワハハハ!



派手娘「先生ー。猫又娘さん、さっき提出用のプリントでも遊んでましたー」

猫又娘「いっ!?派手娘さんなんで!」

教師「…猫又娘、次の休み時間廊下に立ってなさい」

猫又娘「」ガーン

派手娘「ふんっ。バカやってるからよ」

派手娘(あの貼り付けたような笑顔)

派手娘(…相変わらず見ててイライラするのよね)

教師「取り敢えず、授業始めるからな。教科書開け。前やったところの続きから、ページは──」




50 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:28:07.95 ID:qAvjVlqX0
ーーー昼休みーーー



ヒソヒソ



「ねーあの包帯って……」

「さぁ……何も話してくれないし、人に言えないことでも……」



ヒソヒソ...



包帯少女「……」

少年(みんな、少女さんのことを見てる)

少年(朝からほとんど喋らない少女さんの様子は明らかに変だけど、そんな檻の動物を見るような目…)

少年(……嫌だな……)

少年「……」

少年(…あの日の事)

少年(分かってる、少女さんと話さないといけないこと)

少年(怖いけど…ここで逃げたら僕は今後ずっと、少女さんと話せなくなるような、そんな気がして……)

少年「……」スクッ

少年「少女さん」

包帯少女「…?」

少年「…お昼、食べに行かない?」




51 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:32:12.10 ID:qAvjVlqX0
ーーー第二校庭 端のベンチーーー

少年「……」パクパク

包帯少女「……」ハムハム

少年(む、無言だ…!)

少年(どうしよう、誘ったはいいけどどう切り出せばいいか全然分からない……!)

少年「……」ソワソワ

包帯少女「……」ハム...

少年「……」チラッ

包帯少女「………」

少年「っ……」ガクリ

包帯少女「……ふぅ。なーに?」

少年「」ハッ

包帯少女「何か言いたいことがあるんじゃないの?さっきからずっとこっち見て落ち着きないしさ」

少年「あ、えと…」

少年「…そのお弁当、美味しそうだなって」

包帯少女「……食べたいの?ぼくの箸ごと?」

少年「えぇ!?いやいやもうあんなことは!例え分けてもらうとしても今度はちゃんと──」

包帯少女「冗談」クスッ

包帯少女「少年君、すぐバレる嘘つくからちょっとからかっただけ」

包帯少女「で、本当は何て言いたかったのかな?」

少年「……」

包帯少女「……」

少年「その……」



少年・包帯少女「「包帯のこと」」



少年「っ」

包帯少女「そうだろうね。ぼくだっていきなりこんな人が登校してきたら気になるよ」

少年「…大きな怪我とか…じゃないって言ってたよね?」

包帯少女「うん」

少年「……本当?」

包帯少女「まあこんな見た目じゃ説得力ないよね。なんなら今、包帯外して見せてあげてもいいよ。怪我は何もないから」
52 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:35:56.20 ID:qAvjVlqX0

包帯少女「…でも、夜になると痛み出すんだ」

包帯少女「この目と、腕と、足」

包帯少女「だからこれはおまじないみたいなもの。ちょっと大袈裟かもだけど」

少年「痛むって……病院には行ったの?」

包帯少女「ううん。だって痛み始めたのちょうど昨日からだから」

包帯少女(そう。昨日の夜の、"あの時"から…)

少年「昨日から……」

少年(それって、タイミング的にも、どう見ても異常なこの様子からしても)

少年(……あの出来事が関係してる)

少年(僕が、少女さんを池に落とした、あの……)

少年「……」グッ...

少年「少女、さん」

包帯少女「どうしたの、そんなに怖い顔して」

包帯少女「もしかして相当心配してくれてる?大丈夫だよ、見た目ほど重症じゃないし、少年君が気にするようなことはないって」

包帯少女「それよりきみは基礎学力テストの心配をした方がいいよー?今週の金曜日でしょ?あと4日しかない!」

少年「…土曜日の、ことなんだけど…」

包帯少女「……」

少年「……」

包帯少女「…一昨日?」

少年「そう」

少年「その……あの日、さ……」

包帯少女「……あー……」





包帯少女「ごめんね、急な予定で行けなくなっちゃって」





少年「……え?」

包帯少女「でさ、どうだったの?トドノツマリ様の検証。ぼくも興味が無かったと言えば嘘になるから、結果だけは聞いておきたいと思ってたんだ」

少年(覚えてない…?)
53 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:37:09.42 ID:qAvjVlqX0

少年「……」

包帯少女「少年君?」

少年「…全くのでたらめだったよ」

少年「テストに向けて僕の頭を良くしてくださいって頼んだんだけど、なんにも変わらず。今日の小テストも少女さんが前に教えてくれたところくらいしか解けなかったしさ」

包帯少女「お、ぼくの特別授業ちゃんと役に立ってるんだ」

少年「おかげさまで」

少年「だから…」

少年「…また、お願いしてもいいかな。テスト勉強」

包帯少女「勿論」ニコッ

少年「!」

少年(笑ってくれた……!)

少年「テスト終わったらさ」

少年「またここでやろうよ。二人野球」

包帯少女「ふふっ、いいね。酷い点数取って補習にでもならなければね」

少年「そこは信頼できる少女先生が付いてるから大丈夫」

包帯少女「慢心は敗北のもとですよー?」







少年(その日から、また僕たちは一緒に過ごせるのだと思えた)




54 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:38:14.84 ID:qAvjVlqX0
ーーー登校中ーーー

少年・包帯少女「「あ」」バッタリ

少年「おはよう。今日はいつもより遅いんだね」

包帯少女「…少しね、最近寝不足気味で」

少年「そんなに遅くまで勉強してるの?」

包帯少女「そんなところかな。出来の悪い生徒に教えられるように、ね」

少年「それって僕のことでしょうか…」



テクテク







少年(僕は卑怯だろうか)

少年(少女さんがあの土曜日の事を覚えてないと知った時、思わずホッとしてしまった自分がいた)

少年(彼女が包帯を巻いているその原因すら曖昧にしたままで)




55 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:40:22.80 ID:qAvjVlqX0
ーーー休み時間ーーー

同級生A「なんだよ、いいじゃねーかそのくらい」

派手娘「よくないわよ。あんたが拾いなさい」

同級生A「お前の足元にあんだし、お前の筆箱なんだから自分で拾えって」

派手娘「はっ?あんたがぶつかって落としたんでしょうが。早く拾いなさいよ」

同級生A「だからそんくらいお前が──」

派手娘「 ひ ろ え 」

同級生A「……わ、分かったよ」



少年「こわ……」

少年(派手娘さんて、いつも何かに文句付けてたけど、近頃は一段とイラついてるなぁ…)

少年「あのさ、少女さん……─!」

包帯少女「」スー..スー..

少年(寝てる…)

少年「……」

包帯少女「」スー..スー..

少年(……)







少年(だからだろう)

少年(包帯を巻いたその痛々しい姿が、段々と僕に対する当て付けに見えてきてしまうのは)




56 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:42:07.29 ID:qAvjVlqX0
ーーー放課後ーーー

包帯少女「……」カキカキ

少年「……」カキカキ

少年(……)

少年「……少女さん」

包帯少女「ん?質問?今やってるとこそんなに難しくないはずだけど…」

少年「いや、今日はちょっと、早く帰らないといけなくて。ごめんね、また明日」







少年(しょうもない嘘をついて、彼女の"無言の責め"から逃れる)

少年(当然少女さんにはそんな気はないのだろうけど、僕はどうしても彼女を直視出来なくなっていた)







ーーー昼休みーーー

包帯少女「──少年君、行かないの?」

少年「えーと……何というかその…」

包帯少女「……」

包帯少女「今日は教室で食べようか。お互い自席で」







少年(それは少女さんにも伝わってしまっているようで)

少年(今日の昼食に会話は無かった)

少年(二人前後の席なのに、彼女は終始背中を向けたままだった)

少年(………)




57 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:45:05.78 ID:qAvjVlqX0
ーーー朝 学校ーーー



シトシト



少年「はぁ……雨…」

少年(じめじめして気持ち悪い。靴下も濡れた)



包帯少女「」テクテクテク



少年(少女さん、遅刻ギリギリだ…)

テクテク

包帯少女「……」ストッ

少年「……」

少年(もう…挨拶を交わすことも……)

少年(僕は何がしたいのだろう)

少年(少女さんのことをどう思いたいのだろう…)

少年(こんな自分に手を差し伸べてくれた彼女に対して、僕がしたことと言えば…)



ーーーーー

──ここでこいつを突き落とせばいい

ーーーーー



少年(……あの声……僕の意志だったのか?)

