【バンドリ×けいおん】唯「バンドリ?」香澄「けいおん?」

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202 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:04:57.83 ID:10IwYkZZo
律「……ワン、ツー、スリー!」

 〜〜♪  〜〜〜♪

 唯のギターから始まり、それに合わせるように各パートが入り、イントロが始まる。


律(入りは完璧……あとは……歌の出だしだけど)

唯「…………」

律(おい唯! 歌!)

唯「あっ! キミを見てると、いつもハートDOKI☆DOKI……」

律(やれやれ……まぁ、久々だしな……)

 〜〜♪ 〜〜♪


澪(律! ちょっと待って! 走りすぎだ!)

律(やべ! あれ……澪、なんか音違ってないか?)

唯(次、澪ちゃんのパートだよね?)

澪(っっ……ごめん…………歌詞飛んだ……唯、頼む!)

唯(ううん、大丈夫だよっ!)


唯「ふとした仕草に今日もハートZUKI★ZUKI……♪」

律(はははは……いやー、こりゃ相当練習しなきゃな……)

紬(ふふっ……でも、この感じ……)

梓(はい、凄く懐かしくて……)

唯(楽しいな……♪)

澪(…………っ……)
203 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:05:27.44 ID:10IwYkZZo
 彼女達の演奏は、途中何度か危うい場面を迎えてはいたものの、それでもどうにか最後まで続けられた。

 それは正直なところ、完璧とは程遠い出来栄えだったが……それでも止まることなく、最後までやり切ることが出来た。

 その確かな事実に、5人の中には危機感以上の安心感が生まれる。

 まだ……指は、手は、感覚は覚えている……昔、幾度となく演奏した自分達の代表曲は、完全に失われたわけではなかったのだ。


律「ふぅ……危なかったけどどうにか演奏しきれたな」

 額に流れる汗を拭いつつ、律は言う。


澪「ごめん、唯、あんなに歌ったのに……私、歌詞、飛んで……」

唯「ううん、大丈夫だよ、澪ちゃん」

律「私もかなり走ってたからなぁ……ま、何回かやってきゃ勘も戻ってくるよ」

紬「ええ、梓ちゃんもさすがね……ソロパート、凄く綺麗だったわ」

梓「あ、ありがとうございます」

律「でも、一番簡単なふわふわでコレか……やっぱセトリ考え直したほうがいいかな?」

唯「う〜ん……でも、私はこのセトリが一番だと思うんだけどなぁ」

律「あ〜〜、他の曲の音源が無いのは痛いよなぁ……」

 昨日、全員が解散したその日の内に律は澪と共にライブで演奏する曲のセットリストを考え、メッセージアプリにあった放課後ティータイムのグループチャットに転送していた。

 全員がそのセットリストを見て律に賛同していたのだが……ふわふわ時間以外の音源が行方不明となっていたのは予想外のトラブルだった。
204 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:06:35.15 ID:10IwYkZZo
澪「音源か……たぶん私の実家にあると思うんだけど、やっぱり今からでも探して来た方がいいんじゃないか?」

律「今から行っても探してる時間ないだろ……ライブまで時間もないんだしさ……」

 律の言う通り、ライブまでの時間は刻一刻と迫ってきている。

 当然、ライブ当日までの間にも各々仕事があり、そして少しでも集まれる時間を作るため、今週いっぱいは全員の仕事も忙しくなることは既に決まりきっていた。

 本来、5人が2日も続けてこうして集まれる事自体が既に珍しいことなのだが……それでも、ライブまでに可能な限り時間を作り、仕上げに費やさなければならない。

 今現在も多忙を極める自分達が、どれ程過酷な道を歩もうとしているのか、今更になって律は実感していた。


紬「だ、大丈夫よ! みんなで力を合わせれば、きっとなんとかなるわ!」

唯「そ、そうだよ! あ、そうだ! もう一度演奏してみようよ!」

 気落ちしかけた皆の気を持ち直そうと、唯と紬が声を上げる。

 だが、その声も虚しく、全員の顔に僅かながら焦りの色が浮かんでいた。

 曲のマスターが無いということは、原曲を聴くことが出来ないということ。

 それは、手探りで曲そのものを構築しなければならないということ。

 譜面すらも無いこの状況でその時間を作り出すのがどれ程大変な事か……音楽に関わる仕事をしている者は特にだが、想像するだけで気が遠くなっていた。


律「あー、どうしよ」

 どうしようかと考えあぐねいていた時、がちゃりとした音を立て、スタジオの扉が開かれる。


直「お疲れさまです……あ、やっぱりやってましたね」

菫「お姉ちゃん、皆さん、どうも」

梓「直、それに菫も、どうしたの?」

 そこには、ノートパソコンなどの各種機材を手にした直と菫の姿があった。
205 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:07:24.70 ID:10IwYkZZo
菫「はい、私はお姉ちゃんに仕事のお話と……あと、先程お姉ちゃんから皆さんの事情を聞いて、私から直ちゃんに相談したんですよ、そしたら……」

直「ええ、既にお話は菫から伺ってます、放課後ティータイムの歌の音源なら、私全部持ってますよ」

律「……え、マジで?」

 直の言葉に驚愕の声を上げる5人。


直「はい……昨日もお話したと思うんですけど、私、今フリーの作曲家をやってまして……」

直「作曲家を志した時に私、練習と特訓を兼ねて、放課後ティータイムの歌と私達、わかばガールズの歌を全部パソコンに打ち込んでみたんですよ」

澪「全部って、あの何曲もある歌を全部?」

直「はい……菫や梓先輩に音源貰って……最初は大変でしたけど、でもやってくうちに楽しくなってきちゃいまして……」

菫「もし良かったら聴いてみて下さい、直ちゃんの作った曲、凄く丁寧に打ち込まれてるんですよ」

 そして、直はノートパソコンを起動させる。

 恐らく仕事用のパソコンなのだろう、作曲に関わる様々なアプリケーションのアイコンが雑多に並ぶ画面の中に『HTT』というフォルダを見つけ、クリックする。

 開かれたフォルダには、放課後ティータイムの全ての歌が一覧に表示されていた。


直「ふわふわ時間……あった、これです」

 直の指が、『ふわふわ時間』と書かれたMP3ファイルを起動させる。

 音楽再生アプリが立ち上がり、懐かしいイントロとともに機械的な歌声がスピーカーから聞こえ始め……。
206 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:08:20.58 ID:10IwYkZZo
『〜〜♪ 〜〜〜♪』

律「うはっ、イントロは完璧だな……まるで昔の私達の音そのものだ……」

歌声「――キミを見てると いつもハートDOKI☆DOKI……」 

澪「凄い、歌声まで再現されてる……!」

唯「ねえ、これってもしかして……」

直「あ、わかります? ボーカロイドで打ち込んでみたんですよ」

菫「ふふふ、直ちゃん、たまに動画サイトにボカロの曲も投稿してるんですよね」

梓「驚いたよ……直にこんな才能があったなんて……」

 直の作ったふわふわ時間は、律達の想像以上の完成度を秘めていた。

 他にも、U&Iやふでペン、カレーのちライス等。過去に唯達が演奏した全ての曲が完璧な再現度で打ち込まれており、誰もがその出来栄えを絶賛するのだった。

 更に……。


紬「あの、この、OFF.RGtっていうのは?」

直「はい、リズムギターの音源のみをオフにしたバージョンです」

澪「えっ、そんなバージョンもあるの?」

直「はい……勿論他にも、ドラムやベース、リードギターやキーボードをオフにしたバージョンもありますよ」

直「それらとは逆に、各パートのみの音源もあります」

律「すげえ、これなら演奏のイメージも掴みやすいな」

直「あと、譜面も全曲分、全パートを揃えてありますので、必要なら仰って下さい」

紬「わぁ……直ちゃん、凄いわ……」

澪「なんかもう、感心で言葉が出ないな……ここまでやってくれてたなんて……」

 直のその手際の良さに感服し、溜息すらこぼれる5人だった。

 5人全員が今後の練習のために望んでいたもの、自分達が演奏する曲の音源……それは、律達の予想以上の形で眼前に並べられていた……。
207 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:09:00.48 ID:10IwYkZZo
律「これがありゃ、自主練もかなり捗るな……」

梓「あ、あの! 直、もし良かったらこの音源、貸してくれないかな?」

直「はいっ、そう思って、セットリストの曲は既にクラウドサーバーに保存してあります。後ほど梓先輩にURLをお送りしますので、皆さんで是非使って下さい」

直「スマートフォンやパソコンがあれば、すぐにでもダウンロードして聴けると思います」

唯「直ちゃん、ありがとう!」

梓「直、ありがとう! 直だって本当は凄く忙しい筈なのに、それでも私達のために、ここまでしてくれて……本当にありがとう……!」

直「いいえ……私も、皆さんのライブを楽しみにしてるんです……私にはこのぐらいしか出来ないですけれど……それでも、皆さんのお役に立てればと思いまして」

 笑顔を絶やさず、直は続ける。

 フリーの作曲家という、時間を自由に使える仕事を選んだとはいえ、それでも彼女はまだ駆け出しの身である。

 今日、これだけの準備をするのにどれ程直が自分の時間を割いてくれたのか……そこには梓の想像以上の手間があったことは、言うまでもないことだった。


澪「律……これなら……」

律「ああ、仕事の空き時間や家に帰ってからでも、十分各自で自主練できるな」

紬「あ、そうだ、菫ちゃん、私にお話があるって言ってたけど、何のお話?」

菫「はい、お姉ちゃ……いえ、『紬お嬢様』」

紬「……?」

 あえて『お姉ちゃん』ではなく、『お嬢様』という固有名詞を使い、菫は紬に向き合う。

 それは、これから発せられる言葉は、姉としてではなく、琴吹グループ役員であり、琴吹家令嬢としての琴吹紬に向けて投げ掛けられることを意味していた。
208 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:10:10.07 ID:10IwYkZZo
菫「お嬢様の今週の予定ですが、既に私の方で各方面の調整を済ませておきました」

菫「ですので、来週からは非常に忙しくなると思いますが、その分、今週は思う存分ライブに費やして下さい」

紬「菫……ちゃん……!」

菫「私も直ちゃんと同じです……皆さんのライブ、とても楽しみにしてますっ」

 明るい笑顔で菫は言う。

 その顔は直と同じ様に、ライブへの期待感で満ち溢れているように5人には感じられていた。


紬「すみれ……ちゃん……っ、うん、ありがとう。ありがとう……!」

律「ははっ……凄ぇ応援されてんなぁ、私達」

澪「ああ……皆の期待に応えるためにも、絶対に成功させなきゃ……」

梓「はい……そう、ですね」

唯「よーし、ねえみんな、もっかいやろうよ!」

紬「ええっ! もう一度、演奏しましょう!」

梓「直、菫、よかったら聴いてってくれる?」

直「はい、もちろんですっ」

菫「ええ、ありがとうございますっ」

律「よし、じゃあやるかっ!」
209 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:11:56.75 ID:10IwYkZZo
 律達はステージに上がり、楽器を構える。

 そして、再び彼女達の演奏が始まる。

 その演奏は先程までの演奏とは違う、不安から開放された、本来の彼女達の演奏だった。

 こうして5人で演奏するきっかけをくれたまりなに、昨日再会できた全ての人に、あの頃の懐かしさを思い出させてくれた5組の少女達に感謝の念を抱きながら、一心不乱に唯達は音を紡ぐ。

 どれ程の時間が過ぎようが変わらない、5人が集まれば、どこであろうが私達は放課後に戻り、あの頃と同じ音を奏でることができる。


 菫と直、憂に純、……また、和にさわ子達……自分達に関わる人全てがライブを楽しみにしてくれている。

 重圧以上の楽しみが、興奮が5人の中に宿る。

 その興奮が、彼女達の音を更に盛り上げる――!


菫「すごいな……お姉ちゃんも皆さんも、あんなに楽しそうに演奏してる……」

直「うん……ライブの当日、凄く楽しみだね」

 彼女達が紡ぐその音は、演奏を聴いていた菫と直の心にも確かに響いていた。

 かつての興奮が、懐かしさが二人の胸を打つ。

 自分達の中の時計が、まるで学生の頃まで戻される感覚を覚えながら、菫と直の二人はステージ上で奏でられる歌に聴き惚れていた。


 そしてその日、放課後ティータイムの数年ぶりの演奏は、日付を跨ぐギリギリまで続けられたのだった――。
210 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:12:35.54 ID:10IwYkZZo
#5.放課後と五色の輝き

 ――お祭りの準備は、日を追う毎にその賑やかさを盛り上げていきました。

 それと並行して、私達はみんなで学校に通って、放課後にライブの練習をして……。

 毎日が慌ただしくて、すっごく楽しくて、ドキドキの毎日でした。

 もちろん、それは私だけじゃなく、お祭りに参加するみんなの顔もそう、とてもキラキラして……ドキドキしていました。


 その頃の私達はまだ、知りませんでした。

 もうすぐ始まるそのお祭りで、一番のキラキラとドキドキに会えるなんて……きっと、誰にも想像できなかったと思います――。
211 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:13:05.54 ID:10IwYkZZo
―――
――


 花咲川、羽丘近郊で活動するガールズバンドにとっての一大イベント、“ガールズバンドパーティー”

 そのライブに遠く、桜が丘より放課後ティータイムのゲスト出演が決まり、翌日から彼女達は後輩達の力を借りつつも仕事の合間を縫い、自主練を重ねては揃って音合わせをし、各々が練習を行っていた。

 無論、ライブに向けて奮闘しているのは彼女達だけではない。主役の少女達を含め、出演する全バンドがガールズバンドパーティーに向け、その準備に取り掛かっていた。

 自分達の歌や演奏の確認に楽器の調整、MCの段取り、演出の仕上げ、衣装の最終チェックなど、大小様々な確認を済ませつつ。皆が皆、その日を待ち望んでおり……。


 各バンド共に、ライブの準備は、既に大詰めの段階へと差し掛かっていた――。
212 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:13:50.04 ID:10IwYkZZo
-ライブ5日前 Pastel*Palettes-

【某スタジオ】

 アイドル事務所から歩いて少しの所にあるスタジオ。

 そこではガールズバンドパーティーのリハーサルと並行して近日行われるアイドルコンサート、その両イベントに向けて、Pastel*Palettesの本格的な最終調整が行われていた。

 音合わせを終え、各々がしばしの休憩を取っていた時の事――。


彩「ライブの衣装、すっごく可愛い感じになってたね」

千聖「ええ、彩ちゃんのMCもあとは自主練で十分行けそうだし、みんな本当に頑張ったと思うわ」

麻弥「はい、ガールズバンドパーティーのスペシャルゲストの件もなんとかなったってまりなさんから連絡ありましたから、いよいよですねっ」

イヴ「ライブのゲスト……一体どんな人達が来てくれるのか、楽しみですっ♪」

日菜「うんうん、ルンっ♪って来る感じの人達だといいよね〜♪」

千聖「ええ、そのゲストの人達に負けないためにも、私達ももっと練習をしておかなきゃね」

イヴ「はいっ! あの、みなさんっ、休憩が終わったら最後にもう一度演奏しませんか?」

麻弥「ええ、ジブンも少し確認したいところがあったので、是非お願いしたいと思ってたところです」

日菜「私は大丈夫だよー、やっぱみんなと練習するのって、こう、るるるんっ♪ って感じがするよね♪」

千聖「ふふふっ、毎回思うのだけれど……日菜ちゃんの『るるるんっ♪』には、一体何通りの意味があるのかしら?」

麻弥「あはははは……ええと、ジブンの知る限りでは、既に100通り以上の意味があったと思いますが……」

 リハもどうにか無事に終えられ、緊張から開放された5人が和やかに談笑をしていたその時。


律「よーっす、みんなやってっかー?」

 スタジオの扉が開かれ、律が姿を見せていた。
213 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:14:18.54 ID:10IwYkZZo
彩「律さん、お疲れ様です!」

