城ヶ崎美嘉「いつまでも」

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66 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:29:45.75 ID:h9BEvI6t0

美嘉(カワイクないかも、いまのアタシ…… その通りだなぁ)

美嘉「……」

コンコンコン

母ヶ崎『起きてる? 朝ごはんできてるわよ』

美嘉「ん……お母さん、今日は……ちょっと休む」

母ヶ崎『どうしたの?』

美嘉「…………重くて」

母ヶ崎『わかった。じゃあ軽いものがいいわね。後でスープ持ってくるから』

美嘉「ん……」

母ヶ崎『あと、昨日……ううん、ちゃんと食べてね』

美嘉「え……うん。……ありがと」

美嘉「……」

美嘉(嘘だってバレてんのかな……)

パタパタパタ トントントン パタン

美嘉(家の音……)

莉嘉『おねーちゃんは?』

母ヶ崎『今日は休むって』

莉嘉『あれ、そーなの?』

母ヶ崎『身体重いって。そっとしといてあげよ』

莉嘉『うん』

美嘉(……敵わないなぁ)
67 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:30:21.15 ID:h9BEvI6t0

美嘉(学校、ズル休みなんてしたことなかったな……)

美嘉(今日はレッスンもあるけど……)

美嘉(マストレさんはああ言っていた……でも、行けば多少は気がまぎれるかな)

美嘉(プロデューサーには……会いたくないなぁ)

−−−

――お昼ごろ

ガチャ パタン

美嘉「……ふぅ……」

美嘉(シャワー、気持ちよかった……)

美嘉(お母さんも特に深くは訊いてこなかったし)

美嘉(……心配はされてるんだろうな)

ヴーヴヴ

美嘉「ん?」

ピコ[唯☆]<そろそろカラオケいこーよ!

ピコ[りな]<アタシもうたいたーい☆

美嘉「……」

ごめん、今回はパス>

[唯☆]<えー? むしろメインなのにー

[りな]<そのあと聞きたいこの頃なんだケドー?

美嘉「……」
68 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:30:48.19 ID:h9BEvI6t0

美嘉「……ふぅ」

ちょっとそっちの話はいまムリだわ>

[りな]<なんかあった?

[唯☆]<えっ、なになに?

ごめん 応援してくれたけど>

ちょっとムリみたい>

ピコピコ

美嘉「ん……?」

[唯☆]<美嘉ちゃん!

[りな]<グル通はいってきてー!

美嘉「……あーもー……」

ピ

美嘉「唯、あんた学校でしょ。あんまり」

唯『美嘉ちゃんだって学校……あ、もしかしておやすみした?』

美嘉「したけど……」

里奈『仕事どころじゃないってー。どゆこと、なにあったん?』

美嘉「……あのね…… ……ハァ……」

美嘉「……フラれただけ。昨日の今日な」

唯里奈『『ええーーっ!!』』

美嘉「……んだから勘弁してよ……」

唯『コクったの?』

美嘉「いや、そこは……」
69 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:31:33.22 ID:h9BEvI6t0

里奈『ねえねえ、プロデューサーにカチコミかけっちゃおー』

唯『美嘉ちゃん振るような男、唯が許さないー!』

美嘉「ちょっ……やめてよ。迷惑かけたいわけじゃないんだから」

唯『う〜、でもー』

里奈『美嘉ちゃん……だいじょーぶ?』

美嘉「……ん。昨日適切に処置してくれた人がいるから……」

美嘉「時間はかかるかもだけど」

里奈『でもあれだね、やっぱりプロデューサーには聞きたいよね』

唯『ねー。美嘉ちゃんふるとかなくない?』

美嘉「あの、ちょっと」

里奈『あ、アタシちょっとこれから行くから』

美嘉「は!?」

唯『唯も学校終わったらいく!』

里奈『あ、美嘉ちゃんもテキトーに準備しててね!』

美嘉「アタシも行くの!?」

里奈『え、行こーよ?』

美嘉「いや、さすがに無理だって……」

里奈『じゃ、あとでねー☆』

唯『あーん、お昼休み終わっちゃう〜。美嘉ちゃんあとでね!』

プツ

美嘉「……」

美嘉「……」プルプル

美嘉「ああもう、傷心だってのに!」

美嘉(髪乾かして、着替えて、移動で……事務所まで2時間くらいかかるか)

美嘉「もー、変な事しないでよ、ふたりとも……」
70 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:32:10.55 ID:h9BEvI6t0

−−−

美嘉「お母さん。事務所行ってくる」

母ヶ崎「あら。レッスンは行くの?」

美嘉「うん。休んで少し楽になったし。ちょっとやらないといけないことが」

母ヶ崎「体調は?」

美嘉「今日はダンスとかじゃないから」

母ヶ崎「そう? まだ元気なさそうだけど」

美嘉「大丈夫。帰りは莉嘉と一緒にするよ」

母ヶ崎「わかった。……痛み止めはいらないわね?」

美嘉「あ、あははは」

母ヶ崎「相談できることがあったら言ってね」

美嘉「……うん。行ってきます」

母ヶ崎「行ってらっしゃい」

ガチャ

ヴィーーン…キッ

里奈「あ、美嘉ちゃんちょりーっす☆」

美嘉「え…… ……里奈」

里奈「んふふ。おはよー」

美嘉「おはよう…… え、原付でここまで?」

里奈「えー、だって、シンパイだったぽよ?」

里奈「ぐーぜん現場近かったし、原チャだったし、裏道使いながらすいーっとね」

美嘉「……そう。え、事務所行くってのは?」

里奈「え? そんなん言った?」

美嘉「これから行くって」

里奈「うん、来たケド?」

美嘉「え……あ、アタシのとこに?」

里奈「そーだよ。プロデューサーのとこいくとか、そんなより美嘉ちゃんの方が大事っしょ」

美嘉「…………はぁ。なんだ、カチコミとか言ってたからてっきり……」
71 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:32:37.35 ID:h9BEvI6t0