少年(今思えば聞き覚えのある声だった……でもどこで……)

教師「──はいはい、静かにな」

教師「ホームルームの前に、お知らせだ」

教師「今日からうちのクラスに転校生が入る」

ザワザワ

「この時期に転校?」

「何やらかしたんだろうな」

「ヤンキーとか勘弁…」

教師「静かにしなさい!訳ありじゃなくて、明日の基礎学力テストを受けるために今日転入という形で来ただけだ」

教師「入っていいぞ!」
58 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:47:00.83 ID:qAvjVlqX0



ガラッ...



「……」トットットッ



「女子…!」

「すごい可愛い…」



「……」

教師「軽く自己紹介してくれるか?」

「………」

「…夢見娘です」

夢見娘「東中学校から来ました」

少年(すごく眠たそうな目をしてる)

少年(…不思議な子だな。見てるとこっちまで眠くなりそう)

夢見娘「………」

教師「………」

「……え、それで終わり?」

教師「…コホン。夢見娘、席はあそこだ。後ろの方で悪いが、何か不都合があったら言ってくれ」

夢見娘「……」



トットットッ



夢見娘「」チラッ

少年「…?」

夢見娘「……」トットッ

少年(今、こっちを見た…)

少年(僕と少女さんの方を)

少年(…気のせい…?)




59 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:49:28.66 ID:qAvjVlqX0
ーーー放課後ーーー

少年「……」カキカキ

少年(最初は偶然かとも思ったけど……夢見娘さん、事あるごとに僕らの方を見ていた)

少年(あの眠そうな目で)

少年(僕には全く心当たりがないんだけど…)

少年「少女さん、今日来た転校生なんだけどさ」カキカキ

少年「もしかして少女さんの知り合いだったりする?」

包帯少女「……」ウト..ウト..

少年「……」

少年(まただ。ここ数日ずっとそう。いつも疲れた顔をしてる)

少年(目の下の隈も日に日に濃くなってきてるような気がする)

少年「……少女さん」トントン

包帯少女「んっ」ピクッ

包帯少女「…あ、ごめん」

少年「ううん、いいよ。それより体調良くないなら無理せず休んだ方がいいんじゃない?」

少年「…僕に付き合ってるよりもさ」

少年(また僕はそんな、突き離すようなことを…)

包帯少女「………」

包帯少女「そう、だね」

少年「っ!」

包帯少女「うん。明日はテストの日だし、お言葉に甘えてぼくは帰らせてもらうよ」

包帯少女「少年君も、もう赤点レベルの科目はないだろうしね」

ガサゴソ(帰り支度)

包帯少女「」スクッ

包帯少女「…それじゃ」

少年「…うん」

テクテク
60 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:51:43.35 ID:qAvjVlqX0

少年(……)

包帯少女「──テスト勉強」

少年「?」カオアゲル

包帯少女「お疲れ様。教えたこと忘れないように、明日頑張ってね」

包帯少女「こうやって二人で勉強するのも今日が最後だから」

包帯少女「……だから……」

少年「……」

包帯少女「…この時間、嫌いじゃなかった…」ボソッ

少年(─!)

包帯少女「……」...テクテク



テクテクテク...



少年「………」

少年(………)

少年(……僕は……)

少年(……………)



そうだ、きっとこれは、妖怪のせい。友人の仲を引き裂こうとする醜いアヤカシ"ナカタガイ"がやったこと。



少年(……そういえば)



僕のノートはどこ行った?




61 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:53:38.81 ID:qAvjVlqX0
ーーー夜 少女の自室ーーー



(ベッドに仰向けになる少女)



包帯少女「………」

包帯少女「……少年君……」



ーーーーー

少年「──土曜日の、ことなんだけど…」

ーーーーー



包帯少女「……」

包帯少女(あんな…怯えた顔されたら)

包帯少女(ぼくはきみに殺された記憶があります……なんて言えるわけないじゃない)

包帯少女(あの日)



ーーーーー

少女「」ゴポゴポ...

ーーーーー



包帯少女(ぼくは確かに溺れたはずだった)

包帯少女(ぼくの口から漏れるソーダ水のような泡沫。暗い湖底に沈んでいくぼくの意識)

包帯少女(でも次に目を覚ました時、ぼくはこのベッドで横になっていたんだ)




62 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 22:57:09.48 ID:qAvjVlqX0
===昨週 日曜日===

少女「……うぅ……」

少女(苦しい……)

少女(たす…けて……)



ーーーーー

「──消え去れ化け物!この穢らわしい存在めが!」

ーーーーー



少女「…!はぁっ!」ガバッ

少女「はぁ……はぁ……」

少女「……ここは……ぼくの部屋…?」

少女「……」スッ

ポチポチ スッ



スマホ『7月7日 日曜日 07:30』



少女「日曜日……」

少女「昨日は土曜日…」

少女「!!」

ペタペタ サワサワ

少女「…ぼくの身体…」

少女「ぼく、生きてる…?」

少女(昨日のあれは夢だった?)

少女(いやでも…あの水の冷たさ、どうにも出来ない息苦しさ……鮮烈に思い出せる)

少女(それに)



ーーーーー

黒服男「」ニタァ

ーーーーー



少女(あの男…はっきりと顔は見えなかったけど)

少女(笑っていた。一瞬見えた少年君の悲痛な表情とは対照的に)

少女「……」

少女(昨日、何があったのか……ぼくに何が起こったのか…)

少女(訊いてみれば分かるかな)

少女「……」スッスッ



スマホ『連絡先 少年:080-XXXX-XXX』



少女「………」

少女「………」

少女(………)
63 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:02:39.07 ID:qAvjVlqX0



少女(あれ)



少女(あと1cm指を動かすだけ。それだけでコールが出来るのに)

少女(今少年君と話すのがとても……気後れする)

少女「……」

少女「…もうちょっと、心の準備が出来てから」



.........







ーーー夜ーーー

少女「……あー……」ゴロン...

少女(結局、彼に電話をかけることは出来なかった)

少女(ぼくの中の怖れが消えることはなく、ついぞ事実は確かめられないまま…)

少女「ぼくってこんなに臆病だったっけ……」

少女(ま、明日になれば嫌でも顔を合わせることになるし、明日訊けばいいか)

少女(さすがに面と向かって言えないことはないよね)

少女(……そう決めたら、眠くなってきた)

少女(今日はほとんど何もしてないはずなのにな……)

少女「……」ウトウト

少女(また…明日から……彼との日常に、戻れ……る……)



コツッ、コツッ



少女(……?)



コツッ、キィ...



少女「……!?」バッ

少女「な、なにこれ…!?」



「……」ユラ..ユラ..



少女(ぼくの目がおかしくなった…?目の前に、巨大な鳥類の足骨のような物体が立っている…)

少女(骨盤から下までしかない。最も奇妙なのは…膝の関節らしき部分に挟まってる目玉)

少女(ゆらゆら揺れながら、まるで意思を持っているようにぼくの方に…)
64 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:05:50.66 ID:qAvjVlqX0

「……」コツ..コツ..