一同「お疲れ様です!」

律「今休憩中か……じゃあちょうどいいや。ほい、さっきそこでスタッフさんにジュースとお菓子貰ってきたから、みんなで好きに食べていいよ」

彩「あ、ありがとうございますっ!」

麻弥「律さん、ありがとうございますっ!」

 各々が律に一礼し、好みのジュースと菓子類を開けては食べあっていた。

 そんな彼女達に向け、スケジュール帳を手に律は優しい声で続ける。


律「それと、食べながらでいいから聞いて欲しいんだけど。イヴちゃん、日菜ちゃん。再来月、FMラジオでリクエスト番組のゲスト出演決まったからよろしくね〜」

イヴ「はい! ありがとうございます!」

日菜「はーい、律さん、いつもありがとうございまーす♪」

律「あと彩ちゃんと千聖ちゃん、麻弥ちゃん……おめでとう、来年やるドラマのオーディションの枠、3人分だけだけど、やっと取れたよ」

 にこやかに親指を立てながら、律は言い放つ。

 突然のその言葉に一瞬、思考が止まっていた3人だったが、すぐにその言葉の意味を理解する。

 彼女達の顔が驚きの表情から一変し、歓喜の色に染め上げられていた。
214 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:14:58.07 ID:10IwYkZZo
彩「……あ……あ……ありがとうございます! 私……精一杯頑張ります!!」

麻弥「ありがとうございます! オーディションに受かるよう、ジブンも全力で頑張ってみます!」

千聖「律さん、ありがとうございます! 必ず受かるように頑張りますねっ」

イヴ「アヤさん! マヤさん! チサトさん、おめでとうございますっ!」

日菜「みんなおめでとうー! オーディション、頑張ってね♪」

律「詳しいことはまた後日伝えるから、みんな根詰めすぎないように頑張ってね」

一同「はい!!」

 互いにハイタッチを決め、感激を顕にして喜び合う5人だった。

 そんな彼女達の表情を見て、律は以前社長に言った言葉を思い返し、改めて確信する。


律(……やっぱりパスパレは5人でいなきゃな……個人の仕事も大事だけど、それでも……なるべく全員一緒になれるよう上手く調整してやらないとな……)

 それは律の営業の功績か、パスパレの日頃の努力の賜物か、あるいはその両方か……着実にパスパレの全員が己の夢に、目標に向かい、その一歩を踏み締めていた。

 その一歩は、決して彼女達一人だけでは踏み出せなかった一歩……パスパレの5人と律が共に支え合う事で踏み出せた、大きな一歩だった。


日菜「それで律さん、何のドラマのオーディションなの?」

律「うん、来年の春頃にやる学園ドラマのオーディションだよ、ほら、あの有名少女漫画の実写化のさ」

彩「えっ? あの人気の俳優さん達が大勢出てるドラマですか?」

律「そそ、それの続編でさ……これでうまいこと主演掴み取れたら、パスパレも一気に有名になってくよなぁ」

彩「あのシリーズ、私も毎週見てました……そっか……あのドラマに……私達が……」

 彩はごくりと唾を飲み込み、自分がとても大きな舞台に立とうとしていると言うことを再認識する。

 そんな彩と同じように、オーディションへの参加が決まった麻弥と千聖もまた、緊張に顔を強張らせていた。
215 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:15:24.77 ID:10IwYkZZo
彩「オーディション……が、がんばらないと……もちろん、ライブも成功させなきゃ……!」

麻弥「ジブンがあの人気ドラマに……ですか……オーディション、今から緊張しますね……」

千聖「ええ、だけど……これも夢を掴む為ですもの……頑張って受かりたいわね……」

律(あちゃー、朗報だと思って話しては見たものの、これじゃ却って緊張させちゃったかな……)

 自分の言葉がライブ前の彼女達……特に彩に対して不要な緊張を与えてしまったことを律は反省する。

 この緊張をどうにか和まそうと思った矢先、一つの方法が律の頭の中に浮かび上がり……。

 その思い付きににやりと口角を上げつつ、悪戯をする子供のような顔で律は彩達にそっと呟くのであった。


律「……ひょっとしたら、キスシーンとかもあったりなんかして……」

彩「えええ?? き、キキキキキキス……ですか!?!?!?」

麻弥「そ、そそそそそそんな!!!! ジブンなんかがその……あわわわわわわわわわ……!!!」

イヴ「そ、そんなっ! フシダラですっ! ハレンチですよっ!」

日菜「うわぁ〜、私、すっごく楽しみになってきた♪」

千聖「………………」

 律の言葉に顔を紅潮させ、動揺の声を上げる2人だったが、女優歴の長い千聖だけは律の嘘を即座に見破っていた。
216 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:15:54.65 ID:10IwYkZZo
千聖「律さん、あまり二人をからかわないで下さい……大丈夫よ彩ちゃん、麻弥ちゃん……未成年の私たちにそんな過激なシーン、やらせる筈がないでしょ?」

律「ちぇ、バレたか」

彩「えっ!? ……あ、あははははははっっっ……そ、それもそうだよね……あ〜〜……びっくりしたぁ」

麻弥「も〜〜〜〜! 律さんも人が悪いですよぉ! ジブン……本気で信じる所でしたよぉー!!」

律「わーるかったって! 謝るから、そんなに怒らないでよ〜」

 膨れる麻弥と涙目で座り込む彩に向け、律は両手を合わせて許しを乞いていた。


イヴ「ドッキリだったんですね……よかったです……」

日菜「な〜んだ。キス、しないんだ」

千聖「……日菜ちゃんは何をそんなに残念がってるのかしらね…………」
217 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:17:04.56 ID:10IwYkZZo
―――
――


彩「うぅぅ……でも、ドラマの出演かぁ……嬉しいけど、やっぱり緊張するよ〜」

律「まだ決まったわけじゃないけどなー、そのためにも、しっかりオーディションに合格しなきゃね」

日菜「うんうん。それにさ、映画の撮影なら前にみんなでやったし、もうお芝居なら大丈夫なんじゃない?」

千聖「あれはお芝居と言っても、ほとんど本人役だったからね……ドラマでやる演技は、映画の時の演技とは全然勝手が違うわよ」

麻弥「あ、ジブンにもそれはなんとなく分かります」

千聖「ドラマの演技は、それこそ脚本家さんや監督のイメージ通りの役をカメラの前で演じなければいけないから、かなり大変よ」

千聖「もちろん共演する役者さんや、プロの先輩方も大勢いらっしゃってるし、当然、スタッフ全員の予定だってあるから……結構大変なのよ」

律「さすが千聖ちゃん、長く女優やってただけのことはあるな……」

 千聖の言葉に感心しつつも、律は再度緊張している彩を励ますために言葉を投げ掛けていた。


律「ふふっ……大丈夫だよ彩ちゃん。こういう日のために、今まで頑張って演技のレッスン受けてきたんだろ? もっと自分に自信持ちなって」

彩「律さん…………」

彩(……うん……律さんの言う通りだよね、この時のために今まで頑張ってきたんだもん……こんな事で負けてなんかいられないよね……)

彩「……はいっ! 律さん、ありがとうございますっ♪」

 先程とは違う、律の素直な励ましに彩は緊張も解けたのか、彩は笑顔で返していた。
218 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:17:32.02 ID:10IwYkZZo
律「……あーそうだ。ドラマと言えばもう一つ話を聞いてさ、千聖ちゃん」

千聖「……はい?」

律「『はぐれ剣客人情伝』って昔あったでしょ、今度あれのリメイクもやるって話があるんだけど……千聖ちゃん、今度は子役じゃなくて主役でやってみない? 良かったら私、上に話してみるけど」

千聖「ま、また懐かしい作品ですね……ええ、ありがとうございます、喜んで受けさせていただきます!」

 律の声に照れ臭いような顔で千聖は俯く。

 それもその筈、律が口にしたそのドラマは千聖にとって縁の深い作品であり、デビュー間もない子役時代に一度だけ出演した事のある時代劇だった。


イヴ「リツさんっ! 私も時代劇、出てみたいです♪ 私のブシドーを、日本中の皆さんにお披露目したいです♪」

律「あははは……ま〜、モノが時代劇だからな……うん、今度、制作会社に行った時にでも話してみるよ」

イヴ「はい♪ よろしくお願いします♪」

 内心難しいだろうとは思いつつ、それでもネガティブな事は言わぬよう、律はイヴに返していた。

 イヴの売り込みをどうしようかと頭の中で組み立てていた時、ふと壁にかけてある時計が目に止まる。

 時刻は既に、律がここに来てから1時間近くの時が過ぎようとしていた。
219 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:18:06.14 ID:10IwYkZZo
律「さてと……やべ、話し込んでたら結構時間経っちゃってたな……みんな、練習はもう良いの?」

麻弥「そうでした、あの律さん……もし宜しければ、少しドラムの事で教えて頂きたいところがありまして……」

律「うん、いいよー、まだ時間もあるし、私もちょうどドラム叩きたいなって思ってたところだから、せっかくだしみんなに手本を見せてやろっか」

麻弥「いいんですか!? あ、ありがとうございます!」

日菜「律さんのドラムって、本場のドラマーって感じがしてかっこいいよね、私好きだなー♪」

彩「うんっ♪ 私も……律さんのドラムって、本当にプロの人の演奏って感じがするよね」

律「ははははっ、みんなありがとねー。さてと……んじゃ、田井中大先輩によるドラムテクニック、とくとご覧あれっ! なんてな♪」

麻弥「はい! よろしくお願いします!」

 にこやかな笑顔でスティックを握り、律は意気揚々とドラムを叩く。

 複雑なリズム、ビートも容易くこなすその姿を、パスパレの全員が尊敬の眼差しで見ていた。

 そしてしばらくの間、律のライブの自主練も兼ねたドラムパフォーマンスは、その夢を追う輝きを持つ少女達の視線を一身に受けつつ、続けられるのだった――。
220 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:18:41.89 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ4日前 Afterglow-

【羽沢珈琲店】

 学校が終わってからの事、課題の片付けや各自委員会に部活など、高校生としての本分にその日の少女達は追われていた。

 瞬く間に時間は過ぎ、夕日が街を染め上げる頃……同じく夕日の名を冠する彼女達……Afterglowの5人は、貸切状態となった馴染みの喫茶店で課題の消化に奮闘していたのだった――。


巴「今日も疲れたな〜、進級してから、勉強の量明らかに増えたよなぁ」

蘭「そうだね……課題も増えてきたし、今日は練習は一旦休んで、課題の片付けに回そっか」

つぐみ「うん、今日はお店も早く閉めるみたいだから、みんなでゆっくり勉強できるね」

ひまり「ほら、モカも座って課題やろうよ〜」

モカ「ん〜〜、モカちゃんはもう終わってるよ〜」

 ここに来る途中で購入した文庫本のページを捲りながら、モカは言葉を返す。


巴「だったらちょっと教えてくれないか? マンガはそれからでも大丈夫だろ?」

モカ「トモちんは分かってないなぁ〜、これはマンガだけどマンガじゃないんだよ〜」

蘭「え……でもその表紙のキャラクター、モカがたまに見てるアニメのキャラでしょ?」

モカ「ふっふっふー、原作は一緒だけど、これはちょっと違うんだよねぇー」

 モカが赤いギターを手にした少女のイラストが描かれた文庫本の表紙を見せながら蘭に返す。

 モカが今から読もうとしていた本、それは、モカが毎週見ているアニメ作品の原作小説だった。
221 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:19:24.37 ID:10IwYkZZo
つぐみ「そういえば、最近多いよね、マンガとかアニメの小説ってさ」

巴「あこもそういう小説……ライトノベルっていうんだっけ? 結構好きなんだけど……アタシはダメだぁ、文字が多いと頭ん中爆発しそうになるんだよなぁ……やっぱ、絵でスカッと見たいタイプだからな〜」

蘭「漫画の小説か……それなら私も読めるかも……」

ひまり「まぁまぁ……その話は一旦置いといて、まずは課題の片付けやっちゃおうよ」

巴「ああ、そうだな……ほら、モカもここ座って、課題の片付け手伝ってくれ」

モカ「は〜い」

 巴の言葉に従い、モカはテーブルに着く。

 それからしばらく、5人は互いに助け合いつつも、課題の処理に奮闘するのであった。
222 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:20:10.08 ID:10IwYkZZo

-数時間後-

巴「ん〜〜〜〜……なんとかキリの良いとこまで片付けられたな……みんなはどうだ?」

 背伸びをしながら巴は皆に問いかける

 その言葉に合わせ、各々が声を返していた。

 皆、巴と同じように丁度終わりの目処が着いていたようだ。


つぐみ「うん、私も、あとは自分でできそうだよ」

ひまり「蘭、モカ、ありがとね、あとは自分でやってみるよ♪」

蘭「ううん、私もひまりのお陰で助かったよ、ありがと」

モカ「いいえー、このお礼はひーちゃんの手作りお菓子でねー」

ひまり「うんっ、まっかせて♪」

モカ「さてさて……それじゃーモカちゃんはさっきの続きを〜♪」

 筆記具を片付けるや否や、すぐさま読書の続きに取り掛かるモカだった。


モカ「お〜、そっか〜、この子、あの時はそーゆー気持ちだったんだ〜、へ〜〜」 

巴「ふふっ、モカのやつ、楽しそうに読んでるな……」

蘭「私も、後で借りて読んでみようかな」

ひまり「でも、元は同じ作品なんでしょ? アニメと小説ってそんなに違うものなの?」

モカ「ぜ〜んぜん違うよ〜、小説だとマンガやアニメとは違って各キャラクターの心理描写も細かく丁寧に描かれてるしー、なんといっても情景が自分でイメージできるのがいいんだよね〜」

モカ「それに、これはアニメとは設定が全然違ってるから、これはこれで別のお話って感じがしておもしろいよ〜♪」

巴「へ〜、そう言うものなのか」

 モカの言葉に感心したような素振りで巴は返す。

 巴と同じように、蘭もまた、モカの言葉に同意の意を示していた。
223 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:20:41.62 ID:10IwYkZZo
蘭「情景が自分で想像できる……か、うん、モカの言ってること分かるかも。私も小説読む時、結構イメージとか頭の中に浮かびながら入ってくるんだ」

ひまり「あ、だからなのかな? 蘭の書く歌詞って、割とイメージしやすいんだよね」

巴「ああ……きっと、読んだり書いたりしてるのに慣れてるから、アタシにも蘭の歌詞が伝わりやすいのかも知れないな」

ひまり「蘭って、実は小説家になれる才能があったりして……♪」

蘭「やめてよ……そんな訳ないでしょ」

 照れるようにそっぽを向きながら、蘭は返していた。


巴「はははっ、前にモカとつぐもマンガ描いてたし、今度は蘭が小説を書くってのも面白いかもな」

ひまり「うんっ♪ ねえねえ蘭、今度小説の新人賞狙ってみようよ、結構良いセン行くかもよ?」

蘭「やらないよ……小説書いてる暇があったら、一つでも多く歌詞書きたいしさ」

つぐみ「みんな課題お疲れ様ー、はい、どうぞ、紅茶淹れてみたよ」

蘭「うん。つぐ、ありがと」

モカ「おー、ありがと〜……う〜ん、今日もツグってる味がする〜♪」

つぐみ「ふふっ、ありがとね」

 つぐみの淹れてくれた紅茶を口に含み、満足そうな顔で返すモカ。

 そんなモカの顔を見て、つぐみもまた笑顔で返していた。
224 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:21:29.65 ID:10IwYkZZo
巴「そういや、今モカの読んでるマンガ……いや、小説か、どんな話なんだっけ?」

ひまり「ええっと確か……女子高生ガールズバンドが主役の青春物語だと思ったけど」

つぐみ「笑いがあって感動もあって……私もこの子達みたいに頑張りたいなって思う所、結構あったんだぁ」

巴「へ〜、なんだかアタシ達みたいな話だな……ちょっと興味湧いてきたよ、一体どんな話なんだ?」

 巴に振られ、その物語のあらすじを、皆にも伝わるようにモカは簡単に説明する。


モカ「うん、小さい頃、歌がとても好きだった、一人の女の子がいたんだ〜」


 ――しかしその少女は幼い頃、その大好きな歌を馬鹿にされて以来、自分や歌に対して臆病になってしまい、一人寂しい高校生活を送っていた。

 そんな主人公の少女がある日、星の導きにより、一つの赤いギターを見つけた事をきっかけに物語は動き出す。


 音楽への情熱を取り戻し、大好きな歌を歌うため、バンドを結成するために邁進する少女。

 様々な困難を乗り越え、音楽にひたむきに、一生懸命に向き合う主人公の姿に感化され、次々とバンドメンバーが集まり、遂にそのバンドは結成され、少女達は更なる夢を追い続ける……という内容だった。
225 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:23:39.62 ID:10IwYkZZo
モカ「蘭も読んでみるー? ライブのシーン、結構面白いよ〜」