里奈「それよりさ、まずは思いっきり遊ぽよ! カラオケ? ボウリング? ネズミーいっちゃう?」

美嘉「……」

里奈「唯っちもあとでごーりゅーぽよ」

美嘉「……ふふっ。いまから千葉はキツイっしょ。カラオケいこ」

里奈「りょーかーい」

美嘉「あ、帰り莉嘉と一緒って言っちゃった」

里奈「じゃー莉嘉ちゃんも呼んじゃおー!」

美嘉「……そうだね」

美嘉「あ、ちょっとだけ待って」

美嘉「んーと……」

ピ
72 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:33:06.98 ID:h9BEvI6t0

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マストレ「ちひろさん」

千川ちひろ「マストレさん。お疲れさまです」

マストレ「お疲れ。城ヶ崎美嘉から連絡はあったか?」

ちひろ「いいえ? 今日はレッスン入っていましたよね」

マストレ「ああ。……連絡があったら教えてくれ」

ちひろ「珍しいですね、マストレさんが直接そういうのを聞きに来るの」

マストレ「まあな」

ヴーー ヴーー

マストレ「ん……」

[スイマセン。今日だけ休みます。城ヶ崎美嘉]

マストレ「……そうか」

マストレ(明日には出てくる気か……強いな)

マストレ「城ヶ崎は休みだ」

ちひろ「そうですか。……直接トレーナーさんの方にっていうのも珍しいです」

ピコ

ちひろ「あ、こっちにも来ましたね」

マストレ「……ちひろさん」

ちひろ「はい」

マストレ「頼みがある」
73 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:33:33.05 ID:h9BEvI6t0

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美嘉(結局、カラオケではプロデューサーの事なんか話題にもしないで)

美嘉(ふたりはただ、一緒にいてくれた)

美嘉(莉嘉がついてからは、もう本当にいつも通りで)

美嘉(少しでも、少しでも。アタシが一人でいないように)

美嘉(放っておいてほしくても無理矢理にでも。一緒にいてくれた)

――美嘉部屋

ガチャ パタン

美嘉「はーー……」

美嘉(落ち込ませる暇がないくらいに引っ張ってくれる……)

美嘉(そういうときに駆けつけてくれる友人って言うのは……うん、嬉しいな)

カチャリ

美嘉「ん?」

莉嘉「お姉ちゃん?」

美嘉「どしたー」

莉嘉「……あのね」

パタン
74 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:33:59.10 ID:h9BEvI6t0

莉嘉「どうしたのって、訊いていい?」

美嘉「どう、って?」

莉嘉「今日急にカラオケだったし、お姉ちゃん学校も、レッスンも休んだでしょ」

美嘉「んー、まあね」

莉嘉「カラオケでもノリ切れてなかったし……」

莉嘉「唯ちゃんと里奈ちゃんもなんかお姉ちゃんに優しかった」

美嘉「……よく見てるね」

莉嘉「でも、お姉ちゃんが……その……」

美嘉「うん。ね、ちょっとこっちきて」

莉嘉「ん?」

ギュゥ

莉嘉「わっ」

美嘉「……プロデューサーがね、担当外れるんだって」

莉嘉「Pくんが、お姉ちゃんの担当じゃなくなるの?」

美嘉「うん」

莉嘉「それで、落ち込んでたの?」

美嘉「……」

莉嘉「それだけじゃない、よね」

美嘉「敵わないなぁ、莉嘉には」
75 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:34:26.95 ID:h9BEvI6t0

莉嘉「…………」

美嘉「お姉ちゃんさー……フラれちゃった」

莉嘉「えっ! ……Pくんに告ったの?」

美嘉「ううん……告る前に、ダメだって言われた」

美嘉「なんとなくわかってたんだけどね」

莉嘉「わかってた……?」

美嘉「アイドルとプロデューサーだからムリ、応えることはできないって」

美嘉「そりゃそうだよね。歳の差だってあるし」

莉嘉「……」ググッ

美嘉「……莉嘉?」

莉嘉「Pくんバカだよ」

美嘉「……」

莉嘉「こんなカッコいいお姉ちゃん振るなんて、絶対バカ」

美嘉「……だよねー」

莉嘉「それで、お姉ちゃんもバカ!」

美嘉「アタシが?」

莉嘉「だって、お姉ちゃん言ってないじゃん!」
76 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:35:03.71 ID:h9BEvI6t0

美嘉「……」

莉嘉「告白してないよ! Pくんに言ってない!」

美嘉「その前に諦めさせてたもんね……」

莉嘉「だからなにさ!」

美嘉「……え?」

莉嘉「お姉ちゃんは……!」

莉嘉「お姉ちゃんは! 告白できなくたって、フラれたって諦めたりしない!」

美嘉「……」

莉嘉「それが! ひぐっ……アタシのお姉ちゃんなんだからぁ……!」

美嘉「なんであんたが泣くのよ」

莉嘉「わかんないよぉ…… !」グズッ

美嘉(加蓮も代わりに怒ってくれたな……)ナデナデ

美嘉「そうだよね」

ギュウッ

美嘉「……諦めたくないよね……」
77 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:35:42.58 ID:h9BEvI6t0