少女「ひっ…!こ、来ないで…!」アトズサリ

「……」コツ..コツ..

少女「あ……や……」

カラン

少女「!」

少女(ぼくのバット…)

少女「……こ、の…!」ブォン



ガシャン!



パッ...

少女「消えた……?」

少女「なんだったの、今の…」

少女「…!お父さん、お母さん、みんな大丈夫かな…!」

ガチャッ トットットッ







ーーーーーーー

少女「……」トットッ

少女(みんな寝てた。何事もないようにぐっすり)

少女(…けど、普段この時間でも起きてるお父さんまで寝てるのは、偶々そうなだけ…?)

少女「……ぁ」



「……」フワフワ



少女(今度は……何?)

少女(風鈴ともクラゲとも似つかない生物(?)が玄関前を漂ってる)

少女「……」...タッタッ



バキン!



少女「……もしかしてこいつら、外から来てる?」

少女(…確かめないと)

カチッ



ガチャッ



少女「……」テク..テク..

少女「……え」

少女「嘘だ……」
65 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:20:16.77 ID:qAvjVlqX0





(無数の目玉の怪物)

(足の異様に長いハリネズミのような生物)

(空飛ぶあばら骨)





少女「これは…夢……」

少女「起きたら忘れられる悪夢…」



目玉怪物「」ギョロ



少女「やっ…!」

バタン! カチッ

少女「………ぷはっ!」

少女「ふぅ……ふぅ……」

少女「家中の窓、閉めてこないと…!」

ドタドタ



.........




66 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:22:13.28 ID:qAvjVlqX0
ーーー少女の自室ーーー

ガチャ...

少女「……」フラフラ

少女(……なんとか、外から入れそうな所は全部塞いできたけど……)

少女「覚めない……覚めないよ」

少女(こういうの、明晰夢って言うんだっけ。夢の中で夢を自覚出来る夢)

少女「…また横になれば、次は朝になってるよね」

少女(忘れよう。あんな異様な光景。それこそ、夢に出てきそうな非現実)



チクッ



少女「痛っ」

「……」

少女(針玉みたいな物体が足元に…!)

少女「」ブンッ

グシャ!

少女「……いつの間にここに居たんだろ…」



ゾクッ



少女「!」

少女「え…あ……」

グッ(顔と足を押さえる)

少女「い……たい…!」

少女(なに…!?痛い、痛いよ…!)

少女(右目が焼けるように痛い!)

少女(左腕が、右足が千切れそうなほど痛い!)

少女「ぐぅぅ…!」トサッ

ゴロ、ゴロン



バタバタ ググ...





ーーー翌朝ーーー

少女「………」

少女「………ハッ」

少女「……朝?」

少女「腕……足……付いてる」

少女「右目も、ちゃんとある」

少女「………」

少女(………)



=======
67 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:23:53.69 ID:qAvjVlqX0



包帯少女(その日からぼくの身体にあの痛みが染み付いて…こんな大仰な包帯までする始末)

包帯少女(少し遅れて学校に登校した時、周りは当然びっくりしていたけど、ぼくはもっと驚いた)

包帯少女(だって……彼に──少年君に話しかける勇気がまるで湧かなかったから)

包帯少女(以前の自分なら躊躇いなく出来ていたはずのこと。どうして話しかけることすら出来ないのか……思い通りに動けない自分に嫌気が差してきた時、彼の方から声を掛けてくれた)



ーーーーー

少年「──またここでやろうよ。二人野球」

ーーーーー



包帯少女(怯えた顔の少年君についた、ぼく自身の怯えた嘘)

包帯少女(でもそのおかげで、彼に少しばかり元気が戻った気がした)

包帯少女(結局土曜日の事は無かったことにしてしまったけど、それで少年君との日々が戻ってくるなら……そう思っちゃったんだ)

包帯少女「……」

包帯少女(けど、違った)

包帯少女(どんなに嫌だと思っても、無かったことに出来ないこともあった)

包帯少女(それは……あの奇怪な生き物たち)

包帯少女(ぼくはあれらを"オニ"と呼ぶことにした)

包帯少女(あれから毎夜、オニ退治を続けている。…おかげで寝不足の日も続いてる)

包帯少女(触らぬ神に祟りなし。放っておけばいいものをと言う人もいるかもしれない)

包帯少女(でもぼくは見てしまったんだ)

包帯少女(一昨日の晩。外のオニを減らそうとしていた時、1匹のオニが通りがかった通行人に触れた)





包帯少女(その通行人は間も無く、オニになった)




68 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:26:29.44 ID:qAvjVlqX0

包帯少女(あの人がどこの誰だったのかは知らない。けれどあの光景が嘘じゃないなら……)

包帯少女(……ぼくが、やらなくちゃ)

包帯少女(この町で何かが起きている。それに気付いているのは多分、今のぼくくらい)



ーーーーー

少年「──今日はちょっと、早く帰らないといけなくて。ごめんね、また明日」

ーーーーー



包帯少女(……少年君……)

包帯少女(何となく察していたのかな。今のチグハグなぼくを)

包帯少女(まるで腫れ物を扱うかのような態度……)



ーーーーー

少年「──僕に付き合ってるよりもさ」

ーーーーー



包帯少女(………)

包帯少女(…少し、寂しい…)

包帯少女「……」ゴロン...

包帯少女(……大丈夫、安心して。きみはぼくが守る)

包帯少女(きみをオニにはしないから)

包帯少女「さてと…」

包帯少女(今日も行こう)

包帯少女(ここ数日でいくつか分かったことがある)

包帯少女(まず、オニは夜にしか姿を見せない。次に、普通の人にはオニの姿は見えないみたい。そして──)

包帯少女(どうやらオニは皆、南町神社の方角からやって来ているようなんだよね)

包帯少女「……」

ゴトッ(バットを手に取る)




69 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:29:17.03 ID:qAvjVlqX0
ーーー石段前ーーー

ヒョコヒョコ

ユラリ...

包帯少女「……いるいる」

包帯少女(見たこともないような奴らがウヨウヨ…)

包帯少女(こいつらは何だろう……足から胴まで全部背骨のような身体のくせに、頭の部分には大きな花…?が乗っかってる)

包帯少女「………」

「……」コト..コト..

包帯少女(オニはこちらを視認したからといってひたすらに飛び掛かってくるわけじゃない)

包帯少女(ただ……気が付くと──)

包帯少女「!」バッ

ブォン ガシャン!

包帯少女(…すぐ近くまで寄っていたりする)

包帯少女「…っ」

包帯少女(奴らに触れられてもないのに、もう痛み始めてきた)

包帯少女(……この包帯部位の痛みも、ひしめくオニたちを消すことが出来れば、一緒に消えてくれるのかな)

包帯少女「……」

タッタッタッ



ブォン!



.........





ガシャァン!

包帯少女「一体何匹いるの…」ハァ..ハァ..

包帯少女(斃しても斃してもキリがない…!)

包帯少女(…やっぱり、元を断たないとダメなんでしょうね)

包帯少女「……」ミアゲル

包帯少女(考えられるのは、この石段の上…)

包帯少女(……ともすれば……あの池の付近、だったり……)
70 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:31:59.16 ID:qAvjVlqX0





少年「──この上に、落としてきたのかな…」





包帯少女「!?」

包帯少女「少年君…!?なんでここに…!」

少年「こんな時間に行くのはちょっと怖いけど…あのノートが無いと僕は…」

包帯少女(ノート?…アヤカシノートのこと?)



「……」ジリジリ...



包帯少女「!少年君、危ない!」

少年「………」

包帯少女「…くっ」ダッ

タタタッ!

包帯少女「彼に手を出さないで!」ブンッ

ガシャン!

──バシッ

包帯少女「やっ…!」

包帯少女(蹴られた!?近付き過ぎた…!)

包帯少女(腕が痺れて……それより!)