蘭「……うん、ちょっと見てみるよ」

 モカから文庫本を手渡され、蘭は栞の挟んであるページを開く。

 そのページは、その物語の見せ場の一つ、ライブのシーンだった。

 少女達の音楽に対するひたむきな姿勢にどこか感情移入しつつ、蘭は一心に物語を読み進めていた。


蘭「…………」

 そしてしばらく、蘭はページを閉じ、文庫本をモカに手渡しながら口を開く。


蘭「…………うん、良かったと思う。モカ、ありがと」

モカ「いいえ〜、どう、面白かったでしょ?」

蘭「そうだね……ライブの描写もそうだけど、演奏する登場人物の気持ちもしっかり書かれてて、結構本気で読めたよ」

モカ「うんうん〜、この主人公の子、なんとなーく蘭に似てるよね〜♪」

蘭「ふふっ……どうかな……あたしはここまで不器用じゃないと思うけど」


蘭「……なんだか演奏したくなってきた……っても、今からじゃ演奏できないし、帰ったら曲造り進めてみようかな」

つぐみ「私も、もう一度演奏の確認しとかなきゃ」

巴「そういえば、あこの自主練に付き合う約束してたっけな」

ひまり「ふふっ……結局、みんなバンドの練習はお休みでも、音楽そのものはお休みにはならなさそうだね」

 そしてしばらく、話題は読書の話から、音楽の話へと移行する。

 ひまりの言う通り、練習は休みでも、皆が皆、好きな音楽を休むことだけはしなさそうだった。
226 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:32:55.82 ID:10IwYkZZo
―――
――


蘭「そういえば、昨日の練習、なかなか良かったね」

巴「ん〜、アタシはまだ少し不安かもな……もう少し自主練しとかないとな」

ひまり「あまり無理はしないでね? 巴、一人だと頑張りすぎる時あるから」

巴「大丈夫だよ、あこもいるし、そんな無茶しないって」

モカ「そういえばつぐ、なんだか昨日はいつもよりツグってたよね〜」

つぐみ「うん、ライブも近いし、私も頑張らなきゃって思って♪」

蘭「そうだね、ライブまであと4日……もうすぐだね」

巴「ああ、アタシもだ、今からすっげー楽しみになってきた!」

モカ「お〜、あついあつーい、蘭とトモちんが燃えてるー」

 ライブへの期待を顕にする蘭と巴。そんな二人の様子を見るモカ、ひまり、つぐみの3名また、ガールズバンドパーティーへの期待を確かに高めていた。


ひまり「ライブ……澪さんにがっかりされないように、私も頑張らなきゃっ……う〜! やっるぞーーっ!」

 拳を上に突き出し、威勢良くひまりは叫ぶ。
227 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:37:04.94 ID:10IwYkZZo
モカ「あのねーひーちゃん、気持ちはわかるけど、ひーちゃんは頑張りすぎず、いつも通りでいいとモカちゃんは思うよー?」

巴「はははっ、モカの言う通り、ひまりはいつも通りが一番かもな」

蘭「うん、ひまりが頑張りすぎて空回りするの、よくある事だもんね」

ひまり「も〜、みんなひどーい! せっかくやる気出したのに〜!」

つぐみ「あはははっ。でも、ひまりちゃんの気持ち、分かるよ……あのお姉さん、私達の演奏楽しみにしてくれてたもんね」

ひまり「うん……だから、澪さんにも精一杯楽しんでもらえるように、私ももっと練習しとかないと……蘭もそう思うでしょ?」

蘭「…………」

 ひまりの問いかけに蘭はしばし口を閉ざし、自身の考えを巡らせる。


蘭「…………別に、誰が来てもあたし達のやる事は変わらないよ」

蘭「いつだって……どこでだって、あたし達はあたし達、『いつも通り』のあたし達で……ライブでも『いつも通り』、全力で歌う……そうでしょ」

 言葉を紡ぐ蘭の眼に、確かな決意が宿る。
228 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:38:03.16 ID:10IwYkZZo
巴「ああ……蘭の言う通り、だな」

モカ「あたし達はあたし達の、『いつも通り』の歌を……だね」

つぐみ「うん! ライブ、みんなで頑張ろうね!」

ひまり「えへへへ……うんっ! そうだね!」

 蘭の意思に呼応するように、4人の胸中に決意が宿る。

 それは、少女達が抱く純粋な想い。

 いつだろうと、何処だろうと、誰の前であろうとも変わらない、彼女達が今を生きる輝きだった――。



ひまり「よーし! みんなやるよ! えい! えい!……」

蘭「………………」

巴「いや……それは何か違わないか?」

つぐみ「あまり大声で騒ぐと、お母さんに怒られちゃう……」

モカ「ひーちゃん空気読めてな〜い」

ひまり「も〜〜〜〜!!! みんなのばか〜〜〜〜!!」

 顔を膨らませ、ひまりは叫ぶ。

 そんな彼女を、4人の優しい笑い声が包み込む。

 静かな店内は、今日もいつも通り変わらない、5人の笑い声で賑わっていた――。
229 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:38:34.78 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ3日前 ハロー、ハッピーワールド!-

 それぞれの学校が終わってからすぐの事、こころ達ハロー、ハッピーワールド!もまた、CiRCLEでライブに向けての調整に勤しんでいた。

 こころの思いつきにはぐみと薫が便乗し、それを美咲(ミッシェル)と花音が宥めることの繰り返し。それが、普段のハロハピの練習光景であった。

 ……だが、その日の練習は普段以上に慌ただしく、和やかな練習となっていた。


【CiRCLE カフェテリア】

美咲「うぅ……今日は本気で疲れた……」

 着ぐるみを脱ぎ、私服に戻った美咲はカフェのテーブルで一息つく。


花音「美咲ちゃん、お疲れ様。アイスティー買ってきたんだ、良かったらどうぞ」

美咲「ああ、花音さん。……ありがとうございます」

 差し出されたアイスティーを有り難く受け取り、一口流し込む。

 程よく冷やされた紅茶が火照った身体をクールダウンさせ、練習で疲れた美咲の身体を内側から癒やしてくれていた。
230 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:39:23.80 ID:10IwYkZZo
美咲(そういえば……ここって何故か足湯があったっけ……あとで浸かってみよっかな)

花音「今日のこころちゃん達、すごく楽しそうだったね」

美咲「ええ……こころのやつ、いきなり予定にないことやるんですもん……抑えるの大変でしたよ……」

花音「あははは……本当にお疲れ様だったね……」

美咲「花音さんもありがとうございました、私一人じゃあの子達を抑えるのキツくて……」

花音「ううん、私は大丈夫だよ。でも、ライブまであと3日かぁ……なんだか、あっという間だね」

美咲「……緊張、してます?」

花音「うん……少しだけだけどね」

美咲「まぁ、私も全然緊張してないって言えば嘘になりますけど……あの3人を見てると緊張も吹き飛ぶと言いますか……そんな余裕もないって感じです」

 乾いた笑いを浮かべながら、美咲は隣のテーブルで話し込んでいる3人を見る。


こころ「演奏の最後には花火でドーン!ってやって、5人でお客さんの所に飛び込んでいくっていうのはどうかしら?」

はぐみ「うんうんっ! こころん、それ、すっごく面白いと思う!」

薫「ああ、なんて儚く、粋な演出だろうね……」

 美咲達の苦労を他所に、こころ達はライブの演出の話で盛り上がっていた。
231 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:40:54.28 ID:10IwYkZZo
美咲「こころってば……またとんでもない事言いだしてるし……」

花音「あはははは…………」

こころ「ねえ美咲! 私達の演奏が終わったら、最後にみんなで……」

美咲「却下だよ、花火やった上に客席にダイブだなんて危ないこと、できるわけないでしょ。誰かケガでもしたらどうすんの?」

こころ「……それもそうね、美咲、ありがとっ!」

はぐみ「みーくんすごいねー、こころんが言おうとしてた事、全部分かってたみたいだよ」

薫「フフッ……美咲には、人の心が読めるのかも知れないね」

はぐみ「えーー! すっごーい! みーくんってそんな能力があったの!?」

美咲「いやいや、私にそんな能力ないから。ていうか、あんだけ大きい声で話してりゃ誰だって聞こえるって」

 そんなやり取りも交えつつ、こころは再びはぐみと薫と共に演出の案を出し合っていた。


こころ「それじゃあこういうのはどうかしら? 演奏の途中で私とミッシェルが……」

花音「ふふふっ……みんな、本当に楽しみにしてるんだね」

美咲「多分ですけど……ほら、前にパーティーで会ったあの人達……」

花音「うん……紬さんと菫さん、だったよね」

美咲「あのお二人が来てくれるって言ってたからだと思います、こころ達がライブに向けてあんなにはしゃいでるのって」

花音「うん、きっとそうだね……あの人たちだけじゃなく、来てくれる人たち全員の期待に応えられるように、私達も頑張らないとね」

美咲「ええ……そうですね」

 互いに美咲と花音は頷き合い、ライブへの決意を固めていく。

 そして――。
232 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:41:48.01 ID:10IwYkZZo
女の子「ふぇぇぇん……おかーさん、おとーさん、どこにいっちゃったのー?」

 カフェからやや離れた街道、そこを、一人の女の子が泣きながら歩いていた。


はぐみ「ねえねえこころん見て! あそこに泣いてる子がいるよ!」

こころ「あら……迷子かしら? みんなで笑顔にしてあげましょ!」

薫「ああ……笑顔パトロール隊、久々の出動だね♪」

こころ「ええ、そうね♪ 美咲! 花音! 行きましょ、笑顔パトロール隊、出動よっ♪」

花音「ふえぇぇ……みんな、ちょっと待ってよ〜」

美咲「ちょっとみんなー、いきなり飛び出したらあの子もびっくりするでしょー! おーい、待ちなってばー!」


 こころ達は走り出す、一つでも多くの笑顔を咲かせるために。

 場所を、人を問わず、こころ達は、今日もありのままでいる。

 その笑顔が放つ輝きは、今日もまた、世界を笑顔に変えていくのであった―――。
233 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:42:41.29 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ2日前 Roselia-

 ライブに向け、個々のバンドの準備は着実に進んでいく。

 それは、青き薔薇の紋章を掲げた彼女達……Roseliaも同じである。

 彼女達の練習は連日のように行われており、他のバンドのそれとは比較にならない程の熱が込められていた――。


【某スタジオ】

 ――♪ ――――♪ ――……♪

あこ「……っ! あっ……」

友希那「ストップ。あこ、また外したわよ」

あこ「すみません! もう一度お願いします!!」

友希那「……これで3回目よ……もっと集中して貰わないと困るわ」

あこ「ごめんなさい……」

 あこの謝罪をやれやれと言った様子で受け入れ、友希那は再度マイクの前に立ち、息を整える。

 そんな友希那に向け、リサが声を上げていた。
234 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:43:14.51 ID:10IwYkZZo
リサ「待って友希那っ、あのさ……一度休憩にしない?」

紗夜「今井さんに賛成です、明らかにパフォーマンスが下がってきているようですし、一旦休憩を挟むべきだと思います」

友希那「リサ、紗夜も……でも、まだ始めてからそんなに時間は……」

リサ「初めたばかりって……もう2時間以上もぶっ通しで練習してんだよ? アタシもそろそろ限界だよー」

燐子「私も……できれば少し……休憩を……」

 皆の声に友希那は壁にかけられた時計を見る。

 確かにリサの言う通り、既に練習を始めてから2時間半もの時間が経っていた。


友希那「……そう、もうそんなに経っていたのね……全然気付かなかったわ」

 友希那が背後のメンバーを見る。すると、確かにメンバー全員の顔に、疲労の色が伺えていた。

 このまま無理に練習を続行するのは、却って演奏の質を落としてしまう事に繋がるだろう。

 練習を続行したい気持ちを抑え、友希那は3人の提案を快く受け入れていた。
235 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:43:46.87 ID:10IwYkZZo
友希那「……分かったわ、このまま続けても悪い流れになりそうだし……少し休憩にしましょう……あこも、さっきは悪かったわね」

あこ「そんな……あこの方こそすみませんでした」

リサ「はいはい、二人ともそのぐらいにしときなって。そうだ、アタシ、クッキー焼いてきたからさ、みんなで食べよ、ね?」

あこ「うんっ、リサ姉のクッキー、楽しみだなぁ♪」

 リサの言葉に先程の様子とは一変し、嬉々とした様子で準備に取り掛かるあこだった。

 その様子を見た燐子と紗夜もまた、テーブルを並べては休憩の準備に取り掛かっていた。


友希那「…………私もまだまだね……少し、外の空気を吸ってくるわ」

リサ「うん、お茶の用意しておくから、気をつけてね」

 スタジオの扉を開け、友希那は席を外す。

 普段とは違う、やや疲れを感じさせるその足取りを、静かにリサ達は見守っていた。
236 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:44:33.89 ID:10IwYkZZo
リサ「友希那……大丈夫かな……」

紗夜「湊さんに限って身体を壊す程の無理はしないと思いますが……それでも、少し心配ですね」

あこ「最近の友希那さん、特に集中してますよね」

リサ「あ〜、それは、たぶん前にあの人に会ったからじゃないかな」

あこ「あの人って、前に桜が丘で会った……」

燐子「中野梓さん……の事だね」

リサ「うん、あの人と話してから友希那、前以上に音楽にのめり込むようになったみたいでさ……今度、ちゃんと身体休ませるように言っておかなきゃ」

紗夜「集中する事は悪いことではないですが……身体を壊してしまっては元も子もないですからね」

あこ「今度、みんなでどこか遊びに行きたいですね」

リサ「そうだねー、気分転換に旅行なんてのもいいよね♪」

 などと言った会話をしつつ、休憩の準備は進められる。

 それから程なくして友希那が戻ってきた頃、テーブルの上にはリサのクッキーと燐子の淹れてくれたお茶が並び、疲弊した身体と心を癒やす為の、ささやかなお茶会が開かれるのであった。


あこ「ん〜〜〜〜〜……リサ姉のクッキーにりんりんのハーブティー、すっごく美味しい〜〜♪」

リサ「あはは♪ ありがと、たくさんあるからどんどん食べてね。ほーら、友希那も、可愛いネコさんクッキーだよ♪」

友希那「ふふっ……ええ、美味しいわ……ありがとう、リサ」

紗夜「今井さん、今度また、お菓子の作り方を教えてもらってもいいかしら?」

リサ「うん、いつでもいいよ♪ そだ、友希那も今度一緒にお菓子作り、やってみない?」

友希那「私は遠慮しておくわ、リサ程上手にできなさそうだもの」

リサ「こういうのは上手い下手とかじゃないよ、みんなで楽しくやるのが大事なんだって♪」

友希那「ふふふっ……そうね、機会があったら……是非見学させてもらうわ」

リサ「うん、それじゃあ近い内にね♪ 楽しみになってきたなぁ」
237 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:44:59.41 ID:10IwYkZZo
―――
――


燐子「そうだ……あこちゃん……今度のNFOのイベント……楽しみだね」

あこ「うんっ! ライブが終わった次の日に配信だったよね、確かタイトルは……」

紗夜「『黄昏の剣と蒼き荊棘の共闘』……ですね、私も少し興味があります」

リサ「それって、どんなイベントなの?」

あこ「うん、NFOの世界に黄昏騎士団っていうグループと、荊棘戦士団っていうグループが現れて。陣営を決めてその人達と対決したり、共闘したりして進めていくイベントなんだー」

あこ「……でも、『けいきょく』って、一体どういう意味なんだろう?」

紗夜「荊棘……いばらと読んで、中国語ではバラを差す言葉の事ね。『蒼き荊棘』とはつまり、青い薔薇っていう意味よ」

リサ「へ〜、黄昏……つまり夕日と、青いバラの共演かぁ……はははっ、なんだか私達みたいだね」

紗夜「ええ、私達も以前、夕日を表す人達と共演したことがありましたね」

友希那「そうね、懐かしいわ……」

 友希那達の脳裏に蘇る、以前繰り広げられた2マンライブ。それは、AfterglowとRoseliaの初めての共闘ライブの事だった。
238 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:45:39.38 ID:10IwYkZZo
燐子「あの時の皆さん……凄く……盛り上がってましたね……」