莉嘉「お姉ちゃんは……スゴいんだから……」

美嘉「うん……莉嘉……」

美嘉「ありがとう…… 明日は普通に、学校にもレッスンにもいくから……」

莉嘉「うん……」

美嘉「今日は一緒に寝よっか」

莉嘉「うん…… ま、枕とってくる」ズビッ

美嘉「ゆっくりでいいよ」

ガチャ タタタ…

美嘉「……アンタのほうがパッションかもね」

美嘉「ふふっ」

美嘉(友達に、家族に……トレーナーさんに)

美嘉(いろんな人が、優しくしてくれるんだな)

美嘉(プロデューサーも、優しかったな……)

美嘉(それは……本当にアタシに優しかったのかな……)

美嘉「……あ」グスッ

美嘉(……待って。莉嘉)

美嘉(もうちょっと待ってね……)

美嘉(そしたら、カッコ悪いお姉ちゃん、見せないから……)
78 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/04(金) 21:36:19.58 ID:h9BEvI6t0

今日はここまで

次で完結します
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/05(土) 00:37:03.72 ID:exAWznK8o

面白い、最後まで頑張ってくれ
80 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:48:22.93 ID:wPVlBLwf0

−−−

――翌日 事務室

P「お疲れさまです」

ちひろ「お帰りなさい。皆レッスン始まってますよ」

P「……美嘉は、レッスンに来ているんですね」

ちひろ「ええ。ちょっと、疲れたような雰囲気はしていましたが」

P「そうですか……」

ちひろ「昨日は休んでいましたし。何か御存じなんですか?」

P「……いいえ」

ちひろ「もう。プロデューサーさんは、嘘が下手です」

P「……はぁ…… 察していただけると」

ちひろ「仕方ないですね」

P「時間が解決する類のことだと思いますので。ちひろさん」

ちひろ「はい」

ガサ

P「異動願いです。普通こんなの出しませんが、事情が事情なんで。聞き取りやらなんやらありますが、受理されるでしょう」

ちひろ「……本当にいいんですか」

P「察していただけると、と」

ちひろ「察したうえで、私が何をするかまでは自由ですよ」

P「……」
81 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:49:05.82 ID:wPVlBLwf0

ちひろ「これを受け取る前に、聞いておきたいことがあるんですが……いいですか?」

P「ダメだといったら、受け取らない気ですか」

ちひろ「とんでもない、ちゃんと受けとります。でも、納得はしないでしょう」

P「わかりました…… どうぞ」

ちひろ「では」

ちひろ「美嘉ちゃんとの関係です」

P「……別に何もありませんよ」

ちひろ「そうでしょう。プロデューサーさんがそう言う線引きをしているのは分かります」

ちひろ「これでいいんですか、ということです」

P「いいもなにも……待ってください、何を知っているんです」

ちひろ「何も知らないから聞いているんです。……まあ、状況だけはいろいろ揃っていますが」

P「状況?」

ちひろ「美嘉ちゃんのレッスンお休み、レコーディングの延期……あと、マストレさんの勤退とか」

P「……」

ちひろ「何かあったと思うには十分じゃないでしょうか」
82 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:49:56.10 ID:wPVlBLwf0

P「……ふぅ。美嘉との間に行き違いがあって、関係が悪くなりまして」

ちひろ「プロデューサーさんが? 美嘉ちゃんとの関係を悪く?」

P「そうですね」

ちひろ「どれだけプロデューサーさんが美嘉ちゃんに接していたか知ってますよ。担当の子の中でも、コミュニケーションの機会は多かったですよね」

P「関係が悪くなったのは事実です。反りが合わないこともあるでしょう」

ちひろ「真実を隠すには事実の一部を明かすのがいい、と言いますね」

P「……」ギリッ

P「何が言いたいんです、さっきから」

ちひろ「美嘉ちゃんとのその“行き違い”、プロデューサーさんならその予兆は感じ取っていたはずです」

P「……」

ちひろ「その軌道修正をしなかった。いえ、できなかった。自分が止められる範疇じゃなかったんですね」

ちひろ「美嘉ちゃんの気づかないうちに悪化していく“行き違い”に、それでもプロデューサーさんは」

ちひろ「一度も美嘉ちゃんのプロデュースをやめたいとは、言いませんでしたね」

P「……それで?」

ちひろ「ギリギリまで粘っていましたよね」

ちひろ「最後まで。いえ、いまでも、本当はプロデュースを続けたいと思っているんじゃないですか?」

P「……そりゃ、あんな楽に人気出るアイドル、プロデュースしたくない方がどうかしているでしょう」

ちひろ「本当に、嘘が下手です。いえ、本心を隠すのが下手ですかね。……」スッ
83 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:50:27.03 ID:wPVlBLwf0