包帯少女「少年君、無事!?」

少年「…やっぱり、怖いな。もうあそこには行きたくない…」

包帯少女「……少年君?」

少年「新しいノートにでも書くかな。でもそれだと──」ブツブツ



トボトボ...



包帯少女「………」

包帯少女「聞こえて、ないの…?」

包帯少女(……見えてもいないみたいだった……)

包帯少女「まさか、無視されたとかじゃ…」

包帯少女(それはないと思いたい、けど)
71 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:33:32.03 ID:qAvjVlqX0

フラ...

包帯少女「おっと…」

包帯少女(体のバランスが……っ!?)

包帯少女「腕が…!」

包帯少女(取れてる…!ぼくの左腕!)

包帯少女(けどなんで、取れた左腕の部分だけ、痛みが無くなってる)

包帯少女「あんなところに落ちてるっ…」

タッタッ(駆け寄る)

包帯少女(きっとさっき蹴られた時だ)

包帯少女(…嫌な感覚。ぼくの身体がぼくじゃなくなるみたい…)

包帯少女「……」ヒロイアゲ

包帯少女「………」

包帯少女(………ぇ………)



(拾った左腕の手のひらに、目玉)



包帯少女「……」

...トクン

包帯少女「………」

トクン、トクン

包帯少女「………」

ドクン、ドクン

包帯少女(…………)



──ドクンッ




72 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/07(月) 23:36:24.69 ID:qAvjVlqX0







ーーーーー

「──私と生涯を共にして頂けませんか?」

ーーーーー







ーーーーーーー



ピピピピッ! ピピピピッ!



包帯少女「!!」ガバッ

包帯少女「……朝……」

包帯少女「……」スマホカクニン

包帯少女「金曜日……テストの日……」

包帯少女(腕は付いてる…ちゃんと)

包帯少女「……」ニギニギ

包帯少女(…普通の、腕…)

包帯少女「………」

包帯少女「………」

包帯少女(分かんない。何もかも)

包帯少女(この町のオニたちも、あの黒服の男も、一度溺れたはずのぼく自身も)

包帯少女(……どうしよう……)

包帯少女(今、すごく……)





──怖い




73 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/08(火) 01:06:06.19 ID:zHsEh1qz0
ーーー神社ーーー

幼女「……」

幼女「……」

幼女「………」

幼女「……やはりそうか」

幼女「人にも妖禍子(アヤカシ)にも非ず。その者の意図、人の世を亡くす所業」

幼女「…なれば、我は其れを阻もう」

幼女(何故ならば、我が止めねばならぬ因果が、そこに在る故)

幼女「だがあれ程の狂気、如何にして諫めるべきか…」

幼女「……」

(アヤカシノートを手に取る)

幼女「………」パラ..パラ..

幼女「……」

幼女「………」パラ..パラ..

幼女「………」



(最初のページが白紙)


74 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/08(火) 01:06:46.19 ID:zHsEh1qz0
幼女「………感じる」

幼女「……」スッ



...ヒュオオォ



パラ、パラパラ



パラパラパラパラ!





──ポンポン、ポンッ





イロヌリ瘴女「……!」

イロヌリ瘴女「♪」ヌリヌリ

ピョン

イロヌリ瘴女「〜♪」ヌリヌリ



イイフラシ「なー聞いてくれよ。この前麓に住んでる偏屈爺さんがさ──」ペチャクチャ



カネクイ蟲「……」モゾ..モゾ..

カネクイ蟲「……ヴァ」



幼女「……成る程」

幼女(見つけたり、この書物の力。創造主たるかの少年の思想の具現化である)

幼女(……然し、未だ全ての実体を捉えることは敵わず)

幼女「………」

幼女「差し当たりて」

幼女「行使の余地は有、か」




75 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/10/08(火) 01:08:35.40 ID:zHsEh1qz0
第二幕はここまでです。

次回からようやく、これまで少ししか出てこなかった人達に焦点が当たっていきます。

第三幕は猫又娘が主体です。
76 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:36:26.87 ID:AthaJ31d0
■第三幕 ギタイするもの■



ーーーーーーー



お困りですか?みなさん!



世の中って暗くなっちゃうことばっかりですよね。

毎日毎日辛そうに残業しているそこのあなた!

学校のテストで親に叱られてるそこのあなた!

友達と喧嘩して泣いているそこのあなた!

思い通りにならないなって、こんな世界嫌だなって、思っていませんか?

でもご安心を!

そんな不安や憂鬱、私が全部変えてご覧にいれましょう。



愛と勇気に満ち足りたトラブルシューターこと私、猫又娘をどうぞよろしく!




77 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:39:18.00 ID:AthaJ31d0
ーーー校門前ーーー

猫又娘「ふんふ〜ん♪」テクテク

猫又娘(今日も良い天気〜♪)

猫又娘(雲一つ無い快晴!)

猫又娘(…きまつテストなんてものも無かったら、完璧なんだけどなー)

猫又娘「おや?」



女生徒「……」ソワソワ



猫又娘「?」

猫又娘(この子が手に持ってるのは、手紙かな?)



男子生徒「」テクテクテク



女生徒「ぁ……!」

女生徒「うー…」イジイジ

猫又娘「…ほほう、これは」

猫又娘(さてはあれはラブレターというものでは!)

猫又娘(……)

猫又娘(手紙を奪う→走って男子生徒にぶつかる→手紙を落とす→女生徒「あ、それ私のです」男子生徒「きみの?」女生徒「あの…あなたが好きです!」)

猫又娘「これだ!」

猫又娘(ではでは早速)

ドロンッ

仔猫(やっちゃいますよー!)

スタッスタッ!
78 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:39:57.06 ID:AthaJ31d0

女生徒「どうしよ…」

女生徒「渡したい、けど…」オロオロ



スタッスタッスタッ



仔猫「」ヒョイッ

女生徒「あっ」

仔猫「」スタタタ

女生徒「ま、待って!」

仔猫(よしよーし。後はこのまま──)

女生徒「──危ないよ!」

仔猫「フニャ?」



「うわっ!?」キィー!



ゴチン! スポッ

ドシャッ

「わー痛そ…」

「自転車漕いでた奴大丈夫か?」

「猫ちゃんの顔面ヒットからの綺麗に籠に……見事なホールインワンだ」

「いつつ……何だ…?猫?」



仔猫in籠「ミャ……」ピク..ピク..





あれ、おかしいなー。




79 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:40:55.60 ID:AthaJ31d0
ーーー休み時間ーーー

猫又娘「さてさて、みんな集まってくれたかな?」

猫又娘「本日お見せするのは飛び出すマジックだよー!」

「わぁ…!」

「また新しいネタ仕入れてきたんだ」ハハ

「今日こそトリックを暴いてやるわ…」

猫又娘「ここに取り出したるはみんな大嫌い数学の教科書」

猫又娘「これをこーして、こーすると……」

ビヨーン

「おぉ、伸びた?」

「バネみたい…!」

猫又娘「とまあ、楽しい遊具に早変わりってわけですよ!」

パチパチパチ

猫又娘「えへへ」ビヨンビヨン

「……あ。でも猫又娘さん、その教科書……」

猫又娘「んー?」チラッ



名前欄『派手娘』



猫又娘「……!?」

猫又娘「…す、すり替えマジックも同時上映!…なんちて」

派手娘「へぇー。なら次はあんたの頭の中身ごと入れ替えてもらいたいわねぇー」

猫又娘「!!??」バッ

派手娘「どうしたの?やらないの??」

猫又娘「え、えとえと…」

猫又娘「大丈夫大丈夫!こんなのぐるぐるっと巻き戻せばすぐ元通りに──」ビリッ

猫又娘「あ」

派手娘「………」

猫又娘「………」

派手娘「………」



派手娘「」ニコッ



ニャアアアアアァァ!