リサ「またやりたいよね、対バンライブ」

あこ「うんっ! お姉ちゃんとライブで演奏、すっごく楽しかったな〜」

紗夜「ガールズバンドパーティーが終わったら、また美竹さんに提案してみるのもいいかも知れませんね」

友希那「……もちろん、『FUTURE WORLD FES.』に向けての練習も欠かさずにね」

一同「………………」

 友希那のその言葉に、全員の表情が引き締まる。

 『FUTURE WORLD FES.』……それは先日、Roseliaが苦労の果てにようやく掴んだ夢への挑戦権であり、Roseliaの目標の一つ。

 そのイベントに出場することこそが友希那の以前からの夢であり、今の湊友希那が舞台に立ち、歌い続ける理由だった。


リサ「うん、みんなでようやく掴んだ夢だからね……!」

紗夜「はい、そのためにも、今以上に腕を磨かないと……」

あこ「はい! あこも、もっと、もっと練習します……いつか、お姉ちゃんにだって負けないぐらい……上手に……!」

燐子「私も……更に上を目指さないと……」

友希那「ええ……でもまずは、ガールズバンドパーティーを成功させることが先決よ、ライブまであと2日、みんな、最後まで気を抜かずに頑張りましょう」

 友希那の言葉に頷き、Roseliaの5人は決意を込めて立ち上がる。


リサ「うん、さーってと……練習頑張ろっか」

あこ「へへへ、リサ姉のクッキーとりんりんのお茶のおかげであこ、HP満タンだよ♪」

燐子「ふふっ……あこちゃん……ありがとう……」

紗夜「湊さん、曲の出だしはどうしますか?」

友希那「そうね、もう一度、さっきの所から始めましょう」

 再び彼女達は楽器を手に、音を紡ぐ。

 少女達の魂が、輝きが……楽器を、喉を通してスタジオ中に響き渡る。

 頂点を目指す少女達が放つその情熱の輝きは、今日も強く、また鋭く……研ぎ澄まされていく――。
239 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:46:11.26 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ前日 Poppin'Party-

 放課後になり、彼女達はすぐさま一つの場所を目指し、歩み始める。それが彼女達の、ここ最近の日常だった。

 ――Poppin'Partyの5人は、今日も市ヶ谷有咲の蔵に集まり、練習に明け暮れていた。


【市ヶ谷家 蔵】

 ――♪ ―――♪

香澄「やったぁー! 今の演奏、完璧だったね!」

沙綾「うんっ♪ みんな、歌も演奏も大丈夫だったと思うよ」

りみ「通しで演奏、緊張したぁ〜……」

有咲「ああ、もう衣装も仕上がったし、あとは明日に備えてみんな、身体を休めておいた方がいいんじゃねーか?」

たえ「有咲の言う通りだね……どう香澄、大丈夫? 疲れてない?」

香澄「だいじょーぶ! 平気だよ、おたえ、ありがとうっ♪」

 たえの言葉に香澄は元気良く返す。

 ここ数日、学校生活と並行して練習しているにも関わらず、香澄は微塵も疲れた様子もなく、練習に向き合っていた。
240 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:48:40.52 ID:10IwYkZZo
りみ「ふふっ、香澄ちゃん、すごく気合入ってるね♪」

香澄「うんっ! 唯さんも見に来てくれるって言ってたし、もう明日が楽しみで楽しみで……♪」

沙綾「あははっ、香澄、ホント唯さんのことになると元気だよね」

有咲「元バンドのギタリストでしかもメインボーカル……まさに香澄からすりゃ大先輩ってとこだもんなぁ」

たえ「うん。そのおかげで、前以上に香澄の演奏、上手になったよね」

沙綾「そうだね、難しいリフもどんどん弾けるようになってたし……香澄、この1週間で凄く成長したと思うよ」

有咲「香澄ー、分かってると思うけど、お客さんは唯さんだけじゃないんだからなー、そこんとこ、ちゃんと覚えとけよー?」

香澄「だいじょーぶだよっ、唯さんだけじゃなくって、聴きに来てくれるお客さん全員のためにも頑張るからさっ!」

有咲「ならいいんだけどな……」

 元気に返す香澄を見やりつつ、やや寂しそうに有咲はぼやいていた。


たえ「やっぱり有咲、少し妬いてる?」

有咲「だから誰も妬いてねえっての! ……ったく、なんか一気に疲れて来た……なあみんな、明日に備えて、今日はもう早めに練習切り上げようぜ」

香澄「うん、そうだねっ」

沙綾「私、今日もいっぱいパン焼いてきたから、みんなで食べよっか」

りみ「わぁ……沙綾ちゃん、いつもありがとう♪」

有咲「私、お茶でも淹れてくるよ。おたえ、手伝ってくんねーか?」

たえ「うん、いいよ♪」

 有咲の提案に乗り、全員で休憩の準備に取り掛かる。

 和やかな空気が蔵全体に流れ込み、安らぎに満ちた一時が訪れる。

 それから程なく、香澄と沙綾は仲良く談笑をし、その傍らではりみとたえが課題の続きをやったりと、各々が自由に過ごしていた時の事だった。
241 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:49:32.74 ID:10IwYkZZo
香澄「それでね、その時あっちゃんがね〜」

沙綾「あはははっ、そんな事があったんだ」

りみ「ねえ有咲ちゃん、数学のこの部分なんだけど……教えてくれないかな?」

有咲「どれ、ちょっと見せてみ……ああ、ここか、これはこのxの所をyでくくってだな……」

りみ「あ〜、そっか、うん! 分かったよ、ありがとう有咲ちゃん♪」

たえ「有咲、この漢文なんだけど……」

有咲「あ〜〜、ちょっと待て、一旦ゲーム中断する」

 たえとりみの声に有咲はスタートフォンの画面を閉じ、二人の宿題に向き合うことにする。

 こうして各メンバーの勉強を見ることも、優等生としての有咲にはよくある光景の一つだった。

 そして、ひとしきり宿題も終えた頃――。


有咲「あーくそ、またフルコンミスった……」

たえ「ねえ有咲、さっきから何のゲームやってるの?」

有咲「ああ、音感の鍛錬になると思って音ゲーをな」

 有咲が画面を見せながらたえに返す。

 有咲がプレイしているゲーム……それは今、学生世代を中心に流行っているスマートフォン専用の音楽ゲームだった。
242 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:50:29.89 ID:10IwYkZZo
たえ「これ、今テレビでCMやってるやつだね」

有咲「ああ……最初は簡単だと思ってやってたんだけど、やってみたらなかなか本格的でな、ストーリーも結構面白いし、結構楽しくってさ」

香澄「それ、クラスの子もやってたよ、私も前から興味あったんだ〜」

りみ「そのゲーム、前にテレビで特集してたけど、結構難しそうなんだよね」

沙綾「へ〜、今はこういうゲームが流行ってるんだね」

 有咲のゲームに興味津々と、全員がスマートフォンの画面を覗き込んでいた。


たえ「あ、この曲知ってるよ、昔流行ったアニメの歌だよね?」

香澄「懐かしいなー、よくあっちゃんと一緒に見てたよ、このアニメ」

有咲「結構有名どころの歌もカバーされてるからなぁ。だからなのか、プレイヤー層も小学生から大人まで、結構幅広いんだと」

たえ「ふ〜ん、ねえ有咲、ちょっとやらせてもらってもいいかな?」

有咲「別にいいけど……」

 たえは有咲からスマートフォンを受け取り、有咲の指示に従いながら画面を操作する。


有咲「演奏だけど、青いシンボルはタップで、緑はラインに沿ってスライド、赤はタイミングに合わせてフリックさせて、黄色は必殺技の発動で……」

たえ「……? うん、よくわからないけど、とりあえずやってみるよ」

 ゲームの簡単なレクチャーを受けたたえは『フリーライブ』と表示された部分をタップする。

 その画面には、ゲーム内に収録されている、様々な曲が並べられていた。


たえ「あ、この曲懐かしい、これにしよっと」

 たえの指が一つの曲で止まる。
243 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:51:04.24 ID:10IwYkZZo
有咲「っておいおたえ、そのレベル、私もまだフルコンできないぐらい難しいレベルなんだけど……」

たえ「え、そうなの?」

 そして、EX26と表示されたレベルの曲が始まり……。


たえ「えっと、こう……かな、あ、できた♪」

 有咲の心配をよそにリズムに合わせ、たえは的確にゲームを攻略していく。

 流れるように上から降ってくるシンボルをはじめ、慣れていても躓くような変則的な難所も容易くクリアし、着実にたえはコンボを繋げていく。


有咲「うわ……あの難所もあっさり攻略しやがった」

たえ「始めてやってみたけど、結構楽しいね♪」

 そのまましばらく、たえはコンボを途切れさせることなくゲームをクリアした。

 曲を完走させたゲーム画面には『FULL COMBO!』という表示と共にハイスコアが表示されており、有咲は眼を丸くしてその画面を見ていた。


有咲「初見でフルコンとかマジかよ……おたえ、本当にこのゲーム初めてなのか?」

たえ「うん、似たようなゲームならゲームセンターでたまにやるぐらいだけど」

香澄「おたえすっごーい! ねえねえ有咲、今度は私にもやらせてみて♪」

有咲「別にいいけど……ちょっ! 香澄、近いっての!」

 まるで抱き着かんかと言わんばかりに距離を詰める香澄に向け、有咲は顔を赤面させながら声を上げていた。
244 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:51:53.19 ID:10IwYkZZo
有咲「あ、そういや……イベガチャ今日が最終日だったな……おたえのおかげでスターも溜まったし……一応回しとくか」

香澄「可愛いキャラクターがいっぱいいるねー、ねえねえ、今度は何の画面なの?」

有咲「ああ、イベントガチャだよ、今日が最終日だから、回しとこうと思ってな」

香澄「……ガチャ?」

有咲「簡単に言えばこのゲームでできるクジみたいなもんだよ、欲しいキャラがいるんだけど、これがなかなか引けなくてな〜……」

香澄「へぇ〜、そうなんだぁ」

 ぼやきながら、有咲はイベントガチャの部分をタップする。


香澄「…………♪」

有咲「わかった! わかったからそんなに見るなって! 香澄、やってみたいんだろ?」

 眼をキラつかせながら自分を見つめる香澄の視線に赤面し、有咲は香澄にスマートフォンを手渡していた。


香澄「えへへっ♪ うんっ! 私にまっかせて! こう見えて、クジ運は結構良いんだよっ♪」

有咲「初めて聞いたぞ……まぁいっか、んじゃ頼むわ」

香澄「ここを押せばいいの?」

 有咲の言葉に従いつつ、香澄の指が10回ガチャの部分をタップする。


有咲「ああ、ま、そうそう当たんねえけどな〜」

香澄「わ〜、虹色だー、キレイだね〜♪」

有咲「ってマジかよ!?」
 
 香澄の言葉に有咲は食い付くように画面を覗き込む。

 見れば、画面上には虹色のサイリウムが揺らめいており……レアキャラゲットの確定演出が表示されていた。
245 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:52:53.94 ID:10IwYkZZo
有咲「いやいやいや……いくら確定してるからってそうそう当たったりは……」

 どうせ被りだろうと思う反面、でも香澄ならもしかして……とも期待しつつ、有咲はガチャの結果を見守る。

 すると……。


有咲「おおおおお!! ☆4来た! しかも私が一番欲しかったキャラ!!」

香澄「あはははっ、有咲、すっごく嬉しそうな顔してる♪」

沙綾「なんていうか……この子、香澄みたいなキャラクターだね」

りみ「うんうん、声の感じとか、このポーズも、香澄ちゃんにそっくりだね〜」

たえ「有咲が一番欲しかったキャラって、香澄の事だったんだね」

香澄「えへへへ♪ いいよ、有咲にならいつ貰われても平気だよ♪」

有咲「…………っっ! ご、ごご誤解を招くような言い方すんじゃねえ!! ……ああでも……香澄……あ、ありがとな……」

香澄「ううん、どういたしまして♪」

 顔を紅潮させつつ、有咲は香澄に感謝の言葉を告げる。


香澄「えっと……んじゃあ、私この曲やってみよっと♪」

りみ「あ、有咲ちゃん、その……わ、私もやってみてもいい……かな?」

たえ「私も、もう一度やってみたいな♪」

有咲「ああ、つーか、いちいち許可取らなくてもいいんだけど……沙綾はどうだ?」

沙綾「ううん、私は平気、みんなのやってるのを見てるだけで楽しいよ」

 そして、各々がスマートフォンを回しながら、ゲームに興じていた。

 それはライブの前日とは思えない程にリラックスした空気であり、ライブ前の心境としては、この上なく理想のコンディションでもあった。
246 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:53:35.20 ID:10IwYkZZo
有咲「ったく……おたえはあっさりフルコンするわ、香澄は余裕で☆4引くわ……このゲームを長くやってる私は一体……」

有咲「でもま、こういうのも悪くないのかもな……」

香澄「ねー有咲ー、このスターショップってなーにー?」

有咲「ちょっ……! それは課金の画面だ!! やめろーーー!!」

 みんなで仲良くゲームで遊ぶ、そんな日があってもいいと思いつつ、有咲は4人と共に笑い合う。

 誰よりも、何よりも音楽を愛する少女達の純粋な輝きは、今日もまた、5人の心を照らし続けていた――。

―――
――


香澄「そうだ! あのさ、帰る前に、みんなでCiRCLEに寄ってかない?」

有咲「いいけど……何か忘れ物か?」

香澄「そうじゃないんだけど……みんなで見ておきたいんだ、明日、私達が歌う場所を……」

沙綾「うん、いいと思うよ。ライブ前だし、気持ちが引き締まりそうだもんね」

たえ「じゃあ、もう遅くなってきたから、早めに出よっか」

りみ「うんっ♪」

 自分達の明日の舞台に向かい、少女達は歩き出す……。

 その先で思いがけない再会を果たせる事になるとも思わず、少女達の足はCiRCLEへと進んでいた。
247 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:55:02.59 ID:10IwYkZZo
―――
――



-ライブ前日 放課後ティータイム-

 香澄達が練習に励んでいたその時を同じくして、桜が丘のライブスタジオでは、放課後ティータイムの最後の練習が行われていた。

 社会人として仕事をこなしながらの練習は彼女達に想像以上の負担を強いていたが、それでも彼女達はめげずに集まり、ライブに向け、日々奮闘していたのだった。


 ――♪ 〜〜〜♪

 最後のイントロを終え、唯が大きくフィニッシュを決める。

 そして音が鳴り終わったと同時、ステージ上の全員が大きな達成感を感じていた。


律「よっしゃああ!!! どうにか最後まで演奏しきったぞ!!」

澪「危ない所も多かったけど……なんとか当日までに完成できたな……あああ……良かったぁぁぁぁ……」

唯「わ……私、もうヘトヘト……」

梓「私も……ここまで大変だとは思いませんでした……」

紬「ええ……でも、これで終わりじゃないわ……」

梓「はい、いよいよ明日……ですもんね」

 流れる汗を拭いながら、明日への期待に胸を膨らませる5人だった。

 そんなステージの上の5人に向け、その練習風景を見ていた憂達からも労いの声が飛ぶ。
248 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:56:08.72 ID:10IwYkZZo
憂「皆さん、お疲れ様でしたっ!!」

純「梓も澪先輩もすっごい演奏だったなぁ……本当に久々なのかって思うぐらい凄かったですよ!」

菫「皆様お疲れ様です、すぐにお茶をご用意いたしますので、こちらへどうぞ」

直「先程の演奏、録画しておいたので見てみますね」

 そして、ステージを降りた唯達の眼前には美味しそうなお菓子とお茶が並び、かつて、幾度となく過ごした放課後が始まる。

 憂の手作りお菓子に菫の淹れるお茶……それは過去に、梓達わかばガールズが過ごしていた日の光景でもあった。


唯「ん〜〜〜……憂のお菓子……お、おいしひ……」

憂「うんっ♪ たくさんあるからいっぱい食べてね、お姉ちゃん♪」

律「はははは……唯のやつ、泣きながら食べてる……」

梓「唯先輩と憂のこのやり取りも……凄く懐かしいですね……」

純「スミーレの淹れてくれたお茶も久々だなぁ……前よりもずっと美味しくなってるね」

紬「菫ちゃん、確かティーコンシェルジュの資格を持ってるのよね」

菫「はい、お陰様で、琴吹家にいらっしゃる来賓の方々にもご好評頂いております」

澪「さすが、琴吹家のメイド……」


直「すみません梓先輩、律先輩……動画のこの部分なんですけど……」

梓「あ……私も気になってたんだ、入りが少し甘かったよね」

直「ええ……私もそう思いまして」

律「ん〜、だったら……唯のギターに合わせて、そこから梓が繋げてみるってのはどう?」

梓「そうですね、その方が良いかも知れませんね」

律「じゃあ、私もちょっとアレンジ変えてみっか……」

 直のノートパソコンを見ながら、音楽を生業としたプロによる、細かいチェックが行われていた。

 そんな3人を、純は尊敬の眼差しで見ながら呟く。
249 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:57:08.70 ID:10IwYkZZo
純「凄い……プロの会話って感じがする」