−−−

――レッスン室

マストレ「……」チラ

美嘉「……?」

マストレ「そろそろか」

美嘉「珍しいね、マストレさんがレッスン中にスマホ見るなんて」

マストレ「ああ。ちょっと連絡待ちでな」

美嘉「ふーん」

マストレ「城ヶ崎。先に説明しておこう」

美嘉「え、はい」

マストレ「これから電話がかかってきた場合、それは君宛てだ」

美嘉「? え、意味が良くわかんないんだけど」

マストレ「城ヶ崎に悪い内容なら連絡はこないことになっている」

マストレ「だいぶ反則だが……これぐらいしないと彼の本音は出まい」

美嘉「……どういう」

マストレ「あの堅物を少し柔らかくしようと思ってな。ちひろさんに無理を言った」

美嘉「堅物って……え、まさか」
84 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:50:53.16 ID:wPVlBLwf0

美嘉「……プロデューサーになにかしてるの?」

マストレ「彼の本音を暴く」

美嘉「……」

マストレ「そして私は、これがこの歌を歌うのに最も近道だと考えている」

美嘉「でも、電話って」

マストレ「ちひろさんに彼を詰めてもらっている。そして、音声だけ繋いでもらう」

マストレ「そ、そんなこと……」

ヴーー ヴーー

マストレ「む」

美嘉「!」

マストレ「強制ではない、罪悪感も抱えるだろう。……だが聞いて損はない」

美嘉「……罪悪感」

マストレ「本音を一方的に握ることになるからだ」

ヴーー ヴーー

マストレ「いまこうしている間にも話は進んでいる。チャンスはいまだけだ」
85 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:51:23.57 ID:wPVlBLwf0

美嘉(どうする)ドキ ドキ

美嘉(アタシにも言わなかった本音が聞けるなら)

美嘉(「お姉ちゃんは、諦めたりしない」)

美嘉(いいや、莉嘉の言葉を言い訳にしない)

美嘉(汚れたことしても、潔白じゃなくっても。アタシは諦めたくない……!)

美嘉「……イヤホンでいい?」

マストレ「ああ。私が聞く必要はない。いいのだな」

美嘉「もう、これ以上壊れないところまで来たから……どんなだってもいい」

マストレ「……無理そうならすぐ言ってくれ」

美嘉「うん……」

ピ

P『美嘉とは、もうそんなところには戻れないくらいになったんです』

美嘉(……!)ドキッ

ちひろ『逃げた分だけ、追い込まれますよ』

美嘉(ちひろさんの声……)
86 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:52:45.93 ID:wPVlBLwf0

P『逃げるなと言いたいんですか』

ちひろ『言いたくないのなら、さっさと私を押しのけて出ていっても大丈夫です』

P『……』

ちひろ『美嘉ちゃんと何があったんですか』

P『…………言いません』

ちひろ『彼女のために言えない、と?』

P『自分のためでもあります。これは話すことじゃない』

ちひろ『それだけプライベートなことなんですね』

P『……想像するのは自由です』

ちひろ『本当にこれしか選択できなかったんですか』

P『ですね。美嘉の負担が一番少ないと思ったんで』

ちひろ『レッスン休むくらいの負担を?』

P『一時的なもんです。幸い美嘉の周りには友人も多い。1ヵ月も引きずらないでしょう』

ちひろ『……やっぱり、美嘉ちゃんの想いに気づいていたんですね』

ちひろ『それで、プロデューサーさんも悪くは思ってなかった』

美嘉「……!?」

P『……』

ちひろ『否定しないんですね』
87 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:53:16.04 ID:wPVlBLwf0

P『……これ以上近づいたらどっちもダメになる。だから』

ちひろ『だから、妥協して担当を降りると』

P『妥協だって……!?』

ちひろ『そうじゃないんですか』

P『なんです、アイドルやめて俺と一緒になれとでも言えばよかったって?』

ちひろ『それも、美嘉ちゃんのひとつの幸せかもしれません』

P『……』

ちひろ『そう言うのが出てくるってことは、考えたことあるんじゃないですか』

P『嫌な聞き方しますね』

ちひろ『一人の女の子として認めようとはしなかった。それが行き違いの原因なんですね』

P『それを認めたら俺は……!』

P『俺は…… 俺の感情で美嘉を振り回したりできない』

ちひろ『それが妥協なのでは。妥協じゃなかったら問題を放り投げただけでしょう』

P『ちひろさん、いい加減にして下さいよ。いくら何でも言葉が過ぎる』
88 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:54:12.81 ID:wPVlBLwf0

ちひろ『城ヶ崎美嘉をプロデュースできるのは俺だけだ、くらい言ったらどうですか』

ガタッ

P『いまだってそう思ってるよ!』

美嘉「……!」

P『俺が、一番近くで見てきたんだ!』

P『惚れた腫れたで渡っていくような業界じゃないだろ?』

P『アイドルにファンを裏切れなんて言えない』

P『醜聞だのスキャンダルだの、そんな面倒なものを経験させたいわけじゃない!』

P『新曲に心躍らせたり、後輩たちの努力に涙したり、レッスンで何度も打ちのめされながら……最後に笑ってステージに立つ……!』

P『美嘉にそんな景色を見せたい!』

P『俺はそんな美嘉を見ていたかったんだ!』
89 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:54:52.52 ID:wPVlBLwf0