うーん。失敗ばっかり、なかなかうまくはいかないもんです。




80 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:43:47.11 ID:AthaJ31d0
ーーー郊外ーーー

番犬「グルルル…」

「……こ、こわいよ……」プルプル

(この先行きたいのに、どうしよう…)



猫又娘「──きみ、どうしたの?」



「!あ、えっと…」

猫又娘「…向こうに行きたいんだ?」

猫又娘「けどそこのワンちゃんのせいで怖くて通れない…違う?」

「……」ションボリ

猫又娘「ふふん、お姉ちゃんに任せて」

「え…?」

猫又娘「」タッタッタッ

「あ!近付いたら…!」

番犬「ウー…ワンッ!ワンワンッ!」

猫又娘「あなた、きちんとお留守番できるお利口さんなんだね!…そんなあなたにプレゼント!」クルクルヒョイッ

ポンッ

「え……えぇ…!」



(ブサカワ衣装&メイクの番犬)



番犬「…!?」

猫又娘「どう?これなら怖くないんじゃない?」

「……あははは!」

「なんかサーカスのお犬さんみたい!」

「お姉ちゃん、ありがとう」

猫又娘「どーいたしまして♪」





どうですか?私やるときはやるんです!




81 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:47:04.83 ID:AthaJ31d0
ーーー月曜日 教室ーーー

猫又娘「おはよー!」

「あ、猫又娘ちゃんおはよう」

「いつ見ても元気よねー。逆に安心するわ」

猫又娘「それだけが取り柄ですから♪」

アハハッ ソンナコトナイヨー

猫又娘(そうそう。何はともあれ笑顔!)

猫又娘(世の中難しいことだらけだけど、一人でも多く笑ってくれれば、世界も少しは明るくなるから)

猫又娘(……きっと"キミ"も)

猫又娘「ん?」ガサッ



(机の中にバツだらけの答案用紙)



猫又娘「……」

猫又娘(…ほーんと、人間社会って難しいなー)

「ねね、猫又娘ちゃん!数学の課題プリントってやった?」

猫又娘「プリント?」ハテ?

「よかったぁ〜、実は私もやってなくてさ。今日小テストあるとかすっかり忘れてて…猫又娘ちゃんのことだからやってないと思ってましたよ〜仲間だね仲間♪」

猫又娘「数学の小テストぉ?」

猫又娘(それでこんなに騒がしいんだ)

猫又娘「みんな慌てなくていいのに。そんなの変えちゃえばいいんよ、こんな風に!」

ポンッ

「おぉ…」

「また猫又娘の手品か?」

猫又娘「にっしし。これで解決!」

派手娘「そのプリント」

猫又娘「」ギクッ

猫又娘(派手娘さん…何かと私に突っかかってくる子。ちょーっと苦手な子)

派手娘「提出用なんだけど、元に戻せんの?」

猫又娘「…あはは、平気平気」

派手娘「ふーん」

派手娘「あと、やるなら先生の目の前でやってくれば?追加のプリントいっぱいもらえるわよ」

猫又娘「いやぁ…プリントだけじゃ済まなさそうだから遠慮しときますよー…」ハハハ...

猫又娘(うぅ、睨まれてる…。前に教科書破っちゃったのそんなに恨まれておりますか…)
82 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:48:30.20 ID:AthaJ31d0



キーンコーンカーンコーン



教師「ホームルーム始めるぞ。席着けー」ガララ



バタバタ



猫又娘(でも私は挫けないよ!)フンス

猫又娘(いつか派手娘さんの仏頂面だって笑顔に変えて見せるんさ!)

猫又娘(どんな困難にもめげずに立ち向かう。それができなくしてトラブルシューターは名乗れませんからな)



でもさー、大きな困難って意外と思いもしないタイミングに訪れたりするんだよねー。



ガラッ

「すいません、遅くなりました」



猫又娘「うそ…」



自分の身近なところにさ。





包帯少女「……」





ザワッ

教師「どうしたんだ…それ。なにでそんな怪我を…」

包帯少女「いえ、怪我というわけでは……」

包帯少女「…あまり気にしないでください」





そう。例えばこれなんかはきっと、私の出番なわけです。




83 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:50:46.43 ID:AthaJ31d0
ーーー昼休みーーー



ヒソヒソ



「ねーあの包帯って……」

「さぁ……何も話してくれないし、人に言えないことでも……」



ヒソヒソ...



包帯少女「……」

猫又娘「……」チラッ

猫又娘(少女さん、だったかな)

猫又娘(クラスの中でもあんまり目立たない子だけど、すごく責任感が強いんだよね。引き受けたこととか掃除とか、絶対にサボったりしないし)

猫又娘(最近、少年君とよく一緒にいる。あの二人少しずつ笑うようになってきたからお互いに相性の良い間柄だったんだと思うけど)

猫又娘(…今日はあの子たち、全然喋ってない)

少年「……」スクッ

少年「少女さん」

包帯少女「…?」

少年「…お昼、食べに行かない?」

猫又娘(さすが、男の子!)

猫又娘(これなら私の出る幕は無いかも?)

猫又娘(……でも、気になるなぁ)

猫又娘(少女さんを見た時に感じた、あの包帯の下の……)



猫又娘("私と同じ"感覚)



猫又娘「……」

猫又娘(…もうちょっと、彼らの行く末見守りますか)




84 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:51:52.82 ID:AthaJ31d0
ーーー金曜日 テスト当日ーーー



カキカキカキ サッサッ



猫又娘「……」カキ...

猫又娘(うーむ…)

猫又娘「………」

猫又娘「」カキカキ

猫又娘「……」ジッ

猫又娘(……にゃー!もう分かりませーん!)

猫又娘(ついこの前きまつテストなるものが終わったばかりなのにまたこんなテストなんて……多過ぎ!)

猫又娘(みんなさー、もっと楽しいことしよーよ)

猫又娘「……」チラリ

少年「……」カキカキ

包帯少女「」グッタリ

猫又娘(…月曜日、あの子たちは何を話したんだろ)

猫又娘(最初は、またこれまで通り二人仲良く過ごしてるように見えた。……けどその認識は間違ってたみたい)

猫又娘(二人の間の拭えない隔たり。そんなものが見え隠れするみたいに、彼らの距離が少しずつ開いているような気がして)

猫又娘(今日それは確信に変わった)

猫又娘(あの二人、目も合わせてない)

二つ編み「……」ソワソワ

二つ編み「」カミグシャァ

猫又娘(いつも誰より集中して問題を解いてる二つ編みさんも、どこかおかしいし)

夢見娘「……」カキ..カキ..

猫又娘(突然やって来た転校生ちゃん。あの子なんて間違いなく"私と同じ"……)

派手娘「……」ホオヅエ

派手娘「…?」チラッ

猫又娘「っ」メソラシ

猫又娘(最近ますますトゲトゲオーラが増してきた派手娘さん…そのうち吊るされそうでちょっと怖いです…)
85 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:53:12.18 ID:AthaJ31d0

猫又娘「………」

猫又娘(…分からないことだらけだなー)

猫又娘(けど一つだけ、間違いなく言えるのは)

猫又娘(──この世界に悪いことが起きようとしてる)

猫又娘(そう言えるのはなにも、みんなの様子がおかしいからってだけじゃなくて、私がこの目で直接見たから)



猫又娘(夜の町を闊歩する有象無象のお化けたち)



猫又娘(あれらがどんな生き物だったところで、とてもじゃないけど友好的には見えなかったもん)

猫又娘(………)



Q. 私に何ができますか?

A. この世界を守る!

Q. どうやって?

A. そりゃもう"変える"しかないわけです。唯一私の得意なこと!



猫又娘(決まり)

猫又娘「……」フゥー

猫又娘(もう少し、待っててね)

猫又娘(ギクシャクした間柄も、収まらないイライラも、のさばるお化けたちも)

猫又娘(私がみーんな変えてあげるから!)