唯「りっちゃんも凄いよね、普段はあんななのに、音楽の事になると顔つきが変わるんだもん」

律「おーい、聞こえてるぞー」

澪「私もここ数日律と一緒に練習してきたけど、仕事の事になると急に真面目になるんだから驚いたよ」

紬「ええ……みんなで集まって練習してた時もよく携帯持ってお外でお話してたみたいだし、凄いと思うわ」

憂「芸能界のお仕事って、大変なんですね……」

律(だーから、聞こえてるっての……照れっからあんま褒めんなよな……)

 照れるような表情で律は頭をかく。

 尚も続けられる周囲の称賛の声を聞こえない振りをしながら、律は演奏のチェックを進めていた。

 そして、その作業も一区切りついた頃。


澪「いよいよ明日か……なんていうか、あっという間だったな……」

唯「うん……大変だったけど、でも、凄く楽しかったよね」

紬「……お祭りの前の楽しさ、そんな感じのする毎日だったわね」

律「個人的には、もうしばらく忙しいのは勘弁だなぁ……疲れすぎてお腹いっぱいだよあたしゃ」

梓「私もです……でも、唯先輩の言う通り、とても充実した1週間だったと思います」

菫「私、学生の頃の学園祭を思い出しました」

律「あ、それ私もだよ、クラスの準備に部活の準備……両方こなしながらもちゃんとできてたもんな、昔は」

唯「意外と、身体って動くもんだよね〜」

律「べっつに、私達だってまだおばさんって呼ぶような歳でもないだろ……そりゃあ、明日の演者に比べたらかなり歳食ってる方だとは思うけどさ」

澪「はははは……確かにそうかも」

 律の声に笑いながら、澪は明日のことを考える。
250 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 00:57:55.85 ID:10IwYkZZo
澪「うん、確かに忙しかったけど楽しかった……でも、それも明日で終わりだと思うと、なんだか少し寂しい気もするな……」

律「みーお、それは違う、明日で終わりなんかじゃないよ」

唯「……うん、明日が終わったらまたそれぞれの生活に戻っちゃうけど、でも、それで終わりじゃないよね」

紬「ええ……またみんなで集まって、こうして演奏ができる日もきっと来るわよ」

梓「いつになるかは分かりませんけど、またやりたいですね……」

澪「みんな……」

澪(そうだ、明日で終わりじゃない……終わりにさせるのは、まだ早いよな)

 皆の言葉に、落ち気味だった気分をどうにか澪は食い止めていた。
251 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:00:01.71 ID:10IwYkZZo
律「でもまさか、最初はビビってライブに出るの渋ってた澪からそんな言葉が聞けるとはねぇ〜」

澪「しょ、しょうがないだろ……? あの時はまだ決心がついてなかったんだし……」

律「ふふっ、けど、そんな澪をそこまで本気にさせたAfterglowの歌かぁ、パスパレのみんなとも仲良いみたいだし、確かに気になるよなぁ」

澪「私もライブを見たわけじゃないからまだはっきりとは言えないけど、あの子達の歌はきっと……ううん、絶対にみんなも盛り上がれる歌だと思うんだ」

律「Pastel*Palettesだって負けないぞー、澪もあの子達のライブを見れば絶対に盛り上がれるさ」

梓「……ふふっ、Roseliaの人達がどんな演奏をするのか、私、楽しみです」

紬「私も、こころちゃん達の……ハロー、ハッピーワールド!のライブ、今から楽しみだわ……♪」

唯「私、明日みんなでやる演奏もだけど、香澄ちゃん達の歌も楽しみなんだ〜、Poppin'Partyのみんなにまた会えるの、楽しみだなぁ」

 皆が皆、明日のライブと、そのライブに出演する少女達の事を思い浮かべていた。


憂「ふふっ、お姉ちゃんたち、凄く良い顔してるね」

純「うん、私も、明日が楽しみになってきたよ」

菫「お姉ちゃん……皆さん、頑張ってくださいっ♪」

直「私達も、応援してます!」

 唯達と同じように、憂達4人もまた、明日への期待に心を踊らせていた。
252 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:01:16.08 ID:10IwYkZZo
―――
――


澪「それじゃあ、今日は早めに帰って、身体を休めとくか」

律「そうだなぁ……あ、待って、その前に私から一言いい?」

一同「……?」

 帰りの支度を始める澪を制し、律は立ち上がり、優しい眼差しを全員に向けつつ声を上げる。


律「みんな聞いてくれ。……もう私達にやれることは全部やりきったし、あとは明日、全部ぶつけるだけだ」

律「唯、澪、ムギ、梓……今日までお疲れさん、仕事も忙しい中、本当に頑張ってくれたと思うよ」

唯・紬「りっちゃん……」

澪「律……」

梓「律先輩……」

 
律「菫ちゃんや直ちゃん、憂ちゃんに純ちゃん達も本当にありがとう、こうして練習に付き合ってくれたり、色々と手伝ってくれたりして、凄く助かったよ」 

律「きっと、誰か一人でも欠けてたらこうはならなかったと思うんだ……だから私……いいや、私達、明日は全力で頑張るから……」

律「みんな……明日は、盛り上がってこーぜえっっ!!!」

一同「――うんっ!」

 その声に合わせ、皆が立ち上がり、大きく頷く。

 律の言葉……それはまさに、まさに宣誓と呼ぶに相応しい鬨の声だった。

 放課後ティータイムのリーダーとして、桜が丘高校軽音楽部の部長としての宣誓……。

 その言葉に込められた力は、疲労困憊にあった全員の気力を最大限まで引き上げ、明日への期待に大きく拍車をかけていた。


 そして、各々が帰り支度を済ませ、車で帰宅する為に駐車場へ向かい、歩いていた時。
253 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:02:20.30 ID:10IwYkZZo
澪「……まさか、律があんな事を言うだなんて思わなかったな」

律「ふふっ、あーゆー鼓舞はよくやるんだよ、私……まぁ、ライブ前の儀式みたいなもんだよな」

梓「パスパレの皆さん、幸せですね……こんな良い先輩にマネージャーやって貰えてるんですね」

紬「ええ、りっちゃんのおかげで私も、元気が出たわ……明日は頑張りましょうね」

律「へへへっ……ああ、楽しみだなぁ、明日の打ち上げのビールはきっと最っ高に美味いぞ〜♪」

澪「……ふふっ、ああ、そうだな♪」


唯「あ、ごめんねみんな。私、ちょっと寄りたい所があるんだ」

澪「ああ……分かった。唯、明日は朝イチで花咲川に行くんだから、遅れるなよ?」

唯「うんっ! 大丈夫! 絶対に遅れずに行くから! じゃあ、また明日ね〜!」

 別れの挨拶と共に唯は駅方面へ向かい、駆けていく。

 その背中を見送りながら、律達はそれぞれの車に乗り込んでいた。


澪「唯のやつ、一体どこに行くんだろう?」

憂「さぁ……お仕事の事で何か思い出したのかなぁ」

梓「……そういえば、本当に良かったんでしょうか、ライブへの参加のこと……演者の人達に言わなくても……」

律「ああ……いいんだよ、みんなライブの演者の子達とは知り合いなんだし、ならサプライズで驚かせるってのも面白そうだろ?」

澪「律のこういう子供みたいなところ、昔から変わってないよな」

憂「ふふっ、さっきの鼓舞もそうでしたけど、そういう所も律さんの魅力なんだと思います♪」

律「はははっ……今日はみんなよく褒めてくれるな〜」

 そして、車は走り出す。

 そのハンドルを握る律の気分と同じように、軽快に夜道をひた走るのであった。
254 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:02:55.44 ID:10IwYkZZo
―――
――


【ライブハウス CiRCLE前】

 放課後が解散してからしばらく。

 明日のライブ会場、CiRCLEの前には唯の姿があった。


唯「なんとなくだけど来ちゃった……明日ここで、みんなとやるんだよね……」

 ライブハウスを前に、唯は一人、その決意を固めていた。


唯「あ……まりなちゃん」

 その時、フロントにいるまりなの姿を見かける。

 まりなに声をかけようと唯がドアの前に立ったその時、明日のライブの告知看板が目に入った。

 チョークで手書きされたそれにはRoselia、Afterglow、Pastel*Palettes、ハロー、ハッピーワールド!らの名前の他、明日出演する多数のバンドの名前が綴られており……。

 その中には、Poppin'Partyの名前と共に『スペシャルゲスト緊急参戦決定!』という煽り文句もはっきりと記されていた。


唯「ふふっ……スペシャルゲスト……かぁ♪」

声「あれ……? 唯……さん??」

 微笑みながらその看板を見ていた唯に向け、背後から声が投げ掛けられる。
255 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:03:40.64 ID:10IwYkZZo
唯「……? あ、香澄ちゃん♪」

 声に振り向くと、そこにはPoppin'Partyの全員が驚いた表情で唯の姿を見ていた。


香澄「びっくりしたぁー……唯さん、こんばんわっ♪」

有咲「どうも、唯さん、お久しぶりです」

沙綾「唯さんこんばんわ、先日はどうもありがとうございました♪」

りみ「でも、一体どうして花咲川に?」

たえ「何かお仕事の関係……ですか?」

唯「あ〜いや……うん、ちょっと用事でね……それで明日、香澄ちゃん達、ここでライブやるんだなって思って、寄り道してたとこなんだー」

 出演について律に口止めされていた事を思い出し、咄嗟に話を誤魔化す唯だった。


唯「香澄ちゃん達は? もしかして……こんな遅くから練習?」

有咲「いやいや、さすがにそんな事は……、まぁ、香澄の思い付きで立ち寄っただけですよ」

香澄「明日になる前に一度……私達が歌う舞台をみんなで見ておきたいと思ったんです」

沙綾「ここに来たら、気が引き締まるって思って来たんですけど……でもまさか今日、ここで唯さんに会えるとは思いませんでしたよ」

唯「ふふっ、そうなんだ……」

唯(香澄ちゃんたちも、私と同じ事考えてたんだね……♪)

 そして、次第に談笑の雰囲気も夜風に流れたかのように静まり返った頃……。
256 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:04:23.44 ID:10IwYkZZo
香澄(――明日……ここで、唯さんに見てもらうんだ……私達の歌を……!)

唯(―――明日……ここで、香澄ちゃん達にも見てもらうんだね……私達の歌を……)

 胸に抱いた決意を確かめるように……唯と香澄達は、ただ無言でCiRCLEの建物を眺めていた。


唯「香澄ちゃん、明日のライブ……期待してるね♪」

香澄「……っ! はい! 私達、精一杯歌いますから、唯さんも応援、よろしくおねがいしますっ!」

唯「うんっ! 有咲ちゃんも、おたえちゃんも、りみちゃんも沙綾ちゃんも、みんな、がんばってねっ!」

一同「はーいっ♪」

 唯の声に明るい返事で応える香澄達だった。


香澄「それじゃ唯さん、お先に失礼します。明日、楽しみにしてて下さいね! あー、早く明日にならないかなぁ〜、ねー有咲っ♪」

有咲「分かったからいちいち抱きつくな! ったく、浮かれるとすぐコレなんだから……」

唯「ふふっ……ほんと、みんな仲良しさんだねぇ」

 香澄達は足取り軽く帰路につく。

 その姿を静かに見送る唯に向け、今度は店内からまりなが声を掛けていた。
257 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:05:16.56 ID:10IwYkZZo
まりな「……あれ、唯ちゃん??」

唯「あ、まりなちゃん、お疲れ様〜」

まりな「あれは香澄ちゃん達……そっか、そういえば唯ちゃん、香澄ちゃん達とは知り合いだったんだよね」

唯「うん、前に職場体験で私の務めてる幼稚園にあの子達、来てくれた事があって、それでね」

まりな「そうなんだ……あははは、世の中って案外狭いんだね〜」

唯「そうだねー、もうびっくりしちゃってさ」

まりな「あ、よかったら入ってく? 立ち話もなんだし、良かったらお茶ぐらい飲んでってよ」

唯「ううん、私ももう帰るところだったから大丈夫だよ、ありがとね♪」

まりな「そっか……ねえ唯ちゃん、ガールズバンドパーティーに出演を決めてくれて……私達に力を貸してくれて、本当にありがとうね」

 唯に向け、まりなは深く感謝の言葉を述べていた。


唯「そんな……私の方こそお礼を言わせて! またみんなで……放課後ティータイムで演奏できるきっかけを作ってくれて、こらちこそありがとうっ!」

まりな「うん……明日……あの子達だけじゃなく、放課後ティータイムにも期待してるからね」

唯「……任せて、あの子達にも負けないぐらいの演奏をしてみせるよ」

唯「りっちゃんも、澪ちゃんも、ムギちゃんも、あずにゃんも、凄く頑張ってたんだ……だから、明日はきっと最高のライブになるよ」

まりな「うん……楽しみにしてる、頑張って……ね」

唯「……へへへっ、うんっ♪」

 笑顔で言葉を発する唯のその瞳には、確かな決意と意思があった。

 明日への期待に胸を躍らせながら、唯は足取り軽く、家路を進む。


 そして……皆が待ち望んだこの日が遂にやってくる。


 彼女達の……少女達の様々な思い、希望、期待に満ち溢れたライブ。


 放課後と五色の輝きが交差するライブ……ガールズバンドパーティーは、いよいよ開催の日を迎えるのであった――。
258 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:07:05.79 ID:10IwYkZZo
#6.放課後と輝きの交錯

 まさか、あの時の再会がこんなにも素晴らしい事になろうだなんて、あの時は誰にも想像できなかっただろうな……もちろん、私にだって想像できなかった。

 些細な偶然が折り重なり、そしてその偶然は、やがて運命と呼べる程に膨らんでいき、私達を巻き込んでいった。


 もうすぐ、始まる。

 私達の放課後が、始まる――!
259 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:09:47.66 ID:10IwYkZZo
【花咲川駅前】

 ガールズバンドパーティー当日の早朝、花咲川の駅前には。始発電車で移動を済ませた唯達5人の姿があった。


唯「ん〜〜……ねむい……」

律「おい唯、しっかりしろー」

澪「これからリハなのに、大丈夫か?」

梓「ほら、唯先輩、起きて下さい」

紬「唯ちゃん、おきて〜」

唯「ん〜〜〜…………」

 眠い目を擦りながら歩く唯を引っ張りつつ、律達は人通りの少ない道を歩き、CiRCLEへと向かう。

 彼女達が早朝から集まった理由、それは、主役の少女達が集まる前に、ライブに向けたリハーサルを行うためであった。
260 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:10:29.40 ID:10IwYkZZo
【CiRCLE ステージ】

まりな「や、みんなおはようー♪」

律「よ、まりな、今日は宜しくな」

まりな「うんっ♪ こちらこそよろしくね」

唯「んんん…………うわぁ〜、広いステージだね〜」

紬「唯ちゃん、やっと目が覚めたのね」

唯「うんっ♪ えへへへ、ステージ見たら一気に目が覚めちゃった」

律「唯も起きたことだし、それじゃー早速準備に取り掛かるか」

 律の声に合わせ、各々が楽器の調整に取り掛かる。

 そして数分後、演奏の準備が完了し、ステージ上にて放課後ティータイムのリハーサルが開始された。


まりな「それじゃあみんな、早速だけどお願いね」

律「ああ……みんな行くぞ。ワン、ツー、スリー!」

 ――♪  ―――♪

 楽器の具合、音の反響や照明のチェック、各メンバーの立ち位置など、細かい点を確認するようにリハは続けられる。

 途中、梓と律の確認により、中断を挟む場面も見られたが、それでも順調にリハーサルは行われていった。


 そして1時間程の時が流れ、5人の最後の曲も問題なく終えられた頃……。
261 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:10:57.65 ID:10IwYkZZo
 ――♪ 〜〜♪