美嘉「……」ヘタリ

ちひろ『ありがとうございます』

P『……は?』

ちひろ『とっても素敵なことが聞けました』

ちひろ『美嘉ちゃんにはキラキラしたシンデレラでいて欲しい。本当にアイドルなんですね』

P『……まさか、いまの美嘉に言うつもりじゃ』

ちひろ『何も言いません。ただ、納得してこれを受け取りたかったんです』

P『それにしちゃ随分と…… ……いえ、いいでしょう』

P『俺も感情のぶつけどころがなかった……』

P『だいぶ不快な思いもしましたが』

ちひろ『いまのままよりはいいかなと』

P『……感謝はしません。謝罪もいりません。ただ、あなたのことは……』

ちひろ『まあ、そうですよね。でも、必要なことでしたから』

P『必要……? 興味本位じゃないって?』

ちひろ『ふふっ』ニコッ

P『……』

ちひろ『異動届け、お預かりします』

P『……お願いします』

ピ
90 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:55:18.53 ID:wPVlBLwf0

美嘉「……」ブルブル

美嘉「……ハッ、ハァッ……」

マストレ「大丈夫か」

美嘉「はは…… なんか、悪い事しちゃった気分」ガタガタ

マストレ「そうだな……泣かされた代償と思えばいい」

美嘉「震え、とまんない」ガクガク

マストレ「緊張と興奮だな……水を持ってこよう」

ギュッ

美嘉「……いい……少し、こうさせて……」

マストレ「ああ」

美嘉「プロデューサー……」

美嘉「アタシに興味ないんじゃなかった……」

美嘉「……こんなに、アタシのこと……」

美嘉「アタシ……」

美嘉「……」ブルブル

マストレ「……城ヶ崎」

美嘉「……はぁ、はぁ……」

マストレ「このことは、さすがにP殿には話せんな」

美嘉「だね……」
91 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:55:56.08 ID:wPVlBLwf0

美嘉「……みんな」

マストレ「うん?」

美嘉「家族も友達も、みんな優しかった……ちひろさんだって、マストレさんだって……なんで、ここまでしてくれるの……?」

マストレ「応援したいから、だろう」

美嘉「応援……」

マストレ「それに、私も女だからかな」

美嘉「…………そっか」

美嘉「女の子はみんな……恋の話、好きだもんね」

マストレ「子と言うにはつらい歳かな」

美嘉「そんなことないよ」

マストレ「ふふ。気の持ちようか」

美嘉「うん……ありがと。もう大丈夫」

キュッ

美嘉「……すぅ、はぁ……」

美嘉「……うん」

美嘉「マストレさん」

マストレ「うん?」

美嘉「まだちょっち身体震えてる。でも、いまはできる気がする。だから」

美嘉「歌わせて」
92 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:56:24.81 ID:wPVlBLwf0

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

――夜 美嘉部屋

美嘉「んー……」

美嘉(これまでだって手ぇ抜いてたわけじゃないけど。なんだろう)

美嘉(確実に、違った。アタシの中で気持ちが変わった)

美嘉(あんなに集中してレッスンしたのはじめてかも……)

美嘉「おかげで……ねむ……ふぁ」

ヴ--ヴヴ

美嘉「……ん……」

美嘉(誰?)スッ

[唯☆]<昨日のカラオケまぢおもしろかったー! またいこー! 莉嘉ちゃんもつれて!

[りな]<あ、それともダーツとかにしちゃおーか?

美嘉「……ふふ」

行くけどね そろそろ寝るんだから、明日はなそ>

ヴ--ヴヴ

美嘉「? 別の人……ん、加蓮?」

[加蓮]<攻めろって言いすぎた? そのせいでダメにしちゃったかな……

美嘉「……へ?」
93 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:57:12.18 ID:wPVlBLwf0

……何で知ってんの?>

[加蓮]<え、唯と里奈が

美嘉「はぁっ!?」

ヴ--ヴヴ

ピコ[未央]
ピコ[フレちゃん]
ピコ[唯☆]
ピコ[奏]
ピコ[うづきちゃん]
ピコ[りな]

美嘉「わ、ちょっ…… ……もー、みんな、寝かせてよー」

美嘉「……えーと」

ダイジョーブ。確かに攻めてたんだけど、やりかた間違っていたみたい>

今度は間違えずに。きちんと攻めるから>

[加蓮]<そう? っていうか諦めてないんだ

ちょっとねー 諦めらんないことを聞いちゃったから>

[加蓮]<よく分かんないけど…… うん、応援してる

美嘉「……そっちもねー、と……:」

ピコ
ピコ ピコ ピコ

美嘉「わわっ。……もー」

美嘉「返せないよ、こんなのー…… ……あははっ」

今日はもう終わり! 明日全部返信するから! 夜更かしは美容の敵!>

<<<はーい わかったよぉ じゃあ、またね

美嘉「よし、と」
94 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:57:38.09 ID:wPVlBLwf0

美嘉(……ああ)

美嘉(私、みんなに愛されてるんだな)

美嘉「……」ゴロン

美嘉(愛された分だけ、いっぱい返したい)

美嘉(それで、目いっぱい誰かを愛したい)

美嘉(ううん、誰かじゃない)

美嘉(あの人を、愛したい)

美嘉「……」

美嘉「諦めない、か」

美嘉(プロデューサー……)

美嘉(あれが本心だって……それなら、アタシは……)

美嘉「……うん」

美嘉(今日はしっかり眠れそう)

美嘉(目の腫れがしっかり引くまで、しっかり寝よう)

美嘉(そしたら)

美嘉(プロデューサーのこと、ちゃんと見られると思うんだ)
95 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:58:16.42 ID:wPVlBLwf0