猫又娘「」クスッ




86 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:55:29.25 ID:AthaJ31d0
ーーー翌週月曜日 学校ーーー

教師「全員お待ちかね、基礎学力テストの採点が終わってるから、順番に返却していくぞー」

「誰も待ってないです!」

「ずっと返さなくていいのに…」

教師「これくらいでブーたれるなよ?入試はこういう基礎に加えて標準問題、応用問題もあるんだからな」

「うぇー……」



.........







ーーーーーーー

「ねー二つ編みさん職員室に呼ばれてるって本当?」

「なんかテストの点めちゃくちゃ低かったみたいよ?」

エー ウソー



少年「……」ペラ..ペラ..

少年(うん。我ながら悪くない出来かも)

少年(特にこの科目、もっと悪いと思ってたのに)

少年(……少女さんとの特訓のおかげなんだろうな)



ーーーーー

包帯少女「──この時間、嫌いじゃなかった…」ボソッ

ーーーーー



少年(………)

少年(少女さんはどうだったんだろう。テスト中も相当、机に突っ伏してたけど…)

包帯少女「」スー..スー..

少年「……」

少年(……こんなに近くに居るのに、なんでだろう)

少年(すごく遠く感じる…)

少年「………」

少年(ノートも無い)

少年(少女さんもいない)

少年(今の僕には、何も無い)

少年(……)

少年(いや、元に戻っただけ…か)

少年(少女さんと知り合う前、ノートに逃避する前の自分に)
87 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:57:39.03 ID:AthaJ31d0

同級生A「よぉ、少年」

同級生B「」ニヤニヤ

少年「っ!…なんだよ」

同級生A「テストどうだったん?見してよ」

少年「なんでだよ」

同級生A「いいから見せろって」グイッ

少年「あ、おい!」

同級生B「うわ、マジか。俺こいつに負けたわ」

同級生A「だっさ(笑)。でも俺もどっこいどっこいって感じ」

同級生A「僕ちゃん成績上がって偉いねぇ〜」

同級生A「…やっぱあれか?放課後イチャイチャ勉強してたからかぁ?こいつと」ニヤ

包帯少女「」スースー

少年「別に普通に勉強してただけだけど」

同級生B「またまたー」

同級生A「お前、こいつに何かやらかしたんだろ?」

少年(…!)ドキッ

同級生A「こいつが変な包帯巻き出してからお前ら明らかに険悪になってったもんな」

同級生A「どうせあれだろ?初めて出来た彼女だからとか浮かれて襲いでもしたんだろ。んで、拒否られた腹いせにボコったんじゃねーの?」

同級生B「包帯着けさせる怪我とかやばすぎ」ケラケラ

少年「は!?するわけないだろそんなこと!」

少年「第一付き合ってもいないからな!」

同級生A「そうやって必死になるとこますます怪しー!」クハハ

同級生B「ワンチャン階段から突き落としたとかじゃないか?」

少年(──っ)

同級生A「もうそれ犯罪だろ」

ゲラゲラゲラ

少年「………」

同級生A「でもよぉ、良かったな!これで女子に甘えなきゃ生きてけない変態男子の汚名は免れるじゃん」

同級生B「今思うと、こいつが少女の弱み握ってた説あるよな。こいつにいきなり女子との接点とか出来るわけないし」

同級生A「そしたら殴ってまで言うこと聞かせようとしねーんじゃね?」テクテク...

同級生B「殴ったことは決定なのかよ(笑)」テクテク...



(離れてく二人)



少年「……」

少年「……」

少年「……違う……僕は………」

少年「あんなこと………」

包帯少女「……」




88 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 00:59:33.92 ID:AthaJ31d0
ーーー放課後ーーー

「猫又娘ちゃんってさ、トドノツマリ様って信じる?」

猫又娘「えー?」

「みんな結構噂してるでしょ、最近。南町神社にいるっていう願いを叶えてくれる神様」

猫又娘「……居たら面白いとは思うかなー。神様ではなさそうだけど」

「そうなの?」

猫又娘「その噂だと、対価としてなにかとんでもないもの奪われるって話だよね?」

猫又娘「…それはむしろ悪魔との契約に近いのでは?」ヒュードロドロ

「こわっ。その効果音どこから鳴ってるの?」

「でもそうだよね。世の中そんなにうまい話はないよねー」

猫又娘「うむうむ」

猫又娘(……けど私は知ってる)

猫又娘(あの神社には人じゃない"何か"がいる気配がある)

猫又娘(この頃見かけるお化けたちとはまた少し違う気配……もしやあの生き物の親玉!?)

猫又娘(って思ったりもしたけど…そういう気配じゃないんよね。よもや本当に願いを叶える神様なんているわけないし)

「それはそうとさ!猫又娘ちゃん今日は新しい手品はしないの?」

猫又娘「へ?」

「実は密かに楽しみにしてたり」エヘ

猫又娘「うーん…今日はねー」チラッ

包帯少女「……」グデ...

猫又娘「すこーし忙しいかもだから──」



夢見娘「私も……見てみたい……」



猫又娘(!夢見娘さん…?)

夢見娘「……」

「ほ、ほらほら!夢見娘ちゃんもこう言ってるよ!」

猫又娘(この子、普段誰とも関わらないのになんで…?)

夢見娘「……」ウズウズ

猫又娘「……分かりました!じゃあ一回だけ」

「やった!」
89 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:01:08.51 ID:AthaJ31d0

猫又娘「じゃ始めるよ?」

猫又娘「…こちらはなんでしょう?」スッ

「それ、今日返されたテスト?」

猫又娘「ご名答!もちろん全部私のです」パララ

「…猫又娘ちゃん、これ夏の補習に引っかかっちゃってるんじゃ…」

猫又娘「と思うでしょ?でもこーすれば…」

サササ スッ

猫又娘「じゃん!全教科満点に早変わり!」

「…?けど点数変わってないよ?」

猫又娘「よーく見て」

「……」ジッ

夢見娘「……」ジー

「……あ、百点満点じゃなくなってる」

猫又娘「その通り!ちなみにこっちの模範解答もみんな私の点数が満点になっております」

「あはは!なにそれ地味だけどすごい!」

夢見娘「……」パチパチ

「ねーいっつもさ、それってどうやってるの?一つくらい仕組み知りたい!」

猫又娘「それは秘密です♪」

猫又娘(だってタネも仕掛けもありませんから)



包帯少女「」テクテク

ガラッ



猫又娘「!」

猫又娘「今日はここまで!私もう行かなくちゃ」

猫又娘「じゃね!」ササッ

「今度私にだけでも教えてよー!」

夢見娘「……」テフリフリ

夢見娘(……)

夢見娘「……まぶしい……」ポツリ

「?」




90 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:02:52.40 ID:AthaJ31d0
ーーー校門前ーーー

タッタッ

猫又娘「あっれー?見失った?」



包帯少女「」スタスタ



猫又娘(あ、居たっ)

猫又娘「」タッタッタッ

猫又娘(少女さんと一緒に帰って、彼女の話を聞き出す。それが今日の私のミッション)

猫又娘(なんとなくだけど、ちょっと前から現れお化けたちと、あの子が包帯をして様子がおかしくなり始めたこととは、繋がってる気がするんよね。あくまで私の勘)

猫又娘(そしてきっと、あの子は苦しんでる)

猫又娘(誰にも言わず…言えず、重たいものを抱え込んでる)

猫又娘(そういう雰囲気がひしひし漂ってるんだ)

猫又娘「むむ?」...ピタッ



同級生A「な、試しに泣きついてみてくれねー?僕とよりを戻してくださいお願いしますぅってよ」

同級生B「足蹴にされんのがオチだろうな」ハハ

少年「…だから付き合ってないって」



猫又娘「あれは……」

猫又娘(少年君、またあの人たちに絡まれてる)

猫又娘(…少女さんは気付いてないのかな。少し前まで少年君の手助けをしてたはずだよね…)



包帯少女「」スタスタ



猫又娘「……」



同級生A「」ペチャクチャ

同級生B「」ケラケラ

少年「……」



猫又娘(どうすべきか)

猫又娘「ぐぬぬ…」

猫又娘(……ここは!)
91 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:04:23.54 ID:AthaJ31d0

猫又娘「」クルリッ

ドロン



同級生A「──なーそれくらい言えや。あいつお前に何がしたかったんだよ。別れた後なんだからどうでもいいだろ教えろって」

ガチガチ

少年「っ…知らない。僕が知りたい」

同級生B「嘘つけ。あんな調子乗っておいて知りませーん、じゃないわ」

ガチガチガチ

同級生A「だーもうなんだよ!さっきからうるせ──」



がしゃどくろ「……」ガチガチ



同級生A「………へ?」

がしゃどくろ「」カタカタカタ!