唯「ふぅ……どうにか演奏できたね」

澪「ああ、でも安心するのはまだ早いぞ、本番はあと数時間後なんだから」

律「ん〜……4曲目の照明、もうちょっと落としても良かったかな?」

梓「はい……でも、あまり暗すぎると手元が見えづらくなりそうですよね」

紬「私は平気だけど……澪ちゃんや唯ちゃんは大丈夫かしら?」

 入念にチェックを重ねる5人に向け、曲を聴き終えたまりなから、称賛の声が上がる。


まりな「みんなお疲れさまー。凄いね……本当にここまでやってくれるなんて」

律「ふふ……感動すんのはまだ早いぞ〜、なんたって本番はこんなもんじゃないからな〜」

唯「うんうん、本番はもっと凄くなるよ♪」

まりな「うんっ、楽しみにしてるね」

律「じゃあ、私はもう少し残ってまりなと話詰めとくから、みんなは先に上がっててくれ。あんまりここに長居して、あの子達と鉢合わせたらマズいだろうしさ」

澪「そうだなぁ……RoseliaやAfterglowのみんなももう来るかも知れないし、私達は先に上がってようか」

唯「うん、それじゃありっちゃん、まりなちゃん、また後でね〜♪」

紬・梓「お疲れさまでしたー」

 そして律を残し、唯達4人は退出する。

 律とまりなが話を進めていたその10分後、澪の予想通り、早速一組のグループが楽器を手にスタジオの扉を開いていた。
262 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:11:23.88 ID:10IwYkZZo
友希那「おはようございます。Roseliaです、今日は宜しくお願いします」

律「っと、もう来たか……えらく早いな……」

まりな「あ、友希那ちゃん、おはよー。今日も一番乗りだね」

友希那「別に……ライブ当日の準備に念を入れるのは演者として当然の事ですから」

まりな「うんうん、感心感心。今日はよろしくねー♪」

律(ははは……すげぇやる気……)

 まだ開場まで3時間以上も時間があるというのに、彼女達は既に準備万端と行った様子でスタジオに入っていた。

 そんな友希那達……Roseliaの意識の高さに感心しつつ、律も退席を決めようと入口に向かう。


律「それじゃあまりな、後はよろしくね」

まりな「うん、それじゃあね」

律「っと、ちょっと失礼……」

リサ「あっ、すみません……」

 友希那達の横を通り、律はスタジオを後にする。

 そんな律の姿を片目で追いつつ、友希那達は本番前の最終チェックに臨んでいた。
263 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:12:20.73 ID:10IwYkZZo
リサ「……? あの人は……」

友希那「リサ、集中して」

リサ「あ、うん……ごめん」

律(さすがRoselia……貫禄もすげえな……)

 単に隣を通り過ぎただけでも伝わる、Roseliaの気迫……彼女達が纏うその気迫には、大人の律ですら威圧されかねない程の雰囲気が滲み出ていた。

 そんな彼女達に漂う空気に一瞬だけ身が竦むを感じつつ、律は唯達との合流のため、CiRCLEの建物を後にする。
264 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:13:00.76 ID:10IwYkZZo
―――
――


【ファミリーレストラン】

 朝食がてらに最後の打ち合わせをしようと集まったファミレス、そこに放課後ティータイムの姿はあった。

 まだ注文は済ませていないのだろう、各々の前には、未だに開かれたままのメニューが置かれていた。


律「よ、みんなお待たせ」

唯「りっちゃん、お疲れ様ー」

律「いやー、さっきスタジオでRoseliaと擦れ違ったけど……すげー迫力だったよ……ライブ前なのにあの気迫……もうプロ顔負けって感じでさ」

梓「……そんなに凄かったんですか、友希那さん達……」

律「ああ……ありゃー相当やべえぞ……私達も気合い入れて行かなきゃな」

澪「……律が珍しくやる気になってる」

律「あたしゃいつでもやる気十分だってのっ……てゆーか、腹減ったから早く何か頼もうぜ〜」

紬「あ……私達はもう注文決めたのよ、りっちゃんは何にする?」

律「ああ、あたしカツ丼にする」

 朝食メニューとは別にあるメニューを開き、律は即答していた。


澪「朝からよくそんな重いもの食べれるな……」

律「早朝から深夜まで食い続けられる胃袋がなきゃ人気アイドルのマネージャーは務まらないんだよ」

唯「芸能関係のお仕事って大変なんだねぇ……」

 そして、呼び出しボタンを推し、店員にオーダーを済ませてからしばらく。

 朝食を済ませた彼女達は、最後の打ち合わせを始めていた。
265 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:15:05.49 ID:10IwYkZZo
唯「それにしても……本当に凄いライブだね、朝から夕方までずっと続くなんてさ」

 まりなから受け取ったライブのパンフレットを手に、唯は率直な感想を述べていた。


梓「はい……大人ならともかく、高校生が主体のライブでここまで長丁場なのも珍しいですね」

律「代表の5バンドなんかは特に凄いよな……朝の部に昼の部と出演数も多く割り振られてるし……一体1日に何曲歌うんだ?」

紬「それだけ……代表のバンド演奏には期待が持たれてるって事なのね」

律「ああ……出演するバンドの数も凄いよなー、この辺のガールズバンド、ほとんど全員集合してんじゃないかってぐらいの数だ」

澪「こ、これだけ大勢のバンドがいる中で、スペシャルゲストとして出るんだよな、私達……」

 澪の声色が僅かに震える。

 今更緊張で怖気付いたという訳ではないが、それでも……今日のライブに出演するバンドと、そのバンドを応援をするために駆けつけた人の数を想像するだけで、僅かに身が縮むような感覚がしていた。

 そんな澪の様子をよそに、他の4人はライブへの期待をより強めていた。
266 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:15:40.58 ID:10IwYkZZo
唯「ふふっ♪」

紬「うふふふっ♪」

律「へへっ……唯もムギもやる気だなぁ」

唯「うん♪ これだけ多くの人の前で演奏できるって考えると、なんだか楽しくなっちゃってさ」

紬「私もよ……私達の演奏を、私達が一番輝いてた頃の音をみんなに聴かせてあげられるのが、凄く嬉しくって」

律「はははっ、まー、ここで怖気づいてちゃ私ららしくないしなー、この日の為に散々練習もして来たんだし、今更緊張も何もないよなぁ」

梓「はい……精一杯、やってやるですっ」

澪「私も……もう怖くないぞ……ライブ会場の全員に見せてやるんだ、私達の演奏を……!」

 拳を握り込み、澪は決意を固める。

 そんな澪の姿に感化されたのか、唯と律は再びメニューを手に叫んでいた。


律「よーし! ライブの途中でバテない為にもまだまだ食うぞ〜! トンカツ定食追加だぁ!」

唯「私もっ! チョコレートパフェもういっちょ!」

梓「……あの、お二人共……気合の入れ方、何か間違ってませんか……?」

 そうして、勢いのままにオーダーを済ませ、唯と律の2人は並べられた定食とデザートを瞬く間に平らげる。

 開場まで残り3時間……刻一刻と、着実にその時は近づいて来ていた。
267 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:16:29.75 ID:10IwYkZZo
―――
――


【CiRCLE】

 一方、所変わってCiRCLEには、既に数多くの演者達が揃い、相次いで開演前の準備とリハーサルに勤しんでいた。

 特に大きなトラブルもなく開演準備は進められ……それからしばらく、各バンド共にリハーサルも一通り済んだ頃……。


まりな「はーい! それじゃあみんな、一度フロアに集まって!」

一同「はーーい!!」

 まりなの声に、今回の主役であるバンド全員がステージのあるフロアに結集していた。


まりな「遂にこの日が来たね……みんな、本当にありがとう!」

香澄「はい!! 私達も、この日を凄く楽しみにしてました!」

こころ「私もよ♪ まりな、今日は笑顔の溢れるライブにしてみせるわ♪」

彩「香澄ちゃんやこころちゃんには負けないよーっ、私達、パスパレも頑張ります!」

蘭「うん、この日の為に練習だって欠かさず積んできたんだし……私達、Afterglowも、最高の歌を届けますよ」

友希那「ええ……Roseliaだけじゃない……ここにいる全員の力で、最高のライブにしましょう……!」

 皆が皆、ライブに向けての期待を最高潮に高めていく。

 そして――。
268 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:19:09.50 ID:10IwYkZZo
まりな「それじゃあみんな!! 今日はよろしく! これより、ガールズバンドパーティーを開催しますっ!!!」

全員「はいっっっ!! 宜しくお願いします!!」

 まりなの声に合わせ、ガールズバンドパーティーの開催が告げられる。

 そして、各メンバーの何人かが呼び込みや誘導、受付等に移り、次第にライブハウス内にも次々に人が入り乱れ、ますます賑わいを見せていく。

 そんな中、何人かの少女達は、今日来る筈のゲストの話をしていた。


美咲「そういえば、ゲストの方々はどうしたんでしょう、少なくとも、朝の打ち合わせには来てなかったですよね?」

麻弥「そうですね……一体、どんな人達が来てくれるんでしょう?」

有咲「まりなさんも教えてくれなかったし、まぁ気になるっちゃ気になるよなぁ」

ひまり「もしかしたら朝の内に会えるかもって思ったんだけど、残念だなぁ」

まりな「まぁ、せっかくのゲストだし、みんなにもギリギリまで秘密ってことでね。大丈夫だよ、心配しなくても、みんな来るからさ♪」

リサ(今日のゲストってもしかして……今朝すれ違った人じゃ……)

 顔に疑問符を浮かべる面々に向け、優しくまりなは答えていた。


蘭「……みんな、気になるのは分かるけど、いつまでも喋ってないで早く準備しようよ」

友希那「ええ、美竹さんの言う通り、今はゲストの方達の事よりも、自分達のライブに集中しましょう」

有咲「……友希那先輩の言う通りですね、それじゃ、私達も誘導行ってきます」

 友希那の声に同調するように各々は散会し、準備を進めていくのであった。
269 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:21:00.69 ID:10IwYkZZo
【CiRCLE カフェテリア】

 CiRCLEの外に隣接されるカフェテリアもまた、既に多くの人の姿で溢れ返っていた。


声「今日のライブ、ずっと待ってたんだ〜、ポピパの演奏、楽しみだな〜♪」

声「AfterglowとRoselia、またカッコよく決めてくれないかな〜、前にやってた2マンライブ、超盛り上がってたしさ」

声「パスパレにハロハピも見逃せないよねー♪ あー、待ち切れないよ〜!」

声「そういえば……スペシャルゲストって誰が来るんだろ? 私、そっちも気になってるんだ!」

声「私も! レベル高いバンドだといいねっ♪」

 ドリンクを手に、推しのバンドの演奏まで時間を潰す者や、ライブへも興奮を抑えきれずにいる者など、様々な人で賑わうカフェを眺めながら、放課後ティータイムの面々は静かにその時を待っていた。


唯「うわぁ……凄い数の人だねぇ」

澪「ああ……本当に始まったんだな……」

紬「ふふふっ、ええ……楽しみになってきたわね……」

梓「緊張……じゃないですけど、なんだか体が震える感覚がします……武者震いって言うんでしょうか」

唯「ん〜……りっちゃん、早く来ないかなぁ?」

 唯達が用事で離れた律を待つことしばらく……ようやく律はその姿を現す。
270 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:23:58.06 ID:10IwYkZZo
律「よ、お待たせ」

唯「あ、りっちゃ……って、なーに? その格好」

梓「律先輩……随分雰囲気変わりましたね」

律「しゃーねーだろ、パスパレのみんなには今日出張でいないことにしてるんだし、変装ぐらいしないとすぐにバレちゃうからな」

 唯の指摘に律はワックスで整えた前髪をいじりながら言う。

 前髪を下ろし、服装も化粧も普段とは違う今の律の姿は、とても普段の彼女からは想像できない雰囲気を醸し出していた。


紬「うん、落ち着いた大人の女性って感じがして、私は良いと思うわ」

澪「ほんと、こういう格好してる時は律も別人だよな…………」

律「あの子達には普段スーツ姿で髪上げた格好しか見せてないからなぁ、これでグラサンでもかけりゃー……ほれ、ぱっと見で私とは分かんないっしょ」

 言いながら持参したサングラスをかけ、律は笑みを浮かべる。


唯「お〜、りっちゃんかっこいい!」

律「へへんっ、だろ?」

 まるで有名モデルを前にしたような顔で唯は驚きの声を上げていた。


唯「そうだ! やっぱりあずにゃんもこうしようよ♪」

梓「ちょっ……唯先輩っ、何するんですか、やめてください!」

 おもむろにカバンからヘアゴムを取り出し、唯は器用に梓の髪を2本に纏めはじめる。
271 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:24:50.80 ID:10IwYkZZo
唯「ふふふっ、練習の時もずっと思ってたんだけど、やっぱりあずにゃんの髪はこうでなきゃね」

澪「はははっ、梓のその髪型も懐かしいなぁ」

紬「うんうん♪ まだまだツインテールも行けるわよ、梓ちゃん♪」

梓「まったく……皆さん、歳を考えて下さい……さすがにこの歳でツインテールなんて恥ずかしいですよー」

律「あーずさ、諦めろ、私だって恥を忍んで髪下ろしてんだからな」

梓「律先輩と違って変装するわけじゃ……ああもう、分かりました、分かりましたよ!」

 渋々ながら梓はヘアゴムで髪をきちんと2本に纏め、昔の髪型を再現していた。

 その姿を感無量といった表情で唯は見つめ、和やかな空気が5人の間に流れていくのであった。

 そして……。
 

憂「お姉ちゃん、皆さん、どうも♪」

唯「あ、憂! みんな〜♪」


純「やっほー、梓、元気だったー?って……うわ〜、懐かしい髪型だね」

梓「純……髪のことは放っといてよ……」


菫「お姉ちゃん、皆様、いよいよですね」

直「みなさん、頑張って下さいっ」

紬「菫ちゃん、直ちゃんも、来てくれてありがと♪」

 憂達わかばガールズの面々も揃い、唯達サイドの面子も相次いで集合してきていた。
272 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:25:27.09 ID:10IwYkZZo
和「みんな、先日はどうも」

唯・憂「あ、和ちゃん♪」

澪「和、和も来てくれたんだ」

和「ええ、秋山澪ファンクラブの会長として応援に来たわよ」

澪「ああ……ありがとう、和も楽しんでいってくれ」

和「そうだ、澪、あとで曽我部先輩も来るって言ってたから、来たら顔、見せてあげてね」

澪「曽我部先輩、懐かしいな……うん、必ず会いに行くって伝えといて」

 和の言葉に懐かしい顔を思い浮かべつつ、笑顔で返す澪だった。


梓「そういえば……純、頼んでおいた衣装は?」

律「そだそだ、私と澪がお願いしといた物も持ってきてくれたよね?」

純「はい、律先輩、澪先輩、こちらをどうぞ……梓も大丈夫、衣装はバッチリ仕上がってるよ♪」

 手に持った袋を澪と律に手渡しながら純は指で合図を送る。

 その指の先に視線を送ると、そこには、疲労困憊の様相でこちらに歩いてくる元顧問の姿があった。


さわ子「はぁ……はぁっ……みんなお待たせ……い、衣装なら……ここにあるわよ……」

律「うわっ、さわちゃん……どうしたのそのクマ……」

唯「髪もボサボサだし……一体何があったの?」

さわ子「これよこれ……今日までに仕上げるの大変だったわよ……」

 さわ子の手には大きめの紙袋が握られており、その中にはさわ子が今日の為に徹夜で仕上げた人数分の衣装が収められていた。
273 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:26:49.82 ID:10IwYkZZo
さわ子「せっかくの元教え子達の再結成の晴れ舞台だもの……憂ちゃんと純ちゃんにも協力してもらって、徹夜して作ったのよ……」

唯「さわちゃん、こんなになるまで頑張って作ってくれたんだね……」

律「気持ちは嬉しいけど……また、とんでもない衣装じゃないよな……」

澪「と、とりあえず開けてみよう……」

 高校の頃の記憶が全員の頭を過る。

 さわ子が作った軽音部時代のライブ衣装……それらのほとんどが人前では着られないような衣装であり、当時の唯達ですら着るのを躊躇うような代物が多かった。

 そんな心配が脳裏を過るのを自覚しつつ、澪は恐る恐る衣装を広げていた。


澪「これは……Tシャツ?」

律「な〜んだ、何の変哲もない普通のTシャツじゃん、別にそこまで苦労するようなもんじゃないでしょ?」

 肩透かし感を喰らいつつ、澪と律は口々に感想を述べる。

 2人の言う通り、それは一見すると何の変哲もない、無地の白いTシャツに見えた。

 しかし……。


唯「あれ、でも裏になにかスイッチみたいなのがあるね?」

梓「これは電池……ですか? 裾の辺りに何か入ってますね」

さわ子「いいから、一回着てみてご覧なさいな」

 さわ子に誘われるがまま、唯はTシャツを着込み、裾にあるスイッチを押す。

 ……すると。
274 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:27:30.04 ID:10IwYkZZo
律「うわっ! ひ、光った!」