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――事務所

マストレ「P殿」

P「ああ、マストレさん。おはようございます」

マストレ「おはよう。城ヶ崎美嘉のことで相談がある」

P「あー、じゃあ場所を変えますか」

マストレ「不要だ」

P「……込み入った話じゃないんですか」

マストレ「ああ。レコーディング日はいつになっていたかな」

P「まだ調整中です。伸ばせてひと月ぐらいかと」

マストレ「いや、元の予定日だ」

P「元のは……明後日でしたが」

マストレ「そうか。そのまま進めることはできるかな」

P「進めるって……え、レコーディングを、ですか」

マストレ「他に何が?」

P「いや、でも」

マストレ「大丈夫だ」

P「大丈夫……?」
96 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:58:45.42 ID:wPVlBLwf0

マストレ「P殿のアイドルは完璧だよ」

P「……じき、俺のじゃなくなりますが」

マストレ「そうか? そんなことは言っていられないと思うぞ」

P「……はい?」

美嘉「あーっ、いたいた!」

P「……美嘉」

美嘉「何? 単にレッスンきてるだけだって」

P「あ、ああ」

美嘉「マストレさん、今日のレッスンでやってみたいことがあるんだけど」

マストレ「分かった、見せてもらう。先に行って喉を温めておくといい」

美嘉「はーい、先行ってます」

マストレ「ああ、今日で仕上げよう」

美嘉「じゃね、プロデューサー。レコーディングはマストレさんと合わせといて〜★」

P「は……」

スタスタスタ…
97 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 12:59:45.13 ID:wPVlBLwf0

P「……マストレさん」

マストレ「なんだ?」

P「美嘉は、どうなんです。いくら空元気と言っても」

マストレ「あれが空元気に見えたか?」

P「いや、けど……あれからまだ3日しか」

マストレ「だから歌えないと? 自分の担当アイドルを見くびらないほうがいいぞ」

P「……」

マストレ「むしろ、いまが一番いい」

P「……そう言うなら……人は集め直せるとは思いますが」

マストレ「ああ、それなら頼んだ。こっちは任せておきたまえ」

P「……はぁ…… わかりました……」コツコツ…

マストレ「……」

マストレ「ふ、ふふ」

ちひろ「あら。朝から楽しそう」

マストレ「ふふふ、おはよう」

ちひろ「おはようございます。どうしたんですか」

マストレ「いや。鳩が豆鉄砲とは、まさにアレのことだなと」

ちひろ「Pさんですか?」

マストレ「ああ……感謝するよ、ちひろさん。あなたじゃないとできない仕事だった」

ちひろ「そうかもしれませんね。でも、結構怖かったんですよ?」

マストレ「そうかい? 汗ひとつかかなかったと思っていたが」

ちひろ「そんな鉄の女じゃありません。でも、教えてくれた情報のおかげで、追い込むのはちょっと楽しかったかも」

マストレ「敵わないな」

ちひろ「うふふ。この貸しは高いですよ」

マストレ「いやぁ、厳しい。損な仕事だったな。大した仕事もできなかった」

ちひろ「そうですか?」

マストレ「結局、恋する女の子のエネルギーには勝てないということさ」

ちひろ「プロデューサーさんも勝てないか、賭けません?」

マストレ「いや、成立しないだろう、それは」

ちひろ「うふふ」
98 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:00:45.45 ID:wPVlBLwf0

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

――レコーディング当日

(確かに、プロデューサーはアタシを遠ざけようとした)

(そうなる前に、やろうと思えばアタシの想いが膨らむのを止めることができたのかもしれない)

(でもそれをしなかった)

美嘉『キミの全部が見たくなって』

美嘉『ワガママ言って困らせた』

(一度壊れかけた想いを、たくさんの人が繋げてくれた)

(諦めるなと言ってくれた)

(これは、あなたが託してくれた恋の歌)

美嘉『ごめんね 欲しいモノは たった一つ』

美嘉『only you 独占欲』

(そう、だから)

(悲しそうに歌っていちゃダメ)

(辛そうでもない。泣きそうでもない)

(アタシらしく歌うの)

(いつでも)

(いつまでも!)



https://youtu.be/se0ddhdUYe0

99 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:01:17.67 ID:wPVlBLwf0

スタッフ「差し替え部分、こんなもんですかね」

ディレクター「うん、良かったよ」

スタッフ「OK。どうです?」

P「問題ないです。これでお願いします」

カチ

スタッフ『城ヶ崎さん、OKです。お疲れさまでしたー』

美嘉『はいっ、ありがとうございました! お疲れさまでしたー!』

P「では、後の作業よろしくお願いします」

ディレクター「おー。また飲みに行きましょうや」

−−−

――控室

P「……」

P(……空元気じゃない。マストレさんの言う通り、完璧だった)

P(そうか、もう立ち直ったのか……)

P(まぁ……引きずるよりはいいよな)
100 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:01:50.17 ID:wPVlBLwf0

prrrrrr prrrrrr

P「ん?」ピツ

P「はい、お疲れさまです」

P「ええ、順調に終わりました。このあと戻ります」

P「? ええ、そうですが……」

P「……はい?」

P「いやあの、どう言うつもりです。しっかりと渡しましたよね」

P「そうじゃなくてですね。あの、ちょっと。あっ……」ツーー

P「……」

美嘉「プロデューサー?」

P「あ、ああ……お疲れ」

美嘉「お疲れさま」

P「あー……完璧だったな」

美嘉「そりゃもう。カンペキに仕上げてきたもん」

P「そうか……」

美嘉「んふふっ」

P「……なんか、さっぱりしてるな」

美嘉「そうだねー。髪でも切りたい気分」

P「いや、ちょっとそれは」

美嘉「ウソウソ、切らないよ。切る理由、ないもん」

P「……そうか」

美嘉「切る理由になりたかった?」

P「んなわけ無いだろ」

美嘉「だよね」
101 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:02:16.16 ID:wPVlBLwf0