同級生A・B「「ぎゃあああ!」」ダッ

タッタッタッ!

がしゃどくろ「」カタ...

がしゃどくろ「……」

ドロン

猫又娘「ふぅー。案外怖がりさんなんだねぇ。かーわいー」クスッ

猫又娘「さて」

猫又娘「──お困りですか?おにいさん!」

少年「」キゼツ

猫又娘「……ありゃ」

猫又娘「もしかして、やり過ぎた?」タハハ...



「今すごい声聞こえなかった?」

「したした!向こうに走ってった男子だよ!」

「あそこに居るのって1組の猫又娘さんじゃない?」

「そばに男の子倒れてるけど…また悪戯?」



ザワザワ



猫又娘「あ……やばっ」

少年「」

猫又娘「…ちょっと失礼」カツギアゲ

オォ..モチアゲタ

猫又娘「それではみなさんごきげんよう!にゃははー!」ピューン



スタタタ...




92 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:06:33.01 ID:AthaJ31d0
ーーー小山の麓ーーー

少年「………」

少年「……ハッ!」

少年「ガイコツ!喰われる!?」ガバッ

少年「…?……?」



猫又娘「いやー、さっきはごめんね?まさか気失うとは思わなくって」



少年「猫又娘さん…?」

少年「え?ってことはあのガイコツは」

猫又娘「思ってる通り、それは私でした」ニシシ

猫又娘「きみがつまらなそーにあの二人に絡まれてたからさ、ちょっと脅かしたつもりだったんだけど…怖過ぎたみたい?」

少年「うっ」

少年(気絶しちゃうとか、恥ずい…)

少年「…あれは、出来良過ぎだよ。いっそお化け屋敷にでも住んでみれば?」

猫又娘「そんなに褒められると照れるなぁ」

少年「……もうそれでいいよ」

猫又娘「もっかい見る?」

少年「やめて」

少年「……そういや、ここどこ?」

猫又娘「ここ?人目に付きにくいところ!…っといったらこの辺しか思いつかなくてさ。神社のあるお山の裾だよ」

猫又娘「さすがに学校の目の前にきみを寝かせとくわけにもいかないので、連れてきたんよ」

少年「運んだの?…僕を!?」

猫又娘「うむ!」

少年(意外に力持ちなんだ…?)

少年「……その、一応、ありがとう」

猫又娘「んん?」

少年「あいつら追い払ってくれたんだよね。僕は倒れちゃったけど…」

少年「……」

少年「猫又娘さんは、なんでいつもそんなに明るいの?」

少年「普通さ、どこかしらで落ち込んだり滅入ったりするときがあるじゃん」

少年「でも猫又娘さん、いつ見ても笑ってるか叱られてもケロっとしてるか…」

猫又娘「あはは…」

少年「……正直、羨ましいよ。どうしたらそうなれるのかな。下らない悩みとかさ、全部吹き飛ばすんだ」

少年「そしたら……」

猫又娘「……」
93 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:07:50.64 ID:AthaJ31d0

猫又娘「悩みたまえ、男の子よ」

猫又娘「そうやって苦悩のときがあるからこそ、報われた瞬間の尊さを強く感じることができるんだよ」

猫又娘「…なーんて!どう?今のそれっぽくなかった?」

少年「えぇ…」

猫又娘「そんな顔しないでよぉ。私、人の気持ちとか学校のテストとか難しいことよく分かんなくってさ」

猫又娘「だから単刀直入に訊くね?」

猫又娘「──きみ、少女さんと何があったの?」

少年「っ……」

少年「…別に、何もないよ」

猫又娘「強がんなくていいよ。ここんとこのきみたちを見てれば何かしらあったなんて明白じゃん」

少年「……」

猫又娘「あんね、私はきみを責めようだとかからかってやろうだとか思って訊いてるんじゃないんよ」

猫又娘「だって苦しそうにしてるから。きみも、少女さんも」

少年「………」

猫又娘「あの包帯を巻いてから、だよね。きみたちの関係がねじれ始めたのは」

少年「……包帯のことについては、本当によく分かってないんだ。ただ、怪我はしてないって。少女さんは夜になると痛み出すから着けてるだけって言ってた…」

猫又娘(痛むだけ……そんなことある?包帯で痛みが収まるわけでもないのに巻いてるってそれは)

猫又娘「…尋常じゃない痛み、とか」

少年「!そ、そうなのかな…!?」

少年「確かに最近はよく学校で寝てて、もしそれが痛みのせいで夜に眠れてないからだとしたら…」

少年「……病院、行ってるんだよな……?」

猫又娘「病院で解決できるものならいいんだけどね…」

少年「?それってどういう…」

猫又娘「それより!今包帯のことについて"は"って言ったよね。少女さんに何があったかやっぱ知ってるんだ?」

少年「う、ん……」

少年「知ってるといえば知ってるけど、知らないといえば知らない……みたいな」

猫又娘「??」

少年「………」

猫又娘「…話すのが、辛い?」

少年「……」

少年「………僕……少女さんに酷いことをしたんだ」

少年「そんなつもりはなかったのに、少女さんを……少女さんをっ……」

少年「──池に、突き落とした」

猫又娘(……)
94 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:09:32.44 ID:AthaJ31d0

少年「……少女さん、そのまま上がってこなくて……僕も飛び込もうとしたけど、池の中に変な手が蠢いてるのが見えたら、すごく怖くなっちゃって…」

猫又娘「手?」

少年「うん。それに、声が聞こえたんだ。少女さんを、ここで突き落とせって」

少年「初めは僕の中の声かと思った…けどあれは、なんか違うような……」

猫又娘「……その話本当?だったらあの子は今頃──」

少年「少女さんは身に覚えがないみたいなんだ。彼女の中ではその日、僕と一緒に居なかったことになってる」

少年「……だから僕も、あれは夢だったのかなって、考えてる……」

少年「たまに妙にリアルな悪夢を見ることあるでしょ?それと同じさ」ハハ...