唯「えー? 私からじゃうまく見れないよぉ〜」

澪「凄い……一見すると無地のTシャツなのにこんなに明るくなって……これ、LEDで光るTシャツだったんですね」

紬「このデザインは……懐かしいわ……学園祭ライブのTシャツですね」

梓「わぁぁ……凄く、凄く良い衣装ですよ、これ!」

さわ子「ふふっ、みんなのその顔が見たかったわぁ……」

 さわ子が用意した衣装、それは無地の白いTシャツに紫色の星が黄色く縁取られたデザインが施され、その前面には大きく『HTT』という文字が描かれた、唯達にとって思い出のTシャツだった。

 まさしくそれは10年前、放課後ティータイムが高校最後の学園祭で演奏した際に着ていた衣装を再現したものであったが……。

 しかし、それは単なる再現ではなく、Tシャツの各所にLEDが埋め込まれ、スイッチ一つで発光するという、10年前よりも遥かに進化した衣装となっていた。


さわ子「苦労したのよー、1週間しか時間なかったんだし、今日なんてもう寝ずに仕上げてそのまま来たってわけ」

律「さわちゃん……」

澪「先生……あ、ありがとう、ございます!」

紬「ステキな衣装ですね……ありがたく着させてもらいますっ!」

さわ子「ええ、私にここまでさせたんだから頑張りなさいよー? みんなの演奏、あなた達の元顧問として……軽音部の先輩として、しっかりと観させてもらうからね」

唯「さわちゃん先生……」

さわ子「唯ちゃん、あなたの歌も、楽しみにしてるわね」

 疲労の中にも確かな期待が宿るさわ子の眼に、全員の顔が強く引き締まる。

 それと同時に、さわ子と過ごしたかつての記憶が律達の中で思い起こされていた……。
275 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:28:24.54 ID:10IwYkZZo
律(……そういや、さわちゃんって昔っからこうだったよな……)

澪(ああ……3年間、いつも私達のことを見守ってくれていて……)

唯(ギターが下手だった私にいっぱいギターを教えてくれたり……ライブの衣装を人数分作ってくれたり、ロンドンにも応援に来てくれたよね)

紬(ええ……合宿に来てくれたり、夏フェスにも連れて行ってくれて……私の淹れるお茶をいつも美味しそうに飲んでくれてたのも、さわ子先生だったわ)

梓(どこか抜けてて、それでもかっこ良くて……先生っていうよりも、まるで歳の近い先輩みたいな感じで、気付いたらいつも私達と一緒にいてくれましたよね……)


さわ子「……? みんな、どうかしたの?」

律「ううん、いや、ちょっと昔を思い出して……」


律「……さわちゃん、ありがと……さわちゃんの想い、確かに受け取ったよ」

さわ子「……? ええ……私がいて、みんながいた頃の軽音部……桜高の軽音部魂を、会場中に集まってる若い子達に見せつけてあげなさいっ」

唯「うんっ! 私達に任せて!」

律「よーっし! みんな、準備は整ったし、行くか!」

一同「うんっ!!」

 眼前の恩師の言葉に、5人は力強く返す。

 その言葉に合わせ、憂達からもエールが送られる。
276 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:29:55.90 ID:10IwYkZZo
憂「お姉ちゃん、私達も応援してるからねっ」

唯「うんっ! 憂、純ちゃん、和ちゃん……ありがとう!!」

紬「菫ちゃん、直ちゃん、私達の演奏、最前列で見ててねっ♪」

直「はい! お気をつけて!」

菫「うん! それじゃあお姉ちゃん、先輩方、また後で!」

一同「皆さん、頑張ってくださーい!」

唯「はーい! みんな、行ってくるねー!」

 そして、さわ子から託されたTシャツを着たその上に上着を羽織り、放課後は歩き出す。

 揚々とした素振りでライブハウスへ進む放課後に向け、あらん限りの声援が投げ掛けられる。

 1人の先輩と親友、そして4人の後輩……多くの人々の期待を背に彼女達は、その舞台へと大きく足を進ませていた――。
277 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:30:31.81 ID:10IwYkZZo
―――
――


【CiRCLE 受付】

 CiRCLEの受付前、そこは既に多くの人で賑わっていた。

 引っ切り無しに人が往来する中、受付と誘導の手伝いに来ていたPoppin'PartyとPastel*Palettesの面々もまた、来る客の誘導と応対に追われているのが伺える。

 多くの人が入口付近で沙綾と有咲の誘導に従って列を作り、その先の受付では、彩と日菜の2人が笑顔を絶やさず接客を行っていた。


沙綾「はーい、皆さん列を乱さないようにお願いしまーす! って、あ、唯さん!」

唯「や、沙綾ちゃん、やっほー♪」

有咲「どうも唯さん、今日は遠くから来て下さってありがとうございます……そちらの方々は?」

唯「うん、私のお友達も呼んできたんだ、有咲ちゃんもお疲れ様、頑張ってるね」

 自分の後ろに並ぶ律達を軽く紹介し、誘導に従って唯も並び始める。


沙綾「皆さん、今日は早くから来ていただいてありがとうございます。唯さん、香澄ならもう下にいると思いますよ」

唯「うん、あとで顔見に行くよ、ありがとね♪」

 次第に列は進み、そして程なく、彩の前へと唯達は進んでいった。
278 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:31:16.49 ID:10IwYkZZo
女性「彩ちゃん、今日も応援してるよ、頑張ってね!」

彩「はいっ♪ ありがとうございますっ! では、奥へどうぞ♪」

唯「…………あ、あの! 丸山彩ちゃん……ですよね?」

彩「はいっ? あ、えっと……」

唯「あ、あのその……サ、ササササインをを……」

彩「え? あっ、はい」

律「うおっほんっっ! あの、詰まってるんだけど……」

 どこに隠し持っていたのか、唯が懐から色紙を取り出し、流れで彩がペンを持とうとしたうとしたその刹那、背後から物凄い剣幕で咳をする律の声が響いていた。


唯「あっ! す、すすすすみましぇんっっ!」

彩「……え? あ、特別客の方ですね、そのまま奥へどうぞ♪」

 その威圧感に押し出されるようにして、唯は予めまりなから手渡された特別チケットを彩に手渡し、背後の律に背中を押されながら受付を済ませていた。


律「ったく……あ、どうも」

彩「……??」

日菜「………あれは…………ふふふっ♪ ……おねーさん♪」

律「ん……?」

 律の姿を見かけた日菜が含み笑いを絶やさず、優しく声をかける。
279 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:31:56.78 ID:10IwYkZZo
日菜「ライブ、楽しんでってくださいね♪」

律「あ、ああ……ありがと……」

律(受付、日菜ちゃんもいたのか……バレてない……よな)

 努めて冷静に、クールを装いながら律は日菜に言葉を返す。

 そんな律に送られる日菜の視線を受け流しつつも、5人はライブハウスの奥へと歩を進めていった。


彩「……あの人達、なんだか不思議な人だったね」

日菜「あれ? 彩ちゃん、気付かなかったの?」

彩「えっ、な、何のこと?」

日菜「ふふふっ……♪ ライブ、頑張ろうね〜♪ るんるんっ♪」

彩「…………???」
280 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:32:24.53 ID:10IwYkZZo
【CiRCLE ラウンジ】

律「ゆーーーいーーーーーっっ」

 ――ぎゅうううう………


唯「いひゃいいひゃい……! りっひゃん……ご、ごごごごごめんなひゃいいいいぃぃぃ!!」

紬「ほらほら……りっちゃんもそのぐらいにして……」

律「ったく……後で彩ちゃんにもキツく言っとかなきゃな……あんま安売りすんなっていつも言ってんのに……」

 先程の唯の問題行動に対し、怒り心頭の様相で律は唯の頬をつね上げていたが、紬の声により、その手は開放される。

 そして当の唯は、涙目で赤くなった頬を擦っていた。


唯「あーずにゃーん、みおちゃあぁぁん……痛かったよぉぉ」

澪「まったく……さっきのは唯が悪いと思うぞ」

梓「同感です」

まりな「あ、みんなー♪ 今朝はどうもね」

唯「あ、まりなちゃん♪」

 まりなの声に涙目から一変し、唯の顔に笑顔が戻っていた。
281 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:32:57.13 ID:10IwYkZZo
律「よ、まりな、どうかしたの?」

まりな「うん、もうすぐ最初のバンドの演奏が始まるんだけど、ポピパやパスパレの演奏まではまだ少し時間あるからさ」

まりな「今のうちにみんな、知り合いの演者の子達に挨拶とか激励とか、行ってきてあげたらどうかなって思って」

唯「え、いいの?」

まりな「うん、本当は関係者じゃなきゃダメなんだけど、放課後ティータイムのみんなは特別ってことでね」

律「そうだなぁ……って言っても私は行けないからな……あ、そうだ」

 思いついたように律は手に持った袋をまりなに手渡す。


律「まりな、これ、あの子達に差し入れ持って来たんだ、あとでパスパレのみんなに届けてくれないかな?」

まりな「うん、いいよー」

澪「私も、Afterglowのみんなに差し入れ持ってきたんだ、喜んでくれるといいけど」

紬「ハロハピの演奏までまだ時間あるし、私、こころちゃん達に挨拶してくるわね」

唯「私も、ポピパのみんなに挨拶してこよっと♪」

梓「じゃあ、私と律先輩はここで待ってますね」

唯「あれ、あずにゃんは行かないの? Roseliaのみんなと知り合いだったんでしょ?」

梓「あの人達には激励とか、そういうの不要だと思います、友希那さん達の演奏、1回目は最初の方ですし……今行ったら邪魔になると思いますので」

唯「あ、そうなんだね」

梓「はい、ですから私にお構いなく、唯先輩達は皆さんの挨拶に行ってきて下さい」

唯「うん、わかったよ、じゃあまたあとでねー!」

 そして、律と梓の2人を残し、唯、澪、紬の3人は、それぞれがそれぞれの縁ある少女達の元へと向かって行くのだった。
282 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:34:00.75 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ開始前 Pastel*Palettes-


【控室】

 受付をCiRCLEのスタッフと代わり、彩達Pastel*Palettesの面々は控室でメイクのチェックに勤しんでいた。


まりな「みんな、いるかな?」

彩「あ、まりなさん。どうかしたんですか?」

まりな「うん、さっきそこでファンの人から差し入れ届けてもらうように頼まれたから、ここに置いとくね♪」

まりな「あ、もちろん中はちゃんとチェックしてあるから、そこは安心してもらっていいからね」

千聖「わざわざすみません、ありがとうございます」

 まりなに礼を言い、日菜と麻弥は差し入れの袋を開ける。

 袋の中には、以前日菜の話にも出た、桜が丘の喫茶店のパンが詰め込まれていた。
283 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:35:28.66 ID:10IwYkZZo
日菜「あ〜〜、これ、前に律さんと食べた喫茶店のパンだ〜〜♪」

麻弥「へぇー、それが日菜さんが前に言ってた、桜が丘の喫茶店のパンですか」

日菜「うんうん♪ 前にお姉ちゃんもおみやげに買ってきてくれたし、本当にここのパンって、ルンっ♪って味がするんだよね〜♪」

イヴ「どんな味がするのか、楽しみですっ」

千聖「そうね、あとで休憩の時にでも頂きましょうね」


日菜「ふふふっ♪ あーー、そっか……そうだったんだね♪」

彩「……日菜ちゃん、さっきからすごくご機嫌だね……ほんと、どうしたんだろ?」

日菜「ねえ、みんなー♪」

千聖「日菜ちゃん、どうしたの?」

日菜「ライブ、がんばろうねっ!」

彩「日菜ちゃん……うんっ! もちろんだよ!」

イヴ「はいっ! 緊褌一番、私も頑張ります!」

千聖「ふふっ……日菜ちゃん、なんだか今日はいつも以上に燃えてるわね」

麻弥「ハイ……何か、良いことでもあったんでしょうか?」

日菜「……♪ 今日は楽しいライブになりそうだなぁ〜♪」

 日菜の眼が一段と輝く。

 普段以上にやる気に満ちた日菜のその意図は4人には読めないが、それでも日菜の言う通り、今日は楽しいライブになるだろうと彩達は予感していた。
284 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:36:12.38 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ開始前 Afterglow-

【控室前】

澪「……差し入れ持ってきたはいいけど、ライブ前でみんな集中してるだろうし、私なんかが入ってみんなの邪魔にならないかな……」

ひまり「……あれ? み、澪さん!?」

澪「……? あ、ひまりちゃん、どうも」

 声に振り向くと、今まで髪のセットをしていたのだろう、ヘアスプレーを片手に衣装を着込んだひまりが澪の前に立っていた。


ひまり「やっぱり澪さんだ! お久しぶりです、今日は来て下さってありがとうございますっ♪」

澪「うん、久しぶり……ひまりちゃん、元気そうだね」

ひまり「はい、そりゃあもう……あ! そうだ、もし良かったら中へどうぞ、みんなもきっと喜んでくれると思います!」

澪「いいの?」

ひまり「はい、大丈夫ですよ♪」

澪「……ありがとう、それじゃ、失礼します」

ひまり「みんなー! 澪さんが応援に来てくれたよっ!」

モカ「も〜、ひーちゃん騒ぎすぎー……って、お〜〜、澪さんだ〜」

 勢いよく扉を開け、ひまりは澪を中に招く。

 既に準備は終えられたのだろう、控室には、衣装をバッチリと決めたAfterglowの姿があった。
285 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:36:54.03 ID:10IwYkZZo
澪「みんな久しぶり、ふふっ、準備万端って感じだね」

モカ「澪さん、どうも〜♪」

蘭「……こんにちわ」

巴「どうも、ご無沙汰してます、今日は来てくれてありがとうございます!」

つぐみ「澪さんお久しぶりですっ♪ 今日は楽しんでって下さいね」

澪「うん。みんな、誘ってくれて本当にありがとう……はいこれ、差し入れ持ってきたんだ、良かったらどうぞ」

 律がまりなに手渡したのと同じ袋を澪はひまりに手渡す。

 その中は言うまでもなく、以前Afterglowとの話に上がった、桜が丘の喫茶店のパンが入っていた。


ひまり「わあぁ! ありがとうございますっ! みんなー! 澪さんが差し入れ持ってきてくれたよ!」

モカ「おぉぉぉ、これは……まさしく桜が丘の喫茶店のパン……あ、ありがとうございますーー♪」

巴「これ、前にあこが買ってきてくれて、それからまた食べたいと思ってたんだ……澪さん、ありがとうございます!」

つぐみ「これがモカちゃんの言ってたパンなんだね、私も気になってたんです……澪さん、ありがとうございますっ♪」

蘭「モカ、今食べちゃダメだからね……澪さん、本当にありがとうございます」

巴「今日はみんな精一杯やりますから、ぜひ最後まで聴いてって下さい!」

澪「うん、楽しみにしてるよ。みんな、頑張ってね!」

一同「はいっ!!」

 これ以上邪魔をするのも悪いと思い、早々に澪は控室を後にする。

 その姿を見送り、5人は口々に言葉を交わしていた。
286 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:37:28.56 ID:10IwYkZZo
ひまり「澪さん……本当に来てくれた……良かったぁ〜」

つぐみ「ふふっ……ひまりちゃん、本当に嬉しそうだね」

ひまり「ぅぅ……だってぇ〜」

巴「はははっ、ひまりがここまで誰かのことを気に入るなんて珍しいよな」

モカ「ねーねーひーちゃん、さっきから澪さんの事ばかり推してるけど、薫先輩はいいのー?」

ひまり「違うの! 薫先輩は薫先輩でカッコいいけど、澪さんはまた違う意味でカッコいいんだよー!」

つぐみ「うんうん、ひまりちゃんの言いたいこと、私も分かるよっ」

 そして……。


ひまり「今度はちゃんと決めるからね、みんな、いい?」

 今日に関しては拒否権は無いと、ひまりの眼がそう語っている。

 その様子に根負けし、やれやれといった様子でこれからやることを蘭達は承諾していた。


蘭「まぁ、今日ぐらいはいいか」

モカ「よかったねーひーちゃん、今日は蘭も乗ってくれるみたいだよ〜」

蘭「モカもやるんだからね」

モカ「はーい♪」

巴「よっし、それじゃあやるか! ひまり、景気よく頼むぞ」

つぐみ「ふふっ、こうして揃えるのもなんだか新鮮だね」

ひまり「よーーし! みんな、行くよ! えい! えい……おーー!!」

一同「おーーっっ!!」

 ひまりの声にハモるように、活気の良い掛け声が控室に響き渡る。

 彼女達の出番は、すぐ近くまで迫っていた。
287 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:37:59.73 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ開始前 ハロー、ハッピーワールド!-