美嘉「プロデューサー」

P「ん」

美嘉「この曲を歌うのに、すっごく、いろんな事を考えた」

美嘉「ファンに、友達に、家族に……トレーナーさんに、プロデューサー」

美嘉「たくさんの人に支えられて、愛されて、アタシはまた曲を歌っている」

美嘉「そして、これがプロデューサーからの、最後の仕事かもって」

P「……」

美嘉「だからね」

美嘉「プロデューサーを想って歌ったよ」

美嘉「そんなこと、アイドルがしちゃだめかもしれないけど」

美嘉「でも、最高だったでしょ」

P「……そうだな」

美嘉「いままでありがとう。プロデューサー」

P「ああ」

美嘉「最後は、ちょっと変な感じになっちゃったケド」

美嘉「……キレイに仕事が終われてよかった」

P「……ああ。いい仕事ができてよかった」

美嘉「最後にさ」

美嘉「一発、ひっぱたいていい?」
102 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:02:43.06 ID:wPVlBLwf0

P「えっ? ……ああ……わかった。いいぞ」

美嘉「じゃあ……キツいのいくよ。目つぶって」

P「……」グッ

美嘉「……」

美嘉「ん……」スッ

P「……え?」

美嘉「……ほっぺだから大したことじゃないっしょ?」

P「そうじゃなくて……えっ、何の真似だよ」

美嘉「んー。素直なキス、ってとこかな★」

P「素直なって……どういうつもりだ?」

美嘉「どういうって。アタシ、別にフラれたわけじゃないし?」

P「……ん?」

美嘉「プロデューサーが担当じゃなくなるだけ、でしょ」

美嘉「プロデュースしてもらえなくなるのは残念だけど……」

美嘉「……それはアタシが自分に嘘をついた罰、かな」

美嘉「そこは、受け入れる。でもね」

美嘉「そっちだって、振ったわけじゃないんだよ?」

P「……」

美嘉「むしろ火つけたかも」
103 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:03:14.03 ID:wPVlBLwf0

P「一度、はっきり言ったと思ったんだけど」

美嘉「無理とか、応えられない、とか?」

P「……」

美嘉「まぁそれ自体はね。……でも、前に同じようなことあったなって」

P「前に?」

美嘉「いつか、アタシが手を繋ぎたいって言った時のこと」

P「はぁ」

美嘉「莉嘉だったらすんなりOKしてたでしょ、ってハナシ」

P「ああ」

美嘉「莉嘉には抱きつかせたけど、アタシにはさせなかった」

P「……」

美嘉「同じことかなって」

美嘉「アタシを遠ざけたい理由があるんじゃないかな、って」

P「いや……そっちだって顔合わせづらいだろ」

美嘉「うん。もっともらしい理由だよね」

P「……」

美嘉「ちょっとは、自分で考えたよ」

美嘉「なんでアタシの担当を外れたかったのかな……とか」

美嘉「莉嘉なら……そのまま担当から外れなかったんじゃないかな」

美嘉「まっ、莉嘉にはゴメンな話かもしんないけどね」

美嘉「全部アタシのためで、それでいて全部自分のため」

美嘉「アタシを遠ざけないといけなかった」

美嘉「アタシがダメになる前に」

美嘉「プロデューサーが、できなくなる前に」

美嘉「それってさ。アタシのこと」

P「まて」

P「それ以上言うな」

美嘉「……にひっ」
104 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:03:40.30 ID:wPVlBLwf0

美嘉「ね、担当やめるのやめない?」

P「は?」

美嘉「アタシの輝くところ、一番近くで見ててって言ったでしょ」

美嘉「いまでも、アタシのプロデュースしたい……でしょ?」

美嘉「後悔するよ? 一番近くでって特権、逃しちゃダメだと思うな」

P「……」

P「あっ……」

ドサッ

美嘉「どしたの? 急に座って」

P「……ここまで見越して……いや……」ブツブツ

美嘉「な、なに?」

P「さっき電話していただろ」

美嘉「うん」

P「ちひろさん」

美嘉「うん」

P「…………俺の異動願いまだ出してないって」

美嘉「え」

P「預かってくれと言ったが、出してくれって頼まれていませんとかなんとか」

美嘉「……やるぅー……」
105 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:04:06.76 ID:wPVlBLwf0

美嘉「……」

美嘉「うん、やっぱり言わないといけないね」

P「?」

美嘉「ちひろさん」

P「え、ああ」

美嘉「ちひろさんに問い詰められた時の会話」

P「…………は?」

美嘉「ほとんど聞いてた。ごめん!」

P「…………」

美嘉「…………」

P「ほとんど、って……」

美嘉「プロデューサーの感情でアタシを振り回せない、とか」

P「……」

美嘉「俺が一番近くで見てきた、とか」

P「あ……」

美嘉「アイドルやめて俺と一緒になれ、とか」

P「え」

美嘉「城ヶ崎美嘉をプロデュースできるのは俺だけだ?」

P「まって、後半ほとんど俺が言ったんじゃない!」
106 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:04:33.37 ID:wPVlBLwf0