猫又娘「夢、ね」

猫又娘「少年君は、たかが夢一つ見ただけで人を突き離しちゃう人間さんだったのかな?」

少年「つ、突き離すなんて……」

少年(………)

少年「……分からないんだよ……」

少年「僕だってまた少女さんと一緒に居たかった…他愛ないこと喋って、笑って」

少年(そんな当たり前を楽しいと教えてくれた彼女と)

少年「けどダメだった。先週からずっと、少女さんとどんな顔で接すればいいか分からなくなって……それまでどんな風に会話してたのかも思い出せない」

少年「なにより、あの事が夢かどうかも分かってないのに元通りに過ごすなんて、出来っこない…!」

少年「もし夢なんだとしても、心の底で少女さんを邪魔者と思ってるのかもしれないし、夢じゃないんだとしたら……」

少年「──僕は少女さんを殺した張本人だ」

少年「そんな人間が……彼女の隣にのうのうと居座る権利なんてあるわけないだろ……」

猫又娘「……」

猫又娘(………)
95 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:12:19.35 ID:AthaJ31d0





猫又娘「本当かウソかなんてどうでもいいんさ」





少年「……?」

猫又娘「きみを苦しめてるその出来事が!」

猫又娘「だって現に少年君も少女さんもちゃんと生きてるじゃない。きみの深層心理がどうこうなんて関係ないさ。大切なのは今のきみが少女さんをどうしたいのか、じゃないの?違う?」

少年「…簡単に言うなよ…」

猫又娘「簡単だよ!さっき自分で言ってたでしょ?"また少女さんと一緒に居たかった"って」

猫又娘「もう答えは出てるのに、なんで諦めようとしてるんだろーね?」

少年「………」

少年(………)

猫又娘「ていっ」ビシッ

少年「あいたっ」

猫又娘「泣きそうな顔しない。私がここにいる意味、忘れてもらっちゃ困りますよ」

猫又娘「私にお任せあれ!きみは大船に乗った気分でいればいい!」ニコッ

少年「な、なにが?」

猫又娘「明日、少女さんに贈るプレゼントを持ってくること」

少年「プレゼントって」

猫又娘「なんでもいいんよ。話せるきっかけにでもなるものなら」

少年「………」

猫又娘「例えばこーんな風に」



ポンッ



少年「…え?それ、僕のノート…!」

猫又娘「ふふふ…きみがいつも大切に持ち歩いてたよね?」

猫又娘「私からの餞別です!はいどーぞ♪」

少年「」スッ

パラパラパラ...

少年(あれ、白紙だ…)

猫又娘「それはあくまで私の作った模倣品だからね〜。何も書いてない新品だよ!今のノートが埋まったらご利用くださいな」

少年「…早速使わせてもらうよ。前持ってたの丁度無くしちゃったから」

猫又娘「あれま」
96 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:15:06.34 ID:AthaJ31d0

少年「……」ジッ

少年(僕の持っていたやつにそっくりだ)

少年(…思えば、このノートがきっかけで少女さんと話すようになったんだよな…)

少年「……」

猫又娘「……」

猫又娘(少しはマシな顔付きになったね)クスリ

猫又娘「大丈夫。きっと現実じゃない。少女さんが生きてるのが何よりの証拠さ。あの子に酷いことをした少年君は存在しないんよ」

少年「……そう、だよな……」

少年「はは…それか本当に、トドノツマリ様のおかげだったり…」

猫又娘「……え?」

少年「ちょっとあやふやだけどあの後、彼女を生き返らせてくれって願った記憶があるんだ」

猫又娘(……)

少年「けど普通そんなのに頼らないで警察とか救急車とか呼ぶよな。おかしな行動取るっていうのは夢じゃありがちなことだし…」

猫又娘「……そうそう!考えれば考えるほど変なことだらけなら、悩むだけ無駄ってことよ!」

少年「ありがとう。……元気付けてくれて」

猫又娘「お礼を言うのはまだ早いですな」ニヒ

猫又娘「ではでは、私はもう行くね!くれぐれも明日のこと忘れないよーに!」



スタタタッ



少年「あっ、待っ…」

少年「は、速い」

少年(………)

少年「……少女さん」





少年(やっぱり僕は、きみと友達でいたい……)




97 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:18:35.17 ID:AthaJ31d0
ーーー夕暮れ 公園ーーー

猫又娘「………」

(ジャングルジムの頂上に腰掛ける猫又娘)

猫又娘「…包帯」

猫又娘「池」

猫又娘「水の中の手」

猫又娘「聞こえた声」

猫又娘「あとは…トドノツマリ様」

猫又娘(……少年君から聞いた話と、少女さんのあの状態)

猫又娘(十中八九関係があるんだろうと私は思ってる)

猫又娘(この世界はみんなが思ってる以上の不思議で溢れてるから。嘘みたいな現実が起きることだってある)

猫又娘(でもそうなると引っかかるのは……あの神社と、包帯から感じる違和)

猫又娘(結局、あの子のことについては謎のまま…)

猫又娘「……そういえば」

猫又娘(この近くの池って言ったら、神社横のあそこくらいだったよね)

猫又娘(……………)

猫又娘「……う〜……」

猫又娘(つながりそうで……つながらない……)モヤモヤ

猫又娘(頭発熱しそう…)

猫又娘「……」

猫又娘(……こんなとき、"キミ"ならどうするのかな)
98 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:19:20.70 ID:AthaJ31d0



ーーーーー

「──お困りですか?お嬢さん」

ーーーーー



猫又娘(複雑に絡まった糸。私の頭じゃ解けないよ)

猫又娘(夢の中でもいい。キミがまた私を、助けてくれるなら…)

猫又娘「………」

猫又娘「」ブンブン



パシンッ(自分の頬を叩く)



猫又娘「私が弱気になってどーする!」

猫又娘(そうだよ、私に難しい考え事なんて土台無理なわけで)

猫又娘(だったら目の前にある単純な問題を片付けていくしかないわけで!)

猫又娘(まずは)

猫又娘「……そろそろお出ましかな?」



...ニョロニョロ

カツ..コツ..



(姿を現す異形たち)



猫又娘「…こんばんは」

猫又娘「今日はね」





猫又娘「きみたちがどこから湧いてるのか、リサーチしようと思います♪」




99 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:21:22.28 ID:AthaJ31d0
ーーー夜ーーー



ガシャンッ ドスッ



包帯少女「……」

ウネウネ

包帯少女「」ブンッ

グシャ!

包帯少女「………」

包帯少女(……いつまで、こんなことが続くんだろう)

包帯少女(こうしてどれだけ夜の町に繰り出したところで、オニたちの勢いが弱まる事はない)

包帯少女(それどころか、どんどん増えてきてる気さえする。ぼくがしていることなんて所詮、焼け石に水…?)

包帯少女(………)



ーーーーー

同級生A「──、─!」

同級生B「」ケラケラ

少年「……」

ーーーーー



包帯少女(……あの時、ぼくは最後まで寝たフリをしてしまった)

包帯少女(どうして?)



ーーーーー

少女「──友達になってくれませんか?」

ーーーーー



包帯少女(…あの日きみの手を取ったぼくは一体どこへ行ってしまったのかな)

包帯少女「……っ」ギリッ

包帯少女「いい加減にして……」

包帯少女「返してよ…!ぼくの日常…」

包帯少女(崩れていく。ぼくも、ぼくの周りも何もかも……)
100 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:21:57.80 ID:AthaJ31d0



──ゴォン



包帯少女「!」

包帯少女(……!?)



(遠くにそびえる巨大なオニ)



包帯少女(あんなに大きなの、見たことない)

包帯少女(生き物には見えない…まるで建物みたいに動いてないけど)

ゴォン...

包帯少女「う……痛い……」

包帯少女(この音……アレから聞こえてくる……)

包帯少女(……あの方向は神社の……)

包帯少女(腕の取れたあの夜以来、怖くて神社には近付かないようにしてた)

包帯少女(でも、分かる。アレは絶対に放置しちゃいけない。そのままにしてしまったらきっと、この町は……)

包帯少女「……行かなくちゃ」



タッタッタッ...




101 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/10/15(火) 01:23:11.74 ID:AthaJ31d0
ーーー神社ーーー

ポンッ!

「ガウガウ!」

幼女「……」スッ

「クーン……」

幼女「………」チラリ



(自由に動き回る数多の妖怪たち)



幼女「…これ程まで創り上げたが……尚この書物の力、知るに至らずか」

ペタペタ

幼女「む」

イロヌリ瘴女「キシシッ♪」ヌリヌリ

幼女「……」

幼女「」ジィ...

イロヌリ瘴女「……?」

パタッ

イロヌリ瘴女「」スゥスゥ

幼女「些か騒々しくなり過ぎたな」



──ゴォン



幼女「…!」

幼女「…最早悠長に構えては居れぬ」




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