【控室】

紬「失礼しまーす、こころちゃん達、いるかしら?」

 紬はそっと控室の扉を開ける。

 扉の前に映る彼女の姿を見て、控室の中からは歓喜の声が上がっていた。


こころ「あら、紬……? やっぱりそうよ、紬だわ♪ みんなー! 紬が来てくれたわよ♪」

紬「こころちゃん、それにみんなもお久しぶり、お元気そうね♪」

花音「わぁ……紬さん、今日は来てくれてありがとうございますっ」

はぐみ「ムギちゃん先輩! こんにちわ!」

薫「これはこれは、紬さん、どうもご無沙汰してます……ああ、今日もお美しい……」

ミッシェル「薫さん、そういうのいいから……あ、ええと……」

 紬の姿を見ては若干言葉を詰まらせるミッシェル(美咲)だった。

 一応設定上は初対面だということもあり、どう反応すればいいのか迷っていたが、咄嗟にこころが双方のことを紹介していた。
288 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:39:02.82 ID:10IwYkZZo
こころ「そういえば、ミッシェルは初めてだったわね、紹介するわ、こちらは琴吹紬、私の小さい頃からのお友達なのよっ♪」

こころ「紬、この子はミッシェルっていうの♪ ハロー、ハッピーワールド!のメンバーなのよ、すっごく可愛いでしょ♪」

紬「ミッシェル……? あ、そういう事ね……」

 こころに紹介され、紬はまじまじとミッシェルを見る。

 そして、何かを察したのか、ミッシェルに近づき……。


紬「ええと……美咲ちゃん……よね? 今日は頑張ってね♪」

ミッシェル「あははは、紬さんには分かりますか? はい、どうもありがとうございます、紬さん」

 即座に気ぐるみの中に誰が入っているのかを当て、紬はミッシェルの中にいる美咲にそっと耳打ちしていた。
289 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:39:33.75 ID:10IwYkZZo
こころ「紬、今日は最高のライブにするから、ぜひ楽しんでいってね♪」

紬「ええ、私も菫ちゃんと一緒に応援するから、ハロハピのみんなも頑張ってね!」

一同「はいっ!」

こころ「ふふふっ♪ 出番が待ちきれないわ〜♪ 早く来ないかしら♪」

花音「ふふっ、こころちゃん、凄く楽しそうだね」

薫「私も心と身体が震えるようだよ……ああああ……儚い……こんなにも儚いだなんて……最高の気分だ……!」

はぐみ「うんっ♪ はぐみもがんばるよ! ムギちゃん先輩とスミーレ先輩に、かっこいいとこ見せてあげなきゃ♪」

ミッシェル「はははは、みんな気合十分だね……かくいう私もちょっとだけ燃えてきた……かな」

 紬の激励により、いつも以上に活気に満ち溢れる様子の5人だった。

 そして……。


こころ「みんな、行くわよ〜♪ ハッピー♪」

はぐみ「ラッキー!」

薫「スマイル!」

全員「イェーイ♪」

 手を取り合い、お決まりのフレーズを口にする5人。

 その表情は、会場にいる誰よりも眩しい笑顔で埋め尽くされていた。
290 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:40:07.48 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ開始前 Poppin'Party-

【CIRCLE ラウンジ】

 客の誘導を終え、ラウンジの一角に香澄達は集まっていた。


唯「あー、いたいた……香澄ちゃん、こんにちわ♪」

香澄「唯さん! 今日は来てくれて本当にありがとうございます!」

 唯の突然の声に笑顔で香澄達は声を返す。

 その表情には先程の誘導の疲れは微塵も感じられず、むしろ活き活きとした表情に包まれていた。


たえ「唯さん、今日は精一杯演奏するので、ぜひ最後まで聴いていって下さい」

りみ「あの、みんなこの日のために一生懸命頑張ったんです、よかったら感想とかも聞かせてくださいっ」

有咲「わ、私達も頑張ってやりますんで、その……期待してて下さい……」

紗綾「あははは、有咲ったら顔硬すぎ、もしかして緊張してる?」

有咲「う、うっせー! ここまででっかいライブって初めてだし、なんか緊張すんだよ……」

香澄「あーりさ、えいっ!」

有咲「ひゃっ!」

 緊張で硬くなっていた有咲に向かい、背後から香澄が抱きついていた。
291 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:43:09.47 ID:10IwYkZZo
有咲「か、香澄!! 予告なく急に抱きつくな!」

香澄「そっか、じゃあ次からは予告してから抱きつくね?」

有咲「そ、そういう問題じゃねーっ!!」

紗綾「あはははは! 香澄のおかげで有咲の緊張も解けたみたいだね♪」

唯「ふふふっ……みんな楽しそう、私も前はそうだったなぁ〜♪」

唯「私があずにゃんに抱き着いて、それで困った顔してて、澪ちゃんやりっちゃん、ムギちゃんがそれ見て笑ってくれてて……懐かしいなぁ」


有咲「ほら見ろ、唯さんに笑われてんじゃねーかっ」

唯「あ、ううん、違う違う……みんな凄く良い顔してるよ、うん♪」

香澄「唯さん……」

唯「私も客席でたくさん応援するから、みんな頑張ってね!」

一同「はい、ありがとうございます!」

唯「それじゃあ、またあとでねー♪」

 そう言い残し、唯はフロアへと戻っていく。

 その姿を見送った香澄達の中に、確かな熱が込み上げていた。
292 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:46:00.46 ID:10IwYkZZo
香澄「唯さん……ありがとうございますっ!」

たえ「ふふふっ……ねえみんな、少し早いけど、久々にあれ、みんなでやらない?」

沙綾「お、いいね♪ あれ、結構気合入るよね」

りみ「うん♪ じゃあ、円陣組んでやろう♪」

有咲「別にいいけど、何もここでやらなくても……」

香澄「ううん、私も今やりたいって思ってたんだ♪ じゃあ行くよ、せーのっ」

一同「ポピパ! ピポパ! ポピパパ! ピポパ!! いぇーい!!」

 5人の声が綺麗に重なり、それぞれの笑顔が咲き乱れる。

 香澄達の想いは一つになり、ステージでは、一組のバンドの演奏が始められる。


 少女達の待ちに待った宴が、いよいよ始まった瞬間であった――。
293 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:51:40.16 ID:10IwYkZZo
―――
――
― 


-ライブ開始前 Roselia-

【Roselia 控室】

 ステージの演奏が微かに聴こえる控室に、Roseliaの姿はあった。

 言葉を介する事もなく、静かに来るべき時を待つ彼女達の熱意と集中力は、既に極限まで研ぎ澄まされていた。


歌声「〜〜♪ ――――っっ♪」


紗夜「始まりましたね……皆さん、次で出番ですけど、調子はどうですか?」

燐子「はい……いつでも行けます……」

あこ「あこも準備オッケーです! こう……闇の波動があこの体中を駆け巡るっていうか、そんな感じです!」

リサ「あはははっ、あこは相変わらずだなぁ……うん、アタシもいつでも行けるよ」

友希那「私も、問題ないわ」
294 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:52:16.72 ID:10IwYkZZo
リサ「ああ、そういえばさっき、梓さんに似た人見かけたんだ」

あこ「え? ほんとに?」

リサ「うん、前に会った時みたいにスーツ姿じゃなくて私服姿だったけど……あの人、今日来てくれたのかなって思ってさ」

燐子「梓さん……確か……ご両親とジャズバンドをやってるって言ってましたね……」

リサ「うん、もしそうだったら、今日、本当の音楽のプロの人に私達の演奏を見て貰うってことだよねぇ……いやー、なんか緊張しちゃうよね」

紗夜「今井さん、それは違うと思うわ」

友希那「ええ、紗夜の言う通りよ、たとえ今日誰が来ようが、私達は私達の最高の演奏をするだけ……そうでしょう?」

リサ「そうだね……ごめん。友希那や紗夜の言う通りだね」

 今更何を言っているのかと、自身の言葉を反省するリサだった。


友希那「みんな、お喋りはそのぐらいにしましょう……そろそろだわ」

スタッフ「お待たせしました、Roseliaの皆さん、スタンバイをお願いします!」

友希那「みんな、行くわよ…………!!」

一同「はい!!」

 友希那の声に合わせ、リサ達は相次いで立ち上がり、ステージへと移動を開始する。


 そして、彼女達のライブの幕が今、大きく開かれる――!
295 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 01:59:24.28 ID:10IwYkZZo
#7.放課後と輝きの五重奏

 ――そこは、様々な輝きで満ち溢れていた。

 夢が、今が、笑顔が、情熱が……そして、純粋に音楽を愛する輝きがそこにあった。

 5つの輝きはやがて1つの大きな星となり……ステージを……そして、“彼女達”を照らしだす。

 “彼女達”の歌が会場中に響き、そこから生まれた新たな輝きは全てを照らし、想いが一つになる……。


 ステージの上で歌うみんなの姿に、私は何度となく感謝の声を上げる。

 みんな……本当にありがとう――!
296 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 02:00:48.11 ID:10IwYkZZo
―――
――


 ライブが始まってから既に3組のバンドによる演奏が終了した。

 演奏が終わってからの僅かな時間、ステージ上にはスタッフの手により、急ピッチで次のバンドの演奏準備が進められる。

 そして数分後、本日4組目となるバンドが登場した。
 
 今日の主役の一組であり、数多の観客が注目するバンド。


 ――青き薔薇を掲げし少女達、Roseliaである。


-4組目 Roselia-

【ステージ】

声「あ……! 見て、Roseliaよ!」

声「きゃああああっっ!! 友希那ぁーーーーっっ!!」

 Roseliaの登場にフロアは一気に沸き、飛ぶような歓声が会場中から飛び交う。

 その歓声に動じる気配を微塵も見せず、スポットライトを浴びる友希那の声により、Roseliaのライブは幕を開けた。


友希那「皆さん、今日は来てくれてありがとうございます、Roseliaです」

友希那「まずは一曲目、聴いて下さい……『BLACK SHOUT』……!」

https://www.youtube.com/watch?v=ALXxQffcZOk
297 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 02:02:04.39 ID:10IwYkZZo
 ――ワァァァァァァーーーー!!!!

 ――Roselia!! Roselia!!!


 Roseliaの演奏を皮切りにフロアは大熱狂に包まれる。

 そんな様子を後方で見ていた唯達5人もまた、会場の熱気に取り込まれていた。


梓「始まった……これが、友希那さん達の歌……!」

律「うおぉ……! 見ろよこの盛り上がり、さっきのバンドとは比べ物にならねえ熱狂……さすがRoselia、評判以上のバンドだ……!」

澪「ああ……歌だけじゃなく、演奏技術も恐ろしく高い……メンバー全員、この日の為に何度も練習を重ねてるのがよく分かるよ……!」

唯「うんっ! すごく……すごく……か、かっこいい……!!」

紬「梓ちゃん……前で食い入るように見てるわ、私達も行きましょう!」

梓(凄い……! これが本当に高校生の演奏なの……? 昔の私達とは比較にならない程のテクニックと歌唱力……これがRoselia……!! 友希那さん達の、目指す音楽……!!)

 友希那の歌だけでなく、その後ろで一心不乱に奏でられるリサ、あこ、紗夜、燐子の音は確実に会場中の心を支配していく。

 その歌の力は梓の心すらも強く揺さぶり、梓が心の奥底に抱えていた自身の音楽に対する迷いすら、容易く氷解させる程の力を秘めていた。


梓「…………!! 友希那……さん……!!」

 心臓の鼓動が抑えられない……! 鳥肌が止まらない……! 音が、声が、暴力的なまでに耳を通じ、心に入り込んでいく……!

 Roseliaの放つ強く、鋭く、眩しい輝きが、梓の音楽家としての魂を燃え上がらせて行く……!
298 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 02:03:40.85 ID:10IwYkZZo
梓「ロゼリア…………私も……負けない……っっ!」

梓「唯先輩!! 私も燃えてきました!! あの人達に……ここにいる全ての人に、私達の素晴らしさを……私達の輝きを、見せつけてやりましょう!!」

 ステージ上で熱唱する少女達を見つつ、音楽家としての矜持を掲げ、梓は高らかに言い放つ。


唯「あずにゃん…………っ うん! やるよ、私も……燃えてきたっ!」

梓(早く……この胸に灯った火が冷めない内に……私も……早く……ステージに上がりたい……!)

 1曲目が終わり、続いて始められる2曲目の演奏。これもまた、フロアにいる全員のテンションを最高潮に高めていく。

 途中でメンバー紹介を挟みつつ続けられる演奏は、観客の中に更なる興奮と感動を呼び――。

 その興奮に身を委ねながら出番を待つ梓の心もまた、完全に会場と一つになっていた。

 そして……。
299 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 02:04:12.75 ID:10IwYkZZo
友希那「ありがとうございました……! 引き続き、ガールズバンドパーティーをお楽しみ下さい!」

リサ・紗夜・あこ・燐子「皆さん、ありがとうございました!!」

 ――ワーワーワー!!

 ――Roseliaありがとうーーー! 昼の部も期待してるからねーーー!!!


声「いやぁ〜、来て良かった! やっぱRoselia凄いわ!」

声「うんうん、確か『FUTURE WORLD FES.』にも参加決まったんでしょ、私、絶対に行く!」

声「くううぅぅぅぅっっ! 私、まだ鳥肌が止まらないよ〜〜!!」

澪「凄いな……お客さん、演奏が終わってからもまだあんなに興奮してる……」

律「ああ……ほんと、ここまでやるなんてすげーよ……いやマジで」

紬「私も燃えてきたわ! ねえ次は! 次は誰の演奏なの?」

唯「ちょっと待ってて……あ、次、パスパレだよ! りっちゃん! 前で見ようっ♪」

律「ああ……分かった……って唯! 引っ張るなーっ!」
300 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 02:04:56.61 ID:10IwYkZZo
―――
――


-5組目 Pastel*Palettes-

彩「皆さんどうも! Pastel*Palettesでーす!」

彩「いや〜、Roseliaの皆さん、凄い演奏でしたよねー。でも私達も負けないから、みんなよろしくねっ♪」

彩「じゃあ一曲目、行きますっ♪ 聴いて下さい、『しゅわりん☆どり〜みん』!」

https://www.youtube.com/watch?v=EF9905QrXQY


 先程とは一変し、和やかな演奏がフロアを賑わせる。

 色とりどりの照明に照らされ、楽しく歌う彩達に合わせ、会場の至る所で合いの手や掛け声が上がっていた。

 それはまさに、夢見る少女達のライブ……。

 彼女達のマネージャーである律も初めて見る、バンドとしてのパスパレが紡ぐ、大きな夢の輝きだった。


唯「彩ちゃ〜ん♪ こっち向いて〜!」

澪「パスパレのライブ、私も初めて見たけど、なかなかやるじゃないか」

紬「ええ……みんな、凄く楽しそう♪」

梓「演奏も凄く上手ですね、律先輩の教えが活きてるって感じがしますっ」

律「ははははっ、だろだろ〜♪」

彩「ありがとうございましたー! それではここで、メンバーの紹介をさせていただきます♪」

 1曲目も終わり、彩のMCによるメンバー紹介が行われる。

 固くなく、それでいて砕けすぎでもない空気で場を和ませながら、彩はメンバー紹介を進めていった。
301 : ◆64sUtuLf3A [sage saga]:2019/10/03(木) 02:05:56.30 ID:10IwYkZZo
彩「えー、それでは最後は私、まんまるお山に彩を! 丸山彩でーす♪」

声「あははっ! 彩ちゃんかわいい〜♪」

唯「ん〜〜、彩ちゃん今日もステキ……見れて良かったぁ〜♪」

澪「ふふっ……唯も凄く楽しんでるな」

律「ああ……っ……まったく、会場中がこんだけ盛り上がってるのを見ると、ほんと、マネージャー冥利に尽きるよなぁ……っ……」

 涙腺が熱を帯びる感覚を覚え、口元を優しく綻ばせながら律は目元のサングラスをかけ直す。

 2曲目、3曲目と歌は続けられ、その度に歓声が響き渡る。

 会場全体が一つになってPastel*Palettesを応援するその光景は、誰よりも彼女達を近くで見守っていた律の胸に、熱いものを込み上がらせていた。


律(みんな、頑張れ……! 頑張れ……っっ!)

 決して声には出さず、それでも律は懸命にエールを送る。

 そのエールが届いたのか、Pastel*Palettesの演奏は、大盛り上がりの内に次のバンドへと繋がれていった。

 そして朝の部は終了し、より盛大な盛り上がりを見せる昼の部へと差し掛かるのであった……。
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