美嘉「あ、そうだっけ」

P「……え、ちょっと待ってくれよ……全員グルかよ!」

美嘉「アタシもいきなりだったけど……うん、共犯だね」

P「だからちひろさん、あれだけ炊きつけたのか……」

美嘉「うん……あ、やば。やっぱこれ、だいぶマズいよね。嫌われるレベルで」

P「……」ジロ

美嘉「う……ご、ごめんなさい……」

P「はぁ…… ……あー、いい、身から出た錆だ」

美嘉「……ほっ…… さっすがプロデューサー、懐が広い」

P「あぁー、もう!」

美嘉「な、なに?」

P「切り替えらんねえの。全部覚悟決めて、蓋開けたら元通りなんて」

P「元通りならまだマシだ。美嘉は吹っ切れてるし、周りは囲ってくるし」

P「俺にどうさせたいんだよ」

美嘉「仕方ないよ。女の子は恋バナ好きだもん」

P「言ってろ」
107 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:05:00.23 ID:wPVlBLwf0

美嘉「あんな嫌われ役引き受けてくれるなんて、ちひろさん、最高のアシスタントじゃない?」

P「……」

美嘉「アタシだったら惚れちゃうけどな」

P「……惚れない」

美嘉「どうして?」

P「……」

P「……目の前に、もっと夢中になれるアイドルがいる」

美嘉「……あ」ドキッ

P「全部無駄だったなぁ、異動願いもレコーディング日変更も、無駄に突っぱねたことも……」

美嘉「プロデューサー」

P「うん?」

グイッ

美嘉「んっ」

P「ん……!?」

美嘉「……ふ」

P「はぁ……」

美嘉「……へへ、ごめん。止まんなかった」

P「……俺も止めなかった」

美嘉「そっかぁ。ふふ」
108 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:05:28.78 ID:wPVlBLwf0

P「断っておくけど……恋人関係とか、そういうのにはならないぞ」

美嘉「えっ、なんで」

P「あくまでアイドルとプロデューサー。そこの線引きが俺の最終防衛線だ」

美嘉「じゃあいまのは?」

P「…………手だされたの俺だし」

美嘉「そういうスタンスにするの?」

P「……」

美嘉「え、なにそれ。攻め放題じゃん。いいの?」

P「いや、なんていうか……」

P「応えるのは、せめて成人してからとかにしてくれないかって」

美嘉「えー。JKのうちに手ぇだしちゃわない? もったいなくない?」

P「もったいないとかさ……いやちょっとはあるけど」

美嘉「あ、でもあと1年かぁ」

P「そっちで数えるのか」

美嘉「ねー、どうせなら後も今も一緒じゃん?」

P「一緒じゃねえよ」

美嘉「そっか……」
109 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:06:02.06 ID:wPVlBLwf0

P「せめて1年。すぐだよ」

美嘉「……わかった」

美嘉「ホントはつらいケド……」

P「こっちも同じ気持ちだって言ったら、わかるか」

美嘉「! ……うん!」

美嘉「まぁ、攻めるところは攻めるけどね」

P「おい」

美嘉「だって、アタシの輝くところ、一番近くで見ててって言ったでしょ」

P「……ん? ああ……」

美嘉「女の子は恋をするの」

美嘉「恋を諦めて、アイドルが……女の子が輝くと思う?」

美嘉「我慢しなくていいって言うんだったら、どこまでも頑張るから」

美嘉「だから」

美嘉「アタシが輝くの、一番近くで見せてあげる」

P「……わかった。楽しみにしてる」

美嘉「にひっ」

美嘉「パッションでしょ」

P「そうだな……」

P「本当に、最高だよ」

美嘉「プロデューサー……!」

ギュッ

美嘉「アタシらしく愛してあげる」

美嘉「いつまでも」





おわり

110 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2019/10/05(土) 13:06:38.24 ID:wPVlBLwf0

なんだよ……結構純愛似合うじゃねえか……
やっぱすげぇよ美嘉は……

セクギャルの新曲ネタを入れたかったから時間軸とかもういいやってなった。
新曲おめでとうございます。

次はサクッと短めにニュージェネでコメディとか書こうと思います。
よければこちらもどうぞ。

速水奏「はー……」モバP「はー……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546751465/

渋谷凛「連れていってほしい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1547822704/

一ノ瀬志希「失踪しちゃおうか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1552181742/

速水奏「とびきりの、キスをあげる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1555420447/

塩見周子「どっちがいーい?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1559372967/

速水奏「特別な、プレゼント」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1561907176/
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/05(土) 13:31:05.37 ID:pl0xGQUc0
最高だった
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/05(土) 16:19:04.11 ID:R+K1ltoDO




ハイファイの後のあれは正直戸惑ったけどね(当方、美嘉莉嘉よりはL.M.B.G好き)
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/06(日) 07:05:29.77 ID:yZMZjL6b0
言葉足らずで子供みたいな未熟思考のPの何処に惚れんだろ
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/06(日) 11:28:47.15 ID:TipJOm0DO
ただ、この事務所にプロデューサーとして働きたくないのはたしかだな



(某裏一子の薄い本状態になったら)最後の一兵に至るまで、全員敵になりかねない
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/14(月) 07:54:24.96 ID:EFXIxvUw0
乙、よかった
やっぱすげぇよ美嘉は
こういう恋愛感情を自覚してからどう行動するか、みたいな話好き
好きな雰囲気だったから過去作も読ませてもらった
全部よかったけど志希のやつが特に好き
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